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医科向けのサプリメント:ルテイン

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1057.1062,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1057.1062,2012医科向けのサプリメント:ルテインDietarySupplementforMedicalDoctors:Lutein尾花明*Iルテインはカロテノイドの一種で,黄斑色素の成分である黄斑,すなわち中心窩を中心とした直径1.5.2.0mmの範囲には黄斑色素が存在する.黄斑色素の成分は,ルテイン〔(3R,3¢R,6¢R)-lutein〕と,ゼアキサンチン-zeaxanthin〕,メソゼアキサンチン〔(3R,R)¢3,R3〔(3¢S-meso)-zeaxanthin〕の3種のカロテノイドである(図1).自然界には約650種類のカロテノイドがあり,C40H56を基本構造とする.このうち,炭素と水素のみからなるものがカロテン,それ以外の元素を含むものがキサントフィルである.ルテイン,ゼアキサンチンはシクロヘキセン環に水酸基をもつキサントフィルである.ルテインとゼアキサンチンはシクロヘキセン環の二重結合の位置が異なり,共役二重結合数はルテインが10個,ゼアキサンチンは11個である.ゼアキサンチンのもう一つの立体異性体である(3S,3¢S)-zeaxanthinは網膜には存在しない.IIルテインサプリメントは加齢黄斑変性の予防に期待される黄斑色素やルテイン摂取量と加齢黄斑変性(AMD)の関係は,古くから検討されてきた.1.黄斑色素と加齢黄斑変性Boneら1)は,摘出眼球の中心窩から3mm以内のル5¢OH4¢3¢71115H2¢613¢9¢1¢2196¢1315¢11¢7¢345ルテインHO(3R,3¢R,6¢R)-b,e-カロテン-3,3¢-diolOHゼアキサンチンHO(3R,3¢R)-b,b-カロテン-3,3¢-diolOHHOメソゼアキサンチン(3R,3¢S)-b,b-カロテン-3,3¢-diolOHHO(3S,3¢S)-ゼアキサンチン(3R,3¢S)-b,b-カロテン-3,3¢-diol図1ルテインとゼアキサンチンの構造式ゼアキサンチンには3つの立体異性体があり,そのうちの2つが黄斑にある.テイン・ゼアキサンチン量を調べ,AMD眼は健常眼の63%であると報告した.また,Beattyら2)は,heterochromaticflickerphotometryを使って黄斑色素光学密度を測定し,AMD僚眼の非発症眼の色素密度が健常者より低いことを報告した.Bernsteinら3)は,共鳴ラマン分光装置でAMD眼の色素密度を測定し,AMD眼は健常眼より低値であると報告した(図2).筆者ら4)も同様の共鳴ラマン分光装置で,日本人AMD患者の色素密*AkiraObana:聖隷浜松病院眼科/浜松医科大学メディカルフォトニクス研究センター〔別刷請求先〕尾花明:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(31)1057 800Counts0100200300400500600700正常AMDAMDルテイン図2共鳴ラマン分光法で測定した黄斑色素密度加齢黄斑変性は正常眼より色素密度が32%少ない.ルテインサプリメントを4mg/日の摂取した群は,加齢黄斑変性より色素密度が高い.(文献3より改変)度が同年齢健常者より低値であることと,AMD僚眼の非発症眼の色素密度も発症眼と同程度に低値であることを報告した.黄斑色素の低値はAMDの進行原因か,病気の結果かは断言できないが,筆者らは黄斑色素の少ない個体が病気の進行をきたしやすいのではないかと推測している.2.ルテイン,ゼアキサンチン摂取と加齢黄斑変性食事アンケートからルテイン,ゼアキサンチン摂取量を求めた疫学調査では,低摂取群は高摂取群より発症危険率が高いとされる.Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)の調査5)では,ルテインおよびゼアキサンチン最高摂取群(中央値3.5mg/日)と最小摂取群(同0.7mg/日)で比較すると,高摂取群は滲出型AMDのオッズ比が0.65,萎縮型AMDのオッズ比が0.45としている.3.予防効果の証明は未解決AREDS6)は,抗酸化ビタミン(ビタミンE,ビタミンC,b-カロテン)と亜鉛,銅がAMD予防に有効なことを証明した.しかし,ビタミンEとb-カロテンの効果を否定する報告7)もある.ルテインやゼアキサンチン低摂取では黄斑色素が低値となり,AMDを発症しやすい,との仮説が成り立つが,予防効果の証明は十分ではない(表1).ルテインとゼアキサンチンサプリメント摂取が,本当にAMD発症率を低下させるかどうかは,現在米国で行われているAREDS2(2.AREDSサプリメント参照)の結果を待たねばならない.IIIルテインサプリメントの奏効機序1.ルテイン,ゼアキサンチンの吸収と眼内集積経路両者は食事から摂取される.ただし,メソゼアキサンチンは自然の食品中には存在せず,網膜内でおもにルテ表1栄養学的アプローチによる加齢黄斑変性の予防CategoryStudyRecommendationStrengthofevidenceRatingofrecommendationAREDSformulaAREDS5)RegularintakemayreduceriskofneovascularAMDIBLutein/ZeaxanthinAREDS2Notyetavailablen/an/aCAREDS8)NodifferenceIICPOLA9)HigherluteinandzeaxanthinreducedriskofAMDIICGaleetal10)HigherluteinandzeaxanthinreducedriskofAMDIICLutein/Zeaxanthin/AstaxanthinCARMIS11)Lutein,zeaxanthin,astaxantinwithothernustientsreducedriskofAMDIBOmega-3AREDS2Notyetavailablen/an/aUSTS12)Higheromega-3intakereducedriskofAMDIICn/a:datanotavailable,AREDS:Age-RelatedEyeDiseaseStudy,AREDS2:Age-RelatedEyeDiseaseStudy2,CAREDS:CarotenoidsinAge-RelatedEyeDiseaseStudy,POLA:PathologiesOculairesLieesaI’AgeStudy,USTS:UnitedSatesTwinStudy.Strengthofevidenceandratingofrecommendationratedaccordingtomethoddescribedpreviously.[Ophthalmology107:9-10,2000](文献13より改変)1058あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(32) 内網状層外網状層(Henle線維層)錐体外節網膜色素上皮脈絡膜毛細血管特異的結合蛋白視細胞のレチノイド受容体:IRBPRPEのHDL受容体:SR-B1図3ルテインの網膜内への取り込み経路脈絡膜毛細血管から,HDL受容体を介して網膜色素上皮細胞に取り込まれた後,レチノイド受容体を介して視細胞外節から視細胞内に入り,ルテインおよびゼアキサンチンのそれぞれの特異的結合蛋白と結合し,軸索突起に集積する.インから変換されると考えられる14).ルテインにはエステル体とフリー体がある.経口摂取されたルテインエステルは膵液酵素で加水分解されて遊離ルテインになる.遊離ルテインは脂肪酸ミセルを形成して,小腸上皮細胞のscavengerreceptorclassBtype1(SR-B1)を介して吸収されると考えられている.脂溶性のルテインは,おもに高比重リポ蛋白(HDL)と結合して血中を輸送される.網膜への集積過程は,Bernsteinらのグループの研究15)でかなり判明してきた.脈絡膜毛細血管を流れるルテイン,ゼアキサンチンは,網膜色素上皮細胞(RPE)のSR-B1を介して取り込まれ,RPEからはinterphotoreceptorretinoidbindingprotein(IRBP)を介して視細胞に取り込まれると考えられる(図3).その後は,それぞれの特異的結合蛋白に結合する.ゼアキサンチンの結合蛋白はglutathioneS-transferaseP1(GSTP1)17)で,組織学的に黄斑の網膜外網状層であるHenle線維層に最も多く,内網状層にも分布する.ルテインの特異的結合蛋白は,steroidgenicacuteregulatorydomain(StARD)proteinスーパーファミリーの一種である.ルテイン,ゼアキサンチンは網膜全域の杆体外節にも存在する18).ただし,ルテイン,ゼアキサンチン,メソゼアキサンチンの割合は部位によって異なり,網膜周辺部ほどルテインの割合が高くなる.少量のルテインは毛様体,虹彩,水晶体にも存在する.(文献16より改変)フィルター効果活性酸素消去脂質の酸化防止図4黄斑色素の機能青色光を吸収するフィルター効果と抗酸化作用により,視細胞の青色光障害を抑制する.(文献16より改変)2.黄斑色素のはたらき黄斑色素はおもに2つの機序により,光による酸化ストレスから視細胞を防御する(図4).a.フィルター効果ルテインとゼアキサンチンは460nmに吸収ピークをもち,過剰な青色可視光を吸収する.青色可視光は視細胞に光障害をもたらす(bluelighthazard)ため,この障害を抑制する.b.抗酸化作用ルテイン・ゼアキサンチンは一重項酸素を還元する抗酸化作用をもつ.消去作用には,カロテノイド自身が酸化物になった後分解される化学反応と,活性酸素などの物理エネルギーを共役二重結合が吸収して熱(振動)エネルギーに変換する物理的消去がある.網膜色素上皮のリポフスチンは青色光励起で一重項酸素を発生するが,(33)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121059 SurfacePolarheadgroupQuenchingreactiveoxygenspeciesSurfacePolarheadgroupQuenchingreactiveoxygenspecies図5細胞膜でのルテインとゼアキサンチンの配位ルテインは細胞膜表面に存在し,ゼアキサンチンは膜を貫通する形で存在する.これらが細胞表面で発生した一重項酸素やラジカルを消去すると考えられる.(ケミン提供図,文献19より改変):Zeaxanthin表2眼に関係するサプリメントの分類①ブルーベリー(アントシアニン)を主剤とした混合サプリメント②ブルーベリー(アントシアニン)とルテインを主剤としたサプリメント③ルテインを主剤としたサプリメント(単体または混合)④AREDS研究の成分に従ったサプリメント杆体外節の細胞膜内ルテイン,ゼアキサンチンが一重項酸素を消去していることが推測される(図5).IV国内のアイケアサプリメントの現況眼によいサプリメントとして国内販売されている製品は,表2のように分類できる.販売量は①>②>③>④の順と思われ,2011年国内のルテイン含有サプリメント販売額は約126億円とされる.①②③は通信販売が主である.④はおもに眼科医院,調剤薬局で販売されているが,販売量は他に比べて非常に少ない.エビデンスが確立されれば,眼科医には対象患者に正しい摂取指導をする必要が生じ,この販売形態が広まるものと予想する.実際,米国の調査では,6割以上の患者が医師の推薦を頼りにサプリメントを選定していた.Vルテイン,ゼアキサンチンサプリメント1.ルテインサプリメント天然植物由来製品は菊科のマリーゴールド花弁の抽出物である.中南米で栽培されるが,最近はインドや中国産が多い.抽出過程でゼアキサンチンを完全に分離できないので,通常,少量のゼアキサンチンを含む.国内で販売されるルテイン含有サプリメントは約2001060あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012Watersoluble:Lutein表3ルテイン,ゼアキサンチン摂取を指導すべき症例摂取が望ましい対象者AREDS対象者①両眼の早期加齢黄斑症患者②片眼が加齢黄斑変性で,反対眼が早期加齢黄斑症摂取が望ましいかもしれない対象者滲出型および萎縮型加齢黄斑変性患者有用性未定の対象者①健常高齢者②健常若年者製品と推定される.使用されるルテイン原末はケミン社のFloraGloRが多い.これは,マリーゴールド由来の遊離体ルテインで,ルテイン10mg中に0.5mgのゼアキサンチンを含む.最近は,他の原料ルテインも販売されており,たとえば,KATRA社のXanmaxRは,ルテイン10mg中に2mgのゼアキサンチンを含み,AREDS2で採用されているのと同じ割合である.2.ゼアキサンチンサプリメント天然植物由来製品はパプリカ抽出物である.近年,ゼアキサンチンと他のサプリメントを組み合わせた製品が販売されだしたが,国内では,ゼアキサンチンの単体サプリメントは販売されていない.VIルテイン,ゼアキサンチン摂取を指導すべき症例AMD予防効果の科学的実証はまだ不十分であるが,少なくともAREDS5)の対象例には正しい情報を提供すべきである(表3).その他の患者や健常人に対する有効性は実証されていないので,あくまで患者本人の意思で(34) 摂取を決めるべきである.1.AREDS対象例50歳以上の症例で,両眼に早期加齢黄斑症(中等度以上の軟性ドルーゼン,色素異常または中心窩外に地図状萎縮がある)を有する例,または,片眼が晩期加齢黄斑症(滲出型AMDまたは萎縮型AMD)で,反対眼が早期加齢黄斑症の症例.2.AMD患者早期加齢黄斑症や萎縮型AMDの症例でコントラスト感度などの視機能が改善したとの報告20,21)がある.滲出型AMDにおいて,抗VEGF(血管内皮増殖因子)剤治療との併用効果について,現在,臨床試験を施行しているが,結果はまだ得られていない.奏効機序から考えると,病気の進行を防ぐ効果があるかもしれない.3.健常高齢者健常高齢者が摂取することで,医学的利益を得るとの証拠はない.しかし,野菜摂取が少ない人,屋外作業で太陽光を多く受ける人,パソコンディスプレイなどを長時間見る人のように光による酸化ストレスを受けやすい人,喫煙者のように酸化ストレスにさらされやすい人には有益かもしれない.4.健常若年者将来のAMD発症が抑制できるか否かに関する研究は皆無である.ただ,わが国の若年者は,食事からのルテイン,ゼアキサンチン摂取量が非常に少ないとの報告がある.VIIルテインとゼアキサンチンの適切な摂取量1.ルテイン摂取量ルテインが経口摂取されてから眼内に蓄積するまでには,前述のごとく複数の受容体を介するため,それらの遺伝的差異によって,吸収,蓄積程度に個人差があるはずで,最適量は個人により異なると思われる.国内で販売されている製品の推奨量は,1.20mg/日と幅があるが,6.12mg/日を推奨する製品が多い.最(35)近の臨床試験の使用量は通常10mg/日である.2.ゼアキサンチン摂取量ゼアキサンチン単体の摂取量に関する研究は少なく,最適摂取量は不明である.ヒト血中濃度は,ルテイン:ゼアキサンチン比が約7:1である.AREDS2試験では,ルテイン10mg/日,ゼアキサンチン2mg/日を採用している.筆者らの健常者での検討22)では,ルテイン単独投与では黄斑色素密度の増加が得られたが,ゼアキサンチン単独投与では色素密度は増加しなかった.その原因はまだ特定できていない.文献1)BoneRA,LandrumJT,NayneSTetal:MacularpigmentindonnereyeswithandwithoutAMD:Acase-controlstudy.InvestOphthalmolVisSci42:235-240,20012)BeattyS,MurrayIJ,HensonDBetal:Macularpigmentandriskforage-relatedmaculardegenerationinsubjectsfromanorthernEuropeanpopulation.InvestOphthalmolVisSci42:439-446,20013)BernsteinPS,ZhaoD-Y,WintchSWetal:ResonanceRamanmeasurementofmacularcarotenoidsinnormalsubjectsandinage-relatedmaculardegenerationpatients.Ophthalmology109:1780-1787,20024)ObanaA,HiramitsuT,GohtoYetal:Macularcarotenoidlevelsofnormalsubjectsandage-relatedmaculopathypatientsinaJapanesepopulation.Ophthalmology115:147-157,20085)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TherelationshipofdietarycarotenoidandvitaminA,E,andCintakewithage-relatedmaculardegenerationinacase-controlstudy:AREDSreportNo.22.ArchOphthalmol125:1225-1232,20076)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzinkforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss.AREDSreportNo.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20017)EvansJR,HenshawKS:Antioxidantvitaminandmineralsupplementsforpreventingage-relatedmaculardegeneration(Review).CochraneDatabaseofSystematicReviews1:No.CD000253,20088)MoellerSM,ParekhN,TinkerLetal:AssociationsbetweenintermediateAMDandluteinandzeaxanthininthecarotenoidsinAMDstudy(CAREDS).Ancillarystudyofthewomen’shealthinitiative.ArchOphthalmolあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121061 124:1151-1162,20069)DelcourtC,CarriereI,Berberger-GateauPetal:PlasmaluteinandzeaxanthinandothercarotenoidsasmodificationriskfactorforAMDandcataract:thePOLAStudy.InvestOphthalmolVisSci47:2329-2335,200610)GaleCR,HallNF,PhillipsDIWetal:Luteinandzeaxanthinstatusandriskofage-relatedmaculardegneration.InvestOphthalmolVisSci44:2461-2465,200311)PiermarocchiS:CarotenoidsinAge-relatedMaculopathyItalianStudy(CARMIS):two-yearresultsofarandomizedstudy.EurJOphthalmol22:216-225,201112)SeddonJM,GeorgeS,RosnerB:Cigarettesmoking,fishconsumption,omega-3fattyacidintake,andassociationswithage-relatedmaculardegeneration:theUStwinstudyofage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol124:995-1001,200613)内藤裕二:カロテノイド.FunctionalFood18:346-354,201214)JohnsonEJ,NeuringerM,RussellRetal:Nutiritionalmanipulationofprimateretinas,III:Effectsofluteinorzeaxanthinsupplementationonadiposetissueandretinaofzanthophyll-freemonkeys.InvestOphthalmolVisSci46:692-702,200515)LiB,VachaliP,BernsteinPS:Humanocularcarotenoidbindingproteins.PhotochemPhotobiolSci9:1418-1425,201016)SnodderlyDM,AuranJD,DeloriFC:Themacularpigment.IISpatialdistributioninprimateretinas.InvestOphthalmolVisSci25:674-685,198417)BernsteinPS,KhachikF,CarvalhoLSetal:Identificationandquantificationofcarotenoidsandtheirmetabolitesinthetissuesofthehumaneye.ExpEyeRes72:215-223,200118)RappLM,MapleSS,ChoiJH:Luteinandzeaxanthinconcentrationsinrodoutersegmentmembranesfromperofovealandperipheralhumanretina.InvestOphthalmolVisSci41:1200-1209,200019)GabrielskaJ,GruszeckiWI:Zeaxanthin(dihydroxy-bcarotene)butnotb-carotenerigidifieslipidmembranes:a1H-NMRstudyofcarotenoid-eggphosphatidylcholineliposomes.BiochimBiophysActa1285:167-174,199620)RitcherSP,StilesW,StatkuteLetal:Double-masked,placebo-controlled,randomizedtrialofluteinandantioxidantsupplementationintheinterventionofatrophicage-relatedmaculardegeneration:theVeteransLASTstudy(LuteinAntioxidantSupplementationTrial).Optometry75:216-229,200421)RitcherSP,StilesW,Graham-HoffmanKetal:Randomized,double-blind,placebo-controlledstudyofzeaxanthinandvisualfunctioninpatientswithatrophicage-relatedmaculardegeneration.Thezeaxanthinandvisualfunctionstudy(ZVF)FDAIND#78,973.Optometry82:667-680,201122)TanitoM,ObanaA,GohtoYetal:MacularpigmentdensitychangesinJapanesesubjectssupplementedwithluteinorzeaxanthin:quantificationviaresonanceRamanspectrophotometryandautofluorescenceimaging.JpnJOphthalmol,2012Jun15[Epubaheadofprint]1062あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(36)

