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総説:第16回 日本糖尿病眼学会 特別講演 糖尿病網膜症に対する治療適応の諸問題

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYofvision)を目指す」治療,また「増殖糖尿病網膜症」から「糖尿病性黄斑症」の治療へと変わってきて久しい.これらの治療法の進歩にもかかわらず,わが国におけるDRによる失明患者は約2割を占め(表1),視覚障害に占めるDRの頻度は世界的にも減少傾向がみられない.このことは糖尿病患者の激増に加え,内科的および眼科的治療が対症療法に止まること,さらに内科的治療の中断や適切な時期での眼科治療の遅れが関係していると思われる.ここでは現在までのDR治療の現況とDMEを中心とする治療選択の問題を中心に述べる.I糖尿病網膜症の現況わが国における久山町での疫学的研究(40歳以上)集計9)では1998年度の網膜症有病率は16.9%で,2007年では15.0%と変化がなく,病型としては前増殖型および増殖型は減少したが,単純型に増加がみられた.DRの早期発見,早期治療については,大学,総合病院,診療所を含め北海道の眼科についての筆者らのアンはじめに糖尿病網膜症(DR)は糖尿病,血圧,脂質など長期にわたる内科的厳格なコントロールによる失明予防が可能な疾患である1?8).眼科的にはDRに対して,1971年以降にレーザー光凝固および硝子体手術が導入され,増殖糖尿病網膜症(PDR)だけでなく,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)にも使われている.最近では抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬(bevacizumab,ranibizumab)およびtriamcinoloneacetonide(TA)など薬物眼局所注射が使用され,パターンスキャンレーザー光凝固装置も実用化された(図1).眼科的な治療目標が「失明に対する緊急避難的な治療」から,「社会生活が可能な視力,いわゆるQOV(quality(45)1413*MuneyasuTakeda:桑園むねやす眼科〔別刷請求先〕竹田宗泰:〒060-0010札幌市中央区北10条西15丁目1-4ブランズ桑園駅前イースト1階桑園むねやす眼科あたらしい眼科28(10):1413?1424,2011c第16回日本糖尿病眼学会特別講演糖尿病網膜症に対する治療適応の諸問題ProblemsinIndicationforTreatmentofDiabeticRetinopathy竹田宗泰*総説1971アルゴンレーザー光凝固1971硝子体手術1980色素レーザー(Coherent社)2006Semiautomatedpatternedscanninglaser200725ゲージ硝子体手術2007薬物治療(triamcinoloneacetonide,bevacizumab)眼科治療法の進化薬物治療レーザー光凝固硝子体手術図1眼科治療法の進化表1失明原因(厚生労働省)1991年(2,161名)2005年(2,034名)1糖尿病網膜症18.3%緑内障20.7%2白内障15.6%糖尿病網膜症19.0%3緑内障14.5%網膜色素変性13.7%4網膜色素変性12.2%黄斑変性9.1%5強度近視10.7%強度近視7.8%6視神経・網脈絡膜萎縮9.8%1414あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(46)ケートによるDRの実態調査(1999年,2,320名)10)によると,内科医の紹介56%で,自覚症状による受診が22%にのぼり,初診時,すでに約40%にDRを認めた(図2).初診後,眼科へは継続通院48.7%,中断20.4%,1回のみ受診30.8%で,半数以上は経過観察がされず,中断例での54%,1回のみの受診患者の22%にDRがみられた(図3).したがってDRの早期発見,継続的治療のため,患者に対する経過観察の必要性,糖尿病眼手帳による内科との連携強化,さらに持続可能な家族や仕事,経済環境を含めた個々の患者の課題を解決する必要がある.II内科的治療との関係1.糖尿病腎症と糖尿病網膜症の関係DRの発生には血糖,糖尿病罹病期間,血圧,脂質,喫煙などが危険因子とされ,体内でVEGF,エリスロポエチンなどが関与し,microangiopathyからmacroangiopathyをひき起こすことが知られている.臨床的には強力な血糖コントロールが1型糖尿病(DCCT:DiabetesControlandComplicationsTrial/EDIC:EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup)2?5)だけでなく,2型糖尿病6)のDRの進行抑制に有効で,高血圧コントロール(UKPDS:UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy)7,8)の効果も実証された.その後10年以降でも強化インスリン療法で進行抑制(EDICstudy)5)が可能とされている.糖尿病(DM)の三大合併症として,網膜症(DR),腎症および神経症があげられる.なかでも腎症と網膜症は強い関係が示唆され,Caldwellら11)は病因が同じではないが,腎症が網膜症に影響すると述べている.実際,DRは蛋白尿12),DR頻度と腎症の程度13)にも相関し,単純型で腎症がある例ではDMEの合併が高率との報告もある14).しかし,増殖型でも14%に微量アルブミン尿(?)例14)もあり,黄斑部蛍光漏出は短期(透析後4週)では影響がないとの意見15)があり,透析からの期間や臓器間特異性を考慮する必要がある.全身浮腫とDMEとの関係について,宮部ら16)は短期的には3カ月間程度全身浮腫の増減とともにDMEが増減し,totalmacularvolumeは約9カ月にわたり,全身浮腫との相関を認め(図4),体重の増減はDMEに対する治療の指標となりうると述べた.2.透析導入による糖尿病網膜症への影響最近,DMは生命予後が改善され,その結果,透析導入に占める最大の疾患になっている.一般に透析導入に至る患者には網膜症合併率が高いこと,導入前後に血糖,血圧コントロールが不良なことが多く,末期の腎症により網膜症が悪化することが多い.しかし,透析導入直後に網膜症が急速に進行することが多い17)ものの,0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%継続n=1,091中断n=4571回のみn=69255467826261399153154424:停止:増殖:増殖前:単純:(-)図3初診後の眼科の通院状況(文献10より)内科治療中断例の50%に網膜症がみられた.010203040506056221421受診動機2,320名(不明5名)%内科の紹介自覚症状眼科の紹介他科の紹介偶然初診時網膜症2,317名(不明8名)01020304050607061718113%なし増殖前単純増殖停止図2北海道における糖尿病網膜症の実態調査(12施設,1999年)自覚症状で受診したものも22%.初診時,約40%に網膜症がみられた.(文献10より)(47)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111415竹田ら18)は6カ月以降安定化するとし,徳山ら19)は導入時,増殖前と増殖網膜症が50%,数カ月で安定化を示し,2年でburnedoutretinopathyになるとしている.石井ら20)も増殖網膜症の悪化は導入後1年以内に約10%で,最近は導入前の光凝固,硝子体手術よりDRは安定化し,高度視力障害の頻度は減少しているとしている.III増殖糖尿病網膜症(PDR)に対するレーザー光凝固DRに対するレーザー光凝固についてはDiabeticRetinopathyStudy(DRSNo.1,1976?No.14,1987)21?23)がおもにPDRに対する汎網膜光凝固の効果,副作用(prospective,randomizedstudy)を検討し,その後,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRSNo.1,1985?No.24,1999)が汎網膜光凝固の時期およびDMEに対する局所光凝固の有効性について,各々10年以上の長期研究により,EBM(evidence-basedmedicine)を確立した.DRS21)では1眼がPDRあるいは両眼重症非増殖網膜症で視力両眼20/100以上の症例について,汎網膜光凝固群では5年で重症視力障害(0.025以下)はそれぞれ,未治療群に比べ,50%から20%に減少したと報告した(図5).特にハイリスク増殖網膜症(HRC)である,硝子体出血や網膜前出血を伴う中等度あるいは重症乳頭外新生血管(NVE)および乳頭部新生血管(NVD),中等度以上のNVD23)には汎網膜光凝固(PRP)を推奨している.PRPの合併症であるDMEでは,術前,黄斑肥厚に対し局所凝固を行うべきとしている.しかし,現在なおPRPの適切な時期を逃したり,凝固不足のため,硝子体出血や網膜?離により失明する症図4体重に対する中心窩厚,totalmacularvolume(TMV)の関係(文献16より一部改変)両眼とも初診から9カ月まで体重とTMVは相関がみられた右眼:初診から3カ月まで体重と中心窩厚は相関がみられた左眼:初診から硝子体手術まで〃〃中心窩厚体重4.94.215.55.196.26.166.302004年2005年2006年R858075706560体重(kg)700600500400300200100(μm)※6/23ケナコルト・Tenon?下注射汎光凝固術右眼中心窩厚L中心窩厚体重4.94.215.55.196.26.166.302004年2005年2006年V5.18858075706560体重(kg)1,4001,2001,000800600400200(μm)汎光凝固術※5/26ケナコルト・Tenon?下注射左眼中心窩厚体重TMVR4.206.208.2010.2012.2090858075706560体重(kg)13.012.512.011.511.010.59.59.08.58.0(mm3)MacularvolumeTMV体重L4.206.208.2010.2012.2090858075706560体重(kg)13.012.512.011.511.010.59.59.08.58.0(mm3)※硝子体手術5/18Macularvolumeキセノン治療群キセノン群コントロールアルゴン群コントロールアルゴン治療群0481216202428323640444852566064687240302010経過観察期間(月)重症視力障害/100図5増殖糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固群における高度視力低下の頻度(文献21より一部改変)1416あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(48)例が跡を絶たない.日本糖尿病眼学会で虚血の著明な症例に対し,新生血管出現に先行し,無血管領域の散発光凝固の効果について試験を実施し,調査開始3年で施行群(13例)が非施行群(23例)に対して,PDRの発生が有意に低率との新しい知見を報告した(第114回日本眼科学会総会講演).PRPについては,vasculararcade外から周辺部まで1スポットあけて,隈なく凝固を行う.しかし,NVD,多発するNVE,虹彩ルベオーシス,網膜?離,硝子体出血などの重症例,通常の凝固で改善しない例はときにvasculararcade内,最周辺部の無血管領域を含め,癒合した凝固も必要である.IV増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の変遷PDRに対する硝子体手術は広範な(特に黄斑部を含む)網膜?離,裂孔併発型網膜?離,広範な網膜前出血,吸収しない再発性硝子体出血,虹彩ルベオーシスなどに対して実施される.手術時期については,VitrectomyStudyGroup25)によると,0.05以上の活動性新生血管を伴う症例370眼で,ただちに硝子体手術を行う早期手術群,6カ月後手術する経過観察群を比較し,4年後,0.5以上の視力は早期手術群44%,経過観察群28%であった.しかし,高度視力低下は両群に差がなかった.しかし,現在まで十分な硝子体ゲルの切除,シリコーンオイル,眼内レーザー,高速カッター,25,23ゲージ(G)による小切開硝子体手術,triamcinoloneacetonide(TA)による硝子体可視化,照明系(キセノン,水銀灯光源)や新しい広角観察系(ワイドフィールド)の改良,およびbevacizumab術前投与などPDRに対する早期手術が確立したといえる.この点について約20年間(1980年代から2008年度)における硝子体手術の手術適応および治療成績の変化を検討してみた.1980年代26),1990年代27),2000年代初め28),25G手術システムに移行した2008年度の4群に分けて(表2,3)調査した.術前の主要病変は網膜?離(硝子体出血を含む)がそれぞれ60%,59%,48%,33%で,網膜?離は2000年以降に減少し,2008年には硝子体出血が65%と両者の比率が逆転した(図6).1980年代は合併症が多く,緊急避難的に行う例が多いため,術前視力0.01以下の症例は67%であったが,1992年以降早期手術に移行し,38?46%となった(図7).術前後の視力変化も1980年代は視力改善43%,不変34%,悪化23%であった.それ以降は改善が1990年代52%,2000年代初期60%,2008年では77%と格段に向上した(図8).最終視力も,1980年代は高度の視力障害(0.1以下)が8割に対し,1990年代では48%,2000年代初めは38%,2008年では35%と減少している.しかし,視力0.5以上は1980年代10%に対して,その後,33%,26%,34%と25G手術システム後もそれほど変化がない(図9).術後合併症については,2008年の25Gシステム導入後,高眼圧,血管新生緑内表2増殖糖尿病網膜症(対象症例n=784眼)1986~891992~972000~012008例数(例)14528711996眼数(眼)171342149122男/女比1.21.31.272平均年齢(歳)53.153.154.859.1観察期間(月)19.115.717.618.1表3治療術式,実施病院,術者年度1986~891992~972000~012008使用システム20ゲージ20ゲージ20ゲージ25ゲージPEA+IOL32%*34%63%60%SO47%17%15%10%輪状締結31%16%2%2%実施病院札幌医大市立札幌市立札幌市立札幌術者筆者筆者4名6名PEA+IOL:水晶体超音波浮化吸引術+眼内レンズ挿入,SO:シリコーンオイル注入.*主としてカッターによる水晶体切除または全摘(IOL挿入なし).01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=12236405065605948334122*硝子体出血は網膜?離を伴わないもの%:その他:網膜?離:硝子体出血*図6増殖糖尿病網膜症における術前の主たる手術対象病変網膜?離の比率は1980年代に比べ,66%から33%へ低下した.(49)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111417障,網膜?離などの合併症も減少傾向がみられた(図10).このようにPDRに対する硝子体手術は比較的早期に行われ,安全かつ容易で,適切な治療が行われるようになったことを示している.V糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する治療1.DMEによる視力障害DMEは非増殖型(NPDR),増殖型(PDR)に関係なく発生し,現在も治療困難な病変である.DMEの発生には全身的因子(血糖,血圧,脂質コントロール)を基盤にして,網膜血管内皮が障害され,網膜虚血,VEGF産生,白血球の血管壁吸着,炎症,網膜色素上皮ポンプ機能の低下,血管内外の静水圧差,浸透圧勾配の影響,硝子体や網膜上膜による牽引などが複雑に絡んで発生すると推定されている(表4).具体的にDRの病態としては,実験的にはアルドース還元酵素により,ソルビトールが細胞内に蓄積して網膜毛細血管の周皮細胞壊死と基底膜肥厚が起こるとされ,硝子体内では炎症による01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:0.2以上:0.02~0.167:0.01以下423846274539446132310図7術前視力術前視力は1980年代に比べ,0.01以下が67%から2008年に46%へ低下した.01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:悪化:不変:改善(小数視力2段階)43526077342828232019124図8治療前後の視力変化改善の割合は1980年代に比べ,43%から77%と向上し,25ゲージシステムになって悪化が4%に減少した.表4DMEの発生に関与する因子1)全身コントロール状態─血糖,血圧,脂質コントロール─罹病期間2)病因─炎症,VEGF,白血球の接着など─網膜色素上皮のポンプ機能の低下─血管内外の静水圧・浸透圧勾配─硝子体あるいは網膜上膜の牽引01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:0.5~:0.2~0.4:0.02~0.1:0.01以下3621161247272223821363110332634図9術後最終視力術後0.01以下は1980年代に比べ,36%から1/3へ減少し,術後視力0.5以上は10%から1990年代以降が約3割となった.0102030405060701986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:高眼圧:NVG:網膜?離:硝子体出血261814815510612109588114図10術後合併症の変遷1990年代および2000年前半に比べ,25ゲージシステム後,合併症が減少.特に各年代群で硝子体出血の頻度の減少が認められる.1418あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(50)VEGF,pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)29),ICAM-1(inter-cellularadhesionmolecule1),IL(インターロイキン)-6,MCP-1(monocytechemoattractantprotein-1)などのサイトカインがDMEをひき起こすとされている30,31).最近,高速,高解像度(水平解像度約5μm)のスペクトラルドメインOCT(光干渉断層計)が導入され,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)および肥厚の範囲と程度の数値的表示が可能となり,三次元的解析もできるようになった.OCT所見によるDMEの性状について,Ootaniら32)は網膜膨化,?胞状変化,漿液性網膜?離(図11a,b)に分類した.しかし,網膜膨化のみの例はきわめて稀で,硬性白斑(図12),硝子体による黄斑牽引(図13),網膜上膜など重複した病変の合併(図11c)が少なくない.治療後の視力予後はIS/OS(視細胞内節外節接合部)や外境界膜の欠損が視力予後に関係していること,外境界膜と?胞の接触および網膜外層厚との相関など33)が指摘されている.DMEに対する硝子体の関与について,荻野ら34)は3D-OCTによりBスキャンで後部硝子体膜が検出不能でも,硝子体手術前に全例で後部硝子体?離の有無が確認でき,乳頭黄斑接着群と広範接着群に分けて,その癒着部分に牽引,肥厚が起きている(図14)とし,DMEへの硝子体牽引の関与を示唆した.網膜血管透過性亢進とDMEの解剖学的変化との関係について,DMEはOCTで網膜外層に著明で,その程度はFA(フルオレセイン蛍光眼底造影)による蛍光漏出と関係があり,網膜内層の消失は毛細血管閉塞と相関がみられた35).このように治療選択に対して,重複病変,視力改善不能な虚血性黄斑症(図15)および血管透過性亢進の検出にFAは必須の検査である.2.DMEに対する各種治療法の位置づけDMEについてはレーザー光凝固,薬物眼局所注射,硝子体手術が行われる.一般的には限局性およびびまん性でも軽度のDMEは光凝固,高度のものは眼局所薬物治療(bevacizumab,triamcinolone),あるいは硝子体手術が行われる.bca図11DMEの形態学的変化a:?胞状浮腫(CME),b:漿液性網膜?離(SRD),c:黄斑牽引症候群(MTS).図12中心窩下硬性白斑による高度の視力低下67歳,女性.視力0.04.OCT(右上)では色素上皮と一体化した隆起,蛍光造影(右下)では黄斑部にびまん性蛍光漏出.(51)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111419a.薬物治療網膜症の全身的な薬物療法にはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるカンデサルタン36)あるいはロサルタン内服,アンジオテンシン変換酵素阻害薬エナラプリル37)などが効果的との報告がある.眼局所治療としては,抗VEGF薬のranibizumab(IVR)38),bevacizumab硝子体注射(IVB)39),ステロイド剤triamcinoloneacetonide(triamcinolone)の硝子体内注射(IVT)40?44),あるいはテノン(Tenon)?下注射(SBT)などの有効性(図16)が報告されている.Gilliesらは光凝固に反応しない例に対するIVTにより5年以上の長期にわたり,偽薬群34眼中11眼(32%)に比べ,図13黄斑牽引のみの症例52歳,女性.視力0.7.FA(右上)では蛍光漏出はみられず,B-スキャン(左下)に比べ,3D画像(右下)では牽引の全体像が明瞭に検出できる.T:耳側を示す.ERM毛細血管閉塞網膜上膜?胞様黄斑浮腫IS/OS外境界膜図15虚血性黄斑症を伴うDME(ischemicDME)63歳,男性.視力0.08.OCT(右上)ではCME,網膜上膜(ERM),IS/OS(視細胞内節外節接合部)の断裂を認める.FA(右下)では黄斑部に著明な毛細血管閉塞があり,蛍光漏出はほとんどない.図143D?OCTによる硝子体と網膜境界面の関係硝子体による網膜付着部に網膜の牽引・肥厚がみられる.N:鼻側を示す.1420あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(52)33眼中14眼42%に5文字以上の改善を認めた44).一般にIVTは眼圧上昇と白内障の副作用があるものの,bevacizumabに比べ,DMEに対してより効果的とされ45,46),投与法としては,SBTよりIVTが有効との意見がある47).しかし,薬物治療は浮腫の再発に対し追加投与が必要なため,長期に作用するfluocinoloneacetonideの硝子体内徐放剤が試みられている.Campochiaroら48)は光凝固に反応しないDMEに対し,低用量群(0.2μg/day,375眼),高用量群(0.5μg/day,393眼)の徐放剤を偽薬群(185眼)と2年間で比較した.その結果,視力改善(15文字以上)は偽薬群16.2%に対し,治療群はそれぞれ,28.7%,28.6%,平均改善文字数は偽薬群1.7%に対してそれぞれ4.4%および5.4%と良好であった.白内障手術例は治療群に多いが,中心窩厚(FTH)も有意に改善したと述べた.以上の結果から,光凝固が困難な高度のDMEでは薬物局所注射が現段階で第一選択と考えられる.b.硝子体手術びまん性DMEに対する硝子体手術49?54)についてYamamotoら51)によるとDMEの73眼を術後1年間経過観察し,視力,中心窩網膜厚は有意に改善,2年後も視力が維持した.Kumagaiら53)は網膜牽引がない356眼を5年以上観察し,改善52.7%,不変31.3%,悪化16%,平均視力が術前0.19から最終時0.3へと良好な結果を報告している.しかし,硝子体手術は長期の効果が期待されるが,欧米ではほとんど実施されておらず,EBMも確立していない.そのうえ,効果のない例もあり,患者への負担,副作用〔網膜?離,眼内炎,NVG(血管新生緑内障)など〕も考慮し,薬物治療および光凝固に反応しない症例で行うことが望ましい.c.レーザー光凝固EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)の大規模無作為比較試験によって,DMEに対する黄斑(局所およびgridpattern)凝固の有効性が確立された55,56).このため限局性のCSME(clinicallysignificantmacularedema)ではレーザー光凝固が現在でも第一選択と考えられる.CSME55)とは①黄斑中心から500μm以内の網膜肥厚,②この付近の網膜肥厚を伴う硬性白斑,③黄斑中心から1乳頭径以内で1乳頭径以上の肥厚と定義されている.これに対して,後に述べるようにDRCR.netでは光凝固により視力改善効果を認め,現在なおgoldstandardとしている.ETDRSでは①凝固対象は毛細血管瘤,IRMA(intraretinalmicrovascularabnormality),漏出部の凝固(直像レンズで凝固条件50?100μm,0.05?0.1秒で中等度(網膜白濁)とし,硬性白斑内は約200μm,蛍光漏出部は中心から2乳頭径以上も凝固する.②Gridpattern凝固はびまん性漏出と毛細血管閉塞を伴う場合,中心から500μm以上離れて50?200μmで2乳頭径まで1スポット空けて凝固する.DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net)57,58)では①視力障害の原因となる中心窩肥厚(OCTで250μm以上)のある症例で,②凝固条件は1回で毛細血管瘤,中心窩から500?3,000μmの網膜肥厚,毛細血管閉塞部を照射径50μm,弱凝固(淡い白濁)に修正した(後述).しかし,黄斑光凝固は有効性,手技的困難性,atrophiccreepや黄斑誤凝固の副作用があり,異論も少なくない.最近,黄斑付近の網膜障害を最小限にするためsubthresholdmicropulsediodelaserの有効性59?61)が報告され,さらに疼痛の少ない,超短時間(0.01秒前後),小スポット(100μm)での正確な格子状凝固およびPRPが可能なパターンスキャンレーザー光凝固装置62,63)が市販され,DMEへの応用が試みられている.3.DMEに対する各種治療の比較試験少数例での短期前向き試験64)では,ranibizumabはDMEの局所/格子状凝固に比べ,有意に視力が良好とba図16Triamcinoloneacetonideテノン?下注射によるCMEの消失59歳,女性.a:左眼術前視力0.3,b:術後2カ月0.5.(53)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111421された.しかし,前述したDRCR.net57,58)による長期の大規模試験では,びまん性を含むDMEに対するmodifiedgridpattern凝固はIVT(intravitrealtriamcinoloneacetonide硝子体注射)に比べ,長期の視力改善効果が高く,副作用も少ないとの報告を2007?2009年にかけて発表した.試験は術前視力20/40?20/320,中心窩を含むDME693例840眼に対し,focal/grid光凝固群に対し,IVT1-mg群,4-mg群を比較した.平均視力は4カ月までIVT4-mg群が良好だが,2年間ではレーザー治療群がIVT各群より良好な改善がみられ,有意な視力低下,眼圧上昇,白内障の副作用も少なかった.その後,3年間追跡した306眼でもIVT各群は視力がベースラインに止まったが,レーザー群で5文字改善した58).Bevacizumab硝子体注射(IVB)について,Soheilianら65)によるDMEに対するIVB(1.25mg)群,IVB/IVT(2mg)群,MPC(macularlaserphotocoagulation:focalormodifiedgridlaser)群(各群50眼)の比較で36週間での視力変化,中心窩網膜厚(centralmacularthickness:CMT)は各群間に差がなかった.しかし,少数例ではあるが,1年の経過観察でレーザー群に比べ,IVBのほうが視力,網膜肥厚に対して効果的との報告66)もある.硝子体手術とgridpattern光凝固との比較ではYanyaliら67)は1回のgridpattern光凝固に対して,ILM(内境界膜)?離を伴う硝子体手術がより効果的であるとした.4.現時点でのDMEに対する治療選択以上のようにDMEに対する治療選択にはEBMが確立したとはいえないが,現段階で通常,図17にあげた治療選択が行われている.個々の症例に即して,今までの報告,各自の経験から,患者への負担,risk/benefit,経費などを考慮して治療を行うことになる.私見としては,1)限局性CSMEでは毛細血管瘤と網膜肥厚部の局所光凝固,軽度のびまん性DMEでは強い漏出部,毛細血管閉塞部のgridpattern光凝固を実施する.2)高度のびまん性DMEでは,triamcinolone(硝子体注射:IVT,あるいはテノン?下:SBT)またはbevacizumab硝子体注射(IVB)を行う.無効あるいは再燃をくり返す場合は硝子体手術を実施する.3)単独治療の無効例には,併用・追加治療として,①PRP後のCME予防のため,IVB68),SBT69),②黄斑凝固(MPC)前のSBT使用70),③IVT後の残存DMEに対するMPC71),逆にMPC後72)あるいは硝子体手術後71)残存DMEへのIVT,④初回から薬物治療,局所凝固あるいは硝子体手術との併用73)が有効との報告がある.併用療法は今後の検証を必要とするが,難治例では試みる価値がある.4)DRは十分な内科的コントロールにより,多くは予防可能で,眼科的にも,一部の症例を除き,治療可能となった.内科における継続的治療とともに,DRを早期に発見し,眼科的に適切な時期に治療のため,内科など他科との連携はもちろん,糖尿病予備軍を含め,一般への啓蒙が必要である.三大合併症の一つである腎症は網膜症悪化との相関があることが多く,一例として,体重と網膜症の悪化・改善と密接な相関を示す症例についての報告を取り上げた.5)眼科的治療についてはPDRに対し,十分なPRPが行われており,25G,23G極小切開硝子体手術システムが普及し,比較的副作用が少なく,良好な視力維持,停止性とすることが可能になった.6)DME(CSME)は限局性DMEでは局所光凝固で改善,停止性にすることができる.眼局所薬物治療はすでにoff-labelではあるが,bevacizumabが増殖網膜症や血管新生緑内障(NVG)に対する硝子体手術,光凝固に対する術前投与として使用されている.びまん性高度のDMEに対してもtriamcinoloneあるいは抗VEGF薬(off-label使用)が有効であるが,長期的には追加投与および徐放剤の開発が期待される.びまん性DMEに対する硝子体手術およびレーザー光凝固についても治療選択には明確な適応基準は確立していない.これらの適切?????????????????????????????????????????????????????????????????????????ProliferativeNon-Proliferative??????????????????????????????????????????PRP(または区画状)TriamcinoloneacetonideBevacizumab図17現段階での糖尿病網膜症に対する治療適応1422あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011な単独治療の方法,併用あるいは追加治療の適応を含め,個々の症例に応じた治療選択についての現状と課題を述べた.執筆にあたり,荻野哲男,今泉寛子,奥芝詩子,木下貴正,佐藤唯,宮本寛知,渡邊真弓(以上,市立札幌病院眼科),宮部靖子,静川紀子(萬田記念病院眼科)の各先生にご協力いただきました.心から感謝いたします.文献1)畑快右:糖尿病硝子体網膜症の予防的治療戦略.日眼会誌113:379-402,20092)TheDiabetesControlandComplicationsTrialGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflongtermcomplicationsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,19933)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivediabetestreatmentontheprogressionofdiabeticretinopathyininsulin-dependentdiabetesmellitus.ArchOphthalmol113:36-51,19954)TheDiabetesControlandComplicationsTrial/EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup:Retinopathyandnephropathyinpatientswithtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivetherapy.NEnglJMed342:381-389,20005)WhiteNH,SunW,ClearyPAetal;DCCT-EDICResearchGroup:Effectofpriorintensivetherapyintype1diabeteson10-yearprogressionofretinopathyintheDCCT/EDIC:comparisonofadultsandadolescents.Diabetes59:1244-1253,20106)OhkuboY,KishikawaH,ArakiEetal:IntensiveinsulintherapypreventstheprogressionofdiabeticmicrovascularcomplicationsinJapanesepatientswithnon-insulindependentdiabetesmellitus.Arandomizedprospective6-yearstudy.DiabetesResClinPract28:103-117,19957)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Intensivebloodglucosecontrolwithsulphonylureaorinsulincomparedwithconventionaltreatmentandriskofcomplicationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).Lancet352:837-853,19988)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Effectofintensiveblood-glucoseco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ぶどう膜悪性黒色腫に対する重粒子線治療の適応と限界

