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硝子体手術のワンポイントアドバイス 127.糖尿病合併ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)

2013年12月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載127127糖尿病合併ぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめにぶどう膜炎治療は薬物療法が基本となるが,硝子体混濁,続発黄斑上膜,牽引性網膜.離などの併発例では,硝子体手術を施行することがある.本疾患についてはおおむね良好な治療成績の報告が多いが,術後に高度の炎症が生じて,種々の合併症を惹起する難治例に遭遇することがある.このような症例では,全身的に糖尿病を有していることがある1).●症例69歳,女性.両眼ともぶどう膜炎に起因する硝子体腔混濁と糖尿病網膜症による眼底出血を認めた(図1).蛍光眼底検査(FA)では一部網膜無灌流域に加えて,著明な血管透過性亢進を認めた(図2).全身的にコントロ.ル不良の糖尿病があったため,血糖値に注意しながらステロイド内服加療を行うも,硝子体混濁の増強,続発黄斑上膜が生じてきたため,硝子体手術を施行した.術後,眼内炎症が遷延して高度の続発黄斑上膜を生じた(図3)ため,再手術を施行した.その後,眼底の状態は落ち着いたが,矯正視力は0.02に留まった.左眼も同様に硝子体混濁と続発黄斑上膜をきたし,硝子体手術を施行した.術後の消炎目的でシリコーンオイルタンポナーデを併施した.しかし,シリコーンオイル抜去後も炎症が遷延し,矯正視力は(0.1)に留まった.●糖尿病合併ぶどう膜炎の特徴ぶどう膜炎を合併すると糖尿病網膜症が重症化しやすいとする報告は過去に散見される.Knolらは,片眼にトキソプラズマ網脈絡膜症,急性網膜壊死の既往のある糖尿病患者の2例で,健眼は経過中,糖尿病網膜症を認めなかったか軽症であったにもかかわらず,患眼は糖尿病網膜症が急激に進行したと述べている2).また,Devらは,糖尿病を合併した内眼炎患者6眼中4眼で糖尿病(71)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1術前の右眼眼底写真硝子体混濁,続発性黄斑上膜を認める.図2術前の右眼フルオレセイン蛍光眼底写真限局性の網膜無灌流域に加えて,網膜血管からの蛍光漏出を認める.図3初回硝子体手術後の眼底写真炎症が遷延し,著明な続発性黄斑上膜が形成された.網膜症の急激な進行を認めたと述べている3).これらのことから,糖尿病患者に内眼炎が生じると炎症が重症化しやすい可能性がある.これは糖尿病細小血管障害が,ぶどう膜炎の増悪に関与している可能性を示唆している.糖尿病合併ぶどう膜炎に対して硝子体手術を施行する場合には上記のことを念頭に置き,術後の消炎に留意する必要がある.文献1)鈴木浩之,南政宏,土師正也ほか:硝子体手術を施行した糖尿病合併重症ぶどう膜炎の2例.眼紀58:622-626,20072)KnolJA,vanKooijB,deValkHWetal:Rapidprogressionofdiabeticretinopathyineyeswithposterioruveitis.AmJOphthalmol141:409-412,20063)DevS,PulidoJS,TesselerHHetal:Progressionofdiabeticretinopathyafterendophthalmitis.Ophthalmology106:774-781,1999あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131719

眼科医のための先端医療 156.OCTによる硝子体画像診断の進歩-これからの診断と治療-

2013年12月31日 火曜日

cpcp監修=坂本泰二◆シリーズ第156回◆眼科医のための先端医療山下英俊OCTによる硝子体画像診断の進歩―これからの診断と治療―板倉宏高(前橋赤十字病院眼科/群馬大学医学部眼科学教室)硝子体注射による硝子体融解療法最近,黄斑円孔などの網膜硝子体界面疾患への新しい治療法として,酵素的硝子体融解薬の硝子体注射が行われはじめています1).これは,不完全に.離した後部硝子体皮質と網膜との癒着を薬剤で融解し,硝子体の牽引を解除するという治療法です.硝子体は透明であるため,細隙灯顕微鏡のみで網膜との関係を観察するのは困難であり,硝子体注射の適応判断には光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が欠かせません2).最近ではスペクトラルドメインOCT(SD-OCT),さらにはスウェプトソースOCT(SS-OCT)の登場で硝子体のより精密な観察が可能になりました.後部硝子体皮質前ポケットの観察ヒトの目の硝子体には,黄斑前に生理的な液化腔があります.岸らは,剖検眼でこれを観察し,「後部硝子体皮質前ポケット」と定義しました3).ポケット後壁をなす皮質は,黄斑部でさまざまな疾患に関与します.硝子体手術にトリアムシノロン染色が導入されると,生体眼右眼cp図1スウェプトソースOCTによる後部硝子体皮質前ポケットの観察30歳,男性.Cloquet管(c),後部硝子体皮質前ポケット(p)との間には隔壁があり,隔壁の前方には両者を連絡する通路(白矢印)が存在する.ポケット後壁(黄矢印)は網膜から.離しておらず,stage0(noPVD)の状態.でもポケットが可視化され4),SD-OCTやSS-OCTの登場で,正常眼でもポケット断面が描出可能となりました5).SS-OCTで観察するとポケットは扁平な舟形で,視神経乳頭から前方に伸びるCloquet管とポケットとの間には連絡通路があります(図1).房水がCloquet管を介してポケットへ流入する経路が存在するとしたら,白内障手術後などに前房中の炎症が黄斑部に影響する機序や,その治療に用いる非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidalanti-inflammatorydrug:NSAID)などの点眼薬が眼内移行後に黄斑に到達する経路にも関与するかもしれません.左眼cp図2スウェプトソースOCTによる黄斑円孔の観察54歳,女性.Cloquet管(c),後部硝子体皮質前ポケット(p)および両者を連絡する通路(白矢印).ポケット後壁(黄矢印)は,右眼では中心窩で接着し黄斑円孔を生じているが,左眼では中心窩から自然に.離した.矯正視力は,右眼=0.04×.7.5D,左眼=1.2×.7D.1716あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(00)(68)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY 後部硝子体.離のステージ分類後部硝子体.離のステージ分類硝子体の画像診断は後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)の診断にも有用です.ポケット後壁は加齢とともに黄斑周囲で厚みを増し,徐々に.離します(stage1:paramacularPVD).やがて傍中心窩PVD(stage2:perifovealPVD)となり,さらにポケットごと中心窩から離れ(stage3:vitreofovealseparation),最後に視神経乳頭から.離して完全PVD(stage4:completePVD)となります6).stage1~3のいわゆる部分PVDから完全PVDへの進展は50~60歳代にピークを迎え,黄斑円孔や裂孔原性網膜.離の好発年齢と一致します.また,stage3PVDの約3割でポケット後壁の中央に欠損があり,網膜上に皮質が残存している可能性があります.新たな治療の可能性Spaideらは,黄斑円孔の僚眼をOCTで観察し,ポケットの後壁と中心窩との接着面積が少ないほど,中心窩を挙上させる力が強く,黄斑円孔のリスクが高まると報告しています7).このようなリスクがある状態を,OCTによって黄斑円孔を生じる前段階で検出し,治療することで疾患の発症を予防できるようになるかもしれません.一方で,硝子体の牽引が自然に解除されることもあり(図2),どのタイミングで治療に踏み切るかの判断は,現時点では容易ではありません.網膜硝子体界面疾患の病態解明について,さらなる研究が期待されます.文献1)StalmansP,BenzMS,GandorferAetal(MIVI-TRUSTStudyGroup):Enzymaticvitreolysiswithocriplasminforvitreomaculartractionandmacularholes.NEnglJMed367:606-615,20122)StalmansP,DukerJS,KaiserPKetal:OCT-basedinterpretationofthevitreomacularinterfaceandindicationsforpharmacologicvitreolysis.Retina2013Jul22[EPUBaheadofprint]3)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19904)DoiN,UemuraA,NakaoKetal:Vitreomacularadhesionandthedefectinposteriorvitreouscortexvisualizedbytriamcinolone-assistedvitrectomy.Retina25:742-745,20055)ItakuraH,KishiS,LiDetal:Observationofposteriorprecorticalvitreouspocketusingswept-sourceopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci54:3102-3107,20136)ItakuraH,KishiS:Evolutionofvitreomaculardetachmentinhealthysubjects.JAMAOphthalmol131:13481352,20137)SpaideRF,WongD,FisherYetal:Correlationofvitreousattachmentandfovealdeformationinearlymacularholestates.AmJOphthalmol133:226-229,2002■「OCTによる硝子体画像診断の進歩―これからの診断と治療―」を読んで■面白うてやがて厳しき眼科学「面白うてやがて哀しき鵜舟かな」というのは,有部に膜が形成されるかは不明でした.その解明の糸口名な芭蕉の句です.多くの研究者を巻き込んで侃侃諤を提供したのが,群馬大学の岸教授が提唱された硝子諤の論議をされていた黄斑疾患のメカニズムが,体ポケット説です.後部硝子体.離後に,硝子体ポOCTの出現により一気に解明され,ある種の静寂がケットの後壁が黄斑前に残れば,そこが細胞増殖の足訪れている現状は,芭蕉の句に似ています.場になるので,黄斑前膜の形成過程をうまく説明できOCT出現以前から,黄斑部に膜様病変がしばしばます.卓見であり多くの賛同者を得ましたが,それで出現することが知られていました.この疾患には,セも反論や異論が出され続けました.最終的に,その答ロファン黄斑症という,なんともロマンチックな名前えはOCTにより得られ,硝子体ポケット説の正しさが付けられていましたが,その原因や病態は不明でしが証明されたのはご存知のとおりです.OCTがないた.当時の研究者は,網膜からグリア細胞が出てきて時代に,論争が繰り広げられたのは先述のとおりです増殖するという説,硝子体細胞が増殖するという説,が,それぞれの説は,当時の最新の知識と最良の思考網膜色素上皮細胞が増殖するという説などを唱え,学によるものでした.ところが,OCTが出現するだけ会や学会誌上で真剣な論争が行われていました.それで,どの説が正しいかが決定されてしまったのです.ぞれの説には相応の説得力がありましたが,なぜ黄斑とても明快ではありますが,誤った説を唱えた当事者(69)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131717 にとっては残酷で厳しいものになりました.起こすでしょう.ただし,眼科学はそのようにして進OCTの出現により,黄斑病変の理解が一段高いレ歩してきたことを考えると,これは健全なことであベルに上りました.そして,本文で紹介されているより,次の飛躍への助走にほかならないといえます.うに,スウェプトソースOCTによる黄斑界面の詳細鹿児島大学眼科坂本泰二な観察結果とその解釈については,新しい論争を引き☆☆☆1718あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(70)

