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トップアスリートの視力

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1168.1171,2012cトップアスリートの視力枝川宏*1,2,3川原貴*3小松裕*3土肥美智子*3先崎陽子*3川口澄*3桑原亜紀*3赤間高雄*4松原正男*2,3*1えだがわ眼科クリニック*2東京女子医科大学東医療センター眼科*3国立スポーツ科学センター*4早稲田大学スポーツ科学学術院VisualAcuityofTopAthletesHiroshiEdagawa1,2,3),TakashiKawahara3),HiroshiKomatsu3),MichikoDoi3),YokoSenzaki3),MasumiKawaguchi3),AkiKuwabara3),TakaoAkama4)andMasaoMatsubara2,3)1)EdagawaEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversityMedicalCenterEast,3)JapanInstituteofSportsSciences,4)FacultyofSportScience,WasedaUniversityわが国のトップレベルの競技者の聞き取り調査と視力測定をした.対象は国立スポーツ科学センターでメディカルチェックを行った夏季と冬季のオリンピック・アジア大会53競技の競技者1,574人.聞き取り調査は競技時の矯正方法と眼の既往症歴について行った.視力は競技時と同様の矯正状態で片眼と両眼の遠方視力を測定した.1)視力1.0以上の競技者は全体の82.5%で,球技群が最も多く86.2%,格闘技群が最も少なく74.0%であった.2)視力の矯正は90.3%が使い捨てコンタクトレンズを使用していたが,5.4%はLASIK(laserinsitukeratomileusis),0.5%はオルソケラトロジーを選択していた.3)眼既往症者は3.0%,スポーツ眼外傷は1.0%であった.眼既往症発症率はスピード群が最も高く4.5%,スポーツ眼外傷発症率は球技群が最も高く1.5%であった.眼既往疾患では角膜疾患とその他の疾患が最も多く25.5%,ついで網膜疾患14.9%であった.Thisresearchstudiedthestateofvisualacuityoftop-classathletes.Weexaminedandinterviewed1,574top-classathleticcompetitorsintheOlympicandAsianconventiongames,regardingtheirvisualacuity.Ofalltheathletes,82.5%hadvisualacuityover1.0;thepercentagewas86.2%forthoseinballgamesand74.0%forthoseinfightgroups.Ofalltheathletes,90.3%useddisposablecontactlens;5.4%hadlaserinsitukeratomileusisand0.5%usedorthokeratology.Ofalltheathletes,3.0%hadahistoryofeyediseaseand1.0%hadhadeyeinjuriesresultingfromsports.Eyediseaseincidencewashighestinathletesinvolvedinhigh-speedathletics(4.5%);theincidenceofeyeinjurywashighestintheballgamegroups(1.5%).Themostcommondiseaseswerecornealdiseaseandotherdiseases(25.5%),followedbyretinaldisease(14.9%).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1168.1171,2012〕Keywords:視力,アスリート,オリンピック,スポーツ,スポーツ眼疾患.visualacuity,athletes,Olympicgames,sport,sporteyedisease.はじめにスポーツにおいて視力は最も重要で確実な視機能であり,視力が不十分だと競技能力に影響する可能性がある.優れた競技者は一般に優れた視機能を保持していると考えられ,これまでもさまざまな集団で視力の調査報告が行われている1.6).しかし,わが国では真にトップレベルの競技者の視力を多数調査した報告はない.筆者らはすでにトップレベルのスキー競技者の視機能は報告した2)が,今回はさまざまな種目のトップレベルの競技者を対象に,視力の現状と眼既往症歴を把握することを目的として調査を行った.I対象および方法対象は2008年10月から2009年10月までに国立スポーツ科学センターでメディカルチェックを行った夏季と冬季のオリンピックとアジア大会の出場者および候補者1,574人である.競技種目および競技者数は夏季オリンピック・アジア〔別刷請求先〕枝川宏:〒153-0065東京都目黒区中町1-25-12ロワイヤル目黒1Fえだがわ眼科クリニックReprintrequests:HiroshiEdagawa,M.D.,EdagawaEyeClinic,RowaiyaruMeguro1F,1-25-12Nakacho,Meguro-ku,Tokyo153-0065,JAPAN116811681168あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(142)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY 大会36種目の1,233人,冬季オリンピック・アジア大会17種目の341人で,平均年齢は23歳であった.競技種目は種目の競技特性から6種類に分類した(表1).標的群はライフル射撃など標的を見る種目で6種目90人,格闘技群は柔道など近距離で競技者と対する種目で6種目98人,球技群は野球などボールを扱う種目で14種目653人,体操群は体操など回転運動が含まれる種目で6種目79人,スピード群はスキーなど道具を使用して高速で行う種目で14種目269人,その他群は陸上競技など視力が競技に重大な影響を与えにくい種目で7種目385人であった.視力測定は競技時と同様の状態で5m視力表を使用して右眼,左眼,両眼の順序で行った.聞き取り調査は競技時の視力矯正方法と眼既往症歴について行った.分析は競技者全員と6種類の競技群で,競技時の視力矯正方法,単眼視力と両眼視力,眼既往疾患歴で行った.なお,単眼視力と両眼視力は,1.0以上,0.9.0.7,0.6.0.4,0.3未満の4段階で評価した.左右の視力についてはt検定で,単眼視力と両眼視力については分散分析で行い,5%の有意水準設定で検討した.表1競技特性の分類1)標的群種目:標的を見ることが必要な種目6種目(90名)アーチェリー・ビリヤード・ボウリング・ライフル射撃・カーリング・バイアスロン2)格闘技群種目:近距離で競技者と対する種目6種目(98名)剣道・柔道・テコンドー・フェンシング・ボクシング・レスリング3)球技群種目:ボールを扱う必要のある種目14種目(653名)ゴルフ・サッカー・水球・スカッシュ・ソフトテニス・ソフトボール・卓球・テニス・バスケットボール・バドミントン・バレーボール・ホッケー・ラグビー・アイスホッケー4)体操群種目:回転運動が多く含まれる種目6種目(79名)新体操・体操・ダンススポーツ・トランポリン・フィギュアスケート・飛び込み5)スピード群種目:道具を使用して高速で行う種目14種目(269名)自転車・スキー(アルペン・エアリアル・クロス・クロスカントリー・コンバインド・ジャンプ・モーグル)・スケート(ショートトラック・スピードスケート)・スケルトン・スノーボード・ボブスレー・リュージュ6)その他群種目:視力が重大な影響を与えにくい種目7種目(385名)競泳・ウェィトリフティング・セーリング・トライアスロン・武術太極拳・ボート・陸上競技II結果1.視力単眼視力と両眼視力は6競技群で有意な差はなく,左右眼の視力も有意な差はなかった.単眼視力1.0以上は全体の82.5%(2,598/3,148眼)で,球技群が最も多く86.2%(1,126/1,306眼),格闘技群が最も少なく74.0%(145/196眼)であった(表2).両眼視力1.0以上は全体の92.2%(1,452/1,574人)で,球技群が最も多く95.4%(623/653人),格闘技群が最も少なく84.7%(83/98人)であった(表3).2.視力矯正方法視力矯正をしている者は日常生活では39.5%(621/1,574人)であったが,競技では35.4%(557/1,574人)で,日常生活で矯正している者の89.7%(557/621人)が競技でも矯正していた.競技中の矯正方法はコンタクトレンズ(CL)90.3%(503/557人)・LASIK(laserinsitukeratomileusis)表2競技群別にみた単眼視力の分布(n=3,148)視力競技群1.0以上0.9.0.70.6.0.40.3以下不明標的群n=180147(81.7%)21(11.7%)3(1.7%)1(0.6%)8(4.4%)格闘技群n=196145(74.0%)25(12.8%)15(7.7%)11(5.6%)0球技群n=1,3061,126(86.2%)117(9.0%)41(3.1%)12(0.9%)10(0.8%)体操群n=158133(84.2%)12(7.6%)9(5.7%)4(2.5%)0スピード群n=538436(81.0%)49(9.1%)31(5.8%)16(3.0%)6(1.1%)その他群n=770611(79.4%)67(8.7%)53(6.9%)27(3.5%)12(1.6%)表3競技群別にみた両眼視力の分布(n=1,574)視力競技群1.0以上0.9.0.70.6.0.40.3以下不明標的群n=9082(91.1%)4(4.4%)4(4.4%)00格闘技群n=9883(84.7%)7(7.1%)7(7.1%)1(1.0%)0球技群n=653623(95.4%)19(2.9%)6(0.9%)05(0.8%)体操群n=7975(94.9%)2(2.5%)1(1.3%)1(1.3%)0スピード群n=269246(91.5%)11(4.1%)6(2.2%)3(1.1%)3(1.1%)その他群n=385343(89.1%)20(5.2%)15(3.9%)1(0.3%)6(1.6%)(143)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121169 表4競技群別眼既往症者標的群格闘技群球技群体操群スピード群その他群競技者数(人)(n=1,574)909865379269385眼既往症者数(人)(n=47)33221126スポーツ眼外傷者数(人)(n=15)1110021眼既往症発症率(%)眼既往症者数/競技者3.33.13.41.34.51.6スポーツ眼外傷発症率(%)スポーツ眼外傷者数/競技者数1.11.01.500.70.35.4%(30/557人)・眼鏡3.8%(21/557人)・オルソケラトロジー0.5%(3/557人)であった.使用されていたCLの種類は使い捨てレンズ(DCL)93.2%(469/503人)・ソフトレンズ(SCL)4.0%(20/503人)・ハードレンズ(HCL)1.2%(6/503人)・不明1.6%(8/503人)で,DCLでは1日交換レンズ(1dayDCL)46.3%(217/469人)・2週間交換レンズ(2WDCL)49.0%(230/469人)・1カ月交換レンズ(1MDCL)4.7%(22/469人)であった.CLは全競技群で使用されていた.LASIKを選択していたのはスピード群16人・標的群7人・球技群4人・その他群3人,眼鏡を選択していたのは標的群16人・その他群4人・球技群1人,オルソケラトロジーを選択していたのはその他群3人であった.3.眼既往症眼既往症者は3.0%(47/1,574人)で,スポーツ眼外傷者は1.0%(15/1,574人)であった.眼既往症発症率(眼既往症者数/競技者数)はスピード群が,スポーツ眼外傷発症率(スポーツ眼外傷者数/競技者数)は球技群が最も高かった(表4).眼既往症では角膜疾患とその他の疾患がともに25.5%(12/47人)で最も多く,ついで網膜疾患の14.9%(7/47人)であった.角膜疾患の41.7%(5/12人)はCL関連で,これはCL装用者全体の0.8%(5/621人)であった.その他の疾患の50.0%(6/12人)は原因不明の視力低下で,網膜疾患は全員がスポーツ眼外傷であった.また,弱視の者はスピード群に2人と球技群に1人いた.III考察トップレベルのアスリートの視機能については,8種目のオリンピックレベルのアスリート157人を分析した報告4)がある.この結果では視力は種目間で有意な差があり,視力が良好な種目はソフトボールやアーチェリーで,悪い種目はボクシングや陸上競技であったと報告している.今回は競技群で分析したために種目間の視力差はわからなかったが,球技群種目や標的群種目では視力は良好で,格闘技群種目や陸上競技を含むその他群種目では視力が悪かったのはこの報告と同様の傾向であった.わが国の大学生の調査5)でも視力が良1170あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012好な者は球技種目に多くて対人や個人種目では少ないと,同様の結果を報告している.球技は視力の影響を受けやすい3)と以前に報告したが,球技群種目の者は日頃の経験を通して視力は運動能力に影響すると感じていて視力が良好な者が多かったと考えられる.また,今回体操群やスピード群でも視力が良好な者が多かったのも,同様の理由と考えられる.一方,格闘技群種目は対戦者が近距離にいるので競技者が他の種目よりも遠方を見ることが少なく,視力に重きをおく必要を感じなくて視力の悪い者が多かったと考えられるが,ボクシングのように規則で競技中は視力矯正用具を使用できない種目があることも一つの理由としてあげられる.このように競技者の視力は競技特性から影響を受けていると考えられる.今回の対象者の視力矯正割合は日常生活では39.5%で,競技では89.7%であった.これを大学生の視力矯正割合6)と比較すると,日常生活では大学生の32.5%とあまり差はなかったが,競技では大学生の71.8%よりも2割ほど高かったことから,トップレベルの競技者は競技では視力を良好に保とうとする意識が高いように思われる.矯正方法ではほとんどの者はCLを使用していたが,LASIKは冬季のスピード群や標的群の者が選択しており,オルソケラトロジーはその他群の者が選択していた.LASIKやオルソケラトロジーを選択した理由として,冬季競技は乾燥したなかで行われるうえにスピード競技では多くの風が眼に当たること,標的競技は標的を注視する際に瞬きが少なくなるなど,競技中の環境が角膜を乾燥させやすい状況にあるためだと思われる.また,眼鏡が標的群で多かったのは,標的を注視する眼だけを矯正する射撃用眼鏡を使用していたためである.視力の悪い競技者は競技能力を十分に発揮できない3)ことから目的に応じた方法で視力を矯正する必要があるが,各手法の問題点を十分に理解せずに便利な方法を選択している競技者が多かった.スポーツ眼外傷については約8割は球技によるものと報告されている7.10)が,今回球技群は66.7%(10/15人)と少なかった.この差は報告がスポーツ眼外傷で眼科を受診した患(144) 者の分析であったのに対して,今回は聞き取り調査の結果であったために生じたものと思われる.今回の聞き取り調査では一般的な既往症が少ない印象があった.これは聞き取り調査では競技者は重大な疾患だけを申告する傾向にあったことから,一般的な既往症の情報を得ることができなかったためと思われる.今後の検討が必要である.既往症では角膜疾患の4割はCL関連で,不適切なCL管理やCL使用に適さない競技環境のために起こったと考えられる.その他の疾患の半数が原因不明の視力低下であったのは,視力低下を指摘されたにもかかわらず,放置していた者が多かったためである.疾患については,眼窩より大きなボールを使用する種目で網膜疾患,身体接触の多い種目で眼窩底吹き抜け骨折が起こっていた.これは過去の報告7.11)と共通しており,種目によって起こりやすい疾患のあることがわかる.また,視覚が競技能力に影響すると思われる弱視の者がスピード群と球技群にいたことは,ハンディのある視覚を日頃の練習で獲得した技術でレベルの高い競技能力を得ることができたためと考えられる.競技能力はさまざまな要素から成立しているので,視覚の結果だけで競技能力を判断することには慎重でなければならない.文献1)大阪府医師会学校医部会:視覚とスポーツに関する調査報告書.p4-12,19962)枝川宏,松原正男,川原貴ほか:スポーツ選手の眼に関する意識と視機能.臨眼60:1409-1412,20063)枝川宏,石垣尚男,真下一策ほか:スポーツ選手における視力と競技能力.日コレ誌37:34-37,19954)LadyDM,KirschenDG,PantallP:ThevisualfunctionofOlympiclevelathletes─Aninitialreport.EyeContactLens37:116-122,20115)上野純子,正木健雄,太田恵美子:大学運動部選手の視機能について.日本体育大学紀要22:31-37,19926)佐渡一成,金井淳,高橋俊哉:スポーツ眼科へのアプローチ.臨床スポーツ医学12:1141-1147,19957)黒坂大次郎,木村肇二郎:スポーツ眼外傷.眼科34:1085-1091,19928)徳山孝展,池田誠宏,岩崎哲也ほか:ボール眼外傷の15年間の統計的検討.臨眼46:1121-1125,19929)木村肇二郎:スポーツによる眼外傷.眼科MOOK39,労働眼科,p10-21,金原出版,198910)鈴木敬,馬嶋昭生,佐野雅洋:名古屋市立大学におけるボール眼外傷の統計的観察(II).眼紀37:615-619,198611)岡本寧一:接触競技による眼外傷の特徴とその対策.あたらしい眼科14:335-359,1997***(145)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121171

