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屈折矯正手術:FS200によるフラップ作製

2013年1月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載152大橋裕一坪田一男152.FS200によるフラップ作製松本玲レイ眼科クリニック2012年新たに承認されたWaveLightRFS200フェムトセカンドレーザー(アルコン社)によるフラップ作製は,照射時間が6秒と速く,すべて自動吸引で急激な眼圧上昇がないため患者の快適性に優れる.フラップの形,位置,直径,厚み,角度,ヒンジの位置をカスタマイズすることでエキシマレーザー照射に最適なフラップ作製を実現している.●FS200の紹介LASIK(laserinsitukeratomileusis)が本格的にわが国で行われるようになってから10年以上,それはレーザーテクノロジーの進歩とともに変遷してきたといっても過言ではない.2010年に国内でもフェムトセカンドレーザーが承認され1),薄く均一な厚さのフラップ作製が容易となった.2012年新たに承認されたWaveLightRFS200(アルコン社)を紹介する(図1).FS200の発振周波数は200kHz,波長は1,030nm,フラップ作製と角膜移植層状切開で認可を取得している.器械的には角膜内リング用のトンネル作製も可能である.フラップの形,位置,厚み(5μmステップで90~500μm),直径(0.1mmステップで3~10mm),サイドカットアングル(30~150°),ヒンジアングル(30~180°),ヒンジ位置をカスタマイズできる.スポット間隔,ライン間隔,パルスエネルギーを角膜ベッド面,サイドカット面とそれぞれに設定することで,リフトアップのしやすさ,ベッド面の平滑さ,作製スピードの速さを実現している.直径9mmのフラップ作製に要する照射時間は約6秒と現在世界最速である.FS200には,サクションリングとアプラネーションコーンの消耗品がある(図2).リングは耳側に吸引孔があり,リング直径が19mmと他機種に比べ1~1.5mm小さいため,小眼瞼でも眼窩壁にあたることはない.コーンの圧平直径は12.5mmと広く,照射前にモニター上でフラップのセンタリングを変更してもフラップ径が製する.2つ目の特長はヒンジ近くのフラップ面から表小さくなることはない.面に抜けるトンネル(キャナル)を作ることである.そ特長を3つあげる.治療眼ごとにまずbeamcontrolこからガスを外に逃がすことでopaquebubblelayerscheck(BCC)を行い,アプラネーションコーンの厚み(OBL)を抑える.フラップ面より深いポケットを作るのばらつきを自動補正することで,正確なフラップを作IntraLaseRFSレーザー(AMO社)と異なる点である.(63)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013630910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1WaveLightRFS200フェムトセカンドレーザー(アルコン社)図2サクションリングとアプラネーションコーン器械的にbeamcontrolcheck(BCC)を行い,アプラネーションコーンの厚みのばらつきを自動補正し,正確なフラップ厚を確保する. 110μmフラップ(μm)140135130125120115110105100119119110.4110.9105106119110.5104119110.7104118111.1106116.2110.8106.8中心上方下方耳側鼻側平均図3術後フラップ厚(n=106)中心,中心から4mm上方,下方,耳側,鼻側,平均値.110μmの設定値に対して,予定どおりのフラップ厚を作製.3つ目は,最初の吸引圧が約80mmHgと急激な眼圧上昇を抑えてあり,照射中に約150mmHgになるものの照射時間が短いために患者の負担は少ないことである.実際,圧迫が痛いという患者は少ない.FS200はWaveLightREX500エキシマレーザー(アルコン社)とWaveNetTMというランを介してデータを相互にやりとりできる.照射プログラムを入力すれば各機種にデータが飛ぶので,入力の手間を減らし誤入力を防げる.●使用方法マイクロケラトームのように術前のセッティングはない.まずコーンを挿入しBCCを行う.吸引リングをFS200に取り付ける.リングを角膜上に乗せフットペダルを踏むと手動でなく器械的に吸引1がスタートしてリングと眼球を固定する.コーンを下げリングとドッキングすると自動的に吸引2がスタートする.モニター上でキャナルの長さと位置,フラップの位置を指示し,術者がペダルを踏むと照射が始まる.吸引レベルは常にモニター上で監視されており,異常な吸引不足ではレーザー照射が自動的に停止する.●フラップ厚前眼部OCTSS-1000CASIA(TOMEY社)で測定したフラップの厚みを示す.中心値,中心から4mm離れた上方,下方,耳側,鼻側,平均値,最大値,最小値を表1術後フラップ厚(n=106)平均値と標準偏差中心上方下方耳側鼻側平均値110μm平均値(n=106)110.4110.9110.5110.7111.1110.8110μm標準偏差2.852.362.632.592.761.73示す(図3).110μmの設定に対して,10μmを超えることはなく,ばらつきも3μm内で均一で精度の高いフラップが作れた(表1).不均一な角膜残存ベッドは医原性keratoectasiaのリスクファクターの一つであることより2),ばらつきの少ないフラップはより安全である.●吸引時間マイクロケラトームとの操作の違いは,サクションリングとアプラネーションコーンのドッキングで,当初慣れが必要である.経験を積めば,吸引1開始からフェムトセカンドレーザー照射終了までの総吸引時間は約30秒前後に落ち着く.そのうちフェムトセカンドレーザー照射は約6秒である.導入当初,照射時間は短いものの操作が煩雑で手術時間が長くなるのではないかと心配していたが,慣れれば問題はない.患者の圧迫感や痛みの訴えがほとんどないことより,術者も患者も最初から安心して手術に臨める.リフトアップはスムーズで抵抗は少なく,角膜ベッド面も平滑でフェムトセカンドレーザーのラインが残ることはない.キャナルの長さの指示が目視で主観的であるため,ときに意図せずopaquebubblelayer(OBL)が発生するが,今まで全例にエキシマレーザーのトラッキングはかかっている.速くて正確で容易で安全なこの器械は,今後角膜移植や角膜内リングでもその正確性を発揮すると期待している.文献1)福岡佐知子:フェムトセカンドレーザーフラップの特徴.あたらしい眼科28:509-510,20112)RandlemanJB,RussellB,WardMAetal:RiskfactorsandprognosisforcornealectasiaafterLASIK.Ophthalmology110:267-275,200364あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(64)

眼内レンズ:ピギーバック法による術後屈折誤差補正

2013年1月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎317.ピギーバック法による術後屈折誤差補正稲村幹夫稲村眼科クリニック白内障術後屈折誤差補正には眼内レンズ(IOL)の度数交換をまず考えるが,その侵襲が大きいと思われる場合にはピギーバック法を行うと簡便で屈折予想も良い.ピギーバックIOLは.内固定されている最初のIOLの上に.外固定する.角膜屈折矯正手術での補正はさらに正確であるが,ピギーバック法は白内障手術の施設で行えることが利点である.白内障手術後の度数補正のために行うピギーバック法とは,最初に入れた眼内レンズ(IOL)の度数を補正するために2枚目のIOLを挿入する方法である(図1,2).●度数補正のピギーバック法の適応他の度数補正法として「IOLの入れ替え」と「角膜屈折手術」が一般的である.基本的にはIOLの入れ替えを先に考える.入れ替えの適応は広い.角膜屈折手術は正確さで優れているが設備とコスト面の問題がある.入れ替えより低侵襲で簡便,角膜屈折手術より低コストという点でピギーバック法が有利な場合が出てくる(表1).●IOL入れ替えとピギーバック法のどちらを選択するか最初の手術後早期であればIOL入れ替えがすっきりする.特に術後早期で.内固定ができていれば入れ替えは容易である.しかし,手術から長時間経過している場合はIOL入れ替えでは後.破損やZinn小帯を弱めるなど侵襲が大きくなることがある.特に,後.切開がされていてシングルピースのアクリルレンズの場合はさらに困難である.また,最初に挿入されたIOLが度数など表1度数補正の方法の比較図1ピギーバック法.内に最初のIOL,毛様溝に2枚目の度数補正用IOL(ピギーバックIOL)が挿入されたところ.図2ピギーバックIOLの挿入術2枚目のIOLを.外に挿入しているところ.IOL入れ替えピギーバック法角膜屈折手術度数補正精度やや不正確比較的正確正確時間経過と難易度術後早期ほど容易いつでも可いつでも可後.切開後やや難可能容易禁忌Zinn小帯断裂,後.の大幅欠損など1枚目が.外固定,最初のIOLと虹彩間に十分な隙間がない円錐角膜などの角膜疾患(61)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013610910-1810/13/\100/頁/JCOPY が不明である場合や自院で行った手術でもIOLの表示が違っていた場合などは,入れ替えても正しく補正できる可能性が低くなる.これに比してピギーバック法は簡便,正確である.●ピギーバック法の計算式Holladayが以下のような計算式1)を発表している.計算に正確を期したい場合は利用すべきである.IOLe=1,3361,336-1,3361,3361,000-ELPo1,000-ELPo1,000+Ko1,000+KoPreRx-VDPostRx-VELPo:effectivelenspositionKo:netcornealpowerIOLe:IOLpowerV:vertexdistancePreRx:pre-oprefractionDPostRx:desiredpost-oprefraction詳細はhttp://doctor-hill.com/iol-main/piggyback.htmのサイトを参照されたい.しかし,実際には度数補正の大きさがよほど大きくない限り(<±7.0D)簡略な計算式で足りる.どちらの計算式も眼軸に依存しないで計算が可能である.プラスにずれている場合2):(補正したい度数)×1.5=ピギーバックIOL度数マイナスにずれている場合3):(補正したい度数)×.1.0=ピギーバックIOL度数簡略なピギーバックIOLの度数計算式は度数ズレがプラス側とマイナス側で違ってくるがかなり正確である.問題はピギーバック法に使うレンズがまだ専用でない点であるが,薄めのレンズが使用しやすい.●ピギーバック法の合併症ピギーバックIOL偏位,pupillarycapture4)(瞳孔捕獲),pigmentdispersionsyndrome5),interlenticularopacification6)(IOL間膜形成)などが報告されている.IOL間膜形成は同時に.内固定した場合に報告があり,二次的な度数補正では通常は起こらない.●ピギーバック法の将来最近,ピギーバック法または.外固定専用IOLが発売されている7).わが国では未認可だがドイツHumanOptics社のAdd-OnLensR,イギリスRayner社のSulcoflexRは球面補正のみならずトーリック機能,回折型マルチフォーカル機能,それらの複合機能を付加できる.これらは.外固定用であり合併症も少ないと思われる.ピギーバック法は症例によっては良い度数補正法であり,今後もっと普及する方法と思われる.文献1)HolladayJT:Refractivepowercalculationsforintraocularlensesinthephakiceye.AmJOphthalmol116:63-66,19932)GuytonJL:SecondarypiggybackIOLimplant.OSNOPHTHALMICHYPERGUIDEDecember27,20053)GillsJP,FenzlRF:Minus-powerintraocularlensestocorrectrefractiveerrorsinmyopicpseudophakia.JCataractRefractSurg25:1205-1208,19994)KimSK,LancianoRCJr,SuleewskiME:Pupillaryblockglaucomaassociatedwithasecondarypiggybackintraocularlens.JCataractRefractSurg33:1813-1814,20075)ChangWH,WernerL,FryLLetal:Pigmentdispersionsyndromewithasecondarypiggyback3-piecehydrophobicacryliclens.Casereportwithclinicopathologicalcorrelation.JCataractRefractSurg33:1106-1109,20076)WernerL,AppleDJ,PandeySKetal:Analysisofelementsofinterlenticularopacification.AmJOphthalmol133:320-326,20027)稲村幹夫:Piggyback法での眼内レンズ度数補正.IOL&RS25:190-194,2011

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 過矯正にならないためのパワー決定法(2)

2013年1月31日 木曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】343.過矯正にならないためのパワー決定法(2)梶田雅義屈折矯正の基本は眼鏡処方である.コンタクトレンズ(CL)処方で近視の過矯正を防ぐためには,眼鏡の適正矯正度数を正しく求めることである.そして,その度数を的確にCLの度数に置き換える必要がある.そのために必要な知識について解説する.●角膜頂点間距離による度数の補正1)眼鏡レンズが角膜から12mm離れたところに位置しているのに対して,CLは角膜面に接して位置している.これによって,同じ矯正効果を得るためのレンズ度数に差が生じる.これを頂点間距離補正とよんでいるが,これを無視すれば,近視では過矯正に,遠視では低矯正になる.眼鏡度数をDsp[D],CL度数をDcl[D],レンズと角膜頂点との距離をd[m]とするとき,眼鏡レンズの度数Dsp焦点頂点間距離Lcld図1頂点間距離補正凸レンズで考えると理解しやすい.眼鏡レンズ度数をDsp[D]とするとき,このレンズの焦点距離をLsp[m]とすると,1Lsp=Dsp……………………………………………………(1)である.これはレンズ屈折力の強さジオプトリーをレンズの焦点距離で示す定義である.Lspの単位はメートル(m)である.眼の屈折値は角膜から12mm離れたところに任意のレンズを置いたときに,正視眼と同じように無限遠を発した平行光束が網膜面で収束するレンズの度数をもって被検眼の屈折値を定めている.眼鏡焦点距離Lspコンタクトレンズの度数Dcl焦点距離梶田眼科Dcl=Dsp1.d・Dspの関係がある(図1).たとえば,眼鏡レンズで.8.00DはCLでは.7.30Dとなり,.7.25Dを採用すればよい.±10.00Dの範囲の頂点間距離補正値の一覧を表1に示す.±4.00Dの範囲では,近似させても0.25Dの差が出ないので,通常は±4.00D以上のときに頂点間距離補正を行えばよい.●ハードコンタクトレンズの涙液レンズ効果2)ハードコンタクトレンズ(HCL)の場合には涙液レンズが形成され,涙液レンズが作るレンズ度数も矯正度数として機能する.HCLではベースカーブとの兼ね合いで,適切な矯正度数を調整する必要がある(図2).良好なフィッティングが得られるCLのベースカーブが角膜レンズの角膜とレンズの頂点間距離は12mmであり,CLの角膜とレンズの頂点間距離は0mmである.眼鏡とCLで同じ矯正効果を得るためには,眼鏡レンズが作る焦点位置とCLが作る焦点位置を同じにする必要がある.すなわち,眼鏡レンズとCLの位置の差をd[m]として,眼鏡レンズの焦点距離がLsp[m]であるときに,CLの焦点距離をLcl[m]とすると,Lcl=Lsp.d…………………………………………………(2)である.CLで眼鏡レンズと同じ矯正効果を得るためには,焦点距離がLcl[m]のレンズを用いればよいことになる.CLの度数をDcl[D]とすると,1Dcl=Lcl……………………………………………………(3)分母のLclをLsp-dに置き換えると,Dcl=Lsp1.d………………………………………………(4)これに(1)式を代入すると,Dcl=11………………………………………………(5).dDspこの式の分子,分母にDspを掛けると,Dcl=Dsp1.d・Dspが得られる.眼鏡の角膜頂点間距離は12mmであるので,dは0.012mで計算すること.(59)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013590910-1810/13/\100/頁/JCOPY 表1頂点間距離補正値の一覧眼鏡度数CL度数眼鏡度数CL度数.10.00.8.9310.0011.36.9.75.8.739.7511.04.9.50.8.539.5010.72.9.25.8.339.2510.40.9.00.8.129.0010.09.8.75.7.928.759.78.8.50.7.718.509.47.8.25.7.518.259.16.8.00.7.308.008.85.7.75.7.097.758.54.7.50.6.887.508.24.7.25.6.677.257.94.7.00.6.467.007.64.6.75.6.246.757.34.6.50.6.036.507.05.6.25.5.816.256.76.6.00.5.606.006.47.5.75.5.385.756.18.5.50.5.165.505.89.5.25.4.945.255.60.5.00.4.725.005.32.4.75.4.494.755.04.4.50.4.274.504.76.4.25.4.044.254.48.4.00.3.824.004.20.3.75.3.593.753.93.3.50.3.363.503.65弱主経線に一致していれば,涙液レンズは形成されないので,CLの適正矯正度数はそのままでよいが,差がある場合にはその差に応じた涙液レンズ度数を減じなければならない.角膜弱主経線曲率よりも処方するHCLのベースカーブの値が大きい(フラット処方)ときに,この操作を忘れると過矯正になる.●不安定な追加矯正度数始めてHCLを装用するときには,瞬目ごとに動くことによる違和感や異物感のために瞬目も涙液分泌も多くなり,また開瞼が不十分な状態になるため,追加矯正屈折値の測定が不安定になる.さらに,角膜弱主経線よりもフラットなベースカーブのCLではCL内面が角膜表面に密着し,オルソケラトロジー効果が生じ,涙液レンズ効果は涙液屈折率のレンズではなく,角膜屈折率のレンズになる.スティープなベースカーブのCLでは,クリアランスが形成されたときには,涙液屈折率のレンズになり,角膜に密着すれば角膜屈折率の涙液レンズ効果に変わるため,矯正度数が変動する.この違和感から抜け出すために,過矯正気味60あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013abc-1c-2図2涙液レンズ効果a:フラットなフィッティングの場合:涙液レンズは中央部で薄く,周辺部で厚いので,マイナス度数のレンズが形成される.b:パラレルなフィッティングの場合:涙液レンズは中央部も周辺部も同じ厚みなので,プラノレンズになっており,度数はもたない.c:スティープなフィッティングの場合:c.1のように涙液レンズは中央部分が分厚く,周辺部が薄いので,プラス度数のレンズが形成される.c.2のように角膜に密着すると,オルソケラトロジー効果によって,角膜曲率が変化するため,涙液レンズはプラノになるが,角膜屈折力は変化する.涙液の屈折率は1.336,CL矯正で使用する角膜屈折率は1.3375である.通常のベースカーブの範囲ではベースカーブ0.05mm(ベースカーブの1段階)が0.25D(眼鏡処方度数の1段階)に相当すると考えてよい.の追加補正度数を選択する危険性がある.トライアルCLを装用して追加矯正屈折値を求めて,CLの処方度数を決定する場合には,安定したフィッティングが得られた時点で行う必要がある.処方中に安定したフィッティングが確保できていないときには,眼鏡矯正による適正矯正度数を,頂点間距離補正と涙液レンズ度数で補正した値を用いて処方したほうが,適正な矯正が提供できる場合が少なくない.CLの処方時には早く処方度数を決定しようと,ともすれば矯正視力値だけを頼りにレンズ度数を決定してしまう傾向にある.快適な矯正度数は眼鏡もCLも異なるものではない.二重三重のチェックを重ねて,慎重に対処したいものである.文献1)所敬,山下牧子:視力・屈折検査の進め方.p127128,金原出版,20072)梶田雅義:コンタクトレンズの光学的特性.専門医のための眼科診療クオリファイ6,コンタクトレンズ自由自在(大橋裕一編),p11-14,中山書店,2011(60)

