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My boom 9.

2012年10月31日 水曜日

監修=大橋裕一連載⑨MyboomMyboom第9回「石川浩平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑨MyboomMyboom第9回「石川浩平」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介石川浩平(いしかわ・こうへい)医療法人社団浩陽会石川眼科医院私は,平成10年岩手医科大学を卒業,2年間母校の麻酔科で研修,麻酔科標榜医を取得後,平成12年に名古屋大学眼科学教室に入局,2年前までの10年間,一度も大学を出ることなく過ごしてきた変わり種です.現在は出身地の静岡で開業医をやっています.中学の頃からテニスに没頭する毎日で,中学では軟式,高校,大学では硬式テニスをやっていました.医者になってからはゴルフにはまる,ありがちな感じですが,最近10年以上のブランクを経て,テニス界に復帰したので,それについても少し触れたいと思います.仕事のmyboom私は,名古屋大学時代は一貫して加齢黄斑変性治療の臨床研究に取り組んできました.笑い話ですが,私の師匠である寺崎浩子教授には「石川君にかかると黄斑円孔も加齢黄斑変性になっちゃうからねー.」なんてことも言われたりしました.これは,私が的確に病気を診断できなかったときの一言で,苦い思い出です.それぐらい加齢黄斑変性一辺倒でした.ライフワークとしたのは薬剤,すなわちラニビズマブやトリアムシノロンを併用した光線力学的療法です.最近ではラニビズマブを硝子体内注射することがゴールデンスタンダードとなりましたが,加齢黄斑変性に携わっている先生方は日々悲鳴をあげながら大量の注射を行い,加齢黄斑変性になってしま(65)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY〔写真1〕若かりし頃(被験者モデルは今は大先生です)った患者さんは精神的にも,金銭的にも大変な思いをして注射治療を続けています.私はラニビズマブなどの薬剤による治療に,光線力学的療法を併用することにより,良好な治療効果を得ながらも,治療回数を減らすということに,現在ある程度の手ごたえを得ました.特に,患者さんが高齢であったり(加齢黄斑変性の患者さんは多くは高齢ですが),病院が遠方であったりで頻回の通院が困難である場合に威力を発揮しますし,しばらく通院しなくていいという,患者さんの心の余裕,安堵感につながります.やはり,加齢黄斑変性治療は今でもmyboomです.それでは,最近のもう一つのmyboomですが,それは前向きの医療です.とはいっても,まだ十分な知識を身につけたわけではありませんが,これから勉強をしたいという意気込みで,早速,日本抗加齢医学会に入会しました.私はこれまで,加齢黄斑変性の患者さんにサプリメントを勧めてきましたが,その知識は製薬会社さんからいただいたパンフレットによる程度の知識で,さらにそのサプリメントについて深く知ろうとはしていませあたらしい眼科Vol.29,No.10,20121381 んでした.最近,ひょんなことから,前向きの医療に情熱を燃やし,自分も成長していこうと努力している方を知りました.その方は「私たちは,世の中のみなさんが病気にならないように努力しますから,それでも病気になってしまったら先生の出番です.」と言われました.その言葉に大きな感銘を受けて,私もこれまでは病気になってしまった,加齢黄斑変性になってしまった多くの患者さんを治療してきましたが,そうならないようにするにはどうすればいいか知識を深めたいと思いました.Myboomというより,これからmyboomにする予定のテーマでした.趣味のmyboomゴルフが好きな眼科医はたくさんいるので,ここでゴルフについて書くのは難しいなと思っていたのですが,最近おもしろい理論をもったゴルフの先生に出会い,はまっているので書きたいと思います.その先生のホームページから引用させていただきますが,「ゴルフが上手くなるには…ゴルフが上手くなるにはまずスイングの形を考えてはいけません.スイングの形を強制したり,上手い人の真似をしたりしても決して上手くはなれません.世の中,ゴルフ界にはそういった志向がはびこっています.トップの位置を真似すれば,ヘッドアップしなければ,肩を回せば上手くなるんじゃないかと….」と言っています.これじゃ,何のことかわからないかもしれませんけど,私がフィットしたのは,「狙った場所に球を運ぶ」=「目標方向の真後ろからベクトルを加える」すなわち,インパクトだけに集中する,という教えでした.もうひとつ衝撃的だったのが「ゴルフと女性との付き合いはとても似ていて,あんまり入れ込みすぎると逃げていくので,久しぶりにクラブに触れたなーぐらいの感じでプレイするといいですよ,ラウンドの前日,当日朝はボールは打たなくていいですよ.」なんていう,今までにない言葉でした.もちろん,すぐにプロ級になるわけではありませんが,これまでとは全く違う感覚でゴルフと向き合えるようになった気がします,気のせいかもしれませんが.1382あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012〔写真2〕アンディ・マレーのつもりまた,冒頭にも書きましたように私は学生時代ずっとテニスをしていました.よく「テニスをしてきたからゴルフはスライスしやすいんだよ.」なんていう話を聞きますが,私の先生は「ゴルフもテニスと同じように打てばいいんだよ,例えばドライバーはトップスピン,グリーン周りのアプローチもトップスピン,バンカーショットはボレーだよ.」なんて言うんです.テニスをしたことのない人にはわかりにくいかもしれませんが,私にとっては目からうろこでした.そのおかげか,ここ2年ほど不振にあえいでいましたが,ようやく復活の兆しが見えてきました.最後に復活ときましたので,10年のブランクを経て復活したテニスについて一言….とっても楽しいのですが,悲しいかなびっくりするぐらい足が動きません.ロンドンオリンピック,テニスで優勝したアンディ・マレーを真似したウエアまで着て気合いは入っていますが,プレイを真似すると散々です.テニスもmyboomといいたいところですが,このような有り様のテニスを続けていけるのか心配である今日この頃です.次回のプレゼンターは三重の大澤俊介先生(岡波総合病院)です.忍者の里である伊賀で華麗なる手術を行う,尊敬する先生で,myboomも相当華麗であると期待しています.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(66)

