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ソフトコンタクトレンズケアの現状

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1681.1686,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1681.1686,2011ソフトコンタクトレンズケアの現状CurrentStateofSoftContactLensCare樋口裕彦*はじめにコンタクトレンズ(CL)装用者の増加とともに,わが国におけるCL装用が原因の眼障害は急速に増加してきた.ここ数年,発生頻度こそやっと頭打ちとなったようにみえるが,角膜潰瘍や角膜浸潤といった重篤な眼障害の割合は相変わらず高い1).特に近年,難治性で治療のために角膜移植まで必要となることがあるアカントアメーバ角膜炎などは,症例数の増加が報告2)されている.宇野らの報告3)では,2007年4月から2年間行われた,わが国における全1,155の日本眼科学会専門医制度認定研修施設中,224施設(19.4%)が参加した調査で,CL装用が原因と考えられる角膜感染症で入院加療を要した症例は350例に及んでいる.これらの症例のうち,3カ月後の矯正視力が判明している284例中158例(55.6%)で矯正視力は1.0未満であり,光覚なし1例を含む40例(14.1%)で矯正視力は0.1未満である.矯正視力不良の原因のすべてが,そのときに発生したCL装用による角膜感染症ではないとしても,単純計算をするとわが国では1年間に100人近くが,CL装用に伴う角膜感染症により,矯正視力0.1未満となっていることになる.これらの症例が装用していたCLの種類をみると,判明している327例中308例(94.2%)がソフトコンタクトレンズ(SCL)である.さらにその内訳を詳細に述べると,SCLのうち90%前後を頻回交換SCL(FRSCL)などのケアを要するSCLが占めている.わが国でのCL装用者の使用レンズ構成比4)を考慮しても,重篤な眼障害はハードコンタクトレンズ(HCL)装用者よりもSCL装用者,特にケアを要するSCL装用者に非常に多いことがわかる.CL装用による眼障害の原因のうち,レンズ側の要因として最大のものはレンズの汚れ1)であり,宇野らの報告3)でも重症角膜感染症を起こした症例のレンズケアの悪さが指摘されている.したがって,わが国におけるCL装用に伴う重篤な眼障害を減少させる最も有効な手段の一つは,ケアを要するSCL装用者に,確実で正確なレンズケアを実行してもらうことであると言っても過言ではない.では,わが国におけるSCL装用者のケアの現状は,どのようなものだろうか.わが国におけるSCL装用者のレンズケアの現状1.使用されているケア用品現在わが国で処方可能なSCLはすべて含水性素材で作られており,HCLに比べて細菌や真菌,アメーバなどの微生物に汚染されやすい.したがって,1日使い捨てSCLなど再装用を行わないレンズを除いては,装脱後必ず消毒を行わなければならない.消毒方法は大きく分類して煮沸消毒(加熱消毒)と化学消毒(コールド消毒)とに分けられ,コールド消毒には発売順に過酸化水素製剤,多目的用剤(multi-purposesolution:MPS),ポビドンヨード製剤の3種類がある.最も消毒力が強いのは煮沸消毒であるが,最近は*HirohikoHiguchi:ひぐち眼科〔別刷請求先〕樋口裕彦:〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3ダイヤガイビル4Fひぐち眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(19)1681 その他6煮沸11不明33過酸化水素製剤116MPS632図1当院を初診したSCL装用者の使用ケア用品(n=798)MPSの使用者が632名と圧倒的に多い.煮沸消毒が適応とならないSCLが,市場に出回っているレンズの大部分を占めるようになってきているうえ,煮沸器が入手困難となってきたために,ほとんどのSCL装用者が化学消毒を行っているのが現状である.2004年5月.2011年4月までの7年間にひぐち眼科(以下,当院)を初診した,ケアを要するSCL装用者798名の使用ケア用品を図1に示す.消毒力では最も劣るMPSを使用している装用者が632名(79.2%)と圧倒的に多く,以下過酸化水素製剤116名(14.5%),煮沸11名(1.4%)の順である.煮沸消毒を行っている装用者は年々減少しており,この3年間では2名のみである.2009年に公表された国民生活センターの調査結果5)をみると,FRSCLを使用している385名の学生に対するアンケート調査結果では,335名(87.0%)がMPSをケア用品として使用しており,以下過酸化水素製剤37名(9.6%),ポビドンヨード製剤7名(1.8%)とやはりMPSを使用している学生が圧倒的に多い.2.SCLケアに必要なステップSCLケアに必要なステップは,1.レンズを取り扱う前の,石けんを使用した十分な手洗い,2.レンズのすすぎ(①眼球から装脱後,②レンズケースに保存する前,③レンズケースから取り出した後,眼球に装着する前),3.レンズの十分なこすり洗い,4.レンズの消毒,5.レンズケースの適切な管理(洗浄,乾燥,定期的な交換)6)である.現在MPSでは,筆者の知る限りほぼすべての製剤でこすり洗いをするよう明記されているが,消毒力が1682あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011比較的強いとされている過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤のなかには,こすり洗いが必要とは明記されていない製品も見受けられる.しかし,前述の国民生活センターの調査結果5)をみると,過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤においても,浸漬のみではアカントアメーバの2週齢シストに対する消毒力は十分とはいえず,実際に調査対象となった学生のケア用品からは,50%前後の確率で細菌が検出されている.したがってどの消毒剤を使用する場合でも,SCLをより安全に使用するためにはこすり洗いは必須であると筆者は考える.3.手洗いレンズを取り扱う前には,手指の汚れや微生物を除去することを目的として,石けんと流水を用いた手洗いが必要である.国民生活センターのアンケート5)では,対象となった385名の学生のうち,レンズケアを行う前に毎回石けんを用いて手洗いを行っていた学生は133名(34.5%)のみで,毎回水洗いはしていると答えた学生は130名(33.8%)である.両者を加えても,レンズケアを行う前に必ず手洗いを行っている学生は263名(68.3%)で,70%にも満たない.時々石けんで手を洗う,または時々水洗いをするという学生は合計で94名(24.4%)で,手洗いはしていないと答えた学生が28名(7.3%)も存在する.日本コンタクトレンズ協議会が行ったインターネットを利用したアンケート調査7)では,5,005名のFRSCLわからない,その他していない7.9%常に石けんなどで手洗い39.6%常に水で手洗い29.3%0.7%時々水で手洗い13.7%時々石けんなどで手洗い8.8%図2コンタクトレンズ協議会による装着脱前の手洗いに関するアンケート調査結果(n=5,005)少なくとも装着脱前に手洗いは必ずしているという装用者は70%に満たない.(20) 装用者のうち,装着時と装脱時に常に石けんで手洗いをしている装用者は39.6%で,常に水洗いはしているという装用者は29.3%である.両者を加えてもレンズの装着脱前に必ず手洗いを行っている装用者は68.9%であり,国民生活センターの調査とほぼ同様で,70%にも満たない.時々石けんで手を洗う,または時々水洗いをするという装用者は合計で22.5%で,手洗いはしていないと答えた装用者は7.9%も存在する(図2).以上示したごとく,わが国のSCL装用者のレンズ装着脱前の手洗いはきわめて不十分である.4.こすり洗い前述したように,いずれの製剤を用いたとしても,SCLに付着した汚れや病原微生物を物理的に減少させるためにこすり洗いは必須であるが,実際には使用製剤によってこすり洗いを行う装用者の割合は大きく異なる.そこで,当院を初診したケアを要するSCL装用者を,MPS使用者と過酸化水素製剤使用者に分けて,それぞれのこすり洗いの実施状況を示す.a.MPS使用者MPSを使用している装用者632名中,頻度や回数は一切問わず何らかの形でこすり洗いを行う習慣のある装用者は,560名(88.6%)であった.逆に,消毒力の劣るMPS使用者でも,72名(11.4%)はこすり洗いをまったく行っていなかった(図3).こすり洗いの内容について,メーカーの指定どおりに行った場合を100として,その使用法をスコア化(表1)して評価すると,全使用者の平均点はわずか40±32(n行っていない72行っている560図3当院を初診したMPS使用者がこすり洗いを行っていた割合(n=632)560名(88.6%)がこすり洗いを行っていた.(21)表1こすり洗い内容のスコア化(MPS)例)オプティフリーR使用者の実施状況評価(点)1)両面を20秒こすり洗い1002)片面を20秒こすり洗い503)両面を10秒こすり洗い504)片面を10秒こすり洗い255)こすり洗いなし0メーカー指定:掌の上でレンズの両面を各々20秒ほどこすり洗い.=628)であった.b.過酸化水素製剤使用者過酸化水素製剤を使用している装用者116名中,頻度や回数は一切問わず何らかの形でこすり洗いを行う習慣のある装用者はわずか29名(25.0%)であり,86名(74.1%)はこすり洗いをまったく行っていなかった.国民生活センターのアンケート5)では,ケア用品の種類にかかわらず,FRSCLを使用している学生385名のうち毎日こすり洗いを行っている学生は194名(50.4%)で,週4.6回行う学生67名(17.4%),週2.3回行う学生38名(9.9%),時々行う学生27名(7.0%)を加えると,こすり洗いを行う習慣のある学生は326名(84.7%)であった.逆にほとんど,またはまったくこすり洗いを行わない学生は合計で47名(12.2%)である.このうち,過酸化水素製剤を使用している37名についてみると,毎日こすり洗いを行っている学生から時々こすり洗いを行う学生までを含めても,レンズのこすり洗いを行う習慣のある学生はわずか13名(35.1%)しかいない.日本コンタクトレンズ協議会のアンケート調査7)では,FRSCL装用者でケア用品の種類にかかわらず,毎日こすり洗いを行っている装用者は54.8%であり,週4.6回7.8%,週2.3回4.2%,時々こすり洗いを行う10.8%を加えると,こすり洗いを行う習慣のある装用者は77.6%である.逆にほとんど,またはまったくこすり洗いを行わない装用者は合計で21.6%も存在する.5.レンズケースの管理(洗浄,乾燥,定期的な交換)CL装用に伴う角膜感染症の原因となる病原微生物のあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111683 汚染ルートは,2つあるといわれている8).一方はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeStaphylococci:CNS),アクネ菌などの結膜.常在菌であり,装用者の外眼部で汚染されるものである.もう一方は緑膿菌やセラチア属に代表される環境菌であり,CL保存時にレンズケース内で汚染されるものである.したがって,レンズケースを清潔に保つことは,SCL装用に伴う角膜感染症を減少させるために,きわめて重要な要素である.当院を初診したケアを要するSCL装用者のうち,MPS使用者と過酸化水素製剤使用者に分けて,それぞれのケース管理の実施状況を示す.a.MPS使用者MPSを使用している装用者632名中,頻度を問わずレンズケースの洗浄を行っていた者は506名(80.1%)で,行っていない者は122名(19.3%)であった(図4).レンズケースの乾燥を行っていた者は349名(55.2%),不明4行っていない122行っている506図4当院を初診したMPS使用者がレンズケースの洗浄を行っていた割合(n=632)レンズケースの洗浄を行っていた者は506名(80.1%)であった.行っていない行っている508不明5119行っていない者は279名(44.1%)であった(図5).レンズケースの交換を行っていた者は508名(80.4%)で,行っていない者は119名(18.8%)であった(図6).さらに,洗浄・乾燥・交換を全部行っていた者は半数以下の301名(47.6%)で,どれか1つ以上抜けている者は326名(51.6%)であった(図7).b.過酸化水素製剤使用者過酸化水素製剤を使用している装用者116名中,頻度を問わずレンズケースの洗浄を行っていた者は77名(66.4%)で,行っていない者は31名(26.7%)であった.レンズケースの乾燥を行っていた者は61名(52.6%)で,行っていない者は46名(39.7%)であった.レンズケースの交換を行っていた者は83名(71.6%)で,行っていない者は25名(21.6%)であった.さらに洗浄・乾燥・交換を全部行っていた者はMPS使用者と同様,半数以下の52名(44.8%)で,どれか1つ以上抜け不明4行っている349行っていない279図5当院を初診したMPS使用者がレンズケースの乾燥を行っていた割合(n=632)レンズケースの乾燥を行っていた者は349名(55.2%)であった.不明5全部行っている3011つ以上抜けている326図6当院を初診したMPS使用者がレンズケースの交換図7当院を初診したMPS使用者がレンズケースの洗浄・を行っていた割合(n=632)乾燥・交換の全部を行っていた割合(n=632)レンズケースの交換を行っていた者は508名(80.4%)でレンズケースの洗浄・乾燥・交換のすべてを行っていた者あった.は301名(47.6%)であった.1684あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(22) 不明6あまりできていないできていない7全部行って1つ以上いる269抜けている35754きちんとできているまあまあ188ほぼできている282できている201図8当院を初診したMPS使用者がレンズのこすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換の全部を行っていた割合(n=632)レンズのこすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換の全部を行っていた者は269名(42.6%)のみであった.ている者は55名(47.4%)であった.国民生活センターのアンケート5)では,ケア用品の種類にかかわらず,FRSCLを使用している学生385名のうち,レンズケースを3カ月以内ごとに交換している学生は128名(33.2%)で,6カ月以内ごと65名(16.9%)1年以内ごと10名(2.6%),不定期に127名(33.0%)(,)を加えても,レンズケースの交換を行う習慣のある学生は330名(85.7%)であった.逆にほとんど,またはまったく交換を行わない学生は合計で41名(10.7%)である.日本コンタクトレンズ協議会のアンケート調査7)では,FRSCL装用者でケア用品の種類にかかわらず,レンズケースを3カ月以内ごとに交換している装用者は36.9%で,6カ月以内ごと13.5%,1年以内ごと3.2%,不定期に30.7%を加えても,レンズケースの交換を行う習慣のある装用者は84.3%であった.逆にほとんど,またはまったく交換を行わない装用者は合計で14.0%である.最後に自験データで,こすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換のすべての項目を行っている装用者の頻度をMPS使用者,過酸化水素製剤使用者に分けて調べた.MPS使用者では,すべて行っている装用者は269名(42.6%)のみ(図8)で,357名(56.5%)は少なくともどれか1つ以上の項目を行っていなかった.さらに,こすり洗いの内容がメーカーの指定(表1)どおり(23)図9SCL装用者の自分のレンズケア内容に対する自己評価(n=732)91.7%の装用者が自分はケアができていると回答している.という条件を満たす装用者は,わずかに52名(8.2%)である.過酸化水素製剤使用者では,こすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換のすべてを行っている装用者はわずか11名(9.5%)で,96名(82.8%)は少なくともどれか1つ以上の項目を行っていなかった.おわりにこれまで示してきたごとく,わが国のSCL装用者のケアの現状は,正しい方法からは程遠いものと言わざるを得ない.ここで,2004年5月.2011年4月までの7年間に当院を初診した,ケアを要するSCL装用者に1.きちんとできている,2.ほぼできている,3.まあまあできている,4.あまりできていない,5.できていないの5件法で,自分のレンズケア内容に対する自己評価を求めたアンケート結果(有効回答数732名)を図9に示す.実に671名(91.7%)が,自分はレンズケアができているとの自己評価を下している.わが国のケアを要するSCL装用者は,十分なケアができていないばかりでなく,そのことを認識すらしていないという事実が,もう一つの現状なのである.文献1)社団法人日本眼科医会医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成22年度).日本の眼科82:983-987,20112)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎28例の臨床的検討.あたらしい眼科27:680-686,20103)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111685 ズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20114)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌52:25-30,20105)独立行政法人国民生活センター:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─.報道発表資料:1-32,20096)SweeneyD,HoldenB,EvansKetal:Bestpracticecontactlenscare:AreviewoftheAsiaPacificContactLensCareSummit.ClinExpOptom92:78-89,20097)日本コンタクトレンズ協議会:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,20108)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20061686あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(24)

ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1673.1680,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1673.1680,2011ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策HardContactLensCare植田喜一*柳井亮二**はじめにコンタクトレンズ(CL)は材質の面からハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)に分けられる.SCLは細菌や真菌などの微生物に汚染されやすいため,毎日の消毒が義務づけられている.日本では1972年にSCLが発売された際に,100℃で20分間の加熱消毒(煮沸消毒)が厚生労働省(旧厚生省)により定められたが,その後はコールド消毒(化学消毒)が普及した.具体的に述べると,1992年に過酸化水素を用いた消毒剤が,1995年に多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)が,2001年にはポビドンヨードを用いた消毒剤が発売された.一方,HCLは消毒が義務づけられていない.これは日本の水道水が衛生的に管理されていることが故である.そうでない諸外国ではHCLの化学消毒剤が普及している1).CLによる眼障害のなかで最も問題になるのが角膜感染症である.日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会による入院を要するCL関連角膜感染症の調査報告によると,2週間頻回交換SCLとMPSによるものが多いが,HCLによるものもある2).HCLは微生物が付着しにくいため汚染されにくいが,ケアが不適切だとHCLであっても感染症をひき起こす.本稿では,HCLのケアの問題点とその対策を述べるが,特に感染症の対策について詳しく解説する.なお,HCLには酸素を透過しないポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のレンズと,酸素を透過するガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)があるが,現在はほとんどがRGPCLであるため,以下はRGPCLについて述べることにする.IHCLのケアの実際基本的に「洗浄→すすぎ→保存」の3つの操作があるが,定期的あるいは必要に応じて蛋白除去などの強力洗浄を行う3.5).1.洗浄洗浄はCLに付着した汚れや微生物の除去を目的に,こすり洗いとつけおき洗浄に大別される.洗浄法としては,(1)界面活性剤を含有した洗浄剤によるこすり洗いと定期的あるいは必要に応じた強力洗浄つけおき洗浄こすり洗い図1つけおき洗浄とこすり洗いの効果レンズの汚れはつけおき洗浄では除去できなかったが,こすり洗いをすると除去できた.*KiichiUeda:ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学**RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(11)1673 abc図2表面処理を施しているRGPCLに対するこすり洗いと研磨a:新品のRGPCL.b:研磨剤を含有した洗浄剤でこすり洗いをすると水濡れ性が低下する.c:研磨を行うとさらに水濡れ性が低下する.(詳細は後述)(2)界面活性剤を含有した洗浄保存剤に酵素を数滴添加(,)するつけおき洗浄(2液システム),(3)界面活性剤を含有した洗浄保存剤に酵素を混合したつけおき洗浄(1液タイプ)がある.こすり洗いに比して,つけおき洗浄の洗浄効果は明らかに劣っている(図1).レンズに汚れが付着しやすい症例に対しては,つけおき洗浄からこすり洗いを行う製品に変更するとよい.こすり洗いのとき,あまり力を加えるとレンズの変形や破損を生じるので,ガス透過性の高いレンズでは特に注意を要する.洗浄剤には研磨剤を含むものと含まないものとがある.表面処理を施しているレンズには研磨剤を含む洗浄剤は使用できない(図2).汚れのひどいときには強力洗浄を併用するよう指導する.2.強力洗浄毎日洗浄を行っていても,レンズに汚れが付着することがある.この汚れを除去するために定期的あるいは汚れのひどいときに行う3.5).酵素(蛋白分解酵素,脂肪分解酵素)の顆粒または錠剤あるいは塩素系洗浄剤(次亜塩素酸)を使用する.これらの成分が直接眼の中に入ると角結膜障害を生じる危険があるので,使用後は水道水で十分にレンズをすすぐことが大切である.3.すすぎすすぎはCLから遊離した汚れや微生物のほか,洗浄や保存で使用した薬剤を洗い流すことを目的としてい1674あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011る.HCLでは大量の水道水ですすぎ洗いをする3.5).4.保存保存は洗浄後のレンズを衛生的に保つだけでなく,レンズの物性を維持することを目的としている.PMMA製のHCLは乾燥した状態でケースに保管しても構わないが,RGPCLは水濡れ性が悪く,汚れやすいため,保存液または洗浄保存液中にレンズを保管する.ただし,界面活性剤,酵素あるいは蛋白質や脂肪の分解産物によって角結膜障害を生じることがあるので,装用前に水道水でレンズをすすぐ必要がある3.5).また,溶液中に長期間保管すると微生物による溶液の汚染やレンズの規格変化が生じやすいため,RGPCLであっても長期間保管する場合は乾燥状態で保管するほうがよい.5.CL装着液レンズの水濡れ性が悪い場合にはpolyvinylalcohol(PVA)などを主成分としたCL装着液を使用する.6.研磨市販の洗浄剤で除去できない汚れに対しては,レンズの研磨を行うことがある.ただし,表面処理を施してあるレンズやガス透過性の高いレンズの場合は,研磨が行えない場合がある(図2).IIHCLによる感染角膜上皮の欠損部から微生物が侵入して増殖すると,角膜感染症が発生する.硬い素材であるHCLは機械的(12) 図3HCL装用者のアカントアメーバ角膜炎刺激などによる角膜上皮障害が生じやすい.HCLに微生物が付着していると,HCLを介して角膜感染症がひき起こる.HCL使用者は,角膜上皮障害が生じると異物感や眼痛のため,無理な装用はせずに,医療機関を早く受診するので重篤化しないことが多いが,ときとして難治性の角膜感染症を生じることがある(図3).こうした患者のHCLのケアについて詳しく調べると,いくつかの問題点がみえてくる.1.手指の洗浄レンズケアではケア用品ばかりが注目されるが,ケアのなかで最も基本的なことは手洗いである.手洗いは手指についた汚れだけでなく,微生物も除去する.したがって,石けんで十分に手指を洗うことが大切である.手洗いをした後に不潔なものに触れては元も子もない.手が触れた蛇口,レンズケース本体やケア用品のボトルなどは不潔である.たとえば,HCLの装着にあたって,レンズケースの中のHCLを取り出すときは,手を洗った後にレンズケース本体からレンズの蓋をはずしてHCLに触れるのではなく,レンズケース本体からレンズの蓋をはずした状態で手洗いをして,HCLに触れるように細心の注意を払う.2.レンズケアと化粧化粧品がHCLに付着すると,なかなか落ちにくい.研磨剤含有の洗浄剤でこすり洗いをすると除去できるが,研磨剤を含まない洗浄剤では不十分で,つけおき洗浄ではほとんど効果はない6)(図4).化粧品などの脂質による汚れが付着した場合には,イソプロピルアルコールを含有する洗浄剤で洗浄するとよい.HCL用として(13)洗浄前洗浄後研磨剤含有洗浄液(ボシュロムスーパークリーナー強力こすり洗いタイプ)のこすり洗い研磨剤非含有洗浄液(ボシュロムスーパークリーナーアドバンスタイプ)のこすり洗い研磨剤非含有洗浄液(シードジェルクリン)のこすり洗い2液型洗浄保存液(メニコンO2ケア,プロテオフ)のつけおき洗浄1液型洗浄保存液(メニコンO2ケアミルファfresh)のつけおき洗浄2液型洗浄保存液(ヨード剤,株式会社オフテクスバイオクレンRO2セプトTM)のつけおき洗浄図4化粧品(リキッドアイライナー)に対する洗浄効果は株式会社シードのジェルクリンがある.SCL用ではあるが,チバビジョン株式会社のミラフローRも効果的である.レンズを触った後に化粧をするように指導する.具体的には,レンズを装着した後に化粧をする.化粧を落とす前にレンズをはずしてケアを行う.3.HCLの洗浄とすすぎHCLに付着した微生物を除去する最も有効な方法は,物理的に落とすこと(こすり洗いとすすぎ)である.こすり洗いには,手のひら洗浄と指先洗浄(3本指洗浄)がある6).a.手のひら洗浄①利き手と反対の手のひらに凹みをつくり,その上にレンズの内面(凹面)を上にして置く.②洗浄剤を数滴,レンズに滴下する.③レンズの内面(凹面)を人差し指の腹で軽く押さえながら前後に動かして,30回こすり洗いをするあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111675 abab図5HCLのこすり洗いa:手のひら洗浄,b:3本指洗浄.(図5a).b.指先洗浄(3本指洗浄)①利き手の人差し指,中指を揃え,その指の間にレンズの内面(凹面)を上にして置く.②洗浄剤を数滴,レンズに滴下する.③レンズの内面(凹面)を親指で,レンズの外面(凸面)を人差し指と中指で30回こすり洗いをする(図5b).手のひら洗浄ではレンズの外面(凸面)の汚れは除去されやすいが,内面(凹面)の汚れがとれにくい.一方,指先洗浄(3本指洗浄)ではレンズの内面(凹面)の汚れは除去されやすいが,外面(凸面)の汚れがとれにくい.したがって,手のひら洗浄と3本指洗浄を併用すると効果的である.円錐角膜用の多段階カーブレンズやオルソケラトロジーレンズなどのレンズ内面(凹面)が複雑な形状をしているものでは,その移行部に汚れが付着しやすい.こうした汚れを除去するには,洗浄剤を浸した綿棒を用いてこすり洗いをするとよい.ガス透過性の高いレンズは,変形,破損,損傷が起こりやすいので,こすり洗いにあたっては洗浄剤を泡立て,レンズをやさしくこすり洗いする.こすり洗いは,レンズをはずしてレンズケースを保存するときだけでなく,レンズケースからレンズを取り出して角膜上に接着する前にも行う(1日2回).4.レンズケースの管理どんなに手やHCLを清潔にしたとしても,保存するレンズケースが微生物に汚染していると意味がない.レンズケースの具体的な管理法を以下に記す.レンズケースは自宅用と外出時携帯用の2つを使用する6).自宅用ケースはHCLをはずした後の保存用として使用する.外出時携帯用ケースは,HCLの調子が悪いときなどにはずした際に使用する.a.自宅用レンズケース①レンズを装着した後は,必ず保存液をすべて捨てる(つぎ足し防止).②レンズケースをケース本体(1つ),レンズホルダー(2つ),レンズキャップ(2つ)の5つのパーツに分ける(図6).③綿棒やブラシを用いて,ケース本体,レンズホルダー,レンズキャップを水道水できれいに洗浄する.ケース本体のねじ山もしっかりこすり洗いする.図6レンズケースのこすり洗い,すすぎ,自然乾燥レンズケースは5つのパーツに分けて,こすり洗い,すすぎを行った後に自然乾燥させる.1676あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(14) ④5つのパーツを水道水でしっかりすすぐ.⑤5つのパーツに付着した水分を十分に振り落とす.⑥5つのパーツを清潔なトレイなどの上に離して乗せて,自然乾燥させる.トレイは,水がかからない清潔な場所に置く(水回りには置かない).⑦HCLを装脱した後はレンズケースに保存する.この際,まず5つのパーツを組み立てたレンズケースを水道水できれいに洗浄した後,レンズケース本体に保存液を注入して,キャップホルダーにHCLを収め,レンズキャップをしっかり閉める.b.外出時携帯用レンズケース①HCL装用後にレンズケース内に保存液を入れて持ち歩く.②帰宅後はレンズケース内の保存液をすべて捨てる(つぎ足し防止).その他の操作は自宅用レンズケースと同様である.レンズケースは外見上きれいに見えても,微生物に汚染されている可能性が高いので,3カ月に1回定期的に交換する.SCL用の消毒剤(MPS,過酸化水素製剤,ポビドンヨード製剤)にはレンズケースがついているので,SCL使用者は定期的に交換するようになるが,HCL用のケア用品には株式会社オフテクスのO2セプトTM以外はレンズケースがついていないため,交換していない者が多い.レンズケースの使用期間を確認して指導する.【HCL装用者のレンズケアに関するアンケート調査】HCL装用者41名にレンズケアに関するアンケート調査を行った結果を記す7).(1)試験前に使用していたケア用品の種類こすり洗いタイプが34%,1本つけ置きタイプが39%,2本つけ置きタイプが27%と,洗浄効果の弱いつけおき洗浄をしている者が多かった.(2)レンズケースの交換期間1カ月が5%,3カ月が12%,6カ月が27%,1年以上が56%と,レンズケースを長期間使用している者が多かった.(3)レンズケースの自然乾燥毎回のケアの後のレンズケースについて,自然乾燥しているが54%で,乾燥していないが46%と,自然乾燥していない者が半数近くいた.(4)レンズケースの置き場所ケア処理中のレンズケースの置き場所は,洗面所が86%,台所が8%,風呂場が2%,自分の部屋が2%,その他が2%と,水回りにレンズケースを置いている者が多かった.【レンズケース内のバイオフィルム】細菌が産生する菌体外多糖体(glycocalyx)が粘液状の鎧をつくり,その中で菌がコロニーを形成した状態をバイオフィルムという8).菌にとって不都合な環境下においても生き残るための一種のストレス応答と考えら外部環境から微生物がケース内に侵入する浮遊菌付着菌微生物が拡散するレンズケース微生物がケースに付着するコロニーを形成するバイオフィルムを産生する図7レンズケース中のバイオフィルム(イメージ図)細菌自体が産生する菌体外多糖体(glycocalyx)が粘液状の「鎧」をつくり,その中で菌がコロニーを形成する.HCLのケースホルダー部分の光学顕微鏡ホルダー部分の電子顕微鏡ホルダー部分の電子顕微鏡図8レンズケース中のバイオフィルム(聖マリアンナ医科大学工藤昌之氏提供)(15)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111677 れる.HCLでは消毒が義務づけられていないので,レンズケース内の保存液が微生物に汚染されやすいことに加えて,HCL装用者は長期間レンズケースを使用していることが多いので,バイオフィルムの形成が起こりやすい(図7,8).バイオフィルムがいったん形成されると,除去することはむずかしいので,日頃から上述したようにレンズケースをきれいに洗浄して,自然乾燥させ,3カ月ごとに交換することが大切である.レンズケース中の保存液に増殖している菌(浮遊菌)については,平岡らは2010年の第34回角膜カンファランスで,レンズケース内の残存液について細菌の分離培養を行ったところ,残存液では20例中10例(50%)に細菌が同定されたと報告しているが,バイオフィルム感染症のことを考えるとレンズケースの壁に付着した細菌(付着菌)についての分離培養を行う必要がある.【抗菌効果を謳っているケア用品】HCL装用者41名が使用しているレンズケースを回収して,保存液とレンズケースの壁やレンズホルダー部分を拭き取った検査用スラブ綿球を4mlの生理食塩水に浸漬したものを検体として微生物検査を行った結果と,抗菌機能を謳っている3種類の市販HCL用ケア用剤の効果を検討した結果を以下に記す7).3種類のケア用剤は,SCLの化学消毒剤の一つであるMPSの主成分として使用されるポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含む製品(メニコン社の抗菌O2ケアネオR),同じくSCLの化学消毒剤の主成分として使用されるポビドンヨードを含む製品(株式会社オフテクスのO2セプトTM),こうしたものを含有しない製品(アイミー株式会社ワンオーケアR)である.(1)これまで使用していたケア用品の微生物学的検査レンズケースの保存液中の浮遊菌は41例中11例が陽性(26.8%)に対してレンズケースなどの付着菌は41例中14例が陽性(34.1%)で,ブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌,腸内細菌属,緑膿菌属などの環境菌を検出した(表1).菌種の同定結果から,陽性群では眼感染症のリスクの高い環境菌が1検体中で複数検出されたものが多かったのに対し,陰性群ではほぼ常在菌しか検出されず,環境菌が検出されたのは1検体のみであった.(2)試験ケア用品の微生物学的検査レンズケースの保存液中の浮遊菌は40例中9例が陽性(22.5%)に対して,レンズケースなどの付着菌は40表1これまでに使用していたケア用品の微生物学的検査(n=41)微生物汚染〔総検出菌数検体主な検出菌種(cfu/mlまたはケース)〕保存液レンズケース陽性(103以上)1114Pseudomonassp.SerratiamarcescensChryseobacteriumsp.StenotrophomonasmaltophiliaComamonasacidovoransEnterobactercloacaeMicrococcussp.StaphylococcuswarneriCNS陰性(0.103未満)3027Micrococcussp.StaphylococcuswarneriStaphylococcusepidermidisCNSPseudomonasfluorescens検出菌数が103以上(cfu/mlまたはケース)を陽性,103未満(cfu/mlまたはケース)を陰性とする.(宮永嘉隆:ソフトコンタクトレンズ用化学消毒液BL-49の臨床評価.日コレ誌38:258-273,1996より)1678あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(16) 表2試験ケア用品の微生物学的検査微生物汚染〔総検出菌数(cfu/mlまたはケース)〕検体主な検出菌種保存液レンズケース陽性(103以上.)921CitrobacterfreundiiPseudomonasputidePseudomonasfluorescensブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌EnterobacteriaceaeCNSMicrococcussp.Staphylococcussaprophyticus陰性(0.103未満)3119PseudomonasputideKlebsiellapneumoniaeSerratialiquefaciensStaphylococcusepidermidisStaphylococcuswarneriStaphylococcuscapitisMicrococcussp.表3試験ケア用品ごとの微生物学的検査項目3カ月試験後Fisher検定(p値)vsO2セプトTM陽性陰性陽性率(%)O2セプトTM保存液31715.0─レンズケース71335.0─抗菌O2ケアネオR保存液0100.0p=0.561レンズケース7370.0p=0.154ワンオーケアR保存液6460.0p=0.037*レンズケース7370.0p=0.154例中21例が陽性(52.5%)で,既ケア用品使用時より陽性率が増加した.検出された菌類は既ケア用品使用時と同様に陽性群では眼感染症のリスクの高い環境菌が,陰性群では常在菌が検出される割合が高かった(表2).試験ケア用品ごとの微生物学的検査の結果を表3に示す.ポビドンヨードを含むケア用品を使用した(株式会社オフテクスのO2セプトTM)場合は,レンズケースの陽性率が低い傾向が認められた.PHMBを含むケア用品(メニコン社の抗菌O2ケアネオR)を使用した場合は,保存液に菌は認められなかったが,ケースの陽性率は高かった.以上の結果より,ポビドンヨードやPHMBを含むケ(17)*有意差あり(p<0.05).ア用品のほうがレンズケース内の微生物汚染は少なくなるが,これらによる消毒効果は完全ではないので,微生物の除去を考えると,十分なこすり洗いとすすぎが重要である.おわりにレンズケアに関連した角膜感染症が増えている.SCLに比べてHCLによる角膜感染症は少ないが,アカントアメーバの微生物による感染症の報告もあることから,HCLの取り扱いにあたっても十分に注意を払う必要がある.洗浄効果の高い洗浄剤によるこすり洗いとすすぎが重あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111679 要であるが,HCL装用後レンズケースに保存する前だけでなく,レンズケースから取り出してHCLを装用する前の,合わせて1日2回のこすり洗い,すすぎを推奨したい.レンズケースのバイオフィルム感染症が問題になっていることから,レンズケースの管理についても使用者に教育指導する必要がある.日本ではHCLについては消毒という操作は義務づけられていないが,微生物汚染を防ぐという観点から,消毒剤を使用するに越したことはないと考える.現在,PHMBとポビドンヨードを含有したHCL用のケア用品が市販されたが,こうした製品開発が進むことを願う.一方,概してユーザーはケア用品について無関心で,正しいケアを行っていないことが多い.医療機関で説明を受けたケア用品を当初は使用していても,その後は薬局,薬店,ドラッグストアなどで安価なほかのケア用品を購入していることが多い.商品が変わると取り扱いが異なる場合があるが,添付文書を熟読していないため,誤ったケアをしていることがある.説明したケア用品を継続して使用していたとしても,慣れてくるといい加減なケアをしていることもあるので,定期検査に来たときにはケアの具体的な方法を聴取して,不適正であれば再指導することも大切である.稿を終えるにあたり,多大なご協力を賜りました㈱オフテクスの斉藤文郎氏と山崎勝秀氏に心から謝意を表します.文献1)谷川定康:ケア用品の海外事情(ハードコンタクトレンズ).日コレ誌48:251-255,20062)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20113)植田喜一:コンタクトレンズケアの実際.あたらしい眼科17:935-944,20004)植田喜一:日本におけるレンズケアの現状.日コレ誌45:219-225,20035)植田喜一:コンタクトレンズ診療ガイドライン第3章CLケア(「ⅣCLケアの実際:SCLのケア」を除く).日眼会誌109:645-646,20056)水谷聡:ハードコンタクトレンズのケア.日コレ誌53:129-135,20117)植田喜一:ハードコンタクトレンズの微生物汚染.日眼会誌114:898,20108)工藤昌之:レンズケースとバイオフィルム.眼科診療プラクティス94:115,20031680あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(18)