プリズム法によって偏心視の改善が得られた後期緑内障の1 例

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1164.1167,2012cプリズム法によって偏心視の改善が得られた後期緑内障の1例江崎秀子日本大学医学部附属板橋病院検査治療部視能訓練室EccentricViewingAidUsingPrismCorrectioninAdvancedGlaucomaHidekoEsakiDivisionofOrthoptics,NihonUniversityItabashiHospital偏心視のためのロービジョンケアの一つにプリズム法がある.方法は偏心視域へ視標が投影されるのを促し,視力の改善を図るものである.今回,両中心暗点を示す症例にプリズム法を用いたところ,qualityofvisionの改善が得られたので報告する.患者は73歳,男性である.後期緑内障による両中心暗点のために読字・書字が不能であった.より良好な偏心視域を開発するためにプリズム矯正を行った.まず,中心視野検査で相対的高感度域を把握し,その域を活用できるように単眼視用のプリズム矯正を行った.単眼視の改善矯正レンズを求めた後,さらに両眼視のための矯正を行ったところ,視力値の上昇とともに読字・書字が可能となった.今回の結果から,筆者らは偏心視のためのプリズム法を有用性と簡易性の面から推奨したい.Prismcorrectionisalowvisionaidforeccentricviewingincasesofscotomawithcentralvisualfielddefect.Thisapplicationpromotethatobjectisreflectedtoperipheralretinallocusanduseprismrelocationforacasetoshowbothcentralscotomathatisathingplanningvisualimprovement,sincequalityofvisionwasimproved.Thepatient,a73-year-oldmale,showedcentralscotomaduetoadvancedglaucoma,andwasnotabletoreadorwrite;hehascaredforlowvision.Therelativelyhighsensitivityareaoftheretinawasexaminedwithacentralvisualfieldanalyzer.Theperipheralretinallocuswasexpectedwiththeresults.Thebasetofollowaninverseprismmethodsucceededinthiscase.Thepatientwasabletoreadandwritethroughuseofprismaticglasseswithmaximumbinocularcomfort,withsinglevision.Werecommendprismcorrectionforitseffectivenessandsimplicityintrainingforeccentricviewing.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1164.1167,2012〕Keywords:プリズム,偏心視,偏心視域,ロービジョンケア,中心暗点.prisms,eccentricviewing,preferredretinallocus,low-visionaids,centralscotoma.はじめに中心暗点をもつ偏心視1)患者のなかには相対的高感度網膜部位を自覚せず,本来の視機能を十分に活用できずに日常生活で不便を強いられている場合がある.そのような患者は,新たな偏心視域(preferredretinallocus2):PRL)獲得訓練2.7)が必要である.その訓練の一つであるプリズム法は,視標をプリズムによって相対的高感度網膜領域へ誘導させるもので,1982年にRomayanandaら3)によって最初に報告された.彼女らはロータリープリズムを用いた自覚的最良値による眼鏡の装用でPRLの改善を得た.1996年Verezenら4)は網膜下方にPRLがある場合はプリズム基底を下に入れる,いわゆる順プリズム法の図説を加え,さらに2006年5)には過去9年間327名にプリズム眼鏡処方者にアンケート調査(回答83%)を行い,40%は長期眼鏡装用が可能で有用であったと評価している.一方,Rosenbergら(1989年)2)は「偏心視に伴う頭位異常方向へプリズム基底を用いる方法」で偏心視の改善を得た.この方法では,PRLが網膜下方にある場合,頭位異常の出現を仮定すると「顎上げ」が推定され,Verezenらの〔別刷請求先〕江崎秀子:〒173-8610東京都板橋区大谷口上町30-1日本大学医学部附属板橋病院眼科弱視訓練室Reprintrequests:HidekoEsaki,DivisionofOrthoptics,NihonUniversityItabashiHospital,30-1Ooyaguchikamichou,Itabashi-ku,Tokyo173-8610,JAPAN116411641164あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(138)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY プリズム基底とは逆向きの上方基底となる.筆者らは両眼の中心暗点を伴う後期緑内障患者に対してプリズム法を用いたところ,視機能の改善とともに良好なqualityofvision(QOV)が示された.その基底方向はRosenbergらのプリズム基底側と同様で,その機序は偏心固視治療法における逆プリズム法8.10)に準じるものと考えられ,若干の検討とともに報告する.I症例および検査1.症例患者は73歳,男性.初診は2011年5月,既往歴・家族歴は特になし.現病歴は2002年に両眼の原発開放隅角緑内障の診断を受け,点眼療法にて経過観察中である.読字は,単眼用拡大鏡(20×)を使用していたが,両眼の中心暗点を発症し,読字および書字が不能となった.近医で複数の眼鏡を処方されるも改善せず,本院を受診した.初診時,視力は右眼0.05(矯正不能),左眼(0.04×+1.0D),眼圧は右眼14mmHg,左眼14mmHg,前眼部および中間透光体は軽度加齢白内障のほかに異常を認めなかった.右眼左眼aa右眼左眼b右眼左眼図1視野と固視点a:Goldmann視野計測結果.b:Humphrey視野計SITA-StandardTMプログラム中心10°計測結果.点線囲い:相対的高感度域.c:眼底撮影による固視検査結果.棒の先端が固視点.眼底は黄斑部に異常なく,視神経陥凹乳頭(C/D)比は右眼0.9,左眼0.9であった.視力測定時,視標を探す視線方向・頭位が安定せず,返答を得るには長めの時間を要した.Goldmann動的量的視野計(Haag-Streit社製,以下GP)検査では,右眼は湖崎分類IIIa,中心暗点10×5°,左眼はIIIa,中心暗点8×8°が検出された(図1a).Humphrey視野計(CarlZeissMeditec社製,HumphreyFieldAnalyzerII)SITA-StandardTMプログラム中心10°(以下,HFASS10-2)による静的量的視野結果では,右眼は上鼻側と上耳側方,左眼は上鼻側から耳側にかけて弓状に示された(図1b).固視棒付き無散瞳眼底カメラ(Kowa社製VK-a)撮影では右眼は傍黄斑下耳側,左眼は視神経乳頭下部に固視点が示された(図1c).読字は接眼拡大鏡(20×)使用で10.5ポイントの文字を想像を交え曖昧に認識できた.2.検査方法a.単眼視のプリズム矯正レンズ選択法プリズム基底は,HFASS10-2で高感度域が示される網膜部位へ視標を投影する方向(順プリズム法)と,高感度域の網膜部位が視標へ向かうほうへ基底を置く方法(前者とは逆向きの基底,逆プリズム法8.10))の2法で行った.屈折異常矯正レンズにプリズムを加入し,視標の見え方の改善具合について最良自覚が得られる基底方向と度数を選択した.b.読字・書字用矯正眼鏡レンズの選択法読字・書字用矯正眼鏡の視距離は25cmに設定した.GP検査で左右の視野の重なる領域が示されたことから,両眼視を重視した眼鏡レンズの調整を行った.利き眼検査をholeincardtest,網膜対応検査をBagolini線条試験,眼位検査をsimultaneousprismcovertestで施行した.斜視が顕れる場合はプリズム順応試験を併用した.なお,利き眼側のプリズム度は収差を考慮して8Δ以下のガラスプリズムを用い,眼位矯正度が不足する場合は,非利き眼側へFresnel膜プリズムを貼付した.c.QOV評価プリズム眼鏡装用前後でコントラスト感度を比較した.CSV-1000HGT(VectorVision社製)の検査距離は約2.5mであるが,低視力者であることから検査距離を1mとし,両眼開放下で施行した.読字は,拡大読書器(NEITZ社製VS-2000AFD)を用いて新聞コラム(5.5ポイント)を読ませ,書字は本院の名称を8.5mm罫線用紙に書かせ,所要時間を計測した.d.両眼視から3カ月後の眼位・網膜対応・矯正眼鏡度読字を両眼開放下で行えるようになったことで,眼位・網膜対応・矯正眼鏡度について経過観察を行った.(139)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121165 II結果1)順プリズム基底方向では左右眼とも視力や装用感の改善は得られず,逆プリズム基底で「Landolt視標の輪郭がややはっきりする,濃く見える,視標が探しやすくなる…」などの自覚改善が得られた.遠見視力は右眼が(0.05)から(0.06×6ΔBase135°),左眼が(0.04)から(0.05×+1.0D12ΔBase90°)に改善した.近見自覚最良矯正値は右眼が(0.06×+3.5D6ΔBase90°),左眼が(0.05×+1.0D6ΔBase90°)であった.2)Holeincardtestによる利き眼は遠見では右眼を,1m以下の近見では左眼を示した.利き眼側の矯正を主とした遠方両眼矯正視力は(0.07×R;.0.5D6ΔBase65°,L;+1.0D6ΔBase115°)であった.複視は遠見矯正下では出現せず,Bagolini線条試験では交代性抑制を示し,右眼側が細長く,左眼側が短めであった.近見視力は(0.08×R;+3.5D20ΔBase15°,L;+5.0D6ΔBase90°)で,両眼単一視が認められた(図2).3)プリズム装用で全視標のコントラスト感度が上昇した.特にそのなかでの最高周波4.5cyclesperdegree(cpd)では対数コントラスト感度値0.81から1.55へと5段階の改善を示した(図3).新聞コラムの読字は,プリズム装用前では1分間で61文字,装用後では151文字が可能であった.書字は7文字を約8.5mm幅の罫線用紙に約20秒で正確に模写した.4)読字が両眼開放下で可能となってから3カ月後,Bagolini線条試験では屈折矯正眼鏡下の近見外斜視は10Δで中和し,その線条の濃さはほぼ同等となった.近見眼位は25cm40cm350cm∞+3.5D+3.5D+5.0D+5.0D+2.0D+2.0D+3.5D+3.5D-0.5D-0.5D+1.0D+1.0D6Δ6Δ6Δ6ΔCT;ortho¢6Δ6ΔRLRCT;XT¢左眼右眼:プリズム基底方向RL図2各視距離における眼鏡度,網膜対応および利き眼の所見視距離350cm以上の遠距離では網膜抑制のために両眼視は不能.視距離40cmでは眼位は正位で両眼視が可能であるも,網膜対応では左眼の像は右眼より強調され,両眼視における視野は左眼よりも狭いことが推測される.視距離25cmでは外斜視が顕れて複視出現.CT:遮閉試験,XT¢:外斜視,ortho¢:正位.1166あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012CSV-1000ContrastSensitivity……………………….3.04.51.31.5Cyclesperdegree図3両眼プリズム加入前後のコントラスト感度結果横軸の視標サイズは1mでの換算値.8Δで中和が得られ,近見25cm両眼矯正視力は(0.08×R;+3.5D8ΔBase30°,L;+5.0D6ΔBase115°)であった.III考按本症例は後期緑内障に伴う中心暗点のため読字・書字が不能となり本院を受診,傍黄斑部に相対的高感度網膜部位が検出され,未開拓のPRLが推察された.プリズム法を施行したところ即効性に偏心視の改善が促され,両眼視力は(0.05)から(0.08)へと上昇し,読字・書字が可能となった.視野中心暗点に相当する領域が中心窩を含む網膜上方部にあり,相対的高感度部位が網膜の下方部にある場合,正面視標をその部位へ投影させるにはVerezenら4)が示したようにプリズム基底は下方となる.ところが,その基底では改善が得られず,逆に基底を上方にすることで良好なPRLの獲得が可能となった.筆者らは1990年に逆プリズム法を用いた偏心固視の治療経験を報告10)した.プリズムで眼球回転を促し,視標を中心窩に向かわせることで中心固視を得た.今回は中心窩を使えない偏心視の症例に対して,視標をPRLへ向かわせることで偏心視の改善を得た.偏心視と偏心固視では,視標を投影させる目標部位は異なるが,視力改善を惹起させる機序は同じものと考えられ,今回のプリズム法を「逆プリズム法」と表現した.その原理については,つぎに述べる.空間視において,健常者は中心窩が受け取る像が視方向の中心となるが,中心窩の機能が欠損する場合ではPRLがそ(140) PRLPRLaabPRLPRLaab:プリズム:暗点領域:中心窩:眼球回転方向図4プリズム効果の模式図a:正面のウサギは暗点に隠れ,上方の星は網膜下方のPRLへ投影される.b:プリズム装用にて網膜像は下方へ移動され,それに伴って眼球は下転し,ウサギは認知可能となる.の役割を担う.偏心視の主視方向は中心窩に残存するものであるが,日常空間視においてより良い視力を得るには視標とPRLが向かい合うこと,視性位置覚とそれに伴う外眼筋の筋性位置覚の矯正が重要な働きをもつ10).本症例のプリズム効果は,基底を上方に入れることで,視標は下方へ移動して見える.視標とPRLは見ようとするものを正面で捉えようとする習性によって眼球は下転する.図4に今回のプリズム効果の模式を示した.本症例のプリズム効果とはプリズムによって走査された視性位置覚が微小な眼球運動を促し,未開拓の相対的高感度の網膜部位を新しいPRFへと導くものと考える.さて,本症例が矯正治療前にPRLを自覚し,眼球の回転を頭位で代償するならば,顎上げが考えられる.したがって,逆プリズム法とRosenbergら2)のプリズム基底方向は一致するものと推定する.本症例は,両眼視野の残存があるために,両眼視の改善を目標においた.単眼用ルーペ活用による眼疲労があり,さらに外斜視が出現したため,眼位矯正用プリズムを単眼視機能改善矯正レンズに加入した.ロービジョンにおけるコントラスト感度は感度標準測定値のカーブは1.2cpdでピークを示すとされる11).本症例も同様なピークが示され,プリズム装用にて測定最高周波数4cpdでは5段階(対数コントラスト感度値0.81から1.55)の上昇が得られ,プリズムの有用性が高く評価された.また,読字が両眼視で可能となってから3カ月後,外斜視量が減少しプリズム眼鏡度数を弱められたことは,融像性輻湊幅の増強によると推察され,orthopticsによる経過観察が必須と思われた.わが国のPRL獲得訓練は,視線をずらす方法を身につける積極的な訓練療法が入院もしくは外来で行われている7).今回の結果から,偏心視におけるプリズム法は患者の時間的制約負担がなく,簡易性の面から試行価値のあるものとして推奨したい.謝辞:稿を終えるにあたり,ご指導を賜りました日本大学医学部附属板橋病院眼科の山崎芳夫先生,ご助言をいただきました元日本大学医学部付属練馬光が丘病院眼科の古作和寛先生・佐々木淳先生に感謝いたします.文献1)加藤和雄:VIII.用語解説.弓削経一ほか編:視能矯正─理論と実際─.p363-370,金原出版,19982)RosenbergR,FayeE,FisherMetal:Roleofprismreorientationinimprovingvisualperformanceofpatientswithmaculardysfunction.OptomVisSci66:747-750,19893)RomayanandaM,WongSW,ElzeneinyIHetal:Prismaticscanningmethodforimprovingvisualacuityinpatientswithlowvision.Ophthalmology89:937-945,19824)VerezenC,Volker-DiebenH,HoyngC:Eccentricviewingspectaclesineverydaylife,fortheoptimumuseofresidualfunctionalretinalareas,inpatientswithage-relatedmaculardegeneration.OptomVisSci73:413417,19965)VerezenC,MeulendijksC,HoyngCetal:Long-termevaluationofeccentricviewingspectaclesinpatientswithbilateralcentralscotomas.OptomVisSci83:88-95,20066)AmericanOptometricAssociation:Careofthepatientwithvisualimpairment(lowvisionrehabilitation),Optometricclinicalpracticeguideline,20107)三輪まり枝:拡大読書器を用いたPreferredRetinalLocus(PRL)の獲得および偏心視の訓練.日本ロービジョン学会誌10:23-30,20108)RubinW:Reverseprismandcalibratedocclusion.AmJOphthalmol59:271-277,19659)PigassouR,GaripuyJ:Treatmentofeccentricfixation.JPedOphthalmol4:35-43,196710)江崎秀子,大野新治:逆プリズム法を用いた偏心固視の治療.眼紀41:1479-1486,199011)LeatSJ,WooGC:Thevalidityofcurrentclinicaltestsofcontrastsensitivityandtheirabilitytopredictreadingspeedinlowvision.Eye11:893-899,1997***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121167

