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眼研究こぼれ話 28.偉大な学者たち ノーベル賞受賞者の中で

2012年5月31日 木曜日

●連載眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長偉大な学者たちノーベル賞受賞者の中でノーベル賞が,科学者の受ける最高の賞であることは,だれでも知っている.ところが,コロンビア大学のザッカーマン女史という社会学者が,2,3年前からノーベル賞歴史家として活躍し,ノーベル賞選考には,相当に疑わしい事柄がつきまとっていると言い出した.ストックホルムのノーベル委員会から優秀な医学生理学関係者を推薦するようにと書類をわれわれのところに持って来る.そうして世界中の学者たちから推薦された候補者を,委員会で審議して,受賞者を決定するらしいが,この第一段階の際,いろいろとキャンペーンが始まるらしい.私たちも,推薦協力の依頼状を受け取ることとなる.ザッカーマン女史は,この第一段階で,政治的策動が動いて,真実を曲げる可能性があることを指摘している.このような陰性的な話は止(よ)そう.反対に,私は身の回りにノーベル賞をもらった学者がたくさんいる環境で生活する幸福を味わって来た.ハーバード大学には十数人,このNIHには,23人の受賞者がいて,私はこれらの偉い学者に直接会ったり,話を聞いたりすることがしばしばあって,常に刺激を受けているのである.一流の学者はほとんど,肉体的にも健康であって,身の回りに,気持ちのいいふん囲気を持っている.そうして,高度に訓練されたバレーのダンサーとか,名優,またはオリンピックに活躍する体操選手のようなプロとしての美しさがある.夜遅く,駐車場でばったり出会ったりしたとき,彼らの深々としたまなざしにうっとりさせられたりしたことは再度でない.努力を重ねた後に,国際的に認められた(67)▲フロリダの学会にて(向かって右から二人目はノーベル賞受賞者のウォールド教授)ような偉い人々は,本当に偉いのである.また,このような超一流学者は,例外なく,たいへんな勉強家でもある.最高の頭脳を持っているだけでなく,寸陰を惜しんで専門とすることに全力を注いでいる.そうして,学問的な意見を述べるとき,ショーマンぶらなく,哲学的表現をしない.常に前向きの姿勢で,過去の自説を平気で更新し続けている.どの角度から見ても受賞が当然であるような人物であることが多い.このように名実共に偉い学者は数少ないが,私たちは,実に無数の学者たちに取り囲まれている.偉い学者でも,老化し始めるか,仕事に行き詰まってくると,えてして,哲学的表現で,自分の弱点をカモフラージュし始める.また,そのような人はショーマン風の衒(てら)いを始めてくる.そんなところが,ノーベル賞受賞者と一般学者との違いかもしれない.もちろん,ノーベル賞とは,関係のない技術員や,下級研究員のなかには,学者らしいいでたちをすることで,学問が出来たと思っている連中もいあたらしい眼科Vol.29,No.5,20126470910-1810/12/\100/頁/JCOPY 眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話る.仕事の上で認めてもらえない不満を,仕方なく挙動,服装にすりかえて,人々に存在を知らせようとするらしい.なかには,そのような格好をした先生が,集談会などで,アゴひげによだれを流して眠っていたりする.ところが,このような研究者はまだ良性とも言える.少なくとも,何かコツコツと仕事をしているから.レコグニション,つまりごほうびにありつけなかった研究者のなかには,悪質の不満分子となる人もいる.同僚,上司を万事につけて中傷し,ご本人の自滅ばかりでなく,たくさんの人々に巻き添えの無駄(.だ)を余儀無くさせている.学者と呼ばれる人々にも,上から下までいろいろとあることは,他の世界と全く同じである.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆648あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(68)

現場発,病院と患者のためのシステム 4.電子カルテのユーザーインターフェイス(その2)

