‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1% 「日点」)の安全性

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1549.1553,2012c2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)for2-WeekFrequentReplacementSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼剤のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼液よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類の2週間頻回交換SCL(アキュビューRオアシスTM,2ウィークアキュビューR,メダリストRII,バイオフィニティR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分およびホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlenses(SCL)maythereforebelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesof2-weekfrequentreplacementSCL(2WEEKACUVUER,MedalistRII,ACUVUEROASYSTM,BiofinityR).ResultsshowedthatactiveingredientandboricaidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1549.1553,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,2-weekfrequentreplacementsoftcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにいかという検討に関してはこれまでに多くの報告がある1.13).コンタクトレンズ(CL)装用上において点眼液を使用するしかし,点眼液には防腐剤以外にも主薬剤のほかに,等張化ことによって,点眼液に含まれる防腐剤が眼障害をきたさな剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤などが含まれて〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)1549 いる.そのなかで,防腐剤フリーの点眼液にも等張化剤あるいは緩衝剤として含まれているホウ酸による眼障害の検討も必要と考え,筆者はこれまでにヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.2週間頻回交換SCLのなかから従来素材の含水性SCLとして2ウィークアキュビューR,メダリストRII,シリコーンハイドロゲルSCLとしてアキュビューRオアシスTM,バイオフィニティRの計4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.SCLのケア用品としては角膜上皮障害が少ないコンプリートRプロテクトを使用させた15).2週間経過して最終点眼10分後に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査試験開始前に涙液層破壊時間(BUT)と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了時に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前と点眼開始1週間後と試験終了後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,点眼開始1週間後,試験終了SCL装脱前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始後試験終了時までにおいて,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,5人10眼中3人4眼にドライアイと推察される下方に局在する微小な点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)が認められた.経過観察中,試験前に認められたSPKと同様なドライアイによると推察される下方に局在した微小なSPKが認められる症例は散見されたものの,点眼などによる副作用で認められるようなびまん性のSPKは認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類2ウィークアキュビューRグループIVメダリストRIIグループIIアキュビューRオアシスTMグループIバイオフィニティRグループI酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕2822103128含水率(%)58593848中心厚(.3.00D)(mm)0.0840.140.070.08直径(mm)14.014.214.014.01550あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(100) 表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)2ウィークアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─5.8(33.2)NDNDNDND5.8(33.2)メダリストRII平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─アキュビューRオアシスTM平均値±SDNDNDNDND15152.6(14.9)1.6(9.2)3.6(20.6)3.1(17.7)1.8(10.3)2.5±0.8(14.3±4.6)バイオフィニティR平均値±SD1411NDNDND12.5NDNDNDNDND.検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.1.2ウィークアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中1検体から検出され,吸着量は33.2μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中2眼(いずれも試験開始前にSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.2.メダリストRIIa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分のヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が(101)悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中すべてにSPKは認められなかった.3.アキュビューRオアシスTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中1検体から検出され,吸着量は15μg/SCLであった.ホウ酸は5検体とも検出され,吸着量の平均は14.3±4.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.4.バイオフィニティRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体中3検体が検出限界以下,1検体が14μg/SCL,1検体が11μg/SCLであった.ホウ酸は5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前に比べSCL装用中,装脱直後において症状が悪化した症例は認められず,SCLフィッティング状態も良好であった.10眼中1眼(試験開始前にもSPKが認められた症例)においてSPKが認められたが,その程度は試験開始前と変化はなかった.III考按現在市販されている点眼液の60%には防腐剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)が含まれているといわれている16).その他の防腐剤としてはパラベン類,クロロブタノールなどがある.筆者はBAKを含有した点眼液およびパラベン類,クロロブタノールを含有した点眼液をCL装用上において点眼させ,その安全性について検討し,問題がないことをこれまでに報告している17.19).しかし,点眼液には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は防腐剤フリーの点眼液においても等張剤や緩衝剤として配合されているため,CLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.前回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種1日使い捨てSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行い,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した14).今回はヒアルロン酸PF点眼液の各種2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を加えた.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCLを4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121551 トコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会のモーニングセミナー,2010.神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものである.しかし,前回の1日使い捨てSCLを使用した試験と同様に,今回の2週間頻回交換SCLを使用した試験においても,1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.これまでにもCLを点眼液に浸漬してCL内における防腐剤の吸着量を測定した実験報告12)がなされているが,このような過酷な状況下における実験系と実際にCLを装用させて点眼液を使用させて行う臨床的な実験系では,後者は涙液動態による点眼液の希釈が経時的に行われているという点で,結果がかなり異なってくるものと推察する.実際,点眼した防腐剤の涙液中濃度は15分以内で1/10以下になるという報告がある16).日本におけるCLの市場においては,現在1日使い捨てSCLや2週間頻回交換SCLが増加傾向にありSCL市場の大半を占めるまでになった.また,1日使い捨てSCLや2週間交換SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材であるシリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したCLである.これにより,従来型ハイドロゲルSCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼液の主成分や添加物のCLへの吸着が異なる可能性が考えられる20).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類の2週間頻回交換SCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはアキュビューRオアシスTMにおいて1検体に,バイオフィニティRにおいて2検体に吸着を認めた.1日6回点眼におけるヒアルロン酸ナトリウムの総量から考えると吸着したヒアルロン酸ナトリウムの量は5%以下であった.ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,1日6回点眼におけるホウ酸の総量から考えると吸着したホウ酸およびホウ素量は1%以下であった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接CLを試験に供した.また,CL装用中の点眼使用によるSPKの悪化やCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.1552あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012以上の結果より,医師の管理のもとに定期検査を十分に行えば,2週間頻回交換SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.文献1)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19932)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19893)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19944)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19875)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,19776)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,19767)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,19808)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,19879)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199110)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199111)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199312)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199213)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199214)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性.あたらしい眼科29:665668,201215)小玉裕司,井上恵里:各種MultipurposeSolution(MPS)の角膜上皮に及ぼす影響.日コレ誌53:補遺S27-S32,201116)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,199417)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,(102) 2000上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼18)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラ液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,2009スト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい20)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクト眼科20:373-377,2003レンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたら19)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用しい眼科25:923-930,2008***(103)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121553

