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眼科医にすすめる100冊の本-11月の推薦図書-

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015610910-1810/10/\100/頁/JCOPY初期研修医2年目で,まだ「眼科医」になってもいないのに「眼科医にすすめる100冊の本」に寄稿するなんておこがましい気もするのだが,「好きに書きなさい」とおっしゃって下さった寛大な教授のお言葉に甘えることとして1冊の本を紹介したい.「神様のカルテ」は恥ずかしながら,「某人気アイドルグループメンバー出演,映画化」の見出しに踊らされて購入した.題材が地域医療とわかったとき,その偶然のタイミングに驚いた.何しろ私は山形県のとある町立病院で地域医療の研修真っ只中だったのだ.主人公である栗原一止は,信州・本庄病院に勤務する5年目の内科医で,酔っ払いから末期癌の患者まで,自分の専門分野に関係なく24時間365日診療にあたっている.本に描かれている現場はまさに私がいた町立病院と酷似しており,後に著者である夏川草介氏が実際に長野県の地域医療に従事されていることを知って納得した.それは大学病院で研修してきた現場とはかけ離れた,町立病院の現実そのものだった.私がいたのは人口約1万人の小さな山間の町で,その町立病院では常勤の内科医4人,週1.2回外勤の先生方による眼科,外科,婦人科,整形外科の外来診療が行われていた.文中に「自分の専門は消化器だとか循環器だとか大声で吹聴できるのは,地方では大学病院くらいである.」とあるのだが事実,地域医療の現場では酔っ払いから蜂刺され,交通外傷,原因不明のCPA(心肺機能停止),末期癌患者まで,どんな患者も診なければいけない.地域医療の研修が始まった当初の私はとにかく早く大学に戻りたかった.オーベンの先生をすぐに呼べる状況とはいえ,見よう見まねで内科外来を担当したり,独りで救急対応をしたりで,不安で仕方がなかった.スタッフの揃った大きい病院であればすぐに他科コンサルトが可能で,時間外でも必要であればCT(コンピュータ断層撮影),MRI(磁気共鳴画像),心カテ,内視鏡検査,手術までオーダーできる.私がいた町立病院では血液検査すら躊躇する.本当に必要か.それまでどれだけ自分が守られた特殊な場所で研修してきたのかと目が醒める思いだった.無駄な検査はしない.いかにこれが大変で,大切なことか実感した.研修を終えるまで私の不安が消えることはなかったが,それなりに恰好はついてきていたように思う.ハエが飛び交う家へ消毒用アルコール片手に訪問診療,通所のご高齢の方々と一緒にリハビリ,「町中みんな知り合い」とは本当で,噂話にも参加した(ただし方言が強く,会話の7割は理解できなかった).まさに「地域医療」,この本と自分をシンクロさせながら過ごした1カ月だった.この本にはたくさんの患者が登場するのだが,なかでも胆.癌である安曇さんが印象的だった.外科的手術が困難と診断され「大学病院は安曇さんを診るようなところではない」と言われてしまう.栗原に助けを求めに来た彼女は延命ではなく,あるがままに生きたいと希望する.どこまで治療をするべきか,境界は灰色だ.私も,町立病院で同じように考えさせられる女性の患者に出会った.彼女も安曇さんと同じく末期癌で,いつ急変するかわからない状態だった.私が訪室するといつも笑顔で曽孫や玄孫のことを話してくれたことを思い出す.その最期のとき,家族は延命を希望した.どうしても玄孫に会うまで,と言われて挿管した.カルテにDNRの記載はなかった.栗原は「ただ感情的に『全ての治療を』と叫ぶのはエゴ」と言う.そこには本人の意思はなく,家族の,医療者のエゴしかない,と.あの行為はエゴなのか,安曇さんの件を読みながらこの問いを反芻した.誰も正解を教えてはくれない.大学病院ではDNRの意思(79)■11月の推薦図書■神様のカルテ早川草介著(小学館)シリーズ─96◆成味真梨山形大学附属病院卒後臨床研修センター1562あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010確認を徹底しており,予め入院時に確認していることが多かった.しかし地域医療の現場では必ずしもそうならない.風習,考え方,その地域独特の何かが,そうさせているのかもしれない.ただ,一つ言えることはBSC(BestSupportiveCare)は大学病院,民間病院,自宅といった場所を選ぶものではない.そしてそれは患者,家族,環境,その時々で変化するためマニュアルは存在しない.境界はやはり灰色のままでいいのかもしれない.それからもう一つ,この本を通して描かれているのが栗原の葛藤だ.「本庄病院に残るか,大学に戻って入局するか.」私たち若い医者にとっても他人事ではない.初期研修,専門科,後期研修,入局,すべて個人の選択に委ねられる.私の同級生をみても,地元に残る者,大都市に出る者,私のように所縁のない山形まで来てしまう者(極少数),大学病院,民間病院,入局する,しない,選択はさまざまだ.それぞれに利点,欠点があり,要は本人が将来的にどのような医者を目指すかに尽きると思う.「新しい研修医制度のおかげで,最初の2年間の研修期間は一般の病院に出ていく医者が増えた」のだが,この現行の研修制度についても賛否両論があり,その否定的な意見の一つに「地方の医師不足の助長」があげられる.この制度によって,栗原のように民間病院で初期研修を行い,そのまま入局しないという選択ができるようになった.大学の医局員が減り,派遣が滞れば,そのしわ寄せは地方の小病院にやってくる.医局制度が,ある意味で地域医療を支えている.栗原の同期である,砂山は大学の外科から本庄病院に派遣されている.入局しない栗原に対して,「大学でしか学べない高度医療ってのがある,お前ならそれも学んでさらに高みを目指せるんだ.多くの医者に会い,技を磨き,知識を深めるんだ.」と大学に誘う.井の中の蛙,大海を知らずではいけない.砂山の意見も一理ある.医局とは何か,私にはまだわからない.作中の大狸先生の言うように「ひどいところ」かもしれないし,違うかもしれない.ただ,見よう見まねだけに頼ることはしたくない,そう思ったから私は「入局」を決めた.小さな町で,眼科をするにしても,まずはきちんと勉強して,知識と技術を身につけて,それからでも遅くないのではないか,そう思っている.地域医療と大学病院,確かに現場環境は違うけれど医療を提供するという点は同じだ.診療科も,病院も,地方も,大都市も関係ない.患者一人ひとりに応えること,そこにいちいち区別は必要ない.最後になったが,この本の登場人物はそれぞれ個性的で,とても人間らしく描かれており,その描写もこの本の魅力の一つになっている.医療物はちょっと…という方にもぜひ機会があったら読んでみてほしい.「地域医療」の世界を少し垣間見られる本だ.(80)☆☆☆

