‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

タブレット型PCの眼科領域での応用 2.眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか-その1-

2012年7月31日 火曜日

シリーズ②シリーズ②タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第2章眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか─その1─■情報端末としてのタブレット型PC第2章では実際の臨床業務において,どのようにタブレット型PCを活用するか,またなぜ眼科領域において有用であるかを私の実践例を踏まえて紹介していこうと思います.おもに有用なポイントは,まず必要な情報にきわめて迅速にアクセスできる携帯可能な情報端末である点,そして患者の視機能に合わせたオーダーメイドな設定が可能で,必要な情報を最も理解しやすい方法で提供できる点の2点です.本章では,情報端末としてのタブレット型PCの利点を紹介しようと思います.なお,私が現在GiftHandsの活動や実際に外来で扱っている電子タブレットは,すでに医療現場に導入例のあるiPadRとiPhoneR(AppleInc.)の最新機種である“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年5月30日現在).■私の実践活用法「マニュアル編」では,実際の使用法について紹介していきます.私は初期研修医の頃,上級医に「わからないことがあったら,すぐに図書館へ行って調べて来なさい.最良の医療行為とは中途半端な記憶に頼った医療ではなく,しっかりとした最新の情報を常に確認したうえで成り立つのだよ.図書館に通う手間を,面倒臭がってはならない.」と何度も言われたのを覚えています.しかし,多くの臨床眼科医は自分の経験と記憶を頼りに日々の多忙な外来業務に追われているのが現状です.私も入局当初に配布された多くのポケットマニュアルを白衣のポケットに忍ばせていますが,実際にそれらを使用する機会は非常に少ないと言えます.その理由の一つは,必要な情報までのアクセスの過程が煩雑であり,情報の必要度よりも煩雑さが優先されてしまうためです.(83)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1各マニュアルの一覧表示(左)と各ページの縮小表示(右)iBooksR(AppleInc.より許可を得て転載)しかし,タブレット型PCの導入後はそれらの煩雑さから解放され,私の毎日の診療は安全で快適なものへと変化しました.眼科診療にかぎらず臨床の外来業務では,医師が単独で診察,診断,治療を行う機会は非常に多く,医療レベルが自分の知識量と経験値に左右されるところが大きいのは事実であり,必要な情報の確認が迅速かつ簡便に行えることは医療水準の向上に直結すると言えます.私は現在,外来診療中に必要なマニュアルやガイドランはすべてPDF形式で入手して,タブレット型PCで閲覧しています.代表的な電子書籍閲覧アプリであるiBooksR(AppleInc.)を用いると,取り込まれたPDFデータはまるで本棚に並んだ書籍から本を選ぶように簡単に閲覧でき,また本文の各ページの内容も縮小化された一覧表示のなかから直感的かつ迅速に選択することが可能です(図1).ポイントはタブレット型PCの起動からアプリ,書籍,ページの選択までのステップをほんの数秒で行うことが可能であることです.このためこれまでポケットに埋もれていたマニュアルやガイドラインはあたらしい眼科Vol.29,No.7,2012959 非常に実践的なアイテムとして,毎日の診療の非常に頼もしい存在へと変化しました.また,電子化された教科書やポケットマニュアル内に病状説明などで使いやすい図表を見つけた場合,必要なサイズに拡大したうえで,スクリーンショットという操作(ホームボタンと電源ボタンの同時押し操作:iPadR)で簡単に表示された画像を画像データとしてストックすることができます.各疾患別に必要な画像を集めた自分だけの画像マニュアルやムンテラ用画像集を瞬時に作成でき,持ち歩くことができるのもタブレット型PCの強みです.なお,私が臨床で活用している眼科の外来マニュアルは,参天製薬株式会社のホームページ(http://www.santen.co.jp/jp/index.jsp)内の医療関係者向けの情報部門でPDF化された各種ポケットマニュアルとして入手することが可能です.そして非常に扱いやすく安価なアプリケーションソフトが日々生まれ続けていることもタブレット型PCの長所の一つです.ジェネリック医薬品が多く流通している昨今では,常に最新の医薬品情報を電子書籍として持ち歩くのは至難の業です.しかし,出張先の外来で処方経験のない薬剤などに出会った場合も,添付文書HDR(ObjectGraph)というアプリがあれば常に最新の添付文書の原文を閲覧することができ非常に安心です.「新しい薬に出会ったら,必ず一度は添付文書を読むように!」これも初期研修医時代の指導医の口癖でしたが,実践するのはなかなか難しいのが現状です.■私の実践活用法「教科書編」ここまで簡易マニュアル的な使用法を紹介しましたが,眼科学の教科書もいくつか正式なアプリケーションソフトとして発売されています.現在発売されている眼科の教科書アプリはエルゼビア・ジャパン株式会社から発売されている「カンスキー臨床眼科学原著第5版」,「角膜テキスト」,「角膜アトラス原著第2版」の3冊のアプリ版が存在しています.これらの教科書アプリは価格が紙ベースの物よりも安く,常に持ち運べるため非常に便利です.しかし,これらアプリの真の価値は,検索能力の高さと画像の解像度の高さにあります.通常の教科書では記載内容は目次から探すことになるのですが,アプリ版の教科書では本文全文に対するキーワード検索960あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012図2アプリ内の検索結果表示(左)と結果画像の一部を拡大しての閲覧(右)(KrachmerJH,PalayDA:CorneaAtlas2ndEdition,Edinburgh,ElsevierLtd,2006;坪田一男監訳:角膜アトラス原著第2版アプリ版,2010,エルゼビア・ジャパンより許可を得て転載)が可能です.たとえば“樹枝状”と検索ワードを入力すると本文内のすべての文字が検索対象として結果が表示されます.この機能は紙ベースの教科書では不可能であると同時に,実は臨床所見から疾患を調べるのに一番必要な機能でもあるのです.また,アプリ版の教科書では画像を拡大して閲覧することが可能なので,実際の所見と比較する場合にも非常に便利です(図2).「一度も見たことのない所見は,一生見つけられない.」これは眼科医になった頃によく言われた言葉ですが,タブレット型PCに表示された拡大画像を診察時に並べてみると,その言葉の大切さを再度実感させられます.これらはタブレット型PCの臨床業務への導入事例のごく一部ですが,タブレット型PCの登場によりわれわれの毎日の診療行為が,より安全で医療水準の高いものへと変化すると私は信じています.本文中に紹介しているアプリ等はすべてGiftHandsのホームページ内の新・活用法のページに掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問等はGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(84)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 110.硝子体出血併発増殖糖尿病網膜症における超音波Bモード検査(初級編)

2012年7月31日 火曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載110110硝子体出血併発増殖糖尿病網膜症における超音波Bモード検査(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●硝子体出血例に対する超音波Bモード検査増殖糖尿病網膜症(PDR),網膜静脈閉塞症,裂孔原図1不完全後部硝子体.離例視神経乳頭部位で硝子体が癒着し,後部硝子体腔に出血を認め性硝子体出血など,硝子体出血をきたす疾患には種々のる.ものがあるが,硝子体手術の術前には超音波Bモード検査で眼底の状態を予測することが必須である.特にPDRでは,手術の難易度が症例により大きく異なるので,より詳細に検査を施行する必要がある.●PDRにおける超音波Bモード検査所見の読み方手術の難易度が低いのは後部硝子体.離が生じ,後部硝子体腔に出血が貯留している症例である.超音波プローブを眼瞼に接触させたまま眼球運動を行うと後部硝子体膜は大きく可動する.視神経乳頭と連続性がない完全後部硝子体.離例では診断は容易だが,PDRでは視図2肥厚した後部硝子体膜神経乳頭と硝子体が癒着している不完全後部硝子体.離一見,網膜.離のように見えるが,実際に手術を施行してみる例も多い.後部硝子体腔に出血を認める症例では診断はと肥厚した後部硝子体膜を広範囲に認めた.容易だが(図1),後部硝子体腔の出血が少なく後部硝子体膜が肥厚している症例では可動性も少なく,一見,網膜.離のように見えることがある(図2).通常PDRで生じる牽引性網膜.離はXサイン(図3)あるいはYサインとして描出されることが多いが,網膜.離を疑わせる所見を広範囲に認める例では,裂孔併発型牽引性網膜.離を念頭におく必要がある.●6方向の超音波Bモード検査は必須PDRに生じる牽引性網膜.離は視神経乳頭周囲よりも血管アーケード周囲で丈が高くなっていることが多いので,視神経乳頭を含む水平断,垂直断のみでは不十分で,必ず視神経乳頭の上方下方および耳側鼻側の断面も図3牽引性網膜.離例テント状に.離した網膜と,それに癒着する後部硝子体膜によ撮影する必要がある.すなわち,最低でも6枚の断面をりX型の陰影を呈している.撮影し,1枚のシートに整理することで,眼底の概要を予測することが重要である.解像度の良い超音波Bモー硝子体癒着部位や牽引性網膜.離の範囲をかなり正確にド装置を用い各スライスを詳細に描出することで,網膜予測することができる.(81)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129570910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 139.強度近視とゲノム

