《原著》あたらしい眼科30(3):405.408,2013c正常眼におけるカルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)の眼血流への影響梅田和志稲富周一郎大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座EffectofCarteololHydrochloride(2%MikeranRLA)onOpticNerveHeadBloodFlowinNormalEyesKazushiUmeda,SyuichiroInatomi,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)点眼薬の眼血流への影響についてレーザースペックルフローグラフィを用いて調査した.対象および方法:対象は健常人正常眼8例16眼.右眼にミケランRLA2%,左眼にプラセボを単回点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後に眼圧,眼灌流圧,全身血圧,脈拍および視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上・下耳側リム,視神経乳頭近傍上・下耳側網脈絡膜の血流量を測定した.結果:ミケランRLA2%点眼眼とプラセボ点眼眼の両群間で眼圧および眼灌流圧において有意差を認めなかった.全身血圧および脈拍は開始時と比較して下降したが重篤な副作用はみられなかった.眼血流量は,乳頭近傍上耳側網脈絡膜でミケランRLA2%点眼眼が3および6時間後に有意に増加した(p<0.05).結論:ミケランRLA2%は正常眼において,眼血流増加作用のあることが示されたことから,緑内障神経保護治療の選択肢となる可能性が期待される.Purpose:Toexaminetheeffectofcarteololhydrochloride(2%MikeranRLA)onopticnerveheadbloodflowinhealthyvolunteers,usinglaserspeckleflowgraphy.SubjectsandMethod:Thisstudyinvolved8healthysubjects(16eyes)instilledwith2%MikeranRLAintherighteyeanditsplacebointhelefteye.Changesinintraocularpressure(IOP),bloodpressure(BP),pulserate(PR),ocularperfusionpressure(OPP)andmeanblurrate(MBR)weredeterminedfrommeasurementstakenatbaselineandat1.5,3,4.5and6hoursafterinstillation.Results:IOPandOPPdidnotchangebetweentherightandlefteyes.BPandPRdecreaseduponinstillationof2%MikeranRLA,butwithnosideeffects.MBRatthesuperotemporalchorioretinasurroundingtheopticnerveheadincreasedsignificantlyat3and6hoursafterinstillation(p<0.05).Conclusion:Thisresultsuggeststhat2%MikeranRLAincreasesopticnerveheadbloodflowandcouldbeaneuroprotectiveagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):405.408,2013〕Keywords:カルテオロール,視神経乳頭血流,緑内障,レーザースペックルフローグラフィ.carteolol,opticnerveheadbloodflow,glaucoma,laserspeckleflowgraphy.はじめに緑内障性視神経症の発症および進行の原因としては,眼圧による機械的な障害のみではなく,視神経乳頭や網脈絡膜などの眼循環障害の関与が考えられる1).したがって,種々の抗緑内障薬のもつ眼圧下降効果に加えて眼血流に対する効果,すなわち神経保護の重要性が示唆されている2.8).抗緑内障点眼薬のなかで最も多く使用される薬剤としてプロスタグランジン点眼液とbブロッカー点眼薬がある.bブロッカー点眼薬のなかでもカルテオロール塩酸塩は内因性交感神経刺激様作用(ISA)を有し,また血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進,血管収縮因子(EDCF)の分泌抑制により末梢血管抵抗を減少させる働きを有しているため眼血流改善効果が期待される2,9.11).Tamakiら11)は正常人に対して2%カルテオロール塩酸塩(ミケランRLA2%)または0.5%チモロールをそれぞれ1日2回3週間点眼させて眼血流量をレーザースペックルフローグラフィで検討したところ,両〔別刷請求先〕梅田和志:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KazushiUmeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(119)405者において短期的には影響はなかったものの,前者では3週後の時点で眼血流の増加の可能性を示唆した.そこで今回筆者らは,カルテオロール塩酸塩の効果の持続性が期待される製剤(ミケランRLA2%)において短期的な眼血流への影響がどうなるかを検討する目的で,健常眼における点眼前後での眼血流の変化をレーザースペックルフローグラフィを用いて検討したので報告する.I対象および方法対象は軽度の屈折異常以外特に全身および眼疾患を有しない健常ボランティア8例16眼である.その内訳は男性3例女性5例,年齢20.34歳(平均23.9歳).対象の右眼にミ図1レーザースペックルフローグラフィによる血流マップ測定部位は乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域,また乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.