特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):185.192,2013特集●黄斑疾患診療トピックスあたらしい眼科30(2):185.192,2013眼底自発蛍光最前線CuttingEdgeofFundusAutofluorescencePhotography古泉英貴*はじめに眼底自発蛍光撮影は非侵襲的に網膜色素上皮(RPE)の機能を評価できる比較的新しい検査法であり,2012年4月には正式に保険収載もされている.特殊なフィルターを用いることで造影剤を使用せずに簡便かつ短時間に撮影が可能であり,現在の眼底疾患診療におけるホットトピックスの一つとなっている.しかし現時点では,その臨床的意義は広く認識されていない状況であり,そのことが同検査法の普及の妨げになっているようにも思われる.一見とっつきにくい検査のように思えるが,基本的事項さえ理解しておけばその読影は決してむずかしくない.本稿では,眼底自発蛍光撮影の原理,正常所見,撮影機器の違いによる差異,代表的な異常所見の解釈,そしていくつかの最近のトピックスにつき概説する.I眼底自発蛍光撮影の原理RPEは視細胞外節を絶えず貪食・刷新する役割を担っており,1つのRPE細胞はその生涯で約30億個の視細胞外節を貪食するとされている.貪食された視細胞外節はRPE細胞内で代謝処理されるが,加齢などによりRPEの処理能力が低下すると,余剰産物がリポフスチンとして蓄積する.そのリポフスチンに青色光などの短波長光を照射することで励起される特有の蛍光を,フィルターを用いて検出するのが眼底自発蛍光撮影の原理である(図1).リポフスチンの構成成分としておもなもの図1眼底自発蛍光撮影の原理RPE細胞内に存在するリポフスチンに短波長光を照射することで励起される特有の蛍光を,フィルターを用いて検出する.図2眼底自発蛍光の模式図正常なRPEでもある程度の自発蛍光を発する(左).過剰なリポフスチンが蓄積したRPEは過蛍光を呈するようになり(中),最終的にRPE細胞死に至ると低蛍光となる(右).*HidekiKoizumi:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕古泉英貴:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(51)185図3正常眼の眼底自発蛍光写真cSLO型装置(ハイデルベルグ社HRA2)(左)および眼底カメラ型装置(トプコン社TRC-50DX)(右)で撮影.視神経乳頭および網膜中大血管の部位では低蛍光となっている.cSLO型装置では良好なコントラストが得られるが,黄斑色素の影響で中心窩とその周囲はやや暗い.眼底カメラ型装置ではややコントラストは弱いが,中心窩とその周囲の情報は明瞭であり,広画角の画像が得られる.はビタミンAサイクルで生成されるA2Eという物質である.A2Eは視細胞外節に存在するA2PEを元にRPE細胞内で生成される1).正常でも70歳の時点でRPE細胞の体積の25%をリポフスチンが占めているため,ある程度の自発蛍光を発する.加齢や病的状態などのストレスにより過剰にリポフスチンを含有したRPEは過蛍光を発するようになり,最終的にはRPE細胞死に至ることで低蛍光を呈する(図2).II正常眼の眼底自発蛍光所見眼底自発蛍光撮影には大きく分けてハイデルベルグ社のHeidelbergRetinaAngiograph2(HRA2)などの共焦点走査レーザー検眼鏡(cSLO)型装置を用いる方法と眼底カメラ型装置を用いる方法がある.図3に正常眼の眼底自発蛍光画像を示す.視神経乳頭および網膜中大血管の部位では自発蛍光は通常ほとんど検出されない.cSLO型装置を用いた眼底自発蛍光撮影は共焦点レーザーを励起光として用いるため,水晶体由来の蛍光の影響が少ないことが利点である.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)と同じフィルター装置を使用するため,HRA2などの機器があればそのまま眼底自発蛍光撮影が可能である.その一方,FA施行後には眼底自発蛍光186あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013撮影はできない.また黄斑色素の影響で中心窩とその周囲はやや暗く写る.これはcSLO型装置(HRA2で488nm)では眼底カメラ型装置(トプコン社TRC-50DXで535.585nm)よりも短波長領域の励起光を用いることにより,RPEに到達する前に黄斑色素による励起光の吸収効果がより強く出てしまうためである.さらに評価に値する画像を得るためには多数の画像の加算平均処理が必要である.