‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

眼科医のための先端医療 129.近視性網膜症の疫学:久山町研究

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112950910-1810/11/\100/頁/JCOPY視覚障害の主要な原因疾患としての強度近視強度近視は,先進諸国において失明原因の上位を占める疾患であり,日本では平成17年度の視覚障害者の原因疾患別調査(厚生労働省研究班)において第5位でした.近視性眼底病変には視力予後の異なるものが混在しており,なかでも黄斑部に生じる近視性脈絡膜新生血管および瘢痕形成による近視性黄斑変性は,中心視力を著しく障害し視力予後不良です.地域一般住民を対象とした多治見スタディでは,近視性黄斑変性は日本における片眼性ロービジョンの原因疾患の第3位,片眼性失明の原因疾患の第1位でした1).強度近視では眼軸の延長に伴い,眼底後極部にさまざまな近視性眼底病変をきたし,視力低下の原因となります.両眼性であることが多く,不可逆性で,働き盛りの年代の人の視力を障害することも少なくないため,社会経済的な観念からも重要な疾患です.一方,その有病率についての報告はほとんどなく,筆者らの知る限りpopulation-basedstudyで近視性網膜症の有病率について調査した報告が海外で2報あるのみです2,3).九州大学眼科学教室は,福岡県久山町において疫学調査(久山町研究)に1998年から参加し,40歳以上の久山町全住民を対象にさまざまな眼科疾患の有病率,発症率および危険因子の調査を長年にわたり継続しています.今回,久山町の調査結果より明らかになったわが国における近視性網膜症の疫学について報告します.近視性網膜症の有病率2005年に眼科健診を含む久山町成人健診を受診した40歳以上の住民1,892人を対象に近視性網膜症の有病率について調査しました.眼科健診では,両眼無散瞳下でのカラー眼底写真撮影(小瞳孔や白内障のために写真が不鮮明な場合は散瞳),IOLマスターによる眼軸長の測定,オートレフラクトメータによる屈折検査を行いました.近視性眼底病変の診断には眼底写真を使用し,びまん性萎縮病変,限局性萎縮病変,lacquercracks,近視性黄斑変性のうち,少なくとも1つがみられるものを近視性網膜症と定義しました.その結果,近視性網膜症は47眼33人に認め,有病率は1.7%でした.所見別の内訳は,びまん性萎縮病変44眼32人(1.7%),限局性萎縮病変10眼8人(0.4%),lacquercracks4眼3人(0.2%),近視性黄斑変性9眼7人(0.4%)でした.また,高齢になるほど近視性網膜症の有病率が有意に増加し,男性より女性において有病率が高いことが明らかになりました(表1).近視性網膜症の有無別で眼軸長,屈折度数(等価球面度数)の平均値を比較すると,近視性網膜症のない群ではそれぞれ23.5±1.2mm,?0.4±2.4Dであったのに対し,近視性網膜症のある群では28.2±2.2mm,?8.3±5.2Dで,眼(75)◆シリーズ第129回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊朝隈朋子(九州大学大学院医学研究院眼科学分野)近視性網膜症の疫学:久山町研究表1年齢階級別および性別の近視性網膜症の頻度:久山町研究(2005)年齢(歳)男性女性男女込み人数(人)近視性網膜症(%)人数(人)近視性網膜症(%)人数(人)近視性網膜症(%)40?491/841.21/1460.72/2300.950?591/1630.62/2920.73/4550.760?692/2710.76/3461.78/6171.370以上5/2581.915/3324.520/5903.4合計9/7761.224/1,1162.233/1,8921.7表2眼軸階級別近視性網膜症の有病率:久山町研究(2005)眼軸(mm)全体近視性網膜症眼数*(眼)(%)眼数(眼)(%)23未満1,37436.600.023?241,29634.520.224?2563516.910.225?262466.620.826?271183.186.827?28471.31123.428以上411.12253.7合計3,757100461.2*眼軸長のデータが得られなかった27眼を除く.1296あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011軸長,屈折値ともに有意差(p<0.001)を認めました.また,眼軸が長くなるほど近視性網膜症の有病率が高くなり(表2),眼軸長26.0mm未満では近視性網膜症の有病率は1.2%であったのに対し,眼軸長28.0mm以上では53.7%でした.同様に近視度数が大きくなるほど近視性網膜症の有病率は高くなる傾向を認め(表3),?4D未満の近視では有病率は1.5%であったのに対し,?10D以上の近視では36.8%でした.まとめ久山町研究で得られた結果から,近視性網膜症の有病率は1.7%であり,なかでも視力予後不良である近視性黄斑変性の有病率は0.4%でした.これを日本人40歳以上の総人口に換算すると,近視性網膜症の患者数は113万人,近視性黄斑変性の患者は25万人にも上ることが推定されます.さらなる追跡調査により近視性網膜症の発症率や関連因子を明らかにすることで,効率的な発症予測,進展予測につながることが期待されます.文献1)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20062)LiuHH,XuL,WangYXetal:PrevalenceandprogressionofmyopicretinopathyinChineseadults:theBeijingEyeStudy.Ophthalmology117:1763-1768,20103)VongphanitJ,MitchellP,WangJJ:Prevalenceandprogressionofmyopicretinopathyinanolderpopulation.Ophthalmology109:704-711,2002(76)表3屈折度数階級別近視性網膜症の有病率:久山町研究(2005)屈折度数(D)全体近視性網膜症眼数*(眼)(%)眼数(眼)(%)0<1,68551.010.10~?21,03331.310.1?2~?43019.141.3?4~?61655.031.8?6~?8752.345.3?8~?10260.8519.2≦?10190.6736.8合計3,304100250.8*白内障術後および屈折度数のデータが得られなかった480眼は除く.屈折度数は等価球面度数で示した.■「近視性網膜症の疫学:久山町研究」を読んで■今回は九州大学眼科の朝隈朋子先生による近視性網膜症の疫学データの紹介です.日本全体で,近視性網膜症の患者数は113万人,近視性黄斑変性の患者は25万人にも上ることがわかりました.眼科医として患者さんを治療する際にこのような基本的なデータを知っていることはとても大切なことです.有病率に加えて,どのような方が近視性網膜症や黄斑変性になりやすいかについての解析が進み,予防医学が有効に機能するようになると日本人の視力を良好に保持するために非常に有意義な研究ということになります.疫学は日常臨床でわれわれ眼科医が直面する問題を解決するという問題意識からはじまります.患者さんの治療法の研究に引き続いて予防をしたいということを考えることは自然な流れです.予防医学の基本は今後のあるターゲットとなる疾患の発症を予測することからはじまります.ある疾患の発症を予測するためには,正常な方と疾患を発症する方を比較する必要があります.このためには,疾患をもつ方が多い病院の眼科での臨床研究では限界があります.この問題を解決するのがpopulation-basedstudyで,これは住民健診など,正常な方をも検査する研究手法です.大変な費用,人手が必要ですが,世界ではこのような研究を行う必要性が認識され,大規模なpopulation-basedstudyが,アメリカ,ヨーロッパで進行しています.たとえば,イギリスのUKBiobankでは40?69歳の50万人のボランティアを対象にしたコホート研究を行って,疾患の危険因子を探索しています.日本でもこのような研究を行う必要性はみなさん,理解していただけるのではないでしょうか?人種により疾患の有病率,関連する因子に差がありますから,日本人のpopulationでの疾患の有病率や危険因子を検討する必要があるからです.朝隈先生のお仕事のフィールドになった久山町研究は世界的に有名なpopulation-basedstudyであり,九州大学眼科の石橋達朗教授のリーダーシップのもと,内科などと共同で精密で臨床的な価値のあるデータを連続して発表し続けておられま(77)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111297す.今回の朝隈先生のデータは難治性の近視性網膜症の全体像を示す大変貴重なデータです.われわれのもっているイメージよりはるかに多い患者さんがいることがわかりました.日本の眼科医が解決するべき問題の一つではないでしょうか?山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 201.Tea Tree Oilによる眼瞼清浄

