監修=坂本泰二◆シリーズ第143回◆眼科医のための先端医療山下英俊遺伝子から病態へのアプローチ荒川聡(九州大学大学院医学研究院眼科学分野)はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)をはじめ,緑内障,高度近視,ぶどう膜炎などの眼科疾患と遺伝子との関連が多く報告されるようになっています1.4).いわゆる一つの遺伝子異常で生じる単一遺伝子疾患ではなく,年齢や生活習慣などの環境要因が一因となる多因子疾患での遺伝子の役割が注目される時代です.疾患と関連する遺伝子同定のための方法は,家系や双生児を用いた連鎖解析に始まり,現在では全ゲノムを対象に包括的な関連解析を行うゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudy:GWAS)や,GWASを複数集めたメタ解析などの報告が散見されるようになりました5,6).本稿では,遺伝子研究から疾患の本質である病態にいかにアプローチするかということを,加齢黄斑変性のGWASを用い説明します.加齢黄斑変性に対するGWASから得られたこと欧米に比べ,日本を含むアジアでは滲出型AMDの有病率が高いという背景に着目し,九州大学および理化学研究所を中心とし,日本人の滲出型AMDのみを患者群として,総計2万人のサンプルを用いてGWASおよび追試研究(replicationstudy)を行いました.その結果,表1に示すように,新規に2つの一塩基多型(SNP)を同定し,それらのうち,より関連の強いSNPは8番染色体上のrs13278062であることを報告しました(オッズ比1.37倍,統合p値1.03×10.12).このSNP周辺の詳細なタイピングを行った結果,図1のLDブロック(SNP間の関連を表示した図)に示すように,このSNPは黒点線で囲まれた領域を代表するマーカーSNPであり,この領域に存在するTNFRSF10AとLOC389641遺伝子が候補遺伝子として考えられました.この2つの遺伝子発現をデータベース上で確認したところ,TNFRSF10A遺伝子産物の発現は網膜で認められているのに対し,LOC遺伝子の発現は確認されていないため,この領域における疾患関連遺伝子はTNFRSF10A遺伝子であると考えました.また,このSNPはTNFRSF10A遺伝子の397ベース上流に位置しており,この場所は遺伝子の発現をコントロールするプロモーター領域であることが報告されています.TNFRSF10A遺伝子は,腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー10Aのことで受容体蛋白の一つです.この受容体にリガンドであるTRAILが結合すると,カスパーゼを介したアポトーシスの誘導や,また別の経路として転写因子であるNFkBを介して炎症性サイトカインの誘導を促し,炎症を惹起させることが報告されています7).それでは,このSNPがAMD発症にどう関与しているのでしょうか.前述のとおり,このSNPはTNFRSF10Aの発現量を調整するプロモーター領域に位置するため,この受容体蛋白の発現の増減に関与していることが推測できます.GWASの結果,AMD患者群はコントロール群に比表1GWASおよび追試研究の結果SNP対立危険遺伝子研究症例数患者群対照群対立危険遺伝子頻度患者対照群性年齢調整後p値オッズ比rs132780628番染色体Tゲノムワイド関連解析追試研究8277013,32315,5650.4170.4170.3430.3462.46×10.68.19×10.81.411.35統合1.03×10.121.37rs17139854番染色体Gゲノムワイド関連解析追試研究8277083,32315,5690.3330.3290.2860.2829.03×10.55.71×10.51.341.27統合2.34×10.81.30GWASと追試研究の結果を統合すると,ゲノムワイドレベルな有意水準(5.0×10.8)を満たすSNPを2つ同定しました.(73)あたらしい眼科Vol.29,No.11,201215230910-1810/12/\100/頁/JCOPY………………..(Mb)CHMP7LOC389641TNFRSF10ATNFRSF10DTNFRSF10CAge,sex-adjustedpvalue………………..(Mb)CHMP7LOC389641TNFRSF10ATNFRSF10DTNFRSF10CAge,sex-adjustedpvalue図1rs13278062と滲出型AMDとの関連この図の上段は,横軸に8番染色体のゲノムの位置,縦軸に疾患との関連の強さを示し,下の段の赤い図はLDプロットとよばれ,それぞれのSNPの連鎖不平衡を示している.rs13278062はこの領域のマーカーSNPであり,疾患関連遺伝子はTNFRSF10A遺伝子であると考えた.このSNPはTNFRSF10A遺伝子の397ベース上流に位置し,この場所はTNFRSF10A遺伝子の発現量を調節するプロモーター領域と報告されている場所である.(文献1より引用)べ,このSNPのTアレルをもつ頻度が多いことがわかっており,このTアレルはGアレルに比べTNFRSF10Aの発現量を減少させると報告されています8).しかし,この論文で使用している細胞は,膀胱癌細胞,線維芽細胞,子宮頸癌細胞を用いた結果であり,網膜細胞での検討は報告されていません.現在行っている機能解析のうち,ルシフェラーゼアッセイを用いて,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)細胞での発現量のアレルによる差を検討中ですが,仮にRPE細胞での発現もTアレルをもつと減少することが確認されたのなら,どのような機序でAMD発症につながっていくのでしょうか.TNFRSF10AとTRAILが結合すると,アポトーシス経路および細胞増殖・炎症経路に働きかけ,それぞれの経路にスイッチを入れることとなります.