2012年7月31日 火曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第139回◆眼科医のための先端医療山下英俊強度近視とゲノム三宅正裕(京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学)はじめに近視は日本を含んだ東アジア地域に多く,統計によっては40.70%の人が罹患しているともいわれます.必然,強度近視の頻度も高くなりますが,強度近視は法的失明につながるため公衆衛生上の大きな問題として関心が集まっており,事実,先進国における法的失明の原因として第4.7位に位置します1).また,一口に強度近視による失明といってもその原因となる合併症は多彩で,近視性脈絡膜新生血管,近視性網脈絡膜萎縮,近視性視神経症,網膜.離などがあげられますが,それら合併症の根本的な原因はおろか,なぜ強度近視が発症するのかについてもほとんどわかっていません.ゲノム学は,この謎の解明にどこまで迫っているのでしょうか.ゲノム学というと難解なイメージをもたれる方も多いかと思いますが,実際のところは単純な症例対照研究の繰り返しで,症例群と対照群において特定の変異をもつ頻度を比較します.とはいえ,ヒトのゲノムのなかには数百万個単位の変異がありますので,家系内データを用いることでノイズを減らしたり,統計学的な処理によってエラーを減らしたり,などといった方法が用いられています.近年,技術の進歩により膨大なデータを短時間で得られるようになってきたことから,近視の遺伝子解明は間近だろうと多くの研究者が予想していました.しかし,実際はそうではなかったのです.近視ゲノム研究の歴史まず,近視のゲノム研究の歴史について振り返ってみると,初めて近視に関連する遺伝子座(染色体における大まかな位置)が報告されたのが1990年でした2).報告されたXq28という領域はMYP1ともよばれるようになり,その後,1998年にMYP2(18p)とMYP3(12q)が報告されてからは,つぎつぎと近視に関連するとされる遺伝子座が報告されるようになります.MYP20以降は,それまで主流であったマイクロサテライトとよばれるマーカーを用いた連鎖解析という手法に代わってゲノムワイド関連解析や全エキソーム解析といった手法が用いられ3,4),2012年1月現在,計21個の遺伝子座が特定されています.ところが,こと遺伝子レベルでみると,近視または強度近視の発症と関連するものは1つも確定していません.候補遺伝子アプローチもっとも,近視あるいは強度近視の発症との関連が示唆された遺伝子そのものはたくさんあります.特に,従来強度近視の発症に強膜の脆弱化が関与すると報告されていることから強膜のリモデリング5)に関連する分子に関してはよく調べられており,コラーゲン分子そのものをはじめとして,コラーゲンを分解するmatrixmetal-lopeptidase(MMP),MMPを阻害するTIMPmetallopeptidaseinhibitor(TIMP),MMPなどを活性化する働きをもつhepatocytegrowthfactor(HGF)とその受容体であるmetprot-oncogen(MET),線維化を促進するtransforminggrowthfactor-b(TGFb),さらにはプロテオグリカンの一種であるlumican,decorin,fibromodulinから細胞骨格に関与するmyocillinまで,種々の分子が研究の対象となっています(表1).実際,これらのうちの多くは一報以上の論文で近視との関連が表1強度近視発症のおもな候補遺伝子強膜リモデリングCOLコラーゲンMMPコラーゲンを分解TIMPMMPを阻害HGFMMPなどを活性化cMETTGFb線維化を促進FGF2線維芽細胞分裂促進などLUMDCNプロテオグリカンFMODMYOC細胞骨格との関与発生PAX6眼球発生のマスター制御遺伝子SOX2PAX6とともに水晶体の発生に関与動物実験などよりCHRM1ムスカリン様コリン受容体IGF1インスリン様成長因子GCGグルカゴンEGR1ピントのずれを感知RARbレチノイン酸受容体(77)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129530910-1810/12/\100/頁/JCOPY 報告されているのですが,しかし同時に,一報以上の論文でその関連が否定されています.これの意味するところは偽陽性であり,出版バイアスも考えるとなおのこと陽性とはいいがたい状況です.このように,ターゲットとなる分子を絞って解析を行う手法を候補遺伝子アプローチといいます.ゲノムワイド関連解析候補遺伝子アプローチに関しては前述しましたが,このアプローチでは予想外の分子パスウェイが関与していた場合に検出不可能であることに加えて,解析効率がさほど良くないという問題点がありました.そこで2000年代後半に登場した手法がゲノムワイド関連解析(GWAS)です.これは全ゲノムにわたって同時に大量の一塩基多型(SNP)を検出・解析する手法で,30万.250万個のSNPの遺伝子型を一度に決定し,それぞれの頻度を症例群と対照群で比較します.当然,これだけの検定を行うとその多重性が問題となりますので,偽陽性を防ぐため,有意とするp値は厳しく設定します.実際にはそれでも偽陽性が多く含まれてしまいますので,解析を行ったサンプルセットとは異なるサンプルセットを用いての確認実験を行うのが一般的です.筆者ら京都大学のグループは,2009年に世界に先駆けて強度近視発症に関するGWASを行い,関与が疑われる遺伝子座を報告しました6).残念ながらこの遺伝子座は後の報告で関与が確認されませんでしたが,この後,筆者らのグループを含むいくつかのグループから数本の報告がなされ,筆者らのグループが報告したCTNND2遺伝子7)や,NatureGenetics誌に報告された15q14,15q25領域8,9),中国のグループから報告された4q25領域10)は,他のグループによりその関与が確認されています.今後,さらなる追試を行ったうえで,実際にどういった遺伝子が関与しているのかを詳しく解析していくことになるでしょう.近視ゲノム研究の今後さらなるステップとしてあげられるのが次世代シーケンサーを用いた解析です.これにより,たとえば2週間あれば600Gb(ヒトゲノム200人分相当)の配列を決定することが可能となります.その情報量の多さゆえ,実験そのものよりもその後の解析処理(バイオフィンフォマティクスという分野になります)への負荷が非常に多954あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012くなることが予想されますが,バイオインフォマティクスを専門的に行っている研究者の数は多いとはいえず,今後解析を大規模に行っていくうえではそれら研究者の育成,あるいは各分野におけるバイオインフォマティクス基礎知識の向上が課題となります.ゲノム学は,加齢黄斑変性を筆頭としてさまざまな疾患の感受性遺伝子を同定してきました.しかし,強度近視の発症に関しては,種々の研究がなされているにもかかわらず,感受性遺伝子の特定に至っていません.もっとまれな遺伝子変異が関与しているのか,そもそも遺伝子変異ではなくエピジェネティクスやさらに下流が関与しているのか,など考えられる可能性はたくさんありますが,次世代シーケンサーの登場によって大量のシークエンスデータを短時間で得られるようになってきていることから,これらの可能性が検討されるのもさほど遠くないでしょう.一方で,近視の概念を根本的に考え直す必要もあるかもしれません.つまり,これまで(強度)近視は一つの疾患として扱われてきましたが,実際には「眼軸が伸長する」という表現型を示す多数の疾患の集合体であり,一括りにして解析を行うのは不適切かもしれない,ということです.果たして遺伝子は,近視にどれほどの影響を与えているのか(あるいは与えていないのか).答えが出るのはもう少し先になりそうです.文献1)SawSM:Asynopsisoftheprevalenceratesandenvironmentalriskfactorsformyopia.ClinExpOptom86:289294,20032)SchwartzM,HaimM,SkarsholmD:X-linkedmyopia:Bornholmeyedisease.LinkagetoDNAmarkersonthedistalpartofXq.ClinGenet38:281-286,19903)ShiY,QuJ,ZhangDetal:Geneticvariantsat13q12.12areassociatedwithhighmyopiaintheHanChinesepopulation.AmJHumGenet88:805-813,20114)ShiY,LiY,ZhangDetal:ExomesequencingidentifiesZNF644mutationsinhighmyopia.PLoSGenet7:e1002084,20115)RadaJA,SheltonS,NortonTT:Thescleraandmyopia.ExpEyeRes82:185-200,20066)NakanishiH,YamadaR,GotohNetal:Agenome-wideassociationanalysisidentifiedanovelsusceptiblelocusforpathologicalmyopiaat11q24.1.PLoSGenet5:e1000660,20097)LiYJ,GohL,KhorCCetal:Genome-wideassociationstudiesrevealgeneticvariantsinCTNND2forhighmyopiainSingaporeChinese.Ophthalmology118:368-375,20118)HysiPG,YoungTL,MackeyDAetal:Agenome-wideassociationstudyformyopiaandrefractiveerroridentifies(78) asusceptibilitylocusat15q25.NatureGenet42:6-10,20109)SoloukiAM,VerhoevenVJM,vanDuijnCMetal:Agenome-wideassociationstudyidentifiesasusceptibilitylocusforrefractiveerrorsandmyopiaat15q14.NatureGenet42:897-901,201010)LiZ,QuJ,XuXetal:Agenome-wideassociationstudyrevealsassociationbetweencommonvariantsinaninter-genicregionof4q25andhigh-grademyopiaintheChineseHanpopulation.HumMolGenet20:2861-2868,2011■「強度近視とゲノム」を読んで■三宅正裕先生が書かれた論文中には,2つの重要なもう一つは,近視という疾患の理解です.本文の最問題が示されています.後に,高度近視という疾患の概念を考えなおす必要が一つは,ゲノムワイド関連解析(GWAS)についてあると述べられています.近視という疾患は,1864です.本文中に述べられているように,GWASは最年のCohnによる環境説,1900年のThoringtonによ近実用化された遺伝子解析方法です.その有用性は早る内因説の発表以来,常に環境か遺伝か(natureverくから指摘されていましたが,最も華々しい成果が,susnurturecontroversy)として論争されてきまし多領域に先んじて眼科領域であげられました.それはた.高度近視の場合は,遺伝要因が強いと考えられ,complementfactorH(CFH)と加齢黄斑変性の関係原因遺伝子の特定に多くの研究がなされてきました.です.加齢黄斑変性の発症にCFHが関連しているこその間の経緯や進歩については本文にわかりやすくまとは現在は常識ですが,これはまったく予想されていとめられています.あえて付け加えるとすれば,近視なかった概念であり,GWAS解析によって初めても研究のむずかしさは,近視関連遺伝子は眼球構造関連たらされた大発見です.この発見に基づいて研究が進遺伝子だけでなく,近視の子供を育てる(読書,室内められた結果,CFHの関与はゆるぎないものとなり生活を好む行動)遺伝子も含んでいる可能性がある点ました.この発見そのものが眼科研究におけるGWASにあるといわれています.の有効性を証明したためか,GWASは現在も盛んに科学の進歩により疾患の理解が大きく進みます.そ用いられています.GWASにより,疾患遺伝子のみの点に関してGWASはまさに現在の主役となっていでなく治療感受性遺伝子が発見されると,より多くのます.近視研究については,GWASにより疾患の理患者が研究の恩恵にあずかることができます.たとえ解が進み,新しい考え方が必要になってきています.ば,C型肝炎患者は,インターフェロン治療の感受性面白いことに,疾患の理解が進めば進むほど,先人のに差がありますが,それに遺伝子型が関連しているこ優れたnatureversusnurtureという考え方の重要性とがGWASにより発見され,治療適否判断に用いらが再認識されるようです.れています.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆(79)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012955

