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タブレット型PCの眼科領域での応用 5.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用-その2-

2012年10月31日 水曜日

シリーズ⑤シリーズ⑤タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第5章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その2─■読書が変わる―タブレット型PCと電子書籍の可能性今回の第5章では,第4章に続き私が代表を勤める“GiftHands”が提案するタブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用法について紹介していきたいと思います.本章では電子書籍の活用法におけるタブレット型PCの意義について,実際にロービジョンエイドとして使っている患者たちの生の声とともに紹介していこうと思います.なお,原則的に私が現在,GiftHandsの活動や実際に外来で扱っているタブレット型PCは“新しいiPadR(米国AppleInc.)”と“iPhone4SR(米国AppleInc.)”,iOSバージョン5.1.1です(2012年8月30日現在).■私のロービジョンエイド活用法「電子書籍編」タブレット型PCは電子書籍を閲覧するためのリーダーとして一般に普及していますが,ロービジョンの患者にとってパソコンではなくタブレット型PCで電子書籍を閲覧できることは,きわめて大きな意味をもっています.多くの患者が感じるメリットは,閲覧場所や体勢に制限がないことです.これまでの拡大読書器を利用した読書行為では,患者は椅子に座って顔の前に設置されたモニターを眺める必要があり,手にとった本を見下ろして行う日常的な読書行為とは大きく異なる姿勢での作業を強いられてきました.しかし,タブレット型PCでの読書を導入することで,ロービジョン患者の読書環境は大きく変化します.ある患者は,「先生,俺は生まれて初めて寝ながら本を読めたよ.好きな姿勢で本を読めるなんて夢のようだ.今まで文字を読むのが本当に億劫だったけど,今じゃ何時間も読んでしまって目が疲れ(61)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYちゃうよ.」と笑顔で嘆いていました.読書というわれわれが日々何気なく行っている日常動作が,いかにロービジョンの患者にとっては困難であることかを再確認させられました.以前にも書きましたが,“読める”と“読みたい”は違うのだと改めて実感させられました.特に読書から多くの知識を学び,記憶を作る時期である学童期において,文字を読みたい環境で読書ができることの重要性は計り知れないと思います.タブレット型PCは充電式で,長時間の連続使用が可能であるため使用場所に制限がありません.読みたいときに自由な体勢で電子書籍を読めることは,ロービジョン患者には何よりのタブレット型PCの恩恵であると言えるのではないでしょうか.タブレット型PCのもう一つの大きな利点は,著作権の消失している書籍を集めた青空文庫を閲覧できるアプリが存在することです.たとえば,i文庫HD(NagisaWorks)というアプリでは文字のフォントのみではなく,縦書きや横書きといった文章構成もオーダーメイドに設定できます.また,文字サイズの適正化に伴って,一行当たりの文字数や改行による段落構成も適正化されます(図1).このことはこれまでの紙ベースの書籍を拡大して読む際に生じた,改行の度に読んでいた行を先頭まで逆行して次の行へ移行する動作を行う必要がないため,読書効率は格段に向上します.金沢文庫(CrestraInc.)というアプリでは,文章を読み上げる話者(男・女)の選択や読み上げ音声の速度や高低,抑揚などを変更することが可能であり,最も聞き取りやすい音声で青空文庫を視聴することが可能です.患者が文章を読める速度よりも少し遅めの読み上げ速度に設定することで,音声が視覚から入力された情報を補完することで,より快適に読書を行うことが可能になるのです.また,デジタル音声に抵抗のある方には実の声あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121377 図1源氏物語の初期表示(左)とフォントとコントラストなどを適正化した表示(右)優が朗読をしてくれるアプリも登場してきています.私は多くのロービジョン患者へのタブレット型PCの導入を試みるなかで,縦書きよりも横書きの文章のほうが快適に読書を行える症例を何例か経験しました.視野欠損の範囲や眼振の有無などとの関連性は不明ですが,患者自身の好みと表現するのが適切であると現状では感じます.電子書籍では文章の構成を変化させることが可能で,最適化された電子書籍も気軽に持ち歩けるのがタブレット型PCの最大の長所なのです.文字のフォントや背景色,文章の構成や音声の設定の組み合わせは患者の数だけ存在しています.タブレット型PCが現行の拡大読書器に取って代わる存在であるとは思いませんが,患者の言葉に真摯に耳を傾けて各人に合ったオーダーメイドな設定を行うことで,もう一度読書への意欲を向上させることが可能なエイドであると考えられます.■私のロービジョンエイド活用法「拡大教科書編」ここまで文字データ化された電子書籍では文章の構造を変化させられることのメリットを中心に紹介しましたが,文章の構成が変化しないほうが望ましい場合があります.その代表としてはタブレット型PCを拡大教科書として利用する場合です.私の患者で弱視の子どもをもつ母親から拡大教科書に1378あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012ついて,次のような意見をよく耳にします.「手作業で作成して頂いているので,拡大教科書が届くのに時間がかかり授業の進行に子どもが遅れてしまう.」「大きくて,ランドセルに入らない.持って行く冊数が多いから,重くて登下校が大変.」「もともと一冊だった教科書が分冊に分(,)かれているから,目の悪い子どもが授業で必要な教科書を間違えてしまった.」「ページ番号が元の教科書と違うから,(,)先生の言っているページ番号や配置と自分の教科書が違うので授業についていくのが大変みたい.」など.これらの拡大教科書を取り巻く状況は,タブレット型PCを導入することで大きく変化します.配布された教科書をすぐにスキャナーでデジタル化して取り込むことで,タブレット型PCの中にすべての教科書を入れて持ち歩くことも可能です.文章の構成などは元の教科書の構成が保たれ,子どもが簡単な操作で任意の大きさまで拡大することができ,図表中の小さな注釈も自分の目で見ることが可能なので,授業の進行に対応しやすくなると考えられます.現在私はGiftHandsの活動として多くの導入事例を担当していますが,教育の現場である教育機関のタブレット型PCの導入に対する理解は決して高いとはいえません.今後もさまざまなメディアを介して,その意義を啓発していく必要性を強く感じています.輝ける才能をもちながら,それに気づくことのできない多くの子どもたちにその可能性をみつけるための“気づき”を与えることが,私の活動の大きな使命の一つであると感じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(62)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 113.糖尿病牽引性網膜剥離に対するガスタンポナーデの是非(中級編)

2012年10月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載113113糖尿病牽引性網膜.離に対するガスタンポナーデの是非(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに増殖糖尿病網膜症に併発した牽引性網膜.離に対する硝子体手術において,医原性裂孔を形成せずに増殖膜処理が施行できた場合,ガスタンポナーデを施行するか判断に迷うときがある.このような症例では網膜下液中の蛋白濃度が高く,自然吸収に数カ月を要することもある1).基本的に牽引性網膜.離が黄斑部に及んでいる症例では,早期の視力改善を得る目的でガスタンポナーデを施行する術者が多いと思われる.ただし,このような場合でも内部排液のための意図的裂孔を作製するべきかが問題となる.現時点で筆者は以下のように考えている.●ガスタンポナーデの適応1)黄斑部牽引性網膜.離では,原則としてガスタンポナーデを施行する.2)黄斑外牽引性網膜.離では,原則としてガスタンポナーデは施行しない.ただし,網膜.離範囲が広くしかも丈が高い症例では,意図的裂孔を作製し,網膜を強制復位させたうえで可能な範囲の汎網膜光凝固術を施行する.目安としては1象限以上の.離としている.網膜に著明な皺襞がみられる症例でも,ガスタンポナーデなしで予想以上に伸展することが多い(図1,2).●意図的裂孔作製の適応網膜.離が扁平な黄斑部牽引性網膜.離では,意図的裂孔を作製せずに眼内液空気同時置換術のみを行う.ただし,この場合に術直後に網膜下液が下方にシフトすることがあるが通常は徐々に吸収される.上述したように網膜.離範囲が広く.離の丈が高い症例では,原則として内部排液のための意図的裂孔を作製した後に気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固を施行する.ただし,網膜が高度に器質化し伸展性が低下している症例では,気圧伸展(59)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1黄斑外牽引性網膜.離例(術前)上方に牽引性網膜.離を認め,網膜皺襞も高度である.図2硝子体手術3カ月後の眼底写真ガスタンポナーデを施行せずに経過をみたところ,約3カ月後に皺襞は伸展し,網膜下液もほぼ吸収した.網膜復位術後に意図的裂孔周囲に十分な光凝固斑が得られない可能性もあるので,意図的裂孔作製は極力避ける.内部排液を施行する際には,網膜下液の粘稠性が高いので,気圧伸展網膜復位術の前に眼内灌流液下でできるだけ網膜下液を吸引除去しておく必要がある.文献1)貝田真美,池田恒彦,澤浩ほか:糖尿病牽引性網膜.離の網膜下液の自然吸収過程と性状に関する検討.眼紀49:501-504,1998あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121375

