《原著》あたらしい眼科29(4):555.561,2012c緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第二報”高橋真紀子*1,2内藤知子*2溝上志朗*3菅野誠*4鈴村弘隆*5吉川啓司*6*1笠岡第一病院眼科*2岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学*3愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学*4山形大学医学部眼科学講座*5中野総合病院眼科*6吉川眼科クリニックQuestionnaireSurveyonUseofGlaucomaEyedrops:SecondReportMakikoTakahashi1,2),TomokoNaitou2),ShiroMizoue3),MakotoKanno4),HirotakaSuzumura5)KeijiYoshikawa6)and1)DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,3)DepartmentofOphthalmology,MedicineofSensoryFunction,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,4)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,5)DepartmentofOphthalmology,NakanoGeneralHospital,6)YoshikawaEyeClinic緑内障点眼治療のアドヒアランスに関連する要因を調査するため,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症を対象にアンケートを実施した.同時に年齢,性別,使用薬剤,眼圧,平均偏差(MD)などの背景因子も調べた.236例(男性106例,女性130例),平均年齢65.1±13.0歳が対象となった.点眼忘れは男性(p=0.0204),若年(p<0.0001),薬剤変更歴がない症例(p=0.0025)に多くみられた.点眼回数に負担は感じないと回答した症例では,眼圧が高く(p=0.0086),MDが低い(病期進行例)(p=0.0496)ほど点眼忘れは少なかった.しかし,薬剤数が増加すると,点眼回数に負担を感じる症例が有意に増え(p<0.0001),点眼を忘れる頻度は高くなった(p=0.0296).薬剤数ならびに点眼回数の増加は,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性がある.Toevaluatethefactorsrelatingtoregimenadherenceinglaucomatreatment,weconductedaquestionnairesurveyofpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.Backgroundfactorssuchasage,sex,medicineused,intraocularpressure(IOP)andmeandeviation(MD)wereexaminedatthesametime.Thesubjectscomprised106malesand130females,averageage65.1±13.0years.Eyedropinstillationwasneglectedmoreinmalesthaninfemales(p=0.0204),youngerpatients(p<0.0001)andpatientswithnohistoryofdrugchanges(p=0.0025).Inpatientswhodidn’tfeelburdenedduringtimesofeyedropuse,eyedropinstillationwaslessneglectedinthosewithhigherIOP(p=0.0086),andlowerMD(p=0.0496).Withincreasingnumberofeyedropinstillations,thosewhofeltburdenedduringtimesofeyedropuseincreased(p<0.0001)andmorefrequentlyneglectedeyedropinstillation(p=0.0296).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):555.561,2012〕Keywords:緑内障,高眼圧症,アンケート調査,アドヒアランス.glaucoma,ocularhypertension,questionnaire,adherence.はじめに緑内障治療においてエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降のみである1).