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ステロイドの局所投与が有効であった眼窩乳児毛細血管腫の1例

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):705.710,2012cステロイドの局所投与が有効であった眼窩乳児毛細血管腫の1例木下哲志*1鈴木康夫*2横井匡彦*1加瀬学*1*1手稲渓仁会病院眼科*2手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センターACaseofOrbitalInfantileCapillaryHemangiomaSuccessfullyTreatedwithIntralesionalSteroidInjectionSatoshiKinoshita1),YasuoSuzuki2),MasahikoYokoi1)andManabuKase1)1)DepartmentofOphthalmology,TeineKeijinkaiHospital,2)OrbitalDisease&Neuro-OphthalmologyCenter,TeineKeijinkaiHospital乳児毛細血管腫は5歳頃までに自然退縮する良性腫瘍だが,視力や眼球運動などに影響を及ぼす可能性がある場合は積極的な治療介入が必要とされている.ステロイドの局所投与はその主要な治療法の一つであるが,標準的な治療法は確立されてはいない.今回筆者らは,乳児毛細血管腫が下眼瞼から眼窩の筋円錐内に伸展し,著明な眼窩の変形も伴っていた症例に少量ステロイドの局所投与を行った.症例は右眼瞼腫瘍の急激な増大と眼窩内浸潤を主訴に近医眼科から当科(手稲渓仁会病院眼科)へ紹介された3カ月の男児である.乳児毛細血管腫を疑ったが,腫瘍の部位と経過,眼窩の変形から,視機能障害が危惧されたため,早期の診断,治療に踏み切った.腫瘍の部分切除を施行し,乳児毛細血管腫の病理学的診断を得たうえで,メチルプレドニゾロン20mgを腫瘍内へ投与した.投与3週後までには腫瘍に消退傾向が生じ,投与12カ月後にはほぼ消失し,視機能,美容的にも良好な結果が得られた.Infantilecapillaryhemangiomaisabenigntumorthatdevelopsrapidgrowthorregression.Ifaperiorbitaltumorissuspectedofimpairingvision,aggressivetreatmentisrequired.Althoughintralesionalcorticosteroidinjectionhasbeenreportedaseffective,thetreatmenthasnotyetbeenstandardized.Inthepresentcase,a3-montholdmalewasreferredtousbecauseofrapidgrowthofatumorinhisrightorbit,withsevereeyelidswelling.CT(computedtomography)-scanshowedthetumoroccupyingtheinferotemporalspaceoftherightorbit,withconsequentprotrusionoftheorbitalwall,extendingtotheintramuscularcone.Asthistumorwasthoughttoposeriskofvisualimpairment,4weekslaterweperformedintralesionalinjectionof20mgmethylprednisolone,basedonthepathologicaldiagnosisofcapillaryhemangioma.Thetumorbegantoregresswithin3weeksafterinjection.Thetumorandorbitalasymmetryhaddisappearedby21months,withnoopticnerveimpairment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):705.710,2012〕Keywords:毛細血管腫,眼窩,乳児,ステロイド局所投与.capillaryhemangioma,orbit,infant,intralesionalsteroidinjection.はじめに乳児毛細血管腫は生後間もない時期に出現し,急速に増大する腫瘍である.大部分は5歳頃までに自然退縮する1)が,視機能などに影響を及ぼす可能性がある場合は積極的な治療介入が必要とされる.これまで試みられてきている治療法としてはステロイドの全身投与,あるいは局所投与,さらには外科的切除,レーザー治療,インターフェロン投与などがあり1),特に眼周囲領域の乳児毛細血管腫に対してステロイド局所治療が奏効した症例は,わが国でも報告されている2.5).しかしながら,局所投与に用いるステロイドの種類や投与量の標準化はいまだなされていない.今回筆者らは,眼窩の筋円錐内にまで及ぶ乳児毛細血管腫に対して比較的少量のステロイドの局所投与を行い良好な結果を得ることができた.その治療経過を若干の考察を含めて〔別刷請求先〕鈴木康夫:〒006-8555札幌市手稲区前田1条12丁目1-40手稲渓仁会病院眼窩・神経眼科センターReprintrequests:YasuoSuzuki,M.D.,OrbitalDisease&Neuro-OphthalmologyCenter,TeineKeijinkaiHospital,1-40Maeda1Jou,Teine-ku,Sapporo006-8555,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(125)705 AB図1ステロイド治療前および治療後の容貌A:治療前.右上眼瞼と右下眼瞼の腫脹,眼窩の左右非対称がみられる.B:治療2年2カ月後.眼瞼の腫脹は改善し,右頬部にわずかな発赤を残すのみとなっている.眼窩の変形も改善している.報告する.I症例患者:生後3カ月,男児.主訴:右眼瞼腫脹.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:平成19年7月出生.経腟正常分娩であり出生直後は特に症状はなかったが,平成19年9月に右眼瞼腫脹を主訴に近医眼科を受診した.血管腫疑いで経過観察されていたが,MRI(magneticresonanceimaging)で腫瘍の増大と眼窩内への伸展が認められ,精査加療目的で当科(手稲渓仁会病院眼科)を紹介され,平成19年11月19日に初診した.初診時所見:対光反応は両眼とも迅速でRAPD(relativeafferentpupillarydefect)は陰性であった.眼球に特記すべき所見はなかったが,右上眼瞼と右下眼瞼にやや青みを呈した腫脹があり,右頬部皮膚にも同様の色調の小さな病変を認めた(図1A).CT(computedtomography)では右側の頬部から下眼瞼,また眼窩深部の筋円錐内へ伸展する均一なCT値をもつ占拠性病変を認めた(図2).右眼窩の外壁と下壁はこの病変に圧排され,右眼窩は著明に拡大していた.占拠性病変は,MRIのT1強調像で均一な等信号,T2強調像でも均一な高信号を呈しており(図3),脂肪抑制T1強調造影でも占拠性病変全体に均一な造影効果が認められた.以上の画像所見から占拠性病変は充実性の腫瘍と診断した.経過:平成19年12月6日に右下眼瞼縁アプローチで腫瘍の部分切除を施行した.病理診断は,内皮細胞に裏打ちされた毛細血管の密な増生が認められる「乳児毛細血管腫」であった(図4).平成19年12月13日にメチルプレドニゾロン(デポメドロールR)20mg/1mlを26ゲージ針を用いて経右下眼瞼で腫瘍内に局所注入した.CT画像を参考に,下眼瞼中央部やや耳側で皮膚上から触知した眼窩下縁から7mm上方を刺入部位とした.投与3週後のCTでは,投与前と比べ腫瘍の増大は認めず,逆に部分的ではあるが縮小が認められた.視診における右上下眼瞼の腫脹と眼窩の左右非対称は,投与2カ月後では残存していたが徐々に改善し,上眼瞼の腫脹は投与1年後に,下眼瞼の腫脹は投与1年9カ月後に図2初診時の眼窩CT(Bar=1cm)眼窩深部の筋円錐内へ及ぶ占拠性病変がみられ,右眼窩の外壁と下壁の変形を認める.706あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(126) 図3治療前の眼窩MRI上段:T1強調画像,下段:T2強調画像,Bar=1cm.占拠性病変はT1強調像で均一な等信号,T2強調像で均一な高信号を示していた.図4病理組織所見(HE染色,×200)内皮細胞に覆われる毛細血管が密に増生している.は消失し,眼窩の左右非対称は認めなくなった.CTにおいても,腫瘍陰影は徐々に消退し,投与12カ月後には眼瞼周囲から眼窩下方の腫瘍陰影の大部分が消失していた.この腫瘍の縮小と眼窩の発育に伴う右眼窩の変形・拡大の軽減も認められた(図5).経過中,対光反応は左右差なく,前眼部・中間透光体・眼底にわたって特記すべき所見は認めなかった.視力測定と屈折検査は患児の協力が得られず苦慮したが,生後3歳7カ月時点で右眼視力(0.5×cyl(.2.5DAx150°),左眼視力(0.7×cyl(.1.0DAx40°),シクロペントラート点眼による毛様体弛緩後の屈折度数は,右眼がsph.1.5D(cyl.2.75DAx150°,左眼がsph.0.5D(cyl.1.5DAx35°であった.乱視度数と視力の左右差を軽度認めたため,眼鏡処方をして経過観察中である.II考按乳児毛細血管腫はほとんどの症例において5歳までに自然退縮するとされている1)が,症例によってさまざまである.皮下から眼窩内までに及ぶ毛細血管腫7症例の経過観察を行った報告では,4.5歳の時点までに十分な退縮が得られずに全例で手術が必要となったと述べられており6),眼窩領域の血管腫が深部に及ぶものは,表層近くに限局する場合と比較し,退縮に要する期間がより長い傾向にあるとされている7).さらに眼窩に及ぶ巨大な乳児毛細血管腫において視神経の圧迫による視力低下が生じたとの報告もある8).本症例は生後間もない発症であること,またその後当科を初診するまでの約2カ月間で持続的かつ急速な腫瘍の増大を認めたことから,自然退縮の性質をもつ乳児毛細血管腫を念頭にこれらの報告を踏まえて治療方針を検討した.当科初診時すでに腫瘍は眼窩深部の筋円錐内にまで及んでおり,乳児毛細血管腫であったとしても自然経過で腫瘍が退縮し始める見込みは少なく,経過観察を選択した場合は筋円錐内の腫瘍増大による視神経障害が生じる可能性があると考え,病理学的に診断を確定させたうえで積極的治療に踏み切ることとした.乳児毛細血管腫に対する治療法としては今回選択したステロイド投与の他に,外科的切除,レーザー照射,インター(127)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012707 ACBDACBD図5ステロイド投与後の眼窩CT(Bar=1cm)A:投与3週後.眼窩下方に伸展する充実性の眼窩腫瘍を認める.B:投与6カ月後.腫瘍陰影の濃度が低下している.C:投与1年後.眼窩下方の腫瘍陰影の濃度はさらに低下している.D:投与1年7カ月後.腫瘍はほぼ消失し,眼窩の左右非対称は目立たなくなった.フェロン全身投与などがあり,さらに最近ではプロプラノロール全身投与が注目を浴びている.外科的切除は確実に腫瘍を小さくすることができるが,術後瘢痕や出血,眼球運動障害などを含む視機能障害の合併症のリスク1)を考慮すると,本症例のように眼窩深部の筋円錐内にまで伸展している症例で腫瘍を全摘出することは困難である.本症例で行った腫瘍切除も当初から全摘出を目標とはしておらず,先述した合併症を生じさせないことを最優先にした部分切除に留めた.つぎにレーザー治療であるが,この治療は皮膚表面の乳児毛細血管腫には効果的である一方で深部の腫瘍には効果が得られにくく9),本症例の場合は十分な治療効果は見込めないと考えられた.さらに,インターフェロン投与療法は体表面積当たり100万.300万単位の皮下注射が提唱されているが,全身的副作用として倦怠感・嘔気・白血球減少症などがあり10),本症例のような新生児期の初期治療としては選択しづらい.実際にはステロイド投与に反応しない場合に用いられることが多いようである10).プロプラノロール全身投与療法は2008年にClemensら11)が乳児の毛細血管腫に対して有効であると報告して以降,近年注目される治療法であり,Hogelingら12)は経過観察と比較した無作為割り付け試験で有意に腫瘍を縮小させたと述べている.しかし,本症例においては当時十分なデータがなかったために選択しなかった.一方,ステロイド治療は血管収縮因子の感受性増強や血管新生の阻害などの作用機序は依然推察の域を出ないものの,708あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012その有用性は広く支持されてきている13).全身投与による治療に関しては,1967年にZaremら14)が病理学的に同定された毛細血管腫を含む生後3カ月から21カ月の血管腫7症例に対し,同治療法が有効であったことを報告し,現在でも治療法の一つとして広く用いられている.投与法はプレドニゾロンを1.2mg/kg/日を毎日,あるいは2.4mg/kg/日の隔日投与から開始し,数カ月をかけて漸減することが提唱されているが,長期間の投与になるために副作用として発育遅延やCushing徴候,また易感染性のリスクを伴うことが指摘されている1).一方で,筆者らが選択したステロイド局所投与は,1979年にKushnerら15)が報告して以来広く用いられており,わが国でも報告されている2.5).治療にはおもにトリアムシノロンなどの長期間作用型のステロイドとベタメタゾンなどの短期間作用型のステロイドが使われ,投与法も単剤あるいは複数の薬剤を併用する場合が報告されている.わが国における報告でも,トリアムシノロン20.24mgの複数回投与3),メチルプレドニゾロン25mgとトリアムシノロン25mgの併用2),トリアムシノロン40.50mgとベタメタゾン6mgの併用5),トリアムシノロン45.50mgとベタメタゾン9.10mgの併用4)など,多彩な投与法が用いられており,やはり標準的な投与法は確立されていない.また,ステロイド局所投与の副作用は全身投与に比べて少ないものの,眼瞼壊死,眼窩脂肪萎縮や網膜動脈閉塞などが報告されている16).合併症としての報告は少ないが,血管組織豊富な(128) 腫瘍であることから,注射針の穿刺による出血のリスクも考えられる.Wassermanら17)はこの手技によって局所の出血や血腫を生じる頻度は3.85%と報告している.毛細血管腫は血管組織は豊富であるものの血流の多い腫瘍ではないために,重篤な出血に至ることは少ないとされる18)が,青紫色の色調変化や腫脹などの出血を示す徴候があった場合は,圧迫止血を行った後に画像診断で血腫の有無や範囲を確認する必要があると思われる.本症例では投与時期が生後5カ月と比較的早期であったことから,副作用を考慮して他の報告に比べるとやや少量であるメチルプレドニゾロン20mg(2.5mg/kg)の局所投与を選択した.初回投与後も腫瘍の増大傾向が続くようであれば追加の局所投与を行い,それでもなお効果が得られない場合は全身投与の施行を検討していたが,幸い初回の局所投与3週後には腫瘍の退縮傾向が確認されたために追加の局所投与は行わず,最終的に重篤な副作用もなく視神経障害を回避することができた.このことは,今後の同様な症例に対するステロイド治療の選択肢を広げるものと考える.視神経障害以外の眼窩部乳児毛細血管腫の合併症として,弱視と眼窩の変形に起因した容貌の変化がある.弱視は眼周囲の毛細血管腫をもつ患者の44.63%に生じると報告されており19.21),弱視となる可能性を認める場合は,積極的な治療介入の適応があるとされている19).Robbら21)は腫瘍が角膜を圧迫して乱視をもたらすことで不同視弱視になる可能性があり,さらに腫瘍の消退後も乱視は残存する傾向があると報告しているが,一方でステロイド局所注入治療によって得られた腫瘍縮小に伴い乱視率が63%軽減したとの報告22)もあり,弱視が確認されなくても疑われる症例に対して早期から積極的な治療を行うことの有効性が示唆される.本症例は不同視性弱視の発症を疑わせるような著しい屈折異常はなく,視軸遮断もなく経過した.3歳7カ月の時点で可能となった視力検査で,患側眼の矯正視力が(0.5)と健側眼の矯正視力(0.7)よりも不良であり,健側眼より強い乱視を認めたため,眼鏡を装用させて経過をみている.眼窩は,生後3歳まで急速に発育し,5歳までに成人の約90%の大きさに達するといわれている23)ことから,出生直後の眼窩内病変は眼窩の発育異常をきたしやすいと考えられる.今回の症例では腫瘍が片側眼窩内に広く伸展していたために,初診時すでに腫瘍の圧排による眼窩の非対称が顕著であった.しかしその後,眼窩が発育する期間内に腫瘍の増大が止まり,徐々に消退していった.CT(図5)で眼窩の形状を経時的に比較すると,右眼窩において腫瘍に圧排されていた部位は腫瘍が消退した後は拡大せず,右眼窩のその他の部位と左眼窩は徐々に発育拡大し,生後2歳の時点で眼窩の左右非対称はほぼ消失した.本症例は眼窩深部に至る血管腫であり,これまでの報告6)にあるように,腫瘍の自然退縮が4(129).5歳以降となり眼窩が急激に発育する期間内23)に生じなかった場合,あるいは腫瘍による眼窩の変形と拡大が成熟した眼窩の大きさを上回った場合は,腫瘍の自然退縮後にも眼窩の左右非対称が大きく残存した可能性がある.本症例のような眼窩深部に至る乳児毛細血管腫では,眼窩の変形に起因する容貌上の問題を防ぐためにも早期治療が有効であることが示唆された.文献1)HaikBG,KarciogluZA,GordonRAetal:Capillaryhemangioma(infantileperiocularhemangioma).SurvOphthalmol38:399-426,19942)大黒浩,関根伸子,小柳秀彦ほか:ステロイド局所注射で退縮をみた眼窩頭蓋内血管腫瘍の1例.臨眼50:10151017,19963)三河貴子,片山智子,田内芳仁ほか:眼瞼と眼窩に認められた苺状血管腫の1例.あたらしい眼科14:155-158,19974)玉井求宜,宗内巌,木暮鉄邦ほか:ステロイドの局所注射が著効した顔面苺状血管腫の1例.日形会誌25:30-33,20055)松本由美子,宮本義洋,宮本博子ほか:頭頸部の巨大苺状血管腫4例の報告重大な合併症を回避するために速効性のある治療を行った4例の経過.日形会誌27:809-815,20076)RootmanJ:Vascularlesions.DiseasesoftheOrbit,p525532,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,19887)TambeK,MunshiV,DewsberyCetal:Relationshipofinfantileperiocularhemangiomadepthtogrowthandregressionpattern.JAAPOS13:567-570,20098)SchwartzSR,BleiF,CeislerEetal:Riskfactorsforamblyopiainchildrenwithcapillaryhemangiomasoftheeyelidsandorbit.JAAPOS10:262-268,20069)AlBuainianH,VerhaegheE,DierckxsensLetal:Earlytreatmentofhemangiomaswithlasers.Areview.Dermatology206:370-373,200310)EzekowitzRA,MullikenJB,FolkmanJ:Interferonalfa2atherapyforlife-threateninghemangiomasofinfancy.NEnglJMed326:1456-1463,199211)SchiestlC,NeuhausK,ZollerSetal:Efficacyandsafetyofpropranololasfirst-linetreatmentforinfantilehemangiomas.EurJPediatr170:493-501,201112)HogelingM,AdamsS,WargonO:Arandomizedcontrolledtrialofpropranololforinfantilehemangiomas.Pediatrics128:e259-266,201113)BrucknerAL,FriedenIJ:Hemangiomasofinfancy.JAmAcadDermatol48:477-493,200314)ZaremHA,EdgertonMT:Inducedresolutionofcavernoushemangiomasfollowingprednisolonetherapy.PlastReconstrSurg39:76-83,196715)KushnerBJ:Localsteroidtherapyinadnexalhemangioma.AnnOphthalmol11:1005-1009,197916)DroletBA,EsterlyNB,FriedenIJ:Hemangiomasinchildren.NEnglJMed341:173-181,1999あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012709 17)WassermanBN,MedowNB,Homa-PalladinoMetal:Treatmentofperiocularcapillaryhemangiomas.JAAPOS8:175-181,200418)NeumannD,IsenbergSJ,RosenbaumALetal:Ultrasonographicallyguidedinjectionofcorticosteroidsforthetreatmentofretroseptalcapillaryhemangiomasininfants.JAAPOS1:34-40,199719)StigmarG,CrawfordJS,WardCMetal:Ophthalmicsequelaeofinfantilehemangiomasoftheeyelidsandorbit.AmJOphthalmol85:806-813,197820)HaikBG,JakobiecFA,EllsworthRMetal:Capillaryhemangiomaofthelidsandorbit:ananalysisoftheclinicalfeaturesandtherapeuticresultsin101cases.Ophthalmology86:760-792,197921)RobbRM:Refractiveerrorsassociatedwithhemangiomasoftheeyelidsandorbitininfancy.AmJOphthalmol83:52-58,197722)WeissAH,KellyJP:Reappraisalofastigmatisminducedbyperiocularcapillaryhemangiomaandtreatmentwithintralesionalcorticosteroidinjection.Ophthalmology115:390-397,200823)FarkasLG,PosnickJC,HreczkoTMetal:Growthpatternsintheorbitalregion:amorphometricstudy.CleftPalateCraniofacJ29:315-318,1992***710あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(130)

