特集●眼内レンズ度数決定の極意あたらしい眼科30(5):600~606,2013特集●眼内レンズ度数決定の極意あたらしい眼科30(5):600~606,2013特殊角膜における眼内レンズ度数決定2.PTK術後,RK術後IntraocularLensPowerCalculationFollowingPhototherapeuticKeratectomyandRadialKeratotomy山村陽*はじめにエキシマレーザーを用いた治療法は大きく2種類に分けられ,一つは顆粒状角膜ジストロフィや帯状角膜変性などの角膜表層混濁を生じる疾患に対して混濁を除去する目的で用いられるPTK(phototherapeutickeratectomy)であり,もう一つは近視を中心とした屈折異常を矯正する目的で用いられるPRK(photorefractivekeratectomy)やLASIK(laserinsitukeratomileusis)に代表される角膜屈折矯正手術である.PTKは1998年に認可され,その後2010年より保険診療による治療が可能となっている.PRKは2000年に,LASIKは2006年にそれぞれ認可された.現在,屈折矯正手術の主流はLASIKであるが,1980~1990年代にはRK(radialkeratotomy)が行われていた.RKは1970年代に開発され,角膜前面に瞳孔を中心として放射状の切開を加えることにより角膜中央を扁平化させ近視矯正を行う術式である.PTK,LASIKやRK術後などの角膜形状異常眼では,白内障手術の際に行う眼内レンズ度数計算がむずかしく,正常眼で汎用されているオートケラトメータによる角膜屈折力やSRK/T式を用いると術後にRefractive‘Surprises’とよばれる大きな遠視性の屈折誤差を生じることが一般に知られている1).その最大の理由は,角膜形状異常眼に対してオートケラトメータを用いると角膜屈折力に大きな測定誤差を生じるからである.PTKやRK術後の症例は多くはないが,LASIK術後の症例は今後も増加していくため,眼内レンズ度数計算についてあらかじめ対策を検討しておくことが重要である.I角膜屈折力の測定誤差1.角膜屈折力の測定部位オートケラトメータでは角膜傍中心部(直径約3mm)付近を測定し,正常眼では角膜中心部の屈折力と近似することができる.しかし,角膜形状異常眼では角膜中央の扁平化によって測定部位が角膜周辺に変化するため,角膜中心部の屈折力との間に大きなずれが生じる.2.角膜前面と角膜後面の屈折力オートケラトメータでは角膜後面が角膜前面と一定の比率で対応していると仮定し,換算屈折率(1.3375)を用いて角膜前面曲率半径から角膜全屈折力を推定している.しかし,角膜形状異常眼では角膜前面と角膜後面の比率が大きく異なるため,換算屈折率があてはまらなくなる.3.術後予側前房深度への影響眼内レンズ度数計算式として,第三世代の理論式であるSRK/T式が汎用されており正常眼に対する精度は高い.SRK/T式には術後予側前房深度が含まれ,予測には角膜屈折力が用いられる.よって,角膜屈折力の測定誤差を生じやすい角膜形状異常眼では,SRK/T式を用いるとさらに大きな屈折誤差につながる.*KiyoshiYamamura:バプテスト眼科クリニック〔別刷請求先〕山村陽:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町バプテスト眼科クリニックあたらしい眼科Vol.30,No.5,2013600600600(22)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1Post.RefractiveSurgeryIOLCalculatorPost-RefractiveSurgeryIOLCalculatorは,手持ちデータを入力して複数の計算結果を同時に表示してくれる有用なツールである.II角膜形状異常眼の眼内レンズ度数計算一般的にLASIKなどの屈折矯正手術眼に対する眼内レンズ度数計算方法は,屈折矯正手術前のデータが利用できるかどうかによって分類されることが多い2,3).また,AmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgery(ASCRS)のWebサイトには,Post-RefractiveSurgeryIOLCalculatorが掲載されており,手持ちデータを入力すると複数の計算結果を同時に表示してくれるといった便利なツールも存在する(図1)4).詳細については後述の「LASIK術後」の項に譲り,ここではPTKおよびRK術後の眼内レンズ度数計算について,当院における治療成績を紹介しながら述べたい.IIIPTK術後の眼内レンズ度数計算PTKでは通常角膜表面から約100μm前後の切除を(23)図2前眼部写真(PTK)上段:PTK施行前.帯状角膜変性により角膜表層に混濁が認められる.中段:PTK施行後.PTKにより角膜の透見性が改善した.下段:白内障術後.行うが,これによって約2~3Dの遠視化が起こる.