新しい治療と検査シリーズ 212.新しい抗VEGF剤-アイリーア®

2013年12月31日 火曜日

新しい治療と検査シリーズ212.新しい抗VEGF剤―アイリーアRプレゼンテーション:安川力名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学コメント:岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科学教室.バックグラウンド滲出性加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する主な治療法は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射と光線力学的療法である.ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR),ベバシズマブ(アバスチンR)(適用外)の使用経験が4年以上になり,抗VEGF療法の問題点も浮き彫りになってきた.導入期の治療が有効で再発も少ない症例も多い一方,再発を繰り返す症例や,治療に抵抗する漿液性網膜.離や色素上皮.離を主病態とする症例を経験する.このような症例の長期的な視力維持はむずかしく,医師と患者の負担も大きい.そのなかで,アフリベルセプト(アイリーアR)が認可され,従来の薬剤よりも強い効果と注ペガプタニブ(マクジェン.)ラニビズマブ(ルセンティス.)ペパシズマブ(アバスチン.)第3ドメインVEGF-AVEGF-BPIGF第2ドメインアフリベルセプト(アイリーア.)射回数を減らすことができる可能性があり,期待される..新薬の効果アフリベルセプトはVEGF-A,Bおよび胎盤増殖因子(placentalgrowthfactor:PlGF)に親和性の高いVEGF受容体(VEGFR)-1の第2ドメインとVEGF-Aに親和性の高いVEGFR-2の第3ドメインをヒトIgG1のFcドメインに融合させた分子量約115,000の可溶化受容体合成蛋白である(図1)1).ラニビズマブ,ベバシズマブがVEGF-Aの全アイソフォーム,ペガプタニブがVEGF-A165に結合してVEGF-Aの作用を阻害するのに対し,アフリベルセプトはVEGF-Aの全アイソフォームに加え,VEGF-BとPlGFに結合する.抗体製剤であるラニビズマブよりVEGF-Aと数十倍以上の親図1アフリベルセプト(アイリーアR)の構造VEGF受容体であるVEGFR-1の第2ドメインとVEGFR-2の第3ドメインを抗体のFcドメインに結合させた可溶化受容体製剤で,従来の抗VEGF薬がVEGF-Aに結合するのに対し,アフリベルセプトはVEGF-A,VEGF-B,PlGFに結合する.VEGER-1VEGER-2(血管内皮・単球など)(血管内皮など)(65)あたらしい眼科Vol.30,No.12,201317130910-1810/13/\100/頁/JCOPY 0123456789101112導入期PRN毎月投与推奨)計画的(proactive)投与:再発時(reactive)投与:OCT所見によらない計画的投与OCTにて滲出あり投与OCTにて滲出なく経過観察123456789101112導入期PRN毎月投与推奨)計画的(proactive)投与:再発時(reactive)投与:OCT所見によらない計画的投与OCTにて滲出あり投与OCTにて滲出なく経過観察表1抗VEGF薬の比較一般名商品名ペガプタニブマクジェンRラニビズマブルセンティスRベバシズマブアバスチンRアフリベルセプトアイリーアR製剤のタイプ分子量眼内半減期VEGFとの親和性PlGFとの親和性規定の最小投与間隔薬価(円)3段階以上の視力改善率滲出抑制効果長所核酸(アプタマー)50,000約6日+(VEGF-A165のみ).6週間123,4575~15%弱い安全性高いプレフィルドシリンジ抗体断片48,000約3日+++(VEGF-A).4週間176,23530~40%強い血中半減期短い(比較的安全?)抗体149,000約4~6日++(VEGF-A).4~6週間45,563(80人分相当)30~40%やや強い安価(適用外)受容体合成蛋白115,000約4~5日++++(VEGF-A,B)++4~8週間159,28930~40%さらに強い他剤無効例にときに有効隔月投与でも有効?ルセンティスRより安価バイアルの液量多め導入期ありの場合図2VIEW試験の投与方法と従来のPRN計画的(proactive)投与は予防的投与である反面,過剰投与の可能性もある.一方,再発時(reactive)投与は定期的なOCT検査と適切な追加投与が視力維持に重要である.VIEW試験1年目導入期+隔月投与(アイリーアRVIEW試験2年目PRN+最低2カ月ごと投与(再発なし)PRN+最低2カ月ごと投与(再発あり)従来からの通常の使用方法(例)和性を有する.しかも,分子量がペガプタニブやラニビズマブより大きく眼内滞留期間が長く,ベバシズマブよりは小さく網膜を通過しやすいように製剤設計されている(表1).VEGF-BとPlGFは単球などに発現するVEGFR-1と結合することによる直接的効果のほか,血管内皮細胞においてVEGFR-1,2両方に親和性のあるVEGF-AのVEGFR-2への結合を優位にすることによる間接的効果で,血管新生や炎症を誘導するようである.したがって,VEGF-Aに加え,VEGF-B,PlGFを阻害するアフリベルセプトはより強力な抗炎症,抗血管1714あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013新生作用を発揮しうる..使用方法世界中で実施された臨床試験であるVIEW1,VIEW2試験でラニビズマブに対する非劣性が示された1).1年目は,①アフリベルセプト(0.5mg)を4週ごと,②アフリベルセプト(2.0mg)を4週ごと,③アフリベルセプト(2.0mg)を最初の3回毎月投与の後,8週ごと,または,④ラニビズマブ(0.5mg)を4週ごとに硝子体内注射を行う4群に無作為に割付し,2年目は,全治療(66) 群とも,毎月の検査をもとに,滲出が残存している場合や再発時に必要時(prorenata:PRN)投与を行うことに加え,滲出を認めなくても前回の投与から3カ月目には予防的に投与を行うことと設定された(図2).視力の改善・維持は1年目,2年目とも全群,差はなかった1).アフリベルセプト(2.0mg)の導入期後に8週ごとの投与でも同等の治療効果が得られ,2年目の最投与基準でも,2.0mg投与群で,ラニビズマブ群より投与回数が少なく,約半数の症例で3カ月ごとの投与を要したのみであった.このような背景から,添付文書上の使用方法は,「アフリベルセプトとして2mgを1カ月ごとに1回,連続3回(導入期)硝子体内投与する.その後の維持期においては,2カ月ごとに1回,硝子体内投与する.なお,症状により投与間隔を適宜調節する.」と設定された(図2)..本薬剤の良い点日本より早く認可された米国より,従来の治療で滲出性変化が遷延する症例や頻回再発症例に対するアフリベルセプトへの切り替えの有効性が報告されてきている.切り替えにより,滲出性変化は高率で消失し,投与間隔も延長できそうである(表1)2~4).また,網膜色素上皮.離に対する有効性が報告されている2).国内でも,発売されまだ1年に満たないが同様な効果が経験されている.自検例でも複数回のラニビズマブ投与でも遷延していたポリープ状脈絡膜血管症の漿液性網膜.離が消失したり,色素上皮.離の平坦化が得られたりした.また,頻回再発例でも再発の間隔がルセンティスR投与時より延長する症例を認めた.アフリベルセプトのほうが強い作用を有する理由として,VEGF-B,PlGFの阻害作用によるか,VEGF-Aへの高い親和性と眼内での滞留性に優れる点が考えられる.文献1)HeierJS,BrownDM,ChongVetal(VIEW1andVIEW2StudyGroups):Intravitrealaflibercept(VEGFtrapeye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,20122)KumarN,MarsigliaM,MrejenSetal:Visualandanatomicaloutcomesofintravitrealafliberceptineyeswithpersistentsubfovealfluiddespiteprevioustreatmentswithranibizumabinpatientswithneovascularage-relatedmaculardegeneration.Retina33:1605-1612,20133)YonekawaY,AndreoliC,MillerJBetal:Conversiontoafliberceptforchronicrefractoryorrecurrentneovascularage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol156:29-35,20134)ChoH,ShahCP,WeberMetal:AfliberceptforexudativeAMDwithpersistentfluidonranibizumaband/orbevacizumab.BrJOphthalmol97:1032-1035,2013.本治療薬に対するコメント.アフリベルセプトは,滲出型加齢黄斑変性(AMD)プトで推奨されている維持期の治療法は2カ月おきにに認可された3つ目の硝子体内注射薬剤であり,投与することである.このようなproactive治療法でAMD治療の選択肢が増えたことは大変喜ばしい.とは,必ず何割かの眼には過剰治療となる.この必要なくに,眼内半減期が少し長いとされているアフリベルい治療の分,当然,硝子体内注射のリスク,経済負セプトは,滲出変化が頻繁に再発する患者には,維持担,血管内皮増殖因子(VEGF)や胎盤増殖因子期中に必要とする投与回数が減少することを期待でき(PlGF)の抑制による眼および全身における影響が懸る.さらに,日本人AMDに多い病態であるポリープ念される.また,維持期の治療はいつまで継続する必状脈絡膜血管症(PCV)には網膜色素上皮.離(PED)要があるかはわかっていない.さらに,アフリベルセが合併していることがあり,アフリベルセプトの投与プト維持期の2カ月おき投与は,滲出変化を完全に抑により,他の薬剤でみられなかったPEDの軽減が経制するには不十分な症例もある.その場合,投与の間験されている.したがって,認可されてからまだ長く隔を短縮することを検討する.ないが,アフリベルセプトの短期成績は良いとはいえ以上のprosandconsを含めて,日本のAMD治療るでしょう.におけるアフリベルセプトの位置づけを評価する必要しかし,どの薬剤でもprosandconsがある.先ほがある.どはprosであったが,consとしては,アフリベルセ(67)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131715