2012年5月31日 木曜日

連載④現場発,病院と患者のためのシステム連載④現場発,病院と患者のためのシステム前回は,一般論として,ユーザーインターフェ電子カルテのユーザーインターフェイス(その2)イス(UI)の出来不出来が使い勝手を左右することを紹介しましたが,今回はBPR(BusinessProcessReengineering)とUIとの関係につ杉浦和史*き例を挙げて説明します..BPRを踏まえたユーザーインターフェイス(UI)BPRの解釈はいろいろありますが,簡単にいえば,過去の仕事のやり方の延長線上ではなく,本来どうあるべきかを踏まえた仕事の内容,手順を考えることです.前者は改善であり,後者は改革ともいえます.BPRをしないまま,つまり業務を見直さないまま今の仕事を写し取った機能と手順のシステムでは効果は期待できません.このBPRとUIとの関連につき,簡単な例で説明します.手術時には,必要に応じてカルテに記載されている情報を参照しますが,これは,情報のある媒体が紙から電子になった場合でも同様に必要なことです.最近の電子ペーパーのようにパラパラとめくって必要な情報を見つける機能がそれに相当すると思うのが一般的ですが,BPR的な発想はそうではありません.当該手術に必要な情報はなにかを調べます.その情報は,手術を迅速的確に進めるために必要十分なものでなければなりません.これを洗い出し,見やすくレイアウトして画面に表示させます.これによって,“どこかに”書いてある手術に必要な情報をパラパラとめくって捜す手間がいらなくなります.もちろん,想定外の情報を参照しなければならない場合もあり,それも簡単な操作でできるようにしておかなければならないのはいうまでもありません.いかにスムーズにパラパラめくるかに知恵を絞るのではなく,手術に必要な情報は何か,それを見やすく表示するにはどうすれば良いのかを考えるわけです.前者は職人的技術者の発想,後者はBPRを理解している技術者の発想で作られるUIといえます.診察,手術のみならず,多種多様な業務が相互に関連して動いている院内業務を電子的に処理するシステムは,このようにして作られなければなりませんが,そうではないのが現状です.問題もあります.それは,医師によって好みがあり見解が分かれることと,声の大きな医師や,ITに明るいといわれている医師の意見が反映されやすいということです.それによって局所最適に陥る場合もあります.一部分の最適化のために,他にしわ寄せが生じ,病院全体で評価した場合のスループット(処理能力)が,全体最適を考えて作られた場合のそれを下回ることがあり,注意を要します.一方,各層各位の意見をすべて反映することは難しく,誰もが納得するバラ色のUIは実現不可能です.では,どうすればいいのでしょう.UIに関する確固たるコンセプトをもち,出された要望の採否をこのコンセプトに照らして決める,当院ではこの方法を採っています.もっとも,コンセプトなどという大げさなものではなく,①クリック回数が少ない,②ボタンの数が少ない,③作業実態にあった画面レイアウトと遷移,④簡潔なガイド,メッセージ,⑤手,指,腕,目の動きが少ないこと,これだけです.色,ボタンの形,全体の配色,見た目のスッキリ感も,親しみをもってもらうには必要なことですが,これはその方面の専門家に任せるしかありません.当院では日経コンピュータの情報システム大賞を受賞したM-Magicという予約業務を主体とする院内リソースマネジメントシステムがあります.手作り感満載で実用一点張りといわれているこのシステムですが,UI設計の基本は,BPR後,現場の作業実態を踏まえることなので,それは実現されています.見た目のブラッシュアップは,その次.時間的,予算的に余裕ができたら,それを専門とするデザイナーに任せます.*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO(65)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126450910-1810/12/\100/頁/JCOPY (a)作業が変わる毎にメニューに戻って作業名を指定するメニュー●業務A○業務B○業務Cメニュー●作業1○作業2○作業3作業1画面メニュー○作業1●作業2○作業3作業2画面メニュー○作業1○作業2●作業3作業3画面(b)業務Aを選んだらメニューに戻らず,連続して処理するメニュー●業務A○業務B○業務C作業1画面作業2画面作業3画面図1画面遷移の方法.UI考察の例実際にどのように考えて作るのかを,当院の場合で紹介します.1.連続性のある作業の画面遷移の配慮・業務Aが作業1,2,3で構成されている・作業1,2,3はその順番に処理される・作業1,2,3を同じ画面にはしない(画面に複数の機能を入れることになり,煩雑,見にくくなる)・画面は作業単位に分ける以上の条件で画面遷移を考えると,図1のように2通りになります.どのような遷移にするかは,業務の性格を理解し,現場の作業実態を観察して決めますが,一般的には(a)は使い勝手の良いUIとはいえません.しかし,このようなケースをよく見かけます.それは,十分なBPRを行わず,使う場面を想定せず,一般論で作るからではないかと思われます.通常,(b)ですが,画面遷移のためにどこかをクリックするのではなく,今やっている作業の終了あるいは区切りをトリガーにすると,思考を中断することなく,流れるように作業が続きます.もちろん,分岐が発生し,遷移先画面が異なることがあります.このような場合でも,分岐条件をシステムが判定し,人が介在することなく,適切な画面に自動的に移れるようになっていると,操作ミスがなく,ストレスを感じることもなく作業することができます.2.実態を反映した操作負荷軽減当院では,現在,院内の業務すべてを対象にしたシステム化プロジェクトが進行中です.BPRを行いつつ,UIの設計に気をつけていますが,対光反応検査を例に,操作の負荷(手間)を少なくするために工夫したことを紹介します.表1対光反応検査眼反応右左直接++++間接++++この検査は,正常な場合,表1に示すように,直接,間接,左右眼が同じ反応を示すという傾向があるようです.正常な場合のほうが多いという当院の実績を踏まえた入力方法を検討し,ほとんどの場合で操作回数を減らすことができる仕様にしました.結果を入力する枠を画面上に用意すれば良いという発想ではなく,このようにシステムに載せる対象業務の特徴を観察し,それを踏まえたUIにすることで操作性能を上げることができます.☆☆☆646あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(66)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 108.陳旧性黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2012年5月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載108108陳旧性黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●陳旧性黄斑円孔の臨床的特徴発症後の経過が長い特発性黄斑円孔では,黄斑円孔径が大きくなっているだけではなく,fluidcuffが消失あるいは縮小していることが多い.また,黄斑円孔底の網膜色素上皮の色調にムラがあったり,光干渉断層計(OCT)で色素上皮が硝子体腔に向かって顆粒状に増殖している症例も発症後の経過が長い可能性がある.このような症例では,黄斑円孔縁の網膜の伸展性が極端に低下していることがある.●陳旧性黄斑円孔に対する硝子体手術時の工夫通常,特発性黄斑円孔の硝子体手術時に黄斑円孔周囲の内境界膜.離を施行すると,黄斑円孔縁の網膜の伸展性が回復し,バックフラッシュニードルの吸引のみで黄斑円孔縁が求心的に引き寄せられる.しかし,黄斑円孔縁の網膜の伸展性が極端に低下している陳旧例では上記の操作で黄斑円孔径は縮小しないことが多い(図1).もともとの黄斑円孔径が大きいと,そのまま液-空気置換を施行して伏臥位を保持しても黄斑円孔の閉鎖が得られないこともある.このような症例に対して筆者はバックフラッシュニードルを用いて,黄斑円孔縁の網膜を求心的に牽引し,黄斑円孔径をできるだけ小さくしたうえで液-空気置換を施行する方法をとっている.●本操作の注意点黄斑円孔縁を求心的に牽引する際の注意点としては,過度の牽引あるいは圧迫により黄斑円孔縁の網膜および網膜色素上皮を損傷しないことである.本操作時には,必ず拡大レンズを用いて十分な視認性を確保し,灌流圧を下げて,低い吸引圧でゆっくりと黄斑円孔縁の網膜を中央部に向かって牽引する(図2).灌流圧が高いと黄斑円孔縁の網膜を吸引してしまうこともあるので注意が必要である.ダイアモンドダストイレイサーを使用することもあるが,黄斑円孔縁の網膜を過度に牽引して損傷しないように心がける.ある程度黄斑円孔縁の網膜がほぐされたような状態になれば,黄斑円孔径が灌流下でも小さくなる(図3).その時点で静かに液-空気置換を行う.図1術中所見(1)黄斑円孔縁の網膜の伸展性が極端に低下している陳旧例では,内境界膜.離施行後にバックフラッシュニードルで吸引しても黄斑円孔径が縮小しないことが多い.図2術中所見(2)低い吸引圧でゆっくりと黄斑円孔縁の網膜を中央部に向かって牽引する.図3術中所見(3)ある程度黄斑円孔縁の網膜がほぐされたような状態になれば,黄斑円孔径が灌流下でも小さくなる.(63)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126430910-1810/12/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 137.委縮型加齢黄斑変性の原因解明と治療の可能性