健康食品としてのサプリメント:法的知識

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1051.1056,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1051.1056,2012健康食品としてのサプリメント:法的知識DietarySupplementsasNaturalHealthProducts:LegalKnowledgeofDietarySupplements川崎佳巳*はじめに健康食品は日本では今や2兆円産業といわれ,インターネットによるアンケート調査でも,消費者の6割以上が利用していると回答し,日本人の食生活に浸透するものとなった.健康食品のなかで,特に機能性成分を濃縮しカプセルや錠剤にしたものをサプリメントとよぶ.このサプリメント(補給)という言葉は,欧米で普及していたダイエタリーサプリメントを略した和製英語である.では,この健康食品やサプリメント,日本では法的にいかなる位置付けか?また,法的にどのような表示が義務付けられているか?さらにその表示からサプリメントの品質を見きわめ,患者に有用に利用させるポイントについて解説する.I日本ではサプリメントの定義はない1.法的定義健康食品やサプリメント全般についての定義は法律上なく,健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるものをさす.そのなかには法律的に『国が特定の機能の表示を許可したもの(保健機能食品)』とそうでない『いわゆる健康食品』の2つに分けられる(図1).保健機能食品にはさらに『特定保健用食品(通称トクホ)』と『栄養機能食品』の2種類がある.トクホは有効性と安全性が製品ごとに審査され認定マークが与えられる(図2)が,栄養機能食品には個別製品の審査はなく,機能表示ができる栄養成分(表1)に関して基準を満たし特定保健用食品栄養機能食品いわゆる健康食品効果・効能を標榜できる機能表示は認められず・ビタミン・ミネラル〈保健機能食品〉機能表示を許可医薬品食品医薬品個別許可型規格基準型食品(サプリメント)図1サプリメントと医薬品の違いサプリメントは食品の範疇に入り,保健機能食品以外の『いわゆる健康食品』には機能表示が認められていない.(参考図書4より)図2特定保健食品の表示国が有効性と安全性を個別製品ごとに審査して許可する.保健機能表示ができ,その効果が期待できる.表1栄養機能食品として機能表示ができる成分ミネラルカルシウム,亜鉛,銅,マグネシウム,鉄ビタミンナイアシン,パントテン酸,ビオチン,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,ビタミンC,ビタミンD,ビタミンE,葉酸ミネラル5種,ビタミン12種に関して,国が定めた基準量を含有する食品に栄養機能食品の表示が許可される.表示成分の補給や補完に利用される.(参考図書4より)*YoshimiKawasaki:宝塚第一病院眼科〔別刷請求先〕川崎佳巳:〒665-0832宝塚市向月町19-5宝塚第一病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(25)1051 表2欧米のサプリメントに関する法律日本との比較欧州米国日本法制度サプリメントに関するEU指令書サプリメント健康教育法(DSHEA法)食品衛生法,JAS法,健康増進法定義通常の食事を補助するもの通常の食事を補助するものなし対象サプリメントサプリメントその他の健康食品範囲栄養素(ビタミン,ミネラル)栄養素,ハーブその他の健康食品許可制度事前審査販売後30日以内の報告のみ不要たという製造者認証の表示食品である.欧米にはサプリメントに関する法律があり(表2),法的にも医薬品と食品の中間と位置付けられているが,日本では『いわゆる健康食品』に関して法的定義はない..ここに注意眼の健康に良いことを売り物にするサプリメントのなかには,b-カロテンを基準量含有させて栄養機能食品と表示しているものがある(ビタミンAと同じ機能表示が可能).消費者は栄養機能食品という“お墨付き”で安心し,b-カロテンの栄養機能表示である『夜間の視力維持を助ける栄養素です』を見て,商品名の成分にこの栄養機能があると勘違いしてしまう可能性がある.栄養機能表示ができるのはビタミン12種,ミネラル5種(表1)に限られており,その他の成分に関しては機能表示が認められていない.このような表示の仕方は,法律上問題ないものの,消費者に過剰な期待を与えてし(参考図書1より,一部改変&追加)まいかねない.利用する側には表示を正確に読み取る力も必要である.2.医薬品との違いと問題点サプリメントは医薬品と決定的に異なる点が3つある(表3).1つ目は製品の品質である.医薬品は均一なものが販売されているのに対して,サプリメントは同じ品名であっても品質にかなりのばらつきがある.2つ目はエビデンスである.医薬品の場合は病者を対象とした安全性と有効性の試験が実施されているが,サプリメントに関してはその必要がない.3つ目は利用環境である.医薬品は医師や薬剤師によって安全な利用環境が整備されているが,サプリメントに関しては利用者が自由に選ぶことができ,医療サイドからの適切な管理や指導が及ばない点がある.さらに,サプリメントには,疾病の治療・予防などを表3医薬品とサプリメントの違い医薬品サプリメント製品の品質同じ品質のものが製造&流通する『同じ名称』でもまったく品質の異なるものが存在試験管内実験や動物実験が主体エビデンスの量と質病者を対象とした安全性&有効性の試験が実施済病者を対象とした試験はほとんどされていない安全性確認の対象者は健常人利用環境医師&薬剤師により安全な利用環境が整備あくまで食品,商品の選択&利用は消費者の自由(参考図書3より)表4薬事法違反となりうる表示花粉症を改善(疾病の治療を目的とする効能効果の表現)活性酸素を除去する成分を配合(含有成分や栄養素の表示および説明に関する表現)眼の健康に役立つ(特定部位への健康維持を標榜し,当該部位の改善が期待できる旨の表現)緑内障が気になる方に(疾患を有する者を対象として摂取を薦める表現)視力回復のために(身体の組織機能の増進を目的とする効能効果の表現)(東京都ホームページ,EBS社NR養成プログラムテキストより)1052あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(26) 目的とする表示や,身体の構造や機能に影響を及ぼすことを目的とする表示は,医薬品的な効能効果とされ表示することができない.ただし「保健機能食品」については,「お腹の調子を整える」「食後の血糖値の上昇を抑える」,「カルシウムは,骨や歯(,)の形成に必要な栄養素です」などの身体の構造や機能に影響を及ぼすこと(保健機能)を目的とする表示を行って販売することが可能である.その他の健康食品について効能効果を表示すると薬事法違反となる(表4).意図的に医薬品成分を混入させることも薬事法違反となり,国外からの輸入品にはそのような事例がときどき見受けられる.これらの薬事法違反のサプリメントを販売するクリニックも処罰の対象となり,それらを薦めたドクターにも責任が及ぶこととなるので,注意が必要である.II表示に関する法律安心かつ安全なサプリメントを患者に薦めるうえで参考になるのが,その表示である(図3).以下に加工食品としてのサプリメントに対して法的に必須の表示について説明する.1.食品衛生法食の安全の基本である『健康被害を及ぼさない』ために食品の安全性を確保する法律.容器包装に入れられた加工食品をおもな対象として,「名称」「製造者氏名・所在地」「食品添加物」「アレルギーに関する表示」「消費期限・賞味期限」「保存方法」などを表示すると定めていJAS法食品衛生法健康増進法計量法景品表示法・原材料・産地・誇大表示の禁止・虚偽表示の禁止・内容量・アレルギー表示・栄養成分表示・虚偽誇大広告等の禁止・名称・添加物・遺伝子組換え食品・賞味期限又は消費期限・保存方法・製造者図3法的にサプリメントに必要な表示について加工食品としてのサプリメントに必要な表示を一覧している.(参考図書2より,一部改変)る.2.JAS法(農林物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律)食品に品質表示を義務付けて,消費者の選択に役立つことを目的とした法律.加工することで姿を変えた食品の原材料が何であるかを示している.「名称と原産地表示(生鮮食品)」「名称と原材料(加工食品)」「製造者氏名・所在地」「内容量」「消費期限・賞味期限」「保存方法」などを表示すると定めている.原材料については,重量順に記載されており,機能成分以外にどのような添加物が多く含まれているかがこの表示から確認可能である.3.健康増進法食を通じての健康づくりを推進するために,栄養成分表示をはじめとする食品表示について定めた法律.健康増進法にはつぎの3つの柱がある.1)栄養表示に関する事項:エネルギーや,蛋白質などの栄養成分等の含有量などを表示する場合や,「高カルシウム」,「ビタミンC含有食品」などの栄養成分に関する強調表示をする場合には,「栄養表示基準」に従った表示を必要とする.2)保健機能食品に関する事項:特定保健用食品の許可および承認,栄養機能食品の規格基準について定める.3)健康の保持増進に係る虚偽・誇大広告の禁止:健康の保持増進の効果などに関して虚偽または誇大な広告を禁止する.4.表示に関するその他の法律誇大表示を禁止した景品表示法,内容量に関する計量法がある.IIIサプリメントの品質を保証する表示法制化はされていないが,品質が保証されているサプリメントを薦めるうえで参考となるマークについて解説する.1.GMP(GoodManufacturingPractice:適正製造規範)GMPとは,国が示す安全性と品質の基準を満たす製(27)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121053 図4GMPマーク造工場と製品を認定する制度で,本来は医薬品のために設けられたものである.厚生労働省より,平成17年に「錠剤,カプセル状等食品の適正な製造に係る基本的考え方について」というガイドラインが示された.原料の受け入れから最終製品の出荷に至るまでの全工程において,製品の品質と安全性の確保に努める必要があるということで,健康食品にも導入された.申請のあった工場を民間の評価機関が査察,基準を満たすかどうか,客観的に判断する.GMPマークの付いた健康食品は,この認定を受けた工場で作られた製品であることの証明である(図4).その内容は,容器包装などに表示されたとおりの原材料を使用,含有量も正確であること,異物混入がないこと,賞味期限が正しいなど,一定の安全性と品質が確保されていることを示す.評価機関は2カ所あり,認定工場で作られた製品に無条件にマークが付けられるわけではなく,製品ごとに審査が行われる.国も「GMPマークを目印に健康食品を選びましょう」と推奨している.両評価機関のホームページには,GMPマークのついた製品の一覧が掲載されている.2.JHFAマークJHFA(JapanHealthandNutritionFoodAssociation:日本健康・栄養食品協会)は,サプリメントに対して一定の規格基準を設け,その基準を満たした食品にのみ表示を許可する.以下の3項目について基準を設け,審査を行い,認定マーク(図5)を発行する.1)指定検査機関において成分分析が行われ,外観・性状,パッケージに記載されている成分の確認,残留農薬,重金属,一般細菌・大腸菌群などといった項目について,細かく審査.2)原材料,製造工程,加工施設の設備,作業者の衛生管理などについて,細かい基準を設定し,1054あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012図5JHFAマーク図6ハイクオリティ認証マーク安全衛生面について審査.3)パッケージなどに記載されている表示についても審査を行い,まぎらわしい表現や不適切な表示がないか,食品衛生法・薬事法,栄養改善法などに適合しているかどうかを厳しくチェック.3.ハイクオリティ認証マークハイクオリティ認証は,成分が表示どおり含有されていること,有害レベルの不純物が混入していないこと,GMP工場で製造されていることなどを,日本健康食品・サプリメント情報センターが第三認証する制度である.この安全性,有効性の判断は日本医師会・日本薬剤師会推薦の『ナチュラルメディシン・データベース』を基に行われ,基準を満たしたサプリメントに認証マークを発行している(図6).IV現法律に基づいたサプリメント利用の実際では,ドクターが医療現場で,どのようにサプリメントを患者に薦めればよいか順を追って解説する.1.機能成分の有効性≠サプリメントの有効性同じ名前であっても,その機能成分の含有量や添加物など製品によって大きくばらつきがある.表示を基に適正量がどうか判断するものの,実は表示どおりに含有されていないものもある.たとえ機能成分が有効量入っていたとしても,その商品にトクホのような個別の有効性が証明されているわけではない.(28) 2.エビデンスに基づき機能成分の有効性を患者に説明サプリメントは加工食品の範疇に入り,効能効果を表示できない分,暗示的な表現でメーカーがPRを行い,かえって利用者に過大な期待を与えてしまうことになる.また,薬事法すれすれのきわどい表示をしているものも見受けられる.医療者は機能成分のエビデンスのレベルを正確に把握し,それに基づいて患者に説明し利用させる必要がある.3.サプリメントを見抜くための表示の読み方について指導する食品衛生法,JAS法,健康増進法に基づくサプリメントの表示から,含有成分を読み取る.原材料や添加物に問題がないか,アレルギーで問題になりうる成分が入っていないかを確認する.サプリメントは同じ品名でもその品質には非常にばらつきがあり,患者に安心して使用させるには,GMP認定マーク,JHFAマーク,ハイクオリティ認証マークなど,これらのマークがついている商品を選ぶように指導する.4.重複摂取や過剰摂取,薬剤との相互作用に注意する多種類のサプリメントを服用している場合,主成分以外の成分(ビタミンEなど)が重複していることもあり,利用させる際には,患者の健康食品利用状況を把握し,重複摂取や過剰摂取に注意しないといけない.薬剤を服用している場合は,サプリメントとの相互作用にも注意が必要である.5.アレルギー反応や健康被害に注意し利用状況をフィードバックする薦めたり利用させたりした以上は,患者が体調の変化を感じていないか問診する.もしアレルギー反応や健康被害の可能性が考えられる場合は,それが疑いであってもまずは利用を中止させることが必要である.6.薬事法違反のサプリメントを扱わない,薦めない医薬品成分が混入しているサプリメントも,医薬品的(29)な効能効果を表示しているサプリメントも薬事法違反であり,それらを薦めることも薬事法に触れる.ゆえに,サプリメントを薦める際には,ルテインなどその機能成分についてのエビデンスやAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy)の結果などを説明し,それらが適正量含有され安全性の高いものを,表示を目安として患者に選ばせるのが,現法律のなかでは好ましい.その点では,眼科領域の信頼できる企業が医家向けに製造したサプリメントを利用させるのも安心である..アドバイザリースタッフに関するガイドラインサプリメントに含まれる機能成分に関する正しい知識の普及や,個人の栄養状態の評価とそれに対する助言が,健康被害を防ぐために不可欠である.この社会的要請を受け,わが国では2002年からサプリメントアドバイザー認定機構を設立し,医師,看護師,薬剤師,栄養士などを対象に,その専門家の育成を図っている.私が資格を取得しているNR(NutritionalRepresentative;栄養情報担当者)も,そのアドバイザー資格のうちの一つであり,国立栄養健康研究所が認定するものである.Vまとめサプリメントを安全に利用するうえで必要な法的知識について述べた.サプリメントはあくまで食品なので,医薬品のような即効性を期待したり,病気の治療を目的にしたりするものではないが,最近の研究によって,医薬品に準じる効果がある機能成分や,疾患予防効果が期待されるサプリメントが,今後ますます研究開発されていくと考えられる.サプリメントは法的に食品であるがゆえ,医師の非管理下で利用されている.現時点では,当該法的規制内の範囲で患者に利用方法をきちんと説明し,薦めていくことが大切であるが,今後,欧米のように医薬品と食品の中間としてサプリメントが位置づけられ法的整備が進むことが,有効かつ安全に利用するうえで必要かと考える.謝辞:浅井綜合法律事務所の弁護士,浅井健太氏には法律に関する助言を頂きました.また,NR協会副理事長で薬剤師の千葉一敏氏,同じく同協会副理事長で歯科医師の清水洋利氏,ヘルシーパス社代表取締役の田村忠司氏からは,サプリメントに関する資料と助言をいただきました.この場を借りてお礼申し上げます.あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121055 参考文献1)川嶋朗:ドクターズサプリメントの可能性.アンチ・エイジング医学1(5):36-40,20052)MacDonaldNE,MacLeodS,StanbrookMBetal:Noregulatorydoublestandardfornaturalhealthproducts.CMAJ183:2079,2011参考図書など1)吉川敏一,櫻井弘:サプリメントデータブック.オーム社,20052)パンフレット『あなたは食品表示を読めますか?』.札幌市市民まちづくり局消費者センター,20093)パンフレット『健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて』.厚生労働省,日本医師会,国立栄養健康研究所,20104)パンフレット『健康食品の正しい利用法』.国立栄養健康研究所,20111056あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(30)

