シリーズ②シリーズ②タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第2章眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか─その1─■情報端末としてのタブレット型PC第2章では実際の臨床業務において,どのようにタブレット型PCを活用するか,またなぜ眼科領域において有用であるかを私の実践例を踏まえて紹介していこうと思います.おもに有用なポイントは,まず必要な情報にきわめて迅速にアクセスできる携帯可能な情報端末である点,そして患者の視機能に合わせたオーダーメイドな設定が可能で,必要な情報を最も理解しやすい方法で提供できる点の2点です.本章では,情報端末としてのタブレット型PCの利点を紹介しようと思います.なお,私が現在GiftHandsの活動や実際に外来で扱っている電子タブレットは,すでに医療現場に導入例のあるiPadRとiPhoneR(AppleInc.)の最新機種である“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年5月30日現在).■私の実践活用法「マニュアル編」では,実際の使用法について紹介していきます.私は初期研修医の頃,上級医に「わからないことがあったら,すぐに図書館へ行って調べて来なさい.最良の医療行為とは中途半端な記憶に頼った医療ではなく,しっかりとした最新の情報を常に確認したうえで成り立つのだよ.図書館に通う手間を,面倒臭がってはならない.」と何度も言われたのを覚えています.しかし,多くの臨床眼科医は自分の経験と記憶を頼りに日々の多忙な外来業務に追われているのが現状です.私も入局当初に配布された多くのポケットマニュアルを白衣のポケットに忍ばせていますが,実際にそれらを使用する機会は非常に少ないと言えます.その理由の一つは,必要な情報までのアクセスの過程が煩雑であり,情報の必要度よりも煩雑さが優先されてしまうためです.(83)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1各マニュアルの一覧表示(左)と各ページの縮小表示(右)iBooksR(AppleInc.より許可を得て転載)しかし,タブレット型PCの導入後はそれらの煩雑さから解放され,私の毎日の診療は安全で快適なものへと変化しました.眼科診療にかぎらず臨床の外来業務では,医師が単独で診察,診断,治療を行う機会は非常に多く,医療レベルが自分の知識量と経験値に左右されるところが大きいのは事実であり,必要な情報の確認が迅速かつ簡便に行えることは医療水準の向上に直結すると言えます.私は現在,外来診療中に必要なマニュアルやガイドランはすべてPDF形式で入手して,タブレット型PCで閲覧しています.代表的な電子書籍閲覧アプリであるiBooksR(AppleInc.)を用いると,取り込まれたPDFデータはまるで本棚に並んだ書籍から本を選ぶように簡単に閲覧でき,また本文の各ページの内容も縮小化された一覧表示のなかから直感的かつ迅速に選択することが可能です(図1).ポイントはタブレット型PCの起動からアプリ,書籍,ページの選択までのステップをほんの数秒で行うことが可能であることです.このためこれまでポケットに埋もれていたマニュアルやガイドラインはあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012959非常に実践的なアイテムとして,毎日の診療の非常に頼もしい存在へと変化しました.また,電子化された教科書やポケットマニュアル内に病状説明などで使いやすい図表を見つけた場合,必要なサイズに拡大したうえで,スクリーンショットという操作(ホームボタンと電源ボタンの同時押し操作:iPadR)で簡単に表示された画像を画像データとしてストックすることができます.各疾患別に必要な画像を集めた自分だけの画像マニュアルやムンテラ用画像集を瞬時に作成でき,持ち歩くことができるのもタブレット型PCの強みです.なお,私が臨床で活用している眼科の外来マニュアルは,参天製薬株式会社のホームページ(http://www.santen.co.jp/jp/index.jsp)内の医療関係者向けの情報部門でPDF化された各種ポケットマニュアルとして入手することが可能です.そして非常に扱いやすく安価なアプリケーションソフトが日々生まれ続けていることもタブレット型PCの長所の一つです.ジェネリック医薬品が多く流通している昨今では,常に最新の医薬品情報を電子書籍として持ち歩くのは至難の業です.しかし,出張先の外来で処方経験のない薬剤などに出会った場合も,添付文書HDR(ObjectGraph)というアプリがあれば常に最新の添付文書の原文を閲覧することができ非常に安心です.「新しい薬に出会ったら,必ず一度は添付文書を読むように!」これも初期研修医時代の指導医の口癖でしたが,実践するのはなかなか難しいのが現状です.■私の実践活用法「教科書編」ここまで簡易マニュアル的な使用法を紹介しましたが,眼科学の教科書もいくつか正式なアプリケーションソフトとして発売されています.現在発売されている眼科の教科書アプリはエルゼビア・ジャパン株式会社から発売されている「カンスキー臨床眼科学原著第5版」,「角膜テキスト」,「角膜アトラス原著第2版」の3冊のアプリ版が存在しています.これらの教科書アプリは価格が紙ベースの物よりも安く,常に持ち運べるため非常に便利です.しかし,これらアプリの真の価値は,検索能力の高さと画像の解像度の高さにあります.通常の教科書では記載内容は目次から探すことになるのですが,アプリ版の教科書では本文全文に対するキーワード検索960あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012図2アプリ内の検索結果表示(左)と結果画像の一部を拡大しての閲覧(右)(KrachmerJH,PalayDA:CorneaAtlas2ndEdition,Edinburgh,ElsevierLtd,2006;坪田一男監訳:角膜アトラス原著第2版アプリ版,2010,エルゼビア・ジャパンより許可を得て転載)が可能です.たとえば“樹枝状”と検索ワードを入力すると本文内のすべての文字が検索対象として結果が表示されます.この機能は紙ベースの教科書では不可能であると同時に,実は臨床所見から疾患を調べるのに一番必要な機能でもあるのです.また,アプリ版の教科書では画像を拡大して閲覧することが可能なので,実際の所見と比較する場合にも非常に便利です(図2).「一度も見たことのない所見は,一生見つけられない.」これは眼科医になった頃によく言われた言葉ですが,タブレット型PCに表示された拡大画像を診察時に並べてみると,その言葉の大切さを再度実感させられます.これらはタブレット型PCの臨床業務への導入事例のごく一部ですが,タブレット型PCの登場によりわれわれの毎日の診療行為が,より安全で医療水準の高いものへと変化すると私は信じています.本文中に紹介しているアプリ等はすべてGiftHandsのホームページ内の新・活用法のページに掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問等はGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(84)