眼研究こぼれ話 11. NIHの臨床研究 アルソップ氏の遺稿

2010年11月30日 火曜日

(77)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101559NIHの臨床研究アルソップ氏の遺稿有名な評論著作家,スチュワート・アルソップが,まだ50歳を超したばかりのとき,白血病にかかった.それも尋常のものではなく,白血球が減っていく,困った型のものである.自分の死期の近いことを知った彼は,日記をもとにして,感銘深い本を書いた(StayofExecution).自分自身の受ける治療のこと,周りに居る同病の人々の話,この不治の病気に取り組んでなんとかしたいと焦っている若い医者の様子などを,実にイキイキと描写した実話である.化学療法を受ける苦しい経験の記載はわれわれ医者にとって大変に貴重な報告である.また,この本には,彼の若いときの思い出や,愛妻に向ける感情などが,美しく述べられている.この翻訳を読んだという日本の友人の話から判断すると,翻訳にまずい所があるのではないかと疑っているが,是非読んでいただきたい.この物語は全部NIHを舞台としてつづられている.NIHの紹介は前回にしたが,ここには14階の大きな病院がある.アイゼンハワー大統領によって造られたもので,もう古くなってはいるが,現代最高の設備を持った病院であり,臨床医学の優秀な医者たちが,たくさん働いている.ほかの病院と異なるのは,ここは完全な研究病院であって,アルソップ氏のような難しい病人が,世界各国から多数送られて来て,NIHの各部門の部長たちの決める研究題目の材料となっている.もちろん,安全度は十二分に考えられて取り扱われるが,病人たちには,色々の臨床実験がほどこされる.白血病患者には,積極的な化学療法の実験が行われており,強い化学療法のために,頭髪が全部抜けた患者が,木陰で休んでいるのを当所を訪れる人は,見かけるであろう.白血病で,白血球の数が1㏄中30万を超すようになると,眼底と脳に出血を起こすので,私もこの研究班に参加して,ほかの医者たちとともに絶望感を味わっている.このほか,実にたくさんの奇病,難病患者が集まっていて,ある意味での医学のメッカとなっている.特に酵素系の欠如による難しい疾患は,診断と治療に大変な費用が掛かる場合が多い.このような人々の治療が,国費で賄われている.研究患者のベッドと,同じ階にある研究室には,全国の大学から選り抜かれた優秀な医者たちが集まっている.特に先年前までは,ここでの任務は軍役と同様にみなされていたので,兵役に入るかわりに応募してくる最優秀者をそろえることができていた.平和な現在は,応募医者数は減ったが,まだまだ,たくさんの学徒が,ほかではできない実験のできるチャンスにあこがれて,雲集している.多数の有能なPhD(理学博士)の援助を受けつつこれらの医者が,実際に病人に対して理論の応用を試みているのである.0910-1810/10/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑪▲スチュワート・アルソップ氏の写真のついた彼の最後の本「死刑猶予」の表紙1560あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010眼研究こぼれ話(78)前記の本のなかには若い主治医,グリック博士との間に生じた不思議な友情関係が述べられている.優秀な学究者であるグリック博士はなんとかしてアルソップ氏を助けたいと,焦るけれども無力である.この患者の偉大な人間味に打たれて,若い医者が人生教育を受けているらしい様子が行間に感じられる.一方,アルソップ氏は自分の死生の運命を知っているこの青二才の医者を尊敬し,同時に友情を感ずるあたりが,ぐっと胸をしめるようにつづられている.医者対患者の美しい物語である.このNIH病院での臨床研究には前回に述べたような非能率は許されない.医者たちは,働かない事務系,研究補助系の人たちと,果てしのない争いを続けている.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

私が思うこと 24.幸運と不運

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101557シリーズ私が思うこと(75)昔から思っていたのだが,というか妄想に近いのだが人の運の量は一定で幸運と不運は隣り合わせ,運がいいときもあれば悪いときもある.なのでどちらかがずーっと続くわけではなく,いいことが続けば悪いことが起こるかもしれないからと警戒し,悪いことが続けばいいことが起こるかもしれないからがんばろうと思い生きてきた.そんなことを思いつつ月日がたつのは速いもので医師になって12年がたった.年齢的にはアラフォーであり日本人の男性の平均寿命が80歳ぐらいであるから人生の半分くらいのところまできた.いい機会なので医師としての自分を振り返りつつ,全体として幸運なのか不運なのか自分で評価してみる.平成11年に山形大学医学部を卒業し,同眼科学講座に入局した.眼科を選択した理由は,ポリクリで各科を回ってみてマイクロサージェリーの美しさが印象に残ったからである.入局した年は丁度教授選があり山下英俊教授が就任された.振り返ればこれは私にとってかなり幸運なことだったんだなと今になって思う.自分の上司とか師匠となる人との出会いは人生において非常に重要な役割を担っていると思う.学生時代からそういう人をみつけてそこで働ければ一番よいのだが,ほとんどの人は自分の母校とか地元の病院とかに就職するであろう.そうなると師匠となる人を自分では選べない.私もまさしくその状態だったのだが棚からぼたもちともいうべきか,何もしないですばらしい師匠を得た.これが第1の幸運である.入局後大学で2年間の研修を終えて関連病院に4年半赴任した.元来めんどーなことが嫌いな性格であり,あまり忙しくない関連病院で特に専門も決めずにふらふらとしていた.途中大学に戻って来いといわれても,「いや,もうちょっといます」とか何とかいってごまかしていた.こんな状態だったのでさすがに山下教授も心配してくださり「大学で眼腫瘍をやってみませんか」と直接お声をかけていただいた.当時大学では高村浩准教授(現在は公立置賜総合病院外科系部長)が1人で眼腫瘍の診療をされていた.特になにかをやりたいと思っていたわけではないので断る理由もなく大学に戻って眼腫瘍を専門にすることにした.眼腫瘍は眼科のなかでもマイナーな分野であろう.全国で眼腫瘍を専門にしていると標榜しているのは40.50人くらいであろうか.学会や研究会でも眼腫瘍の分野にはほとんど同じ先生方が出席され熱い議論を交わしている.大学に戻ってから4年間,高村准教授と眼腫瘍の診療をしてきたがこれが第2の幸運であった.高村准教授もすばらしい人であり眼腫瘍の診察,治療について一から教えていただいた.悪性の腫瘍などは患者に説明するのになにかと苦労するが,外来の忙しいさなかでも懇切丁寧に説明する高村准0910-1810/10/\100/頁/JCOPY今野伸弥(NobuhikoKonno)山形大学医学部眼科学講座助教1972年福島県生まれ.山形大学に入学して以来山形にいるのでもはや山形県人です.夏は暑く冬は寒くて住むのには苦労しますが,食べ物がおいしく人々も温和なのでとてもいいところです.今年から医局長となり医局の運営と眼腫瘍の診療に日々奮闘しています.(今野)幸運と不運▲高村浩准教授の送別会にて左から2番目:山下英俊教授,真ん中:高村准教授,右端:筆者.1558あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010教授の姿をみて医師としても人としても尊敬することができた.昔から人がやらないようなことをやることが好きだった自分としても眼腫瘍の奥深さに興味をもてた.そんなわけで自分から進んで何かをするわけでもないまま眼科医としての進むべき道と師匠を得た.山下教授,高村准教授には感謝してもしきれないくらいである.大学に戻ってきてから学生の指導や講義もしなくてはならなくなり,診療や研究の合間に寝る間を惜しんで講義用のスライドを作って講義をしても,学生からの評価のアンケート用紙に「スライドが見づらいです」と書かれたり(予備校みたいに講義する医師が評価されます),平成22年2月からは医局長となり医局の運営で苦労したり,医局内や医局外の先生に挟まれて悩んだり,これが中間管理職の苦労かと実感させられることがあったりしても山下教授,高村准教授に出会えたことの幸運に比べれば小さな不運であると思う.こうしてみると医師としての運はかなりいいほうではないかと思う.仕事の面では幸運に恵まれて順風満帆なのだが,いかんせん,プライベートで最大の不運がある.アラフォーなのに結婚の予定がまったくないのである.結婚が幸運かどうかは人それぞれであろうが,今の自分にとっては結婚することは幸運だと思う.仕事とプライベートを総合して考えてみると,やはり幸運と不運の量は一定なのか,今の時点ではイーブンなのかな.今野伸弥(こんの・のぶひこ)1999年山形大学医学部卒業,同眼科入局2001年山形県立河北病院眼科2003年舟山病院眼科2006年山形大学医学部助教現在に至る(76)☆☆☆お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2011Vol.28月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2011Vol.24■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌(4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/インターネットの眼科応用他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp

インターネットの眼科応用 22.インターネットで時間の共有1

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015550910-1810/10/\100/頁/JCOPY時間の共有インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.前章までに,医療知識・医療情報がインターネット上で共有される事例を数多く紹介してきました.「時間の共有」は,インターネットの最も今日的な利用方法です.その,「時間の共有」というインターネットの進化と,医療がどのように関係するのか,実例を交えながら紹介したいと思います.インターネットは人と人を繋ぐツールです.同時性をもつ繋ぎ方には,どんな方法があるでしょうか.チャット,スカイプ,テレビ会議,ツイッター,Ustreamなどがあげられます.チャットは短いメールのやりとりです.一対一が原則です.スカイプはどうでしょう.スカイプはインターネット通信を用いた無料電話です.これも一対一が原則です.テレビ会議はどうでしょう.複数の参加者が,足を運ぶことなく,空間を共にせずに時間を共にすることができます.複数の人間が参加するとはいえ,参加者は顔見知りに限られる閉鎖空間です.ツイッターとUstreamは,対象が不特定になる点で,他のツールとは大きく異なります.Ustreamについては章を改めて紹介します.本章は,ツイッターというツールの特徴と,医療応用の可能性について紹介します.ツイッターは,Obvious社(現Twitter社)が2006年7月から始めたサービスです.ブログ・サービス「Blogger」(2003年にGoogle社が買収)の開発チームのエヴァン・ウィリアムズ,ビズ・ストーン,ジャック・ドーシーらが中心となって2006年に設立されました.ジャック・ドーシーによると,ツイッターの基本構想は自身が2000年6月に思いついたそうです.リアルタイム性が高く,どこにいても自分の状況を知人に知らせたり,逆に知人の状況を把握できたりするサービスの可能性に気づきました.ツイッターは,2007年3月に米国で開催されたイベントSouthbySouthwest(SXSW)でブログ関連の賞を受賞したことで一躍注目を集めるようになりました.2008年4月23日にユーザインターフェースが日本語化された日本語版が利用可能になり,2009年10月15日には携帯電話に対応できるようになりました1).ツイッターの医療応用ツイッターは,ミニブログともいわれますが,短いメッセージを思いのままに発信します.その対象は,「誰か(One)」ではなく,「ネットワーク(Mass)」です.情報だけでなく,感情や感覚を,ネットワークの参加者間で同時に共有できます.その簡便性が支持を受けて利用者が格段に増えました.海外に目を移すと,インドネシアやブラジルのようにメールよりもツイッターが普及している国すらあります.政治家や芸能人のような,実生活において距離のある人物とも,リアルタイムで情報・感情を共有できる,という希少性と同時性がツイッターの革新的な要素です.情報の質は問いません.ツイッターには,コミュニケーションツール以外の利用方法が報告されています.2009年4月から,新型インフルエンザがメキシコから世界中で流行しました.発症初期は,謎の流行性疾患が凄まじい勢いで拡散している,どうやら死者も出ているらしい,致死性の高い,感染力の高い恐ろしいウイルスだ,という内容で新聞やテレビから報道されました.個人が発信するインターネット上の情報はどうだったでしょう.ツイッターには,新型インフルエンザ患者の増加と同時に,「頭が痛い」「のどが痛い」「熱が出た」というつぶやき(ツイート)がメキシコからアメリカにかけて多数みられました.そのツ(73)インターネットの眼科応用第22章インターネットで時間の共有①武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ1556あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010イートの発信源を追跡すると,インフルエンザの拡散と一致する,というのです.ロンドンシティ大学(CityUniversityLondon)がツイッターを伝染病などの早期警戒システムに活用しうるという研究結果を2010年4月13日に発表しました.2009年5.12月にかけてツイッターに英語で書き込まれたツイート約300万件を対象に,インフルエンザを意味する「flu」という単語の使われ方を調査した結果,「豚インフルエンザ(新型インフルエンザ)にかかっている(Ihaveswineflu)」という文を含むメッセージが12,954件,また「インフルエンザにかかった(I’vegotflu)」という文を含む書き込みが12,651件あり,それらの単語の発信源の広が(74)りとインフルエンザの拡散状況が一致していました.ツイッターは,疫学調査に利用できる可能性があります2).また,swinefluに関する人々のつぶやきをGoogleMapsに表示するというユニークなサイトも登場しました.人々のツイートを地図の上で視覚化します.2010年10月現在,このサイトのサービスの対象は,アメリカとヨーロッパとインドに限られていますが,近い将来,日本にも登場するのではないでしょうか3).インターネットの進化の方向性に,疫学調査・予防医療の領域が見えてきます(図1,2).ひょっとすると,流行性角結膜炎やアレルギー疾患の流行をリアルタイムで視覚化できるようになるかもしれません.「時間の共有」がインターネットの利用方法の今,起こっている潮流です.【追記】NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvcjapan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/Twitter2)SzomszorM,KostkovaP,deQuinceyE(2010)#swineflu:TwitterPredictsSwineFluOutbreakin2009acceptedfore-Health20103)http://www.mibazaar.com/swineflu.html図2図1のサイトの拡大図図1TwitterとGoogleMapsを組み合わせたWebサイトの俯瞰図吹き出しは,「flu」を含んだつぶやきの発信源.

