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緑内障:緑内障Genome-Wide Association Study最新の知見: 1.どう見て,どう考えるか

2012年2月29日 水曜日

●連載140監修=岩田和雄山本哲也140.緑内障Genome.WideAssociationStudy池田陽子*1中野正和*2森和彦*1京都府立医科大学大学院医学研究科*1視覚機能再生外科学*2同ゲノム医科学最新の知見:1.どう見て,どう考えるか疾患の原因遺伝子を発見するためには,かつては家系から割り出す連鎖解析が行われていたが,2002年開始の国際HapMap計画を契機にマイクロアレイを用いるGenome-WideAssociationStudy(GWAS)の時代となった.本稿では,GWASの歴史と同定された緑内障遺伝子について解説する.●緑内障関連GWASの歴史ヒトゲノム上の300万箇所に及ぶ一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)をすべて列挙することを目的とした国際HapMap計画により,マイクロアレイの飛躍的な技術革新と解析費用の価格崩壊が起こり,Genome-WideAssociationStudy(GWAS)は急速な進歩を遂げた.緑内障関連では落屑緑内障(exfoliationglaucoma:XFG)に対するLOXL1(2007年;300K)1)の発見や,その後引き続いて筆者らの広義原発開放隅角緑内障(POAG)の報告(2009年;500K)2)を経て,現在は1,000Kアレイによる研究が進んでいる.GWASのまとめを図1に,主要2社のマイクロアレイを図2に示す.●GWASで同定された緑内障遺伝子1.LOXL1(XFG)北欧グループが報告したXFGのLOXL11)は弾性線1990維であるエラスチンの重合を触媒する.人種を超えて幅広く再現性が認められたが,LOXL1の1つのSNP(rs1048661)ではアジア人と白人とでリスクアレルが逆転,つまり危険と保護の正反対の作用を有していることが判明したため,今後のさらなる解明が待たれる.2.ZP4,PLXDC2,TMTC2(POAG)筆者らが同定したPOAGに関連するSNP2)の近傍に位置する遺伝子であり,機能は不明である.いずれも相対危険度が1.3前後と小さいため,POAGが多因子疾患であることを浮き彫りにした結果となった.現在のところ他人種では再現性が認められていないが,少ないサンプル数による検出力不足のためか,人種差のためかは今後の解析が待たれる.3.CAV1,CAV2(POAG)アイスランドの白人で報告されたSNP3)の近傍遺伝子で,細胞膜内在構造体の主要構成成分であるカベオリンをコードする.このSNPは日本人においてはバリアントではなく,人種差が存在している.また,相対危険度2003図1GWASの時代背景と同定2008された緑内障遺伝子GWASに至るまでは,遺伝子解5’3’析の手法は連鎖解析および候補遺伝子解析が主であった.しかしながら,1990年からのヒトゲノム計画が終了し,2003年に国際HapMap計画が始まってからGWAS解析手法が著しく進歩し,アレイの価格崩壊が起こったため,国家プロジェクトでなくとも参入が可能となりGWASの時代となった...ゎ…………………………………………………………………………………………..199019952000200520102015(61)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122090910-1810/12/\100/頁/JCOPY表1GWASで同定された緑内障関連領域と近傍遺伝子病型人種染色体領域遺伝子報告年文献落屑緑内障白人(アイスランド人)15q24LOXL120071)原発開放隅角緑内障(広義)アジア人(日本人)1q4310p1212q21ZP4PLXDC2TMTC220092)正常眼圧緑内障アジア人(日本人)2p216p12SRBD1ELOVL520105)原発開放隅角緑内障白人(アイスランド人)7q31CAV1CAV220103)原発開放隅角緑内障白人(オーストラリア人)1q249p21TMCO1CDKN2B-AS120114)GeneChipHumanMapping250KNsp/StyArrayHumanHap300SNPASNPBSNPCSNPASNPBSNPC図2GWASに用いるマイクロアレイGWASに用いるマイクロアレイは米国企業のアフィメトリクス社(左)とイルミナ社(右)の2つのアレイが主流となっている.前者はプローブが基盤に直接固層化されているのに対して,後者はビーズ上に固層化されているのが特徴である.が1.36であり,白人においてもPOAGが多因子疾患であることを示した.4.CDKN2B.AS1,TMCO1(POAG)オーストラリア人で報告された遺伝子4)で,SNPの相対危険度はそれぞれ1.50および1.68であった.CDKN2B-AS1が存在する9p21領域は心疾患・糖尿病など,多種多様な疾患の発症にかかわる領域であることが報告され,イギリス白人健常人での視神経乳頭サイズおよび垂直陥凹にかかわる遺伝子であるCDKN2Bもこの領域に存在する.5.SRBD1,ELOVL5(NTG)日本人正常眼圧緑内障(NTG)で報告され5),細胞増殖抑制やアポトーシスにかかわることが示唆されている.同じ日本人でNTGのみならず狭義POAGでの再210あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012現性も報告されている.●まとめGWASにて同定された緑内障関連領域と近傍遺伝子を表1にまとめた.大規模GWASを行えば統計学的に関連するSNPは同定できるが,多因子疾患の場合には相対危険度が高くアミノ酸置換を伴う遺伝子上の機能的SNPよりも,相対危険度が低く遺伝子の発現調節にかかわる遺伝子外のSNPが同定されることが多い.今後はこれらの結果を「遺伝子砂漠」に埋もれさせるのではなく,次世代シーケンサーを用いたさらなる解析にてその意義を明らかにしてゆく必要がある.文献1)ThorleifssonG,MagnussonKP,SulemPetal:CommonsequencevariantsintheLOXL1geneconfersusceptibilitytoexfoliationglaucoma.Science317:1397-1400,20072)NakanoM,IkedaY,TaniguchiTetal:Threesusceptiblelociassociatedwithprimaryopen-angleglaucomaidenti.edbygenome-wideassociationstudyinaJapanesepopulation.ProcNatlAcadSciUSA106:12838-12842,20093)ThorleifssonG,WaltersGB,HewittAWetal:CommonvariantsnearCAV1andCAV2areassociatedwithpri-maryopen-angleglaucoma.NatGenet42:906-909,20104)BurdonKP,MacgregorS,HewittAWetal:Genome-wideassociationstudyidenti.essusceptibilitylociforopenangleglaucomaatTMCO1andCDKN2B-AS1.NatGenet43:574-578,20115)TheNormalTensionGlaucomaGeneticStudyGroupofJapanGlaucomaSociety:Genome-wideassociationstudyofnormaltensionglaucoma:commonvariantsinSRBD1andELOVL5contributetodiseasesusceptibility.Ophthal-mology117:1331-1338,2010(62)

屈折矯正手術:有水晶体眼内レンズICLTMにおけるレーザー虹彩切開術による光視症

2012年2月29日 水曜日

監修=木下茂●連載141大橋裕一坪田一男141.有水晶体眼内レンズICLTMにおける磯谷尚輝中村友昭REC名古屋アイクリニックレーザー虹彩切開術による光視症ICLTM(ImplantableCollamerLens)術前処置で行うレーザー虹彩切開術(LI)で,合併症として光視症を経験した.術前のインフォームド・コンセントではICLTMの合併症とともに,LIの合併症についても十分な説明をしなければならない.後房型有水晶体眼内レンズICLTM(ImplantableCol-lamerLens)は,LASIK(laserinsitukeratomi-leusis)の適応外となる.10D以上の最強度近視も矯正可能なレンズであり,わが国でもICLTMが2010年に,乱視も矯正可能なToric-ICLTMが2011年に厚生労働省より認可された.角膜形状にほとんど変化をきたさず,また手術に伴う光学的損失が少ないという特性のため,高度近視のみではなく,LASIKが可能な近視の範囲においても屈折矯正手術の選択肢として用いられるようになった.ICLTMは虹彩と水晶体のわずかな間隙に挿入し,毛様溝に固定する.術後,ICLTMによる瞳孔ブロックにより急性緑内障をきたさないよう,術前に予防的にレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)または,術中に周辺虹彩切除術(peripheraliridectomy:PI)を施行する必要がある.LIの合併症として角膜内皮細胞障害が多く報告されているが,筆者の施設ではICLTMを過去に800眼以上行っており,全例において術前あるいは術中にLIないしはPI(ほとんどが術前LI)を施行している.現在のところ施行後に角膜内皮細胞減少を認める症例はない.しかし,LI施行翌日からその合併症と思われる光視症を訴える症例を1例経験した.ICLTMの術前LIは通常は1時半と10時半の2カ所,大きさは0.8mm程度が推奨されている.当院では現在1カ所のみ(1時半または10時半),眼瞼で隠れるように虹彩周辺部に行っている.LIの位置が上眼瞼で隠れず,虹彩上部の露出が多い場合では光視症を訴える可能性が考えられるが,今回の症例では他の症例と比較しても施行位置に違いはない(図1).患者は下方からの差し込むような光の眩しさ,視野の下方に光が波打ったように見えるといった症状を訴えた.多くはないが過去にも同じような症状を報告した文献があり1.3),当院でもど(59)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1光視症を訴えた症例生活に支障が出る1最初からあり気にはなるが2我慢できる程度最初からあったが消えた6最初は気になっていたが経過10とともに気にならなくなったLI翌日から症状なし16024681012141618(人)図2光視症についてのアンケートのくらいの割合で発生しているのか,ICLTMを施行した35人を対象に聞き取り調査を行った(図2).今回,光視症を訴えた1症例以外には「生活に支障が出る」という訴えは見当たらなかったが,初期は約半数に少なからず光視症の症状があることがわかった.「最初は気になっていたが経過とともに気にならなくなった」と答えた10人は,1週間後には気にならなくなったという症例もあれば,約1年後に気にならなくなったという症例もあり,個人によって違いがあった.また,「最初からあったが消えた」と答えた6人も同様に症状が消えるまであたらしい眼科Vol.29,No.2,2012207図3フレッシュルックRデイリーズR(チバビジョン社)を装用した前眼部写真LIの穴を覆うことはできたが効果はない.に1週間.約1年と個人によって違いがあった.今回の症例は術後6カ月を経過しており,今後も消失もしくは軽減する可能性があるが,現状の改善を強く望んだため1dayアキュビューRディファイン(ジョンソン&ジョンソン社)の処方を試みた.しかしアクセント(黒),ヴィヴィット(茶)とも効果はなく,フレッシュルックRデイリーズR(チバビジョン社)も同じく効果はなかった(図3).両ソフトコンタクトレンズとも周辺部のみに色がついており,LIの穴を覆うことはできたが効果はないとのことであった.そこで広範囲に色をつけることが可能な虹彩付きソフトコンタクトレンズ(シード社)を試みた.このレンズは虹彩径,瞳孔径,色,ベースカーブ,度数のパラメータが製作範囲内であれば任意に調節が可能なレンズである.今回は色味を中心に虹彩が茶色の薄いタイプから濃いタイプ,黒いタイプを試した.その中で黒いタイプは,最も光視症を軽減することができ,若干視界が暗く感じる症状を訴えるも,患者本人からは80%満足という結果を得た(図4).現在は引き続き,光視症の消失・軽減を経過観察中である.今回の症例を含め,LIを施行した位置や大きさに患者間にほとんど差はない.つまり光視症を訴えた症例のLIの位置がより中央に施行されていたとか大きなLIであったということはなかった.さらに入射光の進路を勘案し前房深度,角膜径,角膜曲率半径が影響していることも考えられたが,今回の検討においては患者間で有意な差はみられなかった.それらの結果から個人の感受性や順応能力,さらには性格が深くかかわっている可能性が考えられた.208あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012図4虹彩付きソフトコンタクトレンズ(シード社)を装用した前眼部写真症状は80%改善された.LIによる光視症の報告は少ないが,Venessaら4)によると,LI後の複視,グレア,網膜障害などの合併症は少なからずあり,そのなかでも異常光視症は案外と多い.また,筆者らはLI施行位置が上方の場合と耳側の場合とを検討しており,意外なことに,LI施行位置が耳側のほうが異常光視症の発生頻度は少ないと報告している.つまり,単純にLIの位置が眼瞼に隠れているからといって,光視症の予防にはなりえないようである.今回報告した光視症の症状は誰にでも起こりうる可能性があることから,LI施行前に起こりえる合併症を説明し,同意を得ることが重要と考える.つまり,ICLTMは手術そのものの合併症とともに,術前処置におけるLIやPIについての合併症についても十分留意しなくてはならない.今後はわが国においては未認可ではあるが,清水らにより開発されたICLTMの中央部に房水循環を促す穴を開けた新たなICLが使用可能になれば,LI・PIが必要なくなり,これらの懸念もなくなるかもしれない.文献1)WeintraubJ,BerkeSJ:Blurringafteriridotomy.Ophthal-mology99:218-224,19922)SpaethGL,IdowuO,SeligsohnA:Thee.ectsofiridoto-mysizeandpositiononsymptoms.JGlaucoma14:364-367,20053)MurphyPH,TropeGE:Monocularblurring.Acomplica-tionofYAGlaseriridotomy.Ophthalmology98:1539-1542,19914)VenessaV,IqbalI:LPIs:Makingagoodthingbetter.ReviewofOphthalmologySeptember2010:76-78(60)