網膜色素変性症におけるサプリメントと保護的治療薬

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1045.1049,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1045.1049,2012網膜色素変性症におけるサプリメントと保護的治療薬SupplementationandProtectiveTreatmentforRetinitisPigmentosa万代道子*はじめに伴性染色体劣性(5.15%)とさまざまであり,原因と網膜色素変性症は杆体視細胞がアポトーシスに陥り変なる遺伝子も,細胞骨格や構造にかかわる遺伝子,光情性していく疾患群の総称であり,世界中で3,000人から報伝達関連遺伝子,細胞間シグナルや接着,シナプス関4,000人に1人の割合で患者がいるとされている.その連因子,細胞内シグナリング,RNAスプライシングに原因遺伝子としてはこれまでに40以上の遺伝子がすで関わる遺伝子など実にさまざまである.これまでに報告に報告されており,その原因遺伝子によって,遺伝形式されている原因遺伝子を表1にまとめた.病態,進行のは常染色体優性(30.40%),常染色体劣性(50.60%),速度なども当然疾患の原因となる遺伝子によってそれぞ表1網膜色素変性の原因遺伝子蛋白質の機能遺伝子名遺伝形式光伝達関連RHO(ロドプシン)dominant,recessivePDE6A,PDE6B,CNGA1,CNGB1,SAG(アレスチン)recessive細胞骨格,構造関連蛋白質RDS(ペリフェリン)dominant,digenicROM1digenicFSCNdominantTULP1,CRB1recessiveRP1dominant,recessiveシグナル伝達,細胞間,シナプス関連SEMA4AdominantCDH23,PCDH15,USH1C,USH2A,USH3A,MASS1recessiveRP2X-linkedビタミンA代謝関連ABCA4,RLBP1,PDE65,LRAT,RGRrecessiveRNAスプライシング因子PRPF31,PRPF8,PRPF3,RP9dominant細胞内移動MYO7A,USH1G,BBS1,BBS2,ARL6,BBS4,BBS5,MKKS,BBS7,recessiveTTC8,PTHB1RPGRX-linkedpH調整CA4dominant貪食能MERTKrecessiveその他CERKL,BBS10recessiveIMPDH1dominant*MichikoMandai:理化学研究所網膜再生医療研究チーム〔別刷請求先〕万代道子:〒650-0047神戸市中央区港島南町2-2-3理化学研究所網膜再生医療研究チーム0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(19)1045 れに異なる.しかし,実際の患者で原因遺伝子の特定できる症例は,網羅的なスクリーニング遺伝子診断を行っても,わが国で全体の3.4割とされる1).杆体細胞変性に伴う症状としては夜盲,視野狭窄の進行と,末期には錐体細胞の二次的進行による視力障害もみられる.ただ,その進行は一般に10年単位といったものであり,また,錐体細胞の集中する中心視野だけ残存し,視力は比較的良好に保たれている期間は進行例においても比較的長く,よって少しでも進行を遅らせることができれば,という意味で保護効果を目的としたいわゆるサプリメント治療に対するニーズは非常に強い.これまでに医学的にその有効性が報告されたものを含めて,昨今網膜色素変性のサプリメント,保護的治療薬として注目されてきたものとしては,以下のようなものをあげることができる.I現時点で入手可能なもの1.ビタミンA/b-カロテン2.DHA(ドコサヘキサエン酸)3.ニルバジピン(カルシウムブロッカー,高血圧治療薬)4.ルテイン,ゼアキサンチン(カルテノイド)5.アセタゾラミド,ドルゾラミド,ブリンドゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)6.その他の治療II医師の処方薬などで,現在臨床研究など行われているもの1.イソプロピルウノプロストン2.バルプロ酸3.PEDF(pigmentepithelium-derivedfactor)4.CNTF(ciliaryneurotrophicfactor)III網膜色素変性の患者は注意を要する薬やサプリメントアキュテイン,バイアグラ,ビタミンE以下,それぞれの項目について説明する.1046あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012I現時点で入手可能なもの1.ビタミンA1993年に行われた米国の大規模疫学的研究によると,ビタミンAの連日摂取で(15,000U/日)4.6年の経過観察により,錐体ERG(網膜電図)反応の低下の進行を有意に遅らせることができ,またもともとのERG反応の良好な群でより効果は顕著であったとされている2).視力や視野変化についても進行を遅らせる可能性は示唆されているものの,これらの指標の悪化は元来ゆっくりであると同時に変動もあるため,より長期にわたる経過観察期間でないと判定はむずかしいと思われる.また,b-カロテンは必ずしも安定してビタミンAに変換されないので,代用にはならない.また,ビタミンA摂取の副作用については,49歳以上の男性および閉経後の女性では骨折リスクがわずかに上昇することが報告されており,また,高濃度の摂取は胎児奇形のリスクを伴うので,妊婦は避けるべきである.また,服用する場合は,年に一度,肝臓の酵素,ビタミンAの量の検査が勧められている.2.DHA(ドコサヘキサエン酸)DHA(omega-3polyunsaturatedfattyacids)は網膜では視細胞外節の主たる多価不飽和脂肪酸であり,抗酸化物質である.食事ではサバ,イワシなどの青魚に多く含まれていることが知られている.DHAとビタミンAを同時に摂取した網膜色素変性の患者では最初の2年では視力,視野変化の進行を遅らせる効果がみられたが,4年間でビタミンAのみを摂取した患者と比較すると,DHAの追加による効果はみられなかった3,4).しかし,患者赤血球中のDHAの濃度と錐体ERGの振幅には関連性があるなど,DHAの効果を示唆するエビデンスもいくらかみられる.また,ビタミンA摂取をしている患者を対象として,サプリメントでなくとも日常的にDHAを多く摂取している(≧0.2g/日)患者群と低摂取2g>)を比較すると,4.6年の比較で,高摂取群.群(0で有意に視力の低下の進行が遅いという報告もされている5).このことから,サプリメントとして摂取することの意義は不明ではあるが,日常食生活のなかでDHAを(20) 無理なく摂取することは望ましいといえよう.3.ニルバジピン(カルシウムブロッカー,高血圧治療薬)高血圧の治療によく使われるカルシウムブロッカーという種類の薬のなかで,ニルバジピンという薬は網膜に到達しやすく,rdマウスという非常に進行の速い網膜変性モデルにおいて,網膜の変性を抑えるという動物実験が報告されている6).しかし,その後も動物モデルに関しても一貫しない報告がなされるなど7)薬効について十分にサポートするデータは少なく,またヒトでの効果はデータがなく不明状態である.4.ルテイン,ゼアキサンチン(カルテノイド)ルテインとゼアキサンチンは黄斑部に局在する色素で,もともと体内で作ることはできない.食べ物から摂取され,経口摂取により黄斑色素が増えることが知られている.ルテインは,黄斑部視細胞を酸化ストレスによる障害から守ってくれると考えられている.米国のスタディで,ビタミンA(15,000IU/日)サプリメント投与患者におけるルテインサプリメント(12mg/日)の追加効果については,4年の経過観察で,特に有意な進行抑制はみられていない8).しかし,血中ルテイン濃度の高い患者や黄斑色素濃度の増加量の高かった患者においては,より視野変化の進行が遅かったとも報告されており,その効果については必ずしも否定的なものではないように思われる.5.アセタゾラミド,ドルゾラミド,ブリンゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)網膜色素変性の初期から中期に,黄斑浮腫により視力が低下することがある.こういった浮腫に対して,炭酸脱水酵素阻害薬であるダイアモックスRの内服が有効であることが以前より報告されている9).有効例ではほぼ1カ月以内に効果がみられ,浮腫の軽減がみられる.しかし,8週以上の投与で再び浮腫の再発してくる症例も報告されており,必ずしも効果は持続的ではない10).最近では同様の薬理効果をもつ点眼薬(トルソプトR,エイゾプトR)でも浮腫改善効果があることが報告されて(21)いる11).低カリウム血症など全身的副作用を考えれば,点眼での投与も有用であるが,やはり再発もみられるようである.また,これらの治療はすべての黄斑浮腫に効果があるわけではなく,むしろ有効例は2,3割程度である.6.その他の治療アダプチノールについては,ヘレニエンという物質が成分で暗順応を一時的に改善するとされているが,この成分に関する報告は1963年以降ないので効果については不明である.また,ルテインと同様カロテノイドの一種である.その他のサプリメントとして,アスコルビン酸(ビタミンC),患者の一般的興味としてブルーベリー,といったものもあるが,いずれも網膜色素変性に効果的かどうかは,証明されたものではない.II数年内に可能なもの(医師の処方薬などで,現在臨床研究などが行われているもの)1.イソプロピルウノプロストンプロスタグランジンF2a誘導体であり緑内障の点眼薬の一つとして用いられているが,薬理作用としては,Maxi-Kchannel活性化作用が明らかになり,エンドセリンによって収縮した細胞の弛緩作用や神経細胞保護作用が報告されている.また,ラットの光障害モデルと,同じくラットのロドプシン遺伝子改変網膜変性モデルにおいて,ウノプロストン投与による網膜保護効果が報告されている.網膜色素変性に対しては現在多施設での治験が行われており,視野の維持に有効であるといった経過が報告されている.2.バルプロ酸バルプロ酸は従来抗てんかん薬として長く処方されてきた内服薬であり,最近ではhistonedeacetylaseの強力な阻害薬としての働きの他,抗炎症作用や神経保護因子の分泌促進作用などさまざまな効果が提唱されている.異常ロドプシン蛋白(P23H)を強制発現させた培養細胞系での異常ロドプシン蛋白の正常なfoldingを助あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121047 けるシャペロンとしての小分子のスクリーニングで有効であったことから,Clemsonらが網膜色素変性患者への効果について4カ月の短期投与であるが,13眼についてパイロットスタディを行った12).この結果,視力,視野などで,進行抑制ばかりではなく,一部著しい改善効果がみられ,非常に話題となった.しかしこの報告については以後,有効と判断するには時期尚早といった反論も投稿されており13),科学的根拠の検証とともにしばらく議論は続きそうである.3.PEDFPigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)は,遺伝的網膜変性モデルや光障害モデルなどさまざまな網膜変性動物モデルにおいて眼内投与による有効性が報告されている.現在,わが国でもPEDF遺伝子治療の研究が行われており,厚生労働省に臨床研究の申請がなされている.4.CNTFCiliaryneurotrophicfactor(CNTF)も,網膜変性動物モデルにおいて変性を遅らせることが報告されている.米国ではCNTFを分泌する網膜色素上皮細胞をカプセルに入れて眼内に留置する治療のフェーズ2の臨床試験が,Usher症候群や網膜色素変性を対象に行われている.IIIその他,服用に注意を要する薬(網膜色素変性の患者は注意を要するもの).アキュテイン:にきびの治療に処方される薬剤で,夜盲症,ERGの反応,暗順応を悪化させることが知られている..バイアグラ:男性の性的不全に対する治療薬だが,一過性のERGの変化や視覚の変化を起こすことが知られている.成分のsildenafilはphosphodiestrase5(PDE5)の阻害薬であり,視細胞のPDE6も阻害する.実際バイアグラ使用者には,青い光が見えるといった訴えもみられ,この薬剤が網膜に影響していることを示唆するものであり,何らかの疾患への影響も否定はできない.1048あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012.ビタミンE:ビタミンEには抗酸化作用があり,網膜の変性を抑制する可能性もあるため一日に800IU程度の摂取は奨励されている.しかし,一方で過剰摂取は,網膜色素変性の進行を少し速くする可能性も報告されており,注意を要する.おわりにこれまでに網膜色素変性に対するサプリメントとして多少なりとも眼科医の注意にとまってきたであろうものについてまとめてみた.最初にも述べたが,もともと網膜色素変性は進行が緩徐なうえ,症状にゆらぎもみられるため,実際には長い経過をみなければ,本当にサプリメントが有効であるかどうか判断するのはむずかしいものが多い.患者の日常生活のなかでの摂取に関しては,過剰にならぬよう,無理のない範囲で利用するのが好ましい.また,プロスタグランジン剤やバルプロ酸,その他成長因子といった医師の処方下,あるいは治療として用いられるものについては,現在も臨床研究が進んでおり,有効と判断されたものについては近いうちに臨床現場にも導入されてくるものと思われる.文献1)JinZB,MandaiM,YokotaTetal:Identifyingpathogenicgeneticbackgroundofsimplexormultiplexretinitispigmentosapatients:alargescalemutationscreeningstudy.JMedGenet45:465-472,20082)BersonEL,RosneerB,SandbergMAetal:Arandomizedtrialofvitaminandvitaminsupplementationforretinitispigmentosa.ArchOphthalmol111:761-762,19933)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:ClinicaltrialofdocosahexaenoicacidinpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminAtreatment.ArchOphthalmol122:1297-1305,20044)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:FurtherevaluationofdocosahexaenoicacidinpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminAtreatment:subgroupanalyses.ArchOphthalmol122:1306-1314,20045)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:w-3IntakeandVisualAcuityinPatientsWithRetinitisPigmentosaReceivingVitaminA.ArchOphthalmol,2012Feb13.[Epubaheadofprint]6)FrassonM,SahelJA,FabreMetal:Retinitispigmento(22) sa:rodphotoreceptorrescuebyacalcium-channelblockerintherdmouse.NatMed5:1183-1187,19997)Pearce-KellingSE,AlemanTS,NickleAetal:CalciumchannelblockerD-cis-diltiazemdoesnotslowretinaldegenerationinthePDE6Bmutantrcd1caninemodelofretinitispigmentosa.MolVis7:42-47,20018)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:ClinicaltrialofluteininpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminA.ArchOphthalmol128:403-411,20109)FishmanGA,GilbertLD,FiscellaRGetal:Acetazolamidefortreatmentofchronicmacularedemainretinitispigmentosa.ArchOphthalmol107:1445-1452,198910)ApushkinMA,FishmanGA,GroverSetal:Reboundofcystoidmacularedemawithcontinueduseofacetazolamideinpatientswithretinitispigmentosa.Retina27:1112-1118,200711)GroverS,ApushkinMA,FishmanGA:Topicaldorzolamideforthetreatmentofcystoidmacularedemainpatientswithretinitispigmentosa.AmJOphthalmol141:850-858,200612)ClemsonCM,TzekovR,KrebsMetal:Therapeuticpotentialofvalproicacidforretinitispigmentosa.BrJOphthalmol95:89-93,201113)vanSchooneveldMJ,vandenBornLI,vanGenderenMetal:TheconclusionsofClemsonetalconcerningvalproicacidarepremature.BrJOphthalmol95:153;authorreply153-154,201114)SandbergMA,RosnerB,Weigel-DiFrancoCetal:Lackofscientificrationaleforuseofvalproicacidforretinitispigmentosa.BrJOphthalmol95:744,2011(23)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121049