(mmHg)2118151296開始時1.5hr3hr4.5hr6hra.眼圧************ケランRLA2%を点眼,左眼にプラセボとして生理食塩水を点眼し,開始時,1.5,3,4.5および6時間後における眼圧,眼灌流圧,全身血圧および脈拍をそれぞれ3回ずつ測定した.眼血流は視神経乳頭陥凹部,視神経乳頭上耳側および下耳側リム,視神経乳頭近傍上耳側および下耳側網脈絡膜の5カ所とした.具体的には0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.MBR値は相対値であるため,開始時に対する変化率を経時的に算出した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した(図1).乳頭近傍耳側網脈絡膜血流測定領域は網脈絡膜萎縮層を除外して設定した.統計学的解析は対応のあるまたは対応のないt検定を用い,有意水準p<0.05を有意とした.当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,試験参加者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.眼圧(平均±標準偏差)(図2a)眼圧は開始時16.1±3.3mmHgから,ミケランRLA2%点眼1.5,3,4.5および6時間後でそれぞれ13.3±2.2mmHg(p<0.05),13.1±2.6mmHg(p<0.01),12.4±2.8mmHg(p<0.01)13.1±2.5mmHg(p<0.01)と有意に下降した.プラセボ点眼眼(,)においても点眼3,4.5および6時間後でそれぞれ14.6±2.2mmHg(p<0.05),14.0±2.7mmHg(p<0.01),14.0±2.2mmHg(p<0.01)と開始時に比べて有意に下降した.両群間で統計的有意差はみられなかったが,プラセボ点眼眼に比べてミケランRLA2%点眼眼でより低い眼圧値を呈した.(mmHg)5520開始時1.5hr3hr4.5hr6hrb.眼灌流圧504540353025*図2眼圧および眼灌流圧の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼圧(a)および眼灌流圧(b)の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(*p<0.05,**p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.406あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(120)2.全身血圧および脈拍(平均±標準偏差)平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,平均血圧はミケランRLA2%点眼前78.9±6.4mmHgで,点眼4.5および6時間後にそれぞれ72.6±5.3mmHg(p<0.05),72.5±5.5mmHg(p<0.01),と開始時より有意に低下していたが,重篤な副作用はみられなかった.また,脈拍はミケランRLA2%点眼前70.4±5.3拍/分で,点眼1.5および3時間後にそれぞれ64.8±6.0拍/分(p<0.01),65.1±9.3拍/分,と開始時より低下したが,4.5時間後までには元のレベルに回復していた.3.眼灌流圧(平均±標準偏差)(図2b)眼灌流圧は2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ミケランRLA2%点眼眼では眼灌流圧に有意な変化はみられず,プラセボ点眼眼では開始時36.5±4.3mmHgに比べ点眼6時間後に34.3±3.8mmHgと有意に下降した(p<0.05)が,両群間で統計的有意差はみられなかった.4.視神経乳頭および網脈絡膜血流(平均±標準偏差)視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は,ミケランRLA2%点眼眼でいずれの時点でも開始時より高い値を示していたのに対し(図(%)a.視神経乳頭陥凹部20151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hr*(%)151050-20-15-10-5開始時1.5hr3hr4.5hr6hrc.視神経乳頭下耳側リム*#図3眼血流の変化率の推移ミケランRLA2%投与眼(◆)およびプラセボ投与眼(■)における開始時および点眼1.5,3,4.5および6時間後の眼血流(MBR値)の開始時からの変化率の推移を示す.すべてのデータは平均値±標準偏差.群間および群内の有意差検定はそれぞれ対応のない(#p<0.05,##p<0.01)および対応のある(*p<0.05,**p<0.01)t検定を用いた.(121)3a,3b,3d),プラセボ点眼眼では開始時に比べ6時間後に視神経乳頭陥凹部MBR値の変化率が有意に低下していた(p<0.05)(図3a).さらにミケランRLA2%点眼眼の乳頭近傍上耳側網脈絡膜のMBR値の変化率はプラセボ点眼眼に比べて3および6時間後に有意に増加した(p<0.05)(図3d).一方,視神経乳頭下耳側リムのMBR値の変化率はミケランRLA2%点眼眼でプラセボ点眼眼に比べ点眼1.5時間後には有意に低下した(p<0.05)が,その後は両群間での有意差はみられなかった(図3c).乳頭近傍下耳側網脈絡膜のMBR値の変化率は両群間での有意差はみられなかったが,ミケランRLA2%点眼眼では点眼前と比べてほぼ変化がなかったのに対し,プラセボ点眼眼で点眼6時間後に有意な低下がみられた(図3e).III考按一般的にbブロッカーの眼局所効果は房水産生を抑制することで眼圧の下降が得られることが知られ,全身副作用として血圧低下や末梢組織血流量の減少などがある.一方,カルテオロール塩酸塩では内因性交感神経刺激様作用(ISA)による血管弛緩因子(EDRF)の分泌亢進および血管収縮因(%)b.視神経乳頭上耳側リム40302010-20-100開始時1.5hr3hr4.5hr6hr(%)403020100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hrd.視神経乳頭近傍上耳側網膜**##(%)20100-30-20-10開始時1.5hr3hr4.5hr6hre.