眼科医のための先端医療 142.大型黄斑円孔へのInverted ILM Flap Technique手術

2012年10月31日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第142回◆眼科医のための先端医療山下英俊大型黄斑円孔へのInvertedILMFlapTechnique手術山下敏史(鹿児島大学医学部眼科学)黄斑円孔の閉鎖率は本当に高いのか?現在,黄斑円孔(MH)に対する硝子体手術は,内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離およびガスタンポナーデが広く行われています.この方法による初回手術後の円孔閉鎖率は9割を超えると報告されています.しかし,本当にそうでしょうか?確かに円孔径が小さいMHではそのとおりですが,円孔径が500μmを超える大型MHの閉鎖率は約6割にとどまります.大型MHの頻度は,決して高くはありませんが,この病態への治療法は確立しておらず,まだ改良が必要なのです.InvertedILMFlapTechnique(ILM翻転法)大型MHの治療成績を改善するには,どうすればよいでしょうか?大型MHの閉鎖率が悪いのは,ILM.離によって網膜の伸展性を改善しても,網膜量が不十分なためだと考えられます.MHが手術によって閉鎖するメカニズムは,まだ本当にはわかっていませんが,少なくともMHによる欠損部を何かで補うことが必要なようです.このコンセプトで,2010年にエール大学のMichalewskaらがILM翻転法について報告しました1).ILM翻転法の実際通常のILM.離は,黄斑を中心にILMを約2乳頭径大ほど.離・除去します.それに対して,ILM翻転法ではILMを円周方向に.離しますが,円孔縁は意図的に残したうえ,上部のみを硝子体カッターで切除・トリミングします.このILMが円孔をあたかも蓋のようにシールドすることで円孔を閉鎖させるという考え方です(図1).円孔部が閉鎖されれば,網膜色素上皮による吸引圧により,MH周囲の網膜もMH中央に寄せられて最終的にMHが閉鎖されます.通常のILM.離のみの(55)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1ILM翻転法の術中イメージ図InvertedILMflap表1大型MHの治療成績(連続症例7眼)症例最小円孔径(μm)円孔底径(μm)術前視力術後視力(3カ月)術後視力(6カ月)症例①5801,2940.30.40.5症例②6741,0430.10.10.2症例③5717580.070.40.8症例④5841,0880.060.30.5症例⑤8351,4400.10.30.3症例⑥5267860.040.30.3症例⑦5869610.20.50.5手術に比べ,若干手術が煩雑になりますが,問題なく施行可能です.術後早期の成績筆者らの施設でも,大型MHの治療成績は満足のゆくものではありませんでした.そこで,十分に検討をした後,大型MHに限って同法を施行しています.初期の限られた症例についての成績を示しますが,全例初回手術でMH閉鎖が得られており,術後視力も改善しています(表1).現在は,観察期間および症例数も増加していますが,特筆すべき合併症はないようです.ILM翻転法術後早期の光干渉断層計検査(OCT)OCTによる黄斑部の所見は,MHの診断や治療結果を示す客観的な根拠となり,必要不可欠な検査です.手術後早期のガスタンポナーデ眼に対するOCT撮影が可能であることを以前に報告しましたが,再現性や信頼性も十分ではありませんでした2).そのため,撮影できないものにはWatzke-Allenslitbeam検査などを手術の前後に行って,それによってMHの閉鎖を早期に確認しました3).Watzke-Allenslitbeam検査は簡便な方法あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121371 AB図2大型MH(Stage4,術前最小円孔径≒600μm)の一例A:術前のOCT,最小円孔径が500μmを超える大型MH.B:ILM翻転法手術,翌朝のガス下OCT,網膜の連続性=円孔は閉鎖しているようにみえるが,円孔内部に圧縮されたILMを認める,本当に円孔閉鎖なのかの判断はむずかしい.C:術後1カ月目のOCT,円孔は閉鎖しているが,数枚のILMFlapが観察される.でsensitivityは高いためほぼすべての症例に施行可能ですが,specificityが低いために,単独検査では診断がつきません.そこで,技術改良を進めた結果,きわめて鮮明なガス下OCTが撮影可能であることを見出しました4).最近は,MHに限らずガスタンポナーデ眼に対し全例OCTを撮影していますが,ほぼ100%の症例において鮮明な画像を得ることに成功しています.CirrusHD-OCTを用いた方法を略述します.①眼底フォーカス(Focus)の調整を.20D(限界値)に設定,②アライメント画面とリアルタイムのBスキャン像を確認しながら,より鮮明な画像が撮影可能な場所を調整し,瞳孔中心ではなく上外側に少しずらす,③HD5linerasterモード(Spacing:0.025mm)でスキャンし,水平断だけでなく垂直断も含め何回か測定するなどの注意をして当科では施行しています.非大型MH術後早期のOCTでは,時間とともに円孔が(全層にわたり)閉鎖していく様子が明瞭に描出されますが,大型MHの場合はもともとの大きな円孔内に折りたたまれて圧縮されたILMが描出され,閉鎖した円孔との区別がむずかしいことが多いです(図2).考察―今後の課題既報告は,大型MHに対する初回手術の円孔閉鎖率は6割程度ですから,閉鎖困難と考えられる大型MHに対しILM翻転法は非常に有用であると考えられます.しかし,視力などの長期予後については今後の慎重な検討が必要と考えられます.また,ガス下OCTにより術後極早期の網膜微細構造の変化や手術時手技の有用性などが,今後明らかになっていくことが期待されます.文献1)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invertedinternallimitingmembraneflaptechniqueforlargemacularholes.Ophthalmology117:2018-2025,20102)MasuyamaK,YamakiriK,SakamotoTetal:Posturingtimeaftermacularholesurgerymodifiedbyopticalcoherencetomographyimages:apilotstudy.AmJOphthalmol147:481-488,20093)YamakiriK,SakamotoT:Earlydiagnosisofmacularholeclosureofagas-filledeyewithWatzke-Allenslitbeamtestandspectraldomainopticalcoherencetomography.Retina32:767-772,20124)YamashitaT,YamashitaT,SakamotoTetal:Earlyimagingofmacularholeclosure:Adiagnostictechniqueanditsqualityforgas-filledeyeswithspectraldomainopticalcoherencetomography.Ophthalmologica,inpress■「大型黄斑円孔へのInvertedILMFlapTechnique手術」を読んで■今回は山下敏史先生による黄斑円孔(MH)の手術かし,大型MHについては手術後の円孔の閉鎖率も法の開発についてのわかりやすい総説です.小型に比較して悪く,治療の新しい展開が求められてMHのうち,特に円孔径の小さな症例での手術成績いました.これに対する新しいチャレンジが今回のは良好であり,視力予後も良好になってきました.しInvertedILMFlapTechnique手術です.閉鎖率を上1372あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(56) げるためにMHによる欠損部をILM(内境界膜)で補して,網膜の創傷に対する組織反応を明らかにできるうという大変卓越したアイデアでの手術です.以前は成果を期待させます.なかなかいい動物モデルのでき円孔閉鎖率が約6割であったのが,新しい手術方法でないMHのような疾患の病態とその治癒メカニズムは全例初回手術でMH閉鎖が得られて,術後視力もの研究方法として大変興味深く,その成果が待たれま改善しているという素晴らしい結果を山下先生は示しす.ておられます.再生医学の急速な進歩によっても網膜組織の再生はその結果もさることながら,MHの手術でなぜ円孔きわめて困難が予想されます.もともと網膜の一部のが閉鎖するのかというきわめて基本的な疑問に対し欠損がある程度ではありますが,医師の手術での創傷て,今回の進歩は新しい網膜の創傷治癒のメカニズム治癒の過程を経て形態学的にも機能的にも(視力の向解明の希望を抱かせます.すなわち,ガス下OCTに上)回復することは,網膜再生のモデルをみているよより術後ごく早期の網膜微細構造の変化を観察する技うな感をもちます.鹿児島大学のグループの研究がこ術については,鹿児島大学の研究グループが世界に先のような方向に実を結ぶことも考えられます.駆けて開発し,素晴らしい画像を含めた論文で世界を山形大学医学部眼科学山下英俊あっといわせた技術です.このようなアイデアを駆使☆☆☆(57)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121373

