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続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策-閉塞隅角の場合

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):621.626,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):621.626,2012続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策─閉塞隅角の場合MechanismandTreatmentofSecondaryAngleClosureGlaucoma石田恭子*はじめに続発閉塞隅角緑内障に至る機序は,瞳孔ブロック,虹彩水晶体面の前方移動による直接閉塞や水晶体より後方に存在する組織の前方移動,前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着によるものの3つに分類でき1),それぞ表1続発閉塞隅角緑内障に至る機序Ⅰ瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障1.膨隆水晶体による緑内障2.小眼球症に伴う緑内障,虹彩後癒着による緑内障3.水晶体脱臼による緑内障4.前房内上皮増殖による緑内障などⅡ虹彩水晶体面の前方移動による直接閉塞や水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障1.悪性緑内障2.網膜光凝固後の緑内障3.強膜短縮術後の緑内障4.眼内腫瘍による緑内障5.後部強膜炎・原田病による緑内障6.網膜中心静脈閉塞症による緑内障7.眼内充.物質による緑内障8.大量硝子体出血による緑内障9.未熟児網膜症による緑内障などⅢ前方深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着による続発閉塞隅角緑内障1.前房消失あるいは浅前房後の緑内障2.ぶどう膜炎による緑内障3.角膜移植後の緑内障4.血管新生緑内障5.ICE症候群6.虹彩分離症に伴う緑内障など(日眼会誌116:3-46,2012より抜粋,改変引用)れの機序に至る原因疾患を表1に示すとともに,代表的な疾患について以下に解説する.I瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障瞳孔領における虹彩-水晶体間の房水の流出抵抗の上昇に引き続く,瞳孔ブロックの増大とともに虹彩は高い後房圧により前に凸の形状となり,隅角の閉塞が発生する(図1).1.膨隆水晶体による緑内障白内障の進行により水晶体が液状化し,膨化することがある(図2).水晶体の前後径が大きくなることで瞳孔ブロックが増大し虹彩を機械的に前方へ移動させ,閉塞隅角緑内障をきたす.老人性のものでは徐々に隅角が閉図1瞳孔ブロック瞳孔領における虹彩-水晶体間の房水の流出抵抗の上昇に引き続く,瞳孔ブロックの増大とともに虹彩は高い後房圧により前に凸の形状となり,隅角の閉塞が発生する.*KyokoIshida:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学分野〔別刷請求先〕石田恭子:〒501-1194岐阜市柳戸1-1岐阜大学大学院医学系研究科眼科学分野0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(41)621 図2過熟白内障塞するが,若い症例や外傷例では急激に水晶体膨化が進行し,急性閉塞隅角緑内障と同様の症状を呈することがあり注意を要する.慢性的な原発閉塞隅角緑内障との鑑別が必要で,前房深度や隅角の開大度,白内障の状態を他眼と比較する.治療は,膨隆した水晶体により隅角が閉塞しているので,白内障手術を行うことが必須であるが,手術時の散瞳にはマンニトール点滴を併用し,緑内障発作を予防する.隅角の器質的閉塞が広範囲にわたる場合は,水晶体摘出に加え,隅角癒着解離術などの緑内障手術が必要である.2.小眼球症に伴う緑内障,虹彩後癒着による緑内障真正小眼球症(図3a.c)は,小眼球以外の眼異常や全身異常を伴わず,角膜径10mm以下の小角膜,眼軸20mm以下の短眼軸,遠視眼を特徴とし,若年時より浅前房を呈し,30.40歳代には水晶体の肥厚に伴い閉塞隅角緑内障を合併する.眼圧上昇がなくても周辺虹彩前癒着形成時期には,レーザー虹彩切開術およびレーザー隅角形成術施行のうえで経過観察する.眼圧上昇期には,降圧点眼薬を使用する.視野障害が進行する場合は早めに手術治療を考慮する.小眼球症では,眼球容積に比して水晶体容積が大きいことが狭隅角の原因であるため,原因除去のために水ab図3真正小眼球症a:レーザー隅角形成術痕と虹彩切除痕を認める.b:前房は非常に浅い.c:同症例の眼軸長.両眼とも18mm弱で真正小眼球症である.622あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(42) 晶体摘出を行う.さらに,周辺虹彩前癒着が多い場合は隅角癒着解離を併用したトリプル手術を検討する.視野障害が高度で,低い目標眼圧を達成する必要がある症例では,線維柱帯切除術が考慮されるが,小眼球症では強膜が厚く,術後uvealeffusionや悪性緑内障を起こす危険性が高いため注意を要する.3.水晶体脱臼による緑内障脱臼や偏位した水晶体による瞳孔ブロックのため,急性または慢性の閉塞隅角緑内障をきたす.また,脱臼した水晶体が原因となり直接隅角が閉塞することもある.水晶体の前房偏位では,水晶体振盪,虹彩振盪,前房深度の変動などがみられる.隅角鏡検査により部位による隅角開大度の差を確認し,前眼部光干渉断層計や超音波生体顕微鏡(UBM)で脱臼や偏位した水晶体と隅角閉塞や瞳孔ブロックを診断する.さまざまな要因により水晶体が偏位するが,外傷,落屑症候群,遺伝性疾患(図4)などに認められる.ピロカルピンの使用は,亜脱臼例ではZinn小帯を弛緩させ,さらに水晶体偏位を悪化させるため禁忌である.レーザー虹彩切開術で瞳孔ブロックは解除できるが,水晶体偏位は抑制できず,最終的に水晶体摘出を行うが,眼内レンズ縫着が必要となる場合が多い.II虹彩水晶体面の前方移動による直接閉塞や水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障1.悪性緑内障原発閉塞隅角緑内障では濾過手術後の発症頻度が高く,白内障術後,まれに周辺虹彩切除後やレーザー虹彩切開術後の報告もあるが,毛様体・水晶体・硝子体ブロックにより,本来の房水流路が阻害され,房水が硝子体腔側へ流れ(aqueousmisdirection),虹彩・水晶体が前方に圧排され,極度の浅前房および隅角の閉塞が生じ眼圧上昇をきたす(図5a).術後の浅前房・高眼圧は悪性緑内障を疑い,UBMで診断を確定する.UBMでは毛様体の前方回旋や毛様体突起の扁平化(図5b),水晶体と毛様突起の接触を認める.臨床所見,UBM所見にて悪性緑内障と診断したら,アトロピン点眼により毛様(43)図4水晶体前方脱臼Marfan症候群に合併した水晶体前方脱臼例.ab図5悪性緑内障a:先天緑内障に対する2回目の手術後に悪性緑内障きたした.前房は消失している.b:UBMでは,毛様体の前方回旋,毛様体突起の扁平化を認める.あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012623 体筋を弛緩させ水晶体を後方へ戻し,毛様体と水晶体間隙を拡大させる.同時に高浸透圧薬により硝子体容積を軽減し,水晶体の後方移動を促す.硝子体腔へ流入していた房水の流れが後房-前房側へ戻ることで,前房深度が改善し,隅角閉塞が解除され眼圧が正常化する.上記のような内科的治療で効果が得られない場合,偽水晶体眼や無水晶体眼では,Nd:YAGレーザーにて周辺部の後.を切除後,前部硝子体膜を切開する.Nd:YAGレーザーが無効な場合は前部硝子体切除を行う.また,有水晶体眼の場合は前部硝子体切除の適応(白内障手術を併用したほうが一般に治療効果が高い)となる.2.網膜光凝固後の緑内障網膜光凝固の治療間隔が短い場合や,1回の凝固に多数の照射を行った場合,まれに続発閉塞隅角緑内障をきたすことがある.毛様体の強い浮腫,脈絡膜-毛様体.離に伴い虹彩根部が前方へ圧迫されること,加えて毛様小帯の弛緩による水晶体の膨隆・前方移動による瞳孔ブロックが関与していると考えられる.治療は,アトロピンによる毛様体筋の弛緩,ステロイド薬による消炎,高浸透圧薬,アセタゾラミド(ダイアモックスR)内服,b遮断薬を使用する.3.強膜短縮術後の緑内障強膜短縮術後に閉塞隅角緑内障を生じる頻度は1.4.4.4%と報告されている.発症機序は,脈絡膜の血行障害が毛様体充血と浮腫をひき起こし,毛様体の前方回旋および,水晶体-虹彩隔膜の前方移動により,隅角閉塞が生じる.自然寛解することが多いため,まず薬物療法を行う.アトロピン,ステロイド薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬などを投与する.ピロカルピンは炎症を強くし,前房をさらに浅くする可能性があるため避けるべきである.薬物投与後も眼圧がコントロールできない場合や,広範な周辺虹彩前癒着形成が懸念される症例では,レーザー外科的虹彩切開や隅角形成,あるいは外科的虹彩切除を選択する.4.眼内腫瘍による緑内障腫瘍に併発する続発緑内障は一般的に片眼性で,眼圧624あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012上昇メカニズムとしては腫瘍自体による直接浸潤,播種,炎症,色素散布,出血,あるいは,水晶体より後方に腫瘍が存在する症例では,水晶体・虹彩組織・硝子体を後方から前方に圧排して生ずる間接的な隅角閉塞,周辺前および後癒着,隅角新生血管などがあげられる.悪性の原因腫瘍としては,脈絡膜悪性黒色腫,網膜芽細胞腫,転移性脈絡膜腫瘍が最も多いが,臨床的に続発緑内障を呈するほど増大した眼内悪性腫瘍病変の治療では,生命予後を考慮し眼球摘出を余儀なくされることが多い.治療法については,病期,病理診断などによって決定する.良性の原因疾患としては,虹彩の黒色細胞腫,太田母斑,虹彩メラノーシス,虹彩.腫などがあり,色素散布による線維柱帯の閉塞や,多数の虹彩.腫が存在する症例では,全周に隅角閉塞を生じる場合があり,UBMが診断上有用となる..腫が増大し,眼圧上昇をきたしたものはNd:YAGレーザーにより膨大部を穿孔し.腫の縮小を図る.5.後部強膜炎・原田病による緑内障毛様体の強い浮腫,滲出性網膜・脈絡膜.離による毛様体前方回旋に伴い閉塞隅角緑内障をきたす.ステロイド薬による消炎に加え,アトロピンによる毛様体筋の弛緩を図る.炎症が長期遷延する場合は,周辺虹彩前癒着あるいは後癒着の形成,瞳孔ブロック,血管新生に至ることがある.6.眼内充.物質による緑内障網膜裂孔閉鎖や網膜タンポナーデなどの目的で硝子体内に注入された膨張性ガスは,水晶体-虹彩隔膜の前房移動をひき起こし続発閉塞隅角緑内障を発症することがある.膨張性ガスによる眼圧上昇は術後24時間以内に始まり,数日持続する.b遮断薬などの房水産生抑制薬や高浸透圧薬を投与するが,高度な眼圧上昇例では,ガスを吸引し前房を形成することが必要になる.また,瞳孔ブロックが関与する場合はレーザー虹彩切開術を行う.難治性網膜.離や増殖糖尿病網膜症手術に併用されるシリコーンオイルが原因となり,瞳孔ブロック,前房内(44) へのシリコーンオイル迷入,炎症,器質的隅角閉塞により続発緑内障を生ずることがある.瞳孔ブロックが懸念されるような例では,あらかじめ硝子体術中に下方に周辺虹彩切除をおく.積極的な薬物治療で改善しない場合は,外科的手術を行う.その場合は,隅角と視神経の状態,網膜原疾患の状況を加味して,シリコーンオイルを除去するのみとするか,緑内障手術を併用するか検討が必要である.7.未熟児網膜症による緑内障進行した未熟児網膜症では硝子体内で増殖膜が収縮し,虹彩や水晶体隔膜を前方へ偏位させ,瞳孔ブロックや閉塞隅角緑内障をひき起こす.水晶体摘出,硝子体手術,虹彩切除が有効な症例がある.また,網膜.離に続発して血管新生緑内障に至ることがある.III前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着による続発閉塞隅角緑内障1.ぶどう膜炎による緑内障ぶどう膜炎では眼内の炎症により血液房水柵が破壊され,房水産生能や房水流路が障害され眼圧がしばしば上昇する.ぶどう膜炎に伴う緑内障の発症機序としては開放隅角と閉塞隅角で異なる(表2).消炎によりぶどう膜炎の活動性を低下させることが肝要であるが,虹彩後癒着による瞳孔ブロック例では,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩(ミドリンPR)の頻回点眼で癒着が解除されない場合,レーザー虹彩切開術や周辺虹彩切除を行う.原田病など毛様体の前房回旋に表2ぶどう膜炎に伴う続発緑内障の発症機序閉塞隅角a)虹彩後癒着による瞳孔ブロックb)周辺虹彩前癒着c)毛様体の前房回旋d)血管新生緑内障開放隅角a)房水産生亢進b)漿液成分や沈着物による線維柱帯の機械的閉塞c)線維柱帯炎d)ステロイド緑内障混合メカニズムよる続発閉塞隅角緑内障に対しては,ステロイド薬による消炎とともにアトロピンにより毛様体の前房回旋を抑制する.すでに広範な癒着が形成され,眼圧下降薬の点眼や内服にても眼圧がコントロールできない場合は濾過手術を行うが,手術後も十分なぶどう膜炎の管理が必須である.2.角膜移植後の緑内障角膜移植後の続発緑内障の発症頻度は約30%である.眼圧上昇のメカニズムとしては移植後の時期によって異なっており,移植早期には,前房内残留物質,出血,炎症,角膜浮腫や浅い前房による周辺虹彩前癒着,瞳孔ブロック,悪性緑内障などがある.一方,移植後後期の眼圧上昇原因としては,ステロイド緑内障,拒絶反応に伴う炎症や虹彩前癒着の進行,悪性緑内障などがある.まず角膜障害に注意し点眼薬や内服薬によって眼圧下降を図るが,難治性の閉塞隅角緑内障例に対しては,マイトマイシン併用線維柱帯切除術やインプラント手術を考慮する.なお,5-フルオロウラシルは角膜移植片の上皮障害と創傷治癒遅延が懸念されるため禁忌とされる.3.血管新生緑内障糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症などによる眼底虚血が原因となり,網膜グリア細胞から血管内皮増殖因子新生血管線維柱帯は見えない図6血管新生緑内障隅角:新生血管を認め,高い位置で周辺虹彩前癒着が形成され閉塞している.(45)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012625 (vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が産生され前房に到達して虹彩や隅角に新生血管を促す.通常,新生血管や隅角閉塞の進展程度から3期に分類される.第1期では,眼圧上昇はなく,瞳孔縁や隅角に新生血管が認められる.進行し第2期に至ると,眼圧上昇を認めるが,隅角は広く開放しており虹彩前癒着はあってもわずかのみである.さらに病期が進み3期では,隅角は虹彩前癒着によって広く閉塞し,閉塞隅角となる(図6).また,瞳孔縁にぶどう膜外反を認める.治療は,抗VEGF抗体注射と網膜汎光凝固を併用し眼底虚血を改善する.新生血管が消退した後の閉塞隅角緑内障では,薬物療法によって十分な眼圧下降が得られなければ増殖阻害薬併用線維柱帯切除術を行う.新生血管が消退しない場合の閉塞隅角緑内障では,濾過手術を行っても濾過胞の長期生存は期待できす,硝子体手術を併用したインプラント手術が必要となることがある.4.ICE症候群(虹彩角膜内皮症候群,iridocornealendotherialsyndrome)ICE症候群は,通常片眼性で,若年から中年期に発症し女性に多い傾向がある.原因は不明であるが,異常な角膜内皮細胞が角膜浮腫を生じさせるとともに,細胞性の膜(Descemet膜様物質)を産出し隅角や虹彩に向かって伸展する.その膜の収縮によって,周辺虹彩前癒着,瞳孔偏位,ぶどう膜外反,虹彩結成,虹彩孔形成などが起きる.緑内障は約50.80%に発症する2).症状によって,進行性虹彩萎縮(図7),Chandler症候群,Cogan-Reese症候群(図8)の3タイプに分かれる.進行性虹彩萎縮は,瞳孔偏位や虹彩孔形成などの虹彩の変化が強く,周辺虹彩はしばしばSchwalbe線を越えて前方に付着し隅角を閉塞する.Chandler症候群は,角膜内皮機能障害が強く,軽度の眼圧上昇でも角膜浮腫が生じることが特徴であるが,瞳孔偏位や虹彩の萎縮は軽度である.Cogan-Reese症候群は,虹彩母斑症候群ともよばれ,虹彩の色素病変(有茎性虹彩結節や平坦な虹彩色素斑)を認める.Descemet膜様物質や虹彩組織が隅角を覆い,続発緑内障を発症するため,房水産生抑制薬図7進行性虹彩萎縮瞳孔偏位,虹彩孔形成,周辺虹彩癒着を認める.図8Cogan.Reese症候群鼻側虹彩に虹彩結節,下方瞳孔にぶどう膜外反を認める.が有効とされるが,本疾患自体が進行性のため,しだいに薬物コントロールが不良となり,濾過手術が必要となる.しかしDescemet膜様物質によって流出路が覆われてしまい数年で濾過胞が機能しなくなることがある.文献1)日本緑内障学会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)北澤克明監修:緑内障.p240-242,医学書院,2004626あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(46)