ペンタカムによる角膜全屈折力およびEquivalent K 値を用いた眼内レンズ度数計算の検討

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1159.1163,2012cペンタカムによる角膜全屈折力およびEquivalentK値を用いた眼内レンズ度数計算の検討金谷芳明堀裕一山本忍出口雄三前野貴俊東邦大学医療センター佐倉病院眼科EvaluationofTrueNetPowerandEquivalentKReadingsObtainedfromPentacamforRoutineIntraocularLensPowerCalculationYoshiakiKanaya,YuichiHori,ShinobuYamamoto,YuzoDeguchiandTakatoshiMaenoDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter目的:正常角膜眼においてPentacam(Oculus社)で測定した角膜全屈折力(TNP)およびEquivalentK値(EKR)をケラト(K)値として用いて眼内レンズ(IOL)度数計算を行った場合の予測屈折値の誤差を検討した.方法:当科で白内障手術を行った連続100眼を対象とした.全例IOLマスターで,ケラト(K)値,眼軸長を測定し,SRK/T式にてIOL度数を決定し,術後1カ月の等価球面値と予測屈折値の誤差を算出した.さらに,術前にPentacamHR(Oculus社)で測定したTNPおよびEKRの3mm,4.5mm領域をK値としてシミュレーションした予測屈折値と術後1カ月の誤差を算定し比較した.結果:術後1カ月の平均絶対誤差はIOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)の順に0.46±0.38D,1.04±0.80D,0.55±0.47D,0.53±0.44Dであり,IOLマスターとEKR(3.0mm,4.5mm)間には有意差はなかった(p>0.05,pairedt-test).結論:正常角膜におけるIOL度数計算は,EKRをK値として用いた場合,IOLマスターのK値を使用した場合と同等の精度である.Purpose:Toevaluatekeratometry(K)readingsobtainedwithScheimpflugtopographer(PentacamHR,Oculus)forroutinecataractsurgery.Methods:In100consecutivecataracteyes,TrueNetPower(TNP)andEquivalentKreadings(EKR,3mmand4.5mm)weremeasuredviaPentacamHR,andautomatedKwasmeasuredviaIOLMaster(CarlZeiss),tocalculateIOLpowersusingtheSRK/Tformula.Themeanabsolutepredictederrors(MAEs)atonemonthpostoperativelywerecomparedbetweentheseparameters.Results:TheMAEswere0.46±0.38D,1.04±0.80D,0.55±0.47Dand0.53±0.44DfortheIOLMaster,TNP,EKR(3mmand4.5mm),respectively.TherewasnosignificantdifferencebetweenEKR(3mmand4.5mm)andIOLMaster(p>0.05,pairedt-test).Conclusion:Intermsofaccuracy,EKRdidnotdifferfromIOLMasterinroutineIOLpowercalculation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1159.1163,2012〕Keywords:ペンタカム,角膜全屈折力,TrueNetPower,EquivalentKreadings,IOL度数計算.Pentacam,Wholecornealpower,TrueNetPower,EquivalentKreadings,IOLpowercalculation.はじめに屈折矯正手術後の患者に対し白内障手術を行う際には,通常の眼内レンズ(IOL)度数計算方法を用いると,術後屈折値に誤差を生じることが知られており1),誤差を最小限にするために,過去にもさまざまな方法が施行されてきた2.6).たとえば,Scheimpflug型前眼部解析装置であるPentacam(Oculus社)で測定した角膜全屈折力(TrueNetPower:TNP)7,8)およびEquivalentK値(EquivalentKreadings:EKR)9,10)や,デュアル・シャインプルークアナライザー(Galilei,Zeimer社)で測定した角膜全屈折力(TotalCornealPower)5)を用いてIOL度数計算を行う方法が報告されている.今後,わが国でも屈折矯正手術後の患者に対し,白内障手術を行う機会は増えてくるため,これらのパラメータを用いてIOL度数計算を行う状況が増えてくる可能性があると〔別刷請求先〕金谷芳明:〒285-8741佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:YoshiakiKanaya,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura,Chiba285-8741,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(133)1159 思われる.このため,今後は各機械におけるこれらのパラメータの特徴を把握しておく必要があると考える.今回,筆者らは正常角膜眼において,IOL度数計算の際にScheimpflug型前眼部解析装置であるPentacamにて測定したTNP,EKRをケラト(K)値として用いた場合の予測屈折値の誤差を検討したので報告する.I対象および方法東邦大学医療センター佐倉病院眼科(以下,当科)にて白内障手術を行い,IOLマスターにて眼軸長の測定が可能であ図1PentacamHRにおけるTrueNetPower表示この症例では中央値は43.7(黒丸で囲った部分)と表示されている.り,PentacamHR(Oculus社)で不正乱視を認めなかった白内障手術患者連続100眼(男性59眼,女性41眼,平均年齢72.0±9.6歳)を対象とした.全例IOLマスターver.5.4(カールツァイス社)にて,K値,眼軸長を測定し,SRK/T(Sanders-Retzlaff-Kraff/theoretical)式にてIOL度数を決定し手術を行い,術後1カ月での等価球面値と予測屈折値との誤差を算出した.さらに,術前にPentacamHRにて測定5mm).した角膜中央部のTNP(図1)およびEKR(3.0mm,4(図2)をK値として使用し,眼軸長はIOLマスターの測定値をそのまま用いて,SRK/T式にて計算したIOLの屈折誤差のシミュレーションを行った.具体的には,実際に手術で使用したIOL度数における,各K値を用いた場合の予測屈折値と実際の術後1カ月での等価球面値との誤差を算定し検討した.また,術前乱視の大きさ,および眼軸長の長さで分類した際の誤差の比較もそれぞれ検討した.II結果IOLマスターによるIOL度数計算で白内障手術を行った100眼の平均眼軸長は24.1±1.3mm(範囲21.93.27.76mm)であり,術前乱視の平均値は1.20±0.94D(範囲0.4D)であった.IOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)をK値として用いた場合の誤差の散布図をとると,誤差の平均はそれぞれ,0.15D,.0.81D,.0.06D,0.17Dとなり,TNPがマイナスに大きくずれる傾向があった(図3).誤差の絶対値による検討では,IOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)をK値とした平均絶対誤差はそれぞれ0.46±0.38D,1.04±0.80D,0.55±0.47D,0.53±0.44Dであり,TNPを用いた場合はIOLマスターによるIOL度数計算と比べ,絶対誤差は有意に大きかった(p≦図2PentacamHRにおけるHolladayReportに表示されるEquivalentK値1.0,2.0,3.0,4.0,4.5,5.0,6.0,7.0mm領域が表示され,4.5mm領域が標準として設定されている.本検討では,3.0mmと4.5mm領域での値を使用した.1160あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(134) ◆:IOLマスターでの誤差◆:TNPでの誤差◆:EKR(3.0)での誤差◆:EKR(4.5)での誤差-6-5-4-3-2-101230100誤差(D)症例(n=100)図3全症例における各K値を用いた場合の誤差の散布図誤差の平均は,IOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)の順に0.15D,.0.81D,.0.06D,0.17Dとなり,TNPがマイナスにずれる傾向にあった.表1各パラメータでの平均絶対誤差と範囲平均絶対誤差±IOLマスターとの比較標準偏差(D)範囲(D)(pairedt-test)IOLマスター0.46±0.38.1.13.2.03.TNP1.04±0.80.5.88.1.83p≦0.001EKR(3.0mm)0.55±0.47.2.02.1.83NSEKR(4.5mm)0.53±0.44.1.95.2.40NSNS:nostatisticallysignificantdifference.表2平均絶対誤差の割合誤差の割合(%)誤差の範囲(D)0.0.50.5.1.01.0.1.51.5.2.02.0.IOLマスターTNPEKR(3.0mm)EKR(4.5mm)59285558336124301029105308318310.001,pairedt-test)(表1).また,IOLマスターとEKR(3.0mm)およびEKR(4.5mm)の間には有意差はなかった(p>0.05,pairedt-test)(表1).絶対誤差が0.5D以内における割合はIOLマスター,TNP,EKR(3.0mm),EKR(4.5mm)の順に,59%,28%,55%,58%と,TNPを用いた場合の絶対誤差が0.5D以内の症例が最も少なかった(表2)が,TNPと他のK値との間に有意差はみられなかった(p>0D以上...つぎに,術前乱視を1.0D未満,1検定)2c0.05,2.0D未満,2.0D以上とに分けて,それぞれの誤差を検討したところ,術前乱視による誤差の有意な変動はみられなかった(p>0.05,Tukeytest).しかしながら,EKR(4.5mm)では,乱視による変動が少ない傾向がみられた(表3).また,眼軸長ごとに分けて誤差を検討した結果,症例数が1例であ(135)表3術前乱視の大きさと平均絶対誤差平均絶対誤差±標準偏差(D)術前乱視(D).1.01.0.2.02.0.症例数IOLマスターTNPEKR(3.0mm)EKR(4.5mm)4037230.46±0.360.45±0.420.53±0.350.93±0.731.01±0.591.26±1.150.49±0.440.61±0.460.55±0.530.54±0.480.51±0.450.52±0.36表4眼軸長と平均絶対誤差平均絶対誤差(D)眼軸長<22.0mm22.0.24.5mm24.5.26.0mm>26.0mm症例数1632511IOLマスター1.0150.490.440.32TNP2.2151.060.891.15EKR(3.0mm)1.1150.590.450.48EKR(4.5mm)0.3550.560.470.47った22mm未満の短眼軸以外はすべてIOLマスターによる計算で最も誤差が小さく,22.24.5mmの症例では0.49D,24.5.26mmの症例では0.44D,26mm以上の症例では0.32Dとなった(表4).しかしながら,他のK値との間に統計学的有意差はみられなかった(p>0.05,Tukeytest).III考按Scheimpflug型前眼部解析装置であるPentacamを使用しIOL度数を計算する方法は過去にも報告7.10)されており,角膜中央部のTNP7,8)やEKRをK値として使用する方法9,10)が報告されている.当科では,正常角膜眼における白内障手術のIOL度数計算はIOLマスターによる計算で行っているが,今回,PentacamHRで測定したTNPおよびEKRをK値として使用し,IOL度数計算をした場合の誤差を検討したところ,IOLマスターのK値を用いた場合とEKRを用いた場合との間に有意差はなく,両群ともTNPを用いた場合よりも有意に誤差が小さかった.今回,実際のIOL度数決定に用いたIOLマスターによる角膜屈折力測定はリング状の照明が角膜前面中央部2.4mmの領域に反射して生じるマイヤー像を用いて行っており,その値から補正をして算出された屈折力を用いている.一方,PentacamHRで測定される角膜全屈折力(TNP)は角膜前面と角膜後面の曲率を合わせて理論的に算出されたパラメータであり,EKRはIOL度数計算を行うために角膜後面の影響も考慮し,IOL度数計算式にそのまま代入できるように開発されたパラメータである11).角膜中央部のTNPを用いる方法は,LASIK(laserinsitukeratomileusis)やPRKあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121161 (photorefractivekeratectomy)などの屈折矯正手術後に白内障手術を受ける場合に有用とされている方法7,8)で,これらの白内障手術においては有用であるが,通常の白内障手術のIOL度数計算にそのまま使用することはできないとされている11).その理由としては,IOL度数計算式は角膜全屈折力ではなく,角膜中央の前面曲率半径と1.3375という換算屈折率を用いて計算しているからであり,本検討でもTNPを用いた場合,通常どおりIOLマスターのK値を用いた場合と比べ有意に誤差は大きく,他のパラメータと比べ,マイナスにずれる傾向にあった(図3).EquivalentK値は角膜中央部1.0,2.0,3.0,4.0,4.5,5.0,6.0,7.0mm領域での値がPentacamHRに搭載されているHolladayReport(図2)に表示されており,PentacamHRでは4.5mm領域が標準として表示されている.既報では,LASIKやPRKなどの角膜屈折矯正手術後の白内障手術には4.5mm領域の値をK値として使用するのが良いとする報告11)や,通常の白内障手術におけるIOL度数計算においては,3.0mm領域の値を使用した場合に最も誤差が少なかったとする報告12)があるが,本検討では,3.0mmと4.5mm領域の値をK値として使用した場合の誤差を検討したところ,通常どおりIOLマスターで測定した場合との誤差に有意差はなかった.また,本検討においては,EKR(3.0mm)とEKR(4.5mm)との間の誤差に有意な差はみられなかった(p>0.05,Tukeytest).術前乱視と誤差との関係であるが,本検討は術前乱視と誤差との間に統計学的有意差はなかった.しかしながらEKRは術前乱視による誤差の変動が少ない傾向がみられたため,今後はEKRの有用性について症例数を増やして検討をしていきたいと考える.IOL度数計算においては眼軸長もまた,術後の誤差に関係してくるといわれており,22mm以下の短眼軸や25mm以上の長眼軸においては,IOL度数計算において,誤差が大きくなることが懸念される13).Hofferの報告では,眼軸長を22mm未満,22.24.5mm,24.5.26mm,26mm以上に分けて,それぞれ各種計算式で平均絶対誤差を検討しており,22.0.24.5mmの平均的な眼軸長においては,HofferQ式とHolladayI式が最も誤差が小さく,24.5mm以上の眼軸長においては,SRK/T式で誤差が最も小さかったと報告している13).本検討では,眼軸長をHofferの報告と同様に分け,パラメータごとにすべてSRK/T式で計算し,平均絶対誤差を評価した.結果は1症例しかなかった眼軸長22mm未満以外ではIOLマスターで最も誤差が小さかったが,5mm)との間にそ.IOLマスター,EKR(3.0mm)とEKR(4れぞれ有意差はなかった.本検討ではSRK/T式のみで計算しており,Hofferの報告のように,さまざまな計算式での評価は行っていないため,今後は他の計算式とパラメータと1162あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012の関係も検討する必要があると考える.今回の検討において,正常角膜におけるIOL度数計算では,従来どおりIOLマスターを用いた場合に予測屈折値と術後等価球面値との誤差が最も小さかった.このことは,やはり正常角膜であるならば,IOLマスターで測定されたケラト値を用いることで精度の高いIOL決定ができると考えられる.しかしながら,PentacamのEKRを用いた場合との誤差に有意差はなく,乱視による誤差の変動がEKRを用いた場合は小さいように思われるため,術前乱視が大きい症例や角膜形状がイレギュラーな症例では角膜形状解析装置を使用するなど,可能な限り多くの計算法を用い,症例ごとに結果を検討する必要があると考えられる.また,今後,増加していくことが考えられるLASIKやPRKなどの屈折矯正術後の白内障眼におけるIOL度数計算においても,同様な対応が必要であると考える.最後に,今回はペンタカムのみの検討であったが,今後は他のScheimpflug型前眼部解析装置や前眼部OCT(光干渉断層計)でのパラメータの特徴も解析することで,機種間の特徴の違いについても検討していきたいと考える.白内障術後視力は,今や裸眼視力の精度が求められる時代である.前眼部解析装置を用いることで,より満足度の高い白内障術後視力を提供できるのではないかと考える.文献1)GimbelHV,SunR:Accuracyandpredictabilityofintraocularlenspowercalculationafterlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg27:571-576,20012)HolladayJT:Consultationsinrefractivesurgery:IOLcalculationsfollowingradialkeratotomysurgery.RefractCornealSurg5:203,19893)HaigisW:Intraocularlenscalculationafterrefractivesurgeryformyopia:Haigis-Lformula.JCataractRefractSurg34:1658-1663,20084)CamellinM,CalossiA:Anewformulaforintraocularlenspowercalculationafterrefractivesurgery.JRefractSurg22:187-199,20065)荒井宏幸:LASIK後のIOL度数決定法.坪田一男(編):眼科プラクティス9,屈折矯正完全版,p94,文光堂,20066)AramberriJ:Intraocularlenspowercalculationaftercornealrefractivesurgery:double-Kmethod.JCataractRefractSurg29:2063-2068,20037)東浦律子,前田直之:角膜形状異常疾患での眼内レンズ度数計算.大鹿哲郎(編):眼科プラクティス25,眼のバイオメトリー,p239,文光堂,20098)金谷芳明,堀裕一,出口雄三ほか:異なる2つの計算方法で眼内レンズ度数を決定したLASIK後の白内障手術.眼臨紀5:107-110,20129)FalavarjaniKG,HashemiM,JoshaghaniMetal:DeterminingcornealpowerusingPentacamaftermyopicphotorefractivekeratectomy.ClinExperimentOphthalmol(136) 38:341-345,201010)TangQ,HofferKJ,OlsonMDetal:AccuracyofScheimpflugHolladayequivalentkeratometryreadingsaftercornealrefractivesurgery.JCataractRefrectSurg35:1198-1203,200911)ShammasHJ,HofferKJ,ShammasMC:Scheimpflugphotographykeratometryreadingsforroutineintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg35:330334,200912)SymesRJ,SayMJ,UrsellPG:Scheimpflugkeratometryversusconventionalautomatedkeratometryinroutinecataractsurgery.JCataractRefractSurg36:1107-1114,201013)HofferKJ:ClinicalresultsusingtheHolladay2intraocularlenspowerformula.JCataractRefractSurg26:12331237,2000***(137)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121163

虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の2 症例

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1153.1158,2012c虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたサイトメガロウイルス角膜内皮炎の2症例山下和哉松本幸裕市橋慶之川北哲也榛村重人坪田一男慶應義塾大学医学部眼科学教室TwoCasesofCytomegalovirusCornealEndotheliitisTreatedasSecondaryGlaucomaComplicatedwithIritisKazuyaYamashita,YukihiroMatsumoto,YoshiyukiIchihashi,TetsuyaKawakita,ShigetoShimmuraandKazuoTsubotaDepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KeioUniversity近年,角膜内皮炎のなかにサイトメガロウイルス(CMV)の関与する症例が報告され,注目を集めている.当科で経験したCMV角膜内皮炎の2例について報告する.1例はPosner-Schlossman症候群として,もう1例はヘルペス性虹彩炎として治療されていた.2例とも角膜内皮細胞密度の減少,角膜浮腫,角膜後面沈着物を認めていた.前房水を採取し,PCR(polymerasechainreaction)検査を行ったところ,CMVが検出されたので,CMV角膜内皮炎と診断した.ガンシクロビルの点滴と点眼による治療を行ったところ,角膜浮腫および角膜後面沈着物の軽減が認められた.虹彩炎と続発緑内障を伴う,難治性の角膜内皮炎はCMV角膜内皮炎を考慮する必要があると考えられた.Recently,therehavebeenseveralreportsconcerningcornealendotheliitiscausedbycytomegalovirus(CMV)infection.Weherereport2casesofCMVcornealendotheliitis.OnepatientwastreatedasPosner-Schlossmansyndrome,theotherasherpeticiritis.Decreasedcornealendothelialcelldensity,cornealedemaandkeraticprecipitates(KP)wereobservedinbothcases.Polymerasechainreaction(PCR)revealedCMVDNAinaqueoushumorinbothcases,leadingtodiagnosisofCMVcornealendotheliitis.SystemicandtopicalganciclovirapplicationreducedcornealedemaandKP.Incaseofrefractorycornealendotheliitisbeingtreatedassecondaryglaucomacomplicatedwithiritis,CMVcornealendotheliitisshouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1153.1158,2012〕Keywords:サイトメガロウイルス,角膜内皮炎,ガンシクロビル.cytomegalovirus,cornealendotheliitis,ganciclovir.はじめに角膜内皮炎のうち,アシクロビルやバラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬による治療に対して抵抗性で水疱性角膜症に至る難治症例が知られている.2006年にKoizumiらは,単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(vallicera-zostervirus:VZV)などのヘルペス群ウイルスの他に,角膜内皮へ炎症を生じる疾患としてサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)角膜内皮炎を報告した1).その報告以来,CMV角膜内皮炎の臨床的特徴および発症機序を解明しようとする報告が相ついでいる2.5,8,9).全身の免疫異常を認めない患者の前房水PCR(polymerasechainreaction)検査にてCMVDNA(deoxyribonucleicacid)が検出され,片眼性で前房内炎症や眼圧上昇を伴うことが多く,ガンシクロビルによる治療が有効であるとの報告がある5).しかし,発症メカニズムはいまだに不明で,臨床所見,治療方法についても十分なデータの集積はないといってよい.今回,筆者らは,虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたCMV角膜内皮炎の2症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕山下和哉:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KazuyaYamashita,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KeioUniversity,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)1153 I症例(MD)値.5.5dBと緑内障性変化を認めた(図1).左眼は異常を認めなかった.〔症例1〕72歳,男性.前眼部:右眼は限局性の角膜上皮および実質浮腫と一致主訴:右眼眼痛.した部位に黄白色で円形の角膜後面沈着物をびまん性現病歴:平成18年より,右眼の眼痛が出現し,近医にてに認めた(図2a.c).左眼は後発白内障を軽度認め右眼虹彩炎,続発緑内障として通院加療中であった.平成たが,その他,異常を認めなかった.22年8月より,右眼角膜浮腫が出現したために,ベタメタゾン(リンデロンR)点眼,アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏,バラシクロビル(バルトレックスR)錠内服にて治療されたが効果がなかった.右眼角膜内皮炎の疑いにて,平成22年10月7日に当科を紹介受診となった.既往歴:糖尿病(平成22年9月ヘモグロビンA1C6.2%内服なし).両眼)超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(平成17年).治療前所見:視力:右眼1.2(i.d.(cyl.0.50DAx155°),左眼0.8(矯正不能).眼圧:右眼17mmHg,左眼14mmHg.角膜内皮細胞密度:右眼1,361/mm2,左眼2,882/mm2.血液:血中CMV-IgG24.0(enzymeimmunoassay:EIA価).視野:Humphrey視野検査にて右眼はmeandeviation図1症例1のHumphrey視野検査(30.2)Humphrey視野検査(30-2)において,右眼はmeandeviation値.5.5dBと緑内障性変化を認めた.abcdef図2症例1の細隙灯顕微鏡検査(上段:治療前,および下段:治療後)a:上耳側に限局性の角膜上皮および実質の浮腫を認める(矢印).b:フルオレセイン生体染色にて,上耳側の角膜上皮浮腫が明瞭となる(矢印).c:上耳側の角膜浮腫の部位に一致して黄白色で円形の角膜後面沈着物をびまん性に認める(矢印).d:上耳側の角膜上皮および実質浮腫の消失を認める(矢印).e:フルオレセイン生体染色においても上耳側の角膜上皮浮腫の消失を認める(矢印).f:上耳側の角膜後面沈着物の消失を認める(矢印).1154あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(128) 12341:サイズマーカー(f×174DNA/HaeⅢ)HSV-22:患者検体HSV-13:陽性コントロールEBVHHV-6VZVCMV4:陰性コントロール図3症例1の前房水PCR検査右眼前房水における,ヒトヘルペスウイルスマルチプレックスPCR検査にてサイトメガロウイルスDNA陽性を認めた.中間透光体:両眼ともに異常なし.眼底:視神経所見は,右眼は軽度の視神経乳頭陥凹拡大を認め,視神経乳頭辺縁部下方欠損を認めた.左眼は異常を認めなかった.前房水:右眼前房水におけるヒトヘルペスウイルスマルチプレックスPCR検査にてCMVDNA陽性(図3).経過:平成22年10月30日より入院し,自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼1日8回,0.1%ベタメタゾン(サンベタゾンR)点眼1日5回,0.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼1日3回,ガンシクロビル(デノシンR)点滴500mg/日による治療を開始した.ガンシクロビルの点滴は14日間施行したが,明らかな副作用は認められなかった.同年11月13日退院となり,以降,外来にて通院加療となったが,前眼部に認められた限局性の角膜上皮・実質浮腫および角膜後面沈着物は徐々に軽減し,平成23年1月29日に消失した(図2d.f).治療後所見:視力:右眼1.2(i.d.+0.25D(cyl.0.50DAx100°).眼圧:右眼14mmHg.角膜内皮細胞密度:右眼1,119/mm2.〔症例2〕65歳,女性.主訴:左眼霧視および左眼眼痛.現病歴:平成7年4月に,左眼霧視と左眼眼痛が出現したため,近医を受診し,左眼緑内障発作の疑いにて,当科を紹介受診となった.初診時,左眼虹彩炎および続発緑内障を認め,Posner-Schlossman症候群と診断された.以降,増悪寛解を繰り返したため,抗炎症と眼圧下降の治療を施行されていたが,薬物治療に反応せず,これまでに左眼緑内障手術を計3回施行された.また,左眼白内障に対して超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を併施された.平成23年(129)図4症例2のHumphrey視野検査(30.2)Humphrey視野検査(30-2)において,左眼はmeandeviation値.6.9dBと緑内障性変化を認めた.5月11日に,左眼角膜内皮炎が認められたため,アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏を開始されたが改善しなかった.既往歴:左眼)線維柱帯切開術(平成9年8月).左眼)線維柱帯切除術+超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(平成14年6月).左眼)線維柱帯切除術(平成21年6月).治療前所見:視力:右眼(1.2×+1.50D(cyl.1.00DAx105°).左眼(0.8×.2.50D(cyl.0.50DAx180°).眼圧:右眼17mmHg,左眼18mmHg.角膜内皮細胞密度:右眼2,326/mm2,左眼985/mm2.血液:血中CMV-IgG58.0(EIA価).視野:Humphrey視野検査にて左眼はMD値.6.9dBと緑内障性変化を認めた(図4).右眼は異常を認めなかった.前眼部:左眼は広範囲に角膜上皮および実質浮腫と一致した部位に黄白色で円形の角膜後面沈着物をびまん性に認めた(図5a.c).右眼は異常を認めなかった.中間透光体:両眼ともに異常なし.眼底:視神経所見は,左眼は乳頭陥凹/乳頭比0.8,視神経乳頭辺縁部下方欠損を認めた.右眼は異常を認めなかった.前房水:左眼前房水におけるヒトヘルペスウイルスマルチプレックスPCR検査にてCMVDNA陽性(図6).経過:平成23年6月20日より入院し,自家調整した0.5%ガンシクロビル(デノシンR)点眼1日8回,0.1%ベタメタゾン(サンベタゾンR)点眼1日5回,0.5%レボフロキサシン(クラビットR)点眼1日3回,ガンシクロビル(デノシンR)点滴500mg/日による治療を開始した.また,以前よあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121155 aabcdef図5症例2の細隙灯顕微鏡検査(上段:治療前,および下段:治療後)a:広範囲に角膜上皮および実質の浮腫を認める(矢印).b:フルオレセイン生体染色にて広範囲の角膜上皮浮腫が明瞭となる(矢印).c:角膜中央部に黄白色で円形の角膜後面沈着物をびまん性に認める(矢印).d:全体的に角膜上皮および実質の浮腫の消失を認める(矢印).e:フルオレセイン生体染色においても全体的な角膜上皮浮腫の消失を認める(矢印).f:角膜中央部の角膜後面沈着物の軽減を認める(矢印).12341:サイズマーカー(f×174DNA/HaeⅢ)2:患者検体3:陽性コントロール4:陰性コントロールHSV-2HSV-1EBVHHV-6VZVCMV図6症例2の前房水PCR検査左眼前房水における,ヒトヘルペスウイルスマルチプレックスPCR検査にてサイトメガロウイルスDNA陽性を認めた.り,緑内障に対して,2%カルテオロール(ミケランLAR)点眼1日1回,0.03%ビマトプロスト(ルミガンR)点眼1日1回,1%ブリンゾラミド(エイゾプトR)点眼1日2回使用,ドライアイに対して,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインR)点眼1日4回にて治療されていた.ガンシクロビルの点滴は14日間施行したが,明らかな副作用は認められなかった.同年7月4日に退院となり,以降,外来にて通院加療となったが,治療前に前眼部に認められた広範囲の角膜上皮・実質浮腫および角膜後面沈着物は徐々に軽減し,同年8月18日に消失した(図5d.f).治療後所見:視力:左眼(0.8×+3.50D(cyl.2.50DAx45°).眼圧:左眼12mmHg.角膜内皮細胞密度:左眼1,026/mm2.II考按ヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV)は二本鎖DNAをゲノムとしてもつウイルスで,現在8種類のウイルスが確認されている.CMVはbヘルペスウイルスに属するDNAウイルスであり,ヒトに感染するウイルスとしては最大のビリオンを形成する6).また,健常人の大多数が乳幼児期に初感染し,高度の細胞性免疫不全下で再活性化をきたし,網膜炎の他,肺炎,胃腸炎,肝炎,骨髄抑制と多臓器1156あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(130) にわたって回帰感染をひき起こすことが知られている6).今回,筆者らが経験したCMV角膜内皮炎の2症例における特徴として,片眼性で,角膜浮腫および角膜後面沈着物を認める点,全身の免疫不全を認めない点,ガンシクロビルによる治療が有効であった点などは,細谷らの報告と一致していた5).しかし,典型的なコインリージョンとよばれる衛星病巣は認められなかった.また,2症例ともに,過去に虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されていたことは特記すべき点である.Cheeらは,前部ぶどう膜炎をきたしたHIV陰性患者105例中24例の前房水中にCMVDNA陽性を認め,そのうち18例はPosner-Schlossman症候群,5例はFuchs異色性虹彩毛様体炎,1例はヘルペスによる前部ぶどう膜炎として加療されていたと報告しており7),過去に前部ぶどう膜炎として加療されていた症例のなかにCMV角膜内皮炎が潜在している可能性があることを示唆している.また,Kandoriらは,原因不明の角膜内皮炎29例中7例の前房水中にCMVDNA陽性を認め,ガンシクロビルによる治療にて7例中5例で臨床的な改善を認めたと報告している8).今回の症例においては,過去の角膜所見が不明であるため,その経過を評価することは困難であるが,今回,角膜内皮炎所見を呈した段階では角膜内皮細胞密度はすでに1,000前後/mm2に低下していた.CMV感染症の治療においては,一般的に,CMVのDNAポリメラーゼに利用されることにより,CMVのDNA合成を阻害するガンシクロビルが用いられ,ガンシクロビルに耐性がある場合は,CMVのDNAポリメラーゼのピロリン酸結合部位を非競合的に阻害し,ウイルスDNAの合成を阻害するフォスカルネットが用いられている6).ガンシクロビルの初期投与量としては,1回5mg/kg,1日2回,12時間ごとに1回1時間以上かけて14日間点滴静注し,維持療法が必要な場合は,1回5mg/kg,1日1回,1回1時間以上かけて7日間で1クールとして追加施行するのが一般的である.Koizumiらは,CMV角膜内皮炎8例に対して,(ガンシクロビル投与を拒否したため,バラシクロビル投与を行った1例を除く)ガンシクロビル投与を行った7例中,6例では角膜の透明化が得られたが,1例では水疱性角膜症に至ったと報告している2).今回,筆者らはガンシクロビルの点滴と自家調整した点眼にて治療を行い,2例とも臨床的改善を認めた.ガンシクロビル点眼液の作製方法としては,デノシンR点滴静注用1バイアル(500mg)を蒸留水10mlに溶解した後,生理食塩水にて全量100mlとなるように希釈し,点眼瓶に分注している.現在,CMV角膜内皮炎に対する治療法のプロトコールは存在していないが,2例ともに再発予防目的にガンシクロビル点眼を継続している.現在に至るまでCMV角膜内皮炎の再発や角膜上皮障害などの副作用は認めていない.また,唐下らは,再発性サイトメガロウイルス(131)表1ヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV)と関連する眼疾患HHV-1HHV-2HHV-3HHV-4HHV-5HHV-6HHV-7HHV-8角膜炎虹彩炎・ぶどう膜炎網膜炎+21)+18)+10)+19)+18)+10)+20)+18)+10)+17)+13)+10)+1)+18)+11)+15)+14)+12)+16)─────角膜内皮炎にバルガンシクロビル内服が奏効した9)と報告しているが,ガンシクロビルの副作用である血球減少症や腎機能障害を調節する治療法の確立も今後の課題といえる.HHVと関連する眼疾患についてPubMedにて検索したところ,I型からVI型までは角膜炎,虹彩炎またはぶどう膜炎,網膜炎のいずれにおいても報告があった.しかし,VII型においては虹彩炎またはぶどう膜炎,網膜炎の報告はなく,VIII型においてはいずれも報告がなかった(表1).過去にヘルペスウイルスとおもな眼疾患を表にまとめた薄井の報告21)と比較すると,Epstein-Barrウイルスが網膜炎をきたす報告,CMVが角膜炎をきたす報告,HHV-6が角膜炎,虹彩炎またはぶどう膜炎,網膜炎をきたす報告,HHV-7が角膜炎をきたす報告が,約10年の期間で追加報告されていることがわかる.元来,ヘルペスウイルス属はヒトの眼組織にきわめて親和性が高いことが予想されることより,現在,確認されていないヘルペスウイルスもいずれ各組織に確認されるものと考えられる.CMV角膜内皮炎は比較的新しい疾患概念である.角膜内皮炎として過去に加療するものの治療に奏効せず,予後不良となった症例のなかに含まれている可能性がある.また,今回の症例のように虹彩炎に伴う続発緑内障として加療されている症例のなかに,CMV角膜内皮炎が潜在している可能性がある.過去に,片眼性で,原因不明の虹彩炎と続発緑内障を認めた角膜内皮炎に対してはCMV角膜内皮炎を疑い,積極的に前房水のヘルペスウイルス属のPCR検査を施行し,適切な治療を選択する必要があると考えられる.本稿の要旨は,第772回東京眼科集談会(平成23年11月10日)にて発表した.文献1)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovirusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol141:564-565,20062)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121157 anetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,20083)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Cornealendotheliitisassociatedwithevidenceofcytomegalovirusinfection.Ophthalmology114:798-803,20084)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendotheliitisafterpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20075)細谷友雅,神野早苗,吉田史子ほか:両眼性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科26:105-108,20096)森慎一郎:サイトメガロウイルス感染症.日本胸部臨床69:802-810,20107)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcytomegalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840,20088)KandoriM,InoueT,TakamatsuFetal:Prevalenceandfeaturesofkeratitiswithquantitativepolymerasechainreactionpositiveforcytomegalovirus.Ophthalmology117:216-222,20109)唐下千寿,矢倉慶子,郭權慧ほか:バルガンシクロビル内服が奏効した再発性サイトメガロウイルス角膜内皮炎の1例.あたらしい眼科27:367-370,201010)LauCH,MissottenT,SalzmannJetal:Acuteretinalnecrosisfeatures,management,andoutcomes.Ophthalmology114:756-762,200711)SloanDJ,TaeqtmeyerM,PearceIAetal:CytomegalovirusretinitisintheabsenceofHIVorimmunosuppression.EurJOphthalmol18:813-815,200812)CohenJI,FahleG,KempMAetal:Humanherpesvirus6-A,6-B,and7invitreousfluidsamples.JMedVirol82:996-999,201013)YamamotoS,SugitaS,SugamotoYetal:QuantitativePCRforthedetectionofgenomicDNAofEpstein-Barrvirusinocularfluidsofpatientswithuveitis.JpnJOphthalmol52:463-467,200814)MaslinJ,BigaillonC,FroussardFetal:Acutebilateraluveitisassociatedwithanactivehumanherpesvirus-6infection.JInfect54:237-240,200715)OkunoT,HooperLC,UrseaRetal:Roleofhumanherpesvirus6incornealinflammationaloneorwithhumanherpesviruses.Cornea30:204-207,201116)InoueT,KandoriM,TakamatsuFetal:Cornealendotheliitiswithquantitativepolymerasechainreactionpositiveforhumanherpesvirus7.ArchOphthalmol128:502503,201017)MatobaAY,WilhelmusKR,JonesDB:Epstein-Barrviralstromalkeratitis.Ophthalmology93:746-751,198618)JapA,CheeSP:Viralanterioruveitis.CurrOpinOphthalmol22:483-488,201119)TiwariV,ShuklaSY,YueBYetal:Herpessimplexvirustype2entryintoculturedhumancornealfibroblastsismediatedbyherpesvirusentrymediator.JGenVirol88:2106-2110,200720)MagoneMT,NasserRE,CevallosAVetal:Chronicrecurrentvaricella-zosterviruskeratitisconfirmedbypolymerasechainreactiontesting.AmJOphthalmol139:1135-1136,200521)薄井紀夫:ヘルペスウイルス感染症.治療84:516-520,2002***1158あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(132)

ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1147.1151,2012cウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果中嶋英雄浦島博樹竹治康広篠原久司大塚製薬株式会社赤穂研究所TherapeuticEffectofRebamipideOphthalmicSuspensiononCornealandConjunctivalDamageinMucin-removedRabbitEyeModelHideoNakashima,HirokiUrashima,YasuhiroTakejiandHisashiShinoharaAkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおける眼表面の障害に対するレバミピド点眼液の効果について検討した.本モデルに1%レバミピド点眼液または基剤を1日6回,2週間点眼した後,電子顕微鏡により角結膜表面微細構造を観察するとともに,コムギ胚芽レクチンを用いた酵素免疫法で角結膜のムチン様糖蛋白質を定量した.また,ドライアイ観察装置を用いて涙液安定性についても評価した.レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復し,また,角結膜のムチン様糖蛋白質を有意に回復させた.さらに,涙液層におけるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液安定性の改善が示唆された.レバミピド点眼液は角結膜表面の微細構造の修復作用と角結膜ムチンの増加作用により,涙液層を安定化させたと考えられた.Thisstudyinvestigatedtheeffectofrebamipideophthalmicsuspensiononcornealandconjunctivaldamageinthemucin-removedrabbiteyemodel.Rebamipideophthalmicsuspension(1%)orvehicleonlywastopicallyappliedtothesubjecteyes6timesdailyfor2weeks.Thefinestructureofthecornealandconjunctivalsurfacewasexaminedusingtransmissionandscanningelectronmicroscopy.Cornealandconjunctivalmucinsweremeasuredbyenzyme-linkedlectinassaywithwheatgermagglutinin.Tearfilmstabilitywasevaluatedusinganophthalmoscopefordryeye.Rebamipideophthalmicsuspensionstimulatedrecoveryofmicrovilli/microplicaeonthecornealandconjunctivalsurfaceandsignificantlyincreasedcornealandconjunctivalmucinsinmucin-removedrabbiteyes.Inaddition,rebamipideophthalmicsuspensionsuppressedtheappearanceofdryspots,whichsuggestsimprovedtearfilmstability.Theseresultssuggestthatrebamipideophthalmicsuspensionincreasescornealandconjunctivalmucinsandinducesrecoveryofthefinestructureoftheocularsurface,therebyimprovingtearfilmstability.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1147.1151,2012〕Keywords:レバミピド,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデル,N-アセチルシステイン,微絨毛/微ひだ,ムチン様糖蛋白質,涙液安定性.rebamipide,mucin-removedrabbiteyemodel,N-acetylcysteine,microvilli/microplicae,mucinlikeglycoprotein,tearfilmstability.はじめにドライアイはさまざまな要因による涙液および眼表面上皮における慢性疾患である.その病態の成立には涙液と角結膜上皮の悪循環,およびその悪循環をひき起こすリスクファクターが関与し,その結果として生じる涙液安定性の低下はドライアイのコアメカニズムの一つであると捉えられている1).涙液は油層と水/ムチン層からなり,眼表面のムチンは角結膜表面の親水性を高め,角膜表面での安定な涙液層の形成に寄与するとされる.ドライアイでは涙液および眼表面のムチンが減少すると報告されており2,3),ドライアイの治療において眼表面のムチンを増加させることの重要性が指摘されている.角結膜表面に発達している微絨毛/微ひだはその先端〔別刷請求先〕中嶋英雄:〒678-0207兵庫県赤穂市西浜北町1122-73大塚製薬株式会社赤穂研究所Reprintrequests:HideoNakashima,AkoResearchInstitute,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,1122-73Nishihamakita-cho,Ako-shi,Hyogo678-0207,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)1147 に膜結合型ムチンが局在するとされ4),ドライアイにおいては微絨毛/微ひだが減少・不整化していること5.7)や,微絨毛/微ひだの減少に依存して涙液安定性が低下することが報告されている8).新規ドライアイ治療薬であるレバミピド点眼液は,N-アセチルシステインを点眼することにより眼表面のムチンを除去したウサギ(眼表面ムチン被覆障害モデル)の角結膜においてムチン様物質を増加させ,ローズベンガル染色スコアを改善させることがこれまでに報告されている9).今回,ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルの角結膜表面微細構造,角結膜のムチン様糖蛋白質および涙液安定性について検討するとともに,レバミピド点眼液の効果について検討した.I実験方法1.眼表面ムチン被覆障害モデルの作製およびレバミピド点眼液の投与雌性NZW(NewZealandWhite)ウサギ(北山ラベス)に,10%N-アセチルシステイン溶液(和光純薬,溶媒:生理食塩液)を1日6回点眼し,眼表面ムチン被覆障害モデルを作製した.N-アセチルシステイン処置翌日より1%レバミピド点眼液または基剤を1回50μL,1日6回,両眼に2週間点眼した.なお,本研究は「大塚製薬株式会社動物実験指針」を遵守して実施した.2.角結膜表面微細構造の観察はじめに,N-アセチルシステイン処置後,非点眼で3日,1週間および2週間経過後の角膜表面微細構造について検討し,つぎに,N-アセチルシステイン処置翌日から,レバミピド点眼液または基剤を2週間点眼した後の角膜および結膜表面の微細構造について検討した.ペントバルビタールナトリウム注射液(共立製薬)の静脈内投与によりウサギを安楽殺し,中央部角膜および上部球結膜を採取した.2%パラフォルムアルデヒドと2%グルタルアルデヒドの混合液に続いて2%四酸化オスミウムにより固定した後,樹脂包埋し,超薄切片を作製した.酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛による二重染色とカーボン蒸着を行った後,透過型電子顕微鏡(TEM;JEM-1200EX,日本電子)で観察した.また,同様に固定した角膜に,真空乾燥,オスミウムコーティングを施し,走査型電子顕微鏡(SEM;S-800S,日立)で観察した.3.角結膜におけるムチン様糖蛋白質の測定角膜上皮細胞は機械的.離により,上部球結膜組織は直径10mmに打ち抜き採取した.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)/10%Dulbecco’sPBS(リン酸緩衝生理食塩水)溶液に30℃で一昼夜インキュベートして可溶化した後,カラム(SepharoseCL-4B,Bio-Lad)を用いてゲル濾過し,ボイドボリュームに溶出した高分子蛋白質を含む溶液をムチン様糖蛋白質サンプルとした.サンプルまたは検量線用のウシ顎下1148あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012腺ムチン(和光純薬)を96穴マイクロプレートに入れ,一晩乾燥させて固相化した.ペルオキシダーゼ標識コムギ胚芽レクチン(ホーネンコーポレーション)と37℃で1時間,続いてo-dianisidine(Sigma)と37℃で1時間反応させた後,マイクロプレートリーダー(MolecularDevices)にて405nmの吸光度を測定した.4.涙液安定性の評価N-アセチルシステイン処置後点眼開始前および2週間後にドライアイ観察装置DR-1R(興和)を用いて涙液層におけるドライスポットの出現を評価した.ウサギに強制瞬目を3回施した後,角膜中央部表面をDR-1Rで観察し,倍率12倍で写真撮影した.5.統計解析角膜および結膜のムチン様糖蛋白質に関してSAS(SASInstituteJapan)を用いて5%を有意水準として解析した.正常眼とN-アセチルシステイン処置眼(基剤),およびNアセチルシステイン処置眼の基剤と1%レバミピド点眼液について対応のないt検定(両側)を実施した.II結果1.角結膜表面の微絨毛.微ひだに対する作用正常眼の角膜表面は多くの微絨毛/微ひだを有していたのに対し,N-アセチルシステイン処置3日後では微絨毛/微ひだが消失し,1週間および2週間後においても微絨毛/微ひだの再形成は認められなかった(図1).N-アセチルシステイン処置後に1%レバミピド点眼液または基剤を2週間投与した角膜表面をTEMで観察したところ,1%レバミピド点眼液群では基剤群と比較して多くの微絨毛/微ひだが認められた(図2a,b).また,SEMによる観察においても,1%レバミピド点眼液群の角膜表面には基剤群と比較して微絨毛/微ひだが密に認められた(図2c,d).結膜に関しても,1%レバミピド点眼液群は基剤群と比較して発達した微絨毛/微ひだが認められた(図3).2.角結膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用レバミピド点眼液の角膜におけるムチン様糖蛋白質に対する作用を検討した結果を図4aに示す.N-アセチルシステイン処置2週間後の角膜ムチン様糖蛋白質は正常眼と比較して有意に低値を示したのに対し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した角膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).結膜に対する結果を図4bに示す.角膜同様,N-アセチルシステイン処置により結膜ムチン様糖蛋白質は有意に減少し(p<0.01),1%レバミピド点眼液は減少した結膜ムチン様糖蛋白質を有意に増加させた(p<0.01).3.涙液安定性に対する作用正常眼では均一な涙液層が広がっていた(図5a)のに対し,N-アセチルシステイン処置翌日からドライスポットが(122) ..μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ….μ..図3N.アセチルシステイン処置による結膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:基剤投与2週間後,c:1%レバミピド点眼液投与2週間後.図1N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の変化a:正常,b:処置3日後,c:同1週間後,d:同2週間後...μ….μ….μ….μ..図2N.アセチルシステイン処置による角膜表面微細構造の障害に対する1%レバミピド点眼液の効果a,c:基剤投与2週間後(a:TEM像,c:SEM像).b,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後(b:TEM像,d:SEM像).(123)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121149 4,000**##4,0003,0003,000**##ムチン様糖蛋白質量(ng)ムチン様糖蛋白質量(ng)2,0002,0001,0001,00000正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図4角膜および結膜のムチン様糖蛋白質量に対する1%レバミピド点眼液の作用a:角膜,b:結膜.各値は10例の平均値±標準誤差を示す.**p<0.01,##p<0.01,対応のないt検定(両側).正常基剤1%レバミピド点眼液N-アセチルシステイン処置図5N.アセチルシステイン処置後の涙液安定性に対する1%レバミピド点眼液の効果a:正常,b:N-アセチルシステイン処置翌日(薬剤投与前)c:基剤投与2週間後,d:1%レバミピド点眼液投与2週間後図中の矢印はドライスポットを示す..(,)出現し,涙液安定性の低下が示唆された(図5b).1%レバミピド点眼液群で観察されたドライスポットは基剤群と比較して軽微であり(図5c,d),レバミピド点眼液による涙液層の安定化が示唆された.III考按ドライアイでは涙液と角結膜上皮の悪循環が生じており,特に,眼表面ムチンの減少や角結膜表面微細構造の障害により生じる涙液安定性の低下はドライアイの発症・増悪におけるコアメカニズムの一つであると考えられている1).実際に,ムチン溶液を点眼することにより角膜上皮障害が改善されることがドライアイ患者10)やモデル動物11)で報告されている.また,結膜上皮の微絨毛/微ひだ構造の不整化がSjogren症候群6)や移植片対宿主病7)によるドライアイ,非Sjogren症候群のドライアイ患者5,8)において報告されている.今回,ウサギの眼表面ムチン被覆障害モデルにおいて,角結膜表面の微絨毛/微ひだの消失,角膜および結膜におけるムチン様糖蛋白質の減少および涙液安定性の低下が認められたことから,本モデルはドライアイの特徴を有するモデルであることが示唆された.さらに,本モデルに対するレバミピド点眼液の作用を検討したところ,レバミピド点眼液は角結膜表面の微絨毛/微ひだを修復させることが明らかとなった.また,ムチンが高分子であることを考慮してゲル濾過により高分子の蛋白質のみを抽出し,ムチン特有の糖鎖と結合することが知られているレクチンを用いてムチン様物質を定量した結果,レバミピド点眼液は角膜および結膜のムチン様糖蛋白質を増加させることが明らかとなり,眼表面のムチンを増加させる作用が示唆された.さらに,レバミピド点眼液は涙液安定性の指標となるドライスポットの出現を抑制したことから,涙液層を安定化させる作用をもつことが示唆された.以上のことから,レバミピド点眼液はドライアイ患者においても角結膜表面の微細構造を修復するとともに,眼表面にムチンを供給することで角結膜上皮表面の親水性を高め,安定な涙液層を形成させることが予想され,臨床の場においてもドライアイ治療薬として有用であると考えられた.1150あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(124) 文献1)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20082)NakamuraY,YokoiN,TokushigeHetal:Sialicacidinhumantearfluiddecreasesindryeye.JpnJOphthalmol48:519-523,20043)CorralesRM,NarayananS,FernandezI:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:83638369,20114)GipsonIK:Distributionofmucinsattheocularsurface.ExpEyeRes783:79-88,20045)RivasL,ToledanoA,AlvarezMIetal:Ultrastructuralstudyoftheconjunctivainpatientswithkeratoconjunctivitissiccanotassociatedwithsystemicdisorders.EurJOphthalmol8:131-136,19986)KoufakisDI,KarabatsasCH,SakkasLIetal:ConjunctivalsurfacechangesinpatientswithSjogren’ssyndrome:atransmissionelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci47:541-544,20067)TatematsuY,OgawaY,ShimmuraSetal:MucosalmicrovilliindryeyepatientswithchronicGVHD.BoneMarrowTransplant47:416-425,20128)CennamoGL,DelPreteA,ForteRetal:Impressioncytologywithscanningelectronmicroscopy:anewmethodinthestudyofconjunctivalmicrovilli.Eye(Lond)22:138-143,20089)UrashimaH,OkamotoT,TakejiYetal:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,200410)ShigemitsuT,ShimizuY,IshiguroK:Mucinophthalmicsolutiontreatmentofdryeye.AdvExpMedBiol506:359-362,200211)ShigemitsuT,ShimizuY,MajimaY:Effectsofmucinophthalmicsolutiononepithelialwoundhealinginrabbitcornea.OphthalmicRes29:61-66,1996***(125)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121151