硝子体手術のワンポイントアドバイス 90.緑内障濾過手術後の眼内炎に対する硝子体手術(中級編)

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015530910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)は緑内障濾過手術として広く行われているが,術後晩期に濾過胞感染を生じて眼内炎に進行することがある.線維柱帯切除術後の眼内炎の発症頻度は報告によって差はあるが1.3%程度とするものが多い.眼内炎発症の危険因子には種々のものがあるが,局所因子には眼瞼炎,涙.炎,結膜炎,無血管の菲薄した濾過胞結膜,全身因子には高齢者,糖尿病,膠原病,悪性腫瘍などの免疫低下状態があげられる.●濾過胞感染の病期濾過胞感染は,StageI(濾過胞内部の白濁と周囲結膜の充血),StageII(前房内炎症,前房蓄膿が加わる),StageIII(硝子体混濁が加わる)の3期に分けられる.一般にStageIIIに対しては,抗生物質(バンコマイシン+セフタジジム)の硝子体腔内注射あるいは硝子体手術を行う.●濾過胞感染による眼内炎に対する硝子体手術の問題点硝子体手術の方法としては通常の術後眼内炎と同様,十分な前房洗浄(図1)と周辺部に至る広範な硝子体切除(図2)を確実に施行することが重要である.しかし,濾過胞感染による眼内炎は,白内障術後眼内炎にはない,いくつかの予後不良因子がある.まず,散瞳不良例が多く,これに対してはアイリスリトラクターで瞳孔拡張を行う.濾過胞は多くの場合に膿性分泌物で満たされており,術後に濾過効果の温存が期待できるケースは少ない(図3).筆者は今までに結膜下の分泌物を洗浄することで,なんとか濾過胞温存を図ったことがあるが,結局は強膜と強固な瘢痕癒着を形成してしまった.ただし,硝子体手術後は毛様体機能も低下するためか,濾過効果が消失しても予想外に眼圧再上昇をきたす例は少ない印象がある.一方で,もともと視野(71)狭窄が著明な症例では硝子体手術という大きな侵襲が加わることで,残存視野がさらに狭窄あるいは消失してしまう危険性がある.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載90緑内障濾過手術後の眼内炎に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1前房洗浄前房を十分に洗浄し,虹彩に付着したフィブリン膜を除去する.図2周辺部の硝子体切除他の術後眼内炎と同様に周辺部に至る広範な硝子体切除を行う.図3術前の細隙灯顕微鏡所見多くの場合,濾過胞は膿性分泌物で満たされており,術後に濾過効果温存が期待できるケースは少ない.この症例では術前にすでに濾過胞は消失していた.

