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My boom 7.

2012年8月31日 金曜日

監修=大橋裕一連載⑦MyboomMyboom第7回「木村英也」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑦MyboomMyboom第7回「木村英也」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介木村英也(きむら・ひでや)医療法人社団誠明会永田眼科私は昭和62年に鳥取大学医学部を卒業して,同年に京都大学眼科に入局しました.平成2年に大学院に入学し,おもにドラッグデリバリーシステムに関する研究を行いました.平成6年にはロサンゼルスのドヘニー眼研究所でRyan教授の下,加齢黄斑変性と増殖硝子体網膜症の研究を行いました.帰国後はおもに網膜硝子体疾患に関する臨床に力を入れておりましたが,平成11年から3年間,名古屋市立大学眼科で緑内障診療にも携わり,平成14年から現在の永田眼科で副院長として,おもに網膜硝子体疾患の治療を行っております.臨床のmyboom最近の硝子体手術の進歩は著しく,小切開硝子体手術,広角観察システム,可視化剤などの発展で硝子体手術環境がかなり整ってきたように思います.私も良いものはどんどん積極的に取り入れる方針でやっております.平成14年にdeJuanが25ゲージの小切開硝子体手術システムを報告し,私も翌年の平成15年から同じシステムを使用し始めました.平成19年からは広角観察システムであるBIOMを取り入れました.慣れるまでは大変でしたが,現在では広角観察システムなしでは手術できなくなりました.現在はLumera700とResightの組み合わせです.トリアムシノロンアセトニドの硝子体手術への応用は非常に画期的で硝子体手術を(91)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY大きく変えた出来事だと思います.可視化するまではかなりの硝子体を取り残していたことがわかりました.硝子体の立体的構造がわかり,病態の理解が深まったと思います.しかしながら,こんなに硝子体手術の環境が整ってきたのに裂孔原性網膜.離の初回復位率が100%にいかないのは,まだまだ修行が足りないということです.今後27ゲージシステムにもチャレンジしていきたいと思っています.趣味のmyboom1―ランニングBilly’sBootCampが流行ったとき,私も毎日隊長に叱咤激励されながら頑張っておりました.1年以上続けましたが,モニターを見ながらの運動のためテレビを子供たちに占拠されてしまうとできなくなることから,もっと簡単に運動できる方法はないかと考えて,手っ取り早いランニングを3年前から始めました.朝4時半起床で5km走るようにしていますが,前日寝るのが遅かったり,朝起きられなかったりして走れない日もあります.せっかくランニングしているので,マラソンにも挑戦しようと思い,まず10km走に参加しました.昨年には奈良マラソンでついにフルマラソンに挑戦しました(写真1).マラソン1カ月前の練習中にランナーズニーを発症し,結局膝の痛みを鎮痛剤で抑えながらのランニングでした.奈良マラソンは高低差が70m以上あり,過酷な山岳コースです.30km過ぎの上り坂で膝が悲鳴を上げて,走れなくなりました.その後何とか復活して,目標のサブ4(4時間切)から大きく遅れましたが,4時間40分で完走できました.マラソンの記録は練習で走った距離に反映されます.マラソンに出るためは最低でも月に150km走ったほうが良いそうです.良い記録を出すためには練習で長く走るしかないようです.LSD(LongSlowDistance)が非常に重要でゆっくりあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121117 〔写真1〕初めてのフルマラソン(奈良マラソン)でのゴール20km以上の長距離を走る練習を繰り返し行うことが大事のようです.初マラソンはランナーズニーのため明らかに練習不足の状態で臨みましたので,ランナーズニー克服のために現在膝に優しいランニングフォームを研究中です.またフルマラソンに挑戦すべく走っております.趣味のmyboom2―薪集め5年前に自宅を新築する際に妻が薪ストーブをつけたいと言ったときは猛反対をしましたが,今では私のほうが薪ストーブの虜になってしまいました.寒い冬に凍てついた体を芯から温めてくれる薪ストーブの有難さはそれを経験したことのある人でないとわからないと思います.揺らぐ炎を見ながらお酒を楽しむのが冬の私の至福なときの過ごし方です.ストーブの炎も1/fゆらぎでヒーリング効果があります.しかしながら,この至福な時間を過ごすためには毎年薪集めという過酷な肉体労働をしなければなりません.薪ストーブに使用する薪はクヌギやナラに代表される広葉樹が適していて,約1年間乾燥してから使用します.1シーズンに3トン以上の薪を使用します.薪はホームセンターやインターネットでも購入可能ですが,まともに買っていたら大変な金額になります.いかにお金をかけずに薪集めをするかが問題1118あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012〔写真2〕自宅での薪割りです.あらゆるところにアンテナを立てて,少ないチャンスを逃さないようにすることが大切です.運転するときも木が切り倒されている場所があれば立ち寄り,頂けるかどうか確認します.先日も住宅造成地の横を通った際にクヌギが倒れているのを見つけ,現場監督に交渉して大量の木を確保することができました.現場でチェンソーを使って玉切りにして,それを自宅に持ち帰り斧で薪割りをします(写真2).生木は水分を多く含んでいるため非常に重く,それを運ぶのはかなり重労働です.「弘法筆を選ばず」とは言いますが,手術と同じで道具はやはり大事です.現在チェンソーはスウェーデンのハスクバーナー社製のもの,斧はドイツのスチール社製のものを使用しています.チェンソーの切れ味を維持するためには目立てが重要で,目立て専用のグラインダーも購入して毎回手入れをしています.木を収集するためには山の中の悪路を走れる専用の車が必要で,とうとう4駆の軽ワンボックスカーを中古で購入して,薪収集に励んでおります.次回のプレゼンターは岩手県の後藤恭孝先生(岩手医科大学)です.後藤先生は以前に緑内障を勉強しに永田眼科に来られ,一緒に働いた仲間です.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(92)

