特集●加齢黄斑変性診療ガイドあたらしい眼科30(12):1689.1693,2013特集●加齢黄斑変性診療ガイドあたらしい眼科30(12):1689.1693,2013維持期の長期管理Long-TermManagementintheMaintenancePhaseofAnti-VEGFTherapy永井由巳*I抗VEGF療法滲出型加齢黄斑変性(exudativeage-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する治療として,血管内皮細胞増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)を抑制する抗VEGF剤の硝子体内投与が広く行われるようになった.厚生労働省研究班の加齢黄斑変性治療指針1)でも,中心窩を含む脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を認めるAMDに対する治療は,抗VEGF療法あるいは光線力学療法(photodynamictherapy:PDT)と抗VEGF療法の併用療法が推奨されている.この抗VEGF療法はCNVの活動性を抑制して視力を回復させる導入期と,その後に回復した視力を維持させる維持期とに分けて治療戦略や治療効果を考える必要がある.特に,わが国で抗VEGF剤が承認されて5年が過ぎ,長期にわたる治療戦略が課題となっている.AMDは慢性疾患であり,維持期における再発を認める症例も多く,またその時期については病型や個々の病態によっても異なっている.その維持期における観察,再投与についての現時点での考え方を述べる.II維持期の再投与における考え方現在,国内ではペガプタニブ,ラニビズマブ,アフリベルセプトの3種の抗VEGF剤が承認され,AMDに対して一定の成績を認めている.その投与法はどの薬剤も導入期が設けられており,ペガプタニブであれば初回投与から6週間あけて2回,ラニビズマブとアフリベルセプトは4週間おきに3回投与することが基準となっている.導入期の投与で滲出抑制効果を得られれば経過観察となるが,症例によっては再発を認めるものもあり,再発時には同じ薬剤あるいは別の薬剤に変更して再治療を行うことになる.しかしながら,この維持期における治療は,症例によって病状が異なるため個々に対応が必要となる.維持期の再投与における考え方として,投与のタイミングに関しては,病状の悪化を防ぐために事前に計画した間隔で投与する「計画的投与:Proactive」と,病状の悪化を認めたときに事後的に投与する「事後対応的投与:Reactive」とがある.さらに個々の患者への対応として,最大の治療効果を得るために個々の病状によらずに一定の間隔で投与する「標準化:Standardized」と“Proactive”“Reactive”(計画的投与)(事後対応的投与)“Standardized”(標準化)“Individualized”(個別化)Fixeddosing(定期的投与)PRN,asneeded(PRN投与)ObserveandTreatTAE(TreatandExtend)図1抗VEGF療法:維持期における投与の考え方*YoshimiNagai:関西医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕永井由巳:〒573-1010枚方市新町2丁目5番1号関西医科大学医学部眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)1689ANCHOR試験15視力の平均変化量(文字数)1050-5-10-15:ラニビズマブ0.5mg:ラニビズマブ0.3mg:ベルテポルフィン:シャム注射p<0.001vsベルテポルフィン(ANOVA)月ラニビズマブ0.5mgn=139ラニビズマブ0.3mgn=140ベルテポルフィンn=143ラニビズマブ0.5mgn=240ラニビズマブ0.3mgn=238シャム注射n=238p<0.001vsシャム注射(ANOVA)03691215182124月03691215182124MARINA試験10視力の平均変化量(文字数)50-5-10-15図2抗VEGF療法:ANCHOR試験・MARINA試験ラニビズマブの月1回投与により,有意な視力改善をもたらし24カ月にわたって維持した.15個々の病状や事情に合わせて投与間隔を変更する「個別化:Individualized」とがある(図1).III維持期における投与法①:PRN(prorenata)現在,わが国でおもに行われている維持期の再投与方視力の変化量(文字数)12963:平均値:中央値法は図1で示したPRN(prorenata:必要時投与)であり,事後対応的投与が多く行われている.このPRNが行われるようになるにあたっては,以下のようなさまざまな臨床試験の結果によるところが大きい.まず,ラニビズマブの大規模臨床試験である,ANCHOR試験2),MARINA試験3),アフリベルセプトのVIEW試験4)では維持期に毎月投与することで,導入期で改善させて視力を維持し続けることができた(図2).このことから維持期の投与間隔をあける投与法が検討され,投与間隔を3カ月としたPIER試験5)が行われたが,導入期で改善した視力はその後徐々に低下した.1690あたらしい眼科Vol.30,No.12,20130024681012141618202224最初の注射からの月図3抗VEGF療法:PrONTO試験ラニビズマブの維持期における投与を8週ごとで行ったところ,視力スコアの平均値,中央値は有意に改善した.そこで投与間隔を8週ごとにしたPrONTO試験6)が行われ,ラニビズマブ8週ごとの投与で改善された視力が2年間にわたって維持されることが証明された(図3).この8週ごとの投与での視力維持効果はVIEW試験でも確認されている.