抗VEGF治療:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と抗VEGF薬

2012年10月31日 水曜日

●連載⑤抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二3.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と森隆三郎日本大学医学部視覚科学系眼科学分野抗VEGF薬ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対する抗VEGF薬硝子体注射単独療法は,ポリープ状病巣の閉塞する割合が光線力学的療法(PDT)よりは低くなるが,滲出が抑えられ中心窩網膜厚も減少し,視力の維持・改善が得られるので,治療方法の選択肢の一つとなる.ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)は,インドシアニングリーン蛍光眼底検査(indocyaninegreenangiography:IA)で認める異常血管網とポリープ状病巣が病変の本体で,滲出型加齢黄斑変性の特殊型に分類される.光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)でも視力の改善が得られ1),抗血管内皮増殖因子薬(anti-vascularendothelialgrowthfacter:抗VEGF薬)硝子体注射の単独療法が主となっている典型加齢黄斑変性とは病態が異なり,治療方針も同一とならない.抗VEGF薬硝子体注射,PDTのそれぞれの単独療法あるいは,両者の併用療法のいずれかがPCVに対する第一選択の治療方法となるかは確定されていない.アジア人のPCVを対象としたranibizumab硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)単独,PDT単独,両者の併用の3群間の無作為比較試験であるEVEREST試験の6カ月間の結果では,ポリープ状病巣が完全閉塞した割合は,PDT単独群,併用群では7割以上で,IVR単独群の3割未満に比べ有意に高かったが,すべての群で視力の改善が得られ,各群間では有意差はなかった2).ポリープ状病巣の完全閉塞を目的とするのであれば,PDTを行わないIVR単独療法は有用な治療方法とはならないが,実際はポリープ状病巣が残存していても視力は改善することから,抗VEGF薬硝子体注射単独療法は治療方法の選択肢の一つとなる.HikichiらのPCV81眼に対するIVR単独療法の1年の成績の報告では,治療前logMAR視力は,0.59から0.37に有意に改善し,視力の改善は37%,維持57%となっている.ポリープ状病巣の消退は,39%であるが,中心窩網膜厚は324μmから211μmと有意に減少している.平均治療回数は4.2回で,28%で導入期の3回以降再治療を必要としていない3).この結果からも,導入期後毎月の診察を行い,再治療を適切に行うことでIVR単独療法はPCVに効果的であるといえる.上述したEVEREST試験は,3群間の無作為比較試験で重要な報告であるが,各群20眼と小数でまた経過観察期間が6カ月と短い.このことからも,PDTの併用の有無などについては,多数症例での1年以上の治療成績の比較検討が今後のPCVに対する治療指針を決めるうえで必要となる.しかし,PDTは,治療後に出血を生じたり,視力低下をきたす症例もあることより,視力良好なPCVはPDTを行うことは推奨されていない.そのため抗VEGF薬硝子体注射の単独療法が行われる.Saitoらの視力良好(治療前0.5を超える視力)な加齢黄斑変性40眼に対するIVR単独療法の1年の成績の報告では,PCVは18眼あり,logMAR視力は,治療前0.71から0.84に有意に改善し,平均治療回数は4.8回となっている.また,この報告では,IVRが認可されるまでは,視力良好なためPDTを行うことができず経過観察となっていた症例とも比較しているが,この無治療群よりも有意に改善していた.この報告からも,視力良好なPCVに対しては,PDTを行わないでIVR単独療法を行うことが勧められる.抗VEGF薬の作用には,新生血管の形成や増殖の抑制作用,血管透過性亢進の抑制作用があるが,PCVに対しては,滲出が減少,消失し,中心窩網膜厚が減少するが異常血管網は残存し,ポリープ状病巣も残存する症例が多いことからも,後者の作用が主となっている可能性がある.そのため,滲出は一旦消失するも,残存した病巣が再燃し,滲出が再発する症例もあり,また,新たなポリープ状病巣が再発し,出血を生じることもあることから継続的な診察,追加治療が重要である.(53)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213690910-1810/12/\100/頁/JCOPY IA早期IA後期IA早期IA後期….IA早期IA後期IA早期IA後期….治療前治療1年後図159歳,男性.治療前(上),治療1年後(下)IVRを8回(導入期3回,維持期5回)施行し,矯正視力は0.8から1.5に改善した.OCTで中心窩の漿液性網膜.離(矢頭)は減少するもわずかに残存,IAでポリープ状病巣(矢印)と異常血管網(※)も残存した.IA後期..治療前IA後期..IA後期文献1)TanoY,OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6.20082)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTSTUDY:EfficacyandSafetyofVerteporfinPhotodynamicTherapyinCombinationwithRanibizumaborAloneVersusRanibizumabMonotherapyinPatientswithSymptomaticMacularPolypoidalChoroidalVasculopathy.Retina32:1370あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012治療1年後図246歳,男性.治療前(上),治療1年後(中),治療18カ月後(下)治療18カ月後導入期3回のIVR後,滲出の再燃はなく矯正視力は0.8から1.5に改善し,経過順調であった.OCTで中心窩の漿液性網膜.離(矢頭)は消失,IAでポリープ状病巣(矢印)は消失,異常血管網(※)は残存した.初回治療後18カ月に網膜下出血が出現,新たなポリープ状病巣(太矢頭)も認めた.1453-1464,20123)HikichiT,HiguchiM,MatsushitaTetal:One-yearresultsofthreemonthlyranibizumabinjectionsandas-neededreinjectionsforpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.AmJOphthalmol154:117-124,20124)SaitoM,IidaT,KanoM:Intravitrealranibizumabforexudativeage-relatedmaculardegenerationwithgoodbaselinevisualacuity.Retina32:1250-1259,2012(54)

