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正常眼圧緑内障におけるビマトプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果

2012年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(12):1693.1696,2012c正常眼圧緑内障におけるビマトプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果中元兼二*1,2里誠*2小川俊平*3安田典子*4*1日本医科大学眼科学教室*2東京警察病院眼科*3東京慈恵会医科大学眼科学教室*4昭和大学医学部眼科学教室EffectsofBimatoproston24-HourVariationofIntraocularPressureinNormalTensionGlaucomaKenjiNakamoto1,2),MakotoSato2),ShumpeiOgawa3)andNorikoYasuda4)1)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TokyoJikeiUniversitySchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmology,ShowaUniversitySchoolofMedicineビマトプロストの正常眼圧緑内障(NTG)における眼圧日内変動に及ぼす効果について検討した.NTG14例14眼にビマトプロスト0.03%を8週間点眼し,治療前後の眼圧日内変動を比較した.眼圧は,同一医師がGoldmann圧平眼圧計にて座位で測定した.ビマトプロスト治療後,眼圧はすべての時刻で有意に下降した(p<0.01).1日平均眼圧,最高眼圧および最低眼圧も治療後有意に下降した(p<0.0001).1日平均眼圧下降値は2.6±0.9mmHgであった(p<0.0001).眼圧変動幅も治療後有意に縮小した(p<0.01).治療後の結膜充血は,14眼中11眼(79%)でgrade0(充血なし)または1(軽度)であった.ビマトプロストは,NTGにおいて24時間を通して眼圧を有意に下降させることから,NTGの治療に有用な薬剤である.Weevaluatedtheeffectsofbimatoproston24-hourvariationinintraocularpressure(IOP)inpatientswithnormaltensionglaucoma(NTG).In14patientswithNTGwhoweretreatedwithbimatoprost0.03%solutionfor≧8weeks,pretreatment24-hourIOPvariationswerecomparedwiththosemeasuredposttreatment.IOPdatawereobtainedinthesittingpositionbythesamephysician,usingaGoldmannapplanationtonometer.TheIOPdecreasedsignificantlyatalltimepoints(p<0.01);24-hourmeanIOP,maximumIOP,minimumIOPand24-hourIOPfluctuationweresignificantlyreducedaftertreatment(p<0.01).The24-hourmeanIOPreductionwas2.6±0.9mmHg(p<0.0001).Eyeswithnoormild(grade0or1)conjunctivalhyperemiaaftertreatmentcomprised79%(11of14eyes).Bimatoprostsignificantlydecreases24-hourIOPinNTGpatientsandisthereforeusefulinthetreatmentofNTG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1693.1696,2012〕Keywords:ビマトプロスト,正常眼圧緑内障,眼圧日内変動,眼圧,結膜充血.bimatoprost,normaltensionglaucoma,24-hourIOPvariation,intraocularpressure,conjunctivalhyperemia.はじめにビマトプロストはプロスタマイド誘導体で1),ビマトプロスト0.03%はラタノプロスト0.005%と同等あるいはそれ以上の眼圧下降効果を有する可能性がある2,3).ビマトプロスト0.03%は,高眼圧症,原発開放隅角緑内障4,5)および正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)5)において24時間有意に眼圧を下降させることが報告されているが,日本人のNTGにおけるビマトプロストの眼圧日内変動への効果については明らかでない.そこで,今回日本人のNTGにおけるビマトプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果を検討した.I対象および方法対象は,外来診察でNTGが疑われ,本試験の初回の眼圧〔別刷請求先〕中元兼二:〒113-8603東京都文京区千駄木1-1-5日本医科大学眼科学教室Reprintrequests:KenjiNakamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8603,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(103)1693 日内変動測定で診断が確定したNTG14例である.内訳は18*:p<0.01:無治療男性3例・女性11例,年齢56.0±12.8(平均値±標準偏差)(39.77)歳である.NTGの診断基準は,眼圧日内変動を含16********************:p<0.001***:p<0.0001Mean±SE:治療8週後めた無治療時の眼圧がいずれも21mmHg以下であること,正常開放隅角であること,緑内障性視神経乳頭変化と対応する緑内障性視野変化があること,視神経乳頭の緑内障様変化をきたしうる他の疾患がないこととした.除外基準は,心・呼吸器系の疾患を有するもの,内眼部手術を受けたもの,重眼圧(mmHg)141210篤な角膜疾患・ぶどう膜炎の既往があるもの,視野がHumphrey自動視野計中心プログラム30-2のmeandeviationが.15dB未満のもの,眼圧に影響を与えうる薬剤を服用中のものである.なお,本試験は東京警察病院治験倫理審査委員会において承認されており,試験開始前に,患者に本試験の内容について十分に説明し文書で同意を得た.方法は,薬物治療開始前に緑内障治療薬使用中の症例は4週間以上の休薬期間をおき,入院で24時間眼圧を測定した.つぎに,ビマトプロスト0.03%点眼液(ルミガンR,千寿製薬)を1日1回夜(20.24時),両眼へ1滴点眼後5分以上涙.圧迫および眼瞼を閉瞼させた.ビマトプロスト単独治療8週後,再度入院で眼圧日内変動を測定した.治療後の入院では日常と同時刻にビマトプロストを点眼させ,点眼した時刻を申告させた.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で治療前後8101316192213測定時刻(時)図1ビマトプロスト治療前後の眼圧日内変動(n=14)眼圧日内変動を治療前後で比較すると,眼圧はすべての時刻で有意に下降していた.1日平均眼圧最高眼圧最低眼圧25p<0.0001p<0.0001p<0.000120眼圧(mmHg)1510とも10,13,16,19,22,1,3および7時に同一医師が座位で測定し,各測定時刻の眼圧,1日平均眼圧(全測定時刻の眼圧の平均),最高眼圧,最低眼圧,眼圧変動幅(最高眼圧.最低眼圧)について治療前後を比較した.また,ビマトプロスト単独治療8週後の結膜充血の程度を,10時眼圧測定前に細隙灯顕微鏡検査で同一医師がgrade0(充血なし),1(軽度),2(中等度),3(重度)の4段階に分けて評価した.解析には,乱数表により無作為に1例1眼を採用した.統計解析にはpairedt-testを用い,有意水準p<0.05(両側検定)で検定した.II結果眼圧日内変動実施時期は,治療前2009年11月.2010年2月,治療後2010年1月.4月で,ビマトプロスト治療期間は平均59±3.6(平均値±標準偏差)(56.63)日であった.経過中,全例重篤な副作用はなく,中止・脱落したものはな50治療前後前後前後図2治療前後の1日平均眼圧,最高眼圧,最低眼圧(n=14)1日平均眼圧,最高眼圧および最低眼圧も治療後有意に下降した(p<0.0001).p<0.01n=146眼圧(mmHg)420かった.治療前後眼圧日内変動を治療前後で比較すると,眼圧はすべての時刻で有意に下降していた(図1).1日平均眼圧の平均値は,治療前(平均値±標準偏差)14.4±2.3mmHg,治療後11.8±2.0mmHgで,治療後2.6±0.9mmHg有意に下降していた(p<0.0001,図2).最高眼圧の平均値は治療前16.6±2.8mmHg,治療後13.5±2.2mmHg,1694あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012図3治療前後の眼圧変動幅眼圧変動幅も治療後有意に縮小した(p<0.01).最低眼圧の平均値は治療前12.2±2.4mmHg,治療後10.2±2.1mmHgで,いずれも治療後有意に下降していた(p<0.0001,図2).眼圧変動幅も治療前4.4±1.3mmHg,治療(104) 10時眼圧下降率表1結膜充血の程度(n=14)n=14Graden(%)302(14)19(64)223(21)30(0)細隙灯顕微鏡検査でgrade0(充血なし),1(軽度),2(中等度),3(重度)の4段階に分けて評価.治療後の結膜充血は,grade0.1が11眼(79%)で,重篤なものはなかった.1-0100≦10203040506010時眼圧下降率(%)1日平均眼圧下降率そこで,今回,筆者らはNTG患者にビマトプロストを8症例数(眼症例数(眼)64201日平均眼圧下降率(%)-100≦102030405060週以上点眼し,眼圧日内変動に及ぼす効果について検討したところ,眼圧は,24時間すべての測定時刻で有意に下降し,10時眼圧下降率21.1±10.7%で,1日平均眼圧下降率は18.2±5.5%であった.これは,以前筆者らが同様の方法で測定したラタノプロストの1日平均眼圧下降率14.5±11%あるいはゲル基剤チモロール0.5%の9.0±10.1%より良好である可能性が示唆された9).本報の結果を,同じくNTGを対象としたQuarantaらの報告6)と比較すると,10時眼圧下降値は,前者で3.5mmHg,後者で3.4mmHgであり,ほぼ同等の結果であった.一方,図410時眼圧下降率および1日平均眼圧下降率の分布10時眼圧下降率が30%以上であったものは3眼(21%),20%以上は8眼(57%)で,1日平均眼圧下降率が20%以上であったものは5眼(36%)であった.後3.2±0.9mmHgで,治療後有意に縮小していた(p<0.01,図3).10時眼圧下降率が30%以上であったのは3眼(21%),20%以上は8眼(57%),1日平均眼圧下降率が20%以上は5眼(36%)であった(図4).治療後の結膜充血の程度は,grade0.1が11眼(79%)で,重篤なものはなかった(表1).III考按NTGはわが国の緑内障で最も多い病型で7),眼圧下降治療が唯一エビデンスのある確実な治療法である8).治療の中心は薬物治療であるが,アドヒアランスも考慮すると,少ない点眼回数で24時間強力な眼圧下降効果を有する薬剤が緑内障治療薬として有利であることはいうまでもない.ビマトプロストは内因性の生理活性物質であるプロスタマイドF2aに類似の構造および作用を有するプロスタマイドF2a誘導体である1).24時間眼圧日内変動への影響については,原発開放隅角緑内障,高眼圧症4,5)およびNTG6)において終日有意な眼圧下降を有することが報告されているが,報告数は少なくわが国においてはまだ報告はない.(105)22時眼圧下降値は,前者は2.2mmHg,後者は1.8mmHgであり,本報のほうがわずかに大きい値であった.これは,無治療時眼圧,点眼時刻,人種などの違いによる影響が考えられる.また,今回の結果では,10時眼圧下降率が30%以上であったのは3眼(21%),20%以上は8眼(57%),1日平均眼圧下降率が20%以上は5眼(36%)であった.本報と同じくNTGを対象とした田邉らの報告11)によると,ビマトプロストの眼圧下降率の内訳は,治療3カ月後で眼圧下降率30%以上が全症例の18.5%,20%以上が37%であり,本報の結果のほうがいずれの眼圧下降率においても大きいという結果であった.これは,無治療時眼圧が田邉らの報告では14.9±2.6mmHgであったのに対して,本報の10時眼圧は16.1±2.5mmHgと高値であったことがおもな原因と考えられる.田邉らの報告における高眼圧群(無治療眼圧>15mmHg,17.3±1.1mmHg)では,30%以上が33.3%,20%以上が50%で,今回の結果と類似していた.また,眼圧測定時刻が異なることも結果の違いに影響している可能性がある.プロスタグランジン関連薬で高頻度にみられる眼局所副作用は結膜充血であり3,10),アドヒアランスへの影響が懸念される10).そこで,今回,ビマトプロスト単独治療8週後の結膜充血の程度を細隙灯顕微鏡検査で評価したが,約8割の症例がgrade0.1と軽い結膜充血に留まり,また,重篤例,中止・脱落例もなかった.ビマトプロストの強力な眼圧下降あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121695 効果も併せて考慮すると,ビマトプロストはNTGにおける第一選択薬としても十分に使用可能な薬剤といえる.ただし,本試験は14例と少人数での評価であり,多数例を評価した井上らの報告12)によると,点眼1カ月後で結膜充血による中止例が7%にみられている.また,ビマトプロストは,結膜充血や上眼瞼溝深化などの眼局所副作用が他のプロスタグランジン関連薬より強い可能性が指摘されている3,13).そのため,本試験は,特に副作用に関して十分な説明を行い,同意を得て行われた.実際の臨床の場においても,ビマトプロスト使用にあたっては特に副作用について十分な説明をしておく必要があると考える.文献1)WoodwardDF,KraussAHP,ChenJetal:Thepharmacologyofbimatoprost(Lumigan).SurvOphthalmol45(Suppl4):S337-345,20012)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20103)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20084)YildirimN,SahinA,GultekinS:Theeffectoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostoncircadianvariationofintraocularpressureinpatientswithopen-angleglaucoma.JGlaucoma17:36-39,20085)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20066)QuarantaL,PizzolanteT,RivaIetal:Twenty-four-hourintraocularpressureandbloodpressurelevelswithbimatoprostversuslatanoprostinpatientswithnormal-tensionglaucoma.BrJOphthalmol92:1227-1231,20087)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal;TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20048)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19989)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,200410)HonrubiaF,Garcia-SanchezJ,PoloVetal:Conjunctivalhyperaemiawiththeuseoflatanoprostversusotherprostaglandinanaloguesinpatientswithocularhypertensionorglaucoma:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.BrJOphthalmol93:316-321,200911)田邉祐資,菅野誠,山下英俊:正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科29:1131-1135,201212)井上賢治,長島佐知子,塩川美菜子ほか:ビマトプロスト点眼薬の球結膜充血.眼臨紀4:1159-1163,201113)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,2011***1696あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(106)

