特集●今が旬,緑内障手術あたらしい眼科29(11):1503.1508,2012特集●今が旬,緑内障手術あたらしい眼科29(11):1503.1508,2012緑内障手術の将来展望GlaucomaSurgeries:CurrentPerspectivesandFutureDirections白土城照*はじめに現在の緑内障手術は房水流出促進術と房水産生抑制術に大別され,さらに前者は房水を眼球外へ導く濾過手術とSchlemm管内への流出を促進する流出路再建術,ならびに上脈絡膜腔への房水導入術に大別される.そして濾過手術はさらに前方結膜下へ房水を流出させる術式と,直筋付着部後方Tenon.下へ流出させる術式に分けられる.これらのなかで最も広く行われている術式は線維柱帯切除術に代表される前方結膜下への濾過手術であるが,手術成績の不安定性や術後合併症の問題から,近年,より安全な術式開発の報告が相次いでいる.本稿では,現在行われている術式の問題点を考察しながら新しい試みを紹介し,筆者個人の願望を交えつつ緑内障手術の将来を展望する.(なお,房水産生抑制術は新しい手術法の出現で今後はほとんど行われなくなると予測されるため本稿では割愛する.)I前方結膜下への濾過手術現在行われている線維柱帯切除術の問題点は,術後の創傷治癒機転による強膜弁の癒着,濾過胞内線維増殖,あるいは濾過胞の限局化に伴う濾過効果の消失であり,また逆に創傷治癒抑制に伴う過剰濾過である.術後濾過胞壁の菲薄化は経過が長くなるほど菲薄濾過胞が増加するという事実から,創傷治癒機転抑制というよりむしろ濾過胞内線維組織あるいは周辺の瘢痕化によってひき起こされる濾過胞内圧の増加に伴う二次的変化と考えられる.このため濾過胞の菲薄化を恐れて治癒機転の抑制を過度に制限することは成功率を低下させるだけではなく,逆に菲薄濾過胞の増加につながる可能性が高い.したがって,前方結膜下への濾過手術の成功の鍵は術直後だけではなく長期的な創傷治癒機転の抑制にある.近年,線維柱帯切除術に代る術式として輪部へミニチューブを挿入する術式が報告され,わが国でも昨年ミニシャントであるEX-PRESSTMGlaucomaFiltrationDevice(日本アルコン,東京)が承認されたが,この術式の成功の鍵も創傷治癒機転であることには変わりない.ミニチューブ挿入術では線維柱帯切除術に比べて流出量の調整が術者によらず安定するだけではなく,前房開放時間の短縮が眼球虚脱に伴う合併症を減らし,さらに虹彩切除が不要であることから強角膜ブロック切除,虹彩切除に伴う出血が回避され術式としての安全性が高まる.また,これらの要素は術後炎症を軽減することで手術成績の向上にも寄与すると期待される.今後,線維柱帯切除術の多くはEX-PRESSTMに限らずミニチューブ使用手術へ移行すると考えられる.1.創傷治癒機転抑制非選択的細胞増殖抑制薬である5-FU(5-フルオロウラシル),あるいはMMC(マイトマイシンC)の使用によってかなり実現され,近年ではより選択的な抗凝固薬,成長因子抑制薬,線維芽細胞によるフィブロネクチンやコラーゲン生成抑制薬,あるはコラーゲン交差結合*ShiroakiShirato:四谷しらと眼科〔別刷請求先〕白土城照:〒160-0004東京都新宿区四谷1-1-2四谷しらと眼科0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(53)1503抑制薬,血管新生抑制薬〔抗TGFb(転換増殖因子b)抗体,インターフェロンa,D-ペニシラミン,抗VEGF(血管内皮増殖因子)抗体など〕などの研究も進められているが実用に至っていない.前述したように不成功の原因は術直後だけではなく長期的創傷治癒機転の持続にあることから,これらの研究は術直後よりは術後期における穏やかな治癒機転抑制を目指すほうがよいと考えられ,今後は生分解性ポリマーフィルムを用いたdrugdeliverysystem(DDS)の研究が進むと考えられる.また,現在,ポリマー成分やその重合度の工夫によって羊膜のように治癒機転抑制と結膜上皮損傷抑制を兼ねたフィルム開発も期待されている.