各種抗アレルギー点眼薬の含水性ソフトコンタクトレンズの含水率に及ぼす影響

2012年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(11):1545.1547,2012c各種抗アレルギー点眼薬の含水性ソフトコンタクトレンズの含水率に及ぼす影響佐野研二*1,2工藤寛之*3三林浩二*3望月學*2*1あすみが丘佐野眼科*2東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野*3東京医科歯科大学生体材料工学研究所センサ医工学分野InfluencesofAnti-AllergyEyedropsonWaterContentofHydrophilicSoftContactLensesKenjiSano1,2),HiroyukiKudo3),KohjiMitsubayashi3)andManabuMochizuki2)1)AsumigaokaSanoEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversity,3)DepartmentofBiomedicalDevicesandInstrumentation,InstituteofBiomaterialsandBioengineering,TokyoMedicalandDentalUniversityソフトコンタクトレンズ(SCL)上からの点眼の影響について調べるため,イオン性SCLと非イオン性SCLを抗アレルギー点眼薬に浸漬した後の含水率の変化を測定した.クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,アシタザノラスト,塩酸レボカバスチン点眼薬への浸漬後の含水率は,イオン性SCL(含水率58%)の場合,それぞれ,61.6±0.2%,67.1±0.3%,47.8±1.0%,53.3±0.4%で,非イオン性SCL(含水率69%)では,68.3±0.5%,61.9±0.3%,68.8±0.5%,67.5±0.5%であった.含水率の変化には点眼薬のpHや浸透圧が関係していた.SCL,特にイオン性SCLの上からの点眼は,レンズの形状,すなわちフィッティングに影響を与える可能性が示唆された.Toassesstheinfluenceofeyedropapplicationwithahydrophilicsoftcontactlens(SCL)inplace,wemeasuredchangesinwatercontentofionicandnon-ionicSCLsaftertheyweresoakedinanti-allergyeyedrops.Aftersoakinginsodiumcromoglicate,tranilast,levokabastinehydrochlorideoracitazanolasthydrateeyedrops,SCLwatercontentwas61.6±0.2%,67.1±0.3%,47.8±1.0%and53.3±0.4%inthecaseoftheionicSCLs(watercontent:58%),and68.3±0.5%,61.9±0.3%,68.8±0.5%and67.5±0.5%inthecaseofthenon-ionicSCLs(watercontent:69%),respectively.ThevariationsinwatercontentcanbeassociatedwitheyedroppHandosmoticpressure.TheseresultssuggestthateyedropinstillationwithSCLinplacemaychangeSCLshapeandfitting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1545.1547,2012〕Keywords:イオン性ソフトコンタクトレンズ,非イオン性ソフトコンタクトレンズ,含水率,点眼薬,pH.ionichydrophilicsoftcontactlens,non-ionichydrophilicsoftcontactlens,watercontent,eyedrop,pH.はじめに以前,筆者らはイオン性ソフトコンタクトレンズ(SCL)の含水率が,消毒システムのソリューションのpHによって変化することを報告した1).そこで,今回は,点眼薬によって,SCLの含水率がどのように変化するかを調べ,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法点眼薬は,市販されている,クロモグリク酸ナトリウム2%点眼薬,トラニラスト0.5%点眼薬,0.1%アシタザノラスト水和物点眼薬,0.025%塩酸レボカバスチン点眼薬を用いた.つぎに,含水率58%のヒドロキシエチルメタクリレートとメタクリル酸の共重合体からなるイオン性SCL,および含水率69%のポリビニルアルコール製非イオン性SCLを生理的食塩水に浸した後,それぞれの点眼薬2.5mlに8時間浸漬し,ATAGO社製SCL用含水率計CL-2HおよびCL-2Lを用いて浸漬前後の含水率を3回ずつ測定した.また,それぞれの点眼薬のpHをHORIBA社製pHメーターtwinpHB-212を使用して3回測定した.〔別刷請求先〕佐野研二:〒267-0066千葉市緑区あすみが丘1-1-8あすみが丘佐野眼科Reprintrequests:KenjiSano,M.D.,Ph.D.,AsumigaokaEyeClinic,1-1-8Asumigaoka,Midori-ku,ChibaCity267-0066,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(95)1545 1020607080前ムト物ン10206070801020607080前ムト物ン1020607080含水率(%)含水率(%)50504040303000図1イオン性SCLと点眼薬浸漬後の含水率II結果点眼薬浸漬前のSCLの含水率は,イオン性SCL(メーカー公表含水率58%)が59.0±0.2%,非イオン性SCL(メーカー公表含水率69%)が69.9±0.2%であった.イオン性SCLの点眼薬浸漬後の含水率は,クロモグリク酸ナトリウムで61.6±0.2%,トラニラストで67.1±0.3%と有意に上昇し,アシタザノラストと塩酸レボカバスチンでは,それぞれ47.8±1.0%,53.3±0.4%と有意に低下した(図1)(MannWhitneyのU検定p<0.05).一方,非イオン性SCLでは,クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,アシタザノラスト,塩酸レボカバスチン点眼薬の順に68.3±0.5%,61.9±0.3%,68.8±0.5%,67.5±0.5%で,トラニラスト点眼薬で有意に低下した(図2)(Mann-WhitneyのU検定p<0.05).また,クロモグリク酸ナトリウム点眼薬,トラニラスト点眼薬,アシタザノラスト水和物点眼薬,塩酸レボカバスチン点眼薬のpHの実測値は,それぞれ,5.5±0,7.5±0,5.5±0,7.1±0であった.III考按以前,SCL消毒システムにおいて,消毒中のSCL含水率の経時変化を測定した際,今回と同じ材料のイオン性SCLにおいて,溶液が酸性時に含水率が下降し,アルカリ性時には含水率が上昇したため,この含水率の変化はイオン性材料内のメタクリル酸同士の帯電による反発の程度がpHに敏感に反応したためと考察した(図3)1).今回の結果も,イオン性SCLにおけるアルカリ性のトラニラストでの含水率上昇,酸性のアシタザノラストの含水率低下,また,非イオン性SCLでのクロモグリク酸ナトリウム,アシタザノラスト,塩酸レボカバスチンで含水率が,ほとんど変わらなかったこ1546あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012図2非イオン性SCLと点眼薬浸漬後の含水率ポアサイズCH3CH2CCH2CCH3COO-H+反発COO-H+図3メタクリル酸含有材料イオン性SCLによく使用されるメタクリル酸は,カルボキシル基同士が水素イオンを電離し,マイナスに帯電することにより反発しあって含水率を稼いでいる.酸性では電離の割合が低くなって反発が小さくなり,アルカリ性では電離の割合が高くなって反発が大きくなる.とは,メタクリル酸含有の有無と,そのpHによる帯電の程度の変化によるためと説明できた.しかし,その一方で,点眼薬のpHだけでは説明のできない結果もいくつか見受けられた.まず,イオン性SCLにおける酸性のクロモグリク酸ナトリウムにおける含水率上昇とアルカリ性の塩酸レボカバスチンにおける含水率低下についてであるが,クロモグリク酸ナトリウム,トラニラスト,アシタザノラスト水和物点眼薬,塩酸レボカバスチン点眼薬の生理的食塩水に対するメーカー公表浸透圧比が,それぞれ0.25,0.9.1.1,約1,2.8.3.8で,クロモグリク酸ナトリウムが低張方向に,また,塩酸レボカバスチンが高張方向に大きく外れており,浸透圧が含水率に影響を与えた可能性があった.高分子材料は架橋レベルを上げるほど硬くなり2),そのフレキシビリティは同じ材料であってもバラエティに富んでいる.今回,実験に用いたイオン性SCL材料は非常にフレキシビリティが高く,また,日常装用などで含水率が変化した後,マルチパーパスソリューションによる含水率回復が(96) 図4アシタザノラスト水和物点眼薬浸漬後のイオン性SCL直径14.2mm(白矢印)から13.3mm(黒矢印)へ変化した.遅いことが報告されており3),硬く,高分子構造上しっかりとした非イオン性のポリビニルアルコール製SCLに比べて,浸透圧による含水率変化の後も,その影響が残ったためと考えた.つぎに,非イオン性SCLにおいて,浸透圧比が約1.0であるトラニラスト点眼薬で有意に低下したことについては,この点眼薬に添加されているホウ酸とポリビニルアルコールの親和性によるものと考えた.ポリビニルアルコールでは,その機械的性質や耐水性向上を目的として少量のホウ酸添加がしばしば行われ,ここでホウ酸は架橋剤として働き,この分子を介してポリマー同士が連結されることが報告されている4).今回の実験は,SCL消毒システムのソリューションへの浸漬試験1)にならって行ったため,実際のSCL上からの点眼に比べると非常に厳しい条件下のものといえる.しかしながら,SCL材料と点眼薬の相互作用によっては,SCLの含水率変化,すなわち形状変化を起こす可能性が示唆され(図4,5),今後,筆者らは臨床上,SCL上からの点眼がフィッ図5トラニラスト点眼薬浸漬後のイオン性SCL直径14.2mm(白矢印)から15.2mm(黒矢印)へ変化した.ティングに影響を与えるか否かについて,詳細に検討していく必要がある.本論文の内容は第110回日本眼科学会総会で発表した.文献1)佐野研二:イオン性素材─何が問題なのか─.あたらしい眼科17:917-921,20002)佐野研二,所敬,鈴木禎ほか:フッ素系非含水性ソフトコンタクトレンズ用素材の研究.日コレ誌36:196200,19943)CabreraJV,VelascoMJ:Recoveryofthewatercontentofhydrogelcontactlensesafteruse.OphthalmicPhysiolOpt25:452-457,20054)山田和彦,安藤慎治,清水禎:高磁場固体NMR法を用いたポリビニルアルコールにおけるホウ酸架橋構造の解析.PolymerPreprints,JapanVol60,No1:654,2011***(97)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121547