2012年5月31日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第137回◆眼科医のための先端医療山下英俊萎縮型加齢黄斑変性の原因解明と治療の可能性兼子裕規(市立四日市病院/名古屋大学医学部眼科)はじめに本誌を読まれている多くの先生方がご存知のとおり,加齢黄斑変性は先進国におけるおもな失明原因の一つです1).加齢黄斑変性には大きく分けて滲出型と萎縮型があります.滲出型加齢黄斑変性のおもな原因は脈絡膜新生血管で,現在光線力学的療法(PDT)や抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内投与が一定の治療効果を示しています.一方,萎縮型加齢黄斑変性はおもに網膜色素上皮細胞の萎縮が主体で,根本的な治療法がないのが現状です2).なぜ網膜色素上皮が萎縮していくか,という根本的な原因がはっきりしていません.今回紹介する内容は,この萎縮型加齢黄斑変性の原因解明とそこから考えられる治療法の可能性についての話です.DICER1の発現低下アメリカ合衆国ケンタッキー大学のJayakrishnaAmbati医師らのグループは,萎縮型加齢黄斑変性の原因を追求する目的で,同疾患患者の網膜色素上皮細胞におけるさまざまな蛋白質・メッセンジャーRNA(mRNA)の発現レベルを調べました.その結果,DICER1という酵素の発現が患者の網膜色素上皮細胞において減少していることを発見しました3).このDICER1はmicroRNA(miRNA)の生成に重要な酵素として知られており,当初Ambati医師らはmiRNAの異常があるのではないかと推測しました.しかし,患者の網膜色素上皮細胞におけるmiRNA発現には明らかな異常がありませんでした.また,miRNAは発生の段階から生物にとって欠かすことのできない要素であることが明らかにされていたので4),眼球が完全に成長しきった後から発症する加齢黄斑変性の原因としてmiRNAの減少を考えるのには矛盾が生じました.(61)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1萎縮型加齢黄斑変性のメカニズム….DICER1……Alu…………萎縮型加齢黄斑変性で蓄積する謎のRNAそこでつぎに,萎縮型加齢黄斑変性の網膜色素上皮細胞中にどのようなRNAが存在するかを調べました.RNAに結合する抗体を用いて,萎縮型加齢黄斑変性患者の網膜色素上皮からRNAを抽出しその塩基配列を調べたのです.その結果,AluとよばれるRNAが患者の網膜色素上皮細胞に大量に存在することがわかりました.一方,このRNAは眼疾患をもたない正常な網膜色素上皮細胞からはまったく検出されませんでした.これまでAluは機能が不明ないわゆる“RNAのゴミ”といわれていましたが,このAluをマウスの網膜下に注射したところ,網膜色素上皮が急激に死んでいくことが実験で確かめられ,初めてAlu自体が網膜色素上皮細胞に悪い影響を及ぼすことが示されました.DICER1はAluの蓄積を予防していた興味深いことにこのAluはDICER1によって小さく分解されることが実験で初めて確認されました.さらに,DICER1によって分解された小さなRNAを網膜下に注射しても,網膜色素上皮は変性しませんでした.以上のことから,萎縮型加齢黄斑変性の原因は加齢によって網膜色素上皮細胞内のDICER1が減少することから始まり,それによって分解されずに残ったAluという大量のRNAのゴミが網膜色素上皮細胞内にたまって,そのAlu自体の毒性によって網膜色素上皮細胞が変性していくというシナリオが確認されました.萎縮型加齢黄斑変性の治療への応用これらの発見は非常に価値のあるもので,萎縮型加齢黄斑変性の発症メカニズムを解明する大きな手掛かりとなりました.それと同時に,網膜色素上皮細胞内のDICER1の発現を低下させない,もしくは補うことによあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012641 ってAluの貯留を予防し,網膜色素上皮細胞の変性を予防できる可能性が示されたのです.今まで有効な治療法がなかった萎縮型加齢黄斑変性の患者にとっては,これは一筋の光明を与えるものになったといえるでしょう.今後DICER1とAluRNAの研究がさらに進むことで,萎縮型加齢黄斑変性で社会的失明に至る患者がいなくなる日もそう遠くないかもしれません.文献1)JagerRD,MielerWF,MillerJW:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed358:2606-2617,20082)AmbatiJ,AmbatiBK,YooSHetal:Age-relatedmaculardegeneration:etiology,pathogenesis,andtherapeuticstrategies.SurvOphthalmol48:257-293,20033)KanekoH,DridiS,TaralloVetal:DICER1deficitinducesAluRNAtoxicityinage-relatedmaculardegeneration.Nature471:325-330,20114)KrolJ,LoedigeI,FilipowiczW:ThewidespreadregulationofmicroRNAbiogenesis,functionanddecay.NatRevGenet11:597-610,2010■「萎縮型加齢黄斑変性の原因解明と治療の可能性」を読んで■今回はわれわれ眼科医が頻繁に遭遇するがなかなかな疾患で臨床に即した研究から原因を突き止めた今回治療のきっかけをつかめないでいる萎縮型加齢黄斑変の成功は,今後の研究のモデルケースにもなる研究成性の病態について,最先端の知見を兼子裕規先生にわ果として歴史に残るものかもしれません.かりやすく解説していただきました.萎縮型加齢黄斑長期にわたり徐々に病状が変化していく加齢に伴う変性の原因は,加齢によって網膜色素上皮細胞内で疾患の研究では,今回のように患者についての研究とAluという大量のRNAのゴミ処理ができなくなって,並行して,正常なpopulationとの比較がきわめて有網膜色素上皮細胞内に蓄積し,Alu自体の毒性によっ効な研究手法となりえます.疾患のデータは病院を広て網膜色素上皮細胞が変性していくというシナリオがく連合することで集積ができますが,正常なpopula明解に示されています.分子病態が解明されると,原tionのデータ集積は困難が伴うことがしばしばです.因となる分子をターゲットにした新しい治療法が開発アメリカ,イギリスなどでは患者のデータを蓄積するされる可能性が出てきます.興味深いのはJayakrish-だけでなく,大規模なコホート研究が行われ,多くのnaAmbati教授のグループが体系的,網羅的に萎縮正常人をきちんと経過観察するシステムをもっていま型加齢黄斑変性の網膜色素上皮細胞中にどのようなす.もちろん,これは地域の医療のレベルを上げて地RNAが存在するかを調べ上げた結果として分子病態域の住民の医療に貢献しつつ行われるコホート研究でにまで到達したという研究方法です.多くの因子が関す.日本でもこのような大規模なコホートを構築して連する可能性のある加齢に伴う疾患の病態解明の研究いくことは,地域医療のレベルアップのためにも大変手法,戦略的アプローチはまだまだ開発途上です.そ重要なことと考えます.のなかで,動物モデルを作製することがきわめて困難山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆642あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(62)

