‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の成績

2013年1月31日 木曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(1):107.111,2013c線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の成績有本剛丸山勝彦土坂麻子後藤浩東京医科大学眼科学教室OutcomeofTransconjunctivalScleralSuturingforLate-OnsetBlebLeakageFollowingTrabeculectomyGoArimoto,KatsuhikoMaruyama,AsakoTsuchisakaandHiroshiGotoDepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversityマイトマイシンC併用線維柱帯切除術後晩期に無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で低眼圧を生じた6例6眼に対して経結膜的強膜縫合を行った.縫合前眼圧は3.5±2.3(レンジ:0.6)mmHg,線維柱帯切除術から縫合までの期間は15カ月.30年であった.10-0ナイロン丸針を用いて房水漏出部位を結膜上から強膜に達するまで通糸し結紮した.縫合1週間後の眼圧は9.2±5.8(3.20)mmHg,1カ月後は7.8±6.2(2.19)mmHgであった.縫合後,1眼を除いてニードリングや経結膜的強膜縫合の追加を要した.最終的に房水漏出は2眼で消失し,これらの症例の最終観察時の眼圧(経過観察期間)はそれぞれ3mmHg(21カ月),14mmHg(24カ月)で,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離は認めなかった.房水漏出に伴う低眼圧が改善しなかった4眼に対しては観血的手術を施行した.Weevaluatedtheefficacyoftransconjunctivalscleralsuturing(TCSS)forthemanagementoflate-onsetblebleaksaftertrabeculectomywithmitomycinC.Sixeyesof6patientswithhypotonycausedbyavascularblebleakageunderwentTCSSusinga10-0nylonsuturewitharound,taperedneedle.TheperiodbetweentrabeculectomyandTCSSrangedbetween15monthsand30years.Theintraocularpressure(IOP)(mean±standarddeviation),3.5±2.3mmHg(range:0-6mmHg)beforeTCSS,was9.2±5.8mmHg(range:3-20mmHg)at1weekand7.8±6.2mmHg(range:2-19mmHg)at1monthafterTCSS.Fivecasesrequiredneedlerevisionand/orTCSStotreatpersistentblebleakage,whereastheblebleakageresolvedin2cases.TheIOP(follow-upperiod)inthese2caseswas3mmHgat21monthsand14mmHgat24months.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):107.111,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,濾過胞,晩期,房水漏出,経結膜的強膜縫合.trabeculectomy,late-onset,blebleak,transconjunctivalscleralsuture.はじめに線維柱帯切除術後の晩期房水漏出は無血管性濾過胞を有する症例に生じやすく1),その頻度は1.10%とされ2),マイトマイシンCなどの代謝拮抗薬を併用した場合にはさらに高頻度になることが知られている3).房水漏出の存在は濾過胞関連感染症の発症リスクを高めるだけではなく4),低眼圧による視力低下,ならびに浅前房に伴う角膜内皮障害や白内障発生の原因となるため濾過胞の修復を要する.房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する処置として,これまで遊離結膜弁移植術5),結膜前方移動術6),羊膜移植術7),血清点眼8),コンタクトレンズ装用9),濾過胞内自己血注入10)などが報告されているが,低侵襲性かつ確実性の高い方法はなかった.結膜上から強膜を直接縫合する経結膜的強膜縫合は,線維柱帯切除術後の過剰濾過に対する処置として報告された手技である11).この経結膜的強膜縫合は,房水漏出部に行うことによって瘻孔部にかかる圧力を減弱させ修復を促すことができるため,線維柱帯切除術後晩期に房水漏出をきたした症例に対しても有効である可能性があるが,これまで報告されて〔別刷請求先〕有本剛:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室Reprintrequests:GoArimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoMedicalUniversity,6-7-1Nishi-Shinjuku,Shinjuku-ku,Tokyo160-0023,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(107)107 はいない.今回,線維柱帯切除術後の晩期房水漏出に対して経結膜的強膜縫合を行い,有効性と安全性を検討したので報告する.I対象および方法マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後,無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で6mmHg以下の低眼圧をきたし,経結膜的強膜縫合を施行した6例6眼について診療録をもとに後ろ向きに調査した.対象の背景を表1に示す.縫合前眼圧は3.5±2.3mmHg(平均±標準偏差)で,症例2では脈絡膜.離を,その他の症例では低眼圧黄斑症を認めたが,角膜内皮と虹彩が接触するほどの浅前房をきたしていた症例はなかった.また,線維柱帯切除術での結膜弁作製方法は症例2のみ輪部基底結膜弁で,他の症例は円蓋部基底結膜弁であった.なお,いずれの症例も経結膜的強膜縫合前に房水漏出に対する処置は行われていなかった.無血管性濾過胞は細隙灯顕微鏡による観察で表面が白色調に透き通り湿潤で,血管が観察されない濾過胞と定義した.また,房水漏出は細隙灯顕微鏡の青色光による観察で判定し,湿ったフルオレセイン試験紙を濾過胞壁に静かに接触させ,濾過胞を圧迫しなくても漏出点から自然に房水が漏出する場合を陽性とした.経結膜的強膜縫合は以下のような方法で行った.リドカイン点眼液(キシロカインR点眼液4%,アストラゼネカ)による点眼麻酔後,クロルヘキシジングルコン酸塩(ステリクロンRW液0.05,健栄製薬)による消毒を行い,バラッケ氏開瞼器で開瞼を行った.続いて細隙灯顕微鏡で観察しながら滅菌綿棒で濾過胞を圧迫し濾過胞丈を減少させ,ただちに10-0ナイロン丸針(10-0針付縫合糸ナイロンブラック・モノ,品番1475,マニー)を用いて房水漏出部位を結膜上から強膜に達するまで通糸,結紮した(図1).その後,房水漏出が持続あるいは再発した場合には経結膜的強膜縫合を追加し,濾過胞の限局化が強い症例に対してはニードリングを行って濾過胞境界の癒着組織を切開し濾過胞内圧の減圧を試みた.縫合後はレボフロキサシン点眼薬(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬)とベタメタゾン酸エステルナトリウム液(リンデロンR点眼・点耳・点鼻液0.1%,塩野義製薬)の点眼を1日4回行い,適宜漸減した.経結膜的強膜縫合を行った翌日と,縫合後1カ月間は1週間ごとに,その後は1カ月ごとの診療記録を調査した.II結果各症例の縫合後の経過を示す(表2).初回の経結膜的強膜縫合後1カ月まで追加処置を行った症例はなく,縫合1週間後の眼圧は9.2±5.8mmHg,1カ月後は7.8±6.2mmHgであった(平均±標準偏差).症例1は経結膜的強膜縫合後,房水漏出は消失したが縫合後6.12カ月の間に眼圧が高度に上昇したため眼圧下降目的のニードリングを計6回施行し,その後は最終観察時まで眼圧調整は良好であった.症例2は,1回目の経結膜的強膜縫合で一度房水漏出は消失したものの,縫合21カ月後に再度房水漏出をきたして低眼圧となったため経結膜的強膜縫合を追加し,その後は最終受診時まで房水漏出の再発はみられなかった.症例3は,初回の経結膜的強膜縫合直後は房水漏出が消失したものの経過とともに再発を繰り返し,縫合1週後に経結膜的強膜縫合を1回と,縫合1.6カ月の間に濾過胞内圧の減圧を目的としたニードリングを計3回追加した.その結果,最終的に房水漏出が消失しなかったため縫合後12カ月で結膜前方移動術を行った.症例4は経結膜的強膜縫合後も房水漏出が消失せず,縫合後2カ月で結膜前方移動術を,15カ月で水晶体再建術を行った.症例5は,縫合後1カ月で濾過胞内圧の減圧目的のニードリングを1回施行したが房水漏出が持続したため,縫合2カ月後に観血的手術を追加した.手術術式は,限局化した濾過胞の濾過胞境界に増殖した結合組織を切開する目的で,濾過胞再建用ナイフ(BlebknifeIIR,カイインダストリ表1対象の背景症例年齢性別左右病型*緑内障手術以外の手術既往期間縫合時眼圧線維柱帯切除術.房水漏出房水漏出.経結膜的強膜縫合178歳女性左SG水晶体再建術全層角膜移植4年0カ月1カ月0mmHg284歳男性右POAG水晶体再建術30年0カ月1カ月6mmHg362歳男性左POAG水晶体再建術1年3カ月1カ月5mmHg465歳女性右POAGなし5年3カ月1カ月2mmHg570歳男性左NVG水晶体再建術硝子体切除術1年7カ月3カ月3mmHg666歳男性右SG水晶体再建術5年0カ月2カ月5mmHg病型*SG:ぶどう膜炎に伴う続発緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障,NVG:血管新生緑内障.108あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(108) abcd図1房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する経結膜的強膜縫合例a:縫合前,b:房水漏出を認める,c:縫合直後,d:最終観察時(ニードリングならびに経結膜的強膜縫合追加後).表2縫合後の経過症例縫合1週後眼圧縫合1カ月後眼圧縫合後追加処置(回数)房水漏出の転機追加した観血的手術経過観察期間19mmHg8mmHgニードリング*(6)消失なし21カ月‡220mmHg19mmHg経結膜的強膜縫合(1)消失なし24カ月‡39mmHg10mmHgニードリング†(3)経結膜的強膜縫合(1)持続濾過胞前方移動術12カ月¶48mmHg5mmHgなし持続濾過胞前方移動術水晶体再建術2カ月¶53mmHg3mmHgニードリング†(1)持続ブレブナイフによる濾過胞再建術2カ月¶66mmHg2mmHgニードリング†(1)持続緑内障チューブシャント手術5カ月¶*:高度眼圧上昇に対するニードリング,†:濾過胞内圧の減圧目的のニードリング,‡:縫合から最終経過観察期間,¶:縫合から観血的手術追加までの期間.ーズ)を用いた濾過胞再建術とした.症例6も縫合後1カ月能を消失させたうえで,他部位に緑内障フィルトレーションで濾過胞内圧の減圧目的のニードリングを1回施行したが房デバイス(アルコンエクスプレスR,日本アルコン)による水漏出が改善せず,縫合5カ月後に観血的手術を行った.本緑内障チューブシャント手術を行った.症例は無血管性濾過胞が広範囲で結膜前方移動術の施術が困このように,経結膜的強膜縫合後,症例4を除く6眼中5難だったため,経結膜的強膜縫合により元の濾過胞の濾過機眼には追加処置が必要となり,その結果,房水漏出は6眼中(109)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013109 2眼(症例1,症例2)で消失し,房水漏出が消失した症例の最終観察時眼圧ならびに経過観察期間はそれぞれ3mmHgと14mmHg,21カ月と24カ月で,低眼圧黄斑症や脈絡膜.離は認めなかった.なお,全経過を通じて処置に伴う結膜損傷や濾過胞関連感染症をきたした症例はなかった.III考按マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後晩期に無血管性濾過胞からの房水漏出が原因で低眼圧をきたした6例6眼に対して経結膜的強膜縫合を行った結果,経結膜的強膜縫合の追加やニードリングなどの処置の併用は要したものの,2眼では房水漏出が消失し観血的手術の追加を回避することができた.房水漏出に対する低侵襲な処置として,血清点眼8)やコンタクトレンズ装用9),濾過胞内自己血注入10)などが行われることがあるが,確実に房水漏出を改善させることは困難なことが少なくない.血清点眼についてはMatsuoら8)が,代謝拮抗薬併用線維柱帯切除術後晩期にoozingあるいはpointleakをきたした症例に対する有効性を検討しているが,血清点眼を1日4回12週間使用した結果,oozingは63%で消失したのに対し,pointleakの消失率は27%に留まったとし,中等度以上の房水漏出を有する症例に対する血清点眼の効果の限界が示唆される.また,コンタクトレンズ装用についてはBlokら9)が直径20.5mmの大型コンタクトレンズ装用による房水漏出消失率は8割と比較的良好な結果を示しているが,一方でBurnsteinら6)は,コンタクトレンズ装用をはじめとする非侵襲的な治療よりも結膜前方移動術を行ったほうが持続する房水漏出や濾過胞関連感染症の予防には優れていると報告しており,評価が一定していない.さらに,濾過胞内自己血注入についてはBurnsteinら10)が,注入後5カ月での房水漏出消失率は28%であったとしている.いずれにしても,これらの侵襲の小さい処置は,房水漏出を改善させるには確実性に乏しい方法であることがうかがえる.一方,房水漏出を伴う無血管性濾過胞に対する観血的手術に関しては,菲薄化し脆弱化した結膜を切除し,その結果生じた結膜欠損部位を他の組織で被覆する手術が行われており,これまで遊離結膜弁移植術5),結膜前方移動術6),羊膜移植術7)などが報告されている.これらの報告の成績をまとめると,各術式により50.80%の症例は術後数年間の眼圧調整は良好で,かつ房水漏出なく経過するとされているが,同一部位への再手術は侵襲が大きく,手術操作も煩雑になるため施術には熟練を要する.また,羊膜は医療材料として使用できる施設が限られるという難点もある.今回行った経結膜的強膜縫合は,追加処置の併用は必要な場合もあるが,1/3の症例で房水漏出に対する改善効果があ110あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013った.経結膜的強膜縫合は,房水漏出部にかかる圧力を低下させることで瘻孔部の修復を促す処置であるのに対し,コンタクトレンズ装用や血清点眼,濾過胞内自己血注入の効果は脆弱化した濾過胞壁の補強のみが期待される処置である.このことから経結膜的強膜縫合は,コンタクトレンズ装用や血清点眼,濾過胞内自己血注入より房水漏出改善の確実性が高い可能性がある.今回の対象のうち,4眼については経結膜的強膜縫合による房水漏出の改善はみられなかった.線維柱帯切除術後の無血管性濾過胞は,濾過胞境界の結合組織の増殖に伴って濾過胞の限局化が生じ,濾過胞内圧が上昇して濾過胞壁が菲薄化し,それに代謝拮抗薬の影響も加わった結果生じると考えられる.この無血管性濾過胞の形成機序を考えると,経結膜的強膜縫合は一時的に瘻孔部にかかる圧力を低下させるものの,濾過胞の限局化が高度な症例では濾過胞内圧がかえって上昇し,結果的には結膜菲薄部位に再度圧力がかかるため,瘻孔部の閉鎖が得られにくくなる.今回は初回の経結膜的強膜縫合を単独で行ったが,今後は縫合時にニードリングや濾過胞再建用ナイフを使用した濾過胞再建術を併用することにより成績が向上するか検証を行いたいと考えている.本研究は少数例を対象とした後ろ向き調査であり,症例の背景や経結膜的強膜縫合に併用した処置も一定していない.また,晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の有効性を検証するには,他の対処方法との比較を行う必要がある.しかし,今回の結果から経結膜的強膜縫合により観血的手術の追加が回避できる症例があり,線維柱帯切除術後晩期に房水漏出をきたした症例に対して侵襲の大きな追加手術を行う前に試みる価値のある処置と考えられた.今後症例数を重ね,他の処置との比較を行って晩期房水漏出に対する経結膜的強膜縫合の有効性についてさらに検討したい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)MatsuoH,TomidokoroA,SuzukiYetal:Late-onsettransconjunctivaloozingandpointleakofaqueoushumorfromfilteringblebaftertrabeculectomy.AmJOphthalmol133:456-462,20022)WilenskyJ:Lateblebleaks.In:ShaarawyTMetal(eds):GlaucomaSurgicalManagement2,p243-246,Elsevier,20093)GreenfieldDS,LiebmannJM,JeeJetal:Late-onsetblebleaksafterglaucomafilteringsurgery.ArchOphthalmol116:443-447,19984)MochizukiK,JikiharaS,AndoYetal:IncidenceofdelayedonsetinfectionaftertrabeculectomywithadjunctivemitimycinCor5-fluorouraciltreatment.BrJOph(110) thalmol81:877-883,19975)PandayM,ShanthaB,GeorgeRetal:Outcomesofblebexcisionwithfreeautologousconjunctivalpatchgraftingforblebleakandhypotonyafterglaucomafilteringsurgery.JGlaucoma20:392-397,20116)BurnsteinAL,WuDunnD,KnottsSLetal:Conjunctivaladvancementversusnonincisionaltreatmentforlate-onsetglaucomafilteringblebleaks.Ophthalmology109:71-75,20027)BudenzDL,BartonK,TsengSC:Amnioticmembranetransplantationforrepairofleakingglaucomafilteringblebs.AmJOphthalmol130:580-588,20008)MatsuoH,TomidokoroA,TomitaGetal:Topicalapplicationofautologousserumforthetreatmentoflate-onsetaqueousoozingorpoint-leakthroughfilteringbleb.Eye19:23-28,20059)BlokMD,KokJH,vanMilCetal:UseoftheMegasoftBandageLensfortreatmentofcomplicationsaftertrabeculectomy.AmJOphthalmol100:264-268,199010)BurnsteinA,WuDunnD,IshiiYetal:Autologousbloodinjectionforlate-onsetfilteringblebleak.AmJOphthalmol132:36-40,200111)ShiratoS,MaruyamaK,HanedaM:Resuturingthescleralflapthroughconjunctivafortreatmentofexcessfiltration.AmJOphthalmol137:173-174,2004***(111)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013111