眼科手術時に発見された前房内睫毛迷入の1例

2012年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(12):1689.1691,2012c眼科手術時に発見された前房内睫毛迷入の1例岩田進高山圭播本幸三竹内大防衛医科大学校眼科学教室ACaseofIntraocularCiliaFoundduringOcularSurgerySusumuIwata,KeiTakayama,KozoHarimotoandMasaruTakeuchiDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege目的:自覚症状,眼外傷や眼科手術の既往がなく,眼科手術の際に発見された前房内睫毛迷入の1例を経験したので報告する.症例:59歳,男性,原因不明の左眼硝子体出血にて当科紹介となる.初診時,左眼の矯正視力0.01,眼圧16mmHgであった.既往として糖尿病網膜症および糖尿病性腎不全があったが,眼外傷や眼手術の既往はなかった.左眼に対する超音波乳化吸引術および硝子体切除術が予定され,球後麻酔後の手術開始時,11時の周辺角膜裏面に線状の前房内異物を認め,2時に作製した角膜創より鑷子にて摘出した.手術は予定どおり終了し,顕微鏡所見から前房内異物は軽度脱色を伴った睫毛と同定された.術中術後,前房内睫毛の迷入を示唆する創痕は認められず,睫毛による異物反応は術前よりみられなかった.術後炎症は速やかに消退し,術後1週間で左眼矯正視力は1.5に回復し,その後の経過も良好であった.結論:睫毛は創痕を残すことなく前房内に迷入する可能性が示唆された.Purpose:Toreportacaseofintraocularciliamigrationintotheanteriorchamberwithnohistoryofocularinjuryorsurgery.Casereport:A59-year-oldmalewasreferredtoourhospitalbecauseofvitreoushemorrhageinhislefteye.Visualacuityoftheeyewas0.01;ocularpressurewas16mmHg.Phacoemulsificationandvitrectomywereperformed.Afterretrobulbaranesthesia,anintraocularforeignbodywasobservedintheanteriorchamber.Theforeignbodywasextractedusingmicroforcepsandwasidentifiedasciliaviamicroscopy.Nowoundtraceswerenotidentifiedontheocularsurface.Intraocularinflammationwasnotobservedbeforetheoperation,andtheclinicalcoursewasfavorable.Conclusion:Itissuggestedthatciliamaymigrateintotheanteriorchamberwithoutawoundtraceremaining.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1689.1691,2012〕Keywords:眼内異物,睫毛,前房内睫毛迷入.intraocularforeignbody,cilium,intraocularciliummigration.はじめに前房内異物として過去の報告では鉄などの金属異物やガラスなどが多く1),前房内に睫毛が迷入した症例の報告2.4)はあるがまれである.前房内異物の機序としては,角膜穿孔2)や眼球破裂などの外傷3,4)に伴うものや,白内障などの手術操作時5,6)に伴うものが多い.睫毛が眼内に迷入した際,硝子体内に到達したものは裂孔原性網膜.離の原因7)となり,前房内においては遅発性のぶどう膜炎8)や.胞3)を生じた報告があるが,長期間放置しても炎症反応をきたさず経過した症例9)や,自覚症状もなく50年以上も経過したと思われる症例10)も報告されている.今回,自覚症状,眼科手術や外傷の既往がなく,硝子体手術の際に発見された前房内睫毛迷入の1例を経験したので報告する.I症例59歳,男性.2週間前から左眼の視力低下を自覚し,近医受診.硝子体出血の診断にて当科紹介となる.初診時,矯正視力は右眼1.5,左眼0.01,眼圧は右眼15mmHg,左眼16mmHg,前眼部に外傷の既往や手術既往を疑わせる創口はみられなかった.中間透光体には軽度白内障を認めたが前房内に浸潤細胞はみられなかった.右眼眼底は糖尿病網膜症所見を呈し汎網膜光凝固施行後であった.左眼は硝子体出血のため眼底は透見不能であった.水晶体再建術および硝子体手術を予定した.球後麻酔後手術開始時に,11時の周辺角〔別刷請求先〕岩田進:〒359-8513所沢市並木3-2防衛医科大学校眼科学教室Reprintrequests:SusumuIwata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2Namiki,TokorozawaCity,Saitama359-8513,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)1689 図1術直前時の前眼部所見術施行直前に前房内に異物が浮遊しているのを認め(矢印),鑷子で除去した.異物は睫毛であった.図2術中眼底所見術中の眼底に網膜静脈分枝閉塞症の所見が認められたため,網膜静脈分枝閉塞症に伴う硝子体出血と診断した.膜裏面に線状の前房内異物が認められたため(図1),2時の角膜輪部に1mm幅の創口を作製し,マイクロ鑷子にて摘出した.その後,超音波乳化吸引術,硝子体手術を施行し,術中の眼底所見から硝子体出血の原因は糖尿病網膜症に合併した網膜静脈分枝閉塞症と考えられた(図2).異物が眼内に迷入した創痕は術中,術後確認できず,顕微鏡所見から異物は睫毛と判明した(図3A).睫毛は脱色され表皮層が部分的に欠損し,皮質の連続性が障害されていた(図3B).術前から左眼に前眼部炎症所見はなく,眼表面に創痕が認められなかったことから前房内迷入後,長期間経過していたことが予想された.1週間で左眼の矯正視力は1.5に回復し,その後の経過も良好であった.1690あたらしい眼科Vol.29,No.12,201225μmAB図3病理所見術中得られた検体は,脱色された睫毛であった(A).正常の睫毛と比較して,組織学的変化として部分的に表皮層が欠損し,皮質の連続的な細胞膜の損失が生じた.睫毛周囲の異物反応は認めなかった(B).II考按睫毛が前房内に迷入した報告はまれであり,機序として外傷性2.4)や手術操作に伴うもの5,6)が報告されているが,侵入経路が不明な報告も海外で1例11),わが国においてはアレルギー性結膜炎の患者で1例報告8)されている.本症例は,既往としてアレルギー性結膜炎はなく,.痒感を生じるような疾患の既往もなかった.よって,海外の報告と同じく,前房内への迷入原因,経路はまったく不明である.前房内異物により惹起される前眼部炎症に関しては,遅発性ぶどう膜炎を発症8)した症例や.胞を形成したとの報告3)もあるが,長期間無症状で経過し,最大50年以上経過10)していたと考えられた報告もある.今回の症例においても,迷入した時期は不明であるが,自覚症状はなく,炎症や.胞形成も認めなかった.硝子体出血による視力障害がなければ手術は施されず,(100) 放置されていたと考えられる.炎症のない眼の前房内に投与された抗原に対しては,細胞性免疫能および補体結合抗体の産生が抑制され,この特異な免疫反応は,前房関連免疫偏位(anteriorchamber-associatedimmunedeviation:ACAID)として知られている12).このような基礎医学研究の知見もあり,前房内異物に関しては炎症や自覚症状がなければ経過観察でよいとする意見がある.前房に迷入した睫毛は,時間経過とともに表皮層が部分的に欠損し,皮質の連続性が障害されるが,睫毛の構造自体に変化はないことが報告9)されている.今回の検体は,過去の報告と同様に,部分的に表皮層が欠損し,皮質細胞膜の連続性が障害されていた.眼表面に創痕がみられなかったことからも,前房内に迷入した期間は短期間ではなく長期間であったと考えられる.術前,前房内睫毛迷入が細隙灯顕微鏡検査にて観察されなかった原因としては,眼表面に異常がみられなかったこと,および座位での診察のため下方隅角に位置していたためと考えられる.術後に隅角検査を行ったが,特記すべき異常は認められなかった.本症例は,手術時の体位変換により発見されたが,このようなことから,創痕を残さず前眼部炎症をきたさない前房内異物は,自覚症状を呈することもないため,その大きさによっては細隙灯顕微鏡では観察されえない隅角に位置し,日常の眼科診療では見逃される可能性が示唆される.文献1)樋口暁子,喜多美穂里,有澤章子ほか:外傷性眼内異物の検討.眼臨96:60-62,20022)SnirM,KremerI:Eyelashcomplicationsintheanteriorchamber.AnnOphthalmol24:9-11,19923)KoseS,KayikciogluO,AkkinC:Coexistenceofintraoculareyelashesandanteriorchambercystafterpenetratingeyeinjury:acasepresentation.IntOphthalmol18:309311,19944)GopalL,BankerAS,SharmaTetal:Intraocularciliaassociatedwithperforatinginjury.IndianJOphthalmol48:33-36,20005)IslamN,DabbaghA:Inertintraoculareyelashforeignbodyfollowingphacoemulsificationcataractsurgery.ActaOphthalmolScand84:432-434,20066)RofailM,BrinerAM,LeeGA:Migratoryintraocularciliumfollowingphacoemulsification.ClinExperimentOphthalmol34:78-80,20067)TeoL,ChuahKL,TeoCHetal:Intraocularciliainretinaldetachment.AnnAcadMedShingapore40:477-479,20118)宮本直哉,舘奈保子,橋本義弘:前房内睫毛異物による眼内炎の1例.あたらしい眼科23:109-111,20069)HumayunM,delaCruzZ,MaguireAetal:Intraocularcilia.Reportofsixcasesof6weeks’to32years’duration.ArchOphthalmol111:1396-1401,199310)山上美情子,大島隆志,山上潔:50年以上経過していると思われる前房内睫毛異物の1例.眼紀41:2169-2174,199011)KertesPJ,Al-Ghamdi,AA,BrownsteinS:Anintraocularciliumofuncertainorigin.CanJOphthalmol39:279-281,200412)Stein-StreileinJ,StreileinJW:Anteriorchamberassociatedimmunedeviation(ACAID):regulation,biologicalrelevance,andimplicationsfortherapy.IntRevImmunol21:123-152,2002***(101)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121691

眼感染症由来Staphylococcus epidermidis が形成したIn Vitro バイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果

