0910-1810/12/\100/頁/JCOPYうに改善しないことへの不満や長期にわたり使用し続けている緑内障点眼による眼瞼周囲の局所副作用や呼吸器や循環器への影響に不安を抱くようになる.後期緑内障症例では視力障害を受容しつつも日常生活における不自由さに困惑や絶望感を抱いている可能性がある.特に高齢者の場合は,体力面でも衰弱してきていることが多いために通院や点眼を継続する気力が失せてきて家族など周囲の人々の協力が不可欠な場合が多い.残余視機能を最大限に生かして生活を送ってもらうためには周囲の人々が患者の不便さを理解する必要があると思われる.しかしMD値が?25dB程度の後期緑内障の高齢者でも,生活になんら不自由を訴えないことも多い.患者の生活パターンや行動範囲によって緑内障患者が求めるQOVは異なると考えられるが,今の視機能で実生活においてどの程度の不自由が生じているかということは,どんな最新の医療機器を用いても客観的に判断できないのが現状である.これまでに,健康関連のQOLの評価法については,SicknessImpactProfile(SIP)や36-itemshort-formofMedicalOutcomesSurvey(SF-36)などがあり,QOLに関してさまざまな研究報告がなされている.眼科領域においても,25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionaire(NEI-VFQ25)やLifeDisabilityAssessment(LDA)などによりQOVに関する臨床研究が報告されるようになってきた.日本では,鈴鴨らにより日本語版NEI-VFQ25が視機能に関連し【A高齢者緑内障のqualityoflife(QOL)】はじめに超高齢化社会の日本にて平均寿命が延びることは喜ばしいことであるが,その分緑内障患者として眼科医が管理する期間が延びることでもある.高齢者であってもqualityofvision(QOV)に対する要求は高度化し,緑内障患者の治療目標は生涯にわたって日常生活に支障のないように高度な視機能を保持することが求められてきている.しかし,われわれ眼科医は緑内障患者に眼圧測定と視野検査を繰り返し,眼圧の日々変動に患者とともに一喜一憂し,視野検査のindexであるmeandeviation(MD),VisualFieldIndex(VFI)などの数値にとらわれて,患者のQOVに対する要求に耳を傾けることができていないのではと反省させられることがある.緑内障外来の受診日に瞼が腫れて眼瞼皮下出血をきたした患者の顔を見たときにハッと気づくことがある.視野障害にて階段を踏み外したのではないだろうかと….IQOLの評価方法緑内障患者の病気に対する心情とは,緑内障と診断されて間もない初期緑内障の時期には視力障害の自覚症状がないので緑内障の診断そのものに疑心暗鬼な面と緑内障にてやがて失明するのではないかという不安感を抱いていることが多い.中長期管理できた症例では徐々に自覚するようになってきた視野障害(視力障害)がいっこ(43)43*KojiNitta:福井県済生会病院眼科/金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科)〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7番地1福井県済生会病院眼科特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):43?51,2012高齢者の緑内障管理ManagementofElderlyGlaucomaPatients新田耕治*44あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(44)くの項目で負の相関を認めたと報告した3).II両眼開放視野を使用したQOV評価残余視機能を評価する指標のうち,新たにVFIがHumphrey視野のツールの一つとして開発された.これは,パターン偏差にて視野検査の結果を%表示し,100%が正常,0%が視野消失を表す.年齢に応じた視機能率を%表示し,各測定部位の%を決定したのちに,中心部位に加重をかけて全体値を算出している.その点で,より実態に近い視機能(残存視野率)を表す指標とた包括的QOLを定量的に評価する尺度として開発された1).緑内障眼にNEI-VFQ25を使用した報告では,浅野らが視力良好眼の視力が0.3以下になるとNEIVFQ25総合スコアが有意に低下し,NEI-VFQ25は眼科医療,ロービジョンケアの結果(アウトカム)評価に有用なツールであると報告している2).