特集●眼鏡の最近の話題あたらしい眼科30(8):1093.1100,2013特集●眼鏡の最近の話題あたらしい眼科30(8):1093.1100,2013遮光眼鏡と羞明―分光分布から羞明を考える―TintedSpectaclesandPhotophobia─EffectsofSpectralPowerDistribution─堀口浩史*はじめに領域(特に短波長領域)を減弱することで,羞明が軽減遮光眼鏡は,羞明の軽減を目的として,可視光のうちされるのだろうか.の一部の透過を抑制するものであって,分光透過率曲線結論から言ってしまうと,その特定波長抑制による羞が公表されているものである(図1).言い換えれば,遮明軽減メカニズムはいまだに不明である.そもそも,羞光眼鏡は,「可視光の一部の透過を抑制することで羞明明がどのようにして生じているかについても不明なのでを軽減する」ことができる.ではなぜ,ある特定の波長ある.過去の文献から散見される短波長光と羞明が関連刺激光(D65)100遮光眼鏡の光学特性遮光眼鏡を通過した刺激光100100透過度(%)遮光眼鏡A:遮光眼鏡B:エネルギー(Watt/sr/m2)50遮光眼鏡A:遮光眼鏡B:エネルギー(Watt/sr/m2)5050000波長(nm)波長(nm)波長(nm)図1遮光眼鏡の効果のシミュレーション遮光眼鏡は可視光の一部の通過を抑制する.左図はD65光源(標準光として実験・計測に多く用いられる.自然な昼光に近い)の波長特性分布である.横軸は光の波長を表し,縦軸は各波長(5nm刻み)におけるエネルギーである.この光に対して異なる透過曲線をもった2種類の遮光眼鏡AおよびBを使用したとする(中図).両方のレンズはともに500nm以下を強く抑制するが,Bのレンズは500.650nmの波長領域も50%程度抑制する(破線).結果として,400nm以下の短波長光は完全にカットされ,また500nm以下の成分も大きく抑制される(右図).特にBのレンズでは,650nm以下の波長領域も強く抑制されている(破線).遮光眼鏡ができることは,このシミュレーションで示されるような透過曲線に依存した特定波長の抑制である.特定波長の抑制によりなぜ羞明の発生を抑えられるかはいまだ不明である.400500600700400500600700400500600700*HiroshiHoriguchi:東京慈恵会医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕堀口浩史:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(49)1093する理由としては,1)短波長光のほうが高エネルギーだから,2)短波長光はレイリー(Rayleigh)散乱の影響が大きいから,などがある.比較的よく目にする解説ではあるが,どちらの理由もこの因果関係を直接的には説明できていない.たとえば,1)に関して言えば,短波長光は確かに等輝度条件下であれば中・長波長光と比較して高エネルギーとなる.また,同じ波長であれば,エネルギーが高ければ高いほど,その視物質を含む細胞(錐体・杆体・メラノプシン含有神経節細胞)の反応は大きくなる.しかし,光感受性物質と刺激光自体の波長特性で光受容細胞の反応の大きさは決定されるので,エネルギーだけで決定されるものではない.さらに,同じエネルギーをもつ中・長波長光と比較して,短波長光がより組織障害性があったとしても,組織障害それ自体が羞明を惹起するという直接的な証明は存在しない.2)に関しても,短波長光は中・長波長光と比較して散乱しやすいということであり,それ自体は何の神経基盤とも結びついていない.光の散乱と関連して,haloも羞明を惹起することが知られているが,その神経学的メカニズムは解明されていない.結局のところ,上記の理由は短波長光が長波長光に比較して散乱しやすいという物理的事実と,短波長光により羞明が惹起されやすいという経験則の域をでない.I脳の羞明回路羞明を抑制する遮光眼鏡を理解するには,前段階として羞明の発生機序を可能な限り論理立てて理解するべきである.前述したように,羞明はどのような条件下で起こりやすいかはわかっているが,実際どのように脳内で処理されたうえで生じるのかわかっていない.では,羞明の発生する機序に対して,どのようにアプローチすべきなのであろうか.まぶしさがヒトの知覚できる感覚である以上は,五感などの感覚と同様の過程を経てわれわれの神経系が処理していると考えることができる.通常,感覚が生じるには以下のようないくつかの段階が必要である.1)何らかの物理的変化を感覚受容器が信号化し,2)その情報が脳神経回路に送られ,3)そこで何らかの処理がなされて,感覚が生じるといえる.