特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):313~319,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):313~319,2013サルコイドーシスSarcoidosis高瀬博*江石義信**はじめにサルコイドーシスは全身の複数臓器に非乾酪壊死性の類上皮細胞肉芽腫を形成し,その多くで眼や肺,皮膚などが侵される原因不明の疾患である.サルコイドーシス患者で最も多い罹患臓器は肺であるが,ついで30~60%に両眼性の肉芽腫性ぶどう膜炎を中心とした眼症状を呈することが知られており1~3),わが国のぶどう膜炎の原因として近年最も頻度が高い疾患である4,5).本症はステロイド治療に良好に反応するため視力予後は比較的良好であり,一部には自然治癒例が存在することも事実ではある.しかし,その多くは慢性再発性の経過を辿るため,続発緑内障などによる不可逆的な視覚障害に陥る症例も決して少なくない.また,全身的にも肺線維症や心臓サルコイドーシスなどによる死亡例もあり,サルコイドーシスの正確な診断と長期的な経過観察,適切なステロイド治療を行うことは患者の視力予後,生命予後を守るうえでは大変重要である.しかし,長期にわたるステロイド治療には多くの副作用を伴い,全身投与では耐糖能異常や骨粗鬆症,中心性肥満,局所投与ではステロイド緑内障や白内障などが問題となる.そのため,サルコイドーシスの根本的な原因の解明と治療法の開発が切望されている.本稿では,サルコイドーシスの国際診断基準の作成とその妥当性の評価に関する研究,そしてサルコイドーシスの病態解明のために現在までに行われている研究について概説する.I眼サルコイドーシスの国際診断基準1.眼サルコイドーシス国際診断基準の作成サルコイドーシスは国内のみならず海外諸国でもぶどう膜炎の主要原因疾患であるが,各国での診断基準はさまざまである.サルコイドーシス診断のgoldstandardはいうまでもなく組織学的診断による非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫の証明であるが,眼内の肉芽腫に対する生検は,その侵襲の高さから通常行われることは少なく,また自覚症状が眼症状のみであるぶどう膜炎患者に対して眼外臓器の組織生検を行うことは容易でない場合も多い.これは医療事情が異なる海外諸国では,よりむずかしい場合が多いといえる.そのため,ぶどう膜炎が主体のサルコイドーシス患者診断のために,臨床所見と検査所見の組み合わせによる,非侵襲的かつ国際的に共通なサルコイドーシス診断基準の作成が望まれた.これに対して,“TheFirstInternationalWorkshoponOcularSarcoidosis”(IWOS)が2006年10月に東京で開催され,眼科医の立場からサルコイドーシスによるぶどう膜炎の国際診断基準について討議が行われた.その結果,サルコイドーシスを示唆する眼所見7項目と全身検査所見5項目があげられ,これらを組み合わせることでDefiniteocularsarcoidosis(OS),PresumedOS,ProbableOS,PossibleOSの4段階に分類する眼サルコイドーシス国際診断基準が提唱された(表1)6).*HiroshiTakase:東京医科歯科大学医歯学総合研究科眼科学**YoshinobuEishi:同人体病理学〔別刷請求先〕高瀬博:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学医歯学総合研究科眼科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(27)313表1眼サルコイドーシスの国際診断基準眼サルコイドーシスを示唆する眼所見1.豚脂様角膜後面沈着物または虹彩結節(Koeppe結節,Busacca結節)2.隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着3.雪玉状または数珠状硝子体混濁4.眼底周辺部の多発性網脈絡膜病巣(活動性または非活動性)5.網膜血管周囲炎,血管周囲結節または網膜動脈瘤6.視神経乳頭肉芽腫または脈絡膜肉芽腫7.両眼罹患眼サルコイドーシスを支持する全身所見1.ツベルクリン反応の陰転化2.血清アンギオテンシン変換酵素(ACE)またはリゾチームの上昇3.胸部X線でBHL陽性4.血清肝酵素の上昇5.