また,山岸らは正常眼圧緑内障(NTG)患者の視機能を定量的に評価する目的でNEI-VFQ25を使用し,眼圧は運転のみ,矯正視力は多くの項目で相関を示し,MD値は全体的健康感と眼の痛み以外で高い相関を示し,緑内障点眼数は多??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????図1VisualFieldIndex(VFI)を指標とした管理後期緑内障症例で傍中心視野が障害されている場合は,グレースケールの一覧よりもVFIのグラフ表示のほうが視野進行の様子がよくわかり,しかも%表示されるので管理しやすい.(45)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201245られた.家の中では段差や家具などの配置に慣れているので,視野障害をきたしていても生活に影響が出現しにくく,外出先では初めての場所も多く,段差によろけたり,障害物にぶつかったり視覚から得る情報に行動が左右されるためと考察し,Estermanスコアは日常生活困難度を予測する指標になると報告されている5).Beeline社製視野ファイリングソフトHfafilesver2.1.2.9にも最近両眼視野重ね合わせ機能がオプション装備されるようになった.これはHumphrey視野の結果から左右の測定点の実測値の高いほうを選択し重ね合わせる方法である6).両眼開放下での視機能の程度をEstermanプログラムよりも詳細に評価できるので,今後は両眼開放下での緑内障患者の視機能を評価することが日常的な管理方法の一つになることが望まれる(図2).III緑内障患者の自動車運転について国土交通省の調査(平成19年度府県別輸送機関分担率)によると,移動手段としての自動車の分担率は,都市部の東京30.9%,大阪51.0%に対し,福井97.8%,宮崎99.0%と地方での自動車の分担率はきわめて高率である.地方では過疎化に伴い,バス路線が徐々に廃止されてきている地域も多く,自動車は欠かすことのできない交通手段である.しかし,後期緑内障では高度の視野狭窄をきたしているために,信号機や標識を見落としたり障害物や歩行者に気づくのが遅くなり交通事故を起こす可能性があり,運転免許の更新条件を満たす後期緑内障症例でも自動車運転の危険性を話し合い,運転免許を自主的に返納することを推奨する場合もある.ただし,眼科医の助言により自動車運転を中止させることは,患者を交通難民にしてしまうこともあり,その対応については慎重でなければならない.高度視野障害を有する人の運転について,英国では両眼Esterman視野で半径20°以内に4連続暗点あるいは3連続暗点+他1暗点がある場合は欠格とされている.わが国では視力検査で不合格となった場合,視力の良いほうの眼の視野検査が施行される.中心の固視点を見て,水平方向に動かした白点が被検者の視野から消失した時点で返答する方法で行われ水平視野150°以上で合格となる.検者が専門家でないために被検者の固視が不考えられている.緑内障の進行が急峻な症例(図1)ではVFIも急速に減少するので視野消失までの期間がグラフに表示される.表示された予後のとおりにならないようにあらゆる治療手段を講じて最大限の努力が必要であると考える.Humphrey視野計に標準装備されているスクリーニングプログラムのうち両眼開放下のEsterman視野を利用することも有用と考える.Estermanプログラムは,刺激サイズIII・10dBの単一刺激輝度で合計120検査点から成り,日常生活に重要な下方・傍中心・赤道経線上により多くの検査点を配置している.顎台の中央に顎を置き,レンズ枠を使用せずに両眼を開放して測定する.ただし,屈折矯正のため被検者自身の眼鏡を装用して測定する場合には,水平方向の視標が眼鏡枠のために見えにくくなるので,結果の評価の際には考慮すべきである.EstermanスコアとVFQ-25が中等度に相関することが報告された4).また,藤田らは,緑内障患者における日常生活困難度を10項目とした質問表にて回答した結果とEstermanスコアとの相関関係を検討した.家の中での行動に比べ,外出時の行動でより相関する傾向がみ??????????????????????????????????????????図2両眼重ね合わせ視野上段は左右のHumphrey視野グレースケール表示である.下段左は左右のHumphrey視野の良好な閾値を表示した両眼重ね合わせ視野.下段右はEstermanプログラムで施行した結果.左右それぞれの視野変化を管理しているだけでは,患者の日常生活における視機能を認識しにくく,両眼の視野を重ね合わせることにより患者目線で緑内障を管理できるようになる.46あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(46)な限り片眼トライアルを施行し,片眼での効果が確認できたならば両眼に点眼を追加するようにしたい.I眼圧での管理の留意点緑内障患者の管理は通常長期にわたるが,特に高齢者を管理する場合は,さまざまな検査を行うことが不可能なことも多く,結局は眼圧検査が重要な指標となることが多い.