視覚なら視細胞,聴覚な1094あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013体性感覚系視覚系角膜・虹彩・硬膜網膜光受容器間脳・脳幹体性感覚野視覚野図2脳の羞明回路羞明は多様な疾病により惹起されるが,基本となる入力・処理経路は2つに大別することができる.体性感覚系と視覚系である.これらの下位回路は単独でも羞明をひき起こすことができる.しかし,両者は完全に分離しているわけではなく,相互作用することにより羞明を増強すると考えられる.(文献1より改変)ら内有毛細胞,嗅覚なら嗅細胞,痛覚なら侵害受容器というように,その感覚と対応する受容器がある.しかし現時点で,羞明を直接生じさせる受容器は発見されていない.したがって,羞明は既知の受容器からの信号,あるいはその複合により生じていると考えるのが自然である.以上の考え方を元に,筆者らは先行研究といくつかの自験例から,羞明の生成に関する神経回路の仮説をたてた1).これは,網膜の光受容器からの視覚系と角膜・虹彩・硬膜などの侵害受容器からの体性感覚系という2つの下位回路により構成される(図2).このモデルでは,狭義の羞明ともいえる光眼痛症(photo-oculodynia)や,広義の羞明である「まぶしさ」をできるだけ包括的に扱えるようになっている.まず,下位回路の一つである体性感覚系を優位とした事例を紹介する.1.体性感覚系―侵害受容器・三叉神経入力由来非常に多様の疾病が羞明の原因となっていることは,臨床現場では周知の事実である.高輝度光の視覚入力がない状態にもかかわらず,患者がかなり強い羞明を訴えているとき,光受容器から開始される視覚系だけでは,なぜ羞明が起こっているかを説明できないであろう.このとき他の重要な入力経路として,三叉神経第一枝(眼神経)があげられる.三叉神経は側頭骨錐体部で三叉神経節をつくる.ここから眼周囲や前頭部の知覚を司る眼神経と,上顎神経,下顎神経の三枝に分かれる.三叉神経侵害受容器での痛覚入力は羞明の重要な経路であると以前より考えられてきた.1934年,Lebensohnは「眼(50)図3片頭痛関連光過敏および光眼痛症で考えられている脳回路図の上側はNosedaらによる片頭痛時の光過敏,および光による片頭痛増強のモデルである10).片頭痛のとき,拡張した硬膜血管からの刺激がこの神経細胞に入力される.この神経細胞は視覚野および体性感覚野に接続しており,結果として,1)光感受性が増大する,2)光刺激により片頭痛が増悪するとしている.(ラットの視床後部には硬膜/光感受性細胞が存在している.現時点では同様の神経細胞はヒト視床枕には発見されていない.)図の下側はOkamotoらによる光眼痛症を説明するモデルである3).網膜光受容体への光刺激は視蓋前域オリーブ核-上唾液核-翼口蓋神経節を経て脈絡膜血管運動を変調させる.結果として光刺激後に長期間にわたり三叉神経核での興奮が観察される.ipRGC:内因性光感受性網膜神経節細胞(intrinsicallyphotosensitiveretinalganglioncell).球内の眼神経支配領域に病変があると虹彩の血管拡張と痛覚過敏が起き,このような過敏性を獲得した状態のときに対光反射で虹彩が動くことにより羞明痛が生じる」という仮説をたてた2).関連した基礎研究に,2010年にOkamotoらが発表した,光入力から網膜血管運動をひき起こす反射経路(視蓋前域-上唾液核-翼口蓋神経節)により,三叉神経核が長期間興奮するというものがある(図3)3).また,角膜障害に関しては,functionalmagneticresonanceimaging(fMRI)を用いた症例報告がある4).ここでは,1人の被験者に対して日を変えて同じ視覚刺激を用いている.異なる点は被験者がコンタクトレンズの使用過多のため羞明を生じている状態と,9日後の羞明を感じない状況になっている状態だけである.そして,羞明状態のときに有意に三叉神経核,視床の後内側腹側核,前帯状核で反応がみられることが報告されている.前眼部での強い炎症,角膜炎・虹彩炎などが生じた場合に,屋内の照明のように通常の状態では羞明をまず感じないような環境でも,患者がまぶしくて眼を開けることができないような事例を,これらの研究結果と結びつけて考えることが可能である.加えて,原因が特定しづらく臨床上重要である羞明を起こす疾患に良性原発性眼瞼けいれんがある.不随意な眼輪筋の収縮を示すこの疾患の多くは原因不明である.そして,眼光学的な異常や組織の炎症が存在しなくて片頭痛関連光過敏光増強片頭痛網膜光受容器への刺激(錐体・杆体・ipRGC)硬膜血管三叉神経三叉神経体性感覚野視床枕視覚野:視覚系:体性感覚系:反射路視蓋前域オリーブ核光眼痛症上唾液核も,この疾患ではしばしば羞明を訴える.