安全性を優先したコンタクトレンズのケア

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1665.1671,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1665.1671,2011安全性を優先したコンタクトレンズのケアContactLensCarewithPriorityonSafety糸井素純*はじめに近年,国内外でコンプライアンス不良が原因となった角膜感染症が問題となっている.コンプライアンス不良には,“誤ったレンズケア”,“定期検査を受けない”,“装用期間を守らない”などさまざまな原因が含まれるが,そのなかでも最も注目すべきは“誤ったレンズケア”である.コンタクトレンズ(CL)装用者の初診患者にレンズケアについて詳細に問診を行うと,ほとんどのCL装用者は何らかの“誤ったレンズケア”を行っている.これらの多くのCL装用者は意図的に“誤ったレンズケア”を行っているのではなく,間違って理解したり,忘れてしまったり,指導が不十分なことが原因である.日本でも定期検査を受けないで,インターネットでCLを購入する人が急速に増えており,その結果として,正しいレンズケアをできない人は確実に増えている.CL装用者自身は“正しいレンズケア”と思っている場合でも,実は“誤ったレンズケア”であるということも少なくない.レンズケア用品の外箱,容器,添付文書やCLの取扱説明書に記載されているレンズケア方法が,いわゆる“メーカーの指定するレンズケア方法”であるが,メーカーごとに少しずつ異なり,100%安全なレンズケアとは言い難い.海外ではここ数年で消毒剤に対する考え方が大きく変わった.以前は多目的用剤(multipurposesolution:MPS)の多くは“こすり洗い不要”として販売されていたが,こすり洗いの必要性が強調されるようになり,その他にもさまざまな注意点が喚起されるようになった1).本稿では,メーカーの指定するレンズケア方法の問題点と安全性を優先したレンズケア方法について解説する.Iメーカーの指定するレンズケア方法の問題点1.『こすり洗い不要』ハードコンタクトレンズ(HCL)のレンズケアのステップには洗浄,保存,蛋白除去のステップがあり,レンズケア用品としては専用洗浄液,保存液,洗浄保存液,液体酵素剤,強力蛋白除去,酵素洗浄保存液が販売されている.近年,液体酵素剤,酵素洗浄保存液が普及したこともあり,多くのHCLのメーカーの指定するレンズケアでは,“こすり洗い不要”を謳っている.しかし,つけおき洗浄はこすり洗いよりも洗浄効果が劣るため(図1),レンズの汚れが原因となるCLトラブルも年々増えてきている.ソフトコンタクトレンズ(SCL)のレンズケアのステップには洗浄,保存,すすぎ,消毒があり,1カ月以上使用するレンズでは原則として蛋白除去が必要となる.レンズケア用品としては,専用洗浄液,保存液,消毒剤,蛋白除去剤があり,消毒剤としてはMPS,過酸化水素剤,ヨード剤の3種類がある.現在主流となっているMPSは,日本では“こすり洗い不要”を謳っている製品は販売されていないが,つぎに多く使用されている過酸化水素剤においては製品の外箱,容器,添付文書にこすり洗いの必要性の記述がない.そのため多くの過*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1丁目10番19号糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(3)1665 酸化水素剤のユーザーはこすり洗いを行っていない.そのため過酸化水素剤ユーザーのCLトラブルは,レンズの汚れに関連したものが多い.こすり洗いこすり洗い人工的蛋白汚れ(研磨剤入りクリーナー)(研磨剤含まないクリーナー)こすり洗い(洗浄保存液)つけおき洗浄(2液タイプ)つけおき洗浄(1液タイプ)図1人工的蛋白汚れに対する各種洗浄方法の洗浄効果の比較図2汚染されたHCLのレンズケース図3汚染されたSCLのレンズケース2.『レンズケースから取り出したCLをそのまま装用します』近年,レンズケースの微生物汚染が問題となっている(図2,3).2009年の国民生活センターの報告では,MPS使用者の61.5%,過酸化水素使用者の45.9%のレンズケースで細菌汚染が確認された2).稲葉らは,コンプライアンス良好のものでもSCL装用者の26.6%でレンズケースの微生物汚染があったと報告(第115回日本眼科学会発表,2011)している.この結果から,CL装用者のレンズケースの汚染は非常に高率であり,正しいレンズケアを指導することにより,レンズケースの汚染の頻度は減少するが,ゼロにすることは不可能であることが確認された.メーカーが指定しているレンズケア方法ではレンズケースに繁殖した微生物がCLを介して,眼表面に移行し,角膜感染症を招く可能性が非常に高くなる.3.『消毒剤を開封したら,すみやかに使用してください』角膜感染症の原因として消毒剤のボトル自体の汚染が問題となっている.香港の大学生101名のSCL装用者の調査では11%で消毒剤のボトル内の溶液が汚染されていたと報告している3).平成15年3月に国民生活センターは開封直後,開封2週間後,開封4週間後の各種消毒剤の消毒性能を比較し,実際の使用状況を想定した負荷系ではMPSの消毒性能は開封後より徐々に落ちていき,4週間後にはほとんど消毒効果がなくなってしまうものもあった.特にボトル内の残量が毎日の抜き取りにより少なくなる2.4週間の間に消毒性能が大きく落ちる傾向にあったと報告している4).容器内の細菌汚染は,重症の角膜感染症に直結する.消毒剤を含めほとんどのレンズケア用品は開封後の使用期限が明確に設定されていない.そのため,溶液がなくなるまで使用する人がほとんどである.3カ月を超えて同じボトルのものを使い続けている人も少なくない.II海外の状況海外でもレンズケアに起因する角膜感染症が大きな問題となっている.メーカーが指定しているレンズケア方1666あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(4) 法では角膜感染症の発症を予防できないと海外でも考えられるようになっている.そのためDeborahSweeneyらは,メーカーの指定するレンズケア方法と違う安全なレンズケア方法のガイドラインを報告した1).このガイドラインではレンズケアの一つひとつのステップについて,注意点が詳細に記載されている.今回記載した安全性を優先したCLのケアもそれを参考にしている.唯一,大きく異なる点は,水道水に対する考え方である.日本では認可上,HCLは水道水ですすぐことになっているが,海外ではHCLであっても水道水の使用は厳禁である.これは日本と海外の水道水の事情が異なることに起因すると考える.CL装用者の多くはレンズケア用品に記載されたレンズケア方法を行っている.安全なレンズケアを周知徹底させるためにはレンズケア製品のラベリングが重要となる.2010年8月に米国のTheCenterforDevicesandRadiologicalHealth(CDRH)からレンズケアの業界,食品医薬品局(FDA)職員へのガイダンスとして,レンズケア製品のラベリングに関する新しい指針が発表された5).現段階ではレンズケアメーカーの抵抗もあるようだが,内容は非常に良いものとなっている.一部,日本でなじまないと考えられるものもあるが,日本でもこれにおおむね準拠する必要があると考える.レンズケアの業界およびFDA職員へのガイダンスの概要.CLケア用品の表示について.1)レンズケア用品の外箱,容器,添付文書に関するガイダンス2)レンズのこすり洗いとすすぎが重要である.MPSにおいては“こすり洗い不要”の表示はしてはならない.3)装用直前にもう一度,レンズをすすぐ.このことについてはボトルに表示する.4)こすり洗いとすすぎは具体的な秒数を表示する.5)MPSにおいてはlubricating(なめらか),あるいは,rewetting(潤い)の表示はしてはならない.6)MPSの再使用と継ぎ足しの禁止を表示する.7)毎回新しいMPSを使用することを表示する.8)すすぎや保存に水道水を使用してはならない.9)レンズケースは毎日,すすいで乾燥させる.水道水ですすいではならない.10)レンズケースを定期的に交換する.具体的な交換期間を表示する.11)開封後の具体的な使用期限を表示する.12)正しく使わなかったときのリスクを強調するために,眼感染症の写真を製品に表示する.III安全性を優先したCLのケアのポイント1.こすり洗いHCLおよびSCLともに,こすり洗いは,欠かせないレンズケアのステップである.指先でCLをこすることにより,眼の分泌物である蛋白質や脂質を落とし,微生物も1,000分の1程度に減らすことができ,消毒効果も期待できる6).「こすり洗い不要」と表記したつけおき洗浄製品が販売されているが,実際にはこすり洗いを併用しないと洗浄効果は著しく低下する.現在日本で発売されている過酸化水素による消毒剤汚れたSCL過酸化水素消毒剤に浸漬後クリーナーによるこすり洗い後図4過酸化水素消毒剤とクリーナーの洗浄効果の比較浸漬するだけでは汚れは落ちなかったが,クリーナーでこすり洗いをすることにより汚れがきれいに落ちた.(5)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111667 は,認可のうえでは,こすり洗いは必要とされていないが,平成15年3月の国民生活センターはSCL用の消毒剤のつけおきによる洗浄効果は,過酸化水素のほうがMPSよりも勝るが,いずれの消毒剤よりも,単に生理的食塩水によるこすり洗いのほうが消毒剤のつけおき洗浄効果よりも勝ることを報告している4).その後,MPSのみならず,過酸化水素による消毒剤においてもこすり洗いの必要性(図4)が強調されるようになった.2.装用前のすすぎが最後の砦.装用前にこすり洗いをしてすすぐことが理想前述したように,レンズケースの微生物汚染をゼロにすることは不可能である.それでは,どのようにしたらCLによる角膜感染症を減らすことができるか?レンズケース内でのCLの微生物汚染を前提にレンズケア方法を考えなくてはならない.レンズケースからCLを取り出し,装着する直前に,CLに付着した微生物を除去することが重要で,そのためには,装用直前のすすぎが最後の砦となる(図5).できれば,レンズケースから取り出したCLは,SCLでは装用直前にMPSあるいは滅菌保存液(すすぎ液)でこすり洗いをして,しっかりとすすいでから装用し,HCLでは専用洗浄液あるいは洗浄保存液でこすり洗いをして,水道水でしっかりすすいでから装用すれば,CLによる眼の感染症を予防することが可能となる.3.MPSにおける開封後の使用期限は1カ月とするMPSはSCL用の消毒剤であるが,溶液自体が眼の表面に接触することを前提としており,消毒力もそれほど強いものではない.日本感染症学会のホームページをみると,院内感染対策講習会の項目(http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/qa02.html)で,消毒剤の開封後の使用期限について述べている.そのなかで低濃度の希釈製剤は汚染を受けやすく,2.3週間で使い切るのがよいと記載されている.2011年日本コンタクトレンズ学会で植田は,角膜感染症が疑われた症例の9症例のうち3症例でボトル内の残留溶剤から細菌が検出されたと報告(第54回日本コンタクトレンズ学会総会発表,2011)している.当院の症例でも重篤な角膜感染症の症1668あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011図5装用直前のCLのすすぎ眼の安全を守るための最後の砦となる.図6角膜感染症患者から回収したMPSボトル内からグラム陰性桿菌が検出された.例が使用していたMPSのボトル(図6)内の残留溶剤から細菌汚染が確認された.安全にSCLを使用するためには,消毒剤の容器内の細菌汚染の可能性を考えて,開封後の使用期限を明確に設ける必要がある.眼科領域以外の消毒剤の開封後の使用期限をそのままSCL用の消毒剤に当てはめることはできないが,これまでの臨床データ,基礎データを併せて考慮すると,筆者はMPSの開封後の使用期限は1カ月が妥当ではないかと考えている.IV安全性を優先したCLのケアの具体的な方法CLを安全に使用するためのケアの3つのポイントについて述べたが,実際には3つのポイント以外にもさまざまな注意が必要である.ここでは安全性を優先した(6) CLのケアをレンズの種類別に具体的に述べる.1.HCLのケア1)CLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い(図7),流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.2)はずしたレンズは水道水ですすぎ,つぎに清潔な手のひらにHCLをレンズの内側を上にして置き,専用洗浄液(クリーナー)を数滴たらして,レンズの両面を各々40回ずつこすり洗いする(図8).3)CLの両面を水道水で十分にすすぐ.4)清潔なレンズケースに洗浄保存液を満たし,液体酵素剤を1.2滴滴下し,レンズを保存する.5)CLを装着するときには専用洗浄液あるいは洗浄保存液でこすり洗いをし,十分にすすぐ.6)CL装着後は,レンズケースを洗って,自然乾燥させる.7)レンズケースは3.6カ月ごとに交換する.8)レンズケースからレンズを取り出した後の液は捨て,毎日,新しい洗浄保存液を使用する.9)容器のキャップ部分を清潔に保つこと.容器のキャップ部分がレンズケースや液面,CLや指先などに触れないように注意する.使用後のキャップはきちんと閉める.10)レンズケース,レンズケア用品は清潔な場所に保管する.2.SCLのケア(MPS)1)CLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い(図7),流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.2)はずしたレンズはMPSですすぎ,つぎに清潔な手のひらにSCLを置き,MPSを数滴たらして,レンズの両面を各々20秒ほどこすり洗いする(図9).3)CLの両面をMPSで十分にすすぐ.4)清潔なレンズケースにMPSを満たし,レンズをMPSに指定された時間以上浸しておく.5)CLを装着するときにはMPSでこすり洗いをし,図7CLを扱う前の手洗いCLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い,流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.図8HCLのこすり洗い図9SCLのこすり洗い(7)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111669 十分にすすぐ(図5).6)CL装着後は,レンズケースを洗って,自然乾燥させる.7)レンズケースを1カ月ごとに交換する.8)開封後1カ月を目安に使用し,それ以上過ぎたものは使用しない.9)MPSを他の容器に詰め替えない.10)レンズケースからレンズを取り出した後の液は捨て,毎日,新しいMPSを使用する.11)容器のキャップ部分を清潔に保つ.容器のキャップ部分がレンズケースや液面,CLや指先などに触れないように注意する.使用後のキャップはきちんと閉める.12)レンズケース,レンズケア用品は清潔な場所に保管する.3.SCLのケア(過酸化水素)1)CLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い(図7),流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.2)はずしたレンズは滅菌保存液(すすぎ液)ですすぎ,つぎに清潔な手のひらにSCLを置き,滅菌保存液(すすぎ液)を数滴たらして,レンズの両面を各々20秒ほどこすり洗いする(図9).3)CLの両面を滅菌保存液(すすぎ液)で十分にすすぐ.4)指定された専用レンズケースにレンズを入れ,消毒剤(過酸化水素)を満たし,指定された方法で,消毒,中和を行う.製品ごとに消毒,中和方法は異なり,消毒後に中和を行うもの,消毒と中和を同時に行うものがある.5)CLを装着するときには滅菌保存液(すすぎ液)でこすり洗いをし,十分にすすぐ.6)CL装着後は,レンズケースを洗って,自然乾燥させておく.7)レンズケースを1.3カ月ごとに交換する.8)消毒剤(過酸化水素)は開封後3カ月を目安に使用し,それ以上過ぎたものは使用しない.9)滅菌保存液(すすぎ液)は開封後1カ月を目安に1670あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011使用し,それ以上過ぎたものは使用しない.10)消毒剤(過酸化水素)や滅菌保存液(すすぎ液)を他の容器に詰め替えない.11)レンズケースからレンズを取り出した後の液は捨て,毎日,新しい消毒剤(過酸化水素)を使用する.12)容器のキャップ部分を清潔に保つ.容器のキャップ部分がレンズケースや液面,CLや指先などに触れないように注意する.使用後のキャップはきちんと閉める.13)レンズケース,レンズケア用品は清潔な場所に保管する.おわりにCLを安全に装用するためにはレンズケアを正しく行わなければならない.しかし,現状ではメーカーの指定するレンズケア方法は,安全性を優先したレンズケアとはいえない.CLを処方する医師,CLやレンズケア製品を販売する販売店は,メーカーの指定するレンズケア方法にかかわらず,CL装用者の眼の安全を守らなければならない.そのためには安全性を優先したレンズケアを指導していただきたい.一方,CLを医師の処方を受けないでインターネット,通信販売で購入し,CLトラブルに遭う人が年々,増えてきている.購入時にレンズケア方法の指導がされていないために,とんでもない使用方法でケアしている人達が非常に多い.取扱説明書に記載されているメーカーの指定するレンズケアすらできていない人が非常に多い.レンズケア用品を購入時に,取り扱い説明書でレンズケア方法を確認していなかったり,内容を忘れてしまったりするためと考える.レンズケアメーカーにはCL装用者が毎回,使用方法の確認ができるように,レンズケアの重要な項目は容器に直接わかりやすいように大きな文字で記載していただきたい.文献1)SweeneyD,HoldenB,EvansKetal:Guidelines.Bestpracticecontactlenscare.Areviewoftheasiapacificcontactlenscaresummit.ClinExpOptom92:78-89,20092)独立行政法人国民生活センター:ソフトコンタクトレンズ(8) 用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能.使用実態調査も踏まえて.平成21年12月16日3)YungMS,BoostM,ChoPetal:Microbialcontaminationofcontactlensandlenscareaccessoriesofsoftcontactlenswearers(universitystudents)inHongKong.OphthalPhysiolOpt27:11-21,20074)独立行政法人国民生活センター:「ソフトコンタクトレンズ」の衛生状態等について調べる.ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のテストも加えて.平成15年3月5)TheCenterforDevicesandRadiologicalHealth(CDRH):GuidanceforIndustryandFDAStaff:ContactLensCareProductLabeling:August15,20106)糸井素純,水谷聡,針谷明美ほか:コンタクトレンズの洗浄.日コレ誌42:41-47,2000(9)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111671

序説:コンタクトレンズケアを見直す

2011年12月30日 金曜日

●序説あたらしい眼科28(12):1663.1664,2011●序説あたらしい眼科28(12):1663.1664,2011コンタクトレンズケアを見直すContactwithImprovedLensCare大橋裕一*糸井素純**コンタクトレンズの歴史は,ロマンで語れば,ルネッサンスの昔に行われたレオナルド・ダ・ヴィンチの水槽実験に,実践面で語れば,19世紀後半,Fickによるガラス製強角膜レンズの装用実体験に始まる.その後,「角膜組織への酸素供給」という至上命題と闘うなかで,ハードコンタクトレンズ,ソフトコンタクトレンズが相次いで生み出され,現在では,そのハイブリッドともいえるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが登場し,大きなシェアを占めつつある.他方,遠近両用や乱視矯正などの特殊機能レンズや,1日使い捨てから定期交換型,そして従来型までの多様な装用形態も生み出され,個々のユーザーの生活様式に合わせたフレキシブルな処方が可能な時代となっている.このなかで,2週間交換型や1カ月交換型に代表される頻回あるいは定期交換型レンズでは,快適かつ安全な装用のために,日々の着実なレンズケアは不可欠である.たとえ,眼科専門医で処方されたコンタクトレンズであっても,不適切なレンズケアによってレンズが汚れていたりすると,快適な装用はもはや望めなくなり,一方で重篤な眼障害のリスクも高まる.2000年代の半ば頃より,アカントアメーバと緑膿菌を二大病原体とする重症のコンタクトレンズ関連角膜感染症が急増し,大きな社会的問題となったのは周知のとおりであるが,上述した「悪循環」の考え方を裏付けるように,感染症の患者はレンズケアの不良な頻回交換ソフトコンタクトレンズとMPS(多目的用剤:multi-purposesolution)の使用者に頻発した.それから数年,眼科医によるレンズケア指導の徹底,マスメディアでの啓発,製品への注意喚起文の記載などが後押ししたのか,感染症の発生も少しずつ下火になってきているようであるが,何事にも油断は禁物である.そこで,今回,「コンタクトレンズケアを見直す」と題し,正しいレンズケアを普及させることの重要性を改めて伝えることを目的にこの特集を企画した.ここでは,レンズケアの基本原理を復習するとともに,先のoutbreakを契機に明らかとなったいくつかのエビデンスも紹介したいと思う.まずは,編者の一人(糸井素純)から,「安全性を優先したコンタクトレンズのケア」というタイトルで,本特集の基調メッセージを発信している.お読みになればおわかりのように,「装用後のこすり洗い」,「装用前のすすぎ」,「消毒剤開封後の速やかな使用」が,リスクを最小限にとどめるレンズケアのキーポイントである.引き続いて各論に移り,植田喜一先生には「ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策(ハードコンタクトレンズのレンズケースの管理を含めて)」,樋口裕彦先生には「ソフトコンタクトレンズ*YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)**MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(1)1663 ケアの現状」,岩崎直樹先生には「シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点」というテーマで,個々のレンズが抱えるレンズケアの課題について解説していただいた.植田先生からは,消毒操作が義務づけられていないハードレンズにおいても重篤な障害が発生する可能性があるため,「洗浄」と「こすり洗い」,「すすぎ」が重要である点,樋口先生からは,ソフトコンタクトレンズケアの大半が消毒力の劣るMPSで行われている現状のなかで,手洗いを怠るようなユーザーやレンズケースへ気配りのないユーザーがいまだ多くみられる点,岩崎先生からは,女性に特有の化粧品(アイメイク,ファウンデーション)のレンズ付着が意外に厄介な問題で,「レンズ・ファースト」の考え方をユーザーに植え付ける必要がある点などが指摘された.さらに,コンタクトレンズを取り巻く環境因子として,レンズケースと消毒剤を採り上げ,稲葉昌丸先生には「レンズケースの汚染とその対策」,白石敦先生には「コンタクトレンズ消毒法の変遷と課題」について解説していただいた.稲葉先生からは,コンプライアンスの良好なユーザーでもレンズケースの汚染は避けられないため,地道なレンズケースのケアが欠かせないこと,白石先生からは,1日使い捨てレンズへの完全移行が望めないなか,MPSの消毒力不足を補う意味での教育指導の重要性が強調された.最後に,最も重篤な合併症である角膜感染症については,「角膜感染症からみたレンズケアの問題点」というタイトルで,宇野敏彦先生にスペシャリストの立場から解説していただき,レンズケース内の汚染がこうした感染症の温床であり,患者の不良なケア実態がそれを助長していることが示された.さて,コンタクトレンズユーザーは千差万別,実にさまざまなキャラクターの方がおられる.したがって,眼科医として,使用コンタクトレンズの種類,汚れの質と程度,ユーザーの性格などを考慮しつつ,それぞれのユーザーに適したレンズケアを選択,指導していく必要がある.「正しいコンタクトレンズのケア」とは,個々のコンタクトレンズ使用者が安全かつ快適に使い続けることができるレンズケアである.その人に合った「正しいレンズケア」を一緒にみつけることができれば,継続実行していくことも容易となるであろう.他方,消毒剤の主力であるMPSの認可基準の見直しは急務である.最近,複数の消毒剤を組み合わせた合剤MPSが相次いで登場し,アカントアメーバを含む病原体に比較的良好な効果が確認されている.わが国での認可が待たれるところであるが,その一方で,ハードコンタクトレンズの有用性を見直すとともに,コンタクトレンズの装用形態を1日使い捨てへと積極的にシフトさせていくような議論が必要だと考える.1664あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(2)