最近ではその進歩により有意な眼圧下降が得られるようになったため,緑内障点眼薬が治療の第一選択となっている.一方,緑内障は慢性進行性であるため,点眼薬は長期にわたり使用する必要がある.しかし,自覚症状に乏しい緑内障では点眼の継続は必ずしも容易ではない.ここで,最近,慢性進行性疾患の治療の成否に影響する要因として,患者の積極的な医療への参加,すなわち,アドヒアランスが注目されている.緑内障点眼治療においてもアドヒアランスが良好であれば治療効果に直結しうる2,3).さて,アドヒアランスを確保するための第一段階は患者の病態理解だが,このためには医療側から患者への情報提供が〔別刷請求先〕高橋真紀子:〒714-0043笠岡市横島1945笠岡第一病院眼科Reprintrequests:MakikoTakahashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KasaokaDaiichiHospital,1945Yokoshima,Kasaoka,Okayama714-0043,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)555必要である.ここで,情報提供の具体化にはアドヒアランスに関連する要因の分析が求められる.そこで,筆者らは緑内障点眼薬使用に関するアンケート調査を行い,「指示通りの点眼の実施」をアドヒアランスの目安とした際に,65歳以上の男性で「眼圧を認知」していれば「指示通りの点眼」の実施率が高く,他方,若年の男性では「指示通りの点眼」の実施率が低値に留まることを報告した4).すなわち,アドヒアランスには病状認知や性別,年齢などが影響する可能性が示唆された.一方,使用薬剤数5.8)などの点眼薬に関わる要因や緑内障の重症度8)もアドヒアランスに関連することが報告されている.そこで,今回,アンケート調査時に調べた症例ごとの使用薬剤数別に「指示通りの点眼」との関連を調べ,さらに,アドヒアランスの一面を反映すると考えられる「点眼の負担」や「点眼忘れ」に関するアンケート結果と,眼圧や視野障害の程度など背景因子の影響についても検討したので報告する.I対象および方法緑内障点眼治療開始後少なくとも3カ月以上を経過した,広義原発開放隅角緑内障・高眼圧症患者のうち,年齢満20歳以上で,かつ,アンケート調査に書面での同意を得られた症例を対象に,笠岡第一病院,岡山大学病院,愛媛大学病院,山形大学病院,中野総合病院の5施設においてアンケート調査を施行した.なお,1カ月以内に薬剤変更・追加あるいは緑内障手術・レーザーの予定がある患者,過去1年以内に内眼手術・レーザーの既往がある患者,圧平眼圧測定に支障をきたす患者は対象から除外した.調査方法は既報4)のごとく,診察終了後にアンケート用紙を配布,無記名式とし,質問項目への記入を求めた.性別,年齢,眼圧,使用薬剤などは,アンケート回収後にカルテより調査した.なお,両眼で使用薬剤が異なる場合は,薬剤数が多い側の情報を選択した.また,緑内障点眼薬以外の点眼薬使用の有無についても調べた.さらに,アンケート調査日前6カ月以内にHumphrey自動視野計のSITA(Swedishinteractivethresholdalgorithm)Standardプログラム中心30-2あるいは24-2による視野検査を施行された症例のうち,少なくとも3回以上の視野検査経験があり,信頼性良好な検査データ(信頼度視標の固視不良が20%未満,偽陽性15%未満,偽陰性33%未満9))が入手可能な症例では,その平均偏差(meandeviation:MD)も調査した.なお,罹患眼が両眼の場合は,MDが低いほうの眼の値を解析データとした.一方,罹患眼が両眼の症例で,組み入れ基準を満たした検査データが片眼のみだった場合は,解析の対象から除外した.データ収集施設において,回収したアンケートの記載内容に不備がある症例を除外し,あらかじめ作成したデータ入力用のエクセルシートに結果を入力した.入力結果はデータ収集施設とは別に収集し(Y.K.),さらに,アンケートの質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?),質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)および質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)のそれぞれの回答結果と薬剤数,MDなど背景因子との関連をJMP8.0(SAS東京)を用い,c2検定,t検定,分散分析,Tukey法により検討した.有意水準は5%未満とした.なお,本研究は笠岡第一病院,山形大学医学部の倫理委員会の承認を得たうえで,ヘルシンキ宣言に沿って実施した.II結果1.背景因子と薬剤関連要因アンケートに有効回答が得られた236例(男性106例,女性130例)の平均年齢は65.1±13.0(22.90)歳であった.