0910-1810/11/\100/頁/JCOPY種の有無,随伴症状で分類されている.詳細を覚える必要はなく,眼底所見から病期が決まれば,治療方針がある程度決まり,患者説明に役立つ.はじめに網膜芽細胞腫は15,000出生に1名の割合で発症する眼球内悪性腫瘍であり,人種差,性差はない.わが国では1975年から全国登録が行われており,現在年間70~80名が登録されている.腫瘍が眼球外浸潤を伴わない場合の遠隔転移はまれであり,生命予後は良好である.一方で眼球外浸潤を生じた場合には眼球摘出は必須であり,全身化学療法,放射線治療など集学的治療が必要であるが,予後は不良である.全国登録の集計では,眼球摘出群では5年生存率96.8%,10年生存率94.7%,眼球温存群では92.7%と87.3%であり,いずれも有意差を生じた1).ただし,症例集積報告であり,両眼性症例ほど眼球温存治療を行うこと,両眼性症例は遺伝的背景があり二次癌(用語解説参照)を生じやすいことなどのバイアスを考慮する必要がある.生命予後を悪化させない範囲の治療により眼球温存が可能であれば行うべきであり,有効な視機能が期待される場合には積極的な眼球温存治療が望まれる.I病期分類古くから,Reese-Ellsworth分類が用いられてきた.これは放射線治療主体であった頃の分類であり,現在の治療にはそぐわない点が多いため,現在はおもに国際分類2)(表1)が用いられる.TNM分類3)(表2)が2010年に改定されたが,眼科領域ではあまり使われていないのが現状である.腫瘍の大きさ,位置,網膜?離および播(15)1383*ShigenobuSuzuki:国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科〔別刷請求先〕鈴木茂伸:〒104-0045東京都中央区築地5-1-1国立がん研究センター中央病院眼腫瘍科特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1383?1387,2011網膜芽細胞腫の眼球温存療法と予後IntraocularRetinoblastomaManagementandOcularPrognosis鈴木茂伸*表1眼球内網膜芽細胞腫の国際分類2)(概略)A:3mm以下で黄斑・視神経乳頭から離れた網膜腫瘍B:3mm以上もしくは黄斑・視神経近傍の網膜腫瘍C:限局性播種(硝子体・網膜下)D:びまん性播種(硝子体・網膜下)E:緑内障など合併症を有する眼球表2TNM分類(第7版3),T分類,抜粋)T1:腫瘍は眼球体積の2/3を越えず,硝子体および網膜下播種を伴わないT1a:3mm以下の腫瘍で視神経乳頭と中心窩から1.5mm以上離れているT1b:3mm以上もしくは視神経乳頭と中心窩から1.5mm以内に腫瘍があり,網膜下液は腫瘍縁から5mm以内T1c:3mm以上もしくは視神経乳頭と中心窩から1.5mm以内に腫瘍があり,網膜下液が腫瘍縁から5mm以上T2:腫瘍は眼球体積の2/3を越えず,硝子体もしくは網膜下播種を伴うT2a:限局した硝子体もしくは網膜下の播種で,微細な腫瘍塊T2b:多量の硝子体もしくは網膜下播種で“雪玉様”の腫瘍塊T3:眼球内の重症例T3a:眼球の2/3以上を満たす腫瘍T3b:緑内障,前房浸潤,前房出血,硝子体出血,眼窩蜂窩織炎の1個以上を有する眼球T4:眼球外腫瘍1384あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(16)が可能である.冷凍凝固のほうがやや厚い腫瘍,表面の毛羽立った腫瘍には有用であるが,出血や播種などの合併症頻度が高く,極力レーザーで治療を行っている.2.眼球内進行例(国際分類:B~D(E)群,TNM分類:T1b~T3a)多くの場合,初期全身化学療法による腫瘍縮小(chemoreduction)と,局所治療による地固めを行う.初期全身化学療法は,ビンクリスチン(V),エトポシド(E),カルボプラチン(C)の2~3剤を併用し,2~6コース行う.この薬剤,組み合わせ,コース数には比較試験などが行われていないため,治療の最適化はなされていない.当院ではVEC3剤併用療法7)(表3)を,腫瘍の縮小を見ながら2~6コース行うようにしている.VEC3剤併用治療は,R-E分類I~III群で85~100%,IV~V群で36~50%の眼球温存率が報告されている7~9).全身化学療法により腫瘍の縮小,網膜?離の吸収がみられるが,化学療法単独で治癒に至るのは10%程度であり,多くの場合追加治療を必要とする.ダイオードレーザーによる温熱療法,冷凍凝固に加え,小線源治療,選択的眼動脈注入,硝子体注入などを組み合わせて行う.当院では,全身化学療法の目的を腫瘍縮小と位置づけ,その縮小は初期2~3コースが良好であるため,全身の負担を減らす目的で全身化学療法を2~4コースにとどめ,引き続き眼動脈注入を行うようにしている.