中心角膜厚と相関する要因の検討

2013年1月31日 木曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(1):103.106,2013c中心角膜厚と相関する要因の検討西野和明吉田富士子新田朱里齋藤三恵子齋藤一宇回明堂眼科・歯科RelatingFactorsAssociatedwithCentralCornealThicknessKazuakiNishino,FujikoYoshida,AkariNitta,MiekoSaitoandKazuuchiSaitoKaimeidoOphthalmic&DentalClinic目的:中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT)と相関する要因につき.その再現性を確認すること.対象および方法:2007年1月.4月までの間,当院にて白内障手術前にCCT(TOPCON,SP-3000P),眼圧,平均角膜屈折力(K値),眼軸長(IOLマスター)を測定した100例100眼.男性38眼,女性62眼.平均年齢(±標準偏差)72.5±8.8歳.患者の選択は連続とし,患者の重複を避けるため右眼のみの手術眼を選択.除外基準は過去のレーザー治療を含む眼科手術歴,外傷や角膜疾患の既往,網膜浮腫などのある眼球とした.緑内障点眼薬の未使用眼の眼圧(n=77),K値,眼軸長,年齢を説明変数,CCTを目的変数として単回帰分析を行った.緑内障(23眼),糖尿病(24例)をそれぞれ有する群とない群の2群に分けStudentttestで比較分析を行った.結果:各測定値の平均値(±標準偏差)はCCT510.7±30.6μm,眼圧13.6±2.6mmHg,K値44.6±1.4diopters,眼軸長23.8±1.6mm.CCTと眼圧のみに有意な正の相関(r2=0.0896,p=0.0082)がみられ,K値,眼軸長,年齢との相関(各p=0.49,p=0.77,p=0.25)を認めなかった.緑内障,糖尿病の有無による2群間のCCTでも有意差(各p=0.397,p=0.601)を認めなかった.結論:CCTとの相関は眼圧のみで再確認された.年齢に相関がみられなかったのは,研究サンプルの平均年齢が70歳以上と偏っていたためと考えられる.Purpose:Toexaminetheassociationbetweencentralcornealthickness(CCT)andvariousrelatingfactorsinourclinic.Methods:Thestudygroupcomprised100eyesof100recipientsofpreoperativecataractsurgery,including24withdiabetesmellitusand23withglaucoma.Themean(±standarddeviation)ageofthestudysamplewas72.5±8.8years;38eyeswereofmales,62eyeswereoffemales.Noindividualshadundergonepreviousintraocularsurgeryorhadothersignificantocularpathology.TheCCT,intraocularpressure(IOP),averagecornealcurvature(K)andaxiallength(AL)weremeasuredinallsubjects,respectivelyusingspecularmicroscope(TOPCON,SP-3000P),Goldmannapplanationtonometer,keratometerandA-scanultrasoundbiometer.CorrelationbetweenCCTandotherfactorswereestimatedstatistically.Results:MeanCCTwas510.7±30.6μm,IOP13.6±2.6mmHg,Kwas44.6±1.4dioptersandALwas23.8±1.6mm.SignificantpositivecorrelationwasnotedbetweenCCTandIOP(p=0.0082).NosignificantcorrelationswereidentifiedbetweenCCTandK(p=0.49),AL(p=0.77)orage(p=0.25).CCTwasnotassociatedwithglaucoma(p=0.397)ordiabetesmellitus(p=0.601).Conclusions:OnlyIOPwasfoundtobeassociatedwithincreasedCCT.AgefactorwasnotcorrelatedwithCCT,presumablyduetothehigheragesample.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):103.106,2013〕Keywords:中心角膜厚,眼圧,平均角膜曲率半径(平均角膜屈折力),眼軸長,年齢.centralcornealthickness(CCT),intraocularpressure(IOP),averagecornealcurvature,axiallengh,age.はじめにCCT)の影響を受けることはよく知られている1).つまり眼圧の実測値はGoldmann圧平眼圧計であれ,非接触型CCTが大きくなるほど眼圧の実測値は大きくなる傾向があ眼圧計であれ,中心角膜厚(centralcornealthickness:る.したがって緑内障診療において,CCTの大小が眼圧に〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科・歯科Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidoOphthalmic&DentalClinic,10-4-1Tsukisamuchu-o-dori,Toyohira-ku,Sapporo062-0020,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)103 どの程度影響するかを理解することはもちろん重要であるが,近年CCTの増減に影響する要因にはどのようなものがあるかが検討されるようになってきており,それらの理解も必要である.現在までにCCTの増加と関係する全身要因として糖尿病,肥満などが知られ2,3),一方,加齢はCCT減少の要因として報告されている2,4,5).また,眼科的要因としては眼圧上昇,緑内障,角膜曲率半径の増加がCCT増加の要因になるという2,6.8).今回筆者らは回明堂眼科・歯科(当院)においてそれらの要因とCCTの相関について,再現性が認められるかどうかを検討した.さらに,過去にはほとんど報告がみられなかった眼軸長についても2),合わせて検討した.I対象および方法2007年1月.4月までの間,当院にて白内障手術前にCCT(TOPCON,SP-3000P),眼圧(Goldmann圧平眼圧計),平均角膜曲率半径(オートレフラクトメータによる平均角膜屈折力=K値),眼軸長(IOLマスター)を測定した100例100眼.男性38眼,女性62眼.平均年齢(標準偏差)72.5±8.8歳.緑内障23眼,糖尿病24例を含む.緑内障23眼の内訳は原発として,狭義の原発開放隅角緑内障(POAG)と正常眼圧緑内障(NTG)を合わせた広義の原発開放隅角緑内障11眼,原発閉塞隅角緑内障3眼,続発としては落屑緑内障7眼,現在発作の起きていないPosner-Schlossmann症候群の既往眼1眼,現在炎症が鎮静化している虹彩毛様体炎1眼である.また,本研究の糖尿病の定義は,現在内科へ通院中で何らかの治療を指示されているものとした.患者の選択は連続とし,患者の重複を避けるため,右眼のデータのみを選択した.除外基準は各測定値に影響を与える因子,つまり過去のレーザー治療を含む眼科手術歴,外傷や角膜疾患の既往,網膜浮腫などのある眼球とした.登録した100眼すべてを対象とし眼圧,K値,眼軸長,年齢を説明変数,CCTを目的変数としてそれぞれの項目について単回帰分析を行った.ただし,緑内障患者ではすでに緑内障点眼薬の使用により眼圧が低下しているため,それ以外の未使用眼から得られた77眼の眼圧のみを選択し追加で検討した.また,緑内障,糖尿病の検討では,それらの有無で2群に分けStudentttestで比較検討を行った.II結果CCTの平均値(標準偏差)は510.7±30.6μm,男性513.4±27.7μm,女性509.1±31.8μmであった.男性の値がやや高い結果が得られたが,統計的な有意差は認められなかった(p=0.485:Welchのt検定).その他の平均値はそれぞれ眼圧14.1±3.1mmHg,K値44.6±1.4diopters,眼軸長23.8±1.6mm,年齢72.5±8.8歳であった.緑内障以外の77眼での平均眼圧は13.6±2.6mmHgであった.CCTと有意な相関が認められたのは眼圧(r2=0.09,p=CCT(μm)CCT(μm)650600550500450400450500550600650384042444648CCT(μm)4000510152025眼圧(mmHg)K値(diopters)図1CCTと眼圧図2CCTとK値y=3.35x+463.76,r2=0.0896,p=0.0082.y=.1.51x+578.39,r2=0.0049,p=0.49.650600550500450CCT(μm)4004505005506006504050607080904001520253035眼軸長(mm)年齢(歳)図3CCTと眼軸長図4CCTと年齢y=0.56x+498.33,r2=0.00087,p=0.77.y=0.41x+498.33,r2=0.013,p=0.25.104あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(104) p=0.397p=0.601p=0.601CCTの程度CCTの程度緑内障あり緑内障なし23眼77眼図5緑内障の有無によるCCTの比較0.0024)のみで,追加検討した緑内障以外の77眼の相関(r2=0.0896,p=0.0082)について図1に示した.K値(p=0.49),眼軸長(p=0.77),年齢(p=0.25)との相関は認められなかった(図2.4).緑内障(p=0.397),糖尿病(p=0.601)の有無による2群間のCCTでも有意差を認めなかった(図5,6).III考按CCTは眼圧をはじめとするさまざまな要因と相関することが知られている1.8).それらのなかで眼圧以外の要因として,全身的なものでは糖尿病,肥満,喫煙がCCTの増加と相関することや,眼科的にはK値の減少がCCTの増加と相関することなどが報告されている.そこで当院においても,それらの因果結果の再現性を確認する目的で臨床研究することを計画したが,一民間病院においては,患者の同意を得ることなど容易ではなかった.そこで白内障手術前の患者であれば,必ず術前にスペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞密度を測定しなければならず,その際に測定機種のTOPCON,SP-3000Pで同時にCCTを測定することが可能である.したがって,臨床研究に必要なCCTのデータが無理なく容易に取得することができる.しかも連続症例で検討することができるという利点もある.これらの理由により本研究の対象として白内障手術前の患者のデータを選択した.本研究においてCCTが眼圧と相関したというのは,過去の研究の追試にすぎないが,異なる点はCCTの平均値が他の研究に比べ,低い値であったこと,CCTと年齢との相関がみられなかったことである.これにはいくつかの理由が考えられる.まず一つには今回使用したCCTの測定機種がスペキュラーマイクロスコープであり,一般的に超音波法による540μm前後の値よりも低い値になることが知られていることである4,5,7,8.10).ちなみに多治見市内で一般住民を対象として行われた正常な日本人のスクリーニング検査(多治見スクリーニング)でもスペキュラーマイクロスコープ(TOP(105)糖尿病あり糖尿病なし24例76例図6糖尿病の有無によるCCTの比較CON,SP-2000P)が使用され,そのCCTの平均値は517.5±29.8μm,男性521.5±30.3μm,女性514.4±29μmと7),本研究はそれと類似する結果であった.しかしながら,それでもなお本研究のCCTの平均値510.7±30.6μmは,多治見スクリーニングの平均値よりもさらに低い.これは本研究が白内障手術前の患者をサンプルとして採用しており,平均年齢が70歳以上と高齢であったことが,原因と考えられる.過去の報告でも10歳進むごとにCCTは5μm減少することが知られている4,5).このように本研究ではスペキュラーマイクロスコープを測定機種として採用したことや,対象としたサンプルに年齢的な偏りがあったことが,過去の研究よりも低いCCTの実測値が得られた原因であろうと考えた.また,CCTが年齢と相関しなかった理由も同様にサンプルの選び方が原因と考えたが,それを実証するためには,今後は若い年齢層との比較検討が必要である.今後このような研究でさらに精度を上げるためにはいくつかの工夫が必要である.まずは,今回の研究では定義としてプロスタグランジン関連薬の使用の有無を差別化しなかった点である.その理由は,プロスタグランジン関連薬を使用している眼球では,CCTが減少するという報告がみられるものの11,12),それらの多くは10μm前後と大きくなく,しかも施設,研究デザイン,経過観察期間の違いで結果が異なることからである.しかしながら,今後さらに厳密なデザインによるデータを得るためには,プロスタグランジン関連薬の影響を考慮しつつ,患者の組み入れを工夫する必要性があるかもしれない.それ以外にも緑内障の扱いに関して,緑内障の種類別でCCTが異なる場合もあり6),それらを区別しながら比較検討する必要がある.さらに緑内障関連以外で今回検討できなかった因子は肥満である.それは今回の研究が後ろ向きであったため,手術前に体重は測定していたものの,身長は全員に確認していなかったことからbodymassindex(BMI)を計算できなかったためである.現在は全員の身長を確認しており,今後の研究では相関関係を検討していく予あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013105 定である.糖尿病に関してもその程度とCCTの相関なども合わせて検討していきたい.今回の研究では,CCTと相関する可能性の要因を過去の報告からリストアップし,当院においても再現性がみられるかどうか検討した.前述のごとく研究デザインにいくつかの不十分な点はあったものの,CCTと年齢の相関を考えるうえで今後の参考になるデータは得られた.今後は他の研究報告をさらに検討し,研究の精度を高めていくとともに,施設や機種などによる結果のばらつきを補正する目的で,さらに複数多施設での症例の集積と比較検討が必要と考えた.また,近年CCTに影響を及ぼす因子として遺伝的な研究報告もみられるようになり,今後の発展が注目される13.15).利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)DoughtyMJ,ZamanML:Humancornealthicknessanditsimpactonintraocularpressuremeasures:areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367408,20002)WangD,HuangW,LiYetal:Intraocularpressure,centralcorneathicknessandglaucomainchineseadults:theliwaneyestudy.AmJOphthalmol152:454-462,20113)NishitsukaK,KawasakiR,KannoMetal:DeterminantsandriskfactorsforcentralcorneathicknessinJapanesepersons:theFunagatastudy.OphthalmicEpidemiol18:244-249,20114)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocularpressure:TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19975)HahnS,AzenS,Ying-LaiMetal:CentralcornealthicknessinLatinos.InvestOphthalmolVisSci44:1508-1512,20036)PangCE,LeeKY,SuDHetal:CentralcornealthicknessinChinesesubjectswithprimaryangleclosureglaucoma.JGlaucoma20:401-404,20117)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalomol112:1327-1336,20058)TomidokoroA,AraieM,IwaseAetal:Cornealthicknessandrelatingfactorsinapopulation-basedstudyinJapan:theTajimistudy.AmJOphthalmol144:152154,20079)ModisLJr,LangenbucherA,SeitzB:Scanning-slitandspecularmicroscopicpachymetryincomparisonwithultrasonicdeterminationofcornealthickness.Cornea20:711-714,200110)SuzukiS,OshikaT,OkiKetal:Corneathicknessmeasurements:scanning-slitcornealtopographyandnoncontactspecularmicroscopyversusultrasonicpachymetry.JCataractRefractSurg29:1313-1318,200311)BirtCM,BuysYM,KissAetal:Theinfluenceofcentralcornealthicknessonresponsetotopicalprostaglandinanaloguetherapy.CanJOphthalmol47:51-54,201212)ZhongY,ShenX,YuJetal:Thecomparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncentralcornealthickness.Cornea30:861-864,201113)VitartV,BencicG,HaywardCetal:NewlociassociatedwithcentralcornealthicknessincludeCOL5A1,AKAP13andAVGR8.HumMolGenet19:4304-4311,201014)VithanaEN,AungT,KhorCCetal:Collagen-relatedgenesinfluencetheglaucomariskfactor,centralcornealthickness.HumMolGenet20:649-658,201115)CornesBK,KhorCC,NongpiurMEetal:Identificationoffournovelvariantsthatinfluencecentralcornealthicknessinmulti-ethnicAsianpopulations.HumMolGenet21:437-445,2012***106あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(106)