私の緑内障薬チョイス 7.コソプト®の利便性

2013年12月31日 火曜日

連載⑦私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑦私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也7.コソプトRの利便性廣岡一行香川大学医学部眼科学教室コソプトRは,プロスタグランジン関連薬単剤と同等の眼圧下降を有するので,プロスタグランジン関連薬が使えない症例での代替薬として選択できる.また,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を含む多剤併用療法の患者では,コソプトRを処方した場合にもっとも適したプロスタグランジン関連薬を選択できる.45コソプトRのメリット4035**2010年にわが国でも緑内障治療において配合剤(ザラカムR,デュオトラバR,コソプトR)が処方できるようになった.コソプトRはチモロールとドルゾラミドの眼圧(mmHg)30252015配合剤であり,チモロールとドルゾラミドを処方した場合,点眼回数は5回/日になるが,コソプトRではわずか2回/日ですむ(表1).コソプトRの眼圧下降効果は2剤併用療法と比べ,同等あるいはそれ以上の眼圧下降効果が得られると報告されている1,2).薬理学的に考えると両者の効果は同等と思われるが,コソプトRのほうが眼圧下降効果に優れているとする報告では,配合剤により点眼回数が減少したために,アドヒアランス向上が結果に関与しているものと思われる.pHは5.5.5.8と酸性であるため眼刺激感は若干あるものの(表1),処方時にあらかじめ説明をしておくと患者も不安なく点眼を継続することができる.プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を含む多剤併用療法を行っている患者で,プロスタグランジン関連薬とb遮断薬の配合剤(ザラカムR,デュオトラバR)に切り替えた場合には,炭酸脱水酵素阻害薬は2種類(ブリンゾラミド,ドルゾラミド)あるため,組み合わせ方は2×2=4種類である.一方,プロスタグランジン関連薬は4種類(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト)あるため,コソプトRを処方した場合の組み合わせ方も同様に表1チモロール,ドルゾラミド,コソプトRの比較105001カ月2カ月*p<0.01図1無治療時の眼圧が30mmHg以上の患者のコソプト処方前後での眼圧(文献3より)4種類である.しかし,プロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果は,同一眼でも種類によりその効果が異なることが知られており,コソプトRを処方した場合は,その患者にもっとも適したプロスタグランジン関連薬を選択できるというメリットがある.どのような症例に処方しているか片眼のみ眼圧は高いが(30.40mmHg),炎症所見はなく,隅角はきれいであり,偽落屑物質も認めず,なぜ片眼だけこんなに眼圧が高いのだろうかと考えさせられる症例にときどき遭遇することがある.このような症例では最初にプロスタグランジン関連薬を使うのは何となく気味が悪く,b遮断薬あるいは炭酸脱水酵素阻害薬単剤では眼圧が十分に下がるとは思えないので,最初からコソプトRを処方している(図1).また,女性で片眼のみ眼圧下降の必要性がある場合点眼回数/日pHチモロールドルゾラミドコソプトR2326.5.7.55.5.5.95.5.5.8本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(61)あたらしい眼科Vol.30,No.12,201317090910-1810/13/\100/頁/JCOPY 352.1円/ml289.1円/ml668.0円/ml642.2円/ml図21mlあたりの薬価の比較に,プロスタグランジン関連薬ではどうしても片眼のみの睫毛伸長や虹彩色素沈着などの副作用の問題で敬遠されがちである.このような症例では,まずb遮断薬を処方しているが,眼圧下降効果が不十分な場合にはコソプトRに切り替えている.そうすることにより,点眼回数が増えることなく,炭酸脱水酵素阻害薬の追加によるさらなる眼圧下降が得られる.配合剤ならではの質問配合剤に切り替えるときに患者からときどき質問されることがある.たとえば,現在プロスタグランジン関連薬とb遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬を使用している患者に配合剤の話をすると,配合剤と単剤2剤とでは金額的に違うのかと尋ねられることがある.現在の薬価(2012年4月改訂)ではチモロールとドルゾラミドの合計金額よりコソプトRのほうが若干高くはなっているが(図2),ドルゾラミドは3回/日であり消費量が多くな●ることから,ほぼ同程度と考えてよい.チモロールが含まれているためb遮断薬が使えない症例では,当然コソプトRも使えないが,そうでない症例ではぜひ試していただき,コソプトRの利便性を実感していただきたい.文献1)StrohmaierK,SnyderE,DuBinerHetal:Theefficacyandsafetyofthedorzolamide-timololcombinationversustheconcomitantadministrationofitscomponents.Ophthalmology105:1936-1944,19982)FrancisBA,DuLT,BerkeSetal:Comparingthefixedcombinationdorzolamide-timolol(Cosopt)toconcomitantadministrationof2%dorzolamide(Trusopt)and0.5%timolol:arandomizedcontrolledtrialandareplacementstudy.JClinPharmTher29:375-380,20043)HendererJD,WilsonRP,MosterMRetal:Timolol/dorzolamidecombinationtherapyasinitialtreatmentforintraocularpressureover30mmHg.JGlaucoma14:267-270,20051710あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(62)