2012年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(12):1681.1688,2012c眼感染症由来Staphylococcusepidermidisが形成したInVitroバイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果井上幸次*1池田欣史*1藤原弘光*2高畑正裕*3高倉真理子*3*1鳥取大学医学部視覚病態学*2鳥取大学医学部附属病院検査部*3富山化学工業株式会社綜合研究所BactericidalActivityofTosufloxacinOphthalmicSolutionagainstInVitroBiofilmFormedbyStaphylococcusepidermidisIsolatedfromOcularInfectionYoshitsuguInoue1),YoshifumiIkeda1),HiromitsuFujiwara2),MasahiroTakahata3)andMarikoTakakura3)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)DivisionofClinicalLaboratory,ClinicalFacilities,TottoriUniversityHospital,3)ResearchLaboratories,ToyamaChemicalCo.,Ltd.目的:Staphylococcusepidermidisが形成したinvitroバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の殺菌効果を検討する.対象および方法:鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたS.epidermidisを用い,invitroバイオフィルムを作製し,市販点眼液の殺菌効果を検討した.トスフロキサシン,レボフロキサシン,セフメノキシムの各点眼液を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)の10倍および30倍濃度(10MIC,30MIC)で24時間作用後の殺菌効果を,生菌数の変化,ならびに走査型電子顕微鏡(scanningelectronmicroscope:SEM)による観察で評価した.結果:バイオフィルムを形成したメチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidis3株に対するキノロン系薬のトスフロキサシン点眼液10MICおよび30MIC作用時の殺菌効果はb-ラクタム系のセフメノキシム点眼液より有意に強かった.試験3株中2株におけるトスフロキサシン点眼液10MIC作用時の殺菌効果は同濃度のレボフロキサシン点眼液より有意に強かった.SEMによる形態観察においてもトスフロキサシン点眼液のバイオフィルム形成菌に対する強い殺菌効果が観察された.結論:トスフロキサシン点眼液はバイオフィルムを形成したメチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidisによる眼感染症に対し,有用と考えられた.Purpose:TostudythebactericidaleffectofantibacterialophthalmicsolutiononinvitrobiofilmformedbyStaphylococcusepidermidis.MaterialsandMethods:Invitrobiofilmwasformedby3strainsofmethicillin-andquinolone-susceptibleS.epidermidis(quinolone-susceptibleMSSE)isolatedfrompatientswithocularinfectionatTottoriUniversityHospital.Bactericidalactivitiesoftosufloxacin(TFLX),levofloxacin(LVFX)andcefmenoxime(CMX)ophthalmicsolutionswereexaminedbycountingviablecellsafterexposureofS.epidermidisbiofilmtothoseagentsat10-and30-foldtherespectiveminimuminhibitoryconcentrations(MIC),andbyobservationunderascanningelectronmicroscope(SEM).Results:Afterexposureofthe3biofilm-formingstrainstotheophthalmicsolutionsat10-foldand30-foldMIC,thebactericidaleffectsoftheTFLXophthalmicsolutionsweresignificantlymorepotentthanthoseofCMXophthalmicsolution.In2ofthe3testedstrains,thebactericidaleffectoftheTFLXophthalmicsolutionat10-foldMICwasalsosignificantlystrongerthanthatofLVFXophthalmicsolution.ThepotentbactericidaleffectofTFLXophthalmicsolutionwasalsoobservedviaSEM.Conclusion:TFLXophthalmicsolutionisconsideredavaluabletherapeuticagentinthetreatmentofophthalmicinfectioncausedbybiofilm-formingquinolone-susceptibleMSSE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1681.1688,2012〕Keywords:トスフロキサシン,点眼液,表皮ブドウ球菌,バイオフィルム,殺菌効果.tosufloxacin,ophthalmicsolution,Staphylococcusepidermidis,biofilm,bactericidaleffect.〔別刷請求先〕井上幸次:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学Reprintrequests:YoshitsuguInoue,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(91)1681 はじめに結膜炎や角膜炎は眼感染症の代表的な疾患であり,その検出菌はグラム陽性菌のStaphylococcusepidermidis,Staphylococcusaureusが高い比率を占めている1).また,発症頻度は低いものの,重篤な感染症である急性術後眼内炎の起因菌はグラム陽性菌の占める割合が90%と高く,なかでもS.epidermidisをはじめとするコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の分離率が高い2,3).眼感染症では,各種コンタクトレンズ,治療に用いられる眼内レンズなどのバイオマテリアルに形成されたバイオフィルム形成菌がその発症に関与している場合があり,治療の遷延化を招いているとの報告がある4.6).また,眼科周術期における創部からの常在菌の侵入,その後の縫合糸への菌の定着や,結膜瘻孔におけるバイオフィルム形成などが知られている4).バイオフィルム形成菌は生育がnon-あるいはslowgrowing状態にあると同時に,菌体を覆うexopolysaccharidematrixの薬剤低透過性,さらにmultidrug-resistancepumpsの存在などにより,抗菌薬の殺菌作用を回避していると考えられている7,8).眼感染症の原因菌として高い比率を占めるS.epidermidisやS.aureusでは菌により産生された粘液性物質(slime)がバイオフィルム形成に関与するとされ,その産生はicaA,D,Cなどの遺伝子に関連していて,ソフトコンタクトレンズ装用者における急性結膜炎患者ではslime産生株の分離頻度が高い(74.1%)との報告がある9,10).また,術後眼内炎の主要な起因菌,S.epidermidis,S.aureus,Enterococcusfaecalis,Propionibacteriumacnesのうち,バイオフィルム形成が特に問題となるのはStaphylococcus属の2菌種であり,S.epidermidisについては1980.1990年代にinvitroの試験で眼内レンズに菌を定着させ眼内炎との関連を報告したものがある4,11).当時の論文にはバイオフィルムとの記述はないが,定着菌は抗菌薬に対する感受性が低下していることもすでに明らかにされており,眼内炎とバイオフィルム形成との関連はこの頃より明らかにされてきたものと考えられる.以上のように眼感染症とバイオフィルム形成菌との関わりは深いが,抗菌点眼薬のこれに対する殺菌効果についての報告はほとんど見当たらない.今回,2010.2011年に鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたS.epidermidisのうち,icaA,D,C遺伝子,薬剤感受性などを検討した3株を用いてinvitroバイオフィルムを作製し,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.I実験材料および方法1.使用菌株鳥取大学医学部附属病院において眼感染症患者から20101682あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012.2011年に分離されたS.epidermidis28株を用いた.さらに,これらの株からキノロン薬耐性決定領域(quinoloneresistantdeterminingregion:QRDR)遺伝子およびica遺伝子の解析,また,各種薬剤に対する感受性を調べ,planktonic菌およびバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討に用いる菌株を選定した.今回,icaA,D遺伝子保有株,非保有株について,検討薬剤に対して感性を示す株での殺菌効果を調べるため,メチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidis(methicillin-andquinolone-susceptibleS.epidermidis:quinolone-susceptibleMSSE)F-5519(icaA,D非保有株),F-5522およびF-5545(ともにicaA,D保有株)の3株を選択した.2.QRDR遺伝子およびicaA,icaD,icaC遺伝子の解析DNAジャイレース遺伝子gyrA,gyrBおよびトポイソメラーゼIV遺伝子parC,parEのQRDR部位における遺伝子変異の解析はYamadaら12),Haasら13)の報告に基づいたpolymerasechainreaction(PCR)法で行った.また,icaA,icaD遺伝子の有無,slime産生を抑制することが報告されているicaC遺伝子へのsequenceelementIS256挿入の有無をArciolaら14),Ziebuhrら15)の方法に基づき検討した.3.使用薬剤薬剤感受性の測定にはトスフロキサシン(富山化学工業株式会社),レボフロキサシン(LKTLaboratories,Inc),セフメノキシム(ベストコールR静注用,武田薬品工業株式会社)を用いた.また,S.epidermidisのメチシリン耐性の判別のため,オキサシリン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を使用した.Planktonic菌およびinvitroバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討には市販のトスフロキサシン点眼液(オゼックスR点眼液0.3%,大塚製薬株式会社),レボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬株式会社),セフメノキシム点眼液(ベストロンR点眼用0.5%,千寿製薬株式会社)を目的の作用濃度になるよう25%cation-adjustedMueller-Hintonbroth(CAMHB;日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)で適宜希釈し用いた.いずれの薬剤も純度あるいは含量が明らかなものを使用し,濃度は活性本体の値として示した.4.薬剤感受性の測定抗菌薬に対する感受性の測定にはCAMHBを用い,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)の微量液体希釈法に基づき行った16).メチシリンに対する感受性/耐性はCLSIの判定基準に基づき,オキサシリンに対する最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)(≦0.25μg/ml:感受性,≧0.5μg/ml:耐性)によって分類した17).また,キノロン薬に対する感受性/耐性は同判定基準に基づき,レボフロキサシンに対するMIC(≦1μg/ml:感(92) 受性,≧4μg/ml:耐性)によって分類した17).5.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果CAMHBを用いて,37℃で一夜振盪培養した菌を用いた.これを25%CAMHBで80倍希釈した菌液4mlに25%CAMHBでMICの50および150倍濃度に調製した各薬液1mlを加え(終濃度,10および30MIC),37℃で振盪培養した.培養開始24時間後に生菌数測定を行った(n=1).対照として薬剤不含CAMHB5mlを用い,同様の操作にて薬剤非添加時の生菌数を測定した.6.Invitroバイオフィルムの作製とバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果Websterら18)の方法に基づき,CAMHBで一夜培養したS.epidermidisの菌液を通常の10%培地成分濃度のMueller-Hintonagar(MHA,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)平板上に置いたmembranefilter(MF,DURAPORERMEMBRANEFILTER0.45μmHV;MILLIPORE)上に25μl滴下した(n=3).37℃,48時間培養後,各薬剤10および30MICを含む25%濃度のCAMHB1ml中に浸漬し,さらに37℃,24時間後,MF上とCAMHB1ml中の生菌数の総計を計測した.なお,作用濃度(10および30MIC)はトスフロキサシン頻回反復点眼時の結膜.内濃度などを参考にした19).また,生菌数の測定にあたっては上述のMFと浸漬液〔薬剤含有あるいは不含(対照)CAMHB〕をMulti-BeadsShockerR(安井器械株式会社,大阪)で破砕,ホモジナイズした試料を適宜希釈し,MHA平板に塗布し,II結果1.使用菌株の各種抗菌薬に対する感受性,gyrA,gyrBおよびparC,parE遺伝子におけるQRDR部位およびicaA,icaD,icaC遺伝子の解析S.epidermidis28株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図を図1に示す.いずれの薬剤にも感受性を示した株は7株であり,28株中,メチシリン耐性S.epidermidis(methicillin-resistantS.epidermidis:MRSE)は19株(67.9%),キノロン耐性S.epidermidisは21株(75.0%)であった.Planktonic菌およびバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討に使用した菌株の各遺伝子の解析および薬剤感受性の結果を表1に示す.QRDR部位解析の結果,F-5545株のParEにIle575Thrの変異が認められたが,他の株ではいずれの部位にも変異は認められなかった(表1).icaA,icaD遺伝子については,F-5522,F-5545株は両遺伝子を保有していたが,F-5519株ではいずれも認められなかった.さらにicaA,icaD遺伝子を保有していたF-5522,F-5545にicaC遺伝子におけるsequenceelementIS256の挿入は認められなかった(表1).なお,今回の眼感染症由来のS.epidermidis28株中icaA,icaD遺伝子をともに保有していた株は8株(28.6%)であった.3336655110.25110.125113111トスフロキサシンMIC(μg/ml)≧16生育コロニー数を計測した.7.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の作用像薬剤作用後1.5%glutaraldehyde(和光純薬工業株式会社)にて1時間固定した後,さらに1%osmiumtetroxide(TAABLaboratories)に18時間浸漬し固定した.さらにアルコール814210.55230.0611≦0.03≦0.030.1250.528≦0.030.1250.528脱水-酢酸イソアミル(和光純薬工業株式会社)置換を経た後,臨界点乾燥を行った試料を白金-パナジウム蒸着した.0.060.2514≧160.060.2514≧16レボフロキサシンMICセフメノキシムMIC(μg/ml)(μg/ml)本試料を走査型電子顕微鏡(SEM:HITACHIS-4500)で形態観察した.図1Staphylococcusepidermidis28株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図相関図中の数値は株数.表1使用菌株のDNAジャイレース,トポイソメラーゼIV遺伝子のQRDR変異,ica遺伝子の解析,および各種抗菌薬に対する感受性QRDRにおける変異IntercellularadhesiongeneMIC(μg/ml)菌株トスフロレボフロセフメノオキサGyrAGyrBParCParEicaAicaDicaCキサシンキサシンキシムシリンF-5519──────NT0.06250.250.50.125F-5522────++Normal0.06250.250.50.125F-5545───Ile575Thr++Normal0.06250.250.50.125─/+:非検出/検出,NT:試験せず,Normal:IS256挿入なし.