しかし,前方結膜下への濾過胞形成における眼圧下降機序は,濾過胞内圧による房水の結膜実質内の細血管への圧出,あるいは,疎なTenon.組織から結膜上皮細胞間隙やゴブレット細胞を通じた涙液への排出と考えられており,濾過胞の被.化を促進することは安全性が増すとしても眼圧下降効果減弱につながる可能性が高い.これらの研究はむしろ後述する.胞形成による眼圧下降を目的としたチューブシャント手術への応用が期待される.また,非穿孔濾過手術に際して強膜弁下の空間保持や強膜弁癒着を抑制する手段としてコラーゲン,ヒアルロン酸,あるいはHEMA(メタクリル酸ヒドロキシエチル)などの材料を使用する方法も報告されているが,術後周辺虹彩前癒着の発生などの問題だけでなく,結膜下全体での創傷治癒抑制がなければ広範な濾過胞形成が困難であることから,これらの材質だけでの成績向上には限界があり,前述のDDSとの組み合わせが必要となろう.2.流出量の調整現在のEX-PRESSTMでは長さ2.6mm,内腔直径200μmのステンレス管の途中に直径150μmの金属棒が垂直に挿入され流出抵抗となっている.しかし,抵抗部分の距離が150μmしかないため実質抵抗は正常眼の1/100.200であり無に等しい.流体力学計算によれば前房結膜下間のシャント距離2.5mmでの管前後の圧差は,内径40μmで5mmHg,内径100μmで0.5mmHgである.したがって,現在のEX-PRESSTM手術におけ1504あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012る流出量は強膜弁の縫合閉鎖によって調整されておりこの点では線維柱帯切除術とかわりない.今後,より細い金属管の作製も可能となるであろうが,内腔が狭すぎると長期的には房水成分付着による閉塞の可能性が高くなり流出量調整は単なる金属加工技術の進歩だけでは解決できない.また,EX-PRESSTMの初期の術式で強膜弁なしに結膜下から直接挿入した結果,EX-PRESSTMの結膜上露出症例が多く存在したことを考えると金属材料ではその生体適合性にも問題がある.したがって,今後はシリコーンやスチレンなどのバイオマテリアル材料を用いたミニチューブの開発が進むであろう.現在,より生体適合性の高いpoly(styrebe-block-isobutyleneblock-styrene):SIBS材料による内径50.70μm,外径350μmのミニチューブ(MIDI-ArrowGlaucomaDevice:InnoviaLCC,USA)が治験中であり,強膜弁作製なしに結膜弁下で直接前房へ挿入する術式として注目されている.また,すでにナノ加工技術を利用した直径0.1μm程度の無数の微細孔をもつシリコーン製ナノポア薄膜(人工線維柱帯)も報告されており,生理食塩水では薄膜の孔のサイズや厚さの調節で流出量の定量化が可能であることが示されている.房水蛋白成分吸着による微細孔閉塞を解決するために親水性高分子コーティング(ポリエチレングリコールなど)が研究されている.緑内障眼,あるいは術後炎症眼での房水成分が正常眼とは異なることを考慮するとその実現は容易ではないが,今後はナノ加工技術と高分子化学との融合によるシャント開発が進められるであろう.近い将来での実効性の高い方法としては,生体適合性の高い材料で作られたミニチューブの管の前後にナノポア薄膜を付けて一時的調整を行い,経過中Nd:YAGレーザーによる穿孔を追加して流出量を加減する方法が考えられる.3.ミニチューブの挿入方法過去には光ファイバーを利用して輪部結膜下から瘻孔を作製するホルミウムレーザー強膜穿孔術,あるいは経前房で結膜側へ瘻孔を形成する強膜穿孔術が報告されているが,熱凝固による組織障害や穿孔直径の不安定性からこの方法は適さない.挿入予定部位の結膜下に眼灌流(54)液,粘弾性物質,あるいは創傷治癒抑制薬を含む物質を注射して空間を確保し,経角膜で,あるいは灌流装置の付いた挿入用器具を併用して対側隅角から結膜下まで穿刺を行いミニシャントを挿入するほうが侵襲が小さいと考えられる.