抗VEGF治療:Bevacizumab,Ranibizumabの薬物動態と効果発現

2012年7月31日 火曜日

●連載②抗VEGF治療セミナー─基礎編─監修=安川力髙橋寛二2.Bevacizumab,Ranibizumabの三木克朗関西医科大学附属枚方病院眼科薬物動態と効果発現現在,眼科領域で使用されている抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor:血管内皮増殖因子)抗体は,bevacizumab(アバスチンR)とranibizumab(ルセンティスR)である.Bevacizumab,ranibizumabの効果について,筆者が行った基礎実験をもとに分子生物学的見地から概説する.抗VEGF抗体は,加齢黄斑変性に代表されるさまざまな疾患(近視性脈絡膜新生血管,糖尿病黄斑浮腫など)に使用されている.抗VEGF抗体は,VEGFと特異的に結合し,過剰なVEGFが引き起こす眼内新生血管を抑制するとともに血管透過性亢進をも抑制する.Bevacizumabは,全長ヒト化抗VEGF抗体として,1996年切除不能な結腸,直腸癌に対する腫瘍抑制効果を目的として開発された世界初の抗VEGF抗体医薬である.眼科領域のbevacizumab投与は,米国FDA未認可の状態で加齢黄斑変性に使用され始めた.しかし,bevacizumabは抗体全長の構造をもつため分子量が大きく,加齢黄斑変性の新生血管発生部位である脈絡膜に直接侵入できない可能性が懸念された.このため,1998年に分子量が小さく,VEGF結合能の高いranibizumabが,加齢黄斑変性を適応とする硝子体内投与する眼科製剤として開発された.Bevacizumabとranibizumabの特徴と薬物動態の相違について表1に示す1).筆者らは,bevacizumab,ranibizumabの硝子体内投与における効果を,2種類のトランスジェニックマウス(Rho/VEGFmice,Tet/opsin/VEGFmice)を用いて実験的に比較検討した2).Rho/VEGFmiceは,視細胞にヒトVEGFを発現し網膜下新生血管が生じる,網膜血管腫状増殖((165)retinalangiomatousproliferation:RAP)のモデルである(図1).Tet/opsin/VEGFmiceは,Tet/onsystemにより遺伝子発現がコントロールできることが特徴で,ドキシサイクリン(2mg/mL)を経口投与すると,Rho/VEGFmiceの約30倍のヒトVEGF165が視細胞から発現し,投与後5日で著明な網膜内新生血管と90%のマウスに網膜.離が発生する(図2).これらのトランスジェニックマウスの特徴は,ほかの加齢黄斑変性モデルマウスと異なり,代表的な血管新生を引き起こす分子であるヒトVEGF165を発現することであり,より臨床的な薬物効果の解析が可能である.筆者らの実験では,生後14日齢のRho/VEGFmiceに対し,bevacizumab,ranibizumabを硝子体内投与し,投与後1,2,3週後における網膜下新生血管の面積を比較した.Bevacizumab投与群は同濃度のranibizumab投与群と比較して,新生血管抑制効果が強く,抑制持続期間が長いことがわかった.続いて,生後14日齢のRho/VEGFmiceに対し同濃度(10mg/mL)のbevacizumab,ranibizumabを5日おきに連続3回硝子体内投与し,両者の全身移行性について調べた.結果はbeva表1Bevacizumabとranibizumabの特徴と薬物動態の相違Bevacizumab(アバスチンR)Ranibizumab(ルセンティスR)構造ヒト化モノクローナルIgG1全長抗体ヒト化Fabfragment分子量149kDa48kDaVEGFとの結合能1Bevacizumabの4~6倍VEGF結合部位21硝子体内投与後の4.9日2.8~3.2日硝子体内濃度半減期(1.25mgBevacizumab硝子体内投与)(0.5mgRanibizumab硝子体内投与)硝子体内投与後の6.9日3.5日血中濃度半減期(1.25mgBevacizumab硝子体内投与)(0.5mgRanibizumab硝子体内投与)(文献1,tabel5より改変)(75)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129510910-1810/12/\100/頁/JCOPY PBSBVZ10mg/mLRBZ10mg/mL図1Rho/VEGFmiceにおける新生血管抑制効果視細胞にヒトVEGF165を発現させ,網膜下新生血管(→)を発生させる.抗VEGF抗体硝子体内投与により,網膜下新生血管が投与後1週間で抑制される.BVZ:アバスチンR,RBZ:ルセンティスR.(文献2,figure1より改変)PBSBVZ25mg/mL図2Tet/opsin/VEGFmiceにおける新生血管抑制効果Tet-onsystemにより,ドキシサイクリン(2mg/mL)経口投与後5日で網膜内新生血管からの血管透過性亢進の結果,網膜.離を生じる.Bevacizumab(BVZ)投与によって,この現象が抑制された.(文献2,figure5から抜粋)cizumab投与群にのみ,注射眼と対側眼の新生血管抑制効果を認めた.この結果より,bevacizumabは硝子体内投与後に全身経由し対側眼に移行することが示唆された.また,Tet/opsin/VEGFmiceに対して,bevacizumab,ranibizumabの硝子体内投与による網膜.離抑制効果を検討した.結果はbevacizumab投与群にのみ,注射眼,対側眼ともに網膜.離が抑制され,やはりbevacizumabは硝子体内投与によって全身移行することが示唆された.上記の結果から,bevacizumabは,ranibizumabと比較して新生血管抑制効果が強く,作用時間が長く,全身移行性に注射対側眼にまで作用を及ぼすことがわかった.Bevacizumabの全身移行性については臨床例でも報告があり3),マウスを用いたほかの実験例でも同様の報告がされている.Bevacizumabの全身移行性は,眼内に発現している新生児Fc受容体が関連しているといわれている.新生児Fc受容体は,最初952あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012に,齧歯類の小腸上皮細胞に発現していることが確認された受容体で,母親から新生児への免疫グロブリンの移行に大きな役割を果たしているとされている.母体由来のIgG抗体は,小腸上皮細胞表面の新生児Fc受容体とFcfragmentで結合し,結合したIgG抗体はエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれることが知られている.マウスの眼内では新生児Fc受容体は網膜血管内皮細胞に発現しており4),Fcfragmentを有するbevacizumabは,硝子体内投与後,全身移行し,新生児Fc受容体を介して対側眼の眼内に移行するといわれている5).Ranibizumabは,Fabfragment製剤であり,Fcfragmentを構造上有していないために,対側眼に移行できないことが示唆されている.文献1)RodriguesEB,FarahME,MaiaMetal:Therapeuticmonoclonalantibodiesinophthalmology.ProgRetinEyeRes28:117-144,20092)MikiK,MikiA,MatsuokaMetal:Effectsofintraocularranibizumabandbevacizumabintransgenicmiceexpressinghumanvascularendothelialgrowthfactor.Ophthalmology116:1748-1754,20093)ScartozziR,ChaoJR,WalshACetal:Bilateralimprovementofpersistentdiffusediabeticmacularedemaafterunilateralintravitrealbevacizumab(Avastin)injection.Eye23:1229,20094)KimH,FarissRN,ZhangCetal:MappingoftheneonatalFcreceptorintherodenteye.InvestOphthalmolVisSci49:2025-2029,20085)KimH,RobinsonSB,CsakyKGetal:FcRnreceptor-mediatedpharmacokineticsoftherapeuticIgGintheeye.MolVis15:2803-2812,2009(76)