正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果

2012年8月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科29(8):1141.1145,2012c正常ウサギの涙液貯留量に対するジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果阪元明日香七條優子山下直子中村雅胤参天製薬株式会社眼科研究開発センターCombinedEffectofDiquafosolTetrasodiumandPurifiedSodiumHyaluronateOphthalmicSolutionsonTearFluidVolumeinNormalRabbitsAsukaSakamoto,YukoTakaoka-Shichijo,NaokoYamashitaandMasatsuguNakamuraOphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響について,涙液メニスカス面積値を指標に評価した.涙液メニスカス面積測定法では,眼表面へのフルオレセイン溶液添加量に比例して,涙液メニスカス面積値は増加した.0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の点眼2および5分後において,シルメル試験紙を用いて涙液貯留量を1分間測定した場合(局所麻酔下測定),Schirmer値の増加が認められなかったが,涙液メニスカス面積測定法では,涙液メニスカス面積値が人工涙液点眼に比して有意に増加した.また,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用群の涙液メニスカス面積値は,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液単独群あるいは3%ジクアホソルナトリウム点眼液と人工涙液との併用群に比して有意に高値を示した.さらに3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液を先に点眼したほうが0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液を先に点眼するよりも涙液メニスカス面積値は高値を示したが,2剤目点眼30分後においてはどちらも同程度であった.以上の結果より,涙液メニスカス面積測定法において,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用により涙液貯留量の持続的増加作用が認められた.Thisstudyevaluatedthecombinedeffectofdiquafosoltetrasodiumandpurifiedsodiumhyaluronateophthalmicsolutionsontearfluidvolumeinnormalrabbits,usingthetearmeniscusarea.Thevolumeofexternalfluoresceininstilledtotheocularsurfacewascorrelatedwiththetearmeniscusarea.Theefficacyof0.1%sodiumhyaluronatecouldnotbedetectedbytheSchirmermeasuringstripfor1min,butthetearmeniscusareaof0.1%sodiumhyaluronatewasgreaterthanthatofartificialtearsat2and5minafterinstillation.Thecombinedeffectof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiummonotherapyorcombinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumandartificialtearsat5and30minafterasecondinstillation.Furthermore,thecombinedefficacyof0.1%sodiumhyaluronateafter3%diquafosoltetrasodiuminstillationonthetearmeniscusareawasgreaterthanthatof3%diquafosoltetrasodiumafter0.1%sodiumhyaluronateinstillation.However,bothwerealmostequalintearmeniscusareaat30minaftersecondinstillation.Combinedtreatmentwith3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateseemstocauseretentionofmoretearfluidontheocularsurface,andforalongertime,than3%diquafosoltetrasodiummonotherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1141.1145,2012〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,精製ヒアルロン酸ナトリウム,涙液貯留量,涙液メニスカス面積,正常ウサギ.diquafosoltetrasodium,purifiedsodiumhyaluronate,tearfluidvolume,tearmeniscusarea,normalrabbits.〔別刷請求先〕阪元明日香:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社眼科研究開発センターReprintrequests:AsukaSakamoto,OphthalmicResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma-shi,Nara630-0101,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(115)1141 はじめにドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層(油層・水層およびムチン層)構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液を質的・量的に正常化させることが望まれる1,2).現在,国内でドライアイ治療に使用されている薬剤には,ジクアホソルナトリウム点眼液と精製ヒアルロン酸ナトリウム点眼液がある.ジクアホソルナトリウムは,P2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,水分およびムチンの分泌促進作用を示す3,4).一方,精製ヒアルロン酸ナトリウムは,数十万からなる高分子多糖類であり,その分子内に水分を保持できる特性をもつことにより保水作用を示す5).両剤はともに,眼表面の涙液貯留量を増大させる作用を示すものの,それらの作用機序が異なるため,ドライアイ治療において,両剤の併用による効果(相加あるいは相乗作用)が期待できる.涙液の貯留量を測定する方法として,臨床では綿糸法が古くから汎用されている.綿糸法は,簡便な方法で被験者の負担が軽度ではあるものの,微量の涙液の変化も測定値に反映される難点がある.またSchirmerテストは,おもに涙液分泌量を測定する方法であり,その侵襲性と涙液の質,特に粘稠性により値が左右される懸念がある.近年では,涙液メニスカス高をフルオレセイン溶液を用いて観察する方法6,7),メニスコメトリーによる涙液メニスカス曲率半径の測定8),あるいは最近では,opticalcoherencetomographyシステムによるメニスカス面積の測定9)などが開発されている.これらはより侵襲性が低く,涙液の質に影響されない測定方法として確立されている.動物実験においても,Murakamiら10)は,正常ネコのメニスカス面積の測定を実施し,ジクアホソルナトリウムの涙液貯留量の増加作用を報告している.本研究では,正常ウサギでの涙液メニスカス面積値を測定する新たな方法を確立し,3%ジクアホソルナトリウム点眼液と0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用による涙液貯留量への影響を検討した.I実験方法1.点眼液3%ジクアホソルナトリウム(3%ジクアホソル)点眼液として,ジクアスR点眼液3%(参天製薬),0.1%ヒアルロン酸ナトリウム(0.1%ヒアルロン酸)点眼液として,ヒアレインR点眼液0.1%(参天製薬),人工涙液として,ソフトサンティア(参天製薬)を用いた.2.実験動物雄性日本白色ウサギは北山ラベスより購入し,1週間馴化飼育した後,65匹を試験に使用した.本研究は,「動物実験1142あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液メニスカス面積測定法ウサギの下眼瞼涙液メニスカス上に生理食塩水に溶解した0.1%フルオレセイン溶液3μLを添加し,マクロレンズ(AFMICRONIKKOR105mm,ニコン)を接続したデジタルカメラ(FUJIXDS-560,富士フィルム)にブルーフィルター(BPB45,富士フィルム)を付けて,涙液メニスカスを含む眼の全体像を正面から撮影した.得られた画像から画像解析ソフト(WinROOF,三谷商事)を用いて涙液メニスカスの面積を算出した.ただし,本測定値の妥当性を評価する目的で実施した眼表面への添加量と涙液メニスカス面積値の相関性を確認する試験では,15匹29眼に0.1%フルオレセイン溶液を3,10,20,30,40および50μL添加した.フルオレセイン溶液の添加量は,正常ウサギの結膜.における涙液貯留量が30.50μLという報告11)を考慮して,最大量を50μLに設定した.また,各種点眼液の涙液メニスカス面積値への影響を検討する際には,点眼液を50μL点眼した前後で涙液メニスカス面積値を算出し,その差(Δ涙液メニスカス面積値)を点眼液の薬効として評価した.Schirmer値との比較検討では15匹30眼,単剤点眼と併用点眼の比較検討では17匹34眼,併用点眼における点眼順序の検討では18匹36眼を使用した.同一個体を複数回使用する場合は,一定期間を空けて使用した.測定時に半眼,閉目など,結果に影響を与えると思われる所見が認められた眼は除外した.なお,併用点眼の点眼間隔は,基本的に臨床での点眼間隔を考慮して5分間とした.また,ウサギはヒトに比べて涙液排出率が低く,瞬目回数も著しく少ないため12),点眼間隔を短くすると1剤目の点眼液量が眼表面に十分残ったまま,2剤目を点眼することになり,両剤とも溢出し,薬効を適切に評価できない可能性も考慮した.測定時間については,3%ジクアホソル単剤の予備的検討として,点眼2,5,10,15,30および60分後のΔ涙液メニスカス面積値を測定したところ,点眼10分後に最大値を示した.したがって,3%ジクアホソル点眼10分後を含む測定時間を設定した.すなわち,3%ジクアホソルを1剤目としてのみ使用した試験では,2剤目点眼5分後,1剤目および2剤目に使用した試験では,2剤目点眼5および10分後を含めて測定した.4.シルメル試験紙による涙液貯留量測定法15匹30眼にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後に各種点眼液を50μL点眼し,点眼2および5分後に,ウサギの下眼瞼にシルメル試験紙(昭和薬品化工)の折り目5mm部分を1分間挿入し,ろ紙が濡れた長さ(Schirmer値)を指標として涙液貯留量を測定した.なお,点眼液の点眼前後の(116) Schirmer値を測定し,その差(ΔSchirmer値)を点眼液の薬効として評価した.5.統計解析生物実験データ統計解析システムEXSUS(シーエーシー)を用いて,5%を有意水準として解析した.各測定時間での2群間の解析はF検定後,Studentのt検定(等分散)あるいはAspin-Welchのt検定(不等分散)を行った.各測定時間における3群以上の解析はTukeyの多群比較検定を行った.II結果1.正常ウサギを用いた涙液メニスカス面積測定法の妥当性涙液メニスカス面積測定法にて得られた値(Δ涙液メニスカス面積値)の妥当性を評価する目的で,ウサギの眼表面に3.50μLの0.1%フルオレセイン溶液を添加した際のΔ涙液メニスカス面積値を算出し,添加量とΔ涙液メニスカス面積値の相関性について検討した.図1に示すように,両者間には正比例の関係式(y=0.9504x+0.5113)が成り立ち,重相関係数(0.9078)も良好であった.また,3μLフルオレセイン溶液の添加は,Δ涙液メニスカス面積値にほとんど影響を及ぼさなかった.したがって,涙液メニスカス面積測定法を用いた涙液貯留量の測定には,3μLフルオレセイン溶液を用いることにした.つぎに,0.1%ヒアルロン酸の涙液貯留量に対する効果をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した.ΔSchirmer値は,対照に用いた人工涙液群では点眼2分後に最大値を示し,その後減少するのに対し,0.1%ヒアルロン酸群では,点眼2分後においてSchirmer値の増加作用は認められず,人工涙液群に比して有意に低値を示した(図2a).一方,Δ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群および0.1%ヒアルロン酸群のいずれも点眼2分後に最大値を示し,その後減少した.また,0.1%ヒアルロン酸群の点眼2および5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,人工涙液群に比して有意に高値を示した(図2b).2.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果について検討した.図3に示す群構成で,1剤目点眼5分後(図3a,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.図3aにΔ涙液メニスカス面積値,図3bに2剤目点眼5分後の代表的な涙液メニスカス像を示す.3%ジクアホソルのΔ涙液メニスカス面積値(mm2)60y=0.9504x+0.511350r2=0.907840302010001020304050フルオレセイン溶液添加量(μL)図1正常ウサギにおけるフルオレセイン溶液添加量とΔ涙液メニスカス面積値との関係点眼5分後に2剤目として人工涙液を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群と同程度であった.一方,2剤目として0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5および30分後のΔ涙液メニスカス面積値は,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比して有意に高値を示し,持続的な効果が認められた.3.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の点眼順序が正常ウサギの涙液貯留量に及ぼす影響涙液貯留量に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果に2剤の点眼順序が影響するか検討した結果を各値は,4あるいは5例の平均値±標準誤差を示す.3.0025:AT:0.1%HA*涙液メニスカス面積値(mm2)Δa4.03.02.01.00.0-1.0025:AT:0.1%HA**#bΔSchirmer値(mm)2.01.00.0-1.0-2.0点眼後の時間(分)点眼後の時間(分)図2人工涙液(AT)および0.1%ヒアルロン酸(HA)のSchirmer値(a)および涙液メニスカス面積値(b)に及ぼす影響各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01,AT群との比較(Studentのt検定).#:p<0.05,AT群との比較(Aspin-Welchのt検定).(117)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121143 a2015a:各値は,8例の平均値±標準誤差を示す.Δ涙液メニスカス面積値(mm2)Δ涙液メニスカス面積値(mm2)10:3%ジクアホソル:3%ジクアホソル+0.1%HA:3%ジクアホソル+AT500**##**:p<0.01,3%ジクアホソル+AT群との比較(Tukeyの多重比較検定).##:p<0.01,3%ジクアホソル群との比較**(Tukeyの多重比較検定).5##b:2剤目点眼5分後の涙液メニスカスのフルオレセイン染色像を示す.2剤目点眼後の時間(分)b3%ジクアホソル3%ジクアホソル+AT3%ジクアホソル+0.1%HA30201510503010502剤目点眼後の時間(分)**:3%ジクアホソル+0.1%HA:0.1%HA+3%ジクアホソル図33%ジクアホソル,3%ジクアホソルと人工涙液(AT)あるいは0.1%ヒアルロン酸(HA)の併用の涙液メニスカス面積値に及ぼす影響―Δ涙液メニスカス面積値(a),涙液メニスカス像(b)―III考按図43%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸(HA)の点眼順序が涙液メニスカス面積値に及ぼす影響本研究では,ウサギの涙液貯留量に対する各種点眼液の影響を涙液メニスカス面積値で評価した.まず,図1のとおりフルオレセイン溶液の添加量とΔ涙液メニスカス面積値間に正の相関性があることを確認した.つぎに,0.1%ヒアルロン酸および人工涙液が涙液貯留量に及ぼす影響をシルメル試験紙による測定法と涙液メニスカス面積測定法で比較検討した(図2).涙液メニスカス面積法では,0.1%ヒアルロン酸は人工涙液に比して点眼5分後まで有意に高値を示しており,ヒトの涙液メニスカス曲率半径を指標とした結果6)と類各値は,6例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,0.1%HA+3%ジクアホソル群との比較(Studentのt検定).図4に示す.1剤目点眼5分後(図4,2剤目点眼後0分)に2剤目を点眼した後,5,10および30分後に涙液メニスカス面積値を測定した.3%ジクアホソルの点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を併用した群の2剤目点眼5分後のΔ涙液メニスカス面積値は,0.1%ヒアルロン酸の点眼5分後に3%ジクアホソルを併用した群に比して有意に高値を示した.1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最高値に達したが,1剤目に3%ジクアホソル,2剤目に0.1%ヒアルロン酸を点眼した群のそれよりは低値であった.2剤目点眼30分後では,どちらの群も同程度のΔ涙液メニスカス面積値を示した.1144あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012似していた.なお,今回シルメル試験紙による涙液貯留量測定法で0.1%ヒアルロン酸の効果が認められなかったのは,ヒアルロン酸の粘稠性がシルメル試験紙の吸収速度を減速させたためと推測している.涙液メニスカス面積測定法は,シルメル試験紙による涙液貯留量測定法に比べて結果の解析に時間を要するものの,無麻酔下で非侵襲的に涙液貯留量を測定できるだけでなく,粘稠性など涙液の質に影響されないこともメリットとしてあげられる.以上より,涙液メニスカス面積値を指標とした涙液貯留量の評価法の妥当性を確認した.続いて,図3aのとおり3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用群では,2剤目点眼5および30分後において,3%ジクアホソル単剤群あるいは3%ジクアホソルと人工涙液の併用群に比べてΔ涙液メニスカス面積値が有意に増加し,涙液貯留量に対する併用効果が認められた.また,図4において3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼にお(118) ける点眼順序の影響を検討したところ,3%ジクアホソルを先に点眼したほうがΔ涙液メニスカス面積値の最大値は大きいことが明らかになった.しかし,2剤目点眼30分後において,Δ涙液メニスカス面積値に点眼順序の違いは認められず,持続効果に点眼順序は影響しないと考えられた.図3bで認められる併用効果を,そのままヒトに置き換えると,流涙さらに霧視などの副作用が懸念される.しかし,ヒトはウサギに比べて涙液の排出率が高い12)ため,臨床では流涙に至らない可能性もある.したがって,涙液貯留量に対する併用効果と併用使用による副作用については,今後さらに臨床検討も必要と思われる.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用効果の機序の一つとして,ジクアホソルの涙液分泌促進作用3)とヒアルロン酸の保水作用5)により,ジクアホソルにより分泌された涙液をヒアルロン酸が保持していることが推察される.さらに,ヒアルロン酸にはムチンとの相互作用による粘度上昇作用があることも報告されている13).したがって,ジクアホソルのムチン分泌促進作用4,14)により眼表面に分泌されたムチンにヒアルロン酸が相互作用し,ヒアルロン酸自身がもつ保水作用を持続させている可能性も考えられる.また,図4に示すように0.1%ヒアルロン酸を先に点眼した場合,Δ涙液メニスカス面積値は2剤目点眼10分後に最大値を示したが,3%ジクアホソルを先に点眼した場合に比べて低値であった.これは,先に点眼した0.1%ヒアルロン酸が眼表面に滞留している15)ため,3%ジクアホソルが細胞に作用しにくく,涙液分泌促進作用が十分に発揮されていない可能性も考えられる.一方で,3%ジクアホソルの単剤点眼と比べて,1剤目に0.1%ヒアルロン酸,2剤目に3%ジクアホソルを併用点眼すると眼表面の涙液貯留量を持続できる可能性も考えられ,ヒアルロン酸がジクアホソルの眼表面との接触時間を延長させているのかもしれない.併用効果の詳細な機序については,さらなる検討が必要と思われる.また,併用点眼の場合,前述した霧視に加えて,点眼液に含まれる塩化ベンザルコニウムの眼表面への曝露量が増加する可能性が懸念される.角膜上皮障害に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の影響をラットのドライアイモデルで検討した結果16)では,上皮障害の改善に対して併用効果が認められ,併用点眼による塩化ベンザルコニウムの明らかな影響は認められていないが,臨床上の併用点眼においては注意が必要と思われる.涙液メニスカス面積測定法は,侵襲性が低く,粘稠性など涙液の質に影響されないため,涙液貯留量をより正確に測定する方法として有用であることが明らかとなった.また,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸を併用することにより,3%ジクアホソルの単剤点眼に比して,涙液貯留量の持続的(119)増加作用を示す可能性が示唆され,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用は,ドライアイ治療において有用な治療法として期待される.文献1)横井則彦:ドライアイのEBM.臨眼55:72-85,20012)本田理恵,ムラトドール:ドライアイ治療Overview.あたらしい眼科22:329-336,20053)七條優子,村上忠弘,中村雅胤:正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用.あたらしい眼科28:1029-1033,20114)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,20115)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,19936)GoldingTR,BruceAS,MainstoneJC:Relationshipbetweentear-meniscusparametersandtear-filmbreakup.Cornea16:649-661,19977)KawaiM,YamadaM,KawashimaMetal:Quantitativeevaluationoftearmeniscusheightfromfluoresceinphotographs.Cornea26:403-406,20078)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetearfilm.ExpEyeRes78:399-407,20049)WangJ,AquavellaJ,PalakuruJetal:Relationshipsbetweencentraltearfilmthicknessandtearmeniscioftheupperandlowereyelids.InvestOphthalmolVisSci47:4349-4355,200610)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninvasivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,200211)ChanPK,HayesAW:Principlesandmethodsforacutetoxicityandeyeirritancy.PrinciplesandMethodsofToxicology,secondedition,p169-220,RavenPress,NewYork,198912)LeeVH,RobinsonJR:Review:Topicaloculardrugdelivery:Recentdevelopmentsandfuturechallenges.JOculPharmacol2:67-108,198613)川原めぐみ,平井慎一郎,坂本佳代子ほか:ヒアルロン酸点眼液の角膜球面不正指数を指標としたウサギ涙液層安定化作用.あたらしい眼科21:1561-1564,200414)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200215)MochizukiH,YamadaM,HatoSetal:Fluorophotometricmeasurementoftheprecornealresidencetimeoftopicallyappliedhyaluronicacid.BrJOphthalmol92:108-111,200816)堂田敦義,中村雅胤:ドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果.あたらしい眼科28:1477-1481,2011あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121145