緑内障:Topcon 3D OCT-2000

2013年12月31日 火曜日

●連載162緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也162.Topcon3DOCT.2000齋藤瞳公立学校共済組合関東中央病院眼科トプコン社の3DOCT-2000の使用経験からその特徴をあげると以下のようになる.1)眼底写真を同時撮影できる,2)黄斑部のパラメータの上下の差分を表示しており,初期緑内障眼における局所的変化をとらえやすくしている,3)日本人のデータベースが入っている,4)新たに進行解析プログラムが搭載されていることなどがあげられる.●3DOCT.2000の緑内障用撮影モード3DOCT-2000(図1)には緑内障解析用の撮影モードとして,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚(retinalnervefiberlayerthickness:RNFLT)や,視神経乳頭形状を測定するためのdisc3Dモードと,黄斑部の網膜内層厚を測定するためのmacula(V)モードの2つが搭載されている.Disc3Dモード(図2)では,視神経乳頭周囲を6mm×6mmの3Dscanで撮影する.乳頭中心から直径3.4mmの円周上のRNFLTを求め,それをTSNITgraphや分割プロットに表示する.OCTの器械内には正常人データベースが搭載されており,年齢と性別に合わせた正常眼データと比較し測定値の異常確率をカラーマップで表示している.さらに,SD-OCTでは,短時間で大量の情報を取得・解析できるため,3Dscanした全範囲における各測定点の異常確率をsignificancemapの形で表示し,nervefiberlayerdefectの存在範囲を可視化することができる.また,乳頭面積やrim,cupパラメータなどの視神経乳頭の立体形状を計測することも可能である.Macula(V)モード(図3)では,緑内障性変化が出現する黄斑部の網膜内層厚を測定している.黄斑部RNFLT,網膜神経節細胞(ganglioncelllayer:GCL)厚,内網状層(innerplexiformlayer:IPL)厚などが測定される.本来緑内障変化を鋭敏にとらえているのはRNFLとGCL厚と思われるが,GCLは画像の精度により必ずしも分層できないことが多いため,IPLとの複合層(3DOCT-2000ではGCL+と名付けている)もしくはmRNFL,GCL,IPLの3層の複合層(一般的にganglioncellcomplexと呼ばれているが,3DOCT-2000(57)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1トプコン3DOCT.2000の外観ではGCL++と名付けている)を代替的に用いている.また,通常の網膜疾患の観察に用いられる黄斑部の撮影では横向きのA-scanを行うが,初期緑内障は上下のいずれかの半網膜に異常が始まるため,緑内障用の黄斑部撮影はあえて縦向き(vertical)のA-scanを行っている.●3DOCT.2000の特徴3DOCT-2000の乳頭周囲RNFLTおよび黄斑部パラメータの再現性は良好と報告されている1).また平均MD値.2.5dBの初期緑内障における乳頭周囲の緑内障感度・特異度は90%を超えるとの報告もあり2),その緑内障診断能は高く評価されている.しかし,各社SD-OCTで網膜分層の定義が若干異なるため実測値の互換性は必ずしもなく,注意が必要である3).他社のSD-OCTと比較した際に3DOCT-2000の特徴として,1)眼底写真を同時撮影できるため,眼底と網膜断層図の所見部位を正確に合わせることが可能である,2)黄斑部のパラメータでは,厚みの実測値,正常あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131705 実測値のカラーマップ正常データベースとの比較上下の差分のカラーマップ*実測値のカラーマップ正常データベースとの比較上下の差分のカラーマップ*視神経乳頭形状解析Significancemap分割プロットTSNITgraphとの比較以外に上下の差分を表示しており,初期緑内障眼における局所的変化をとらえやすくしている,3)日本人のデータベースが入っている,4)新たに進行解析プログラムが搭載されていることなどがあげられる.文献1)HirasawaH,AraieM,TomidokoroAetal:Reproducibilityofthicknessmeasurementsofmacularinnerretinallay1706あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013図2Disc(3D)の解析結果のプリントアウト左上方に同時撮影された眼底写真,撮影範囲のRNFL厚のカラーマップ,正常データベースとの比較を示したsignificancemapが表示されている.左下方には乳頭周囲直径3.4mm上のRNFL厚をTSNITgraphや4,12,36分割で示した分割plotが表示される.右には視神経乳頭形状の解析結果が表示されている.図3Macula(V)の解析結果のプリントアウト黄斑部を縦に6mm×6mmでスキャンしている.右側には上段から,実測値のカラーマップ,正常データベースとの比較を示したsignificancemap,上下の差分量のカラーマップ(差分が大きいほど青で表示)を表示している.ersusingSD-OCTwithorwithoutcorrectionofocularrotation.InvestOphthalmolVisSci54:2562-2570,20132)MayamaC,SaitoH,HirasawaHetal:Circle-andgrid-wiseanalysesofperipapillarynervefiberlayersbyspectraldomainopticalcoherencetomographyinearly-stageglaucoma.InvestOphthalmolVisSci54:4519-4526,20133)PakravanM,PakbinM,AghazadehamiriMetal:Peripapillaryretinalnervefiberlayerthicknessmeasurementby2differentspectraldomainopticalcoherencetomographymachines.EurJOphthalmol23:289-2952013(58)*差が大きいと青で表示される.