そのため,眼圧検査の意義や精度を高めるために,第一に目標眼圧の考え方,第二に眼圧測定方法の工夫について述べたい.目標眼圧という考え方は,眼圧が21mmHg以下に保持できればコントロール成功とするそれまでの国際的合意を一変させた.岩田らは,Goldmann視野検査の結果に基づいて,視野障害がほとんどない極早期は19mmHg,視野障害が出はじめる初期(孤立暗点,弓状暗点,鼻側階段のみ)では16mmHg,1/4以上の視野欠損がある中期以降は14mmHg以下に保たないと長期経過中に次第に視野が進行することを報告した9).さまざまなランダム化された多施設の共同研究10?13)により,海外からの報告では30%以上の眼圧下降を目標とする考え方も多い.しかし,わが国では,正常眼圧緑内障が緑内障の過半数以上であり30%以上の眼圧下降率を達成することはなかなか容易ではない.点眼一種でそれを達成できなくても,実際にはそのまま経過観察してしまうことがほとんどであろう.さらに長期に管理し緑内障性視神経症が進行した場合は点眼の切り替え・追加がなされ,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)や観血的手術を施行することとなる.その頃になると目標眼圧はあまり意味をなさず,むしろそれまでの眼圧経過がどうであったかを検証し,その後の治療方針を検討していくことが重要である.眼圧に対する視神経の脆弱性は個々の症例により異なるため,目標眼圧を達成できても緑内障性視神経症が進行する症例もある.そのため目標眼圧は治療開始に際して眼圧コントロールの目安といった程度に留めるべきなのかもしれない.眼圧推移を検証する場合,薬剤の使用歴などを記載した眼圧推移グラフを作成しておけば管理がしやすくなる.近年普及しつつあるファイリングソフトや電子カル良なことに気づかず不正確な検査を行ってしまい,結果として高度な視野障害を有する人も運転免許を取得できたり更新できている可能性がある.客観的に視機能を評価できる眼科医が運転の可否を決定すべきであるかもしれないが,どの程度の視野障害で運転免許を欠格とするか明確な判断基準はない.Szlykらが,周辺視野障害をきたした緑内障患者に自動車運転のシミュレーションを行ったところ,水平視野の範囲が100°を下回るとシミュレーション上での事故危険度が増加したと報告している7).青木らは,後期緑内障患者2名において安全確認不足が原因と思われる交通事故の既往を報告している8).高齢者は緑内障や白内障などの眼疾患に罹患していなくても,反射神経の低下などにより,交通事故を起こす危険性が高くなると思われ,高齢の緑内障患者は日頃より自動車運転のシミュレーション機器などを用いて,運転の危険性について認知してもらう必要があると思われる.緑内障外来は得てして3分診療になりがちであるが,眼圧・視野・視神経所見に加えて,時には患者のQOLについてもヒアリングし経過観察すべきである.【B高齢者の緑内障管理】はじめに最近受診しなくなったある患者のことが気になっていると,医療従事者から「○○さんは△△病院(療養型介護施設)に入院されたらしいよ」と聞かされ,通院ができなくてもせめて点眼だけは介護施設で継続できていればいいのだが…と気になってしまう.家にいれば家族の協力が得られるが,施設で介護されるようになると,全身疾患用の内服は継続されても点眼薬は入手が困難な場合もあり中断されてしまうことが考えられる.この項では高齢者の緑内障管理について述べたい.しかし高齢者であるからといって緑内障の管理に大きな違いがあるわけではない.残余視機能に余裕がある限りベースラインデータをしっかり収集し,その結果に基づいて治療を開始していくべきである.点眼薬を新規に追加しても眼圧の日々変動に埋もれてその薬剤の効果がはっきりしないことがあるので,点眼を変更する場合は可能(47)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201247圧下降を常時保持でき,その結果視野障害はほとんど進行せずに経過している.初診から数年は視野障害の進行速度を判定するために,長期変動が中程度であると仮定した場合,MDslope?1.0dB/yの速度を検出するのには,年に3回の視野検査を施行しても3年間必要であると報告されている14).したがって,進行速度をなるべく早くとらえるために管理を開始してから数年間は年に3?4回の視野検査を施行することが望ましいと考える.