特集●眼内レンズ度数決定の極意あたらしい眼科30(5):615.619,2013特集●眼内レンズ度数決定の極意あたらしい眼科30(5):615.619,2013多焦点眼内レンズ決定の極意ArtofSuccessofMultifocalIntraocularLens荒井宏幸*はじめに─王道に近道なし国内においても多焦点眼内レンズが認可され,多くの施設が使用するようになった.手術手技は白内障手術そのものであり,戸惑うことはないが,自費診療であることや「眼鏡なしでの生活」という目標が設定されていることなど,従来の白内障手術にはないプレッシャーが存在する.そのため,多くの術者が適応の決定に躊躇し,術後の対応に悩んでいる.本稿は「多焦点眼内レンズ決定の極意」であるが,もちろん,特定の方法にてすべてが解決するやり方はない.筆者の経験から,なるべく期待値を大きく外れないようなレンズ選択を述べてみたい(図1).図1筆者が使用してきた老視対応眼内レンズの経緯調節可能眼内レンズ,回折型多焦点眼内レンズ,屈折型多焦点レンズなど時代とともに変遷していくのがわかる.I適応の概念1.どんな術後の生活を望んでいるか,を洞察することまずレンズの選択に入る際に,多焦点眼内レンズを選択した患者が,術後にどのようなライフスタイルを期待しているかを,よく聞き取ることが大切である.医師本人でなくても,スタッフのヒアリングでも良い.旅行・スポーツ・レジャーなどを好み,戸外での活動性が高いアウトドア派であるのか,洋裁・読書・デスクワークなどを快適に行いたいインドア派であるのかを判断する.ときには,すべてを快適に見たいという希望も見受けられるが,高すぎる期待値には十分に注意して手術適応を決定しなければならない.Multifocal-IOLLentisMultifocal-IOLTecnisMultifocalI-pieceMultifocal-IOLAcri-TwinMultifocal-IOLArrayAccommodative-IOL1CUAccommodative-IOLCrystaLensAccommodative-IOLTERAFLEXMultifocal-IOLReZoomMultifocal-IOLAcriLisaMultifocal-IOLReSTORMultifocal-IOLReSTOR3DMultifocal-IOLTecnisMultifocal200220122003200420052006200720082009201020112003.42006.82008.32008.112011.220122003.12005.92007.112008.82011.2*HiroyukiArai:みなとみらいアイクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-0012横浜市西区みなとみらい2丁目3-5クイーンズタワーC8Fみなとみらいアイクリニック0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(37)6152.意思疎通のできる患者かどうかいかなる種類の治療においても,最も大切なことであろう.特に感覚器である眼科領域においては,術後の訴えのなかには,本人にしかわからないものもある.訴えを理解し,こちらの説明を理解してもらう,という一連の意思疎通があれば,どのような局面でも積極的な治療が可能であるが,そうでない場合にはトラブルに発展する可能性もある.性格が明るく,積極的な患者が最も良い適応であるが,そうでなくても,信頼関係ができていれば,適応としては問題ないであろう.3.本当に白内障なのか視力低下の主因が白内障であれば,どのような眼内レンズを選択しても,ある程度以上の満足は得られるものである.筆者自身も気をつけているのが,白内障の程度以上に視力が悪いケースである.視力低下の主因が,水晶体の混濁ではなく,網膜機能の低下によるものである場合には,多焦点眼内レンズは禁忌である.初診の場合には,現在までの視力の経緯が不明なことが多いため,判断がむずかしいことがある.もちろん,軽度の白内障でも視力が大きく低下することもあるので,白内障手術の方針は誤りではないが,多焦点眼内レンズを選択するかどうかは,黄斑部の詳細な観察が必要であろう.可能であれば,光干渉断層法(OCT)や自発蛍光検査にて異常がないことを確認する.II実践編1.各レンズの特性を知ることa.回折型多焦点眼内レンズ(図2)現在,国内にて承認・使用されているのは回折型のみである.回折型の宿命として,理論上,入射光の18%以上の損失があり,実際には20%以上の損失があると考えられる.このため,コントラスト感度の低下は免れず,点状の光源に対してのグレアも構造上の問題であるので,夜間の運転時に「見えにくさ」を自覚することも多い1,2).