現場発,病院と患者のためのシステム 9.自動精算機が機能するには

2012年10月31日 水曜日

連載⑨現場発,病院と患者のためのシステム連載⑨現場発,病院と患者のためのシステム優れた情報システムがあっても,関連するシステムの整備が不十分な場合には,優れたシステムといえども,持てる機能,性能を十分発揮できません.高速道路が目の前を通っていてもインター自動精算機が機能するには*杉浦和史チェンジ,取り付け道路がなければ使えないのは誰でもわかりますが,高速道路のように具体的な形が見えない情報システムの場合は,重要なこと一定規模以上の病院では自動精算機が設置されている例は珍しくありません.しかし,この装置が機能するために,裏でどのようなシステムが動いているのか(動かなければならないのか)を理解している人は少ないでしょう.図1は,その仕掛けを簡単に示したものです.にもかかわらず,気にしない傾向,あるいは気がつかない場合があります.インターチェンジ,取り付け道路に相当する部分の機能を担うシステムにつき,自動精算機を例にして説明します.青線が直接的に関係する操作,処理ですが,請求できるデータを生成するまでには,赤の線で示す多種多様なシステムの働きと手作業の存在があります.多様あり,それぞれに対応した収集システムを用意しなければなりません.相当な数のシステムが必要になりま各種システム検査,処置,診察,入院,手術,喫食,外出,外泊,書類作成etcデータ収集システム実績データ請求可否チェック医事会計システム②検索①診察カード③請求額表示④支払い(現金,クレジット)自動精算機請求可データ図1自動精算機が使えるまでに必要なシステム,すが,どれか一つでも,紙のままの検査データが患者について回るようでは,これに足を引っ張られ,電子化の効果は半減します.これは,最も低いレベルに合わせられてしまうというリービッヒの最小律,ドベネックの桶の教えのとおりです.保険会社への診断書の作成支援システムも忘れがちですが,作成支援のみならず,診断書を作成したことで請求が発生します.これも手操作ではなく,診断書作成終了と同時に,漏れなく請求額に加算しなければなりません.入院した場合には,個室料,外出,外泊を踏まえた喫食数も請求に必要な情報ですが,これも自動的に収集作業関連図.請求に必要な施行情報を各部門の該当システムから受け取る検査,診察,処置,入院,手術,喫食,入院中の外出,外泊,書類作成など,多岐にわたる請求処理に必要なイベントが発生しますが,これを漏れなく,正しく,迅速に収集しなければなりません.何十種類もの検査がある眼科では,検査機器からのデータ収集が最も面倒です.電子的に取り扱えるものから,紙に印字されたものを見ての入力,検査機器のディスプレイに表示されたものを読み取って入力するものまで,図2に示すように多種(63)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYされ,請求額に反映しなければなりません..施行どおり請求できるかできないかの判断施行した行為すべてを請求することはできず,図3に示すような算定ルールに従って請求可否などの判断をしなければなりません.通常,この作業は医事会計課員が画面を見ながら手作業で行っています.診察,検査,次回の予約手続きが終わり,会計を待っていると,「○○様,会計が終わりましたので,自動精算機でお支払いください」というアナウンスが流れたり,電子掲示板にその旨が表示されるシーンを見たことがある方は多いと思*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121379 図2検査機器のインターフェイス調査結果(抜粋)虹彩光凝固術施行日から2日間の眼底検査の請求ルール(片眼)一定期間内の検査に回数制限のある検査一覧#検査名評価期間最大回数1…………同月22…………最初の検査より半年3検査の組合わせにより請求できない検査一覧1日目2日目検査日/手術日検査日両側検査両側検査片側検査#検査名1検査名2請求できない検査1ABA2XYY片側検査として請求異常値なら請求可,正常は請求不可両側検査として請求#検査名異常値1…………1≧×or×≦52…………0.1≦×≦0.5図3算定ルールの例います.請求項目の入力が自動で行え,請求額も自動的に計算されているようにみえますが,実は人手が介在し,算定ルールを見ながら精算額を確定していて,“自動”精算にはなっていないことは意外に知られていません.“自動”という言葉に惹かれますが,自動精算機は,実は請求金額を表示し,示された額を支払うだけの無人自動支払機ということです.しかも,高齢者には操作が難しく,無人といいつつ,操作方法を説明するスタッフが必要なのが現状です.以上述べてきた自動精算機を例にとってみても,ある機能を実現するためには,さまざまな環境整備が必要なことが理解できるはずです.単純に,“自動精算は患者1380あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012さんに便利だし,スタッフの負荷が軽減される”と考えてしまうと,高価な自動精算機を販売するベンダ(システム,機器提供会社)の思うつぼにはまってしまいます.“売らんがな”,のベンダに対し,理論武装しておかないと,口車に乗せられ,費やした費用,時間,努力に見合う効果は得られません.理論武装といっても門外漢な技術的なことではなく,業務面から評価すれば済むので,病院スタッフでも問題なく対応可能です.細部にわたっての業務がわからず,機能中心で通り一遍の話しかできないベンダに対しては,全体の流れを踏まえた業務で理論武装して臨むと,甘言に乗せられ,安易に導入してしまう愚を避けることができます.(64)