わたしの工夫とテクニック 涙嚢鼻腔吻合術鼻外法における安全な骨窓作製が可能な骨膜剝離子

2012年11月30日 金曜日

あたらしい眼科29(11):1535.1537,2012わたしの工夫とテクニックあたらしい眼科29(11):1535.1537,2012わたしの工夫とテクニックMyDesignandTechnique涙.鼻腔吻合術鼻外法における安全な骨窓作製が可能な骨膜.離子SafeBoneOstiumCreationinExternal-Dacryocystorhinostomy,要約今回作製した両端の骨膜.離子は,一方は平型で上顎骨の骨膜.離に,もう一方はL字型で骨窓作製に特化した形状になっており,涙.窩の縫合線に差し込み小窩をあけることができる.涙.鼻腔吻合術鼻外法の骨窓作製の一方法として,この器具とロンジャーを組み合わせれば,ソノペットやドリルなどの電動器具を使わなくても手術が可能である.また,上顎骨裏側の鼻粘膜を損傷せずに骨窓を作製できるという利点がある.キーワード:涙.鼻腔吻合術鼻外法,骨窓,骨膜.離子,ロンジャー.はじめに涙.鼻腔吻合術(DCR)鼻外法は,DCRを行う術者であるならば,必ず習得しておいてほしい術式である1,2).骨窓の作製時に,ソノペットやドリルなどの電動器具を使わなくても可能なオーソドックスな方法として,骨ノミの使用がある2,3).しかし,ノミは先端が鋭いために,上顎骨内側に存在する鼻粘膜を損傷する危険性がある4).今回,筆者が作製したのは,安全に骨窓を開けることのできる骨膜.離子である.その開発経緯と使用経験につき述べる.I開発の経緯DCR鼻外法は,特殊で高価な電動器具がなくても完遂できる手術である2).ソノペットやドリルなどを使用するのは,骨窓形成の部分であり,ここを手動で行うことにすれば,高価な電動器具を購入する必要はない.今回開発したのは,先端が鈍なL字型をした骨膜.離子である.着想の発端は,筆者がシンガポール留学中に経験したDCR手術である.乱暴にペアンの先で涙骨を穿破する方UsingNewSurgicalRaspatorium中内一揚*全長:17cm図1全長約17cmの中内式骨膜.離子の全貌(M-2018)(上)と,骨窓作製時に特化したL字型形状の先端(左下)および平型骨膜.離子の形状(右下)法5)もあるが,注目したのが骨窓形成時に,Traquair’speriostealelevatorという両端がL字型になった骨膜.離子を使って手術を行う方法である6).この器具を使うことで,鼻粘膜を損傷せずに骨窓を開ける「とっかかり」を得ることができる.この.離子はSpeedwaySurgicalCo.(India)が販売しているが,日本には代理店がなく購入がむずかしい.そのため,筆者はこの.離子を改良し,先端形状をさらに骨窓作製用に特化し,もう一方の先端は平型の骨膜.離子とした(図1).II対象平成22年4月から平成24年3月の2年間に当院にてDCR鼻外法を施行した12例14眼に,この骨膜.離子を用いて手術を施行した.*KazuakiNakauchi:兵庫医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕中内一揚:〒663-8501西宮市武庫川町1-1兵庫医科大学眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)1535 b図4CT所見a:術前,b:術後.右上顎骨,涙骨が大きく欠損している(白丸).今回の方法で作製した骨窓である.b図4CT所見a:術前,b:術後.右上顎骨,涙骨が大きく欠損している(白丸).今回の方法で作製した骨窓である.III手術方法全例,全身麻酔下で行った.1%リドカイン塩酸塩・アドレナリン注射液〔(1%キシロカインR注射液「1%」エピレナミンR(1:100,000)含有〕を注射して5分後,内眼角内側1cmの点より約30°外下方に向かう長さ2cmの直線皮膚切開を真皮に至る深さで行った.皮下の眼輪筋を先端が鈍な剪刀で.離し,眼角動脈を傷害しないように注意しながら,骨膜を露出する.骨膜を涙.窩に沿って約2cm切開する.今回開発した骨膜.離子の平型端を使用して骨膜を.離する(図2a).4-0ナイロン糸を使用して,腸丸0番針で骨膜から皮膚に通糸して通常6糸で牽引・展開する.涙.を持ち上げながら,涙.窩にL字型端を差し込み,涙骨-上顎骨の縫合線を探し出す.そこに先端を差し入れて,同時に裏側にある鼻粘膜を押し下げるようにする.このあと,縫合線周囲の薄い骨を押しつぶす感じで穿破する(図abc図2各種器具の使用方法a:平型骨膜.離子の使用方法.骨と骨膜の間に先端を差し入れて上顎骨涙.稜の骨膜を浮かせている.b:L字型骨膜.離子の使用方法.縫合線に先端を差し入れて,その部分を押し破るようにする.固い場合はてこのように使用する.上顎骨裏側の鼻粘膜を傷害しないようにエッジは鈍になっている.c:ロンジャーの使用方法.bで開けた小孔にロンジャーの先端を差し込み,上顎骨を削り取る.1536あたらしい眼科Vol.29,No.11,20122b).もう少し固い場合は,テコの原理で破砕する.直径約5mmの穴が開けば,そこに彫骨器(BoneRongeurForceps:以下,ロンジャー)を差し込み骨窓を拡大する(図2c).ロンジャーの大きさは,骨の厚みに応じて変える(当科ではKatenaProduct社製を使用,図3).骨窓を約7mm×10mmに広げ,ささくれた骨梁をきれいにすれば作業は終了である.あとは型どおり鼻粘膜と涙.とをH型に切開して粘膜同士を結び前弁・後弁を作製する.粘膜腔の確保のために,シリコーンヌンチャクチューブ(NST)を挿入する.最後に骨膜を縫合し,皮膚縫合をして手術を終了する.IV結果14例中13例で,今回開発したL字型骨膜.離で骨窓を開けることができた(成功率93%).ただし,1例では,涙骨図3ロンジャーの全貌(KatenaK7-1801)握ると先端が縮むように設計されている.a(86) および上顎骨が厚く,縫合線に先端を差し込むことができなかった.この場合は,骨ノミ(永島医科器械株式会社製)を使用して手術を完遂することができた.また,DCRの成功率であるが,術後2週間でNSTを自己抜去してしまった1例を除き,流涙は改善した(成功率93%).今回の方法でDCR手術を施行した症例の術前・術後のCT(コンピュータ断層撮影)写真を示す(図4).術後には右上顎骨に大きめの骨窓が作製されているのが確認できる.V考按DCR鼻外法は鼻内法が内視鏡などの機器を必要とするのに対し,ほとんど電気機器を使用しなくても手術が可能な方法である.しかし,骨窓作製の手技に関しては1975年発刊の手術書にもドリル(エアトーム)が載っていることもあり7),かなり以前より電気機器による掘削が行われていたことがわかる.大事なことは上顎骨の裏側にある鼻粘膜を穿破しないようにすることである2).最近になり超音波式骨掘削機(ソノペット,日本ストライカー社製)の使用が,術野の確保および,粘膜保護に有効であると報告された8).しかし,この機械は高価で,使用頻度を考えると眼科で購入するのはむずかしい.今回,筆者が開発したのは,シンガポールにて経験した手術法6)からヒントを得て作製した骨膜.離子である(図1).なお,もともとの器具はTraquair’speriostealelevatorといい,両端がやや長さを変えたL字型になっているが,骨窓作製においてはどちらが使いやすいという区別はなかった.そのため,筆者は片端をL字型とし,さらに丸みと厚みを加えて,鼻粘膜を保護しかつ縫合線を穿破しやすいようにし,またもう一端を小型の平型骨膜.離子として,涙.稜付近の骨膜.離に使用できるようにした.現在イナミより中内氏式骨膜.離子として発売されている(M-2018).この.離子とロンジャーがあれば,骨窓が作製可能である.当科で使用しているロンジャーは,KatenaProduct社のK7-1801.3であり,下から上にかじり取るタイプのものである(図3).この形状は好みに応じて使い分けてよいと考える.今回作製した骨膜.離子は,DCR鼻外法の骨窓作製時に使用する特別な器具である.この器具が皆様のお役に立てればと考えている.追記:本稿の内容は,第1回日本涙道・涙液学会(2012)で発表した.文献1)中村泰久:涙.鼻腔吻合術.眼科診療プラクティス80,p66-69,文光堂,20022)上岡康雄:涙.・鼻涙管閉塞の標準的治療(涙.鼻腔吻合術:DCR鼻外法).眼科手術24:160-166,20113)宮崎千歌:涙.鼻腔吻合術(DCR).眼科マイクロサージェリー第6版,p123-128,エルゼビアジャパン,20104)佐々木次壽,加納晃:ホルミウムYAGレーザーを用いた涙.鼻腔吻合術鼻外法の経験.眼科40:103-107,19985)TseDT,HuiJI:Dacryocystorhinostomy.ColorAtlasofOculoplasticSurgery2ndedition,p257-270,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,20116)WongTY:Oculoplasticandorbitaldisease.TheOphthalmologyExaminationsReview2nd,p345-387,WorldScientific,20117)三井幸彦:涙.鼻腔吻合術.眼科手術の手ほどき(第三版),p62-66,金原出版,19758)Siviak-CallcottJA,LindvergJV,PatelS:Ultrasonicboneremovalwiththesonopetomni.ArchOphthalmol123:1595-1597,2005SUMMARYSafeBoneOstiumCreationinExternal-Dacryocystorhinostomy,UsingNewSurgicalRaspatoriumKazuakiNakauchiDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicineWehavedevelopedanewraspatoriumforexternal-dacryocystorhinostomy(DCR).Thisinstrumenthastwofunctionalends,oneofwhichisasquarehead;theotherisL-shaped.Thesquareheadisusedasaperiosteumscraperoverthemaxilla;theL-shapedheadisspecializedforbreakingthesuturelinebetweenlacrimalboneandmaxillaboneatthelacrimalfossa.Withthehelpofrongeurforceps,abigboneostiumismadewithoutdamagetothenasalmucosa.ElectricaldevicessuchasSonopetorbonedrillarenotneeded.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(11):1535.1537,2012〕Keywords:external-dacryocystorhinostomy(DCR),boneostium,raspatorium,rongeur.Reprintrequests:KazuakiNakauchi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cho,Nishinomiya-city,Hyogo663-8501,JAPAN(87)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121537

My boom 10.