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112930910-1810/11/\100/頁/JCOPY激性がかなり高い.?本方法の利点・欠点この方法は通常の眼瞼睫毛根部の清浄だけでは難治の症例に対して,治療のオプションとなることが最大の利点である.通常このような患者には抗生物質やステロイド含有軟膏を塗布する以外の治療法は少ない.物理的に清浄を毎日くり返すことは最も大事だと考えるが,角結膜障害なども出ている場合は,早急に毛?虫の数を減らすことも重要となる.ただ,前述のとおり皮膚粘膜刺激性があるので,眼にしみるのが欠点である.文献1)GaoYY,DiPascualeMAetal:HighprevalenceofDemo新しい治療と検査シリーズ(73)?バックグラウンド毛?虫と眼瞼炎に関する報告はかなり古くからあるが,それほど数が多くなく,睫毛やマイボーム腺に寄生する毛?虫(それぞれ,Demodexfollicule,Demodexbrevis)はその存在自体は病因にならないと一般的に考えられてきた.最近になって,毛?虫の数が多くなることにより病因となり,前部眼瞼炎を起こすという報告により再注目されている1).通常の治療に反応しない難治性の前部眼瞼炎のなかに毛?虫性前部眼瞼炎が含まれている2)ため,注意が必要である.本稿ではその治療法の一つを紹介する.?新しい治療法今回紹介する新しい治療法は,難治性の毛?虫性前部眼瞼炎に対する睫毛根部を清浄するためのTeaTreeOilである.これは筆者が米国研究留学中の同僚(GaoYY)が報告したもので,いろいろな消毒薬,殺菌剤を睫毛から採取した毛?虫に実際に垂らして実験した結果有効であったものがTeaTreeOilあり3),すでに米国では製品化されている.TeaTreeOilは,オーストラリアに自生する植物であるTeaTree由来の精油であり,Terpinen-4-olが主成分である.Terpinen-4-olは高い殺菌,制菌作用が多数報告されている.?実際の使用方法(治療,検査法の実際のやり方)日本では医療に使用できる品質のTeaTreeOilをさがすのは困難であり,海外から医療グレードのTeaTreeOilを購入し,ミネラルオイルで20?50%に希釈して使用している.もしくは,米国から製品(CliradexR)を輸入して使用する.そのままで用いると1,8-cineoleの刺激性により,粘膜皮膚に塗布したときの刺201.TeaTreeOilによる眼瞼清浄プレゼンテーション:川北哲也慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:鈴木智京都市立病院眼科図11カ月間の50%TeaTreeOilによる治療前後の眼瞼,結膜の様子1睫毛あたり多数存在した毛?虫の数は1カ月で認められなくなり,患者の主症状である異物感も消失した.(http://www.osref.orgより許可を得て転載)1294あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011dexineyelasheswithcylindricaldandruff.InvestOphthalmolVisSci46:3089-3094,20052)川北哲也,川島素子,OsamaIbrahimほか:日本における毛?虫性前部眼瞼縁炎.日眼会誌114:1025-1029,20103)GaoYY,DiPascualeMA,LiWetal:InvitroandinvivokillingofocularDemodexbyteatreeoil.BrJOphthalmol89:1468-1473,2005(74)1をみる限り,TeaTreeOilの治療前に比べ,治療後の睫毛根部は明らかに綺麗になっており,結膜の炎症も軽快しているものの,眼瞼皮膚にはところどころに隆起が認められる.これは,Demodexが眼瞼皮膚の皮脂腺にいまだ潜んでいる所見のようにも思われる.再発予防のためには,より長期にわたるTeaTreeOilの使用が必要なのかもしれない.その際に,Demodexで媒介される細菌感染の予防のために抗菌薬の併用が必須なようにも思われた.Demodexが眼瞼炎を生じるであろうという仮説は魅力的である.しかし,日本のような衛生状態の良い国で,Demodexはどの程度頻繁に繁殖しているものだろうか?今後,日常臨床で眼瞼炎を診療するときは,Demodexを念頭において眼瞼を注意深く診てみたい.もしもDemodexが難治性眼瞼炎に大きく関与しているのであれば,TeaTreeOilは治療regimenとして必須のものであることは間違いないであろう.1899年,Demodex(毛?虫)が眼瞼炎の原因の一つである可能性について報告されて以来,眼瞼炎とDemodexの関係については常に議論がなされてきた.近年では,欧米人に多い顔面の慢性的な血管異常(rosacea)やその眼合併症(ocularrosacea)の原因としてもDemodexが取り上げられるようになってきた.しかし,私見としては,Demodexそのものによる炎症のみならず,Demodexが媒介するブドウ球菌,溶連菌,バチルスなどの細菌に関係する炎症についても検討が必要であろうと考えている.さて,図1の症例では,眼瞼縁と球結膜に非常に強い炎症所見が認められる.この所見は,臨床現場で遭遇する頻度の高いブドウ球菌性眼瞼結膜炎とは明らかに異なる.細菌性眼瞼結膜炎であればニューキノロン系抗菌薬の眼軟膏で寛解に持ち込めるはずである.Demodexが原因となっている場合には,抗菌薬で媒介している細菌感染が治療されても,寛解を得られずにこのような強い炎症が持続するのであろうか?図?本方法に対するコメント?☆☆☆

