監修=大橋裕一連載⑥MyboomMyboom第6回「安川力」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑥MyboomMyboom第6回「安川力」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介安川力(やすかわ・つとむ)名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学私は,京都大学医学部卒業後,平成5年に京都大学眼科学教室に入局しました.医学部時代はラグビー部で,運動神経は決して良くはないですが,運動,アウトドアーが好きです.大阪出身,こてこての関西人で,お調子者なところもあり,つい一言多いため,毒舌,変人と呼ばれることが多いのですが,親交を深めると,実は,義理人情に厚く,情熱的,博愛的,独り遊び・自然を好む内向的な性格であることをわかって頂けます(ネタです).眼科のmyboom「RPE」私の学位論文のテーマは網膜硝子体疾患へのドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発でした.研究テーマというものにも流行(個人的なmyboomに対して,globalboom?)があり,当時(1990年代)はAIDS患者のサイトメガロウイルス網膜炎が社会的問題となっていて,全身投与では副作用が強く,眼内注射では現在のラニビズマブ以上の頻回投与が必要となる低分子量薬剤の眼内徐放DDSの開発競争がありました.米国発の非分解性眼内インプラント(VitrasertR)が市販されたことで流行は下火になりましたが,当時,小椋祐一郎先生,田畑泰彦先生,木村英也先生を中心に,われわれが開発してきた生体分解性高分子DDSの知見は,その後,黄斑浮腫治療薬のOzurdexRや臨床試験中のマイクロスフェア製剤などの登場に貢献したと思っています.一(87)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY方,糖尿病網膜症の病態への最終糖化産物(AGE)の関与という研究分野を背景に,加齢眼のBruch膜や摘出された脈絡膜新生血管膜にもAGEの存在が報告されたことからAGEと加齢黄斑変性(AMD)の関連が示唆されていました.そこで,DDSを利用してAGEを網膜下に徐放してみて欲しいとドイツのライプチヒ大学から依頼があり留学する機会を得ました.幸い,AGE反応を利用して作製したリポフスチン模擬微粒子を家兎の網膜下に注入することにより,リポフスチン蓄積モデルという形でAMDに近似したモデルを作製することができました.留学中,網膜色素上皮(RPE)について学ぶにつれ,「RPE」がmyboomとなっており,これはライフワークといってもよいテーマとなっています.RPE細胞は全身の細胞のなかでも最も多種多様な機能を有する細胞の一つだと思います.上皮一般機能としてのバリア機能(血液網膜関門)はもちろんのこと,光線曝露で酸化変性した視細胞外節の貪食機能,いわばマクロファージのような機能を有しています.現在,RPEにおける自己貪食(autophagy)機能の研究が流行になりつつあります.さらに,小腸上皮がカイロミクロンを産生するようにRPEがリポ蛋白を脈絡膜側に放出しています.また,血管内皮増殖因子(VEGF)を分泌し脈絡膜毛細血管を保持しているほか,炎症や免疫にも深く関わっていそうです.最近,Bruch膜に蓄積してくるAGEやMDAなどの過酸化脂質と補体機能の関与が報告され,病態解明に向け前進しています.このように,RPEの脂質産生機能,「眼のメタボ」としてのBruch膜への脂質沈着の重要性が推定されるなか,それを評価する実験系がありませんでしたが,ドイツ留学中にRPE細胞の三次元球体培養でBruch膜側を表面にもつRPEの上皮化に成功し,帰国後もBruch膜側に起こる脂質沈着やドルーゼン形成のメカニズム解明に取り組んでいて,あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012963〔写真1〕Myboom「scubadiving」すっかりRPEの魅力に取りつかれています.この培養システムが認められるまで苦労もありますが,その意義については確信しており,いつかmyboomから,他の研究者にも認知され流行へと発展することを願い,地道に研究を続けたいと思います.趣味のmyboom「scubadiving」中学生の頃,ペットセンターで当時はまだ珍しかった海水魚の水槽の中,ひときわ愛嬌たっぷり泳ぐ魚にすっかり一目惚れ.魚図鑑で調べたら「モンガラカワハギ」という魚で,沖縄など南の海に生息と記載があり,大人になったらダイビングして出会ってみたいと思いながら,学生時代を過ごしました.眼科研修医1年目の夏休みの1週間をフルに利用し,沖縄にて念願のライセンスを取得しました.しばらく海から遠ざかっていましたが,忙しくなるほどに海が恋しくmyboomです.海の中は想像した以上に素敵で,これは潜ってみなければわかりません.海の魅力というと加山雄三かっ!ていうぐらい熱く何時間でも語れます.実際,それでダイビング仲間に引き込んだ人が10人ぐらいいます.「貴方に自然を観て美しいと思う心があるのなら,地球の7割を占める海の中を観ないで人生を終えるなんて何てもったいないことでしょう…」と僕の勧誘は始まります.「いや,あまり泳ぎが得意でないです…」という反応もしばしば.僕は間髪いれず,「いえ,ダイビングは沈むスポーツです.無重力のなか,ぷかぷか浮かぶだけで泳げなくても大丈夫.」と切り返します.実際,半身麻痺の方が車椅子で乗船して,スタッフに抱えられて,海に放り投げられて潜水.100本記念だったかで海から上がってから同行した僕たちも混じってシャンパンでお祝いしたこともありました.「水族館で観たらいいや…」という人もいるでしょう.違うんですよね.魚の鑑賞だけではないのです.魅力は大きく5つ.自然,光の神秘,無重力,静寂,友愛といったところでしょうか.自然に触れ,魚の鑑賞は言うまでもなく,珊瑚など地形の美しさは素晴らしいもので,それに光の神秘が加わり,天候,太陽の角度,海面の状況,深度,観る角度によって見える景色はまったく異なってきます.光はスペクトルに分かれ赤は深い所では減弱し赤色は黒っぽく見えてきます.淡水魚に比べ,白・青・黄の魚が多い理由でしょう.全身,海水に包まれ無重力で静寂な世界は,まるで胎児のころに戻ったような,日常の喧噪から隔離され,ストレスも海水に流れていきます.命はたった一つの管とボンベで守られているため,安全確保のためペアで潜水し相手をバディとよび命を預け合います.少々冗談を言い合っても,お互いを,またグループ全体を見守り,思いやる気持ちで統率され,それは静寂の中,アイコンタクトと手振りだけのやり取りになるため,一層,海水と一緒に友愛の心が全身を包み込んでくれます.ときに天候が悪く潜れなくても,目的の魚が見られなくても,大自然を相手にしているのでそれもダイビングの一部と考えれば問題ではありません.そして,1ダイブたった20.50分ほどを1日2.3本程度ですが,大物に出くわしたときの感動は陸に上がっても余韻が残り,それを肴に仲間と食事し,仕事への活力にもつながります.そして,日常に疲れてくるとまた海が恋しくなるのです.皆様も日常に疲れたらご一緒にどうですか?次回のプレゼンターは奈良の木村英也先生(永田眼科)です.研修医.大学院時代の敬愛する先輩で,度が過ぎるぐらいアクティブなmyboomを紹介していただけると思います.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.964あたらしい眼科Vol.29,No.7,2012(88)