緑内障:前眼部OCTによる強膜岬の同定

2012年7月31日 火曜日

●連載145緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也145.前眼部OCTによる強膜岬の同定川名啓介かわな眼科前眼部OCT(光干渉断層計)による前眼部解析では強膜岬の同定が重要である.二次元前眼部OCTでの同定率は約70%だが,三次元前眼部OCTでの同定率は100%近い.より新しく高性能な機器を用いることで強膜岬の同定率が向上し,より正確な前眼部解析が可能となる.前眼部の画像解析では,明確な測定点の決定が大切である.特に隅角の解析においては,強膜岬の同定が重要である.断層画像上では強膜岬は角膜内側面において角膜組織(高輝度)とぶどう膜組織(比較的低輝度)の境界である.強膜岬の位置を確定することにより,さまざまな隅角のパラメータが決定される.それを基準としてAOD500(angleopeningdistance500),TISA(trabecularirisspacearea),ACA(anteriorchamberangle)などの隅角の指標を表すことが可能となる1).前眼部OCT(opticalcoherencetomography;光干渉断層計)は超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)よりも簡便かつ非侵襲的に前眼部図1二次元前眼部OCTの解析例解析ツールを利用してパラメータを求めることができる.図2三次元前眼部OCTの解析例二次元のものに比べて解像度が優れているため,強膜岬とぶどう膜組織の弁別に優れる.(73)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129490910-1810/12/\100/頁/JCOPY 表1二次元と三次元前眼部OCTによる強膜岬同定率の比較同定可同定不可二次元前眼部OCT66.8%33.2%三次元前眼部OCT98.2%1.8%の画像解析を行うことが可能な装置である.光学式であるが,角膜と強膜岬や隅角底を含めた隅角の解析を行うことが可能である.しかしながら,前眼部OCTは完全にUBMの代用となるものではない.UBMはほぼ100%強膜岬を同定できるのに対して,二次元の前眼部OCTは強膜岬の同定率が約70%程度ということが報告されている2,3).今回,二次元前眼部OCT(VisanteTM,CarlZeiss)と三次元前眼部OCT(CASIA,Tomey)による強膜岬の同定率を比較する機会を得たので紹介したい.二次元前眼部OCT(図1)に比べ三次元前眼部OCT(図2)は測定速度が10倍程度と速く,解像度も優れている.正常眼において条件をそろえるために1断面像に限って検討したところ,二次元前眼部OCTでの同定率は67%と過去の報告とほぼ同等であった(表1).それに対して三次元前眼部OCTではほぼ100%という結果であった.解像度の違いが最も影響を及ぼしたと考えられる.これは1断面に絞った解析結果であり,さらに複数の断面のスキャンを合わせると,より一層同定が容易になると考えられる.今回は正常眼での検討のため,狭隅角眼などにそのままあてはめることはできない.今後のさらなる検討が必要である.三次元前眼部OCTでも強膜岬の同定が困難な例もあり,その場合には線維柱帯の位置やさまざまな断面像から強膜岬の位置を推測する必要がある.眼底OCTのように,いくつかの断層像を重ね合わせたエンハンス画像を作ると位置の同定率が上がる可能性がある4).また,強膜岬の位置を同定する際に参考となる線維柱帯に関しては,偏光OCTを用いると通常のOCTに比べて同定率が上がるといわれている5).三次元前眼部OCTは角膜厚や前房容積の測定において再現性が高いと報告されており6),強膜岬の同定においても再現性が高いのではないかと期待される.そのほか三次元前眼部OCTを使うメリットとして,1回の検査で360°の隅角を評価可能ということがあげられる.患者負担も少なく,多くの情報が得られるため,積極的に診療に活用していきたい.文献1)PavlinCJ,HarasiewiczK,SherarMDetal:Clinicaluseofultrasoundbiomicroscopy.Ophthalmology98:287-295,19912)SakataLM,LavanyaR,FriedmanDSetal:Assessmentofthescleralspurinanteriorsegmentopticalcoherencetomographyimages.ArchOphthalmol126:181-185,20083)LiuS,LiH,DorairaiSetal:Assessmentofscleralspurvisibilitywithanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma19:132-135,20104)MargolisR,SpaideRF:Apilotstudyofenhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinnormaleyes.AmJOphthalmol147:811-815,20095)YasunoY,YamanariM,KawanaKetal:Visibilityoftrabecularmeshworkbystandardandpolarization-sensitiveopticalcoherencetomography.JBiomedOpt15:061705,20106)FukudaS,KawanaK,YasunoYetal:Repeatabilityandreproducibilityofanteriorchambervolumemeasurementsusing3-dimensionalcornealandanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JCataractRefractSurg37:461468,2011☆☆☆950あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(74)

屈折矯正手術:前房型有水晶体眼内レンズと虹彩隆起度

2012年7月31日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載146大橋裕一坪田一男146.前房型有水晶体眼内レンズと虹彩隆起度井手武南青山アイクリニック角膜屈折矯正手術(LASIKなど)が非適応の強い屈折異常症例などでは有水晶体眼内レンズ挿入術が適応となる.そのなかでも前房型(虹彩支持型)では,術後にレンズと虹彩の接触による色素沈着や癒着の発生をできるだけ抑えるために,術前の虹彩隆起度評価が大切である.本稿ではORBSCANを用いた虹彩隆起度の計測方法を概説する.屈折矯正手術が一般にも認知されるようになり,症例数も日本全国で数十万件を数えるまでになった.その症例の大部分は角膜屈折矯正手術のlaserinsitukeratomileusis(LASIK)である.しかし,屈折異常(近視・遠視・乱視)が強い症例で,残存角膜厚が薄くなることが予想される場合にはフラップを作製しないphotorefractivekeratectomy(PRK)・LASEK・epipolis(Epi)-LASIKなどのサーフェスアブレーションがつぎの選択肢となる.しかし,それでも基準を下回る場合には,角膜拡張症(エクタジア)のリスクを回避するために角膜屈折矯正手術は行えない.LASIKやサーフェスアブレーションは非適応でも,医学的・職業的・美容的な理由などにより眼鏡やコンタクトレンズなどの視力補助の装用が困難な患者群が存在する.そのような患者群に対しては現時点の選択肢は有水晶体眼内レンズ(フェイキックIOL:以下,P-IOL)挿入術となる.P-IOLには隅角支持型,前房型(虹彩支持型),後房型があり,今回は前房型P-IOL(以下,ACP-IOL)について話を展開していく.ACP-IOLとしては,世界的にはOPHTEC社のARTISANR(光学部の素材がポリメチルメタクリレート:PMMA)と折りたたみ可能なARTIFLEXR(光学部の素材がシリコーン)の2種類のレンズが使用されており,当院でも1999年12月から導入を始めている.しかし,ACP-IOL術後,レンズと虹彩の接触による色素沈着や癒着が生じることが報告されており,当院でも複数例経験している(図1).このような合併症を避けるためには,隆起の少ないフラットな虹彩を選択すること,一定期間のステロイド使用が必要であるといわれている.Baikoffらは,前眼部OCT(光干渉断層計)計測で虹彩根部から水晶体前面までの距離が0.6mm以上ある症例の70%に色素沈着が見られたと報告している1).(71)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1レンズ色素沈着前房型有水晶体眼内レンズ挿入術後に虹彩色素がレンズに沈着した症例.ARTISANR(PMMA製)ARTIFLEXR(シリコーン製)図2前房型有水晶体眼内レンズPMMA製のARTISANRレンズ(上図)とシリコーン製のARTIFLEXRレンズ(下図).Baikoffらの測定方法・部位とは異なるが,当院でも色素沈着が見られた症例をレトロスペクティブに検討したところ,ORBSCANによる計測でレンズ虹彩把持部から虹彩の最高点までの高低差がすべての症例で0.5mm以上であったため,現在0.5mm以上の症例ではARTIFLEXRの不適応としてARTISANRを採用するようにしている.このARTISANRとARTIFLEXRは上記の素材だけでなく形状デザインも異なる.端的にいうと,レンズ後面のプロフィールが平面に近いARTIFLEXRとよりスペースに余裕がある形状のARITISANRでああたらしい眼科Vol.29,No.7,2012947 ApexPlaneのTopographicalを表示ApexPlaneのProfileを表示ApexPlaneのProfileを表示…………………………………………………………………………図3ORBSCANにおける計測手順View>AnteriorChamber>ApexPlaneを選択(左)する.ApexPlaneのTopographicalDataが表示され(中),その周辺に表示される軸角度の数字(本図には非表示)をクリックしてApexPlaneのProfileを表示して高低差を計算(右)する.る(図2).以下に実際の測定方法について述べる.当院ではORBSCANのApexPlaneというモードを使用して計測を行っている.ApexPlaneのProfileマップはApexに対して垂直な面を仮定して角膜頂点から虹彩や水晶体までの距離を表示させることが可能なモードである.レンズの虹彩把持部分の高さとレンズと接触する可能性の高い虹彩の最高点との高低差を計算する(図3).ARTISANR,ARTIFLEXR両モデルとも基本はレンズ直径が8.5mm(ARTISANRには小さな7.5mmもある)であるので,レンズ中央から把持部までの距離は4.25mmである.しかし,ORBSCANは0.1mmステップの表示なので,中心から4.2.4.3mmの部分の虹彩高さを用いる.しかし,ACP-IOL手術の限界は必ずしもP-IOLの中心がORBSCANの計測中心と一致するわけではないため,筆者は測定されている限り周辺4.5mmくらいまでの高さを見るようにしている.1─通常通りORBSCANを撮影.2─該当患者のデータを呼び出し.3─タブのView>AnteriorChamber>ApexPlaneで画像を変更.4─軸を選び,瞳孔を挟んで一方の虹彩の最高点のApexPlaneからの距離をメモ(A).5─その同側の4.2mmの位置のApexPlaneからの距離をメモ(B).6─AとBの差を計算.7─4,5,6で計測した部位と反対側の虹彩で4.6を繰り返えす.8─高低差が0.5mm以上の症例は注意して,必要に応じてARTISANRに適応を変更.948あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012もちろん,全症例・全部の軸角度で光彩の盛り上がりを確認するのが基本であるが,多数経験するとORBSCANの虹彩パターンをみてフラットな虹彩,盛り上がりの強い虹彩が判別できるようになる.したがって,実際にはフラットな虹彩の場合には,2.3の軸だけを選んで確認し,虹彩の盛り上がりの大きい症例ではできるだけ多くの軸でみるようにしている.虹彩の盛り上がりの大きな症例の場合には,IOL後面のスペースに余裕のあるARTISANRが適応になる.しかし,PMMA素材のため切開創が大きく,両眼ARTISANR症例では片眼ずつの別日手術となるため,患者の術後QOL(qualityoflife)は一時的にせよ下がるので事前説明が重要である(両眼ARTIFLEXR,片眼ARTIFLEXR/片眼ARTISANRは両眼同日手術).最後に,虹彩の形状というのは多くの生体データと同じで静的ではなく動的なものである.調節や散瞳・縮瞳により虹彩の形状や隆起度は変化するため2),測定されたデータだけが虹彩の状況をすべて反映しているわけではないので保守的にデータを読む必要がある.加えて,ORBSCANのみならず前眼部OCTやScheimpflugカメラでも同じような測定ができるが,基準値についてはそれぞれの機械で微妙に異なる可能性があることを付け加えてこの稿を終えたい.文献1)BaikoffG:AnteriorsegmentOCTandphakicintraocularlenses:aperspective.JCataractRefractSurg32:18271835,20062)GuellJL,MorralM,GrisOetal:EvaluationofVerisyseandArtiflexphakicintraocularlensesduringaccommodationusingVisanteopticalcoherencetomography.JCataractRefractSurg33:1398-1404,2007(72)