タブレット型PCの眼科領域での応用 5.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用-その2-

2012年10月31日 水曜日

シリーズ⑤シリーズ⑤タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第5章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その2─■読書が変わる―タブレット型PCと電子書籍の可能性今回の第5章では,第4章に続き私が代表を勤める“GiftHands”が提案するタブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用法について紹介していきたいと思います.本章では電子書籍の活用法におけるタブレット型PCの意義について,実際にロービジョンエイドとして使っている患者たちの生の声とともに紹介していこうと思います.なお,原則的に私が現在,GiftHandsの活動や実際に外来で扱っているタブレット型PCは“新しいiPadR(米国AppleInc.)”と“iPhone4SR(米国AppleInc.)”,iOSバージョン5.1.1です(2012年8月30日現在).■私のロービジョンエイド活用法「電子書籍編」タブレット型PCは電子書籍を閲覧するためのリーダーとして一般に普及していますが,ロービジョンの患者にとってパソコンではなくタブレット型PCで電子書籍を閲覧できることは,きわめて大きな意味をもっています.多くの患者が感じるメリットは,閲覧場所や体勢に制限がないことです.これまでの拡大読書器を利用した読書行為では,患者は椅子に座って顔の前に設置されたモニターを眺める必要があり,手にとった本を見下ろして行う日常的な読書行為とは大きく異なる姿勢での作業を強いられてきました.しかし,タブレット型PCでの読書を導入することで,ロービジョン患者の読書環境は大きく変化します.ある患者は,「先生,俺は生まれて初めて寝ながら本を読めたよ.好きな姿勢で本を読めるなんて夢のようだ.今まで文字を読むのが本当に億劫だったけど,今じゃ何時間も読んでしまって目が疲れ(61)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYちゃうよ.」と笑顔で嘆いていました.読書というわれわれが日々何気なく行っている日常動作が,いかにロービジョンの患者にとっては困難であることかを再確認させられました.以前にも書きましたが,“読める”と“読みたい”は違うのだと改めて実感させられました.特に読書から多くの知識を学び,記憶を作る時期である学童期において,文字を読みたい環境で読書ができることの重要性は計り知れないと思います.タブレット型PCは充電式で,長時間の連続使用が可能であるため使用場所に制限がありません.読みたいときに自由な体勢で電子書籍を読めることは,ロービジョン患者には何よりのタブレット型PCの恩恵であると言えるのではないでしょうか.タブレット型PCのもう一つの大きな利点は,著作権の消失している書籍を集めた青空文庫を閲覧できるアプリが存在することです.たとえば,i文庫HD(NagisaWorks)というアプリでは文字のフォントのみではなく,縦書きや横書きといった文章構成もオーダーメイドに設定できます.また,文字サイズの適正化に伴って,一行当たりの文字数や改行による段落構成も適正化されます(図1).このことはこれまでの紙ベースの書籍を拡大して読む際に生じた,改行の度に読んでいた行を先頭まで逆行して次の行へ移行する動作を行う必要がないため,読書効率は格段に向上します.金沢文庫(CrestraInc.)というアプリでは,文章を読み上げる話者(男・女)の選択や読み上げ音声の速度や高低,抑揚などを変更することが可能であり,最も聞き取りやすい音声で青空文庫を視聴することが可能です.患者が文章を読める速度よりも少し遅めの読み上げ速度に設定することで,音声が視覚から入力された情報を補完することで,より快適に読書を行うことが可能になるのです.また,デジタル音声に抵抗のある方には実の声あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121377 図1源氏物語の初期表示(左)とフォントとコントラストなどを適正化した表示(右)優が朗読をしてくれるアプリも登場してきています.私は多くのロービジョン患者へのタブレット型PCの導入を試みるなかで,縦書きよりも横書きの文章のほうが快適に読書を行える症例を何例か経験しました.視野欠損の範囲や眼振の有無などとの関連性は不明ですが,患者自身の好みと表現するのが適切であると現状では感じます.電子書籍では文章の構成を変化させることが可能で,最適化された電子書籍も気軽に持ち歩けるのがタブレット型PCの最大の長所なのです.文字のフォントや背景色,文章の構成や音声の設定の組み合わせは患者の数だけ存在しています.タブレット型PCが現行の拡大読書器に取って代わる存在であるとは思いませんが,患者の言葉に真摯に耳を傾けて各人に合ったオーダーメイドな設定を行うことで,もう一度読書への意欲を向上させることが可能なエイドであると考えられます.■私のロービジョンエイド活用法「拡大教科書編」ここまで文字データ化された電子書籍では文章の構造を変化させられることのメリットを中心に紹介しましたが,文章の構成が変化しないほうが望ましい場合があります.その代表としてはタブレット型PCを拡大教科書として利用する場合です.私の患者で弱視の子どもをもつ母親から拡大教科書に1378あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012ついて,次のような意見をよく耳にします.「手作業で作成して頂いているので,拡大教科書が届くのに時間がかかり授業の進行に子どもが遅れてしまう.」「大きくて,ランドセルに入らない.持って行く冊数が多いから,重くて登下校が大変.」「もともと一冊だった教科書が分冊に分(,)かれているから,目の悪い子どもが授業で必要な教科書を間違えてしまった.」「ページ番号が元の教科書と違うから,(,)先生の言っているページ番号や配置と自分の教科書が違うので授業についていくのが大変みたい.」など.これらの拡大教科書を取り巻く状況は,タブレット型PCを導入することで大きく変化します.配布された教科書をすぐにスキャナーでデジタル化して取り込むことで,タブレット型PCの中にすべての教科書を入れて持ち歩くことも可能です.文章の構成などは元の教科書の構成が保たれ,子どもが簡単な操作で任意の大きさまで拡大することができ,図表中の小さな注釈も自分の目で見ることが可能なので,授業の進行に対応しやすくなると考えられます.現在私はGiftHandsの活動として多くの導入事例を担当していますが,教育の現場である教育機関のタブレット型PCの導入に対する理解は決して高いとはいえません.今後もさまざまなメディアを介して,その意義を啓発していく必要性を強く感じています.輝ける才能をもちながら,それに気づくことのできない多くの子どもたちにその可能性をみつけるための“気づき”を与えることが,私の活動の大きな使命の一つであると感じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/(62)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 113.糖尿病牽引性網膜剥離に対するガスタンポナーデの是非(中級編)

2012年10月31日 水曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載113113糖尿病牽引性網膜.離に対するガスタンポナーデの是非(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに増殖糖尿病網膜症に併発した牽引性網膜.離に対する硝子体手術において,医原性裂孔を形成せずに増殖膜処理が施行できた場合,ガスタンポナーデを施行するか判断に迷うときがある.このような症例では網膜下液中の蛋白濃度が高く,自然吸収に数カ月を要することもある1).基本的に牽引性網膜.離が黄斑部に及んでいる症例では,早期の視力改善を得る目的でガスタンポナーデを施行する術者が多いと思われる.ただし,このような場合でも内部排液のための意図的裂孔を作製するべきかが問題となる.現時点で筆者は以下のように考えている.●ガスタンポナーデの適応1)黄斑部牽引性網膜.離では,原則としてガスタンポナーデを施行する.2)黄斑外牽引性網膜.離では,原則としてガスタンポナーデは施行しない.ただし,網膜.離範囲が広くしかも丈が高い症例では,意図的裂孔を作製し,網膜を強制復位させたうえで可能な範囲の汎網膜光凝固術を施行する.目安としては1象限以上の.離としている.網膜に著明な皺襞がみられる症例でも,ガスタンポナーデなしで予想以上に伸展することが多い(図1,2).●意図的裂孔作製の適応網膜.離が扁平な黄斑部牽引性網膜.離では,意図的裂孔を作製せずに眼内液空気同時置換術のみを行う.ただし,この場合に術直後に網膜下液が下方にシフトすることがあるが通常は徐々に吸収される.上述したように網膜.離範囲が広く.離の丈が高い症例では,原則として内部排液のための意図的裂孔を作製した後に気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固を施行する.ただし,網膜が高度に器質化し伸展性が低下している症例では,気圧伸展(59)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1黄斑外牽引性網膜.離例(術前)上方に牽引性網膜.離を認め,網膜皺襞も高度である.図2硝子体手術3カ月後の眼底写真ガスタンポナーデを施行せずに経過をみたところ,約3カ月後に皺襞は伸展し,網膜下液もほぼ吸収した.網膜復位術後に意図的裂孔周囲に十分な光凝固斑が得られない可能性もあるので,意図的裂孔作製は極力避ける.内部排液を施行する際には,網膜下液の粘稠性が高いので,気圧伸展網膜復位術の前に眼内灌流液下でできるだけ網膜下液を吸引除去しておく必要がある.文献1)貝田真美,池田恒彦,澤浩ほか:糖尿病牽引性網膜.離の網膜下液の自然吸収過程と性状に関する検討.眼紀49:501-504,1998あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121375