実際にこの良性原発性眼瞼けいれん患者の光感受性は,有意に増強することが報告されている5).Emotoらは,非羞明時と羞明時の脳内の糖代謝を,非羞明時と比較して羞明時は,視床と中脳背側の糖代謝が亢進することを報告している6).中脳水道周囲灰白質は三叉神経など疼痛系の入力の減弱に関与していることが知られている.Emotoらの研究は,良性原発性眼瞼けいれんが三叉神経刺激を経由し羞明を惹起している可能性を示唆する.また,羞明に関与する疾患として欠かせないのが,片頭痛である.500例の片頭痛患者のうち実に82%が羞明を訴えたという報告もある7).片頭痛患者の前額部に機械的刺激を与えることで羞明が増強することも報告されている8).片頭痛に関連した羞明で興味深い報告が,近年,Nosedaらによってなされた.羞明を生起する回路の一つとして注目に値すべき新たなニューロン群が報告された9).ラットを用いた実験で,視床後部にあるニューロンがメラノプシン含有神経節細胞と硬膜の両方から解剖学的に求心性の投射を受けていることと,これらのニューロンが光入力と三叉神経入力に対して反応することが報告された.このグループは,ラットの視床後部はヒトの視床枕に相当するため,ヒト視床枕に同様の細胞群が存在すると考えている10).では,すべての羞明が三叉神経からの入力,あるいは光受容器への刺激が反射弓や視床枕を経由して体性感覚系に入力することによって生じると説明できるのであろうか.続いて,もう一つの羞明の下位経路である視覚系についての知見を紹介する.(51)あたらしい眼科Vol.30,No.8,201310952.視覚系―光受容器・網膜入力由来体性感覚系と比較して,視覚系に生じた病変による羞明は直感的に理解しやすい.明るい,暗いなどといった視覚情報とまぶしさが関連することは疑う余地はない.臨床的に羞明をひき起こす代表的疾患は白内障である.白内障術後に,慢性的に存在した羞明が消失したという患者の報告をしばしば経験する.白内障の光学系変化のバリエーションは個体間で大きく異なり,その混濁部位や程度により羞明の訴えにもばらつきがある.他の視覚系の変化が惹起する羞明には,LASIK(laserinsitukeratomileusis)に代表される屈折矯正手術を契機としたものがある.LASIKでは,特に瞳孔の散大する夜間に,強い光がhaloを作り出すことや,術前には生じなかった羞明を感じたりすることがしばしば報告されている.Haloは,暗所で拡大した瞳孔径と手術時に作製された角膜フラップ径と関連があると考えられている11).前述したように,光の散乱と羞明との間の直接的な因果関係は解明できていないが,視覚系入力と羞明の関連性を探る興味深い報告があるのでここに紹介したい.Stringhamらのグループは,客観的に評価するという方法を開発した.これはマックスウェル(Maxwell)視光学系により瞳孔径に依存しない網膜に任意の刺激によ網膜外側膝状体中枢性無羞明一次視覚野後頭葉底部図4中枢性無羞明の例左上図は中枢性無羞明の責任病巣であったと考えられる後頭葉底部への視覚情報経路を示す模式図である.網膜で光刺激は電気信号に変換され,外側膝状体を経て一次視覚野に送られる.一次視覚野から視覚情報は多数の視覚皮質領域に送られて並列処理される.後頭葉底部はhV4,VOとよばれる視覚領域が存在し,色覚に重要な役割を果たしている16).この部分での脳梗塞により,患者は太陽光のような超高輝度光であっても羞明を訴えなかった(病的無羞明).左下図は病的無羞明をきたした3例中1例のGoldmann視野計の結果である.中心視野はI1eまで検出できる.明らかな視感度の低下はなく,また視力も良好であった.右図は視野計測結果を示している症例のT1強調画像である.両側の後頭葉底部が広範囲に障害されている.(文献15より)1096あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(52)り,羞明を感じたときの眼周囲筋の持続的な収縮を筋電図で計測するというものである.この方法を用いて,羞明の閾値における空間的寄せ集めとパラソル細胞(parasolcell)および小型二層性神経節細胞(smallbistratifiedcell)の受容野サイズの間に相関があることを報告した12).この研究は,羞明がこれらの神経節細胞を介した神経経路により処理される可能性を示唆している.他にもさまざまな網膜病変で羞明は生じる.網膜色素変性を代表として,白子症やAZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy:急性帯状潜在性網膜外層症)あるいは緑内障や糖尿病網膜症でも生じる.