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写真:Intra Corneal Ring Segments(ICRS)挿入後上皮迷入

2012年10月31日 水曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦341.IntraCornealRingSegments脇舛耕一*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック(ICRS)挿入後上皮迷入*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学②①③図2図1のシェーマ①:上皮迷入,②:縫合糸,③:ICRS.図1ICRS挿入後上皮迷入(41歳,男性)ICRS挿入5日後に切開創に沿った上皮迷入を認めた.図3ICRS挿入後上皮迷入(図1と同一症例)ICRS周囲には特に異常所見を認めない.図4ICRS挿入後上皮迷入の治療経過(図1と同一症例)この症例では抗菌薬点眼のみにより図1から約2週間後にこの状態まで軽快を認めた.(43)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213590910-1810/12/\100/頁/JCOPY IntraCornealRingSegments(ICRS)はポリメチルメタクリレート(PMMA)製のリング形状の素材であり,角膜実質内に挿入することで突出した状態の角膜形状を扁平化させ正常眼に近づける効果をもつ.おもにレーザー屈折矯正手術が施行できない円錐角膜(疑い症例を含む)やlaserinsitukeratomileusis(LASIK)後のケラテクタジアに対して施行され,術後視機能の改善が得られている1,2).ICRS挿入のための角膜実質内トンネルの作製は,以前はブレードによるマニュアル法であったが,現在はフェムトセカンドレーザーを用いた切開が主流となっている.マニュアル法では正確なトンネル作製の困難さから角膜穿孔などの合併症頻度が少なくなかった3)が,フェムトセカンドレーザーにより精度の高いトンネル作製が可能となり,安全性が向上し,合併症の発症頻度も減少した.現在の代表的なICRS術後合併症としては,ICRS脱出4)や感染症5),ICRS周囲角膜実質への脂肪沈着6),角膜内皮機能不全1)のほか,トンネル切開部における上皮迷入が報告されている7).上皮迷入は手術や外傷により生じた角膜表面から実質へつながる創を通じて上皮細胞が実質内へ入り込む病態であり,検鏡的には創間に沿って迷入した上皮細胞の集蔟による混濁病変を認める(図1).上皮迷入をきたす代表例としては,LASIK後のフラップ間への迷入がある8)が,そのほかDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)における層間ドレナージのための実質穿刺創からの迷入が報告されている9).ICRS挿入眼における上皮迷入のリスクファクターとして,手術時の操作および術後の強い瞬目,eyerubbingなどによる切開部の実質損傷や創離開がある.このリスクファクターを軽減させる対策として,ICRS挿入時に切開部の縫合と,術終了時からのソフトコンタクトレンズ装用を行うことが重要である.当院ではICRS脱出予防も含めソフトコンタクトレンズ装用は術後1週間まで行い,縫合抜糸は術後3カ月まで行わないようにしている.このような対策を行っていれば上皮迷入の発症はきわめてまれであり,当院でも上皮迷入を認めたものは本症例のみであった.文献1)HaddadW,FadlallahA,DiraniAetal:Comparisonof2typesofintrastromalcornealringsegmentsforkeratoconus.JCataractRefractSurg38:1214-1221,20122)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkeratoconuswithintacscornealringsegments.JRefractSurg21:236-246,20053)KanellopoulosAJ,PeLH,PerryHDetal:Modifiedintracornealringsegmentimplantations(INTACS)forthemanagementofmoderatetoadvancedkeratoconus:efficacyandcomplications.Cornea25:29-33,20064)FerrerC,AlioJL,MontanesAUetal:Causesofintrastromalcornealringsegmentexplantation:clinicopathologiccorrelationanalysis.JCataractRefractSurg36:970977,20105)Ibanez-AlperteJ,Perez-GarciaD,CristobalJAetal:KeratitisafterImplantationofIntrastromalCornealRingswithSpontaneousExtrusionoftheSegment.CaseReportOphthalmol1:42-46,20106)RuckhoferJ,TwaMD,SchanzlinDJ:Clinicalcharacteristicsoflamellarchanneldepositsafterimplantationofintacs.JCataractRefractSurg26:1473-1479,20007)ErtanA,KamburogluG,BahadirM:Intacsinsertionwiththefemtosecondlaserforthemanagementofkeratoconus:one-yearresults.JCataractRefractSurg32:20392042,20068)HenryCR,CantoAP,GalorAetal:EpithelialingrowthafterLASIK:clinicalcharacteristics,riskfactors,andvisualoutcomesinpatientsrequiringflaplift.JRefractSurg28:488-492,20129)BansalR,RamasubramanianA,DasPetal:Intracornealepithelialingrowthafterdescemetstrippingendothelialkeratoplastyandstromalpuncture.Cornea28:334-337,20091360あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(00)

外科手術の適応とタイミング・実際の手技

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1353.1357,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1353.1357,2012外科手術の適応とタイミング・実際の手技TimingandProcedureofSurgicalInterventionforSteroid-RecalcitrantUveitis丸山和一*はじめにステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎には種々の原疾患がある.特に臨床的に問題となるのは,感染症や悪性リンパ腫のような疾患である.感染症(特に遅発性眼内炎・真菌性眼内炎の場合)や悪性リンパ腫でも一時的にステロイド薬に反応し所見が改善するため,日々の臨床において診断が遅れ重症化することがある.筆者らは,ぶどう膜炎の急性期に手術を施行することは問題ではなく,重要なのは,ぶどう膜炎の種類・術中に採取したサンプルの解析・術後の炎症コントロールであることを報告してきた.ぶどう膜炎における手術には,慢性炎症・ウイルス・細菌・真菌感染による眼組織障害を少しでも緩和し,失明を回避するために施行する治療的硝子体手術と,悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患を眼局所にて早期に発見し,眼外の病態把握を可能にする診断的硝子体手術がある.この両者は適切なタイミングで施行する必要があり,ステロイド薬投与により実際の臨床病態がマスクされている可能性が高いため,手術にて採取した種々の眼内液・組織サンプルの解析は必須であると考える.I感染性眼内炎感染性眼内炎には細菌性・真菌性・ウイルス性眼内炎などが含まれる.ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎と診断される感染性ぶどう膜炎には,細菌性の遅発性眼内炎や真菌性眼内炎が臨床的に散見される.両疾患ともに問診により推測可能であることが多く,遅発性眼内炎の場合は発症前に眼内手術既往があり,ときには非感染性ぶどう膜炎であるサルコイドーシス内眼炎と診断され治療されることがある.また,真菌性眼内炎の場合は,中心静脈栄養のカテーテル留置や免疫不全状態が発症前に認められることが多い.両疾患ともに肉芽腫性ぶどう膜炎であり,豚脂様角膜後面沈着物が認められ,眼内レンズにも沈着物が認められることが多い.硝子体内には両疾患ともに硝子体混濁を認めるが,特に真菌性眼内炎の場合は硝子体混濁が強く,一つの混濁が大きいfluffball様硝子体混濁や,網膜下感染巣を認めることがある.真菌性眼内炎は進行すると硝子体混濁が強いため眼底観察が不能となり,病態が進行することがしばしばある.このため真菌性眼内炎を疑ったときはすぐに硝子体手術を施行するべきである.1.遅発性眼内炎急性の眼内炎と異なり,診断が困難なものとして遅発性(術後晩期)眼内炎があり,臨床所見が類似しているため,しばしばぶどう膜炎と診断されることがある.白内障手術後晩期眼内炎では,嫌気性菌であるPropionibacteriumacnes(P.acnes)が眼内炎症例の約45%に検出されている1).P.acnesによる眼内炎は,手術後平均4カ月くらいの発症が多く,虹彩毛様体炎様所見で発症し,軽度の前房炎症と軽度の角膜後面沈着物を認める(図1,2).しか*KazuichiMaruyama:東北大学大学院医学系研究科・神経感覚器病態学講座・眼科学分野〔別刷請求先〕丸山和一:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科・神経感覚器病態学講座・眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(37)1353 図1遅発性眼内炎眼内レンズに多くの沈着物が認められる.し,ときには前房蓄膿や高度の豚脂様角膜後面沈着物を伴うことがある.肉芽腫性ぶどう膜炎の形態をとり,サルコイドーシス内眼炎におけるぶどう膜炎所見に類似する.実際以前にサルコイドーシス内眼炎における硝子体液よりPropionibacteriumがPCR(polymerasechainreaction)により検出されている.さらに筆者らもサルコイドーシス内眼炎と考えられる網膜サンプルからP.acnesDNAを検出しているため,Propionibacterium属がサルコイドーシス内眼炎に関与している可能性も否定できない.診断は前房水や硝子体液の培養・塗抹検査であるが,嫌気性菌であるP.acnesを培養し同定することは時間がかかり約1週間の猶予が必要である.そのため,近年はPCR法により菌を迅速診断する方法を用いることが多い.治療は,セフェム系・ペニシリン系・フルオロキノロン系などの抗菌薬とステロイド薬点眼を用いる.それでも反応が乏しい場合は手術治療に踏み切り,原疾患を把握することに努める.硝子体手術時は遅発性眼内炎の場合は水晶体.に問題があることが多いため,水晶体.を摘出する.硝子体手術時は細菌性眼内炎の硝子体手術治療に準ずるため,灌流液にはバンコマイシン+モダシンを投与しておく.硝子体手術後はぶどう膜炎と同様にステロイド薬を点眼し,消炎に努めることをすすめる.図2遅発性眼内炎角膜後面沈着物(豚脂様).2.真菌性眼内炎真菌性眼内炎には,穿孔性眼外傷や眼内手術によって起こる外因性のものと,免疫不全状態や中心静脈栄養によって他組織で感染し,血流にて眼内(特に脈絡膜)に播種する内因性のものがある.特に内因性眼内炎は,現代の医療,たとえば高カロリー中心静脈栄養(IVH)や臓器移植後・ステロイド薬投与・血液悪性の治療などが進歩するにつれて増加傾向にあると考えられている.特にIVHが本疾患の原因の約90%であるため,挿入している患者は注意が必要である2).臨床経過は亜急性または慢性に進行し,通常両眼性である.飛蚊症などを訴えて発見されることがある.病変は眼底後極部に多く,硝子体混濁を呈することが多い.進行すると特徴的な硝子体混濁であり黄白色で毛玉様(fluffball)を呈する(図3,4).初期に他のぶどう膜炎と診断しステロイド薬などで治療を続けると,真菌はさらに増殖し,硝子体内膿瘍になり網膜病巣が進展して滲出性網膜.離を呈する.治療は,真菌に対して有効な薬剤が開発されているので,網膜滲出斑のみの病態のときは薬物療法を選択する.しかし,薬物治療の効果がないときはもちろんであるが,治療前でも硝子体混濁を呈するときは,京都府立医科大学(以下,当施設)では全身状態のことも考慮しながら外科的治療と同時に局所抗真菌薬投与を優先的に選択する.硝子体手術の目的は,病巣の除去と薬剤眼内移行の向上と起炎菌の採取である.1354あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(38) 図3真菌性眼内炎硝子体内に塊状の混濁がある.図4真菌性眼内炎前部硝子体内に大きな塊状(一部毛羽たっている).II眼内悪性リンパ腫眼内悪性リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOL)は硝子体混濁や網膜浸潤病巣を惹起しぶどう膜炎のような炎症性疾患の様相を呈する.急性期には炎症性サイトカインが硝子体内に上昇し炎症反応を惹起し,炎症性サイトカインとともに炎症細胞も増加するために,一時的にステロイド薬治療が効果的となる.しかし,すぐに硝子体混濁が再発し,臨床的にはステロイド薬治療に抵抗する硝子体混濁として認識されている.前眼部の炎症は軽度で,硝子体混濁は感染性(細菌性・真菌性などの)眼内炎などのように,塊を呈さずに多くの小型細胞を含むオーロラ状(カーテン状)である(39)図5悪性リンパ腫ベール状の硝子体混濁.図6悪性リンパ腫黄白色の網膜下隆起性病変.(図5).サルコイドーシス内眼炎や急性網膜壊死のような硝子体混濁(雪玉様混濁など)とは違い硝子体混濁の形態からPIOLが推測できることがある.網膜病変は網膜下/Bruch膜上に腫瘍細胞が浸潤し,黄白色の斑状または小さな顆粒状の病変を呈しさまざまである(図6)が,蛍光眼底造影検査を施行すると特徴的な顆粒状の低蛍光所見が認められ診断の補助となる(図7)3).PIOLあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121355 図7悪性リンパ腫網膜全体に顆粒状の低蛍光所見(病変が存在した部位).と判断したときは早急に確定診断する必要がある.そのためには硝子体生検を施行し種々の検査が必要となる.以下に当施設(共同研究先として東京医科歯科大学)で施行している検査を示す.1.眼内液を使用した検査1)細胞診:classIV以上(IIIでは臨床像と合わせて診断する)2)硝子体液サイトカイン:インターロイキン(IL)10/IL-6比>1が原則である3)遺伝子検査:サザンブロットもしくはPCRによる免疫グロブリン遺伝子,遺伝子再構成4)フローサイトメトリー:B細胞やT細胞に偏ったリンパ球様細胞(lightchainrestriction(LCR):k/l陽性細胞の分画解離)2.PIOLと判断された場合1)頭蓋内造影(magneticresonanceimaging:MRI)2)髄液検査(細胞診・サイトカイン測定)3)全身造影(computedtomography:CT)4)Positronemissiontomography(PET)5)骨髄検査1356あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012治療は,硝子体手術で悪性リンパ腫を治療することはできないため,基本的に全身化学療法と放射線治療である.なかでもmethotrexate(MTX)大量療法が標準治療となっている.当施設では全身管理の必要性から,PIOLと診断されたら血液免疫内科にて施行していただいている(京都府立医科大学倫理委員会承認済み).局所(硝子体内)MTX投与は,大量投与が困難な合併症をもつ場合や,すでに全身投与が行われていて局所に再発した場合に施行する.眼内悪性リンパ腫は,生命予後に関する疾患であるため,早期診断・早期治療を目標とする.このためぶどう膜炎様所見を呈し,ステロイド薬治療に抵抗する疾患は早急に除外診断のためにも専門医の診察を受ける必要がある.III硝子体生検の手技1.機器のセットアップ硝子体カッターのラインは完全にドライにしておく.この理由は,テストなどを施行するとラインに水が回ってしまい,採取時の硝子体が薄まってしまうため,正確なサイトカインが測定できないからである.最近の機器ではテストをしないと硝子体カッター自体が作動しないものがあるため,ラインの途中に三方活栓をつけ,そこから清潔airを50mlシリンジで逆流させ,なるべくドライな状態に仕上げておく.2.採取時の方法・条件硝子体手術時に準じて,眼洗浄・ドレーピング後に硝子体手術用の3ポートを作製する.ポート作製後眼球圧迫鈎を使用し圧迫しながら,直視下で切除を開始する.採取時の吸引は,硝子体カッターの吸引ライン上に三方活栓をつけ,5mlのシリンジをつけておき,助手がマニュアルで吸引を行う.初回のサンプル採取のカットレートは500cpmに設定しておく.約1.2mlの硝子体採取後,灌流ポートを開け眼圧を元に戻す.採取したサンプルは,すぐに清潔操作下で細胞診・サイトカイン測定・遺伝子再構成用に分け,サイトカイン測定と遺伝子再構成用サンプルは液体窒素にて急速冷凍する.水晶体再建術後,3ポート目を作製して,再度硝子体生検を施(40) 行する.このときの硝子体切除はなるべく硝子体混濁部を狙い約8ml以上を採取する.吸引は初回採取と同様に助手がマニュアルで吸引を行う.フローサイトメトリー用サンプル採取の硝子体カッターのカットレートであるが,筆者らは2,000cpm以上(5,000cpmでも)でも問題ないことを確認しており,通常の硝子体手術操作でも問題はない4).1)1度目の硝子体生検(cutrate:500cpm,吸引:マニュアル)2)水晶体再建術3)2度目の硝子体生検(cutrate:2,000cpm,吸引:マニュアル)おわりに近年硝子体手術機器や顕微鏡システムが発達し,以前よりは安全に硝子体手術が行えるようになった.しかし,今回述べた疾患のような診断困難例やPIOLのように診断が生命予後にまで関与する症例でステロイド薬の効果がない場合は,早急にぶどう膜炎を専門とした眼科医にコンサルトするべきである.当施設ではぶどう膜炎疾患の多くの疾患で網膜硝子体手術を必要とすることがあるため,網膜硝子体サージカルグループとぶどう膜炎グループが協力して(網脈絡膜炎グループを確立)治療に専念することとしている.文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起炎菌─Propionibacteriumacnesを主として─.あたらしい眼科20:657-660,20032)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─1987.1993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,19953)米田一仁,西浦正敏,多田玲ほか:広範囲の網膜下色素沈着を来した中枢神経系原発眼内悪性リンパ腫の1例.眼紀56:59-63,20054)NagataK,MaruyamaK:Simultaneousanalysisofmultiplecytokinesinthevitreousofpatientswithsarcoiduveitis.InvesOphthalmolVisSci53:3827-3833,2012(41)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121357