加齢黄斑変性におけるサプリメントに対する日本の現状と認識

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1039.1044,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1039.1044,2012加齢黄斑変性におけるサプリメントに対する日本の現状と認識UsageandRecognitioninJapanofSupplementsforPreventingAge-RelatedMacularDegeneration佐々木真理子*はじめにAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)1)が,2001年に抗酸化ビタミンとミネラルを含むサプリメントが加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の発症,進行予防に有効であるとの報告をして以来,米国では同年,日本では2005年にAREDSの処方をベースとしたサプリメントが登場した.当初,このサプリメントはAMDに対する唯一のエビデンスを有する予防法として注目された.発売後5年を経過した現在,AMDにおけるサプリメントは,医師や患者にどのように認識され,実際に用いられているのだろうか?本稿では,日本におけるAMD患者のサプリメント摂取の現状と医師,患者の認識を確認し,問題点を考察する.残念ながら,日本全体のAMD患者のサプリメント摂取量やアンケート調査などの資料は限られているため,まず,製品の種類,販売状況など,マーケットの視点から,日本のAMDにおけるサプリメント摂取の全体像を把握する.つぎに,2010年,慶應義塾大学病院黄斑外来で行ったアンケート調査2)の結果をもとに患者の具体的な摂取状況,患者,医師双方のサプリメントへの認識を検討する.これらを検討する際に,AMDサプリメントが販売されるきっかけとなったAREDSの結果を基準として,また,AREDSが行われサプリメントが先行して販売された米国と比較することにより,日本のAMDにおけるサプリメント摂取の実態と認識についての特徴を明らかにし問題点を検討したい.IAMDにおけるサプリメントの摂取状況と認識1.マーケティングの視点からa.AMDにおけるサプリメント製品の種類AMDへの効果をうたったサプリメントは数多く市販されているが,ここで扱う“AMDにおけるサプリメント”は,AMD患者に眼科医が推奨するであろうサプリメントとする.おもなものを表1に示すが,大きく(1)AREDS処方にほぼ準じたもの,(2)AREDS処方を改変したもの,(3)それ以外のものに分けられる.(1)に属すのはボシュロム社,“オキュバイト・プリザービジョン”で,亜鉛を減量しているほかは,ビタミンC,ビタミンE,b-カロテンなど,ほぼオリジナルのAREDS処方に準じている.(2)のAREDS処方を改変したサプリメントの多くは,喫煙者での肺癌リスク上昇の問題3)(後述)を考慮し,AREDSオリジナル処方からb-カロテンを除いてルテインを加えた処方である.また,日本人の栄養摂取量を勘案し,食事からの摂取分を考慮して処方量を調整してある.最近,ルテインのほかにもw-3脂肪酸である,ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid:DHA)やエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)が処方された製品が加わった.(3)のそれ以外のサプリメントは,ルテインやDHA/*MarikoSasaki:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕佐々木真理子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(13)1039 表1AMDに対するサプリメント製品一覧AREDS処方に準じたものAREDS処方を改変したものAREDS処方以外のものAREDSでオキュバイオキュバイオキュバイトオキュバイトサンテルタッサンテルタッサンテルタッルテインプロ用いられたトプリザートプリザー+ルテイン50プラスクス15クス20クス20処方ビジョンビジョン+ビタミン&+DHA+ルテインミネラル成分量(1日分)ビタミンC500mgビタミン400IUb-カロテン15mg亜鉛80mg銅2mgビタミンC408mgビタミンE242mgb-カロテン15.8mg亜鉛30mg銅1.5mgビタミンC408mgビタミンE242mg亜鉛30mg銅1.5mgルテイン9mgビタミンC300mgビタミンE60mgb-カロテン1.2mg亜鉛9mg銅0.6mgルテイン6mgビタミンC150mgビタミンE20mg亜鉛9mgルテイン5mgゼアキサンチン1mgDHA90mgEPA160mgビタミンC288mgビタミンE150mg亜鉛9mg銅1.2mgルテイン15mgルテイン20mgルテイン20mgゼアキサンチン1mgDHA200mgEPA25mgビタミンC50mg亜鉛3mgDHA30mgルテイン10mgゼアキサンチン2mgEPAといったAREDSでの処方成分ではないが,AREDSに続いて現在行われている大規模試験であるAREDS2(Age-RelatedEyeDiseaseStudy2)で検討されている成分で,個別の疫学調査4,5)などでAMDへの有効性が報告されているものである.現在の日本における“AMDにおけるサプリメント製品”は,“強いエビデンスとして示されているAREDSに準じた処方サプリメント”より,“AREDS処方を改変したもの”や“AREDS処方以外のもの”が多くを占めている.b.日本のAMD患者のサプリメントの摂取状況AMDにおける(眼科推奨)のサプリメントの日本の販売高は11億円にのぼり,約6.7万人のAMD患者がこれらのサプリメントを摂取していると推測されている(図1).日本のAMD患者を約69万人,米国で230万人と推定すると,米国では,患者は日本の約3倍,サプリメントの販売高は1.1億ドルと日本の8倍なので,米国の患者の摂取率は日本の2倍以上といえる.また,AMDにおけるサプリメントの種類別販売高では米国は(1)のAREDS処方に準じたものが64%と多くを占めたのに対し,日本では25%にとどまり,(2)のAREDS処方を改変したものや,(3)のそれ以外のサプリメントが7割以上を占めているのが現状である(図1).1040あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(Million\)10,0009,0008,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,0000米国日本■:(1)AREDS処方に準じたサプリメント■:(2)(3)上記以外の眼科推奨サプリメント図1眼科推奨サプリメントの販売規模米国の眼科推奨サプリメントの販売高は日本の8倍で,AREDS処方に準じたサプリメントが65%を占める.2.外来診療の視点からa.外来におけるAMD患者のサプリメント摂取状況1)AMD患者のサプリメント摂取状況2010年に慶應義塾大学病院黄斑外来で行ったアンケートで有効な回答が得られた外来AMD患者159名が摂取していたサプリメントを種類別に分けると,(1)のAREDSでの処方に準じたものが23名(15%)(2)のAREDS処方を改変したものが35名(22%),(3)(,)のその他でルテインのみが19名(12%)で,これらすべてを合わせた眼科推奨のサプリメントを摂取していた患者は77名(49%)あった(図2・左).このうち,摂取目的がAMD治療のためであった患者70名が摂取していたのは100%眼科推奨のサプリメントで,(1)の(14) AMD患者全体(159名)AMD治療目的に摂取している患者(70名)■:(2)AREDS処方を改変したサプリメント15%22%12%8%43%31%49%20%■:(1)AREDS処方に準じたサプリメント■:(3)その他のAMDサプリメント■:その他一般のサプリメントを摂取:サプリメント摂取なし図2外来におけるAMD患者のサプリメント摂取状況左:アンケートの回答が有効であったAMD患者159名中,眼科推奨のサプリメントを摂取していた患者は49%であった.右:AMDの治療を目的に摂取していたのは,100%眼科推奨のサプリメントであり,そのうち(2)のAREDS処方を改変したサプリメントが約半数を占めた.AREDSでの処方に準じたものが22名(31%)(2)のAREDS処方を改変したものが34名(49%),(3)(,)のその他でルテインのみが14名(20%)であった(図2・右).これは,(1)のAREDS処方に準じたもの以外のサプリメントが7割以上を占めたマーケティング調査による摂取内訳とほぼ一致した結果であった.2)AREDSの基準でサプリメント摂取が推奨される患者AREDSのサプリメント摂取推奨基準をもとに,摂取対象患者のAMD患者全体に対する割合を検討した.AREDSのサプリメント摂取基準についての詳述は他項に譲るが,今回の筆者らの調査では,AREDSで発症抑制効果の認められた,“軟性ドルーゼンのみられるもの”(AREDSでのカテゴリー3)“AMDの対側眼”(カテゴリー4)に加え,視力低下の抑(,)制効果を勘案し,“両眼がAMDに罹患しており片眼の視力が比較的良いもの”をカテゴリー5aと設定し,対象とした2,6).アンケート調査で有効な回答が得られた159名の外来患者中,AREDSのサプリメント摂取推奨基準を満たすと考えられた,“軟性ドルーゼンのみられるもの”(カテゴリー3)は14名(9%),“AMDの対側眼”(カテゴリー4)は102名(64%),“両眼がAMDに罹患しており片眼の視力が比較的良いもの”(カテゴリー5a)は23名(15%)とAMD患者のうち139名(87%)がAREDSサプリメントの摂取が推奨される患者と考えられた.これは米国の報告6)にある71%に比較して低くなかった(図3).残り13%のAREDSサプリメントの推奨基準に該当しないと考えられたのは,軟性ドルーゼンを認めないカテゴリー2に該当する13名(8%)と両眼AMDで視力低■:(1)AREDS処方に(人)準じたサプリメント120100806040200カテゴリー5a両眼AMD視力良好カテゴリー5b両眼AMD視力不良■:(2)AREDS処方を改変したサプリメント■:(3)その他のAMDサプリメント:摂取なし・その他のサプリメントを摂取カテゴリー2軟性ドルーゼンなしカテゴリー3軟性ドルーゼンありカテゴリー4片眼AMD摂取対象患者図3AREDS基準からみたサプリメント摂取対象者と摂取者AMD患者のうち,87%がAREDSのサプリメント摂取推奨基準を満たすと考えられた.対象者のうち,(1)と(2)を合わせたAREDSに関連したサプリメントを摂取していたのは34%であった.下の進んでいるもの(カテゴリー5bと設定)7名(4%)であった.ついで,AREDSのサプリメント推奨基準を満たすと考えられた139名の患者のうち,(1)のAREDS処方に準じたサプリメントを14名(10%)が,(2)のAREDS処方を改変したサプリメントを33名(24%)が,(3)のその他に含まれるルテインを14名(10%)が摂取していた(図3).各カテゴリー間で患者の摂取割合に差はなかった.先の米国での報告6)ではAREDS処方のサプリメントを摂取していた患者は,摂取対象者の72%であったので,筆者らの外来での摂取率(1)と(2)を合わせたAREDSに関連したサプリメントとしての34%,眼科推奨のサプリメントとしての合計44%ははるかに及ばなかった.(15)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121041 b.患者の意識AMD患者がサプリメントを摂取している目的を調査したところ,何らかのサプリメントを摂取していた90名(57%)のうち,摂取目的で最も多かったのはAMD治療のためで70名,78%を占めた.これらAMDのためにサプリメントを摂取している患者のすべてが,眼科医から提供された情報により摂取していると回答し,インターネットなどのその他の情報からサプリメントを選択した患者はみられなかった.眼科医から提供された情報によりサプリメントを摂取していたのは71名(68%)で,“現在検討している”“以前摂取していた”などを加えると80名(77%)に摂(,)取意向がみられた.情報を提供されたが摂取していない患者の理由はさまざまだが,“サプリメントの有効性が納得できない”,“食事から栄養を取っている”などがみられた.眼科医による情報提供の重要性を考慮し,情報提供を行う基準としてAREDSのサプリメント摂取推奨基準を設定した場合の,摂取対象者への情報提供の状況を検討した.基準に該当した患者139名のうち,眼科医によりAREDSに関連するサプリメントの情報を提供されていたのは78名(56%)であった.13名(9%)はルテインの摂取を勧められていた.摂取基準に該当するが摂取していなかった患者91名中,61名(67%)はサプリメントの情報を提供されていなかった(図4).AMD患者のサプリメント摂取の選択には医師からの(人)AREDS摂取基準対象外■:情報提供あり■:情報提供なし140120100806040200対象者図4サプリメントに関する情報提供の状況AREDSのサプリメント推奨基準対象者のうち,眼科医からAREDSに関連するサプリメントの情報を提供された患者は56%であった.摂取していなかった対象者のうち67%は情報を提供されていなかった.1042あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012情報が重要であり,AMDサプリメントの摂取率に大きく影響しているのは,患者のアドヒアランスより,むしろ医師からの情報提供であると考えられた.c.医師の認識患者のサプリメント摂取に大きな影響を与えている,医師のAMDに対するサプリメントへの認識について,慶應義塾大学病院眼科外来医(網膜専門医6名,それ以外の眼科専門医12名)にアンケートを行った.サプリメントの有効性に関する質問に対し,外来医の90%以上が,“AREDS処方のサプリメントがAMD予防に有効である”と回答した.その他のサプリメント成分に関して,網膜専門医,その他の眼科医の各々67%,83%が“ルテイン”を,67%,50%が“DHA/EPA”を有効であると回答した.情報提供の頻度に関する質問に,網膜専門医,その他の眼科医の各々67%,33%が“適応と思えば必ず”と回答し,33%,42%が“時々”提供すると回答した.網膜専門医のすべてが情報提供を行っていたが,その他の眼科医の25%は情報提供を行っていなかった(図5).推奨しているサプリメントの種類を複数回答可として質問したところ,網膜専門医,その他の眼科医の各々67%,50%が“(1)AREDS処方に準拠したサプリメント”を,100%,67%が“(2)AREDS処方を改変したサプリメント”を,67%,25%が“(3)その他のサプリメントであるルテイン”を推奨していると回答した.情報提供を行う際の基準として,80%以上の外来眼科医が“AREDSを参考にする”と回答したが,網膜専門医の83%は“AREDSやその他の情報を勘案”してしない時々必ず■:網膜専門医■:その他の眼科医70(%)0102030405060図5医師による情報提供の頻度医師はAMD患者に,必ずしもサプリメント摂取に関する情報を提供していなかった.(16) 基準としており,“AREDSの結果のみで判断”していると回答したのは17%のみであった.AREDSの基準でのみ判断していない理由としては,AMDの特徴や,その他の背景が米国と異なることがあげられた.AREDSについては外来医全体で,90%以上が知っていると回答し,AREDS2に関してはすべての網膜専門医,その他の眼科医は半数が知っており,各々67%,42%が結果を参考にしたいと回答した.ほとんどの眼科医はAREDSに関する知識をもち,AMD予防に関してAREDS処方のサプリメントを有効と考えていた.しかし,積極的に詳細な情報提供は行っておらず,AREDSのサプリメント摂取推奨基準に必ずしも準じていないという矛盾した状況がみられた.IIAMDにおけるサプリメントの問題点このように,日本におけるAMD患者のサプリメント摂取率は,米国に比べ低く,また,AREDS処方に準じたサプリメント以外の摂取が多くを占めているのが現状であった.AMD患者は医師からの情報提供によりサプリメント摂取を選択しており,情報を提供する医師側はAREDS処方のサプリメントを有効と考えているものの,必ずしもその摂取推奨基準に従って積極的に情報を提供していない.AREDSというエビデンスレベルの高い研究結果に基づいて提供されたはずのサプリメントなのだが,この現状は若干残念な状況と言わざるをえない.この状況から考察するAMDにおけるサプリメントの問題として,以下の点があげられる.1.AREDS処方の問題点AREDS処方にはいくつかの検討課題が確認されている.まず,喫煙者におけるb-カロテン摂取の問題である.喫煙者がb-カロテンを摂取すると肺癌発症リスクが増加3)することが報告されている.さらに,亜鉛摂取により,泌尿器疾患が増加1)したことがAREDSで報告されている.これをうけて,現在の日本でのAMDにおけるサプリメントの主流である(2)のAREDS処方を改変したサプリメントは,b-カロテンをルテインに変更している.また,日本で販売されているすべてのAMDサプリメントは亜鉛をAREDSでの80mgから30mg以下に減量している(表1).しかし,これらの成分を減量しても,AREDSでの処方と同等の効果が得られるかは現在AREDS2で検討中であり,改変した処方が有効であるかは明らかでない.2.AREDS処方以外のサプリメントの問題点ルテインやDHA/EPAは疫学調査4,5)などからAMDの予防効果が報告されている成分であり,現在AREDS2で有効性が検討されている.しかし,AREDS2においても,現在の標準的な治療法であるとしてAREDS処方のサプリメントとの併用で効果を検討しているため,単独での効果はきたるべきAREDS2の結果をもってしても明らかにならない.これら単独処方のサプリメントの報告はおもに観察研究であり,今後,さらに臨床治験が必要であろう.3.人種・栄養摂取量の問題AMDの病型についてみると,白人には数%しか存在しないといわれているポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)が,日本人では約半数を占める7).また,白人に比べ日本人ではAMDの発症へのドルーゼンの関与が低い8)など,AMDの病態の人種差の可能性が報告されている.AREDSの研究方法において,カテゴリー3は“ドルーゼンの大きさと位置”,カテゴリー4で“片眼発症”となっており,たとえばAMD発症とサプリメントの効果の検討にPCVの存在は考慮されていない.この点を考えても,白人主体の調査結果であるAREDSの基準がそのまま日本人に適応可能であるのか疑問である.また,米国と日本では食生活の違いから,基礎栄養摂取量が異なり,有効性を示すために必要なサプリメント成分量も異なる可能性がある.これらの問題点が,医師がAMDにおけるサプリメントに関する情報提供に消極的なことや推奨基準が混乱していることに影響している可能性がある.(17)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121043 おわりに―今後のAMDにおけるサプリメントAMDにおけるサプリメントへの認識は,米国の医師がAREDSでの結果を基準に,積極的にサプリメントを推奨しているのに比べ,日本では基準もあいまいで,消極的であった.AMDにおけるサプリメントの効果自体にも問題はあるが,患者が医師からの情報を重視しサプリメントを摂取していることを認識し,できるだけ正しい情報を患者に提供したい.AREDSに基づくサプリメントのエビデンスレベルは高く,現時点では“喫煙をしていない,軟性ドルーゼンを認める患者,片眼にAMDを発症している患者”にはAREDS処方に準じたサプリメントを推奨する情報を提供すべきと考えられ,本稿に記した,成分や適応を参考にしていただければ幸いである.今後,わが国において,AMDにおけるサプリメントの有効性を人種差や栄養摂取量に関する問題を解決しながら示すには,大規模な臨床治験を行うことが必要である.エビデンスに基づくサプリメントを積極的にAMDの予防に生かしていくことを望む.文献1)AREDSReserchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20012)SasakiM,ShinodaH,KotoTetal:Useofmicronutrientsupplementforpreventingadvancedage-relatedmaculardegenerationinJapan.ArchOphthalmol130:254-255,20123)OmennGS,GoodmanGE,ThornquistMDetal:RiskfactorsforlungcancerandforinterventioneffectsinCARET,theBeta-CaroteneandRetinolEfficacyTrial.JNatlCancerInst88:1550-1559,19964)MaL,DouHL,WuYQetal:Luteinandzeaxanthinintakeandtheriskofage-relatedmaculardegeneration:asystematicreviewandmeta-analysis.BrJNutr107:350-359,20125)ChongEW,KreisAJ,WongTYetal:Dietaryomega-3fattyacidandfishintakeintheprimarypreventionofage-relatedmaculardegeneration:asystematicreviewandmeta-analysis.ArchOphthalmol126:826-833,20086)CharkoudianLD,GowerEW,SolomonSDetal:Vitaminusagepatternsinthepreventionofadvancedage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology115:1032-1038e1034,20087)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20078)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulationtheHisayamastudy.Ophthalmology116:2135-2140,20091044あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(18)

Age-Related Eye Disease Study2

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1033.1037,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1033.1037,2012Age-RelatedEyeDiseaseStudy2Age-RelatedEyeDiseaseStudy2山城健児*はじめに加齢黄斑変性患者の診療をしていると,よく目薬や飲み薬はないのかという質問を受ける.現時点で治療効果のある点眼薬や内服薬はないため,光線力学的療法やラニビズマブの硝子体注射を勧めることになるが,網膜に滲出性変化を認めない段階の加齢黄斑変性に対しては経過観察を続けるしか選択肢がない.また,大きなドルーゼンをもつ眼は加齢黄斑変性を発症する可能性が高いと考えられているが,その発症を予防できる薬剤も存在しない.特に,片眼に加齢黄斑変性を発症した患者にとっては,僚眼の発症予防は非常に重要な課題である.最近になって,抗酸化作用をもつビタミンやミネラルといったサプリメントによる加齢黄斑変性の進行予防作用を検証する研究が進んできた.IAREDS1990年頃から,抗酸化物質や亜鉛に目の病気の予防効果があるのではないかという研究結果が発表されたために,一般市民のサプリメント使用が急速に広まった.しかし,これらの研究は小規模なもので,その効果を確認するためには大規模な前向き臨床研究が必要であると考えられていた.1986年には米国のNIH(NationalInstituteofHealth)のNEI(NationalEyeInstitute)でこれらのサプリメントの効果を確認するためにAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy)が計画され,プロトコールが完成された1992年に登録が始まった.AREDS開始時にはカロテノイドのなかでもキサントフィル類であるルテインとゼアキサンチンの効果についての検証も行うべきであると考えられていたが,当時はまだこれらのサプリメントは製品化されていなかったために,AREDSのプロトコールには含まれず,後述するようにサプリメントとしてはAREDS2でその効果が検証されている.AREDSでは亜鉛および抗酸化物質による加齢黄斑変性の発症・進行予防効果と,抗酸化物質による白内障の進行予防効果が検証された.当初は抗酸化物質としてビタミンCおよびEとカロテノイドのなかでもカロテン類であるb-カロテンが投与されたが,喫煙者ではb-カロテン摂取によって肺癌および心血管病のリスクが上昇するということがわかったため,1996年にはAREDS参加者のうち喫煙者に対して投薬中止またはb-カロテン以外の投薬の継続がなされている.AREDSのおもな結果は2001年にAREDSReportNo.8,No.9として発表されており,抗酸化物質と亜鉛の両方を摂取すると加齢黄斑変性の発症・進行が予防でき,抗酸化物質では白内障の進行は予防できないという結果であった1,2).その後も参加者からアンケートをとることによって普段の食生活を調査し,ルテイン,ゼアキサンチンといったカロテノイドや,ドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)といったオメガ3長鎖不飽和脂肪酸の摂取量を計算して,その摂取量と加齢黄斑変性の発症・進行との間に相関を認めるこ*KenjiYamashiro:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕山城健児:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(7)1033 とが証明された.そこで,ルテイン/ゼアキサンチンおよびDHA/EPAによる加齢黄斑変性の発症・進行予防効果や白内障の進行予防効果などを検証するために,AREDS2が2006年に開始された.その結果は2013年に発表される予定である.IIAREDS2AREDS2では約4,000人の参加者を集めて研究が行われている.参加者は50.85歳で,両眼に125μm以上のドルーゼンがあるか,片眼に125μm以上のドルーゼン,僚眼に進行した加齢黄斑変性を認め,5年以上観察研究に協力できる者とされており,ランダムにプラセボ投与群,ルテイン10mgとゼアキサンチン2mg投与群,DHA350mgとEPA650mg投与群,ルテイン10mgとゼアキサンチン2mgとDHA350mgとEPA650mg投与群の4群に分けられている.さらにAREDSで亜鉛,ビタミンC,E,b-カロテンの効果が示されたことをうけて,AREDS2では全参加者にこれらのサプリメントを摂取させている.しかし,b-カロテンについては喫煙者への有害性がわかっているため,一部の参加者にはb-カロテンを含まないサプリメントを摂取させることによって,b-カロテンを除いても効果が十分に保たれるかどうかを確認し,さらに,亜鉛については投与量を半分以下にした群を作ることによって,亜鉛の最適な摂取量を探ろうとしている(表1).AREDS2のおもな研究目的は,中心窩を含む360μm以上の地図状萎縮または脈絡膜新生血管・円盤状瘢痕を呈する加齢黄斑変性への進行がルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAによって抑制できるかどうかを検証することである.他にもAREDSで発表されてきた内容(表2)と同様の内容がルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAについても検討される予定である(表3).AREDS2の結果は2013年に発表される予定であり,眼科臨床医としてはその結果を正しく理解する必要がある.まず初めに注目すべきなのは,ルテイン/ゼアキサンチンだけで加齢黄斑変性の発症・進行が予防できるのか,DHA/EPAだけで加齢黄斑変性の発症・進行が予防できるのか,加齢黄斑変性の発症・進行を予防するためにはルテイン/ゼアキサンチンとDHA/EPAの両方を摂取する必要があるのか,あるいはこれらのサプリメントでは加齢黄斑変性の発症・進行は予防できないのかという点である.これらの結果とAREDSの結果で示されたビタミンC,Eおよびb-カロテンと亜鉛とを合わせて,加齢黄斑変性発症リスクの高い患者には正しいサプリメントの組み合わせを指導しなければいけない.特に,AREDS2では抗酸化物質としてb-カロテンも必須なのか,ビタミンC,Eだけで十分なのかということも判明するはずである.b-カロテンは喫煙者には摂取させないほうがよいということがわかっているため,AREDS2の結果に従って,喫煙者にはビタミンC,Eのみを勧めて,非喫煙者にはビタミンC,Eとb-カロ表1AREDSおよびAREDS2のサプリメント摂取内容AREDS1.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(80mg)2.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)3.亜鉛(80mg)4.プラセボAREDS21.ルテイン(10mg)+ゼアキサンチン(2mg)+DHA(350mg)+EPA(650mg)2.ルテイン(10mg)+ゼアキサンチン(2mg)3.DHA(350mg)+EPA(650mg)4.プラセボ上記の1.4に追加して全参加者に以下の1.4のサプリメントを追加1.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(80mg)2.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(25mg)3.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+亜鉛(80mg)4.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+亜鉛(25mg)亜鉛(実際に投与するのは酸化亜鉛)を投与する場合には銅を補うために2mgの酸化第二銅も投与.1034あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(8) 表2AREDSReportの内容AREDSReportNo.1.ControlledClinicalTrials20:573-600,1999研究のデザインの説明AREDSReportNo.2.JNutr130:1516S-1519S,2000研究の解説AREDSReportNo.3.Ophthalmology107:2224-2232,2000ARM/AMDのグレードと患者の背景因子との相関AREDSReportNo.4.AmJOphthalmol131:167-175,2001白内障のグレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.5.Ophthalmology108:1400-1408,2001白内障のグレードと患者の背景因子との相関AREDSReportNo.6.AmJOphthalmol132:668-681,2001ARM/AMDのグレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.7.JNutr132:697-702,2002亜鉛投与による血中亜鉛濃度上昇の確認AREDSReportNo.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,2001抗酸化物質と亜鉛によるARM/AMD進行予防効果の証明AREDSReportNo.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,2001抗酸化物質による白内障進行予防効果の否定AREDSReportNo.10.ArchOphthalmol121:211-217,200339-itemNEI-VFQの信頼性確認AREDSReportNo.11.ArchOphthalmol121:1621-1624,2003全米でのARM/AMD患者数予想,予防効果予想AREDSReportNo.12.Neurology63:1705-1707,2004抗酸化物質と亜鉛による認知能力への効果の否定AREDSReportNo.13.ArchOphthalmol122:716-726,2004ARM/AMDおよび白内障の死亡への影響の証明AREDSReportNo.14.ArchOphthalmol123:1207-1214,2005ARM/AMDの進行程度と25-itemNEI-VFQの変化との相関の証明AREDSReportNo.15.OphthalmicEpidemiol12:271-277,2005電話で行う認知能力判定の信頼性確認AREDSReportNo.16.ArchOphthalmol124:537-543,2006ARM/AMDの程度と認知能力との相関の証明AREDSReportNo.17.ArchOphthalmol123:1484-1498,2005ARM/AMDの9段階重症度スケールAREDSReportNo.18.ArchOphthalmol123:1570-1574,2005ARM/AMDの簡易重症度スケールAREDSReportNo.19.Ophthalmology112:533-539,2005ARM/AMDの進行と患者の背景因子との相関AREDSReportNo.20.ArchOphthalmol125:671-679,2007食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)とARM/AMDのグレードとの相関の証明AREDSReportNo.21.Ophthalmology113:1264-1270,2006併用マルチビタミン剤による白内障進行抑制効果の証明AREDSReportNo.22.ArchOphthalmol125:1225-1232,2007食事内容(特にルテイン,ゼアキサンチン)とARM/AMDのグレードとの相関の証明AREDSReportNo.23.ArchOphthalmol126:1274-1279,2008食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)によるARM/AMDの進行予防効果の証明AREDSReportNo.24.AmJOphthalmol145:504-508,200810年間の白内障進行の観察AREDSReportNo.25.Ophthalmology116:297-303,2009白内障手術によるARM/AMD進行リスク上昇の否定AREDSReportNo.26.ArchOphthalmol127:1168-1174,2009GA進行の観察AREDSReportNo.27.Ophthalmology116:2093-2100,2009AMDの有無にかかわらず白内障手術で視力は改善するAREDSReportNo.28.Ophthalmology117:489-499,2010drusenoidPEDからcentralGA,NV-AMDへの進行の観察AREDSReportNo.29.NotyetpublishedスタチンとARM/AMDとの相関AREDSReportNo.30.AmJClinNutr90:1601-1607,2009食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)によるARM/AMDの進行予防効果の証明AREDSReportNo.31.Ophthalmology117:2112-2119,2010スリットランプで行う簡易白内障グレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.32.Ophthalmology118:2113-2119,2011白内障の進行と患者の背景因子との相関AREDSReportNo.33.Notyetpublished10年間の白内障の発症率ARM:加齢性黄斑症,AMD:加齢黄斑変性,NEI-VFQ:NationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.テンを摂取させるべきなのか,喫煙の有無にかかわらずビタミンC,Eのみを勧めれば良いのかを判断しなければいけない.つぎに注目すべき点は,すでに加齢黄斑変性が発症した眼に対しても視力改善効果が期待できるのかどうかという点である.AREDS2では進行した加齢黄斑変性眼に対してルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAに視力改善効果があるかどうかも検討される予定であり,もし視力改善が得られるようであれば,予防目的のサプリメ表3AREDS2の研究予定内容ルテイン/ゼアキサンチンおよびDHA/EPAの効果1.AdvancedAMDへの進行2.視力低下・改善3.白内障の進行4.認知能力5.心血管病の発症および死亡AREDSのARM/AMDのグレード分類方法の信頼性再確認b-カロテンを除外したときのAMDの進行予防効果および視力低下への影響亜鉛の摂取量を減らしたときのAMDの進行予防効果および視力低下への影響(9)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121035 ント摂取だけでなく,活動性のある加齢黄斑変性に対してもサプリメントを使用したほうが良いということになるかもしれない.さらに,AREDS2では活動性のある加齢黄斑変性に対して治療を行う際に検査されたフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)と網膜光干渉断層計(OCT)の結果も検証されることになっている.実際にどの程度の検証がなされるのかはまだ不明であるが,結果しだいではAREDS2のあとにさらに研究を進めて,活動性のある加齢黄斑変性に対してサプリメントがFAやOCTによる検査結果にあらわれるほどに網膜滲出性変化に影響を与えるのか,滲出性変化には影響は与えずに,網膜の機能の維持・改善に効果があるのかを検討していく必要が出てくるかもしれない.AREDSおよびAREDS2の結果は加齢黄斑変性患者のサプリメント使用に大きな影響を与える可能性があるが,サプリメントの効果の大きさについても考慮しておく必要がある.AREDSでのオッズ比はおよそ0.7程度である.つまり,亜鉛およびビタミンC,Eとb-カロテンを摂取することによって,加齢黄斑変性を発症するはずだった人の3割程度で発症を抑制することができて,7割程度の人はサプリメントの使用にもかかわらず加齢黄斑変性を発症するということになる.AREDS2ではこれらのサプリメントに加えてルテイン/ゼアキサンチンとDHA/EPAの効果も検証されるため,どういった組み合わせでどの程度の効果が期待できるのかにも注目すべきだろう.IIIAREDS2の問題点AREDSおよびAREDS2はそれぞれ4,000人規模の研究で,その再現性を確認する研究がむずかしいという問題がある.最近アメリカから発表された研究では,14,236人を対象にビタミンCまたはビタミンEを摂取させて8年間の加齢黄斑変性発症率を調べることによって,ビタミンCとビタミンEには加齢黄斑変性発症を予防する効果がないことが示されている3).ビタミンEについては1990年代後半にオーストラリアで1,193人を対象に行われた研究でも,米国で39,876人を対象に行われた研究でも加齢黄斑変性の発症予防効果がないことが示されている.また,b-カロテンについては,1036あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121990年頃にフィンランドで29,000人を対象に行われた研究と米国で22,071人を対象にした研究が,加齢黄斑変性の発症予防効果がないことを示している.ルテイン/ゼアキサンチンについては,イタリアで行われた研究が加齢黄斑変性患者の視機能維持に効果があることを報告しているが,オーストラリアで行われたブルーマウンテンスタディや以前米国で行われた研究ではルテイン/ゼアキサンチンには加齢黄斑変性の発症を抑制する効果はないことが示されている.一方,DHA/EPAについては,オランダや米国で行われた研究で加齢黄斑変性の発症を予防できるということが証明されている.AREDS,AREDS2の報告だけを頼りにするのではなく,他の研究結果にも目を配り,サプリメントの効果を正しく判断する必要があるだろう.日本人の加齢黄斑変性は男性に多く,ポリープ状脈絡膜血管症が多く,網膜血管腫様増殖が少ないという特徴があり,これらの特徴は欧米人の加齢黄斑変性とは大きく異なるものである4).さらに加齢黄斑変性の発症に遺伝子的な背景が関与していることはよく知られているが,欧米人と日本人ではその遺伝子変異の割合や影響の強さが異なることも知られており5),欧米人におけるサプリメント研究の結果をそのまま日本人に活用できるかどうかも検証する必要がある.欧米人でその効果が示されつつあるDHA/EPAは青魚に多く含まれており,欧米人と比べると日本人の青魚の消費量はかなり多いはずである.AREDS2で使用されるサプリメントに含まれるDHA/EPAの量は,アジやサンマの1/3.1尾に含まれる程度の量であることを考えると,やはり日本人でのAREDS,AREDS2の追試は必須であろう.おわりに加齢黄斑変性患者のなかには硝子体注射はこわいので,内服薬のみで治療をうけたいという希望をもつ患者がいる.サプリメントによってどの程度の発症予防効果があり,すでに発症してしまった加齢黄斑変性に対してどの程度の治療効果や視力改善効果があるのか,その効果はラニビズマブ硝子体注射や光線力学的療法と比較してどの程度のものであるのかを正確に伝えたうえで,正(10) しい治療方針を選択したい.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:14171436,20012)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandEandbetacaroteneforage-relatedcataractandvisionloss:AREDSreportno.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,20013)ChristenWG,GlynnRJ,SessoHDetal:VitaminsEandCandmedicalrecord-confirmedage-relatedmaculardegenerationinarandomizedtrialofmalephysicians.Ophthalmology,2012,inpress4)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20075)HayashiH,YamashiroK,GotohNetal:CFHandARMS2variationsinage-relatedmaculardegeneration,polypoidalchoroidalvasculopathy,andretinalangiomatousproliferation.InvestOphthalmolVisSci51:5914-5919,2010(11)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121037