緑内障:Visual Field Index(VFI)とは

2012年10月31日 水曜日

●連載148緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也148.VisualFieldIndex(VFI)とは内藤知子岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Humphrey視野計の緑内障進行解析プログラムであるGuidedProgressionAnalysis(GPA)に新しい視野指標としてVisualFieldIndex(VFI)が導入された.VFIは視機能率ともよばれるが,dB単位であるmeandeviation(MD)などと異なり,patterndeviation(パターン偏差:PD)をベースに残存視機能が算出され,%単位で表示される.従来,緑内障の視機能評価にはmeandeviation(MD)が用いられることが多かった.しかし,MDは緑内障におけるqualityofvision(QOV)を直接的に反映しているとは言い難かった.その主たる理由は,MDが中心視野領域から障害されている緑内障では視力の不良と相関せず,また,白内障や加齢による縮瞳などによるびまん性感度低下の影響を大きく受けることにあった.これはMDの算出における視野検査結果の中心領域の「重みづけ」の程度,さらに,MDが年齢別正常値と実測値の差であるtotaldeviation(トータル偏差:TD)を用いて算出されていることが大きく関与する.そこで,VisualFieldIndex(VFI)では緑内障のQOVを直接的に反映する指標をめざし,MDの計算上の弱点を補うべく,中心視野領域への「重みづけ」をより大きくし,また,白内障などのびまん性感度低下の影響を最小化するために,patterndeviation(パターン偏差:PD)をベースに計算されていることが特徴である.●VFIの算出方法1)①PDで正常と判定された測定点はすべて「100%」と評価する(図1).この段階で,白内障のみによるびまん性の沈下部分は「正常」と判定されるため,白内障による影響を最小化することができる.②実測感度が0dBの絶対暗点はすべて「0%」と評価する.③PDでp<5%の異常シンボル表示がついた測定点においては,同部位の年齢別正常値を100%とした場合の比率で求める.(たとえば,ある測定点における実測値が8dB,その部位の年齢別正常値が31dBである場合,その測定点の視機能率は8/31=25.8%と計算される.)(51)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYパターン偏差で有意水準のつかない部分Normalpoints100%の感度図1白内障などによるびまん性感度低下の除外視覚野の皮質拡大に準じ(corticalmagnification)5circleに分け内側より1×3.292×1.283×0.79重みづけ4×0.575×0.45図2中心視野領域への「重みづけ」④視覚野の皮質拡大(corticalmagnification)に準じて視野を5つのサークルにわけ,中心部から周辺部に向かい3.29.0.45倍までの重みづけを行う(図2).(MDが.20dB未満の進行期症例においては,PDは表示されないため,TDのみから計算が行われる.)●VFIによる評価が効果的と考えられる症例①中心視野障害症例(代表的な症例を図3示す)あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012136712345 MDVFI-11.99dB69%MDVFI-12.20dB49%RV=(1.0)RV=(0.4)MDVFI-11.99dB69%MDVFI-12.20dB49%RV=(1.0)RV=(0.4)図3中心視野障害症例との比較MDの差は0.21dBのみであるが,VFIは20%も異なる.白内障手術MDVFI-2.07dB99%-8.53dB99%MDVFI図4白内障手術前後Humphrey,前眼部,視神経乳頭所見(岡山南眼科杉本敏樹先生の御厚意による)術前,強い水晶体混濁のためMDは.8.53dBであるが,VFIは99%である.出していることがわかる.おわりにVFIは,視野中心部への「重みづけ」が大きく,白内障などによるびまん性感度低下の影響を最小化できるので,緑内障のQOVや日常生活上の視機能を評価するうえで,有用なパラメータの一つになりうることが期待される.文献1)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,2008②白内障併発症例これらの2症例,MDの差は0.21dBのみであるが,VFIはそれぞれ69%,49%で20%も異なる.視力は1.0に対し,0.4である.このようにVFIのほうが中心視機能をよく反映する可能性が示唆される.③白内障併発症例の白内障手術前後を示す(図4).初診時高眼圧であり,強い水晶体核混濁と後.下混濁のため,術前には視神経乳頭の評価が困難であった症例であるが,MDが.8.53dBに対し,VFIは99%である.白内障手術後にはMDは.2.07dBまで回復した.この症例の視神経乳頭には緑内障性変化はなく,VFIは白内障の影響を除外し,術前から視神経乳頭が正常であることを検☆☆☆1368あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(52)

屈折矯正手術:新しい眼内レンズ-Lentis M Plus®

2012年10月31日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載149大橋裕一坪田一男149.新しい眼内レンズ―LentisMPlusR―荒井宏幸みなとみらいアイクリニック分節状屈折型の多焦点眼内レンズがおもに欧州にて使用され始めている.加入部分を分節状に配置することで,多焦点レンズにおけるグレア・ハロ・waxyvisionの出現しにくいレンズとして注目されている.乱視矯正用のレンズもあり,製作度数は100分の1Dステップというオーダー単位である.●分節状屈折型多焦点眼内レンズおもに欧州を中心として使用されており,国内は未承認である1).Oculentis社製LentisMPlusRの外観を図1に示す.レンズの光学部下方が,加入部分に相当する構造になっている.2重焦点の遠近両用眼鏡をイメージしやすいが,視線の移動によって近方視を確保するという理論ではない.屈折型として,近用部を集約して網膜上に結像させるアイデアは斬新である.他の多焦点レンズと同様に,網膜上には遠方・近方ともに集光されており,脳の選択によりどちらかの集光像を認識する.加入度数部分の面積は,全集光面積の約3分の1に相当する.素材は親水性アクリル(25%含水)であり,形状はプレート型である.切開創は2.0mmからの挿入が可能ということであるが,筆者は2.3mmの切開創にて行っている.レンズ長径は11mm,光学部は6.0mmである.球面度数の製作範囲0~+36Dである.加入度数は2種類あり,+3.0Dと+1.5D(どちらもレンズ面)が選択可能である.Toricレンズも用意されており,0.25~12Dまでの円柱レンズが対応可能となっている.●LentisMPlusRの光学的優位性現在,選択が可能な多焦点眼内レンズは,同心円状の屈折型多焦点レンズと回折型レンズである.屈折型には夜間のハロ・グレアの問題があり,回折型にはwaxyvisionという問題がある.基本的には,単焦点に比べれば近方視力は確実に確保できるのであるが,光学的なロスや散乱による見え方の不具合により,適応を狭めざるを得ない.同心円状の屈折型眼内レンズには,遠方と近方の(49)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1LenitsMPlusRの外観近用部分が下方(6時方向)になるように.内に固定する.マーカーラインは水平方向を示している.zone部分のgapがあり,その部分の散乱により光学的なロスが生じる.暗所にて瞳孔径が大きくなると,このgap部分が何周も表出されるため,より多くのロスが生じてしまう.回折型眼内レンズの場合には,回折構造の物理特性として,常に18%の入射光が減弱する.残りの82%を利用して遠方と近方に振り分けており,そのため鮮明度は甘くなり,これがwaxyvisionとして知覚される.術前にwaxyvisionに対する予測が可能であれば,非常に使い勝手の良いレンズであるが,それがむずかしいために躊躇することも多い.LentisMPlusRは光学的なロスを最小限にとどめるように設計されている.レンズの中心部分および60%以上の部分が遠方焦点の単焦点レンズであるため,良好な遠方視は担保される.また,屈折型に特徴的なzone間のgapは,1本のラインしかなく,したがって瞳孔径が大きくなっても表出するgapはラインの1部分のみである.そのgapも非常に精緻に作製されている.あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121365 図2LentisMPlusRtoricのオーダーフォーム100分の1D単位での推奨レンズ度数が示されている.乱視軸の角度によらず,レンズの固定は常に垂直方向である.●2つの加入度数を使い分けるLentisMPlusRには2種類の加入度数が用意されている.レンズ面にて+3.0Dと+1.5Dである.それぞれ眼鏡面では+2.5Dと+1.0Dに相当する.Oculentis社は優位眼に加入+1.5Dを,非優位眼に+3.0Dを選択してmodifiedmonovisionを作ることにより中間視力を確保するという提案をしている.●驚異的なtoricレンズの製作度数LentisMPlusRにはtoricレンズの設定がある.トーリックレンズの度数設定は,球面・円柱面ともに100分の1D単位である.図2のレンズのオーダーはおもにIOLマスター(CarlZeissMeditec社製)のデータを元に決定する.円柱面の軸方向は製作時点ですでに回転を付けて位置付けされており,.内での固定位置は球面レンズと同様に12時-6時の縦方向に固定すればよい.しかも納期は4週間である.●手術結果今回は誌面の関係上,術後結果は示さないが,通常の多焦点眼内レンズと同等の満足できる結果が得られている.最も安心できるのが,グレア・ハロやwaxyvisionの訴えがないことである.術後の細隙灯顕微鏡写真を図3に示すが,通常の光束で観察する限り単焦点レンズの様相である.すでに海外からも術後結果が報告され始め図3LentisMPlusRtoricの術後細隙灯顕微鏡写真下方の加入部分の反射と上下のtoricラインが観察される.ている2,3).●今後の展望このLentisMPlusRがほぼ単焦点に近い遠方視力と,日常的には十分な近方視力が安定して得られるものであれば,今後はこうした光学特性をもったレンズが多焦点眼内レンズの主流になりうると考えている.すでに調節力のない50歳以上の屈折異常眼に対しては,LASIK(laserinsitukeratomileusis)やPhakicIOL(眼内レンズ)ではなく,LentisMPlusRが良い適応になるかも知れない.ごく最近に,片眼にLentisMPlusRを,もう片眼に回折型のATLISA(CarlZeissMeditec社製)を選択することにより,遠方から近方までの連続した焦点深度分布が得られるという報告もあり,今後のデータに期待したい4).文献1)McAlindenC,MooreJE:Multifocalintraocularlenswithasurface-embeddednearsection:Short-termclinicaloutcomes.JCataractRefractSurg37:441-445,20112)AlioJL,PineroDP,Plaza-PucheABetal:Visualoutcomesandopticalperformanceofamonofocalintraocularlensandanew-generationmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:241-250,20113)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Comparativeanalysisoftheclinicaloutcomeswith2multifocalintraocularlensmodelswithrotationalasymmetry.JCataractRefractSurg37:1605-1614,20114)MunozG,Albarran-DiegoC,JavaloyJetal:Combiningzonalrefractiveanddiffractiveasphericmultifocalintraocularlenses.JRefractSurg28:174-181,2012☆☆☆1366あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(50)