したがって,PTKによって増加した遠視を眼内レンズで補正することは有用と考えられる.しかし,PTK術後であっても残存する角膜混濁によって角膜屈折力が測定あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013601表1PTK術後眼の眼内レンズ度数計算割合(%)方法角膜屈折力(D)屈折誤差(D)絶対屈折誤差(D)±0.5D±1.0DSRK/T式オートケラトメータ42.34±2.50.0.52±0.940.84±0.664062IOLMaster43.12±2.320.06±0.730.57±0.455069CL42.66±2.28.0.30±0.900.71±0.615781Ring343.27±2.580.18±0.810.62±0.543655TOP42.42±2.32.0.45±1.040.92±0.665583CL:contactlensovercorrection,TOP:totalopticalpower.(文献5より改変)表2エキシマレーザー機種間の屈折誤差EC-5000(n=11)T-217z100(n=12)VISXSTARS4IR(n=19)p値オートケラトメータ.0.04±0.91.0.36±0.71.0.90±0.97<0.05IOLMaster0.15±0.740.11±0.59.0.02±0.840.81CL.0.27±0.77.0.40±0.66.0.25±1.110.90Ring30.15±0.87.0.01±0.510.31±0.930.55TOP.0.46±0.89.0.01±0.94.0.72±1.130.18CL:contactlensovercorrection,TOP:totalopticalpower.(文献5より改変)できなかったり,不正確である可能性がある.当院での治療成績5)PTK術後眼29例42眼(年齢:75.8±7.9歳,原疾患:顆粒状角膜ジストロフィ25眼,帯状角膜変性17眼)に対する白内障手術に際し,5種類の角膜屈折力〔①オートケラトメータ(ARK700A,RKT7700:NIDEK社),②IOLMaster(CarlZeissMeditec社),③contactlensovercorrection法6)の測定値(CL),④ring37),⑤totalopticalpower(TOP)8)〕と,IOLMasterで測定した眼軸長を入力してSRK/T式で眼内レンズ度数計算を行った(図2).その結果,屈折誤差(術後の自覚屈折度数から予想屈折度数を引いた値)は方法間に差がみられた(p<0.01)が,角膜屈折力や絶対屈折誤差に差はなかった(表1).また,PTKに使用したエキシマレーザー機種〔EC-5000(NIDEK社),T-217z100(Bausch&Lomb社),VISXSTARS4IR(AMO社)〕別に屈折誤差を検討すると,オートケラトメータの角膜屈折力で計算を行った場合は,VISXSTARS4IRでは近視化が他機種と比較して目立っていた(表2).これはVISXSTARS4IRの照射方法では角膜中央の切除効率が劣り,セントラルアイランドとよばれる角膜中央のsteep化を生じるためと考えられる(図3).PTK術後眼では,オートケラトメータ以外の角膜屈折力を用いてSRK/T式で眼内レンズ度数計算を行っても屈折誤差のばらつきが大きく,またPTKを行った機種の違いによっても屈折誤差の傾向が異なり,残存する角膜混濁が複雑に角膜屈折力の測定に影響を与えている図3セントラルアイランドVISXSTARS4IRでPTKを施行した場合,角膜中央部がsteepの状態,いわゆる「セントラルアイランド」を生じる症例がある.(文献5より)602あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(24)と推察される.PTK術後眼の眼内レンズ度数計算はきわめてむずかしい.近年登場した前眼部OCT(光干渉断層計)のCASIA(TOMEY社)では,長波長の測定光(1,310nm)を用いるため,角膜混濁の影響を受けにくくより正確な角膜形状解析から角膜屈折力が算出できるとされている9).したがって,CASIAのデータを使ってOKULIXで眼内レンズ度数計算を行えば,眼内レンズ度数計算が向上する可能性もある.IVRK術後の眼内レンズ度数計算RK術後は,屈折度数の変動が大きかったり,過矯正・低矯正が生じやすかったりするなど治療の安定性や予測性が悪いといった問題があり,近年ではエキシマレーザーによる屈折矯正手術に取って代わられるようになった.また,RK術前データはほとんどの場合入手できない.