眼科医のための先端医療 119.網膜神経保護療法の開発に向けて

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015490910-1810/10/\100/頁/JCOPYはじめに網膜疾患の治療法は,硝子体手術の発展とともに大きく進歩し,網膜.離や糖尿病網膜症などの治療予後は,革新的に改善しました.また最近では,抗血管内皮増殖因子療法(抗VEGF療法)が開発されて血管病変を標的とした薬物治療が普及し,滲出型加齢黄斑変性(滲出型AMD)の治療が可能となりました.これらの治療法は今後も必要です.しかし,さらに良好な視機能予後のためには,視覚の主役である網膜神経細胞を対象とした網膜神経保護療法の開発が求められます.現時点では,おもに網膜色素変性症に対して,さらにこれに準じて萎縮型AMDに対して,治療の開発が進められています.将来的には網膜.離や糖尿病網膜症,滲出型AMDによる網膜神経細胞障害の抑制治療も開発したいところです.網膜神経保護療法のコンセプト糖尿病網膜症・滲出型AMDなどの炎症の関与する疾患では病的サイトカインなどが,また網膜色素変性症では遺伝子異常が,網膜を構成する神経細胞の機能不全や細胞死をひき起こし,視機能を低下させます.この機能不全を解消し,細胞死を予防することが,網膜神経保護療法です.これまで,糖尿病網膜症・滲出型AMDなど,原因療法を行っても効果が得られるまでに視機能が破綻してしまう例がありました.また,糖尿病では血管病変が明らかになる以前から網膜電図(ERG)で検出される視機能障害を生じることが知られています.これらを防ぐには,従来の治療法に加え,網膜神経保護療法を取り入れることが望ましいといえます.今のところ臨床研究が進められているのは,網膜色素変性症や萎縮型AMDにおける神経保護療法であり,次項ではそれを紹介します.網膜色素変性症・萎縮型AMDに対する神経保護療法動物実験の結果から,網膜神経保護効果をもつ分子としてciliaryneurotrophicfactor(CNTF)が有望視されています.CNTFは,遺伝子異常をもつ13種類の網膜色素変性症モデル動物の網膜変性を抑制したとされ,最近は臨床試験が進められています.対象が慢性進行性疾患であるため,神経保護療法は長期間にわたり,継続的に施行する必要があります.そのために,現行の臨床試験では,薬剤投与経路にも工夫が凝らされています.CNTFを継続的に産生するように遺伝子操作をした細胞を,直径1mmのポリエチレンテレフタラート糸(ポリエステルの一種でペットボトルの材料)で織られたインプラント(NT-501,Neurotech社)に入れて,それを硝子体内に埋め込むことで,持続投与をします.すでにPhaseI臨床試験が終了し1),現在Phase多施設二重盲検臨床試験が,計120症例に対して行われています.片眼に本治療が,他眼にシャム治療が行われ,その効果が比較される予定です.さらに,51例の萎縮型AMDに対しても同様のPhase臨床試験が行われ,1年後経過では,大きく視力低下した症例が減少したと中間報告されました.ただし,いずれの疾患も長期投与を必要とするため,今後の経過観察は必須です.CNTFの作用(分子メカニズム)CNTFは網膜神経節細胞・血管周囲のアストロサイトで生理的にも産生される液性因子です.膜貫通型gp130受容体を活性化させ,細胞内でJAK-STAT経路を活性化してanti-apoptotic作用をもつbcl-2ファミリー分子の発現を亢進させ,これが細胞生存作用の一端を担うと考えられています(図1).そのほかの分子メカニズムに関しては,今でも動物・細胞レベルで研究が続けられています.CNTFは,インターロイキン-6(IL-6)ファミリーに属し,炎症性サイトカインの一つです.つまり,必要以上のCNTF投与は副作用を生じ得ます.筆者らは,動物実験において,炎症性サイトカインの下流でSTAT3が活性化した網膜炎症モデルマウスでは,ロドプシンの過剰分解が生じること,同時にERGのa波の反応低下が生じることを報告しました2).これは,上述のCNTF(67)◆シリーズ第119回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊小沢洋子(慶應義塾大学医学部眼科)網膜神経保護療法の開発に向けて1550あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010持続投与のPhaseI臨床試験において,中心視力は保たれる可能性があったものの,ERGのa波の反応が低下したという結果1)と,関係するかもしれません.副作用はどのような薬剤にもあるものであり,作用・副作用に関する分子レベルの解析は,これからも重要です.さらなる神経保護療法の開発に向けて神経保護作用をもつ分子としてはほかに,nervegrowthfactor(NGF),pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)などがあります.一方,糖尿病網膜症・滲出型AMDなどの炎症性疾患では酸化ストレスによる細胞障害が知られ,糖尿病網膜症ではアンジオテンシンの発現が,眼局所で亢進します.筆者らは,AMDの予防で注目される抗酸化剤であるルテイン3),アンジオテンシン1型受容体阻害薬4)の全身投与が,全身状態は変わらないのに糖尿病による網膜神経障害を抑制することを,動物実験レベルで示しました.網膜疾患の病態解析に基づき,長期経口投与で行える新しい網膜神経保護療法の開発が待たれます.おわりにさまざまな治療法が開発され,網膜疾患の視機能予後は確実に向上しつつあります.しかし,網膜細胞が神経細胞である以上,一度失われた細胞を再増殖させることは今のところきわめて困難で,速効性の完全な根治療法がない限り,病的環境下にあっても細胞を生かし続けることは重要です.特に,現代のような発症してからの寿命が長い高齢化社会にあっては,なおさらです.網膜神経保護療法は,現在も続けられている基礎研究による情報の蓄積が不可欠な状態にあり,今のところまだ研究段階にありますが,必要とされていることには疑いがなく,今後,常にアンテナを張っていたい先端医療の一つです.文献1)SievingPA,CarusoRC,TaoWetal:Ciliaryneurotrophicfactor(CNTF)forhumanretinaldegeneration:phaseItrialofCNTFdeliveredbyencapsulatedcellintraocularimplants.ProcNatlAcadSciUSA103:3896-3901,20062)OzawaY,NakaoK,KuriharaTetal:RolesofSTAT3/SOCS3pathwayinregulatingthevisualfunctionandubiquitin-proteasome-dependentdegradationofrhodopsinduringretinalinflammation.JBiolChem283:24561-24570,20083)SasakiM,OzawaY,KuriharaTetal:Neurodegenerativeinfluenceofoxidativestressintheretinaofamurinemodelofdiabetes.Diabetologia53:971-979,20104)KuriharaT,OzawaY,NagaiNetal:AngiotensinIItype1receptorsignalingcontributestosynaptophysindegradationandneuronaldysfunctioninthediabeticretina.Diabetes57:2191-2198,2008(68)図1CNTF作用メカニズムのモデルCNTFは,CNTF受容体を介してgp130受容体およびJAKを活性化させ,細胞内でSTAT3を活性化して,anti-apoptotic作用をもつbcl-2ファミリー分子の発現を亢進させる.活性化STAT3は転写因子として働き,同時にほかの分子も発現してその他の作用も生じうる.gp130……CNTFbcl-2…………JAKSTAT3……bcl-2PPPP……….CNTF……anti-apoptosis……………………■「網膜神経保護療法の開発に向けて」を読んで■1990年代前半にサイトカインが網膜神経保護作用をもつという報告がなされ,眼科研究者に大きな衝撃を与えました.ただし,当時は増殖糖尿病網膜症,加齢黄斑変性などの治療法が十分に確立されていなかったために,網膜神経保護が網膜疾患治療の中心になるのは,遠い将来になると考えられていました.また,対象疾患は網膜色素変性症などの治療法がないものに限られるともいわれました.それから20年近くが経ち,ついにその将来が来ました.小沢洋子先生が本文中でわかりやすく解説されているように,米国ではすでに臨床試験が始まり,その効果が今年の米国眼科アカデミーでも報告されています.硝子体手術などに限(69)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101551らず,新しい治療に挑戦していく米国医療界の強い実行力には驚かされますが,硝子体手術などと同じように,この分野でも間違いなく米国医療界が開拓者であります.この治療が眼科診療にもたらす影響の大きさは計り知れません.まずは対象疾患の広がりの大きさです.本治療を実行しているWilliams博士によれば,緑内障,糖尿病,網膜.離など,眼疾患はほとんどが治療対象になり得ます.増殖糖尿病網膜症に対して手術的に網膜を復位させることは可能になりましたが,その後の視力維持は簡単ではありません.網膜神経保護療法がその解決法になるかもしれません.緑内障に至っては,本治療の可能性の大きさを説明する必要もないほどです.そして,さらに重要な点は治療の簡便性です.従来の網膜治療の中心は外科治療でした.高度な外科治療が成立するには,インフラ整備,術者教育など多くの要因が必要であるため,治療による受益者は限定されますが,外科医の利得も保証されるので,安定した医師-患者-開発者の関係を保つことが可能でした.ところが,網膜神経保護が薬物治療のようになれば,各医師の利益はきわめて限定されます.米国ではWinnertakesallという概念が広く受け入れられていますが,開発者の利得がきわめて大きくなるのは間違いありません.これは,従来の眼科医療者間の構造を完全に変えてしまう可能性があります.この潮流を止めることは不可能です.基礎研究が純粋にサイエンスであった時代を経て,基礎研究がサイエンスのみならず,眼科医療構造にまで大きなインパクトをもつようになった時代を迎えています.わが国でもこの領域の強化は重要であり,小沢先生のグループによる研究が大いに期待されています.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 198.Visual Field Index(VFI)