現場発,病院と患者のためのシステム 7.系統だった院内システムの整備

2012年8月31日 金曜日

連載⑦現場発,病院と患者のためのシステム連載⑦現場発,病院と患者のためのシステム杉浦和史*系統だった院内システムの整備.システム整備計画昔,ISA(informationsystemarchitecture)というシ気がついた機能,思いついた使い方,魅力的な新製品,新技術の出現など,動機はさまざまですが,システム整備方針がないまま,機能単体でシステムを導入してしまうことがあります.どこかの成功事例をみて,CSF(成功要因)が当てはまるのかを調べず,“ウチも”ということで導入を決めてしまうこともあります.いずれも費用対効果に問題を残すシステム整備となるでしょう.これを防ぐには?ステムを整備する際の座右の銘的な規範があり,システムを開発したり,導入する際,この規範に照らし,是非を検討しました.時代は変わり,ISAをもっている企業がどれだけあるかわかりませんが,ブームに乗せられたり,付和雷同で十分な検討をしないまま導入してしまい,かけた費用と時間に見合う効果が得られないという事例は後を絶ちません.そもそも,医療機関には,効果算定をする習慣がないかも知れません.巨額の電子カルテ導入補助金があった頃,特需とばかり売り込んだベンダの甘言に乗せられた医療機関が多くありました.使い勝手の悪さに閉口しつつも,一旦導入してしまうと後戻りできず,不承不承使っているうちに慣れてしまったとか,使えるところだけ使っているという声を耳にします.前者は本質的な問題は残ったままになり,後者は費用対効果の点で問題があります.ここで改めて,システム整備規範(ISA)というものを見直す必要がありそうです.面倒そうですが,そうでもありません.図1に示す院内業務のどこまでをシステム化するのかの全体像を描き,それに沿って順次整備し,ブームや新製品,新技術に無定見に乗らない(乗せられない)ことです.ある業務を処理する素晴らしいシステムがあっても,関連する他の業務を処理するシステムが同じ水準で仕上がっていなければバランスが取れず,意味がありません.高性能スポーツカーがあっても道路が未舗装では,その性能を発揮しようがなく,むしろ危険ですが,それと同じです.システムは,テレビや冷蔵庫のように買ってきてコンセントにつなぎ,スイッチを入れれば使えるというものではなく,効果を発揮する環境が必要です.また,個別に最適な単発システムの集合は,全体的に(89)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYみると最適化されたシステムとはなり得ないことも考慮すべきでしょう.設計コンセプトが一緒でないものを寄せ集めても,スムーズな機能,情報の連携ができないどころか,機能,情報の重複が発生し,設備も二重になってしまいます.有限予算,有限時間の制限の中であることを考慮し,経営の視点で評価する必要があるのではないかと思われます.以上述べてきたことに加えるとすれば,個人クリニックと,複数の医師がいる病院という,規模,体制の違いもシステム整備では考慮すべきことといえます.前者はスキルフルで進取の精神に富んだ一人の医師が,すべてを仕切ることができるのに対し,後者は複数の医師のみならず,看護師,検査員,医事会計課員,薬剤師,栄養士など,職種,性格,経験,人生観の違う多くの医療従事者がいて,一筋縄ではいきません.成功事例として個人クリニックが取り上げられる場合がありますが,その延長線で規模の大きな病院でも適用できると考えたら,検査診察手術病棟受付外来給食事務薬局治験研究図1多くの業務から成り立っている医事会計*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121115 表1基本リテラシRリテラシ内容1Hearing聞き出す能力忌憚のない意見,要望,疑問を漏れなく引き出せる能力.ヒアリング以降の作業の品質,成果物の完成度が左右される重要な能力.特に,当たり前だと思っていわないことを聞き出せるかどうかは大きなポイントです.2Documentation文章で表現する能力聞いたこと,決まったこと,意見,意志を文章で表現する能力.簡潔,正確,素早く書けることが要求されます.“読みたい”と思わせる表現力,見やすい体裁にするセンスが要求されます.“ドキュメントは人がいないプレゼンテーション”と考え,そばにいて補足説明しなくても,伝えたいことが誤解なく伝わるかどうかを気にした文章が書ける能力が要求されます.3Presentationわかりやすく説明する能力相手が専門家か非専門家か,また,経験の度合い,関心の深浅など,状況に応じて臨機応変に話し方や説明する切り口を変えられる能力とセンスが必要.プレゼンしながら相手の反応,理解度を観察し,“誤解のない理解”を得られているかをチェックしながら説明する気遣いが求められます.4Negotiation利害を調整する能力要求を聞き出していると,関連部署間で矛盾する要望が出てくることはよくあります.このとき,各部署の事情に配慮しつつも“個々の最適化の寄せ集めは,全体の最適化にならない”ことを説明し,納得してもらう調整能力が要求されます.確固たるポリシーが必要になります.間違いなく失敗するでしょう.その逆も同じです.理由は?CSF(成功要因)が違うからです..整備計画に盛り込むべきスタッフの教育人材ではなく,人財という当て字をする文をみかけることがあります.人は財産ということですが,システム化に伴ってこれを担う人を育てる教育が必要になってきます.システム化を担うとは,技術的なことや,プログラミングなどの物作りではなく,システム化する業務を整理整頓する能力です.技術は変化が激しく,かつ裾野は広く深く,例外はあるものの,医療従事者が業務の合間に片手間で取り組んで一人前になれるものではないと考えたほうが無難です.現状の業務を分析し,無理無駄を廃し,あるべき姿に照らして整理整頓した新たな業務フローを作る人材を育てるには,どのような教育をすればよいのでしょう.宮田眼科病院では,プロジェクトメンバーに対し,表1に示す基本リテラシ教育を行っています.作業報告,仕様書作成,およびデザインレビュー(仕様の是非を検討するミーティング)をとおして的確な表現,議論の仕方を,OJT(実務をとおして習得する)で身につけるようにしています..整備計画に盛り込むべき雰囲気の醸成システムが効果をあげるために必要な院内の有形無形な環境が整っているか否かに無関係に,鶴の一声で導入するのは論外ですが,一部の関係者だけが盛り上がっているだけで,大多数は冷めている,あるいは第三者的な1116あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012姿勢でいる状況下で,システムを導入する例は珍しくありません.全員がそれぞれの立場,役割の中で,知恵と力を合わせて作り上げたものであるという意識が芽生えていないと,雰囲気の盛り上がりは稼働直後がピークで,時間の経過と共に落ち,効果も期待できなくなります.病院のシステムは,ルールに従って機械的(自動的)に動く生産ラインの制御システムとは違い,システムから提供される情報を使って動くのは,機械ではなく人間なので,意識が下がってくると,そうなってしまいます.予約業務をシステムに乗せ,来院時間の平滑化が進み,待ち時間が軽減され,患者,スタッフ双方が楽になったと実感していても,次第におざなりになり,やがて有名無実になってしまった例があります.おかしな予約の取り方であることを示す警告表示,確認メッセージを無視するようになり,当面の問題を切り抜けるために,予約システムの主旨に反する裏技までを考え出すに至り,予約制が崩壊してしまいました.この結果,予約が予約になっていないとクレームが出てくることになりました.みんなで作り上げたシステムであり,うまく利用して待ち時間軽減に役立ち,患者満足度を向上させ,ひいてはスタッフの負荷の偏在を平滑化し,軽減しようという開発当初の意気込みが薄れ,コンセプトが忘れ去られてくると,その場しのぎの解決を繰り返すことになり,こうなってしまいます.システムが効果を発揮し続けるためには,いかにしてよい雰囲気を作り上げるのか,また,その状態を保つかにつき,腐心すべきです.ポイントは簡単,初心忘れるべからず.(90)

