《第1回日本視野学会シンポジウム》あたらしい眼科30(7):1002.1005,2013c画像検査を用いた緑内障検診杉山和久宇田川さち子大久保真司金沢大学医薬保健学域医学系視覚科学GlaucomaScreeningbytheImageAnalysisKazuhisaSugiyama,SachikoUdagawaandShinjiOhkuboDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScienceI緑内障検診の現状米国1)や欧州2)では,50%以上の緑内障患者が診断されていない状況である.多治見スタディ3)では,40歳以上の日本人の広義原発開放隅角緑内障の罹患率は3.9%で,そのうち93.3%が診断されていないと推定された.ほとんどの緑内障患者が診断されていないのは,理想的なスクリーニング方法が確立していないことも原因の一つとしてあげられる.また,行政が主導となる緑内障スクリーニングには膨大な費用がかかるため,現在はどの国でも実施されていない4).以上のことからも安全で特異度および感度の高い,かつ参加者に受け入れられやすい緑内障のマススクリーニング方法が必要とされている.視野検査は緑内障診療の経過観察においては眼圧とともに非常に重要であるが,あくまで自覚的な検査であることが問題点である.緑内障専門医が読影する眼底写真は,自覚的検査である視野とは異なり,最も有効な手段と考える.ステレオ眼底写真での視神経乳頭の観察において,たとえ散瞳下であっても,全対象例で鮮明な写真を得るには限界があるとの報告がされている5).しかしながら,近年では非散瞳デジタルカメラは進歩しており,Detry-Morelら6)の報告によると緑内障スクリーニングにおいて視神経乳頭写真は非散瞳カメラで98.1%が撮影可能であり,地域での緑内障スクリーニングに使用するには有用な方法であるとされている.しかし,その評価はあくまでも主観的であり,そこに問題点がある.よって,視神経乳頭や網膜神経線維層の他覚的評価である走査レーザーポラリメトリー(scanninglaserpolarimetry:GDx),HeidelbergRetinaTomographII(HRTII),網膜光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)などの画像解析装置を緑内障スクリーニングに活用することが期待される.本稿では,緑内障における画像検査に焦点を当て,緑内障検診について考察する.II画像検査を用いた住民健診併設の緑内障検診7)住民健診併設の緑内障検診として,2003年6月から7月に石川県小松市の会社などで健診を受けていない40歳以上の市民を対象とした地域健康診断の一環として1,173名の緑内障検診を施行した.一次検診として,問診,屈折検査,非接触式眼圧計による眼圧測定,非散瞳ステレオ眼底写真,HRTIIを施行した(図1).視神経乳頭ステレオ写真は,「goodquality」,「poorquality」「notavailable」の3つに分類し判定した.視神経乳頭ステレ(,)オ写真で鮮明な画像が得られないが,一応評価できるものをpoorqualityとした.二次検診受診の基準(表1)は,①どちらかの眼で眼圧が21mmHg以上,②ステレオ眼底写真で緑内障性変化〔以下の一つ以上が存在した場合:垂直C/D比(陥凹乳頭比)が0.6以上,上極(11時.1時)・下極(5時.7時)のrim幅がR/D比(乳頭径比)で0.2以下のもの,両眼の垂直C/D比の差が0.2以上のもの,NFLD(網膜神経線維層欠損)やDH(乳頭出血)を認めるもの〕を表すいずれかの所見を認めるもの,③HRTIIで“borderline”や“outsidenormallimits”と分類されたもの,④ステレオ眼底写真やHRTIIが撮影できなかったもので,①から④のうち,一つ以上が該当した場合に二次検診対象者とした.二次検診では,細隙灯顕微鏡検査,隅角検査,接触式圧平眼圧計,Humphrey視野計による静的視野検査(30-2SITAStandard)を行った(図1).最終的な緑内障の診断は,一次検診,二次検診を通して得られた視神経乳頭所見などの臨床所見に基づいて診断した3,8).