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写真:角膜上皮内癌

2012年8月31日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦339.角膜上皮内癌細谷友雅兵庫医科大学眼科学①②③図2図1のシェーマ①:染色性の異なる異常上皮.②:正常角膜上皮.③:瞼縁.図1初診時の左眼前眼部フルオレセイン染色写真(84歳,女性)角膜外上方2/3の範囲にフルオレセイン染色性の異なる異常上皮を認める.PalisadesofVogt(POV)は明瞭でなく,輪部に隆起性病変は認めない.図3図1の生体共焦点顕微鏡写真(HeidelbergRetina図41%5.フルオロウラシル点眼治療2週間後の前眼部フルオレTomographII-RostockCorneaModuleR)セイン染色写真輝度の高い異型上皮細胞が観察される.核の大小不同広範囲の角膜上皮欠損を認める.感染巣は認めない.が目立つ.(表層から12μm)(69)あたらしい眼科Vol.29,No.8,201210950910-1810/12/\100/頁/JCOPY 角結膜に生じる上皮性の腫瘍は,基底膜が保たれたconjunctivalandcornealintraepithelialneoplasia(CIN)と,基底膜を越えて腫瘍が増大した扁平上皮癌(invasivesquamouscellcarcinoma;SCC)に分類される1).いずれも眼裂部,特に角膜輪部に好発し,角膜表層に侵入し,視力低下,慢性の不快感などの症状を示すこともある.発症要因には紫外線,炎症,ヒトパピローマウイルス(HPV)16型と18型の関与などが指摘されている.治療法として腫瘍切除,冷凍凝固,放射線治療のほか5-フルオロウラシル(5-FU),マイトマイシンC(MMC)などの代謝拮抗薬の点眼が有効である2,3).5-FU点眼が有効であった再発性角膜上皮内癌の症例を紹介する.〔症例〕84歳,女性.主訴:左眼視力低下.現病歴:平成13年,左眼視力低下を自覚し前医受診.角膜上皮下に淡い混濁を伴った異常上皮を認めたため,角膜表層切除術を施行され,病理検査にてCINと診断された.以降,平成16,17,21年に再発し,計4回の角膜表層切除術を受けた.平成23年9月兵庫医科大学病院眼科を受診した.全身疾患:特記すべき異常なし.初診時所見:左眼視力は0.2(0.5)で,角膜外上方2/3の範囲に淡い上皮下混濁を伴うフルオレセイン染色性の異なる異常上皮を認めた(図1).PalisadesofVogt(POV)は明瞭でなかった.輪部に隆起性病変はなく,眼球結膜には異常を認めず,耳前リンパ節は触知しなかった.生体共焦点顕微鏡(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModuleR)では,輝度の高い異型上皮細胞が観察された(図3).最表層では核の大小不同が目立ったが,基底細胞は正常に近かった.経過:CINの再発と考え,5回目の切除術は輪部機能不全から術後の上皮化が困難となることも予測されたため,院内調整1%5-FU点眼1日3回による治療を開始した.点眼開始2週間後に眼痛を訴え,広範囲の角膜上皮欠損を認めた(図4).感染巣は認めなかった.5-FU点眼を中止し,ガチフロキサシン点眼1日3回のみとしたところ,5-FU点眼中止2週間後には上皮化が完了し,さらに点眼中止6週間後には角膜上皮は平滑透明となり,異常上皮を認めなくなった.白内障のため,視力は0.2(0.4)であった.腫瘍細胞が基底膜を越え,扁平上皮癌の状態まで進行した場合の治療は完全切除が基本であるが,上皮内癌にとどまっている場合は初回より代謝拮抗薬点眼による治療を行うこともある.これら代謝拮抗薬点眼の使用方法に確立されたプロトコールはない.当院では1%5-FU点眼1日3回,2週間継続を1クールとし,間に2.4週間の点眼中止期間をおき,1.3クール施行する方法を基本としている.5-FUは正常上皮の増殖も抑制するため,本症例のように突然の角膜上皮欠損を生じ,眼痛を訴えることがある.この場合,5-FUの投与を中止すると回復する.一方,MMC点眼は晩発性に強膜融解のリスクがあり,慎重に使用しなければならない.生体共焦点顕微鏡は,細隙灯顕微鏡では把握できない細胞レベルでの観察を非侵襲的に行うことができる.上皮内癌の症例では核の大小不同や癌真珠様所見が観察される3).厚みの薄い腫瘍はセンタリングをずらすことで断層像を観察することも可能であり,基底膜を越えての浸潤があるか否かを推察することもできる.確定診断は切除標本による病理診断を待たねばならないが,侵襲の少ない生体共焦点顕微鏡検査はCINの補助診断として有用である.文献1)細谷友雅,外園千恵:【角膜疾患Q&A】臨床編眼表面の腫瘍性疾患の診断と治療のポイントを教えてください.あたらしい眼科23(臨増):68-70,20072)辻英貴:眼表面悪性腫瘍に対する局所化学療法.あたらしい眼科28:1371-1376,20113)近間泰一郎:生体共焦点顕微鏡検査.日本の眼科82:908914,20111096あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(00)