タブレット型PCの眼科領域での応用 3.眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか-その2-

2012年8月31日 金曜日

シリーズ③シリーズ③タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第3章眼科医としてタブレット型PCを臨床でどう使うか─その2─■画像閲覧端末としてのタブレット型PC第3章では実際の臨床業務において,どのようにタブレット型PCを活用するか,またなぜ眼科領域において有用であるかを,私の実践例とGiftHandsの活動を通して得たさまざまな“気づき”を踏まえて紹介していこうと思います.第2章でも書きましたが,タブレット型PCのおもな使い方のポイントはつぎの2点に集約されます.まず,第2章で紹介した必要な情報にきわめて迅速にアクセス可能な情報端末である点,そして患者の視機能に合わせたオーダーメイドな設定を非常に簡単な操作で選択できる点です.今回は,後半の最適な情報や画像閲覧機器としてのタブレット型PCの利点を紹介しようと思います.GiftHandsの活動のなかで,視覚障害者向けのタブレット型PC活用セミナーを実施した結果,目の不自由な方々の生の声を聞き,その思いを知ることができました(図1).それは眼科医として医療のみを行っていた頃には,知ることのできなかった多くの“気づき”です.ここからは私が知ることのできたさまざまな“気づき”を中心に,実際の臨床導入の事例も交えてその利点を紹介していきます.■私の実践活用法「患者説明編」一つめの“気づき”は“見えると見たい”,“読めると読みたい”は違うということです.患者にとって単純に見える大きさで書かれた説明文を見せられても,“見たい”や“読みたい”というレベルまで,意識は向上しません.“見る”ための要素には文字の大きさや書体,太さやコントラスト,色調や明るさなどの複合的な要素が含まれますが,これらをすべて考慮したオールマイティーな患者説明用の資料は存在しないのが現状です.(87)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1GiftHands主催のタブレット型PC体験セミナーの様子それは患者の最適な視認環境は個々の視機能により多種多様であり,視力や視野などの検査結果から単純に設定することは不可能なためです.たとえば,一般的に視力の低下した患者ではコントラストの高い黒背景で白抜きの文字,書体は明朝体よりもゴシック体がいいと考えがちですが,実際にタブレット型PCで書体や色を変化させて体験してもらうと,色と書体だけに関しても最適条件は個々の患者でさまざまです.当然のことですが情報を提供する側ではなく,提供される側である患者側が最も見やすい書体や背景色を選択することで,初めて“読める”は“読みたい”へと変化するのです.タブレット型PCに取り込まれたデジタルな文字情報は,それらの設定を瞬時に患者の最適な状態に変化させることが可能です.二つ目の“気づき”として,“使える”と“使いたい”は違うということです.タブレット型PC(iPadRの場合)では,たとえばホームボタンをトリプルクリック(3回押し)した際のアクセシビリティ(視覚や聴覚などの補助)機能を,音声読み上げやコントラスト反転などの任意の機能に割り当てることが可能なことがあげられまあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121113 す.これまでにもPCの画面の色を反転させる機能は存在していましたが,その設定を変更する操作が煩雑であるが故に,多くの方がずっと反転したままでPCなどデジタルデバイスの操作を行っている姿をよく目にしました.この反転機能が発動した状態では画面上の画像がすべて反転してしまうため,写真はネガの状態となってしまい本来の色調を残すことは不可能でした.しかし,たとえばホームボタンのトリプルクリックを白黒反転の機能を割り当てることで,文章を読んでもらう間は白黒を反転し,その後に解剖図などを説明する際はすぐに反転を解除するというような使い方ができます.瞬時に白黒反転に切り替えられることは,患者にとっても説明する側の医療者にとっても非常に重要なポイントであり,“使いたい”という想いが生まれるきっかけとなるのです.■私の実践活用法「情報を手に取る」その他の活用法の具体例としてタブレット型PCで表示された画像は拡大したい部位を1本の指でダブルタップ(2回叩く)するか,2本の指で広げるように触ることで瞬時に必要とされる拡大率まで画像や文字を拡大することができます.ここで重要なのは操作が非常に容易であるため,患者自身がタブレット型PCを手に取り任意の大きさまで,本人が操作して拡大ができるということです.これまでのあらかじめ文字や図表の拡大された紙ベースの用紙による説明や,医者の机上に置かれたPCの画面を使っての説明などとは,患者はまったく違った印象を受けます.まさに情報を手に取るように,見える大きさや明るさで見ることができて,患者の病態の理解や治療法の選択への自己決定の意思が生まれやすくなるため,アドヒアランスは格段に向上します.私は,眼瞼の状態を説明する際に,あらかじめ代表的な細隙灯顕微鏡所見の画像をタブレット型PCに保存しておき,患者自身に見える大きさまで拡大してもらって,病態生理の理解をしてもらう補助に使ったりしています.また,患者本人の細隙灯顕微鏡所見の画像を次回の診察時に患者とともに供覧することで,多くの患者が自分の眼瞼の状態に興味を示すようになり,治療への積極性が向上します(図2).最後にとっておきの活用法を一つ紹介します.外来でつぎのような台詞を,眼科医のみなさんであれば,よく1114あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012図2自身の眼瞼所見を拡大して閲覧している様子耳にするのではないでしょうか.「赤いキャップの目薬が欲しいです….」しかし,視機能の下がった患者が意図する赤色のキャップの点眼薬を同定する作業は,非常に時間と労力を要するうえに非効率的です.ところが,タブレット型PCにあらかじめ処方頻度の高い点眼薬の製剤見本の写真を入れておき,それを拡大して提示すると,患者の言葉はつぎのように変化します.「今日はこの目薬を3本ください.」これまでに費やしてきた無駄な時間を,患者の背景や生き方への質問の時間に置き換えることで,患者との心の距離はぐっと近づくはずです.なお,点眼薬の製剤見本のPDFは日本眼科学会のホームページ(http://www.nichigan.or.jp/index.jsp)にログインすることで入手することができます.必要な画像だけをスクリーンショットで取り込めば,患者とのコミュニケーションの質は格段に向上すると考えられます.タブレット型PCを臨床に導入することで,日々の診療がより快適で患者のアドヒアランスの向上につながると私は信じています.なお,私が現在GiftHandsの活動や実際に外来で扱っている電子タブレットは,“新しいiPadR(AppleInc.)”と“iPhone4SR(AppleInc.)”です(2012年6月30日現在).本文中の内容やセミナー,アプリなどに関する問い合わせはGiftHandsのホームページでお問い合わせいただけると助かります.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 111.硝子体手術後晩期に生じる黄斑円孔(中級編)

2012年8月31日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載111111硝子体手術後晩期に生じる黄斑円孔(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに特発性黄斑円孔は,硝子体皮質前ポケット後壁の硝子体皮質による牽引で生じるとされており,硝子体手術後眼に黄斑円孔が生じることはまれである.近年,トリアムシノロンアセトニド(TA)を用いて硝子体を可視化する手技が用いられるようになってからは,黄斑部の硝子体皮質をより確実に除去できるようになったため,黄斑上膜や黄斑円孔が硝子体手術後に生じることはさらに少なくなっていると考えられる.しかし筆者らは,硝子体手術後晩期に黄斑円孔を生じた症例を2例経験している1).●硝子体手術後に生じる黄斑円孔筆者らが経験した2例は,裂孔原性網膜.離に対する硝子体手術後晩期に黄斑円孔を生じたものである.硝子体手術後に生じた黄斑円孔の報告は過去に散見され,その原因として,中心窩周囲に再増殖が生じ,黄斑部に新たに接線方向の牽引が加わったことが共通して述べられている.以前の硝子体手術ではTAによる硝子体の可視化は行われておらず,初回手術時に黄斑部に残存した硝子体皮質が再増殖の一因となっていた可能性がある.しかし,今回の2例は,初回手術時にTAを使用して確実に黄斑部硝子体皮質を除去したにもかかわらず黄斑円孔が発症した.原因としては,以下のようなことが考えられる.1)2例とも初回手術時すでに網膜.離が黄斑部に及んでおり,術後網膜が復位した後も中心窩網膜が菲薄化していた(図1).2)再手術時に,黄斑円孔周囲の内境界膜が肥厚し,薄い黄斑上膜と一体となっている所見を認め,この膜様組織の接線方向の牽引が黄斑円孔発症の誘因となった(図2).●再手術時の注意点硝子体はすでに切除してあるので,黄斑部の薄い黄斑(85)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1初回硝子体手術前の眼底写真上方の大きな弁状裂孔を原因とする胞状の網膜.離を認める.黄斑.離も生じている.図2網膜.離術後8カ月のOCT所見黄斑上膜により接線方向の牽引が生じているのがわかる.矯正視力0.2.図3術中所見内境界膜はかなり肥厚しており病的な状態となっている.内境界膜と連続する黄斑上膜を.離している.上膜と肥厚した内境界膜の確実な除去が手術のポイントとなる.今回は2例ともインドシアニングリーン塗布後に黄斑部には染色されない部分が認められ,薄い黄斑上膜が生じているものと考えられた.内境界膜も病的に肥厚しており,内境界膜.離を行いながらそれに連続する薄い黄斑上膜を.離した(図3).今回の2例とも再手術後に黄斑円孔は閉鎖し,矯正視力0.5に改善していることから,このような症例に対しては積極的に手術を考慮してもよいと考えられる.文献1)鈴木浩之,石崎英介,吉田朋代ほか:網膜.離に対する硝子体手術後晩期に発症した黄斑円孔の2例.眼臨紀5:341-345,2012あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121111