写真:Pigment slide

2013年1月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦344.Pigmentslide木村健一*1,2横井則彦*2*1明治国際医療大学眼科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学pigmentslide図2図1のシェーマ図1Pigmentslide(23歳,男性)角膜上方からの血管侵入および,瞳孔領に及ぶ楔型の上皮下混濁がみられる.図3図1のフルオレセイン染色所見角膜上方から瞳孔領に及ぶpigmentslideを伴う表層上皮の乱れがみられる.図4図1のリサミングリーン染色所見輪状の球結膜染色と上下の眼瞼縁近傍に帯状の染色領域(lidwiperepitheliopathyに相当)が認められた.(57)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013570910-1810/13/\100/頁/JCOPY Pigmentslideは1943年にMannら1)により最初に,続いて,Bron2)により詳細に記載された角膜周辺部異常の一つで,角膜輪部のpalisadesofVogtの内側の延長上にみられる櫛状に並んだ茶褐色の淡い混濁のことを指す.通常は1.2mmの長さである.最もよくみられるのは5時から7時の方向で,つぎに11時から1時にみられることが多い.コンタクトレンズ(CL)装用者には角膜輪部の褐色の色素沈着が角膜中央に向かって流れるような所見がみられ,従来型ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用,連続装用ディスポーザブルSCL装用,長期SCL装用において,CL非装用者やハードコンタクトレンズ(HCL)装用者に比べて高い頻度で認められるという報告がある3).原因として,酸素不足が考えられ,角膜上皮基底層での上皮細胞の分裂能が低下することで幹細胞である輪部基底上皮から角膜上皮細胞の急速な移動が生じるためと推測されている.本症例はSCLの度数を変えても見にくいとの主訴で紹介受診となった.矯正視力は(0.3)で,角膜上方からの血管侵入および,瞳孔領に及ぶ楔型の上皮下混濁(図1,2)と,フルオレセイン染色において表層上皮の乱れを認めた(図3).また,表層上皮の乱れによると考えられる不正乱視を認めた.さらに,リサミングリーン染色において輪状の球結膜染色がみられ,上下の眼瞼縁近傍に帯状の染色領域(lid-wiperepitheliopathyに相当)を認めた(図4).本症例はハイドロゲル素材の連続装用ディスポーザブルSCLの使用に伴う低酸素の影響と,ドライアイによるSCLの含水率の低下に伴う低酸素の影響の双方が重なったことで角膜上皮基底細胞の分裂低下がひき起こされて,高度のpigmentslideが生じたと考えられた.上下のlid-wiperepitheliopathyはSCL表面との摩擦によると考えられた.本症例の経過は,CLの装用を中止し,0.5%レボフロキサシン点眼を1回/日,0.1%フルオロメトロン点眼を1回/日,防腐剤無添加の0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム眼耳鼻科用液を1回/日,防腐剤無添加の人工涙液の点眼を7回/日開始することで,pigmentslideは,4週間で著明に改善し,8週間でほぼ消失した.また,フォトケラトスコープのマイヤー像の乱れも改善し,それに伴って矯正視力も(1.0)に改善した.回復後はCLの変更を検討した.SCL装用に伴うpigmentslideは,低酸素による角膜上皮基底細胞への負荷が関係すると考えられるため,ドライアイの管理とより酸素透過性の高いCLへの変更を検討することが重要と思われる.なお,本症例にみられたpigmentslide,lid-wiperepitheliopathy,球結膜染色以外にSCL装用に特徴的な障害として,スマイルマークステイニング(ドライアイに関連する角膜下方の点状表層角膜症)やSEAL(superiorepithelialarcuatelesion)などがあり,SEALは角膜上方に生じる弓状の角膜上皮障害でシリコーンハイドロゲルなどの硬い素材のCLで生じやすいとされる4).SCL装用の安全性の向上のためには,こうした慢性の合併症にも注意して観察する必要があると思われる.文献1)MannI,PullingerBD:Astudyofmustard-gaslesionsoftheeyeofrabbitsandmen.AmJOphthalmol26:12531277,19432)BronAJ:Vortexpatternsofthecornealepithelium.TransOphthalmolSocUK93:455-472,19733)InoueT,MaedaN,YoungLSetal:Epithelialpigmentslideincontactlenswearers:apossiblemarkerforcontactlens-associatedstressoncornealepithelium.AmJOphthalmol131:431-437,20014)HoldenBA,StephensonA,StrettonSetal:Superiorepithelialarcuatelesionswithsoftcontactlenswear.OptomVisSci78:9-12,200158あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(00)