2012年11月30日 金曜日

監修=大橋裕一連載⑩MyboomMyboom第10回「大澤俊介」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑩MyboomMyboom第10回「大澤俊介」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介大澤俊介(おおさわ・しゅんすけ)岡波総合病院眼科・三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学私は三重県津市に生を受け,長崎大学医学部卒業後,平成9年に三重大学眼科学教室に入局しました.大学病院と市中病院を行ったり来たりの勤務を経て,現在は伊賀忍者の里にある岡波総合病院で網膜硝子体手術にドップリ浸かりながら忍んでいます.大阪と名古屋という大都市に挟まれた三重という穏やかな土地に生まれたためか,性格は温厚そのもの(「嘘だ.」という声が聞こえますが…)で人との出会いが何よりの生きる潤滑剤と考えています.眼科のMyboom①<Pneumaticcontrol>私のlifeworkとなっているmicro-incisionvitrectomysurgery(MIVS)は,手術手技,手術装置・器具,手術アジュバントの進歩とともにさらに低侵襲かつ洗練した手術へと進化を続けています.まさに今,本当の意味でのminimallyinvasivevitrectomysurgery:MIVSへと昇華されようとしており,その発展・成熟期に直面しているといっても過言ではないと思います.その中で現在,私はpneumaticcontrolの器具にお熱を上げており(死語でしょうか?),まさにMyboomとなっています.MIVSにおけるpneumaticcontrolとはフットペダルで噴出ガス圧をコントロールし,そのガス圧でforceps(鉗子)やscissors(剪刀),その他の器具を動かします.端的にいえばフットペダルで器具の開閉などを行(83)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYうシステムです.通常,forcepsは膜などを把持するときに当然ながら手で器具を握り込む必要があり,その折に少しでも力みが出るとブレが起こりますし,操作の角度によっては非常に得手が悪い局面があります.そこでpneumaticforcepsを使用すると手で器具を握り込む操作がありませんので,あたかも硝子体カッターを操作しているかのような感覚で,力みなく得手も気にせず膜把持・.離操作が可能となります.私も最初はフットペダルで器具を操作するというだけであたかもおもちゃのマジックハンドを操作するかのようなイメージをもっていましたが,現在のフットペダルのセンサーはかなり優秀で踏み込み量に応じてリニアかつスムーズに器具の開閉が行えます.今ではこのブレのない感覚がERM(網膜上膜)やILM(内境界膜)の.離操作での最良のパートナーとなっていますし,増殖膜の処理ではフットペダルの踏み込み量の50%をforcepsに,残り50%をscissorsに振り分けてbi-manual(双手法)操作で.離・切除を進めることができ,安全・確実かつ手の疲れがなく(生来の怠け者で…)長時間の操作が可能な点も気に入っています.皆様も機会があればpneumaticcontrolを是非ともお試しください.眼科のMyboom②<勉強会>数年前から“自称”若手の診療に燃える眼科医たちを中心にいくつかの勉強会を行っています.形式は少人数での症例提示&ディスカッション(叩き合い)のものから,数十名規模の講演会&ディスカッション(やさしい叩き合い)のものまでさまざまですが,積極的なディスカッションを中心に行うことで生の意見を戦わせ,お互いの知識・技術のブラッシュアップとコミュニケーションをより深めることを目的としています.<勉強会>というと堅苦しい感じがしますが,本当にフランクに志をあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121533 〔写真1〕勉強会(祭り)の後,戦友(仲間)たちと〔写真1〕勉強会(祭り)の後,戦友(仲間)たちともった多くの眼科医と交流できるこうした場はいつも新しい出会いと発見に溢れており,そして会を重ねるごとに心に熱い思いが込み上げる素敵なMyboomです.もちろん勉強会(祭り)の後もその余韻(飲み会)が夜中まで続くことはいうまでもありません(写真1).プライベートのMyboom<美味しい出会い>もちろん勉強あってのことですが…,学会参加の醍醐味の一つとしてグルメ探訪は外せない要素だと思います.そこで私が積極的に選んでいるのが同世代の店主が営むまさに「これから」(もうすでに有名店なことも多々ありますが…)のお店です(写真2).われわれ医師も患者さんに育てられますが,お店も客とともに育っていくその成長・変遷を一緒に体感するのはなかなかおつなもので,こうして通うようになったお店は間違いのないホ〔写真2〕同い年の店主と「青空:はるたか」にてスピタリティをいつも提供してくれます.勉強に疲れた頭に爽快なインパクトをもって疲れを癒やしてくれる私のMyboom<美味しい出会い>を皆様にもお勧めします!次回のプレゼンターは岐阜の小國務先生です.小國先生はMyboomの<勉強会>でいつもともに学ぶ仲間で,クールで熱く少年のような心をもった先生です.きっと素敵なMyboomを紹介されると思います.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆1534あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(84)

現場発,病院と患者のためのシステム 10.システムを導入すると手間が軽減されるって本当?