眼科医のための先端医療 140.新生血管と遺伝子治療

2012年8月31日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第140回◆眼科医のための先端医療山下英俊新生血管と遺伝子治療加地秀(名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学)はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の本態は脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)であり,現在の治療の中心は抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)療法です.この治療においては蛋白質の眼内への長期にわたる反復投与が必要ですが,これに対しては遺伝子治療がその回答の一つとなりうると考えられます.AMDに対する遺伝子治療とは,異常遺伝子を正常遺伝子に置換するような狭義の遺伝子治療ではなく,遺伝子を眼内の細胞に導入し,持続的に治療蛋白質を発現させるというドラッグデリバリーシステムとしての遺伝子治療(図1)です.現在AMDに対する臨床試験は,Genzyme社によるAAV2-sFLT01(http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01024998)と,OxfordBioMedica社によるRetinoStat(http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT01301443)の2つが行われています.AAV2.sFLT01VEGFと結合し,その作用を阻害する働きのある蛋白質は抗VEGF療法に用いることが可能であり,それには抗体と受容体があります.現在,日本で用いられているのは抗VEGF抗体(のFab断片)ですが,VEGF受容体のキメラ蛋白であるVEGFTrap-Eyeについてもすでに臨床試験が行われています.アデノベクターにより抗VEGF抗体の軽鎖,重鎖を発現する遺伝子を導入する,マウスを用いた腫瘍の治療実験も行われ,その有効性が報告されています1)が,現在ヒトのAMDに対して行われているのはVEGF受容体を用いた臨床試験です.AAV2-sFLT01はVEGF受容体であるFlt-1のVEGF結合ドメインとヒト免疫グロブリンG(IgG)のFc断片のキメラ蛋白(sFLT01)の遺伝子をアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに組み込んだものです.(81)正常な遺伝子異常な蛋白質正常な蛋白質………………….治療蛋白質図1ドラッグデリバリーのツールとしての遺伝子治療A:狭義の遺伝子治療.異常な遺伝子を正常な遺伝子と置換することにより,疾患を治療する.B:ドラッグデリバリーのツールとしての遺伝子治療.治療遺伝子を導入し,細胞自らに治療蛋白質を製造させる.AAVは導入遺伝子が染色体に取り込まれない状態で長期間遺伝子の発現が持続するという特徴があり,Leber先天盲に対する遺伝子治療にも用いられています2,3).このAAV2.sFLT01の硝子体注射により,マウスの網膜新生血管,サルのCNVの抑制が可能であったことが報告され4,5),また,サルへのAAV2.sFLT01の硝子体注射後,12カ月の観察期間中,網膜電図,蛍光眼底造影に異常がみられなかった6)ことから,現在AMDに対するAAV2.sFLT01の硝子体注射のPhaseIの臨床試験が行われています.RetinoStatVEGFの阻害はCNVに対して現在のところ最も効果のある治療法です.しかし一方で,VEGFには神経保護作用があるともいわれており,ラットの虚血再灌流モデルを用いた研究でVEGFは神経細胞のアポトーシスを抑制する7)ことが報告されています.その後,ラットにおいて抗VEGF抗体単回投与では神経節細胞は傷害されなかったという報告8),可溶性VEGF受容体を発現するトランスジェニックマウスにおいて長期間VEGFをブロックし続けても網膜の神経細胞,血管に悪影響はなかったという報告9)もなされていますが,臨床的にVEGFを長期間ブロックすることが神経網膜や正常血管に影響を与えないのかどうかは,まだ議論の余地があります.このようなVEGF阻害による神経毒性の可能性を除外するためには,VEGFと結合する分子以外のあたらしい眼科Vol.29,No.8,201211070910-1810/12/\100/頁/JCOPY 血管新生阻害因子の遺伝子を導入するという手法が考えられ,それらの因子のなかで,現在遺伝子治療の臨床試験が行われているのがendostatinとangiostatinです.EndostatinはcollagenXVIIIの断片であり,a5b1インテグリンとの結合,VEGFレセプターからのシグナルの抑制,サイクリンDの阻害を介して血管内皮細胞の機能を阻害します.Angiostatinはfibrinogenの断片で,血管内皮細胞の細胞膜のATP(アデノシン三リン酸)シンターゼと結合し,遊走,増殖を阻害し,また細胞外マトリックスによるプラスミノーゲンの活性化を抑制し,内皮細胞の侵入を阻害します.これらの因子はともに腫瘍に伴う血管新生を阻害する働きがあり10,11),そしてこれらはともに遺伝子治療実験によって,網膜新生血管,CNVの抑制に有効であったことが報告されています12.16).レンチベクターは導入遺伝子がホストの染色体に取り込まれることによって遺伝子発現が長期間持続し,またパッケージできる遺伝子のサイズが大きいという特徴があります.そのため,RetinoStatは,レンチベクターであるequineinfectiousanemiaviralvector(EIAV)にendostatinとangiostatinの2つの遺伝子を組み込んだ構造となっています.このようなEIAVの網膜下注射によりendostatinとangiostatinの2つの遺伝子を発現させることによって,マウスのCNVの抑制が可能であった17)ことから,現在AMDに対するRetinoStatの網膜下投与のPhaseIの臨床試験が行われています.おわりに現在AMDに対する遺伝子治療としては,2つの臨床試験が行われています.これらの治療は,薬剤の反復投与の必要性を解消するものとして期待されます.また,これら2つの臨床試験においては,前房水中の治療蛋白質の定量がプロトコールに組み込まれています.これら2つの試験はベクターはAAVとレンチベクター,投与経路は硝子体注射と網膜下注射と異なるものを採用しており,ベクター,投与経路による遺伝子発現の違いを検討するうえでも興味深いものとなるものと思われます.