緑内障治療薬配合剤の単回点眼による健常者視神経乳頭血流に及ぼす影響

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1136.1140,2012c緑内障治療薬配合剤の単回点眼による健常者視神経乳頭血流に及ぼす影響笠原正行*1,3庄司信行*1,2森田哲也*3平澤一法*1清水公也*1,3*1北里大学大学院医療系研究科眼科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3北里大学医学部眼科学教室InfluenceofSingle-doseInstillationofAnti-glaucomaFixedCombinationsonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMasayukiKasahara1,3),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita3),KazunoriHirasawa1)andKimiyaShimizu1,3)1)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity,2)DepartmentofRehabilitationOrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:ラタノプロスト/チモロール配合剤(LTFC),ドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)の視神経乳頭血流への影響の検討.対象および方法:健常者11名(平均27.0±1.6歳)の片眼にDTFC(D群),僚眼に人工涙液を,被験者が決めて1回1滴のみ点眼し,1,2,4,8時間後に眼圧,眼灌流圧,血圧,脈拍,視神経乳頭血流〔MBR(meanblurrate)値:レーザースペックル法〕を測定した.1週間休薬後,同じ対象の片眼にLTFC(L群),僚眼に人工涙液を点眼し同様の測定を行った.結果:L群,D群ともに点眼1時間後より眼圧は下降(各p<0.01).眼灌流圧,血圧,脈拍に変化はなかった.MBR値はL群では2時間後,4時間後に103.4%,D群では4時間後に104.1%と有意に増加した(各p<0.05).部位別には耳側と上方で増加した.結語:眼圧下降とは関係なく,配合剤単回点眼で視神経乳頭血流は一時的に増加した.Purpose:Toevaluatetheinfluencesoflatanoprost/timololfixedcombination(LTFC)eyedropsanddorzolamide/timololfixedcombination(DTFC)eyedropsonopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers.SubjectsandMethods:Subjectscomprised11eyesof11healthyvolunteers(meanage:27.0±1.6years).First,meanblurrate(MBR)wasmeasuredontheopticnervehead,andineachof4sectors,beforeandat1,2,4and8hoursafterinstillationoftheeyedrops,asrandomlyselectedbytheexamineesthemselves:DTFCinoneeye(Dgroup)andartificialtearsinthefelloweye(D-congroup).Intraocularpressure(IOP),ocularperfusionpressure(OPP),systemicbloodpressure(BP)andpulserate(PR)werealsomeasured,atthesametime.Second,thesameparametersweremeasuredinthesamemannerafterinstillationoftheeyedrops,alsorandomlyselected:LTFCinoneeye(Lgroup)andartificialtearsinthefelloweye(L-congroup),regardlessofwhicheyehadreceivedtheearliereye-drops.Results:IOPshowedasignificantdecreaseat1hourafterinstillationofLTFCorDTFC,andmaintainedlowerlevels(p<0.01).TherewerenochangesinOPP,BPorPRafterinstillationofeacheyedrop.MBRofopticnerveheadincreasedsignificantlyat2and4hours(103.4%,p<0.05)afterLTFCinstillation,andat4hours(104.1%,p<0.05)afterDTFCinstillation.Conclusion:Opticnerveheadbloodflowinyoungnormaleyesincreasedtemporarilyandsignificantlyaftersingle-doseinstillationofLTFCorDTFC,regardlessofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1136.1140,2012〕Keywords:レーザースペックルフローグラフィ(LSFG),視神経乳頭血流,眼圧,ラタノプロスト/チモロールマレイン酸塩配合剤,ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸配合剤.laserspeckleflowgraphy(LSFG),bloodflowintheopticnervehead,intraocularpressure,latanoprost-timololmaleatecombination,dorzolamidehydrochloridetimololmaleatecombination.〔別刷請求先〕笠原正行:〒252-0375相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiKasahara,C.O.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0375,JAPAN113611361136あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(110)(00)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY はじめに現在,緑内障性視神経障害の進行抑制のためには眼圧下降療法が行われているが,眼圧が十分に下がっていても視野障害が進行する症例も散見され,緑内障の進行には視神経乳頭の血流障害の関与が指摘されている1.2).一方,抗緑内障点眼薬のなかには,眼圧下降効果だけでなく血流増加作用を有するものもあるのではないかと,さまざまな報告がなされている.抗緑内障点眼薬が眼血流へ及ぼす影響としては,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬のそれぞれにおいて,血流増加効果があるとする報告3.6)と血流は変わらないとする報告7.9)が存在し,今のところ一定の見解を得ていない.血流増加効果があるとする報告の増加のメカニズムとしては,血管拡張作用や,眼灌流圧の自動調節能の低下などさまざまであるが,眼圧下降に伴い,眼灌流圧が上昇し,血流が増加するといった報告も多く見受けられる.結局,眼圧下降の結果として血流の増加が生じているのであれば,その点眼薬に血流の増加作用があると果たして言って良いのか疑問である.そこで今回,筆者らは,新しい点眼薬に血流を増加させる作用があるのかどうか,それが眼圧の下降と相関しているのかどうかを検討するために,ラタノプロスト/チモロール配合剤(LTFC)とドルゾラミド/チモロール配合剤(DTFC)を点眼し,点眼前後における視神経乳頭血流の変化,ならびに関連因子について検討した.点眼による眼圧下降と血流増加作用の関連性を検討した.I対象および方法対象は全身疾患および軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常者11名(男性5名,女性6名),平均年齢は27.0±1.6歳(25.30歳)である.方法は,検者にわからないようにして,被験者自身に無作為に片眼にDTFC(D群),僚眼にプラセボとして人工涙液(D-con群)をそれぞれ1回点眼してもらい,両眼の眼圧,全身血圧,脈拍,視神経乳頭血流を,それぞれ,点眼直前(午前9時),点眼1時間後,2時間後,4時間後,8時間後に測定した.その後,1週間のwashout期間を設けた後,同一の対象に,1回目の点眼と関係なく,無作為に片眼にLTFC(L群),僚眼にプラセボとして人工涙液(L-con群)を点眼してもらい,1回目と同様の時刻と方法で測定を行った.眼圧測定はGoldmann圧平式眼圧計を用い,血圧,脈拍測定は自動血圧計(日本コーリン社)を用いた.血流測定にはレーザースペックルフローグラフィ(LSFG-NAVITM,ソフトケア社)を用い,無散瞳下で行った.瞬目をしない状態で6秒間測定し,それを3回繰り返し,LSFGAnalyzer(version3.020.0)を用いて乳頭の血流マップを作成した.乳頭微小循環の評価のため,作成された血流マップから,血流パラメータMBR(meanblurrate)を算出した.MBRは,楕円ラバーバンドを用いて乳頭領域を決定した後,LFSGAnalyzerに装備されている血管抽出機能を用い,乳頭内の大血管のMBRを除外して,乳頭全体,乳頭上側,乳頭鼻側,乳頭耳側,乳頭下側の各部位での3回測定の平均値を算出した.しかし,MBRは個体間でばらつきがあり,もともと絶対値ではなく相対値である.日内変動もみられることから,これらを加味し,以下の計算式7)を用いて,視神経乳頭の相対的血流量の変化を算出した.(各時間の点眼眼MBR/点眼眼の点眼前MBR)/(各時間の対照眼MBR/対照眼の点眼前MBR)×100(%).平均血圧を拡張期血圧+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧),眼灌流圧を2/3×平均血圧.眼圧として算出した.すべての測定は同一検者が行い,眼圧,平均血圧,脈拍,眼灌流圧,MBRに基づく相対的視神経乳頭血流量に関して,点眼前後の変化を比較検討した.眼圧に関しては,L群とL-con群,D群とD-con群間での眼圧下降の相違についても比較検討した.統計学的検討はANOVA(analysisofvariance),Dunnett検定を用いて行い,危険率5%未満を統計学的有意とした.なお,本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,被験者には本研究の主旨を口頭により十分説明し同意を得て行った.II結果眼圧は,L群,D群ともに点眼1時間後,2時間後,4時間後,8時間後で点眼前に比し有意に下降した.点眼前との眼圧差(mmHg:1時間後,2時間後,4時間後,8時間後)はL群で(3.6,4.6,4.9,4.6),D群で(3,4.5,4.4,4.4)で,各時間帯においてL群,D群間に有意差は認めなかった.点眼後,すべての時間帯において,L群とL-con群ではL群が,D群とD-con群ではD群が有意に眼圧の下降を認めた(mmHg)*151005*****************■:L群□:L-con群●:D群○:D-con群点眼前1248点眼前1248(hr)図1眼圧の推移L群とL-con群,D群とD-con群の点眼前後での眼圧の推移を表した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.*:p<0.05,**:p<0.01,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(111)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121137 (%)**100*■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図2視神経乳頭全体の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭全体の血流変化を表した.血流変化は(各時間の点眼眼MBR/点眼眼の点眼前MBR)/(各時間の対照眼MBR/対照眼の点眼前MBR)×100(%)で視神経乳頭の相対的血流量の変化を算出し評価した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(%)100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図4視神経乳頭下側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭下側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(%)**100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図6視神経乳頭上側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭上側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).1138あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(%)100■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図3視神経乳頭鼻側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭鼻側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).*(%)100*■:L群●:D群50直前1248直前1248(hr)図5視神経乳頭耳側の血流変化L群とD群の点眼前後での視神経乳頭耳側の血流変化を表した.血流の評価は図2の図説と同様の方法で行った.点眼前の相対的血流量と点眼後の各測定点での相対的血流量を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の両側表示とした.*:p<0.05,ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).(図1).血流は,L群では乳頭全体で点眼2時間後,4時間後に103.4%,乳頭上側で点眼2時間後に104.9%,点眼4時間後に104.3%,乳頭耳側で点眼4時間後に104.4%と有意に増加した(図2.4).D群では乳頭全体で点眼4時間後に104.1%,乳頭耳側で点眼4時間後に107.6%と有意に増加した(図2,4).L群,D群ともに乳頭鼻側,乳頭下側では点眼前後で有意な変化は認めなかった(図5,6).平均血圧,脈拍,眼灌流圧は両群ともに点眼前後で有意な変化は認めなかった(図7,8).III考按抗緑内障点眼薬が眼血流を増加させる機序としては,プロスタグランジン関連薬に関しては不明な点も多いものの,一般的にはプロスタグランジンF2aが有する血管拡張作用によるものが指摘されている3,10).炭酸脱水酵素阻害薬に関して(112) (mmHg)100L群D群(rate/min)10050500◆:平均血圧◇:脈拍数▲:平均血圧△:脈拍数0直前1248直前1248(hr)図7平均血圧,脈拍数L群とD群の点眼前後での平均血圧,脈拍数の推移を表した.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).は,毛様体無色素上皮細胞においてcarbonicanhydraseII型活性を阻害することによる,組織内CO2濃度の上昇に伴う血管拡張作用によるものが指摘されている5,6).b遮断薬に関しては,単独では眼血流に影響を与えないとする報告が多い8,11)が,眼圧下降に伴う眼灌流圧の上昇により血流が増加するとする報告もある4).プロスタグランジン関連薬,炭酸脱水酵素阻害薬においても同様に,眼圧下降に伴う眼灌流圧の上昇により血流が増加するとする報告が多くみられる3,5,6).今回の検討では,LTFCの点眼2時間後,4時間後に乳頭全体,上側,耳側で,DTFCの点眼4時間後に乳頭全体,耳側で一時的に点眼前に比し有意に血流が増加した.しかし,眼圧は点眼1時間後(測定始点)から8時間後(測定終点)まで有意に下降しており,眼灌流圧に関しては点眼前後で有意な変化がなかったことから,LTFC,DTFC点眼後の血流増加は,眼灌流圧の上昇が主たる原因とは考えにくい結果となった.しかしながら,両剤点眼後,眼圧が有意に下降している時間帯に,一時的とはいえ血流増加が重なって生じているため,点眼による乳頭微小循環の増加が少なからず眼灌流圧の変化の影響を受けている可能性も否定できず,今後詳細な検討が必要であると考えられた.これまでに本検討と同様にLTFC点眼とDTFC点眼の血流に及ぼす影響の報告としては,Martinezら12)の開放隅角緑内障患者32例を対象に1カ月間点眼を持続させカラードップラーを用いて行った球後血流に及ぼす影響の報告がある.DTFC点眼群では有意に眼動脈,後毛様動脈ともに血流速度が増加したとしており,LTFC点眼群では血流速度を減少させたとしている.本検討においては,両群ともに血流の増加を認めたが,単回点眼で正常眼を対象としており,血流評価方法や症例数の相違も結果に関与している可能性が考えられた.乳頭部位別での血流増加に関しては,これまでにDTFC点眼やLTFC点眼に関する報告はなく,タフルプロスト単剤投与により耳側,上側が増加したとする報告13)や,チモロール単剤にドルゾラミ(mmHg)直前1(hr)248直前12486030010402050■:L群□:L-con群●:D群○:D-con群図8眼灌流圧L群とL-con群,D群とD-con群の点眼前後での眼灌流圧の推移を表した.点眼前の眼圧値と点眼後の各測定点での眼圧値を比較した.平均値±標準偏差(n=11)の片側表示とした.ANOVA,Dunnetttest(点眼前値との比較).ド単剤を併用した際に耳上側が増加したとの報告14)が存在する.これは健常眼が有する乳頭微小循環の部位別の相違が関与するものと考えられる15).本検討においてもL群では上側の血流は増加し,D群では有意な変化を認めなかったものの,他の部位に比べて上側は血流が増加傾向(p=0.093)にあったことから,今回の結果はこれまでの報告と大きな矛盾はないと考えられた.なお,筆者らは,個体差や日内変動の影響を減らすために,方法の項で述べたように対照眼の変動値を用いて補正を試みる方法を用いた.しかし,配合点眼薬は,片眼に点眼しても僚眼の眼圧に影響を及ぼす可能性の高いチモロールを含んでいるため,厳密な意味では,血流の検討でも僚眼を対照眼にすることは適当ではないかもしれない.そのため,両眼ともに対照液を点眼したり,日を変えて何度か日内変動を測定するなどの工夫が必要かもしれない.しかし,日内変動の再現性の問題もあり,筆者らは同一日時での日内変動を考慮することを重視して,僚眼の変動値で補正するような計算式を用いた.今後,b遮断薬を含む配合点眼薬の血流への効果を検討する場合,対照眼の設定に関してはさらなる検討が必要と考えられた今回の検討結果から,LTFC,DTFCのいずれの点眼も,眼圧下降とは関係なく視神経乳頭血流は一時的に増加した.しかし,本検討は対象数が11名と少ないことや,単回点眼での検討であるため,今後,循環の改善を目的にこれらの配合剤を用いる意義があるかどうか,症例数を増やし,点眼を持続した状態での長期的な検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし(113)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121139 文献1)MincklerDS,SpaethGL:Opticnervedamageinglaucoma.SurvOphthalmol26:128-148,19812)LeveneRZ:Lowtensionglaucoma:Acriticalreviewandnewmaterial.SurvOphthalmol24:621-664,19803)KimuraT,YoshidaY,TodaN:Mechanismsofrelaxationinducedbyprostaglandinsinisolatedcanineuterinearteries.AmJObstetGynecol167:1409-1416,19924)GrunwaldJE:Effectoftopicaltimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci31:521-526,19905)GalassiF,SodiA,RenieriGetal:Effectsoftimololanddorzolamideonretrobulbarhemodynamicsinpatientswithnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmologica216:123-128,20026)HarrisA,ArendO,ArendSetal:Effectsoftopicaldorzolamideonretinalandretrobulbarhemodynamics.ActaOphthalmolScand74:569-572,19967)今野伸介,田川博,大塚賢二ほか:ラタノプロスト点眼の正常人視神経乳頭および脈絡膜-網膜循環に及ぼす影響.あたらしい眼科21:695-698,20048)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,19979)SampaolesiJ,TosiJ,DarchukVetal:Antiglaucomatousdrugseffectsonopticnerveheadflow:design,baselineandpreliminaryreport.IntOphthalmol23:359-367,200110)StjernschantzJ,SelenG,AstinMetal:Microvasculareffectsofselectiveprostaglandinanaloguesintheeyewithspecialreferencetolatanoprostandglaucomatreatment.ProgRetinEyeRes19:459-496,200011)富所敦男:1.緑内障.V疾患と眼循環,NEWMOOK眼科(大野重昭,吉田晃敏,水流忠彦編集主幹,張野正誉,桐生純一,玉置泰裕編),7巻,p164-172,金原出版,200412)MartinezA,SanchezM:Retrobulbarhaemodynamiceffectsofthelatanoprost/timololandthedorzolamide/timololfixedcombinationsinnewlydiagnosedglaucomapatients.IntJClinPract61:815-825,200713)八百枝潔,白柏基宏,阿部春樹:健常眼におけるタフルプロスト点眼前後の視神経乳頭微小循環.臨眼64:455458,201014)大黒幾代,片井麻貴,田中祥恵ほか:併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用.あたらしい眼科28:868-873,201115)BoehmAG,PillunatLE,KoellerUetal:Regionaldistributionofopticnerveheadbloodflow.GraefesArchClinExpOphthalmol237:484-488,1999***1140あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(114)