現在,経角膜で対側結膜下へ単純に挿入するだけのコラーゲン素材(ゼラチン)で作られた長さ約6mmのチューブインプラント(AqueSysMicrofistulaimplant:AqueSysInc.,USA)が治験中である.これは強膜トンネル内で膨化するため前房落下がなく眼圧下降も良好と報告されている.樹脂製チューブの場合には脱落防止のため挿入後に結膜下で開く鍔のようなストッパーが必要となるが,現在のバイオマテリアル工作技術でも可能であろうし,前述したようにミニチューブにナノポア薄膜を併用すれば過剰濾過もない手術が可能となる.いずれの方法にせよ今後のミニチューブ挿入濾過手術は経角膜手技の方向へ進むと考えられる.II赤道部.胞への濾過手術眼筋付着部後方へプレートを設置しその周囲に形成される.胞へ前房もしくは硝子体腔からチューブを通じて房水を導くチューブシャント手術には現在MoltenoTMGlaucomaImplant:MGI(MoltenoOphthalmicLtd.,NewZealand),AhmedTMGlaucomaValve:AGV(NewWorldMedicalInc.,USA),BaerveldtRGlaucomaImplant:BGI(エーエムオージャパン,東京)が使われている.従来,難治緑内障への術式であったが,近年BGIを用いて初回線維柱帯切除術不成功例や水晶体再建術後例を対象とした線維柱帯切除術との比較研究が行われ,同等以上の成績であることが示され初回濾過手術への適応も検討されている.理論的には線維柱帯切除術に比べて一定体積の.胞への房水流出は濾過量の安定性が担保され,かつ被膜されていることで濾過胞感染の危険がない点で魅力的である.しかし,現段階では生じた場合の合併症が重篤で,線維柱帯切除術後でも施術可能であることを考えると初回手術としての適応は尚早である.ただし,今後は従来のように難治緑内障に限ることなく,1.2回の濾過手術不成功例や硝子体手術眼への初回手術,もしくは硝子体切除同時手術に際して用いる術式として普及することは間違いない.(55)1..胞形成による眼圧下降機序この手術は単に前方結膜下での濾過胞形成を避けるための術式ではなく,圧抵抗が完成した.胞内に房水を流すことを目的とした術式である.このため開発初期にはプレートとチューブの両方を結膜下へ留置し,プレート周囲の.胞完成後に改めてチューブを挿入する2段階の術式が行われていた.MGIでの組織学的研究によれば,有効な.胞は無血管で一定方向に配列する膠原線維からなる内層と,細血管に富む疎な膠原線維の外層の2層からなり,房水は内層から外層細血管あるいは眼窩内組織へ滲出,吸収されると考えられ,前述した結膜下濾過手術でみられる涙液への房水排出はない.したがって,.胞内層の膠原線維密度と厚さが眼圧下降に重要と考えられ適度な内層を作製することがこの手術の成否にかかわると考えられる.MGIの知見では,.胞完成以前の房水導入は炎症反応による皮膜の肥厚化を促進し,あるいは.胞完成後の房水導入の場合でも.胞後方から房水を漏出させ.胞内圧を低くすると皮膜が肥厚化することが知られている.このことから良好な.胞形成には完成した.胞内に房水が導入されて生じる内圧上昇が必要で,内圧上昇による内層膠原線維の伸展,分断,線維間隙の拡大が重要な役割を果たしていると考えられる.このため5-FU,あるいはMMCなどの代謝拮抗薬による.胞形成抑制はこの術式には適さないと考えられ,現在までの報告でも成績向上には寄与していない.もし,この術式に創傷治癒抑制薬を用いるとすれば,手術時ではなく.胞形成後の過剰な皮膜肥厚を抑制する目的で長期的創傷反応抑制のためのDDSを用いた方法となるであろう.2..胞の体積動物実験では.体積が大きいほど(房水接触面積が大きいほど)眼圧下降効果が強いことが知られている.臨床的にもMGIではプレート面積134mm2に比べて270mm2での成績が良好であることが報告されているが,BGIでの350mm2と500mm2の長期成績比較では350mm2のほうが優れていると報告されている.これらの結果から現在では300mm2程度が適当と考えられており,BGIの500mm2はすでに製造中止になっている.