選択的眼動脈注入は,鼠径動脈からアプローチして眼動脈へ選択的に抗癌剤を投与する方法であり(図1),20年以上の治療経験がある10).メルファランを5~7.5mg/m2投与するが,脳血管障害,敗血症など重篤な有害事象は生じておらず,術中透視による二次癌の増加もない.一部症例では初期治療として行っており,国際分類B群では90%の眼球を温存できている10).海外からII治療概論眼球に対する治療は,眼球摘出か眼球温存治療を選択することになる.眼球温存治療は,腫瘍の位置,進行度により,眼球局所治療(レーザー・冷凍凝固),放射線治療(外照射・小線源治療),化学療法(全身・局所)を適宜組み合わせて行うことが多い.眼球温存率は病期により異なるが,国際分類やTNM分類である程度予測することが可能である.一方で治療関連有害事象についてはいまだ不明な点が多い.本疾患は乳幼児に生じるため,放射線治療による正常組織の感受性が高く,さらに遺伝性症例(両眼性・家族性)の場合には,体細胞にもRB1遺伝子変異が存在するため二次癌(用語解説参照)を生じる危険性が高い.化学療法に関連する晩期障害は,白血病や聴力障害の危険性が認識されているが,二次癌や生殖機能に対する影響はいまだ不明である.この点も考慮した治療方針の決定が重要である.III治療各論1.眼球内非進行例(国際分類:A群,TNM分類:T1a)眼球局所治療(レーザー・冷凍凝固)の単独治療を行う.この段階で発見されることはまれであるが,両眼性症例の非進行眼,家族歴があり出生時眼底検査で発見された場合などが該当する.多発腫瘍で新たに見つかった小さな腫瘍も同様に治療する.現在では,ダイオードレーザーによる直接照射が一般的である.症例集積研究として,Shieldsら4)は188腫瘍(腫瘍基底平均3.0mm,腫瘍厚平均2.0mm)にレーザー治療を行い完全寛解が85.6%,Abramsonら5)は91腫瘍(腫瘍基底平均0.67乳頭径)にレーザー治療を行い完全寛解が92%と報告している.一般的なアルゴンや色素レーザーで,腫瘍周囲および流入血管の凝固を行うこともあるが,治療効果はダイオードレーザーが勝る.冷凍凝固について,Abramsonら6)は138腫瘍に冷凍凝固を行い治癒が70%で重篤な局所合併症は生じなかったと報告している.周辺部腫瘍であっても,強膜圧迫によりレーザー治療表3VEC3剤併用全身化学療法─3剤の化学療法を,3~4週間隔で2~6回くり返す─投与量(36カ月以下の投与量)Day0Day1ビンクリスチン1.5mg/m2(0.05mg/kg)×エトポシド150mg/m2(5mg/kg)××カルボプラチン560mg/m2(18.6mg/kg)×(17)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111385線)が用いられている.国内では当院のみで行われ,106Ruを使用している(図2).106Ruを銀でコーティングした金属板を,腫瘍部の強膜面に一時的に(通常1~3日間)縫着する.Schuelerら13)は106Ruを用いて175腫瘍(平均腫瘍厚3.7mm,腫瘍基底5.0乳頭径)を治療し,局所制御率は94.4%,眼球温存率は86.5%と報告している.b線源であり,距離による減衰が大きいため,骨障害や二次癌の増加は生じないと考えられている.本来は限局した腫瘍がよい適応であるが,びまん性に生じたも複数の報告がなされており11,12),初期治療として用いる戦略が注目されている.硝子体注入は,メルファラン8~16μgを直接硝子体腔へ注射する治療法であり,硝子体播種に対して行う.手技は他疾患に対する硝子体注入と同じであるが,眼球外播種の危険性を減らすため,32ゲージ針を使用している.硝子体播種のみの場合,局所制御率は経験上60~80%程度である.小線源治療は,核種として主に125I(g線)と106Ru(b眼球眼動脈眼動脈Willis動脈輪バルーンカテーテルカテーテルサイフォン部内頸動脈図1選択的眼動脈注入内頸動脈遠位をバルーンカテーテルで一時閉塞することで,眼動脈へ抗癌剤を投与する.血管分枝では眼動脈が最も太く,大部分が眼動脈に流れる.Willis動脈輪を通して脳血流は保たれる.小線源腫瘍20Gy40Gy60Gy図2小線源治療眼球壁に合わせた曲面をもち,大きさ,形状の異なる線源から選択して使用する.強膜に縫着固定するための穴がついている.1386あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(18)せなどが研究されている14).4.眼球外浸潤を有する場合(TNM分類:T4)ただちに眼球摘出を行い病理を確認する.小児科医の協力のもと強化化学療法,放射線外照射などを検討するが,エビデンスは乏しい.5.両眼性の場合の考え方本疾患の約4割が両眼性である.上に述べたように病期ごとに治療を決められればよいが,現実には単純に決められない場合も多い.片眼がE群,他眼がE群以外の場合,標準的な考え方ではE群の眼球を摘出して,他眼の温存治療を行う.