160.強度近視における視神経乳頭の特徴生野恭司浅井智子大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室近視は緑内障の危険因子である.眼球変形による眼圧感受性の上昇が疑われるが,詳細は明確でない.近視の乳頭は,緑内障と共通部分があり,特に正常眼圧緑内障のメカニズムを考えるうえで,興味深い.また,光干渉断層計の登場も,大きくその理解を進めた.本稿では,強度近視の乳頭を緑内障との関連性から整理する.強度近視では,眼球の伸展に伴い特徴的な乳頭性状を呈する.近視は緑内障の危険因子だが,このような変形が篩状板の眼圧感受性を高めて緑内障性神経障害を誘発すると考えられている.特に正常眼圧緑内障の成因を考えるとき,強度近視の乳頭病理所見は大きなヒントとなるかもしれない.今回は強度近視の特徴的な乳頭所見を解説する.●強度近視と視神経の変化正視眼の視神経は,強膜に対して垂直に貫通して眼内へ到達する.強度近視においては,眼球壁の伸展が一様でなく,特に後極部が著しく進展して後部ぶどう腫を形成し,また強膜,脈絡膜,網膜の伸展許容度にも組織による差があるため,視神経と眼球壁の位置関係は変化する.Kimらは,近視の進行とともに,乳頭耳側が後退して傾斜すること,耳側強膜が牽引され,強膜管(scleralcanal)の一部が平坦化して乳頭周囲萎縮(PPA)となると仮説した(図1)1).Jonasらは,強度近視では接線方向への張力によって視神経乳頭が拡大し,全体に平坦化すると報告している2).組織学的にも,強度近視では視神経乳頭縁で神経線維層を除く網膜およびBruch膜,脈絡膜が欠損し,強膜flangeの菲薄化を認め,眼球後部の脳脊髄液腔と視神経乳頭後部の交通など,眼球伸展による視神経乳頭周囲組織の変化があるとされている3)(図2).これらの視神経乳頭の傾斜や平坦化といった所見は,視神経乳頭周囲組織の変化と大きく関与しているが,視神経乳頭内部ではさらに複雑な力学変化が生じている.●強度近視における視神経内部の変化強度近視では,視神経内部にも構造変化が生じる.強度近視眼の篩状板は有意に菲薄し,後退する.また強膜(53)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図2乳頭周囲の組織図非強度近視眼(緑内障眼)(左)と強度近視眼(右).強度近視眼では乳頭周囲の強膜が延長し菲薄化している(矢印C).非強度近視眼では緑内障眼と非緑内障眼いずれにも視神経乳頭縁での強膜の延長や菲薄化は認めない.(文献3より引用)の菲薄化により,くも膜下腔が硝子体腔へ接近することが,OCTでしばしば確認される(図3).最新の画像診断では強度近視の篩状板もしくは耳側コーヌス内に小窩が見られることが注目されている4).小窩の一部は,かなり深部まで達しており,場合によってはくも膜下腔とあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131397図3高侵達スウエプトソースOCTで撮影した強度近視眼の視神経乳頭乳頭傾斜や強膜・脈絡膜の菲薄とともに,くも膜下腔(SAS,矢印で挟まれた低反射部分)が,硝子体側に近接している様子が描出される.強度近視の乳頭周囲に見られるintra-choroidalcavitationは,検眼鏡的には,乳頭周囲の橙色病変として見られ,OCTでは脈絡膜レベルの空隙として観察される(*印).の交通が疑われる.本病態が眼軸長伸展による,単なる横方向のストレスか,強膜.脈絡膜の血管の脱落によるものかは定かではない.緑内障でも篩状板が薄くなり5),一部に欠損ができる6).このように強度近視における視神経内部変化は緑内障と共通することが多く,非常に重要である.また,視神経内部ではないが,強度近視の乳頭周囲にはintra-choroidalcavitationと呼ばれる.胞様変化が生じることから(図3),高レベルのストレスの存在が想像される.●強度近視と乳頭傾斜強度近視眼では,後部眼球の形状変化により,後部強膜が異常に後方に突出して後部ぶどう腫を形成する.したがって,視神経と後部強膜の関係にも異常をきたし,強膜内を斜めに貫通するいわゆるobliqueinsertionと呼ばれる状態となる.強度近視における後部ぶどう腫の分類は,古くから検眼鏡に基づくCurtin分類が用いられ,そのすべてが視神経乳頭の全体または一部を含む後部ぶどう腫であったが,この分類を用いても,視神経刺入部の3次元的形態変化の定性的評価は不可能であった.その理由は,乳頭傾斜が,前後のねじれだけでなく,回旋も含まれるためである.先述の強度近視眼の篩状板や視神経乳頭周囲の形態変化仮説では,乳頭周囲傾斜は重要なパラメータの一つである.筆者らは,トプコン社と協力して乳頭周囲の傾斜の評価を試みた.すなわち,スウェプトソースOCTの画像から,乳頭周囲の色素上皮の位置を測定し,乳頭周囲の傾斜の定量化を試みたところ,強度近視眼では耳下側に著明に傾斜することがわかった.乳頭傾斜は,近視におけるNTGにも特徴的で,乳頭回旋と緑内障の視野障害部位に関連があるとされる7).乳頭傾斜がどのように緑内障にかかわるかは今のところ議論の余地があり,今後の研究成果が待たれる.おわりに強度近視の乳頭は,今まで観察が非常に困難であったが,少しずつその状態が明らかになってきた.ただ現状では,篩状板や乳頭深部,そして乳頭周囲の強膜については,まだまだ検討の余地がある.今後の技術革新により,乳頭のさらに深部まで観察可能になれば,大きく理解が進むに違いない.文献1)KimTW,KimM,WeinrebRNetal:Opticdiscchangewithincipientmyopiaofchildhood.Ophthalmology119:21-26,20122)JonasJB,DichtlA:Opticdiscmorphologyinmyopicpri-maryopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOph-thalmol235:627-633,19973)JonasJB,JonasSB,JonasRAetal:Histologyofthepara-papillaryregioninhighmyopia.AmJOphthalmol152:1021-1029,20114)Ohno-MatsuiK,AkibaM,MoriyamaMetal:Acquiredopticnerveandperipapillarypitsinpathologicmyopia.Ophthalmology119:1685-1692,20125)InoueR,HangaiM,KoteraYetal:Three-dimensionalhigh-speedopticalcoherencetomographyimagingoflami-nacribrosainglaucoma.Ophthalmology116:214-222,20096)YouJY,ParkSC,SuDetal:Focallaminacribrosadefectsassociatedwithglaucomatousrimthinningandacquiredpits.JAMAOphthalmol131:314-320,20137)ParkHY,LeeK,ParkCK:Opticdisctorsiondirectionpredictsthelocationofglaucomatousdamageinnormal-tensionglaucomapatientswithmyopia.Ophthalmology119:1844-1851,20121398あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(54)