一次検診の非散瞳下視神経乳〔別刷請求先〕杉山和久:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学医薬保健学域医学系視覚科学Reprintrequests:KazuhisaSugiyama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa920-8641,JAPANあたらしい眼科Vol.30,No.7,2013(00)100210021002(120)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY表1二次検診受診基準①どちらかの眼で眼圧が21mmHg以上②視神経乳頭ステレオ眼底写真で緑内障性変化を認める※以下の1つ以上が存在した場合:垂直C/D比が0.6以上,上極(11時.1時)・下極(5時.7時)のリム幅がR/D比で0.2以下のもの,両眼の垂直C/D比の差が0.2以上のもの,網膜神経線維層欠損や乳頭出血を認めるもの③HRTIIで「borderline」や「outsidenormallimits」と分類されたもの④ステレオ眼底写真やHRTⅡが撮影できなかったもの頭ステレオ写真でgoodqualityを得られたのは,全体では93.4%であった.しかし,最終的に緑内障眼と診断された群のみをみるとgoodqualityを得られたのは73.4%に低下する.撮影ができなかった眼(notavailable)の場合,緑内障と確定診断できた眼は31.8%であった.以上のことから,非散瞳下での緑内障スクリーニングにおいて緑内障眼は視神経乳頭ステレオ写真の撮影可能率が低いといえる.HRTIIの画像の質は「acceptable(topographic標準偏差≦50μm)」,画像の取得は可能だったが信頼性が十分でない「unacceptable(topographic標準偏差>50μm)」,「判読できる画像が得られなかった,すなわち撮影不能(notacceptable)」に分類した.解析は,2名の緑内障専門医が視神経乳頭ステレオ写真をもとに視神経乳頭縁を決定し,HRTIIソフトウェア(version1.6)に搭載されているMoorfieldsregressionanalysis(MRA)を用いて評価した.MRAとは,乳頭パラメータが乳頭面積と有意に相関しているため,最も緑内障性変化と関連が強いリム面積をさらに乳頭面積で補正したうえで正常データベースと比較するという診断プログラムである.乳頭全体と視神経乳頭を6セクターに分け,それぞれにおいて正常データベースと比較し,95%信頼区間に入っていれば“withinnormallimits”,95.99.9%信頼区間内の場合は“borderline”,99.9%信頼区間内は“outsidenormallimits”とされる.MRAで「borderline」は陽性(すなわちwithinnormallimitsのみ陰性),「border(121)一次検診.問診.屈折検査.眼圧検査(非接触式眼圧計).非散瞳ステレオ写真.HRT-Ⅱ二次検診.細隙灯顕微鏡検査.Goldmann圧平式眼圧計による眼圧測定.隅角検査.Humphrey視野計による静的視野検査.散瞳後に眼底検査図1住民健診に併設した緑内障検診の一次検診および二次検診の検査項目line」は陰性(withinnormallimits,borderlineは陰性)とした場合の各々で感度と特異度を算出した.“borderline”を陽性(withinnormallimitsのみ陰性)とみなす場合の感度は72.6%,特異度は89.7%であった.“borderline”の結果を陰性とみなす場合の感度は60.3%,特異度は95.6%であった.HRTIIが撮影不能だった23眼のうち,1眼(4.3%)であった.満足のいく画像が得られなかった199眼のうち,緑内障と確定診断されたのは21眼(10.6%)であった.住民健診併設の緑内障検診の結果,受診者1,173名のうち,二次検診対象者は296名,実際の二次検診受診者は251名であった.最終的に広義原発開放隅角緑内障と診断されたのは検診受診者1,173名のうち58名(5.1%)であった.III画像検査を用いた人間ドック併設の緑内障検診2006年1月から6月にNTT西日本金沢病院で人間ドック併設の緑内障検診を行った.対象は人間ドックを受診し,緑内障検診に対する同意が得られた794名である.一次検診の検査項目は眼圧測定(非接触式眼圧計),視神経乳頭ステレオ眼底写真,frequency-doublingtechnology(FDT),GDxvariablecornealcompensator(GDxVCC)である.GDxVCCは,TSNIT(temporal-superior-nasalinferior-temporal)パラメータのいずれかにp<5%の異常が検出された場合を異常と判定した.FDTはスクリーニングモードC-20-5を使用し,偏差確率プロットでp<5%の部位が1カ所以上でかつ結果に再現性があった場合を異常と判定した.二次検診では,Humphrey視野検査も実施した.人間ドック併設の緑内障検診の結果,受診者795名のうち,二次検診対象者は341名,実際の二次検診受診者は322名であった.