Age-Related Eye Disease Studyと加齢黄斑変性におけるサプリメントガイドライン

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1029.1031,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1029.1031,2012Age-RelatedEyeDiseaseStudyと加齢黄斑変性におけるサプリメントガイドラインAge-RelatedEyeDiseaseStudyandSupplementGuidelinesforAge-RelatedMacularDegeneration安田美穂*はじめに加齢黄斑変性(AMD)は,さまざまな治療の出現により治療可能な疾患となってきた.しかし,病変が黄斑部にあるため,一度障害されると視機能が完全に回復するのが非常にむずかしく,現時点では予防が最も有効とされている.AMDは,正常な段階から前駆病変であるドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常を経て発症するといわれており,視力低下や歪視がまだ少ない前駆病変の段階で予防することが重要である(図1).そこで,欧米ではAMDの予防のためEBM(evidence-basedmedicine)に基づいたサプリメントの有用性を調べる研究が進んでいる.IAREDSでのエビデンス網膜の老化は多価不飽和脂肪酸を多く含む視細胞外節,網膜色素上皮,Bruch膜が活性酸素によって障害されることに関連しているとされる.その活性酸素を消去する作用をもつ抗酸化ビタミンにはA(b-カロテン),C,Eがあり,活性酸素を分解する酵素の一つであるスーパーオキシドジスムターゼの補酵素は亜鉛と銅である.Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)は,AMDの前駆病変を有する55.80歳の3,640名を対象として米国で行われた無作為化二重盲検臨床試験である.このAREDSでは,対象者を①抗酸化ビタミン(ビタミンC,ビタミンE,b-カロテン)を投与した群,②亜鉛を投与正常前駆病変AMD発症予防ドルーゼン色素異常加齢黄斑変性(AMD)滲出型萎縮型図1加齢黄斑変性の進展と予防した群,③抗酸化ビタミンと亜鉛の両方を投与した群,④プラセボを投与した群,の4群に無作為に割り付け,その後5年以上追跡しAMDへの進行を調査した(図2).その結果,抗酸化ビタミンと亜鉛の両方を摂取した群において,前駆病変からAMDへの進行を25%抑制できた.この効果は,①中型の軟性ドルーゼンが多発,あるいは大型の軟性ドルーゼンが1個以上あるもの,②*MihoYasuda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕安田美穂:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(3)1029 前駆病変を有する55~80歳の3,640名を対象とした無作為化二重盲検臨床試験4群(下線群のみ効果あり)・抗酸化ビタミン群1.AMDへの進行を25%(ビタミンC,E,b-カロテン)抑制(滲出型、萎縮型も)・亜鉛群・抗酸化ビタミン+亜鉛群5年以上2.視力低下を軽減・プラセボ群追跡3.新生血管の発生を抑制図2AREDSの概要効果のみられた前駆病変1.中型の軟性ドルーゼンの多発・大型の軟性ドルーゼンが1個以上ある2.中心窩外に地図状萎縮がある3.片眼に進行期AMDを有するAMDによる片眼の視力低下がある図3AREDSのエビデンス中心窩外に地図状萎縮があるもの,③片眼に進行期AMDを有し,そのAMDによる視力低下があるもの,で確認された(図3)1).つまり,これらの病変を有する患者には,AREDSの処方に基づいたサプリメントの摂取が有効であることが証明されたということである.II喫煙とサプリメントAMDの危険因子のうち生活習慣として最も重要なものが喫煙であり,多くの研究で一致して報告されている.日本人を対象とした福岡県久山町における追跡調査では,AMDの非発症者を追跡調査し,どのような人に多くAMDが発症しているかを調べたところ,加齢と喫煙がAMD発症の危険因子であることがわかった2).この追跡調査により,日本人においても喫煙がAMD発症の危険因子であり,非喫煙者と比較すると,喫煙者ではAMD発症のリスクが約4倍にも上昇することが明らかとなった(図4,表1).AMDの原因として加齢による眼の老化だけでなく,活性酸素による眼の老化が原因となっているが,活性酸素は体内で酸素から生成され,大量に発生すると細胞や1030あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012*p<0.05非喫煙者過去の喫煙者<10本/日10~20本/日>20本/日現在の喫煙者3.7%2.4%1.8%5.2%*4.7%*5年発症率図4喫煙習慣によるAMD5年発症率(久山町研究1998.2003年より)表1喫煙習慣によるAMD発症のオッズ比(久山町研究1998.2003年より)喫煙習慣オッズ比95%信頼区間①非喫煙者1.00②過去の喫煙者1.180.38.2.56現在の喫煙者③10本未満/日1.710.91.3.22④10本以上20本未満/日2.21*1.28.7.37⑤20本以上/日3.32*1.33.8.30*p<0.05.組織を損傷し老化やさまざまな疾患をひき起こす.活性酸素の発生を促進させる原因として,喫煙,紫外線,大気汚染,ストレス,偏った食事などがあり,網膜の老化予防,ひいてはAMD発症予防のためにはこれらの活性酸素の発生要因を避ける必要がある.特に喫煙は活性酸素を増加し網膜の老化を進行させるとともに,抗酸化物質であるビタミンCを破壊し,抗酸化物質の血中濃度を低下させ,脂肪の過酸化を促進することにより黄斑部の変性を生じやすくすると報告されている.また,網膜・脈絡膜の血液循環に影響し,低酸素状態,局所的虚血,微小血管拘束を助長し黄斑部の変性を生じやすくするとも考えられているが,正確な機序はわかっていない.喫煙者はAMDの発症に特に注意が必要であり,その予防のためにはぜひ禁煙の重要性を認識してもらう必要があるとともに,サプリメントの摂取も推奨される.亜鉛,銅,ビタミンC,E,b-カロテン(b-カロテンは体(4) 図5段階的なAMDの予防と治療早期AMD中期AMD萎縮型AMD・禁煙,食習慣の改善・血圧とBMIのコントロール・禁煙,食習慣の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取・禁煙,食習慣の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取滲出型AMD・禁煙,食習慣の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取・抗血管新生療法・レーザー治療内でビタミンAに変わる)などの抗酸化物質は,活性酸素を消去する働きがあり,黄斑色素(カロテノイド)であるルテインとゼアキサンチンも視細胞に多く存在する抗酸化物質であり,酸化のダメージを軽減する.特に抗酸化物質が減少していると考えられる喫煙者ではサプリメントの摂取が推奨される.ただし,高用量のb-カロテン投与の喫煙者では肺癌の罹患リスクが高くなるため,b-カロテンを含むサプリメントの摂取は勧めらない.また,抗酸化物質である亜鉛を100mg/日の高用量摂取を続けると前立腺癌の罹患リスクが高まるという報告もある.このようにサプリメントとはいえその摂取には十分に注意する必要がある.IIIまとめ現在世界的に推奨されている段階的なAMDの予防と治療においても,中期AMD,萎縮型AMD,滲出型AMDの患者にはAREDSに基づくサプリメントの摂取が推奨されている3)(図5).サプリメントは規則正しいバランスのとれた食生活が基本となり,それでも不足する栄養素を補う形で用いるのが良いと考えられ,サプリメントに加え,危険因子を減らすことも考慮して生活することが最も大切である.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisualloss:AREDSreportNo.8.ArchOphthalmol119:14171436,20012)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulation:theHisayamastudy.Ophthalmology116:2135-2140,20093)JagerRD,MielerWF,MillerJW:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed358:2606-2617,2008(5)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121031

序説:臨床において必要なサプリメントの知識

2012年8月31日 金曜日

●序説あたらしい眼科29(8):1027.1028,2012●序説あたらしい眼科29(8):1027.1028,2012臨床において必要なサプリメントの知識BasicUnderstandingofMicronutrientSupplementsBeneficialtoDailyMedicalPractice小沢洋子*近年の新規治療法の開発は目覚ましく,難治といわれた疾患の予後は大きく変化した.しかし,その治療効果が,罹患以前の状態に戻すほどのものでない場合は,おのずと予防法の重要性が注目を集める.そして,現代の高齢化社会にあっては,老後を健康に楽しく過ごしたいと考える人は多く,いわゆる健康長寿への関心は非常に高い.このような健康志向は,全世界的な動きといえる.視覚は,五感のなかでも外部情報の70%を得る経路とされ,ヒトが行動するために大きな役割を果たす.その質,qualityofvision(QOV)が日々の生活の質(qualityoflife:QOL)を大きく左右する.そして,われわれは,QOVが本人のみならず家族や介護者のQOLをも左右しうることに,さらに,疾患予防が医療費削減など社会的問題にも関与しうることに,気付き始めている.このような流れのなかで,治療法は開発されたがそれでも視機能予後の悪い症例が後を絶たない加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)という疾患の予防に,抗酸化作用をもつサプリメントが有用ではないかという考え方がある.米国では大規模臨床試験Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)の結果が報告され1),より良い結果を期待した別の臨床試験,AREDS2が開始された.この動きは日本国内にも伝わり,多くの国民や医師がサプリメントに興味をもつようになった.さらに,疾患予防を意識した医家向けサプリメントの販売も始められた.これらに伴い,診療上,患者からサプリメントに関して質問されることも多くなった.臨床医として,医学に関係ないので自己判断をしてください,といってすまされる時代ではなくなってきた.すなわち,医師にも正確な知識が必要になってきた.抗酸化サプリメントは,現在はAMDという疾患に対する効果が注目されているが,作用機序を考えると,これ以外の疾患にも効果をもつ可能性はあるだろう.網膜色素変性症に対するサプリメントの使用は,これまでにも報告がある.しかし,これを日頃の診療で意識している眼科医はどのくらいいるであろうか.サプリメントは医薬品とはよばれない.しかし,生理活性をもつからこそ疾患予防に効果をもつ可能性があるのであり,それはつまり,副作用の可能性もあるということになる.AMDに対するサプリメントに,当初は含まれていたb-カテニンは,今では減量されている.その理由は,喫煙者におけるb-カテニンによる肺癌のリスク増加が明らかにされた2)ことであった.最近では,AREDSformula(AREDSで勧められているサプリメントのカクテル)の構成にも入っているビタミンEの弊害も報告*YokoOzawa:慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(1)1027 された.すなわち,ビタミンEにより前立腺癌の抑制をもくろんだヒト臨床試験において,1日400IUのビタミンE摂取は,健康な人の前立腺癌のリスクをむしろ増加させたことが報告された3).さらに,マウスにおいてはビタミンEの過剰摂取は破骨細胞の機能を過剰に亢進させて骨粗鬆症をひき起こしうることが報告された4).このような副作用情報は,マスメディアでも取り上げられ,一般に公開された情報となっている.われわれ臨床医は情報をキャッチし,診療においてフィードバックすることが求められるようになっているそこで本特集では,AREDSの結果を受けた米国におけるAMDに対するサプリメント使用に関するガイドライン5)と現在進行中の臨床試験AREDS2について,そして,サプリメントに対する日本人の意識6)について述べる.またAMD以外の各疾患におけるサプリメントの考え方を紹介する.さらに,サプリメントはどこまで規制されており,安全性はどこまで確立しているのかなど,臨床医が知っているべき法的知識についての情報を示す.そのうえで,医家向けサプリメントとして,われわれ臨床医が触れることの多い3種類のサプリメント,ルテイン・レスベラトロール・アスタキサンチンについての基礎知識を示す.これらの情報が,今後,毎日の診療を考える際に役立てば幸いである.文献1)Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandEandbetacaroteneforage-relatedcataractandvisionloss:AREDSreportno.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,20012)TheeffectofvitaminEandbetacaroteneontheincidenceoflungcancerandothercancersinmalesmokers.TheAlpha-Tocopherol,BetaCaroteneCancerPreventionStudyGroup.NEnglJMed330:1029-1035,19943)KleinEA,ThompsonIMJr,TangenCMetal:VitaminEandtheriskofprostatecancer:theSeleniumandVitaminECancerPreventionTrial(SELECT).JAMA306:1549-1556,20114)FujitaK,IwasakiM,OchiHetal:VitaminEdecreasesbonemassbystimulatingosteoclastfusion.NatMed18:589-594,20125)JagerRD,MielerWF,MillerJW:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed358:2606-2617,20086)SasakiM,ShinodaH,KotoTetal:Useofmicronutrientsupplementforpreventingadvancedage-relatedmaculardegenerationinJapan.ArchOphthalmol130:254-255,20121028あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(2)