屈折矯正手術:フラップレス屈折手術SMILE

2013年12月31日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載163大橋裕一坪田一男163.フラップレス屈折手術SMILE五十嵐章史北里大学医学部眼科学教室SMILEの初期臨床成績は良好であり,フラップを作製しないことから,従来のLASIKと比較し術後の三叉神経への侵襲は少ない新たな角膜屈折矯正手術である.はじめにLaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,高い安全性と安定した臨床成績から,現在も屈折矯正手術の主流であるが,外傷によるフラップトラブルや遷延するドライアイなどフラップに伴う合併症は長期的にも認められている.そこで近年,フラップを作製しないsurfaceablationが見直されていたなか,新たな角膜屈折矯正手術であるsmallincisionlenticuleextraction(SMILE)が登場し,注目されている.SMILEはLASIKと異なり次世代フェムトセカンドレーザーのみを使用し,角膜実質内にレンチクルを作製し除去することによって角膜形状を変化させる手術である.LASIKのように角膜表面にフラップは作製せず,3.4mmの小切開のみを作製することから,より角膜に対する侵襲が少なく,良好なオキュラーサーフェスを獲得することが期待されている.本稿では,実際のSMILEの手術方法とその臨床成績について概説する.●手術方法①通常の内眼手術と同様に消毒を行ったのちに,ドレーピング,点眼麻酔を行う.②矯正量,レーザーの設定の確認を行う.③専用のアイコーンを瞳孔中心を目標にして角膜表面に接触させ吸引固定する.④レーザー照射を行う.⑤専用のスパーテルを用いてレンチクルの上皮側を鈍的に.離する(図1).⑥同様にレンチクルの内皮側を鈍的に.離する.⑦.離したレンチクルをセッシにて除去する(図2).⑧層間を洗浄して終了.●SMILEの臨床成績Kamiyaらの報告をもとに,当院におけるSMILE術(55)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY後6カ月の成績を述べる1).対象は26名26眼.術前の平均年齢,等価球面度数,乱視度数はそれぞれ31.5±6.2歳,.4.21±1.63D,.0.54±0.74Dであった.a.安全性,有効性矯正視力が1段階の上昇例が8%,不変例が77%,1段階の低下を認めたものが15%,2段階以上低下した例は0%であった.裸眼視力は小数視力にて0.5以上を100%,1.0以上を96%に認めた.b.予測性(矯正精度)自覚等価球面度数が0.5D以内に100%であった.c.安定性術後1週間から6カ月の自覚等価球面度数変化は0.00±0.30Dであった.d.合併症術後1週に一過性の層間混濁を19%に認めたが,その後ステロイド点眼にて全例改善を認めている.●フラップレス手術のアドバンテージ前述のとおりSMILEにおいてLASIKともっとも異なる点は,フラップを作製しない点である.フラップレスであることは角膜への侵襲が少なくなり,術後のオキュラーサーフェスや角膜強度という点でとくにアドバンテージを得られるのではないかと期待される.一般に角膜内の三叉神経はBowman膜付近にsubbasalnerveplexusと呼ばれる密な神経叢を形成しており,角膜フラップを作製する手術では,一部ヒンジを残しほぼ全周この神経叢を障害することになる.そのためLASIK術後にはドライアイが必発し,時間経過とともに改善はするものの症状が遷延する例も存在する.SMILEでは3.4mm程度の小切開のみのため神経に対する侵襲は少なく,自験例においても術後の神経線維密度は比較的温存される傾向を認める(図3).Vestergaardらの報告によるとフラップを作製するFLEx(femtosecondlentiあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131703 図1レンチクルの.離フェムトセカンドレーザーの切断面はミシン目状に癒着しているため,スパーテルを用いて鈍的に.離を行う.100μm100μm図3術後1カ月の神経線維(共焦点顕微鏡)術後1カ月のsubbasalnerveplexusを示す.左はFLEx術後,右はSMILE術後である.術後1カ月ではフラップ作製を行うFLExでは短い神経線維(矢印)がわずかに観察できるほどだが,SMILEでは長い神経線維(矢印)が多く観察できる.culeextraction)とSMILEのオキュラーサーフェスへの影響を比較したところ,術後6カ月においてSMILE群では有意に角膜知覚低下が少なく,神経線維数・密度ともに少ない減少だったとしている.一方でSchirmer試験やBUT検査には有意な差はなく,どの程度オキュラーサーフェスに影響を与えるかは今後中長期的に自覚症状を含め評価しなければいけないだろう2).また,角膜強度に関してもいくつか報告されている.Agcaらは,ORA(OcularResponseAnalysis,ReichetInc)を用いてSMILE群とLASIK群の生体力学特性を比較したところ,有意な差は認めなかったとしている3).Reinsteinらは,SMILE,PRK(photorefractivekeratectomy),図2レンチクルの除去レンチクルの両面の.離後,セッシを用いてレンチクルを除去する.LASIKのtensilestrengthを比較したところPRKやLASIKに比べSMILEでは有意に強度が高く,よりkeratectasiaのリスクが少ないかもしれないと報告している4).臨床的に角膜強度の測定はむずかしく客観的な評価は困難であるが,外傷に対する強度という点では明らかに優位性があり,長期的にフラップトラブルの危険性はなく格闘技やボクシングを行う患者にとっては新たな選択肢となり得るであろう.文献1)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Visualandrefractiveoutcomesoffemtosecondlenticuleextractionandsmall-incisionlenticuleextractionforMyopia.AmJOpthalmolEqubaheadofprint,20132)VestergaardAH,GronbechKT,GrauslundJetal:Subbasalnervemorphology,cornealsensation,andtearfilmevaluationafterrefractivefemtosecondlaserlenticuleextraction.GraefesArchClinExpOphthalmol251:25912600,20133)AgcaA,OzgurhanEB,DemirokAetal:Comparisonofcornealhysteresisandcornealresistancefactoraftersmallincisionlenticuleextractionandfemtosecondlaser-assistedLASIK:Aprospectivefelloweyestudy.ContLensAnteriorEye.Equbaheadofprint,20134)ReinsteinDZ,ArcherTJ,RandlemanJB:MathematicalmodeltocomparetherelativetensilestrengthofthecorneaafterPRK,LASIK,andsmallincisionlenticuleextraction.JRefractSurg29:454-460,20131704あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(56)

眼内レンズ:縫着眼内レンズ下での脱臼水晶体破砕

2013年12月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎328.縫着眼内レンズ下での脱臼水晶体破砕西村知久美川眼科医院脱臼水晶体の白内障手術では,的確に角膜内皮保護処置を行わないと,術後に角膜内皮細胞減少をきたしてしまう.先行して眼内レンズ縫着を行い,その後に脱臼水晶体や硝子体の処理を行うことで,角膜内皮保護を的確に行うことができる.脱臼水晶体の白内障手術では,水晶体脱臼の程度,水晶体の核硬化の程度,網膜硝子体疾患の有無,角膜内皮細胞の状態,散瞳の状況,乱視の状況など,さまざまな状態を考慮して適切な手術計画を立て,計画に基づいた手術を的確に遂行する必要がある.完全脱臼の状態で,水晶体核硬化がある程度ある場合には,通常はパーフルオロカーボンを用いて後房まで脱臼水晶体を浮遊させて,超音波乳化吸引を用いて水晶体を処理する必要がある.水晶体処理とともに眼内レンズ縫着,さらに硝子体切除も必要となる.このような場合,脱臼水晶体の処理,眼内レンズ縫着および硝子体切除を行うために手術時間が長くなることと,水晶体が本来の正常な位置に存在しないために角膜内皮保護を行う粘弾性物質の前房内への充.が的確にできない(図1)ために,術後に角膜内皮細胞減少をきたすことが懸念される.今までの図1脱臼水晶体眼および無水晶体眼での粘弾性物質の挙動*:粘弾性物質.脱臼水晶体の白内障手術では,硝子体切除→パーフルオロカーボン使用→水晶体処理→眼内レンズ縫着という手順で行っていたが,術後に比較的高度な角膜内皮細胞の減少をきたす症例を経験していた.そこで今までとは手順を変え,最初に眼内レンズ縫着を行ってから脱臼水晶体および硝子体の処理を行うことを試みた.今回の症例は51歳,男性.Marfan症候群で,右眼の水晶体脱臼を認めた.約20年間,硝子体腔内に水晶体が落下しており,水晶体の形態は球状を呈し,核硬化度も高度であった.また,脱臼水晶体は眼内を浮遊しており,ときおり前房内にも脱臼し(図2),角膜内皮細胞の減少が著明であった.今回の手術では,最初に眼内レンズの毛様溝縫着を行い,前房内を粘弾性物質で満たして角膜内皮保護を行った(図3).その後,硝子体切除を行って,パーフルオロカーボンを眼内に注入し,脱臼水晶体を後房まで浮遊させて,眼内レンズの後方で超音波白内障手術を行った(図4,5).脱臼水晶体の超音波白内障手術では,水晶体の挙動が大きく,水晶図2Marfan症候群で水晶体脱臼をきたした症例の前眼部写真(53)あたらしい眼科Vol.30,No.12,201317010910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図4縫着眼内レンズ下での脱臼水晶体破砕図3眼内レンズ縫着を行った場合の粘弾性物質の挙動*:粘弾性物質.体核の硬化度が高度の場合には,超音波での処理にも時間がかかり,超音波使用量も多くなる.今回の症例では,散瞳状態も良好であったため,術中の視認性にも問題なく手術を行うことができた.フォールダブル眼内レンズを縫着したことにより小切開手術を施行することができ,術後乱視への影響を抑えることもでき,術後早期の視力回復が可能となった.また,本来の目標であった角膜内皮保護を的確に行えたため,術後に角膜内皮細胞も保持されていた.今回の経験をもとに考察をすると,脱臼水晶体眼の白内障手術や無水晶体眼の硝子体手術を行うときには,最初に眼内レンズ縫着を行い,前房内を的確に粘弾性物質で充.することにより,しっかりと角膜内皮細胞を保護することができる.術中の眼内灌流液の使用量が多くな法である.今回の症例では散瞳状態が良かったため直径る長時間の手術や,硝子体術中に液空気置換を行う場6.0mmの眼内レンズを用いたが,散瞳不良例では直径合,パーフルオロカーボン,シリコーンオイルやガスを5.5mmの眼内レンズを選択する必要もあると考える.注入する場合にも,角膜内皮保護を行ううえで有効な方図5縫着眼内レンズ下での脱臼水晶体破砕のシェーマ*:粘弾性物質,**:水晶体,***:パーフルオロカーボン.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン⑦