眼感染アレルギー:微生物認識受容体とインフラマソーム

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112910910-1810/11/\100/頁/JCOPY細菌,真菌やウイルスなどの病原微生物の侵入に対する感染防御機構は,自然免疫と獲得免疫に分類される.獲得免疫は,抗原特異的Tリンパ球とBリンパ球によって誘導されるが,クローン増殖する必要があるために,機能するまでに数日かかる.これに対して自然免疫は,獲得免疫が働く前の感染早期に働く防御機構である.この自然免疫において,Toll様受容体(TLRs)をはじめとする微生物認識受容体が重要な役割を担っていることが明らかとなっている.微生物認識受容体は,微生物由来のさまざまな構成分子の構造,すなわち,糖や脂質,蛋白質,核酸からなる分子パターンを特異的に認識する.微生物認識受容体は,大きく膜貫通型と細胞質型に分類され,膜貫通型としてTLRsファミリーが,細胞質型としては,RIG-I様受容体(RLRs)ファミリーとNod様受容体(NLRs)ファミリーが存在する1).TLRは,ロイシンに富む領域(leucin-richrepeat:LRR)を細胞外に有し,それを介して細菌,ウイルス,または真菌といったさまざまな病原微生物の構成成分を認識する.ヒトでは10種類のTLRが同定されている.TLR2は,グラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカンの一成分であるリポ蛋白質を認識する.TLR1とTLR6は,そのTLR2と共役して,それぞれTLR1はトリアシル基をもつリポ蛋白質(細菌由来リポ蛋白)を,TLR6は,ジアシル基をもつリポ蛋白質(マイコプラズマ由来リポ蛋白)を認識する.TLR2とTLR6は,真菌の細胞壁成分であるチモザンの認識にもかかわる.TLR5は,細菌が遊走する際に使用する鞭毛の構成成分であるフラジェリンを,TLR4はグラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)をそれぞれ認識する.またTLRは,真菌や細菌のみならずウイルスの構成成分も認識する.DNAウイルスのゲノムDNAは,哺乳動物のゲノムDNAと比べて非メチル化CpGモチーフを多量に有している.その非メチル化CpGDNAは,TLR9によって認識される.RNAウイルスのなかにはゲノム成分が一本鎖RNAのものが存在し,その一本鎖RNAは,TLR7とTLR8により認識される.ウイルスの生活環中に宿主細胞質中で生じ何らかの形で細胞外に放出された二本鎖RNAは,TLR3によって認識される.RLRは,細胞質内でウイルス核酸を認識する微生物認識受容体であり,N末端側には,CARD(caspaserecruitmentdomain)に類似したドメインを,C末端側には,核酸をほどく活性をもつRNAヘリカーゼドメインを有する.RNAヘリカーゼドメインがウイルスの認識に関与する.RLRの代表は,RIG-IやMDA5であり,細胞がウイルスに感染したときに細胞質に入った二本鎖RNAを認識する.つまり,ウイルス由来の二本鎖RNA(71)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一29.微生物認識受容体とインフラマソーム上田真由美京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学微生物認識受容体は,微生物由来のさまざまな構成分子の構造,すなわち,糖や脂質,蛋白質,核酸からなる分子パターンを特異的に認識し,自然免疫において重要な役割を担っている.また,膜貫通型と細胞質型に分類され,膜貫通型としてToll様受容体が,細胞質型としては,RIG-I様受容体とNod様受容体が存在する.??????????IPS1????????????????????RIG-IMDA5I??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????TLR3図1微生物認識受容体によるウイルス由来二本鎖RNAの認識ウイルス由来の二本鎖RNAは,細胞外に存在する場合はTLR3により認識されアダプター因子TRIFを介して1型インターフェロンを誘導する.一方,ウイルス感染後に細胞質に存在する場合は,RIG-IやMDA5によって認識されアダプター因子IPS-1を介して,炎症性サイトカインや1型インターフェロンを誘導する.1292あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011は,細胞外に存在する場合はTLR3により認識され,ウイルス感染後に細胞質に存在する場合は,RIG-IやMDA5によって認識され,炎症性サイトカインや1型インターフェロンを誘導する(図1)2).NLRも,細胞質内の微生物認識受容体であり,N末端側に蛋白質相互作用ドメインとして,CARD,ピリンドメインなどを,中央には多量体形成に必要なNOD(nucleotide-bindingandoligomerizationdomain)ドメインを,C末端側にはリガンドとの結合に関与するLLRをもつ.NOD1やNOD2がその代表であり,それぞれ細菌外壁のペプチドグリカン由来の特殊な分子構造を認識する.つまり,細菌外壁のペプチドグリカンは,細胞外に存在する場合はTLR2により認識され,何らかの機構で細胞内に入った場合はNOD1やNOD2によって認識される(図2).NOD2は,炎症性腸疾患であるクローン病の原因遺伝子であることがわかっており,常在細菌との相互作用に重要な役割を担っていると考えられている.NLRP3は,細菌由来のRNA,毒素などの微生物成分に加えて,宿主由来の核酸代謝産物である尿酸やATPを認識する.NLRP5とIPAFは,サルモネラ菌などのフラジェリンを認識する.NLRP3,NLRP5やIPAFは,インフラマソームの形成において重要な役割を担っている.インフラマソームとは,NLRとアダプター蛋白質およびcaspase-1から構成される蛋白複合体であり,(72)TLRsをはじめとした種々の刺激により産生された前駆型IL(インターロイキン)-1bならびにIL-18を,活性型IL-1bならびにIL-18に変換する(図3).このように,IL-1bならびにIL-18の細胞外への分泌は,1段階目の前駆型の産生,つづいて2段階目の活性型への変換を介して行われる.炎症反応は生体防御においてきわめて重要な反応であるが,その一方過剰な炎症反応は組織障害をひき起こし,疾患や合併症の原因となる.種々の微生物認識受容体の遺伝的な異常により自己炎症性疾患が生じることが報告されている.これらの微生物認識受容体の眼における役割について解明することが,各種眼炎症疾患の病態解明につながるかもしれない.文献1)KawaiT,AkiraS:TherolesofTLRs,RLRsandNLRsinpathogenrecognition.InternationalImmunology21:317-337,20092)UetaM,KawaiT,YokoiNetal:ContributionofIPS-1topolyI:C-inducedcytokineproductioninconjunctivalepithelialcells.BiochemBiophysResCommun404:419-423,2011図3NLRによるインフラマソームの形成ならびにIL?1bの活性化インフラマソームとは,NLRとアダプター蛋白質およびcaspase-1から構成される蛋白複合体であり,TLRsをはじめとした種々の刺激により産生された前駆型IL-1bならびにIL-18を,活性型IL-1bならびにIL-18に変換する.NOD????NOD1NOD2??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????NOD??????????????κ??TLR2????????????????????????TLRsIL-1β??IL-18??????????????????IL-1β??IL-18??????????????IL-1β??IL-18????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????ATP??????????????図2微生物認識受容体による細菌外壁成分ペプチドグリカンの認識細菌外壁のペプチドグリカンは,細胞外に存在する場合は,TLR2により認識されアダプター因子Myd88を介して炎症性サイトカインを誘導する.一方,細胞内に入った場合は,NOD1やNOD2によって認識され,デフェンシンなどの抗菌物質の産生を誘導する.