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY素イオン線7)である.このような荷電粒子線には体内に入ってある程度深い位置まで到達するが,その粒子の停止する直前でエネルギーがピークとなり(Braggピーク),その後急速にエネルギーが衰退するという特性がある.このような特性より,体内の深部にある腫瘍に対する治療において,腫瘍にエネルギーを集中させ,かつ周辺組織への障害を少なくするという照射が可能である.荷電粒子線のこのような物理学的な特徴は眼内腫瘍の治療には適するものと思われる.また生物学的効果に関しては,陽子線はg線と比較して1.1倍程度の効果しかないのに対して炭素イオン線ではg線の2?3倍程度の効果があり,細胞周期の影響を受けにくい,腫瘍細胞の虚血による放射線感受性の変化が少ない,などの特徴があり,悪性黒色腫のように,従来放射線治療に対して抵抗性の腫瘍といわれているものに対しても効果が期待できるものと思われる8).このような前提のもとに,脈絡膜悪性黒色腫に対する炭素イオン線治療が行われている.現在のところ脈絡膜悪性黒色腫に対する荷電粒子線の治療としては,世界的にみて,陽子線の治療に関しては数千例を対象とした報告などもみられるまでに普及しており3?5),ヘリウムイオン線に関しての報告もみられる6).炭素イオン線に関しては今のところ日本の独立行政法人放射線医学総合研究所で行われているのみである7).脈絡膜悪性黒色腫に対する炭素イオン線治療に関しては,その照射の方法の確立のために,似たような線量分はじめに成人における,眼球原発の代表的な悪性腫瘍は,脈絡膜悪性黒色腫で,眼科においては数少ない生死とかかわるような疾患である.その発生頻度はかなり人種差はあるとされている.以前の報告では日本人では本腫瘍の発生率が1年間に人口100万人当たり0.3人程度,と報告されていた.白人における同様の統計では発生頻度はその20?30倍である1).その治療に関しては,以前は診断がついたら,眼球摘出というようなことが多かったが,症例の多い欧米では,眼球温存を目的にさまざまな治療が試みられた.現在欧米で行われている眼球摘出以外のおもな治療は,125Iや106Ruなどを用いた小線源治療2),陽子3?5),ヘリウムイオン6),炭素イオン7)などの荷電粒子による治療,gナイフやサイバーナイフによる放射線治療,経瞳孔温熱療法(TTT),強膜側あるいは硝子体側からの腫瘍切除などである.これらの治療の選択に関してはその腫瘍のサイズなども関係している.小線源療法やTTTは腫瘍の厚いものに関しては腫瘍の内部まで効果が及ばないことから適応とはならない.まず重粒子線とは電子よりも大きな荷電粒子を加速して照射する治療法であり,広義には水素の原子核である陽子も含めるが,陽子線治療としてすでに確立した治療であるので,通常重粒子線というときは陽子よりも大きい粒子,すなわちヘリウムイオン以上の粒子線を意味することが多い.実際に脈絡膜悪性黒色腫の治療として報告のあるのは陽子線3?5),ヘリウムイオン線6)そして炭(37)1405*AtsushiMizota,YujiNemoto&HiroyukiKaneko:帝京大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕溝田淳:〒173-0003東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学講座特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1405?1412,2011ぶどう膜悪性黒色腫に対する重粒子線治療の適応と限界IndicationsandLimitationsofAcceleratedHeavyParticleIrradiationforUvealMalignantMelanoma溝田淳*根本裕次*金子博行*1406あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(38)て照射が決定してからの手順としては,まず直径2mm程度の薄いチタン製のマーカーを強膜に2カ所縫着する.その位置は基本的には,腫瘍に近くかつ照射の妨げにならないような位置である.その後に頭部固定用のマスクを個々の顔に合わせて作る.X線CT(コンピュータ断層撮影)の画像をもとにチタン製マーカーと腫瘍の位置を確認し,照射範囲を決定する.実際の照射室ではマーカーを目印に照射を行う.眼球の固定に関しては実際照射している時間は10秒程度なので,固視点を見ていてもらい,その間に眼球をビデオカメラでモニターしている.眼球運動などが起こった際は照射が瞬時に停止するようになっている.照射は5回分割照射で行われている.照射線量は当初は治験として,70GyE(g線における線量相当)から始め,その後線量を77,85GyEと増加し,その後には60GyEに減少させた.それらのデータをもとに,最終的に先進医療となった時点で,小さな腫瘍(腫瘍の厚さが5mm以内,かつ直径が10mm以内)に対しては60GyEで中くらい以上の大きさの腫布をもちかつ欧米で多数例の治療の報告のある陽子線による治療方法を確立し,そのうえで炭素イオン線照射が行われた.脈絡膜悪性黒色腫の炭素イオン線照射は2001年4月より行われて,2004年4月より先進医療として認可されている.今回このような治療の結果に関して述べる.I照射方法炭素イオン線の照射は前述した独立行政法人放射線医学総合研究所にあるHeavyIonMedicalAcceleratorinChiba(HIMAC)で行われており,全体としては1994年4月から照射が始まり2011年2月までに計5,874例の悪性腫瘍の症例が照射を受けている.脈絡膜悪性黒色腫はその2%程度を占めている.全部のなかで最も多いのは前立腺がんである.II対象および方法2011年2月の時点で炭素イオン線照射治療を受けた脈絡膜悪性黒色腫の症例は109例(109眼)で,毎年10名前後と,あまり大きな変動はない.109例の内訳は男性54例,女性55例で年齢は22?83歳,平均55.0歳である.基本的な照射方法は,それ以前に放射線医学総合研究所で行っていた陽子線治療の方法を基にしている.診断に関してはここでは誌面の関係で省略する.診断がつい表1照射線量の分布60GyE70GyE77GyE85GyE:14(3)例:70(59)例:13例:7例合計104例()内の数字は先進医療として行った症例数.AB図1垂直ビームのみの1門照射法(A)と水平ビームを加えた2門照射法(B)(39)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111407積がみられるが,6カ月後には集積がほぼ消失している.他の症例も同様の経過を示すものが多く,照射直後には網膜?離などが一過性に増悪し時間の経過とともに徐々に吸収していくことが多い(図3).PETでは短期では変化があまりなく,半年から1年で集積が消失する.腫瘍の大きさに関してはあまり変化のないことが多い(図4).何年も経過してから徐々に縮小していく.ただ,まれに腫瘍が急速に小さくなっていく症例(図5)もあり,何らかの遺伝子的な違いがあるのかもしれない.IV照射後の経過ここで炭素イオン線照射後6カ月以上経過した104例(104眼)に関して検討を行った.Eggerらの分類4)で行うとSサイズが3例,Mサイズが6例,Lサイズが67例,XLサイズが28例となる.約70%の症例が70GyEの照射を受けている(表1).瘍に関しては70GyE照射することとなった.治験として行われたのはこのうちの42例である.当然のことながら70GyEの症例が最も多くみられている(表1).少数だが60GyEの症例も少しずつ増えてきてはいる.照射に関しては当初は垂直ビームのみの1門で照射していた(図1A)が,その後緑内障などの合併症を減らす目的で,症例によっては水平ビームも加えた2門照射を行っている(図1B).III具体的症例典型的な症例のMRI(磁気共鳴画像)とメチオニンPET(陽電子放射断層撮影)の経過を図2に示す.照射1カ月後には腫瘍自体は小さくなっていないが,網膜?離が後極部に広範囲にみられる.6カ月後には網膜?離は消失している.腫瘍自体の大きさの変化はほとんどみられない.PETでは照射前,照射1カ月後では強い集ABC図2典型例のMRIとメチオニンPETA:照射前,B:照射1カ月後,C:照射半年後.1408あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(40)とそれより小さい腫瘍で比較してみると5年で転移のない率はXLでは62.8%,それ未満のサイズでは75.4%であった.腫瘍の位置による違いでは,腫瘍が視神経と接しているほうが転移する率が高く,生存率は有意に低い値となっていた.照射による合併症に関しては,皮膚反応や,睫毛消失などがあるが,最も重篤なものは照射による緑内障である.ほとんどが血管新生緑内障であるが,新生血管のはっきりしない症例も存在する.図8に照射後の緑内障の発生頻度を示す.5年の率では全体で36%,特にXLサイズの腫瘍は70%近くの症例で緑内障が発生する.腫瘍の位置と緑内障の発生率の関係は,腫瘍が視神経乳頭に接しているような症例では有意に緑内障の発生率が高くなっている.当初垂直ビームの1門のみで照射を行っている際に緑内障の発生の危険因子を検討したところ,これまでのところ眼球内に局所再発がみられた例が6例あった.そのうち2例は照射野内再発で4例は眼内の照射野外の部位である.再発の判明した時期は12?49カ月,平均29カ月となっていた.眼球摘出に至った症例は再発した6例に加えて血管新生緑内障で眼痛が強くやむなく摘出した3例を加えて計9例である.これらのことをKaplan-Meier生存曲線で検討すると,照射後5年における局所制御率は92.1%となる(図6).脈絡膜悪性黒色種で死亡する症例は他臓器への転移の症例で,転移例の80?90%は肝転移である.過去の報告では,眼球摘出をしても,陽子線などの治療を行っても,生存率に関しては,ほとんど差はないとされている.今回照射した症例の生存率に関しては図7のようになり,5年での生存率は他因死を含めても約80%で,転移もない症例の率は約70%となる.XLサイズの腫瘍ACBD図3典型例の眼底所見A:照射前,B:照射半年後,C:照射1年後,D:照射1年半後.(41)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111409ACBD図4典型例の眼底所見A:照射前.B:照射1年後.C:照射3年後.D:照射7年後.AB図5急速に腫瘍が縮小した例のMRIとメチオニンPETA:照射前.B:照射3カ月後.1410あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(42)実で単純にこの数値を鵜呑みにはできない.XLサイズのものでは緑内障の発生率に関しては1門でも2門でも差はみられず,いずれも高い値を示している.照射野に視神経乳頭が含まれることと,前眼部への照射線量が高い,腫瘍が大きいなどの要素が緑内障発生に関係あるというデータが出た9).視神経乳頭への照射に関しては腫瘍の位置により避けえないものであるし,腫瘍の大きさに関しても調整しがたいものであるが,前眼部への照射線量を減らすことに関しては,症例によっては水平ビームを組み合わせた2門で照射することにより可能である(図9).たとえば,Lサイズ以下の腫瘍に関しては1門のみで照射をした場合と,2門で照射した場合とで比較を行ってみると,2門のほうの観察期間がまだ短いため3年の率しか出てはいないが有意に2門のほうが緑内障の発生率は低くなっている(図10).ただし,2門での照射の適応となるものはその部位が,視神経の耳側のものあるいは上下に離れているもの,などのもともとの条件があるので,バイアスがかかっているのは事01224364860728496108120100806040200照射後期間(月)制御率(%)n=104照射野内制御率局所制御率眼球温存率97.0%92.1%92.0%図6照射による局所制御率数字は5年での率を表している.01224364860728496108120100806040200照射後期間(月)生存率(%)n=104Cause-specificOverallMetastasis-freerate81.5%79.3%70.8%図7照射後の生存率数字は5年での率を表している.01224364860728496108120100806040200照射後期間(月)緑内障発生率(%)p=0.000166.8%36.0%26.2%XL(n=29)全体(n=104)S~L(n=75)図8照射後の緑内障の腫瘍サイズ別発生率AB図9腫瘍が耳側にある際の1門照射(A)と2門照射(B)による前眼部への照射される線量の比較あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111411視力に関しては前述の緑内障や,網膜症,網膜?離などさまざまな要素が関係しているが,現時点で0.1以上の視力を維持できているのが37例であった.経過観察期間が短いこともあるが,1.0以上の症例も10例あって,それなりに視機能は保持できている.V考按炭素イオン線のデータを他の治療と比較すると,まず全身的な問題,つまり転移に関しては,眼球摘出と眼球温存療法でほとんど差はみられないとされており10),今回の炭素イオン線に関しても同様であると思われる.転移している腫瘍はすべてではないが,染色体異常が関与しているとされている11).また発見された段階ですでに転移している可能性が高いなどともされている.今回は手技の関係からも生検は行っていないので,腫瘍内の染色体異常との関連は不明である.腫瘍局所に対する効果に関しては,小線源治療と比較すると局所再発は少ない12).陽子線治療との比較では,腫瘍の大きさの違いなども関係するが,もともと90%以上と良好な制御率なのでほとんど差はみられない.今回筆者らの症例では腫瘍の大きな症例が他の報告と比較して多くみられたが,同様の大きな症例に対して陽子線治療を行っている結果と比較しても勝るとも劣らない結果である.おわりに以前は眼球摘出しか考えられなかったような,黒色腫に対しての新たな治療の開発により選択肢が広がった.ただし,予後の良い症例も悪い症例もあるが,全身的には摘出と比較して差はなく,眼球温存という整容的な面のみならず,ある程度機能の温存の可能性もある.今回の結果などから,Lサイズ以下の症例で視神経からある程度の距離があり,かつ前眼部への線量が少なくでき,毛様体とも距離があるような中間周辺部で,2門照射のやりやすい,耳側あるいは上方,下方にあるものに関しては非常に良い適応になると思われる.今のところは転移の予防などに対しての有効な方法は報告がない.現在は先進医療とのことで自己負担額が300万円以上となる.今後,近い将来に,転移に対しての有効な予防法や治療法の開発と,本治療が健康保険の対象となることを期待したい.文献1)SinghAD,TophamA:IncidenceofuvealmelanomaintheUnitedStates:1973-1997.Ophthalmology110:956-961,20032)WilkinsonDA,KolarM,FlemingPAetal:Dosimetriccomparisonof106Ruand125Iplaquesfortreatmentofshallow(<or=5mm)choroidalmelanomalesions.BrJRadiol81:784-789,20083)GragodasES,SeddonJM,EganKetal:Long-termresultsofprotonbeamirradiateduvealmelanomas.Ophthalmology94:349-353,19874)EggerE,SchalenbourgA,ZografosLetal:Maximizinglocaltumorcontrolandsurvivalafterprotonbeamradiotherapyofuvealmelanoma.IntJRadiatOncolBiolPhys51:138-147,20015)EggerE,ZografosL,SchalenbourgAetal:Eyeretentionafterprotonbeamradiotherapyforuvealmelanoma.IntJRadiatOncolBiolPhys55:867-880,20036)CharDH,CastroJR,QuiveyJMetal:Heliumionchargedparticletherapyforchoroidalmelanoma.Ophthalmology87:565-570,19807)TsujiH,IshikawaH,YanagiTetal:Carbon-ionradiotherapyforlocallyadvancedorunfavorablylocatedchoroidalmelanoma:aPhaseI/IIdose-escalationstudy.IntJRadiatOncolBiolPhys67:857-862,20078)山本信冶,溝江純悦,長谷川安都佐ほか:頭頸部悪性腫瘍に対する重粒子線治療の途中解析.放射線医学46:345-349,20039)HirasawaN,TsujiH,IshikawaHetal:Riskfactorsfor(43)100806040200緑内障発生率(%)01224364860728496108120照射後期間(月)p=0.00041門照射(n=41)40.6%0%(at3y)2門照射(n=34)図10Lサイズ以下の腫瘍の1門照射と2門照射の緑内障の発生率の違い数字は1門照射では5年で,2門照射では3年での発生率.1412あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011neovascularglaucomaaftercarbonionradiotherapyofchoroidalmelanomausingdose-volumehistogramanalysis.IntJRadiatOncolBiolPhys67:538-543,200710)DamatoB:Doesoculartreatmentofuvealmelanomainfluencesurvival?BrJCancer103:285-290,201011)SinghAD,TubbsR,BiscottuCetal:Chromosomal3and8statuswithinhepaticmetastasisofuvealmelanoma.ArchPatholLabMed133:1223-1227,200912)CharDH,PhillipsT,DaftariI:Protonteletherapyofuvealmelanoma.IntOphthalmolClin46:41-49,2006(44)