続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策-開放隅角の場合

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):613.619,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):613.619,2012続発緑内障の眼圧上昇機序とその対策─開放隅角の場合MechanismofElevatedIntraocularPressureinSecondaryOpenAngleGlaucoma芳野高子*福地健郎*はじめに続発緑内障は原発緑内障に対し,他の眼疾患,全身疾患あるいは薬物使用が原因となって眼圧上昇が生じる緑内障と定義されている.日常診療の場においてしばしば遭遇し治療に苦慮することも多く,今日多治見スタディによる有病率は0.5%と報告されており,決して少なくはない.続発緑内障の治療は原因疾患に対する治療と眼圧上昇に対する治療が併用して行われる.隅角が開放しているにもかかわらず,どのような機序で眼圧が上昇するのかを理解することは,病態ごとにより的確な治療を選択するために重要である.以下に緑内障診療ガイドライン(第3版)(表1)1)の順に沿って,代表的な疾患の眼圧上昇機序について概説する.I続発開放隅角緑内障とは緑内障診療ガイドラインにおける続発緑内障の分類は眼圧上昇機序により分類されているが,たとえば血管新生緑内障のように,病因によっては眼圧上昇機序が変化,進展することがあるということを念頭におく必要がある.眼圧上昇を起こす原因主座は,①血管新生緑内障に代表される,線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座があるもの,②ステロイド緑内障,落屑緑内障,ぶどう膜炎による緑内障に代表される,線維柱帯に房水流出抵抗の主座があるもの,③何らかの原因により上強膜静脈圧が亢進することにより生ずる,Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座があるもの,④房水過分泌によるもの,と分類される.特に続発開放隅角緑内障の大半を占める①と②においては,診断のための隅角検査は不可欠であり,それぞれの典型的な所見を確実に捉えることと,さらに眼圧上昇の場である線維柱帯の解剖,組織像を正しく把握し理解することで,理に適った治療の対策を立てることができる.線維柱帯は前房隅角に存在する網目状の組織で,Schlemm管への主要房水流出路である.解剖学的には,線維柱帯は前房側から順にぶどう膜網(uvealmeshwork),角強膜網(corneoscleralmeshwork:CSM),傍Schlemm管結合組織(juxtacanalicularconnectivetissue:JCCT)の3部に分けられ,線維柱帯の網目はぶどう膜網では比較的粗いが,角強膜網では線維柱帯細胞は突起を有し,Schlemm管に近づくにつれて細くなっている.特に,傍Schlemm管結合組織では線維柱間隙(intertrabecularspace)が狭くなり,はっきりしなくなる.正常眼では線維柱帯における主要な房水流出抵抗はこの傍Schlemm管結合組織にあると考えられている.組織学的には,線維柱帯はコラーゲン,弾性線維,線維性結合組織とその表面に存在する線維柱帯細胞からなり,房水は線維柱帯の網目の線維柱間隙を通過する.続発開放隅角緑内障は,線維柱帯に生じるさまざまな異常によりこの房水流出抵抗が上がり,眼圧が上昇する.*TakaikoYoshino&TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕芳野高子:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(33)613 表1緑内障の分類II.続発緑内障(secondaryglaucoma)1.続発開放隅角緑内障A.線維柱帯と前房の間に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:pretrabecularform)例:血管新生緑内障,異色性虹彩毛様体炎による緑内障,前房内上皮増殖による緑内障などB.線維柱帯に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:trabecularform)例:ステロイド緑内障,落屑緑内障,原発アミロイドーシスに伴う緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,水晶体に起因する緑内障,外傷による緑内障,硝子体手術後の緑内障,ghostcellglaucoma,白内障手術後の緑内障,角膜移植後の緑内障,眼内異物による緑内障,眼内腫瘍による緑内障,Schwartz症候群,色素緑内障,色素散布症候群などC.Schlemm管より後方に房水流出抵抗の主座のある続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:posttrabecularform)例:眼球突出に伴う緑内障,上眼静脈圧亢進による緑内障などD.房水過分泌による続発開放隅角緑内障(secondaryopenangleglaucoma:hypersecretoryform)2.続発閉塞隅角緑内障A.瞳孔ブロックによる続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorformwithpupillaryblock)原因疾患:膨隆水晶体,水晶体脱臼,小眼球症,ぶどう膜炎の虹彩後癒着による虹彩ボンベなどB.瞳孔ブロックによらない虹彩─水晶体の前方移動による直接閉塞(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorformwithoutpupillaryblock)原因疾患:膨隆水晶体,水晶体脱臼などC.水晶体より後方に存在する組織の前方移動による続発閉塞隅角緑内障(secondaryangleclosureglaucoma:posteriorform)原因疾患:小眼球症,汎網膜光凝固後,強膜短縮術後,眼内腫瘍,後部強膜炎,ぶどう膜炎,原田病による毛様体脈絡.離,悪性緑内障,眼内充.物質,大量硝子体出血,未熟児網膜症D.前房深度に無関係に生じる周辺虹彩前癒着によるもの(secondaryangleclosureglaucoma:anteriorform)原因疾患:ぶどう膜炎,角膜移植後,血管新生緑内障,虹彩角膜内皮(ICE)症候群,前房内上皮増殖,虹彩分離症などII続発開放隅角緑内障の眼圧上昇機序と対策および治療1.血管新生緑内障(図1)a.眼圧上昇機序血管新生緑内障は,隅角に生じた線維血管膜により房水流出抵抗が増大し,眼圧上昇が起こる難治性の続発緑内障である2).網膜が虚血をきたすと網膜の細胞から血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)が産生され,VEGFは硝子体内から前房に拡散し,虹彩や隅角に新生血管と線維血管膜を形成する.網膜虚血をきたすすべての眼疾患が原因となる可能性があり,網膜中心静脈閉塞症,増殖糖尿病網膜症,眼虚血症候群が代表的であるが,日本では増殖糖尿病網膜症の頻度が最も高い.虹彩や隅角に新生血管がみられるだけでは眼圧上昇はみられない(前緑内障期)が,隅角の新生614あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(日眼会誌116:3-46,2012より抜粋引用)血管が著明となり,線維血管膜が形成されると房水流出抵抗が増大し,隅角が開いているにもかかわらず眼圧上昇をきたす(開放隅角緑内障期).さらに進行すると,線維血管膜が収縮して周辺虹彩前癒着を生じ,隅角線維柱帯を閉塞して著明な眼圧上昇をきたす(閉塞隅角緑内障期).b.対策と治療血管新生緑内障は,ほとんどの場合で網膜虚血が原因で発症するため,原因となった網膜疾患の状態を確認する必要がある.特に増殖糖尿病網膜症においては網膜症ばかりに目を奪われがちになるため,散瞳剤使用前の細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査を定期的に行い,新生血管の発見が遅れないよう常日頃心がけることが重要となる.血管新生緑内障を発症してしまったら,まずは網膜虚血を解消して前眼部新生血管の消退を目指すと同時に,(34) SCCD34……..PAS100μmNV5μm100μmABCDSCCD34……..PAS100μmNV5μm100μmABCD図1血管新生緑内障の隅角所見(A,B)と病理所見(C,D)A:開放隅角期.毛様体帯から線維柱帯に向かって多数の新生血管がみられる.B:閉塞隅角期.進行すると新生血管を伴う線維性血管膜が収縮し,周辺虹彩前癒着(PAS,矢頭)を生ずる(A,Bとも糖尿病網膜症による血管新生緑内障).C:網膜中心静脈閉塞症に伴って生じた血管新生緑内障における線維柱帯の光学顕微鏡所見.すでにPASを生じている.HE染色像の長方形の領域に対するCD34免疫染色によって,おもに線維柱帯表層部に多数の新生血管が検出(青矢頭)される.D:糖尿病網膜症による血管新生緑内障における線維柱帯の電子顕微鏡所見.左下の光学顕微鏡写真の四角部分を透過型電子顕微鏡で観察すると,線維柱帯間隙に新生血管(NV)が確認される.(C,Dは日赤医療センター・濱中輝彦先生のご厚意による.SC:Schlemm管)眼圧下降療法を並行して速やかに行うことが治療の基本となる.網膜虚血の解消には,経瞳孔的汎網膜光凝固術が主体となる.眼圧下降療法は,薬物・手術治療ともに他の緑内障病型と基本的に共通であるが,薬物治療では効果が不十分な症例が多く,薬物により眼圧が一時的に下降しても,新生血管が残存していれば隅角閉塞が進行して再び高眼圧となる.トラベクレクトミーをはじめとする緑内障手術は,新生血管の活動性がある状態では,術中・術後出血や遷延する術後炎症により,濾過胞の維持が困難となり,手術成績は不良であった.このような問題点によって,従来の治療法では高眼圧が遷延し,視機能予後が不良な症例が少なくなかったが,2006年Avery3)の報告以降,抗VEGF薬の治療効果が多数報告され,現在ではベバシズマブをはじめとする抗VEGF薬は新生血管の退縮効果目的として血管新生緑内障の治療に新しい選択肢を与えた.その位置づけは,あくまで汎網膜光凝固術に対する補助療法と,緑内障手術での周術期の出血性合併症の抑制目的であり,何よりも適応外使用薬剤であるため,使用に際しては慎重な適応決定と長期にわたる経過観察が必要である.2.ステロイド緑内障(図2)4)a.眼圧上昇機序ステロイド投与による眼副作用のうち,緑内障は1950年代からすでに報告されており5),全身投与および点眼治療を受けている患者で常に注意の必要な眼合併症の一つである.その眼圧上昇機序は,ステロイドが線維柱帯細胞のステロイド受容体に作用して,細胞外マトリックスの産生亢進や貪食機能低下を惹起させ,傍Schlemm管結合組織から角強膜網深層の線維柱帯組織への細胞外マトリックスの異常蓄積による房水流出抵抗の増大がひき起こされているためと考えられている.原発開放隅角緑内障(POAG)や発達緑内障においても,線維柱帯に細胞外マトリックスが蓄積して房水の流出が障害されるため眼圧上昇が生じるとの説がある6,7).この細胞外マトリックスは指紋様あるいは基底板様組織とよばれ,細胞基底膜に似た構造をしている物質と細線維様物質からなる.臨床上,隅角や前房に特徴的な所見は認められないが,ステロイド緑内障の線維柱帯の組織像には傍Schlemm管結合組織から角強膜網深層に細胞外マトリックスが沈着している像がみられる.(35)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012615 AJCTCSMBCSC……1μm1μm図2ステロイド緑内障の病理所見A:光学顕微鏡で観察すると,傍Schlemm管結合組織(JCT)から角強膜網深層(CSM)にかけて均質な細胞外物質が沈着し,線維柱帯の間隙が閉塞している(矢頭).B,C:透過型電子顕微鏡で観察すると,JCTからCSMに沈着した細胞外物質は,線維柱帯細胞の基底膜に連続する基底膜様物質(fingerprint-likematerial,Bの☆)と,均質無構造の顆粒状物質(Cの*)などを含んでいる(SC:Schlemm管).b.対策と治療ステロイド緑内障を疑った場合には,まずステロイド投与を中止することが原則である.ステロイドによる眼圧上昇は可逆的であるとされるが,長期間の眼圧上昇により隅角が二次的な変化をきたすと,投与を中止しても眼圧は下降しなくなることもある.原疾患の治療上やむを得ずステロイドの投与を継続しなければならない場合や眼圧下降しない症例では,眼底所見および視野障害の程度により目標眼圧を検討し,薬物治療,手術治療を選択する必要がある.薬物治療はPOAGに準じるが,眼616あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012圧下降効果が不十分であれば,観血的手術に踏み切らざるを得ない.わが国では,ステロイド緑内障に対するトラベクロトミーが長期にわたって眼圧下降効果が得られることが報告されており8),視神経障害が著明でなければ観血的手術の第一選択とする考えもある.ステロイド緑内障の眼圧上昇機序から考えると,線維柱帯組織の細胞外マトリックスの異常蓄積が房水流出抵抗の本質であるため,その部分を切り開くトラベクロトミーは理に適った手術といえる.過去の報告をみても,POAGに対するトラベクロトミーよりも手術成績は良いようである9,10).一方,海外ではトラベクレクトミーが選択されることが多いようであり,その手術成績も良好である11).しかし,トラベクレクトミーは濾過胞感染のリスクがあり,その適応は視野障害の進行程度により十分に検討する必要がある.3.落屑緑内障(図3)a.眼圧上昇機序眼内に落屑物質の沈着がみられる落屑症候群は落屑に関連した病理学的機序によって続発性の開放隅角緑内障を示すことがあり,これを落屑緑内障とよぶ.落屑緑内障はPOAGと比較すると視神経視野障害の進行が速く,眼圧も高いことが多く,変動幅も大きいことが知られている12).その眼圧上昇機序は,線維柱帯への落屑物質の沈着により流出抵抗が増加することにある.詳細には,落屑物質の線維柱間隙,傍Schlemm管結合組織,Schlemm管周囲への沈着に加えて,落屑物質が線維柱帯細胞で産生されること,虹彩色素上皮細胞から遊離した色素顆粒が房水の流れに従って前房隅角に到達し,線維柱帯細胞に貪食されることによる線維柱帯細胞の機能不全,傍Schlemm管結合組織と線維柱層板の構造変化にあると考えられている.b.対策と治療現時点では原因にあたる落屑物質に対する治療方法はなく,したがって高眼圧型POAGに準じた治療を行う.薬物治療では眼圧下降率の大きさと眼圧変動幅の抑制の点から,また落屑緑内障は高齢者ほど多いことから全身的副作用のないプロスタグランジン関連薬が第一選択として望ましい.第二選択としても全身的副作用の点から(36) ASC..JCTCSM.BSC.JCTC図3落屑緑内障の隅角所見と病理所見A:典型的には隅角(特に下方)に高度の色素沈着を示す.Schwalbe線を越えて線状に沈着した色素沈着はSampaolesi線とよばれる(矢頭).B:落屑緑内障の線維柱帯切片を光学顕微鏡で観察すると,落屑物質と考えられる物質が傍Schlemm管結合組織(JCT)から角強膜網(CSM)に沈着しているのが観察される(*).C:同様に透過型電子顕微鏡によって観察すると,おもにJCTに落屑物質が観察される.写真は線維柱帯細胞による空隙(vacuole)が落屑物質によって満たされている所見を示している(*).(B,Cは産業医科大学・田原昭彦教授のご厚意による.SC:Schlemm管,JCT:傍Schlemm管結合組織,CSM:角強膜網)b遮断薬より炭酸脱水酵素阻害薬が勧められる.しかし,落屑緑内障の患者はPOAGより眼圧が高く変動幅が大きいため,視野障害の進行例も多く,さらに高齢者が多いことからアドヒアランスが不良であることもあり,薬物治療では十分な眼圧下降が得られないことが多い.Pohjanpeltoは,10年間の経過観察ではPOAGよりも手術治療に踏み切るケースが多く,POAG患者では18%の手術率に対して,落屑緑内障患者の35%が手術治療を受けたと報告している13).したがって,実際の臨床においては,薬物治療で治療を開始し,眼圧下降効果が不十分もしくは目標眼圧値に達しない場合は進行が速いことを予測し,観血的手術へと早めに切り替えることが必要である.落屑緑内障に対する観血的手術は,高眼圧による視野障害進行例にはトラベクレクトミーが第一選択と考えられている.しかし,トラベクレクトミーの術後管理や合併症のリスク,患者の背景などから検討した場合,術後に緑内障点眼薬を併用する前提でのトラベクロトミーの選択も推奨される.トラベクロトミーの場合,落屑緑内障の眼圧上昇が落屑物質の房水流出路への蓄積および線維柱間隙の消失によるものから,線維柱帯を切開し,Schlemm管を開放する方法は理に適った術式と考えられている.トラベクロトミーの成績はこれまで多数報告されているが,Taniharaら9)は生命表分析による5年後の生存率を73.5%と報告しており,これはPOAG(58.0%)に対し有意に良好な成績であった.Fukuchiら14)は,66眼の落屑緑内障の初回手術として,トラベクロトミー+白内障同時手術群,トラベクレクトミー+白内障同時手術群,マイトマイシン併用トラベクレクトミー単独手術群を術後36カ月間比較し,術後3カ月以降はいずれの群も術後眼圧に有意差がなかったと報告した.さらに,術後最高視力に達するまでの期間は,トラベクロトミー+白内障同時手術群が有意に早く,トラベクロトミー+白内障同時手術はトラベクレクトミー+白内障同時手術と同等の眼圧下降効果があるとして,落屑緑内障の初回手術として勧めている.しかし,2例はトラベクレクトミーの追加手術を要し,目標眼圧が10mmHg以下を要する視野障害進行例に対してはトラベクレクトミーを検討すべきとしている.したがって,実際の臨床においては,落屑緑内障は視野障害進行例や進行した白内障を合併している例が多いため,視機能の状態と平均眼圧,目標眼圧を十分に検討し,いずれの術式を選択すべきかが,術後の視機能を悪化させないためにも重要となる.4.ぶどう膜炎による緑内障a.眼圧上昇機序臨床的にしばしば眼圧上昇が問題となる非感染性ぶど(37)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012617 う膜炎としては,サルコイドーシス,Behcet病,炎症の遷延化したVogt・小柳・原田病,ヒト白血球抗原(HLA)-B27関連ぶどう膜炎の急性期,若年性関節リウマチに伴うぶどう膜炎の慢性期,Posner-Schlossman症候群などがあげられる.ぶどう膜炎による炎症はさまざまな形で眼圧に影響を及ぼし,おもに虹彩後癒着や周辺虹彩前癒着などの房水流出路の遮断という二次的かつ解剖学的障害に起因する眼圧上昇機転のほか,線維柱帯局所における房水流出抵抗の増大が眼圧を上昇させる.開放隅角における房水流出抵抗の増大には炎症細胞やフィブリンなどの炎症産物が線維柱帯間隙を閉塞すること,細胞外マトリックスが増加することなどが関与する.また,房水分泌過多,線維柱帯および内皮の障害,ステロイド緑内障などの要素が複雑に関与して眼圧上昇をきたしていると考えられる.b.対策と治療ぶどう膜炎に続発する緑内障の治療は,ぶどう膜炎に対するステロイド療法による消炎治療と薬物治療による眼圧下降療法との2本立である.まずは消炎治療を先行し,活動性の炎症を消炎することにより眼圧上昇の原因が除去されれば眼圧下降が期待できる.前房内に炎症細胞がみられなくとも,隅角検査で結節などの炎症所見が確認されることも多く,隅角検査は常に必須の検査である.眼圧下降目的に用いる薬剤は,POAGに対する治療方針と基本的には同様であるが,プロスタグランジン関連薬はuveoscleraloutflowを介した強力な眼圧下降作用を有し,同時に血液房水柵を破綻する可能性もあることから,ぶどう膜炎症例における使用には慎重を要する.ぶどう膜炎の眼内炎症の程度や推移により状況に応じて眼圧下降薬を開始,変更,あるいは中止して治療を行っていくが,慢性の炎症による線維柱帯およびSchlemm管の瘢痕化などの不可逆的な障害が房水流出抵抗を増大させると,活動性の炎症がなく,眼圧下降薬を投与しても眼圧が下降しなくなることもある.また,治療目的に用いたステロイド薬の副作用としての眼圧上昇の可能性も常に念頭に置く必要があり,消炎治療と眼圧治療のどちらを優先すべきか判断がむずかしく,両者のバランスをとることが容易ではないことも多い.活動性炎症の有無にかかわらず,緑内障視神経障害が明らかに進行していく場合には,消炎療法を行いつつ,観血的治療に切り替えることが必要である.症例の房水流出障害がどこにあるのかを十分に検討し術式を選択すべきであるが,トラベクレクトミーは房水流出障害の部位にかかわらず効果を発揮するため,第一選択とされることが多い.5.外傷による緑内障(鈍的眼外傷)(図4)a.眼圧上昇機序外傷性緑内障は発生機転により鈍的眼外傷と穿孔性眼外傷に大別される.鈍的眼外傷において障害されやすい前眼部の部位と病態は,瞳孔裂傷,虹彩離断,隅角後退,毛様体解離,隅角線維柱帯の裂傷,Zinn小帯の断裂,鋸状縁での網膜の断裂の7つであるが,なかでも隅角後退と隅角線維柱帯の裂傷の隅角損傷は房水の眼外への流出が妨げられ,眼圧上昇をきたす原因となる.隅角後退は,受傷後から年余を経て隅角後退部の隅角線維柱帯内皮網内の硝子膜を形成し,線維柱帯を被覆することにより房水流出が障害される.隅角線維柱帯の裂傷も治癒機転において発生する線維症が線維柱帯の細孔を被覆することにより眼圧が上昇する.b.対策と治療鈍的眼外傷の後には,前房出血や虹彩炎とともに眼圧上昇がみられることがあるが,隅角に恒久的障害がなければ時間の経過とともに眼圧は正常化する.隅角検査に図4鈍的外傷による続発緑内障眼の隅角所見この症例では全周にわたって外傷性隅角後退(traumaticanglerecession)がみられた.しばしば外傷性散瞳,隅角離断,隅角裂傷,虹彩離断,周辺虹彩前癒着などさまざまな所見が混在する.618あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(38) おいて180°以上の隅角後退があれば将来的に10%以上の確率で緑内障に移行するといわれており15),長期的な眼圧検査が必要である.眼圧下降療法はPOAGの治療に準じて行うが,薬物治療に抵抗する場合は,トラベクレクトミーなどの濾過手術が必要となる.文献1)日本緑内障学会緑内障ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)Sivak-CallcottJA,O’DayDM,GassJDetal:Evidencebasedrecommendationsforthediagnosisandtreatmentofneovascularglaucoma.Ophthalmology108:1767-1776,20013)AveryRL:Regressionofretinalandirisneovascularizationafterintravitrealbevacizumab(Avastin)treatment.Retina26:352-354,20064)桜川真智子,岩田和雄:Steroidglaucomaにおける隅角の微細構造.日眼会誌83:1337-1353,19795)SternJJ:Acuteglaucomaduringcortisonetherapy.AmJOphthalmol36:389-390,19536)田原昭彦,高比良健市,山名敏子ほか:内服によるステロイド緑内障隅角組織の形態学的および組織化学的検索.あたらしい眼科10:1181-1187,19937)JonsonD,GottankaJ,FlugelCetal:Ultrastructualchangesinthetrabecularmeshworkofhumaneyestreatedwithcorticosteroids.ArchOphthalmol115:375-383,19978)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Externaltrabeculotomyforthetreatmentofsteroid-inducedglaucoma.JGlaucoma9:483-485,20009)TaniharaH,NegiA,AkimotoMetal:Surgicaleffectsoftrabeculotomyabexternoonadulteyeswithprimaryopenangleglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.ArchOphthalmol111:1653-1661,199310)IwaoK,InataniM,TaniharaHetal:Successratesoftrabeculotomyforsteroid-inducedglaucoma:Acomparative,multicenter,retrospectivecohortstudy.AmJOphthalmol151:1047-1056,201111)SihotaR,KonkalVL,DadaTetal:Prospective,long-termevaluationofsteroid-inducedglaucoma.Eye22:26-30,200812)RitchR,Schlotzer-SchrehardtU,KonstasAG:Whyisglaucomaassociatedwithexfoliationsyndrome?ProgRetinEyeRes22:253-275,200313)PohjanpeltoP:Influenceofexfoliationsyndromeonprognosisinocularhypertensiongreaterthanorequalto25mm.Along-termfollow-up.ActaOphthalmol(Copenh)64:39-44,198614)FukuchiT,UedaJ,NakatsueTetal:Trabeculotomycombinedwithphacoemulsification,intraocularlensimplantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.JpnJOphthalmol55:205-212,201115)KaufmanJH,TolpinDW:Glaucomaaftertraumaticanglerecession.Aten-yearprospectivestudy.AmJOphthalmol78:648-654,1974(39)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012619