後眼部編:病的近視における視神経イメージング

2013年1月31日 木曜日

特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):47.55,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):47.55,2013後眼部編病的近視における視神経イメージングOpticNerveImagingbySweptSourceOCT大野京子*はじめに強膜篩状板,球後視神経などの深部の構造はこれまで生体で観察することは困難であり,そのためほとんどの研究が死体眼を用いた組織学的研究であった.しかし最近になり,enhanceddepthimagingopticalcoherencetomography(EDI-OCT)やsweptsourceOCTなどのOCT技術の発展により,より深部を鮮明に観察することが可能となり,生体における新知見が報告されている.本稿では,主として筆者らが検討してきた,病的近視における視神経イメージングの成果を中心に,OCT図1OCTによる視神経周囲くも膜下腔の観察A.D:病的近視眼,E,F:正視眼.A:大きな輪状コーヌスを伴う病的近視眼の視神経乳頭.B:同患者の乳頭を通る斜め方向のOCTBスキャン画像では,視神経の両側に硝子体側に逆三角形状に拡張したくも膜下腔を低反射像として観察される.くも膜下腔内を横切るarachnoidtrabeculaeが帯状,dot状にみられる.乳頭周囲強膜は視神経に向かって食い込んだ後(矢印),くも膜下腔周囲の軟膜へと移行している(赤矢頭).乳頭上方では,乳頭周囲強膜が硬膜へと移行するのが観察される(青矢頭).C:耳側コーヌスを伴う病的近視眼の視神経乳頭.D:同患者の乳頭を通る垂直.斜め方向のOCTBスキャン画像では,視神経下方にくも膜下腔が低反射像として観察され,その中にarachnoidtrabeculaeのdot状の陰影がみえる.乳頭周囲強膜は視神経に突出した後に,軟膜へと移行している(赤矢頭).E:正視眼の視神経乳頭.F:同患者の乳頭を通る斜め方向のOCTBスキャン画像.正視眼では視神経周囲にくも膜下腔は観察されない.(文献2より)の進歩により可能となった視神経解析について述べる.I病的近視の視神経イメージング1.視神経周囲くも膜下腔の観察病的近視眼では視神経周囲のコーヌスを通してその後方にあるくも膜下腔を観察することが可能である1,2).Parkらは,EDI-OCTを用いて25眼でくも膜下腔を観察し,うち17眼は大きなコーヌスを伴う強度近視眼であった1).筆者らは,sweptsourceOCTを用いて124眼の強度近視眼でくも膜下腔を描出できた2).くも膜下*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕大野京子:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(47)47 図2視神経周囲に広がるくも膜下腔のCスキャン画像A:図1Aと同一患者の視神経乳頭所見.大きな輪状コーヌスを伴う.緑の四角はOCTでスキャンした範囲を示す.B:視神経乳頭のOCTBスキャン画像.緑の線は上からC,D,Eの図で画像を再構成した高さを表す.C.E:視神経乳頭の上下に広範囲にくも膜下腔が低反射像としてみられる(矢頭内).くも膜下腔の内部に太いarachnoidtrabeculaeがみえる.Cでは赤四角で囲んだ範囲で強膜篩状板の孔が明瞭にみえる.F:Cの赤四角の拡大.篩状板の孔が明瞭に観察できる.(文献2より)腔を観察できた強度近視症例の平均屈折度は.15.2Dで,平均眼軸長は30.4mmであった.強度近視眼では,くも膜下腔は眼球に近いほうを基底部とする三角状の低反射として観察され(図1),くも膜下腔が拡大していた.Cスキャン画像では,視神経乳頭周囲のコーヌス内の広範囲に太いarachnoidtrabeculaeを含むくも膜下腔が観察される(図2).強膜篩状板内面とくも膜下腔の最短距離は252.4±110.9μm,くも膜下腔上の強膜厚の最48あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013図3硝子体腔とくも膜下腔が近接している症例A:病的近視患者の視神経乳頭所見.B:同患者のGoldmann視野所見.上下視野に不規則な狭窄がみられる.C:Aの左側のスキャンラインでのOCTBスキャン画像.視神経乳頭部にpit様の孔があいており,pitを介して,硝子体腔とくも膜下腔(矢頭)の距離は120μmまで近接している(矢印間).D:Aの右側のスキャンラインでのOCTBスキャン画像.このスキャンでは,硝子体腔とくも膜下腔(矢頭)の距離は240μmまである(矢印間).(文献2より)短値は190.6±51.2μmであり,くも膜下腔上の強膜はきわめて菲薄化していた(図3).さらに1例において,視神経周囲のpit様裂隙を介して硝子体腔とくも膜下腔が直接交通している症例がみられた(図4).直接交通しているような症例では,強膜篩状板と乳頭周囲強膜との連続性は完全に断たれているため,眼圧変化に対し,きわめて脆弱であると推察される.さらに,硝子体とくも膜下腔の交通により,両者の液成分が変化する可能性も考えられる.しかし一方で,translaminarpressureはゼロになると考えられるため,直接交通が視神経障害にとって良い方向に働くのか悪い方向に働くのかは今後の検討を要する.2.後天的pit形成病的近視眼では視神経乳頭内もしくはコーヌス内にpit様の裂隙がみられる3)(図5,6).198眼の強度近視眼を調べたところ,32眼(16.2%)にpitが認められ,うち1/3は乳頭pit,残り2/3はコーヌスpitであった.乳頭pitは主として乳頭面積が大きい巨大乳頭様の症例(48) 図4コーヌス内のpit様裂隙を介して硝子体腔とくも膜下腔に直接交通がみられた症例A:大きな輪状コーヌスを伴う巨大乳頭様である.B:OCT画像から再構成したCスキャン画像では,乳頭耳側のコーヌス内に2つのpitがある(矢印).C:もう少し深い部位ではpitはそのままくも膜下腔に移行している.D:BとCの点線でスキャンしたOCT画像では.視神経の耳側強膜にpitがあり,強膜は同部位で完全に離解している(矢印).そのため,硝子体腔とくも膜下腔が交通している.E:BとCの実線でスキャンしたOCT画像でも,硝子体腔とくも膜下腔の交通がみられる.F:同患者のGoldmann視野では傍中心暗点がみられる.(文献2より)において,乳頭の上極もしくは下極に生じていた.乳頭pitは篩状板のレベルより深くなると,内径が拡大することが多いため,断面は洋ナシ型,卵型を呈することが多い.深いものでは1mm以上もの深さに達する.一方,コーヌスpitはほとんどの症例でCurtin分類4)のtypeIXぶどう腫を合併する眼に生じ,乳頭耳側のridgeの斜面に生じていた.コーヌスpitの場合には,このpitを通じてすぐ後方にあるくも膜下腔と交通する症例がある.連続スキャンにより,乳頭pitの形成初期にはまず強膜篩状板と乳頭周囲強膜との離解が生じ,コーヌスpitの形成初期には,乳頭耳側強膜内に強膜分離様所見がみられ,それらが後にpitに発展することが示唆された(図5,6).乳頭pitの形成においては,乳頭の上下極は強膜篩状板が薄く,また網目構造が脆弱な部位であり,そのために視神経乳頭が機械的に伸展された場合に最も破綻しやすい部位であるため,pitが好発するのではないかと考えられる.また,コーヌスpitの場合には,必ずtypeIXぶどう腫における乳頭耳側ridgeの内側の斜面に生じる.耳側ridgeの内側の斜面はもともと強膜が硬膜と軟膜に分かれた後のため,強膜が菲薄化しており,眼軸延長に際し,最も伸展されやすく,この部位の強膜に生じた強膜分離がpitに発展すると推察される.乳頭pit,コーヌスpitの形成メカニズムのシェーマを図7,8に示す.また,そのほかのタイプとして,球後の短後毛様動脈がコーヌス内で眼球に刺入するような症例では,コーヌスの拡大とともに刺入部位が拡大し,それがコーヌスpitに発展する症例もある(図9).いずれのタイプにおいても,pit部位では必ずpit上を走行する網膜神経線維の連続性が破綻しており,その線維走行に一致した視野欠損がみられ,病的近視眼における視野障害の原因として後天的pitが重要であることが推察される.(49)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201349 図5病的近視眼の視神経乳頭pitA:輪状コーヌスを伴う巨大乳頭様の視神経乳頭がみられる.B:Aの拡大写真.C:OCT画像から再構成したCスキャン画像では,乳頭の上下に底辺を乳頭縁に向けた三角状のpitがある(矢印).さらに乳頭の耳側縁に沿って多数の小さいpit様の低反射がみられる(矢頭).D:AのスキャンラインDでのOCTBスキャン画像では,強膜篩状板(矢頭)の連続性が矢印の部位で破綻し,pitがみられる.Pit腔は篩状板の高さを超えて深く広がっている.E:AのスキャンラインEでのOCTBスキャン画像では,内腔が卵型に広いpitがみられる(矢印).F:BのスキャンラインFでのOCTBスキャン画像では,篩状板と乳頭周囲強膜の接合部が離解し,浅いpitがみられる(矢印).G:BのスキャンラインGでのOCTBスキャン画像では,篩状板と乳頭周囲強膜の接合部が離解し,その後方に低反射領域を認める.(文献3より)3.Intrachoroidalcavitation(ICC)Freundら5)は,病的近視眼の乳頭下方にしばしば三日月状のオレンジ色病変がみられることを報告し,50あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013図6病的近視眼のコーヌス内pitA:大きな輪状コーヌスを伴う視神経乳頭の写真.B:OCTから再構成したCスキャン画像ではコーヌス内のridge状隆起の内側斜面に沿って,乳頭からほぼ等間隔に複数のpitがみられる(矢頭).C:Bの拡大画像.D,E:AのスキャンラインDまたはEでのOCTBスキャン画像では,乳頭周囲強膜のridge内側の斜面にpitがみられる(矢印).F:乳頭耳側の垂直スキャンではコーヌス内の強膜に複数のpitがみられる(矢印).G:AのスキャンラインGのOCT画像では乳頭周囲強膜内に低反射がみられ,pitの前段階の強膜分離様所見と考えられる(矢印).(文献3より)OCTでこの病変が網膜色素上皮.離であると報告し,peripapillarydetachmentofpathologicmyopia(PDPM)として報告した(図10).筆者らは,PDPMは強度近視眼の約5%にみられ,本病変があると70%に緑内障様視野障害を合併することを報告した6).その後,Toranzoら7)は,より高解像度のOCTを用いて,本病変が色素上皮.離ではなく,脈絡膜内の洞様構造であることを明らかにし,intrachoroidalcavitation(ICC)とよんだ.Spaideと筆者らの共同研究8)では,ICCの部位では強膜のカーブが眼球後方に変位していること(図11),さらにICCと乳頭の境界領域に沿って網膜内層の欠損がみられる(図12)ことをEDI-OCTとswept(50) 図8コーヌスpit形成過程のシェーマ上段は眼底画像,下段は視神経を通る縦断面を示す.左:コーヌス内にridge状隆起を伴わない強度近視眼.耳側コーヌスがみられる.中:コーヌス内にridge状隆起が生じた状態.Ridge内面で特に強膜は菲薄化し伸展され,強膜分離様所見が生じる.右:コーヌスpitが生じた状態.Pitはridge内側の斜面に乳頭から等間隔に複数生じることが多い.OCT画像では強膜分離部位の上蓋がはずれることによりpitに進行する.(文献3より)図7乳頭pit形成過程のシェーマ上段は強膜篩状板を上からみた図を,下段は視神経を通る縦断面を示す.左:正視眼.中:視神経乳頭が機械的に伸展された強度近視眼では,特に篩状板構造が脆弱な乳頭の上下極で篩状板の孔が拡大する.OCTでは強膜篩状板の拡大もしくは,篩状板と乳頭周囲強膜の接合部の離解が生じる.右:乳頭pitに至った状態.乳頭の機械的伸展がさらに増大すると,篩状板-乳頭周囲強膜接合部の網膜の連続性が破綻し,乳頭pitが形成される.Pitは篩状板より深くなると幅が拡大し,卵型となる.(文献3より)(51)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201351 図9短後毛様動脈が強膜に刺入する部位に生じるタイプのコーヌスpitA:乳頭耳側のコーヌス内に先天pitにみられるようなオレンジ色の領域があり(黒矢印),同部位から2本の短後毛様動脈が流入する(白矢印).B:検眼鏡的にオレンジ色にみえる部位に一致して乳頭周囲強膜の離解がありpitになっている(矢印).Pitの鼻側に短後毛様動脈の陰影が映っており,pitが血管刺入部位に生じていることがわかる.C:pit部位と乳頭周囲強膜の離解を示す(矢印).D.F:OCTから再構成したCスキャン画像ではpitが浅い面では2つの独立したpitであり(D,E),深くなると1つに融合している(F).Pitから流入する短後毛様動脈も観察される(矢頭).G,H:フルオレセイン蛍光眼底造影ではpit部位は造影早期には低蛍光(G)で,後期には過蛍光を呈する(H).Pitから流入する短後毛様動脈も観察される(矢頭).I:インドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影では短後毛様動脈は矢印のpit部位で球後から刺入し,乳頭周囲へと向かう(矢頭).(文献3より)sourceOCTを用いて明らかにした.また,非常に深いICC形成につながることを示した.後天的pitと同様に,ICCの症例ではときに上脈絡膜腔で組織の離解がみらICCにおいても,境界部位における網膜内層の連続性のれ,少なくとも一部の症例はsuprachoroidalseparation途絶により,当該の神経線維走行に一致する視野欠損をというべき病態であると考えられた.さらに,詳細な観示す.察によりICC縁でbordertissueofJacobyが伸展され通常のICCは乳頭下方に生じるが,ときに乳頭耳側破綻していることを明らかにし,病的近視眼における視を中心にICCが生じることがある.耳側ICCは広範囲神経周囲の機械的伸展に伴うbordertissueの破綻が,に拡大しやすく,ときに中心窩を超えて広がる場合があ52あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(52) る.その際には,中心窩を通る垂直スキャンにおいてあたかも中心窩の脈絡膜厚が増加しているように観察される.したがって,病的近視眼の中心窩脈絡膜厚を測定する場合にはICCの有無や範囲に留意する必要がある.以上の所見を総合すると,強度近視眼の視神経周囲では予想以上にさまざまな組織で断裂が生じており,これらの構造破綻が視野障害に関与する可能性が示唆される.図10病的近視の乳頭周囲intrachoroidalcavitationの眼底写真乳頭の下方から鼻側にかけてややオレンジ色の領域が観察される(矢頭).図11Intrachoroidalcavitation(ICC)のOCT所見A:視神経乳頭下方に黄色の三日月状の病変がみられる(矢印).B:フルオレセイン蛍光眼底造影の後期にはICCが過蛍光を示す(青矢印).ICCの上縁には網膜欠損があり,同部位では蛍光が欠如している(黄矢印).C~E:さまざまなレベルでのOCT所見では,ICCは脈絡膜.上脈絡膜腔レベルのcavitationが低反射像としてみられ,網膜の欠損部位を介して硝子体腔と交通している.F:ICC部位では強膜カーブ(赤ラインで示す)が眼球後方に偏位している.(文献8より)(53)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201353 図12図11の症例の3DviewAではintrachoroidalcavitation(ICC)のedgeに網膜欠損がある(矢印).この欠損はBの眼底写真の矢印部位に相当する.C,DではICC部位では強膜のラインは赤矢印のように変位し,網膜欠損部位を介して硝子体とICCは交通している(黄矢印).II緑内障における視神経解析従来の緑内障に対するOCTの臨床応用は,ほとんどが網膜神経線維層の厚みを解析することや,網膜神経節細胞層の厚みを測定することが主たる目的であった.しかし,OCTの進歩に伴い,視神経のより深部の構造を観察することが可能となり,これらの情報は緑内障の病態や新規治療を考えるうえで重要なヒントとなると期待されている.Inoueら9)は緑内障または高眼圧症を有する52眼において,強膜篩状板を多数の円形の低反射像として描出することに成功し,画期的な所見を発表した.さらに,強膜篩状板の厚さは平均190.5±52.7μmであり,視野所見のMD値と篩状板の厚さが相関していたと報告した.Parkら10)はEDI-OCTを用いて緑内障患者と正常者の強膜篩状板の厚みを計測し,篩状板の厚さは乳頭中央,上方,下方とも正常眼に比較して,高眼圧緑内障および正常眼圧緑内障ともに薄かったと報告している.また,特に乳頭出血を伴う正常眼圧緑内障患者で薄かったとしており,非常に興味深い.Leeら11)は緑内障手術による眼圧下降に伴い,強膜篩状板の後方変位が減少して,篩状板が前方に移動するとともに,篩状板および篩状板前組織の厚みが増加したと報告した.特に年齢が若く,眼圧下降が大きかった症例で篩状板の前方変位が著明であったとした.また,Hayashiら12)は,乳頭周囲萎縮のなかのBruch膜の状態をOCTで観察し,Bruch膜の欠損が最も近視と相関していたとする非常に興味深い報告をしている.おわりにOCTの進歩は,網膜脈絡膜だけではなく,従来は生体眼で観察が困難であった視神経および視神経周囲組織の観察にさまざまな知見をもたらした.その結果は,病的近視の視神経障害や緑内障の病態解明や治療法の確立に重要であると考えられる.今後,さらなる進歩により,ますます新しい知見が得られることを期待したい.文献1)ParkSC,DeMoraesCG,TengCCetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofdeepopticnervecomplexstructuresinglaucoma.Ophthalmology119:3-9,20122)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Imagingtheretrobulbarsubarachnoidspacearoundtheopticnervebysweptsourceopticalcoherencetomographyineyeswithpathologicmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:9644-9650,20113)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Acquiredopticnerveandperipapillarypitsinpathologicmyopia.Ophthalmology119:1685-1692,20124)CurtinBJ:Theposteriorstaphylomaofpathologicmyo54あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(54) pia.TransAmOphthalmolSoc75:67-86,19775)FreundKB,CiardellaAP,YannuzziLAetal:Peripapillarydetachmentinpathologicmyopia.ArchOphthalmol121:197-204,20036)ShimadaN,Ohno-MatsuiK,YoshidaTetal:Characteristicsofperipapillarydetachmentinpathologicmyopia.ArchOphthalmol124:46-52,20067)ToranzoJ,CohenSY,ErginayAetal:Peripapillaryintrachoroidalcavitationinmyopia.AmJOphthalmol140:731-732,20058)SpaideRF,AkibaM,Ohno-MatsuiK:Evaluationofperipapillaryintrachoroidalcavitationwithsweptsourceandenhanceddepthimagingopticalcoherencetomography.Retina32:1037-1044,20129)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflaminacribrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,200910)ParkHY,JeonSH,ParkCK:Enhanceddepthimagingdetectslaminacribrosathicknessdifferencesinnormaltensionglaucomaandprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology119:10-20,201211)LeeEJ,KimTW,WeinrebRNetal:ReversalofLaminaCribrosaDisplacementafterIntraocularPressureReductioninOpen-AngleGlaucoma.Ophthalmology,2012[Epubaheadofprint]12)HayashiK,TomidokoroA,LeeKYetal:Spectral-domainopticalcoherencetomographyofbeta-zoneperipapillaryatrophy:influenceofmyopiaandglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:1499-1505,2012(55)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201355