眼付属器リンパ増殖性疾患の病態

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYIMALTリンパ腫すべての悪性リンパ腫に占めるMALTリンパ腫の割合は7?8%とされるが,眼付属器リンパ増殖性疾患のなかでは最も頻度が高い.MALTリンパ腫は節外性のB細胞リンパ腫であり,比較的小型な胚中心細胞様細胞(centrocyte-likecell)と中型で明るい胞体を示す単球様細胞(monocytoidcell)によって構成されるリンパ濾胞辺縁帯に存在する細胞に由来する.Dutcherbodyとよばれる免疫グロブリン貯留のために起こる核内偽封入体がしばしばみられる.結膜MALTリンパ腫では,腫瘍細胞が結膜上皮に浸潤し,上皮の変性と構造の破壊を伴うリンパ上皮病変(lymphoepitheliallesion)とよばれる所見を呈する.眼付属器のMALTリンパ腫は,病理組織学的にリンパ腫細胞がびまん性に増殖している場合(図1a)と,胚中心を有する二次濾胞が散在し,その濾胞間に異型リンパ球が増殖している場合の2つのパターンに分けることができる.リンパ腫細胞のほとんどが抗CD20抗体陽性細胞,すなわちB細胞由来である(図1b)が,抗CD3抗体陽性細胞であるT細胞の浸潤もみられる(図1c).MALTリンパ腫に限らず眼付属器悪性リンパ腫の大半がB細胞由来であることから,増殖するB細胞が腫瘍性病変に特有の単クローン性を示すか判断するうえで,免疫グロブリン遺伝子再構成を検索することが重要である.サザンブロッティング(Southernblotting)法はじめに眼付属器は結膜,眼瞼,涙器および眼窩組織から構成され,リンパ増殖性疾患の発生母地となりうる.眼付属器に発生するおもなリンパ増殖性疾患としては,粘膜関連リンパ組織(mucosa-associatedlymphoidtissue:MALT)リンパ腫や反応性リンパ組織過形成,また近年注目を浴びている免疫グロブリン(Ig)G4関連リンパ増殖性疾患があげられ,まれにみられるものとしてはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫,濾胞性リンパ腫,マントル細胞リンパ腫,NK(naturalkiller)/T細胞リンパ腫,木村氏病などがあげられる.近年の分子生物学的技法の進歩により,これら疾患の分子基盤が明らかにされつつある.リンパ増殖性疾患の生物学的性状を形態学的観察のみで判断することは困難なことも多いため,フローサイトメトリーによる細胞表面抗原の検索や,遺伝子検査,染色体分析などを行い,多くの検査所見を踏まえた総合的判断が重要となってくる.これらを理解することは,同じ病型でも予後が著しく異なる症例の機序解明に役立つ.眼付属器リンパ増殖性疾患の病態を理解することは,必要な検査のみを最小限組み合わせて診断を行い,効果的な治療を実施するうえで重要である.本稿では,日常診療において役に立つような視点から,各々の眼付属器リンパ増殖性疾患の病態と診断の実際について概説したい.(29)1397*YoshihikoUsui:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕臼井嘉彦:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1397?1403,2011眼付属器リンパ増殖性疾患の病態PathophysiologyinLymphoproliferativeDiseaseofOcularAdnexa臼井嘉彦*1398あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(30)る.フローサイトメトリーにおいても,B細胞における免疫グロブリン軽鎖(k鎖あるいはl鎖)の偏りを解析することによりB細胞の単クローン性増殖を証明することができる.生検組織の免疫染色でもある程度判定が可能であるが,複数の細胞表面抗原を迅速に定量解析できるフローサイトメトリーがより有用と思われる(図3).リンパ腫細胞はB細胞のマーカーであるCD19やCD20の発現が高い.単クローン性にB細胞が増殖しているとはいえ,組織中には腫瘍細胞のほか,腫瘍の抗原性により反応性T細胞や濾胞樹状細胞など多種の炎症細胞が混在し,解析方法によっては結果が大きく影響を受けるため解釈に注意を要する.最近,腫瘍組織に浸潤する炎症細胞の発現プロファイルが予後指標として有用であると報告1,2)されており,腫瘍周囲に浸潤する炎症細胞の解析も今後重要になっていく可能性がある.微量の腫瘍成分と反応性のリンパ球浸潤を伴っているような症例においても,PCR法により免疫グロブリン遺伝子再構成を検出できるが偽陰性も多い.これは反応性リンパ球が混在して腫瘍細胞の割合が少なくなっているためと考えられる.一方,図4に示すように,フローサイトメトリーでは微量の腫瘍成分の検出が可能である.MALTリンパ腫に特徴的な染色体異常としてトリソミー3の変化とt(11;18)(q21;q21),t(14;18)(q32;q21)およびt(1;14)(p22;q32)転座が報告されているが,眼付属器MALTリンパ腫に関しては一定の見解が得られておらず今後の検討が必要である3).による検索はB細胞においてはIgH遺伝子のJ領域(JH)をプローブとして用いることが多く,比較的多くの検体量を必要とする(図2).遺伝子を増幅し検出するPCR(polymerasechainreaction)法はSouthernblotting法よりも精度は低いものの,少量の検体で調べることができるため結膜悪性リンパ腫の検索に有用であabc図1眼窩MALTリンパ腫a:HE染色,b:抗CD20抗体による免疫染色,c:抗CD3抗体による免疫染色.異型性の少ない小型?中型のリンパ腫細胞がびまん性に増殖している.免疫染色より浸潤するリンパ腫細胞のほとんどがB細胞(CD20陽性細胞)であることがわかる.また,B細胞より数は少ないものの,反応性によるT細胞(CD3陽性細胞)浸潤もみられる.図2サザンブロット法による免疫グロブリン遺伝子H鎖JHの再構成の検索摘出した検体からB細胞の腫瘍性増殖によるバンド(矢印)がみられる.(31)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111399まれではあるが,自己免疫性甲状腺中毒症やSjogren症候群があると報告されている5).Sjogren症候群ではリンパ球が導管内に浸潤し破壊した後,lymphoepitheliallesionを形成し,それがリンパ腫の発生母地になることが推測されている.前述したように,本疾患の多くの症例ではCD20陽性のB細胞が単クローン性に増殖しているため,抗ヒトCD20モノクローナル抗体(rituximab)の局所注射による有用性が相ついで報告されている6,7).MALTリンパ腫は慢性炎症を基盤として発症すると推定されており,難治性の結膜炎では鑑別診断として必ず念頭に置いておく必要がある.また,眼付属器MALTリンパ腫の原因の一つとして感染症が考えられており,ピロリ菌,クラミジア,C型肝炎ウイルスとの関連が報告されている4).しかしながら,これについては否定的な追試報告もあり,わが国における検討が必要と思われる.さらに,MALTリンパ腫は自己免疫性疾患を基盤に発症することも示唆されている.欧米においては眼付属器MALTリンパ腫を発生する背景として,図3MALTリンパ腫におけるフローサイトメトリーによる細胞表面抗原解析この症例の腫瘍検体は細胞表面抗原解析の結果からCD19とCD20陽性細胞が80%以上を占め,l鎖に隔たりがあることがわかる.1400あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(32)構成を認め,そのため当初はMALTリンパ腫と診断した症例があったと報告している8).したがって,血清IgG4値やフローサイトメトリーを組み合わせて総合的にIgG4関連リンパ増殖性疾患の診断を行うことが重要である.フローサイトメトリーでは,多クローン性のCD19およびCD20陽性B細胞が多く検出されるが,免疫グロブリン軽鎖(k鎖あるいはl鎖)の偏りはみられない.眼付属器MALTリンパ腫と比較して,免疫染色の結果と同様にCD3やCD4陽性T細胞の割合が多いのも特徴的である(図6).IgG4関連リンパ増殖性疾患の腫瘍内ではヘルパーT細胞(Th)1サイトカインであるIFN(インターフェロン)-gとTh2サイトカイン〔IL(インターロイキン)-4,IL-5,IL-10,IL-13〕のmRNAの発現が高く,CD25陽性調節性T細胞が多く浸潤している.CD25陽性調節性T細胞はIL-10やTGF(transforminggrowthfactor)bを産生し,IL-10を介するB細胞のIgG4産生誘導の可能性や,線維化誘導のサイトカインであるTGFbによる線維化の機序が推測されている9).また,Th2サイトカインは好酸球浸潤やIgE産生に関与しており,IIIgG4関連リンパ増殖性疾患眼付属器に発生するIgG4関連リンパ増殖性疾患の病態は,膵臓,胆管,唾液腺,肺,乳腺および後腹膜などにも発生し,IgG4関連の一連の病態として近年注目されている.結膜に原発するIgG4関連リンパ増殖性疾患の報告はなく,発生しない理由は不明である.眼付属器では涙腺が両側対称性に腫大し,病理組織学的所見としては濾胞形成を伴うリンパ球と形質細胞の浸潤が多くみられ,間質には線維性硬化像が認められる(図5a).好酸球の浸潤も多いことから,木村氏病や好酸球性血管リンパ球増殖症(angiolymphoidhyperplasiawitheosinophilia)との鑑別も重要である.免疫染色ではIgG4陽性形質細胞が多数浸潤していることも特徴的である(図5b).また,血清IgG4値の上昇に加え血清IgEやIgG2値の上昇がみられる.抗CD20抗体陽性細胞(B細胞)が圧倒的に多いが,抗CD3抗体陽性細胞(T細胞)も比較的多くみられる(図5c,d).IgG4関連リンパ増殖性疾患では通常免疫グロブリン遺伝子再構成はみられないが,Satoらは17例中2例で免疫グロブリン遺伝子の再図4腫瘍細胞が検体中にわずかしか存在していないリンパ腫悪性リンパ腫の微小病変を検出するためにはgatingが必要であり,gatingをかけなければ腫瘍細胞を見落としてしまうことがある.本症例では,少数ではあるがB細胞のモノクローナリティがみられる〔gate(1)〕.(33)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111401多く,悪性リンパ腫と適切に鑑別することが臨床的に大切である.鑑別疾患である反応性リンパ組織過形成に副腎皮質ステロイド薬の効果がある他,MALTリンパ腫であっても前述のように炎症細胞の浸潤があるためステロイド治療により一時的に軽快することがあり,診断があいまいな状態でステロイド治療をはじめることは危険な可能性がある.III反応性リンパ組織過形成反応性リンパ組織過形成は,多クローン性のB細胞とT細胞を主体とした増殖により起こる.CheukらはIgG4関連リンパ増殖性疾患の組織像として反応性リンこれは病変部に多数の好酸球浸潤がみられ血清IgE値が上昇するというIgG4関連リンパ増殖性疾患の病態発生を支持するものである.しかし,IgG4関連リンパ増殖性疾患における血清IgG4やIgE値の上昇やIgG4陽性細胞浸潤は病態の結果である可能性もあり,その病態には謎が多く今後のさらなる研究が望まれる.IgG4関連リンパ増殖性疾患を基盤に悪性リンパ腫が発生したという報告8,10)やIgG4陽性細胞自体がリンパ腫となりうる可能性もある8).さらに他臓器病変の併発を念頭に置いた全身管理が必要なこともあるため注意深い経過観察が必要である.IgG4関連リンパ増殖性疾患は副腎皮質ステロイド薬により劇的な改善をみることがabcd図5眼窩IgG4リンパ増殖性疾患a:HE染色.濾胞形成と線維化を伴った密なリンパ球・形質細胞の浸潤がみられる.ところどころ好酸球の浸潤もみられる.b:IgG4免疫染色.IgG4陽性形質細胞の浸潤がびまん性かつ多数みられる.c:抗CD20抗体による免疫染色.CD20陽性細胞(B細胞)もたくさんみられる.d:抗CD3抗体による免疫染色.CD3陽性細胞(T細胞)の浸潤もみられる.1402あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(34)ン遺伝子再構成の検索なしに診断することは不可能である.わが国において反応性リンパ組織過形成症例中の約半数で自己免疫疾患(Sjogren症候群,Basedow病,全身性エリテマトーデス,水疱性類天疱瘡)を併発していたという報告13)があり,反応性リンパ組織過形成の病態に自己免疫的機序が推察され興味深い.IVびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫大型のリンパ腫細胞(その核が組織球の核より大きい,あるいは小型リンパ球の核の2倍以上)がびまん性に増殖し,胚中心あるいは胚中心後細胞の腫瘍である.パ濾胞過形成を示すものがあると報告11)しており,このような症例をHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色による病理組織学的検索で反応性リンパ過形成症例と鑑別することは困難である.IgG4関連リンパ増殖性疾患との鑑別は,免疫グロブリン遺伝子再構成やフローサイトメトリーによる検索では困難で,血清IgG4値や病理組織検索(IgG4陽性形質細胞浸潤の有無)により鑑別を行う.MALTリンパ腫の発生は反応性リンパ過形成を基盤とすることもあるため12),病理組織学的およびフローサイトメトリーによる細胞表面抗原の検索や免疫グロブリ図6眼窩IgG4リンパ増殖性疾患におけるフローサイトメトリーによる細胞表面抗原解析モノクローナルなB細胞集団は検出できず,k鎖およびl鎖陽性細胞の両者が混在している.あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111403びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は成人の悪性リンパ腫では最も頻度の高い非Hodgkinリンパ腫であるが,眼付属器リンパ増殖性疾患ではまれである.遺伝子発現プロファイリングにより非常にheterogenousで不均一な疾患群であることが明らかにされており,そのため,B細胞マーカーであるCD19,CD20,CD22およびCD79aの発現がみられないことがあることに注意を要する.また,化学療法にrituximabを併用した治療経過中,CD20が腫瘍細胞表面に発現されなくなることもあるため,rituximab投与前にCD20が発現していることを確認する必要がある.おわりに代表的な眼付属器リンパ増殖性疾患の病態と診断に発症機序を踏まえてこれまでの報告を中心に概説した.眼付属器リンパ増殖性疾患における病態を把握することは,診断や治療を行ううえで非常に重要である.リンパ増殖性疾患の分子基盤が明らかになれば原因療法が可能になると考えられるので,検体の免疫学的形質や免疫グロブリン遺伝子再構成を検索することの臨床的な意義は非常に大きいと思われる.文献1)LenzG,WrightG,DaveSSetal:Stromalgenesignaturesinlarge-B-celllymphomas.NEnglJMed359:2313-2323,20082)DaveSS,WrightG,TanBetal:Predictionofsurvivalinfollicularlymphomabasedonmolecularfeaturesoftumor-infiltratingimmunecells.NEnglJMed351:2159-2169,20043)FrancoR,CamachoFI,CaleoAetal:Nuclearbcl10expressioncharacterizesagroupofocularadnexaMALTlymphomaswithshorterfailure-freesurvival.ModPathol19:1055-1067,20064)VermaV,ShenD,SievingPCetal:Theroleofinfectiousagentsintheetiologyofocularadnexalneoplasia.SurvOphthalmol53:312-331,20085)DecaudinD,deCremouxP,Vicent-SalomonAetal:Ocularadnexallymphoma:areviewofclinicopathologicfeaturesandtreatmentoptions.Blood108:1451-1460,20066)FerreriAJ,GoviS,ColucciAetal:Intralesionalrituximab:anewtherapeuticapproachforpatientswithconjunctivallymphomas.Ophthalmology118:24-28,20117)LaurentiL,DePaduaL,BattendieriRetal:IntralesionaladministrationofrituximabfortreatmentofCD20positiveorbitallymphoma:Safetyandefficacyevaluation.LeukRes,inpress8)SatoY,OhshimaK,IchimuraKetal:OcularadnexalIgG4-relateddiseasehasuniformclinicopathology.PatholInt58:465-470,20089)ZenY,FujiiT,HaradaKetal:Th2andregulatoryimmunereactionsareincreasedinimmunoglobinG4-relatedsclerosingpancreatitisandcholangitis.Hepatology45:1538-1546,200710)CheukW,YuenHK,ChanACetal:OcularadnexallymphomaassociatedwithIgG4+chronicsclerosingdacryoadenitis:apreviouslyunderscribedcomplicationofIgG4-relatedsclerosingdisease.AmJSurgPathol32:1159-1167,200811)CheukW,YuenHK,ChuSYetal:LymphadenopathyofIgG4-relatedsclerosingdisease.AmJSurgPathol32:671-681,200812)JakobiecFA:Ocularadnexallymphoidtumors:progressinneedofclarification.AmJOphthalmol145:718-720,200713)KubotaT,MoritaniS:HighincidenceofautoimmunediseaseinJapanesepatientswithocularadnexalreactivelymphoidhyperplasia.AmJOphthalmol144:148-149,2007(35)

