●連載138緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也138.黄斑領域を標的とした緑内障診断谷戸正樹島根大学医学部眼科Spectral-domain(SD)-opticalcoherencetomography(OCT)の登場により,黄斑部内層厚測定が緑内障画像診断法の一つとして日常臨床に使われるようになってきている.黄斑領域のSD-OCT画像では,眼底写真では判定し難い神経線維層欠損(NFLD)も検出されるため,特に初期緑内障の診断に有用である.●緑内障画像診断法の種類(表1)緑内障は,網膜神経節細胞の特異的・特徴的脱落とそれに伴う機能障害(視野欠損)を呈する疾患である.緑内障の画像診断は,眼圧上昇の機構を検出するための隅角・眼球周囲構造に対する画像診断を除けば,網膜神経節細胞(GC)の軸索あるいは細胞体の量的変化を検出することを目的として行われる.これまで,緑内障の画像診断では,主として,視神経乳頭あるいは乳頭周囲におけるGC軸索を標的とした定性および定量的判定が行われてきた.近年,opticalcoherencetomography(OCT)の高機能化により,黄斑部のGC軸索・細胞体を標的とした緑内障診断が行われるようになっている.●黄斑部網膜厚測定による緑内障診断GCの核は,黄斑領域でのみ複数列で分布しており,傍中心窩における全網膜厚の30.35%を占める.また,黄斑の中心20°(6×6mm)の領域には眼底全体の約50%の神経節細胞体が存在する.2000年代になってから,RetinalThicknessAnalyzerやtime-domain(TD)OCTであるOCT1,OCT-3000などの機器により,黄斑部の網膜厚測定が緑内障の診断標的となりうることが報告されていた1)が,主として解像度の問題により,乳頭形状解析や乳頭周囲神経層(NFL)厚測定といった従来の画像診断法と比較して良好な診断力を得ることができなかった.しかし,より高解像度化・高速化したspectral-domain(SD)-OCTの登場により,黄斑部網膜厚測定が,乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚測定と同等で,乳頭形状測定と同等かあるいは良好な診断力を有するとする報告が複数なされるようになった.●SD.OCTによる黄斑部網膜厚測定TD-OCTの時代から,黄斑部の緑内障診断では,網膜全層厚よりもRNFL・GCLを含む網膜内層を分層し表1緑内障による神経障害の検出を目的とした画像診断法部位組織診断機器視神経乳頭神経節細胞軸索眼底写真,HRTII/III,OCT乳頭周囲神経節細胞軸索眼底写真,GDx,OCT黄斑神経節細胞軸索・眼底写真,OCT細胞体て解析するほうが診断力が高いことが知られていた.SD-OCTとして,初めて黄斑部診断ソフトウェアを標準搭載したRTVue-100(Optvue社)では,NFLとGCを含む網膜内層複合体がganglioncellcomplex(GCC)として提唱されたため,この言葉が一般的に用いられるようになった.黄斑部測定では,各社の機器によりそれぞれ違いがあるが,512ピクセル×128本程度のラインスキャン画像が解析に用いられ,ほぼ共通して,GCC厚の二次元分布マップ,一定の領域ごとの平均GCC厚,および正常データベースとの比較による危険率表示が行われる(図1.3).GCC厚マップでは,従来の眼底写真….B…………A………………A…………A……..H……….B図1SD.OCTによる黄斑分層RS-3000(ニデック社)による黄斑断層像.内蔵ソフトウェアにより,6層への分層が自動判定により行われる.ILM:internallimitingmembrane,NFL:nervefiberlayer,GCL:ganglioncelllayer,IPL:internalplexiformlayer,INL:innernuclearlayer,OPL:outerplexiformlayer,OML:outernuclearlayer,IS:innersegment,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Bruch’smembrane,GCC:ganglioncellcomplex.(57)あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117190910-1810/11/\100/頁/JCOPYNFLマップGCマップNFL+GC(GCC)マップ図2SD.OCTによる黄斑分層厚マップSD-OCTによる,黄斑部NFL厚(ILMからNFL/GCL境界まで),GC厚(NFL/GCL境界からIPL/INL境界まで),NFL+GC厚(=GCC厚)(ILMからIPL/INL境界まで)の二次元分布表示.図3SD.OCT(RS.3000)による緑内障眼の解析結果網膜内層の厚みマップでは,NFLDが明瞭に検出されている.また,領域ごとの厚さ分布および正常データーベースとの比較結果が図示化される.では判定しづらいようなNFLDもしばしば描出され,初期の緑内障に対する定性的診断の価値が高い.RTVue-100では,正常データーベースとの比較でスキャンエリア全体の菲薄化を表すgloballossvolumeや局所的な菲薄化を表すfocallossvolumeといった診断パラメータも提唱されている.これらの定量化は,今後の緑内障進行診断にとっても重要になると予想される.●SD.OCTによる黄斑部網膜厚測定の利点と欠点視力にかかわる部位を測定対象とすることで,緑内障による組織障害を鋭敏かつ早期に検出できる可能性があ1720あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011る.また,黄斑部形状は,乳頭形状よりも個人差の影響が小さいと予想される.特に,わが国において問題となりやすい近視眼での緑内障診断では,乳頭形状測定あるいは乳頭周囲NFL厚測定と比較して診断力が高い可能性が指摘されている2).一方で,種々の黄斑疾患の影響を受けること,また,現行のOCTでは,測定領域が黄斑の直径6mmあるいは6×6mmが標準であり,最大の機器でも9×9mmであるため,乳頭周囲の解析のように,眼底を走行するすべての神経線維が測定領域に入っていない.そのため周辺部の視野欠損に関連した組織障害の検出力は,乳頭周囲NFL厚測定と比較して劣る3).●今後の展望OCTは,今後さらに高解像度化,広走査領域化する.高解像度化は神経節細胞数による緑内障判定,広走査領域化は眼底写真と同程度までの撮影範囲拡大(深さ情報をもった眼底写真)が,とりあえずの最終目標となる.撮影領域については,ごく近い将来,黄斑から乳頭鼻側までを同時に撮影できる機種が登場すると予想される.そのような状況では,現行の乳頭・乳頭周囲・黄斑と行った撮影部位ごとの解析ではなく,より総合的な緑内障診断パラメータが提唱されるようになると期待される.文献1)TanitoM,ItaiN,OhiraAetal:Reductionofposteriorpoleretinalthicknessinglaucomadetectedusingretinalthicknessanalyzer.Ophthalmology111:265-275,20042)ShojiT,SatoH,IshidaMetal:Assessmentofglaucomatouschangesinsubjectswithhighmyopiausingspectraldomeinopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:1098-1102,20113)SeongM,SungKR,ChoiEHetal:Macularandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsbyspectraldomainopticalcoherencetomographyinnormaltensionglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:1446-1452,2010(58)