平均眼圧は13.8±2.9(8.0.23.0)mmHgであったが,男性は14.3±2.9mmHgで女性の13.4±2.9mmHgに比べ有意に高かった(p=0.0267)(表1).信頼性のある視野検査結果が得られたのは236例中226例(95.8%)で,その平均MDは.10.08±8.29(.33.00.0.99)dBであった(図1).なお,平均MDは性別(男性:.11.03±8.39dB,女性:.9.27±8.14dB,p=0.1127)や年齢層(65歳未満:.9.39±7.83dB,65歳以上:.10.61±8.62dB,p=0.2720)間で明らかな差は認めなかった(表1).対象の平均緑内障点眼薬剤数は1.7±0.8剤〔1剤:120例(50.8%),2剤:62例(26.3%),3剤:53例(22.5%),4剤:1例(0.4%)〕であった.また,緑内障以外の点眼薬剤を使用していたのは55例(23.3%)であった.平均緑内障点眼回数は2.3±1.5(1.6)回/日(図2)で,薬剤追加歴のある症例は96例(40.7%)であった.なお,平均緑内障点眼薬剤数と性別・年齢との関連はなかった(男性:1.8±0.8剤,女性:1.7±0.8剤,p=0.1931,65歳未満:1.6±0.8剤,653102029374674807060504030201007症例数(例)-35-30-25-20-15-10-505MD(dB)図1MDの分布556あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(122)表1性別・年齢層別比較性別年齢層別背景因子男性(n=106)女性(n=130)p値65歳未満(n=102)65歳以上(n=134)p値眼圧14.3±2.9mmHg13.4±2.9mmHg0.0267*13.8±2.8mmHg13.7±3.1mmHg0.7822*MD.11.03±8.39dB※1.9.27±8.14dB※20.1127*.9.39±7.83dB※3.10.61±8.62dB※40.2720*緑内障点眼薬剤数1.8±0.8剤1.7±0.8剤0.1931*1.6±0.8剤1.8±0.8剤0.2074*緑内障点眼回数2.4±1.5回/日2.2±1.4回/日0.3229*2.1±1.4回/日2.4±1.5回/日0.0884*薬剤追加歴有42例(39.6%)無64例(60.4%)有54例(41.5%)無76例(58.5%)0.7657**有31例(30.4%)無71例(69.6%)有65例(48.5%)無69例(51.5%)0.0050**※1:n=104,※2:n=122,※3:n=99,※4:n=127.5回/日6回/日23例(9.7%)3例(1.3%)3回/日24例(10.2%)図2緑内障点眼回数1回/日109例(46.2%)2回/日45例(19.1%)4回/日32例(13.6%)歳以上:1.8±0.8剤,p=0.2074).薬剤追加歴がある症例は65歳以上134例中65例(48.5%)で,65歳未満102例中31例(30.4%)に比べ有意に高率であった(p=0.0050)(表1).2.アンケート質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)との関連236例中236例(100%)で,アンケート質問5に対し回答が得られた.236例中185例(78.4%)が,指示通りに点眼できないことは「ほとんどない」と回答した.一方,「時々ある」は47例(19.9%),「しばしばある」は4例(1.7%)であった.すなわち,「ほとんど指示通りに点眼できていた」のは236例中185例(78.4%),「指示通りに点眼できないことがあった」のは51例(21.6%)であった(図3).緑内障点眼薬剤数と指示通りの点眼の関連を検討した.「ほとんど指示通りに点眼できていた」185例における薬剤数は1剤:98例(53.0%),2剤:44例(23.8%),3剤以上:43例(23.2%)に対し,「指示通りに点眼できないことがあった」51例では1剤:22例(43.1%),2剤:18例(35.3%),3剤以上:11例(21.6%)で,両群間に有意差はなかった(p=0.2434)(表2).「指示通りに点眼できないことがあった」のは薬剤変更歴がある103例中18例(17.5%),変更歴がなかった133例中33例(24.8%)で,両群間に明らかな差はなかった(p=0.1745).同様に,薬剤追加歴がある96例中25例(26.0%),追加歴がなかった140例中26例(18.6%)が「指示通りに点(123)*:t検定,**:c2検定.時々ある47例(19.9%)ほとんどない185例(78.4%)指示通りに点眼できないことがあった51例(21.6%)ほとんど指示通りに点眼できていた185例(78.4%)しばしばある4例(1.7%)図3質問5(緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?)