県立静岡がんセンターにおけるアイバンクの現状と取り組み

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1655.1657,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1655.1657,2011c柏木広哉*1大坂嶽*2小熊由美*3穂積雅子*4堀田喜裕*4*1県立静岡がんセンター眼科*2県立静岡がんセンター緩和医療科*3県立静岡がんセンター看護部*4公益財団法人静岡県アイバンクPresentSituationandActionsofEyeBankinPrefecturalShizuokaCancerCenterHiroyaKashiwagi1),IwaoOsaka2),YumiOguma3),MasakoHozumi4)andYoshihiroHotta4)1)DivisionofOphthalmology,ShizuokaCancerCenter,2)DivisionofPalliativeMedicine,ShizuokaCancerCenter,3)DivisionofNurse,ShizuokaCancerCenter,4)ShizuokaEyeBankわが国におけるアイバンクの眼球摘出に関しての現状報告はほとんどない.今回,県立静岡がんセンターにおけるアイバンクの眼球摘出の取り組みについて報告する.症例は,2002年9月から2010年3月までの7年7カ月間の33例で,男性24例,女性9例であった.年齢は37歳から94歳で,平均年齢は67.0歳であった.摘出までの時間は,0.7から8.9時間で平均時間2.6時間であった.眼球摘出時の採血は,鎖骨下静脈から行っているが,1例のみ鼠径部静脈から行った.摘出時の合併症は,出血が2例3眼あった.そのうち1例2眼では,摘出後の止血に大変苦慮した.TherearefewreportsregardingtheenucleationprocessemployedinJapaneseeyebanks.Inthispaper,wereportontheenucleationtechniqueusedintheeyebankintheShizuokaCancerCenter,whereenucleationwasperformedin33individuals(24males,9females)betweenSeptember2002andMarch2010(91months).Averageageoftheindividualswas67.0years(range:37.94years).Enucleationtimerangedfrom0.7to8.9hours(averagetime:2.6hours).Bloodwasdrawnfromasubclavianveininallcasesexceptone(agroinvein).Asforcomplicationsatthetimeofextraction,3eyes(2cases)sufferedbleeding.Severebleedingafterenucleationwasobservedin2ofthoseeyes(onecase).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1655.1657,2011〕Keywords:県立静岡がんセンター,静岡アイバンク,眼球摘出,出血,献眼者.ShizuokaCancerCenter,ShizuokaEyeBank,enucleation,bleeding,donor.はじめに静岡アイバンクの献眼者数は2008年度162件,2009年度121件と,日本で1,2位を争う献眼数である.県内での摘出担当医は地区によって当番制になっている.摘出眼球は,摘出場所により順天堂静岡病院(伊豆の国市),静岡県立総合病院(静岡市),浜松医科大学(浜松市)に移送され,強角膜切片が作製される.県立静岡がんセンター(以下,本院)は静岡県東部(三島)に位置し,病床数は535床で,眼科常勤医は筆者(H.K.)1名のみである.献眼数の特に多い地域のがんセンターとして,どのようにアイバンクの活動を行っていくのか苦慮するところである.今回,2002年9月の本院開院時から2010年3月までの7年7カ月間で,筆者(H.K.)が院内で眼球摘出した33例について,後ろ向きに検討して若干の知見を得たので報告する.I対象および方法2002年9月の本院開院時から2010年3月までの7年7カ月間に筆者(H.K.)が院内で眼球摘出した33例を対象とした.本院での眼球摘出の方法について述べる.無影灯,サイドテーブルを準備.ベット頭部の柵をはずし壁とのスペースを開け,高さを上げておく.合掌,採血が必要な場合は鎖骨下静脈から採血,合掌,孔布をかけ,右眼に開瞼器をかけて輪部球結膜を全周切開する.4直筋を切断(外直筋をやや長く眼球側に残す),斜筋を切断.外直筋にモスキートペアンをかけ,眼球を内転し視神経剪刃で視神経を切断する.摘出〔別刷請求先〕柏木広哉:〒411-8777静岡県駿東郡長泉町下長窪1007県立静岡がんセンター眼科Reprintrequests:HiroyaKashiwagi,DivisionofOphthalmology,ShizuokaCancerCenter,1007Shimonagakubo,Nagaizumicho,Sunto-gun,Shizuoka-ken411-8777,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)1655 した眼球は眼球保存容器に入れ,無防腐剤の抗菌点眼薬を適下する.眼窩部をガーゼで数分圧迫の後,脱脂綿を挿入し義眼を挿入する.つぎに左眼を同様に処置する.最後に両眼上下眼瞼に5-0黒ナイロン糸をかけ閉瞼する(縫合は1,2針).担当看護師による顔部の確認,遺族による顔部の確認を得てから合掌する.器具類を片付ける,採血管,眼球容器を病棟の冷蔵庫に保管する.摘出報告書の記入,静岡県アイバンクに電話連絡を行う.採血管は検査会社SRL担当者が,眼球は移送ボランティアに渡す.事前に感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,TPHA(梅毒トレポネマ血球凝集反応),RPR(梅毒定性検査)〕がチェックされていない場合には鎖骨下静脈から採血を施行する.した眼球は眼球保存容器に入れ,無防腐剤の抗菌点眼薬を適下する.眼窩部をガーゼで数分圧迫の後,脱脂綿を挿入し義眼を挿入する.つぎに左眼を同様に処置する.最後に両眼上下眼瞼に5-0黒ナイロン糸をかけ閉瞼する(縫合は1,2針).担当看護師による顔部の確認,遺族による顔部の確認を得てから合掌する.器具類を片付ける,採血管,眼球容器を病棟の冷蔵庫に保管する.摘出報告書の記入,静岡県アイバンクに電話連絡を行う.採血管は検査会社SRL担当者が,眼球は移送ボランティアに渡す.事前に感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,TPHA(梅毒トレポネマ血球凝集反応),RPR(梅毒定性検査)〕がチェックされていない場合には鎖骨下静脈から採血を施行する.は37歳から94歳で,60代から80代が多く,平均年齢は67.0歳であった(図1).原疾患は肺癌9例,胃癌7例,大腸癌4例,膵臓癌2例,その他11例(表1)であった.摘出場所は,緩和病棟18例,一般病棟15例(1例は救急外来から一般病棟に移送している).アイバンクの登録が事前確認されていたのが17例,未確認だったのは16例であった.年度別摘出数は2.7件で(図2),摘出は平日21例,休日10例,時間帯は深夜から朝が11例,日中が14例,夕方から深夜が8例であった(図3).摘出までの時間は0.7から8.9時間で平均2.6時間であった(図4).遺族の顔部の修正依頼は3例であった.それぞれ,「眼瞼10987献眼者数6献眼者は,男性24例,女性9例と男性が多かった.年齢543210020022003200420052006200720082009918:男性:女性76献眼者数図2県立静岡がんセンター眼科における年度別献眼者数54316142121男性:女性=26:8,平均年齢:67.0歳.42表1疾患別献眼者の内訳00時~9時9時~17時17時~24時原因疾患男性女性計図3県立静岡がんセンター眼科における摘出時間帯と摘出数肺癌819胃癌61714大腸癌31413膵臓癌11212食道癌1011110十二指腸癌101910860摘出数30代40代50代60代70代80代90代図1年齢別献眼者数8摘出数胆.癌1017尿管癌1016後腹壁癌1015中咽頭癌1014乳癌01123卵巣癌0111皮膚悪性黒色腫01100~11~22~33~44~55~66~77~88~9口腔底癌011時間時間時間時間時間時間時間時間時間頬粘膜癌011図4県立静岡がんセンターにおける眼球摘出までの時間計24933平均時間2時間38分.1656あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(144) をきつく閉瞼して欲しい」,「両眼を薄目を開けるようにして欲しい」,「上眼瞼のふくらみを出して欲しい」という要望があった.修正後に3例すべてで了承を得られた.1例のみ鎖骨下から採血不可能なことがあり,鼠径部から施行した.眼球摘出後の出血は,2例3眼に認められた.1眼は眼球摘出後に片眼に少量の出血を認めたが,圧迫で止血した.もう1例(2眼)は,病状が急変し外来に搬送され,救急処置室で死亡した症例である.処置は病室に移送し30分後に行った.摘出時にはまったく出血がなく,ご家族による顔部の確認の後,体位移動の際に両眼から大出血した.10分以上の圧迫で止血を確認し,再度義眼を挿入したが,体位移動時に再出血した.左眼は視神経が確認できたため,眼動脈を3-0絹糸で縫合した.右眼はさらに数時間の圧迫止血後酸化セルロース(可吸収性創腔充.止血薬:サージセルをきつく閉瞼して欲しい」,「両眼を薄目を開けるようにして欲しい」,「上眼瞼のふくらみを出して欲しい」という要望があった.修正後に3例すべてで了承を得られた.1例のみ鎖骨下から採血不可能なことがあり,鼠径部から施行した.眼球摘出後の出血は,2例3眼に認められた.1眼は眼球摘出後に片眼に少量の出血を認めたが,圧迫で止血した.もう1例(2眼)は,病状が急変し外来に搬送され,救急処置室で死亡した症例である.処置は病室に移送し30分後に行った.摘出時にはまったく出血がなく,ご家族による顔部の確認の後,体位移動の際に両眼から大出血した.10分以上の圧迫で止血を確認し,再度義眼を挿入したが,体位移動時に再出血した.左眼は視神経が確認できたため,眼動脈を3-0絹糸で縫合した.右眼はさらに数時間の圧迫止血後酸化セルロース(可吸収性創腔充.止血薬:サージセル)を挿入して,その上に脱脂綿,義眼を挿入してようやく止血した.III考按アイバンクの眼球摘出についての現状報告は少ない1,2).男性に多い傾向,眼球提供者の年齢分布,9時から17時の時間帯に摘出が多い結果は,過去の報告とよく一致していた.摘出までの時間が短いのは,院内で摘出することによると考える.眼処置中の問題点として,摘出前の採血部位の選択,摘出後の眼瞼などの状態,眼球摘出術中や,術後の出血などがあげられる.摘出前の採血では,鎖骨下静脈が無理な場合が1例あり,鼠径部静脈を選択した.心臓から採血という方法はあるものの,出血汚染の危険性や遺体の尊厳などを考えると,どうしても鼠径部が無理な場合の最終段階として心臓を選択すべきと考えた.遺族が処置後の眼部に違和感をもつことは大きな問題の一つであり,最善の注意が必要である.3例修正の要望があった後,担当看護師に確認し,眼部の状態(特に眼瞼部のふくらみ)が生前と異なっていないかを確認している.今回の検討では,眼球摘出後の大出血を1例経験して大変苦慮した.この症例は,全身に数カ所出血斑があり,Disseminatedintravascularcoagulation(DIC)を起こしていた可能性が否定できない.視神経が発見できるならば眼動脈の結紮が有効であるが,発見不可能な場合には,酸化セルロースの挿入が有効なこともある.出血が多い場合,眼瞼浮腫や皮下出血などにより顔面の状態が変化し3),遺族および摘出医師に少なからず心痛を加える原因にもなる.眼球摘出を行わないマイクロケラトロンの導入も今後検討すべき点かもしれない.その他の問題点として,突然にアイバンク登録が判明した場合,眼科診療,病棟業務などに混乱が生じることがある.そのためにDNR(DoNotResuscitate:積極的延命処置を行わない)を承諾の際,アイバンク登録の有無を確認することの是非の検討がなされたが,遺族の対応もさまざまであるという観点から見送りとなっている.アイバンクでは啓蒙活動が重要である1)ため,院内での講演会や勉強会を行っている.さらに,ドナー発生時の対応マニュアルを看護師長と作成し,電子カルテに登用して情報を広めている.本院は他県出身者も多いので情報提供は有効であると考えている.また,献眼希望者に対しては,本院のよろず相談窓口でもアイバンクのパンフレットをお渡ししている.こうした取り組みは一方で,患者遺族の理解を深め,献眼時のトラブル防止につながる可能性があると考えている.わが国では献眼者の多いアイバンクや,病院は少なくないが,たった一人の常勤医がこれだけ多数の眼球摘出に携わることはあまりない.澤2)は,眼球摘出と眼科医の労働条件の問題点を指摘している.本院のような一人体制での眼球摘出は,肉体的,精神的,時間的にかなり厳しい.手術,学会などが原因で,どうしても対応ができない症例は,今回の対象に含めなかったが4例あった.こうした場合には,近隣の医師の協力を得た(沼津市立病院2回,順天堂静岡病院1回,開業医1回.静岡県では眼科常勤医がいる病院で献眼者が出た場合には,その医師が眼球摘出を担当することになっており,開業医も当番制で対応している).時として長時間の手術中に呼び出された場合には,待たせる側,待たされる側にかなりのストレスとなる.献眼者数が有数の静岡県にある,数少ないがんセンター眼科という特異な環境で,アイバンクの眼球摘出をトラブルなく行うために,院内の関連部署および静岡県アイバンク協会と連携していきたい.この報告は第34回角膜カンファレンス(仙台)でポスター発表した.文献1)村上晶,小野浩一:順天堂アイバンクにおける献眼状況の分析.順天堂医学50:380-382,20002)澤充:アイバンク活動の現状と展望.日本の眼科77:11-14,20063)篠崎尚史,浅水健志:アイバンクへの提供角膜に対するリスク管理について教えてください.あたらしい眼科22(臨増):83-85,2005***(145)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111657

ポインティング法を用いた視覚の自己中心的定位

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1651.1654,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1651.1654,2011c江﨑秀子山崎芳夫日本大学医学部付属練馬光が丘病院眼科VisuallyEgocentricLocalizationinaPointingTaskHidekoEsakiandYoshioYamazakiDepartmentofOphthalmology,NihonUniversityNerimaHikarigaokaHospitalポインティング法を用いて視覚における自己中心的定位について検討した.対象は右利き眼,右利き手の健常者11名.実験は,手指の視覚情報を遮った視覚feedbackのないopen-loop条件下,検査距離は1/3mで頭部を固定した状態で施行した.Computertouchscreen上の中央および左右20°の位置に,あらかじめ3本の棒を表示し,棒の上部に1個の視標をランダムに呈示させた.被験者は,視標が出現した棒の下部を利き手の人差し指で触れた.視標は1本の棒につき10回呈示し,両眼固視と左右単眼固視で測定した.それらの測定平均値からポインティング誤差方向と量,眼偏位量とポインティング誤差の関与について考察した.ポインティング誤差方向は左単眼固視による左方視を除き,両眼固視と右単眼固視では右向き傾向を示した.3つの固視点での誤差量は両眼固視では固視方向による有意差はなく,左単眼固視(p<0.0001)と右単眼固視(p<0.05)では右方視するほど右向きの誤差が有意に増加した.眼偏位量とポインティング誤差との比較では両眼固視(p<0.05)と左単眼固視(p<0.05)で相関性を認められた.視覚の自己中心的定位には眼優位性の関与が考えられた.Visuallyegocentriclocalizationandtheroleofoculardominancewereinvestigatedusingthepointingtask.Subjectscomprised11healthyright-handedsubjectswithrightoculardominance.Experimentswereperformedaccordingtotheopen-loopprocedure,withoutvisualfeedback.Subjectswereseated1/3mdistant,withheadstabilized.Threeverticalpoleswerepresentedonthescreen,onepoleinthecenterandonepoleeachat20degreesleftandrightfromthecenter.Ablacksquaretargetwaspresentedatopeachpolerandomly.Thesubjectswereaskedtotouchthescreenwiththerightindexfinger.Thetargetwaspresented10timesseparatelyateachlocation.Deviationsofpointingerror,andcorrelationbetweenamountofpointingerrorandamountofoculardeviationwereevaluated.Pointingerrorshowedarightwardshiftunderbothmonocularandbinocularconditions,exceptingtheleftwardgazeintheleftmonocularcondition.Therewasnosignificantdifferenceinamountofpointingerroramongthe3targetpositionsunderthebinocularcondition.Pointingerroramountincreasedsignificantlyintherightwardgazeunderright(p<0.05)andamountsofpointingleft(p<0.0001)monocularconditions.Therewassignificantcorrelationbetweenamountsofpointingerrorandmonocularcondition.Thereweresignificantcorrelationsbetweenamountofoculardeviationandamountofpointingerrorinleftmonocularcondition(p<0.05)andbinocularcondition(p<0.05).Theseresultssuggestthatvisuallyegocentriclocalizationmightbeeffectedbyoculardominance.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1651.1654,2011〕Keywords:ポインティング法,視覚の自己中心的定位,眼優位性,調節性輻湊.pointingtask,visuallyegocentriclocalization,oculardominance,accommodativeconvergence.はじめに自己中心的定位の検査は眼と手の協調運動による筋運動感視覚の自己中心的定位は空間における視対象物の位置を正覚系反応であるポインティング法1)が広く用いられ,定位の確に判断する能力であり,日常のさまざまな視覚誘導性行動誤認は自己中心的定位の誤差によるものである2).において重要な役割を演じている.ポインティング法における認知および統合系からの研究で〔別刷請求先〕江﨑秀子:〒179-0072東京都練馬区光が丘2-11-1日本大学医学部付属練馬光が丘病院眼科Reprintrequests:HidekoEsaki,DepartmentofOphthalmology,NihonUniversityNerimaHikarigaokaHospital,2-11-1Hikarigaoka,Nerima-ku,Tokyo179-0072,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)1651 は,ポインティング誤差は手の運動誤差に起因するは,ポインティング誤差は手の運動誤差に起因するとされ,眼優位性の機能的役割は否定的4)であり,ポインティング誤差と優位眼との関係はいまだ明確ではない.今回,自己中心的定位における視覚的位置覚を精査する目的で,視覚feedbackのないopen-loop下でポインティング法を用い,頭頸部を固定した状態で両眼固視・左右単眼固視において,視覚における自己中心的定位を計測した.また,対象者を右の利き眼と右利き手に限定して眼優位性5)について検討を加えた.I対象および方法対象は,右利き眼と右利き手を持つ11名で,実験はHelsinki条約に基づいた説明に対しての同意を得て行った.被験者はすべて矯正視力1.0以上で屈折異常と軽度斜位を除き眼疾患のない健常者である.利き眼はholeincardtest6)を用いて遠方視と近方視ともに右眼が優位を示すのを確認した.右眼が利き手はEdinburgh法7)で判定した.表1の眼偏位量は交代プリズム遮閉法を用いた1/3mでの値を示し表1被験者の一覧被験者性別年齢(歳)眼偏位量(1/3m)12345女性女性女性女性男性353744224406ΔX8ΔX2ΔX8ΔX6男性36078910女性男性男性女性3426253104ΔX4ΔX6ΔX11女性200たものである.ポインティング法は薄明順応下で輝度81cd/m2の実験用プログラム8,9)内蔵のcomputertouchscreenを用いた.画面中央0°と中央から左右各20°に3本の黒色垂直棒を予め呈示し,1本の棒の上へ視角0.9°,輝度14cd/m2の黒色正方形視標を表示した.被験者は画面中央から1/3mの距離で顎台に顎と額を固定した.手元は画面下部から顎台にかけてボードで覆い,視覚feedbackのないopen-loopの環境下で実験を行った(図1).視標は被験者の指が画面に接触すると消え,同時につぎの視標が別の棒の上にランダムに連続して表示される仕組みで,1本の棒につき計10回計測した.なお,実験は近方視力完全矯正下にて両眼固視下,および左右単眼固視下の3通りで行い,ポインティング誤差は画面の画素数を視角(°)に変換し,左向きを.,右向きを+で表した.顎の位置は画面中央に固定したので,単眼視時の検査結果は単眼の真向かいが0°になるよう換算した(たとえば,瞳孔間距離が60mmの場合,右眼固視では中心点は.5°,左20°は.24°,右20°は+15°となる).20°20°図1Computertouchscreenとその方法3本の棒の上部に視標(■)がランダムに呈示されると,被験者はその棒の下部を右人差し指で画面をタッチする.手元はボードで覆われている.X:外斜位.表2各固視点における各ポインティング誤差の個人平均値No固視眼固視点左単眼固視左20°正面0°右20°1.210226530784.15651646.6257.30.181639.52110.53511.424符号なし:右向き偏位,.:左向き偏位.左20°156344.24234両眼固視正面0°15634013020右20°13822200044右単眼固視左20°正面0°右20°11232314622355502620100.10.11.104124(単位:°)1652あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(140) 本実験では,左単眼固視,両眼固視,右単眼固視における正面0°,左右20°の各固視点でのポインティング誤差を求め,各固視眼と各固視点での向きと量を比較検討した.さらに,斜位の眼偏位量とポインティング誤差との相関についても検討を加えた.本実験では,左単眼固視,両眼固視,右単眼固視における正面0°,左右20°の各固視点でのポインティング誤差を求め,各固視眼と各固視点での向きと量を比較検討した.さらに,斜位の眼偏位量とポインティング誤差との相関についても検討を加えた.II結果対象ごとの各固視眼と各固視点でのポインティング誤差の平均を表2に,各固視眼の各固視点におけるポインティング誤差の比較は表3に示した.両眼固視では各固視点でのポインティング誤差方向はいずれも右向き傾向となり,誤差量に有意差はなかった.右単眼固視の各固視点でのポインティング誤差はいずれも右向きとなり,左20°と右20°の誤差に有意差(p<0.05)があった.左単眼固視では,正面0°と右20°では右向きを示したが,左20°のみ左向きのポインティング誤差を示し,正面0°と右20°では左20°とポインティング誤差の有意差(p<0.001)を認めた.一方,固視点について検討すると,正面0°と右20°は固視眼間にポインティング誤差表3各固視眼の各固視点におけるポインティング誤差の比較固視左単眼固視p<0.0001両眼固視n.s.右単眼固視p<0.05固視点左20°正面0°.2.0±2.8°+3.6±2.4°+2.9±2.8°+2.3±2.1°+1.3±2.4°+1.5±1.8°‡‡*******右20°+3.6±2.7°+2.40±2.4°+3.1±2.3°***:p<0.001,*:p<0.05(one-wayrepeatedANOVA,Turkey’smultiplecomparisontest).‡:p<0.01(two-wayrepeatedANOVA,Bonferroniposttest).の差異はなく,左20°の固視点では,右単眼固視と両眼固視の両者とも左単眼固視との間でポインティング誤差の有意差(p<0.01)が示された.被験者11名の眼偏位量と各固視眼下での正面0°における誤差量のPearson相関を検討すると,図2に示すように左単眼固視(p<0.005)と両眼固視(p<0.005)では正の相関が認められたが,右単眼固視では有意な相関はなかった.III考按右利き眼,右利き手の正常被験者を対象に,ポインティング法を用いた自己中心的定位の誤差について検討した結果,右単眼固視と両眼固視ではすべての固視点に対し,ならびに左単眼固視では左方視を除き,正面視と右方視の固視点に対しポインティング誤差はすべて右向きとなった.自己中心的定位には視方向と距離の情報が必要であり,視方向は左右眼の網膜対応点を重ね合わせた想像上の重複眼の視方向10,11)となる.その結果,重複眼の視方向は優位眼側へ偏る12)ため,視方向における眼優位性の影響13)が生じる.本研究でポインティング誤差が右向き偏位を示した結果は右利き眼,右利き手の被験者を対象にした眼優位性の影響と考えられる.左単眼固視の左方固視点ではポインティング誤差が左向きを示した.これは右優位眼を遮閉したために左眼に優位性が転じたことだけでは説明できない.正面視と右方視では誤差は右向きであるため,単に優位眼の遮断による影響のみとはいえない.左単眼固視の左方視のみでの左向き偏位を示した結果は,遮閉された右眼に非対称性輻湊が作用した可能性13,14),空間注意の非対称性15.18),外眼筋自己受容感覚19)による非固視眼の影響などが考えられ,さらに対象を追加し検討を行いたい.ポインティング誤差量の比較では,右単眼固視で,誤差量が増強したことは左眼の非対称性調節性輻湊13)の影響が考えられる.左単眼固視では左方視で左向きの誤差偏位を示したことから,他の固視眼よりも量的には他の固視条件下よりも高い有意差を示すと推察した.両眼視では斜視でみられるような非固視眼からの影響8)を受けないことから,量的差はポインティング誤差(°)05ポインティング誤差(°)8642005ポインティング誤差(°)0051086421010眼偏位量()Δ眼偏位量()Δ(a)左単眼固視;r=0.79p<0.005(b)両眼固視;r=0.79p<0.005(c)右単眼固視;r=0.43(n.s.)図2正面0°のポインティング誤差と眼偏位量(141)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111653-2-2眼偏位量()Δ 生じなかったものと考える.生じなかったものと考える.8,11)によると,左単眼固視では外眼筋受容感覚19)による非固視眼の影響が優位に作用した結果と考えられる.これは,斜視患者でポインティング誤差が非固視眼の眼偏位方向へ偏位すること,斜視のない健常者の遮閉眼を他動的に動かすと同方向へ誤差が出現する20)ことから外眼筋受容感覚による非視覚系の影響21)とされる.それに対し,右単眼固視ではその影響が優位とはならなかったことは興味深いところである.今回の結果から,自己中心的定位は眼優位性の影響を受けることが推察されたが,これを検証するには,今後,さらに対象者数を増やすと同時に左優位眼の対象者を併せて比較検討する必要がある.謝辞:稿を終えるにあたり,実験(2007年)の機会とご指導をいただいたLiverpool大学DivisionofOrthopticsのPaulCKnox教授およびFionaRowe博士に感謝の意を表します.文献1)近江政雄,中溝幸夫,近藤倫明ほか:視空間座標の構成.視覚情報処理ハンドブック(日本視覚学会編),p419-457,朝倉書店,20002)vonNoordenGK,AwayaS,RomanoPE:Past-pointinginparalyticstrabismus.TransAmOphthalmolSoc68:72-85,19703)SoechtingJF,FlandersM:Sensorimotorrepresentationsforpointingtotargetsinthree-dimensionalspace.JNeurophysiol62:582-594,19894)CareyDP:Visionresearch:Losingsightofeyedominance.Currbiol11:828-830,20015)新井田孝裕:眼優位性の機能的役割.神眼25:62-72,20086)FinkWH:Thedominanteye:itsclinicalsignificance.ArchOphthalmol4:555-582,19387)OldfieldRC:Theassessmentandanalysisofhandedness:TheEdinburghinventory.Neuropsychologia9:97-113,19718)WeirCR,ClearyM,ParksSetal:Spatiallocalizationinesotropia:doesextraretinaleyepositioninformationchange?InvestOphthalmolVisSci41:3782-3786,20009)WeirCR,ClearyM,ParksSetal:Spatiallocalizationafterdifferenttypesofretinaldetachmentsurgery.InvestOphthalmolVisSci42:1495-1498,200110)ParkK:Phoria,Hering’slaws,andmonocularperceptionofdirection.JExpPsycholHumPerceptPerform17:219-231,199111)OnoH:OnWells’s(1792)lawofvisualdirection.PerceptPsychophys30:403-406,198112)PickwellLD:Hering’slawofequalinnervationandthepositionofthebinoculus.VisionRes12:1499-1507,197213)vonNoordenGK,CamposEC:Physiologyofthesensorimotorcooperationoftheeye.BinocularVisionandOcularMotility:theoryandmanagementofstrabismus.p5284,Mosby,StLouis,200214)vanLeeuwenAF,CollewijnH,ErkelensC:Dynamicsofhorizontalvergencemovements:interactionwithhorizontalandverticalsaccadesandrelationwithmonocularpreferences.VisionRes38:3943-3954,199815)HeilmanKM,VanDenAbellT:Righthemispheredominanceforattention:themechanismunderlyinghemisphericasymmetriesofinattention(neglect).Neurology30:327-330,198016)DuBoisRM,CohenMS:SpatiotopicorganizationinhumansuperiorcolliculusobservedwithfMRI.Neuroimage12:63-70,200017)RobinsonDL,KertzmanC:Covertorientingofattentioninmacaques.III.Contributionsofthesuperiorcolliculus.JNeurophysiol74:713-721,199518)ZackonDH,CassonEJ,StelmachLetal:Distinguishingsubcorticalandcorticalinfluencesinvisualattention.Sub-corticalattentionalprocessing.InvestOphthalmolVisSci38:364-371,199719)DonaldsonIM:Thefunctionsoftheproprioceptorsoftheeyemuscles.PhilosTransRSocLondBBiolSci355:1685-1754,200020)GauthierGM,NommayD,VercherJL:Ocularmuscleproprioceptionandvisuallocalizationoftargetsinman.Brain113:1857-1871,199021)WeirCR,KnoxPC:Modificationofsmoothpursuitinitiationbyanonvisual,afferentfeedbacksignal.InvestOphthalmolVisSci42:2297-2302,2001***1654あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(142)