(93)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121683 109A887766510NSNS******薬剤10MIC30MIC10MIC30MIC10MIC30MIC**********NS******ABC5Viablecellscount(LogofCFU/MF)Viablecellscount(LogofCFU/ml)410B98765410987654薬剤C無添加トスフロキサシンレボフロキサシンセフメノキシム点眼液点眼液点眼液図2Staphylococcusepidermidisのplanktonic菌に対する各種点眼薬の殺菌効果A:F-5519株,B:F-5522株,C:F-5545株.MIC(μg/ml)は3株とも同じ.トスフロキサシン0.0625,レボフロキサシン0.25,セフメノキシム0.5,薬剤作用時間:24時間,n=1.F-5545株がparEに変異を保有していたものの,使用菌株はキノロン薬に感受性であり,MICはいずれもトスフロキサシンが0.0625μg/ml,レボフロキサシンは0.25μg/mlであった.また,オキサシリンに対するMICは,いずれの株も0.25μg/ml以下で,すべての株がMSSEであり,セフメノキシムのMICはいずれも0.5μg/mlであった(表1)17).2.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果Planktonic菌に対する薬剤10および30MIC,24時間作用後の生菌数を図2に示す.いずれの薬剤も10および30MIC作用後の生菌数は薬剤無添加の場合に比べ,約10.3から10.5に減少し,強い殺菌効果が認められた.セフメノキシム点眼液作用時では生菌数減少と用量との相関性が認められなかった(図2).3.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果バイオフィルムを形成した各株に対する薬剤10および30MIC,24時間作用後の生菌数を図3に示す.S.epidermidisF-5519株におけるトスフロキサシン点眼液10MICの241684あたらしい眼科Vol.29,No.12,201210MIC30MIC10MIC30MIC10MIC30MIC987654無添加トスフロキサシンレボフロキサシンセフメノキシム点眼液点眼液点眼液図3Staphylococcusepidermidisのinvitroバイオフィルム形成菌に対する各種点眼薬の殺菌効果A:F-5519株,B:F-5522株,C:F-5545株.薬剤作用時間:24時間,n=3,同じ作用濃度間の有意差:***:p<0.001,**:p<0.01,*p<0.05vs.トスフロキサシン(Dunnetttest).NS:notsignificant,MF:membranefilter.時間作用時の殺菌効果は,10MIC濃度のレボフロキサシン(p<0.05)およびセフメノキシム点眼液(p<0.001)より有意に強かった.トスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,30MIC濃度のセフメノキシム点眼液(p<0.001)より有意に強く,レボフロキサシン点眼液と同程度であった(図3A).F-5522株におけるトスフロキサシン点眼液10および30MICの殺菌効果は,同濃度のレボフロキサシン(p<0.01,図4StaphylococcusepidermidisF.5522株が形成したinvitroバイオフィルムに対する各点眼薬作用時の走査型電子顕微鏡像A:薬剤無添加,B:トスフロキサシン点眼液10MIC,C:レボフロキサシン点眼液10MIC,D:セフメノキシム点眼液10MIC,E:トスフロキサシン点眼液10MIC,F:トスフロキサシン点眼液30MIC,G:レボフロキサシン点眼液30MIC,H:セフメノキシム点眼液30MIC.矢印:破砕した菌体.MF:membranefilter.倍率=A.D,F.H:3,000倍,E:10,000倍.(94) ABCDEMFMFMFMFMFMFMFMFFABCDEMFMFMFMFMFMFMFMFFGH〔図4〕図説明は前頁参照(95)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121685 p<0.05)およびセフメノキシム点眼液(p<0.001,p<0.001)より有意に強かった(図3B).F-5545株におけるトスフロキサシン点眼液10および30MICの殺菌効果は,それぞれ同じ濃度のセフメノキシム点眼液(p<0.001,p<0.001)より有意に強く,レボフロキサシン点眼液と同程度であった(図3C).4.F.5522株が形成したinvitroバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の作用像F-5522株が形成したinvitroバイオフィルムに対する各点眼液10および30MIC作用時のSEM像を図4に示す.セフメノキシム点眼液24時間作用後のバイオフィルム像は10MICおよび30MIC作用時ともに薬剤無処理群(図4A)とほぼ同様であった(図4D,H).トスフロキサシン点眼液およびレボフロキサシン点眼液作用時では10MIC(図4B,C)および30MIC作用時(図4F,G)ともに,バイオフィルム構造が消失し,破砕した菌体(各矢印)が観察されたが,その程度はトスフロキサシン点眼液のほうがレボフロキサシン点眼液より強かった.トスフロキサシン点眼液10MIC作用時の形態を高倍率で観察すると,球菌の形状を留めない,多くの破砕した菌体が見られた(図4E矢印).なお,今回の試験ではicaA,D遺伝子の有無にかかわらず,他の2株でもF-5522株と同様なバイオフィルム形成像がSEMで観察された(データ示さず).また,SEM試料作製時の操作がバイオフィルム像へ影響するとの報告もあるが,今回,薬剤無処理群の形態はPalmerらの報告に示されたものに近似していた20,21).III考按臨床の多くの領域で,さまざまな感染症起因菌がバイオフィルムを形成し,病態の慢性化,治療の遷延化を招いている.バイオフィルムは細菌が付着材料とともに形成したマトリックスであり,付着材料には心臓弁,中耳や副鼻腔といった生体由来の組織,器官の場合と,生体内に留置された医療的なもの,カテーテル,ペースメーカー,人工関節などの場合がある22).眼科領域では後者に相当するものとして,コンタクトレンズ,眼内レンズ,手術時縫合糸,涙点プラグ,涙道形成用チューブなど,多くの医療材料が付着材料として存在する.眼感染症起因菌では近年,Staphylococcus属やPseudomonasaeruginosaなどによるバイオフィルム形成が臨床的に問題となっており,このうち,Staphylococcus属では涙点プラグが関連した急性結膜炎や眼内レンズに付着した菌による術後眼内炎での報告が多い4,23,24).S.epidermidisを含む眼由来分離菌における薬剤感受性を検討した報告ではレボフロキサシン,セフメノキシムに対する感受性が高いとの結果が示されている1).しかし,これらの結果はplanktonic菌に対するものであり,バイオフィル1686あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012ム形成菌に対して同じような抗菌作用が認められるかどうかは明らかでない.そこで今回,S.epidermidisのinvitroバイオフィルムを作製し,汎用されている市販抗菌点眼薬,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.検討にあたっては,用いたいずれの薬剤にも感受性の株を使用した.また,S.epidermidisのslime産生に関連9,10)があるとされるicaA,icaD遺伝子の有無をPCR法で確認し,非保有株1株,保有株2株で検討した.なお,icaA,icaD遺伝子を保有していた2株では,slime産生を抑制することが報告15)されているicaC遺伝子へのsequenceelementIS256の挿入は認められなかった.Staphylococciのpolysaccharideintercellularadhesin(PIA)はバイオフィルム形成との関連が報告されているslimeの主要構成成分と考えられており,その生合成にはica遺伝子locusが関連し,icaA,DはN-acetylgulcosaminetransferase,icaBはPIAdeacetylase,icaCはPIAのexporter遺伝子とされている25).しかし近年,icaA,Dを保有していなくてもバイオフィルム形成が認められるS.epidermidisの存在が報告されており,今回用いたF-5519株もバイオフィルムを形成したことなどから,今後その詳細な解明が待たれる26).使用菌株に対する抗菌活性はトスフロキサシンがレボフロキサシン,セフメノキシムに比べ4.8倍強く,2009年分離の外眼部感染症由来coagulase-negativeStaphylococcusの成績とほぼ同様であった27).Invitroバイオフィルム形成菌に対する作用濃度は,作用が薬剤間で同等になるよう,それぞれの10および30MICとし,24時間作用させた.抗菌点眼薬のヒト眼内動態についての報告はきわめて少ないが,トスフロキサシンについては,健康成人男子を対象に1回1滴,1日8回14日間点眼し,結膜.内濃度を測定した成績がある19).点眼1日目の初回点眼15分後の濃度は40.4±37.5μg/mlであり,点眼14日目の初回点眼24時間後の濃度は2.0±2.69μg/mlであった.涙液が絶え間なく流れる,限られた容量の結膜.内に局所投与された点眼液は,経口投与や,静脈内投与された抗菌薬の場合より,その眼内動態や薬効の推測はきわめて困難と考えられる.バイオフィルム形成による眼感染症であった場合,さらに薬効の推測はむずかしく,実験動物を用いたバイオフィルム感染モデルがその検討に適しているのかもしれない.しかし,現在その報告はなく,今回,invitroでバイオフィルムを作製し検討した.上述のトスフロキサシン点眼液の24時間値(約2.0μg/ml)はS.epidermidisMIC値(0.0625μg/mlとしたとき)の約32倍に相当することから,各点眼液についても,30MICおよびその1/3濃度の10MIC,24時間作用時のinvitroバイオフィルムに対する殺菌作用を検討した.(96) バイオフィルムを形成したS.epidermidisに対し,F5519,F-5522株では10MIC作用時,トスフロキサシン点眼液は同濃度で比較したレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示した.また,F-5522株でのSEMによる形態観察ではトスフロキサシン点眼液ではバイオフィルム形成菌に対する強い殺菌像が観察された.バイオフィルムを形成した細菌がplanktonic菌に比べ抗菌薬抵抗性を示すこと,また,その抵抗性には薬剤系統差があることが知られている7).S.epidermidisにおいてキノロン系抗菌薬シプロフロキサシンはplanktonic菌よりバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果が弱いとの報告がある28).今回の試験でもplanktonic菌に比べ,バイオフィルムを形成した菌に対する殺菌作用はいずれの薬剤も弱かった(図2,3).薬剤系統差についてはP.aeruginosaバイオフィルムに対する殺菌作用が,キノロン系抗菌薬,アミノ配糖体系抗菌薬,b-ラクタム系抗菌薬の順に強いことが報告されている7).これらのことから,バイオフィルム形成菌に対しては,b-ラクタム系抗菌薬よりもキノロン系抗菌薬を,また,キノロン系抗菌薬のなかでも目標とする菌に対して,より強い抗菌活性を示す薬剤を選択すべきと考えられた.術後感染症としての眼内炎は発症すれば失明や視力低下につながる重篤な感染症であり,これらの事態をひき起こさないために手術前後に眼瞼および結膜.内を十分殺菌しておくことは重要である.キノロン系点眼薬の眼科周術期における無菌化率は高く,トスフロキサシン点眼液の場合も手術14日後に判定した術後感染症の発症は全例(108例)において認めず,また,術後無菌化率は95.1%で,類薬と同程度であった29,30).これらの成績におけるバイオフィルム形成菌関与の程度は不明であるが,感染時に菌がバイオフィルムを形成している場合の懸念を少しでも払拭する薬剤を使用することが望ましいことから,その薬剤選択には十分な配慮が必要と思われる.以上,キノロン系のトスフロキサシン点眼液はb-ラクタム系のセフメノキシム点眼液より,バイオフィルムを形成したS.epidermidisに強い殺菌効果を示した.また,試験3株中2株ではトスフロキサシン点眼液10MIC作用時の殺菌効果はレボフロキサシン点眼液の場合より強かった.トスフロキサシン点眼液はバイオフィルムを形成したメチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidisによる眼感染症の治療,予防において有用と考えられた.文献1)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20112)EndophthalmitisVitrectomyStudyGroup:Resultsofthe(97)EndophthalmitisVitrectomyStudy:Arandomizedtrialofimmediatevitrectomyandofintravenousantibioticsforthetreatmentofpostoperativebacterialendophthalmitis.ArchOphthalmol113:1479-1496,19953)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)亀井裕子:眼感染症とバイオフィルム.臨床と微生物36:439-444,20095)BehlauI,GilmoreMS:Microbialbiofilmsinophthalmologyandinfectiousdisease.ArchOphthalmol126:15721581,20086)KodjikianL,BurillonC,LinaGetal:Biofilmformationonintraocularlensesbyaclinicalstrainencodingtheicalocus:ascanningelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci44:4382-4387,20037)SpoeringAL,LewisK:BiofilmsandplanktoniccellsofPseudomonasaeruginosahavesimilarresistancetokillingbyantimicrobials.JBacteriol183:6746-6751,20018)MayT,ItoA,OkabeS:InductionofmultidrugresistancemechanisminEscherichiacolibiofilmsbyinterplaybetweentetracyclineandampicillinresistancegenes.AntimicrobAgentsChemother53:4628-4639,20099)ChristensenGD,BaldassarriL,SimpsonWA:Colonizationofmedicaldevicesbycoagulase-negativestaphylococci.InBisnoALandWaldvogelFA(ed.),InfectionsAssociatedwithIndwellingMedicalDevices,2nded.p45-78,AmericanSocietyforMicrobiology,Washington,D.C.,199410)CatalanottiP,LanzaM,DelPreteAetal:Slime-producingStaphylococcusepidermidisandS.aureusinacutebacterialconjunctivitisinsoftcontactlenswearers.NewMicrobiol28:345-354,200511)GriffithsPG,ElliotTS,McTaggartL:AdherenceofStaphylococcusepidermidistointraocularlenses.BrJOphthalmol73:402-406,198912)YamadaM,YoshidaJ,HatouSetal:MutationsinthequinoloneresistancedeterminingregioninStaphylococcusepidermidisrecoveredfromconjunctivaandtheirassociationwithsusceptibilitytovariousfluoroquinolones.BrJOphthalmol92:848-851,200813)HaasW,PillarCM,HesjeCKetal:Bactericidalactivityofbesifloxacinagainststaphylococci,StreptococcuspneumoniaeandHaemophilusinfluenzae.JAntimicrobChemother65:1441-1447,201014)ArciolaCR,BaldassarriL,MontanaroL:PresenceoficaAandicaDgenesandslimeproductioninacollectionofstaphylococcalstrainsfromcatheter-associatedinfections.JClinMicrobiol39:2151-2156,200115)ZiebuhrW,KrimmerV,RachidSetal:AnovelmechanismofphasevariationofvirulenceinStaphylococcusepidermidis:evidenceforcontrolofthepolysaccharideintercellularadhesinsynthesisbyalternatinginsertionandexcisionoftheinsertionsequenceelementIS256.MolecularMicrobiology32:345-356,199916)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:MethodsforDilutionAntimicrobialSusceptibilityTestsforBacteriaThatGrowAerobically;ApprovedStandard-EighthEditionM07-A8,2009あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121687 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眼科医の立場からみた糖尿病受診中断者の検討