胸部X線でBHL陰性症例における,胸部CTでの肺病変の検出眼サルコイドーシスの診断基準と分類1.DefiniteOS:生検陽性かつサルコイドーシスに矛盾しないぶどう膜炎を有する2.PresumedOS:生検未施行,BHL陽性かつサルコイドーシスに矛盾しないぶどう膜炎を有する3.ProbableOS:生検未施行,BHL陰性かつ眼所見3項目と全身所見2項目を満たす4.PossibleOS:生検(TBLB)陰性かつ眼所見4項目と全身所見2項目を満たすOS:ocularsarcoidosis,TBLB:経気管支肺生検,ACE:アンギオテンシン変換酵素,BHL:両側肺門リンパ節腫脹.表2Presumed/PossibleOSに分類された対照患者14名の陽性臨床所見数および検査所見結果ツ反ACEBHL肝酵素BHL診断TBLB陽性眼所見数陰性上昇(胸部X線)異常(胸部CT)Presumed未施行1(両眼罹患)+++.Presumed未施行4+++.Presumed未施行4+++.Presumed未施行2.++.Possible陰性5+.+.Possible陰性4+++.Possible陰性4+++.Possible陰性4+++.Possible陰性4+++.Possible陰性4+.+.Possible陰性5.++.Possible陰性5+…+Possible陰性4+…+Possible陰性4未施行+..+OS:ocularsarcoidosis,TBLB:経気管支肺生検,ACE:アンギオテンシン変換酵素,BHL:両側肺門リンパ節腫脹.2.眼サルコイドーシス国際診断基準の妥当性の検証OSに分類される一方,対照患者として用いたその他のこの診断基準の妥当性について,ぶどう膜炎患者370ぶどう膜炎患者320名のうち4名がPresumedOS,10名(サルコイドーシス組織診断群50名,対照として他名がPossibleOSに分類された.これらを合わせた14のぶどう膜炎患者320名)を対象に検討を行った7).こ名の患者でみられた臨床所見の内訳をみると,胸部単純れらの患者を国際診断基準に当てはめ分類すると,サルX線または胸部CT(コンピュータ断層撮影)によりコイドーシス組織診断群患者50名はすべてDefiniteBHL(両側肺門リンパ節腫脹)が全例で陽性であり,ま314あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(28)表3国際診断基準で用いられる眼所見および全身所見の診断パラメータ眼所見の眼所見感度特異度PPVNPV診断パラメータ豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節0.5800.7880.2990.923隅角結節,テント状周辺虹彩前癒着0.7600.7310.3060.951雪玉状,数珠状硝子体混濁0.5400.8030.3000.918多発性網脈絡膜病変0.4000.8880.3570.904網膜静脈周囲炎,網膜細動脈瘤0.3800.9380.4870.906視神経乳頭または脈絡膜肉芽腫0.0601.0001.0000.872両眼罹患0.9800.3470.1900.991全身検査所見の全身検査所見感度特異度PPVNPV診断パラメータツ反陰性0.8950.6170.2640.975血清ACE/リゾチーム上昇0.6200.9250.5640.939胸部X線によるBHL陽性0.7200.9200.5900.953肝酵素異常0.0200.9720.1000.864胸部CTによるBHL陽性0.8600.7190.5780.920PPV:陽性的中率,NPV:陰性的中率,ACE:アンギオテンシン変換酵素,BHL:両側肺門リンパ節腫脹.た陽性となった眼所見が両眼罹患のみだった1名を除いた13名はわが国のサルコイドーシス臨床診断群に合致した(表2).つぎに,国際診断基準で用いられた眼所見7項目,全身検査所見5項目のそれぞれについて,サルコイドーシス組織診断群患者における診断パラメータ,すなわち感度,特異度,陽性予測度(PPV),陰性予測度(NPV)を,その他のぶどう膜炎を対照として計算した.その結果,眼所見,全身所見ともにばらつきがみられたものの,総じて高い診断パラメータが得られた(表3).しかし,肝酵素に関しては感度は低く,サルコイドーシス組織診断群とその他のぶどう膜炎の間でその出現頻度に差はなかった(p=0.74).国際診断基準は,眼所見と臨床検査所見の多くで妥当なものと考えられるが,検査項目や分類などに対して今後さらなる改訂を要するものと思われる.現在IWOSによる国際多施設共同研究として,国際診断基準の妥当性を検討する前向き調査が行われており,その結果が待たれる.IIサルコイドーシスの病態と病因に関する研究1.サルコイドーシスの病因探索の歴史サルコイドーシスを特徴付ける最も基本的な病態は,乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫の存在である.