物理学的には.胞壁性状が同じで,同一内圧がかかる場あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121505合には大きな.胞のほうが表面伸展圧が高くなるため,内層線維間隙の拡大と線維断裂が生じやすくなると推測される.したがって,体積の大きな.胞ほど内圧によって濾過量が増加し低眼圧の方向へ傾く可能性がある.さらに.胞からの透過量は.胞内層の線維密度,構造だけではなく外層での房水吸収率にも影響される.これらの要素を勘案すると現在の個人差の大きい.形成に依存する術式よりは,一定の圧抵抗と透過性を有し,体積変化もないバルーンのような人工物をTenon.下に埋植する方法が開発されればより安定した術式となる可能性がある.もちろん,生体反応を生じない材料が必要で,埋植に際して結膜-Tenon.の切開を最小にして挿入後に膨らませるなどの技術も必要になる.さらに,正常眼房水が線維芽細胞増殖抑制効果を有するのに対して術後炎症眼,あるいは緑内障眼の房水では各種成長因子が豊富で線維芽細胞増殖が促進されることを考えると,急激な房水の流出による二次房水化を避けるだけではなく,術前からの,そして術後長期にわたる炎症反応抑制手段の開発も必要となる.これらの条件は.胞形成に依存する手術のみならず,すべての緑内障手術にかかわる要素でありDDSの研究が進むことを期待している.3.流出量制御現在用いられているMGI,AGV,BGIのいずれもチューブ内腔は直径300μmでプレートまでの長さを10mmとしても流出抵抗は無に等しい.このため現在の術式ではチューブを前房に挿入する際に,MGIやBGIではチューブ内へのステント挿入やプレート直近でチューブを結紮することで術直後の過剰濾過防止が行われている.最近ではステント挿入よりも7-0あるいは8-0吸収糸による結紮が多く用いられ3.4週後の糸吸収によるチューブの自然開放を待ち,チューブ開放までの期間の眼圧下降はチューブの途中に加えた小切開からの微小漏出でしのぐ方法が行われている.この点,AGVではプレート部に約6.13mmHgで閉鎖,開放するバルブ機構があり流出制限を必要としない利点がある.しかし,すでに述べたように術直後の流出制限は過剰濾過防止だけではなく,房水成分による線維芽細胞増殖をできるだけ抑制して安定した.を形成させることを目的とし1506あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012ている.AGVの現在までの手術成績はMGIやBGIに比べてやや劣る可能性が指摘されているが,この原因としてAGVのプレート表面加工がMGI,BGIに比べて粗造で線維芽細胞が付着しやすいことのほかに,術直後から常に炎性の房水がプレート部に流れ.壁が厚く形成されやすいことのほかに,MGIやBGIで生じる.壁形成後の房水流入による内圧上昇がないため内層線維組織が粗になりにくいことが指摘されている.したがって,術後過剰濾過抑制のためのバルブ機構をプレート部に組み込むことは必ずしも適切ではなく,プレートから離れたチューブ内流出制御が望ましいと考えられる.ミニチューブの項で述べたように単なる内腔の狭いチューブでは房水成分による閉塞が懸念されるため親水性コーティングなどの開発が必要である.また,現在はチューブの結膜上露出を防ぐため保存硬膜などで被覆しているが,被覆自体が炎症を惹起するため被覆の不要なより生体親和性の高い材料が求められる.現在のところ先述したSIBS材料が期待されているが,さらにチューブ先端,あるいは途中でのナノポア膜設置による流出制御との組み合わせ開発されることを期待している.IIISchlemm管への流出促進(流出路再建)術線維柱帯切開術に代表される流出路再建術はその手技の難易度あるいは眼圧下降効果の限界からか海外では普及せず,わが国で独自の発展を遂げその安全性と有効性が評価されてきたが,近年,欧米でもcanalsurgeryとして注目されさまざまな術式が報告されている.