2012年12月31日 月曜日

《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科29(12):1677.1680,2012c眼科医の立場からみた糖尿病受診中断者の検討田中寧*1田中朗*2宇多重員*3江戸川区眼科医会*1田中眼科*2獨協医科大学越谷病院眼科*3二本松眼科病院DiabetesfromtheOphthalmologist’sPerspectiveYasushiTanaka1),AkiraTanaka2),ShigekazuUda3)andEdogawaWardOphthalmologists’Association1)TanakaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,3)NihonmatsuEyeHospital目的:受診中断の問題点は,患者の中断時期,中断理由が不明なことである.糖尿病医療連携における受診中断者の傾向と対策を検討した.対象:田中眼科で2011年3月現在,糖尿病眼手帳を配布した509人のうち,受診を中断した205人(40.3%)である.結果:中断者は男性(63.9%)が多く,中断理由は不明(79%)が多かった.理由不明者を検討したところ,突然中断,中断歴あり,1回のみ受診の順であった.健康手帳の利用率は中断者31.2%,通院患者50.7%で有意差を認めた(p<0.0001).眼手帳を毎回持参した中断者45.9%,通院患者86.2%で有意差を認めた(p<0.0001).考察:中断者を減らす対策としては眼科医,内科医の連携,患者との共通の認識を構築することが重要である.Purpose:Theproblemwithpatientswhointerrupttreatmentisthatthetimeoftheirleaving,andtheirreasonforleaving,arenotknown.Incollaborationwithdoctorstreatingdiabetes,weconsideredwhypatientsinterrupttheirtreatment,andhowtodealwiththeproblem.Subjects:Of509patientswhohadacurrentdiabeticeyenotebookatTanakaEyeClinicasofMarch2011,205(40.3%)stoppedtreatment.Results:Mostofthosewhostopped(63.9%)aremale,andinmostcasestheirreasonforstoppingwasunknown(79%).Whenweexaminedthereasons,wefoundthatmoststoppedtreatmentabruptly,followedbythosewhohadhadaprevioushistoryofinterruption,andthenbythosewhohadonlyinterruptedtreatmentonce.Thosewhohadahealthbookcomprised31.2%;thoseattendinghospitalregularlycomprised50.7%,asignificantdifference(p<0.0001).Thosewhoalwaysbroughttheireyebookaccountedfor45.9%,andthoseattendinghospitalregularlycomprised86.2%(p<0.0001).Conclusion:Toreducethenumberofpatientswhointerrupttreatment,collaborationbetweenophthalmologistsanddoctorsisnecessary,inordertocreateacommonunderstandingwiththepatient.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1677.1680,2012〕Keywords:糖尿病眼手帳,糖尿病網膜症,眼科・内科連携,受診中断.diabeticeyenotebook,diabeticretinopathy,cooperationbetweenophthalmologistandinternist,dropoutofexamination.はじめに田中眼科(以下,当院)では2002年に発行された糖尿病眼手帳(以下,眼科手帳)を当初は網膜症のある患者に配布していた.しかし,糖尿病でも網膜症のない患者が大半を占めるため,2007年からは内科で糖尿病と診断された患者全員に配布した.配布数は増加したがそれに伴い中断者も増加した.時間に追われる日々の診療のなかではなかなか中断者の把握は困難である.よほど記憶に残るような重症の患者や,硝子体手術が必要で大学病院に紹介するようなケース以外は忘れてしまう.眼科手帳や糖尿病健康手帳(以下,健康手帳)の利用状況1.10)を調べていくうちに,かなりの中断患者がいること7)が判明した.そこで受診中断者の傾向と対策を検討した.I対象および方法(表1)当院で眼科手帳を配布し,1年以上経過を追えた509人(2011年3月現在)のうち,受診を中断または中止した205〔別刷請求先〕田中寧:〒133-0051東京都江戸川区北小岩6-11-1田中眼科Reprintrequests:YasushiTanaka,M.D.,TanakaEyeClinic,6-11-1Kitakoiwa,Edogawa-ku,Tokyo133-0051,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(87)1677 表1通院患者と中断患者の背景表2通院患者と中断患者の比較通院患者中断患者患者数(人)304205性別男性女性153(50.3%)151(49.7%)131(63.9%)74(36.1%)平均年齢(歳)71.6±10.370.2±12.0かかりつけ医開業医病院228(75.0%)76(25.0%)159(77.6%)46(22.4%)治療食事内服インスリン不明31(10.2%)216(71.0%)57(18.8%)07(3.4%)161(78.5%)32(15.6%)5(2.5%)網膜症NDRSDRPPDRPDR173(60.0%)83(27.3%)29(9.5%)19(6.2%)126(61.5%)42(20.5%)15(7.3%)22(10.7%)NDR:網膜症なし,SDR:単純糖尿病網膜症,PPDR:増殖前糖尿病網膜症,PDR:増殖糖尿病網膜症.人(40.3%)を対象とした.なお,予約再診日より6カ月以上受診しなかった場合を受診中断とした.中断患者の最大の問題点は,いつ中断するかがわからず,理由も不明なことが多い点である.当院では糖尿病台帳を作成し管理している.内容は上段が患者データで,かかりつけ内科医,治療方法,連携方法を記載している.中段は眼科手帳の項目,下段は内科の検査データである.年1回統計を取って利用状況を検討している1.3,7).中断患者205人と通院患者304人を比較検討した.検定にはc2検定を用いた.p<0.05を統計上有意とした.II結果1.性別(表2)中断患者では男性が63.9%と多くみられた(p<0.005).通院患者は男女ともほぼ同数であった.2.年齢別(図1)中断患者では70代,60代が多く,ついで80代であった.通院患者は70代が40%と最も多く,ついで60代,80代の順であった.平均年齢は中断患者70.2歳,通院患者71.6歳とほぼ同等であった.3.かかりつけ医(表2)かかりつけ医は中断患者も退院患者も開業医が多く3/4を占めていた.4.治療方法(表2)中断患者も通院患者も内科治療方法は内服が大半を占め,ついでインスリン療法であった.1678あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012通院患者中断患者p値患者数(人)304205性別男性女性153(50.3%)151(49.7%)131(63.9%)74(36.1%)<0.005平均年齢(歳)71.6±10.370.2±12.0かかりつけ医開業医病院228(75.0%)76(25.0%)159(77.6%)46(22.4%)0.5治療食事内服インスリン不明31(10.2%)216(71.0%)57(18.8%)07(3.4%)161(78.5%)32(15.6%)5(2.5%)<0.001網膜症NDRSDRPPDRPDR173(60.0%)83(27.3%)29(9.5%)19(6.2%)126(61.5%)42(20.5%)15(7.3%)22(10.7%)0.09眼科手帳頻度毎回時々忘れる忘れる不明262(86.2%)27(8.9%)15(4.9%)094(45.9%)29(14.1%)37(18.0%)45(22.0%)<0.0001健康手帳あり眼手帳記入採血票提供書口答なし不明154(50.7%)20(6.6%)91(29.9%)11(3.6%)16(5.3%)12(3.9%)064(31.2%)8(3.9%)44(21.5%)21(10.2%)7(3.4%)34(16.6%)27(13.2%)<0.000180代17.1%70代34.1%30.7%6.3%60代50代205人20代0.3%90代30代1.5%30代0.1%3.9%40代90代6.3%1.0%40代2.6%80代21.4%70代40%60代25%50代9.2%304人中断患者通院患者図1年齢別5.糖尿病網膜症(表2)糖尿病網膜症は,中断患者も通院患者も網膜症なし(NDR),単純糖尿病網膜症(SDR)で8割以上は軽症であった.6.内科との連携手段(表2)日常診療で内科との連携手段は健康手帳や採血票を毎回持参するケースが多い.眼科手帳に直接記載するケースもある.健康手帳を持参するケースは通院患者50.7%に対し,(88) 歩行困難引越死亡2.5%205人162人入院転院10.2%5.4%2.9%不明79.0%4回1.9%5回3.7%3回7.4%2回のみ9.3%1回のみ10.5%中断歴あり27.8%突然中断39.5%図2中断理由中断患者31.2%と少なかった(p<0.0001).通院患者ではこの3つの手段で連携している87.2%に対し,中断患者は56.6%であった.データなしが中断患者16.6%と多く認めたのに対し,通院患者は3.6%と少なかった.7.眼科手帳の頻度(表2)眼科手帳を毎回持参するケースは通院患者86.2%に対し,中断患者45.9%と少なかった(p<0.0001).また,忘れるケースは通院患者4.9%に対し,中断患者は18%と多く認めた.8.中断理由(図2)理由不明が79%と最多で,判明した内訳は入院転院10.2%,引越5.4%,死亡2.9%の順であった.理由不明の中断者162人を患者台帳より探し,カルテを検証したところ,定期的に受診していたにもかかわらず突然中断が39.5%と最も多く,ついで中断を繰り返すケースが27.8%であった.また,1回だけ受診して中断するケースも10.5%,2回のみ受診9.3%と多く認めた.III中断対策と試み受診中断対策の問題点は中断時期と中断理由の把握が困難な点である.眼科手帳と健康手帳から患者名簿を作り,中断患者を探し出しカルテを見返す手間がかかる.2008年4月に中断患者31人の内科かかりつけ医に手紙で連絡をとったところ,6人が再受診し,12人は転院,引越,死亡などの中断理由が判明した.13人(41.9%)は不明であったが,熱意ある内科医との連携は大切であると実感した.IV考察当院では患者初診時に内科かかりつけ医と既存の診療情報提供書を用いて医療連携を取り,日常の診療には眼科手帳や健康手帳を利用して最新のデータを内科,眼科,患者が共有することを心掛けている1,4).網膜症の悪化や,白内障手術,硝子体手術の際は情報提供(89)書を患者に持たせている.2008年に江戸川区眼科医会でアンケート調査を行ったところ,眼科手帳の利用率は44.8%であった2).全国レベル60.5%5)より下回ったが,利用している眼科医の満足度は良いものであった.当院通院患者の健康手帳の利用率は2007年46.4%,2008年45.1%と横ばいであった1,2).採血票を患者に渡すケースが27.2%から42.5%へ増えた.正確な情報が伝達することは良いが,紛失しやすく多くなると嵩張る10).手間がかかっても健康手帳に記入していただきたい.今回の結果で判明した中断者数の205人(40.3%)は,印象として思っていた中断率よりも多かった.眼科手帳の配布する範囲を網膜症のある患者に限定すれば中断率は低下するが,内科で糖尿病と診断がついていれば,全例に配布し連携を取ることのほうが重要と考えた.理由不明の内訳で最も多かったのは突然の中断であった.患者の90代の占める割合が多いことから高齢者や合併症の悪化,付き添い者の問題など示唆されるが,年齢別の比較や平均年齢から高齢化は今後も進み大きな問題となろう.日常診察でのきめ細かい情報収集が必要である.当院では往診などの対策を試みている.対策が立てられそうなのは中断歴のある患者である.日常診察の際に眼科手帳をチェックすることで予想がつく.受診間隔が不規則であったり,手帳をよく忘れる場合は要注意である.再診したときには,中断したことを責めるのではなく継続することの大切さを伝える.内科にはある程度通院していることがわかれば,情報提供書を用いて定期的に眼科受診を促してもらうように内科医に伝える.中断患者の特徴として健康手帳や眼科手帳の利用率が悪いことが判明した.かかりつけ医として内科医,眼科医が手帳をチェックすることにより受診状況を把握し,改善するように指導することは可能である.1,2回の受診で中断するケースもまだ多く,網膜症がないと伝えることで安心して受診しなくなったと予想される.当院の通院患者の意識調査3)での,眼科受診のきっかけは,アンケート結果で内科医よりの紹介が45.2%と最も多く,飛蚊症や眼症状などの自覚症状は19.9%であった.しかし,カルテから検証した実際の結果では,自覚症状による受診が41.8%で,内科医の紹介34.2%より多かった.これは患者の印象としては,内科医より眼科受診を指示されたほうが強く残るのではないかと考えられる.眼科受診の必要性を内科受診時にぜひ伝えていただきたい.今後は高齢化や病状悪化による受診中断者の増加が予想される.家族の協力があれば往診することで経過をみることは可能であるが,独居老人の増加に伴う中断者の対策は困難であたらしい眼科Vol.29,No.12,20121679 ある.今まではかかりつけ医として患者のかかりやすい環境作りを目指してきたが,今後は患者の環境に合わせた医療体制が求められる.看護師,栄養士,介護スタッフの協力が必要なときが来ている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:眼科医の立場から病診連携の為の糖尿病眼手帳及び健康手帳の利用状況について.江戸川医学会誌25:42-45,20072)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:眼科医の立場から見た糖尿病眼手帳の利用状況について.江戸川医学会誌26:16-19,20083)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:患者側からみた糖尿病眼手帳の意識調査.江戸川医学会誌27:24-26,20094)大野敦:内科・眼科の連携.眼科プラクティス7,糖尿病眼合併症の診療指針,p214-219,文光堂,20075)船津英陽,堀貞夫,福田敏雅ほか:糖尿病眼手帳の5年間推移.日眼会誌114:96-104,20106)堀貞夫:糖尿病網膜症の治療戦略.日眼会誌114:202215,20107)田中寧,田中朗,宇多重員ほか:糖尿病眼科手帳からみた受診中断者の検討.江戸川医学会誌28:20-23,20118)大野敦,梶邦成,臼井崇裕ほか:多摩地域の眼科医における糖尿病眼手帳に対するアンケート調査結果の推移.あたらしい眼科28:97-102,20119)堀貞夫:糖尿病網膜症における内科眼科医療連携:放置・中断対策.DiabetesFrontier22:406-410,201110)小林博:糖尿病患者の糖尿病健康手帳およびデータシートの持参率:病識の向上と内科-眼科間連携.あたらしい眼科28:1354-1360,2011***1680あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(90)

