‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

私の緑内障薬チョイス 2.ドルゾラミド/チモロール配合剤の利便性とアドヒアランス

2013年7月31日 水曜日

連載②私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載②私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也2.ドルゾラミド.チモロール配合剤の利便性とアドヒアランス内藤知子岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建科学専攻生体機能再生・再建学講座(眼科学分野)ドルゾラミド/チモロール配合剤は,2剤併用した場合とほぼ同等の眼圧下降効果があるといわれている.同剤への切り替えによる点眼回数の減少は,アドヒアランス向上に寄与するが,一部の症例では効果が得られないこともある.ドルゾラミド/チモロール配合剤は適切に用いれば緑内障薬物治療の有力な選択肢の一つとなる.はじめに緑内障は慢性の進行性視神経症であり,その予後は眼圧をいかに低くコントロールできるか否かにかかっている.したがって,長期にわたり多剤の抗緑内障点眼薬の併用を余儀なくされるケースが多い.しかしながら,一般的に薬剤数が増えるにつれ患者の負担は増し,アドヒアランスは悪化すると報告されている1).そして最近,このような症例に対し積極的に配合剤を処方する機運が高まりつつある.しかし,この配合剤の眼圧下降効果は併用療法と同等なのか,またアドヒアランス改善効果はどれほどなのか.ドルゾラミド/チモロール配合剤を手がかりに探ってみたい.配合剤切り替え後の眼圧当科で加療中の患者のうち,プロスタグランジン点眼剤(prostaglandin:PG),b遮断剤,および炭酸脱水酵素阻害剤(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の3剤を併用していたものを対象に,PGは変更せず,b遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤に切り替えた後の眼圧変化と,アドヒアランスについて検討した.広義の原発開放隅角緑内障および高眼圧症の患者59例59眼(男性33例,女性26例,平均年齢69.2歳)が対象として選択された.その結果,b遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤へ変更すると,眼圧は変更前の15.6±3.7mmHgに対し,変更1カ月後15.4±3.5mmHg,さらに3カ月後15.6±3.8mmHgとなり,切り替え前後の平均眼圧に変化は認めなかった(図2).個々の眼圧変化の内訳をみると,切り替えにより2mmHg以上下降したものが11眼(18.6%),不変が37眼(62.7%),2mmHg以上上昇したものが11眼(18.6%)であり,約8割の症例は切り替えても眼圧は変わらないか,むしろさらなる眼圧下降が得られていた(図3).(91)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1点眼瓶と遮光袋遮光袋は点眼瓶のキャップと同じオレンジ色をしている.袋に点眼する側の点眼回数を記載し,キャップの色とそろえることで,点眼する側・点眼回数などの間違いを極力減らすことを図っている.これらの結果の解釈であるが,切り替え後に眼圧が下降した症例に関しては,併用時の点眼間隔をあける必要がなくなり,いわゆる洗い流し効果がなくなったことや,利便性の改善により後述するアドヒアランスが向上したことが一因として考えられる.逆に,切り替え後に眼圧が上がった症例については,3剤併用と比べたとき本剤の薬理学的弱点,つまりCAIの点眼回数が昼間1回分少ない点が反映された可能性は否定できない.また,これはあくまで筆者の個人的印象ではあるが,配合剤に切り替えて眼圧が上昇するケースは,切り替え前の3剤併用時のアドヒアランスが特に良好であった症例に多い気がする.そのような症例では,配合剤に切り替えた際に,その薬理学的弱点が露呈してしまうのかもしれ本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013973 PGCAIbPGPGCAIbPG(mmHg)p=0.2759p=0.854615.6±3.7mmHg(対応のあるt検定)15.51515.6±3.8mmHg15.4±3.5mmHg0W4W12W図2配合剤切り替え後の眼圧(1)プロスタグランジン点眼剤(PG),b遮断剤,および炭酸脱水酵素阻害剤(CAI)の3剤を併用していた広義の原発開放隅角緑内障および高眼圧症の患者59例59眼に,PGは変更せず,b遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤に切り替えた後の眼圧変化を示す.4・12週後ともに平均眼圧に変化は認めない.ない.配合剤切り替えとアドヒアランスアドヒアランスに影響を与える因子に関して,まずドルゾラミド/チモロール配合剤の点眼に伴う不快感についてたずねたところ,50.8%の症例が刺激感を,44.1%が霧視を訴えたが,いずれも本剤の点眼継続を忌避するほどのものではなかった.さらに27.1%に点眼忘れの減少を認め,「切り替え前の3剤併用と効果が同じだとしたら,どうしたいか」と問うと,69.5%の症例が配合剤の継続処方を希望した.その理由として最も多かったものは「点眼回数を減らせるから」であった.このように3剤併用している症例のb遮断剤とCAIをドルゾラミド/チモロール配合剤に変更することにより,点眼本数と点眼回数がともに減少し利便性が向上することを歓迎する声は大きい.特に点眼本数については,増えるほど点眼を忘れる頻度は有意に増加することが筆者らの調査でも明らかになっており2),その減少はそのままアドヒアランスの向上に寄与することは想像に難くない.しかしながら,最初から「ほとんど点眼ができていな11眼(18.6%)11眼(18.6%)37眼(62.7%)2mmHg以上の眼圧下降不変2mmHg以上の眼圧上昇図3配合剤切り替え後の眼圧(2)約8割の症例で,切り替えても眼圧は不変か,もしくは,さらなる眼圧下降が得られている.い」症例に関しては,配合剤を処方したからといって,アドヒアランスが向上するわけではない.もともとのアドヒアランス不良例に対しては,点眼本数を減らしても効果がないことも報告されているように3),アドヒアランス向上には,患者の病態理解度・病状認知度の向上がかかせない.ここにわれわれが努力を必要とするゆえんがある.緑内障治療の最終目的は,患者の視機能を維持することにあり,現時点で最も確実な手段は眼圧下降しかない.配合剤は適切に用いれば,その目的達成ための有力な選択肢となり得る.文献1)RobinAL,CovertD:Doesadjunctiveglaucomatherapyaffectadherencetotheinitialprimarytherapy?Ophthalmology112:863-868,20052)高橋真紀子,内藤知子,吉川啓司ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”.あたらしい眼科29:555-561,20123)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientspopulation.JGlaucoma18:238-243,2009●974あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(92)

抗VEGF治療:光線力学的療法/ステロイド/抗VEGF薬三者併用

2013年7月31日 水曜日

●連載⑭抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二4.光線力学的療法.ステロイド.抗VEGF薬白神千恵子香川大学医学部眼科学三者併用難治性加齢黄斑変性(AMD)には,光線力学的療法(PDT)+トリアムシノロン後部Tenon.下注入+抗VEGF薬併用療法が有効である症例が比較的多い.PDT,抗VEGF薬単独療法に抵抗を示す症例に対して三者併用を行うと,滲出の軽減,消失へと導くことが多々ある.特に網膜血管腫状増殖(RAP)に対しては有効で,少ない治療回数で長期間再発を回避できることが可能となる.はじめに難治性加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)には,典型AMD(t-AMD),ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV),網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の3つの病型があるが,日本眼科学会のAMD治療指針では,t-AMDは抗VEGF薬単独療法,PCVには抗VEGF薬単独療法,あるいは光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)と抗VEGF薬併用療法,RAPにはPDTと抗VEGF薬併用療法が推奨されている.しかし,再発を繰り返したり,初回治療から治療に抵抗を示す症例に対しては,最終的にPDT+トリアムシノロン後部Tenon.下注入(posteriorsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonide:STTA)+抗VEGF薬併用療法(トリプル療法)が残された治療法となる.昨年から,VEGF-Aのみでなく,VEGF-B,PlGF(placentalgrowthfactor,胎盤増殖因子)も阻害する抗VEGF薬であるアフリベルセプトの投与という選択肢が増えたが,現在のところ,RAPに対する単独治療としてその有効性,安全性については明確ではない.安全性を重視するなら,過去の実績,エビデンスのあるトリプル療法を選択するほうが無難である.実際に,PDT施行前後にSTTAを併用することにより,PDT単独治療よりも効果があると報告されている1).ステロイドの効能ステロイドの血管新生抑制効果のメカニズムの一つは抗炎症作用,血管透過性亢進の抑制と考えらえている.白血球の接着因子として血管内皮細胞や網膜色素上皮細胞に発現するintercellularadhesionmolecule1(ICAM1)の発現を抑制したり,血管新生過程における細胞外基質の分解に関与するmatrixmetalloproteinaseを抑制(89)することが,新生血管の発育を抑制すると考えられている.実際,AMDで使われているステロイド,triamcinoloneacetonide(ケナオコルトAR,Bristol-Mayer社)は強い糖質コルチコイド作用と,組織内の残留性を有する特徴より,長期的な抗炎症,抗血管作用があり,懸濁液のため長期間(約3カ月)組織内に薬物が残留し,少ない投与回数で薬物濃度が持続する.以前はトリアムシノロン硝子体内注射が頻繁に行われていたが,高眼圧,易細菌感染,無菌性眼内炎,ステロイド白内障など,重篤かつ比較的頻度が高く副作用が発生することもあり,現在ではSTTAが主流となっている.トリプル療法の方法トリプル療法の方法としては,まず,通常の内眼手術に準じてポピドンヨードで洗眼を行い,4%キシロカインにて点眼麻酔を行った後,眼球の耳下側からSTTA20mgを行う.抗VEGF薬硝子体内注射は結膜切開創からなるべく離れた位置から行う.STTAはTenon.下針,あるいは眼球の形態に合わせて少し弯曲させた25ゲージ(G)の鈍針を,結膜切開後,周囲の血管を損傷しないようにTenon.を丁寧に切開し,強膜が露出すれば針先を眼球に沿わせて黄斑部近傍に到達できる深さまで針を挿入し注入する.上耳側からSTTAを行うと後に眼瞼下垂の合併症が起こるという報告もあり,なるべく下方からアプローチするほうが好ましい.硝子体内注射は,針穴が眼内に通じるため細菌感染予防目的や,結膜切開創から漏出したトリアムシノロンや出血が混入しないように,上方から注入する.硝子体内注入時は,30G針の針先を眼内の比較的深い位置まで挿入し,黄斑部に吹きかけるように注入する.針先の注入部位が浅いと薬剤が眼外へ逆流し,効果が減弱するので注意を要する.PDTと薬剤注射とのタイミングは施設によって異なあたらしい眼科Vol.30,No.7,20139710910-1810/13/\100/頁/JCOPY AAB図2図1のRAP症例のトリプル療法12カ月後視力(0.15).カラー眼底写真(A)にて出図1網膜血管腫状増殖stageIIIの症例(治療前)血は消失しており,新生血管膜も縮小して86歳,男性.視力(0.08).カラー眼底写真(A)にて黄斑部に網膜内出いる.光干渉断層計(B)では滲出は完全血と,その周囲に黄白色の新生血管膜,軟性ドルーゼンを認める.フルに消失しドライな状態である.オレセイン蛍光眼底造影(B)で新生血管からの旺盛な蛍光漏出を認め,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(C)早期に網膜血管と新生血管の吻合所見を認める(矢印).光干渉断層計(D)ではvascularizedBCDPED,網膜内浮腫を認める.る.最近では同日に行うほうがAMD治療としては有効であるという意見もあるが,硝子体内注射後の細菌感染や裂孔原性網膜.離などの重篤な合併症が生じた場合,PDT後5日間の遮光期間に眼底検査や顕微鏡下での手術を行わねばならず,光障害による網膜ダメージのリスクを伴う.このように,合併症に対する処置が遅れる可能性も考慮し,当科では安全性を重視して,STTAと抗VEGF薬硝子体内注射は同日に行い,特に重篤な細菌性眼内炎が発症しやすい1週以内は経過観察を行って,1週後にPDTを行っている.トリプル療法の効果標準PDTの方法では,照射領域に一致してCNV周囲の正常な脈絡膜毛細血管,中大血管の無灌流や,血管壁の障害が起こり2),続発的にVEGFやVEGF受容体の産生を促し,CNVの再発を誘発するといわれている.そこで当科では,抗VEGF対策として照射エネルギー量を半量にしたRFPDT3)と,抗VEGF薬硝子体内投与の併用を行うことにより,治療後のVEGFやVEGF受容体の発現を抑制してCNV再発をさらに予防できると考え,薬剤併用RFPDTを行っている.当科にてRAP14眼に対して,bevacizumab硝子体内注射+STTA20mg+RFPDTを施行し1年の治療成績をみたところ,平均1.4回と少ない治療回数で視力維972あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013持改善は93.3%に得られ,中心網膜厚も統計学的に有意に減少した4)(図1,2).おわりにAMD治療は抗VEGF薬治療が主流となっているが,薬剤に対してnon-responder,late-responderが存在することや,治療開始時は薬剤単独療法が有効でも,薬剤耐性ができて,治療に反応しなくなるケースが多々ある.抗VEGF薬療法主流の現在においても,PDT,TAの併用療法は欠かせないものであり,症例に応じて治療の選択肢として常に念頭においておく必要がある.文献1)VandeMoereA,SandhuSS,KakRetal:Effectofposteriorjuxtascleraltriamcinoloneacetonideonchoroidalneovasculargrowthafterphotodynamictherapywithverteporfin.Ophthalmology112:1897-1903,20052)Schmidt-ErfurthU,MichelsS,BarbazettoIetal:Photodynamiceffectsonchoroidalrevascularizationandphysiologicalchoroid.InvestOphthalmolVisSci43:830-841,20023)白神千恵子,坂本泰二:Reducedfluencephotodynamictherapy─低照射エネルギー光線力学的療法─.あたらしい眼科26:503-506,20094)ShirakataY,ShiragamiC,YamashitaAetal:One-yearresultsofbevacizumabintravitrealandposteriorsub-Tenoninjectionoftriamcinoloneacetonidewithreducedlaserfluencephotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.JpnJOphthalmol56:599-607,2012(90)

緑内障:甲状腺眼症と緑内障

2013年7月31日 水曜日

●連載157緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也157.甲状腺眼症と緑内障井上立州オリンピア眼科病院甲状腺眼症では,高眼圧を呈することがあるが,緑内障の高眼圧ではない.球後組織の炎症や外眼筋肥大による眼球運動障害によって高眼圧をきたす.安静眼位で眼圧を測定することで,正確な眼圧測定が可能である.緑内障と視力視野障害をきたす甲状腺眼症による圧迫視神経症の鑑別に注意する必要がある.●甲状腺眼症甲状腺眼症は,甲状腺機能異常や自己免疫疾患が引き金となって発症し,それに伴うさまざまな眼症状を呈する.甲状腺眼症を呈する甲状腺機能異常は,甲状腺機能亢進症(Basedow病)が最も頻度が高いが,甲状腺機能正常Basedow病や慢性甲状腺炎(橋本病)でも起こる.●甲状腺眼症と高眼圧症甲状腺眼症で21mmHgを超える高眼圧を呈することは古くから注目されている1,2).その眼圧異常が眼外の要因によるもので,緑内障の高眼圧ではないことが明らかにされている3,4).甲状腺眼症の高眼圧は一過性のもので,眼圧測定の段階で高眼圧を示すだけで連続計測すると,下降していくものである.甲状腺眼症に対するステロイド薬治療や手術により,甲状腺眼症による高眼圧は正常化される5).●甲状腺眼症の眼位と眼圧甲状腺眼症では外眼筋肥大を伴うことが多い.外眼筋肥大が発現する例では,球後組織圧の上昇から眼球の網脈絡膜に皺襞形成をみる症例もある(図1).球後からの圧迫のためMRI(磁気共鳴画像)上,眼球に変形がみられ球後組織圧による圧迫性高眼圧をきたしやすい.甲状腺眼症例では下直筋肥大の頻度が最も高い.下直筋ではLockwoodの靱帯の部で癒着が強くなり,筋弛緩および伸展障害のため上転障害をきたす.眼圧測定は第一眼位,すなわち正面視で測定するため,下直筋肥大がある症例では,この際に眼球に圧が加わり,測定上高眼圧を呈することとなる.特にノンコンタクトトノメーターでは高眼圧を呈することが多い.上転障害がある症例では,アプラネーショ(87)図1甲状腺眼症患者にみられた網脈絡膜皺襞外眼筋肥大により,眼球が圧迫され,網脈絡膜皺襞がみられる.ントノメーターでは,額の部へある程度の厚みのある枕を置いて頭位を傾け,やや下方視をした位置で眼圧測定すると真に近い値が得られる.トノペンでは,自由な眼位で眼圧測定ができるため,上転障害のある場合,下方視をさせて眼圧測定を行うと,甲状腺眼症症例の眼圧を正確に測ることができる.トノグラフィーを用いると,初期圧は高いが,連続測定すると眼圧は下降し,大きなC(房水流出率)値が得られる.●緑内障病型と頻度甲状腺眼症では球後組織圧の上昇から上強膜静脈圧の異常をきたし続発緑内障を起こすことがある.緑内障の合併頻度では,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)が多いとする報告6)や,通常の頻度と変わらないという報告5,7.8)もある.甲状腺眼症が正常眼圧緑内障の危険因子であるという報告9)もある.当院を受診した甲状腺眼症患者19,840例のうち,眼圧異常または緑内障を指摘されたことがある499例について,緑内障の有無,眼圧動態について検討した結果では,499例中150例で緑内障と診断された(図2).高眼圧例や視神経に緑内障性変化がみられたが,視野異常がみられなかった緑内障疑い例が69例,甲状腺眼症による高眼圧と考えられたものが156例あった.緑内あたらしい眼科Vol.30,No.7,20139690910-1810/13/\100/頁/JCOPY 発達緑内障2例(1.3%)分類不能Posner-Schlossman8例(5.3%)症候群3例(2.0%)続発緑内障10例(6.7%)原発開放隅角緑内障67例(44.7%)(正常眼圧緑内障38例)狭隅角眼24例(16.0%)原発閉塞隅角緑内障36例(24.0%)図2緑内障症例の病型分類眼圧正常緑内障150例(30.1%)甲状腺眼症による高眼圧(DO性高眼圧)156例(31.3%)ステロイドレスポンダー78例(15.6%)図3甲状腺眼症症例の眼圧異常の分類障と診断された症例の病型では,広義のPOAGが最も多く,ついでPACGが多かった(図3).甲状腺眼症の活動期の治療は,ステロイド薬治療となるため,ステロイドレスポンダーにも注意する必要がある.当院のデータでは,緑内障は19,840例中疑いも合わせて219例(1.1%)で,通常の成人の発現頻度と変わらなかった.●圧迫視神経症と緑内障甲状腺眼症では中心暗点や傍中心暗点を伴う圧迫視神経症がある(図4).高眼圧のため,この視力・視野障害を緑内障と誤診することがある.視神経乳頭所見に注意して鑑別する必要がある.圧迫視神経症では,乳頭発赤や乳頭浮腫などの圧迫視神経症の所見がみられる場合があるが,検眼鏡に所見のない球後視神経症の形で発症するものもある.近視性の乳頭陥凹,傾斜,乳頭周囲の変性などがあると緑内障との鑑別が困難なこともある.甲状腺眼症に特有の眼球突出や上眼瞼後退や眼瞼腫脹などの眼瞼所見や,眼球運動障害があれば,鑑別は容易であるが,高齢者では,眼球突出がない症例もあり,甲状腺機能亢進症の全身症状や,視神経乳頭の緑内障性変化が鑑別診断の鍵となる.CT(コンピュータ断層撮影),MRIによる球後軟部組織の画像診断は甲状腺眼症では970あたらしい眼科Vol.30,No.7,201346例(9.2%)緑内障疑い69例(13.8%)図4圧迫性視神経症のMRI上段:水平断,中段:矢状断,下段:冠状断.MRIで四直筋の肥大がみられ,視神経の圧迫所見がある.欠かせない.この視神経症は病期が進行すると中心暗点が絶対暗点となり,失明に至る場合もあるため注意する必要がある.文献1)BraleyAE:Malignantexophthalmos.AmJOphthalmol36:1286-1290,19532)PohjanpeltoP:Thethyroidandintraocularpressure.ActaOphthalmol(Copenh)97(Suppl):1-70,19683)井上洋一,井上トヨ子:DysthyroidOphthalmopathyにおける高眼圧について.臨眼25:1593-1600,19714)HeJ,WuZ,YanJetal:Clinicalanalysisof106caseswithelevatedintraocularpressureinthyroid-associatedophthalmopathy.YanKeXueBao20:10-14,20045)KalmannR,MouritsMP:PrevalenceandmanagementofelevatedintraocularpressureinpatientswithGraves’orbitopathy.BrJOphthalmol82:754-757,19986)OhtsukaK,NakamuraY:Open-angleglaucomaassociatedwithGravesdisease.AmJOphthalmol129:613-617,20007)ChengH:Thyroiddiseaseandglaucoma.BrJOphthalmol51:547-553,19678)CockerhamKP,PalC,JaniBetal:Theprevalenceandimplicationsofocularhypertensionandglaucomainthyroid-associatedorbitopathy.Ophthalmology104:914-917,19979)JamsenK:Thyroiddisease,ariskfactorforopticneuropathymimickingnormaltensionglaucoma.ActaOphthalmol74:456-460,1996(88)

