●連載●連載137緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也137.電子媒体を活用した正常眼圧緑内障の新田耕治長期管理福井県済生会病院眼科/金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科)眼圧変化に乏しい正常眼圧緑内障患者の膨大な経過観察データを電子カルテやファイリングソフトによって一元的に管理することは種々の所見の変化をすばやくとらえることができ,治療方針を決定するうえで大変有用である.超慢性疾患で根治的療法が存在しない緑内障を未治療の段階で診断した場合,長期にわたり管理していかなければならない.特に15mmHg以下のlowteensの正常眼圧緑内障(NTG)では健常範囲内を推移するので眼圧の日々変動に埋もれ薬物治療の効果を判定しにくいことがあり,眼圧測定と視野検査を単調にくり返していると緑内障進行の判断が遅れてしまうことがある.近年は緑内障診断機器の充実に伴い,種々のデータ管理が必要となってきた.緑内障患者の膨大なデータを電子カルテやファイリングソフトによって一元的に管理することは治療方針を決定するうえで大変有用であると考える.NTGの進行症例では,①大きな眼圧日々変動や不十分な眼圧下降,②視神経乳頭陥凹拡大による乳頭上血管の明らかな屈曲変化やさらなるrimの菲薄化,③網膜2002.102005.10神経線維層欠損(NFLD)の拡大,④乳頭出血(DH)の出現や頻発,⑤視野障害の悪化,などの所見がみられる.当院では2002年に電子カルテを導入して以降,さまざまな面で電子カルテの恩恵を被っている.電子カルテの場合,画像を何枚でも保存できるので,黄斑中心の広角眼底写真・乳頭中心の高倍率眼底写真・乳頭ステレオ写真など同一患者の眼底写真を異なる条件で撮影して保存しておくと将来の緑内障進行判定に役立つ.紙カルテのころには,撮影した35mmスライドは別の棚にまとめて保管していたので,わざわざ棚にある多数のスライドから探し出すことは煩雑であった.図1の上段のように電子カルテ上にカラー写真を並べて観察すれば,DHをくり返し,徐々に下方のrimが菲薄化し乳頭上の血管の走行が屈曲したことがはっきりと観察できる.これは下方の乳頭の陥凹拡大を表すものである.2008.82009.42011.10図1乳頭出血をくり返し網膜神経線維層欠損が拡大し急速に視野障害が進行した症例上段のようにカラー写真を並べて観察すれば,乳頭出血(DH)DHDHをくり返し,徐々に下方のrimが菲薄化し乳頭上の血管の走行が屈曲したことがわかる.これは下方の乳頭の陥凹拡大を表すものである.中段のように,網膜神経線維層欠損(NFLD)の幅が2002年10月と比較して2011年7月にNFLDが両方とも黄斑側および反対側に拡大し,眼圧が一桁台で推移するも,下2002.122004.92006.82007.112009.102010.42011.12011.6段のように視野障害が比較的急速に進行している(MDslope:.0.69dB/y).DHDH2002.102011.7………………………………….(69)あたらしい眼科Vol.28,No.11,201115810910-1810/11/\100/頁/JCOPY2001..2007..meanIOP:10.2mmHg2007..2011..meanIOP:8.1mmHgBaselineIOP:15mmHgMDslope:..1.14dB/yMDslope:..0.16dB/y…………………………………………..IOP(mmHg)MD(dB)washout……2001..2007..meanIOP:10.2mmHg2007..2011..meanIOP:8.1mmHgBaselineIOP:15mmHgMDslope:..1.14dB/yMDslope:..0.16dB/y…………………………………………..IOP(mmHg)MD(dB)washout……広角眼底写真を定期的に撮影しておけば,当院にて導入しているNIDEK社製の電子カルテNAVIS(NidekAdvancedVisionInformationSystem)のファイリングシステムには眼底写真の青成分のみ(無赤緑色),緑成分のみ(無赤青色),赤成分のみ(無青緑色)をそれぞれ抽出し白黒眼底写真に瞬時に加工できる.NFLDの境界が鮮明に観察できる青成分のみを抽出して白黒に加工した眼底写真を電子カルテ上に並べれば,図1の中段のように,2002年10月と比較して2011年7月にNFLDの幅が黄斑側および反対側に拡大していることを明瞭に確認できる.NFLDの拡大する症例はDHが出現しやすく,DHをくり返すことが多いので視野障害が比較的急速に進行するサインであり,眼圧下降治療をさらに強化する必要がある.電子カルテを導入していない施設でも眼底カメラを一眼レフデジタルカメラに交換し,眼底写真をUSBメモリーに出力してphotoshopなど画像編集ソフトを利用すれば赤緑写真や白黒写真に加工してNFLDの程度を把握できる.電子化したデータを活用してNTGを厳重に管理したいものである.直径4mm以上の瞳孔の症例は無散瞳で乳頭ステレオ写真を撮影でき,3Dモデル動画や経過観察用に開発された時系列動画ソフトにて撮影ごとの画像の回旋を補正して経時変化が閲覧できるようにもなった.以前は赤青エンピツで紙図2点眼の種類を変更し眼圧がさらに下降したことにより視野進行が緩徐になったNTG症例ベースライン眼圧が15mmHgであった初診時42歳,女性のNTG.2001.2007年はレボブノロールやブナゾシンを使用し,平均眼圧10.2mmHg,MDslope:.1.14dB/yearであった.2007年以降はレボブノロール・ブナゾシンをともに中止し,ラタノプロストやドルゾラミドを開始した.その結果,平均眼圧8.1mmHg,MDslope:.0.16dB/yearと視野進行が緩徐になった.カルテに乳頭のシェーマを書き残していたがその手間が不要となり,乳頭での微細な形状の変化をすばやく発見できるようになったと思われる.視野検査結果の一覧や視野障害の進行速度を示すMD(meandeviation)slopeやVFI(visualfieldindex)slopeなどをファイリングソフトの使用により簡単に表示でき,図2のように2007年以降に眼圧がさらに下降し,MDslopeが.1.14dB/yearから.0.16dB/yearへ緩徐になったことが容易に確認できる.これまで使用してきた点眼薬も入力すれば症例ごとに視野変化と治療の変遷を一覧することができるようになった.今後さらに電子カルテやファイリングソフトが使いやすいものに進化していけば,緑内障の長期管理に関してはさらに有用性が増すものと期待される.文献1)NittaK,SugiyamaK,HigashideTetal:Doestheenlargementofretinalnervefiberlayerdefectsrelatetodischemorrhageorprogressvisualfieldlossinnormal-tensionglaucoma?JGlaucoma20:189-195,20112)新田耕治,杉山和久,棚橋俊郎:境界明瞭な網膜神経線維層欠損を有する正常眼圧緑内障における乳頭出血出現や網膜神経線維層欠損拡大と視野進行との関連.日眼会誌115:839-847,2011☆☆☆1582あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(70)