特集●眼科生体染色のアップデートあたらしい眼科29(12):1623.1627,2012特集●眼科生体染色のアップデートあたらしい眼科29(12):1623.1627,2012後眼部編新しい内境界膜染色剤:ブリリアントブルーGNewDyeforStainingofInternalLimitingMembrane:BrilliantBlueG福田恒輝*はじめに2000年にKadonosonoら1)によって報告された内境界膜(ILM)の染色・可視化,.離法が報告されてからはや10数年,いまやILM.離は黄斑疾患の基本手技となっている.筆者らの施設で使用してきた染色・可視化剤はインドシアニングリーン(ICG)からトリアムシノロン・アセトニド(TA)を経て,今日では全例ブリリアントブルーG(BBG)となっている.2006年にEnaidaらによって報告されたBBGは,染色の良好さと網膜毒性の低さから国内外の術者に広がり,従来の可視化剤に対する優位性を示す報告がなされている.筆者らは2011年に,黄斑円孔症例に対してILM染色剤としてICGとBBGを用いた2群間で,術後の視細胞内節/外節接合部(IS/OSjunction)の再構築の時期に関する検討を行い,BBGの優位性について報告した.本稿ではその報告を含め,現在までに報告されているBBGの臨床成績について紹介し,その有用性と安全性について再確認していきたい.I初期の臨床評価EnaidaらによるBBGの初めての臨床報告の翌年,2007年にCerveraらによって6例の黄斑円孔症例に対してのBBG(0.5mg/ml)染色ILM.離が行われ,その結果について報告されている.結果は黄斑円孔は全例で閉鎖し,術後の網膜電図(ERG)でも網膜の機能的悪化の兆候は認められなかったとしている.また,ILMの染色性については「optimal(最上の)」という表現で,きわめて良好であるという評価を下している.2008年にはRemyらによって術前後の視野,多局所ERG,光干渉断層計(OCT)を含む,多角的な検証が行われている2).15例の黄斑円孔,3例の黄斑前膜に対して0.25mg/mlの,原法と同じ濃度でILM.離を行い前述の項目を術前後で比較している.ICGの使用で認められた術後視野異常を踏まえて検討されたと思われる視野については,術前後で悪化した症例はなく,機能的な観点から評価された多局所ERGも異常を示した症例はなかったとしている.視力の改善については黄斑円孔症例でやや乏しい結果となったが,その理由として半数弱に強度近視例が含まれていたためであるとしている.OCTを用いた解剖学的検討によると円孔は全例で閉鎖したものの,黄斑前膜症例で一時的な浮腫の悪化を認めたが,これもステロイド製剤による消炎で改善している.同報告は術者によるILMの染色性の評価も行っており,15例の黄斑円孔症例のうち14例が染色性良好との結果であった.黄斑前膜症例は3例とも「variable」との評価であったが,もともと黄斑前膜自体は染色されないため,このような評価となったものと推測できる.II他の染色剤との比較2009年になるとBBGと他の染色剤を比較する論文が報告されるようになる.Schumannらは黄斑円孔,黄斑前膜96症例をトリパンブルー(TB),BBG,ICGほか*KokiFukuda:香川大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕福田恒輝:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(33)16232種類の染色剤を用いてILMを染色・.離し,そのILMに付着している細胞debrisの量について詳細に比較している.この研究によれば,ICGで染色したILMには他の染色剤で染色した場合に比べて有意に細胞debrisが多かったとしており,それがICGの網膜毒性と何らかの関連があることを示唆しているが,推測の域をでていない.BBGに関しては他の染色剤と同様,特別にdebrisが多かったわけではないようである.臨床報告ではなくinvitroの研究で,ヒトの培養網膜色素上皮細胞と培養神経節細胞をICG,BBG,TB,エバンスブルーの各染色剤に曝露し,その生存率を検討した報告も同年Yuenらによってなされている.各染色液のなかでもBBGは量-時間依存性に培養細胞の生存率を低下させ,毒性を認めたとしているが,同時に実際の手術における濃度と曝露時間での安全性は確認できたとしている.III黄斑上膜(ERM)症例に対するBBGの使用基本的にERMは染色されず,ILMだけが染色される.ERM症例に使用すると,ILMのブルーを背景として明瞭に区別できる透明なERMが観察できる(図1).国内からはERM.離後にILMがどの程度残存しているかをBBGを用いたdoublestaining法で調べている報告がある3,4).