正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1131.1135,2012c正常眼圧緑内障に対するトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果の検討田邉祐資*1,2菅野誠*2山下英俊*2*1山形県立中央病院眼科*2山形大学医学部眼科学講座IntraocularPressure-loweringEffectofTravoprost,TafluprostandBimatoprostinNormalTensionGlaucomaYusukeTanabe1,2),MakotoKanno2)andHidetoshiYamashita2)1)DepartmentofOphthalmology,YamagataPrefecturalCentralHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversityFacultyofMedicine正常眼圧緑内障(NTG)に対するトラボプロスト(TRV),タフルプロスト(TAF),ビマトプロスト(BIM)の眼圧下降効果について検討を行った.新規にTRV,TAF,BIMを単剤投与されたNTG患者114例114眼を対象とした.投与の内訳はTRV49眼,TAF38眼,BIM27眼であった.投与1,3カ月後の眼圧下降率はTRV群で16.4%,18.9%,TAF群で17.0%,15.7%,BIM群で19.8%,16.0%であった.すべての薬剤で投与1,3カ月後の有意な眼圧下降効果が認められた(p<0.05,Wilcoxon符号付順位検定).また,投与1,3カ月後の眼圧下降率について3剤の差を比較したところ有意差は認められなかった(p≧0.05,analysisofvariance).NTGに対するTRV,TAF,BIMの眼圧下降効果は短期的に同等であった.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-reductioneffectoftravoprost,tafluprostandbimatoprostinnormaltensionglaucoma(NTG).Subjectsofthisstudycomprised114patients(114eyes)newlytreatedwithtravoprost(49eyes),tafluprost(38eyes)orbimatoprost(27eyes).IOPreductionratesat1and3monthsaftertreatmentwere16.4%and18.9%,17.0%and15.7%,and19.8%and16.0%inpatientstreatedwithtravoprost,tafluprostandbimatoprost,respectively.Comparedwithpre-treatmentIOP,alldrugssignificantlyreducedIOP.TherewerenosignificantdifferencesinIOPreductionratesamongtravoprost,tafluprostandbimatoprostat1and3monthsaftertreatment.Intheshortterm,therewerenosignificantdifferencesinIOPreductioneffectoftravoprost,tafluprostorbimatoprostinNTGpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1131.1135,2012〕Keywords:正常眼圧緑内障,眼圧,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト.normaltensionglaucoma,intraocularpressure,travoprost,tafluprost,bimatoprost.はじめに現在,緑内障性視野障害の進行を抑制するエビデンスのある治療方法は眼圧下降のみである.プロスト系プロスタグランジン関連薬は1日1回の点眼で強力な眼圧下降効果が得られ,副作用の少なさからも緑内障薬物治療の第一選択と考えられている.以前,日本で使用可能なプロスト系プロスタグランジン関連薬はラタノプロストのみであったが,2007年にトラボプロスト点眼薬,2008年にタフルプロスト点眼薬,2009年にビマトプロスト点眼薬が発売され選択肢が広がった.国内外でプロスト系プロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果について比較した論文が報告されている.これらの報告からプロスト系プロスタグランジン関連薬の眼圧下降効果はラタノプロスト≒トラボプロスト≒タフルプロスト≦ビマトプロストの傾向にあると考えられる1.5).しかしながら,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストは15mmHg以上の緑内障患者に対して治験を行っており,純粋〔別刷請求先〕田邉祐資:〒990-2292山形市大字青柳1800番地山形県立中央病院眼科Reprintrequests:YusukeTanabe,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YamagataPrefecturalCentralHospital,1800Aoyagi,Yamagata-shi,Yamagata990-2292,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(105)1131 に正常眼圧緑内障患者を対象とした眼圧下降効果の報告は少ない.多治見スタディの結果からもわが国では正常眼圧緑内障患者の割合が全緑内障の6割を占めており6),新しいプロスト系プロスタグランジン関連薬の正常眼圧緑内障患者に対する眼圧下降効果について検討することは重要と考えられる.また,正常眼圧緑内障患者を対象としてトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果について比較検討した報告はない.そこで今回トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストを単剤で投与された正常眼圧緑内障患者の短期の眼圧下降効果についてレトロスペクティブに検討を行った.I対象および方法山形県立中央病院通院中の患者で,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストを新規に投与された正常眼圧緑内障患者114例114眼を対象とした.Humphrey自動視野計のSITAstandard30-2プログラムを用いて視野測定を行い,MD(meandeviation)値が低いほうの眼に対し投与を行った.内訳はトラボプロストが49例49眼,タフルプロストが38例38眼,ビマトプロストが27例27眼であった.Goldmann圧平眼圧計を用いて症例ごとにほぼ同じ時間帯で眼圧測定を行った.無治療時眼圧の3回の平均値をベースライン眼圧とし,ベースライン眼圧>15mmHgを高眼圧群,ベースライン眼圧≦15mmHgを低眼圧群と定義した.全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群において各点眼群の年齢,男女比,ベースライン眼圧について比較を行ったが有意差は認められなかった(表1).Humphrey視野計で視野障害が重度な眼に対しトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストのいずれかを片眼投与し,投与1カ月後,3カ月後に眼圧測定を行った.ベースライン眼圧と投与1カ月後眼圧,3カ月後眼圧をWilcoxson符号付順位検定で比較した.投与1カ月後,3カ月後の眼圧下降率を算出し,analysisofvarianceで3剤間の眼圧下降率について比較を行った.なお,上記の比較は全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群おいてそれぞれ検討を行った.II結果各点眼群の全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群の眼圧の推移について表2に示した.トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストいずれの薬剤も,投与1カ月後,3カ月後の眼圧はベースライン眼圧よりも有意に下降していた.この結果は全体,高眼圧群,低眼圧群のすべてにおいて認められた.各点眼群の全体,高眼圧群,低眼圧群の投与1カ月後,3カ月後の眼圧下降率を表3に示した.全体,高眼圧群,低眼圧群いずれの検討においてもトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降率に有意差は認められなかった.各点眼群の全体,高眼圧群,低眼圧群における投与3カ月後の眼圧下降率の内訳を10%未満,10%以上20%未満,20%以上30%未満,30%以上の4つに分類し,表4に示した.眼圧下降率が10%未満の眼圧下降効果不良例はトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストそれぞれにおいて,全体で24.5%,21.1%,37.0%,高眼圧群で25.9%,7.7%,33.3%,低眼圧群で22.7%,28.0%,40.0%であった.一方,20%以上の眼圧下降効果が得られた割合はトラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストそれぞれにおいて,全体で表1患者背景全体(高眼圧群+低眼圧群)症例数(眼)平均年齢(歳)男性(%)ベースライン眼圧(mmHg)高眼圧群症例数(眼)平均年齢(歳)男性(%)ベースライン眼圧(mmHg)低眼圧群症例数(眼)平均年齢(歳)男性(%)ベースライン眼圧(mmHg)トラボプロスト4968.2±12.957.115.7±2.52766.6±13.366.717.6±1.62270.2±12.345.513.4±1.1タフルプロスト3871.6±9.363.214.5±2.71370.2±10.876.917.4±1.52572.3±8.656.013.0±1.7ビマトプロスト2772.8±9.955.614.9±2.61266.1±8.158.317.3±1.11578.2±7.753.312.9±1.3p値0.170.790.080.610.600.870.060.760.451132あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(106) 表2眼圧の推移トラボプロストタフルプロストビマトプロストベースライン15.7±2.514.5±2.714.9±2.6全体投与1カ月後13.1±2.512.0±3.011.9±2.5投与3カ月後13.1±2.612.1±2.512.4±2.5ベースライン17.6±1.717.4±1.517.4±1.1高眼圧群投与1カ月後14.4±2.114.0±2.613.9±1.6投与3カ月後14.6±2.314.0±1.713.9±2.5ベースライン13.4±1.113.0±1.712.9±1.3低眼圧群投与1カ月後11.5±1.910.9±2.710.3±1.8投与3カ月後11.2±1.411.1±2.311.1±1.6(単位:mmHg)表3眼圧下降率の推移トラボプロストタフルプロストビマトプロスト投与1カ月後16.4±11.217.0±17.219.8±10.3全体投与3カ月後18.9±15.415.7±13.616.0±14.1投与1カ月後17.7±10.719.4±14.919.7±8.9高眼圧群投与3カ月後17.1±10.819.7±7.319.6±11.1投与1カ月後14.7±11.815.8±18.519.9±11.6低眼圧群投与3カ月後21.1±19.713.6±15.713.1±13.1(単位:%)表4投与3カ月後の眼圧下降率の内訳10%未満10%以上20%未満20%以上30%未満30%以上全体24.534.724.516.3トラボプロスト高眼圧群25.937.022.214.8低眼圧群22.731.827.318.2全体21.134.234.210.5タフルプロスト高眼圧群7.738.546.27.7低眼圧群28.032.028.012.0全体37.025.918.518.5ビマトプロスト高眼圧群33.316.716.733.3低眼圧群40.033.320.06.740.8%,44.7%,37.0%,高眼圧群で37.0%,53.9%,50.0%,低眼圧群で45.5%,40.0%,26.7%であった.III考察今回の筆者らの検討では投与3カ月後の全体(高眼圧群+低眼圧群)における眼圧下降率はトラボプロストが18.9%,タフルプロストが15.7%,ビマトプロストが16.0%であった.国内外で報告されている正常眼圧緑内障に対するプロスト系プロスタグランジン関連薬の眼圧下降率を表5にまとめた.ラタノプロストを用いた検討では,岩田らが約16%7)の眼圧下降率であったと報告している.トラボプロストを用いた検討ではSuhらが18.3%8),溝口らが14.7%9),長島ら(107)(単位:%)が18.4%10)の眼圧下降率が得られたと報告しており,筆者らの結果とほぼ同等であった.タフルプロストを用いた検討では溝口らが20.0%の眼圧下降率9)と報告しており,筆者らの結果と近似していた.過去の報告および今回の結果から,正常眼圧緑内障に対する眼圧下降作用はラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの薬剤間では大きな差はなく,約15.20%の眼圧下降率が得られることがわかった.さらに筆者らは,投与前眼圧>15mmHgの高眼圧群と投与前眼圧≦15mmHgの低眼圧群に分けて,それぞれの眼圧下降率についても検討を行った.投与3カ月後の眼圧下降率は高眼圧群ではトラボプロストが17.1%,タフルプロストあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121133 表5正常眼圧緑内障を対象としたプロスタグランジン製剤の眼圧下降率の比較発表年薬剤眼数観察期間(月)投与前眼圧(mmHg)眼圧下降率(%)岩田ら7)2003ラタノプロスト463約16Suhetal8)2009トラボプロスト221214.818.3溝口ら9)2009タフルプロストトラボプロスト215.715.320.014.7長島ら10)2010トラボプロスト66616.518.4トラボプロスト4915.718.9本研究2011タフルプロスト38314.515.7ビマトプロスト2714.916.0が19.7%,ビマトプロストが19.6%,低眼圧群ではトラボプロストが21.1%,タフルプロストが13.6%,ビマトプロストが13.1%であった.統計学的に全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群のすべてにおいて,3つの薬剤間で眼圧下降率に差は認められなかった.トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの眼圧下降効果を直接比較した報告は過去にないが,原発開放隅角緑内障,高眼圧症を対象とした海外のメタアナライシス1,2)ではビマトプロスト≧ラタノプロスト≒トラボプロスト,国内の報告3,5)ではラタノプロスト≒トラボプロスト≒タフルプロストと報告されている.正常眼圧緑内障を対象とした筆者らの結果は過去の原発開放隅角緑内障,高眼圧症を対象とした報告とほぼ同様の結果であった.CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy11,12)やEarlyManifestGlaucomaTrial13)の結果から正常眼圧緑内障の目標とされる眼圧下降率は無治療時から20.30%以上とされている.今回の検討では,眼圧下降率20%以上の達成率は,全体(高眼圧群+低眼圧群)としてはどの薬剤でも約40%と薬剤間で大きな差はみられなかった.しかしながら,高眼圧群と低眼圧群に分けた検討では薬剤間で異なる傾向がみられた.高眼圧群では,タフルプロストとビマトプロストが約半数の症例で20%以上の眼圧下降率を達成しているのに対し,トラボプロストは4割に達しなかった.低眼圧群では,トラボプロストとタフルプロストが約4割の症例で20%以上の眼圧下降率を達成しているのに対し,ビマトプロストでは3割に満たない達成率であった.一方,眼圧下降率10%未満の効果不良例は全体(高眼圧群+低眼圧群),高眼圧群,低眼圧群のすべてにおいて,ビマトプロストが他の2剤よりも頻度が多い傾向がみられた.ビマトプロストが他の2剤に比べ効果不良例が多い理由は不明であるが,ビマトプロストは他のプロスト系プロスタグランジン関連薬と作用機序が異なるとの報告14)もある.この作用機序の違いがビマトプロストの効果不良例の多さに関連している可能性があると考えられた.1134あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012本研究の問題点としては,投与症例が薬剤によって異なり,同一症例における薬剤の比較ではない(クロスオーバー試験ではない)点があげられる.薬剤の効果を比較するには,クロスオーバー試験をすることが望ましいが,クロスオーバー試験は臨床上現実的ではない面もある.また,今回はわずか3カ月間の眼圧下降効果についての検討であり,長期間の眼圧下降効果については再評価する必要性があると考えられる.今回筆者らは正常眼圧緑内障患者に対するトラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液の短期における眼圧下降効果について検討を行ったが,その効果は薬剤間で大きな差はなくほぼ同等であった.今後は,これら3剤の副作用についても検討をする予定である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20082)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,20053)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科27:383-386,20104)木村健一,長谷川謙介,寺井和都:3種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討.あたらしい眼科28:441-443,20115)白木幸彦,山口泰考,梅基光良ほか:DynamicContourTonometerを用いたラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロストの眼圧下降率の比較.あたらしい眼科27:1269-1272,20106)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimi(108) Study.Ophthalmology111:1641-1648,20047)岩田慎子,遠藤要子,斉藤秀典ほか:正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果.あたらしい眼科20:709-711,20038)SuhMH,ParkKH,KimDM:Effectoftravoprostonintraocularpressureduring12monthsoftreatmentfornormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol53:18-23,20099)溝口尚則,尾崎峯生,嵩義則ほか:正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼液とトラボプロスト点眼液の眼圧下降効果と安全性についての検討.日本緑内障学会抄録集20:96,200910)長島佐知子,井上賢治,塩川美奈子ほか:正常眼圧緑内障におけるトラボプロスト点眼液の効果.臨眼64:911-914,201011)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,199812)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,199813)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,200214)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,2008***(109)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121135

緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey 視野計の視野指標との相関

2012年8月31日 金曜日

《第22回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科29(8):1127.1130,2012c緑内障眼における立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータとHumphrey視野計の視野指標との相関加藤紗矢香*1浅川賢*2庄司信行*1,2森田哲也*1永野幸一*1山口純*1清水公也*1*1北里大学医学部眼科学教室*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学CorrelationbetweenOpticDiscParametersObtainedUsingStereoFundusImagingandVisualFieldIndexofHumphreyFieldAnalyzerinGlaucomatousEyesSayakaKato1),KenAsakawa2),NobuyukiShoji1,2),TetsuyaMorita1),KouichiNagano1),JunYamaguchi1)andKimiyaShimizu1)1)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityNonmydWX(Kowa社製)を用いた立体眼底写真による視神経乳頭解析パラメータ(discパラメータ)とHumphrey視野計による視野指標との相関を検討した.対象は緑内障患者58例58眼(平均年齢61歳)である.病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.NonmydWXにて眼底写真撮影後,discの外縁と陥凹(cup)の範囲を立体視下で決定し,discパラメータを得た.また,HumphreyFieldAnalyzerにて得られた視野障害の程度を,Hodapp-Anderson-Parrish分類を用いて早期,中期,後期に分類し,病期別にdiscパラメータとmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関を求めた.結果,PSD値はすべてのパラメータで相関がみられなかったが,MD値およびTD値は中期および後期においてdiscパラメータと相関し,特に垂直C/D(cup/disc)比,rimarea,areaR/D(rim/disc)比,上下rim幅が視野障害を反映していた.NonmydWXは,視神経乳頭の記録だけでなく形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.Weevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersobtainedusinganewlydevelopedfundusstereoscopiccamera(NonmydWX;KowaOptimed,Inc.)andthevisualfieldindexoftheHumphreyFieldAnalyzer.Thisstudyexamined58glaucomatouseyes(58glaucomapatients;meanage:61years),comprising30eyeswithprimaryopenangleglaucomaand28eyeswithnormaltensionglaucoma.Afterphotographing,theexaminer,usingpolarizedfilters,stereoscopicallyobservedtheopticdiscoutlinedisplayedonamonitor;thediscdiagnosticparameterswerethenobtained.Weclassifiedtheglaucomainto3stages(early,moderate,andsevere),usingtheHodapp-Anderson-Parrishscale,andevaluatedthecorrelationbetweenopticdiscparametersandmeandeviation(MD),patternstandarddeviation(PSD)andtotaldeviation(TD),respectively.MDandTDshowedhighormoderatecorrelationinmoderateandsevereglaucomatousstages,whilePSDshowednocorrelationinanystage.Particularlygoodcorrelationwasseenonlywithverticalcup-to-discratio,rimarea,arearim-to-discratio,upperrimwidthandlowerrimwidth.OurresultsindicatethatNonmydWXisusefulnotonlyfordiscrecords,butalsofordiscquantitativeanalysisinglaucomaclinicalpractice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(8):1127.1130,2012〕Keywords:立体眼底写真,視神経乳頭,パラメータ,緑内障.stereofundusimaging,opticdisc,parameter,glaucoma.〔別刷請求先〕加藤紗矢香:〒252-0329相模原市南区北里1丁目15番地1号北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SayakaKato,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0329,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(101)1127 はじめに緑内障の構造変化と機能変化の関係は,網膜神経節細胞が30.50%障害されないと視野異常を生じず,視神経の変化は視野異常よりも先行する1).したがって,現在の視野検査という機能障害評価法のみでは,緑内障の検出が遅れるという問題点がある.すなわち,緑内障の診断や経過観察には,視神経乳頭(以下,disc)や神経線維層の変化が重要であり,その詳細な観察や形状を記録することが重要である.近年では光干渉断層計(OCT)や共焦点走査型レーザー検眼鏡(HRT)などの画像解析装置の進歩とともに視神経乳頭形状解析の自動化が進んでおり,解析ソフトも多数開発されている2,3).しかし,測定機器の再現性や検者間での測定誤差,緑内障検出力など,画像解析装置による解析より,緑内障専門医による眼底写真の読影のほうが有用であるといわれている4).緑内障診療における視神経乳頭形状変化の観察で最も重要となるものにcupの拡大や辺縁部(以下,rim)幅の減少があるが,これらは眼底が立体的であることから,より正確な形状の観察には平面画像ではなく立体画像を使用する必要がある.わが国における緑内障診療ガイドラインにおいても眼底写真による乳頭形状の観察は立体眼底写真の使用を推奨されている5).その一方で立体画像は定性的な解析は可能でも,定量的な解析は困難であり,主観的な解釈が中心になるという欠点があった.これに対し,近年開発された新しい立体眼底カメラであるNonmydWX(Kowa社製,名古屋)は,無散瞳にて同一光学系による2方向の光路から左右視差画像の同時撮影が可能であり,乳頭形状パラメータが定量的に解析可能である.今回,NonmydWXを用いた立体眼底写真によるdiscの解析パラメータとHumphrey視野計(HFA)のmeandeviation(MD)値,patternstandarddeviation(PSD)値,totaldeviation(TD)値との相関から解析パラメータの有用性を検討した.I対象および方法北里大学病院緑内障専門外来を受診した緑内障患者58例58眼(男性29眼,女性29眼)を対象とした.年齢は33.表2症例の背景早期中期後期症例数10例10眼12例12眼36例36眼年齢(歳)等価球面値(D)MD(dB)PSD(dB)上半視野TD値66±14.0.88±2.94.1.17±0.584.61±2.78.2.33±1.2659±10.3.29±3.97.3.20±0.897.28±3.07.3.28±2.2861±15.2.82±3.12.15.62±7.3312.42±3.05.16.16±8.54下半視野TD値.2.78±1.97.4.76±2.69.14.26±9.26MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation,TD:totaldeviation.80歳(61±14歳)であり,病型別の内訳は原発開放隅角緑内障(狭義)30眼,正常眼圧緑内障28眼であった.HFA30-2SITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)standardprogramにて得られた視野障害の程度を,HodappAnderson-Parrish分類(表1)を用いて早期,中期,後期に分類した(表2)..6Dを超える強度近視,固視不良20%以上,偽陽性15%以上,偽陰性33%以上の症例は対象に含めなかった.研究の主旨に関して十分な説明を行い,承諾を得た後に以下の測定を行った.眼底写真の撮影にはNonmydWXを用いた.NonmydWXは,1ショットで視神経乳頭の同時立体撮影ができ,偏光眼鏡を用いることで立体眼底観察が可能な眼底カメラである.また,視差が一定で眼底の形状変化を経時的に把握でき,長期にわたる経過観察に有用である.眼底写真撮影後,得られた両眼視差の付いた左右眼2枚の画像を1枚に重ね合わせ,付属の偏光眼鏡装用下にて解析を行った.まず画面に表示されたdiscの外縁をコンピュータのマウスでプロットし,その後,血管の屈曲を基準としてcupの外縁をプロットした.この操作により,discとcupの範囲が決定され,これをもとに視神経乳頭解析パラメータ(以下,discパラメータ)が算出される.これらのプロットは1人の検者(SK)が行った.なお,本機器の再現性や検者間の一致性に関してはあらかじめ確認している6).得られたdiscパラメータとMD値,PSD値との相関を早期,中期,表1Hodapp.Anderson.Parrish分類(C-30-2の場合)早期*中期後期**MD.6dB以上.12dB未満PD確率プロット中心5°以内の感度<5%18点未満かつ<1%10点未満・<15dBがない早期の基準を1つ以上越え,後期の基準を満たさない<5%38点以上または<1%20点以上・0dBが1点以上・<15dBが上下にあるMD:meandeviation,PD:patterndeviation.*早期は3つすべての基準を満たしたものを定義する.**後期は1つ以上基準を満たしたものを定義する.1128あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(102) 後期の病期別に求めた.TD値は上半視野,下半視野に分けて,部位別に比較が可能なため,discパラメータの中の上下rim幅の値との相関を,それぞれ検討した.相関はPearson積率相関係数にて解析し,有意水準は5%未満とした.II結果HFAのMD値とdiscパラメータは,早期ではいずれも有意な相関がみられなかった.中期では垂直C/D(cup/disc)表3MD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.020.95.0.680.01.0.500.01上側rim幅0.300.400.620.030.430.01下側rim幅.0.260.470.640.030.430.01Cuparea.0.070.84.0.060.860.030.87Discarea.0.220.550.410.190.190.27Rimarea.0.290.410.620.030.350.04AreaC/D比0.370.29.0.610.04.0.310.06AreaR/D比.0.370.290.620.030.310.06Cupvolume0.080.83.0.270.400.160.36Discvolume.0.010.97.0.020.940.320.06Rimvolume.0.250.49.0.050.870.300.08CupdepthAve0.140.70.0.300.350.060.74Cupdepthmax.0.020.96.0.280.38.0.040.81Discdepth.0.360.31.0.270.40.0.150.40表4PSD値とdiscパラメータとの相関早期中期後期rp値rp値rp値垂直C/D比0.330.350.340.280.100.57上側rim幅.0.520.12.0.230.46.0.050.77下側rim幅0.100.78.0.330.29.0.190.27Cuparea.0.130.720.310.32.0.040.80Discarea0.080.840.010.96.0.120.47Rimarea0.210.56.0.220.48.0.180.28AreaC/D比.0.490.150.340.290.050.76AreaR/D比0.490.15.0.340.27.0.050.76Cupvolume0.120.740.210.500.020.93Discvolume0.280.43.0.030.930.090.61Rimvolume0.340.330.060.850.050.77Cupdepthave0.070.840.150.640.070.67Cupdepthmax0.350.320.120.700.120.49Discdepth0.200.580.080.800.000.98表5上下rim幅とTD値との相関早期中期後期rp値rp値rp値下側rim幅-上半視野上側rim幅-下半視野0.460.060.190.860.670.490.020.130.550.410.0010.01(103)比(r=.0.68,p=0.01),上側rim幅(r=0.62,p=0.03),下側rim幅(r=0.64,p=0.03)rimarea(r=0.62,p=0.03),areaC/D比(r=.0.61,p=0.04(,)),areaR/D(rim/disc)比(r=0.62,p=0.03)との間に有意な相関があり,後期では垂直C/D比(r=.0.50,p=0.01),上側rim幅(r=0.43,p=0.01),下側rim幅(r=0.43,p=0.01),rimarea(r=0.35,p=0.04)にて有意な相関がみられた(表3).PSD値ではいずれの病期別でもすべてのdiscパラメータにおいて相関はみられなかった(表4).上下rim幅と上下半視野のTD値との相関では,中期の下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.67,p=0.02),後期は上側rim幅と下半視野のTD値(r=0.41,p=0.01),下側rim幅と上半視野のTD値(r=0.55,p=0.001)に有意な相関が得られた(表5).III考按本研究ではNonmydWXのdiscパラメータとHFAのMD値,PSD値,TD値との相関を早期,中期,後期の病期別に求めることで,discパラメータの有用性を検討した.その結果,得られたdiscパラメータは早期では相関せず,中期,後期において相関した.本機器における検者内の再現性については,volumeのパラメータが他と比べてやや低いとされている.検者間の一致性については,検者が正確なdiscとcupの定義を把握していることが前提であるが,cupが浅い症例や早期の症例などでは経験に依存するとされている6).しかし,本研究の結果は,得られたdiscパラメータの再現性の問題よりは緑内障の病態によるものと考えられる.すなわち,緑内障はHFAにて視野異常が検出された場合,約40%の神経線維が消失されており,早期は視野変化よりも構造変化が先行する1,7)といわれており,今回の結果でも乳頭形状と視野異常の程度とは必ずしも対応していなかったと考えられる.一方,中期,後期においてはdiscパラメータと視野は相関した.現在使用されている眼底画像解析装置として,HRTやOCTなどがあげられ,それぞれのパラメータとHFAのMD値との相関を検討した報告をみると,Saitoら8)によればHRTIIのrimareaとR/D比において,Danesh-Meyerらの報告9)ではrimarea,rimvolume,RNFL(retinalnervefiberlayer)cross-sectionalarea,垂直C/D比,meanRNFLthickness,areaC/D比,areaR/D比において,さらに,柳川らの報告10)ではcuparea,rimarea,cupvolume,rimvolume,areaC/D比,linearC/D比,meancupdepth,cupshapemeasure,meanRNFLthickness,RNFLcrosssectionalareaにおいて相関がみられていた.OCTはKangら11)がdeviationscoreと有意な相関を示していたと報告している.本機器に類似した立体眼底カメラではrimarea,R/D比,垂直C/D比にて有意な相関を示したと報告されてあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121129 いる8).これらの既報を踏まえると,垂直C/D比,rimarea,areaR/D比が本結果と一致しており,NonmydWXによる立体画像解析では,これらのdiscパラメータが視野障害を反映していると考えられる.さらに,本機器では従来機器にはない上側rim幅と下側rim幅のパラメータが備わっており,上下rim幅を部位別に評価するため,上半視野,下半視野に分けたTD値と上下rim幅の値との相関をそれぞれ検討すると,中期の下側rim幅と上半視野のTD値,後期は上下ともに有意な相関が得られた.中期において上半視野のみ相関がみられたのは,網膜神経線維層厚は下方が薄い12)という形態的な差異があるためではないかと考えられる.そのため本装置で採用された上下rim幅は視野障害を反映するパラメータになりうる可能性が考えられる.一方で上記HRTの報告8.10)と比較すると,NonmydWXでは相関したdiscパラメータが少なかったが,これは両機器の撮影原理の違いとともに,cupの定義が異なることも一つの要因と考えられた.すなわち,立体眼底カメラではdiscとcupを検者が偏光眼鏡装用下で三次元的に決定するが,HRTではdiscのcontourlineを決定すると,そのcontourlineの平均値から50μm下方に基準面が自動的に作成され,その基準面の下方がcupとして決定される.検者がcupも決めるNonmydWXのほうが,従来の緑内障診療におけるcupの解釈(すなわち血管の屈曲に基づく判断)に近く,緑内障診断能力が画像解析装置より緑内障専門医による眼底写真の読影が有用である4)ことを踏まえると,立体眼底カメラであるNonmydWXは緑内障診療において有用な診断補助装置であると考えられる.さらに本研究において筆者らは,NonmydWXを用いてdiscパラメータと視野指標との相関を検討した.中期および後期においてdiscと視野のパラメータが相関し,特に垂直C/D比,rimarea,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映していた.Tsutsumiら13)によると40歳以上の非緑内障群に対して大規模スタディを行った結果,垂直C/D比とR/D比によって緑内障性視野異常の早期変化を捉えられる可能性があると報告している.緑内障ガイドラインによれば,緑内障性変化を生じた視神経乳頭では,discの上側,下側あるいは両側でrimの進行性の菲薄化が生じ,視野障害をきたすとされている.このことからも本検討では垂直C/D比,areaR/D比,上下rim幅が視野障害を反映しており,これらは早期の構造変化を反映するパラメータになりうると考えられる.したがってNonmydWXは,視神経乳頭の記録のみならず形状解析が可能という点においても,緑内障診療に有用な測定装置であると考えられた.1130あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HarwerthRS,Carter-DawsonL,ShenFetal:Ganglioncelllossesunderlyingvisualfielddefectsfromexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci40:2242-2250,19992)KimHG,HeoH,ParkSW:Comparisonofscanninglaserpolarimetryandopticalcoherencetomographyinpreperimetricglaucoma.OptomVisSci88:124-129,20113)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeffectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergretinatomograph.Ophthalmology104:545-548,19974)VessaniRM,MoritzR,BatisLetal:Comparisonofquantitativeimagingdevicesandsubjectiveopticnerveheadassessmentbygeneralophthalmologiststodifferentiatenormalfromglaucomatouseyes.JGlaucoma18:253261,20095)緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:5-46,20126)AsakawaK,KatoS,ShojiNetal:Evaluationofopticnerveheadusinganewlydevelopedstereoretinalimagingtechniquebyglaucomaspecialistandnon-expertcertifiedorthoptist.JGlaucoma,inpress7)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol15:453464,19898)SaitoH,TsutsumiT,IwaseAetal:CorrelationofdiscmorphologyquantifiedonstereophotographstoresultsbyHeidelbergRetinaTomographII,GDxvariablecornealcompensation,andvisualfieldtests.Ophthalmology117:282-289,20109)Danesh-MeyerHV,KuJY,PapchenkoTLetal:Regionalcorrelationofstructureandfunctioninglaucoma,usingtheDiscDamageLikelihoodScale,HeidelbergRetinaTomograph,andvisualfields.Ophthalmology113:603611,200610)柳川英里子,井上賢治,中井義幸ほか:開放隅角緑内障の視神経乳頭形状の画像解析的検討.あたらしい眼科22:239-243,200511)KangSY,SungKR,NaJHetal:ComparisonbetweendeviationmapalgorithmandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsusingcirrusHD-OCTinthedetectionoflocalizedglaucomatousvisualfielddefects.JGlaucoma21:372-378,201212)HarrisA,IshiiY,ChungHSetal:Bloodflowperunitretinalnervefibertissuevolumeislowerinthehumaninferiorretina.BrJOphthalmol87:184-188,200313)TsutsumiT,TomidokoroA,AraieMetal:Planimetricallydeterminedverticalcup/discandrimwidth/discdiameterratiosandrelatedfactors.InvestOphthalmolVisSci53:1332-1340,2012(104)

後期臨床研修医日記 18.久留米大学医学部眼科学講座

2012年8月31日 金曜日

●シリーズ⑱後期臨床研修医日記久留米大学医学部眼科学講座佛坂扶美久留米大学医学部眼科学講座の平成23年度の新入局員は3名で,未熟ながらも3人で力を合わせつつ頑張っています.指導体制私たち新入局員にはオーベン,チューベンという指導医が付きます.オーベンは医務経歴8.10年目の先生で手術や外来など第一線で活躍されています.術後管理や,手術手技をはじめとしたさまざまなことを指導してくださいます.チューベンは3.5年目の先生で,病棟や外来で一番身近に指導をしてくださいます.何でも相談でき,何かあったときはどんなに忙しくても嫌な顔一つせず対応してくれる,とても頼りになる存在です.わからないことがあれば自分のオーベン,チューベンに相談することが多いのですが,いつでも各分野の専門の先生たちから熱い指導をしていただける,とても恵まれた環境にいます.時折,仕事が終わった後「オーベン会」なる飲み会が開催され,仕事のことだけでなく,私生活のことも相談し合える素晴らしい指導体制となっています.朝の診察外来ならびに手術は8時半から開始となっており,病棟医はこの時間に合わせて担当患者さんの診察を終わらせなければなりません.毎週木曜日は7時半から術前回診があり,さらに朝は早いです.眠い目をこすりながら患者さんを起こしての診察もしばしば….病棟のスリット台は常にフル稼働しており,8時から患者さんの食事の配膳が始まってしまいますので,1分1秒を争いながらあわただしく朝の時間が過ぎていきます.外来朝の病棟診察が終わったら,外来での業務が始まりま(93)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY▲同期と一緒に(左から石橋,筆者,青木)す.新入局員の仕事はおもに午前中は検査や陪席,午後には初診患者さんや院内紹介の診察の手伝いをします.はじめのころは視力検査一つにしてもモタモタしてしまい,手伝っているのか邪魔しているのかわからないといった感じでしたが,今では各種処置や造影検査などさまざまなことを任されるようになりました.午後の初診では大学病院ならではの多様かつ重症な症例をみることができ,新しい発見の毎日です.何かわからないことがあっても,緑内障,前眼部,ぶどう膜,外眼部,網膜硝子体,黄斑部,神経眼科などのさまざまな専門の先生や,視能訓練士(ORT)さんがすぐそばにおり,いつでも質問できその場で解決できますので,教育環境に大変恵まれていると感じます.手術手術日は金曜日を除く月.木曜日となっていますが,緊急手術も多いため,平日はほぼ毎日手術が詰まっている状況です.基本的には自分の担当患者さんの手術に入ります.おもに助手として術野に水かけをするのですが,慣れないうちはこれがむずかしく,気づいたら術野あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121119 の周りが水浸しなんてことも多々ありました.徐々に慣れ,最近では術者のつぎの行動を読み,手術が円滑に進むように配慮できるようになってきました(時折気を利かせすぎてかえって邪魔をすることもありますが…).助手として上達すると,糸きり,縫合など手技をさせていただくこともあります.また,緊急で時間外の手術が入った場合は自分達で器械だしを行います.器具の名前が多すぎて最初は右往左往するばかりでしたが,手術の流れを読み,つぎに何をするかを考えるトレーニングにもなります.助手や器械だしに入ることで,誰よりも手術を一番近くで見ることができ,日々とても勉強になっています.カンファランス大学病院の醍醐味として,カンファランスが充実していることがあげられます.月曜日は術前カンファランスがあり,入院前の患者さんの術式検討などを行います.プレゼンテーションは新入局員を中心とした若手医師の仕事で,要点を簡潔にかつ正確にまとめてプレゼンする訓練ができます.初めのころは何を発表していいかわからず,しどろもどろなプレゼンでしたが,先生方のご指導のおかげで少しずつ上達できました.また,木曜日の夕方には画像カンファランスがあります.HRA2(HeidelbergRetinaAngiography2)の画像や前眼部のフォトスリット写真を見ながら今後の方針を決定したり,珍しい症例を共有したりします.ここでたくさんの画像を見ておくことが,診断技術の向上や治療方針を的確に決めることにつながっていきます.学会発表大学病院勤務の1年の間には学会発表をする機会も与えられます.もちろん私たちにとっては初めての学会発表なので,論文検索から,カルテの収集,統計の計算などなど,やることがありすぎて右も左もわかりません.通常業務が終わってからの作業なので,夜中まで居残りすることもしばしば.そんななか,指導医が一つひとつやり方を教えてくださいます.県外で学会発表がある際も,指導医の先生方は会場で発表を見守ってくださり,▲朝のカンファレンス発表する私たちとしてはとても心強く,そして発表後の打ち上げはまた格別です.豚眼実習ほぼ毎週のようにウェットラボの機会があり,白内障手術から硝子体手術までシミュレーションすることができます.実際に自分で手術器具を使い手術をシミュレーションすることで,手術の助手の際にも細かいところまで観察できるようになりました.おわりに眼科に入局してそろそろ1年が経とうとしています.ときどき失敗もありますが,それも含めて新しい発見の毎日です.各分野の専門の先生方や,視能訓練士さん,看護師さん,皆さんに支えられながら,少しずつ成長することができました.早く一人前になり真のチームの一員になれるよう,これからも力を合わせて頑張っていこうと思います.〈プロフィール〉佛坂扶美(ほとけざかふみ)平成21年久留米大学医学部卒業.沖縄県浦添総合病院にて初期臨床研修.平成23年4月より久留米大学医学部眼科学講座後期研修医.1120あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(94) 後期研修医として眼科に入局してきた先生方を見ていると,初期研修で内科,外科,救急救命などを回ってきているため,病院のシステムや全身疾患への対応などはすぐにできるようで心強いです.大学を卒業していきなり眼科へ入局した時代では,そういったことについては,皆あたふたしたものでした.しかし,眼科の診断・検査・治療の進歩により情報量が膨大となり,覚えないといけないことや,修得しないといけないことが多く,今の研修医は大変だと思います.いつの時代でも,駆け出しは忙しいですが,その時代によって修得するものが違ってきています.ただそのため,診療技術の修得については中途半端になってしまうことが懸念されます.細隙灯顕微鏡と眼底鏡を使いこなすにはかなり時間がかかりますが,必ず徹底的に修得して欲しいと思います.やはり両者は眼科診療の基本であるからです.(久留米大学医学部眼科学講座・教授山川良治)教授からのメッセージ☆☆☆(95)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121121