眼科医のための先端医療 142.大型黄斑円孔へのInverted ILM Flap Technique手術

2012年10月31日 水曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第142回◆眼科医のための先端医療山下英俊大型黄斑円孔へのInvertedILMFlapTechnique手術山下敏史(鹿児島大学医学部眼科学)黄斑円孔の閉鎖率は本当に高いのか?現在,黄斑円孔(MH)に対する硝子体手術は,内境界膜(internallimitingmembrane:ILM).離およびガスタンポナーデが広く行われています.この方法による初回手術後の円孔閉鎖率は9割を超えると報告されています.しかし,本当にそうでしょうか?確かに円孔径が小さいMHではそのとおりですが,円孔径が500μmを超える大型MHの閉鎖率は約6割にとどまります.大型MHの頻度は,決して高くはありませんが,この病態への治療法は確立しておらず,まだ改良が必要なのです.InvertedILMFlapTechnique(ILM翻転法)大型MHの治療成績を改善するには,どうすればよいでしょうか?大型MHの閉鎖率が悪いのは,ILM.離によって網膜の伸展性を改善しても,網膜量が不十分なためだと考えられます.MHが手術によって閉鎖するメカニズムは,まだ本当にはわかっていませんが,少なくともMHによる欠損部を何かで補うことが必要なようです.このコンセプトで,2010年にエール大学のMichalewskaらがILM翻転法について報告しました1).ILM翻転法の実際通常のILM.離は,黄斑を中心にILMを約2乳頭径大ほど.離・除去します.それに対して,ILM翻転法ではILMを円周方向に.離しますが,円孔縁は意図的に残したうえ,上部のみを硝子体カッターで切除・トリミングします.このILMが円孔をあたかも蓋のようにシールドすることで円孔を閉鎖させるという考え方です(図1).円孔部が閉鎖されれば,網膜色素上皮による吸引圧により,MH周囲の網膜もMH中央に寄せられて最終的にMHが閉鎖されます.通常のILM.離のみの(55)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1ILM翻転法の術中イメージ図InvertedILMflap表1大型MHの治療成績(連続症例7眼)症例最小円孔径(μm)円孔底径(μm)術前視力術後視力(3カ月)術後視力(6カ月)症例①5801,2940.30.40.5症例②6741,0430.10.10.2症例③5717580.070.40.8症例④5841,0880.060.30.5症例⑤8351,4400.10.30.3症例⑥5267860.040.30.3症例⑦5869610.20.50.5手術に比べ,若干手術が煩雑になりますが,問題なく施行可能です.術後早期の成績筆者らの施設でも,大型MHの治療成績は満足のゆくものではありませんでした.そこで,十分に検討をした後,大型MHに限って同法を施行しています.初期の限られた症例についての成績を示しますが,全例初回手術でMH閉鎖が得られており,術後視力も改善しています(表1).現在は,観察期間および症例数も増加していますが,特筆すべき合併症はないようです.ILM翻転法術後早期の光干渉断層計検査(OCT)OCTによる黄斑部の所見は,MHの診断や治療結果を示す客観的な根拠となり,必要不可欠な検査です.手術後早期のガスタンポナーデ眼に対するOCT撮影が可能であることを以前に報告しましたが,再現性や信頼性も十分ではありませんでした2).そのため,撮影できないものにはWatzke-Allenslitbeam検査などを手術の前後に行って,それによってMHの閉鎖を早期に確認しました3).Watzke-Allenslitbeam検査は簡便な方法あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121371 AB図2大型MH(Stage4,術前最小円孔径≒600μm)の一例A:術前のOCT,最小円孔径が500μmを超える大型MH.B:ILM翻転法手術,翌朝のガス下OCT,網膜の連続性=円孔は閉鎖しているようにみえるが,円孔内部に圧縮されたILMを認める,本当に円孔閉鎖なのかの判断はむずかしい.C:術後1カ月目のOCT,円孔は閉鎖しているが,数枚のILMFlapが観察される.でsensitivityは高いためほぼすべての症例に施行可能ですが,specificityが低いために,単独検査では診断がつきません.そこで,技術改良を進めた結果,きわめて鮮明なガス下OCTが撮影可能であることを見出しました4).最近は,MHに限らずガスタンポナーデ眼に対し全例OCTを撮影していますが,ほぼ100%の症例において鮮明な画像を得ることに成功しています.CirrusHD-OCTを用いた方法を略述します.①眼底フォーカス(Focus)の調整を.20D(限界値)に設定,②アライメント画面とリアルタイムのBスキャン像を確認しながら,より鮮明な画像が撮影可能な場所を調整し,瞳孔中心ではなく上外側に少しずらす,③HD5linerasterモード(Spacing:0.025mm)でスキャンし,水平断だけでなく垂直断も含め何回か測定するなどの注意をして当科では施行しています.非大型MH術後早期のOCTでは,時間とともに円孔が(全層にわたり)閉鎖していく様子が明瞭に描出されますが,大型MHの場合はもともとの大きな円孔内に折りたたまれて圧縮されたILMが描出され,閉鎖した円孔との区別がむずかしいことが多いです(図2).考察―今後の課題既報告は,大型MHに対する初回手術の円孔閉鎖率は6割程度ですから,閉鎖困難と考えられる大型MHに対しILM翻転法は非常に有用であると考えられます.しかし,視力などの長期予後については今後の慎重な検討が必要と考えられます.また,ガス下OCTにより術後極早期の網膜微細構造の変化や手術時手技の有用性などが,今後明らかになっていくことが期待されます.文献1)MichalewskaZ,MichalewskiJ,AdelmanRAetal:Invertedinternallimitingmembraneflaptechniqueforlargemacularholes.Ophthalmology117:2018-2025,20102)MasuyamaK,YamakiriK,SakamotoTetal:Posturingtimeaftermacularholesurgerymodifiedbyopticalcoherencetomographyimages:apilotstudy.AmJOphthalmol147:481-488,20093)YamakiriK,SakamotoT:Earlydiagnosisofmacularholeclosureofagas-filledeyewithWatzke-Allenslitbeamtestandspectraldomainopticalcoherencetomography.Retina32:767-772,20124)YamashitaT,YamashitaT,SakamotoTetal:Earlyimagingofmacularholeclosure:Adiagnostictechniqueanditsqualityforgas-filledeyeswithspectraldomainopticalcoherencetomography.Ophthalmologica,inpress■「大型黄斑円孔へのInvertedILMFlapTechnique手術」を読んで■今回は山下敏史先生による黄斑円孔(MH)の手術かし,大型MHについては手術後の円孔の閉鎖率も法の開発についてのわかりやすい総説です.小型に比較して悪く,治療の新しい展開が求められてMHのうち,特に円孔径の小さな症例での手術成績いました.これに対する新しいチャレンジが今回のは良好であり,視力予後も良好になってきました.しInvertedILMFlapTechnique手術です.閉鎖率を上1372あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(56) げるためにMHによる欠損部をILM(内境界膜)で補して,網膜の創傷に対する組織反応を明らかにできるうという大変卓越したアイデアでの手術です.以前は成果を期待させます.なかなかいい動物モデルのでき円孔閉鎖率が約6割であったのが,新しい手術方法でないMHのような疾患の病態とその治癒メカニズムは全例初回手術でMH閉鎖が得られて,術後視力もの研究方法として大変興味深く,その成果が待たれま改善しているという素晴らしい結果を山下先生は示しす.ておられます.再生医学の急速な進歩によっても網膜組織の再生はその結果もさることながら,MHの手術でなぜ円孔きわめて困難が予想されます.もともと網膜の一部のが閉鎖するのかというきわめて基本的な疑問に対し欠損がある程度ではありますが,医師の手術での創傷て,今回の進歩は新しい網膜の創傷治癒のメカニズム治癒の過程を経て形態学的にも機能的にも(視力の向解明の希望を抱かせます.すなわち,ガス下OCTに上)回復することは,網膜再生のモデルをみているよより術後ごく早期の網膜微細構造の変化を観察する技うな感をもちます.鹿児島大学のグループの研究がこ術については,鹿児島大学の研究グループが世界に先のような方向に実を結ぶことも考えられます.駆けて開発し,素晴らしい画像を含めた論文で世界を山形大学医学部眼科学山下英俊あっといわせた技術です.このようなアイデアを駆使☆☆☆(57)あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121373