第4の機序:悪性緑内障vs.毛様体因子:原発閉塞隅角緑内障の発症機序としてのUveal Effusion

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):607.612,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):607.612,2012第4の機序:悪性緑内障vs.毛様体因子:原発閉塞隅角緑内障の発症機序としてのUvealEffusionLevel4:MalignantGlaucomavs.CiliaryBodyFactor:UvealEffusion酒井寛*はじめに日本緑内障学会において作成された緑内障診療ガイドラインの第3版において原発閉塞隅角緑内障の隅角閉塞機序は1.相対的瞳孔ブロック,2.プラトー虹彩,3.水晶体因子,4.毛様体因子の4つに分類された.この4つは原発閉塞隅角緑内障において現在確認された機序であり,これに毛様体因子が新たに加わった1)(表1).(注記:発表当時に原発閉塞隅角症,原発閉塞隅角症疑いという診断名が一般的でなかった事柄が多いので,ここでは原発閉塞隅角緑内障に統一して記述する.)I毛様体因子,UvealEffusion毛様体脈絡膜.離(uvealeffusion)が毛様体の前方回旋や浅前房化をひき起こし悪性緑内障を含む“続発性表1緑内障診療ガイドライン(2012)―原発閉塞隅角緑内障:隅角閉塞機序の分類―1.瞳孔ブロック2.プラトー虹彩:虹彩の形態異常3.水晶体因子:水晶体の前進,膨隆,加齢による増大も原発性の隅角閉塞発症に関与.瞳孔ブロックにも関与4.毛様体因子:uvealeffusionが原発閉塞隅角緑内障に存在し,浅前房と毛様体ブロックと関連注記)すべて原発性の閉塞隅角の機序.の”閉塞隅角をひき起こすことは古くから知られていた(図1).一方,“原発性の”閉塞隅角緑内障において,超音波生体顕微鏡(UBM)を用いて診断されるuvealeffusion(図2)は数例の報告があった.これが,広く存在することはSakaiらによってはじめて明らかにされ図1LevelIV:malignantglaucoma悪性緑内障に観察されたuvealeffusionの超音波生体顕微鏡写真.Uvealeffusionは著明であり毛様体自体が浮腫性に肥厚している.C:角膜,AC:前房,CB:毛様体,S:強膜,*:uvealeffusion.(AIGSコンセンサスブック,文献12より)*HiroshiSakai:琉球大学医学部附属病院眼科〔別刷請求先〕酒井寛:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部附属病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(27)607 強膜毛様体扁平部図2毛様体因子原発閉塞隅角緑内障に観察されたuvealeffusionの超音波生体顕微鏡写真.比較的明瞭なuvealeffusionが毛様体扁平部に観察される.毛様体の形態にはあまり変化がなく,毛様体脈絡膜.離であることに注意.(文献22より)強膜毛様体扁平部図2毛様体因子原発閉塞隅角緑内障に観察されたuvealeffusionの超音波生体顕微鏡写真.比較的明瞭なuvealeffusionが毛様体扁平部に観察される.毛様体の形態にはあまり変化がなく,毛様体脈絡膜.離であることに注意.(文献22より)た2).Uvealeffusionは,原発閉塞隅角緑内障の急性発作眼(治療後:50%以上),発作僚眼(20%)に高頻度に存在し,慢性閉塞隅角緑内障眼においても9%の症例に存在し開放隅角眼(1%)より頻度が高かった(図3).Uvealeffusionと浅前房との関連も示されており,原発閉塞隅角緑内障における浅前房化の機序として注目されている2.6).この研究は海外(シンガポールの中国系住民)から追試が行われ,頻度は異なるが同様の結果が示されている7).従来,原田病,線維柱帯切除術後,レーザー後,悪性緑内障,真性小眼球などにおいて観察される7.11)続発閉塞隅角緑内障の機序と考えられていたuvealeffusionが原発閉塞隅角緑内障の機序の一つであることが示された(図2).II第4の機序:悪性緑内障一方,第4の機序:悪性緑内障(LevelIV:malignantglaucoma)は続発性を含む閉塞隅角緑内障の分類として提唱された.2006年,Foster,He,LiebmannはAIGS(AssociationofInternationalGlaucomaSocieties)コンセンサスの中で閉塞隅角緑内障の機序としてレベル1:虹彩と瞳孔(瞳孔ブロック),レベル2:毛様体608あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012100%90%80%70%60%50%40%30%20%10%0%急性発作急性発作の僚眼慢性原発閉塞隅角開放隅角:Uvealeffusion(-):Uvealeffusion(+)図3原発閉塞隅角緑内障におけるuvealeffusion超音波生体顕微鏡で観察されるuvealeffusionは,原発閉塞隅角緑内障の急性発作眼,発作僚眼に高頻度に存在し,慢性閉塞隅角緑内障眼においても開放隅角眼より頻度が高い.(文献4から作図,文献22より)表2AIGS(WGA)コンセンサスによる隅角閉塞のレベルAIGSコンセンサス(2006)LevelI:虹彩と瞳孔(Irisandpupil):瞳孔ブロックLevelII:毛様体構造(Ciliarybodyarchitecture):プラトー虹彩LevelIII:水晶体起因性緑内障(Lens-inducedglaucoma):水晶体亜脱臼,水晶体膨隆LevelIV:悪性緑内障(Malignantglaucoma):毛様体ブロック注記)LevelI,IIは原発性,III,IVは続発性の閉塞隅角の機序.構造(プラトー虹彩),レベル3:水晶体起因性緑内障,レベル4:悪性緑内障と分類した.第3,第4の機序は続発性の機序として分類されている.特に第4の機序“悪性緑内障”(図1)は,通常内眼手術後に生じる前房消失を伴う高眼圧を指し,非常にまれな病態である12)(表2).III悪性緑内障のメカニズムの理解の歴史1915年,Heerfordtは渦静脈と脈絡膜のうっ血による毛様体の前方回転が悪性緑内障の発症機序ではないかという仮説を提唱した13).1954年にShafferは術中所見から房水が硝子体へ回り込むという機序(aqueousmisdirection)を提唱した.Chandlerは悪性緑内障の手術(28) 術式として水晶体摘出の有効性を報告し,後に1.前後房開放の確認,2.強膜開窓,3.硝子体吸引,すなわち瞳孔ブロックの確認,脈絡膜下液の排出を行ってから硝子体液の吸引を行うという3ステップ手術を提唱した14,15).硝子体容積縮小を最終ステップとしながらも,瞳孔ブロックや脈絡膜下液の存在(脈絡膜.離)も念頭において手術を行うという点が要諦である.このように,臨床的に悪性緑内障と診断された症例に脈絡膜.離のある症例が存在することは古くからよく知られていた.1997年,UBMの開発者の一人であるPavlinらは臨床的に悪性緑内障と診断される症例のなかに通常のBモードエコーでは発見できないeffusionを伴う症例が存在することをUBMにより示した16).しかしながら,uvealeffusionや脈絡膜出血に続発する閉塞隅角を悪性緑内障から除かれる,という考え方17,18)が主流であった.現在でもBモードエコーや眼底検査,または臨床経過から明らかな脈絡膜.離や脈絡膜出血は悪性緑内障の診断からは除外される.最近では,UBMにより診断される軽度のuvealeffusionは悪性緑内障の診断に含まれるとする考え方が広まっている.IV悪性緑内障=毛様体ブロック現在では,悪性緑内障の発症メカニズムは“毛様体ブロック”という概念で理解されている.毛様体ブロックは毛様体と水晶体,眼内レンズ,前部硝子体膜,硝子体などとの間に起こる房水の流出障害と考えることができる19).虹彩と水晶体が一体となって挙動すると考え,この二つの組織を合わせた構造を虹彩-水晶体面(lens-irisdiaphragmまたはiris-lensdiaphragm:直訳は虹彩-水晶体隔膜)と表現することがある.この虹彩-水晶体面がuvealeffusionや毛様体突起の前方回旋に伴い毛様小帯が緩み前方に押し出される.さらに毛様体と水晶体の間で房水の流出障害が起こる“毛様体ブロック”が生じて硝子体圧が上昇(房水の硝子体への回り込み)する.すると虹彩-水晶体面がさらに前進するという悪循環をきたす12,13).UBM検査によって前方に偏位して硝子体に圧排され扁平化した毛様体の形状として読影することができる(図1).発症機序は症例ごとに異なる可能性もあり形態(29)のみからは実際の機序をすべて理解することは不可能である.しかしながら,水晶体が前方に脱臼して虹彩を押し付けている水晶体起因性緑内障とは毛様体の形状が異なることから異なる病態として分類することが可能である.V悪性緑内障と原発閉塞隅角緑内障そもそも,悪性緑内障と原発閉塞隅角緑内障には深い関係がある.悪性緑内障は,1869年にVonGraefeにより周辺虹彩切除後の前房消失と高眼圧の症例としてはじめて報告された20).100年近く後,Chandlerはいずれも原発閉塞隅角緑内障の術後に発症した悪性緑内障の6症例を報告し,その後治療法として水晶体摘出と硝子体吸引を報告した14,15).歴史的には悪性緑内障とは原発閉塞隅角緑内障の術後に発症する前房消失を伴う眼圧上昇と考えられていた.Ritchらもその著書のなかで悪性緑内障の背景として以前の急性・慢性閉塞隅角緑内障の存在,浅前房,水晶体の前方偏位,水晶体または硝子体による瞳孔ブロック,毛様小帯の脆弱,毛様体の前方偏位と浮腫,前部硝子体膜の肥厚,硝子体容積の拡張,後部硝子体腔への房水の回り込みを列記している18).以前の急性・慢性閉塞隅角緑内障の存在はそのものであるが,浅前房,水晶体の前方偏位,水晶体による瞳孔ブロックは原発閉塞隅角緑内障の本態的なメカニズムである.毛様体浮腫(=uvealeffusion)も原発閉塞隅角緑内障眼に潜在することが確認された4).現代の医療レベルにおいては悪性緑内障の発症そのものが少なく,緑内障病型の差による緑内障手術後の合併症の違いはないとの報告もある.悪性緑内障が原発閉塞隅角緑内障に特有の疾患であるというわけではない.しかし,原発閉塞隅角緑内障のメカニズムが悪性緑内障と共通する,と考えれば過去に多くの悪性緑内障が原発閉塞隅角緑内障の術後に発症した原因を推測することができる2,4,21,22).VI悪性緑内障への対策悪性緑内障の治療は,縮瞳薬の中止とアトロピン点眼,有水晶体眼においては水晶体摘出(多くの場合は超音波乳化吸引術と眼内レンズの挿入),人工的水晶体眼ではYAGレーザーによる後.切開,前部硝子体膜切開あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012609 を試みる.また,有水晶体,無水晶体眼ともに硝子体切除術が根治的手術として行われる.明らかな脈絡膜.離や脈絡膜出血による続発閉塞隅角緑内障は悪性緑内障から除外され,治療は強膜開窓術など脈絡膜下液や出血の排出も選択肢となる.VII毛様体因子への対策悪性緑内障への治療法は必ずしも原発閉塞隅角緑内障の毛様体因子を解除するために行われるわけではない.水晶体摘出,硝子体切除術は浅前房を解除することができるが,毛様体そのものを目標とした治療ではない.縮瞳薬の中止とアトロピン点眼は毛様体因子を減らすと考えられる.一方,縮瞳薬の使用は虹彩の菲薄化により隅角の開放をもたらすので,毛様体の前方回旋,浅前房化という毛様体因子とは隅角において相反する作用をもつ.通常,原発閉塞隅角緑内障においては微少なuvealeffusionが存在してもピロカルピンが作用すれば隅角は開大する.そのため原発閉塞隅角緑内障においては毛様体因子に関して治療を行うことは通常ない.悪性緑内障ではピロカルピンは禁忌であるのでこの点はまったく異なる.水晶体摘出は原発閉塞隅角緑内障の毛様体の前方回旋も軽減する23).毛様体の前方回旋に伴う水晶体の前進による隅角閉塞を解除すると考えれば,水晶体摘出は毛様体因子を直接,間接的に除去すると考えることができる.また,uvealeffusionが存在する急性発作後の眼に水晶体を取らずに濾過手術を行うことはuvealeffusionの悪化により悪性緑内障をきたす可能性がある,ということが術前に理解できるようになった意義も大きい.VIII脈絡膜容積の評価Quigleyは悪性緑内障と閉塞隅角緑内障の発症機序として脈絡膜膨張(choroidalexpansion)がその容積効果により硝子体圧を上昇させて後方から水晶体を押し上げる,という仮説を提唱した24).ぶどう膜の影響による水晶体の前進と浅前房化を原発閉塞隅角緑内障の発症機序にも適応できるかもしれないという仮説であり,この点は原発閉塞隅角緑内障におけるuvealeffusionにより証明された機序2,4)と同様である.Uvealeffusionは毛様体610あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012扁平部に顕著であるが,脈絡膜膨張仮説では脈絡膜全体の容積が増加すると仮定した点は異なる.脈絡膜容積の測定は従来困難であったが,光干渉断層計(OCT)の技術の進歩により中心脈絡膜厚の測定として実現された.Quigleyらのグループによる最近の研究により中心脈絡膜厚は短眼軸眼で厚いが,加齢とともに減少することが示された25).また,拡張期眼灌流圧に影響されることも明らかになった25).中心脈絡膜厚は短眼軸眼で厚いことは興味深いが,長眼軸眼では眼球構造すべてが薄くなるので,これは理解しやすい結果である.一方,原発閉塞隅角緑内障を含む緑内障との関連は認められなかった.中心脈絡膜厚の測定による原発閉塞隅角緑内障における脈絡膜膨張仮説の立証はいまだなされていない.今後,研究の進展が望まれる分野である.IX続発性と原発性の相似ぶどう膜炎による虹彩後癒着は完全瞳孔ブロックをきたすが,加齢による水晶体厚の増加は不完全な瞳孔ブロックである相対瞳孔ブロックをひき起こす.虹彩分離症や毛様体.腫などの虹彩,毛様体の形態異常も虹彩の形状に由来する隅角閉塞をきたしうる.一方,原発性の隅角閉塞機序であるプラトー虹彩も虹彩の形態異常によるものである.水晶体脱臼,亜脱臼は瞳孔ブロックの増加を伴って,または伴わずに直接的に隅角閉塞をきたし水晶体起因性緑内障の原因となることがある.同様に,原発閉塞隅角緑内障においても水晶体の厚みや曲率,前方偏位などが原因となる手術後に生じる前房消失と高眼圧というまれな病態である悪性緑内障は,uvealeffusionの存在,毛様体の扁平化,前方偏位などによる毛様体ブロックであることが明らかになりつつあるが,原発閉塞隅角緑内障においてもuvealeffusionの存在から毛様体因子の関与が明らかになった.このように,続発性の機序は極端な状況でありより明瞭であるが,原発閉塞隅角緑内障においても同様の機序がより軽微な状況で潜在していて,ときにはその境界はあいまいであると考えることができる.(30) X原発閉塞隅角緑内障の発症機序の重層原発閉塞隅角緑内障の発症機序として確認されている1.相対的瞳孔ブロック,2.プラトー虹彩,3.水晶体因子,4.毛様体因子の4つの因子は単に多因子であるというだけでなく重層的な構造をもつ.瞳孔ブロックやプラトー虹彩による隅角閉塞も加齢により発症する.なぜだろうか?水晶体は胎生期に陥入した表層外胚葉由来の上皮組織であり,終生分裂を止めない.そのため,水晶体の容積,おもに厚みは加齢とともに増加する.結果として前房は浅くなり,虹彩との接触も強くなり瞳孔ブロックが増強される.このように,水晶体因子は瞳孔ブロックやプラトー虹彩機序よりも深層にある因子である.毛様体因子も毛様体突起を前方回旋させ水晶体を前方に押し出す.これらは,結果として浅前房化,隅角の狭細化をもたらしていると考えられる.近年,新たに発見された原発閉塞隅角緑内障の毛様体因子は,重なり合う多くの因子のなかでも表に現れにくい深い位置に存在し,通常の診察で気がつかれることが少ない機序である.おわりに原発閉塞隅角緑内障の発症機序として,従来から瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子が関与することはよく理解されていた.一方,悪性緑内障は特殊な病型であると考えられてきた.原発閉塞隅角緑内障における毛様体因子,uvealeffusionの発見は悪性緑内障と共通する機序が原発閉塞隅角緑内障にも当てはまることを示した.これは,日本の臨床研究から生まれた成果の一つである.今後,国際的な分類にも正当な評価とともにこの新しい概念が取り入れられることを望む.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)SakaiH,Morine-ShinjyoS,ShinzatoMetal:Uvealeffusioninprimaryangle-closureglaucoma.Ophthalmology112:413-419,20053)酒井寛,佐喜眞孝子,仲村佳巳ほか:レーザー虹彩切開術後のCiliochoroidalEffusionの1例.あたらしい眼科18:237-240,20014)酒井寛,澤口昭一:原発閉塞隅角緑内障の発症に毛様体の果たす役割.あたらしい眼科20:973-980,20035)SakaiH,IshikawaH,ShinzatoMetal:Prevalenceofciliochoroidaleffusionafterprophylacticlaseriridotomy.AmJOphthalmol136:537-538,20036)KumarRS,QuekD,LeeKYetal:ConfirmationofthepresenceofuvealeffusioninAsianeyeswithprimaryangleclosureglaucoma:anultrasoundbiomicroscopystudy.ArchOphthalmol126:1647-1651,20087)KawanoY,TawaraA,NishiokaYetal:UltrasoundbiomicroscopicanalysisoftransientshallowanteriorchamberinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.AmJOphthalmol121:720-723,19968)SugimotoK,ItoK,EsakiKetal:Supraciliochoroidalfluidatanearlystageaftertrabeculectomy.JpnJOphthalmol46:548-552,20029)GentileRC,StegmanZ,LiebmannJMetal:Riskfactorsforciliochoroidaleffusionafterpanretinalphotocoagulation.Ophthalmology103:827-832,199610)BrockhurstRJ:Nanophthalmoswithuvealeffusion:anewclinicalentity.TransAmOphthalmolSoc72:371403,197411)UyamaM,TakahashiK,KozakiJetal:Uvealeffusionsyndrome:clinicalfeatures,surgicaltreatment,histologicexaminationofthesclera,andpathophysiology.Ophthalmology107:441-449,200012)FosterP,HeM,LiebmannJ:AngleClosureandAngleClosureGlaucoma:ReportsandConsensusStatementsofthe3rdGlobalAIGSConsensusMeetingonAngleClosureGalucoma.ed:WeinrebRN,FriedmanDS,KuglerPublications,Amsterdam,200613)HyamsS:Angle-closureglaucoma.AComprehensiveReviewofPrimaryandSecondaryAngle-ClosureGlaucoma.Kugler,Amstelveen,199014)ChandlerPA:Anewoperationformalignantglaucoma:apreliminaryreport.TransAmOphthalmolSoc62:408424,196415)ChandlerPA:Malignantglaucoma.TransAmOphthalmolSoc48:128-143,195016)PavlinCJ,FosterFS:UltrasoundBiomicroscopyoftheEye.Springer-Verlag,NewYork,199517)SimmonsRJ,MaestreFA:Malignantglaucoma.InTheGlaucomaas3rded,RitchR,BruceShieldsMed,p841855,Mosby,StLouis,199618)LiebmannJM,WeinrebRN,RitchR:Angle-closureglaucomaassociatedwithoccultannularciliarybodydetachment.ArchOphthalmol116:731-735,199819)RitchR,LoweRF:Angle-ClosureGlaucoma:MechanisimsandEpidemiology.InTheGlaucomas3rded,RitchR,BruceShieldsMed,p801-820,Mosby,StLouis,199620)VonGraefeA:BeitragezurPathologieundTherapiedesGlaucoma.ArchOphthalmol15:108-252,1869(31)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012611 21)酒井寛:毛様体脈絡膜.離と悪性緑内障.あたらしい眼科24:627-628,200722)酒井寛:急性原発閉塞隅角症と毛様体脈絡膜.離.あたらしい眼科23:1575-1576,200623)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocessconfigurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,200624)QuigleyHA,FriedmanDS,CongdonNG:Possiblemechanismsofprimaryangle-closureandmalignantglaucoma.JGlaucoma12:167-180,200325)MaulEA,FriedmanDS,ChangDSetal:Choroidalthicknessmeasuredbyspectraldomainopticalcoherencetomography:factorsaffectingthicknessinglaucomapatients.Ophthalmology118:1571-1579,2011612あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(32)