視神経膠腫に対する化学療法の現状

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYはない.3.神経線維腫症1型(neurofibromatosis1:NF1)との関連視神経膠腫の25?60%はNF1患者に発症する.一方NF1患者にスクリーニングとしてMRI(磁気共鳴画像)検査を施行すると15?20%で視神経膠腫を認める.このうち症状を発症するのは1?5%のみである.複数の腫瘍が認められる患者はNF1である可能性が高く,視交叉に腫瘍を認める場合にはNF1患者ではない可能性が高い.4.自然経過視神経膠腫の自然経過はNF1合併の有無,腫瘍の部位,発症時年齢により決まる.NF1患者の視神経膠腫は,NF1でない患者の腫瘍に比較し予後が良い.NF1合併視神経膠腫のうち3分の2は,進行しないまま経過する.視神経膠腫は,図1のように眼球後部から視放線までの視路のどの領域にも発生する.部位では,視交叉の腫瘍は,視床下部まで進展し,モンロー(Monro)孔を閉塞し閉塞性水頭症を起こすなど,侵襲的な経過をたどる傾向がある.年齢では,5歳以下に発症するものはより侵襲的で予後が悪い傾向が強い.II病理学多くがLGGであり,ほとんどが毛様性星細胞腫(pilo-はじめに視神経膠腫(opticglioma)は,小児期低年齢に頻度の高い視神経路(opticpathway)に発症する腫瘍である.初発症状として,眼振,斜視,視力低下,視野異常,眼球突出などの眼科学的症状を初発症状として発症する場合も多い.これらの症状が出現した後,眼科学的診断によって早期に診断に至る場合もある.病理学的には低悪性度の神経膠腫(low-gradeglioma:LGG)であり,全摘出が可能であれば生命予後は良好である.しかし,摘出による障害が重大となる場合が多く,qualityoflife(QOL)を考慮して他の治療が必要となる.QOL重視の観点から,視機能や他の機能の温存のため放射線治療,化学療法が用いられ,近年その成果が集積され,本疾患の診断方法,治療適応,治療方法が大きく変化している.本論は,子供たちの視機能の守り手である読者諸氏に,これらの変化と治療の進歩を伝えることを目的とする.I疫学1.頻度視神経膠腫は,小児脳脊髄腫瘍の4?6%,成人腫瘍の2%を占める.小児期の全神経膠腫の20?30%を占める1).2.発症年齢と性差年齢では,10歳までの発症が最も多い.発症に性差(21)1389*TakaakiYanagisawa:埼玉医科大学国際医療センター包括的がんセンター脳脊髄腫瘍科小児脳脊髄腫瘍部門〔別刷請求先〕柳澤隆昭:〒350-1298埼玉県日高市山根1397-1埼玉医科大学国際医療センター包括的がんセンター脳脊髄腫瘍科小児脳脊髄腫瘍部門特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1389?1396,2011視神経膠腫に対する化学療法の現状OpticGlioma:SurvivalandFunctionalOutcomes柳澤隆昭*1390あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(22)ことがあり,そのリスクは他のLGGの20倍くらいとされる.III症状と徴候初発症状と徴候は,腫瘍の局在と,発症時の年齢により影響を受ける.1.片側視神経に限局している腫瘍眼球突出と片側の視機能低下で発症するのが典型的である.2.視交叉にある腫瘍小学生以上の年齢の患者では視機能低下の訴えで診断に至るが,乳幼児や幼若な患者では視機能の低下を同定cyticastrocytoma:PA)である.原線維性星細胞腫(fibrillaryastrocytoma)など他のLGGも認めるが頻度が少なく,組織型による予後の違いは明らかにされていない.近年,毛様類粘液性星細胞腫(pilomyxoidastrocytoma)といった亜群が特定され,乳幼児に多く重篤な症状で発症することが知られているが,一般的に言われてきたように,予後がPAに比較して悪いのかどうかは明らかにはなっていない.組織学的にもNF1患者とNF1でない患者の腫瘍には差がある.NF1のない患者では,腫瘍は視神経に限局しており,髄膜には及ばないが,NF1患者では,腫瘍細胞がクモ膜下腔に侵入し,反応性に線維芽細胞が増殖し髄膜細胞の過形成を起こしていることが多い.視交叉から視床下部にある腫瘍は,髄液播種を起こすADBECF図1視神経膠腫のMRI所見A:右視神経に限局した腫瘍(T1強調ガドリニウム造影水平断像).B:左視神経に限局した腫瘍(T1強調ガドリニウム造影矢状断像).C:両側視神経に限局した腫瘍(T2強調水平断像).D:視交叉から視床下部に及ぶ腫瘍(T1強調ガドリニウム造影水平断像).E:視交叉から視床下部に及ぶ腫瘍(T1強調ガドリニウム造影矢状断像).F:視放線の腫瘍性病変(T1FLAIR水平断像).(23)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111391群(diencephalicsyndrome)とよばれる.腫瘍が巨大になると,下向性知覚運動路や脳神経3?6の障害により,局所神経障害を示す.IV診断CT(コンピュータ断層撮影),MRIにより腫瘍の存在が描出されれば診断に至る.CTは,腫瘍の存在は特定できる(図2-A,B)が,周囲組織との関係,腫瘍の広がりを判定するのは困難であり,造影MRIが望ましい(図2-C?F).本疾患を疑う場合,これを放射線科医師に伝え,視神経との関連を描出できる撮像を行うことが望ましい(図2-E,F).本疾患では,しばしば?胞性病変を合併する(図3-A?E).?胞の拡大が症状を悪化させる場合もあり注意が必要である.本疾患は,病理学的にするのが困難で,深刻な低下をきたすまで気付かれない場合が多い.一側の眼球を覆うと,内斜視,眼振を認めたり,固視が不安定となり診断可能な場合がある.3.視交叉から視床下部に及ぶ腫瘍腫瘍が増大しモンロー孔を塞ぎ閉塞性水頭症をきたし,腫瘍のmasseffectが加わり頭蓋内圧亢進をきたし頭痛・嘔吐などの症状を認める.年長の患者では,内分泌障害をきたし,成長障害や思春期早発,体重増加,過食症が認められる.乳幼児では,疾患に特徴的な所見を示さないことが多く,他疾患にも認める成長障害や巨頭症などの症状を示すことが多い.乳幼児患者で,視床下部腫瘍のため,著しいるい痩を認め,皮下脂肪がほとんど認められない状態になっていることがあり,間脳症候ADBECF図2視神経膠腫:同一患者のCT,MRI所見A:CT単純像.視交叉に腫瘍性病変を認める.B:CT単純像.水頭症を併発している.C:MRIT1強調ガドリニウム造影水平断像.視交叉に腫瘍を認めるが,視神経との関連は明白ではない.D:MRIT1強調ガドリニウム造影矢状断像.視神経との関連は明白ではない.E,F:MRIT1強調ガドリニウム造影像.視神経膠腫の可能性を考え,このような断面で画像を描出することにより,視神経と腫瘍の関係が明白になり診断を確定することができる.1392あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(24)しば行われ,視路の明らかな病変が認められれば,生検の必要なく診断が可能である.症状のない時期の腫瘍の治療を,すでに症状が出現している患者の治療から得られた情報をもとに考えてよいかどうかは問題である.NF1合併患者の視神経膠腫は,NF1を合併しない患者の腫瘍に比較しより緩慢な経過をたどることを示している報告が多い.NF1患者のスクリーニングMRIで症状がないか軽微な視神経膠腫を検出した場合,ただちに治療をする必要はない.後に腫瘍が増大し,治療が必要な症状を示すものはどの報告でも10?20%にすぎないからである.MRIにおいて,腫瘍の造影性が増強する場合,腫瘍活性を判断するよい指標と考えられ,実際の腫瘍の増大や,臨床症状の出現に先立って認められることが多い.腫瘍のその後の経過を個々の例で予知することは困難良性ながら,髄液播種する場合がある(図3-F?H).播種を起こしても症状がない場合もある.診断時には,頭部MRIの他に,脊髄造影MRI検査を施行し,脊髄播種の有無を確認しておくことが必要である.V治療の適応視神経膠腫では,治療の適応の判断が重要である.CT・MRIの出現する前の時代には,診断時にはすでに視機能低下,視床下部機能障害,頭蓋内圧亢進症状などの症状が出現しており,診断時から治療が明らかに必要であった.画像診断技術が発達し,多くの腫瘍が無症状か症状が軽微な時期に検出されるようになり,治療適応が問題とされるようになった.これらの腫瘍の自然歴は必ずしも明らかではない.NF1患者ではスクリーニングとしてMRI検査がしばABDEGHCF図3視神経膠腫の合併病変のMRI像1)腫瘍に?胞性病変を認める例のMRI像:T1強調ガドリニウム造影水平断像(A,B),T2強調画像水平断像(C,D),T1強調ガドリニウム造影像冠状断像(E).2)多発性頭蓋内播種:T1強調ガドリニウム造影矢状断(F).3)延髄近傍への多発性播種:T1強調ガドリニウム造影矢状断像(G).4)脊髄多発播種:T1強調ガドリニウム造影矢状断像(H).(25)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111393み生検が検討される傾向にある.腫瘍生検は,内視鏡や定位生検など侵襲の少ない方法が用いられ,これらが困難な場合のみ開頭手術が行われる傾向にある.初期治療としての化学療法,放射線治療の有効性が明らかになり,腫瘍の減量手術(debulkingsurgery)は,初期治療として用いられることは少なくなり,化学療法や放射線治療に不応性で,腫瘍が増大し症状が悪化した場合にのみ行われる傾向にある.腫瘍の減量が可能なら,術後療法を加え,長期にわたる腫瘍の制御が可能となることもある.VII放射線治療放射線治療は,長いこと切除困難な視神経膠腫の治療の主流であった.放射線治療は,腫瘍進行の阻止に効果的であり,診断前の視機能の障害の期間が長くない場合,視機能改善のうえでも効果的である.視神経膠腫を含めLGGの最近の報告の結果を表1に示す.放射線治療は,治療後に重篤な高次機能障害や内分泌機能障害を起こすことが多い.さらに二次癌発症や,モヤモヤ病などの血管障害のリスクが高くなる.特にNF1患者ではそのリスクがいっそう高い.最近の北米のSEER(Surveillance,Epidemiology,andEndResults)研究では,放射線治療を受けた患者の血管障害の相対危険度から,治療を受けたほぼ全患者に血管障害を発症する可能性があることが示唆されている.Shariffによれば,NF1合併患者では放射線治療をうけた18例中9例(50%)が二次癌を発症しているのに対し,放射線治療を受けていない患者の二次癌発症は40例中8例(20%)と低かった2).NF1患者の視神経膠腫では放射線治療は禁忌と考えてよい.このようなリスクを軽減するため,最新の放射線治療であり,腫瘍による視機能低下は回復不可能である場合も多いために,自然経過に確信をもつことができるまでは,定期的に神経眼科学的診察とMRIによる経過観察を行ったほうがよい.こうした方針は,すでに重篤な視機能障害を発症している場合にはあてはまらない.その後急速にさらに視機能が低下する場合が多く,臨床的に診断可能なら,生検の時間も惜しんで緊急に治療を開始したほうがよい.最初の画像診断において,巨大な造影性病変が描出された乳幼児の場合にも,腫瘍は急速に増大し,症状がさらに悪化することが多いため,早急に治療を開始したほうがよい.VI手術視神経膠腫は,発症部位から,重篤な障害なく全摘出することは困難である.腫瘍が増大しないまま静止している場合もあり,一方,放射線治療や化学療法の効果が明らかにされ,手術の適応は大きく変化してきた.歴史的には,片側の視神経に限局する腫瘍は,眼球突出を改善させ,視交叉や対側の神経に腫瘍が進展するのを防ぐため切除されていた.こうした病変を認めるのは多くがNF1患者であり,最新のMRI検査では,対側にも異常を認める場合が多く,切除された場合も,後に頭蓋内病変が出現することがあることが報告され,上記の予防的効果は疑問視されている.今日では,腫瘍の限局が明らかで,眼球突出を認め視機能がすでに失われている場合に適応を限る施設が多い.視交叉に病変が及ぶ腫瘍の場合,組織診断と腫瘍の減量が問題となる.典型的な経過と画像所見を示す場合には,病理診断なしで臨床診断によって治療適応が判断されることが多い.他疾患との鑑別が非常に困難な場合の表1視神経膠腫の放射線治療論文筆頭者論文発行年照射線量(Gy)治療対象患者数無再発生存率(event-orprogression-freesurvival)(%)2年3年5年8年10年Merchant3)2009547885Marcus4)200552.2508265Saran5)200250~551487Grabenbauer6)200045~602569Erkal7)19975030821394あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(26)1.化学療法の効果(図4)ほとんどの腫瘍で進行や増大が阻止され腫瘍は静止するが,縮小するものは多くはない.いずれの治療法でも,画像上腫瘍がほとんど認められなくなる完全奏効率は数%以下で,ほとんどが治療終了時に腫瘍が残存する.腫瘍縮小が認められる場合も治療開始後に時間が経ってからのことが多い.治療終了後も腫瘍の縮小が続くことがある.2.再発とその治療いずれの化学療法を用いた場合も,治療後半数近くで腫瘍が再増大し,治療が必要となる.こうした再発時にも,治療毒性の問題がなければ初期治療と同じ化学療法,あるいは異なった化学療法で,再び腫瘍の進行を阻止できる場合が多い.治療後の腫瘍の経過には幅があり,一時的に再増大した後に再び縮小する場合もある.治療の再開の判断には慎重になる必要がある.3.化学療法による視機能の変化化学療法単独による前後の視機能の変化については,最近ようやく報告がみられるようになっている.いずれの報告でも約3分の2で症状が改善するか不変,残り3分の1が悪化している.視機能予後を左右する因子はまだ確定されていない.診断までの障害の持続期間が影響を与えるものと考えられるが,年齢や,視放線の病変の有無を予後因子として同定している報告もある.改善の程度は,必ずしも腫瘍の縮小の程度とは相関しない.縮小をほとんど認めないものでも視機能の改善を認める場技術を用いて照射野を正確に腫瘍に限定し,周囲の正常組織に照射が及ばないようにする定位放射線照射の試みが行われている.最新の前向き研究の報告では,これらの方法により治療効果を保ったまま後遺症を軽減できることが示されているが,乳幼児をはじめ幼若な患者では,高次機能障害を回避できず,二次癌や血管障害の問題も回避することはできず,問題は解決したといえない3).将来的には,化学療法不応性で腫瘍減量術が困難な場合など適応を限って使用される可能性が高いと思われる.VIII化学療法放射線治療による後遺症の問題から化学療法の導入は始まった.初期には,高次機能障害が特に問題となる乳幼児で,放射線治療を遅らせる「時間稼ぎ」として化学療法は行われ,効果が明らかになるにつれ対象年齢を年長に広げる形で,広く初期治療として用いられるようになった.世界的にはさまざまな化学療法が行われ,その結果が報告されている.おもな報告を表2に示す.最も世界的に広く用いられるのは,カルボプラチンとビンクリスチン併用の化学療法である.同様に広く用いられる治療としてチオグアニン,プロカルバジン,CCNU(ロムスチン),ビンクリスチンを併用したTPCV療法がある.これら2つの治療の優劣を検証するランダム化臨床試験COGA9952が北米で行われ,最終報告を待つ段階にある.本疾患での化学療法にはつぎの特徴があり,注意が必要である.表2視神経膠腫の化学療法論文筆頭者論文発行年治療方法(レジメン)治療対象患者数無再発生存率(event-orprogression-freesurvival)(%)2年3年5年8年10年Ater8)2008CBDCA/VCR13735TPCV13748Gnekow9)2004CBDCA/VCR19861Massimino10)2002CDDP/VP163178Prados11)1997TPCV4250Packer12)1997CBDCA/VCR7868CBDCA:カルボプラチン,VCR:ビンクリスチン,TPCV:チオグアニン,プロカルバジン,CCNU(ロムスチン),ビンクリスチン併用,CDDP:シスプラチン,VP16:エトポシド.あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111395合がある.4.治療毒性への配慮の必要性本疾患は生命予後の良い疾患であり,化学療法そのものの毒性への配慮が必要である.二次癌誘発(エトポシド,テモゾロミドなど),聴神経毒性や腎毒性(シスプラチン)などの可能性に留意し,これらの薬剤はできるだけ用いないか,secondline以降の化学療法で用いるべきであると考えられる.IX予後とフォローアップの方針本疾患は病理学的に良性の腫瘍であるが,腫瘍の切除が困難なことから,他の切除可能なLGGに比較して予後は悪い.視神経に限局する腫瘍が生命を脅かすことはほとんどないが,視交叉から視床下部に及ぶ腫瘍では腫瘍の進展のために,大きな障害を残すこともあり,生命が脅かされることもまれではない.治療終了後の腫瘍の経過は,個々に多様性があり,終了時の状態からは予想できない場合が多い.他の腫瘍のように診断後5年を超え10年,20年と時間が経ったときに全生存率がどうなっているのかを評価する必要がある.機能予後に関しても5年以上の長期予後を把握する必要がある.おわりにこれまで述べてきたように,視神経膠腫は,病理学的には低悪性度の神経膠腫であり,摘出可能であれば手術のみで生命予後は良好であるが,手術による術後合併症は無視できない場合が多く,機能予後を考慮した場合には他の治療法が初期治療として選択される.放射線治療は,腫瘍制御と症状の改善の双方におい(27)ABDEGHCF図4視神経膠腫患者の化学療法の効果(上段:治療前,下段:治療後)患者1:治療前(A,B)および化学療法終了後(E,F)のMRIT1強調ガドリニウム造影像.偶発的に発見された例で,無治療経過観察中,視機能の低下を認めてただちに治療を開始した.治療後のMRI検査では,造影剤のとり込みは著しく低下しているが,腫瘍は残存している.左眼の視力は治療前0.1から治療後1.2まで回復した.患者2:治療前(C,D)および化学療法終了後(G,H)のMRIT1強調ガドリニウム造影像.水頭症を併発して診断に至った例で,右眼は診断時光覚弁,治療によって腫瘍の著しい縮小を認めているが,治療中,治療後も右眼の視機能は回復しなかった.1396あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011て,多くの化学療法の効果にまさるが,治療によって起こされる血管障害,高次機能障害,内分泌障害,二次癌の発症は容認しがたい.こうした障害を軽減するために,最新の治療技術を用いた放射線治療の有効性と後遺症が検証されているが,後遺症を完全に回避することは困難で,年齢などその適応が今後検討されると思われる.現行の化学療法は,こうした放射線治療で認められる後遺症がなく腫瘍の制御を達成できることが多いが,その効果は一時的であり,再発する場合も多い.より効果的で晩期障害の可能性の少ない化学療法としてビンブラスチン,ビノレルビンの導入が検討されている.このような放射線治療と化学療法の限界から,現在分子標的薬の導入も検討されている.レナリドミドやベバシズマブのパイロット試験が行われ,有効性が示唆される結果がでている.最近になって毛様性星細胞腫ではしばしばBRAF(V-rafmurineviraloncogenehomologB1)遺伝子の異常が認められることが明らかにされ,治療標的として将来有望であると考えられている.放射線治療や化学療法の問題を克服した新しい治療が将来導入される望みがある.どのような治療も,通常の腫瘍のように5年ではなく,10年,20年あるいはそれ以上の長期間での生命予後と機能予後と後遺症の有無が追跡され,そこから治療法の有効性が評価される必要がある.文献1)PollackIF:Braintumorsinchildren.NEnglJMed331:1500-1507,19942)SharifS,FernerR,BirchJMetal:Secondprimarytumorsinneurofibromatosis-1patientstreatedforopticglioma:substantialrisksafterradiotherapy.JClinOncol24:2570-2575,20063)MerchantTE,KunLE,WuSetal:PhaseIItrialofconformalradiationtherapyforpediatriclow-gradeglioma.JClinOncol27:3598-3604,20094)MarcusKJ,GoumnerovaL,BillettALetal:Stereotacticradiotherapyforlocalizedlow-gradegliomasinchildren:Finalresultsofaprospectivetrial.IntJRadiatOncolBiolPhys61:374-379,20055)SaranFH,BaumertBG,KhooVSetal:Stereotacticallyguidedconformalradiotherapyforprogressivelow-gradegliomasofchildhood.IntJRadiatOncolBiolPhys53:43-51,20026)GrabenbauerGG,SchuchardtU,BuchfelderMetal:Radiationtherapyofoptico-hypothalamicgliomas(OHG):Radiographicresponse,visionandlatetoxicity.RadiotherOncol54:239-245,20007)ErkalHS,SerinM,CakmakA:Managementofopticpathwayandchiasmatic-hypothalamicgliomasinchildrenwithradiationtherapy.RadiotherOncol45:11-15,19978)AterJ,HolmesE,ZhouTetal:ResultsofCOGprotocolA9952:Arandomizedphase3studyoftwochemotherapyregimensforincompletelyresectedlow-gradegliomainyoungchildren.NeuroOncol10:451,2008,abstrLGG189)GnekowAK,KortmannRD,PietschTetal:Lowgradechiasmatic-hypothalamicglioma-carboplatinandvincristinchemotherapyeffectivelydefersradiotherapywithinacomprehensivetreatmentstrategy:Reportfromthemulticentertreatmentstudyforchildrenandadolescentswithalowgradeglioma,HIT-LGG1996,oftheSocietyofPediatricOncologyandHematology(GPOH).KlinPadiatr216:331-342,200410)MassiminoM,SpreaficoF,CefaloGetal:Highresponseratetocisplatin/etoposideregimeninchildhoodlow-gradeglioma.JClinOncol20:4209-4216,200211)PradosMD,EdwardsMS,RabbittJetal:Treatmentofpediatriclow-gradegliomaswithanitrosourea-basedmultiagentchemotherapyregimen.JNeurooncol32:235-241,199712)PackerRJ,AterJ,AllenJetal:Carboplatinandvincristinechemotherapyforchildrenwithnewlydiagnosedprogressivelow-gradegliomas.JNeurosurg86:747-754,1997(28)