一方,眼底カメラ型装置を用いた眼底自発蛍光撮影は加算平均処理の必要がなく簡便であり,通常の眼底写真と同じ感覚で撮像が可能である.cSLO型装置と比較して画角の広い画像が得られ,またFAよりもやや長波長帯の励起光を用いるため,FA施行後でも画像の取得ができることも利点である.最近はフィルター特性の改良により,水晶体由来の自発蛍光の影響も少ない2).また,cSLO型装置と比較して黄斑色素による励起光の吸収効果は弱いため,中心窩およびその周囲の情報も明瞭である.しかし,画像のコントラストはcSLO型装置に比較してやや弱く,またFAと同じフィルターでは撮影できないため,あらかじめ眼底自発蛍光撮影専用のフィルターが組み込まれた装置を使用する必要がある.以下,異常所見,すなわち過蛍光や低蛍光といった所見をどのよ(52)うに解釈するかという点につき述べる.III異常所見の解釈1.過蛍光先述のごとく,加齢などによるRPE内の過剰なリポフスチンの蓄積がその主たる原因であることが多い(図4).加齢以外でもRPE内に過剰なリポフスチンの蓄積を生じるStargardt病では画像全体が著明な過蛍光を呈する3)(図5).しかし,それ以外でも過蛍光の原因となりうるものとして,視細胞外節由来の過蛍光がある.ビタミンA代謝サイクルにおいて,リポフスチンのおもな構成成分であるA2Eの前駆物質であるA2PEはおもに視細胞外節に存在し,A2Eと同様に自発蛍光活性を有することが知られている.通常はA2PEを主とした図4加齢に伴う過蛍光所見70歳,男性.初診時(左)と比較して,3年後(右)には中心窩周囲の過蛍光が明瞭になっている(矢印).図5Stargardt病カラー写真(左)では黄斑部の萎縮性変化がみられる.眼底自発蛍光写真(右)ではRPEへの過剰なリポフスチンの蓄積を反映して,全体に著明な過蛍光を呈する.黄斑部はRPEの萎縮により低蛍光を示している.加えて多数の斑状の低蛍光斑が散在しており,これも診断的意義の高い所見である.(53)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013187図6黄斑部網膜.離OCT(左)で中心窩とその周囲に視細胞外節の延長所見(矢印)を認め,眼底自発蛍光写真(右)でも同部位に一致して多数の顆粒状過蛍光所見(矢印)がみられる.丈の高い網膜.離の存在による蛍光ブロックにより,黄斑部の下方は低蛍光となっている(矢頭).図7Best病カラー写真(左)で黄斑部網膜下に黄白色物質の沈着がみられ,眼底自発蛍光写真(右)で同部位は著明な過蛍光所見を示す.視細胞外節由来の蛍光は画像自体への影響は少ないが,何らかの原因で視細胞外節由来物質の網膜下への蓄積が起こると,RPE由来の蛍光に加えて視細胞外節由来の物質も有意な蛍光を発するようになる.その代表的な例としては中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)などでみられる黄斑部網膜.離と卵黄様黄斑変性(Best病)がある.黄斑部網膜.離が遷延すると,通常はRPEに貪食されるべき視細胞外節の延長が起こる.この所見は光干渉断188あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013層計(OCT)でも観察することができる.その延長した外節そのもの,あるいは外節を貪食したマクロファージ由来の自発蛍光が過蛍光として観察される4.6)(図6).また,Best病ではRPEのクロライドチャンネルの異常により貪食作用が障害されるため,貪食されなかった視細胞外節由来物質が網膜下に蓄積し,眼底自発蛍光撮影では著明な過蛍光を生じる7)(図7).Best病の類縁疾患であり,滲出型加齢黄斑変性(AMD)との鑑別が重要な(54)図8成人型卵黄様黄斑変性カラー写真(左)で中心窩に黄白色病変を認め,眼底自発蛍光写真(右)で同部位が過蛍光を示している.図9萎縮型加齢黄斑変性72歳,男性.初診時,黄斑部に過蛍光を認め(左),その2年後には同部位がRPE萎縮を反映して境界明瞭な低蛍光に転じている(右).低蛍光領域に隣接した部位ではストレスを受けたRPEが過蛍光を示している(矢印).成人型卵黄様黄斑変性においても同様の過蛍光を生じる代表的なものに萎縮型AMDがある.通常検眼鏡的に境ため8),スクリーニング検査として非常に有用である(図界明瞭な萎縮巣を認め,その部位に一致した低蛍光所見8).を認める(図9).低蛍光領域の周囲にはストレスを受けたRPEがさまざまな過蛍光パターンを示すが,特有の2.低蛍光過蛍光パターンでは経時的に萎縮が拡大しやすいことが低蛍光の原因は大きく分けて2つあり,①RPE細胞報告されており9),病変進行の予測因子としての役割がの萎縮,②RPEよりも前方に位置する物質による蛍光注目されている.