小児ぶどう膜炎

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1347.1351,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1347.1351,2012小児ぶどう膜炎UveitisinChildhood中井慶*はじめに小児のぶどう膜炎は,サルコイドーシス,若年性特発性関節炎(JIA),間質性腎炎ぶどう膜炎(TINU)症候群などが多い.本稿では,JIAとTINU症候群を中心に解説する.これらの疾患には,治療として,経口ステロイド薬が用いられるが,小児へのステロイド薬の副作用の観点から,経口ステロイド薬による長期コントロールがむずかしい場合,メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用する場合もある.最近では生物学的製剤も使用されるようになってきている.I若年性特発性関節炎(JIA:juvenileidiopathicarthritis)若年性特発性関節炎は,16歳未満の小児期に発症する原因不明の慢性関節炎と定義されており,慢性の炎症疾患で関節と結合組織に障害をもたらす.小児期の慢性関節炎で最も頻度の高い疾患である.以前は,若年性関節リウマチ(JRA)とよばれた.臨床的には全身型,関節型,症候性関節炎に分類される.従来の若年性関節リウマチは,小児期の慢性関節炎を網羅的に表現する診断名であると同時に,特発性慢性関節炎として一つの疾患単位でもあったため,世界保健機構(WHO)が中心となって診断基準分類を統一,小児期の特発性関節炎を若年性特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis)と定義するようになった.本疾患は,まず関節型と全身型に大別され,関節型はさらに少関節型,少関節進展型,多関節型に細分される1).血清学的には,少関節型は抗核抗体陽性者が,多関節型はリウマトイド因子(RF)陽性者が多いとされ,ヒト白血球抗原(humanleukocyteantigen:HLA)では,少関節型はHLA-DR4と,多関節型はHLA-DR9と相関するとされている.多関節型患者は成人の関節リウマチへ移行することも多い.1.眼症状軽-中程度の炎症症例が多い.その場合,小-中型の角膜後面沈着物を認める.眼内炎症は潜行性,無症候性に発症する場合が多いため,進行した白内障による視力低下や,患児の角膜上の帯状角膜変性症による白斑に気づいて初めて見つかる場合も多い.このような特徴から,“white-uveitis”とよばれる.急性増悪期には内皮面全面に細胞付着を認めるが,前房蓄膿はなく,長期経過観察例で虹彩後癒着を認めるものがある.早期の少関節型で,抗核抗体(ANA)陽性,さらにHLA-DR5保有者ではぶどう膜炎の発症の危険性が高く約20%に認められる.慢性虹彩毛様体炎の重症例(図1)では,視力障害や失明を起こすこともある.経過観察中に,長期にわたるぶどう膜炎とステロイド薬の使用により白内障や緑内障をきたす場合も多く,眼底病変はまれであるが,視神経乳頭炎,網膜血管炎,黄斑部浮腫を認める場合もある.膠原病,リウマチ疾患はしばしば眼症状を呈する.JIAに伴うぶどう膜炎は,全身疾患に合併する小児の内眼炎のなかでは代表的な一つである.しかし,全身的に*KeiNakai:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室〔別刷請求先〕中井慶:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(31)1347 baba図1JIA患者の重症例前眼部非肉芽腫性ぶどう膜炎(a,b)前房蓄膿を認める(a).インフリキシマブにてコントロールがつかず,現在はエタネルセプトにて良好.はJIAの診断基準を満たさないが,眼所見はきわめて類似した小児の原因不明の慢性虹彩毛様体炎も多い.1966年提唱された“choroniciridocyclitisinyounggirls”は,眼臨床症状がJIAに伴うぶどう膜炎に類似しているが全身症状からはJIAと診断されないものを指し,今日ではJIAに伴う内眼炎の不全型という疾患と考えられている.日本人より白人に多い.ぶどう膜炎を有する症例の80%は抗核抗体が陽性であり,施行すべき検査である.RFの陽性率は低い.2.臨床病型別の眼症状a.少関節型女児の発症率は男児の5倍で2歳前後に発症することが多い.関節症状は膝に最も多い.後に関節症状が進行1348あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012表1若年性特発性関節炎の診断・分類基準(ILARによる2次改訂,2001年)1.全身型関節炎2週間以上続く弛張熱を伴い,つぎの項目の1つ以上の症候を伴う関節炎1)一過性の紅斑2)全身のリンパ節腫脹3)肝腫大または脾腫大4)漿膜炎2.少関節炎発症6カ月以内に1.4カ所の関節に限局する関節炎つぎの2型がある(a)持続型:全経過を通して4関節以下の関節炎(b)進展型:発症6カ月以降に5関節以上に関節炎3.多関節炎(リウマトイド因子陰性)発症6カ月以内に5カ所以上に関節炎が及ぶ型で,リウマトイド因子が陰性4.多関節炎(リウマトイド因子陽性)発症6カ月以内に5カ所以上に関節炎が及ぶ型で,リウマトイド因子が3カ月以上の間隔で測定して2回以上陽性5.乾癬関連関節症(以下のいずれか)1)乾癬を伴った関節炎2)少なくともつぎの2項目以上を伴う例(a)指関節炎(b)爪の変形(c)一親等の乾癬患者6.付着部炎関連関節炎(以下のいずれか)1)関節炎と付着部炎2)関節炎または付着部炎で,少なくとも以下の2項目以上を伴う例(a)仙腸関節の圧痛または炎症性の脊椎の疼痛(b)HLA-B27陽性(c)一親等に強直性脊椎炎,腱付着部炎関連関節炎,炎症性腸疾患に伴う仙腸関節炎,Reiter症候群,急性前部ぶどう膜炎の家族歴(d)急性前部ぶどう膜炎(e)6歳以上で関節炎を発症した男児7.分類不能関節炎上記の分類基準を満たさないあるいは2つ以上の分類基準を満たすもの.ILAR:InstituteofLaboratoryAnimalResources.して多関節型に進行することがある.約75%の患者がANA抗体陽性である.この臨床病型が最も眼症状を合併することが多く,約20%にぶどう膜炎を合併する.b.多関節型女児の発症率は男児の3倍で,小児のどの時期にも発症しうる.5つ以上の関節に病変を生じる.全身症状は軽度もしくはまったくない.約40%の患者がANA抗(32) 体陽性である.ぶどう膜炎を約5%に合併する.c.全身型女児と男児の発症率は同率で小児のどの時期にも発症しうる.全身症状として高い弛張熱,一過性の斑状丘疹,全身リンパ節腫脹,肝脾腫大が出現する.初期には,関節症または関節炎はないかきわめて軽度で,ごくまれに進行性多関節炎が発症する.通常ぶどう膜炎は発症しない.3.診断全身の関節を詳細に観察して炎症関節の部位と数を確定する.血算,赤沈,抗核抗体,C反応性蛋白(CRP)RF,HLAタイプ,血清免疫電気泳動,滑液分析,関節(,)のX線撮影,胸部X線撮影,心電図,眼の細隙灯顕微鏡検査などにより炎症の程度や病型分類,持続期間を推定する.診断基準は表1に示す2).4.治療全身症状に対する内服薬として,アスピリン,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),抗リウマチ薬,免疫抑制薬,ステロイド薬などを用いる,眼症状に対して,ステロイド薬点眼と散瞳薬による瞳孔管理が必要である.重症例には,経口ステロイド薬の内服が行われるが,減量に伴う漸減時に再発をきたすことも多く,離脱がむずかしい.ただ,小児へのステロイド薬の副作用の観点から,経口ステロイド薬による長期コントロールがむずかしい場合,メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用する場合もある.最近では,サイトカインが発症や増悪に関与するとされており,2006年に抗TNF(腫瘍壊死因子)-a製剤アダリムマブの有効性および安全性が米国リウマチ学会で報告されて以降,2008年に抗IL(インターロイキン)-6抗体であるトシリズマブ,2009年にTNF-a受容体結合阻害薬エタネルセプトが保険適用となった.II尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群〔TINU症候群(tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome)〕特発性の急性尿細管間質性腎炎にぶどう膜炎を合併し(33)た疾患を,間質性腎炎・ぶどう膜炎症候群とよぶ.1975年にDobrinらによって急性好酸球間質性腎炎に前部ぶどう膜炎と骨髄肉芽腫を伴った2症例が初めて報告された3).いずれの年齢および性においてもみられるが,表2尿細管間質性腎炎・ぶどう膜炎(TINU)症候群の診断基準TINU症候群の診断には急性間質性腎炎(acuteinterstitialnephritis:AIN)とぶどう膜炎の両方がみられ,腎炎やぶどう膜炎を伴う他の全身疾患がないことが必要.以下に示したAIN診断基準とぶどう膜炎診断基準に基づき,症例はさらに“definite”,“probable”,“possible”に分類される.DefiniteTINU症候群・病理組織学的もしくは臨床的診断基準(completecriteria)を満たしたAINと,典型的ぶどう膜炎ProbableTINU症候群・病理組織学的診断されたAINと非典型的ぶどう膜炎・臨床的診断基準(incompletecriteria)を満たしたAINとtypicalぶどう膜炎PossibleTINU症候群・臨床的診断基準(incompletecriteria)を満たしたAINとatypicalぶどう膜炎AINの診断基準・病理組織学的診断:腎生検で尿細管間質性腎炎がみられる・臨床的診断:以下の診断基準を満たすもの3項目を満たすものをcompletecriteria3項目未満のものをincompletecriteria1.腎機能異常(血清クレアチニンの上昇かクレアチニン・クリアランスの低下)2.尿検査異常:b2MGの増加,軽度の蛋白尿,好酸球尿,感染のない濃性尿や血尿,白血球円柱,正常血糖の糖尿3.以下の症状や検査所見を伴った2週間以上持続する全身の病的状態a.症状:発熱,体重減少,食欲不振,倦怠感,易疲労,発疹,腹痛や側腹痛,関節痛,筋肉痛b.検査所見:貧血,肝機能障害,好酸球増多症,血沈40mm/hr以上ぶどう膜炎の特徴・Typical1.両眼性の前部ぶどう膜炎(中間部あるいは後部ぶどう膜炎の有無は問わない)2.AIN発症の2カ月前から12カ月後の間にぶどう膜炎を発症・Atypical1.片眼の前部ぶどう膜炎,中間部ぶどう膜炎,後部ぶどう膜炎,あるいはこれらが混在2.AIN発症の2カ月以前あるいは12カ月以降にぶどう膜炎を発症(文献4より)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121349 babacd図2TINU症候群患者のぶどう膜炎結膜,毛様充血はない(a)が,前眼部肉芽腫性炎症を認める(b,c)(whiteuveitis).蛍光眼底造影検査にて視神経乳頭からの過蛍光を認める(d).平均年齢15歳,男女比は1:3,若い女性に多い傾向がある.ぶどう膜炎発症が間質性腎炎の診断よりも先行(20%),同時(15%),後発(65%)と,多くは腎炎発症後の2カ月前から12カ月以内に発症する.ぶどう膜炎の発症によりその原因検索から偶然に無症状の腎炎が見つかることもあり,多くの場合間質性腎炎が先行していることから,ぶどう膜炎は腎炎に続発すると考えられる.本症が疑われたら尿中b2ミクログロブリン(b2MG)検査を行う.これが最も有用な検査で,1,000以上の異常高値を示すことが多い.尿中N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG)値も参考になる.腎機能検査は必須であるが,血清尿酸窒素(BUN),クレアチニン値は正常1350あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012のことが多い.一般尿検査では,尿蛋白だけでなく尿糖が陽性のことも多く,参考になる.1.眼科症状2001年に133例のTINU症候群症例を検討して,診断基準が提案された(表2)4).片眼発症であっても,そのうちに両眼性の虹彩毛様体炎を呈する症例が多い.微細な角膜後面沈着物を伴う非肉芽腫性の弱-中程度の前房炎症である前部ぶどう膜炎であることが多いが,再燃例や遷延例では,豚脂様角膜後面沈着物やフィブリンの析出,虹彩後癒着,前房蓄膿を呈する肉芽腫性病変を伴うこともある(図2).硝子体混濁がみられるときには,びまん性混濁としてみられることが多いが,周辺部下方(34) に小さな塊状混濁がみられることもある.眼底病変は,乳頭発赤,腫脹,後極部網膜血管の拡張,蛇行,周辺網膜に滲出斑などが認められることがある.網膜出血や網膜血管炎はまれである.約半数は再発を繰り返し高眼圧,白内障などを伴う.再燃を繰り返すうちに約20%は汎ぶどう膜炎に進展し,網膜血管の拡張,白鞘化,出血,滲出斑,視神経乳頭炎,脈絡膜炎などがみられる.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では,視神経乳頭からの過蛍光や,検眼鏡的に網膜所見がなくても,網膜毛細血管からの色素漏出を認めることがある.2.治療予後は一般に良好であり,多くの間質性腎炎は自然治癒する.眼所見は前眼部炎症が中心なので,治療はステロイド薬と散瞳薬の点眼が主となる.しかし,急速な腎機能低下や全身症状の強い場合,ぶどう膜炎が眼底所見を伴って重症化する場合,局所治療に反応しない例が多い.また,腎炎もしくはぶどう膜炎が再燃,慢性化する場合があり,このような場合は腎生検で診断が確定し次第,腎炎に対してステロイド薬の全身投与がよく反応し,内眼炎症も消退する.ステロイド内服薬の投与量は腎炎の程度によって異なるが,プレドニゾロン換算で20.60mg程度である.ただ,小児へのステロイド薬の副作用の観点から,経口ステロイド薬による長期コントロールがむずかしい場合,メトトレキサートやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を併用する場合もある.必ずしもぶどう膜炎と腎障害の活動性の程度に関連はなく,腎炎が自然寛解したにもかかわらず,ぶどう膜炎が再燃して難治になる場合もある.III小児ぶどう膜炎の鑑別疾患若年性慢性虹彩毛様体炎,HLA-B27関連ぶどう膜炎,サルコイドーシス,全身性エリテマトーデス(SLE).文献1)PettyRE,SouthwoodTR:Classificationofchildhoodarthritis:divideandconquer.JRheumatol25:18691870,19982)今中啓之:若年性特発性関節炎の診断・分類基準の国際的な趨勢と意義.最新医学62(5):14-20,20073)DobrinRS,VernierRL,FishAL:Acuteeosinophilicinterstitialnephritisandrenalfailurewithbonemarrow-lymphnodegranulomasandanterioruveitis.Anewsyndrome.AmJMed59:325-333,19754)MandevilleJT,LevinsonRD,HollandGN:Thetubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthalmol46:195-208,2001(35)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121351