網膜芽細胞腫の眼球温存療法と予後

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY種の有無,随伴症状で分類されている.詳細を覚える必要はなく,眼底所見から病期が決まれば,治療方針がある程度決まり,患者説明に役立つ.はじめに網膜芽細胞腫は15,000出生に1名の割合で発症する眼球内悪性腫瘍であり,人種差,性差はない.わが国では1975年から全国登録が行われており,現在年間70~80名が登録されている.腫瘍が眼球外浸潤を伴わない場合の遠隔転移はまれであり,生命予後は良好である.一方で眼球外浸潤を生じた場合には眼球摘出は必須であり,全身化学療法,放射線治療など集学的治療が必要であるが,予後は不良である.全国登録の集計では,眼球摘出群では5年生存率96.8%,10年生存率94.7%,眼球温存群では92.7%と87.3%であり,いずれも有意差を生じた1).ただし,症例集積報告であり,両眼性症例ほど眼球温存治療を行うこと,両眼性症例は遺伝的背景があり二次癌(用語解説参照)を生じやすいことなどのバイアスを考慮する必要がある.生命予後を悪化させない範囲の治療により眼球温存が可能であれば行うべきであり,有効な視機能が期待される場合には積極的な眼球温存治療が望まれる.I病期分類古くから,Reese-Ellsworth分類が用いられてきた.これは放射線治療主体であった頃の分類であり,現在の治療にはそぐわない点が多いため,現在はおもに国際分類2)(表1)が用いられる.TNM分類3)(表2)が2010年に改定されたが,眼科領域ではあまり使われていないのが現状である.腫瘍の大きさ,位置,網膜?離および播(15)1383*ShigenobuSuzuki:国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科〔別刷請求先〕鈴木茂伸:〒104-0045東京都中央区築地5-1-1国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1383?1387,2011網膜芽細胞腫の眼球温存療法と予後IntraocularRetinoblastomaManagementandOcularPrognosis鈴木茂伸*表1眼球内網膜芽細胞腫の国際分類2)(概略)A:3mm以下で黄斑・視神経乳頭から離れた網膜腫瘍B:3mm以上もしくは黄斑・視神経近傍の網膜腫瘍C:限局性播種(硝子体・網膜下)D:びまん性播種(硝子体・網膜下)E:緑内障など合併症を有する眼球表2TNM分類(第7版3),T分類,抜粋)T1:腫瘍は眼球体積の2/3を越えず,硝子体および網膜下播種を伴わないT1a:3mm以下の腫瘍で視神経乳頭と中心窩から1.5mm以上離れているT1b:3mm以上もしくは視神経乳頭と中心窩から1.5mm以内に腫瘍があり,網膜下液は腫瘍縁から5mm以内T1c:3mm以上もしくは視神経乳頭と中心窩から1.5mm以内に腫瘍があり,網膜下液が腫瘍縁から5mm以上T2:腫瘍は眼球体積の2/3を越えず,硝子体もしくは網膜下播種を伴うT2a:限局した硝子体もしくは網膜下の播種で,微細な腫瘍塊T2b:多量の硝子体もしくは網膜下播種で“雪玉様”の腫瘍塊T3:眼球内の重症例T3a:眼球の2/3以上を満たす腫瘍T3b:緑内障,前房浸潤,前房出血,硝子体出血,眼窩蜂窩織炎の1個以上を有する眼球T4:眼球外腫瘍1384あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(16)が可能である.冷凍凝固のほうがやや厚い腫瘍,表面の毛羽立った腫瘍には有用であるが,出血や播種などの合併症頻度が高く,極力レーザーで治療を行っている.2.眼球内進行例(国際分類:B~D(E)群,TNM分類:T1b~T3a)多くの場合,初期全身化学療法による腫瘍縮小(chemoreduction)と,局所治療による地固めを行う.初期全身化学療法は,ビンクリスチン(V),エトポシド(E),カルボプラチン(C)の2~3剤を併用し,2~6コース行う.この薬剤,組み合わせ,コース数には比較試験などが行われていないため,治療の最適化はなされていない.当院ではVEC3剤併用療法7)(表3)を,腫瘍の縮小を見ながら2~6コース行うようにしている.VEC3剤併用治療は,R-E分類I~III群で85~100%,IV~V群で36~50%の眼球温存率が報告されている7~9).全身化学療法により腫瘍の縮小,網膜?離の吸収がみられるが,化学療法単独で治癒に至るのは10%程度であり,多くの場合追加治療を必要とする.ダイオードレーザーによる温熱療法,冷凍凝固に加え,小線源治療,選択的眼動脈注入,硝子体注入などを組み合わせて行う.当院では,全身化学療法の目的を腫瘍縮小と位置づけ,その縮小は初期2~3コースが良好であるため,全身の負担を減らす目的で全身化学療法を2~4コースにとどめ,引き続き眼動脈注入を行うようにしている.選択的眼動脈注入は,鼠径動脈からアプローチして眼動脈へ選択的に抗癌剤を投与する方法であり(図1),20年以上の治療経験がある10).メルファランを5~7.5mg/m2投与するが,脳血管障害,敗血症など重篤な有害事象は生じておらず,術中透視による二次癌の増加もない.一部症例では初期治療として行っており,国際分類B群では90%の眼球を温存できている10).海外からII治療概論眼球に対する治療は,眼球摘出か眼球温存治療を選択することになる.眼球温存治療は,腫瘍の位置,進行度により,眼球局所治療(レーザー・冷凍凝固),放射線治療(外照射・小線源治療),化学療法(全身・局所)を適宜組み合わせて行うことが多い.眼球温存率は病期により異なるが,国際分類やTNM分類である程度予測することが可能である.一方で治療関連有害事象についてはいまだ不明な点が多い.本疾患は乳幼児に生じるため,放射線治療による正常組織の感受性が高く,さらに遺伝性症例(両眼性・家族性)の場合には,体細胞にもRB1遺伝子変異が存在するため二次癌(用語解説参照)を生じる危険性が高い.化学療法に関連する晩期障害は,白血病や聴力障害の危険性が認識されているが,二次癌や生殖機能に対する影響はいまだ不明である.この点も考慮した治療方針の決定が重要である.III治療各論1.眼球内非進行例(国際分類:A群,TNM分類:T1a)眼球局所治療(レーザー・冷凍凝固)の単独治療を行う.この段階で発見されることはまれであるが,両眼性症例の非進行眼,家族歴があり出生時眼底検査で発見された場合などが該当する.多発腫瘍で新たに見つかった小さな腫瘍も同様に治療する.現在では,ダイオードレーザーによる直接照射が一般的である.症例集積研究として,Shieldsら4)は188腫瘍(腫瘍基底平均3.0mm,腫瘍厚平均2.0mm)にレーザー治療を行い完全寛解が85.6%,Abramsonら5)は91腫瘍(腫瘍基底平均0.67乳頭径)にレーザー治療を行い完全寛解が92%と報告している.一般的なアルゴンや色素レーザーで,腫瘍周囲および流入血管の凝固を行うこともあるが,治療効果はダイオードレーザーが勝る.冷凍凝固について,Abramsonら6)は138腫瘍に冷凍凝固を行い治癒が70%で重篤な局所合併症は生じなかったと報告している.周辺部腫瘍であっても,強膜圧迫によりレーザー治療表3VEC3剤併用全身化学療法─3剤の化学療法を,3~4週間隔で2~6回くり返す─投与量(36カ月以下の投与量)Day0Day1ビンクリスチン1.5mg/m2(0.05mg/kg)×エトポシド150mg/m2(5mg/kg)××カルボプラチン560mg/m2(18.6mg/kg)×(17)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111385線)が用いられている.国内では当院のみで行われ,106Ruを使用している(図2).106Ruを銀でコーティングした金属板を,腫瘍部の強膜面に一時的に(通常1~3日間)縫着する.Schuelerら13)は106Ruを用いて175腫瘍(平均腫瘍厚3.7mm,腫瘍基底5.0乳頭径)を治療し,局所制御率は94.4%,眼球温存率は86.5%と報告している.b線源であり,距離による減衰が大きいため,骨障害や二次癌の増加は生じないと考えられている.本来は限局した腫瘍がよい適応であるが,びまん性に生じたも複数の報告がなされており11,12),初期治療として用いる戦略が注目されている.硝子体注入は,メルファラン8~16μgを直接硝子体腔へ注射する治療法であり,硝子体播種に対して行う.手技は他疾患に対する硝子体注入と同じであるが,眼球外播種の危険性を減らすため,32ゲージ針を使用している.硝子体播種のみの場合,局所制御率は経験上60~80%程度である.小線源治療は,核種として主に125I(g線)と106Ru(b眼球眼動脈眼動脈Willis動脈輪バルーンカテーテルカテーテルサイフォン部内頸動脈図1選択的眼動脈注入内頸動脈遠位をバルーンカテーテルで一時閉塞することで,眼動脈へ抗癌剤を投与する.血管分枝では眼動脈が最も太く,大部分が眼動脈に流れる.Willis動脈輪を通して脳血流は保たれる.小線源腫瘍20Gy40Gy60Gy図2小線源治療眼球壁に合わせた曲面をもち,大きさ,形状の異なる線源から選択して使用する.強膜に縫着固定するための穴がついている.1386あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(18)せなどが研究されている14).4.眼球外浸潤を有する場合(TNM分類:T4)ただちに眼球摘出を行い病理を確認する.小児科医の協力のもと強化化学療法,放射線外照射などを検討するが,エビデンスは乏しい.5.両眼性の場合の考え方本疾患の約4割が両眼性である.上に述べたように病期ごとに治療を決められればよいが,現実には単純に決められない場合も多い.片眼がE群,他眼がE群以外の場合,標準的な考え方ではE群の眼球を摘出して,他眼の温存治療を行う.しかしながら,他眼(非進行眼)の治療目的に全身化学療法を行うのであれば,E群の眼球もその反応をみてから眼球摘出の適応を考えることも可能である.化学療法後,視神経乳頭が確認できるようであれば温存治療の継続は可能であり,一方で腫瘍が縮小しても視神経乳頭が確認できなければ,視神経浸潤を生じる危険性が高いため眼球摘出が妥当と判断する.進行眼ほど化学療法反応性がよいため,結果としてE群の眼球が温存,非進行群であった他眼を摘出せざるをえないことも経験される.両眼とも,全身化学療法を行わないで温存可能な場合もある.ここで注意すべき点として,Shieldsらは全身化学療法を開始してから三側性網膜芽細胞腫(trilateralretinoblastoma:TRB)(用語解説参照)の頻度が低下していることを報告している.続報はなく,他施設からの報告もないため,現時点でのエビデンスレベルは低い.単純に放射線治療を回避することでTRBの頻度が低下しているだけなのか,本当に化学療法によってTRBの発症が予防されているのであろうか.もし予防効果があるのであれば,TRBは致死的疾患であるため,両側性の場合は全身化学療法を行うべきという結論に至る.この点が解明されるまで,両眼性の場合は全身化学療法を併用することが安全かもしれないと考えている.6.眼球摘出の判断眼球摘出の目的は,腫瘍の眼球外浸潤・遠隔転移の予播種に対しても,一定の範囲内であれば有効であり,初期治療後の再発に対しても行われる.硝子体腔を満たすほどの水晶体に達する腫瘍であっても合併症を有しない場合(国際分類E,TNM分類T3a)は,温存治療の適応と考えている.虹彩新生血管を伴う場合も,化学療法により腫瘍が縮小すると消退することも多く,摘出の絶対条件ではない.3.合併症を有する場合(国際分類:E群,TNM分類T3b)眼球摘出が安全であるが,上記1.に準じて温存治療を行う場合もある.温存成功率は10~30%と低く,腫瘍のコントロールができても増殖網膜症,緑内障,眼球癆など眼球自体が耐えられない場合も少なくない.複数回の全身麻酔,長期間にわたる治療,期待される視機能などを説明したうえで,希望のある場合のみ温存治療を行う.このような眼球に対して,海外では眼動脈注入を検討したり,全身化学療法と低線量の放射線の組み合わ図3眼球内進行例の治療(3カ月,女児)初診時(a)右眼は水晶体に達する巨大腫瘍(E群),左眼は後極に多発腫瘍を認める(B群).全身化学療法と眼動脈注入を行い,右眼は乳頭から離れた石灰化(b),左眼は黄斑を回避した石灰化(c)を残すが,3年間再発はない.abc(19)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111387radiotherapyorenucleation.AmJOphthalmol133:657-664,20028)GunduzK,GunalpI,YalcindagNetal:Causesofchemoreductionfailureinretinoblastomaandanalysisofassociatedfactorsleadingtoeventualtreatmentwithexternalbeamradiotherapyandenucleation.Ophthalmology111:1917-1924,20049)FriedmanDL,HimelsteinBP,ShieldsCLetal:Chemoreductionandlocalophthalmictherapyforintraocularretinoblastoma.JClinOncol18:12-17,200010)SuzukiS,YamaneT,MohriMetal:Selectiveophthalmicarterialinjectiontherapyforintraocularretinoblastoma:Thelong-timeprognosis.Ophthalmology,2011,Epubaheadofprint11)GobinYP,DunkelIJ,MarrBPetal:Intra-arterialchemotherapyforthemanagementofretinoblastoma:Fouryearexperience.ArchOphthalmol,2011,Epubaheadofprint12)ShieldsCL,BianciottoCG,JabbourPetal:Intra-arterialchemotherapyforretinoblastoma.ReportNo.1,controlofretinaltumors,subretinalseeds,andvitreousseeds.ArchOphthalmol,2011,Epubaheadofprint13)SchuelerAO,FluhsD,AnastassiouGetal:Beta-raybrachytherapywith106Ruplaquesforretinoblastoma.IntJRadiatOncolBiolPhys65:1212-1221,200614)ShieldsCL,RamasubramanianA,ThangappanAetal:ChemoreductionforgroupEretinoblastoma:comparisonofchemoreductionaloneversuschemoreductionpluslowdoseexternalradiotherapyin76eyes.Ophthalmology116:544-551,200915)ShieldsCL,MeadowsAT,ShieldsJAetal:Chemoreductionforretinoblastomamaypreventintracranialneuroblasticmalignancy(trilateralretinoblastoma).ArchOphthalmol119:1269-1272,2001防と,合併症による疼痛除去目的の場合がある.遠隔転移の危険因子は篩状板を越える視神経浸潤,脈絡膜浸潤,強膜浸潤,前房浸潤などがあるが,大部分は視神経浸潤である.治療を行っても腫瘍が視神経乳頭を覆った状態,中間透光体の混濁で眼底の観察が困難な場合には,原則として眼球摘出を勧めている.摘出に同意が得られない場合,画像検査〔超音波,MRI(磁気共鳴画像)など〕で経過をみる場合もあるが,画像検査では判断できない視神経浸潤であっても転移の危険因子であり,生命の危険を回避できないことを強く説明するようにしている.逆に,そのような状態でなければ,眼球内で播種をしていても転移の危険因子ではなく,希望に基づき温存治療を継続するようにしている.IV眼球予後最終的な眼球温存率は,初期化学療法と,局所治療,局所化学療法を組み合わせた治療法により,国際分類A群で100%,B群で90%,C群で70~80%,D群で50%,E群で10~20%である10).視力は,腫瘍が黄斑部にあれば当然不良であるが,黄斑部が回避されている場合には約半数で有効な視力を維持できている10).文献1)TheCommitteefortheNationalRegistryofRetinoblastoma:SurvivalrateandriskfactorsforpatientswithretinoblastomainJapan.JpnJOphthalmol36:121-131,19922)ShieldsCL,MashayekhiA,AuAKetal:TheInternationalClassificationofRetinoblastomapredictschemoreductionsuccess.Ophthalmology113:2276-2280,20063)SobinL,GospodarowiczM,WittekindC(eds):UICC:TNMclassificationofmalignanttumors.7thedition,p291-297,Wiley-Blackwell,NewYork,20094)ShieldsCL,SantosMC,DinizWetal:Thermotherapyforretinoblastoma.ArchOphthalmol117:885-893,19995)AbramsonDH,ScheflerAC:Transpupillarythermotherapyasinitialtreatmentforsmallintraocularretinoblastoma.Techniqueandpredictorsofsuccess.Ophthalmology111:984-991,20046)AbramsonDH,EllsworthRM,RozakisGW:Cryotherapyforretinoblastoma.ArchOphthalmol100:1253-1256,19827)ShieldsCL,HonavarSG,MeadowsATetal:Chemoreductionplusfocaltherapyforretinoblastoma:Factorspredictiveofneedfortreatmentwithexternalbeam■用語解説■三側性網膜芽細胞腫:松果体など大脳正中部に網膜芽細胞腫と類似した組織型の神経外胚葉腫瘍が生じることがある.両眼性症例に多いことから,両側(両眼)に加えて第3の目に生じるという意味で,三側性とよばれる.これまで100例あまりの報告があるが,長期生存例はほとんどない致死的疾患である.二次癌:元々の腫瘍の転移ではなく,組織型の異なる別の腫瘍を生じることがあり,二次癌とよぶ.遺伝性網膜芽細胞腫では二次癌の頻度が高いことが報告されている.通常の癌ではなく肉腫の頻度が高く,治療後数年以上経過してから生じてくる.放射線照射により危険率が約3倍に増加すると報告されている.