文献1)WatanabeM,BoyerJL,HackettNRetal:Geneticdeliveryofthemurineequivalentofbevacizumab(avastin),ananti-vascularendothelialgrowthfactormonoclonalanti1108あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012body,tosuppressgrowthofhumantumorsinimmunodeficientmice.HumGeneTher19:300-310,20082)MaguireAM,SimonelliF,PierceEAetal:SafetyandefficacyofgenetransferforLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed358:2240-2248,20083)BainbridgeJW,SmithAJ,BarkerSSetal:EffectofgenetherapyonvisualfunctioninLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed358:2231-2239,20084)PechanP,RubinH,LukasonMetal:Novelanti-VEGFchimericmoleculesdeliveredbyAAVvectorsforinhibitionofretinalneovascularization.GeneTher16:10-16,20095)LukasonM,DuFresneE,RubinHetal:InhibitionofchoroidalneovascularizationinanonhumanprimatemodelbyintravitrealadministrationofanAAV2vectorexpressinganovelanti-VEGFmolecule.MolTher19:260-265,20116)MaclachlanTK,LukasonM,CollinsMetal:PreclinicalsafetyevaluationofAAV2-sFLT01-agenetherapyforage-relatedmaculardegeneration.MolTher19:326-334,20117)NishijimaK,NgYS,ZhongLetal:Vascularendothelialgrowthfactor-Aisasurvivalfactorforretinalneuronsandacriticalneuroprotectantduringtheadaptiveresponsetoischemicinjury.AmJPathol171:53-67,20078)IriyamaA,ChenYN,TamakiYetal:Effectofanti-VEGFantibodyonretinalganglioncellsinrats.BrJOphthalmol91:1230-1233,20079)UenoS,PeaseME,WersingerDMetal:ProlongedblockadeofVEGFfamilymembersdoesnotcauseidentifiabledamagetoretinalneuronsorvessels.JCellPhysiol217:13-22,200810)O’ReillyMS,HolmgrenL,ShingYetal:Angiostatin:anovelangiogenesisinhibitorthatmediatesthesuppressionofmetastasesbyaLewislungcarcinoma.Cell79:315328,199411)O’ReillyMS,BoehmT,ShingYetal:Endostatin:anendogenousinhibitorofangiogenesisandtumorgrowth.Cell88:277-285,199712)MoriK,AndoA,GehlbachPetal:Inhibitionofchoroidalneovascularizationbyintravenousinjectionofadenoviralvectorsexpressingsecretableendostatin.AmJPathol159:313-320,200113)AuricchioA,BehlingKC,MaguireAMetal:Inhibitionofretinalneovascularizationbyintraocularviral-mediateddeliveryofanti-angiogenicagents.MolTher6:490-494,200214)LaiYK,ShenWY,BrankovMetal:Potentiallong-terminhibitionofocularneovascularizationbyrecombinantadeno-associatedvirus-mediatedsecretiongenetherapy.GeneTher9:804-813,200215)RaislerBJ,BernsKI,GrantMBetal:Adeno-associatedvirustype-2expressionofpigmentedepithelium-derivedfactororKringles1-3ofangiostatinreduceretinalneovascularization.ProcNatlAcadSciUSA99:8909-8914,2002(82) 16)IgarashiT,MiyakeK,KatoKetal:Lentivirus-mediatedmiaviralvector-mediatedcodeliveryofendostatinandexpressionofangiostatinefficientlyinhibitsneovascularangiostatindrivenbyretinalpigmentedepitheliumizationinamurineproliferativeretinopathymodel.GenespecificVMD2promoterinhibitschoroidalneovascularizaTher10:219-226,2003tion.HumGeneTher20:31-39,200917)KachiS,BinleyK,YokoiKetal:Equineinfectiousane■「新生血管と遺伝子治療」を読んで■最初の遺伝子治療の概念は,1960年代のTatumあとは異なり,遺伝子に関する理解や遺伝子操作技術がるいはLederbergの発表にさかのぼります.それは,飛躍的に進んでおり,ゆっくりではありますが,遺伝1つの遺伝子が1つの酵素を規定するのであれば,病子治療は確実に進歩しました.その結果,Leber先天的遺伝子を正常遺伝子に置き換えれば酵素異常を治療性黒内障に関するRPE65遺伝子導入治療が著効を示できるのではないかという単純なものでした.ところし,現在医学界全体から大いに期待されています.まが,病的遺伝子を正常遺伝子に置き換えることは実際た,それ以外でも閉鎖性,易操作性などの点から眼球上きわめて困難なため,病的遺伝子を排除せずとも新はきわめて遺伝子治療に適した臓器であることが理解しい遺伝子を導入すれば治療効果は十分ではないかとされるようになり,今回加地秀先生が説明されていいうアイデアが出され,オークリッジ研究所のるように,血管新生抑制遺伝子治療などの対象にされRogersは,アルギナーゼ欠損症のヒトにアルギナーています.特に驚かされるのは,治療を行う際の治療ゼ遺伝子をもつショウプパピローマウイルスを感染さ蛋白質の選定,その定量法などが具体的に設定されうせる実験を行いました.残念ながら,当時の知識や技るようになっており,すでに夢の治療ではなくなって術では,治療効果を示すだけのアルギナーゼ産生を誘いる点です.今後,眼科領域は他領域に先んじて遺伝導させることができずに結果は失敗に終わり,遺伝子子治療臨床応用の先進領域になることでしょう.治療という概念も長く忘れ去られました.1990年代初期の遺伝子治療研究に関わった者として,その後,20年以上の時を経て,1990年代にようや最初に遺伝子治療の概念を提唱したTatumやLederく今日的意味での遺伝子治療が始まりました.1990bergの先見性に敬意を抱くとともに,そのことを実年当時,遺伝子治療はすべての疾患治療を変えてしま感させてくれた現代科学の進歩に感謝の念を禁じ得まうというセンセーショナルな報道がなされましたが,せん.期待されたほどの治療効果はなく,再び遺伝子治療の鹿児島大学医学部眼科学坂本泰二冬が続くのかと危惧されました.ところが,40年前☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121109