2012年11月30日 金曜日

連載⑩現場発,病院と患者のためのシステム連載⑩現場発,病院と患者のためのシステムベンダ(システムを提供する会社)は,システシステムを導入すると手間が軽減されるって本当?ムを導入すると作業が迅速に進み,効率化されるという決まり文句で勧めてきます.証拠として導杉浦和史*入事例をいくつか挙げ,かつ,導入先の見学もできますと付け加えることも忘れません.しかし,導入されていることと,実感できる効果をあげて情報システムを導入すると,そのシステムがカバーする業務が効率よく処理され,人が減る,あるいは余った要員を忙しい部門に再配置できるという期待があります.昭和40年代後半から50年代後半にかけた大型汎いることは別物です.また,導入先を見学する際には,「効果が出ています」といわざるを得ない立場の,“導入を決めた責任者”が対応することを理解しておく必要があります.用コンピュータを使った黎明期の情報システムは,確かに目に見える量的な効果がありました.それは,大量/一括/繰り返しという,コンピュータが最も得意とし,人間には不得意な単調な作業を繰り返す業務がシステム化の対象だったことが大きな理由です.しかし,今までの仕事の仕方を見直さないままシステムに写し取ってコンピュータで処理するという単純な発想で効果が出るような業務のシステム化は,製造業など他業種では,経営層が無関心,無理解でない限り,もはや残されていません.一方,医療機関には,依然として多種多様な各種帳票,伝票,メモがあり,これを人間力で処理する業務がたくさん残っていて,システム化による効果が期待できます.しかし,今の仕事の仕方を変えずにそのままシステム化することは避けなければなりません.システムを導入すると手間が軽減されることを実感するにはどうしたらよいのでしょう.そのためには,BPR(BusinessProcessRe-engineer-ing)と呼ばれる作業を行わなければなりません.MITのマイケル・ハマー教授が提唱した,アカデミックな定義がありますが,実務家の筆者らは,シンプルに,“過去に引きずられず,原点に立ち返って業務の内容,手順を見直し,改革すること”と理解しています.同じ仕事,環境に長い間ひたっていると,意識・無意識を問わず,それが当たり前となり,常識を形成してしまいます.この常識が,その世界にいない人には非常識に映ります.常識の逆転現象ですが,病院関係者に「この常識を変えなければ,サービスレベルを維持・向上しつつ,病院スタッフの負荷軽減,患者満足度向上は実現できない,だから変えましょう」と提案しても,なかな(81)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYか受け入れてもらえません.BPRの前に意識改革が必要な所以です.どうして非効率な仕事は引き継がれてしまうかを過去のコンサルティグ経験から考えてみると,おおよそ以下のような経過をたどっているようです.①何もわからない②教えてもらい,少しずつ業務がわかるようになる③何でこうなっているのか?と疑問に思うことがある④発言してみるが取りあってもらえない,あるいは生意気と思われるので止める⑤不本意に思いつつも,そのまま流される⑥そのうち,慣れてくる⑦慣れてくると,別段問題がないように思えてくる⑧非効率な仕事のやり方がそのまま温存される⑨自分が教える立場になるが,そのまま教える⑩非効率な仕事のやり方が継承されるまた,次のような問題もあります.①医師を頂点とする権威のピラミッド構造から来る,事なかれ主義の蔓延②今の仕事のやり方を考えてきたプライドをもつベテラン層の存在③BPRによって既得権を制限される層の存在これらが,改革の足を引っ張ることはしばしば経験す*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121531 あるべき姿・危機感・必然性・意識改革《引き上げ要因》・予算,時間の制約・事なかれ主義・守旧派,ベテラン層の抵抗《バイアス要因》あるべき姿・危機感・必然性・意識改革《引き上げ要因》・予算,時間の制約・事なかれ主義・守旧派,ベテラン層の抵抗《バイアス要因》プロセス1プロセス2プロセス3プロセス4プロセス5①何を処理するプロセスか②絶対必要か③なければ,何が(誰が)どう困るか,その頻度は④前後のプロセスで重複している機能はないか⑤それは前後の,あるいは他のプロセスを改善することで吸収できないかプロセス1プロセス2プロセス3プロセス5プロセス4がなくなっても作業品質には影響がないプロセス1+aプロセス3プロセス5プロセス1の仕事のやり方を改善・改革し,図1BPRの成否を分ける綱引きの構図プロセス2を吸収する新プロセス1プロセス3プロセス5図2BPRの考え方るところです.しかしながら,これを排除しなければBPRを成功裏に終わらせることはできません(図1参照).過去,医療制度改革,後期高齢者医療制度発足などの受診抑制策,診療報酬改定の影響で,閉鎖せざるを得なかった民間病院が出たことがありましたが,ある事象を危機と捉えるかどうか,また,実行可能な具体策を採るか採らないかで明暗が分かれます.この危機を敏感にキャッチしてBPRを進め,BPR済みの業務の中からコンピュータで処理して効果が期待できるものを選んでシステムを整備した病院があります.この病院は,他院が深刻な来院者減になっている状況下で,逆に増えたという実績があり,BPRとシステムが具体的な効果をあげた事例として知られています.さて,BPRを行うのは難しいのでしょうか.アカデミックな視点での研究はともかく,それほど難しいものではないというのが筆者の経験からいえることです.図2に示すように,シンプルに考えることをお勧めします.ここでポイントになるのは,①を説明してもらい,畳みかけるように②の絶対必要か?という質問をすることです.現場の看護師,検査員,医事会計の担当者は「必要です」というに違いありません.しかし,それを鵜呑みにしていたらBPRはできません.必要といわれることを承知で質問し,③で必要とする裏付けを取ります.「昔からそうしていた」という回答があれば,前述1532あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012BCBCBCA削減削減30分40分10分待つ20分待つA患者3患者2患者1ABCBCBCAAABCBCBCAA患者3患者2患者1A図3順番の見直しの①.⑩の経過をたどった仕事に該当し,BPRの効果が出てくる可能性があります.現在当院では,院内業務を総合的にシステム化するHayabusaプロジェクトが推進されていますが,BPRの実践例がいくつもあります.来院した患者さんは,問診,検査,診察,処置,会計などさまざまなプロセスを経て帰ります.このプロセス,守らなければならないものを考慮しつつ適宜順番を変え,待っている間に別のことができないかを検討したものが図3です.このBPRの結果はHayabusaに実装されています.なお,青の点線で示す順番は,総時間は変わらないものの,待たずに検査してもらえた,1回待たされただけだったという,気分的な満足を感じてもらうことを狙った場合です(患者3).(82)現状

タブレット型PCの眼科領域での応用 6.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用-その3-

2012年11月30日 金曜日

シリーズ⑥シリーズ⑥タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第6章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その3─■視覚障害者の生活が変わるタブレット型PCの拡張性今回は,私が代表を務める“GiftHands”が提案するタブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用法について紹介していきたいと思います.本章ではさまざまなアプリや周辺機器を活用することでタブレット型PCが,ロービジョンエイドとしてどのように活用できるかを患者たちの生の声とともに紹介していこうと思います.なお,原則的に私が現在,GiftHandsの活動や実際に外来で扱っているタブレット型PCは“新しいiPadR(米国AppleInc)”と“iPhone4SR(米国AppleInc)”,iOSバージョン6.0です(2012年9月30日現在).■私のロービジョンエイド活用法「便利アプリ編」タブレット型PCやスマートフォンが普及した理由の一つは,安価で役に立つアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)が多数存在していることです.タブレット型PCやスマートフォン用のアプリ開発は比較的容易なため,ユーザーの視点でのアプリを主婦や学生が開発して人気を得ることもあります.このような背景で日々生まれ続けるアプリの中には,ロービジョンの患者にとっても非常に有用なアプリが無数に存在しています.このようなアプリの中で私の患者が特に興味深い活用法をされていたアプリを紹介させていただきます.1.LightDetector(EveryWareTechnologies)カメラに写る風景の明るさをリアルタイムに音の高さで表現するシンプルな感光器アプリです.ある全盲の患者は,「このアプリのお陰で電気の消し忘れがなくなりました.光の見えない私にとって光を音として感じられ(79)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYる喜びは非常に大きいです」と,ちょっとした電気の消し忘れも,全盲の方には毎日の生活の中で悩みの種となるのです.このような便利アプリが非常に安価にかつタブレット型PC上で即座に購入できることもスマートフォンやタブレット型PCのアプリの最大の利点であるといえます(2012年9月30日現在).2.ColorIdentifier(GreenGarStudios)カメラに写る対象物の色を判読して読み上げてくれる色識別アプリです.色の識別精度はそれほど高くありませんが,このアプリの予想外な使い方を患者は教えてくれました.「これを使ってから,靴下の組み合わせを間違えることがなくなったよ.目が不自由でもオシャレはしたいからね」と,一人暮らしのこの患者はアプリで靴下の組み合わせが間違っていないか,読み上げられた色が同じかどうかで判断するのだというのです.何色かではなく,同じ色かを判定するのにはこのアプリの精度でも十分に機能するのだということです.日々の生活の中にある小さな悩みを聞き逃さないことこそ,タブレット型PCやスマートフォンをロービジョンエイドとして生かす指導が行えるかの最大のコツといえるのではないでしょうか.大阪府立視覚支援学校では,上記のアプリを組み合わせて全盲の学生に金環日食を体感させるなど,独創的かつ創造性が高い実証実験を行っています(図1).このように既成概念にとらわれない学校が出現して来ていることは,社会全体がタブレット型PCやスマートフォンをロービジョンエイドの新しい形として認識し始めた証拠といえます.アイデア一つで見えなくても感じることのできるさまざまなアプリが,非常に安価に手に入ることは重症度によらず視覚の障害で生活に不便を感じるすべての人にとって,何よりの朗報といえるのではないでしょうか.あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121529 図2テンキー入力が可能な携帯型充電器図1全盲の生徒が,金環日食を聴覚や温度感覚を使って観測する(大阪府立視覚支援学校HPより転載)大阪府立視覚支援学校のHP:http://www.osaka-c.ed.jp/mou/ipad/ipad2012/ipad1.html■私のロービジョンエイド活用法「便利グッズ編」タブレット型PCがロービジョン患者専用の機器ではないことの利点は,周辺機器が充実していることからもいえます.タブレット型PCで問題となるのは,凹凸を触知できないタッチパネルによるキーボードの入力操作です.システムのバージョンアップに伴い音声入力による文字認識の精度はきわめて向上していますが,それでもすべての入力を音声で行うのは困難です.キーボードを目視しないで入力するブラインドタッチに慣れて来た患者にとって,タブレット型PCのタッチパネル式のキーボードを使うのが困難なのは事実です.しかし,タブレット型PCではBluetoothという近距離無線通信機能を利用した,外付けのさまざまなキーボードを使用することが可能です.また,同様の通信機能を利用して携帯電話に一般的に使用されているテンキー入力が可能な,スマートフォンやタブレット型PC用の携帯型充電器(図2)なども発売されており,より多くの患者のニーズを満たすことが可能になってきています.キーボード入力一つをとっても,周辺機器の多さはタブレット型PCが一般社会に広く普及する汎用性の高い機器であるからこそ成立するといえます.「一般の人が使っている機器だから,外出時に操作がわからなくなった時に隣の人に聞けるのよ.特に海外でも聞けるのは本当に助かるわ」「一般の家庭用品だから欲しいと思った時にすぐ電気屋で買える.買うのに手続きが多く,手に入れるのに時間がかかるのであれば,欲しい気持ちは冷めてしまいますよ」と,私のセミナーに参加した患者は笑顔でそう語っていました.ロービジョンの患者にとって一般の人と同じ物を使えることの重要性は計り知れないのです.患者のニーズを満たすアプリや周辺機器の組み合わせのヒントは,彼らの発する言葉の中にしか見つかりません.彼らの言葉に耳を傾けることで見えてくる気づきとそこから生まれる多くのアイデア,私はそれらを得るためにGiftHandsの活動を続けています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆1530あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(80)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 114.MIVS関連の周辺部医原性裂孔(初級編)