眼内悪性リンパ腫の診断,治療の実際とその問題点

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYリンパ腫の診断までに時間を要することが多いという背景も予後を不良としている一つの要因と考えられる.以下に悪性リンパ腫の診断と治療の実際,その問題点について概説する.I眼内悪性リンパ腫の診断1.患者背景a.年齢,性別年齢は一般に50歳以上でみられることが多い.性差はないとされるが,女性のほうが多いとする報告もある4).b.症状自覚症状はぶどう膜炎とほぼ同様である.すなわち,視力低下や霧視,飛蚊症を主訴として眼科受診することが多い.中枢神経に病変がすでに存在する場合には視野障害を生じる場合もある.c.経過前述したように悪性リンパ腫の診断が確定するまでには時間を要することが多い.それまでに行われたステロイドの全身投与や後部Tenon?下注射などに対する反応が悪いことが重要なポイントとなる.ただ,それらの治療にあたかも反応したかのように一時的に軽快してその後また増悪する,といった経過をとることもあるので注意を要する.はじめに眼内悪性リンパ腫は本来悪性腫瘍であるにもかかわらず,その臨床像が非特異的な慢性ぶどう膜炎と酷似しているため,本来の病像とはまったく異なる疾患にみえるという意味で仮面症候群とよばれる.これまで眼科領域では比較的稀な疾患と考えられてきたが,最近その頻度は上昇傾向にあり,特に米国では劇的に増加傾向にあるとする報告もある1).これには本疾患の認知度の向上もあろうが,近年の硝子体手術機器・技術の進歩により硝子体生検が従来に比較し,より容易にかつ安全に施行できるようになったことなどから,その診断率が向上したことが大きく寄与しているものと考えられる.眼内悪性リンパ腫には,全身の悪性リンパ腫がその経過中に眼内に病変を生じる場合と,眼と中枢神経系に原発する,いわゆる眼・中枢神経系悪性リンパ腫がある.後者は眼所見が中枢神経系に先行して現れることのほうが多く,この場合特に原発性眼内リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOL)とよばれる2).眼内悪性リンパ腫は組織学的にはその大部分が非Hodgkinびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり,悪性度がきわめて高い.PIOLはその60~80%が数年以内に中枢神経系リンパ腫を発症し,5年生存率は約30%といわれる生命予後不良の悪性腫瘍である3).前述したように眼内悪性リンパ腫の臨床像が非特異的な慢性ぶどう膜炎との鑑別が困難であることが多く,長期間にわたってぶどう膜炎として治療されることが多いため,悪性(9)1377*KuniakiHijioka&HiroshiYoshikawa:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕肱岡邦明:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1377?1381,2011眼内悪性リンパ腫の診断,治療の実際とその問題点IntraocularLymphoma:Diagnosis,Treatments,andTheirProblems肱岡邦明*吉川洋*1378あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(10)3.検査所見確定診断には眼内組織での生検が基本である.前房水での診断率は高くないので,眼内悪性リンパ腫を疑ったら硝子体混濁がある症例には視機能向上も兼ねた診断的硝子体手術を積極的に行い,硝子体を採取して診断に用いる.筆者らの施設では術中灌流液を流す前に硝子体を採取している.それを遠心し,上清をサイトカイン測定に,沈殿物を細胞診に,また硝子体カセットも回収し遠心した後ホルマリンで固定して病理組織診断用に用いている.a.細胞診,病理組織診細胞診・病理組織診は悪性リンパ腫診断においては一見中心となる検査ではあるが,実際には診断率は低い.ClassIV以上が出れば確定診断でよいが,実際にはclassIII以下がほとんどという報告もある.このように診断率が低い原因として,まず標本に含まれる腫瘍細胞の数が少ないことがあげられる.その理由としては,硝子体内の浸潤リンパ球に占める異型リンパ球の割合がもともと低いこと,悪性細胞は元来壊死しやすく,特に酸素分圧の低い硝子体内では選択的に壊死する可能性があること,硝子体カッターや標本作成過程でも腫瘍細胞は壊れやすいこと,などが想定される.結果,標本に異型リンパ球が含まれていないこともしばしばである(図3).2.眼所見ぶどう膜炎と診断されることが多いことからもわかるように,その臨床所見は慢性の非特異的ぶどう膜炎と似ているが,よく観察するといくつか特徴的な所見も存在する.硝子体内の帯状,索状の硝子体混濁を主徴とする“硝子体型”と,網膜下の黄白色斑状病巣を主徴とする“眼底型”があるが,両者が混在する場合もある2).a.硝子体型前部硝子体に通常より大きめの細胞の浮遊がみられることが多い.硝子体混濁は細胞密度が高く,帯状の混濁を呈することが多い.またその特徴として,周辺に強く,中心には軽い,いわゆるドーナツ状の混濁を呈することがある.このため,濃厚な硝子体混濁の割には視力がよいのも特徴の一つである(図1).b.眼底型黄白色調で境界が比較的鮮明な網膜下の隆起性病変が観察されることが多い.これはOCT(光干渉断層計)で見ると網膜色素上皮下にみられる.また,比較的小さめで癒合傾向のある斑状病巣が全体に散在性にみられることもある(図2).その他前眼部では前房中の細胞は必発ではないが,経過中に出た場合には再発のサインである場合があるので注意を要する.図1硝子体型濃厚な硝子体混濁を認めるが視力は(1.2)である.図2眼底型黄白色調の網膜下の隆起性病変が観察される.(11)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111379トロン断層法),また必要に応じてルンバールなどを行わなくてはならない.それで眼以外に病変がみられない場合にも定期的に頭部MRIは行う必要がある.そのような場合筆者らの施設では最低6カ月に一度は行うようにしている.II眼内悪性リンパ腫の治療とその問題点眼内悪性リンパ腫の治療には眼局所治療と全身療法があり,それぞれに放射線療法と化学療法がある.1.眼局所治療a.放射線療法眼窩に放射線を照射する方法である.放射線科に依頼する.<治療の実際>2Gyずつトータル30~40Gyの放射線照射を眼窩に行う.<問題点>放射線治療は非常に有効でよく反応するが,一方で一度しか行えない治療であり,また再発は少なくない.その他放射線角膜症や放射線網膜症,視神経症など不可逆性の障害を起こす恐れもある.従来は一般的に初発病変b.サイトカイン測定眼内悪性リンパ腫では硝子体液中のinterleukin-10(IL-10)濃度が高いことが知られている.IL-10は正常人で出ることはほぼありえないので,特異性は高い.ぶどう膜炎患者では軽度上昇することはありうるが,IL-10よりも炎症性サイトカインであるIL-6のほうがはるかに上昇するので,必ずIL-6も同時に測定し,IL-10/IL-6の比も計算する.IL-10が100pg/ml以上もしくはそれ以下でもIL-10/IL-6比が1以上であれば眼内悪性リンパ腫と考えられる.c.PCRによる遺伝子再構成の確認残りのサンプルはpolymerasechainreaction(PCR)法による免疫グロブリン遺伝子JH部位の遺伝子再構成の確認に提出する.この遺伝子のモノクローナリティが確認されればB細胞由来のリンパ腫細胞が存在することになる.しかし,商業ベースで行われるPCR検査ではサザンブロットとの一致性が低く,他の検査結果と併せて解釈する必要がある(図4).上記項目をcheckし,総合的に眼内悪性リンパ腫の診断を行う.診断が確定したら当然であるが,確定診断に至らなくても悪性リンパ腫が強く疑われる場合には必ず血液内科にコンサルトし,連携して中枢神経系病変の検索のため頭部MRI(磁気共鳴画像)や全身PET(ポジ図3硝子体生検塗抹標本(パパニコロウ染色)小型リンパ球に混じって裸核で核小体の目立つ大型細胞が多数みられる.図4PCRによる免疫グロブリン遺伝子JH部位の遺伝子再構成の確認1380あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(12)した.このようにMTX硝子体内投与は放射線治療と違ってくり返し行えるメリットがある.<問題点>上述のように確立された治療プロトコールが存在しないうえに,治療効果の判定に関しても筆者らのようにIL-10値で行う施設もあれば,硝子体内細胞で判定する報告もあり7),また治療のendpointの設定に関しても一定した見解はないと言えるのが実情である.さらに上記のプロトコールでは注射が頻繁であることも問題である.今後はプロトコールの比較試験などを行うなどの議論は必要である.副作用としては幹細胞減少による角膜表層障害は必発である(図5).自験例では2クール目くらいのタイミングで起こってくることが多い.この場合は投与間隔を開けるか,場合によっては中止の検討も必要である.あるいはMTXの葉酸代謝拮抗作用に対する解毒剤として知られるホリナートカルシウム(ロイコボリンR)を点眼で使用する方法も試みられている8).ただ角膜障害は放射線治療と異なり可逆的である.には第一選択の治療法であったが,次項にあげるメトトレキサート硝子体内投与を用いることのほうが多くなってきている.b.化学療法メトトレキサート(MTX)を硝子体内に投与する方法である.1997年に初めて報告された比較的新しい治療法である5)が,近年浸透してきておりその有効性が確立されてきている.われわれ眼科だけで行うことのできる治療である.<治療の実際>投与量,投与法はさまざまであり,コンセンサスの得られた確立されたプロトコールというものはまだ存在しないので,各施設で治療法は少しずつ異なるのが現状である6,7).筆者らの施設では以下のように行っている.【硝子体内注射の方法】1.MTXを400μg/0.1mlとなるように濃度調整する.※溶媒は生理食塩水や眼内灌流液(オペガードR),またはデキサメタゾン(デカドロンR)など施設によってさまざまである.2.眼表面,結膜?を手術時と同様に洗浄,消毒する.3.前房水を0.1ml抜く.4.上記のMTX0.1ml(400μg)を30ゲージ針を用いて毛様体扁平部より硝子体内に投与する.5.眼表面を生理食塩水500mlで洗浄する.6.抗生物質の眼軟膏を点入する.以上を筆者らの施設では2日おきに計4回を1クールとし,1カ月間隔を開けてまず2クール行っている.このとき採取した前房水0.1mlは毎回必ずIL-10/IL-6の測定を行い,そのIL-10値の下がり具合をみて,状況に応じてその後引き続き月に一度MTX硝子体内投与を行っている.引き続き行う場合には12カ月を目処に中止しているが,その後も注意深く経過観察し,前房内に明らかに細胞が増えたり,あるいは眼底に病変の再発を認めたらただちに前房水を採取してIL-10/IL-6を測定している.筆者の自験例では,MTX硝子体内投与の有効性はきわめて高く,全例でIL-10は早期に陰性化した(表1).再発した症例は存在するが,MTX再投与により陰性化図5MTXによる角膜上皮障害表1MTX硝子体内投与による硝子体内IL?10値(pg/ml)の推移の例day0day3day6day91クール目62610214検出限界以下2クール目検出限界以下検出限界以下検出限界以下検出限界以下(13)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111381文献1)CornBW,MarcusSM,TophamAetal:Willprimarycentralnervoussystemlymphomabethemostfrequentbraintumordiagnosedintheyear2000?Cancer79:2409-2413,19972)後藤浩:眼腫瘍の最前線眼内悪性リンパ腫.眼科50:161-170,20083)JahnkeK,KorfelA,KommJetal:Intraocularlymphoma2000-2005:resultsofretrospectivemulticentertrial.GraefesArchClinExpOphthalmol244:663-669,20064)木村圭介,後藤浩:眼内悪性リンパ腫28例の臨床像と生命予後の検討.日眼会誌112:674-678,20085)FishburneBC,WilsonDJ,RosenbaumJTetal:Intravitrealmethotrexateasanadjunctivetreatmentofintraocularlymphoma.ArchOphthalmol115:1152-1156,19976)曺麗加,後藤浩:メトトレキセート硝子体投与─原発性眼内悪性リンパ腫の治療として─.あたらしい眼科23:899-900,20067)FrenkelS,HendlerK,SiegalTetal:Intravitrealmethotrexatefortreatingvitreoretinallymphoma:10yearsofexperience.BrJOphthalmol92:383-388,20088)EunahK,ChanghyunK,JiwoongLetal:Acaseofprimaryintraocularlymphomatreatedbyintravitrealmethotrexate.KoreanJOphthalmol23:210-214,20092.全身療法中枢神経に病変がある場合には放射線の全脳照射や,MTXの大量療法・髄腔内投与が行われるが,PIOLが数年以内に中枢神経に進展する率は高く,生命予後不良であることが広く知られてきており,病変が眼内のみで中枢神経にはまったくみられなくても予防的に全身治療が行われる場合が増えてきている.全身治療を行うかどうかの判断は血液内科に委ねられるので,この観点からも眼科医だけで各種検査を行うのはよいが,眼外に病変が見つからなかったとしても血液内科にコンサルトすることは必須である.おわりに眼内悪性リンパ腫の診断と治療,その問題点について述べてきた.眼内悪性リンパ腫は眼科領域では数少ない生命予後に直結する疾患の一つであり,局所のみではなく全身治療を要することもしばしばであることを念頭において治療に当たらなければならない.その診断に関しても,眼内炎症をみた場合に,ステロイドに対する反応やその他の所見も考慮しながら眼内悪性リンパ腫を疑うセンスも求められる.

眼表面悪性腫瘍に対する局所化学療法

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYあり,臨床的には腫瘍の厚みが浸潤の程度を示している場合が多い.点眼治療の対象になるのは,原則として浸潤がんでないもの,すなわちSCCやMMまでの浸潤度には至っていないCCINすなわち,基底膜を越えていない上皮内新生物となる.II点眼治療選択のプロセス?.病状の把握:生検角結膜腫瘍を細隙灯顕微鏡で観察した際に,CCINなのか,基底膜を破って浸潤しているものなのかは,臨床的にはなかなかむずかしいところがあり,生検にて病理検査を行う必要がある.上皮性であるOSSNは輪部病変が多く,全体の形は線維柱帯切除術後の結膜ブレブ様で,打ち上げ花火様血管が多数みられることが多い(図1).生検には通常の生検(incisionalbiopsy)と切除生検(excisionalbiopsy)の2つがあり,後者は腫瘍を一塊にして切除する方法であり視機能障害を生じないように施行可能であれば選択されるべき方法で,病理結果にて良性と出た場合にはそれが同時に治療となる.通常,合併症を残さずに安全に切除できる範囲においてすべて切除するというのが原則であるが,病巣の広がり具合や眼球や外眼筋などとの癒着具合によってincisionalbiopsyとするか,病巣を丸ごととる方法のexcisionalbiopsyとするかを決める.上皮内病変の疑いが強く,手術治療を希望されない場合にはincisionalbiopsyでよいが,病理はじめに眼部腫瘍は眼瞼,結膜,眼球,眼窩,涙道などの眼科医の取り扱うさまざまな部位に発生するが,臨床の場において最も身近なのは角結膜および眼瞼の腫瘍であろう.なかでも角結膜腫瘍は細隙灯顕微鏡検査にて観察しやすいものであり,点眼という独特な治療法を日々用いている眼科医にとって最も身近な腫瘍の一つと思われる.本稿では,角結膜悪性腫瘍に対する点眼療法を中心に述べていく.I角結膜悪性腫瘍のおもな病変上皮性の新生物には病態に応じて,眼表面扁平上皮新生物(ocularsurfacesquamousneoplasia:OSSN),結膜上皮内新生物(conjunctivalintraepithelialneoplasia:CIN),角結膜上皮内新生物(conjunctivalandcornealintraepithelialneoplasia:CCIN)などの語彙があるが,角結膜上皮内新生物の一般的表記としては,上皮性ではOSSNが,また広く新生物としてはCCINが多く用いられている.角膜病変は結膜からの浸潤病変がほとんどである.上皮性の基底膜を越える浸潤がみられると,扁平上皮がん(squamouscellcarcinoma:SCC)となる.色素性病変では,細胞異型を伴う原発性後天性メラノーシス〔primaryacquriedmelanosis(PAM)withatypia〕,上皮内悪性黒色腫〔intraepithelialmalignantmelanoma(MM)〕,そしてすでに浸潤を生じたMMなどが(3)1371*HidekiTsuji:がん研究会有明病院眼科〔別刷請求先〕辻英貴:〒135-8550東京都江東区有明3-8-31がん研究会有明病院眼科特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1371?1376,2011眼表面悪性腫瘍に対する局所化学療法LocalChemotherapyforOcularSurfaceNeoplasm辻英貴*1372あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(4)の対象としてよい.3.十分なIC(informedconcent)の必要性一般に固形の悪性腫瘍は手術が第一選択であり,本人および家族にその旨を伝えたうえで,手術を希望されない場合や手術不能例が点眼治療の適応となる.また副作用として,点状表層角膜症,結膜炎,結膜上皮萎縮変性,眼瞼縁炎および眼瞼炎,抗がん剤の場合には,涙道障害,角膜および強膜の潰瘍,菲薄化および眼球穿孔の可能性もあることをあらかじめ伝える.III治療の実際1.書類上の準備点眼や局所治療が通常使用の適応となっていないものは,病院の倫理委員会などに申請して使用許可を得たうえでの治療となる.ほとんどの薬剤は点眼の適応が通っていないため,申請許可後に薬剤部に依頼して自家製剤として点眼薬を作製することになる(図2).2.点眼の使用時期a.通常の方法生検にて上皮内悪性病変と診断された後に点眼治療の適応と判断され用いる.全身状態や精神的,社会的事情により生検をせず用いる場合もあるが,推奨はされない.b.アジュバント(術後療法)術後療法として使用する方法である.基底膜を破り浸潤しているSCC(図3,4)やMM(図5,6)については結果や治療方針は生検施行時点ではわからないために,安全に施行できる範囲で大きく,かつ元々の腫瘍の範囲がわかるような切除とする.Excisionalbiopsyの予定であったが浸潤・癒着が強く,結果的にincisionalbiopsyとなることもある.MMを疑う厚みのある色素性病変は可能な限り全摘出を原則とする.2.病理結果:上皮内に留まっているか生検の病理が,悪性か良性か,腫瘍細胞が基底膜を破って浸潤していないか,を確認する.CCINであれば点眼による治療が可能と判断する.上皮内病変にも,表面から基底膜までの範囲のどのくらいまで腫瘍細胞が占拠しているかの違いがあり,全層に腫瘍細胞がみられる場合が他科でいうcarcinomainsitu(CIS)である.なお新生物ではないが,細胞異型のみられるPAMwithatypiaはMMへの転化が10年で12%にみられ,治療図1輪部のOSSN角膜浸潤を伴う典型的なCCIN.打ち上げ花火様血管の増生がみられる.図2MMC点眼・薬剤部にオーダーして使用直前に作製する.・必ず調製日を記載する.・薬剤の安定性のため暗冷所保存としている.(5)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111373点眼単独での治療は望めず,用いるとすれば手術後のアジュバントとして用いる.すなわちSCC,MMの部分は切除されたが,周囲に残存している病変に対しての使用となる.c.ネオアジュバント(術前療法)手術前治療として用いる方法である.病変が広範囲に及んでいる場合,手術治療の前に,周囲にあると予想される,もしくは病理にて診断後の上皮内病変に対して行う術前療法である.切除範囲を縮小させる目的にて使用する.脂腺がんはマイボーム腺,Zeis腺から発生する新生物であるが,結膜上皮内浸潤病変(Pagetoidspread)を生じやすく,アジュバントやネオアジュバント使用として用いている施設もある.IV各薬剤の特性と調剤および使用方法定められたガイドラインはないので使用方法はまちまちで,各施設ごとにプロトコールを決めて施行しているのが現状である.以下に各製剤の特徴とその一般的使用方法と思われるものを示す.休薬は正常な角膜および結膜のダメージを回復させる目的である.1.MMC点眼MMC(マイトマイシンC)は抗がん性抗生物質で,作用機序はDNAの分裂阻止やDNA鎖の切断などによっ図3SCC打ち上げ花火様でOSSNと似ており,臨床的に鑑別はむずかしい.病理にて基底膜を破る浸潤があり,SCCの診断であった.点眼治療は選択肢からなくなり,放射線治療を希望された.図4図3の症例の放射線治療後電子線60Gy照射にて腫瘍は消失した.図5MM球結膜の厚みがある黒色腫瘍.MMが疑われ手術を施行し,病理でも基底膜を越えておりMMと診断された.図6MM盛り上がりのあるものはMMが疑われ,基底膜をすでに破っているものが多い.1374あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(6)い.副作用が強いため,重度のドライアイやアトピー性皮膚炎の症例への適応は慎重に判断する.2.5?FU点眼5-FU(フルオロウラシル)は,ウラシルの代わりにDNAに取り込まれてDNA合成を阻害する抗腫瘍効果をもつ抗がん剤である.5-FU点眼治療方法は1%溶液を1日4回,4日間使用後,1カ月休薬を行い,これを1コースとして計6コース2),もしくは病変がなくなるまで行う方法,1%溶液1日4回を4週間連続点眼する方法などがある.5-FU点眼の濃度に関しては1%が標準と考えてよい.MMCとは異なる機序であるため,MMC点眼では効かなかった例で効果がみられたり,またその逆もある.てDNA複製を阻害することによる.MMCは粉末剤であるので注射用蒸留水に溶解し,0.04%溶液に調節して点眼剤とする.点眼方法はさまざまであるが,0.04%溶液を1日4回1週間連続使用してつぎの1週間は休薬,これを1コースとして計3コースを行う方法1)が一般的な使用法である(図7?9).また0.02%溶液の1日4回連続2週間を1コースとして,腫瘍の縮小具合をみて適宜追加投与する方法や,PAMやMMのアジュバント使用としては4週間連続で1コース行う方法も行われている.MMCは溶解後,残存力価は徐々に低下していくが,生理食塩水や5%ぶどう糖液よりも,蒸留水に溶解したほうが力価の低下が少ない.蒸留水溶解,室温での残存力価は,溶解後1日で93%,3日で87%,7日で83%,14日で73%まで下がる.このため使用直前に作製し,使用期間は最長で作製後2週間以内とし,それを越える場合にはその都度,新鮮な点眼を作製するのがよ図7OSSN打ち上げ花火様の血管の増生と一部に白板状変化(矢印)がみられる.図9MMC点眼治療後0.04%MMCの4回/日を1週間点眼および1週間の休薬を3コース施行後,病変は消退した.図8生検の病理所見腫瘍細胞は基底膜を越えていない.HE染色,対物10倍.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111375が7割を超え,角膜および強膜の菲薄化の副作用の可能性があること,またIFNa-2bは薬剤が高価で,さらに長期間の連続投与が必要という特徴を鑑みながら適応を決めていく.海外で5-FU点眼の報告が比較的多くみられるのは,MMCに比べて副作用頻度が少なく,あっても重篤ではなく,またコストが他の薬剤に比べて安価であるにもかかわらず,上述のように治療効果に大きな差がないためと推測される.V点眼治療上の注意点腫瘍に対する点眼使用時に注意すべき点については以下のとおりである.「たかが点眼,されど点眼」であり,眼科医の大きな武器である点眼治療を適切に提供し,治療を行っていきたい.1.プロトコールが不在治療プロトコールが存在しないので,点眼薬をどのように用いるかは最新の文献を調べて選択するしかないのが現状である.倫理委員会に提出する申請書には点眼回数や期間などに幅をもたせて記載しておくとよい.2.涙点プラグ装用について涙点プラグ装用は,点眼薬の滞留時間延長によるプラス効果を期待でき,また装用による合併症の発現に差はないとされており,筆者は用いているが,涙点および涙道にも腫瘍細胞が波及している可能性がある場合には,使用すべきではない.昨今,TS-1の内服などフルオロウラシルおよび類似薬剤の全身使用による涙道上皮障害および涙道硬化が取り上げられているが,5-FU点眼においてプラグを用いないことによる涙道障害はあまり観察されない.3.点眼開始の時期生検の範囲および深さにもよるが,生検後は上皮のない状態が通常1?3週間程度続く.上皮がまだ再生していない時期から点眼を開始すると,角膜および強膜に薬剤が直接浸み込むことになるので,特に抗がん剤点眼を用いる場合には,最も重大な合併症である眼球の菲薄化および穿孔を生じる可能性を鑑み,上皮の再生後から点3.インターフェロンインターフェロン(interferon:IFN)は体内で病原体や腫瘍細胞などの異物の侵入に反応して細胞が分泌するサイトカインの一種で,aは白血球から,bは線維芽細胞やマクロファージからおもに分泌され,ウイルス増殖阻止,細胞増殖の抑制などの働きがある.悪性腫瘍抑制目的にはIFNaとIFNbが用いられ,IFNaは抗FGF(線維芽細胞増殖因子)作用を介して血管新生抑制作用も有する.IFN製剤には,IFNa-2bとしてはイントロンAR(MSD社)および持続時間を増やしたペグイントロンR(MSD社)がある.後者は持続時間が延長されており投与間隔を伸ばせる利点があるが,前者に比べてやや効力は弱く,点眼剤としては前者を用いるのが一般的である.IFNbとしては,IFNモチダR(持田製薬)とフエロンR(東レ・第一三共)がある.IFNの点眼療法にはIFNa-2bが広く用いられており,100万国際単位(IU)/ml溶剤を1日4回,3カ月間点眼する方法3)が一般的な使用方法である.IFNa-2b点眼の濃度に関しては100万IU/mlが標準と考えてよい.IFNはサイトカインの一種であり,抗がん剤に比べると副作用が少ないという大きな利点があり,眼部不快感,羞明,充血,結膜炎などの軽症状が多い.使用により腫瘍が縮小するが今一つの場合には,さらなる3カ月もしくはそれ以上の使用が可能で,腫瘍がなくなるまで使用とする施設もあるが,綿密な診察は不可欠である.腫瘍の縮小がみられなくなったり,副作用が増悪する場合には使用を中止する.量は少ないが長期間の使用となるため,全身副作用防止を目的とした涙点プラグの併用が望ましく,また間質性肺炎には注意が必要で,その既往のあるものおよび小柴胡湯との併用は禁忌とするのが安全である.4.各薬剤の比較OSSNに対する点眼治療の効果の点では,奏効率はそれぞれ,MMCが88%,5-FUが87%,IFNa-2bが80%とされている4)が,同じ薬剤でも報告により使用方法が異なることが多く,参考にはなるが実際の臨床にそのまま当てはまるかは不明である.MMCは副作用発症率1376あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(8)おわりに点眼療法は,簡便に使用できる大きな利点がある一方で,報告によって濃度,治療・休薬期間,コース数などが異なること,薬剤効果比較試験が行われていないこと,報告によりどの程度腫瘍がすでに切除されているかのスタートラインが不明,症例報告では短期の優良な予後しか示されていないことが多いなど,課題も残されている.治療後,肉眼的に腫瘍が消失しても病理学的に残存が確認された例もあり,共通のプロトコールに基づく前向き試験による評価および治療ガイドラインの作成が望まれる.文献1)ShieldsCL,ShieldsJA:Tumorsoftheconjunctivaandcornea.SurvOphthalmol49:3-24,20042)敷島敬悟,三戸岡克哉,佐野雄太ほか:角結膜上皮内癌に対する5フルオロウラシルのパルス点眼療法の有効性.臨眼61:1001-1005,20073)FingerPT,SedeekRW,ChinKJ:Topicalinterferonalfainthetreatmentofconjunctivalmelanomaandprimaryacquiredmelanosiscomplex.AmJOphthalmol145:124-129,20084)PoothullilAM,ColbyKA:Topicalmedicaltherapiesforocularsurfacetumors.SeminOphthalmol21:161-169,2006眼治療を開始するのが安全である.実際には病理結果が出るまでに上皮化されていることが多い.4.病変部位による点眼時の工夫点眼は液体中の薬剤が組織に浸み込む作用によって病変部に薬剤が移行する.上眼瞼結膜や球結膜および角膜上方に病変がある場合には,起床位では効果が減弱するので点眼後しばらく仰臥位,無理ならチンアップでいること,また鼻側病変の場合には,健眼側に顔を傾けるまでの必要はないが,点眼後すぐに患側に顔を傾けない,などの配慮を伝える.5.コンプライアンス点眼治療を行ううえではどうしてもコンプライアンスという問題が残る.通常は外来通院であり,家で本当にきちんと点眼をしているのか?ちゃんと眼表面に入っているのか?などの疑問が残る.特に抗がん剤点眼の場合には,結膜炎,眼瞼縁炎などの副作用は誰でも嫌であり,しっかり治療を行う確固たる意思が本人にないと,使用停止や,回数の減少となる可能性がある.コンプライアンス向上を目的に点眼の指導,パンフレットの配布を行い,できれば実際に人工涙液などを用いて手技を指導する.適切に点眼ができないと予想される場合には,他の治療を考慮する必要がある.

