特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):431.435,2013就学前のロービジョンケアPreschoolLowVisionCare伊藤里美*仁科幸子*皮質盲その他9%4%ジストロフィ11%先天異常43%網膜芽細胞腫3%未熟児網膜症19%先天緑内障5%小眼球コロボーマ視神経乳頭異常視神経低形成Leber先天黒内障黄斑低形成白子症網膜分離症家族性慘出性硝子体網膜症先天無虹彩角膜混濁822611451013051015図1原因疾患(比率)(文献2より)先天白内障6%はじめに視覚障害の原因は成人の疾患が大多数を占め,先天疾患は全体の約1割にも満たない1).視覚障害児の数の少なさから,しばしば成人のロービジョンケアと混同されることがあるが,発達の途上にある小児のロービジョンケアには成人とは異なる特徴がある2).小児の視覚障害の約9割は1歳未満で発症する3).したがって,乳幼児期から就学前までに適切なロービジョンケアを開始することが重要な課題である.ロービジョンケアを開始するにあたり,保護者の理解と協力が不可欠であることから,原因疾患の診断や治療と並行し,できるだけ早期に視覚障害の程度を評価して,保護者に対する十分な説明と継続的なケアを行う必要がある4).全身合併症の有無や,発達状況について,他科や療育施設と連携することも大切である.乳幼児期には療育相談や情報提供が主体となるが,発達段階に応じて種々の補助具を選定し,学習環境を整備する.このように,年齢・発達に伴いニーズが変化する点や療育・教育機関など連携先も成人とは大きく異なる.本稿では,就学前の小児のロービジョンケアの特徴,および視覚特別支援学校との連携を中心に述べる.I就学前のロービジョンケアの特徴1.原因疾患視覚障害の原因疾患は,先天異常が最も多く,ついで,未熟児網膜症,ジストロフィ,皮質盲,網膜芽細胞腫である.先天異常の内訳は,家族性滲出性硝子体網膜症,小眼球,先天白内障,視神経形成異常など多彩であ*SatomiIto&SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕伊藤里美:〒157-0074東京都世田谷区大蔵2丁目10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)431る(図1)2).先天あるいは出生直後に発症する先天疾患では,重症度が個々に異なって多彩な病像を呈し,視覚障害に他の障害が重複することが多い2).また近年では,400.500gの超未熟児の救命率が向上したため,重症未熟児網膜症による視覚障害の比率が増加し,重篤な視覚障害に中枢神経系,呼吸循環器系,聴覚系,発達遅滞などの障害を合併した重複障害児が増加する傾向にある.2.視機能の早期評価乳幼児期に種々の視力検査を行うことによって,視力の評価だけではなく,児の応答を通して発達の状況も評価できる.しかし低年齢,低視力の視覚障害児では,正図2縞視力検査表(LEAGratingPaddles,GoodLite社製)確な評価はむずかしい2).通常の視力検査がむずかしい児には,簡便な縞視力検査(図2),近見視力検査,視覚認知検査(図3),視覚誘発電位などを用いて保有視力を評価する.それでも視力の測定がむずかしい重症・重複障害児の場合は,体位や方向を工夫して,ペンライトや色彩のはっきりした視標を用いて視反応(固視・追視)をよく観察する.視覚障害児は器質疾患に加えて強い屈折異常を伴うことが多い4).視力の評価と同時に,調節麻痺剤を用いた精密屈折検査を行い,乳幼児期から屈折矯正を開始することが保有視力を伸ばすために重要である.視野障害の定量的な評価を就学前に行うことはむずかしい.しかし,視力が比較的良好であっても,視野狭窄を伴う網膜色素変性症や脳神経疾患では,文字や図形の認識がむずかしく,周囲の状況を把握することが困難なため,日常・社会生活に支障をきたしやすい.視野狭窄,羞明,明暗順応障害をきたす疾患では“視力は良好だが見えにくい状態”について,シミュレーション眼鏡などを用い,保護者に十分に説明しなければならない.小児では,少なくとも就学前に,原因疾患と保有視機能を的確に診断・評価することが重要となるため,必要に応じて網膜電位図,光干渉断層計,周辺部までの詳細な眼底・蛍光眼底検査などを全身麻酔下で実施している図3視覚認知検査表(LEASymbol3-DPuzzleSet,GoodLite社製)図4全身麻酔下検査側臥位にて光干渉断層計検査を実施.432あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(4)(図4).