さらに補助診断として有用な所見もいブロックである.RPE細胞の萎縮をきたす疾患としてくつかある.その一つは網膜色素上皮裂孔であり(図(55)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013189図10網膜色素上皮裂孔滲出型AMDの診断で経過観察中であったが,最近急激に視力低下を自覚したとのことで来院.カラー写真(左)でははっきりしないが,眼底自発蛍光写真(右)で明瞭な低蛍光領域を認める(矢頭).矢印の部位ではローリングしたRPEが重層化するため,やや過蛍光の所見となっている.図11慢性CSC黄斑部の網膜.離が遷延すると,網膜下液は重力に従って下方に移動する.その状態が長期間続くことで,RPE萎縮を反映した特徴的な帯状の低蛍光領域(atrophictract)がみられる.10),裂孔の部位は境界明瞭な低蛍光所見を呈するため,急速に視機能の低下した滲出型AMDではスクリーニング検査として,まず眼底自発蛍光撮影を行うと良い.CSCでは遷延した網膜.離が重力に従って下方に移動するため,帯状のRPE萎縮を反映した低蛍光所見を呈することがある.この所見はatrophictractとよばれ(図11),過去のCSCの既往を疑わせる有用な所見である.わが国における滲出型AMDの二大サブタイプである典型AMDとポリープ状脈絡膜血管症(PCV)はインドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)で脈絡膜新生血管網の形態の差異を示すが,最近筆者らは眼底自発蛍光撮影においてPCVの特徴的所見であるポリープ状病巣の部位に一致して過蛍光リングに囲まれた円形の低蛍光領域(punched-outlesion)を高頻度に認めること,ま図12PCVIA(左)でPCVに特徴的な複数のポリープ状病巣を認め(矢印),眼底自発蛍光写真(右)ではポリープ状病巣に一致して過蛍光リングに囲まれた円形の低蛍光(punched-outlesion)(矢印)がみられる.加えて黄斑部以外にも広範囲に低蛍光が散在している(矢頭).190あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(56)図13網膜下出血新鮮な網膜下出血(左上)では眼底自発蛍光写真で蛍光ブロックにより低蛍光を示す(右上)が,少し時間の経過した網膜下出血(左下)ではむしろ過蛍光所見を呈する(右下).た患眼のみならず僚眼においてもPCVでは広範に低蛍光領域が散在していることを発見し,病態理解や補助診断としての有用性が高いことを報告した10)(図12).もう一つの低蛍光の原因となる蛍光ブロックの要因としては,RPEよりも前方に位置する硬性白斑や出血などがあげられるが,時間の経過した網膜下出血はむしろ過蛍光を示すことがあり11)(図13),所見の解釈には注意が図14近赤外光を用いた眼底自発蛍光撮影53歳,女性.Vogt・小柳・原田病発症より2カ月後.青色光による眼底自発蛍光写真(左)と比較して,近赤外光による眼底自発蛍光写真(右)では異常な過蛍光所見がより明瞭かつ広範にみられる.必要である.IV最近のトピックス従来,眼底自発蛍光撮影には青色光などの短波長光がおもに用いられてきたが,最近ではIAで使用する近赤外光を用いた眼底自発蛍光撮影も注目されている12.15)(図14).近赤外光を用いた自発蛍光の起源はおもに眼(57)あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013191底のメラニンであるとされ,その変化は青色光を用いた自発蛍光よりも早期の眼底の代謝変化を検出しているとの報告もあるが,まだまだ病態との関連で不明な点も多い.今後さまざまな疾患での応用により,その意義が解明されることが望まれる.また,cSLO型装置において連続的に動画撮影を行うことで自発蛍光の経時的な輝度変化を測定し,視細胞の機能を定量化する試みも報告されており16),今後の発展に期待したい.おわりに眼底自発蛍光撮影は造影剤を必要とせず,非侵襲的にRPEの機能を観察することができる画期的な検査法であり,OCTなどとともに近未来の眼底疾患診療の中心的役割を担っていくことが期待される.本稿が眼底自発蛍光撮影のより良い理解と普及の一助になれば筆者にとって望外の喜びである.