眼内レンズ:ゼメリング輪の除去と脱臼眼内レンズの整復

2012年2月29日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎森秀夫大阪市立総合医療センター眼科306.ゼメリング輪の除去と脱臼眼内レンズの整復ゼメリング輪(S輪)は白内障術後に残存水晶体上皮が増殖し.周辺の白色混濁となったものである.S輪の圧排により前房に脱臼した眼内レンズ(IOL)を,S輪を除去して毛様溝に整復した.除去法は粘弾性物質を前.とS輪間に注入してS輪を遊離させ,硝子体側からカッターで切除した.この方法は前房内のIOLに妨げられず施行できる利点があった.ゼメリング輪(Soemmerring’sring;以下,S輪)は白内障術後の水晶体.周辺部の白色混濁で,本態は残存水晶体上皮の過剰増殖であり,中央に及ぶとElschnig’spearlsとなる1).S輪は.外固定の眼内レンズ(IOL)を圧排して近視化と乱視の増強をきたしたり2),IOL光学部の偏心・前房への脱臼,視力低下などをきたす3)場合がある.筆者はS輪の圧排により前房へ支持部・光学部ともに脱臼したIOLを,S輪を除去して再び毛様溝に整復できた症例を経験した.●症例患者:73歳,女性.2000年に左眼の緑内障発作を発症し,両眼白内障手術を受けた.2005年4月に左眼IOLの前房内脱臼を指摘されたが放置した.当時矯正視力は0.4であった.2008年10月にIOL摘出および縫着を目的に当科を紹介された.【初診時所見】視力は右眼0.4(1.0×.1.5D(.cyl2.0DAx100°),左眼0.07(0.1×+1.25D(.cyl4.0DAx70°)で,左眼の視力不良とIOLの傾斜が原因と思われる著明な乱視を認めた.眼圧は両眼正常で,左眼に角膜内皮細胞密度減少(1,579/mm2)を認めた.右眼は瞳孔正円で,IOLは.外固定されて中央に位置し,眼底などに著変はなかった.左眼瞳孔は緑内障発作により散瞳固定していた.水晶体.全周に著明なS輪を認め,虹彩およびIOLを後方より圧排し,IOLは光学部・支持部ともに前房に脱臼していた(図1).前部硝子体には虹彩由来の色素が浮遊していた.視神経・網膜に著変はなかった.●手術S輪除去手術は,まず27ゲージ(G)鋭針にて,前.(57)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1初診時の左眼前眼部所見IOLが前房に脱臼.著明なゼメリング輪を認める.切開縁から.内に粘弾性物質を注入して前後.の癒着を.離し,23Gの吸引器具でS輪の吸引除去を試みたが,S輪は.との癒着が強く不可能であった.つぎに,毛様体扁平部(parsplama:PP)に灌流ポートを取り付け,PPより20G硝子体カッターを挿入し,後.中央部を切除して.内にカッターを挿入してS輪の吸引切除を試みたが,癒着が強くやはり不可能であった.しかし,この操作で混濁した前部硝子体は切除された.図2粘弾性物質によるゼメリング輪の遊離あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012205図3術後の前眼部所見IOLは整復されている.つぎに,角膜サイドポートからスパーテルを挿入し,前.とS輪を一部.離し,そこに大量の粘弾性物質を注入するとS輪の一部が.から遊離できた(図2)ので硝子体側からカッター(回転数300.400/分)で切除した.この操作を繰り返しS輪を完全に除去した.S輪の一部は眼底に落下したが,やはりカッターにて容易に切除できた.この結果,虹彩と水晶体.の間に十分なスペースができ,IOLを毛様溝に整復固定できた(図3).視力は術後1カ月で0.2(0.3×+0.5D(cyl.1.5DAx90°)に改善した.乱視は著明に減少し,近視も若干減弱した.状態は術後1年半の最終観察時まで安定していた.●考察本症例は緑内障発作のため瞳孔が散瞳固定しており,S輪の圧排で.外固定のIOL全体が前房に脱臼したと思われる.S輪除去とIOLの整復を試みたが,S輪と.との接着は強く,吸引除去は不可能であった.粘弾性物質を.内周辺部に大量に注入するとS輪は.から分離でき,PPから挿入した硝子体カッター(回転数300.400/分)にて容易に切除できた.その後既存のIOLを毛様溝に整復して,視力改善と乱視・近視の軽減を得た.S輪には硬軟両方の部分があるとされ,硬部はカッターでは切除できないとする意見4)や,後.を切除すれば硬部も水に触れて軟化し,切除可能となるとする意見もある5).また,硬部に超音波チップを使用した報告6)もみられる.いずれも1例報告であり,そのときどきの術者の判断で安全かつ侵襲の少ない方法が選択されるべきであろう.今回の症例では特に硬い部分はみられなかったが,手術中に水分を含んで軟化していた可能性はある.S輪除去とIOL再建を施行した報告は少ないが,角膜輪部からアプローチして,前房に脱臼したIOLを摘出し,前.を大きく切開してS輪の軟部は吸引除去し,硬部は輪部創から摘出し,残った.内に新しいIOLを固定したものがある3).角膜輪部からの操作は前房内にIOLがあるとむずかしいので摘出するほうが無難であるが,今回のように硝子体側からの操作は前房内のIOLに妨げられない利点があった.文献1)林研:後発白内障の成因と対策.臨眼55:129-133,20012)矢舩伊那子,植木麻理,南政宏ほか:Soemmering’sringにより眼内レンズ偏位をきたした1例.臨眼61:1111-1115,20073)GimbelHV,VenkataramanA:Secondaryin-the-bagintraocularlensimplantationfollowingremovalofSoem-meringringcontents.JCataractRefractSurg34:1246-1249,20084)蔭山誠,中塚和夫,小野ひろみ:Soemmering’sring摘出法が手術の成否を分けた網膜.離の2症例.臨眼87:2447-2449,19935)矢舩伊那子,植木麻里,片岡英樹ほか:硝子体手術時のSoemmeringringの処理法.臨眼59:503-506,20056)小路万里:Soemmeringringに包埋されていた眼内鉄片異物の1症例.臨眼51:1021-1024,1997

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 ハードコンタクトレンズのベースカーブとレンズサイズについて考える(1)

2012年2月29日 水曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】332.ハードコンタクトレンズのベースカーブと植田喜一レンズサイズについて考える(1)ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学ハードコンタクトレンズ(HCL)をうまくフィッティングさせるためには,ベースカーブ(BC),レンズサイズを適正に選択する必要がある.メーカーから提供されたトライアルレンズは,BCについては数多く用意されているが,レンズサイズについては通常ワンサイズのみであることが多い.したがって,BCの選択に力を注いでも,レンズサイズには関心をもたない眼科医が多い.しかしながら,HCLのフィッティングはBCよりもレンズサイズに大きく影響を受ける.HCLの処方にあたっては,まずレンズサイズを選定した後にBCを選択したほうがよい.●レンズの重心角膜上のHCLは常に下方に降りようとする重力が働くが,その重心の位置が前方にあるとHCLは下方にずれやすく,逆に後方にあるほど角膜上での安定性は増す.レンズサイズについていうと,小さいレンズよりも大きいレンズのほうが重心は後方に位置するため安定しやすい.同様に,BCの大きいレンズよりも小さいレンズのほうが,プラスレンズよりもマイナスレンズのほうが,厚いレンズよりも薄いレンズのほうが安定しやすい(図1).図2Clcpの直径とレンズ光学部直径Cornealcapの直o径rとeレンaズの光学部の直径が一致する(a)とレンズのセンタリングがよいが,一致しない(b)とセンタリング不良になりやすい.●角膜とレンズサイズ一般的に角膜曲率半径ならびに角膜径が大きい症例では大きなレンズサイズを選び,角膜曲率半径ならびに角膜径が小さい症例では小さなレンズサイズを選択するが,レンズの中央部を角膜中央部の形状にできるだけ沿うようにするアライメントフィットを考えた場合,レンズサイズはレンズの光学部直径とcornealcapの直径がレンズサイズが小レンズサイズが大BCが大BCが小(+)レンズ(-)レンズ厚いレンズ薄いレンズ図1CLの重心CLはその重心が前方にあるほど下方にずれやすい.(55)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122030910-1810/12/\100/頁/JCOPYBC:7.70mmBC:7.65mmレンズサイズ:8.5mmレンズサイズ:8.9mm図3角膜形状によるレンズサイズの選択Cornealcapが小さければレンズサイズは小さいもの(a)を,cornealcapが大きければレンズサイズは大きいもの(b)を選択する.一致した場合にレンズのセンタリングは良好になり,しかも涙液交換も効率よく行われるので,光学部直径にベベルを含む周辺カーブを加えた値をレンズサイズとするとよい(図2).Cornealcapは角膜中央部の曲率の変動が1D以下の領域でほぼ球面とみなせる範囲をいう.具体的には,cornealcapの直径が7.8mmであれば光学部直径は7.8mmとし,さらにベベル幅を0.6mmとす表1同一被覆率の角膜径とレンズサイズ角膜径(mm)10.511.011.512.012.5レンズサイズ(mm)8.08.48.89.29.6被覆率(%)59.258.358.658.859.0ると両側に1.2mm必要で,レンズサイズは9.0mmになる.図3のaとbは角膜曲率半径に大きな差はないが,cornealcapの大きさが異なる症例である.図3aのようにcornealcapが小さい症例ではレンズサイズは小さいものを,逆に図3bのようにcornealcapが大きい症例ではレンズサイズは大きいものを選択する.オートケラトメータで計測される部位は角膜中央部の3.4mmの数カ所であって,角膜の広い範囲を測定したものではないので,症例によってはビデオケラトスコープで角膜形状を測定してレンズサイズを考えることも大切である.サンコンタクトレンズ社のカスタムメイドではこれまでの臨床経験からレンズサイズはHCLが角膜を覆う割合(被覆面積割合:被覆率)を考慮して決定している.角膜径をもとにして被覆率を計算してレンズサイズを導き出している(表1).たとえば,角膜径が11.5mmの場合,レンズサイズは8.8mmとなるが,実際には角膜曲率半径の値も考慮されている.☆☆☆204あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(56)

写真:眼球結膜に生じた伝染性軟属腫

2012年2月29日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦333.眼球結膜に生じた伝染性軟属腫横井桂子篠宮克彦横井則彦京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①:眼瞼縁に生じた伝染性軟属腫.②:眼球結膜に生じた伝染性軟属腫.図1伝染性軟属腫(43歳,男性)上眼瞼縁に増殖した腫瘤と,眼球結膜に限局性で表面が平滑な光沢のある白い結節性病変の集簇を認める.図3切除結膜の病理組織所見上皮の基底部数層上から表層へ向かって,好酸性細胞質封入体の充満した細胞を多数認める.上層ほど封入体は大きく,核は周辺に圧排されている.Bar=100μm.図4伝染性軟属腫単純切除後切除してから3カ月後には切除部以外も含めすべての病変が消失した.(53)あたらしい眼科Vol.29,No.2,20122010910-1810/12/\100/頁/JCOPY春季カタルは男児に好発し,結膜の増殖性変化とともに角膜障害を合併する重症のアレルギー性結膜炎であり,緩解増悪を繰り返し治療に苦慮する疾患である.治療にはステロイド剤の点眼や内服などを必要とすることが多いが,近年,免疫抑制剤点眼が使用できるようになり,結膜の増殖性変化の沈静化と緩解期の維持に非常に有効で,コントロールがしやすくなった.さらに,ステロイド剤のような眼圧上昇もなく使いやすいが,副作用として最も注意しなければならないのは,その名のとおり局所の免疫力を抑制することから,感染症があげられる.特に,アトピー性皮膚炎を合併している場合,免疫力の低下があり,さらに危険性が高まる.免疫抑制剤の点眼時における感染症はあらゆるものが想定されるが,今回,タクロリムス点眼薬使用時に眼瞼縁および眼球結膜に伝染性軟属腫を発症した症例を経験した.症例は43歳の男性で,アトピー性皮膚炎があり,長年にわたり春季カタルに対し治療を続けていた.増悪緩解を繰り返し,緩解期でも自他覚所見が軽度残存し,ステロイド点眼薬から離脱することが困難であった.タクロリムス点眼薬開始から,角結膜所見の改善とともに自覚症状が消失し,ステロイド点眼薬の離脱が可能となった.しかし,タクロリムス点眼薬の維持は必要で,増悪期にはステロイド点眼薬の一時的な併用をしていた.タクロリムス点眼薬使用開始から2年後,左上眼瞼縁に小隆起性病変が,その半年後には左眼球結膜に白い結節性病変が数個出現した.自覚症状はなく,さらに経過観察していたところ,半年で左眼球結膜の結節性病変の数が増加し(図1),右眼球結膜にも同様の病変が数個出現した.診断および加療目的で,左眼瞼縁病変部と眼球結膜の病変を切除し,病理組織学的検討を行ったところ,伝染性軟属腫であることが判明した(図3).3カ月後には残存していた左眼および右眼の病変がすべて消失した(図4).伝染性軟属腫(molluscumcontagiosum)はMollu-scipoxvirusgenusによる感染症で皮膚に良性多発性の1.数mmの丘疹を生じる.白い内容物のある丘疹の中央はややくぼんでいることが多い.俗に「みずいぼ」として知られており,幼い子供で直接接触することで感染し,1年以内に自然消失する.通常は免疫が形成されると再発しないが,アトピー性皮膚炎では成人でも認められ,免疫不全状態では遷延化あるいは重症化することがある.病理組織像は,増殖した表皮細胞の細胞質に好酸性の封入体(molluscum小体)が認められるのが特徴的である.眼科領域では眼瞼縁に好発し,点状表層角膜炎,濾胞性結膜炎を伴うこともある.通常は自然治癒が望めるので経過観察も可能であるが,積極的には単純切除やレーザー治療が行われる1).本症例は,眼球結膜に限局性の結節性病変を認めた稀な症例2,3)であるが,アトピー性皮膚炎を合併する春季カタルに免疫抑制剤の点眼薬を長期に使用し,さらにステロイド点眼薬の併用を行う際には,あらゆるタイプの感染症が生じる得ることを念頭に置く必要があると思われる.文献1)DeborahPL:Viraldiseaseoftheocularanteriorseg-ment:basicscienceandclinicaldisease.In:SmolinandThoft’sthecornea.FosterCS,AzarDT,DohlmanCHeds,p297-393.LippincottWilliam&Wilkins,Philadelphia,20052)CharlesNC,FiedbergDN:Epibulbarmolluscumcontagiosuminacquiredimmunede.ciencysyndrome.Casereportandreviewoftheliterature.Ophthalmology99:1123-1126,19923)IngrahamHJ,SchoenleberDB:Epibulbarmolluscumcontagiosum.AmJOphthalmol125:394-396,1998