病状が固定すれば,成人と同様に身体障害者手帳の申請を行う.乳幼児用視力検査でも申請は可能だが,発達によって視機能が変化する可能性があるので,低年齢の場合には1.3年で再認定を要する.3.ニーズの把握視経験の少ない視覚障害児自身は,“見えにくさ”を認識することも表現することもできないので,ニーズの把握は非常に困難である5).乳幼児期は保有視機能を評価して発達を促すこと,保護者に対し療育相談や情報提供を行い支援を行うことがロービジョンケアの主体となる.年齢や発達段階によってニーズが変化するので,保護者から情報を得て継続したケアを行わなければならない.視覚障害児の養育に関する問題点として,乳幼児期では,基本的な生活習慣(食事,生活リズム)や発達に関する悩み,保護者としての不安などがあげられる6,7).特に,重複障害児では,日常生活や視機能評価に関する相談が多く,このような場合は,療育センターなどで運動機能訓練をはじめとする全身ケアを受けながら視覚ケアを含めたハビリテーションを促す.幼児期には教育や就学に関する相談や補助具に関する相談が多い2)(図5).就学については居住地域の教育機関と連携をとり,時期的に余裕をもって相談を進めることが大切である.4.補助具0.2歳の乳児期では,補助具の処方例はほとんどないが,3歳以降になると疾患によって遮光眼鏡(図6)を処方するケースが出てくる.就学前になると視機能に応じて拡大鏡(図7),単眼鏡(図8),拡大読書器などの補助具の導入が必要となる.補助具は導入時期が遅れると,羞恥心のため補助具を使いたがらない,見ようとする意欲の低下,などの理由から使用が困難となる傾向がある5).本人が補助具の使用を躊躇するような場合でも,保護者が補助具のメリットを知ることにより,児にその使用を促すことができる.補助具の選定の際には,コントラスト視力表(図9)や読書チャートを用いた検査結果が参考になる.また,使用時の視環境が大きく影響す(5)■視機能評価■医療情報提供■福祉情報提供■日常生活・療育相談■教育・就学相談■補助具選定33%17%8%40%0~2歳2%3~5歳25%7%13%27%19%9%3%11%9%6%34%36%6歳~0%20%40%60%80%100%図5年齢別のロービジョンケアの内容(比率)(文献2より)図6遮光眼鏡小児用のサイドシールド付きフレームも販売されている.図7拡大鏡あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013433図8単眼鏡図9コントラスト視力表(TransLucentContrastTest,PrecisionVision社製)るので,学校や保護者と相談して選定する必要がある.視覚障害が児童の学習に与える影響は大きいため4),補助具の使用訓練だけでなく,視環境を整え,学習しやすくする配慮をすることが重要である.II視覚特別支援学校(盲学校)注1)との連携1.視覚特別支援学校の取り組み視覚特別支援学校の開設形態は地方や学校によって差434あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013があるが,各都道府県に1校以上設置されている.原則として,学校教育法における就学基準注2)を参考に教育や特別支援の適否が判断されるが,現在は保護者の希望を取り入れて在籍校や支援の形態を事前に相談できるようになった.視覚特別支援学校は従来の教育機関としての役割だけではなく,保護者,役所,保健所,視覚障害児の受け入れ施設などからの問い合わせ,訪問指導にも対応し,地域の特別支援教育のセンターとしての役割も担っている.注1)平成19年4月から,学校教育法等の改正に伴い,従来の盲学校は,「視覚特別支援学校」に変わった.しかし実際には,通称として「盲学校」という名称を用いることが主流である.注2)平成14年に改正された学校教育法における就学基準では,盲学校の対象者は,「両眼の視力がおおむね0.3未満のもの又は視力以外の視機能障害が高度のもののうち,拡大鏡等の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が不可能又は著しく困難な程度のもの」で,弱視特別支援学級の対象は,「拡大鏡の使用によっても通常の文字,図形等の視覚による認識が困難な程度のもの」と定義されている.(身体障害者手帳の判定が困難な場合や該当しない場合でも,学校教育法の就学基準を基に視覚特別教育を受けることができる.)年齢ごとの視覚障害児に対する就学前の早期の視覚特別支援学校の取り組みを表1に示す.