Behcet病

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1341.1346,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1341.1346,2012Behcet病Behcet’sDisease竹本裕子*南場研一*はじめにBehcet病はトルコなどの中近東から中国を経て日本に至る,いわゆるシルクロード沿いに患者が多いことで知られる疾患である.その病因はいまだ不明であるが,これらの地域のどの人種においても健常群に比べ患者群で有意にHLA-B*51の保有率が高く1),遺伝的素因がその発症に関与していると推察されている.Behcet病には特異的,決定的な検査所見はなく,臨床症状や経過(再発性)から総合的な判断で,厚生労働省の診断基準(表1)に基づいて診断を確定する.サルコイドーシス,感染性眼内炎,急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎,ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)-1関連ぶどう膜炎,結核性ぶどう膜炎などが鑑別疾患としてあげられる.実際には,発症時に眼症状が典型的ではないことや,眼外症状が明らかではないことも多く,すぐに診断に至らない症例もみられるが,経過とともにしだいに典型的となるので,経過を慎重にみていき,鑑別していくことが重要である.本稿では,Behcet病と診断された後,どのように治療していくか,治療抵抗性や副作用のために治療方法を変更せざるをえない場合など,難症例の具体例をあげながら紹介する.I発作時の治療軽度の前眼部炎症のみであればステロイド点眼薬と散瞳点眼薬の治療のみとなる.しかし,前房蓄膿を伴うよ表1厚生労働省ベーチェット(Behcet)病の臨床診断基準1主要項目(1)主症状①口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍②皮膚症状a.結節性紅斑様皮疹,b.皮下の血栓性静脈炎,c.毛.炎様皮疹,d..瘡様皮疹参考所見:皮膚の被刺激性亢進③眼症状a.虹彩毛様体炎,b.網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)c.以下の所見があればa,bに準じるa,bを経過したと思われる虹彩後癒着,水晶体上色素沈着,網脈絡膜萎縮,視神経萎縮,併発白内障,続発緑内障,眼球癆④外陰部潰瘍(2)副症状①変形や硬直を伴わない関節炎②副睾丸炎③回盲部潰瘍で代表される消化器病変④血管病変⑤中等度以上の中枢神経病変(3)病型診断の基準①完全型:経過中に4主症状が出現したもの②不全型a.経過中に3主症状,あるいは2主症状と2副症状が出現したものb.経過中に定型的眼症状とその他の1主症状,あるいは2副症状が出現したもの③疑い:主症状の一部が出没するが,不全型の条件を満たさないもの,および定型的な副症状が反復あるいは増悪するもの④特殊病変a.腸管(型)ベーチェット病:腹痛,潜血反応の有無を確認するb.血管(型)ベーチェット病:大動脈,小動脈,大小静脈障害の別を確認するc.神経(型)ベーチェット病:頭痛,麻痺,脳脊髄症型,精神症状などの有無を確認する*YukoTakemoto&KenichiNamba:北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野〔別刷請求先〕竹本裕子:〒060-8648札幌市北区北14条西5丁目北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(25)1341 うな強い前眼部炎症の際にはデキサメタゾン(デカドロンR)1.65mg/0.5mlを炎症が軽減するまで数日間結膜下注射を行う.後眼部への発作の場合にはデキサメタゾ3mg/1.0mlの後部Tenon.下注射.)3Rン(デカドロンを行う.黄斑部に病変が及ぶ場合には連日後部Tenon.下注射を施行する.II非発作時の治療(図1)1)眼炎症発作を頻発することが視力予後不良の一因となるため,非発作時には眼炎症発作を抑制する治療が必要となる.1.コルヒチンまずはコルヒチンを内服することが多い.ただし,催奇形性があるとされ,妊娠を望む患者には男女とも使用できない.また,ミオパチー,末梢神経炎,肝障害などの副作用が知られている.コルヒチンの眼炎症発作抑制効果は高くなく,十分に発作が抑制される症例は少ない.2.シクロスポリンコルヒチンで効果不十分な場合や認容性に問題がある場合にはつぎの段階に移行する.シクロスポリン(ネオーラルR)はT細胞選択的免疫抑制薬であり,1990年代からBehcet病に使われてきた.通常5mg/kg程度より開始し,トラフ値は150ng/mlを目安に調整する.シコルヒチン軽症シクロスポリンなど重症眼炎症発作を頻発する症例インフリキシマブ後極部に眼炎症発作を生じる症例視機能障害が著しく失明の危機にある症例図1非発作時の治療方法通常はコルヒチンから開始し,効果不十分であればシクロスポリンなどへの変更,またはインフリキシマブの導入を行う.副作用などのためシクロスポリンの導入がむずかしい症例や,視機能障害が懸念される重症例にはインフリキシマブの早期導入を行う.1342あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012クロスポリンのBehcet病における眼炎症発作抑制効果は,著効39%,有効22%,やや有効11%,無効28%とされ2),実際の印象としては,有効と判断されるのは約半数である.また,シクロスポリンは腎機能障害や肝機能障害など副作用の発現頻度も比較的高いことに加え,中枢神経症状を呈することも多い.このため,インフリキシマブ(レミケードR)の有用性,副作用が認知されるようになった近年では,コルヒチンのつぎの段階として,あえてシクロスポリンを選択せず,インフリキシマブを選択することも積極的に検討されている(図1).特に,視力予後が不良と思われる重症例や,シクロスポリンの認容性に問題がある症例では,早期よりインフリキシマブを導入するよう推奨されている.3.インフリキシマブインフリキシマブは炎症の起点となる腫瘍壊死因子(TNF)-aに対するキメラ型抗ヒトTNF-a単クローン抗体製剤である.上記2剤と比較し,より高い発作抑制効果が期待できる.しかし,結核やウイルス性肝炎などの感染症を増悪させる可能性があり,導入前に胸部CT(コンピュータ断層撮影),クオンティフェロン,ツベルクリン反応などの入念なスクリーニング検査が必要である.インフリキシマブは点滴薬であり,初期治療として0週,2週,6週目に投与し,以後は8週間ごとの点滴を継続する.Behcet病による網膜ぶどう膜炎に対するインフリキシマブの有効性についてすでに多くの報告がある.国内8施設のデータをまとめた報告では,1年以上経過を追うことができた48名中44名(92%)で改善がみられ,悪化した症例はなかった.眼炎症発作頻度については,インフリキシマブ導入前の6カ月に平均2.66回であったものが,導入後には,導入直後の6カ月に平均0.44回,つぎの6カ月に平均0.79回と有意に減少していた.また,48例中21例(44%)において導入後1年間まったく眼炎症発作がみられなかった3).また,Behcet病患者では通常非発作時であっても蛍光眼底造影検査を行うとシダ状の蛍光漏出がみられるが,インフリキシマブ導入によりシダ状の血管漏出も抑えられることが報告され(26) abcdabcd図2インフリキシマブ導入前後の蛍光眼底造影変化16歳の男性,不全型Behcet病の診断となり,コルヒチン内服を開始したが,回盲部潰瘍を合併.内科的にシクロスポリン(ネオーラルR)導入が必要と判断され,シクロスポリン内服を開始した.シクロスポリン内服後,回盲部潰瘍は改善したものの,眼発作を1.2カ月ごとに繰り返すため,発症から2年後にインフリキシマブ(レミケードR)を導入した.導入前は非発作時にシダ状蛍光漏出がみられていた(a,b)が,導入後は一度も発作はみられず,蛍光眼底造影検査でも網膜血管からのシダ状漏出がみられなくなっている(c,d).ている4)(図2).このように,これまでのコルヒチン,は十分な注意が必要である.活動性結核感染症に対してシクロスポリンと比較すると,インフリキシマブは大変インフリキシマブ投与は禁忌であるが,陳旧性結核が疑優れた眼炎症発作抑制効果を有する.われる場合には抗結核薬の予防投与を行いながらインフ優れた有効性をもつインフリキシマブであるが,そのリキシマブを投与する.また,B型肝炎ウイルスキャリ使用に際していくつか留意しておくべきことがある.アではインフリキシマブ投与により劇症肝炎発症のリスインフリキシマブは感染初期の生体防御反応に重要なクがあるといわれている.因子であるTNF-aを抑制するため,結核,非結核性好インフリキシマブの点滴中に10%程度の症例におい酸菌,肝炎ウイルス,真菌といった感染症に対する注意て投与時反応がみられる.その多くは一過性の頭痛,熱が必要であり,導入前の感染症スクリーニング検査,お感などの軽度なものであるが,ときに蕁麻疹などを生じよび導入後の定期検査が必須である.特に結核感染症にる.まれに(1%未満)アナフィラキシーショック(血管(27)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121343 浮腫,チアノーゼ,呼吸困難,気管支痙攣,血圧上昇/低下など)が生じるので,その対応への準備が必要である.発疹や蕁麻疹がみられた場合には抗ヒスタミン(H)薬およびステロイド薬を静注し,症状が消失すればインフリキシマブ投与を続行することができる.このような抗ヒスタミン薬およびステロイド薬静注により症状が改善し,インフリキシマブ投与を完了できた症例の場合,次回以降に再度投与時反応がみられることが多く,次回以降はインフリキシマブ投与開始前に前処置として抗ヒスタミン薬とステロイド薬を点滴静注したうえでインフリキシマブ投与を行う.このような前処置を行っても投与時反応がみられる場合には,投与予定日1週間前からH1阻害薬およびH2阻害薬を内服したうえで,これらの前処置を行い,インフリキシマブ投与を行う場合もある.4.インフリキシマブ切れに対する対応(図3)このような有効例のなかでもときどき眼炎症発作がみられることがあり,その多くは8週ごとのインフリキシマブ投与直前にみられ,血液中からインフリキシマブが消費し尽くされている,いわゆる「インフリキシマブ切れ」の状態と考えられる.当然のことながら,体内で炎40平均7週目3530252015105012345678前回のインフリキシマブ投与からのIFX期間(週)IFX図3インフリキシマブ投与後の発作の起こる時期インフリキシマブ投与中に発作がみられる症例の多くは,8週ごとのインフリキシマブ投与直前にみられ,血液中からインフリキシマブが消費し尽くされている,いわゆる「インフリキシマブ切れ」の状態と考えられる.1344あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012患者数(人)症の起点となるTNF-aが産生される量は,その病勢により異なる.十分なインフリキシマブが投与されていれば,産生されたTNF-aはインフリキシマブにより中和されて炎症は惹起されないが,投与量を上回るTNF-aが産生されると,インフリキシマブ切れとなり炎症反応が生じると考えられる.このインフリキシマブ切れに対する対応には二通りある.a.投与間隔短縮8週間ごとの投与間隔を7週ごとまたは6週ごとに短縮する.b.投与量の増量投与量は5mg/kgと決められているが,破棄していたバイアルの残りを破棄せず投与することで,増量が可能である.たとえば,体重が65kgの人であると投与量は5mg/kgで計算すると325mgである.バイアルは100mg単位なので,バイアル3本すべてと4本目の25mgを投与し,通常は4本目の残り75mgは破棄する.この破棄分を破棄せず投与することで,投与量を増量する.薬剤の投与量,投与間隔は治験を行い決められたものであるので,保険適用範囲を大きく逸脱するわけにはいかないが,上記の二通りの方法程度の変更であれば,医師の裁量権の範囲内であると考える.5.インフリキシマブ投与ができない症例に対する対応活動性結核や,肝炎ウイルスキャリアに対してインフリキシマブの使用はできない.コルヒチンが効果不十分であると,このような症例ではつぎのステップとして切り替える薬剤がなくて困ることになる.シクロスポリンも易感染性の問題があり使いにくい.当科で行っているのは,トリアムシノロン硝子体内注射5)である.トリアムシノロンは硝子体内へ投与すると硝子体腔下方に塊状となりゆっくりと溶解されていく.硝子体腔からなくなると発作抑制効果はなくなるため,たいてい3.6カ月ごとに硝子体内注射を繰り返して行うことが必要となる.ただし,副作用として白内障の増強は必発であり,また,眼圧上昇をきたすこともある.他の治療として,保険適用はないものの,顆粒球吸着療法(アダカラムR)6)(28) もある一定の効果が期待できる.III実際の症例1.症例1:発症時34歳,男性.右眼の霧視を数回自覚し,発症から10カ月後に当科初診.不全型Behcet病の診断がついた.発症から11カ月後からコルヒチン内服を開始したが,3カ月ごとに眼発作がみられた.このため,顆粒球吸着療法を行ったが,1.2カ月ごとに発作間隔は短くなり,再度アダカラム加療を行っても軽快がみられないため,発症から3年後にシクロスポリン(ネオーラルR)に切り替えた.しかし,その後も3カ月ごとの発作が繰り返されるため,発症から6年後にインフリキシマブ(レミケードR)に切り替えた.インフリキシマブ変更後,眼発作はみられていない.しかし,4回目のインフリキシマブ投与時に膨隆疹が出現した.抗ヒスタミン薬(クロール・トリメトン10mg)+生理食塩水10mlを静注したが,膨隆疹は消失しないため,ステロイド薬(ソル・コーテフ300mg)+生理食塩水100mlを30分で点滴静注したところ,膨隆疹は消失した.その後,点滴スピードを落としてレミケードR投与を完了した.そのつぎの5回目の投与時にはあらかじめ抗ヒスタミン薬(クロール・トリメトン)およびステロイド薬(ソル・コーテフ)を点滴静注してからインフリキシマブの投与を行ったが再度膨隆疹がみられた.このため,6回目の投与以降は投与予定日の1週間前からH1拮抗薬とH2拮抗薬を各1錠/朝1回予防内服したうえ,当日はインフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬とステロイド薬の点滴静注を行うようにしたが,それでも7回目の投与時には再度膨隆疹が出現した.このため,インフリキシマブ投与中止も提案したが,本人のインフリキシマブ継続に対する強い希望があったため,H1およびH2拮抗薬内服を各2錠/朝夕食後に変更したところ,その後膨隆疹の再発はみられなくなった.インフリキシマブ投与開始から約3年半が経過しているが,現在も投与は続けられており,眼発作も起こっていない(図4).510152025305101520253051015202530抗ヒスタミン薬+ステロイド薬div8週8週投与時反応インフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬+ステロイド薬divそれでも,投与時反応+だったら・・・インフリキシマブ投与1週間前からH1拮抗薬+H2拮抗薬内服インフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬+ステロイド薬div図4インフリキシマブ投与時反応に対する前処置インフリキシマブ投与時に膨隆疹などの軽度の投与時反応が出現した場合,次回からはインフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬+ステロイド薬点滴静注を行ったり,投与予定日の1週間前からH1拮抗薬とH2拮抗薬を予防内服したうえ,当日はインフリキシマブ投与直前に抗ヒスタミン薬とステロイド薬の点滴静注を行う.div:点滴静注.(29)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121345 2.症例2:発症時22歳,男性.霧視で発症,その翌年には不明熱も出現していた.発症から2年後,霧視が改善せず,近医を受診したところ両眼に前房蓄膿を伴う汎ぶどう膜炎がみられ,その後の精査でBehcet病の診断がついた.コルヒチン2T/2×で開始するも発作の増悪やCRP(C反応性蛋白)上昇がみられたため,発症から約2年後コルヒチンを3T/3×に増量した.しかし,その後も眼発作が多いうえに血管Behcet病も発症した.このため,発症から約2年半後にシクロスポリン(ネオーラルR)を追加した.しかし,コルヒチンとシクロスポリンの併用により腎障害や出血傾向,尿酸値上昇がみられるようになったため,コルヒチンを中止し,シクロスポリンも減量せざるをえなかった.その後も3カ月に1回程度大きな眼発作が起こるため,顆粒球吸着療法の導入も検討されたが,血管Behcet病による下大静脈血栓症があり,導入できなかった.インフリキシマブ投与も検討されたが,B型肝炎ウイルスキャリアであり導入できなかった.このため,トリアムシノロン硝子体内注射を3カ月ごとに施行し,発作を抑制している.現在までに左右眼とも7回の硝子体内注射が施行されており,出血や網膜.離,感染などの合併症はみられていない.だが,今後も硝子体内注射を継続していくことで合併症のリスクが高まることが考えられ,慎重な投与が必要と考えている.おわりにかつてBehcet病は,特に眼底型の網膜ぶどう膜炎を生じる症例では視力予後は悪く,眼症状発現後3年で視力0.1以下になる率は約45%とされていた7).しかし,インフリキシマブという有効性の高い薬剤の登場により,視力予後が大幅に改善されることが期待できる時代となってきた.ただし,インフリキシマブは免疫抑制効果が強いため,活動性の結核や肝炎ウイルスキャリアの場合には使用できない.このような症例に対して今後さらに新しい治療方法の選択肢が生まれることが望まれる.■用語解説■トラフ値:次回薬物投与前の最低血中濃度のこと.通常検査日の朝はシクロスポリン内服をせずに来院してもらい,全血中のシクロスポリン未変化体の濃度を測定する.副作用を軽減するためにトラフ値をモニタリングし,適切な投与量を決定することが重要である.文献1)大野重昭,蕪城俊克,北市伸義ほか;ベーチェット病眼病変診療ガイドライン作成委員会:Behcet病(ベーチェット病)眼病変診療ガイドライン(解説).日眼会誌116:394426,20122)小竹聡,市石昭,小阪祥子ほか:ベーチェット病の眼症状に対する低用量シクロスポリン療法.日眼会誌96:1290-1294,19923)OkadaAA,GotoH,OhnoS,MochizukiM,OcularBehcet’sDiseaseResearchGroupofJapan:MulticenterstudyofinfliximabforrefractoryuveoretinitisinBehcetdisease.ArchOphthalmol130:592-598,20124)KeinoH,OkadaAA,WatanabeT,TakiW:DecreasedocularinflammatoryattacksandbackgroundretinalanddiscvascularleakageinpatientswithBehcet’sdiseaseoninfliximabtherapy.BrJOphthalmol95:1245-1250,20115)OhguroN,YamanakaE,OtoriYetal:RepeatedintravitrealtriamcinoloneinjectionsinBehcetdiseasethatisresistanttoconventionaltherapy:one-yearresults.AmJOphthalmol141:218-222,20066)NambaK,SonodaKH,KitameiHetal:GranulocytoapheresisinpatientswithrefractoryocularBehcet’sdisease.JClinApher21:121-128,20067)BenezraD,CohenE:TreatmentandvisualprognosisinBehcet’sdisease.BrJOphthalmol70:589-592,19861346あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(30)