肉(29)芽腫の形成は炎症反応により排除できない起炎物質を局所に封じ込める生体防御機構の一つであるが,サルコイドーシスにおいても何らかの起炎物質を取り込んで増殖したマクロファージがTh1型の免疫反応(用語解説)を展開することで,壊死を伴わずに類上皮細胞や巨細胞に変容し,肉芽腫が形成されていくと考えられている.では,この起因物質とは何であろうか?サルコイドーシスで生じる肉芽腫は,乾酪壊死が生じていないことを除けば結核性の肉芽腫に類似していること,ツベルクリン反応が陰転化することなどから,欧米諸国では古くから結核との関連が疑われていた.しかしサルコイドーシスには感染性はなく,また病変部組織から結核菌が培養されることもない.これに対して,わが国では1970年代に厚生省難病研究班により,サルコイドーシス患者病変部組織に対する徹底的な微生物学的検索が行われた.その結果,唯一分離された微生物がアクネ菌(Propionibacteriumacnes)であった8).一方で結核菌を含む他の細菌,ウイルス,真菌類などはまったく検出されなかったことから,わが国ではアクネ菌がサルコイドーシスの原因細菌として注目を集めることとなった.しかし,その後しばらくの間は,アクネ菌が皮膚常在菌であるためコンタミネーションの可能性を完全に否定できなかったこと,アクネ菌の分離検出に疾患特異性が認められないことなどから,研究に著しい展開はみられなかった.あたらしい眼科Vol.30,No.3,20133152.サルコイドーシスの病変局所におけるアクネ菌の同定1999年になり日本人のサルコイドーシス患者のリンパ節生検検体のパラフィン切片の解析において,アクネ菌あるいはアクネ菌と同じ皮膚常在菌であるPropionibacteriumgranulosumのDNAが定量的PCR法(用語解説)により多量に検出された9).またinsituhybridization法(用語解説)によりサルコイドーシスの病変部局所の肉芽腫内部にアクネ菌のDNAが集積して存在することも明らかとなり10),アクネ菌がサルコイドーシスの肉芽腫形成に積極的に関与していることが改めて強く示唆された.一方,サルコイドーシス患者の病変部リンパ節の組織懸濁液をマウスに免疫することで,肉芽腫の内部に存在する未知の起因物質に対する単クローン抗体を作製したところ,この抗体はアクネ菌のみに対して特異的に反応し,結核菌などの他の菌類にはまったく反応しなかったため,これもサルコイドーシス病変部肉芽腫にアクネ菌が関与することを強く示唆するものとなった11).このようにして作製された単クローン抗体の一つで,アクネ菌の菌体細胞膜から細胞壁を貫いて分布する糖脂質抗原(リポタイコ酸)を認識するPAB抗体を用aいてサルコイドーシス患者の各種臓器の生検組織切片に対する免疫染色を行った結果,罹患臓器にかかわらず高い陽性率を示した(表2,図1).これらの結果より,サルコイドーシスの罹患臓器におけるアクネ菌の関与が強く示された.一方,ぶどう膜炎へのアクネ菌の関わりについては,サルコイドーシス患者の硝子体液からPCR法でアクネ菌DNAを検出した報告が1報12)あるのみであり,サルコイドーシスの硝子体混濁を手術で採取したものにPAB抗体を用いた自験例ではこれまでに陽性像は得ら表4サルコイドーシスの各種罹患臓器肉芽腫内でのPAB抗体陽性率臓器採取法総数陽性数陽性率リンパ節生検817188%肺VATZ272074%皮膚生検231983%脾臓手術6583%脳・神経生検66100%心臓切除生検6583%骨格筋生検77100%VATZ:ビデオ補助胸腔鏡手術.b図174歳,女性の皮膚サルコイドーシスの生検標本a:HE染色標本.完成途上にある類上皮細胞肉芽腫が真皮層内に広く分布しており,ところどころで緻密なリンパ球浸潤を伴っている.矢印で示す代表的な類上皮細胞肉芽腫では,辺縁の縁取りが不明瞭でややリンパ球浸潤が目立つ.b:同一部位のPAB抗体免疫染色像.aとまったく同一部位のPAB抗体免疫染色像を示す.大小さまざまな類上皮細胞肉芽腫に対して肉芽腫の周囲および内部に多数のPAB抗体陽性下流が認められる.a矢印で示した肉芽腫と同一部位を矢印で示す.その部位の強拡大像をインセットに示す.大小さまざまのPAB抗体陽性顆粒が肉芽腫細胞内に認められる.肉芽腫中心部ではすでに細胞内消化を受けて陽性強度の減弱した顆粒も散見される.316あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(30)図2アクネ菌病因説に基づいたサルコイドーシス肉芽腫形成機構細胞内に不顕性感染したアクネ菌は,細胞壁を欠失した冬眠状態で細胞内に潜伏感染する(左).その後なんらかの環境要因を契機として,冬眠状態のアクネ菌が内因性に活性化され,小型円形の感染型アクネ菌として細胞内増殖する(中).この感染型アクネ菌はリンパ・血液を介して全身に拡散し,新たな細胞内感染をひき起こす.