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.10,201015470910-1810/10/\100/頁/JCOPYVisualFieldIndex(VFI)とよばれる新しい視野指標が導入されている3).このVFIは,特に患者のqualityofvision(QOV)を強く意識した指標で,MDとは異なり一つの計算式で算出されるのではなく,いくつかのステップを踏んで求められている(表1).VFIは,視野がまったく正常な場合を100%,視野完全消失で0%になるように%単位でスケーリングされている.VFIは白内障などのびまん性感度低下の影響を少なくするため,MDが20dB以下の進行期を除き,基本的にpatterndeviationを用い計算されている.そしてMDが20dB以下に進行するとtotaldeviationを用いて計算される.さらに皮質拡大率をもとに視野の中心部ほど重み付けがなされており,より実際の視機能に即したQOV評価に優れるとされている..使用方法GPAでは1回でもSITAプログラムによる測定データがあれば,過去のfullthresholdで測定されたデータもともに解析することができる.個々の視野のVFIは自動的に算出される.さらに,複数の視野から得られた新しい治療と検査シリーズ(65).バックグラウンド自動視野計による静的視野測定では,個々の検査点の感度以外に,視野を全体として評価する視野指標とよばれるパラメータがある.視野指標は,視野としての各測定点の情報ではなく,視野の性状を一つの数値として算出する.この視野指標のなかでも最も広く用いられるものにMDがある.このMDはOctopus視野計ではmeandefect(平均欠損),Humphrey視野計ではmeandeviation(平均偏差)の略として用いられている.Meandefectは各測定点において得られた実測値に対し同年代の年齢別正常値からの欠損量を求め,平均した値である.この指標によって視野が正常値から全体的にどれくらい低下しているかを示すことができる1).Humphreyのmeandeviationでも基本的な考え方は同様であるが,個々の測定点における正常値の分散値を考慮し,視野中心部でより重み付けがなされている2).MDは,視野の病期分類,進行評価,残余視機能を示す代表値として幅広く用いられている.しかしながら,1)視野進行評価において視野早期の局所的障害をつかみにくい,2)年齢別正常値からのdBスケールの欠損量となるため,同じMD値でも残余視機能が年齢によって異なる,3)視機能評価としての各測定点の重み付け(視野中心部では,周辺部に比べ多くの網膜神経節細胞が集中しており,視中枢でも大きな面積を占めている)が不十分である,4)白内障などびまん性感度低下の影響を受けやすい,などいくつかの既知の問題点を有する..新しい評価法Humphrey視野計のGuidedProgressionAnalysis(GPA)では,緑内障患者の残余視機能の評価において,MDの有するこれら問題点を解消すべく考案された198.VisualFieldIndex(VFI)プレゼンテーション:松本長太近畿大学医学部眼科学教室コメント:岩瀬愛子たじみ岩瀬眼科表1VisualFieldIndex(VFI)の算出手順個々の測定点の実測値を,それぞれ以下の基準で0~100%にスケーリングし,集計して最終的なVFI値を求める.1)Patterndeviationにて正常判定されている測定点はすべて100%とする.2)実測値が0dBの測定点はすべて0%とする.3)Patterndeviationにてp<5%と判定された測定点は,同部位の年齢別正常値を100%とした場合における実測値の割合を%で求める.(たとえば,正常値が22.5dB,実測値が13.5dBの場合は13.5/22.5=60%となる.)4)MDが20dB以下の場合はすべてtotaldeviationにて判定する.5)視野を中心部から周辺部へ5つのゾーンに分け,網膜神経節細胞の分布密度を考慮しそれぞれ3.29,1.28,0.79,0.57,0.45の係数で重み付けを行う.1548あたらしい眼科Vol.27,No.10,2010VFIの時系列の推移を経過プロットで解析することができる.VFIの経過プロットでは横軸に患者の実年齢が表示され,縦軸にVFIが%で表示される.100%が正常,0%が視野完全消失となる.経過プロットの下方にはVFIのスロープおよび有意水準が表示される.患者の余命と視野進行スピードを考えながら治療方針を考えることができる.経過プロットの横にはVFIバーが表示される.ここには現時点のVFIと,今の状態が続いた場合の3~5年後のVFIが予測表示される(図1)..本法の利点VFIは機能面で最も重要な視野中心部に重み付けを行っており,理論上は従来のMDに比べより患者のQOV評価に適すると期待されている.そして,patterndeviationを基準としているため,長期変動や白内障など視野のびまん性低下の影響を受けにくいのも利点である.さらに,従来のdBスケールを直感的に把握しやすい0~100%で再スケール化することで,医師のみならず患者にとっても自分の視野障害の程度を容易に把握しやすくなっている.また,経過プロットの横軸表示を検査日から患者年齢へ変えることにより,年齢を含めた患者の機能的予後をより把握しやすくなっている.さらに新しい試みとして,数年先のVFIを予測できる点である.これは統計学的でいういわゆる外挿予測になるため過信は禁物であるが,患者とともに長期的な治療方針を考えるよい参考材料となる.文献1)WhalenWR,SpaethGL:Computerizedvisualfields,Whattheyareandhowtousethem.p307-344,SlackIncorp,Thorofare,19852)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry.p111-115,Mosby,StLouis,19993)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,2008(66)図173歳,男性(狭義開放隅角緑内障)のVFI経過プロットおよびVFIバー73歳時点でVFIは55%,.3.2±1.5%/year(p<0.1)の有意な進行を認める.さらに現状のままでは,5年後にはVFIが40%を切ることが推定される.Indexでは指摘しきれなかったADL(ActivitiesofDaylyLiving,日常生活活動)をも含んだ視機能の時系列評価といえる.日常臨床で使用した感想でいえば,視野の上下を分けて,この指標が出てくれるとありがたい.特に,縦書きの文字を読む日本では,下視野の確保はqualityofvisionの点でも必須であり,今後,上下のVFIがオプションで付くことを強く望むものである.自動視野計の測定結果は,検査日の結果のみの表示を目的としているのではなく,緑内障診療の主目的と考えられる「生涯にわたる視機能の維持」に対する評価が大切である.Humphrey視野計のGPAに導入されたVFIは患者の年齢を横軸にとり,時系列に残余視機能を評価可能とした指標であるため,過去の治療効果の確認や予後の予測を可能としている.そして,旧ソフトウェアからあった視野全体の評価指標Global■本方法に対するコメント■☆☆☆

緑内障:眼底対応視野計

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015450910-1810/10/\100/頁/JCOPY●眼底対応視野計とはHumphrey視野計の通常プログラムである30-2や24-2では6°間隔に視標が呈示されるため,網膜神経線維層欠損上に感度低下があっても検査点に含まれていない可能性がある1).検査点を密にすれば,小さな異常を検出できる可能性が増えるが静的自動視野計ですべての領域を検査するには時間がかかるため,検査点を限定する必要がある.Kaniら2)は赤外線によって眼底を観察しながら眼底の病変に刺激光を呈示する眼底視野計を開発した.可児らがそれを簡略化し,局所の視野を調べる際に眼底像に対応させることによって,網膜神経線維層欠損などの異常部位を選択的に検査することを目的に開発されたものが,眼底対応視野計である.この視野計を用いることで,通常の視野計では検出されない視野異常が検出可能であり,視野と眼底の対応の把握も可能である.市販の視野計ではKOWA社のAP-6000に眼底像視野検査として搭載されている.また,NIDEK社製のMP-1も眼底と対応させて視野の把握が可能である.●眼底対応視野測定可能な各種視野計1.AP.6000(図1A,B,図2)患者の眼底写真を視野計に取り込み眼底の任意の場所に視標を呈示可能である.視野計に取り込まれた際に,視野に合わせて眼底写真は上下反転して表示され,眼底画像の中心窩と乳頭の中心を指定し,Mariotte盲点の大きさを測定することによって眼底写真と視野の測定点を補正し測定する.現在トータル偏差は表示されるが,確率プロットは表示されない.2.MP.1(図3)測定開始前に近赤外光でモノクロの眼底写真を撮影す(63)●連載125緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄山本哲也125.眼底対応視野計大久保真司金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学(眼科学)通常の視野計では検査点の配置の問題で検出できないごく早期の緑内障において,眼底像に対応させて局所を詳細に検査する眼底対応視野計は有用である.進歩した画像解析装置と併用することによって緑内障の構造と機能の関係を明らかにすることが期待される.AB図1右眼ごく早期緑内障の眼底写真(A)およびHumphrey視野30.2(B)A:上下に網膜神経線維層欠損(黒矢印)がみられる.B:視野には異常はみられない.(図1.4は同一症例)1546あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010る.視標パターンは既定のもの以外にモノクロの眼底写真をもとにマニュアルで検者が選択することも可能である.撮影終了時にカラー眼底写真を撮影し,測定結果と重ね合わせることができ,カラー眼底上での評価が可能となる.網膜神経線維層欠損部分を選択的に計測することも可能である.(64)●眼底対応小視標視野計(図4)Nakataniら3)は視標呈示画面に液晶モニターを使い,患者の眼底写真を検査用パソコン画面に取り込み眼底の任意の場所に小視標を呈示できる眼底対応小視標視野計を用いてごく早期緑内障に対し暗点が検出できるかを検討し,網膜神経線維層欠損上に暗点を検出することができたと報告している.今後ごく早期緑内障の機能的診断やスクリーニングに有用と考えられる.●緑内障に対する眼底対応視野計の今後長期管理が必要な緑内障において,標準的な視野計での経過観察が基本となる.しかし,眼底対応視野計はごく早期の緑内障の評価や,spectral-domainopticalcoherencetomographyなど進歩した画像解析装置と併用することによって緑内障の構造と機能の関係を明らかにすることが期待される.文献1)TuulonenA,LehtolaJ,AiraksinenPJ:Nervefiberlayerdefectswithnormalvisualfields.Donormalopticdiscandnormalvisualfieldindicateabsenceofglaucomatousabnormality?Ophthalmology100:587-597,19932)KaniK,OgitaY:Funduscontrolledperimetry.DocOphthalmolProcSer19:341-350,19793)NakataniY,OhkuboS,HigashideTetal:Detectionofvisualfielddefectsusingfundusorientedsmalltargetperimetryinpreperimetricglaucoma.InvestOphthalmolVisSci48:E-abstract1609,2007図2AP.6000による眼底対応視野検査結果眼底写真は視野に合わせて上下反転してある.上耳側の網膜神経線維層欠損(図では下方)の黄斑部側の境界線に.27dB,.5dB,.15dBの感度低下(数字に白い下線)がみられる.白点は,6°間隔ごとのHumphrey30-2の検査点に相当する.感度低下のある部位は6°間隔の白い点の間にある.そのためにHumphrey30-2では異常が検出できなかったことがわかる.図3MP.1の結果網膜神経線維層欠損に対応する部位に感度低下がみられる.MP-1では,眼底に合わせて視野が上下反転されている.図4眼底対応小視標視野計の結果眼底写真は視野に合わせて上下反転してある.眼底対応小視標視野計では暗点(青点)が網膜神経線維層欠損上に見られる(赤い点は見えた点,青い点は見えなかった点).