白血病眼浸潤

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1335.1339,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1335.1339,2012白血病眼浸潤OcularInfiltrationinLeukemia毛塚剛司*はじめにステロイド薬に抵抗するぶどう膜炎のなかには,実は白血病の眼浸潤であった,ということも散見される.頻度としては低いが,もし見逃してしまった場合,多くは死につながる可能性が高い.本稿では,白血病の眼浸潤の臨床像について述べるとともに,最近行われている眼所見からみた治療の可能性について報告したいと思う.Iステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎―白血病眼浸潤の可能性ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎の患者には,一般的に採血を行い,白血病を含めた全身疾患,すなわち「仮面症候群」の可能性について検討する.白血病眼浸潤は厳密にはぶどう膜炎ではなく,ぶどう膜炎に似ているもの,「仮面症候群」として分類されている.このため,眼症状が非定型的でも白血病の有無は末梢血の検索から判明することもある.急性リンパ性白血病(acutelymphoblasticleukemia:ALL)において,小児では2.2%で眼症状があるという報告1)や,2.5%から18%で前眼部症状が起きうるという報告2)もある.最近の小児白血病180例を対象とした報告では,急性骨髄性白血病(acutemyeloblasticleukemia:AML)の66%,ALLの15.1%に眼病変(眼窩病変も含む)がみられ,AML患者はALL患者より眼病変が多いと結論づけられている3).白血病眼浸潤の原因としてよくみられるのが,ALLや成人T細胞白血病(adultT-cellleukemia/lymphoma:ATL)である.どちらも,末梢白血球増多など全身症状が先行して発見されることが多い.また,眼症状から発見されることはまれである.しかし,まれとはいえ,特徴のある所見がみられるため,大まかな臨床所見を捉えておくことが重要である.II急性リンパ性白血病(ALL)の臨床所見ALLは前眼部のみに留まる場合と,眼底病変に所見がみられる場合に分かれる.前者はおもに前房蓄膿(この場合,偽前房蓄膿として知られている)をきたし,眼図127歳,男性の急性リンパ性白血病における右眼の眼底所見右眼のみに視神経を中心とした浸潤細胞がみられ,網膜前にまで浸潤細胞が及んでいる.*TakeshiKezuka:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(19)1335 底病変は軽度なことが多い4).また,化学療法で,寛解期に入っても前房症状をきたす例もみられる.この偽前房蓄膿は小児でも成人でも起こり,血液が混入していることがある.一方,後眼部病変としては,網膜しみ状出血,滲出斑などが一般的であり5),頻度は低いが黄斑部の漿液性網膜.離をきたすこともある6).これらの眼底所見の特徴は,白血病が完全寛解に入った後でも,視神経乳頭腫脹や網膜.離をきたす可能性があるということである.図1の症例は,27歳,男性の急性リンパ性白血病である.右眼のみに視神経を中心とした浸潤細胞がみられ,網膜前にまで浸潤細胞が及んでいる.この後6カ月以内に不幸な転帰をたどった.ab図217歳,男性のAML症例における両眼の眼底所見両眼ともに,網膜しみ状出血やRoth斑がみられた.a:右眼,b:左眼.III急性骨髄性白血病(AML)の眼所見AMLではALLと異なり,眼内のリンパ球浸潤というより,貧血を主体としたような病変をきたすことが多い.網膜下に大きな細胞浸潤による滲出斑がみられることがあるが,真菌感染などとの鑑別が必要である7).慢性骨髄性白血病(chronicmyeloblasticleukemia;CML)では,網膜血管の怒張を伴う大小さまざまの隆起性病変から発見されることもある.またALLと同様に,AMLやCMLでは胞状網膜.離や脈絡膜.離を呈する場合もある.図2に示した17歳,男性のAML症例では,網膜しみ状出血やRoth斑がみられ,両眼性であった.この症例の末梢血所見は,白血球数2,100/mm3,赤血球数150万/mm3,血小板値6,000/mm3と極度の貧血であった.当症例も不幸な転帰となった.IV成人T細胞白血病(ATL)の眼所見ATLは,南西日本,カリブ海に面した国々,アフリカの熱帯地方などにみられる疾患である.ATLの眼合併症は,眼窩,結膜,強膜,脈絡膜,網膜と多岐にわたる8).ATLの診断は,Shimoyamaらの診断基準を用いることが多い9).眼内浸潤,特に硝子体・網膜への浸潤に対する診断には,硝子体手術によるサンプル採取が有用である10).サンプルからATLに特徴的な“flowercell”が発見されれば,確定診断に近くなる.図3は,41歳,男性のATL患者における前眼部所見である.前房蓄膿(偽前房蓄膿)を伴っている.ATL患者の前房蓄膿で特徴的なのは,結膜充血が皆無であることである.通常の眼炎症による前房蓄膿では,結膜充血もしくは毛様充血は必発である.炎症ではないATLでは,このように前房蓄膿様所見のみが起きる.偽前房蓄膿は,粘稠性が高く,消退するのに炎症性のものより経過を要する傾向がある.図4は,図3の患者の前房水から得られた細胞であり(Gimsa染色),異型細胞がみられる.図5は,図3の患者の髄液から得られた細胞であり,同様に異型細胞がみられる.図6は,同様に図3の患者の末梢血から得られた細胞であり,“flowercell”がみられる.1336あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(20) 図341歳,男性のATL患者における右眼の前眼部所見前房蓄膿(偽前房蓄膿)を伴っている.図4図3の患者の前房水から得られた細胞異型細胞がみられる(Gimsa染色).V白血病に近い「前段階」の病変である骨髄異形成症候群(MDS)白血病ではないが,preleukemiaとして白血病に移行することが多い疾患である骨髄異形成症候群(myelodysplasticsyndrome:MDS)がある.筆者らが以前行った報告では,MDSも41例中19例(46.3%)で白血病に類似した眼病変をきたし,5例(12%)でぶどう膜炎を併発している11).また,MDSの眼合併症の比率は,(21)図5図3の患者の髄液から得られた細胞同様に異型細胞がみられる(Gimsa染色).図6図3の患者の末梢血から得られた細胞“Flowercell”がみられる(Gimsa染色).AMLの眼合併症の比率(57%)と特に有意差を認めなかった.MDSの予後は白血病と異なり,眼病変をきたしても5年生存率は良好である12).VI白血球眼内浸潤に対する治療法眼病変を伴ったALLの治療法は,原則的に血液内科における化学療法に準ずる.たとえば,cyclophosphamide,daunorubicin,vincristine,asparaginase,prednisoloneなどである.眼病変をきたしたALLにおける放射線療法の臨床研究では,30Gy以上の放射線照射で眼内浸潤細胞の根絶が可能であるが,10.30Gyでも眼内病変の寛解に持ち込むことができると述べている1).一方,骨髄生検などを行い,全身に癌浸潤をきたしておらず,前房水中のみに浸潤細胞がみられる場合あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121337 表1白血病眼浸潤に対する治療法.原疾患に対する化学療法.硝子体手術.放射線療法(2,400cGy).白血球除去療法.(ATLに対する)IL-2レセプター標的療法は,放射線療法だけでも有効とされる報告がある4).この方法は,前眼部に向けて総量2,400cGy(1回線量200cGyで12回行う)の照射を行い,化学療法は施行しない.化学療法を施行しないので,この報告における3歳のALLでは,高濃度メトトレキサート療法などの副作用が最小限に抑えられ,4カ月後における再発はみられなかった.ただ,放射線の総量が4,000cGyを超えると,放射線曝露による角膜症,ドライアイ,網膜症,視神経症をきたすとされている4).嘉山らは,ALLの虹彩浸潤に対して放射線療法を行ったところ,奏効したと報告している12).慢性骨髄性白血病に起因する眼病変は,白血球除去療法で軽快するという複数の報告もみられる13).ALL,AMLともに,硝子体出血や内境界膜下出血に対して硝子体手術が有効であった報告もある14,15).ATLの治療も,ALL,AMLと同様に化学療法が主体となるため,血液内科との連携が欠かせない.よく行われているのが,etoposide,doxorubicin,vincristine,prednisone,cyclophosphamide(EPOCH)や,cyclophosphamide,doxorubicin,vincristine,prednisolone(CHOP)療法である16).硝子体混濁が強いようなら,先述のように,治療的診断も兼ねて硝子体手術が有用である10).最近の報告では,一般的な化学療法で強膜病変があまり軽快しない場合にインターロイキン(IL)-2レセ■用語解説■仮面症候群:Masquerade(マスカレード)症候群ともよばれる.ぶどう膜炎の臨床所見によく似ているが,仮面症候群の本質は腫瘍などであり,炎症ではない.骨髄異形成症候群(myelodysplasticsyndrome:MDS):MDSは造血組織の不応状態であり,単クローン性の造血障害ともいえる.高頻度で急性骨髄性白血病に移行することが知られており,前白血病状態とも考えられている.プターを標的とした療法(daclizumab静脈内投与)により,眼所見に改善がみられている16).これは,ATLによる病変が単なる直接的な眼内浸潤だけではなく,IL-2レセプターを介した免疫学的機序によるものであるとも考えられる.上記の白血病眼浸潤の治療法を表1にまとめる.おわりに「ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎」の鑑別疾患および治療指針としての白血病の眼浸潤について概説を述べた.文献的には症例報告が多く,まとまった報告が少ないため,治療におけるエビデンスレベルとしては低いかもしれない.しかし,白血病において眼病変が出現したときは,中枢神経浸潤と同義であり,予後が非常に悪い11)ことを考える.ここで掲載されたような前眼部・眼底病変に出会ったときには,参考にしていただければ幸いである.文献1)SomervailleTC,HannIM,HarrisonGetal:Intraocularrelapseofchildhoodacutelymphoblasticleukemia.BrJHaematol121:280-288,20032)RamseyA,LightmanS:Hypopyonuveitis.SurvOphthalmol46:1-18,20013)RussoV,ScottIU,QuerquesGetal:Orbitalandocularmanifestationsofacutechildhoodleukemia:clinicalandstatisticalanalysisof180patients.EurJOphthalmol18:619-623,20084)PatelSV,HermanDC,AndersonPMetal:Irisandanteriorchamberinvolvementinacutelymphoblasticleukemia.JPediatrHematolOncol25:653-656,20035)Dhar-MunshiS,AltonP,AyliffeWH:Masqueradesyndrome:T-cellprolymphocyticleukemiapresentingaspanuveitis.AmJOphthalmol132:275-277,20016)FacklerTK,BearellyS,OdomTetal:Acutelymphoblasticleukemiapresentingasbilateralseriousmaculardetachments.Retina26:710-712,20067)GordonKB,RugoHS,DuncanJLetal:Ocularmanifestationofleukemia.Leukemicinfiltrationversusinfectiousprocess.Ophthalmology108:2293-2300,20018)OhbaN,MatsumotoM,SameshimaMetal:OcularmanifestationinpatientsinfectedwithhumanT-lymphotropicvirustypeI.JpnJOphthalmol33:1-12,19899)MembersoftheLymphomaStudyGroup(1984-1987),ShimoyamaM:DiagnosticcriteriaandclassificationofclinicalsubtypesofadultT-cellleukemia-lymphoma.BrJ1338あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(22) Haematol79:428-437,199110)HirataA,MiyazakiT,TaniharaH:IntraocularinfiltrationofadultT-cellleukemia.AmJOphthalmol134:616-618,200211)KezukaT,UsuiN,SuzukiEetal:Ocularcomplicationsinmyelodysplasticsyndromeaspreleukemicdisorders.JpnJOphthalmol49:377-383,200512)嘉山尚幸,井出尚史,小林円ほか:放射線療法が奏効した急性リンパ性白血病の虹彩浸潤の1例.臨眼60:13911395,200613)ShafiqueS,BonaR,KaplanAA:Acasereportoftherapeuticleukapheresisinanadultwithchronicmyelogenousleukemiapresentingwithhyperleukocytosisandleukostasis.TherApherDial11:146-149,200714)西尾彩,岩橋佳子,下條裕史:急性リンパ性白血病患者に生じた内境界膜下出血に対し硝子体手術を施行した1例.眼臨紀4:1193-1197,201115)藤田亜希子,土田陽三,白神史雄ほか:硝子体出血をきたした急性骨髄性白血病の1例.臨眼55:909-912,200116)LarsonTA,HuM,JanikJEetal:Interleukin-2receptortargetedtherapyofoculardiseaseofHTLV-I-associatedadultT-cellleukemia.OculImmunolInflamm20:312314,2012(23)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121339

眼内悪性リンパ腫

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1331.1333,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1331.1333,2012眼内悪性リンパ腫IntraocularMalignantLymphoma近藤由樹子*園田康平*はじめに悪性リンパ腫は,リンパ球の腫瘍化したものである.リンパ球のタイプからB細胞性,T細胞性などに,また腫瘍細胞の病理像よりびまん性,濾胞性などに分類される.眼内悪性リンパ腫は,眼・中枢神経系悪性リンパ腫として眼や中枢神経系に原発するものと,全身の悪性リンパ腫の経過中に眼内にも認めるようになるものとがある.5年生存率は報告によるが約30.60%1,2)とされる.眼内悪性リンパ腫は,実態はいわゆる炎症反応の本質とは異なり腫瘍細胞の播種などによるものであるが,臨床的に硝子体混濁や網膜斑などぶどう膜炎に類似した所見を認めるためにあたかも別の疾患であるぶどう膜炎のように見える,仮面症候群の代表的疾患である.I背景と特徴年齢は50.60歳代に多く,性差はないか,やや女性に多い傾向があるとされる.基本的には両眼性の病態で,片眼の飛蚊症や霧視から始まったとしても,経過中に両眼性に至ることが多い.硝子体混濁はステロイド薬が効かず,濃い混濁の割に矯正視力が良好なことが多い.II眼所見眼内悪性リンパ腫の臨床病型は,おもに眼底に黄白色の斑状病巣が多発する「眼底型」と,びまん性硝子体混濁が主体の「硝子体型」に大別される.1.眼底型(図1,2)網膜下に浸潤した異型リンパ球が黄白色の斑状病巣を形成し,融合・拡大傾向を示す.比較的境界明瞭な大きな病巣となり,内部に褐色色素斑を伴うことがある.経過中に網膜硝子体出血を生じることがある.2.硝子体型(図3)比較的大きな浮遊細胞によるびまん性硝子体混濁は,眼内に浸潤した異型リンパ球によるものである.硝子体混濁はしばしば帯状を呈し,眼球運動とともに揺れ動くさまからオーロラ状と形容される.硝子体混濁はステロイド薬治療には反応しないか,仮に初めは多少変化を示したとしても消失しない.眼底の黄白色斑に硝子体混濁を併せ持つことももちろん多く,硝子体混濁の経過中に黄白色斑が出現することもある.このほか,前房内に軽度の細胞浮遊や,大小不同で不整形の角膜後面沈着物を認めることがあるが必発ではない.角膜後面沈着物は再発時に認めることが多い.III診断悪性リンパ腫が疑われる場合,特に硝子体混濁を認める症例に対しては,診断のための硝子体生検と混濁除去*YukikoKondo&KoheiSonoda:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕近藤由樹子:〒755-8505宇部市南小串1-1-1山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(15)1331 図1眼底型眼内悪性リンパ腫黄白色の斑状病巣が多発し,内部に褐色色素斑を伴う.図3硝子体型の眼内悪性リンパ腫周辺部に濃厚な硝子体混濁を認める.による視機能向上を兼ねて,積極的に硝子体手術を行う.1.硝子体細胞診硝子体手術により採取された硝子体液より,悪性細胞を証明することが確定診断となる.実際には腫瘍細胞は崩壊しやすく,採取時にはマシンのカットレートを落とし,吸引圧を低くするなど注意して採取し,それでもク1332あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012図2眼底型眼内悪性リンパ腫図1と同症例のフルオレセイン蛍光眼底造影写真.黄白色斑状病巣の部分の低蛍光と顆粒状過蛍光を認める.ラス分類で確定診断に即至ることは多くない.インターロイキン(IL)-10/IL-6比や免疫グロブリン遺伝子再構成などの結果を組み合わせて診断する.2.眼内液のIL.10濃度眼内悪性リンパ腫では眼内液中のサイトカインIL-10濃度が高いことが知られている.正常眼ではIL-10は検出限度以下のことが多いが,ぶどう膜炎でも軽度上昇することもあるため,炎症性サイトカインIL-6濃度も測定し,IL-10濃度単体のみでなく,通常その比をもって判断する.IL-10は悪性リンパ腫以外では100pg/ml以下の低値であることがほとんどで,IL-10/IL-6比は1以上のとき眼内悪性リンパ腫を強く疑う有力な補助検査となる3).そのほか,免疫グロブリン遺伝子再構成,フローサイトメトリーなどが補助診断に用いられることがある.IV治療悪性リンパ腫に対する治療の基本は全身化学療法である.これまで眼・中枢神経系悪性リンパ腫に対しては放射線治療や全身化学療法との組み合わせが行われてきた.近年は眼局所についてはメトトレキサート硝子体内注射の有効性が示されている.病巣が眼内のみである場(16) 同意取得的確性の確認対象疾患の確認導入療法MTX400μgを硝子体内注射週2回強化療法MTX400μgを硝子体内注射週1回1年間1カ月間1カ月間維持療法MTX400μgを硝子体内注射月1回同意取得的確性の確認対象疾患の確認導入療法MTX400μgを硝子体内注射週2回強化療法MTX400μgを硝子体内注射週1回1年間1カ月間1カ月間維持療法MTX400μgを硝子体内注射月1回図4メトトレキサート(MTX)硝子体内注射合や,全身性悪性リンパ腫に伴うものでもこれまでの治療歴(全放射線照射線量や抗癌剤投与期間,その副作用)などにより全身的にはそれ以上の治療が困難な場合でも施行可能なため,必要とあらば積極的に検討されるべき治療法である.1.放射線治療特に眼・中枢神経系の病巣に対して,総量40Gy程度の照射が一般的で,放射線科医との連携が望ましい.2.全身化学療法全身性悪性リンパ腫ではCHOP(cyclophosphamide,adriamycin,vincristine,prednisolone)療法などが一般的に行われる.血液内科医との連携が必須.3.メトトレキサート硝子体内注射眼内の病変に有効性が高い.1回にメトトレキサート400mg/0.1mlを,導入療法として週2回を1カ月間,強化療法として週1回を1カ月間,維持療法として月1回を1年間硝子体内注射する(図4).副作用として角膜上皮障害が強く出やすいので,施行する際は薬液が極力眼表面につかないよう留意し,注射後には眼表面をよく生理食塩水などで洗浄するなどする必要がある.文献1)JahnkeK,KorfelA,KommJetal:Intraocularlymphoma2000-2005:resultsofaretrospectivemulticentertrial.GraefesArchClinExpOphthalmol244:663-669,20062)木村圭介,後藤浩:眼内悪性リンパ腫28例の臨床像と生命予後の検討,日眼会誌112:674-678,20083)平形明人,稲見達也,斉藤真紀ほか:眼内悪性リンパ腫における硝子体内インターロイキン-10,インターロイキン-6の診断的価値.日眼会誌108:359-367,2004(17)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121333