しかしながら,他眼(非進行眼)の治療目的に全身化学療法を行うのであれば,E群の眼球もその反応をみてから眼球摘出の適応を考えることも可能である.化学療法後,視神経乳頭が確認できるようであれば温存治療の継続は可能であり,一方で腫瘍が縮小しても視神経乳頭が確認できなければ,視神経浸潤を生じる危険性が高いため眼球摘出が妥当と判断する.進行眼ほど化学療法反応性がよいため,結果としてE群の眼球が温存,非進行群であった他眼を摘出せざるをえないことも経験される.両眼とも,全身化学療法を行わないで温存可能な場合もある.ここで注意すべき点として,Shieldsらは全身化学療法を開始してから三側性網膜芽細胞腫(trilateralretinoblastoma:TRB)(用語解説参照)の頻度が低下していることを報告している.続報はなく,他施設からの報告もないため,現時点でのエビデンスレベルは低い.単純に放射線治療を回避することでTRBの頻度が低下しているだけなのか,本当に化学療法によってTRBの発症が予防されているのであろうか.もし予防効果があるのであれば,TRBは致死的疾患であるため,両側性の場合は全身化学療法を行うべきという結論に至る.この点が解明されるまで,両眼性の場合は全身化学療法を併用することが安全かもしれないと考えている.6.眼球摘出の判断眼球摘出の目的は,腫瘍の眼球外浸潤・遠隔転移の予播種に対しても,一定の範囲内であれば有効であり,初期治療後の再発に対しても行われる.硝子体腔を満たすほどの水晶体に達する腫瘍であっても合併症を有しない場合(国際分類E,TNM分類T3a)は,温存治療の適応と考えている.虹彩新生血管を伴う場合も,化学療法により腫瘍が縮小すると消退することも多く,摘出の絶対条件ではない.3.合併症を有する場合(国際分類:E群,TNM分類T3b)眼球摘出が安全であるが,上記1.に準じて温存治療を行う場合もある.温存成功率は10~30%と低く,腫瘍のコントロールができても増殖網膜症,緑内障,眼球癆など眼球自体が耐えられない場合も少なくない.複数回の全身麻酔,長期間にわたる治療,期待される視機能などを説明したうえで,希望のある場合のみ温存治療を行う.このような眼球に対して,海外では眼動脈注入を検討したり,全身化学療法と低線量の放射線の組み合わ図3眼球内進行例の治療(3カ月,女児)初診時(a)右眼は水晶体に達する巨大腫瘍(E群),左眼は後極に多発腫瘍を認める(B群).全身化学療法と眼動脈注入を行い,右眼は乳頭から離れた石灰化(b),左眼は黄斑を回避した石灰化(c)を残すが,3年間再発はない.abc(19)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111387radiotherapyorenucleation.AmJOphthalmol133:657-664,20028)GunduzK,GunalpI,YalcindagNetal:Causesofchemoreductionfailureinretinoblastomaandanalysisofassociatedfactorsleadingtoeventualtreatmentwithexternalbeamradiotherapyandenucleation.Ophthalmology111:1917-1924,20049)FriedmanDL,HimelsteinBP,ShieldsCLetal:Chemoreductionandlocalophthalmictherapyforintraocularretinoblastoma.JClinOncol18:12-17,200010)SuzukiS,YamaneT,MohriMetal:Selectiveophthalmicarterialinjectiontherapyforintraocularretinoblastoma:Thelong-timeprognosis.Ophthalmology,2011,Epubaheadofprint11)GobinYP,DunkelIJ,MarrBPetal:Intra-arterialchemotherapyforthemanagementofretinoblastoma:Fouryearexperience.ArchOphthalmol,2011,Epubaheadofprint12)ShieldsCL,BianciottoCG,JabbourPetal:Intra-arterialchemotherapyforretinoblastoma.ReportNo.1,controlofretinaltumors,subretinalseeds,andvitreousseeds.ArchOphthalmol,2011,Epubaheadofprint13)SchuelerAO,FluhsD,AnastassiouGetal:Beta-raybrachytherapywith106Ruplaquesforretinoblastoma.IntJRadiatOncolBiolPhys65:1212-1221,200614)ShieldsCL,RamasubramanianA,ThangappanAetal:ChemoreductionforgroupEretinoblastoma:comparisonofchemoreductionaloneversuschemoreductionpluslowdoseexternalradiotherapyin76eyes.Ophthalmology116:544-551,200915)ShieldsCL,MeadowsAT,ShieldsJAetal:Chemoreductionforretinoblastomamaypreventintracranialneuroblasticmalignancy(trilateralretinoblastoma).ArchOphthalmol119:1269-1272,2001防と,合併症による疼痛除去目的の場合がある.遠隔転移の危険因子は篩状板を越える視神経浸潤,脈絡膜浸潤,強膜浸潤,前房浸潤などがあるが,大部分は視神経浸潤である.治療を行っても腫瘍が視神経乳頭を覆った状態,中間透光体の混濁で眼底の観察が困難な場合には,原則として眼球摘出を勧めている.摘出に同意が得られない場合,画像検査〔超音波,MRI(磁気共鳴画像)など〕で経過をみる場合もあるが,画像検査では判断できない視神経浸潤であっても転移の危険因子であり,生命の危険を回避できないことを強く説明するようにしている.逆に,そのような状態でなければ,眼球内で播種をしていても転移の危険因子ではなく,希望に基づき温存治療を継続するようにしている.IV眼球予後最終的な眼球温存率は,初期化学療法と,局所治療,局所化学療法を組み合わせた治療法により,国際分類A群で100%,B群で90%,C群で70~80%,D群で50%,E群で10~20%である10).視力は,腫瘍が黄斑部にあれば当然不良であるが,黄斑部が回避されている場合には約半数で有効な視力を維持できている10).文献1)TheCommitteefortheNationalRegistryofRetinoblastoma:SurvivalrateandriskfactorsforpatientswithretinoblastomainJapan.JpnJOphthalmol36:121-131,19922)ShieldsCL,MashayekhiA,AuAKetal:TheInternationalClassificationofRetinoblastomapredictschemoreductionsuccess.Ophthalmology113:2276-2280,20063)SobinL,GospodarowiczM,WittekindC(eds):UICC:TNMclassificationofmalignanttumors.7thedition,p291-297,Wiley-Blackwell,NewYork,20094)ShieldsCL,SantosMC,DinizWetal:Thermotherapyforretinoblastoma.ArchOphthalmol117:885-893,19995)AbramsonDH,ScheflerAC:Transpupillarythermotherapyasinitialtreatmentforsmallintraocularretinoblastoma.Techniqueandpredictorsofsuccess.Ophthalmology111:984-991,20046)AbramsonDH,EllsworthRM,RozakisGW:Cryotherapyforretinoblastoma.ArchOphthalmol100:1253-1256,19827)ShieldsCL,HonavarSG,MeadowsATetal:Chemoreductionplusfocaltherapyforretinoblastoma:Factorspredictiveofneedfortreatmentwithexternalbeam■用語解説■三側性網膜芽細胞腫:松果体など大脳正中部に網膜芽細胞腫と類似した組織型の神経外胚葉腫瘍が生じることがある.両眼性症例に多いことから,両側(両眼)に加えて第3の目に生じるという意味で,三側性とよばれる.これまで100例あまりの報告があるが,長期生存例はほとんどない致死的疾患である.二次癌:元々の腫瘍の転移ではなく,組織型の異なる別の腫瘍を生じることがあり,二次癌とよぶ.遺伝性網膜芽細胞腫では二次癌の頻度が高いことが報告されている.通常の癌ではなく肉腫の頻度が高く,治療後数年以上経過してから生じてくる.放射線照射により危険率が約3倍に増加すると報告されている.