しかしながら,すべての症例に2カ(42)ラニビズマブ導入期3回投与IVR①LV=(0.8)IVR②LV=(0.8)IVR③LV=(0.9)IVR④LV=(0.7)IVR⑤LV=(0.7)IVR⑥LV=(0.5)IVR⑦LV=(0.9)経過観察4カ月ラニビズマブ導入期3回投与IVR①LV=(0.8)IVR②LV=(0.8)IVR③LV=(0.9)IVR④LV=(0.7)IVR⑤LV=(0.7)IVR⑥LV=(0.5)IVR⑦LV=(0.9)経過観察4カ月図4PRNで経過をみた症例症例は70歳の男性.典型AMDのオカルトタイプ.ラニビズマブの導入期3回投与を行うも滲出の消退を得ず,2回再投与を行い漿液性網膜.離は吸収した.4カ月後に漿液性網膜色素上皮.離の拡大を認め視力も(0.5)に低下.再度ラニビズマブを投与し網膜色素上皮.離は吸収して視力も(0.9)に回復した.月ごとの経過観察と硝子体内投与を行うことは,通院回数や治療に必要な医療費の増加などの患者負担や,医療現場の外来患者数や治療件数の増加に伴う医療スタッフの負担増加など問題点が多い7).また,疾患の性質上高齢者が多いことから投与回数が増えることで,薬剤による全身副作用の頻度が増えることも懸念される.これらの結果から,毎月診察を行って,個々の症例の病状の変化に応じて再投与を行うPRNの方法が広く行われることになった(図4).先に示した毎月投与の試験とPRNを比較した大規模臨床試験としてCATT試験8),HARBOR試験9),IVAN試験10)などが公表され,毎月投与群とPRN群との間に視力維持の効果については差がないことが示されている(図5).ただし,PRNで経過をみるには厳密に再発の有無を判読する必要があり,(43)151413121110:ラニビズマブ月1回投与:ベバシズマブ月1回投与:ラニビズマブPRN投与:ベバシズマブPRN投与9876543210週8.87.76.75.0p=0.046,104週目に月1回投与とPRN投与を比較視力の平均変化量(文字数)0412243652647688104図5抗VEGF療法:CATT試験ラニビズマブ,ベバシズマブを毎月投与群とPRN投与群で比較すると,2年にわたって両群ともに同等の視力改善をみた.どちらの群も,PRN投与群よりも毎月投与群に比して若干視力は低かった.あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131691診察医の判断によっては再治療に適した時期を逃して結果的に視力が下がってしまう可能性があること,毎月経過をみる必要があること,患者も受診した日の結果を知らされるまで投与の有無が分からず心理的負担が大きいこと,先に示した毎月投与との比較試験8.10)において劣性は証明されなかったがPRNのほうが若干視力経過が悪いことなどの問題点も多い.PRNで経過観察を行うにあたっては,これらの問題点も念頭において厳密な病状の判断を行い的確な再治療を行う必要がある.また,毎月の経過観察を全患者に行うのは外来の混雑や患者自身の通院の問題もあり,病院-病院連携や病院診療所連携を強化して経過観察を行うというシステムの改善も必要である.IV維持期における投与法②:Treat&ExtendPRNは前述のように,きめ細かい診察を行い厳密に再投与基準に合致しないかの判断を必要とする.実臨床の現場では,再発を認めたときに即座に再投与できないことも多く(患者や付き添い者の事情,自宅との距離や移動手段などの事情,外来混雑による再投与日の予約困難,患者の経済的事情),また診察医による再投与判断のぶれなどもあって,的確な時期に再投与を行うのはむずかしい状況にある.実際に,ANCHOR試験2),MARINA試験3)の追跡試験(HORIZON試験11),SEVEN-UP試験12))で長期に経過観察すると視力が段階的に低下するとの報告もある(図6).こういった問題点を解消すべく,滲出性所見が消退していても計画的投与(Proactive投与)を行い,安定している期間を考慮して投与間隔を延長しながら経過観察を行うTreat&Extendという考え方が提唱され欧米では広まりつつある13).この方法は,ラニビズマブやアフリベルセプトの3回導入期投与の4週後に滲出が消退して眼底がドライになっていても再投与を行い,2週経過観察期間を延ばして6週後の受診として再投与を行い,眼底がドライである間は再投与と経過観察期間の延長を繰り返して最長3カ月まで間隔をあける管理方法である.中途で滲出の再燃を認めたら再投与のうえ,観察期間を4週に戻すかあるいは2週観察期間を短くして診察と再投与を行い,また2週ずつ期間延長を繰り返していく.1692あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013MARINA,ANCHORHORIZONSEVEN-UPMonthlyRealworldtreatment-10-5051015+11.2+1.7-8.6+9.0+4.1+2.01234567.3year-15-20*****:Ranibizumabtreated:SEVEN-UP:Ranibizumabtreated:HORIZONETDR文字数(n=65)(n=50)(n=65)(n=388)**p<0.005**p<0.0001***p<0.001(vsSEVEN-UP7.3y)図6抗VEGF療法:HORIZON試験・SEVEN.UP試験ANCHOR試験・MARINA試験の後,継続して3または4年間のフォローアップにおいて,最初の試験でラニビズマブ治療を受けた群では視力の段階的な低下が認められた.さらに7年目まで経過観察したところさらに視力の低下をみた.この方法によって投与日を決めることにより,症例に適した通院間隔を決めることができ,また来院日には再投与を行うということで患者の再投与をするか否かというPRNでの経過観察時における通院時の不安も解消できる.そういったことからも,多くの硝子体内投与を受けるAMD患者が増え続けている現状のなかで,必要以上の通院回数を削減でき,来院時には再投与の準備をするということで医療サイド側の診療効率も上がると考えられる.しかしながら,症例のなかには抗VEGF剤の導入期3回以降,まったく再発を起こさず落ち着いている人もいるので,Treat&Extendで再投与を行うことで過剰投与になることもありうる.