両報告ともにILMの残存率はおよそ4割図1ERMに対してBBGを使用した症例ERMに対してBBGを吹きかけ,ただちに吸引除去すると,明瞭にERMの分布が観察できる.から5割程度で,残存したILMを.離し顕微鏡下に観察したところ,ERMの原因となる線維芽細胞や神経膠細胞などが認められたと報告している.驚くべきことにILM.離を加えたERM手術後には再発・再手術は0%ときわめて良好な術後成績を報告しており,ERM手術にはILM.離が必須手技といっても過言ではなくなっている.実際に筆者らも同様の方法でERM.離後にdoublestaining法を行っているが,ERM.離で裂隙が図2DMEに対するILM.離時に網膜内もしくは,網膜下に迷入したBBG―術翌日と術1週間後の眼底写真術後1週間の時点で消失し,確認できなくなっている.術後3カ月の時点で網膜の菲薄化などの明らかな異常を認めていない.1624あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(34)できたILMにBBGを吹きかけると,きわめて明瞭にそのedgeが確認でき,容易に.離できる.IVBBGの網膜下迷入ILM染色剤に必要な安全性は網膜表面のみで認められるだけでなく,万一,網膜下に迷入した際にも確保されるべきものである.たとえば,黄斑円孔網膜.離などでILM.離の必要があるときや,高度近視で黄斑部網膜が菲薄化し,染色剤の噴射で迷入したときなどは術後の視機能への影響が懸念される.BBGはラットに対する基礎実験で,ICGやTBと違い,網膜下へ注入された際にも網膜色素上皮(RPE)の変性などの障害を認めないことが確認されている.筆者らは糖尿病黄斑浮腫(DME)症例にBBGを使用した際に,網膜内もしくは網膜下迷入(術中にはどのレベルに迷入したかわからない)を経験した(図2)が,BBGの色素自体は1週間程度で消退し,術後3カ月の時点で明らかな網膜の萎縮を認めていない.V黄斑円孔症例に対するBBGの使用黄斑円孔はその名のとおり黄斑部網膜に円孔を形成しており,RPEが露出しているため,RPEへの毒性が懸念されている染色剤は使用を控えるべきと考えられる.筆者らは2011年に黄斑円孔症例に対して,ICGを使用してILM.離を行った群(n=22)とBBGを使用して行った群(n=31;図3)で,視力を含む術後成績と術後黄斑円孔の経時的な解剖学的変化について検討を行い報告した5).Spectraldomain(SD)-OCTの普及により網膜の解剖学的変化を詳細に検討することが可能となり(図4),黄斑円孔術後の視力の改善度合いと関連づけて検討できるようになった.SD-OCTで網膜外層に2本のラインとして観察することのできる外境界膜(ELM),IS/OSjunctionは視細胞の存在を示す重要なラインとして知られている.黄斑円孔のみならず他の疾患でも視機能との関連についての報告が相次いでおり,一般的にこれらのラインの欠損は視機能の障害を意味している.黄斑円孔では硝子体腔方向へ盛り上がるように分断された円孔縁に沿ってこれら2本のラインが確認しづらくなるが,術後は網膜内層から円孔閉鎖が始まり次第に(35)図3黄斑円孔症例に対してのBBGを用いてのILM染色・.離ILMはきわめて良好に染色され,.離・非.離領域が明瞭に区別される.図4黄斑円孔術後1カ月時点でのOCT画像ELMは連続しているが,IS/OSjunctionの再構築はまだ認められていない.ELM,IS/OSjunctionが再形成されてくる(図5).筆者らの検討では黄斑円孔の閉鎖率や視力の改善程度には両群で有意差は認めなかったが,これらの視機能にとって重要とされるラインのうちIS/OSjunctionの再形成の時期に差がみられた.具体的には,術後1カ月の時点でICG群では22例中1例(5%)にとどまっていた再形成例が,BBG群では31例中10例(32%)と有意に多い結果になった(図6).すなわちICG群よりもBBG群でのIS/OSjunctionの再形成が早く行われていることがわかり,染色剤としてあたらしい眼科Vol.29,No.12,20121625100100Dye■:BBG:ICGDye■:BBG:ICG*80604020再形成の割合(%)80604020再形成の割合(%)001M3M6M図5黄斑円孔術後のELMの再形成の割合図6黄斑円孔術後のIS/OSjunctionの再形成の割合ELMの再形成の割合は,術後いずれの時点でも両群間術後1カ月の時点ではBBG群のほうが,ICG群より有意に有意差を認めなかった.にIS/OSjunctionが再形成している割合が高かった.*p=0.02,Fisher’sexactprobabilitytest.1.41M3M6MDye■:BBG:ICG2°の網膜感度が術後3カ月時点から有意にBBG群で改善していることがわかっており,こちらもBBGの優位1.21.0性を支持する結果となっている.