総説:緑内障と超音波検査

2012年8月31日 金曜日

あたらしい眼科29(8):1075.1094,2012c総説第22回日本緑内障学会須田記念講演緑内障と超音波検査GlaucomaandUltrasonography宇治幸隆*はじめに須田記念講演のテーマを決めるにあたり,今日まで筆者と共同研究者が緑内障診療の発展にどのように関われたか,どのような貢献ができたかを検討した.その結果,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)や超音波カラードプラ(colorDopplerimaging:CDI)などの超音波診断が急速に発展する時期に,超音波検査を積極的に緑内障診療に導入してきたことに気づき,このテーマについてまとめた.わが国では,1970年代から太根節直先生が前房隅角の定量計測をはじめさまざまな超音波診断の研究を進められ,また,UBMが登場して間がない1995年に澤田惇先生が,そして2006年に近藤武久先生が須田記念講演のなかで超音波診断に触れておられ,今回,講演内容をまとめるにあたり,諸先生の業績は大いに参考となった.I緑内障診療への超音波検査の関与図1は,緑内障の本態である網膜神経節細胞のapoptosisを起こす原因として高眼圧,虚血,遺伝,免疫などが考えられるが,それらに対する現状の検査,治療の関与を示している.緑内障診断のなかでも隅角検査は緑内障の病型を決め,治療方針を立てるうえできわめて重要であるが,それに関して超音波検査はUBMの登場以来,隅角観察の強力な補助となってきた.一方,緑内障図1緑内障診療の発展にどのように関われたか超音波検査UBMによる精度の高い隅角検査,球後血流検査CDIによる点眼薬の効果測定と,それら薬物の摘出灌流眼球における眼灌流量と電気生理学的反応への影響の研究などが,緑内障の本態である視神経障害を阻止するための診療にどのように関わるかを考察.NOapoptosis①②(UBM)CDIERG*YukitakaUji:東京医療センター感覚器センター/三重大学〔別刷請求先〕宇治幸隆:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1東京医療センター感覚器センター0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(49)1075 の原因の一つと考えられる慢性的な虚血に関しては,CDIによる眼血流測定が,さらには治療薬の眼血流への効果検証に有用な検査法として貢献してきた.筆者は緑内障治療薬の視神経保護効果の観点から,ネコ摘出灌流眼球を用いた実験系で緑内障治療点眼薬の眼灌流量への効果と電気生理学的な検討を行い,CDIの結果と対比させた.緑内障眼の超音波検査による隅角や眼血流の研究については,他の多くの施設からも優れた報告があり,それらを凌駕する内容を得られなかったが,筆者らは超音波検査技術や画像解析の質を向上させることに貢献できたのではないかと思う.II眼科超音波検査超音波の医学的利用は1950年代から始まり,2MHz以上の周波数が使われ,眼科では5.20MHzが一般的である.超音波には動的利用と通信利用があり,前者はエネルギーとして治療に応用されるが,検査に使われる超音波は通信利用と同じ出力をもつものでなければならず,Aslowasreasonablyachievable(ALARA)の精神に則り,最大出力係数を小さくして熱的および力学的バイオエフェクトを抑制することが重要である.そうでなければ繰り返し人体の検査に使うことができない.前眼部用のUBM機器は出力係数が0.4以下に低く抑えられているが,CDIに使われる機器は眼球以外の臓器を対象としたプローブを使うので,画面の出力係数が1.0を超える機種は避けるべきであり,さらに照射時間をできるかぎり短縮することが必要である.超音波検査の特徴については,以下のようなものがあげられる.1)断面像を得ることができる,2)観察光によって修飾を受けない(暗所における観察可能),3)角膜や中間透光体の異常や,解剖学的な理由で透見できない部分の観察が可能である,4)動的な変化も記録できる,5)無侵襲で繰り返し検査できる,である.上記の3)については,病的な状態として角膜混濁,白内障,硝子体出血混濁などがあげられ,解剖学的に眼窩,球後,視神経内,強膜内,虹彩内部,毛様体内部,脈絡膜内部などが観察困難な部位である.図2にその有用性が如実に示されたUBM画像の典型を示すが,このように,「断面像」と「暗所における観察」は超音波検査の大きな特徴である.光によって変化する虹彩と隅角を有する眼球においては,暗所の断面像は緑内障診療にきわめて有用な情報である.1076あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012図2UBM像相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩のUBM像.明所から暗所へのUBM像の変化.III超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)かつてBarkanは,Koeppeレンズを用いて高倍率の詳細な隅角観察を行い,緑内障を隅角所見から2型に分類したが,彼の論文のなかで図3のような三次元的な隅角図を発表している1).このように隅角を断面的に捉えようとした最初の報告ではないかと思う.この流れがその後の虹彩と角膜のなす角度で隅角の広狭を分類したShaffer分類2)や,周辺虹彩の形状や虹彩根部の付着部を詳細に分類したSpaethの分類3)に受け継がれることになる.Spaethの分類はShafferの分類に比べて眼科医に浸透していないが,前眼部隅角を断面像として捉えたいという思いがUBMに発展したのではなかろうか4).そして,1990年UBMがPavlinら5,6)によって発表され,かつてBarkanが想像して描いた前眼部の高解像度断面像が得られるようになった.1.UBM画像計測前房隅角を二次元的に断面として描出できることは,計測が行いやすく,隅角の広狭の判断に有用である.最初Pavlinら6,7)がscleralspurを基準点にした隅角計測法を報告したが,隅角の広狭を表す指標angleopeningdistance(AOD)250,その後AOD500とtrabecular(50) UBM図3UBM像とBarkanの論文における隅角図(右図は文献1から許可を得て転載)Schwalbe’slineScleralspurARA750μm図4UBM像における新しい隅角計測法Scleralspurから750μm離れた角膜内面の点を求める.その点とscleralspurとを結ぶ直線に垂直な線を虹彩に向かって下す.この線と角膜内面,隅角底,虹彩表面によって作られる面積をanglerecessarea(ARA)とした.(文献8から許可を得て転載)irisangle(q1)が広く採用されるところとなった.しかし,Ishikawaら8)が虹彩が膨隆して隅角底が狭い症例でも,隅角底から離れたAOD500が同じであることを指摘し,その矛盾を改良する目的で,scleralspurから750μm離れた角膜内面の点を求め,その点とscleralspurを結ぶ直線に垂直な線を虹彩に向かって下し,この線と角膜内面,隅角底,虹彩表面によって作られる面積(anglerecessarea:ARA)を指標にすることを提案した(図4).そして,このARAを使えば,複数のパラメータを使わずとも,隅角の広狭を表現できることを証明した.またscleralspurを基準点とすることで,自動的にARAやAODが算出される解析ソフトUBMpro2000も考案した.その後このソフトは他のUBM機器や,最近では前眼部光干渉断層計(OCT)の画像解析にも採用され,ARAを指標とした解析結果が報告されるようになっている9).2.日本人正常眼の隅角計測筆者らはARAの応用として,眼科的異常を有さない日本人65例(男性30例,女性35例)のUBM像の解析を行った10).今までさまざまな年齢層の隅角の解析結果は報告されてきたが,本研究のように正常人を対象としたUBMによる解析は少ない.まず年齢層を若年(20.39歳),中年(40.59歳),高年(60歳以上)の3群に分け,隅角の加齢による変化をARAを指標に検討した.他の全身的因子や眼球計測値との相関も検討した.その結果ARAは前房深度,眼軸長,年齢,身長,屈折値と正または負の相関があることがわかった(表1).さらに4象限ごとのARAを計測し,加齢との変化を検討した.上側,下側,鼻側,耳側とも年齢が高くなるにつれARAが減少するが,特に,若年から中年になる段階で有意にARAが狭くなることが判明した.特に上側隅角は高年で他の象限よりもさらに狭くなる傾向がわかった(図5).このことは閉塞隅角緑内障では周辺虹彩前癒着が上側から生じるという報告11)や,狭隅角眼の上側(51)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121077 表1ARAと他のパラメータとの関係(Pairwiseanalysis)パラメータ相関係数p値前房深度0.68<0.001眼軸長0.58<0.001年齢.0.49<0.001身長0.370.003屈折異常.0.360.003性別.0.230.06水晶体厚.0.230.07体重0.210.09(文献10から許可を得て転載のうえ改変)隅角が有意に狭いというその後のKunimatsuら12)の報告とも相応すると思われる.そして,現在の日本社会の生活環境,日本人の身長や屈折値の動向から考えて,将来は高年者の隅角は現在よりは広く保たれ,日本人の閉塞隅角緑内障は減少するのではないかと推測された.3.体位による隅角変化のUBMによる解析狭隅角眼において,腹臥位による水晶体の前方移動によって誘発される瞳孔ブロックが,眼圧上昇メカニズムとの観点から,従来から多くの研究が続けられてきたが,腹臥位での前眼部の観察は困難なことから結果は統一されたものではなかった.しかし,UBMの登場とプローブの工夫により,体位変換による前房隅角全般の変化を捉えることができるようになった13).筆者らは,Zinn小帯の脆弱性から水晶体偏位が生じやすい落屑症候群において,腹臥位の及ぼす影響を検討した.表2に示すように,仰臥位から腹臥位への体位変換によって,前房深度と耳側および上側のARA,AOD500の有意の変化がみられた14).これは,耳側と上側から落屑物質に*0.400.350.300.250.200.150.100.050.00図5年齢で3群に分けられたグループの4象限ごとのARAの相違I(20.39歳),II(40.59歳),III(60歳以上).*p<0.01,#p<0.05,エラーバー=標準偏差,▲:上側象限,▼:下側象限,●:鼻側象限,◆:耳側象限.(文献10から許可を得て転載のうえ改変)よる変化が生じやすいという報告と一致した15,16).4.圧迫隅角UBMUBMの特徴は,超音波検査の特徴として既述したものと同じであるが,なかでも1)暗所での検査ができること,2)高解像度隅角断面像が得られることは,房水の流出部位の診断に重要である.ただ隅角鏡検査で重要な診断法である圧迫隅角検査がUBMでできない欠点があった.そこで,アイカップに角膜を圧迫する圧迫部を付けて,観察したい隅角の対側の角膜を圧迫部で押すことで圧迫隅角UBM検査が可能になった.同様のことは,ARA(mm2)年齢層ⅠⅡⅢ*****###表2体位変換によるUBM像の隅角変化仰臥位腹臥位p値変化量変化率(%)ACD(mm)2.91±0.342.84±0.35<0.00010.07±0.032.6±1.1上側0.18±0.090.14±0.070.0270.04±0.0519.0±27.4ARA下側0.19±0.090.16±0.080.080.02±0.0410.5±23.5(mm2)耳側0.23±0.080.17±0.07<0.00010.06±0.0226.6±8.9鼻側0.20±0.080.17±0.070.080.02±0.046.1±24.6上側0.25±0.110.21±0.100.0430.04±0.0615.4±25.9AOD500下側0.26±0.120.23±0.110.20.03±0.075.7±33.7(mm)耳側0.34±0.120.24±0.09<0.00010.10±0.0628.7±13.7鼻側0.30±0.120.26±0.090.110.04±0.070.40±37.5平均値±標準偏差.ACD:anteriorchamberdepth,AOD500:angleopeningdistance500,ARA:anglerecessarea.(文献14から許可を得て転載)1078あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(52) 5mm17mm30mm5mm17mm30mm12mm22mm29mmA12mm16mm27mm9mmBC通常のアイカップ小型のアイカップ圧迫部付きアイカップ図6通常のアイカップ,小型のアイカップ,圧迫部付きアイカップによる圧迫隅角UBM像Cの写真中,黒矢印は隅角閉塞を,白矢印は虹彩の形状を示す.C:角膜,CB:毛様体,S:強膜.(文献17から許可を得て転載)圧迫前圧迫中小型のアイカップを用いても可能であるが,圧迫部付きアイカップのほうが,有意に隅角を開大させることができた(図6)17).図7にrelativepupillaryblock(RPB),peripheralRPBanteriorsynechia(PAS),plateauirisconfiguration(PIC)の圧迫隅角UBM像を示す.多数例での圧迫隅角UBM像におけるAOD500とARAの変化を表3に示す18).圧迫前は3グループ間に差はないが,圧迫後ではすべてのグループで隅角は有意に開大する.しかし,RPBは他2グループに比べその変化は有意に大きいことがわかる.PASにおいては隅角癒着のために変化はPAS少ないが,癒着のないPICにおいてもdoublehumpsignとよばれる虹彩形状を反映してPAS同様大きな変化がみられないことが示されたことは興味深い.PIC図7Relativepupillaryblock(RPB),peripheralanteriorsynechia(PAS),plateauirisconfiguration(PIC)の圧迫前後の隅角UBM像(53)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121079 表3Relativepupillaryblock(RPB),peripheralanteriorsynechia(PAS),plateauirisconfiguration(PIC)の圧迫前後のUBM像における平均angleopeningdistance500(AOD500)と平均anglerecessarea(ARA)の変化圧迫前と圧迫中の平均AOD500(mm)圧迫前圧迫中p値*AOD500変化量RPB(mean±SD)0.04±0.05†0.35±0.18<0.0010.31±0.16‡PAS(mean±SD)0.02±0.04†0.12±0.130.00050.11±0.12‡PIC(mean±SD)0.04±0.05†0.16±0.11<0.00010.12±0.10†圧迫前と圧迫中の平均ARA(mm2)圧迫前圧迫中p値*ARA変化量RPB(mean±SD)0.03±0.03†0.21±0.11<0.0010.18±0.10‡PAS(mean±SD)0.02±0.02†0.07±0.060.00030.06±0.06‡PIC(mean±SD)0.03±0.03†0.12±0.10<0.00010.09±0.10†*Pairedt-test:beforevs.withindentaion,†Mann-Whitneytest:p>0.05,‡Mann-Whitneytest:p<0.01.(文献18から許可を得て転載のうえ改変)PMMAMirrorHalfmirrorIndexPMMAⅠⅡⅢ図8インデックス付きゴニオレンズ隅角鏡の内部にハーフミラーとインデックスを内蔵.15°角でスリット光を入射した場合の線維柱帯表面と根部付近虹彩面とのなす角度10°(I),20°(II),45°(III)別に描いたインデックス.(文献20から許可を得て転載)5.UBM画像計測による隅角鏡所見の検証緑内障診療における隅角観察は基本的には隅角鏡によるものであるので,日ごろから隅角鏡検査に習熟することは重要である.ただ,得られた隅角鏡所見の正確さを検証することは必要であり,どのようなベテランにも常に要求される.以前,vanHerick法で2°以下の狭隅角を隅角鏡検査に習熟した眼科医によるShaffer分類と,UBMのAOD500とARA計測結果を比較したことがある.その結果はShaffer分類1と2に分類された隅角で,上側と鼻側でUBM計測値において有意な差が検出されたが,他の部位は熟練した眼科医でも明瞭な分類が困難なことを示す結果であった19).おそらく対象にShaffer分類1と2の境界のような隅角が含まれていて,明瞭な差が出なかった可能性があるが,狭隅角で角度10°以下かそれより広くて20°以下かの判定がいかにむずかしいかが示された.筆者らは隅角鏡の内部に種々のインデックスを内蔵させ,それをハーフミラーで隅角に投影して計測を行うインデックス付きゴニオレンズを開発している20)が,ゴニオレンズの一つに,15°角でスリット光を入射した場合の線維柱帯表面と虹彩面とのなす角度が10°(I),20°(II),45°(III)のときのスリット光の状態を示したインデックス内蔵がある(図8).それを使って,同一眼でインデックス付き隅角鏡による隅角広狭の判定とUBM測定値の関係を検討した.その結果,細隙灯顕微鏡ではスリット光が横方向からの入射のみなので隅角上側と下側の観察に限られるが,表4に示すように,Shaffer分類1080あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(54) 表4インデックス付きゴニオレンズによる隅角広狭の判定とUBM測定値の関係象限ゴンオレンズによる分類ARA(mm2)AOD500(mm)上側1以下0.02±0.03*0.03±0.06*上側20.08±0.040.11±0.06下側1以下0.05±0.03*0.08±0.05*下側20.08±0.040.12±0.04*:p<0.01unpairedt-test.がUBM計測結果で有意な差として検証された.インデックス内蔵隅角鏡を使えば,隅角の狭さの分類が行いやすいことを示す結果である.6.暗所における隅角観察の必要性ArchivesOphthalmologyに掲載されたPambeg21)のeditorialcommentをはじめ,狭隅角を見逃す理由について種々指摘されているが,なかでも暗所で検査せずに,瞳孔にスリット光を入れないように注意しないのが問題と指摘されている.たとえば,Barkanaら22)は暗所での隅角鏡検査では94%のappositionalangleclosureは明所では56%の診断率に低下することを,佐久間ら23)は暗所でのUBM検査が機能的隅角閉塞の診断に必要であることを,そしてIshikawaら8)も明所でのUBMで開放隅角と判断されたものが,暗所では55.6%がiridotrabecularappositionであったと報告している.すなわち,隅角鏡で隅角の広狭を判断するには,瞳孔にスリット光を入れないように,暗所で行うことが必要でUBM隅角鏡明所暗所白色光赤色光図9白色光と赤外光による隅角鏡所見の比較上段に明所,暗所のUBM像を,下段に暗所で白色光と赤外光による隅角鏡所見を示す.(文献24から許可を得て転載)ある.そこで,暗所で,スリット光に赤外光を使った隅角観察を行い,それを赤外線撮影用カメラで隅角を捉える方法を考案した24).完全な暗所下の隅角鏡検査である.この方法により図9のように暗所下の赤外光観察と同一眼のUBM像を比較することは,隅角所見の理解に大きな助けとなる.また以前,白色LED(発光ダイオード)を内蔵させた隅角鏡を開発したが,これを赤外LEDにすることによって,さらに簡単に赤外光隅角鏡検査ができることがわかり,実用化をめざしている.つぎに,赤外光隅角鏡検査の有用性を検討した.vanHerick法で2°以下浅前房症例5例10眼において,明所と,暗所で1mm以下にスリット光源を絞って瞳孔に光表5浅前房眼の隅角鏡検査における照明条件による相違明所1mm光源下暗所完全な暗所上側下側鼻側耳側上側下側鼻側耳側上側下側鼻側耳側症例1R++++.+……L++++.++…..症例2R.++..++…..L.++..++…..症例3R…………L…………症例4R.+……….L++.+……..症例5R.++..+……L.+……….明所,暗所で1mm以下のスリット光源使用,完全な暗所(赤外光スリットランプ)を使用したときのtrabecularmeshworkの観察状態.+:Trabecularmeshworkが観察できる..:Trabecularmeshworkが観察できない.(55)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121081 表6UD.6010とModel840のシステムの比較UD-6010Model840(トーメー)(Zeiss-Humphrey)振動子周波数40MHz50MHz走査方式電磁式・リニアスキャンメカニカル・リニアスキャン観察範囲幅9mm×深さ6mm幅5mm×深さ5mm表示分解能50×50μm50×50μmフレームレート10枚/秒8枚/秒プローブ保護キャップ+─アイカップの大きさ>定量解析ソフト標準装備画像保存コンパクトメモリーフラッシュを入れないように観察した場合と,完全な暗所で赤外光スリットランプを使った方法の比較を行った.表5に示すように,Scheie分類grade3以上に相当するtrabecularmeshworkが観察できない部位は,明所で21/40箇所(53%),暗所下1mm幅スリット光で32/40箇所(80%),完全な暗所で40/40箇所(100%)となった.しかも1mmスリット光では隅角の観察は困難であるが,赤外光では広い範囲の隅角を見ることができることも再確認された.以上の結果から,機能的隅角閉塞の診断率向上に,赤外光スリットランプシステムが有用であることが示された.また,これらの研究を進めるうえで,UBM像が大きな助けになると思われた.7.国産UBMUBM検査は日本でも広く採用され,緑内障診療にいわゆる一つの革命をもたらしたと思う.しかし,UBM検査に大きな転機が訪れた.一つはHumphrey社の市場撤退とParadigm社への技術移転がなされたことで,日本でUBM機器が手に入りにくくなった.もう一つは前眼部OCTの登場である.そこで,国産でModel840と同等のUBM機器が必要になった.筆者らはトーメー社が新しいUBM機器を製作する機会に参画でき,期待に沿うUD-6010が誕生した.もう一つのOCTの登場については,非接触のOCTは術後の観察に適し,高解像度など多くの優れた点をもつ25)が,現時点では圧迫隅角OCTや伏臥位OCTはなく,UBMのように毛様体は完全に描出できず,UBMの価値が下がったとは思われない.国産UBM機器は眼球後部の観察が主であった従来からあるUD-1000に前眼部用に高周波数のUD-6010を1082あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(文献26から許可を得て転載のうえ改変)装備したものである.表6にModel840との比較を示す26).特徴はアイカップは大きいがプローブは保護キャップで包まれ安全性が増したこと,コンパクトメモリーフラッシュによる画像保存であること,そして幅9mm×深さ6mmの広い画像が得られ,図10のように瞳孔縁から毛様体まで一度に観察できる点である.さらに最近,60MHzの高周波UBMプローブUD-8060が市場に出たが,これはアイカップ不要でプローブ先端が柔らかい保護キャップで覆われているので,どのような体位でも検査ができることから,伏臥位UBMの研究の進展を期待したい.今後はUD-6010による結果が蓄積することになるが,従来からModel840で得られたデータも膨大で貴重であり,両者による画像の計測値の関係を検討した.同一眼,同一条件でAOD250,AOD500,ARAを比較したとUD-6010Model840明所暗所図10UBMプローブUD.6010によるUBM像と,Model840によるUBM像(56) ころ,AOD500はほぼ同等であるが,AOD250とARAはUD-6010のほうがModel840より小さい傾向がみられた.特に狭隅角眼でその傾向がみられることから,隅角底付近の画像の違いが関係していると考えられた.隅角底から離れた箇所の垂直の計測であるAOD500で差が出ないことの説明になるかもしれない.この結果から,経時的な変化をみるには同一機器で解析をしたほうがよいと思われた.8.毛様体観察の有用性UBMの特徴の一つに毛様体観察に適していることがある.通常では透見できない部分が観察できるという超音波の特徴が発揮できる領域である.たとえば,原田病をはじめ毛様体脈絡膜に異常をきたす疾患において,UBMによる毛様体.離の観察が治療経過を判断する有力な所見となることが報告されている27).緑内障濾過手術後の低眼圧と脈絡膜.離は知られている所見であるが,筆者らは眼底鏡で明瞭な脈絡膜.離が観察されない症例においても,そのような所見が認められるかをUBMで観察した.図11は濾過手術後の毛様体のUBMでの経過観察である.トラベクレクトミー術後濾過胞が形成され,術前にはなかったsupraciliochoroidalfluid(SCF)が観察されるが,術後16日目には消失したことを示している.そして術後,眼底検査で脈絡膜.離を観察できないが,UBMでSCFが40%にみられることを報告した28).SCFは1象限から全周に及ぶものもあり,SCFが観察される間は低眼圧で,消失すると眼圧が上昇し,消失する時期は4週間以内が多かった.また,濾過胞がなくても眼圧コントロールが良好の症例にもしばしば遭遇する.筆者らは,濾過胞形成がなく術後眼圧15mmHg未満(5.14mmHg)の症例8眼(術後6.53週)中5眼(63%)において,UBMで90.360°にわたりSCFを認めている29).濾過手術後の眼圧下降機序としては,1)結膜濾過胞への房水流出,2)毛様体.離(毛様体上腔液貯留),3)強膜内への房水吸収,4)Schlemm管断端からSchlemm管内への房水流出,5)増殖抑制薬による房水産生低下などが考えられるが,2)による低眼圧発生機序として,つぎのような原因が考えられる.手術侵襲によって毛様体筋束の流出抵抗低下が生じ,毛様体強膜間隙に房水が流出して低眼圧が生じる.眼圧が毛様体静脈圧より低いため,この毛様体上腔液はそのまま貯留し,さらに房水産生低下を起こし低眼圧になるという悪循環である.しかし,もしUBMで観察されたような毛様体への適度の房水流出であれば,適度な低眼圧にできるのではないかと考えられる.そして80年以上前から今日まで永続的に房水を毛様体上腔に流す目的で,さまざまな材質のシャントが試されてきた.最近では前房と毛様体上腔をつなぐ金材質のgoldmicroshuntが報告され30),長期の結果報告が待たれるところである.このような毛様体に関係する治療が広がれば,その効果の検証および経過観察にUBMは必須ではないかと考えられる.それでは,もう一つの超音波検査CDIに話を移す.SCF図11UBMで観察されたトラベクレクトミー後の毛様体上腔液の経過A:術前.B:術後8日目,SCFの貯留.C:術後16日目,SCFは消失.(文献28から許可を得て転載)(57)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121083 IV超音波カラードプラ(colorDopplerimaging:CDI)1.緑内障における血流測定の意義1970年にDranceら31)は,慢性の緑内障において,視神経乳頭の局所虚血を示すsectorhemorrhageと弓状暗点を伴った症例を報告し,乳頭の血流状態と緑内障の進行に深い関係があることを報告した.これは眼科医の眼を眼圧以外の血流というものに向けさせた一つの大きな発見であった.その後のGlasterをはじめとした数々の報告32.34)から,乳頭出血は緑内障の進行因子であり,高眼圧より低眼圧緑内障に多くみられることがわかり,高眼圧が主たる原因とする機械的障害説に対峙する血管障害説の登場となり,その後,normaltensionglaucoma(NTG)の循環動態を主とする全身因子の検討や,血流の研究に動きだすことになった.NTGの危険因子として,眼圧,近視,遺伝,自己免疫因子や,血流に関するものとして乳頭出血,乳頭周囲脈絡膜萎縮,夜間血圧低下など全身血圧の異常,片頭痛,血液凝固亢進,冷水負荷試験陽性などがあげられ,眼血流に関する論文も多数にのぼる.しかし,常に指摘される問題として,血管障害説の根拠はいずれも間接的なものであり,ヒトの緑内障のような長期にわたって進行する動物モデルがないことが弱点である.それを補うにはさらに多くの検討を重ねるしかないと思われる.また,緑内障眼の眼血流の課題としては,1)緑内障点眼によって血流改善があるのか,2)測定結果は視神経障害を反映するのか,3)血流パラメータを改善することができれば神経保護につながるのか,これらも今後検討を重ねるしかない.2.眼血流測定眼血流研究の実験方法に,以下のような3つの方法がある.1)摘出された血管を直接調べる方法,2)摘出された眼球全体で調べる方法,3)臨床的に多くの人が取り組んでいる生体で測定する方法,である.1)の摘出血管の動態をみる方法には,Yuら35),吉冨らが行っているような,血管自体の薬物への反応をみる方法がある.2)の摘出眼球を用いた実験は温血動物と冷血動物で方法は違うが,温血動物の眼球においては,灌流によって機能を維持しながら行う方法である.そして3)の生体での方法は,球後血流を測定するCDIと眼底カメ1084あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012ラで眼底の血管をみながら測定する方法に分類される.前者は網膜全体や脈絡膜を含めた後眼部全体の血流を観察できるが,眼底の血流はその結果から類推することになり,後者は眼底局所の血流測定で,太い眼動脈や眼球全体の血流は推測することになる.すなわち,眼血流に関するあらゆる血管を一度に検査できる方法は今のところない.ここでは,筆者らが行っているCDIを紹介し,得られた結果について述べる.3.CDIの特徴CDIは基本的には仰臥位で,閉瞼し,低周波のプローブを眼瞼の上からそっと当てて検査を行う.測定対象は眼動脈(ophthalmicartery:OA),網膜中心動脈(centralretinalartery:CRA),短後毛様動脈(shortposteriorciliaryartery:PCA)で,PCAに関しては,鼻側のPCA(NPCA)と耳側のPCA(TPCA)に分けて測定することが多い.CDIの特徴を列挙すると,1)眼窩の血管の血流測定ができる,2)眼球に向かってくる血管の血流測定に適している,3)血流方向と拍動が一目で把握できる,4)眼球との位置関係から血管を同定できる,5)理学的な侵襲がなく,比較的短時間で検査できる,6)ドプラシフト周波数を高速Fourier変換(FFT)し,血流速度をリアルタイム表示する.測定はカラーフロー画面で血管を同定し,拍動にカーソルを合わせ,その部分の血流速度はFFTドプラ画像に表示される,である.図12のように,緑内障に深く関わる篩板前部および乳頭循環乳頭表層篩板前部篩板短後毛様動脈篩板後部網膜中心動脈図12視神経乳頭の血流支配(58) 篩板はPCAから直接に,またPCAによって血液供給を受けている乳頭周囲脈絡膜からの分枝によって養われる.視神経乳頭表層や篩板後部はCRAの分枝によって血液供給を受けている.眼血流は血管が細く,速度が遅いことから,超音波による測定は困難であるが,最近のテクノロジーの進歩はそれを可能にした.使用される超音波の波長は100.700μmであり,赤血球一つの直径は8.9μmであるので,血球一つひとつを捉えることは不可能であるが,500万/mm2個が不規則に分布して塊のように流れるためにドプラシフトを捉えられる.また,発信周波数の10万分の1の変化を捉えられることから,眼血流も高い精度で検査できるようになっている.まず全身の血圧,眼圧,脈拍を測定する.従来から血圧,眼圧から眼灌流圧(ocularperfusionpressure:OPP)を以下の式,図13短後毛様動脈のCDI上段はRIの高いFFTドプラ.下段はRIの低いFFTドプラ.(59)2/3{最低血圧+1/3(最高血圧.最低血圧)}.眼圧によって求め,眼循環動態の指標とすることが行われてきた.CDIでは,前述した血管の最高流速(peaksystolicvelocity:PSV),最低流速(enddiastolicvelocity:EDV),平均流速(meanenvelopedflowvelocity:MFV)を測定する.循環動態を正確に捉えるためには血流量,血管径の測定が必要であるが,CDIでは不可能か不正確である.そこで,血流速度から,以下の式で末梢血管抵抗を計算し,眼循環動態の指標とする.抵抗指数(resistanceindex:RI)=(PSV.EDV)/PSVあるいは,抵抗指数(pulsatilityresistiveindex:PI)=(PSV.EDV)/MFVRIの高い例と低い例を示す(図13).末梢血管抵抗が高い例では,最高流速から急峻に血流速度が落ちて低い最低流速になり,血管に弾力性がないことが示される.一方,RIが低い例では,最低流速の低下は緩やかで,最低流速は比較的高く,すなわち眼循環動態は良く,したがって血流量も多いという推測ができる.4.緑内障眼のCDICDIによる緑内障眼の血流異常の報告は多い.その内容は,眼血流速度がprimaryopenangleglaucoma(POAG)進行例やNTGで遅いということを示したものがほとんどで,多くの報告の結果をまとめると以下のごとくになる.1)報告によって,対照となる血管がさまざま,2)全般的に緑内障では眼血流は悪い,3)緑内障視神経障害が強いほど異常,4)一般にNTGのほうが血流異常が大きい,5)負荷テストをするとより顕著になる,である.さらにチモロール点眼薬全盛の時代に,Harrisら36)がCDIで点眼による眼血流への影響を比較し,ベタキソロールはNTGにおいてチモロールと異なり眼圧の有意な低下を起こさなかったが,4血管の平均EDVを30%増加させ,平均RIを低下させることを報告した.その結果,緑内障治療点眼薬の選択には,全身副作用だけでなく,眼血流に良い点眼を,特に血流の悪い緑内障眼に対しては血流改善を念頭において治療することが勧められるようになった.あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121085 5.緑内障治療点眼薬の眼血流への影響筆者らが緑内障治療点眼薬の眼血流への影響をCDIで測定した結果を報告する.誌面の関係で,結果のみを示す.a.プロスタグランジン関連薬ラタノプロスト(商品名:キサラタン)NTG患者10例(平均年齢58.6±4.8歳)への点眼2時間後と4週間連続点眼後のCDIの結果は,PCA,CRAの血流速度は点眼2時間後で有意に増加したが,4週間後では有意な変化は消失した.両測定時のRIの変化はなかった.また,両測定時とも血圧,脈拍の変化はなく,眼圧の有意の低下があったことから,OPPの有意の増加がみられた.この結果の解釈として,RIが変化しなかったことから,ラタノプロストには末梢血管抵抗を下げる効果はないと考えられる.しかし,強力な眼圧下降効果により,OPPは増加する.一方,代謝型プロスタグランジン系治療薬ウノプロストンはラタノプロストと異なり,最低流速を増加させ,RIを低下させることから37,38),多くの研究が報告しているようにNO(一酸化窒素)によって,血流増加が期待できる.OACRA6050403020100201510500.90.80.70.60.50.40.3Wilcoxonsigned-ranksumtest,*:p<0.05ResistanceindexEDV(cm/sec)PSV(cm/sec)b.ab.adrenergicantagonistニプラジロール(商品名:ハイパジール)NTG患者10例(平均年齢58.9±9.3歳)への点眼2時間後と4週間連続点眼後のCDIの結果は,CRAでは,2時間後も4週間後もEDVの増加,PCAは2時間後にEDVが増加,RIはCRA,PCAとも両測定時に有意の低下がみられた.また,眼圧の有意の低下と点眼2時間後にはOPPの増加がみられた39).特にRIの低下がみられたことから,点眼薬が球後に到達し,NOによる血管拡張によって末梢血管抵抗が低下したと考えられる40,41)(図14).c.b1.selectiveadrenergicantagonist塩酸ベタキソロール(商品名:ベトプティック)POAG患者21例,ocularhypertension(OH)患者12例(平均年齢61.7±13.2歳)への点眼2時間後と12カ月間連続点眼後のCDIの結果は,両測定時とも,CRA,PCAにおいてEDVの有意の増加があり,PIの有意の低下がみられた.また眼圧の有意の低下はあるが,血圧などには変化はみられなかった42).この結果はHarrisら36)の報告と一致し,塩酸ベタキソロールのもつカルNPCATPCANipradilol**************0510152002468100.30.40.50.60.70.80.90246810051015200.30.40.50.60.70.80.9051015200246810Before2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeks0.30.40.50.60.70.80.9図14NTGにおけるニプラジロール点眼2時間後,4週間連続点眼後のCDI1086あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(60) シウム拮抗作用によるものと推察された.d.b1b2.adrenergicantagonist塩酸カルテオロール(商品名:ミケラン)NTG患者10例(平均年齢63.5±4.8歳)への点眼2時間後と4週間連続点眼後のCDIの結果は,点眼2時間後においてPCAのRIの有意の低下はあったが,4週間後にはその変化は消失していた.また,眼圧は有意の低下を示したが,血圧の低下が同時にあり,その結果,OPPの減少を認めた.e.a1.adrenergicantagonist塩酸ブナゾシン(商品名:デタントール)NTG患者10例(平均年齢60.3±7.2歳)への点眼2時間後と,4週間連続点眼後のCDIの結果は球後の眼血流には有意の変化はなかった.また,有意の眼圧低下と血圧低下があったが,OPPに変化はなかった.V摘出灌流眼球における研究1.摘出灌流眼球実験の特徴さて,CDIの結果と比較するために,緑内障治療点眼薬のネコ摘出灌流眼球の灌流状態と電気生理学的反応への影響を検討した.哺乳類の眼球を用いた実験で薬理学的な作用の研究に適していると考えられる摘出灌流眼球を用いる方法の特徴は以下のようになる.1)灌流液の組成や生物物理学的性質の正確なコントロールができる,2)実験動物の血圧,ホルモン,電解質の変動や中枢神経系からの影響が排除できる,3)灌流システムの物理的および化学的条件を変動させたり,薬物を投与したとき,それに対応した結果を把握しやすく,投与された薬物は短時間にwashoutできる,4)心臓の拍動や呼吸による体動などがなく,細胞内誘導による電気生理学的実験に適している,である.つまりinvivoとinvitroの両方の特徴をもった実験系といえる.実験系の詳細は他の論文で発表されている43.45)ので,簡略に述べる(図15).全身麻酔下でネコの眼球を摘出後速やかにophthalmociliaryarteryにカニューレを入れ,酸素を飽和させた灌流液で眼球を灌流する.通常,温血動物では眼球は摘出後,機能は急速に消失し回復は不可能であるが,10数分以内に灌流を開始できれば,その後10時間以上にわたって電気生理学的な機能は維持でき,電子顕微鏡的にも細胞形態の維持が証明されている.灌流状態が安定したら,正確な濃度,注入速度のコントロール下に,一定時間薬物を灌流液に投与し,灌FlowmeterPerfusateDrugONRERGVortexveinLightOphthalmociliaryartery図15摘出灌流眼球における灌流量測定とERGおよびONRの測定システム流量への影響と,網膜電図(ERG),視神経電位(opticnerveresponse:ONR)への効果を測定記録する.灌流液の酸素(O2)分圧,温度,pH,酸塩基平衡,glucose濃度などによって電気生理学的反応は影響されるが,それらが一定に調整されれば,灌流量に比例して反応は増減する.灌流液中に薬物が投与されたにもかかわらず,灌流量の変化なしにERGなどの変化が生じれば,その薬物が電気生理学的反応の発生部位に作用した結果であると解釈できる.つまり薬物に対する受容体の存在を意味する.それでは,以下に筆者らが緑内障治療点眼薬で検討した結果について紹介する.2.緑内障治療点眼薬の灌流量と電気生理学的反応への影響a.b1.selectiveadrenergicantagonist塩酸ベタキソロール(商品名:ベトプティック)ネコ摘出灌流眼球にb1-selectiveadrenergicantagonist塩酸ベタキソロールを10分間投与すると,図16のようにERG反応は増大し,投与を終了すると徐々に元の電位に減弱する.ベタキソロールによって灌流量は増加するが,特に50μM以上で顕著であった(図17).ERGb波,a波とも増加したが,いずれも濃度依存性であった46)(図18).これはベタキソロールのもつCa拮抗作用による網膜血管の拡張によって灌流量が増加し47.49),ERGの増大が生じたと解釈された.この結果はCDIの結果と合致している.(61)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121087 2402202001800min48200ms10080010203040506011.5濃度(μM)220ERGb波振幅(%)ERGa波振幅(%)160140120132001801601401850120100μV1000102030405060図16摘出灌流眼球におけるベタキソロール30μM10分間濃度(μM)投与による暗順応ERGの経過図18ベタキソール濃度別の暗順応ERGa波振幅,ERG左側の数字はベタキソロール投与開始からの時間.b波振幅の投与前(100%とする)からの最大変化(文献46から許可を得て転載)(文献46から許可を得て転載のうえ改変)16テオロールのもつendotheliumderivedrelaxingfactor14121086420-2(EDRF)やintrinsicsympathomimeticactivity(ISA)の働きで網膜の灌流量が増加してERGを増大させた可能性や,ISAによって網膜内のb受容体が刺激されて52),ERGが増大した可能性が考えられる.ところで,オートラジオグラフィを使って点眼されたカルテオロールの血行を介する後眼部への移行が報告されていて53),灌流量変化率(%)-4010203040506070濃度(μM)図17ベタキソロール濃度別の灌流量最大変化率(文献46から許可を得て転載のうえ改変)b.b1b2.adrenergicantagonist塩酸カルテオロール(商品名:ミケラン)同様の実験系でb1b2-adrenergicantagonist塩酸カルテオロールについて検討した.カルテオロールは有意な灌流量増加をきたさなかったが,濃度依存性に杆体系および錐体系ERGb波を増大させた50,51).この結果からつぎの二つのことが推測できる.一つは網膜血流は元来少ないので,網膜レベルでは灌流量が増加していても全体の灌流増加には反映されていないこと.しかし,カル1088あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012本実験のような灌流液への投与による効果は点眼による網膜への影響を示唆するものである.なお,データの提示は省略するが,b-adrenergicantagonistのプロプラノロールについては,少し灌流量を増加させる傾向はあるが,チモロールは灌流量を増加させず,ERGやONRも変化を起こさなかった.これは灌流量に変化をきたさないのか,網膜には到達しにくいのか,あるいは網膜内のb受容体に作用するような因子をもっていないのか,などが考えられた.網膜内のb受容体については以前から研究が続けられ,受容体の部位の同定がなされ54),最近ではbantagonistの作用に関して,ERGの減弱により有害性の報告55)や,逆に神経保護効果の報告もなされ,研究の継続が必要であるが,そのb受容体に作用するb(62) agonistはかつては網膜色素変性症の治療に考えられたこともあった.さらに網膜の電気生理学的反応を増加させる56,57)ことから,今後ドラッグデリバリーの進歩によって,b-agonistを網膜に作用させて,治療薬として使うような時代がくるかもしれない.c.a1.adrenergicantagonist塩酸ブナゾシン(商品名:デタントール)a1-adrenergicantagonistの塩酸ブナゾシンや塩酸プラゾシンの摘出灌流眼球における作用を検討した.毛様20:ブナゾシン:プラゾシン1510動脈をはじめ眼血流に関わる血管でのa1受容体の存在58,59)や,レーザードプラ血流計など他の方法によるブナゾシンの眼血流増加作用60,61),さらに神経保護効果の報告がある62,63).しかし,摘出灌流眼球ではブナゾシンもプラゾシンも5%程度の灌流量の変化を起こすだけで,灌流量への影響は小さかった(図19).一方,ERGとONRを濃度依存性に減弱させた(図20,21).網膜,脈絡膜,色素上皮,Muller細胞などにa1受容体の存在が報告されている64.66)ので,それらに作用し電気生理学的活動を低下させたのではないかと思われる.したがって,ブナゾシン点眼においては,血流改善効果と神経保護効果を発揮させる投与方法を検討していく必要がある.灌流量変化率(%)y=0.2613x-3.40655R2=0.32760-5y=-0.2663x+0.4773R2=0.5104-10-15-200510152025濃度(μM)3.CDI結果と摘出灌流眼球実験結果との比較筆者らが行った緑内障治療点眼薬のCDIで測定した眼血流への影響と,摘出灌流眼球における直接的な薬剤の投与による灌流量や,電気生理学的活動への効果をまとめると表7のようになる.おおむね合理的な結果が得られていると思う.これらの結果を参考にしながらNTGにおける点眼治療を考えていく必要がある.ただCDIについては,筆者らと他の施設からの報告が異なる点があるが,これはつぎに述べるような問題が解決されていないことと関係があると考えている.図19摘出灌流眼球におけるプラゾシンおよびブナゾシンの濃度別の灌流量最大変化率min0図20摘出灌流眼球におけるプラ200ms30y=-1.0148x+92.359R2=0.6567100959085807570656001020100μV濃度(μM)(63)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121089ゾシン投与によるERGの変化ERGb波振幅(%)左:プラゾシン5.3μM10分間投与による暗順応ERGの経過.左側の数字はプラゾシン投与開始12からの時間.右:プラゾシン濃度別の暗順応ERGb波振幅の投与前(100%とする)からの最大変化. min400ms100ONRon振幅(%)y=-1.0412x+99.582R2=0.822395図21摘出灌流眼球におけるプラゾシン投90与によるONRの変化85左:プラゾシン10μM10分間投与による暗順応ONRの経過.左側の数字はプラゾ80シン投与開始からの時間.75右:プラゾシン濃度別の暗順応ONRon振幅の投与前(100%とする)からの最大変化.706560100μV濃度(μM)01020表7点眼薬別の,CDIにおける球後血流変化と,摘出灌流眼球CDIの場合,レーザードプラやレーザースペックルの実験における灌流量,ERGの変化の対比ように,眼底カメラで測定部位を見ながらの測定ではなCDI摘出灌流眼球実験いので,連続した測定でない場合,確実に同じ部位にカ血流灌流量ERGーソルを合わせる技術が必要となる.ベタキソロール↑↑検者がCDIの熟練者と初心者でどれだけの差が生じ↑るかを検証した.熟練者と初心者で,正常被検者を対象→チモロール→→→にした10分間隔のCDI測定結果を比較検討した.各被ブナゾシン→→↓プラゾシン検者におけるOA,CRA,PCAのPSV,EDVを測定し,RIを算出した.再現性の検討にはつぎの2係数による検討を行った.VICDIの精度1)Kappa係数(k):級内相関係数(intraclasscorre緑内障における眼血流の研究は国内外を問わず,さまlationcoefficient)による検討.これはN名i番目の人ざまな施設で行われてきたが,共通する問題として,以の1回目測定値をXi1,2回目の測定値をXi2とし,Ti下のようなことがあると考える.1)個々の研究で変化=Xi1+Xi2,Di=Xi1.Xi2,差の平均をDav,Ti,Diのなしの結果は報告されない傾向がある,2)対象とする標準偏差をsT,sDとするときk=sT2.sD2/{sT2+sD2血管は乳頭上血管,網膜血管,球後血管とさまざまで,+2/N(NDav2.sD2)}で求められる.結果として,0.75統一的な見解が得られにくい,3)大規模(多施設)で長≦kは卓越した一致,0.4≦k<0.75はかなり良い一致,期にわたる研究がない,4)血流測定には高度な技術がk<0.4はあまり一致していないと考えられる.必要であるが技術の統一化が十分されていない,などで2)再現性係数(coefficientsofreproducibility)によるある.検討.これは最初の測定値をV1,第2測定点での測定CDI測定においては被検者が常に精神的な理由も含値をV2とすると,|V1.V2|/{(V1+V2)/2}として算め安静状態である保証はなく,生体であるがゆえの周期出されるもの.要するに級内相関係数は高い値ほど再現的な変動もある.前者には検査側ができる限りの配慮を性が良いと判断され,再現性係数はその数値が低いほど行って被検者の安静に努めるしかない.後者には,同一再現性が良いと判断される.測定ポイントで6.7波形の平均をとることで対処する.表8に示したように,熟練者のkは,ほとんどの項カルテオロール1090あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(64) 表8熟練者と初心者のCDIにおける測定値の再現性10分間隔の再現性:熟練者10分間隔の再現性:初心者CoefficientsofCoefficientsofkkreproducibilityreproducibilityCRACRAPSV0.900.07±0.06PSV0.620.11±0.11EDV0.840.12±0.11EDV0.060.34±0.30RI0.750.04±0.03RI0.040.12±0.08OAOAPSV0.890.11±0.05PSV0.770.17±0.12EDV0.910.18±0.10EDV0.790.22±0.26RI0.780.04±0.02RI0.530.04±0.02TPCATPCAPSV0.820.12±0.08PSV0.220.19±0.16EDV0.780.16±0.13EDV0.190.28±0.22RI0.780.05±0.04RI0.140.10±0.09NPCANPCAPSV0.890.09±0.08PSV0.800.16±0.10EDV0.760.12±0.10EDV0.710.24±0.13RI0.560.04±0.02RI0.240.13±0.0816熟練者16初心者p=0.002目で0.75以上であるのに対し,初心者の成績は悪い.また,再現性係数は,0.1以下が再現性が良いといわれるが,初心者は特に流速が低い最低流速の測定がむずかしく再現性が悪く,そのため,RIが0.1以上となっているが,熟練者はすべての項目で再現性が良く,RIは0.05以下で,再現性が良いといえる.この相違はどのような理由によるかを考えると,測定位置のずれも無視眼圧(mmHg)121213.012.011.78811.344できないが,初心者は血管の描出に集中するがあまり,0測定前測定後0測定前測定後眼球を圧迫するのが主たる原因と考えられる.熟練者と図22熟練者と初心者のCDI測定前後の眼圧変化初心者で被検眼の眼圧をCDIの前後で測定すると図22のように有意に眼圧低下がみられる.意図的に眼球に圧cm/seccm/seccm/sec迫をかけCDIを行うと,図23のように血流速度の低下が生じ,したがってRIの上昇も有意にみられる.この解決方法は,CDIに熟練するしかない.さらに,緑内障の眼血流について信頼に足る結果を導くには,多施設で二重盲検比較試験のようなことを行う必要があり,そのためには,CDIだけに限らず血流測定技術の統一が必要で,検者がトレーニングセンターのようなところに2017.51512.5107.552.50p=0.028PSV2017.51512.5107.552.50p=0.005EDV2017.51512.5107.552.50p=0.005RI圧迫前圧迫中圧迫前圧迫中圧迫前圧迫中一堂に会し,技術を磨き,一定の誤差内に収まるような技術の養成が必要である.もう一つの方法は,検者の技量を要しないほとんど自動化した機器の開発であるが,これは今後の課題である.そして,眼血流測定の目標の一つの点眼治療によって眼血流改善がなされるかについては,一定の成果を出せる状態になったが,以下の二つ,(65)図23CDI測定時における眼球圧迫前後でのCRAの血流パラメータの変化1)測定結果は緑内障の神経障害の原因を反映するか,2)血流パラメータを改善すれば,緑内障の神経保護につながるか,は血流測定の精度を上げて,長期にわたっあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121091 て大規模な研究が必要と考えられる67).おわりに超音波検査の眼科診療への貢献はきわめて高い.微細な構造をもち,光学的検査が不可能な部分をもつ眼球を無侵襲で検査できることの意義は大きい.ただ,まだ技術的に検査がむずかしいという点は残る.しかし,テクノロジーの発展はそれを乗り越えていくと信じる.vonGraefeが虹彩切除を発表したのは検眼鏡,視野計などの発明がなされた約150年前,その後さらに50年近く経過して,眼圧計,隅角鏡の発明があり,1970年前後からやっと,今日の緑内障診療に使われるレーザー治療,チモロール点眼,トラベクレクトミー術などが登場することとなった.しかし,この150年間の緑内障治療は眼圧下降に心血が注がれてきた.つぎの150年は何に向かって進むのか.おそらく,視神経保護,視神経再生,緑内障発症予防など眼圧下降以外の治療になると愚考する.その際,眼血流測定は重要な意味をもち,緑内障診断に必須の隅角検査もその重要性は失われていないと考えられる.そして本稿で述べた超音波検査技術はさらに進歩し,汎用される検査となっていくと思われる.精巧な検査法の発展が緑内障診療を支えることは間違いないと信じる.謝辞:名誉ある講演の機会をお与えくださいました第22回日本緑内障学会会長吉冨健志先生ならびに日本緑内障学会理事長新家眞先生をはじめ日本緑内障学会理事,評議員,会員の皆様に厚くお礼申しあげます.また,長年にわたりご指導を賜りました三重大学名誉教授横山實先生,三重大学眼科学教室の諸先輩ならびに三重県眼科医会の諸先生,摘出灌流眼球実験のご指導を賜りましたチューリッヒ大学名誉教授GunterNiemeyer先生,日本臨床視覚電気生理学会の諸先生に厚くお礼を申しあげます.最後に,本稿で紹介した研究成果は,診療の合間を縫って研究を続けてくれた三重大学眼科学教室員の努力の賜物であることを明記し,心より感謝を致します.文献1)BarkanO,BoyleSF,MaislerS:Onthegenesisofglaucoma:animprovedmethodbasedonslitlampmicroscopyoftheangleoftheanteriorchamber.AmJOphthalmol19:209-215,19362)ShafferRN:Primaryglaucoma.Gonioscopy,ophthalmoscopyandperimetry.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol64:112-127,19603)SpaethGL:Thenormaldevelopmentofthehumananteriorchamberangle:anewsystemofdescriptivegrading.TransOphthalmolSocUK91:709-739,19714)SpaethGL,AruajoS,AzuaraA:Comparisonoftheconfigurationofthehumananteriorchamberangle,asdeterminedbytheSpaethgonioscopicgradingsystemandultrasoundbiomicroscopy.TransAmOphthalmolSoc93:337-347,19955)PavlinCJ,SherarMD,FosterFSetal:Subsurfaceultrasoundmicroscopicimagingoftheintacteye.Ophthalmology97:244-250,19906)PavlinCJ,HarasiewiczK,SherarMDetal:Clinicaluseofultrasoundbiomicroscopy.Ophthalmology98:287-295,19917)PavlinCJ,HarasiewiczK,EngPetal:Ultrasoundbiomicroscopyofanteriorsegmentstructuresinnormalandglaucomatouseyes.AmJOphthalmol113:381-389,19928)IshikawaH,EsakiK,LiebmannJMetal:Ultrasoundbiomicroscopydarkroomprovocativetesting:Aquantitativemethodforestimatinganteriorchamberanglewidth.JpnJOphthalmol43:526-534,19999)ZarbinM,ChuD:Diagnosticandsurgicaltechniques.SurvOphthalmol53:250-272,200810)EsakiK,IshikawaH,LiebmannJMetal:AnglerecessareadecreaseswithageinnormalJapanese.JpnJOphthalmol44:46-51,200011)InoueT,YamamotoT,KitazawaYetal:DistributionandmorphologyofPASinprimaryangle-closureglaucoma.JGlaucoma2:171-176,199312)KunimatsuS,TomidokoroA,MishimaKetal:Prevalenceofappositionalangleclosuredeterminedbyultrasonicbiomicroscopyineyeswithshallowanteriorchambers.Ophthalmology112:407-412,200513)EsakiK,IshikawaH,LiebmannJMetal:Atechniqueforperformingultrasoundbiomicroscopyinthesittingandpronepositions.OphthalmicSurgLasers31:166-169,200014)江崎弘治,伊藤邦生,松永功一ほか:偽落屑症候群における体位の前眼部構造に及ぼす影響.日眼会誌105:524529,200115)BartholomewRS:Lensdisplacementassociatedwithpseudocapsularexfoliation.BrJOphthalmol54:744-750,198016)RitchR:Exfoliationsyndromeandoccludableangles.TransAmOphthalmolSoc92:845-942,199417)MatsunagaK,ItoK,EsakiKetal:Evaluationofeyeswithrelativepupillaryblockbyindentationultrasoundbiomicroscopygonioscopy.AmJOphthalmol137:552554,200418)MatsunagaK,ItoK,EsakiKetal:Evaluationandcomparisonofindentationultrasoundbiomicroscopygonioscopyinrelativepupillaryblock,peripheralanteriorsynechia,andplateauirisconfiguration.JGlaucoma13:516-519,200419)大川親宏,松永功一,宇治幸隆:狭隅角眼の隅角鏡と超音波生体顕微鏡所見の比較.あたらしい眼科25:725-728,200820)宇治幸隆,和田泉,杉本充ほか:インデックス付きゴニオレンズの試作.眼紀44:260-262,199321)PambegP:Sheddinglightongonioscopy(Editorial).ArchOphthalmol125:1417-1418,200722)BarkanaY,DorairajSK,GerberYetal:Agreement1092あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(66) 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医家向けのサプリメント:アスタキサンチン