近視型乳頭でのAnderson基準による緑内障性視野障害判定

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1645.1650,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1645.1650,2011c木村泰朗*1吉川啓司*2鈴村弘隆*3山崎斉*4*1上野眼科医院*2吉川眼科クリニック*3中野総合病院眼科*4山崎眼科AbilityofAnderson’sCriteriatoDetectGlaucomatousVisualFieldsDefectsinEyeswithMyopic-andNonmyopic-TypeOpticDiscsTairoKimura1),KeijiYoshikawa2),HirotakaSuzumura3)andSeiYamazaki4)1)UenoEyeClinic,2)YoshikawaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,4)YamazakiEyeClinic目的:視野障害の感度・特異度をAnderson基準により判定する.さらに,同対象眼の近視型乳頭における同基準の視野障害判定の有用性を検討する.対象:3施設において矯正視力0.8以上,屈折度.6.0Dを超えず,開放隅角で視神経乳頭(乳頭)所見より広義原発開放隅角緑内障の疑い例にHumphrey視野計,Swedishinteractivethresholdalgorithmstandard(SITA-S)により中心30-2プログラムを施行し,meandeviation(MD)値が.6.0dB以内,かつ,明確な眼底写真が撮影できた症例を収集した.方法:症例収集施設とは別個に1名の緑内障専門医が乳頭写真から緑内障群(G群)と正常群(N群)に分け,さらに,乳頭形状を近視型と非近視型に分類した.各症例において施行したAnderson基準の3基準であるパターン偏差判定(PDplots),PSDの有意確率(PSD),緑内障半視野試験判定(GHT)を調べた.結果:対象84眼中近視型乳頭は26眼(31.0%),非近視型乳頭は58眼(69.0%)であった.近視型乳頭26眼中G群は14眼(53.8%),N群は12眼(46.2%),非近視型乳頭58眼中G群は36眼(62.1%),N群は22眼(37.9%)に分類された.MD値はG群とN群それぞれにおける近視型,非近視型の4群間での多重比較では有意差はなかった(p=0.067.0.996).近視型乳頭群と非近視型乳頭群間においてAnderson基準の総合判定と3基準の感度,特異度の95%信頼区間(CI)は重なった.しかし,総合判定,3基準での陽性率は非近視型乳頭ではG群とN群の間に有意差を認めた(総合判定:p=0.0282,PDplots:p=0.0005,PSD:p=0.0008,GHT:p=0.0056)が,近視型乳頭ではPDplotsを除き明らかな差を認めなかった(総合判定:p=0.1904,PDplots:p=0.0375,PSD:p=0.2329,GHT:p=0.1131).結論:近視型乳頭ではAnderson基準による緑内障性視野障害の有無の判定は慎重にすべきであると考えた.Purpose:ToevaluatetheusefulnessofAnderson’scriteriaindetectingglaucomatousvisualfieldsdefects(VFD)ineyeswithmyopic-andnonmyopic-typeopticdisc.MaterialsandMethods:Participantinclusioncriteriawere:openangle,refractiveerror≧.6.0diopters,correctedvisualacuity≧0.8,meandeviation(MD)onHumphreyFieldAnalyzer(HFA),usingthecentral30-2SITAstandardprogram≧.6.0dB.Allparticipantsunderwentfundusphotographyoftheopticnerveheadwitha30-degreeangle.Eyesweredividedintoglaucomatous(G)ornonglaucomatous(N)groups,dependingondiscappearanceinfundusphoto.Additionally,thegroupsweresubdividedintomyopic(M)andnon-myopic(n-M)eyesinthesamemanner.Discswereclassifiedbyaglaucomaspecialistinmaskedfashion,relativetotheotherfindings.AbnormalglaucomatousVFDwasdefinedonthebasisofAnderson’scriteria[abnormalglaucomahemifieldtest(GHT),PSD<5%andabnormalpatterndeviation(PD)].HFAresultsforalleyeswereevaluatedbyAnderson’scriteria.ThefourgroupswerethenstatisticallycomparedusingJMPversion8.0.3.(SAS,Japan).Differencesamongthegroupswereevaluatedviachi-squaretest,t-test,FisherexactprobabilityandTukeytest.Results:Finallyenrolledwere84of136eyes.Ofthe84eyes,26(31.0%)wereclassifiedasmyopicand58(69.0%)wereclassifiedasnonmyopic.Eyesclassifiedasmyopicdisceyesnumbered14(53.8%)inGgroupand12eyes(46.2%)inNgroup:Thoseclassifiedasnon-myopictypeeyesnumbered36(62.1%)inGgroupand22(37.9%)inNgroup.MultiplecomparisonofMDbetweenmyopicandnon-myopiceyesingroupsGandN(fourgroups)showednosignificantdifference(p=0.067.0.996).Andersonand〔別刷請求先〕木村泰朗:〒110-0015東京都台東区東上野3-15-14エストビル3F医療法人明医会上野眼科医院Reprintrequests:TairoKimura,M.D.,PhD.,UenoEyeClinic,3F,Estbill,3-15-14Higashiueno,Taito-ku,Tokyo110-0015,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(133)1645 threecriteriafordeterminingthesensitivityandspecificityshowedoverlappingof95%confidentialinterval(CI)inGandNgroupsbetweenthemyopicandnonmyopiceyes.ButthepositiveratioofAnderson’scriteriabetweenGandNfornon-myopiceyesshowedasignificantdifferencebetweenthegroups(overallverdict:p=0.0282,PDplots;p=0.0005,PSD;p=0.0008,GHT;p=0.0056);inmyopiceyes,however,thesamepositiveratioshowednosignificantdifference,exceptingPDplotsbetweenthegroups(overallverdict;p=0.1904,PDplot;p=0.0375,PSD;p=0.2329,GHT;p=0.1131).Conclusion:WhenapplyingAnderson’scriteriaindiagnosingglaucomatousVFD,carefulevaluationisrequiredineyeswithmyopic-typeopticdisc.threecriteriafordeterminingthesensitivityandspecificityshowedoverlappingof95%confidentialinterval(CI)inGandNgroupsbetweenthemyopicandnonmyopiceyes.ButthepositiveratioofAnderson’scriteriabetweenGandNfornon-myopiceyesshowedasignificantdifferencebetweenthegroups(overallverdict:p=0.0282,PDplots;p=0.0005,PSD;p=0.0008,GHT;p=0.0056);inmyopiceyes,however,thesamepositiveratioshowednosignificantdifference,exceptingPDplotsbetweenthegroups(overallverdict;p=0.1904,PDplot;p=0.0375,PSD;p=0.2329,GHT;p=0.1131).Conclusion:WhenapplyingAnderson’scriteriaindiagnosingglaucomatousVFD,carefulevaluationisrequiredineyeswithmyopic-typeopticdisc.Keywords:Anderson基準,近視型乳頭,Humphrey自動視野計,緑内障性視野欠損.Anderson’scriteria,myopic-typeopticdisc,Humphreyfieldanalyzer,glaucomatousvisualfielddefect.はじめに緑内障は視神経乳頭(乳頭)と視野に特徴的変化を有する疾患である1)が,乳頭障害は視野障害に先行するため,その早期発見に際しては乳頭所見が重視される.しかし,乳頭の形態やサイズは元来多様であり,これに緑内障性変化が加わるため,典型例を除き乳頭診断で判断に迷うことが少なからずある.さて,わが国の緑内障の多数を占める正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)ではその病態への近視の関与が明らかにされている2).近視型乳頭3)ではslopingrimにより陥凹境界が同定しにくく4),あるいは,網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)が明確に観察できない5)ことなどから近視眼における緑内障乳頭診断はより困難度を増す.一方,自動視野計による視野検査の精度の上昇に伴い緑内障診断率は向上する6)が,近視眼では乳頭自体あるいは乳頭周囲の形態変化7,8)も視野障害の原因になりうるため,緑内障視野診断に混乱を招く9).Anderson10),Hodappら11)は初期緑内障性視野障害が上下のいずれかの半視野に局在し,しかも自動視野計(standardautomatedperimetry:SAP)により把握される軽微な感度低下に留まることを踏まえてAnderson基準を提案した.基準はヨーロッパ緑内障学会およびわが国のガイドラインなどで広く受け入れられている.その後,SAPには検査時間が短縮されたSwedishinteractivethresholdalgorithmstandard(SITA-S)も臨床導入された12)が,Anderson基準はSITA-Sを用いた視野検査結果にも適用できることが報告され13),筆者らもNTG診断における有用性について報告した14,15).一方,日本を含むアジアにおいては近視型乳頭の形態変化を有する例が多いことが知られているが,近視型乳頭症例におけるAnderson基準の有用性についての検討は十分ではない.そこで,今回,初期開放隅角緑内障疑い例につき,その乳頭所見から緑内障性変化の有無を判定し,さらに,視野検査の結果に対しAnderson基準を適用し感度・特異度を調べた.同様に,近視型乳頭における視野障害診断と同基準の関連性についても併せて検討したので報告する.1646あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011I対象および方法中野総合病院眼科,吉川眼科クリニック,上野眼科の3施設を2008年1月から4月の間に緑内障を疑われ紹介受診,あるいは,各施設において初期緑内障を疑った症例のうち,開放隅角で,矯正視力が0.8以上,等価球面度数は.6.00Dを超えず,前眼部,中間透光体に視野検査結果に影響を及ぼす明らかな異常がなく,明確な乳頭写真が得られた症例で,かつ,研究の目的に対し同意を得られた症例を後ろ向きに収集した.これらにHumphrey自動視野計の中心30-2プログラムで,SITA-S(Zeiss,東京)を用いて施行した初回視野検査の結果,信頼性が固視不良が20%,偽陽性が15%,偽陰性が33%を超えず,meandeviation(MD)が.6.00dB以内の症例眼を選択し,両眼が条件を満たした症例では右眼を組み入れた.関連する諸データを秘匿したうえで,症例収集施設とは別個に(YS),乳頭写真から緑内障性乳頭変化の有無を緑内障ガイドライン1)に沿い判定した.これらの症例の緑内障視神経症の有無を,びまん性陥凹拡大(乳頭・陥凹比>0.7,リム・乳頭比<0.1),あるいは局所性陥凹拡大(ノッチング)を認めることを必須条件とし,乳頭出血,NFLDの有無に注目し,明らかな緑内障性変化を有する群を緑内障群(G群),一方,明らかな緑内障変化を認めなかった乳頭を正常群(N群)と判定した.なお,乳頭変化やNFLDを伴わずに認めた乳頭出血はG群に含めなかった.同時に,乳頭形態判定を行い,近視型と非近視型に分けた.ここで,近視型乳頭は1)網膜中心静脈が鼻側偏移し,その起始部が鼻側辺縁部に隠れ,2)耳側辺縁部が薄く耳側陥凹は浅く皿状で,3)乳頭耳側に乳頭周囲網脈絡膜萎縮(PPA)またはコーヌスを認めることを必須条件とし,乳頭形態が縦長の楕円形を呈し,鼻側乳頭縁が不鮮明化していることを付帯条件とした16).これらの必須・付帯条件を認めなかった乳頭形態を非近視型とした.乳頭の緑内障判定および形態判定による近視型乳頭の有無による分類が可能であった症例の視野結果において,緑内障(134) ガイドラインに準じAnderson基準のパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD),緑内障半視野テスト(glaucomahemifieldtest:GHT),パターン偏差確率プロット(patterndeviationprobabilityplots:PDplots)の三要素のいずれか一つが陽性を示した場合,Anderson基準の総合判定を陽性とした.なお,PDplotsは30-2視野の最周辺部を除き,p<5%の点が3つ以上隣接して存在し,かつそのうち1点がp<1%であることを陽性基準としたが,PDplotsで連続した3点を認めても,これが網膜神経線維走行に一致しない垂直方向の場合,あるいは水平経線を跨いだ場ガイドラインに準じAnderson基準のパターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD),緑内障半視野テスト(glaucomahemifieldtest:GHT),パターン偏差確率プロット(patterndeviationprobabilityplots:PDplots)の三要素のいずれか一つが陽性を示した場合,Anderson基準の総合判定を陽性とした.なお,PDplotsは30-2視野の最周辺部を除き,p<5%の点が3つ以上隣接して存在し,かつそのうち1点がp<1%であることを陽性基準としたが,PDplotsで連続した3点を認めても,これが網膜神経線維走行に一致しない垂直方向の場合,あるいは水平経線を跨いだ場14).乳頭緑内障判定の結果に対するAnderson基準の総合判定,PSD,GHT,PDplotsのそれぞれの感度・特異度および95%信頼区間(95%CI)を算出した.また,乳頭形態ごとの緑内障判定におけるAnderson基準の総合判定および三要素それぞれの陽性率の頻度をFisher正確確率により調べた.緑内障および乳頭形態による分類をした4群間の背景因子の違いはTukey検定で調べた.背景因子の検定にはt検定,およびc2検定を用いた.統計学的検定はJMP8.0.3.(SAS日本)を用い,有意水準は5%未満とした.II結果期間中に収集され,視野検査結果のMDと信頼性の係数が組み入れ基準を満たし,明確な乳頭写真が得られた136例136眼について乳頭緑内障判定を行った.その結果,G群あるいはN群と判定されたのは136眼中101眼(74.1%)であった.これらに行った乳頭形態判定により101眼中17眼(17.0%)は近視型・非近視型に分類できなかった.そこで,組み入れた136眼中,緑内障判定および近視型乳頭による形態判定の両者における乳頭診断が可能であった84眼(61.7%)を対象としAnderson基準による視野障害判定を行った.84眼の背景因子は男性29眼,女性55眼,年齢は60.3±13.4歳(32.86歳),MDは.1.94±2.12dB(2.96..5.79dB),等価球面度数は.1.25±2.55D(+3.00..6.00D),眼圧は13.5±2.5mmHg(24.10mmHg)であった.対象84眼中,G群は50眼(59.5%),N群は34眼(40.5%)であった.G群とN群では年齢,性別の頻度,等価球面度数,眼圧に明らかな差はなかったが,MDはG群(.2.43±2.07dB)でN群(.1.18±1.97dB)に比べ有意(p=0.0067)に低値を示した(表1).G群とN群のAnderson基準による総合判定の感度は86.0%(95%CI:76.4.95.6%),特異度は41.2%(95%CI:24.6.57.7%)であった.三要素の感度はPDplots(86.0%)が最も高値を示し,PSD(76.0%),GHT(72.0%)がこれに続いたが,それぞれの95%CIは重なった.特異度もGHT(67.7%)が最も高値を示し,PSD(64.7%),PDplots(58.8%)が続いたが,それぞれの95%CIは重なった(表2).対象84眼中近視型乳頭は26眼(31.0%),非近視型乳頭は58眼(69.0%)であった.近視型乳頭26眼中G群は14眼(53.8%),N群は12眼(46.2%),非近視型乳頭58眼中表1組み入れ眼の背景因子G群(n=50)N群(n=34)p値年齢(歳)60.2±13.660.5±13.20.9018(t-test)性別(男:女)15:3514:200.2903(c2test)等価球面度数(D).1.19±2.59.1.45±2.560.6530(t-test)眼圧(mmHg)13.9±2.713.2±1.90.2027(t-test)MD(dB).2.43±2.07.1.18±1.970.0067(t-test)両群間に年齢,性別,等価球面度数,に有意差は認めない.MD値はG群にて有意に低値を示した(p=0.0067).表2乳頭判定へのAnderson基準の感度・特異度感度(G群=50)特異度(N群=34)総合判定PSDGHTPDplots総合判定PSDGHTPDplots(%)86.076.072.086.041.264.767.758.895%CI(%)(76.4.95.6)(64.2.87.8)(59.6.84.4)(76.4.95.6)(24.6.57.7)(48.6.80.8)(51.9.83.4)(42.3.75.4)表3乳頭判定による近視型・非近視型における緑内障・非緑内障眼の背景因子近視型非近視型G群(n=14)N群(n=12)G群(n=36)N群(n=22)年齢(歳)48.9±10.753.8±15.364.5±12.164.2±10.5性別(男:女)7:77:58:287:15等価球面度数(D).3.57±1.65.3.79±2.23.0.26±2.28.0.17±1.68眼圧(mmHg)14.6±2.912.9±1.913.7±2.613.4±2.0MD(dB).2.86±1.75.1.28±2.04.2.27±2.18.1.12±1.97多重比較にていずれも有意差を認めない(Tukey検定,p=0.0696.0.9967).(135)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111647 表表のAnderson基準による感度・特異度近視型(n=26)感度(G群=14)特異度(N群=12)総合判定PSDGHTPDplots総合判定PSDGHTPDplots(%)85.771.471.485.741.758.366.758.395%CI(%)(67.4.100)(47.8.95.1)(47.8.95.1)(67.4.100)(13.8.69.6)(30.4.86.2)(40.0.93.3)(30.4.86.2)表4b非近視乳頭眼でのAnderson基準による感度・特異度非近視型(n=58)感度(G群=36)特異度(N群=22)総合判定PSDGHTPDplots総合判定PSDGHTPDplots(%)86.177.872.286.140.968.268.259.195%CI(%)(74.8.97.4)(64.2.91.4)(57.6.86.9)(74.8.97.4)(20.4.61.5)(48.7.87.6)(48.7.87.6)(38.5.79.6)表5Anderson基準の陽性率総合判定PSDGHTPDplots近視型非近視型近視型非近視型近視型非近視型近視型非近視型(眼)陽性非陽性陽性非陽性陽性非陽性陽性非陽性陽性非陽性陽性非陽性陽性非陽性陽性非陽性G群1223151042881042610122315N群75139577154871557913p値*0.19040.02820.23290.00080.11310.00560.03750.0005*Fisherの正確検定(両側検定).G群は36眼(62.1%),N群は22眼(37.9%)に分類された(表3).この4群間のMDはG群の近視型乳頭(.2.86±1.75dB)およびG群の非近視型乳頭(.2.27±2.18dB)ではN群の非近視型乳頭(.1.12±1.97dB)およびN群の近視型乳頭(.1.28±2.04dB)に比べ低値をとったが,多重比較では明らかな差がなかった(Tukey検定,p=0.0696.0.9967).近視型乳頭26眼中G群は14眼,N群は12眼であったが,Anderson基準の総合判定の感度は85.7%,特異度は41.7%であった.三要素の感度はPSD(71.4%),GHT(71.4%),PDplots(85.7%)であり,特異度はPSD(58.3%),GHT(66.7%),PDplots(58.3%)であった(表4a).さらに,非近視型乳頭58眼中G群は36眼,N群は22眼であったが,Anderson基準の総合判定の感度は86.1%,特異度は40.9%であり,同様にPSD(感度:77.8%,特異度:68.2.%),GHT(感度:72.2%,特異度:68.2%),PDplots(感度:86.1%,特異度:59.1%)であった.Anderson基準の感度・特異度の95%CIは,近視型・非近視型の両者ともに重なった(表4b).一方,陽性率でみてみると,非近視型乳頭ではG群36眼中Anderson基準の総合判定が陽性を示したのは31眼であり,乳頭判定がN群の22眼中Anderson基準の陽性を示した13眼に比べ有意に多かった(Fisher正確検定,p=0.0282).同様に,PSDの陽性群も乳頭判定のG群(28眼/36眼)でN群(7眼/22眼)に比べ有意に多く(Fisher正確検定,p=0.0008),GHT陽性(G群:26眼/36眼,N群:7眼/22眼,Fisher正確検定p=0.0056),PDplots陽性(G群31眼/36眼,N群:9眼/22眼,Fisher正確検定,p=0.0005)も同様であった.しかし,近視型乳頭群ではPDplotsはG群の陽性率(12眼/14眼:85.7%)はN群のそれ(5眼/12眼:41.7%)に比べ有意に(Fisher正確検定,p=0.0375)高かったが,総合判定(G群:12眼/14眼,N群:7眼/12眼,Fisher正確検定,p=0.1904),GHT(G群:10眼/14眼,N群:4眼/12眼,Fisher正確検定,p=0.1131)PSD(G群:10眼/14眼,N群:5眼/12眼,Fisher正確検(,)定,p=0.2329)の陽性率に明らかな差は認めなかった(表5).III考按初期緑内障疑い例を乳頭所見に基づき緑内障と正常に分け,これらに対し施行した視野結果についてAnderson基準を適用したところ同基準の,緑内障乳頭診断への判定の有用性が示された.さらに,対象を乳頭形態から近視型乳頭と非近視型乳頭に分類し検討したところ,Anderson基準は近視型乳頭を呈する症例では慎重に適用すべきであることが示された.1648あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(136) 医学的・社会的な重要性の認識が高まり,一般検診や眼科受診症例に対し緑内障スクリーニングが組み込まれる例が増えている.緑内障スクリーニングでは,まず,乳頭所見に注目し緑内障の疑い例を抽出するため,結果的に正常例が少なからず含まれうる.このため,緑内障の確定診断には視野検査を施行し,典型的な視野障害の存在を検出することが必要となる.そこで,今回,開放隅角緑内障の疑いで受診した症例につき,まず,乳頭所見に基づき乳頭緑内障判定を行い,さらに,視野障害の有無を判定した.この際,検討対象を視野障害の軽症例に限ったため,緑内障性初期視野障害の特徴である軽度な感度低下も捕捉しうるAnderson基準を適用した.なお,Anderson基準は当初,Humphrey自動視野計の全点閾値の結果に対して提案されたが,その後,SITA-Sの結果に対しても適用が可能であることを確認しており医学的・社会的な重要性の認識が高まり,一般検診や眼科受診症例に対し緑内障スクリーニングが組み込まれる例が増えている.緑内障スクリーニングでは,まず,乳頭所見に注目し緑内障の疑い例を抽出するため,結果的に正常例が少なからず含まれうる.このため,緑内障の確定診断には視野検査を施行し,典型的な視野障害の存在を検出することが必要となる.そこで,今回,開放隅角緑内障の疑いで受診した症例につき,まず,乳頭所見に基づき乳頭緑内障判定を行い,さらに,視野障害の有無を判定した.この際,検討対象を視野障害の軽症例に限ったため,緑内障性初期視野障害の特徴である軽度な感度低下も捕捉しうるAnderson基準を適用した.なお,Anderson基準は当初,Humphrey自動視野計の全点閾値の結果に対して提案されたが,その後,SITA-Sの結果に対しても適用が可能であることを確認しており,今回もSITA-Sを用いて視野検査を施行した.乳頭の緑内障判定と形態判定は,症例収集施設とは独立し,他の諸データを秘匿し,あらかじめ設けた判定基準に則って行った.その結果,乳頭緑内障判定で「緑内障あるいは正常」,乳頭形態判定で「近視型あるいは非近視型」のいずれにも分類できなかった症例がそれぞれ約25%および約20%に上った.一般外来で,後ろ向きに収集した症例中には一定程度,乳頭判定において中間的な位置づけの症例も含まれる.本研究では乳頭所見が明確であった症例のみをN群,G群として群別し,乳頭所見が明らかでなかった疑い例は対象から除外したため,約25%の症例が省かれた.一方,陥凹乳頭(C/D)比が0.7未満の乳頭陥凹拡大例や明らかな神経線維層欠損の認められなかった症例は「正常」として判定されたため,N群が40.5%を占めた.乳頭緑内障判定の結果に対するAnderson基準の総合判定の感度は86.0%,特異度は41.2%であり,PSD,PDplots,GHTの三要素についても感度は80%前後,特異度は60%前後であった.視野検査の経験をよく積んだ症例を対象としSITA-Sを用いた視野検査を施行すると,Anderson基準による緑内障性視野障害に対する感度・特異度はともに90%以上を示す一方,初期例では感度がやや低値を示す13).今回の感度は80%前後であったが,対象のMDの平均が.1.94dBと初期例であったことから,その結果に違和感はなく,むしろAnderson基準が初期緑内障性視野障害をよく把握しうることを支持する結果と考えた.しかし,今回の対象では特異度はこれまでの報告に比べ低値を示し,三要素のそれも60%前後に留まった.その理由として,今回の対象は乳頭判定後に,緑内障確定診断を目的として視野検査を施行した症例であり,初回視野検査例も含まれている.同様にAnderson基準を用いて調べた報告でも,視野検査の非経験例では特異度は50%以下となる17,18)ことも少なくなく,今回の結果も同様の傾向を示したものと考えた.なお,Anderson基準の総合判定の特異度は三要素に比べ低値を示した(40%前後)が,これは三要素のいずれかでも陽性を示せば,総合判定は陽性と判定されることが影響したものだろう.今回の結果を踏まえ,緑内障視野障害の初期診断では,Andersonらが指摘するようにその経過観察当初に視野検査を可能な範囲で再検していくことの重要性10)も再確認された.また,既報では全点閾値法においてAnderson基準の三要素のうちGHTの感度が高いことが報告されているが,今回の報告では三要素の感度はGHT(74.0%),PSD(76.0%)ともに高かったが,PDplots(86%)がより高い感度を示した.その理由としては,今回はSITA-Sで行われたこと,そのため視覚確率曲線に沿う視標提示のストラテジーの性格上GHTよりPDplotsのほうがより感度が高くなったと思われる.現時点では近視と緑内障の関連は必ずしも明らかとなっていない19.21).しかし,わが国で最も多数を占めるNTGの病態への近視の関与は明らかであり2,22),そこで,さらに,Anderson基準の近視型乳頭の緑内障判定に対する有用性の検討のため,乳頭形態判定を行い近視型,非近視型の両群に分け,Anderson基準の感度・特異度を調べたが,その感度・特異度に明らかな違いを認めなかった.一方,非近視型乳頭ではAnderson基準および三要素のいずれもその陽性率が緑内障群で正常群に比べ高く,Anderson基準の初期視野障害判定に対する有用性が示唆された.しかし,近視型乳頭では緑内障群と正常群でその頻度に明らかな違いを認めたのはPDplotsのみであった.筆者らは緑内障性視野障害をSITA-Sを用いて判定する際のPDplotsの陽性率はGHTに比べ高いことを報告しており15),近視型乳頭を呈する場合にも有用であることが確認された.このように今回,Anderson基準のなかでPDplotsの感度は他の二要素に比べ高値をとった.本来PDplotsは中間透光体などによるびまん性の感度低下の影響を最少化し軽度の感度低下をハイライトするための処理法である.しかし近視眼でみられる網膜感度のびまん性の低下などもPDplotsで連続した3点の感度低下として記録されるため,それらを緑内障性感度低下として過大評価する可能性を考慮する必要がある.これらの事項を勘案すると近視眼の初期視野変化の判定に対するAnderson基準の適用の際には,その特徴を念頭に置いたうえでの慎重さが求められると思われた.近視型乳頭では緑内障乳頭変化,Anderson基準による視野障害の把握の両者ともに困難さが伴い,特に,乳頭診断ではこれらが明らかにされた.そのことより,緑内障診断に際しては,視野検査を積極的に再検し,その障害の有無や緑内障パターンと乳頭所見との一致性を確認し,総合的に判断することの重要性が示唆された23).(137)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111649 文献文献)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)SuzukiY,IwaseA,AraieMetal:Riskfactorsforopen-angleglaucomainaJapanesepopulation.TheTajimiStudy.Ophthalmology113:1613-1617,20063)NicolelaMT,DranceSM:Variousglaucomatousopticnerveappearances:clinicalcorrelations.Ophthalmology103:640-649,19964)FazioP,KrupinT,FeitlMEetal:Opticdisctopographyinpatientswithlow-tensionandprimaryopenangleglaucoma.ArchOphthalmol108:705-708,19905)山崎斉:乳頭周囲脈絡膜萎縮を学ぶ.どう診る?緑内障視神経乳頭〔井上洋一(監)〕p98-99,メジカルレビュー,20056)TatemichiM,NakanoT,TanakaKetal:Performanceofglaucomamassscreeningwithonlyavisualfieldtestusingfrequency-doublingtechnologyperimetry.AmJOphthalmol134:529-537,20027)西村衛:固視点近傍に暗点を生じる近視緑内障眼の臨床的特徴.あたらしい眼科24:345-348,20078)KawanoJ,TomidokoroA,MayamaCetal:Correlationbetweenhemifieldvisualfielddamageandcorrespondingparapapillaryatrophyinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol142:40-45,20069)松元俊:緑内障3分診療を科学する!近視と緑内障の「関連を見る」.眼科48:359-361,200610)AndersonDR:Interpretationofasinglefield.AutomatedStaticPerimetry,p91-161,Mosby,StLouis,199211)HodappE,ParrishIIRK,AndersonDR:Theasymptomaticpatientwithelevatedpressure.ClinicalDecisionsinGlaucoma,p3-63,Mosby,StLouis,199312)BengtssonB,OlssonJ,HeijlAetal:Anewgenerationofalgorithmsforcomputerizedthresholdperimetry,SITA.ActaOphthalmolScand75:181-183,199713)BudenzDL,RheeP,FeuerWJetal:SensitivityandspecificityoftheSwedishinteractivethresholdalgorithmforglaucomatousvisualfielddefects.Ophthalmology109:1052-1058,200214)鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗:Anderson基準を用いた初期緑内障視野異常の検出.眼科50:1967-1971,200815)鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗:SITAStandardによる初期緑内障性視野障害とAnderson基準.日眼会誌115:435-439,201116)山崎斉,神前あい,屋宜友子ほか:近視性乳頭に伴う緑内障の視野障害様式.あたらしい眼科20:705-708,200317)SchimitiRB,AvelinoRR,Kara-JoseNetal:Full-thresholdversusSwedishinteractivethresholdalgorithm(SITA)innormalindividualsundergoingautomatedperimetryforthefirsttime.Ophthalmology109:20842092,200218)Pierre-FilhoPdeT,SchimitiRB,deVascondellosJPetal:Sensitivityandspecificityoffrequency-doublingtechnology,tendency-orientedperimetry,andSITAStandardandSITAFastperimetryinperimetricallyinexperiencedindividuals.ActaOphthalmolScand84:345-350,200619)LeskeMC,ConnellAM,WuSYetal:Riskfactorsforopen-angleglaucoma.TheBarbadosEyeStudy.ArchOphthalmol113:918-924,199520)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelationshipbetweenglaucomaandmyopia:TheBlueMountainEyeStudy.Ophthalmology106:2010-2015,199921)WongTY,KleinBE,KleinRetal:Refractiveerrors,intraocularpressure,andglaucomainawhitepopulation.Ophthalmology110:211-217,200322)ChiharaE,TaniharaH,TsukaharaS:Severemyopiaasariskfactorforprogressivevisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmologica211:66-71,199723)吉川啓司,鈴村弘隆:緑内障:逆説的解釈.緑内障3分診療を科学する〔吉川啓司,松元俊(編)〕,p2-11,中山書店,2006***1650あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(138)