視細胞変性による羞明に対する一つの仮説をあげる.1)視細胞変性のため網膜神経節細胞の入力量が変化して,2)これらの神経節細胞が過敏性を獲得する.3)その結果,閾値が低下するという除神経性過敏が起きる.4)閾値が低下した神経節細胞は屋内光などの弱い入力でも容易に興奮し,脳への出力が増加するために羞明を感じる13).視覚情報は眼球内にとどまらず,脳内で処理される.1この情報は,網膜光受容器から神経節細胞を介して,外側膝状体を経由して後頭葉の鳥距溝に存在する一次視覚野に運ばれる.一次視覚野からそれぞれ異なる視覚領域に視覚情報は送られ,並列処理がなされている.後頭葉の視覚関連領域は15以上に分かれており,今後,さらに新たな視覚野が発見される可能性がある.このなかでも後頭葉底部は,古くから色情報処理に重要な役割を果たしていると考えられている14).筆者らは「両側」の後頭葉底部梗塞で,中心視野感度や視力が低下しなかったにもかかわらず,羞明が消失した3例を報告した15).中枢性無羞明とも言えるこの病態は,羞明には体性感覚系だけでなく,視覚系も重要であり,さらに後頭葉底部が大きな役割を果たしている可能性を示唆している(図4).II遮光眼鏡1.光受容器の波長特性現段階での羞明の発生機序に関する知見についての理解が深まったところで,視覚系からの羞明に対してどの0.50:L-cone:M-cone:S-cone:Rod:Melanopsin吸収度相対感度400500600700波長(nm)杆体LMSMel錐体図5網膜における可視光線の符号化左図はL,MおよびS錐体(赤線,緑線,青線)と杆体(灰色線),メラノプシン(Mel)神経節細胞(水色線)の波長感受性曲線である.メラノプシンの波長感受性のピークはinvitroでは483nmといわれる18)が,ヒト生体眼19)における反応曲線をシミュレーションするとピークは図のように長波長側に偏移する.感受性の最も高い波長は異なるものの,いずれの曲線も幅広い帯域をカバーしており,多くの部分で重なり合っている.ここで,図1で用いたD65光源(黒破線)用いて刺激したとき,波長情報は5種の視物質をもつ細胞の反応として単純な数値に符号化される.どのような波長をもつ光刺激であっても,網膜は異なるフィルターをもつ視色素によって情報を単純化している.この反応は,刺激と反応曲線の内積で予測することができる.特に色覚にかかわるのが3種のLMS錐体であり,この3種のフィルターが波長を単純化している.このため,ヒトの色覚は独立した三次元で表すことができる(trichromacy).角膜・水晶体・黄斑の色素濃度や,網膜での偏心度により感度曲線は変化する.(53)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131097ように遮光眼鏡が働くかについて考察する.遮光眼鏡は特定の波長を抑制するが,その抑制された光は何を刺激するのであろうか.それは当然,視物質である.現在,ヒト網膜内にある視覚に関与すると考えられている視物質は5種類である.L,M,S錐体視物質,杆体視物質,そして特定の神経節細胞に存在するメラノプシンである17).これらの視物質は幅広い吸光特性をもっており,その波長特性に応じて吸光度が異なる.結果として,短波長光であれば,S錐体や杆体,メラノプシン含有神経節細胞を,中.長波長光であればM錐体やL錐体を効率よく興奮させることができる.このように,無限の組み合わせがある可視光線領域の電磁波を,特定領域を吸収する視色素により符号化して,5つのパラメータに再刺激光(D65)遮光眼鏡構成することをヒト網膜では行っている(図5).特にLMS錐体における,この単純化が色覚の最初の重要なステップである.LMS入力として単純化された波長情報は,神経節細胞が担うL+M,L.M,S.(L+M)という反対色応答チャンネルに形を変えて,順応などの時間情報,コンテクストなどの空間情報を加味したうえで,視覚皮質で処理されて色の見え方は決定されている.2.遮光眼鏡の働き遮光眼鏡の働きは,一部の波長を抑制することで,この5つの視物質からの入力量を減弱させて,またそのバランスを変化させて,羞明を減弱することである.で遮光眼鏡により遮光眼鏡により抑制された刺激抑制された反応(%)500(%)500(%)(%)杆体エネルギー0400500600700400500600700LMSMel波長(nm)波長(nm)錐体透過度50050図6遮光眼鏡における可視光の部分的通過抑制による視物質の吸光抑制D65光源(左上)に対して,3種類の異なる波長特性をもった遮光眼鏡を用いたとき(各行),どれほど各視物質での反応を抑制することができるかのシミュレーションである.