抗VEGF治療:典型加齢黄斑変性と抗VEGF薬

2012年8月31日 金曜日

●連載③抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二1.典型加齢黄斑変性と抗VEGF薬鈴木三保子五味文大阪大学大学院医学系研究科眼科学典型的な滲出型加齢黄斑変性(AMD)に伴う脈絡膜新生血管に対する治療は,抗VEGF薬硝子体内注射が第一選択にあげられるが,抗VEGF療法は,病変タイプによって治療効果が異なることが知られている.本稿では,典型AMDに対する抗VEGF薬による治療効果について概説する.1型脈絡膜新生血管(CNV)(occultCNV)1型CNV(網膜色素上皮下CNV)は,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)分類ではoccultCNVの所見を示すことが多く,加齢黄斑変性(AMD)のなかで最も頻度が高い.OccultCNVを伴うAMD患者を対象としたMARINAスタディでは,抗VEGF薬であるranibizumab0.5mgの毎月投与により視力スコアは7.2文字改善し,90%が2年間視力改善・維持したと報告されている1).1型CNVは抗VEGF療法によりその病巣の活動性は抑えられるものの,CNVそのものが消失することは少ない(図1).そのため,後述の2型CNV(classicCNV)と比較し,1型CNVは滲出性変化の再発率は高く,抗VEGF療法の追加治療回数は多い傾向にある.抗VEGF薬に反応するにもかかわらず,漿液性網膜.離などの滲出性変化を繰り返し起こす症例,治療を続けていても網膜色素上皮下の病巣が拡大を続ける症例,漿液性網膜.離は軽減するが持続する症例もみられ,注意深く治療にあたる必要がある.網膜色素上皮.離については,縮小する場合としない場合があり,その背景は不明である.また,1型CNVは治療経過中,ポリープ状脈絡膜血管症を合併することもあり,定期的な蛍光眼底造影検査を施行し,病態を把握する必要がある.色素上皮.離を伴う1型CNVに対する抗VEGF療法については,注意すべき合併症として網膜色素上皮裂孔があげられる.網膜色素上皮裂孔は,CNVの収縮により起こる治療前治療後図11型脈絡膜新生血管Ranibizumab硝子体内注射3回施行後,滲出性変化は消退したが,CNVは残存している.(79)あたらしい眼科Vol.29,No.8,201211050910-1810/12/\100/頁/JCOPY 治療前治療後治療前治療後図22型脈絡膜新生血管Ranibizumab硝子体内注射施行後,CNVは消退したが,中心窩網膜に瘢痕病巣が残存し,視力は術前と同じく0.1のままである.と考えられており,CNVの対側の網膜色素上皮.離辺縁に生じる.中心窩が網膜色素上皮.離の中心にある場合は,裂孔が中心窩に及ぶ可能性があるため,その危険性については治療前に患者に対して十分に説明する必要がある.2型CNV(classicCNV)2型CNV(網膜色素上皮上CNV)は,FA分類ではclassicCNVとよばれる所見をとることが多い.PredominantlyclassicCNVを伴うAMD患者を対象としたANCHORスタディでは,抗VEGF薬であるranibizumab0.5mgの毎月投与により,2年後の平均視力スコアがベースラインと比べて2段階以上の有意な増加を認めた2).視力と光干渉断層計の臨床所見を基本とした必要時投与(PRN投与)でも,同様に2段階以上の視力改善効果を認めている(PrONTO試験)3).PredominantlyclassicCNVに対するranibizumab単独投与は,先のoccultCNVと比較し,効果(CNV収縮,随伴する浮腫や出血・滲出の軽減)が速やかに表れることが多い.ただ長期にみると,病巣の辺縁から再燃することもあり,注意深い経過観察が必要である.中心窩下にCNVの瘢痕病巣が残った場合には,視力の改善が得られないこともある(図2).文献1)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:MARINAStudyGroup.Ranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20062)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65,20093)FungAE,LalwaniGA,RosenfeldPJetal:Anopticalcoherencetomography-guided,variabledosingregimenwithintravitrealranibizumab(Lucentis)forneovascularage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:566-583,2007☆☆☆1106あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(80)

緑内障:前眼部OCTとレーザー虹彩切開術

2012年8月31日 金曜日

●連載146緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也146.前眼部OCTとレーザー虹彩切開術川名啓介かわな眼科前眼部OCT(光干渉断層計)を用いることで,原発閉塞隅角緑内障眼にレーザー虹彩切開術を施行すると線維柱帯虹彩接触長,虹彩凸度が減少していることが明示された.術前に前眼部OCTを施行することで,前房と後房の圧格差を推測することが可能であり,治療法の決定と効果判定に有用である.前眼部OCT(opticalcoherencetomography;光干渉断層計)が開発されたことにより,前眼部の画像解析は容易で簡便になった.特に,従来の光学式機器では計測がむずかしい虹彩の断面や隅角付近の情報が手軽に得られるようになった.今回,前眼部OCTによるレーザー虹彩切開術(laseriridotomy:LI)における有用性について考えてみたい.原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)は日本人において0.6%程度存在し1),沖縄などの南方ではそれよりも多い潜在的患者がいるとされている2).いったん緑内障発作が発症すると,視機能に大きな障害を残す場合があるために,早期発見と予防的治療が重要である.PACGの治療においては,初回にLIを選択するかあるいは白内障手術をするかは議論の分かれるところではあるが,今回はLIに絞って考察したい.Shaffer分類grade2以下のPACGに対してLIを施行した眼で検討すると,術前に比べ術後で線維柱帯虹彩接触長(trabeculaririscontactlength:TICL)(図1)と虹彩凸度(図2)が有意に減少し,その一方,前房容積(図3)は有意に増加していた.虹彩凸度は虹彩・毛様体の境界と虹彩・水晶体の境界をつないだ直線と虹彩裏面の最大距離と定義した.特に前房容積は術前後で約2倍弱程度の変化を示した.これらの結果より,LIを施行すると前房と後房の圧格差が解消されていることがわかる.圧格差が解消されているのにもかかわらず,TICLが0とならない症例も存在し,器質的接着の可能性かあるいは圧格差が十分に解消されていない場合,あ線維柱帯虹彩接触長(mm)p=0.0010.90.80.7LI前0.60.50.40.30.20.1LI後0pairedt-testLI前LI後図1原発閉塞隅角緑内障に対するLI施行前・後の変化左:TICLのLI施行前・後での比較.LI前に比べてLI後は有意にTICLが減少している.右:前眼部OCT画像.LI施行前・後においてTICLが減少していることがわかる.(77)あたらしい眼科Vol.29,No.8,201211030910-1810/12/\100/頁/JCOPY p<0.00010.450.4LI前0.350.30.250.20.150.10.05LI後0LI前LI後pairedt-test図2原発閉塞隅角緑内障に対するLI施行前・後の虹彩凸度の変化虹彩凸度(mm)左:虹彩凸度はLI前に比べLI後では有意に減少している.右:前眼部OCT画像.LI前は虹彩が前方に凸なのに対して,LI後では平坦となっている.その結果,隅角の開大がみられる.p=0.0001LI後に隅角角度が変化しないことが比較的多いと報告140されており,この場合にはplateauirisの関与などが考えられている3).虹彩根部の厚さや形態などからplat120前房容積(mm3)100806040200pairedt-testeauirisの要素がどの程度かを推測する必要がある.LIによって隅角形態が変化しない場合には白内障手術が適応になると考えられる.欧米人の報告であるが,LIの不成功例では術前の虹彩前彎が少ない,すなわち虹彩凸度が小さいと報告されている4).前房と後房の圧格差が少ないためにLIの不成功につながりうると考えられる.前眼部OCTを用いることで術前に虹彩や隅角の状態を評価することが可能となる.前房と後房の圧格差を推LI前LI後図3原発閉塞隅角緑内障に対するLI施行前・後の前房容積の変化前房容積はLI前とLI後では有意に増加し,2倍弱程度になる.るいはplateauirisの関与が考えられる.そのためLI後にTICLがあまり減少しない症例に対しては,白内障手術や隅角癒着解離術が必要となる可能性がある.前眼部OCTを使用することで他の光学式検査機器ではわかりにくい隅角閉塞の程度を知ることができた.特にTICLは線維柱帯の閉塞を表し,虹彩凸度は前房と後房の圧格差に関係するために,診断価値が高いと思われる.前房容積も著明に変化し,診断的価値が高い.ただし,TICLは器質的閉塞でも機能的閉塞においても,同様の値として計算されてしまうため,症例によっては前眼部OCTの検査だけでは不十分と考えられる.その場合には隅角鏡による圧迫隅角検査や超音波生体顕微鏡による検査が必要と考えられる.アジア系人種においては1104あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012定することができるため,PACGに対して,LIの適応判定に役立つ.また,LI後にどの程度改善したか,そして追加治療の必要性を客観的に評価することができる.文献1)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20052)澤口昭一:[緑内障診療グレーゾーンを超えて]診断編6疫学調査と遺伝久米島スタディの意義と主要知見.臨眼63(増刊):189-193,20093)LeeKS,SungKR,KangSYetal:Residualanteriorchamberangleclosureinnarrow-angleeyesfollowinglaserperipheraliridotomy:anteriorsegmentopticalcoherencetomographyquantitativestudy.JpnJOphthalmol55:213-219,20114)AngGS,WellsAP:Factorsinfluencinglaserperipheraliridotomyoutcomesinwhiteeyes:ananteriorsegmentopticalcoherencetomographystudy.JGlaucoma20:577-583,2011(78)