屈折矯正手術:新しい老視治療用角膜インレイ:RainDrop®

2013年7月31日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載158大橋裕一坪田一男158.新しい老視治療用角膜インレイ:荒井宏幸みなとみらいアイクリニックRainDropR角膜に多焦点性をもたせるような形状変化をもたらす角膜インレイが開発された.160μmの角膜フラップを作製し,瞳孔中心に留置する.直径は2.2mmで,厚さは30μmである.角膜中央部が近用,周辺部が遠用屈折度数に変化し,片眼にての多焦点性を実現している.●AcuFocusRとは原理の異なるインレイ老視治療用のインレイといえば,ピンホール効果により焦点深度を増加させる原理のAcuFocusRが世界的に注目されている.良好な成績も報告されているが,一方で夜間のグレアや適応のむずかしさも指摘されている1).RainDropRは新しく開発された老視治療用インレイである2).治療の原理は,角膜曲率の分布を中央が近用に,その周辺を遠用に変化させることにより,同時視を得ようとするものである.これはエキシマレーザーによる老視プログラムや遠近両用コンタクトレンズにおいて試みられている屈折分布である.●素材と手術方法材質はハイドロジェルである.直径は2.2mmで,厚さは30μmであり,レンズとしての度数はない.非常に脆弱なため,鑷子などでつかむことはできない.フェムトセカンドレーザーにて160μmの角膜フラップを作製し,必要であればエキシマレーザーにて屈折誤差を矯正する.その際の目標矯正度数は+0.75Dである.専用のインサーターから慎重にRainDropRを角膜ベッド上に移し,ほぼ瞳孔中心に位置を補正して角膜フラップを図1RainDropRのイメージ角膜フラップ下に透明なインレイを留置する.(85)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY整復する(図1).手術用顕微鏡では角膜フラップを通してRainDropRを確認することはできないため,術直後に細隙灯顕微鏡にて留置位置の確認をする(図2).●適応AcuFocusRでは適応選択がむずかしい.ピンホール検眼枠を使用した術前のシミュレーションでは,実際の術後の見え方を確認できないためである.RainDropRでは,前述したとおり,遠近両用コンタクトレンズによる同時視と原理的に同じであるため,術前にある程度の効果を確認することが可能である.シミュレーションで使用するコンタクトレンズは,Bausch&Lomb社製メダリストRプレミアマルチフォーカルを使用する.このコンタクトレンズは中心部が近用で周辺部が遠用になるように設計されており,RainDropRの術後の状態に近似している.また,AcuFocusRでは,夜間の運転時にグレアを訴えることが多く,適応判断における重要なポイントであ図2RainDropRの細隙灯顕微鏡写真注意深く観察しないとインレイを確認することはむずかしい.あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013967 図3術後の角膜形状解析LASIKを併用した症例である.RainDropRを留置している中央部に限局して屈折度の高いエリアがあることがわかる.ったが,RainDropRは透明であるため夜間のグレアは少ない.適応となるのは,多焦点眼内レンズを選択するほど年齢層が高くない,初期の老視年齢である40代半ば~50代前半であろう.モノビジョンのシミュレーションにて問題がなければ,LASIK(laserinsitukeratomileusis)でよいと思われる.モノビジョンにて見え方の違和感を感じる場合,前述のコンタクトレンズによるテストを行い,問題がなければ,良い適応となろう.●手術結果術後の角膜形状解析を図3に示す.角膜中央部に限局した高屈折部分があり,RainDropRの留置部位と一致する.両眼での裸眼視力の結果を図4に示す.術後3カ月以降での両眼視の近方視力は0.8程度であり,日常生活においては十分であろう.片眼の手術であるため,遠方視力は確保されていて問題はない.見え方に慣れるまでに約3カ月程度が必要と思われる.●術後の所見・合併症細隙灯顕微鏡にても,倍率を拡大して観察しないと見えない.翌日以降の偏位は報告されておらず,位置は安定している.まれにRainDropRの周囲にhazeが起こるという報告があるが,今回の症例群では認められなかった.この手技において最も注意すべきことは,ドライアイとDLK(diffuselamellarkeratitis)であろう.160μmの角膜フラップは多くの神経線維を切断するため,術後のドライアイは必発であると考えたほうがよいであろう.必要であれば,.点プラグなどの処置を追加する968あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013:遠方裸眼視力:近方裸眼視力1.51.20.90.60.300.241.51.311.281.271.340.160.410.570.70.780.79裸眼視力術前1D1W1M3M6M図4裸眼視力の経緯(両眼視)術後3カ月にてほぼ安定した結果となっている.か,術前に行っておいてもよい.シビアな場合でも術後2~3カ月にて軽快する.LASIKでは,角膜フラップを整復した後,フラップ下を十分に洗浄するが,RainDropRが留置されているため,フラップ下洗浄ができない.そのため術翌日に軽度のDLK(gradeⅠ)を認めることがある.DLK自体はステロイド薬が著効するため,点眼および内服を考慮しながら観察を続け,術後3~4日にて軽快することを確認する.●考察角膜インレイによる老視矯正手術は,一見すると手軽で効果的な印象を受けるが,効果の個人差が大きいため適応がむずかしい2).問題がある場合には,摘出により形態は元に戻るが,そこに至る過程での診療は苦慮することが多い.今まで,AcuFocusRしかなかった選択肢が,今後はRainDropRというオプションも増えたことによって,角膜インレイの適応が拡大したことは,大きな福音であろう.少なくとも眼内手術が何らかの理由により選択できない場合には,角膜インレイが唯一の選択肢である.いずれの角膜インレイもフェムトセカンドレーザーが必要であるため,普及には時間がかかると思われるが,今後,白内障手術用のフェムトセカンドレーザーが普及すれば,行える施設数も多くなるであろう.文献1)LindstormRL,MacraeSM,PeposeJSetal:Cornealinlaysforpresbyopiacorrection.CurrOpinOphthalmol24:281-287,20132)GarzaEB,GomezS,ChayetAetal:One-yearsafetyandefficacyresultsofahydrogelinlaytoimprovenearvisioninpatientswithemmetropicpresbyopia.JRefractSurg29:166-172,2013(86)

眼内レンズ:白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症

2013年7月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎323.白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症菅野彰西塚弘一山形大学医学部眼科学穿孔性強膜軟化症はまれであるが,重要な白内障術後合併症の一つである.重症例では外科的治療が必要であり,保存強膜移植術は穿孔性強膜軟化症に対する有効な治療法である.白内障術後合併症のうち,追加手術を必要とする重症な合併症としては,眼内炎,網膜.離や眼内レンズ落下などがよく知られているが,白内障術後に穿孔性強膜軟化症をきたし重症化する例があることはあまり知られていない1,2).穿孔性強膜軟化症が重症化した場合は眼球虚脱,ぶどう膜露出,眼内炎をきたし失明に至ることがあり,頻度は低いが重要な白内障術後合併症の一つである.筆者らも,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)後に穿孔性強膜軟化症を発症した症例を経験したので紹介したい3).●症例患者:78歳,男性.主訴:頭痛,左眼眼痛・充血.現病歴:4カ月前に近医で左眼PEAおよび眼内レンズ挿入術を受けた.術後2カ月目より頭痛,左眼の眼痛が出現し,抗菌薬点眼(ガチフロキサシン,セフメノキシム)とステロイド点眼(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム),抗菌薬の全身投与(レボフロキサシン)および鎮痛薬(ロキソプロフェン)の内服にて加療されたが,症状が軽快しないため紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼1.0(1.2×+1.0D(cyl.0.75DAx100°),左眼0.5(矯正不能),眼圧は右眼11mmHg,左眼13mmHgであった.左眼上方球結膜の充血と浮腫,白内障手術創口部位に一致する菲薄化した強膜が透見され(図1),前房中に軽度炎症細胞を認めた.血液検査では白血球数,C-reactiveprotein(CRP),自己抗体価(抗核抗体,リウマトイド因子,抗好中球細胞質抗体)は正常範囲内であった.ヘモグロビンA1C10.6%(NationalGlycohemoglobinStandardizationProgram:NGSP)とコントロール不良の糖尿病を認めた.経過:抗菌薬頻回点眼で治療したが,前眼部所見に変化を認めなかったため,白内障術後の穿孔性強膜軟化症(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1初診時前眼部写真(文献3より)を疑い手術を施行した.結膜切開し白内障手術創口部位を確認したところ,強膜は菲薄化しており,一部前房水の流出を認めたため,穿孔性強膜軟化症と診断した(図2a).強膜欠損部の短縮縫合は困難であったため,保存強膜を8-0ナイロンにて被覆縫合した(図2b).術後速やかに症状は軽快し,結膜充血および前房炎症も徐々に軽快した(図3a).術後4カ月の時点で視力は左眼(0.8×+1.00D(cyl.2.0DAx90°),結膜充血は消失した(図3b).白内障術後に生じる穿孔性強膜軟化症の発症機序としては,関節リウマチやWegener肉芽腫症などの自己免疫疾患による強膜炎の発症,コンロトール不良な糖尿病による創傷治癒遅延や傷口再離開,切開・凝固・超音波といった手術侵襲による血流障害や細胞傷害が考えられる.本症例では手術侵襲とコントロール不良な糖尿病が穿孔性強膜軟化症に至った要因と考える.穿孔性強膜軟化症の治療として,保存的にステロイド点眼薬,ステロイド薬の全身投与,免疫抑制薬の全身投あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013965 aa与がある.保存的治療が無効であった場合は,強膜穿孔を外科的に閉鎖する必要がある.重症例では,強膜短縮縫合術による閉鎖は困難であり,保存強膜,保存角膜などによる外科的再建が必要と考える.筆者らの施設では常時保存強膜が使用可能であり,速やかに治療を行うことが可能であった.穿孔性強膜軟化症はまれであるが,白内障術後の重症な合併症の一つである.保存強膜移植術は施行できる施設の限られた手術であるが,本症例のような重症な穿孔ab図2手術所見a:白内障手術創口部位の強膜菲薄化および穿孔を認めた.b:保存強膜を8-0ナイロン14針で強膜に縫合した.(文献3より)b図3術後前眼部写真a:術後1カ月.b:術後4カ月.(文献3より)性強膜軟化症においては有効な治療法の一つである.文献1)楠哲夫,志賀早苗,眞鍋禮三ほか:両眼白内障術後に発症した穿孔性強膜軟化症の1例.眼科手術10:543-547,19972)宮本陽子,斎藤航,岩田大樹ほか:白内障術後に生じた術後壊死性強膜炎の2例.臨眼62:1501-1504,20083)菅野彰,難波広幸,結城義憲ほか:白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症に対する治療経験.臨眼67:511-514,2013

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン②

2013年7月31日 水曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②2本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.球面SCL装用者に1.25Dの直乱視がありました.トーリックSCLに変更すべきでしょうか?講師塩谷浩しおや眼科一般的にソフトコンタクトレンズ(SCL)の処方時に,角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D程度以上ある場合には,乱視を矯正するためトーリックSCLが適応となる.しかし,実際には球面SCLの装用で残余乱視が1.00D以上あるにもかかわらず,特別な不満の訴えがないという理由で球面SCLの装用を継続しているケースに遭遇することは珍しくない.このようなケースの多くは,視力が良好であっても見え方の質は不良であるはずであり,トーリックSCLの処方を検討するに値すると考えられる.さて,見え方に不満の訴えがない1.25Dの直乱視の残余乱視が検出された球面SCLの装用者に対してトーリックSCLの処方を検討すべき状態は,見え方の質が不良であるための症状が出ている場合である.すなわ表1乱視の未矯正の自覚症状・物が二重に見える・信号や標識の文字がぼやけて見える・近くの文字が見えにくい・パソコンのモニターの文字がぶれて見える・電光掲示板の文字が二重に見える・昼間は見えても夜間は見えにくい・街灯やネオンの光がにじんで見える・目を細めて見ることが多い・眉間にしわを寄せて見ることが多い・目の乾燥感がある・まぶしい感じがする・目が疲れやすい・頭痛や肩こりがあるち,表1に示したような自覚症状がある場合が適応と考えられる.患者自身はほとんどが,乱視の未矯正が原因で,このような症状が出ているとは思っていないので,表1に示した具体的な自覚症状の例を提示して患者に質問し,該当する症状があるかどうか確認することが重要である.さらに,装用している球面SCL上から検眼レンズ(円柱レンズ)で乱視を矯正して,検査室内の掲示板やカレンダーなどの離れたものや雑誌など近くのものの文字を患者に見させ,自覚的な見え方に変化があるかどうか確認する.可能ならば使い捨てレンズや頻回交換SCLのテストレンズで実際の処方同様に屈折矯正を行い,短時間あるいは一定の期間,トーリックSCLの装用を体験させ,自覚的な見え方と自覚症状の変化を確認する.そしていずれの場合も乱視の矯正により患者の快適性が増すようであればトーリックSCLの処方を検討する.また,角膜頂点間距離補正後の乱視が1.00D程度未満の弱度の乱視では,視力が良好で見え方の質にも問題がなく,特別な不満の訴えがないケースが多いが,それでも上述したような自覚症状のあるケースが認められる.弱度の乱視を矯正することのメリットは,残余乱視を矯正することで乱視の未矯正に起因する潜在的な自覚症状を改善させることにある..(81)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20139630910-1810/13/\100/頁/JCOPY 強度の近視眼に対しては,弱度の乱視は無視して構わないでしょうか?講師塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズ(CL)は,強度の近視眼では,眼鏡と比べると外界の像の縮小効果がほとんどないため,眼鏡より容易に良好な矯正視力を得ることが可能である.特に初めてCLを使用するようなケースでは,ソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用で残余乱視があったとしても,見え方に妥協して満足が得られやすい.また,強度の近視眼では,角膜頂点間距離補正により球面度数と同時に円柱度数も小さくなることで,乱視を矯正する必要のなくなるケースが多くなる(図1).このような理由からSCLの処方者は,強度の近視眼に対しては,球面度数の設定時に近視の過矯正予防には配慮する必要があるものの,球面レンズで矯正視力が良好であれば,弱度-4.25D-4.00D-3.50D-3.25D角膜頂点間距離補正S-3.50C-0.75Ax180°S-3.25C-0.75Ax180°自覚的屈折度数トーリックSCL規格-7.75D-7.00D-7.00D-6.50D角膜頂点間距離補正S-7.00C-0.75Ax180°S-6.50C-0.50Ax180°自覚的屈折度数トーリックSCL規格図1円柱度数の角膜頂点間距離補正中等度近視S.3.50Dでは円柱度数C.0.75Dは角膜頂点間距離補正の前後で変化がないが,強度近視S.7.00Dでは円柱度数C.0.75Dは角膜頂点間距離補正の後にC.0.50Dと小さくなっており,トーリックSCLの適応ではない.の乱視は無視して構わない,という考えを生むに至ることが多いのであろうと考えられる.しかし,強度の近視眼に対してSCLを処方しようとする場合,乱視を未矯正にすると,矯正視力が良好で自覚的な見え方への不満の訴えがなくても,潜在的な自覚症状をもっていることがある.そのため一般的に強度の近視眼でも乱視があれば,たとえ弱度の乱視であっても乱視を無視することはできず,トーリックSCLの適応となるかどうか検討すべきなのである.以下に実際のケースを提示する.〔症例〕35歳,女性.処方経過:酸素透過性ハードCLを20年装用してきたが,アレルギー性結膜炎のためレンズが汚れやすく,頻回交換球面SCLに変更した.自覚的屈折検査:VD=0.04(1.2×S.7.00DC.0.50DAx20°)VS=0.03(1.2×S.8.50DC.1.25DAx180°)テスト装用SCL:R)8.80/.6.00/14.0L)8.80/.7.00/14.0VD=1.0×SCL(1.2×S.0.50D)VS=0.8×SCL(1.2×S+0.50DC.1.00DAx180°)1週間のテスト装用で,左眼は二重に見えるという訴えがあった.最終処方SCL:R)8.80/.6.00/14.0L)8.60/.6.50C.0.75Ax180°/14.5VD=1.0×SCL(1.2×S.0.50D)VS=1.0×SCL(1.2×S.0.50D)左眼をトーリックSCLに変更したところ,残余乱視は消失し,良好な視力とともに自覚的な満足が得られた.964あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(00)

写真:結膜弛緩症

2013年7月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦350.結膜弛緩症篠崎和美東京女子医科大学眼科学図2図1のシェーマ矢印:弛緩した結膜が下方の涙液メニスカスを占拠.図1強い瞬目後の前眼部写真(61歳,女性)主訴は,充血,流涙,違和感.眼瞼を把持せず,強い瞬目を指示して観察すると,結膜弛緩が著明になる.図3図1のフルオレセイン染色弛緩した結膜により,涙液メニスカスが占拠され,異所性のメニ図4図1の症例の軽い瞬目後の前眼部写真スカスを形成.隣接する角膜では,涙液層破壊時間(BUT)短縮結膜弛緩が目立たない.をみる.(79)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20139610910-1810/13/\100/頁/JCOPY 結膜弛緩症は,加齢性変化により生じ1),流涙,違和感,ドライアイ,繰り返す球結膜下出血などの症状を呈し,高齢者の不定愁訴の原因疾患の一つでもある2,3).弛緩した結膜の病理では,結膜下組織にリンパ管の拡張やわずかな炎症細胞の浸潤,弾性線維の断裂がみられる4).結膜弛緩の有無をみるポイントは,まず,眼瞼を把持せず,自然な瞬目,強い瞬目を指示して細隙灯顕微鏡をみることである.自然な瞬目では,結膜弛緩の存在が目立たず,強い瞬目で明瞭になることも多い(図1~4).広く開瞼して観察するのみでは見つけ難い.ついで,症状の程度と結膜弛緩の関連をみる.フルオレセイン染色で,瞬目をさせながら涙液メニスカスを観察する(図2,3).流涙などの訴えと一致をみる.また,眼瞼縁の炎症や,十分な開瞼で結膜が伸展した状態で,角結膜の上皮障害の確認をする.違和感などの症状との相同性をみる.余剰結膜に隣接する部位は乾燥していることが多く,乾燥と,弛緩した結膜による摩擦による上皮障害に対して,ジクアホソルナトリウム点眼液,レバミピド点眼液,ヒアルロン酸点眼液,オフロキサシン眼軟膏などで加療を行う.結膜の乾燥予防により,球結膜下出血の再発の頻度を多少軽減できる.点眼治療で症状の改善がない場合は,外科的治療の対象となる.結膜弛緩症には,結膜弛緩のみの単純型と,capsulopalpebralfascia(CPF)の弛緩を伴う円蓋部挙上型がある5).いずれであるかを留意したうえで手術を行う重要性が指摘されている.下眼瞼を引き下げ,上方視させて観察をする5).本症例は,円蓋部まで8mm以上十分な深さがあり(図5),円蓋部の挙上はなく,単純型と判断した.下方の球結膜の結膜弛緩に対し,3ブロックに分割する方法5),結膜縫着術6),バイポーラ凝固鑷子による熱凝固7)などの術式がある.流涙がある症例で,半月ひだや涙丘の耳側変位がある場合は,この切除も加える5).本症例は,横井らの3ブロックに分割する方法5)図5図1と同一症例の上方視での前眼部写真上方視させて,十分な開瞼をして観察.結膜円蓋部の挙上はない.図6結膜弛緩術後下方の球結膜を横井らの3ブロックに分割する術式4)で余剰結膜の切除を行った.術後,涙液メニスカスの改善を認める.で余剰結膜の切除を行い,涙液メニスカスの改善を認め,自覚症状の改善も得た(図6).文献1)MellerD,TsengSC:Conjunctivochalasis,literaturereviewandpossiblepathophysiology.SurvOphthalmol43:225-232,19982)杉田二郎,横井則彦,木下茂:アンケート調査による結膜弛緩症に関連する愁訴の検討.あたらしい眼科17:577580,20003)山本美佐子,平野直彦,春田恭照ほか:球結膜弛緩現象と特発性結膜下出血.あたらしい眼科11:1103-1106,19944)WatanabeA,YokoiN,KinoshitaSetal:Clinicopathologicstudyofconjunctivochalasis.Cornea23:294-298,20045)横井則彦,渡辺彰英,荒木美治:眼表面から見た流涙症.眼科手術22:149-154,20096)永井正子,羽藤晋,大野建治ほか:結膜弛緩症に対する結膜縫着術.あたらしい眼科25:1557-1560,20087)鹿嶋友敬,三浦文英,秋山英雄ほか:バイポーラ凝固鑷子による熱凝固の短縮効果を利用した簡便な結膜弛緩症手術.あたらしい眼科27:229-233,2010962あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(00)