眼トキソプラズマ症・トキソカラ症:抗生物質眼注,劇症型の対応など

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1325~1330,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1325~1330,2012眼トキソプラズマ症・トキソカラ症:抗生物質眼注,劇症型の対応などCaseManagementforSevereOcularToxoplasmosisandToxocariasis伊東崇子*はじめにトキソプラズマ症とトキソカラ症は代表的な寄生虫感染であり,ぶどう膜炎全体に占める割合はともに約1.1%である1).トキソプラズマ症では胎児や乳幼児で重篤な網脈絡膜炎をひき起こすことがあり,後天感染においてもときにぶどう膜炎をひき起こし,重篤な視力障害の原因となることがある.また,トキソカラ症でも硝子体混濁や牽引性網膜.離などにより重篤な視力障害を生じることもあり,注意が必要である.本稿では,そのような重症例について症例を提示しながら述べる.Iトキソプラズマ症1.病態ネコを終宿主とするトキソプラズマ原虫(Toxoplasmagondii)により発症する人畜共通感染症である.先天感染では感染した母体から胎盤を通して胎児に感染し,後天感染は食肉などを通した経口感染が一般的とされるが,感染ルートが特定できない場合がほとんどである.先天感染では多くの場合は脳脊髄炎などの重篤な全身症状を伴わず,両眼底後極部の陳旧性の網脈絡膜瘢痕病巣として偶然発見される.2~3乳頭径大の灰白色~黒褐色調の瘢痕病巣であり,黄斑に及んでいる場合は重篤な視力障害の原因となる.また,主病巣の近傍や,少し離れた場所に小さな色素性瘢痕病巣を伴うことがあり,娘病巣とよばれる.後に再燃することがあり,瘢痕病巣の近くに境界不明瞭な白色の滲出性病変がみられるが,通常数カ月で沈静化し,同様の瘢痕病巣となる.後天感染でも先天感染の再発病巣と同様に,眼底後極部に1~2乳頭径大の白色の滲出性病変を生じ,硝子体混濁や血管炎を伴う.先天感染は両眼に生じることが多いが,後天感染は通常片眼性である.病変は限局性で,赤道部や周辺部に生じることもあるが,瘢痕病巣は患眼および他眼にも存在しない.病巣が黄斑に及んでいる場合,視力予後は不良である.2.検査・診断先天感染では母子両者の血清中の抗トキソプラズマ抗体価を測定し,経過観察中に抗体陰性からの陽転化や,ペア血清における4倍以上の抗体価の増加がみられれば診断意義は高い.後天感染ではIgM(免疫グロブリンM)抗体上昇により初感染を確認できれば診断につながるが,眼局所の感染を証明するためには眼内液(前房水,硝子体液)の抗体率の算出や,PCR(polymerasechainreaction)法でのトキソプラズマDNAの証明が有用である.3.治療原虫そのものに対してマクロライド系抗菌薬であるアセチルスピラマイシン800~1,200mg/日を4~6週間1クールとして投与し,前眼部炎症や硝子体混濁が強い場*TakakoIto:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕伊東崇子:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(9)1325 合はプレドニゾロン内服を0.5mg/kg/日,30mg程度から漸減する.アセチルスピラマイシンに反応していても1クール終了後に病巣の活動性が残存している場合は,もう1クール投与する.副作用として肝機能障害や下痢がある.また,アセチルスピラマイシンに反応が不良の場合や副作用出現時にはクリンダマイシン(ダラシンR)15~20mg/kg分4内服を行う.このような治療に抵抗し,硝子体混濁が遷延したり,黄斑上膜形成,牽引性網膜.離を伴ったりする症例がまれに存在し,硝子体手術が必要になることがある.また,ステロイド薬抵抗性の症例や妊婦,従来の併用療法で効果不十分であった症例に対し,クリンダマイシン1.5mg/0.1mlとデキサメタゾン400μg/0.1mlの硝子体内注射が有効であったという報告がある2).ここで,アセチルスピラマイシンやステロイド薬抵抗性であり,硝子体手術とクリンダマイシンの全身投与や硝子体内注射によって炎症コントロールできた症例について述べる.〔症例〕(図1~4)患者:60歳,男性.主訴:左眼霧視,視力低下.既往歴・家族歴:幼少時に外傷にて右眼失明,高血圧症,高脂血症,B型肝炎.生活歴:特記事項なし.図1トキソプラズマ症:再々発時の前眼部写真強い豚脂様角膜後面沈着物を認める.現病歴:1週間前から左眼霧視を自覚し,近医受診.左眼虹彩炎や硝子体混濁を認め,九州大学病院眼科紹介受診.初診時所見:視力は右眼光覚なし,左眼(0.3),眼圧は右眼測定不能,左眼12mmHgであった.左眼微塵状角膜後面沈着物,前房にcell(+),硝子体混濁(+),眼底外下方に白色病巣,視神経乳頭発赤,血管炎を認め図2トキソプラズマ症:再々発時の眼底写真硝子体混濁と,外上方と下方に白色滲出斑を認める.図3図2より20日後の眼底写真滲出斑がほぼ全周に拡大し,後極部への拡大傾向も認め,急性網膜壊死が疑われた.1326あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(10) ….x20図4トキソプラズマ症:網膜生検の病理組織写真好塩基性に染まる多数の原虫を含んだ卵形.胞(黄矢印)と遊離したトキソプラズマ原虫と考えられる構造物(赤矢印)を認めた.た.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では初期は病変周囲がやや過蛍光,中央が低蛍光であり,後期は病変全体が過蛍光であった.また,左眼視神経乳頭の過蛍光や血管炎を認めた.全身検査所見:血清抗トキソプラズマ抗体価2,048倍以上(基準値160未満)と上昇を認めた.内因性ぶどう膜炎や,その他の感染症を疑う所見は認めなかった.経過:トキソプラズマ症疑いの診断で,アセチルスピラマイシン1,200mg内服とデカドロン6mgからの全身投与を開始し,またトリアムシノロンアセトニド後部Tenon.下注射(subtenontriamcinoloneacetonideinjec-tion:STTA)40mgを施行した.硝子体混濁は軽快し,2クール終了後にアセチルスピラマイシンを中止し,4カ月半後にはプレドニゾロン内服を中止した.しかし,その3カ月後に炎症が再燃し,再度STTA40mgを施行した.その後も網膜滲出斑や硝子体混濁は残存し,5カ月後に3回目のSTTA40mgを施行し,アセチルスピラマイシン1,200mg内服を再開した.血清抗トキソプラズマ抗体価が10,240倍と再上昇を認め,硝子体混濁が増強し,発症から1年1カ月後に左眼硝子体手術を施行した.術後視力(1.0)と改善した.術後2カ月目に再々発し,4回目のSTTA40mgを施行した.しかし,その1カ月後に強い前眼部炎症を認(11)め,左眼眼圧30mmHgと上昇し,プレドニゾロン30mg内服開始.前房水PCRにてトキソプラズマDNA陽性であった.アセチルスピラマイシン抵抗性の症例であり,硝子体混濁が増強し,網膜外上方と下方に滲出斑が出現したため急性網膜壊死も疑いゾビラックスR点滴投与を行ったが,滲出斑の後極への拡大傾向を認め,クリンダマイシン灌流下で硝子体手術および,確定診断のため硝子体採取ならびに網膜生検を施行した.検体は外上方の滲出斑にVランスで切開を入れ,内境界膜(ILM)鑷子にて採取した.網膜組織はトキソプラズマ症に矛盾しない結果であり,硝子体液PCRにてトキソプラズマDNAを認め,単純ヘルペスウイルス(HSV)および水痘帯状ヘルペスウイルス(VZV)-DNAは認めなかった.術後にクリンダマイシン1,200mgを点滴投与し,プレドニゾロン30mg内服より漸減し,軽快した.術後1カ月でクリンダマイシン点滴を中止し,クリンダマイシン硝子体内注射1mgを施行した.術後2カ月目に前眼部炎症や網膜滲出斑の増大がみられたため,クリンダマイシン900mg内服を再開し,2回目のクリンダマイシン硝子体内注射1mgと5回目のSTTA40mgを施行した.炎症は徐々に消退し,術後3カ月でクリンダマイシン450mgへ漸減し,術後5カ月に150mgへ漸減し,プレドニゾロンを中止した.その後,炎症がやや再燃したため,クリンダマイシン450mgへ増量して半年維持し,300mgと150mgをそれぞれ1年維持し,中止した.その後,再燃は認めておらず,視力は(0.5)である.IIトキソカラ症1.病態イヌ回虫(Toxocaracanis)やネコ回虫(Toxocaracati)の幼虫移行症であり,イヌやネコとの直接接触や,感染したウシやブタ,トリなどの生肉や肝臓の生食などから感染する.通常片眼性であり,1)眼内炎型,2)後極部腫瘤型,3)周辺部腫瘤型,4)非定型型の4型に分類される3).1)眼内炎型(約10%弱):10歳以下の幼小児に多く,初期には前部ぶどう膜炎がみられ,強い硝子体混濁が特徴であり,網膜.離や血管新生緑内障を生じることもあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121327 ある.2)後極部腫瘤型(20~30%):6~14歳に多く,20歳以上でもみられる.黄斑部や乳頭周囲に境界不鮮明な白色肉芽腫性病巣を認め,急性期を過ぎると瘢痕化して硝子体索状物による牽引性網膜.離を生じることもある.3)周辺部腫瘤型(60~70%):成人に多く,眼底周辺部に白色隆起性病巣やびまん性の硝子体混濁を認め,後極部腫瘤型と同様の経過を生じることがある.4)非定型型:上記のいずれにも分類されないもの.2.診断ペット飼育歴や生食歴の問診が重要であり,確定診断にはELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay)法やトキソカラ抗体測定キット(ToxocaraCHEKR)などで血清だけでなく,眼内液(前房水,硝子体液)の虫体に対する特異的抗体を測定する.3.治療プレドニゾロン内服0.5mg/kg/日からの漸減が原則であり,駆除剤であるジエチルカルバマジン(スパトニンR)100mg/日を併用する.内科的治療を行っても炎症が遷延し,硝子体混濁が強い症例や,牽引性網膜.離が進行した症例などは硝子体手術の適応となる.また,牽引性網膜.離の予防や病巣の瘢痕化の促進,炎症の沈静化のために網膜光凝固を施行することがある.ここで,発症7年後に硝子体混濁が増強し,硝子体手術に至った症例について述べる.〔症例〕(図5~9)患者:21歳,男性.主訴:左眼痛,充血.既往歴・家族歴:14歳時に左眼ぶどう膜炎で入院加療.生活歴:1カ月半前にレバ刺し食.現病歴:2日前から左眼痛や充血を自覚し,近医受診.左眼虹彩炎や硝子体混濁,瘢痕病巣を認め,九州大学病院眼科紹介受診.初診時所見:視力は右眼(1.2),左眼(0.7),眼圧は1328あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012図5トキソカラ症:初診時の眼底写真強い硝子体混濁を認める.図6トキソカラ症:初診時の周辺部眼底写真内下方に瘢痕病巣を認める.右眼13mmHg,左眼12mmHgであった.左眼微塵状角膜後面沈着物,前房にcell(++),硝子体混濁(++),眼底内下方に瘢痕病巣,血管炎を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では左眼視神経乳頭の過蛍光や病巣周囲からの蛍光漏出,血管炎を認めた.検査所見:血清,左眼前房水抗トキソカラ抗体価上昇を認めた.経過:1週間後に左眼硝子体混濁が増強し,STTA(12) ab図7トキソカラ症:初診時蛍光眼底造影写真視神経乳頭の過蛍光(a)や病巣周囲からの蛍光漏出(b),血管炎(c)を認める.40mgを施行し,ジエチルカルバマジン100mg内服を開始した.しかし,2週間後に左眼前房cell(+++)と悪化し,硝子体混濁の改善もみられなかったため,プレドニゾロン30mg内服を開始した.開始後も硝子体混濁が増強し,左眼視力(0.02)と低下を認め,2週間後に(13)図8トキソカラ症:術前のBモードエコー写真網膜全.離を認める.図9トキソカラ症:再発時の眼底写真網膜.離を認める.は左眼視力手動弁となり,Bモードエコーにて網膜全.離を認めた.硝子体手術を施行し,内下方の瘢痕病巣の辺縁に裂孔を認めた.術後に網膜光凝固を追加し,炎症は一旦落ち着いたが,術後3週間に網膜再.離を認め,2回目の硝子体手術,輪状締結術を施行し,シリコーンオイルを注入した.その後,経過良好であり,3カ月後にシリコーンオイル抜去術を施行した.退院時視力は(0.2)であった.あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121329 おわりにトキソプラズマ症ではアセチルスピラマイシンやステロイド薬に治療抵抗性の症例,トキソカラ症では長期にわたり炎症が沈静化していたにもかかわらず突然炎症が増悪し,硝子体手術を要した症例について述べた.このような症例はまれであるが,遭遇する可能性があることをお伝えできれば幸いである.文献1)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20072)LasaveAF,Diaz-LiopisM,MuccioliCetal:Intravitrealclindamycinanddexamethasoneforzone1toxoplasmicretinochoroiditisattwenty-fourmonths.Ophthalmology117:1831-1838,20103)WilkinsonCP,WelchRB:Intraoculartoxocara.AmJOphthalmol71:921-930,19711330あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(14)