緑内障点眼治療の第一選択として,プロスタグランジン(PG)点眼が確立するにつれ上眼瞼のくぼみが頻発すテは長期データを一元的に管理でき,しかもその経過をさまざまな形式で一覧できるので大変有用である.すでに長期に管理してきた症例においては,これまでの経過から視野検査のファイリングソフトなどを使用すれば緑内障進行速度を計算し,平均余命との関連から予後を推定することができる.図3の症例は,初診時に緑内障の病期はすでに後期であり,傍中心にも視野障害が広がってきているために当初よりこのあと何年にわたり視機能が保持できるか大変気がかりであったが,点眼治療により約30%以上の眼????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????図3初診時に後期であっても眼圧下降により長期にわたり進行が停止した狭義原発開放隅角緑内障(POAG)症例初診時に緑内障の病期はすでに後期であり傍中心にも視野障害が広がってきているために当初よりこのあと何年にわたり視機能が保持できるか大変気がかりであったが,ベースライン眼圧24mmHgに対し点眼治療により30%以上の眼圧下降を常時達成でき,視神経乳頭形状や視野障害は進行せずに経過している.48あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(48)る.そんなときは静的視野計での光視標提示速度を遅くし,検査の途中でその都度休憩をはさみ,姿勢保持が保てているか横で検者が監視するなどの工夫が必要であると思われる.また,Goldmann動的視野でのみ経過観察せざるをえないこともある.症例によっては視野計での検査がまったく不可能な場合がある.自覚的緑内障検査が施行不能だからといってあきらめずに,高齢者に負担がかからない他覚的緑内障検査を活用して判断すべきである.光干渉断層計(OCT)のうちspectral-domainOCT(SD-OCT)ではtime-domainOCT(TD-OCT)と比較して測定の再現性が格段に向上したために,OCTにて経時的変化をとらえることが可能になった.眼底写真を撮影して保存しておくだけでも進行の有無を判断できる場合があるので,筆者は眼底写真を定期的に撮影することを推奨したい.散瞳剤を点眼しても十分に散瞳しないことが多い落屑緑内障症例などの場合は,るようになり,奥目の顔立ちの患者が増えていると思われる.もともと細身の症例では年齢とともに眼瞼周囲がくぼんだ顔貌になりやすく,PG点眼中のやせ形顔貌の症例はGoldmann眼圧計で角膜を圧平する際に上眼瞼を挙上しにくく,無理に開瞼すれば眼圧測定時の誤差が大きくなる.その場合,患者の顎を突出させて顎台に乗せてもらえば上眼瞼を挙上しやすくなるので参考にしていただきたい.座位での眼圧測定が困難な症例では,トノペンRやiCareなどを使用して仰臥位で眼圧測定を行うが,仰臥位での眼圧が座位と比較して高くなるので,常に一定の方法で測定し続けることが肝要である.II簡単に撮影できる眼底写真の活用緑内障外来に定期的に通院できている高齢の緑内障患者でも,徐々に静的視野検査など患者の協力を必要とする検査にて信頼性の高い結果が得にくくなる場合があ??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????図4乳頭出血が頻発し視野が悪化した正常眼圧緑内障(NTG)症例2002年11月初診時以降に計8回の乳頭出血が出現し,初診時の眼底写真と比較し網膜神経線維層欠損(NFLD)が拡大し(白矢印),対応する部位の視野障害が進行した.あたらしい眼科Vol.29,No.1,201249眼底写真の撮影の際に視神経乳頭拡大カラー写真で乳頭上血管の走行がはっきりわかるような照度で撮影することが望ましい.広角カラー眼底写真の照度はハレーションにて乳頭上の血管の走行が観察できなくてもできるだけ明るい照度条件でも撮影しておく.その理由は,網膜神経線維層欠損(NFLD)を認める症例で白黒写真やred-free写真に変換した場合にその境界がはっきりわかるからである.そして,数年前に撮影したものと見比べてみるだけで緑内障が進行している場合は,乳頭上の血管走行の屈曲変化・リムの菲薄化・NFLDの拡大を確認できることがあり(図4),重要な緑内障進行の兆候である乳頭出血(DH)の出現も見落とすことが少なくなる.DHとNFLD拡大は視野障害進行と強く関連しており,眼底写真を記録として保存することが緑内障進行判定の際に役に立つことが多い15,16).倒像鏡で視神経乳頭を観察するのでは,わずかな線状のDHの場合は見落とされることが多い.