緑内障:眼内房水動態:圧感受性排出と圧不感性排出

2012年5月31日 木曜日

●連載143緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也143.眼内房水動態:千原悦夫京都府宇治市・千原眼科圧感受性排出と圧不感性排出眼房水の産生には概日リズムがあり,排出は眼圧に左右されず一定の排出を維持するぶどう膜強膜流出路と,眼圧に比例して増えるSchlemm管系流出路がある.正常眼において低眼圧(夜間)では前者が,高眼圧(日中)では後者が優位になるが,抗緑内障薬はそれぞれ作用点が異なるために薬効に差異が出現する.●房水産生機構緑内障の治療において眼圧は重要な指標であり,その値は眼内に分泌される眼房水と眼外に排出される房水量のバランスで決まる.眼房水は腎臓の近位尿細管に類似した機能をもつ毛様体によって血液からつくられ,角膜,水晶体,硝子体などの無血管組織に糖,アミノ酸や酸素を供給するとともに乳酸,ピルビン酸,炭酸ガスなどの老廃物を清掃する役割を果たしているが,もう一つの重要な役割は眼球に一定の内圧を加え,眼球の虚脱を防ぐことである.また,房水はアスコルビン酸の濃度が高く,線維柱帯内のグルコースアミノグリカンがゲル化したりゾル化したりする均衡に関与している.眼房水は限外濾過,拡散,能動輸送の3つの機序によって産生されるが,pseudo-facilityが認められないことから能動輸送の役割が最も大きいと考えられている.ヒトの24時間の平均房水流量は2.3μl/分であるが,これには概日リズムがあり,最大は朝8.12時の2.91±0.71μl/分であり,正午から午後16時までは2.66±0.58μl/分で夜中の0時から朝6時までは1.23±0.41μl/分と日中の半分以下に落ちる.この房水産生に男女差はないが,年齢とともに低下し10年で約3.2%低下する1).房水の産生量はb遮断薬によって2.51μl/分から1.92μl/分へと落ちるが,この効果は夜間には得られない1).●房水排出機構これに対して房水排出機構はおもなものが2つあり,いずれも隅角に存在する(図1).一つは眼内圧の水準によって多大な影響を受けるSchlemm管系排出路であり,もう一つは眼内圧の影響を受けにくいぶどう膜強膜路系排出である.この2大ルートのほかに虹彩などの血管か(59)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY図1隅角の組織図眼球前部では隅角底で上皮が欠損しており,体積流がぶどう膜強膜流に重要な役割を果たす.また,Schlemm管(S)の上皮はgiantvacuoleを形成し,受動的に房水を流す機能がある.ら吸収される房水や網膜色素上皮が能動的に網膜下液を排出していることによる若干の陰圧などが作用しており,これは全体の房水排出量の5.10%を占めると考えられている.●Schlemm管系の房水排出毛様体で産生された房水は隅角から線維柱帯ぶどう膜部,強角膜線維柱帯,傍管組織を通過してSchlemm管に入り集合管から房水静脈を経て体循環に戻る.ここでSchlemm管の内壁ではエネルギーを必要としないgiantvacuoleの形成があり,これがSchlemm管腔に向かってはじける形で房水がSchlemm管内に移行する.この房水排出系は眼圧が房水静脈圧に到達するまでは働かず,その後は眼圧水準に比例してほぼ線形に増加するが,房水流出率は一定ではなく,眼圧が1mmHg上がるにつれて1.2%ずつ低下する2).しかし,臨床で遭遇する眼圧水準では大きなずれはないのでおおよそ0.3あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012639 μl/min/mmHgと考えて差し支えない.●ぶどう膜強膜流出路この経路は虹彩根部の疎な組織間を通して毛様体上腔.実質細胞間隙にゆくもので,房水はここで毛様体の組織液と混じり強膜のコラーゲン線維間,神経周囲,血管周囲などを通って上強膜に抜けるので他の器官におけるリンパ管のような役割をしている.このルートの機能が圧不感性である理由は,眼内圧が上がれば毛様体内の圧力も上がるので(pseudo-facility),前房内圧と毛様体内組織圧の差は変わらないためとされている.眼圧に対する反応は0.01.0.02μl/分/mmHgとSchlemm管系の30分の1程度である3).サルの実験データに基づいてぶどう膜強膜流出路とSchlemm管系の房水排出量と眼圧の関係を示したのが図2である.眼圧は房水産生量と房水流出量が一致するところにおちつく.このモデル眼で午前中の房水産生量2.91μlに相当する眼圧は14.55mmHgであり,房水排出に占めるぶどう膜強膜流出路の割合は32.4%になる.ところが夜になって房水産生量が1.23μlに落ちるとバ:ぶどう膜強膜流:経Schlemm管流5:虹彩・色素上皮排出:全排出量4.543.5分)l/32.5(μ量2出1.5房水排10.50眼圧(mmHg)図2サルモデル眼における房水排出量と眼圧水準ぶどう膜強膜流は圧不感性で,4mmHgで0.6μl/分に達した後,ほとんど増えない.しかし,Schlemm管系の房水排出は圧感受性で房水静脈圧を超えてからは眼圧にほぼ比例して房水排出が増える.その他に虹彩血管からの吸収と網膜色素上皮のポンプ作用による若干の房水排出がある.正常な個体の房水産生は概日リズムがあり2.91(青実線).1.23(オレンジ実線)μl/分の間で変動するので,この図に示すようなモデルでは日中眼圧が9.1(オレンジ破線).14.5(青破線)mmHgの間で変動することになる.036912151821242730ランスが取れる眼圧は9.13mmHgになり,房水排出に占めるぶどう膜強膜流出路の割合は72.4%になる.この相関図からわかるように,房水排出を分担するぶどう膜強膜流出路とSchlemm管流出路の比率は房水産生量によって変わる.ただ,ぶどう膜強膜流出量については動物による差が知られており,イヌ,サル,ネコでは0.3.1.0μl/分,ヒトでは0.2μl/分程度といわれている4).●薬物の影響毛様筋は強膜岬と線維柱帯につながっており,また虹彩は毛様筋および線維柱帯のぶどう膜網とつながっている.ここに作用する薬剤の代表はコリン作動薬であり,毛様体筋収縮はSchlemm管系の房水排出を促進するが,組織間隙を狭めるのでぶどう膜強膜流出路の機能を落とす.ただし,ムスカリン受容体のサブタイプ(M2,M3)のうちM2が毛様体縦走筋により多く分布するといった密度差があり,これが複雑な反応を生み出す.現在開発が進められているROCK阻害薬のおもな作用部位もここであるが作用機序は異なる.プロスタグランジン製剤は細胞間隙の物質を溶かす作用がありぶどう膜強膜流を約2.2倍にするが,Schlemm管系にも作用するといわれ,特に濃度の高いイソプロピルウノプロストンはここに作用する割合が高い.これに対しb遮断薬や炭酸脱水酵素阻害薬は毛様体からの房水産生を落とす.高眼圧緑内障では,どこが強く障害されているかによって薬物の効き方に違いが出てくることを理解して処方する必要がある.文献1)BrubakerRF:Flowofaqueoushumorinhumans.InvestOphthalmolVisSci32:3145-3166,19912)BrubakerRF:Theeffectofintraocularpressureonconventionaloutflowresistanceintheenucleatedhumaneye.InvestOphthalmol14:286-292,19753)BillA:Conventionalanduveoscleraldrainageofaqueoushumourinthecynomolgusmonkeyatnormalandhighintraocularpressure.ExpEyeRes5:45-54,19664)BillA:Uveoscleraldrainageofaqueoushumorinhumaneyes.ExpEyeRes12:275,1971☆☆☆640あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(60)

