シリーズ⑤シリーズ⑤タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第5章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その2─■読書が変わる―タブレット型PCと電子書籍の可能性今回の第5章では,第4章に続き私が代表を勤める“GiftHands”が提案するタブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用法について紹介していきたいと思います.本章では電子書籍の活用法におけるタブレット型PCの意義について,実際にロービジョンエイドとして使っている患者たちの生の声とともに紹介していこうと思います.なお,原則的に私が現在,GiftHandsの活動や実際に外来で扱っているタブレット型PCは“新しいiPadR(米国AppleInc.)”と“iPhone4SR(米国AppleInc.)”,iOSバージョン5.1.1です(2012年8月30日現在).■私のロービジョンエイド活用法「電子書籍編」タブレット型PCは電子書籍を閲覧するためのリーダーとして一般に普及していますが,ロービジョンの患者にとってパソコンではなくタブレット型PCで電子書籍を閲覧できることは,きわめて大きな意味をもっています.多くの患者が感じるメリットは,閲覧場所や体勢に制限がないことです.これまでの拡大読書器を利用した読書行為では,患者は椅子に座って顔の前に設置されたモニターを眺める必要があり,手にとった本を見下ろして行う日常的な読書行為とは大きく異なる姿勢での作業を強いられてきました.しかし,タブレット型PCでの読書を導入することで,ロービジョン患者の読書環境は大きく変化します.ある患者は,「先生,俺は生まれて初めて寝ながら本を読めたよ.好きな姿勢で本を読めるなんて夢のようだ.今まで文字を読むのが本当に億劫だったけど,今じゃ何時間も読んでしまって目が疲れ(61)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYちゃうよ.」と笑顔で嘆いていました.読書というわれわれが日々何気なく行っている日常動作が,いかにロービジョンの患者にとっては困難であることかを再確認させられました.以前にも書きましたが,“読める”と“読みたい”は違うのだと改めて実感させられました.特に読書から多くの知識を学び,記憶を作る時期である学童期において,文字を読みたい環境で読書ができることの重要性は計り知れないと思います.タブレット型PCは充電式で,長時間の連続使用が可能であるため使用場所に制限がありません.読みたいときに自由な体勢で電子書籍を読めることは,ロービジョン患者には何よりのタブレット型PCの恩恵であると言えるのではないでしょうか.タブレット型PCのもう一つの大きな利点は,著作権の消失している書籍を集めた青空文庫を閲覧できるアプリが存在することです.たとえば,i文庫HD(NagisaWorks)というアプリでは文字のフォントのみではなく,縦書きや横書きといった文章構成もオーダーメイドに設定できます.また,文字サイズの適正化に伴って,一行当たりの文字数や改行による段落構成も適正化されます(図1).このことはこれまでの紙ベースの書籍を拡大して読む際に生じた,改行の度に読んでいた行を先頭まで逆行して次の行へ移行する動作を行う必要がないため,読書効率は格段に向上します.金沢文庫(CrestraInc.)というアプリでは,文章を読み上げる話者(男・女)の選択や読み上げ音声の速度や高低,抑揚などを変更することが可能であり,最も聞き取りやすい音声で青空文庫を視聴することが可能です.患者が文章を読める速度よりも少し遅めの読み上げ速度に設定することで,音声が視覚から入力された情報を補完することで,より快適に読書を行うことが可能になるのです.また,デジタル音声に抵抗のある方には実の声あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121377図1源氏物語の初期表示(左)とフォントとコントラストなどを適正化した表示(右)優が朗読をしてくれるアプリも登場してきています.私は多くのロービジョン患者へのタブレット型PCの導入を試みるなかで,縦書きよりも横書きの文章のほうが快適に読書を行える症例を何例か経験しました.視野欠損の範囲や眼振の有無などとの関連性は不明ですが,患者自身の好みと表現するのが適切であると現状では感じます.電子書籍では文章の構成を変化させることが可能で,最適化された電子書籍も気軽に持ち歩けるのがタブレット型PCの最大の長所なのです.文字のフォントや背景色,文章の構成や音声の設定の組み合わせは患者の数だけ存在しています.タブレット型PCが現行の拡大読書器に取って代わる存在であるとは思いませんが,患者の言葉に真摯に耳を傾けて各人に合ったオーダーメイドな設定を行うことで,もう一度読書への意欲を向上させることが可能なエイドであると考えられます.■私のロービジョンエイド活用法「拡大教科書編」ここまで文字データ化された電子書籍では文章の構造を変化させられることのメリットを中心に紹介しましたが,文章の構成が変化しないほうが望ましい場合があります.その代表としてはタブレット型PCを拡大教科書として利用する場合です.私の患者で弱視の子どもをもつ母親から拡大教科書に1378あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012ついて,次のような意見をよく耳にします.「手作業で作成して頂いているので,拡大教科書が届くのに時間がかかり授業の進行に子どもが遅れてしまう.」「大きくて,ランドセルに入らない.持って行く冊数が多いから,重くて登下校が大変.」「もともと一冊だった教科書が分冊に分(,)かれているから,目の悪い子どもが授業で必要な教科書を間違えてしまった.」「ページ番号が元の教科書と違うから,(,)先生の言っているページ番号や配置と自分の教科書が違うので授業についていくのが大変みたい.」など.これらの拡大教科書を取り巻く状況は,タブレット型PCを導入することで大きく変化します.配布された教科書をすぐにスキャナーでデジタル化して取り込むことで,タブレット型PCの中にすべての教科書を入れて持ち歩くことも可能です.文章の構成などは元の教科書の構成が保たれ,子どもが簡単な操作で任意の大きさまで拡大することができ,図表中の小さな注釈も自分の目で見ることが可能なので,授業の進行に対応しやすくなると考えられます.現在私はGiftHandsの活動として多くの導入事例を担当していますが,教育の現場である教育機関のタブレット型PCの導入に対する理解は決して高いとはいえません.今後もさまざまなメディアを介して,その意義を啓発していく必要性を強く感じています.輝ける才能をもちながら,それに気づくことのできない多くの子どもたちにその可能性をみつけるための“気づき”を与えることが,私の活動の大きな使命の一つであると感じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(62)