詳細は本文に記す.1行目の遮光眼鏡ではS錐体が35%でその他が50%程度に反応を抑制されている.2行目の遮光眼鏡ではL錐体が35%,M錐体が20%で他は10%以下に抑制される.3行目の遮光眼鏡ではすべての反応は60%以上に保たれている.1098あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(54)は,実際にどのような変化が起きているか,例を用いて検討する(図6).図6左上にある刺激光に対して,ある特定の光学特性をもった遮光眼鏡を使用する(2列目).すると,遮光眼鏡により刺激光の特定波長領域が抑制される(3列目).抑制された刺激光と視物質の感度曲線の内積から,この遮光眼鏡を通した刺激光に対する反応が求められる.さらに,遮光眼鏡を用いなかった状態の刺激光への反応を求めることで,その遮光眼鏡が,どれだけ各視物質に影響を与えるかを推定できる(4列目).すべての視物質の吸光度への抑制が50%に達しないものもあれば,極端にS錐体,メラノプシンや杆体を抑制するものもある.現在,さまざまな波長特性をもった遮光眼鏡が販売されているが,500nm以下の短波長領域を強く抑制するものが多い.結果としてS錐体・杆体・メラノプシンでの吸光が,M錐体,L錐体に比較して抑制されている.つまり,これらの視物質の反応を抑制することで,羞明を抑制しているといえる.この3種類の視物質が羞明の視覚系の起点として重要な役割を担っている可能性は高い.おわりに遮光眼鏡の特性およびいくつかの知見が示す,視覚系羞明経路は以下のように考えられる.1)S錐体・杆体・メラノプシンにおける光吸収が主要な起点となっている.2)主として,パラソル細胞(parasolcell),小型二層性神経節細胞(smallbistratifiedcell)を経由して後頭葉に向かう.3)後頭葉底部にある色感覚に関わる視覚野が羞明に影響を及ぼす.依然,多くの部分は不明のままであるが,なぜ短波長光をカットすることで羞明を軽減することができるのか,このような観点から,ある程度神経科学的に説明することができる.羞明の研究が遅れている原因として考えられるのは,1)羞明の程度を客観的に,定量的に評価することが困難であり,2)ヒト視覚系が高度に発達しているため,類似した動物モデルを用いることが困難であることがあげられる.たとえば,実験動物としては,マウスやラットのようなげっ歯類が多く用いられている.これらは,疼痛系の経路と関連すると考えられる片頭痛関連光過敏,光眼痛症(photo-oculodynia)などと記述される形(55)式の羞明の説明には適していると考えられ,実際にいくつかの興味深い報告が存在する3,9).しかし,視覚系の経路から考えると,げっ歯類では錐体の数も2種類でヒトより少なく,網膜には中心窩もない.また,視覚情報の主経路はヒトと異なり,外側膝状体を通らず視蓋前域を通る.さらに,視覚野の構造もより単純である.よって,視覚入力との密接な関係性が考えられる短波長光関連羞明をモデル動物で説明するのは困難である.したがって,羞明の脳回路を念頭におき,ヒトにおける羞明がどのように生じているかを注意深く観察することは有用である.患者の主観的な感想だけからでなく,視覚系羞明回路の知見から,客観性をもって異常羞明の軽減に対する遮光眼鏡の有用性を論ずることができるからである.そして,視覚系羞明回路の研究は,人間がどのように外界を「視て」いるかという難問の一つに関連するもので,回路の解明自体が非常に興味深い.短波長光領域の抑制という単純な方法によって羞明が軽減するという事実が,この難問を解く鍵になるのではないだろうか.文献1)堀口浩史:羞明のメカニズム.神経眼科26:382-395,20092)LebensohnJ:Thenatureofphotophobia.ArchOphtalmol12:380-390,19343)OkamotoK,TashiroA,ChangZetal:Brightlightactivatesatrigeminalnociceptivepathway.Pain149:235242,20104)MoultonEA,BecerraL,BorsookD:AnfMRIcasereportofphotophobia:activationofthetrigeminalnociceptivepathway.Pain145:358-363,20095)AdamsWH,DigreKB,PatelBCetal:Theevaluationoflightsensitivityinbenignessentialblepharospasm.AmJOphthalmol142:82-87,20066)EmotoH,SuzukiY,Wak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