後眼部編:脈絡膜の形態解析

2013年1月31日 木曜日

特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):41.45,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):41.45,2013後眼部編脈絡膜の形態解析ChoroidalObservationsUsingHigh-PenetrationOCT中井慶*はじめに光干渉断層計(OCT)は,眼科における一つの歴史的変革である.補助診断法と考えられたOCTも,今や診断,治療,研究の主役になりうる.誕生から20年間で,OCTは種々の進化を果たした.OCTの役割は,眼底深部の画像化である.従来の800nm帯光源では,解像度が高い反面,網膜色素上皮層の散乱が強く,眼底深部のシグナルが減弱する欠点がある.光源の長波長化により,色素上皮層での透過性が高まり,眼底深部を観察が可能になる.もう一つの欠点は,固視不良による画像が不鮮明であり,その解決には,測定時間の短縮,高速化が求められる.OCTを押し込み,画像を反転させ,50.100枚の画像を重ねるenhanceddepthimaging(EDI)法は,撮影に時間がかかり,固視不良になる可能性がある.SweptsourceOCT(SS-OCT)は上記の2つの欠点を解決しうる.SS方式は長波長,高速化OCTを作るのにも優れており,次世代を担う技術と期待される.今回,筆者らは,組織侵達性に優れ,脈絡膜,強膜などの深部組織の描出に優れる,高侵達SS-OCT(中心波長1,050nm,走査速度毎秒100,000A-scan)を用いて,さまざまな疾患を観察したので報告する.ISS.OCTによる正常眼画像図1は,正常眼を1,050nmSS-OCTで撮影したものである.脈絡膜深部のシグナルが向上し,強膜までも描図1高侵達SS.OCTによる正常眼撮影画像脈絡膜深部のシグナルが向上し,深部まで描出される.中小血管層からなるSattler’slayer,大血管層からなるHaller’slayerが明瞭に描出される.Haller’slayerの外側は上脈絡膜で,豊富な線維からなる移行帯である.強膜はさらに外側の均一な高散乱組織である.脈絡膜と強膜の境界は,脈絡膜大血管外側の,高散乱帯である.出される.脈絡膜厚は,正常眼でも個人差を認め,屈折値の影響が大きい.平均値は250μm程度だが,正視眼では500μm以上,強度近視眼では100μm以下の場合もある1).脈絡膜より内側のBruch膜と脈絡膜毛細管板はきわめて薄く,SS-OCTにては同定できない.その後方,脈絡膜内部の,中小血管層からなるSattler’slayerと,その後方,大血管層からなるHaller’slayerの2層は明瞭に描出される.解剖学的に両者に明瞭な境界はなく,SS-OCTでも2層の境界を描出することはできない.*KeiNakai:大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座〔別刷請求先〕中井慶:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)41 Haller’slayerの後方は上脈絡膜で,豊富な線維からなる移行帯である.強膜はその後方の均一な高散乱組織で,その境界は,脈絡膜大血管外側の高散乱帯であるといわれているが,さらに後方という報告もあり2),今後よりいっそうの検討が待たれる.II高侵達SS.OCTによる疾患眼画像解析1.原田病原田病は,前部および後部ぶどう膜のメラノサイトに対する自己免疫機序によって炎症が生じる,汎ぶどう膜炎であり,病理組織学的に,網膜脈絡膜に肉芽腫性変化が生じる(図2).急性期の後極部漿液性網膜.離は,脈絡膜の肉芽腫変化によって生じた続発性の変化であり,疾患の本態は脈絡膜にあると考えられる.原田病のインドシアニングリーン蛍光造影(IA)では,造影早期の脈絡膜充盈遅延,脈絡膜血管不鮮明,中・後期には,散在する斑状低蛍光(filling-patchy-delay),網膜下色素漏出などが特徴的に観察される.造影早期の脈絡膜充盈遅延,脈絡膜血管の不鮮明は,脈絡膜への多数の類上皮細胞リンパ球などの炎症細胞の浸潤による脈絡膜循環障害をあらわす所見として多くの症例にみられ,診断に重要である.しかし,IA所見にて原田病の重症度を評価することは困難であった.原田病のOCT所見については,網膜の変化には多くの研究がなされているが,脈絡膜のOCT所見に関する報告は,脈絡膜皺襞3,4)などが散見される程度である.そこで,筆者らは,急性期と回復期における4例の原田病患者の高侵達SS-OCTを用いて検討し,急性期では,回復期またはコントロール眼に比して脈絡膜厚が,全例800μm以上と有意差をもって肥厚し,脈絡膜内層の脈絡膜血管信号が減少すると報告した5)(図3).ステロイド薬治療開始後,中心窩下脈絡膜厚は治療前の800μm以上から,治験開始後1週では平均562μm,4週では412μm,さらに6カ月では347μm,1年では326μmに減少した(図4).つまり,治療開始後1週間程度で速やかに肥厚は改善,その後1年にわたって,図2原田病の初診時所見両眼で乳頭発赤腫脹および乳頭周囲の漿液性網膜.離を認めた(上段).蛍光眼底造影では,両眼で視神経乳頭の過蛍光および乳頭周囲の造影剤漏出を認めた(下段).42あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(42) 図3両眼の高侵達SS.OCT画像治療開始前の,Day0では両眼とも強膜・脈絡膜境界は不明瞭なため計測不可能(>800μm).Day2では強膜・脈絡膜の境界は明瞭化(矢頭)し,右眼で435μm,左眼で336μmに減少.Day14では左眼で漿液性網膜.離は消失,脈絡膜厚は右眼で293μm,左眼で260μmへと減少.900800Day0>800μmDay2435μmDay14293μm右眼Day0>800μmDay2336μmDay14260μm左眼900800右眼左眼700600患者1右眼700脈絡膜厚(μm)500脈絡膜厚(μm)患者1左眼600400患者2右眼500患者2左眼300患者3右眼200400患者3左眼100300患者4右眼00246810121416患者4左眼200治療開始日数(days)図4原田病患者の脈絡膜厚の経時的変化グラフ両眼とも,ステロイド薬治療により脈絡膜厚の減少を認めた.徐々に菲薄化を認めた(図5).肥厚の原因であるが,脈絡膜への炎症細胞浸潤,滲出による間質浮腫が関与していると考え,前者は病理組織学的所見と合致する.Marukoら6)からも同様の報告がある.また,炎症再燃時には,脈絡膜厚が800μm以上へと再度肥厚が確認された.原田病寛解期において特徴的な夕焼け状眼底においても脈絡膜を検討したところ,網膜は菲薄化を認めなかったが,脈絡膜は,平均厚172μmと正常眼に比して,有意に菲薄を認めた.前眼部炎症,(43)1000経過日数(days)図5ステロイド薬治療後の,原田病患者の脈絡膜厚の半年から1年にわたる経時的変化グラフ4例8眼の脈絡膜は,すべての症例で発症時には検出限界(800μm)を超えて肥厚していたが,治療開始後4週間で平均して412μmと,発症時に比して,有意に減少を認めた(p<0.0001).ならびに漿液性網膜.離が消失し,臨床的に炎症寛解が得られているように観察されても,徐々に菲薄化が進むのは,脈絡膜で炎症がくすぶっており,それに伴い,組織萎縮が進行している可能性が示唆される.これは,原あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013430100200300400 田病においては,他疾患とは異なり,長期間,半年程度かけてステロイド薬を減量する必要性があることを強く支持するものであると考える.上記より,筆者らは,診察時には,炎症細胞や漿液性網膜.離の有無に加えて,高侵達SS-OCTを用いた脈絡膜の肥厚改善程度を解析することは,ステロイド薬増減のタイミングに非常に有用であると考える.また,フルオレセイン蛍光造影(FA)/IAなどの造影検査と比べて非侵襲的に行えるため,今後原田病に対する治療効果の定量的評価の指標として有用であると考える.原田病における脈絡膜肥厚は,IA所見における脈絡膜充盈遅延とよく相関し,診断的価値の高い所見として重視すべきである.また,筆者らは網膜.離非出現期または乳頭浮腫型原田病における診断的価値についても,検討している.原田病は通常,眼底後極部における漿液性網膜.離で発症するが,発症初期や乳頭型では,乳頭浮腫,発赤のみを認め,後極の漿液性網膜.離が観察されない場合は診断に迷うことがある.眼底所見は,乳頭発赤以外は異常所見を認めないが,IA所見の充盈遅延および高侵達SSOCTでの脈絡膜肥厚所見が原田病と診断する手助けになる場合がある.2.中心性漿液性脈絡網膜症中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)は,IA所見より脈絡膜血管の透過性亢進が指摘されていた.高侵達SSOCTでは,それに一致して大血管の拡張が観察される.血管拡張に伴い,脈絡膜厚の増大が観察される(図6)7).図6中心性漿液性脈絡網膜症例高侵達SS-OCTでは,後方,特に大血管の拡張が観察された.血管拡張に伴い,脈絡膜厚は各所で増大する様子が観察された.健側僚眼でも脈絡膜の血管透過性亢進が観察されることがあり,SS-OCTにても,正常に比して,脈絡膜厚の増加が観察される.光線力学的療法の治療にて,脈絡膜厚が減少する報告がある8).3.強膜炎急速に脈絡膜皺襞を生じる病態をもつ疾患として,後部強膜炎があげられる(図7).筆者らは,後部強膜炎患者2例において,治療前後の脈絡膜の経時的な変化を高侵達SS-OCTを用いて解析した.治療前の患眼脈絡膜厚は384μmと健眼に比して肥厚していた.ステロイド薬治療開始後13日目で261μm,69日目で218μmと,脈絡膜肥厚の改善を認めた(図8).また,長期的な観察では,炎症眼では,正常脈絡膜厚に比して菲薄化を認図7強膜炎症例前眼部に結膜充血.眼底写真では,耳側に漿液性網膜.離(矢印)を認めた.44あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(44) Day0384μmDay13261μmDay69245μmDay0384μmDay13261μmDay69245μm図8強膜炎患者の脈絡膜厚の経時的変化ステロイド薬治療により,脈絡膜厚の減少を認めた.治療開始前は384μm,13日目では261μm,69日目には漿液性網膜.離は消失し,脈絡膜厚は245μmへと減少が観察された.め,Takiら9)も同様の報告をしている.おわりに以上に述べたように,脈絡膜を病変の主座とするぶどう膜炎では,画像診断にて脈絡膜にさまざまな所見が観察される.今後,さまざまな疾患において高侵達SSOCTを用い,病態解明ならびに治療評価も含めた研究が急速に進むことが予想される.文献1)FujiwaraA,ShiragamiC,ShirakataYetal:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomographyofsubfovealchoroidalthicknessinnormalJapaneseeyes.JpnJOphthalmol56:230-235,20122)YamanariM,LimY,MakitaSetal:Visualizationofphaseretardationofdeepposterioreyebypolarization-sensitiveswept-sourceopticalcoherencetomographywith1-micronprobe.OptExpress17:12385-12396,20093)YamaguchiY,OtaniT,KishiS:TomographicfeaturesofserousretinaldetachmentwithmultilobulardyepoolinginacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol144:260-265,20074)IshiharaK,HangaiM,KitaMetal:AcuteVogt-Koyanagi-Haradadiseaseinenhancedspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:1799-1807,20095)NakaiK,GomiF,IkunoYetal:ChoroidalobservationsinVogt-Koyanagi-Haradadiseaseusinghigh-penetrationopticalcoherencetomography.GraefesArchClinExpOphthalmol250:1085-1095,20126)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:SubfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina31:510-517,20107)KurodaS,IkunoY,YasunoYetal:Choroidalthicknessincentralserouschorioretinopathy.Retina2012,inpress8)MarukoI,IidaT,SuganoYetal:Subfovealchoroidalthicknessaftertreatmentofcentralserouschorioretinopathy.Ophthalmology117:1792-1799,20109)TakiW,KeinoH,WatanabeTetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinrecurrentunilateralposteriorscleritis.GraefesArchClinExpOphthalmol2012,Epubaheadofprint(45)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201345