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1069.1073,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1069.1073,2012医家向けのサプリメント:アスタキサンチンSupplementsforMedicalExperts:Astaxanthin北市伸義*石田晋**I縄文人・続縄文人を支えたサケ縄文時代は人類が定住を始めた時代である.縄文式土器の発明は食材を煮ることを可能にした.それにより,生ではあくが強くて食べられないドングリなどの木の実を食べられるようになり,狩猟に頼る不安定な食生活が大きく改善された.最近の考古学的研究によれば当時はカロリーの40%以上をドングリなどの木の実で,残りはイノシシ,シカなどの狩猟,および魚類や貝類の漁撈による動物性カロリーで摂取していたらしい.彼らは川辺に集落を作ったが,これは飲料水の確保とともにサケの捕獲のためとも考えられている.サケ(アイヌ語ではシャケンベ)は特に東日本の遺跡から多くの骨が出土しており,生活を支える重要な食物であったと考えられる.そのため当時は西日本より東日本のほうが人口密度はかなり高かった.実際,北海道大学構内の縄文・続縄文遺跡からも,サケを捕獲するための定置網と考えられる柵状遺構が発掘される.炉端にはアワ,イネ,オオムギなどの炭化種子とともに,焼いて調理されたサケの骨OOHHOO図1アスタキサンチンの構造式が大量に出土する.当然イクラ(ロシア語でイクラ)も食べていたと考えられる.アスタキサンチン(図1)はこれらサケ,イクラなど人類が古来摂取してきた食品中に広く存在する1).本稿では,そのアスタキサンチンと眼疾患あるいは眼精疲労との関連を解説したい.II動物モデルでの効果アスタキサンチンは抗酸化作用だけではなく抗炎症作用も有する.まず,アスタキサンチンの抗炎症効果を動物モデルで検証してみた.エンドトキシン誘発ぶどう膜炎(EIU)は急性前部ぶどう膜炎モデルである.筆者らはLewisラットにリポ多糖(LPS)を投与し,同時にアスタキサンチンを投与して前房水中の炎症細胞数や前房内蛋白濃度,プロスタグランジン(PG)E2,一酸化窒素(NO),腫瘍壊死因子(TNF)-a濃度を測定した.24時間後の前房炎症細胞数や前房内蛋白濃度はアスタキサンチン100mg/kg投与群で有意に減少しており,代表的なステロイド薬であるプレドニゾロン10mg/kgに匹敵した2)(図2).また,PGE2,NO,TNF-a濃度はいずれも1mg/kg投与群から有意に減少し,10mg/kg以上でプレドニゾロン(10mg/kg)とほぼ同等の効果がみられた2).EIU惹起ラット摘出眼球のNF-kB(核内因子kB)核内発現を免疫組織学的に検討すると,アスタキサンチン投与群ではぶどう膜(虹彩・毛様体)のNF-kB陽性細胞数が有意に減少していた3).さらに,中高年者の失明*NobuyoshiKitaichi:北海道医療大学個体差医療科学センター眼科/北海道大学大学院医学研究科炎症眼科学講座**SusumuIshida:北海道大学大学院医学研究科眼科学分野〔別刷請求先〕北市伸義:〒002-8072札幌市北区あいの里2条5丁目北海道医療大学個体差医療科学センター眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(43)1069 8****p<0.05**p<0.01**:p<0.01n=6平均値±標準偏差****7CNV体積(×10-13m3)10細胞数(×105個)6543210陽性対照110100プレドニゾロン0(10mg/kg)Vehicle110100AST(mg/kg)図2EIU惹起ラット前房水中炎症細胞数前房水中炎症細胞数はアスタキサンチン(AST)の投与量依存的に減少し,AST100mg/kg投与群はプレドニゾロン10mg/kg投与群とほぼ同程度であった.(文献2より改変)原因として注目される加齢黄斑変性の終末病態である脈絡膜血管新生に対する効果も検討したところ,レーザー誘導脈絡膜血管新生モデルではアスタキサンチンの摂取により脈絡膜血管新生が抑制された(図3).この奏効機序もNF-kBを介する炎症機序の軽減によった4).したがって,アスタキサンチンは免疫・炎症反応の中心的転写因子であるNF-kB阻害により抗炎症効果を発揮すると考えられる.AST(mg/kgBW)AST(mg/kgBW)Vehicle110100図3脈絡膜新生血管に対するアスタキサンチンの効果加齢黄斑変性の動物モデルである脈絡膜新生血管(CNV)モデルでは,アスタキサンチンの摂取により用量依存的にCNVが縮小した.A:CNVの大きさを計算により比較したもの.B:網膜フラットマウントによる実際のCNV像.(文献4より改変)******p<0.01III点眼薬という可能性30角膜上皮厚(μm)2010紫外線は活性酸素を発生させるなど代表的な老化促進要因である.眼への影響は電気性眼炎や雪眼炎(ゆきめ)などの角膜炎,白内障などが古くからよく知られているが,アスタキサンチンの強力な抗酸化作用は眼の紫外線対策,老化対策に有効である可能性がある5).そこで筆者らは,つぎにマウスに紫外線を照射する角膜障害モデルを用いて検討した.麻酔下のマウスに紫外線Bを400mJ/cm2照射し,24時間後に角膜を検討した.現在,アスタキサンチンは全身摂取が基本であり点眼薬はないが,眼表面であれば点眼薬のほうが効率が良いと考え,ここでは研究室で独自に点眼薬を試作した.片眼にアスタキサンチンを,他眼には対照として溶媒のみを点眼した.アスタキサンチンを点眼すると紫外線による角膜障害が有意に軽症化し(図4),TdT-mediateddUTPnick1070あたらしい眼科Vol.29,No.8,20120図4アスタキサンチンによる紫外線照射後の角膜上皮厚アスタキサンチン点眼した眼は溶媒のみを点眼した反対眼と比較して,有意に紫外線角膜障害が軽度であった.(文献6より改変)end-labeling(TUNEL)陽性細胞も有意に減少,活性酸素も著明に減少していた6).しかし,アスタキサンチンが色素を有するため,これだけでは色素自体による光減(44)1.0なし0.1なし0.01なし1.0なし紫外線照射ありAST(mg/ml) **250**p<0.01**40200死細胞率(%)1.00.10.010AST(mg/ml)001428摂取日数****□:対照群(非AST)**:p<0.01■:摂取群(AST)準他覚的調節力(%20015010050図5アスタキサンチンによる角膜上皮培養細胞の紫外線障害の軽減培養液中にアスタキサンチンを添加すると,紫外線による細胞死が用量依存的に減少した.(文献6より改変)弱効果(サングラス効果)による可能性も完全に否定することはできない.そこで,紫外線照射5分後にアスタキサンチンを点眼する実験を行った.その結果,アスタキサンチンは紫外線による細胞死を有意に抑制しており,サングラス効果の可能性は否定された6).さらに,培養した角膜上皮細胞の培養液中にアスタキサンチンを添加すると紫外線照射による細胞死が著明に抑制された図6健常成人におけるアスタキサンチン摂取後の調節力変化14日目以降アスタキサンチン摂取群では有意に調節力が向上した.(文献7より改変)125(A)摂取群*120115110105100*p<0.05950Pre2weeks4weeks眼底血流速度(%)(図5).125(B)プラセボ群このことはアスタキサンチンが紫外線から眼を強力に守る作用があること,さらに将来は点眼薬という選択肢を検討する価値があることを示している.IVヒトでの効果つぎに,動物モデルで得られた結果を元にヒトでの臨床的評価を試みた.被験者は日常的にパソコン業務などが多く,眼精疲労を自覚する健康成人とし,試験食品を4週間連日経口摂取してもらった.対照群(非アスタキサンチン群)とアスタキサンチン6mg経口摂取群(アスタキサンチン群)の2群に分け,眼精疲労と調節機能を二重盲検法で比較した.摂取開始後の準他覚的調節力を14日目,28日目で比較すると,アスタキサンチン群では調節力が有意に改善し,その効果は摂取日数が長くなるほど増強した7)(図6).また,眼精疲労は自覚的視覚アナログスケール法を用いて摂取前後の客観的眼精疲労度評価を行った.その結果,12項目中「目が疲れや(45)120115110105100950Pre2weeks4weeks図7アスタキサンチン摂取による健常者の眼底血流速度の変化ヒトの眼底血流速度は,アスタキサンチン摂取群(A)で4週間後に有意に増加した.一方,プラセボ群(B)では有意な変化はなかった.(文献8より改変)すい」「目がかすむ」「目の奥が痛い」「しょぼしょぼする」「まぶしい」「肩が凝る」「腰が痛い」「イライラしやすい」の8項目で有意な改善がみられた7).現代社会では長時間コンピュータモニターを利用するあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121071 ことが多く,必然的に近見作業時間が長くなる.そのため毛様体筋に長時間の緊張状態を強いることになり,調節機能の異常やひいては眼精疲労をひき起こす.さらに長期間にわたるコンピュータ使用による慢性ストレスが毛様体筋の機能低下をひき起こし,調節力の低下の一因となる可能性がある.筆者らがコンピュータなどの使用時間の長い被験者を対象として二重盲検試験を行ったところ,同様にアスタキサンチン投与群で調節機能の改善と自覚症状の改善がみられた.したがって,アスタキサンチン摂取は眼科臨床では眼精疲労の軽減と調節機能の改善に有効であると考えられた.近年,失明原因として増加している加齢黄斑変性(AMD)や代表的なぶどう膜炎疾患であるVogt-小柳原田病では,眼底の血流速度が低下していることが報告されている.そこで健常者を対象に,レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)という装置を用いて眼底の血流速度を精密に測定したところ,アスタキサンチン摂取群では眼底血流速度が有意に増加していた8)(図7).今後さらに白内障進行予防,緑内障における視神経乳頭循環改善,ぶどう膜炎緩和,あるいは加齢黄斑変性や糖尿病網膜症の予防,進行緩和への応用が期待される.V摂取の実際では,実際どの程度の量をどのように摂取すれば良いか,食品中に含まれるアスタキサンチン含有量から考えてみる9)(表1).アスタキサンチンを多く含む代表的な食品であるイクラの場合,1日量の目安とされる12mgを摂取するには1,500g程度が必要である.店頭でよく見かける100gパックであれば1日15パック食べる必要がある.アスタキサンチン含有量が最大の食品であるベニザケの可食部であれば400g程度で良い.一般に刺表1おもな食品中アスタキサンチン含有量食品含有量(mg/100g)ベニザケ2.5.3.5キンメダイ2.0.3.0毛ガニ1.11甘エビ0.99イクラ・筋子0.8クルマエビ0.66身の一人前は100g程度であるから,1日4人前(40切れ)を目安に食べると良いことになる.しかし,実際に毎日これらを食べ続けることは困難であるし,塩分や他の栄養バランスの問題が起こる.1990年代半ば以降,ヘマトコッカス藻などからの大量培養・大量抽出が工業的に可能になっており,サプリメントとして広く販売されている.消化吸収は必ずしも良くないため,2カプセルを1日2回に分けて摂取しても良い.おわりにヒトは外界からの情報の80%以上を視覚に頼るとされるが,近年の情報化社会は眼への負担をこれまで以上に過酷なものにしている.加えてわが国は世界一の長寿社会である.アスタキサンチンの抗炎症効果はNF-kBシグナルを介するが,NF-kBはストレス反応,サイトカイン産生,紫外線障害,細胞増殖,アポトーシス,自己免疫疾患,悪性腫瘍など多くの生理現象に深く関与している.したがって,アスタキサンチンは将来,眼精疲労,炎症性疾患,紫外線障害,加齢黄斑変性など多くの疾患に有用である可能性がある10).また,安全性試験では有効量の5倍量である1日30mgを4週間摂取しても全身に影響はみられず,眼圧上昇などの眼科的有害事象もまったくみられなかった11).その安全性の高さも考えあわせ,今後いっそうその抗酸化作用,抗炎症作用の基礎的・臨床的エビデンスを蓄積すべきであると考えられる12).文献1)北市伸義,大野重昭,石田晋:眼によい食べ物海の幸編サケ,イクラ,エビ,カニ(アスタキサンチン).あたらしい眼科27:43-46,20102)OhgamiK,ShiratoriK,KotakeSetal:Effectsofastaxanthinonlipopolysaccharide-inducedinflammationinvitroandinvivo.InvestOphthalmolVisSci44:2694-2701,20033)SuzukiY,OhgamiK,ShiratoriKetal:Suppressiveeffectofastaxanthinagainstratendotoxin-induceduveitisbyinhibitingtheNF-kBsignalingpathway.ExpEyeRes82:275-281,20064)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Inhibitionofchoroidalneovascularizationwithananti-inflammatory1072あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(46) carotenoidastaxanthin.InvestOphthalmolVisSci49:1679-1685,20085)北市伸義,石田晋,杉田直:新しい治療と検査シリーズアスタキサンチン.あたらしい眼科29:211-212,20126)LennikovA,KitaichiN,FukaseRetal:Ameliorationofultraviolet-inducedphotokeratitisinmicetreatedwithastaxanthineyedrops.MolVis18:455-464,20127)白取謙治,大神一浩,新田卓也ほか:アスタキサンチンの調節機能および疲れ目におよぼす影響─健常成人を対象とした効果確認試験.臨床医薬21:637-650,20058)SaitoM,YoshidaK,SaitoWetal:Astaxanthinincreaseschoroidalbloodflowvelocity.GraefesArchClinExpOphthalmol250:239-245,20129)北市伸義,石田晋,大野重昭:気になる目の病気のすべてアスタキサンチン.からだの科学263:131-134,200910)北市伸義,大神一浩,大野重昭:アスタキサンチンの抗炎症効果.FunctionalFood3:26-30,200911)大神一浩,白取謙治,大野重昭ほか:アスタキサンチンの過剰摂取における安全性の検討.臨床医薬21:651-659,200512)北市伸義,石田晋:アスタキサンチンと眼疾患.FunctionalFood5:307-312,2012(47)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121073