屈折矯正手術後の眼内レンズ度数計算

2012年2月29日 水曜日

屈折矯正手術後の眼内レンズ度数計算IntraocularLensPowerCalculationafterRefractiveSurgery根岸一乃*はじめにエキシマレーザー角膜屈折矯正手術は,2000年に国内で承認が得られてから,徐々に普及し,現在その件数は年間数十万件に達している.エキシマレーザー角膜屈折矯正手術は,手術としては安全性が高く,矯正精度および術後の安定性が良好であり,患者満足度も高い.しかし,エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後眼では,通常の白内障手術患者よりも眼内レンズ(IOL)度数の計算誤差が大きいことが知られており,大きな問題となっている1).本稿では,エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後眼に対するIOL度数計算の現状と問題点について,最近の知見をまとめる.I計算誤差の原因屈折矯正術後のIOL計算誤差の主原因は,機器の測定誤差,屈折率の誤差,計算式の誤差の3つに分けられる2,3).機器の測定誤差に関しては,ほとんどのケラトメータは角膜を球面あるいはトーリック面と仮定して角膜中央2.5.3.2mmの範囲を測定しているが,角膜近視矯正手術後は形状変化のため,その仮定は成立しない4,5).屈折率に関しては,エキシマレーザー角膜屈折矯正手術では角膜前面形状は変化するものの,後面はほとんど変化しないため,前後面の比が変化し,換算屈折率(1.3375)を使用すると誤差の原因となる.3番目にあげられた計算式の誤差とはHolladay,Ho.erQ,SRK/T(Sanders-Retzla.-Kra./theoretical)など現在汎用されている第三世代の理論式に含まれる誤差である.これらの式では,術後前房深度(e.ectivelensposition:ELP)を角膜曲率半径から予測する.エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後,角膜は平坦化するが前房深度はほとんど変化しないため6),第三世代の理論式では,平坦化した角膜データからELPを推定すると,実際よりもELPが小さく推定されてしまい,遠視側の誤差が生じることになる7).以上の問題を解決しないかぎり,近視矯正術後の白内障手術ではいわゆる“hyperopicsurprise”が起きることになる.IIDouble.K法Double-K法は第三世代の理論式の誤差を軽減する方法で,2003年にAramberriによって報告された7).この方法では,第三世代の理論式のなかで,ELP予測に用いられている部分の角膜屈折力値に,屈折矯正手術前の角膜屈折力を用いることにより,ELP予測誤差を軽減するものである.屈折矯正手術前の角膜屈折力はケラトメータ,トポグラフィーによる測定値を使用し(両方得られる場合はケラトメータの値を用いる),術後角膜屈折力は屈折矯正手術前後の屈折変化量を角膜平面上に換算し,その値を屈折矯正手術前の角膜屈折力から差し引くことによって求める.近視矯正手術後眼において第三世代の理論式を使用する際に,ELP予測と屈折計算に別の角膜屈折力を使用するというDouble-K法の基本的な考え方は現在も汎用されている.*KazunoNegishi:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕根岸一乃:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(47)195表1おもな近視矯正手術後眼用のIOL度数計算式の分類計算に必要な術前・手術データPreK+ΔMRΔMR不要データ補正角膜屈折力ClinicalHistoryAdjustedACCPHaigis-LCammellin-CarossiShammas-PL(上記3式はELP計算に角膜屈折力を用いていない)角膜屈折力・ELPDouble-KIOL度数計算結果CornealbypassFeiz-MannisMasketModi.edMasketPachymetricrationohistorymethodELP:e.ectivelensposition(術後予測前房深度).PreK:エキシマレーザー角膜屈折矯正手術前の角膜屈折力.ΔMR:エキシマレーザー角膜屈折矯正手術前後の屈折変化(等価球面).III屈折矯正手術後眼用のIOL度数計算式現在,屈折矯正手術後眼用IOL度数計算法が多数報告されている.これらは,角膜屈折力の過大評価を補正する方法と,角膜屈折力は補正せずIOL度数計算結果を直接補正する方法に大きく二分される.角膜屈折力を補正する方法で第三世代の理論式を用いる場合,ELPの予測誤差は軽減されないため,現在,これらの方法では,補正された値をDouble-K法7)に代入して,その結果を評価する場合が多い.一方,計算の際に必要なデータから分類すると,屈折矯正手術前の角膜屈折力データ(preK)または手術による屈折変化(ΔMR)を必要とする方法(historical法)と,白内障術前のデータのみを使用する方法(nohistory法)の2つに分けられる.表1に代表的な計算法の分類,表2に各計算法の概要を示す8.14)が,これ以外にも多数の計算式の報告がある.IV光線追跡法による計算ソフトウェア光線追跡法によるIOL度数計算15)は精度はよくても汎用のソフトウェアがないことなどから,これまで普及には至らなかった.しかし,近年光線追跡法を用いたIOL計算ソフトウェア(OKULIX)が発売され,国内でも販売されている.対応している測定機器(トーメー社のTMS4,TMS5,OA,CASIA,超音波Aモード,オクルス社のペンタカム,ハーグストレイト社のレンズスター)が使用可能な環境であれば,正常眼,屈折矯正手術後眼を問わず同じソフトウェアで精度よく計算可能である.他の計算式と比較した場合の,光線追跡法を用いた方法の利点としては,精度が眼軸長の長短や角膜曲率半径の影響を受けにくい,角膜屈折力の測定は原則として角膜形状解析装置で行うため,非球面形状の角膜でも測定誤差が軽減できる,角膜換算屈折率を原因とする誤差を軽減できる,などの利点がある.ただし,2011年現在,国内ではトーメー社のみがこのソフトウェアを扱っており,他のメーカーから入手はできない.V現状ではどの方法がよいか?現在,米国白内障屈折手術学会(ASCRS)のホームページの“Post-refractivesurgeryIOLcalculator(http://iol.ascrs.org/wbfrmCalculator.aspx)”は,手持ちデータを画面上に入力すれば,一度に多数の計算結果が閲覧でき,かつ無料で利用可能な有用な手段である(図1).TheClinicalHistoryMethodは広くゴールデンスタンダードとされてきたが,最近の報告では誤差が大きいとされる16).また,術前の角膜屈折力を用いる方法よりも,角膜屈折矯正手術前後の屈折変化のみを用いる方法や,nohistory法のほうが精度がよいことが報告されている16).Wangらの報告16)(57例72眼)によれば,この“Post-refractivesurgeryIOLcalculator”に掲載されている計算式の精度(誤差の絶対値)は,術前の角膜屈折力および屈折矯正手術の矯正量が必要な式(Clinicalhistory,Feiz-Manis,Cornealbypass)では,±0.5D以内が37.44%,±1D以内が60.69%,屈折矯正手術の矯正量のみを必要とする式(AdjustedE.RP,Adjust-edAtlas0-3,Masket,Modi.ed-Masket,Adjusted196あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(48)表2おもな近視矯正手術後眼用のIOL度数計算式の概要方法(出典)概要ClinicalHistory(HolladayJT)屈折矯正手術前後の屈折(等価球面)を角膜平面に換算し,変化量を計算.これを術前の角膜屈折力から引くことにより,屈折矯正手術後の角膜屈折力を推定.Kp+SEp.SEa=KaKp=屈折矯正手術前の平均角膜屈折力,SEp=屈折矯正手術前の等価球面SEa=屈折矯正手術後の等価球面,Ka=屈折矯正手術後の推定角膜屈折力Cornealbypass(文献8)手術による実質の矯正量(術前等価球面.術後等価球面)をIOL度数の狙いとして,屈折矯正手術前の角膜屈折力と術後の眼軸長によりIOL度数を計算する.Feiz-Mannis(文献9)まず,屈折矯正手術前の角膜屈折力を用いて,当該患者が屈折矯正手術を受けていないと仮定してIOL度数計算を行う.このIOL計算結果に,屈折矯正手術による屈折変化量(眼鏡平面)を0.7で割った値を加えて,挿入するIOL度数とする.IOLpre+(RC/0.7)=IOLpostIOLpre=屈折矯正手術をしなかった場合の術前値に基づくIOL度数,RC=眼鏡平面上での屈折矯正手術による矯正度数,IOLpost=屈折矯正手術後に挿入すべきIOL度数AdjustedACCP(文献10)平均中央角膜屈折力(averagecentralcornealpower:ACCP)はトーメイ社の角膜トポグラフィーの中央3mmのプラチドリング上の屈折力の平均値である.AdjustedACCP法では,以下のようにACCPから屈折矯正手術後の補正角膜屈折力を求めて計算に用いる.ACCP.(RC×0.16)=屈折矯正手術後の補正角膜屈折力RC=角膜平面上における,屈折矯正手術による手術矯正量MagellanACPとOPD-ScanIIIAPP3-mmmanualvalueを用いる場合は同じ補正式が使える*.Masket(文献11)IOLMaster(カールツァイスメディテック社)により測定した角膜屈折矯正手術後角膜屈折力によって計算したIOL度数を以下の式によって補正する.IOLpost+(RC×0.326)+0.101=IOLadjIOLpost=角膜屈折矯正手術後データで計算したIOL度数,RC=角膜屈折矯正手術前後の屈折変化(角膜平面),IOLadj=挿入すべきIOL度数Modi.edMasket(HillW.PresentedatASCRS2006)Dr.HillはMasketFormulaを以下のように変えた方法を推奨している*.IOLpost+(RC×0.4385)+0.0295=IOLadjIOLpost=角膜屈折矯正手術後データで計算したIOL度数,RC=角膜屈折矯正手術前後の屈折変化(角膜平面),IOLadj=挿入すべきIOL度数Haigis-L(文献2)IOLMasterにより測定した角膜屈折矯正手術後角膜曲率半径(rmeas)をもとに,以下の式を用いて補正した角膜曲率半径を通常のHaigis式に代入して計算する.rcorr=331.5/(.5.1625×rmeas+82.2603.0.35)rcorr=補正後角膜曲率半径,rmeas=IOLMasterで測定した角膜曲率半径Shammas-PL(文献12)測定した角膜屈折矯正手術後の角膜屈折力を以下の式を用いて補正し,Shammas-PLformulaに代入する.ELPはA定数から算出される.1.14×Kpost.6.8=補正後術後角膜屈折力Kpost:Atlastopographer(ZeissHumphrey)のNumericalViewの1mm,2mm,3mmのannularpowerの平均値(ない場合はIOLMasterの角膜屈折力を用いる)Cammellin-Carossi(文献13)測定した角膜屈折力を,屈折矯正手術前後の屈折変化がわかる場合はその値で,変化量が不明な場合は角膜前面曲率半径や中央付近の角膜厚のデータを元に補正して用いる.ELPは,術前前房深度,水晶体厚,眼軸長,およびA定数から計算する.PachymetricRatioNo-HistoryMethod(文献14)白内障術前データからSRK/T式で計算したIOL度数を以下により求めたadjustmentnumberで補正.1.(CP+A)/SCP=Geggelratio2.A=Geggelratio×SCP.CP3.A/12=角膜平面上における推定矯正度数4..0.399×(A/12).0.40=adjustmentnumberA:推定切除深度(μm),CP:白内障術前の中央角膜厚(μm),SCP:上方周辺角膜厚(μm)*http://iol.ascrs.org/wbfrmCalculator.aspxyより引用.(49)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012197図1Post.refractivesurgeryIOLcalculator米国白内障屈折矯正手術学会のホームページ(http://iol.ascrs.org/wbfrmCalculator.aspx)からアクセス可能である.ACCP/ACP/APP)では,±0.5D以内が57.67%,±1D以内が86.91%,nohistory法(Wang-Koch-Malo-ney,Shammass,Haigis-L,Gallilei)では±0.5D以内が58.72%,±1D以内が90.96%である.前2つのカテゴリーに入る計算方法による結果の平均値を用いた場合は±0.5D以内が72%,±1D以内が93%と最も良好であったという.McCarthyら17)は,屈折矯正手術後の白内障手術眼117例173眼のデータを用いて,ClinicalHistory,Double-K,LatkanyFlat-K,FeizandMannis,R-Fac-tor,CornealBypass,Masket,Haigis-L,Shammasと第四世代の計算式を比較したところ,平均予測誤差,標準偏差,遠視側の“refractivesurprises”の有無の面からみて良好であった式のトップ5はMasket(Ho.erQ式に代入),Shammas-PL,Haigis-L,ClinicalHistory(Ho.erQ式に代入),LatkanyFlat-K(SRK/T式に代入)であったと報告している.自験例は数が30眼前後と少ないが,なかではHaigis-L式(IOLMasterにソフトウェアが付属)やCamellin-carrossi式(IOLstation,NIDEK社にソフトウェアが付属)の成績が比較的良好である.しかし正常角膜の精度には遠く及ばない.自験例の光線追跡法ソフトウェアOKULIXによる計算結果はさらに症例数が少ないが,現状ではCamellin-carrossiなどと同等に精度が良好で有望であると推察している.おわりに種々の改良により,屈折矯正手術後眼のIOL度数計算精度はかなり向上してきているが,手術既往歴のない正常角膜眼に対するIOL計算精度にはいまだ及ばない.したがって,臨床的には,IOL度数予測誤差について,術前に十分に患者に説明し,同意を取ることが最も重要である.精度のよい計算式を使用するためには限定された測定機器が必要である.また,決定的な計算式がないため,複数の計算結果を参考にして最終決定を行う必要があるなどの問題がある.今後の計算精度のさらなる向上が期待される.文献1)NaseriA,McLeodSD:Cataractsurgeryafterrefractivesurgery.CurrOpinOphthalmol21:35-38,20102)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesur-geryformyopia:Haigis-Lformula.JCataractRefractSurg34:1658-1663,20083)Ho.erKJ:Intraocularlenspowercalculationafterprevi-ouslaserrefractivesurgery.JCataractRefractSurg35:759-765,20094)HamiltonDR,HardtenDR:Cataractsurgeryinpatientswithpriorrefractivesurgery.CurrOpinOphthalmol14:44-53,20035)RosaN,CapassoL,LanzaMetal:ReliabilityoftheIOLMasterinmeasuringcornealpowerchangesafterphoto-refractivekeratectomy.JCataractRefractSurg30:409-413,20046)NishimuraR,NegishiK,SaikiMetal:Noforwardshift-ingofposteriorcornealsurfaceineyesundergoingLASIK.Ophthalmology114:1104-1110,20077)AramberriJ:Intraocularlenspowercalculationaftercor-198あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(50)nealrefractivesurgery:double-Kmethod.JCataractRefractSurg29:2063-2068,20038)WalterKA,GagnonMR,HoopesPCetal:Accurateintraocularlenspowercalculationaftermyopiclaserinsitukeratomileusis,bypassingcornealpower.JCataractRefractSurg32:425-429,20069)FeizV,MannisMJ,Garcia-FerrerFetal:Intraocularlenspowercalculationafterlaserinsitukeratomileusisformyopiaandhyperopia:astandardizedapproach.Cornea20:792-797,200110)AwwadST,ManassehC,BowmanRWetal:Intraocularlenspowercalculationaftermyopiclaserinsituker-atomileusis:Estimatingthecornealrefractivepower.JCataractRefractSurg34:1070-1076,200811)MasketS,MasketSE:Simpleregressionformulaforintraocularlenspoweradjustmentineyesrequiringcata-ractsurgeryafterexcimerlaserphotoablation.JCataractRefractSurg32:430-434,200612)ShammasHJ,ShammasMC:No-historymethodofintraocularlenspowercalculationforcataractsurgeryaftermyopiclaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg33:31-36,200713)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,200614)GeggelHS:Pachymetricrationo-historymethodforintraocularlenspoweradjustmentafterexcimerlaserrefractivesurgery.Ophthalmology116:1057-1066,200915)PreussnerPR,WahlJ,LahdoHetal:Raytracingforintraocularlenscalculation.JCataractRefractSurg28:1412-1419,200216)WangL,HillWE,KochDD:EvaluationofintraocularlenspowerpredictionmethodsusingtheAmericanSoci-etyofCataractandRefractiveSurgeonsPost-Keratore-fractiveIntraocularLensPowerCalculator.JCataractRefractSurg36:1466-1473,201017)McCarthyM,GavanskiGM,PatonKEetal:Intraocularlenspowercalculationsaftermyopiclaserrefractivesur-gery:acomparisonofmethodsin173eyes.Ophthalmolo-gy118:940-944,2011(51)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012199