眼内レンズ:水晶体混濁徹照画像を基準にしたトーリック眼内レンズ軸決め法

2012年7月31日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎311.水晶体混濁徹照画像を基準にした江木東昇えぎ眼科仙川クリニックトーリック眼内レンズ軸決め法水晶体徹照画像から得られる皮質混濁の形状を基準にしたトーリック眼内レンズ軸決め法であり,術前の軸決めと術後の軸ずれを簡便に確認することができる.本法を行うにあたって,正確なデータを得るためには検査時,被検者の頭位に注意を払う必要があり,また強い核白内障や成熟白内障などでは本法を利用できないことを考慮する必要がある.角膜乱視を補正するトーリック眼内レンズは,術後の裸眼視力を向上させる有効な手段として注目され,今後は徐々に使用が増えると思われる.導入にあたり,正確な術前検査,マーキング,レンズ.内固定が要求される.そのなかでも重要なトーリック軸のマーキング法では種々の方法や機器が考案されているが,それぞれに一長一短がある.角膜形状・屈折力解析装置OPD-ScanIII(NIDEK社)を使用した水晶体徹照画像の皮質混濁像を基準にしたトーリックレンズ軸決めは,精度が高い軸決め(axisregistration)法のなかでも術前後とも簡便でより正確な方法と思われる.以下に症例を使ってこの方法を説明する.〔症例〕78歳,女性,右眼.00DAx.2.(cyl×25D.1×+術前視力は0.6(矯正0.9160°).手術は耳側切開でトーリック眼内レンズ(SN6AT6+22.0D,Alcon社)を使用した.術前,散瞳状態にて細隙灯顕微鏡で基準線となりうる視認の良い皮質混濁の有無を確認する(図1徹照画像).つぎに座位において頭位を確認してから角膜形状・屈折力解析装置を使用した角膜形状,屈折度数を測定してデータを得る(図2Overview).ここで得られた水晶体図1細隙灯顕微鏡検査(水晶体皮質形状を確認)図2Overview強(R2)弱(R1)マーク強(R2)弱(R1)マーク図3Retroimage基準線()を決定図4Retroimage基準線から強主経線までの角度が35°(69)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129450910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図5基準線から35°離れた強主経線上の角膜輪部に点状マーキング強(R2)弱(R1)マーク図7Retroimage術後3カ月,1°の軸ずれを確認徹照画像(図3Retroimage)から最も視認の良い皮質混濁(楔状,線状,斑点状,点状などの形状は問わず,ここでは楔状形状)の一つを基準線と決め,ここから角膜強主経線までの角度が35°を読み取り,画像を保存する(図4Retroimage).手術は明るく,均一なレッドリフレックスで水晶体混濁像を観察できる手術顕微鏡〔ZeissLumera(Zeiss社),LeicaM822(Leica社)〕を使用する.まずは瞳孔中心に点状の圧痕マーキングをしてから基準線にした皮質混濁部位を確認し,リングゲージを使用してそこから割り出した35°先の強主経線位置にある角膜輪部に点状の圧図6線状マーキング=強主経線軸()痕マーキング(図5)をする.レンズ軸をより正確に合わせるためには2blades軸マーカーを使用し,線状の圧痕マーキング(図6)を行ってから手術を開始した..内に挿入したレンズはバイマニュアル灌流と吸引ハンドピースを使用し,レンズ表面を軽く押さえながら回転させ,レンズ軸マークを強主経線に合わせ固定した.術後3カ月,右眼視力は1.2(矯正1.2×±0.00D×(cyl.0.25DAx130°)となり,また,散瞳によりレンズの回転や傾き,.収縮,軸ずれを容易に確認ができる(図7).以上からトーリック眼内レンズを導入するうえで,この軸決め法は簡便で正確な方法と考えられる.文献1)ビッセン宮島弘子:トーリックIOL.IOL&RS24:45-52,20102)宮田和典:トーリックIOLの適応と導入のコツ.IOL&RS24:13-18,20103)鳥居秀成,根岸一乃:さまざまな軸マーキング法と手術手技.眼科手術24:277-285,20114)野田徹,大沼一彦:白内障手術─トーリック眼内レンズ.臨眼65:138-149,2011

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ装用指導の実際(3)

2012年7月31日 火曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】塩谷浩337.コンタクトレンズ装用指導の実際(3)しおや眼科●ハードコンタクトレンズのケアの指導前号(Vol.29,No.5,6)までに解説したハードコンタクトレンズ(HCL)の装脱前の準備の説明と装脱練習が終わってからの,HCLのケアについて指導する.患者にコンタクトレンズ(CL)メーカーのケアについての取り扱い説明書に従ってケア方法を説明し,購入したケア用品を使用して実際のケアの仕方を練習してもらう.HCLのケアはメーカーごとに推奨されているケア用品とケア方法が異なっている.HCLの種類によっては他のメーカーのケア用品を使用するとレンズの素材に影響が出ることもあるため,一般的には処方したHCLのメーカーのケア用品を使用したケアを行うように患者に指導する.●ハードコンタクトレンズのケアの基本HCLのケア用品には洗浄液,保存液,蛋白分解酵素剤を含む洗浄保存液,蛋白分解酵素剤を含まない洗浄保存液,蛋白除去液(蛋白分解酵素液),強力蛋白除去剤(蛋白分解酵素剤),塩素系蛋白除去剤がある.ケアではレンズにキズがつかないようにティッシュや布などは用いず,洗浄した手指で行うことを原則とする.HCLのケアは基本的には,レンズの装着前とはずした後に行う(化粧をしている患者の場合には,レンズに化粧品汚れが付着しないように化粧をする前にレンズを装着し,化粧を落とす前にレンズをはずすことを原則とする).ケアの際に水道水(流水)によるレンズの流出防止のため,洗面台の排水口の栓を閉じるか,市販されているレンズ流失防止マットを使用する.●ハードコンタクトレンズのはずした後のケアHCLのはずした後のケアは,使用後のレンズをこすり洗いせずに保存液または洗浄保存液にそのまま保存することを標準としているCLメーカーもあるが,レンズの汚れを十分に除去するために,原則としてこすり洗いをするように指導する.ケアの実際は,手指の洗浄後に利き手の人差し指,中指,親指の3本指を用いてレンズの凹面が親指側になるようにレンズを保持し,数滴の洗浄液または洗浄保存液で,まずレンズの表側(凸面)を人差し指と中指で30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いし,同時にあるいは続いてレンズの裏面(凹面)も親指で30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いする(図1).この方法でレンズの表側のこすり洗いがテクニック的に十分にできない場合には,非利き手の手のひらに凸面を下にしてレンズをのせ,数滴の洗浄液または洗浄保存液を滴下し,利き手の人差し指で30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いする(図2).その後,水道水(流水)ですすぎ(図3),レンズホ図1手指でレンズを保持してのこすり洗い図2手のひらと人差し指でのレンズのこすり洗い図3レンズのすすぎ洗い(67)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129430910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4レンズケースへのレンズの保存ルダーにレンズを収納し保存液または洗浄保存液をレンズケースに入れて保存する(図4).保存液または蛋白分解酵素剤を含まない洗浄保存液を使用するケア方法では,その保存液または洗浄保存液の中に毎日あるいは週に1回,蛋白除去液を入れるサイクル(製品によって異なる)を繰り返す.洗浄保存液でのレンズのこすり洗いで汚れの除去効果が不十分な場合には,洗浄液を使用し,通常の洗浄剤での汚れの除去効果が不十分な場合には研磨剤入り洗浄液(表面処理のあるレンズには使用不可能)を使用してのこすり洗いを行う(図5).特に汚れの付着が著しい場合には,週に1回程度の強力蛋白除去剤の使用(メーカーによっては月に1回程度の塩素系蛋白除去剤の使用)を行う.●ハードコンタクトレンズの装着前のケアHCLの装着前のケアは,レンズをはずした後に十分図5研磨剤入り洗浄液でのこすり洗いに汚れを落としていることが前提であるため,レンズの汚れを除去することよりもレンズ表面に洗浄液または洗浄保存液の水濡れ性保持成分を塗布することと,レンズ表面の余分な保存液成分をすすぐことを目的とする.ケアの実際は,手指の洗浄後に利き手の人差し指,中指,親指の3本指を用いてレンズの凹面が親指側になるようにレンズを保持し,数滴の洗浄液または洗浄保存液でレンズの表裏を同時に30回程度(時間にすると15秒程度)こすり洗いして(図1),水道水(流水)ですすぎ洗いし装着に供する(図2).装用指導の最後に眼科医から指導された装用方法と装用時間を守ること,正しいケアを続けること,定期検査を受けることの重要性を患者に説明する.☆☆☆944あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(68)