総説:緑内障性視神経萎縮研究史:軸索輸送,近視,糖尿病の関与と治療

2013年7月31日 水曜日

あたらしい眼科30(7):937.960,2013c総説第23回日本緑内障学会須田記念講演緑内障性視神経萎縮研究史:軸索輸送,近視,糖尿病の関与と治療ReviewofStudiesonPathogenesisofGlaucomatousOpticNeuropathy─WithSpecialReferencetoAxonalTransport,Myopia,DiabetesandTreatment─千原悦夫*要約1977年から2012年の間に行われた1)緑内障性視神脈絡膜萎縮に伴う虚血や脳脊髄液の侵入に伴う酸素分圧経萎縮のメカニズム解明のための研究,2)修飾因子としの低下などであり,第5の要因として本来緑内障とは関ての近視,3)糖尿病との関連についての研究を概説し,係がないはずの近視性視神経症が併存することも近視眼4)最後に筆者の緑内障手術に関する考え方を述べる.における視神経の脆弱性を増悪させる.このような要因1)緑内障による視神経萎縮の機序についてはいくつかが高度近視と緑内障が合併した場合の視野増悪スピードの説があるが,これらのなかでアポトーシスカスケードの亢進,異型緑内障性視神経萎縮や固視点付近の感度低の発端となるイニシエーターカスパーゼの活性化が神経下につながる.栄養因子の途絶で誘発されるという概念は,軸索輸送障3)糖尿病患者はもともと網膜神経線維層に糖尿病神経害の重要性を示すもので,緑内障性視神経萎縮のカギを症による神経線維の脱落があり,しかも眼圧が高いこと握ると考えられる.軸索輸送は1974年に篩状板で障害が知られているので,従来緑内障の危険因子とみなされされることが報告されたが,障害部位はそれだけではなてきた.複数の疫学調査の結果もこの考えを支持していく1981年に乳頭辺縁部でも障害を受けることが明らかるが,しかし最近になってVEGF(血管内皮増殖因子)になり,これは末期緑内障で篩状板が後退したケースやの神経保護作用などが注目されて,糖尿は逆に神経保護高度近視の場合に障害を増悪させる因子と考えられる.因子であるという主張がなされるようになっている.こ2)近年,近視を伴う緑内障眼で視神経の易障害性,あの対立する2説のどちらが正しいのかについては現時点るいは異型の視野欠損の出現が報告されるが,これらのでまだ議論がなされている.原因にはいくつかの要因が絡んでいる.第1の要因は近4)緑内障の治療に関しては神経保護研究の進展が期待視眼における篩状板の変形である.乳頭の形態が変化しされ,またより安全で十分な眼圧下降を得られる治療法た場合篩状板の局所的な脆弱性が増した部位で神経線維が探求され続けている.手術治療において従来結膜下にの局所的な障害が現れる.第2の要因は後極部の拡大に房水を流出する濾過手術とSchlemm管への流出を図る伴う神経線維への伸張(ひっぱり)ストレスが加わるこ流出路手術が主流を占めてきた.しかし,房水の排出路とである.第3の要因は高度近視眼にしばしば合併するはこれら以外に毛様体上腔への排出路がある.このルー乳頭低形成症であり,これらの眼では軸索の数そのものトを活用する術式とチューブシャント手術は今後の発展が少ないので,これに緑内障が合併した場合はより速く,が期待できる分野である.しかも異型の障害が進行する.第4の要因は乳頭周囲のはじめに眼科領域で軸索輸送障害に関する最初の研究報告はAndersonが1974年に行った緑内障篩状板における阻害所見であった.筆者らはその少し後からその研究を始め,最初の報告を1977年に行ったが,研究を始めたのが早かったおかげで研究成果のいくつかを教科書にも引用していただけるという僥倖に恵まれた.軸索輸送は神経栄養因子を輸送することで神経節細胞のアポトーシスを抑制する代表的な神経保護因子であるが,筆者らはその軸索輸送の障害部位は篩状板だけではなく乳頭縁でも*EtsuoChihara:千照会千原眼科〔別刷請求先〕千原悦夫:〒611-0043宇治市伊勢田町南山50-1千照会千原眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(55)937 起こること,視神経線維の易障害性に関与するのは単に篩状板のporeの大きさだけではなく,乳頭内にある血管や結合組織の位置や量が関与すること,高度近視では後極部の拡大に伴って乳頭の変形や神経線維の過伸展が起こり,これが近視を伴う緑内障眼における異型の視野欠損に結びつくこと,糖尿病患者では網膜神経線維層に糖尿病神経症による萎縮所見が出現すること,などを報告した.近年,最新の画像診断装置の発展に伴って近視を伴う緑内障眼における神経線維の易障害性,異型性を説明するための乳頭や後眼部における眼球構造異常が解明されつつあり,これらに強い関心が向けられるようになってきている.また,糖尿病と緑内障の関係では網膜神経線維層における糖尿病神経症と緑内障性易障害性ついて熱い議論が戦わされている.今回の須田記念講演ではこれらの研究成果を概括し,過去の研究成果が現在の臨床研究とどのように関連するかについて概説した.I軸索輸送研究の歴史軸索輸送という現象が見つかったのは1948年のWeissとHiscoeの論文に遡る.彼らの研究以前から末梢神経における軸索は途中で挫滅するとそこから末端部が変性する(Waller変性)ことが知られていたが,末梢神経の場合は,その後神経の再生が起こることが知られていた.彼らは末梢神経が再生してくる途中で神経にカフをかぶせてやるとその近位端が膨れてくることを発見し,またこれがある程度膨れたところでカフを外してやると,この膨れた部分がゆっくりと神経末端に向かって移動することを発見した.そこで彼らは神経の中を物質が流れていると考えaxoplasmictransportと命名し,カフの手前の膨大部は流れがせき止められたものと考えてダム化(damming)と命名した1).それからしばらく基礎医学領域で研究が行われていたが,1974年になって眼科領域で重要な報告がなされた.それがAndersonによる緑内障篩状板における軸索輸送障害の報告である.この報告は当時緑内障における神経変性は虚血で起こると考えていたDranceらとの間に議論を巻き起こすこととなり,MincklerやQuigleyなどが論戦に参加して米国における学会議論は大いに盛り上がることになった2.7).筆者はその当時軸索輸送の重要性に気づき,日本にその概念を導入した.最初の報告は1977年に日眼会誌に938あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013掲載されている8).しかし,日本ではその当時基礎医学のごく少数の研究者を除くと眼科以外のどこの診療科もその研究をしておらず,軸索輸送という概念すら理解されなかった.筆者らが研究を始めた当初は神経軸索の中をどのようにして物質が輸送されるのかというメカニズムもわかっていなかったのである.ただ,十分な知識が得られていなかったそのころでも微小管とATP(アデノシン三リン酸)がなければ軸索輸送が止まることや,標識蛋白として重要なマーカーである西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP),あるいは神経栄養因子が逆行性輸送されることがわかっていた9).HRPは脳のような複雑RetrogradeCargoCytoplasmicDyneinDynactinMicrotubuleKinesinAnterogradeCargo図1軸索輸送を担当するモーター蛋白の模型右側のキネシンはアミノ末端(.)からカルボキシル末端(+)方向へ,左側のダイニンは逆方向へ輸送する.それぞれ2本脚の先にATPphosphataseがあり,ATPが来るとこれをADPに変換するときのエネルギーで8nm先の微小管のらせん状蛋白に移動する.微小管にはこれを受け入れるフックのような構造がある.キネシン,ダイニンのいずれも頭に当たるところに輸送するべき物質を接着する部位があり,ここにものを載せて運ぶことになる.(DuncanJEetal:PLoSGenet2:e124,2006より許可を得て掲載,文献14参照)図2キネシン(左),キネクチン(右)の超微細構造現在は軸索輸送を担当するモーター蛋白を電子顕微鏡で観察することができる.(文献13,KumarJetal:JBiolChem273:31738-31743,1998より許可を得て複製)(56) な構造をした組織の中で神経核がどことつながっているかを知るうえで重要な手段を提供し,これを使った実験でHubelとWieselが1981年にノーベル賞を受賞した.この時代に話題となっていた神経栄養因子はイタリアのモンタルチーニ(Rita-Levi-Montalcini:1986年ノーベル賞受賞者)が発見したアミノ酸120個からなる蛋白質であるが,その後4種類の神経栄養因子が見つかり今ではneurotrophin1,2,3,4,5と言われるようになっている.軸索輸送についての研究は眼科領域ではその後下火になったが,基礎分野での研究は着実に進歩し,順行性軸索輸送を担当するモーター蛋白であるキネシンは1985年にValeらによって発見され10,11),その4年後には同じグループのSchnappによって逆行性軸索輸送のモーター蛋白であるダイニンが発見された12).これらのモーター蛋白がどのようにして物質を運ぶのかということに関する知識も飛躍的に進歩し,当初筋肉が収縮するときにアクチンとミオシンがATPとカルシウムイオンの存在下で起こす現象と同じような「すべり説」や微小Overview:RegulationApoptosisTNF,FasL,TRAILTNF,FasL,TRAILTrophicFactorsCellCycleCellularStressCytoplasmCytoplasmNucleusERStress[Ca2+]・Cellshrinking・Membraneblebbing図3アポトーシスカスケードの概略図図の左側はアポトーシスを起こす種々の刺激がどのようにしてアポトーシスに至るかを表し,これに対抗する形で図の右側はアポトーシスの抑制系がどのようにして細胞死を防いでいるかを示す.生体内ではこのようにして両者が常にせめぎ合いをしている.〔CellSignalingTechnologyCo.(CSTJapan)社のHPより許可を得て複製〕(57)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013939 管の上をタイヤのような丸い蛋白が転がるという仮説なな物質を結合できる部位をもっており,緑内障にとってどが提唱されていたが,現在ではモーター蛋白が微小管重要な意味をもつ神経栄養因子もここに結合して運ばれにくっついてN末端からC末端に向かってATPの存ると考えられる.在下で「2足歩行」すると考えられている.キネシンや緑内障における視神経萎縮を理解するうえでもう一つミオシンは電子顕微鏡によって分子を見ることができるの重要なポイントはシドニー・ブレナー(SydneyBrenner,ようになっており13),軽鎖,重鎖などの構造も理解され2002年のノーベル賞受賞者)らが解明したアポトーシている(図1,2)14).これらのモーター蛋白はさまざまスのメカニズムに関する知識の向上である.緑内障におInhibitionofApoptosisSurvivalFactors:GrowthFactors,Cytokines,etc.[cAMP]FLIPXIAPA20FASBimBcl-2Bcl-xLApoptosisCytoplasmNucleusCytoplasmTNF-aPIP3図4アポトーシス抑制系の略図アポトーシスの抑制は眼科領域のみならずAlzheimer病のような神経系全般に関係する重要なテーマで,神経保護を目的に英知を結集して研究が行われている.〔CellSignalingTechnologyCo.(CSTJapan)のHPより許可を得て掲載〕940あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(58) ける視神経萎縮がアポトーシスによって起こることは1995年にQuigleyらが報告し,わが国では沖坂らも追認している15,16).よく知られているように網膜における神経節細胞は生涯にわたって分裂再生することがない.ところがヒトの網膜は生きている限り酸化ストレス,光障害をはじめとする種々のストレスにさらされており,常にアポトーシスを起こすように仕向けられているのである.図3に示すように,このアポトーシスはおもに3つのメカニズムで起こるといわれる.1)TNF(腫瘍壊死因子)やFasリガンドなどの細胞外シグナルが細胞体表面の受容体(デスレセプター)に結合しイニシエーターカスパーゼ8,10が活性化され,さらに下流のカスパーゼ3が活性化されて細胞の変形,核の断片化などのアポトーシスカスケードが進行するもの,2)DNAが損傷されることでp53因子が活性化され,Bcl-2などの制御が外れてミトコンドリアからのシトクロムcが漏出しカスパーゼ9の活性化から下流のカスパーゼ3が活性化するもの,3)酸化や虚血などの外部刺激が小胞体にストレスを与え,カルシウムが遊離されて,これがイニシエーターカスパーゼ12を誘発し下流カスパーゼ3を活性化するルートである.眼にとってアポトーシスは悪者のように見えるが,実は全体としてアポトーシスは必ずしも悪者ではなく,体内の痛んだ細胞や癌化した細胞を生体に損傷を与えることなく整然と掃除するスカベンジャー機能の一つなのである.しかし,視神経に関してはこのアポトーシスが暴走すると萎縮に陥り失明に至る.生体の中にはこのアポトーシスが暴走しないように制御する機能があり,その代表的なものが神経栄養(成長)因子(NGF)である(図4).これは種々のストレスによってアポトーシスの引き金が引かれることのないように種々のアポトーシス惹起因子を抑制して綱引きを演じている.眼科に関係が深い神経栄養因子はbrainderivedneurotrophicfactor(BDNF:NT-2)であり,このBDNFはPI3Kを刺激し,生存シグナルで最も重要なAktを活性化する.Aktはプロアポトーシス因子であるBad,Bax,カスパーゼ9,GSK-3,FoxD1をリン酸化して抑制し,ミトコンドリアを保護して細胞毒性の強いシトクロムcの漏出を抑制する.神経栄養因子は軸索の末端や周囲のシュワン(Schwann)細胞などによって合成されるといわれており,これを運ぶのが軸索輸送なのである.このBDNFの軸索輸送が途絶することは緑内障視神経萎縮の成立にも重要な役割を果たしていると理解されている.緑内障以外では,栄養因子の欠乏は糖尿における神経症の発現に重要で,インスリンを投与することでアポトーシスの発端となるp38因子の発現を防ぐことができる17).神経栄養因子以外にもアポトーシスを修飾して細胞死を防ぐことが知られているものがあり,ブリモニディンの登場以来この分野の仕事が近年,注目を集めていることは周知のとおりである.II軸索輸送と疾患との関連ではその軸索輸送は臨床的な疾患とどのように関連してくるのであろうか.軸索輸送に関する研究で,それまで医学の疑問であったことがいくつか明らかになった.たとえば,帯状疱疹で皮膚病変が一つの神経線維の分布領域のみに限局してしかも同時に現れるのは何故か?という謎は軸索輸送の概念が導入されるまでは解けていなかった.従来の説はウイルスが神経周囲の血管やリンパなどを伝わる,あるいはSchwann細胞が順次感染して伝播するというものであったが,そのような概念では顔の反対側に病変が起こらないことや,根本がつながっている三叉神経の第1枝だけに病変が起こることを説明図5左顔面三叉神経第1枝領域における帯状疱疹(herpeszosterophthalmicus)による皮膚病変一つの神経領域に限局した皮膚病変の出現メカニズムは軸索輸送によるヘルペスウイルスの輸送と伝播の概念が導入されて初めて解明された(文献18参照).(59)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013941 図6軟性白斑(a)とその蛍光眼底撮影写真(b)軟性白斑は網膜の虚血領域を括弧状に挟んで出現する.乳頭側にできる綿毛様白斑が逆行性軸索輸送の阻害によるものであり,遠位端にできるものが順行性軸索輸送の阻害によるものである.(文献21,ChiharaE:JpnJOphthalmol27:397-403,1983より許可を得て掲載)順行性軸索輸送障害逆行性軸索輸送障害虚血領域図7網膜虚血領域と軟性白斑の位置関係網膜虚血領域が適当な大きさの場合,典型的な例では虚血領域の乳頭寄りに逆行性輸送の阻害による綿毛様病変が現れ,遠位端には順行性輸送の阻害所見が現れて括弧状になる.ができない.この現象はガッセリ核における潜伏感染と再活性化によるウイルス増殖と,神経線維の中をウイルス粒子が軸索輸送されることがわかって初めて説明できたのである.筆者らがその概念を報告したのはもう30年以上前になる18)(図5).また,うっ血乳頭といわれる臨床像は従来,乳頭の浮腫であると考えられていたが,電子顕微鏡で観察すると細胞間に浮腫はほとんどなく,体積の大部分を占めるのは腫大した軸索そのものである.軸索輸送の考え方が導入されて以後はこれが軸索輸送の障害による「ダム化」現象であり,神経線維の腫大によって起こるということが理解された19).さらに網膜に局所的な虚血領域ができた場合に出現する軟性白斑の病態解明にも進歩があった.軟性白斑はこれまでにcytoidbodyと言われる神経線維が棍棒状に膨942あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013図8ダム化を起こした神経線維腫大した軸索質の中には運ばれてきたミトコンドリア,ニューロフィラメントなどがぎっしり詰まっている.(文献231,QuigleyHAetal:InvestOphthalmolVisSci19:137-152,1980,fig5より許可を得て掲載)れたもので形成されることがわかっていたが,電子顕微鏡でこの膨大部を観察するとミトコンドリア,ニューロフィラメントなどがぎっしり詰まった軸索輸送のダム化であることがわかった.軟性白斑は虚血領域の遠位端と近位端に軟性白斑ができるが,乳頭側が逆行性軸索輸送の障害によるものであり,遠位端が順行性軸索輸送によるものだったのである20,21)(図6,7).急性の緑内障においては一過性の乳頭腫脹がみられ,その後に視神経萎縮がみられるが,この場合も眼圧の上昇期に乳頭部で軸索輸送のダム化がみられ,ミトコンド(60) リアやニューロフィラメントが軸索質の中にぎっしりと詰まっている所見がみられる(図8).また,抗癌剤であるビンカアルカロイド(ビンブラスチン,ビンクリスチン)による癌治療を行うと副作用として重篤な神経麻痺が起こることが知られており(vincristineneuropathy),従来その原因はわかっていなかったが,これが軸索輸送の障害によることが理解されたのはこの頃である.筆者らはビンブラスチンを投与した場合の視神経における障害の程度とその回復過程について調べている22).また,水俣病の原因物質であるメチル水銀による神経障害の原因にも軸索輸送障害が関係することがわかっている23).III緑内障と軸索輸送前述したように,筆者らが研究を始めたころAndersonが実験緑内障眼の視神経篩状板で軸索輸送の障害が起こることを報告していた2).そこで筆者らもこのことに興味をもち緑内障眼における軸索輸送の研究を開始することにした.まず病気のないウサギの視神経の軸索輸送を調べたのであるが,ここで意外なことに視神経乳頭以外でも,視交叉,視束管でも生理的なブロックを受けていることを見出して,1979年に最初の英文の論文を書いた8,24).緑内障の研究をするのであれば,視神経を含む眼の構造がヒトに似ているサルを使うことが望ましいが,当時筆者が年間に使えた研究費はわずかで,とても高価なサルは買えなかったのでウサギを使うことにした.ウサギはサルとは違ってコラーゲンで形成されるような篩状板がない.ウサギの視神経乳頭では最初の論文でわかっていたように視神経乳頭では生理的な軸索輸送障害があるが,眼圧を上げて軸索輸送の障害を見てみると,篩状板がないにもかかわらずやはり輸送量の減少が起こる.どこで,軸索輸送の障害が起こっているのかということに興味があり,autoradiographyで調べてみると,面白いことに,ウサギの軸索輸送障害はサルにおけるものとは異なり,視神経乳頭の辺縁部で起こっていた25)(図9).この結果は研究費が乏しかったが故に得られた結果であったが,従来軸索輸送は篩状板で起こると考えられてきた常識に新しい視点を与えるものであった.ウサギの実験を受けて,サルでも同じような結果が得られることを期待して少し研究費に余裕ができてから新しく研究グループに加わった佐久川先生にサルで実験してもらうと(61)図9ウサギ高眼圧眼における軸索輸送障害ウサギ眼には篩状板がなく視神経乳頭縁での軸索輸送障害が起こる.(文献25,ChiharaEetal:ExpEyeRes32:229-239,1981の許可を得て掲載)図10実験的緑内障(サル眼)乳頭縁における軸索輸送障害健康なサル眼で眼圧が上がると篩状板における障害に加え,乳頭縁でも軸索輸送の障害所見がみられる.この所見は後に教科書に引用された.(文献26,SakugawaMetal:GraefesArchKlinExpOphthalmol223:214-218,1985の許可を得て掲載)やはり乳頭の縁で軸索輸送の障害像が出てきた26)(図10).この結果はサルにおける実験でありしかもきれいな画像であったので,後世この論文が教科書に記載されることになった.Shields’TextbookofGlaucoma5thed.2005AllinghamRRed.にはp82に以下のように記載されている“ElevatedIOPinmonkeyeyescauseobstructionofaxoplasmicflowatthelaminacribrosaandtheedgeoftheposteriorscleralforamen(Sakugawaetal).”つまり緑内障眼における軸索輸送障害は篩状板で起こるのみならず乳頭縁などでも起こるということになる.この所見は後世において末期緑内障眼における視神経の易障害性や高度近視眼における神経の障害を理解するうえできわめて重要な所見である.緑内障の進行しあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013943 図11末期緑内障(ヒト眼)における乳頭縁での神経線維層末期になると篩状板は後退し,神経線維層は崖に吊り下げられたロープのようにElschnig’sscleralringに押し付けられる.このようになると乳頭縁における軸索輸送障害が強くなると考えられる.た眼で視神経乳頭の辺縁部を見てみると神経線維はここで急激に屈曲し,Elschnig’sscleralringに押し付けられるようになる(図11)232).臨床的に陥凹が大きな眼では眼圧のコントロールができているのになおかつ視野欠損が進行することが知られており,より重症の陥凹をもつものは視野の進行が起こりやすい27.30).たとえば,EarlyManifestGlaucomaTrial27)では視野のMD(平均偏差)値が4dBを超えるか否かという因子は多変量解析で独立した視野進行の危険因子である.陥凹の大きな眼であるほどこの乳頭辺縁部におけるストレスが大きいことを考えると,この辺縁部での軸索輸送障害は末期の緑内障眼ほど重要な意味をもっていると推測される.また高度近視眼ではridgeの盛り上がりで屈曲を受けても同じことが起こるので,この所見は近視眼における易障害性を説明するための一助にもなる31).さらに,高度近視眼では後極部の拡大に伴って神経線維は伸展張力を受けており,その力が集まる乳頭縁での障害が起こることも容易に想像される.軸索輸送が障害されることによって障害部位から離れた網膜にある神経細胞体でアポトーシスが起こることはQuigleyらが報告15,16)したが,そのメカニズムについてはいくつかの議論があった.圧迫あるいは虚血による軸索輸送障害と神経栄養因子の途絶,活性酸素などの酸化ストレス,自己抗体,ミクログリアの活性化による傍乳頭網脈絡膜萎縮(PPA)の形成と組織破壊,過剰グルタミン酸による細胞毒性,一酸化窒素による障害などの説である.それぞれの説にはそれを支える論文があり,そ944あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013れをここで議論することは適当ではないが,筆者が今も最も重要と思っているのは神経栄養因子(neurotrophicfactor)の途絶によるカスパーゼ系の活性化とこれに伴うアポトーシスである17).現在5種類発見されている神経栄養因子neurotrophin1,2,3,4,5のうちBDNF:NT-2は上丘に注射されると網膜神経節細胞の死を予防することが知られており32),このBDNFの逆行性輸送が阻害されることが緑内障における視神経萎縮の原因になることを示すいくつかの証拠も見つかっている33,34).もちろんまだ未解決な問題もあり,neurotrophinは神経の支配組織で合成されるが何らかの理由で合成が不十分になり,proneurotrophinのかたちで分泌されると逆にアポトーシスを促進することがあるという35).いずれにしても,乳頭近辺における軸索輸送障害は緑内障における視神経萎縮のメカニズムを知るうえで無視することのできない重要なイベントであり,それが篩状板以外の部位でも起こることは注目に値する.IV近視と緑内障近視進行には遺伝的な要因と環境因子(光遮断など)があり,本稿では記載しないがmatrixmetalloproteinase,crosslinking,TGF(transforminggrowthfactor)bなどの修飾による間質の異常とともにCOL1A1,COL2A1,COL11A1,COL18A1,FBN,PLOD1,lumicanなど遺伝子レベルの研究は膨大である.近視の眼のコラーゲン線維は細く,間質も弱いので組織が脆弱であるということがいわれており36),Stickler症候群やEhlers-Danlos症候群のように結合組織の先天異常が高度近視の要因になることも知られている.近視と緑内障との間には切っても切れない関係がある.近視眼では緑内障になりやすい,あるいは近視が緑内障の危険因子であるとする報告が多数ある37.53).これまでの内外の報告を参考に誤解を恐れずに言うならば近視の眼は緑内障になりやすく,視野進行のスピードが速く,発症すると異型の視野欠損を起こしやすく,固視点が障害されやすい.緑内障における視神経萎縮のメカニズムについては機械的障害説と循環障害説があり,機械的障害説は岩田の総説に詳しい54)が,これら2つの病因論だけで近視眼における易障害性を説明することはむずかしい.以下に近視を伴う緑内障眼における神経線維の易障害性に関与する因子について考按した.(62) 第1の要因は近視眼における乳頭.篩状板の変形である.緑内障で機械的障害による視神経萎縮が起こるメカニズムはさらに2通りに分けられ,一つは篩状板における神経線維の絞扼であり,もう一つは乳頭周囲における屈曲・伸展緊張である.眼圧のストレスによる神経損傷と組織強度との関係は微妙なもので,Quigleyらの報告によると篩状板におけるlaminarporeの大きさが乳頭の上極と下極で大きく,これがブエルム(Bjerrum)暗点や傍中心暗点が起こる原因と言われている55,56).しかし乳頭構造が脆弱性に関与するのはporesizeだけではなく,乳頭内の微小組織である血管がどこにあるかといったことでも影響を受ける57,58).高度近視の乳頭の形について,少数の研究者が近視乳頭の大きさは変わらないとか,形の異常はないといった報告をしたものが散見される59,60)が,その他の多くの報告において高度近視眼の乳頭や篩状板の形状は正視眼におけるそれとはかなり異なり,その変形を報告するものが圧倒的である.近視眼では乳頭サイズが大きく61.64),楕円係数が大きい65,66),回転している67.69)あるいは傾斜しているものが多い70,71)といったことが最近取り上げられ,乳頭の形と神経線維の障害部位との関係が話題になっているが,実は筆者らが20年も前から報告してきたことでもある65,67).さらに最近のOCT(光干渉断層計)による画像診断によると近視眼では篩状板の厚さが薄く72),脈絡膜の厚さが薄いこと73)(非近視眼においても脈絡膜の菲薄化は報告されている74,75)),あるいは脳脊髄液と網膜下腔が連続するものがあることが証明された76).乳頭のサイズが大きければ,物理学的に中央部のたわみは大きくなるし77,78),篩状板や乳頭縁での神経組織にかかるストレスは大きくなるので近視眼における緑内障頻度の上昇や種々の特殊な視野変化を説明するうえでは都合が良い.もし近視眼で乳頭の変形が大きいのであればそこを通る神経線維は屈曲され挫滅されることが考えられる.Quigleyら79)が模型で示すように,乳頭の傾き,拡大,ひっぱり緊張負荷などはそこを通る神経線維の易障害性に大きな影響を与える(図12).MRI(磁気共鳴画像)で見た高度近視眼の眼球の変形は多様で,予想外の所で障害されるということもありうる80).近視眼における後極部組織の変形が定常的に神経線維に伸展や圧迫ストレスを加えているということも考えられている31).NFNFLLLNLL図12乳頭変形に伴う神経圧迫障害模型(文献79,QuigleyHAetal:InvestOphthalmolVisSci19:505-517,1980より許可を得て複製)図13近視を伴う緑内障眼に起こった多発性で乳頭黄斑線維を含む異型の神経線維層欠損を起こした例近視眼では異型の欠損が起こりやすい.(文献108,ChiharaEetal:ArchOphthalmol108:228-232,1990,Fig3より許可を得て掲載).11.8dB程度の中期緑内障眼では篩状板に局所的な欠損がしばしばみられること81),また近視眼では篩状板が薄いという所見と合わせると,近視眼では眼圧による変形が起こりやすく,緑内障になりやすいであろうということが推測される82,83).正視眼では脆弱部位は乳頭の(63)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013945 図14SLOでみた網膜神経線維のひび割れ高度近視では後極部の拡大に網膜神経線維層の可塑性が追い付かず,ひび割れがみえる.ひび割れの中をバラバラになった神経線維層が走っているのがみえる.(文献84,85より)上極と下極であることが知られているが,近視眼ではこのような局所的な脆弱性が異所性に起こることがある.これが近視眼における異型性視野欠損や黄斑部における感度低下につながると考えられる.図13は筆者らが報告した異所性の神経線維層欠損である.第2の要因は近視に伴う後極部の拡大とそれに伴う神経線維層への伸展ストレスである.眼球の拡張に伴う神経線維層のひび割れも見つかっている(図14)84,85)が,このことは高度近視眼の神経線維層に慢性的な伸展ストレスがかかっていることを示している.近視眼では篩状板が薄く,後ろにたわみやすいと考えられているが,「たわみ」が強いと神経線維は乳頭縁でElschnig強膜輪に強く押し付けられて軸索輸送の障害の原因になる25,26).また高度近視でみられるridge形成のような後極部強膜の変形がある場合,その場所での神経が脆弱性をもつ原因になる31).近視眼では網膜神経線維層が薄いという報告もあり,神経線維層が薄いのであれば伸展ストレスに弱いということも考えられるが,これについては異論もあり,むしろ場所によって厚さに違いがあり,薄い部分に脆弱性が出るという理解のほうが正しいのかもしれない86,87).第3の要因は乳頭低形成症などの先天性の要因である.高度近視の眼に乳頭低形成症を伴うものがあることは古くから認識されていた88).近視の遺伝子は緑内障の遺伝子と関連しているという報告がある89).筆者らは20年ほど前,まだ自動計測装置がなかった頃に乳頭の大きさを手動でプラニメーターを用いて計算946あたらしい眼科Vol.30,No.7,201330.028.026.024.022.020.0Discarea(mm2)図15眼軸長と乳頭サイズの相関関係眼軸長が伸びるにつれて乳頭は大きくなる傾向があるが,傾斜乳頭のみは別で,むしろ小さくなる.(文献65,ChiharaEetal:GraefesArchClinExpOphthalmol232:265-271,1994より許可を得て掲載)しLittmann式で補正して調べた.そのときに眼軸が伸びると確かに乳頭は大きくなる傾向があるが,傾斜乳頭では眼軸長が伸びてもサイズが大きくならずむしろ減少気味であることを報告していた65)(図15).このことは最近の報告でも確認されている69,90).高度近視眼では,superiorsegmentoptichypoplasia(SSOH),傾斜乳頭症候群あるいは乳頭低形成症が合併することがありうるし88),倍率を補正するとむしろサイズが小さいとする報告もある91).このことは近視と乳頭の低形成症の間に何らかの関係がある可能性を示唆する.従来の報告をみると傾斜乳頭症候群は近視性乱視を伴うことが多く,SSOHでも近視患者の比率は高い.Ymamaotoらの報告ではSSOHの37眼のうち19眼(51%)が1Dを超える近視であった92).乳頭低形成症の眼では軸索数が正常眼より少ない.このような眼に緑内障が合併すると“視野欠損が出現するといわれる残存軸索数50万本”まで減少するのにかかる時間が短いということが考えられるし,欠損部分に偏りがあれば異型の視野欠損になることが想定される.第4の要因として近視眼にしばしば合併する傍乳頭網脈絡膜萎縮(PPA)の影響も考えなければならない.近視眼ではしばしば乳頭の周囲にコーヌスと言われる網脈絡膜萎縮が起こる93.95).近視眼が緑内障になりやすいことを説明する一つの仮説としては乳頭周囲のコーヌス(PPA)や脈絡膜の菲薄化に伴う酸素分圧の低下の影響ということも考えられるであろう.第5の要因として高度近視眼における近視性神経症の(64)Axiallength(mm)1.002.003.004.00 緑内障頻度(%,MD)問題がある.高度近視眼では最近乳頭のピット96)も見つかっているが,かなり昔から高度近視眼では眼圧が正常で緑内障とは考えにくいにもかかわらず原因不明の視野欠損が起こることについて多くの報告がある97.101).これが正常眼圧緑内障に属するものか近視性神経症とでもいうべき病態なのかについては議論の分かれるところである.