比較的小切開眼内レンズ縫着法

2012年2月29日 水曜日

比較的小切開眼内レンズ縫着法Small-IncisionFoldableIntraocularLensSutureFixation德田芳浩*はじめに眼内レンズ(IOL)縫着にはさまざまなバリエーションがあるが,実際には各々の術者がどれを得意として実践しているかという違いであって,一人の術者が症例に応じて異なった術式で対応しているわけではないと考える.したがって,本稿では比較的新しい方法として,フォルダブルIOLを用いた小切開の縫着手技1)に関して,さまざまに工夫された過程を含めて解説する.なお,特集の方針に従い,水晶体,または偏位IOLの摘出などの過程が終了したのちの工程から記載するものとする.実のところ,すべての無水晶体眼が小切開であるとは限らない.むしろ,縫着直前で切開創が2.8.mm以下であることはまれであろう.本方法では従来の手技図1小切開IOL縫着用の切開症例は180°のZinn小帯断裂があり,術前より小切開による水晶体摘出とIOL縫着を計画した.と比較して,小切開であることはもちろんのこと,毛様体扁平部に創を作らなくても十分な前部硝子体切除が行える,ウォータータイトな環境下を保つ,比較的正確な通糸固定が可能であるという,複数のメリットがあると考える.I切開創の作製術中アクシデントでIOL縫着になってしまう場合を除いて,縫着用切開創は手術の初期の過程で作製することが多い.必要な切開創は,縫着糸を埋没結紮するための強膜ポケットと前部硝子体切除用の角膜サイドポートである.筆者は右利きなので,強膜ポケットの位置は4時30分.10時30分方向を基本としている(図1,2).bab図2図1のシェーマa:結膜ヒンジ切開,b:ラディアル強膜ポケット,c:強角膜切開(2.8.mm),d:角膜サイドポート(1.8.mm).*YoshihiroTokuda:井上眼科病院〔別刷請求先〕德田芳浩:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(41)189図3前部硝子体切除角膜サイドポートからの硝子体切除.前房メインテナーを接続して眼圧を維持しながら,強膜をインデントして赤道部以前の硝子体を切除する.図4縫着糸の結紮ハプティクスにループ糸を変則カウヒッチノットで結紮する.図5図4のシェーマa:カウヒッチノットの糸を2回以上くぐらせる.b:そのまま引いて閉めこんだところ.abII前部硝子体切除縫着糸が硝子体ストランドを巻き込み,それによって発生する牽引性裂孔原性網膜.離の危険性を回避するために,前眼部の硝子体を切除する.前房メインテナーをサイドポートに接続して眼圧を確保しつつ,反対側のサイドポートから挿入したカッターを用い,強膜をインデントして赤道部より前の硝子体を可能なかぎり切除する(図3).IIIIOLの準備本稿では,ハプティクス先端に膨大部のある7.0.mm光学部直径をもつフォルダブルIOL,HOYA社製VA70ADを使用する場合を記載する.このIOLを使用する理由は,光学部直径が7.0.mmと大きいこと,および,ハプティクス膨大部によって縫着糸の結紮が容易であることに加えて,インジェクター挿入に有利な構造上の利点にある.すなわち,他社のインジェクターの先端はすべて筒状構造になっている.したがって,ハプティクスに結紮した縫着用糸を強膜に通糸しようとすると,あらかじめインジェクターにセットした状態でしか行えない.もちろん,縫着用の糸をインジェクターの筒に通してから,それを術野の近くで助手に保持してもらって,という操作は成り立つが実用性には欠けるし,そこまでして他社製品を使うメリットがない.一方,HOYA社製のインジェクターは先端の筒状部分に切れ目があるので,眼内に糸を通す作業を行った後でIOLの入ったカートリッジをインジェクターに装.できる.これは大きなアドバンテージであり,小切開縫着には非常に便利な構造である.IOLへの縫着糸の結紮は,変則カウヒッチノットを用いている(図4,5).この方法では結紮部位が動きにくいが,完全に動かないというわけではない点に注意が必要である.この過程では,一方のハプティクス(先行するほう)のみに結紮すればよい.糸が結紮できたら,カートリッジに長針を通してIOLをインジェクターに入れておく.この時点では後行するハプティクスには糸が結ばれていない.190あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(42)IV強膜通糸とIOL挿入場所決めのより容易な対面通糸法と,ループ糸が使える眼内からの通糸法の両方の利点を兼ね備えた通糸法を行う.針は長いのであらかじめ切開創にかませておく.反対側の縫着サイトに,適当に曲げた27ゲージ(1/2インチ)注射針で刺入して先端を瞳孔領に出す(図6).このとき,眼圧がある程度ないと刺入がむずかしいので,灌流ボトル高は50.60.cmに上げる.以下,作業内容に応じて,ボトル高を調節して眼圧を適正範囲に保ちつつ,手術を進める.縫着針の先端を27ゲージ針の先端に挿入し(図7),眼内から外に誘導しながら引き抜く.カートリッジをインジェクターに装着し,IOLをインジェクターの先端まで進める.糸がゆるまないように引きながらインジェクターを使ってIOLを挿入する(図8).後行するハプティクスは切開創から出したままにする(図9).切開創から出ている後行するハプティクスに,同じ手順でループ糸を結紮する.ハプティクスを前房内に入れ,虹彩の後ろまで誘導する.後行するハプティクスに図6先行する縫着糸の通糸(1)ループ付き長針の先端をあらかじめ挿入しておいてから,27ゲージ注射針で強膜ポケットを貫いてその先端を前房内に出す.図7先行する縫着糸の通糸(2)長針の先端を27ゲージ針の中に挿入して誘導し,強膜ポケットの中を貫いて長針を引き抜く.図8IOLの挿入カートリッジをインジェクターに装着し,糸がゆるまないように引きながらIOLをインジェクターにて挿入する.切開創は2.8.mmで拡張はしていない.図9IOLの挿入終了後行するハプティクスは前房内にまで挿入せず,強角膜創から出したままとする.(43)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012191図10針の送り後行するハプティクスに結紮したループ針の長針を,切開創から前房内に挿入し,左の角膜サイドポートから引き抜く.図12IOLセンタリングの確認両方の糸を引いて,IOLのセンタリングとティルトの有無を確認する.結紮した糸の長針を切開創からサイドポートに出し(図10),場所をよく見きわめながら,27ゲージ針で縫着用ポケットを貫いて眼内に刺入し,先行するハプティクスと同じ要領で27ゲージ注射針をガイドにして,10時30分のサイトに通糸する(図11).縫着糸を両方,引いてIOLのセンタリング,ティルトの有無を確認する(図12).最後に前房メインテナーを抜去して,角膜サイドポートにハイドレーションを起こして閉鎖を促し,眼圧を正常化させる.図11後行する縫着糸の通糸左の角膜サイドポートから長針を再び挿入し,先行するハプティクスと同じ方法で27ゲージ針をガイドとして,右上の強膜ポケットに通糸する.図13縫着糸の結紮固定a:ポケットから出ている2本のループ糸のうち,片方を短めに切断したのち,フックでポケットの中から引き出す.b:切断しないほうは,ポケットの別の場所からポケット内に通糸する.aとbの糸を結紮する.V糸の結紮(図13)ポケットを貫く2本の糸のうち,1本を短く切り,シンスキーフックでポケットの中から引き出す.もう1本の糸をポケットの別の場所からポケットの中に通す.両方を結紮する.ほどけないように最低でも5回は結紮する.糸の断端を切断してポケットの中に押し込む.反対側の縫着糸も同じ手順で結紮してIOLの縫着固定を完成させる.VI周辺虹彩切除(peripheraliridectomy)周辺虹彩切除を白内障手術装置付属のA-vitカッターで行う.縮瞳剤(オビソートR)を投与して効果が十分192あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(44)図14周辺虹彩切除アセチルコリン剤で縮瞳を促したのち,A-vitカッターを用いて,周辺虹彩切除を行う.に得られる間に,結膜を9-0シルク糸で縫合しておく.カッターの吸引圧をパネルモードの200mmHg,カッティングレートを100回/分に落としておく.鼻側のサイドポートから灌流ラインを,耳側からカッターの吸引口を網膜側に向けて挿入し,鼻上側の隅角まで進めたのち,フットペダルを踏み込む(図14).実際に切除されているところはブラインドとなるが,瞳孔が引かれることで虹彩が吸引されていることがわかる.3.5回,カッターの刃が噛んだら終了とする.おわりにIOL縫着術は従来,水晶体.の支持が得られない白内障手術,すなわち,ICCE(白内障.内摘出)症例に対するIOLの適応手段として考案された.したがって,経毛様体扁平部水晶体切除のような特殊例を除いて,120°近い強角膜切開が必要となるので,小切開手術の範疇に収まるものではなかった.しかし,ここ数年,IOL偏位症例に対するIOL縫着が急激に増加している印象を受ける.特にフォルダブルIOL偏位例では,比較的小切開創からのIOL摘出が可能であり,3.0.mm以下の切開創から行う症例も増加している.ここに紹介した方法は,いわゆる小切開IOL縫着術であり,最少2.8.mm強角膜切開創(ときに角膜切開でも可)からのIOL縫着手技である.ようやく,IOL縫着手技も小切開手術の範疇に含めることができるようになったと考えられる.文献1)德田芳浩:フォーダブル眼内レンズの強膜縫着術.IOL&RS24:257-261,2010(45)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012193