医家向けのサプリメント:レスベラトロール

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1063.1067,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1063.1067,2012医家向けのサプリメント:レスベラトロールPossibleRolesofResveratrolinTreatingofRetinalVascularDiseases長岡泰司*Iレスベラトロールの基礎知識:なぜレスベラトロールなのか?レスベラトロール(図1)は灰色カビに対して作られるフィトアレキシン(植物がさまざまなストレスに対して作り出す抗菌性の二次代謝産物)の一種であり,赤ブドウの果皮,ピーナッツの皮,イタドリ(コジョウコンという漢方薬の原料)などに多く含まれるとされる.レスベラトロールは,抗酸化作用を有するポリフェノールの一種で,ブドウの果皮に多く存在する機能性成分であるが,近年医学的にも大変注目されている物質である.このレスベラトロールの有用性について話をする際によく用いられるのが「フレンチパラドックス」である.これは,フランスにおいては高脂肪食摂取にもかかわらず冠動脈疾患の死亡率が低い(図2)という逆説的事実1)のことであるが,フランス人の赤ワインの摂取の習慣がその原因の一つと考えられてきた.その後,赤ワインの心血管保護作用や抗動脈硬化作用が報告されてきた2,3)が,近年の研究成果から,赤ワインに含まれるポリフェノーOHHOOH図1レスベラトロールの構造式3002001000U.K.DenmarkFinlandSwedenIrelandNorwayGermanyAustraliaAustriaBelgiumNetherlandsSwitzerlandItalySpainYugoslaviaPortugalFRANCEr=0.73p<0.001CHDmorality(1987)(men+women)02004006008001,000図2ヨーロッパにおける脂肪摂取量と心血管関連死亡率の関係横軸は一日の脂肪摂取量,縦軸は心血管関連死亡率.フランスだけが脂肪摂取量の割に死亡率が低く,この現象は「フレンチパラドックス」とよばれる.(文献2より)ルの一種であるレスベラトロールがその主役であることが明らかとなり,レスベラトロールが健康増進作用を有するサプリメントとして脚光を浴びているのである.IIレスベラトロールを用いた研究の現状一番最初にレスベラトロールを用いた医学研究としての報告は,1988年のRagazziらによる摘出気管支を拡張させるという報告4)であった.その後,LDL(低密度リポ蛋白)の酸化の抑制,ラット大動脈を拡張させる5)という報告がなされ,化学物質誘導性皮膚癌の抑制6)など抗癌作用についての報告も出てきた.さらに,このレ*TaijiNagaoka:旭川医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕長岡泰司:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1-1-1旭川医科大学眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(37)1063 7006005004003002001000198019782012201020001990図3急増するレスベラトロール関連の学術論文(PubMed調べ,2012.6.30現在)スベラトロールを一躍有名にしたのがいずれもNatureに掲載された2つの論文である.一つは,2003年に発表された,レスベラトロールによる酵母の寿命延長効果7)であり,もう一つは,2006年のBaurらによる論文で,レスベラトロール(20mg/kg/day)を投与することにより,体重増加は対照群と変わらないにもかかわらず,高カロリー負荷マウスの生存率が改善することを報告した8).この原稿を書いている時点(平成24年6月)で,PubMedで“Resveratrol”を検索してみると,4,802本の論文がヒットするが,その多くはここ10数年で指数関数的に増えてきていることがわかる(図3).それに比較すると眼科領域でのレスベラトロールの論文はまだまだ少なく,今後の眼科でのレスベラトロール研究の発展が期待される.IIIレスベラトロールの血管への作用「人は血管と共に老いる」といわれるように,加齢に伴う血管機能の低下により動脈硬化が形成・進展し,脳梗塞や心筋梗塞など重篤な心血管イベントがひき起こされる.この血管機能の低下は,具体的には血管拡張能の低下や抗血栓能の低下などに特徴づけられ,新規治療法開発のターゲットとなっている.近年,薬剤本来の作用以外の効果を多面的効果(プレイオトロピック効果)といわれ,高脂血症治療薬スタチンをはじめ数多くの薬剤でこの効果は確認されている.しかしながら,臨床の場で実際に治療戦略を立てるうえでは,このプレイオトロピック効果を優先させて薬剤を使用することは副作用の1064あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012面からもむずかしい.そこで,薬剤ではなくサプリメントで血管拡張作用が得られれば,血管障害の治療戦略を考えるうえで強力なオプションをもつことができる.1.レスベラトロールの血管拡張作用血管の拡張反応は,血流低下・虚血部位への血流を増加させて組織低酸素状態の解除ならびに血管新生を促進するうえで重要な反応と考えられる.加齢により血管内皮細胞は老化し,内皮細胞におけるeNOS(endothelialnitricoxidesynthase,内皮型一酸化窒素合成酵素),プロスタサイクリンの減少ならびにエンドセリンの増加が報告されている.この加齢・老化による血管拡張作用の減弱を改善することは,血管障害によりひき起こされるさまざまな疾患の予防・治療戦略のうえで重要であると考えられる.レスベラトロールの血管保護作用に着目し,これまでにも数多くの研究成果が報告されてきた.1996年,Chenらは摘出ラット大動脈モデルで,レスベラトロールが血管内皮依存性および一酸化窒素(nitricoxide:NO)依存性に血管拡張作用を有することを初めて報告し5),大動脈レベルにおけるレスベラトロールによる血管拡張作用は血管内皮から産生されるNOに依存していると考えられる.このレスベラトロールの血管拡張作用は大動脈のみならず,冠動脈や腸間膜動脈などの小動脈レベルでも報告されているが,ヒト内胸動脈ではこのレスベラトロールによる拡張反応は血管内皮に依存せず,血管平滑筋の電位依存性カリウムチャネルに直接作用するものとの報告もあり9),その作用機序については臓器特異性あるいは部位特異性が考えられる.2.レスベラトロールによる血管内皮保護作用血管内皮機能障害は,動脈硬化の発症進展の過程において早期からひき起こされており,動脈硬化の危険因子である高脂血症,糖尿病,高血圧,喫煙などはすべて血管内皮機能障害と関連があるとされている.レスベラトロールの経口投与により,血管内皮依存性の血管拡張が改善されることが高血圧10),糖尿病11),高脂血症12)モデル動物などで報告されている.この血管内皮保護作用は,血管内皮由来のNOの活性化を介しており,その一(38) 部はSIRT1を介した作用であると報告されている10).また,臨床では前腕駆血解除後の一過性前腕動脈拡張反応(FMD)により血管内皮機能を評価できるが,境界型高血圧合併肥満患者における減弱したFMDが,レスベラトロール経口投与により改善することが報告されている13).この研究では,レスベラトロールが実際に血漿濃度で平均1.2μMまで増加すること,さらに血漿レスベラトロール濃度とFMDが正相関することも示されており,レスベラトロールの臨床応用例として大変興味深い結果が示されている.3.レスベラトロールによる糖尿病血管障害の抑制レスベラトロールは動物実験レベルでは血糖降下作用を有することが知られているが,それに加えて,2型糖尿病モデルマウスでは,腎機能障害を抑制することが報告されている14).また,STZ(ストレプトゾトシン)誘発糖尿病マウスで認められる網膜でのVEGF(血管内皮増殖因子)発現亢進と血管透過性の亢進が,レスベラトロール投与により抑制されることも報告されており,糖尿病細小血管合併症治療にもレスベラトロールが有用である可能性が示されている15).IV眼科領域におけるレスベラトロール研究近年では,眼科領域においてもレスベラトロールを用いた研究が増えている.レスベラトロール添加(20.25μM)により,培養水晶体上皮細胞において酸化ストレスが抑制される16).また,レスベラトロール(10μM)は高血糖による網膜色素上皮細胞の炎症を抑制する17).さらに,レスベラトロール経口投与(20mg/kg)により,糖尿病マウスにおける神経節細胞のアポトーシスを抑制する18).さらには,自己免疫性ぶどう膜炎モデルマウスにおける眼炎症を抑制する19).また,レスベラトロール前投与(50mg/kg,5days)により光曝露(5,000lux,3時間)による網膜アポトーシスを抑制する20).さらに,レスベラトロール投与(360mg/kg)により,Vldr./.マウス(MacTelモデルマウス)における網膜血管新生が抑制された21).網膜以外でも,線維柱帯細胞においてレスベラトロール(25μM)により慢性酸化ストレス(40%O2)による炎症性サイトカイン産生が抑制されるこ(39)とも知られており22),今後眼科領域でのレスベラトロール研究はますます盛んになるものと予想される.1.網膜血管におけるレスベラトロール血管拡張作用とその臨床的意義われわれ眼科医が日常診療で観察している網膜血管は,最も太い第一分枝でも血管径100.200μmであり,生理学的には細動脈・細静脈に分類される.細動脈は厚い平滑筋層を有しており別名抵抗血管といわれ,全身血圧を規定する因子である末梢血管抵抗の大部分を司る重要な臓器である.言い換えると,細動脈の血管緊張の程度により全身血圧は変動し,組織への血液供給が決定する.このため,この部位の調節機構は非常に重要である.これまでに筆者らはこのレーザードップラー眼底血流計を用いて,2型糖尿病患者を対象とした網膜循環動態の解析を行い,網膜症のない病期ですでに網膜血流は低下し,単純網膜症でも血流は低下したままであることを明らかにした23).これらの結果から,糖尿病患者では,通常の眼科検査では異常を検出できないごく早期から網膜循環が障害されていることが明らかとなった.これは横断研究でありさらなる経過観察研究が必要不可欠であるが,この網膜血流低下を薬剤やサプリメントで改善することにより,網膜症の発症・進展を予防できる可能性がある.また筆者らは,ブタ摘出血管を用いたinvitroでの血流実験系を行い,薬剤の網膜血管への作用について検討を行ってきた24).筆者らは,まずはじめにレスベラトロールの網膜血管への直接作用について検討した25).1μMから500μMまでのレスベラトロールを負荷すると,網膜血管は容量依存性に拡張し,最大で約60%拡張した.さらに,洗剤の一種であるCHAPSを血管内腔に投与すると血管内皮を.離することができ,.離前の反応と比較することで,血管内皮機能を評価することができる26)が,このレスベラトロールによる網膜血管拡張反応は,CHAPSによる網膜血管内皮.離により約半分に減弱したことから,レスベラトロールは血管内皮と血管平滑筋に半分ずつ作用して血管を拡張させると考えられた.血管内皮由来の拡張因子にはNOに加えてプロスタあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121065 サイクリン,血管内皮由来過分極因子(EDHF)があるが,それぞれの阻害薬を前投与したところ,NO合成酵素(NOS)阻害薬L-NAMEの前投与でのみレスベラトロールによる拡張反応は減弱した.これより,レスベラトロールの網膜血管反応は血管内皮から産生されるNOが関与することが明らかとなった.さらに,ERK阻害薬の前投与によっても血管拡張反応はNOS阻害薬L-NAME前投与と同程度拡張反応は抑制されており,ERK(extracellularsignal-regulatedkinase,細胞外シグナル制御キナーゼ)によるMAP(mitogen-activatedprotein)キナーゼの活性化を介したeNOS活性化によって,血管内皮からのNOの産生が誘導されることが示された.一方,血管平滑筋由来の拡張反応に関しては,非選択的カリウムチャネル阻害薬TEA(tetraethylammonium)および大容量カルシウム依存性カリウムチャネル阻害薬であるイベリオトキシンにより抑制された.さらに,イベリオトキシンとL-NAMEを同時投与すると,レスベラトロールの拡張反応はほとんど消失した.以上より,レスベラトロールは,血管内皮からNOを産生し,血管平滑筋の大容量カルシウム依存性カリウムチャネルを活性化して網膜細動脈を拡張させることが明らかとなった.もちろんこのレスベラトロールの網膜血管拡張作用はinvitroでの結果にすぎず,今後invivo,さらには臨床での網膜血管拡張作用の有無について検討する必要があるが,筆者らの実験では前述のスタチンとほぼ同等の血管拡張作用を有しており,薬剤ではなくレスベラトロールというサプリメントで網膜血管を拡張させる可能性が示されたことは,臨床的にも重要であると考えている.2.レスベラトロールの循環改善作用に着目した臨床応用の可能性─糖尿病網膜症予防への応用を目指して─わが国の糖尿病人口は増加の一途をたどり,今後もさらに増えることが予想されている.糖尿病慢性合併症の一つである糖尿病網膜症はわが国における成人の失明原因の主因であり,社会経済的損失も計り知れず,その予防法と治療法の確立,特に網膜症発症早期から鋭敏に異1066あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012常を検出する検査法の確立および新しい網膜硝子体疾患治療法の開発は急務である.しかしながら,網膜光凝固術や硝子体手術,眼局所薬物治療など糖尿病網膜症に対する外科的治療法の目覚ましい進歩にもかかわらず,いまだ年間3,000人もの糖尿病網膜症患者が失明に至るという事実は,眼局所での外科的治療法のみでは限界があることを示しており,薬物などによる新しい糖尿病網膜症治療の開発が期待される.これまで述べたように,基礎研究の結果からはレスベラトロールには優れた血管保護作用があることが示されている.さらに,筆者らの検討結果からも,レスベラトロールは網膜循環改善作用を有することが示された.2型糖尿病では網膜症のない病期で網膜血流が低下していることから,早期にレスベラトロールを用いて介入し,低下した血流を改善することにより,網膜症の発症・進展を予防する可能性がある.もちろん今後の臨床研究の結果次第ではあるが,近い将来,レスベラトロールが糖尿病網膜症の発症・進展の予防に用いられることが大いに期待される.文献1)RichardJL:[Coronaryriskfactors.TheFrenchparadox].ArchMalCoeurVaiss80:17-21,19872)FrankelEN,KannerJ,GermanJBetal:Inhibitionofoxidationofhumanlow-densitylipoproteinbyphenolicsubstancesinredwine.Lancet341:454-457,19933)FitzpatrickDF,HirschfieldSL,CoffeyRG:Endotheliumdependentvasorelaxingactivityofwineandothergrapeproducts.AmJPhysiol265:H774-778,19934)RagazziE,FroldiG,FassinaG:Resveratrolactivityonguineapigisolatedtracheafromnormalandalbumin-sensitizedanimals.PharmacolResCommun20(Suppl5):79-82,19885)ChenCK,Pace-AsciakCR:Vasorelaxingactivityofresveratrolandquercetininisolatedrataorta.GenPharmacol27:363-366,19966)JangM,CaiL,UdeaniGOetal:Cancerchemopreventiveactivityofresveratrol,anaturalproductderivedfromgrapes.Science275:218-220,19977)HowitzKT,BittermanKJ,CohenHYetal:SmallmoleculeactivatorsofsirtuinsextendSaccharomycescerevisiaelifespan.Nature425:191-196,20038)BaurJA,PearsonKJ,PriceNLetal:Resveratrolimproveshealthandsurvivalofmiceonahigh-caloriediet.Nature444:337-342,2006(40) 9)NovakovicA,Gojkovic-BukaricaL,PericMetal:Themechanismofendothelium-independentrelaxationinducedbythewinepolyphenolresveratrolinhumaninternalmammaryartery.JPharmacolSci101:85-90,200610)RushJW,QuadrilateroJ,LevyASetal:Chronicresveratrolenhancesendothelium-dependentrelaxationbutdoesnotaltereNOSlevelsinaortaofspontaneouslyhypertensiverats.ExpBiolMed(Maywood)232:814-822,200711)SilanC:Theeffectsofchronicresveratroltreatmentonvascularresponsivenessofstreptozotocin-induceddiabeticrats.BiolPharmBull31:897-902,200812)ZouJG,WangZR,HuangYZetal:Effectofredwineandwinepolyphenolresveratrolonendothelialfunctioninhypercholesterolemicrabbits.IntJMolMed11:317-320,200313)WongRH,HowePR,BuckleyJDetal:Acuteresveratrolsupplementationimprovesflow-mediateddilatationinoverweight/obeseindividualswithmildlyelevatedbloodpressure.Nutrition,metabolism,andcardiovasculardiseases.NutrMetabCardiovascDis21:851-856,201114)KitadaM,KumeS,ImaizumiNetal:ResveratrolimprovesoxidativestressandprotectsagainstdiabeticnephropathythroughnormalizationofMn-SODdysfunctioninAMPK/SIRT1-independentpathway.Diabetes60:634-643,201115)KimYH,KimYS,RohGSetal:Resveratrolblocksdiabetes-inducedearlyvascularlesionsandvascularendothelialgrowthfactorinductioninmouseretinas.ActaOphthalmol90:e31-37,201216)ZhengY,LiuY,GeJetal:ResveratrolprotectshumanlensepithelialcellsagainstH2O2-inducedoxidativestressbyincreasingcatalase,SOD-1,andHO-1expression.MolVis16:1467-1474,201017)LossoJN,TruaxRE,RichardG:Trans-resveratrolinhibitshyperglycemia-inducedinflammationandconnexindownregulationinretinalpigmentepithelialcells.JAgricFoodChem58:8246-8252,201018)KimYH,KimYS,KangSSetal:ResveratrolinhibitsneuronalapoptosisandelevatedCa2+/calmodulin-dependentproteinkinaseIIactivityindiabeticmouseretina.Diabetes59:1825-1835,201019)KubotaS,KuriharaT,MochimaruHetal:Preventionofocularinflammationinendotoxin-induceduveitiswithresveratrolbyinhibitingoxidativedamageandnuclearfactor-kappaBactivation.InvestOphthalmolVisSci50:3512-3519,200920)KubotaS,KuriharaT,EbinumaMetal:Resveratrolpreventslight-inducedretinaldegenerationviasuppressingactivatorprotein-1activation.AmJPathol177:17251731,201021)HuaJ,GuerinKI,ChenJetal:ResveratrolinhibitspathologicalretinalneovascularizationinVldlr./.mice.InvestOphthalmolVisSci52:2809-2816,201122)LunaC,LiG,LitonPBetal:Resveratrolpreventstheexpressionofglaucomamarkersinducedbychronicoxidativestressintrabecularmeshworkcells.FoodChemToxicol47:198-204,200923)NagaokaT,SatoE,TakahashiAetal:Impairedretinalcirculationinpatientswithtype2diabetesmellitus:retinallaserDopplervelocimetrystudy.InvestOphthalmolVisSci51:6729-6734,201024)NagaokaT,HeinTW,YoshidaAetal:Simvastatinelicitsdilationofisolatedporcineretinalarterioles:roleofnitricoxideandmevalonate-rhokinasepathways.InvestOphthalmolVisSci48:825-832,200725)NagaokaT,HeinTW,YoshidaAetal:Resveratrol,acomponentofredwine,elicitsdilationofisolatedporcineretinalarterioles:roleofnitricoxideandpotassiumchannels.InvestOphthalmolVisSci48:4232-4239,200726)OmaeT,NagaokaT,TananoIetal:Pioglitazone,aperoxisomeproliferator-activatedreceptor-gammaagonist,inducesdilationofisolatedporcineretinalarterioles:roleofnitricoxideandpotassiumchannels.InvestOphthalmolVisSci52:6749-6756,2011(41)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121067