後眼部編:網膜の形態解析

2013年1月31日 木曜日

特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):31.39,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):31.39,2013後眼部編網膜の形態解析StructuralAnalysisoftheRetina大谷倫裕*はじめに1997年に日本に導入されたTD-OCT(time-domainopticalcoherencetomography)の深さ方向分解能は20μmで,1枚の断層像を得るためのスキャン時間は1秒もかかった.2006年に実用化されたSD-OCT(spectraldomainOCT)の分解能は5.7μmに向上し,スキャン時間も数百倍速くなっている.さらにOCT画像の加算平均を行うとスペックルノイズが除去されて,より高精細な網膜断層像が得られる.また,スキャンの高速化によって,眼底後極部を数秒で三次元画像化できるため,網膜の厚さ解析が容易になった.最近商品化されたSS-OCT(sweptsourceOCT)は,SD-OCTよりも速く,深さによる感度低下が少ないため硝子体から脈絡膜までを詳細に描出できる.本稿では,SD-OCTとSSOCTを用いた網膜の形態解析について述べる.I正常眼底のOCT1.中心窩を含む正常黄斑の断層像(水平断)(図1)黄斑部では中心窩が最も薄いため,中心窩を含むOCTでは網膜は中心窩に向かって陥凹する.硝子体未.離眼では,黄斑部の前方には硝子体液化腔が存在し(後部硝子体皮質前ポケット)1),ポケットの後壁は薄い硝子体皮質からなる.OCTでは,硝子体ポケットは周囲の硝子体ゲルより低反射となる.内境界膜はOCTでは観察できない.網膜表層にある高反射層は神経線維層であり,黄斑鼻側から視神経乳頭に近づくにつれて厚くなる.黄斑耳側では,神経線維層は縫線となるため神経線維層は見えない.黄斑の垂直断では,上下の神経線維層の厚さはほぼ等しい.網膜断層のほぼ中間にある低反射層が内顆粒層である.網膜外層には4本の高反射ラインがあり,硝子体側から強膜側に向かって順に,外境界膜・視細胞内節外節接合部(IS/OS:junctionbetweenphotoreceptorinnerandoutersegment)・錐体外節端(COST:coneoutersegmenttip)・網膜色素上皮と考えられている.さらに外側には脈絡膜があり,SS-OCTでは脈絡膜と強膜との境界が描出される.2.網膜の解剖と断層像(図2)網膜は光学顕微鏡所見から10層に区分される(硝子体側から,内境界膜・神経線維層・神経節細胞層・内網状層・内顆粒層・外網状層・外顆粒層・外境界膜・杆体錐体層・網膜色素上皮層).網膜に到達した光は,第1ニューロンである視細胞で電気信号に変換されたのち,第2ニューロン(双極細胞),第3ニューロン(神経節細胞)を介して,その情報が中枢に伝達される.第1ニューロンである視細胞は,外節・内節・細胞核・軸索・シナプスからなる.外節は,視物質を含む多数の円板状の膜が積み重なってできている.内節は,エリプソイド(網膜色素上皮側)とミオイド(硝子体側)に分けられる.エリプソイドにはミトコンドリアが分布しており,エネルギーを供給する.ミオイドにはGolgi体や小胞体などが含まれ,外節を構成する円板膜の蛋白合*TomohiroOtani:群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野〔別刷請求先〕大谷倫裕:〒371-8511前橋市昭和町3-39-15群馬大学大学院医学系研究科病態循環再生学講座眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(31)31 強膜視神経硝子体ポケット脈絡膜クローケ管内顆粒層網膜色素上皮IS/OS神経線維層強膜視神経硝子体ポケット脈絡膜クローケ管内顆粒層網膜色素上皮IS/OS神経線維層図1中心窩を含む網膜水平断長波長(1,050nm)光源を用いたSS-OCTによる網膜断層像である.黄斑前には硝子体ポケットがある.硝子体から強膜まで描出することができる.神経線維層神経節細胞層内網状層内顆粒層外網状層外顆粒層網膜色素上皮層脈絡膜外境界膜IS/OSCOST第1ニューロン(視細胞)第2ニューロン(双極細胞)第3ニューロン(神経節細胞)外節ConesheathMuller細胞図2網膜断層像と解剖図1の赤点線部を拡大し,網膜を構成する細胞のシェーマを当てはめたものである(解説は本文参照).32あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(32) 成が行われる.細胞核は外顆粒層に相当する.細胞核から伸びる軸索とシナプスによって外網状層が形成される.視細胞は杆体と錐体の2種類に分類される.錐体は色の識別や形態認識を行い,黄斑の中心直径500μm内の視細胞は錐体からなり杆体は存在しない.錐体は紡錘型をしていると考えられているが,中心窩では杆体のような形をしており,内節と外節の長さはほぼ等しい.中心窩の錐体外節の先端はほぼ網膜色素上皮に達しており,外節先端の一部が網膜色素上皮の微絨毛に包まれている.中心窩から離れるにつれて錐体は紡錘型となる.周中心窩(中心窩から2mm)の錐体外節の長さは内節の半分程度で外節先端は網膜色素上皮まで達しておらず,網膜色素上皮から伸びた微絨毛がさやのように外節先端部を覆っている(conesheath).杆体は明暗の識別を行う.中心窩から離れるにつれて杆体は急速に増加する.AB杆体の外節先端は微絨毛を介して網膜色素上皮に接している.網膜外層にある4本の高反射ラインのうち最も内側にある外境界膜は本当の膜ではなく,視細胞とMuller細胞の接合部(zonulaadherens)に相当する.IS/OSは外節と内節の境界であると考えられているが,内節のエリプソイドであるとの考えもある2).錐体外節はconesheathに包まれており,その外縁は網膜色素上皮まで達していないので,錐体外節外縁が高反射(COST)になると推測されている.外網状層の外側2/3は視細胞の軸索からなり,斜めに走行する〔ヘンレ(Henle)線維〕.OCTの測定光が組織に対し斜めに入射すると同軸方向に戻る後方散乱光が減少するため,実際よりも低反射に描出される.ヘンレ線維に対し測定光は斜めに入射するため,ヘンレ線維からの反射は減弱する.測定光がヘンレ線維に垂直にな内顆粒層シナプスヘンレ線維層外顆粒層内顆粒層シナプスヘンレ線維層外顆粒層図3ヘンレ線維層(SD.OCT)ヘンレ線維に対し測定光(緑点線矢印)は斜めに入射するため,ヘンレ線維からの強い反射は起こらない(A).測定光がヘンレ線維に垂直になるように測定光の入射角度を変えると,ヘンレ線維層からの反射が増強され,明瞭に描出される(赤矢印)(B).(33)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201333 るように測定光の入射角度を変えると,ヘンレ線維層が明瞭に描出される(図3)3).第2ニューロンである双極細胞の樹状突起は外網状層で視細胞の軸索とシナプスを形成し,双極細胞の軸索は硝子体側に伸びて神経節細胞やアマクリン細胞と内網状層でシナプスを作る.内顆粒層は双極細胞・Muller細胞・水平細胞・アマクリン細胞の核からなりOCTでは低反射となる.第3ニューロンである神経節細胞の核は神経節細胞層にあり,OCTでは内網状層と神経線維層の間にある低反射帯として描出される.神経節細胞の軸索は神経線維層を形成する.緑内障における神経節細胞厚の解析は,神経節細胞複合体(GCC:ganglioncellcomplex=網膜神経線維層+神経節細胞層+内網状層)の厚さを評価するところから始まった.IIOCTによる網膜の形態解析1.網膜断層像では内顆粒層の低反射を基準にする網膜の形態は,内顆粒層を基準にするとわかりやすい.正常黄斑のOCTでは,網膜層構造のほぼ中間に内顆粒層の低反射が存在する.中心窩には内顆粒層は存在しないため,内顆粒層の低反射は中心窩付近で途切れる.OCT断層像で内顆粒層の低反射が途切れないで連続している場合は,OCTのスキャンが中心窩を含んでいないことになる(ただし中心窩低形成は例外).内顆粒層には双極細胞(第2ニューロン)の核があるため,内顆粒層よりも内層には神経節細胞(第3ニューロン)があり,内顆粒層と網膜色素上皮層の間は視細胞(第1ニューロン)からなると大まかに理解することができる.2.網膜厚マップも活用する眼底疾患の多くは網膜厚が増減するので網膜厚マップを見ると病変部位がわかりやすい.また,網膜断層像だけではOCTのスキャンラインに含まれない病変は検出できないので,網膜厚マップもチェックすると見落としが少なくなる.病態に応じて神経線維層厚やGCC厚も調べる.3.主病層が網膜内層にある病態a.緑内障(図4)緑内障の本態は網膜神経節細胞の消失であり,神経節B図4緑内障AA:カラー眼底.視神経乳頭の下耳側から神経線維層欠損(NFLD)が広がっている.B:網膜(全層)厚マップ.黄斑下方がNFLDに一致して菲薄化し,青色で示CDされている.C:網膜神経線維層(RNFL)デビエーションマップ.NFLDがピンク色で表示されている.D:黄斑部における内網状層+神経節細胞層(GCL)のデビエーションマップ.黄斑部下耳側はピンク色で表示され,E内網状層とGCLが薄い.E:垂直方向のSD-OCT.黄斑より下方のRNFL・GCLはほとんど消失している(赤矢印).内顆粒層34あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(34) 細胞層・網膜神経線維層の菲薄化が起こる.網膜厚マップでは網膜神経線維の走行に沿って網膜が菲薄化する.GCC厚の解析も緑内障の早期発見に貢献すると考えられている.b.網膜動脈閉塞症(図5)網膜動脈は網膜内層を栄養しているので,動脈閉塞がA図5網膜動脈分枝閉塞症A:カラー眼底写真.黄斑上側の網膜動脈閉塞によって,網膜が白濁している.視力は1.2であった.B:垂直方向のSS-OCT.中心窩から上方の網膜内層は厚くなり反射も強くなっている(赤矢印).C:網膜厚マップ(1カ月後).動脈閉塞の領域に一致して網膜が薄Cくなり,ブルーからグレーで表示されている.D:垂直方向のSS-OCT(1カ月後).中心窩から上方の網膜内層は萎縮しており,内顆粒層の低反射も消失している(赤矢印).起こると網膜内層(神経線維層.内顆粒層)の障害が生じる.急性期では動脈閉塞領域の網膜内層が肥厚し高反射となる.正常では低反射である内顆粒層も高反射となる.眼底検査で,網膜の混濁がはっきりしなくても,OCTで網膜内層が高反射を示すこともある.陳旧期になると動脈閉塞領域の網膜内層が萎縮して薄くなる.網B内顆粒層D図6糖尿病黄斑浮腫A:カラー眼底写真.中心窩を含む黄斑浮腫があり,黄斑部耳側には硬性白斑がある.視力は0.2であった.B:垂直方向のSD-OCT.中心窩には.胞様変化(黄矢印)と漿液性網膜.離(赤矢印)がある.中心窩の下方には網膜外層(ヘンレ線維層)の膨化(青矢印)がある.C:網膜厚マップ.黄斑浮腫は黄斑部の下耳側に強く(白で表示),局所性浮腫であることがわかる.浮腫内の毛細血管瘤に対しレーザー光凝固を行った.D:網膜厚マップ(レーザー治療から11カ月後).局所性浮腫はほぼ消失し,視力は0.4に改善した.BACD内顆粒層(35)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201335 膜厚マップでは,動脈閉塞の領域と一致して網膜が薄くなる.網膜中心動脈閉塞症では中心窩周囲の網膜内層が薄くなるので中心窩の陥凹がなくなる.糖尿病網膜症でも網膜毛細血管床閉塞によって網膜内層が菲薄化する.4.主病巣が網膜外層にある病態a.黄斑浮腫(図6)黄斑浮腫の網膜断層像は網膜膨化・.胞様変化・漿液性網膜.離の組み合わせによって構成される.網膜膨化はおもに外網状層のヘンレ線維層に起こりやすい..胞様変化は,.胞様の低反射として描出され,おもに内顆粒層と外網状層に存在する.漿液性網膜.離は中心窩下に,.離した神経網膜と網膜色素上皮に囲まれた低反射領域として観察される.網膜厚マップによって浮腫の有無や範囲がわかる.糖尿病黄斑浮腫は,局所性浮腫とびまん性浮腫に分類され,局所性浮腫は毛細血管瘤からの漏出によって起こる.局所性浮腫には毛細血管瘤に対すAB内顆粒層る光凝固が有効であり,網膜厚マップによって局所性浮腫を検出することは重要である.b.網膜色素変性(図7)網膜色素変性は,網膜の視細胞・色素上皮細胞が原発的に広範囲に侵される遺伝性疾患群である.視細胞外節の変性によりIS/OSが消失する.IS/OSの消失部位では,やがて視細胞本体も変性するため,外顆粒層の低反射も消失し網膜外層が薄くなる.網膜厚マップでは,黄斑周囲の網膜外層がドーナツ状に菲薄化することが多い.c.錐体ジストロフィ(図8)錐体機能だけが著しく障害され,進行性の視力低下・色覚異常をきたす.錐体の分布に一致してIS/OSが消失し,外顆粒層も菲薄化または消失する.網膜厚マップでは黄斑の網膜厚が減少する.C図7網膜色素変性A:カラー眼底写真.黄斑部周囲の網膜は灰色で粗造となっている.視力は1.2であった.B:水平方向のSS-OCT.黄斑部周辺の網膜はIS/OS・外顆粒層・外網状層がほぼ消失している(赤矢印).C:網膜厚マップ.網膜外層の消失により黄斑部周囲の網膜はドーナツ状に菲薄化している.36あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(36) CAB内顆粒層図8錐体ジストロフィA:カラー眼底写真.黄斑変性がある.視力は0.1であった.B:水平方向のSD-OCT.黄斑では視細胞外節や外顆粒層が消失している.さらに網膜色素上皮の萎縮により脈絡膜が通常よりも高反射となっている.C:網膜厚マップ.網膜外層の消失により黄斑は菲薄化している.A内顆粒層CBD図9AZOORA:カラー眼底写真.視神経乳頭の周囲に軽度の萎縮病変がある.B:静的視野.耳側に半盲様の暗点がある.C:多局所網膜電図.視野に一致して反応が低下している.D:水平方向のSD-OCT.黄斑から鼻側にかけて(赤矢印の範囲)IS/OSや外顆粒層が消失している.(37)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201337 ABC図10特発性黄斑円孔(stage3)A:カラー眼底写真.中心窩に黄斑円孔がある.視力は0.2であった.B:水平方向のSS-OCT.C:垂直方向のSS-OCT.円孔周囲の外網状層と内顆粒層には.胞様変化がある.黄斑から.離した硝子体ポケットの後壁(硝子体皮質)(赤矢印)とポケットの前壁(黄矢印)が描出されている.ABC内顆粒層図11特発性黄斑前膜A:カラー眼底写真.黄斑に前膜がある.視力は1.2であった.B:水平方向のSS-OCT.C:垂直方向のSS-OCT.肥厚した前膜が網膜表面にある.前膜の収縮によって網膜が膨化し中心窩の陥凹が消失している.中心窩周囲では内顆粒層を含む網膜内層に膨化がある.この症例は後部硝子体.離がないため,硝子体ポケットが明瞭に観察される.黄矢印はポケットの前壁を示す.38あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(38) d.AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)(図9)AZOORは若い女性に多く,光視症や視野欠損などをきたす.視野障害はMariotte盲点の拡大から始まることが多い.主病巣は網膜外層から網膜色素上皮にあると考えられているが,原因は不明である.OCTでは,病変部位の視細胞外節が消失し,IS/OSが見えなくなる4).進行症例では外顆粒層も消失し,外層網膜は薄くなる.5.網膜硝子体界面病変a.特発性黄斑円孔(図10)硝子体ポケットの後壁である硝子体皮質の中心窩牽引によって生じる.黄斑円孔の初期(stage1)では中心窩の層間分離(.胞様変化)または微小網膜.離が起こる.Stage2以上では円孔周囲の.胞様変化が観察される.b.特発性黄斑前膜(図11)黄斑前膜の収縮によって網膜が肥厚する.OCTでは,網膜内表面に前膜の反射が描出され,網膜膨化によって中心窩の陥凹消失することが多い.内顆粒層を含む網膜内層がおもに膨化する.中心窩に円形の高反射がIS/OSとCOSTの間に見られることがある(cottonballsign)5).文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19902)SpaideRF,CurcioCA:Anatomicalcorrelatestothebandsseenintheouterretinabyopticalcoherencetomography:literaturereviewandmodel.Retina31:1609-1619,20113)OtaniT,YamaguchiY,KishiS:ImprovedvisualizationofHenlefiberlayerbychangingthemeasurementbeamangleonopticalcoherencetomography.Retina31:497501,20114)LiD,KishiS:Lossofphotoreceptoroutersegmentinacutezonaloccultouterretinopathy.ArchOphthalmol125:1194-1200,20075)TsunodaK,WatanabeK,AkiyamaKetal:Highlyreflectivefovealregioninopticalcoherencetomographyineyeswithvitreomaculartractionorepiretinalmembrane.Ophthalmology119:581-587,2012(39)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201339