また,IS/OSjunction0.8の回復もやはりBBG群で有意に早いとしており,筆者0.6らの結果とおおむね合致している.0.4VIBBGの網膜神経保護効果0.20.0これまで述べてきたとおりBBGは2006年の報告以LogMAR-0.2-0.4図7黄斑円孔術後の視力推移両群間でいずれの時点においても,視力に有意差を認めなかった.のBBGの優位性が再確認された.ただ,IS/OSjunctionの再形成が早期に起こっていれば,その分視力の改善も早くなると考えたくなるが,視力結果はいずれの受診時でも両群間に差を認めず,その原因は不明のままである(図7).ただ,最終視力で20/20以上を達成した割合はBBG群に有意に多く,早い時期でのIS/OSjunctionの再形成が最終的に有利な視力成績をもたらしているものと推測できる.このようにBBGはICGに比べて,RPEがbareな黄斑円孔症例でのILM.離手技には特に有用であると考えられる.同様の検討に微小視野計を加えた報告がBabaらによってなされており,それによると中心1626あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012来,数々の臨床報告で安全性を確認されてきた染色剤であるが,ここ数年マウスを用いた基礎研究で網膜細胞死を抑制する効果を有することがわかってきている.それら一連の報告によると,BBGは細胞膜に発現するP2X7受容体に対する選択的阻害作用をもち,その受容体を介してひき起こされる細胞死に対して抑制効果があるという.このP2X7受容体の特異的アゴニストBzATPを投与した培養視細胞は細胞死に至るが,同時にBBGを加えることにより,細胞の生存率が有意に上昇すると報告している.これらの神経保護効果が明らかになり,染色剤としての役割以外にもその有用性が発揮されることが期待される6).以上のようにBBGは2006年の報告以来国内はもとより,国外でも臨床使用され,その染色性の良好さ,安全性の高さが確立されてきている.ただ,現時点では未認可薬剤であり,国内での使用には各施設での倫理委員会の承認および患者に対する十分なインフォームド・コンセントが必要である.実際の使用にはBBG粉末を入(36)Pre1M3M6M図8ILM.BlueR(DORC社)海外で販売されているBBG製剤で,ポリエチレングリコールが添加されており溶液の拡散防止に有効.(九州大学江内田寛先生よりご提供)手し灌流液で自家調整する方法と,海外で製剤化されているILM-BlueR(DORC社)を個人輸入し使用する方法がある(図8).同製剤はポリエチレングリコールが添加されており,溶液の拡散防止に有用であるとされている.このBBG製剤はわが国でも現在医師主導治験の準備中とのことで,より多くの術者がより簡便にこの優れた染色剤の効果を実感できる日が近づいている.文献1)KadonosonoK,ItohN,UchioEetal:Stainingofinternallimitingmembraneinmacularholesurgery.ArchOphthalmol118:1116-1118,20002)RemyM,ThalerS,SchumannRGetal:AninvivoevaluationofBrilliantBlueGinanimalsandhumans.BrJOphthalmol92:1142-1147,20083)KifukuK,HataY,KohnoRIetal:Residualinternallimitingmembraneinepiretinalmembranesurgery.BrJOphthalmol93:1016-1019,2009,Epub2009Feb114)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:DoublestainingwithbrilliantblueGanddoublepeelingforepiretinalmembranes.Ophthalmology116:1370-1376,2009,Epub2009May85)FukudaK,ShiragaF,YamajiHetal:MorphologicandfunctionaladvantagesofmacularholesurgerywithbrilliantblueG-assistedinternallimitingmembranepeeling.Retina31:1720-2015,20116)NotomiS,HisatomiT,KanemaruTetal:CriticalinvolvementofextracellularATPactingonP2RX7purinergicreceptorsinphotoreceptorcelldeath.AmJPathol179:2798-2809,2011(37)あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121627