特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):451.455,2013特集●ロービジョンケアあたらしい眼科30(4):451.455,2013高齢期のロービジョンケアLowVisionCareforElderlyPersons斉之平真弓*はじめにわが国の視覚障害者の原因疾患は上位から緑内障24.3%,糖尿病網膜症20.6%,病的近視12.2%,加齢黄斑変性10.9%,白内障7.3%であり,いずれも加齢と深いかかわりがある1).2030年にはさらなる高齢化に伴い,視覚障害者数は200万人以上に増加すると予測されている2).そこで,視覚障害者であってもロービジョンケアによりQOL(qualityoflife)を高めることができれば,快適な老後につながっていく可能性がある.本稿では,高齢視覚障害者のロービジョンケアについて基本的手順や注意点を述べていきたい.I高齢視覚障害者の特徴高齢視覚障害者は全身疾患の併存も多く,糖尿病など慢性疾患の管理を考慮したロービジョンケアが必要となる.精神面では理解力や記憶力の低下に伴い,ロービジョンケアそのものを理解できないことも多い.視覚低下による意欲や生きがいの喪失から,ロービジョンケアだけでなく新しいことを始めることに消極的である.ロービジョンケアの導入を成功させるには,患者の真のニーズを引き出し,患者自身に「有効に活用できる保有視覚の存在」を自覚してもらうことが重要である.II高齢期のロービジョンケアの流れロービジョンケアは,①視機能評価,②ニーズの抽出,③補助具の選定・訓練,④環境調整・福祉情報の提供という流れで行う.1.視機能評価一般眼科検査から視機能評価を行う.視力評価は,遠見視力(5m)だけではなく近見視力(30cm)も測定する.また,目的に応じた距離での視力測定も必要である.ロービジョン外来受診者では,屈折度数の合わない眼鏡を装用していることもあり,所持眼鏡の屈折度数を必ず検査する.加齢黄斑変性など中心暗点をきたす疾患では正面視で視力検査がむずかしいため,患者が顔を動かすか検者が視標を動かし視力測定を行う.老人性眼瞼下垂や眼振などがあり片眼遮閉で視力低下を生じる場合は,両眼開放で視力測定を行う.視野評価により保有視野の大きさや位置,暗点の大きさや位置から,「有効に活用できる視覚がどれくらいあるか」を患者に自覚してもらうことが重要である.緑内障や網膜色素変性,脳疾患による視路障害などの周辺視野評価にはGoldmann視野計を用いる.周辺視野は日常生活に直接影響し,下方の視野障害では歩行や読書はむずかしく日常生活が制限される.また,中心視野は読み書き,顔の表情認知に影響し黄斑疾患などの中心視野評価はHumphreyやAmslerchartにて行う.中心窩から10°離れても0.2の視力があり,中心で見ることがむずかしい場合は中心以外を活用して見る偏心視訓練を行う.たとえば,最も良く見える部位が中心暗点の下方にある場合,視線を上方にずらし中心を*MayumiSainohira:鹿児島大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕斉之平真弓:〒890-8520鹿児島市桜ケ丘8丁目35番1号鹿児島大学医学部眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(23)451視線を上へ中心暗点最も良く見える部位視線を上へ中心暗点最も良く見える部位図1偏心視訓練(Humphrey視野)最も良く見える部位(下方)を中心へ移動させる.見えるように訓練する(図1).高齢者では中.高周波域のコントラスト感度低下がみられ,また水晶体の着色変化により色の識別力が低下する.必要に応じコントラスト感度や色覚検査を行う.高齢者は疲れやすく体調も変わりやすいため,すべての検査は時間的および精神的余裕をもって行う.2.ニーズの抽出高齢者は理解力や記憶力の低下がみられることも多く,ニーズの抽出にはできるだけ時間をかけ丁寧に行う必要がある.眼科的ニーズ以外に家族構成や居住形式(独居・同居・施設入所),生活背景(緊急時の支援者の有無),余暇活動,できれば経済状況などを聞いておく.質問表を用いたほうがニーズの抽出に漏れがなく把握できる(表1).