眼内レンズ:鈍的外傷による水晶体後嚢破裂

2012年10月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎314.鈍的外傷による水晶体後.破裂石井清さいたま赤十字病院眼科鈍的眼外傷後に,水晶体後.破裂を生じ,徐々に白内障をきたすことがある.若年者に多いが,眼底病変の合併症を伴わなければ,手術時期と方法を症例の状態に応じて対処することにより,良好な視力予後を得られるケースも多い.今回は具体的な手術方法を供覧する.鈍的外傷後にみられる後.破裂を伴う白内障症例については,これまでにいくつか報告がある1.2)が,それほど頻度は多くない.鈍的外傷による後.破裂については,Wolterは,小児や若年者では水晶体核が未熟であるため,水晶体を通して,衝撃の対側に力が伝わるために生ずるとの推論1)を,また,Campanellaらは,小児ではWieger靱帯による前部硝子体と水晶体後.の接着が強固であり,鈍的外傷による衝撃で後.の中央部付近の破裂が生じやすい推論を報告している2).本セミナーでは鈍的眼外傷後に,後.破裂を伴う白内障をきたした白内障症例の対処手術方法を紹介する.手術方法は,経毛様体扁平部水晶体切除術(parsplanalensectomy:PPL)もしくは,limbalapproachの選択が可能であるが,後.破裂を伴う外傷性白内障は若年者に多く,後部硝子体.離が発生していないことが多い.そのため,PPLに伴い,網膜裂孔や網膜.離などの合併症を起こす可能性があるので注意が必要である.Limbalapproachでは水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)を行うことが可能である.Limbalapproachの場合は,後.破裂の程度によるが,眼内レンズ(IOL)を.内固定できる可能性があるという利点がある3).今回はlimbalapproachによる手術方法を紹介する.症例は,左眼眼球打撲で前医受診し,前房出血吸収後,白内障出現したため,受傷3カ月後に当科を紹介受診,核白内障と後.破裂がみられた(図1).後.破裂は楕円形で,破裂部の辺縁部に線維化がみられた.強角膜4面切開(2.4mm)を行い,3時,9時方向にサイドポートを作製(上方皮質が残った際のbimanualirrigation/図2トリパンブルーによる前.染色下による前.切開図1術前の前眼部白内障と後.破裂(点線)がみられる.図3灌流吸引で水晶体を吸引除去(47)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213630910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去図4硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去aspiration:以下I/A用).トリパンブルーで前.染色後に前.切開(図2),核が柔らかい場合はI/Aのみにて,水晶体を除去する(図3).その後線維化した前部硝子体と皮質の処理が必要な場合は,前房maintainerを留置し,25ゲージの硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去を行う(図4).前.と後.間に粘弾性物質を注入し水晶体.に若干の間隙を作り,IOLを.内に挿入(図5,6)する.この症例では術後経過は良好で,視力は術後4日で0.2(1.2×.2.75D(cyl.0.50DAx150°)まで改善した.術式がlimbalapproachの場合,術中に後.破裂の拡大,水晶体の硝子体への嵌頓の可能性を考慮し,慎重に手術時期を決定する必要があると考えられる.時間経過に伴い,後.破損の辺縁部は厚く線維化していくことが観察されるため,硝子体への炎症波及などの他の合併症がなければ,少なくとも6週間は白内障手術を待つほうがよいと考える.Limbalapproachの場合,術前の後.の状態について評価し,手術の際に,後.破裂の進行を防ぐため,PEAの場合は,低吸引,低灌流および,ボトル高を低くする工夫が肝要である.以上,後.破裂の程度,発症からの期間,年齢などを図5粘弾性物質を前.と後.下に注入する図6IOLを.内固定に挿入する総合的に判断して,手術時期,術式を選択する必要があると考えられる.文献1)WolterJR:Coup-contrecoupmechanismofocularinjuries.AmJOphthalmol56:785-796,19632)CampanellaPC,AminlariA,DemaioR:TraumaticcataractandWieger’sligament.OphthalmicSurgLasers28:422-423,19973)ThomasR:Posteriorcapsuleruptureafterblunttrauma.JCataractRefractSurg24:283-284,19982012年4月作成