抗VEGF治療:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と抗VEGF薬

2012年10月31日 水曜日

●連載⑤抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二3.ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と森隆三郎日本大学医学部視覚科学系眼科学分野抗VEGF薬ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対する抗VEGF薬硝子体注射単独療法は,ポリープ状病巣の閉塞する割合が光線力学的療法(PDT)よりは低くなるが,滲出が抑えられ中心窩網膜厚も減少し,視力の維持・改善が得られるので,治療方法の選択肢の一つとなる.ポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)は,インドシアニングリーン蛍光眼底検査(indocyaninegreenangiography:IA)で認める異常血管網とポリープ状病巣が病変の本体で,滲出型加齢黄斑変性の特殊型に分類される.光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)でも視力の改善が得られ1),抗血管内皮増殖因子薬(anti-vascularendothelialgrowthfacter:抗VEGF薬)硝子体注射の単独療法が主となっている典型加齢黄斑変性とは病態が異なり,治療方針も同一とならない.抗VEGF薬硝子体注射,PDTのそれぞれの単独療法あるいは,両者の併用療法のいずれかがPCVに対する第一選択の治療方法となるかは確定されていない.アジア人のPCVを対象としたranibizumab硝子体注射(intravitrealinjectionofranibizumab:IVR)単独,PDT単独,両者の併用の3群間の無作為比較試験であるEVEREST試験の6カ月間の結果では,ポリープ状病巣が完全閉塞した割合は,PDT単独群,併用群では7割以上で,IVR単独群の3割未満に比べ有意に高かったが,すべての群で視力の改善が得られ,各群間では有意差はなかった2).ポリープ状病巣の完全閉塞を目的とするのであれば,PDTを行わないIVR単独療法は有用な治療方法とはならないが,実際はポリープ状病巣が残存していても視力は改善することから,抗VEGF薬硝子体注射単独療法は治療方法の選択肢の一つとなる.HikichiらのPCV81眼に対するIVR単独療法の1年の成績の報告では,治療前logMAR視力は,0.59から0.37に有意に改善し,視力の改善は37%,維持57%となっている.ポリープ状病巣の消退は,39%であるが,中心窩網膜厚は324μmから211μmと有意に減少している.平均治療回数は4.2回で,28%で導入期の3回以降再治療を必要としていない3).この結果からも,導入期後毎月の診察を行い,再治療を適切に行うことでIVR単独療法はPCVに効果的であるといえる.上述したEVEREST試験は,3群間の無作為比較試験で重要な報告であるが,各群20眼と小数でまた経過観察期間が6カ月と短い.このことからも,PDTの併用の有無などについては,多数症例での1年以上の治療成績の比較検討が今後のPCVに対する治療指針を決めるうえで必要となる.しかし,PDTは,治療後に出血を生じたり,視力低下をきたす症例もあることより,視力良好なPCVはPDTを行うことは推奨されていない.そのため抗VEGF薬硝子体注射の単独療法が行われる.Saitoらの視力良好(治療前0.5を超える視力)な加齢黄斑変性40眼に対するIVR単独療法の1年の成績の報告では,PCVは18眼あり,logMAR視力は,治療前0.71から0.84に有意に改善し,平均治療回数は4.8回となっている.また,この報告では,IVRが認可されるまでは,視力良好なためPDTを行うことができず経過観察となっていた症例とも比較しているが,この無治療群よりも有意に改善していた.この報告からも,視力良好なPCVに対しては,PDTを行わないでIVR単独療法を行うことが勧められる.抗VEGF薬の作用には,新生血管の形成や増殖の抑制作用,血管透過性亢進の抑制作用があるが,PCVに対しては,滲出が減少,消失し,中心窩網膜厚が減少するが異常血管網は残存し,ポリープ状病巣も残存する症例が多いことからも,後者の作用が主となっている可能性がある.そのため,滲出は一旦消失するも,残存した病巣が再燃し,滲出が再発する症例もあり,また,新たなポリープ状病巣が再発し,出血を生じることもあることから継続的な診察,追加治療が重要である.(53)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213690910-1810/12/\100/頁/JCOPY IA早期IA後期IA早期IA後期….IA早期IA後期IA早期IA後期….治療前治療1年後図159歳,男性.治療前(上),治療1年後(下)IVRを8回(導入期3回,維持期5回)施行し,矯正視力は0.8から1.5に改善した.OCTで中心窩の漿液性網膜.離(矢頭)は減少するもわずかに残存,IAでポリープ状病巣(矢印)と異常血管網(※)も残存した.IA後期..治療前IA後期..IA後期文献1)TanoY,OphthalmicPDTStudyGroup:GuidelinesforPDTinJapan.Ophthalmology115:585-585.e6.20082)KohA,LeeWK,ChenLJetal:EVERESTSTUDY:EfficacyandSafetyofVerteporfinPhotodynamicTherapyinCombinationwithRanibizumaborAloneVersusRanibizumabMonotherapyinPatientswithSymptomaticMacularPolypoidalChoroidalVasculopathy.Retina32:1370あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012治療1年後図246歳,男性.治療前(上),治療1年後(中),治療18カ月後(下)治療18カ月後導入期3回のIVR後,滲出の再燃はなく矯正視力は0.8から1.5に改善し,経過順調であった.OCTで中心窩の漿液性網膜.離(矢頭)は消失,IAでポリープ状病巣(矢印)は消失,異常血管網(※)は残存した.初回治療後18カ月に網膜下出血が出現,新たなポリープ状病巣(太矢頭)も認めた.1453-1464,20123)HikichiT,HiguchiM,MatsushitaTetal:One-yearresultsofthreemonthlyranibizumabinjectionsandas-neededreinjectionsforpolypoidalchoroidalvasculopathyinJapanesepatients.AmJOphthalmol154:117-124,20124)SaitoM,IidaT,KanoM:Intravitrealranibizumabforexudativeage-relatedmaculardegenerationwithgoodbaselinevisualacuity.Retina32:1250-1259,2012(54)