「新聞の囲碁欄が読みたい」「孫の写真が見表1当院で使用している質問表年月日ロービジョンケア質問表ID()名前()身体障害者手帳級無(申請希望)職業()診断名(GL・DR・RP・AMD)遠見視力RV=()LV=()近見視力NRV=()NLV=()来院の動機はありますか病院へは誰と、どうやって来ましたか家族構成・同居の有無・患者会所属・その他情報提供例現在使用中の補助具はありますか拡大鏡・遮光眼鏡・拡大読書器・単眼鏡・白杖()見え方(近方)新聞を読むことはできますかできるできない拡大鏡・拡大読書器手紙や書類を読み・書きできますかできるできない拡大鏡・拡大読書器パソコンを使うことができますかできるできない拡大ソフト・読み上げパソコンソフト見え方(遠方)テレビを見ることはできますかできるできない眼鏡調整人の顔がわかりますかわかるわからない中心暗点あり→偏心視訓練駅のサイン(時刻表・トイレなど)は見えますか見える見えない単眼鏡歩行・移動室内や知っている所を歩くことができますかできるできない伝い歩き・高コントラスト環境屋外や知らないところを歩くことができますかできるできない白杖(歩行訓練含む)段差がわかりますかわかるわからない白杖(歩行訓練含む)人や物にぶつからずに歩けますか歩ける歩けない白杖(歩行訓練含む)夜間の外出はできますか(夜盲の有無)できるできないフラッシュライト羞明屋外/室内でまぶしくないですかまぶしくないまぶしい遮光眼鏡・サンバイザー・帽子日常生活車の運転をしていますか(免許・事故歴)しているしていない無自覚の視野障害あれば指導料理はできますか(ガス器具使用の有無)できるできない音声付き電磁調理器(日常生活用具対象)薬の管理はできますかできるできないピルケース・点眼薬に大文字ラベル貼付食事は一人でできますかできるできない長方形トレー使用・クロックポジション爪は自分で切ることができますかできるできない爪やすり落としたものをひろうことができますかできるできない視野狭窄→スキャンニング訓練携帯電話を使用できますかできるできない音声対応携帯電話・身体障害者割引の紹介時計を見ることができますかできるできない音声時計・触知時計硬貨・紙幣の区別はできますかできるできない紙幣硬貨見分け板・仕分け財布お化粧/ひげそりはできますかできるできない10倍拡大ミラー心理落ち込むことはないですかあるない趣味・好きなことはありますかあるない452あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013(24)たい」「もう一度社交ダンスを踊りたい」など,具体的なニーズの抽出ができれば,それがロービジョンケアの意欲へとつながっていく.本人だけでは聞き取りが困難な場合は,本人の了解を得て家族同席で問診をすすめる.高齢者は周囲に配慮し,家族の前では本音を話さないこともあり臨機応変に対応する.実際,ロービジョン外来受診時には家族の前で「もう年だから仕方ないでしょう」と常に穏やかな様子であった加齢黄斑変性の患者が,個別電話相談では「見えないことで周囲に迷惑をかけ,死にたいと思うことがときどきある」と本音を打ち明けられたケースがあった.視覚障害はしばしばうつの原因となり3),高齢視覚障害者のうつの有病率は25.45%といわれている4).高齢者の心理面には十分に配慮する必要がある.また,高齢者世帯では生活の安全性を重視し,「車の運転」や「ガス器具取り扱い」の有無は必ず聞いておく必要がある.火災や火傷防止対策として,電磁調理器を日常生活用具として給付する地域もある(図2).3.補助具の選定・訓練補助具選定の前に,必ず所持眼鏡を最適度数に調整し加熱調理を開始します火力調整をしてください180℃に設定しました図2音声ガイド付き電磁調理器日常生活用具とは身体に障害のある人の生活に役立つ用具.用具の種類や基準額,自己負担などについては市町村が決定し給付する.ておく.また,眼鏡を装用していない場合,屈折矯正によりわずかでも見やすさが向上するなら積極的に眼鏡処方を行う.眼鏡で見える像を鮮明にし,そのつぎに補助具で拡大する手順となる.緑内障や網膜色素変性などの視野狭窄をきたす疾患では,遠近両用眼鏡の希望でも,レンズ領域と保有視野部位が合わない場合があり注意を要する.網膜色素変性,白内障,緑内障,汎網膜光凝固後など,多くの眼疾患には羞明(まぶしさ)があり,遮光眼鏡が有効である.遮光眼鏡は網膜光障害の原因となる青色系短波長光を選択的にカットし,羞明を防ぎ見る対象物のコントラストを上げる.晴天の屋外だけではなく,テレビやパソコン画面の羞明においても有効である.疾患の種類にかかわらず,身体障害者手帳所持者であれば補装具として交付される.「新聞の文字が読みたい」「手紙を書きたい」など近見作業には,その距離に応じた近用眼鏡をかけ拡大鏡(ルーペ)を使用する.一般に高齢者は手指振戦や関節炎があることも多く,手持ち型拡大鏡の保持がむずかしい場合は卓上型拡大鏡をす図3a卓上型拡大鏡(ライト付き)図3b手持ち型拡大鏡(ライト付き)専用スタンドで卓上型拡大鏡として使用可能.