2012年11月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載114114MIVS関連の周辺部医原性裂孔(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●MIVS関連の周辺部医原性裂孔MIVS(minimallyinvasivevitreoussurgery)の普及により,硝子体手術中の周辺部医原性裂孔形成の頻度は大幅に減少しているものと思われる.MIVSではトロカールを使用するので,器具の挿入が容易となり,基底部硝子体に不用意な牽引が作用しにくくなったことが最大の理由と考えられる.しかし,MIVSの周辺器機が多様化するに従い,今までにはみられなかった合併症をまれに経験するようになってきた.●シャンデリア照明による医原性周辺部裂孔MIVSでは4ポートで23ゲージ(G)や25Gのシャンデリア照明を装着して眼底の視認性を向上させることが多い.トロカールから挿入するシャンデリア照明のなかには,先端が結構長い機種も市販されている.術中に術野がより明るくなるようにシャンデリア照明の向きを助手に調節してもらうことがあるが,このときに先端を不用意に立てすぎると,先端で周辺部網膜を損傷することがある(図1).通常はこのような合併症はまず生じないが,助手が無意識に先端を押し込みながら過度に立てると,網膜に接触しうるので注意が必要である.●医原性鋸状縁断裂トロカールを使用する最大の利点は,前述したように以前の20G硝子体手術時にときどき生じた医原性鋸状縁断裂の発症頻度を激減させたことと考えられる.しかし,『硝子体手術のワンポイントアドバイス(10)医原性鋸状縁断裂(初級編)(Vol.21,p361)』でも記載したように,高度に混濁した陳旧性の硝子体出血例(図2)では,基底部硝子体が基質化して弾力性が低下しているため,MIVSでもまれに医原性鋸状縁断裂が生じることがある(図3).この場合は基質化した硝子体出血の一部がトロカール内に嵌入し,器具の挿入時にやや抵抗を感じることがある.このようなときには無理をせず,対側の強膜創から硝子体カッターを挿入し,トロカール先端の出血を切除してから,器具を再挿入する必要がある.また,術中にトロカールが外れて再挿入する際にも注意が必要である.図1シャンデリア照明による周辺部医原性裂孔助手がシャンデリア照明を押し込みながら過度に立てすぎたため,先端で網膜を損傷したと考えられる.図2医原性鋸状縁断裂が生じやすい症例陳旧性の基質化した混濁の強い硝子体出血は,医原性鋸状縁断裂が生じやすい.図3MIVS(23G)の術中に生じた医原性鋸状縁断裂トロカールに嵌入した硝子体を牽引することで,基底部硝子体後縁に医原性鋸状縁断裂が生じたものと考えられる.(77)あたらしい眼科Vol.29,No.11,201215270910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 143.遺伝子から病態へのアプローチ

2012年11月30日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第143回◆眼科医のための先端医療山下英俊遺伝子から病態へのアプローチ荒川聡(九州大学大学院医学研究院眼科学分野)はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)をはじめ,緑内障,高度近視,ぶどう膜炎などの眼科疾患と遺伝子との関連が多く報告されるようになっています1.4).いわゆる一つの遺伝子異常で生じる単一遺伝子疾患ではなく,年齢や生活習慣などの環境要因が一因となる多因子疾患での遺伝子の役割が注目される時代です.疾患と関連する遺伝子同定のための方法は,家系や双生児を用いた連鎖解析に始まり,現在では全ゲノムを対象に包括的な関連解析を行うゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudy:GWAS)や,GWASを複数集めたメタ解析などの報告が散見されるようになりました5,6).本稿では,遺伝子研究から疾患の本質である病態にいかにアプローチするかということを,加齢黄斑変性のGWASを用い説明します.加齢黄斑変性に対するGWASから得られたこと欧米に比べ,日本を含むアジアでは滲出型AMDの有病率が高いという背景に着目し,九州大学および理化学研究所を中心とし,日本人の滲出型AMDのみを患者群として,総計2万人のサンプルを用いてGWASおよび追試研究(replicationstudy)を行いました.その結果,表1に示すように,新規に2つの一塩基多型(SNP)を同定し,それらのうち,より関連の強いSNPは8番染色体上のrs13278062であることを報告しました(オッズ比1.37倍,統合p値1.03×10.12).このSNP周辺の詳細なタイピングを行った結果,図1のLDブロック(SNP間の関連を表示した図)に示すように,このSNPは黒点線で囲まれた領域を代表するマーカーSNPであり,この領域に存在するTNFRSF10AとLOC389641遺伝子が候補遺伝子として考えられました.この2つの遺伝子発現をデータベース上で確認したところ,TNFRSF10A遺伝子産物の発現は網膜で認められているのに対し,LOC遺伝子の発現は確認されていないため,この領域における疾患関連遺伝子はTNFRSF10A遺伝子であると考えました.また,このSNPはTNFRSF10A遺伝子の397ベース上流に位置しており,この場所は遺伝子の発現をコントロールするプロモーター領域であることが報告されています.TNFRSF10A遺伝子は,腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー10Aのことで受容体蛋白の一つです.この受容体にリガンドであるTRAILが結合すると,カスパーゼを介したアポトーシスの誘導や,また別の経路として転写因子であるNFkBを介して炎症性サイトカインの誘導を促し,炎症を惹起させることが報告されています7).それでは,このSNPがAMD発症にどう関与しているのでしょうか.前述のとおり,このSNPはTNFRSF10Aの発現量を調整するプロモーター領域に位置するため,この受容体蛋白の発現の増減に関与していることが推測できます.GWASの結果,AMD患者群はコントロール群に比表1GWASおよび追試研究の結果SNP対立危険遺伝子研究症例数患者群対照群対立危険遺伝子頻度患者対照群性年齢調整後p値オッズ比rs132780628番染色体Tゲノムワイド関連解析追試研究8277013,32315,5650.4170.4170.3430.3462.46×10.68.19×10.81.411.35統合1.03×10.121.37rs17139854番染色体Gゲノムワイド関連解析追試研究8277083,32315,5690.3330.3290.2860.2829.03×10.55.71×10.51.341.27統合2.34×10.81.30GWASと追試研究の結果を統合すると,ゲノムワイドレベルな有意水準(5.0×10.8)を満たすSNPを2つ同定しました.(73)あたらしい眼科Vol.29,No.11,201215230910-1810/12/\100/頁/JCOPY ………………..(Mb)CHMP7LOC389641TNFRSF10ATNFRSF10DTNFRSF10CAge,sex-adjustedpvalue………………..(Mb)CHMP7LOC389641TNFRSF10ATNFRSF10DTNFRSF10CAge,sex-adjustedpvalue図1rs13278062と滲出型AMDとの関連この図の上段は,横軸に8番染色体のゲノムの位置,縦軸に疾患との関連の強さを示し,下の段の赤い図はLDプロットとよばれ,それぞれのSNPの連鎖不平衡を示している.rs13278062はこの領域のマーカーSNPであり,疾患関連遺伝子はTNFRSF10A遺伝子であると考えた.このSNPはTNFRSF10A遺伝子の397ベース上流に位置し,この場所はTNFRSF10A遺伝子の発現量を調節するプロモーター領域と報告されている場所である.(文献1より引用)べ,このSNPのTアレルをもつ頻度が多いことがわかっており,このTアレルはGアレルに比べTNFRSF10Aの発現量を減少させると報告されています8).しかし,この論文で使用している細胞は,膀胱癌細胞,線維芽細胞,子宮頸癌細胞を用いた結果であり,網膜細胞での検討は報告されていません.現在行っている機能解析のうち,ルシフェラーゼアッセイを用いて,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞での発現量のアレルによる差を検討中ですが,仮にRPE細胞での発現もTアレルをもつと減少することが確認されたのなら,どのような機序でAMD発症につながっていくのでしょうか.TNFRSF10AとTRAILが結合すると,アポトーシス経路および細胞増殖・炎症経路に働きかけ,それぞれの経路にスイッチを入れることとなります.通常であれば,この2つの経路を促す,つまりTNFRSF10A/TRAILの複合体が増えることによって炎症を惹起しAMD発症につながると考えますが,今回の結果では,1524あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012TNFRSF10Aの発現量が減少することによって,発症しやすくなるという結果がGWASから得られました.この結果について,まずは発現量の変化をRPE細胞を用いて確認するところから,機能解析を進めています.おわりに遺伝子というと,研究者のみの話であって,とっつきにくい分野だと感じている方が多いと思います.しかし,近年のゲノム研究の進歩により,遺伝子と疾患の全容が明らかにされつつあります.このような,疾患と関連する遺伝子を探す研究の目的は,最初のドミノを倒すことだと感じています.これまで想像もしていなかった蛋白質が,病態と関連しているという事実が“いきなり”現れます.今後の研究で2つ目,3つ目のドミノが倒れることによって,病態解明のための一つの重要なアプローチ手法ということができるゆえ,多くの方々が遺伝子研究に興味をもっていただければ幸いです.(74) 文献1)ArakawaS,TakahashiA,AshikawaKetal:Genomewideassociationstudyidentifiestwosusceptibilitylociforexudativeage-relatedmaculardegenerationintheJapanesepopulation.NatGenet43:1001-1004,20112)NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:CommonvariantsinCDKN2B-AS1associatedwithoptic-nervevulnerabilityofglaucomaidentifiedbygenome-wideassociationstudiesinJapanese.PLoSONE7:e33389,20123)NakanishiH,YamadaR,GotohNetal:Agenome-wideassociationanalysisidentifiedanovelsusceptiblelocusforpathologicalmyopiaat11q24.1.PLoSGenet5:e1000660,20094)MizukiN,MeguroA,OtaMetal:Genome-wideassociationstudiesidentifyIL23R/IL12RB2andIL10asBehcet’sdiseasesusceptibilityloci.NatGenet42:703706,20105)SeddonJM,SantangeloSL,BookKetal:Agenome-widescanage-relatedmaculardegenerationprovidesevidenceforlinkagetoseveralchromosomalregions.AmJHumGenet73:780-790,20036)YuY,BhangaleTR,FagernessJetal:CommonvariantsnearFRK/COL10A1andVEGFAareassociatedwithadvancedage-relatedmaculardegeneration.HimMolGenet20:3699-3709,20117)JohnstoneRW,FrewAJ,SmythMJ:TheTRAILapoptoticpathwayincanceronset,progressionandtherapy.NatureRevCancer8:782-798,20088)WangM,WangM,ChengGetal:Geneticvariantsinthedeathreceptor4genecontributetosusceptibilitytobladdercancer.MutatRes661:85-92,2009■「遺伝子から病態へのアプローチ」を読んで■以前のこのコーナー(Vol.29,No.7)で,京都大学の強く惹起するサイトカインなので,滲出型加齢黄斑変三宅正裕先生に,「強度近視とゲノム」というタイト性における血管新生や滲出性変化を誘導する因子としルで執筆していただいたことを覚えておられるでしょて矛盾しないと考えられていました.ところが,今回うか.その中で,ゲノムワイド関連解析(GWAS)にの発見によれば,TNF-aが働かないほうが,むしろより,まったく予想されていなかった疾患遺伝子が発滲出型加齢黄斑変性になりやすいということになりま見される可能性があり,治療方針のみならず,疾患概す.TNF-aが働かないということは,炎症が起こり念も変えてしまう場合があることをわかりやすく解説にくいはずであり,血管新生も起こりにくいはずでしていただきました.す.これは,従来のTNF-aと加齢黄斑変性の関係でさて,今回の荒川聡先生の内容も,GWASを使っは説明できない現象であり,新たな発見や理解が必要た研究で,加齢黄斑変性の疾患概念を変える可能性のになります.現在,その点について精力的に研究が進ある大発見です.ご存じのように加齢黄斑変性は,シんでいます.ニア世代の失明原因の最上位を占める疾患であり,現CFHの場合は,因子自体が予想されなかったもの在の網膜分野では最も注目を集めているものの一つでですが,今回は因子自体は予想されたものでしたが,す.欧米人を対象としたGWAS解析によりcomple-その働き方が予想とは異なったというわけです.mentfactorH(CFH)という新規因子が,原因としGWAS解析が示したTNF-aと加齢黄斑変性の新たて同定されましたが,今回は腫瘍壊死因子(TNF)受な関係について説明できる新たな発見が期待されま容体スーパーファミリーが新たな疾患関連因子としてす.そしてそれは,より効果的で新しい予防法や治療発見されました.TNF-a自体は,加齢黄斑変性患者法の開発につながるでしょう.の網膜組織に豊富に発現しているだけでなく,炎症を鹿児島大学医学部眼科学坂本泰二☆☆☆(75)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121525