当院での治療成績10)RK術後眼4例7眼(年齢:56.6±6.8歳)に対する白内障手術に際し,SRK/T式,Camellin-Calossi式11),OKULIX12,13),Post-RefractiveSurgeryIOLCalculatorで眼内レンズ度数計算を行った(図4).SRK/T式では6種類の角膜屈折力〔①オートケラトメータ,②IOLMaster,③contactlensovercorrection法の測定値(CL),④ring3,⑤totalopticalpower(TOP),⑥truenetpower(TNP)14)〕を使用した.CamellinCalossi式はOPD-ScanII(NIDEK社)に搭載されているIOL-Stationを用い,角膜屈折力としてaveragepowerinpupil(3mm)(APP),眼軸長,前房深度(OrbscanIIz),水晶体厚(Aモード),角膜厚(OrbscanIIz)をそれぞれ入力し,屈折矯正手術歴欄の「移植,PTK,または矯正度数不明」を選択して計算を行った(図5).OKULIXではTMS-4A(TOMEY社)で測定した角膜形状データから角膜前面曲率半径と離心率を算出し,眼軸長を入力して計算を行った.Post-RefractiveSurgeryIOLCalculatorでは術前角膜屈折力として43.86D(初期値),術後角膜屈折力としてTMS-4Aのring1~8の平均値averagecentralpower(ACP)を用図4前眼部写真(RK)上段:白内障術前.8本の放射状の切開線と白内障が認められる.下段:白内障術後.い,眼軸長を入力して計算を行った(図6)15).各計算式に用いた眼軸長はIOLMasterの測定値を使用した.その結果,オートケラトメータの角膜屈折力はring3,OKULIXおよびACPよりもsteepであった.OKULIXの屈折誤差は,SRK/T式(オートケラトメータ)よりも小さく,SRK/T式(ring3)やPost-RefractiveSurgeryIOLCalculatorでは誤差のばらつきが大きかった.Camellin-Calossi式やOKULIXの絶対屈折誤差は,SRK/T式(オートケラトメータ)よりも小さかった(表3).RK術後眼ではCamellin-Calossi式やOKULIXを用いて眼内レンズ度数計算を行うのが良いと考えられる.(25)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013603図5Camellin.Calossi式角膜屈折力としてaveragepowerinpupil(3mm)(APP),眼軸長,前房深度,水晶体厚,角膜厚をそれぞれ入力し,屈折矯正手術歴欄の「移植,PTK,または矯正度数不明」を選択して計算を行った.表3RK術後眼の眼内レンズ度数計算割合(%)方法角膜屈折力(D)屈折誤差(D)絶対屈折誤差(D)±0.5D±1.0DSRK/T式オートケラトメータIOLMasterCLRing3TOPTNPCamellin-Calossi式APPOKULIXPost-RefractiveSurgeryIOLCalculatorACP39.32±0.4538.12±0.4537.89±0.7437.56±1.1338.57±0.7137.87±0.8738.07±0.6037.51±1.2537.76±1.052.10±0.771.05±0.830.85±1.090.63±1.971.40±0.840.87±0.890.45±0.850.12±0.76.0.23±1.812.10±0.77001.06±0.8029431.06±0.8529431.29±0.7014431.40±0.8414431.16±0.340430.71±0.6257710.63±0.3643861.57±0.681414CL:contactlensovercorrection,TOP:totalopticalpower,TNP:truenetpower,APP:averagepowerinpupil,ACP:averagecentralpower.(文献10より改変)604あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(26)もしれない.角膜形状異常眼に対する白内障手術に際しては,特に屈折誤差に関するinformedconsentを十分行っておくことが欠かせない.今後のさらなる眼内レンズ度数計算の精度向上に期待したい.■用語解説■Contactlensovercorrection法:ベースカーブのわかっているハードコンタクトレンズを装用させ,装用前後のオートレフ値の変化から角膜屈折力を推定する方法.IOLMasterでも計算することができる.白内障や角膜混濁の程度が強いと測定できないことがある.Ring3:TMSでは中心から3本目のマイヤーリング(直径約1mm)上における角膜屈折力を用いると比較的良好な結果が得られるとされる.Totalopticalpower(TOP):Orbscanでは角膜中央の直径4mmにおける角膜全屈折力を用いると比較的良好な結果が得られるとされる.Truenetpower(TNP):Pentacamでは角膜中心部の角膜全屈折力を用いると比較的良好な結果が得られるとされる.図6Post.RefractiveSurgeryIOLCalculator(RK)術前角膜屈折力として43.86D(初期値),術後角膜屈折力としてTMS-4Aのring1~8の平均値averagecentralpower(ACP)を用い,眼軸長を入力して計算を行った.