円蓋部基底結膜弁線維柱帯切除術後早期の眼圧と中期眼圧コントロール率

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1641.1644,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1641.1644,2011c松下恭子*1内藤知子*1島村智子*1齋藤美幸*1高橋真紀子*2大月洋*1*1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*2笠岡第一病院眼科RelationbetweenEarlyPostoperativeIOPandIOPControlwithFornix-basedConjunctivalFlapinMitomycinCTrabeculectomyKyokoMatsushita1),TomokoNaito1),TomokoShimamura1),MiyukiSaito1),MakikoTakahashi2)HiroshiOotsuki1)and1)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital目的:円蓋部基底線維柱帯切除術後早期の眼圧と中期予後との関連を検討する.方法:2005年7月から2008年11月の間に岡山大学眼科で初回円蓋部基底線維柱帯切除術を施行した広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)症例を対象とした.眼圧コントロール率は術後1カ月以降に2回連続して眼圧14mmHgを超えた最初の時点,あるいは点眼追加・再手術を行った時点を死亡としてKaplan-Meier生命表法で検討した.結果:54例62眼が対象となった.術前眼圧は22.2±10.0mmHgに対し,最終受診時の平均眼圧は9.3±3.3mmHg,眼圧14mmHg以下へのコントロール率は術後1年,2年とも88.1%であった.術後早期の眼圧と予後の検討では,14日目の眼圧が9mmHg以上の群(n=27)は術後1年以降のコントロール率が77.3%であるが,9mmHg未満の群(n=35)は96.6%と有意に高かった(p=0.01,log-rank検定).結論:広義POAGの円蓋部基底線維柱帯切除術では14日目の眼圧を9mmHg未満に管理すると良好な眼圧コントロールが得られる可能性がある.Purpose:Toevaluateshort-andmiddle-termoutcomesoffornix-basedtrabeculectomies.Method:Westudiedprimaryopen-angleglaucoma(POAG)patientsundergoingtrabeculectomybetween2005and2008.Failurewasdefinedastwointraocularpressure(IOP)readingsover14mmHg,additionalmedicationorsecondsurgery.Results:Westudied62eyes(29males,25females;meanage:70.8±9.1years;meanfollow-up:16.8±10.6months).MeanpreoperativeIOPwas22.2±10.0mmHg;88.1%oftheeyeswere14mmHgorlessat1year.Ofthe35eyesthathadIOPof9mmHgorlessafter14days,96.6%were14mmHgorlessat1year.Incomparison,ofthe27eyeswithIOPover9mmHgafter14days,77.3%were14mmHgorlessat1year(logranktest,p=0.01).Conclusion:TrabeculectomyisveryusefulforPOAGtoachieveanIOPof9mmHgat14days.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1641.1644,2011〕Keywords:円蓋部基底,線維柱帯切除術,眼圧管理,広義原発開放隅角緑内障.fornix-based,trabeculectomy,controlofintraocularpressure,primaryopen-angleglaucoma.はじめに近年主流になっているマイトマイシンC併用線維柱帯切除術は,術中に強膜弁をタイトに縫合し,術後の適切な時期にレーザー切糸術を行いながら目標とする眼圧レベルまで調整する1.4)ことにより,手術が完結する.すなわち,術後管理の優劣がその成功を大きく左右するといっても過言ではない.しかし,目標眼圧を維持するために,どのように眼圧を調整していけばよいかという,術後管理についての報告は少なく6.8),術者の経験によるところが大きいのが現状である.また,過去の報告6.8)は輪部基底線維柱帯切除術後のもので,円蓋部基底線維柱帯切除術後の眼圧定量化に関する報告はない.〔別刷請求先〕松下恭子:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Reprintrequests:KyokoMatsushita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikata-cho,Kita-ku,Okayama-shi,Okayama700-8558,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(129)1641 今回は,広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)に対する円蓋部基底線維柱帯切除術の初回手術例を対象として,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討したので報告する.今回は,広義原発開放隅角緑内障(広義POAG)に対する円蓋部基底線維柱帯切除術の初回手術例を対象として,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討したので報告する.2005年7月から2008年11月に岡山大学眼科で初回円蓋部基底線維柱帯切除術を施行した広義POAG54例62眼を対象とした.原則,眼科手術既往のある症例は除外したが,小切開白内障手術既往(22眼)のみ対象に含めた.術者は3名,術式・術後管理は統一して行った.術式を図1に示す.角膜輪部に7-0バイクリル糸で制御糸をかけたのち,円蓋部基底にて結膜を切開した.強膜を横4mm×縦3.5mmで切開,約1/2層の厚みで第一強膜弁を作製し,その内部にさらに第二強膜弁を約4/5層の厚みで作製した後に切除して,線維柱帯部から円蓋部側の強膜切開線に達する強膜弁下のトンネルを作製した.0.04%マイトマイシンCを浸した吸血スポンジ(MQAR)を結膜下および強膜弁の上下に3分塗布した後,生理食塩水100mlで洗浄した.その後,白内障同時手術例では強膜弁下前方から前房内に穿孔し,超音波白内障手術を施行,眼内レンズを挿入して前房内の粘弾性物質を洗浄した.強角膜片を切除,周辺虹彩切除を行った.強膜弁は10-0ナイロン糸にて4.7糸縫合,結膜は放射状切開部を連続縫合,輪部は半返し縫合を行った.房水を強膜弁後方から流出させ,びまん性の濾過胞を形成するため,レーザー切糸は基本的に円蓋部側から順に行っているが,押してみた際の濾過胞の広がり方や,術中の糸の圧14mmHgを超えた最初の時点,あるいは点眼追加・再手術を行った時点とした.統計解析はJMP8.0(SAS,東京)を用いて解析し,有意水準はp<0.05とした.II結果対象となった症例は54例62眼であった.男性29例35眼,女性25例27眼,平均年齢は70.8±9.1歳(平均±標準偏差)(50.89歳),平均経過観察期間は16.8±10.6カ月(2.43カ月)であった.白内障同時手術は29例31眼に行った.強膜弁の平均縫合数は6.8±1.6本,術後2週間以内での平均切糸数は2.8±2.3本であった.平均眼圧は術前22.2±10.0mmHgから術後1年9.6±2.3mmHg(n=36),2年11.2±2.4mmHg(n=15),最終受診時の平均眼圧は9.3±3.3mmHgと有意に下降した(対応のあるt検定p<0.0001)(図2).全症例の眼圧コントロール率の結果を示す.KaplanMeier生命表法による14mmHg以下へのコントロール率は,術後1年,2年とも88.1%であった(図3).術後1カ月目以降の生存群と死亡群の眼圧経過は,それぞれ1カ月目8.5±3.0mmHg,13.0±4.9mmHg(p=0.01),3カ月目8.4±2.0mmHg,14.2±3.4mmHg(p<0.0001),6カ月目8.9±2.3mmHg,14.3±2.6mmHg(p=0.002)といずれの時期も生存群の眼圧が有意に低かった(Mann-Whitneyの検定)(図4).353025討した.エンドポイントは術後1カ月以降に2回連続して眼54mm0術前369121518212427303642(月)眼圧(mmHg)効き具合で,切糸する糸を選択した.眼圧測定はGoldmann20applanationtonometerで行い,術後抗菌薬点眼とステロイ15ド点眼は1.3カ月間投与した.10眼圧コントロール率はKaplan-Meier生命表法を用いて検3.5mmn=62593623155図2平均眼圧経過死亡症例は除く.1.00.10.20.30.40.50.60.70.80.9①結膜切開②強膜弁作製③トンネル作製4~7糸連続半返し生存率061218243036424854(月)④強角膜片・虹彩切除⑤強膜弁縫合⑥結膜縫合図1当科の術式図3眼圧コントロール率1642あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(130) 死亡群死亡群400.99mmHg未満(n=35)350.8300.79mmHg以上(n=27)生存群0.6眼圧(mmHg)生存率250.50.40.320150.2100.15061218243036424854(月)0術前1369121518212427303642(月)図6術14日目の眼圧値とコントロール成績死亡群n=74221生存群55553421145図4生存群と死亡群の平均眼圧経過1.015:生存群(n=55):死亡群(n=7)死亡群(n=7)0.110生存群(n=55)5術後00.11.003日7日14日1カ月3カ月術前図5生存群と死亡群の術後早期眼圧経過図7術前後の視力変化2520眼圧(mmHg)生存群と死亡群の早期眼圧経過は,それぞれ3日目13.7±6.3mmHg,13.9±6.8mmHg(p=0.95),7日目10.1±4.1mmHg,9.9±4.0mmHg(p=0.72),14日目8.4±4.0mmHg,9.4±1.3mmHg(p=0.09)で両群間に有意差はみられなかった(Mann-Whitneyの検定)(図5).術後早期の眼圧と中期予後との関係を検討するために,術後14日目の眼圧が9mmHg未満であった群と,9mmHg以上であった群に分けてKaplan-Meier生命表で比較したところ,9mmHg未満の群では術後1年以降の生存率が96.6%であったのに対し,9mmHg以上の群では77.3%となり,両群間に有意差がみられた(log-rank検定p=0.01)(図6).また,白内障同時手術での生存群と単独手術での生存群の平均眼圧経過は,それぞれ術前20.4±6.5mmHg,25.4±13.6mmHg(p=0.16),1カ月目8.2±2.7mmHg,8.9±3.4mmHg(p=0.64),3カ月目8.1±2.2mmHg,8.8±1.8mmHg(p=0.23),6カ月目8.8±2.6mmHg,9.1±1.8mmHg(p=0.42)で両群間に有意差はみられなかった(Mann-Whitneyの検定).強膜弁の縫合数は生存群と死亡群でそれぞれ6.9±1.6本,6.1±1.6本(p=0.32),術後に切糸を始めた時期は2.8±4.0日,1.6±0.8日(p=0.50),術後14日以内の切糸数は2.7±2.5本,3.5±1.1本(p=0.57)で両群に有意差はなかった(Mann-Whitneyの検定).術前後の視力については,2段階以上の改善を認めたものが7眼(11.3%),不変であったものが50眼(80.6%),2段(131)階以上の悪化を認めたものが5眼(8.1%)であった(図7).術後早期合併症は,脈絡膜.離14眼(22.6%),浅前房11眼(17.7%),縫合不全3眼(4.8%)であった.強膜弁再縫合を行ったのは1眼(1.6%)のみであった.生存群と死亡群に分けた合併症の頻度は,脈絡膜.離13眼(23.6%),1眼(14.3%)(p=0.57),浅前房10眼(18.2%),1眼(14.3%)(p=0.79),縫合不全2眼(3.6%),1眼(14.3%)(p=0.21)で両群に有意差はみられなかった(Fisherの正確検定).III考按緑内障に対する濾過手術として線維柱帯切除術は広く行われている術式であるが,代謝拮抗薬マイトマイシンCの併用によって術後成績は格段に向上した.術中に強膜弁をタイトに縫合し,順次レーザー切糸して眼圧を調整していくが,このタイミングが遅すぎると,濾過胞は瘢痕化して眼圧は下がらないし,逆に早すぎると,持続的な低眼圧となり,遷延性の脈絡膜.離や黄斑症など,視力予後を脅かす深刻な合併症の誘因となる.今回,目標眼圧を維持するための術後眼圧定量化について検討した.忍田ら5)は術後1週間の平均眼圧が15mmHg未満で長期予後が良好と報告している.また,Haraら6)は術後9.14日の平均眼圧が8mmHg,清水ら7)は術後4週間目の眼圧が7.12mmHgで長期予後が良好と報告している.しかし,これらの報告での術式は輪部基底線維柱帯切除術であたらしい眼科Vol.28,No.11,20111643 あり,円蓋部基底線維柱帯切除術での報告はない.Fukuchiらあり,円蓋部基底線維柱帯切除術での報告はない.Fukuchiらは円蓋部基底結膜弁と輪部基底結膜弁で術後眼圧に差はないが,円蓋部基底結膜弁では術後早期の管理に注意が必要であると述べている.線維柱帯切除術後の限局した無血管濾過胞は,その後の晩期濾過胞漏出や濾過胞関連感染症の原因となりやすいが,円蓋部基底結膜弁による線維柱帯切除術は後方に瘢痕を形成しにくく,びまん性に広がる血管に富んだ壁の厚い濾過胞を形成する傾向があることが報告されている9).輪部基底結膜弁による線維柱帯切除術に比較して,上述のような晩期合併症のリスクが減少する可能性があると考え,岡山大学眼科では基本的に初回手術は全例円蓋部基底線維柱帯切除術を選択しているが,後方の結膜の瘢痕で濾過胞がせき止められる輪部基底結膜弁と後方までびまん性に濾過胞が広がる円蓋部基底結膜弁とでは術後経過が異なるかもしれない.そのため,今回筆者らは広義POAGの初回手術例のみを対象として検討を行った.目標眼圧の設定においては,岩田10)が提唱した「初期は19mmHg以下,中期は16mmHg以下,後期は14mmHg以下」を指標の一つとしているが,線維柱帯切除術が必要となる症例はほとんどが後期症例であったため,今回は14mmHg以下へのコントロール率を用いて成績比較した.輪部基底線維柱帯切除術でHaraら6)が術後9.14日の平均眼圧が8mmHgの場合長期予後良好という報告より,筆者らも実際の臨床の場では,術後2週目に眼圧8mmHg前後でびまん性の濾過胞が形成されている状態を目標として管理してきた.生存群と死亡群の術後早期の眼圧経過をみたところ,術3日目から14日目まで両群で有意差は認めないものの,14日目で生存群の平均眼圧は8.4±4.0mmHgに対し,死亡群では9.4±1.3mmHg(p=0.09)で,14日目の眼圧が9mmHgを境に成績が左右されている傾向がみてとれた.そこで,術後14日目の眼圧が9mmHg未満であった群と,9mmHg以上であった群に分けて検討を行い,術後14日目の時点で眼圧が9mmHg未満の群では有意に成績が良好という結果となった.一方,生存群と死亡群の間で脈絡膜.離,浅前房,縫合不全など,術後早期合併症の頻度にも差は認めなかったので,術後14日目で9mmHg未満を目指して管理することによる術後早期合併症の大幅な増加はみられないものと思われた.また,生存群の術後眼圧経過において白内障手術の併用群と非併用群との間には統計学的な有意差はなかった.広義POAGの初回手術症例で,最終的に目標眼圧を14mmHg以下にする場合には,術後14日目で眼圧が9mmHg未満になることを目標に管理していけばよいと考える.ただし,最終的には,個々の症例の条件(年齢,結膜の状態)や施設での手術方法(結膜切開法,強膜弁の形・大きさ・厚み,強膜開窓部の大きさ,縫合糸の締め方)によっても左右されるので,臨機応変に対応していくことが必要と思われる.文献1)ShlomoM,IsaacA,JosephGetal:Tightscleraflaptrabeculectomywithpostoperativelasersuturelysis.AmJOphthalmol109:303-309,19902)KarlSP,RobertJD,PaulAWetal:LateargonlasersuturelysisaftermitomycinCtrabeculectomy.Ophthalmology100:1268-1271,19933)SinghJ,BellRWD,AdamsAetal:Enhancementofposttrabeculectomyblebformationbylasersuturelysis.BrJOphthalmol80:624-627,19964)AsamotoA,MichaelEY,MatsushitaMetal:Aretrospectivestudyoftheeffectsoflasersuturelysisonthelong-termresultoftrabeculectomy.OphthalmicSurg26:223-227,19955)忍田太紀,山崎芳夫:マイトマイシンンC併用線維柱帯切除術における術後眼圧定量化の指標.臨眼54:785-788,20006)HaraT,AraieM,ShiratoSetal:Conditionsforbalancebetweenlowernormalpressurecontrolandhypotonyinmitomycintrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol236:420-425,19987)清水美穂,丸山幾代,八鍬のぞみほか:マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの術後成績に影響を及ぼす臨床因子.あたらしい眼科17:867-870,20008)FukuchiT,UedaJ,YaoedaKetal:Comparisonoffornix-andlimbus-basedconjunctivalflapsinmitomycinCtrabeculectomywithlasersuturelysisinJapaneseglaucomapatients.JpnJOphthalmol50:338-344,20069)AgbejaAM,DuttonGN:Conjunctivalincisionsfortrabeculectomyandtheirrelationshiptothetypeofblebformation─apreliminarystudy.Eye1:738-743,198710)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,1992***1644あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(132)