いずれの術式もSchlemm管内皮前房側での流出抵抗を減少させて眼圧下降を図る術式であるため,Schlemm管外壁以降の流出抵抗を除くことができず,理論的にもまた臨床的にも術後眼圧は12.13mmHgが限界で長期の術後眼圧の多くは15mmHg程度である.したがって,正常眼圧緑内障や高度視野障害で可及的眼圧下降を必要とする例への適応には限界がある.しかし,以下に述べるように最近注目されている術式の多くは経角膜手術で,結膜/強膜を温存でき,白内障手術に併用することで前房が深くなり術後周辺虹彩前癒着の可能性が軽減される利点があり,欧米では白内障手術との併用術式として普及しつつある.今後,わが国でも高眼圧緑内障で視野障害(56)が軽度-中等度の例に対する眼圧正常化手術として急速に普及すると予測される.1.線維柱帯切開経角膜で前房に挿入して対側線維柱帯-Schlemm管内皮網を直視下で切除する灌流-凝固機能のある装置(Trabecutome:NeoMedixInc.,USA)が,わが国でも承認されている.従来の線維柱帯切除術と異なり結膜,強膜弁を作製する必要がない点で優れているだけではなく確実にSchlemm管内皮網の切開が可能な簡便な術式として期待されている.装置が高価であり,欧米ではすでに次に述べるような他の術式が検討,あるいは承認されており,この装置が今後どれほどの期間活躍するかは不明であるが,少なくとも今後は旧来の結膜,強膜弁を作製して行う線維柱帯切開術は行われなくなると考えられる.2.線維柱帯穿孔,あるいはSchlemm管拡張流体力学理論によれば前房-Schlemm管間に直径10μmの孔が20個程度あれば眼圧正常化が得られる.また,Schlemm管腔の内径を100μm程度に拡大すれば管内環状流の増加により同じ効果が得られることが知られており,この理論の成立は実験的にも確認されている.Schlemm管内へ粘弾性物質を注入するviscocanalostomy,あるいは管全周にナイロン糸を通し緊縛して管腔拡大を図るcanaloplastyはこの拡張理論に基づいた術式であり,近年行われている経角膜で対側のSchlemm管へチタン製の金属を挿入するiStentTrabecularMicro-bypass(GlaukosCorp.,USA)は線維柱帯穿孔とSchlemm管拡張を意図した術式である.最近では改良型のiStentInject(GlaukosCorp.,USA)やニチノール合金製でより長い距離を拡張するHydrusMicrostent(IvantisInc.,USA)も治験中である.さらに水晶体摘出術での粘弾性物質除去の前に高周波ジアテルミーチップを前房に挿入し線維柱帯-Schlemm管および強膜の一部までを数カ所穿孔する装置,AbeeGlaucomaTip(OertliInstrumenteAG,Switzerland)も臨床で使用されている.Schlemm管内への金属留置なしで行える点が魅力的であり,金属挿入術との比較試験が今後行(57)われるであろう.これまでのviscocanalostomyやcanaloplastyについては,強膜弁下空間での房水吸収による濾過効果もあることから,より低い眼圧が得られる可能性も期待されるが,結膜弁-強膜弁作製が必要な流出路再建術は次第に行われなくなると考えられる.また,経角膜で前房にレーザーファイバーを挿入し紫外線レーザーで線維柱帯-Schlemm管を8.10カ所穿孔するEximerLaserTrabeculostomy(Aida,GlautecAG,Germany)も臨床報告されているが,装置の価格と成績がレーザー線維柱帯形成術と同等であることを考えると,前述の金属挿入やジアテルミー穿孔に代る術式にまで発展するとは考えられない.3.レーザー線維柱帯形成術Lasertrabeculoplasty:LTP(argonlasertrabeculoplasty:ALT,selectivelasertrabeculoplasty:SLT)もその作用機序に化学物質の関与が考えられてはいるが,広い意味では流出路再建術の一つであり,最も侵襲が少ない術式である.