特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):493.496,2014特集●眼とアンチエイジングあたらしい眼科31(4):493.496,2014レスベラトロールによる網膜のアンチエイジングEffectofResveratrolonAgingoftheRetina長岡泰司*はじめにエイジング(老化)は,加齢に伴って恒常性維持機構が破綻する結果認められる生命現象と定義される.網膜においては,加齢黄斑変性など,加齢による直接作用を受ける疾患に加え,動脈硬化など加齢に伴う病態・疾患に影響を受ける網膜静脈分枝閉塞症などがあり,網膜へのエイジングの影響は複雑・多様である.最近予防医学の観点から,網膜のエイジングを薬物やサプリメントで予防することが期待されている.実際,米国で実施されたAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)では,抗酸化剤ビタミンとミネラルを含むサプリメントが加齢黄斑変性の発症・進行の予防に有効であるとの報告がなされ,サプリメントによる網膜のアンチエイジングが期待される.最近,カロリー摂取制限(caloricrestriction:CR)による寿命延長の効果が注目されている.実際,CRにより長寿遺伝子サーチュインが活性化され1),酵母の寿命が延長するというアンチエイジング効果が『Nature』誌に報告され,サーチュインに着目したアンチエイジングの研究が飛躍的に増加している.一方で,サーチュインが長寿遺伝子ではないという意見もあり,今後のさらなる研究が必要とされており,まだまだ活発な議論がなされているところであるが,本項では,サーチュイン=長寿遺伝子という立場に立って話を進めていく.古くから日本でも,「腹八分目は医者いらず」ということわざがあるように,食餌制限が健康に良いというこ3¢OH2¢4¢HO65¢56¢423OH図1レスベラトロールの構造式〔あたらしい眼科27:17,2010〕とは経験的に知られていたが,これが科学的に証明される時代になったといえる.食餌制限が健康に良いことはわかっても,それを日常生活で実践することは至難の業といえる.食餌制限をせずに長寿遺伝子サーチュインを活性化できれば理想的である.そこで,サーチュインを活性化する物質の探索が始まった.2003年,レスベラトロール(図1)が長寿遺伝子サーチュインをもっとも活性化させるという報告がなされ2),俄然レスベラトロールが注目を集めるようになった.レスベラトロールは赤ワインに含有されているポリフェノールであるが,古くから「フレンチパラドックス」として知られる赤ワインと心血管関連死抑制の関連性について3),このレスベラトロールが心血管保護的に作用することが知られてるようになり,長寿遺伝子サーチュインの活性化作用が近年注目を集めている.本項では,これまでの網膜領域におけるレスベラトロールの研究成果についてまとめるとともに,眼科領域でのレスベ*TaijiNagaoka:旭川医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕長岡泰司:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(15)493ラトロールを用いた研究も進んでおり,今後のレスベラトロールによる網膜アンチエイジングの可能性について考えてみる.Iレスベラトロールのアンチエイジング効果と長寿遺伝子SIRTレスベラトロールによるアンチエイジング効果については,長寿遺伝子として知られるサーチュイン遺伝子が深く関与していると考えられている.サーチュイン遺伝子SIRTは,ヒトでは7種類見つかっており,SIRT1.7と命名されている.なかでもSIRT1は,核内に存在し,エネルギーの摂取状況に応じて,複数の転写因子や制御因子を脱アセチル化することにより,標的遺伝子の発現レベルを制御して,代謝を調節することから,カロリー制限時に活性化すると考えられ,摂食エネルギーの変動に適応するために必要な分子である.レスベラトロールの標的もこのSIRT1であるとされる.眼球におけるサーチュイン遺伝子の発現も確認されており,網膜では,網膜色素上皮細胞,内顆粒層,外顆粒層,神経節細胞層にSIRT1の発現が認められている4)(図2).現在,米国ではこのサーチュインを活性化させる物質がいくつか開発されており,その臨床治験の結果SIRT1Retina図2網膜におけるSIRT1の局在(文献4より改変掲載)が待たれるところであるが,現時点ではいまだ有効性が証明されてはいない.また,サーチュイン遺伝子が実際どのようなメカニズムでアンチエイジングに働くのかはよくわかっておらず,今後の眼科領域におけるサーチュイン遺伝子の研究の発展に期待したい.IIレスベラトロールの網膜神経保護効果網膜疾患モデルでレスベラトロールの網膜神経保護効果が最近多く報告されている.以下に簡単にまとめる.1.糖尿病網膜症実験糖尿病モデル動物におけるレスベラトロールの網膜神経保護の報告としては,2010年にKimらが,STZ誘発糖尿病マウスでは,発症2カ月後で認められる神経節細胞死が,レスベラトロール(20mg/kg)の4週間連日投与により抑制されると報告した5).彼らはさらに同じ糖尿病マウスモデルで,血管透過性亢進,網膜毛細血管壁細胞消失,血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生増加が,レスベラトロール投与により抑制されたと報告している6).Kubotaらも,STZ(ストレプトゾトシン)誘発糖尿病マウスによる検討で,慢性炎症反応としてみられる白血球接着や網膜内ICAM(細胞間接着因子)-1およびVEGFの発現が,レスベラトロール投与(50mg/kg体重,7日間)により抑制されることを報告した7).