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーによるAstigmatic Keratotomy

2012年8月31日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載147大橋裕一坪田一男147.フェムトセカンドレーザーによる宮田和典宮田眼科病院AstigmaticKeratotomyフェムトセカンドレーザー(FSL)によるastigmatickeratotomy(AK)は,用手的な乱視矯正角膜切開に比較して正確に角膜切開が行えるため,矯正精度の向上が期待できる.一方,切開における機序と形態が用手法と異なるため,ノモグラムを新しく作成することが必要である.FSLによる白内障手術との併用を含め,今後の展開に注目したい.白内障手術後に求められる視力は,多焦点眼内レンズ(IOL)や屈折矯正手術の普及により,術後裸眼視力1.0以上を目指す時代になりつつある.良好な裸眼視力を得るには,術後の屈折誤差と乱視が小さいことが必要となる.良好な裸眼視力を得るための乱視に求められる条件は,倒乱視で1.0D,直乱視で1.5D以内と考えられている.一方,白内障手術症例における乱視1.0D超の症例は約3分の1あり1),白内障術後に良い裸眼視力を得るためには乱視矯正が重要である.乱視矯正術は,エキシマレーザーによる屈折矯正手術と,角膜輪部を切開するlimbalrelaxingincision(LRI),astigmatickeratotomy(AK)に二分される.角膜切開による乱視矯正は,用手的のため高価な器具を要せず,ある程度の乱視低減が期待できるため,白内障術中,術後に行われることが多い.光学径6.7mmに用手的に切開するAKに比べて,LRIは,軸ずれが少なく,光学部を温存できるため,多焦点IOL挿入症例の乱視低減法としても用いられる.角膜切開による乱視矯正術は,角膜の強主経線方向に作製した切開により,角膜形状を平坦化し,乱視を低減する手術である.正確な切開(深さ,長さ,均一性など)と,角膜乱視の強主経線と切開位置とを一致させることが必要であるが,用手的であるために実現するのはむずかしい.また,個人差,年齢による角膜の物理特性のばらつきにより矯正効果は変動するなどの問題を有している.切開位置については,axisregistration法2)などの工夫で改善できるが,一般的に,矯正精度はあまり望めず,角膜乱視をある程度小さくすることを目指した手術といえる.最近,LASIK(laserinsitukeratomileusis)や角膜移植術において,フェムトセカンドレーザー(FSL)が使(75)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY用されている.フェムト秒のごく超短時間のパルスレーザーを集光し,photodisruptionにより角膜組織の切除を行う技術である.集光スポットを走査することで,任意形状の切開面を,正確に,少ないダメージで作製する.このFSLを角膜切開による乱視矯正術に応用すると,正確な乱視矯正が可能になると期待される.実際に角膜移植後の強度乱視眼にFSLによるAKを行った報告では,用手法に比べ,正確な切開深度と切開長が得られている3).白内障術後眼の乱視矯正に対しても,同様に有用と示唆される.そこで,FSLを使用した乱視矯正術を数例自験したので,知見した効果と問題点を紹介する.〔症例〕61歳,女性.両眼にIOL挿入後で右眼に高度な倒乱視(角膜乱視:3.75DAx36°)を有していたため,FSLによる乱視矯正を実施した.術前視力はVD=0.2×IOL(0.9×2.5D(cyl.4.5DAx130°)で,中心角膜厚(CCT)は535μmであった.角膜形状は図1に示す.手術は,用手的なLRIに準じて,8.5mm径,80°の一対の切開とした.切開深度は,用手法では浅くなり,FSLでは設定どおりとなる点を考慮し,用手法時の550μmより浅い350μmとした.角膜の強主経線に正確に切開するため,axisregistration法2)でマーキングを行い,IntraLaseiFSTM(AMO社)を用いて,エネルギー1.5μJ,スポット間隔2.0μmで切開を作製した.術後1カ月の角膜乱視は2.5DAx45°と低矯正であったが,視力はVD=0.7×IOL(1.0×1.0D(cyl.1.75DAx130°)と裸眼視力は良好に改善した.角膜形状のDifferenceMap(図2)では,術前の角膜乱視の強主経線方向に約2.6Dの円柱度数変化が確認された.術後の角膜形状をFourier解析すると,切開端に対応する位置に高次成分が増加していた(図3).これは,AK後の角あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121101 図1術前の角膜形状図2角膜形状のDifferenceMap膜にみられる特徴である4).使用したFSLは,LASIKフラップや角膜移植向けに設計されているため切開径は9.5mm以下である.白内障術後は高齢者が多く,日本人ではその角膜径と眼瞼が小さい.そのため,FSLのサクションリングを角膜中心に固定するのは容易ではない.また,9.0mmの切開径を確保するのはむずかしく,切開径は8.5mm以下となる.よって,術後の角膜形状解析でみられるように,自験症例は,従来のLRIよりAKに近い矯正になっていると考えられる.また,切開の精度だけでなく,用手的な切開とは異なる切除機序であることを考慮し,新しくノモグラムを作成することが必須である.FSLによるAKは,高価な機器を必要とするため,臨床使用には適するとは考えにくいが,FSLによる白1102あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012図3角膜形状のFourier解析内障手術が開発されている現在,白内障手術+乱視矯正への展開を期待したい.文献1)宅俊之,神谷和孝,天野理恵ほか:白内障手術前の角膜乱視.日眼会誌115:447-453,20112)MiyataK,MiyaiT,MinamiKetal:Limbalrelaxingincisionusingareferencepointandcornealtopographyforintraoperativeidentificationofthesteepestmeridian.JRefractSurg27:339-344,20113)NubileM,CarpinetoP,LanziniMetal:Femtosecondlaserarcuatekeratotomyforthecorrectionofhighastigmatismafterkeratoplasty.Ophthalmology116:10831092,20094)石井清,宮田和典:白内障術後の乱視矯正角膜切開術と角膜形状変化.臨眼47:1817-1822,1993(76)