糖尿病モデル動物OLETFラット水晶体におけるアミロイドβの蓄積

2013年1月31日 木曜日

《第51回日本白内障学会原著》あたらしい眼科30(1):97.101,2013c糖尿病モデル動物OLETFラット水晶体におけるアミロイドbの蓄積長井紀章*1竹田厚志*1伊藤吉將*1,2*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所AccumulationofAmyloidbinLensofOtsukaLong-EvansTokushimaFattyRatNoriakiNagai1),AtsushiTakeda1)andYoshimasaIto1,2)1)FacultyofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KinkiUniversity近年,糖尿病患者では非糖尿病患者と比較し,アミロイドb(Ab)の主要臓器での蓄積が高いことが報告され,Abと糖尿病の関連性が注目されている.そこで今回,自然発症型糖尿病モデル動物であるOtsukaLong-EvansTokushimaFatty(OLETF)ラットを用い,糖尿病発症における水晶体中アミロイドb1-42(Ab1-42)の蓄積について検討を行った.糖尿病発症前の10週齢では,OLETFと正常ラット(LETOラット)間で水晶体中におけるAb1-42量で差はみられなかったが,糖尿病を伴う60週齢OLETFラット水晶体では,LETOラットと比較しAb1-42の蓄積が有意に高かった.また,Ab産生に関わる遺伝子〔amyloidprecursorprotein(APP),b-siteAPP-cleavingenzymeおよびpresenilin〕発現の増加もOLETFラットではLETOラットに比べ有意に高値を示した.さらに,60週齢のOLETFラットでは軽度な水晶体混濁度がみられ,この混濁と水晶体中Ab1-42の蓄積には強い相関が認められた.これらの結果は,Abが糖尿病眼疾患の病態に深く関わるというこれまでの報告を支持した.Recently,itwasreportedthatthelevelofamyloidbpeptide(Ab)intheeyesofdiabetichumanswashigherthanintheeyesofnormalhuman(non-diabetic),andthatAbwasimplicatedinthesecondarycomplicationsofdiabetesmellitus.Inthispresentstudy,wedeterminedtheexpressionofAb1-42inthediabetesmellituslens,usingthespontaneousdiabetesmellitusOtsukaLong-EvansTokushimaFatty(OLETF)rats.TheAblevelsdidnotdifferbetween10-week-oldnormalcontrolratsandOLETFratswithoutdiabetesmellitus.However,theAblevelsinthelensesof60-week-oldOLETFratswithdiabetesmellitusweresignificantlyhigherthanin60-week-oldnormalcontrols.Furthermore,thegeneexpressionlevelscausingAbproduction〔amyloidprecursorprotein(APP),b-site-APPcleavingenzymeandpresenilin〕inthelensesofOLETFratswerealsosignificantlyhigherthaninLETOrats.Inaddition,acloserelationshipwasobservedbetweenAb1-42levelsandlensopacification.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):97.101,2013〕Keywords:アミロイドb,水晶体,糖尿病,OtsukaLong-EvansTokushimaFattyラット,白内障.amyloidb,lens,diabetesmellitus,OtsukaLong-EvansTokushimaFattyrats,cataract.はじめにアミロイドb(Ab)とは高齢者痴呆疾患の一つであるアルツハイマー病(Alzheimer’sdisease:AD)の原因物質として知られている.近年,このAD患者の眼領域において網膜機能の低下,網膜神経節細胞の減少および視神経変性が高率に認められている1.3).さらに,糖尿病患者では非糖尿病患者と比較し,細胞傷害性を示すAbの蓄積が高く,糖尿病網膜症患者の硝子体液中のAbの著明な低下およびタウ蛋白質の上昇が報告されている2).このような変化はAD患者脳脊髄液中の変動と類似しており,眼疾患とADの間に共通の病態発症機序が存在し,特にAbが眼疾患の病態に深く関わっている可能性を示唆している.また,水晶体領域においても,AD患者やDown症候群患者の水晶体中でAbが蓄積することが報告され,Abと白内障の関係が注目されている4,5).〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,FacultyofPharmacy,KinkiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(97)97 しかしながら,これらADと水晶体中Abの関連については多数報告がある4,5)が,糖尿病発症と水晶体中Ab蓄積の関与についての報告はほとんどなく,これら糖尿病発症時における水晶体中Abの変化を検討することは非常に重要と考えられる.OtsukaLong-EvansTokushimaFatty(OLETF)ラットは大塚製薬株式会社が開発したII型糖尿病モデルである.このOLETFラットは,10週齢程度からグルコースに対する特異的なインスリン分泌不全や末梢組織におけるインスリン抵抗性が認められ,25週齢の経口ブドウ糖負荷試験ではほぼ全例がメタボリックシンドロームおよび高インスリン血症を伴うII型糖尿病と診断される6).60週齢以後では,膵臓Langerhans島は萎縮・消失しており,インスリン顆粒を認める膵b細胞数が極端に減少し,最終的に低インスリン血症となる糖尿病モデルラットであり,これらOLETFの生物学的性質の変化は,ヒトのII型糖尿病と一致することが知られている6).また,このOLETFラットは20週齢では綺麗な水晶体組織であるが,40週齢でソルビトールの水晶体蓄積と組織の崩れが観察され,60週齢では組織崩壊の拡大と混濁が生じる7)ことから,自然発症型の糖尿病性白内障モデルとして使用できるものと考えられている.本研究では,このOLETFラットを用い糖尿病発症時における水晶体中Abの蓄積について検討を行った.I対象および方法1.実験動物実験には大塚製薬株式会社徳島研究所から供与された10および60週齢雄性Long-EvansTokushimaOtsukaラット(LETOラット,正常ラット)とOLETFラットを用いた.これらラットは25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア社)および水は自由に摂取させた.動物実験は近畿大学実験動物規定に従い行った.2.ラット血中グルコース,トリグリセリド,コレステロールおよびインスリン値の測定血中グルコース(Glu)およびトリグリセリド(TG)はロシュ社製AccutrendGCTにより測定し,コレステロール(Cho),インスリン測定には和光純薬工業社製CholesterolE-Testキットおよび森永生科学研究所製ELISAInsulinキットをそれぞれ用いた.3.ラット水晶体中Ab1.42値の測定LETO,OLETFラットの水晶体を生理食塩水600μl中にてホモジナイズし,その懸濁溶液を測定に用いた.Ab量測定にはHuman/RatbAmyloid(42)ELISAKit(和光純薬工業社製)およびマイクロプレートリーダー(BIO-RAD社製)を用い450nmで吸光度を測定した.4.PCR(polymerasechainreaction)法による遺伝子発現の確認摘出した水晶体よりAcidGuanidium-Phenol-Chloroform法により全RNAを抽出し,TaKaRaRNAPCRKitおよびPCR装置(MasterCycler,エッペンドルフ社製)を用い1mgの全RNAからcDNAを合成した.合成したcDNAにGenBankTMからのデータベースより設計した各遺伝子特異的プライマーを加え,MasterCyclerを用いた半定量PCR法またはLightCycler(ロシュ社製)を用いたreal-timePCR法により遺伝子発現量の測定を行った.以下に半定量PCR法で用いた遺伝子特異的プライマー(SIGMA社製)およびPCR条件を示す.Neprilysin(NEP):Forword5¢-GAGACCTCGTTGACTGGTGGACTCA-3¢;Reverse5¢-TGAGTTCTTGCGGCAATGAAAGGCA-3¢,endothelinconvertingenzyme(ECE-1):Forword5¢-AGAACATAGCCAGCGAGATCATCCTG-3¢;Reverse5¢-TGCTGTACCATGCACTCGGTCTGCTG-3¢,damage-inducedneuronalendopeptidase(DINE):Forword5¢-AATTCCTCAAACTGGGACACGCTACC-3¢;Reverse5¢-TGTCTGTCAAGAAGATCCGACAGGAGG-3¢,glyceraldehyde-3-phosphatedehydrogenase(GAPDH):Forword5¢-GGTGCTGAGTATGTCGTGGAGTCTAC-3¢;Reverse5¢-CATGTAGGCCATGAGGTCCACCACC-3¢.PCR条件は,30cycleでdenaturation(94℃,30s),annealing(NEP,ECE-1,DINE75℃,GAPDH59℃,30s),extension(72℃,1min)で行った.この増幅された試料は1.5%アガロースゲルを用いた電気泳動(100V,40min)にて検出を行い,カメラにて撮影した.また,表1には今回real-timePCR法(SYBRGreen)で使用したアミロイド前駆体蛋白質(APP),a-セクレターゼ(adisintegrinandmetalloprotease10:ADAM10),b-セクレターゼ(b-siteAPP-cleavingenzyme1:BACE1)お表1Real.timePCR法におけるプライマー塩基配列PrimerSequence(5¢-3¢)APPFORREVGGATGCGGAGTTCGGACATGGTTCTGCATCTGCTCAAAGADAM10FORREVGCACCTGTGCCAGCTCTGATTCCGACCATTGAACTGCTTGTBACE1FORREVCATTGCTGCCATCACTGAATCAGTGCCTCAGTCTGGTTGAPS1FORREVCATTCACAGAAGACACCGAGATCCAGATCAGGAGTGCAACCPS2FORREVCTTCACCGAGGACACACCCTGACAGCCAGGAACAGTGTGGGAPDHFORREVACGGCACAGTCAAGGCTGAGACGCTCCTGGAAGATGGTGATAPP:Amyloidprecursorprotein,FOR:Forword,REV:Reverse.98あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(98) よびg-セクレターゼ(presenilin1,2:PS1,2)の各種プライマー塩基配列(SIGMA社製)を示した.Real-timePCR法の測定条件は以下のとおりで行った.Denaturing(95℃,10秒),annealing(63℃,10秒),extension(72℃,5秒).本研究ではGAPDHをハウスキーピング遺伝子とし,各種遺伝子発現量はGAPDHに対する比から求めた.5.前眼部画像撮影および解析前眼部画像撮影約5分前に0.1%ジピベフリンをラット両眼に点眼し散瞳させた.ラットの前眼部画像は無麻酔下で,前眼部画像解析装置EAS-1000(ニデック社)により撮影した.さらに得られたスリット像はEAS-1000付属の解析プログラムにより水晶体混濁の数値化を行った.6.統計解析データは,平均±標準誤差として表した.