小児白内障手術-手術のポイント

2012年2月29日 水曜日

小児白内障手術─手術のポイント─PediatricCataractSurgery日下俊次*はじめに表1小児白内障手術を行うにあたって考慮すべき小児眼の成人の白内障手術は毎月何十例も行うが,小児白内障特徴と注意点手術はほとんど経験がない,できれば避けたい,といった術者が多いのではないだろうか.小児の診察には時間がかかり,忙しい病院では小児まで診る時間的余裕がなく,また,それに見合う診療報酬が設定されていない,麻酔医不足で全身麻酔枠が確保できないなど,小児白内障を取り巻く医療環境は厳しいものがある.しかし,今後の日本を背負って立つ小児の大事な眼を守るのはわれわれ眼科医の責務であり,しっかりと対応したいものである.ただ,実際に手術を行おうとすると成人例とはさまざまな点で違いがあることに戸惑いを感じる点が多いのではないだろうか.視機能的にも成長途上にある小児に対する手術では手術時期や適応の慎重な検討,術後の解剖学的特徴注意点眼球が小さく,成長途上にある術後,眼軸長が伸び,角膜曲率も変化するので,眼内レンズ度数設定に注意組織(特に強膜)が薄く,柔らかい自己閉鎖創の作製困難水晶体.が伸張性に富む連続環状水晶体.切開が大きくなりがち硝子体ゲルの液化はほとんどない硝子体圧高い,硝子体脱出は生じにくい水晶体上皮細胞の増殖能高い後.混濁は早期に必発25視機能管理も非常に重要なポイントであるが,今回,この点には触れず,おもに筆者の小児白内障手術経験に基23づいて学んだ手術を安全に行うためのポイント,コツに焦点を絞り概説する.なお,全体的にあくまで私見に基づくもので,異論の余地があることを最初にお断りしておく.眼軸長(mm)211917I小児眼の解剖学的特徴と眼内レンズ適応1513小児白内障を手掛けるにあたって考慮すべき解剖学的0246810成人特徴を表1に記載する.小児の眼球は解剖学的に成長途年齢(歳)上にあることに注意を要する.図1に剖検眼での眼軸長図1年齢と眼軸長の関係(文献1より改変)のデータを示す.眼球は生後10歳前後までにほぼ成人*ShunjiKusaka:近畿大学医学部堺病院眼科〔別刷請求先〕日下俊次:〒590-0132堺市南区原山台2-7-1近畿大学医学部堺病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(35)183のサイズとなるが,特に0.3,4歳までの変化の割合が大きい.図2は角膜屈折力の変化であるが,やはり同様に0.3,4歳までの変化量が大きいことがわかる1).眼内レンズの適応決定,度数選択の際にはこの点に十分注意を払う必要がある.一部に1歳未満の症例でも眼内レンズ挿入を積極的に行うべきとの意見もあるが,筆者らの施設では原則,1歳半以上の症例に限って眼内レンズ挿入を行っている.理由は前述のとおり,1歳半未満,なかでも1歳未満の症例ではまだ眼球,水晶体.が小さく(図3)2),眼内レンズの挿入そのものが技術的に困難であること,水晶体.,眼球の成長が急峻な時期では適切なレンズの度数設定が困難あること,術後のコンタクトレンズあるいは眼鏡装用が比較的容易であること,初回手術時に水晶体.を残すことで2,3歳以降になっての眼内レンズ二次挿入が多くの場合可能であることなどである.逆に1歳半を超えると,その時期からコンタク5755角膜屈折力(diopter)トレンズ装用を開始するのがしばしば困難であること,また,眼球の成長もゆるやかになってきていて眼内レンズ度数設定が比較的容易であること,水晶体.が眼内レンズ挿入に十分適応できるサイズとなっていることなどの理由で眼内レンズ挿入を積極的に行っている.片眼手術の場合はコンタクトレンズ装用となるが,両眼手術の場合は眼鏡装用で対処できるので,その点も考慮に入れる必要がある.II手術方法:眼内レンズ挿入しない場合眼内レンズを挿入しない1歳半未満の症例では,角膜輪部に創口を2箇所(2時半,9時半)作製し,2-port法で手術を行う.水晶体は柔らかく,硝子体手術に用いるカッターで十分吸引可能なので,成人白内障で使用するUS(超音波)チップが挿入可能な2.4mmなどの創口を作製する必要はない.硝子体カッターのサイズ(ゲージ:G)に関して,筆者は剛性の高さ,効率の良さに優れる23Gカッターを好んで用いている.また,後述の前.切開にはサイドポートから挿入可能な前.鑷子を用いるが,これを挿入するために最低でも23Gサイズの創口を作製する必要がある点も23Gカッターを選択する理由の一つである.輪部創口作製後に前房に粘弾性物質を注入する.小児の硝子体圧は高いことが多いので分子量が大きく,粘性の高いものを使用するほうが良い.つぎに小児白内障手術で最もむずかしい手技である前.の連続環状前.切開を行う.連続環状前.切開が小児例でむずかしいのは,硝子体圧が高く前房が浅くなりがちなこと,前.が伸張性に富むために切開線が周辺に流れて適切なサイズにコ53514947454341-2061224364860成人年齢(歳)図2年齢と角膜屈折力の関係(文献1より改変)水晶体.の直径(mm)109876501234567891011121314151617181920年齢(歳)図3水晶体.の直径と年齢の関係(文献2より改変)ントロールしにくいことなどによる.成人例より小さめに作製するように心掛けても大きなサイズになりがちなので,注意してゆっくりと操作を行うのがコツである.前.切開後,2つのポートの一方に前房メインテナー,もう一方に硝子体カッターを挿入して水晶体吸引を行う.筆者の場合は23G小児用灌流チューブ(MEテクニカ)を用いている(図4).これは先端部が3mmと短いために先端で虹彩や角膜内皮を損傷することがなく,先端にくびれがあるために抜けにくい構造となっているので便利である.吸引を行いたい部位によって左右の器184あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(36)図4小児用23ゲージ灌流チューブを用いて2.port法で水晶体を吸引具を入れ替えて使用し,皮質を完全に取り除く.つぎに前.下の水晶体上皮細胞も可能な限り吸引除去する.小児ではElschnigpearlが早期に強く出る傾向があるので,これを少しでも予防するために丁寧に上皮細胞を取り除くことが重要である.ついで再び粘弾性物質を水晶体.内に軽く注入し,鋭針を用いて後.中央に小さな穿孔創を作製し,同部からBerger腔(後.,前部硝子体面,Wieger靱帯に囲まれたスペース)に粘弾性物質を後.切除範囲より少し広めに注入する.つぎに前.鑷子を用いて連続環状後.切開を行う(図5).小児白内障術後は早期に.混濁(後発白内障)を生じるので,前後.とも切開を行うべきである.後.は前.より薄く,伸張性も弱いので前.切開ほどはむずかしくない.最後に前房内の粘弾性物質を吸引して手術を終了するが,この際に注意すべきは前房虚脱である.前房が虚脱すると硝子体脱出をきたすことがあるので,これを起こさないようにする.具体的には2つのポートに前置糸(10-0バイクリルあるいは10-0ナイロン)を置き,前房洗浄,まずカッターを最初に抜き,前置糸を縫合,ついで助手に灌流ポートを抜去してもらい,同時に灌流ポート側に設置しておいた前置糸をすばやく縫合する.この方法を用いれば前房虚脱を生じることなく,したがって硝子体脱出を生じることなく手術を終了できる.小児白内障手術では術後の視軸域の透明性をいかに防ぐかが図5連続環状後.切開Berger腔に粘弾性物質を注入して硝子体脱出を防止しつつ行う.重要であり,この点から前部硝子体切除を行うべきとの意見もあるが,自験例では前部硝子体切除を行わなくても視軸域の透明性はほとんどの症例で長期にわたって維持されているので,筆者は硝子体脱出を生じた場合のみ前部硝子体切除を行う方針としている.最後にデキサメタゾンを結膜下に投与し,手術を終了する.III手術方法:眼内レンズ挿入する場合1歳半以上の症例では眼内レンズを原則挿入するが,前記(II)と違う点は,まず眼内レンズ挿入のための創口作製を要することである.前述のとおり,小児では自己閉鎖創作製は困難であり,また低年齢児では術後の違和感などから眼球を押さえたりする可能性もあるので筆者は結膜を切開し,通常の3面切開強角膜創を作製している.この際,強膜トンネルは長くする必要はない.強膜トンネルを長くしても自己閉鎖できないし,瞼列が狭く,操作が行いにくいためである.前.切開は眼内レンズ径よりやや小さくする.眼内レンズが6mm径なら5mm径を目指す.ベルギーのDr.Tassignonが考案したCaliperring(Morcher社,ドイツ)は5mm径のポリイミド製の柔らかい輪で,前.上に載せて前.切開サイズの目安となるもので便利である(37)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012185図6Caliperringを目安とした連続環状前.切開Caliperringを前.上に載せ,連続環状前.切開の目安とする.(図6)3).しかし,日本では承認されていないので,個人輸入し,倫理審査委員会の承認,書面によるインフォームド・コンセントを取得する必要がある.後.切開は前.切開より少しだけ小さめに行う.II項と同様に粘弾性物質をBerger腔に注入して硝子体脱出を生じさせないようにする.眼内レンズ選択は意見が分かれるところであるが,筆者は基本的に低年齢児では6mm径,4,5歳以上の症例では可能なら7mm径のfoldableレンズを用いている.小眼球など水晶体.が小さいと予想される症例では着色アクリル製ワンピースレンズを用いている.この種のレンズではハプティクスが柔らかいために挿入が容易で,小さな水晶体.で過度に“突っ張る”ことがないと思われる.正常サイズの眼球では,現在,長期にわたってレンズの透明性を維持できるとされる疎水性と親水性の両者の性格をもつハイブリッドアクリル素材による眼図7Opticcapture法前後.が接着することで上皮細胞のmigrationが視軸域に及びにくく,透明性が長期に維持でき,またレンズもしっかりと固定され,虹彩捕獲を生じにくい.内レンズを用いている.眼内レンズの固定は6mm径のものではハプティクスをin-the-bagに,オプティクスをbag後方に位置させる,いわゆるopticcapture法4)を用いている(図7,8).この方法では前後.が直接接触するために水晶体上皮細胞増殖が同部に閉じ込められることになり,視軸域混濁が生じにくい,レンズ固定が良好で虹彩捕獲を生じにく図8Opticcapture法術後赤矢印:前.縁,白矢印:後.縁.図92歳児にopticcapture法で眼内レンズ挿入し,3年後の前眼部所見視軸域の透明性が維持されている.186あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(38)いといった利点がある(図9).良好なopticcaptureを行うためには適度なサイズ(眼内レンズ径より1mm小さな径)の後.切開を行うことがポイントである.後.切開径が小さすぎると後.切開部が猫の目のような切れ長になってしまうし,切開部が大きすぎるとopticcap-tureは不可能となり,レンズが硝子体に落下するリスクが生じる.ただし,7mm径の眼内レンズでは後.切開が6mm必要となり,水晶体.の小さな小児例では技術的に困難であるのでin-the-bag固定としている.眼内レンズが固定できれば強角膜創を縫合し,II項と同様に2つのサイドポートに前置糸を設置して,前房が虚脱しないように注意を払いつつ粘弾性物質を洗浄して手術を終了する.縫合糸の選択であるが,筆者は吸収糸(10-0バイクリル)を好んで用いている.これは低年齢児では術後に抜糸することがきわめて困難であるからである.ただし,吸収糸は炎症反応を惹起して結膜・強膜縫合部の充血や角膜縫合部の白濁化を招くことがある.特に角膜輪部の白濁化は外見上も目立つことがあるので角膜輪部創口は可能なら非吸収糸(10-0ナイロン)を用いるほうが良い.ただし,術後しばらくして糸がゆるんだりすると場合によってはトリクロールシロップを服用させるなどして入眠させ,そっと抜糸する必要が生じることもある.吸収糸,非吸収糸のどちらを選択すべきかの判断は術後抜糸が行いやすい環境(患児,施設など)かどうかにもよるであろう.おわりに成人例とは違い,小児白内障は症例数が少ないので,経験豊富な術者は多くなく,若手医師の教育もむずかしい.しかし,特に患者を遠方に紹介しづらい地方の大学病院,基幹病院では小児白内障手術を手掛けざるをえない術者もいると思われる.本稿がこれから小児白内障手術を手掛けたいと希望する術者の参考になれば幸いである.文献1)HairstonRJ,MaguireAM,VitaleSetal:Morphometricanalysisofparsplanadevelopmentinhumans.Retina17:135-138,19972)BluesteinEC,WilsonME,WangXHetal:Dimensionsofthepediatriccrystallinelens:implicationsforintraocularlensesinchildren.JPediatrOphthalmolStrabismus33:18-20,19963)TassignonMJ,RozemaJJ,GobinL:Ring-shapedcaliperforbetteranteriorcapsulorhexissizingandcentration.JCataractRefractSurg32:1253-1255,20064)GimbelHV,DeBro.BM:Posteriorcapsulorhexiswithopticcapture:maintainingaclearvisualaxisafterpediat-riccataractsurgery.JCataractRefractSurg20:658-664,1994(39)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012187