前眼部編:隅角・虹彩の形態解析

2013年1月31日 木曜日

特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):25.29,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):25.29,2013前眼部編隅角・虹彩の形態解析ApplicationsofOCTImaginginIrisandAngleAssessment酒井寛*はじめに光干渉断層計(OCT)は非接触で施行が可能であり,虹彩・隅角の描出が可能である.前眼部に特化した前眼部OCTを用いる以外に後眼部撮影用のOCTにおいても前眼部を撮影できる機能をもったものがある.現在は前眼部三次元画像解析として先進医療の枠組において保険診療との混合診療が認められており,今後の保険収載が期待されている.隅角・虹彩の形態解析は隅角閉塞の診断,解析データを用いたスクリーニングの可能性の探求,および病態理解のための研究などを目的として行われている.一方,虹彩の後方が写らないことから隅角閉塞機序の診断には限界がある.OCTによる隅角診断の最終目標の一つは隅角閉塞の有無と機序の自動診断であるが,隅角閉塞の有無の自動診断はすでに開発済みで実用化段階にあり,今後のトレンドとなると考えられる.IOCTによる前眼部撮影の種類と特徴現在,眼底用のOCTにおいても前眼部撮影の機能をもつ機種が増えている.これにより,隅角の開放,閉塞が観察可能である.一方,眼底用のOCTを前眼部用に用いる場合,解像度は高いが侵達度が低く,隅角底が描出できない症例が存在するなど,前眼部解析に用いるには難点が存在する(図1).前眼部OCTは後眼部用よりも長い1.3μmの波長の光源を用いるため組織侵達度が高く,隅角・虹彩の描出が可能である.眼底用と同様に描画方式にはタイムドメイン式とFourierドメイン式が図1後眼部用OCT(TOPCON社)による前眼部撮影上:隅角底は撮影されていないが,隅角は狭いが開放していると考えられる.下:虹彩と線維柱帯部の接触が確認できるので,隅角閉塞している.画像に左は撮像部位,隅角の画像の下方には重ね合わせの成功率が表示されている.ある.タイムドメイン式の前眼部OCTとしてはHeidelberg社のSL-OCTとZeiss社のVisanteがある.また,Fourierドメイン式にはスエプトソース式の前眼部OCTとしてTOMEY社のSS-1000(CASIA)がある.スエプトソース前眼部OCTはタイムドメイン式に比べ*HiroshiSakai:琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学大学院医学研究科・医科学専攻眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(25)25 表1OCTによる前眼部撮影装置の種類と特徴撮像方式機器名特徴Fourierドメイン後眼部用OCT(各種)描出範囲が狭く,隅角底が写らないこともあるタイムドメインSL-OCT(Heidelberg)Visante(CarlZeiss)前眼部撮影に特化.両隅角,虹彩断面が1枚の画像に描出可能スエプトソースCASIA(TOMEY)非常に高速に前眼部撮影が可能であり隅角,虹彩の三次元画像解析が可能て解像度が高く,撮像時間が短く,三次元画像解析も可能である(表1).II前眼部OCTによる隅角の描出能前眼部OCTでは角膜,結膜,強膜,虹彩の全層が描出可能である.水晶体は瞳孔領内のみ描出され,虹彩後方の水晶体は描出されない.毛様体の扁平部は描出されるが,皺襞部は描出されない(図2).スエプトソース前眼部OCTは非常に解像度が高く,高解像度モードを用いることによりSchlemm管や結膜や強膜内を走行する血管,Descemet膜も描出される1)(図3).タイムドメイン前眼部OCTのVisanteも比較的明瞭に隅角構造が図2タイムドメイン式前眼部OCT(Zeiss社)による前眼部撮影上:低解像度モード.画角が広く両方の隅角が描出される.この画像では強膜岬の描出も比較的良好である.下:高解像度モード.画角は狭いが,隅角底の位置の同定が低解像度モードよりも良好である.描出可能であるが,Schlemm管やDescemet膜は描出されない(図2).III前眼部OCTによる隅角定性評価スエプトソース前眼部OCTの高解像度モードでは隅角構造が非常に鮮明に描出されるので周辺虹彩前癒着(PAS)の有無が診断可能な場合がある.PASのない非器質的閉塞では線維柱帯と虹彩は明瞭に分かれて描出されることが多いが,PASのある部分では2つの組織の境界は描出されず癒着していることが推測できる(図3).前眼部OCTによる隅角定性評価は隅角鏡検査を補完するものであり,適切な隅角鏡検査を併用することが必要である.隅角閉塞の診断は前眼部OCTの使用目的の大きな部分を占める.隅角底や強膜岬の同定は必ずしも明瞭ではないが,多くの場合隅角の開放,閉塞は判定可能である.最近,シンガポール国立眼研究センターのSchlemm管血管周辺虹彩前癒着図3スエプトソース前眼部OCT(TOMEY社)による前眼部撮影Schlemm管が同定され,線維柱帯の位置の同定が明瞭である.周辺虹彩前癒着の部位は虹彩と線維柱帯の境界が描出されず器質的な癒着を示していると考えられる.強膜内の血管,Descemet膜も描出可能である.26あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(26) TinAungらは,専門医の隅角閉塞診断をコンピュータに学習させ自動判定するプログラムを開発した(私信,2012).今後,隅角の閉塞判定を自動で行うソフトウェアの普及が見込まれる.IV前眼部OCTによる虹彩の定性・定量評価虹彩の厚さ,虹彩の前方膨隆の程度から瞳孔ブロックの有無を判断する.毛様体皺襞部が描出されないのでプラトー虹彩の診断は困難であるが,瞳孔ブロックの関与が少ない場合にはプラトー虹彩の可能性が高いと考えることができる.虹彩の表面は収縮溝があり凹凸があるので,虹彩が平坦か膨隆しているかの判断は虹彩の裏面で行う.虹彩根部と瞳孔縁を結ぶ直線から虹彩裏面へ下ろした垂線の最大距離で隅角膨隆の程度を定量化することができる(図4).虹彩厚,虹彩断面積(図5),さらにそれを回転させて虹彩容積を計算することも可能である.虹彩厚が隅角閉塞の独立した関連因子であるかどうかについては異論があり,結論は出ていない.水晶体と虹彩の接触は瞳孔ブロックの原因と考えられているが,水晶体表面の延長曲線上で接触長を推定することが可能である2).前立腺肥大治療薬など選択的a1ブロッカーの内服により生じる術中虹彩緊張低下症候群〔フロッピーアイリス症候群(IFIS:intraoperativefloppyirissyndrome)〕の病因として,虹彩の瞳孔散大筋部位の菲薄化が前眼部OCTにより示されている3)(図5).a1ブロッカー服用者では白内障手術前に前眼部OCTを撮影することにより術中虹彩緊張低下症候群を予想できる可能性がある.V前眼部OCTによる隅角定量評価超音波生体顕微鏡(UBM)の隅角評価で用いられたパラメータ4)を同様に測定することが可能である.隅角閉塞はこれらのパラメータなしにも診断可能であるので,定量評価は臨床研究目的に使用されることがほとんどであり,臨床上これらの数値を基準とすることは一般的ではない.主要なパラメータとしては隅角角度,隅角開大度(angleopeningdistance:AOD),隅角部面積,隅角幅などがある(図6).中央前房深度,水晶体膨隆度も測定可能である(図6).これらのパラメータは隅角鏡診断隅角は狭いが開放隅角は閉塞強膜岬,隅角底の位置は不明瞭虹彩裏面が平坦虹彩膨隆度図4瞳孔ブロック(上)とプラトー虹彩のスエプトソース前眼部OCT画像(下)上:瞳孔ブロック.強膜岬の位置は不明瞭だが隅角の開放,閉塞の診断は可能である.虹彩は前方に凸である.虹彩裏面からの距離をもって虹彩の膨隆度を定量化することも可能である.下:プラトー虹彩.虹彩裏面は平坦であるが,隅角は閉塞している.毛様体は描出されていない.PMSS0.75mm0.75mm1/2distancePMSS1/2distanceSMRDMRSMRDMR図5術中虹彩緊張低下症候群〔フロッピーアイリス症候群(IFIS:intraoperativefloppyirissyndrome)〕の前眼部OCT所見(文献3より)上:a1ブロッカー(タムスロシン)内服患者.下:年齢を合わせた対照.DMR:瞳孔散大筋部,SMR:瞳孔括約筋部,SS:強膜岬,PM:瞳孔縁.(27)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201327 虹彩断面積隅角開大距離隅角角度隅角部面積隅角幅中心前房深度水晶体膨隆度図6前眼部OCTによる虹彩,隅角の定量パラメータ上:隅角開大度,隅角角度,隅角部面積,虹彩断面積.下:隅角幅,中心前房深度,水晶体膨隆度.虹彩断面積隅角開大距離隅角角度隅角部面積隅角幅中心前房深度水晶体膨隆度図6前眼部OCTによる虹彩,隅角の定量パラメータ上:隅角開大度,隅角角度,隅角部面積,虹彩断面積.下:隅角幅,中心前房深度,水晶体膨隆度.を正とした隅角閉塞診断と統計的有意に独立して関連していることが最近の臨床研究により示唆されている5.7).隅角の開放,閉塞も同じ画像に描出されているのでこれらのパラメータの測定は隅角閉塞診断のためには不要であるが,隅角閉塞機序の究明,閉塞隅角のスクリーニングや発症予測などの基礎的な研究のために有用である.また,隅角開大度や隅角部面積はレーザー虹彩切開術や水晶体再建術後の隅角の開放の度合いを定量解析するパラメータとしてよく用いられる.たとえば,水晶体膨隆度は水晶体の前面曲率が小さく,水晶体が相対的に前方に位置する眼で大きくなることが想定される.隅角幅とともに,前眼部OCTで独立した閉塞隅角の関連因子であることが新たに示された.隅角部面積も隅角開大度とほぼ同じ意味合いをもつ後発のパラメータである.統計解析において距離という一次元データである隅角開大度よりも二次元データである隅角部面積のほうが有意差を検出しやすい.一方,隅角部面積はデータがイメージしにくいが,隅角開大度であれば,AOD500が200μmであれば,強膜岬から500μmの隅角が200μm開大している,ということを示しているので,数字情報を画像イメージに結びつけやすいという利点がある.現在は強膜岬を手動で同定するだけで解析は半自動で行われるソフトウェア(内蔵型,独立型)28あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013濾過手術の強膜弁濾過胞内の微小.胞結膜およびTenon結膜上皮Tenon.下の濾過胞隅角閉塞(非器質的閉塞)Tenon.図7前眼部OCTによる濾過胞の評価上:強膜弁下,Tenon.下に流出した房水(濾過胞)が低輝度で描出されている.結膜,Tenonは厚いが眼圧コントロールは良好.下:濾過胞壁の結膜に比べてTenon.の輝度が低く,内部には微少な.胞様所見があり,Tenon内に房水が分布している様子が観察される.も複数開発されており,自動測定の実現に向かって進化している.VI前眼部OCTによる濾過胞の評価(図7)前眼部OCTは非接触検査であり,濾過胞を観察する道具としても有用である.結膜,Tenon.,濾過胞内の組織の密度,強膜フラップの状態などが可視化され,眼圧下降との関連が示されている8).長期経過では濾過胞がなくても眼圧下降のみられる症例や薄く大きな濾過胞でも眼圧上昇をきたす症例もあり,画像のみから眼圧の予後を予測することは困難である.また,濾過胞が非常に大きい場合や結膜の瘢痕の状態などにより濾過胞の描出が制限されることも多く,眼瞼に隠れて撮影がむずかしいこともあり,濾過胞全体を描出することは必ずし(28) も容易ではない.一方,濾過手術の術後に眼圧下降,眼圧上昇などが起きた際の原因検索には有用である.濾過胞再建術の効果の判定にも有用である.VII前眼部OCTによるビデオイメージング前眼部OCTは動画撮影も可能であり,虹彩の動きに伴う隅角形状の変化など動的解析を行うことが可能である.瞳孔運動は一般的に散瞳時に虹彩が厚くなり,縮瞳時に虹彩は薄くなる.虹彩が厚くなるとほぼそれに等しいだけ隅角は狭くなることがUBMを用いた研究で示されている9).一方で近年,原発閉塞隅角眼では散瞳による虹彩容積の縮小が開放隅角眼より少ないという報告10)もあり,動的な虹彩の挙動に注目が集まっている.VIIIまとめ:前眼部OCTによる隅角・虹彩評価の役割前眼部OCT画像は隅角が描出されるので隅角閉塞の診断には数値解析は不要である.隅角閉塞に関連した隅角開大度,隅角部面積,隅角間距離などのパラメータを計測する意味合いはおもに隅角閉塞機序の解明や経過観察のための研究目的である.一方,虹彩の膨隆の有無,虹彩厚,PASの有無と範囲,隅角閉塞範囲の評価などは治療選択など臨床上有用である.たとえば,虹彩膨隆は瞳孔ブロックの存在を疑わせる所見でありレーザー虹彩切開術の適応決定などに有用であろう.虹彩が非常に厚く虹彩膨隆が少ない症例ではレーザー虹彩切開術の効果は少なく,施行も困難であることが術前に予想が可能である.非常に前房の浅い症例では圧迫隅角鏡検査を行ってもPASの範囲を同定することは困難である.こうした症例や閉塞隅角以外でも前房出血のある血管新生緑内障眼におけるPASの有無の検索などにも有用である.隅角閉塞範囲の決定も臨床上非常に有用である.通常4方向の隅角の明所,暗所での閉塞の有無を観察する.前眼部OCTは体位,固視灯などの撮影条件などの違いによりUBMよりも隅角は広く撮影される11,12).前眼部OCTで狭隅角の場合には条件によって隅角は閉塞している可能性がある.一方,前眼部OCTにおいて隅角が閉塞している場合には,隅角閉塞の程度は強いと考えられるので手術適応の決定などに有用である.そうした意(29)味からも,前眼部OCTによる隅角閉塞のコンピュータ(さらには人工知能)による自動診断が今後の隅角閉塞診断において主流となるであろう.文献1)酒井寛:UBMと前眼部OCTのみかた.眼科52:617626,20102)ZhengX,SakaiH,GotoTetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyanalysisofclinicallyunilateralpseudoexfoliationsyndrome:evidenceofbilateralinvolvementandmorphologicfactorsrelatedtoasymmetry.InvestOphthalmolVisSci52:5679-5684,20113)PrataTS,PalmieroPM,AngelilliAetal:Irismorphologicchangesrelatedtoalpha(1)-adrenergicreceptorantagonistsimplicationsforintraoperativefloppyirissyndrome.Ophthalmology116:877-881,20094)IshikawaH,LiebmannJM,RitchR:Quantitativeassessmentoftheanteriorsegmentusingultrasoundbiomicroscopy.CurrOpinOphthalmol11:133-139,20005)NongpiurME,SakataLM,FriedmanDSetal:NovelassociationofsmalleranteriorchamberwidthwithangleclosureinSingaporeans.Ophthalmology117:1967-1973,20106)NongpiurME,HeM,AmerasingheNetal:Lensvault,thickness,andpositioninChinesesubjectswithangleclosure.Ophthalmology118:474-479,20117)NarayanaswamyA,SakataLM,HeMGetal:Diagnosticperformanceofanteriorchamberanglemeasurementsfordetectingeyeswithnarrowangles:ananteriorsegmentOCTstudy.ArchOphthalmol128:1321-1327,20108)KawanaK,KiuchiT,YasunoYetal:Evaluationoftrabeculectomyblebsusing3-dimensionalcorneaandanteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:848-855,20099)HenzanIM,TomidokoroA,UejoCetal:Comparisonofultrasoundbiomicroscopicconfigurationsamongprimaryangleclosure,itssuspects,andnonoccludableangles:theKumejimaStudy.AmJOphthalmol151:1065-1073,201110)AptelF,DenisP:Opticalcoherencetomographyquantitativeanalysisofirisvolumechangesafterpharmacologicmydriasis.Ophthalmology117:3-10,201011)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Comparisonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,200512)WangD,PekmezciM,BashamRPetal:Comparisonofdifferentmodesinopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyinanteriorchamberangleassessment.JGlaucoma18:472-478,2009あたらしい眼科Vol.30,No.1,201329