有意差はStudent’st-testにて解析し,0.05未満のp値を有意な差として示した.II結果1.糖尿病発症時におけるAb産生に関わる遺伝子発現量の変化図1にはLETOおよびOLETFラットの体重および糖尿病関連血液検査値を示す.10週齢のOLETFラットではLETOラットに比べ体重およびGlu値が若干高値を示したが,TG,Choおよびインスリン値には差がみられなかった.一方,60週齢では,血中Glu,TGおよびCho値はLETOラットと比較しOLETFラットで有意に高値であったが,体Bodyweight重およびインスリン値は低値を示した.図2に摘出水晶体中のAb産生に関わる遺伝子であるAPP,ADAM10,BACE1,PS1および2のmRNA発現量を示した.Ab産生促進に関わる遺伝子APP,BACE1,PS1および2ではLETOラットと比較しOLETFラットでそれぞれ1.68,1.56,1.40,1.83倍高値であった.なかでもAPPとPS2はLETOラットのそれと比較し有意に高かった.一方,Abの蓄積抑制に関わる遺伝子であるADAM10ではOLETFラット水晶体での発現量はLETOラットの1.2倍とわずかに高かったものの有意な差はみられなかった.2.OLETFラット水晶体におけるAb1.42の蓄積と水晶体混濁との関連性図3には10および60週齢LETOとOLETFラット水晶体中Ab1-42量を示す.これら10週齢ではLETOラットとOLETFラット間で水晶体中のAb1-42量に差はみられなかったが,糖尿病を伴う60週齢のOLETFラット水晶体では,LETOラットと比較し有意に高いAb1-42量が認められた.図4には10および60週齢のLETOとOLETFラット水晶体中におけるAb分解・除去に関わるNEP,ECE-1,DINE遺伝子発現について示す.LETOおよびOLETFラットともに,NEP,ECE-1の遺伝子発現は認められたが,DINEの遺伝子発現はみられなかった.図5には60週齢OLETFラット水晶体中Ab1-42量と水晶体混濁度の関連性を示す.60週齢OLETFラット水晶体では軽度の白濁が確認できた.また,これら水晶体混濁とAb1-42量とで強い相関が認められた(p<0.05).GluTGTG(mg/dl):LETO■:OLETF*00010week60week10week60week10week60weekChoInsulin:LETO:LETO120300:LETO400■:OLETF*Glu(mg/dl):LETO■:OLETF*10040500280240Bodyweight(g)4003202001601203002402001608080*■:OLETFInsulin(ng/dl)*■:OLETF10080604020250Cho(mg/dl)200150100500010week60week10week60week図1LETOおよびOLETFラットにおける体重と糖尿病関連血液検査値平均値±標準誤差.n=6.*p<0.05vs.各項目におけるLETOラット.(99)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201399 APPADAM10BACE13025108765*:LETO■:OLETFADAM1/GAPDH(×10-2):LETO■:OLETFBASE1/GAPDH(×10-4):LETO■:OLETFAPP/GAPDH(×10-3)2015105432106420010week60week10week60week10week60weekPS1PS2PS1/GAPDH(×10-4)121086420:LETO■:OLETF0*:LETO■:OLETF10week60week10week60weekPS2/GAPDH(×10-3)108642図2Real.timePCR法を用いたLETOおよびOLETFラットにおけるAb産生関連遺伝子発現量の変化平均値±標準誤差.n=5.6.*p<0.05vs.各項目におけるLETOラット.12LETOOLETF*Ab1-42(fmol/mgprotein)10NEP86ECE-142DINE010week60week図3糖尿病発症に伴うラット水晶体中Ab1.42の蓄積GAPDH平均値±標準誤差.n=5.6.*p<0.05vs.各項目におけるLETOラット.図4半定量PCR法による60週齢OLETFラット水晶体16におけるAb分解に関わる遺伝子発現の確認y=0.0048x+5.8974r=0.81146Ab1-42(fmol/mgprotein)1412III考按108今回用いたOLETFラットは,10週齢ではLETOラットと比較し,体重およびGlu値がわずかに高かったが,TG,Choおよびインスリン値には差がみられず,糖尿病未発症な2状態であった.一方,60週齢のOLETFラットでは低イン0スリン血症を伴う高血糖を示した(図1).この結果は,これOpacity(pixels)まで報告されている60週齢以後のOLETFラットでは膵臓05001,0001,5002,000図560週齢OLETFラット水晶体中Ab1.42量と水晶体Langerhans島が萎縮・消失し低インスリン血症を伴った高混濁の関連性血糖がみられるというII型糖尿病モデルの特性と一致しており,本研究で用いたOLETFラットがこれまでの報告と同様II型糖尿病発症とその進行が起こっていることを示した.100あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(100) そこで本研究では,糖尿病発症前の10週齢およびII型糖尿病が十分に進行した60週齢のOLETFラットを用い,糖尿病発症と水晶体中Abの蓄積について比較検討を行った.Abはアミロイド前駆体蛋白質(APP)が酵素により切断されることにより産生する40あるいは42残基のアミノ酸から成るペプチドであり,これら切断酵素として細胞膜から28番目のアミノ酸残基外側で細胞外ドメインを切断するbセクレターゼ(b-siteAPP-cleavingenzyme1)および膜貫通部で切断を行うg-セクレターゼ(presenilin1,2)が知られている.この40あるいは42残基アミノ酸ペプチドはそれぞれAb1-40,Ab1-42とよばれ,まずAb1-42が核となりAb1-40が凝集し線維形成を行うことから,Ab1-42のほうがAb1-40よりも凝集しやすいことが報告されている8).一方,Abはヒトの正常な網膜組織においてはこれまでに検出されていない.この理由としては,通常の細胞では細胞膜から12アミノ酸外側で細胞外ドメインを切断するa-セクレターゼが存在し,Abの過剰産生が抑えられているためである9).また,正常な組織においてはAbの分解酵素であるneprilysin(NEP),endothelinconvertingenzyme(ECE)またはdamage-inducedneuronalendopeptidase(DINE)によりAbは蓄積することなく分解・除去される10).そこで今回,糖尿病発症時における60週齢OLETFラット水晶体のAPP,ADAM10,BACE1,PSについての遺伝子発現量を検討した.その結果,Ab産生促進に関わる遺伝子APP,BASE1,PS1および2ではLETOラットと比較しOLETFラットでそれぞれ高値であり,なかでもAPPとPS2はLETOラットのそれと比較し有意に高かったが,Abの蓄積抑制に関わる遺伝子ADAM10のOLETFラット水晶体での発現量は,LETOラットの1.2倍とわずかに高かったものの有意な差はみられなかった(図2).また,凝集能の高いAb1-42についても測定を行った.10週齢のOLETFラット水晶体では,LETOラットと比較しAb1-42量に差はみられなかったが,60週齢OLETFラット水晶体ではLETOラットのそれと比較しAb1-42が有意に高値を示した(図3).一方,これらLETOおよびOLETFラット水晶体ではともに,NEPおよびECE-1の遺伝子発現はみられたが,DINEは検出されず,LETOとOLETFラットでその発現に大きな差はみられなかった(図4).Wistarラット水晶体でNEP,ECE-1およびDINEmRNA発現を検討したところ,いずれの遺伝子発現も確認できたことから(Datanotshown),これらLongEvans種のラット水晶体ではAbが蓄積しやすい可能性が示唆された.さらに,60週齢OLETFラット水晶体では軽度の白濁が認められ,これら水晶体混濁とAb1-42量とで強い相関が認められた(図5).水晶体でのAb蓄積は水晶体混濁をひき起こすことはGoldsteinら4,5)によりすでに報告されている.これらの本結果および報告から,OLETFラット糖尿病発症時には水晶体中でAb産生促進に関わる遺伝子発現量の増加がみられ,これによりAb1-42の水晶体蓄積および白濁が起こる可能性が示唆された.以上,本研究では自然発症の糖尿病モデル動物OLETFラット水晶体において,糖尿病発症時にAb1-42蓄積が増加することを明らかとした.さらに,OLETFラット糖尿病発症時の水晶体では,Ab産生促進に関わる遺伝子発現量の増加が起こる可能性を示した.これら自然発症の糖尿病モデル動物を用いた糖尿病とAb産生についての研究報告はなく,本モデル動物および研究結果はこれからのAbと白内障の関係を研究するうえできわめて有用であると考えられる.今後Ab1-42や抗Ab抗体またはAbの凝集を抑制するCongoredを眼球内の硝子体内へ投与することにより,水晶体混濁度がどのように変化するのかについて検討を進めていく予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YonedaS,HaraH,HirataAetal:Vitreousfluidlevelsofbeta-amyloid((1-42))andtauinpatientswithretinaldiseases.JpnJOphthalmol49:106-108,20052)HaraH,Oh-hashiK,YonedaSetal:Elevatedneprilysinactivityinvitreousofpatientswithproliferativediabeticretinopathy.MolVis12:977-982,20063)NingA,CuiJ,ToEetal:Amyloid-betadepositsleadtoretinaldegenerationinamousemodelofAlzheimerdisease.InvestOphthalmolVisSci49:5136-5143,20084)GoldsteinLE,MuffatJA,ChernyRAetal:Cytosolicbeta-amyloiddepositionandsupranuclearcataractsinlensesfrompeoplewithAlzheimer’sdisease.Lancet361:1258-1265,20035)MoncasterJA,PinedaR,MoirRDetal:Alzheimer’sdiseaseamyloid-betalinkslensandbrainpathologyinDownsyndrome.PLoSOne5:e10659,20106)YamadaA:Alterationofelectroetinograminspontaneouslydiabeticrats:effectofcaloricrestriction.JJuzenMedSoc110:418-442,20017)KuboE,MaekawaK,TanimotoTetal:BiochemicalandmorphologicalchangesduringdevelopmentofsugarcataractinOtsukaLong-EvansTokushimafatty(OLETF)rat.ExpEyeRes73:375-381,20018)JarretJT,LansburyJrPT:Seeding“one-dimensionalcrystallization”ofamyloid:apathogenicmechanisminAlzheimer’sdiseaseandscrapie?Cell73:1055-1058,19939)KukarTL,LaddTB,BannMAetal:Substrate-targetinggamma-secretasemodulators.Nature453:925-929,200810)SelkoeDJ:Amyloidbeta-proteinandthegeneticsofAlzheimer’sdisease.JBiolChem271:18295-18298,1996(101)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013101