近年では,乳児期からの育児相談が多く,保護者の要望により,0歳児から2歳児を対象とした育児学級を開設する視覚特別支援学校もある.育児学級は,教員とともに保護者が育児について考え,視覚障害に関する情報交換,交流の場となり,日常生活に根ざした早期からの支援が行われている.幼稚部では,具体的に,保護者に対しては,視覚障害児との関わり方として,日常の場面では,児にわかるような方法で,物を認識させ動作と言葉を結びつけるように話すことの重要性を,遊びの場面では,大人が一方的に働きかけるのではなく,児の主体的な活動を促すよう,また,児からの働きかけに適切に答えていくことの重要性を伝えている.さらに,児の発達や興味を探り,音を楽しむ遊び,体を動かす遊び,触れて楽しむ遊びなど,いろいろな遊びを提供している.児に対しては,さまざまな体験活動を通して物の触り方や見分け方が上手(6)表1年齢ごとの視覚特別支援学校(盲学校)の取り組み年齢対応0.2歳(一部の学校で開設)育児相談,視覚障害に関する情報交換,交流の場としての育児学級視覚障害児への関わり方,障害の受け止め方についての保護者へのサポート遊びやさまざまな体験活動を通しての物の触り方や見分け方の指導3.5歳(幼稚部)保護者と視覚障害児との包括支援のため,基本的に親子での参加地域の保育機関への就園相談(地域の保育機関と掛け持ちで在籍することが多い)学校選び拡大鏡や単眼鏡,拡大読書器などの補助具の導入4歳頃.(就学相談)高額な補助具の購入に際しての社会保障・福祉制度の情報提供重複障害児の学校選び(どの障害を主体に考えるべきか)にできるように援助している.3歳を過ぎると,地域の保育機関への就園相談,4歳頃からは就学相談も始めている.就学相談の一環として,拡大鏡やルーペなどの補助具の導入を開始し,社会保障制度についての情報提供なども随時行われる.重複障害児では,どの障害を主体に考えて学校を選ぶべきか保護者も判断に苦しむことがあるが,仮に視覚特別支援学校以外の学校が選択され,視覚的な配慮が十分できない場合は,視覚特別支援学校からのコーディネーターによる訪問指導がある.視覚特別支援学校に幼稚部の標榜がなくても,必要に応じて相談を受け付けており,教員が家庭に訪問する形式や,電話やメールによる相談も可能なことがある.近年,医学や補助具の進歩により,視覚活用が可能な視覚障害児が増加し,就学に際し,点字教育のみならず,墨字教育を併用した教育への要望が高まっている.弱視学級への在籍や,地域の学校に在籍しながら,視覚特別支援学校もしくは弱視学級への通級という措置も増加している.視覚特別支援学校や弱視学級への通学が困難な場合は,視覚特別支援学校から,保護者,担任などに対する訪問指導を行うこともある.2.視覚特別支援学校との連携乳幼児期から就学前までのロービジョンケアには,医療機関からの療育・教育機関との連携,特に地域の視覚特別支援学校幼稚部との連携体制が不可欠である.患児の医学的背景や視覚障害の状況を正確に伝え,個々の患児に適したケアを早期に開始することが課題となる.おわりに重症眼疾患の診断・治療後,家族は眼科的な問題だけではなく,視覚障害を持つ子どもの発達,就学,学習,進路など将来について憂慮していることが多い.急性期の治療後,保有視機能の発達を促すとともに,視覚障害が発達を妨げないよう,できるだけ早い段階で療育環境を整え,継続した支援をしていくことが重要である.文献1)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:わが国における視覚障害の現状.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業,網脈絡膜・視神経萎縮に関する研究,平成17年度総括分担研究報告書,p263-267,20062)伊藤-清水里美:国立成育医療センターにおける小児ロービジョンケアの特徴.眼臨紀3:346-352,20103)柿澤敏文:全国視覚特別支援学校及び小・中学校弱視特別支援学級児童生徒の視覚障害原因等に関する調査研究─2010年調査報告書,20104)湖崎克:ロービジョン児教育のさきがけ.眼臨97:198202,20035)小松美保,大瀧亜季,飯塚和彦ほか:小児のロービジョンケアの要点.眼紀48:750-753,19976)仁科幸子,新井千賀子,富田香ほか:未熟児網膜症および眼先天異常による視覚障害児の療育に関する問題点.眼臨94:529-534,20007)久保田伸枝:視覚障害児の指導と教育.眼臨90:192-196,1996(7)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013435