前眼部編:角膜の形態解析

2013年1月31日 木曜日

特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):15.23,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):15.23,2013前眼部編角膜の形態解析CornealTopographywithOpticalCoherenceTomography上野勇太*福田慎一*大鹿哲郎*はじめに角膜は眼球における最大の屈折要素である.角膜前面の曲率半径の測定については,1619年にScheinerがガラス球を使用して測定したのが最初といわれており,その後ケラトメータやプラチド型角膜形状解析装置が開発されてきた.これらマイヤーリングを使用した測定方法は,さまざまな検査方法が開発されてきた今でも角膜前面の形状解析においてgoldstandardである.しかし,マイヤーリングを使用した方法では,ドライアイのように涙液層が不安定であったり,形状変化が非常に強い症例に適さず,また角膜後面の測定ができないことも欠点である.エキシマレーザーを使用した屈折矯正手術の登場とともに,角膜前面のみならず,角膜後面や角膜厚についても正確に評価する必要性が生じている.この要求に応えるように広く利用されてきたのがスリットスキャン型角膜形状解析装置である.スリット状の可視光で角膜を連続的にスキャンし,得られたスリット像から三角測量法で角膜前面と後面の三次元的な形状解析が可能である.初めて角膜後面の形状解析が可能となった器械であり,正常眼1)だけでなく,屈折矯正手術後2,3)や円錐角膜4)などの角膜形状解析について報告されており,測定原理の違いからマイヤーリングでの測定がむずかしい病的眼でも精密な検査が可能である5).その後,シャインプルーク(Scheimpflug)カメラを使用した角膜形状解析装置が開発された.スリット状の可視光が回転しながら角膜をスキャンする測定方式で,従来のスリットスキャン型と比較して測定精度が高いとする報告もある6).しかし,どちらの方式も可視光を使用しているため角膜混濁に弱いという欠点があり,すべての症例に対して精密な検査が可能であるとはいえない.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:以下,OCT)が黄斑部の形態評価に使用されるようになり,黄斑疾患の診断・治療に革新的な変化をもたらした.近年では,前眼部撮影用に改良され,角膜形状解析にも利用可能となった.赤外光を使用するために角膜混濁に強く,高解像度であることから角膜前面および後面の精密な測定が可能であり,角膜形状解析の他に各種前眼部手術前後の角膜形態評価にも汎用されている.本稿では,前眼部OCTによる角膜形状解析の機種や測定精度に関する過去の報告について概説し,角膜形状解析における現状での立ち位置を確認するとともに,前眼部OCTを利用して角膜前面・後面のフーリエ(Fourier)解析を行った筆者らの研究結果を報告する.また,前眼部OCTを使用した前眼部手術前後の角膜形態評価について,過去の報告や自験例を交えて概説する.I前眼部OCTによる角膜形状解析眼科領域でOCTが導入され,1994年には角膜・前眼部分野に応用された7).当初のOCTはTimedomain方式であり,スキャン速度や解像度は十分ではなかったものの,非接触で角膜・前房・虹彩などの前眼部形態評*YutaUeno,ShinichiFukuda&TetsuroOshika:筑波大学医学医療系眼科〔別刷請求先〕上野勇太:〒305-8575つくば市天王台1-1-1筑波大学医学医療系眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(15)15 表1角膜形状解析が可能であるOCTの比較VisanteCASIARTVue測定方式TimedomainFourierdomainFourierdomain(Sweptsource)(Spectraldomain)波長1,310nm1,310nm840nm解像度(深度)18μm10μm5μm解像度(横断面)60μm30μm15μmスキャン速度2,000A-スキャン/秒30,000A-スキャン/秒26,000A-スキャン/秒角膜形状解析モードradialscanradialscanradialscanスキャン範囲10mm10mm6mm測定点128点×16方向512点×16方向1,024点×8方向測定時間0.5秒0.3秒0.3秒価が可能という点で,画期的であった.現在,Timedomain方式で使用可能な前眼部OCTに,Visante(CarlZeiss)がある.その後,Fourierdomain方式が開発され,より高速・高解像度の検査が可能となった.前眼部専用のFourierdomainOCTとして現在使用可能な機種はCASIA(TOMEY)のみであり,眼底撮影用のOCTにアタッチメントを装着することで前眼部も撮影可能な機種が複数存在する.そのなかで,定量的な角膜形状解析が可能である機種として,RTVue-100(Optovue),3DOCT-2000(Topcon),RS-3000(NIDEK)などがあげられる.ここでは,前眼部OCTであるVisanteとCASIA,そして眼底撮影用のなかですでにいくつかの報告で使用されているRTVueについての比較を表1にまとめた.VisanteはTimedomain方式であるため,他の2機種に比べてスキャン速度や解像度が見劣りするのは否めない.CASIAはFourierdomain方式の波長走査型SweptsourceOCTであり,1,310nmという前眼部に最適な高波長でのスキャンを実現している唯一の機種である.前眼部専用であるため豊富なアプリケーションを備え,角膜形状解析においても測定断面が16本と,精密な測定が可能である.RTVueはFourierdomain方式の分光器型SpectraldomainOCTで,従来は眼底撮影用であるため,波長は830nmである.アタッチメントを装着することで前眼部の撮影が可能で,スキャン速度や解像度はCASIAと比べて見劣りはしない.しかし,眼底撮影用であるために角膜形状解析のアプリケーションは少ない.16あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013II前眼部OCTによる角膜形状解析の測定精度Tangらは,RTVueを用いて正常眼の角膜前面屈折力・後面屈折力・角膜厚から算出された角膜屈折力を測定し,そのrepeatabilityを検討したところ,正常眼の角膜屈折力測定におけるrepeatabilityは0.19Dで,過去の報告におけるオートケラトメータのrepeatabilityである0.14D,シャインプルークカメラの0.10.0.14Dと比べても遜色のない結果であると述べた8).また,彼らは以前Timedomain方式の前眼部OCTでも同様の報告を行っており,そのOCTではスキャン速度が2,000Aスキャン/秒と遅く,正常眼の角膜屈折力のrepeatabilityは0.71Dであった9).これらの報告より,前眼部OCTはTimedomain方式からFourierdomain方式に改良され,測定速度が飛躍的に向上し,角膜形状解析において従来装置に引けを取らない測定精度をもつことができたといえる.病的変化の強い症例に対する角膜形状解析については,従来のマイヤーリングを用いた角膜形状解析装置よりもスリットスキャン型角膜形状解析装置のほうがデータの欠損が少ないと報告されている5).これは,マイヤーリングを用いる場合,急激な曲率変化を有する症例ではマイヤーリング像の分離・解析が困難になるためである.前眼部OCTも撮影原理はスリットスキャン型と類似しており,図1に示すようなプラチド型角膜形状解析装置での撮影が困難な症例でも撮影可能である.また,NakagawaらはCASIAとシャインプルークカメラを用(16) 図1円錐角膜症例左:プラチド型角膜形状解析装置,右:CASIA.円錐角膜症例を同一日にプラチド型角膜形状解析装置とCASIAで撮影した.プラチド型では角膜形状変化が強く,マイヤーリングの検出が不良でカラーコードマップが乱れている.CASIAでは前面(左map)・後面(右map)ともきれいに撮影されており,前面で下方の局所的な急峻化が顕著で,同部位は後面でも同様の形状変化をしていることがよくわかる.いて円錐角膜眼の角膜形状解析を行ったところ,CASIAのほうが角膜前面・後面のdigitizationが良好であり,測定精度が高いと報告している10).これは前眼部OCTの撮影が高速・高解像度であることに起因していると考察されている.Samyらは,角膜混濁眼の角膜厚解析において従来のスリットスキャン型角膜形状解析装置とRTVueの比較を行い,スリットスキャン型角膜形状解析装置ではRTVueの角膜厚より有意に低く測定されることを明らかにし,RTVueでは正常眼も角膜混濁眼もほぼ同様のrepeatabilityで測定が可能であることを示した11).スリットスキャン型角膜形状解析装置やシャインプルークカメラでは可視光を使用するため,角膜混濁のある症例では角膜後面まで光が透過せず,角膜後面を正確にスキャンすることはできない.一方で前眼部OCTは赤外光を使用するため角膜混濁眼でも非常に正確な角膜後面のスキャンが可能であり,その測定精度は正常眼と変わらないということが示された.以上より,前眼部OCTの角膜形状解析について,正常眼における角膜屈折力の測定精度は従来の器械とほぼ同等であり,病的眼の形状解析においては従来の器械より幅広い症例に適応があり,高精度の解析が可能であるといえる.III角膜前面・後面のフーリエ解析角膜の不正乱視を定量化する方法の一つとして,フーリエ解析が用いられている.角膜前面においては,プラチド型角膜形状解析装置TMS-2(TOMEY)を用いた過去の報告12)で正常眼のデータから正常範囲が決定されており,広く臨床的に使用されている.一方,角膜後面に関しては正常範囲の決定はなされておらず,どの程度が角膜後面の不正乱視として正常であるかは判断しづらい状況にある.そこで,筆者らはCASIAを使用して正常眼の角膜形状解析を行い,得られたデータから角膜前面・後面のフーリエ解析の正常範囲を決定し,その数値を使用して強度乱視眼や病的眼の角膜前面・後面の形状評価を行ったので以下に示す.1.対象および方法正常群として,眼疾患を有さない150例300眼(男性85例,女性65例)を対象とした.平均年齢は41.0±20.4歳(6.86歳)で,2D以上の角膜乱視・.10D以上の最強度近視・眼科手術歴のある症例・コンタクトレンズ装用症例は除外した.また,K値の乱視度数が2D以上の角膜乱視群として直乱視群25例30眼と倒乱視群20例30眼,円錐角膜群として31例48眼,全層角膜移植後(以下,PKP後)として24例24眼,角膜内皮(17)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201317 移植後(以下,DSAEK後)として12例12眼を比較対象とした.上記の対象において,CASIAの“CornealMap”モードで撮影し,角膜前面(keratometricdata:以下,K値)と角膜後面のそれぞれ中心3mm領域のフーリエ解析を行った.フーリエ解析により角膜屈折力は球面成分・正乱視成分・非対称成分・高次不正乱視成分の4成分に細分化される.正常群300眼の各4成分について平均(mean)と標準偏差(SD)を算出し,その数値を使用して正常範囲をmean±2×SDと定義し,mean±3×SD以内をグレーゾーン,それを超える数値を異常値とした.強度乱視群・円錐角膜群・PKP後・DSAEK後についても同様に,角膜前後面におけるフーリエ解析を行い,正常範囲およびグレーゾーンに収まっている症例の割合を検討した.2.結果正常群300眼の平均値および標準偏差より得られた正常範囲は,角膜前面(K値)において,球面成分が40.66.46.24D,正乱視成分が0.0.90D,非対称成分が0.0.52D,高次不正乱視成分が0.0.20Dであった.一方,角膜後面については球面成分が.6.600..5.701D,正乱視成分が0.0.271D,非対称成分が0.0.104D,高次不正乱視成分が0.0.032Dであった.同様に,グレーゾーンについても表2に記載したとおりであった.各対照群が正常範囲・グレーゾーンに収まった割合を角膜前面と後面で比較すると,強度乱視群はいずれも角膜前面のほうが後面よりも異常値の割合が高く,円錐角膜群・DSAEK後では後面のほうが前面よりも異常値の割合が高く,PKP後では前面と後面で明らかな差は認めなかった(表3).代表症例の前面・後面のフーリエ解析結果を図2.4に提示する.解析結果は成分ごとに数値化されて表示されるが,今回算出した基準値を用いて,正常範囲に収まった数値は緑色で,グレーゾーンに収まった数値は黄色で,異常値は赤色で表示され,どの成分が正常か異常か容易に識別可能である.3.考察角膜前面(K値)のフーリエ解析結果は,以前プラチド型角膜形状解析装置を使用して算出された正常範囲と非常に近くなった.角膜後面に関しては,今までフーリエ解析の正常範囲を決定した報告はなく,筆者らの研究が初めてである.強度乱視群の結果より,角膜後面の乱視は直乱視と倒乱視で大きく傾向が異なることがわかる.近年toricIOL(眼内レンズ)を使用した白内障手術が盛んになってきたため,角膜後面乱視が術後成績に与える影響も検討されるようになってきた13).今後も角膜後面乱視についてさらなる検討がなされることを期待したい.病的眼の解析において,角膜前面と後面で変化の程度を比べると,円錐角膜では後面の変化が強く,PKP後では前面と後面で同等,DSAEK後では後面の変化が表2フーリエ解析で算出される各成分の正常範囲およびグレーゾーン〔上段:角膜前面(keratometricdata)下段:角膜後面〕球面成分正乱視成分非対称成分高次不正乱視成分正常値(mean±2×SD)40.66.46.240.0.900.0.520.0.20グレーゾーン(mean±3×SD)39.26.47.640.1.120.0.660.0.23(単位:D)球面成分正乱視成分非対称成分高次不正乱視成分正常値(mean±2×SD).6.600.-5.7010.0.2710.0.1040.0.032グレーゾーン(mean±3×SD).6.825.-5.4760.0.3280.0.1320.0.038(単位:D)18あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(18) 表3対照群における正常範囲およびグレーゾーンに収まった症例の割合上段:正常範囲に収まった割合下段:グレーゾーンに収まった割合10%以内となった成分は赤色,25%以内となった成分は黄色で色分けした.成分直乱視倒乱視円錐角膜PKP後DSAEK後前面後面前面後面前面後面前面後面前面後面球面9093939015433298317正乱視03701001368131750非対称879383870084250高次不正乱視1009380731520008(単位:%)成分直乱視倒乱視円錐角膜PKP後DSAEK後前面後面前面後面前面後面前面後面前面後面球面100979310023850388333正乱視77740100251313255058非対称939797900088580高次不正乱視100971009725600258(単位:%)図2円錐角膜代表症例の前面(keratometric)フーリエ解析マップ円錐角膜の症例をフーリエ解析し,カラーコードマップに表示した.上段左がK値のaxialpowermapであり,フーリエ解析前の屈折力を表している.フーリエ解析で分解された各4成分がカラーコードマップで表示され,上段中央が球面成分・上段右が正乱視成分・下段左が非対称成分・下段右が高次不正乱視成分である.左下に各成分の数値が算出されており,正常値は緑色・グレーゾーンは黄色・異常値は赤色で表示される.本症例では,3mm領域の球面成分は正常値で,正乱視成分と非対称成分は異常値,高次不正乱視成分はグレーゾーンである.(19)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201319 図3図2と同一症例の後面フーリエ解析マップ図2の症例の角膜後面のフーリエ解析をカラーコードマップに表示した.表示形式は図2と同様である.光は,角膜前面では空気から角膜実質に入る一方で,角膜後面では角膜実質から房水に入るため,媒質の屈折率の関係で角膜前面と後面で屈折力が逆になる.このため,axialpowermapや各4成分で図2と正反対のカラーコードマップを示していることがわかる.左下の数値をみると,角膜後面ではすべての成分が異常値であった.図4図2と同一症例のフーリエ解析―前面・後面・全角膜一括マップ(プロトタイプ画面)図2と3を同じ画面に一括表示する機能が追加される予定であり,そのプロトタイプを表示した.上段が角膜前面(keratometricではない)・中段が角膜後面・下段が角膜全体である.このように一括表示すれば,前面と後面の関係性がわかりやすく,前面の変化がある場所に一致して,後面の変化が逆方向の屈折として作用していることが直感的に理解できる.なお,当プロトタイプでは,前面と後面のカラースケールは3:1の大きさで表示していることに注意されたい.20あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(20) 強いことが明らかとなった.円錐角膜の形状変化は,角膜前面より後面に先行して出るのではないか,と注目されている14).円錐角膜症例では前面より後面のほうが形状変化の強いことが示されたが,前面が正常で後面のみ異常という症例は確認できなかった.また,PKP後およびDSAEK後の結果は各手術手技の特徴を反映した結果となった.以上より,今回算出したフーリエ解析の正常範囲を用いて強度乱視眼・病的眼の解析を行うことで,各疾患の性質をよく捉えることができ,臨床的に十分使用可能であることが示された.球面成分・正乱視成分は眼鏡装用により矯正可能であり,非対称成分・高次不正乱視成分は眼鏡装用では矯正不能な不正乱視である.また,角膜前面の不正乱視はハードコンタクトレンズによる矯正が可能であるが,角膜後面の不正乱視はハードコンタクトレンズでも矯正不能であり,角膜後面フーリエ解析のもつ意味は決して少なくないといえる.今まで,角膜後面形状解析に関しては詳細に検討されていなかった現状があり,今後さらなる検討が行われることが望まれる.IV前眼部手術前後の角膜形態評価前眼部OCTは赤外光を使用するため,組織の混濁にも精度を落とすことなく精密な撮影が可能であることは前述したとおりであるが,この特徴を利用して各種前眼部手術前後の角膜形態評価に応用されている.たとえば,角膜菲薄化のある症例の白内障手術前では,創口やサイドポートの作製部位の決定に役立ち,外傷後やPeters奇形など角膜混濁と虹彩前癒着を伴う症例の白内障手術前では手術計画を立てる際の補助となる.白内障手術後の自己閉鎖創の断面を客観的に観察することも可能で,FukudaらはCASIAを用いて白内障手術角膜切開創を経時的に撮影し,手術翌日には3.4割程度の症例でDescemet膜.離や内方弁のズレが生じたが,ほとんどの症例で2週間後には改善したと報告した15).角膜移植の分野では近年パーツ移植が増加傾向にあり,術後早期にhost-graft間の接着を確認する必要性術後1.5カ月手術翌日術後1週間術後3週間図5深層層状角膜移植術後の症例左上:手術翌日,左下:術後1週間,右上:術後3週間,右下:術後1.5カ月.手術翌日よりDescemet膜の.離(矢印)を認め,前房内にairを注入した.その後は徐々に生着し,1.5カ月後にはほとんど間隙がなくなった.(21)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201321 手術翌日術後1カ月手術翌日術後1カ月術後1週間術後2カ月図6角膜内皮移植術後の症例左上:手術翌日,左下:術後1週間,右上:術後1カ月,右下:術後2カ月.手術翌日より移植片の一部が生着不良(矢印)であったが,軽度であるため経過観察のみとした.徐々に移植片は生着し,2カ月後には完全に間隙がなくなった.がある.図5,6にCASIAの所見から角膜移植の術後管理を行った自験例を提示する.図5は深層層状角膜移植術後にDescemet膜.離を生じ,前房内にair注入を施行した症例である.注入後はDescemet膜.離も徐々に改善し,1.5カ月後にはほぼ改善した.図6は角膜内皮移植術後で,翌日からgraft生着不良部位が認められるも,経過観察のみで治癒した症例である.前眼部OCTで経時的な変化を追ったが,増悪なく経過したため術後1週間で退院とし,外来経過観察中に完全に生着した.このような症例では通常の細隙灯顕微鏡での観察はむずかしく,特に客観的な経時的変化を追うことは困難である.前眼部OCTが強力に効果を発揮した症例であった.おわりに前眼部OCTは角膜混濁眼でも撮影可能であることや,Fourierdomain方式の登場により高速・高解像度での撮影が可能となったことから,角膜形状解析において最先端の器械であるといえる.また,角膜形態評価においても,角膜の状態が悪い場合でも詳細な検査が可能であるため,前眼部手術の術前後評価に汎用されている.今後も外科的技術の進歩により,要求される検査項目も日々変わっていくことが予想されるが,現状で前眼部OCTが角膜疾患・前眼部手術の評価において重要な役割を担っていることは疑う余地もない.前眼部OCTでさらに詳細な解析がなされることで,外科的技術の精度向上や角膜疾患の早期診断につながることが期待される.文献1)OshikaT,TomidokoroA,TsujiH:Regularandirregularrefractivepowersofthefrontandbacksurfacesofthecornea.ExpEyeRes67:443-447,19982)NarooSA,CharmanWN:Changesinposteriorcornealcurvatureafterphotorefractivekeratectomy.JCataractRefractSurg26:872-878,20003)KamiyaK,OshikaT,AmanoSetal:Influenceofexcimer22あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(22) laserphotorefractivekeratectomyontheposteriorcornealsurface.JCataractRefractSurg26:867-871,20004)TomidokoroA,OshikaT,AmanoSetal:Changesinanteriorandposteriorcornealcurvaturesinkeratoconus.Ophthalmology107:1328-1332,20005)吉崎桃子,本田紀彦,天野史郎ほか:角膜形状解析装置のデータ欠損率の比較.あたらしい眼科23:397-399,20066)KawamoritaT,UozatoH,KamiyaKetal:Repeatability,reproducibility,andagreementcharacteristicsofrotatingScheimpflugphotographyandscanning-slitcornealtopographyforcornealpowermeasurement.JCataractRefractSurg35:127-133,20097)IzattJA,HeeMR,SwansonEAetal:Micrometer-scaleresolutionimagingoftheanterioreyeinvivowithopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol12:1584-1589,19948)TangM,ChenA,LiYetal:CornealpowermeasurementwithFourier-domainopticalcoherencetomography.JCataractRefractSurg36:2115-2122,20109)TangM,LiY,AvilaMetal:Measuringtotalcornealpowerbeforeandafterlaserinsitukeratomileusiswithhigh-speedopticalcoherencetomography.JCataractRefractSurg32:1843-1850,200610)NakagawaT,MaedaN,HigashiuraRetal:Cornealtopographicanalysisinpatientswithkeratoconususing3-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JCataractRefractSurg37:1871-1878,201111)SamyEl,GendyNM,LiYetal:Repeatabilityofpachymetricmappingusingfourierdomainopticalcoherencetomographyincorneaswithopacities.Cornea31:418423,201212)TanabeT,TomidokoroA,SamejimaTetal:CornealregularandirregularastigmatismassessedbyFourieranalysisofvideokeratographydatainnormalandpathologiceyes.Ophthalmology111:752-757,200413)KochDD,AliSF,WeikertMPetal:Contributionofposteriorcornealastigmatismtototalcornealastigmatism.JCataractRefractSurg,2012,inpress14)SchlegelZ,Hoang-XuanT,GatinelD:Comparisonofandcorrelationbetweenanteriorandposteriorcornealelevationmapsinnormaleyesandkeratoconus-suspecteyes.JCataractRefractSurg34:789-795,200815)FukudaS,KawanaK,YasunoYetal:Woundarchitectureofclearcornealincisionwithorwithoutstromalhydrationobservedwith3-dimensionalopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol151:413-419,2011(23)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201323