モキシフロキサシン結膜下注射後の前房内薬剤濃度の変化

2013年1月31日 木曜日

《第51回日本白内障学会原著》あたらしい眼科30(1):93.96,2013cモキシフロキサシン結膜下注射後の前房内薬剤濃度の変化松浦一貴*1寺坂祐樹*1井上幸次*2大村菜美*3後藤隆浩*3*1野島病院眼科*2鳥取大学医学部視覚病態学講座*3鳥取大学大学院医学系研究科生体高次機能学部門PharmacokineticsofSubconjunctivallyInjectedMoxifloxacinKazukiMatsuura1),YukiTerasaka1),YoshitsuguInoue2),NamiOhmura3)andTakahiroGotou3)1)DepartmentofOphthalmology,NojimaHospital,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,3)DivisionofIntegrativeBioscience,TottoriUniversityGraduateSchoolofMedicalScience目的:白内障術後早期の薬剤投与が重要とされるが,早期点眼を徹底できる施設は限られている.そこで,手術終了時に抗菌薬の結膜下注射を行うことにより,早期より十分な薬剤濃度を安全に達成できる可能性があると考えた.本実験は,モキシフロキサシン(MFLX)の結膜下注射の有効時間の検討を目的とした.方法:白内障手術患者26人36眼にMFLX(原液または2倍希釈)0.2mlを手術1時間前(原液n=5,2倍希釈n=5),3時間前(原液n=6,2倍希釈n=5),5時間前(原液n=5,2倍希釈n=5),6時間前(原液n=5)に結膜下注射した.手術開始時に前房水0.1mlを採取し,高速液体クロマトグラフィーを行った.結果:腸球菌の最小発育阻止濃度:0.5μg/mlに対し,原液では1時間値3.07μg/ml,3時間値1.78μg/ml,5時間値0.53μg/ml,6時間値0.19μg/mlであった.2倍希釈液では3時間値0.54μg/ml,6時間値0.35μg/mlであった.結論:MFLX結膜下注射で約5時間程度は腸球菌に対して有効な抗菌薬濃度が保たれた.Purpose:Toreportthesafetyandeffectofmoxifloxacinsubconjunctivalinjectioninpreventingendophthalmitisaftercataractsurgery.Methods:Atvarioustimepointspresurgery,0.2mlofmoxifloxacin(stocksolutionor2-folddiluted)wassubconjunctivallyinjectedtopatientgroups(1,3,5,or6hpriortocataractsurgery;n=6in3h-stocksolution,5inothergroups).Aftersamplingof0.1mlaqueoushumor,high-performanceliquidchromatographywasconducted.Results:Theconcentrationsaftermoxifloxacinstocksolutioninjectionwere3.07μg/mlat1h,1.78μg/mlat3h,and0.53μg/mlat5h.Thisshowedthatalevelabovethe90%minimuminhibitoryconcentration(MIC90)forEnterococcusfaecalis(0.5μg/ml)canbemaintainedfor5h.Withthe2-folddilutedsolution,however,theconcentrationwas0.54μg/mlat3hand0.35μg/mlat5h.Conclusions:TheMIC90levelforE.faecaliswasmaintainedfor5haftersubconjunctivalinjectionofmoxifloxacinstocksolution.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):93.96,2013〕Keywords:結膜下注射,モキシフロキサシン,白内障手術,眼内炎,前房水.subconjunctivalinjection,moxifloxacin,cataractsurgery,endophthalmitis,anterioraqueoushumor.はじめに白内障をはじめとする眼手術後の感染予防のための抗菌薬投与法としてはおもに点眼が用いられるが,患者自身が点眼することが多くコンプライアンスによる影響を強く受けることがある.また,手術直後にすでに前房内に10.20%細菌を認めるとの報告もあり1,2),術後早期から有効な薬剤濃度を保つことが重要とされている.ウサギの眼内炎モデルにおいては,術直後もしくは数時間以内に点眼を開始した場合,菌の増殖が抑制され眼内炎所見の悪化を防ぐとの報告がある3).また,術翌日から点眼を開始した場合,当日から開始した場合に比べて眼内炎発症リスクがオッズ比13倍高まるという臨床報告もある4).しかし,白内障術後の抗菌薬は患者自身が点眼することが多く,マンパワーなどの面でも早期から全員に点眼を徹底できる施設は限られている.一方,前房内投与5.7)は高い薬剤濃度を達成できるが,組織障害の懸念や誤投与の危険性8)が指摘されている.そこで,手術終了時に結膜下に抗菌薬を注射すれば,患者のコンプライアンスや施医療者の介助に頼らず,安全に術後早期より感染予防に〔別刷請求先〕松浦一貴:〒683-0854米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学講座Reprintrequests:KazukiMatsuura,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishimachi,Yonago683-0854,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(93)93 十分な薬剤濃度を長く保てる可能性があると考えられる.そこで,術直後に投与する抗菌薬として注目されているモキシフロキサシン結膜下注射の有効時間の検討を目的として本実験を行った.データの一部はすでに報告している9)が,今回さらに濃度設定を変更して検討を加えた.I方法対象は2011年6月.7月に野島病院にて,通常の超音波白内障手術を受けアクリルレンズを挿入された26人36眼である.本研究は鳥取大学倫理審査委員会の承認を得て施行された.書面によるインフォームド・コンセントを得た後,白内障手術の開始1時間前(原液n=5,2倍希釈n=5),3時間前(原液n=6,2倍希釈n=5),5時間前(原液n=5,2倍希釈n=5),6時間前(原液n=5)にベガモックスR0.5%点眼液(5,000μg/ml)(モキシフロキサシン原液)の原液もしくは2倍希釈の0.2ml結膜下注射を行った.手術の妨げとならないように下方の結膜に注射した.手術開始時に29ゲージ針を用いて経角膜的に前房水0.1mlを採取した.検体は凍結保存し,濃度測定は高速液体クロマトグラフィーを用いた.検体は凍結保存し,高速液体クロマトグラフィーにて励起波長(Ex:290nm),蛍光波長(Em:470nm)における蛍光強度を測定した.対数曲線を用い,腸球菌の90%最小発育阻止濃度(MIC90:0.5μg/ml)を上回る時点までを効果持続時間と考えた.II結果原液を使用した実験の1時間値.5時間値(0.53μg/ml)までは腸球菌のMIC90(0.5μg/ml)を超えていたが,6時間値0.19μg/mlでは下回っていた.5時間まではMIC90を維a.原液5持できると想定された(図1a).2倍希釈を使用した実験の1時間値.3時間値(0.53μg/ml)までは腸球菌のMIC90を超えていたが,5時間値0.35μg/mlでは下回っていた(図1b).III考察モキシフロキサシンは前房移行もよく,抗菌スペクトルも広いため,感染予防に対して現在選択可能な最も理想的な点眼液の一つといえる.福田ら10)は,ウサギ点眼でのモキシフロキサシンの前房内最高濃度が9.04μg/mlと高く,点眼後4時間以上にわたって有効濃度が保たれたことを示しているが,当然ながらこれは実験的環境下でのデータである.手術終了時のような浮腫,炎症,出血や流涙などが亢進している環境下では,1滴の点眼が十分に結膜.に留まり,実際に有効な前房内濃度を実験的環境下と同様に保てない可能性がある.さらに,白内障手術の対象となる患者は当然ながら高齢者が多く患者自身での点眼指導を徹底することはむずかしく,患者自身あるいは感染に対する知識の浅い医療従事者による早期点眼はかえって新たなリスクとなりかねない.近年,注目され始めているモキシフロキサシンをはじめとする抗菌薬の前房内注入は,術直後に十分な薬液濃度を確実に達成することができる.しかし,高濃度の薬液を注入する5.7)ことに抵抗を感じる術者が多く,わが国では一般的に普及するには至っていないのが現状である.なぜなら,網膜や角膜毒性および誤投与の可能性8)や無菌性の眼内炎ToxicAnteriorSegmentSyndrome(TASS)の発症リスクも懸念されているからである11).一方で,白内障術後の結膜下注射は古くから行われており,英国では77%12),米国では16%13)の術者が何らかの結b.2倍希釈5y=-1.60Ln(x)+3.19モキシフロキサシン濃度(μg/ml)y=-0.56Ln(x)+1.20腸球菌腸球菌MIC90MIC900001234560123456房水採取時間(h)房水採取時間(h)図1モキシフロキサシン濃度の時間経過原液では腸球菌のMIC90(0.5μg/ml)に対して5時間値は超えていた(a)が,6時間値は下回っていた.2倍希釈では5時間値で最小発育阻止濃度以下となった(b).44モキシフロキサシン濃度(μg/ml)33221194あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(94) 膜下注射を行っている.筆者らは,手術終了時に結膜下に抗菌薬を注射すれば患者のコンプライアンスに頼らず術後早期の感染予防に十分な薬剤濃度を安全に長く保てる可能性があると考え,モキシフロキサシンでの手術終了時の1回の注射が,1)最低有効濃度を何時間保つことができるか,2)有効性,安全性の評価のため最高濃度がどの程度まで上昇するかを検討することを目的とした.1.有効時間の検討原液を用いた場合,約6時間まで腸球菌のMIC90を上回った(図1a).2倍希釈を用いた場合,3時間値までは腸球菌のMIC90を上回ったが,6時間では下回っていた(図1b).眼内濃度が上がりすぎることを恐れて2倍以上に希釈したり,あるいはステロイド薬や他の抗菌薬との混注をする術者もいるようだが,濃度の観点からは原液での注射が理想的であると考えられる.2.薬効,安全性の評価(最高濃度)原液の1時間値の平均濃度は3.07μg/mlであり,最高値でも4.40μg/mlであった(図1a).報告によって若干の差はあるものの,頻回の点眼でも得られる前房濃度はおおよそ2μg/mlになるといわれており14),筆者らの結膜下注射での濃度は頻回点眼よりやや高濃度であったといえる.結膜下注射は,あくまで眼球外への投与であるため実際の前房内への吸収には個人差,条件による差があると思われ,1時間値では約1.3μg/mlから約4.4μg/mlとばらつきがあった(図1a).近年,キノロンに対する耐性化が進んでおり,MIC90が32μg/mlに達するコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)も報告されている15).前房内投与ではこのような高度耐性菌においても著しく高い薬液濃度を実現できるため,かなりの起因菌をカバーすることができる.しかし,前房内注入には希釈時,取り分け時,注入時の量や濃度の間違いや汚染の可能性を懸念する術者も多く16),まだ一般化するには至っていない.一方,結膜下注射は原液をそのまま注入するため希釈などの間違いや汚染のリスクが少ないと考えられる.結膜下注射は抗菌力,眼内炎予防の観点からすれば多少薬効では劣るものの,安全に相応の効果を期待でき,かつ誰でも容易に行える選択肢であると考える.結膜下注射に用いる薬剤としては,ゲンタマイシン,セフロキシムの有効性17,18)およびその薬剤動態19,20)の報告があり,わが国でもゲンタマイシンが一般的に用いられているようである.しかし,重要な眼内炎の起因菌である腸球菌に対してゲンタマイシンは感受性が低く,セフロキシムは感受性をもっていない.また,ゲンタマイシンには組織障害21),セフロキシムにはアナフィラキシー22)の報告もある.これらのことより,幅広い抗菌スペクトルをもち,重篤な合併症の報告されていないモキシフロキサシンは,結膜下注射に適し(95)た薬剤と考えられる.手術終了時にモキシフロキサシンを結膜下注射すれば,術者自身によって確実に術後早期の前房内薬液濃度を保ち,感染リスクを軽減することができる.しかし,高度耐性菌などへの効果を期待する場合には,安全性の問題などを考慮したうえで前房内投与も検討する必要があると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)JohnT,SimsM,HoffmanC:Intraocularbacterialcontaminationduringsutureless,smallincision,single-portphacoemulsification.JCataractSurg26:1786-1792,20002)TervoT,LjungbergP,KautiainenTetal:Prospectiveevaluationofexternalocularmicrobialgrowthandaqueoushumorcontaminationduringcataractsurgery.JCataractRefractSurg25:65-71,19993)WadaT,KozaiS,TajikaTetal:Prophylaticefficacyofophthalmicquinolonesinexperimentalendophthalmitisinrabbits.JOculPharmacolTher24:278-289,20084)WallinT,ParkerJ,JinYetal:Cohortstudyof27casesofendophthalmitisatasingleinstitution.JCataractRefractSurg31:735-741,20055)RamonCG,EspirituCR,CaparasVLetal:Safetyofprophylacticintracameralmoxifloxacin0.5%ophthalmicsolutionincataractpatients.JCataractRefractSurg33:63-68,20076)EndophalmitisSurgeryGroup,EuropeanSocietyofCataract&RefractiveSurgeons:Prophylaxisofpostoperativeendophalmitisfollowingcataractsurgery:ResultoftheESCRSmulticenterstudyandidentificationofriskfactors.JCataractRefractSurg33:978-988,20077)KimSY,ParkYH,LeeYC:Comparisonoftheeffectofintracameralmoxifloxacinandcefazolinonrabbitcornealendotherialcells.ClinExperimentOphthalmol36:367370,20088)LockingtonD,FlowersH,YoungDetal:Assessingtheaccuracyofintracameralantibioticpreparationforuseincataractsurgery.JCataractSurg36:286-289,20109)MatsuuraK:Pharmacokineticsofsubconjunctivalinjectionofmoxifloxacininhumans.GraefesArchOphthalmol:Epubaheadofprint,201210)福田正道,佐々木洋,大橋裕一:モキシフロキサシン点眼薬の家兎眼内移行動態─房水内最高濃度(AQCmax)の測定─.あたらしい眼科23:1353-1357,200611)MamalisN,EdeihauserHF,DawsonDGetal:Toxicanteriorsegmentsyndrome.JCataractRefractSurg32:324-333,200612)Gordon-BennettP,KarasA,FlanaganDetal:AsurveyofmeasuresusedforthepreventionofpostoperativeendophthalmitisaftercataractsurgeryintheUnitedKingdom.Eye15:620-627,200813)ChangDF,Braga-MeleR,MamalisNetalfortheASCRSあたらしい眼科Vol.30,No.1,201395 CataractClinicalCommittee:Prophylaxisofpostoperativeendophthalmitisaftercataractsurgery.Resultsofthe2007ASCRSmembersurvey.JCataractRefractSurg33:1801-1805,200714)HariprasadSM,BlinderKJ,ShahGKetal:Penetrationpharmacokineticsoftopicallyadministered0.5%moxifloxacinophthalmicsolutioninhumanaqueousandvitreous.ArchOphthalmol123:39-44,200515)MillerD,FlynnPM,ScottIUetal:Invitrofluoroquinoloneresistanceinstaphylococcalendophthalmitisisolates.ArchOphthalmol124:479-483,200616)DelyferMN,RougierMB,LeoniSetal:Oculartoxicityafterintracameralinjectionofveryhighdosesofcefuroximeduringcataractsurgery.JCataractRefractSurg37:271-278,201117)MontanPG,KoranyiG,SetterquistHEetal:Endophthalmitisaftercataractsurgery:riskfactorsrelatingtotechniqueandeventsoftheoperationandpatienthistory:aretrospectivecase-controlstudy.Ophthalmology105:2171-2177,199818)LehmannOJ,RobertsCJ,IkramKetal:Associationbetweennonadministrationofsubconjunctivalcefuroximeandpostoperativeendophthalmitis.JCataractRefractSurg23:889-893,199719)JainMR,GoyalM,JainV:Ocularpenetrationofsubconjunctivallyinjectedgentamicin,sisomicinandcephaloridine.JpnJOphthalmol32:392-400,198820)JenkinsCD,TuftSJ,SheraidahGetal:Comparativeintraocularpenetrationoftopicalandinjectedcefuroxime.BrJOphthalmol80:685-688,199621)JenkinsCD,McDonnellPJ,SpaltonDJ:Randomisedsingleblindtrialtocomparethetoxicityofsubconjunctivalgentamicinandcefuroximeincataractsurgery.BrJOphthalmol74:734-738,199022)VilladaJR,VicenteU,JavaloyJetal:Severeanaphylacticreactionafterintracameralantibioticadministrationduringcataractsurgery.JCataractRefractSurg31:620621,2005***96あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(96)