緑内障:緑内障における乳頭出血と網膜神経線維層欠損の拡大との関連性を評価する

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112890910-1810/11/\100/頁/JCOPY網膜神経節細胞の軸索である網膜神経線維層(NFL)は,欠損するとスリット状・楔状・びまん性にNFLの走行に沿ってdarkareaが観察される.網膜神経線維層欠損(NFLD)と乳頭出血(DH)との関連については,高眼圧症の症例においてNFLDが臨床的に検出される前にしばしばDHがみられるとされている.正常眼圧緑内障(NTG)でも原発開放隅角緑内障でも,限局した楔状NFLDは,DH(?)群よりDH(+)群で有意にしばしば認められる1).NFLの厚みは,鼻側≒耳側,上耳側,下耳側の順で厚くなるので,DHが出現しやすい下耳側のNFLの厚みの変化は過少評価されやすい可能性がある.また,NFLの崩壊過程でDHが出現するという考え方からすれば,下耳側はNFLの余剰性が大きいのでNFLの崩壊には時間がかかるためにその過程においてDHを頻発するのではないかと推察される.中長期にわたりNTGを管理していると,ある時期にDHが集中する症例や10年間に10回以上DHが出現した症例をときどき経験する(図1).当院は2002年より電子カルテを導入しているので,そのような症例では当初の眼底写真と現在の写真を見比べると,NFLDが明らかに拡大していることがある.そこで筆者ら2)は3年以上経過観察できたNTGのNFLDを青成分のみを抽出し白黒に加工した写真でその角度を測定し,NFLDの拡大の有無を判定し,DHとNFLD拡大との関連に(69)●連載135緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也135.緑内障における乳頭出血と網膜神経線維層欠損の拡大との関連性を評価する新田耕治福井県済生会病院眼科/金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科)乳頭出血(DH)のほとんどが網膜神経線維層欠損(NFLD)の近傍に出現し,緑内障性視野障害の悪化とともにDHが頻発しNFLDは黄斑側に拡大することが多く,NFLDの境界線が緑内障視神経乳頭障害進行の最も活動性の高いactivesiteと考えられる.図1乳頭出血を頻発したNTG症例2000年初診で,初診時年齢36歳,女性のNTG.ベースライン眼圧が18mmHg,経過中点眼加療により常に眼圧下降率20%以上を達成するも,2008年3月4日以降にDHが頻発し,MDslopeは?1.44dB/年である.2001.42008.102009.122010.112011.32004.112011.3??????????????????????????????DHDHDHDHbayoneting2000.122003.12004.12006.22007.82008.32009.92011.1DHDHDHDHDHDHDHDHDHDHDH1290あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011ついて検討した(表1).DH出現頻度はNFLD拡大群にて有意に高頻度であった(63.6%vs15.8%,p<0.0001).DHの再発もNFLD拡大群にて有意に高頻度であった(38.2%vs7.9%,p<0.0001).NFLD拡大群の84.0%でDH出現方向にNFLDは拡大し,87.3%でNFLDは黄斑側に拡大した.97DHのうち85DH(87.6%)がNFLDの近傍に出現した.NFLD拡大群(10年生存率:0.52±0.11)はNFLD不変群(10年生存率:0.89±0.08)と比較して有意に視野が悪化した.また,筆者らの別報3)にて,境界明瞭なNFLDを有するNTGにおけるDHと視野障害の進行速度(MDslope,TDslope)やNFLD拡大速度について検討した.MDslopeがDH群にて有意に急峻であり(?0.30dB/yvs?0.13dB/y,p=0.0027),NFLD拡大速度もDH群にて有意に急峻であった(1.90°/yvs0.64°/y,p<0.0001).DH回数が増加するにつれTDslope(r=?0.263,p=(70)0.0056)とNFLD拡大速度(r=0.410,p<0.0001)は有意に加速した(図2).現在のところDHのメカニズムは不明だが,Quigleyら4)は神経線維束が消失し篩板が後方に移動するにつれ,前部の毛細血管は傍視神経乳頭の放射状毛細血管との結合を維持するために強固に引き伸ばされている可能性があり,このような伸展の結果,DHを生じると予測している.視神経乳頭のrimnotchとそれに続くNFLDの境界線が,緑内障視神経乳頭障害進行の最も活動性の高いactivesiteと考えられ,緑内障進行の過程でこの境界線でrim組織とNFLの消失とそれに伴う神経線維周囲の毛細血管の退行変性が起こり,その過程で二次的にDHを生じると筆者らは考えている(緑内障activesite仮説)(図3).文献1)SugiyamaK,UchidaH,TomitaGetal:Localizedwedgeshapeddefectsofretinalnervefiberlayeranddischemorrhageinglaucoma.Ophthalmology106:1762-1767,19992)NittaK,SugiyamaK,HigashideTetal:Doestheenlargementofretinalnervefiberlayerdefectsrelatetodischemorrhageorprogressvisualfieldlossinnormaltensionglaucoma?JGlaucoma20:189-195,20113)新田耕治,杉山和久,棚橋俊郎:境界明瞭な網膜神経線維層欠損を有する正常眼圧緑内障における乳頭出血出現や網膜神経線維層欠損拡大と視野進行との関連.日眼会誌(印刷中)4)QuigleyHA,AddicksEM,GreenWRetal:Opticnervedamageinhumanglaucoma.II.Thesiteofinjuryandsusceptibilitytodamage.ArchOphthalmol99:635-649,1981表1NFLD拡大群とNFLD不変群の臨床的背景NFLD拡大群55例55眼NFLD不変群38例38眼p値初診時年齢(歳)55.8±7.752.1±10.00.0515性別(男/女)27/2822/160.4032経過観察期間(年)8.2±2.18.1±2.10.8284ベースライン眼圧(mmHg)15.1±2.715.6±3.00.4168経過眼圧(mmHg)12.4±2.012.9±2.00.2638眼圧下降量(mmHg)2.7±1.92.7±2.20.9844眼圧下降率(%)16.7±10.715.8±12.30.7216ベースラインMD(dB)?4.5±3.1?4.3±2.70.7742最終MD(dB)?6.3±3.6?4.5±2.70.0092ΔMD(dB)?1.8±2.4?0.2±1.00.0001ベースラインRNFLD角度(°)34.7±17.136.6±16.50.5988最終RNFLD角度(°)51.5±24.337.1±16.50.002ΔRNFLD角度(°)16.8±14.90.5±1.1<0.0001性別:Fisher’sexacttest,その他:Mann-WhitneyUtest.(文献2より改変)図2乳頭出血の回数と視野進行速度との関係DH回数が増加するにつれTDslope(r=?0.263,p=0.0056)は有意に加速した.DHの出現が多くなればなるほど,緑内障進行に大きな影響を及ぼすことを表している.-3-2-101012345678DH回数(回)TDslope(dB/年)図3緑内障activesite仮説DHは緑内障進行の過程で神経線維とともに消失する毛細血管網の崩壊によって生じる.よって,rimnotch,NFLDの境界線が緑内障進行のactivesiteであると考えられる.??????????