透析患者における眼科的自覚症状および視力の比較

2012年12月31日 月曜日

《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科29(12):1673.1676,2012c透析患者における眼科的自覚症状および視力の比較松浦豊明岡本全弘辻中大生後岡克典下山季美恵緒方奈保子奈良県立医科大学眼科学教室ComparisonofOcularSubjectiveSymptomsandVisualAcuityinHemodialysisPatientsToyoakiMatsuura,MasahiroOkamoto,HirokiTsujinaka,KatsunoriNotioka,KimieShimoyamaandNahokoOgataDepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity目的:透析導入の原因疾患が糖尿病(DM)と慢性糸球体腎炎(CGN)の患者の透析時自覚症状,視力を比較する.対象および方法:2009.2010年の間に維持血液透析患者のなかで眼科通院歴のあるDM症例120名(男性65名,女性55名:60.1±9.8歳),CGN症例128名(男性70名,女性58名:62.5±11.2歳)が対象である.透析中,直後の眼科的自覚症状,視力を検討した.さらに眼科的所見も検査を行った.結果:自覚症状を訴える患者はDM症例30名(25%),CGN症例32名(25%)で差は認めなかった.一過性の視力低下も両症例とも24名で差は認めなかった.また,視力の程度や黄斑部の異常との関連も少ないようであった.両眼とも視力1.0以上の症例はDM症例27名(23%),CGN症例31名(24%)とほぼ同数であったが,良いほうの眼が1.0以上の視力の症例の割合はそれぞれ50名(42%)と74名(58%)であった.また,良いほうの眼の視力0.5から0.3の症例の割合はそれぞれ20名(17%)と13名(10%)である.視力0.2以下の症例の割合はそれぞれ15名(13%)と8名(6%)であった.これらは統計的に有意であった.結論:DM症例のほうがCGN症例よりもlowvisionの範疇にある比率が高いことがわかった.良いほうの視力の差は眼科的所見がDM群で悪いことに起因すると考えられた.しかし,一過性視力低下や自覚症状の程度には両群に明確な差を認めなかった.Purpose:Toevaluatesubjectiveocularsymptoms(duringandsoonafterhemodialysis)andvisualacuityinpatientswithhemodialysiscausedbydiabetesmellitus(DM)orchronicglomerulonephritis(CGN).Methods:WeconductedasurveyinNaraPrefecture,between2009and2010,of120DMpatients(65males,55females;meanage:60.1±9.8years)and128CGNpatients(70males,58females;meanage:62.5±11.2years).Weconsideredtheocularsymptomsduringandsoonafterhemodialysis,andexaminedtheophthalmologicalfindings.Results:Symptomswerecomplainedofin25%ofDMcases(30patients)and25%ofCGNcases(32patients).Temporarydeteriorationofvisualacuity(24patients)showednodifferencebetweenthegroups,andlittleconnectionwithvisualacuityandmacularabnormality.DMandCGNgroupshadalmostthesamepercentageofpatientswithbilateralvisualacuity(≧1.0):23%and24%,respectively.Thepercentagesofpatientswithbest-correctedvisualacuityof≧1.0were42%(50/120)and58%(74/128),respectively,thepercentagesofpatientswithbest-correctedvisualacuityof0.5.0.3being17%(20/120)and10%(13/128),respectively.Thepercentagesofpatientswithbest-correctedvisualacuityof≦0.2were13%(15/120)and6%(8/128),respectively.Thesedifferencesweresignificant.Conclusion:ThepercentageofpatientswithlowvisionwasrelativelyhighinDMcases.Thedifferenceinbest-correctedvisualacuitywasduetobadophthalmologicalfindings.However,temporarydeteriorationofvisualacuityandocularsymptomswerenotsignificantineithergroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1673.1676,2012〕Keywords:血液透析,眼自覚症状,糖尿病,慢性腎不全.hemodialysis,ocularsubjectivesymptoms,diabetesmellitus,chronicglomerulonephritis.〔別刷請求先〕松浦豊明:〒634-8522橿原市四条町840奈良県立医科大学眼科学教室Reprintrequests:ToyoakiMatsuura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NaraMedicalUniversity,840Shijo-cho,Kashihara,Nara634-8522,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(83)1673 はじめに近年,長期透析患者が増加している.日本透析学会統計調査1)によると,2000年には20万人を超え,2005年には25万人,そして2010年12月現在で約30万人の慢性透析患者がいると考えられる.さらに,透析導入患者の主要原疾患の推移をみると,常に糖尿病腎症と慢性糸球体腎炎が上位を占めている.1998年糖尿病腎症が一位になってから現在に至るまでその順位は変わっておらず,ますますその差が開いている.2010年現在では糖尿病腎症が約45%,慢性糸球体腎炎が約22%である.また,患者の増加とともに透析療法の合併症が増加している.なかでも眼障害は患者のQOL(qualityoflife)を著しく低下させ,大きな問題となっている.さらに,糖尿病のある透析患者は認知症の発症割合が高いことも報告されている1).以前に筆者らは維持血液透析患者の眼症状を報告2)した際に,糖尿病の患者の視力がそれ以外の患者と比べて比較的悪いのではないかという印象を受けた.さらに患者から,透析時,直後の眼科的自覚症状を訴えられることを臨床の場で感じた.そのため,今回,透析導入の原因疾患が糖尿病(DM症例)と慢性糸球体腎炎(CGN症例)の患者を選んで,眼障害の把握を目的に,透析時自覚症状,視力を比較した.I対象および方法2009.2010年の間に維持血液透析患者のなかで眼科通院歴のあるDM症例120名(男性65名,女性55名:60.1±9.8歳),CGN症例128名(男性70名,女性58名:62.5±11.2歳)を対象とした症例対照研究である.さらに,選択バイアスを減らすために奈良県立医科大学,および4施設で眼科受診歴のあるほぼすべての患者を対象とした.対象2群の性別,年齢,そして透析期間に有意差を認めていない(表1).透析中,直後の眼科的自覚症状は眼科診察時に眼科専門医が口頭で確認した.確認したおもな自覚症状,以前の報告を参考2)にして,一過性の視力低下(見えにくい,霞む,焦点が合いにくい),飛蚊症,眼痛,そして充血をおもに聞くことにした.視力(最良矯正視力),白内障の有無,白内障術後かどうか,緑内障の有無,そして眼底所見をカルテから確認し比較検討した.統計学的にはp<0.05をもって有意差ありとし,検定にはStudent’st-testを用いた.II結果自覚症状を訴える患者はDM症例30名(25%),CGN症例32名(25%)で差は認めなかった.飛蚊症と眼痛がそれぞれ約3%である.結膜充血がDM症例2%に自覚された.乾燥感,流涙,そして青く見えるという訴えがDM症例各1名にあった(表2).一過性の視力低下がそれぞれ24名(20%),24名(19%)であった.さらに,一過性の視力低下を自覚した症例と良いほうの視力との関連を調べた(表3).症例数が比較的少ないが,両者に有意の差を認めなかった.DM症例の良いほうの視力が0.3以下の4症例はそのうち2例が黄斑部の浮腫,2例が黄斑部の萎縮所見が認められた.GCN症例で良いほうの視力が0.3以下の症例はすべて黄斑部の萎縮,1例で視神経の萎縮所見を認めた.視力の低下した症例は全例,何かしらの黄斑部異常を伴っていたが,そのことと一過性の視力低下は関連が少ないようであった.視力を比較してみると,両眼とも視力1.0以上の症例はDM症例27名(23%),CGN症例31名(24%)とほぼ同数で有意差を認めなかった.さらに,良いほうの眼が1.0以上の視力の症例の割合はそれぞれ50名(42%)と74名(58%)であった.また,0.6以上0.9以下の視力の症例の割合はそれぞれ35名(29%)と33名(26%)である.0.3以上0.5以下の視力の症例の割合はそれぞれ20名(17%)と13名(10%)である.視力0.01以上0.2以下の症例の割合はそれぞれ12名(10%)と8名(6%)である.さらに,視力0.01以下の症例の割合はそれぞれ3名(3%)と0名(0%)であった(図1).前眼部の所見として水晶体の混濁が散瞳状態で細隙表2透析中,直後の眼科的自覚症状(複数回答)糖尿病症例慢性糸球体腎炎症例(30症例)(32症例)視力低下24(20%)24(19%)飛蚊症4(3%)5(4%)眼痛5(4%)4(3%)充血2(2%)2(2%)目ヤニ2(2%)2(2%)乾燥感1(1%)0(0%)流涙1(1%)0(0%)青く見える1(1%)0(0%)表1対象糖尿病症例(120症例)慢性糸球体腎炎症例(128症例)p値Student’st-test男性女性年齢(平均±標準偏差)(歳)透析期間(平均±標準偏差)(月)655560.1±9.848.1±39.2705862.5±11.255.2±41.20.6870.4650.3420.5541674あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(84) 表3一過性の視力低下を生じた症例の良いほうの視力との関連良いほうの視力糖尿病症例(24症例)黄斑部異常慢性糸球体腎炎症例(24症例)黄斑部異常p値Student’st-test1.0以上0.6.0.90.3.0.50.01.0.20.01以下16(67%)4(17%)2(8%)2(8%)0(0%)5(21%)2(8%)2(8%)2(8%)15(63%)6(25%)2(8%)1(4%)0(0%)4(17%)2(8%)2(8%)1(4%)0.250.150.880.2表4糖尿病症例と慢性糸球体腎炎症例の眼科的所見の割合(複数回答)眼科的所見(複数回答)糖尿病症例(120症例)慢性糸球体腎炎症例(128症例)p値Student’st-test白内障36(30%)34(27%)0.222両眼白内障術後54(45%)56(44%)0.682緑内障12(10%)6(5%)<0.05眼底所見網膜出血76(63%)36(28%)<0.05黄斑部異常43(36%)10(8%)<0.05網脈絡膜萎縮32(27%)11(9%)<0.05視神経萎縮18(15%)6(5%)<0.05010203040506070症例数(%)■:慢性糸球体腎炎症例:糖尿病症例****p<0.05*1.00.6~0.3~0.01~0.01以上0.90.50.2以下良いほうの眼の視力図1糖尿病症例と慢性糸球体腎炎症例の良いほうの眼の視力の割合灯顕微鏡下に確認できるとき白内障があるとした.両眼とも白内障術後の症例はそれを記載した.白内障の頻度,両眼白内障術後の頻度は変わらなかった.また,緑内障と診断されている症例はDM症例に多く認められた.さらに,視機能にかかわると考えられる,網膜出血(糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症,高血圧性変化などを含む),黄斑部異常(黄斑浮腫,黄斑部萎縮,黄斑変性ほか),脈絡膜萎縮,さらに視神経萎縮の所見はすべてDM症例で多く認められた(表4).III考按自覚症状は頻度に両者で差を認めなかった.自覚症状では透析直後に約20%で一過性の視力低下を訴えているが,良いほうの視力の程度との関連は両者ともないようであった.視力が低下している症例はほとんど黄斑部の異常を認めてい(85)るので一過性の視力低下と眼底の所見も関連が少ないと考えている.しかし,透析後の眼血流を測定した報告3)では後局部網膜の血流が一過性に低下していることが示されているので,症例よっては視力に影響する可能性もあると考えている.さらに,今回は透析前後の眼圧また血漿浸透圧を測定していないので明確にはできないが,不均一症候群による眼圧の上昇4)も一過性の視力低下の原因として考えられる.また,青く見えるという訴え(cyanopsia)がみられた原因は明らかだが,ほぼ毎回一過性に透析直後から症状が生じ,2.3時間で回復するとのことである.この症例は白内障の術後でないことから,透析の前後に眼球光学系の透過特性が変化している可能性もあり,現在精査中である.ほかの報告によると,アンケート調査対象331名中,眼に何らかの症状がある患者は60%に近いにもかかわらず,そのうち日常生活に支障を感じている患者は半数に満たなかったとのことである.このことは多様な合併症,障害をもつ透析患者では眼以外の合併症への関心が高いのではないかという記述4)がある.今回の結果もこのような眼症状以外に関心があり,どちらかというと眼症状は関心がもたれていないのかもしれない.眼症状の変化に患者自身が気を配ることは今後の視機能を保つうえでの眼科の早期受診,早期発見による,適切な加療を受ける可能性を高めることになる.そのため眼症状に対する意識を高めてもらうように指導することは今後も必要なことと考えられる.視機能の大きな指標である視力をみてみると,DM症例では視力良好な眼が1.0以上の視力のものが少なく,0.2以下の視力の症例が比較的多かった.このことからDM症例のあたらしい眼科Vol.29,No.12,20121675 ほうがCGN症例よりもlowvisionの範疇にある比率が高い.今回その原因を検索するために,視力障害をひき起こすような眼科疾患を簡単ではあるが調査した.白内障に関してはその程度がまちまちであること,術後には視力が改善することが多いため評価がむずかしかったが,症例数は両症例で差を認めなかった.今後この点についても検討を加える予定である.緑内障に関して,DM症例で頻度が高かった.この点についても,その病型,病態について詳細な検討が今後の課題であると考えている.眼底の状況は,たとえば眼底出血をみてもそれが糖尿病によるものか,高血圧によるものか,網膜静脈の閉塞によるものか厳密な判断がむずかしい.さらに,今回は両眼の良いほうの視力を生活に必要な視力として比較検討しており,視力の悪いほうの眼の眼科的所見と直接に因果関係がない場合があると考えている.こちらも今後の検討課題としている.ただし,全体として眼科的所見はDM症例で視力低下をひき起こす可能性のある所見は高いと考えられる.今後糖尿病を原因疾患とする血液透析患者がさらに増加することが予想される現状を考えると,眼科的合併症もますます深刻なものになると考えられる.患者のQOLを高めるためには,日常生活に必要な視機能を維持することが今後の課題である.最後に日本透析学会統計調査によると糖尿病の透析患者は老齢になると認知症の発症率が高いことが報告されている.60歳以上では非糖尿病群で1.8%,糖尿病群で3.3%,75歳以上では非糖尿病群で9.9%,糖尿病群で11.7%,そして90歳以上では非糖尿病群で23.0%,糖尿病群で33.6%と有意の差が認められている1).別の報告では視力低下は老齢期の認知症を進行させるという報告がある5).このことを考えると,特に糖尿病の透析患者は眼科,内科だけでなく精神科との連携を保って診察を続けることが必要と考えている.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)社団法人日本透析医学会ホームページ,http://www.jsdt.or.jp,図説わが国の慢性透析療法の現況,2010年末の慢性透析患者に関する基礎集計,p3-39,20122)松浦豊明,湯川英一,原嘉昭ほか:奈良県における維持血液透析患者の眼合併症.眼臨紀3:1154-1158,20103)永井紀博,篠田啓,木村至ほか:血液透析による後局部網膜の血流変化.眼紀52:557-559,20014)RamsellJT,EllisPP,PatersonCA:Intraocularpressurechangesduringhemodialysis.AmJOphthalmol72:926930,19715)原鮎美,松原こずえ,田海美子ほか:透析室における視覚障害者へのケア─眼科的愁訴とそのケア:ロービジョンケア─.臨床透析21:719-724,20056)RogersMA,LangaKM:Untreatedpoorvision:Acontributingfactortolate-lifedementia.AmJEpidemiol171:728-735,2010***1676あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(86)