術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績

2013年1月31日 木曜日

《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(1):89.92,2013c術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績水流宏文中村裕介大矢佳美安藤伸朗済生会新潟第二病院眼科AssociationbetweenPreoperativeFovealPhotoreceptorLayerandOperationOutcomesinDiabeticMaculopathyHirofumiTsuru,YusukeNakamura,YoshimiOyaandNoburoAndoDepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital目的:糖尿病黄斑症に対する硝子体手術において,術前の網膜外層構造と術後成績との関連を検討する.方法:済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に対し硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月)について術前,術後1年または最終観察時に,視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.また,術前に外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)をOCTで観察し,水平断画像で中心窩を中心とした1,000μm内にELM,IS/OSの連続性が50%以上あるものをELM,IS/OS陽性とした.A群:ELM・IS/OSともに陽性,B群:ELM陽性かつIS/OS陰性,C群:ELM・IS/OSともに陰性の3群に分類(A群8眼,B群9眼,C群19眼)し,各群の視力,CRTの術後変化を検討した.結果:術後logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA,B,C群いずれも有意に改善.CRTはB,C群で有意に減少.小数視力0.7以上を視力良好,0.7未満を不良とすると術後良好眼はA群8眼中5眼,B群9眼中4眼,C群19眼中1眼でC群に比べA,B群では有意に術後視力良好眼が多かった.結論:術前網膜外層構造が保たれている例では,術後視力成績が良好であった.Purpose:Toassesstherelationbetweenpreoperativephotoreceptorlayerandpostoperativeresultsindiabeticretinopathytreatedwithparsplanavitrectomy.Methods:Weretrospectivelystudied36eyesof32patientswithdiabeticmaculopathyonwhomwehadperformedparsplanavitrectomy(PPV).Weassessedvisualacuity(VA)andcentralretinalthickness(CRT),usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),beforeandafterPPV.Wemeasuredthepreoperativeintegrityphotoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS)andexternallimitingmembrane(ELM)within1,000μmatthecenterofthefovea.Morethan50%existenceof1,000μmwasdefinedas“positive”;lesswasdefinedas“negative.”Wecategorizedthe36eyesinto3groupsaccordingtointegrityofELMandIS/OS:(1)theAgroup,withELMandIS/OSpositive,(2)theBgroup,withELMpositiveandIS/OSnegative,and(3)theCgroup,withELMandIS/OSnegative.Weestimatedthecorrelationbetweenthegroupsandthesurgicalresults.Results:GroupsA,BandCcomprised8,9and19eyes,respectively.AfterPPV,theVAofall3groupswassignificantlyimprovedandtheCRTofgroupsBandCwassignificantlyreduced(B:p<0.05,C:p<0.01).Theproportionofeyeswithdecimalvisualacuityequaltoorgreaterthan0.7wassignificantlyhighingroupswithpreservedphotoreceptorlayer(AandBgroups),comparedwithCgroup(Agroup:p<0.01,Bgroup:p<0.05).Conclusion:EyeswithpreoperativelypreservedphotoreceptorlayerachievebetterVApostoperativelythandoeyeswithoutpreservedphotoreceptorlayer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):89.92,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,光干渉断層計,外境界膜,視細胞内節外節接合部,網膜外層構造,経毛様体扁平部硝子体切除術.diabeticmaculopathy,opticalcoherencetomography(OCT),externallimitingmembrane(ELM),photoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS),photoreceptorlayer,parsplanavitrectomy.〔別刷請求先〕安藤伸朗:〒950-1104新潟市西区寺地280-7済生会新潟第二病院眼科Reprintrequests:NoburoAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital,280-7Terachi,Nishi-ku,NiigataCity950-1104,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(89)89 はじめに1990年代,Lewisら1)やTachiら2)により糖尿病黄斑症に対して硝子体手術が有効であることが報告されて以来,硝子体手術は糖尿病黄斑症の治療法の一つとして,わが国では多数施行されている.その後,opticalcoherencetomography(OCT)の登場により形態的な評価が可能となり,大谷ら3)は糖尿病黄斑浮腫を基本型に分類した.糖尿病黄斑浮腫の形態と硝子体手術後の視力との関連性が検討されてきたが,浮腫形態に基づく硝子体手術の効果予測には限界があり,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)が登場し,外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)や視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)などの網膜外層構造の詳細な評価が可能となり,各種疾患で網膜外層構造と視力との有意な相関が報告されるようになった4,5).糖尿病黄斑浮腫においても,Maheshwaryら6),Murakamiら7),Yanyaliら8)が中心窩のIS/OSやELMの連続性と視力とが相関すると報告している.今回,筆者らは新たな試みとして,糖尿病黄斑症の術前の網膜外層構造が硝子体手術後の成績を反映する指標となりうるのではないかと考え,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討した.I対象および方法対象は2008年1月から2011年3月の間に,済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月).症例の1,000μmABLogMAR視力図1OCTにおけるELM・IS/OS評価トプコン社3DOCT-1000MARKIIの白黒表示を用いて,中心窩を中心とした1,000μm内のELM・IS/OSを計測した.A:IS/OS742μmで50%以上の連続性を認める.B:ELM1,000μmで50%以上の連続性を認める.内訳は男性18例21眼,女性14例15眼,Davis分類では増殖前網膜症17眼,増殖網膜症19眼であった.36眼中22眼に白内障手術を施行し,11眼に内境界膜.離を併用した.血管新生緑内障を合併していた4眼および術後網膜.離で追加手術を要した2眼は本検討から除外した.OCTの解析にはトプコン社3DOCT-1000MARKIIを用い,白黒表示にて術前網膜外層を評価し,色素上皮の高反射ラインの直上のラインをIS/OS,その直上のラインをELMと定義した.中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した(図1).ELM,IS/OSの連続性から,ELM・IS/OSともに陽性のA群,ELM陽性・IS/OS陰性のB群,ELM・IS/OSともに陰性のC群に分類した.A,B,Cの3群において術前および術後1年(または最終観察時)に視力と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定し,その結果を各群で比較検討を行った.II結果OCT所見からA群8眼,B群9眼,C群19眼に分類された.なお,ELM陰性・IS/OS陽性の例は認めなかった.術前logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA群0.36,B群0.60,C群0.83で,A群とC群間で有意差を認めた(p<0.01,Mann-Whitney検定).術後logMAR視力はA群0.14,B群0.40,C群0.70であり,いずれの群も術前に比べて有意に改善を認めた(それぞれp<0.05,対応のあるt検定).A群とC群間では術前後のいずれにおいても有意差を認めた(p<0.01,術前はMannWhitney検定,術後はWelchのt検定)(図2).視力評価はlogMAR視力で術前後0.2以上の変化を視力0術前術後*0.1:A群0.20.36A群0.14ELM(+)IS/OS(+)0.3:B群0.40.60B群*0.40**ELM(+)IS/OS(-)0.5:C群0.6**0.70ELM(-)IS/OS(-)0.70.83C群*p<0.050.8**p<0.010.9*図2術前後のlogMAR視力術前logMAR視力A群:0.36,B群:0.60,C群:0.83.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Mann-Whitney検定).術後logMAR視力A群:0.14,B群:0.40,C群:0.70.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Welchのt検定).術後視力はA,B,C群いずれも有意に改善した(p<0.05対応のあるt検定).90あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(90) 20600550ELM(+)IS/OS(+)15500ELM(+)IS/OS(-)4眼5眼7眼4眼4眼9眼0眼0眼3眼A群B群C群:改善■:不変■:悪化:A群:B群:C群*p<0.05**p<0.01349.5332.3495.4353.8529.6401.3術前術後*******A群B群C群CRT(μm)450400350300250視力改善度10ELM(-)IS/OS(-)50図4術前後のCRT図3術後視力改善度LogMAR視力0.2以上の変化を改善,悪化とした.A群:改善4眼,不変4眼.B群:改善5眼,悪化4眼,C群:改善7眼,不変9眼,悪化3眼.A,B,C群いずれの群においても改善眼を得た.ELM陽性であるA,B群では,ELM陰性のC群に比べて改善眼の割合が高かった.悪化眼はELM陰性のC群のみで認められ,ELM陽性のA,B群では認めなかった.改善・悪化として検討し,全体では改善16眼,不変17眼,悪化3眼であった.各群での検討では,A,B群において改善眼の占める割合がC群より高く,悪化眼はみられなかった.C群では改善眼が19眼中7眼のみであり,3眼の悪化を認めた(図3).術後小数視力0.7以上を良好眼,0.7未満を不良眼に分類して比較したところ,A群では8眼中5眼が良好眼,B群では9眼中4眼が良好眼であるのに対し,C群では19眼中1眼のみが良好眼であり,C群に比べA,B群で有意に視力良好眼が多かった(A群C群間p<0.01,B群C群間p<0.05,Fisherの直接確率計算法).術前CRTはA群349.5μm,B群495.4μm,C群529.6μmで,A群とB群間およびA群とC群間で有意差を認めた(それぞれp<0.01,Studentのt検定).術後CRTはA群332.3μm,B群353.8μm,C群401.3μmであり,B群とC群において術後有意に減少した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった(図4).術後の網膜外層構造の変化では,A群は全例でELM,IS/OSともに保たれており,B群ではIS/OS回復例が2眼,不変例が3眼,ELM消失例が4眼であり,C群ではELM回復例が2眼,不変例が17眼でありIS/OS回復眼は得られなかった.III考按Diabeticmacularedema(DME)に対して.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離などの浮腫形態に基づいて硝子体手術成績が検討されてきたが,硝子体手術効果の予測には限界があ(91)術前A群:349.5μm,術前B群:495.4μm,術前C群:529.6μm.A・C群間,A・B群間で有意差を認めた(A・C群間,A・B群間p<0.05Studentのt検定).術後A群:332.3μm,術後B群:353.8μm,術後C群:401.3μm.B群,C群において術後有意にCRTが低下した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった.り,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,SD-OCTの登場で網膜外層構造の評価が可能となり,各種疾患において網膜外層構造と視力との相関が強いとの報告が多数出てきており,DMEにおいても同様の関連性が報告されている6.8).筆者らは黄斑円孔の硝子体手術後の視力を検討し,ELM,IS/OSとの関連性が強いという知見を得た9).今回,DMEにおける硝子体手術後の視力予測因子として網膜外層構造に注目し,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討を行った.Oishiら5)は加齢黄斑変性症において,疾患重症度とELM,IS/OSの関係を検討し,まずIS/OSが消失し,さらに重症化するとELMも消失すると述べている.今回のDMEに関する検討でも加齢黄斑変性症と同様の結果を得た.硝子体手術後の視力はいずれの群でも有意に改善を認めたが,術前に網膜外層破綻が少ないA群では,破綻の進んだC群に比べて有意に術後視力が良好であった.網膜外層破綻が進む前に手術治療を行うことで視力回復が大きくなることを示唆しており,ELMの存在が術後良好な視力を目指す硝子体手術を行ううえで重要である.本検討では網膜外層の評価にOCTを用い,中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した.OCTによる網膜外層の評価に際しては,OCTのshadowingによる検出不能例が問題となり,shadowingにより実際には保たれているIS/OS,ELMを消失と評価してしまう可能性がある.そのため,今回筆者らは網膜浮腫や硬性白斑による局所のshadowingにより,ELM,IS/OSが陰性と誤評価あたらしい眼科Vol.30,No.1,201391 されないように50%以上連続していれば外層構造が保たれていると基準を少し緩く定めることでshadowingの影響を最小限にするよう配慮した.しかし,それでも黄斑浮腫による網膜肥厚の著しい症例では,OCTの機能・特性上,shadowingによる検出不能例は少なからず存在するはずであり,現時点でのOCTの性能の限界である.今後のOCTの性能向上に期待したい.ELMは漿液性網膜.離を伴う例においても判別可能であるという点で有用である.板谷ら10)は漿液性網膜.離を伴う中心性漿液性脈絡網膜症において,IS/OSは網膜色素上皮との正確な判別が困難である一方で,ELMは評価が可能であると報告している.漿液性網膜.離を伴うDME眼においても,IS/OSの同定は困難である一方でELMは判別可能であった.網膜外層構造の破綻が強く,漿液性網膜.離を含めた多形態を示すDMEにおいて,より多くの症例で網膜外層構造を評価しうる点でELMは優れた指標と考えられる.今回,少数例の検討ではあったがIS/OS,ELMが術後視力の予測因子として利用可能であり,特にELMは有用性が高い指標である可能性が示唆された.今後,OCTの進化による分解能,描出力向上により,さらに正確な評価が可能となるはずである.さらなる症例検討を重ねたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753759,19922)TachiN,OginoN:Vitrectomyfordiffusemacularedemaincasesofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol122:258-260,19963)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphtalmol127:688-693,19994)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20085)OishiA,HataM,ShimozonoMetal:Thesignificanceofexternallimitingmembranestatusforvisualacuityinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol150:27-32,20106)MaheshwaryAS,OsterSF,YusonRMetal:Theassociationbetweenpercentdisruptionofthephotoreceptorinnersegment-outersegmentjunctionandvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol150:63-67,20107)MurakamiT,NishijimaK,SakamotoAetal:Associationofpathomorphology,photoreceptorstatus,andretinalthicknesswithvisualacuityindiabeticretinopathy.AmJOphthalmol151:310-317,20118)YanyaliA,BozkurtKT,MacinAetal:Quantitativeassessmentofphotoreceptorlayerineyeswithresolovededemaafterparsplanavitrectomywithinternallimitingmembraneremovalfordiabeticmacularedema.Ophthalmologica226:57-63,20119)中村裕介,安藤伸朗:特発性黄斑円孔の術後閉鎖過程の光干渉断層計による観察.臨眼64:1677-1682,201010)板谷正紀,尾島由美子,吉田章子ほか:フーリエドメイン光干渉断層計による中心窩病変出力の検討.日眼会誌111:509-517,2007***92あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(92)

My boom 12.