前眼部編:涙液の形態解析

2013年1月31日 木曜日

特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):9.14,2013特集●光干渉断層計アップデート2013あたらしい眼科30(1):9.14,2013前眼部編涙液の形態解析AnalysisofTearMorphologyUsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography鄭暁東*はじめに前眼部OCT(光干渉断層計)テクノロジーの進歩は,光波干渉技術の開発と走査光源の改良によるところが大きい.実用化当初に主流であった光波の干渉を実空間(時間領域)で行うタイムドメインOCT(time-domainOCT:TD-OCT)の技術は,その後,フーリエ空間(周波数また波長領域)で行うフーリエドメインOCT(Fourier-domainOCT:FD-OCT)の技術に移行した.また,走査光源の波長帯域の増大,さらに近年では波長掃引レーザー(sweptsourcelaserOCT:SS-OCT)の開発によって,前眼部OCTの高速化,高解像度化が実現された1,2).SS-OCTの利点として,より高速化されたこと,信号ロスが少ないこと,眼球の動きによる感度低下が少ないことなどがあげられ,これらの特徴を生かした検査アプリケーションも増えつつある.本篇のテーマである涙液の形態解析も代表の一つである.I前眼部OCTを用いた涙液形態解析のメリット通常,涙液層の観察は細隙灯顕微鏡にて行うが,強い光刺激で反射的な涙液分泌が起こりうるため,必ずしも自然な状態での観察とは言い難い場面もある.また,涙液層の評価には涙液メニスカス(tearmeniscus:TM)の観察が重要で,その可視化にはフルオレセイン染色が用いられるが,フルオレセインの使用量によって涙液メニスカスの高さが左右される危険性がある.これに対して前眼部OCTでは,不可視検査光源を使用しているため,被験者が眩しさを感じることはなく,自然状態の涙液層を非接触,非侵襲的な状態で測定可能である.また,前眼部OCTの動画モードを利用すれば,瞬目,眼位変化などによる動態的な涙液変化を検出することもできる.II前眼部OCTによる涙液解析のパラメータTMはドライアイをはじめとする眼表面疾患や流涙症の診断に重要なパラメータで,前眼部OCTの垂直断スキャンよりその断層像が得られる.TMの解析には,メニスカスの高さ(tearmeniscusheight:TMH)と面積(tearmeniscusarea:TMA)に加えて,メニスカスの深さ(tearmeniscusdepth:TMD)も使用される(図1).通常,下眼瞼中央部のTMを計測するが,上方のメニスカス,あるいは下眼瞼の耳側および鼻側のメニスカスを評価することも可能である(図2).また,涙液の体積を計算する方法として,TMAの鼻側,中央,耳側の測定値の平均値×下眼瞼長という計算式が用いられる3).IIIドライアイ症例における涙液メニスカスの変化AS-OCT(anteriorsegment-OCT)の涙液形態解析において,最も興味ある分野の一つといえる.正常人の*XiaodongZheng:愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野〔別刷請求先〕鄭暁東:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)9 TearmeniscusLowereyelidCorneaTMH:tearmeniscusheightTMD:tearmeniscusdepthTMA:tearmeniscusareaTMDTMH図1前眼部OCTによる涙液メニスカス解析のパラメータTMANT0.434[mm]鼻側0.354[mm]0.394[mm]耳側中央図2下眼瞼部位別涙液メニスカスの所見TMHは,検査機種によって多少差があるが,通常0.2.0.4mmである.正常眼と比較してドライアイ症例のメニスカスは有意に減少しているが,これはスリット所見に一致した結果である.Zhangらは中,重度ドライアイ症例の下眼瞼TMの涙液体積は,正常眼および軽度ドライアイ症例に比較して有意に減少すると報告している4).Czajkowskiらは,スペクトラルドメインOCT10あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(spectraldomain-OCT:SD-OCT)を用いてドライアイ患者111例のメニスカスの形態を調べているが,それによると,TMH,TMA,TMDはドライアイ症例においてすべて有意に減少していた.ドライアイ診断におけるTMH,TMA,TMDの感度はそれぞれ80.56%,86.11%,77.78%で,特異度は89.33%,85.33%,52.7%であり,Schirmer値に最も相関したのはTMAで,(10) TMAとTMHは自覚症状にも有意に相関すると報告している5).QiuらはFD-OCTでのドライアイ診断率は70%6),WangらはTMHのカットオフ値を0.213mmにすればドライアイ診断の感度と特異度はそれぞれ77.8%と71.7%であると報告している7).使用機種の違い,ドライアイ診断基準や分類の違い,人種の違いなどから,各報告間の単純な比較は困難であるが,ドライアイの診断,治療評価に前眼部OCTが有用であることは確かである.IV加齢による涙液メニスカスの変化加齢による涙液メニスカスの変化についての臨床検討も行われている.Qiuらは健常者160例においてTM値は年齢と負の相関性を示すと報告した6).Cuiらも健常者197例において,TM値は涙液と負の相関性を示し,また涙液体積は1%/年の率で減少すると類似の報告をしている8).最近Gumusらはボランティア30例で検討し,下眼瞼TMHが年齢とともに有意に増大するという,これまでの報告とは正反対の結果を示した9).筆者らも加齢によるTMの増大を確認しているが,これは加齢に伴って結膜弛緩症の発症頻度が増えることにより下眼瞼TMの形態が変化する可能性,また結膜弛緩症による機能的導涙不全の結果としてTMが増大する可能性などが考えられる.今後,被験者の結膜弛緩の程度とTMの変化を同時に検討する必要があると思われる.結膜弛緩症例における結膜.形成術前後TMの変化の解析にも前眼部OCTが応用されている(図3).V視機能と涙液メニスカスの関連性の検討前眼部OCTを用ると,メニスカスを測定しながら視機能を評価することも可能である.KohらはwavefrontsensorとTD-OCTを一体化させた機器を用いて,正常眼11例とBUT短縮型ドライアイ7症例において,TMの形態変化と収差(RMSおよびvMTF)の変化を検討したが,瞬目後にTMはRMSともに経時的に増加し,特にBUT短縮型ドライアイ症例においてTM(涙液量)が視機能を維持するのに重要であることを明らかにした10).また,Xuらは,若年者33例において瞬目後10秒間のTMの変化と高次収差を検討しているが,BUT<15秒の症例では,主軸乱視,垂直コマ収差,球面収差は有意に増加して収差の増大はTMAの増加と有意に相関すること,BUT>15秒の症例では収差は変化しないことを示した11).このように,前眼部OCTの登場によって,非侵襲的に,自然瞬目状態で涙液動態と視機能の両者を同時に評価できるようになった.ドライアイ患者を含め点眼治療前後の評価などへの応用にさらに期待したい.術前術後図3結膜弛緩症術前後メニスカスの変化(11)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201311 VI涙液クリアランスなど機能評価法の開発これまで述べてきた涙液形態の評価に,機能評価を加えることができれば,より理想的な涙液検査に近づくことになる.涙液の形態解析においては,涙液分泌量以外に,瞬目,結膜弛緩の程度,眼位変化などが影響を及ぼす.筆者はこれを逆手にとって,一定負荷後のTMの変化を機能評価指標とする前眼部OCT下での涙液クリアランス試験を考案した.具体的には,涙液層に少量の生理食塩水(5μl)を点眼負荷し,点眼直後と30秒後のTMHおよびTMAの減少率から涙液クリアランス率を算出する(図4).これは,機能的涙道閉塞の診断に有用であると同時に,瞬目時のTMの形態観察を同時に行うことで不顕性結膜弛緩症の早期診断にも役立つと考えられる.さらに,ドライアイ症状を訴えるもののスリット検査では特に異常を認めない症例や,コンタクトレンズの装用感に問題のある症例を解決するヒントが得られるかも知れない.TMHVIITearfilmthickness(TFT)の評価前眼部OCTの走査技術の進歩によって組織のセグメンテーション能力が格段に向上し,高精度,高解像度の画像撮影が実現している.レーザー光源を使用した代表的な機種であるHeidelberg社の眼底OCTにASM(anteriorsegmentmodule)を装着すると,解像度は4.7μmにも達し,eyetrackingシステムの導入によって眼球運動によるノイズを最小限にし,加算平均による鮮明な画像を捉えることが可能である.光学切片のごとく,角膜各層の構造を捉えるほか,角膜表面の涙液層(tearfilmthickness:TFT)の測定も内蔵キャリパーにて簡便に行える(図5).測定精度についての検討は必要ではあるが,ドライアイ症例,コンタクトレンズ装用者における形態変化も含め(図6),今後いろいろな眼表面疾患の病態解析に役立つと思われる.TMA負荷直後(0sec)30秒後0.56[mm]0.30[mm]Area=Circumference=0.042[mm2]1.003[mm]Area=Circumference=0.109[mm2]1.998[mm]TMH(A)0sec-TMH(A)30secOCTtearclearancerate=TMH(A)0sec×100%図4前眼部OCTによる涙液クリアランスの評価12あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(12) 23μm47μm12μm454μm9μm角膜HRT/ASM像図5前眼部OCTによる涙液層の厚みの測定23μm47μm12μm454μm9μm角膜HRT/ASM像図5前眼部OCTによる涙液層の厚みの測定上皮層Bowman膜実質層Descemet膜内皮層PreCLTFT涙液層角膜切片(HE染色)HCLSCLPostCLTFT25μm34μm101μm17μm44μm172μm42μm42μm473μm473μmHCL:hardcontactlensSCL:softcontactlensPreCL:レンズ前PostCL:レンズ後TFT:tearfilmthickness図6HCLとSCL使用者の涙液層VIII問題点と将来の展望前眼部OCTテクノロジーの開発,進歩は急ピッチである.TD-OCTからFD-OCTに移行後も光源の干渉技術にスーパールミネッセントダイオードとレーザー光源を利用したものが登場するなど,さまざまな機種が研究応用されている.しかしながら,測定結果の比較検討を試みようとしても,各データが標準化されていない点は大きな問題である12,13).前眼部OCTによる涙液形態解析の究極像は,3Dティ(13)アマップであると筆者は考えている.これには上下涙液メニスカスと瞼裂間涙液層を同時に検出できる三次元の涙液層の解析技術を構築することが必要であるが,もし実現すればフルオレセインを使わずに,非侵襲的にBUT測定が行えるようになるだろう.さらに高解像度の前眼部OCTが登場すれば,涙液下角膜上皮の異常を細胞レベルで検出できるようになるかもしれない.また,涙液の水層とムチン層の性質の違いを利用して,偏光技術によるカラーコード3Dティアマップを作成すれば,涙液のクオリティ異常も同時に検出できる可能性もあたらしい眼科Vol.30,No.1,201313 ある,OCTテクノロジーのさらなる進歩によりドライアイや涙液異常に関連する疾患を的確にそして簡便に診断できる時代がやってくるのではないだろうか.文献1)HuangD,LzattTA,YasunoYetal:Futuredirectionofanteriorsegmentopticalcoherencetomography.In:SteinertRFandHuangDeditors.AnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography.p165-172,SLACKInc,Thorofare,NJ,20082)YasunoY,MadjarovaVD,MakitaSetal:Three-dimensionalandhigh-speedswept-sourceopticalcoherencetomographyforinvivoinvestigationofhumananterioreyesegments.OptExpress13:10652-10664,20053)WangJ,SimmonsP,AquavellaJetal:Dynamicdistributionofartificialtearsontheocularsurface.ArchOphthalmol126:619-625,20084)ZhangX,ChenQ,ChenWetal:Teardynamicsandcornealconfocalmicroscopyofsubjectswithmildself-reportedofficedryeye.Ophthalmology118:902-907,20115)CzajkowskiG,KaluznyBJ,LaudenckaAetal:Tearmeniscusmeasurementbyspectralopticalcoherencetomography.OptomVisSci89:336-342,20126)QiuX,GongL,SunXetal:Age-relatedvariationsofhumantearmeniscusanddiagnosisofdryeyewithFourier-domainanteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cornea30:543-549,20117)WangCX,LiuYZ,YuanJetal:Applicationofanteriorsegmentopticalcoherencetomographyformeasuringthetearmeniscusheightinthediagnosisfordryeyediseases.ZhonghuaYanKeZaZhi45:616-620,20098)CuiL,ShenM,WangJetal:Age-relatedchangesintearmenisciimagedbyopticalcoherencetomography.OptomVisSci88:1214-1219,20119)GumusK,PflugfelderSC:Increasingprevalenceandseverityofconjunctivochalasiswithagingdetectedbyanteriorsegmentopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol2012Oct1,Epubaheadofprint10)KohS,TungC,AquavellaJetal:Simultaneousmeasurementoftearfilmdynamicsusingwavefrontsensorandopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:3441-3448,201011)XuJ,BaoJ,DengJetal:DynamicchangesinocularZernikeaberrationsandtearmeniscimeasuredwithawavefrontsensorandananteriorsegmentOCT.InvestOphthalmolVisSci52:6050-6056,201112)SaviniG,GotoE,CarbonelliMetal:Agreementbetweenstratusandvisanteopticalcoherencetomographysystemsintearmeniscusmeasurements.Cornea28:148-151,200913)WangJ,SimmonsP,AquavellaJetal:Dynamicdistributionofartificialtearsontheocularsurface.ArchOphthalmol126:619-625,200814あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(14)