しかし,宿主要因として本菌に対するアレルギー素因を有する個体では,感染型アクネ菌の細胞内増殖を契機に過度のTh1型免疫反応が起こり,感染型アクネ菌の拡散防止を目的とした肉芽腫形成が生じるものと考えられる(右).れていない.サルコイドーシスによるぶどう膜炎眼内における肉芽腫・結節が他臓器におけるそれと同一な機序で形成されていることは想像に難くないが,手術により得られる検体が微量であり,網脈絡膜内の肉芽種の採取には大きな侵襲を伴うことなどが,研究の進展を阻んでいるものと考えられる.今後は眼科領域においても,手術法や検体解析法の進歩などによる,ぶどう膜炎におけるアクネ菌の関与についての研究の進展が期待される.3.サルコイドーシスのアクネ菌病因説と治療戦略これまでの研究経緯から,アクネ菌はヒトの末梢肺組織や肺門部リンパ節からも約半数の症例で培養可能であることが明らかとなった13).これはアクネ菌が外部環境から経気道的に生体内に侵入した結果,不顕性感染を生じたものであり,その後何らかの環境要因(ストレス,生活習慣など)を契機に内因性に活性化し細胞内増殖するものと考えられる.宿主要因としてアクネ菌に対するアレルギー素因を有する患者では,アクネ菌の細胞内増殖を契機に感染臓器局所で過度のTh1型免疫反応が起こり,感染型アクネ菌の拡散防止を目的とした肉芽腫形成が生じる(図2).細胞内増殖の際に肉芽腫による封じ込めを逃れたいわゆる感染型アクネ菌は,病変部局所に新たな潜伏感染をひき起こすのみならず,リンパ向性あるいは血行性に全身諸臓器に新たな潜伏感染と,それに続く再度の内因性活性化と肉芽腫形成を生じると考えられ,サルコイドーシスにおけるぶどう膜炎はこの段階で(31)不顕性感染感染型アクネ菌の拡散リンパ向性および血行性外部からの初感染経気道的内因性活性化肺および肺門部リンパ節アレルギー反応潜伏感染細胞内増殖肉芽腫形成心臓,皮膚,眼,肝,脾,骨格筋,中枢神経,その他図3サルコイドーシスのアクネ菌病因説皮膚常在菌であるアクネ菌は,経気道的に肺および肺門部リンパ節に潜伏感染を生じる.これがなんらかの環境要因により感染型アクネ菌となり細胞内増殖を起こすと,アクネ菌にアレルギー素因を有する個体では肉芽腫が形成されると同時に,感染型アクネ菌はリンパ向性および血行性に全身に拡散し,眼や皮膚を中心とした全身諸臓器に新たな細胞内感染および肉芽腫を生じることとなる.生じるものと推察される(図3).サルコイドーシスにおける全身多臓器に生じる病変と,長期にわたり慢性・再発性に生じる病態が,アクネ菌の細胞内増殖と全身への播種により生じるものであると考えた場合,現在行われている治療,すなわちステロイドやメトトレキサート,抗TNF(腫瘍壊死因子)-a製剤を代表とする生物製剤による治療は肉芽腫形成による感染型アクネ菌の封じ込めを阻害することとなり,対症的には炎症を抑制するものの,結果としてはアクネ菌の再活性化による新たな潜伏感染をひき起こす危険性をはらむものとなりうる.したがって,サルコイドーシスあたらしい眼科Vol.30,No.3,2013317からの完全寛解を目指すためには,細胞内増殖を生じている感染型アクネ菌および細胞内持続感染状態のアクネ菌に対する除菌療法が必要であると考えられる.現在までに,サルコイドーシスに対して抗生物質の内服投与を行った報告は,皮膚や肺病変に対するものが散見されるが,いまだまとまった報告はなく,その効果については定かではない.そのため,今後は多施設による前向きの臨床試験の施行が望まれている.サルコイドーシスにより生じる数ある臓器所見のなかで,眼所見は他の臓器に比べ寛解・増悪の変化が鋭敏に検出されやすいこと,眼内炎症の程度を定量評価しやすい点から,ぶどう膜炎は除菌療法の対象疾患として期待されている.4.サルコイドーシスの病態解明に関わる今後の研究の展望サルコイドーシスの病因に関する国際的に合意の得られた基本的な考え方は,サルコイドーシスは,1)疾患感受性を有する患者が,2)何らかの環境要因を契機に,3)特定の起因物質に曝露されて発症するというものである.このなかで,1970年代からわが国において開始された起因物質の探索は,常在菌であるアクネ菌の特定という形で実を結びつつある.このアクネ菌のサルコイドーシス発症における位置づけを考えるには,いわゆる日和見感染のような従来の感染症の概念とは異なり,その菌体成分に対する過敏性免疫反応を原因として疾病を生じるという新しい内因性感染症の概念を用いる必要がある.これは,感染微生物の関与が疑われながらもいまだに原因が不明のままである他の多くの難治性疾患の原因を追及するうえで,われわれが念頭におくべき重要な考え方であると言えるだろう.サルコイドーシスの発症機構の全容の解明には,さらに患者要因ならびに環境要因について研究が必要である.