への回答結果表2緑内障点眼薬剤数と「指示通りの点眼」の関連薬剤数ほとんど指示通りに点眼できていた(n=185)指示通りに点眼できないことがあった(n=51)p値1剤98例(53.0%)22例(43.1%)0.24342剤44例(23.8%)18例(35.3%)3剤以上43例(23.2%)11例(21.6%)c2検定.:ほとんど指示通りに点眼できていた■:指示通りに点眼できないことがあった薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)75.224.882.517.5薬剤追加歴なし(n=140)薬剤追加歴あり(n=96)050100(%)81.418.674.026.0図4薬剤変更・追加歴と「指示通りの点眼」の関連あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012557眼できないことがあった」が,有意差はみられなかった(p=0.1708)(図4).3.アンケート質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)との関連アンケート質問6に対し回答が得られた236例中「負担は感じない」は196例(83.1%),「どちらともいえない」は28例(11.9%),「負担を感じる」は12例(5.1%)であった(図5).「負担は感じない」と回答した196例の使用薬剤数は1剤:112例(57.1%),2剤:49例(25.0%),3剤以上:35例(17.9%)であり,「どちらともいえない」と回答した28例では1剤:8例(28.6%),2剤:11例(39.3%),3剤以上:9例(32.1%)であった.これに対し,「負担を感じる」と回答した12例中には,3剤以上使用者が10例(83.3%)負担を感じる12例(5.1%)どちらともいえない28例(11.9%)負担は感じない196例(83.1%)図5質問6(今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?)への回答結果:負担は感じない■:どちらともいえないを占め,1剤使用で負担を感じた症例はなかった.薬剤数が増えるほど有意に「負担を感じる」症例は増加した(p<0.0001)(表3).一方,薬剤変更歴と点眼負担に有意な関連はみられなかった(p=0.5286)(図6).薬剤追加歴がある96例中「負担を感じる」と回答したのは11例(11.5%)で,追加歴がなかった症例140例中1例(0.7%)に比べ有意に高率であった(p=0.0002)(図6).4.アンケート質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)との関連アンケート質問8に対し回答が得られたのは236例中233例(回答率98.7%)で,そのうち127例(54.5%)が「忘れたことはない」と回答した.一方,「忘れたことがある」と回答した106例(45.5%)に対する付問(どの程度忘れられましたか?)については,「3日に1度程度」8例(3.4%),「1週間に1度程度」22例(9.4%),「2週間に1度程度」26例(11.2%),「1カ月に1度程度」50例(21.5%)であった(図7).緑内障点眼薬剤数と点眼忘れの有無には有意な関連はなかった(p=0.1587).しかし,「点眼忘れ」の頻度が「週1回以上」の30例の使用薬剤数は1剤:11例(36.7%),2剤:10例(33.3%),3剤以上:9例(30.0%)であったのに対し,「2週間に1回以下」の76例では1剤:47例(61.8%),23日に1度程度1週間に1度程度8例(3.4%)■:負担を感じる2週間に1度程度*p=0.0002:c2検定3.826例(11.2%)1カ月に1度程度50例(21.5%)22例(9.4%)忘れたことはない127例(54.5%)忘れたことがある106例(45.5%)薬剤変更歴なし(n=133)薬剤変更歴あり(n=103)85.011.380.612.66.80.7薬剤追加歴なし(n=140)90.09.372.915.611.5*忘れたことはない薬剤追加歴あり127例(54.5%)(n=96)050100(%)図7質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことが図6薬剤変更・追加歴と「点眼負担」の関連ありませんか?)への回答結果表3緑内障点眼薬剤数と「点眼負担」の関連薬剤数1剤2剤3剤以上負担は感じない(n=196)112例(57.1%)49例(25.0%)35例(17.9%)どちらともいえない(n=28)8例(28.6%)11例(39.3%)9例(32.1%)負担を感じる(n=12)0例(0.0%)2例(16.7%)10例(83.3%)p値<0.0001c2検定.558あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(124)剤:20例(26.3%),3剤以上:9例(11.8%)であり,薬剤数が増えるほど有意に「点眼忘れ」の頻度は増加した(p=0.0296)(表4).