(25)あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013453図4書見台と照明照明光は調整できるフレキシブルアームを選択し,頭や手が影にならない最適位置に配置する.すめる.手持ち型拡大鏡に専用スタンド装着で,卓上型として使用できるタイプもある(図3).また,高齢者は補助具選定にも時間を要するため,可能であれば補助具の貸出しを行い自宅試用にて決定するのが望ましい.読み書きの際には,拡大鏡使用の有無にかかわらず書見台と照明を用いる.書見台の傾斜により前屈みを防ぎ,照明光を最も見やすい位置に配置することで読み書きが楽にできる(図4).個人差はあるが,視力が0.1以下や視野が半径10°以下に狭窄した患者では拡大鏡より拡大読書器のほうが有効である.高齢者では拡大読書器の操作習得は一度ではむずかしく,訓練のため度々来院するのも困難なケースが多いので,販売業者に機器設置後のアフターケア実施を伝えておくことも必要である.4.環境調整・福祉情報の提供視生活環境は明るさ・大きさ・コントラストを変えることで生活しやすくなる.夜盲を伴う疾患では特に部屋の明るさを変えることが有効である.照明のワット数や照明色の変更,補助照明との併用を行うように指導する.白内障や角膜瘢痕などの患者では明るすぎるとグレアが増加し,かえって見づらくなることがあるため注意する.日常生活では,物と背景色とのコントラストを高くし識別しやすくする(図5).出入り口や階段の段差の縁にコントラストの強い色を塗るか,着色テープを貼り454あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013ba図5a,b洗面台の環境調整洗面台にて物のコントラストを変えると識別しやすくなる.図5c高コントラストグッズ背景色と対比する色を選択する.見分けやすくし転倒の危険を防止する.食事時は少し深めの長方形トレーとクロックポジション利用により,こぼす,倒すが少なくなる(図6).音声表示の生活用品(時計,体重計,血圧計,体温計,電磁調理器,タイマ(26)図6クロックポジション物を置いている場所を時計の文字盤に置きかえて,位置関係を説明する方法.図7大きく見やすい番号と緊急発進ボタン付きの電話機(ジャンボプラス)ー,計算機,パソコン)や大きく見やすい番号の電話を利用する(図7).糖尿病患者の生活支援として,音声付き血糖測定器やダイヤル部分に付属ルーペが装着できるインスリン注入器などがある(図8).高齢視覚障害者は情報入手がむずかしく,「日常生活用具」や「補装具」の手続き法,地域の福祉制度,支援団体などの情報提供を随時できるように入手しておく必要がある.おわりに高齢視覚障害者のなかにはロービジョンケアそのものを知らない患者が多く存在する.医療現場でロービジョ(27)図8a音声付き血糖測定器(メディセーフフィットボイス)図8bインスリン注入器(上図)下図:付属ルーペ装着によりダイヤル文字を拡大できる.ンケアの存在や情報を伝えることが,ロービジョンケアの第一歩になる.補助具や生活指導により日常生活の不自由が少しでも軽減すれば,患者の大きな自信や喜びとなり,それがQOL向上へつながっていく.文献1)YamadaM,HiratsukaY,RobertsCBetal:PrevalenceofvisualimpairmentintheadultJapanesepopulationbycauseandseverityandfutureprojections.OphthalmicEpidemiol17:50-57,20102)日本眼科医会研究班報告2006.2008:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科80(6),2009,別冊3)BrodyBL,GamstAC:Depression,visualacuity,comorbidity,anddisabilityassociatedwithage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology108:1893-1900,20014)BurmediD,BeckerS:Emotionalandsocialconsequencesofage-relatedlowvision.VisualImpairmentResearch4:47-71,2002あたらしい眼科Vol.30,No.4,2013455