この点についてはさらに今後の検討が必要であると考える.V維持期における今後の治療現在の抗VEGF剤投与の維持期における投与法について考察した.PRNでは厳しく再燃の判断を行い速やかに再投与を行うことができれば,導入期に改善した視機能を維持できるが,通院回数,外来の煩雑さの問題などがある.Treat&Extendでは診察と投与日を前もって決めることができ,患者側と医療者側の負担の軽減を見込めるが,過剰投与を行う症例があって医療費の増加の問題に繋がる.こういったPRNとTreat&Extendとの長所と短所を考慮し,よりきめ細やかな個別化医療(44)を検討する必要がある.文献1)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,20122)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65,20093)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJS,etal;MARINAStudyGroup:Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20064)HeierJS,BrownDM,ChongV,etal;VIEW1andVIEW2StudyGroups:Intravitrealaflibercept(VEGFTrapEye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,20125)RegilloCD,BrownDM,AbrahamPetal:Randomized,double-masked,sham-controlledtrialofranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:PIERstudyyear1.AmJOphthalmol145:239-248,20086)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariable-dosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:year2ofthePrONTOstudy.AmJOphthalmol148:43-58,20097)StewartMW,RosenfeldPJ,PenhaFMetal:Pharmacokineticrationalefordosingevery2weeksversus4weekswithintravitrealranibizumab,bevacizumab,andaflibercept(vascularendothelialgrowthfactortrap-eye),Retina32:434-457,20128)MartinDF,MaguireMG,YingG-Setal;CATTResearchGroup:Ranibizumabandbevacizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed364:1897-1908,20119)BusbeeBG,MurahashiWY,LiZetal:Efficacyandsafetyof2.0mgor0.5mgranibizumabinpatientswithsubfovealneovascularAMD:HARBORstudy[abstract].Presentedat:AnnualMeetingoftheAmericanAcademyofOphthalmology(AAO);October22-25,2011;Orlando,FL.SessionPA031,201110)ChakravarthyU,HardingSP,RogersCAetal;TheIVANStudyInvestigatorsWritingCommittee:Ranibizumabversusbevacizumabtotreatneovascularage-relatedmaculardegeneration:one-yearfindingsfromtheIVANrandomizedtrial.Ophthalmology119:1399-1411,201211)SingerMA,AwhCC,SaddaSetal;HORIZONStudyGroup:HORIZON:anopen-labelextensiontrialofranibizumabforchoroidalneovascularizationsecondarytoage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:1175-1183,201212)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal(SEVEN-UPStudyGroup);Seven-YearOutcomesinRanibizumab-TreatedPatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:AMulticenterCohortStudy(SEVEN-UP).Ophthalmology120:2292-2299,201313)GuptaOP,ShienbaumG,PatelAHetal:Atreatandextendregimenusingranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegenerationclinicalandeconomicimpact.Ophthalmology117:2134-2140,2010(45)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131693