最終的に広義原発開放隅角緑内障と診断されたのは検診受診者795名のうち37名(4.8%)であった.GDxVCCの感度は78.4%,特異度は81.0%であった.FDTの感度はp<5%で判定した場合に,感度は94.6%,特あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131003異度は63.7%で,p<1%で判定すると感度は73%,特異度は93.3%であった.すなわちFDTは,p<5%を基準に判定すれば高い感度であるが,一方で特異度は低く,p<1%で判定すると感度は低く,特異度は高い結果であった.IV画像検査を用いた緑内障検診の今後視神経乳頭ステレオ写真は,広角の後極部眼底写真よりも視神経乳頭の評価に信頼性があると報告されている9).しかし,立体的評価を可能にする2つの画像を得ることは特に高齢者の画像ではうまくできないことが多い5).実際に,住民健診併設の緑内障検診においても,全体の6.6%,70歳以上の10.7%で視神経乳頭ステレオ写真での評価が困難であった.近年では同時に異なる視差で撮影可能なステレオ写真撮影装置も発売されており,1眼につき1回の撮影で視差のあるステレオ写真が得られるようになった.さらに視差が一定となるため,同じ条件で立体視的に視神経乳頭を観察することができる.しかし,写真の評価は主観的であり,検査結果は明らかに検者の経験に左右されることを念頭に置く必要がある.スクリーニング検査において,HRTIIではコントアラインを引かなければならないことが問題点であった.GlaucomaProbabilityScoreTM(GPS)は,コントアラインを決定する必要はなくなった.しかし一方で,緑内障検出率はMRAと同等10)であるが,MRAに比べて特異度が低い,すなわち偽陽性が高いという報告もある11).HRTIIにおいてはコントアライン決定が重要となるが,視神経乳頭ステレオ写真と比較して,HRTIIはより客観的で量的なデータを得ることができ,視神経乳頭ステレオ写真と比べて緑内障眼での測定可能率が高かった.また,多治見スタディではMRAの感度は39.4%,特異度は96.1%,GPSの感度は65.2%,特異度は83.0%と報告されている12).多治見スタディの結果,筆者らが行った住民健診および人間ドック併設の緑内障検診の結果から,HRTIIやGDxは,特異度は高いが感度はまだ十分ではないと考えられた.FDTは緑内障スクリーニングに効果的であると示されている13,14)が,今回人間ドック併設緑内障検診で用いた結果,まず初めに右眼,ついで左眼の測定をしていることから左眼において検査の偽陽性率が高値であったことが問題点として明らかとなった.一方でpreperimetricglaucomaのFDTパラメータ,スペクトラルドメインOCTの視神経乳頭周囲パラメータ,黄斑部内層厚のパラメータを相補的に使用する必要があることを指摘した報告15)もあることから,どの検査機器を組み合わせると最も効率的な検診となるかを検討することも課題の一つである.住民健診併設の緑内障検診,人間ドック併設の緑内障検診を行ったのは,いずれも2003.2006年である.当時は,緑1004あたらしい眼科Vol.30,No.7,2013緑内障検診他覚的評価画像検査の導入住民健診や人間ドックに併設無散瞳図2画像解析装置を用いた緑内障スクリーニングのポイント画像解析検査を用いた緑内障スクリーニングは「無散瞳」,「客観的評価」,「眼科医不在でも検査が可能」であることがポイントであると考える.このような体制を確立し緑内障検診を住民健診や人間ドックに組み込んで,早期発見の体制をさらに普及させることが可能になると考える.内障画像診断といえばGDxやHRTII,タイムドメインOCTが主流であった.現在は,これらに加えてスペクトラルドメインOCTが緑内障診療においても欠かせない存在となりつつある.非散瞳下でも撮影可能な機種が増加し,視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚の評価とともに早期緑内障における黄斑部解析の有用性が示されている.画像解析検査を用いた緑内障スクリーニングは「無散瞳」,「客観的評価」,「眼科医不在でも検査が可能」であることがポイントであると考える(図2).無散瞳検査は,急性緑内障発作の危険性を軽減させ,客観的評価が可能な画像検査により,検診会場に眼科医が不在であっても施行することが可能となる.以上のような体制が確立すれば,緑内障検診を住民健診や人間ドックに組み込み,早期発見の体制をさらに普及させることが可能になると考える.