正視眼の緑内障における視神経萎縮メカニズムの首座が篩状板における神経線維の絞扼であり,乳頭縁における神経線維の伸展,圧迫は従であると考えられるのに対し,緑内障を伴わない高度近視における神経線維障害は眼球の後極部拡大に伴う神経線維の伸展,乳頭縁での圧迫やコーヌス縁における強膜の段差における神経障害や脈絡膜血流の低下が障害の首座ではないかと推定される.これらは互いに重複して起こりうるものであり,緑内障あるいは近視眼における神経障害のメカニズムを複雑にしている.近視眼に緑内障が合併した場合,異型の視野欠損が多いとか,中心視野が障害されやすいという報告はこれらの複雑な因子を反映したものと考えてよいであろう102.112).近視眼は緑内障の進行が速いのか?さらに話を進めると,近視のほうは緑内障になると視野障害の進行が速いであろうということが推測されるが,筆者らはそのことを世界で最も早く1997年に報告した113).実際にそのことを支持する論文がいくつかあ1510:正視群:軽度近視群:高度近視群500歳児60歳成人視神経障害進行速度図16高度近視,軽度近視,正視眼における視野障害速度の模式図0歳のときに緑内障はほとんどないが,これが60歳になったときに近視群において緑内障に頻度が高いのであればその60年のうちに視神経線維の脱落速度が速かったということでなければ,その高い頻度を説明できない.(65)る46,114.116).疫学的には0.10歳時にはほとんど緑内障がなくて,50.60歳年齢では近視群で緑内障の頻度が高いと言われており,このことを説明するためには,近視眼において緑内障性神経症が速く進むということでなければ説明できないであろう(図16).2012年に発表されたラテン系人種における前向き研究でも近視が視野進行の危険因子であることが示され,近視眼における視神経の脆弱性を示すエビデンスは蓄積されつつある116).近視による乳頭の変形は後天的な異常で7.9歳の学童期から起こってくる117)ということや,緑内障を起こす年齢が近視群のほうが若いという結果,あるいは緑内障患者のなかに近視の人の頻度が高いというデータ118,119)も,近視眼で視野障害進行のスピードが速いという推論を支持する.しかし,このことに関しては反対意見もあり,近視があっても視野障害の進行は速くないという論文も出されている120.122).さらに,近視が緑内障の危険因子ではないという報告も少数ではあるが存在するので,これらの議論が収束するのは少し先になるかもしれない123.125).近視と緑内障の関連でもう一つ見逃してはならない問題は診断のむずかしさである.近年の緑内障診断は単に眼圧値だけではなく視神経乳頭の陥凹や網膜神経線維層あるいは視野によって診断が行われる.ところが高度近視眼の乳頭はしばしば変形しており容易には緑内障の診断がつかない126.130).また,網膜神経線維層の欠損の診断は近視性のコーヌスや豹紋状眼底のために簡単ではない128,129).これに加えて,近視を伴う緑内障眼の視野はしばしば異型であり,視野による診断も容易ではない100,108,109,130.132)ので,近視を伴う原発開放隅角緑内障では相対的に眼圧測定の重要性が増してくる.一方,眼圧値は緑内障の診断という意味だけではなく,緑内障の診断がついた後,治療効果を判定するうえで無視することのできない重要な指標である.ところが,この眼圧を測定するうえで角膜の厚さや剛性が測定値に誤差因子として関与し,われわれが頻用しているGoldmann型圧平眼圧計では正確な眼圧測定ができていないことが知られるようになった.特に,近年盛んになったLASIK(laserinsitukeratomileusis)などの屈折矯正手術の後では眼圧測定値がかなり低くなるということがわかっている133,134).EarlyManifestGlaucomaTrial135)によると,眼圧は平均値が1mmHg高くなると緑内障性視神経萎縮のリあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013947 (kD)160.0B(kD)160.0Bスクが10%上がるといわれており,日本人に多い近視を伴う緑内障眼における眼圧の管理は今後の緑内障の治療を考えるうえできわめて重要なことである.緑内障の診断において画像解析技術の進歩は重要な役割を果たしてきた.研究の初期には乳頭の画像解析が主流であり,筆者らも初期にはHRT(HeidelbergRetinalTomography)やTopSS(TopographicLaserScanningSystem)を使って乳頭の画像解析を行ったが,近視眼では乳頭の形態の個人差が大きいので正常と異常の判別は簡単ではない136.138).特に近視眼では乳頭の変形が大きいので,乳頭より乳頭周囲の網膜神経線維層の厚さ(cpRNFL)を調べるという選択肢もある139).ただ,高度近視眼ではcpRNFLも変動が大きくデータの安定性では網膜の厚さほどの信頼性はない.最近では網膜のganglioncellcomplex(GCC)の厚さを解析することの重要性が強調されている.GCCが重要であるとの指摘はTanitoの報告がわが国における研究の嚆矢となったが,近視が強い眼では乳頭の画像解析が信頼性で劣るので,網膜厚の解析が有用ということになる140.142).V糖尿病と緑内障1.網膜における糖尿病神経症従来糖尿病の網膜ではmicroangiopathyとして血管周囲細胞(pericyte)の消失143,144)や血管瘤145),細小血管閉塞や漏出が注目を集めてきたが,糖尿病の眼で起こる異常は血管障害だけにはとどまらず,網膜神経線維層や視神経にも及ぶ.糖尿病の三大合併症の一つは神経症であり,全身的には手足のしびれ,自律神経失調,インポテンツ,性格の変化が起こることが知られており,悪化すれば下肢に壊疽が生じることもあるが,眼においても網膜症の発現の前に色覚の異常146,147),コントラスト視力の低下148),律動様小波の消失149),視覚誘発脳波の異常150),暗順応の低下151)が起こり,網膜神経線維層の菲薄化が起こる.糖尿病の神経症では神経細胞体近傍の軸索の太さは維持されるが,周辺部ではdyingbackと言われる先細りが起こるとともに脱髄が起こる152).Simaらは糖尿病ラットの視神経で視覚誘発脳波の潜時が44%延長し,軸索径は18%減少し網膜神経節細胞が変性することを報告している153).糖尿病の場合軸索輸送がどうなるかは興味あるテーマであり,筆者らは初期の研究において糖尿病では軸索輸送量が減少することを報告した154,155).軸索輸送される948あたらしい眼科Vol.30,No.7,20132009766452920MolecularWeight×10-3図17二次元電気泳動による軸索輸送成分の分離少なくとも80以上のspotがあると考えられている.(文献156,PerryGWetal:JNeurosci10:3439-3448,1990より許可を得て掲載)21.5A:Control39.0B:Diabeticrabbit68.0図18糖尿病ウサギにおける軸索輸送成分の変化を一次元電気泳動で調べたもの糖尿病視神経では単に輸送量が減るだけではなく輸送成分の変化が起こる.(文献157,TsukadaT,ChiharaE:InvestOphthalmolVisSci27:1115-1122,1986より許可を得て掲載)蛋白質(酵素)成分は二次元電気泳動すると少なくとも80以上のスポットが検出される156)(図17)が,そのすべてが均等に減少するのではない.筆者らは軸索輸送の減少は単に量が減少するだけでなく成分(質)の変化(120kDの蛋白量が上昇し,29kDの蛋白量が減少する)を伴(66)A うことを報告した157)(図18).さらに神戸大学のグループでは逆行性軸索輸送の減少も報告されている158,159).軸索輸送量の減少所見は糖尿病神経症を説明するうえでいくつかのカギを提供してくれる.たとえば軸索輸送が神経線維の骨格蛋白の供給源であるので,その減少は軸索径の減少につながることが考えられdyingbackと言われる糖尿病神経症に特徴的な末端軸索の先細りを説明するうえで都合が良い.またneurotrophicfactorの輸送量減少が想定されるところからこれに伴う神経細胞体のアポトーシスを説明できる.前述の緑内障の項目でも触れたが,神経節細胞がアポトーシスカスケードに踏み込まないように制御するうえで神経栄養因子は重要な役割を果たしている.逆行性の軸索輸送では神経栄養因子が運ばれることが知られており,これが減少することは神経細胞体の自殺(アポトーシス)につながる.糖尿病の神経症の発症に神経栄養因子の異常が関与するという研究報告や160),BDNFのような神経保護因子が糖尿病で減少していることが神経障害を受けやすいことと関係するのではないかと推測するものなど161)はこれらの概念を支持するものである.糖尿病の動物あるいはヒトの網膜でTunel染色をしてみるとアポトーシスが約10倍増えており,これは網膜の内層(つまり神経節細胞層)で多く,網膜神経節細胞やアマクリン細胞が減少し網膜神経線維層が20%程度減る162.164).このようなアポトーシスは外胚葉の細胞のみならず血管系の中胚葉の細胞でも起こり全身的な問題でもあるが,この細胞死は糖尿のコントロールができると減少する165,166).アポトーシスの減少はいくつかの要因が関与する可能性があるが,そのなかでも逆行性軸索輸送で運ばれる神経栄養因子がneuroprotectivemechanismを発動することは重要である.Zhangらによって報告された逆行性軸索輸送の減少はこの意味で重要である158,159).糖尿病網膜症の発現は糖尿病発病から10年以上の長い月日を要するが,律動様小波消退をはじめとする神経系の機能異常は網膜症に先行することが知られており,これらのことを考えると糖尿病患者では網膜症の発症前に網膜神経線維層に糖尿病神経症が起こると考えられるのである.筆者らは世界で初めて糖尿病患者における網膜神経線維層の欠損を報告した167)が,その後多くの論文で網膜神経線維層の欠損もしくは菲薄化が証明された168.174).後年になって中村は網膜神経線維層と視神経乳頭内のアクアポリン0と9の発現の違い(67)図19糖尿病患者における網膜神経線維層欠損(矢印)糖尿病網膜症が具現化する前に出現することがある.(文献167参照)を発見し,緑内障と糖尿病における神経障害の機序が異なることを推論している175).さらに近年のscanninglaserpolarimeter(GDx)やOCTなどの検査機器の進歩によって臨床的に糖尿病患者の網膜神経線維層に血管障害が起こる前から神経線維層の器質的な欠損や菲薄化が発見された(図19,20).糖尿病における神経線維層欠損は,乳頭の陥凹を伴わないので見逃されやすいが,糖尿病神経症の具現形であり,臨床的には末期の糖尿病網膜症眼における蒼白な乳頭として認識されることもある176,177).硝子体手術を行わなければならないような重症糖尿病網膜症患者ではしばしば重篤な視神経萎縮を伴うが,その発症には血管障害とともに神経症が関与することを忘れてはならない.あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013949 80NDR(n=50)7070■mildNPDR(n=33)■mode-NPDR(n=50)6060NFLT(mm)50p=0.016p=0.008p=0.003p<0.001p=0.039p=0.024p<0.00150404030302020101000TSNITave.Superiorave.Inferiorave.NFIp=0.0019p=0.0045p=0.0010p=0.001■PDR(n=20)NFIscoreNFLT:nervefiberlayerthickness,NFI:nervefiberindicator,NDR:non-diabeticretinopathy,NPDR:nonproliferativediabeticretinopathy,mode-NPDR:moderatetosevereNPDR,PDR:proliferativediabeticretinopathy.図20GDxでみた網膜神経線維層の厚さ網膜神経線維層は糖尿病網膜症が進行するほど薄くなるが,網膜症が出現する前でもすでに菲薄化が始まっていることがわかる.(文献169,TakahashiHetal:AmJOphthalmol142:88-94,2006より許可を得て掲載)2.論争の気配:糖尿病は緑内障の危険因子か?それとも保護因子か?糖尿病患者の眼ではもともと網膜神経線維の減少や神経層の菲薄化があるが,これに眼圧のストレスが加わってくれば,神経障害は起こりやすいであろうと考えられ,実際そのような視点に立った報告もなされている178.180).これに加えて糖尿病では線維柱帯における糖蛋白の糖化が起こり,クロスリンキングが増え,またムコ多糖代謝に異常が起こることが知られているのでSchlemm管とぶどう膜強膜路における房水流出抵抗が上がることが推定され,実際に多くの論文で糖尿病患者では眼圧が高いことが示されている181.184).これらのことから類推すると,糖尿病では基本的に神経線維の脱落や菲薄化が起こっており,さらに眼圧も高いので,糖尿病患者では緑内障が起こりやすいであろうということが推測される.Kanamoriの報告では糖尿病状態でさらに眼圧を上げるといっそう多くのアポトーシスが起こる179).これらの推論を支持するかのようにBlueMountainStudyなどいくつかの疫学的な研究とケーススタディで糖尿病が緑内障の危険因子であるとする報告がみられる184.191).糖尿病の患者は網膜症の健診のために診察機会が多いということを差し引いても,眼圧の高い患者が多く,緑内障のリスクが高いのではないかという推論はそれなりの根拠をもっているし,EMGT(EarlyManifestGlaucomaTrial)やAGIS(AdvancedGlaucomaInterventionStudy)では糖尿病患者は緑内障が進行しやすいという前向き研究の報告もなされている188,192).3.反論:糖尿病は神経保護作用をもつのか?ところが,2002年になって発表されたOHTS(OcularHypertentionTreatmentStudy)で,糖尿病群においては眼圧が高いことが確認されるにもかかわらず,緑内障の発症頻度が低い〔hazardratio0.37(range0.15.0.90,p<0.05)〕という結果が発表され,糖尿病は緑内障に対して神経保護的に働くということが報告された193).このOHTSの結果は2008年になってGordon自身が糖尿病の検出率に問題があったことを認め有意差はなかったと修正されたが,それでも眼圧が高いにもかかわらず発症頻度に有意差がないということは糖尿病が神経保護的に作用するのであろうと解釈された194).さらに,OHTSの発表と相前後していくつかの疫学的な調査で糖尿病と緑内障の関係について懐疑的な報告195)や関係を否定する報告183,196)が発表され,2009年にはQuigleyのような大物が糖尿病は緑内障の危険因子ではないとして論陣を張るに至った197).Quigleyの論点は糖尿病患者において緑内障が多いのは高眼圧が多いからであるとし,糖尿病患者は検診を受ける機会が多く,眼圧も高いので緑内障が発見される率は高いが,糖尿病そのものは逆に神経保護的に作用する可能性があるとするもので,以下の3つの論点を強調し950あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(68) た.1)糖尿病患者におけるバリアの破綻に伴って細胞間に漏出するVEGF(血管内皮増殖因子)には神経保護作用があるということ198),2)中枢神経において前虚血状態にさらされた神経組織はサバイバル機構が働くようになることを例にとって,網膜でも神経が緑内障性視神経障害に対する防御機能を備える可能性があるということ199),3)糖尿病患者においてはコラーゲンのクロスリンキングが起こるので角膜や強膜組織の強化が起こり,視神経篩状板が強化されてストレスに耐えやすい視神経乳頭ができるというものである.実際にそのことを示すような報告もなされている200).そして実験的に糖尿病になったラットに高眼圧負荷をかけても視神経萎縮の脱落は糖尿病のほうが少ないという報告が現れている201).これまで,糖尿病と緑内障の関係について日本では糖尿病は緑内障の危険因子であるとする論調が強かった.糖尿病で神経症が網膜神経線維層に起こるということについては間違いがないと思われるが,緑内障の危険因子であるかについては今後の展開がどうなるのか興味深い.もし,糖尿病が本当に神経保護的に働くのであれば,これまで,どうしてもきっかけをつかむことができなかった神経保護の研究に一石を投じるであろう.VI緑内障の治療緑内障にかかわる医師の夢は緑内障性視神経萎縮の根絶である.眼圧が高くても神経細胞や軸索が脱落しないのであれば治療は完璧である.緑内障における神経細胞の脱落はアポトーシスによるが,このアポトーシスを抑制するためのいくつかの因子のなかで最も重要なものが神経栄養因子であることは前述した.臨床応用が可能なのであればBDNFを直接投与することで神経脱落を防止するということも考えられるかもしれない32,202).しかし,緑内障患者に蛋白製剤を持続的に眼内に注入し続けることは現実的ではない.神経保護の本道を行くなら,神経栄養因子の供給を増やし,神経脱落を防ぐということが考えられる.筆者らはメチルB12が緑内障の視神経萎縮を軽減するのではないかと考え,研究を行ったこともあるが成果を上げることがむずかしかった203).全国規模で行った臨床研究でメチルB12が視野障害進行を防止できるかどうかを調べたが,これも統計学的な有意差を得ることがむずかしかった.その時点ではやはり眼圧を下げるしかないというのが正直な印象であっ(69)た204,205).神経細胞のアポトーシスを誘発するもう一つの重要因子は細胞内カルシウムを司るカルシウムチャンネルである.カルシウム濃度が上がればカスパーゼ12が活性化されるので,それを防ぐためにはカルシウムチャンネルのブロックが望ましい.このような考え方に基づく研究は日本が先導しており,その内容は新家の総説に詳しい.まだ異論はあるようであるが,臨床的にも有効性が示されていることは心強いことである206).その他にもブロッコリーに含まれるスルフォラファンやカルボシアニン色素など有効性が示唆されているものがいくつかあり,これらが臨床応用できるほどになる日が来ることが望まれる207).しかしながら,2012年現在では緑内障の治療において“エビデンスがある”有効な治療法となると眼圧を下げることのみであり,それ以外で神経の萎縮を防ぐことができるというエビデンスのある治療法は乏しい.眼圧を下げるための手段は投薬と手術があるが,このうち手術的な治療法は眼科医にとってどうしても避けて通れない重要なテーマで,合併症を起こすことなく眼圧を下げるために先人が積み重ねてきた苦労は並々ならぬものである.緑内障の手術治療として2012年現在最も普及している術式はCairnsの報告したtrabeculectomyである208).この手術は元々Sugarが線維柱帯を切除してその断端にできるSchlemm管の開口部から房水がSchlemm管に入ることを想定した流出路手術として報告209)された.しかし,Cairnsはtrabeculectomyが有効なものには濾過胞が形成されていることを報告してその後はガードのある濾過手術として40年にわたり一世を風靡している.この手術に関してはおびただしい修飾・工夫がなされ,手術成績に関する報告も多い.基本的には適度の大きさの濾過胞が形成され,房水の漏れ,感染,白内障の進行,低眼圧黄斑症などが起こることなく,lowteenの眼圧が維持されることが理想であろう.筆者らは創傷治癒のモデレーターであるTGF-bを抑制する薬剤に興味をもち,トラニラストを使うことで瘢痕の防止と上皮の再生という2兎を追えるのではないかと考え報告した210,211).しかし,そのような工夫をしても術後の濾過胞の感染,低眼圧黄斑症,白内障の進行などの問題を根絶することはむずかしく,また術後の眼圧をtargetpressureあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013951 Lectpost-opIOP2522.52017.51512.5107.552.51015202530354045505560Lectpre-opIOP図21Trabeculectomyの術後濾過胞がある眼について術前眼圧と術後6カ月の眼圧の相関関係をプロットしたものTrabeculectomyでは全体としては29.4±8.2mmHgから14.1±4.5mmHgへと良好な眼圧下降を示すが,この眼圧をみると1桁のものから20mmHgを超えるものまで幅が広く,なかなかtargetpressureを達成することがむずかしい.(文献212,ChiharaEetal:JpnJOphthalmol55:107-114,2011より許可を得て掲載)にもってゆこうとしても,ばらつきが大きく想定された範囲内に眼圧を収めることは至難の業である(図21)212).眼圧コントロールの質を上げるという意味では流出路手術に勝るものはない.Trabeculotomy,viscocanalostomyなどの手術は術後の眼圧が術前の眼圧と線形的に相関しており,術前に術後の眼圧値をある程度予測することができる212.221).また,術後の合併症の頻度は低く,術後視力も優れている.白内障の手術と合併することによって相乗効果による眼圧下降を得られるというメリットもある.近年米国ではこのような長所が見直されてMIGS(micro-invasiveglaucomasurgery)としてiStent,Hydrus,CyPass,trabecutome,excimerlasertrabeculostomy(ELT)などが話題になっている222).しかしながら,trabeculotomyやviscocanalostomyの眼圧下降効果はtrabeculectomyと比べると弱く26mmHgを超える術前眼圧のものには推奨しかねるところがある.最近話題になるMIGSについても,個人的な感想としてSchlemm管を扱うものはtrabeculotomyの筆者らの従来の経験213.215)を大きく凌駕する成績は得られていないと感じている.これに対して術前眼圧が26mmHgを超え,しかも濾過胞によるトラブルを避けたい場合に使われることを想定して筆者らが導入したのがdeepsclerectomyである223).これは強膜内にlakeといわれる空間を作り,lakeから毛様体上腔への房水流出を可能としたもので,ヨーロッパではコラーゲンイ952あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013図22Modifieddeepsclerectomyの模式図この手術で房水は前房からlakeに入り,lakeの底に形成される開窓部から毛様体上腔に流れる.ンプラントを併用しているが筆者らはこのようなインプラントを用いず,代わりに毛様体上腔への開窓術を加えることで中等度の重症度の緑内障を克服してきた224,225).この手術は濾過手術と流出路手術の両方の性格を兼ね備えているのでhybridsurgeryと考えてよい(図22).Trabeculectomy,trabeculotomy,viscocanalostomy,deepsclerectomyの4つの術式を駆使すると大抵の開放隅角緑内障を治療することができるが,これらでも手におえない重症の緑内障眼は存在する.これら究極の難治性緑内障にどう対処するかは難題であったが,2012年4月にチューブシャント手術が保険収載され,この分野で大きな進歩がみられた.筆者らは以前からチューブシャントによる治療の可能性について検討してきており226,227),25年前にはWhitepumpshunt,ACTSEB(anteriorchambertubeshunttoanencirclingband)を前房に挿入することによる治療を試み,何例かは眼圧のコントロールに成功したが,同時に浅前房,虹彩癒着,出血,虹彩炎,チューブの露出など多くの合併症に悩まされた.しかし近年はBaerveldt,Ahmed,エクスプレスなどの新しいデザインのチューブが発売され,デザインの改善とトラブルに対する知識と対処法の進歩によって手術成績は格段に改善された228).今後はこの手術が次第に国内でも浸透するものと思われる.チューブシャント手術の長期的な合併症としては角膜内皮損傷の問題が気になるところである229,230).日本ではlaseriridotomyの後でも水疱性角膜症の頻度が高いことが知られており,チューブが角膜内皮にあたる場合には特に注意が必要である.この問題を解決するために(70) はチューブを硝子体腔に差し込むことが良い解決方法になった228).この手術のキーポイントは手術直後の低眼圧や高眼圧をどのようにして防ぐかであり,特に術後早期に起こることのある低眼圧にまつわる脈絡膜.離,浅前房の克服と術後高眼圧期の克服がこの手術の定着の是非を決める重要なポイントである.チューブシャントの手術成績や内皮を始めとする眼合併症については緑内障学会を中心として前向き研究を始めており,緑内障術者の協力を得てこの問題に取り組むことが大切である.おわりに緑内障性視神経萎縮の原因を探求するうえで軸索輸送に関する知識は欠かせない.軸索輸送はヘルペスウイルスの伝播,軟性白斑の形成,うっ血乳頭の形成にかかわるとともに,その障害は神経栄養物質の途絶や蛋白輸送の途絶によって緑内障性視神経萎縮と糖尿病視神経症の原因になると考えられる.本稿では軸索輸送研究を中心とした神経障害機序の研究過程と得られた結果について概説した.緑内障における軸索輸送障害はAndersonらが報告した篩状板と筆者らが報告した乳頭縁の2カ所で起こることが報告されてきたが,高度近視眼のように乳頭の形が変形している場合はさらに篩状板に部分的な脆弱性を生じ,眼球の拡大による神経線維の伸展ストレスが加わることと,乳頭低形成症,網脈絡膜萎縮や,近視性視神経症などの修飾を受けることで異型の視野欠損発現や神経線維の易障害性が出現すると推測される.糖尿病患者では網膜症のない時点から視神経症が起こっており,網膜神経線維層の菲薄化が起こっているが,これに高眼圧が加わることで緑内障のリスクが上昇することが考えられる.しかし,これに反対する学説もあり,このことに関する最近の論文を紹介した.最後に緑内障の治療として手術方法の改善に関する筆者らの考え方を述べた.文献1)WeissP,HiscoeHB:Experimentsonthemechanismofnervegrowth.JExpZool107:315-395,19482)AndersonDR,HendricksonA:Effectofintraocularpressureonrapidaxoplasmictransportinmonkeyopticnerve.InvestOphthalmol13:771-783,19743)MincklerDS,TsoMO,ZimmermannLE:Alightmicroscopicautoradiographicstudyofaxoplasmictransportintheopticnerveheadduringocularhypotony,increasedintraocularpressureandpapilledema.AmJOphthalmol82:741-757,19764)QuigleyH,AndersonDR:Thedynamicsandlocationofaxonaltransportblockadebyacuteintraocularpressureelevationinprimateopticnerve.InvestOphthalmol15:606-616,19765)MincklerDS,BuntAH,JohansonGW:Orthogradeandretrogradeaxoplasmictransportduringacuteocularhypertensioninthemonkey.InvestOphthalmolVisSci16:426-441,19776)MincklerDS,BuntAH,KlockIB:Radioautographicandcytochemicalultrastructuralstudiesofaxoplasmictransportinthemonkeyopticnervehead.InvestOphthalmolVisSci17:33-50,19787)QuigleyHA,GuyJ,AndersonDR:Blockadeofrapidaxonaltransport;effectofintraocularpressureelevationinprimateopticnerve.ArchOphthalmol97:525-531,19798)千原悦夫:正常白色家兎の視路におけるorthogradefastaxoplasmictransportの動態.日眼会誌81:1488-1493,19779)千原悦夫,本田孔士:眼科学における軸索輸送(総説).日眼会誌84:331-349,198010)ValeRD,SchnappBJ,ReeseTSetal:Organelle,bead,andmicrotubuletranslocationspromotedbysolublefactorsfromthesquidgiantaxon.Cell40:559-569,198511)ScholeyJM,PorterME,GrissomPMetal:Identificationofkinesininseaurchineggs,andevidenceforitslocalizationinthemitoticspindle.Nature318:483-486,198512)SchnappBJ,ReeseTS:Dyneinisthemotorforretrogradeaxonaltransportoforganelles.ProcNatlAcadSciUSA86:1548-1552,198913)KumarJ,EricksonHP,SheetzMP:Ultrastructureofthe120-kDaformofchickkinectin.JBiolChem273:3173831743,199814)DuncanJE,GoldsteinLS:Thegeneticsofaxonaltransportandaxonaldisorders.PLoSGenet2:e124;12751284,200615)QuigleyHA,NickellsRW,KerriganLAetal:Retinalganglioncelldeathinexperimentalglaucomaandafteraxotomyoccursbyapoptosis.InvestOphthalmolVisSci36:774-786,199516)OkisakaS,MurakamiA,MizukawaAetal:Apoptosisinretinalganglioncelldecreaseinhumanglaucomatouseyes.JpnJOphthalmol41:84-88,199717)KummerJL,RaoPK,HeidenreichKA:Apoptosisinducedbywithdrawaloftrophicfactorsismediatedbyp38mitogen-activatedproteinkinase.JBiolChem272:2049020494,199718)ChiharaE:Axoplasmictransportblockagetherapyinherpeszosterophthalmicus.GraefesArchKlinExpOphthalmol211:183-186,197919)TsoM,FineBS:Electronmicroscopicstudyofhumanpapilledema.AmJOphthalmol82:424-434,197620)McLeodD,MarshallJ,KohnerEMetal:Theroleofaxoplasmictransportinthepathogenesisofretinalcotton-woolspots.BrJOphthalmol61:177-191,197721)ChiharaE:Pathogenesisofcottonwoolpatches;aclinicalstudy.JpnJOphthalmol37:397-403,198322)ChiharaE,SakugawaM,EntaniS:Recoveryoffastaxonaltransportandretinalproteinsynthesisintherabbitsafterintraocularadministrationofvinblastine.Brain(71)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013953 Res241:179-181,198223)千原悦夫,佐久川政尚,塚田孝子:メチル水銀による網膜蛋白代謝障害と視神経における軸索流障害.