視神経乳頭近傍下耳側網膜*あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013407子(EDCF)の分泌抑制作用により末梢血管抵抗を減少させることでこれらの副作用の軽減があるとされている2,9.11).今回筆者らの正常眼を用いた検討では,視神経乳頭近傍上耳側網脈絡膜血流がミケランRLA2%点眼により,点眼3および6時間後に有意に増加するという結果が得られた.この機序として,ミケランRLA2%点眼眼で眼灌流圧が下降せず保たれていたことから,ISAによるEDRFの分泌亢進およびEDCFの分泌抑制作用による末梢血管抵抗の減少に伴って視神経乳頭および網脈絡膜毛細血管が拡張したためと考えられる.現在までに種々の抗緑内障点眼薬を用いた眼血流への効果をみた研究報告が散見される3.6)が,緑内障眼を用いたものが多く,ある程度の血流増加作用の報告はあるものの,筆者らが調べたかぎりにおいて正常眼を用いた研究ではそのような効果の報告は少ない7,8).正常眼圧緑内障眼においては正常人眼に比べ血流量が低下していること,さらに乳頭血流量は乳頭陥凹や視野障害の程度と負の相関があることが報告されている12,13).これらの事実は視神経乳頭の血流動態が緑内障と密接に関係していることを示唆するものである.したがって,正常眼に比べて緑内障眼ではすでに視神経乳頭周囲の血流が低下しているため,抗緑内障点眼薬のもつ血流への影響が正常眼に比べて出やすい可能性がある.今回筆者らの検討においても視神経乳頭陥凹部と上耳側リムおよび乳頭近傍上耳側網脈絡膜ではミケランRLA2%点眼による眼血流量の増加がみられたのに対し,下耳側リムおよび乳頭近傍下耳側網脈絡膜ではみられなかった.これは解剖学的にいわゆるI’SNTの法則により視神経乳頭下方の神経線維が最も多く,それに伴って血流の予備能も多いため効果がマスクされた可能性が考えられた.正常人眼では視神経乳頭血流量は加齢とともに減少することが知られている12).緑内障眼では視神経乳頭血液循環のautoregulation機構が破綻するため,加齢変化以上に乳頭血流量が低下するのかもしれない.したがって,低下した血流量を抗緑内障点眼薬などにより生涯にわたり改善することができれば,緑内障の進行をある程度阻止できる可能性が期待できる.2008年,Kosekiら14)は正常眼圧緑内障患者にカルシウム拮抗薬であるニルバジピンを3年間投与し,ニルバジピン群はプラセボ群に比しHumphrey視野のMD(標準偏差)の傾きが有意に低下し,かつ視神経乳頭血流量が有意に増加したと報告した.ごく最近筆者らの研究グループは,2年間の前向き2重盲検試験においてサプリメントとしてのカシスアントシアニンが緑内障患者の視野進行の阻止と眼血流の上昇をもたらすことを報告した15).この事実は乳頭血流を改善することによって視野障害の進行を阻止しうる可能性を示唆している.したがって,今回筆者らが得たミケランR408あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013LA2%点眼による眼血流量の増加作用,しかも点眼6時間後にも血流が増加していた事実は慢性疾患である緑内障の治療を考えると望ましいものであり,緑内障神経保護治療の選択肢として有用な示唆を与えるものであると考えられる.文献1)早水扶公子,田中千鶴,山崎芳夫:正常眼圧緑内障における視野障害と視神経乳頭周囲網膜血流との関係.臨眼52:627-630,19982)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼科研究への応用.日眼会誌103:871-909,19993)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸レボブノロール長期点眼の人眼眼底末梢循環に及ぼす影響.臨眼60:1841-1845,20064)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20095)前田祥恵,今野伸介,清水美穂ほか:緑内障眼における1%ブリンゾラミド点眼の視神経乳頭および傍乳頭網膜血流に及ぼす影響.あたらしい眼科22:529-532,20056)梶浦須美子,杉山哲也,小嶌祥太ほか:塩酸ブナゾシン点眼の人眼・眼底末梢循環に及ぼす影響.眼紀55:561-565,20047)今野伸介,田川博,大塚賢二:塩酸ブナゾシン点眼の正常人眼視神経乳頭末梢循環に及ぼす影響.あたらしい眼科20:1301-1304,20038)廣辻徳彦,杉山哲也,中島正之ほか:ニプラジロール点眼による健常者の視神経乳頭,脈絡膜-網膜血流変化の検討.あたらしい眼科18:519-522,20019)戸松暁美:b遮断剤点眼薬カルテオロールの眼圧下降作用と網脈絡膜組織血流量に及ぼす影響.聖マリアンナ医科大学雑誌22:621-628,199410)三原正義,松尾信彦,小山鉄郎ほか:ビデオ蛍光血管造影と画像解析によるCarteolol(ミケランR)点眼における網膜平均循環時間の検討.TherapeuticResearch10:161-167,198911)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)永谷健,田原昭彦,高橋広ほか:正常眼および正常眼圧緑内障における視神経乳頭と脈絡膜の循環.眼臨95:1109-1113,200113)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:正常眼圧緑内障における視神経乳頭および傍乳頭網脈絡膜血流と視野障害の関連性.眼科48:525-529,200614)KosekiN,AraieM,TomidokoroAetal:Aplacebo-controlled3-yearstudyofacalciumblockeronvisualfieldandocularcirculationinglaucomawithlow-normalpressure.Ophthalmology115:2049-2057,200815)OhguroH,OhguroI,KataiMetal:Two-yearrandomized,placebo-controlledstudyofblackcurrantsanthocyaninsonvisualfieldinglaucoma.Ophthalmologica228:26-35,2012(122)