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼に生じた裂孔原性網膜剥離

2012年5月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載144大橋裕一坪田一男144.後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼に生じた山村陽バプテスト眼科クリニック裂孔原性網膜.離後房型有水晶体眼内レンズであるICLTM挿入眼に生じた裂孔原性網膜.離に対し,ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術を施行した.術中,ICLTMの形状により網膜周辺部の視認性は低下していたが網膜は復位し,術後約2年以上経過した現在までの経過は良好である.術式の選択を慎重に行う必要はあるが,同手術は有用な治療法の一つと考えられる.後房型有水晶体眼内レンズであるICLTM(implantablecollamerlens:STAARSurgical社)は,2010年2月にわが国で唯一承認を受けた有水晶体眼内レンズであり,LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術が不適応の強度近視眼のみならず,軽度の円錐角膜眼への応用や偽水晶体眼へのピギーバックとしての応用も報告されている.さらに2011年11月には乱視矯正用のICLTMも認可され,ICLTM挿入術は有用な眼内屈折矯正手術として今後も症例数の増加が予想される.しかし,日本眼科学会による屈折矯正手術のガイドライン1)では,術後の経過観察について以下の術後合併症に留意しなければならないと記載されている.すなわち,①術後感染性眼内炎,②ハロー・グレア,③角膜内皮障害,④術後一過性眼圧上昇およびステロイド緑内障,⑤白内障,⑥閉塞隅角緑内障,⑦網膜.離,⑧近視性脈絡網膜萎縮,⑨虹彩切開あるいは虹彩切除による光視症である.本稿では,ICLTM挿入眼に生じた裂孔原性網膜.離に対し,ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術図1術前眼底写真左眼底耳側深部に硝子体出血を伴うスリット状の巨大裂孔を認め,黄斑を含まない約1象限の網膜が.離していた.を施行した症例を経験したので紹介したい2).●症例患者:43歳,男性.現病歴:2008年3月,網膜周辺部に明らかな変性巣がない両眼の強度近視に対し,ICLTM挿入術を当院にて施行し術後経過は良好であったが,9カ月後に左眼の霧視を自覚し受診となる.再診時所見:視力は右眼1.0(n.c.),左眼1.2(n.c.)眼圧は右眼14mmHg,左眼13mmHg,角膜内皮細胞(,)密度はそれぞれ2,551/mm2,2,833/mm2であった.前眼部,中間透光体に異常はなく,ICLTMの位置も特に問題はみられなかった.左眼の耳側深部に硝子体出血を伴うスリット状の巨大な網膜裂孔を認め,黄斑を含まない約1象限の網膜が.離していた(図1).手術:網膜周辺部に明らかな変性巣のない深部裂孔であり,水晶体の混濁はなかったため,ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術を選択し,通常の観察システム下で型通りに手術を施行した.ICLTMと水晶体接触の危険性を抑えるため,強膜の圧迫操作は最低限にと(57)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126370910-1810/12/\100/頁/JCOPY 光学部径全長エッジ光学部フットプレート光学部径全長エッジ光学部フットプレート図3ICLTMの形状矯正度数によって光学部径(4.65,5.00,5.25,5.50mm)は異なり,角膜横径に応じて全長(11.5,12.0,12.5,13.0mm)は選択される.どめた.術中の視認性について後極部は問題なかったが,周辺部はICLTMの形状による影響を受け著明に低下していた.具体的には,光学部とエッジと水晶体それぞれの境界部分では硝子体カッターの先端が多重に見えるなどの現象を経験した(図2).術後経過:術後約2年以上経過した現在も網膜は復位しており,視力1.0(1.2×cyl.0.5DAx180°)で,明らかな白内障の進行や角膜内皮細胞密度(2,618/mm2)の減少およびICLTMの位置異常も認めていない.当院では,2006年11月から2011年12月までの期間に110眼の症例に対し,ICLTM挿入術を施行してきたが,現在までに網膜.離を生じたのは本症例のみである(発症率約0.9%).Martinez-Castilloら3)の771眼で検討した報告によると,術後約5年の経過では2.07%の割合で網膜.離が発症し,時期は平均29.12カ月で,選択した術式は強膜バックリング術が62.5%,ICLTMと水晶体を温存した硝子体手術が31.25%であったとしている.発症原因と638あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012abc図2術中の眼底視認性ICLTMの光学部,エッジと水晶体それぞれの境界部分では,硝子体カッターの先端が多重に見えるなど周辺部の視認性は低下していた(a,b).後極部の視認性については問題なかった(c).して,硝子体基底部前後の硝子体に働く牽引力の関与や毛様体との物理的な接触による炎症の関与などが指摘されている4,5).術中の視認性を低下させる要因としてICLTMの形状が考えられる.ICLTMの矯正範囲は.3.0..23.0D(等価球面度数では.1.75..19.0D)と広いが,矯正度数によって光学部径(4.65,5.00,5.25,5.50mm)が異なり,矯正度数が大きいほど光学部径は小さくなる.さらに,光学部周囲にはエッジとよばれる長方形様の形状をしたプレート構造があり,角膜横径に応じて全長(11.5,12.0,12.5,13.0mm)が選択される(図3).ICLTMと水晶体を温存した25ゲージ硝子体手術は,術中の網膜周辺部の視認性低下や術後の核白内障進行や角膜内皮細胞密度減少の問題はあるが,適切に症例を選択すれば有用な治療法の一つであると考えられる.文献1)屈折矯正手術のガイドライン─日本眼科学会屈折矯正手術に関する委員会答申─.日眼会誌114:692-694,20102)山村陽,稗田牧,木下茂:後房型有水晶体眼内レンズ挿入眼に生じた裂孔原性網膜.離の1例.眼科手術24:333-337,20113)Ruiz-MorenoJM,MonteroJA,delaVegaCetal:Retinaldetachmentinmyopiceyesafterphakicintraocularlensimplantation.JRefractSurg22:247-252,20064)PanozzoG,ParoliniB:Relationshipsbetweenvitreoretinalandrefractivesurgery.Ophthalmology108:1663-1668,20015)RizzoS,BeltingC,Genovesi-EbertF:Twocasesofgiantretinaltearafterimplantationofaphakicintraocularlens.Retina23:411-413,2003(58)

眼内レンズ:灌流つきトーリック眼内レンズマニピュレーター

2012年5月31日 木曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎309.灌流つきトーリック眼内レンズ根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科マニピュレータートーリック眼内レンズ(IOL)の回旋を,粘弾性物質除去後,灌流液下で行うために工夫された灌流つきトーリックIOLマニピュレーター(Duckworth&Kent社)を紹介する.通常の皮質および粘弾性物質吸引の条件下でサイドポートまたは超音波創口から挿入して十分な灌流量を確保しつつ利き手で操作が可能である.粘弾性物質除去後のトーリックIOL軸合わせに有用である.白内障手術時の乱視矯正法として,トーリック眼内レンズ(intoraocularlens:IOL)は安全性および有効性が高い方法として定着しつつある.トーリック眼内レンズによる乱視矯正精度向上のための重要なポイントとしては,①正確な生体計測,②正確な乱視軸の術前マーキング,③正確なIOLの軸固定(術前マーキングとIOLの軸マークの一致)があげられる.正確なIOLの軸固定は,IOL挿入後,Purkinje-Sanson像を利用して眼球が正位であることを確認しながらIOLを回旋して,マーキングとIOLの軸マークを合わせる.安全に眼内レンズを回旋し,位置合わせを行うためには粘弾性物質下で前房を保ちながら行うべきであるが,粘弾性物質下でIOLの位置を正確に固定しても,IOL裏(後.との間)の粘弾性物質を除去する際にIOLが回旋し,固定軸とのずれの原因となることがある.一方,IOLを挿入し,先に粘弾性物質を除去してからIOLを回旋するには,I/A(irrigationandaspiration)チップで前房内を灌流しながらIOLを回旋する(図1)か,片手で灌流しながら片手でフックなどによってIOLを回旋する(図2)ことが必要であり,前者では創口にやや負担がかかる可能性があり,後者では利き手以外でフックを行う場合,操作が煩雑で初心者には困難な場合もある.Kazuno灌流つきトーリックIOLマニピュレーター(Duckworth&Kent社)(図3)は,トーリックIOLの回旋を粘弾性物質除去後,灌流液下で行う際に工夫された器具で,サイドポートまたは,超音波創口より挿入し,利き手でIOL回旋が可能な器具である.先端は20ゲージ(外径0.7mm),鈍で,長さが0.8mmあり,灌流口は下向きで灌流口の長径は0.9mmである.この器具で,切開幅1.4.2.8mmにて通常の皮質および粘弾性物質吸引の条件(例:ペリスタルティックポンプでボトル高65cm,吸引圧160mmHg)で十分な灌流量を確保でき,粘弾性物質除去後でも.内の眼内レンズの回旋が可能であることは確認されている(図4).本器具の特長は以下のとおりである.・利き手のみで操作が可能であり,熟練者でなくても灌流下でのIOL回旋が可能.…………………………………………図1I/AチップによるIOL回旋操作図2フックによるIOL回旋操作図3Kazuno灌流つきトーリックIOLマニピュ回旋の際に創口に負担がかかることがあ利き手で操作できない場合,初心者にはレーター(Duckworth&Kent社)(a)とそる.やや煩雑.の先端形状(b)(55)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126350910-1810/12/\100/頁/JCOPY 図4Kazuno灌流つきトーリックIOLマニピュレーターによるIOL回旋操作(2.2mm1面切開)・灌流が前下方に向いているため,前房を保ちながら,.を後方に押し下げZinn小帯を適度に伸展させ,粘弾性物質なしにIOL回旋が可能.・粘弾性物質の使用なしにIOLの位置調整が可能であるため,余分なコストが省ける.・主創部,サイドポートのどちらからも使用可能.・下向きに大きな灌流口があることから操作中の十分な前房保持が可能である(図3).・器具の全曲面は滑らかで,創からのスムーズな出し入れが可能である(図3).・先端は粗面で,先端をIOL光学部に押し当ててもすべらないので,光学部保持によるIOL回旋も可能である(図3,4).一方,灌流下でIOL回旋が可能であるといっても,以下のような症例では,Zinn小帯断裂の危険があるため,使用すべきではない.・トーリックIOL挿入術後眼の回旋ずれに対する軸再調整(.収縮・癒着がすでにある場合).・Zinn小帯脆弱例.トーリック眼内レンズを回旋する際は,状況に合わせて最も安全な手段を選択すべきであり,本器具は選択肢の一つとなりうると考えられる.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ装用指導の実際(1)