緑内障:Visual Field Index(VFI)とは

2012年10月31日 水曜日

●連載148緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也148.VisualFieldIndex(VFI)とは内藤知子岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学Humphrey視野計の緑内障進行解析プログラムであるGuidedProgressionAnalysis(GPA)に新しい視野指標としてVisualFieldIndex(VFI)が導入された.VFIは視機能率ともよばれるが,dB単位であるmeandeviation(MD)などと異なり,patterndeviation(パターン偏差:PD)をベースに残存視機能が算出され,%単位で表示される.従来,緑内障の視機能評価にはmeandeviation(MD)が用いられることが多かった.しかし,MDは緑内障におけるqualityofvision(QOV)を直接的に反映しているとは言い難かった.その主たる理由は,MDが中心視野領域から障害されている緑内障では視力の不良と相関せず,また,白内障や加齢による縮瞳などによるびまん性感度低下の影響を大きく受けることにあった.これはMDの算出における視野検査結果の中心領域の「重みづけ」の程度,さらに,MDが年齢別正常値と実測値の差であるtotaldeviation(トータル偏差:TD)を用いて算出されていることが大きく関与する.そこで,VisualFieldIndex(VFI)では緑内障のQOVを直接的に反映する指標をめざし,MDの計算上の弱点を補うべく,中心視野領域への「重みづけ」をより大きくし,また,白内障などのびまん性感度低下の影響を最小化するために,patterndeviation(パターン偏差:PD)をベースに計算されていることが特徴である.●VFIの算出方法1)①PDで正常と判定された測定点はすべて「100%」と評価する(図1).この段階で,白内障のみによるびまん性の沈下部分は「正常」と判定されるため,白内障による影響を最小化することができる.②実測感度が0dBの絶対暗点はすべて「0%」と評価する.③PDでp<5%の異常シンボル表示がついた測定点においては,同部位の年齢別正常値を100%とした場合の比率で求める.(たとえば,ある測定点における実測値が8dB,その部位の年齢別正常値が31dBである場合,その測定点の視機能率は8/31=25.8%と計算される.)(51)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYパターン偏差で有意水準のつかない部分Normalpoints100%の感度図1白内障などによるびまん性感度低下の除外視覚野の皮質拡大に準じ(corticalmagnification)5circleに分け内側より1×3.292×1.283×0.79重みづけ4×0.575×0.45図2中心視野領域への「重みづけ」④視覚野の皮質拡大(corticalmagnification)に準じて視野を5つのサークルにわけ,中心部から周辺部に向かい3.29.0.45倍までの重みづけを行う(図2).(MDが.20dB未満の進行期症例においては,PDは表示されないため,TDのみから計算が行われる.)●VFIによる評価が効果的と考えられる症例①中心視野障害症例(代表的な症例を図3示す)あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012136712345 MDVFI-11.99dB69%MDVFI-12.20dB49%RV=(1.0)RV=(0.4)MDVFI-11.99dB69%MDVFI-12.20dB49%RV=(1.0)RV=(0.4)図3中心視野障害症例との比較MDの差は0.21dBのみであるが,VFIは20%も異なる.白内障手術MDVFI-2.07dB99%-8.53dB99%MDVFI図4白内障手術前後Humphrey,前眼部,視神経乳頭所見(岡山南眼科杉本敏樹先生の御厚意による)術前,強い水晶体混濁のためMDは.8.53dBであるが,VFIは99%である.出していることがわかる.おわりにVFIは,視野中心部への「重みづけ」が大きく,白内障などによるびまん性感度低下の影響を最小化できるので,緑内障のQOVや日常生活上の視機能を評価するうえで,有用なパラメータの一つになりうることが期待される.文献1)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,2008②白内障併発症例これらの2症例,MDの差は0.21dBのみであるが,VFIはそれぞれ69%,49%で20%も異なる.視力は1.0に対し,0.4である.このようにVFIのほうが中心視機能をよく反映する可能性が示唆される.③白内障併発症例の白内障手術前後を示す(図4).初診時高眼圧であり,強い水晶体核混濁と後.下混濁のため,術前には視神経乳頭の評価が困難であった症例であるが,MDが.8.53dBに対し,VFIは99%である.白内障手術後にはMDは.2.07dBまで回復した.この症例の視神経乳頭には緑内障性変化はなく,VFIは白内障の影響を除外し,術前から視神経乳頭が正常であることを検☆☆☆1368あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(52)