屈折矯正手術:円錐角膜への新しい治療

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112870910-1810/11/\100/頁/JCOPY円錐角膜は,角膜中央部が菲薄化して突出する非炎症性の疾患で,眼鏡では矯正できない近視と不正乱視が進行する.治療の基本はハードコンタクトレンズ(HCL)装用で,重症例になるとHCL装用が困難になり全層角膜移植術が必要となる.近年,角膜移植までの治療としてICRS(intracornealrings)1),TGCK(topography-guidedconductivekeratoplasty)2),phakicIOL(有水晶体眼内レンズ)3)などの新しい外科治療が登場した.また,円錐角膜の進行を予防できる画期的な治療として角膜クロスリンキング4)も行われるようになった.ここでは,バプテスト眼科クリニックで行っているICRSと角膜クロスリンキングの治療経過について紹介したい.ICRSは,フェムトセカンドレーザーで瞳孔周辺の角膜実質内に円弧状のトンネル(リングを留置するグルーブ)を作製したのち,2枚の透明なプラスチック製の半円形リングを挿入する(図1).これにより,突出していた角膜の曲率が変化して乱視が軽減し,裸眼視力と眼鏡矯正視力が改善する.ICRSは,LASIK(laserinsitukeratomileusis)目的で受診した患者の中で円錐角膜の疑いがある症例(ただし?3~4Dまでの近視),LASIK術後のkeratoectasia,HCL不耐症が対象になり,リング挿入部の角膜厚が400μm以上あることが条件となる.これまでに行った症例の術後経過は図2に示すとおりで,裸眼視力および自覚等価球面度数において改善を認めている.ICRS術後は角膜強度が増して円錐角膜の(67)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載136監修=木下茂大橋裕一坪田一男136.円錐角膜への新しい治療東原尚代ひがしはら内科眼科クリニック/京都府立医科大学眼科近年,円錐角膜の病期に合わせた外科治療が選択できるようになった.治療の基本はハードコンタクトレンズ(HCL)であるが,HCL不耐症の場合は角膜内リングが適応となり,フェムトセカンドレーザーを用いて安全かつ確実に施行できる.また,円錐角膜進行予防として角膜クロスリンキングも登場し,今後の治療経過が期待される.図1ICRS術後の前眼部写真-10-8-6-4-2000.20.40.60.811.21.4術後の裸眼logMAR視力術後の自覚等価球面度数術前(n=11)術翌日術1W術1M術2M(n=8)術3M(n=5)術前(n=11)術翌日術1W術1M術2M(n=8)術3M(n=5)図2ICRS術後経過上:自覚的等価球面度数の経時的変化.下:裸眼logMAR視力の経時的変化.1288あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011進行予防も期待され,今後の研究結果が待たれる.角膜クロスリンキングは,角膜上皮を?がしてリボフラビン(ビタミンB2)を点眼したのち,370nmの紫外線を30分間照射する.角膜内にフリーラジカルが発生し,角膜実質を構成するコラーゲン線維がナノサイズの微細な線維で架橋され剛性が増す.バプテスト眼科クリニックで施行した症例はまだ10例未満であるが,治療前は進行していた角膜形状も治療後は形状に変化はなく進行を抑制できている(図3).角膜クロスリンキングでも角膜厚は少なくとも450μm以上が必要となる.現在は成人を対象に治療を行っているが,将来,特に病状が進行しやすい若年者への適応が期待される.円錐角膜は進行すると著しい視力低下をきたして患者のqualityofvision(QOV)が低下する.社会的にも活動性の高い年代の疾患であり,円錐角膜の進行をいかに予防するか,いかにQOVを向上させるかが大切になってくる.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoconuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)KatoN,TodaI,KawakitaTetal:Topography-guidedconductivekeratoplasty:treatmentforadvancedkeratoconus.AmJOphthalmol150:481-489,20103)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:Phakictoricimplantablecollamerlensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg24:840-842,20084)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,2003(68)☆☆☆図3角膜クロスリンキングの術前(左)と術後(右)のトポグラフィ

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズと高次収差

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112850910-1810/11/\100/頁/JCOPY視覚の質(qualityofvision:QOV)がますます問われるようになった現在の眼科診療において,従来の視力やコントラスト感度などといった自覚的な評価だけでなく,高次収差を定量化して術後の視機能を他覚的に評価をすることが盛んに行われている.たとえば,wavefront-guidedLASIK(laserinsitukeratomileusis)や白内障手術時に挿入する非球面眼内レンズ(IOL)はいずれも高次収差を考慮した治療コンセプトとなっている.近年,白内障術後の網膜保護効果や高コントラスト効果を期待して,IOLに着色化や非球面化などの付加価値をつけたプレミアムIOLが登場し,臨床の場では日常的に使用されるようになっている.さらに老視矯正効果を期待した多焦点IOLが登場し普及しつつある.わが国においては,2007年にNXG1(屈折型,ReZoomR,AMO社)とSA60D3(回折型,ReSTORR,Alcon社)が医療材料として承認され,その後も材質,着色化,非球面化,加入度数の違いなどの機能が加わった多焦点IOLが次々に開発されている.多焦点IOLを使用した白内障手術は2008年7月に先進医療として認可され現在に至る.多焦点IOLの光学特性は,光学部の構造により高次収差を増加させることにほかならないが,実際にその定量的な評価はむずかしいとされている.理由として,複雑に光学部が設計されている多焦点IOL挿入眼の高次収差をどの程度正確に波面センサーで測定できているのかという問題が未解決だからである1).回折型多焦点IOLには波長依存性があり,可視光の中心波長で遠方視と近方視の焦点に集光する光の強度が同等になるように設計されている.しかし,この二重焦点バランスをすべての波長においても一定にすることは困難であり,波長が長波長ほど近方視に関する回折効率が低下するため遠方視の光量が増加し,逆に短波長ほど近方視に関する回折効率が高くなり近方視の光量が大きくなる2).したがって,長波長側の近赤外光では遠方視の特性を反映しやすく,短波長側の可視光では近方視の特性を反映しやすいと考えられる.現在,OPD-scan(NIDEK社)を含めほとんどの波面センサーでは近赤外光が測定光源として採用されている.したがって,回折型多焦点IOL挿入眼では遠方視の特性を反映した高次収差が測定されると思われる.一方,屈折型多焦点IOL挿入眼では回折型のような波長依存性がみられないため,遠方視と近方視の両方の特性が混在した高次収差が測定されると思われる.また,波面センサーと同様に他覚屈折検査として使用されるオートレフについても,近赤外光を測定光源として採用している.よって多焦点IOL挿入眼では,瞳孔径や瞳孔の位置によってオートレフ値が影響を受けると考えられ測定結果に注意が必要である.そこで,多焦点IOLのSA60D3(回折型)とNXG1(屈折型)挿入眼および単焦点IOL(SN60AT,Alcon社)挿入眼(それぞれ6眼)の眼球の全高次収差と球面(65)●連載多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子21.多焦点眼内レンズと高次収差山村陽*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学多焦点眼内レンズ挿入眼の高次収差は,視覚の質(qualityofvision:QOV)に影響を及ぼす重要な要素であるが,屈折型と回折型では光学部の構造や波長依存性の有無といった違いがある.したがって近赤外光を測定光源とした波面センサーを用いて高次収差を評価する際には,測定結果の解釈に注意する必要がある.0.170.150.140.270.270.240.430.450.380.840.690.561.41.210.80.60.40.203456解析径(mm)高次収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT図1全高次収差(眼球)平均値を記載.解析径にかかわらずIOL間に有意差はなく,解析径が増加するにつれ収差量も増加していた.1286あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011収差についてOPD-scanを用いて評価してみた3).その結果,全高次収差については,解析径の増加につれて3種のIOLで増加していたが,特に解析径6mmでは症例数が少ないために有意差はなかったが,NXG1の高次収差が大きかった(図1).球面収差については,解析径の増加につれてSA60D3,SN60ATでは増加していたが,NXG1では解析径5,6mmでは減少していた(図(66)2).NXG1は中央より同心円状の5つのゾーンを設け,Zone1,3,5は遠方視用として,Zone2,4は3.5Dの屈折力が加入され近方視用に用いられる.OPD-scanのOPDmap(眼屈折度数誤差分布)でもそれがはっきりとわかる(図3).NXG1挿入眼では遠方視と近方視の両方の特性が混在した高次収差が測定されるため,SA60D3やSN60AT挿入眼とは異なる高次収差の変化を生じたのではないかと考えられた.以上,近赤外光を測定光源とした波面センサーを用いて多焦点IOL挿入眼の高次収差を評価する際には,測定結果の解釈に注意する必要がある.文献1)CharmanWN,Montes-MicoR,RadhakrishnanH:CanwemeasurewaveaberrationinpatientswithdiffractiveIOLs?.JRefractSurg33:1997,20072)三橋俊文,不二門尚:高次波面収差の測定法.臨眼64:96-101,20103)山村陽,稗田牧,木下茂ほか:多焦点眼内レンズ挿入眼の高次収差.あたらしい眼科27:1449-1553,2010☆☆☆10.80.60.40.20-0.2-0.434******56解析径(mm)**:p<0.01高次収差量(μm)□:NXG1■:SA60D3■:SN60AT0.050.020.010.120.050.050.020.110.14-0.240.190.25図2球面収差(眼球)平均値を記載.解析径3,4mmではIOL間に有意差はなかったが,5,6mmではNXG1とそれ以外のIOL間に有意差を認めた.NXG1では解析径5,6mmで球面収差が減少し,6mmでは負の収差を生じていた.図3OPDmapNXG1ではZone2(白矢印)に一致して眼屈折力の高い円環状の部位がみられる.NXG1SA60D3SN60AT