後期臨床研修医日記 20.順天堂大学医学部眼科学教室

2012年12月31日 月曜日

●シリーズ⑳後期臨床研修医日記順天堂大学医学部眼科学教室杉田丈夫長谷川瞳林雄介順天堂大学医学部眼科学教室の後期研修医は医局の先輩である指導医の先生方のもと,日々医療に邁進しています.当教室では本院,附属病院,関連病院を定期的にローテートし,さまざまな環境下で医療を学ぶことができます.そんな後期研修医の研修プログラムを,それぞれの代表的な病院での生活を中心にご紹介します.本院(順天堂医院)での生活病棟での1週間の流れをご紹介します.基本的には火・木曜日が手術日,前日の月・水曜日が入院日となり,水曜日は総回診です.本院ではグループ制をとり,グループ(G)は専門医以上の上級医2人程度と,まだ専門医の資格を持たない後期研修医の計3人前後の医師で構成され,基本的には硝子体G,緑内障G,角膜G,小児眼科Gに分かれます.最初は各グループをローテートし,幅広く勉強できるよう配慮されています.月曜日と水曜日は術前診察が中心です.診察,検査が終わると各グループで手術に関して相談しますが,少人数で行うため私たちも質問や発言をしやすい環境となっています.たとえば,白内障では眼内レンズの度数の決め方や,狭隅角や成熟白内障といった比較的手術の難しい症例の注意点を教わったりします.水曜日は総回診ですが,事前のカンファレンスが午前7時半に始まるのでそれまでに回診の準備をしなくてはなりません.寝る前は目覚ましを確実にセットし,当日はまだ眠っていたい気持ちを抑えつけ病院へ….カンファレンスでは外来・入院の難治症例などをプレゼンテーションし,上級医からのアドバイスをもとに治療方針・術式などの決定をします.時々先生方のするどい質問もあり,しどろもどろになりながらも何とか答えています….その後,教授診察が始まり回診後は術後診察,(73)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY▲医局会カンファレンスルームにて(向かって左奥筆者の杉田,右奥筆者の長谷川,左手前後期研修医取出,右手前後期研修医鈴木)術前診察と続きそこで一段落となります.金曜日は術後診察がメインです.また,翌週入院となる患者さんのカルテを予習し,グループごとに術式や治療方針に関して相談など行います.(林雄介)手術室にて毎週火曜日と木曜日は手術日です.まず病棟へ向かい大量の点滴を患者さんに入れることから1日が始まります.手術が始まるまでに終わらせなくてはならず,そのあと手術室の準備も控えているため,ここはチームワークが大切です!皆で分担し片っ端から入れていきます.点滴が難しい方がいると何とか入れないといけないため総力戦になります.ここで失敗すると手術が遅れ後で病棟医長から大目玉をくらうので….点滴が終わるとすかさず手術室へ,急いで手術器具をセットしていきます.セットが終わるや否やすぐに患者さんの入室です.流れるように患者さんを手術台まで誘導し4%キシロカインR点眼液を頻回点眼します.局所あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121663 ▲診察をする筆者の林麻酔が十分に効いたところで洗眼,手術と続きます.私たちはおもに助手として手術に入りますが,最初は水かけすらままならない状態でした.うまく角膜を濡らせず逆に手術を遅らせてしまう有様です.最近はようやく慣れてきましたが,まだまだ上の先生のスピードにはついていけず苦戦する日々です.手術がすべて終わると患者さんたちのもとへ駆けつけ術後回診です.なにも変わりないことを確認するとようやく1日が終わります.明るかった空もすでに暗くなっておりどっと疲労感が….でも翌日患者さんが喜んだ顔を見せてくれれば疲れも吹き飛んでしまうのですが.(杉田丈夫)附属病院(順天堂静岡病院)での生活順天堂静岡病院は伊豆半島を含む静岡東部地区の拠点病院の一つです.また,ドクターヘリの基地病院にもなっており,多くの緊急患者さんに対応している施設でもあります.このため眼科にも多くの方が受診され,数多くの症例を経験することができます.また,眼科は手術件数が多いことも特徴で,専用の手術室を持っているほどです.手術はほぼ毎日行われ,太田俊彦先生をはじめとした先生方が日々切磋琢磨して腕を磨いています.余談ですが今の手術室がなかったときは手術を週2日でやりくりしていたとのことです.「昔は終わる時間が当然のように深夜だったんだよ」と医局1664あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012〈プロフィール〉(50音順)杉田丈夫(すぎたじょうぶ)平成21年金沢医科大学卒業,順天堂大学浦安病院にて初期臨床研修,平成23年4月より順天堂大学医学部眼科学教室後期研修医.長谷川瞳(はせがわひとみ)平成21年杏林大学医学部卒業,順天堂医院にて初期臨床研修,平成23年4月より順天堂大学医学部眼科学教室後期研修医.林雄介(はやしゆうすけ)平成22年順天堂大学医学部卒業,順天堂医院にて初期臨床研修,平成24年4月より順天堂大学医学部眼科学教室後期研修医.員の先生が遠い目をして話してくれました.「今は恵まれているんだなぁ」と胸をなでおろしたことは今でも鮮明に覚えています.さて,静岡病院では数多くの手術を経験させていただきました.特に印象深かったのは初めて白内障手術をやり遂げたときです.達成感よりも疲労感が強く,術後本当に視力が良くなるか心配でたまりませんでした.しかし,退院後外来で視力が(1.0)まで改善し「ありがとう」と言われたときは本当に嬉しかったです.私はあまり手術が得意でないほうですが,あきらめずに手取り足取り教えてくださったオーベンの先生方に感謝の気持ちでいっぱいです!(杉田丈夫)関連病院(埼玉小児医療センター)での生活埼玉小児医療センターでは,おもに小児眼科を専門に学ぶことができます.外来,手術室,未熟児網膜症の診察をおもに行っていますが,それまで小児眼科の経験が少なかった私にはすべてが新鮮でした.では小児医療センターで学んだことをご紹介します.外来では幅広い小児疾患の診察や,乳幼児の診察技法を学ぶことができます.斜視,弱視の診察・眼鏡処方,Down症児と接する機会が多いですが,ときに先天白内障や神経線維腫などあまり経験のできない疾患も診察することができます.また,院内には義眼師が常駐しており患児さんに接しオーダーメイドで義眼を作製しているのもこの病院の特徴です.手術はおもに斜視手術や睫毛内反症の手術を行っていますが,ときに先天緑内障に対するトラベクロトミー手術などを行うこともありました.私も研修期間中に斜視(74) 手術(前後転術)とHotz変法術を執刀させていただきましたが,強膜通糸を行ったときの緊張感はいまだに忘れられません.未熟児網膜症の診察はスピードが命です.点眼,開瞼の刺激だけでバイタルに変動をきたす未熟児に対しゆっくりと眼底を診ている余裕はありません!!最初のうちはその速さについていけず満足に眼底を診ることができませんでしたが,徐々に慣れていきしっかりと眼底を診察できたときは本当に嬉しかったです!(長谷川瞳)おわりにまだ眼科に足を踏み入れて日の浅い私たちですが,色々な環境の下たくさんの先生方に支えられ少しずつ成長しています.後輩にもこれまで教わったことをしっかり伝えていきたいです.少しでも早く一人前になるため今後も努力していきたいと思います.(杉田丈夫)指導医からのメッセージ代は,長期記憶が働くことが多くなるのは必然と思われます.そのため,眼科医として生涯忘れることのない沢山の記憶を作り,さらに一社会人としての心得も学ぶことにもなる研修医時代は非常に重要な時期と言えます.今後の眼科医療を支えていく新入局員により良い研修を送ってもらえるよう,後期研修プラグラムを充実させることは医局としての重要な責務だと感じています.(順天堂大学医学部眼科・講師中谷智)「研修医時代の記憶」研修医時代に体験した経験の記憶には,その後ずっと忘れずに憶えている記憶が沢山あります.研修医時代の記憶は,ほぼ永久に覚えていると言われる長期記憶にインプットされやすいためと考えられます.長期記憶を作るには主に2つの方法があると言われ,地道に毎日積み重ねること,相当インパクトが強いことを行うなどがそれにあたります.何事も目新しく新鮮に感じ,しかも毎日の地道な下働きも多くなる研修医時☆☆☆(75)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121665

My boom 11.

2012年12月31日 月曜日

監修=大橋裕一連載⑪MyboomMyboom第11回「小國務」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑪MyboomMyboom第11回「小國務」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介小國務(おぐに・つとむ)私は,平成14年浜松医科大学を卒業し,同年に岐阜大学眼科に入局.近年は「網膜硝子体疾患」を主とした臨床を行ってきました.岐阜大学で2年,大垣市民病院で2年,再び岐阜大学で4年,再び大垣市民病院で2年と症例数の多い病院で臨床経験を積ませていただきました.とにかく手術のことで頭が一杯で,残念ながら研究に関しては岐阜大学に全く貢献できませんでした.平成24年12月現在,平成25年3月の開業に向けて目下準備中です.プライベートでは,物心ついた頃から車が大好きで,特に自動車競技を学生時代から嗜んできました.手術のmyboom;網膜鉗子とカーブ剪刀3年くらい前から広角観察システムを用いて硝子体手術を行っていますが,最近はシャンデリア照明を併用し全例4ポートで,周辺部の処理の際も広角観察システムを使用しています.増殖膜の処理はシャンデリア照明を用いた双手法により格段に手技が容易になりました.カーブ剪刀(アルコン社・25ゲージ)は,閉じるとピックのように使え,先端はメスのように切れるので面状に癒着した増殖膜と網膜の分離に使え,索状のものは直接切ることができ,まさに3役をこなしてしまう優れものです.網膜鉗子は,アルコン社のマックスグリップ(25ゲージ)を愛用しています.マックスグリップは先端が先行して閉じてくれるので内境界膜.離や網膜前膜の処理に(71)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY〔写真1〕アルコン社製25ゲージの網膜鉗子とカーブ剪刃使いやすく,加えて面で把持するので増殖膜処理にも対応でき大変気に入っています.ただ一体型のディスポ鉗子(レボリューション)は操作が固く,私のような若輩者はどうしても力を入れたときに手が震えてしまいます.そこで,コンステレーションのニューマチックに使用するディスポの先端部分を昔ながらの形状のハンドルに付けて使っています.操作は非常に軽く手は震えなくなりますし,レボリューションの360°には適わないものの300°くらいは回転させても操作性は落ちません.ちなみにハンドルは共通なので先端を付け替えるだけで,カーブ剪刀にも網膜鉗子にも早変わりします.これらを使うようになって非常にストレスが少なく,後極部の網膜処理が行えるようになりました.臨床のmyboom;開業に向けて今までは地方の拠点病院で診療をしてきましたので,インフォームド・コンセントは厳しめでした.後から話していないと言われると困りますので….しかしながら今後,開業するにあたって同じスタンスでは患者に逃げられてしまうのではないかと考え,必要なことは話しつあたらしい眼科Vol.29,No.12,20121661 〔写真2〕建設中のクリニックつも何とか不安にはさせず,むしろ手術への不安を取り除いて患者が手術を迎えるような説明ができないかと思案しています.本当は今まででも考えないといけないことであったとは思いますが,なかなかそこまでの余裕がなかったというのが本音です.また,診療所の外観や内装の色なども,どうしたら入りやすく落ち着いた雰囲気になるか考えています.すると車に乗ったり歩いたりしているときも,そういう考えで景色を見るようになり,それはそれで楽しく新鮮な気持ちになります.病院や診療所の外観はもちろん気にして見ているのですが,一般の住宅や店舗の色使いのセンスの良さに感心してみたり,少し感受性が豊かになったような錯覚を覚えてしまいます.交流のmyboom;手術勉強会これは,3年くらい前から始まり最近ますます盛んになってきています.自分が苦手なこと,困ったことを曝け出すような会なのですが,今まで悩んでいたことが他の先生からちょっとしたアドバイスをもらうだけで嘘のように解決してしまったりします.何より,頑張っている人たちとの交流は,僕にやる気と勇気を与えてくれます.今後も続けて行きたいですし,新しい形での勉強会も模索していきたいと考えています.プライベートのmyboom;サーキット走行会・レース大きな声では言えませんが,学生時代は車で夜な夜な1662あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012〔写真3〕4時間耐久レースのスタート前峠に通っていました.仕事をするようになってからは流石に事故や警察のお世話になるといけないので,サーキットを走るようにしました.ただし,定期的に参加できたのは結婚する前までで,ここ5年くらい遠のいていました.しかし,明らかに運転技術が落ちてきましたし,年齢的にもここらで本格的に鍛えないと一生上手にはなれないと一念発起.再開いたしました.先日,ノーマルカー4時間耐久レースにも参加,生憎の雨ではありましたが非常に楽しめました.目の前のことにあそこまで集中するというシチュエーションは日常生活ではまずありません.ほどよい緊張感と忘れていた闘争本能が自分に戻ってくるのを感じることができました.耐久レースはシリーズ戦なので来年からはフル参戦したいと意気込んでおります.自分のイメージと技術を重ね合わせるという点で運転と手術は非常に似ていると思います.走行会やレースへの参加が手術にも生きてくると言い訳して自分の趣味を正当化しています.最後まで読んでいただき有難うございました.次回のプレゼンターは福井の小堀朗先生(福井赤十字病院)です.小堀先生は豊富な経験からわれわれを助けてくださり,特に勉強会で大変お世話になっています.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(72)

現場発,病院と患者のためのシステム 11.システムの品質とは?