日眼会誌88:1224-1228,198424)ChiharaE:Axoplasmicandnonaxoplasmictransportalongtheopticpathwayofalbinorabbits;atheoreticalpatternofdistribution.InvestOphthalmolVisSci18:339345,197925)ChiharaE,HondaY:Analysisoforthogradefastaxonaltransportalongtheopticpathwayofalbinorabbitsduringincreasedanddecreasedintraocularpressure.ExpEyeRes32:229-239,198126)SakugawaM,ChiharaE:Blockageattwopointsofaxonalflowinglaucomatouseyes.GraefesArchKlinExpOphthalmol223:214-218,198527)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal,EMGTGroup:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,200328)AndersonDR,DranceSM,SchulzerM,CNTGStudyGroup:Factorsthatpredictthebenefitofloweringintraocularpressureinnormaltensionglaucoma.AmJOphthalmol136:820-829,200329)WilsonR,WalkerAM,DuekerDKetal:Riskfactorsforrateofprogressionofglaucomatousvisualfieldloss:acomputerbasedanalysis.ArchOphthalmol100:737-741,198230)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:Interimclinicaloutcomesinthecollaborativeinitialglaucomatreatmentstudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,200131)Ohno-MatsuiK,ShimadaN,YasuzumiKetal:Longtermdevelopmentofsignificantvisualfielddefectsinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol152:256-265,201132)MaYT,HsiehT,ForbesMEetal:BDNFinjectedintothesuperiorcolliculusreducesdevelopmentalretinalganglioncelldeath.JNeurosci18:2097-2107,199833)PeaseME,McKinnonSJ,QuigleyHAetal:ObstructedaxonaltransportofBDNFanditsreceptorTrkBinexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci41:764-774,200034)AlmasiehM,WilsonAM,MorquetteBetal:Themolecularbasisofretinalganglioncelldeathinglaucoma.ProgRetinEyeRes31:152-181,201235)YanoH,TorkinR,MartinLAetal:Proneurotrophin-3isaneuronalapoptoticligand:evidenceforretrograde-directedcellkilling.JNeurosci25:14790-14802,200936)McBrienNA,CornellLM,GentleA:Structuralandultrastructuralchangesotthesclerainmammalianmodelofhighmyopia.InvestOphthalmolVisSci42:2179-2187,200137)MarcusMW,deVriiesMM,JunoyMontolioFGetal:Myopiaasariskfactorforopen-angleglaucoma:Asystematicreviewandmeta-analysis.Ophthalmology118:1989-1994,201138)PodosSM,BeckerB,MortonWR:Highmyopiaandprimaryopenangleglaucoma.AmJOphthalmol62:10391043,196639)DaubsJG,CrickRP:Effectofrefractiveerrorontheriskofocularhypertensionandopenangleglaucoma.TransOphthalmolSocUK101:121-126,198140)ChenYF,WangTH,LinLLetal:Influenceofaxiallengthonvisualfielddefectsinprimaryopen-angleglaucoma.JFormosMedAssoc96:968-971,199741)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelationshipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology106:2010-2015,199942)PereraSA,WongTY,TayWTetal:Refractiveerror,axialdimensions,andprimaryopen-angleglaucoma:theSingaporeMaleyEyeStudy.ArchOphthalmol128:900905,201043)LiuHH,XuL,WangYXetal:PrevalenceandprogressionofmyopicretinopathyinChineseadults:Beijingeyestudy.Ophthalmology117:1763-1768,201044)XuL,WangY,WangSetal:HighmyopiaandglaucomasusceptibilitytheBeijingEyeStudy.Ophthalmology114:216-220,200745)JonasJB,BuddeWM:Opticnervedamageinhighlymyopiceyeswithchronicopen-angleglaucoma.EurJOphthalmol15:41-47,200546)CzudowskaMA,RamdasWD,WolfRCetal:Incidenceofglaucomatousvisualfieldloss:aten-yearfollowupfromtheRotterdamstudy.Ophthalmology117:1705-1712,201047)KuzinAA,VarmaR,ReddyHSetal:Ocularbiometryandopen-angleglaucoma:theLosAngelesLatinoEyeStudy.Ophthalmology117:1713-1719,201048)SohnSW,SongJS,KeeC:Influenceoftheextentofmyopiaontheprogressionofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol149:831-838,201049)LiangYB,FriedmanDS,ZhouQetal:PrevalenceofprimaryopenangleglaucomainaruraladultChinesepopulation:theHandaneyestudy.InvestOphthalmolVisSci52:8250-8257,201150)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleglaucomainJapanesepopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,200651)WongTY,KleinBE,KleinRetal:Refractiveerrors,intraocularpressure,andglaucomainawhitepopulation.Ophthalmology110:211-217,200352)KoYC,LiuCJ,ChouJCetal:Comparisonsofriskfactorsandvisualfieldchangesbetweenjuvenile-onsetandlate-onsetprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmologica216:27-32,200253)GroedumK,HeijlA,BengtssonB:Refractiveerrorandglaucoma.ActaOphthalmolScand79:560-566,200154)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199255)QuigleyHA,GreenWR:Thehistologyofhumanglaucomacuppingandopticnervedamage:clinicopathologiccorrelationin21eyes.Ophthalmology86:1803-1830,197956)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWRetal:OpticnervedamageinhumanglaucomaII.Thesiteofinjuryandsusceptibilitytodamage.ArchOphthalmol99:635-649,198157)ChiharaE,HondaY:Preservationofnervefiberlayerbyretinalvesselsinglaucoma.Ophthalmology99:208-214,199258)JonasJB,FernandezMC:Shapeoftheneuroretinalrimandpositionofthecentralretinalvesselinglaucoma.BrJOphthalmol78:99-102,1994954あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(72) 59)JonasJB,GusekGC,NaumannGOH:Opticdisc,cupandneuroretinalrimsize,configulationandcorrelationsinnormaleyes.InvestOphthalmolVisSci29:1151-1158,198860)JonasJB,PapastathopoulosKI:Opticdiscshapeinglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol234(Suppl):167-173,199661)RamrattanRS,WolfsRC,JonasJBetal:Determinantsofopticdisccharacteristicsinageneralpopulation:TheRotterdamstudy.Ophthalmology106:1588-1596,199962)JonasJB,GusekGC,NaumannGO:Opticdiskmorphometryinhighmyopia.GraefesArchClinExpOphthalmol226:587-590,198863)JonasJB:Opticdisksizecorrelatedwithrefractiveerror.AmJOphthalmol139:346-348,200564)JonasJB,DichtlA:Opticdiscmorphologyinmyopicprimaryopenangleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol235:627-633,199765)ChiharaE,ChiharaK:Covariationofopticdiscmeasurementsandocularparametersinthehealthyeye.GraefesArchClinExpOphthalmol232:265-271,199466)TayE,SeahSK,ChanSPetal:Opticdiscovalityasanindexoftiltanditsrelationshiptomyopiaandperimetry.AmJOphthalmol139:247-252,200567)ChiharaE,TakaharaS:Positivecorrelationbetweenrotationoftheopticdiscandlocationofglaucomatousscotomata.PerimetryUpdate1992/93,p199-20568)ParkH-YL,LeeK,ParkCK:Opticdisctorsiondirectionpredictsthelocationofglaucomatousdamageinnormal-tensionglaucomapatientswithmyopia.Ophthalmology119:1844-1851,201269)HwangYH,YooC,KimYY:Characteristicsofperipapillaryretinalnervefiberlayerthicknessineyeswithmyopicopticdisctiltandrotation.JGlaucoma21:394-400,201270)中瀬佳子:強度近視の原発性開放隅角緑内障第2報乳頭所見についての検討.日眼会誌91:442-447,198771)VongphenitJ,MitchelP,WangJJ:Populationprevalenceoftiltedopticdiscandtherelationshipofthissigntorefractiveerror.AmJOphthalmol133:679-685,200272)JonasJB,BerenshteinE,HolbachL:Laminacribrosathicknessandspatialrelationshipsbetweenintraocularspaceandcerebrospinalfluidspaceinhighlymyopiceyes.InvestOphthalmolVisSci45:2660-2665,200473)UsuiS,IkunoY,MikiAetal:Evaluationofthechoroidalthicknessusinghigh-penetrationopticcoherencetomographywithlongwavelengthinhighlymyopicnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol153:10-16,201274)YinZQ,VaegenA,MillerTJetal:Wide-spreadchoroidalinsufficiencyinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma6:23-32,199775)KubotaT,JonasJB,NaumannGOH:Decreasedchoroidalthicknessineyeswithsecondaryangleclosureglaucoma.BrJOphthalmol77:430-432,199376)JonasJB,JonasSB,JonasRAetal:Histologyofparapapillaryregioninhighmyopia.AmJOphthalmol152:10211029,201177)BrittonRJ,DranceSM,SchulzerMetal:Theareaoftheneuroretinalrimoftheopticnerveinnormaleyes.AmJOphthalmol103:497-504,198778)QuigleyHA,BrownAE,MorrisonJDetal:Thesizeandshapeoftheopticdiscinnormalhumaneyes.ArchOphthalmol108:51-57,199079)QuigleyHA,FlowerRW,AddicksEMetal:Themechanismofopticnervedamageinexperimentalacuteintraocularpressureelevation.InvestOphthalmolVisSci19:505-517,198080)MoriyamaM,Ohno-MatsuiK,HayashiKetal:Topographicanalysisofshapeofeyeswithpathologicmyopiabyhighresolutionthree-dimensionalmagneticresonanceimaging.Ophthalmology118:1626-1637,201181)ParkSC,DeMoraesCGV,TengCCetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofdeepopticnervecomplexstructuresinglaucoma.Ophthalmology119:3-9,201282)CahaneM,BartovE:Axiallengthandscleralthicknesseffectonsusceptibilitytoglaucomatousdamage:atheoreticalmodelimplementingLaplace’slaw.OphthalmicRes24:280-284,199283)PhelpsCD:Effectofmyopiaonprognosisintreatedprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol93:622628,198284)ChiharaE,ChiharaK:Apparentcleavageoftheretinalnervefiberlayerinasymptomaticeyeswithhighmyopia.GraefesArchClinExpOphthalmol230:416-420,199285)KomeimaK,KikuchiM,ItoYetal:Paravascularinnerretinalcleavageinahighlymyopiceyes.ArchOphthalmol123:1449-1450,200586)OzdekSC,OnolM,GuerelikGetal:Scanninglaserpolarimetryinnormalsubjectsandpatientswithmyopia.BrJOphthalmol84:264-267,200087)SaviniG,BarboniP,ParisiVetal:Theinfluenceofaxiallengthonretinalnervefiberthicknessandopticdiscsizemeasurementsbyspectral-domainOCT.BrJOphthalmol96:57-61,201288)WeissAH,RossEA:Axialmyopiaineyeswithopticnervehypoplasia.GraefesArchClinExpOphthalmol230:372-377,199289)VatavukZ,SkuncaHermanJ,Benci.Getal:CommonvariantinmyocillingeneisassociatedwithhighmyopiainisolatedpopulationofKorculaIsland,Croatia.CroatMedJ50:17-22,200990)TongL,ChanYH,GazzardGetal:HeidelbergretinaltomographyofopticdiscandnervefiberlayerinSingaporechildren:variationswithdisctiltandrefractiveerror.InvestOphthalmolVisSci48:4939-4944,200791)SaviniG,BarboniP,ParisiVetal:Theinfluenceofaxiallengthonretinalnervefibrelayerthicknessandoptic-discsizemeasurementsbyspectral-domainOCT.BrJOphthalmol96:57-61,201292)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentoptichypoplasiafoundinTajimieyehealthcareprojectparticipant.JpnJOphthalmol48:578-583,200493)AppleDJ,RabbMF,WalshPM:Congenitalanomaliesoftheopticdisc.SurvOphthalmol27:3-41,198294)NonakaA,HangaiM,AkagiTetal:Biometricfeaturesofperipapillaryatrophybetaineyeswithhighmyopia.InvestOphthalmolVisSci52:6706-6713,201195)伊賀俊行,勝盛紀夫,溝上国義:緑内障性陥凹所見に影響を及ぼす因子.2近視眼.臨眼41:506-507,198796)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Acquiredopticnerveandperipapillarypitsinpathologicmyopia.Ophthalmology119:1685-1692,2012(73)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013955 97)黒住格,松野千枝子,可児一孝:視野欠損を示す近視について.日眼会誌70:2238-2245,196698)RomanoA,BartovE:Opticpitversusglaucomatouscuppinginamyopicpatient.MetabPedeiatSystemOphthalmol11:149-151,198899)BlattN:GesichtsfeldveraenderungenbeihochgradigMyopen.KlinMblAugenheilkd145:680-712,1964100)RudnickaAR,EdgerDF:AutomatedstaticperimetryinmyopeswithperipapillarycrescentsPart1.OphthalmicPysiol15:409-412,1995101)RudnickaAR,EdgerDF:AutomatedstaticperimetryinmyopeswithperipapillarycrescentsPart2.OphthalmicPysiol16:416-429,1996102)CarrolFD,ForbesM:Centrocaecalscotomasduetoglaucoma.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol72:643648,1968103)中瀬佳子:強度近視の原発性開放隅角緑内障第一報視野障害についての検討.日眼会誌91:376-382,1987104)ChiharaE,TaniharaH:Parametersassociatedwithpapillo-macularbundledefectsinglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol230:511-517,1992105)MayamaC,SuzukiY,AraieMetal:Myopiaandadvanced-stageopen-angleglaucoma.Ophthalmology109:2072-2077,2002106)AraieM,AraiM,KosekiNetal:Influenceofmyopicrefractiononvisualfielddefectsinnormaltensionandprimaryopenangleglaucoma.JpnJOphthalmol39:60-64,1995107)ChiharaE,HondaY:Multipledefectsintheretinalnervefiberlayeringlaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol230:201-205,1992108)ChiharaE,SawadaA:Atypicalnervefiberlayerdefectsinhighmyopeswithhigh-tensionglaucoma.ArchOphthalmol108:228-232,1990109)GreveEL,FurunoF:Myopiaandglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol213:33-41,1980110)新井麻里子,新家真,鈴木康之ほか:正常眼圧緑内障における近視度と中心視野障害の関係.日眼会誌98:11211125,1994111)AraieM,AraiM,KosekiNetal:Influenceofmyopicrefractiononvisualfielddefectsinnormaltensionandprimaryopenangleglaucoma.JpnJOphthalmol39:60-64,1995112)KimuraY,HangaiM,MorookaSetal:Retinalnervefiberlayerdefectsinhighlymyopiceyeswithearlyglaucoma.InvestOphthalmolVisSci53:6472-6478,2012113)ChiharaE,LiuX,DongJetal:Severemyopiaasariskfactorforprogressivevisualfieldlossinprimaryopenangleglaucoma.Ophthalmologica211:66-71,1997114)PerdicchiA,IesterM,ScuderiGetal:Visualfielddamageandprogressioninglaucomatousmyopiceyes.EurJOphthalmol17:534-537,2007115)LeeYA,ShihYF,LinLLetal:Associationbetweenhighmyopiaandprogressionofvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JFormosMedAssoc107:952-957,2008116)JiangX,VarmaR,WuSetal:Baselineriskfactorsthatpredictthedevelopmentofopen-angleglaucomainapopulation.Ophthalmology119:2108-2118,2012117)KimT-W,KimM,WeinrebRNetal:Opticdiscchangeswithincipientmyopiaofchildhood.Ophthalmology119:956あたらしい眼科Vol.30,No.7,201321-26,2012118)MastropasqualL,LobefaloL,ManciniAetal:Prevalenceofmyopiainopenangleglaucoma.EurJOphthalmol2:33-35,1992119)PerkinsES,PhelpsCD:Openangleglaucoma,ocularhypertension,lowtensionglaucomaandrefraction.ArchOphthalmol100:1464-1467,1982120)SohnSW,SongJS,KeeC:Influenceoftheextentofmyopiaontheprogressionofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol149:831-838,2010121)ChaoDL,ShrivastavaA,KimDHetal:AxiallengthdoesnotcorrelatewithdegreeofvisualfieldlossinmyopicChineseindividualswithglaucomatousappearingopticnerves.JGlaucoma19:509-513,2010122)AraieM,ShiratoS,YamazakiYetal,Nipradilol-TimololStudyGroup:Riskfactorsforprogressionofnormal-tensionglaucomaunderbeta-blockermonotherapy.ActaOphthalmol90:e337-343,2012123)VijayaL,GeorgeR,BaskaranMetal:Prevalenceofprimaryopen-angleglaucomainanurbansouthIndianpopulationandcomparisonwitharuralpopulation.TheChennnaiGlaucomaStudy.Ophthalmology115:648-654,2008124)JonasJB,MartusP,BuddeWM:Anisometropiaanddegreeofopticnervedamageinchronicopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol134:547-551,2002125)QuigleyHA,EngerC,KatzJetal:Riskfactorsforthedevelopmentofglaucomatousvisualfieldlossinocularhypertension.ArchOphthalmol112:644-649,1994126)YamazakiY,YoshikawaK,KunimatsuSetal:InfluenceofmyopicdiscshapeonthediagnosticprecisionoftheHeidelbergretinatomograph.JpnJOphthalmol43:392397,1999127)JonasJB,DichtlA:Opticdiscmorphologyinmyopicprimaryopenangleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol235:627-633,1997128)OzdekSC,OnolM,GuerelikGetal:Scanninglaserpolarimetryinnormalsubjectsandpatientswithmyopia.BrJOphthalmol84:264-267,2000129)BozkurtB,IrkecM,GedikSetal:EffectofperipapillarychorioretinalatrophyonGDxparametersinpatientswithdegenerativemyopia.ClinExperimentOphthalmol30:411-414,2002130)HuangS-J:強度近視の視機能の初期変化Octopus自動視野計による測定分析.