片眼失明例

2012年2月29日 水曜日

片眼失明例CataractSurgeryinLastEye早田光孝*谷口重雄*はじめに片眼失明患者への白内障手術の対処法とういう非常にむずかしいテーマの依頼をいただいた.読者の先生方は,片眼失明患者への白内障手術に対してどのようなイメージをもたれているであろうか.手術時期が遅れて核硬度が進んでいる?Zinn小帯脆弱などの難症例が多い?絶対に失敗できないというプレッシャーがあって嫌だな…などであろうか.日常診療において片眼失明患者を診察することは決して珍しいことではないが,過去にそのような患者の唯一眼に対する白内障手術について系統的に論じた報告は少ない.さまざまな考え方があるかとは思うが,本稿では,当院における,片眼失明患者の傾向,手術への取り組み方,考え方などを紹介させていただく.I片眼失明患者の傾向まず,片眼失明患者に対する手術を系統的に考えるには,患者にどのような傾向があるのか知っておく必要がある.そこで,2008年1月から2010年12月の間に当院において,片眼失明(今回は片眼視力0.1未満と定義)の状態で,唯一眼に対して白内障手術を施行した66眼を対象に行った検証結果を紹介する.検討項目は,性別,年齢,視力低下の原因疾患,唯一眼手術時の視力,白内障のグレード(Emery-Little分類),手術眼のリスクファクター,手術による合併症,術後視力とした.II性差,年齢,原因疾患の傾向性別は,男性31眼,女性35眼,平均年齢は76±10歳と,性差はなく高齢者に多い傾向にあった.視力低下の原因となった疾患を表1に示す.原因は,多岐にわたっているが,糖尿病網膜症が12眼,網膜.離が8眼,黄斑変性8眼,緑内障5眼と多い傾向にあった.日本人の失明原因に多く含まれる糖尿病網膜症,黄斑変性疾患,緑内障が含まれており,少数統計であるものの,それらが反映されており相違ない結果と考えられた.網膜.離は,罹患率が低く,失明原因としては少ないが,当表1視力低下の原因疾患糖尿病網膜症12(18%)網膜.離9(14%)黄斑変性(加齢黄斑変性含む)8(12%)緑内障(広隅角)5(7%)視神経萎縮5(7%)網膜静脈閉塞症5(7%)外傷4(6%)強度近視3(5%)角膜混濁3(5%)黄斑円孔2(3%)弱視2(3%)網膜色素変性症2(3%)網膜中心動脈閉塞症1(2%)緑内障発作1(2%)原因不明4(6%)計66(100%)眼数*MitsutakaSoda&ShigeoYaguchi:昭和大学藤が丘リハビリテーション病院眼科〔別刷請求先〕早田光孝:〒227-8518横浜市青葉区藤が丘2-1-1昭和大学藤が丘リハビリテーション病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(29)177院は,大学病院であり,多数の網膜.離の手術を行っていること,そのなかに難治症例の割合も少なからず存在するため上位となったと考えられる.III手術時期の視力,核硬度片眼失明患者に手術を施行した時期の術前平均視力は0.3であった.視力の内訳を,図1に示す.視力0.1未満10眼(15%),0.1以上0.3未満10眼(15%),0.3以上0.5未満15眼(23%),視力0.5以上0.7未満17眼(26%),視力0.7以上14眼(21%)と幅広く分布している.術前視力0.1未満の視力不良例を検討してみると,全例,糖尿病網膜症,黄斑変性,緑内障などの白内障以外の眼疾患による視力低下の要因がある症例であった.手術施行時の核硬度(Emery-Little分類)を表2に示す.核硬度は,グレード2が30眼(45%),グレード3が34眼(52%),グレード4が2眼(3%)であった.ほとんどの患者がグレード2,3で手術を施行されており,進行例は少ない傾向であった.これらの結果を踏まえると,片眼失明患者は,日常生活に最低限必要な視力とされる0.3以下となった時点でおおむね手術を受けており,術前視力0.1未満の症例は,白内障以外の眼疾患を全例認めていることよりも,失明図1片眼失明患者に白内障手術を施行した時期の視力表2片眼失明患者に白内障手術を施行した時期の核硬度(Emery-Littel分類)グレード230(45%)グレード334(52%)グレード42(3%)計66(100%)眼数ぎりぎりまで白内障手術を延期しているような傾向は少ないと考えられた.筆者らは,患者心理を予想するに,健眼にメスを入れるのは怖いので,手術の時期が遅れ,核硬度の進行例が多いのではないかと予想していたが,そのような傾向はなく,唯一眼が見えにくいと生活にならないので,比較的早期に手術を受けている結果であった.もちろん,地域によって差はでてくるとは思うが,おおむね,患者サイドでも白内障手術は安全な手術であるという認識が高まっているからではないかと考えられた.IV術眼の特徴(リスクファクターになりうる疾患)手術眼に認めたリスクファクターになりうる疾患を表3に示す.なお,同一眼にファクターが重複した場合も,両方カウントしている.疾患は多岐にわたるが,糖尿病網膜症13眼,緑内障発作後も含めた狭隅角が9眼,散瞳不良7眼などが上位を占めていた.また,何もリスクファクターがない症例も27眼と半数近く認めた.さらにこれらの疾患に生じうるリスクファクターを,手術の手技自体に関連するもの,術後管理に関連するものに分けると表4のようになる.緑内障は,将来の濾過手術のために結膜温存をする必要があることも考え,手術手技の関連にもカウントしている.これらの結果を踏まえると,術眼に認める疾患は多岐表3片眼失明患者の手術眼でリスクファクターとなりうる疾患糖尿病網膜症13(20%)狭隅角(緑内障発作後含む)9(14%)散瞳不良7(11%)緑内障(広隅角)6(9%)偽落屑症候群4(6%)加齢黄斑変性4(6%)強度近視3(4%)水晶体動揺2(3%)網膜色素変性症2(3%)角膜混濁2(3%)角膜内皮傷害2(3%)網膜.離術後1(2%)ぶどう膜炎1(2%)明らかな要因なし27(41%)眼数178あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(30)表4片眼失明患者の手術眼におけるリスクファクターの分類手術手技に関連するものZinn小帯脆弱の可能性20(30%)水晶体動揺(術前より)2(3%)散瞳不良7(11%)緑内障(広隅角)6(9%)角膜混濁2(3%)角膜内皮傷害2(3%)術後管理に関連するもの糖尿病網膜症13(20%)緑内障(広隅角)6(9%)加齢黄斑変性4(6%)ぶどう膜炎1(2%)眼数にわたっているが,手術手技的にまとめれば,Zinn小帯脆弱の関連が最も多く22眼,つぎに散瞳不良が7眼と多くを占めているのがわかった.術後管理関連では,糖尿病網膜症,緑内障,加齢黄斑変性が多くあがった.V手術による合併症手術中の合併症は,後.破損1眼,医原性Zinn小帯部分断裂1眼で,いずれもリスクファクターのない症例であった.後.破損は,眼内レンズ挿入時に生じ,.外固定にて対応した.Zinn小帯断裂も眼内レンズ挿入時に生じており,断裂範囲が全周の4分の1と限局性であったため,眼内レンズループを断裂部に一致させ,.内固定することでセンタリングも良好であった.2症例ともに術後経過は良好であった.術中,Zinn小帯脆弱を認め,水晶体補助器具を使用した症例は2例であった.1例は,緑内障発作後の狭隅角の症例で,術前より水晶体動揺を認めていた.カプセルエキスパンダーを使用して,超音波乳化吸引術(PEA)を施行し,眼内レンズを毛様溝に縫着した.もう1例は,狭隅角にて虹彩レーザー切開術が施行された症例で,術前,明らかな水晶体動揺は認めていなかった.カプセルエキスパンダーを使用して,PEAを施行後,眼内レンズを.内固定とした.2例とも術後経過は良好であった.VI片眼失明患者の術後視力術後平均視力は0.8と非常に良好であった.視力不良例を検討すると,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性,緑内障などにより視力がでにくい症例であり,手術により視力が低下した症例は認めなかった.白内障以外の眼疾患のない症例では,全例矯正1.0以上に改善していた.VII本当に片眼失明患者はむずかしいのか…?これまでの結果を踏まえると,片眼失明患者の傾向としては,比較的高齢者が多く,手術眼のグレードは2,3と中等度が多く,程度の差はあるが,なんらかのリスクファクターを約半数に認め,手術手技に関連するものとしては,Zinn小帯脆弱,散瞳不良が多く,術後管理に関連するものとしては,糖尿病網膜症,緑内障,加齢黄斑変性が多いという結果になった.これだけをみると,リスクファクターのない症例では,片眼失明患者であっても,通常の症例とさほど条件は変わらないといえるかもしれない.実際に,リスクファクターのない症例では,手術中にZinn小帯脆弱などの特別な所見を認めたものはなく,術後経過も良好で,合併症も少なかった.そのため,片眼失明例であっても積極的に手術を施行してよいと思われる.では,リスクファクターのある症例ではどうだろうか.手術中の手技関連のリスクファクターでは,Zinn小帯脆弱の可能性が22眼(33%)と多数を占めており,そのなかで実際Zinn小帯脆弱を認めた症例は2眼(3%)であった.両症例ともに,熟練者が手術を施行していたため,水晶体補助器具などを駆使し,Zinn小帯断裂には至らなかったが,術者のレベルによってはZinn小帯断裂などをきたす可能性があると思われる.西村ら1)の報告によると,Zinn小帯断裂の発症率は0.76%,Ion-idesら2)の報告では,Zinn小帯断裂の発症率は1.2%とされている.検討症例数が異なるため一概にはいえないが,Zinn小帯脆弱例3%という数値は低くはないと思われる.Zinn小帯脆弱症例に対して経験の少ない術者が手術を施行することにはリスクがあると考えられる.散瞳不良も7眼(11%)と比較的多く認め,瞳孔拡張,瞳孔切開などの対応策に熟練していることが求められて(31)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012179いる.また,両ファクターは重複することが,臨床的には珍しくないため,やはり両者に熟知した術者が望ましいといえるであろう.しかし,今回のZinn小帯脆弱を認めた2症例の経過が良好であることよりも,対応が適切であれば,術後経過は良好であるため,熟練者であれば,積極的に手術を施行してもよいと考える.術後の管理に対するリスクファクターに関しては,糖尿病網膜症,緑内障,加齢黄斑変性に熟知していることが求められている.各疾患ともに通常症例でも非常に多く経験するメジャーな疾患であり,対応策についての詳細は他書に譲るが,糖尿病網膜症で黄斑浮腫の懸念のある症例などには,積極的にトリアムシノロンのTenon.下注射の併用などを検討していくべきと考える.VIII片眼手術のプレッシャー片眼症例では,患者が唯一頼りにしている眼の手術を行うわけで,絶対に失敗できないというプレッシャーがかかる(もちろん,片眼でなくても失敗はできないが…).術者も人間である以上,まったくプレッシャーを感じない人は少ないかと思う.プレッシャーに打ち勝つためには,やはり,多数の症例で経験を積み,自信をつけるほかにないかと考える.特に,合併症への対策を,自分のなかで明確にしておくことが大事ではないだろうか.たとえば,Zinn小帯断裂の場合には,断裂部位が4分の1までは,断裂部にループをあててinthebagに挿入して,それ以上の断裂の場合は,脱出硝子体を切除して,瞳孔正円にして終了し,後日,縫着にするとか,明確にルートを決めておくと,安心して手術に臨める気がする.あとは,あまり重く考えすぎないことであろうか.この手術に,患者の将来がかかっている,絶対に失敗は許されない…などと考えながら手術をしたら,手もスムーズに動かなくなると思う.不謹慎といわれるかもしれないが,片眼であろうが,結局やることは一緒で,準備だけは完全に行い,あとは,気負いすぎず,自分がなんとかするんだぐらいの気構えで,いつもどおり,淡々と手術を行うのがよいのではと個人的には思っている.IX当院における片眼失明患者への取り組み方以上の結果を踏まえ,当院での取り組み方を述べる.まず,手術については,改善の見込みがあり患者が希望すれば,結果も良好であるため,積極的に手術を施行する.リスクファクターのある患者でも,視力改善のメリットが大きい患者では積極的に手術を施行する.リスクファクターがあるために,いたずらに手術を延ばすと,核硬度も進行してさらにむずかしい症例となってしまい,患者にとって不利益と考えるからである.しかし,ここで術者のレベルが問題となってくる.リスクファクターとして多い,Zinn小帯脆弱,散瞳不良に対して経験の少ない術者は,やはり執刀すべきではないと考えられる.片眼症例に対してチャレンジはありえない.当院では,通常の症例で十分に経験を積み,特に硝子体手術も施行できる術者がなるべく対応している.したがって,通常の症例は,普通に完投できても,合併症の処理などの経験が不十分な術者は執刀から外している.X選択する眼内レンズは?小切開白内障手術に使用できる眼内レンズには,アクリル,シリコーン,ハイドロビューがあるが,シリコーンは,万が一将来硝子体手術が必要になった場合に眼底視認性に問題が生じやすいこと,ハイドロビューは,以前混濁の問題が生じたことより,当院では,通常症例も含め全例アクリルレンズを使用している.片眼失明症例では,特にグリスニングや表面散乱光が生じにくいレンズがよいかと筆者らは考えている.XI術後眼内炎について最後に,術後眼内炎について述べたいと思う.術後眼内炎は,白内障手術の合併症のなかでも,とりわけ重篤で最も懸念される合併症であることに異論はないかと思う.筆者らは,幸い,片眼失明患者に対して行った手術に眼内炎が生じた経験はないが,発症したとしたら,患者,術者に与えるダメージは計り知れないものがある.白内障手術後の眼内炎の確率は,ESCRS(EuropeanSocietyofCataract&RefractiveSurgeons)の多施設180あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(32)表5当院における白内障手術の手順術前手術3日前より抗菌薬点眼(ニューキノロン系)術中1.皮膚消毒ポビドンヨード(イソジンR)2回,0.02%クロルヘキシジングルコンサン塩(ステリクロンR)2回2.16倍希釈したポビドンヨード(イソジンR)溶液40mlにて洗眼3.ドレーピング(テガダームR塗布)4.点眼麻酔耳側角膜切開3mmスカルプト法にて核乳化プリセットタイプアクリル眼内レンズを挿入.術終了時は,必要に応じ創口にハイドレーションを施行し,必ずwatertightにして終了する.(漏出がある場合には縫合する.)5.眼軟膏(ニューキノロン系)を点入し,翌日まで眼帯.結膜下注射は行っていない.研究3)で約0.049.0.345%,2004年に行われた日本眼科学会のアンケート調査4)では0.05%とされている.当院では,表5で示すように耳側角膜切開で手術を施行しているが,最近10年間で眼内炎を生じた症例は1眼のみであり,発症率は非常に低いと思われる.そのため,当院では,基本的に唯一眼であるからといって感染症に対して特別な対策は行っていない.角膜切開は,眼内炎の発症率が高いとする報告5)もあるが,筆者らは切開の種類よりも手術終了時における層の閉鎖が重要と考えている.そのため,唯一眼であっても,いつもどおり角膜切開で施行し,強角膜切開に変更したりすることはない.必ず手術終了時に切開創からの漏出がないことを確認し,watertightにして手術を終了し,必要とあれば縫合も躊躇せず行う.これは,通常の手術でも徹底していることだが,片眼失明症例では特に注意している.また,後.破損を生じると,術後感染の確率が有意に上昇するため6),特に唯一眼では注意を払うが,必要以上に慎重になりすぎると手術のリズムが崩れてしまうため,いつもどおりの手術を行うことに努めている.片眼失明患者の術後感染症は非常に恐ろしい合併症とは思うが,それを恐れるがあまり,手術の時期を逃すことは不利益かと考える.患者にも,感染症の説明は行うが,必要以上に誇張して不安をあおるようなことはしないようにしている.無論,万が一眼内炎を生じた際に緊急対応ができるように体制を整えておくこと,異変時にすぐ受診するよう患者教育を行うことが重要なことは言うまでもない.おわりに当院における片眼失明患者の傾向と,手術での取り組み方などについてまとめさせていただいた.リスクファクターの少ない患者については,合併症も少なく良好な結果を得ることが可能のため積極的に手術を施行してよいと考える.リスクファクターには,Zinn小帯脆弱に関連する疾患が多く認められたが,的確な処置により良好な結果を得ることが可能であった.しかし,このような症例では術後経過が術者の技量に左右されるため,客観的に自分の手術レベルをとらえ,少しでも自分の手術レベルに見合わないと感じるようであれば,熟練した術者へ託すことが重要と考えられる.文献1)西村栄一,陰山俊之,谷口重雄ほか:大学病院における1万例以上の小切開超音波白内障手術統計─術中合併症の検討─.眼科45:237-240,20032)IonidesA,MinassianD,TuftS:Visualoutcomefollowingposteriorcapsuleruptureduringcataractsurgery.BrJOphthalmol85:222-224,20013)EndophthalmitisStudyGroup,EuropeanSocietyofCata-ract&RefractiveSurgeons:Prophylaxisofpostoperativeendophthalmitisfollowingcataractsurgery:resultsoftheESCRSmulticenterstudyandidenti.cationofriskfactors.JCataractRefractSurg33:978-988,20074)OshikaT,HatanoH,KuwayamaYetal:IncidenceofendophthalmitisaftercataractsurgeryinJapan.ActaOph-thalmolScand85:848-851,20075)CooperBA,HolekampNM,BohigianGetal:Case-controlstudyofendophthalmitisaftercataractsurgerycomparingscleraltunnelandclearcornealwounds.AmJOphthalmol136:300-305,20036)WongTY,CheeSP:Theepidemiologyofacuteendoph-thalmitisaftercataractsurgeryinanAsianpopulation.Ophthalmology111:699-705,2004(33)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012181