現在,横浜市立大学を中心に国内多施設から収集したサルコイドーシス患者末梢血に対する疾患感受性遺伝子の網羅的な解析研究が進行中であり,その結果が期待される.おわりにこれまでにサルコイドーシス病変局所におけるアクネ318あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013■用語解説■Th1型の免疫反応:生体の防御を司る免疫機構は,抗体を中心とした液性免疫系と,マクロファージなどの貪食細胞やヘルパーT細胞を中心とした細胞性免疫系に大別される.細胞性免疫系は種々の免疫担当細胞による複雑なネットワークを形成しているが,このうちインターフェロンgとよばれる蛋白質(サイトカイン)を産生するヘルパーT細胞はTh1細胞とよばれ,Th1細胞を中心とした免疫反応(Th1型の免疫反応)は外来性抗原(異物,細菌,真菌など)の貪食,除去や,種々の自己免疫性疾患の病態に重要な役割を果たす.サルコイドーシス患者の眼内においても,Th1型の免疫反応の存在が確認されている14,15).定量的PCR法:PCRとはポリメラーゼ鎖反応(polymerasechainreaction)の略であり,生物の遺伝情報を担うDNAのある特定の領域を増幅する手法である.プライマーとよばれる一対の短い核酸断片に挟まれた領域のDNAを,DNA合成酵素を用いて増幅する.このプライマーに蛍光物質を標識すれば増幅されたDNAの量を蛍光強度として検出できるため,PCRにより増幅の対象とするDNAを定量することができる.Insituhybridization法:ある特定のDNAに結合するプローブとよばれる核酸断片を用い,そのDNAの存在を検出する方法はハイブリダイゼーション(hybridization)法とよばれる.この手法を,細胞や組織の病理標本に対して直接用いる方法が,insituhybridization法であり,これにより標的とするDNAの分布を病理標本上で直接調べることができる.菌の解析は欧米諸国における患者検体も含め,国際共同研究として行われているが,これはおもに内科分野のものに限られている.今後,アクネ菌の除菌療法の検討については眼科も大きな役割を担うこととなると思われるが,国際共同研究を行う際に大きな前提となるのは共通の診断基準の存在である.そのため,日本国内でのサルコイドーシスに対する除菌療法のパイロットスタディを開始するとともに,国際診断基準のブラッシュアップを行っていくことが今後の課題である.文献1)CrickRP,HoyleC,SmellieH:TheEyesinSarcoidosis.BrJOphthalmol45:461-481,19612)JabsDA,JohnsCJ:Ocularinvolvementinchronicsarcoi(32)dosis.AmJOphthalmol102:297-301,19863)ObenaufCD,ShawHE,SydnorCFetal:Sarcoidosisanditsophthalmicmanifestations.AmJOphthalmol86:648655,19784)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20075)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20126)HerbortCP,RaoNA,MochizukiM:Internationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosis:resultsofthefirstInternationalWorkshopOnOcularSarcoidosis(IWOS).OculImmunolInflamm17:160-169,20097)TakaseH,ShimizuK,YamadaYetal:Validationofinternationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosisproposedbythefirstinternationalworkshoponocularsarcoidosis.JpnJOphthalmol54:529-536,20108)AbeC,IwaiK,MikamiRetal:FrequentisolationofPropionibacteriumacnesfromsarcoidosislymphnodes.ZentralblBakteriolMikrobiolHygA256:541-547,19849)Is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