医科向けのサプリメント:ルテイン

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1057.1062,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1057.1062,2012医科向けのサプリメント:ルテインDietarySupplementforMedicalDoctors:Lutein尾花明*Iルテインはカロテノイドの一種で,黄斑色素の成分である黄斑,すなわち中心窩を中心とした直径1.5.2.0mmの範囲には黄斑色素が存在する.黄斑色素の成分は,ルテイン〔(3R,3¢R,6¢R)-lutein〕と,ゼアキサンチン-zeaxanthin〕,メソゼアキサンチン〔(3R,R)¢3,R3〔(3¢S-meso)-zeaxanthin〕の3種のカロテノイドである(図1).自然界には約650種類のカロテノイドがあり,C40H56を基本構造とする.このうち,炭素と水素のみからなるものがカロテン,それ以外の元素を含むものがキサントフィルである.ルテイン,ゼアキサンチンはシクロヘキセン環に水酸基をもつキサントフィルである.ルテインとゼアキサンチンはシクロヘキセン環の二重結合の位置が異なり,共役二重結合数はルテインが10個,ゼアキサンチンは11個である.ゼアキサンチンのもう一つの立体異性体である(3S,3¢S)-zeaxanthinは網膜には存在しない.IIルテインサプリメントは加齢黄斑変性の予防に期待される黄斑色素やルテイン摂取量と加齢黄斑変性(AMD)の関係は,古くから検討されてきた.1.黄斑色素と加齢黄斑変性Boneら1)は,摘出眼球の中心窩から3mm以内のル5¢OH4¢3¢71115H2¢613¢9¢1¢2196¢1315¢11¢7¢345ルテインHO(3R,3¢R,6¢R)-b,e-カロテン-3,3¢-diolOHゼアキサンチンHO(3R,3¢R)-b,b-カロテン-3,3¢-diolOHHOメソゼアキサンチン(3R,3¢S)-b,b-カロテン-3,3¢-diolOHHO(3S,3¢S)-ゼアキサンチン(3R,3¢S)-b,b-カロテン-3,3¢-diol図1ルテインとゼアキサンチンの構造式ゼアキサンチンには3つの立体異性体があり,そのうちの2つが黄斑にある.テイン・ゼアキサンチン量を調べ,AMD眼は健常眼の63%であると報告した.また,Beattyら2)は,heterochromaticflickerphotometryを使って黄斑色素光学密度を測定し,AMD僚眼の非発症眼の色素密度が健常者より低いことを報告した.Bernsteinら3)は,共鳴ラマン分光装置でAMD眼の色素密度を測定し,AMD眼は健常眼より低値であると報告した(図2).筆者ら4)も同様の共鳴ラマン分光装置で,日本人AMD患者の色素密*AkiraObana:聖隷浜松病院眼科/浜松医科大学メディカルフォトニクス研究センター〔別刷請求先〕尾花明:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(31)1057 800Counts0100200300400500600700正常AMDAMDルテイン図2共鳴ラマン分光法で測定した黄斑色素密度加齢黄斑変性は正常眼より色素密度が32%少ない.ルテインサプリメントを4mg/日の摂取した群は,加齢黄斑変性より色素密度が高い.(文献3より改変)度が同年齢健常者より低値であることと,AMD僚眼の非発症眼の色素密度も発症眼と同程度に低値であることを報告した.黄斑色素の低値はAMDの進行原因か,病気の結果かは断言できないが,筆者らは黄斑色素の少ない個体が病気の進行をきたしやすいのではないかと推測している.2.ルテイン,ゼアキサンチン摂取と加齢黄斑変性食事アンケートからルテイン,ゼアキサンチン摂取量を求めた疫学調査では,低摂取群は高摂取群より発症危険率が高いとされる.Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)の調査5)では,ルテインおよびゼアキサンチン最高摂取群(中央値3.5mg/日)と最小摂取群(同0.7mg/日)で比較すると,高摂取群は滲出型AMDのオッズ比が0.65,萎縮型AMDのオッズ比が0.45としている.3.予防効果の証明は未解決AREDS6)は,抗酸化ビタミン(ビタミンE,ビタミンC,b-カロテン)と亜鉛,銅がAMD予防に有効なことを証明した.しかし,ビタミンEとb-カロテンの効果を否定する報告7)もある.ルテインやゼアキサンチン低摂取では黄斑色素が低値となり,AMDを発症しやすい,との仮説が成り立つが,予防効果の証明は十分ではない(表1).ルテインとゼアキサンチンサプリメント摂取が,本当にAMD発症率を低下させるかどうかは,現在米国で行われているAREDS2(2.AREDSサプリメント参照)の結果を待たねばならない.IIIルテインサプリメントの奏効機序1.ルテイン,ゼアキサンチンの吸収と眼内集積経路両者は食事から摂取される.ただし,メソゼアキサンチンは自然の食品中には存在せず,網膜内でおもにルテ表1栄養学的アプローチによる加齢黄斑変性の予防CategoryStudyRecommendationStrengthofevidenceRatingofrecommendationAREDSformulaAREDS5)RegularintakemayreduceriskofneovascularAMDIBLutein/ZeaxanthinAREDS2Notyetavailablen/an/aCAREDS8)NodifferenceIICPOLA9)HigherluteinandzeaxanthinreducedriskofAMDIICGaleetal10)HigherluteinandzeaxanthinreducedriskofAMDIICLutein/Zeaxanthin/AstaxanthinCARMIS11)Lutein,zeaxanthin,astaxantinwithothernustientsreducedriskofAMDIBOmega-3AREDS2Notyetavailablen/an/aUSTS12)Higheromega-3intakereducedriskofAMDIICn/a:datanotavailable,AREDS:Age-RelatedEyeDiseaseStudy,AREDS2:Age-RelatedEyeDiseaseStudy2,CAREDS:CarotenoidsinAge-RelatedEyeDiseaseStudy,POLA:PathologiesOculairesLieesaI’AgeStudy,USTS:UnitedSatesTwinStudy.Strengthofevidenceandratingofrecommendationratedaccordingtomethoddescribedpreviously.[Ophthalmology107:9-10,2000](文献13より改変)1058あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(32) 内網状層外網状層(Henle線維層)錐体外節網膜色素上皮脈絡膜毛細血管特異的結合蛋白視細胞のレチノイド受容体:IRBPRPEのHDL受容体:SR-B1図3ルテインの網膜内への取り込み経路脈絡膜毛細血管から,HDL受容体を介して網膜色素上皮細胞に取り込まれた後,レチノイド受容体を介して視細胞外節から視細胞内に入り,ルテインおよびゼアキサンチンのそれぞれの特異的結合蛋白と結合し,軸索突起に集積する.インから変換されると考えられる14).ルテインにはエステル体とフリー体がある.経口摂取されたルテインエステルは膵液酵素で加水分解されて遊離ルテインになる.遊離ルテインは脂肪酸ミセルを形成して,小腸上皮細胞のscavengerreceptorclassBtype1(SR-B1)を介して吸収されると考えられている.脂溶性のルテインは,おもに高比重リポ蛋白(HDL)と結合して血中を輸送される.網膜への集積過程は,Bernsteinらのグループの研究15)でかなり判明してきた.脈絡膜毛細血管を流れるルテイン,ゼアキサンチンは,網膜色素上皮細胞(RPE)のSR-B1を介して取り込まれ,RPEからはinterphotoreceptorretinoidbindingprotein(IRBP)を介して視細胞に取り込まれると考えられる(図3).その後は,それぞれの特異的結合蛋白に結合する.ゼアキサンチンの結合蛋白はglutathioneS-transferaseP1(GSTP1)17)で,組織学的に黄斑の網膜外網状層であるHenle線維層に最も多く,内網状層にも分布する.ルテインの特異的結合蛋白は,steroidgenicacuteregulatorydomain(StARD)proteinスーパーファミリーの一種である.ルテイン,ゼアキサンチンは網膜全域の杆体外節にも存在する18).ただし,ルテイン,ゼアキサンチン,メソゼアキサンチンの割合は部位によって異なり,網膜周辺部ほどルテインの割合が高くなる.少量のルテインは毛様体,虹彩,水晶体にも存在する.(文献16より改変)フィルター効果活性酸素消去脂質の酸化防止図4黄斑色素の機能青色光を吸収するフィルター効果と抗酸化作用により,視細胞の青色光障害を抑制する.(文献16より改変)2.黄斑色素のはたらき黄斑色素はおもに2つの機序により,光による酸化ストレスから視細胞を防御する(図4).a.フィルター効果ルテインとゼアキサンチンは460nmに吸収ピークをもち,過剰な青色可視光を吸収する.青色可視光は視細胞に光障害をもたらす(bluelighthazard)ため,この障害を抑制する.b.抗酸化作用ルテイン・ゼアキサンチンは一重項酸素を還元する抗酸化作用をもつ.消去作用には,カロテノイド自身が酸化物になった後分解される化学反応と,活性酸素などの物理エネルギーを共役二重結合が吸収して熱(振動)エネルギーに変換する物理的消去がある.網膜色素上皮のリポフスチンは青色光励起で一重項酸素を発生するが,(33)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121059 SurfacePolarheadgroupQuenchingreactiveoxygenspeciesSurfacePolarheadgroupQuenchingreactiveoxygenspecies図5細胞膜でのルテインとゼアキサンチンの配位ルテインは細胞膜表面に存在し,ゼアキサンチンは膜を貫通する形で存在する.これらが細胞表面で発生した一重項酸素やラジカルを消去すると考えられる.(ケミン提供図,文献19より改変):Zeaxanthin表2眼に関係するサプリメントの分類①ブルーベリー(アントシアニン)を主剤とした混合サプリメント②ブルーベリー(アントシアニン)とルテインを主剤としたサプリメント③ルテインを主剤としたサプリメント(単体または混合)④AREDS研究の成分に従ったサプリメント杆体外節の細胞膜内ルテイン,ゼアキサンチンが一重項酸素を消去していることが推測される(図5).IV国内のアイケアサプリメントの現況眼によいサプリメントとして国内販売されている製品は,表2のように分類できる.販売量は①>②>③>④の順と思われ,2011年国内のルテイン含有サプリメント販売額は約126億円とされる.①②③は通信販売が主である.④はおもに眼科医院,調剤薬局で販売されているが,販売量は他に比べて非常に少ない.エビデンスが確立されれば,眼科医には対象患者に正しい摂取指導をする必要が生じ,この販売形態が広まるものと予想する.実際,米国の調査では,6割以上の患者が医師の推薦を頼りにサプリメントを選定していた.Vルテイン,ゼアキサンチンサプリメント1.ルテインサプリメント天然植物由来製品は菊科のマリーゴールド花弁の抽出物である.中南米で栽培されるが,最近はインドや中国産が多い.抽出過程でゼアキサンチンを完全に分離できないので,通常,少量のゼアキサンチンを含む.国内で販売されるルテイン含有サプリメントは約2001060あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012Watersoluble:Lutein表3ルテイン,ゼアキサンチン摂取を指導すべき症例摂取が望ましい対象者AREDS対象者①両眼の早期加齢黄斑症患者②片眼が加齢黄斑変性で,反対眼が早期加齢黄斑症摂取が望ましいかもしれない対象者滲出型および萎縮型加齢黄斑変性患者有用性未定の対象者①健常高齢者②健常若年者製品と推定される.使用されるルテイン原末はケミン社のFloraGloRが多い.これは,マリーゴールド由来の遊離体ルテインで,ルテイン10mg中に0.5mgのゼアキサンチンを含む.最近は,他の原料ルテインも販売されており,たとえば,KATRA社のXanmaxRは,ルテイン10mg中に2mgのゼアキサンチンを含み,AREDS2で採用されているのと同じ割合である.2.ゼアキサンチンサプリメント天然植物由来製品はパプリカ抽出物である.近年,ゼアキサンチンと他のサプリメントを組み合わせた製品が販売されだしたが,国内では,ゼアキサンチンの単体サプリメントは販売されていない.VIルテイン,ゼアキサンチン摂取を指導すべき症例AMD予防効果の科学的実証はまだ不十分であるが,少なくともAREDS5)の対象例には正しい情報を提供すべきである(表3).その他の患者や健常人に対する有効性は実証されていないので,あくまで患者本人の意思で(34) 摂取を決めるべきである.1.AREDS対象例50歳以上の症例で,両眼に早期加齢黄斑症(中等度以上の軟性ドルーゼン,色素異常または中心窩外に地図状萎縮がある)を有する例,または,片眼が晩期加齢黄斑症(滲出型AMDまたは萎縮型AMD)で,反対眼が早期加齢黄斑症の症例.2.AMD患者早期加齢黄斑症や萎縮型AMDの症例でコントラスト感度などの視機能が改善したとの報告20,21)がある.滲出型AMDにおいて,抗VEGF(血管内皮増殖因子)剤治療との併用効果について,現在,臨床試験を施行しているが,結果はまだ得られていない.奏効機序から考えると,病気の進行を防ぐ効果があるかもしれない.3.健常高齢者健常高齢者が摂取することで,医学的利益を得るとの証拠はない.しかし,野菜摂取が少ない人,屋外作業で太陽光を多く受ける人,パソコンディスプレイなどを長時間見る人のように光による酸化ストレスを受けやすい人,喫煙者のように酸化ストレスにさらされやすい人には有益かもしれない.4.健常若年者将来のAMD発症が抑制できるか否かに関する研究は皆無である.ただ,わが国の若年者は,食事からのルテイン,ゼアキサンチン摂取量が非常に少ないとの報告がある.VIIルテインとゼアキサンチンの適切な摂取量1.ルテイン摂取量ルテインが経口摂取されてから眼内に蓄積するまでには,前述のごとく複数の受容体を介するため,それらの遺伝的差異によって,吸収,蓄積程度に個人差があるはずで,最適量は個人により異なると思われる.国内で販売されている製品の推奨量は,1.20mg/日と幅があるが,6.12mg/日を推奨する製品が多い.最(35)近の臨床試験の使用量は通常10mg/日である.2.ゼアキサンチン摂取量ゼアキサンチン単体の摂取量に関する研究は少なく,最適摂取量は不明である.ヒト血中濃度は,ルテイン:ゼアキサンチン比が約7:1である.AREDS2試験では,ルテイン10mg/日,ゼアキサンチン2mg/日を採用している.筆者らの健常者での検討22)では,ルテイン単独投与では黄斑色素密度の増加が得られたが,ゼアキサンチン単独投与では色素密度は増加しなかった.その原因はまだ特定できていない.文献1)BoneRA,LandrumJT,NayneSTetal:MacularpigmentindonnereyeswithandwithoutAMD:Acase-controlstudy.InvestOphthalmolVisSci42:235-240,20012)BeattyS,MurrayIJ,HensonDBetal:Macularpigmentandriskforage-relatedmaculardegenerationinsubjectsfromanorthernEuropeanpopulation.InvestOphthalmolVisSci42:439-446,20013)BernsteinPS,ZhaoD-Y,WintchSWetal:ResonanceRamanmeasurementofmacularcarotenoidsinnormalsubjectsandinage-relatedmaculardegenerationpatients.Ophthalmology109:1780-1787,20024)ObanaA,HiramitsuT,GohtoYetal:Macularcarotenoidlevelsofnormalsubjectsandage-relatedmaculopathypatientsinaJapanesepopulation.Ophthalmology115:147-157,20085)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:TherelationshipofdietarycarotenoidandvitaminA,E,andCintakewithage-relatedmaculardegenerationinacase-controlstudy:AREDSreportNo.22.ArchOphthalmol125:1225-1232,20076)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzinkforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss.AREDSreportNo.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20017)EvansJR,HenshawKS:Antioxidantvitaminandmineralsupplementsforpreventingage-relatedmaculardegeneration(Review).CochraneDatabaseofSystematicReviews1:No.CD000253,20088)MoellerSM,ParekhN,TinkerLetal:AssociationsbetweenintermediateAMDandluteinandzeaxanthininthecarotenoidsinAMDstudy(CAREDS).Ancillarystudyofthewomen’shealthinitiative.ArchOphthalmolあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121061 124:1151-1162,20069)DelcourtC,CarriereI,Berberger-GateauPetal:PlasmaluteinandzeaxanthinandothercarotenoidsasmodificationriskfactorforAMDandcataract:thePOLAStudy.InvestOphthalmolVisSci47:2329-2335,200610)GaleCR,HallNF,PhillipsDIWetal:Luteinandzeaxanthinstatusandriskofage-relatedmaculardegneration.InvestOphthalmolVisSci44:2461-2465,200311)PiermarocchiS:CarotenoidsinAge-relatedMaculopathyItalianStudy(CARMIS):two-yearresultsofarandomizedstudy.EurJOphthalmol22:216-225,201112)SeddonJM,GeorgeS,RosnerB:Cigarettesmoking,fishconsumption,omega-3fattyacidintake,andassociationswithage-relatedmaculardegeneration:theUStwinstudyofage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol124:995-1001,200613)内藤裕二:カロテノイド.FunctionalFood18:346-354,201214)JohnsonEJ,NeuringerM,RussellRetal:Nutiritionalmanipulationofprimateretinas,III:Effectsofluteinorzeaxanthinsupplementationonadiposetissueandretinaofzanthophyll-freemonkeys.InvestOphthalmolVisSci46:692-702,200515)LiB,VachaliP,BernsteinPS:Humanocularcarotenoidbindingproteins.PhotochemPhotobiolSci9:1418-1425,201016)SnodderlyDM,AuranJD,DeloriFC:Themacularpigment.IISpatialdistributioninprimateretinas.InvestOphthalmolVisSci25:674-685,198417)BernsteinPS,KhachikF,CarvalhoLSetal:Identificationandquantificationofcarotenoidsandtheirmetabolitesinthetissuesofthehumaneye.ExpEyeRes72:215-223,200118)RappLM,MapleSS,ChoiJH:Luteinandzeaxanthinconcentrationsinrodoutersegmentmembranesfromperofovealandperipheralhumanretina.InvestOphthalmolVisSci41:1200-1209,200019)GabrielskaJ,GruszeckiWI:Zeaxanthin(dihydroxy-bcarotene)butnotb-carotenerigidifieslipidmembranes:a1H-NMRstudyofcarotenoid-eggphosphatidylcholineliposomes.BiochimBiophysActa1285:167-174,199620)RitcherSP,StilesW,StatkuteLetal:Double-masked,placebo-controlled,randomizedtrialofluteinandantioxidantsupplementationintheinterventionofatrophicage-relatedmaculardegeneration:theVeteransLASTstudy(LuteinAntioxidantSupplementationTrial).Optometry75:216-229,200421)RitcherSP,StilesW,Graham-HoffmanKetal:Randomized,double-blind,placebo-controlledstudyofzeaxanthinandvisualfunctioninpatientswithatrophicage-relatedmaculardegeneration.Thezeaxanthinandvisualfunctionstudy(ZVF)FDAIND#78,973.Optometry82:667-680,201122)TanitoM,ObanaA,GohtoYetal:MacularpigmentdensitychangesinJapanesesubjectssupplementedwithluteinorzeaxanthin:quantificationviaresonanceRamanspectrophotometryandautofluorescenceimaging.JpnJOphthalmol,2012Jun15[Epubaheadofprint]1062あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(36)

