シリーズ⑥シリーズ⑥タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第6章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用─その3─■視覚障害者の生活が変わるタブレット型PCの拡張性今回は,私が代表を務める“GiftHands”が提案するタブレット型PCのロービジョンエイドとしての活用法について紹介していきたいと思います.本章ではさまざまなアプリや周辺機器を活用することでタブレット型PCが,ロービジョンエイドとしてどのように活用できるかを患者たちの生の声とともに紹介していこうと思います.なお,原則的に私が現在,GiftHandsの活動や実際に外来で扱っているタブレット型PCは“新しいiPadR(米国AppleInc)”と“iPhone4SR(米国AppleInc)”,iOSバージョン6.0です(2012年9月30日現在).■私のロービジョンエイド活用法「便利アプリ編」タブレット型PCやスマートフォンが普及した理由の一つは,安価で役に立つアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)が多数存在していることです.タブレット型PCやスマートフォン用のアプリ開発は比較的容易なため,ユーザーの視点でのアプリを主婦や学生が開発して人気を得ることもあります.このような背景で日々生まれ続けるアプリの中には,ロービジョンの患者にとっても非常に有用なアプリが無数に存在しています.このようなアプリの中で私の患者が特に興味深い活用法をされていたアプリを紹介させていただきます.1.LightDetector(EveryWareTechnologies)カメラに写る風景の明るさをリアルタイムに音の高さで表現するシンプルな感光器アプリです.ある全盲の患者は,「このアプリのお陰で電気の消し忘れがなくなりました.光の見えない私にとって光を音として感じられ(79)0910-1810/12/\100/頁/JCOPYる喜びは非常に大きいです」と,ちょっとした電気の消し忘れも,全盲の方には毎日の生活の中で悩みの種となるのです.このような便利アプリが非常に安価にかつタブレット型PC上で即座に購入できることもスマートフォンやタブレット型PCのアプリの最大の利点であるといえます(2012年9月30日現在).2.ColorIdentifier(GreenGarStudios)カメラに写る対象物の色を判読して読み上げてくれる色識別アプリです.色の識別精度はそれほど高くありませんが,このアプリの予想外な使い方を患者は教えてくれました.「これを使ってから,靴下の組み合わせを間違えることがなくなったよ.目が不自由でもオシャレはしたいからね」と,一人暮らしのこの患者はアプリで靴下の組み合わせが間違っていないか,読み上げられた色が同じかどうかで判断するのだというのです.何色かではなく,同じ色かを判定するのにはこのアプリの精度でも十分に機能するのだということです.日々の生活の中にある小さな悩みを聞き逃さないことこそ,タブレット型PCやスマートフォンをロービジョンエイドとして生かす指導が行えるかの最大のコツといえるのではないでしょうか.大阪府立視覚支援学校では,上記のアプリを組み合わせて全盲の学生に金環日食を体感させるなど,独創的かつ創造性が高い実証実験を行っています(図1).このように既成概念にとらわれない学校が出現して来ていることは,社会全体がタブレット型PCやスマートフォンをロービジョンエイドの新しい形として認識し始めた証拠といえます.アイデア一つで見えなくても感じることのできるさまざまなアプリが,非常に安価に手に入ることは重症度によらず視覚の障害で生活に不便を感じるすべての人にとって,何よりの朗報といえるのではないでしょうか.あたらしい眼科Vol.29,No.11,20121529図2テンキー入力が可能な携帯型充電器図1全盲の生徒が,金環日食を聴覚や温度感覚を使って観測する(大阪府立視覚支援学校HPより転載)大阪府立視覚支援学校のHP:http://www.osaka-c.ed.jp/mou/ipad/ipad2012/ipad1.html■私のロービジョンエイド活用法「便利グッズ編」タブレット型PCがロービジョン患者専用の機器ではないことの利点は,周辺機器が充実していることからもいえます.タブレット型PCで問題となるのは,凹凸を触知できないタッチパネルによるキーボードの入力操作です.システムのバージョンアップに伴い音声入力による文字認識の精度はきわめて向上していますが,それでもすべての入力を音声で行うのは困難です.キーボードを目視しないで入力するブラインドタッチに慣れて来た患者にとって,タブレット型PCのタッチパネル式のキーボードを使うのが困難なのは事実です.しかし,タブレット型PCではBluetoothという近距離無線通信機能を利用した,外付けのさまざまなキーボードを使用することが可能です.また,同様の通信機能を利用して携帯電話に一般的に使用されているテンキー入力が可能な,スマートフォンやタブレット型PC用の携帯型充電器(図2)なども発売されており,より多くの患者のニーズを満たすことが可能になってきています.キーボード入力一つをとっても,周辺機器の多さはタブレット型PCが一般社会に広く普及する汎用性の高い機器であるからこそ成立するといえます.「一般の人が使っている機器だから,外出時に操作がわからなくなった時に隣の人に聞けるのよ.特に海外でも聞けるのは本当に助かるわ」「一般の家庭用品だから欲しいと思った時にすぐ電気屋で買える.買うのに手続きが多く,手に入れるのに時間がかかるのであれば,欲しい気持ちは冷めてしまいますよ」と,私のセミナーに参加した患者は笑顔でそう語っていました.ロービジョンの患者にとって一般の人と同じ物を使えることの重要性は計り知れないのです.患者のニーズを満たすアプリや周辺機器の組み合わせのヒントは,彼らの発する言葉の中にしか見つかりません.彼らの言葉に耳を傾けることで見えてくる気づきとそこから生まれる多くのアイデア,私はそれらを得るためにGiftHandsの活動を続けています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆1530あたらしい眼科Vol.29,No.11,2012(80)