薬剤変更歴がない131例中「忘れたことがある」と回答したのは71例(54.2%)であり,変更歴があった症例102例中35例(34.3%)に比べ有意に高率であった(p=0.0025).一方,薬剤追加歴との有意な関連はなかった(p=0.8377)(図8).5.背景因子との関連(p<0.0001),眼圧低値(p=0.0086),MD高値(p=0.0496)の症例は点眼忘れが多かった(表5).点眼負担の回答別にも背景因子との関連を検討したが,性別(p=0.6240),年齢(p=0.4672)との関連は明らかでなかった.一方,「負担を感じる」と回答した症例のMD(.:忘れたことはない■:忘れたことがある*p=0.0025:c2検定薬剤変更歴なし「点眼忘れ」は,男性(p=0.0204)および若年(p<0.0001)(n=131)45.854.265.734.3*で有意に高率に認めたが,眼圧(p=0.0536)やMD(p=薬剤変更歴あり0.2368)との間に有意な関連は認めなかった(表5).(n=102)点眼回数に「負担は感じない」と回答した196例中,質問8(緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?)薬剤追加歴なし(n=139)に対する回答が得られた194例(回答率99.0%)のうち,84薬剤追加歴あり例(43.3%)が点眼を「忘れたことがある」と回答した.点(n=94)54.046.055.344.7眼忘れの有無により分けて背景因子を比較したところ,若年050100(%)図8薬剤変更・追加歴と「点眼忘れ」の関連表4緑内障点眼薬剤数と「点眼忘れ」の関連点眼忘れ忘れる頻度薬剤数忘れたことはない忘れたことがある2週間に1回以下週1回以上(n=127)(n=106)p値(n=76)(n=30)p値1剤61例(48.0%)58例(54.7%)0.158747例(61.8%)11例(36.7%)0.02962剤31例(24.4%)30例(28.3%)20例(26.3%)10例(33.3%)3剤以上35例(27.6%)18例(17.0%)9例(11.8%)9例(30.0%)c2検定.表5「点眼忘れ」と背景因子の関連全症例「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例背景因子忘れたことはない忘れたことがある忘れたことはない忘れたことがある(n=127)(n=106)p値(n=110)(n=84)p値性別男性49例(38.6%)男性57例(53.8%)0.0204*男性43例(39.1%)男性44例(52.4%)0.0652*女性78例(61.4%)女性49例(46.2%)女性67例(60.9%)女性40例(47.6%)年齢69.4±11.0歳59.8±13.3歳<0.0001**69.9±10.8歳59.6±13.7歳<0.0001**眼圧14.1±3.0mmHg13.4±2.9mmHg0.0536**14.2±3.1mmHg13.0±2.8mmHg0.0086**MD.10.72±8.48dB※1.9.40±8.11dB※20.2368**.10.46±8.63dB※3.8.12±7.18dB※40.0496**※1:n=120,※2:n=103,※3:n=104,※4:n=83.*:c2検定,**:t検定.表6「点眼負担」と背景因子の関連負担は感じないどちらともいえない負担を感じる背景因子(n=196)(n=28)(n=12)p値性別男性87例(44.4%)男性12例(42.9%)男性7例(58.3%)0.6240*女性109例(55.6%)女性16例(57.1%)女性5例(41.7%)年齢65.6±13.1歳62.5±12.0歳63.8±12.9歳0.4672**眼圧13.7±3.0mmHg14.4±2.7mmHg14.1±2.3mmHg0.4789**MD.9.38±8.06dB※1.10.25±6.68dB※2.20.77±7.93dB<0.0001**※1:n=189,※2:n=25.*:c2検定,**:分散分析.分散分析で有意差がみられた項目については,Tukey法により多重比較を行った.(125)あたらしい眼科Vol.29,No.4,201255920.77±7.93dB)は「負担は感じない」,「どちらともいえない」と回答した症例のMD(.9.38±8.06dB,.10.25±6.68dB)に比べ有意に低値であった(p<0.0001,p=0.0006)(表6).III考按緑内障点眼治療のアドヒアランスに関わる要因について多施設でアンケート調査を行い,病状認知度を高めることが良好なアドヒアランスを確保するうえで有用であることを前報で報告した4).患者の病状認知度を高めるにはask-tell-ask(聞いて話して聞く)方式により10)患者の理解度を確認しながら医療側から情報提供を行うが,その前提となるのがアドヒアランスに関わる諸要因の客観的な評価と考えられる.