新しい治療と検査シリーズ 208.超広角走査型レーザー検眼鏡 Optos® 200Tx

2012年11月30日 金曜日

新しい治療と検査シリーズ208.超広角走査型レーザー検眼鏡OptosR200Txプレゼンテーション:吉田宗徳名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学コメント:鈴間潔長崎大学大学院医歯薬学総合研究科眼科視覚科学.バックグラウンド眼底周辺部の観察は熟練した眼科医であればできて当然の手技ではあるが,得られた所見を客観的に正確に記録することは案外困難なうえに時間のかかる作業である.眼底の詳細な観察には散瞳も必要である.手描きのスケッチによる記録は昨今普及してきた電子カルテとの相性もあまり優れているとはいえない.一方,眼底カメラによる記録は視野が限られ,周辺部の記録ができない.OptosR200Txは無散瞳下で視野200°の撮影が可能な撮影装置であり,簡単に広い範囲の眼底を観察・記録することができる..OptosR200Txの原理OptosR200Tx(図1)は共焦点レーザー検眼鏡の原理を用いて,レーザー光によって眼底をスキャンし,眼底像を描出する.OptosR200Txでは通常のカラー眼底撮影,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA),眼底自発蛍光をとることができる.レーザーは波長532nm(緑色),633nm(赤色),488nm(青色)の3色が用いられる.このうち532nmと633nmでそれぞれ眼底の浅層および深層を撮影し,合成したうえで疑似カラーによる着色を経てカラー眼底写真を作成する.また,488nmのレーザーはFAに用いられる.OptosR200Tx本体には大きな凹面鏡が格納されており,レーザーはその凹面鏡にいったん反射させる形で眼球内へと導かれ,眼底をスキャンする.このとき,瞳孔面にスキャンする中心点(バーチャルスキャンポイント)を置き,そこを中心とした円を描くように眼底を約200°スキャンする形で撮影している.1回の撮影に要する時間は約0.3秒である..使用方法通常の眼底カメラとそれほど変わることはなく,OptosR200Tx本体の前に被験者を座らせ,顔面を固定し,眼球の位置を機械の中心になるよう微調整して図2OptosR200Txで撮影した蛍光眼底造影写真網膜静脈分枝閉塞症の症例.眼底周辺部まで造影の結果が描出されている.下方には広範な網膜無灌流域がみられる.図1OptosR200Txの外観(71)あたらしい眼科Vol.29,No.11,201215210910-1810/12/\100/頁/JCOPY シャッターを押すのみである.ただし,眼球の位置がきちんと機械の真ん中にくるように顔の位置を調整すること,睫毛が写り込みやすいので十分に開瞼すること,など多少のコツが必要である.眼底周辺部の撮影においても従来のカメラのように被験者に上下左右を向いてもらう必要はなく,正面視のみで撮影が可能である..この方法の良い点なんといっても眼底の周辺部までの写真による記録が残せることは大きなメリットである.また,無散瞳での撮影が可能なので,散瞳不良の症例や,あまり散瞳を好まない患者にも使用が可能である.このような特徴を生かして,集団検診や糖尿病網膜症のスクリーニング,遠隔医療など応用の範囲は広いものと考えられる.FAでもOptosR200Txには大きなメリットがある.従来のFAではよほど頑張ってパノラマ撮影をしない限り,眼底周辺部は限られた情報しか得られなかった.OptosR200Txを用いたFAでは,簡単に周辺部までの造影結果が得られるうえ,被験者も眼球を動かす必要はなく,眩しいストロボ光もないので楽である.出来上がりの写真も従来の9方向撮影でよくみられた明るさのばらつきが少なく,より広い範囲でよりクオリティの良い造影画像が得られる.周辺までの撮影でも1枚の撮影に時間がかからないので,周辺までの造影の経時変化をより詳細にとらえられる利点もある..本方法に対するコメント.比較的簡単に眼底周辺部までの撮影ができるメリッリットが大きい.また,最周辺部の早期像はこれまでトは計り知れず,特に学生・修練医教育や患者説明でほとんど記録されていないので撮影結果に驚くことも威力を発揮する.たとえば,網膜.離のバックリングある.しかし,広く撮影できるため分解能は11~16手術時の眼底スケッチの代用にもなりうる.しかしμm(X方向),13~16μm(Y方向)とそれほど高く緑,赤,青の3色による疑似カラーのため実際の所見はない.インドシアニングリーン蛍光眼底造影撮影にとは色調が異なり,眼底検査や従来の眼底写真と併用も対応していないため,黄斑部疾患の診療には向いてしないと病変の評価がむずかしいことがある.フルオいない.偽水晶体眼では人工レンズが写真の中央にでレセイン蛍光眼底造影は色調の差が問題にならずメかでかと撮影されるがこれは仕方がないであろう.☆☆☆1522あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(72)