回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の薄暮でのコントラスト感度

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1019.1021,2012c回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の薄暮でのコントラスト感度清水恒輔*1河原温*1吉田晃敏*2*1札幌徳洲会病院眼科*2旭川医科大学ContrastSensitivityunderMesopicConditionsafterDiffractiveMultifocalAsphericIntraocularLensImplantationKosukeShimizu1),AtsushiKawahara1)andAkitoshiYoshida2)1)DepartmentofOphthalmology,SapporoTokusyukaiHospital,2)AsahikawaMedicalUniversity目的:回折型非球面多焦点眼内レンズ(IOL)であるZMA00(AMO社)の薄暮でのコントラスト感度を検討した.方法:屈折異常と白内障以外に眼疾患を有せず術中術後合併症がない症例,ZMA00挿入眼12例12眼とZA9003(AMO社)挿入眼(20例20眼)を比較した.術後6カ月でCGT1000(タカギセイコー社)を用いて薄暮(照度10lx)でのコントラスト感度,グレア付加コントラスト感度を測定した.結果:コントラスト感度は各視標サイズで有意差を認めなかったが,グレア付加コントラスト感度は,視角1.6°の視標のみ多焦点群が有意に低値であった(p<0.05).結論:ZMA00挿入眼のコントラスト感度は悪条件下のみわずかに低下がみられるが,単焦点IOLとほぼ同等である可能性がある.Purpose:Toevaluatecontrastsensitivityineyeswithadiffractivemultifocalasphericintraocularlens(IOL)undermesopicconditions.Methods:AdiffractivemultifocalasphericIOL,theZMA00(AMO),wasimplantedin12patients(12eyes).Servingascontrolswere20eyesof20patientswithamonofocalIOL,theZA9003(AMO),ofthesamematerialandasphericdesign.Nopatientshadoculardiseaseexceptingametropiaandcataract.At6monthsafterimplantation,thecontrastsensitivitywasmeasuredundermesopicconditionswithandwithoutglare.Results:Thetwogroupsshowednosignificantdifferenceincontrastsensitivitywithoutglare,atanytargetsize.MeasurementofcontrastsensitivitywithglareshowedthatthemultifocalIOLgrouphadsignificantly(p<0.05)lowercontrastsensitivityonlyatthetargetsizeof1.6degreesofarc.Conclusion:ThediffractivemultifocalasphericIOLcanprovidecontrastsensitivitysimilartothatprovidedbythemonofocalasphericIOL,exceptunderadverseconditions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1019.1021,2012〕Keywords:回折型多焦点眼内レンズ,非球面眼内レンズ,コントラスト感度,薄暮視.diffractivemultifocalintraocularlens,asphericintraocularlens,contrastsensitivitymesopicvision.はじめに白内障手術の進歩に伴い視力以外の視機能の向上のために付加価値眼内レンズ(IOL)が注目されている.近年登場した新世代の多焦点IOLは術後良好な視力が得られている1.6).しかし,日常生活では明所から暗所まで変化し,目標物のコントラストもさまざまであることから,高コントラスト視標で得られる視力だけではQOV(qualityofvision)を評価することはできず,コントラスト感度測定の重要性が高まっている.回折型多焦点IOLは良好な遠方,近方視力を得られる1.6)が,入射光を遠方と近方に分配するために構造上コントラスト感度の低下が懸念される7).特に低照度下ではコントラスト感度が低下するため8),回折型多焦点IOL眼では薄暮条件下でさらにコントラスト感度が低下する可能性がある.非球面IOLは角膜の球面収差を補正するため,瞳孔径の拡大に伴い球面収差が増大する低照度下でのコントラスト感度が良〔別刷請求先〕清水恒輔:〒004-0041札幌市厚別区大谷地東一丁目1番1号札幌徳洲会病院眼科Reprintrequests:KosukeShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoTokusyukaiHospital,1-1-1Ooyachihigashi,Atsubetsu-ku,Sapporo-shi004-0041,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(143)1019 好である9,10).今回筆者らは,球面収差を低減するために非球面構造を用いた回折型多焦点IOLと,同形状,素材である単焦点IOLの薄暮での視機能を評価するために両者のコントラスト感度を比較検討した.I対象および方法1.対象対象は白内障と屈折異常以外に眼疾患がなく,術中術後合併症がない患者とした.症例の内訳は多焦点群(ZMA00,AMO社)12例12眼(平均年齢64.1±9.6歳,47.79歳)と,単焦点群(ZA9003,AMO社)20例20眼(平均年齢70.8±7.2歳,57.83歳)である.2.術式手術はすべて同一術者が施行した.術式は2.8mm強角膜切開にて超音波乳化吸引術を施行し,両群とも同インジェクター(アンフォルダーエメラルドAR,AMO社),同カートリッジ(エメラルドカートリッジ,AMO社)を使用しIOLを水晶体.内に挿入した.3.IOLII結果1.患者背景年齢,IOL度数に両群間で有意差を認めなかった(表1).2.視力術後の遠方裸眼視力はlogMAR(小数視力)で多焦点群.0.03±0.07(1.09),単焦点群.0.05±0.07(1.13)でどちらも良好で有意差を認めなかった.遠方矯正視力も各.0.10±0.07(1.26),.0.09±0.08(1.24)と同様に有意差を認めなかった.多焦点群の近方視力も裸眼,遠方矯正下でいずれも良好であった(表2).3.コントラスト感度コントラスト感度はいずれの視標サイズでも単焦点群のほうが高い傾向にあったが,両群間に有意差は認めなかった.グレア付加コントラスト感度は視標サイズ1.6°のみで多焦点群が単焦点群と比べ有意に低値であったが,その他は有意差を認めなかった(図1,2).表1年齢,眼内レンズの比較今回使用したZMA00とZA9003は両者ともスリーピース構造で,光学部は非球面構造を採用しており直径6.0mm,全長13.0mmである.素材はアクリル製である.多焦点IOLのZMA00は光学部後面に32の回折構造を有しており,多焦点群単焦点群p値年齢64.1±9.670.8±7.20.0761IOL度数18.8±5.120.6±0.50.1977年齢や挿入IOL度数に有意差は認めなかった(Mann-Whitney回折現象を利用することで入射光を遠方と近方に41%ずつU検定).分配する.さらに散乱光として18%が失われてしまうため,単焦点IOLと比較し理論上コントラスト感度の低下が懸念表2術後視力(logMAR)される.また,回折構造が全面に配置されていることにより入射光は瞳孔径にかかわらず遠方と近方に均等に分配される.4.検査項目術後6カ月目に両群の遠方裸眼,矯正視力,多焦点群では,近方視力(裸眼,矯正,遠方矯正下),および両群のコ多焦点群単焦点群p値遠方裸眼視力.0.03±0.07.0.05±0.070.0628遠方矯正視力.0.10±0.07.0.09±0.080.7107近方裸眼視力0.15±0.22遠方矯正下近方視力0.11±0.13近方矯正視力0.06±0.08遠方裸眼,矯正視力は両群間で有意差を認めなかった(Mannントラスト感度を測定した.コントラスト感度測定には,WhitneyU検定).多焦点群の近方視力も良好であった.CGT1000(タカギセイコー社)を用いた.本装置はボックス100型コントラストグレアテスターの一つで,薄暮(照度10lx)でのコントラスト感度と,グレア付加コントラスト感度の測定が可能である11).視標のサイズとコントラストが自動的に:多焦点群:単焦点群80コントラスト感度変化して表示され,被検者は認識した時点でスイッチを押し測定される.視標はダブルリング視標でサイズは視角6.3°から0.7°の6種類ある.5.統計解析604020各群間の比較はMann-WhitneyU検定を用いp<0.05を統計学的有意差ありとした.16.34.02.51.61.00.7視標サイズ(degofarc)図1コントラスト感度全視標サイズで有意差は認めなかった(Mann-WhitneyU検定).1020あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(144) グレア付加コントラスト感度100806040201:多焦点群:単焦点群*6.34.02.51.61.00.7視標サイズ(degofarc)図2グレア付加コントラスト感度視標サイズ1.6degofarc(視角1.6°)のみで有意差を認めた(Mann-WhitneyU検定,*p<0.05).III考察多焦点IOLと単焦点IOLのコントラスト感度を比較した報告は多数ある.今回筆者らが用いたIOLと同形状のものの報告ではシリコーン製多焦点非球面IOLのZM900と単焦点IOLのZ9000を比較したものがあり,どの照度でも両者に差はないとする報告1,2)や,薄暮視,暗所視で低周波,高周波数領域で低下していたとの報告3),明所視で中間から高周波数領域で低下していたとの報告4)など結果はさまざまである.今回使用したZMA00については,他の多焦点IOLと比較し薄暮視での中間周波数領域でのコントラスト感度が良い傾向にあったという報告がある5).本研究での薄暮視のコントラスト感度は,多焦点群が低い傾向を認めるものの,有意差を認めたのはグレア付加時の一部の視標サイズのみであった.今回単焦点と比較し,コントラスト感度低下が少なかった原因の一つとして,非球面構造が球面収差を低減している可能性がある.単焦点IOLでは薄暮条件下では非球面のものが球面のものよりコントラスト感度が良好であるとする報告9,10)もあり,多焦点IOLにおいても同様の効果が得られた可能性がある.その他の原因としてCGT1000で測定する周波数領域の範囲があげられる.CGT1000の視標は視角6.3.0.7°の範囲であるが,これは他のコントラスト感度測定機器の6.12cpdの中間周波数の範囲である11).高周波数領域でのコントラスト感度低下の報告と比較し中間周波数でのコントラスト感度低下の報告は多くはない.視覚系全体における空間周波数特性は中間周波数で最も高いことが知られており,それによる影響も考えられる12).さらに,本研究で両群間のコントラスト感度の差が小さかったことや,統計学的有意差は出なかったが年齢が多焦点IOL群で低い傾向にあったことについては,サンプル数が少なかったことが要因の一つとなった可能性がある.今後症例数を重ね検討していきたい.今回筆者らは,多焦点IOLであるZMA00と同形状・同素材の単焦点IOLの薄暮でのコントラスト感度を比較検討した.ZMA00は大きなコントラスト感度の低下もなく,コントラスト感度を低下させる他の疾患を考慮すれば有効なIOLであると考えられた.文献1)片岡康志,大谷伸一郎,加賀谷文絵ほか:回折型多焦点非球面眼内レンズ挿入眼の視機能に対する検討.眼科手術23:277-281,20102)CillinoS,CasuccioA,DiPaceFetal:One-yearoutcomeswithnew-generationmultifocalintraocularlenses.Ophthalmology115:1508-1516,20083)MartinezPalmerA,GomezFainaP,EspanaAlbeldaAetal:Visualfunctionwithbilateralimplantationofmonofocalandmultifocalintraocularlenses:aprospective,randomized,controlledclinicaltrial.JRefractSurg24:257264,20084)MesciC,ErbilHH,OlgunAetal:Differencesincontrastsensitivitybetweenmonofocal,multifocalandaccommodatingintraocularlenses:long-termresults.ClinExperimentOphthalmol38:768-777,20105)GilMA,VaronC,RoselloNetal:Visualacuity,contrastsensitivity,subjectivequalityofvision,andqualityoflifewith4differentmultifocalIOLs.EurJOphthalmol22:175-187,20116)YoshinoM,Bissen-MiyajimaH,OkiSetal:Two-yearfollow-upafterimplantationofdiffractiveasphericsiliconemultifocalintraocularlenses.ActaOphthalmol89:617621,20117)大沼一彦:回折型多焦点眼内レンズの光学特性.あたらしい眼科24:137-146,20078)PuellMC,PalomoC,Sanchez-RamosCetal:Normalvaluesforphotopicandmesopiclettercontrastsensitivity.JRefractSurg20:484-488,20049)森洋斉,森文彦,昌原英隆ほか:非球面眼内レンズ(TECNISZA9003)挿入眼の収差とコントラスト感度.あたらしい眼科25:561-565,200810)OhtaniS,MiyataK,SamejimaTetal:Intraindividualcomparisonofasphericalandsphericalintraocularlensesofsamematerialandplatform.Ophthalmology116:896901,200911)高橋洋子:コントラストグレアテスター.IOL&RS15:192-199,200112)魚里博,中山奈々美:視力検査とコントラスト感度.あたらしい眼科26:1483-1487,2009***(145)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121021