化学療法により縮小のみられた直腸原発転移性脈絡膜腫瘍の1例

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):701.704,2012c化学療法により縮小のみられた直腸原発転移性脈絡膜腫瘍の1例三宅絵奈*1森脇光康*2砂田貴子*1竹村准*1*1大阪市立十三市民病院眼科*2大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学RegressionofChoroidalMetastasisfromRectalCancerfollowingChemotherapyEnaMiyake1),MitsuyasuMoriwaki2),TakakoSunada1)andJunTakemura1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaCityJusoHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,Osaka-CityUniversityGraduateSchoolofMedicine転移性脈絡膜腫瘍の原発巣の大部分は乳癌と肺癌であり,直腸や結腸などの消化管が原発となる症例は少ない.今回筆者らは直腸癌のstageIVの患者で発症した転移性脈絡膜腫瘍に対して化学療法が有効であった症例を経験した.症例は74歳,男性,右眼の視力低下を訴え眼科紹介となった.初診時右眼眼底には10乳頭径に及ぶ黄白色隆起性病変を認め,矯正視力は0.06であった.原発巣の外科的治療の後,大腸癌に対する化学療法のmodifiedFOLFOX6を開始した.6クール終了時点で脈絡膜腫瘍の検眼鏡的な消失がみられ,画像所見でも消失を確認した.その後眼病変発症から約8カ月で死亡したが,生存中は脈絡膜腫瘍の再発を認めなかった.現段階では直腸原発の転移性脈絡膜腫瘍の報告例は少ないが,抗癌剤の進歩とともに症例の増加が見込まれ,眼科医の転移性脈絡膜腫瘍治療に伴う癌治療への機会が増すであろうと考えられた.Choroidalmetastasisoriginatesmainlyfrombreastandlungcancer,rarelyfromrectalorcoloncancer.Wereportacaseofmetastaticchoroidaltumorthatoriginatedfromadvancedrectalcancerandregressedwithchemotherapy.Thepatient,a74-year-oldmale,experiencedprogressivelossofvisioninhisrighteye,whichshowedawhiteandyellowchoroidalmassapproximately10discdiametersinlength.Visualacuityintheeyewas0.06.Afteranoriginalsurgery,systematicchemotherapy(modifiedFOLFOX6)wasinitiated.After6coursesofchemotherapy,fundusexaminationandCT(computedtomography)scanoftherighteyerevealedtumorregression.Thepatientdied8monthsafterthefirstophthalmologicexamination,andthetumordidnotrelapsewhilehewasalive.Metastaticchoroidaltumorfromrectalcancerisrarelyreportedatpresent,butwithadvancesinchemotherapytherewillbeincreasingopportunitiestotreatwiththisconditionwithsuitablecancermanagement.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):701.704,2012〕Keywords:脈絡膜転移,直腸癌,化学療法,腺癌.choroidalmetastasis,rectalcancer,chemotherapy,adenocarcinoma.はじめに以前は脈絡膜悪性腫瘍としては脈絡膜原発の悪性黒色腫が最も多く,転移性脈絡膜腫瘍は比較的まれな疾患とされてきた.しかし,近年の癌治療の進歩・多剤併用療法による抗癌剤治療により生命予後の改善がみられ,担癌患者は増加する傾向にあり,転移性脈絡膜腫瘍は脈絡膜腫瘍のなかで最も多いものとなってきている1,2).おもな原発巣としては肺癌および乳癌が70%以上を占めており,他臓器の癌や血液由来の癌の転移性脈絡膜腫瘍はまれとされている2,3).治療としては眼球への単発性の転移で,転移性脈絡膜腫瘍が小さければ光凝固,冷凍凝固,放射線療法などが転移巣に対して行われてきたが,原発巣に対する化学療法が転移巣に対しても有効であったという報告もある4,5).今回筆者らは直腸原発腺癌が脈絡膜転移したまれな1例を経験し,化学療法単独により原発巣のみならず脈絡膜転移巣の縮小・消失を認めた症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕三宅絵奈:〒532-0034大阪市淀川区野中北2-12-27大阪市立十三市民病院眼科Reprintrequests:EnaMiyake,DepartmentofOphthalmology,OsakaCityJusoHospital,2-12-27Nonakakita,Yodogawa-ku,Osaka532-0034,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(121)701 I症例患者:74歳,男性.主訴:右眼の視力低下.家族歴:特記すべき事項はない.既往歴:右眼20年前,左眼3年前に白内障手術を他院で施行されている.左眼は加齢黄斑変性のため白内障術後視力は不良であった.現病歴:1年前より下痢が持続していたが放置していた.最近血便がみられるようになったため,当院内科を受診し精査したところ,直腸癌および肝転移,肺転移を指摘された.原発巣の通過障害改善目的手術のため当院外科入院中に右眼の視力低下を自覚したので,2010年5月14日当科紹介受診となった.外科入院中の血液検査所見は白血球10,200/μl,ヘモグロビン9.3g/dl,血小板41.6万/μl,ナトリウム135mM/l,カリウム4.7mM/l,塩素101mM/l,CEA(癌胎児性抗原)4.1ng/ml,CA19.932.1U/mlであった.眼科初診時所見:視力は右眼0.02(0.06×sph.4.0D(cyl.1.5DAx70°),左眼0.03(0.07×sph.4.5D)で,眼圧は右眼14mmHg,左眼16mmHg,中心フリッカー値は右眼26Hz,左眼23Hzであった.両眼ともに前眼部の異常を認めなかった.検眼鏡的には左眼に前医より指摘されていた加齢黄斑変性によると考えられる黄斑部網膜下の線維性組織ならびに一部に網脈絡膜萎縮を認めた.右眼には視神経乳頭より上方に約10乳頭径大の網膜下黄白色隆起性病変がみられ,その下方に滲出性網膜.離を認めた(図1).初診時に撮影した眼窩部の単純コンピュータ断層撮影(CT)写真では右眼球内上方に約12mm径大の軟部腫瘤像がみられ,その下方に滲出性網膜.離によるものと考えられる三日月状の高吸収域を認めた(図2).Bモードエコー検査では高さ約10mmの隆起性病変とその下方に網膜.離を認めた(図3).図3初診時Bモードエコー写真図1初診時右眼眼底写真図2初診時眼窩部単純CT写真図4直腸原発巣の病理組織702あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(122) II経過臨床経過より直腸癌原発の転移性脈絡膜腫瘍と診断した.原発巣の通過障害に対して5月17日に開腹高位前方切除術を施行し,その切除標本の病理組織より高分化型腺癌と診断された(図4).そしてその2週間後より大腸癌に対する化学療法のmodifiedFOLFOX6(mFOLFOX6)を開始し,6クール施行後全身状態が落ち着いたため9月1日眼科再診となった.再診時の視力は右眼光覚弁,左眼0.09(矯正不能),眼圧は右眼14mmHg,左眼19mmHg,中心フリッカー値は右図56クール投与後の右眼眼底写真前後眼測定不能,左眼30Hzであった.右眼眼底は,以前認めた脈絡膜腫瘍と考えられた隆起性病変は消失していたが,広範な網脈絡膜変性を認めた(図5).化学療法8クール終了時点での10月6日に撮影した眼窩部CTでは右眼の腫瘍がほぼ消失していた(図6).同時期に行った全身のCT検査にても肝臓および肺転移巣の縮小や消失が認められた(図7).Bモードエコーでは網膜.離は残存するものの腫瘍はほぼ消失していた(図8).この時点では眼痛などの自覚症状は消失し,矯正視力は右眼0.02,左眼0.1,眼圧は右眼11mmHg,左眼15mmHgであった.この後化学療法による骨髄抑制のため全身状態の悪化をきたし化学療法を中断した.しかし,骨髄抑制による悪液質ならびに肺転移巣の再燃・増悪による呼吸不全のため眼科初診の約8カ月後の2011年1月7日に永眠した.図68クール投与後の眼窩部単純CT写真図78クール投与後の肝臓および肺転移巣のCT図88クール投与後のBモードエコー写真(123)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012703 III考按癌治療の進歩とともに生命予後が延長して担癌患者が増加してきており,われわれ眼科医が臨床の場で転移性脈絡膜腫瘍を発見する機会が増えてきている.転移性脈絡膜腫瘍の原発巣は肺と乳房が多くを占めており,直腸や結腸などの消化管からの転移は比較的まれとされる1.3).Shieldsらは520眼,950個の転移性脈絡膜腫瘍を報告し,これらを全身検索した結果,原発巣の内訳は乳癌47%,肺癌21%,消化管癌4%であったとしている1).わが国では箕田らが117例を検討し肺癌38.5%,乳癌36.8%,直腸癌2%と報告している2,3).直腸癌や結腸癌からの脈絡膜転移はまれとされており,わが国で眼科文献として報告されたものを1980年より検索しても5例4.8)がみられるのみである.このうち転移巣の発見を契機に原発巣を指摘された症例は2例ある.生命予後は悪く1例を除いて眼病変発症から平均約半年で死亡している.他の腫瘍が原発である場合の生存期間は,肺癌の場合は本症出現から約半年,乳癌では約10カ月と報告されている2).一般的に転移性脈絡膜腫瘍の治療に関しては原発巣の治療に加えて眼球への放射線療法や光凝固・冷凍凝固が選択されることが多い.脈絡膜への転移巣の大きさが4乳頭径より小さければ光凝固や冷凍凝固が選択され,それ以上の大きさもしくはすでに漿液性網膜.離を伴っている場合や腫瘍が乳頭黄斑部にかかっている場合に放射線療法が選択される9).光凝固は効果の発現が比較的早く侵襲は少ないが,腫瘍細胞の播種をきたす危険性があり,放射線療法は原発巣が肺癌や乳癌の場合には感受性が高いとされているものの総量を照射するのに時間がかかり,照射中や照射後に角膜症や網膜症などの副作用も起こしうる9).最近では硝子体内へのベバシズマブ注射11)や光線力学療法10)などの報告もみられるがいまだ少数である.いずれにしても眼球局所への単独療法は,多臓器への転移ではなく,眼球への転移のみの場合に選択されることが多い.直腸癌からの脈絡膜転移における眼科的な治療に関しては2例では眼球摘出術を施行している.田野ら4)の症例では,眼病変発見時に原発巣である直腸以外に異常を認めなかったため,また遠藤ら5)の症例では,腫瘍の急速増大による眼痛および顔面圧迫感が出現したため,眼球摘出を選択したとしている.中村ら6)および藤原ら7)の症例では,化学療法および放射線療法を併用し前者で縮小が得られた.この縮小の得られた中村らの症例では全身の化学療法中に脈絡膜転移を発症したので放射線療法を併用したとしている.そのため化学療法は続行しながら眼球には放射線療法を開始し隆起性病変の縮小を得て,眼病変発症から1年以上の生存が確認された.2010年に報告された指山ら8)の症例では,筆者らと同じ化学療法(FOLFOX4)の投与だけで縮小効果が得られている.視力の回復までは得られなかったものの化学療法の進歩により化学療法単独で効果が期待できるようになってきているものと考える.本症例で用いたmFOLFOX6は大腸癌治療ガイドライン2009年版において標準的治療の一つとして推奨され,奏効率は高く完全および部分寛解併せて72%と報告されている12).今後の結腸・直腸癌の脈絡膜転移に関しては化学療法単独で効果が得られる可能性が考えられた.直腸や結腸癌は下部消化管癌であるため全身検索の際に頭頸部領域の画像診断を行う機会が少ないことや,眼症状出現時にはすでに全身状態が悪く十分な検査や診察が行えないことが今までまれとされてきた要因と推測される.進行癌患者の余命延長には抗癌剤の進歩が重要であり,今後も抗癌剤の改良によってわれわれ眼科医が悪性腫瘍脈絡膜転移を発見する機会が増加することが考えられた.脈絡膜転移巣は眼底観察により簡便に治療効果の判定が行いうるため,主科と協力しながら癌治療の効果判定に寄与しうるものと考えた.文献1)ShieldsCL,ShieldsJA,GrossNEetal:Surveyof520eyeswithuvealmetastases.Ophthalmology104:12651276,19972)箕田健生,小松真理,張明哲ほか:癌のブドウ膜転移.癌の臨床27:1021-1032,19813)箕田健生,小松真理:脈絡膜転移癌の病態と治療.眼科MOOK,No19,眼の腫瘍性疾患,p159-169,金原出版,19834)田野茂樹,林英之,百枝栄:直腸癌からの転移と思われる脈絡膜腫瘍の1例.眼紀40:1284-1288,19895)遠藤弘子,田近智之,竹林宏ほか:直腸癌を原発とする転移性脈絡膜腫瘍の1例.眼臨91:1141,19976)中村肇,原田明生,榊原巧ほか:上行結腸癌原発の転移性脈絡膜腫瘍の1例.日臨外会誌63:1031-1035,20027)藤原貴光,町田繁樹,村井憲一ほか:直腸癌原発の転移性脈絡膜腫瘍の1例.眼科46:1099-1103,20048)指山浩志,阿部恭久,笹川真一ほか:脈絡膜転移を初症状として再発を来した直腸癌の1例.日消外会誌43:746751,20109)矢部比呂夫:転移性脈絡膜腫瘍.眼科42:153-158,200010)HarbourJW:Photodynamictherapyforchoroidalmetastasisfromcarcinoidtumor.AmJOphthalmol137:1143-1145,200411)稲垣絵海,篠田肇,内田敦郎ほか:滲出性網膜.離に対してベバシズマブ硝子体内投与が奏効した転移性脈絡膜腫瘍の1例.あたらしい眼科28:587-592,201112)CheesemanSL,JoelSP,ChesterJDetal:A‘modifieddeGramont’regimenoffluorouracil,aloneandwithoxaliplatin,foradvancedcolorectalcancer.BrJCancer87:393-399,2002704あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(124)

激症型サイトメガロウイルス網膜炎を発症しガンシクロビル全身投与で良好な視力を得た小児の1例

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):697.699,2012c激症型サイトメガロウイルス網膜炎を発症しガンシクロビル全身投与で良好な視力を得た小児の1例武田祐介山下英俊山形大学医学部眼科学講座ACaseofFulminantCytomegalovirusRetinitisinaChild,withGoodPrognosisfollowingSystemicGanciclovirTreatmentYusukeTakedaandHidetoshiYamashitaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YamagataUniversitySchoolofMedicine激症型サイトメガロウイルス網膜炎を発症したが,ガンシクロビル全身投与で良好な視力を得た小児の1例について報告する.症例は11歳の女児で,左中耳炎を契機に左上咽頭部の横紋筋肉腫と診断された.山形大学医学部附属病院小児科に入院し,化学療法と放射線療法を施行.約1年後に10日前からの右眼の暗黒感を主訴に当科を受診.視力は右眼(0.5)で,眼底所見および,採血で白血球中サイトメガロウイルス抗原が陽性であったことより,右眼のサイトメガロウイルス網膜炎と診断した.ガンシクロビル静脈内投与を開始.その後,網膜炎は軽快し,約1カ月後には右眼(1.0)まで改善した.サイトメガロウイルス網膜炎において,全身状態を評価して,ただちに全身的な治療薬投与によって治療を開始することが有効と思われた.早期治療により硝子体注射などが回避できれば,特に小児の場合は,身体的・心理的負担が軽減できると考えられた.Wereportacaseoffulminantcytomegalovirusretinitisinachild,withgoodprognosisfollowingsystemicganciclovirtreatment.Thepatient,an11-year-oldfemalewithleftotitismedia,wasdiagnosedwithrhabdomyosarcomaattheleftrhinopharynx.ShewasreferredtotheDepartmentofPediatricsofYamagataUniversityHospital,andunderwentchemotherapyandradiotherapy.Oneyearlater,shevisitedourclinicwithaphoseinherrighteye;visualacuityintheeyewas(0.5).Clinicalfindingsofvoluminoushardexudate,withprominenthemorrhageandpositiveassayresultsforcytomegalovirus-antigenemiainwhitebloodcells,suggestedcytomegalovirusretinitisintherighteye.Intravenousgancicloviradministrationasinitialtherapyrelievedtheretinitisafteronemonthoftreatment.Visualacuityimprovedto1.0.Thiscaseshowsthatsystemicadministrationofganciclovircanbeeffectiveforcytomegalovirusretinitis,inlieuofintravitrealinjection.Thistreatmentmodalityisusefulinchildren.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):697.699,2012〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,小児,ガンシクロビル,全身投与.cytomegalovirusretinitis,child,ganciclovir,systemicadministration.はじめにサイトメガロウイルス網膜炎はおもに易感染性宿主に認められ,これまで後天性免疫不全症候群や血液疾患に関わる報告が多数なされてきた1).筆者らは悪性腫瘍治療中にサイトメガロウイルス網膜炎を発症したが,治療により改善した小児の1例を経験した.全身状態が不良な際には硝子体注射が選択されることもあるが,今回は全身治療により良好な視力を得ることができたので報告する.I症例患者:11歳,女児.主訴:右眼の眼前暗黒感.既往歴:特記事項なし.現病歴:平成22年6月下旬に近医耳鼻科で左中耳炎とし〔別刷請求先〕武田祐介:〒990-9585山形市飯田西2-2-2山形大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YusukeTakeda,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,YamagataUniversitySchoolofMedicine,2-2-2Iidanishi,YamagataCity990-9585,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(117)697 ababて加療されたが,耳閉感と鼻閉が改善しなかった.内視鏡検査とX線検査を施行したところ,腫瘍性病変が疑われた.CT(コンピュータ断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像)で左上咽頭部の腫瘍と,両頸部の小リンパ節を認め,生検の結果は横紋筋肉腫であった.同年8月6日に化学療法施行目的に山形大学医学部附属病院小児科に入院した.8月7日より横紋筋肉腫の中等度リスク群として化学療法(ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロフォスファミドの3剤併用)を開始し,11月5日から放射線療法を併用した.化学療法は計14クール,放射線治療は計50.4Gy施行した.平成23年8月2日,治療の効果判定で小児科入院中に,10日前からの右眼の眼前暗黒感を主訴に眼科を受診した.初診時の眼所見:視力は右眼0.3(0.5×sph+0.5D),左眼1.5(矯正不能),眼圧は右眼17mmHg,左眼17mmHgで,両眼とも前眼部に炎症所見は認めなかった.眼底検査で右眼の視神経乳頭を中心として,鼻側から上方にかけて白色病変と出血を認めた(図1).黄斑部にも病変は及んでいた.中心窩・傍中心窩には漿液性網膜.離を認めたが,白色病変と出血は認めなかった.左眼の眼底には特記事項は認めなかった.初診時の全身所見:末梢血の血液検査では,白血球数1,860/μl,赤血球数331万/μl,血小板21.3万/μl,Hb(ヘモグロビン)10.9g/dlと,特に白血球数が低値であった.化学療法は,約1カ月前に終了していた.眼科受診の約2週間前に白血球数が640/μlまで低下したが,その後,増加傾向にあった.経過:特徴的な眼底所見と,化学療法による易免疫状態から,右眼のサイトメガロウイルス網膜炎を疑った.小児科入院中であったため,ただちに採血を依頼したところ,白血球中サイトメガロウイルス抗原(以下,アンチゲネミア検査)が陽性(14.19/スライド)であった.臨床経過と眼底所見から,右眼の激症型サイトメガロウイルス網膜炎と診断した.他の臓器には明らかなサイトメガロウイルス感染を示唆する所見は認めなかった.また,抗体検査では,サイトメガロウイルスIg(免疫グロブリン)Gが陽性,IgMは陰性であった.小児科での入院を継続し,初期療法として,8月3日より160mg(5mg/kg/回)1日2回の静注を施行した.その後,骨髄抑制は認めず,明らかに眼底所見が改善したため,初期投与量で継続した.治療開始30日目となる9月1日には眼底の白色病変と出血はさらに軽快し,アンチゲネミア検査の結果は陰性化した.経過良好のため,維持療法として9月6日にパラガンシクロビル900mg/日の内服に移行した.図1初診時の眼底写真と光干渉断層計像図2約2カ月後の眼底写真と光干渉断層計像a:網膜血管に沿う出血を伴った白色病変.a:網膜出血と白色病変は明らかに減少した.b:漿液性網膜.離を認める.b:漿液性網膜.離は消失した.698あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(118) その後も眼底所見で再燃を認めなかった.そもそもの治療対象であった左上咽頭部の横紋筋肉腫は画像検査上消失してリンパ節転移も認めなかったため,9月13日に退院し,以後,眼科・小児科ともに外来通院となった.9月20日の受診時には右眼の眼前暗黒感は消失して,下方視野障害を自覚するのみとなった.視力は右眼0.6(1.0×sph.0.5D)まで改善した(図2).II考按サイトメガロウイルス網膜炎の診断は,眼底所見,眼局所の感染の証明,全身における感染の証明,免疫不全状態にあることを総合的に判断するべきとされている2).本症例では,左上咽頭部横紋筋肉腫の治療のために長期にわたる化学療法が施行され,免疫不全の状態にあった.血液検査から全身におけるサイトメガロウイルス感染が証明された.アンチゲネミア検査は,眼内ではなく末梢血中における評価であり,網膜炎があっても陰性の場合があること,再燃のマーカーとなりにくいことなどの過去の報告3.5)に留意する必要がある.本症例では眼底が典型的な激症型サイトメガロウイルス網膜炎の所見を示していた.前房内に炎症所見を認めなかったため,前房穿刺で検体を採取し,polymerasechainreaction(PCR)による検査を行うことは,意義が少ないものと判断した.以上より,右眼のサイトメガロウイルス網膜炎と診断し早急に治療を開始した.ガンシクロビル点滴を開始後,眼底所見の明らかな改善を認め,治療的診断をすることもできた.サイトメガロウイルス網膜炎の治療法は,点滴治療としてはガンシクロビル,ホスカルネット,内服治療ではバルガンシクロビルがある.しかし,副作用としてガンシクロビルには骨髄抑制が,ホスカルネットには腎障害があり,全身的にこれらが投与困難な場合には,ガンシクロビルの硝子体注射が選択肢としてあげられる.ガンシクロビル硝子体注射の有効性はわが国でも報告されており6),外来通院が可能となる利点もある.本症例では,化学療法・放射線療法施行後で小児科入院中であったため,小児科管理のうえで,初期投与量であるガンシクロビル5mg/kg/回,1日2回の静注で治療を開始した.その後,明らかな骨髄抑制を認めなかったため,減量や薬剤変更などせず治療継続ができた.バルガンシクロビル内服に移行後も再燃を認めず,最小限の侵襲で治療することができた.骨髄抑制によりガンシクロビル継続が困難であった場合には,ホスカルネット静注への変更かガンシクロビル硝子体注射が必要であったと考えられる.治療の効果判定としては,眼底検査(受診ごとに眼底写真施行)と,採血によるアンチゲネミア検査をおもに用いた.初診時に病変は黄斑部まで及んでいたが,治療により右眼視力は(0.5)から(1.0)まで回復した.これは,白色病変が中心窩や傍中心窩まで及んでおらず,視力低下の主体が漿液性網膜.離であったためと考えられる.治療開始が遅れた場合や初期治療に反応しなかった場合は,視力回復は困難であったと予想される.白色病変の領域は沈静化して萎縮巣となったが,外来通院後も網膜裂孔や網膜.離は認めていない.本症例は,後天性免疫不全症候群によるものではなく,このまま免疫状態の改善が続き,化学療法再開の予定がなければ,バルガンシクロビル内服の終了も十分に期待できる.後天性免疫不全症候群や血液疾患だけでなく,悪性腫瘍の治療中に発症するサイトメガロウイルス網膜炎にも十分に注意する必要がある.サイトメガロウイルス網膜炎を疑った場合,ただちに全身状態を評価して,治療開始することが有効であると思われた.本症例では治療に反応し,ガンシクロビルの点滴が継続できたため,順調に内服・外来治療に移行することができた.結果的に,良好な視力を得ることができた.早期治療により薬剤の変更や硝子体注射などが回避できれば,特に小児の場合は,身体的・心理的負担が大きく軽減できるとも考えられた.文献1)HollandGN,PeposeJS,PettitTHetal:Acquiredimmunedeficiencysyndrome,ocularmanifestations.Ophthalmology90:859-873,19832)永田洋一:サイトメガロウイルス感染.あたらしい眼科20:321-326,20033)PannutiCS,KallasEG,MuccioliCetal:Cytomegalovirusantigenemiainacquiredimmunodeficiencysyndromepatientswithuntreatedcytomegalovirusretinitis.AmJOphthalmol122:847-852,19964)HoshinoY,NagataY,TaguchiHetal:Roleofthecytomegalovirus(CMV)-antigenemiaassayasapredictiveandfollow-updetectiontoolforCMVdiseaseinAIDSpatients.MicrobiolImmunol43:959-96519995)WattanamanoP,ClaytonJL,KopickoJJetal:ComparisonofthreeassaysforcytomegalovirusdetectioninAIDSpatientsatriskforretinitis.JClinMicrobiol38:727-732,20006)藤野雄次郎,永田洋一,三好和ほか:AIDS患者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎に対するガンシクロビル硝子体注射療法.日眼会誌100:634-640,1996***(119)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012699

