特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):731.737,2013特集●神経眼科MinimumRequirementsあたらしい眼科30(6):731.737,2013視神経炎をみたらViewsofOpticNeuritis毛塚剛司*はじめに視神経炎は比較的まれな疾患ではあるが,初期対応を間違うと不可逆的な経過をたどり,視力予後に悪影響を及ぼすことがある.今回,視神経炎と診断するための検査の進め方,さらに視神経炎と診断されたら,どのような治療方針を立てて経過観察を行うのか述べたいと思う.I視神経炎の疫学と病因視神経炎は,日本人の成人人口10万人に対して年1.6人の割合で発症する疾患である1).通常の視神経炎は特発性のことが多いが,ウイルス性,細菌性,自己免疫性など多岐にわたる.日本における特発性視神経炎トライアルでの年齢分布は,14.55歳の患者が65.9%と多くを占め,若年から壮年期に多い疾患であることが窺える.一方,抗aquaporin4(AQP4)抗体陽性視神経炎では,9:1で女性が多く,また壮年期から高齢の方によくみられる.視神経炎には,病因として種々の疾患が関与していることがあるため,視力低下をきたす前の感冒症状や頭痛など眼外症状を問診することが必要である(表1).さらに毒物や環境物質由来の視神経症を除外するために,職業の内容にも留意する必要がある.視神経炎は,外傷によるものや鼻性視神経症などの圧迫性によるものも考慮に入れなければならない.外傷の既往がある場合には視束管骨折に併発する視神経腫脹の可能性があり,眼窩表1視神経炎を疑った場合の問診内容・感冒や頭痛の有無・職業の内容・外傷の既往・副鼻腔炎などの耳鼻咽喉科領域疾患CT(コンピュータ断層撮影)で的確な診断が必要である.副鼻腔炎の術後では,術後.胞や肉芽により視神経を圧排している可能性も考えられる.このように,視神経症が炎症ではない場合,すなわち視神経炎ではない場合も考慮して診断を確定しなければならない.II視神経炎に必須の問診検査の前には,視神経炎を起こす可能性のある病因を念頭に置き,問診を行わなければならない.自覚症状としての眼球運動痛(視神経炎の50%程度に存在する)や,多発性硬化症によくみられる,運動時もしくは風呂上がりなどの体温上昇時における視力低下や眼痛(Uhthoffsign;ウートフ徴候)や,眼外症状として手足のしびれ,しゃっくり,嗄声なども良い補助診断となる.小児によく起こるウイルスなどの感染症に続発する視神経炎は,先行する感冒症状が重要なキーとなる.梅毒性視神経炎を疑った場合の皮膚症状の聞き取り,ネコひっかき病におけるネコの接触の有無も眼所見を検索した後に聞き直す必要がある.*TakeshiKezuka:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(9)731III視神経炎の重要な臨床所見とそれに伴う検査所見視神経炎を診断するのに必要な検査とその所見を下記に述べる.診察室で可能な簡便な検査からMRI(磁気共鳴画像)のような画像診断まで種々にわたる.初期に必ず行う必要があるのは,相対的瞳孔求心路障害(RAPD:表2視神経炎を診断するために必要な検査初期(必須)項目・RAPDの有無のチェック・眼底所見・CFF・造影MRI可能なら早期に行う項目・血清における抗体および感染症チェック・蛍光眼底造影可能なら行う項目・三次元画像解析(OCT)・視覚誘発電位(VEP)ababrelativeafferentpupillarydefect)の有無のチェック,眼底所見,限界フリッカ値(CFF:criticalflickerfrequency),造影MRIである.引き続き,血清における抗体および感染症チェック,蛍光眼底造影を行う(表2).1.RAPD視神経炎では,暗所でswingingflashlighttest(交互点滅対光反射試験)を行い,対光反射を確認することが重要である.左右交互に光を当て,患眼に光を当てると両眼ともに散瞳し,僚眼に光を当てると縮瞳する反応である.急性期や亜急性期ではRAPDが陽性となる.2.眼底所見視神経炎は,視神経乳頭が発赤腫脹する視神経乳頭炎パターン(図1a,b)と視神経乳頭の発赤がない球後視神経炎パターンがある.抗AQP4抗体陽性視神経炎では,特に球後視神経炎パターンが多く見受けられるが,図2図1視神経乳頭炎患者の眼底像a:視神経乳頭の発赤腫脹がみられる.b:蛍光眼底造影上,視神経乳頭に一致して過蛍光がみられる.