屈折矯正手術:新しい眼内レンズ-Lentis M Plus®

2012年10月31日 水曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載149大橋裕一坪田一男149.新しい眼内レンズ―LentisMPlusR―荒井宏幸みなとみらいアイクリニック分節状屈折型の多焦点眼内レンズがおもに欧州にて使用され始めている.加入部分を分節状に配置することで,多焦点レンズにおけるグレア・ハロ・waxyvisionの出現しにくいレンズとして注目されている.乱視矯正用のレンズもあり,製作度数は100分の1Dステップというオーダー単位である.●分節状屈折型多焦点眼内レンズおもに欧州を中心として使用されており,国内は未承認である1).Oculentis社製LentisMPlusRの外観を図1に示す.レンズの光学部下方が,加入部分に相当する構造になっている.2重焦点の遠近両用眼鏡をイメージしやすいが,視線の移動によって近方視を確保するという理論ではない.屈折型として,近用部を集約して網膜上に結像させるアイデアは斬新である.他の多焦点レンズと同様に,網膜上には遠方・近方ともに集光されており,脳の選択によりどちらかの集光像を認識する.加入度数部分の面積は,全集光面積の約3分の1に相当する.素材は親水性アクリル(25%含水)であり,形状はプレート型である.切開創は2.0mmからの挿入が可能ということであるが,筆者は2.3mmの切開創にて行っている.レンズ長径は11mm,光学部は6.0mmである.球面度数の製作範囲0~+36Dである.加入度数は2種類あり,+3.0Dと+1.5D(どちらもレンズ面)が選択可能である.Toricレンズも用意されており,0.25~12Dまでの円柱レンズが対応可能となっている.●LentisMPlusRの光学的優位性現在,選択が可能な多焦点眼内レンズは,同心円状の屈折型多焦点レンズと回折型レンズである.屈折型には夜間のハロ・グレアの問題があり,回折型にはwaxyvisionという問題がある.基本的には,単焦点に比べれば近方視力は確実に確保できるのであるが,光学的なロスや散乱による見え方の不具合により,適応を狭めざるを得ない.同心円状の屈折型眼内レンズには,遠方と近方の(49)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1LenitsMPlusRの外観近用部分が下方(6時方向)になるように.内に固定する.マーカーラインは水平方向を示している.zone部分のgapがあり,その部分の散乱により光学的なロスが生じる.暗所にて瞳孔径が大きくなると,このgap部分が何周も表出されるため,より多くのロスが生じてしまう.回折型眼内レンズの場合には,回折構造の物理特性として,常に18%の入射光が減弱する.残りの82%を利用して遠方と近方に振り分けており,そのため鮮明度は甘くなり,これがwaxyvisionとして知覚される.術前にwaxyvisionに対する予測が可能であれば,非常に使い勝手の良いレンズであるが,それがむずかしいために躊躇することも多い.LentisMPlusRは光学的なロスを最小限にとどめるように設計されている.レンズの中心部分および60%以上の部分が遠方焦点の単焦点レンズであるため,良好な遠方視は担保される.また,屈折型に特徴的なzone間のgapは,1本のラインしかなく,したがって瞳孔径が大きくなっても表出するgapはラインの1部分のみである.そのgapも非常に精緻に作製されている.あたらしい眼科Vol.29,No.10,20121365 図2LentisMPlusRtoricのオーダーフォーム100分の1D単位での推奨レンズ度数が示されている.乱視軸の角度によらず,レンズの固定は常に垂直方向である.●2つの加入度数を使い分けるLentisMPlusRには2種類の加入度数が用意されている.レンズ面にて+3.0Dと+1.5Dである.それぞれ眼鏡面では+2.5Dと+1.0Dに相当する.Oculentis社は優位眼に加入+1.5Dを,非優位眼に+3.0Dを選択してmodifiedmonovisionを作ることにより中間視力を確保するという提案をしている.●驚異的なtoricレンズの製作度数LentisMPlusRにはtoricレンズの設定がある.トーリックレンズの度数設定は,球面・円柱面ともに100分の1D単位である.図2のレンズのオーダーはおもにIOLマスター(CarlZeissMeditec社製)のデータを元に決定する.円柱面の軸方向は製作時点ですでに回転を付けて位置付けされており,.内での固定位置は球面レンズと同様に12時-6時の縦方向に固定すればよい.しかも納期は4週間である.●手術結果今回は誌面の関係上,術後結果は示さないが,通常の多焦点眼内レンズと同等の満足できる結果が得られている.最も安心できるのが,グレア・ハロやwaxyvisionの訴えがないことである.術後の細隙灯顕微鏡写真を図3に示すが,通常の光束で観察する限り単焦点レンズの様相である.すでに海外からも術後結果が報告され始め図3LentisMPlusRtoricの術後細隙灯顕微鏡写真下方の加入部分の反射と上下のtoricラインが観察される.ている2,3).●今後の展望このLentisMPlusRがほぼ単焦点に近い遠方視力と,日常的には十分な近方視力が安定して得られるものであれば,今後はこうした光学特性をもったレンズが多焦点眼内レンズの主流になりうると考えている.すでに調節力のない50歳以上の屈折異常眼に対しては,LASIK(laserinsitukeratomileusis)やPhakicIOL(眼内レンズ)ではなく,LentisMPlusRが良い適応になるかも知れない.ごく最近に,片眼にLentisMPlusRを,もう片眼に回折型のATLISA(CarlZeissMeditec社製)を選択することにより,遠方から近方までの連続した焦点深度分布が得られるという報告もあり,今後のデータに期待したい4).文献1)McAlindenC,MooreJE:Multifocalintraocularlenswithasurface-embeddednearsection:Short-termclinicaloutcomes.JCataractRefractSurg37:441-445,20112)AlioJL,PineroDP,Plaza-PucheABetal:Visualoutcomesandopticalperformanceofamonofocalintraocularlensandanew-generationmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:241-250,20113)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Comparativeanalysisoftheclinicaloutcomeswith2multifocalintraocularlensmodelswithrotationalasymmetry.JCataractRefractSurg37:1605-1614,20114)MunozG,Albarran-DiegoC,JavaloyJetal:Combiningzonalrefractiveanddiffractiveasphericmultifocalintraocularlenses.JRefractSurg28:174-181,2012☆☆☆1366あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(50)

眼内レンズ:鈍的外傷による水晶体後嚢破裂

2012年10月31日 水曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎314.鈍的外傷による水晶体後.破裂石井清さいたま赤十字病院眼科鈍的眼外傷後に,水晶体後.破裂を生じ,徐々に白内障をきたすことがある.若年者に多いが,眼底病変の合併症を伴わなければ,手術時期と方法を症例の状態に応じて対処することにより,良好な視力予後を得られるケースも多い.今回は具体的な手術方法を供覧する.鈍的外傷後にみられる後.破裂を伴う白内障症例については,これまでにいくつか報告がある1.2)が,それほど頻度は多くない.鈍的外傷による後.破裂については,Wolterは,小児や若年者では水晶体核が未熟であるため,水晶体を通して,衝撃の対側に力が伝わるために生ずるとの推論1)を,また,Campanellaらは,小児ではWieger靱帯による前部硝子体と水晶体後.の接着が強固であり,鈍的外傷による衝撃で後.の中央部付近の破裂が生じやすい推論を報告している2).本セミナーでは鈍的眼外傷後に,後.破裂を伴う白内障をきたした白内障症例の対処手術方法を紹介する.手術方法は,経毛様体扁平部水晶体切除術(parsplanalensectomy:PPL)もしくは,limbalapproachの選択が可能であるが,後.破裂を伴う外傷性白内障は若年者に多く,後部硝子体.離が発生していないことが多い.そのため,PPLに伴い,網膜裂孔や網膜.離などの合併症を起こす可能性があるので注意が必要である.Limbalapproachでは水晶体超音波乳化吸引術(phacoemulsificationandaspiration:PEA)を行うことが可能である.Limbalapproachの場合は,後.破裂の程度によるが,眼内レンズ(IOL)を.内固定できる可能性があるという利点がある3).今回はlimbalapproachによる手術方法を紹介する.症例は,左眼眼球打撲で前医受診し,前房出血吸収後,白内障出現したため,受傷3カ月後に当科を紹介受診,核白内障と後.破裂がみられた(図1).後.破裂は楕円形で,破裂部の辺縁部に線維化がみられた.強角膜4面切開(2.4mm)を行い,3時,9時方向にサイドポートを作製(上方皮質が残った際のbimanualirrigation/図2トリパンブルーによる前.染色下による前.切開図1術前の前眼部白内障と後.破裂(点線)がみられる.図3灌流吸引で水晶体を吸引除去(47)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213630910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去図4硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去aspiration:以下I/A用).トリパンブルーで前.染色後に前.切開(図2),核が柔らかい場合はI/Aのみにて,水晶体を除去する(図3).その後線維化した前部硝子体と皮質の処理が必要な場合は,前房maintainerを留置し,25ゲージの硝子体カッターで前部硝子体切除と残存皮質の除去を行う(図4).前.と後.間に粘弾性物質を注入し水晶体.に若干の間隙を作り,IOLを.内に挿入(図5,6)する.この症例では術後経過は良好で,視力は術後4日で0.2(1.2×.2.75D(cyl.0.50DAx150°)まで改善した.術式がlimbalapproachの場合,術中に後.破裂の拡大,水晶体の硝子体への嵌頓の可能性を考慮し,慎重に手術時期を決定する必要があると考えられる.時間経過に伴い,後.破損の辺縁部は厚く線維化していくことが観察されるため,硝子体への炎症波及などの他の合併症がなければ,少なくとも6週間は白内障手術を待つほうがよいと考える.Limbalapproachの場合,術前の後.の状態について評価し,手術の際に,後.破裂の進行を防ぐため,PEAの場合は,低吸引,低灌流および,ボトル高を低くする工夫が肝要である.以上,後.破裂の程度,発症からの期間,年齢などを図5粘弾性物質を前.と後.下に注入する図6IOLを.内固定に挿入する総合的に判断して,手術時期,術式を選択する必要があると考えられる.文献1)WolterJR:Coup-contrecoupmechanismofocularinjuries.AmJOphthalmol56:785-796,19632)CampanellaPC,AminlariA,DemaioR:TraumaticcataractandWieger’sligament.OphthalmicSurgLasers28:422-423,19973)ThomasR:Posteriorcapsuleruptureafterblunttrauma.JCataractRefractSurg24:283-284,19982012年4月作成