屈折矯正手術:後房型有水晶体眼内レンズ(ICLTM)のインフォームド・コンセント

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015430910-1810/10/\100/頁/JCOPY後房型有水晶体眼内レンズの1つであるICLTM(ImplantableCollamerLens,以下ICL,スター社と略)が本年3月わが国では唯一の有水晶体眼内レンズとして厚生労働省の承認が得られ,正式に発売されることとなった.手術を実施するには,日本眼科学会による屈折矯正手術講習会(有水晶体眼内レンズが含まれる本年4月からの講習)を受講し,スター社が実施する講習会を受講することが必要である.それに加え,インストラクターの手術を助手として見るとともに,指導を受けながらの手術を実施ICL認定を取得する必要がある.これらの講習会で,インフォームド・コンセントについてはその重要性とともに話されると思うが,本稿では従来のエキシマレーザー屈折矯正手術に必要なインフォームド・コンセントに加え,有水晶体眼内レンズ手術において修正・追加・補足が必要な部分を重点に述べたいと思う.●日本眼科学会の最新の「屈折矯正手術のガイドライン」屈折異常の矯正において,眼鏡あるいはコンタクトレンズの装用が困難な場合,医学的あるいは他の合目的な理由が存在する場合,屈折矯正手術が検討の対象となる.屈折矯正手術の長期予後についてはなお不確定な要素があること,正常な前眼部に侵襲を加えることなどから慎重に適応例を選択しなければならないとしている.従来の答申とほぼ同じであるが,以下にICLについて限定的にされていることを紹介するとともに,インフォームド・コンセントに必要と思われる補足を追加する.1.年齢に関して年齢は,18歳以上とし,未成年者は親権者の同意を必要とする点は同じであるが,ICL手術に関しては,エキシマレーザー手術における記載に加え,水晶体の加齢変化を十分に考慮し,老視年齢の患者には慎重に施術すると指摘している.筆者らの治験研究の結果や経験からも50歳未満できれば45歳以下が望ましいと考えている.2.対象エキシマレーザー手術が屈折度が安定しているすべての屈折異常(遠視,近視,乱視)とするとしているのに対して,ICL手術は6Dを超える近視とし,15Dを超える強度近視には慎重に対応するとしている.従来のエキシマレーザー手術が対象外としていた強度近視が矯正できることが画期的なことである.近視のみに限定されているのは,現在のICLが乱視矯正および遠視矯正用が承認されていないためと考えられ,将来的にはこれらも対象とされると考えられる.3.実施が禁忌とされるものエキシマレーザー手術に関するものとして,①円錐角膜,②活動性の外眼部炎症,③白内障(核性近視),④ぶどう膜炎や強膜炎に伴う活動性の内眼部炎症,⑤重症の糖尿病や重症のアトピー性疾患など,創傷,治癒に影響を与える可能性の高い全身性あるいは免疫不全疾患,⑥妊娠中または授乳中の女性,⑦円錐角膜疑いがあげられ,ICL手術に関しては,エキシマレーザー手術における①.⑥の事項に,⑦浅前房および角膜内皮障害を加えている.なお,③は核白内障には限らず,水晶体に混濁あるいは亜脱臼などの異常がある場合を含むとしている.浅前房とは,前房深度(角膜後面から水晶体前面まで)が2.8mm未満とされている.ガイドラインには記載がないが,散瞳瞳孔径の8mm未満のものも適応がないと考えられる.4.実施に慎重を要するものこれについては,エキシマレーザー手術の対象のものに加えて,ICL手術では,円錐角膜疑い症例を加えているが,抗精神薬(ブチロフェノン系抗精神薬など)の服用者,角膜ヘルペスの既往,屈折矯正手術の既往は指摘されていない.(61)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載126監修=木下茂大橋裕一坪田一男126.後房型有水晶体眼内レンズ(ICLTM)のインフォームド・コンセント市川一夫社会保険中京病院眼科ICLTMは,わが国で唯一承認された後房型有水晶体眼内レンズであり,従来のエキシマレーザー手術に比較して,可逆的な手術でかつより強度近視を加療できる特徴がある.しかし内眼手術ゆえに注意すべき点があり,これらに配慮したインフォームド・コンセントについて解説した.1544あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010●インフォームド・コンセント時に忘れてはならないこと従来の屈折矯正手術でインフォームド・コンセントに必要な流れについて表1にまとめたが,ICLだからといって変わったところはない.ただし,ライセンス制度があり,術者がそのライセンスを保持していることを説明することは必要かつ不可欠であると考えられる.図1にスター社が提供してくれるICLに関するパンフレットと説明用DVDの外観を示した.独自のものを作ることもより有用と考えるが,まずはこれらを利用するのがよいであろう.●カウンセリングと手術同意書作成時に注意すべき点カウンセリングの内容のまとめを表2に示す.特にICLの合併症として知られているものや,対象となる高度近視に関する合併症について,よく説明しておくことが必要不可欠であるので別に以下に記す.①術後感染性眼内炎は,まれではあるが,6,000例に1例の報告がある.②ハロー・グレアについは,光学系が小さいため夜間散瞳のよい症例では訴えることがある.しかし,そのために摘出に至った症例の報告はない.③角膜内皮障害については,今までの報告や筆者らのデータや治験時では約2.4%でありほとんどは問題ない.ただし,筆者の症例であるが,浅前房でかつ入れ替えした症例で最大約50%の減少が1例のみではあるが経験があり慎重を要するものである.④術後一過性眼圧上昇およびステロイド緑内障は,一過性の眼圧上昇は21mmHgまでとすれば最大50%に認められる.ダイアモックスRなどの投与や降圧点眼薬の投与で収まる.⑤白内障が最も懸念される合併症である.FDA(米国食品医薬品局)の治験では2%程度に認められたとの報告もあるが,初期の頃の比較的年齢の高い白内障眼の他眼を対象にした症例を除けば,筆者自身が施行したICL手術症例で白内障手術まで行った症例はない.⑥閉塞隅角緑内障は,虹彩切除が不十分な症例に起こりやすいが,レーザーで十分に切開した症例でも術後炎症で閉塞し起こることがあるので注意は必要である.緑内障発作を起こし追加的に周辺虹彩切除術を実施する場合もあるので説明しておくべきであろう.⑦網膜.離は,ICL手術によるものではないが,強度近視では発生率が高いので,ICLの患者さんには,⑧近視性脈絡網膜萎縮とともに,術後近視が治ったと誤解しないように,高度近視のための定期受診を勧める必要がある.⑨虹彩切開あるいは虹彩切除による光視症を訴えることがある.上方で行った場合は少ないが水平方向に近いと小さな穴でも訴えることがある.おわりにICLのインフォームド・コンセントに必要な知識について,他の屈折矯正手術の知識に加えて必要な項目を書いたつもりである.まだわが国で認可を受けたばかりであり,今後のさらなる術後成績の集積が望まれる.文献1)屈折矯正手術のガイドライン,日本眼科学会屈折矯正手術に関する委員会答申.日眼会誌114:692-694,20102)市川一夫:後房型有水晶体眼内レンズの実際合併症とその対策.IOL&RS24:24-28,2010(62)図1説明資料(パンフレット・DVD)手術に際しての必要な眼の知識や手術全般にわたる解説を記載し,文章での説明を残す.手術の利点とともに問題点も示すことにより,手術の選択を正しく行えるよう,有益な情報を盛り込む.(STAARJapanInc.より)表1一般的な手術までの説明に関する流れ.ホームページ.資料(説明文書・ビデオ).適応検査時カウンセリング.術前オリエンテーション(STAARJapanInc.より)表2カウンセリングの内容.手術を受ける動機.術後の期待できる視力.夜間の見え方.年齢,職業,ライフスタイル,老視体験をもとに術後近見視力の説明.老視について.白内障など術後合併症について(STAARJapanInc.より)