図2抗AQP4抗体陽性視神経炎の眼底像a:視神経乳頭の発赤腫脹がみられる.b:蛍光眼底造影上,視神経乳頭に一致して過蛍光がみられる.732あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(10)に示す病変では蛍光眼底造影上,視神経乳頭が過蛍光である.3.VEPにおける潜時延長視神経炎が強く起こり,視神経の神経損傷がある程度進んだ場合,視覚誘発電位(visualevokedpotential:VEP)のP100潜時が延長して振幅が低下する.VEPの潜時延長は,急性期には起こらず,発症後1カ月以上経過した後にみられることが多い.VEP潜時が延長した場合,視神経内の神経損傷は不可逆的であると考えられている.4.OCT(opticalcoherencetomography)におけるGCL(ganglioncelllayer)の菲薄化三次元眼底像を解析することにより,視神経炎の既往が推察できる.視神経乳頭の形状解析や網膜中心厚,さらに神経節細胞層(GCL)の菲薄化を解析することにより,以前罹患した視神経炎の障害の程度が推測可能となる(図3).ただ,急性期の病態にはあまり反映しないため,寛解期のスクリーニングとして活用するほうが良いと思われる.5.造影MRIMRIは視神経-視交叉を中心に撮るなら冠状断で,baILM-RPEThickness(μm)MaculaThickness:MacularCube512x128HoursRNFLandONH:RNFLQuadrantsRNFLClockOpticDiscCube200x200RNFLThickness図3黄斑および視神経周囲網膜における三次元画像解析a:中心窩を除く黄斑部で菲薄化が認められる.b:視神経周囲網膜でも菲薄化をきたしている.視交叉以後の視路を知りたいなら水平断で撮像する(図4).単純MRIでは視神経萎縮が高信号となることがあるので,可能な限りガドリニウム造影MRIを行う.また,STIR(short-T1inversionrecovery)法やT2脂肪抑制画像で視神経に沿った高信号を確認する.図4に示すのは,T2脂肪抑制で撮像した眼窩MRIである.abc図4抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎におけるMRIT2強調脂肪抑制画像a:冠状断で右眼視神経の高信号を認める(矢印).b:水平断で右眼視神経の複数部位での高信号を認める(矢印).c:矢状断で頸椎の高信号を認める(矢印).(11)あたらしい眼科Vol.30,No.6,20137336.CFFCFFは,視神経の機能評価に有用で簡便な検査である.通常,35Hz以上が正常であるが,視神経炎では20Hz未満となる.ぶどう膜炎による視神経腫脹では,25.30Hzと軽度の低下に留まる.これは,おそらくぶどう膜炎の視神経線維の障害が特発性視神経炎と比較して軽微だからだと思われる.7.抗体検査を含む血液検査血算と生化学検査は視神経炎の原因同定には必須の検査である.貧血もしくは白血病でも視神経の腫脹は起こりうる.また,腎機能障害でも視神経障害をきたすことがある.下記に詳しく述べるが,梅毒による血液検査も重要である.ステロイド薬抵抗性の視神経炎では,一定の割合で抗AQP4抗体陽性視神経炎がみられるため,視神経炎と診断されたら,早急に抗AQP4抗体測定を行わなければならない.現在SRLでも抗AQP4抗体の測定依頼が可能だが,直接コスミックコーポレーションで受託測定を行っており(http://www.cosmic-jpn.co.jp/contractservice/contract_service.html),2週間以内に結果が判明するので,急いでいる場合には後者を選択すると良い.抗AQP4抗体が陽性の場合には,他の膠原病が陽性のことが多いので,抗核抗体や抗サイログロブリン抗体などの抗甲状腺抗体,抗SS-Aや抗SS-B抗体などのSjogren症候群に対する血清抗体を測定してもよいと思われる.IV視神経炎と間違えやすい疾患鑑別診断としていくつかの視神経に所見がみられる疾患をあげたいと思う.特にぶどう膜炎や腫瘍,眼窩疾患からの波及による炎症に注意が必要である.1.Vogt.小柳.原田病Vogt-小柳-原田病(VKH)は,肉芽腫性ぶどう膜炎の型をとるが,視神経腫脹をきたすことが多いため,視神経炎と間違えやすい(図5).