健康食品としてのサプリメント:法的知識

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1051.1056,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1051.1056,2012健康食品としてのサプリメント:法的知識DietarySupplementsasNaturalHealthProducts:LegalKnowledgeofDietarySupplements川崎佳巳*はじめに健康食品は日本では今や2兆円産業といわれ,インターネットによるアンケート調査でも,消費者の6割以上が利用していると回答し,日本人の食生活に浸透するものとなった.健康食品のなかで,特に機能性成分を濃縮しカプセルや錠剤にしたものをサプリメントとよぶ.このサプリメント(補給)という言葉は,欧米で普及していたダイエタリーサプリメントを略した和製英語である.では,この健康食品やサプリメント,日本では法的にいかなる位置付けか?また,法的にどのような表示が義務付けられているか?さらにその表示からサプリメントの品質を見きわめ,患者に有用に利用させるポイントについて解説する.I日本ではサプリメントの定義はない1.法的定義健康食品やサプリメント全般についての定義は法律上なく,健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるものをさす.そのなかには法律的に『国が特定の機能の表示を許可したもの(保健機能食品)』とそうでない『いわゆる健康食品』の2つに分けられる(図1).保健機能食品にはさらに『特定保健用食品(通称トクホ)』と『栄養機能食品』の2種類がある.トクホは有効性と安全性が製品ごとに審査され認定マークが与えられる(図2)が,栄養機能食品には個別製品の審査はなく,機能表示ができる栄養成分(表1)に関して基準を満たし特定保健用食品栄養機能食品いわゆる健康食品効果・効能を標榜できる機能表示は認められず・ビタミン・ミネラル〈保健機能食品〉機能表示を許可医薬品食品医薬品個別許可型規格基準型食品(サプリメント)図1サプリメントと医薬品の違いサプリメントは食品の範疇に入り,保健機能食品以外の『いわゆる健康食品』には機能表示が認められていない.(参考図書4より)図2特定保健食品の表示国が有効性と安全性を個別製品ごとに審査して許可する.保健機能表示ができ,その効果が期待できる.表1栄養機能食品として機能表示ができる成分ミネラルカルシウム,亜鉛,銅,マグネシウム,鉄ビタミンナイアシン,パントテン酸,ビオチン,ビタミンA,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,ビタミンC,ビタミンD,ビタミンE,葉酸ミネラル5種,ビタミン12種に関して,国が定めた基準量を含有する食品に栄養機能食品の表示が許可される.表示成分の補給や補完に利用される.(参考図書4より)*YoshimiKawasaki:宝塚第一病院眼科〔別刷請求先〕川崎佳巳:〒665-0832宝塚市向月町19-5宝塚第一病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(25)1051 表2欧米のサプリメントに関する法律日本との比較欧州米国日本法制度サプリメントに関するEU指令書サプリメント健康教育法(DSHEA法)食品衛生法,JAS法,健康増進法定義通常の食事を補助するもの通常の食事を補助するものなし対象サプリメントサプリメントその他の健康食品範囲栄養素(ビタミン,ミネラル)栄養素,ハーブその他の健康食品許可制度事前審査販売後30日以内の報告のみ不要たという製造者認証の表示食品である.欧米にはサプリメントに関する法律があり(表2),法的にも医薬品と食品の中間と位置付けられているが,日本では『いわゆる健康食品』に関して法的定義はない..ここに注意眼の健康に良いことを売り物にするサプリメントのなかには,b-カロテンを基準量含有させて栄養機能食品と表示しているものがある(ビタミンAと同じ機能表示が可能).消費者は栄養機能食品という“お墨付き”で安心し,b-カロテンの栄養機能表示である『夜間の視力維持を助ける栄養素です』を見て,商品名の成分にこの栄養機能があると勘違いしてしまう可能性がある.栄養機能表示ができるのはビタミン12種,ミネラル5種(表1)に限られており,その他の成分に関しては機能表示が認められていない.このような表示の仕方は,法律上問題ないものの,消費者に過剰な期待を与えてし(参考図書1より,一部改変&追加)まいかねない.利用する側には表示を正確に読み取る力も必要である.2.医薬品との違いと問題点サプリメントは医薬品と決定的に異なる点が3つある(表3).1つ目は製品の品質である.医薬品は均一なものが販売されているのに対して,サプリメントは同じ品名であっても品質にかなりのばらつきがある.2つ目はエビデンスである.医薬品の場合は病者を対象とした安全性と有効性の試験が実施されているが,サプリメントに関してはその必要がない.3つ目は利用環境である.医薬品は医師や薬剤師によって安全な利用環境が整備されているが,サプリメントに関しては利用者が自由に選ぶことができ,医療サイドからの適切な管理や指導が及ばない点がある.さらに,サプリメントには,疾病の治療・予防などを表3医薬品とサプリメントの違い医薬品サプリメント製品の品質同じ品質のものが製造&流通する『同じ名称』でもまったく品質の異なるものが存在試験管内実験や動物実験が主体エビデンスの量と質病者を対象とした安全性&有効性の試験が実施済病者を対象とした試験はほとんどされていない安全性確認の対象者は健常人利用環境医師&薬剤師により安全な利用環境が整備あくまで食品,商品の選択&利用は消費者の自由(参考図書3より)表4薬事法違反となりうる表示花粉症を改善(疾病の治療を目的とする効能効果の表現)活性酸素を除去する成分を配合(含有成分や栄養素の表示および説明に関する表現)眼の健康に役立つ(特定部位への健康維持を標榜し,当該部位の改善が期待できる旨の表現)緑内障が気になる方に(疾患を有する者を対象として摂取を薦める表現)視力回復のために(身体の組織機能の増進を目的とする効能効果の表現)(東京都ホームページ,EBS社NR養成プログラムテキストより)1052あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(26) 目的とする表示や,身体の構造や機能に影響を及ぼすことを目的とする表示は,医薬品的な効能効果とされ表示することができない.ただし「保健機能食品」については,「お腹の調子を整える」「食後の血糖値の上昇を抑える」,「カルシウムは,骨や歯(,)の形成に必要な栄養素です」などの身体の構造や機能に影響を及ぼすこと(保健機能)を目的とする表示を行って販売することが可能である.その他の健康食品について効能効果を表示すると薬事法違反となる(表4).意図的に医薬品成分を混入させることも薬事法違反となり,国外からの輸入品にはそのような事例がときどき見受けられる.これらの薬事法違反のサプリメントを販売するクリニックも処罰の対象となり,それらを薦めたドクターにも責任が及ぶこととなるので,注意が必要である.II表示に関する法律安心かつ安全なサプリメントを患者に薦めるうえで参考になるのが,その表示である(図3).以下に加工食品としてのサプリメントに対して法的に必須の表示について説明する.1.食品衛生法食の安全の基本である『健康被害を及ぼさない』ために食品の安全性を確保する法律.容器包装に入れられた加工食品をおもな対象として,「名称」「製造者氏名・所在地」「食品添加物」「アレルギーに関する表示」「消費期限・賞味期限」「保存方法」などを表示すると定めていJAS法食品衛生法健康増進法計量法景品表示法・原材料・産地・誇大表示の禁止・虚偽表示の禁止・内容量・アレルギー表示・栄養成分表示・虚偽誇大広告等の禁止・名称・添加物・遺伝子組換え食品・賞味期限又は消費期限・保存方法・製造者図3法的にサプリメントに必要な表示について加工食品としてのサプリメントに必要な表示を一覧している.(参考図書2より,一部改変)る.2.JAS法(農林物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律)食品に品質表示を義務付けて,消費者の選択に役立つことを目的とした法律.加工することで姿を変えた食品の原材料が何であるかを示している.「名称と原産地表示(生鮮食品)」「名称と原材料(加工食品)」「製造者氏名・所在地」「内容量」「消費期限・賞味期限」「保存方法」などを表示すると定めている.原材料については,重量順に記載されており,機能成分以外にどのような添加物が多く含まれているかがこの表示から確認可能である.3.健康増進法食を通じての健康づくりを推進するために,栄養成分表示をはじめとする食品表示について定めた法律.健康増進法にはつぎの3つの柱がある.1)栄養表示に関する事項:エネルギーや,蛋白質などの栄養成分等の含有量などを表示する場合や,「高カルシウム」,「ビタミンC含有食品」などの栄養成分に関する強調表示をする場合には,「栄養表示基準」に従った表示を必要とする.2)保健機能食品に関する事項:特定保健用食品の許可および承認,栄養機能食品の規格基準について定める.3)健康の保持増進に係る虚偽・誇大広告の禁止:健康の保持増進の効果などに関して虚偽または誇大な広告を禁止する.4.表示に関するその他の法律誇大表示を禁止した景品表示法,内容量に関する計量法がある.IIIサプリメントの品質を保証する表示法制化はされていないが,品質が保証されているサプリメントを薦めるうえで参考となるマークについて解説する.1.GMP(GoodManufacturingPractice:適正製造規範)GMPとは,国が示す安全性と品質の基準を満たす製(27)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121053 図4GMPマーク造工場と製品を認定する制度で,本来は医薬品のために設けられたものである.厚生労働省より,平成17年に「錠剤,カプセル状等食品の適正な製造に係る基本的考え方について」というガイドラインが示された.原料の受け入れから最終製品の出荷に至るまでの全工程において,製品の品質と安全性の確保に努める必要があるということで,健康食品にも導入された.申請のあった工場を民間の評価機関が査察,基準を満たすかどうか,客観的に判断する.GMPマークの付いた健康食品は,この認定を受けた工場で作られた製品であることの証明である(図4).その内容は,容器包装などに表示されたとおりの原材料を使用,含有量も正確であること,異物混入がないこと,賞味期限が正しいなど,一定の安全性と品質が確保されていることを示す.評価機関は2カ所あり,認定工場で作られた製品に無条件にマークが付けられるわけではなく,製品ごとに審査が行われる.国も「GMPマークを目印に健康食品を選びましょう」と推奨している.両評価機関のホームページには,GMPマークのついた製品の一覧が掲載されている.2.JHFAマークJHFA(JapanHealthandNutritionFoodAssociation:日本健康・栄養食品協会)は,サプリメントに対して一定の規格基準を設け,その基準を満たした食品にのみ表示を許可する.以下の3項目について基準を設け,審査を行い,認定マーク(図5)を発行する.1)指定検査機関において成分分析が行われ,外観・性状,パッケージに記載されている成分の確認,残留農薬,重金属,一般細菌・大腸菌群などといった項目について,細かく審査.2)原材料,製造工程,加工施設の設備,作業者の衛生管理などについて,細かい基準を設定し,1054あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012図5JHFAマーク図6ハイクオリティ認証マーク安全衛生面について審査.3)パッケージなどに記載されている表示についても審査を行い,まぎらわしい表現や不適切な表示がないか,食品衛生法・薬事法,栄養改善法などに適合しているかどうかを厳しくチェック.3.ハイクオリティ認証マークハイクオリティ認証は,成分が表示どおり含有されていること,有害レベルの不純物が混入していないこと,GMP工場で製造されていることなどを,日本健康食品・サプリメント情報センターが第三認証する制度である.この安全性,有効性の判断は日本医師会・日本薬剤師会推薦の『ナチュラルメディシン・データベース』を基に行われ,基準を満たしたサプリメントに認証マークを発行している(図6).IV現法律に基づいたサプリメント利用の実際では,ドクターが医療現場で,どのようにサプリメントを患者に薦めればよいか順を追って解説する.1.機能成分の有効性≠サプリメントの有効性同じ名前であっても,その機能成分の含有量や添加物など製品によって大きくばらつきがある.表示を基に適正量がどうか判断するものの,実は表示どおりに含有されていないものもある.たとえ機能成分が有効量入っていたとしても,その商品にトクホのような個別の有効性が証明されているわけではない.(28) 2.エビデンスに基づき機能成分の有効性を患者に説明サプリメントは加工食品の範疇に入り,効能効果を表示できない分,暗示的な表現でメーカーがPRを行い,かえって利用者に過大な期待を与えてしまうことになる.また,薬事法すれすれのきわどい表示をしているものも見受けられる.医療者は機能成分のエビデンスのレベルを正確に把握し,それに基づいて患者に説明し利用させる必要がある.3.サプリメントを見抜くための表示の読み方について指導する食品衛生法,JAS法,健康増進法に基づくサプリメントの表示から,含有成分を読み取る.原材料や添加物に問題がないか,アレルギーで問題になりうる成分が入っていないかを確認する.サプリメントは同じ品名でもその品質には非常にばらつきがあり,患者に安心して使用させるには,GMP認定マーク,JHFAマーク,ハイクオリティ認証マークなど,これらのマークがついている商品を選ぶように指導する.4.重複摂取や過剰摂取,薬剤との相互作用に注意する多種類のサプリメントを服用している場合,主成分以外の成分(ビタミンEなど)が重複していることもあり,利用させる際には,患者の健康食品利用状況を把握し,重複摂取や過剰摂取に注意しないといけない.薬剤を服用している場合は,サプリメントとの相互作用にも注意が必要である.5.アレルギー反応や健康被害に注意し利用状況をフィードバックする薦めたり利用させたりした以上は,患者が体調の変化を感じていないか問診する.もしアレルギー反応や健康被害の可能性が考えられる場合は,それが疑いであってもまずは利用を中止させることが必要である.6.薬事法違反のサプリメントを扱わない,薦めない医薬品成分が混入しているサプリメントも,医薬品的(29)な効能効果を表示しているサプリメントも薬事法違反であり,それらを薦めることも薬事法に触れる.ゆえに,サプリメントを薦める際には,ルテインなどその機能成分についてのエビデンスやAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy)の結果などを説明し,それらが適正量含有され安全性の高いものを,表示を目安として患者に選ばせるのが,現法律のなかでは好ましい.その点では,眼科領域の信頼できる企業が医家向けに製造したサプリメントを利用させるのも安心である..アドバイザリースタッフに関するガイドラインサプリメントに含まれる機能成分に関する正しい知識の普及や,個人の栄養状態の評価とそれに対する助言が,健康被害を防ぐために不可欠である.この社会的要請を受け,わが国では2002年からサプリメントアドバイザー認定機構を設立し,医師,看護師,薬剤師,栄養士などを対象に,その専門家の育成を図っている.私が資格を取得しているNR(NutritionalRepresentative;栄養情報担当者)も,そのアドバイザー資格のうちの一つであり,国立栄養健康研究所が認定するものである.Vまとめサプリメントを安全に利用するうえで必要な法的知識について述べた.サプリメントはあくまで食品なので,医薬品のような即効性を期待したり,病気の治療を目的にしたりするものではないが,最近の研究によって,医薬品に準じる効果がある機能成分や,疾患予防効果が期待されるサプリメントが,今後ますます研究開発されていくと考えられる.サプリメントは法的に食品であるがゆえ,医師の非管理下で利用されている.現時点では,当該法的規制内の範囲で患者に利用方法をきちんと説明し,薦めていくことが大切であるが,今後,欧米のように医薬品と食品の中間としてサプリメントが位置づけられ法的整備が進むことが,有効かつ安全に利用するうえで必要かと考える.謝辞:浅井綜合法律事務所の弁護士,浅井健太氏には法律に関する助言を頂きました.また,NR協会副理事長で薬剤師の千葉一敏氏,同じく同協会副理事長で歯科医師の清水洋利氏,ヘルシーパス社代表取締役の田村忠司氏からは,サプリメントに関する資料と助言をいただきました.この場を借りてお礼申し上げます.あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121055 参考文献1)川嶋朗:ドクターズサプリメントの可能性.アンチ・エイジング医学1(5):36-40,20052)MacDonaldNE,MacLeodS,StanbrookMBetal:Noregulatorydoublestandardfornaturalhealthproducts.CMAJ183:2079,2011参考図書など1)吉川敏一,櫻井弘:サプリメントデータブック.オーム社,20052)パンフレット『あなたは食品表示を読めますか?』.札幌市市民まちづくり局消費者センター,20093)パンフレット『健康食品による健康被害の未然防止と拡大防止に向けて』.厚生労働省,日本医師会,国立栄養健康研究所,20104)パンフレット『健康食品の正しい利用法』.国立栄養健康研究所,20111056あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(30)

網膜色素変性症におけるサプリメントと保護的治療薬

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1045.1049,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1045.1049,2012網膜色素変性症におけるサプリメントと保護的治療薬SupplementationandProtectiveTreatmentforRetinitisPigmentosa万代道子*はじめに伴性染色体劣性(5.15%)とさまざまであり,原因と網膜色素変性症は杆体視細胞がアポトーシスに陥り変なる遺伝子も,細胞骨格や構造にかかわる遺伝子,光情性していく疾患群の総称であり,世界中で3,000人から報伝達関連遺伝子,細胞間シグナルや接着,シナプス関4,000人に1人の割合で患者がいるとされている.その連因子,細胞内シグナリング,RNAスプライシングに原因遺伝子としてはこれまでに40以上の遺伝子がすで関わる遺伝子など実にさまざまである.これまでに報告に報告されており,その原因遺伝子によって,遺伝形式されている原因遺伝子を表1にまとめた.病態,進行のは常染色体優性(30.40%),常染色体劣性(50.60%),速度なども当然疾患の原因となる遺伝子によってそれぞ表1網膜色素変性の原因遺伝子蛋白質の機能遺伝子名遺伝形式光伝達関連RHO(ロドプシン)dominant,recessivePDE6A,PDE6B,CNGA1,CNGB1,SAG(アレスチン)recessive細胞骨格,構造関連蛋白質RDS(ペリフェリン)dominant,digenicROM1digenicFSCNdominantTULP1,CRB1recessiveRP1dominant,recessiveシグナル伝達,細胞間,シナプス関連SEMA4AdominantCDH23,PCDH15,USH1C,USH2A,USH3A,MASS1recessiveRP2X-linkedビタミンA代謝関連ABCA4,RLBP1,PDE65,LRAT,RGRrecessiveRNAスプライシング因子PRPF31,PRPF8,PRPF3,RP9dominant細胞内移動MYO7A,USH1G,BBS1,BBS2,ARL6,BBS4,BBS5,MKKS,BBS7,recessiveTTC8,PTHB1RPGRX-linkedpH調整CA4dominant貪食能MERTKrecessiveその他CERKL,BBS10recessiveIMPDH1dominant*MichikoMandai:理化学研究所網膜再生医療研究チーム〔別刷請求先〕万代道子:〒650-0047神戸市中央区港島南町2-2-3理化学研究所網膜再生医療研究チーム0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(19)1045 れに異なる.しかし,実際の患者で原因遺伝子の特定できる症例は,網羅的なスクリーニング遺伝子診断を行っても,わが国で全体の3.4割とされる1).杆体細胞変性に伴う症状としては夜盲,視野狭窄の進行と,末期には錐体細胞の二次的進行による視力障害もみられる.ただ,その進行は一般に10年単位といったものであり,また,錐体細胞の集中する中心視野だけ残存し,視力は比較的良好に保たれている期間は進行例においても比較的長く,よって少しでも進行を遅らせることができれば,という意味で保護効果を目的としたいわゆるサプリメント治療に対するニーズは非常に強い.これまでに医学的にその有効性が報告されたものを含めて,昨今網膜色素変性のサプリメント,保護的治療薬として注目されてきたものとしては,以下のようなものをあげることができる.I現時点で入手可能なもの1.ビタミンA/b-カロテン2.DHA(ドコサヘキサエン酸)3.ニルバジピン(カルシウムブロッカー,高血圧治療薬)4.ルテイン,ゼアキサンチン(カルテノイド)5.アセタゾラミド,ドルゾラミド,ブリンドゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)6.その他の治療II医師の処方薬などで,現在臨床研究など行われているもの1.イソプロピルウノプロストン2.バルプロ酸3.PEDF(pigmentepithelium-derivedfactor)4.CNTF(ciliaryneurotrophicfactor)III網膜色素変性の患者は注意を要する薬やサプリメントアキュテイン,バイアグラ,ビタミンE以下,それぞれの項目について説明する.1046あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012I現時点で入手可能なもの1.ビタミンA1993年に行われた米国の大規模疫学的研究によると,ビタミンAの連日摂取で(15,000U/日)4.6年の経過観察により,錐体ERG(網膜電図)反応の低下の進行を有意に遅らせることができ,またもともとのERG反応の良好な群でより効果は顕著であったとされている2).視力や視野変化についても進行を遅らせる可能性は示唆されているものの,これらの指標の悪化は元来ゆっくりであると同時に変動もあるため,より長期にわたる経過観察期間でないと判定はむずかしいと思われる.また,b-カロテンは必ずしも安定してビタミンAに変換されないので,代用にはならない.また,ビタミンA摂取の副作用については,49歳以上の男性および閉経後の女性では骨折リスクがわずかに上昇することが報告されており,また,高濃度の摂取は胎児奇形のリスクを伴うので,妊婦は避けるべきである.また,服用する場合は,年に一度,肝臓の酵素,ビタミンAの量の検査が勧められている.2.DHA(ドコサヘキサエン酸)DHA(omega-3polyunsaturatedfattyacids)は網膜では視細胞外節の主たる多価不飽和脂肪酸であり,抗酸化物質である.食事ではサバ,イワシなどの青魚に多く含まれていることが知られている.DHAとビタミンAを同時に摂取した網膜色素変性の患者では最初の2年では視力,視野変化の進行を遅らせる効果がみられたが,4年間でビタミンAのみを摂取した患者と比較すると,DHAの追加による効果はみられなかった3,4).しかし,患者赤血球中のDHAの濃度と錐体ERGの振幅には関連性があるなど,DHAの効果を示唆するエビデンスもいくらかみられる.また,ビタミンA摂取をしている患者を対象として,サプリメントでなくとも日常的にDHAを多く摂取している(≧0.2g/日)患者群と低摂取2g>)を比較すると,4.6年の比較で,高摂取群.群(0で有意に視力の低下の進行が遅いという報告もされている5).このことから,サプリメントとして摂取することの意義は不明ではあるが,日常食生活のなかでDHAを(20) 無理なく摂取することは望ましいといえよう.3.ニルバジピン(カルシウムブロッカー,高血圧治療薬)高血圧の治療によく使われるカルシウムブロッカーという種類の薬のなかで,ニルバジピンという薬は網膜に到達しやすく,rdマウスという非常に進行の速い網膜変性モデルにおいて,網膜の変性を抑えるという動物実験が報告されている6).しかし,その後も動物モデルに関しても一貫しない報告がなされるなど7)薬効について十分にサポートするデータは少なく,またヒトでの効果はデータがなく不明状態である.4.ルテイン,ゼアキサンチン(カルテノイド)ルテインとゼアキサンチンは黄斑部に局在する色素で,もともと体内で作ることはできない.食べ物から摂取され,経口摂取により黄斑色素が増えることが知られている.ルテインは,黄斑部視細胞を酸化ストレスによる障害から守ってくれると考えられている.米国のスタディで,ビタミンA(15,000IU/日)サプリメント投与患者におけるルテインサプリメント(12mg/日)の追加効果については,4年の経過観察で,特に有意な進行抑制はみられていない8).しかし,血中ルテイン濃度の高い患者や黄斑色素濃度の増加量の高かった患者においては,より視野変化の進行が遅かったとも報告されており,その効果については必ずしも否定的なものではないように思われる.5.アセタゾラミド,ドルゾラミド,ブリンゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)網膜色素変性の初期から中期に,黄斑浮腫により視力が低下することがある.こういった浮腫に対して,炭酸脱水酵素阻害薬であるダイアモックスRの内服が有効であることが以前より報告されている9).有効例ではほぼ1カ月以内に効果がみられ,浮腫の軽減がみられる.しかし,8週以上の投与で再び浮腫の再発してくる症例も報告されており,必ずしも効果は持続的ではない10).最近では同様の薬理効果をもつ点眼薬(トルソプトR,エイゾプトR)でも浮腫改善効果があることが報告されて(21)いる11).低カリウム血症など全身的副作用を考えれば,点眼での投与も有用であるが,やはり再発もみられるようである.また,これらの治療はすべての黄斑浮腫に効果があるわけではなく,むしろ有効例は2,3割程度である.6.その他の治療アダプチノールについては,ヘレニエンという物質が成分で暗順応を一時的に改善するとされているが,この成分に関する報告は1963年以降ないので効果については不明である.また,ルテインと同様カロテノイドの一種である.その他のサプリメントとして,アスコルビン酸(ビタミンC),患者の一般的興味としてブルーベリー,といったものもあるが,いずれも網膜色素変性に効果的かどうかは,証明されたものではない.II数年内に可能なもの(医師の処方薬などで,現在臨床研究などが行われているもの)1.イソプロピルウノプロストンプロスタグランジンF2a誘導体であり緑内障の点眼薬の一つとして用いられているが,薬理作用としては,Maxi-Kchannel活性化作用が明らかになり,エンドセリンによって収縮した細胞の弛緩作用や神経細胞保護作用が報告されている.また,ラットの光障害モデルと,同じくラットのロドプシン遺伝子改変網膜変性モデルにおいて,ウノプロストン投与による網膜保護効果が報告されている.網膜色素変性に対しては現在多施設での治験が行われており,視野の維持に有効であるといった経過が報告されている.2.バルプロ酸バルプロ酸は従来抗てんかん薬として長く処方されてきた内服薬であり,最近ではhistonedeacetylaseの強力な阻害薬としての働きの他,抗炎症作用や神経保護因子の分泌促進作用などさまざまな効果が提唱されている.異常ロドプシン蛋白(P23H)を強制発現させた培養細胞系での異常ロドプシン蛋白の正常なfoldingを助あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121047 けるシャペロンとしての小分子のスクリーニングで有効であったことから,Clemsonらが網膜色素変性患者への効果について4カ月の短期投与であるが,13眼についてパイロットスタディを行った12).この結果,視力,視野などで,進行抑制ばかりではなく,一部著しい改善効果がみられ,非常に話題となった.しかしこの報告については以後,有効と判断するには時期尚早といった反論も投稿されており13),科学的根拠の検証とともにしばらく議論は続きそうである.3.PEDFPigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)は,遺伝的網膜変性モデルや光障害モデルなどさまざまな網膜変性動物モデルにおいて眼内投与による有効性が報告されている.現在,わが国でもPEDF遺伝子治療の研究が行われており,厚生労働省に臨床研究の申請がなされている.4.CNTFCiliaryneurotrophicfactor(CNTF)も,網膜変性動物モデルにおいて変性を遅らせることが報告されている.米国ではCNTFを分泌する網膜色素上皮細胞をカプセルに入れて眼内に留置する治療のフェーズ2の臨床試験が,Usher症候群や網膜色素変性を対象に行われている.IIIその他,服用に注意を要する薬(網膜色素変性の患者は注意を要するもの).アキュテイン:にきびの治療に処方される薬剤で,夜盲症,ERGの反応,暗順応を悪化させることが知られている..バイアグラ:男性の性的不全に対する治療薬だが,一過性のERGの変化や視覚の変化を起こすことが知られている.成分のsildenafilはphosphodiestrase5(PDE5)の阻害薬であり,視細胞のPDE6も阻害する.実際バイアグラ使用者には,青い光が見えるといった訴えもみられ,この薬剤が網膜に影響していることを示唆するものであり,何らかの疾患への影響も否定はできない.1048あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012.ビタミンE:ビタミンEには抗酸化作用があり,網膜の変性を抑制する可能性もあるため一日に800IU程度の摂取は奨励されている.しかし,一方で過剰摂取は,網膜色素変性の進行を少し速くする可能性も報告されており,注意を要する.おわりにこれまでに網膜色素変性に対するサプリメントとして多少なりとも眼科医の注意にとまってきたであろうものについてまとめてみた.最初にも述べたが,もともと網膜色素変性は進行が緩徐なうえ,症状にゆらぎもみられるため,実際には長い経過をみなければ,本当にサプリメントが有効であるかどうか判断するのはむずかしいものが多い.患者の日常生活のなかでの摂取に関しては,過剰にならぬよう,無理のない範囲で利用するのが好ましい.また,プロスタグランジン剤やバルプロ酸,その他成長因子といった医師の処方下,あるいは治療として用いられるものについては,現在も臨床研究が進んでおり,有効と判断されたものについては近いうちに臨床現場にも導入されてくるものと思われる.文献1)JinZB,MandaiM,YokotaTetal:Identifyingpathogenicgeneticbackgroundofsimplexormultiplexretinitispigmentosapatients:alargescalemutationscreeningstudy.JMedGenet45:465-472,20082)BersonEL,RosneerB,SandbergMAetal:Arandomizedtrialofvitaminandvitaminsupplementationforretinitispigmentosa.ArchOphthalmol111:761-762,19933)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:ClinicaltrialofdocosahexaenoicacidinpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminAtreatment.ArchOphthalmol122:1297-1305,20044)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:FurtherevaluationofdocosahexaenoicacidinpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminAtreatment:subgroupanalyses.ArchOphthalmol122:1306-1314,20045)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:w-3IntakeandVisualAcuityinPatientsWithRetinitisPigmentosaReceivingVitaminA.ArchOphthalmol,2012Feb13.[Epubaheadofprint]6)FrassonM,SahelJA,FabreMetal:Retinitispigmento(22) sa:rodphotoreceptorrescuebyacalcium-channelblockerintherdmouse.NatMed5:1183-1187,19997)Pearce-KellingSE,AlemanTS,NickleAetal:CalciumchannelblockerD-cis-diltiazemdoesnotslowretinaldegenerationinthePDE6Bmutantrcd1caninemodelofretinitispigmentosa.MolVis7:42-47,20018)BersonEL,RosnerB,SandbergMAetal:ClinicaltrialofluteininpatientswithretinitispigmentosareceivingvitaminA.ArchOphthalmol128:403-411,20109)FishmanGA,GilbertLD,FiscellaRGetal:Acetazolamidefortreatmentofchronicmacularedemainretinitispigmentosa.ArchOphthalmol107:1445-1452,198910)ApushkinMA,FishmanGA,GroverSetal:Reboundofcystoidmacularedemawithcontinueduseofacetazolamideinpatientswithretinitispigmentosa.Retina27:1112-1118,200711)GroverS,ApushkinMA,FishmanGA:Topicaldorzolamideforthetreatmentofcystoidmacularedemainpatientswithretinitispigmentosa.AmJOphthalmol141:850-858,200612)ClemsonCM,TzekovR,KrebsMetal:Therapeuticpotentialofvalproicacidforretinitispigmentosa.BrJOphthalmol95:89-93,201113)vanSchooneveldMJ,vandenBornLI,vanGenderenMetal:TheconclusionsofClemsonetalconcerningvalproicacidarepremature.BrJOphthalmol95:153;authorreply153-154,201114)SandbergMA,RosnerB,Weigel-DiFrancoCetal:Lackofscientificrationaleforuseofvalproicacidforretinitispigmentosa.BrJOphthalmol95:744,2011(23)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121049