日眼会誌97:881-887,1993131)DuC,WuX,WangJ:Thecorrelationbetweenchangesofstaticcentralvisualfieldsandposteriorpolarlesionsinhighmyopia.ZhonghuaYanKeZaZhi31:264-267,1995132)VongphanitJ,MitchellP,WangJJ:Populationprevalenceoftilteddisksandtherelationshipofthissigntorefractiveerror.AmJOphthalmol133:679-685,2002133)ChiharaE,TakahashiH,OkazakiKetal:ThepreoperativeintraocularpressurelevelpredictstheamountofunderestimatedintraocularpressureafterLASIKformyopia.BrJOphthalmol89:160-164,2005134)ChiharaE:Assessmentoftrueintraocularpressure:Thegapbetweentheoryandpracticaldata.SurvOphthalmol53:203-218,2008135)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal,EarlyManifestGlaucomaTrialGroup:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment.ArchOphthalmol121:48-56,(74) 2003136)ChiharaE,TakahashiF,ChiharaK:Assessmentofopticdisctopographywithscanninglaserophthalmoscope.GraefesArchClinExpOphthalmol231:1-6,1993137)DongJ,ChiharaE:Slopeanalysisoftheopticdiscineyeswithocularhypertensionandearlynormaltensionglaucomabyconfocalscanninglaserophthalmoscope.BrJOphthalmol85:56-62,2000138)ItaiN,TanitoM,ChiharaE:ComparisonofopticdisctopographymeasuredbyretinalthicknessanalyzerwithmeasurementbyHeidelbergretinaltomographyII.JpnJOphthalmol47:214-220,2003139)GotoT,TanitoM,ItaiNetal:Scanninglaserpolarimetrymeasurementwithvariablecornealcompensationcomparedwithfixedcornealcompensation.JpnJOphthalmol48:507-510,2004140)TanitoM,ItaiN,OhiraAetal:Reductionofposteriorpoleretinalthicknessinglaucomadetectedusingtheretinalthicknessanalyzer.Ophthalmology111:265-275,2004141)ShojiT,SatoH,IshidaMetal:Assessmentofglaucomatouschangesinsubjectswithhighmyopiausingspectraldomainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:1098-1102,2011142)ShojiT,NagaokaY,SatoHetal:ImpactofhighmyopiaontheperformanceofSD-OCTparameterstodetectglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:18431849,2012143)CoganDG,ToussaintD,KuwabaraT:Retinalvascularpatterns.IV.Diabeticretinopathy.ArchOphthalmol66:366-378,1961144)KuwabaraT,CoganDG:Retinalvascularpatterns.VI.Muralcellsoftheretinalcapillaries.ArchOphthalmol69:492-502,1963145)FriedenwaldJS:Diabeticretinopathy.AmJOphthalmol33:1187-1199,1950146)ShojiT,SakuraiY,SatoHetal:Dotype2diabetespatientswithoutdiabeticretinopathyorsubjectswithimpairedfastingglucosehaveimpairedcolorvision?TheOkuboColorStudyReport.DiabMed28:865-871,2011147)BresnickGH,ConditRS,PaltaMetal:Associationofhuediscriminationlossanddiabeticretinopathy.ArchOphthalmol103:1317-1324,1985148)SokolS,MoskowitzA,SkarfBetal:Contrastsensitivityindiabeticswithandwithoutbackgroundretinopathy.ArchOphthalmol103:51-54,1985149)YonemuraD,TsuzukiK,AokiT:ClinicalimportanceoftheoscillatorypotentialinthehumanERG.ActaOphthalmol70(Suppl):115-123,1962150)PuvanendranK,DevathasanG,WongPK:Visualevokedresponsesindiabetes.JNeurolNeurosurgPsychiatry46:643-647,1983151)AmemiyaT:Darkadaptationindiabetics.Ophthalmologica174:322-326,1977152)DyckPJ,LaisA,KarnesJLetal:Fiberlossisprimaryandmultifocalinsuralnervesindiabeticpolyneuropathy.AnnNeurol19:425-439,1986153)SimaAA,ZhangWX,CherianPVetal:ImpairedvisualevokedpotentialandprimaryaxonopathyoftheopticnerveinthediabeticBB/W-rat.Diabetologia35:602607,1992154)ChiharaE:Impairmentofproteinsynthesisintheretinaltissueindiabeticrabbits;Secondaryreductionoffastaxonaltransport.JNeurochem37:247-250,1981155)ChiharaE,SakugawaM,EntaniS:Reducedproteinsynthesisindiabeticretinaandsecondaryreductionofslowaxonaltransport.BrainRes250:363-366,1982156)PerryGW,BurmeisterDW,GrafsteinB:Effectoftargetremovalongoldfishopticnerveregenerationanalysisoffastaxonallytrasnportedproteins.JNeurosci10:34393448,1990157)TsukadaT,ChiharaE:Changesincomponentsoffastaxonallytransportedproteinsintheopticnervesofdiabeticrabbits.InvestOphthalmolVisSci27:1115-1122,1986158)ZhangL,Ino-UeM,DongKetal:Retrogradeaxonaltransportimpairmentoflarge-andmediumsizedretinalganglioncellsindiabeticrat.CurrEyeRes20:131-136,2000159)ZhangL,InoueM,DongKetal:AlterationsinretrogradeaxonaltransportinopticnerveoftypeIandtypeIIdiabeticrats.KobeJMedSci44:205-215,1998160)CaiF,HelkeCJ:AbnormalPI3kinase/Aktsignalpathwayinvagalafferentneuronsandvagusnerveofstreptozotocin-diabeticrats.BrainResMolBrainRes110:234244,2003161)NavaratnaD,GuoSZ,HayakawaKetal:Decreasedcerebrovascularbrain-derivedneurotrophicfactor-mediatedneuroprotectioninthediabeticbrain.Diabetes60:17891796,2011162)Abu-El-AsrarAM,DralandsL,MissottenLetal:Expressionofapoptosismarkersintheretinasofhumansubjectswithdiabetes.InvestOphthalmolVisSci45:2760-2766,2004163)GardnerTW,AntonettiDA,BarberAJetal:Diabeticretinopathy:Morethanmeetstheeye.SurvOphthalmol47(Suppl2):S253-262,2002164)BarberAJ,NakamuraM,WolpertEBetal:Insulinrescuesretinalneuronsfromapoptosisbyaphosphatidylinositol3-kinase/Akt-meidatedmechanismthatreducestheactivationofcaspase-3.JBiolChem276:3281432821,2001165)BarberAJ,GardnerTW,AbcouwerSF:Thesignificanceofvascularandneuralapoptosistothepathologyofdiabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci52:11561163,2011166)BarberAJ,LiethE,KhinSAetal:Neuralapoptosisintheretinaduringexperimentalandhumandiabetes;earlyonsetandeffectofinsulin.JClinInvest102:783791,1998167)ChiharaE,MatsuokaT,OguraYetal:Retinalnervefiberlayerdefectasanearlymanifestationofdiabeticretinopathy.Ophthalmology100:1147-1151,1993168)LopesdeFariaJM,RussH,CostaVP:RetinalnervefibrelossinpatientswithtypeIdiabetesmellituswithoutretinopathy.BrJOphthalmol86:725-728,2002169)TakahashiH,GotoT,ShojiTetal:Diabetes-associatedretinalnervefiberdamageevaluatedwithscanninglaserpolarimetry.AmJOphthalmol142:88-94,2006170)TakahashiH,ChiharaE:Impactofdiabeticretinopathyonquantitativeretinalnervefiberlayermeasurementandglaucomascreening.InvestOphthalmolVisSci49:687(75)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013957 692,2008171)OshitariT,HanawaK,Adachi-UsamiE:ChangesofmacularandRNFLthicknessesmeasuredbyStratusOCTinpatientswithearlystagediabetes.Eye(Lond)23:884889,2009172)SugimotoM,SasohM,IdoMetal:Detectionofearlydiabeticchangewithopticalcoherencetomographyintype2diabetesmellituspatientswithoutretinopathy.Ophthalmologica219:379-385,2005173)SugimotoM,SasohM,IdoMetal:RetinalNerveFiberLayerDecreaseduringGlycemicControlinType2Diabetes.JOphthalmol2010pii:569215Epub2010Aug8174)OzdekS,LonnevilleYH,OnolMetal:Assessmentofnervefiberlayerindiabeticpatientswithscanninglaserpolarimetry.Eye16:761-765,2002175)中村誠:緑内障性視神経症への挑戦:新しい病態論の提唱と他覚的機能解析方法の改良.日眼会誌116:298-346,2012176)千原悦夫,ZhangShen:レーザー走査型乳頭画像診断装置(TopSS)による糖尿病視神経障害の検討.日眼会誌102:431-435,1998177)LimMC,TanimotoSA,FurlaniBAetal:Effectofdiabeticretinopathyandpanretinalphotocoagulationonretinalnervefiberlayerandopticnerveappearance.ArchOphthalmol127:857-862,2009178)BeckerB:Diabetesmellitusandprimary-open-angleglaucoma.27thEdwardJacksonmemoriallecture.AmJOphthalmol71:1-16,1971179)KanamoriA,NakamuraM,MukunoHetal:Diabeteshasadditiveeffectonneuralapoptosisinratretinawithchronicallyelevatedintraocularpressure.CurrEyeRes28:47-54,2004180)OshitariT,RoyS:Diabetes:apotentialenhancerofretinalinjuryinratretina.NeurosciLett390:25-30,2005181)OshitariT,FujimotoN,HanawaKetal:Effectofchronichyper-glycemiaonintraocularpressure.AmJOphthalmol143:363-365,2007182)TomoyoseE,HigaA,SakaiHetal:Intraocularpressureandrelatedsystemicandocularbiometricfactorsinapopulation-basedstudyinJapan:theKumejimastudy.AmJOphthalmol150:276-286,2010183)TanGS,WongTY,FongCWetal:Diabetes,metabolicabnormalities,andglaucoma.ArchOphthalmol127:13541361,2009184)MitchellP,SmithW,CheyTetal:Openangleglaucomaanddiabetes:theBlueMountainEyeStudy,Australia.Ophthalmology104:712-718,1997185)PasqualeLR,KangJH,MansonJEetal:Prospectivestudyoftype2diabetesmellitusandriskofprimaryopenangleglaucomainwomen.Ophthalmology113:10811086,2006186)ChopraV,VarmaR,FrancisBAetal:Type2diabetesmellitusandtheriskofopen-angleglaucoma.TheLosAngelesLatioEyeStudy.Ophthalmology115:227-232,2008187)EllisJD,EvansJM,RutaDAetal:Glaucomaincidenceinanunselectedcohortofdiabeticpatients:isdiabetesmellitusariskfactorforglaucoma?DARTS/MEMOcollaboration.BrJOphthalmol84:1218-1224,2000188)AGISinvestigators.Theadvancedglaucomainterventionstudy(AGIS):12.Baselineriskfactorsforsustainedlossofvisualfieldandvisualacuityinpatientswithadvanceglaucoma.AmJOphthalmol134:499-512,2002189)BonovasS,PeponisV,FilloussiK:Diabetesmellitusasariskfactorforprimaryopen-angleglaucoma:ametaanalysis.DiabetMed21:609-614,2004190)NakamuraM,KanamoriA,NegiA:Diabetesmellitusasariskfactorforglaucomatousopticneuropathy.Ophthalmologica219:1-10,2005191)WongVH,BuiBV,VingryAJ:Clinicalandexperimentallinksbetweendiabetesandglaucoma.ClinExpOptom94:4-23,2011192)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsofglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,2003193)GordonMO,BeiserJA,BrandtJDetal:Theocularhypertensiontreatmentstudy.ArchOphthalmol120:714-720,2002194)GordonMO,BeiserJA,KassMA:Isahistoryofdiabetesmellitusprotectiveagainstdevelopingprimaryopen-angleglaucoma?ArchOphthalmol126:280-281,2008195)WorleyA,Grimmer-SomersK:Riskfactorsforglaucoma:whatdotheyreallymean?AustJPrimHealth17:233-239,2011196)DeVoogd,IkramMK,WolfRCetal:Isdiabetesmellitusariskfactorforopen-angleglaucoma?TheRotterdamStudy.Ophthalmology113:1827-1831,2006197)QuigleyHA:Candiabetesbegoodforglaucoma?Whycan’twebelieveourowneyes(ordata?).ArchOphthalmol127:227-229,2009198)RosensteinJM,KrumJM,RuhrbergC:VEGFinthenervoussystem.Organogenesis6:107-114,2010199)FernandezDC,PasquiniLA,DorfmanDetal:Ischemicconditioningprotectsfromaxoglialalterationsoftheopticpathwayinducedbyexperimentaldiabetesinrats.PLoSOne7:e51966,2012200)TeraiN,SpoerlE,HausteinMetal:Diabetesmellitusaffectsbiomechanicalpropertiesoftheopticnerveheadintherat.OphthalmicRes47:189-194,2011201)EbneterA,ChidlowG,WoodJPMetal:Protectionofretinalganglioncellsandtheopticnerveduringshort-termhyperglycemiainexperimentalglaucoma.ArchOphthalmol129:1337-1344,2011202)NakazawaT,TamaiM,MoriN:BrainderivedneurotrophicfactorpreventsaxotomizedretinalganglioncelldeaththroughMAPKandPI3Ksignalingpathways.InvestOphthalmolVisSci43:3319-3326,2002203)塚田孝子,千原悦夫:糖尿病性軸索輸送障害に対するメチルB12の影響.あたらしい眼科3:549-550,1986204)新井勉,勝島晴美,上野哲治ほか:緑内障の視野に対するメチコバールの効果(第2報)1年後の効果判定.眼紀37:769-773,1986205)市川宏,塩瀬芳彦,田辺吉彦ほか:緑内障の視野変化に対するMethycobalRの効果─コントロールスタディーによる多施設共同研究.あたらしい眼科5:617-624,1988206)新家眞:緑内障眼圧非依存障害因子への挑戦ネズミ・サル・そしてヒトへ.日眼会誌115:213-237,2011207)中澤徹:基礎研究から難治性眼疾患のブレークスルーをねらえ,緑内障の神経保護治療.臨眼64:1974-1984,2010208)CairnsJE:Trabeculectomy.Preliminaryreportofanewmethod.AmJOphthalmol66:673-679,1968958あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(76) 209)SugarHS:Experimentaltrabeculectomyinglaucoma.AmJOphthalmol51:623-627,1961210)ChiharaE,DongJ,OchiaiHetal:Effectsoftranilastonfilteringblebs:Apilotstudy.JGlaucoma11:127-133,2002211)OchiaiH,OchiaiY,ChiharaE:TranilastinhibitsTGF-b1secretionwithoutaffectingitsmRNAlevelsinconjunctivalcells.KobeJMedSci47:203-209,2001212)ChiharaE,HayashiK:Differentmodesofintraocularpressurereductionafterthreedifferentnonfilteringsurgeriesandtrabeculectomy.JpnJOphthalmol55:107114,2011213)ChiharaE,NishidaA,KodoMetal:Trabeculotomyabexterno:Analternativetreatmentinadultpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.OphthalmicSurg24:735739,1993214)TanitoM,OhiraA,ChiharaE:Surgicaloutcomeofcombinedtrabeculotomyandcataractsurgery.JGlaucoma10:302-308,2001215)TanitoM,OhiraA,ChiharaE:Factorsleadingtoreducedintraocularpressureaftercombinedtrabeculotomyandcataractsurgery.JGlaucoma11:3-9,2002216)TanitoM,ParkM,NishikawaMetal:Comparisonofsurgicaloutcomesofcombinedviscocanalostomyandcataractsurgerywithcombinedtrabeculotomyandcataractsurgery.AmJOphthalmol134:513-520,2002217)ParkM,TanitoM,NishikawaMetal:CombinedviscocanalostomyandcataractsurgeryinJapanesepatientswithglaucoma.JGlaucoma13:55-61,2004218)ParkM,TanitoM,NishikawaMetal:Ultrasoundbiomicroscopyofintrasclerallakeafterviscocanalostomyandcataractsurgery.JGlaucoma13:472-478,2004219)ParkM,HayashiK,TakahashiHetal:Phaco-viscocanalostomyversusphaco-trabeculotomy:amid-termstudy.JGlaucoma15:456-461,2006220)ShojiT,TanitoM,TakahashiHetal:Phacoviscocanalostomyversuscataractsurgeryonlyinpatientswithcoexistingnormal-tensionglaucoma:Midtermoutcomes.JCataractRefractSurg33:1209-1216,2007221)ParkM,HayashiK,TakahashiHetal:Riskfactorsforuncontrolledintraocularpressureafterphacoviscocanalostomy.JGlaucoma17:431-435,2008222)SahebH,AhmedII:Micro-invasiveglaucomasurgery:currentperspectivesandfuturedirections.CurrOpinOphthalmol23:96-104,2012223)AmbresinA,ShaarawyT,MermoudA:Deepsclerectomywithcollagenimplantinoneeyecomparedwithtrabeculectomyintheothereyeofthesamepatient.JGlaucoma11:214-220,2002224)ChiharaE,OkazakiK,TakahashiHetal:Modifieddeepsclerectomy(D-lectomyMMC)forprimaryopen-angleglaucoma:preliminaryresults.JGlaucoma18:132-139,2009225)ChiharaE,HayashiK:Relationbetweenthevolumeofthelakeandintraocularpressurereductionafternonfilteringglaucomasurgery.Aspectral-domainanteriorsegmentopticalcoherencetomographystudy.JGlaucoma20:497-501,2011226)千原悦夫,林田中,山元章裕ほか:Setonと5-FUの併用によるneovascularglaucomaの治療について.日眼会誌91:1086-1093,1987227)ChiharaE,KubotaH,TakanashiTetal:OutcomeofwhitepumpshuntsurgeryforneovascularglaucomainAsians.OphthalmolSurg23:666-671,1992228)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:PreservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheAhmedglaucomavalve.JpnJOphthalmol56:119-127,2012229)MincklerDS,FrancisBA,JampelHDetal:Aqueousshuntsinglaucoma.AreportoftheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology115:1089-1098,2008230)LeeE-K,YunY-J,LeeJ-Eetal:ChangesincornealendothelialcellsafterAhmedGlaucomaValveimplantation.2-yearfollow-up.AmJOphthalmol148:361-367,2009231)QuigleyHA,AddicksEM:Chronicexperimentalglaucomainprimates.InvestOphthalmolVisSci19:137-152,1980232)ChiharaE:Myopiaanddiabetesmellitusasmodificatoryfactorsofglaucomatousopticneuropathy.JpnJOphthalmol57,2013,inpressSUMMARYReviewofStudiesonPathogenesisofGlaucomatousOpticNeuropathy─WithSpecialReferencetoAxonalTransport,Myopia,DiabetesandTreatment─EtsuoChiharaSensho-kaiEyeInstituteMyopiaanddiabetesmellitusmodifiesglaucomatousopticneuropathy(GON).Inthisarticle,papersonthisthemefrom1977to2012werereviewed.Alsomodificationsofsurgicalprocedurestotreatglaucomaduringthisperiodwerebrieflyreviewed.1)AmongparametersthataffectGON,thekeyeventisblockageofaxoplasmictransportthatconveysneurotrophicfactor,whichregulatesactivationofcaspasecascade.Theblockageofaxoplasmictransportintheeyewasfirstlyfoundatthelaminacribrosaandthisfindingwaspublishedin1974.Howeverthelaminacribrosawasnottheonlysiteofblockage;in1981asecondblockagewasnotedattheopticnerveedge.Thesecondfindingwasimportantinexplainingvulnerabilityofnervefibersinhighmyopiaandend-stageglaucomaeyes.2)Inmyopiceyes,severalparametersmayaffecttheclinicalfeaturesofglaucomatousnervefiberlayerdefects.(77)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013959 Myopicdiscenlargementanddistortionoflaminartissuemayleadtofocalvulnerabilityofnervefibersandtoatypicalvisualfielddefects.Myopicectasiaoftheposteriorsegmentoftheeyecausesstretchingstressinnervefibers.Hereditaryassociationofhypoplasiaandhighmyopiamayleadtoinitialfewernervefibers,andatypicalvisualfielddefects.Myopicparapapillarychorioretinalatrophymayleadtoischemiaofadjacentganglioncellsandretinalnervefiberlayer.Intrachoroidalcavitationmayleadtolowoxygentensionandinsulttonervefibers.Finally,associationofmyopicneuropathyandglaucomatousneuropathymayenhancenervedamageinhighmyopia.Thesekindsofparametersmayexplainatypicalnervefiberlayerdefectsandthevulnerabilityofnervefibersineyeswithhighmyopiaandglaucoma.3)Indiabeticpatients,diabeticnervefiberloss(diabeticneuropathyintheretinalnervefiberlayer)istheretobeginwith.Glycationofmeshworkproteinsmayleadtoocularhypertension.Theassociationofdiabeticneuropathyandocularhypertensionindiabeticsmaybeariskfactorfornerveloss.Ontheotherhand,leakageofvascularendothelialgrowthfactorfromocularvesselsmayprotectneuronsfromapoptosis.FurtherstudiesarerequiredtoclarifywhetherornotdiabetesisariskfactorforGON.4)Concerningthetreatment,neuroprotectionisapromisingsubjectforstudy.Practicallysurgicalreductionoftheintraocularpressure(IOP)viaSchlemm’scanalordrainagetothesubconjunctivalspace(includingtubesurgery)istheprocedureofchoiceatthepresenttime.Thethirdroute,however,viasuprachoroidalspace,showspromiseasanewrouteandrequireselucidation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(7):937.960,2013〕Reprintrequests:EtsuoChihara,M.D.,Sensho-kaiEyeInstitute,50-1Minamiyama,Iseda,Uji-shi,Kyoto611-0043,JAPAN☆☆☆960あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(78)