Microperimeter-1(MP-1TM)を用いた黄斑円孔術前後の 視機能評価

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):691.695,2012cMicroperimeter-1(MP-1TM)を用いた黄斑円孔術前後の視機能評価鈴木リリ子*1,2高野雅彦*1飯田麻由佳*1大平亮*1塩谷直子*1清水公也*2*1国際医療福祉大学熱海病院眼科*2北里大学医学部眼科学教室UsingMicroperimeter-1(MP-1TM)forVisualFunctionEvaluationofMacularHolebeforeandafterSurgeryRirikoSuzuki1,2),MasahikoTakano1),MayukaIida1),RyoOhira1),NaokoShioya1)andKimiyaShimizu2)1)DivisionofOphthalmology,InternationalUniversityofHealthandWelfare,AtamiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine目的:黄斑円孔(MH)術前後において,視機能評価にMicroperimeter-1(MP-1TM)を用いて固視安定度と網膜感度を評価し,視力および光干渉断層計(OCT)所見との関連性についても考察した.対象および方法:MH患者に対し手術を施行し,3カ月以上経過観察が可能であった9例9眼.視力,OCTによる黄斑形態,MP-1TMによる固視安定度,中心網膜感度,傍中心8点の網膜感度について検討した.結果:4眼で術後の視力改善,内節外節接合部(IS/OS)line連続,中心および傍中心網膜感度の改善がみられた.IS/OSlineが不連続であった3眼は,黄斑形態とMP-1TMの結果が乖離していた.結論:MH術前後の視機能評価には,視力やOCT所見以外に,MP-1TMによる中心と傍中心網膜感度の解析が有用と思われる.Objective:TomeasurefixationstabilityandretinalsensitivityusingMicroperimeter-1(MP-1TM)aftermacularhole(MH)surgery,andtoevaluaterelevancetovisualacuityandopticalcoherencetomography(OCT)findings.SubjectsandMethods:Studiedwere9eyesof9patientswhounderwentMHsurgerytogetherwithcataractsurgery,andhadatleast3months’follow-up.Visualacuity,macularmorphology(OCT),fixationstability,centralandparacentralretinalsensitivitieswereexamined.Results:Visualacuityimprovedaftersurgeryin4eyes,andOCTfindingsshowedinnersegment-outersegment(IS/OS)linetobecontinuous.Bothcentralandparacentralretinalsensitivitiesimproved.DiscontinuousIS/OSlinewasnotedin3eyes.TheseOCTfindingsandtheMP-1TMresultsweredissociated.Conclusion:InadditiontovisualacuityandOCTfindings,retinalsensitivityevaluationbyMP-1TMmaybeusefulforassessingvisualfunctionafterMHsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):691.695,2012〕Keywords:マイクロペリメーター,黄斑円孔,視機能評価,固視安定度,網膜感度.Microperimeter-1,macularhole,visualfunctionalevaluation,fixationstability,retinalsensitivity.はじめに1995年以降,Brooksによる内境界膜(ILM).離という手術手技の導入により,黄斑円孔(MH)の円孔閉鎖率が上昇したが,術後の評価は円孔の閉鎖率と視力が主体であった1).2006年に実用化されたspectral-domainopticalcoherencetomography(OCT)の登場によって,黄斑部網膜においての内節外節接合部(IS/OS)lineによる形態評価が可能となり,円孔閉鎖後の視力上昇は,IS/OSlineの連続性の回復に依存する可能性があるとされている2).さらに,黄斑疾患の視機能評価に,微小視野測定が可能なMicroperimeter-1(MP-1TM)が開発され,固視安定度や任意の部位における網膜感度の詳細な評価が可能となった3,4).今回,MH術前後における視機能評価にMP-1TMを用い,固視安定度と黄斑部網膜感度を評価し,視力およびOCT所見との関連性についても考察したので報告する.〔別刷請求先〕鈴木リリ子:〒252-0374相模原市南区北里1-15-1北里大学医学部眼科学教室Reprintrequests:RirikoSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KitasatoUniversitySchoolofMedicine,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0374,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(111)691 I対象および方法国際医療福祉大学熱海病院眼科において,2009年8月.2011年5月までの22カ月間に硝子体手術を施行したMH患者14例14眼のうち,白内障手術(PEA+IOL)の同時手術を施行し,3カ月以上経過観察が可能であった9例9眼.年齢は62.73歳(平均67歳).性別は男性4例4眼,女性5例5眼.Gassの新分類によるMHの病期分類の内訳は,Stage2が3眼,Stage3が2眼,Stage4が4眼であった.白内障手術を施行後,23あるいは25ゲージシステムによる小切開硝子体手術を行った.全例トリアムシノロンアセトニド(ケナコルトTM)を使用し,内境界膜.離を施行した.20%SF6(六フッ化硫黄)あるいはroomairにてタンポナーデを行い,腹臥位とした.術後OCT(OCT-1000MARKII,トプコン社)にてMHの閉鎖を確認後,腹臥位解除とした.ab図1術後の黄斑部網膜OCT像a:IS/OSline連続例,b:IS/OSline不連続例.視力,OCTによる黄斑形態(IS/OSlineと中心窩網膜厚)MP-1TM(Microperimeter-1,NIDEK社)による固視安定度,(,)中心網膜感度および傍中心8点の網膜感度についてそれぞれ検討した.術前および術後3カ月の視力は,少数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)値に換算し,0.2以上の変化を改善もしくは悪化とした.中心窩網膜のIS/OSlineの連続性については,lineモードOCT白黒画像を3人の医師で判定した(図1a,b).中心窩網膜厚は,OCT画像の中心窩から色素上皮までの2点間の距離をマニュアルモードで測定した(図2).固視安定度は,測定された固視点分布をパーセンテージで表示し,MP-1TMの固視安定度判定基準(図3)に従い,安定,やや不安定,不安定のいずれかに判定した.なお,MP-1TMにおける網膜感度の表示は,0.20dBとデシベル表示であり,得られた測定値はカンデラ(cd/m2)に換算して平均し,再度デシベル表示に変換した(表1).網膜感度は,網膜中心部の感度と,中心から2°離れた8点の傍中心部の感度を用い(図4),術前後1dB以上の変化をもって,改善・不変・悪化と判定した.II結果全症例でMHは閉鎖した.腹臥位の期間は,術後4.7日(平均期間5.3日)であった.術後3カ月の視力は,7眼が改図2術後の中心窩網膜厚術後の中心窩網膜厚は,OCTのマニュアルモードを用いて,中心窩から色素上皮までの厚さを測定.図3固視安定度の判定黄斑部を中心とした,直径2°の円に75%以上の固視点がある場合は安定,直径2°の円に75%未満の固視点があり,直径4°の円に75%以上がある場合はやや不安定,直径4°の円に75%未満の固視点がある場合は不安定と判定した.安定やや不安定不安定692あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(112) 表1網膜感度の対照表HFA(dB)MP-1TM(dB)cd/m2140127.33151101.1416280.3417363.8218450.6919540.2720631.9921725.4122820.1823916.03241012.74251110.1226128.0427136.3828145.0729154.0330163.231172.5432182.0233191.6134201.28HFA(Humphreyfieldanalyzer)およびMP-1TMでの網膜感度の対照.網膜感度(dB)と網膜照度(cd)の換算表.図4網膜感度の判定黄斑中心部の感度(中心感度),および中心から2°離れた8点の傍中心部の感度(傍中心感度)を計測.…………….善,2眼が不変であり,視力の悪化例はなかった.OCTでの中心窩のIS/OSlineは,6眼が連続,3眼は不連続であった.中心窩網膜厚の平均は199.3μmであり,中心窩網膜厚と術後3カ月の視力との間に相関はみられなかった(p=0.54,r=0.24).術前・術後の固視安定度を示した(図5).術前・術後とも8眼が安定,やや不安定は1眼のみ(症例①)で,不安定と判定された症例はなかった.中心網膜感度は,術前平均6.2dB,術後平均12.2dBと有意な改善を認めた(Wilcoxonsignranktest,p=0.02).6眼で改善,3眼で不変であった(図6).中心から2°離れた8点の傍中心網膜感度は,術前平均13.2dB,術後平均16.5dB(113)(%)1009080706050:術前:術後403020100①②③④⑤⑥⑦⑧⑨症例図5術前・術後の固視点分布中心から2°以内の固視点の割合を示す(%).症例①のみ固視安定度判定(図3)からやや不安定とされた.(dB)20181614121086420図6術前・術後の中心網膜感度黄斑中心部の術前後の感度と平均値を示す.術前中心網膜感度は平均6.2dB,術後は12.2dB.(dB)平均(12.2)平均(6.2)術前術後20181614121086420図7術前・術後の傍中心8点の網膜感度黄斑中心部より2°離れた8点の網膜感度と平均値を示す.術前傍中心網膜感度は平均13.2dB,術後は16.5dB.1例のみ網膜感度の悪化がみられた.と有意な改善を認めた(Wilcoxonsignranktest,p=0.02).8眼で改善し,症例⑥の1眼のみわずかに悪化(17.5dBから15.5dB)がみられた(図7).全症例の術後視力,OCTでのIS/OSline,中心窩網膜厚,MP-1TMでの固視安定度,中心網膜感度,傍中心8点の網膜あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012693平均(16.5)平均(13.2)術前術後 表2全症例結果症例MH分類矯正視力術前→術後中心窩網膜厚(μm)IS/OSline固視安定度中心網膜感度(dB)術前→術後傍中心網膜感度(dB)術前→術後①3改善0.3→0.8248連続やや不安定不変6→6改善12.0→14.5②4改善0.3→0.9199不連続安定改善4→10改善13.5→16.5③2改善0.7→0.9224連続安定改善6→12改善8.5→13.5④2改善0.2→0.6168連続安定改善0→12改善15.0→17.0⑤2不変0.4→0.5265不連続安定改善2→14改善11.5→16.5⑥4改善0.3→1.0220連続安定不変12→12悪化17.5→15.5⑦3不変0.5→0.6166不連続安定不変10→10改善8.9→16.5⑧4改善0.5→1.0149連続安定改善6→20改善18.5→19.5⑨4改善0.5→0.9155連続安定改善10→14改善13.5→19.5感度を表2に示した.術後視力の改善がみられ,かつIS/OSlineの連続性が回復していた症例③,④,⑧および⑨の4眼では,MP-1TMでの中心網膜感度と傍中心網膜感度がいずれも改善しており,網膜外層形態の回復と視機能の改善に一致がみられた.しかし,術後3カ月においてもIS/OSlineが不連続であった3眼のうち,症例②および⑤の2眼では,中心網膜感度および傍中心網膜感度がいずれも改善しており,症例⑦では中心網膜感度は不変であったが,傍中心網膜感度の改善がみられた.III考按従来,黄斑疾患の視機能評価は,視力が主体となっており,MHの治療成績も円孔の閉鎖率と術後視力で評価されていた.Kellyらにより初めて報告された黄斑円孔に対する硝子体手術5)では,円孔閉鎖率は58%,視力改善率は42%であった.その後,内境界膜.離術の併施導入により,円孔の閉鎖率は格段に向上した6,7).さらに,spectral-domainOCTの登場によって2),IS/OSlineなど黄斑形態の詳細な描出が可能になり,術後の視力改善は,IS/OSlineの連続性回復に依存するとの報告がされている8,9).MH術後視力の予後因子には,術後中心窩網膜厚などが関与していたという報告8,9),MH術後の視力と中心窩網膜厚の間に正の相関があったとの報告10)や相関はなかったとの報告11)があるが,今回の筆者らの検討では,いずれにおい694あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012ても相関関係はみられなかった.術後の固視安定度に関して,今回の検討では,9眼中8眼で術前すでに固視点の安定がみられていた.実際,術前に固視点の多くは,中心窩もしくはその上方に集中して認められていた.このため,術後黄斑円孔が閉鎖しても固視安定度には大きな変化がみられなかったと考えられる.MP-1TMは,眼底カメラの赤外照明で眼底像を確認しながら,静的量的視野検査(網膜視感度測定)を行う.このとき,オートトラッキング機能によりあらかじめ設定した測定点を,正確に繰り返し測定することができる.その後,カラー眼底写真と赤外眼底写真を元にした網膜視感度測定結果を重ね合わせることによって,眼底写真上に網膜感度の表示が可能である.Richter-Muekschらは,MH術後3カ月の視力改善率が47.3%であったのに対し,MP-1TMでの網膜感度の改善率が68.4%であったと報告している12).今回の筆者らの検討でも,術後3カ月で視力不良であっても,MP-1TMによる解析で網膜感度の改善が認められた症例が存在した.事実,術後視力に改善がみられなくても,「見やすくなった」,「見えにくいところがなくなった」など,患者の満足度が高い症例を経験する.さらに,今回の検討では,OCTによるIS/OSlineの不連続の症例でも,MP-1TMでの網膜感度の改善がみられた症例が存在した.すなわち,術後のIS/OSlineの連続性の獲得と網膜感度上昇が必ずしも一致しておらず,黄斑形態としてのIS/OSlineが不連続であっても,黄斑機能である網膜感度が改善しているといった形態と機能の乖離(114) がみられた.MP-1TMは感度測定と同時に,初回測定時,赤外眼底写真で眼底像の特徴を記憶させ,参照エリアとすることができる.この参照エリアが症例ごとに記憶されているため,術後に固視が移動しても13),術前と同位置の網膜感度の測定ができ,さらに長期にわたり同一部位の測定が可能である(フォローアップ検査).しかし,MH術前後でのMP-1TMの最適な測定プログラムや固視目標などの検討も要するとの報告4)もあり,より精度の高い測定のためには,さらなる解析,検討が必要である.MHの術後視力が最高視力に達するには,術後10カ月から1年,場合によっては3年以上の経過を要したとの報告14.16)もある.固視安定度や網膜感度も今後さらに改善していく可能性があり,長期経過の検討も必要である.同一患者の同一部位についてフォローアップを行うことが可能なMP-1TMは,高い精度と再現性が得られるため,長期にわたる視機能評価にも有用である.文献1)BrooksHL:ILMpeelinginfullthicknessmacularholesurgery.VitreoretinalSurgTechnol7:2,19952)板谷正紀:光干渉断層計の進化がもたらす最近の眼底画像解析の進歩.臨眼61:1789-1798,20073)豊田綾子,五味文,坂口裕和ほか:MP-1における黄斑浮腫治療前後の視機能評価.眼紀57:640-645,20064)宇田川さち子,今井康雄,松本行弘ほか:MP-1とスペクトラルドメイン光干渉断層計による特発性黄斑円孔術前後の評価.眼臨紀3:483-487,20105)KellyNE,WendelRT:Vitreoussurgeryforidiopathicmacularhole.Resultofapilotstudy.ArchOphthalmol109:654-659,19916)YoonHS,BrooksHL,CaponeAetal:Ultrastructuralfeaturesoftissueremovedduringidiopathicmacularholesurgery.AmJOphthalmol122:67-75,19967)砂川尊,中村秀夫,早川和久ほか:特発性黄斑円孔の硝子体手術成績.眼臨97:629-632,20038)草野真央,宮村紀毅,前川有紀ほか:特発性黄斑円孔術前後視力と光干渉断層計所見の関連性の検討.臨眼63:539543,20099)BabaT,YamamotoS,AraiMetal:Correlationofvisualrecoveryandpresenceofphotoreceptorinner/outersegmentjunctioninopticalcoherenceimagesaftersuccessfulmacularholerepair.Retina28:453-458,200810)小松敏,伊藤良和,高橋知里ほか:光干渉断層計を用いた特発性黄斑円孔手術後の中心窩網膜厚と視力の関係.臨眼59:363-366,200511)沖田和久,荻野誠周,渥美一成ほか:特発性黄斑円孔に対する網膜内境界膜.離後の網膜厚.臨眼57:305-309,200312)Richter-MuekschS,Vecsei-MarlovitsPV,StefanGSetal:Functionalmacularmappinginpatientswithvitreomacularpathologicfeaturesbeforeandaftersurgery.AmJOphthalmol144:23-31,200713)YanagitaT,ShimizuK,FujimuraFetal:Fixationpointaftersuccessfulmacularholesurgerywithinternallimitingmembranepeeling.OphthalmicSurgLasersImaging40:109-114,200914)熊谷和之,荻野誠周,出水誠二ほか:硝子体,白内障,眼内レンズ同時手術後,最高視力に達するまでの期間.臨眼53:1775-1779,199915)高島直子,小野仁,三木大二郎ほか:特発性黄斑円孔手術の予後.眼科手術17:429-433,200416)中村宗平,熊谷和之,古川真里子ほか:黄斑円孔手術後の長期視力経過.臨眼56:765-769,2002***(115)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012695

トラボプロスト点眼により囊胞様黄斑浮腫を生じた1例

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):687.690,2012cトラボプロスト点眼により.胞様黄斑浮腫を生じた1例平原修一郎野崎実穂久保田綾恵小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学CystoidMacularEdemaAssociatedwithBenzalkoniumChloride-FreeTravoprostShuichiroHirahara,MihoNozaki,AyaeKubotaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences今回筆者らは,塩化ベンザルコニウムを含まないトラボプロスト点眼により,.胞様黄斑浮腫を生じた1症例を経験したので報告する.症例は,白内障手術既往のある緑内障患者で,トラボプロスト点眼による治療を開始したところ,右眼の視力低下および.胞様黄斑浮腫が発症し,トラボプロスト点眼を中止し,トリアムシノロンアセトニド後部Tenon.下注射および,ジクロフェナクナトリウム(以下,ジクロフェナク)点眼を開始した.ジクロフェナク点眼開始後,矯正視力は0.5から1.5に改善し,黄斑浮腫は軽快した..胞様黄斑浮腫の発症には,プロスタグランジンの関与,塩化ベンザルコニウムの関与が考えられているが,今回の症例から,塩化ベンザルコニウムが含まれていないプロスタグランジン製剤でも,.胞様黄斑浮腫の発症に注意を要すると考えられた.Onepseudophakiceyetreatedwithbenzalkoniumchloride(BAK)-freetravoprostforglaucomadevelopeddecreasedvisionandcystoidmacularedema(CME).TheBAK-freetravoprostwasdiscontinuedandtheCMEwastreatedwithtopicaltriamcinoloneacetonideanddiclofenacsodium.AfterdiscontinuationofBAK-freetravoprostandinitiationofdiclofenacsodium,visualacuityimprovedfrom0.5to1.5andthemacularedemaresolved.CMEisaknownadverseeffectofallprostaglandinanalogs;however,BAK,whichisusedasapreservativeforhypotensivelipids,isalsothoughttoberelatedtoCME.OurpatientdevelopedCMEafterinitiationofBAK-freetravoprost,whichindicatesthatevenwithoutBAK,cautionmustbeexercisedintheuseofprostaglandinanalogs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):687.690,2012〕Keywords:.胞様黄斑浮腫,プロスタグランジン,塩化ベンザルコニウム,トラボプロスト,偽水晶体眼.cystoidmacularedema(CME),prostaglandinanalog,benzalkoniumchloride(BAK),travoprost,pseudophakia.はじめにプロスタグランジン製剤の点眼は,緑内障治療における第一選択薬として用いられており,その副作用として.胞様黄斑浮腫が生じることが知られている.黄斑浮腫が生じる病態は完全には解明されていないが,プロスタグランジンなどの炎症性伝達物質が血液網膜関門を破綻させることに関与していると考えられている1.4).また,Miyakeらは,緑内障点眼薬の防腐剤として使用されている,塩化ベンザルコニウム(BAK)が血液房水関門に影響を与え,白内障術後早期の.胞様黄斑浮腫の発症に関与している可能性を報告している5).2007年に,BAKの代わりにsofZiaRを防腐剤として用いたプロスタグランジン製剤であるトラボプロストがわが国で使用が開始された.BAKの含まれていないプロスタグランジン製剤の使用開始後に.胞様黄斑浮腫をきたした症例の報告はまれであり,今回筆者らはBAKの含まれていないトラボプロスト点眼により.胞様黄斑浮腫を発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:72歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:2006年に右眼網膜前膜(図1a)に対して,超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術および25ゲージ硝子体手術を施行された既往のある患者で,特に合併症もなく手術は終了していた.術後経過は良好で,定期的に外来通院中であ〔別刷請求先〕平原修一郎:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:ShuichiroHirahara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya-shi,Aichi467-8601,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(107)687 ab図1硝子体手術術前後のOCT硝子体手術および超音波乳化吸引術・眼内レンズ挿入術の術前(a)には,OCT所見として,右眼眼底に偽黄斑円孔を認めた.右眼矯正視力は0.7であった.硝子体手術施行後2年目のOCT(b)では,網膜前膜や.胞様黄斑浮腫はみられない.b図2.胞様黄斑浮腫発症時のOCTおよびフルオレセインナトリウム蛍光眼底造影右眼OCT(a)にて.胞様黄斑浮腫がみられる.矯正視力は0.5であった.フルオレセインナトリウム蛍光眼底造影検査(b)にて,黄斑部のびまん性過蛍光がみられ,.胞様黄斑浮腫の所見がみられる.った.経過:2008年4月受診時,視力は右眼0.5(1.5×cyl.0.75DAx90°),左眼0.5(1.2×sph+2.25D(cyl.1.50DAx90°)で,眼圧は右眼13mmHg,左眼14mmHgであった.前眼部には特記する所見は認めず,眼底検査にて右眼の網膜前膜の再発は認められず,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)でも正常な黄斑部の形態を示していた(図1b)が,cup/disc比が右眼0.8,左眼0.7に拡大し,静的量的視野検査にて両眼平均閾値の低下および右眼にBjerrum暗点が検出された.以前の右眼手術から2年が経過しており,その後の経過も順調であったため,2008年5月よりBAKの含まれていないトラボプロスト点眼を両眼へ開始した.右眼へ点眼開始し1カ月後に,右眼眼圧は13mmHgから9mmHgへ低下したので,左眼へ点眼を開始し,左眼眼圧も14mmHgから10mmHgへ低下した.点眼開始後,両眼結膜充血がみられた.点眼開始から4カ月後,右眼眼圧は9mmHgのままであったが,右眼矯正視力が0.5まで低下した.前房や硝子体内に炎症細胞はみられず,OCTおよびフルオレセインナトリウム蛍光眼底造影検査にて,.胞様黄斑浮腫の所見がみられた(図2a,b).ただちに,両眼のトラボプロスト点眼を中止し,トリアムシノロンアセトニ688あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012図3.胞様黄斑浮腫軽快後のOCT黄斑浮腫治療開始から3カ月後の右眼OCTにて.胞様黄斑浮腫は消失し,矯正視力は1.5まで改善した.ドの後部Tenon.下注射施行,ジクロフェナクナトリウム(以下,ジクロフェナク)点眼を開始した.黄斑浮腫治療開始から3カ月後に右眼矯正視力は1.5まで回復し,.胞様黄(108)a 斑浮腫は消失した(図3).トラボプロスト点眼から2%カルテオロール点眼に変更し,現在眼圧12mmHgで,.胞様黄斑浮腫の再発は認めていない.II考察プロスタグランジン製剤に関連した.胞様黄斑浮腫を起こす危険因子として,内眼手術,無水晶体眼,後.破損,ぶどう膜炎の既往,網膜炎症性疾患,網膜血管異常,糖尿病網膜症などがあげられる2).今回の症例では2年前の手術は合併症なく終了しており,後.破損,後発白内障切開も施行しておらず,プロスタグランジン製剤使用による.胞様黄斑浮腫の発症リスクは低い症例と考えていた.後.破損などの術中合併症なく終了した患者に対し,ラタノプロスト点眼開始後に.胞様黄斑浮腫をきたした症例報告がある6,8).安谷ら6)は,白内障術直後よりラタノプロスト点眼を使用し,ジクロフェナク中止後に.胞様黄斑浮腫をきたした症例を報告している.白内障手術は術中合併症なく終了していたが,既往に網膜毛細血管の拡張を認めていたことと,ジクロフェナク点眼中止により炎症性伝達物質が生合成され,網膜血管の透過性亢進および血管網膜柵の破壊が起きたためと考察している.石垣ら7)は,緑内障点眼を必要とする術後偽水晶体眼においては,.胞様黄斑浮腫発症予防のために,ジクロフェナクなど非ステロイド消炎薬の点眼の同時投与は少なくとも術後6カ月までが推奨されると考察している.本症例では合併症なく白内障手術は終了し,術後2年が経過しており,.胞様黄斑浮腫は,術後の炎症に伴うものではなく,プロスタグランジンによってひき起こされたものと考えられる.池田ら8)は,ラタノプロストを使用中に.胞様黄斑浮腫を生じた5例を報告している.5例中4例は.内摘出あるいは後.破損で水晶体後.がない状態であり,1例は術中合併症なく白内障手術が終了していたが,網膜.離に対するバックル手術の既往のある症例であったため,水晶体後.のない症例だけでなく,眼合併症の多い症例に対してもラタノプロスト点眼投与を慎重にするべきであると考察している.Esquenaziらは,ラタノプロストからBAKの含まれていないトラボプロストへ変更した後に.胞様黄斑浮腫が発症した症例を報告しており9),.胞様黄斑浮腫の原因として臨床的に顕在化していなかった.胞様黄斑浮腫が増悪したのではないかと推測している.しかし筆者らの症例では,トラボプロスト点眼以前は点眼薬の処方はされておらず,OCT上,中心窩の形態的異常もみられていなかったため,トラボプロスト自体が.胞様黄斑浮腫を起こした原因であると推測される.Arcieriらは,プロスタグランジン製剤を偽水晶体眼,無水晶体眼の患者に使用し血液房水関門の変化を調べた結果,(109)ラタノプロスト,ビマトプロスト,トラボプロストは,.胞様黄斑浮腫を起こすリスクが低い症例でも,偽水晶体眼および無水晶体眼において黄斑浮腫をひき起こしたと報告している4).この報告で使用されたプロスタグランジン製剤にはすべて,BAKが防腐剤として使用されており,BAK濃度の一番低いビマトプロストも.胞様黄斑浮腫を起こしていることから,防腐剤はあまり黄斑浮腫をひき起こす病態には影響を与えていないのかもしれない.筆者らの症例でも,トラボプロストからBAKを含むカルテオロールに変更後,.胞様黄斑浮腫が発症していないことからも,BAKは.胞様黄斑浮腫の生じた病態には関連がなかったと考えられる.Carrilloらは,ラタノプロストからビマトプロストへ薬剤を変更後,.胞様黄斑浮腫が増悪したと報告しており,.胞様黄斑浮腫の生じる前に強い結膜充血が起きていたことも報告されている10).筆者らの症例でも,.胞様黄斑浮腫が生じる前に強い結膜充血を訴えていた.筆者らの症例を含めて,2症例のみの報告であるが,結膜充血をプロスタグランジンに関連した.胞様黄斑浮腫の予測因子として活用できる可能性が考えられた.本症例では手術歴のない左眼へもトラボプロストの点眼を右眼と同時期に行っているが,.胞様黄斑浮腫の発症はなかったことから,偽水晶体眼や無硝子体であることが,トラボプロストによる.胞様黄斑浮腫誘発の要因として重要な可能性があることが考えられた.今回筆者らは,BAKの含まれていないプロスタグランジン製剤であるトラボプロストを緑内障眼に対して使用を開始した後に,.胞様黄斑浮腫が生じた1例を経験した.ぶどう膜炎,術中合併症の生じた内眼手術や.胞様黄斑浮腫の既往がない偽水晶体眼であっても,BAKの含まれていないトラボプロスト点眼により.胞様黄斑浮腫の発症に注意が必要と考えられた.文献1)MiyakeK,OtaI,MaekuboKetal:Latanoprostacceleratesdisruptionoftheblood-aqueousbarrierandtheincidenceofangiographiccystoidmacularedemainearlypostoperativepseudophakias.ArchOphthalmol117:34-40,19992)WandM,GaudioAR:Cystoidmacularedemaassociatedwithocularhypotensivelipids.AmJOphthalmol133:403-405,20023)MiyakeK,IbarakiN:Prostaglandinsandcystoidmacularedema.SurvOphthalmol47(Suppl1):S203-S218,20024)ArcieriES,SantanaA,RochaFNetal:Blood-aqueousbarrierchangesaftertheuseofprostaglandinanaloguesinpatientswithpseudophakiaandaphakia:a6-monthrandomizedtrial.ArchOphthalmol123:186-192,20055)MiyakeK,OtaI,IbarakiNetal:Enhanceddisruptionofあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012689 theblood-aqueousbarrierandtheincidenceofangiographiccystoidmacularedemabytopicaltimololanditspreservativeinearlypostoperativepseudophakia.ArchOphthalmol119:387-394,20016)安谷仁志,酒井寛,中村秀夫ほか:ラタノプロスト点眼により再発した白内障術後.胞様黄斑浮腫の1例.眼紀55:315-319,20047)石垣純子,三宅三平,太田一郎ほか:緑内障点眼の偽水晶体眼における血液房水柵に及ぼす効果術後時期による差.IOL&RS23:78-83,20098)池田彩子,大竹雄一郎,井上真ほか:ラタノプロスト投与中に生じた.胞様黄斑浮腫.あたらしい眼科21:123127,20049)EsquenaziS:CystoidmacularedemainapseudophakicpatientafterswitchingfromlatanoprosttoBAK-freetravoprost.JOculPharmacolTher23:567-570,200710)CarrilloMM,NicolelaMT:Cystoidmacularedemainalow-riskpatientafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.AmJOphthalmol137:966-968,2004***690あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(110)

ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):679.686,2012cブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験新家眞*1山崎芳夫*2杉山和久*3桑山泰明*4谷原秀信*5*1公立学校共済組合関東中央病院*2日本大学医学部視覚科学系眼科学分野*3金沢大学大学院医学系研究科脳医科学専攻脳病態医学講座視覚科学*4福島アイクリニック*5熊本大学大学院生命科学研究部視機能病態学分野Long-termSafetyandEfficacyofBrimonidineOphthalmicSolutioninPatientwithPrimaryOpenAngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1),YoshioYamazaki2),KazuhisaSugiyama3),YasuakiKuwayama4)andHidenobuTanihara5)1)KantoCentralHospital.TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)DivisionofOphthalmology,DepartmentofVisualSciences,NihonUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,4)FukushimaEyeClinic,5)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KumamotoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とし,0.1%ブリモニジン酒石酸塩点眼液の単剤またはプロスタグランジン(PG)関連薬との併用により52週間投与した際の眼圧下降効果と安全性および忍容性を検討した.眼圧に対しては長期投与による減弱はなく,単剤治療によりトラフで4mmHg以上,ピークで5mmHg前後の安定した効果を示した.また,PG関連薬で目標眼圧の維持が困難な症例に対しても本剤の併用による追加効果が得られ,平均眼圧変化値で3mmHg前後の有意な眼圧下降効果が長期にわたり維持されることが確認できた.副作用としてはアレルギー性結膜炎の発現頻度が高かったものの全身への影響は少なく,重篤な副作用としてPG併用治療の1例に回転性めまいが発現したが,投与中止後に症状は回復した.臨床検査,血圧・脈拍や眼科学的検査では臨床的に問題となる変動は認められず,本剤の長期投与における忍容性が確認できた.Weevaluatedtheintraocularpressure(IOP)-loweringefficacyandsafetyoftopical0.1%brimonidinetartratemonotherapyandacombinationof0.1%brimonidineandprostaglandin(PG)analoguesinpatientswithprimaryopenangleglaucomaorocularhypertension,overaperiodof52weeks.TheIOP-loweringeffectwasnotattenuatedthroughoutthelong-termadministrationperiod;brimonidinemonotherapyreducedtheIOPattroughandpeakby≧4mmHgand5mmHg,respectively.ThecombinationofbrimonidineandPGanaloguesmaintainedthe3mmHgIOPreductioninpatientswhohadbeenonPGmonotherapy;thisconfirmedtheadditiveeffectofbrimonidineandPG.Themostfrequentadversedrugreactionwasallergicconjunctivitis;however,brimonidinehadlimitedsystemiceffects.Aseriousadversereactionofvertigowasreportedinapatientreceivingcombinationbrimonidine-PGtherapy,thevertigoresolvedafterstudydrugdiscontinuation.Noclinicallysignificantchangeswereobservedinlaboratorytests,bloodpressure,pulseandophthalmologicalexamination;wethusconfirmedthelong-termtolerabilityofbrimonidine.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):679.686,2012〕Keywords:ブリモニジン,長期安全性,緑内障,プロスタグランジン,併用治療.brimonidine,long-termsafety,glaucoma,prostaglandin,concomitantuse.はじめにブタイプに対する選択性が高い選択的a2アドレナリン受容ブリモニジン(図1)はa1アドレナリン受容体よりもa2体作動薬である.そのため本薬は,レーザー照射による一過アドレナリン受容体に高い親和性を示し,なかでもa2Aサ性の眼圧上昇を対象とした類薬のアプラクロニジン塩酸塩〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospital.TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(99)679 NHOHNH・HO2CCO2HNNNHHOHBr図1ブリモニジン酒石酸塩の構造式(p-アミノクロニジン)のような,a1アドレナリン受容体を介した散瞳や眼瞼後退が起こることはない1).米国アラガン社は本薬の眼圧下降作用に着目し,1996年に保存剤として塩化ベンザルコニウム(BAK)を含有した0.2%製剤の緑内障治療薬ALPHAGANR点眼液の承認を取得した後,保存剤をこれまでのBAKから細胞毒性の少ない亜塩素酸ナトリウム(PURITER)に変更した0.15%製剤ALPHAGANRPの承認を2001年に,さらにはpHなどの製剤的な検討によりブリモニジン濃度を0.1%に下げた製剤の承認を2005年に取得するなど,全身および眼局所に対する安全性と忍容性に配慮した製剤改良を加えており,現在欧米をはじめとする84の国と地域で承認・販売されている.国内においては,米国で承認されたPURITER含有0.15%製剤の処方をベースに原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象とした二重盲検法による探索試験を実施し,0.1%製剤がプラセボに対して有意な眼圧下降を示すと同時に0.15%製剤と同等の臨床効果を示したことから,0.1%濃度を至適濃度として採択した.この0.1%製剤による第III相臨床試験では,チモロールを対照とした比較試験およびプロスタグランジン(PG)関連薬併用下でのプラセボとの比較試験により本剤の臨床的な位置付けと眼圧下降作用が検討されている.さらに,チモロールを対照とした臨床薬理試験では,高齢者の呼吸器系および循環器系に対する本剤の忍容性が検討されている.海外ではPURITER含有0.1%製剤の12カ月間点眼時の安全性は確認されているものの2),国内臨床試験の投与期間は4週間であることから,わが国においても長期点眼における安全性の検討が必要であると考え今回,原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象に,PURITER含有0.1%ブリモニジンの単剤(単剤群)およびPG関連薬で目標眼圧の維持が困難な症例に対する併用(PG併用群)による52週間の長期投与試験を実施し,本剤の有効性と安全性および忍容性を検討したので報告する.I方法1.治験実施期間および実施医療機関本治験は,試験開始に先立ちすべての実施医療機関の治験審査委員会で審議を受け,承認を得たうえで医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令などの関連規制法規を遵守し,2007年7月から2009年4月の間に表1に示す24680あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012表1実施医療機関および治験責任医師実施医療機関治験責任医師山田眼科大谷地裕明慈眼会東光眼科秋葉真理子ふじた眼科クリニック藤田南都也大宮はまだ眼科濱田直紀まつお眼科クリニック松尾寛明醫会上野眼科医院木村泰朗済安堂お茶の水・井上眼科クリニック井上賢治みすまるのさと会アイ・ローズクリニック安達京善春会若葉眼科病院吉野啓蒔田眼科クリニック杉田美由紀むらまつ眼科医院村松知幸安間眼科安野雅恵,安間正子こうさか眼科高坂昌志北川眼科医院北川厚子創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男長田眼科肱黒和子ひかり会木村眼科内科病院木村亘松井医仁会大島眼科病院田中敏博かとう眼科医院加藤整明和会宮田眼科病院宮田和典陽幸会うのき眼科鵜木一彦湖崎会湖崎眼科湖崎淳施設で実施した.2.対象試験参加に先立ち文書による同意が得られ,原発開放隅角緑内障(POAG)または高眼圧症(OH)と診断された満20歳以上の男女の外来患者で,表2の採用基準に該当する患者を対象とした.3.治験薬および投与方法1mL中にブリモニジン酒石酸塩1.0mgおよび保存剤として亜塩素酸ナトリウム(PURITER)を含むブリモニジン点眼剤を1日2回(朝・夜),両眼に1滴ずつ52週間点眼した.PG併用群におけるPG関連薬の点眼時刻は,本試験参加前と同じ時間帯として治療を継続した.なお,ブリモニジンと同一時間帯にPG関連薬を点眼する場合は,ブリモニジン点眼後にPG関連薬を点眼した.4.Washout試験参加前に緑内障治療薬の前治療を受けていた被験者に対し,交感神経遮断薬,PG関連薬は4週間以上,副交感神経作動薬,炭酸脱水酵素阻害薬および交感神経作動薬は2週間以上,その他の緑内障治療薬は1週間以上のwashout期間を設けた.なお,PG併用群では,前治療のPG関連薬はwashoutせず,他剤とPG関連薬を併用していた場合は他剤のみをwashoutした.(100) 表2被験者の採用および除外基準おもな採用基準:単剤群1)両眼とも矯正視力が0.5以上2)両眼とも眼圧値が31.0mmHg以下3)原発開放隅角緑内障は,有効性評価対象眼の眼圧値が18.0mmHg以上4)高眼圧症は,有効性評価対象眼の眼圧値が22.0mmHg以上PG併用群1)両眼とも矯正視力が0.5以上2)両眼ともPG関連薬による治療期間が180日以上3)両眼ともPG関連薬併用下での眼圧値が31.0mmHg以下かつ有効性評価対象眼の眼圧値が16.0mmHg以上おもな除外基準:1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼科疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)肝障害,腎障害,うつ病,Laynaud病,閉塞性血栓血管炎,起立性低血圧,脳血管不全,冠血管不全,重篤な心血管系疾患などの循環不全を有する者4)a2刺激薬に重大な副作用の既往のある者5)a刺激薬,a遮断薬,b刺激薬,b遮断薬,モノアミン酸化酵素阻害薬,アドレナリン増強作用を有する抗うつ薬,副腎皮質ステロイド薬の使用が必要な者6)高度の視野障害がある者7)コンタクトレンズの装用が必要な者8)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者9)内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む),角膜屈折矯正手術,濾過手術および線維柱帯切開術の既往を有する者10)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者表3治験スケジュール時期項目スクリーニング投与開始4週間以内投与開始4週8週12週16,20週24週28週32,36,40,44週48週52週測定ポイント(時間)─702227022270222702背景因子調査●視力検査●t●●角膜・結膜・眼瞼所見shou●●◎○●●◎○●●●◎○●●眼圧検査●Wa○●●●◎○●●●◎○●●●◎○●●眼底検査●●●視野検査●●●血圧・脈拍数○●●●◎○●●●◎○●●●◎○●●臨床検査●●●有害事象●:単剤群およびPG併用群共通.◎:単剤群のみ.○:単剤群の7時間測定症例およびPG併用群のみ(単剤群の7時間値は同意が得られた患者のみ測定した).5.検査・観察項目た.角膜所見の判定基準はAD分類3)を用い,結膜・眼瞼所検査および観察項目と試験スケジュールを表3に示す.見(結膜充血,結膜浮腫,眼瞼紅斑,眼瞼浮腫,結膜濾胞)眼圧はGoldmann圧平眼圧計で朝の点眼前を0時間値とは4または5段階に程度分類し,結膜充血および結膜濾胞はして8:30.10:30の間に,点眼後は2時間値および7時標準写真を用いて判断した.眼底所見は検眼鏡などを用いて間値の測定を行った.なお,7時間値の測定は同意を得られ緑内障性異常の有無および陥凹/乳頭径比(C/D比)の垂直た被験者のみとした.視力検査は遠見視力表を用い,角膜・径を記録した.視野検査にはHumphrey視野計または結膜・眼瞼所見は無散瞳下で細隙灯顕微鏡を用いて観察しOctopus視野計を用いた.血圧・脈拍数は5分間安静後,座(101)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012681 位の状態で測定した.臨床検査は血液学的検査および血液生化学的検査を三菱化学メディエンス(株)で実施した.当該治験薬との因果関係の有無にかかわらず,治験薬を点眼した被験者に生じたすべての好ましくないまたは意図しない,疾病あるいはその徴候を有害事象として扱い,治験薬との因果関係が否定できない有害事象を副作用とした.6.併用薬および併用処置試験期間中は表2の除外基準に抵触する薬剤および処置の併用は禁止した.7.評価方法および統計手法有効性の評価は,PerProtocolSet(PPS:治験実施計画書に適合した解析対象集団)を主たる解析対象集団とした.主要評価項目は,治験薬投与前の眼圧に対する治験薬投与後の各観察日の平均眼圧変化値(0時間値と2時間値の平均値)とした.副次評価項目は,投与後の各観察日の平均眼圧値および平均眼圧変化率(0時間値と2時間値の平均値),投与後の各観察日の各測定時間の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率(0時間値,2時間値,7時間値)とした.主要評価項目および副次評価項目の各観察日における要約統計量を算出し,投与後の推移を検討した.眼圧値は投与前後の推移について1標本t検定による群内比較を行った.有意水準は両側5%とし,解析ソフトはSASforWindowsRelease9.1.3Foundation(SASInstituteInc.)を用いた.安全性の評価は,試験期間中に一度でも薬剤の投与を受けた被験者を対象とし,有害事象,副作用,視力,角膜・結膜・眼瞼所見,眼底,視野,臨床検査,血圧および脈拍数を評価した.血圧および脈拍数は1標本t検定を用い,有意水3025201510眼圧値(mmHg)準両側5%で群内比較を行った.視力,角膜・結膜・眼瞼所見,視野,眼底および臨床検査は薬剤投与前後の推移を比較した.なお,バイタルサインあるいは臨床検査値の異常変動の定義としては,担当医が臨床上問題となる測定値あるいは検査値の変動と解釈した場合を指し,必ずしも基準範囲内から範囲外への変動・逸脱のみを指すものではないこととした.副作用については,発現した症状および所見ごとに発現率を算出した.II結果1.対象治験薬を投与した症例は単剤群98例(このうち47例が7表4被験者背景(PPS)項目単剤PG併用性別男4022女4224年齢(歳).64473065.3516平均59.060.9緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障(広義)4833高眼圧症3413眼局所の合併症無229有6037眼局所以外の合併症無196有6340012285204812162024283236404448520824480122852(週):単剤:PG併用*****************************************0時間2時間7時間0,2時間平均(症例数)単剤8277746282793977757839747268697034624138383382777462PG併用464541344646─454444─4137393936─344646433746454134図2眼圧値の推移*p<0.05(投与前後の比較,1標本t検定).0,2時間平均は0時間値と2時間値の平均値を示す.682あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(102) 時間値測定),PG併用群59例で,これらの症例はすべて安全性解析対象とした.PPS採用症例は単剤群82例(このうち41例が7時間値測定),PG併用群46例であった.PPSの被験者背景を表4に示す.2.有効性眼圧値の推移を図2に,眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移を表5に示す.主要評価項目の12週間後,28週間後,52週間後の平均眼圧変化値は,単剤群で投与開始前の眼圧22.0mmHgに対し.4.8mmHg,.4.7mmHg,.4.8mmHg,PG併用群は18.7mmHgに対し.3.1mmHg,.3.3mmHg,.2.7mmHgと,いずれも有意な下降が維持されていた.副次評価項目の平均眼圧値および平均眼圧変化率,各測定時点の眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率も主要評価と同様,単剤群およびPG併用群ともに投与開始前と比較して有意な下降を示した.3.安全性本試験で発現した有害事象は,単剤群68例(69.4%)194件,PG併用群44例(74.6%)127件で,このうち副作用は単剤群38例(38.8%)80件,PG併用群31例(52.5%)54件であった.おもな副作用は表6に示すようにアレルギー性結膜炎,眼瞼炎,点状角膜炎および結膜充血であった.これらの副作用のなかで,発現頻度の高かったアレルギー性結膜炎の要約を表7に示す.症状の程度は軽度または中等度で重篤なものはなかった.発症した32例のうち中止例は13例(単剤群7例,PG併用群6例),また14例(各群7例)は本剤投与開始時にアレルギー性結膜炎,アレルギー性鼻炎または花粉症の症状,所見を有していた.発症時期としては投与4週間後より散発し,投与13週.24週間後にピークを示した.その他の遅発性に発現した副作用としては,眼瞼炎,結膜充血および点状角膜炎が投与9週.52週間後にかけて散発的表5眼圧値,眼圧変化値および眼圧変化率の推移観察日眼圧値(mmHg)眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)単剤PG併用単剤PG併用単剤PG併用0時間値と2時間値の平均値投与開始日22.0±2.718.7±2.0────12週間後17.2±2.7*15.5±2.6*.4.8±2.5.3.1±2.1.21.6±10.4.16.7±10.928週間後17.4±2.7*15.3±2.1*.4.7±2.8.3.3±1.9.20.7±11.3.17.6±10.152週間後16.8±2.8*15.9±2.3*.4.8±2.7.2.7±1.7.22.0±12.3.14.3±8.50時間値投与開始日22.5±2.719.0±1.8────12週間後18.3±2.8*16.2±2.8*.4.2±2.6.2.8±2.2.18.5±10.9.14.8±11.928週間後18.5±3.0*16.2±2.4*.4.2±3.1.2.7±2.1.17.9±12.3.14.4±11.252週間後17.9±3.2*16.7±2.7*.4.5±2.9.2.1±1.9.19.7±13.2.11.4±9.42時間値投与開始日21.4±3.218.4±2.4────4週間後17.3±2.6*15.5±2.6*.4.2±2.6.2.9±1.9.19.1±10.8.15.5±10.48週間後17.1±2.6*─.4.8±3.1─.21.5±11.5─12週間後16.0±2.7*14.9±2.6*.5.4±3.0.3.5±2.5.24.3±12.5.18.5±12.116週間後16.6±2.9*15.1±3.0*.4.9±3.3.3.3±2.4.21.8±14.0.17.8±12.620週間後16.5±2.9*14.9±2.6*.5.0±3.0.3.3±2.4.22.6±13.3.17.7±12.524週間後16.6±2.9*─.5.2±3.1─.23.4±11.7─28週間後16.4±2.6*14.4±2.1*.5.2±3.1.3.9±2.4.23.3±13.0.20.6±12.132週間後16.5±2.7*15.3±2.6*.5.1±2.9.2.9±2.8.22.8±12.0.15.2±16.636週間後16.0±2.9*15.3±2.7*.5.3±2.7.3.0±2.4.24.5±12.1.16.1±14.140週間後16.2±3.3*15.2±2.7*.5.1±3.0.3.1±2.5.23.4±14.7.16.3±14.044週間後16.1±3.1*14.9±2.5*.4.8±3.0.3.2±2.4.22.4±14.1.17.2±13.048週間後16.6±4.6*─.4.9±4.0─.22.8±17.0─52週間後15.7±2.7*15.2±2.2*.5.2±3.0.3.2±2.1.24.0±14.4.16.9±11.17時間値投与開始日20.9±2.418.1±2.3────8週間後16.9±2.4*16.0±2.5*.4.0±2.6.2.1±2.1.18.7±11.6.11.3±11.024週間後17.0±2.4*15.3±2.3*.3.9±2.4.2.7±2.2.18.1±10.9.14.7±11.048週間後16.8±2.8*15.9±2.1*.4.0±2.0.2.0±1.9.19.2±10.4.10.6±10.3平均値±標準偏差,*p<0.05(投与前後の比較,1標本t検定).(103)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012683 表6副作用一覧治療群単剤PG併用安全性解析対象例数9859【MedDRA(Ver.10.0)PT】例数(%)件数例数(%)件数全体38(38.8)8031(52.5)54眼局所アレルギー性結膜炎18(18.4)2214(23.7)15眼瞼炎9(9.2)159(15.3)12点状角膜炎7(7.1)123(5.1)7結膜充血7(7.1)85(8.5)5結膜炎3(3.1)33(5.1)4霧視2(2.0)200アレルギー性眼瞼炎2(2.0)200結膜濾胞2(2.0)200結膜出血1(1.0)100眼乾燥1(1.0)11(1.7)1眼そう痒症1(1.0)100流涙増加1(1.0)200瞼板腺炎001(1.7)1眼の異常感001(1.7)1眼の異物感1(1.0)100眼刺激1(1.0)100眼瞼浮腫1(1.0)100眼以外接触性皮膚炎3(3.1)41(1.7)1頭痛002(3.4)2貧血001(1.7)1回転性めまい001(1.7)1皮膚乳頭腫001(1.7)1浮動性めまい1(1.0)11(1.7)1傾眠001(1.7)1丘疹1(1.0)100に発現した.副作用により治験薬の投与を中止した症例は30例(単剤群16例,PG併用群14例)で,アレルギー性結膜炎,眼瞼炎および結膜充血が主たる事象であったものの,治験薬投与中止後に,いずれも症状の消失あるいは寛解を確認した.重篤な副作用としてはPG併用群で1例,回転性めまいが発現したが,薬物療法により症状の回復を認めた.角膜・結膜・眼瞼所見,視力検査,視野検査および眼底検査に臨床上問題となる変動はなかった.また,臨床検査で治験薬との因果関係が否定されなかった異常変動として,単剤群で血中ビリルビン増加・抱合ビリルビン増加が1例2件,PG併用群でヘモグロビン減少・赤血球数減少が1例2件,血中ブドウ糖増加・血中トリグリセリド増加・血中尿酸増加が1例3件にみられたが,これらの事象はいずれも治療の対象となるものはなく,追跡調査により基準範囲内への回復または臨床的に問題とならないことが確認された.バイタルサインへの影響として血圧に対しては,単剤群およびPG併用群ともに収縮期血圧および拡張期血圧の統計学的に有意な低下が散見されたが,臨床的に問題となる血圧低684あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012表7アレルギー性結膜炎発症例の要約単剤PG併用計安全性解析対象例数9859157アレルギー性結膜炎発現例数181432継続11819中止7613アレルギー疾患の合併*7714発現日.4週101.8週112.12週303.24週8513.36週235.48週257.52週101*:アレルギー性結膜炎,アレルギー性鼻炎,花粉症.下を示した症例はなかった.脈拍数に対しては,単剤群の52週間後の0時間を除いて有意な低下はなかった.なお,単剤群の1例に有害事象として心拍数の増加が発現したが,治験薬との因果関係は否定された.III考察ブリモニジンの単剤投与12週後,28週後および52週後のいずれの時点でも,平均眼圧変化値として4.7mmHg以上,平均眼圧変化率で20%以上の眼圧下降を確認することができた.緑内障治療において目標眼圧を設定する際に,眼圧変化率で20%以上の眼圧下降が一つの基準と考えられることから4),臨床的にも単剤投与で意義のある眼圧下降効果を示すことができたと考える.また,12週後,28週後および52週後のいずれのトラフでも4mmHg以上の眼圧下降を示し,長期投与に際しても眼圧下降効果が減弱することなく,初期の眼圧下降効果を維持することが確認できた.さらに点眼7時間後までの日内眼圧下降効果の検討でも投与開始日に比べ統計学的に有意な眼圧下降を示し,1日を通じて安定した眼圧下降効果を有していた.バイタルサインに対しては血圧を低下させる傾向がみられたものの臨床上問題となるような変動もなく,脈拍数に及ぼす影響もみられなかったことから,呼吸器系や循環器系にリスクを抱えb遮断薬の投与が躊躇される症例や,PG関連薬の特異的な局所副作用が気になる症例に対しても,本剤の適応があると考えられた.また,PG関連薬による目標眼圧の維持が困難な症例に対して本剤は,PG関連薬との併用によりさらに眼圧変化値として3mmHgの追加効果を52週にわたって維持しており,その臨床的な意義は高いと考える.長期投与における安全性の面では,本試験で比較的頻度の高かった副作用はアレルギー性結膜炎であり,眼瞼炎などと同様に長期投与により発現頻度が高くなる傾向を示しアレルギーの関与が疑われた.アレルギー性結膜炎の副作用を発症(104) した32例中14例は本剤点眼前からアレルギーに起因する結膜炎や鼻炎,花粉症を合併しており,1年間の長期投与のなかでスギを含む花粉症の好発期にかかったことも要因の一つと考えられる.類薬のアドレナリンa2受容体作動薬であるアプラクロニジンやエピネフリンは長期投与により本剤より高頻度に重篤な局所アレルギーをひき起こすことが知られており,その主たるメカニズムは化合物のヒドロキノン様構造が酸化されて生じた中間体が生体成分のチオール基と共有結合しハプテン化されるためと考えられている5).しかし,ブリモニジンはヒドロキノン様構造を持たず,実際にアプラクロニジンに対してアレルギー反応を示す患者にブリモニジンを投与しても交差反応は報告されていない6.8).また,本剤はアプラクロニジンと同様にイミダゾリン環を有するが,イミダゾリン環がアレルギーを誘発したとの報告はなく,本剤の局所アレルギー発症機序は明らかではない.一方,本剤の単剤群とPG併用群のアレルギー性結膜炎の発症頻度や投与中止に至った症例の頻度に差はなく,本剤とPG関連薬との併用によりアレルギー反応が増加したり重症化に向かうものではなかった.アレルギー性結膜炎の副作用を発症した症例の半数以上は1年間の継続投与が可能であったが,長期投与に際しては留意すべき事象と考える.一方,本剤の製剤的な特徴として,含有している保存剤の違いがあげられる.緑内障治療薬に限らず点眼薬には,基本的に保存剤が含まれており,なかでもBAKはその安定性と防腐効力から多くの点眼薬で汎用されている.しかし,BAKは眼表面に対する細胞毒性を有し,その障害性はBAKの濃度と点眼回数に依存するため,長期投与や多剤併用を余儀なくされている緑内障患者に対するBAKの曝露量が問題となっている9).ブリモニジンの保存剤は安定なオキシクロロ複合体の亜塩素酸ナトリウム(PURITER)である.亜塩素酸ナトリウムは細菌に取り込まれ,細菌の細胞壁の構成成分であるムラミン酸やタイコ酸などの酸性物質により二酸化塩素に変換され,そこから発生する二酸化塩素ラジカルが細菌の蛋白質や脂質を酸化,変性させて殺菌的に作用する10).一方,水溶液中の亜塩素酸ナトリウムも酸性条件下になれば二酸化塩素を生成するものの11),本剤は製剤設計によりpHが安定な中性領域に維持されているため二酸化塩素はほとんど生成されない.また,亜塩素酸ナトリウムは点眼されると涙液成分と反応し,Na+,Cl.,酸素や水などの涙液成分に分解されることから10),きわめて安全性の高い保存剤と考えられる.PURITERは哺乳類の細胞に対する毒性が低く12),培養ウサギ角膜上皮細胞およびヒト結膜上皮細胞を用いた細胞毒性の評価13)や点眼によるウサギ角膜および結膜へ障害性の検討により14),BAKよりも角結膜に与える影響が少ないことが示されている.保存剤が既存のBAKからPURITERに変更されたことで,角結膜に対する細胞毒性の軽減や他剤との併用によるBAKの曝露量の増加も回避することができるため,多剤併用を必要とする症例に対しても投与しやすい製剤といえる.保存剤以外の緑内障治療薬のリスクとして,ラタノプロスト15,16),チモロールなどのb遮断薬17),ジピベフリン18)などによる黄斑浮腫が報告されている.特に,エピネフリンを無水晶体眼の患者に長期連用した場合のアドレナリン黄斑症は以前から知られており,エピネフリン投与による内因性プロスタグランジンの上昇19)やアデニル酸シクラーゼの活性化とcyclicAMP(環状アデノシン一リン酸)の上昇20)に伴う血液網膜柵(BRB)の破綻による黄斑浮腫の発現が報告されている21).今回の長期投与試験にも白内障術後の症例が単剤群に12例,PG併用群に6例含まれていたが,本剤に起因すると考えられる網膜浮腫あるいは黄斑浮腫に関連する副作用はなかった.逆に,ブリモニジンはcyclicAMP産生を抑制すること,糖尿病モデルにおいて黄斑浮腫誘発の主要因子であるVEGF(血管内皮増殖因子)の上昇およびBRBの破綻を阻害することが報告されており22),むしろ黄斑浮腫に対しては抑制的に作用する可能性が示唆されている.本剤の特異的な副作用として眼局所のアレルギーがあげられるものの,発現例の半数以上では継続投与が可能であり,また角結膜所見などの眼科学的検査および臨床検査から,臨床的使用における本剤の忍容性を確認することができた.バイタルサインについてはブリモニジンの点眼による血圧低下は,神経性循環調節中枢である延髄網様体の腹外側部あるいは孤束核の血管運動中枢のa2A受容体を介した血管拡張作用,あるいは交感神経中枢である脳幹外側網様核のイミダゾリン受容体を介した作用と考えられる.心血管系疾患や起立性低血圧のある患者の症状を悪化させる可能性はあるものの,今回の検討においては臨床的には忍容できる範囲の変動と考えられた.一方で,点眼によってもa2作動薬の全身投与時と同様のめまいや傾眠が現れる可能性もあり,危険を伴う作業に従事する場合には留意すべきと考える.緑内障は進行性の非可逆的な疾患であり,自覚症状のないままに視機能障害が徐々に進行するsilentdiseaseとして位置づけられる4).現在,緑内障に対する唯一,エビデンスのある治療法は眼圧を下降させることであるが,最終的目標は網膜神経節細胞死や視神経軸索障害の進行抑制による視機能の維持管理といっても過言ではない.ブリモニジンはラット網膜神経節細胞モデルで緑内障視神経障害の本態である網膜神経節細胞死を抑制し23),さらに正常眼圧緑内障を対象とした臨床試験においてチモロールよりも視野障害の進行を有意に抑制することが示されている24).本剤は眼圧下降作用のみならず神経保護作用の可能性を併せ持つ長期投与の可能な緑内障治療薬として,緑内障および高眼圧症患者における新たな選択肢の提供につながると考える.(105)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012685 謝辞:本臨床研究にご参加いただきました諸施設諸先生方に深謝いたします.文献1)CantorLB:Theevolvingpharmacotherapeuticprofileofbrimonidine,ana2-adrenergicagonist,afterfouryearsofcontinuoususe.ExpertOpinPharmacother1:815-834,20002)CantorLB,SafyanE,LiuCCetal:Brimonidine-purite0.1%versusbrimonidine-purite0.15%twicedailyinglaucomaorocularhypertension:a12-monthrandomizedtrial.CurrMedResOpin24:2035-2043,20083)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,19944)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第3版.日眼会誌116:3-46,20125)ThompsonCD,MacdonaldTL,GarstMEetal:Mechanismsofadrenergicagonistinducedallergybioactivationandantigenformation.ExpEyeRes64:767-773,19976)WilliamsGC,Orengo-NaniaS,GrossRL:Incidenceofbrimonidineallergyinpatientspreviouslyallergictoapraclonidine.JGlaucoma9:235-238,20007)ShinDH,GloverBK,ChaSCetal:Long-termbrimonidinetherapyinglaucomapatientswithapraclonidineallergy.AmJOphthalmol127:511-515,19998)GordonRN,LiebmannJM,GreenfieldDSetal:Lackofcross-reactiveallergicresponsetobrimonidineinpatientswithknownapraclonidineallergy.Eye(Lond)12:697700,19989)澤口昭一:抗緑内障点眼薬による眼障害.あたらしい眼科25:431-436,200810)NoeckerR:Effectsofcommonophthalmicpreservativesonocularhealth.AdvTher18:205-215,200111)AokiT,FujieK:FormationofchlorinedioxidefromchloritebyUVirradiation.ChemistryExpress7:609-612,199212)KatzLJ:Twelve-monthevaluationofbrimonidine-puriteversusbrimonidineinpatientswithglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma11:119-126,200213)IngramPR,PittAR,WilsonCGetal:AcomparisonoftheeffectsofocularpreservativesonmammalianandmicrobialATPandglutathionelevels.FreeRadicRes38:739-750,200414)NoeckerRJ,HerrygersLA,AnwaruddinR:Cornealandconjunctivalchangescausedbycommonlyusedglaucomamedications.Cornea23:490-496,200415)CallananD,FellmanRL,SavageJA:Latanoprost-associatedcystoidmacularedema.AmJOphthalmol126:134135,199816)AyyalaRS,CruzDA,MargoCEetal:Cystoidmacularedemaassociatedwithlatanoprostinaphakicandpseudophakiceyes.AmJOphthalmol126:602-604,199817)山下秀明,小林誉典,板垣隆ほか:b-遮断剤の長期点眼による眼底障害.臨眼38:621-626,198418)MehelasTJ,KollaritsCR,MartinWG:CystoidMacularedemapresumablyinducedbydipivefrinhydrochloride(Propine).AmJOphthalmol94:682,198219)MiyakeK,ShirasawaE,HikitoMetal:SynthesisofprostaglandinEinrabbiteyeswithtopicallyappliedepinephrine.InvestOphthalmolVisSci29:332-334,198820)NeufeldAH,JampolLM,SearsML:Cyclic-AMPintheaqueoushumor:theeffectsofadrenergicagents.ExpEyeRes14:242-250,197221)SenHA,CanpochiaroPA:Stimulationofcyclicadenosinemonophosphateaccumulationcausesbreakdownoftheblood-retinalbarrier.InvestOphthalmolVisSci32:20062010,199122)KusariJ,ZhouSX,PadilloEetal:InhibitionofvitreoretinalVRGFelevationandblood-retinalbarrierbreakdowninstreptozotocin-induceddiabeticratsbybrimonidine.InvestOphthalmolVisSci51:1044-1051,201023)LeeKY,NakayamaM,AiharaMetal:Brimonidineisneuroprotectiveagainstglutamate-inducedneurotoxicity,oxidativestress,andhypoxiainpurifiedratretinalganglioncells.MolVis16:246-251,201024)KrupinT,LiebmannJM,GreenfieldDSetal;Low-PressureGlaucomaStudyGroup:Arandomizedtrialofbrimonidineversustimololinpreservingvisualfunction:resultsfromtheLow-PressureGlaucomaTreatmentStudy.AmJOphthalmol151:671-681,2011***686あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(106)