強度近視眼の白内障手術

2012年2月29日 水曜日

強度近視眼の白内障手術CataractSurgeryforHighMyopia神谷和孝*はじめに強度近視とは,通常.6.0.Dを超える近視を指すが,白内障そのものによって近視化を生じたり,屈折度数も不明瞭になることから,白内障手術眼では眼軸長が26~27mm以上としている報告も認められる.白内障手術全体に占める強度近視眼の割合は約10~20%程度であり,決して少なくない.強度近視は白内障の危険因子であり1~3),核白内障や後.下白内障を合併することが多い.通常の白内障手術に比較して,術中前房が不安定となりやすく,Zinn小帯脆弱の合併もあり,難易度が高いと考えられる.強度近視眼に特有な黄斑疾患(近視性脈絡膜新生血管,近視性牽引黄斑症)や緑内障の合併も少なからず認めるため,術前評価に対しても注意が必要である.その一方で,強度近視眼の白内障手術は屈折矯正手術としての一面も有する.これは“RefractiveLensExchange”ともよばれ,眼内レンズの度数選択によって屈折異常を治すことが可能である.したがって,白内障手術だけでなく屈折矯正手術も行うこととなり,患者満足度は高いと考えられる4,5).本稿では,強度近視眼における白内障手術の現状とその問題点について概説する.I白内障の特徴壮年期から核白内障と後皮質中央部に混濁を生じやすく,進行すると周辺部へと拡大する5).核白内障が進行すると,近視化がさらに進行する(図1).通常の白内障図1強度近視に伴う核白内障近視化を生じやすく,核も見た目より硬いことが多い.手術より対象となる年齢が若く,両眼性は女性に,片眼性は男性に,それぞれ多い傾向がある6~8).II術前の注意点術前白内障そのものだけでなく,黄斑部病変,緑内障,周辺部眼底の評価が重要となる5,9).近視性脈絡膜新生血管(図2),近視性牽引黄斑症(図3),近視性視神経症(図4)などの有無について,細隙灯顕微鏡と前置レンズを用いて立体的に観察することが必要であり,光干渉断層計による評価や視野検査も有用である.近視性脈絡膜新生血管は強度近視眼の約1割に認め,活動期には灰白色病変とその周囲の出血を認め,瘢痕期には*KazutakaKamiya:北里大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕神谷和孝:〒252-0374相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(21)169図2強度近視に伴う近視性脈絡膜新生血管中心窩付近に灰白色病変および周囲の出血を認める.図3強度近視に伴う近視性黄斑牽引症変視症を訴える症例では,牽引の有無を光干渉断層計を用いて確認する.Fuchs斑とよばれる黒褐色の色素沈着を認める.近視性黄斑牽引症は後部ぶどう腫に合併しやすく,黄斑部に牽引性変化を認めるため,光干渉断層計による診断が有用である.近視性視神経症は,もともと視神経乳頭が傾斜していて判定がむずかしいため,できる限り視野検査を行っておくことが望ましい.網膜周辺部変性(図5),網膜硝子体癒着,網膜裂孔を伴う頻度が高いので,眼底の透見が可能な症例では,最周辺部まで眼底観察を行い,必要に応じて予防的網膜光凝固を行う.III術前生体計測術前生体計測として角膜屈折力および眼軸長の測定が必要になるが,通常,角膜屈折力はオートケラトメータ図4強度近視に伴う近視性視神経症乳頭周囲網脈絡膜萎縮およびlaminadotsignを認める.図5強度近視に伴う網膜格子状変性白内障により透見不良の症例では,術前だけでなく術後にも眼底周辺部の観察を行う.を,眼軸長は光学式眼軸長測定装置を,それぞれ用いることが多い.オートケラトメータは光束を網膜に投影し,網膜からの反射像をCCDカメラで受光し,演算処理することにより角膜屈折力や角膜曲率半径を算出する.いずれも複数回の測定を行い,再現性の高いデータを採用する.コンタクトレンズ装用者では,一定期間装用を中止した状態で測定を行う.眼軸長を測定するうえで,後部ぶどう腫を合併している症例では,眼軸長の誤170あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(22)差が生じやすく注意が必要である.その際,後部ぶどう腫を正確に検出するために,Bモードエコーも有用とされている10).また,通常眼鏡やコンタクトレンズによる矯正がどのような屈折度数であったかは,最適な度数決定を考えるうえで参考となる.IV眼内レンズ度数計算これまでさまざまな眼内レンズ度数計算式が提唱されているが,強度近視眼では度数ずれ(特に遠視化)が起こりやすいことが多く報告されている.Tsangら11)は,眼軸長25mm以上の症例でHo.erQ式,Holladay1式とSRK-T式,SRK-2式の順に予測性が高かったと,Narvaezら12)は,眼軸長26mm以上の症例でHolladay1,2式,SRK-T式,Ho.erQ式に有意差を認めなかったと,それぞれ報告している.Wangら13)は,眼軸長25mm以上の症例でHaigis式が最も精度が高く,Kap-amajianら14)は,マイナス度数を必要とするような極長眼軸長眼ではSRK-T式,Holladay1式,Ho.erQ式の順に精度が高かったと報告している.Petermeierら15)は,強度近視眼ではHaigis式やSRK-T式を推奨し,SRK-2式は使うべきでないとしている.Bangら16)は,長眼軸長眼では,Haigis式,SRK-T式,Holladay2式,Holladay1式,Ho.erQ式の順に予測精度が高く,いずれの計算式を用いても,目標設定度数より遠視化する傾向を認めたと報告している.注目したいのが,眼軸長が大きい症例ほど,有意に遠視化しやすかったことである.この結果から,術後正視狙いの症例では,眼軸長が27.00~29.07mmで.0.25~.0.75.D,29.07~30.62mmで.0.50~.1.00.D,31.62mm以上で.1.00~.1.75.Dを狙いとすること,さらに近視狙いの症例では,より近視ぎみを狙いとすることを推奨している.Haigis式は第四世代の計算式であり,光学式眼軸長測定装置IOLMasterTMによる術前前房深度と眼軸長を考慮して予測前房深度を算出しており,角膜曲率半径に依存しない.さらには,特定のサージャンや眼内レンズにより最適化することが可能である.第三世代の計算式であるHo.erQ式,Holladay1式,SRK-T式では薄肉レンズによる理論式から術後予測前房深度が計算されるが,眼軸長によってかなりのばらつきを生じる(図6).PredictedACD(mm)876543210眼軸長(mm)図6眼軸長と術後予測前房深度の関係Haigis式に比較してHo.erQ式,Holladay1式,SRK-T式では,眼軸長による術後前房深度にばらつきが多い.当然,短眼軸長眼では前房が浅く,長眼軸長眼では前房が深くなるので,予測前房深度へ影響すると考えられる.筆者らの施設では通常SRK-T式を使用しているが,経験的に遠視化を考慮に入れて一部補正を行っている.現時点ではSRK-2式は使わずに第三,四世代の計算式を用いるべきであるという点はほぼコンセンサスが得られており,いずれも各施設での臨床データを多数蓄積して経験的に補正をすることが望ましい.必要に応じてマイナス度数のレンズを選択する場合があるが,その際にA定数が異なることにも留意したい.ちなみに,ゼロ度数のレンズを選択する場合,理論的には+0.25.D遠視化するが,実際はそれ以上に遠視化しやすいことも報告されている.V目標屈折度数の設定目標屈折度数の設定に関しては,明確な基準は確立されていないが,現在でも“強度近視眼=.3.D狙い”としている施設も多いであろう.おそらく,“.3.Dに該当する焦点距離が読書距離に該当する”という理論的事実に基づくものと考えられる.強度近視眼では眼鏡なしに近業作業を望む症例が多いのは事実であるが,インターネットの普及などライフスタイルも多様化している現代では,コンピュータを使用する中間視も重要であり,すべての患者にこの概念を適用することは困難になっている.基本的には,本人の希望やライフスタイルを考慮す(23)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012171るが,術前眼鏡やコンタクトレンズによる矯正によって,どの程度の屈折状態であったかを確認することも参考となる.不同視を避ける観点からは,両眼手術が望ましい.Koraら17)は,目標屈折度数をコンタクトレンズによる矯正で0,.3,.5.Dに分類したところ,術後視力0.5以上の症例では38%が0.D,48%が.3.D,14%が.5.Dを希望し,0.1以下の症例では80%が.5.Dを希望したと報告している.Hayashiら18)は,術後目標屈折度数を.1,.1.5,.2.0,.2.5,.3.0.Dに分類し,近方・中間視を検討したところ,.2.0.Dが近方視や中間視を最も良好にすると報告している.強度近視眼では生活習慣上眼鏡装用をせずに近方や中間を見たい欲求が高い傾向にあり,単焦点眼内レンズ挿入後の偽調節が約1.5~2.0.D程度存在すること19~21)を考えると,“強度近視=.3.D狙い”は必ずしも最適な選択とはならないであろう.さらに,Sakaら22)は,強度近視眼では高齢者においても約30%は眼軸長の伸展が継続し,高齢者や後部ぶどう腫を合併している症例でその傾向が顕著であると報告しており,このことは術後さらに近視化傾向を生じる可能性を意味する.この点に関しても術前に十分な説明が必要であろう.1.両眼手術例中高年者で水晶体に混濁を認める症例では,両眼手術を行うことが多い.通常,近方視を重視して.2.0~.3.0.Dを選択することが多いが,筆者らの施設では,原則として.2.0~.2.5.Dを目標屈折度数としている.以前は.3.0.D狙いとしていたが,.2.0~.2.5.D狙いにしても,経験的に近方視への不満はほとんど認められず,中間視をより改善できるためである.特にパソコン作業などのデスクワークを行う症例では推奨される.Hayashiら18)は,.3.D狙いでは中間視において0.67以上は期待できないとしている.網脈絡膜萎縮などにより矯正視力が期待できない症例では.5.0.D狙いとして近方視を重視している.その他,比較的若年者で術前眼鏡やコンタクトレンズにより遠方矯正をしていて,術後視力が期待できる症例では,なるべく正視狙いとしている.2.片眼手術例若年者で僚眼の水晶体が透明な症例では,片眼手術を行う.術後の不同視を避けることは重要であるが,術前の矯正方法を確認しておく.以前からコンタクトレンズにより遠方矯正していた症例では,正視狙いとして,僚眼をコンタクトレンズとする場合もある.患者の希望に応じて僚眼をLASIK(laserinsitukeratomileusis)やphakicIOLなどの屈折矯正手術で対応することも考えたい.それらの希望がない場合,僚眼の屈折度数に合わせるか,不同視が生じない程度に近視を減らす.たとえば,両眼.5.Dの症例では,片眼手術を行う際.5.Dだけでなく.3.Dにする方法も試す価値がある.もちろん,術前シミュレーションを行う必要があるが,約2.D以内の屈折差は臨床的に許容できることが多い.自験例による検討では,50歳以上の有水晶体眼の自覚的調節力が平均2.24.Dであり,白内障術後の偽調節力が2.01.Dであったことから考えると,年齢に関しては,50歳代以降に調節力を期待して水晶体を温存するメリットは少ない23).VI眼内レンズ選択術後眼底周辺部の視認性を確保する立場からは,光学径の大きな眼内レンズが望ましい.多焦点眼内レンズやモノビジョンは,非強度近視眼に比較して満足度が低い傾向にあり,積極的には推奨しておらず,通常の単焦点眼内レンズを選択することが多い.強度近視眼では角膜乱視を合併する症例が多く,必要に応じてトーリック眼内レンズを選択することも有用である.