加齢黄斑変性におけるサプリメントに対する日本の現状と認識

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1039.1044,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1039.1044,2012加齢黄斑変性におけるサプリメントに対する日本の現状と認識UsageandRecognitioninJapanofSupplementsforPreventingAge-RelatedMacularDegeneration佐々木真理子*はじめにAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)1)が,2001年に抗酸化ビタミンとミネラルを含むサプリメントが加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の発症,進行予防に有効であるとの報告をして以来,米国では同年,日本では2005年にAREDSの処方をベースとしたサプリメントが登場した.当初,このサプリメントはAMDに対する唯一のエビデンスを有する予防法として注目された.発売後5年を経過した現在,AMDにおけるサプリメントは,医師や患者にどのように認識され,実際に用いられているのだろうか?本稿では,日本におけるAMD患者のサプリメント摂取の現状と医師,患者の認識を確認し,問題点を考察する.残念ながら,日本全体のAMD患者のサプリメント摂取量やアンケート調査などの資料は限られているため,まず,製品の種類,販売状況など,マーケットの視点から,日本のAMDにおけるサプリメント摂取の全体像を把握する.つぎに,2010年,慶應義塾大学病院黄斑外来で行ったアンケート調査2)の結果をもとに患者の具体的な摂取状況,患者,医師双方のサプリメントへの認識を検討する.これらを検討する際に,AMDサプリメントが販売されるきっかけとなったAREDSの結果を基準として,また,AREDSが行われサプリメントが先行して販売された米国と比較することにより,日本のAMDにおけるサプリメント摂取の実態と認識についての特徴を明らかにし問題点を検討したい.IAMDにおけるサプリメントの摂取状況と認識1.マーケティングの視点からa.AMDにおけるサプリメント製品の種類AMDへの効果をうたったサプリメントは数多く市販されているが,ここで扱う“AMDにおけるサプリメント”は,AMD患者に眼科医が推奨するであろうサプリメントとする.おもなものを表1に示すが,大きく(1)AREDS処方にほぼ準じたもの,(2)AREDS処方を改変したもの,(3)それ以外のものに分けられる.(1)に属すのはボシュロム社,“オキュバイト・プリザービジョン”で,亜鉛を減量しているほかは,ビタミンC,ビタミンE,b-カロテンなど,ほぼオリジナルのAREDS処方に準じている.(2)のAREDS処方を改変したサプリメントの多くは,喫煙者での肺癌リスク上昇の問題3)(後述)を考慮し,AREDSオリジナル処方からb-カロテンを除いてルテインを加えた処方である.また,日本人の栄養摂取量を勘案し,食事からの摂取分を考慮して処方量を調整してある.最近,ルテインのほかにもw-3脂肪酸である,ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid:DHA)やエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoicacid:EPA)が処方された製品が加わった.(3)のそれ以外のサプリメントは,ルテインやDHA/*MarikoSasaki:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕佐々木真理子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(13)1039 表1AMDに対するサプリメント製品一覧AREDS処方に準じたものAREDS処方を改変したものAREDS処方以外のものAREDSでオキュバイオキュバイオキュバイトオキュバイトサンテルタッサンテルタッサンテルタッルテインプロ用いられたトプリザートプリザー+ルテイン50プラスクス15クス20クス20処方ビジョンビジョン+ビタミン&+DHA+ルテインミネラル成分量(1日分)ビタミンC500mgビタミン400IUb-カロテン15mg亜鉛80mg銅2mgビタミンC408mgビタミンE242mgb-カロテン15.8mg亜鉛30mg銅1.5mgビタミンC408mgビタミンE242mg亜鉛30mg銅1.5mgルテイン9mgビタミンC300mgビタミンE60mgb-カロテン1.2mg亜鉛9mg銅0.6mgルテイン6mgビタミンC150mgビタミンE20mg亜鉛9mgルテイン5mgゼアキサンチン1mgDHA90mgEPA160mgビタミンC288mgビタミンE150mg亜鉛9mg銅1.2mgルテイン15mgルテイン20mgルテイン20mgゼアキサンチン1mgDHA200mgEPA25mgビタミンC50mg亜鉛3mgDHA30mgルテイン10mgゼアキサンチン2mgEPAといったAREDSでの処方成分ではないが,AREDSに続いて現在行われている大規模試験であるAREDS2(Age-RelatedEyeDiseaseStudy2)で検討されている成分で,個別の疫学調査4,5)などでAMDへの有効性が報告されているものである.現在の日本における“AMDにおけるサプリメント製品”は,“強いエビデンスとして示されているAREDSに準じた処方サプリメント”より,“AREDS処方を改変したもの”や“AREDS処方以外のもの”が多くを占めている.b.日本のAMD患者のサプリメントの摂取状況AMDにおける(眼科推奨)のサプリメントの日本の販売高は11億円にのぼり,約6.7万人のAMD患者がこれらのサプリメントを摂取していると推測されている(図1).日本のAMD患者を約69万人,米国で230万人と推定すると,米国では,患者は日本の約3倍,サプリメントの販売高は1.1億ドルと日本の8倍なので,米国の患者の摂取率は日本の2倍以上といえる.また,AMDにおけるサプリメントの種類別販売高では米国は(1)のAREDS処方に準じたものが64%と多くを占めたのに対し,日本では25%にとどまり,(2)のAREDS処方を改変したものや,(3)のそれ以外のサプリメントが7割以上を占めているのが現状である(図1).1040あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(Million\)10,0009,0008,0007,0006,0005,0004,0003,0002,0001,0000米国日本■:(1)AREDS処方に準じたサプリメント■:(2)(3)上記以外の眼科推奨サプリメント図1眼科推奨サプリメントの販売規模米国の眼科推奨サプリメントの販売高は日本の8倍で,AREDS処方に準じたサプリメントが65%を占める.2.外来診療の視点からa.外来におけるAMD患者のサプリメント摂取状況1)AMD患者のサプリメント摂取状況2010年に慶應義塾大学病院黄斑外来で行ったアンケートで有効な回答が得られた外来AMD患者159名が摂取していたサプリメントを種類別に分けると,(1)のAREDSでの処方に準じたものが23名(15%)(2)のAREDS処方を改変したものが35名(22%),(3)(,)のその他でルテインのみが19名(12%)で,これらすべてを合わせた眼科推奨のサプリメントを摂取していた患者は77名(49%)あった(図2・左).このうち,摂取目的がAMD治療のためであった患者70名が摂取していたのは100%眼科推奨のサプリメントで,(1)の(14) AMD患者全体(159名)AMD治療目的に摂取している患者(70名)■:(2)AREDS処方を改変したサプリメント15%22%12%8%43%31%49%20%■:(1)AREDS処方に準じたサプリメント■:(3)その他のAMDサプリメント■:その他一般のサプリメントを摂取:サプリメント摂取なし図2外来におけるAMD患者のサプリメント摂取状況左:アンケートの回答が有効であったAMD患者159名中,眼科推奨のサプリメントを摂取していた患者は49%であった.右:AMDの治療を目的に摂取していたのは,100%眼科推奨のサプリメントであり,そのうち(2)のAREDS処方を改変したサプリメントが約半数を占めた.AREDSでの処方に準じたものが22名(31%)(2)のAREDS処方を改変したものが34名(49%),(3)(,)のその他でルテインのみが14名(20%)であった(図2・右).これは,(1)のAREDS処方に準じたもの以外のサプリメントが7割以上を占めたマーケティング調査による摂取内訳とほぼ一致した結果であった.2)AREDSの基準でサプリメント摂取が推奨される患者AREDSのサプリメント摂取推奨基準をもとに,摂取対象患者のAMD患者全体に対する割合を検討した.AREDSのサプリメント摂取基準についての詳述は他項に譲るが,今回の筆者らの調査では,AREDSで発症抑制効果の認められた,“軟性ドルーゼンのみられるもの”(AREDSでのカテゴリー3)“AMDの対側眼”(カテゴリー4)に加え,視力低下の抑(,)制効果を勘案し,“両眼がAMDに罹患しており片眼の視力が比較的良いもの”をカテゴリー5aと設定し,対象とした2,6).アンケート調査で有効な回答が得られた159名の外来患者中,AREDSのサプリメント摂取推奨基準を満たすと考えられた,“軟性ドルーゼンのみられるもの”(カテゴリー3)は14名(9%),“AMDの対側眼”(カテゴリー4)は102名(64%),“両眼がAMDに罹患しており片眼の視力が比較的良いもの”(カテゴリー5a)は23名(15%)とAMD患者のうち139名(87%)がAREDSサプリメントの摂取が推奨される患者と考えられた.これは米国の報告6)にある71%に比較して低くなかった(図3).残り13%のAREDSサプリメントの推奨基準に該当しないと考えられたのは,軟性ドルーゼンを認めないカテゴリー2に該当する13名(8%)と両眼AMDで視力低■:(1)AREDS処方に(人)準じたサプリメント120100806040200カテゴリー5a両眼AMD視力良好カテゴリー5b両眼AMD視力不良■:(2)AREDS処方を改変したサプリメント■:(3)その他のAMDサプリメント:摂取なし・その他のサプリメントを摂取カテゴリー2軟性ドルーゼンなしカテゴリー3軟性ドルーゼンありカテゴリー4片眼AMD摂取対象患者図3AREDS基準からみたサプリメント摂取対象者と摂取者AMD患者のうち,87%がAREDSのサプリメント摂取推奨基準を満たすと考えられた.対象者のうち,(1)と(2)を合わせたAREDSに関連したサプリメントを摂取していたのは34%であった.下の進んでいるもの(カテゴリー5bと設定)7名(4%)であった.ついで,AREDSのサプリメント推奨基準を満たすと考えられた139名の患者のうち,(1)のAREDS処方に準じたサプリメントを14名(10%)が,(2)のAREDS処方を改変したサプリメントを33名(24%)が,(3)のその他に含まれるルテインを14名(10%)が摂取していた(図3).各カテゴリー間で患者の摂取割合に差はなかった.先の米国での報告6)ではAREDS処方のサプリメントを摂取していた患者は,摂取対象者の72%であったので,筆者らの外来での摂取率(1)と(2)を合わせたAREDSに関連したサプリメントとしての34%,眼科推奨のサプリメントとしての合計44%ははるかに及ばなかった.(15)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121041 b.患者の意識AMD患者がサプリメントを摂取している目的を調査したところ,何らかのサプリメントを摂取していた90名(57%)のうち,摂取目的で最も多かったのはAMD治療のためで70名,78%を占めた.これらAMDのためにサプリメントを摂取している患者のすべてが,眼科医から提供された情報により摂取していると回答し,インターネットなどのその他の情報からサプリメントを選択した患者はみられなかった.眼科医から提供された情報によりサプリメントを摂取していたのは71名(68%)で,“現在検討している”“以前摂取していた”などを加えると80名(77%)に摂(,)取意向がみられた.情報を提供されたが摂取していない患者の理由はさまざまだが,“サプリメントの有効性が納得できない”,“食事から栄養を取っている”などがみられた.眼科医による情報提供の重要性を考慮し,情報提供を行う基準としてAREDSのサプリメント摂取推奨基準を設定した場合の,摂取対象者への情報提供の状況を検討した.基準に該当した患者139名のうち,眼科医によりAREDSに関連するサプリメントの情報を提供されていたのは78名(56%)であった.13名(9%)はルテインの摂取を勧められていた.摂取基準に該当するが摂取していなかった患者91名中,61名(67%)はサプリメントの情報を提供されていなかった(図4).AMD患者のサプリメント摂取の選択には医師からの(人)AREDS摂取基準対象外■:情報提供あり■:情報提供なし140120100806040200対象者図4サプリメントに関する情報提供の状況AREDSのサプリメント推奨基準対象者のうち,眼科医からAREDSに関連するサプリメントの情報を提供された患者は56%であった.摂取していなかった対象者のうち67%は情報を提供されていなかった.1042あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012情報が重要であり,AMDサプリメントの摂取率に大きく影響しているのは,患者のアドヒアランスより,むしろ医師からの情報提供であると考えられた.c.医師の認識患者のサプリメント摂取に大きな影響を与えている,医師のAMDに対するサプリメントへの認識について,慶應義塾大学病院眼科外来医(網膜専門医6名,それ以外の眼科専門医12名)にアンケートを行った.サプリメントの有効性に関する質問に対し,外来医の90%以上が,“AREDS処方のサプリメントがAMD予防に有効である”と回答した.その他のサプリメント成分に関して,網膜専門医,その他の眼科医の各々67%,83%が“ルテイン”を,67%,50%が“DHA/EPA”を有効であると回答した.情報提供の頻度に関する質問に,網膜専門医,その他の眼科医の各々67%,33%が“適応と思えば必ず”と回答し,33%,42%が“時々”提供すると回答した.網膜専門医のすべてが情報提供を行っていたが,その他の眼科医の25%は情報提供を行っていなかった(図5).推奨しているサプリメントの種類を複数回答可として質問したところ,網膜専門医,その他の眼科医の各々67%,50%が“(1)AREDS処方に準拠したサプリメント”を,100%,67%が“(2)AREDS処方を改変したサプリメント”を,67%,25%が“(3)その他のサプリメントであるルテイン”を推奨していると回答した.情報提供を行う際の基準として,80%以上の外来眼科医が“AREDSを参考にする”と回答したが,網膜専門医の83%は“AREDSやその他の情報を勘案”してしない時々必ず■:網膜専門医■:その他の眼科医70(%)0102030405060図5医師による情報提供の頻度医師はAMD患者に,必ずしもサプリメント摂取に関する情報を提供していなかった.(16) 基準としており,“AREDSの結果のみで判断”していると回答したのは17%のみであった.AREDSの基準でのみ判断していない理由としては,AMDの特徴や,その他の背景が米国と異なることがあげられた.AREDSについては外来医全体で,90%以上が知っていると回答し,AREDS2に関してはすべての網膜専門医,その他の眼科医は半数が知っており,各々67%,42%が結果を参考にしたいと回答した.ほとんどの眼科医はAREDSに関する知識をもち,AMD予防に関してAREDS処方のサプリメントを有効と考えていた.しかし,積極的に詳細な情報提供は行っておらず,AREDSのサプリメント摂取推奨基準に必ずしも準じていないという矛盾した状況がみられた.IIAMDにおけるサプリメントの問題点このように,日本におけるAMD患者のサプリメント摂取率は,米国に比べ低く,また,AREDS処方に準じたサプリメント以外の摂取が多くを占めているのが現状であった.AMD患者は医師からの情報提供によりサプリメント摂取を選択しており,情報を提供する医師側はAREDS処方のサプリメントを有効と考えているものの,必ずしもその摂取推奨基準に従って積極的に情報を提供していない.AREDSというエビデンスレベルの高い研究結果に基づいて提供されたはずのサプリメントなのだが,この現状は若干残念な状況と言わざるをえない.この状況から考察するAMDにおけるサプリメントの問題として,以下の点があげられる.1.AREDS処方の問題点AREDS処方にはいくつかの検討課題が確認されている.まず,喫煙者におけるb-カロテン摂取の問題である.喫煙者がb-カロテンを摂取すると肺癌発症リスクが増加3)することが報告されている.さらに,亜鉛摂取により,泌尿器疾患が増加1)したことがAREDSで報告されている.これをうけて,現在の日本でのAMDにおけるサプリメントの主流である(2)のAREDS処方を改変したサプリメントは,b-カロテンをルテインに変更している.また,日本で販売されているすべてのAMDサプリメントは亜鉛をAREDSでの80mgから30mg以下に減量している(表1).しかし,これらの成分を減量しても,AREDSでの処方と同等の効果が得られるかは現在AREDS2で検討中であり,改変した処方が有効であるかは明らかでない.2.AREDS処方以外のサプリメントの問題点ルテインやDHA/EPAは疫学調査4,5)などからAMDの予防効果が報告されている成分であり,現在AREDS2で有効性が検討されている.しかし,AREDS2においても,現在の標準的な治療法であるとしてAREDS処方のサプリメントとの併用で効果を検討しているため,単独での効果はきたるべきAREDS2の結果をもってしても明らかにならない.これら単独処方のサプリメントの報告はおもに観察研究であり,今後,さらに臨床治験が必要であろう.3.人種・栄養摂取量の問題AMDの病型についてみると,白人には数%しか存在しないといわれているポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)が,日本人では約半数を占める7).また,白人に比べ日本人ではAMDの発症へのドルーゼンの関与が低い8)など,AMDの病態の人種差の可能性が報告されている.AREDSの研究方法において,カテゴリー3は“ドルーゼンの大きさと位置”,カテゴリー4で“片眼発症”となっており,たとえばAMD発症とサプリメントの効果の検討にPCVの存在は考慮されていない.この点を考えても,白人主体の調査結果であるAREDSの基準がそのまま日本人に適応可能であるのか疑問である.また,米国と日本では食生活の違いから,基礎栄養摂取量が異なり,有効性を示すために必要なサプリメント成分量も異なる可能性がある.これらの問題点が,医師がAMDにおけるサプリメントに関する情報提供に消極的なことや推奨基準が混乱していることに影響している可能性がある.(17)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121043 おわりに―今後のAMDにおけるサプリメントAMDにおけるサプリメントへの認識は,米国の医師がAREDSでの結果を基準に,積極的にサプリメントを推奨しているのに比べ,日本では基準もあいまいで,消極的であった.AMDにおけるサプリメントの効果自体にも問題はあるが,患者が医師からの情報を重視しサプリメントを摂取していることを認識し,できるだけ正しい情報を患者に提供したい.AREDSに基づくサプリメントのエビデンスレベルは高く,現時点では“喫煙をしていない,軟性ドルーゼンを認める患者,片眼にAMDを発症している患者”にはAREDS処方に準じたサプリメントを推奨する情報を提供すべきと考えられ,本稿に記した,成分や適応を参考にしていただければ幸いである.今後,わが国において,AMDにおけるサプリメントの有効性を人種差や栄養摂取量に関する問題を解決しながら示すには,大規模な臨床治験を行うことが必要である.エビデンスに基づくサプリメントを積極的にAMDの予防に生かしていくことを望む.文献1)AREDSReserchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20012)SasakiM,ShinodaH,KotoTetal:Useofmicronutrientsupplementforpreventingadvancedage-relatedmaculardegenerationinJapan.ArchOphthalmol130:254-255,20123)OmennGS,GoodmanGE,ThornquistMDetal:RiskfactorsforlungcancerandforinterventioneffectsinCARET,theBeta-CaroteneandRetinolEfficacyTrial.JNatlCancerInst88:1550-1559,19964)MaL,DouHL,WuYQetal:Luteinandzeaxanthinintakeandtheriskofage-relatedmaculardegeneration:asystematicreviewandmeta-analysis.BrJNutr107:350-359,20125)ChongEW,KreisAJ,WongTYetal:Dietaryomega-3fattyacidandfishintakeintheprimarypreventionofage-relatedmaculardegeneration:asystematicreviewandmeta-analysis.ArchOphthalmol126:826-833,20086)CharkoudianLD,GowerEW,SolomonSDetal:Vitaminusagepatternsinthepreventionofadvancedage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology115:1032-1038e1034,20087)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20078)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulationtheHisayamastudy.Ophthalmology116:2135-2140,20091044あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(18)