眼内レンズ:高分子寒天を用いた模擬核

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112830910-1810/11/\100/頁/JCOPY以前より当院では,超音波水晶体乳化吸引術(PEA)の乳化効率を実験的に検討するにあたり,寒天模擬核を使用してきた.市販の寒天粉末を用いると,簡便だが,硬さにばらつきを生じることがあり,特に硬い核を作製するのがむずかしいのが難点であった.安定して人眼の水晶体の硬度に近い模擬核を作製できれば,より臨床応用しやすい,定量化した検討も可能になる.今回,高分子量の食品工業用寒天(カリコリカン:伊那食品工場)を使用し,より人眼に近い硬度の模擬核を作製したので紹介する.●高分子寒天模擬核の作製方法(図1)高分子寒天(カリコリカン)は,市販の寒天の分子量7万よりはるかに高い50万分子量を有するのが特徴である.値段は,1kgで7,000~8,000円程度で,医薬品系の卸店で取り扱いがあるため,薬局などで相談のうえで購入可能である.模擬核の作製方法は,以下のとおりで,溶解性は市販の寒天より良好であるため,非常に作製しやすくなっている.①鍋の中に,一定量の水を入れ,フルオレセイン用紙などで染色する.②染色した水を,約90℃まで熱する.(沸騰させないくらいに火を調整する)(63)③粉末の寒天を,少しずつ入れ,かき混ぜて溶解させる.(市販の寒天より溶けやすい)④シャーレに寒天溶液を流し入れ,室温で固める.人眼の核硬度については,張野1)の摘出水晶体核の硬度測定の報告に準じた.これは,?外摘出した人眼の水晶体核硬度を錠剤用硬度計で測定し,術前のEmery-Little分類の所見と比較したものであり,今回は,文献内の実測値のなかに,人眼の水晶体の硬さがあると考え,硬さを1.2kg/cm2(軟度),1.9kg/cm2(中度),2.6kg/cm2(硬度)と定義した(図2).これらの硬度に近い寒天模擬核を作製するため,寒天早田光孝昭和大学藤が丘リハビリテーション病院眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎301.高分子寒天を用いた模擬核高分子量の食品工業用寒天(カリコリカン:伊那食品工場)を使用し,摘出人眼の水晶体の硬度に準じた模擬核を作製した.高分子寒天を用いることで安定した硬度の模擬核を作製でき,特に硬度の高い模擬核も再現可能であった.白内障手術の乳化効率などの実験的検討に有用と考えられる.GradeHardness(kg/cm2)n=12n=36n=23n=13n=11軟中硬32112345分類基準値公差軟1.2中1.9±0.2硬2.6図2人眼の摘出水晶体核硬度の設定(文献1より)お湯をフルオレセイン用紙で完成染色し,90℃くらいまで熱する粉末寒天をお湯に入れ,かき混ぜて溶解するシャーレに移し,室温で冷ます図1高分子寒天作製方法濃度を1,1.5,2.0,2.5,3.0%とし,作製した寒天を4mmの立方形に切りだし,切り出した寒天を加重測定機(井元製作所)を用いて,硬度を各条件で5回ずつ測定し検討した(図3).その結果,寒天濃度1.5%群で1.04±0.16kg/cm2:軟度,寒天濃度2.5%群で1.86±0.07kg/cm2:中度,寒天濃度3.0%群で2.6±0.08kg/cm2:高度,とそれぞれ目標値に類似した硬度の寒天模擬核を作製できた.さらに,作製した4mm立方形の寒天模擬核をテストチャンバー内で乳化吸引し,超音波(US)時間,エネルギーを5回ずつ測定した(図4).軟度,中度,高度の3群間でUS時間,エネルギーともに有意差を認め,ばらつきも少ない傾向があった(図5,6).実際に乳化した感触も,3群間で明らかに硬さが異なっているのがわかり,個々の寒天模擬核の硬さのばらつきも少なかった.高分子寒天は,市販の寒天より溶解性が高いため,安定した硬度の模擬核を作製でき,特に硬度の高い模擬核も再現可能であった.現在,PEAのUS発振形式は各社工夫を凝らしており多様化している.臨床に用いる前に,実験的な検証を行い,特徴を把握することは重要である.その際,高分子寒天を用いれば,硬度別の検討も含め,安定した検証ができ有効と考える.文献1)張野正誉:人摘出水晶体核の硬度と白内障超音波乳化吸引術の新しい適応基準.眼紀38:780-789,19870.05.010.015.020.025.030.035.040.0軟中高***p<0.05図5超音波発振時間軟度,中度,高度の3群間で有意差を認める.軟度硬度図4寒天模擬核をテストチャンバー内で乳化吸引4mm図34mm立方形に作製した寒天模擬核を加重測定機(井元製作所)にて硬度を測定0.05.010.015.020.025.0軟中高***p<0.05図6超音波エネルギー軟度,中度,高度の3群間で有意差を認める.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 フルオレセインパターン判定法(1)