防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1635.1639,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1635.1639,2011c井上賢治*1増本美枝子*1若倉雅登*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座OcularHypotensiveEffectsandSafetyofLatanoprostwithoutBenzalkoniumHydrochlorideKenjiInoue1),MiekoMasumoto1),MasatoWakakura1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性を調べた.対象および方法:2010年5月.12月に井上眼科病院を受診した緑内障患者44例44眼を対象とした.防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬を正常眼圧緑内障に対して単剤投与した20例(単剤群),防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬から変更した14例(変更群),防腐剤無添加カルテオロール点眼薬に追加した10例(追加群)に分け,点眼1カ月後,3カ月後の眼圧を測定し比較した.副作用を来院ごとに調査した.変更群では点眼前後の角膜上皮障害を評価した.結果:単剤群,追加群では点眼1,3カ月後に眼圧は有意に下降した.変更群では点眼1カ月後に眼圧は有意に下降したが,3カ月後は同等であった.2例(4.5%)(掻痒感,眼瞼下垂が各1例)が副作用により点眼中止となった.変更群で点眼1カ月後に角膜上皮障害が6例(42.9%)で改善した.結論:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬は単剤投与,追加投与,変更投与により3カ月間にわたり強力な眼圧下降を示し,95%の症例で安全に使用できた.Purpose:Toinvestigatetheocularhypotensiveeffectsandsafetyoflatanoprostwithoutbenzalkoniumhydro-chloride(BAC).Methods:Twentypatientswithnormal-tensionglaucoma(monotherapygroup),14patientswhochangedfromlatanoprostwithBAC(changedtherapygroup)and10patientsreceivingaddedcarteololwithoutBAC(additionaltherapygroup)receivedlatanoprostwithoutBAC.Intraocularpressureandadversereactionswerecheckedat1and3monthsaftertreatment.Inthechangedtherapygroup,superficialpunctatekeratitiswascheckedandcomparedbeforeandaftertreatment.Results:After1and3months,intraocularpressuredecreasedsignificantlyinthemonoandadditionaltherapygroups,butafter3monthsitremainedunchangedinthechangedtherapygroup.Becauseofadversereactions,2patients(4.5%)discontinuedlatanoprostwithoutBAC.After1month,superficialpunctatekeratitishadimprovedin6patients(42.9%)inthechangedtherapygroup.Conclusion:LatanoprostwithoutBAChadstronghypotensiveeffectsandwassafelyusedin95%ofallcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1635.1639,2011〕Keywords:防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬,眼圧下降効果,安全性,正常眼圧緑内障.latanoprostwithoutbenzalkoniumchloride,hypotensiveeffects,safety,normal-tensionglaucoma.はじめに現在緑内障治療として唯一エビデンスが得られているのが眼圧下降である1).眼圧下降のために通常は緑内障点眼薬による治療が第一選択である.点眼薬は効果と副作用を有し,副作用は点眼薬の基剤や防腐剤による影響で出現する.防腐剤は点眼びんの汚染を防ぐ目的で含有されているが,防腐剤(特に塩化ベンザルコニウム:BAC)によるアレルギーや角膜上皮障害が報告されている2.6).そこで防腐剤無添加の点眼薬が開発中であったが,近年フィルター付きの防腐剤無添加の緑内障点眼薬が使用可能になり,その有用性が報告されている7.9).プロスタグランジン関連薬は強力な眼圧下降効果と1日1回点眼の利便性から緑内障点眼薬の主流となっているが,防腐剤無添加のプロスタグランジン関連薬は今まで上市されて〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(123)1635 いなかった.2010年に防腐剤無添加のラタノプロスト点眼薬が使用可能になり,今回この防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性を検討した.いなかった.2010年に防腐剤無添加のラタノプロスト点眼薬が使用可能になり,今回この防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果と安全性を検討した.防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬(ラタノプロストPF,日本点眼薬研究所)の眼圧下降効果と安全性を検討するにあたり,以下の3つの臨床試験を行った.3つの臨床試験ともに片眼のみ点眼例はその片眼を,両眼点眼例は点眼前の眼圧が高い眼を選択した.来院時ごとに副作用を調査した.3つの臨床試験は井上眼科病院の倫理審査委員会の承認を得て,研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を得た後に行った.1.正常眼圧緑内障(NTG)に対する防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の単剤投与による眼圧下降効果と安全性2010年6月.11月に井上眼科病院を受診し,防腐剤無添加ラタノプロスト(ラタノプロストPF)点眼薬を開始した連続したNTG患者20例20眼(男性5例,女性15例)を対象とした.年齢は60.6±14.7歳(平均±標準偏差)(37.83歳),Humphrey視野プログラム中心30-2Swedishinteractivethresholdalgorithmstandard(SITA-S)のmeandeviation値は.3.9±4.9dB(.13.9.1.1dB)であった.防腐剤無添加ラタノプロスト(1日1回夜点眼)を単剤で処方し,点眼前,点眼1カ月後,3カ月後に眼圧を同一検者がGoldmann圧平眼圧計で,症例ごとにほぼ同時刻に測定し,比較した〔ANOVA(analysisofvariance,分散解析)解析〕.点眼1カ月後,3カ月後の眼圧下降幅と眼圧下降率を算出し,比較した(対応のあるt検定).2.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬から防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬への変更による眼圧下降効果と安全性2010年5月.10月に井上眼科病院を受診し,防腐剤添加ラタノプロスト(キサラタンR)点眼薬を単剤で使用し,防腐剤無添加ラタノプロスト(ラタノプロストPF)点眼薬に変更した緑内障患者14例14眼(男性1例,女性13例)を対象とした.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬から防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬に変更した基準は,角膜上皮障害を有する(10例)あるいは違和感を訴えていた(4例)である.緑内障病型はNTG12例,原発閉塞隅角緑内障2例であった.年齢は65.2±15.3歳(32.82歳),Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Sのmeandeviation値は.4.7±4.4dB(.15.3..0.9dB)であった.使用中の防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬を中止し,washout期間なしで防腐剤無添加ラタノプロスト(1日1回夜点眼)を開始した.変更前,変更1カ月後,3カ月後の眼1636あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011圧を同一検者がGoldmann圧平眼圧計で,症例ごとにほぼ同時刻に測定し,比較した(ANOVA解析).変更前と変更1カ月後に角膜上皮障害をArea-Density分類10)で評価した.3.防腐剤無添加カルテオロール点眼薬への防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の追加投与による眼圧下降効果と安全性2010年6月.12月に井上眼科病院を受診し,防腐剤無添加2%カルテオロール(ブロキレートRPF)点眼薬を単剤で使用し,防腐剤無添加ラタノプロスト(ラタノプロストPF)点眼薬を追加した連続した緑内障患者10例10眼(女性10例)を対象とした.防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬を追加する基準は,防腐剤無添加2%カルテオロール点眼薬のみでは眼圧下降が不十分との判定とした.緑内障病型は原発開放隅角緑内障6例,NTG4例であった.年齢は67.1±5.6歳(56.76歳),Humphrey視野プログラム中心30-2SITA-Sのmeandeviation値は.10.5±5.1dB(.17.6..5.4dB)であった.防腐剤無添加2%カルテオロール点眼薬(1日2回朝夜点眼)は継続使用し,防腐剤無添加ラタノプロスト(1日1回夜点眼)を追加投与した.追加前,追加1カ月後,3カ月後の眼圧を同一検者がGoldmann圧平眼圧計で,症例ごとにほぼ同時刻に測定し,比較した(ANOVA解析).II結果1.NTGに対する防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の単剤投与による眼圧下降効果と安全性眼圧は点眼前16.3±1.9mmHg(n=20),点眼1カ月後14.6±2.0mmHg(n=20),3カ月後14.6±2.1mmHg(n=18)であった(図1).点眼前と比較して点眼1カ月後,3カ月後に有意に下降した(p<0.001).眼圧下降幅は点眼1カ月後1.7±1.0mmHg,3カ月後1.5±1.8mmHgで同等であった.眼圧下降率は点眼1カ月後10.4±6.1%,3カ月後9.0±11.1%で同等であった.さらに点眼3カ月後における眼圧下降率が30%以上の症例は0例(0%),20%以上30%未満の症例は4例(22.2%)であった.眼圧下降率が10%未満であったノンレスポンダーは点眼1カ月後9例(45.0%),3カ月後8例(44.4%)であった.副作用(掻痒感)により1例(5.0%)が点眼1カ月後に点眼中止となった.点眼中止後に症状は消失した.1例が点眼1カ月以後の来院が中断した.2.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬から防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬への変更による眼圧下降効果と安全性眼圧は変更前12.8±2.3mmHg(n=14),変更1カ月後12.2±2.2mmHg(n=14),3カ月後12.2±2.6mmHg(n=13)であった(図2).変更前と比較して変更1カ月後は有意(124) 0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.020.022.024.0眼圧(mmHg)****0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.020.022.024.0眼圧(mmHg)**0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.020.022.024.0眼圧(mmHg)****0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.020.022.024.0眼圧(mmHg)**後変更前変更1カ月後変更3カ月後図1正常眼圧緑内障に対する防腐剤無添加ラタノプロスト図2防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬から防腐剤無添加点眼薬の点眼前後の眼圧ラタノプロスト点眼薬への変更前後の眼圧**p<0.001,ANOVA.*p<0.05,ANOVA.0.02.04.06.08.010.012.014.016.018.020.022.024.0眼圧(mmHg)追加前追加1カ月後追加3カ月後****図3防腐剤無添加カルテオロール点眼薬への防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の追加前後の眼圧**p<0.001,ANOVA.に下降した(p<0.05)が,3カ月後は同等であった(p=0.08).角膜上皮障害は,変更前はA0D0が4例,A1D1が7例,A2D1が2例,A2D2が1例,変更1カ月後はA0D0が7例,A1D1が7例であった.変更後にareaあるいはdensityが改善した症例は6例,変わらなかった症例は8例,悪化した症例は0例であった.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬による違和感は全例(4例)で消失した.副作用(眼瞼下垂)により1例(7.1%)が変更1カ月後に点眼中止となった.点眼中止後に症状は改善した.3.防腐剤無添加カルテオロール点眼薬への防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の追加投与による眼圧下降効果と安全性眼圧は追加前18.8±3.1mmHg(n=10),追加1カ月後16.0±2.8mmHg(n=10),3カ月後15.8±2.7mmHg(n=10)であった(図3).追加前と比較して追加1カ月後,3カ月後に有意に下降した(p<0.001).副作用が出現した症例はなかった.III考按今回使用した防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬(ラタノプロストPF)は,PF(preservativefree)デラミ容器Rにより防腐剤を無添加としている(図4).PFデラミ容器Rは,(125)内側二重ボトル構造外側キャップフィルター:容器内に外部の細菌や真菌が入らない吸引弁:フィルター上の残液を確実に容器内に戻す図4PFデラミ容器Rノズル先端部の吐出口側に0.2μmメンブランフィルターを有し,外部からの微生物の侵入を防ぎ,フィルター直下にバルブを配置し,フィルター上の残液を容器内側に引き込み,微生物の増殖を防いでいる.防腐剤としてBACがよく使用されているが,BACは殺菌作用のほかに薬物の眼内移行を促進させる作用を有しており,BAC無添加点眼薬の眼圧下降効果は減弱するのではないかという懸念がある.そこで今回防腐剤無添加ラタノプロストの眼圧下降効果を日本人に多いNTG11)に対する単剤投与,防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬からの変更投与,あるいは防腐剤無添加カルテオロール点眼薬への追加投与に分けて検討した.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬の日本人NTG患者に対する眼圧下降率は9.8%12),10.6%13),11.2.15.1%14),13.15%15),17.0%16),17.0%17),18.0.23.8%18),28.6%19)と報告されている.今回の防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬の眼圧下降率は9.0.10.4%で過去の報告12.19)とほぼ同等あるいはやや低値を示した.その理由として,点眼薬の眼圧下降力の差,薬物の眼内移行の差,点眼前眼圧の差,コンプライアンスが評価できなかったことなどが考えられる.しかし,今回の防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬から防腐剤無添あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111637 加ラタノプロスト点眼薬へ変更した症例の眼圧が有意に下降(変更1カ月後)あるいは変わらなかった(変更3カ月後)ことから,この2種類の点眼薬の眼圧下降効果はほぼ同等と考加ラタノプロスト点眼薬へ変更した症例の眼圧が有意に下降(変更1カ月後)あるいは変わらなかった(変更3カ月後)ことから,この2種類の点眼薬の眼圧下降効果はほぼ同等と考点眼薬に眼圧下降を得られないノンレスポンダーが存在する.ノンレスポンダーを眼圧下降率10%未満と定義すると,NTG患者を対象とした防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度は13.6.40%18),29.33.3%14),約30%6),37%12)であり,今回の防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬のノンレスポンダーの頻度(44.4.45.0%)はやや高い可能性がある.防腐剤無添加b遮断点眼薬に防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬を追加投与した報告は過去にないが,防腐剤添加b遮断点眼薬に防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬を追加投与した報告は多数ある20.23).その際の眼圧下降率は13.0%20)18.3.21.1%21),19.2.22.4%22),20.3%23)で,今回(15.4%とほぼ同等であった.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬と防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬はb遮断点眼薬に追加投与した際の眼圧下降効果は同等と考えられる.今回,副作用が出現した症例は4.5%(2例/44例)で,掻痒感と眼瞼下垂が各1例であったが,いずれも点眼中止により症状は改善し,後遺症もなかった.眼瞼下垂は防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬では報告がなく,今回は点眼前後で比較は行っておらず,点眼後に明らかな眼瞼下垂は認めなかったが,患者が「瞼が下がった」と訴えたので,患者の希望により点眼中止とした.副作用が出現した症例は,防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬では7.3%14),18.5%21)と報告されている.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬を防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬に変更した際の角膜上皮障害の報告はない.大木らの報告8)では防腐剤添加緑内障点眼薬を防腐剤無添加カルテオロールに変更したところ,変更1カ月後に角膜上皮障害が24%の症例で改善した.今回も防腐剤無添加ラタノプロストへの変更で角膜上皮障害が42.9%の症例で改善した.防腐剤による角膜上皮への障害が示唆される.以上から防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬は防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬と比べて同等,あるいはそれ以上の安全性を有すると考えられる.防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬はNTG患者に対して単剤投与,あるいは防腐剤無添加カルテオロール点眼薬に追加投与した際に,3カ月間にわたり強力な眼圧下降効果を示し,安全性もほぼ良好であった.防腐剤添加ラタノプロスト点眼薬から変更した際にも眼圧を維持することができ,角膜上皮障害は改善した.これらの点から防腐剤無添加ラタノプロスト点眼薬は眼圧下降効果と安全性の面から今後の臨床使)(,)用に対して期待がもてる緑内障点眼薬である.しかし今回の試験は3カ月間投与という短期間であり,今後はさらに長期的な調査が必要と考える.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19982)GreenK,JohnsonRE,ChapmanJMetal:Preservativeeffectsonthehealingrateofrabbitcornealepithelium.InOcularToxicology.p37-41,MarcelDekker,NewYork,19903)DeSaintJM,BrignoleF,BringuierAFetal:EffectsofbenzalkoniumchlorideongrowthandsurvivalofChangconctivalcells.InvestOphthalmolVisSci40:619-630,19994)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,19805)BaudouinC,deLunardoC:Shorttermcomparativestudyoftopical2%carteololwithandwithoutbenzalkoniumchlorideinhealthyvolunteers.BrJOphthalmol82:39-42,19986)石岡みさき,島崎潤,八木幸子ほか:bブロッカー点眼と防腐剤が涙液・眼表面に及ぼす影響.臨眼58:14371440,20047)井上賢治,若倉雅登,宮永嘉隆ほか:防腐剤無添加および添加ニプラジロール点眼薬の微生物汚染.日眼会誌114:604-611,20108)大木弥栄子,秦裕子,塩田洋:防腐剤を含まない塩酸カルテオロール点眼薬(ブロキレートRPF点眼液)の検討.臨眼63:1463-1466,20099)新城百代,仲村佳己,仲村優子ほか:防腐剤を含まないb遮断薬による角膜上皮障害の改善.眼臨97:539-542,200310)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctuatekeratopathymagnitudeanditscorrectionwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200311)鈴木康之,山本哲也,新家眞ほか:日本緑内障学会多治見疫学調査(多治見スタディ)総括報告.日眼会誌112:1039-1058,200812)石橋真吾,廣瀬直文,田原昭彦:正常眼圧緑内障患者の眼圧日内変動に対するラタノプロストの効果.あたらしい眼科21:1693-1696,200413)中元兼二,南野麻美,紀平弥生ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト点眼前後の眼圧および視神経乳頭の変化.あたらしい眼科18:1417-1419,200114)椿井尚子,安藤彰,福井智恵子ほか:投与前眼圧16mmHg以上と15mmHg以下の正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の比較.あたらしい眼科20:813-815,200315)TomitaG,AraieM,KitazawaYetal:Athree-yearprospective,randomizedandopencomparisonbetweenlatanoprostandtimololinJapanesenormal-tensionglaucomapatients.Eye18:984-989,20041638あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(126) 16)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果.臨眼57:288-291,200316)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼薬の眼圧下降効果.臨眼57:288-291,200318)美馬彩,泰裕子,村尾史子ほか:眼圧測定時刻に留意した,正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の検討.臨眼60:1613-1616,200619)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Influenceofocularhypotensiveeyedropsonintraocularpressurefluctuationwithposturalchangeineyeswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol143:693-695,200720)由井あかり,木村泰朗,橘信彦ほか:b-ブロッカー点眼液との併用投与におけるラタノプロスト点眼液の眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科17:1576-1578,200021)植木麻理,川上剛,奥田隆章ほか:ラタノプロストの眼圧下降作用と副作用.あたらしい眼科18:655-658,200122)中井正基,井上賢治,若倉雅登ほか:bブロッカー点眼薬にラタノプロストを追加した症例の眼圧下降効果.あたらしい眼科22:693-696,200523)河合裕美,林良子,庄司信行ほか:カルテオロールとラタノプロストの併用による眼圧下降効果.臨眼57:709713,2003***(127)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111639