緑内障患者における自動車運転実態調査

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1013.1017,2012c緑内障患者における自動車運転実態調査青木由紀国松志保原岳川島秀俊自治医科大学眼科学教室FactualSurveyofMotorVehicleDrivingbyGlaucomaPatientsYukiAoki,ShihoKunimatsu-Sanuki,TakeshiHaraandHidetoshiKawashimaDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity目的:緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.対象および方法:自治医科大学附属病院緑内障外来受診中の初期,中期,後期の緑内障患者各29名を対象とし,各群に対して自動車運転に関する質問を行い,各群間の年齢,logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力,運転時間,事故率を比較した.つぎに後期緑内障患者36名を事故歴のあるもの(事故群)とないもの(無事故群)に分類し,年齢,運転歴,運転時間,視力,視野検査結果の比較を行った.結果:初期・中期・後期群間の比較では後期群で有意に事故が多かった(p=0.0003).後期群における事故群と無事故群の比較では事故群で視力不良眼の視力が有意に悪く(p=0.0002),視野不良眼のMD値が有意に低かった(p=0.02).また,Goldmann両眼視野立体角の比較ではV/4視標における60°以内および30°以内の上半視野,下半視野で事故群が有意に狭かった(p=0.02.0.03).結論:視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.Objective:Toinvestigatetherelationshipbetweentypeofvisualfielddefectandfrequencyofmotorvehicleaccidentsinglaucomapatients.SubjectsandMethods:Chosenforthisstudywere29patientsofvariousglaucomastages(early,intermediateandadvanced).Weexaminedage,historyofaccidentsandmeandeviation(MD)viaHumphreyFieldAnalyzer(HFA).Additionally,patientsinadvancedstageweredividedintotwogroups:thosewithaccidenthistoryandthosewithout.Wethencomparedage,drivingrecord,actualhoursspentdriving,visualacuityandvisualfieldastestedbyHFAandGoldmannperimeter.Result:Patientswithadvancedglaucomacommittedsignificantlymoretrafficaccidentsthantheothertwogroups.Intheadvancedpatients,thosewithaccidenthistoryhadworsevisualacuityanddecreasedMDvaluesinthelessereye,aswellasmorerestrictedvisualfieldsinbothupperandlowerhemifields.Conclusions:Themorethevisualfieldlossprogressed,thegreaterthenumberofaccidentsthepatientsexperienced.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1013.1017,2012〕Keywords:緑内障,緑内障性視野障害,自動車運転,自動車事故,両眼視野.glaucoma,glaucomatousvisualfieldloss,driving,motorvehicleaccident,binocularvisualfield.はじめに公共交通機関に乏しい地方都市では,通勤,通学,買い物などの日常生活に自動車は欠かせない移動手段となっている.そのため地方では,自動車運転に支障をきたす視野障害を認める場合でも,必要に迫られて運転を継続し,安全確認不足が原因と考えられる交通事故を起こしている症例にしばしば遭遇する.しかし,日常臨床の場では医師側が,患者が運転しているかどうかについて知る機会は少ない.また,視野障害と自動車事故との関連を示唆する過去の報告は多いものの1.5),どの程度の視野障害であれば自動車運転に支障をきたさないのか明確な基準はない.筆者らは以前,自治医科大学附属病院(以下,当院)緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例について報告した6).今回筆者らは,緑内障性視野障害と自動車事故の関係を検討するため,緑内障患者の自動車運転実態調査を施行した.〔別刷請求先〕青木由紀:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学教室Reprintrequests:YukiAoki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(137)1013 I対象および方法2007年7月から2010年3月までに当院緑内障外来受診中の成人患者,264人中,過去5年間に自動車運転歴のあるもの,良いほうの視力が0.7以上であるもの,緑内障以外の視力および視野障害をきたすと思われる疾患の既往のないものを対象とした.視野障害の分類はAnderson分類に準じて7),Humphrey視野検査中心30-2プログラム(HFA30-2)meandeviation(MD)値で,初期緑内障は両眼ともに.6dB以上(以下,初期群),後期緑内障は両眼ともに.12dB以下(以下,後期群)のものとし,どちらも満たさない場合を中期緑内障(以下,中期群)とした.1.緑内障患者の自動車運転実態調査年齢をマッチングできた初期群,中期群,後期群各29名を対象とした.各群に対して自動車運転に関する質問(運転歴,過去5年間の事故歴,運転時間,運転目的)を行った.また,3群間で年齢,男女比,視力〔logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力〕,Humphrey視野検査MD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,事故率の比較を行った.2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との関連つぎに,後期群36名(平均年齢59.7±9.5歳)を対象とした.過去5年間に事故歴のある群(事故群)と事故歴のない群(無事故群)に分類した.事故群および無事故群において,年齢,運転歴,運転時間,運転目的,logMAR視力,視野検査結果の比較を行った.視野検査結果は下記の項目を比較した.a.Humphrey視野検査両群における視野良好眼および視野不良眼のHFA30-2MD値を比較した.b.Esterman視野生活不自由度を評価するために開発された両眼開放下で行うHFAの視野プログラム8)で,測定時間は正常者で6.8分である.生活不自由度に重要とされる中心30°と下半分の視野に比重がおかれ,点数配分が多くなっている.Estermandisabilitysore(満点は100点)の比較を行った.c.視能率Goldmann視野検査結果I/2視標における8方向の残存視野の角度を両眼それぞれ測定し,合計したものを560°で割り(片眼視能率),優位視能率の75%と非優位視能率の25%の合計を両眼視能率(=視能率)として算出した.d.Goldmann視野検査Goldmann視野検査結果においてV/4とI/4視標の左右眼の結果をそれぞれ重ね合わせて両眼視野を作成し,両群でのV/4,I/4視標における上半視野,下半視野それぞれ60°以内,30°以内における視野を求め,数値にて比較検討するためsteradian法により立体角で表した(図1).立体角とは二次元における角度の概念を三次元に拡張したものであり,全立体角は4psteradian(sr)である.初期群,中期群,後期群の比較についてはFisher’sexacttestおよびSteel-Dwass法による多重比較検定を使用し,正常:21歳,女性無事故群:70歳,男性事故群:51歳,男性Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野Goldmann両眼視野V/4I/4V/4I/4V/4I/460°30°60°30°60°30°立体角(sr)立体角(sr)立体角(sr)V/4I/4V/4I/4V/4I/460°以内上1.531.38下1.571.5730°以内上0.420.42下0.420.4260°以内上1.350.48下1.571.0530°以内上0.420.26下0.420.4260°以内上0.220.03下1.521.1230°以内上0.000.00下0.370.35図1正常人・無事故群・事故群における両眼視野および立体角1014あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(138) 表1初期・中期・後期緑内障患者群における背景初期中期後期p値292929年齢((n)歳)56.7±10.257.2±8.358.6±8.2NS男:女14:1520:920:90.17視力良好眼のlogMAR視力.0.06±0.06.0.07±0.02.0.03±0.08>0.05*視力不良眼のlogMAR視力.0.05±0.060.05±0.320.23±0.39<0.05*良いほうのMD値(dB).1.2±2.2.3.4±3.5.18.2±5.6<0.005*悪いほうのMD値(dB).3.6±2.6.13.5±6.3.22.5±5.2<0.001*運転歴(年)33.0±10.033.9±8.631.3±7.9NS運転時間(時間/週)6.4±5.45.6±4.56.4±8.1NS事故あり(%)2(6.9%)0(0%)10(34.5%)0.0003†事故率は後期群で有意に高かった.後期緑内障患者における事故群,無事故群の比較についてはStudent’st-test,Mann-Whitney’sUtestおよびc2検定を用いた.これらの調査については当院倫理委員会の承認のもと(倫理委員会番号:第臨09-12号),各対象者にインフォームド・コンセントを行い,同意を得たのちに行った.II結果1.緑内障患者の自動車運転実態調査緑内障患者の事故率を,年齢をマッチングした病期ごとに調べた結果,各群29名中,過去5年間に事故歴があったのは初期群で2名(6.9%),中期群で0名(0%),後期群で10名(34.5%)と後期群で有意に多かった(p=0.0003).事故の内訳は,初期群は対物事故1件と物損事故1件,後期群は対人事故1件,対物事故9件,物損事故4件(複数回答あり)であった.初期群・中期群・後期群を比較すると男女比は初期,中期,後期でそれぞれ14:15,20:9,20:9と有意差はなく,視力良好眼のlogMAR視力は,各群間に差がなかったが,視力不良眼のlogMAR視力は,後期群で有意に悪かった(p<0.005).運転歴,1週間当たりの運転時間ともに関連後期緑内障患者36名のうち事故群10名,無事故群26名において,年齢,視力良好眼および視力不良眼のlogMAR視力,視野良好眼および視野不良眼のMD値,運転歴,1週間当たりの運転時間,視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野立体角を比較した結果を表2,3に示す.年齢,運転時間は両群間で差はなかったが,運転歴は無事故群で有意に長かった(p=0.03).視力良好眼のlogMAR視力は両群間において有意差がなく,視力不良眼では事故群が有意にlogMAR視力は悪かった(p=0.0002).視野良好眼のMD値は事故群で.21.8±6.3dB,無事故群で.16.4±3.6dB(139)*Steel-Dwass法.†Fisher’sexacttest.表2後期緑内障患者における事故群,無事故群の背景事故群無事故群p値1026年齢((n)歳)55.9±8.161.1±9.80.11男:女8:218:80.52運転歴(年)28.1±7.636.2±10.20.03†運転時間(時間/週)8.5±9.84.6±6.00.29視力良好眼のlogMAR視力.0.03±0.1.0.03±0.10.80視力不良眼のlogMAR視力0.5±0.50.04±0.10.0002*視野良好眼のMD値(dB).21.8±6.3.16.4±3.60.13視野不良眼のMD値(dB).25.5±4.3.20.7±4.50.02†事故群では視力不良眼のlogMAR視力,視野不良眼のMD値が有意に悪かった.†Student’st-test.*Mann-Whitney’sUtest.表3事故群・無事故群における両眼視野評価方法による比較事故群無事故群p値n1026視能率3.7±2.87.6±4.20.23Estermandisabilityscore72.4±22.484.0±10.70.05上0.82±0.481.22±0.250.02*0.51±0.540.65±0.320.20各群間に有意差はみられなかった(表1).立体角60°1.46±0.161.54±0.080.02*下2.後期緑内障患者における視野障害と自動車事故との0.94±0.351.10±0.330.210.24±0.140.36±0.080.03*上段:V/4上0.16±0.150.33±0.130.12下段:I/430°0.34±0.080.39±0.080.02*下0.30±0.120.33±0.120.29視能率,Estermandisabilityscoreにおいては差がなく,Goldman視野検査両眼視野立体角評価においてV/4視標の60°以内,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった.*Mann-Whitney’sUtest.と,両群間に差はなかったが,視野不良眼のMD値はそれぞれ.25.5±4.3dB,.20.7±4.5dBと,事故群のほうが有意に低かった(p=0.02).視能率,Estermandisabilityあたらしい眼科Vol.29,No.7,20121015 scoreの比較では両群間に差はなかった.Goldmann両眼視野立体角はV/4視標における60°以内の上半視野,下半視野,30°以内の上半視野,下半視野において事故群が有意に狭かった(p=0.02,p=0.02,p=0.03,p=0.02)(表3).なお,事故を起こした10名中8名が運転を継続していた.III考按今回筆者らは,緑内障患者における自動車運転実態調査を行った.年齢をマッチングした各群29名の過去5年間で事故を起こした率は初期群6.9%(2名),中期群0%(0名)後期群34.5%(10名)と,後期群で有意に事故率が高かった(,)(表1).視野障害と自動車事故についてOwsleyらが行った55.87歳の高齢運転者179名(事故群78例,無事故群101例)を対象とした調査では,事故群では無事故群と比べて緑内障罹患率が3.6倍であったとしている1).Szlykらは,緑内障患者40名と正常者11名とを比較したところ,過去5年間の事故歴は緑内障患者群で32.5%であり,正常者と比較して有意に事故率が高かったと報告している2).一方で,McGwinらによる緑内障患者群576名と正常群115名の事故率を比較したところ,緑内障群のほうが運転に慎重になるため事故率は低かった(relativerisk0.67)という報告もあり9),視野が狭いほど事故が起きるのかどうか統一した見解は得られていない.また,これらはいずれも海外からの報告であり,免許基準が異なる日本と比較することはできない.わが国での緑内障と自動車事故に関する報告は,筆者らの調べうる範囲ではわずかに1編のみである.Tanabeらは原発開放隅角緑内障患者を視野障害程度によりHFA30-2のMD値が両眼ともに.5dB以上を初期,視野が悪いほうの眼のMD値が.5dBから.10dBまでを中期,また,.10dB以下を後期に分類し,事故率の比較を行った.その結果,初期群で0%,中期群で3.9%,後期群で25%と後期群で有意に事故が多かったと報告している5).視野が狭いほど事故を起こしやすいという可能性を示唆するものだが,後期群ほど高齢であるため加齢の影響により事故が増加していることも考えられる.警察庁交通局による平成21年の原付以上運転者(第1当事者)による運転免許保有者10万人当たり交通事故件数を年齢層別にみると,若者(16.24歳,1,649.3件)が最も多く,ついで25.29歳(1,017.5件),高齢者(75歳以上,987.4件)の順となっている(http://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H21mistake.pdf#search).今回筆者らの対象とした33.70歳での1年間の交通事故件数は727.6.770.3件であり,各群29名当たりの5年間での事故件数は平均1件前後となる.今回は,「自動車事故」の対象を,警察に届け出をしない物損事故も含めているため,単純比較はできない1016あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012が,初期群2名,中期群0名が過去5年間に自動車事故を起こした,という数字は,ほぼ,全国の同年代の運転免許保有者の事故率と同等であると考える.しかし,それに比して,後期群の10名(34.5%)は有意に多く,これにより,視野障害が高度であるほど自動車事故が起きる可能性があることが示唆された.海外の過去の報告では,対象となる緑内障患者の視野障害度は軽度のものが多く含まれ,両眼ともに高度の視野障害がある緑内障例での検討は皆無であった.国によっては,視野狭窄例では免許更新ができないこともあるが,わが国では両眼ともに視力が良好な場合は,高度の視野狭窄があっても免許取得・更新が十分可能である.Tanabeらの報告では,視野が悪いほうのMDで分類しているため片眼の視野障害が軽度な例が含まれている可能性がある.そのため,両眼の高度の視野狭窄例での検討が必要だと考え,両眼ともにHFA30-2MD値.12dB未満であるものを後期緑内障群として運転調査を行い,事故歴の有無と視野との関連を検討した.その結果,事故群では無事故群に比べて視力不良眼の視力が悪く,視野不良眼のMD値が悪かった.運転は,両眼開放下で行うものの,緑内障患者では,視力不良眼・視野不良眼の状態が,自動車事故に影響を及ぼしている可能性が示唆された.さらに,両眼視野結果である視能率,Estermandisabilityscore,Goldmann両眼視野より得られた立体角の3種類で比較を行ったところ,視能率と自動車事故との関連はなかった.視能率は,日常的には視覚障害者の認定のために使用されるが,Goldmann視野検査におけるI/2視標結果から計算される.そのため高度な視野障害のみられる後期緑内障群では,事故群,無事故群ともに値が小さくなり,有意差はみられなかったと考えられる.また,Estermandisabilityscoreでも事故群・無事故群では有意な差はみられなかった.Estermandisabilityscoreは生活不自由度と相関するといわれている10)が,今回,事故群と無事故群で有意差がなかったのは,中心視野を含まない(中心10°内に検査点がない)ことが影響しているかもしれない.Goldmann両眼視野では,事故群においてV/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったが,I/4視標で差がみられなかった.これは,今回の対象が,視野障害が高度な後期緑内障患者であり,I/4視標では,事故群・無事故群ともに狭小化しており,両群に差がでなかったものと考える.同じ後期緑内障群であっても,事故群は,より末期である可能性があり,V/4視標における60°および30°以内のいずれも上下半視野の立体角が有意に小さかったことは,後期緑内障群のなかでも,事故群では,さらに視野障害が進行していることを表しているのかもしれない.Goldmann視野検査の,立体角による視野面積の定量化は,過去に馬場らが少数例で行っている11)が,筆者らの,(140) Goldmann視野検査からの両眼視野を作成し,立体角を計算する作業にはかなりの時間を要する.Goldmann視野検査結果から両眼視野を作成し,立体角を計測する方法により,より小さい立体角で事故が起こる可能性が推測できるが,日常臨床の場での判断に利用するには,作業を簡便化するソフトの開発などが必要であろう.今回の研究における問題点として事故歴聴取のあり方があげられる.対象者に行った事故歴の有無についての聴取は自己申告であり,本人が自分の責任で生じた事故ではないと考えている場合,あえて事故歴ありと申告をしていない可能性がある.視野が高度に狭窄しているにもかかわらず自覚症状のない患者では,安全確認に必要な視野が確保されていないことが原因と思われる事故状況であっても,自分の責任ではないと考えている症例もあった.このように,自己申告による事故歴の聴取には限界があると思われる.今回事故歴のあった後期緑内障患者10名のうち8名が運転を継続していた.現時点では運転を中止すべき明確な基準がないため,いずれの症例が運転を中止すべきなのかは判断できない.しかし,この実態調査を通じて,後期緑内障患者の事故率は有意に高いことから,日常臨床の場でも,緑内障患者の自動車運転歴の有無を聴取し,運転している場合は,視野検査結果を詳しく説明し,注意を喚起することは重要であると考える.今後は自動車運転シミュレータのような運転条件を一定にした状態での事故率を調査し,どの程度の視野障害度,どの部位の視野欠損が自動車事故に関与しているか検討していきたい.文献1)OwsleyC,McGwinGJr,BallK:Visionimpairment,eyedisease,andinjuriousmotorvehiclecrashesintheelderly.OphthalmicEpidemiol5:101-113,19982)SzlykJP,MahlerCL,SeipleWetal:Drivingperformanceofglaucomapatientscorrelateswithperipheralvisualfieldloss.JGlaucoma14:145-150,20053)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Riskoffallsandmotorvehiclecollisionsinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci48:1149-1155,20074)HaymesSA,LeblancRP,NicolelaMTetal:Glaucomaandon-roaddrivingperformance.InvestOphthalmolVisSci49:3035-3041,20085)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:TheAssociationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSci52:4177-4181,20116)青木由紀,国松志保,原岳ほか:自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例.あたらしい眼科25:1011-1016,20087)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19998)EstermanB:Functionalscoringofthebinocularfield.Ophthalmology89:1226-1234,19829)McGwinGJr,XieA,MaysA:Visualfielddefectsandtheriskofmotorvehiclecollisionsamongpatientswithglaucoma.InvestOphthalmolVisSci46:4437-4441,200510)ParrishRK2nd,GeddeSJ,ScottIUetal:Visualfunctionandqualityoflifeamongpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1447-1455,199711)馬場裕行:ゴールドマン視野の立体角による定量化.日眼会誌90:210-214,1986***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121017