文献1)SparrowJR,Gregory-RobertsE,YamamotoKetal:Thebisretinoidsofretinalpigmentepithelium.ProgRetinEyeRes31:121-135,20122)Schmitz-ValckenbergS,HolzFG,BirdACetal:Fundusautofluorescenceimaging:reviewandperspectives.Retina28:385-409,20083)LoisN,HalfyardAS,BirdACetal:FundusautofluorescenceinStargardtmaculardystrophy-fundusflavimaculatus.AmJOphthalmol138:55-63,20044)SpaideRF:Autofluorescencefromtheouterretinaandsubretinalspace:hypothesisandreview.Retina28:5-35,20085)MarukoI,IidaT,OjimaAetal:Subretinaldot-likeprecipitatesandyellowmaterialincentralserouschorioretinopathy.Retina31:759-765,20116)MatsumotoH,KishiS,SatoTetal:Fundusautofluorescenceofelongatedphotoreceptoroutersegmentsincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol151:617623,20117)SpaideRF,NobleK,MorganAetal:Vitelliformmaculardystrophy.Ophthalmology113:1392-1400,20068)ParodiMB,IaconoP,PedioMetal:Autofluorescenceinadult-onsetfoveomacularvitelliformdystrophy.Retina28:801-807,20089)HolzFG,Bindewald-WittichA,FleckensteinMetal:Progressionofgeographicatrophyandimpactoffundusautofluorescencepatternsinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol143:463-472,200710)YamagishiT,KoizumiH,YamazakiTetal:Fundusautofluorescenceinpolypoidalchoroidalvasculopathy.Ophthalmology119:1650-1657,201211)SawaM,OberMD,SpaideRF:Autofluorescenceandretinalpigmentepithelialatrophyaftersubretinalhemorrhage.Retina26:119-120,200612)KoizumiH,MaruyamaK,KinoshitaS:Bluelightandnear-infraredfundusautofluorescenceinacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.BrJOphthalmol94:1499-1505,201013)SekiryuT,IidaT,MarukoIetal:Infraredfundusautofluorescenceandcentralserouschorioretinopathy.InvestOphthalmolVisSci51:4956-4962,201014)TojuR,IidaT,SekiryuTetal:Near-infraredautofluorescenceinpatientswithidiopathicsubmacularchoroidalneovascularization.AmJOphthalmol153:314-319,201215)KeilhauerCN,DeloriFC:Near-infraredautofluorescenceimagingofthefundus:visualizationofocularmelanin.InvestOphthalmolVisSci47:3556-3564,200616)SekiryuT,IidaT,MarukoIetal:Clinicalapplicationofautofluorescencedensitometrywithascanninglaserophthalmoscope.InvestOphthalmolVisSci50:2994-3002,2009192あたらしい眼科Vol.30,No.2,2013(58)