各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液 への切替えによる眼圧下降効果

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1629.1634,2011c南野麻美*1谷野富彦*2中込豊*3鈴村弘隆*4宇多重員*1*1二本松眼科病院*2西鎌倉谷野眼科*3中込眼科*4中野総合病院眼科EfficacyandSafetyofBimatoprostasReplacementforOtherProstaglandinAnalogsMamiNanno1),TomihikoTanino2),YutakaNakagomi3),HirotakaSuzumura4)andShigekazuUda1)1)NihonmatsuEyeHospital,2)NishikamakuraTaninoEyeClinic,3)NakagomiEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospitalプロスタグランジン関連薬(PG薬)を3カ月以上使用し,眼圧コントロール不十分な広義原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者51例51眼において投与中のPG薬をビマトプロスト(Bim)へ切替え,眼圧下降効果と安全性を検討した.切替え前と切替え2,4,8,12,16,20,24週後における眼圧,結膜充血,角膜上皮障害を比較したところ,眼圧はすべての観察時点で下降し(すべてp<0.0001),結膜充血は16,20,24週後に有意に減少した(16,24週後各p<0.05,20週後p<0.01).角膜上皮障害に差はなかった.切替え前と切替え12,24週後にアンケートを実施し自覚症状(結膜充血,異物感,刺激感)を比較したところ,充血に変化はなく,異物感(各p<0.0001),刺激感(各p<0.001)は軽減した.以上より他のPG薬で眼圧下降効果が不十分な例ではBimへの切替えが有効と考えられた.Weevaluatedtheeffectivenessandsafetyofswitchingfromprostaglandins(PG)tobimatoprost(Bim)in51eyesof51primaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionpatientswhodidnotreachtheirtargetintraocularpressure(IOP)orwhosevisualfielddefectsprogressedafteratleast3monthsonPGtherapy.IOP,conjunctivalhyperemiaandsuperficialpunctatekeratopathy(SPK)weremeasuredatbaselineandat2,4,8,12,16,20and24weeksaftertheswitch.IOPwasreducedatalltimepoints,comparedwithbaseline(p<0.0001).Conjunctivalhyperemiawassignificantlyreducedat16,20and24weeks(p<0.05,p<0.01,respectively),whereasSPKdidnotchange.Patients’subjectivesymptomsregardingconjunctivalhyperemia,foreignbodysensationandstingingwereassessedatbaseline,12and24weeks;nochangewasnotedregardingconjunctivalhyperemia.Foreign-bodysensationandstingingwerereduced(p<0.0001,p<0.001,respectively).BimmightbeaneffectivereplacementinpatientswithinadequateIOPcontrolonPG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1629.1634,2011〕Keywords:緑内障,眼圧,ビマトプロスト,ラタノプロスト,トラボプロスト.glaucoma,intraocularpressure,bimatoprost,latanoprost,travoprost.はじめに現在,緑内障に対する治療でエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降させることであり,初期には薬物を用いできるだけ眼圧下降を図るのが一般的である.なかでもプロスタグランジン関連薬(prostaglandinanalogs:PG薬)は最大の眼圧下降効果が得られ,おもな副作用は眼局所のみであり,点眼回数が1日1回で,アドヒアランスの向上が期待できることから第一選択として使用されることが多い.2009年に新たに0.03%ビマトプロスト点眼液(ルミガンR,bimatoprost:Bim)が発売されプロスト系PG薬は4剤となり,その後,PG薬とb遮断薬,b遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の合剤が立て続けに使用可能となった.一方,米国ではBimが発売されてから10年以上が経過し,多くの臨床データやメタアナリシスが報告されている.それによるとBimの眼圧下降効果は他のPG薬と同等かそれ以〔別刷請求先〕南野麻美:〒132-0035東京都江戸川区平井4-10-7二本松眼科病院Reprintrequests:MamiNanno,M.D.,NihonmatsuEyeHospital,4-10-7Hirai,Edogawa-ku,Tokyo132-0035,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)1629 上上であり,結膜充血の頻度は高く1),角膜上皮障害は同程度3,4)とされている.またラタノプロスト(latanoprost:Lat)からの切替えではさらなる眼圧下降が得られる5.7)が,結膜充血はLat未使用者よりも起きにくいと報告されている8).国内では狭義原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)を対象とした第III相比較臨床試験において,副作用の発現頻度は若干高いものの眼圧下降効果はLatと同等以上であることが確認された9).そこで今回,PG薬単剤またはPG薬を含む2剤以上の併用療法で3カ月以上治療を継続し,目標眼圧に達しないか,視野障害の進行が疑われた広義POAGおよびOH患者を対象に,他のPG薬からBimへの切替えによる,眼圧下降効果および安全性,自覚症状の変化について検討した.I対象および方法1.対象対象は,2009年12月から2010年5月に中込眼科,西鎌倉谷野眼科,二本松眼科病院に通院中の患者のうち,狭義POAG,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG),OHで,矯正視力0.7以上,HumphreyFieldAnalyzerIIの中心30-2または24-2プログラムのmeandeviation(MD)が.15dB以上で,Lat,トラボプロスト(travoprost:Trav),タフルプロスト(tafluprost:Taf)のいずれかを3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われるもので,Bimへの変更に同意の得られた者を選択した.なお,1)角膜屈折矯正手術・濾過手術の既往,2)6カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)の既往,3)3カ月以内に緑内障治療薬を変更,4)重症の角結膜疾患を有する,5)緑内障・高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する,6)コンタクトレンズ装用の患者は除外した.評価対象眼は片眼とし,1眼のみが症例選択条件を満たした症例では当該眼を,両眼ともに条件を満たした症例では切替え前の眼圧が高い眼,同じ眼圧であったときには右眼を選択した.本試験は倫理委員会の承認を取得し,患者からの同意を得たうえで実施した.2.方法使用していたPG薬をBimへ切替え,切替え前および切替え2,4,8,12,16,20,24週後にゴールドマン圧平眼圧計(Goldmannapplanationtonometer:GAP)による眼圧測定,細隙灯顕微鏡による結膜充血および角膜上皮障害について観察した.切替え時に使用していたPG薬以外の眼圧下降薬はそのまま継続使用した.眼圧はGAPにて2回測定した平均値とし,結膜充血は各施設に配布した共通の標準写真を用いた5段階スコア(0,0.5,1,2,3)10)で評価した.角膜1630あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011上皮障害はフルオレセイン染色後にAD(area-density)分類11)を用い,A+Dの合計スコアで評価した.視力は切替え時,12,24週後に,視野は切替え時,24週後に測定した.また切替え時および12,24週後に,結膜充血,異物感(ごろごろする感じ),刺激感について,0から10段階のVisualAnalogScale(VAS)を用いた自覚症状アンケートを実施した.観察期間中に発生した有害事象についても観察した.結果の解析は,SASver.8.0を用いて,眼圧はpairedt-test,スコアはWilcoxonsigned-ranktestまたはMann-WhitneyUtestにより行い,有意水準は5%とした.II結果選択基準を満たし,評価対象となったのは51例51眼で,男性29例,女性22例,平均年齢は66.7±11.3歳,平均MD値は.6.48±4.97dB,矯正視力の中央値は1.2,range0.7.1.5(logarithmicminimumangleofresolution:logMAR視力:.0.03±0.07)であった.緑内障の病型別では狭義POAG31眼(60.8%),NTG19眼(37.3%),OH1眼(2.0%)であった.治療薬剤数は,PG薬単剤が18眼(35.3%),PG薬を含む2剤併用が13眼(25.5%),3剤併用が17眼(33.3%),4剤併用が3眼(5.9%)であり,併用例が全体の64.7%を占めていた.切替え前に使用していたPG薬はLat22眼(43.1%),Trav24眼(47.1%),Taf5眼(9.8%)であった.Tafは5眼と少なかったため,切替え前PG薬別の検討項目においては評価対象から除外した.有害事象(鞍結節部髄膜腫)が1例に生じたが因果関係は否定された.その他,副作用は認められず,中止例はなかった.1.眼圧切替え時,切替え4,12,24週後の4つの観察時点で眼圧を測定できた50例を評価対象とした.図1に全症例および単剤,併用治療による眼圧推移を示す.全症例における切替え時の平均眼圧は18.7±3.7mmHg,4週後16.1±3.4mmHg,12週後15.3±3.5mmHg,24週後15.1±2.8mmHgであり,いずれの観察時点でも有意に下降した(すべてp<0.0001,pairedt-test).また眼圧下降率は4週後13.2±10.5%,12週後17.6±12.3%,24週後17.3±14.6%であった.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降し(すべてp<0.0001,pairedt-test),各々の眼圧下降率は4週後13.2±8.8%,13.3±11.4%,12週後13.5±9.6%,19.7±13.1%,24週後17.0±13.6%,17.5±15.3%であった.前PG薬別ではLatからの切替えにより平均眼圧は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg(p=0.0007),12週後13.9±2.5mmHg(p<0.0001),24週後14.1±2.5mmHg(p=0.0024)と下降し,Travからの切替えでも切替え時19.5±3.6mmHg,4週後16.8±3.5mmHg(p<0.0001),12(118) 1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)1012141618202224眼圧(mmHg):全例(n=50):単剤(n=17):併用(n=33)************************************************************************************p<0.01,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test02468101214161820症例数2.0%6.0%22.0%30.0%18.0%22.0%10%以上の眼圧下降:35例(70.0%)10%以上の眼圧上昇:1例(2.0%)-20%≦-10%≦0%≦10%≦20%≦30%≦<-10%<0%<10%<20%<30%観察時期(週)図1ビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移眼圧下降率全症例で,いずれの観察時点でも,眼圧は切替え時より有意に図3切替え24週後における全例(n=50)の眼圧下降率別下降した.単剤,併用治療でも眼圧は有意に下降した.分布グラフ上の数値(%)は全例に占める割合を示す.24:前PG薬:Lat(n=21):前PG薬:Trav(n=24)********************************************p<0.01,***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)pairedt-test*p<0.05,**p<0.01(vs切替え時)22Wilcoxonsigned-ranktest眼圧(mmHg)20100****24812162024切替え時189080全症例に対する割合(%)16****701460**:35012:24010:1切替え時2481216202430:0.5観察時期(週)20:010図2ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる眼圧の推移0前PG薬Lat(n=21):単剤7例,併用14例.前PG薬Trav(n=24):単剤8例,併用16例.Lat,Travからの切替えで,切替え時よりいずれの観察時点でも有意に眼圧は下降した.週後16.1±3.9mmHg(p<0.0001),24週後15.9±2.9mmHg(p<0.0001)と下降した(pairedt-test)(図2).眼圧下降率はLat,Travそれぞれ4週後13.1±12.4%,13.3±9.3%,12週後17.3±11.1%,17.3±12.9%,24週後14.5±17.7%,17.7±10.3%であった.24週後における眼圧下降率別の症例分布を図3に示す.10%以上の眼圧下降を示したのは35眼(70%),逆に10%以上の眼圧上昇を示したのは1眼(2.0%)であった.2.結膜充血および角膜上皮障害切替え時における結膜充血スコアは,スコア0が11眼(21.6%),スコア0.5が19眼(37.3%),スコア1が15眼(29.4%),スコア2が6眼(11.8%)であり,16週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が25眼(56.8%),スコア1が8眼(18.2%),スコア2が2眼(4.5%),20週後ではスコア0が9眼(20.5%),スコア0.5が28眼(63.6%),スコア1が6眼(13.6%),スコア2が1眼(2.3%),24週後で(119)(51)(50)(51)(47)(51)(44)(44)(50)観察時期(週)図4充血スコアの推移横軸()の数値は症例数を示す.切替えにより結膜充血スコアは,16,20,24週後において有意な改善を認めた.はスコア0が9眼(18.0%),スコア0.5が30眼(60.0%)スコア1が9眼(18.0%),スコア2が2眼(4.0%)で,16,(,)20,24週後において有意な改善を認めた(16週後p=0.0313,20週後p=0.0028,24週後p=0.0394,Wilcoxonsigned-ranktest)(図4)が,前PG薬別に充血スコアの推移をみると,Lat,Travからの切替えともに切替え前後で有意差は認められなかった(図5).またすべての観察時点で切替え時からの変化量に両薬剤間で差はなかった.角膜上皮障害については,切替え時のA+Dの合計スコアはスコア0が38眼(74.5%),スコア2が8眼(15.7%)スコア3が4眼(7.8%),スコア4が1眼(2.0%)であり,(,)12週後ではスコア0が35眼(68.6%),スコア2が10眼(19.6%),スコア3が6眼(11.8%),24週後ではスコア0が34眼(68.0%),スコア2が12眼(24.0%),スコア3があたらしい眼科Vol.28,No.11,20111631 前PG薬:Lat前PG薬:Trav10010090908080全症例に対する割合(%)全症例に対する割合(%)60:37605040302010705040:230:1:0.520:01000切替え時24812162024切替え時24812162024(22)(22)(22)(20)(22)(18)(19)(21)(22)(23)(24)(23)(24)(22)(21)(24)症例数観察時期(週)観察時期(週)図5ラタノプロスト(Lat)またはトラボプロスト(Trav)からビマトプロストへの切替えによる充血の推移各グラフの横軸()の数値は症例数を示す.充血スコアはLat,Travからの切替え前後で有意な差は認められなかった.***p<0.001,****p<0.0001(vs切替え時)Wilcoxonsigned-ranktest30充血:12週後30:12週後****30刺激感:12週後***25異物感:24週後25:24週後****25:24週後***症例数症例数2020201515151010105550-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-202468100-10-8-6-4-20246810切替え時との差切替え時との差切替え時との差図6切替え12,24週後におけるVAS変化量各n=48.充血の平均VASスコアは切替え時と,12,24週後で変化はなかった.異物感,刺激感の平均VASスコアは切替え時より,12,24週後で有意に改善していた.4眼(8.0%)と,いずれの観察時点でも変化はなかった.3.視力,視野観察期間中,logMAR視力は切替え時.0.03±0.07,12週後.0.04±0.07,24週後.0.04±0.07,平均MD値は切替え時.6.48±4.97dB,24週後.5.77±5.99dBと変化は認められなかった.4.自覚症状アンケート図6に切替え時,12,24週後における充血,異物感,刺激感のVASスコアの分布を示す.充血の平均VASスコアは切替え時1.36±2.15,12週後1.38±2.07,24週後1.19±2.05と変化はなかった.前PG薬別でもLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時0.77±1.47,1.75±2.53,12週後1.49±2.22,1.09±1.86,24週後1.03±2.10,1.03±1.76であり,切替え前後で差は認められなかった.また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.異物感の平均VASスコアは切替え時1.95±2.37,12週後0.54±1.16,24週後0.58±1.14で,12,24週後に有意な改善を認めた(ともにp<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.61±2.43,2.52±2.44,12週後0.64±1.25,0.45±1.10,24週後0.58±1.25,0.66±1.16であり,切替え12,24週後で有意に改善した(Lat:12週後p=0.0410,24週後p=0.0220,Trav:12週後p<0.0001,24週後p<0.0001,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後6眼(30.0%),24週後6眼(30.0%),Travでは12週後12眼(52.2%),24週後12眼(52.2%)で,Travからの切替えのほうが異物感の改善が多かった.刺激感の平均VASスコアは切替え時1.61±1.75,12週後0.87±1.52,24週後0.76±1.51であり,12,24週後で有意に改善していた(12週後p=0.0006,24週後p=0.0008,Wilcoxonsigned-ranktest)(図6).前PG薬別ではLatおよびTravの平均VASスコアは切替え時1.88±1.84,1.60±1.80,12週後1.07±1.92,0.65±1.13,24週後0.64±1.00,1632あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(120) 0.0.(Lat:24週後p=0.0056,Trav:12週後p=0.0016,24週後p=0.0088,Wilcoxonsigned-ranktest).また12,24週後において切替え時からのスコア変化量に両薬剤間で差はなかった.スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後9眼(45.0%),24週後9眼(45.0%),Travでは12週後10眼(43.5%),24週後10眼(43.5%)であった.III考按今回,選択基準を満たし,PG薬を3カ月以上点眼し,単剤または併用療法にて眼圧コントロールが不十分,または視野障害の進行が疑われ,次なる薬物治療のステップに進む必要がある狭義POAG,NTG,OH患者において,使用中のPG薬をBimへ切替え,眼圧下降効果と安全性,患者の自覚症状を検討した.眼圧は使用薬剤数やPG薬の種類に拘わらずBimへの切替えにより有意に下降した.Lat単剤および併用治療に対する効果不十分な症例でLatをBimへ切替えた過去の報告7)では,切替え時の眼圧は20.4mmHg,2カ月後の眼圧下降幅は3.4mmHg(下降率の記載なし)とされている.今回,Latからの切替え症例における眼圧値は切替え時17.0±3.3mmHg,4週後14.5±2.6mmHg,12週後13.9±2.5mmHg,24週後14.1±2.5mmHgで,眼圧下降率は4週後13.1±12.4%,12週後17.3±11.1%,24週後14.5±17.7%であり,切替え時の眼圧は若干低いものの,ほぼ同様の結果を得ることができた.一方,TravからBimへの切替えの報告は見当たらず,直接比較試験では両薬剤間の眼圧下降効果にほとんど差はないとされている12).しかしLat効果不十分例に対するTravとBimの効果を比較した報告5)では,眼圧下降効果に差が認められており,Bimの作用部位,プロスタマイド受容体が他のPG薬のプロスタノイドFP受容体とは異なる点13)が今回の結果に影響したと考えられた.また,今回対象となった症例は前PG薬のノンレスポンダーで,Bimへの切替えによって眼圧が下降した可能性がある.今後,無治療時眼圧からの各点眼薬の眼圧下降についての検討が必要である.なお,切替え時の眼圧がLat17.0±3.3mmHgに比較しTrav19.5±3.6mmHgと高いが,これは参加3施設においてLat効果不十分例にTravを使用していた例が多いことが影響したものと推測された.結膜充血については,過去の報告でBimは結膜充血の頻度が高い1)が,Latから切替えてBimを使用すると未使用時に比べ充血が起こりにくく8),LatからTravへの切替えよりも充血増強例が少ないとされている5).今回の検討では,TravからBimへの切替えで,有意差はなかったもののスコア1以上の充血が減少した.これに加え前PG薬からの切替(121)えによりBimの充血が起こりにくかったため,全体として16週以降は充血が改善される結果となったと考えられた.VASを用いた患者アンケートでも,有意差はなかったものの,スコアが改善した症例はLatからの切替えでは12週後2眼(10.0%),24週後3眼(15.0%),Travでは12週後7眼(30.4%),24週後8眼(34.8%)で,充血が改善したと回答した症例はLatよりもTravからの切替え例で多く,充血スコアの結果を支持していると考えられた.また,充血については切替え時に十分な説明を行っており,充血が理由で中止を希望した患者はいなかったことから,他のPG薬からの切替えという使用方法であればBimの結膜充血はアドヒアランスへの影響が少ないことが示唆された.点眼時の異物感と刺激感については切替えにより改善した.これは,Lat(キサラタンR:pH6.5.6.9),Trav(トラバタンズR:pH5.7),Bim(ルミガンR:pH6.9.7.5)のpHの違いで,より涙液のpH7.75±0.1914)に近いBimへの切替えにより,点眼時の異物感,刺激感が改善されたと考えられた.このことから,他PG薬で異物感,刺激感を訴える患者にはBimへの変更を考慮してもよいと思われた.PG薬の副作用として,最近上眼瞼溝の顕性化が問題となっているが,今回は検討を行わず,また経過観察中,眼周囲の変化を訴えた症例もなかった.緑内障は長期の管理が必要な慢性疾患であり,薬物治療における点眼薬の選択に当たっては,眼圧下降効果のみならず,アドヒアランスに影響を与える副作用など諸事象も考慮して決定する必要がある.Bim以外のPG薬を含む治療で眼圧コントロール不十分の場合,結膜充血発現の可能性について十分に患者に説明を行ったうえで,使用中のPG薬をBimに変更することは,さらなる眼圧下降効果を得るとともに,自覚症状の改善も期待できる価値ある手段であり,緑内障治療の質を向上できるものと考えた.本論文の要旨は第21回日本緑内障学会にて発表した.文献1)AptelF,CucheratM,DenisPetal:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)WhitsonJT,TrattlerWB,MatossianCetal:Ocularsurfacetolerabilityofprostaglandinanalogsinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JOculPharmacolTher26:287-292,20104)StewartWC,StewartJA,JenkinsJNetal:Cornealpuncあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111633 tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003tatestainingwithlatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinhealthysubjects.JGlaucoma12:475-479,2003JA,KatzmanB,AckermanSLetal:Efficacyandtolerabilityofbimatoprostversustravoprostinpatientspreviouslyonlatanoprost:a3-month,randomised,masked-evaluator,multicentrestudy.BrJOphthalmol94:74-79,20106)CassonRJ,LiuL,GrahamSLetal:Efficacyandsafetyofbimatoprostasreplacementforlatanoprostinpatientswithglaucomaorocularhypertension:auniocularswitchstudy.JGlaucoma18:582-588,20097)BourniasTE,LeeD,GrossRetal:Ocularhypotensiveefficacyofbimatoprostwhenusedasareplacementforlatanoprostinthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.JOculPharmacolTher19:193-203,20038)KurtzS,MannO:Incidenceofhyperemiaassociatedwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsubjectspreviouslytreatedwithlatanoprost.EurJOphthalmol19:400-403,20099)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)LaibovitzRA,VanDenburghAM,FelixCetal:ComparisonoftheocularhypotensivelipidAGN192024withtimolol:dosing,efficacy,andsafetyevaluationofanovelcompoundforglaucomamanagement.ArchOphthalmol119:994-1000,200111)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200312)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,200613)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200814)布出優子,小橋俊子,松本美智子ほか:正常人の涙液pH値.眼臨82:648-651,1988***1634あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(122)