さて,アドヒアランスの良否に影響を及ぼす因子は多数報告されている4.8,11.16)が,点眼薬剤数も重要な要因の一つとしてあげられる.そこで,今回,まず点眼薬剤数とアンケート質問中,アドヒアランスの現状を反映すると考えられる「緑内障の目薬を指示通りに点眼できないことがありますか?」および「今の緑内障の目薬の回数にご負担を感じますか?」,「緑内障の目薬をさすのを忘れたことはありませんか?」の各項目との関連を検討した.その結果,薬剤数が増えるほど,点眼回数に負担を感じ,また,点眼を忘れる頻度は有意に高かった.このことから,薬剤数の増加により「患者負担」が増し,「点眼忘れ」の頻度も増加する可能性が示唆された.アンケート調査結果を評価・解釈するにあたっては,バイアスを考慮に入れる必要がある.まず,本研究は同意を得られた症例を対象としたため,調査に協力的な,比較的アドヒアランスの良い症例が抽出された可能性(抽出バイアス)が否めない.また,アンケートによるアドヒアランス評価は自己申告となるため,報告バイアスにより点眼遵守率が高値を示すことが報告17)されている.これは調査を無記名式で行うことにより,その影響を低減するよう企図した.さらに,点眼忘れを申告した症例は確実に「点眼忘れ」があると思われたため,今回はそのなかで解析し,薬剤数と点眼忘れの頻度の相関は確かであると考えた.一方,薬剤数の増加とアドヒアランスの関連は必ずしも直線関係にはないことが報告されており5.8),今回の検討でも,3剤以上の点眼使用例では「点眼忘れ」が少ない傾向にあった.これは,3剤以上処方する症例は眼圧高値,病期進行例が多く,結果的に「病状の認知」が高まり,アドヒアランスに反映されたものと考えた.しかし,「点眼回数に負担を感じる」と回答した症例のMDはそれ以外の症例に比べ有意に低値を示し,病期の進行に伴う薬剤数の増加が「患者負担」となっていることも確かであった.背景因子のうちで,性別,年齢がアドヒアランスに影響す560あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012る可能性についてはすでに報告した4).今回の結果でも「点眼忘れ」は男性,若年に有意に多かったが,眼圧,MDとの関連はみられなかった.しかし,「点眼回数に負担は感じない」と回答した症例に限ると「点眼忘れ」の有無に性別による差はなく,一方で,眼圧が高く,MDが低い症例(視野進行例)ほど有意に「点眼忘れ」は少なかった.すなわち,少なくとも「患者負担」が少なければ「病状の認知」は「点眼忘れ」を減少させ,アドヒアランスに好影響を与える可能性が示された.ここで,興味深かったのは薬剤変更歴がある症例は「点眼忘れ」が有意に少なかったことである.指示通りの点眼に関しても,統計学的な有意差はなかったが,薬剤変更歴がある症例は変更歴がない症例に比べ,「ほとんど指示通りに点眼できていた」症例の割合が高かった.同等の眼圧下降効果を有する点眼薬間の前向き薬剤切り替え試験で,切り替えにより眼圧が下降し18,19),さらに元薬剤に戻しても眼圧下降は維持された19)ことが報告されている.「前向き試験」では対象患者には特別な注意が向けられ,これを反映して患者自身の行動が変化し,薬効が過大評価される傾向がある(ホーソン効果:Hawthorneeffect)20,21)ためと考えられている.今回は後ろ向きに調査した結果であるが「薬剤変更」が治療に対して積極的に取り組む動機付けとなり,アドヒアランスにも好影響を及ぼしたものと考えた.一方,眼圧上昇や視野進行のために薬剤を切り替えた場合も多く,病状の進行が治療への前向きな取り組みを促進した可能性も否定できない.しかし,薬剤の追加群では「患者負担」が有意に増加し,アドヒアランスの改善もなかったことから,薬剤数の増加はアドヒアランスに対する阻害要因であることが推察された.さて,前報4)において高齢者のアドヒアランスは良好であるとの結果を得ているが,今回の検討では薬剤追加歴が65歳以上で65歳未満に比べ有意に多く,薬剤追加歴がある症例のアドヒアランスが過大評価されている可能性も考慮すべきと考えられた.しかし,薬剤追加によるアドヒアランスの改善はみられず,つまり,薬剤数の増加による「患者負担」の増加が影響を及ぼしたことは確実と考えた.点眼モニターを用いた過去の研究においても,プロスタグランジン製剤単剤投与でのアドヒアランス不良が3.3%であったのに対し,追加投与でアドヒアランス不良が10.0%に増加した6)と報告されている.薬剤の追加,薬剤数の増加はアドヒアランスを低下させる可能性があるため,慎重を期するべきと考えた.今回の検討により,薬剤数の増加ならびに点眼回数の増加が,アドヒアランスに影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,良好なアドヒアランスが保たれている症例のなかにも負担を感じながら点眼している症例がみられたことも軽視できない.