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズの苦情に対処する(1)-くもり-

2012年10月31日 水曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】340.コンタクトレンズの苦情に対処する(1)―くもり―ハードコンタクトレンズ(HCL)装用者が年々減少しているなかでも,各社がそれぞれの特徴を生かしてHCL作製を継続していることは,CLに携わる眼科医として非常に有り難いと思っている.16年ほど前から出会った(株)サンコンタクトレンズのHCLは国内では唯一レンズに直接“調整加工”ができることから気に入っている.そして筆者自身も使用している.自分が処方しているレンズについて説明するほうが伝えやすいため,(株)サンコンタクトレンズのHCLで話を進めていく.「苦情処理」というより「主訴別対処」という言葉を筆者は好んで使用している.どんなにベストだと思って処方しても使い方や環境に影響され変わってくるため,CLは処方して終わりではない.その変化を見逃さないために定期検査が必要であり,それに対して「主訴別対処」を行うことが医療機器としてCLの質を保つためには必要である.今回は「くもり」について説明する.受診する際には「くもる」よりも「見えにくい・かすむ・見え方が不安定」などの表現をよく耳にする.受診時の表現はいろいろで戸惑うが,それを医学的な言葉へ置き換え原因を探舟橋順子大阪医科大学眼科学していく.レンズの汚れだけを見ていてもなかなか解決策は見つからない.焦らず探すためには順番を決めて考える1)(図1).1.レンズの確認まずレンズ自体を観察し,汚れや傷がないか確認する.レンズに汚れがあれば洗浄し,一般的な洗浄液で除去できなければ研磨剤入りの洗浄液または蛋白分解酵素入り洗浄液を使用する.それでも除去できない場合は研磨する.研磨はレンズ調整の一方法である.レンズ調整は何でもできるわけではないが,使用しているレンズに直接,「汚れや傷の研磨・度数調整・べベル幅の変更・エッジリフトの変更・サイズの縮小・エッジ形状の変更・特殊加工(MZ加工など)」を行える1,2).これらはメーカーの技術員にお願いする.汚れがつきやすい場合は使用しているケア用品を確認し,擦り洗いのやり方を実際に行ってもらい問題があれば指導する.深い傷でなければ研磨して除去できる.2.度数の過不足の確認レンズに問題がなければ,度数の過不足を確認する.レンズの確認汚れ・キズ洗浄・研磨度数の過不足度数変更装用状態でレンズ表面確認ドライなくもりBCを再考ベベル幅を狭くエッジリフト小さくフロントベベル薄く(フロントカット)ウェット(オイリー)なくもりレンズ周辺部での刺激ベベル幅を広くエッジリフト大きくブレンド追加エッジ研磨フロントベベル薄く(フロントカット)抗アレルギー点眼薬処方レンズ表面の涙液はじき研磨取り扱い確認日常生活確認レンズ脱後に見えにくい角膜形状確認(固着による圧痕・歪み)BC・直径変更(レンズ表面の涙液不足)(化粧品・ハンドクリームなどの付着)ありありなし図1主訴別対処「くもり」(45)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213610910-1810/12/\100/頁/JCOPY 度数の過不足がある場合,レンズ保証期間内ならレンズを交換し,保証期間を過ぎていれば±1D以内はレンズを削って度数調整を行う.3.装用状態でレンズ表面を確認レンズ自体と度数に問題がなければ,装用状態でレンズの表面を確認する.①ドライなくもり瞬きした後,開瞼してすぐレンズ表面が窓ガラスに息を吹きかけたようにくもる場合である.フルオレセインパターン(必ず角膜中央部にレンズを保持し確認)3)がパラレルの場合でも,べベル幅(図2a,b)が広すぎるまたはエッジリフト(図2a,c)が大きすぎると,エッジ下にたくさんの涙液が溜まりレンズ表面へ載る涙液が少なくなることから乾燥を生じる1,2,4).そこでべベル幅を狭くまたはエッジリフトを小さくすると,レンズ表面に涙液が載りやすくなり,くもりが改善する.べベル幅とエッジリフトに問題がない場合は,レンズ周辺の厚みがあるとレンズの表面に涙液が載りにくいため,フロントべベルを薄く調整する.特に強度近視の場合にはレンズ周辺部が厚くなるため,最初から「フロントべベルを薄く」と指定するとよい.また,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼も指導する.②ウェット・オイリーなくもりレンズ装用後,徐々にくもって見にくくなりレンズ表面には油膜状あるいは油滴状の汚れが付着している場合である.フルオレセインパターンがパラレルでも,べベル幅が狭すぎるまたはエッジリフトが小さすぎると,レンズの動きが悪くなり涙液交換も不良となり,くもりを生じる1,2,4).レンズの動きが悪いため,角膜周辺部への刺激は強くなり分泌物も増え,レンズ表面が汚れでくもってくる.そこでべベル幅を広くまたはエッジリフトを大きくすると動きが良くなり,くもりが改善する.同時にアレルギー性結膜炎を認め,抗アレルギー点眼薬を処方する場合も多くある.レンズの動きが悪いと固着している可能性が高いので,レンズ調整前にフォトケラトスコープでレンズ圧痕などの有無を確認しておくことも大切である.エッジ周辺カーブ(PC)中間カーブ(IC)直径(サイズ)光学領域べベル(PC+IC)aフロントべベルベースカーブ(BC)図2ハードコンタクトレンズ(HCL)各部の名称a:HCLの断面図,b:べベル幅,c:エッジリフト.ベベル幅bBCの延長線エッジリフトc③レンズ表面の涙液はじきレンズ表面に涙液が載らずはじいている場合は,化粧品やハンドクリームなどが付着していることが原因の多くを占めている.まず,レンズの取り扱い方や,日常生活での化粧品やハンドクリームなどの使用について確認する.汚れは洗浄液では除去できないため,研磨して除去する.原因となる化粧品やハンドクリームの使用方法についても指導が必要である.文献1)舟橋順子:初心者だからと諦めないで…よりよいHCL装用を目指して.日コレ誌53:補遺S10-S15,20112)舟橋順子:はじめてみようHCL処方.日コレ誌54(4),2012(印刷中)3)糸井素純:フルオレセインパターンの見方(2).あたらしい眼科19:605-606,20024)小玉裕司:自覚症状からのコンタクトレンズトラブルシューティング.眼科プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p142-148,文光堂,2009☆☆☆1362あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(46)