眼圧下降効果の限界や,効果の予測が困難であるという問題点があるが,低侵襲で施術も容易であることから今後も存続すると考えられる.ALTあるいはSLT後のSchlemm管開放手術が有効か否かは未解決であるが,ALTに比べてSLTでは術後Schlemm管閉塞が生じにくいと考えられるので,まずSLTを行い無効例に対して経角膜流出路再建術を適応させるという流れも考えられる.IV上脈絡膜腔への流出促進上脈絡膜腔への房水導入手術である毛様体解離術(cyclodialysis)は出血,白内障,あるいは解離部の再閉塞による眼圧急上昇などの合併症からほとんど行われる機会はなかったが,近年,濾過胞形成が不要な術式として急速に注目が高まり,経結膜,あるいは経角膜的に生体材料を上脈絡膜腔へ留置する術式の報告が続いている.しかし,解剖学的にも,生理学的あるいは物理学的にも毛様体解離術にかかわる知識はほとんどないに等しく,さらに上脈絡膜腔への異物挿入によって長期的に何が生じるかも不明のままに臨床使用が先行しているのが現状である.理論的には上脈絡膜腔はcanalsurgeryのあたらしい眼科Vol.29,No.11,20121507弱点であるSchlemm管後方の流出抵抗残存もなく,かつ房水吸収面積も広いことから強い眼圧下降が期待される空間である.しかし,以下に述べる近年の生体材料使用の報告ではcanalsurgeryと同程度の15mmHg前後の術後眼圧が報告されており,より低い術後眼圧が得られない理由は不明である.もしcanalsurgeryと同程度の眼圧下降であれば,あえてこの術式を選択する意義は少なく今後の比較研究が必要である.近年の術式では毛様体解離術にみられた出血がほとんどないことが報告されており,代謝拮抗薬併用などの工夫で十分な眼圧下降が得られるならば理想的術式となるため今後急速に研究が進められるであろう.1.経結膜的方法結膜弁,強膜弁を作製後に上脈絡膜腔を露出し上脈絡膜腔へ埋植する幅3.5mm,長径約6mm,厚さ0.12mmの小孔を有する24K金板(GoldShuntR:SOLXInc.USA)がすでに発売されている.また,線維柱帯切除術での強膜床を開放し前房から上脈絡膜腔へシリコーンチューブを挿入する,あるいは非穿孔線維柱帯切除術で強膜弁下空間確保に使用されるコラーゲン,HEMAなどの後端を強膜弁下に挿入する方法も報告されている.しかしこれら方法では結膜,強膜を損傷するため,濾過手術に勝る眼圧下降効果と安定性が得られなければ発展はむずかしいであろう.2.経角膜的方法対側隅角から上脈絡膜腔へ挿入する外径0.5mm,内腔0.3mm,長さ6.3mmのチューブ(Cypasssuprachoroidalmicrostent:TranscendMedicalInc.,USA)が発売されており,類似品(iStentSupra:GlaucosCorp.,USA)の治験も開始されている.白内障手術との併用術であるが,Schlemm管開放術との比較試験が今後の課題である.また,経角膜で鈍的に対側隅角の強膜岬と毛様体付着部を広く解離し粘弾性物質を注入して上脈絡膜腔の空間を確保する術式も報告されている.しかし,この方法は他の術式に比べて外科的侵襲が強いためか成績が不良であり,今後は術式の容易な毛様体チューブ挿入術のほうが主流となるであろう.おわりに縷々述べてきたように,近年の緑内障手術の方向性は線維柱帯切除術からの脱却,流出路再建術と上脈絡膜腔への流出促進術の再考,ならびに種々の生体材料開発に特徴づけられる.新術式の多くは眼圧正常化手術であるが,高眼圧緑内障が多数を占め医療経済やアドヒアランスの観点からも手術適応が早まっている欧米では水晶体再建術との併用術式として急速に普及すると考えられる.わが国においても今後普及し高眼圧緑内障での濾過手術の適応は減ると予想される.今後は,より低い眼圧を必要とする正常眼圧緑内障や後期緑内障に対する術式としての濾過手術についても,線維柱帯切除術に代る生体材料の使用による簡便で安全性が高い術式が開発されることを期待している.1508あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(58)