さらに彼らは,このレスベラトロールの抑制効果には,AMP-activatedproteinkinase(AMPK)の活性化が関与しており,糖尿病で低下したAMPK活性化の低下が,レスベラトロールのみならずAMPK活性化剤であるAICARでも回復しているのを見いだしている.AMPKは,エネルギー低下により産生が増加するAMPによって活性化される蛋白質リン酸化酵素であり,レスベラトロールの網膜における作用にはAMPKの活性化も関与していることを示している.筆者らも,AMPK活性化剤AICARや,シロスタゾールで網膜血管が拡張することを見いだしており8),AMPKを標的とした網膜血管保護効果も期待される.2.視神経挫滅視神経挫滅による網膜神経節細胞死は,レスベラトロ494あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(16)ール(9.4μM)の硝子体投与により抑制された.この抑制作用はSIRT1阻害剤の同時投与で消失したことから,このレスベラトロールの神経保護作用はSIRT1活性化を介した作用と推測される9).同様の知見は,SIRT1を過剰発現させたマウスでも確認されており,レスベラトロールの神経保護作用には酸化ストレスの抑制も関連すると報告されている10).3.網膜虚血再灌流眼圧上昇による網膜虚血再灌流により網膜機能障害が引き起こされるが,レスベラトロール30mg/kgをラットの腹腔内に前投与しておくと,網膜機能変化(ERGでのa波・b波の振幅低下)と組織学的変化(網膜の菲薄化)がいずれも減弱し,レスベラトロールによる網膜神経保護作用が認められた11).また,Liらは12),虚血再灌流負荷2日前からマウスにレスベラトロールを投与しておいたところ,毛細血管レベルでの変性が抑制され,これは小胞体ストレスを介した反応であると考えられる.レスベラトロールが抗酸化ストレス作用を有することはよく知られているが,小胞体ストレスの抑制を介していることが示されたことは興味深い.4.網膜.離ラットの網膜下に粘弾性物質を注入して人工的網膜.離を作製すると,作製後3日で視細胞のアポトーシスや外顆粒層の菲薄化が引き起こされるが,レスベラトロール(20mg/kg)を腹腔内投与すると,有意にTUNEL(TdT-mediateddUTPnickandlabeling)陽性細胞数が減少しており,レスベラトロールの神経保護効果が確認された13).5.光障害性網膜変性網膜光障害による網膜変性モデルマウスは,網膜色素変性症や加齢黄斑変性の研究に有用である.Kubotaらは,マウスに光曝露(5,000lx,白色光,3時間)を行い,照射後48時間で網膜におけるアポトーシスは増加するが,50mg/kgのレスベラトロールを照射前5日間にわたって経口投与したところ,網膜の機能的・形態的障害が抑制された.これにもレスベラトロールによる(17)%MaximalDilation706050403020100-6-5-4Control(n=17)●L-NAME(n=7)Indomethacin(n=7)▼Sulfaphenazole(n=3)*p<0.05●◆Resveratrol(logM)図3レスベラトロールによる網膜血管拡張反応容量依存性に,最大濃度で約50%血管が拡張している.インドメタシンやスルファフェナゾールの前投与では変化しないが,NO合成酵素阻害剤L-NAME前投与で,その血管拡張反応は半減する.SIRT1の活性化が関与していると考えられている14).6.網膜血管拡張作用筆者らはレスベラトロールの血管保護作用に着目し,網膜血管への直接作用について,ブタ摘出血管実験系にて検討した15).1.500μMまでのレスベラトロールを負荷すると,網膜血管は容量依存性に拡張し,最大で約60%拡張した(図3).この拡張は,CHAPSによる網膜血管内皮.離により約半分に減弱したことから,レスベラトロールは血管内皮と血管平滑筋に半分ずつ作用して血管を拡張させると考えられた.血管内皮由来の拡張因子にはNOに加えてプロスタサイクリン,血管内皮由来過分極因子(EDHF)があるが,それぞれの阻害剤を前投与したところ,NO合成酵素阻害剤L-NAMEの前投与でのみレスベラトロールによる拡張反応は減弱した(図3).これより,レスベラトロールの網膜血管反応は血管内皮から産生されるNOが関与することが明らかとなった.さらに,ERK(extracelluarsignal-relatedkinase)阻害剤の前投与によっても血管拡張反応はL-NAME前投与と同程度は抑制されており,ERKによるMAP(mitogen-activatedprotein)キナーゼの活性化によってeNOS活性化され,血管内皮からのNOの産あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014495生が誘導されることが示された.加齢により血管内皮細胞は老化し,内皮細胞におけるeNOSの減少が報告されている.この加齢・老化による血管拡張作用の減弱を改善することは,血管障害により引き起こされるさまざまな疾患の予防・治療戦略の上で重要であると考えられ,レスベラトロールによる網膜血管のアンチエイジング効果で網膜疾患の予防も期待され,今後の臨床研究の結果が待たれる.おわりに本項で紹介したとおり,レスベラトロールの網膜アンチエイジング効果は,動物実験レベルにおいてはエビデンスが揃いつつあるといえる.しかしながら,ヒトを対象とした臨床研究ではまだ証明されておらず,今後の課題である.