2013年12月31日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②7本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.コンプライアンスの悪いコンタクトレンズ患者がよく来院します.こうした患者への指導のポイントを教えてください講師植田喜一ウエダ眼科コンタクトレンズ(CL)の購入が医師の処方に基づくことが法的に定められていないため,勝手にCLを購入する使用者が増えている.処方せん不要をうたった広告が拍車をかけている.医療機関を受診すればCLの使用やレンズケアのポイントなどを説明できるが,定期検査を受けない患者も多い.誤ったCLの使用によりトラブルが生じて眼科を受診するといった患者が増えている.こうした患者への対応には頭を悩ませる.筆者の施設では,CL患者に対して専用の問診票を渡して記入を求めている.使用中のCL製品名,装用時間,使用期限のあるCLの場合は開封してからの日数(装用期間),ケア用品名,CLのこすり洗いの状況,レンズケースの取り扱いなどについて質問している.診察の前に知りたい情報が入手できるだけでなく,患者の自己チェックにもなる.●CLの製品名再診の患者の場合,必ずしも処方したCLを装用しているとは限らない.製品名を確認するとともに,患者には勝手に製品を変更しないように指導する.初診では自分が使用している製品名を知らない患者がいる.とくにカラーCL装用者にそういったケースが多い.できればスマートフォン,タブレットなどで製品名を調べてもらうと良い.トラブルが生じた患者の場合は,製品名を特定する必要がある.次回の受診時に外箱,あるいはブリスターケースを持参するように指導する.(51)●装用時間1日の装用時間が長いようであれば生活の状況を聴取して,眼鏡を掛ける時間を具体的に指導する.遅くても入浴前には眼鏡にするように説明する.眼鏡を所有していない患者や眼に合った眼鏡を使用していない患者には適正な眼鏡を処方する.来院した日の装着を開始した時間とはずす予定の時間も聴取する.前眼部所見から患者の日頃の装用時間が適当であるかを判断する.装着直後であると問題のないことが多いので,なるべく長時間装用した状況で来院するよう説明する.●装用期間再診の場合は処方したCLの枚数と受診の間隔から,装用期間を延長して使用していないかチェックする.患者はCLを毎日使用していないこともあり,CLと眼鏡の使用状況を確認する必要がある.●ケア用品の種類不適切なレンズケアによる角膜感染症が増えている.説明したケア用品とは異なる製品を使用している場合があるので,患者が現在使用しているケア用品名を確認する.製品によって洗浄・消毒効果に差がある1.4)ので,患者にもっとも有用だと考えられる製品をすすめる.●CLのこすり洗いCLの汚れ(蛋白質,脂質,微生物,花粉など)を落とすには,こすり洗いがもっとも効果的である.普段行っているこすり洗いの頻度と回数を確認する.筆者の施設では,CLをはずした後だけでなく,装着する前の2度行うように指導している.ソフトコンタクトレンズ(SCL)については表と裏を各20.30回こすり洗いする.回数を守るために1回,あたらしい眼科Vol.30,No.12,201316990910-1810/13/\100/頁/JCOPY 2回,3回……と声に出して洗うように説明している.ハードコンタクトレンズ(HCL)については手のひらでレンズの表面を(図1a),3本指でレンズの裏面を(図1b)しっかりこするように説明している.こうした指導をしているにもかかわらずCLが汚れている場合には,実際に患者に日頃行っているレンズケアをみせてもらい,問題点を具体的に指摘する.また,SCLの化学消毒剤のボトル汚染が問題になっているので,開栓後は1カ月以内に使用するように指導する5).CLを調子良く使用していると思っている患者であっても,細隙灯顕微鏡で検査すると前眼部に異常所見やCLに汚れなどを認めることはよくある.SCLの場合,装用感が良いため異常所見があっても自覚していないことも多い.言葉で説明しても患者に理解してもらえないことがあるので,画像を撮り,それらをみせて説明すると効果的である.●レンズケースレンズケースに付着する微生物が問題になっている.レンズケースも1日に2度こすり洗いして,CLを保存しないときは自然乾燥するように説明する.SCLは,ケア用品にレンズケースが付属されているので,3カ月程度で交換していると思われる.HCLのレンズケースは別売になっていることがほとんどであるため,短期間に交換するように指導する.次回の受診時に指導した内容が守られていれば,そのことを褒めてモチベーションを上げることも大切である.改善されていない場合にはさらに具体的な指導を行うことになる.ab図1HCLのこすり洗いa:手のひら洗浄b:3本指洗浄文献1)植田喜一:コンタクトレンズケアの実際.あたらしい眼科17:935-944,20002)植田喜一,柳井亮二:ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策.あたらしい眼科28:1673-1680,20113)植田喜一,柳井亮二:マルチパーパスソリューション.あたらしい眼科24:747-757,20074)植田喜一:角膜感染症の予防から考えるハードコンタクトレンズのケア.日コレ誌55:120-123,20135)日本コンタクトレンズ協議会,ソフトコンタクトレンズ用消毒剤検討委員会:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤に対する提言.日本の眼科83:101-103,20121700あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(00)ZS693