診察と診察の合間にDHが出現し吸収してしまうこともあり,DHの見落としを減らすためには非常にシンプルな緑内障進行判断方法であるが,眼底写真撮影は高齢者の緑内障症例を管理する場合は患者に負担がかからない有用な方法と思われる.DH出現やNFLD拡大を認めた場合には,すでに緑内障の進行による構造的変化があると考えられるため,近々機能的変化(視野変化)が進行することを前提にして管理を強化するなり治療方針を変更することが必要である.ステレオ眼底カメラでの立体眼底写真撮影には,撮影ごとの顔の回旋などの位置ずれを補正できるようになったために経時的な乳頭変化を確認しやすくなった.このような機器による管理は,他覚的評価なので,視野検査のように患者個々の状態に左右されることなく緑内障を長期にわたり管理できると思われる.高齢者を長期間管理していると,水晶体の混濁により視野検査にて徐々に網膜感度が全体的に低下していくため,視野障害の進行が緑内障以外の影響も受けるようになる.白内障による視力障害が強くなれば緑内障眼であっても白内障手術を積極的に行うべきと思われる.しかし,白内障手術後も緑内障を管理し続けるので視野検査のデータが手術を機に改善することも考えられ,管理上混乱を生じる可能性がある.その点,眼底写真での管理の場合には写真の画質に変化が生じても乳頭形状やNFLDの変化を管理し続けるうえでは白内障手術の影響を受けないので,有用性が高い管理方法であると考えられる.III高齢者緑内障の緑内障用点眼における諸問題高齢の緑内障患者の場合はすでに長期に管理し続けている症例が多いため,点眼薬を多剤併用している症例も多い.毎回の診察時に必要な点眼薬の本数を尋ねると,ある患者はキャップの色で,別の患者は遮光袋の色で処方希望本数を答えるので,結果として誤処方が起こる可能性がある.筆者は空の点眼容器を診察室に常備し,その容器を見せながら処方希望本数を尋ねるようにしている.このような方法を採用するようになって診察そのものも大変スムーズになったと思われる.高齢者の場合は全身疾患を有することも多く,特にb遮断薬点眼処方の際には注意したい.気管支喘息や徐脈性不整脈の既往については患者から正確な情報を入手することが可能であるが,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の(49)図5点眼自助具慢性関節リウマチの症例では握力が低下しているため点眼が困難な場合がある.点眼自助具を使用すれば弱い力で点眼することが可能である.〔本自助具を入手されたい場合は,社団法人日本リウマチ友の会(電話:03-3258-6565)にお問い合わせください.〕50あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012場合は,患者自身がその疾患に罹患していることを認識していない潜在患者のことが多いので,COPD潜在患者にb遮断薬点眼を処方して呼吸障害をひき起こす可能性がある.喫煙歴などを聴取することも重要であろう.最近では配合剤点眼薬も登場しb遮断薬点眼を患者に処方する機会が増えてきているので,点眼後に内眼角の圧迫の指示など点眼指導も的確に行うべきである.点眼指導は点眼薬の効用を最大限に発揮させることと全身副作用の軽減がそのおもな目的である.効用を最大限に発揮するためには,点眼後に速やかに閉瞼し内眼角を数分圧迫することと複数の点眼の間隔を5分以上あけることが重要である.それにより,より強い眼圧下降が図られ緑内障患者の視機能の温存に寄与するはずである.慢性関節リウマチにより握力が低下し点眼に支障をきたす場合には,点眼自助具の使用をお勧めしたい(図5).全身疾患の悪化や体力の低下により自宅や施設で療養している場合や眼科医がいない他院に入院した場合は,家族や施設の介護人の協力のもとで通院を継続してもらうが,全身疾患やADL(activityofdailyliving)の低下により寝たきり状態となり来院できない場合も多々ある.置かれた個々の症例の環境によるが,可能な限り家族や施設の人々の協力のもとに点眼治療を継続できるように,眼科医からも要請していかなければならないと思われる.文献1)SuzukamoY,OshikaT,YuzawaMetal:Psychometricpropertiesofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25),Japaneseversion.HealthQualLifeOutcomes3:65,20052)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,20063)山岸和也,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版VFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のqualityoflife評価.