2013年1月31日 木曜日

監修=大橋裕一連載⑫MyboomMyboom第12回「小堀朗」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑫MyboomMyboom第12回「小堀朗」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介小堀朗(こぼり・あきら)福井赤十字病院眼科私は,平成3年に宮崎医科大学眼科に入局し,和歌山赤十字病院で研修.縁あって平成7年に京都大学眼科に転入し,公立豊岡病院を経て平成9年から福井赤十字病院眼科部長を勤めています.15年も同じところに勤めているといろいろなことがあります.公的病院なのになぜかエキシマレーザーを導入してLASIKをしています.電子カルテは創成期に無理矢理導入されてプチノイローゼになりました.スーパーローテイト制度が開始され6人いた眼科医が突然4人になり慌てました.それでも勤務を続けているのは手術に強い興味があったせいと思います.白内障,緑内障,網膜硝子体手術はもちろんですがICLや斜視手術も行っています.LASIK,角膜移植,眼形成手術も以前は手がけていましたが,最近はスタッフみんなで役割分担するようになりました.臨床のmyboom最近,眼内レンズ(IOL)強膜内固定に興味をもっています.2007年にGaborらが報告して以来,徐々に広まり多焦点IOLの固定や小児への挿入も報告されています.IOL縫着術と比較しますと以下のような利点と欠点があります.利点としては,強膜内に固定されるので術後にIOLがブラブラ動くことがありません.IOLループを固定する糸がないので術後に眼内へ感染が起きるリスクが少なく,縫合糸の露出による異物感からも解放されます.今後手術をさらにシンプルな手順にできる可能(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY性があります.一方,欠点としては,穿孔創にループが通るので創が大きくなり,出血・漏出・脈絡膜.離が生じやすくなります.眼内でのループ操作が必要なので大きな光学径のIOLは使いづらくなります.手術方法も一つではなく,細かいところは少しずつ違っておりさまざまな方法があります.強膜フラップ作製やトンネル作製,ループを鑷子で取りにいく方法や針の管腔内に入れて取り出す方法もあります.IOLの大きさやループの形状,材質,太さによってもやりやすさが異なります.簡単なようでまだまだ難しいところもある手術です.趣味のmyboomここ十数年スキーが趣味です.特に圧雪していない新雪(powdersnow)を滑ることにハマッています.最初に新雪を滑る楽しさを覚えたのは新潟の新井市です.バブルの頃にできたスペシャルなスキー場がありました.最初は施設の豪華さに惹かれて通っていました.しかし,そこは日本でもトップクラスの豪雪地帯でゲレンデは圧雪してなくて滑りにくいし,しょっちゅう吹雪いて視界は悪いし,斜面は狭くて急だし,どこがいいんだろうと思っていました.それでも懲りずに通っていると新雪の上を少しずつ滑れるようになり楽しくなります.新雪はその約98%が空気だそうです.その上をすべると独特の浮遊感があります.できれば50cm以上の新雪がほしいです.それだけ雪が積もればスキー板の滑るスピードと方向によって雪の上も中も浮きながら滑ることができます.ハマるほど楽しく思えたのはその時からです.実はそのスキー場はpowderskiで有名なところであり,一晩で雪が1m以上積もることもよくありました.そんな日はもう大変です.朝早くから競ってリフトの順番待ちに並び,まっさらな新雪の上にシュあたらしい眼科Vol.30,No.1,201383 〔写真1〕新井のゲレンデ.見える山全部新雪で滑走OK!プールを描いた時はもう最高です.今は残念ながらそのスキー場は潰れてしまいました.雪が大量に積もるには海のすぐそばに高い山が必要になります.日本海側はその条件にぴったり合致しており,世界でも有数の豪雪地帯だそうです.国内にはpowderskiを楽しめる所は沢山あります.自力でスキーを担いで山を登って滑ればどこででもpowdersnowを滑ることができますが,自分にはそんな体力はありません.もっぱらリフトもしくはロープウェイを存分に使ってのpowderskiを楽しんでいます(スキー場のルールは守っていますよ).福井ではスキージャム勝山という大きなスキー場があります.家から1時間ほどで行けるホームゲレンデです.富山の立山ではゴールデンウィーク近くになると室堂周辺や弥陀が原周辺を滑ることができます.有名な雪の大壁のすぐそばを滑ることができます.リフトはないので巡回バスを使い,Tバーリフトで登って滑りま〔写真2〕八甲田山で販売しているステッカー.白い粉=powder=新雪す.青森の八甲田山ではロープウェイを使った山ツアースキーが盛んであり,専門のガイドさんとともに樹氷の中のpowderskiが楽しめます.北海道のニセコではコース内も楽しいですがコース外(気象条件付きですが)はさらに思う存分楽しめます.でも案外有名でないところのほうがpowderskiの競争率も少なく,楽しめることも多いです.そんなところを探して滑るのも楽しみの一つです.次回のプレゼンターは,佐賀県の西村知久先生(美川眼科)です.研修医時代に和歌山で一緒に働きました.最近はトーリックIOLに内視鏡にとアクティブに活躍されています.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆84あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(84)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 1.Jin先生の思い出

2013年1月31日 木曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ①責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ①責任編集浜松医科大学堀田喜裕Jin先生の思い出矢部(西村)千尋(ChihiroNishimuraYabe)京都府立医科大学大学院医学研究科病態分子薬理学教授1980年京都府立医科大学卒業,同大学院入学.1981年同薬理学教室助手.1984年留学.1988年帰国,国立小児病院小児医療研究センター研究員.1991年同中毒副作用研究室室長.1996年京都府立医科大学薬理学教室教授,2003年同大学院医学研究科病態分子薬理学教授.2007年同国際学術交流センター長,2010年同男女共同参画推進センター長,現在に至る.僭越ながら眼科医でもない私が最初にこのコーナーを執筆させていただくことになりました.私は,JinH.Kinoshita先生(以下,Jin先生)のポスドクとして1984.1988年にNEI(NationalEyeInstitute)に在籍し,先生のライフワークであったaldosereductase(AR)のクローニングをお手伝いした基礎医学の人間です.帰国後もJin先生ご夫妻の自宅やハワイでのARワークショップにて何度かお目にかかりましたが,ここ何年か音信が途絶えておりました.西海岸に出向く機会がないまま一昨年Jin先生の訃報を受け,晩年の先生にお会いする機会を逸したことを知りました.昨年夏,休暇をとって夫とカリフォルニア州SanJoseにあるJin先生のお墓を訪れました.先生の名前の刻印されたパネルを見つけ(写真1),私を含め,多くの研究者のメンターであられた先生にお別れいたしました.私が初めてJin先生にお目にかかったのは大学の2回生の頃だったと思います.同僚のKuwabara(桑原登一郎)先生とともに京都の自宅に立ち寄られた折でした.米国国立保健研究所(NIH)より来客があるから挨拶するようにとの父の指示で,クラブ練習を早々に切り上げて帰宅しました.食堂からは普段家で耳にしないような快活な笑い声が聞こえ,戸を開けると宴もたけなわ,上機嫌の両先生が座っておられました.堅苦しいお役人のような来客を想像し,英語での挨拶に緊張していた私はこれまでに会ったことのない気さくで陽気な日系二世のJin先生に親しみをもちました.とはいえ,私は終始緊張の面持ちだったようです(写真2).6回生の夏休みに父の滞在していたNIHに遊びに行く機会に恵まれ,Kuwabara先生の研究室でゲストワーカーとして走査電顕の使い方を教えていただきました.昼食持参で集まる研究室仲間のミーティングや,帰国研究者のお別れ会ランチョンにも無料参加させてもらい,留学生活のエッセンス写真1Jin先生のネームプレート写真2京都の自宅にて(左より,Jin先生,筆者,Kuwabara先生,筆者の母)(81)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013810910-1810/13/\100/頁/JCOPY 写真3ベセスダ近郊のレストランにて(Jin先生ご夫妻とともに)を体験しました.この「留学体験実習」が私の進路選択に大きく影響しました.なぜなら,卒後最短期間で留学するには基礎医学に進むのが良さそう,という不埒な理由で進路を決めることになったからです.当時,私の大学では長年米国で過ごされ帰国された栗山欣彌教授(現名誉教授)が薬理学教室を主催されており,私のような留学願望の強い身勝手な女子学生を快く受け入れてくださいました.栗山教授より4年余り神経化学のご指導を受け,学位論文「糖尿病性網膜病変に関する薬理学的・神経化学的研究」にて無事博士号をいただきました.そして6回生の夏から5年後,ポスドクとして再びNIHのキャンパスに立ち,私は大海に初めて出航した帆船ように高揚していました.Jin先生は“Iamyourdesignatedfather”とおっしゃって,奥様のKayさんと一緒に,私の新生活万端を文字どおり親身にお世話いただき,よく食事にも誘っていただきました(写真3).銀行口座の開設,車の購入,運転免許取得や保険の加入手続きはもちろん,友達との交際に関すること,例えば際立って親しげに近づいてきた同性はレズかもしれないので警戒すること(?)など,実に細やかなお気遣いをいただきました.ご夫妻で日系二世の親睦会にもたびたびお連れくださり,年代や環境の異なる日系の方々の考え方や生活を知る機会となりました.日系人として差別を受け,逆境の中で互いに助け合い,米国社会で地位を築いてきた仲間との強い絆を感じました.当時,Jin先生はNEIのScientificDirectorとして所員には恐れられる存在でした.Jin先生の率いる白内障グループは優遇されていたと思いますが,研究テーマによっては次年度の継続が認められず,泣く泣く去って行くセクションヘッドやポスドクを目にしました.トップダウンのボスの裁量権82あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013の大きさのみならず,ボトムアップで直属上司を飛び越えてトップに直訴できるダイナミックな組織を目の当たりにしました.当時の実験ノートによるとNEIでの私の最初の仕事は,ELISAによるAR蛋白のアッセイ系の確立でした.しかし,この試みは抗体力価が不十分でうまく実を結びませんでした.このアイデアは帰国後,企業と共同でモノクローナル抗体による2抗体サンドイッチ法を組み立てることにより実現し,ヒトの血液や組織中のARの免疫学的定量が可能となりました(ClinChem40,889-894,1994).Jin先生は眼の領域にとどまらず広く糖尿病合併症全般へのARの関与の可能性を考えておられました.ですから私は網膜・水晶体のみならず,腎臓や末梢神経など幅広い臓器を対象に研究経験を積ませていただきました.また,日本ではまだ黎明期にあった分子生物学の手法をARのクローニングに参画して学ぶことができました.この仕事はもともとJin先生の信頼厚いDebbieCarper博士が担当していましたが,彼女が産休に入る前に私が手伝うことで間断なく進めようとお考えになったようです.最先端の手法に興味があった私は勇んでMania-tisのMolecularCloningを読みふけり,同じフロアで実験している研究仲間にノウハウを聞きまくり,時には調整済みのバッファーまで拝借してクローニングに取組みました.抗体を使ったスクリーニングはうまくいきませんでしたが,N末アミノ酸配列をもとに合成した標識オリゴペプチドによるスクリーニングはbeginner’sluckで成功し,復帰してきたDebbieと二人で無事とりまとめてJin先生の期待に応えることができました(FEBSLett220,209-213,1987;JBiolChem265,9788-9792,1990).4年間の留学生活のなかで最も楽しく,充実した時期でした.NEIでさまざまな実験に携わり,視野が広がったことはその後の私の研究者としての糧となったことはいうまでもありません.帰国後は東京都世田谷区の国立小児病院附属の研究施設(国立成育医療センターの前身)で引き続きARの研究を進め,1996年母校の薬理学教室に帰りました.その折に留学時よりの一連の研究を総説にまとめ(PharmacolRev50,21-33,1998),Jin先生にお褒めいただいたことを思い出します.現在,私はARの発現誘導にもかかわる活性酸素種のシグナリング機構と,その産生酵素であるNADPHオキシダーゼの研究に取り組んでいます.卒後の進路選択から留学時代を通じて私はJin先生より並々ならぬ薫陶を受けたと思います.古巣の薬理学教室に戻り瞬く間に年月が過ぎ,気がつけば私の周りは若い人たちばかりになりました.Jin先生にご教導いただいたことを次世代に伝える責務を感じる今日このごろです.Jin先生,ありがとうございました.ご冥福を心よりお祈り申し上げます.(82)