写真:Toxic anterior segment syndromeによる水泡性角膜症

2012年7月31日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦338.Toxicanteriorsegmentsyndromeによる清水一弘大阪医科大学眼科水疱性角膜症①②③④図2図1のシェーマ①:角膜浮腫,②:散大した瞳孔,③:眼内レンズ上に析出したフィブリン,④:角膜内皮側に付着した多量の虹彩色素.図1Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)による左眼白内障術後炎症(68歳,女性)TASSによる前房内炎症とともに多量の虹彩色素が角膜内皮面に付着している.図3TASSによる角膜浮腫図1の症例の初診時前眼部写真.その後角膜浮腫は軽減せず水疱性角膜症に至った.図4図1の症例の3日後の前眼部写真前房内炎症は軽減せず,著明な角膜浮腫とともに角膜後面の色素沈着は残存している.(65)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20129410910-1810/12/\100/頁/JCOPY Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)は,内眼術後に非感染性の物質によって発症する術後炎症反応で,重篤例では角膜内皮障害や虹彩損傷を生じると報告されている1,2).〔症例〕68歳,女性,近医にてPEA+IOL(水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術)を施行.左眼は術翌日より著明な角膜浮腫と高眼圧が生じ,消炎および眼圧下降治療を行うも増悪を認めたため当院紹介受診となった.初診時,視力は右眼(0.4),左眼(0.02).眼圧は左眼は52mmHgと高眼圧を認めた.眼底は透見困難で視神経乳頭がわずかに見える程度であった.著明な角膜浮腫(図3)と角膜後面に多量の虹彩色素が付着していた(図1).眼内レンズ表面にはフィブリン析出,前房は深いものの炎症細胞が生じていた.前房穿刺を施行し前房水の培養を行うも微生物は検出されなかった.抗菌薬とステロイドの点眼,ステロイドおよび眼圧下降剤の内服を開始した.図4は初診時より3日目の前眼部写真である.高眼圧は持続し,前房内所見に改善はみられなかった.その後前房洗浄を施行するも多量の虹彩色素の排出,虹彩脱色素,瞳孔散大を認め,高眼圧と眼痛は持続した.UBM(超音波生体顕微鏡)所見で閉塞隅角を認め,一部は器質化していた.虹彩損傷による線維柱帯の損傷,隅角の閉塞にて高眼圧が持続したため,トラベクレクトミーを施行した.術後眼圧は10mmHg台にコントロールされたが,水疱性角膜症に至り,最終視力は矯正0.01となった.白内障手術後に無菌性の起炎物質によって生じる前眼部炎症を1992年にMonsonらによってTASSと命名された.術後眼内炎との鑑別が初期では困難であること3),術後早期に発症し,ステロイド治療が奏効することなどが特徴である.TASSと術後感染性眼内炎との比較で最も大きな違いは,手術から発症までの時間で,TASSでは多くは24時間以内と感染性眼内炎に比較して明らかに早い発症である.TASSでの眼痛は感染症に比べて比較的軽度である.TASSでは硝子体混濁はわずかとされているが,本症例では角膜混濁と前房内炎症のため眼底が透見できず詳細は不明であった.もう一つ大きな特徴として,TASSではステロイドに対する反応が良好であるとされている.TASSの原因として,これまでに塩化ベンザルコニウム,消毒薬,手術機器の残留薬剤,BSS(平衡食塩水)中のエンドトキシン,I/A(灌流吸引)ハンドピースの付着残留物,インドシアニングリーンの残留が報告されている.今回の症例では症状が術翌日から出現した点は通常の感染性眼内炎より早期の発症でTASSを疑うものであった.角膜内皮面に多量の虹彩色素が付着していたことより虹彩の損傷が生じ,線維柱帯の損傷から眼圧上昇に至ったと考えられた.また,びまん性の角膜浮腫の持続から角膜内皮の障害が疑われ,これまでの報告例に比べて重篤な合併症が生じたことより,本症はTASSのなかでも重症に位置するものと考えられた.同一施設での多発発症を防ぐためにも本症の存在を知っておくことが必要である.発症の予防としては,手術器具の滅菌法の改善など手術システムを見直す必要がある.発症を予防する手術システムの構築と発症早期の適切な対処が重要と考えられた.文献1)小早川信一郎,大井彩:Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS).あたらしい眼科26:203-204,20092)臼井嘉彦:Toxicanteriorsegmentsyndromeの診断と治療.日本の眼科79:1709-1710,20083)井上昌幸:両眼性Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS).あたらしい眼科28:237-238,2011942あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(00)