通常であれば,この2つの経路を促す,つまりTNFRSF10A/TRAILの複合体が増えることによって炎症を惹起しAMD発症につながると考えますが,今回の結果では,1524あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012TNFRSF10Aの発現量が減少することによって,発症しやすくなるという結果がGWASから得られました.この結果について,まずは発現量の変化をRPE細胞を用いて確認するところから,機能解析を進めています.おわりに遺伝子というと,研究者のみの話であって,とっつきにくい分野だと感じている方が多いと思います.しかし,近年のゲノム研究の進歩により,遺伝子と疾患の全容が明らかにされつつあります.このような,疾患と関連する遺伝子を探す研究の目的は,最初のドミノを倒すことだと感じています.これまで想像もしていなかった蛋白質が,病態と関連しているという事実が“いきなり”現れます.今後の研究で2つ目,3つ目のドミノが倒れることによって,病態解明のための一つの重要なアプローチ手法ということができるゆえ,多くの方々が遺伝子研究に興味をもっていただければ幸いです.(74)文献1)ArakawaS,TakahashiA,AshikawaKetal:Genomewideassociationstudyidentifiestwosusceptibilitylociforexudativeage-relatedmaculardegenerationintheJapanesepopulation.NatGenet43:1001-1004,20112)NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:CommonvariantsinCDKN2B-AS1associatedwithoptic-nervevulnerabilityofglaucomaidentifiedbygenome-wideassociationstudiesinJapanese.PLoSONE7:e33389,20123)NakanishiH,YamadaR,GotohNetal:Agenome-wideassociationanalysisidentifiedanovelsusceptiblelocusforpathologicalmyopiaat11q24.1.PLoSGenet5:e1000660,20094)MizukiN,MeguroA,OtaMetal:Genome-wideassociationstudiesidentifyIL23R/IL12RB2andIL10asBehcet’sdiseasesusceptibilityloci.NatGenet42:703706,20105)SeddonJM,SantangeloSL,BookKetal:Agenome-widescanage-relatedmaculardegenerationprovidesevidenceforlinkagetoseveralchromosomalregions.AmJHumGenet73:780-790,20036)YuY,BhangaleTR,FagernessJetal:CommonvariantsnearFRK/COL10A1andVEGFAareassociatedwithadvancedage-relatedmaculardegeneration.HimMolGenet20:3699-3709,20117)JohnstoneRW,FrewAJ,SmythMJ:TheTRAILapoptoticpathwayincanceronset,progressionandtherapy.NatureRevCancer8:782-798,20088)WangM,WangM,ChengGetal:Geneticvariantsinthedeathreceptor4genecontributetosusceptibilitytobladdercancer.MutatRes661:85-92,2009■「遺伝子から病態へのアプローチ」を読んで■以前のこのコーナー(Vol.29,No.7)で,京都大学の強く惹起するサイトカインなので,滲出型加齢黄斑変三宅正裕先生に,「強度近視とゲノム」というタイト性における血管新生や滲出性変化を誘導する因子としルで執筆していただいたことを覚えておられるでしょて矛盾しないと考えられていました.ところが,今回うか.その中で,ゲノムワイド関連解析(GWAS)にの発見によれば,TNF-aが働かないほうが,むしろより,まったく予想されていなかった疾患遺伝子が発滲出型加齢黄斑変性になりやすいということになりま見される可能性があり,治療方針のみならず,疾患概す.TNF-aが働かないということは,炎症が起こり念も変えてしまう場合があることをわかりやすく解説にくいはずであり,血管新生も起こりにくいはずでしていただきました.す.これは,従来のTNF-aと加齢黄斑変性の関係でさて,今回の荒川聡先生の内容も,GWASを使っは説明できない現象であり,新たな発見や理解が必要た研究で,加齢黄斑変性の疾患概念を変える可能性のになります.現在,その点について精力的に研究が進ある大発見です.ご存じのように加齢黄斑変性は,シんでいます.ニア世代の失明原因の最上位を占める疾患であり,現CFHの場合は,因子自体が予想されなかったもの在の網膜分野では最も注目を集めているものの一つでですが,今回は因子自体は予想されたものでしたが,す.欧米人を対象としたGWAS解析によりcomple-その働き方が予想とは異なったというわけです.mentfactorH(CFH)という新規因子が,原因としGWAS解析が示したTNF-aと加齢黄斑変性の新たて同定されましたが,今回は腫瘍壊死因子(TNF)受な関係について説明できる新たな発見が期待されま容体スーパーファミリーが新たな疾患関連因子としてす.そしてそれは,より効果的で新しい予防法や治療発見されました.TNF-a自体は,加齢黄斑変性患者法の開発につながるでしょう.の網膜組織に豊富に発現しているだけでなく,炎症を鹿児島大学医学部眼科学坂本泰二☆☆☆(75)あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121525