視神経炎では眼痛を伴うことが多いが,VKHでは頭痛や項部硬直を伴うことがあるも眼痛はほとんどない.VKHでは,他に眼外症状として難聴,白髪化,皮膚の白斑などをきたす.VKHは,前部ぶどう膜炎をきたす前に視神経腫脹が先行することがあるので,視神経炎と混同しやすい.鑑別のための検査には,蛍光眼底造影で視神経からの蛍光漏出の他に,網膜への蛍光色素のpoolingなど網膜病変の検出が重要である.先述したが,VKHではCFFが軽度低下に留まることも特徴の一つである.2.梅毒による視神経網膜炎感染による視神経炎の一種とも考えることもできるが,通常の視神経炎とは異なり,ステロイド薬治療が第一選択ではないため,鑑別疾患としてしっかり考慮に入れておく必要がある.梅毒は網膜血管炎を伴うことが多いため,当疾患が疑われた場合には蛍光眼底造影が必須である(図6).筆者らの施設では,視神経炎を疑った場合にはスクリーニング検査として,梅毒の検査法である図5Vogt.小柳.原田病の眼底像a:右眼,b:左眼.両眼の視神経乳頭の発赤腫脹および漿液性網膜.離を認める.ab734あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013(12)図6梅毒性視神経炎の眼底像a:視神経乳頭の腫脹を認める.b:蛍光眼底造影で視神経乳頭に一致して過蛍光を認める.図7視神経乳頭周囲髄膜腫a:視神経乳頭は蒼白浮腫をきたしており,シャント血管を認める(矢印).b:MRIT2強調脂肪抑制画像で,tram-tracksignを認める(矢印).abab脂質抗原試験(STS:serologicaltestsforsyphilis)やTPLA(toreponemapallidumlateximmunoassay)を測定している.初期治療は副腎皮質ステロイド薬を用いず,ペニシリン製剤(サワシリンRなど)のみを投与する.3.視神経周囲髄膜腫若年から壮年期の女性において,視神経腫脹をきたす疾患として注意が必要である.視神経の発赤腫脹をきたす通常の視神経炎と異なり,蒼白腫脹に近い外観を呈する.視神経からのshuntvessel(シャント血管)がみられることが多い(図7a).眼窩CTやMRIでは“tramtracksign”がみられる(図7b).比較的まれな疾患であるが,進行した場合には治療がむずかしい.V視神経炎の治療―まず何を行うか―1.ビタミンB12療法視神経炎と診断しても視力低下が軽度の場合には,自(13)然軽快もありうるので,メコバラミンなどのビタミンB12製剤を投与する.視力が0.1以下に低下した場合には,自然に軽快するとしても時間がかかるので,ステロイド薬の大量点滴療法を行う.米国において以前行われた視神経炎におけるステロイド薬治療に対するトライアルでは,1)ステロイド薬点滴療法は視力の回復を早めること,2)ステロイド薬内服療法は再発を2倍にすること,3)自然経過では93%の症例で視力が0.5以上に回復し,一方で患者の30%は5年以内に多発性硬化症を発症することが判明した2.4).米国に引き続き日本においても同様に視神経炎の治療に関する多施設トライアルが行われ,ステロイドパルス療法は視神経炎の回復速度を速めるが,最終的な視機能はプラセボ群と変わらないことや,視神経炎の約6.9%の症例では発症後1年経過しても視力が0.2以下にとどまることなどが判明した5,6).これらのことから,特発性視神経炎が疑われた場合には,安易に副腎皮質ステロイド薬の経口投与を行わず,重篤な視力低下をきたした視神経炎の治療にステあたらしい眼科Vol.30,No.6,2013735ロイドパルス療法が必要であると思われる.2.ステロイドパルス療法ステロイドパルス療法は通常ソル・メドロールR1,000mg3日間静脈投与を行う.後療法として,プレドニゾロン0.5mg/kg/dayからの内服療法を開始する.1週間ごとに当初は10mgずつ漸減,20mg以下となったら5mgずつ漸減していき,投与を中止とする.ただし,抗AQP4抗体陽性視神経炎のように,抗体が再度産生されると再発する可能性がある場合は,プレドニゾロン10mg/dayに加えて別項目に示す免疫抑制薬を投与することもある.一方,胃潰瘍の既往がある場合には,消化性潰瘍用薬を処方する.ステロイドパルス療法は,全身にかなりの負担をかけるため,胸部X線や心電図,梅毒や肝炎に対する血清抗体など基本的な検査を事前に行っておいたほうが安心である.