監修=大橋裕一連載⑰MyboomMyboom第17回「吉田茂生」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)連載⑰MyboomMyboom第17回「吉田茂生」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す(●は複数回)自己紹介吉田茂生(よしだ・しげお)九州大学大学院医学研究院眼科学分野私は,平成5年に九州大学医学部を卒業後,九州大学眼科学教室に入局しました.2年間の臨床研修後に九州大学大学院へ進み,血管新生の分子機序についての分子生物学的研究を行いました.ちょうどヒトゲノムが完全解読される頃で,米国ミシガン大学眼科へ留学し,AnandSwaroop教授のもと,ゲノム医科学の研究を行いました.その後,福岡大学筑紫病院および九州大学病院で糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など網膜硝子体疾患の臨床・研究・教育を行っています.学生時代はラグビー部に所属していました.大学院,留学時代のmyboom:そうだ,ゲノムをやろう!九州大学大学院での学位論文のテーマはTNF(腫瘍壊死因子)-aの誘導する血管新生の分子機序の研究です.この研究は過去の文献をもとに血管新生に重要そうなTNF-aやIL(インターロイキン)-8など少数の分子を“勘で”選んでストーリーを作りあげたものでした.臨床に役に立つ研究をしたいと思って大学院に行ったわけですが,この仮説駆動型の研究で明らかにしたTNF-aの誘導する血管新生の分子機序は実際の患者さんで起こる血管新生をどのくらい説明できるかわかりませんでした.同じ時期に,連鎖解析を用いた全ゲノムにわたるスキャンで角膜や黄斑ジストロフィなどの遺伝性眼疾患の(93)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY原因遺伝子の報告が増えはじめました.患者さんの血液サンプルを研究の出発点として明らかになった原因遺伝子は従来の病態予想から思いつかなかった遺伝子も多く,ゲノム情報を基盤に体系的にスクリーニングすることが,真に患者さんに役立つ病態の解明に重要だと感じました.そこで,留学ではゲノム医科学を勉強したいと思い,当時ミシガン大学で精力的に研究されていたDr.Swaroopにメールを送り,researchfellowとして採用してもらいました.ちょうどヒトゲノム配列がほぼ解読され,遺伝子の構造や機能の情報が加速度的に蓄積された時期でした.Dr.Swaroopには西海岸のソーク研究所にも派遣してもらい,米国の豊富な資金と人手を投入した研究を目の当たりにしながら,網膜の発生や加齢の網羅的遺伝子発現解析に従事しました.留学から帰国後のmyboom:そうだ,網膜上増殖組織の網羅的遺伝子発現解析をやろう!日本に帰って臨床の傍ら限られた時間と人手で研究をするにあたって,ゲノム医科学的手法を基盤として,それまでに誰も行っていない研究をしようと考えました.そこで考えたのが臨床研究医ならではの患者サンプルを用いた研究,網膜上増殖組織(以下,増殖組織)の網羅的遺伝子発現解析です.糖尿病網膜症(DR)や増殖硝子体網膜症(PVR)などの増殖性網膜硝子体疾患は近年の硝子体手術の進歩にもかかわらず患者さんの視機能を十分に保持できない難治例が存在し,その主要病態である網膜上増殖組織の発生進展のメカニズム解明は意義深いと考えました.しかし,増殖組織は極小検体であり,網羅的遺伝子発現解析が可能かどうかわかりませんでしたが,試行錯誤の末,網膜での発現がほとんどなく,増殖組織で有意にあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013815〔写真1〕研究室の新年会の集合写真高発現である増殖組織特徴的遺伝子の抽出に成功しました.このうちペリオスチンという遺伝子が,その後の解析で増殖組織の進展に重要であることがわかりました.ちょうど同じ時期に,血管内皮増殖因子(VEGF)という単一の分子を標的とした薬剤が臨床応用されました.私達も増殖組織特徴的遺伝子のうちペリオスチンを第一の標的として,VEGFに次ぐ分子標的薬の創製を試みることにしました.ペリオスチンは網膜での発現がほとんどないため,その分子標的薬は副作用の少ない増殖抑制薬になると期待しています.現在のmyboom:日本発ペリオスチン分子標的薬の創製現在RNA干渉を用いたペリオスチン分子標的薬の創製を試みています.RNA干渉は,生体内で特殊なRNAによる遺伝子発現が抑制される現象です.標準的なRNA干渉医薬は,この生体機構を利用し人工的に二本鎖RNAを導入することで,疾患の原因となる蛋白質の産生を妨げることで治療を試みるものです.一方で最近,自身が折りたたまれることによりあたかも二本鎖RNAのようにふるまう一本鎖長鎖RNA核酸(nkRNA)が日本で開発され,このプラットフォームを用いたペリオスチン分子標的薬の開発を行うことにしました.すでにペリオスチンを効果的に抑制する配列を確定し,マウス網脈絡膜線維血管増殖を抑制することを確認できました.実際に治療薬の臨床応用を大学だけで完遂するのは困難で,産学官の連携が必要です.ペリオスチン核酸医薬を実現するためにベンチャー企業のアクア・テラピュー816あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013ティクスが設立されました.また本研究は,文部科学省所管の科学技術振興機構により研究成果展開事業・研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)に採択されました.さらに,オープンイノベーション(組織の枠組みを越え,広く知識・技術の結集を図ること)により次世代の国富を創出することを目的として設立された政府系のファンドである産業革新機構からの支援を受けることも決まりました.がんばれ!ニッポン!私達の一連の仕事は,雑誌AERAや読売新聞で紹介されました.これまで患者さんの治療予後向上に貢献したいと思って臨床研究をしてきましたが,最近の日本をとりまく環境は変化しています.日本経済新聞によると,2011年の貿易赤字は2.5兆円でそのうち医薬品が1.4兆円と「陰の主役」となっており,日本の医療を支える税金と保険料が海外に流れ出しているのが現状です.読売新聞では私達の仕事はトップ記事で紹介され,研究成果を社会還元することに対する社会の期待が大きいと実感しました.今まで育ててくれた日本社会への恩返しの意味でも,日本発の次世代医薬開発へ向けた挑戦を続けていきたいと思います.眼科医として20年目を迎え,後進の指導も重要な仕事の一つになりました.一連の仕事を続けていくうちに,少しずつ一緒に研究をしてくれる大学院生が増えてきました.嬉しいことには,一連の研究をしてくれた石川桂二郎君,有馬充君,山地陽子君の3名が日本学術振興会特別研究員に合格しました.彼らが日本の未来の眼科の進歩に貢献する研究者に成長することを願っています.先行き不透明なニッポンの未来を明るくするのは一にも二にも志ある若者達です.高い志をもった眼科臨床研究医を一人でも多く育てたい,それが私の今の(これからも?)最大のmyboomです.次のプレゼンターは島根大学の兒玉達夫先生です.ミシガン大学に留学中に一緒に仕事をした仲間で,サッカーをはじめ多趣味な先生です.御期待ください!注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(94)