2012年5月31日 木曜日

コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】335.コンタクトレンズ装用指導の実際(1)ハードコンタクトレンズ(HCL)を処方された患者が,合併症を起こすことなく快適にHCLの装用を続けるためには,適正な処方が必要であることは,コンタクトレンズ(CL)の処方をする者であれば誰でも理解していることである.しかし,それとともにHCLの使用を開始する前に,患者が医療従事者から適切な装用指導を受けることの重要性は,あまり認識されていなのが現状であろうと思われる.そこで本稿では,HCL処方後に医療施設で行う基本的な装用指導の実際について,「装用指導前の準備と装脱練習前の準備」,「装脱練習」,「レンズのケア」の3回に分けて解説する.●装用指導前の準備装用指導は医療従事者と患者とのコミュニケーションを十分に取ることができて,患者が理解,装脱練習に専念できるように,個別に日時を予約して行うことが望ましい.時間を決めずに長時間の指導を漫然と行うことは,かえって患者の集中の妨げになるため,筆者のクリニックでは装用指導に1時間の制限時間を設けている.時間内に装脱の仕方を習得できそうにない場合でも練習を急がせず,再度予約を取って装用指導を行っている.装用指導前の準備として,装用指導を予定した日までHCLに添付されているCLメーカーのレンズとケア用品の取り扱い説明書を患者に読んできてもらい,装用指導全体の流れと大まかな内容をあらかじめ把握しておいてもらう(図1).この準備によって,患者のモチベーションは高まり,装用指導の説明を理解しやすく,疑問や質問も出やすくなる.さらに限られた時間内で装脱練習を完了できる患者が多くなる.CLの使用が初めての患者への装用指導では,HCLの使用にかかわる基本的なことを順序立てて型通りに説明してから装脱指導をするので,どの患者の場合でも指導内容に違いはなく問題は少ない.しかし,HCLの使用経験者では,患者が自己流の誤ったレンズの使用方法,装脱方法,レンズケアの方法を身に着けていたり,間違(53)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY塩谷浩しおや眼科図1コンタクトレンズとケア用品の取り扱い説明書患者が取り扱い説明書をあらかじめ読むことで装用指導が円滑に進む.った理解をしていたり,指導を受けた内容を忘れてしまっていたりすることがある.たとえば,一日の最長装用時間を意識せずに使用する,短時間あるいは夜間就寝時間に装用したまま睡眠する,レンズをはずさずに球結膜にずらして睡眠する,手を十分に洗わない,口に入れて唾液で濡らす,HCL専用のクリーナや保存液を使用しない,水道水中で保存する,定期検査を受けない,などの患者が実際にいる.そこでHCLの使用経験者では患者がどこまで正しく理解しているのか聴き取ってから基本的なことをもれなく説明し,指導を開始することが必要となる.●装脱練習前の準備装脱練習前の準備として,まずは使用するHCLについて患者に説明する.患者が購入して持参したレンズの規格(処方データ)を確認し,左右の区別の仕方を理解してもらう.ケースからレンズを出して,実際のレンズに異常がないかどうかの確認のポイント(変色,変形,きず,欠け,ひび割れのチェック)を説明する(図2).ここで安全に快適に装用するためには装用前に毎回レンあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012633 図2ハードコンタクトレンズの確認装用前にレンズの変色,変形,きず,欠け,ひび割れのチェックを行う.図3凹面鏡の準備遠視や強度の混合乱視の患者,老視の症状の出現した中高年の患者で,近方視が不良となる可能性のある場合には装脱時に凹面鏡を使用する.ズの状態を確認することの必要性を認識してもらう.つぎに,装脱を円滑に進めるために必要となる道具と準備について説明する.装脱には患者自身の眼を映す鏡が必要である.通常の患者では洗面台の鏡やテーブルに立てることのできる平面鏡を準備すれば十分であるが,遠視や強度の混合乱視の患者,さらに老視の症状の出現した中高年の患者(片眼に遠用の単焦点HCLを装着す図4レンズ流失防止マットの準備レンズの排水口からの流出防止のためにレンズ流失防止マットを使用する.ると近方視が不良となる患者)では拡大率3.5倍程度の凹面鏡を準備することを説明する(図3).凹面鏡は顔を焦点距離内に近づけると眼が拡大して見えるため,近方視が不良となる可能性のある場合には有用である.その使用方法を説明するとともに,自分用に準備することを薦める.また,レンズのずれやトラブル時にすぐに対応できるようにHCLの購入時の備品にあるコンパクトケースの他に携帯型の凹面鏡があると便利であることも説明する.最後に装脱前に以下のことを準備して装脱練習に入る.1)手の指の爪を短く切る,2)前髪が長い場合はヘアピンやヘアバンドで留める,3)水道水によるレンズの流出防止のため洗面台の排水口の栓を閉じるか,市販されているレンズ流失防止マットを使用する(図4),4)レンズが落下しても紛失しにくい体制をとる(タオルなどを敷く),5)石けんなどを使って手指の汚れと脂を洗浄する,6)手指の洗浄後に指先に繊維が付着するのを防止するため,布のタオルではなくてペーパータオルで手指の水分を除去する.☆☆☆634あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(54)