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズの苦情に対処する(1)-くもり-

2012年10月31日 水曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】340.コンタクトレンズの苦情に対処する(1)―くもり―ハードコンタクトレンズ(HCL)装用者が年々減少しているなかでも,各社がそれぞれの特徴を生かしてHCL作製を継続していることは,CLに携わる眼科医として非常に有り難いと思っている.16年ほど前から出会った(株)サンコンタクトレンズのHCLは国内では唯一レンズに直接“調整加工”ができることから気に入っている.そして筆者自身も使用している.自分が処方しているレンズについて説明するほうが伝えやすいため,(株)サンコンタクトレンズのHCLで話を進めていく.「苦情処理」というより「主訴別対処」という言葉を筆者は好んで使用している.どんなにベストだと思って処方しても使い方や環境に影響され変わってくるため,CLは処方して終わりではない.その変化を見逃さないために定期検査が必要であり,それに対して「主訴別対処」を行うことが医療機器としてCLの質を保つためには必要である.今回は「くもり」について説明する.受診する際には「くもる」よりも「見えにくい・かすむ・見え方が不安定」などの表現をよく耳にする.受診時の表現はいろいろで戸惑うが,それを医学的な言葉へ置き換え原因を探舟橋順子大阪医科大学眼科学していく.レンズの汚れだけを見ていてもなかなか解決策は見つからない.焦らず探すためには順番を決めて考える1)(図1).1.レンズの確認まずレンズ自体を観察し,汚れや傷がないか確認する.レンズに汚れがあれば洗浄し,一般的な洗浄液で除去できなければ研磨剤入りの洗浄液または蛋白分解酵素入り洗浄液を使用する.それでも除去できない場合は研磨する.研磨はレンズ調整の一方法である.レンズ調整は何でもできるわけではないが,使用しているレンズに直接,「汚れや傷の研磨・度数調整・べベル幅の変更・エッジリフトの変更・サイズの縮小・エッジ形状の変更・特殊加工(MZ加工など)」を行える1,2).これらはメーカーの技術員にお願いする.汚れがつきやすい場合は使用しているケア用品を確認し,擦り洗いのやり方を実際に行ってもらい問題があれば指導する.深い傷でなければ研磨して除去できる.2.度数の過不足の確認レンズに問題がなければ,度数の過不足を確認する.レンズの確認汚れ・キズ洗浄・研磨度数の過不足度数変更装用状態でレンズ表面確認ドライなくもりBCを再考ベベル幅を狭くエッジリフト小さくフロントベベル薄く(フロントカット)ウェット(オイリー)なくもりレンズ周辺部での刺激ベベル幅を広くエッジリフト大きくブレンド追加エッジ研磨フロントベベル薄く(フロントカット)抗アレルギー点眼薬処方レンズ表面の涙液はじき研磨取り扱い確認日常生活確認レンズ脱後に見えにくい角膜形状確認(固着による圧痕・歪み)BC・直径変更(レンズ表面の涙液不足)(化粧品・ハンドクリームなどの付着)ありありなし図1主訴別対処「くもり」(45)あたらしい眼科Vol.29,No.10,201213610910-1810/12/\100/頁/JCOPY 度数の過不足がある場合,レンズ保証期間内ならレンズを交換し,保証期間を過ぎていれば±1D以内はレンズを削って度数調整を行う.3.装用状態でレンズ表面を確認レンズ自体と度数に問題がなければ,装用状態でレンズの表面を確認する.①ドライなくもり瞬きした後,開瞼してすぐレンズ表面が窓ガラスに息を吹きかけたようにくもる場合である.フルオレセインパターン(必ず角膜中央部にレンズを保持し確認)3)がパラレルの場合でも,べベル幅(図2a,b)が広すぎるまたはエッジリフト(図2a,c)が大きすぎると,エッジ下にたくさんの涙液が溜まりレンズ表面へ載る涙液が少なくなることから乾燥を生じる1,2,4).そこでべベル幅を狭くまたはエッジリフトを小さくすると,レンズ表面に涙液が載りやすくなり,くもりが改善する.べベル幅とエッジリフトに問題がない場合は,レンズ周辺の厚みがあるとレンズの表面に涙液が載りにくいため,フロントべベルを薄く調整する.特に強度近視の場合にはレンズ周辺部が厚くなるため,最初から「フロントべベルを薄く」と指定するとよい.また,防腐剤無添加の人工涙液の頻回点眼も指導する.②ウェット・オイリーなくもりレンズ装用後,徐々にくもって見にくくなりレンズ表面には油膜状あるいは油滴状の汚れが付着している場合である.フルオレセインパターンがパラレルでも,べベル幅が狭すぎるまたはエッジリフトが小さすぎると,レンズの動きが悪くなり涙液交換も不良となり,くもりを生じる1,2,4).レンズの動きが悪いため,角膜周辺部への刺激は強くなり分泌物も増え,レンズ表面が汚れでくもってくる.そこでべベル幅を広くまたはエッジリフトを大きくすると動きが良くなり,くもりが改善する.同時にアレルギー性結膜炎を認め,抗アレルギー点眼薬を処方する場合も多くある.レンズの動きが悪いと固着している可能性が高いので,レンズ調整前にフォトケラトスコープでレンズ圧痕などの有無を確認しておくことも大切である.エッジ周辺カーブ(PC)中間カーブ(IC)直径(サイズ)光学領域べベル(PC+IC)aフロントべベルベースカーブ(BC)図2ハードコンタクトレンズ(HCL)各部の名称a:HCLの断面図,b:べベル幅,c:エッジリフト.ベベル幅bBCの延長線エッジリフトc③レンズ表面の涙液はじきレンズ表面に涙液が載らずはじいている場合は,化粧品やハンドクリームなどが付着していることが原因の多くを占めている.まず,レンズの取り扱い方や,日常生活での化粧品やハンドクリームなどの使用について確認する.汚れは洗浄液では除去できないため,研磨して除去する.原因となる化粧品やハンドクリームの使用方法についても指導が必要である.文献1)舟橋順子:初心者だからと諦めないで…よりよいHCL装用を目指して.日コレ誌53:補遺S10-S15,20112)舟橋順子:はじめてみようHCL処方.日コレ誌54(4),2012(印刷中)3)糸井素純:フルオレセインパターンの見方(2).あたらしい眼科19:605-606,20024)小玉裕司:自覚症状からのコンタクトレンズトラブルシューティング.眼科プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p142-148,文光堂,2009☆☆☆1362あたらしい眼科Vol.29,No.10,2012(46)