序説:眼の腫瘍─最近の考え方─

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼内リンパ腫はぶどう膜炎との鑑別に苦慮し,診断が遅れがちな疾患である.また,多くは中枢神経系リンパ腫を併発し,生命予後不良な疾患である.眼内病変に対する治療はおもに放射線照射が行われてきたが,最近ではメソトレキサート(MTX)の硝子体腔内注射に加え,抗CD20抗体(リツキシマブ)の硝子体腔内注射の報告もみられる.しかし,いずれの治療法にも長所と欠点があり,いまだに決定的な方法とは言い難い面もある.肱岡邦明先生と吉川洋先生には,眼内リンパ腫の診断と治療について,現状をコンパクトに紹介していただいた.近年の網膜芽細胞腫に対する眼球温存療法の進歩は目覚ましい.かつては視機能の喪失とともに,患児と両親に多大な精神的な負担を与えてきた眼球摘出術を回避することが可能な症例が増えつつある.その背景には全身化学療法の進歩による腫瘍の縮小化と,引き続き行われる局所療法の進歩によるところが大きい.局所化学療法のなかでも抗がん剤(メルファラン)の選択的眼動脈注入療法はわが国で開発された治療法であるが,最近では欧米をはじめとする世界各国でその有用性が追認され,普及しつつある.鈴木茂伸先生には,網膜芽細胞腫に対する眼球温存療法の実際と予後について,最新の情報をまとめていただいた.眼腫瘍は決して日常的に経験される疾患ではないが,それだけにわれわれ眼科医にとっては対応に苦慮することの多い疾患でもある.眼腫瘍については,診断はもちろんのこと,特に悪性腫瘍の治療では飛躍的な進歩がみられる領域もあり,従来の教科書に記載されている内容は必ずしも標準的な治療法ではなくなりつつあることも事実である.そこで本特集では,各執筆者に眼腫瘍における最近の治療に対する考え方を中心に解説をお願いした.辻英貴先生には,眼表面に発生する悪性腫瘍に対して従来から行われてきたラジカルな外科的治療に代わる方法として,眼球や眼付属器の温存を目的とした局所化学療法について解説していただいた.すなわち,角結膜上皮の新生物ならびにメラノサイト由来の悪性腫瘍に対するマイトマイシンC,5-FU(フルオロウラシル),インターフェロンの各薬剤による点眼療法の適応や使用にあたっての注意点について,具体的かつ詳細に紹介していただいた.これらの治療法はいずれも本来の使用法とは異なる適応外使用となるため,法規上の問題が残されていることも事実であるが,その臨床的効果は明らかであり,今後はプロトコルの統一も含め,いかに普遍的な使用法として普及させていくかが課題であろう.(1)1369*HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室**TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野●序説あたらしい眼科28(10):1369?1370,2011眼の腫瘍─最近の考え方─OcularTumor─RecentConcepts─後藤浩*石橋達朗**1370あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(2)ぶどう膜悪性黒色腫に対する今日の治療は網膜芽細胞腫の場合と同様,眼球摘出術と眼球温存療法に大別される.後者には外科的治療法である局所切除術と,放射線療法があり,放射線療法のなかでもわが国では近年,主流となりつつあるのが重粒子線治療である.重粒子線治療は海外ならびにわが国でも行われてきた陽子線照射による治療成績を踏まえて新たに登場した治療法である.施行可能な施設に限りがあることと,現在は先進医療として行われているために高額な医療費がネックとなるが,悪性黒色腫に対する局所制御率は非常に高く,生命予後についても従来から行われてきた眼球摘出術と比較して遜色のないことが明らかとなってきている.溝田淳先生らには,この重粒子線によるぶどう膜悪性黒色腫の治療について,合併症などの問題も含めて解説していただいた.視神経腫瘍は眼腫瘍のなかでは頻度の高い疾患ではないが,その管理と治療は非常に厄介な問題を孕んでいる.特に若年者にみられる視神経膠腫は病理組織学的な悪性度は低いものの,治療の適応や実施時期の判断に最も悩まされる疾患の一つである.なぜならば,積極的な治療である腫瘍の外科的切除は視機能の喪失を意味し,治療の遅れは腫瘍の頭蓋内への進展や対側の視神経への影響を懸念しなければならないといった問題を抱えているからである.視神経腫瘍に対する放射線療法は腫瘍の増大を阻止しうる可能性のある治療法であるが,高次機能障害や二次癌の発症が問題となる.これらの問題を解決する可能性のあるカルボプラチンとビンクリスチンを中心とした化学療法の現状について,柳澤隆昭先生に解説していただいた.眼付属器リンパ増殖性疾患には,いわゆる特発性眼窩炎症(眼窩炎性偽腫瘍),反応性リンパ組織過形成,悪性リンパ腫など,さまざまな病態が含まれる.最近はIgG4関連疾患も眼窩における独立したclinicalentityとして位置付けられるようになってきている.画像診断によるこれらの疾患の鑑別は容易でなく,病理組織学的にもリンパ球の集簇としての共通した特徴を有し,従来の病理組織学的検索のみによる診断や鑑別は困難なことが少なくない.一方,採取されたリンパ球を中心とする細胞をフローサイトメトリーなどの手法で詳細に解析すると,個々の疾患には大きな差異がみられることがわかる.臼井嘉彦先生には眼付属器リンパ増殖性疾患の病態について包括的に解説していただいた.眼の腫瘍,特に悪性腫瘍は決して頻度の高い疾患ではないが,生命予後に関わることも少なくない.最新の情報を網羅していただいた本特集が,皆様の知識の整理に役立つことを願う.

3D映画鑑賞後,内斜視を発症した1例

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(141)1361《原著》あたらしい眼科28(9):1361?1363,2011cはじめに急性内斜視は突然複視を自覚し発症する共同性内斜視で,自然治癒も期待できるが,改善傾向がなければ手術が必要とされている1).鑑別すべき疾患としては,開散麻痺や開散不全,外転神経麻痺,最近では強度近視が原因と考えられる開散不全2)などがある.昨今の3D技術の進歩により,多方面でこの技術が用いられるようになってきているが,筆者らは,3D映画鑑賞後に発症した急性内斜視と考えられる症例を経験した.今までに赤緑眼鏡を使用して発症した急性内斜視の報告3)はあるが,液晶シャッターを利用した時分割方式の3D眼鏡を使用して発症したと考えられる急性内斜視の報告はなく,今回筆者らの経験を報告する.I症例患者:58歳,男性.主訴:複視.既往歴:糖尿病,高血圧.右眼は円錐角膜にて,本人は物心ついたときから弱視だったとのこと.左眼は2008年に他院にて白内障併用硝子体手術を施行.家族歴:特記すべき事項はなし.現病歴:2010年1月16日,3D映画を見ている途中から,見え方に違和感があり,その後,物が二重に見えるとのことで,発症から1週後の1月23日海老名メディカルプラザ受診.〔別刷請求先〕橋本篤文:〒252-0374相模原市南区北里1-15-1北里大学病院眼科Reprintrequests:AtsufumiHashimoto,CO.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara252-0374,JAPAN3D映画鑑賞後,内斜視を発症した1例橋本篤文*1,2矢野隆*1,3藤原和子*2相澤大輔*1,3石川均*4*1海老名メディカルプラザ*2北里大学病院眼科*3海老名総合病院*4北里大学医療衛生学部ACaseofEsotropiaafterWatching3DMovieAtsufumiHashimoto1,2),TakashiYano1,3),KazukoFujiwara2),DaisukeAizawa1,3)andHitoshiIshikawa4)1)MedicalPlazaofEbina,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversityHospital,3)GeneralHospitalofEbina,4)SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity3D映画鑑賞後に内斜視を発症した1例を報告する.症例は58歳,男性.3D映画鑑賞後,複視を自覚した.右眼は円錐角膜,左眼は人工水晶体眼であった.眼球運動は制限なく,斜視角は遠見8Δ(プリズムジオプトリー)の内斜視,近見4Δの間欠性内斜視であった.プリズム融像幅は遠見?4Δ?+16Δ,近見?14Δ?+2Δ,大型弱視鏡にて,融像幅は?4Δ?+4Δで立体視は確認されなかった.頭部CT(コンピュータ断層撮影)にて異常なく,経過観察後,寛解時の眼位に内斜もなかったため,急性内斜視TypeIIと考えた.両眼視機能の浅く不安定な症例で,暗所で長時間の両眼分離を行う3D映画鑑賞は,急性内斜視発症の誘因の一つと考慮する必要があると考えられた.さらに発達過程にある幼小児のみならず両眼視機能の不安定な成人が3D映画鑑賞をする際も,今後注意が必要であると考えられた.Wereportonthecaseofa58-year-oldmalewhodevelopedesotropiaafterwatchinga3Dmovie.HesubsequentlyvisitedMedicalPlazaofEbinafordiplopia.Hehadkeratoconusinthelefteyeandpseudophakiaintherighteye.Heshowednormaleyemovements,esotropiaatfarwith8prismdiopters(PD)andintermittentesotropiaatnearwith4PD.CT(computedtomography)scanshowednoabnormalfindings.TheseresultssuggestedthatthiswasacaseofacuteacquiredcomitantesotropiaTypeII.Watching3Dmovieswithbinocularseparationforaprolongedtimeinadarkplacecanbeacauseofacuteacquiredcomitantesotropiainpatients;notonlyyoungchildrenbutalsoadultwhosebinocularfunctionsareincompleteandinsecure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1361?1363,2011〕Keywords:急性内斜視,3D映像,両眼視機能,輻湊,調節.acuteacquiredcomitantesotropia,3Dmovie,binocularvisualfunction,convergence,accommodation.1362あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(142)初診時所見:右眼視力0.5p(0.6p×cyl?6.0DAx20°),左眼視力(0.6p×IOL)(0.7p×?0.25D(IOL).右眼の角膜形状に関して,Hartmann-Shack波面センサー(KR-9000PWTM,トプコン社製)で測定したところ,右眼の円錐角膜が疑われた(図1).眼底は両眼とも糖尿病網膜症による汎網膜光凝固斑を認めた.眼位はHirschberg法で正位?内斜視.眼球運動は正常で両眼外転制限は認めなかった.Alternateprismcovertest(以下,APCT)で遠見8Δ(プリズムジオプトリー)内斜視,近見4Δ間欠性内斜視であり,固視眼を変えても斜視角は変わらなかった.頭部CT(コンピュータ断層撮影)にて明らかな異常所見は認めなかった.眼位の変動に関しては図2に示す.発症から6週後の3月3日,APCTは遠見4Δ間欠性内斜視,近見0Δで眼位にやや改善を認めたが,まだ,暗いところで光源を見ると光源が二重に見えてしまうとのことであった.発症から13週後の4月20日,ほぼ症状が寛解し,輻湊近点(nearpointofconvergence)はtothenose.Titmusstereotests(以下,TST)にてfly(±),animal(0/3),circle(0/9).Circletestにて右眼に抑制がかかっていたため,中心窩抑制が存在するが,周辺融像は存在すると考えられた.APCTは遠見0Δ,近見4Δ外斜位であった.プリズム融像幅は遠見?4Δ?+16Δ,近見?14Δ?+2Δであった.大型弱視鏡にて,同時視の自覚的斜視角は+4Δ,融像幅は?4Δ?+4Δ,立体視は確認できず,他覚的斜視角は0Δであった.発症から31週後の8月25日,TSTにてfly(±),animal(0/3),circle(0/9),circleにて右眼に中心窩抑制がかかることは変わらず,APCTは遠見0Δ,近見10Δ外斜位であった.発症から47週後の12月15日の時点で,所見に大きな変化はなかったが,プリズム融像幅は遠見?3Δ?+8Δ,近見?14Δ?+14Δであり,輻湊幅が遠見はやや狭く,近見はやや広がっていた.症状は改善していたが,まれに,疲れているときなどは,暗所で遠くの光源が二重に見えるとのことであった.また,光干渉現象を用いた眼軸長測定装置(IOLMasterTM,Zeiss社製)にて眼軸長は右眼24.51mm,左眼23.94mmで,長眼軸は認められなかった.II考按急性内斜視は突然複視を自覚し発症する共同性内斜視で,自然治癒も期待できるが,改善傾向がなければ手術が必要とされている1).その分類はさまざまであるが,vonNoorden1)は3つのTypeに分類している(表1).また,鑑別すべき疾患として,開散麻痺や開散不全,外転神経麻痺,最近では強度近視が原因と考えられる開散不全2)などがあげられる.本症例は,遠見の内斜視角が近見の内斜視角に比べ大きかったが,寛解時の近見眼位は外斜であったため開散麻痺,開散不全は考えにくく,また,肉眼的には眼球運動に外転制限がなく,頭部に器質的異常がなかったため,両外転神経麻痺は否定的であった.眼軸長は右眼24.51mm,左眼23.94mmと長眼軸は認められなかったため,強度近視が原因と考えられる開散不全も否定された.複視発症の前に3D映画を鑑賞し,その途中から立体感はあったが見づらく違和感があり,3D眼鏡を掛けたり外したりしていた.その後,複視が生じたため,以上すべての所見を考慮し,急性内斜視と考えた.図1Hartmann?Shack波面センサーによる角膜所見右眼に円錐角膜を認めた.右眼:K1:50.25D,K2:61.25D,Axial:18°左眼:K1:43.25D,K2:43.75D,Axial:62°1週後(初診)6週後13週後31週後47週後20151050510内斜斜視角()外斜:遠見:近見Δ図2眼位の変動表1急性内斜視の分類(vonNoorden1))TypeI(Swantype):外傷や弱視治療による人工的な融像の遮断によるものTypeII(Burian-Franceschettitype):原因不明であるが,元々不十分な融像幅が精神的・身体的ストレスで緊張が失われた結果起こるものTypeIII:頭蓋内病変によるもの(143)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111363本症例は検査上TSTにてfly(±)が確認できたことと,本人より自覚的には3D映画鑑賞時に立体感があったとのことから,基礎に浅い立体視が存在すると考えられた.右眼は円錐角膜があり,もともと弱視であった点,また,左眼は人工水晶体眼であり,調節が働きにくい点が急性内斜視発症の要因として重要と思われる.ここで,急性内斜視の分類(表1)をみると,TypeIに関しては人工的な融像の遮断が発症原因となりうる.3D眼鏡の種類には,偏光フィルター方式と液晶シャッターを用いた時分割方式がある.本症例が使用したのは,液晶シャッターを用いた時分割方式の3D眼鏡であるが,融像成立過程は20Hz以上との報告5)がある.現時点の技術で20Hz以上はあり,意識下では遮断はされていないと考えられる.TypeIIに関しては,大型弱視鏡での融像幅が?4Δ?+4Δ,プリズム融像幅が遠見?4Δ?+16Δ,近見?14Δ?+2Δと不十分であった.また,精神的・身体的ストレスがあったかどうかは疑わしいが,暗所で長時間,3D眼鏡を装用し,3D映画を視聴すること自体,精神的・身体的ストレスであった可能性も否定できない.急性内斜視発症と3D映画との関係を考えると,本症例はTSTで右眼に抑制がかかり,中心窩抑制が存在するが,周辺融像は存在すると考えられ,また,融像幅は狭い.この弱い両眼視機能が基礎にあり,暗所で両眼分離を行う非日常視の条件が加わり,①調節性輻湊を補うために過剰な融像性輻湊が働いた,②映像を明視しようと過剰なインパルスが調節中枢とともに輻湊中枢にも与えられた6),③3D映画鑑賞時の同側性視差により奥の映像を見るときは不十分な開散が働き,その開散が自己の開散幅を越えたこと,または,手前の映像を見るときは近接性輻湊が働いた,という3つの原因を考えたが,いずれも推察の域を出ない.過去には,赤緑眼鏡装用にて立体映画を見て顕性になった内斜視の症例3)や,国民生活センターによせられた,60代女性が3D映画鑑賞後に数日間原因不明の上下複視が起こった例がある.最後に,今回筆者らは3D映画鑑賞後に発症した急性内斜視と考えられる症例を経験した.現時点で本症は,急性内斜視の分類からは,TypeIIに分類されると考えた.発達過程にある幼小児7)だけでなく成人でも両眼視機能の不十分な症例では,3D映像の視聴は注意が必要と考えた.文献1)vonNoordenGK,CamposEC:BinocularVisionandOcularMotility.6thed,p338-340,CVMosby,StLouis,20022)河本ひろ美,若倉雅登:強度近視が原因と考えられる開散不全.神眼25(増補1):60,20083)筑田昌一,村井保一:立体映画を見て顕性になった内斜視の一症例.日視会誌16:69-72,19884)vonNoordenGK,CamposEC:BinocularVisionandOcularMotility.6thed,p505-506,CVMosby,StLouis,20025)畑田豊彦:立体視機構と3次元ディスプレイ.日視会誌16:19-29,19886)高浜由梨子,帆足悠美子,髙木麻里子ほか:調節麻痺剤点眼後に見られた内斜視について.眼紀33:109-116,19827)不二門尚:3D映像と両眼視.日本の眼科81:8-12,2010***