写真:水泡性角膜症の上皮下線線維性組織形成

2012年5月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦336.水疱性角膜症の上皮下線維性組織形成森重直行山口大学大学院医学系研究科眼科学①②図2図1のシェーマ①:瘢痕病変.②:涙液反射から表面が不整であることがわかる.図1Fuchs角膜内皮ジストロフィを原因とする水疱性角膜症(63歳,女性)角膜全体の実質浮腫は顕著ではないが,角膜中央部に実質浮腫が存在し,同部位に淡い実質混濁を認める.図3分娩時外傷を原因とする水疱性角膜症(49歳,男性)スリット光で実質浅層に混濁が存在しているのがわかる.図4水疱性角膜症の病理組織写真(ヘマトキシリン-エオジン染色)角膜上皮層とBowman膜との間に細胞成分を含む異常組織の形成を認める(矢印).Bar=20μm.(51)あたらしい眼科Vol.29,No.5,20126310910-1810/12/\100/頁/JCOPY 水疱性角膜症は,さまざまな原因で内皮細胞が障害されその機能が代償不全に陥り,不可逆性の角膜実質浮腫をきたした病態と定義できる.臨床所見は,Descemet膜皺襞を伴う角膜実質浮腫や上皮浮腫が主であるが,角膜上皮びらんを発症したり血管侵入を伴ったりすることもある.水疱性角膜症に移行した初期では,角膜実質浮腫はさほど顕著ではないにもかかわらず,角膜実質に淡い混濁を認めることがある.淡い混濁の周囲には細胞浸潤を伴わず,病変も角膜実質浅層に限局する瘢痕性病変は,病理組織学的には上皮下線維性組織形成(subepithelialfibrosis)とよばれる1).病理組織学的にはまた,上皮層とBowman膜の間に異常組織が形成される病態であり,V型やXII型コラーゲン,テネイシンなどの細胞外マトリックスが異常蓄積していることが報告されている2,3).水疱性角膜症の治療は,角膜組織を上皮から内皮まで置換する全層角膜移植から,角膜内皮機能のみを補充する角膜内皮移植に移行してきている.水疱性角膜症患者の角膜に上述の組織学的変化が存在している場合,角膜内皮移植を行っても実質混濁が残存し術後視力に影響する可能性がある.そこで,水疱性角膜症患者の角膜が実質浮腫にさらされる期間に着目し,組織変化の出現の時期について検討した.全層角膜移植で得られた水疱性角膜症検体を,コラーゲン線維・線維束を特異的に検出できる第二次高調波発生顕微鏡を用いて観察したところ,水疱性角膜症でみられる上皮下線維性組織形成は,角膜実質浮腫期間(角膜実質浮腫発生から角膜移植までの期間)が長くなると観察される傾向がみられた4).また,実質浅層に存在する角膜実質細胞を観察すると,上皮下線維性組織形成の出現と同様に,角膜実質浮腫期間が長くなると実質浅層の瘢痕病変に筋線維芽細胞が出現していることが明らかとなった5).さらに,角膜内皮移植を行った症例群の術後早期の視力を検討したところ,角膜内皮移植手術前に長期間にわたり実質浮腫期にさらされていた症例群では,術後の早期視力の回復が悪いことも明らかとなった6).これらの知見は,水疱性角膜症の角膜実質病変は浮腫期間,すなわち水疱性角膜症の罹病期間依存性に出現することを示唆している.水疱性角膜症に対する治療が角膜内皮移植に移行してきている現在では,角膜実質に病変を残さず術後の良好な視力を回復するためには,角膜内皮移植術前の角膜管理および適切な手術時期の決定が重要であると考えている.文献1)EagleRCJr,LaibsonPR,ArentsenJJ:Epithelialabnormalitiesinchroniccornealedema:ahistopathologicalstudy.TransAmOphthalmolSoc87:107-119;discussion119-124,19892)LjubimovAV,BurgesonRE,ButkowskiRJetal:Extracellularmatrixalterationsinhumancorneaswithbullouskeratopathy.InvestOphthalmolVisSci37:997-1007,19963)LjubimovAV,SaghizadehM,SpirinKSetal:Increasedexpressionoffibrillin-1inhumancorneaswithbullouskeratopathy.Cornea17:309-314,19984)MorishigeN,YamadaN,TeranishiSetal:Detectionofsubepithelialfibrosisassociatedwithcornealstromaledemabysecondharmonicgenerationimagingmicroscopy.InvestOphthalmolVisSci50:3145-3150,20095)MorishigeN,NomiN,MoritaYetal:Immunohistofluorescenceanalysisofmyofibroblasttransdifferentiationinhumancorneaswithbullouskeratopathy.Cornea30:1129-1134,20116)MorishigeN,ChikamaT,YamadaNetal:Effectofpreoperativedurationofstromaledemainbullouskeratopathyonearlyvisualacuityafterendothelialkeratoplasty.JCataractRefractSurg38:303-308,2012632あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(00)