いわゆる「wavyvison」といわれる「何となく見えづらい」という訴えがある場合には,レンズの光学特性の問題であることから,入れ替えを視野に入れな616あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013図2各種回折型多焦点レンズ左からTecnisRMultifocal(AMO社),ReSTORR(Alcon社),ATLISA(CarlZeissMeditec社).TecnisRMultifocalおよびReSTORRは国内承認済,ATLISAは未承認である.図3分節状屈折型多焦点眼内レンズLentisMplusR(Oculentis社)下方に加入度数の付加された分節状のエリアがある.光学的には2枚の単焦点を組み合わせたようなイメージである.ければならない.回折構造の最も優れている点は,加入度数が眼内レンズ上にて4Dまで設定できることと,レンズの光学中心と瞳孔中心が一致していなくても効果が一定に得られることである.b.屈折型多焦点眼内レンズ(図3)国内で承認されていた屈折型は発売中止となったため,未承認のレンズを個人輸入して使用することになる.筆者が主として使用しているのは,分節状屈折型多焦点眼内レンズである.イメージとしては,2つの単焦点の組み合わせであるので,網膜上の結像はシャープである3).分節状屈折型の最も優れている点は,入射光の90.95%が網膜に結像するため,コントラスト感度の低下が少ないことである.遠用-近用部分のギャップが1本のライン状であるため,暗所でもグレアが増加すること(38)33cm67cm∞0.1遠方部近方部移行帯部5040-相対的分布量(%0.00.10.20.3300.40.4200.50.31000.60.001.002.003.004.005.00瞳孔径(mm)★光学的ロス<5%★遠方:近方4mm径55~40★遠方:近方2mm径65~30★遠方:近方3mm径60~35★遠方:近方1mm径100~0(参考)図4LentisMplusRの光学的分布瞳孔径が大きくなっても,移行部による入射光の損失には大きLogMARVisualAcuityDecimalVisualAcuity0.70.20.80.9-0.10.0CombinedsystemAcriLisaLentisMplus1.00.10.80.20.60.30.5な変化はない.夜間のグレアなどが起こりにくい光学的な特性0.40.4をもっていることがわかる.0.50.30.60.70.20.8が少ない(図4).0.9加入が3Dであるため,回折型よりも近方視力が低い1.0傾向がある.両眼視にて0.7程度の近方視力は確保できるが,さらに手元の細かい作業を好む場合には慎重に検0.50.00.51.01.52.02.53.01.01.52.02.53.03.54.0.5-45.01.1Defocus(D)討する.図5回折型と屈折型のMix&Matchの焦点分布c.加入度数は3Dか4Dか基本的には,術後の希望する生活スタイルにより決定する.場合によっては,優位眼に3D,非優位眼に4DのMix&Matchを選択しても良い.Mix&Matchの組み合わせは,3D-4Dのみならず,単焦点-3D,屈折型-回折型など,さまざまな方法がある4).初回手術の結果や満足度に応じて,もう片眼のレンズ選択を変更することも視野に入れると良いであろう.基本的には,初回手術にて十分な満足が得られている場合には,もう片眼には同種のレンズを選択する(図5).2.乱視用かtouchupか国内にて承認されている多焦点眼内レンズには,残念ながら乱視用は用意されていない.元来,白内障の術後に眼鏡をかけなくても良いというメリットを謳っているため,乱視に対する対策は不可欠であろう.筆者の使用している未承認のレンズには,回折型,屈折型ともに乱視用が用意されており,積極的に(39)ATLISA(旧AcriLisa)とLentisMplusRのMix&Matchである.双方の非焦点部分を補うように,両眼視における中間距離の視力は改善している(上のグラフ).(文献4より)使用している.筆者の施設ではLASIK(laserinsitukeratomileusis)も行っているので,touchupという手段もあるが,手術侵襲を考えれば1回の手術にて目的を達成するほうが良いであろう.筆者の使用している屈折型多焦点眼内レンズの乱視用は,レンズ制作のオーダーが100分の1D単位であり,ほぼフルオーダーメイドである(図6).しかし,白内障手術における眼内レンズの度数計算は,いまだに完璧なものではない.また,レンズの設定度数も0.5Dステップである以上,術後の度数ずれは必然的に起こるものであることを認識しておかなければならない.筆者個人の考えであるが,多焦点眼内レンズを使用するのであれば,touchupは避けられず,自らが行っていなければ,LASIKを行っている施設との連携は必須であると思っている(図7).あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013617自覚屈折度数の経緯図6LentisMplusRtoricのオーダー図レンズ度数は100分の1D単位である.すべてのレンズが縦方向に留置するよう,乱視軸はあらかじめ回転させて製作されている.等価球面値(D)0.750.100.060.100.060.220.150.280.180.180.010.030.090.08全症例単焦点多焦点0.3000.06-0.75-0.78-0.92-1.07-1.50術前1W1M3M6M1Yn=95眼平均年齢63.9歳男性39人女性56人図7白内障術後のLASIKによるtouchupの結果単焦点,多焦点にかかわらず,軽度の屈折誤差がLASIKにより改善しているのがわかる.(みなとみらいアイクリニックでの結果)最近では,Add-onレンズやICLR(implantablecollamerlens)によるpiggybag法にて,追加矯正も可能であるが,0.5.1.0Dといったわずかな屈折誤差を補正することはむずかしいと思われる.3.レンズ決定のヒント下記は筆者が必ずたずねる質問の抜粋である.①夜間の運転をするか②VDT作業はどの位するか③読書を好むか618あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013④手芸・裁縫を好むか⑤必要時にのみ眼鏡をかけても良いか⑥普段からまぶしいと感じることがあるかまず,男性か女性かであるが,男性であれば屈折型を選択することが多い.遠方の見え方がよりシャープな像を好むからである.①の質問で,夜間の運転が多い場合,屈折型を選択することが多く,時々であれば回折型も考慮に入れる.②VDT作業が多く,手術を受ける目的に,デスクワークを快適にしたいという意味合いが含まれているなら,加入は3Dを選択する.③④であるが,近方作業を快適にしたいという希望が強い場合には,回折型の4D加入が良いであろう.⑤の質問は大切である.眼鏡が一切必要なくなるという,過大な期待がある場合には,期待値を下げることも必要であろう.「日常生活の90%は眼鏡はいらないが,特殊な環境では必要になるかも知れない」という主旨の説明で良いと考える.⑥は不適応の発見に役立つかもしれない.筆者の経験では,「まぶしい」という感覚が強い症例は,入射光の散乱に敏感であり,多焦点眼内レンズのような光学系には適さないと感じている.まとめ多焦点眼内レンズの技術は素晴らしいものであり,そ(40)の技術を享受できる世代にいることは幸せである.特に若年者においては,どのタイプの多焦点眼内レンズを使用しても高い成功率であることから,網膜機能と視覚野の柔軟性が大切であると考えている.レンズ選択は悩むことが多いが,他の種類の多焦点眼内レンズへの入れ替え,単焦点眼内レンズへの入れ替え,touchupなど,常に「次の手」を準備しておくことが非常に重要である.不満を訴えて続けている症例に,なにもせずに経過観察を続けているとトラブルに発展する可能性もある.安易な勧誘は厳に慎むべきであるが,良い技術があるのに使用しないことも怠慢と隣合わせである.患者のニーズを読み取る努力が最大の極意ではないだろうか.文献1)ChangJ,NgJC,LauSY:Visualoutcomesandpatientsatisfactionafterpresbyopiclensexchangewithadiffractivemultifocalintraocularlens.JRefractSurg28:456-474,20122)LeylandM,ZinicolaE:Multifocalversusmonofocalintraocularlensesincataractsurgery:asystematicreview.Ophthalmology110:1789-1798,20033)MunozG,Albarran-DiegoC,Ferrer-BlascoTetal:Visualfuctionafterbilateralimplantationofanewzonalrefractiveasphericmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:2043-2052,20114)MunozG,Albarran-DiegoC,JavaloyJetal:Combiningzonalrefractiveanddiffractiveasphericmultifocalintraocularlens.JRefractSurg28:174-181,2012(41)あたらしい眼科Vol.30,No.5,2013619