おわりに今後,LASIK術後の白内障患者ほどの増加はないと思うが,PTKやRK術後の眼内レンズ度数計算をしなければならない場合もあり,やはり最低限の知識はもっておく必要がある.複数の角膜屈折力や計算式を用いて導き出した眼内レンズ度数のばらつく場合はどの結果を選択したらよいのか判断に迷い厄介であるが,あらかじめさまざまな検討を行って準備しておくことが大切である.また,PTKやRK術後眼では角膜混濁の残存や不正乱視が強かったりするため,どんなに眼内レンズ度数が正確に行われたとしても白内障術後の視機能改善に限界があることも念頭に置かなければならない.そのような点からすると,LASIK術後眼よりもPTKやRK術後眼に対する眼内レンズ度数計算のほうが難易度は高いのか文献1)McDonnellPJ:Canweavoidanepidemicofrefractive‘surprises’aftercataractsurgery?ArchOphthalmol115:542-543,19972)中村友昭:LASIK術後眼のIOL度数計算.IOL&RS24:609-615,20103)根岸一乃:屈折矯正手術後の眼内レンズ度数計算.あたらしい眼科29:195-199,20124)WangL,HillWE,KochDD:EvaluationofintraocularlenspowerpredictionmethodsusingtheAmericanSocietyofCataractandRefractiveSurgeonsPost-KeratorefractiveIntraocularLensPowerCalculator.JCataractRefractSurg36:1466-1473,20105)山村陽,稗田牧,山崎俊秀ほか:異なる機種で施行したエキシマレーザー治療的角膜切除術後眼に対する眼内レンズ度数計算.眼科手術26:253-258,20136)HolladayJT:Commentsinconsultationsinrefractivesurgery.RefractCornealSurg5:203,19897)CelikkolL,PavlopoulosG,WeinsteinBetal:Calculationofintraocularlenspowerafterradialkeratotomywithcomputerizedvideokeratography.AmJOphthalmol120:739-750,19958)SrivannaboonS,ReinsteinDZ,SuttonHFetal:AccuracyofOrbscantotalopticalpowermapsindetectingrefractivechangeaftermyopiclaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg25:1596-1599,1999(27)あたらしい眼科Vol.30,No.5,20136059)KhuranaRN,LiY,TangMetal:High-speedopticalcoherencetomographyofcornealopacities.Ophthalmology114:1278-1285,200710)山村陽,稗田牧,山崎俊秀ほか:OKULIXを用いた放射状角膜切開術後眼に対する眼内レンズ度数計算.眼科手術26:267-273,201311)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg22:187-199,200612)PreussnerPR,WahlJ,LahdoHetal:Raytracingforintraocularlenscalculation.JCataractRefractSurg28:1412-1419,200213)大谷伸一郎,南慶一郎,本坊正人ほか:エキシマレーザー角膜手術後眼の眼内レンズ度数計算における光線追跡法の有用性.あたらしい眼科27:1717-1720,201014)KimSW,KimEK,ChoBJetal:Useofthepentacamtruenetcornealpowerforintraocularlenscalculationineyesafterrefractivecornealsurgery.JRefractSurg25:285-289,200915)AwwadST,DwarakanathanS,BowmanRWetal:Intraocularlenspowercalculationafterradialkeratotomy:estimatingtherefractivecornealpower.JCataractRefractSurg33:1045-1050,2007606あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013(28)