日眼会誌113:964-971,20094)JampelHD,SchwartzA,PollackIetal:Glaucomapatient’sassessmentoftheirvisualfunctionandqualityoflife.JGlaucoma11:154-163,20025)藤田京子,安田典子,中元兼二ほか:緑内障患者における日常生活困難度と両眼開放視野.日眼会誌112:447-450,20086)CrabbDP,ViswanathanAC:Integratedvisualfield:anewapproachtomeasuringthebinocularfieldofviewandvisualdisability.GraefesArchClinExpOphthalmol243:210-216,20057)SzlykJP,MahlerCL,SeipleWetal:Drivingperformanceofglaucomapatientscorrelateswithperipheralvisualfieldloss.JGlaucoma14:145-150,20058)青木由紀,国松志保,原岳:自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例.あたらしい眼科25:1011-1016,20089)岩田和雄,難波克彦,阿部春樹ほか:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199210)DranceS,AndersonDR,SchulzerM:Riskfactorsforprogressionofvisualfieldabnormalitiesinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol131:699-708,200111)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,200112)AGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):12.Baselineriskfactorsforsustainedlossofvisualfieldandvisualacuityinpatientswithadvancedglaucoma.AmJOphthalmol134:499-512,200213)LeskeMC,HeijiA,HymanLetal:Predictorsoflongtermprogressionintheearlymanifestglaucomatrial.Ophthalmology114:1965-1972,200714)ChauhanBC,Garway-HeathDF,GoniFJetal:Practicalrecommendationsformeasuringratesofvisualfieldchangeinglaucoma.BrJOphthalmol92:569-573,200815)NittaK,SugiyamaK,HigashideTetal:Doesthe(50)■用語解説■VisualFieldIndex(VFI):従来のMDでは中心視野の障害が強い症例と,そうでない症例で,MDが同程度でも現実的な重症度は中心視野障害を有する症例のほうが日常生活に支障をきたしやすい.その点を考慮し,中心視野障害に重み付けを行い,正常を100%として残存視機能を%表示する.視野検査結果が蓄積されれば,1年当たりのVFI下降率や予後の予測が可能である.両眼視野重ね合わせ:左右それぞれのHumphrey視野の結果を重ね合わせて両眼での視野障害の程度を表示するソフトである.左右の各部位の閾値の良好なほうを採用するBESTLOCATIONと二乗の和のルートを計算して表示するBINOCULARSENSITIVITYがある.Beeline社製の視野ファイリングソフトHfafilesにオプション搭載され,今後は標準装備されていく予定である.あたらしい眼科Vol.29,No.1,201251enlargementofretinalnervefiberlayerdefectsrelatetodischemorrhageorprogressvisualfieldlossinnormaltensionglaucoma?JGlaucoma20:189-195,201116)新田耕治,杉山和久,棚橋俊郎:境界明瞭な網膜神経線維層欠損を有する正常眼圧緑内障における乳頭出血出現や網膜神経線維層欠損拡大と視野進行との関連.日眼会誌115:839-847,2011(51)