細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する1.5%レボフロ キサシン点眼液(DE-108点眼液)の第III相臨床試験

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):669.678,2012c細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する1.5%レボフロキサシン点眼液(DE-108点眼液)の第III相臨床試験大橋裕一*1井上幸次*2秦野寛*3外園千恵*4*1愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野*2鳥取大学医学部視覚病態学*3ルミネはたの眼科*4京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学PhaseIIIClinicalTrialof1.5%LevofloxacinOphthalmicSolution(DE-108)inBacterialConjunctivitisandBacterialKeratitisYuichiOhashi1),YoshitsuguInoue2),HiroshiHatano3)andChieSotozono4)1)DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,3)HatanoEyeClinic,4)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:細菌性結膜炎および細菌性角膜炎患者における1.5%レボフロキサシン点眼液(1.5%LVFX点眼液,DE-108点眼液)の有効性と安全性を検討する.対象および方法:細菌性結膜炎患者221例,細菌性角膜炎患者17例を対象にオープンラベルで多施設共同試験を実施した.有効性は抗菌点眼薬臨床評価のガイドラインおよび日本眼感染症学会の効果判定基準に従い臨床効果より,安全性は副作用の発現率より評価した.結果:有効率は細菌性結膜炎で100.0%(170/170例),細菌性角膜炎でも100.0%(6/6例)であった.著効率は細菌性結膜炎で90.6%(154/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.副作用発現率は2.9%(7/238例)で,重篤な副作用は認められなかった.結論:1.5%LVFX点眼液は外眼部感染症に対して高い有効性と安全性を示した.また,高い著効率から,早期のqualityoflife改善が期待される.Purpose:Toevaluatetheefficacyandsafetyof1.5%levofloxacin(LVFX)ophthalmicsolutionintreatingbacterialconjunctivitis(BC)andbacterialkeratitis(BK).SubjectsandMethods:221patientswithBCand17patientswithBKenrolledinanopen-labeled,multicenterstudy.Efficacyandsafetywereevaluatedonthebasisofclinicalefficacyandtheincidenceofadversedrugreactions(ADR),respectively.Result:Theefficacyratewas100.0%forbothBCgroup(170/170)andBKgroup(6/6).Therespectivemarkedefficacyrateswere90.6%(154/170)and100.0%(6/6).TheoverallincidenceofADRwas2.9%(7/238).NoseriousADRwasobserved.Conclusion:Theseresultsindicatethat1.5%LVFXophthalmicsolutionishighlyeffectiveagainstmajorbacterialinfectionsoftheexternaleye,withgoodsafety.Inaddition,thehighmarkedefficacyratesuggeststhat1.5%LVFXophthalmicsolutionmightimprovepatientqualityoflifeduringtheearlyperiodofdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):669.678,2012〕Keywords:細菌性結膜炎,細菌性角膜炎,レボフロキサシン,キノロン系,第III相臨床試験.bacterialconjunctivitis,bacterialkeratitis,levofloxacin,quinolone,phaseIIIclinicaltrial.はじめに広い抗菌スペクトル,強い抗菌力,そして良好な組織移行性から,キノロン系抗菌点眼薬が外眼部感染症治療の第一選択薬として使用されている.これまでに数多くのキノロン系抗菌点眼薬が開発されているが,そのなかでも,レボフロキサシン(levofloxacin:LVFX)は,中性付近での水溶性が高く,良好な眼内移行を示すことから最も点眼液に適しており1,2),0.5%LVFX点眼液(クラビットR点眼液0.5%)として2000年に発売されて以来,高い有効性と安全性をもとに汎用されてきた.〔別刷請求先〕大橋裕一:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院医学系研究科視機能外科学分野Reprintrequests:YuichiOhashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,EhimeUniversityGraduateSchoolofMedicine,Shitsukawa,Toon,Ehime791-0295,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(89)669 キノロン系抗菌薬は,細菌のDNAジャイレースおよびト表2試験実施医療機関一覧(試験実施時,順不同,敬称略)ポイソメラーゼIVを阻害することによりDNA複製を阻止することで抗菌力を示す.PK-PD(PharmacokineicsPharmacodynamics)理論からは濃度依存的な薬剤に分類されており,安全性面で問題がない限りにおいて,眼組織中濃度を最大限に高めることで治療効果のさらなる向上と耐性菌の出現抑制も期待できるとされている3,4).1.5%LVFX点眼液は,LVFXの高い水溶性を活かし,従来の0.5%LVFX点眼液を高濃度化した製剤である.ウサギでの検討において用量依存的な眼組織移行を示すことが確認されており1),ヒトにおいても高い眼組織移行が期待されるほか,その非臨床試験結果から,クラビットR点眼液0.5%と同等の安全性を確保できると推察されている5).実際,アメリカではすでに,1.5%LVFX点眼液(販売名IQUIXR)が,2007年より角膜潰瘍を対象疾患として医療現場で使用されており,多数例において,その有効性および安全性が確認されているところである6).わが国ではこれまで治療効果の向上および耐性菌出現抑制を目的とした高濃度キノロン系抗菌点眼薬の臨床試験の報告はない.今回,高濃度製剤化した1.5%LVFX点眼液について,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎を対象とし,有効性と安全性をオープンラベルの多施設共同試験で検討したので報告する.I対象および方法本試験は,ヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し,以下の対象および方法で実施された.1.対象おもな選択基準・除外基準は表1に示した.対象は全国24医療機関(表2)において受診した細菌性結医療機関名試験責任医師名医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院板橋隆三さど眼科佐渡一成堀之内駅前眼科黒田章仁医療法人社団博陽会おおたけ眼科つきみ野医院大竹博司医療法人湘陽会ルミネはたの眼科秦野寛医療法人社団秀光会かわばた眼科川端秀仁医療法人社団富士青陵会なかじま眼科中島徹むらまつ眼科医院村松知幸たはら眼科田原恭治医療法人仁志会西眼科病院岩西宏樹医療法人社団景和会大内眼科大内景子医療法人幸友会岡本眼科クリニック岡本茂樹医療法人聖光会鷹の子病院眼科島村一郎医療法人社団馨風会徳島診療所中川尚高田ようこアイクリニック高田洋子金井たかはし眼科高橋義徳東京女子医科大学東医療センター眼科松原正男医療法人社団シー・オー・アイいしだ眼科石田玲子医療法人創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹杉浦眼科杉浦寅男医療法人財団神戸海星病院眼科片上千加子医療法人出田会出田眼科病院佐々木香る医療法人社団松六会道玄坂糸井眼科医院糸井素純特定医療法人財団明徳会総合新川橋病院眼科薄井紀夫膜炎および細菌性角膜炎患者であり,選択基準は7歳以上の性別および入院・外来を問わない患者で,細菌性結膜炎患者の場合は眼脂および結膜充血のスコアがそれぞれ(+)以上,細菌性角膜炎患者の場合は角膜浸潤のスコアが(+)以上の症例とした.試験開始前にすべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.表1おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)7歳以上である(2)臨床所見より細菌性結膜炎または細菌性角膜炎と診断された患者で,以下の基準を満たす①細菌性結膜炎:眼脂および結膜充血のスコアがそれぞれ(+)以上②細菌性角膜炎:角膜浸潤のスコアが(+)以上2)おもな除外基準(1)臨床所見より,細菌以外による眼感染またはこれらの混合感染が否定できない(2)臨床所見より,アレルギー性結膜炎が疑われる,または試験期間中に症状が発現する恐れがある(3)同意取得3カ月以内に内眼手術(レーザー治療を含む)および角膜屈折矯正手術の既往を有する(4)試験期間中に使用する予定の薬剤に対し,薬物アレルギーの既往歴がある(5)同意取得前1週間以内に抗生物質,合成抗菌薬が投与された(6)同意取得前1週間以内に副腎皮質ステロイド剤(眼瞼以外への皮膚局所投与は可とする)が投与された(7)コンタクトレンズの装用が必要である670あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(90) 表3検査・観察スケジュール有害事象については,被験薬との因果関係は問わず,被験0日目3日目7日目14日目試験中止時薬投与後に観察されたすべての自覚症状の発現・悪化および試験責任医師・分担医師が医学的に有害と判断した他覚所見被験者背景○の発現・悪化を有害事象とした.また,有害事象のうち,被点眼遵守状況○○○○自覚症状○○○○○験薬との因果関係が明確に否定できないものを副作用とし他覚所見○○○○○た.視力検査○○○臨床検査については0日目および試験終了時または中止時臨床検査○○○に,血液学的検査,血液生化学検査および尿検査を実施し,細菌検査○○○○○臨床検査値の異常変動の有無を確認した.有害事象○○○○○眼科的検査については0日目および試験終了時または中止時に,5m試視力表(またはそれに相当するもの)を用いて2.試験方法視力を測定し,その推移について検討した.a.試験薬剤4.併用薬剤および併用療法被験薬である1.5%LVFX点眼液として,1ml中にLVFX試験期間中の併用薬剤に関しては,被験薬以外の抗菌薬水和物15mg含有する防腐剤を含まない微黄色.黄色澄明(抗生物質,合成抗菌薬),副腎皮質ステロイド剤(眼瞼を除な水性点眼液を用いた.く皮膚局所投与は可)およびすべての眼局所投与製剤を禁止b.試験デザイン・投与方法した.ただし,細菌性角膜炎に対する散瞳剤の点眼は認め本試験はオープンラベルによる多施設共同試験として実施た.した.また,試験期間中の併用療法に関しては,眼に対するレー被験者から文書による同意取得後,試験期間に移行した.ザー手術,観血的手術およびコンタクトレンズの装用を禁止被験薬の用法用量は細菌性結膜炎については1回1滴,1した.日3回とし,細菌性角膜炎については1回1滴,1日3.85.評価方法回(症状に応じて適宜増減可)とした.点眼期間は14日間a.有効性(許容範囲17日以内)とした.ただし,すべての自覚症状・主要評価項目は,臨床効果とし,抗菌点眼薬臨床評価のガ他覚所見が消失した場合には7日目で終了可とした.イドライン(案)および日本眼感染症学会の制定した効果判試験開始時(0日目),3日目,7日目,14日目の来院時に定基準(1985年)に基づき,「著効」,「有効」,「無効」,「悪表3のスケジュールに定められた検査・観察を実施した.化」の4段階に分類し,本剤の評価を行った(表4).3.検査・観察項目および検査・観察時期副次評価項目は,検出菌の消失日数,主症状の消失日数,被験者背景については年齢,性別および眼の合併症の有無主症状,自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移とした.などに関する情報を収集した.両眼が細菌性結膜炎または細菌性角膜炎を罹患していた場自覚症状については異物感,流涙,眼痛,眼掻痒感および合には,選択基準を満たし,かつ主症状の点数が高いほうの羞明について,その症状の程度を確認し(.).(+++)点で点眼を評価対象眼とし,主症状の点数が同じ場合には,自覚症数化した.他覚所見については眼脂,結膜充血,結膜浮腫,状・他覚所見の点数の合計が高いほうの眼とした.また,合眼瞼腫脹,角膜浸潤,角膜上皮欠損,前房内炎症,角膜浮腫計スコアも同じ場合には,右眼を評価対象眼とした.および毛様充血について,その所見の程度を確認し(.).初診時の細菌検査で複数の菌が検出された場合において(+++)点で点数化した.自覚症状,他覚所見の点数化の基準は,特定菌(Haemophilusinfluenzae,Moraxellaspecies,は以下のとおりとした.Pseudomonasaeruginosa,Streptococcuspneumoniae,(+++):症状・所見が高度のものStaphylococcusaureus)が検出された場合はこれを起炎菌と(++):症状・所見が中等度のものし,特定菌以外の菌のみが検出された場合は検出された菌す(+):症状・所見が軽度のものべてを起炎菌として取り扱った.(±):症状・所見がほぼないものb.安全性(.):症状・所見がないもの安全性は,有害事象および副作用,臨床検査値の異常変細菌検査については評価対象眼の患部を綿棒で擦過して検動,眼科的検査(視力検査)結果の推移をもとに評価した.体を採取し,カルチャースワブに封入し,三菱化学メディエ6.解析方法ンス株式会社が分離,同定および薬剤感受性試験を実施し有効性の解析対象集団の検討には,最大の解析対象集団た.(FAS:FullAnalysisSet)を対象とし,診断名別に解析を(91)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012671 表4臨床効果判定基準著効:3日目の観察までに検出菌が消失し,かつ7日目の観察までに主症状が消失しているもの.ただし7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/4以下にならないものは有効とする.有効:以下1.3のいずれかを満たすもの.1.7日目の観察までに検出菌が消失し,かつ14日目の観察までに主症状が消失しているもの.ただし14日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/4以下にならないものは無効とする.2.3日目の観察までに検出菌が消失し,かつ7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/2以下になったもの.3.検出菌が消失しなくても,7日目の観察までに自覚症状・他覚所見の合計スコアが1/3以下になったもの.無効:有効以上に該当する効果を示さなかったもの.悪化:有効以上に該当する効果を示さず,かつ主症状または自覚症状・他覚所見の合計スコアが0日目の観察より悪化したもの.検出菌の消失とは,以下のいずれかを満たす場合とする.①0日目の細菌検査で,特定菌(インフルエンザ菌,モラクセラ菌,緑膿菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌)が検出され,以降の細菌検査でその特定菌が検出されなかった場合(特定菌以外の菌の有無は問わない).②0日目の細菌検査で,特定菌が検出されないが,特定菌以外の菌が検出され,以降の細菌検査でその菌が検出されなかった場合.行った.主要評価項目である臨床効果については,分布を集計し,有効率の95%信頼区間を算出した.副次評価項目のうち,検出菌の消失日数および主症状の消失日数については,3日目,7日目,14日目,消失せずに分類し,分布を集計した.主症状および自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移については,時期別の測定値を示し,0日目に対する前後比率の集計を行い,対応あるt検定を行った.安全性の解析対象集団の検討には,被験薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者を対象とし,診断名別に解析を行った.安全性の解析のうち,有害事象および副作用については,発現例数と発現率を集計した.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.視力検査については,対応のあるt検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,信頼区間は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.1(SASInstituteInc.,Cary,NC)を用いた.II結果1.被験者背景文書同意が得られ,試験に組み入れられた症例は238例(細菌性結膜炎221例,細菌性角膜炎17例)であった.そのうち,菌陰性例などを除く176例(細菌性結膜炎170例,細菌性角膜炎6例)が有効性解析対象集団としてFASに採用された.また,238例(細菌性結膜炎221例,細菌性角膜炎17例)すべてが安全性解析対象集団として採用された(図1).FASにおける被験者背景を表5に示す.年齢の平均は50.8±22.2歳,8.87歳の幅広い患者層が組み入れられた.2.有効性a.臨床効果本剤の点眼による臨床効果を疾患別に図2に示した.有効率(著効または有効であった症例の割合)は,細菌性有効性解析対象(FAS)の被験者:176例細菌性結膜炎:170例細菌性角膜炎:6例安全性解析対象の被験者:238例細菌性結膜炎:221例細菌性角膜炎:17例文書同意を得た被験者:238例細菌性結膜炎:221例細菌性角膜炎:17例安全性解析対象除外:0例細菌性結膜炎:0例細菌性角膜炎:0例有効性解析対象(FAS)除外:62例細菌性結膜炎:51例細菌性角膜炎:11例図1有効性および安全性の解析対象集団の内訳672あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(92) 表5被験者背景項目分類細菌性結膜炎細菌性角膜炎合計例数1706176性別男性女性83(48.8)87(51.2)2(33.3)4(66.7)85(48.3)91(51.7)年齢Minimum.MaximumMean±SD15歳未満(小児)15歳以上(非小児)65歳未満(非高齢者)65歳以上(高齢者)8.8750.4±22.14(2.4)166(97.6)105(61.8)65(38.2)27.8362.8±24.20(0.0)6(100.0)2(33.3)4(66.7)8.8750.8±22.24(2.3)172(97.7)107(60.8)69(39.2)眼の合併症の有無なしあり122(71.8)48(28.2)4(66.7)2(33.3)126(71.6)50(28.4)例数(%).■:著効:有効全体(n=176)90.9%9.1%細菌性結膜炎90.6%9.4%(n=170)細菌性角膜炎(n=6)100.0%0102030405060708090100割合(%)図2臨床効果細菌性結膜炎および細菌性角膜炎の著効率はそれぞれ90.6%および100.0%,有効率はいずれも100.0%であった.結膜炎で100.0%(170/170例),細菌性角膜炎でも100.0%(6/6例)であり,無効例および悪化例は認められなかった.著効率(著効であった症例の割合)は,細菌性結膜炎で90.6%(154/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.b.初診時検出菌消失日数初診時検出菌の消失日数を表6に示した.3日目までに検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で95.3%(162/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.細菌性結膜炎の1例(検出菌:Corynebacteriumspecies,a-hemolyticstreptococci)を除くすべての症例において,7日目までに検出菌の消失を認めた.c.主症状消失日数主症状の消失日数を表7に示した.7日目までに主症状が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で96.5%(164/170例),細菌性角膜炎で100.0%(6/6例)であった.細菌性結膜炎の2例を除くすべての症例において,14日目までに主症状の消失を認めた.(93)表6初診時検出菌消失日数分類例数3日目7日目14日目消失せず細菌性結膜炎170162(95.3)7(4.1)0(0.0)1(0.6)細菌性角膜炎66(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)全体176168(95.5)7(4.0)0(0.0)1(0.6)例数(%).表7主症状消失日数分類例数3日目7日目14日目消失せず細菌性結膜炎170115(67.6)49(28.8)4(2.4)2(1.2)細菌性角膜炎64(66.7)2(33.3)0(0.0)0(0.0)全体176119(67.6)51(29.0)4(2.3)2(1.1)例数(%).d.主症状スコア,自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移主症状スコアの推移を図3に示した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,主症状スコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(細菌性結膜炎:3日目,7日目および14日目いずれもp<0.001,細菌性角膜炎:3日目および7日目ではp<0.001,14日目ではp値算出不能)自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移を図4に示した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,自覚症状・他覚所見の合計のスコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(細菌性結膜炎:3日目,7日目および14日目いずれもp<0.001,細菌性角膜炎:3日目および7日目ではp<0.001,14日目ではp=0.007)e.臨床分離株の薬剤感受性試験に登録された238例より分離された菌株数は330株であった.おもな検出菌はグラム陽性球菌が44.5%(147/330株),グラム陽性桿菌が27.3%(90/330株)であった.臨床あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012673 ***************:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎***************:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎162.014120日目***********:細菌性結膜炎:細菌性角膜炎合計スコア1.5主症状スコア108641.00.520******0.03日目7日目14日目0日目3日目7日目14日目n=(170)(170)(167)(70)(6)(6)(6)(2)図3主症状スコアの推移(実測値)細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,主症状スコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(***:p<0.001,対応あるt検定)分離株のLVFXに対する薬剤感受性を表8に示した.特定菌に分類される菌種に対するLVFXのMIC90(90%最小発育阻止濃度)は,Staphylococcusaureus(MSSA)で0.5μg/ml,Streptococcuspneumoniaeで1μg/ml,Haemophilusinfluenzaeで≦0.06μg/mlであった.