写真:睫毛内反による続発性アミロイドーシス

2013年12月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦355.睫毛内反による続発性宮本佳菜絵*1木下茂*2*1バプテスト眼科クリニックアミロイドーシス*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学アミロイド沈着図2図1のシェーマ図1初診時の前眼部所見角膜中央やや下方に,灰白色の限局した隆起性病変を認める.図3下眼瞼睫毛内反図4フルオレセイン染色所見下眼瞼の睫毛内反を認め,睫毛の接触部位に一致して,角膜の隆起性病変のほか,鼻側下方に睫毛内反による角膜上皮障害を隆起性病変が生じていることがわかる.本症例では,表層角膜認める.切除とともに下眼瞼内反症手術を施行した.(49)あたらしい眼科Vol.30,No.12,201316970910-1810/13/\100/頁/JCOPY 角膜アミロイドーシスは,原発性と続発性に分類される.原発性アミロイドーシスは,おもに遺伝子異常が原因でアミロイドが産生されると考えられ,格子状角膜ジストロフィや膠状滴状角膜ジストロフィで観察される.一方,続発性アミロイドーシスは,外的因子が原因でアミロイドが産生されると考えられ,睫毛内反や睫毛乱生,円錐角膜を基礎疾患として生じることが多く,睫毛の接触や円錐角膜におけるコンタクトレンズ装用などの慢性刺激により,角膜上皮のバリアが破壊され,そこになんらかの蛋白が沈着してアミロイドを形成すると考えられる.続発性アミロイドーシスは女性に多く,臨床所見は,膠状滴状角膜ジストロフィに類似した灰白色の隆起性病変,格子状角膜ジストロフィに類似した格子状病変,もしくは両者の合併の3タイプに分類される1,2).アミロイドーシスの診断は,臨床所見に加えて,病理組織学的検査が必要であるが,実際の臨床では,臨床所見のみで診断されることも多い.本症例では,切除標本の病理組織学的検索にて,ヘマトキシリンエオジン染色で橙色,コンゴレッド染色で赤橙色,偏光顕微鏡では緑色を呈する物質を認めたことより,病変がアミロイド物質の沈着であることが確認された.沈着するアミロイド物質については,佐々木らが,561番目のコドンがグルタミンからアスパラギン酸へ変化した変異ラクトフェリンが前駆蛋白であると報告している3).ラクトフェリンは,精巣においてアミロイドの前駆蛋白であることがすでに報告されており4),invitroにおいてラクトフェリンがアミロイド形成能を有することも確認されている5).しかし,近年,ケラトエピテリンが前駆蛋白であるという報告もなされており6),現在もまだ明確な病態解明には至っていない.続発性アミロイドーシスの治療は,視機能への影響,またそのほかの自覚症状の有無により判断する.自覚症状がなければ必ずしも切除する必要はないが,異物感や流涙があれば,表層角膜切除の適応と考えられる.病変が大きく視力低下を伴う場合は,表層角膜移植が選択されることもある.また,再発予防のため,睫毛手術や定期的な睫毛抜去,円錐角膜であればコンタクトレンズのフィッティングの見直しといったように,原因となる外的因子の除去も行うことも重要であると考える.本症例では,表層角膜切除および下眼瞼内反症手術を行い,術後約1年が経過する現在も再発を認めず良好に経過している.文献1)佐々木香る,小幡博人,山田昌和ほか:続発性アミロイドーシスの臨床像について.臨床眼科61:1641-1644,20072)Araki-SasakiK,HiranoK,OsakabeYetal:Classificationofsecondarycornealamyloidosisandinvolvementoflactoferrin.Ophthamology6:1166-1172,20133)Araki-SasakiK,AndoY,NakamuraMetal:LactoferrinGlu561Aspfacilitatessecondaryamyloidosisinthecornea.BrJOphthalmol89:684-688,20054)TsutsumiY,SerizawaA,HoriS:Localizedamyloidosisoftheseminalvesicle:identificationoflactoferrinimmunoactivityintheamyloidmaterial.PathologyInternational46:491-497,19965)NilssonMR,DobsonCM:Invitrocharacterizationoflactoferrinaggregationandamyloidformation.Biochemistry42:375-382,20036)SuesskindD,Auw-HaedrichC,SchorderetDFetal:Keratoepithelininsecondarycornealamyloidosis.GraefesArchClinExpOphthalmol244:725-731,20061698あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(00)