糖尿病患者の糖尿病健康手帳およびデータシートの持参率:病識の向上と内科-眼科間連携

2011年9月30日 金曜日

1354(13あ4)たらしい眼科Vol.28,No.9,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(9):1354?1360,2011c糖尿病患者の糖尿病健康手帳およびデータシートの持参率:病識の向上と内科-眼科間連携小林博国立病院機構関門医療センター眼科DataNotebookSubmissionRateinDiabeticPatients:ImprovementofPatientConscientiousnessandCooperationbetweenInternistsandOphthalmologistsHiroshiKobayashiDepartmentofOphthalmology,KanmonMedicalCenterNationalHospitalOrganization目的:内科診療の内容を記載した糖尿病健康手帳(手帳)および採血検査結果表などのデータシート(データシート)を持参することが眼科診療に大切であることを説明し,それらの持参率を,患者の病識とその向上を検討する目的のために調査した.また,糖尿病健康手帳および採血検査結果表などのデータシート(データシート)の持参は,内科-眼科間診療連携の一助になると考えられた.方法:対象は,18カ月間に少なくとも3回以上受診する予定のある糖尿病患者373名(67.3±10.2歳,女性163名,男性210名)である.眼科への内科での治療内容の提供が眼科治療において不可欠であることを説明し,受診時に糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録物を持参してもらうように受診の度ごとに依頼した.受診時に記録を持参したか否かを調査した.結果:373名中337名(90.3%)が調査を完了した.登録時では121名(35.9%)が記録を持参した.6,12および18カ月後では76.4%,79.5%,81.4%の患者が記録を持参し,調査期間が長くなるほど持参率は有意に上昇した(p<0.0001).登録時,12および18カ月後では糖尿病専門医に受診している患者のうち54.7%,85.3%,87.2%の患者が持参したのに対して,非専門医に受診している患者では20.3%,74.6%,76.6%の患者が持参した.糖尿病専門医に受診している患者は,非専門医に受診している患者に比較して,いずれの時期においても,有意に高率に持参していた(登録時:p<0.0001;12カ月後:p=0.0050;18カ月後:p=0.0030).糖尿病専門医受診患者群および非専門医受診患者群ともに,糖尿病健康手帳を有している患者が有していない患者に比べて高率に持参した(糖尿病専門医受診患者群:p=0.0006;非専門医受診患者群:p<0.0001).結語:眼科への内科での治療内容の提供が眼科治療において不可欠であり,その記録を持参することが重要であることを説明した後は,記録を持参する率は著しく向上し,患者の病識も改善したと考えられた.糖尿病患者の病識の向上において眼科医の果たせる役割の余地は大きく,積極的に係わることが必要であると考えられた.Purpose:Improvementofpatientconscientiousnessandcooperationbetweeninternistsandophthalmologistshavebeenadvocated,topreventandcontrolretinopathyinpatientswithdiabetesmellitus.Theaimofthepresentstudywastoassesshowpatientssubmittedinformationtoophthalmologistsregardingthestatusoftheirdiabetes.Methods:Enrolledinthisstudywere373patientsscheduledforatleast3visitsduring18months.Thesurveymainlyconcernedhowtheysubmittedtheirdiabeticinformationtoophthalmologistsandwhethertheybroughtanotebookordatasheetinwhichtheyhadwrittentheirpersonaldiabetichistory.Results:Ofthe373patients,337(90.3%)completedfollow-up.Atbaseline,121patients(35.9%)broughttheirdiabeticdata.At6,12and18months,76.4%,79.5%and81.4%ofthepatientssubmittedtheirdata,respectively,thesubmissionrateincreasingsignificantlyovertime.Patientswhowerereferredtodiabetesspecialistsbroughttheirdatamorefrequentlythandidthosewhowerereferredtonon-specialists.Inbothcases,thepatientswithdiabetesdatanotebookssubmittedtheirdataatasignificantlyhigherratethandidthosewhohadnonotebooks.Conclusions:Anexplanationoftheimportanceofcooperationbetweeninternistsandophthalmologistsresultedinmarkedimprovementofpatients’〔別刷請求先〕小林博:〒752-8510下関市長府外浦町1-1国立病院機構関門医療センター眼科Reprintrequests:HiroshiKobayashiM.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KanmonMedicalCenterNationalHospitalOrganization,1-1Chofusotoura-cho,Shimonoseki752-8510,JAPAN(135)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111355はじめに糖尿病患者における大規模臨床研究で,網膜症の発症および進展には血糖コントロールが緊密に関与していることが報告されている1,2).糖尿病や緑内障などの無症候性の慢性疾患では,コンプライアンスが不良になることが知られており,それによって視機能が悪化することが報告されている3,4).網膜症の発症および進展を予防するためには,患者の病識を向上させる必要がある.内科-眼科の医療連携が重要であるとの認識のもとに,双方向性の情報提供が重要視され,糖尿病情報提供書の配付が提唱されている5,6).これを利用している比率が低いことが報告されており,それを補完するために,糖尿病健康手帳,糖尿病眼手帳を介しての情報の相互提供システムが開発されているが,利用率が低いのが現状である7~10).今回,内科診療の内容を記載した糖尿病健康手帳および採血検査結果表などのデータシート(データシート)を持参することが眼科診療に大切であることを患者に説明し,それらの持参率を,患者の病識を検討する目的のために調査した.また,糖尿病健康手帳およびデータシートの持参は,内科-眼科間診療連携の一助になると考えられた.I方法対象は,平成18年9月?19年3月に受診し,18カ月間に少なくとも3回以上経過観察が可能であると考えられる患者のうち,無作為に抽出した糖尿病患者373名を登録した.糖尿病の定義は糖尿病学会ガイドラインに拠った11).本研究に関しては,院内臨床研究委員会で承認を得た後,患者からは文書にてインフォームド・コンセントを得た.登録時に,対象患者に対してすべて,眼底カラー写真撮影および光干渉断層計検査を含む眼科的検査を施行した.光干渉断層計検査はOCT3000(Humphrey)のFastMacularThicknessProgramを用いて行い,中心窩の網膜厚は,中心1mmの平均網膜厚とした.登録時に,糖尿病の罹病期間,ヘモグロビン(Hb)A1C,現在通院している医療機関,投薬内容,あるいは透析の有無について調査した.投薬内容は薬剤手帳および薬局から支給されるデータシートを持参してもらい,確認した.煩雑になることを避けるために,内服,インスリン,インスリン+内服に分類した.医療機関が糖尿病専門施設であるかは,糖尿病学会ホームページで開示されている施設とした.内科医師から患者への糖尿病状況の説明のしかた,糖尿病健康手帳などの記録の保有あるいは持参の有無を調べた.糖尿病健康手帳などの記録を保有していない場合,採血検査結果表などのデータシートを受け取っているか否かを調査した.それを本院に持参しているかを確認した.糖尿病健康手帳などあるいは採血検査結果表などのデータシートの記録物を持参しない場合は,口頭で回答してもらった.糖尿病の重症度の分類は糖尿病眼手帳を登録時に同時に配布したため,福田分類に従った.経過観察:眼科への内科での治療内容の提供が眼科治療において不可欠であることを受診のたびごとにくり返して説明し,次回の診察時を診療の必要の程度に応じて予約し,その際に糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどをできる限り持参してもらうように依頼した.手術前後などで頻回に受診が必要な場合でも毎回持参してもらうようにしたが,今回の研究での記録を持参したか否かについては1カ月に1回とした.糖尿病健康手帳の配布も考慮したが,今回の研究の目的が内科の診療内容の記録物の持参に関する現状の把握であるため,配布は取りやめ,伝達方法は各医療施設に任せることとした.中止例・脱落例は,(1)死亡あるいは疾病のために受診できない場合,(2)予定された診察を許容できる範囲内で受けなかった場合とした.統計解析:コンプライアンスを評価する研究においては,標本のサイズが小さいほど,コンプライアンスが良好になることが知られており12),そのため,解析対象症例数を少なくとも200例とした.連続変数の検定には,両側Studentt-検定を用いた.分割表の検定には,c2検定,Fisher検定を用いた.p<0.05を統計上有意とした.登録時,6カ月後,12カ月後および最終受診時での糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録を持参したか否かに関する因子の解析については,これらを目的変数,年齢,性,糖尿病罹病期間,HbA1C,糖尿病のために受診している医療機関が糖尿病専門施設であるか否か,施設が病院か診療所であるか,透析の有無,服薬内容,糖尿病以外の全身疾患あるいは網膜症以外の眼疾患の有無,視力,眼圧,網膜症の程度,中心網膜厚を説明変数として,林のI類を用いて重回帰分析を施行した13,14).diabeticdatasubmission.Ophthalmologistsshouldplayamajorroleinsuchimprovementofconscientiousnessandcooperation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(9):1354?1360,2011〕Keywords:糖尿病,病識の向上,内科-眼科連携,糖尿病データ持参.diabetesmellitus,consciousnessimprovement,cooperationbetweeninternistsandophthalmologists,bringingpersonaldiabeticdata.1356あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(136)II結果373名の糖尿病患者を登録し,表1にその背景をまとめた.平均年齢は67.3±10.2歳であり,HbA1Cは7.3±1.9%,糖尿病罹病期間は15.2±9.9年であった.373名中337名(90.3%)の患者が予定通り調査を完了し,3回以上受診した.中止・脱落例は,転医5名,死亡3名,予約時に来院しなかった26名,長期に入院していた2名であった.糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録を持参した患者数の変化登録時において,糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録物を持参した患者は123名(32.9%)であった.調査期間18カ月間における平均受診回数は7.1±3.0回(平均受診間隔2.5±1.3カ月)であり,総受診回数2,412回中1,891回(78.4%)で記録を持参した.調査開始後1回目,2回目,3回目および9回目以降での受診時における記録の持参率は65.0%,71.8%,76.0%,89.5%であり,受診回数が増加するほど,持参率は有意に向上した(p<0.0001)(図1).6カ月後,12カ月後,18カ月後および最終診察時での持参率は,76.4%,79.5%,81.4%であり,時間経過とともに改善した(p<0.0001)(図2).どのような患者がこれらの記録を持参しているかについて調べるために多変量解析を施行した.その結果,登録時,6カ月後,12カ月後および最終診察時のいずれの時期においても,糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録の持参は,糖尿病専門医を受診しているか否かに有意に相関していた(表2).患者背景に関しては,糖尿病専門医受診患者群が有意に若年であった以外,その他の性,HbA1C,糖尿病罹病期間,投薬内容には,両群間に有意差がなく,矯正視力,網膜症,中心網膜厚でも差異がなかった(表3).登録時にお表1登録患者の背景患者数373名年齢(歳)67.3±10.2(18~87)性女性163名,男性210名HbA1C(%)7.3±1.9(4.8~13.1)不明79名糖尿病罹病期間(年)15.2±9.9(0.5~45)透析患者数19名(5.1%)処方内容内服のみインスリンのみインスリン+内服なし246名(66.0%)87名(23.3%)23名(6.2%)17名(4.6%)糖尿病専門医受診165名(44.2%)受診している専門医医療施設(診療所/病院)39(19/20)非専門医受診212名(56.8%)受診している非専門医医療施設(診療所/病院)72(48/24)受診回数7.1±3.0回(1?18回)糖尿病健康手帳保有持参221(59.2%)120(32.2%)採血検査結果などのデータシート保有持参94(25.2%)3(0.8%)糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録を持参123(32.9%)視力良好な眼不良な眼0.662(0.01~1.5)0.345(0.01~1.0)眼圧高い方の眼(mmHg)低い方の眼(mmHg)14.9±3.5(8~37)13.1±3.0(6~21)中心網膜厚厚い方の眼(μm)薄い方の眼(μm)296±124(140~857)237±86(105~750)網膜症の重症度右眼左眼A0A1A2A3A4A5B1B2B3B4B5不明110(29.5%)50(13.4%)12(3.2%)124(33.2%)14(3.8%)23(6.2%)1(0.3%)6(1.6%)4(1.1%)15(4.0%)7(1.9%)5(1.3%)115(39.8%)49(13.1%)12(3.2%)126(33.9%)18(4.8%)21(5.6%)1(0.3%)6(1.6%)5(1.3%)10(2.7%)9(2.4%)5(1.3%)全身合併症心筋梗塞/狭心症脳血管障害腎機能障害(透析を含む)呼吸器疾患神経学的異常58名(15.5%)5名(1.3%)27名(7.2%)2名(0.5%)3名(0.8%)眼合併症偽水晶体症視神経萎縮加齢黄斑変性開放隅角緑内障/高眼圧症閉塞隅角緑内障新生血管緑内障中心網膜静脈閉塞網膜静脈分枝閉塞網膜動脈分枝閉塞黄斑浮腫黄斑上膜硝子体手術105名(14.1%)6眼(0.8%)5眼(0.7%)42眼(5.6%)4眼(0.5%)15眼(2.0%)2眼(0.3%)15眼(2.0%)2眼(0.3%)212眼(28.4%)8眼(1.1%)42眼(5.6%)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111357いて糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録を持参した患者は,糖尿病専門医受診患者群では82名(54.7%),非専門医受診患者群では39名(20.9%)であり,両群間に有意差がみられた(p<0.0001).調査開始後1回目,2回目,3回目および9回目以降での記録の持参率は,糖尿病専門医受診患者群では75.3%,75.3%,83.3%,95.8%,非専門医受診患者群では56.7%,67.4%,70.1%,83.9%であり,両群ともに受診回数が増加すると持参率は有意に上昇した(両群ともp<0.0001)(表1).1~4回目では専門医受診患者群は有意に良好であった(p<0.05).6カ月後,12カ月後,18カ月後および最終診察時では,専門医受診患者群では81.6%,85.3%,87.2%,88.0%,非専門医受診患者群では72.0%,74.6%,76.6%,78.1%であり,両群とも時間経過とともに持参率は有意に改善した(両群ともにp<0.0001)(表2).いずれの時期においても,糖尿病専門受診患者群の持参率は非専門医受診患者群に比較して有意に高かった(6カ月後:p=0.0278,12カ月後:p=0.0133,18カ月後:p=0.0110,最終診察時:p=0.0171).糖尿病健康手帳を有している患者は,手帳を有していない患者に比較して有意に高率に持参した(全例:p<0.0001,糖尿病専門医受診患者群:p=0.0006,非専門医受診患者群:p<0.0001)(表4).III考按内科診療の内容を記載した糖尿病健康手帳および採血検査結果表などのデータシートを持参することが眼科診療に大切であることを説明することによって,それらの持参率は著しく改善され,患者の病識の向上に役立ったと考えられた.眼科医が働きかけをしない状況では,糖尿病患者において,糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録物でHbA1Cなどの診療内容が確認できたものは36%であった.患者が「眼科は眼科,内科は内科」と,両者を関連付けていないと思われた.患者に対して,治療にあたっては内科-眼科の連携が大切であることを説明して,病識を高めることが重要であると考えられた.眼科医が働きかけをしない状況では,患者が糖尿病専門医に受診している場合のほうが非専門医に受診している場合に比較して,糖尿病健康手帳あるいはデータ10090807060504030200123456789+記録の持参率回数:全例:糖尿病専門医受診患者群:非専門医受診患者群図1糖尿病健康手帳あるいは採血検査結果表などのデータシートなどの記録物の持参率の受診回数による変化全例は■と実線,糖尿病専門医受診患者群は□と破線,非専門医受診患者群は○と点線で示した.0369121518最終時期(月)受診時1009080706050403020記録の持参率:全例:糖尿病専門医受診患者群:非専門医受診患者群図2糖尿病健康手帳あるいは採血検査結果表などのデータシートなどの記録物の持参率の期間による変化受診患者数が50名以上の時期のみを示した.全例は■と実線,糖尿病専門医群は□と破線,非専門医群は○と点線で示した.表2登録時,6カ月後,12カ月後および最終受診時での糖尿病健康手帳あるいはデータシートを持参したか否かに関する因子の重回帰分析の結果症例数因子重相関係数rF値p値切片勾配登録時3370.35046.8490.00000.2090.3386カ月後305受診医療機関が糖尿病専門医であるか否か0.1174.2170.04090.7070.10112カ月後337受診医療機関が糖尿病専門医であるか否か0.1134.2710.03950.7550.91018カ月後310受診医療機関が糖尿病専門医であるか否か0.1194.4780.03510.7590.940最終337受診医療機関が糖尿病専門医であるか否か0.1447.0070.00850.7770.1091358あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(138)シートを有意に高率に持参した.糖尿病専門医のほうが,非専門医に比較して積極的に患者に働きかけて,患者の病識の向上および内科-眼科の連携を図ろうとしていることによると考えられた.しかし,専門医が勤務している医療機関に通院している患者のなかでも差異がみられた.当院眼科に通院している28名全員が糖尿病健康手帳および糖尿病眼手帳を持参してくる医療機関もあれば,別の医療機関ではデータを口頭で教えているのみであり,医療機関あるいは個々の医師の間に大きな温度差が感じられた.糖尿病健康手帳の保有率,持参率ともに,従来の報告に比較して有意に低かった5~9).今回の調査の以前は,患者に対して筆者らが内科-眼科間連携を働きかけず,糖尿病健康手帳あるいはデータシートなどの記録を持参してくるように依頼しなかったことに起因すると考えられた.筆者らが内科-眼科間の治療内容の交換が糖尿病網膜症の治療に必須であり,データが記載された記録を持参してくれるように患者に依頼した後は65%に上昇し,さらに説明をくり返すことによって約90%に改善した.眼科医の説明によって,患者の表3糖尿病専門医受診患者群および非専門医受診患者群の背景糖尿病専門医受診患者群非専門医受診患者群患者数150187年齢64.5±10.269.5±10.0<0.0001性男性87,女性63男性101,女性860.5HbA1C(%)7.4±1.87.1±1.40.1糖尿病罹病期間(年)15.4±9.515.1±10.10.8受診回数7.3±2.86.9±3.10.2透析7(4.6%)12(6.4%)0.5処方内容内服90(59.3%)130(69.5%)0.1インスリン44(29.3%)36(19.3%)内服+インスリン11(7.3%)10(5.3%)なし6(4.0%)11(5.9%)糖尿病手帳保有123(82.0%)86(46.0%)<0.0001持参80(53.3%)38(20.3%)<0.0001データシート持参18(12.0%)68(36.4%)<0.0001糖尿病手帳あるいはデータシート持参82(54.7%)39(20.9%)<0.0001視力良好な眼0.6830.6420.7不良な眼0.3560.3410.8眼圧高い方の眼15.3±3.914.6±3.50.1低い方の眼13.4±3.412.9±3.00.2中心網膜厚厚い方の眼282±123304±1240.1薄い方の眼227±88244±840.1網膜症の分類右眼左眼右眼左眼A035(23.3%)36(24.0%)58(31.0%)58(31.0%)0.1A123(15.3%)23(15.3%)20(10.7%)19(10.2%)A24(2.7%)4(2.7%)8(4.3%)7(3.7%)A347(31.3%)50(33.3%)72(38.5%)68(36.4%)A49(6.0%)10(6.7%)5(2.7%)6(3.2%)A511(7.3%)10(6.7%)10(5.3%)10(5.3%)B10(0.0%)0(0.0%)1(0.5%)1(0.5%)B23(2.0%)3(2.0%)4(2.1%)3(1.6%)B33(2.0%)4(2.7%)1(0.5%)1(0.5%)B48(5.3%)4(2.7%)4(2.1%)6(3.2%)B54(2.7%)4(2.7%)3(1.6%)5(2.7%)不明3(2.0%)2(1.3%)2(1.1%)3(1.6%)(139)あたらしい眼科Vol.28,No.9,20111359糖尿病および糖尿病網膜症に対する病識が向上したと考えられた.しかし,患者に説明して記録物を持参しても,つぎの機会には持参しないこともあり,継続してその重要性を説明する必要があると思われた.くり返して説明することによって,専門医受診患者群と非専門医受診患者群間の差が縮小したことを考えると,糖尿病患者の病識の向上において眼科医の果たせる役割の余地は大きく,積極的に係わることが必要であると思われた.緑内障点眼薬においても,患者が受診するたびごとに,医師がコンプライアンスに関する質問をして,コンプライアンスを重要視していることを示すことがコンプライアンスの改善に繋がることが報告されている13).本研究と並行して糖尿病眼手帳の持参についても調査したため,糖尿病網膜症の分類として糖尿病眼手帳に採用されている福田分類を用いた.本研究では,福田分類で通常の分布と異なっており,A3が最も多くなっていた.調査を施行した医療機関では,糖尿病専門医が勤務していなかったため,初期の網膜症が少なく,汎網膜光凝固などの処置を必要とする患者が多くなっていたためと考えられた.本研究の第一の問題点は,患者の手帳の提出は双方向であるべきであるのに対して,今回の研究が糖尿病健康手帳あるいはデータシートを眼科医に持参されるかを評価した単方向性であることである.そのため,患者が内科医に眼科での治療内容を記載されている糖尿病眼手帳を持参しているかについては,現在実施しており,終了した際には早急に報告する予定である.第二の問題点は,患者の受診回数が3~18回と広く分布しており,受診間の期間も1~6カ月とさまざまである.そのために,患者の意識も多様化していると考えられ,煩雑な結果となってしまったことである.第三の問題点としては,本研究が情報の伝達に関して施行されたものであり,伝達された情報をどのように活かしていくかが更なる課題になると考えられた.今回,眼科への内科での治療内容の提供が眼科治療において不可欠であり,その記録を持参することが重要であることを説明することで,記録を持参する率は,著しく向上した.糖尿病患者の病識の向上や内科-眼科間医療連携において眼科医の果たせる役割の余地は大きく,積極的に係わることが必要であると考えられた.本研究の一部は,第61回日本臨床眼科学会,第110回日本眼科学会総会で発表した.文献1)山下英俊,大橋靖雄,水野佐智子:網膜症経過観察プログラムに関する報告書.厚生科学研究21世紀型医療開拓推進研究事業「糖尿病における血管合併症の発症予防と進展抑制に関する研究(JDCS)」平成14年度総括・分担研究報告書,p16-33,20032)MiyazakiM,KuboM,KiyoharaYetal:ComparisonofdiagnosticmethodsfordiabetesmellitusbasedonprevalenceofretinopathyinaJapanesepopulation:HisayamaStudy.Diabetologia47:1411-1415,20043)DimatteoMR:Variationsinpatients’adherencetomedicalrecommendations:aquantitativereviewof50yearsofresearch.MedCare42:197-206,2004表4糖尿病専門医受診患者群および非専門医受診患者群における糖尿病健康手帳あるいは採血検査結果表などのデータシートの持参率糖尿病専門医受診患者群非専門医受診患者群p値計患者数150187337登録時糖尿病健康手帳保有123(82.0%)86(46.0%)<0.0001211(62.6%)持参80(53.3%)38(20.3%)<0.0001118(35.0%)採血検査結果表などのデータシート保有18(12.0%)68(36.4%)<0.000186(25.5%)持参2(1.3%)1(0.5%)0.93(0.9%)糖尿病健康手帳あるいは採血検査結果表などのデータシートを持参82(54.7%)39(20.9%)<0.0001121(35.9%)調査時全例での糖尿病健康手帳あるいは採血検査結果表などのデータシートを持参946/1,111(85.1%)945/1,302(72.6%)<0.00011,891/2,412(78.4%)登録時に糖尿病健康手帳を有している患者の手帳を持参787/900(87.4%)505/629(80.3%)0.00011,292/1,529(84.5%)糖尿病健康手帳を有していない患者が採血検査結果表などのデータシートを持参159/211(75.4%)440/672(65.5%)0.0063599/883(67.8%)1360あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(140)4)StewartWC:Factorsassociatedwithvisuallossinpatientswithadvancedglaucomatouschangesintheopticnervehead.AmJOphthalmol116:176-181,19935)山名泰生:糖尿病眼合併症対策の努力.チーム医療の重要性.眼科の立場から.日本糖尿眼学会雑誌3:43-46,19986)菅原岳史,金子能人:岩手合併症研究会のトライアル糖尿病網膜症教室におけるアンケート結果.眼紀55:197-201,20047)善本三和子,加藤聡,松元俊:糖尿病眼手帳についてのアンケート調査.眼紀55:275-280,20048)船津英陽,福田敏雅,宮川高一ほか:眼科医・内科医・コメディカルの連携を目指して糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20059)杉紀人,山上博子,斉藤由香ほか:糖尿病眼手帳による患者教育への有用性.臨眼58:329,200510)大野敦,植木彬夫,住友秀孝ほか:糖尿病網膜症の管理に関するアンケート調査眼科医と内科医の調査結果の比較.眼紀58:616-621,200711)日本糖尿病学会(編):糖尿病治療ガイドライン2010.南江堂,201012)SchwartzGF:Complianceandpersistencyinglaucomafollow-uptreatment.CurrOpinOphthalmol16:114-121,200513)柳井春夫,高木廣文編著:多変量解析ハンドブック.現代数学社,198614)奥野忠一,久米均,多賀敏郎ほか:多変量解析法(改訂版).日科技連,198115)SchwartzGF:Complianceandpersistencyinglaucomafollow-uptreatment.CurrOpinOphthalmol16:114-121,2005***