ウイルス性虹彩毛様体炎

2012年10月31日 水曜日

特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1319.1324,2012特集●ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎:治療の最前線あたらしい眼科29(10):1319.1324,2012ウイルス性虹彩毛様体炎ViralIridocyclitis蕪城俊克*大友一義*はじめにステロイド薬治療に抵抗する難治性のぶどう膜炎をみたとき,感染性ぶどう膜炎の可能性を考える必要がある.感染性ぶどう膜炎には,細菌性(結核,梅毒などを含む),真菌性,原虫,ウイルス性などがある.そのなかでも,ウイルス性虹彩毛様体炎は最も日常的に遭遇する感染性ぶどう膜炎であり,注意が必要である.ウイルス性虹彩毛様体炎の原因ウイルスとしては,ヒトヘルペスウイルス科に属するウイルスが最も重要であり,1型から8型までが知られている(表1).そのうち,単純ヘルペスウイルス1型(herpessimplexvirus-type1:HSV-1),2型(HSV-2)と水痘帯状ヘルペスウイルス(varicellazostervirus:VZV)は,虹彩毛様体炎(以下,虹彩炎)や汎ぶどう膜炎(急性網膜壊死)の原因となる.近年,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)も,以前から知られていたCMV網膜炎のみならず,虹彩炎の原因にもなることが明らかとなった1).また,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断されていた症例は,rubellaウイルス(風疹の原因ウイルス)やCMVが原因であることが多いことが明らかとなってきている2).ヒトTリンパ球向性ウイルス(humanTlymphotropicvirus:HTLV)-I関連ぶどう膜炎は汎ぶどう膜炎であることが多いが,まれに前部ぶどう膜炎だけの症例もある.このほかにも,mumpsウイルス(流行性耳下腺炎の原因ウイルス)3),ヒトヘルペスウイルス(humanherpesvirus:HHV)-7,HHV-8,ヒトparechoウイルス,デング熱ウイルスなどが,虹彩毛様体炎,角膜ぶどう膜炎,あるいは角膜内皮炎の原因となる可能性が報告されている.しかし,これらの症例報告の数は少なく,まだぶどう膜炎の病因としては確立していない.わが国ではparechoウイルス,デング熱ウイルスによるぶどう膜炎症例の報告はない.本稿では,最近の報告も含めて現在までにわかっているウイルス性虹彩毛様体炎について述べる.表1ヒトヘルペスウイルス科に属するウイルス名称略称潜伏部位関連する疾患単純ヘルペスウイルス1型HSV-1三叉神経節など口唇ヘルペス,角膜炎,虹彩炎単純ヘルペスウイルス2型HSV-2仙髄神経節など外陰部ヘルペス,虹彩炎,網膜炎水痘帯状ヘルペスウイルスVZV脊椎後髄神経節など水痘,帯状疱疹,虹彩炎,網膜炎サイトメガロウイルスCMVリンパ球などサイトメガロウイルス網膜炎,肺炎,肝炎,脳炎Epstein-BarrウイルスEBV外分泌腺など伝染性単核症,上顎癌,Barkittリンパ腫,Sjogren症候群ヒトヘルペスウイルス6型HHV-6CD4陽性T細胞など突発性発疹ヒトヘルペスウイルス7型HHV-7CD4陽性T細胞など突発性発疹ヒトヘルペスウイルス8型HHV-8Kaposi肉腫*ToshikatsuKaburaki&KazuyoshiOtomo:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚・運動機能講座眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(3)1319 IHSVおよびVZV虹彩炎ヘルペスウイルスによる角膜炎,ぶどう膜炎,眼瞼炎などの眼部ヘルペスは,一度感染したHSVあるいはVZVが,眼の知覚神経節である三叉神経節に潜伏感染し,その再活性化が三叉神経節第1枝領域(眼瞼皮膚,角膜,結膜,強膜,虹彩毛様体,網膜)に起きることで発症する.HSV,VZVの初感染は若年成人期までに8.9割の人で起きる.HSVの初感染の多くは不顕性感染であるのに対し,VZVでは全身性の水疱性皮疹(水痘)を生じる.ウイルスの再活性化は,発熱,感冒,ストレス,老齢,免疫力の低下などが誘因となることが多い.HSVよりもVZVのほうが一度に多くの神経束に再発するため,VZV虹彩炎のほうが眼瞼炎などの随伴症状を伴いやすい.虹彩炎は通常片眼性で,充血,羞明,眼痛,霧視を訴え,前房内炎症は急性期には高度なことが多い.HSV虹彩炎は,急性期には豚脂様の角膜後面沈着物(keraticprecipitate:KP,図1)がみられ,角膜混濁や浮腫,眼圧上昇を伴うことも多い.上皮型角膜ヘルペス(樹枝状潰瘍)や眼瞼の水疱性皮疹を伴うこともある.鎮静期には小円形の虹彩萎縮を残すことがある.それに対し,VZV虹彩炎は眼部帯状疱疹(herpeszosterophthalmicus)に引き続いて起きる場合が多いが,皮疹を伴わない場合もある(zostersineherpete).眼部帯状疱疹の約1/3にVZV虹彩炎を合併する.鼻根部に皮疹がみられる場合は虹彩炎を起こしやすい(Hutchinsonの法則).虹彩炎は肉芽腫性で,急性期には豚脂様KP(図2)がみられ,眼圧上昇を伴うことが多い.時間経過とともに虹彩色素を伴った茶色のKPとなる.虹彩後癒着や前房蓄膿をきたすことがある.VZV虹彩炎の鎮静期には,扇形あるいは広範囲にくっきりとした虹彩萎縮を残すことが多く,瞳孔不整をきたすこともある.VZVによる虹彩炎はHSV虹彩炎よりも眼圧コントロールが不良となりやすいとの報告がある.臨床所見からヘルペス性虹彩炎を疑った場合,確定診断のための検査として,前房水を採取して,①PCR(polymerasechainreaction)法でHSVまたはVZVDNAが陽性,または②血清と前房水(または硝子体液)におけるウイルス抗体価を蛍光抗体法(FA)で測定して,下記の計算式で抗体価率(Q値)が6以上,であれば該当ウイルスを病因と判断する.抗体価率(Q値)=(眼内液ウイルス抗体価÷眼内液中の総IgG濃度)(血清ウイルス抗体価÷血清中の総IgG濃度)前者は発症早期(1カ月以内)で陽性率が高く,後者は発症後1カ月以上経ってから陽性率が高まるとされている.ステロイド薬点眼だけでは虹彩炎が遷延する症例図1HSV虹彩炎高度の前房内炎症,毛様充血とともに白色で豚脂様から微塵状まで大小の角膜後面沈着物を認める.図2VZV虹彩炎の角膜後面沈着物前房内炎症,毛様充血とともに豚脂様角膜後面沈着物が下方を中心にみられる.1320あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(4) で,アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏を併用すると虹彩炎が消退するような症例はヘルペス性虹彩炎が疑わしい(治療的診断).治療は,抗ウイルス薬とステロイド薬点眼,散瞳薬の点眼を併用する.アシクロビル(ゾビラックスR)眼軟膏1日5回,ベタメタゾン(0.1%リンデロンR)点眼1日5回,トロピカミド(ミドリンPR)点眼1日3回を1.2週間行い,前房内の消炎を確認しながら徐々に減量・中止するのが基本である.僚眼が視力不良のために眼軟膏を使いづらい症例では,眼軟膏の代わりに内服治療を行う.HSVが原因と考えられる症例では,バラシクロビル〔バルトレックスR(500mg)〕内服2錠分2を5日間,VZVが原因と考えられる症例では6錠分3を1週間程度投与する.本症では虹彩炎の再発を繰り返す症例がしばしばある.繰り返しヘルペス眼症(虹彩炎,角膜ヘルペス,眼瞼炎を含む)を再発する症例には,アシクロビル〔ゾビラックスR(400mg)〕1日2錠内服あるいはバラシクロビル(500mg)1日1錠内服の継続が再発予防に有効であった,との報告がある4).本症は,通常眼底には炎症病変を及ぼさないので視力予後は良好であるが,再発を繰り返す症例では続発緑内障や併発白内障,角膜混濁や角膜内皮不全などにより視力障害を残す可能性がある.IICMV虹彩炎CMVは80.90%の人が小児期に不顕感染し,生体内で持続感染している.そしてエイズや抗癌剤の使用,免疫抑制剤の使用などで免疫不全となった際に,網膜,肺,肝臓,副腎,脳などで再活性し,CMV感染症をひき起こす.CMV網膜症が健常人で発症した報告は散見されるものの,CMVは健常人には感染症をほとんど発症しないものと最近まで信じられてきた.ところが近年,免疫不全のない健常人の虹彩炎や角膜内皮炎の患者の前房水から定量的PCRで有意な量のCMV-DNAが検出される症例が報告され1),CMVが健常人で虹彩炎や角膜内皮炎の原因となることが広く認められるようになってきている.CMV虹彩炎はそれまでPosner-Schlossman症候群あるいはFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断されてい(5)た患者に多い.Cheeらは眼圧上昇を伴う前部ぶどう膜炎105眼の前房水を採取してPCR検査を行ったところ,24眼(22.8%)でCMV-DNAが陽性になり,それらのうち18眼(75%)は臨床的にPosner-Schlossman症候群,5眼(20.8%)はFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎,1眼はヘルペス性虹彩炎疑いと診断された,と報告している1).CMV虹彩炎の臨床的特徴としては,①片眼性が多い(23例中22例,96%),②慢性または再発性の虹彩毛様体炎,③豚脂様,小型または星型の角膜後面沈着物(100%),④眼圧上昇を伴う(平均最高眼圧43.5mmHg),⑤再発歴100%(23例中23例),⑥虹彩萎縮を50%(24例中12例)に認める,⑦角膜内皮炎の合併29%(7例中2例),⑧角膜内皮細胞密度が減少している症例が多い,などがあげられる.眼所見からPosner-Schlossman症候群と診断されていた症例の約半数がCMV虹彩炎である可能性が推測されている5).CMV虹彩炎は,HSVやVZVによる虹彩炎と比べて前房内炎症所見が軽度なことが多く,炎症が強くても前房内cellは2+以下であることが多い.結膜充血も軽度である.0.1%ベタメタゾン点眼(リンデロンR)の使用により前房内細胞は消失することが多いが,弱い炎症が遷延することもある.また,0.1%ベタメタゾン点眼を中止する,あるいはフルオロメトロン(フルメトロンR)点眼に弱めると前房内炎症や白色KPが再発し,眼圧も上昇するという経過をとる症例が多い.KPには特徴があり,炎症の再燃時には白色(あるいは透明色)の豚脂様または小型KPがみられる.KPには樹枝状の突起(図3)がみられることも多く,星型KPとよばれ,感染性ぶどう膜炎を疑う所見とされている.前房内炎症の消退期には,茶色の色素性KPを残すことも多い.ステロイド薬点眼中に上皮型角膜ヘルペスに類似した樹枝状潰瘍を呈することがある.CMV虹彩炎の経過中に,角膜内皮炎を認めることがある.CMV虹彩炎とCMV角膜内皮炎は,炎症の首座の違いであり,同一疾患の経過中の別の時期を診ているのであろうと推測されている.角膜内皮炎は,限局性の角膜実質および上皮浮腫と,その部位に一致した白色小型のKPで,典型例では角膜実質内には炎症所見はみられない.軽度の前房内炎症を伴うことが多い.ステロイあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121321 図3CMV虹彩炎にみられた樹枝状の角膜後面沈着物角膜後面沈着物(KP)に樹枝状の突起がみられ(星形KP),感染性ぶどう膜炎を疑う.ド薬点眼のみで様子をみたり無治療で放置すると角膜新生血管の進入や角膜混濁,さらに角膜内皮細胞傷害が進行して角膜内皮機能不全をひき起こしうるので注意する必要がある.白色小型KPが円形に配列するcoinlesion(図4)7)はCMV角膜内皮炎で特徴的な所見であるとされており,CMV角膜内皮炎の約半数でみられる.CMV虹彩炎および角膜内皮炎の診断には,前房内炎症や新鮮な白色KP,あるいは限局性角膜浮腫やcoinlesionがみられる日に前房水を採取し,PCR検査を施行する.また,定量的PCR法であるreal-timePCRを用いることで前房水中のウイルスのコピー数(/μl)がわかれば,より病原性が確実となる.片眼性に虹彩炎を繰り返す症例で,僚眼と比べ角膜内皮細胞密度が明らかに減少している症例では本症の可能性を考える必要がある.CMV虹彩炎の治療は十分に確立されていない.保険適用はないが,CMV網膜炎に準じた抗CMVウイルス薬(ガンシクロビル,デノシンR)の投与とステロイド薬点眼の併用がよいと考えられている.Cheeらはバルガンシクロビル(ガンシクロビルのプロドラッグで内服で投与可能)内服(導入療法として1,800mg分2を6週間,および維持療法として900mg分2を6週間)またはガンシクロビル硝子体注射(2mg/0.1mlを週1回,3カ月間)を行っている1).また,KoizumiらはCMV1322あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012図4CMV虹彩炎にみられたcoinlesion角膜移植後にCMV虹彩炎と判明した症例で,虹彩炎の再燃時にcoinlesionがみられ,角膜内皮炎の合併が疑われた.角膜内皮炎に対してガンシクロビル全身治療(10mg/kg/dayを7日間)に加えて維持療法として0.5%ガンシクロビル点眼液1日4.8回点眼を併用している6).通常これらの抗ウイルス治療により前房内炎症や眼圧上昇の速やかな消退が得られるが,中止すると虹彩炎が再発しやすいのが問題点である2).0.5%(あるいは1%)ガンシクロビル点眼が再発予防に有効な可能性があり,試みられている.本症のおもな続発症・合併症として,併発白内障,続発緑内障,角膜内皮不全がある.角膜内皮細胞密度は僚眼と比べ高度に減少している症例が多く,経過中に角膜内皮炎を併発している可能性が考えられる.また,続発緑内障は虹彩炎の遷延により緑内障手術が効きにくいことが多く,繰り返す緑内障手術や白内障手術のために角膜内皮細胞密度がさらに減少するというジレンマがある.角膜内皮不全となり角膜移植を施行しても,虹彩炎が遷延するためgraftfailureになりやすい.本症の長期予後についてのまとまった報告はないが,緑内障や角膜内皮障害のために高度の視力障害や視野障害をきたす症例がときどき経験される.IIIFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎は,通常片眼性の軽度の虹彩毛様体炎,白内障,虹彩異色を3主徴とする疾患(6) 図5Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の虹彩異色びまん性の虹彩色素の脱出および白内障を認める.である.20%の症例で眼圧上昇を伴い,その際にはPosner-Schlossman症候群と類似して,鑑別がむずかしいことがあるが,Posner-Schlossman症候群ほど急峻な眼圧上昇ではなく,慢性的な上昇であることが多い.虹彩異色とは両眼で虹彩の色調が異なることを指すが,有色人種では不明瞭で,びまん性の虹彩表面の萎縮と考えたほうがよい(図5).前房内炎症は軽度で,KPは白色小.中型で数は少なく,角膜後面全体に上方まで分布することが多い(図6).虹彩後癒着は起こさない.前房穿刺時に出血することがある(Amslersign).白内障は後.下白内障であることが多い.硝子体混濁をしばしば伴う.KPは白色,小.中型で数が少なく,角膜後面全体に上方まで分布することが多い.近年,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎患者の前房水では,風疹ウイルスDNAのPCR検査が陽性であったり,風疹ウイルスの抗体価率が高値である症例が多いことが明らかとなり,この疾患の発症に風疹ウイルスが関与している可能性が考えられている2).deVisserらは,前房水PCR検査または抗体価率で風疹ウイルスが陽性であった30症例について臨床像を検討したところ,小型のKP,虹彩異色,白内障,虹彩後癒着なしの4項目のすべてを満たす症例が10例(33%),3つを満たす症例が13例(43%),2つを満たす症例が7例(23%)であり,従来からいわれているFuchs虹彩異色性虹彩毛様(7)図6Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の角膜後面沈着物角膜後面沈着物は白色小型で,角膜後面全体に散在性に上方まで分布することが多い.体炎の臨床像とよく合致するものであったと報告している7).一方,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎症例のなかに,前房水PCR検査でCMVのDNAが陽性となる症例もあることが報告されている.Cheeらは,臨床的にFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と診断された36眼のうち,前房水PCR検査で15眼がCMV-DNAが陽性であったと報告している4).このように眼所見上Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎と考えられる症例には,風疹ウイルスやCMVが病因として関与している症例が多いことが推測されている.風疹ウイルスに対する抗ウイルス薬は現在のところなく,ステロイド薬点眼を行っても前房内には弱い炎症や白色のKPが持続して,炎症は完全に消退しないことが多い.したがって本症に対しては無治療で様子をみるのが基本である.一方,前房水のPCR検査でCMV-DNAが陽性となった症例については,前記のごとくCMV虹彩炎として治療することが望まれる.本症の視力予後は一般に良好であり,白内障が進行すれば白内障手術を行う.慢性の虹彩炎がみられても内眼手術を行って問題はない.IVその他のウイルス性虹彩炎HTLV-I関連ぶどう膜炎はサルコイドーシスに類似あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121323 した硝子体混濁や網膜血管炎がみられることが多いが,まれに前眼部だけのぶどう膜炎がみられることがある.軽度の虹彩毛様体炎,白色小型のKP,隅角結節がみられることが多い.通常,ステロイド薬点眼や局所注射が著効する.また,非常にまれであるが,mumpsウイルスによる角膜ぶどう膜炎,角膜内皮炎の報告がある3).Mumpsウイルスによる角膜内皮炎は,流行性耳下腺炎の罹患後3.10日ごろに,充血,羞明,眼痛,急激な視力低下をきたして発症する.通常片眼性で,虹彩炎とともに高度な角膜実質浮腫,混濁がみられる.虹彩炎は軽度なことが多い.角膜浮腫は数日で減少して,Descemet膜皺襞を伴った水疱性角膜症の所見となる.2.3週間で角膜は透明化するが,内皮細胞数は著明な減少がみられる.診断はmumpsウイルスの感染症状(耳下腺の腫脹,発熱,麻疹)に加え,前房水PCR検査でのウイルスDNAの証明が確定診断となる.Mumpsウイルスに対する抗ウイルス薬は存在しないため,対症療法としてステロイド薬点眼,抗生物質点眼を行う.近年,軽度の虹彩炎を伴う角膜内皮炎の症例で,前房水の定量的PCR検査によりHHV-7やHHV-8のウイルスDNAが検出された,との報告がある.文献1)CheeSP,BacsalK,JapAetal:Clinicalfeaturesofcytomegalovirusanterioruveitisinimmunocompetentpatients.AmJOphthalmol145:834-840,20082)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,20043)OnalS,TokerE:Arareocularcomplicationofmumps:kerato-uveitis.OculImmunolInflamm13:395-397,20054)MiserocchiE,ModoratiG,GalliLetal:Efficacyofvalacyclovirvsacyclovirforthepreventionofrecurrentherpessimplexviruseyedisease:apilotstudy.AmJOphthalmol144:547-551,20075)CheeSP,JapA:PresumedFuchsheterochromiciridocyclitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOphthalmol146:883-889,20086)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,20087)deVisserL,BraakenburgA,RothovaAetal:Rubellavirus-associateduveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.AmJOphthalmol146:292-297,20081324あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(8)