涙道閉塞と視機能

2013年7月31日 水曜日

特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):929.936,2013特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):929.936,2013涙道閉塞と視機能LacrimalDuctObstructionandQualityofVision井上康*はじめに涙道閉塞による眼脂や流涙は強い不快感の原因となる.涙.鼻腔吻合術や涙管チューブ挿入術が奏効すれば,これらの症状が消失し,高い患者満足度が得られる.同時に自覚的な視力の改善を申告する症例を経験することも多い.点眼液を使用した直後に一時的な霧視が生じることを考えれば,過剰な涙液が視機能を障害することは容易に想像できる.また,読書など近方視時には高い涙液メニスカスが光学特性を悪化させることも納得できる.しかし,一般に涙道閉塞が視機能を障害する疾患であるとの認識は薄く,涙道閉塞と視機能に関する報告も数少ない.近年,波面センサーの眼科領域への導入により,眼高次収差の定量的かつ動的な測定が可能となり,さまざまな涙液動態における眼高次収差の変化について検討が行われている1.4).本稿では,総涙小管閉塞および鼻涙管閉塞の症例に対する涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術前後の眼高次収差の変化について提示する.I測定および解析方法眼高次収差の測定は術前と術後に,短焦点高密度波面センサー(トプコン)を用いて10秒間の開瞼の間,連続的に行った.瞳孔径4mmにおける術前後の全高次収差,コマ様収差および球面様収差の平均値,術前後のFluctuationIndex(総高次収差のばらつき),StabilityIndex(総高次収差の傾き)および全高次収差の経時的変化を「安定型」「動揺型」「のこぎり型」「逆のこぎり型」に分類し5),(,)術前後で比(,)較した.図1に(,)各型の典型例を示す.正常例では安定型ないしは動揺型を示すことが多く,のこぎり型はBUT(涙液層破壊時間)短縮型ドライアイに,逆のこぎり型は流涙症に認められることが多いと考えられている6).術後検査は術後4週のチューブ挿入中と術後8週のチューブ抜去後に行った.閉塞部の開放はシース誘導内視鏡下穿破法(sheathguidedendoscopicprobing:SEP)7)を用いて,チューブ挿入はシース誘導チューブ挿入法(sheathguidedintubation:SGI)8)を用いて行った.チューブはポリウレタン製PFカテーテルR(東レ)を使用した.II視力検査Landolt環を用いた視力検査の結果は,両群ともに術前後での有意差を認めなかった(図2)が,自覚的な見え方に関するアンケート調査では,見え方が改善したという回答が総涙小管閉塞群において70.9%,鼻涙管閉塞群において72.4%で得られた(図3).III涙液メニスカス高涙液メニスカス高は,総涙小管閉塞群において術前0.59±0.26mmから術後4週目のチューブ挿入中0.37±0.21mm,チューブ抜去後0.41±0.21mm,鼻涙管閉塞群において術前0.61±0.32mmから術後4週目のチュ*YasushiInoue:井上眼科〔別刷請求先〕井上康:〒706-0011岡山県玉野市宇野1-14-31井上眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(47)929 安定型動揺型全高次収差(4mm)y=-0.0007x+0.1200全高次収差(4mm)y=0.0103x+0.6860.50r2=0.05892.00r2=0.03660.400.300.201.601.20高次収差(μm)高次収差(μm)高次収差(μm)高次収差(μm)0.800.100.40001234567891012345678910測定回数測定回数のこぎり型逆のこぎり型全高次収差(4mm)y=0.0351x+0.091全高次収差(4mm)y=-0.0507x+0.7740.50r2=0.8194r2=0.80271.000.400.300.200.800.600.400.100.20012345678910測定回数0123図1眼高次収差連続測定の代表的パターン456測定回数78910LogMAR鼻涙管閉塞群LogMAR総涙小管閉塞群-0.057.9%9.3%64.5%61.6%27.9%27.6%-0.05■:悪化した■:著明に悪化した00.05:著明に改善した■:改善した■:不変-0.25-0.25NS-0.2NS-0.2-0.15-0.15-0.1-0.1術前術後0.1術前術後0.11.2%図2涙管チューブ挿入術前後の視力検査の結果(pairedt-test)鼻涙管閉塞群総涙小管閉塞群(n=79)(n=89)ーブ挿入中0.39±0.26mm,チューブ抜去後0.42±図3見え方に関する術後アンケートの結果0.22mmと有意に低下していた.図4に術前後の涙液メニスカス高の変化を示す.930あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(48) 鼻涙管閉塞群(n=79)1.5総涙小管閉塞群(n=89)1.5****涙液メニスカス高(mm)術前チューブチューブ術前チューブチューブ****1.31.31.11.1涙液メニスカス高(mm)0.90.90.70.70.50.50.30.30.10.1-0.1-0.1挿入中抜去後挿入中抜去後図4涙液メニスカス高の変化**:p<0.01,Friedman検定多重比較Scheffe.IV眼高次収差の変化波面センサーを用いた眼高次収差の変化については,全高次収差,コマ様収差および球面様収差の平均値は,両群ともに術前に比べ術後有意に減少していた(図5).全高次収差の経時的変化については,術前には瞬目後にピークを示し,その後徐々に低下する「逆のこぎり型」を総涙小管閉塞群の33.0%に,鼻涙管閉塞群の47.6%に認めた.術後「逆のこぎり型」を示した症例は総涙小管閉塞群の17.0%,鼻涙管閉塞群の18.3%であった.また,術後は「安定型」を示す症例が総涙小管閉塞群では13.6%から25.0%に,鼻涙管閉塞群では7.3%から19.5%に増加していた(図6).眼高次収差のばらつきを示す指標であるFluctuationIndexは両群において術後は有意に低下していた.傾きを示す指標であるStabilityIndexについても鼻涙管閉塞群において術後は有意に低下していた(図7).涙液メニスカス高と涙液メニスカス曲率半径の間には相関があり9),さらに涙液メニスカス曲率半径は涙液貯留量と相関することが報告されている10).したがって,術後の涙液メニスカス高の低下は涙液貯留量の減少を示していると考えられる.涙道閉塞により増加した涙液は瞬目直後に不均一な涙液層を形成し,高い眼高次収差の原因となり,経時的変化のパターンも「逆のこぎり型」を示す症例が多い.涙液貯留量の正常化によって,術後は各高次収差の平均値の減少,経時的変化のパターンの「逆のこぎり型」から「安定型」への移行およびFluctuationIndex,StabilityIndexの低下が得られた.瞬目直後の不均一な涙液層に起因する高い眼高次収差を減少させることで視機能が改善すると考えられる6).V涙液の質と高次収差の変化鼻涙管閉塞群では,術前の涙液に粘液もしくは膿が含まれており,総涙小管閉塞群の涙液と比較して粘性が高いことが推測される.粘度の高いチモロールイオン応答性ゲル化製剤(チモプトールRXE)の正常眼への点眼により,全高次収差および球面様収差が有意に増加することが報告されており11),鼻涙管閉塞群における眼高次収差の変化には涙液の粘性が関与している可能性もある.そこで今回,全症例のうち涙液メニスカス高の低下が(49)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013931 ************************総涙小管閉塞群(n=89)鼻涙管閉塞群(n=79)0.70.70.60.6RMS(μm)************0.50.5RMS(μm)0.40.40.30.30.20.10Total100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%0.20.10ComalikeSphericallikeTotalComalikeSphericallike:術前■:チューブ■:挿入中チューブ抜去後図5眼高次収差の平均値の変化**:p<0.01,Friedman検定多重比較Scheffe.RMS:rootmeansquare.鼻涙管閉塞群(n=79)総涙小管閉塞群(n=89)100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%:のこぎり型■:安定型■:動揺型■:逆のこぎり型術前術後術前術後図6眼高次収差の連続測定パターンの変化得られた症例を選択し,涙液メニスカス高の減少率と眼高次収差の平均値の減少率について検討してみた.涙液メニスカス高の減少率=(術前涙液メニスカス高.術後涙液メニスカス高)/術前涙液メニスカス高,眼高次収差(平均値)の減少率=(術前高次収差.術後高次収差)/術前高次収差として鼻涙管閉塞群と総涙小管閉塞群を比較検討した.図8に示すように,鼻涙管閉塞群と総涙小管閉塞群の涙液メニスカス高の減少率には有意な差はなかったが,全高次収差の減少率は鼻涙管閉塞群において有意に高かった.涙液量の減少に加えて涙液の質的な改善が高い高次収差減少率につながったと考えられる.932あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(50) 0.12鼻涙管閉塞群(n=79)0.10.1*FluctuationIndex0.120.020.020術前チューブチューブ0術前チューブチューブ挿入中抜去後挿入中抜去後総涙小管閉塞群(n=89)***図7aFluctuationIndexの変化*:p<0.05,**:p<0.01,Friedman検定多重比較Scheffe.0.080.08FluctuationIndex0.060.060.040.04鼻涙管閉塞群(n=79)0.0050.005チューブチューブ術前挿入中抜去後00StabilityIndex総涙小管閉塞群(n=89)チューブチューブ術前挿入中抜去後-0.01-0.01NS****-0.015-0.015図7bStabilityIndexの変化**:p<0.01,Friedman検定多重比較Scheffe.StabilityIndex-0.005-0.005VIチューブ抜去前後の比較チューブ抜去後に比べて,チューブ挿入中の涙液メニスカス高は低い傾向があったという報告もあり,チューブ挿入により導涙機能が増強されるのではないかという(51)疑問がある12).実際の臨床でも図9に示すように,涙道閉塞のない流涙症に対して行った涙管チューブ挿入術により,チューブ挿入中のみ流涙症が改善する症例を経験している.チューブにより涙点のアライメントが矯正されることが一つの要因であることは予測されるが,そのあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013933 (%)涙液メニスカス高の減少率(%)眼高次収差の減少率8080NS7070NS*NS60504030201006050403020100TotalComalikeSphericallike:鼻涙管閉塞群(n=68)■:総涙小管閉塞群(n=73)図8涙液メニスカス高の減少率(左)と眼高次収差(平均値)の減少率(右)(*:p<0.05,t-test)術前術後0.50r2=0.29800.50全高次収差(4mm)y=-0.0092x+0.272全高次収差(4mm)y=0.0009x+0.160r2=0.03770.100.10001234567891012345678910測定回数測定回数図9涙道閉塞のない流涙症に対する涙管チューブ挿入術(症例:76歳,男性,左眼)術前後の涙液メニスカス高(左)と高次収差連続測定パターンの変化(右).934あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(52)高次収差(μm)0.40高次収差(μm)0.400.300.300.200.20 (mm)涙液メニスカス高FluctuationIndexFluctuationIndex0.80.0600.7NS0.0500.60.0400.50.40.0300.30.0200.20.0100.10.00.000*:チューブ挿入中(n=141)■:チューブ抜去後(n=141)図10チューブ抜去前後の涙液メニスカス高の比較(左)とFluctuationIndex(右)の比較(*:p<0.05,pairedt-test)他のメカニズムに関しては今のところ不明である.鼻涙管閉塞群と総涙小管閉塞群のすべての症例について,チューブ挿入中とチューブ抜去後の涙液メニスカス高を比較してみた.涙液メニスカス高はチューブ挿入中のほうが低いが,有意な差は得られなかった.しかし,眼高次収差の比較では,FluctuationIndexのみではあるが有意な減少が認められた.これらの変化を図10に示す.もしもチューブが導涙機能を増強しているのであれば,閉塞部の再癒着を防止するためのステントとする従来の捉え方から,導涙機能を増強するためのデバイスとして認識することが必要になってくる.さらには原因不明の流涙症に対する診断的治療として発展する可能性も考えられる.この点は今後の大きな課題である.おわりに白内障手術および屈折矯正手術のみならず多くの眼科手術において,良い術後視力が期待できる時代になってきた.一方で,術後視力には満足しているが,ドライアイも含めた涙液に関わる愁訴を訴える症例が増加してきているようにも感じる.また,薬物療法の領域においてもanti-VEGF(血管内皮増殖因子)の登場により視力の改善を目指した治療が始まってきている.これらにより(53)得られた結果を最大限に生かし,治療に対する満足度を高めるためには涙液量を適正に管理することが必要である.ぜひ涙道領域の情報に興味をもち,日常診療に取り入れていただきたいと願っている.文献1)KohS,MaedaN,KurodaTetal:Effectoftearfilmbreak-uponhigher-orderaberrationsmeasuredwithwavefrontsensor.AmJOphthalmol134:115-117,20022)KohS,MaedaN,HirobaraYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginnormalsubjects.InvestOphthalmolVisSci47:3318-3324,20063)KohS,MaedaN,NinomiyaSetal:Paradoxicalincreaseofvisualimpairmentwithpunctualocclusioninapatientwithmilddryeye.JCataractRefractSurg32:689-691,20064)KohS,MaedaN,HirobaraYetal:Serialmeasurementsofhigher-orderaberrationsafterblinkinginpatientswithdryeye.InvestOphthalmolVisSci49:133-138,20085)高静花:涙液と高次収差.あたらしい眼科24:14611466,20076)井上康,下江千恵美:涙道閉塞に対する涙管チューブ挿入術による高次収差の変化.あたらしい眼科27:1709-1713,20107)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20078)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チュあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013935 ーブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,20089)OguzH,YokoiN,KinoshitaS:Theheightandradiusofthetearmeniscusandmethodsforexaminingtheseparameters.Cornea19:497-500,200010)YokoiN,BronAJ,TiffanyJMetal:Relationshipbetweentearvolumeandtearmeniscuscurvature.ArchOphthalmol122:1265-1269,200411)平岡孝浩:点眼薬と高次収差.あたらしい眼科24:14891495,200712)鈴木亨:光干渉断層計を用いた涙小管閉塞症術前後の涙液メニスカス断面積の測定.臨眼65:641-645,2011936あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(54)