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112810910-1810/11/\100/頁/JCOPYハードコンタクトレンズ(HCL)の臨床において,フルオレセインパターンの評価は非常に重要である.HCL処方時のみならず,定期検査やコンタクトレンズトラブルで来院したときもフルオレセインパターンを評価することにより,数多くの情報を得ることができる.HCLのフィッティングをフルオレセイン色素を用いないでレンズの動きやレンズのセンタリングのみで正確な評価をすることは不可能である.必ずフルオレセインパターンの評価を同時に実施しなければならない.その一方で,フルオレセイン色素で染色し,ただ漠然とフルオレセインパターンを眺めていたのでは,トラブル症例への対応などレベルの高いコンタクトレンズ診療はできない.フルオレセインパターンには実に数多くの情報が含まれている.本セミナーでは,フルオレセインパターンを単にフラット,スティープと判定するのではなく,より有用な情報を得るためのフルオレセインパターンの判定法を4回に分けて解説する.●フルオレセインパターンを理解するための基礎知識1.ハードコンタクトレンズのレンズデザインフルオレセインパターンを理解するには,HCLの基本的なレンズデザインを把握しておかなければならない.通常のHCLのデザインを図1に示す.HCLの後面とエッジの形状がフルオレセインパターンに影響する.2.フルオレセインパターンは何を表しているか?HCLを装用すると,角膜とHCLの間に,涙の層が形成される(図2).少量のフルオレセインで涙を染め,ブルーフィルターを利用して観察することにより,涙が黄緑色に染色され,涙の層の厚みを知ることができる.明るく染色されれば,角膜とHCLの間の涙の層が厚いこと,染色が暗ければ,涙の層が薄いことを示す.また瞬目とともに,フルオレセインパターンが変化すれば,涙の流れを知ることができる.(61)●正確に判定するための注意事項1.フルオレセイン量は適量に!フルオレセイン色素の量が多いと,HCLと角膜の間のみならず,HCLの表面にも多量にフルオレセイン色素が流れ,正確なフルオレセインパターンの判定ができない.また少なすぎても,フルオレセインの濃淡がわかりにくく,どのようなパターンでも同じように見えてしまう.筆者は昭和薬品化工株式会社のフローレス眼検査用試験紙0.7mgRを三等分(図3)し,色素部分に少量の生理的食塩水を滴下して使用している.HCLのフルオレセインパターンを評価するための色素の量として適量であり,染色時の眼瞼結膜への刺激も少ない.その他に,蛍光眼底造影で使用するフルオレセイン注射液(フルオレサイトR静注500mg)を生理的食塩水で10倍に希釈し,少量の抗生物質を加え,それを少量,硝子棒の先端に付け,眼瞼結膜に接触させる方法もある.2.フルオレセインの染色方法上方視させ,下眼瞼を軽く押し下げ,下眼瞼の眼瞼結膜にフルオレセイン色素を接触させる方法と,下方視させ,上眼瞼を挙上し,上方の眼球結膜に接触させる方法糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】327.フルオレセインパターン判定法(1)レンズサイズフロントカーブベースカーブエッジリフトエッジ中心厚フロントベベルオプティカルゾーンベベル図1ハードコンタクトレンズのデザインハードコンタクトレンズ角膜図2角膜とハードコンタクトレンズ間の涙の層の分布1282あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(00)がある.筆者は前者を用いている.角膜,眼球結膜とフルオレセイン試験紙との距離を確保できるので,不意な眼球の動きにより,フルオレセイン試験紙の先端が角膜に触れる危険性が少ない.この際,円錐角膜や角膜移植術後では,下眼瞼を押し下げるとHCLがずれることがある.この場合,下眼瞼の縁から少し下の部分を,指先で斜め下45°方向から,押し上げるようにして,下眼瞼を反転し,フルオレセイン色素を接触させると,レンズがずれにくい(図4).3.フルオレセインパターン判定のタイミングHCL未経験者では,装用直後に判定を行うと,流涙のために正確な判定ができない.このような場合は20?30分間,HCLに慣れてから判定を行う.時間をおいても流涙がおさまらないときは,ベノキシールR点眼などの表面麻酔点眼を使用する.最初から一律にベノキシールR点眼を使用しないほうがよい.HCL経験者で,HCLによる眼刺激症状がほとんどないときは,装用直後でもフルオレセインパターンの判定は可能である.4.フルオレセインパターンの評価は必ず角膜中央部で行う通常,角膜中央部がHCLの静止位置となるように処方する.しかし静止位置が必ずしも角膜中央部と一致するとは限らない.フルオレセインパターンの判定はHCLを眼瞼の上から軽く保持し,HCLを誘導して,必ず角膜中央部で評価するようにする.図4HCLがずれにくい染色方法下眼瞼の縁から少し下の部分を,指先で斜め下45°方向から,押し上げるようにして,下眼瞼を反転し,フルオレセイン色素を接触させる.図3昭和薬品化工株式会社のフローレス眼検査用試験紙0.7mgR