序説:ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎の見極め

2012年10月31日 水曜日

●序説あたらしい眼科29(10):1317.1318,2012●序説あたらしい眼科29(10):1317.1318,2012ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎の見極めDiagnosingofSteroid-ResistantUveitis園田康平*ぶどう膜は眼球内で唯一豊富な血流を有する部位である.単位体積あたりの血管が多く,さまざまな全身血管病に伴う眼炎症の起炎部位になりやすい.ぶどう膜炎といっても単にぶどう膜の炎症のみを指すのではなく,眼球内炎症の総称である.ゆえに,最近は広く眼全体の炎症状態を代表する呼び名として国際的にはぶどう膜炎のことを「内眼炎(intraocularinflammation)」と呼ぶ.ぶどう膜炎は大きく自己免疫病などの内因性のものと,感染症などの外因性のものに分類できる.大切なことは,ぶどう膜炎は単一の疾患ではなく,種々の原因疾患によって生じるため,複数の鑑別診断のなかから診断を絞り込んでいく作業が必要であるということであろう.眼科疾患は「見てすぐに判る」場合が多いが,ぶどう膜炎については1.2回の診察で診断がつくことはむしろ少なく,「何回か診察するうちに検査結果が出そろって,それらを踏まえていくつかの鑑別診断をあげ,そのなかから確定診断を行う」といった地道な過程が必要である.ぶどう膜炎治療で最も使用頻度が高く,かつ頼れる薬剤が副腎皮質ステロイド薬である.眼科領域におけるステロイド薬投与法には大きく分けて全身投与と局所投与がある.治療の基本はあくまで局所ステロイド薬治療と散瞳薬による適切な瞳孔管理である.眼球は閉鎖臓器であり,ステロイド薬局所投与はその特徴を最大限に活かした有効な治療法である.全身投与を検討する前に,局所投与で治療できないか最大限その可能性を探るべきである.一方,ぶどう膜炎は全身病であり,局所ステロイド薬治療だけでは根本的な問題解決につながらないこともある.局所投与でどうしても対応できない場合には,ステロイド薬全身投与の適応であろう.たとえば,Vogt-小柳-原田病や難治性サルコイドーシスなどでステロイド薬全身投与を考慮する.一度全身投与を行うと決めたら,ある程度の量をしっかりと使うべきである.初回プレドニゾロン換算10.15mg程度の投与は,百害あって一利なしである.少量投与で効かなかった場合,それはステロイド薬が足りなかったから効かないのか?それともそもそもステロイド薬が効かない疾患なのか?を鑑別できない.結果として副作用のリスクだけを負うことになりかねない.ステロイド薬に関する以上の基本原則を踏まえ,本特集では「ステロイド薬が効かないときに何を考えるべきか?」「ステロイド薬以外の具体的な治療はどうするのか?」という観点で現在のオピニオンリーダーの先生に執筆をお願いした.ステロイド薬が効かない代表が感染症と仮面症候群である.感染症は〔近年PCR(polymerasechainreaction)法の発展で診断率が上がっている〕ウイルス性虹彩毛様*KoheiSonoda:山口大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(1)1317 体炎と,臨床的に見落としやすい原虫・寄生虫感染を取り上げ,前者を蕪城俊克先生・大友一義先生,後者を伊東崇子先生にお願いした.仮面症候群の代表として眼内悪性リンパ腫と白血病眼内浸潤を取り上げ,前者を近藤由樹子先生と園田が担当し,後者を毛塚剛司先生にお願いした.また,感染症と仮面症候群は除外できても,ステロイド薬に反応が悪く治療に難渋するのがBehcet病と小児ぶどう膜炎である.Behcet病は抗TNF-a(腫瘍壊死因子a)治療が始まり画期的な進歩がみられる一方で,長期にわたる生物製剤の使用に関してさまざまな留意点が指摘されている.また,小児においては成長障害など特有のステロイド薬副作用も懸念され,長期の投薬がむずかしい.このあたりの問題点を明確にしたうえで,現時点での最善の対応について竹本裕子先生・南場研一先生と中井慶先生にそれぞれお願いした.外科治療は内科的治療が行き詰まったときの有力な治療法である.ぶどう膜炎における実際の外科治療の適応とタイミングについて丸山和一先生にお願いした.「ステロイド薬抵抗性ぶどう膜炎」イコール「臨床的に困るぶどう膜炎」である.本特集が臨床における考え方の整理に役立てば幸いである.1318あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(2)

ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験

2012年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科29(9):1303.1311,2012cブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした探索的試験新家眞*1山崎芳夫*2杉山和久*3桑山泰明*4谷原秀信*5*1公立学校共済組合関東中央病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科学)*4福島アイクリニック*5熊本大学大学院生命科学研究部視機能病態学分野AnExploratoryStudyofBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpenAngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1),YoshioYamazaki2),KazuhisaSugiyama3),YasuakiKuwayama4)andHidenobuTanihara5)1)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,4)FukushimaEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciencesブリモニジン酒石酸塩点眼液(以下,ブリモニジン)の探索的臨床試験として,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%または0.15%製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果および安全性を,プラセボを対照として比較検討した.主要評価項目に設定した投与4週間後の0時間値および2時間値の眼圧変化値において,0.1%群および0.15%群はいずれもプラセボに比べ有意な眼圧下降を示した.また,0.1%群と0.15%群の眼圧下降効果および副作用発現頻度に差はなく,副次評価項目の眼圧変化率,目標眼圧達成率やノンレスポンダー率においても主要評価を支持する結果を得た.眼科学的検査,血圧・脈拍数や臨床検査においても臨床的に問題となる変動はなく,本剤の忍容性が確認できた.以上の結果より,ブリモニジンはプラセボよりも有意な眼圧下降作用を有し,わが国における臨床至適濃度は0.1%濃度が妥当と判断した.This4-weekexploratoryclinicalstudysoughttodeterminetheintraocularpressure(IOP)-loweringefficacyandsafetyoftopical0.1%and0.15%brimonidinetartrateappliedtwicedailyinpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension.Comparedtothevehiclealone,0.1%and0.15%brimonidinesignificantlydecreasedthemeanIOPchangefrombaselineat0and2hatweek4.NodifferencewasseenbetweentheIOP-loweringeffectsandincidenceofadversesideeffectsof0.1%and0.15%brimonidine.Percentchangesfrombaseline,achievementoftargetpressureandnonresponderrateatthesecondaryendpointsupporttheresultsobtainedattheprimaryendpoint.Theabsenceofclinicallysignificantchangesonophthalmologicalandlaboratoryexaminations,andinbloodpressureandpulserate,confirmedthetolerabilityofbrimonidine.Topical0.1%and0.15%brimonidinearesignificantlymoreefficaciousinloweringIOPthanisthevehiclealone.Withcomparableefficacyandtolerability,0.1%brimonidineisclinicallysuperiorto0.15%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(9):1303.1311,2012〕Keywords:ブリモニジン,緑内障,高眼圧症,探索的臨床試験,選択的アドレナリンa2作動薬.brimonidine,glaucoma,ocularhypertension,exploratoryclinicalstudy,selectivea2-adrenergicagonist.はじめにまざまな緑内障治療薬が上市されており,なかでも原発開放わが国ではプロスタグランジン(PG)関連薬や交感神経b隅角緑内障においてはPG関連薬やb遮断薬が優れた眼圧下受容体遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,交感神経a1受容体遮降効果により第一選択薬として使用されている.しかし,b断薬,非選択性交感神経刺激薬,副交感神経刺激薬などのさ遮断薬の心肺機能に及ぼす影響やPG関連薬に特異的な副作〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(127)1303 用が危惧される症例では,機序の異なる治療薬の選択が必要となってくる.また,高眼圧症または初期の緑内障患者であっても,単剤治療では十分な効果が得られない症例が多々存在することも事実である.緑内障治療における薬剤耐性の状況として,OcularHypertensionTreatmentStudy(OHTS)1)では目標眼圧を達成するために5年目で約40%が2剤以上を必要とし,CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudy(CIGTS)2)では2年で2剤以上を必要とした症例が75%以上と報告されている.緑内障に対する薬物療法の選択肢を広げざるをえない背景には,このような単剤治療のみでは目標眼圧の維持が困難な症例の存在や継続投与によって生じる薬剤耐性の問題があげられる.非選択性交感神経刺激薬のエピネフリン製剤やa1遮断薬,b遮断薬などのアドレナリン受容体をターゲットとした緑内障治療薬は,わが国においても比較的古くから臨床の場に供されてきた.一方,交感神経受容体サブタイプの一つであるa2受容体をターゲットとした緑内障治療薬の開発も過去に試みられており,海外では選択的アドレナリンa2作動薬として1960年代初めに合成されたクロニジンに期待が寄せられた.しかし,クロニジンは眼圧下降作用を有するものの点眼においても中枢性の血圧下降作用を示し,ボランティアの50%で拡張期血圧を30mmHgまで低下させる3)などの副作用により臨床応用には至っていない.ついで,1970年代に合成されたアプラクロニジンは,p-アミノ基の導入により親水性が増加したため中枢性の全身的な副作用は減少したもののヒドロキノン様構造が酸化を受けやすく,生体成分のチオール基と共有結合しハプテン化され4),長期使用では約半数が眼局所のアレルギーにより点眼中止を余儀なくされた5).また,眼圧下降効果を示さなかった症例の割合が投与3.6週間後に24%,投与7.8週間後には57%と高率に認められている6).そのため長期投与が必須となる緑内障や高眼圧症に対する開発は断念され,レーザー手術後の一過性の眼圧上昇の防止を目的とした限定的な使用に留まっている.一方,ブリモニジンはヒドロキノン様構造をもたず,アプラクロニジンにアレルギー反応を示す症例にも交差反応は示さず,全身性の副作用が少ないアドレナリンa2作動薬として唯一,ブリモニジン酒石酸塩点眼液として開放隅角緑内障または高眼圧症に対する適応を取得した緑内障治療薬である.本剤はアプラクロニジンに比べa1受容体よりもa2受容体に高い親和性を示し,既存の緑内障治療薬とは異なる房水産生抑制作用とぶどう膜強膜流出路からの流出促進作用の2つの眼圧下降機序を有する7).また,眼圧コントロール不良例や前治療薬に副作用を生じた症例8)あるいは他剤との併用による高い有効性と忍容性が報告されており9,10),単剤あるいは併用治療のみならずチモロールとの配合剤としても豊富な使用実績を有している.海外では米国アラガン社が1996年に保存剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有した0.2%製剤の米国承認を取得し,その後,保存剤を亜塩素酸ナトリウム(PURITER:以下,Purite)に変更するなどの処方改良が加えられ,現在では0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有する0.15%ブリモニジンPurite製剤が汎用されている.しかし,これまでに日本人におけるブリモニジンの使用経験はないことから,国内においても用量反応性の検討が必要と考え今回,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に0.1%ブリモニジンPuriteまたは0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降効果と安全性を,プラセボを対照として探索的に検討したので報告する.I方法本臨床試験は,開始に先立ちすべての実施医療機関の治験表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師かつしま眼科勝島晴美中の島たけだ眼科竹田明さいたま赤十字病院眼科小島孚允春日部市立病院眼科水木健二大宮はまだ眼科濱田直紀真仁会小関眼科医院小関信之日本大学医学部附属板橋病院眼科山崎芳夫東京医療生活協同組合中野総合病院眼科鈴村弘隆レニア会武谷ピニロピ記念きよせの森総合病院眼科武井歩済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治オリンピア会オリンピア眼科病院井上立州善春会若葉眼科病院吉野啓吉川眼科クリニック吉川啓司蒔田眼科クリニック杉田美由紀湘南谷野会谷野医院谷野富彦富山県立中央病院眼科岩瀬剛金沢大学附属病院眼科杉山和久恩賜財団福井県済生会病院眼科齋藤友護,棚橋俊郎千照会千原眼科医院千原悦夫厚生年金事業振興団大阪厚生年金病院眼科狩野廉創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹湖崎会湖崎眼科湖崎淳尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男研英会林眼科病院林研熊本大学医学部附属病院眼科稲谷大NTT西日本九州病院眼科布田龍佑熊本市立熊本市民病院眼科有村和枝陽幸会うのき眼科鵜木一彦上野眼科医院木村泰朗広田眼科広田篤永山眼科クリニック永山幹夫1304あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(128) 審査委員会で審議を受け,承認を得たうえで医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令などの関連規制法規を遵守し,2006年4月から10月の間に表1に示す32施設で実施した.対象患者は,有効性評価対象眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断された満20歳以上の男女で,試験参加に先立ち文書による同意が得られ,表2の採用基準に該当する症例とした.表2対象被験者のおもな採用・除外基準おもな採用基準1)両眼とも矯正視力が0.7以上の者2)両眼とも眼圧値が31mmHg以下3)原発開放隅角緑内障は,有効性評価対象眼の眼圧値が18.0mmHg以上4)高眼圧症は,有効性評価対象眼の眼圧値が22.0mmHg以上おもな除外基準1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)角膜屈折矯正手術,濾過手術,線維柱帯切開術および内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)の既往を有する者4)コンタクトレンズの装用が必要な者5)a2作動薬にアレルギーまたは重大な副作用の既往のある者6)a作動薬,a遮断薬,b作動薬,b遮断薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,アドレナリン増強作用を有する抗うつ薬,中枢神経抑制薬の使用が必要な者7)肝障害,腎障害,うつ病,Laynaud病,閉塞性血栓血管炎,起立性低血圧,脳血管不全,冠血管不全,重篤な心血管系疾患などの循環不全を有する者8)高度の視野障害がある者9)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者10)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者被験薬は1mL中にブリモニジン酒石酸塩1.0mgまたは1.5mgを含有し,Puriteを保存剤として有し,対照薬のプラセボは被験薬の基剤を用いた.試験薬剤は1日2回,朝(8:30.10:30)と夜(20:00.22:00)に両眼に1滴ずつ4週間点眼した.本試験は二重盲検法により実施し,3群の試験薬剤は北里大学薬学部臨床薬学研究センター・臨床薬学部門の小宮山貴子がプラセボとの外観上の識別不能性を確認したうえで無作為割付けを行った.試験参加前に緑内障の薬物治療を受けていた患者に対しては,交感神経遮断薬またはPG製剤は4週間以上,副交感神経作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬または交感神経作動薬は2週間以上の休薬期間を設けた.その他,ステロイド薬についても1週間以上の休薬期間を設けたが,眼瞼周囲を除く皮膚局所投与については休薬不要とした.検査および観察項目と治験スケジュールを表3に示す.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値として8:30.10:30の間に,点眼後は2時間値の測定を行った.視力検査は遠見視力表を用い,角膜・結膜・眼瞼所見は無散瞳下で細隙灯顕微鏡を用いて観察した.角膜所見の判定基準はAD(Area-Density)分類11)を用い,結膜・眼瞼所見(結膜充血,結膜浮腫,眼瞼紅斑,眼瞼浮腫,結膜濾胞)は4または5段階に程度分類し,結膜充血および結膜濾胞は標準写真を用いて判断した.眼底所見は検眼鏡などを用いて緑内障性異常の有無および垂直陥凹/乳頭径比(vC/D比)を記録した.視野検査は自動静的視野計を用いた.血圧(収縮期,拡張期)・脈拍数は5分間安静後,座位の状態で測定した.臨床検査は血液学的検査および血液生化学的検査をファルコバイオシステムズで実施した.当該治験薬との因果関係の有無にかかわらず,治験薬を点眼した被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない疾病あるいはその徴候を有害事象として扱い,治験薬との因果関係が否定できない有害事象表3治験スケジュール時期*スクリーニング項目背景因子調査●視力検査●角膜・結膜・眼瞼所見眼圧検査●眼底検査・写真●視野検査●血圧・脈拍数臨床検査有害事象休薬投与開始日投与2週間後投与4週間後0時間2時間0時間2時間0時間2時間●●●●●●●*:下段,測定ポイント(時間).(129)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121305 を副作用とした.治験期間中は表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止し,その他の眼圧に影響を及ぼす可能性のある薬剤の新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.有効性の評価は,PerProtocolSet(PPS:治験実施計画書に適合した解析対象集団)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,投与4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.副次評価項目は,投与2週間後の眼圧変化値と2および4週間後の眼圧変化率とし,Dunnett型の多重比較法によりプラセボとの比較を行った.また,2および4週間後に眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合(眼圧値の目標眼圧達成率),眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合(眼圧変化率の目標眼圧達成率)および.10%に達しなかった症例の割合(ノンレスポンダー率)を求め,c2検定またはFisherExact検定による薬剤群間比較を行った.さらに,0時間値と2時間値の平均値を算出し,主要評価項目および副次評価項目の集計ならびに解析を行った.安全性の評価として実施した血圧および脈拍数は,薬剤ごとに投与開始日と投与後の各観察時点の変化を1標本t検定で比較した.いずれも有意水準両側5%とし,解析ソフトはSASforWindowsRelease8.2(SASInstituteJapan)を用いた.また,視力・角膜・結膜・眼瞼所見・眼底・視野・臨床検査は各項目について薬剤ごとに投与前後の比較を行った.目標症例数については,少なくとも0.15%ブリモニジン群がプラセボ群に対して投与4週間後の眼圧変化値で統計学的に有意に優れていること示すため,有意水準両側5%,検出力80%の条件で必要症例を算出し,さらに試験実施中の中止,脱落を考慮して1群40例と設定した.II結果試験薬剤を投与した症例は0.1%ブリモニジン群44例,0.15%ブリモニジン群45例およびプラセボ群44例で,これらの症例はすべて安全性解析対象とした.PPS採用症例は0.1%ブリモニジン群43例,0.15%ブリモニジン群43例およびプラセボ群42例で,その背景因子を表4に示す.眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移をそれぞれ図1,表5および表6に示す.主要評価項目である4週間後の眼圧変化値(0時間値,2時間値)は,いずれの観察時点においても0.1%ブリモニジン群,0.15%ブリモニジン群ともに表4被験者背景(PPS)項目0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ性別男性221915女性212427年齢(歳).6426282965.171513平均57.659.055.3緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障(広義)212320高眼圧症222022眼圧値(mmHg)2724:0.1%ブリモニジン21:0.15%ブリモニジン:プラセボ1815投与2週4週投与2週4週投与2週4週開始日開始日開始日0時間値2時間値0,2時間平均値図1眼圧値の推移平均値±標準偏差.0,2時間平均値は0時間値と2時間値の平均値を示す.1306あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(130) 表5眼圧変化値の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.3.1±1.8(43).3.3±2.3(43).1.5±1.9(41).1.6p=0.0006.1.8p=0.00014週間後.3.7±2.0(43).3.4±2.2(43).2.3±2.2(42).1.4p=0.0055.1.2p=0.02302時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.4.7±2.5(43).4.8±2.3(43).2.2±2.3(41).2.5p<0.0001.2.6p<0.00014週間後.5.1±2.5(43).4.9±2.0(43).2.3±2.4(42).2.9p<0.0001.2.7p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.3.9±1.9(43).4.1±2.0(43).1.9±1.8(41).2.1p<0.0001.2.2p<0.00014週間後.4.4±1.9(43).4.2±1.8(43).2.3±2.2(42).2.1p<0.0001.1.9p<0.0001単位:mmHg,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.表6眼圧変化率の推移および薬剤群間の比較平均値±標準偏差(例数)プラセボvs0.1%プラセボvs0.15%観察時点0.1%0.15%差の差のブリモニジンブリモニジンプラセボ平均値p値*平均値p値*0時間値投与開始日22.1±2.1(43)22.4±2.7(43)22.2±2.3(42)────2週間後.14.1±8.0(43).14.8±9.8(43).6.5±8.2(41).7.6p=0.0002.8.3p<0.00014週間後.16.4±8.9(43).15.1±9.6(43).10.1±9.9(42).6.3p=0.0049.5.0p=0.03062時間値投与開始日21.7±2.5(43)21.8±3.0(43)21.6±2.4(42)────2週間後.21.8±11.2(43).21.8±9.4(43).9.9±10.4(41).11.9p<0.0001.11.9p<0.00014週間後.23.2±10.7(43).22.4±8.0(43).10.3±10.8(42).12.9p<0.0001.12.1p<0.00010時間値と2時間値の平均投与開始日21.9±2.2(43)22.1±2.8(43)21.9±2.3(42)────2週間後.18.0±8.7(43).18.3±8.7(43).8.3±7.8(41).9.7p<0.0001.10.0p<0.00014週間後.19.9±8.2(43).18.7±7.6(43).10.3±9.8(42).9.7p<0.0001.8.4p<0.0001単位:%,差の平均値:[ブリモニジン.プラセボ],*:Dunnettの多重比較.プラセボ群に比べ統計学的に有意な眼圧下降を示した.0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の眼圧変化値に大きな違いはなかった.副次評価として,各観察時点における眼圧変化値および眼圧変化率を薬剤群間で比較した結果,すべての観察時点において主要評価の結果と同様に0.1%および0.15%ブリモニジン群はプラセボ群に比べ有意な眼圧下降効果を示し,両濃度間の眼圧下降効果に大きな違いはなかった.投与2週間後および4週間後の眼圧値が19mmHg以下になった眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率が.20%以上になった眼圧変化率の目標眼圧達成率および眼圧変化率が.10%に達しなかったノンレスポンダー率をそれぞれ表7,表8および表9に示す.眼圧値の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群はすべての観察時点において,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除き,プラセボ群に比べ有意に高かった.眼圧変化率の目標眼圧達成率は,0.1%ブリモニジン群は2週間後の0時間値を除き,0.15%ブリモニジン群は4週間後の0時間値を除きプラセボ群に比べ有意に高かった.ノンレスポンダー率については,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有意に低かった.なお,0.1%と0.15%製剤の眼圧値の目標眼圧達成率,眼圧変化率の目標眼圧達成率およびノンレスポンダー率には有意な差はなかった.その他の解析として,各観察時点における眼圧の0時間値と2時間値の平均値を用いて同様の解析を行った結果,0.1%および0.15%ブリモニジン群はすべての観察時点においてプラセボ群に比べ有(131)あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121307 表7眼圧値の目標眼圧達成率(19mmHg以下)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後55.855.831.7p=0.0261†p=0.0261†p=1.0000†4週間後67.458.140.5p=0.0126†p=0.1034†p=0.3722†2時間値2週間後76.781.451.2p=0.0147†p=0.0034†p=0.5960†4週間後88.486.057.1p=0.0015‡p=0.0031†p=1.0000‡0時間値と2時間値の平均2週間後69.872.136.6p=0.0023†p=0.0011†p=0.8123†4週間後79.174.450.0p=0.0050†p=0.0202†p=0.6097†目標眼圧達成率:眼圧値が19mmHg以下に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表8眼圧変化率の目標眼圧達成率(.20%以上)の薬剤群間比較目標眼圧達成率(%)薬剤群間比較観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%プラセボvs0.15%0.1%vs0.15%0時間2週間後23.332.69.8p=0.1433‡p=0.0158‡p=0.3362†4週間後39.537.219.0p=0.0382†p=0.0629†p=0.8245†2時間値2週間後53.553.57.1p=0.0005†p=0.0005†p=1.0000†4週間後60.567.416.7p<0.0001†p<0.0001†p=0.5005†0時間値と2時間値の平均2週間後39.548.89.8p=0.0022‡p=0.0001‡p=0.3851†4週間後53.548.819.0p=0.0010†p=0.0038†p=0.6661†目標眼圧達成率:眼圧変化率が.20%以上に達した症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.表9ノンレスポンダー率の薬剤群間比較ノンレスポンダー率(%)観察時点0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボプラセボvs0.1%0時間2週間後37.223.368.3p=0.0044†4週間後18.625.652.4p=0.0011†2時間値2週間後14.011.653.7p=0.0001†4週間後7.09.350.0p<0.0001‡0時間値と2時間値の平均2週間後27.920.963.4p=0.0011†4週間後18.67.052.4p=0.0011†ノンレスポンダー率:眼圧変化率が.10%に達しなかった症例の割合.†:c2検定,‡:FischerExact検定.薬剤群間比較プラセボvs0.15%p<0.0001†p=0.0113†p<0.0001‡p<0.0001‡p<0.0001†p<0.0001‡0.1%vs0.15%p=0.1589†p=0.4355†p=1.0000‡p=1.0000‡p=0.4514†p=0.1951‡1308あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012(132) 表10副作用一覧薬剤0.1%ブリモニジン0.15%ブリモニジンプラセボ安全性解析対象例数444544【MedDRA(Ver.10.0)PT】例数(%)件数例数(%)件数例数(%)件数全体6(13.6)76(13.3)92(4.5)2点状角膜炎4(9.1)46(13.3)71(2.3)1結膜浮腫001(2.2)100結膜充血1(2.3)11(2.2)100眼の異常感1(2.3)10000眼刺激1(2.3)10000眼瞼.痒症00001(2.3)1意な眼圧下降効果を示す一方で,0.1%と0.15%ブリモニジン群の眼圧下降効果に差はなかった.発現した有害事象は,0.1%ブリモニジン群11例(25.0%)13件,0.15%ブリモニジン群14例(31.1%)21件,プラセボ群10例(22.7%)11件であった.このうち副作用は0.1%ブリモニジン群6例(13.6%)7件,0.15%ブリモニジン群6例(13.3%)9件,プラセボ群2例(4.5%)2件で,表10に示すようにすべて眼局所の障害で,発現した副作用のなかでは点状角膜炎の頻度が高かった.重症度としては0.1%ブリモニジン群の点状角膜炎1例1件が中等度と判定された以外はいずれも軽度で,0.1%ブリモニジン群と0.15%ブリモニジン群の副作用の発現頻度に差はなかった.死亡例,重篤な副作用および薬剤の投与中止を必要とするような重要な副作用はなかった.角膜・結膜・眼瞼所見,視力検査,視野検査および眼底検査に臨床上問題となる変動はなかった.バイタルサインの血圧および脈拍数で,試験薬剤投与後に統計学的に有意な低下が散見されたものの変動幅は小さく,臨床上問題となる変動はなかった.また,臨床検査についても治療の対象となるような異常変動はなかった.III考察今回のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間投与による用量反応試験において,主要評価とした投与4週間後のトラフに相当する0時間の眼圧変化値は,プラセボ群の.2.3±2.2mmHgに対し0.1%ブリモニジン群は.3.7±2.0mmHg,0.15%ブリモニジン群は.3.4±2.2mmHgと両群とも有意な低下を示した.また,ピークに相当する2時間後においてもプラセボ群の.2.3±2.4mmHgに対し,それぞれ.5.1±2.5mmHg,.4.9±2.0mmHgとブリモニジン群はいずれも統計学的に有意な眼圧下降作用を示した.本剤は日本人においても有意な眼圧下降作用を有し,0.1%ブリモニジンPurite製剤が海外で承認されている0.15%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認できた.この眼圧下降作用は炭酸脱水酵素阻害薬の0.5%塩酸ドルゾラミド点眼液を(133)1日3回または1%ブリンゾラミド点眼液を1日2回点眼したときと同等あるいはそれ以上の効果を示唆する結果であった12,13).また,副次評価項目には臨床に即した評価として,日本緑内障診療ガイドライン14)で推奨されている緑内障初期症例に対する目標眼圧19mmHg以下の症例,無治療時眼圧からの眼圧下降率20%以上の症例の割合を含め,眼圧下降率が10%未満のノンレスポンダー率を設定したが,これらの副次評価においても本剤の主要評価を支持する結果を得た.米国でブリモニジンの開発初期に実施された0.08%,0.2%および0.5%ブリモニジンBAK製剤による用量反応試験では,0.2%群と0.5%群の継続投与による眼圧下降作用に明らかな違いはなく,いずれも0.08%群に対して有意な眼圧下降作用を示し,安全性の面では0.2%群が優れることからブリモニジンの至適濃度として0.2%が選択されている15).その後,この0.2%ブリモニジンBAK製剤の保存剤をPuriteに変更するとともに,pHを中性領域に変更することで眼内移行性が約1.4倍向上し16),臨床的にも0.15%ブリモニジンPuriteが0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用を有することが確認されている17).さらに,0.2%ブリモニジンBAK製剤と0.15%ブリモニジンPuriteあるいは0.2%ブリモニジンPurite製剤の3用量による長期投与試験の結果,0.15%ブリモニジンPurite製剤は,0.2%ブリモニジンBAK製剤および0.2%ブリモニジンPurite製剤と同等の眼圧下降作用を示す一方で,アレルギー性結膜炎や口内乾燥などの発現率が有意に少ないことが確認され18),2001年にFDA(FoodandDrugAdministration)の承認を取得している.国内の臨床試験に用いた0.15%ブリモニジンPurite製剤は,米国で0.2%ブリモニジンBAK製剤と同等の眼圧下降作用が確認された製剤である.その主薬濃度のみを変更した0.1%ブリモニジンPurite製剤が,わが国においては0.15%ブリモニジンPurite製剤と同様の眼圧下降作用とプロファイルを示したことから,間接的な比較にはなるものの日本人に対する0.1%ブリモニジンPurite製剤は,これまで海外で汎用されてきた0.2%ブリモニジンBAK製剤あたらしい眼科Vol.29,No.9,20121309 とも同等の眼圧下降作用を有すると考えられる.現在,緑内障治療薬の薬効評価は眼圧下降作用を指標として検討されているが,緑内障に対する最終的な治療目的は視神経障害の進行阻止である.目標眼圧の維持は緑内障の進行を抑制するうえで有効な手段ではあるものの,眼圧は代替評価項目(サロゲートエンドポイント)であることから近年,改めて視神経乳頭の血流改善や網膜神経節細胞に対する直接的な神経保護治療が注目されつつある.ブリモニジンは角膜透過性が高く,薬理作用が期待できる濃度が点眼で網膜や硝子体に到達しており19.21),虚血再灌流モデルやグルタミン酸硝子体内注入あるいは眼圧上昇動物モデルに対する点眼投与で網膜神経節細胞のアポトーシスを抑制することが報告されている22,23).また,臨床研究においても0.2%ブリモニジンBAK製剤の点眼により正常眼圧緑内障の視野障害の進行がチモロール点眼液よりも少なかったという結果24)や開放隅角緑内障のコントラスト感度が改善したなど25),神経保護作用を示唆する結果が報告されている.これらの神経保護作用を支持する根拠の一つとして,前述の点眼投与による網膜への移行性があげられる.ブリモニジンのa2受容体に対する親和性を示す平衡定数値は約2nMに対し26),有水晶体眼の網膜硝子体手術患者へ0.15%ブリモニジンPurite製剤を点眼したときの硝子体内濃度は12.5nMとの報告があり21),また,サルに14C-ブリモニジン点眼液を投与した移行性試験では,硝子体よりも網脈絡膜に高い放射能濃度が認められている19).従来,点眼による後極部網脈絡膜への移行は非常に少ないと考えられていたが,眼球壁に沿った結合織中の拡散によっても点眼投与した薬物が短時間で網脈絡膜に高濃度で到達することが報告されている27,28).0.1%ブリモニジンPurite製剤の組織移行性については今後さらなる検討が必要となるものの従来の報告結果は,0.1%ブリモニジンPurite製剤においても点眼後に,神経保護作用が期待できる濃度が網脈絡膜へ到達する可能性を否定するものではないと考える.安全性に関しては,海外の臨床試験17,18,29)で比較的,発現頻度の高いアレルギー性結膜炎,結膜濾胞および口内乾燥の報告はなく,結膜充血も0.1%群および0.15%群に1例のみであった.一方,これまでは報告の少なかった点状角膜炎が0.1%群に4例,0.15%群に6例と比較的高い発現頻度を示した.本試験では角膜所見をAreaとDensityによる9段階で評価するAD分類を用いたことで,初期の微細な角膜上皮の変化の検出が可能になったことが一因と考えられる.なお,発現した点状角膜炎はすべて無治療での継続治療の間に消失しており,本剤の臨床使用における忍容性に支障を及ぼすものではなかった.また,両群に発現した副作用はすべて眼局所の症状・所見で,0.1%群と0.15%群の発現頻度や重症度に大きな違いはなく,臨床検査やバイタルサインの血圧1310あたらしい眼科Vol.29,No.9,2012および脈拍数に対する影響も少ないことが確認できた.以上のプラセボを対照とした0.1%および0.15%ブリモニジンPurite製剤の1日2回,4週間点眼による眼圧下降作用と安全性に関する検討結果から,わが国における原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するブリモニジンPurite製剤の至適濃度は0.1%が妥当と判断した.謝辞:本臨床研究にご参加いただきました諸施設諸先生方に深謝いたします.文献1)KassMA,HeuerDK,HigginbothamEJetal;TheOcularHypertensionTreatmentStudy:Arandomizedtrialdeterminesthattopicalocularhypotensivemedicationdelaysorpreventstheonsetofprimaryopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol120:701-713,20022)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:CIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20013)RobinAL:Theroleofapraclonidinehydrochlorideinlasertherapyforglaucoma.TransAmOphthalmolSoc87:729-761,19894)ThompsonCD,MacdonaldTL,GarstMEetal:Mechanismsofadrenergicagonistinducedallergybioactivationandantigenformation.ExpEyeRes64:767-773,19975)ButlerP,MannschreckM,LinSetal:Clinicalexperiencewiththelong-termuseof1%apraclonidine.Incidenceofallergicreactions.ArchOphthalmol113:293-296,19956)AraujoSV,BondJB,WilsonRPetal:Longtermeffectofapraclonidine.BrJOphthalmol79:1098-1101,19957)TorisCB,CamrasCB,YablonskiME:Acuteversuschroniceffectsofbrimonidineonaqueoushumordynamicsinocularhypertensivepatients.AmJOphthalmol128:8-14,19998)LeeDA:Efficacyofbrimonidineasreplacementtherapyinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.ClinTher22:53-65,20009)LeeDA,GornbeinJA:Effectivenessandsafetyofbrimonidineasadjunctivetherapyforpatientswithelevatedintraocularpressureinalarge,open-labelcommunitytrial.JGlaucoma10:220-226,200110)SchumanJS,BrimonidineStudyGroups1and2:Effectsofsystemicbeta-blockertherapyontheefficacyandsafetyoftopicalbrimonidineandtimolol.Ophthalmology107:1171-1177,200011)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199412)北澤克明:原発開放隅角緑内障および高眼圧症に対するMK-5070.5%点眼液の第III相比較試験─0.25%マレイン酸チモロール点眼液との多施設共同群間比較試験.眼紀45:1023-1033,199413)北澤克明,三嶋弘,阿部春樹ほか:原発開放隅角緑内障(134) 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