早発型発達緑内障の眼圧上昇機序とその対策

2012年5月31日 木曜日

特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):627.630,2012特集●眼圧上昇はなぜ起こる?あたらしい眼科29(5):627.630,2012早発型発達緑内障の眼圧上昇機序とその対策MechanismofElevatedIntraocularPressureinEarlyOnsetDevelopmentalGlaucomaandItsManagement久保田敏昭*田原昭彦**I発達緑内障とは発達緑内障は前房隅角の形成異常によって発症するもので,形成異常が隅角に限局する早発型発達緑内障と遅発型発達緑内障,および他の先天異常を伴う発達緑内障に分類される.このうち早発型発達緑内障は3.4歳以前に発症して角膜径の拡大を伴い,遅発型発達緑内障はそれ以後に緑内障が発症する.3.4歳以前に眼圧が高くなると,眼球組織が柔らかいために角膜径の拡大がみられる.そのために眼圧測定値はそれほど高くないこともある.早発型あるいは遅発型発達緑内障の隅角鏡検査では隅角底の形成が不良で,毛様体帯が透見できない,あるいは非常に狭い所見がみられ,この隅角鏡所見は隅角の形成が不良(隅角形成不全)であることを示す1,2).組織学的には,線維柱帯に,傍Schlemm管結合組織様の構造を示すコンパクトな組織がSchlemm管下に厚く存在している.コンパクトな組織は細胞突起の短い線維柱帯細胞,コラーゲンとエラスチン線維とからなる線維成分および基底板様の形態を示す大量の無定形物質で構成されていて,層板状の構造はみられない(図1).この組織が厚く存在していて,線維柱帯の細胞間隙を占めていることが,発達緑内障の眼圧上昇と関係していると考えられる3.5).早発型発達緑内障に関わる遺伝子としてCYP1B1が発見され,その異常は隅角の形態的,機能的障害につながるものと推測される6).Schlemm管図1早発型発達緑内障の線維柱帯切除術による線維柱帯組織標本線維柱帯組織の発育が未熟であり,Schlemm管下にコンパクトな組織がみられ,層板構造が未発達.II早発型発達緑内障の臨床所見角膜径が大きく,前房は著しく深い.高眼圧,角膜浮腫,Descemet膜断裂などの所見を認める.乳幼児では眼圧測定や隅角検査は覚醒下では困難で不正確なので,睡眠下や全身麻酔下での検査が必要になる.隅角検査はKoeppe型隅角鏡と手持ちの細隙灯顕微鏡を使用する.手術顕微鏡を使用すれば隅角鏡を角膜に乗せての観察も可能である.虹彩付着部の状態を観察すると,早発型発達緑内障では重度の隅角形成不全が認められる.つまり虹彩根部の高位付着が認められ,線維柱帯の構造が隅角鏡で十分には観察できない.視神経乳頭陥凹は全体的に*ToshiakiKubota:大分大学医学部眼科学講座**AkihikoTawara:産業医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕久保田敏昭:〒879-5593由布市挾間町医大が丘1-1大分大学医学部眼科学講座0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(47)627 大きく,深い陥凹になる.これは,乳頭組織および周囲組織が柔らかいため,視神経管が牽引され,laminacribrosaが後方に移動するためと説明されている7).乳頭組織および周囲組織が弾性に富むため,視神経乳頭陥凹の変化は眼圧が上昇すると早期に出現する.眼圧が正常化すれば,視神経乳頭陥凹は縮小化する症例がある.眼圧の正常化とともに生じる乳頭陥凹の縮小は特に1歳未満で明瞭である.III前房隅角の発達と隅角形成不全発達緑内障の隅角所見である,隅角形成不全を理解するには,前房隅角の発達の理解が必要である.前房隅角組織の発達は3つの要素からなる.つまり,隅角の開大,線維柱帯の発達,Schlemm管の発達である.前房隅角の開大は,隅角陥凹(隅角の周辺端)が外後方に位置を変えることで進行する.Schlemm管との相対的な位置関係において,隅角陥凹は胎生6カ月でSchlemm管の内前方に位置するが,胎生8カ月ではSchlemm管の中央に位置するようになる.出生時には,隅角陥凹はSchlemm管のほぼ後方端に位置する.隅角の発達は4歳頃までに完了し,隅角陥凹はSchlemm管のやや外後方に位置する.隅角陥凹の完成に伴って,隅角陥凹と毛様体筋とが接近する.胎生8カ月頃には隅角陥凹の後方に存在していた毛様体筋は,出生時には隅角陥凹の近くに位置して,隅角陥凹を幅広く占めるようになる(図2).線維柱帯は,発達初期には短い細胞突起を有する未熟な細胞と細胞外成分が混在する構造を示している.胎生6カ月頃から線維柱層板の形成がはじまり,それとともに線維柱間隙も発達する.線維柱層板の形成は前房側からはじまり,順次Schlemm管側に向かって進む.最後まで層板状構造に発達せずにSchlemm管下に残った組織が傍Schlemm管結合組織である.IV隅角鏡所見と発達緑内障隅角形成不全の診断基準は隅角鏡検査で毛様体帯が透見できない,あるいは非常に狭い所見であるが,非常に狭いとはどこまでを指すのか明確ではない.毛様体帯が強膜岬より狭い場合を隅角形成不全の診断基準とする報628あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012Schlemm管Schlemm管Schlemm管Schwalbe線毛様体筋毛様体筋毛様体筋線維柱帯6カ月8カ月出生時線維柱帯線維柱帯ABC隅角陥凹図2隅角の発生チャート前房隅角の発達に伴って隅角陥凹(隅角の周辺端)が外後方に位置を変える.A:隅角陥凹は胎生6カ月でSchlemm管の内前方に位置する.B:胎生8カ月ではSchlemm管の中央に位置する.C:出生時には,隅角陥凹はSchlemm管のほぼ後方端に位置する.隅角の発達は4歳頃までに完了し,隅角陥凹はSchlemm管のやや外後方に位置する.告もある1).強膜岬の幅は隅角鏡検査ではわかりにくいので,毛様体帯の幅が線維柱帯の幅の1/3程度を目安にし,これ未満だと隅角形成不全があるとするほうがわかりやすいが,この幅の比率は隅角を観察する角度で変化するので注意が必要である.また,眼圧は正常で緑内障を発症していない患者にも隅角形成不全は観察されることがある.しかし発達緑内障の隅角を観察すると,必ず隅角形成不全はみられる(図3).前述したように発達(48) 図3遅発型発達緑内障の隅角鏡写真隅角の形成が不良(隅角形成不全)で,毛様体帯がわずかしか観察されない.緑内障と隅角形成不全は密接な関係があるのは間違いないが,隅角鏡所見だけで発達緑内障を診断できるものではない.発生の段階で隅角陥凹が後外方に移動するのと同時に線維柱帯組織の発達も起こるが,片方の発達が遅れることがありうる.隅角陥凹の発達が遅れて,線維柱帯組織の発達が正常であれば,隅角形成不全は隅角鏡検査で認めるが,緑内障は発症しない.反対に隅角陥凹の発達が正常で,線維柱帯組織の発達が遅れれば,隅角鏡検査で隅角形成不全は認めないが,緑内障は発症することになる.V発達緑内障の前眼部画像診断臨床的に隅角陥凹の発育状態を観察する指標は,隅角鏡でみえる毛様体帯の幅で判断される.隅角部を観察する機器に超音波生体顕微鏡(UBM)と前眼部光干渉断層計(OCT)がある.前眼部OCTは非接触的に短時間で,容易に前眼部を観察することができ,隅角の開放状態を定量的に計測することができる.三次元表示も可能であり,ゴニオスコピックビューでは隅角部を三次元で観察できる.ITC(irido-trabecularcontact)では周辺虹彩前癒着の範囲を計測することができる.正常開放隅角眼の前眼部OCTでは,隅角陥凹が深く観察され,線維柱帯およびSchlemm管の存在部位が推定できる像が得られる.一方,隅角陥凹は隅角鏡で観察困難と思われる虹彩前面よりかなり後方まで広がっていることが前眼部(49)AB図4前眼部OCTの隅角陥凹部A:正常開放隅角眼.B:早発型発達緑内障眼.隅角陥凹の形成が正常眼に比べて不良である.OCTでわかる.発達緑内障眼では前眼部OCTで,開放隅角であるが,隅角陥凹が浅いことが観察できる.虹彩付着部は毛様体帯に向かって直線的に伸びており,前眼部OCTでは隅角陥凹の形成不良がある.前眼部OCTを用いることにより,角膜非接触状態での隅角陥凹を観察可能である(図4).VI早発型発達緑内障の治療原発性の発達緑内障は,眼圧コントロールが薬物療法では困難であり,発症年齢が若年であることから手術治療が第一選択になる.形成不全のある線維柱帯を切開する,線維柱帯切開術などの房水流出路再建術を選択するほうが理にかなっている.■用語解説■隅角形成不全:Goniodysgenesis隅角の発達が未熟なことを指す.発達緑内障の隅角はその未熟性から緑内障が発症すると考えられるので,隅角形成不全を使用した.文献1)TawaraA,InomataH,TsukamotoS:Ciliarybodybandasanindicatorofgoniodysgenesis.AmJOphthalmol122:790-800,19962)田原昭彦,猪俣孟:前房隅角の発達.臨眼51:14201421,1997あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012629 3)TawaraA,InomataH:Developmentalimmaturityofthetrabecularmeshworkincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol92:508-525,19814)Luetjen-DrecollE,RohenJW:Morphologyofaqueousoutflowpathwayinnormalandglaucomatouseyes.TheGlaucomas(2nded),edbyRitchR,ShieldsMB,KrupinT,p89-123,Mosby,StLouis,19965)久保田敏昭:房水流出路の解剖,病理と流出路再建術.眼科手術21:147-151,20086)HollanderDA,SarfaraziM,StoilovIetal:Genotypeandphenotypecorrelationsincongenitalglaucoma:CYP1B1mutations,goniodysgenesis,andclinicalcharacteristics.AmJOphthalmol142:993-1004,20067)QuigleyHA:Thepathogenesisofreversiblecuppingincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol84:358-370,1977630あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(50)