写真:角膜上皮基底膜変性症

2011年9月30日 金曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.9,201112790910-1810/11/\100/頁/JCOPY(59)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦328.角膜上皮基底膜変性症三田村さやか江口洋徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・眼科学分野図1角膜上皮基底膜変性症によるLAISK後の再発性角膜びらん(51歳,女性)LASIK後に植物の葉で眼を突いたことが契機となり,再発性角膜びらんを発症.中央に角膜びらんと角膜上皮接着不良領域を認める.当初は感染性角膜潰瘍として治療されていた.①②③図2図1のシェーマ①:上皮接着不良域.②:角膜びらん.③:フラップのライン.1秒後図3微小?胞本症例での無症候時に認められた微小?胞.一見すると涙液中のdebrisのようにみえるが,1秒間隔で撮影した写真にて,debris(赤丸)は移動しているが,微小?胞(矢印)は同じ位置であることがわかる.1280あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(00)角膜上皮基底膜変性症(epithelialbasementmembranedystrophy:EBMD)は1964年に初めて報告したCoganの名を取ってCoganmicrocysticdystrophyとよばれているが,細隙灯顕微鏡で特徴的な上皮所見を示し,地図状の上皮混濁(=map)や,上皮内の微小?胞(=dot),上皮の指紋状の皺襞(=fingerprint)がみられるためmap-dot-fingerprintdystrophyともよばれている.病理組織学的には基底膜の重層化,基底膜の上皮層内への侵入や細胞核や細胞質の遺残物を含む上皮層内の?胞が認められ,未発達なヘミデスモゾーム,anchoringfibrilsの欠損により上皮のBowman膜への接着が弱くなっている1).よって些細な外傷が契機となって容易に再発性角膜びらんとなる.実際,再発性角膜びらんの原因のなかでEBMDが約30%を占めるともいわれており,角膜ジストロフィのなかでは頻度が高い疾患である.しかし多くが見逃されていると考えられ,わが国でのEBMDの発生頻度は不明である.近年ではEBMDがあるとlaserinsitukeratomileusis(LASIK)術中・術後のさまざまな合併症のリスクが増えることが報告されている2).マイクロケラトームによるフラップ作製時に上皮欠損や上皮の偏位を生じた場合,EBMDを積極的に疑う必要がある.術後早期ではフラップの皺襞や,epithelialingrowthが,1カ月以降の晩期ではdiffuselamellarkeratitis,フラップの融解などの合併症が比較的高率に生じる.無症候性のEBMDがLASIKを機に症候性になるとの報告もある.よって典型的かつ症候性のEBMDに対するLASIKは推奨されない.無症候性EBMDでは注意深くLASIKを施行するか,もしくはphotorefractivekeratectomy(PRK)を考慮すべきである.したがって屈折矯正手術前検査時は,注意深く細隙灯顕微鏡検査を行って,EBMDを疑う所見の有無を細隙灯顕微鏡で確認する必要がある.EBMDの治療は,角膜上皮の保護を目的としたヒアルロン酸ナトリウムや人工涙液の点眼,ビタミン剤や抗菌薬の眼軟膏の点入を基本とし,不十分な場合は自己血清点眼や治療用コンタクトレンズを適宜使用する.これらの保存的治療でも再発をくり返す症例には角膜実質穿刺,stromalpunctureやphototherapeutickeratectomy(PTK)が有効とされている3).文献1)RodriguesMM:Disordersofthecornealepithelium;aclinicopathologicstudyofdot,geographic,andfingerprintpatterns.ArchOphthalmol92:475-482,19742)DastgheibKA:Sloughingofcornealepitheliumandwoundhealingcomplicationsassociatedwithlaserinsitukeratomileusisinpatientswithepithelialbasementmembranedystrophy.AmJOphthalmol130:297-303,20003)JohanJ:Clinicaloutcomeandrecurrenceofepithelialbasementmembranedystrophyafterphototherapeutickeratectomy.Ophthalmology118:515-522,2011

時の人 緒方 奈保子 先生

2011年9月30日 金曜日

1278あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(58)2010年9月,奈良県立医科大学眼科学教室の第7代目の主任教授に緒方奈保子先生が就任された.同教室は,奈良県立医科大学の前身である奈良県立医学専門学校が戦時中の昭和20年4月に設立されたのに伴い水川孝先生を教授に迎え創設された.しかし水川先生がほどなく応召・出征されたため,周々木三千太郎教授があとを継がれ,その後,昭和24年からは神谷貞義教授のもとに戦後の混乱期を乗り越え,眼科学教室の形を整えられた.その礎は中尾恵一教授へと引き継がれ,中尾先生は特に屈折,矯正の研究の発展に尽力された.この間,昭和27年に現在の奈良県立医科大学に改称.更に西信元嗣教授が昭和58年に就任され,屈折,矯正の研究をより発展させて人工角膜の開発,調節力をもった眼内レンズの開発,人工硝子体の開発など幅広い研究を進められた.平成12年に就任された原嘉昭教授は引き続き人工水晶体・人工硝子体の研究のいっそうの発展に尽力された.そして昨年9月より,緒方先生による新たな体制のもとに教育,研究.そして診療に医局員一同励んでおられる.*緒方先生は1983年3月関西医科大学卒業,同年5月より1年間,宇山昌延先生主宰の眼科学教室にて研修.1984年に同大学大学院医学研究科博士課程(眼科学専攻)に進まれて大熊?先生,金井清和先生の指導のもと網膜色素上皮細胞の組織学的研究により学位を取得.1988年4月より同大学眼科助手を務められ,1991年2月から1993年4月までUniversityofSouthFloridaの臨床免疫学教室に留学.帰国後の同年5月,関西医科大学眼科助手に復職,以後1994年4月同医科大学眼科講師,2003年7月同助教授,2007年同准教授を経て,2010年3月同医科大学附属滝井病院病院教授(併任),2010年7月同医科大学附属香里病院病院教授・眼科部長(併任)を歴任の後,同年9月に最初に紹介したように奈良県立医科大学眼科学教室の7代目の教授に就任された.*1991年に留学されたUniversityofSouthFloridaでは骨髄移植を世界で最初に行った“近代免疫学の父”と呼ばれたRobertA.Good先生のもとで,当時最先端だった分子生物学的手法の研究に従事された.帰国後,関西医科大学眼科助手に復職,分子生物学的手法をはじめ留学中に得られた知識と手技を教室に導入し(『その間,自由に活動させて下さった宇山名誉教授には今も感謝しています』),それがその後の神経保護,眼内血管新生(糖尿病,加齢黄斑変性)等を中心に広く行うことができた基礎研究,臨床研究へとつながった.加齢黄斑変性に関しては,髙橋寛二先生が主に臨床面を担当され,緒方先生は基礎研究面を担当してこられた.更に近年は,pigmentepithelium-derivedfactor:PEDF(色素上皮由来因子)についての基礎研究および臨床研究を精力的に進めてこられ,眼内新生血管発生新生機序とPEDFとの関わり,さらにPEDFを用いた眼内新生血管治療を中心に研究されている.臨床では恩師の松村美代先生から緑内障手術,網膜硝子体手術,そして西村哲也先生から網膜硝子体手術の基本を学び,多くの症例を経験される一方,研修医や専修医の手術教育を担当され,『若い先生の教育がいかに大事かということを実感』してこられた.*先生は,信条・抱負として『臨床の疑問を研究に,研究の成果を臨床に,といわゆるトランスレーショナルリサーチをめざして日々患者の立場に立った診療に努め,また,診療を通じて常に考えながら医療に従事する人材の育成を図り,優秀な臨床医を養成していきたい.そのために自分を育てて下さった多くの恩師から受けた恩と経験のすべてをこれからに生かしていきたい』と述べられ,最後に趣味をお尋ねしたところ『人に言えるような趣味はなく,特技は大食いです』と謙遜された.0910-1810/11/\100/頁/JCOPY時の人奈良県立医科大学眼科学・教授緒お方がた奈なほこ保子先生