万が一,ヘルペス感染症が認められた場合,ステロイドパルス療法後にヘルペス脳炎を発症する可能性があるため,筆者らの施設では念のために血清ヘルペス抗体価(herpessimplexvirus,varicellazostervirusにおける抗体)も測定している.視力低下が投与後も継続するようなら,筆者らの施設では4.5日空けて再度ステロイドパルス療法を予定する.ステロイドパルス療法を行っても視力低下が継続し,視力回復が見込まれない場合は血漿交換療法を考慮する.ステロイド薬の反応性が非常に悪いと感じた場合,ステロイドパルス療法を1クール施行後に血漿交換療法を導入することもある.この場合は,比較的早期に長期間にわたる治療に踏み切るということもあり,神経内科や腎臓内科との入念な検討が必要となる.3.血漿交換療法血漿交換療法に踏み切る前に,抗AQP4抗体の存在を確認しておく必要がある.このために特発性視神経炎が疑われ,ステロイドパルス療法の施行を予定した際に抗AQP4抗体を迅速に測定することが望ましい.血漿交換療法にはいくつか方法があり,大きく分けて単純血漿交換,二重膜濾過血漿交換,免疫吸着療法があげられる.先にあげたものほど治療効果が大きくなる736あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013が,体の負担も大きくなる.先述のように,血漿交換療法を行うときには神経内科と腎臓内科と連携して行う必要がある.そのうえ,血中の免疫グロブリン量が一定量に回復しないと退院させることがむずかしいので,患者は2カ月前後の入院を強いられることになる.さらに血漿交換療法は保険適用外診療となるため,血漿交換療法の導入には慎重にならざるをえない.幸い,本年(2013年)4月より複数の施設で,ステロイド薬抵抗性視神経炎に対して免疫グロブリン大量療法(IVIg)の臨床治験が開始された.この治験で良好な成績が得られれば,免疫グロブリン大量療法は,将来的に血漿交換療法に代わる治療法として普及するものと思われる.4.免疫抑制療法アザチオプリンなどの免疫抑制療法は,抗AQP4抗体陽性視神経炎の血漿交換療法後に後療法としてプレドニゾロンとともに用いることがある.これは,抗AQP4抗体陽性視神経炎の患者が女性に多く,壮年期から高齢期に多発することから,免疫抑制薬を併用してステロイド薬の用量を減量するよう働きかける必要があるためである.免疫抑制薬を併用すれば,骨粗鬆症などの副作用を避けるためのステロイド薬の早期離脱が可能となる.おわりに視神経炎における診断と治療に対する一般的な注意点を中心に述べた.この古くから知られている疾患である視神経炎は,抗AQP4抗体の関与が明らかになるにつれて新たな概念が確立されつつある.また,保険適用外治療となる血漿交換療法に頼らない,次世代の治療法が普及されることを願ってやまない.文献1)石川均:日本における特発性視神経炎トライアルの結果について.神経眼科24:12-17,20072)BeckRW,OpticNeuritisStudyGroup:TheOpticNeuritisTreatmentTrial.ArchOphthalmol106:1051-1053,19883)OpticNeuritisStudyGroup:Theclinicalprofileofacuteopticneuritis:experienceoftheOpticNeuritisTreatmentTrial.ArchOphthalmol109:1673-1678,19914)BeckRW,ClearyPA,AndersonMMJretal:Arandom(14)ized,controlledtrialofcorticosteroidsinthetreatmentofacuteopticneuritis.TheOpticNeuritisStudyGroup.NEnglJMed326:581-588,19925)WakakuraM,Minei-HigaR,OonoSetal:BaselinefeaturesofidiopathicopticneuritisasdeterminedbyamulticentertreatmenttrialinJapan.OpticNeuritisTreatmentTrialMulticenterCooperativeResearchGroup(ONMRG).JpnJOphthalmol43:127-132,19996)若倉雅登:視神経炎治療多施設トライアル研究の概要.神経眼科15:10-14,1998(15)あたらしい眼科Vol.30,No.6,2013737