超高齢化社会を迎えるにあたり,増え続ける一方の医療費の増大を防ぐためには,予防医学は非常に重要である.今後,レスベラトロールはもちろん,本特集で紹介されるサプリメントを組み合わせて,より良い網膜アンチエイジングのアプローチを確立させることが期待される.一方で,サプリメントやフードファクターは,健康食品業者の宣伝が先行し,サイエンティフィックなエビデンスに乏しいことが指摘され,医学としてのサプリメントの位置づけは確立されていないともいえる.今後,レスベラトロールの網膜アンチエイジング作用について,臨床でのエビデンスを増やしていくことが必要不可欠であると考えている.文献1)GuarenteL,KenyonC:Geneticpathwaysthatregulateageinginmodelorganisms.Nature408(6809):255-262,20002)HowitzKT,BittermanKJ,CohenHYetal:SmallmoleculeactivatorsofsirtuinsextendSaccharomycescerevisiaelifespan.Nature425(6954):191-196,20033)FrankelEN,WaterhouseAL,KinsellaJE:InhibitionofhumanLDLoxidationbyresveratrol.Lancet341(8852):1103-1104,19934)MimuraT,KajiY,NomaHetal:TheroleofSIRT1inocularaging.ExpEyeRes116:17-26,20135)KimYH,KimYS,KangSSetal:ResveratrolinhibitsneuronalapoptosisandelevatedCa2+/calmodulin-dependentproteinkinaseIIactivityindiabeticmouseretina.Diabetes59:1825-1835,20106)KimYH,KimYS,RohGSetal:Resveratrolblocksdiabetes-inducedearlyvascularlesionsandvascularendothelialgrowthfactorinductioninmouseretinas.ActaOphthalmologica90:e31-e37,20127)KubotaS,OzawaY,KuriharaTetal:RolesofAMP-activatedproteinkinaseindiabetes-inducedretinalinflammation.InvestOphthalmolVisSci52:9142-9148,20118)TananoI,NagaokaT,OmaeTetal:Dilationofporcineretinalarteriolestocilostazol:rolesofeNOSphosphorylationviacAMP/proteinkinaseAandAMP-activatedproteinkinaseandpotassiumchannels.InvestOphthalmolVisSci54:1443-1449,20139)KimSH,ParkJH,KimYJetal:Theneuroprotectiveeffectofresveratrolonretinalganglioncellsafteropticnervetransection.MolVis19:1667-1676,201310)ZuoL,KhanRS,LeeVetal:SIRT1promotesRGCsurvivalanddelayslossoffunctionfollowingopticnervecrush.InvestOphthalmolVisSci54:5097-5102,201311)VinAP,HuH,ZhaiYetal:Neuroprotectiveeffectofresveratrolprophylaxisonexperimentalretinalischemicinjury.ExpEyeRes108:72-75,201312)LiC,WangL,HuangKetal:Endoplasmicreticulumstressinretinalvasculardegeneration:protectiveroleofresveratrol.InvestOphthalmolVisSci53:3241-3249,201213)HuangW,LiG,QiuJetal:Protectiveeffectsofresveratrolinexperimentalretinaldetachment.PLoSOne8:e75735,201314)KubotaS,KuriharaT,EbinumaMetal:Resveratrolpreventslight-inducedretinaldegenerationviasuppressingactivatorprotein-1activation.AmJPathol177:17251731,201015)NagaokaT,HeinTW,YoshidaAetal:Resveratrol,acomponentofredwine,elicitsdilationofisolatedporcineretinalarterioles:roleofnitricoxideandpotassiumchannels.InvestOphthalmolVisSci48:4232-4239,2007496あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(18)