特集●眼科生体染色のアップデートあたらしい眼科29(12):1635.1638,2012特集●眼科生体染色のアップデートあたらしい眼科29(12):1635.1638,2012後眼部編眼科生体染色の安全性SafetyofViralDyesforVitreoretinalSurgery入山彩*はじめに硝子体手術において生体染色剤を用いることにより,元来手術中に視認が困難である組織の可視化が可能となった.そのため確実かつ安全な手術が実施されることとなり,多くの網膜硝子体疾患の治療成績の向上に寄与している.現在,硝子体手術時に使用されているおもな生体染色剤はインドシアニングリーン(ICG),ブリリアントブルーG(BBG)とトリパンブルー(TB)である.しかしながら,薬剤による網膜傷害が報告されており,安全に手術を行うためにはこれらの薬剤には特徴があることを理解して使用する必要がある.本稿では,筆者らが行ったICGおよびBBGの安全性の評価の検討を中心としてそれぞれの染色剤の特徴について紹介する.Iインドシアニングリーン(ICG)ICGは分子量774.96の緑色の親水性と疎水性の両方の性質を合わせ持つ両親媒性のtricarbocyanin系の染色剤で,もともと肝機能検査ならびにICG蛍光眼底検査のために静脈内投与で使用されていた薬剤である.2000年にKadonosonoらによって黄斑円孔の手術時の内境界膜の染色のための臨床応用が発表され,硝子体手術時の生体染色剤として広く普及した1).ICGは従来,生体にとって安全だと考えられており,硝子体内投与による安全性の評価としては組織学的検討や電気生理学的検討が行われており,いずれも網膜傷害をきたすことはないとされていた.しかしながら,一方でICGの使用によると考えられる網膜色素上皮萎縮や視野障害が散見されるようになり,安全性が議論されはじめた2).特に,硝子体手術後に近赤外光を用いた眼底観察によりICGの残存を観察した結果,観察硝子体内に投与されたICGは網膜に残存し,数カ月以上視神経に残存することがあると報告されるようになり,残存したICGによる網膜傷害が懸念されはじめた.実際に,ICGの細胞への接着を検討した筆者らの実験ではICGを臨床使用濃度でヒト網膜色素上皮細胞の細胞株(ARPE-19)に曝露すると15秒や30秒という非常に短時間の接触でも細胞に接着し細胞内に濃度依存的に取り込まれることが判明しており,細胞への接着性が高いことが示唆される3).また,摘出眼球を用いた実験ではICGの投与のみで内境界膜の.離が生じ形態学的異常が生じることが報告されている.このようなICGの組織傷害作用は,臨床使用しているICG溶液の浸透圧が低いことにも起因すると考えられている.また,網膜色素上皮細胞やMuller細胞に対する細胞傷害性はinvitroの実験でいくつかの検討がなされており,使用した細胞の種類や曝露方法で多少結果は異なるもののICGは網膜色素上皮細胞に細胞傷害性を示しうることが示されはじめた2).しかしながら,ICGが直接曝露される網膜神経節細胞(RGC)に対する効果はいまだに明らかではなかった.RGCに対する影響は通常の組織学的検討や,網膜電図(ERG)では検討が不可能で*AyaIriyama:東京都健康長寿医療センター眼科〔別刷請求先〕入山彩:〒173-0015東京都板橋区栄町35-2東京都健康長寿医療センター眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(45)1635生存RGC死亡RGC図1カルセインAMを用い染色したRGC細胞体がカルセインAMで染色され,軸索の長さが細胞体の2倍以上のものを生存RGCとして計測している.10.60.40.25000*Control0.25mg/l2.5mg/l図2bInvivoにおけるICGのRGCに与える影響0.25mg/lICG付加では有意なRGCの減少を認めなかったが,2.5mg/lICG付加で有意なRGCの減少を認めた.*p<0.05.(文献4より)100,および250mg/l濃度のICGを付加したところ濃度依存性に細胞傷害が認められ,IC50(50%の細胞を傷害する濃度)は4.2×10.5M(31mg/l)であった(図2a).また,invivoの検討においてラットを用い0.25および2.5mg/lのICGを硝子体注入し2週間後に蛍光色素DiIによる逆行性ラベル法を用いて,RGC数を計測したところ0.25mg/lICG付加では有意なRGCの減少を認めなかったが2.5mg/lICG付加で有意なRGCの減少を認(46)RGC数/mm22,0001,5001,0003,000細胞生存率(vscontrol)0.82,5000ICG濃度(mg/l)図2aInvitroにおけるICGの培養RGCに与える影響濃度依存性に細胞傷害が認められIC50は4.2×10.5M(31mg/l)であった.