抗VEGF治療:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術と抗VEGF薬

2012年11月30日 金曜日

●連載⑥抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二4.増殖糖尿病網膜症に対する若林卓大島佑介大阪大学大学院医学系研究科感覚器外科学硝子体手術と抗VEGF薬牽引性網膜.離や血管新生緑内障などの重篤な病態まで進行した増殖糖尿病網膜症の治療には,網膜光凝固だけでは奏効せず,硝子体手術を必要とするケースが少なくない.その場合,後に再手術や濾過手術が必要な可能性も考慮すると,結膜を温存できる小切開硝子体手術を選択することが望ましく,術中や術後の出血の制御が手術の成否や視力予後を決定する重要な鍵となる.最近では血管内皮増殖因子(VEGF)の中和抗体を術前に硝子体内投与することにより新生血管の活動性を一旦抑えたうえで手術を行うことが可能となったので,出血にかかわる合併症が減り,硝子体手術の安全性と確実性がさらに向上した.一方,投与量と時期によってはまれに深刻な合併症を引き起こす懸念もあるので,薬剤投与から手術までの間は慎重な経過観察が必要である.増殖糖尿病網膜症における硝子体手術の術式選択と抗VEGF薬の意義一般に増殖糖尿病網膜症(proliferativediabeticretinopathy:PDR)に対する硝子体手術は他の疾患の場合と比べて,出血や炎症などの合併症の発症率がやや高く,とりわけ牽引性網膜.離や血管新生緑内障を合併した症例では,後に再手術や濾過手術が必要なケースも多いので,最近では結膜を温存し複数回の手術にも耐えうる23ゲージ以下の小切開硝子体手術(microincisionvitrectomysurgery:MIVS)が術式選択の主流となりつつある.PDRに対するMIVSの新たな利点として,器具が細い分だけ狭いスペースにも器具を挿入しやすく,多くの症例では複数の器具を使用せずとも,硝子体カッターで膜処理や吸引などの操作を完遂することができるので,手術時間の短縮と手術操作の低侵襲化に寄与するところが大きい1).しかし,MIVSであっても,眼内新生血管の活動性が著しい重症PDRでは,術中出血に苦慮する場合が少なくなく,低侵襲に手術を完遂するためには,増殖膜処理に際しての出血や視認性低下による網膜裂孔の誤形成をできるだけ避けたい.糖尿病網膜症における新生血管の形成および進展には,虚血網膜から過剰に分泌される血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が中心的な役割を果たしており,活動性の高いPDRでは健常眼に比べて硝子体内のVEGF濃度は著しく高いことが知られている2).このような背景から,最近では活動性の高いPDRの硝子体手術に際して,術前にVEGFの生理(69)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY活性を阻害する抗ヒトVEGFモノクローナル抗体であるbevacizumab(商品名:AvastinR)を硝子体内投与し,新生血管の退縮を図りつつ手術を行うことで出血による合併症を回避する手術戦略がよくとられており,手術の安全性を高める方法として認知されつつある3,4).アメリカ網膜硝子体学会で行われた調査によれば,世界的に網膜硝子体手術の専門家の約半数はPDRの硝子体手術において,ルーチンにbevacizumabを手術補助薬剤として術前投与を行っている(PreferenceandTrendSurgery,2012).しかし,わが国において,硝子体手術の補助薬剤として用いられるbevacizumabは,外科領域における抗癌剤の一種として認可されているが,眼科領域では今もなお未承認薬剤であるので,いわゆるオフラベルでの使用にあたっては,まずは施設の倫理委員会の承認を得て,その効果と合併症について患者と十分に話し合って理解を得たうえで使用しなければならない.抗VEGF薬併用の効果の実際と留意点旺盛な線維性新生血管膜を伴う牽引性網膜.離や血管新生緑内障を合併した重症PDRであっても,術前にbevacizumabを1.1.25mgを硝子体内投与すると,ほとんどの症例では約一両日内に網膜や虹彩の新生血管が退縮(図1A,B)し,上昇していた眼内(前房水)のVEGF濃度も生理的濃度もしくはそれ以下まで急激に低下する3).これによって,術中の膜処理の際の線維性血管膜からの出血,虹彩切除や眼内の圧変化に伴う虹彩新生血管からの出血が少なくなるので,この時期に硝子体手術をすれば,術中に重篤な出血による合併症を引きあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121519 AC図1Bevacizumab投与前後の眼底写真と超音波画像(B.scan)A(左上):Bevacizumab投与前の眼底写真.網膜光凝固は十分にされておらず,旺盛な新生血管を伴う線維性増殖膜により牽引性網膜.離が生じている.B(左下):Bevacizumab投与前の超音波画像(B-scan).超音波エコー所見から増殖膜の収縮による牽引性網膜.離が生じているのがBD確認できる.C(右上):Bevacizumab投与後の眼底写真.眼内のVEGF濃度の低下によって新生血管が消退しており,一方では増殖膜全体の線維化も進んでいる.D(右下):増殖膜の線維化進行に伴う膜自体の収縮牽引によって,超音波エコー所見では,牽引性網膜.離の丈がやや進んでいる.起こす頻度が著明に低くなり,術後の硝子体出血の遷延化や再発の可能性が有意に少ないと報告されている5).しかし,一方で現行の過剰量と思われる抗VEGF抗体の投与では,本来のVEGFのもつ神経保護作用や正常血管の恒常性維持に寄与する生理的作用も阻害されるので,著しい虚血性変化に陥った末期の血管新生緑内障では,bevacizumabによる虚血性変化の進行と思われる重篤な視力障害を生じる可能性が懸念されている.また,抗VEGF抗体の投与は増殖膜の線維化を促進するため,手術までの間隔が長引くと牽引性網膜.離を増悪させる危険性がある(図1C,D)6).とりわけ,術前に網膜光凝固治療がほとんど行われていない症例や後部硝子体ポケットに沿って輪状に完成した活動性の高い線維性血管膜を伴う症例にその傾向が高いことがわかっており4),術前投与のタイミングとして硝子体内投与から予定手術までの間を長くあけずに1.3日にとどめることが望ましい.また,bevacizumabは現在の一般的な投与量の半量以下でも十分に新生血管の退縮効果が得られることがわかってきており,合併症を生じない程度の至適投与量と投与のタイミングを今後さらに検討する必要がある4,7).1520あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012文献1)KadonosonoK,YamakawaT,UchioEetal:Fibrovascularmembraneremovalusingahigh-performance25-gaugevitreouscutter.Retina28:1533-1535,20082)AielloLP,AveryRL,ArriggPGetal:Vascularendothelialgrowthfactorinocularfluidofpatientswithdiabeticretinopathyandotherretinaldisorders.NEnglJMed331:1480-1487,19943)AveryRL,PearlmanJ,PieramiciDJetal:Intravitrealbevacizumab(Avastin)inthetreatmentofproliferativediabeticretinopathy.Ophthalmology113:1695.e1-e15,20064)OshimaY,ShimaC,WakabayashiTetal:Microincisionvitrectomysurgeryandintravitrealbevacizumabasasurgicaladjuncttotreatdiabetictractionretinaldetachment.Ophthalmology116:927-938,20095)ZhaoLQ,ZhuH,ZhaoPQetal:Asystematicreviewandmeta-analysisofclinicaloutcomesofvitrectomywithorwithoutintravitrealbevacizumabpretreatmentforseverediabeticretinopathy.BrJOphthalmol95:1216-1222,20116)ArevaloJF,MaiaM,FlynnHWJretal:Tractionalretinaldetachmentfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)inpatientswithsevereproliferativediabeticretinopathy.BrJOphthalmol92:213-216,20087)YamajiH,ShiragaF,ShiragamiCetal:Reductionindoseofintravitreousbevacizumabbeforevitrectomyforproliferativediabeticretinopathy.ArchOphthalmol129:106-107,2011(70)