また,Corynebacteriumspecies,Staphylococcusepidermidis(MRSE)およびStaphylococcusepidermidis(MSSE)に対するLVFXのMIC90について,Corynebacteriumspeciesで128μg/ml,Staphylococcusepidermidis(MRSE)で4μg/ml,Staphylococcusepidermidis(MSSE)で0.25μg/mlであった.f.初診時検出菌別の臨床効果本試験より初診時に検出された菌の初診時検出菌別の臨床効果を表9に示した.MIC90が比較的高値であったCorynebacteriumspeciesを含め,検出されたすべての菌種において有効率100.0%であった.3.安全性a.有害事象および副作用本試験に登録した238例,全例が安全性解析対象集団として採用された.試験期間中に発現した有害事象および副作用の発現率を表10に,副作用一覧を表11に示した.有害事象の発現率は10.9%(26/238例,28件)で,副作用の発現率は2.9%(7/238例,7件)であった.最も多く認められた副作用は「眼刺激」1.3%(3/238例,3件)であった.0.5%LVFX点眼液から1.5%LVFX点眼液に高濃度化することにより新たに認められた副作用は,軽度の「味覚異常(苦味)」0.8%(2/238例,2件)のみであった.有害事象の発現による中止例は2.1%(5/238例,5件)で認められた.そのうち副作用の発現による中止例は「じんま674あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012n=(170)(170)(167)(70)(6)(6)(6)(2)図4自覚症状・他覚所見の合計スコアの推移(実測値)細菌性結膜炎および細菌性角膜炎のいずれにおいても,自覚症状・他覚所見の合計のスコアは,0日目と比較して3日目から有意な改善を認めた.(***:p<0.001,**:p<0.01,対応あるt検定)疹(両大腿部の湿疹および四肢の掻痒感)」の1例のみであった.本事象は軽度であり被験薬投与中止後に速やかに消失した.本事象を含め,認められたすべての副作用の程度は軽度であり,試験期間中または試験期間終了後に速やかに回復した.また,年齢や性別による,副作用の発現率および重症度の差はみられなかった.b.臨床検査値の異常変動薬剤との因果関係が否定できない臨床検査値の異常変動は認められなかった.c.眼科的検査(視力検査)臨床的に問題となる視力の変動は認められなかった.III考察今回,0.5%LVFX点眼液を高濃度製剤化した1.5%LVFX点眼液の有効性と安全性を,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎を対象としたオープンラベルの多施設共同試験により検討した.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対する有効率は,いずれも100.0%であり,高い臨床効果が認められた.細菌性結膜炎および細菌性角膜炎でそれぞれ90.6%および100.0%と非常に高い著効率を示し,早期からQOL(qualityoflife)の改善が期待できる薬剤であることがうかがわれた.過去にも,本試験と同様の有効性評価基準を用いて,多くのキノロン系抗菌点眼薬が臨床試験において評価されてきた7.19)が,小児対象の試験のように患者層が限定されているケースや症例数が少数のケースを除き,有効率100.0%を示した報告はこれまでにない.過去に実施された臨床試験(第II相試験,第III相試験,一般臨床試験の累計)での0.5%(94) 表8臨床分離株のLVFXに対する薬剤感受性分類菌名株数薬剤MICrangeMIC50MIC80MIC90Staphylococcusaureus(MSSA)35LVFX0.12.0.50.250.250.5Staphylococcusaureus(MRSA)1LVFX8.8───Staphylococcusepidermidis(MSSE)32LVFX≦0.06.20.250.250.25Staphylococcusepidermidis(MRSE)26LVFX0.12.8444グラム陽性球菌Coagulasenegativestaphylococci10LVFX0.12.10.250.50.5Streptococcuspneumoniae27LVFX0.25.10.511GroupGstreptococci2LVFX0.25.0.5───a-hemolyticstreptococci10LVFX0.12.2111Enterococcusfaecalis4LVFX0.5.1111グラム陽性桿菌Corynebacteriumspecies90LVFX≦0.06.>1280.564128Klebsiellaoxytoca2LVFX≦0.06.≦0.06───Enterobacteraerogenes1LVFX≦0.06.≦0.06───Enterobacterspecies1LVFX≦0.06.≦0.06───Serratiamarcescens2LVFX≦0.06.0.12───Proteusmirabilis1LVFX1.1───Proteusvulgaris1LVFX≦0.06.≦0.06───Providenciarettgeri1LVFX0.25.0.25───Pantoeaagglomerans5LVFX≦0.06.≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06Citrobacterkoseri1LVFX≦0.06.≦0.06───グラム陰性桿菌Burkholderiacepacia1LVFX0.5.0.5───Stenotrophomonasmaltophilia1LVFX1.1───Acinetobactercalcoaceticus1LVFX≦0.06.≦0.06───Acinetobacterspecies2LVFX0.5.0.5───Alcaligenesxylosoxidans10LVFX1.2122Alcaligenesfaecalis1LVFX1.1───Comamonasacidovorans4LVFX0.12.0.120.120.120.12Sphingomonaspaucimobilis1LVFX0.25.0.25───Nonglucosefermentativegram-negativerods6LVFX≦0.06.20.250.52Haemophilusinfluenzae19LVFX≦0.06.≦0.06≦0.06≦0.06≦0.06嫌気性グラム陽性菌Propionibacteriumacnes30LVFX0.5.0.50.50.50.5Anaerobicgram-positiverods1LVFX0.25.0.25───嫌気性グラム陰性菌Prevotellaspecies1LVFX0.25.0.25───全体330LVFX≦0.06.>1280.518※3株未満の場合はMIC値を算出せず.LVFX点眼液(クラビットR点眼液0.5%)の著効率は,細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に対して,それぞれ64.5%および71.4%であり,今回の1.5%LVFX点眼液の著効率はこれらの値を大きく上回っている.さらに,これまでに報告されている他のキノロン系抗菌点眼薬の著効率についてみても,0.3%ガチフロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する57.6%10),細菌性角膜炎に対する44.4%11),0.5%モキシフ(95)ロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する46.0%17)および53.8%19),細菌性角膜炎に対する30.0%18),0.3%トスフロキサシン点眼液の細菌性結膜炎に対する37.5%14)および38.0%15),細菌性角膜炎に対する36.4%14)の数値を1.5%LVFX点眼液の著効率は凌駕している.同様の傾向は,菌あるいは症状消失率にもうかがえる.たとえば,1.5%LVFX点眼液の場合,初診時検出菌が3日目あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012675 表9初診時検出菌別臨床効果臨床効果疾患名菌名例数著効有効無効悪化有効率Staphylococcusaureus(MSSA)3433(97.1)1(2.9)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusaureus(MRSA)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusepidermidis(MSSE)3028(93.3)2(6.7)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusepidermidis(MRSE)2322(95.7)1(4.3)0(0.0)0(0.0)100.0Coagulasenegativestaphylococci87(87.5)1(12.5)0(0.0)0(0.0)100.0Streptococcuspneumoniae2520(80.0)5(20.0)0(0.0)0(0.0)100.0GroupGstreptococci22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0a-hemolyticstreptococci87(87.5)1(12.5)0(0.0)0(0.0)100.0Enterococcusfaecalis44(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Corynebacteriumspecies7463(85.1)11(14.9)0(0.0)0(0.0)100.0Klebsiellaoxytoca22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Enterobacteraerogenes11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Enterobacterspecies11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0細菌性結膜炎Serratiamarcescens11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Proteusmirabilis11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Proteusvulgaris11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Pantoeaagglomerans44(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Citrobacterkoseri11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Burkholderiacepacia11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Acinetobactercalcoaceticus11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Alcaligenesxylosoxidans77(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Comamonasacidovorans33(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Nonglucosefermentativegram-negativerods22(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Haemophilusinfluenzae1716(94.1)1(5.9)0(0.0)0(0.0)100.0Propionibacteriumacnes1310(76.9)3(23.1)0(0.0)0(0.0)100.0Anaerobicgram-positiverods10(0.0)1(100.0)0(0.0)0(0.0)100.0Prevotellaspecies11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Staphylococcusaureus(MSSA)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0細菌性角膜炎Staphylococcusepidermidis(MSSE)11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Corynebacteriumspecies55(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0Serratiamarcescens11(100.0)0(0.0)0(0.0)0(0.0)100.0例数(%).表10有害事象および副作用の発現率項目細菌性結膜炎細菌性角膜炎合計例数22117238有害事象24(10.9)2(11.8)26(10.9)副作用6(2.7)1(5.9)7(2.9)例数(%).676あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で95.3%,細菌性角膜炎で100.0%,主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で96.5%,細菌性角膜炎で100.0%であったが,他方で,過去に実施されたクラビットR点眼液0.5%の臨床試験(第II相試験,第III相試験,一般臨床試験の累計)における,3日目までに初診時検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で84.1%,細菌性角膜炎で90.0%,主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結(96) 表11副作用発現率一覧細菌性結膜炎細菌性角膜炎全体器官大分類(SOC)基本語(PT)発現率:6/221(2.7)重症度発現率:1/17(5.9)重症度発現率:7/238(2.9)重症度軽度中等度高度軽度中等度高度軽度中等度高度眼刺激2(0.9)──1(5.9)──3(1.3)──眼障害眼掻痒症1(0.5)─────1(0.4)──小計3(1.4)──1(5.9)──4(1.7)──味覚異常2(0.9)─────2(0.8)──神経系障害小計2(0.9)─────2(0.8)──皮膚およびじんま疹1(0.5)─────1(0.4)──皮下組織障害小計1(0.5)─────1(0.4)──合計(件数)6──1──7──例数(%).膜炎で78.0%,細菌性角膜炎で86.7%にとどまっている.また,0.5%モキシフロキサシン点眼液についても,3日目までに初診時検出菌が消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で76.3%17)および82.3%19),細菌性角膜炎で70.0%18),主症状が7日目までに消失した症例の割合は,細菌性結膜炎で60.4%17)および70.0%19),細菌性角膜炎で40.0%18)であり,1.5%LVFX点眼液には及ばない.このように,1.5%LVFX点眼液による早期の菌消失は視機能の維持・改善に,早期の症状消失は患者のQOL向上につながることが大いに期待される.本試験における初診時検出菌については,グラム陽性菌の割合が高く,細菌性結膜炎の場合,Corynebacteriumspecies,Staphylococcusepidermidis,Staphylococcusaureus,Propionibacteriumacnes,Streptococcuspneumoniae,Haemophilusinfluenzaeが上位を占めた.1.5%LVFX点眼液はグラム陰性菌のほか,MIC90が比較的高値を示したCorynebacteriumspeciesを含むグラム陽性菌に対しても高い臨床効果を示しており,すべての菌種に対して有効以上であった.なお,本試験で臨床分離された菌株の薬剤感受性を,クラビットR点眼液0.5%の発売後の5年間(2000年5月から2004年12月まで)で実施された全国サーベイランスの薬剤感受性結果20.22),ならびにCOI(Core-NetworkofOcularInfection)による細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間(2004年11月から2009年12月まで)の動向調査23)と比較しても顕著な低下はない.ただし,MICが高値を示す菌種も一部検出されており,これについては引き続きその動向を慎重に追跡していく必要がある.1.5%LVFX点眼液の副作用の発現頻度は2.9%であり,他の抗菌点眼薬の副作用発現率(1.69.5.83%:クラビットR(97)点眼液0.5%,ガチフロR点眼液0.3%,ベガモックスR点眼液0.5%およびオゼックスR点眼液0.3%の添付文書より)と比較して同程度の安全性であった.投与中止に至った副作用として「じんま疹」1例がみられたが,これは,クラビットR点眼液0.5%およびその他のキノロン系抗菌点眼薬でもこれまで認められている範疇のものである.その他の副作用の程度はすべて軽度であり,高濃度化することにより新たに認められた副作用は,LVFXの原薬の苦味に由来すると思われる軽度の「味覚異常(苦味)」2例のみであり,また,副作用の発現率や重症度について,年齢および性別による差はみられなかった.米国ではすでに2007年より,角膜潰瘍を対象疾患として1.5%LVFX点眼液(販売名IQUIXR)が,医療現場で使用されているが,安全性に関する問題は特に認められていない.一方で,今回の対象疾患は細菌性結膜炎および細菌性角膜炎に限定されているため,今後は,他の疾患での安全性の確認は必要である.近年,PK-PD理論のもと,抗菌薬の有効性は薬物動態と密接に関連することが示されている.全身薬の領域では,高用量製剤であるクラビットR錠500mgが2009年7月より販売されており,PK-PDの観点から,高い治療効果と耐性菌の出現抑制に期待が寄せられている.本剤についても,invitroシミュレーションモデルにおいて,0.5%LVFX点眼液よりも優れた,Staphylococcusaureus(MSSA)およびPseudomonasaeruginosaに対する耐性化の抑制効果を有することが確認されている.細菌性眼感染症の診療においては,起炎菌が特定できない場合,疾患・菌種によっては症状の進行が急速で予後不良の場合もあるため24.27),重症化を阻止するには,早期診断に加えて早期治療を確実かつ効果的に行うことが肝要である.幅広い菌種に対して高い有効性と安全性を併せ持つ1.5%あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012677 LVFX点眼液の登場により,重症患者への治療もより効率的となり,結果として,医療現場での満足度が高まることが期待される.ただし,世界的に抗菌薬の創出が困難な状況下では,無用な耐性菌の出現を抑制するために,本剤の適正使用を推進していくことが重要である.文献1)河嶋洋一,高階秀雄,臼井正彦:オフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液の薬動力学的パラメーター.あたらしい眼科12:791-794,19952)佐々木一之,三井幸彦,福田正道ほか:点眼用抗菌薬の眼内薬動力学的パラメーターとしてのAQCmaxの測定.あたらしい眼科12:787-790,19953)佐藤玲子,谷川原祐介:2.抗菌薬のPK/PD.医薬ジャーナル41:67-74,20054)PrestonSL,DrusanoGL,BermanALetal:Pharmacodynamicsoflevofloxacin:anewparadigmforearlyclinicaltrials.JAMA279:125-129,19985)ClarkL,BezwadaP,HosoiKetal:Comprehensiveevaluationofoculartoxicityoftopicallevofloxacininrabbitandprimatemodels.JToxicolCutanOculToxicol23:1-18,20046)McDonaldMB:Researchreviewandupdate:IQUIX(levofloxacin1.5%).IntOphthalmolClin46:47-60,20067)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の臨床第二相試験─多施設二重盲検法─.あたらしい眼科14:299-307,19978)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の臨床第III相試験─多施設二重盲検法─.あたらしい眼科14:641-648,19979)臼井正彦:レボフロキサシン点眼液の第三相一般臨床試験.あたらしい眼科14:1113-1118,199710)大橋裕一,秦野寛:細菌性結膜炎に対するガチフロキサシン点眼液の臨床第III相試験(多施設無作為化二重盲検比較試験).あたらしい眼科22:123-131,200511)大橋裕一,秦野寛:0.3%ガチフロキサシン点眼液の多施設一般臨床試験.あたらしい眼科22:1155-1161,200512)秦野寛,大橋裕一,宮永嘉隆ほか:小児の細菌性外眼部感染症に対するガチフロキサシン点眼液の臨床成績.あたらしい眼科22:827-831,200513)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の急性細菌性結膜炎を対象としたプラセボとの二重遮蔽比較試験.あたらしい眼科23(別巻):55-67,200614)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の細菌性外眼部感染症を対象とするオープン試験.あたらしい眼科23(別巻):68-80,200615)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:ニューキノロン系抗菌点眼液TN-3262a(0.3%トシル酸トスフロキサシン点眼液)の細菌性結膜炎を対象としたレボフロキサシンとの二重遮蔽比較多施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):95-110,200616)北野周作,宮永嘉隆,大野重昭ほか:新規ニューキノロン系抗菌点眼薬トシル酸トスフロキサシン点眼液の小児の細菌性外眼部感染症を対象とする非対照非遮蔽多施設共同試験.あたらしい眼科23(別巻):118-129,200617)下村嘉一,大橋裕一,松本光希ほか:細菌性結膜炎に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相比較試験─多施設無作為化二重遮蔽比較試験─.あたらしい眼科24:1381-1394,200718)松本光希,大橋裕一,臼井正彦ほか:細菌性角膜炎(角膜上皮炎,角膜潰瘍)に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相試験─多施設共同試験─.あたらしい眼科24:13951405,200719)岡本茂樹,大橋裕一,臼井正彦ほか:細菌性外眼部感染症に対するMoxifloxacin点眼液の臨床第III相試験(多施設共同試験).あたらしい眼科24:1661-1674,200720)松崎薫,小山英明,渡部恵美子ほか:眼科領域における細菌感染症起炎菌のlevofloxacin感受性について.化学療法の領域19:431-440,200321)松崎薫,渡部恵美子,鹿野美奈ほか:2002年2月から2003年6月の期間に細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性.あたらしい眼科21:1539-1546,200422)小林寅喆,松崎薫,志藤久美子ほか:細菌性眼感染症患者より分離された各種新鮮臨床分離株のLevofloxacin感受性動向について.あたらしい眼科23:237-243,200623)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,201124)松本光希:2.感染症細菌性角膜潰瘍.眼の感染・免疫疾患正しい診断と治療の手引き,p28-33,メジカルビュー社,199725)井上幸次,大橋裕一,浅利誠志ほか:感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111:769-809,200726)松本光希:細菌性角膜炎の起炎菌別の特徴のポイントは?.あたらしい眼科26(臨増):20-22,200927)北川和子:細菌性角膜炎の治療のポイントは?あたらしい眼科26(臨増):32-34,2009***678あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(98)

ソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性

2012年5月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科29(5):665.668,2012cソフトコンタクトレンズ装用上におけるヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」)の安全性小玉裕司*小玉眼科医院SafetyStudyofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN)forSoftContactLensWearersYujiKodamaKodamaEyeClinic角結膜上皮障害治療用点眼薬のヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアルロン酸ナトリウムPF点眼液0.1%「日点」,以下,ヒアルロン酸PF点眼液)には防腐剤が添加されておらず,角結膜やソフトコンタクトレンズ(SCL)に対する影響が塩化ベンザルコニウムを防腐剤に使用している点眼薬よりも少ない可能性が考えられる.今回,ドライアイを有するボランティアを対象として4種類のSCL(ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューR)装用中にヒアルロン酸PF点眼液を点眼した場合の安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸(ホウ素として)の吸着について検討を行った.その結果,SCL中に主成分は検出されず,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが検出量はいずれもごく微量であり,フィッティングの変化も認められなかった.また,ヒアルロン酸PF点眼液による角結膜の障害や副作用は認められなかった.医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はないものと考えられた.SodiumHyaluronatePFOphthalmicSolution0.1%(NITTEN),whichisusedfortreatingkeratoconjunctivalepithelialdisorders,containsnopreservatives.Therefore,itsinfluenceonthekeratoconjunctivaandsoftcontactlens(SCL)maybelessthanthatofophthalmicsolutionsthatusebenzalkoniumchlorideasapreservative.HealthyadultvolunteerswhotendtohavedryeyewereincludedinthisstudyinvestigatingthesafetyandSCLabsorptionoftheactiveingredientandboricacid(asboron)inSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninstilledinwearersof4typesofonedaydisposableSCL(1-DAYACUVUERTruEyeTM,MedalistR1-DAYPLUS,DAILIESRAQUAand1-DAYACUVUER).ResultsshowedthattheactiveingredientandboricacidweredetectedineachtypeofSCL;however,thelevelsdetectedwereverylowandnochangewasobservedintheSCLfitting.Furthermore,nokeratoconjunctivaldisordersorotheradverseeffectswereobserved.Withsufficientperiodicinspectionsunderadoctor’ssupervision,theuseofSodiumHyaluronatePFOphthalmicSolutioninthepresenceofSCLisconsideredsafe.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):665.668,2012〕Keywords:ヒアルロン酸ナトリウム点眼液,ソフトコンタクトレンズ,防腐剤,ホウ酸,副作用.sodiumhyaluronateophthalmicsolution,softcontactlens,preservative,boricacid,adverseeffect.はじめにかという質問は,患者からのみならず医師(眼科医を含む)点眼液には有効となる主薬剤のほかに,等張化剤,緩衝剤,からもよく投げかけられる.特にソフトコンタクトレンズ可溶化剤,安定化剤,粘稠化剤,防腐剤などが含まれている.(SCL)においては,防腐剤のSCL内への貯留や蓄積の可能コンタクトレンズ(CL)装用上,点眼液を使用してもよいの性があり,SCL上の点眼液使用は禁忌であるという考え方〔別刷請求先〕小玉裕司:〒610-0121京都府城陽市寺田水度坂15-459小玉眼科医院Reprintrequests:YujiKodama,M.D.,KodamaEyeClinic,15-459Mitosaka,Terada,JoyoCity,Kyoto610-0121,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(85)665 が一般的である.しかし,臨床の場においてはCLを装用したまま点眼液を使用することが望ましい症例がアレルギー性結膜炎やドライアイの患者などを中心として少なからず認められる1).CL装用中に防腐剤を含有する点眼薬を使用した場合,CLに防腐剤が吸着,蓄積されることによってCLの変性をきたしたり2),吸着された防腐剤が角結膜に障害を与える可能性があるため,CLを装用したまま点眼することは原則として避けるよう指導されている3).点眼薬の防腐剤として最も汎用されているものは塩化ベンザルコニウム(BAK)であるが,BAKは角膜上皮障害や接触性皮膚炎などの副作用が問題視されている4.6).筆者は過去にBAKおよびBAK以外の防腐剤であるクロロブタノールとパラベン類(パラオキシ安息香酸メチル,パラオキシ安息香酸プロピル)を使用した点眼液のCL装用上点眼における安全性について検討を行い,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば問題がないことを報告した7,8).しかし,主成分や防腐剤以外の添加物のCLへの吸着が問題となる可能性も考えられる.特にホウ酸は等張化剤あるいは緩衝剤として多くの点眼液(防腐剤フリーの点眼液も含む)に配合されており,そのCL装用上の使用による眼障害の可能性の検討が必要と考えられる.今回,ヒアルロン酸PF点眼液の各種ワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行ったので,その結果について報告する.I対象および方法1.対象ならびに使用レンズSCLの使用が可能なドライアイ傾向を示すボランティア5名(年齢30.45歳,平均35歳,女性5名)を対象とした.なお,被験者には試験の実施に先立ち,試験の趣旨と内容について十分な説明を行い,同意を得た.ワンデータイプのSCLの中からワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRワンデープラス,デイリーズRアクア,ワンデーアキュビューRの4種類のレンズを装用させた(表1).2.方法被験者の両眼にSCLを装用させた後,ヒアルロン酸PF点眼液を1回2滴,2時間間隔で6回,両眼に点眼した.最終点眼後5分以内に被験者の両眼からSCLを装脱し,回収したSCLの1枚は主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム定量用とし,他方の1枚はホウ酸定量用とした.a.精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量被験者から装脱・回収したSCLを1枚ずつカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)によりSCLに吸着していた精製ヒアルロン酸ナトリウムを定量した.b.ホウ酸(ホウ素)の定量被験者から装脱・回収したSCLをICP(inductivelycoupledplasma)発光分光分析によりSCLに吸着していたホウ酸をホウ素として定量した.3.涙液検査点眼開始前に涙液層破壊時間(BUT)計測と綿糸法を実施した.4.自覚症状点眼開始前,SCL装用中(2時間おき),SCL装脱直後に掻痒感,異物感,眼脂について問診した.5.細隙灯顕微鏡検査点眼開始前とSCL装脱直後にフルオレセイン染色による角結膜の観察と眼瞼結膜および眼球結膜の充血,浮腫,乳頭の観察を行った.点眼開始前,SCL装脱直前にSCLフィッティング状態の判定を行った.6.副作用投与期間中に発現した症状のうち,試験薬との因果関係が否定できないものを副作用とした.II結果自覚症状については点眼開始前,SCL装用中,SCL装脱後において,特に異常を訴える症例はなかった.涙液検査については,綿糸法では正常領域であった.BUTは1眼で4秒,1眼で3秒の症例がある以外は正常領域であった.試験開始前において,全例に軽度の角結膜上皮表1使用レンズ使用レンズFDA(米国食品・医薬品局)分類ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMグループIメダリストRワンデープラスグループIIデイリーズRアクアグループIIワンデーアキュビューRグループIV酸素透過係数Dk値:〔×10.11(cm2/sec)・(mlO2/ml×mmHg)〕100222628含水率(%)46596958中心厚(mm)(.3.00D)直径(mm)0.08514.00.0914.20.1013.80.08414.2666あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(86) 障害が認められた.経過観察中,点眼投与による副作用は全例において認められなかった.以下に各SCLに吸着した精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸の定量結果(表2)と,細隙灯顕微鏡検査によって観察された結果を記す.1.ワンデーアキュビューRトゥルーアイTMa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量結果を表2に示す.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界(10μg/SCL)に近い測定値であった.ホウ酸は1.1μg/SCLを超えるものは5検体中2検体から検出され,検出量はそれぞれ17.7μg/SCLおよび16.6μg/SCLであった.残りの3検体は検出限界(1.1μg/SCL)に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中5眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.表2SCLから検出された主成分およびホウ酸量使用SCL検出量(μg/SCL)精製ヒアルロン酸ナトリウムホウ素(ホウ酸として)ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM平均値±SD141612131514±1.60.3(1.7)3.1(17.7)0.3(1.7)2.9(16.6)0.4(2.3)1.4±1.5(8.0±8.4)メダリストRワンデープラス平均値±SDNDNDNDNDND─NDNDNDNDND─デイリーズRアクア平均値±SD──────3.7(21.2)3.4(19.4)2.3(13.2)2.1(12.0)1.3(7.4)2.6±1.0(14.6±5.6)ワンデーアキュビューR平均値±SDNDNDNDNDND─0.3(1.7)0.5(2.9)NDNDND0.4±0.1(2.3±0.8)検出限界(μg/SCL)100.2(1.1)SD:標準偏差,ND:検出限界以下.(87)2.メダリストRワンデープラスa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウム,ホウ酸ともに5検体すべて検出限界以下であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.3.デイリーズRアクアa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは本定量法では測定できなかった.ホウ酸は5検体すべてから検出され,平均検出量は14.6±5.6μg/SCLであった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中2眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.4.ワンデーアキュビューRa.SCLから検出された主成分およびホウ酸量主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムは5検体すべて検出限界以下であった.ホウ酸は5検体中3検体が検出限界以下,2検体が検出限界に近い測定値であった.b.細隙灯顕微鏡検査SCLフィッティング状態は良好であった.10眼中6眼において角膜上皮障害の軽減が認められた.III考按現在市販されているほとんどの点眼薬には防腐剤としてBAK,パラベン類,クロロブタノールなどが含有されており,これらの防腐剤が角膜上皮に障害をもたらすことは基礎および臨床の面から多くの報告がなされている9.15).また,防腐剤はCLに吸着することが報告されている2,16.19).筆者はBAKよりも角膜上皮に対する影響が少ないクロロブタノールとパラベン類を防腐剤に使用した点眼液の従来型SCL装用上点眼における安全性について検討を行い,問題がないことを報告した7)が,点眼薬には防腐剤以外にも添加物が含有されており,特にホウ酸は等張化剤や緩衝剤として多くの点眼液に配合されているため,SCLへの吸着を検討しておく必要があると思われる.東原はホウ酸を含んだBAKフリーの人工涙液に各種SCL(O2オプティクス,エアオプティクスTM,2Wプレミオ,アキュビューRオアシス,ワンデーピュア,ワンデーアキュビューR,デイリーズRアクアコンフォートプラス,デイリーズRアクア)を4時間浸漬するとレンズの種類によっては,その直径が変化することを発表(東原尚代:ソフトコンタクトレンズと点眼液の相互作用.第64回日本臨床眼科学会モーニングセミナー,2010,神戸)している.このことはレンズのフィッティングに変化をもたらす可能性を示唆したものあたらしい眼科Vol.29,No.5,2012667 である.しかし,今回の実験のような1回2滴の2時間間隔,1日6回点眼においてはレンズのフィッティングに影響は認められなかった.点眼した防腐剤の涙液中濃度は比較的速やかに涙液により希釈され,15分以内で1/10以下になるという報告がある21).どのくらいの頻回点眼でレンズサイズへの影響が認められるのかは今後の検討を待たねばならないが,少なくとも15分以上の間隔を空ければ問題ないと考えられる.日本におけるCLの市場は1日交換終日装用SCLが増加傾向にあり,筆者自身の症例では約30%を占める.また,1日交換終日装用SCLにも新しい素材であるシリコーンハイドロゲルを導入したものが市販されており普及が進んでいる.シリコーンハイドロゲルSCLは従来型素材のSCLの欠点である酸素透過性を改善するため,酸素透過性に優れたシリコーンを含む含水性の素材,シリコーンハイドロゲルを用いることにより,低含水性でありながら高酸素透過性を実現したSCLである.これにより,従来型SCLで問題となっていた慢性的な酸素不足による角膜障害や眼の乾燥感を軽減することが可能となった.しかし,シリコーンハイドロゲルSCLは従来型SCLと素材,表面処理,含水率などが異なるため,点眼薬の主成分や添加物のSCLへの吸着が異なる可能性が考えられる19).今回,ヒアルロン酸PF点眼液を用いて,シリコーンハイドロゲルSCLを含む4種類のワンデータイプのSCL装用上点眼における安全性およびSCLへの主成分ならびにホウ酸の吸着について検討を行った.その結果,ホウ酸はSCLの種類によって検出されたが,検出量はいずれもごく微量であり,主成分である精製ヒアルロン酸ナトリウムはSCLへの吸着が認められなかった.主成分の精製ヒアルロン酸ナトリウムの定量法はカルバゾール硫酸法による発色法(紫外可視吸光度測定法)を実施し,試料として直接SCLを試験に供したが,デイリーズRアクアにおいてはSCL中の色素がカルバゾールと化学反応して発色定量を妨害したと思われ測定不能であった.そこで,新たにSCLをヒアルロン酸PF点眼液に24時間浸漬した試験を追加した.SCLを浸漬した後のヒアルロン酸PF点眼液を試料として測定し,吸着量を算出した.その結果,試料液中の精製ヒアルロン酸ナトリウムは減少せず,SCLへの吸着は認められなかった.このことから,今回測定不能であったデイリーズアクアへの精製ヒアルロン酸ナトリウムの吸着はないと考えられる.また,SCL装用中の点眼使用による症状の悪化やSCLフィッティング状態に異常は認められず,副作用も認められなかった.以上の結果より,医師の管理の下に定期検査を十分に行えば,SCL装用上においてヒアルロン酸PF点眼液を使用しても,問題はほとんどないものと考えられた.668あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012文献1)小玉裕司,北浦孝一:コンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.あたらしい眼科17:267-271,20002)岩本英尋,山田美由紀,萩野昭彦ほか:塩化ベンザルコニウム(BAK)による酸素透過性ハードコンタクトレンズ表面の変質について.日コレ誌35:219-225,19933)上田倫子:眼科病棟の服薬指導4.月刊薬事36:13871397,19944)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,19895)平塚義宗,木村泰朗,藤田邦彦ほか:点眼薬防腐剤によると思われる不可逆的角膜上皮障害.臨眼48:1099-1102,19946)山田利律子,山田誠一,安室洋子ほか:保存剤塩化ベンザルコニウムによるアレルギー性結膜炎─第2報─.アレルギーの臨床7:1029-1031,19877)小玉裕司:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科26:553-556,20098)小玉裕司:コンタクトレンズ装用上におけるアシタザノラスト水和物点眼液(ゼペリン点眼液)の安全性.あたらしい眼科20:373-377,20039)GassetAR:Benzalkoniumchloridetoxicitytothehumancornea.AmJOphthalmol84:169-171,197710)PfisterRR,BursteinN:Theeffectofophthalmicdrugs,vehiclesandpreservativesoncornealepithelium:Ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmol15:246-259,197611)BursteinNL:Cornealcytotoxicityoftopicallyapplieddrugs,vehiclesandpreservatives.SurvOphthalmol25:15-30,198012)高橋信夫,向井佳子:点眼剤用防腐剤塩化ベンザルコニウムの細胞毒性とその作用機序─細胞培養学的検討─.日本の眼科58:945-950,198713)島﨑潤:点眼剤の防腐剤とその副作用.眼科33:533538,199114)濱野孝,坪田一男,今安正樹:点眼薬中の防腐剤が角膜上皮に及ぼす影響─涙液中LDH活性を指標として─.眼紀42:780-783,199115)中村雅胤,山下哲司,西田輝夫ほか:塩化ベンザルコニウムの家兎角膜上皮に対する影響.日コレ誌35:238-241,199316)水谷聡,伊藤康雄,白木美香ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第1報)─取り込みと放出─.日コレ誌34:267-276,199217)河野素子,伊藤孝雄,水谷潤ほか:コンタクトレンズと防腐剤の影響について(第2報)─RGPCL素材におけるBAKの研究─.日コレ誌34:277-282,199218)﨑元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,199319)植田喜一,柳井亮二:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとマルチパーパスソリューション,点眼薬.あたらしい眼科25:923-930,200820)中村雅胤,西田輝夫:防腐剤の功罪.眼科NewSight②点眼液─常識と非常識─(大橋裕一編),p36-43,メジカルビュー社,1994(88)