Age-Related Eye Disease Study2

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1033.1037,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1033.1037,2012Age-RelatedEyeDiseaseStudy2Age-RelatedEyeDiseaseStudy2山城健児*はじめに加齢黄斑変性患者の診療をしていると,よく目薬や飲み薬はないのかという質問を受ける.現時点で治療効果のある点眼薬や内服薬はないため,光線力学的療法やラニビズマブの硝子体注射を勧めることになるが,網膜に滲出性変化を認めない段階の加齢黄斑変性に対しては経過観察を続けるしか選択肢がない.また,大きなドルーゼンをもつ眼は加齢黄斑変性を発症する可能性が高いと考えられているが,その発症を予防できる薬剤も存在しない.特に,片眼に加齢黄斑変性を発症した患者にとっては,僚眼の発症予防は非常に重要な課題である.最近になって,抗酸化作用をもつビタミンやミネラルといったサプリメントによる加齢黄斑変性の進行予防作用を検証する研究が進んできた.IAREDS1990年頃から,抗酸化物質や亜鉛に目の病気の予防効果があるのではないかという研究結果が発表されたために,一般市民のサプリメント使用が急速に広まった.しかし,これらの研究は小規模なもので,その効果を確認するためには大規模な前向き臨床研究が必要であると考えられていた.1986年には米国のNIH(NationalInstituteofHealth)のNEI(NationalEyeInstitute)でこれらのサプリメントの効果を確認するためにAREDS(Age-RelatedEyeDiseaseStudy)が計画され,プロトコールが完成された1992年に登録が始まった.AREDS開始時にはカロテノイドのなかでもキサントフィル類であるルテインとゼアキサンチンの効果についての検証も行うべきであると考えられていたが,当時はまだこれらのサプリメントは製品化されていなかったために,AREDSのプロトコールには含まれず,後述するようにサプリメントとしてはAREDS2でその効果が検証されている.AREDSでは亜鉛および抗酸化物質による加齢黄斑変性の発症・進行予防効果と,抗酸化物質による白内障の進行予防効果が検証された.当初は抗酸化物質としてビタミンCおよびEとカロテノイドのなかでもカロテン類であるb-カロテンが投与されたが,喫煙者ではb-カロテン摂取によって肺癌および心血管病のリスクが上昇するということがわかったため,1996年にはAREDS参加者のうち喫煙者に対して投薬中止またはb-カロテン以外の投薬の継続がなされている.AREDSのおもな結果は2001年にAREDSReportNo.8,No.9として発表されており,抗酸化物質と亜鉛の両方を摂取すると加齢黄斑変性の発症・進行が予防でき,抗酸化物質では白内障の進行は予防できないという結果であった1,2).その後も参加者からアンケートをとることによって普段の食生活を調査し,ルテイン,ゼアキサンチンといったカロテノイドや,ドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)といったオメガ3長鎖不飽和脂肪酸の摂取量を計算して,その摂取量と加齢黄斑変性の発症・進行との間に相関を認めるこ*KenjiYamashiro:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕山城健児:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(7)1033 とが証明された.そこで,ルテイン/ゼアキサンチンおよびDHA/EPAによる加齢黄斑変性の発症・進行予防効果や白内障の進行予防効果などを検証するために,AREDS2が2006年に開始された.その結果は2013年に発表される予定である.IIAREDS2AREDS2では約4,000人の参加者を集めて研究が行われている.参加者は50.85歳で,両眼に125μm以上のドルーゼンがあるか,片眼に125μm以上のドルーゼン,僚眼に進行した加齢黄斑変性を認め,5年以上観察研究に協力できる者とされており,ランダムにプラセボ投与群,ルテイン10mgとゼアキサンチン2mg投与群,DHA350mgとEPA650mg投与群,ルテイン10mgとゼアキサンチン2mgとDHA350mgとEPA650mg投与群の4群に分けられている.さらにAREDSで亜鉛,ビタミンC,E,b-カロテンの効果が示されたことをうけて,AREDS2では全参加者にこれらのサプリメントを摂取させている.しかし,b-カロテンについては喫煙者への有害性がわかっているため,一部の参加者にはb-カロテンを含まないサプリメントを摂取させることによって,b-カロテンを除いても効果が十分に保たれるかどうかを確認し,さらに,亜鉛については投与量を半分以下にした群を作ることによって,亜鉛の最適な摂取量を探ろうとしている(表1).AREDS2のおもな研究目的は,中心窩を含む360μm以上の地図状萎縮または脈絡膜新生血管・円盤状瘢痕を呈する加齢黄斑変性への進行がルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAによって抑制できるかどうかを検証することである.他にもAREDSで発表されてきた内容(表2)と同様の内容がルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAについても検討される予定である(表3).AREDS2の結果は2013年に発表される予定であり,眼科臨床医としてはその結果を正しく理解する必要がある.まず初めに注目すべきなのは,ルテイン/ゼアキサンチンだけで加齢黄斑変性の発症・進行が予防できるのか,DHA/EPAだけで加齢黄斑変性の発症・進行が予防できるのか,加齢黄斑変性の発症・進行を予防するためにはルテイン/ゼアキサンチンとDHA/EPAの両方を摂取する必要があるのか,あるいはこれらのサプリメントでは加齢黄斑変性の発症・進行は予防できないのかという点である.これらの結果とAREDSの結果で示されたビタミンC,Eおよびb-カロテンと亜鉛とを合わせて,加齢黄斑変性発症リスクの高い患者には正しいサプリメントの組み合わせを指導しなければいけない.特に,AREDS2では抗酸化物質としてb-カロテンも必須なのか,ビタミンC,Eだけで十分なのかということも判明するはずである.b-カロテンは喫煙者には摂取させないほうがよいということがわかっているため,AREDS2の結果に従って,喫煙者にはビタミンC,Eのみを勧めて,非喫煙者にはビタミンC,Eとb-カロ表1AREDSおよびAREDS2のサプリメント摂取内容AREDS1.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(80mg)2.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)3.亜鉛(80mg)4.プラセボAREDS21.ルテイン(10mg)+ゼアキサンチン(2mg)+DHA(350mg)+EPA(650mg)2.ルテイン(10mg)+ゼアキサンチン(2mg)3.DHA(350mg)+EPA(650mg)4.プラセボ上記の1.4に追加して全参加者に以下の1.4のサプリメントを追加1.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(80mg)2.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+b-カロテン(15mg)+亜鉛(25mg)3.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+亜鉛(80mg)4.ビタミンC(500mg)+ビタミンE(400IU)+亜鉛(25mg)亜鉛(実際に投与するのは酸化亜鉛)を投与する場合には銅を補うために2mgの酸化第二銅も投与.1034あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(8) 表2AREDSReportの内容AREDSReportNo.1.ControlledClinicalTrials20:573-600,1999研究のデザインの説明AREDSReportNo.2.JNutr130:1516S-1519S,2000研究の解説AREDSReportNo.3.Ophthalmology107:2224-2232,2000ARM/AMDのグレードと患者の背景因子との相関AREDSReportNo.4.AmJOphthalmol131:167-175,2001白内障のグレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.5.Ophthalmology108:1400-1408,2001白内障のグレードと患者の背景因子との相関AREDSReportNo.6.AmJOphthalmol132:668-681,2001ARM/AMDのグレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.7.JNutr132:697-702,2002亜鉛投与による血中亜鉛濃度上昇の確認AREDSReportNo.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,2001抗酸化物質と亜鉛によるARM/AMD進行予防効果の証明AREDSReportNo.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,2001抗酸化物質による白内障進行予防効果の否定AREDSReportNo.10.ArchOphthalmol121:211-217,200339-itemNEI-VFQの信頼性確認AREDSReportNo.11.ArchOphthalmol121:1621-1624,2003全米でのARM/AMD患者数予想,予防効果予想AREDSReportNo.12.Neurology63:1705-1707,2004抗酸化物質と亜鉛による認知能力への効果の否定AREDSReportNo.13.ArchOphthalmol122:716-726,2004ARM/AMDおよび白内障の死亡への影響の証明AREDSReportNo.14.ArchOphthalmol123:1207-1214,2005ARM/AMDの進行程度と25-itemNEI-VFQの変化との相関の証明AREDSReportNo.15.OphthalmicEpidemiol12:271-277,2005電話で行う認知能力判定の信頼性確認AREDSReportNo.16.ArchOphthalmol124:537-543,2006ARM/AMDの程度と認知能力との相関の証明AREDSReportNo.17.ArchOphthalmol123:1484-1498,2005ARM/AMDの9段階重症度スケールAREDSReportNo.18.ArchOphthalmol123:1570-1574,2005ARM/AMDの簡易重症度スケールAREDSReportNo.19.Ophthalmology112:533-539,2005ARM/AMDの進行と患者の背景因子との相関AREDSReportNo.20.ArchOphthalmol125:671-679,2007食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)とARM/AMDのグレードとの相関の証明AREDSReportNo.21.Ophthalmology113:1264-1270,2006併用マルチビタミン剤による白内障進行抑制効果の証明AREDSReportNo.22.ArchOphthalmol125:1225-1232,2007食事内容(特にルテイン,ゼアキサンチン)とARM/AMDのグレードとの相関の証明AREDSReportNo.23.ArchOphthalmol126:1274-1279,2008食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)によるARM/AMDの進行予防効果の証明AREDSReportNo.24.AmJOphthalmol145:504-508,200810年間の白内障進行の観察AREDSReportNo.25.Ophthalmology116:297-303,2009白内障手術によるARM/AMD進行リスク上昇の否定AREDSReportNo.26.ArchOphthalmol127:1168-1174,2009GA進行の観察AREDSReportNo.27.Ophthalmology116:2093-2100,2009AMDの有無にかかわらず白内障手術で視力は改善するAREDSReportNo.28.Ophthalmology117:489-499,2010drusenoidPEDからcentralGA,NV-AMDへの進行の観察AREDSReportNo.29.NotyetpublishedスタチンとARM/AMDとの相関AREDSReportNo.30.AmJClinNutr90:1601-1607,2009食事内容(特にオメガ3長鎖不飽和脂肪酸摂取)によるARM/AMDの進行予防効果の証明AREDSReportNo.31.Ophthalmology117:2112-2119,2010スリットランプで行う簡易白内障グレード分類方法の信頼性確認AREDSReportNo.32.Ophthalmology118:2113-2119,2011白内障の進行と患者の背景因子との相関AREDSReportNo.33.Notyetpublished10年間の白内障の発症率ARM:加齢性黄斑症,AMD:加齢黄斑変性,NEI-VFQ:NationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire.テンを摂取させるべきなのか,喫煙の有無にかかわらずビタミンC,Eのみを勧めれば良いのかを判断しなければいけない.つぎに注目すべき点は,すでに加齢黄斑変性が発症した眼に対しても視力改善効果が期待できるのかどうかという点である.AREDS2では進行した加齢黄斑変性眼に対してルテイン/ゼアキサンチン,DHA/EPAに視力改善効果があるかどうかも検討される予定であり,もし視力改善が得られるようであれば,予防目的のサプリメ表3AREDS2の研究予定内容ルテイン/ゼアキサンチンおよびDHA/EPAの効果1.AdvancedAMDへの進行2.視力低下・改善3.白内障の進行4.認知能力5.心血管病の発症および死亡AREDSのARM/AMDのグレード分類方法の信頼性再確認b-カロテンを除外したときのAMDの進行予防効果および視力低下への影響亜鉛の摂取量を減らしたときのAMDの進行予防効果および視力低下への影響(9)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121035 ント摂取だけでなく,活動性のある加齢黄斑変性に対してもサプリメントを使用したほうが良いということになるかもしれない.さらに,AREDS2では活動性のある加齢黄斑変性に対して治療を行う際に検査されたフルオレセイン蛍光眼底造影(FA)と網膜光干渉断層計(OCT)の結果も検証されることになっている.実際にどの程度の検証がなされるのかはまだ不明であるが,結果しだいではAREDS2のあとにさらに研究を進めて,活動性のある加齢黄斑変性に対してサプリメントがFAやOCTによる検査結果にあらわれるほどに網膜滲出性変化に影響を与えるのか,滲出性変化には影響は与えずに,網膜の機能の維持・改善に効果があるのかを検討していく必要が出てくるかもしれない.AREDSおよびAREDS2の結果は加齢黄斑変性患者のサプリメント使用に大きな影響を与える可能性があるが,サプリメントの効果の大きさについても考慮しておく必要がある.AREDSでのオッズ比はおよそ0.7程度である.つまり,亜鉛およびビタミンC,Eとb-カロテンを摂取することによって,加齢黄斑変性を発症するはずだった人の3割程度で発症を抑制することができて,7割程度の人はサプリメントの使用にもかかわらず加齢黄斑変性を発症するということになる.AREDS2ではこれらのサプリメントに加えてルテイン/ゼアキサンチンとDHA/EPAの効果も検証されるため,どういった組み合わせでどの程度の効果が期待できるのかにも注目すべきだろう.IIIAREDS2の問題点AREDSおよびAREDS2はそれぞれ4,000人規模の研究で,その再現性を確認する研究がむずかしいという問題がある.最近アメリカから発表された研究では,14,236人を対象にビタミンCまたはビタミンEを摂取させて8年間の加齢黄斑変性発症率を調べることによって,ビタミンCとビタミンEには加齢黄斑変性発症を予防する効果がないことが示されている3).ビタミンEについては1990年代後半にオーストラリアで1,193人を対象に行われた研究でも,米国で39,876人を対象に行われた研究でも加齢黄斑変性の発症予防効果がないことが示されている.また,b-カロテンについては,1036あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121990年頃にフィンランドで29,000人を対象に行われた研究と米国で22,071人を対象にした研究が,加齢黄斑変性の発症予防効果がないことを示している.ルテイン/ゼアキサンチンについては,イタリアで行われた研究が加齢黄斑変性患者の視機能維持に効果があることを報告しているが,オーストラリアで行われたブルーマウンテンスタディや以前米国で行われた研究ではルテイン/ゼアキサンチンには加齢黄斑変性の発症を抑制する効果はないことが示されている.一方,DHA/EPAについては,オランダや米国で行われた研究で加齢黄斑変性の発症を予防できるということが証明されている.AREDS,AREDS2の報告だけを頼りにするのではなく,他の研究結果にも目を配り,サプリメントの効果を正しく判断する必要があるだろう.日本人の加齢黄斑変性は男性に多く,ポリープ状脈絡膜血管症が多く,網膜血管腫様増殖が少ないという特徴があり,これらの特徴は欧米人の加齢黄斑変性とは大きく異なるものである4).さらに加齢黄斑変性の発症に遺伝子的な背景が関与していることはよく知られているが,欧米人と日本人ではその遺伝子変異の割合や影響の強さが異なることも知られており5),欧米人におけるサプリメント研究の結果をそのまま日本人に活用できるかどうかも検証する必要がある.欧米人でその効果が示されつつあるDHA/EPAは青魚に多く含まれており,欧米人と比べると日本人の青魚の消費量はかなり多いはずである.AREDS2で使用されるサプリメントに含まれるDHA/EPAの量は,アジやサンマの1/3.1尾に含まれる程度の量であることを考えると,やはり日本人でのAREDS,AREDS2の追試は必須であろう.おわりに加齢黄斑変性患者のなかには硝子体注射はこわいので,内服薬のみで治療をうけたいという希望をもつ患者がいる.サプリメントによってどの程度の発症予防効果があり,すでに発症してしまった加齢黄斑変性に対してどの程度の治療効果や視力改善効果があるのか,その効果はラニビズマブ硝子体注射や光線力学的療法と比較してどの程度のものであるのかを正確に伝えたうえで,正(10) しい治療方針を選択したい.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:14171436,20012)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandEandbetacaroteneforage-relatedcataractandvisionloss:AREDSreportno.9.ArchOphthalmol119:1439-1452,20013)ChristenWG,GlynnRJ,SessoHDetal:VitaminsEandCandmedicalrecord-confirmedage-relatedmaculardegenerationinarandomizedtrialofmalephysicians.Ophthalmology,2012,inpress4)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20075)HayashiH,YamashiroK,GotohNetal:CFHandARMS2variationsinage-relatedmaculardegeneration,polypoidalchoroidalvasculopathy,andretinalangiomatousproliferation.InvestOphthalmolVisSci51:5914-5919,2010(11)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121037

Age-Related Eye Disease Studyと加齢黄斑変性におけるサプリメントガイドライン

2012年8月31日 金曜日

特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1029.1031,2012特集●臨床において必要なサプリメントの知識あたらしい眼科29(8):1029.1031,2012Age-RelatedEyeDiseaseStudyと加齢黄斑変性におけるサプリメントガイドラインAge-RelatedEyeDiseaseStudyandSupplementGuidelinesforAge-RelatedMacularDegeneration安田美穂*はじめに加齢黄斑変性(AMD)は,さまざまな治療の出現により治療可能な疾患となってきた.しかし,病変が黄斑部にあるため,一度障害されると視機能が完全に回復するのが非常にむずかしく,現時点では予防が最も有効とされている.AMDは,正常な段階から前駆病変であるドルーゼンや網膜色素上皮の色素異常を経て発症するといわれており,視力低下や歪視がまだ少ない前駆病変の段階で予防することが重要である(図1).そこで,欧米ではAMDの予防のためEBM(evidence-basedmedicine)に基づいたサプリメントの有用性を調べる研究が進んでいる.IAREDSでのエビデンス網膜の老化は多価不飽和脂肪酸を多く含む視細胞外節,網膜色素上皮,Bruch膜が活性酸素によって障害されることに関連しているとされる.その活性酸素を消去する作用をもつ抗酸化ビタミンにはA(b-カロテン),C,Eがあり,活性酸素を分解する酵素の一つであるスーパーオキシドジスムターゼの補酵素は亜鉛と銅である.Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)は,AMDの前駆病変を有する55.80歳の3,640名を対象として米国で行われた無作為化二重盲検臨床試験である.このAREDSでは,対象者を①抗酸化ビタミン(ビタミンC,ビタミンE,b-カロテン)を投与した群,②亜鉛を投与正常前駆病変AMD発症予防ドルーゼン色素異常加齢黄斑変性(AMD)滲出型萎縮型図1加齢黄斑変性の進展と予防した群,③抗酸化ビタミンと亜鉛の両方を投与した群,④プラセボを投与した群,の4群に無作為に割り付け,その後5年以上追跡しAMDへの進行を調査した(図2).その結果,抗酸化ビタミンと亜鉛の両方を摂取した群において,前駆病変からAMDへの進行を25%抑制できた.この効果は,①中型の軟性ドルーゼンが多発,あるいは大型の軟性ドルーゼンが1個以上あるもの,②*MihoYasuda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕安田美穂:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(3)1029 前駆病変を有する55~80歳の3,640名を対象とした無作為化二重盲検臨床試験4群(下線群のみ効果あり)・抗酸化ビタミン群1.AMDへの進行を25%(ビタミンC,E,b-カロテン)抑制(滲出型、萎縮型も)・亜鉛群・抗酸化ビタミン+亜鉛群5年以上2.視力低下を軽減・プラセボ群追跡3.新生血管の発生を抑制図2AREDSの概要効果のみられた前駆病変1.中型の軟性ドルーゼンの多発・大型の軟性ドルーゼンが1個以上ある2.中心窩外に地図状萎縮がある3.片眼に進行期AMDを有するAMDによる片眼の視力低下がある図3AREDSのエビデンス中心窩外に地図状萎縮があるもの,③片眼に進行期AMDを有し,そのAMDによる視力低下があるもの,で確認された(図3)1).つまり,これらの病変を有する患者には,AREDSの処方に基づいたサプリメントの摂取が有効であることが証明されたということである.II喫煙とサプリメントAMDの危険因子のうち生活習慣として最も重要なものが喫煙であり,多くの研究で一致して報告されている.日本人を対象とした福岡県久山町における追跡調査では,AMDの非発症者を追跡調査し,どのような人に多くAMDが発症しているかを調べたところ,加齢と喫煙がAMD発症の危険因子であることがわかった2).この追跡調査により,日本人においても喫煙がAMD発症の危険因子であり,非喫煙者と比較すると,喫煙者ではAMD発症のリスクが約4倍にも上昇することが明らかとなった(図4,表1).AMDの原因として加齢による眼の老化だけでなく,活性酸素による眼の老化が原因となっているが,活性酸素は体内で酸素から生成され,大量に発生すると細胞や1030あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012*p<0.05非喫煙者過去の喫煙者<10本/日10~20本/日>20本/日現在の喫煙者3.7%2.4%1.8%5.2%*4.7%*5年発症率図4喫煙習慣によるAMD5年発症率(久山町研究1998.2003年より)表1喫煙習慣によるAMD発症のオッズ比(久山町研究1998.2003年より)喫煙習慣オッズ比95%信頼区間①非喫煙者1.00②過去の喫煙者1.180.38.2.56現在の喫煙者③10本未満/日1.710.91.3.22④10本以上20本未満/日2.21*1.28.7.37⑤20本以上/日3.32*1.33.8.30*p<0.05.組織を損傷し老化やさまざまな疾患をひき起こす.活性酸素の発生を促進させる原因として,喫煙,紫外線,大気汚染,ストレス,偏った食事などがあり,網膜の老化予防,ひいてはAMD発症予防のためにはこれらの活性酸素の発生要因を避ける必要がある.特に喫煙は活性酸素を増加し網膜の老化を進行させるとともに,抗酸化物質であるビタミンCを破壊し,抗酸化物質の血中濃度を低下させ,脂肪の過酸化を促進することにより黄斑部の変性を生じやすくすると報告されている.また,網膜・脈絡膜の血液循環に影響し,低酸素状態,局所的虚血,微小血管拘束を助長し黄斑部の変性を生じやすくするとも考えられているが,正確な機序はわかっていない.喫煙者はAMDの発症に特に注意が必要であり,その予防のためにはぜひ禁煙の重要性を認識してもらう必要があるとともに,サプリメントの摂取も推奨される.亜鉛,銅,ビタミンC,E,b-カロテン(b-カロテンは体(4) 図5段階的なAMDの予防と治療早期AMD中期AMD萎縮型AMD・禁煙,食習慣の改善・血圧とBMIのコントロール・禁煙,食習慣の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取・禁煙,食習慣の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取滲出型AMD・禁煙,食習慣の改善・AREDSに基づくサプリメント摂取・抗血管新生療法・レーザー治療内でビタミンAに変わる)などの抗酸化物質は,活性酸素を消去する働きがあり,黄斑色素(カロテノイド)であるルテインとゼアキサンチンも視細胞に多く存在する抗酸化物質であり,酸化のダメージを軽減する.特に抗酸化物質が減少していると考えられる喫煙者ではサプリメントの摂取が推奨される.ただし,高用量のb-カロテン投与の喫煙者では肺癌の罹患リスクが高くなるため,b-カロテンを含むサプリメントの摂取は勧めらない.また,抗酸化物質である亜鉛を100mg/日の高用量摂取を続けると前立腺癌の罹患リスクが高まるという報告もある.このようにサプリメントとはいえその摂取には十分に注意する必要がある.IIIまとめ現在世界的に推奨されている段階的なAMDの予防と治療においても,中期AMD,萎縮型AMD,滲出型AMDの患者にはAREDSに基づくサプリメントの摂取が推奨されている3)(図5).サプリメントは規則正しいバランスのとれた食生活が基本となり,それでも不足する栄養素を補う形で用いるのが良いと考えられ,サプリメントに加え,危険因子を減らすことも考慮して生活することが最も大切である.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisualloss:AREDSreportNo.8.ArchOphthalmol119:14171436,20012)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulation:theHisayamastudy.Ophthalmology116:2135-2140,20093)JagerRD,MielerWF,MillerJW:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed358:2606-2617,2008(5)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121031