1%ブリンゾラミド点眼液点眼後の霧視に影響する要因

2012年7月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科29(7):1007.1012,2012c1%ブリンゾラミド点眼液点眼後の霧視に影響する要因亀井裕子*1山田はづき*1吉原文乃*1吉川啓司*1,2松原正男*1*1東京女子医科大学東医療センター眼科*2吉川眼科クリニックInfluencesonBlurredVisionafterBrinzolamideInstillationYukoKamei1),HazukiYamada1),AyanoYoshihara1),KeijiYoshikawa1,2)andMasaoMatsubara1)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2)YoshikawaEyeClinicブリンゾラミド点眼後に発生する霧視の程度と持続時間を,眼科的な疾患を認めなかった51名(男性39名,女性12名,平均年齢:36.4±8.9歳)を対象とし,サンプル画像を用いて調べた.対象におけるtearfilmbreakuptime(BUT)は「拭き取りあり」の際の霧視スコアの高スコア群(5.10±2.62秒)で低スコア群(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値(p<0.0304)を示し,霧視持続時間も同様であった(長時間群:5.00±2.63秒,短時間群:6.51±2.55秒p=0.0419).しかし,綿糸法,DR-1R,クリアランステストは両群間に有意差を認めず,ブリンゾラミド点眼後の霧視の程度と持続には涙液の不安定性も関連することが考えられた.また,霧視スコアと霧視持続時間を点眼後の「拭き取りあり」と「拭き取りなし」の比較が可能であった44例では「拭き取りあり」は「拭き取りなし」に比べ霧視スコア(1.70±1.00vs3.07±0.93),霧視持続時間(22.0±22.6秒vs76.3±53.5秒)ともに有意に(p<0.001)低値を示し,ブリンゾラミド点眼後の拭き取りの重要性が確認された.Thoughtearfilmbreakuptimeinthehighscoregroup(5.10±2.62sec.)andthelongerdurationofblurringgroup(5.00±2.63sec.)wassignificantlylonger(p=0.0304,p=0.0419,respectively)incomparisontothelowscoregroup(6.72±2.51sec.)andtheshorterdurationgroup(6.51±2.55sec.),nosignificantdifferencewasobservedinDR-1Rortearfilmclearancebetweenthegroups.Itispostulatedthattearfilminstabilitymayplayaroleinblurringafterbrinzolamideinstillation.Scoreddegree(score)anddurationofblurringafterbrinzolamideinstillationwerestudiedin51healthyvolunteers,usingcomputer-derivedsamplepictures.Sincescoreanddurationofblurringweresignificantlylower(p<0.001)ineyeswipedafterinstillation(score:1.70±1.00,duration:22.0±22.6sec.)thanineyesnotwipedafterinstillation(score:3.07±0.93,duration:76.3±53.5sec.),wipingafterinstillationisthoughttobeimportantforimprovingbrinzolamide-inducedblurring.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(7):1007.1012,2012〕Keywords:ドルゾラミド点眼液,霧視,点眼薬の点眼後拭き取り,涙液層破壊時間.brinzoramideophthalmicsolution,blurredvision,wipingoffophthalmicsolutionfromeyelids,tearfilmbreakuptime.はじめに緑内障点眼薬は角膜を透過し前房中に達した後に奏効するため,点眼薬の角膜透過性は眼圧下降効果に関連する1).炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)は角膜透過性が不良なため2.4),ゲル化あるいは懸濁化3)などの製剤上の工夫を施し,点眼薬の鼻涙管からの初期排出を抑制することにより薬剤の前房中への移行を確保している.反面,ゲル化製剤であるドルゾラミド点眼液(以下,ドルゾラミド,MSD,東京)では点眼時の強いべたつき感や味覚異常や灼熱感を生じやすい5,6).一方,懸濁化製剤であるブリンゾラミド点眼薬(以下,ブリンゾラミド,アルコン,東京)は点眼後に霧視が発生しやすい.これらの緑内障治療薬点眼時に生じる局所的な副作用は,点眼アドヒアランスや緑内障治療効果にも影響し得る7).さて,ブリンゾラミド点眼後の霧視には涙液の白濁化だけではなく,涙液層の不安定化が関連する10,11).実際には,霧視の頻度は1.7.20%に及び,霧視の消失には点眼後3.5分を要することが報告されている8,9).しかし,これらの報〔別刷請求先〕亀井裕子:〒116-8567東京都荒川区西尾久2-1-10東京女子医科大学東医療センター眼科Reprintrequests:YukoKamei,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,2-1-10Nishiogu,Arakawa-ku,Tokyo116-8567,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(131)1007 告はいずれもブリンゾラミド点眼後に睫毛や眼瞼に付着した薬剤の拭き取りを施行しない条件下での検討である.そこで,今回,涙液動態のブリンゾラミド点眼後の霧視への影響を調べ,さらに,点眼後に「拭き取り」を行ったうえで発生した霧視の程度およびその消失までの時間を「拭き取り」を行わなかった場合のそれと比較したので報告する.I対象および方法自由意思による本研究への参加者を募集した.参加者の年齢は20歳以上,等価球面度数が.8D以内,眼圧が21mmHg以下で,かつ,フルオレサイトR(アルコン,東京)を大塚生食注R(大塚製薬,東京)で希釈してその濃度が2%になるようあらかじめ調整した2%フルオレセイン液を点眼後,自然瞬目20分後に涙三角にフルオレセインが残留しないことを確認(フルオレセイン残留試験12))することで,明らかな導涙機能の異常がないと判断した参加者を被検者とし,文書により本研究への同意を得たうえで,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.なお,調査日のコンタクトレンズ装用例,点眼薬の使用例,あるいは,本調査の内容の理解やインタビューへの回答が困難,その他担当医が不適切と判断した参加者は被検者から除外した.眼科専門医である検者が被検者に,すべてのサンプル画像(図1)を検査開始前にあらかじめ供覧し,霧視の程度の指標とすることを説明した.さらに検者が被検者に矯正眼鏡を装用のうえ,片眼ずつ遮閉しサンプル画像のうち基本画像(図1,スコア0)を眼前50cmの距離で呈示し,被検者がより明確に見える側を被検眼とした.ブリンゾラミドを被検眼に点眼後,被検者は閉瞼し,一方,検者は被検眼側の涙.部を30秒間圧迫し,その後眼瞼および睫毛に付着した点眼液を,清潔綿を用いて鼻側から耳側に向かって拭き取った.拭き取りの直後に被検者は開瞼し,その時点での「見え方」を記憶し,さらに,自然瞬目を開始,点眼前の「見え方」に回復した時点を挙手で検者に知らせた.その後に,被検者は開瞼直後に記憶した「見え方」をサンプル画像の評価スケール(図1)上に矢印で記入し,これを霧視スコアとした.また,開瞼開始後から霧視を被検者が挙手で知らせるまでの時間を,ストップウォッチを用いて計測し,霧視持続時間(秒)とした.以上の検査終了後,少なくとも3時間の間隔を開け,被検者をエアコンディショナーの噴出口付近を避けて位置させたうえで,涙液油層観察装置DR-1R(以下,DR-1,興和,東京)を用いて涙液油層を観察した.DR-1の映像は片眼につき2回撮影し,八田らの分類13)に従い,Grade1からGrade4の4段階に分けた.涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)は,フローレスR眼検査用試験紙0.7mg(昭和薬化工,東京)で涙液を染色し,染色された涙液が破綻するスコア0スコア1スコア2スコア3スコア4スコア5012345評価スケール図1サンプル画像サンプル画像は基本となる写真(基本画像)をパソコンに取り込み,画像ソフト(AdobePhotoshopver.5)のぼかしツールを用いて,ピクセル数の変化によりガウス変換してサンプル画像を作成した.さらに,「かすまない」をスコア0(基本画像,加工なし)とし,順にスコア1(+10ピクセル),スコア2(+20ピクセル),スコア3(+40ピクセル),スコア4(+80ピクセル),スコア5(+160ピクセル)と設定した.点眼,30秒閉瞼,拭き取り後,開瞼した時点での「見え方」を調査用画像の評価スケール上に矢印で記入し,これを霧視スコアとした(図に示す矢印の位置は2.6).1008あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(132) までをCCDカメラを通してビデオレコーダに記録し,これを検査後にビデオテープのタイムレコードで調べた.なお,涙液の破綻が10秒を超えても観察できない場合は評価時間を10秒とした.続いて,点眼麻酔を行わず,ゾーンクイックR(メニコン,愛知)を用い,その先端3mmを外眼角に置き,自然瞬目で15秒経過した後に綿糸をはずし,ただちに先端から糸の変色部位までの長さを定規で計測した(綿糸法).この計測後,フルオレサイトRを混和してその濃度が0.5%になるようあらかじめ調整したベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬,大阪)を,マイクロピペットで10μL滴下して点眼麻酔を行い,5分後にシルメル試験紙R(メニコン,愛知)を外眼角に置き,5分間の閉瞼後,試験紙を外し希釈の標準表と照合し,色調が最も近い数値を希釈倍率として記録し(クリアランステスト14)),涙液が結膜.からwashoutされる効率をみることで涙液の質的評価を行った.なお,各検査は同一の眼科専門医が施行し,結果の情報は担当医師間ではマスクした.諸検査施行後,2週以内に,同意が得られた被検者にはブリンゾラミド点眼後,被検者の涙.部を30秒間圧迫し,点眼液の拭き取りは行わず,その直後の「霧視スコア」と,自療が開始された2名と調査日に人工涙液以外の点眼の使用が確認された2名を除外し,51名が被検者となった.対象の内訳は男性39名,女性12名,平均年齢は36.4±8.9歳(23.55歳)であった.霧視スコアは平均1.67±0.99(0.3)であり,霧視持続時間は平均25.2±30.4秒(0.171秒,中央値:13秒)であった.霧視スコアと霧視持続時間の間に有意に正の相関を認めた(霧視持続時間=.4.1995+17.6049×霧視スコア,p<0.0001)が得られた(図2).DR-1はGrade1が最も多く28眼(54.9%)を占め,Grade2(19眼:37.3%),Grade3(4眼:7.8%)がこれに続いた.BUTは平均5.8±2.7秒(2.10秒),綿糸法は平均18.2±7.3mm(7.35mm)であった.クリアランスでは水準32が最多(16眼:31.3%)であり,水準16(14眼:27.4%),水準64(7眼:13.7%),水準128(6眼:11.8%)が続(n=51)150r=-4.1995+17.6049霧視持続時間(秒)10050然瞬目後,被検者の霧視が消失するまでの「霧視持続時間」を測定した.直接,検査に関わらなかった1名の眼科専門医(YK)が被検眼を解析対象とし,統計解析ソフトウェアはJMP(Ver8.0,SAS,東京)を用いて,c2検定,Fisherの直接確率法,t検0定,対応のあるt検定,回帰分析および単変量ロジスティッ-0.500.511.522.533.54ク回帰分析を行った.統計的な有意水準は5%とした.霧視スコアII結果図2霧視スコアと霧視持続時間との関連霧視スコアと持続時間には正の相関があった(実測時間=参加者は55名であった.しかし,同意後に全身疾患の治.4.1995+17.6049×霧視スコア,p<0.0001).10(n=51)BUT(秒)1099(n=51)111144332211低スコア群高スコア群13以下群14以上群図3霧視スコアおよび霧視持続時間とBUT(tearfilmbreakuptime)a:霧視スコアとBUTとの関連.霧視スコアの平均値1.67を基準にして高スコア群と低スコア群とを比較した.高スコア群(5.10±2.62秒)は低スコア群(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値(p<0.0304)を示した.b:霧視持続時間とBUTとの関連.霧視持続時間の中央値13秒を基準にして,長時間群と短時間群とを比較した.長時間群(5.00±2.63秒)は短時間群(6.51±2.55秒)に比べ有意に低値(p=0.0419)であった.88BUT(秒)776655(133)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121009 いたが,水準256(3眼:5.9%),水準512(2眼:3.9%),水準8(2眼:3.9%),水準4(1眼:2.0%)はいずれも10%以下に留まった.霧視スコアの平均値である1.67を基準にして高スコア群(n=29)と低スコア群(n=22)に分け涙液検査との関連を検討した.BUTは高スコア群(5.10±2.62秒)で低スコア群(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値(p<0.0304)を示した(図3a).しかし,綿糸法は高スコア群(19.1±7.5mm)と低スコア群(18.0±7.1mm)の間に明らかな差はなかった(p<0.3179).DR-1は高スコア群ではGrade1が最も多く29眼中16眼(55.2%)を占め,Grade2(10眼:34.5%),Grade3は3眼(10.3%)であった.低スコア群でもDR-1はGrade1が22眼中12眼(54.6%),Grade2が9眼(40.9%),Grade3は1眼(4.5%)であり,高スコア群と低スコア群の間にDR-1の比率に明らかな差はなかった(c2=0.676,p=0.7132).クリアランステストでも同様に高スコア群と低スコア群の間に明らかな差はなかった(c2=4.315,p=0.7429).同様に,拭き取りありの際の霧視持続時間の中央値である13秒を基準にして長時間群(n=24)と短時間群(n=27)に分け,同様にDR-1,BUT,綿糸法,クリアランスとの関連を検討した.BUTは長時間群(5.00±2.63秒)で短時間群(6.51±2.55秒)に比べ有意に(p=0.0419)低値であった(図3b).しかし,綿糸法は両群(長時間群:19.0±8.0mm,短時間群:17.6±6.7mm)の間に明らかな差がなかった(p=0.5125).霧視持続の長時間群,短時間群ともにDR-1はGrade1〔長時間群:24眼中14眼(58.3%),短時間群:27眼中14眼(51.9%)〕,Grade2〔長時間群:24眼中12眼(50.0%),短時間群:27眼中7眼(29.25%)〕,Grade3〔長時間群:24眼中3眼(12.5%),短時間群:27眼中1眼(3.7%)〕であり,両群の間にDR-1の比率に明らかな差はなく(c2=2.417,p=0.3419),クリアランステストでも同様に明らかな差はなかった(c2=4.315,p=0.7429).霧視スコアを目的変数として,一方,BUTを説明変数として単変量ロジスティック回帰分析を行うと,モデルは有意となり(c2=4.7616,p=0.0291),オッズ比は1.27であった(1.0242.1.6106).同様に,目的変数を霧視持続時間とした際にも(説明変数:BUT)モデルは有意となり(c2=4.3198,p=0.0377),オッズ比は1.26であった(1.0129.1.6120).被検者51例中44例(86.2%)では同意と来院が得られ,拭き取りなしの際の霧視スコア(3.07±0.93,1.5)と霧視持続時間(76.3±53.5秒,5.241秒)が測定可能であった.比較ができた44例での拭き取りなしの霧視スコアは拭き取りありによる霧視スコア(1.70±1.00,1.3)に比べ有意に高値を示した(対応のあるt検定,t=1.221,p<0.001)(図4a).拭き取りなしの霧視持続時間も拭き取りありのそれ(22.0±22.6秒,0.87秒)に比べ有意に高値を示した(対応のあるt検定,t=6.1104,p<0.001)(図4b).III考察ブリンゾラミド点眼薬の点眼後の霧視に涙液の不安定性が影響し,その把握にはBUTが有用であった.さらに,拭き取りを行ったうえで調べた霧視スコアと霧視持続時間は,拭き取りなしのそれに比べて有意に低値であった.CAI点眼は元来,角膜透過性が不良である.そこで,ブリンゾラミドはカルボキシビニルポリマー(carbomer)を主剤に結合させ懸濁液とする製剤上の工夫により,眼表面での滞留性を高め,角膜透過性を確保して眼圧下降効果を得てい拭き取りなし(秒)5(n=44)43210050100150200250300拭き取りなし(秒)(n=44)012345050100150200250300拭き取りあり(秒)拭き取りあり(秒)図4拭き取りの有無と霧視スコアおよび霧視持続時間a:霧視スコア.霧視スコアは拭き取りありでは1.70±1.00であり,拭き取りなしのそれ(3.07±0.93)に比べ有意に低値(p<0.0001)を示した.b:霧視持続時間.霧視持続時間は拭き取りありでは22.0±22.6秒で,拭き取りなしの76.3±53.5秒に比べ有意に低値(p<0.001)を示した.1010あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(134) る15).このため,点眼後に霧視が発生しやすい.同様のCAIであるドルゾラミドでは粘稠化剤(ヒドロキシエチルセルロース)を添加して滞留時間を確保しているが,点眼後の味覚異常や灼熱感が発生しやすく16),その対策として点眼時の涙.部圧迫(nasolacrimalocclusion:NLO)が推奨されている17).一方,ブリンゾラミドでは点眼後の霧視の軽減には睫毛や眼瞼に付着した薬剤の拭き取りが効果的であると考えられている.これまでブリンゾラミド点眼後の霧視の発生頻度や持続時間については報告があり9,11),点眼直後では霧視の発生は60%を超えるとされるがいずれも拭き取りを行った結果ではない.そこで,今回,点眼後に拭き取りを施行したうえで霧視の程度やその持続時間を調べた.なお,今回,拭き取りによる霧視への影響の評価を目的としたため,点眼薬の鼻涙管からの排出を最少化することも必要と考え,拭き取りに先だって30秒間のNLOを施行した.霧視の客観的評価法は確立されていないが,今回,霧視の程度はサンプル画像を用いて調べた.従来の報告では実用視力11)が霧視の評価に用いられてきた.ここで,実用視力は遠方の「見え方」を評価する指標であり,霧視について近方視での評価はこれまでされていない.しかも,ブリンゾラミド処方前には眼科医は霧視に関しての説明と1滴点眼後の「見え方」の確認を行うが,その際には眼科医は自分の顔など比較的近方視を促すことが多い.そこで,今回,被検者が比較的若年者であったことも併せて,サンプル画像による近方視による霧視を評価することとした.さて,畑田らは画像と視覚情報の関連性を体系化し,画像処理の理論や具体的評価法を指摘している18).そこで,これに準じて,デジタル写真を画像用ソフトを用いてぼかしの加工を施し0.5までの6段階に分けて作成し,サンプル画像として実験に供した.なお,サンプル画像はAdobePhotoshopR(アドビシステムズ,東京)を用い,コンピュータ処理により作成した.AdobePhotoshopRに備えられた画像のコントラストや境界線とその周辺のピクセルを平均化させることでカラーの移行を滑らかにする「ぼかしフィルター」を用いると,もや(4)(4)がかかった画像を作成できるからである.すなわち,サンプル画像を用いた霧視の評価は半定量的ではあるが,ブリンゾラミド点眼後の臨床的な霧視の状況を反映しうるものと考えた.さらに,被検者にあらかじめサンプル画像を供覧したうえで,検査内容を十分に説明し,霧視の程度を画像チャート上に記載を求めただけでなく,霧視が解消した時点を被検者自身の挙手による合図により持続時間を調べたため,時間ずれ(4)(4)は最少化しうるものと考えた.その結果,霧視の平均スコアは1.67±0.99であり,持続時間は25.2±30.4秒であり,両者の間には正の相関があった.日常臨床でブリンゾラミドを処方する際に,拭き取りの励行を説明した場合の患者申告による霧視の程度はQOV(qualityofvision)を損なわない程度であり,また,霧視の消失までの時間も一過性であることが多い.すなわち,筆者らの検討結果は,その臨床的印象とよく一致するものと考えた.さらに,対象中の一部で調べえた拭き取りなしでの霧視スコア(3.07±0.93)ならびに霧視持続時間(平均76.3±53.5秒)は,拭き取りありの際の霧視スコア(1.70±1.00)ならびに霧視持続時間(22.0±22.6秒)に比べ明らかに高値を示し,ブリンゾラミド点眼後の薬剤の拭き取りは霧視を最少化するうえで重要であることが確認された.つぎに,ブリンゾラミド点眼後の霧視には涙液の白濁化が影響し,すなわち,涙液動態が霧視の程度に関連することが報告されている8,9)が,ブリンゾラミド点眼後に薬液を拭き取ったうえでの検討ではない.しかし,筆者らの結果で拭き取りを行っても霧視持続時間は5.241秒と個人差が大きかった.そこで,霧視への直接的・間接的な涙液動態の影響が否定できず10,11),改めて拭き取りした条件下での涙液動態を調べ,霧視スコアや持続時間への影響も検討した.涙液検査は多岐にわたるが,今回の被検者に対しては結膜.に貯留する涙液量を反映するとされる綿糸法と,涙液の安定性を反映するとされるBUTとを調べた.さらに,涙液が結膜.からwashoutされることが涙液中に存在する点眼液の希釈にかかわると考え,涙液クリアランスを調べた.涙液油層の厚みおよび安定性を調べるDR-1は,涙液の蒸発を把握するのに有用であるため検査に追加した.さて,涙液関連検査の結果は広い範囲に分布し綿糸法,クリアランス,DR-1などは霧視スコアや持続時間との間に有意な関連を認めなかった.しかし,霧視スコアおよび霧視持続時間を高値群と低値群,長時間群と短時間群に分けて涙液検査との関連を検討すると興味深い結果を得た.すなわち,綿糸法,クリアランス,DR-1では明らかな関連を認めなかったが,霧視スコアの高値群でのBUT(5.10±2.62秒)は,霧視スコアの低値群のそれ(6.72±2.51秒)に比べ有意に低値を示し,霧視持続時間の長時間群のBUT(5.00±2.63秒)も短時間群のそれ(6.51±2.55秒)に比べ明らかに低値であった.BUTは涙液の不安定性を代表している涙液検査であり,ブリンゾラミド点眼後の霧視の発生とその持続には点眼液だけでなく,元来の涙液の性状が影響していることが示唆された.なお,BUTを説明変数として単変量ロジスティック回帰分析を行ったところ,オッズ比が有意となったことも,霧視に涙液の不安定性の影響があることを支持する結果と考えた.緑内障は一般に高齢者に多く,ドライアイなどの基礎疾患も併存し,さらに,多剤点眼例も50%近くに及び19,20),涙液層の不安定化要因は少なくない.涙液の客観的評価法として,BUTは一般臨床でも可能な検査であり,ブリンゾラミド開始に先立ち,個々の症例の涙液の不安定性の把握に際して有用であると考えた.(135)あたらしい眼科Vol.29,No.7,20121011 緑内障点眼薬は長期にわたり使用が求められるが,にもかかわらず,薬剤の局所副作用はアドヒアランスを阻害するとされる7).今回の結果からブリンゾラミド使用時には,あらかじめ涙液に関しての情報提供と点眼時の拭き取りの重要性が強く示唆され,アドヒアランスの確保に向けての対策の第一歩として位置づけられると考えたので報告した.文献1)MarenTH,JankowskaL,SanyalGetal:Thetranscornealpermeabilityofsulfonamidecarbonicanhydraseinhibitorsandtheireffectonaqueoshumorsecretion.ExpEyeRes36:457-480,19832)EdelhauserHF,MarenTH:Permeabilityofhumancorneaandscleratosulfonamidecarbonicanhydraseinhibitors.ArchOphthalmol106:1110-1115,19883)SilverLH,theBrinzolamidePrimaryTherapyStudyGroup:Clinicalefficacyandsafetyofbrinzolamide(AzoptTM),anewtopicalcarbonicanhydraseinhibitorforprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol126:400-408,19984)DonohueEK,WilenskyJT:Trusopt,atopicalcarbonicanhydraseinhibitor.JGlaucoma5:68-74,19965)原岳,立石衣津子,原玲子ほか:抗緑内障点眼薬の点眼時刺激と容器の使用感.眼臨紀1:9-12,20086)高橋現一郎,山村重雄:薬局における炭酸脱水酵素阻害薬点眼液の使用感調査.あたらしい眼科25:1285-1289,20087)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrentOpinOphthalmol17:190-195,20068)MichaudJE,FrirenB,InternationalBrinzolamideAdjunctiveStudyGroup:Comparisonoftopicalbrinzolamide1%anddorzolamide2%eyedropsgiventwicedailyinadditiontotimolol0.5%inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:235-243,20019)石橋健,森和彦:二種類の炭酸脱水酵素阻害点眼薬投与に伴う霧視について.日眼会誌113:689-692,200610)HiraokaT,DaitoM,OkamotoFetal:Contrastsensitivityandopticalqualityoftheeyeafterinstillationoftimololmaleategel-formingsolutionandbrinzolamideophthalmicsuspension.Ophthalmology117:2080-2087,201011)野口毅,川崎史朗,溝上志朗ほか:ブリンゾラミド点眼後の霧視の発生機序.日眼会誌114:369-373,201012)長嶋孝次:流涙症とその診断・治療.眼科診療─卒後研修のために─(弓削経一編),金原出版,197513)八田葉子,横井則彦,西田幸二ほか:ドライアイにおける涙液油層の観察.臨眼49:847-851,199514)小野真史,坪田一男,吉野健一ほか:涙液のクリアランステスト.臨眼45:1143-1147,199115)BartlettJD,JaanusSD:ClinicalOcularPharmacology.Fifthedition,ButterworthHeinemann,StLouis,200816)BarnebeyH,KwokS:Patient’sacceptanceofaswitchfromdorzolamidetobrinzolamideforthetreatmentofglaucomainaclinicalpracticesetting.ClinTher22:1204-1212,200017)FlachAJ:Theimportanceofeyelidclosureandnasolacrimalocclusionfollowingtheocularinstillationofglaucomamedicines,andtheneedfortheuniversalinclusionofoneofthesetechniquesinallpatienttreatmentsandclinicalstudies.TransAmOphthalmolSoc106:138-148,200818)畑田豊彦,三橋俊文:視覚光学とは波面解析による評価.眼科50:635-653,200819)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200320)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学付属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼60:1679-1684,2006***1012あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(136)