涙管チューブ挿入術

2012年7月31日 火曜日

特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):933.940,2012特集●眼科小手術PearlsandPitfallsあたらしい眼科29(7):933.940,2012涙管チューブ挿入術LacrimalPassageIntubation杉本学*はじめに涙管チューブ挿入術には,従来行われているプロービング後に涙管チューブを挿入する方法と,涙道内視鏡を用いて閉塞部を開放し,引き続いて開放部に正確に涙管チューブを挿入する方法がある1,2).後者のほうが治療成績は良くなってきている3)が,涙道内視鏡・鼻内視鏡でモニターを見ながら操作しなくてはならないので,練習して慣れることが必要となる.いったん習得すれば,涙道内の状況を把握して治療戦略を立てて,直視下で操作することができるので,盲目的操作を嫌う眼科医にとっては有力な手段となる.本稿では,涙道内視鏡・鼻内視鏡を用いた涙管チューブ挿入術について解説させていただく.I手術手順①鼻粘膜麻酔と収縮②皮膚の消毒とドレーピング③涙道内麻酔(滑車下神経ブロック麻酔)④涙点拡張⑤涙道内視鏡による涙道内の状況把握⑥閉塞部の開放〔シース誘導内視鏡下穿破法(sheath-guidedendoscopicprobing:SEP),シース誘導プロービング(sheath-guidedprobing:SHIP)〕⑦チューブ留置〔シース誘導チューブ挿入術(sheath-guidedintubation:SGI)〕II鼻粘膜麻酔と収縮(図1,2)4%点眼用キシロカインRとボスミン液Rを1:1で混合した液を綿棒(ベビー綿棒が綿球が小さくて挿入しやすい)に染み込ませて,鼻中隔,下鼻甲介,下鼻道の鼻粘膜を軽く触れながらなぞっていく(図1b,c).綿棒でなぞって1分もたてば鼻粘膜が収縮してくるのがわかる(図1d).つぎに,同混合液を染み込ませた短冊ガーゼ(1.5×30cm)の先端10cmほどを,こよりのようにねじって細くして,ルーツェ鑷子にて下鼻道へ挿入する(図1e).15cmほど挿入できたら,下鼻甲介を覆い,鼻中隔先端付近まで挿入して(図1f),ガーゼの後端は鼻翼から2cmほど鼻外に出しておく(図2).注意点は,鼻粘膜に綿棒を強く押し付けると患者は痛がり,痛覚閾値を下げてしまい,後の手術操作がしにくくなるので,狭くて綿棒が入りづらいときは,先の綿球が小さいものに変える.筆者が用いている最小のものは,日本綿棒メンティップRの綿球径1.9mmである.III皮膚の消毒とドレーピング(図2)眼瞼を閉じたままでイソジンR原液にて皮膚を消毒する.受水袋付きドレープを,術眼と同側の鼻孔が覆われないように,目穴の下方部分を剪刃で拡大切除し,張り付ける.鼻孔が見えるようにしておくと,鼻内操作がしやすいだけでなく,鼻腔内留置ガーゼが常に目に入るので,ガーゼ除去忘れ防止に役立つ.*ManabuSugimoto:すぎもと眼科医院〔別刷請求先〕杉本学:〒719-1134総社市真壁158-5すぎもと眼科医院0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(57)933 adbecfadbecf図1鼻粘膜麻酔と収縮(左側,鼻内視鏡像)a:処置前.b:鼻中隔側の塗布.c:下鼻道側の塗布.d:塗布後1分.e:下鼻道へガーゼの留置.f:ガーゼ留置の完成.NS:鼻中隔,INC:下鼻甲介,INM:下鼻道,CS:綿棒.IV涙道内麻酔(滑車下神経ブロック麻酔)(図2)筆者は,涙道内操作をしているときに,裂孔を生じた場合,早く気づくために患者の疼痛を利用している.浅い麻酔であれば,裂孔を生じると患者は急に痛がる.痛みは「違う方向に行っていますよ」という警告と考えている.したがって,涙道内麻酔を主体とし,疼痛をひどく訴える患者には滑車下神経ブロック麻酔を追加するようにしている.涙道内麻酔は,4%点眼用キシロカインRを2.5mlまたは5mlシリンジにとって,25ゲージ(G)曲の涙道洗浄針をつけて,涙点より挿入し(涙道洗浄針の曲がった部分まで),注入する.キシロカインRが逆流してきたところで注入を中止し,5分待つ.涙道内麻酔を行うときに,涙道洗浄針を挿入していない涙点から逆流があるかないかを確認する.逆流があれば上下交通があることになり,総涙小管より手前の閉塞ではないことが判断できる.シリンジはすぐに注入できるような態勢で持つ.すな934あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012図2涙道内麻酔(左側)わち,シリンジの外筒のつばに人差し指,中指をかけ,内筒のおしりに親指をかけるように持ち,小指を伸ばして患者の頭で固定する.もう一方の手の,人差し指か中指で,下眼瞼か上眼瞼を引っ張って涙点をみやすくし,この手の親指を土台にするようにシリンジあるいは涙道洗浄針を乗せると操作がしやすくなる(図2).滑車下神経ブロック麻酔は,medialcanthaltendon(58) の上縁から27G×3/4針(針長19mm)を10mm(針長半分)ほど刺入し,2%キシロカインR液を0.5ml注入している.眼球穿孔に注意する.また,根元まで刺入すると,針先が前篩骨管付近に達するので,前篩骨動脈を損傷して球後出血することがある.眼神経の分枝である鼻毛様体神経は前篩骨神経を分枝して滑車下神経となるが,前篩骨神経は前篩骨動脈を伴って前篩骨管を通過している4,5).V涙点拡張(図3)目盛付涙点拡張針が便利である.まず,第一の目盛りまで涙点に垂直に挿入し回旋させて拡張する(図3a).つぎに,拡張針を涙小管水平部に平行になるように寝かせる.もう一方の手の指で眼瞼を耳側に引っ張って,拡張針は眼瞼を外反させる一方向に回旋させて,第二の目盛りまで拡張させる(図3b).患者に少し痛みがあることを伝えながら行うと協力してもらえる.VI涙道内視鏡による涙道内の状況把握(図4)涙小管の観察は,涙点より涙道内視鏡を挿入したら,眼瞼を耳側に引っ張って涙小管をなるべく直線的にし,涙小管水平部と平行になるように涙道内視鏡を寝かせる.助手に灌流を開始してもらう.涙小管粘膜は白く血管は観察されない(図4a涙道内視鏡像).総涙小管は前方に屈曲しながら涙.につながっていること(図4b涙道内視鏡像)と,総涙小管粘膜の涙.側には血管がみえる例もあることも知識に加えておく.モニターに映し出されている涙小管内腔をみながら涙道内視鏡を進めていab図3涙点拡張(左側,surgeon’sview)a:白矢印の第一の目盛りまで拡張する.b:白矢印の第二の目盛りまで,黒矢印の方向に回旋させて拡張する.ab図4上下涙小管の観察(右側)a:下涙小管の観察.b:上涙小管の観察.眼瞼を黒矢印の方向に引っ張り,涙道内視鏡は白矢印の方向に進める.(59)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012935 るときの涙道内視鏡の方向は,上涙小管を観察しているときには,涙道内視鏡はやや下方に向いている(図4b).下涙小管を観察しているときには,涙道内視鏡はやや上方に向いている(図4a).この方向は総涙小管閉塞を開放するときに参考になる.涙小管閉塞は,行き止まりの白い壁として観察される(図8a涙道内視鏡像).壁に1箇所へこんだ部分(ディンプル)がみられることが多い.上下交通のある症例でも必ず,上下の涙小管を観察して,涙小管狭窄・ポリープの有無,涙.に到達しやすいのはどちらかも見きわめておく.涙道内視鏡に慣れるまでは涙小管の観察はむずかしいので,涙.付近まで涙道内視鏡を挿入して観察を始めてもよい.また,涙道内視鏡は先端に粘膜が接していると観察不能になるので,見えなくなったら少しだけ手前に引いてみることも覚えておくと役に立つ.涙小管・総涙小管に閉塞がない場合,涙.に入ると,粘膜にいろいろな太さの血管が見え赤っぽくみえる.涙道内視鏡を下方に回転させて涙.鼻涙管を観察する.膿や粘稠な液が多くて視認性が悪いときには,しばらく灌流を行って膿を洗浄する.涙道内視鏡がやっと通過できるくらいの狭い総涙小管の例では,洗浄しようとして強く灌流シリンジを押しても灌流液が逆流できず涙.内圧が上昇して痛みが強くなるので,いったん涙道内視鏡を抜いて涙.を圧迫して内容物を逆流させる.または,後述する涙道シースを用いるSEPで涙.に達した後,涙道シースを残して涙道内視鏡のみ抜いて,バンガーター針を涙道シース内に挿入して生理食塩水で洗浄すると楽である.涙小管・総涙小管・涙.鼻涙管が確認できたら,2%(エピレナミン含有)キシロカインRで涙道内麻酔を追加しておくと,涙.鼻涙管粘膜からの出血を抑制でき,後の操作がしやすくなる.鼻涙管閉塞は粘膜の壁状(ディンプルがみられることが多い)(図6a涙道内視鏡像)か,クモの巣状に見える.閉塞部の確認と腫瘍性病変の有無を確認する.血管の見える涙.粘膜がドーム状に隆起している場合は,涙.が外から圧迫を受けている(涙.窩.胞,副鼻腔炎,mucocele,pyoceleなど)ことが考えられる.腫瘍性病変を疑った場合にはそれ以上の操作は中止して,CT(コンピュータ断層撮影)かMRI(磁気共鳴画像)の画像診断に移る.Pearls&Pitfalls:涙道内視鏡を回旋させないようにすることが大切である.少しの回旋でもモニター上で進めたい方向に涙道内視鏡を進められなくなる.VII閉塞部の開放SEP&SHIP1.鼻涙管閉塞に対するSEP(図5,6)涙道内の状況が把握できて鼻涙管閉塞が確認できたら5mm45mm図5涙道シースabc図6鼻涙管閉塞症に対するSEP(左側)a:ディンプル(中央少し暗い部分)の確認.b:SEP中.c:お迎えの穴発見.涙道シースを白矢印,涙道内視鏡を黒矢印の方向に一体として,中央のやや暗い部分へ進める.S:涙道シース.936あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(60) (図6a),涙道シース(図5)を涙道内視鏡にかぶせ,涙道内視鏡の先端が涙道シースより1mmほど出るようにセットする.このセッティングはSEP,SHIPともに同じである.この内視鏡を涙.に入りやすいほうの涙点より挿入し,鼻涙管閉塞部の手前で保持する.鑷子(古くなったポープル型睫毛鑷子など)をもう一方の手に持ち,シースのみみを把持し,涙道シースが涙道内視鏡先端より1mmぐらい出るようにスライドさせる.