原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策-プラトー虹彩と水晶体機序

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):601.605,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):601.605,2012原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策─プラトー虹彩と水晶体機序MechanismsandTreatmentofPlateauIrisandLensFactorsinPrimaryAngleClosureGlaucoma広瀬文隆*I眼圧上昇機序1.プラトー虹彩による眼圧上昇原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)または原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)のメカニズムとして(相対的)瞳孔ブロック,プラトー虹彩,そして水晶体そのものに起因する水晶体因子と,水晶体より後方の毛様体,脈絡膜,硝子体などに起因する水晶体後方因子(第4の機序)の4つがあげられ,マルチメカニズムな疾患であることが知られている.すべてのメカニズムに共通する眼圧上昇機序は,最終的に虹彩周辺部と線維柱帯の接触(機能的閉塞隅角)または癒着(器質的閉塞隅角)により隅角が閉塞し,房水流出が阻害されて眼圧が上昇する.これらのメカニズムのなかで瞳孔ブロックと第4の機序の詳細については他稿に譲り,本稿ではプラトー虹彩と水晶体機序の眼圧上昇機序とその対策について検討したい.プラトー虹彩形態とは虹彩の中央部が平坦で,前房の中央は浅くないが,虹彩根部が前方に屈曲した形態異常を指す.そしてプラトー虹彩形態による狭隅角を認め,特に散瞳時に隅角を閉塞する機序をプラトー虹彩機序とよぶ.そのプラトー虹彩機序による眼圧上昇と緑内障性視神経症をプラトー虹彩緑内障またはプラトー虹彩症候群と定義されている〔緑内障ガイドライン第3版,日眼会誌116(1),2012より〕.近年,超音波生体顕微鏡(UBM)や前眼部光干渉断層図1プラトー虹彩形態の超音波生体顕微鏡画像毛様体突起の前方回旋,毛様溝の消失と虹彩根部厚の増大を伴う隅角閉塞を認める.計(AS-OCT)などの前眼部画像検査装置が発展するにつれて,前眼部構造の断面像を記録し,定量的な生体計測が可能となった.PavlinらはUBMを用いた検討により,プラトー虹彩形態では毛様体が前方に回旋,偏位することにより虹彩根部が前方に押し出されて隅角が閉塞されるという病態生理を提唱した1).特に暗所の散瞳時には,周辺虹彩はカーテンのように圧縮されて虹彩根部厚が増大するため隅角底のスペースが虹彩根部によって占拠されて角膜に近接し,隅角閉塞が促進されて眼圧上昇に至る(図1,2A).2.水晶体機序による眼圧上昇原発閉塞隅角における水晶体機序では,水晶体の前進,膨隆,加齢による増大などの水晶体の形態異常が原*FumitakaHirose:神戸市立医療センター中央市民病院眼科〔別刷請求先〕広瀬文隆:〒650-0047神戸市中央区港島南町2丁目1-1神戸市立医療センター中央市民病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(21)601 AAB図2プラトー虹彩症例の前眼部光干渉断層計画像(白内障手術前後)A:白内障手術前.プラトー虹彩形態と軽度の瞳孔ブロックによる隅角閉塞を認める.B:白内障手術後.術前と比較して前房が深くなり,隅角が開大している.因で水晶体前面自体が前方へ移動して浅前房になることにより,その前に位置する虹彩を角膜側に圧排し,隅角閉塞を起こす(図3A).この水晶体機序を認める症例ではZinn小帯が脆弱になっていることが多く,広義では軽度の水晶体亜脱臼や偽落屑症候群に伴う水晶体の前方移動もこの機序に含まれると考える.II検出法1.プラトー虹彩の検出法プラトー虹彩は自覚症状に乏しい慢性閉塞隅角緑内障の病型を取ることも多く,他覚所見も必ずしも明らかではないことから,発見が遅くなる傾向があり注意が必要である.プラトー虹彩形態を検出するために,まず細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査を用いて狭隅角,平坦な虹彩面と比較的深い中心前房深度という所見が重要である.これらの所見に加えて,特徴的な所見としてdoublehumpsignが知られている.プラトー虹彩形態の隅角を隅角鏡で圧迫して観察したときに,虹彩前面は瞳孔縁の水晶体による隆起に続いて水晶体赤道部で後方に窪602あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012B図3水晶体機序症例の前眼部光干渉断層計画像(白内障手術前後)A:白内障手術前.水晶体虹彩隔壁の前方移動による隅角閉塞を認める.B:白内障手術後.術前と比較して前房が深くなり,隅角が開大している.図4Doublehumpsignプラトー虹彩形態の虹彩が二峰性(矢印)になっている.み,虹彩周辺部で再度毛様体突起の部位で盛り上がる二峰性の所見を呈する(図4).このdoublehumpsignは,前方回旋した毛様体による虹彩の隆起は圧迫しても押し(22)A 0.7暗所明所0.7r=-0.320,p=0.002r=-0.369,p<0.0010.60.6図5原発閉塞隅角眼における虹彩根部厚と虹彩膨隆度の関係(n=89)虹彩根部厚と虹彩膨隆度は,暗所,明所ともに負の相関関係を認める.虹彩膨隆度(mm)虹彩膨隆度(mm)0.50.40.30.50.40.30.20.20.10.10.10.20.30.40.50.10.20.30.40.5虹彩根部厚(mm)虹彩根部厚(mm)下げられにくいためにみられる所見である.ただし,細隙灯顕微鏡検査や隅角鏡検査の問題点として主観的な要素が強く,定量的評価が困難であることがあげられるが,UBMやAS-OCTによる前眼部画像検査を活用すればより確実に閉塞隅角メカニズムの判定が可能となる.特に瞳孔ブロックの指標として虹彩の前方膨隆度の評価が知られているが,筆者らのAS-OCTを用いた検討では,虹彩の前方膨隆度と虹彩根部厚の間に有意な負の相関を認めた(図5).この結果から虹彩根部が厚いほど瞳孔ブロックによる虹彩の前方膨隆が起こりにくく,プラトー虹彩機序が起こりやすいと推測される.プラトー虹彩機序は,一般的にはレーザー虹彩切開術(LI)などによる瞳孔ブロック解除後に診断されるとされている.しかしLIには水疱性角膜症のリスクがあり,長期的な治療成績は必ずしも良くないことから,診断だけのために安易にLIをすることは慎むべきであろう.一方,プラトー虹彩形態の評価のためには,前方回旋などの毛様体の形態異常を確認できるUBM検査がきわめて有効である.KumarらはUBMを用いたプラトー虹彩形態の診断基準として,A.(機能的)隅角閉塞,B.毛様体突起の前方回旋,C.毛様溝の消失,D.虹彩根部の急峻な立ち上がり,E.平坦な中央部虹彩のすべてを満たす象限が2象限以上存在することをあげている.しかし実際の症例のなかには,上記すべての基準を満たすわけではないが,隅角閉塞の4つのメカニズムのなかでは「プラトー虹彩」に分類せざるをえないと考えられる症例も散見されるため,注意が必要である(図6).また,プラトー虹彩において暗室うつむき試験または(23)図6原発閉塞隅角症の超音波生体顕微鏡画像原発閉塞隅角の4つのメカニズムのなかではプラトー虹彩形態に相当すると考えられるが,毛様溝は存在し(矢印),毛様体の前方回旋も認めないため,「UBMを用いたプラトー虹彩形態の診断基準」は満たさない.散瞳負荷試験による負荷検査を活用して,機能的隅角閉塞による眼圧上昇のリスク評価も重要である.2.水晶体機序の検出法閉塞隅角眼における水晶体機序を検出するために,まず細隙灯顕微鏡検査で狭隅角を伴う浅前房を確認する.さらに僚眼との中心前房深度を比較して左右差が大きい場合は,水晶体亜脱臼や水晶体偏位などを含めた水晶体機序による閉塞隅角の可能性が高いと判断できる.しかし,瞳孔ブロック機序も水晶体が深く関与するため,多くの症例で水晶体機序と瞳孔ブロック機序が混合しており,完全に区別することは困難である.浅前房のあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012603 症例ではUBMやAS-OCTによって虹彩,水晶体,毛様体などの前眼部構造を把握し,虹彩の前方への膨隆が強い場合は瞳孔ブロック機序,弱い場合は水晶体機序の要素が高いと考えられる(図3A).そして,プラトー虹彩と同様に,機能的閉塞隅角による眼圧上昇を評価するためには,暗室うつむき試験または散瞳負荷試験による負荷検査が有効である.III対策1.プラトー虹彩の対策PACGの治療は虹彩の線維柱帯への接着の予防および解除を目的とした隅角の解剖学的修正が第一選択となり,隅角閉塞のメカニズムに応じた治療法の選択が重要である.LIは瞳孔ブロックを解除する効果は認めるが,プラトー虹彩機序や水晶体機序などの非瞳孔ブロックメカニズムには無効であり,これらに対するLIの治療効果は不良であると考えられる.特にプラトー虹彩形態で虹彩根部厚が増大している症例(図1,6)では,虹彩切開のために必要なレーザーのエネルギー量がより多くなり,水疱性角膜症のリスクが高まるのに加えて,LIによる隅角開大効果は小さいと予想できるため,LIの適応は非常に少ないと思われる.プラトー虹彩形態による機能的隅角閉塞に対する治療として,薬物治療ではピロカルピン点眼,レーザー治療ではレーザー隅角形成術(レーザー周辺虹彩形成術)が選択肢としてあげられる.ピロカルピン点眼は縮瞳により隅角を開大させる効果があるが,長期の縮瞳点眼により散瞳不良あるいは虹彩後癒着が起こりやすいことに注意が必要である.また,レーザー隅角形成術は前方へ突出した形状の虹彩の最周辺部にアルゴンレーザーで照射を行い,熱凝固により照射部の虹彩を収縮させ平坦にすることにより隅角を開大する術式である.プラトー虹彩に対するレーザー隅角形成術の効果は長期にわたり持続するとも報告されているが,必ずしもコンセンサスを得られていない2).ただし,すでに周辺虹彩前癒着を形成した部位には無効であるとされている.閉塞隅角眼での水晶体の存在は隅角を閉塞させる最大の原因とした考えが認知されてきており,この水晶体を摘出することが非瞳孔ブロックメカニズムを含めた閉塞604あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012隅角の原因を解消する手段として広まりつつある.プラトー虹彩機序に対する白内障手術では,プラトー虹彩形態の原因となる毛様体突起の前方回旋を軽減し,白内障手術後の毛様体突起の位置は隅角開大度と相関することから3),プラトー虹彩形態にも治療効果が見込まれる.また,LI後に残存した機能的閉塞隅角を解除する手段として,白内障手術は非常に効果が高いことも報告されている4).これらの知見から,白内障手術はプラトー虹彩機序の機能的閉塞隅角を解除する強力な隅角開大の手段であるといえる.ただし,器質的閉塞隅角が広範囲に残存し,眼圧上昇の原因となっている症例は隅角癒着解離術の適応となる.2.水晶体機序の対策原発閉塞隅角眼の水晶体機序に対する白内障手術の意義は明白であろう.白内障手術を施行すると厚い水晶体が薄い眼内レンズに置換され,虹彩水晶体隔壁の前方移動による水晶体機序は解消される(図3B).悪性緑内障など硝子体が影響する特殊な状況を除けば,白内障手術で前房が深くなり水晶体機序による閉塞隅角は解決すると考えられる.ただし,水晶体機序による原発閉塞隅角眼に対して白内障手術を施行する際には,特に水晶体亜脱臼などを合併したZinn小帯の脆弱な症例が多い点に注意すべきである.原発閉塞隅角眼ではZinn小帯が脆弱であっても術前に水晶体振盪を認めることはまれであり,手術中の前.切開のときに前.に皺襞が寄ることから判明することが多い.このときには,Zinn小帯断裂のリスクが高まるので,その後の手術操作を慎重に行う必要がある.おわりにPACGまたはPACに対する白内障手術についてしばしば議論になるのは,水晶体の混濁を認めないかあるいは非常に軽度で視力低下の自覚がない場合に,白内障手術を選択するべきなのか否かという点である.安全性の面から考えれば,もちろん白内障手術自体が内眼手術であり,LIや周辺虹彩切除術よりも侵襲の強い治療であるとみなされることに加えて,閉塞隅角眼特有の浅前房に伴う白内障手術手技のむずかしさという問題を十分に(24) 考慮する必要がある.しかし,前眼部画像診断で瞳孔ブロックが認められず,プラトー虹彩や水晶体機序主体の閉塞隅角に関しては,治療効果を優先してLIよりも白内障手術を積極的に選択すべきであると考える.また,閉塞隅角眼の多くは遠視による裸眼視力の低下を伴っており,水晶体を眼内レンズに置換することで屈折矯正による裸眼視力の向上という副次的効果も期待できる.実際にプラトー虹彩や水晶体機序の原発閉塞隅角眼に対して白内障手術を施行すると,ほとんどの症例で安心感をもって術後のフォローアップを行うことができるだろう.機能的閉塞隅角を完全に解除するとともに,器質的閉塞隅角の進行をまず予防でき,術後長期的に眼圧下降効果が期待できるので,閉塞隅角についてはマネージメントフリーといっても過言ではない.しかし,あくまでも合併症なく安全に手術を遂行することが前提であり,閉塞隅角の治療目的に白内障手術を選択する際は特に慎重に行わなければならないことを強調したい.文献1)PavlinCJ,FosterFS:Plateauirissyndrome:changesinangleopeningassociatedwithdark,light,andpilocarpineadministration.AmJOphthalmol128:288-291,19992)RitchR,ThamCC,LamDS:Long-termsuccessofargonlaserperipheraliridoplastyinthemanagementofplateauirissyndrome.Ophthalmology111:104-108,doi:10.1016/j.ophtha.2003.05.001(2004)3)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocessconfigurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,doi:S0161-6420(05)01422-3[pii]10.1016/j.ophtha.2005.11.018(2006)4)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.Ophthalmology112:974-979,doi:S0161-6420(05)00136-3[pii]10.1016/j.ophtha.2004.12.042(2005)(25)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012605

原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策-瞳孔ブロック

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):595.599,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):595.599,2012原発閉塞隅角緑内障の眼圧上昇機序とその対策─瞳孔ブロックMechanismandTreatmentofPupillaryBlockinPrimaryAngleClosureGlaucoma栗本康夫*はじめに原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)もしくは原発閉塞隅角症(primaryangleclosure:PAC)の眼圧上昇機序は周辺部虹彩が線維柱帯に接触もしくは癒着して房水流出主経路を閉塞することによる.一般に,隅角が閉塞しているかどうかは線維柱帯(より正確には線維柱帯後部の色素帯)が虹彩で覆われているかどうかで判定されるが,通常は虹彩が線維柱帯を閉塞するのに伴って,あるいはそれよりも先に,隅角底の毛様体帯も虹彩で覆われてぶどう膜強膜路も閉塞されている.かくて隅角の閉塞によりすべての房水流出路が閉塞されることになる.虹彩の線維柱帯への接触はPAC(G)において眼圧上昇に至るファイナルコモンパスウェイといえるが,そこに至るパスウェイは一つではなく,虹彩を線維柱帯に接触させるメカニズムにはさまざまなものがある.かつては,Gorinの記載に基づき1),瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体虹彩膈膜の前進の3つのメカニズムに分類するのが一般的な考え方であったが,最近は,AIGS(AssociationofInternationalGlaucomaSocieties)のコンセンサスブックで採用された4つのメカニズム,瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子,悪性緑内障因子(第4のメカニズム)に分類されている2).この4つのメカニズムのうち,プラトー虹彩,水晶体因子,および第4のメカニズムについては本特集の他稿に譲り,本稿では瞳孔ブロックのメカニズムとその対策について述べる.I瞳孔ブロックとは瞳孔ブロックとは,房水の流れが瞳孔でブロックされることである.毛様体で産生された房水は後房から瞳孔を通って前房に流れ前房隅角から眼外へ流出するが,虹彩と水晶体が接触する瞳孔部においては房水流出に抵抗が生じる.この抵抗が強くて房水の前房への流れがブロックされると,後房にうっ滞した房水により後房圧は前房圧に対して高くなり,虹彩は前方に膨隆する(図1,2).房水流の瞳孔でのブロックが解消しないと前方膨隆した虹彩がついには線維柱帯に押しつけられ,瞳孔ブ房水の流れがブロック…………………………………………………………図1房水の流れと瞳孔ブロック毛様体上皮で産生された房水は後房から瞳孔を通って前房に流れるが,瞳孔部においては虹彩と水晶体が接触しており房水流出に抵抗が生じる.この抵抗により房水の前房への流れがブロック(瞳孔ブロック)されると,房水が後房にうっ滞して後房圧が前房圧に対して高くなり,虹彩が前方に膨隆する.前方に膨隆した虹彩はついには線維柱帯に押しつけられ,瞳孔ブロックによる隅角閉塞が成立する.*YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科〔別刷請求先〕栗本康夫:〒650-0047神戸市中央区港島南町2丁目1-1神戸市立医療センター中央市民病院眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(15)595 ロックによる隅角閉塞に至る.瞳孔ブロックにおいて虹彩が水晶体に押しつけられる(あるいは水晶体が虹彩を前方に押すとも言い換えられる)力の強さは,Mapstoneのモデルで説明される(図3).瞳孔部において虹彩を後方に押しつける力のベクトルは水晶体前面が虹彩起始部よりも前方にあることに起因するものであり,水晶体の前面が虹彩起始部よりも前方に位置するほど,瞳孔ブロックの力は強くなる.水晶図2瞳孔ブロックの超音波生体顕微鏡画像瞳孔ブロックにより後房に房水がうっ滞し虹彩が前方に膨隆,隅角が非常に狭小化している.D+E虹彩虹彩Scosa水晶体b(D+E)cosb水晶体Sa図3瞳孔ブロックをひき起こす力〔図左〕S:虹彩括約筋による力のベクトル.Scosa:虹彩括約筋の力により虹彩が水晶体に押しつけられる力のベクトル,中等度散瞳状態で最も強い力が働く.〔図右〕D:虹彩散大筋による力のベクトル.E:虹彩の伸展により発生する力のベクトル.(D+E)cosb:虹彩散大筋の力と虹彩の伸展の力により虹彩が水晶体に押しつけられる力のベクトル,水晶体が前方に位置するほど強い力が働く.瞳孔ブロックをひき起こす力はScosaと(D+E)cosbの和であり,PACにおいては後者が主たる瞳孔ブロック力となる.(MapstoneR:BrJOphthalmol,1974より改変して引用)596あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012体が虹彩を前方に圧排することにより瞳孔ブロック力が発生するといってもよい.一般に,中心前房深度が浅いほど瞳孔ブロック力は強くなる.したがって,瞳孔ブロックメカニズムは他稿で述べられる水晶体メカニズムとは不可分の関係にある.II瞳孔ブロックの検出瞳孔ブロックは,細隙灯顕微鏡による観察では虹彩中腹部の前方膨隆として観察される.瞳孔ブロックによる虹彩の前方膨隆は中等度の散瞳時に最も大きくなる場合が多いが,虹彩の厚さや性状によっても異なる.細隙灯顕微鏡による瞳孔ブロックの所見は虹彩の前方膨隆が軽度な場合には必ずしも明らかではなく,瞳孔ブロックの有無と程度を検出するのに最も有用な方法は超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)の実施である.前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)検査をUBMに代えてもよいが,AS-OCTでは撮像の条件が悪いと虹彩Irisconvexity0mmIrisconvexity(虹彩膨隆度)0.4mm図4瞳孔ブロックの定量的評価虹彩裏面の虹彩起始部と瞳孔縁をつなぐ直線から前方に膨隆した虹彩裏面までの距離の最大値を測定しirisconvexity(白の両矢印)として瞳孔ブロックによる虹彩膨隆の程度を定量評価する方法.(NonakaA,KurimotoY:AmJOphthalmol,2007より改変して引用)(16) の裏面や水晶体の表面が明瞭ではなく,瞳孔ブロックの程度の評価がむずかしい場合もある.UBMを用いると虹彩膨隆の程度を定量的に評価することも可能である(図4).また,瞳孔ブロックによる眼圧上昇のリスクを評価する検査として,意図的に瞳孔ブロックを誘発する負荷試験がある.暗室試験および散瞳試験は瞳孔ブロックが一般に中等度散瞳下で強くなることを利用した試験であるが,散瞳によるプラトー虹彩メカニズムによる眼圧上昇のリスクと併せて評価される.うつむき試験は水晶体の前方移動により瞳孔ブロック力が強くなることを利用する試験であるが,水晶体メカニズムのリスクも同時に評価していることになる.散瞳と水晶体前方移動の両方を同時に検査する方法として暗室うつむき試験があり,隅角閉塞リスクの検出力がより高い.なお,これらの負荷試験の感度は必ずしも高くないので,負荷試験が陰性である場合のリスク評価には慎重でなければならないが,試験が陽性の場合には隅角閉塞の治療適応があると考えるべきである.III隅角閉塞における瞳孔ブロックメカニズムの意義瞳孔ブロックは,3つあるいは4つに分類される隅角閉塞のメカニズムのなかでも常に筆頭にあげられ,最も重要な隅角閉塞メカニズムと考えられている.そればかりか,しばらく前までは,瞳孔ブロックがPACGの隅角閉塞メカニズムのほぼすべてとも考えられ,PACGイコール瞳孔ブロック緑内障とする考え方もあった.しかしながら,UBMの登場により虹彩や毛様体の形態の詳細な観察が可能になり,現在ではPACの隅角閉塞は複数のメカニズムが重なって成立するマルチメカニズムであると理解されている.PACGの隅角閉塞メカニズムに瞳孔ブロック以外の要素が関与することは古くから教科書に記載されてはいたのだが,1980年代にレーザー虹彩切開術が普及し多くのPACG症例を比較的容易に治療できるようになったことが,その後の瞳孔ブロックメカニズムの極端な偏重に影響したのかもしれない.一時は,早期にレーザー虹彩切開術さえすればPACGは基本的に解決するとの眼科教育が行われていたが,そ(17)の後の長期経過の報告により,実際にはレーザー虹彩切開術の成績はそれほど良くはないことも明らかとなっている.PAC(G)はその臨床像により急性と慢性に分けられるが,急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangleclosure:APAC)あるいは急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangleclosureglaucoma:APACG)では,瞳孔ブロックメカニズムが支配的で,瞳孔ブロックによらない急性発作はまれである.プラトー虹彩形状による隅角閉塞は隅角底から緩やかに進行し,線維柱帯の全域が閉塞に至ることはまれであるのに対し,瞳孔ブロックでは線維柱帯の全幅が容易に閉塞しうる.瞳孔ブロックによる線維柱帯全幅の閉塞が隅角全周にわたって生ずると,急激な眼圧上昇をきたしてAPACを発症する.APACの早期自然寛解や隅角全周の閉塞にまでは至らないマイナー発作を繰り返す病態は亜急性PAC(G)と称されるが,やはり眼圧の上昇時には瞳孔ブロックが隅角閉塞メカニズムの主役となっていると考えられる.一方の慢性原発閉塞隅角症(chronicprimaryangleclosure:CPAC)あるいは慢性原発閉塞隅角緑内障(chronicprimaryangleclosureglaucoma:CPACG)は急激な眼圧上昇には至らないものの間欠的あるいは部分的な虹彩と線維柱帯の接触により隅角閉塞が慢性化した病態であるが,多くの場合はプラトー虹彩形状など,瞳孔ブロック以外のメカニズムを合併している.瞳孔ブロックの解消だけでは必ずしも隅角閉塞が解消しないのはこのためである.歴史的に閉塞隅角緑内障の病型がAPAC(G)の記載から始まったこともあり,かつては,自覚症状を伴う急性あるいは亜急性がPAC(G)の代表的な病型と考えられていたが,近年の研究によりPACGの大多数は,自覚症状に乏しい慢性の経過をとることが明らかとなっている.注目される病型の主体がAPACからCPACに移行したことが,PACの病態における瞳孔ブロックメカニズムの重要度の見直しと関係しているといえるかもしれない.IV瞳孔ブロックによる眼圧上昇への対策緑内障の診療にあたっては,治療できる原因があればあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012597 原因治療という大原則がある3).PAC(G)の眼圧上昇には隅角閉塞という明確な原因があり,瞳孔ブロックによる隅角閉塞には房水の瞳孔でのブロックという明確な原因がある.したがって,この原因への対策が治療の第一義である.当座の眼圧が高ければ薬剤による非特異的な眼圧下降治療も行う必要があるが,これはあくまでも補助的な治療手段と考えるべきである.PACは早期にその原因たる隅角閉塞メカニズムを解消してやれば事実上の根治が可能な緑内障病型であるので,この原因治療を決してなおざりにしてはいけない.瞳孔ブロックの解消を目的とした治療で最も広く行われてきたのはレーザー虹彩切開術である.レーザー虹彩切開術は長年にわたってPACの第一選択治療とされてきたし,現在も多くの教科書や診療ガイドラインで第一選択治療と位置づけられている.レーザー虹彩切開と観血的周辺虹彩切除は房水の後房から瞳孔を通る前房への流路をバイパスする治療法である.したがって厳密に言えば瞳孔ブロックを解消する治療法ではないが,瞳孔ブロックメカニズムに対しては根治的治療となる.瞳孔ブロックそのものを解消するためには瞳孔における房水流図5水晶体再建術による瞳孔ブロックの解消水晶体再建術前(左)には虹彩は瞳孔部において水晶体と接しているが,水晶体再建術後(右)には虹彩は眼内レンズとは離れ,瞳孔ブロックは完全に解消している.(KurimotoY:AmJOphthalmol,1997より改変して引用)出抵抗を解消することが必要であるが,水晶体再建術はほぼこれを達成できる治療法である(図5).また,レーザー虹彩形成術も瞳孔ブロックを解消する作用があるがその効果は必ずしも十分ではないので,APAC症例で一時的に瞳孔ブロックを解消する目的など補助的な治療法として用いられる.隅角閉塞のメカニズムがほぼ瞳孔ブロックのみに限定される症例については,治療が簡易に行えて患者負担も軽いレーザー虹彩切開術を第一選択治療としてよい.早期に正しく診断して早期に治療を行うことができれば根治的治療となる.APACの予防的治療についてもほぼ同じことがいえる.ただし,わが国ではレーザー虹彩切開術の長期的な合併症として進行性の角膜内皮減少が多数報告されており,このリスクについての配慮は必要である.瞳孔ブロックに限定すれば上述のごとくレーザー虹彩切開術で事足りるが,実際の臨床症例では,事はそれほど簡単ではない.多くの症例は瞳孔ブロック以外にプラトー虹彩形状など他のメカニズムを合併しているし,前述のごとく,瞳孔ブロックには水晶体メカニズムが不可分である.レーザー虹彩切開術がリスクフリーであれば,瞳孔ブロックを認める症例にはまず同治療を施行すればよいともいえるが,頻度は低いものの進行性の角膜内皮減少による遅発性水疱性角膜症という重大な合併症のリスクを無視することはできない.プラトー虹彩メカニズムや水晶体因子を合併していることが明らかな症例に対しては,両者の治療効果を併せ持つ水晶体再建術の適用を検討すべきである.表1に各種治療方法と隅角閉塞メカニズムに対する治療効果の関係をまとめたが,水晶体再建術はプラトー虹彩メカニズムを緩和でき,水晶体メカニズムも解消できるので,原発閉塞隅角の治療としては最も優れた治療方法である.特に加齢白内障の治表1機能的隅角閉塞の治療法と効果悪性緑内障因子瞳孔ブロックプラトー虹彩形状水晶体因子(第4のメカニズム)レーザー虹彩切開術◎×××レーザー虹彩形成術×.○○××水晶体再建術◎○◎×.?◎:著効,○:有効,×:無効.598あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(18) 療適応がある症例では第一選択治療とすべきであるし,PAC(G)に多い遠視かつ老視の症例については屈折矯正のメリットを併せて考慮すべきである.最終的にどの治療方法を選択するかは,その治療法のデメリットやリスクを吟味したうえで閉塞隅角治療上のベネフィットとのバランスを検討し,総合的な判断が必要となる.隅角閉塞は,虹彩が線維柱帯に接触しているだけの機能的隅角閉塞と,虹彩と線維柱帯が癒着してしまった器質的隅角閉塞の2つの状態に分けられる.通常は,機能的隅角閉塞が先行し,閉塞が持続することにより器質的閉塞を生じると考えられている.瞳孔ブロックの解除を含めて隅角閉塞メカニズムの解消治療はいずれも機能的隅角閉塞の解消にほかならない.機能的隅角を解消してもすでに器質的隅角閉塞をきたしてしまっている症例では,隅角癒着解離術による器質的隅角閉塞の解消を図る必要がある.さらに,機能的にも器質的にも隅角閉塞を解除しても,虹彩が線維柱帯に長期にわたり接触あるいは癒着していたために線維柱帯が二次的な変化をきたして房水流出能が低下することがある.このために隅角解放後も高眼圧が残る状態を残余緑内障とよび,二次的な開放隅角緑内障といえる.このような病態が残った場合には,開放隅角緑内障に準じて薬物治療を行い,薬物治療で十分な眼圧コントロールが得られなければトラベクロトミーあるいはトラベクレクトミーなどの緑内障手術治療が必要となる.おわりにPAC(G)は早期に正しく診断して正しく原因治療を行えば治癒させることが可能な緑内障病型である.一方で,適切な治療が行われなければ失明のリスクが高い病型でもある.瞳孔ブロックが存在する眼では,一見,点眼治療で眼圧がコントロールされているようであっても,何らかのきっかけで瞳孔ブロックが強くなれば点眼治療による眼圧下降作用では到底追いつかない.PAC(G)の症例にはその原因治療である隅角閉塞の解除を,瞳孔ブロックが存在する症例には瞳孔ブロックの解除を可及的に行わなければならないことを強調して本稿を終える.文献1)GorinG:Diagnosisandclassificationofangle-closureglaucoma.In:GorinG:ClinicalGlaucoma,p171-208,MarcelDekkerInc,NewYorkandBasel,19772)FosterP,HeM,LiebmannJ:Epidemiology,classificationandmechanism.In:WeinrebRN,FriedmanDS(eds):AngleClosureandAngleClosureGlaucoma.p1-20,KuglerPublication,Netherlands,20063)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,2012(19)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012599