維持期の長期管理

2013年12月31日 火曜日

特集●加齢黄斑変性診療ガイドあたらしい眼科30(12):1689.1693,2013特集●加齢黄斑変性診療ガイドあたらしい眼科30(12):1689.1693,2013維持期の長期管理Long-TermManagementintheMaintenancePhaseofAnti-VEGFTherapy永井由巳*I抗VEGF療法滲出型加齢黄斑変性(exudativeage-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を抑制する抗VEGF剤の硝子体内投与が広く行われるようになった.厚生労働省研究班の加齢黄斑変性治療指針1)でも,中心窩を含む脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を認めるAMDに対する治療は,抗VEGF療法あるいは光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)と抗VEGF療法の併用療法が推奨されている.この抗VEGF療法はCNVの活動性を抑制して視力を回復させる導入期と,その後に回復した視力を維持させる維持期とに分けて治療戦略や治療効果を考える必要がある.特に,わが国で抗VEGF剤が承認されて5年が過ぎ,長期にわたる治療戦略が課題となっている.AMDは慢性疾患であり,維持期における再発を認める症例も多く,またその時期については病型や個々の病態によっても異なっている.その維持期における観察,再投与についての現時点での考え方を述べる.II維持期の再投与における考え方現在,国内ではペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトの3種の抗VEGF剤が承認され,AMDに対して一定の成績を認めている.その投与法はどの薬剤も導入期が設けられており,ペガプタニブであれば初回投与から6週間あけて2回,ラニビズマブとアフリベルセプトは4週間おきに3回投与することが基準となっている.導入期の投与で滲出抑制効果を得られれば経過観察となるが,症例によっては再発を認めるものもあり,再発時には同じ薬剤あるいは別の薬剤に変更して再治療を行うことになる.しかしながら,この維持期における治療は,症例によって病状が異なるため個々に対応が必要となる.維持期の再投与における考え方として,投与のタイミングに関しては,病状の悪化を防ぐために事前に計画した間隔で投与する「計画的投与:Proactive」と,病状の悪化を認めたときに事後的に投与する「事後対応的投与:Reactive」とがある.さらに個々の患者への対応として,最大の治療効果を得るために個々の病状によらずに一定の間隔で投与する「標準化:Standardized」と“Proactive”“Reactive”(計画的投与)(事後対応的投与)“Standardized”(標準化)“Individualized”(個別化)Fixeddosing(定期的投与)PRN,asneeded(PRN投与)ObserveandTreatTAE(TreatandExtend)図1抗VEGF療法:維持期における投与の考え方*YoshimiNagai:関西医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-1010枚方市新町2丁目5番1号関西医科大学医学部眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)1689 ANCHOR試験15視力の平均変化量(文字数)1050-5-10-15:ラニビズマブ0.5mg:ラニビズマブ0.3mg:ベルテポルフィン:シャム注射p<0.001vsベルテポルフィン(ANOVA)月ラニビズマブ0.5mgn=139ラニビズマブ0.3mgn=140ベルテポルフィンn=143ラニビズマブ0.5mgn=240ラニビズマブ0.3mgn=238シャム注射n=238p<0.001vsシャム注射(ANOVA)03691215182124月03691215182124MARINA試験10視力の平均変化量(文字数)50-5-10-15図2抗VEGF療法:ANCHOR試験・MARINA試験ラニビズマブの月1回投与により,有意な視力改善をもたらし24カ月にわたって維持した.15個々の病状や事情に合わせて投与間隔を変更する「個別化:Individualized」とがある(図1).III維持期における投与法①:PRN(prorenata)現在,わが国でおもに行われている維持期の再投与方視力の変化量(文字数)12963:平均値:中央値法は図1で示したPRN(prorenata:必要時投与)であり,事後対応的投与が多く行われている.このPRNが行われるようになるにあたっては,以下のようなさまざまな臨床試験の結果によるところが大きい.まず,ラニビズマブの大規模臨床試験である,ANCHOR試験2),MARINA試験3),アフリベルセプトのVIEW試験4)では維持期に毎月投与することで,導入期で改善させて視力を維持し続けることができた(図2).このことから維持期の投与間隔をあける投与法が検討され,投与間隔を3カ月としたPIER試験5)が行われたが,導入期で改善した視力はその後徐々に低下した.1690あたらしい眼科Vol.30,No.12,20130024681012141618202224最初の注射からの月図3抗VEGF療法:PrONTO試験ラニビズマブの維持期における投与を8週ごとで行ったところ,視力スコアの平均値,中央値は有意に改善した.そこで投与間隔を8週ごとにしたPrONTO試験6)が行われ,ラニビズマブ8週ごとの投与で改善された視力が2年間にわたって維持されることが証明された(図3).この8週ごとの投与での視力維持効果はVIEW試験でも確認されている.しかしながら,すべての症例に2カ(42) ラニビズマブ導入期3回投与IVR①LV=(0.8)IVR②LV=(0.8)IVR③LV=(0.9)IVR④LV=(0.7)IVR⑤LV=(0.7)IVR⑥LV=(0.5)IVR⑦LV=(0.9)経過観察4カ月ラニビズマブ導入期3回投与IVR①LV=(0.8)IVR②LV=(0.8)IVR③LV=(0.9)IVR④LV=(0.7)IVR⑤LV=(0.7)IVR⑥LV=(0.5)IVR⑦LV=(0.9)経過観察4カ月図4PRNで経過をみた症例症例は70歳の男性.典型AMDのオカルトタイプ.ラニビズマブの導入期3回投与を行うも滲出の消退を得ず,2回再投与を行い漿液性網膜.離は吸収した.4カ月後に漿液性網膜色素上皮.離の拡大を認め視力も(0.5)に低下.再度ラニビズマブを投与し網膜色素上皮.離は吸収して視力も(0.9)に回復した.月ごとの経過観察と硝子体内投与を行うことは,通院回数や治療に必要な医療費の増加などの患者負担や,医療現場の外来患者数や治療件数の増加に伴う医療スタッフの負担増加など問題点が多い7).また,疾患の性質上高齢者が多いことから投与回数が増えることで,薬剤による全身副作用の頻度が増えることも懸念される.これらの結果から,毎月診察を行って,個々の症例の病状の変化に応じて再投与を行うPRNの方法が広く行われることになった(図4).先に示した毎月投与の試験とPRNを比較した大規模臨床試験としてCATT試験8),HARBOR試験9),IVAN試験10)などが公表され,毎月投与群とPRN群との間に視力維持の効果については差がないことが示されている(図5).ただし,PRNで経過をみるには厳密に再発の有無を判読する必要があり,(43)151413121110:ラニビズマブ月1回投与:ベバシズマブ月1回投与:ラニビズマブPRN投与:ベバシズマブPRN投与9876543210週8.87.76.75.0p=0.046,104週目に月1回投与とPRN投与を比較視力の平均変化量(文字数)0412243652647688104図5抗VEGF療法:CATT試験ラニビズマブ,ベバシズマブを毎月投与群とPRN投与群で比較すると,2年にわたって両群ともに同等の視力改善をみた.どちらの群も,PRN投与群よりも毎月投与群に比して若干視力は低かった.あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131691 診察医の判断によっては再治療に適した時期を逃して結果的に視力が下がってしまう可能性があること,毎月経過をみる必要があること,患者も受診した日の結果を知らされるまで投与の有無が分からず心理的負担が大きいこと,先に示した毎月投与との比較試験8.10)において劣性は証明されなかったがPRNのほうが若干視力経過が悪いことなどの問題点も多い.PRNで経過観察を行うにあたっては,これらの問題点も念頭において厳密な病状の判断を行い的確な再治療を行う必要がある.また,毎月の経過観察を全患者に行うのは外来の混雑や患者自身の通院の問題もあり,病院-病院連携や病院診療所連携を強化して経過観察を行うというシステムの改善も必要である.IV維持期における投与法②:Treat&ExtendPRNは前述のように,きめ細かい診察を行い厳密に再投与基準に合致しないかの判断を必要とする.実臨床の現場では,再発を認めたときに即座に再投与できないことも多く(患者や付き添い者の事情,自宅との距離や移動手段などの事情,外来混雑による再投与日の予約困難,患者の経済的事情),また診察医による再投与判断のぶれなどもあって,的確な時期に再投与を行うのはむずかしい状況にある.実際に,ANCHOR試験2),MARINA試験3)の追跡試験(HORIZON試験11),SEVEN-UP試験12))で長期に経過観察すると視力が段階的に低下するとの報告もある(図6).こういった問題点を解消すべく,滲出性所見が消退していても計画的投与(Proactive投与)を行い,安定している期間を考慮して投与間隔を延長しながら経過観察を行うTreat&Extendという考え方が提唱され欧米では広まりつつある13).この方法は,ラニビズマブやアフリベルセプトの3回導入期投与の4週後に滲出が消退して眼底がドライになっていても再投与を行い,2週経過観察期間を延ばして6週後の受診として再投与を行い,眼底がドライである間は再投与と経過観察期間の延長を繰り返して最長3カ月まで間隔をあける管理方法である.中途で滲出の再燃を認めたら再投与のうえ,観察期間を4週に戻すかあるいは2週観察期間を短くして診察と再投与を行い,また2週ずつ期間延長を繰り返していく.1692あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013MARINA,ANCHORHORIZONSEVEN-UPMonthlyRealworldtreatment-10-5051015+11.2+1.7-8.6+9.0+4.1+2.01234567.3year-15-20*****:Ranibizumabtreated:SEVEN-UP:Ranibizumabtreated:HORIZONETDR文字数(n=65)(n=50)(n=65)(n=388)**p<0.005**p<0.0001***p<0.001(vsSEVEN-UP7.3y)図6抗VEGF療法:HORIZON試験・SEVEN.UP試験ANCHOR試験・MARINA試験の後,継続して3または4年間のフォローアップにおいて,最初の試験でラニビズマブ治療を受けた群では視力の段階的な低下が認められた.さらに7年目まで経過観察したところさらに視力の低下をみた.この方法によって投与日を決めることにより,症例に適した通院間隔を決めることができ,また来院日には再投与を行うということで患者の再投与をするか否かというPRNでの経過観察時における通院時の不安も解消できる.そういったことからも,多くの硝子体内投与を受けるAMD患者が増え続けている現状のなかで,必要以上の通院回数を削減でき,来院時には再投与の準備をするということで医療サイド側の診療効率も上がると考えられる.しかしながら,症例のなかには抗VEGF剤の導入期3回以降,まったく再発を起こさず落ち着いている人もいるので,Treat&Extendで再投与を行うことで過剰投与になることもありうる.この点についてはさらに今後の検討が必要であると考える.V維持期における今後の治療現在の抗VEGF剤投与の維持期における投与法について考察した.PRNでは厳しく再燃の判断を行い速やかに再投与を行うことができれば,導入期に改善した視機能を維持できるが,通院回数,外来の煩雑さの問題などがある.Treat&Extendでは診察と投与日を前もって決めることができ,患者側と医療者側の負担の軽減を見込めるが,過剰投与を行う症例があって医療費の増加の問題に繋がる.こういったPRNとTreat&Extendとの長所と短所を考慮し,よりきめ細やかな個別化医療(44) を検討する必要がある.文献1)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,20122)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65,20093)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJS,etal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20064)HeierJS,BrownDM,ChongV,etal;VIEW1andVIEW2StudyGroups:Intravitrealaflibercept(VEGFTrapEye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,20125)RegilloCD,BrownDM,AbrahamPetal:Randomized,double-masked,sham-controlledtrialofranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:PIERstudyyear1.AmJOphthalmol145:239-248,20086)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariable-dosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:year2ofthePrONTOstudy.AmJOphthalmol148:43-58,20097)StewartMW,RosenfeldPJ,PenhaFMetal:Pharmacokineticrationalefordosingevery2weeksversus4weekswithintravitrealranibizumab,bevacizumab,andaflibercept(vascularendothelialgrowthfactortrap-eye),Retina32:434-457,20128)MartinDF,MaguireMG,YingG-Setal;CATTResearchGroup:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20119)BusbeeBG,MurahashiWY,LiZetal:Efficacyandsafetyof2.0mgor0.5mgranibizumabinpatientswithsubfovealneovascularAMD:HARBORstudy[abstract].Presentedat:AnnualMeetingoftheAmericanAcademyofOphthalmology(AAO);October22-25,2011;Orlando,FL.SessionPA031,201110)ChakravarthyU,HardingSP,RogersCAetal;TheIVANStudyInvestigatorsWritingCommittee:Ranibizumabversusbevacizumabtotreatneovascularage-relatedmaculardegeneration:one-yearfindingsfromtheIVANrandomizedtrial.Ophthalmology119:1399-1411,201211)SingerMA,AwhCC,SaddaSetal;HORIZONStudyGroup:HORIZON:anopen-labelextensiontrialofranibizumabforchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:1175-1183,201212)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal(SEVEN-UPStudyGroup);Seven-YearOutcomesinRanibizumab-TreatedPatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:AMulticenterCohortStudy(SEVEN-UP).Ophthalmology120:2292-2299,201313)GuptaOP,ShienbaumG,PatelAHetal:Atreatandextendregimenusingranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegenerationclinicalandeconomicimpact.Ophthalmology117:2134-2140,2010(45)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131693