ただし,強度近視眼では水晶体.が大きい傾向にあり,術後早期の回転ずれを生じる可能性があり,眼内レンズ後方にある粘弾性物質を十分に除去し,支持部の伸展を確認したい24).若年者で瞳孔径が大きい症例では,非球面眼内レンズを選択することもあるが,生来乱視が多い傾向にあるために角膜乱視が0.5.D以上あれば,非球面効果が期待できない場合も多い.VII術中・術後の注意点白内障手術中・術後に注意すべき事項として表1に示すような点が考えられる.術中前房が深くなりやすく,172あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(24)表1強度近視眼に対する白内障手術中・術後の注意点①強膜が薄いので早期穿孔する可能性があり,強膜切開は注意して行う.②前房が深くなりやすく,虹彩の牽引による疼痛を訴えることがあり,適宜Tenon.下麻酔を追加したり,灌流ボトル高を下げる必要がある.③Zinn小帯が細く脆弱なことがある.④逆瞳孔ブロックを生じる可能性がある.⑤核性白内障の合併が多く,みかけより核硬化が強い傾向にある.⑥硝子体液化が強く,破.した場合は核落下する可能性がある.⑦術後網膜.離の発症率が有意に高い.⑧術後ステロイドレスポンダーとなりやすい.虹彩の牽引による疼痛を訴えることがあり,適宜Tenon.下麻酔を追加したり,灌流ボトル高を下げる必要があること,術後網膜.離やステロイドレスポンダーとなりやすいことに留意しておきたい25).予測性の高い屈折矯正を行う観点からは,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)の前.のエッジを眼内レンズの光学部に均一にかかるようにし,中心固定を良好にすることによって,術後眼内レンズ位置(E.ectiveLensPosition)を安定化させて,屈折誤差を軽減することが可能である.フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術では,より予測性の高い屈折矯正が可能になるであろう.後.破損などで.外固定が必要な場合,約0.73~0.75mmレンズ位置が前方に偏位することから26,27),眼内レンズ度数に依存するものの約0~2.D程度近視化することが知られている.したがって,.内から.外へ変更する際,正常眼では通常1.D減らした度数を選択することが多い26)が,強度近視眼ではこの補正量を減らすべきである.Shammasら28)は,10.Dレンズであれば0.5.D,28.Dレンズであれば1.5.D減じることを推奨している.VIII術後屈折ずれへの対応これだけ術前バイオメトリーや眼内レンズ度数計算が向上した現在,大きな屈折ずれを生じるリスクはヒューマンエラーを除いてあまり考えにくい.しかしながら,実際に度数ずれを生じた症例に対して,われわれはどのような対応をとればよいであろうか?わずかな屈折ずれに対してはそのまま経過観察することも多いが,屈折ずれが大きく眼鏡矯正などにより患者の愁訴が解消されるのであれば,不満の原因が度数ずれによるものであり,何らかの介入が必要であろう.眼鏡やコンタクトレンズによる矯正以外の外科的対処法としては,下記のような方法が考えられる.1.エキシマレーザーによる追加屈折矯正(タッチアップ)エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術の安全性や有効性は,白内障術後においても確立されており,予測精度が最も高い29).したがって,エキシマレーザーを有する施設ではこの方法が最も推奨される.PRK(photo-refractivekeratectomy)とLASIKに大別されるが,いずれも角膜形状解析装置を用いて円錐角膜を除外しておく.矯正量が比較的少ない症例が多く,高次収差増加による視機能低下はほとんどなく,むしろ高齢者に対して術前自覚屈折度数を正確に測定することが,この手術を成功へと導く鍵となる.創傷治癒反応や屈折度数の安定を考慮して,原則として白内障術後3カ月以降に施行する.度数ずれが大きい症例では,角膜厚が十分にあること(術後予想角膜厚400μm,ベッド厚250μm以上)を確認しておく.2.眼内レンズ交換術後長期経過した症例では水晶体.と支持部の癒着が強く,Zinn小帯へのダメージや後.破損のリスクを伴い,新たな眼内レンズを挿入できない可能性がある.したがって,原則として術後早期(可能であれば2週間以内)を目安に眼内レンズ摘出・交換を考慮する.度数ずれが大きく術後早期に対応できる症例で有用と考えられるが,ある程度術者の経験や技量も必要となる.近視・遠視誤差に対しては,現在の眼内レンズに屈折誤差の1.3~1.5倍を足したあるいは引いたレンズを,それぞれ再度挿入する.または,再度角膜曲率・眼軸長(pseu-dophakicmode)を測定してレンズ素材に応じて補正する〔PMMA(ポリメチルメタクリレート):+眼内レンズ厚×0.44,シリコーン:+眼内レンズ厚×0.56,アクリル:+眼内レンズ厚×0.30〕方法がある.ただし,眼内レンズの素材が不明であると度数決定は困難となる.(25)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012173以前のレンズとまったく同じ位置に固定されるとも限らず,予測性は高くない.3.ピギーバック“レンズ上にレンズを乗せる”という意味で,眼内レンズを2枚入れる手術手技を指すが,白内障術後に追加レンズを挿入する方法(セカンダリーピギーバック)である.術後の自覚屈折状態によってレンズ度数を算出するものであり,最初に挿入された眼内レンズ度数や眼軸長が不明でも問題ない.基本的に近視が残存した症例ではマイナス度数のレンズを,遠視が残存した症例ではプラス度数のレンズを選択する.実際に近視症例に対しては,矯正したい等価球面度数をそのままレンズ度数として.外固定を行う.遠視化症例に対しては,矯正したい等価球面度数×1.5.Dあるいは矯正したい等価球面度数×1.4+1をレンズ度数とする.手術手技としては容易であり,予測精度はレンズ摘出・交換より高く,タッチアップより低い.合併症として,レンズ間の混濁(inter-lenticularopaci.cation),レンズ接着・変形,屈折ずれ(特に遠視化),UGH(uveitis-glaucoma-hyphema)症候群30)などが考えられる.アクリルレンズのような軟性レンズを2枚挿入すると,面状に接触してレンズの変形や効果の減弱が生じやすい.その他,本来有水晶体眼に使用されるVisianICLTM(StaarSurgical社)は,もともと毛様溝固定用に開発されたレンズであり,生体適合性が高い.レンズの厚みも通常のレンズの10~20分の1であり,ピギーバックレンズとしても有用である.レンズ形状は中央部が凸状であり,レンズとレンズの間にスペースを生じることで,レンズ間の混濁や変形が起こらず,屈折ずれも生じにくい.さらに,現在ではトーリックレンズにより乱視矯正も同時に行うことが可能であり,今後期待されるプラットフォームであろう.おわりに白内障手術の安全性が飛躍的に向上し,眼内レンズ度数計算の精度が向上した現在,白内障手術は屈折矯正手術としての一面も有する時代となっている.特に強度近視眼では屈折矯正手術のニーズは高く,正確な屈折矯正は患者満足度を高めるうえで重要と考えられる.強度近視眼に対して白内障手術を行う際に,多くの白内障サージャンにとって“屈折矯正手術としての意識が高い”とは言えないのが現状であろう.せっかく白内障手術を上手に行っても,屈折ずれを生じて患者が不満を感じるようでは,術者にとってもやりきれない状況である.患者満足度を最大限に向上させるためには,安全な白内障手術の遂行だけでなく,より精度の高い屈折矯正をできるだけ目指したい.日常生活において眼鏡やコンタクトレンズから開放される恩恵は,多くの眼科医が考える以上に大きい.医師の先入観や固定観念がこの恩恵の妨げとならないように,屈折矯正に対しても細心の注意を払い,患者に応じた最適な目標度数の設定とその遂行を心がけたい.文献1)LimR,MitchellP,CummingRG:Refractiveassociationswithcataract:theBlueMountainsEyeStudy.InvestOph-thalmolVisSci40:3021-3026,19992)WongTY,KleinBE,KleinRetal:Refractiveerrorsandincidentcataracts:theBeaverDamEyeStudy.InvestOphthalmolVisSci42:1449-1454,20013)LeskeMC,WuSY,NemesureBetalandBarbadosEyeStudiesGroup:Riskfactorsforincidentnuclearopacities.Ophthalmology109:1303-1308,20024)井上晃宏,宮崎賢一,石川伸之ほか:強度近視患者の白内障手術での術後眼鏡装用と術後満足度.眼臨紀4:527-530,20115)佐々木洋:強度近視眼の白内障.臨眼58:220-224,20046)WongTY,FosterPJ,HeeJetal:PrevalenceandriskfactorsforrefractiveerrorsinadultChineseinSingapore.InvestOphthalmolVisSci41:2486-2494,20007)PraveenMR,VasavadaAR,JaniUDetal:PrevalenceofcataracttypeinrelationtoaxiallengthinsubjectswithhighmyopiaandemmetropiainanIndianpopulation.AmJOphthalmol145:176-181,20088)ChenSN,LinKK,ChaoANetal:Nuclearscleroticcata-ractinyoungsubjectsinTaiwan.JCataractRefractSurg29:983-988,20039)大野京子:強度近視と白内障手術.IOL&RS24:407-412,201010)ZaldivarR,ShultzMC,DavidorfJMetal:Intraocularlenspowercalculationsinpatientswithextrememyopia.JCataractRefractSurg26:668-674,200011)TsangCS,ChongGS,YiuEPetal:IntraocularlenspowercalculationformulasinChineseeyeswithhighaxialmyopia.JCataractRefractSurg29:1358-1364,174あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(26)200312)NarvaezJ,ZimmermanG,StultingRDetal:AccuracyofintraocularlenspowerpredictionusingtheHo.erQ,Hol-laday1,Holladay2,andSRK/Tformulas.JCataractRefractSurg32:2050-2053,200613)WangJK,HuCY,ChangSW:Intraocularlenspowercal-culationusingtheIOLMasterandvariousformulasineyeswithlongaxiallength.JCataractRefractSurg34:262-267,200814)KapamajianMA,MillerKM:E.cacyandsafetyofcata-ractextractionwith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