2012年12月31日 月曜日

連載⑪現場発,病院と患者のためのシステム連載⑪現場発,病院と患者のためのシステムわかりやすい品質の評価基準はダウンしないことですが,それは開発するベンダ(システム開発会社)の力量に左右され,病院側は関与できません.われわれが関与できるのは,仕様の品質です.細部にわたって考慮された仕様もあれば,表面的にしか考えられていない仕様もあります.後システムの品質とは?杉浦和史*家を建てる場合には,土地の形,方角,家族数(世代,現在,将来),年齢構成,間取り,構造,好み,年収などさまざまな要素を勘案します.注文住宅か建て売りかも考慮する重要な要素です.システムも同様に考慮すべきことがあります.しかし,家を建てるほど身近に感じないためか,十分検討せず,安易に建て売りに相当するパッケージ(システム)を選んでしまう傾向にあります.住宅の場合,建て売りでも,家としての基本機能は揃っ者の場合,手作業が介在する可能性があり,他のシステムとの機能,情報連携が十分考慮されていないおそれがあります.もちろん,頻度的にまれな業務,作業は,システムに載せず,BPR(原点に立ち返って見直す)の対象として削除すべきでしょう.病院が関与できるシステムの品質につき説明します.ているので,時間の経過とともに慣れ,納得して住んでいる場合がほとんどです.一方,毎日の仕事に直結するパッケージの場合はどうでしょう.パッケージはその性格上,平均的な仕様(機能,機能間の連携,操作性など)で作らざるを得ず,現場の作業実態に合うことはないでしょう.パッケージではなくオーダメイドのシステムでも,おざなりのヒアリングと机上から現場を想像して作られた仕様では,現場から使い勝手の悪さを指摘されるのは目に見えています.それまでの仕様の延長線上に屋上屋を重ねる形で機能が追加され続け,スクラップ&ビルドの時期を逸した古い構造になっているケースもあります.いずれも“使えない”システムとなってしまいますが,見過ごされがちなのがシステム化するための仕様の品質が揃っているか否かです.本誌10月号連載⑨「自動計算機が機能するには」でリービッヒの最小律,ドベネックの桶の話をしましたが,各部門システムの仕様の品質が揃っている必要性につき,ダムの放水ゲートに例えて説明します.ダムの水位をシステム全体の仕様の品質とし,放水ゲート(図1a,b,c)を各部門システムの仕様の品質とします.a,b,c3つの放水ゲートのうち,bゲートを開くと,そのゲートの高さまで落ちてしまいます.cゲートの高さまで放水すると,さらに下がってしまいます.複数の部品,機能で構成される機械やシステムの品質はこれと同じです.すなわち,最も低いものに合わせられてしまうということです.言い換えると,機械,システムの中に高品質な部品,完成度の高い仕様の機能があっても,低いものに合わせられてしまい,高品質なものがあっても意味をなさないということです.医事会計システムを始めとして,検査データファイリング,オーダリング,予約,看護記録などのパッケージを必要に応じて別々に導入し,横の連携を図るようなシステム整備はこれと同じです.その部門,業務では期待した機能を発揮し,効果のあるシステムがあったとしても,部門間,業務間の情報授受,機能の連携に問題を抱えることは明abcabcabc図1全体の品質は最も低い部品・機能に合わせられてしまうRゲートの高さまでダムの水は放水され続けます(図1).放水はbゲートの高さまで来ると止まりますが,ダムの水位,すなわちシステム全体の仕様の品質は,このb*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(69)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121659 カ図2手間のかかる仕様作成図4院内全部門,全業務の仕様の品質を揃えるR医事会計外来検査手術室病棟CS……治験・臨検らかで,効果は最も使い勝手の悪いシステムに抑えられてしまいます.業務種類毎に,それを得意とするベンダのパッケージを集めて院内のシステム整備を図る場合,それらは,各社各様の設計思想で作られたもので,全体としてみた場合,仕様の一貫性がないのはやむを得ないところです.中には,病院向けERP(統合情報システム)を提供していると主張するベンダもいます.しかしそれは,将来像,全体像を描いて順次整備したものではなく,ニーズが出て来たものを,その時利用可能な技術で作ったもので,一般的に一気通貫性がありません.どこかに“ほころび”があり,余分なソフトウェアが介在したり,手作業が発生したりで,期待した効果は得られません.では,どうすれば良いのでしょう.仕様の全体最適を保証する品質を保つには,病院業務全体を俯瞰し,BPR(業務改革)を行い,機能,情報が相互に連携し合う,筋の通った設計方針で順次整備する1660あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012CSコンタクト医局医事会計外来管理栄養士検査事務センタ治験・臨検手術病棟薬局図3仕様作成担当部門しかありません.手間のかかるこの仕様の決め方をパッケージに求めるのは無理かも知れませんが,パッケージを導入する際には,少しでもそのようなことに気をつけて作られたかをベンダに確認しても無駄にはなりません.院内総合電子化計画Hayabusaを開発中の当院では,仕様を病院スタッフが決め,仕様書を書いていますが,多大な手間を要しています.例えば,入院患者の点眼作業の仕様作成に約5カ月を要しました(図2).業務の細部に入り込んでのBPRとそれをふまえた仕様の作成は,このように時間と手間を要します.しかしながら,システムの使い勝手,効果を左右する品質を決める最も重要なプロセスなので妥協せず,各部門(図3)が仕様作成に取り組んでいます.この部門のプロジェクトメンバーが作る仕様の品質が,放水ゲートに相当し(図4),凹凸がないよう仕様の完成度を高めているところです.どのようなシステムを整備しようか思案中の病院の皆さまには,以下の手順で検討することをお勧めします.①院内すべての業務を洗い出す,②業務の作業手順を確認する,③②の中に無駄はないかを精査する,④③の結果を勘案し,ストレスのない作業手順を新たに作る.すべての業務につき,②~④の作業を行います.以上の結果をふまえ,合格点の多いパッケージを選ぶか,意図をくんで協力してくれるベンダを選び,そこに開発を任せれば,導入したシステムに失望する割合は少なくなるでしょう.(70)

タブレット型PCの眼科領域での応用 7.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用-その4-

2012年12月31日 月曜日

シリーズ⑦シリーズ⑦タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第7章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その4─■デザインにみるタブレット型PCのロービジョンエイドとしての意義第7章では,私が代表を務めるGiftHandsでの活動や外来業務で扱っているタブレット型PCである“新しいiPadR(米国AppleInc)”とスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc)”,iOSバージョン6.01について,デザインからみたロービジョンエイドとしての意義について説明していきます.多くのタブレット型PCやスマートフォンの中でも米国Apple社製のiPadRやiPhoneRが教育や医療を始め多くの分野で普及している理由の一つは,米国Apple社の製品が標準的にUniversalDesign(以下,UD)を備えていることです.UDとは,文化や言語,年齢や性別といった差異や障害の有無の如何を問わずに利用することができる施設や製品の設計(デザイン)を意味します.また,米国アップル社製の製品上で動作するアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)は,「使いやすさ」や「楽しさ」を第一として認知心理学に基づき策定された「ヒューマン・インターフェイス・ガイドライン」を基準に,すべてのアプリがデザインされています.以下に米国Apple社製品をロービジョンエイドとして活用する際のUDの存在の重要性と意義について,実際に使われている患者たちの生の声とともに紹介していきます.■私のロービジョンエイド活用法「構造的UD編」デバイスの本体前面の液晶画面の中央下方に液晶画面とは独立して存在する,唯一の物理的な入力ボタンであるホームボタン,その主な機能は起動中のアプリからの離脱です.すなわち,アプリを操作中にホームボタンを(67)押すことで,アプリを中断して即座にホーム画面と言われる初期画面にタブレットの表示画面を戻すことが可能です.ある患者は『操作がわからなくなってもホームボタンを押せば,とりあえず見慣れた画面に戻るから一人で使う時も安心だね.液晶画面上の他のアイコンは小さくて僕には見えないけど,ホームボタンは触ればわかるからとても使いやすいよ』と言っていました.デジタル製品に不慣れな高齢者やロービジョンの患者にとっては,ホームボタンの存在はアプリの挙動の把握が困難になった際の緊急回避としての意味をもち,すべてのユーザーに長く使っていける安心感を与えます.ホームボタンが液晶画面のタッチパネル方式の入力系統とは独立して存在することは,目の不自由な患者にとってホームボタンを感覚的に認識できるためとても大切です.また,頻回に使用するホームボタンを,劣化させないための対応策として基本設定の中にマルチタスク用ジェスチャ操作というものが存在します.この機能を有効にすることでホームボタンの使用回数を減少させ,デバイス本体の物理的な操作による劣化を最小限にすることができます.また,最新の機種に関しては,電源コネクタは表裏の区別がなくリバーシブルに挿入が可能となり,目の不自由な方でも安心してコネクタと本体の接続を行うことが可能です(図1).多くの患者から『電源コネクタの裏表の表記が非常に小さいから見て確認するのが大変で,毎日盲目的にコネクタを挿入している.高価なものだし,毎日の生活に欠かせない存在だから,コネクタが壊れないか不安だ』という意見がありました.高価なタブレット型PCやスマートフォン用を長く使っていく上で毎日の日常作業である充電という行為がより快適かつ安心に行えることは,実際にエイドとして勧める上でもとても大切だと思います(2012年10月30日現在).あたらしい眼科Vol.29,No.12,201216570910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図1リバーシブルな電源コードと触知可能なホームボタン■私のロービジョンエイド活用法「心理的UD編」UDとは,すべての人が利用可能なデザインにすることが基本コンセプトであり,障害者用に対して用いられることの多いバリアフリーという言葉とは概念が少し異なります.タブレット型PCやスマートフォンが視覚障害者専用のデバイスでないことは,屋外や人前で使用する際の抵抗感が少なく精神的な面からも一種のUDであるともいえます.このことは弱視教育の分野を始め,屋外や集団の中でロービジョンエイドとしてタブレット型PCやスマートフォンを活用していくうえで一番大切な要素であるといえます.最新のiOSバージョン6.0では,FaceTimeなどのインターネットテレビ電話が携帯電話の回線を利用して使用することができるようになりました.すなわち,携帯電話のエリア内であれば場所を問わずタブレット型PCやPC,スマートフォン間でテレビ電話を使用することが可能です.これにより例えば屋外で道に迷った視覚障害者が待ち合わせをしている知人に,テレビ電話を使って道案内をしてもらうなどの活用法も可能になります図2インターネットテレビ電話を使って道を誘導しているイメージ(図2).このような活用法は,タブレット型PCやスマートフォンが広く一般に普及したとても汎用性の高いデバイスであるから成立するのです.タブレット型PCが視覚障害者のすべての問題を解消することは不可能ですが,そのデバイスの先にいる人とのつながりを,活用する前よりもより快適な形へと変化させると私は信じています.テクノロジーがいかに進歩しても,最も大切なエイドは人の存在とそこに存在する人と人の絆であることは変わらないと思うのです.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆1658あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(68)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 115.網膜硝子体癒着の強固なぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)

2012年12月31日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載115115網膜硝子体癒着の強固なぶどう膜炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1術中所見(1)●ぶどう膜炎に対する硝子体手術眼底の中間周辺部から赤道部にかけて著明な網膜静脈の白鞘化および多数の陳旧性滲出斑を認める症例で硝子体手術の適応となるぶどう膜炎の病態には,硝子は,肥厚した後部硝子体膜が面状に網膜と癒着してい体混濁,続発黄斑上膜,.胞様黄斑浮腫,網膜.離などることがある.がある.このなかで硝子体混濁は通常,単純硝子体切除のみで視力の改善が得られることが多く,硝子体手術の難易度としては比較的低いと考えられがちであるが,なかには面状の網膜硝子体癒着を有する症例があり,その対処に苦慮することがある.●網膜硝子体癒着が強固な症例の臨床的特徴一般にサルコイドーシスなどの慢性ぶどう膜炎では,しばしば肥厚した後部硝子体膜が網膜と面状に癒着していることがある.このような症例は,硝子体混濁が長期間持続し,眼底の中間周辺部から赤道部にかけて著明な網膜静脈の白鞘化および多数の陳旧性滲出斑を認める症例に多いといった印象がある(図1).●硝子体手術時の注意点肥厚した後部硝子体膜を後極部から周辺部に向かって.離していくが,通常後極部は癒着の程度が緩い.しかし,中間赤道部から周辺側は後部硝子体膜が網膜と面状に癒着し,硝子体カッターの吸引のみでは人工的後部硝子体.離作製が困難である(図2).過度の牽引をかけると癒着の境界部位に医原性裂孔を形成することがあり(図3),場合によっては術中に網膜.離をきたしてしまうこともある.双手法により丁寧に癒着を解離することで,周辺部まで人工的後部硝子体.離を作製することも可能であるが,一旦,医原性裂孔や網膜.離が生じると,その周辺部の硝子体処理がさらに困難となる.結果として医原性裂孔周辺側の硝子体牽引が残存することにでバックル設置もむずかしい.よってこのような症例でなり,術後に網膜.離をきたすリスクが高くなる.医原は,面状の網膜硝子体癒着部位に対して過度の牽引をか性裂孔の形成部位は赤道部より後極寄りのことが多いのけずにvitreousshavingに留めるほうが無難である.(65)あたらしい眼科Vol.29,No.12,201216550910-1810/12/\100/頁/JCOPY図2術中所見(2)人工的後部硝子体.離は中間赤道部までは容易に作製できることが多いが,さらに周辺側は硝子体カッターの吸引のみでの癒着解離が困難である.図3術中所見(3)過度の牽引をかけると癒着の境界部位に医原性裂孔を形成することがある.