新しいアデノウイルス迅速診断法「クイックナビ-アデノ」の臨床評価

2012年5月31日 木曜日

《第48回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科29(5):659.663,2012c新しいアデノウイルス迅速診断法「クイックナビ-アデノ」の臨床評価宮永嘉隆*1中川尚*2秦野寛*3井上賢治*4市側稔博*5内野美樹*6鴨下泉*7北川均*8熊谷謙次郎*9栗山茂*10小林康彦*11小見山和也*12佐藤信祐*13佐野友紀*14髙嶋隆行*15高橋京一*16高橋義徳*17田中律子*18沼崎啓*19林真*20深川和己*21*1西葛西・井上眼科病院*2徳島診療所*3ルミネはたの眼科*4お茶の水井上眼科クリニック*5ひまわり眼科*6両国眼科クリニック*7鴨下眼科クリニック*8北川眼科クリニックふたわ*9熊谷眼科クリニック*10栗山眼科クリニック*11こばやし眼科クリニック*12こみやま眼科*13養明堂眼科*14佐野眼科医院*15たかしまアイクリニック*16たかはし眼科クリニック*17立川通クリニック*18やはしら眼科*19国際医療福祉大学病院*20薬円台眼科*21飯田橋眼科クリニックEvaluationofaNewRapidDiagnosisKitforAdenovirus,Quick-NaviTM-AdenoYoshitakaMiyanaga1),HisashiNakagawa2),HiroshiHatano3),KenjiInoue4),ToshihiroIchikawa5),MikiUchino6),IzumiKamoshita7),HitoshiKitagawa8),KenjiroKumagai9),ShigeruKuriyama10),YasuhikoKobayashi11),KazuyaKomiyama12),NobutakaSato13),TomonoriSano14),TakayukiTakashima15),KyoichiTakahashi16),YoshinoriTakahashi17),RitsukoTanaka18),KeiNumazaki19),MakoHayashi20)andKazumiFukagawa21)1)Nishikasai-InouyeEyeHospital,2)TokushimaEyeClinic,3)HatanoEyeClinic,4)OchanomizuInouyeEyeClinic,5)HimawariEyeClinic,6)RyogokuEyeClinic,7)KamoshitaEyeClinic,8)KitagawaEyeClinicFutawa,9)KumagaiEyeClinic,10)KuriyamaEyeClinic,11)KobayashiOphthalmologyClinic,12)KomiyamaEyeClinic,13)YoumeidoEyeClinic,14)SanoEyeClinic,15)TakashimaEyeClinic,16)TakahashiEyeClinic17)TachikawaDoriClinic,18)YahashiraEyeClinic,19)InternationalUniversityofHealthandWelfareHospital,20)YakuendaiEyeClinic,21)IidabashiEyeClinic2009年8月.2010年9月に21施設の医療機関へ結膜炎症状で受診した計592名を対象に迅速診断を行った.うち324例はクイックナビとチェックAdを,その他268例はキャピリアアデノを同時検査した.試料は各社スワブで採取した角結膜拭い液を用い添付文書に準じて測定した.クイックナビは判定時間8分,他2製品は15分を要した.確認法としてpolymerasechainreaction(PCR)検査を実施した.クイックナビとチェックAd,クイックナビとキャピリアアデノとの陽性一致率はそれぞれ91.2%,100%,陰性一致率は98.4%,99.0%,全体一致率96.9%,99.3%と良好であった.また,クイックナビとPCR法との全体一致率は90.2%であった.Wecarriedoutaquickdiagnosisof592patientswhopresentedwithconjunctivitissymptomsatatotalof21hospitalsandclinicsfromAugust2009toSeptember2010.Wetested324ofthepatientswithQuickNaviTM-AdenoandCheckAd,andtheother268withQuickNaviTM-AdenoandCapiliaAdeno,atthesametime.Wecollectedconjunctivalsamplesfromthecorneroftheeyeusingthesterileswabincludedwitheachkit;thetestswereperformedaccordingtothemanufacturer’srespectiveprotocol.QuickNaviTM-Adenorequired8minforjudgment,theothersrequired15min.Polymerasechainreaction(PCR)assaywasalsoperformed,asaconfirmationmethod.ThepositiveagreementratesforQuickNaviTM-AdenoandCheckAd,andQuickNaviTM-AdenoandCapiliaAdenowere91.2%and100%,respectively.Thenegativeagreementrateswere98.4%and99.0%,andtheoverallagreementrateswere96.9%and99.3%,allshowinggoodconcordance.TheoverallagreementratebetweenQuickNaviTM-AdenoandthePCRassaywas90.2%.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):659.663,2012〕〔別刷請求先〕宮永嘉隆:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:YoshitakaMiyanaga,M.D.,Nishikasai-InouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(79)659 〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(5):000.000,2012〕Keywords:アデノウイルス,イムノクロマトグラフィ,流行性角結膜炎,迅速診断キット.adenovirus,immunochromatography,epidemickeratoconjunctivitis,rapiddiagnosiskit.はじめにアデノウイルスによる流行性角結膜炎は日常診療で頻繁に遭遇するウイルス性結膜炎の一つである.その感染力の強さから,家庭内のみならず学校・院内感染をもひき起こし,しばしば問題となる.現在,適確な治療薬となる抗ウイルス薬などはないが故に,眼所見からの判断と迅速かつ簡便な検査でアデノウイルス角結膜炎と診断することが感染防止につながる.現在,わが国においてはイムノクロマトグラフィ法による迅速診断キットが用いられている1.4).確定診断にはウイルス分離や血清学的診断などが確実であるが,その場での迅速な診断が必要であるため特別な機器を使用しない迅速キットが汎用されている.今回筆者らは新しく開発された迅速診断キット「クイックナビ-アデノ(以下,クイックナビ)」について臨床評価の機会を得た.そこで本キットと従来品2製品との基礎検討を行うとともに臨床評価をすることを目的とした.I対象および方法1.基礎検討a.診断キットの検出感度培養したウイルス株を用いて表1に示したクイックナビ,キャピリアアデノ(以下,キャピリア),チェックAd(以下,チェック)の3種の診断キットについて,検出感度の比較を行った.デンカ生研㈱で保有している血清型同定済みのアデノウイルス臨床分離株の希釈液30μlを試料として各キットに添付の検体浮遊液に浮遊後,それぞれの添付文書に従って測定した.b.採取用スワブにおける採取効率の検討クイックナビの採取用綿棒である植毛スワブと,従来のコットンスワブとの採取量について,擬似検体を用いて比較した.市販のソフトゼリー(原材料:デキストリン,増粘多糖類)を4%に調製し,シャーレに分注しゼリー状に固めたものを擬似検体とした.あらかじめ各スワブの重さを計量し,擬似検体を専用機器〔デジタルフォースゲージAD-4932A50N,エー・アンド・デイ㈱〕を用いて一定の力を加え擦過した.擦過後,各スワブを計量し擬似検体の採取量を比較した(各測定n=10).2.臨床評価患者から採取した角結膜拭い液について,診断キットおよびpolymerasechainreaction(PCR)法の結果を比較した.a.対象2009年8月.2010年9月までに全国21施設の眼科診療施設を受診し,ウイルス性結膜炎が疑われた患者計592名を対象にアデノウイルス迅速診断を行った.b.方法検体は同意の得られた患者1人につき,各診断キットに付属の綿棒各々をA,Bとし,角結膜拭い液を同時に2本採取した.今回の検討では擦過回数や順序などの細かな方法の指定はしておらず各施設任意の擦過方法で採取した.c.診断キット診断キットは表1のクイックナビ,キャピリア,チェックを使用した.患者1人につき前出の綿棒Aをクイックナビ,綿棒Bをキャピリアまたはチェックで同時検査し,それぞれの添付文書に従い結果を判定した.陽性の判定はテストラインが出現し,かつコントロールラインも出現した時点で行った.陰性の判定はクイックナビが8分後,キャピリアとチェックは15分後に行った.計592例のうち268例はクイックナビとキャピリアを,324例はクイックナビとチェックを同時に検査することができた.d.PCR法確認法として診断キットの試料残液を凍結保存し,その後デンカ生研㈱においてQIAampMinEluteVirusSpinKit(QIAGEN)にてウイルスDNAを抽出した.PCRはFujimotoらの方法5)およびEchavarriaらの方法6)に従い,アデノウイルスのヘキソン部分にプライマーを設定した.表1検討に用いたアデノウイルス診断キットクイックナビ-アデノキャピリアアデノチェックAd製造元/販売元測定原理標識物質判定までの所要時間形態採取用綿棒デンカ生研/大塚製薬イムノクロマト法着色ラテックス8分デバイス型植毛タイプタウンズ/わかもと製薬イムノクロマト法金コロイド15分デバイス型コットンタイプ大蔵製薬/参天製薬イムノクロマト法金コロイド15分デバイス型コットンタイプ660あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012(80) II結果1.基礎検討a.診断キットの検出感度各キットともに血清型によって検出感度にばらつきがみられたものの,クイックナビの各血清型に対する検出感度はキャピリアの2.4倍,チェックの4倍と他の診断キットに比べ良好な結果であった(表2).b.採取用スワブにおける採取効率の検討植毛スワブおよびコットンスワブに加えた力(N:ニュートン)に対し,それぞれの擬似検体採取量をプロットした(図1).採取量を比較すると,植毛スワブはコットンスワブに対し約5倍の採取能力があることがわかった(p<0.05).2.臨床検討クイックナビとキャピリア,クイックナビとチェックで同時検査ができた計592例のうち,クイックナビで陽性になったのは130例(陽性率21.9%),陰性となったのは462例であった.a.クイックナビとキャピリアの相関性試験クイックナビとキャピリアを同時検査できた計268例において陽性一致率は100.0%(62/62),陰性一致率は99.0%(204/206)であり,全体一致率は99.3%(266/268)であっ50403020100図1採取用スワブにおける採取効率の検討各測定n=10,*p<0.05.た(表3).このうちクイックナビ陽性,キャピリア陰性の2検体はPCR法陽性であった.b.クイックナビとチェックの相関性試験クイックナビとチェックを同時検査できた計324例において陽性一致率は91.2%(62/68),陰性一致率は98.4%(252/256)であり,全体一致率は96.9%(314/324)であった(表4).このうちクイックナビ陽性,チェック陰性の4検体のうち,3検体はPCR陽性,1検体は陰性であった.クイックナビ陰性,チェック陽性の6検体はすべてPCR陽性であった.ゼリー採取量(mg)****:植毛スワブ:コットンスワブ0.040.060.080.10綿棒に加える力(N:ニュートン)表2培養ウイルスによる検出限界比較アデノウイルス8型ウイルス力価:5.6×107(TCID50/ml)アデノウイルス8型検体希釈倍数検出感度キット1×1032×1034×1038×10316×10332×103TCID50/mlクイックナビ(8分)+++++.3.5×103キャピリア++++..7×103チェック+++…1.4×104アデノウイルス19型ウイルス力価:5.6×107(TCID50/ml)アデノウイルス19型検体希釈倍数検出感度キット1×1032×1034×1038×10316×10332×103TCID50/mlクイックナビ(8分)++++..7×103キャピリア++.N.T.N.T.N.T.2.8×104チェック++.N.T.N.T.N.T.2.8×104アデノウイルス37型ウイルス力価:1.8×108(TCID50/ml)アデノウイルス37型検体希釈倍数検出感度キット1×1032×1034×1038×10316×10332×103TCID50/mlクイックナビ(8分)+++++.1.1×104キャピリア+++.N.T.N.T.4.5×104チェック+++.N.T.N.T.4.5×104TCID50:50%組織培養感染量,N.T.:NotTested.(81)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012661 表3クイックナビにおける対照品キャピリアとの相関性キャピリア+.計+62264.0204204計クイックナビ62206268陽性一致率100.0%(62/62).陰性一致率99.0%(204/206).全体一致率99.3%(266/268).表5PCR法と比較した各キットの感度・特異性診断キットクイックナビ感度特異性70.6%(125/177)98.6%(411/417)キャピリア感度特異性75.6%(59/78)98.4%(187/190)チェック感度特異性67.3%(66/98)99.1%(222/224)c.PCR法と比較した各キットの感度・特異性各キットの感度・特異性を示した(表5).クイックナビにおいてPCR法で確認ができた計594例のうちクイックナビとPCR法との感度は70.6%(125/177),特異性は98.6%(411/417),全体一致率は90.2%(536/594)であった.キャピリアにおいてPCR法で確認ができた計268例のうちキャピリアとPCR法との感度は75.6%(59/78),特異性は98.4%(187/190),全体一致率は91.8%(246/268)であった.チェックにおいては,PCR法用の検体2例が不足していたためPCR法で確認ができたのは計322例であった.チェックとPCR法との感度は67.3%(66/98),特異性は99.1%(222/224),全体一致率は89.4%(288/322)であった.III考察今回筆者らは新しく開発されたクイックナビ-アデノの臨床評価を行った.従来品と比べ反応時間も8分と従来品の約1/2であり迅速性に優れていた.感度・特異性も良好であった.クイックナビの特長は,最終判定時間が8分と従来品に比べ短いこと,付属の採取用綿棒は綿球部分がフロック加工された植毛スワブという点にある.この植毛スワブでは従来のコットンスワブに比べ,より多くの上皮細胞を回収することができ,検体浮遊液への放出効率が高いという結果も報告されている7,8).アデノウイルス迅速診断キットでは,できるだけ多くの感染結膜上皮細胞を採取することが推奨されてい662あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012表4クイックナビにおける対照品チェックとの相関性チェック+.計+62466.6252258計クイックナビ68256324陽性一致率91.2%(62/68).陰性一致率98.4%(252/256).全体一致率96.9%(314/324).る9)が,植毛スワブでは従来のコットンスワブに比べて1/2程度の力で角結膜上皮細胞を回収できる可能性が示唆され,検体採取時における被験者の苦痛などの負担軽減につながると思われる.今回の臨床評価では,検体採取順序や擦過回数などの細かな指定をしなかった.そのためいくつかの症例で結果が乖離し,原因として検体採取誤差の影響が考えられた.各キットの偽陽性率はクイックナビ(6/131=4.58%),キャピリア(2/68=2.94%),チェック(3/62=4.84%)となり,偽陽性数が少ないことから統計的な有意差を議論することはできないが,どのキットも同じ程度の偽陽性率といってよいと考えられる.このデータはキットの偽陽性であるとともに,一方ではPCR法の偽陰性の可能性も否定できない.PCR法は検体由来の阻害物質の影響や,検体中でのDNAの保存安定性の影響を完全に排除することは困難であり,ある程度の偽陰性は発生するものと考えられる.既報1.4)では偽陽性の報告はなかったが,アデノウイルスの上気道感染症による既報10.13)ではわずかながら偽陽性も報告されており,検討結果は妥当なものであると考えられた.今回PCR法では定量を行わなかったため検出感度以下のウイルス量であったのか,また診断キットで使用する抗体はそれぞれ異なるが,それら抗体の反応性の違いが若干の差異につながったのかは不明である.クイックナビのPCR法を対照とした感度・特異性は従来品と有意な差は認められなかった(p>0.05).それぞれの診断キットの感度は既報2.4)と比較してほぼ同等であったが,クイックナビの開発時における咽頭拭い液のデータでは陽性例の90%程度が3分以内に陽性と判定できており10),本キットの反応時間は短く迅速性に優れていた.感染力が強く二次感染の恐れのある感染症に対し,検査において約1/2の時間短縮は,院内感染の機会を減らすことに有効であると考える.現在市販されている診断キットは測定原理上PCR法の感度には及ばないが,診断キットで陽性であればアデノウイルス感染症と診断は可能である.しかし,今日診断キットでの陽性率は臨床でアデノウイルスを疑って検査するとその陽性率はいずれも20.25%くらいであり,他の多くは陰性にな(82) る.陰性であった症例はどのような被験者であったかを十分考察しなくてはならない.恐らく疑わしきはすべて入れてしまうという臨床上の慣例から,正確に言うとウイルス性結膜炎ではない,細菌性結膜炎あるいはアレルギー性結膜炎の被験者を捉えてアデノウイルス検査していることが考えられる.今回検討を行った2009年および2010年のアデノウイルス結膜炎の流行状況は過去10年間で最も低い流行レベルであった13).これらが陽性率の低さの原因につながったであろうと思われる.診断キットの感度は検体採取部位や採取時期,採取者の手技熟練度,ウイルスの血清型や増殖の程度など,さまざまな要因によって影響を受ける可能性がある.症状があるにもかかわらずキットで陽性にならない場合などは診断キットの性能や限界を十分に理解したうえで使用することが求められる.今後はごく微量のウイルスも捉えるような診断法の開発が陰性率を大幅に減少させるであろうことも考えると,さらなる開発が望まれる.文献1)UchioE,AokiK,SaitoWetal:RapiddiagnosisofadenoviralconjunctivitisonconjunctivalSwabby10-minuteimmunochromatography.Ophthalmology104:1294-1299,19972)大口剛司,有賀俊英,三浦里香ほか:アデノウイルス迅速診断キット「キャピリアアデノ」の検討.臨眼59:11891192,20053)有賀俊英,三浦里香,田川義継ほか:改良版アデノチェックの臨床的検討.臨眼59:1183-1188,20054)竹内聡,中川尚,米本淳一ほか:高感度アデノウイルス結膜炎迅速診断キットの評価─アデノウイルス結膜炎迅速診断キット,キャピリアアデノとアデノチェックの比較─.あたらしい眼科23:921-924,20065)FujimotoT,OkafujiT,OkafujiTetal:Evaluationofabedsideimmunochromatographictestfordetectionofadenovirusinrespiratorysamples,bycomparisontovirusisolation,PCR,andreal-timePCR.JClinMicrobiol42:5489-5492,20046)EchavarriaM,FormanM,TicehurstJetal:PCRmethodfordetectionofadenovirusinurineofhealthyandhumanimmunodeficiencyvirus-infectedindividuals.JClinMicrobiol36:3323-3326,19987)DaleyP,CastricianoS,CherneskyMetal:Comparisonofflockedandrayonswabsforcollectionofrespiratoryepithelialcellsfromuninfectedvolunteersandsymptomaticpatients.JClinMicrobiol44:2265-2267,20068)齋藤玲子,QianY,MaiLほか:新しいインフルエンザウイルス抗原迅速診断薬クイックナビTM-Fluの検討.医学と薬学60:323-324,20089)中川尚:ウイルス性結膜炎のガイドライン第4章検査.日眼会誌107:17-23,200310)三田村敬子,清水英明,山崎雅彦ほか:新しいアデノウイルス迅速診断薬クイックナビTM-アデノの検討.医学と薬学60:143-150,200811)原三千丸:アデノウイルス気道感染症のイムノクロマト法キットによる迅速診断.小児科臨床61:195-202,200812)高崎好生,進藤静生,山下祐二ほか:白金・金コロイドを用いた新しいアデノウイルス迅速診断キット“イムノエースアデノ”の評価.臨牀と研究86:672-675,200913)国立感染症研究所感染症情報センター:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/15EKC.html***(83)あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012663

My boom 4.

2012年5月31日 木曜日

監修=大橋裕一連載④MyboomMyboom第4回「加瀬諭」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載④MyboomMyboom第4回「加瀬諭」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介加瀬諭(かせ・さとる)北海道大学大学院医学研究科医学専攻感覚器病学講座眼科学分野私は北海道札幌西高校卒業後,鳥取大学医学部に入学しました.学生の頃は卓球部に所属し,大学卒業後は鳥取大学の病理の大学院へ進み,全身病理を学びました.平成15年4月から北海道大学眼科学教室において,眼科学一般を学びました.その後,北米ドヘニー眼研究所へ留学し,StephenJRyan教授の研究室にて眼内血管新生について研究し,NarsingARao教授に眼病理を学びました.現在北大眼科へ帰室し,臨床,研究を行っております.Myboom1:症例報告一例報告を含めた症例報告を書いたり,読んだりするのが,myboomです.症例報告は邦文であれ英文であれ,すべての掲載された論文に意味があると思っております.症例報告は基本的に短報ですので,読み切るのにもあまり時間を要しませんので,診療に支障をきたしません.症例報告は当然ながら,日々の診療に直接役立つ内容ですので,興味をもって読むことができます.症例報告を書く側としては,私は研究面では眼病理を専門にしておりますので,臨床所見を病理組織学的に明らかにするような報告が好きです.しかし,今日種々の有名な英文雑誌において,残念ながら症例報告のスペースが削減の方向になっております.英文にて症例報告を掲載させることが,非常に狭き門になっている現状があります.一方,このような現状があるからこそ,有名雑誌に(69)0910-1810/12/\100/頁/JCOPY症例報告を掲載することができた折には,その喜びは甚大です.もちろん,邦文での症例報告にも細心の注意を払い,投稿しているつもりです.邦文の症例報告は,身近の眼科医の目に止まる可能性が欧文報告より多いので,読んでいただいて少しでも感動を与えられるように努めております.また,実際症例報告を書くことは,所見を正確に記載したり,鑑別診断を文章にしたりなど,臨床の腕を上げるいい機会かと思っております.今後も有意義な症例報告を一編でも多く掲載できるよう,挑戦していくつもりです.Myboom2:翼状片における無切除Z型切開回転術翼状片は研修医の頃から診ておりましたが,術後の経過がいつも思わしくありませんでした.その背景に,翼状片の病理をよく知らない自分がいることに気付きました.そこで摘出した増殖組織の病理組織を観察すると,このありふれた眼表面疾患が如何に多彩な像を呈しているのか,驚かされました.その後,翼状片の病理学的研究に興味を抱くようになりました.しかし某病理医からは,こんな組織を診て何がおもろいのか,とまで言われました.この現状は,翼状片の病理学的研究は眼科医が担うべきであり,さもなければ,その病態は解明されず永遠に闇の中に埋もれてしまうことを意味すると思います.実際,翼状片は細胞異型の乏しい上皮成分と,新生血管,炎症細胞,線維芽細胞を主体とする間質成分に分けることが可能です.前者では細胞周期関連蛋白や液性因子の発現がみられ,これらが後者と関連し病態を形成しております.この事実は,私の翼状片の概念に影響を及ぼしました.翼状片の治療は,増殖組織の切除と結膜の再建と言われますが,私は翼状片の増殖組織をむやみに切除せず再建材料に利用するのがベターなのではないか,という考えに至りました.そこで無切除Z型切開あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012649 〔写真1〕1人娘とともに(当時1歳)回転術を開発してきました.これまで術後6カ月以上経過観察が可能であった症例では,今のところ良好な創口を形成することが可能であり,67%で1D以上の乱視改善効果がありました.縫着された増殖組織は,術後6カ月で菲薄化し,新生血管は退縮しました.本法は増殖組織を切除することなく手術操作が容易です.今後も症例数や経過観察期間を増やし,この手術の有用性を明らかにしたいと思っております.Myboom3:イクメン(写真1)育児に携わる男性をイクメンというそうです.私には5歳になる一人娘がおります.イクメンは私のmyboomの一つです.娘が生まれたての頃は,夜中に人工乳を作って飲ませたり,排泄処理,入浴も行ってきました.3.4歳頃になりますと,排泄処理などの問題は解消されてきましたが,口が達者になり,屁理屈を言うようになってきました.公共の場で大騒ぎをしたり,おもちゃを買え,など際限なく無謀な要求をしてくるようになりました.成長とともに,日本語によるコミュニケーションが可能になってきたことを双方で自覚しており,自分の欲求を親に言えば叶うつもりでいるようです.そこで,言葉によるしつけをしなくてはならなくなりました.子供とは年上の友達のように親しく接する親がいるようですが,私は決してそのようなスタンスは取らず,親はあくまで子供の指導者,保護者であり,一線を画す姿勢を取っております.褒めてやるときも,赤ちゃん言葉のようなくだけた表現はなるべく使わず,ダメなことはダメ,ときには「オイ!」「このタコが!」といってしまうこともあります.しゃーないと思っています.ある程度,親側の威嚇も必要で,その甲斐あってか,娘と二人で夜を過ごすこともありますが,その際にもだらし650あたらしい眼科Vol.29,No.5,2012のない甘えは私にはしてきません.今後も子供と誠実に向き合っていくつもりです.Myboom4:ワイン学生のころは,仲間と部屋飲みをするときに,某コンビニで買い込んで,酔うためにワインを飲んでいた記憶があり,荒んだ暮らしをしておりました.ワインに対して評価が変わった転帰は,数年前に民間の病院へ出向したときに訪れました.診療の合間に,某ワインスクールに通う機会を得ました.当該スクールでは,ワインの作り方,特徴などの総論的な講義から,フランス,イタリアワインなどの各論までワインについていろいろ学ぶことができました.それ以降,ワインの魅力に魅せられてきました.実際の私のワインへのスタンスは,ここで得られた知識を元に,如何に安価で自分の納得できるワインを得られるか,をモットーにしております.自宅では赤ワインを購入することが多く,フルボトルで1,500円以内のものを選びます.何かいいことがあった際には2,000円台に手を伸ばします.一日で飲みきれない場合には,再度コルクをして冷蔵保存します.他方,高級ワインは経済的にまったく縁がありません.1,500円以内でも,濃厚系のワインを得ることは十分可能です.実際の私なりの選定方法は,ここでは紙上の関係上,述べません.基本的に私は産地とぶどう種,アルコール度数を重視して購入しております.一方,生産者などにはあまりこだわっておりません.ワインを飲むと,人によっては,これはまだ若いとか,渋いとか否定的なコメントをされる方がおられます.私は自分の選んだワインについては,そのワインの良さを最大限評価するようにしております.否定的なことを言ってしまうと,その1本のワインを精神的に楽しむことができなくなってしまいます.安価で自分の飲みたいワイン選び,今後も趣味として探求します.次回のプレゼンターは大阪医科大学の植木麻理先生にお願いしました.植木先生は,子育ての傍ら,網膜硝子体手術,緑内障手術の術者としてご活躍されております.加えて留学先では眼病理も学び,眼科学の分野において非常に多彩な活動をされており,われわれ若手眼科医から慕われる魅力的な女性医師です.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.(70)