視機能障害は患者のQOL(qualityoflife)を大きく損なうことになるが,他方,QOLを保つために行う薬物治(126)療がQOLを低下させる原因ともなりかねない.今回の結果から,薬剤追加の前にはまず薬剤の変更を試みる原則1)を踏まえることの必要性が再確認され,また,追加投与の際にも薬剤数の増加を伴わない配合剤などを選択することが良好なアドヒアランスの確保につながる可能性が示唆されたため報告した.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:14-46,20122)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20033)JuzychMS,RandhawaS,ShukairyAetal:Functionalhealthliteracyinpatientswithglaucomainurbansettings.ArchOphthalmol126:718-724,20084)高橋真紀子,内藤知子,溝上志朗ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,20115)池田博昭,佐藤幹子,佐藤英治ほか:点眼アドヒアランスに影響する各種要因の解析.薬学雑誌121:799-806,20016)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherenceinglaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533540,20077)DjafariF,LeskMR,HarasymowyczPJetal:Determinantsofadherencetoglaucomamedicaltherapyinalong-termpatientpopulation.JGlaucoma18:238-243,20098)仲村優子,仲村佳巳,酒井寛ほか:緑内障患者の点眼薬に関する意識調査.あたらしい眼科20:701-704,20039)鈴村弘隆,吉川啓司,木村泰朗:SITA-Standardプログラムの信頼度指標.あたらしい眼科27:95-98,201010)HahnSR,FriedmanDS,QuigleyHAetal:Effectofpatient-centeredcommunicationtrainingondiscussionanddetectionofnonadherenceinglaucoma.Ophthalmology117:1339-1347,201011)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200312)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200613)兵頭涼子,溝上志朗,川﨑史朗ほか:高齢者が使いやすい緑内障点眼容器の検討.あたらしい眼科24:371-376,200714)FriedmanDS,OkekeCO,JampelHDetal:Riskfactorsforpooradherencetoeyedropsinelectronicallymonitoredpatientswithglaucoma.Ophthalmology116:10971105,200915)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200916)高橋真紀子,内藤知子,大月洋ほか:点眼容器の形状のハンドリングに対する影響.あたらしい眼科27:11071111,201017)OkekeCO,QuigleyHA,JampelHDetal:Adherencewithtopicalglaucomamedicationmonitoredelectronically.Ophthalmology116:191-199,200918)NovackGD,DavidR,LeePFetal:Effectofchangingmedicationregimensinglaucomapatients.Ophthalmologica196:23-28,198819)今井浩二郎,森和彦,池田陽子ほか:2種の炭酸脱水酵素阻害点眼薬の相互切り替えにおける眼圧下降効果の検討.あたらしい眼科22:987-990,200520)FrankeRH,KaulJD:TheHawthorneexperiments:Firststatisticalinterpretation.AmSociolRev43:623-643,197821)FletcherRH,FletcherSW,WagnerEH(福井次矢監訳):臨床疫学.p148-149,医学書院,1999***(127)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012561