WOC2014への道:あと15ヶ月

2013年1月31日 木曜日

WOC2014Tokyo新年を迎えました.来年はいよいよWorldOph-thalmologyCongressR(WOC)2014の年です.世界の眼科医が日本にやってきます.ヨーロッパから,アフリカから,中東から,アジア太平洋から,北米から,中南米から.国際眼科学会は,過去150年の間に33回,開かれています.日本での開催は,1978年の京都開催以来,36年ぶりです.今後のローテーションを考えると,次に日本で開催されるのは数十年後でしょうから,前回の京都を経験していない世代の先生(私もです)にとって,2014年はおそらく自国開催のWOCに参加できる唯一の機会ということになると思います.WOCの開催国は,国際眼科評議会(Internation-alCouncilofOphthalmology:ICO)理事会での投票で決まります.開催希望国は多く,毎回激戦となります.WOC開催国となることにどのようなメリットがあるのでしょうか.WOCを成功裡に開催することは,その国の眼科のステータスを大きく高めます.例えば昨年2月のアブダビWOCは,非常に近代的な施設と効率的な集めた2010年のベルリンや2008年の香港でも同様で,WOCの成功は国内的には眼科の地位の向上に,対外的には開催国の眼科に対する国際的な注目度の向上に結びつくといえます.WOC2014は,日本の眼科の発展と独創性を世界に発信する良い機会であるとともに,さまざまな国の先生方と情報交換する絶好の場でもあります.また,アジアの眼科における日本の指導的立場を確立し,日本の眼科医が国際的にリーダーシップを発揮できるようアピールする好機ともなるでしょう.発展途上国,とくにアジアの国々における眼科医療水準の向上に貢献すること,世界の失明予防に寄与することも重要です.日本の先生方への最新医療情報の提供という視点も欠かせません.WOC2014の組織委員会は2009年から準備活動を行ってきました.ICOと緊密に連携しながら準備を行っています(写真).どの国の学会に出席しても感じることですが,運営の細やかさや,もてなしの心において,日本に匹敵する国はありません.日本の誇るソフトパワーとテクノロジーを駆使して,世界の眼科医をお迎えしWOC2014への道あとカ月大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科15WOC2014Tokyo新年を迎えました.来年はいよいよWorldOph-thalmologyCongressR(WOC)2014の年です.世界の眼科医が日本にやってきます.ヨーロッパから,アフリカから,中東から,アジア太平洋から,北米から,中南米から.国際眼科学会は,過去150年の間に33回,開かれています.日本での開催は,1978年の京都開催以来,36年ぶりです.今後のローテーションを考えると,次に日本で開催されるのは数十年後でしょうから,前回の京都を経験していない世代の先生(私もです)にとって,2014年はおそらく自国開催のWOCに参加できる唯一の機会ということになると思います.WOCの開催国は,国際眼科評議会(Internation-alCouncilofOphthalmology:ICO)理事会での投票で決まります.開催希望国は多く,毎回激戦となります.WOC開催国となることにどのようなメリットがあるのでしょうか.WOCを成功裡に開催することは,その国の眼科のステータスを大きく高めます.例えば昨年2月のアブダビWOCは,非常に近代的な施設と効率的な集めた2010年のベルリンや2008年の香港でも同様で,WOCの成功は国内的には眼科の地位の向上に,対外的には開催国の眼科に対する国際的な注目度の向上に結びつくといえます.WOC2014は,日本の眼科の発展と独創性を世界に発信する良い機会であるとともに,さまざまな国の先生方と情報交換する絶好の場でもあります.また,アジアの眼科における日本の指導的立場を確立し,日本の眼科医が国際的にリーダーシップを発揮できるようアピールする好機ともなるでしょう.発展途上国,とくにアジアの国々における眼科医療水準の向上に貢献すること,世界の失明予防に寄与することも重要です.日本の先生方への最新医療情報の提供という視点も欠かせません.WOC2014の組織委員会は2009年から準備活動を行ってきました.ICOと緊密に連携しながら準備を行っています(写真).どの国の学会に出席しても感じることですが,運営の細やかさや,もてなしの心において,日本に匹敵する国はありません.日本の誇るソフトパワーとテクノロジーを駆使して,世界の眼科医をお迎えしWOC2014への道あとカ月大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科15〔写真〕ICOと合同での準備委員会運営で参加者を驚かせました.中東アフリカ地域での初の国際学会として大成功であり,参加した世界中の眼科医に,中東地域の文化や眼科の歴史を鮮烈にイメージ付けました.同国ではセレモニーに王族が参加したこと,またそれまでにない大規模な国際学会であったことから,国民の眼科に対する意識が非常に高まったとのことです.史上最多の参加者をようではありませんか.皆様をお迎えするのは,4月第一週,桜の季節です.東京が一年中で最も美しい季節と言っていいでしょう.世界から多くの眼科医を日本に迎え,日本の文化ともてなしの精神に触れてもらい,我が国のハイテクと伝統の融合を味わってもらいたい,それが我々の願いです.(79)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013790910-1810/13/\100/頁/JCOPY

現場発,病院と患者のためのシステム 12.経営に寄与する情報システム

2013年1月31日 木曜日

連載⑫現場発,病院と患者のためのシステム連載⑫現場発,病院と患者のためのシステムERP(EnterpriseResourcePlanning)と呼ばれ,社内に散在する有形無形のリソースを総合的に管理・活用する機能,情報を提供し,経営に貢献するとしてもてはやされた情報システムがありました.少数の成功事例がセンセーショナルに取り上げられ,これに乗せられ,成功要因を確経営に寄与する情報システム杉浦和史*情報システム導入の成功,失敗の定義はいろいろありますが,経営に寄与したかしないかが,最もシンプルでわかりやすい指標ではないかと思います.当院開発中の院内業務総合電子化システムHayabusaでは,図1の目標を掲げていますが,“経営に具体的に寄与する”が最かめずに安易に導入して失敗した企業は数知れずありました.電子自治体ブームでも同様な傾向がみられましたが,電子カルテシステムを代表とする医療情報システムでも同じことが言えます.終目標です.来院数,新患増加数,手術件数,ベッド稼働率の推移は直接的に経営に貢献する数字として知られています.このうち,大本は来院数でしょう.来院しなければ手術になることはないし,手術をしなければベッドの稼働率を気にする必要もないからです.では来院数を増やすにはどうしたら良いのでしょう.医師の腕であることは論を待ちませんが,これはクリアしているものとして,あとは?看護師をはじめとするコメディカルスタッフの適切で優しい言動と,待ち時間ではないでしょうか.これらは患者満足度という形で現れてきます.この患者満足度の向上が,その病院の評判を高め,再来院率を上げ,ひいては新患を呼び込む要因になると考えられます.優しい言動は,標語を掲げ,朝礼で唱和したりセミナーを受講させたりすることで実現できるものではありません.コメディカルスタッフも人間,疲れている時も気分の優れない時もあり,優しい言動にならない場合もあるはずです.できるだけそのような状況にならないようにするには,職員(スタッフ)満足度という指標を考慮する必要があります.以前,待ち時間を取り上げた号(本誌9月号連載⑧スタッフ満足度,待ち時間)でもこの指標を説明したことがありますが,スタッフが気分よく働けるような機能,情報を提供するシステムを整備すれば,スタッフ満足度を高めることができるのではないかと考えています.このスタッフ満足度,実は,患者満足度と密接な関係(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYIntegratedHayabusa患者待ち時間の最小化患者満足度の向上職員の負荷軽減限られたリソースの最適配分各種情報の可視化迅速的確な経営判断経営に具体的に寄与するCopyright2012宮田眼科病院Allrightsreserved図1Hayabusaの目的があります.待ち時間にしびれを切らした患者さんが,「あとどのくらい待てば良いのですか」,「あの人は私より後に来たのに先に診察してもらったのはどうしてですか」などとスタッフに問いかけるシーンは頻繁に見かけます.患者満足度を下げる大きな要因となっているこのような状況への説明,対応は,スタッフの大きなストレスとなっていることは,スタッフの皆さんと話をしたり,現場を観察すれば一目瞭然です.当院では,待ち時間の要因分析を行い,時間そのものの短縮を図るとともに,どんな状態で待っているかがわかり,他の患者さんの待ち状態もわかる情報を提供することで,問いかけやクレームを激減させ(患者満足度向*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201377 表1人間がコンピュータ(システム)より優れている点人間が優れている点概要1考えることができる1+1=2という選択の余地がない場合ではなく,どのようにでも判断できる曖昧な場面に遭遇した場合,過去の経験に基づき,また,その時々の状況に応じて,何が最適かを考える能力が人間にはあります.ハムラビ法典のように単純明快ならシステム化された裁判も可能ですが,情状酌量や大岡裁きが必要な現実の裁判には使えません.現実の世界では,1+1が2<(シナジー効果)になったり,2未満になることも頻繁に経験しますが,これはコンピュータの世界ではあり得ないことです.1+1が2以下になる場合でも“損して得取る”の発想で,戦略的にGOサインを出す場合もあります.これは人間にしかできないことでしょう.2直感いくつもの情報を見て判断するのではなく,少ない情報で瞬時に的確な判断する能力.伝説の相場師“是川銀三”の世界.その反面,“見落とし”,“勘違い”というコンピュータではあり得ないことも発生します!3知識・経験を蓄積し活用できる人間は,五官で得られた情報や経験したことを記憶し,必要に応じて利用し,情報量(エントロピー)をアップさせて再記憶し,また再利用し,知識の拡大再生産を行うことができます.記憶できる形式は,音,色,数値,文字,形だけではなく,物理的な環境,情緒的な環境,情景など複雑多岐にわたっており,コンピュータの及ぶところではありません.上),以ってスタッフ満足度も向上させた実績をもっています.一般的に言える人間がコンピュータ(システム)より優れている点を,表1に掲げます.病院には,点眼,処置など人間ならではの作業があります.これらの作業を除いた作業をシステムで代替えすることで,スタッフの肉体的,精神的負荷を軽減させることができます.これによってできたゆとりをもって患者さんに接することで,患者満足度を向上させ,病院の評判を高め,再来院率を上げることができるでしょう.IntegratedHayabusa図2Hayabusaメインメニュー直接的ではなく間接的ではありますが,患者満足度を上げることが病院経営に寄与することは間違いなく,その実現を支援する情報システムは回り回って経営に寄与するシステムと言えるでしょう.当院では,予約業務を主体とするリソースマネジメントシステムM-Magicに続き,人間ならではの作業を除く院内業務を電子的に処理するHayabusaを開発中ですが,経営に寄与するシステムを目指していることはいうまでもありません.昨年同月比の再診患者数の推移来院者数システム稼働後システム稼働前月図3M.Magicの効果78あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(78)

タブレット型PCの眼科領域での応用 8.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入-その1-

2013年1月31日 木曜日

シリーズ⑧シリーズ⑧タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第8章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入─その1─■ロービジョンエイドとしての導入の実際今回は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PCである“新しいiPadR(米国AppleInc)”とスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc)”,iOSバージョン6.01について,実際に臨床の現場に導入する際の注意すべき点やその理由について,タブレット型PCを使用している患者さんたちの生の声を紹介するとともに解説していきます.■私のロービジョンエイド活用法「基本操作編」実際に患者さんにタブレット型PCを勧める際,その操作に関して患者さんの訴えには,次のようなものがあります.「触っていないのに,勝手に画面が動いてしまう」「画面を触っても,アイコンが反応しない」これらの訴えは,タブレット型PCの初心者ではよく認められ,タッチパネル式のタブレット操作に特有の現象であると言えます.原因は,右手でタブレット型PCを操作している際に,タブレット本体を保持する操作をしていない左手の指や手の一部が,無意識に液晶画面に触れてしまうことに起因するものがほとんどです.このような原因による誤作動を最小限にするために,次のような対策をとっています.私は体験セミナーなどで,おもに本体カラーはホワイトモデルのデバイスを用いて体験実習をすることで,液晶画面とフレーム部との視覚的コントラストを向上させます.すなわち,使用者にタッチ操作が可能な液晶画面の範囲を常に意識してもらうことから導入を始めています.次にアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)の選択および起動やアプリ内操作などは,基本的に1本(75)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYの指のみで行う(シングルタッチジェスチャー)ということを強く印象付けています.複数の指や皮膚の一部を同時に液晶画面に接触させた場合,タッチパネル式の入力操作では接触部位が一カ所の場合とは異なり複数の指による操作(マルチタッチジェスチャー)と誤認され,意図する動作とは異なる挙動をプログラムが示すことがあります.マルチタッチジェスチャー操作は慣れてくると非常に有用ですが,特に視覚障害を伴う患者さんのタブレット型PC導入の段階では,操作はとにかくシンプルに統一し,習熟度に合わせて応用編で追加操作の説明を行うように心がけることが大切です.タブレット型PCの液晶画面でのタッチパネル式の操作可能範囲と,その外側にあるタッチ操作に反応しないフレーム部分とを空間的に把握すること,1本指での操作が基本であることの意識付けがタブレット型PC導入で最初の課題であると言えます.■私のロービジョンエイド活用法「シングルタッチジェスチャー操作編」シングルタッチジェスチャーを指導する際に,障壁となる症状は大きく分けて3つあげられます.1)指の可動域が低下して1本だけ指を進展させることが困難,2)タッチパネル操作時の液晶画面を押す力の加減が困難,3)皮膚の乾燥などによるデバイス側のタッチパネルの接触感度の低下,以上の3症状があげられます.これらはいずれも高齢者がタブレット型PCを操作する際には頻回に認められる症状であり,これらに伴う操作性の低下が原因で,脱落する患者さんが多くみられます.ここではこれらの症状に対する現状での対応について紹介していきます.あたらしい眼科Vol.30,No.1,201375 図1指での操作の変わりにタッチペンを使用した操作を指導図2タッチパネル操作が可能な手袋を着用した操作①指の可動域の低下した患者さんへの対応細かな指先の操作が難しい高齢者や視覚障害者も多くいるため,1本の指での操作が不向きな患者さんには導入早期に,タッチペンを用いたタブレット型PCの操作へと指導を変更することで,タッチパネル式の入力の操作性は格段に向上します(図1).②操作時の力加減の調節が低下した患者さんへの対応指先の力加減の認識が困難な患者さんでは,不用意にタブレットの液晶画面に強い力がかかってしまった場合,指先と液晶画面の摩擦抵抗の増加に伴い指先の動きは緩慢となります.それに伴い液晶画面上の一点を長く押した際に発動する長押し機能が,意図せず機能してしまい,希望する動作とは異なる挙動を示すタブレット型PCに困惑する患者さんをよく目にします.この誤操作を繰り返す患者さんでは,液晶画面に摩擦抵抗を低下させる目的で液晶画面保護フィルムを装着することで,誤操作の頻度を低下させることが可能です.しかし,保護フィルムの摩擦係数は一定ではなく商品間で差があること,フィルム装着によりグレア予防や横からの覗き見防止機能のあるフィルムでは,液晶画面のコントラストが低下するものや視認性が大きく下がるものがあるので,フィルムの選択には注意が必要です.また,対応①で示したタッチペンとの相性が非常に悪いフィルムもあるので購入を勧める際は,その患者さんにとって何が一番操作性を下げているかを探求し,そのうえで最小限の対応から始めることも大切であると言えます.③皮膚の乾燥などによりタッチパネルの接触感度が低下した患者さんへの対応タッチパネル操作が可能な手袋を着用することで,使用者の皮膚の状態にかかわらず,滑らかなタッチ操作が可能になります(図2).また,操作に使用しないほうの手にはタッチパネルに反応しない手袋を着用してもらうことで「基本操作編」で紹介した,保持側の手による液晶画面の不用意な接触を防ぐことも可能です.このように実際にタブレット型PCをロービジョンエイドとして導入する際には,非常に細かな個別の指導が必要です.しかし,現状でそのような指導を行える医療機関は少なく,今後も私はGiftHandsの代表として視能訓練士を中心とした指導者セミナーなどを開催する重要性を強く実感しています.この活動を継続して行くことでより多くの視覚障害をもつ方の生活が,少しでも快適なものになると私は信じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆76あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(76)