光干渉断層計(OST)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価

2013年7月31日 水曜日

特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):923~928,2013特集●涙道領域―最近の話題あたらしい眼科30(7):923~928,2013光干渉断層計(OCT)を用いた涙液メニスカス高(TMH)の評価TearMeniscusHeight(TMH)EvaluationUsingOpticalCoherenceTomography(OCT)inLacrimalSurgery鈴木亨*はじめに眼表面の涙液は,その75~90%が上下の涙液メニスカスに分布するとされる1).上下のメニスカスのうち下方は涙道閉塞で著明に増大する場合があるのに対し,上方は重力によってある程度制限され,下方ほどの大きな変化はみられない.眼表面全体の涙液量を推察する手がかりとしては,下方涙液メニスカスの大きさを調べるのが合理的であろう.もちろん,流涙症状のすべてが眼表面の涙液量の問題だけで説明できるものではない.しかし少なくとも,下方の涙液メニスカスが涙道手術後に変化する現象は手術の涙液排出効果をよく反映すると考えられ,この経過を調べることは手術効率の他覚的評価の一助となりうる2).本稿では,普及型の後眼部用光干渉断層計(OCT)に前眼部アタッチメントを装着し,この下方涙液メニスカスの断面の高さ(tearmeniscusheight:TMH)を調べる簡便な方法と,その臨床応用例について述べる.I撮影の注意点とTMHの測り方1.撮影後眼部用OCTに前眼部用アタッチメントを装着し,涙液メニスカス断面を撮影する.筆者はフーリエドメインOCTRTVue(Optovue社)を使用しているが,各社で専用の前眼部用アタッチメントが用意されている.図1に実際の撮影の様子を示した.一般眼科診療では視力・眼圧検査が最初に行われるこ図1OCTを用いた涙液メニスカス撮影撮影は暗室でなくてもよい.被検者に向かってエアコンの気流が当たらないように配置する.とがルーチンとなっている場合があるが,TMH計測はすべての検査に優先して最初に行われなければならない.他の検査の刺激によるTMH変化を除外する必要がある.また,実際の測定では,患者に自然な瞬目を続けるように指示する.強制開瞼時や瞬目直後の像は本来のメニスカスといえない.検者は角膜の中央を通る切片で撮影できるようにセッティングを行い,画面で瞬目による涙液メニスカスの動きを観察しながらタイミングよく撮影する.患者のなかには,涙を拭いて眼科検査に備える習慣のある者も多数存在する.したがって,眼を拭かないで検査を受けるような指示も重要である.*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102北九州市若松区東二島4-7-1鈴木眼科クリニック0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(41)923 895μm図2TMHの測り方OCTで撮影できたメニスカス断面の上下いずれかの頂点から垂線を引き,その線の他方の頂点の高さまでの長さを測定する.Optovue社の機種の画面では縦横が反転して像が表示されるため,垂線は横方向となる.OCT検査後,細隙灯顕微鏡下に極小量フルオレセインで染色して眼表面を観察し,OCTで得られたTMHの値が実際に観察できるメニスカス像やその左右差と一致していることを確認する気配りも必要である.結膜弛緩が著明な症例ではTMHが測れないか,測れても値の再現性は低くなる.当院でこの検査を始めた当初は細隙灯顕微鏡所見と一致しない症例が多かったが,検査スタッフが慣れるに従って不一致症例は減少した.患者誘導に関して検者のラーニングカーブがあると考えられる.2.計測OCT画像では涙液メニスカス断面は歪んで写っている可能性があり,三角形の辺の長さを直接計測しても真のTMHとは限らない.眼球の前に想定した垂直面に投影される涙液メニスカス断面の高さをTMHと定義すべきである(図2).Optovue社の機種では,画面上で動かせる任意の2点間距離や面積の計測ソフトが内蔵されているので便利である.II日本人高齢者におけるTMHの分布白内障手術直前の高齢者日本人の226例419眼(平均年齢73歳)について,下方TMHの分布を調べた.検査はOCTで1回だけ行い,測定値の再現性や信頼性は無視してそのまま採用した.結膜弛緩症は対象に含まれているが,手術で問題となるような炎症性眼疾患や重症ドライアイ,涙洗で診断した涙道閉塞などは除外されて924あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013TMH(μm)2,000n=4191,8001,6001,4001,2001,0008006004002000図3日本人高齢者のTMH分布p=0.1500,Kolmogorov’sDtest:対数正規分布の適合度を検定するものでp値が小さい場合に対数正規分布からのデータという仮説が棄却される.対象419眼の平均年齢:73.3±7.9歳.男女比:1対1.2.箱ひげ図の中のひし形印が平均値を示す.おり,結果は軽症ドライアイを含む標準的な日本人高齢者集団についてのものと考えてよい.1.全体の分布図3に全体の結果を示した.高齢者集団の生理的TMH分布は対数正規分布であった.正規分布を前提とした平均値は331μmであるが,実際のデータ分布のピークは200μm台前半にあるので,日本人高齢者のTMHは約200μmといってもよい.この平均値と分布ピークのずれを知っておくことは,TMHの解析結果を判断するときに重要である.単純計算によるTMH平均値は実際に多くみられるデータの代表的数値ではなく,それよりも高い値と考えるべきである.合わせて示した箱ひげ図で判断すると,自然なTMH分布範囲は約62~632μmであった.これを超えて高いTMH(外れ値,すなわち統計的に不自然な範囲に分布するデータ)は14個存在したが,そのうち9眼で著明な結膜弛緩症や涙洗時の強い逆流がみられた.これらで説明のつかない外れ値を示したのは5眼で全体の1.2%と少なかった.(42) p<0.0001,ANOVA2,000n=6231,0001,8008001,6001,4001,200TMH(μm)600術前TMH(μm)4001,0002008000600女性男性図4男女別のTMH分布TMH平均値は男性で343.4±140.0μm,女性で286.1±142.5μm.2.男女差図4に男女別の結果を示した.TMHの分布には男女差がみられた(p<0.0001,ANOVA:analysisofvari4002000図5涙道疾患のTMH分布p=0.1323,Kolmogorov’sDtest.治療前のTMH平均値は603±308μm.02004006008001,0001,2001,4001,6001,8002,000n=623単涙小管閉塞近位涙小管閉塞遠位涙小管閉塞涙内癒着鼻涙管閉塞機能性流涙術前TMH(μm)ance).対象にはドライアイ治療中の症例も含まれているが,白内障手術が困難なほどの重症例はない.高齢者のドライアイおよびその疑い有病率は高く,また一般にドライアイが女性に多いことがTMH分布の男女差に影響したと考えられる.III涙道疾患におけるTMHの分布当施設で2010年5月から2013年1月までに治療した連続症例涙道疾患のうち,治療前にTMHが記録されていた471例623眼について,その値の分布を調べた.図6閉塞病型別のTMHそのなかで,治療後の経過良好例でTMH記録のある174例216眼について,治療前後のTMH分布を比較した.治療内容は,軽症例に対する涙石の洗浄除去から重症例に対する涙.鼻腔吻合術まで,涙.摘出以外の全種類の涙道治療を含む.1.治療前TMHの分布図5に治療前の全体の結果を示した.涙道疾患におけるTMHの分布は最大1,870μmまで記録されており,全体では生理的な場合と同様に対数正規分布となった.データ分布のピークは300~600μmの範囲に存在した.2.病型別にみた治療前TMHの分布病型別ごとのTMH分布を図6に示した.全体の比較(43)p=0.3522,ANOVA.閉塞病型は術中所見を考慮に加えて分類した.図中に各群の平均を結んだ線を示した.単涙小管閉塞:上下どちらかの涙小管のみ機能している44例,近位涙小管閉塞:涙点閉鎖を含むGrade3の26例,遠位涙小管閉塞:Grade1と2の252例,涙.内癒着:総涙小管まで異常がなく,かつ術中に涙.内腔の内腔が確認できなかった9例,鼻涙管閉塞:涙点・涙小管に異常がなく,かつ術中に涙.内腔が確認できた264例,機能性流涙:内視鏡検査で涙道内に有意な狭窄がみられなかった31例,その他:涙小管外傷1例と涙小管炎1例.でTMH分布には有意差はみられなかったが,鼻涙管閉塞群と他の群との個別比較においても有意差はみられなかった.上田らはメニスコメータを用いて涙道閉塞におけるメニスカス解析を行い,涙小管閉塞では鼻涙管閉塞よりメニスカスが大きいと報告(涙道閉塞部位の涙液メあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013925 p<0.001,pairedt-test涙管チューブ挿入術(NLDI)の術後経過を比較した.2001,000900n=2167006005004003002001000治療前治療後図7治療前後でのTMH平均値変化800TMH(μm)TMH平均値は治療前596±311μm,治療後最終観察時321±139μm.2.患者選択と研究方法先に図5でTMH分布を示した涙道疾患対象群のなかから,涙点・涙小管に異常のない鼻涙管閉塞症を選択し,術後6カ月以上観察できた124眼の経過記録を調べた(ただし早期再発症例は含めた).術式はXDCR24例,EDCR61例,NLDI39例であった.まず術後の通水か通色素検査の記録を調べ,涙道開存性について調べ1.00.80.60.4生存率0.20.0術後観察日数図8術式別の術後涙道開存率:XDCR24例,:EDCR61例,:NLDI39例.XDCR,EDCR,NLDIの3つの術式においてチューブを使用した症例数はそれぞれ3例,28例,39例で,平均留置期間はそれぞれ69日,36日,62日であった(p<0.0001,ANOVA).術後平均観察期間は,それぞれ349日,331日,306日で有意差はなかった.術後開存率には3群間で有意差があった(p<0.0001,log-ranktest).700600*0100200300400500600700800900500TMH(μm)400300ニスカスに及ぼす影響:第62回日本臨床眼科学会抄録集,p.215,2009)しており,今回の結果と異なる.結果の不一致は対象の違いによると考えられる.上田らの対象が涙管チューブ挿入術で対応できた軽症例に限定しているのに対し,今回の対象にはDCRとその類の手術で対応せざるをえなかった重症例が630例中251例含まれている.鼻涙管閉塞では,涙.内の貯留粘液が重症度に応じたさまざまな程度に涙小管に逆流してきている.重症例では,涙小管にも粘液による塞栓があると考えられ,したがって重症例を多数含むとTMH分布には涙小管閉塞と差がみられなくなると考えられる.3.治療前後でのTMH分布比較図7に,涙道治療後に6カ月以上観察して経過良好と判断した216眼の治療前後でのTMH比較を示した.TMH平均値は,術前に596μmであったものが術後最終観察時に321μmとなり有意に減少した(p<0.0001,pairedttest).先に図3で示した日本人高齢者のTMH平均値331μmとほぼ同等の値が得られた.涙道治療が奏効すると,TMHが正常化することが示された.*p=0.0110,ANOVA100IVTMH推移からみた鼻涙管閉塞症治療経過の検討1.目的鼻涙管閉塞症に対する3つの治療法,涙.鼻腔吻合術鼻外法(XDCR),涙.鼻腔吻合術鼻内法(EDCR),鼻926あたらしい眼科Vol.30,No.7,20130術前1W1M3M6M術後観察日数図9術後開存例における術式別TMH平均値の推移:XDCR17例,:EDCR41例,:NLDI13例.TMH平均値の3群間比較では術前から術3カ月後までは差がなかったが,術6カ月後では有意な差があった(p=0.0110,ANOVA).(44) た.つぎに,涙道の開存を確認できた症例について,術前と術後1回目再来時(5~7日目),術1カ月後,術3カ月後,術6カ月後のTMH記録すべてに欠損データのない71眼のTMH平均値推移を調べた.3.結果図8に術後の涙道開存性を示した.結果として,NLDI群で最も開存率が悪かった(p=0.0001,log-ranktest).しかし,図9に示した術後TMHの推移ではNLDIで最も早い改善がみられており,術後6カ月目の3群間比較ではNLDI群のTMHが240μmで有意に低かった(p=0.0110,ANOVA).これは日本人高齢者の生理的TMH平均値331μmより低い.4.結論と考察涙小管に異常のない鼻涙管閉塞症における治療法の比較では,NLDIの術後開存率は不良であった.しかし,開存している症例に限ってみればNLDI後のTMHは,XDCRやEDCRの後と比較して有意に低かった.説明理由には2つ考えられる.一つにはNLDIでは涙.が保存されるため,涙.ポンプ作用のため眼表面の涙液排出力が強い可能性がある.もう一つには,NLDI奏効例ではもともとドライアイの後に鼻涙管閉塞となった症例が多数あった可能性があり,したがって治療後にドライアイの傾向が再現されたのではないかと考えられる.ただし症例選択にはバイアスがある.筆者は,おもにmicrorefluxtest3)陽性の症例にDCRを,陰性の症例にNLDIを適用しているので,DCR群では涙.が拡張している症例が多くNLDI群では涙.の拡張がない症例が多い.おわりに涙液メニスカスに関するパラメータ解析はMainstoneによって始められた4).Mainstoneは涙液メニスカスの断面写真を撮って,その奥行(TMW)や面積(XSA),高さ(TMH),前方面の曲率(TMC)を計測してドライアイの診断に役立てようとした.その結果,ドライアイの診断指標としてTMCが最も優れることが示され,横井のメニスコメトリー5)へと道を開いた.メニスコメトリーは信頼性が高く,ドライアイのみならず流涙症状の解析においても優れる可能性がある.しかし検査機器が一般販売されていないので,特定の施設以外では検査の実施が困難である.一方,Mainstone以降は涙液メニスカスのパラメータ解析にOCTが導入されるようになり,普及型の眼科一般検査機器でTMHを計測できる方法へと道を開いた.筆者は,当初はXSAを指標としてメニスカス解析を試みたが,サンプル集団のXSA値の偏りが不自然で解析が複雑になることや,XSA値から直感的に涙液メニスカスの様子を想像できないことなど,日常の臨床では困難があった2).その点TMH値は,本編で示したようにデータ群が綺麗な対数正規分布に従うので取り扱いが容易なこと,細隙灯顕微鏡で観察できるメニスカスの様子を直感的に表現してわかりやすいことなどの利点がある.また何より,眼科スタッフなら誰でも検査ができ,視力検査のように医師は結果をみるだけでよいという大きな利便性がある.この方法の欠点としては,瞬目の影響や結膜の弛緩状態など測定誤差要因が多く,測定精度に関する検証も行われていないことがあげられる.しかしこの方法で,健常眼や涙道疾患を伴う眼のTMH分布の知見が得られた.また,涙道手術後のTMH経過からこれまで知られていなかった術式の特性も明らかにすることができた.結果の妥当性から,日常臨床での眼表面涙液量の解析には,この方法で十分と考えられる.今後はこの方法でさまざまな涙道治療効果の客観的評価が行われ,さらにはその結果から術式選択に際して参考となる新しい知見が得られることが期待される.流涙症には,眼表面涙液量が増加して涙が眼瞼縁を超えて零れ落ちる症状以外にも,さまざまな感覚異常が含まれている.涙液量は増加していなくても,涙液自体の質的な問題(眼脂による涙液の粘稠性)や,結膜.が涙液以外のものに占拠される不快感,あるいはマイボーム腺の異常に起因する眼瞼縁の不快な感覚なども含んでいるとみられる.したがって,TMH計測だけから流涙症を診断することはできない.あくまでも,眼表面涙液量が涙道の異常や治療介入で変化する様子を捉えるだけである.OCTで調べたTMHがドライアイ並みに低いからといって,流涙症を否定するようなことがないように配慮したい.(45)あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013927 文献1)ShenM,LiJ,WanJetal:Upperandlowertearmenisciinthediagnosisofdryeye.InvestOphthalmolVisSci50:2722-2726,20092)鈴木亨:光干渉断層計を用いた涙小管閉塞症術前後の涙液メニスカス断面積の測定.臨眼65:641-645,20113)CamaraJG,SantiagoMDD,AtebaraNH:Themicrorefluxtest:Anewtesttoevaluatenasolacrimalductobstruction.Ophthalmology106:2319-2321,19994)MainstonJC,BruceAS,GoldingTR:Tearmeniscusmeasurementinthediagnosisofdryeye.CurrEyeRes15:653-661,19965)YokoiN,BronAJ,TiffanyJMatal:Reflactivemeniscometry:anon-invasivemethodtomeasuretearmeniscuscurvature.BrJOphthalmol83:92-99,1999928あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(46)