原発解放隅角緑内障の眼圧上昇機序

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):589~594,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):589~594,2012原発開放隅角緑内障の眼圧上昇機序MechanismofIntraocularPressureElevationinPrimaryOpenAngleGlaucoma田原昭彦*はじめに緑内障ガイドラインによると,原発開放隅角緑内障は眼圧が正常範囲を超えて(22mmHg以上)上昇する原発開放隅角緑内障(狭義)と,常に眼圧が正常範囲内である正常眼圧緑内障とに分類される.このうち狭義の原発開放隅角緑内障では,房水の流出路,特に線維柱帯の房水流出抵抗が上昇するために房水の流出が妨げられて眼圧が上昇すると考えられている.一方,正常眼圧緑内障では発症に眼圧の関与は低いとされ,病態的にも狭義の原発開放隅角緑内障とは異なると考えられている.本稿では,まず正常眼での房水流出路について述べ,その後に狭義の原発開放隅角緑内障(以後,原発開放隅角緑内障)で「なぜ眼圧が上昇するか」について記述する.I房水流出路の正常構造房水の流出路には,経Schlemm管流出路と経ぶどう膜強膜流出路との2つの経路が存在する.ヒトでは,全流出量の80~95%が経Schlemm管流出路から,残りの5~20%が経ぶどう膜強膜流出路から流出すると考えられている.1.経Schlemm管流出路経Schlemm管流出路は線維柱帯とSchlemm管,それに続く集合管からなる房水の流出路である.a.線維柱帯の構造線維柱帯は形態的に前房側から,ぶどう膜網,角強膜網,傍Schlemm管結合組織の3つの部分に分けられる(図1).ぶどう膜網は,最も前房側に位置する2~3層の紐状の線維柱索が交錯する組織である.角強膜網は多層の板状の線維柱層板で構成される.線維柱索,線維柱層板は似た構造を示し,中央部に存在する細胞外マトリックスの表面を1層の扁平な線維柱帯細胞が覆う.ぶどう膜網,角強膜網には線維柱間隙とよばれる比較的大きな孔が存在する(図1).Schlemm管傍Schlemm管結合組織角強膜網ぶどう膜網****図1正常隅角のSchlemm管および線維柱帯の光学顕微鏡写真線維柱帯は,ぶどう膜網,角強膜網,傍Schlemm管結合組織で構成される.ぶどう膜網と角強膜網には線維柱間隙(*)が存在する.*AkihikoTawara:産業医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕田原昭彦:〒807-8555北九州市八幡西区医生ケ丘1番1号産業医科大学眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(9)589 傍Schlemm管Schlemm管結合組織図2傍Schlemm管結合組織およびSchlemm管内壁の光学顕微鏡拡大写真傍Schlemm管結合組織は細胞が細胞外マトリックス中に包埋された構造を示す.Schlemm管の管腔は1層の内皮細胞で覆われ,その内壁には巨大空胞が存在する(矢印).傍Schlemm管結合組織はSchlemm管のすぐ前房側に存在する組織で,2~4層の線維柱帯細胞が細胞外マトリックス中に包埋された構造を示す.傍Schlemm管結合組織には線維柱間隙は存在しない.Schlemm管は1層の内皮細胞で被われている.傍Schlemm管結合組織に接する内壁には,内皮細胞の細胞壁がSchlemm管内に突出した巨大空胞が存在する.巨大空胞内は房水で満たされており,房水のSchlemm管への通路となる(図2).b.線維柱帯の細胞外マトリックス線維柱帯の細胞外マトリックスは線維成分と細胞外高分子とからなる.線維成分には線維性コラーゲンや弾性線維などがある.細胞外高分子は細胞や線維成分の間を満たすゲル状の無構造物質で,プロテオグリカン(グリコスアミノグリカンと蛋白質とが共有結合した物質)(図3),ヒアルロン酸,糖蛋白などがある.これらの細胞外マトリックスは細胞間隙で単独に存在するのではなく,集合し,接着して無定形物質を形成する.電子顕微鏡による観察で,線維柱帯の無定形物質には基底板,基底板様物質,細線維物質,細顆粒物質などが存在する1).c.房水流出抵抗ぶどう膜網および角強膜網では,房水は線維柱間隙を590あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012線維柱間隙図3クプロメロニックブルーで染色したヒト正常角強膜網の線維柱層板の電子顕微鏡写真プロテオグリカンを示す高電子密度の染色物(矢じり)が,コラーゲン(矢印)および基底板(BL),基底板様物質(BL-L)に多数分布している.EL:弾性線維.通って抵抗を受けずに流れる.眼圧調整に関与する房水流出抵抗は,房水が傍Schlemm管結合組織およびSchlemm管内皮細胞を通過する際2),特に傍Schlemm管結合組織の細胞外マトリックスの間を通過するときに生じると考えられている3).2.経ぶどう膜強膜流出路経ぶどう膜強膜流出路は,隅角底(角膜後面と虹彩前面との接合部)から毛様体実質に入り,上毛様体腔,上脈絡膜腔を経て眼外に流出する房水の流路である.毛様体の前端から毛様体実質に入った房水は,組織液と混じりながら毛様体筋束間を通過して眼球の後方へ向かい,脈絡膜と強膜との間隙に達する.その後,強膜の実質,あるいは強膜を貫く血管や神経の周囲の間隙を通って強膜の外へ流出し,眼窩内の組織に吸収される.プロスタグランジン関連薬が毛様体の細胞外マトリックスの代謝を促進させることで眼圧を下降させるとの報告などから,経ぶどう膜強膜流出路の房水流出抵抗には毛様体筋束間の細胞外マトリックスが関与すると考えられている4,5).II原発開放隅角緑内障の眼圧上昇機序原発開放隅角緑内障の眼圧上昇が,線維柱帯での房水(10) 流出抵抗の増大によることについては,ほぼ意見が一致している.しかし,その詳細な病態は不明であり,ここでは眼圧上昇の機序に関する説を紹介する.原発開放隅角緑内障の眼圧上昇機序に関する説は,大きく3つに分けられる.すなわち,①線維柱帯の細胞外マトリックスの異常,②線維柱帯細胞の異常,③線維柱帯の構造異常,である.1.細胞外マトリックスの異常前記のように,経Schlemm管流出路での房水流出抵抗には,傍Schlemm管結合組織の細胞外マトリックスが関与すると考えられている.原発開放隅角緑内障では線維柱帯の細胞外マトリックスが増加しており,そのために眼圧が上昇すると考えられる.a.細胞外マトリックス自体の増加原発開放隅角緑内障では,線維柱帯,特に傍Schlemm管結合組織にコラーゲン,弾性線維,長周期コラーゲン(long-spacingcollagen)などの線維成分や,基底板様物質,細顆粒物質などの無定型物質が多量に蓄積している(図4).これらの物質のなかでも,細顆粒物質(Rohenら6)が報告したsheath-derivedplaquematerialと同じ物質)が傍Schlemm管結合組織に蓄積することが原発開放隅角緑内障の眼圧上昇の主因とする考えがある6).また,原発開放隅角緑内障の線維柱帯では,正常に比べてグリコスアミノグリカンが増加している7),あるいはヒアルロン酸が減少し,コンドロイチン硫酸が増加しているとの報告8)があり,これらの細胞外高分子の異常が眼圧上昇に関与する可能性がある(図5).b.細胞外マトリックスの代謝に関与する物質の異常房水中のTGF(transforminggrowthfactor)-b2が,原発開放隅角緑内障眼では正常眼に比較して有意に増加していることが報告されている9,10)(図6).TGF-b2は細胞外マトリックスの蓄積を促す作用を有している.さらに,細胞外マトリックスを消化する酵素を抑制する物質(tissueinhibitorofmetalloproteinase:TIMP)が原発開放隅角緑内障では多い11).TGF-b2やTIMPが増加すると細胞外マトリックスが線維柱帯に蓄積し,房水流出抵抗が増大して眼圧上昇をきたす可能性がある.(11)***図4原発開放隅角緑内障眼の傍Schlemm管結合組織の電子顕微鏡写真細顆粒物質(sheath-derivedplaquematerial)(*)が蓄積している.Schlemm管前房図5抗ヘパラン硫酸系プロテオグリカン抗体で染色した,原発開放隅角緑内障眼の線維柱帯の光学顕微鏡写真線維柱帯にプロテオグリカンの存在を示す褐色の染色がみられる.量が多いか否かは不明.2.線維柱帯細胞の異常a.線維柱帯細胞の細胞骨格の異常原発開放隅角緑内障眼の線維柱帯細胞では,正常に比べてアクチン線維の量が少ない12).また,原発開放隅角緑内障では,Schlemm管の内皮細胞および傍Schlemm管結合組織の細胞のF-アクチンが絡み合って配列が乱れている13).このような収縮性蛋白の異常は,線維柱帯細胞の貪食能や細胞外マトリックスの産生,ホルモンなどに対する反応性に異常を生じ,緑内障の発症に関与する.あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012591 Schlemm管前房Schlemm管前房図6抗TGF.b2抗体で染色した,原発開放隅角緑内障眼の線維柱帯の光学顕微鏡写真線維柱帯にTGF-b2の存在を示す褐色の染色がみられる.量が多いか否かは不明.b.線維柱帯細胞の減少原発開放隅角緑内障の線維柱帯では,同年代の正常眼に比較してぶどう膜網,角強膜網の細胞数が減少している(図7).線維柱帯細胞の減少が原発開放隅角緑内障の眼圧上昇の原因となる14).つまり,線維柱層板を覆う線維柱帯細胞が消失すると,残った線維柱帯細胞が伸展して露出した線維柱層板を覆う.その結果,ぶどう膜網,角強膜網に線維柱間隙にも延びる線維柱帯細胞の層(膜)が形成される.また,角強膜網では露出した線維柱層板が互いに癒着する.さらに傍Schlemm管結合組織の前房側での房水流出に有効な表面積が減少する.このような変化が重なって房水流出路が狭くなり眼圧が上昇する15).原発開放隅角緑内障患者では抗酸化物質であるグルタチオンが減少している16).酸化ストレスは線維柱帯細胞の細胞骨格の再編成を誘発することで,細胞と細胞外マトリックスとの接着を脆弱化させる.その結果,線維柱帯細胞が減少することが報告されており17),酸化ストレスが原発開放隅角緑内障の線維柱帯細胞の減少,ひいては眼圧上昇に関係している可能性がある.原発開放隅角緑内障患者でミオシリン遺伝子の異常が報告されている18,19).Sohnら20)は,異常なミオシリン蛋白が線維柱帯細胞の機能障害を起こし,線維柱帯の構造変化をきたして房水の流出を障害する可能性を示して592あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012****Schlemm管強膜岬前房図7原発開放隅角緑内障眼の線維柱帯の光学顕微鏡写真線維柱帯細胞の数が少なく,強膜岬は肥大している前房側の線維柱層板(線維柱索)が肥厚している(*).いる20)(図8).しかし,後にSohnら自身21)が「ミオシリン遺伝子そのものが開放隅角緑内障に関与することはない」と述べているように,ミオシリン蛋白と原発開放隅角緑内障の眼圧上昇との関係は不明である.3.線維柱帯の構造異常a.傍Schlemm管結合組織が厚い正常に発達した隅角では毛様体筋の前端は隅角底に存在する.また,Schlemm管は隅角底より内側に位置する.原発開放隅角緑内障では,毛様体筋は隅角底にわずかに露出しているか,まったく隅角底に達していない.さらに,Schlemm管の一部が隅角底よりも周辺側に位置する22).4~40歳で発症する発達緑内障・晩発型では,隅角の発育が未熟で,毛様体の前面は隅角底に出ていない.さらに,線維柱帯の発育も悪く,房水流出抵抗のおもな存在部位である傍Schlemm管結合組織が厚く存在する.そのために房水流出抵抗が増大して緑内障が発症すると考えられる23).同様に,原発開放隅角緑内障で毛様体筋の前端が隅角底に達していないのは隅角の発育が未熟なためで,房水流出路の発達が不完全なことが眼圧上昇の原因となる可能性がある22).b.強膜岬の肥大原発開放隅角緑内障では,ぶどう膜網が変性し,毛様体に硝子化が生じて強膜岬は肥大している(図7).さら(12) Schlemm管前房Schlemm管前房図8抗ミオシリン蛋白抗体で染色した,原発開放隅角緑内障眼の線維柱帯の蛍光顕微鏡写真線維柱帯にミオシリン蛋白を示す蛍光がみられる.量が多いか否かは不明.に虹彩根部は萎縮している.このような変化は隅角組織の加齢現象が異常に進行したもので,経ぶどう膜強膜流出路からの房水流出を障害する.異常な加齢変化は線維柱帯にも生じていて,経Schlemm管流出路からの房水流出も障害される.この両流出経路からの房水流出障害のために緑内障が発症するとの考えがある24).c.線維柱層板の異常原発開放隅角緑内障では,角強膜網の線維柱層板およびぶどう膜網の線維柱索の肥厚や硝子様変性,さらに線維柱帯細胞の基底板の肥厚がみられる(図9)25).線維柱層板が肥厚することにより,線維柱間隙が狭小化あるいは消失して眼圧が上昇する可能性がある25).おわりに原発開放隅角緑内障は不可逆性の視機能障害をきたす眼疾患で,日常診療で遭遇する機会も多い.そのため,病態解明に向けた多くの研究がなされてきた.しかし,眼圧上昇の機序を含め,その本態はいまだ不明である.研究の手法の一つとして,緑内障患者からの摘出標本を調べることが行われてきた.しかし,進行例からの標本が多く,高眼圧などによる二次的な変化との区別が困難である.また,単なる加齢性の変化との鑑別がむずかしいことも,病態解明が進まない原因の一つと思われ(13)***▲▲▲図9原発開放隅角緑内障眼の角強膜網線維柱層板の電子顕微鏡写真線維柱層板を覆う線維柱帯細胞が一部欠損しており(矢印),基底板が肥厚している(*).長周期コラーゲンもみられる(矢じり).る.一方,培養線維柱帯細胞や培養線維柱帯組織を使用した研究も数多くなされているが,その結果を直接生体での現象と関連づけるには限界がある.最近,正常眼圧緑内障の動物モデルが作製された26).今後,原発開放隅角緑内障の動物モデルが作製されれば,invitroとinvivoとが結びつき,原発開放隅角緑内障の病態解明が急速に進展することが期待される.文献1)TawaraA,VarnerHH,HollyfieldJG:Distributionandcharacterizationofsulfatedproteoglycansinthehumantrabeculartissue.InvestOphthalmolVisSci30:22152231,19892)OverbyD,GongH,QiuGetal:Themechanismofincreasingoutflowfacilityduringwashoutinthebovineeye.InvestOphthalmolVisSci43:3455-3464,20023)EthierCR,KammRD,PalaszewskiBAetal:Calculationsofflowresistanceinthejuxtacanalicularmeshwork.InvestOphthalmolVisSci27:1741-1750,19864)WeinrebRN,KashiwagiK,KashiwagiFetal:Prostaglandinsincreasematrixmetalloproteinasereleasefromhumanciliarysmoothmusclecells.InvestOphthalmolVisSci38:2772-2780,19975)OhDJ,MartinJL,WilliamsAJetal:Analysisofexpressionofmatrixmetalloproteinasesandtissueinhibitorsofmetalloproteinasesinhumanciliarybodyafterlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci47:953-963,20066)RohenJW,Lutjen-DrecollE,FlugelCetal:Ultrastructureofthetrabecularmeshworkinuntreatedcasesofpriあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012593 maryopen-angleglaucoma(POAG).ExpEyeRes56:683-692,19937)瀬川雄三:緑内障前房隅角の微細構造─原発開放隅角緑内障の病理を中心にして─.日眼会誌79:1665-1686,19758)KnepperPA,GoossensW,HvizdMetal:Glycosaminoglycansofthehumantrabecularmeshworkinprimaryopen-angleglaucoma.InvestOphthalmolVisSci37:1360-1367,19969)TripathiRC,LiJ,ChanWFetal:AqueoushumoringlaucomatouseyescontainsanincreasedlevelofTGF-beta2.ExpEyeRes59:723-727,199410)InataniM,TaniharaH,KatsutaHetal:Transforminggrowthfactor-beta2levelsinaqueoushumorofglaucomatouseyes.GraefesArchClinExpOphthalmol239:109-113,200111)MaattaM,TervahartialaT,HarjuMetal:Matrixmetalloproteinasesandtheirtissueinhibitorsinaqueoushumorofpatientswithprimaryopen-angleglaucoma,exfoliationsyndrome,andexfoliationglaucoma.JGlaucoma14:64-69,200512)TripathiRC,TripathiBJ:Contractileproteinalterationintrabecularendotheliuminprimaryopen-angleglaucoma.ExpEyeRes31:721-724,198013)ReadAT,ChanDW,EthierCR:Actinstructureintheoutflowtractofnormalandglaucomatouseyes.ExpEyeRes84:214-226,200714)AlvaradoJ,MurphyC,JusterR:Trabecularmeshworkcellularityinprimaryopen-angleglaucomaandnonglaucomatousnormals.Ophthalmology91:564-579,198415)AlvaradoJA,MurphyCG:Outflowobstructioninpigmentaryandprimaryopenangleglaucoma.ArchOphthalmol110:1769-1778,199216)GherghelD,GriffithsHR,HiltonEJetal:Systemicreductioninglutathionelevelsoccursinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.InvestOphthalmolVisSci46:877883,200517)ZhouL,LiY,YueBY:Oxidativestressaffectscytoskeletalstructureandcell-matrixinteractionsincellsfromanoculartissue:thetrabecularmeshwork.JCellPhysiol180:182-189,199918)StoneEM,FingertJH,AlwardWLMetal:Identificationofagenethatcausesprimaryopenangleglaucoma.Science275:668-670,199719)BruttiniM,LongoI,FrezzottiPetal:Mutationsinthemyocilingeneinfamilieswithprimaryopen-angleglaucomaandjuvenileopen-angleglaucoma.ArchOphthalmol121:1034-1038,200320)SohnS,http://www.atagan.jp/wp-admin/post-new.phpHurW,JoeMKetal:Expressionofwild-typeandtruncatedmyocilinsintrabecularmeshworkcells:theirsubcellularlocalizationsandcytotoxicities.InvestOphthalmolVisSci43:3680-3685,200221)SohnS,HurW,ChoiYRetal:LittleevidenceforassociationoftheglaucomageneMYOCwithopen-angleglaucoma.BrJOphthalmol94:639-642,201022)生井浩,岩城忍:狭隅角緑内障の成因に関する組織学的研究.日眼会誌63:2412-2428,195923)TawaraA,InomataH:Developmentalimmaturityofthetrabecularmeshworkinjuvenileglaucoma.AmJOphthalmol98:82-97,198424)FineBS,YanoffM,StoneRA:Aclinicopathologicstudyoffourcasesofprimaryopen-angleglaucomacomparedtonormaleyes.AmJOphthalmol91:88-105,198125)TengCC,KatzinHM,ChiHH:Primarydegenerationinthevicinityofthechamberangle.Asanetiologicfactorinwide-angleglaucoma.PartII.AmJOphthalmol43:193203,195726)HaradaT,HaradaC,NakamuraKetal:Thepotentialroleofglutamatetransportersinthepathogenesisofnormaltensionglaucoma.JClinInvest117:1763-1770,2007594あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(14)