写真:Intra Corneal Ring Segments(ICRS)挿入後上皮迷入

2012年10月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦341.IntraCornealRingSegments脇舛耕一*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック(ICRS)挿入後上皮迷入*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学②①③図2図1のシェーマ①:上皮迷入,②:縫合糸,③:ICRS.図1ICRS挿入後上皮迷入(41歳,男性)ICRS挿入5日後に切開創に沿った上皮迷入を認めた.図3ICRS挿入後上皮迷入(図1と同一症例)ICRS周囲には特に異常所見を認めない.図4ICRS挿入後上皮迷入の治療経過(図1と同一症例)この症例では抗菌薬点眼のみにより図1から約2週間後にこの状態まで軽快を認めた.(43)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213590910-1810/12/\100/頁/JCOPY IntraCornealRingSegments(ICRS)はポリメチルメタクリレート(PMMA)製のリング形状の素材であり,角膜実質内に挿入することで突出した状態の角膜形状を扁平化させ正常眼に近づける効果をもつ.おもにレーザー屈折矯正手術が施行できない円錐角膜(疑い症例を含む)やlaserinsitukeratomileusis(LASIK)後のケラテクタジアに対して施行され,術後視機能の改善が得られている1,2).ICRS挿入のための角膜実質内トンネルの作製は,以前はブレードによるマニュアル法であったが,現在はフェムトセカンドレーザーを用いた切開が主流となっている.マニュアル法では正確なトンネル作製の困難さから角膜穿孔などの合併症頻度が少なくなかった3)が,フェムトセカンドレーザーにより精度の高いトンネル作製が可能となり,安全性が向上し,合併症の発症頻度も減少した.現在の代表的なICRS術後合併症としては,ICRS脱出4)や感染症5),ICRS周囲角膜実質への脂肪沈着6),角膜内皮機能不全1)のほか,トンネル切開部における上皮迷入が報告されている7).上皮迷入は手術や外傷により生じた角膜表面から実質へつながる創を通じて上皮細胞が実質内へ入り込む病態であり,検鏡的には創間に沿って迷入した上皮細胞の集蔟による混濁病変を認める(図1).上皮迷入をきたす代表例としては,LASIK後のフラップ間への迷入がある8)が,そのほかDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)における層間ドレナージのための実質穿刺創からの迷入が報告されている9).ICRS挿入眼における上皮迷入のリスクファクターとして,手術時の操作および術後の強い瞬目,eyerubbingなどによる切開部の実質損傷や創離開がある.このリスクファクターを軽減させる対策として,ICRS挿入時に切開部の縫合と,術終了時からのソフトコンタクトレンズ装用を行うことが重要である.当院ではICRS脱出予防も含めソフトコンタクトレンズ装用は術後1週間まで行い,縫合抜糸は術後3カ月まで行わないようにしている.このような対策を行っていれば上皮迷入の発症はきわめてまれであり,当院でも上皮迷入を認めたものは本症例のみであった.文献1)HaddadW,FadlallahA,DiraniAetal:Comparisonof2typesofintrastromalcornealringsegmentsforkeratoconus.JCataractRefractSurg38:1214-1221,20122)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkeratoconuswithintacscornealringsegments.JRefractSurg21:236-246,20053)KanellopoulosAJ,PeLH,PerryHDetal:Modifiedintracornealringsegmentimplantations(INTACS)forthemanagementofmoderatetoadvancedkeratoconus:efficacyandcomplications.Cornea25:29-33,20064)FerrerC,AlioJL,MontanesAUetal:Causesofintrastromalcornealringsegmentexplantation:clinicopathologiccorrelationanalysis.JCataractRefractSurg36:970977,20105)Ibanez-AlperteJ,Perez-GarciaD,CristobalJAetal:KeratitisafterImplantationofIntrastromalCornealRingswithSpontaneousExtrusionoftheSegment.CaseReportOphthalmol1:42-46,20106)RuckhoferJ,TwaMD,SchanzlinDJ:Clinicalcharacteristicsoflamellarchanneldepositsafterimplantationofintacs.JCataractRefractSurg26:1473-1479,20007)ErtanA,KamburogluG,BahadirM:Intacsinsertionwiththefemtosecondlaserforthemanagementofkeratoconus:one-yearresults.JCataractRefractSurg32:20392042,20068)HenryCR,CantoAP,GalorAetal:EpithelialingrowthafterLASIK:clinicalcharacteristics,riskfactors,andvisualoutcomesinpatientsrequiringflaplift.JRefractSurg28:488-492,20129)BansalR,RamasubramanianA,DasPetal:Intracornealepithelialingrowthafterdescemetstrippingendothelialkeratoplastyandstromalpuncture.Cornea28:334-337,20091360あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(00)