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ挿入眼の視力検査

2010年11月30日 火曜日

あたらしい眼科Vol.27,No.11,201015410910-1810/10/\100/頁/JCOPY視力測定前に眼内レンズの種類を確認視力測定する前に,どのような眼内レンズが挿入されているかを知っておくべきである.今まで単焦点眼内レンズ1種類であったが,多焦点眼内レンズ,そのなかでも屈折型と回折型,さらに乱視矯正を兼ねたトーリック眼内レンズも承認を受け,種類が増えている.多焦点眼内レンズ挿入後は検査項目が多いと思われているが,遠方視力検査のみでも構わないのである.ただし,このような付加価値のあるレンズ挿入眼でその効果が出ているのかを確認するには近方視力,ときには中間視力測定が必要となる.さらに日常生活における見え方という点では両眼裸眼視力が参考になる.遠方視力検査における注意点多くの施設で,視力測定前にオートレフラクトメータによる球面および円柱度数と乱視軸を参考に矯正視力を測定していると思うが,多焦点眼内レンズの場合は注意する.屈折型では眼内レンズの遠用部分でなく近用部分を通して測定されると.2Dから.3Dの近視となり,この値を入れても矯正視力は出てしまう.回折型では測定結果はだいたいの目安となるが,円柱度数でのばらつきがあるので注意する1).つぎに,視標0.6.0.8付近で応答スピードが遅くなるケースがある2).ここで測定をやめてしまうと本来見えている視力より低い値となってしまう.コントラスト感度がやや低下している可能性,涙液状態の影響を考慮し,一呼吸おいたり,瞬目を促したりすることで,その後スムーズに1.0以上まで回答できる例があることを知っておくとよい.近方,中間視力測定の実際近方視力は30cmでの測定が一般的であるが,今後,近方加入度数を減らした多焦点眼内レンズがでてくると40cm視力測定結果がレンズの特徴を表す(図1).中間視力の明らかな定義はないが,多くの論文で50cmか(59)●連載⑪多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子11.多焦点眼内レンズ挿入眼の視力検査野中亮子ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科多焦点眼内レンズ挿入眼の視力検査は,単焦点眼内レンズ挿入眼と異なる点があるので注意する.遠方視力測定ではオートレフラクトメータの信頼性,回答速度の変化,近方視力測定では,規定の距離と症例ごとに見やすい距離での差,さらに両眼視での視機能向上と,見え方に慣れるのに時間を要する例がある.図270cm視力表(GOODLITE社)を用いての中間視力測定図140cm視力表(GOODLITE社)1542あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010ら1m視力としており,専用の視力表も入手可能で,規定の距離で測定する(図2,3).遠方視力測定は裸眼と矯正の2種類であるが,多焦点眼内レンズ挿入後の近方,中間視力では裸眼,遠方矯正下,矯正の3種類になる.これは多焦点眼内レンズ挿入後の球面度数のずれ,角膜乱視による影響を遠方矯正で(60)補正した状態で,どのくらい近くや中間が見えているのかといった本来の機能評価をするためである.また,矯正方法は2焦点であるため,遠方矯正度数にプラス加入,近方矯正度数にマイナス加入が可能であるが,一般的には前者の方法を用いる.両眼視力測定の意義多焦点眼内レンズの目的は,日常生活における眼鏡依存度を減らすことで,その評価としては両眼視での視力測定が有用である.両眼視力は片眼視力より向上することが知られているが,多焦点眼内レンズ挿入後ではコントラスト感度の向上を含め,この効果が患者満足度にもつながる.多焦点眼内レンズ挿入後全例で行う必要はないが,ぜひ,それほど測定に時間がかからないので,何例かに遠方と近方の両眼視力を測定してみることをすすめる.文献1)Bissen-MiyajimaH,MinamiK,YoshinoMetal:Autorefractionafterimplantationofdiffractivemultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:553-556,20102)大木伸一:多焦点IOLの実際.術前,術後のコツ,注意点.IOL&RS22:263-269,2008☆☆☆図3新井氏1M視力表(はんだや)