眼圧上昇機序:総論

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):583.588,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):583.588,2012眼圧上昇機序:総論IncreasingIntraocularPressureandBasicBackground澤口昭一*はじめに「緑内障は眼圧の上昇と上昇した眼圧による一時的あるいは永久的な視神経障害の現れである視機能障害を特徴とする眼疾患である.眼圧のレベルは,毛様体上皮からの房水産生と前房隅角からの流出のバランスに加えて上強膜静脈圧の高さにより決定される.したがって,理論的には眼圧の上昇は前房隅角がさばききれないほどの房水の過剰産生または房水流出障害あるいはその両者の合併のいずれかによっても生じうるはずであるが,日常われわれが遭遇する緑内障ではごくまれな例外を除き眼圧は房水流出障害の結果上昇するものである.また上強膜静脈圧上昇による緑内障もきわめてまれである」.以上の文章は緑内障クリニック第2版の緑内障の定義であり,同時に眼圧上昇の病因を述べたものである.いうまでもなく,眼圧は房水の産生量と流出抵抗の積で決定し,房水産生量の増加,流出抵抗の増加あるいはその両者は眼圧上昇に,逆に房水産生量の低下,流出抵抗の減少あるいはその両者は眼圧下降に帰結する.眼圧はこの房水産生と流出抵抗の絶妙なバランスの上にコントロールされており,日本人では平均値14.5mmHg,欧米では15.5mmHgであり,日本人では加齢とともに眼圧は下降し,欧米では逆に上昇することが知られている.本総論では眼圧に関係する解剖を中心に,生理,生化学,薬理についての基礎的な知識について概説する.I眼圧に関係する眼の解剖(図1)1.毛様体(房水産生)の解剖房水は毛様体突起で産生される.毛様体突起は虹彩裏面で虹彩根部の後方,毛様体扁平部の前方に位置し,ヒトでは虹彩裏面の瞳孔縁側から輪部-強膜に向かって放射状に配列する約70個の構造物である(図1,2).毛様体突起の血管系は前毛様動脈と後毛様動脈の吻合によって形成される大動脈輪(Zinn-Haller動脈輪)から供給され,この分枝が毛様体を栄養する.また,交感神経系,副交感神経系などの自律神経系やそれ以外のさまざまな神経伝達物質,神経作動薬を含む神経末端が分布し,房水産生に影響を与える.図1眼圧に関係する前眼部の構造:低倍率での隅角,線維柱帯,毛様体の組織所見*ShoichiSawaguchi:琉球大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕澤口昭一:〒903-0215沖縄県中頭郡西原町字上原207琉球大学医学部眼科学教室0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(3)583 毛様体突起虹彩ひだ部と扁平部の移行部毛様体突起虹彩ひだ部と扁平部の移行部図2毛様体突起の立体構造豊富な血管毛様体色素上皮無色素上皮図4高倍率での毛様体突起の組織所見毛様体突起内には豊富な血管が観察される.毛様体突起は中心部に豊富な血管を含んだ結合組織で,その外層を2層の細胞層が取り囲んでいる(図3,4).前房側(外側)が無色素上皮(nonpigmentedepithelium)でその内側(実質側)が色素上皮(pigmentedepithelium)である(図4).無色素上皮は基底膜を後房側に,色素上皮は実質側にそれぞれ有し,この2層の細胞層は表面側を互いに向け合うという特異な構造をしている.無色素上皮は前方では虹彩色素上皮に,また後方では感覚網膜に移行する.色素上皮は前方では虹彩筋上皮に,後方では網膜色素上皮に移行する.無色素上皮細胞は細胞内小器官に富み,側面は互いにタイトジャンクション(tightjunction)で接着し,血液房水関門を形成する.また,隣接する色素上皮細胞間はデスモゾーム(desmosome)により接合している.それ以外にもギャップ結合(gapjunction),などの細584あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012図3低倍率での毛様体突起の光学顕微鏡組織所見図5毛様体上皮の電子顕微鏡所見豊富な細胞内小器官と細胞間接着装置が観察される.胞間結合装置があり,房水産生や房水の出入りに関係している(図5).2.房水流出路の解剖房水は2つのルートで眼外へ排出される(図6).ヒトでは主流出路(conventionaloutflow)の線維柱帯Schlemm管路から約90%の房水が,また副流出路のぶどう膜-強膜路(uveoscleraloutflow)の毛様体筋とその隙間から約10%の房水が通過し眼外へ流出する.経Schlemm管流出路のうち,線維柱帯は前房側からぶどう膜網,角強膜網,傍Schlemm管結合組織に分けられる(図7).線維柱帯を構成するぶどう膜網と角強膜網の流出抵抗はわずかであり,正常人での流出抵抗はおもに傍Schlemm管結合組織とSchlemm管内皮細胞に存在している(図7.9).Schlemm管内側は1層の内皮細胞(4) 隅角線維柱帯Schlemm管導出静脈房水の90%が通過(経Schlemm管路)房水の10%が通過(経ぶどう膜・強膜経路)Schlemm管前房・隅角角・強膜網ぶどう膜網傍Schlemm管結合組織線維柱帯隅角線維柱帯Schlemm管導出静脈房水の90%が通過(経Schlemm管路)房水の10%が通過(経ぶどう膜・強膜経路)Schlemm管前房・隅角角・強膜網ぶどう膜網傍Schlemm管結合組織線維柱帯図6前房隅角からの房水の流出ルート図7線維柱帯の光学顕微鏡所見90%は線維柱帯-Schlemm管経由で,10%がぶどう膜-強膜経線維柱帯は前房側からぶどう膜網,角強膜網,傍Schlemm管路で排出され,全身血流に還流する.結合組織に解剖学的に分類される.前房側・表面断面像図8線維柱帯の立体構造走査型電子顕微鏡で観察した線維柱帯の間隙は広く,房水流出の抵抗は少ない.AC:前房,SC:Schlemm管.に覆われており,この内皮細胞の重要な機能は巨大空胞によって房水を傍Schlemm管結合組織からSchlemm管に流出させることである(図9).Schlemm管へ入った房水はさらに約30本の集合管に集まり,房水静脈を通過して上強膜静脈へと流れる.副流出路であるぶどう膜-強膜路は前房からぶどう膜(5)Schlemm管Schlemm管内皮細胞傍Schlemm管結合組織バキュオル図9Schlemm管近傍の電子顕微鏡組織透過型電子顕微鏡で観察した傍Schlemm管結合組織とSchlemm管内皮細胞を示す.Schlemm管内皮細胞は房水で膨らんで(バキュオル),ある一定の圧になると細胞壁に小孔が開きSchlemm管へ房水が流出していく.線維柱帯に入り毛様体筋束間を進み,毛様体筋と強膜の間に存在する上毛様体腔,上脈絡膜腔(図1)へと流れ,強膜のコラーゲン線維間または強膜を貫く血管や神経の通路にできた隙間を通り,眼窩へ流れ込んで眼窩組織に吸収される.ぶどう膜-強膜路の最大の抵抗の場は毛様体であり,毛様体の緊張は抵抗を増大し流出量を減少させる.また,経Schlemm管路は眼圧上昇に比例して房水流出は増加し,ぶどう膜-強膜流出路での房水流出は眼圧の影響は受けない.あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012585 II房水産生の生理と生化学1.毛様体上皮における房水産生(図10)房水のおよそ25%は限外濾過により,75%は毛様体上皮における能動輸送により産生される.限外濾過は眼圧により増減するが,能動輸送は生理域では眼圧に影響を受けない.限外濾過は毛細血管圧,血漿の膠質浸透圧と眼圧の3者により決定されている.通常,毛細血管圧上昇は限外濾過を促進する方向に,膠質浸透圧上昇と眼UnidirectionalsecretionStromaPENPEAqueous圧上昇はこれを抑制する方向に働く.能動輸送はNa,K-ATPase(アデノシン三リン酸分解酵素)が関与し,ATP依存性にNa+を後房に分泌し,イオンのバランスをとるために重炭酸イオンが同時に分泌される.これに働く重要な酵素が炭酸脱水酵素(CA)であり,この重炭酸イオン分泌の抑制薬であるアセタゾラミドにより房水産生は抑制され眼圧が下降する.このCAには多くのisozymeがあり,少なくとも7種類以上が同定されている.房水産生に重要な無色素上皮にはCAII型が細胞質に,CAIV型が細胞膜に豊富に存在している.アセタゾラミドはすべてのCAに対して抑制的に働き,この際房水産生は40%程度減少する.また,近年水チャンネル分子であるアクアポリン(AQP)が房水産生に関与している可能性が報告され,無色素上皮にはisozymeのAQP1,4の存在が確認された.H+HCO3-PotentialreabsorptionNa+3Na+Na+K+K+K+2K+Cl-Cl-Cl-2Cl-H2OH2OH2OCO2OuabainSwellingHCO3-CACA…..?StromaPENPEAqueous図10毛様体上皮における房水産生(分泌)(A)と再吸収(B)の経路PE:毛様体色素上皮,NPE:毛様体無色素上皮.(McLaughlinCWetal:AmJPhysiolCellPhysiol293:C1455-C1466,2007,Fig.1より)3Na+OuabainNa+Na+Na+Na+K+H+K+K+2K+Cl-Cl-Cl-2Cl-H2OH2OHCO3-Swelling..?2.房水の組成(表1)房水はおもに毛様体上皮(特に無色素上皮)で産生される透明な液体で,その産生量はおよそ2.5.3.0μl/分であり,これは前房容積のおよそ1%程度である.房水と血漿はいくつかの点でその組成を含めて大きく異なっている.そのおもなものとして①蛋白質の濃度が低く,5mg/dlであり,血漿濃度の1%未満である.②アスコルビン酸濃度が25mg/dlと血漿の約20.30倍ときわめて高く,これには毛様体の能動輸送が関与している.この能動輸送の影響で③水素イオン,塩素イオン,ナトリウムイオンが血漿に比較して高く,一方,グルコース,重炭酸イオンが少ない.脂質は接着するリポ蛋白が表1房水の組成(ヒト,サル)物質(μmol/ml)前房血漿Naイオン152146(サル)Caイオン2.52.6(サル)Kイオン3.6.3.94.0.4.1(サル)Clイオン124.8.131.6107.124(ヒト)重炭酸イオン20.227.5(ヒト)グルコース2.85.9(ヒト)乳酸4.51.9(ヒト)アスコルビン酸1.060.04(ヒト)蛋白質13.5.23.76,000.8,000(ヒト)(三島弘:眼科診療プラクティス10,文光堂,1994より改変)586あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(6) 血液房水関門を通過できないため房水中の脂質濃度はきわめて低く,また細胞成分は病的な状態を除いては存在しない.3.房水産生・流出に影響する諸因子房水産生と流出に関与する毛様体の能動輸送,線維柱帯の機能調節には神経支配を含めて複雑で不明な点が多い.房水産生・流出に関与する代表的なものとして,臨床上使用されている眼圧下降薬を中心に説明する.アセタゾラミドは前述のようにすべてのCAのisozymeを抑制し,これによって房水産生は40%減少する.近年,臨床応用された塩酸ドルゾラミドはCAII型の選択的な阻害薬である.コリン作動薬(ピロカルピン)は,機械的に線維柱帯間隙を広げ眼圧下降に作用するが,もう一つの作用として血液房水関門の破綻をきたし,Schlemm管内皮細胞抵抗を減少し房水流出を増加させ眼圧を下降させる.また,毛様体筋を収縮させるためぶどう膜-強膜路の房水流出は減少する.コリン作動薬自体の房水産生への影響は少ない.アドレナリン作動薬(エピネフリン)はb受容体を介する房水産生増大作用と,a2受容体を介する産生抑制作用がある.また,a2受容体に選択的に作用するブリモニジンは房水産生抑制とともにぶどう膜-強膜路の流出を促進する.プロスタグランジン製剤はぶどう膜-強膜路の流出抵抗を減弱させる.b遮断薬(チモロール)は房水産生を低下させる.就寝時の房水産生は覚醒時の50%に低下するが,これは毛様体上皮アドレナリン受容体のcAMP(環状アデノシン一リン酸)経路で調節されている.III眼圧変動に関与する因子と臨床での注意点(表2)眼圧は房水産生と房水流出のそれぞれの調節により血圧と同様,常に変動している.眼圧の日内変動は,房水産生の日内変動により生じるといわれている.この日内変動は,一般的には朝と夕方にピークのある二峰性のパターンが多いが,この変動は房水産生だけでは説明ができない.眼圧の日内変動幅は正常人でも3.6mmHgあり,緑内障患者ではこの差が大きくなる.正常眼圧緑内障(NTG)患者の診断にはこの点に注意する必要があ(7)表2房水産生を低下させる要因1.一般的要因加齢,日内変動,運動2.全身的要因血圧低下,内頸動脈血流低下,低体温,アシドーシス,全身麻酔3.局所的要因高眼圧,ぶどう膜炎,網膜.離,救後麻酔,脈絡膜.離4.薬理学的要因b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬,a2アゴニスト,ほか5.手術毛様体破壊(レーザー,冷凍凝固など)(Adler’sPhysiologyoftheEye,11thed,2011,p282のTable11.2より抜粋,改変)る.眼圧は収縮期血圧と肥満度に相関し,欧米人では加齢とともに眼圧上昇が起こりやすく,日本人は逆に低下しやすいがその差は1.2mmHg程度である.また,肥満の人とやせた人の眼圧差は4mmHgにもなる.女性のほうが眼圧は高めであるがその差はわずかである.座位と仰臥位での眼圧差は2.6mmHgほどあり,緑内障患者と正常人では大きな差はないが,進行・悪化するNTG患者ではその差が大きくなるという報告がある.眼圧には季節変動があり冬は上昇し,温かくなると低下する.この変動幅は緑内障患者ほど大きくなり,冬期間,緑内障患者の眼圧がコントロール不良になることはよく経験する.この日内変動,季節変動の幅が大きい患者ほど緑内障は進行しやすい.運動は眼圧を低下させるが一時的な運動の眼圧への影響は一過性である.一方,継続的に運動を続けると眼圧のベースラインは低下し,もともと眼圧の高い人ではより低下しやすい.アルコール摂取は利尿作用があり眼圧を低下させる.しかし一気に大量の水分の摂取(ジョッキでのビールやスポーツドリンクの一気飲み)は体水分量を一時的に増加させ眼圧を急激に上昇させる.特に緑内障患者は眼圧の上昇幅が大きく,また持続時間が長いので注意が必要である.進行した緑内障患者で飲酒後に眼がかすむと訴えることがある.タバコやコーヒーは普通の摂取量では眼圧にはほとんど影響がない.副腎皮質ステロイドホルモンは内服,点眼,軟膏などいずれも中・長期的に眼圧上昇をきたし,一般的に若年あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012587 者,高眼圧・緑内障患者ほど反応が強くかつ早く出現する.特にステロイド軟膏や痔に使用するステロイド座薬の使用は見逃しやすく注意が必要である.一般的にはステロイドの減量や中止で可逆的に眼圧は下降する.全身麻酔薬は眼圧を下降させるので,小児の全身麻酔下での眼圧測定には注意が必要である.角膜厚が眼圧に影響を与え,薄い角膜厚では眼圧は低めに,厚い角膜厚では眼圧は高めに測定される.特にLASIK(laserinsitukeratomileusis)などの屈折矯正術後の眼圧値には注意が必要であり,換算値は約1mmHg/30μmであり,角膜厚は530μmが正常の平均値である.また,薄い角膜厚自体が緑内障進行悪化の危険因子である.参考文献1)北沢克明:緑内障クリニック(第2版).金原出版,19862)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese.TheTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20043)SommerA,TielshJM,KatzJetal:RelationshipbetweenintraocularpressureandprimaryopenangleglaucomaamongwhiteandblackAmericans.TheBaltimoreEyeSurvey.ArchOphthalmol109:1090-1095,19914)NomuraH,ShimokataH,AndoFetal:Age-relatedchangesinintraocularpressureinalargeJapanesepopulation.Across-sectionalandlongitudinalstudy.Ophthalmology106:2016-2022,19995)三嶋弘:房水産生機構.眼科診療プラクレス10,緑内障診療の進め方(根木昭編),p210-213,文光堂,19946)高比良雅之,杉山和久:房水産生と調節機序.眼科プラクテス11,緑内障診療の進めかた(根木昭編),p388-391,文光堂,20067)宇治幸隆:健常眼圧,病的眼圧,正常眼圧.新図説臨床眼科学講座4,緑内障(新家眞編),p31-32,メジカルビュー社,19988)McLaughlinCW,Zellhuber-McMillanS,MacknightADCetal:Electronmicroprobeanalysisofrabbitciliaryepitheliumindicatesenhancedsecretionposteriorlyandenhancedabsorptionanteriorly.AmJPhysiolCellPhysiol293:C1455-C1466,2007588あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(8)

序説:眼圧上昇はなぜ起こる?

2012年5月31日 木曜日

●序説あたらしい眼科29(5):581.582,2012●序説あたらしい眼科29(5):581.582,2012眼圧上昇はなぜ起こる?WhyDoesIntraocularPressureIncrease?栗本康夫*山本哲也**かつて,緑内障とは眼圧が異常に上昇する病気のことであった.たとえば,30年前に上梓された緑内障の代表的なテキストブックであるShieldsの“Glaucoma”初版本では,緑内障とは“thosesituationsinwhichtheintraocularpressureistoohighforthenormalfunctioningoftheopticnervehead.”であるとしている.「視神経が正常な機能を営むには眼圧が高すぎる状態」という簡明な定義である.こうした理解の下では,異常な眼圧上昇をきたす房水動態の異常を解決することこそが緑内障治療の核心であり,日々の臨床の現場でも個々の症例についてなぜ眼圧上昇が起こっているのかを考えることはあまりにも当然のことであった.一方,緑内障ではあっても眼圧上昇を認めない,すなわち房水動態に異常がない緑内障として正常眼圧緑内障という病型がある.正常眼圧緑内障は「低眼圧緑内障」の名で古くから指摘されてはいたが,かつては特殊なケースとして緑内障治療のメインストリームには上がってこなかった.その状況が一変したのはわが国の多治見スタディの発表以降であろう.多治見スタディやその後の他国での疫学調査の結果,従来の認識に反して正常眼圧緑内障の有病率が大変に高いことが明らかとなり,開放隅角緑内障患者と正常者の眼圧値の分布は大きく重複していることも明らかとなった.これをもって,緑内障とは房水動態の異常に基づく眼圧の異常な上昇による疾患であるという古典的な概念はすっかり崩壊してしまったのである.現在では,高眼圧の原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障はシームレスな一連のスペクトラム上にのる単一疾患と理解され,両者の区別は統計学的手法による眼圧正常値の定義によってのみなされている.正常眼圧緑内障が緑内障治療のメインストリームに上ったことで,緑内障診療の様子は大きく様変わりした.眼圧が正常値であっても正常眼圧緑内障の治療には眼圧をさらに下降させるよりほかに確かな方法はなく,これには房水動態の異常を治すという考え方はあてはまらない.緑内障治療成績に関するエビデンスレベルの高い数々の前向き報告の結果を受けて,緑内障の治療においてはベースライン眼圧から20%あるいは30%の眼圧低下を目指すというような「目標眼圧」の考え方が一般化した.折しも眼圧下降効果の強力な点眼薬が次々と登場したことで,薬物治療によりそうした目標眼圧値を達成することも現実的になった.この結果,世の眼科医の視線はもっぱら眼圧をどれだけ下げるかということに収斂し,眼圧上昇の原因を治療するという意識が希薄になっているようにも見受けられる.少々乱暴な言い方をすれば,とにかく眼圧さえ下げられれば良い治療だという診療態度と言えよう.眼圧上昇の原*YasuoKurimoto:神戸市立医療センター中央市民病院眼科**TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(1)581 因が明白な緑内障病型である原発閉塞隅角緑内障に対してさえ原因治療とは無縁な濾過手術を第一選択とした前向き治療成績が権威ある眼科誌に掲載されていることがこうした風潮を端的に表している.しかし,正常眼圧緑内障はさておき,高眼圧緑内障は基本的には房水動態の異常に基づく疾患であり,房水動態の異常を治療により正すことができればそれに越したことはない.この点に異論の余地はないであろう.特に,原発閉塞隅角緑内障や続発緑内障など原因治療が緑内障治療の原則となる病型では,なぜ眼圧が上昇しているのかを理解することが最も重要なポイントとなる.眼圧が上昇している原因への正しい理解が適切な治療に直結し,ひいては患者の予後を左右するものとなる.また,原発開放隅角緑内障など原因治療を行うことがむずかしい病型であっても,眼圧が上昇している原因(房水動態に異常をきたしている原因)を理解しておくことは決して無意味ではなく,個々の症例の病態を理解して治療のストラテジーを考えるうえで大いに参考となる.さらに中長期的には,すべての眼科医が眼圧上昇がなぜ起こるかをしっかりと理解しておくことは今後の緑内障治療の進歩のためにも意味のあることであろう.本特集は,緑内障治療の原点に立ち帰り房水動態異常を理解するという観点から企画され,タイトルはずばり「眼圧上昇はなぜ起こる?」とした.本編では,眼圧上昇機序の総論を澤口昭一先生に解説していただいたうえで,眼圧上昇をきたす病型を網羅してそれぞれの病型に造詣の深い先生方に眼圧が上昇する機序とその対策について解説をしていただいた.特に眼圧上昇の原因治療が緑内障治療の主体となる原発閉塞隅角緑内障と続発緑内障には多くの項を割いている.本特集が,読者の先生方の日々の臨床現場において,眼圧上昇の原因を正しく診断して適切な治療ストラテジーを立てるための一助となれれば幸いである.582あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(2)