外科手術の適応とタイミング・実際の手技

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1353.1357,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1353.1357,2012外科手術の適応とタイミング・実際の手技TimingandProcedureofSurgicalInterventionforSteroid-RecalcitrantUveitis丸山和一*はじめにステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎には種々の原疾患がある.特に臨床的に問題となるのは,感染症や悪性リンパ腫のような疾患である.感染症(特に遅発性眼内炎・真菌性眼内炎の場合)や悪性リンパ腫でも一時的にステロイド薬に反応し所見が改善するため,日々の臨床において診断が遅れ重症化することがある.筆者らは,ぶどう膜炎の急性期に手術を施行することは問題ではなく,重要なのは,ぶどう膜炎の種類・術中に採取したサンプルの解析・術後の炎症コントロールであることを報告してきた.ぶどう膜炎における手術には,慢性炎症・ウイルス・細菌・真菌感染による眼組織障害を少しでも緩和し,失明を回避するために施行する治療的硝子体手術と,悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患を眼局所にて早期に発見し,眼外の病態把握を可能にする診断的硝子体手術がある.この両者は適切なタイミングで施行する必要があり,ステロイド薬投与により実際の臨床病態がマスクされている可能性が高いため,手術にて採取した種々の眼内液・組織サンプルの解析は必須であると考える.I感染性眼内炎感染性眼内炎には細菌性・真菌性・ウイルス性眼内炎などが含まれる.ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎と診断される感染性ぶどう膜炎には,細菌性の遅発性眼内炎や真菌性眼内炎が臨床的に散見される.両疾患ともに問診により推測可能であることが多く,遅発性眼内炎の場合は発症前に眼内手術既往があり,ときには非感染性ぶどう膜炎であるサルコイドーシス内眼炎と診断され治療されることがある.また,真菌性眼内炎の場合は,中心静脈栄養のカテーテル留置や免疫不全状態が発症前に認められることが多い.両疾患ともに肉芽腫性ぶどう膜炎であり,豚脂様角膜後面沈着物が認められ,眼内レンズにも沈着物が認められることが多い.硝子体内には両疾患ともに硝子体混濁を認めるが,特に真菌性眼内炎の場合は硝子体混濁が強く,一つの混濁が大きいfluffball様硝子体混濁や,網膜下感染巣を認めることがある.真菌性眼内炎は進行すると硝子体混濁が強いため眼底観察が不能となり,病態が進行することがしばしばある.このため真菌性眼内炎を疑ったときはすぐに硝子体手術を施行するべきである.1.遅発性眼内炎急性の眼内炎と異なり,診断が困難なものとして遅発性(術後晩期)眼内炎があり,臨床所見が類似しているため,しばしばぶどう膜炎と診断されることがある.白内障手術後晩期眼内炎では,嫌気性菌であるPropionibacteriumacnes(P.acnes)が眼内炎症例の約45%に検出されている1).P.acnesによる眼内炎は,手術後平均4カ月くらいの発症が多く,虹彩毛様体炎様所見で発症し,軽度の前房炎症と軽度の角膜後面沈着物を認める(図1,2).しか*KazuichiMaruyama:東北大学大学院医学系研究科・神経感覚器病態学講座・眼科学分野〔別刷請求先〕丸山和一:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科・神経感覚器病態学講座・眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(37)1353 図1遅発性眼内炎眼内レンズに多くの沈着物が認められる.し,ときには前房蓄膿や高度の豚脂様角膜後面沈着物を伴うことがある.肉芽腫性ぶどう膜炎の形態をとり,サルコイドーシス内眼炎におけるぶどう膜炎所見に類似する.実際以前にサルコイドーシス内眼炎における硝子体液よりPropionibacteriumがPCR(polymerasechainreaction)により検出されている.さらに筆者らもサルコイドーシス内眼炎と考えられる網膜サンプルからP.acnesDNAを検出しているため,Propionibacterium属がサルコイドーシス内眼炎に関与している可能性も否定できない.診断は前房水や硝子体液の培養・塗抹検査であるが,嫌気性菌であるP.acnesを培養し同定することは時間がかかり約1週間の猶予が必要である.そのため,近年はPCR法により菌を迅速診断する方法を用いることが多い.治療は,セフェム系・ペニシリン系・フルオロキノロン系などの抗菌薬とステロイド薬点眼を用いる.それでも反応が乏しい場合は手術治療に踏み切り,原疾患を把握することに努める.硝子体手術時は遅発性眼内炎の場合は水晶体.に問題があることが多いため,水晶体.を摘出する.硝子体手術時は細菌性眼内炎の硝子体手術治療に準ずるため,灌流液にはバンコマイシン+モダシンを投与しておく.硝子体手術後はぶどう膜炎と同様にステロイド薬を点眼し,消炎に努めることをすすめる.図2遅発性眼内炎角膜後面沈着物(豚脂様).2.真菌性眼内炎真菌性眼内炎には,穿孔性眼外傷や眼内手術によって起こる外因性のものと,免疫不全状態や中心静脈栄養によって他組織で感染し,血流にて眼内(特に脈絡膜)に播種する内因性のものがある.特に内因性眼内炎は,現代の医療,たとえば高カロリー中心静脈栄養(IVH)や臓器移植後・ステロイド薬投与・血液悪性の治療などが進歩するにつれて増加傾向にあると考えられている.特にIVHが本疾患の原因の約90%であるため,挿入している患者は注意が必要である2).臨床経過は亜急性または慢性に進行し,通常両眼性である.飛蚊症などを訴えて発見されることがある.病変は眼底後極部に多く,硝子体混濁を呈することが多い.進行すると特徴的な硝子体混濁であり黄白色で毛玉様(fluffball)を呈する(図3,4).初期に他のぶどう膜炎と診断しステロイド薬などで治療を続けると,真菌はさらに増殖し,硝子体内膿瘍になり網膜病巣が進展して滲出性網膜.離を呈する.治療は,真菌に対して有効な薬剤が開発されているので,網膜滲出斑のみの病態のときは薬物療法を選択する.しかし,薬物治療の効果がないときはもちろんであるが,治療前でも硝子体混濁を呈するときは,京都府立医科大学(以下,当施設)では全身状態のことも考慮しながら外科的治療と同時に局所抗真菌薬投与を優先的に選択する.硝子体手術の目的は,病巣の除去と薬剤眼内移行の向上と起炎菌の採取である.1354あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(38) 図3真菌性眼内炎硝子体内に塊状の混濁がある.図4真菌性眼内炎前部硝子体内に大きな塊状(一部毛羽たっている).II眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOL)は硝子体混濁や網膜浸潤病巣を惹起しぶどう膜炎のような炎症性疾患の様相を呈する.急性期には炎症性サイトカインが硝子体内に上昇し炎症反応を惹起し,炎症性サイトカインとともに炎症細胞も増加するために,一時的にステロイド薬治療が効果的となる.しかし,すぐに硝子体混濁が再発し,臨床的にはステロイド薬治療に抵抗する硝子体混濁として認識されている.前眼部の炎症は軽度で,硝子体混濁は感染性(細菌性・真菌性などの)眼内炎などのように,塊を呈さずに多くの小型細胞を含むオーロラ状(カーテン状)である(39)図5悪性リンパ腫ベール状の硝子体混濁.図6悪性リンパ腫黄白色の網膜下隆起性病変.(図5).サルコイドーシス内眼炎や急性網膜壊死のような硝子体混濁(雪玉様混濁など)とは違い硝子体混濁の形態からPIOLが推測できることがある.網膜病変は網膜下/Bruch膜上に腫瘍細胞が浸潤し,黄白色の斑状または小さな顆粒状の病変を呈しさまざまである(図6)が,蛍光眼底造影検査を施行すると特徴的な顆粒状の低蛍光所見が認められ診断の補助となる(図7)3).PIOLあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121355 図7悪性リンパ腫網膜全体に顆粒状の低蛍光所見(病変が存在した部位).と判断したときは早急に確定診断する必要がある.そのためには硝子体生検を施行し種々の検査が必要となる.以下に当施設(共同研究先として東京医科歯科大学)で施行している検査を示す.1.眼内液を使用した検査1)細胞診:classIV以上(IIIでは臨床像と合わせて診断する)2)硝子体液サイトカイン:インターロイキン(IL)10/IL-6比>1が原則である3)遺伝子検査:サザンブロットもしくはPCRによる免疫グロブリン遺伝子,遺伝子再構成4)フローサイトメトリー:B細胞やT細胞に偏ったリンパ球様細胞(lightchainrestriction(LCR):k/l陽性細胞の分画解離)2.PIOLと判断された場合1)頭蓋内造影(magneticresonanceimaging:MRI)2)髄液検査(細胞診・サイトカイン測定)3)全身造影(computedtomography:CT)4)Positronemissiontomography(PET)5)骨髄検査1356あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012治療は,硝子体手術で悪性リンパ腫を治療することはできないため,基本的に全身化学療法と放射線治療である.なかでもmethotrexate(MTX)大量療法が標準治療となっている.当施設では全身管理の必要性から,PIOLと診断されたら血液免疫内科にて施行していただいている(京都府立医科大学倫理委員会承認済み).局所(硝子体内)MTX投与は,大量投与が困難な合併症をもつ場合や,すでに全身投与が行われていて局所に再発した場合に施行する.眼内悪性リンパ腫は,生命予後に関する疾患であるため,早期診断・早期治療を目標とする.このためぶどう膜炎様所見を呈し,ステロイド薬治療に抵抗する疾患は早急に除外診断のためにも専門医の診察を受ける必要がある.III硝子体生検の手技1.機器のセットアップ硝子体カッターのラインは完全にドライにしておく.この理由は,テストなどを施行するとラインに水が回ってしまい,採取時の硝子体が薄まってしまうため,正確なサイトカインが測定できないからである.最近の機器ではテストをしないと硝子体カッター自体が作動しないものがあるため,ラインの途中に三方活栓をつけ,そこから清潔airを50mlシリンジで逆流させ,なるべくドライな状態に仕上げておく.2.採取時の方法・条件硝子体手術時に準じて,眼洗浄・ドレーピング後に硝子体手術用の3ポートを作製する.ポート作製後眼球圧迫鈎を使用し圧迫しながら,直視下で切除を開始する.採取時の吸引は,硝子体カッターの吸引ライン上に三方活栓をつけ,5mlのシリンジをつけておき,助手がマニュアルで吸引を行う.初回のサンプル採取のカットレートは500cpmに設定しておく.約1.2mlの硝子体採取後,灌流ポートを開け眼圧を元に戻す.採取したサンプルは,すぐに清潔操作下で細胞診・サイトカイン測定・遺伝子再構成用に分け,サイトカイン測定と遺伝子再構成用サンプルは液体窒素にて急速冷凍する.水晶体再建術後,3ポート目を作製して,再度硝子体生検を施(40) 行する.このときの硝子体切除はなるべく硝子体混濁部を狙い約8ml以上を採取する.吸引は初回採取と同様に助手がマニュアルで吸引を行う.フローサイトメトリー用サンプル採取の硝子体カッターのカットレートであるが,筆者らは2,000cpm以上(5,000cpmでも)でも問題ないことを確認しており,通常の硝子体手術操作でも問題はない4).1)1度目の硝子体生検(cutrate:500cpm,吸引:マニュアル)2)水晶体再建術3)2度目の硝子体生検(cutrate:2,000cpm,吸引:マニュアル)おわりに近年硝子体手術機器や顕微鏡システムが発達し,以前よりは安全に硝子体手術が行えるようになった.しかし,今回述べた疾患のような診断困難例やPIOLのように診断が生命予後にまで関与する症例でステロイド薬の効果がない場合は,早急にぶどう膜炎を専門とした眼科医にコンサルトするべきである.当施設ではぶどう膜炎疾患の多くの疾患で網膜硝子体手術を必要とすることがあるため,網膜硝子体サージカルグループとぶどう膜炎グループが協力して(網脈絡膜炎グループを確立)治療に専念することとしている.文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起炎菌─Propionibacteriumacnesを主として─.あたらしい眼科20:657-660,20032)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─1987.1993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,19953)米田一仁,西浦正敏,多田玲ほか:広範囲の網膜下色素沈着を来した中枢神経系原発眼内悪性リンパ腫の1例.眼紀56:59-63,20054)NagataK,MaruyamaK:Simultaneousanalysisofmultiplecytokinesinthevitreousofpatientswithsarcoiduveitis.InvesOphthalmolVisSci53:3827-3833,2012(41)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121357