(文献4より)ある.このため,従来の検討方法ではRGCに対する影響が見過ごされてきた可能性がある.したがって,筆者らは,RGCに対する影響を実験的に検討した.まず,invitroの実験ではtwo-stepimmunopanning法でラットのRGCを取得し,さまざまな濃度のICGに15分および3日間,曝露しその後生存RGCを計測した(図1).15分の短時間のICG曝露ではRGCへの傷害を認めなかった.3日間培養ラットRGCに2,10,25,50,1636あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121101001,000めた(図2b).これらの結果より臨床使用濃度よりも低い濃度でRGC細胞傷害が生じる可能性が示唆された4).したがって,臨床上もICGが硝子体術後に長期に残存すると神経節細胞に傷害をきたす可能性があると考えられる.筆者らの行った検討ではICGが短波長の光線を吸収し光感受性物質として作用する可能性は低いと考えられたが,残存するICGに対する光傷害についても注意する必要があると指摘されている.したがって,ICGの使用にあたってはそのメリットとリスクについて勘案し,臨床使用にあたってはなるべく低い濃度で,さらに網膜に接触する時間をなるべく短くして用いるのが好ましい.IIブリリアントブルーG(BBG)BBGは蛋白質の染色や定量分析に用いられる水溶性の染色剤である.2006年にEnaidaらによって初めて黄斑円孔の手術時の内境界膜の染色のために応用され研究の結果(IC50=31mg/l)と比較するとinvitroの実験ではBBGはICGよりも細胞傷害性が弱いことが判明した.さらに,invivoの実験で,ラットを用い0.25および2.5mg/lのBBGおよび2.5mg/lのICGを硝子体注入し2週間後にDiIによる逆行性ラベル法を用いてRGC数を調べたところ,0.25および2.5mg/lのBBG投与群では有意なRGCの減少を認めなかったが2.5mg/lICG付加で有意なRGCの減少を認めた(図3b).BBGにおいて臨床に用いる濃度では有意な細胞傷害は観察されずICGと比べて細胞傷害性が低いことが示唆された8).また,ICGと異なって水溶性であるために細胞への接着性は弱いことが予想される.実際に筆者らが網膜色素上皮細胞を用いて行った検討では短時間の接触では細胞内に取り込まれることはなかった.したがって,120100細胞生存率(%)(vscontrol)た5).臨床的には最終濃度0.25mg/ml(ICGの1/10の濃度)で使用されている.BBG製剤はEU(EuropeanUnion)では手術器機としての認可をうけて実際に使用806040200されている.臨床使用前のEnaidaらのinvivoの実験1101001,000では,高濃度では網膜の内層の細胞に空胞化を認めるとBBG濃度(mg/l)しているが,アポトーシスは認めず,また,電気生理学図3aInvitroにおけるBBGの培養RGCに対する影響濃度依存性に細胞傷害が認められIC50は266mg/lであった.的検査でも異常は認めず,網膜毒性は低いとされている6).網膜色素上皮細胞に対する影響もinvitroで検討(文献4より)されており,直接BBGを網膜色素上皮細胞に曝露して*も形態学的な異常は認めず,網膜色素上皮のバリア機能3,000に対する影響は低く可逆性であるとされている7).しかControl0.25mg/l2.5mg/lRGC数/mm22,000ICGしながら,BBGのRGCに対する影響は詳細には検討されていなかった.筆者らは,ICGと同様にBBGが最も高濃度で接触す1,000ると考えられRGCに対する影響を検討した.まず,invitroにおいてラットRGCを0.25mg/mlのBBGに曝0露し15分間眼内照明を用いて光線照射を行い,その後生存RGC数を計測したところ細胞傷害を認めなかった.しかしながら,3日間培養ラットRGCに2.5,10,25,50,100,および250mg/l濃度のICGを付加したところ濃度依存性に細胞傷害が認められIC50は266mg/lであった(図3a).前述のICGのRGCに対する影響を調べた(47)図3bInvivoにおけるBBGおよびICGのRGCに与える影響0.25および2.5mg/lのBBG投与群では有意なRGCの減少を認めなかったが,2.5mg/lICG付加で有意なRGCの減少を認めた.*p<0.05.あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121637ICGと違って一旦細胞に接触してもすぐに細胞に取り込まれることは少なく,実際の硝子体術中にも十分洗浄を行うことで残存するBBGの量を少なくすることができると考えられる.これらの実験結果から,BBGはICGよりより網膜傷害をきたす可能性は少ないと考えられ,比較的安全に使用できると考えられる.しかしながら,内境界膜を染色した際にBBGはICGと比べて染色していない網膜とのコントラストが認識しづらいとの報告もある9).ICGとBBGはともに内境界膜の染色性が良好であり,染色性は類似している.しかし,疾患や眼底の状態により,染色された内境界膜の色の違いで視認性に差が生じる場合があるため,適宜術者の判断により使用することが望ましい.IIIトリパンブルー(TB)TBは深青色の色素であり,蛋白質に強く結合する.死細胞は細胞膜死の透過性が高いため,TBにより染色されるという特性をもつことより,死細胞のカウントなどに使用されている.眼科領域では広く使われており,白内障手術時に前.染色などにも用いられている.内境界膜の染色剤として使用する頻度が高くないため網膜細胞傷害性などを検討した研究は少ないが,いくつかの臨床研究ではTBを用いて内境界膜の染色を行ったところ,視野欠損などの明らかな副作用は認めず,またICG使用時と比較して術後視力予後が良好であると報告されており,実験的には神経節細胞および網膜色素上皮細胞に対してTBは細胞傷害性がICGより弱いと報告されている10).文献1)KadonosonoK,ItohN,UchioEetal:Stainingofinternallimitingmembraneinmacularholesurgery.ArchOphthalmol118:1116-1182,20002)Stanescu-SegallD,JacksonTL:Vitalstainingwithindocyaninegreen:areviewoftheclinicalandexperimentalstudiesrelatingtosafety.Eye23:504-518,20093)HirasawaH,YanagiY,TamakiYetal:Indocyaninegreenandtrypanblue:intracellularuptakeandextracellularbindingbyhumanretinalpigmentepithelialcells.Retina27:375-378,20074)IriyamaA,UchidaS,YanagiYetal:Effectsofindocyaninegreenonretinalganglioncells.InvestOphthalmolVisSci45:943-947,20045)EnaidaH,HisatomiT,HataYetal:BrilliantblueGselectivelystainstheinternallimitingmembrane/brilliantblueG-assistedmembranespeeling.Retina26:631-636,20066)EnaidaH,HisatomiT,GotoYetal:PreclinicalinvestigationofinternallimitingmembranestainingandpeelingusingintravitrealbrilliantblueG.Retina26:623-630,20067)UenoA,HisatomiT,EnaidaHetal:BiocompatibilityofbrilliantblueGinaratmodelofsubretinalinjection.Retina27:499-504,20078)IriyamaA,KadonosonoK,TamakiYetal:EffectsofBrilliantBlueGontheretinalganglioncellsofrats.Retina32:613-616,20129)HenrichPB,PriglingerSG,HaritoglouCetal:QuantificationofcontrastrecognizabilityduringbrilliantblueG-andindocyaninegreen-assistedchromovitrectomy.InvestOphthalmolVisSci52:4345-4349,201110)JinY,UchidaS,YanagiYetal:Neurotoxiceffectsoftrypanblueonratretinalganglioncells.ExpEyeRes81:395-400,20051638あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(48)