眼症状を主訴としたセネストパチーの1例

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):573.575,2012c眼症状を主訴としたセネストパチーの1例松本識子中馬秀樹直井信久宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野ACaseofOcularCenesthopathySatokoMatsumoto,HidekiChumanandNobuhisaNaoiDepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki眼症状を訴えるセネストパチーの1例を経験した.51歳,女性.2年前に義母が使用した洗面器で洗顔した.翌日より両眼脂が出現,その後両眼の中を虫がもそもそ這うようになった.多数の眼科を受診するも有意な異常所見を指摘されず,ドクターショッピングを繰り返していた.当科受診され,特に眼科所見に問題ないため精神科・心療内科受診を勧めたところ立腹し,帰宅した.眼症状を訴えるセネストパチーは珍しいが,眼科医もセネストパチーの概念を認識して対応していくことが大切である.Weexperiencedacaseofocularcenesthopathy.Thepatient,a51-year-oldfemale,wasseenwithchiefcomplaintoftinyinsectscreepinginhereyes.Shehadsufferedeyedischargeandocularinfestationfromthedayaftershehadwashedherfaceusinghermother-in-law’swashbashin.Shehadconsultednumerousophthalmologists,butnonefoundanyevidenceofinfectiousdisease.However,convincedthatshehadaninfection,shehadcontinued“doctorshopping.”Whensheconsultedus,wefoundnoevidenceofinfectiousdiseaseandadvisedhertoconsultapsychiatrist.Shereactedangrilyanddidnotreturnforfurtherfollow-up.Ophthalmologistsshouldtoknowwhatcenesthopathyisandhowtohandlesuchpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):573.575,2012〕Keywords:セネストパチー,ドクターショッピング,眼科-精神科連携.cenesthopathy,doctorshopping,cooperationbetweenophthalmologistsandpsychiatrists.はじめに日常診療のなかで,強い自覚的異常を訴えるが他覚的検査で異常所見を認めない症例にしばしば遭遇する.そのなかに奇妙な異常体感を主症状とするセネストパチー(cenesthopathy)がある1).セネストパチーは,ありえない異物感を執拗に訴え,しばしば手術を要求するという非常に扱いにくい疾患で,その存在を知らないと,患者との間で大きなトラブルになる2).しかし,眼症状を主訴とするセネストパチーの報告例は少なく3),眼科医の間ではまだ十分に認識されていない.今回「両眼の中を虫がもそもそ這う」と訴えるセネストパチーの1例を経験したので報告する.I症例患者:51歳,女性.主訴:頻繁に両眼の中を虫がもそもそ這う,ティッシュで拭いても虫が取れない.現病歴:X-2年11月,義母が使用した洗面器で洗顔した翌日より,両眼性の眼脂が出た.その後,両眼の痒み,霧視,虫が眼の中をもそもそ動く感じが出現した.翌12月,近医眼科を受診した.以後数カ月ごとに居住県内の眼科を回り,慢性結膜炎やドライアイや異常なしの診断で点眼を次々に変更していった.X-1年5月,眼脂は改善したが,虫が動く感じは変わらなかった.X年9月,寄生虫の血液検査受けるも,異常なしであった.同月,某大学医学部附属病院眼科を受診し,異常なしと診断された.X年11月25日,症状が継続するため,当科を自己初診した.病歴を聴取中も「同居している義父母に眼脂・充血が強かった.同居している息子も眼脂があり,よく眼を擦っていて近視になった.別居している実母にも自分の眼脂が移ってしまい,申し訳なく思っている.虫が取れずにこんなに自分が〔別刷請求先〕松本識子:〒889-1602宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野Reprintrequests:SatokoMatsumoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki,5200Kihara,Kiyotake-cho,Miyazaki889-1602,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(139)573 苦しんでいるのに,今まで受診した眼科の医者は誰も理解してくれない.」涙を流しながら30分間以上訴えた.また,眼の中に寄生虫がいるに違いないから一部とって検査をしてくれと執拗に訴えた.既往歴:47歳時,左膝粉砕骨折手術時に心因性の喘息.家族歴:特記事項はなかった.眼科的所見:視力は右眼0.1(1.5×sph.3.25D(cyl.0.75DAx180°),左眼0.15(1.2×sph.2.50D(cyl.1.00DAx145°).対光反射,眼球運動に異常なし.前眼部・中間部透光体に異常なし,虫は観察されなかった.眼圧は両眼14mmHg.眼底は両眼異常なし.以上より,眼科的異常所見はないことを説明し,精神科・心療内科受診を勧めたところ「ここでも精神疾患で済ませようとするのですか.精神疾患のはずがない.」と立腹して帰宅した.以後当科は受診していない.II考察本症例は,両眼の中を虫がもそもそ這うという独特な体感異常の訴えが強いにもかかわらず眼科的異常所見を認めない,診断に納得されずドクターショッピングを繰り返している,精神科・心療内科受診を頑なに拒否し精神疾患であることを認めない,といった特徴より,セネストパチーと診断した4,5).セネストパチー(cenesthopathy)は,E.DupreとP.Camusによって1907年に初めて提唱された奇妙な異常体感を主症状とする病態である.米国精神医学会の疾患分類,DSM(TheDiagnosticandStatisticalManualofMentalDisorders)-IVではセネストパチーという病名は存在せず,あえて最も近いものをあてはめるとすると,妄想的要素に焦点を当てれば妄想性障害・身体型となり,異常感覚要素に焦点を当てれば鑑別不能型身体表現性障害となるだろう(表1,2)1,3,6).セネストパチー患者は身体の異常な感覚を,奇妙な得体のしれないものとしてさまざまな表現によって訴える.しかしその感覚は患者にとっても異様であるため表現しにくく,正確な言葉が見つからないため種々の言い回しを用いて,何とか自己の体験を伝えようと必死になる1).表1DSM.IV.TRの297.1妄想性障害の診断基準A.奇異でない内容の妄想(すなわち,現実生活で起こる状況に関するもの,例えば,追跡されている,毒を盛られる,病気をうつされる,遠く離れた人に愛される,配偶者や恋人に裏切られる,病気にかかっている)が少なくとも1カ月間持続する.B.統合失調症の基準Aを満たしたことがないこと注:妄想性障害において,妄想主題に関連したものならば幻触や幻嗅が出現してもよい.C.妄想またはその発展の直接的影響以外に,機能は著しく障害されておらず,行動も目立って風変りであったり奇妙ではないD.気分エピソードが妄想と同時に生じていたとしても,その持続期間の合計は,妄想の持続期間と比べて短い.E.その障害は物質(例:乱用薬物,投薬)や一般身体疾患による直接的な生理学的作用によるものではない..病型を特定せよ(以下の各病型は優勢な妄想主題に基づいてのものである)色情型妄想が他の誰か,通常社会的地位が高い人が自分と恋愛関係にあるというもの誇大型妄想が,肥大した価値,権力,知識,身分,あるいは神や有名な人物との特別なつながりに関するもの嫉妬型妄想が,自分の性的伴侶が不実であるというもの被害型妄想が,自分(もしくは身近な誰か)がなんらかの方法で悪意をもって扱われているというもの身体型妄想が,自分に何か身体的欠陥がある,あるいは自分が一般身体疾患にかかっているというもの混合型妄想が上記の病型の中の2つ以上によって特徴づけられるが,どの主題も優勢ではないもの特定不能型表2DSM.IV.TRの300.82鑑別不能型身体表現性障害の診断基準A1つまたはそれ以上の身体的愁訴(例:倦怠感,食欲減退,胃腸系または泌尿器系の愁訴)B(1)か(2)のどちらか(1)適切な検索を行っても,その症状は,既知の一般身体疾患または物質(例:乱用薬物,投薬)の直接的な作用によって十分に説明できない(2)関連する一般身体疾患がある場合,身体的愁訴または結果として生じている職業的障害が,既往歴,身体診察所見または臨床検査所見から予測されるものをはるかに超えているC症状が,臨床的に著しい苦痛,または社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしているD障害の持続期間は少なくとも6カ月であるEその障害は,他の精神疾患(例:他の身体表現性障害,性障害,気分障害,不安障害,睡眠障害,または精神病性障害)ではうまく説明されないF症状は,(虚偽性障害または詐病のように)意図的に作り出されたり捏造されたりしたものではない574あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(140) 患者は精神障害とは決して考えず,器質的な異常として確信する.そのため可視的な検査方法を求める.ドクターショッピングをし,満足することができない.異常体感は生活の中心に居座り,それを周囲に向かって訴え続けるが,理解されず人格は保たれたまま社会から逸脱していくとされる3).本症例でも,義母からの眼脂が自分に移り,それを息子や実母に移してしまったという誤った妄想を信じ込んでおり,修正不能であった.義母への不満という精神的問題が背景にあるのであろう.「両眼の中を虫がもそもそ這う」という異常感覚を確信しており,症状を詳細に説明した.多数の病院をドクターショッピングして,眼科検査・寄生虫検査の他覚検査の異常なしという結果を否定し続けており,当科でも眼科検査を希望した.検査所見に異常がないことを不服とし,精神疾患であることを断固として拒否した.セネストパチーに対する効果的な治療法はまだ確立されていない.定期的な身体的診察,傾聴,薬物療法にて加療を行う.薬物はおもに抗うつ薬,抗精神病薬の報告が多いため,やはりこのような症例はいかにして精神科への受診をさせるかが困難で,重要であると考える.稲田は,精神科との連携がうまくいくためのポイントとして,患者と眼科医の間で信頼関係をもつということと,眼科医と精神科医が知り合いであるということをあげている(表3)7).まとめとして,眼症状を主訴とするセネストパチーの報告例は少ないが,眼科医もその疾患概念を認識しておくことが必要であろう.また,加療にあたっては精神科との連携が必要であるため,患者と良好な関係を構築したうえで精神科受診を勧めることが重要であると考えた.表3精神科との連携がうまくいくためのちょっとしたポイント患者と眼科医の間で信頼関係をもつ・患者に“見捨てられた”という印象を抱かせない・眼科での診療を続ける,あるいは戻ってきて良いと保証する眼科医と精神科医が知り合いである・精神科のアプローチ(原因を追求するよりも対処法を考える)を理解している・過大な期待を抱かせない.「別のアプローチを試してみましょう」くらいの説明が良い・どのように説明したか,精神科受診をどのようにとらえているかを知らせてほしい・心理的要因でわかっていることがあれば知らせてほしい文献1)松下正明:精神症候と疾患分類・疫学第1巻.p130-131,中山書店,19982)若倉雅登:心療眼科とは.実践!心療眼科,p3-9,銀海舎,20113)気賀沢一輝:長期経過を観察し得た眼科領域セネストパチーの1例.神経眼科25:358-364,20084)ShermanMD,HollandGN,HolsclawDSetal:Delusionsofocularparasitosis.AmJOpthalmol125:852-856,19985)大野京子:眼の周りに虫がいる.実践!心療眼科,p155156,銀海舎,20116)高橋三郎,大野裕,染矢俊幸(訳):DSM-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,20027)稲田健:連携がうまくいった例.実践!心療眼科,p157160,銀海舎,2011***(141)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012575