涙道シースのみみを把持したまま,涙道シースと涙道内視鏡を一体として,閉塞部のディンプルに押し当てていくと,穿破される様子が観察できる(図6b).ゆっくり穿破し,本来の涙道内腔と思われる暗い部分を進めていくとお迎えの穴に到達できる(図6c).あとはお迎えの穴に沿って進んでいき鼻腔に達したら,涙道シースのみ残して涙道内視鏡を抜去する.穿破中,灌流液は出しっぱなしがよい.Pearls&Pitfalls:涙道シースと涙道内視鏡を一体として操作することが大切である.トロンボーンのようにグーッと伸ばすと盲目的操作と変わらなくなる.本来の内腔が穿破されていれば,患者は痛がらないし,ほとんど出血はみられない.もし急に痛がられたらすぐに穿破と灌流をとめて,2.3mmぐらい戻って再灌流してみると,裂孔を形成した脇に本来の内腔が見つかることがある.図7涙道シースストッパーを装着したところ涙道シースのほうが涙道内視鏡より1mmぐらい出た状態になる.adbec図8総涙小管閉塞症に対するSEP(右側)a:閉塞部の確認.眼瞼を黒矢印の方向に引っ張って観察.b:シースの伸長.涙道シースを白矢印の方向に3mmほど伸ばす.c:涙道シースストッパーの装着.d:SEP中.e:涙.に到達.再び眼瞼を黒矢印の方向に引っ張り,涙道内視鏡を白矢印の方向に進める.涙.に到達すると涙道内視鏡のモニターの視野が赤っぽくなる.S:涙道シース.(61)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012937 2.総涙小管閉塞に対するSEP(図7,8)総涙小管の開放は,解剖学的観点6)から,上涙小管から行うと成功率が高い.上述のように涙道シースを涙道内視鏡にセットし,上涙点より挿入し,他方の手で眼瞼を耳側に引っ張って涙小管内を観察する(図8a).閉塞部が確認できたら,眼瞼を引っ張っていた手を離し,鑷子を持って涙道シースをスライドさせて,3mmぐらい内視鏡先端より出るようにする(図8b).鑷子を涙道シースストッパー7)に持ち替えて,涙道内視鏡の根元に涙道シースを巻き込まないようにセットする(図7,8c).再び眼瞼を耳側に引っ張って,涙道内視鏡を閉塞部に押し当てていくと,穿破されていく様子が観察され(図8d),涙.内に入ると赤っぽくなる(図8e).ここで涙.内にエアーがみられたら,それより先に閉塞部はないと考えてよい.涙道シースストッパーをはずして,あとは鼻涙管内を進めていき鼻腔に達したら,涙道シースのみ残して涙道内視鏡を抜去する.3.鼻涙管閉塞症に対するSHIP(図9)SEPが行えない硬い鼻涙管閉塞のときには,涙道シースの先端を閉塞部に当てたまま涙道内視鏡のみを抜去する.先端から10mm部で27°曲げた0-7か0-8か0-6のブジーを涙道シース内に挿入し(図9a),ブジーで硬い閉塞部をブツッと穿破する.穿破は硬い部位だけにとどめ,ブジーをそのまま保持し,涙道シースを1mmぐらい送り込んでから(図9b),ブジーのみ抜去する.再び涙道内視鏡を涙道シースに挿入して(図9c),あとはSEPで鼻腔まで到達する.4.総涙小管閉塞症に対するSHIPSEPが行えない硬い総涙小管閉塞の場合は,まず,滑車下神経ブロック麻酔を追加する.閉塞部に涙道シースの先端を押し当てたまま涙道内視鏡のみを抜去し,先端から10mm部で27°曲げた0-7か0-6のブジーを涙道シース内に挿入し,眼瞼を耳側に引っ張って,ブジーで穿破する.穿破できたら,涙道シースを1mmぐらい送り込んでから,ブジーのみ抜去する.涙.が小さい場合は,涙道シースを1mm送り込めないので,ブジーで穿破後,ブジーを涙.内で下方に回転させてから,涙道シースを1.2mm送り込むとよい.再び涙道内視鏡を涙道シースに挿入してあとはSEPで鼻腔まで到達する.穿破時のブジーの方向は,上涙小管から解放している場合は,やや下方である.abc図9鼻涙管閉塞症に対するSHIP(右側,surgeon’sview)a:涙道シースに0-7ブジーを挿入中.涙道シースを白矢印の位置で保持し,0-7ブジーを黒矢印の方向に進める.b:ブジーにて硬い閉塞部のみを穿破後涙道シースを1mm送り込み中.0-7ブジーを白矢印の位置で保持し,涙道シースを1mm黒矢印の方向に送り込む.c:再度涙道内視鏡を挿入.涙道シースを白矢印の位置で保持し,涙道内視鏡を黒矢印の方向に進める.938あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(62) Pearls&Pitfalls:硬い総涙小管閉塞をSHIPで穿破できたかどうかの判断は,ブジーを押したときに,内眼角部付近の眼瞼がピクピクと一緒に動くときにはまだ穿破できていない.穿破できていないのにブジーを立てると裂孔を形成し,灌流すると眼瞼腫脹をきたす.VIIIチューブ留置SGI(図10)鼻腔まで達して残しておいた涙道シースに,留置チューブをドッキングさせる.まず,涙道シースのみみを鑷子でつかんで,ステント付きチューブを涙道シース内に3mmほど押し込む(図10a).チューブのステントを抜去する(図10b).鼻腔に留置していた短冊ガーゼを抜去して,鼻内視鏡で下鼻道に出ている涙道シースの先端を確認して,小此木氏.聹鉗子でつかんで鼻外に引き出す(図10c)と,チューブがするすると引き込まれる.留置チューブを鑷子でつかんで,チューブと涙道シースを分離する(図10d).ここで,涙道内麻酔を追加しておく.もう一方の涙点から,留置したチューブに沿ってSEPを行って鼻腔に達したら,涙道シースのみ残して,留置チューブのもう一端をドッキングさせて,再度同様に操作を繰り返すと,開放部に確実に1組のチューブを留置することができる.IX手術適応と症例選択骨性閉塞以外の涙道閉塞症が手術適応になると考えている.軟らかい総涙小管閉塞症,閉塞距離の短い軟らかい鼻涙管閉塞症から始めることをお勧めする.硬い総涙小管閉塞・涙小管閉塞症,副鼻腔炎術後の鼻涙管閉塞症,大きな涙.結石症,急性涙.炎は難度が高い.涙道閉塞の難度は高くなくても,狭い下鼻道は鼻内操作の難症例であるので,術前に下鼻道を観察しておくことも必要である.模擬涙道を使って,涙道内視鏡・鼻内視鏡の操作の練習を十分に行ってから,涙.の大きくなった慢性涙.炎の症例から,涙道内の観察を始める.鼻腔の観察も下鼻道の広い症例から始めると,くじけないで自信がついてくる.涙道内,下鼻道の観察に慣れたら,難度の低い症例から,開放・チューブ留置を試みる.Pearls&Pitfalls:難易度の低い症例を選択したつもりでも,実際に手術を始めると,むずかしい症例であったりする.技量が上達するまでは,無理をしないで撤退することを勧める.撤退は恥じではなく,最終成功率を上げるこつである.無理をして裂孔形成し硬い瘢痕組織を作ってしまうと,上達してから再挑戦した際,もっと大変で成功率も落ちてしまう.adbc図10SGI(左側,surgeon’sview)a:涙道シースにチューブをドッキング.鑷子で涙道シースのみみをつかみ(白矢印),ステント付きチューブを黒矢印の方向に3mm挿入する.b:チューブのスタイレットを抜去.c:下鼻道の涙道シース先端を鉗子で引き出し中.鉗子で黒矢印の方向に,涙道シースの先端を引き出す.d:涙道シースとチューブの分離.鑷子でチューブをつかみ(白矢印),涙道シースを黒矢印の方向に引っ張って分離.(63)あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012939 X手術器材涙道内視鏡はファイバーテック社,町田製作所,鼻内視鏡(直径2.7mm,視野方向70°か30°)は町田製作所,ニスコ,オリンパス,カールストルツから入手できる.涙道洗浄針は25G曲(はんだや),涙点拡張針は目盛付涙点拡張針(MEテクニカ),ブジーは三宅式(0-1.2),鼻内操作用鉗子は小此木氏.聹鉗子(ナガシマ),Hartmann-Wullstein鉗子OF410R(田島器械)を用いている.涙道シースはアルゴキュアシステム,涙道シースストッパーははんだやから入手できる.留置チューブはPFカテーテル(TORAY・ニデック)かシラスコンRN-S(ヌンチャク型シリコーン)チューブ(カネカメディックス)が使用できる.XI手術成績チューブ抜去後2,000日の通水可能率は,涙小管閉塞症単独で94%,鼻涙管閉塞症単独で72%,涙小管閉塞合併鼻涙管閉塞症で90%であった3,8).XII安全に手術遂行のために涙道内視鏡・鼻内視鏡を併用することにより,涙管チューブ挿入術が確実・安全に施行できるようになったが,涙道シースの涙道内への落とし込み,鼻腔内留置ガーゼの除き忘れ,綿棒の咽頭迷入などの事故の発生が危惧される.涙道シースの落とし込みは,多くは短い自作シースで発生している.涙道シースを自作する場合は長さを4.5mmとし,みみは5mm以上残す.鼻粘膜麻酔収縮に用いた綿棒は,鼻腔に留置したままにしない.また,鼻腔内留置ガーゼはできるだけX線写真にうつるものを使用したほうが安全である.おわりに涙道内を観察できる唯一の手段である涙道内視鏡は,眼科医に新たな世界をもたらした.しかし,モニターを見ながらの操作というハードルを越えなくてはならない.日本涙道・涙液学会では,フォーサムにて,涙道内視鏡・鼻内視鏡の技術指導を行う予定にしているので,ぜひ参加していただき,多くの涙道内視鏡サージャンが誕生することを願っている.文献1)杉本学:シースを用いた新しい涙道内視鏡下手術.あたらしい眼科24:1219-1222,20072)井上康:テフロン製シースでガイドする新しい涙管チューブ挿入術.あたらしい眼科25:1131-1133,20083)杉本学,井上康:鼻涙管閉塞症に対する涙道内視鏡下チューブ挿入術の長期成績.あたらしい眼科27:12911294,20104)細畠淳:眼窩の血管.眼科診療プラクティス6,眼科臨床に必要な解剖生理(大鹿哲郎編),p16,文光堂,20055)金子博行:顔面の解剖.眼科診療プラクティス6,眼科臨床に必要な解剖生理(大鹿哲郎編),p22,文光堂,20056)鈴木亨:涙道.眼科診療プラクティス6,眼科臨床に必要な解剖生理(大鹿哲郎編),p72,文光堂,20057)杉本学:涙道シースストッパー.眼科手術22:355-357,20098)杉本学:涙管チューブ挿入術.眼科52:981-986,2010940あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(64)