眼内レンズ:眼内レンズ二次挿入後のループ脱出

2012年8月31日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎312.眼内レンズ二次挿入後のループ脱出薄木佳子兵庫県立加古川医療センター眼科超音波白内障手術が一般的になった近年,虹彩切除を併施した白内障手術後症例に遭遇することはまれである.今回,水晶体.外摘出術後に眼内レンズ二次挿入術を受け,その後眼内レンズが回旋偏位し,虹彩切除部からループが脱出して視力低下や眼圧上昇などの合併症を生じた2症例を経験したので紹介する.近年,眼内レンズについて偏位や脱臼などの位置異常が注目されている.今回,二次挿入され.外固定となっている眼内レンズが長期間を経て回旋偏位し,ループが虹彩切除部より前房に脱出し合併症を生じた2症例を経験した.●症例〔症例1〕75歳,男性.図1症例1の前眼部所見虹彩切除部からのループの脱出がみられる.図2症例2のOCT所見漿液性.離を伴った.胞様黄斑浮腫を認めた.1986年水晶体.外摘出術,2000年眼内レンズ二次挿入術を受け,2010年右眼視力障害を自覚し,虹彩切除部よりループの脱出を指摘された(図1).初診時視力VD=0.1(0.7×sph.3.0D(cyl.1.0DAx50°)で,眼底には右眼黄斑浮腫が認められた.治療として眼内レンズの回転整復を行ったが,ループはレンズフックにて容易に回転した.眼内レンズの整復後,黄斑浮腫は軽快した.〔症例2〕64歳,男性.約20年前水晶体.外摘出術,2000年眼内レンズ二次挿入術を受け,2011年左眼視力障害を自覚した.初診時視力VS=0.05(0.1×sph.2.0D(cyl.3.0DAx70°)で,左眼眼底に.胞様黄斑浮腫を認めた(図2).左眼角膜内皮細胞密度も1,361/mm2に減少していた.その後徐々に眼圧上昇をきたし30mmHgを超えるようになった.老人環に隠れて不明であったが,隅角鏡検査にてはじめて虹彩切除部からの眼内レンズループの脱出が明らかとなり(図3),.胞様黄斑浮腫や眼圧上昇の原因と判明し図3症例2の隅角鏡所見隅角鏡検査にてはじめて虹彩切除部からのループの脱出が明らかとなった.(73)あたらしい眼科Vol.29,No.8,201210990910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4症例2の蛍光眼底所見た.治療として眼内レンズの回転整復を行った.術後は速やかに眼圧・黄斑浮腫ともに軽快し,視力も改善した.●考察白内障手術の術式は現在一般的である超音波乳化吸引術が行われるまでは,古くは水晶体.内摘出術(intracapsularcataractextraction:ICCE)が施行され,その後,水晶体.外摘出術(extracapsularcataractextraction:ECCE)に発展移行した.ECCE施行当初は水晶体摘出のみが行われ,眼内レンズは挿入されず術後は眼鏡や連続装用ソフトコンタクトレンズによって視力矯正を行っていた.眼内レンズを挿入しない白内障手術(ICCE・ECCE)では瞳孔ブロックによる眼圧上昇を防ぐため,一般的に周辺虹彩切除を併施していた.眼内レンズの普及に伴い,水晶体.外摘出術のみを受けた無水晶体眼に対して眼内レンズの二次挿入が行われる症例もあった.眼内レンズの.外固定は.内固定に比べて明らかに偏位量が大きいが,特に二次的に眼内レンズを.外移植した場合,移植までの期間が長いと水晶体前.と後.が癒着肥厚してSoemmerring’sringが形成され眼内レンズを圧排し,さらに固定が悪くなることがあるといわれている.眼内レンズループが虹彩切除部より脱出することはまれであるが,合併症として,①虹彩刺激から持続性プロスタグランジン産生による.胞様黄斑浮腫の発症,②虹彩への機械的刺激による虹彩炎,ループの隅角圧迫,虹彩接触で散布した色素が線維柱帯に沈着するpigmentdispersionsyndromeなど種々の原因による眼圧上昇,③ループの角膜への直接接触による内皮障害,などが報告されている.本2症例に対しては,レンズフックを用いた眼内レンズの回転整復のみで合併症を治癒しえたが,虹彩癒着などがある場合は眼内レンズの摘出・縫着が必要な場合もある.まとめ患者の高齢化に伴い,水晶体.内・.外摘出術後や今回の2症例のような眼内レンズ二次挿入術後の症例に遭遇することも念頭に置き,晩期合併症に注意して診療を行うことが重要である.2012年4月作成

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 ハードコンタクトレンズのデザインについて考える(1)

2012年8月31日 金曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】338.ハードコンタクトレンズのデザイン植田喜一について考える(1)角膜の形状は単一な曲率ではなく,周辺部にいくにつれてしだいにフラットになっているため,ハードコンタクトレンズ(HCL)の周辺部にもゆるやかなカーブをもたせる必要があり,レンズによってそれぞれ特有の周辺部デザインが設計されている.HCLの内面はベースカーブ(BC),ブレンド,ベベルからなる.角膜全面からの浮き上がりをエッジリフトという(図1).このベベルの幅とエッジリフトの高さはHCLのセンタリング,動き,涙液交換,装用感などのフィッティングに関与するだけでなく,HCLのくもりにも影響を与える.患者が装用するHCLの断面を直接観察することはできないが,HCLを45°傾けてスリット光をあてると,ベベルの形状が誇張されてみえる.サンコンタクトレンベベルICエッジブレンドベースカーブフロントカーブフロントベベルエッジリフトPC図1HCLの周辺部デザインIC:intermediatecurve,PC:peripheralcurve.ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学ズ㈱のベベルアナライザーRを使用すると容易に観察することができる.図2に数種類のHCLのベベルアナライザーRによる写真を示すが,製品によって内面周辺部の形状が大きく異なっている.同じサイズやBCであっても,異なるメーカーのHCLあるいは同じメーカーでも異なるタイプのHCLを装用すると,フィッティングに違いがあることを経験するが,そのおもな原因としてエッジリフトこの内面周辺部デザインの違いが考えられる.レンズ素材,サイズ,BC,度数を同じにして,ベベベベル幅(mm)0.40.60.8(mm)0.1310.1610.191図3ベベル幅,エッジリフトの異なる9種類の周辺部デザイン図2周辺部デザインの比較(ベベルアナライザーRによる形状解析)メーカーによって,同一メーカーでもレンズによって周辺部の形状は大きく異なっている.メニコンアイストメニコンZニチコンEX-UVサンコンマイルドⅡ(71)あたらしい眼科Vol.29,No.8,201210970910-1810/12/\100/頁/JCOPY a:0.4mm(狭)b:0.6mm(適)c:0.8mm(広)図4ベベル幅の比較(矢印:ベベル幅)a:0.131mm(低)b:0.161mm(適)c:0.191mm(高)図5エッジリフトの比較ル幅とエッジリフトを変えた9種類のHCLのベベルアナライザーRによる写真を図3に示す.エッジリフトを一定にしてベベル幅を変えたHCLと,ベベル幅を一定にしてエッジリフトを変えたHCLを,同一眼に装用した状態を図4,5に示す.●ベベル幅がフィッティングに及ぼす影響ベベル幅が狭いとHCLの静止位置は中央に安定しやすいが,ベベル幅が広いとHCLは下方に安定しやすい.ベベル幅が狭いHCLの動きは少なく,ときに固着することがある.ベベル幅の広いHCLの動きは大きく,瞬目によって引き上げられたHCLは耳側に蛇行しながらゆっくり下方に向かって動く.ベベル幅の狭いHCLは涙液交換が少ない.ベベル幅の広いHCLはベベル下に十分な量の涙液がプールしており,しっかりと涙液交換が行われているように思えるが,必ずしも効率の良いものではない.●エッジリフトのフィッティングに及ぼす影響エッジリフトが低いとベベル下の陰圧は強くなるため,レンズの接着力は強くなり,動きが少なくなる.エッジリフトが低すぎるとエッジが角膜周辺部や球結膜に強く接着し,ときに固着することがある.逆に,エッジリフトが高すぎると,上眼瞼の影響を受けやすくなり,動きが大きく不安定になり,HCLははずれやすくなる.涙液交換に関しては,エッジリフトが低いとレンズ下の涙液流入・流出が起こりにくい.一方,エッジリフトが高すぎると涙液層が破壊してしまい,効率の良い涙液交換が得られなくなる.1098あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(72)