白内障水晶体前囊片の過酸化物質総量の測定

2012年4月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(4):563.571,2012c白内障水晶体前.片の過酸化物質総量の測定岡本洋幸新井清美筑田眞獨協医科大学越谷病院眼科ConcentrationofHydroperoxideinCataractousLensHiroyukiOkamoto,KiyomiAraiandMakotoChikudaDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital目的:水晶体の過酸化度の判定に,過酸化水素,過酸化脂質の他,核酸や蛋白質の過酸化物も含めた過酸化物質総量を測定し,全身状態との関係を検討した.方法:白内障水晶体前.片の過酸化物質総量は,Freed-ROMs変法で測定し,糖尿病の有無,術前の総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との関係を検討した.結果:水晶体前.中の過酸化物質総量は,diabetesmellitus(DM)>非DM,中性脂肪高値群>正常値群,尿酸高値群>正常値群で,各々有意差(各p<0.01)があった.水晶体の過酸化物質総量は,中性脂肪(r=0.41,p<0.05),尿酸値(r=0.50,p<0.01)と正の相関があった.その他は有意な相関および正常値群との差はなかった.結論:DM,中性脂肪高値群,尿酸高値群では水晶体への過酸化反応の密接な影響が今回新たに明らかになった.Weinvestigatedhydroperoxideconcentrationinanteriorcapsulesamples,includinglensepithelialcells(LECs)ofhumancataractouslenses.Theconcentrationofhydroperoxide,whosetotaloxidizedproductsincludehydrogenperoxide,lipidperoxide,oxidizedproteinandpolypeptide,oxidizednucleicacidandnucleotide,wasmeasuredusingaminormodificationoftheFreed-ROMstest(DiacronSrl).Westudieditinrelationtodiabetesmellitus(DM),cholesterol,triglyceride,uricacid,ureanitrogen,totalprotein,agebeforecataractsurgeryandhydroperoxideinthecataractouslens.ThehydroperoxideconcentrationwassignificantlyhigherintheDMgroupthaninthenon-DMgroup.Thehydroperoxideconcentrationinthehightriglycerideandinternaluseofhyperlipidemiatherapeuticagentgroup,andthehighuricacidandinternaluseofantipodagricgroupwerebothsignificantlyhigherthanineachnormalgroup(p<0.01).Thehydroperoxideconcentrationweresignificantlycorrelatedwithtriglyceride(r=0.41,p<0.05)anduricacid(r=0.50,p<0.01).Inothers,therewasnosignificantdifferenceorcorrelation.Itissuggestedthathydroperoxideinthehumancataractouslensisrelatedtopathologicallysystemicoxidation,suchasinDM;hightriglycerideandhighuricacidincreasesystemichydroperoxide.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(4):563.571,2012〕Keywords:過酸化物質,白内障水晶体,糖尿病,中性脂肪,尿酸,過酸化反応.hydroperoxide,cataractouslens,diabetesmellitus,triglyceride,uricacid,oxidation.はじめに白内障の発症と進行には過酸化反応が関与し1.4),水晶体における過酸化反応についての種々の報告がなされている.しかし,これまでの報告では,過酸化水素・superoxideなど活性酵素や,過酸化脂質,あるいはそれらに対する消去酵素などについて各々ターゲットを絞っての検討であり,全体的な過酸化の程度はいまだ判定されていない.近年,多価不飽和脂肪酸の過酸化物質の分解産物であるアルデヒドのmalondialdehyde(MDA)や4-hydroxyalkenal(HAE),4-hydroxynonenal(HNE)などを,組織中の酸化ストレスの誘導因子や過酸化脂質のマーカーとして使用した報告5,6)もあるが,水晶体中に存在するHNE,HAEの報告は筆者の知る限りヒトではなく,動物モデルのラットのみでの報告である.しかも,MDAやHAE,HNEは,あくまでも脂質過酸化由来のアルデヒド類(-COH)であり,脂質ではないため,過酸化脂質そのものの測定ではなく,また過酸化物質(-OOH)でもないため,脂質の過酸化を間接的に反映する物質にすぎず,過酸化反応全体を反映している物質で〔別刷請求先〕岡本洋幸:〒343-8555越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:HiroyukiOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minami-Koshigaya,KoshigayaCity,Saitama343-8555,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(129)563 はない.また,水晶体のMDAやHAE,HNEと,血液中の脂質,尿酸などの値との関係を検討した報告はない.過酸化反応は脂質だけでなく,蛋白質・核酸など多様な物質に生じることが知られており7),水晶体の過酸化の程度を判定するためには,過酸化水素・過酸化脂質の他,核酸や蛋白質・ポリペプチドの過酸化物質も含めた過酸化物質総量の測定もまた重要と考えられる.そこで,過酸化水素,過酸化脂質の他,核酸・蛋白質・ポリペプチド・ペプチド・アミノ酸などの過酸化物質の総量の測定が可能な方法を用い,一部の過酸化物質に注目するのではなく過酸化物質総量を測定することで,白内障と過酸化反応の関連性の精査を目的とし,白内障眼の水晶体前.片における過酸化物質総量と,術前の糖尿病の有無,総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との関係について,それぞれ検討を行った.I対象および方法1.対象対象は,超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した白内障眼の水晶体33例(71.3±8.1歳)で,研究の趣旨を説明し本人の同意を得たうえで研究を行った(獨協医科大学越谷病院生命倫理委員会承諾番号越谷22025).2型糖尿病(diabetesmellitus:以下DM)の有無の2群について,また総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素については,正常値群と,高値および治療薬内服群の2群に分けて比較検討した.術前に採血し,DM群は空腹時血糖126mg/dl以上,コレステロールの高値群は220mg/dl以上,中性脂肪の高値群はトリグリセライド150mg/dl以上,尿酸の高値群は8.5mg/dl以上,尿素窒素の高値群は22mg/dl以上とした.内訳はDM16例(69.6±8.1歳)・非DM17例(72.9±8.0歳),コレステロール高値および高脂血症薬内服16例(66.7±8.3歳)(そのうち高脂血症薬内服5例71.4±7.3歳,高脂血症薬非内服のコレステロール高値11例64.5±8.2歳)・正常値17例(75.7±4.8歳),中性脂肪高値および高脂血症薬内服20例(71.2±8.2歳)(そのうち高脂血症薬内服5例71.4±7.3歳,高脂血症薬の非内服の中性脂肪高値15例71.1±8.7歳)・正常値13例(71.5±8.2歳),尿酸高値および痛風治療薬内服5例(73.6±5.9歳)(そのうち痛風治療薬内服2例71.0±7.1歳,痛風治療薬非内服の尿酸高値3例75.3±5.8歳)・正常値28例(70.9±8.4歳),尿素窒素高値7例(71.1±7.7歳)・正常値26例(71.4±8.3歳)である.2.方法白内障手術時に摘出した水晶体の前.片は,速やかに窒素ガス充.し,.40℃で測定まで保管した.水晶体の前.片はビーズホモジナイザーのMagNALyser(ロシュ・ダイアグノスティックス社)でホモジナイズ後,遠心分離し,上清564あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012前.片に生理食塩水を500μl分注↓MagNALyserで破砕(6,500rpm50秒,1分冷却,6,500rpm50秒,2分冷却)↓17,000×g,4℃にて5分遠心分離↓上清を分取↓Freed-ROMs試薬(DiacronSrl社)で過酸化物質総量を測定上清(20μl)+Buffer(125μl)を注入し混和↓Roomtemp.,5分↓クロモゲン呈色液(2μl)注入し1.2秒混和↓37℃,経時的(0,3,5,10,20,30,45,60分)にOD545で測定図1水晶体前.片の過酸化物質総量の測定方法を過酸化物質総量の測定に供した.過酸化物質総量はFreed-ROMstest試薬(DiacronSrl社,Grosseto,Italy)8.10)を用いて測定した.この試薬は過酸化物質に反応して発色するクロモゲン(N,N-ジエチルパラフェニレンジアミン)10)呈色液を用い,血清中の過酸化物質の測定用に開発されているが,20μlの微量容量および5UCARR以下の微量の過酸化物質用に測定方法を一部改変し測定を行った.詳しい測定プロトコルは図1に記載した.この発色色素のクロモゲンは,過酸化水素・過酸化脂質の他,核酸や蛋白質およびポリペプチドの過酸化物も含めた過酸化物質全般に反応し,この原理を応用して過酸化物質総量の測定をしている.水晶体前.片の過酸化物質総量は,術前の糖尿病の有無,総コレステロール,中性脂肪,尿酸,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との関係について検討を行った.術前血糖値はヘキソキナーゼ・グルコース-6-リン酸脱水素酵素法(リキテックRグルコース・HK・テスト,ロシュ・ダイアグノスティックス社)11),総コレステロールはコレステロールエステラーゼ・コレステロールオキシダーゼ・ペルオキシダーゼ法(コレステストRCHO,積水メディカル社)12,13),中性脂肪のトリグリセライドはリポプロテインリパーゼ・グリセロールキナーゼ・グリセロール-3-リン酸オキシダーゼ・ペルオキシダーゼ法(コレステストRTG,積水メディカル社)14),尿酸はウリカーゼ・ペルオキシダーゼ法(デタミナーLUAR,協和メデックス社)15),尿素窒素はウレアーゼUV・アンモニア消去法(デタミナーLUNR,協和メデックス社)16),蛋白質総量はビウレット法(アクアオートRTP-II試薬,カイノス社)17)で各々測定した.結果の解析については,2群の比較は対応のないt検定とPearsonの相関係数を用い,3群比較はKruskal-Wallisの検定を用い,その後の多重比較は(130) Scheffeによる分析を行い,危険率5%以下を有意とした.過酸化物質総量との相関関係ついては,治療薬の内服によりコレステロール,中性脂肪,尿酸の値は内服していない場合より低く抑えられている可能性があるため,コレステロールと中性脂肪は高脂血症薬内服の5例,尿酸は痛風治療薬内服の2例を各々除外して検討した.そのため,過酸化物質総量とコレステロールあるいは中性脂肪との相関関係についての対象は,高脂血症薬内服例を除いた28例(71.3±8.3歳),過酸化物質総量と尿酸との相関関係についての対象は,痛風治療薬内服例を除いた31例(71.4±8.2歳)である.II結果1.水晶体前.における過酸化物質総量の量的比較a.DMの有無での比較水晶体前.中の過酸化物質総量および術前血糖値は,非DM群に比べDM群で有意に高値を示した(p<0.01)(図2-a,b).b.血中脂質の異常の有無での比較①コレステロールコレステロール高値および高脂血症薬内服群の水晶体前.中の過酸化物質総量は,正常値群との有意差はなかった〔図a:過酸化物質総量b:術前血糖値****3.03000.5500DM+DM-**:p<0.010DM+DM**:p<0.01Mean±SD2.5250血糖値(mg/dl)d-ROMs(UCARR)2.0200図2DMの有無による水晶体前.中の過酸化物質総量(a)および術前血糖値(b)の変化1.51501.0100(1)a:過酸化物質総量b:コレステロール濃度**3.02.52.01.51.00.5300250200150100500コレステロール(mg/dl)d-ROMs(UCARR)図3コレステロールの違いによる水晶体前.中の過酸化物質総量0高値および高脂正常値群高値および高脂正常値群(a)および各群の血液中のコレ血症薬内服群血症薬内服群**:p<0.01ステロール濃度(b)の変化コレステロールMean±SD(1)コレステロール高値および高脂血症薬内服群と,コレステロール正(2)a:過酸化物質総量b:コレステロール濃度常値群との2群比較.****(2)コレステロール高値群(高脂血症3.0コレステロール(mg/dl)300*薬内服例),高脂血症薬内服群,コレステロール正常値群との3群比較.d-ROMs(UCARR)2.52.01.51.00.52502001501005000高値群高脂血症薬正常値群高値群高脂血症薬正常値群(内服例削除)内服群(内服例削除)内服群*:p<0.05*:p<0.05.**:p<0.01Mean±SDコレステロール(131)あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012565 3(1)-a〕.しかし,高脂血症薬内服の有無について分け,コレステロール高値群,高脂血症薬内服群,コレステロール正常値群の3群比較を行ったところ有意差があり(p<0.05)〔図3(2)-a〕,その後の多重比較で,コレステロール高値群と高脂血症薬内服群,コレステロール正常値群と高脂血症薬内服群で有意差があり(各p<0.05),高脂血症薬内服群で水晶体前.中の過酸化物質総量が有意に高値であった〔図3(2)-a〕.各群のコレステロール濃度は,コレステロール高値および高脂血症薬内服群と正常値群の2群比較で有意差があり(p<0.01)〔図3(1)-b〕,コレステロール高値群,高脂血症薬内服群,正常値群の3群比較でもp<0.01で有意差があり,その後の多重比較で,コレステロール高値群と正常値群(p<0.01),高脂血症薬内服群と正常値群(p<0.05)で有意差があった〔図3(2)-b).②中性脂肪中性脂肪高値および高脂血症薬内服群の水晶体前.中の過酸化物質総量は,正常値群に比べ有意に高値を示した(p<0.01)〔図4(1)-a〕.また,高脂血症薬内服の有無についても分けて,中性脂肪高値群,高脂血症薬内服群,中性脂肪正常値群の3群比較では有意差があり(p<0.01)(図4(2)-a〕,(1)a:過酸化物質総量**3.0350その後の多重比較で,中性脂肪正常値群と中性脂肪高値群(p<0.01),中性脂肪正常値群と高脂血症薬内服群(p<0.05)の水晶体前.中の過酸化物質総量に有意差があった〔図4(2)-a〕.各群の中性脂肪の濃度は,中性脂肪高値および高脂血症薬内服群と中性脂肪正常値群の2群比較では,中性脂肪高値および高脂血症薬内服群が,中性脂肪正常値群に比べ有意に高値であった(p<0.01)〔図4(1)-b〕.中性脂肪高値群,高脂血症薬内服群,中性脂肪正常値群の3群比較で有意差があり(p<0.01)〔図4(2)-b〕,その後の多重比較で,中性脂肪正常値群と高脂血症薬内服群は有意差はないが,高脂血症薬内服群と中性脂肪高値群(p<0.05),中性脂肪正常値群と中性脂肪高値群(p<0.01)で有意差があった〔図4(2)-b〕.c.血中尿酸および尿素窒素の異常の有無での比較①尿酸尿酸高値および痛風薬内服群の水晶体前.中の過酸化物質総量は,正常値群に比べ有意に高値を示した(p<0.01)(図5(1)-a〕.尿酸高値および通風薬内服群のうち,尿酸高値群(痛風薬内服例削除)と,通風薬内服群では,過酸化物質総量の有意差はなく,尿酸高値群,通風薬内服群,尿酸正常値群の3群比較では,有意差があった(p<0.05)(図5(2)-a〕.b:中性脂肪濃度**中性脂肪(mg/dl)d-ROMs(UCARR)2.52.01.51.00.530025020015010050高値および高脂正常値群0高値および高脂正常値群図4中性脂肪の違いによる水晶体前血症薬内服群**:p<0.01血症薬内服群**:p<0.01.中の過酸化物質総量(a)およMean±SDび各群の血液中の中性脂肪濃度中性脂肪(b)の変化(2)a:過酸化物質総量b:中性脂肪濃度(1)中性脂肪高値および高脂血症薬内服群と,中性脂肪正常値群との2****群比較.**(2)中性脂肪高値群(高脂血症薬内服3.0350中性脂肪(mg/dl)d-ROMs(UCARR)例削除),高脂血症薬内服群,中300性脂肪正常値群との3群比較.25020015010050高値群高脂血症薬正常値群0高値群高脂血症薬正常値群(内服例削除)内服群(内服例削除)内服群*:p<0.05.**:p<0.01*:p<0.05.**:p<0.01Mean±SD中性脂肪566あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(132) (1)a:過酸化物質総量b:尿酸濃度3.5**3.02.52.01.51.00.5高値および121086420尿酸(mg/dl)d-ROMs(UCARR)0高値および正常値群正常値群図5尿酸の違いによる水晶体前.中の痛風薬内服群**:p<0.01痛風薬内服群過酸化物質総量(a)および各群のMean±SD血液中の尿酸濃度(b)の変化尿酸(1)尿酸高値および痛風薬内服群と,尿酸正常値群との2群比較.(2)a:過酸化物質総量b:尿酸濃度(2)尿酸高値群(痛風薬内服例削除),痛3.5**0高値群痛風薬内服群正常値群121086420尿酸(mg/dl)高値群d-ROMs(UCARR)d-ROMs(UCARR)風薬内服群,正常値群との3群比較.図6尿素窒素の違いによる水晶体前.中の過酸化物質総量(a)および各群の血液中の尿素窒素濃度(b)の変化3.02.52.01.51.00.5痛風薬内服群正常値群(内服例削除)*:p<0.05(内服例削除)*:p<0.05Mean±SD尿酸a:過酸化物質総量b:尿酸窒素濃度3.035**尿素窒素(mg/dl)302.52.01.51.00.52520151050高値群各群の尿酸濃度は,高値および痛風薬内服群と正常値群の2群比較では有意差はなかった〔図5(1)-b〕が,尿酸高値群,痛風薬内服群,正常値群の3群比較では有意差があり(p<0.05)〔図5(2)-b〕,その後の多重比較で,尿酸高値群(痛風薬内服例削除)が正常値群に比べ有意に高値であった〔図5(2)-b〕.②尿素窒素尿素窒素については,血液中の尿素窒素の濃度は,尿素窒素高値群と正常値群で有意差があった(p<0.01)が,水晶体前.中の過酸化物質総量は,尿素窒素高値群と正常値群で有意差はなかった(図6-a,b).(133)正常値群0高値群正常値群**:p<0.01Mean±SD尿素窒素2.水晶体前.中の過酸化物質総量と,血液中の脂質・尿酸など各測定項目および年齢との相関関係水晶体前.中の過酸化物質総量と血液中の各測定項目および年齢との相関関係については,水晶体前.中の過酸化物質総量と血液中の中性脂肪(r=0.41,p<0.05),過酸化物質総量と尿酸値(r=0.50,p<0.01)は,各々正の相関がみられた(図7-b,c).水晶体前.中の過酸化物質総量は,血液中の総コレステロール,尿素窒素,蛋白質総量,年齢との相関はなかった(図7-a,d.f).あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012567 abcd-ROMs(UCARR)3.02.52.01.51.00.500100200300400コレステロール(mg/dl)3.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)0100200300400中性脂肪(mg/dl)3.53.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)0246810246810尿酸(mg/dl)00102030403.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)0e3.02.52.01.51.00.50d-ROMs(UCARR)405060708090100fr=0.41p<0.05r=0.50p<0.01d3.0d-ROMs(UCARR)2.52.01.51.00.5尿素窒素(mg/dl)蛋白質総量(g/dl)年齢(歳)図7血液中のコレステロール(a),中性脂肪(b),尿酸(c),尿素窒素(d),蛋白質総量(e)および年齢(f)と,水晶体前.中の過酸化物質総量との相関関係III考按糖尿病白内障の水晶体では高血糖の持続によりglycationが進行し,スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)など抗酸化酵素もglycationされて不活性化するため過酸化反応が進行しやすく,glycationの後期反応産物であるadvancedglycationendproducts(AGEs)のうち,glycationにoxidationが関与して産生されるglycoxidationの産物であるペントシジンの増加が報告されている18).また,糖尿病白内障では加齢白内障に比べ過酸化脂質や過酸化水素が高値であること1,19)や,水晶体の過酸化脂質は,糖尿病白内障では同年齢層の加齢白内障に比較して約2倍に増量している報告もある20).核酸も過酸化反応により非特異的な切断・変異などが生じることが知られており,核酸の過酸化物質としては,DNAの構成塩基の一種であるデオキシグアノシンの過酸化物の一種である8-OHdG(8-hydroxydeoxyguanosine)がよく知られている.8-OHdGは過酸化反応によるDNA損傷の指標としてさまざまな報告があり,ヒト水晶体上皮細胞でもDNA損傷のマーカーとして用いられている21).蛋白質・ポリペプチド・ペプチド・アミノ酸の過酸化物質については,システイン・メチオニン・チロシン・トリプトファン残基が,活性酸素による非酵素的・非特異的な変成,切断,凝集などによりさまざまな過酸化物が生じる.血液中には血漿蛋白質由来のadvancedoxidationproteinproducts(AOPP)11)などの他,さまざまな蛋白質の過酸化物が存在し,過酸化反応によるリジン・アルギニン残基のカルボニル化修飾も知られ,蛋白質だけでなく,酸化型のポリペプチドやアミノ酸も存在する.水晶体では,SH基を含む含硫アミノ酸のシステイン・メチオニン残基については,コントロール群に比べ白内障群のSH基の有意な低下22)や,過酸化反応による蛋白質・ペプチドの含硫アミノ酸の低下とS-S結合性架橋の増加と蛋白質の不水溶化,トリペプチドの還元型グルタチオン(GSH)から酸化型グルタチオン(GS-SG)への移行など,SH基の過酸化によるさまざまな報告23)がある.その他,トリプトファン残基の過酸化などによる水晶体の自発蛍光の増加と不水溶性蛋白質の増加23,24)や,リジン・アルギニン残基の過酸化によるカルボニル化修飾としてAGEs性架橋物質の一種のペントシジンも白内障眼の水晶体に存在18)し,過酸化反応によりS-S結合性架橋に加えAGEs性架橋も増加することが蛋白質の凝集による不水溶化など酸化変性を生じる一因と考えられている.このようにさまざまな過酸化反応の指標や現象が,各々個別あるいは数種を組み合わせての報告はなされているが,脂質・蛋白質・ペプチド・核酸などに生じたさまざまな過酸化物質の各々の値ではなく,totalとして全体的な過酸化の程度を捉えることも非常に重要であると考え,今回筆者らは白内障水晶体の過酸化物質の総量を初568あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012(134) めて明らかにした.本研究結果から,DM群では,水晶体前.片における過酸化物質総量が非DM群に比較し有意に高値であることが確認された.そのため,水晶体の前.においても過酸化反応が進行し,過酸化脂質・過酸化水素だけでなく,核酸や蛋白質・ポリペプチドの過酸化物質も増加している可能性が高いと考えられる.「はじめに」に記載した水晶体中に存在するHNE,HAEについての動物モデルのラットの報告では,ストレプトゾトシン誘発の糖尿病ラットの水晶体中のMDA,あるいはMDAとHAEは,双方ともコントロールに比べ有意に高値であること5)や,抗酸化酵素の低下により活性酸素が発生しやすいラットで,水晶体中のHNEがコントロールに比べて有意に多く存在すること6)などが報告されている.そのラットは,ガラクトース白内障モデルのラットからグルコースの調節を上昇させて血糖値は正常であるが,ヘキソース輸送ポートの変異機能があり,活性酸素の亢進により細胞内にグルコースその他の六単糖が蓄積するといわれている.これらの報告と本検討では種が異なり,また前述のようにMDA,HNE,HAEは過酸化脂質の代謝産物のアルデヒドで,過酸化物質そのものではないため,過酸化物質の全体の量について検討した本研究結果と直接の比較はできないが,同様の傾向を示し,特に,その抗酸化酵素の低下しているラットでは,過酸化反応により断片化し変性したDNAの増加も確認されていて,細胞内の高レベルの活性酸素により,酸化された蛋白質,過酸化脂質,DNAの酸化変性によって細胞の構造や機能が障害され白内障になると考えられており6),本研究結果を裏付ける報告と考えられる.つぎに全身状態の水晶体に与える影響についてであるが,中性脂肪が高値である高脂血症や動脈硬化などでは過酸化反応が進行することが知られており25),今回の水晶体前.片の過酸化物質総量が血中の中性脂肪と正の相関を示し,中性脂肪高値・高脂血症薬内服群で正常値群に比べ有意に高値であるという結果は,血中の中性脂肪が高値であるほど水晶体前.片の過酸化物質総量が高値であり,水晶体の過酸化の程度は全身の過酸化反応の影響を密接に受けているものと考えられた.コレステロールについては,対象全体の検討では水晶体前.中の過酸化物質総量との相関はなかったが,高脂血症薬内服群で水晶体前.中の過酸化物質総量が有意に高値であるという興味深い結果が得られた〔図3(2)-a〕.高脂血症薬内服群では,中性脂肪に着目して分けた場合も,水晶体前.中の過酸化物質総量が正常値群に比較して有意に高値であるという同様の結果が得られており,高脂血症薬の内服が必要となるほど血中脂質が高値であった場合は,水晶体前.でも過酸化がかなり進行していることが示唆された.脂質の組織への輸送は正常な視機能の維持のために必須であるといわれ(135)ており,血液中の脂質は水溶性のアポ蛋白質と結合したリポ蛋白質として輸送され,リポ蛋白質のうちのHDL(高比重リポ蛋白質)はヒト房水中で存在が確認されている26).本学でも白内障眼の房水と水晶体でリポ蛋白質の一種のLp(a)の存在27)や,水晶体では加齢白内障に比べ糖尿病白内障でLDL(低比重リポ蛋白質)とVLDL(超低比重リポ蛋白質)が増加していることを報告している28).ヒトの血漿リポ蛋白質のおもな脂質はすべて房水中にも存在し,ヒト白内障眼の房水中では,中性脂肪のトリグリセライド2.0mg/dl,遊離型とエステル型を含めた総コレステロール10.7mg/dlの他,リン脂質2.5mg/dlや脂肪酸1.1mg/dlの存在が報告されている29).糖尿病では血液中の中性脂肪のコントロールが悪い例が多く30),高頻度に高脂血症を伴い,動脈硬化性疾患を合併しやすいこと31),健常者に比べトリグリセライドが有意に高いことも報告されており32),高カロリー・高脂質の状態では,肥大した脂肪細胞から遊離脂肪酸,TNF-a(腫瘍壊死因子a),resistenなどのインスリン抵抗性を惹起する分子の大量生産と分泌が生じ,肝細胞への脂肪蓄積によりインスリン抵抗性が増して肝機能および脂質代謝の異常を惹起することが知られ,糖尿病における高脂血症および肝機能障害33)も報告されており,これらの生活習慣病が水晶体においても,単独あるいは相互に水晶体の過酸化状態に影響を与えていることが本研究結果から明らかとなった.痛風など尿酸が高値であるものでは,過酸化反応の進行が報告されており34),本研究結果においても,水晶体の前.片の過酸化物質総量と血中の尿酸値が有意な正の相関を示し,尿酸高値・痛風薬内服群が正常値群に比べ過酸化物質総量が有意に高値であったことは,糖尿病,中性脂肪と同様に,尿酸についても全身の過酸化反応の影響が水晶体にも及んでいることが考えられる.例数が少ないため,参考資料としてであるが,尿酸高値群,痛風薬内服群,尿酸正常値群で有意差があったことも,尿酸と水晶体の過酸化反応との関連を支持する結果であると考えられる.一方,尿酸は抗酸化物質の一種ともいわれていて,尿酸の抗酸化の機序としては,尿酸はFe3+の鉄イオンと安定な複合体を形成して遊離のFe3+が触媒するl-アスコルビン酸の酸化や脂質の過酸化を阻止し35),遊離の鉄イオンが触媒するフェントン反応により発生するHO・や,一重項酸素などの生成の抑制も示唆されている.しかし,尿酸の抗酸化作用の報告はほとんどがinvitroの系であり,生体内でのinvivoの系としてはまだ見解が定まっていない.その大きな要因としては,尿酸はその生成段階で,フリーラジカルの一種のsuperoxideを産生してしまうため,単純に抗酸化物質として捉えることはできない.尿酸は,血液・尿・肝臓などに含まれる酸化プリンを尿酸に変化させる酸化酵素のキサンチンあたらしい眼科Vol.29,No.4,2012569 オキシダーゼによってヒポキサンチンやキサンチンから生成され,この過程で同時に産生されるsuperoxideや,さらにsuperoxideから派生した一重項酸素の過酸化反応により過酸化脂質の生成が認められており36),血清過酸化脂質量が多いほど血清尿酸値も高値を示すと報告されている34).水晶体では,鉄イオンだけでなく,同様に過酸化反応を進行させる銅イオンと白内障の混濁部位との関係が報告されており37),糖尿病者の白内障水晶体では,銅イオンの増加も報告されている38).銅イオンはグルタチオンと錯体を形成し,そのグルタチオンの銅錯体は糖尿病者の白内障水晶体からも検出されている39).遊離の銅イオンは,鉄イオンと同様に,HO・を生成するフェントン様反応やl-アスコルビン酸の酸化や脂質の過酸化反応を触媒するが,グルタチオンによる銅との錯体の形成でこれらの過酸化反応の進行が阻止され,尿酸による鉄イオンとの複合体形成による抗酸化作用と似ている.しかし,決定的に異なる点は,尿酸はその形成過程でsuperoxideが産生されてしまうが,還元型グルタチオンはそれ自体がsuperoxide消去物質の一種で,グルタチオン-銅錯体になるとさらに高いsuperoxide消去能をもつ強力な抗酸化剤である40)というところで,糖尿病白内障では還元型グルタチオンの低下も報告されている1,19).これらの報告から,尿酸は房水を介して,水晶体内で増加した鉄イオンに対処するため能動輸送,あるいは非能動的な流入が考えられるが,尿酸の形成過程でsuperoxideが産生され,そこから派生した一重項酸素などによりさらに過酸化反応が進行し,水晶体前.の過酸化物質総量と正の相関を示した可能性が考えられる.また,水晶体では尿酸だけでは増加した鉄イオンと複合体を形成しきれなくて遊離のFe3+が発生し,そのFe3+を介してl-アスコルビン酸の酸化や脂質の過酸化,フェントン反応によるHO・の発生や,一重項酸素の増加により,過酸化反応が脂質・核酸・蛋白質・ポリペプチドなど広範囲に進行した可能性も推察された.このことから,血液中の尿酸値と水晶体の過酸化物質総量が有意な相関を示したと考えられる.一方,血液中の尿酸がどのようにして血液を介さない水晶体に影響するかであるが,水晶体は,代謝維持のために物質を水晶体内で生合成するほかに,硝子体や房水の影響を強く受けている1).白内障ではなく,正常値群での検討であるが,尿酸の血漿中濃度は3.3.6.5mMで,房水中の濃度は4.1mMと報告されており41),正常時には,房水中の尿酸濃度は血漿濃度の範囲内にあるようである.また,正常者では房水中のグルコース濃度は血漿中の60.70%と報告されている41).しかし,房水は血液の影響を強く受けるため,種々の病的因子により血液成分が変動すると房水の組成も変化する42).血液網膜柵や血液房水柵が老化や炎症などにより破綻すると,硝子体,570あたらしい眼科Vol.29,No.4,2012房水への物質移動調整機構は崩壊し,糖尿病では血液房水柵が破綻していることが多く,房水中に移行しやすいとも報告されている38),非糖尿病でも過酸化反応が進行すると,oxidationにより血液房水柵が破綻する可能性が高いと考えられるため,今回,血液中の尿酸値が高値であった例では,同様に房水中の尿酸値も高くなっている可能性が高いと考えられる.一方,血液房水柵が破綻していない場合としては,房水内あるいは水晶体内での過酸化反応消去過程の一環として尿酸が関与し,眼外への排出過程として血液中に尿酸が排出されている可能性も考えられる.水晶体内で進行した過酸化反応の程度を反映して水晶体における過酸化物質の総量が増加し,その過酸化反応に対するフィードバック作用として,l-アスコルビン酸の酸化や脂質過酸化を抑制するためにFe3+の鉄イオンと複合体を形成する尿酸の水晶体中の濃度が増加し,鉄イオンと複合体を形成した尿酸を,房水-血液を介して体外へ排出するための過程として,血液中の尿酸の濃度が増加していることも考えられ,水晶体中の過酸化反応の程度と血液中の尿酸の関連性がみられた可能性も推察される.以上,水晶体での過酸化物質総量は,DM群,中性脂肪・尿酸の高値群で有意に高値で,中性脂肪・尿酸値と正の相関があり,DM32)や中性脂肪25)・尿酸36)の高い例では,全身的に過酸化反応が進行しているといわれているため,全身的な過酸化の状態と,水晶体前.における過酸化物質の変動は密接に関与していることを本研究にて新たに明らかにした.稿を終えるにあたり,本研究において御教示賜りました獨協医科大学越谷病院眼科門屋講司准教授,原眼科病院原岳先生,ローマ大学のEugenioLuigiIorio名誉教授に深謝致します.本論文の要旨は第49回日本白内障学会総会において報告した.文献1)小原喜隆:活性酵素・フリーラジカルと白内障.日眼会誌99:1303-1341,19952)TruscottRJ:Age-relatednuclearcataract-oxidationisthekey.ExpEyeRes80:709-725,20053)BosciaF,GrattaglianoI,VendemialeGetal:Proteinoxidationandlensopacityinhumans.InvestOphthalmolVisSci41:2461-2465,20004)門屋講司:酸化ストレスと水晶体混濁.あたらしい眼科15:631-634,19985)ObrosovaIG,FathallahL:Evaluationofanaldosereductaseinhibitoronlensmetabolism,ATPasesandantioxidativedefenseinstreptozotocin-diabeticrats:aninterventionstudy.Diabetologia43:1048-1055,20006)StefaniaM,RudolfIS,CraigAetal:Cataractformationinastrainofratsselectedforhighoxidativestress.ExpEyeRes79:595-612,2004(136) 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