文献1)QuigleyHA,VitaleS:Modelsofopen-angleglaucomaprevalenceandincidenceintheUnitedStates.InvestOphthalmolVisSci38:83-91,19972)BonomiL,MarchiniG,MarraffaMetal:Prevalenceofglaucomaandintraocularpressuredistributioninadefinedpopulation.TheEgna-NeumarktStudy.Ophthalmology105:201-215,19983)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.Ophthalmology111:1641-1648,20044)RabindranathHR,FraserK,ValeLetal:Screeningforopenangleglaucoma:systemicreviewofcost-effectivenessstudies.JGlaucoma17:159-168,20085)TielschJM,KatzJ,SinghKetal:Apopulation-based(122)evaluationofglaucomascreening:theBaltimoreEyeSurvey.AmJEpidemiol134:1102-1110,19916)Detry-MorelM,ZeyenT,KestelynPetal:Screeningforglaucomainageneralpopulationwiththenon-mydriaticfunduscameraandthefrequencydoublingperimeter.EurJOphthalmol14:387-393,20047)OhkuboS,TakedaH,HigashideTetal:Apilotstudytodetectglaucomawithconfocalscanninglaserophthalmoscopycomparedwithnonmydriaticstereoscopicphotographyinacommunityhealthscreening.JGlaucoma16:531-538,20078)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedefinitionandclassificationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20029)VarmaR,SteinmannWC,ScottIU:Expertagreementinevaluatingtheopticdiscforglaucoma.Ophthalmology99:215-221,199210)FerrerasA,PajarinAB,PoloVetal:DiagnosticabilityofHeidelbergRetinaTomograph3classifications:glaucomaprobabilityscoreversusMoorfieldsregressionanalysis.Ophthalmology114:1981-1987,200711)FerrerasA,PabloLE,PajarinABetal:DiagnosticabilityoftheHeidelbergRetinaTomograph3forglaucoma.AmJOphthalmol145:354-359,200812)SaitoH,TsutsumiT,AraieMetal:SensitivityandspecificityoftheHeidelbergRetinaTomographIIversion3.0inapopulation-basedstudy:theTajimiStudy.Ophthalmology116:1845-1861,200913)YamadaN,ChenPP,MillsRPetal:Screeningforglaucomawithfrequency-doublingtechnologyandDamatocampimetry.ArchOphthalmol117:1479-1484,199914)IwasakiA,SugitaM:Performanceofglaucomamassscreeningwithonlyavisualfieldtestusingfrequency-doublingtechnologyperimetry.AmJOphthalmol134:529-537,200215)HirashimaT,HangaiM,NukadaMetal:Frequencydoublingtechnologyandretinalmeasurementswithspectral-domainopticalcoherencetomographyinpreperimetricglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol251:129-137,2013***(123)あたらしい眼科Vol.30,No.7,20131005