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インターネットの眼科応用 最終回 医療のIT化で可能になること(6)-教育への応用-

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012710910-1810/12/\100/頁/JCOPY教育心理学の観点から本シリーズでは毎号インターネットの眼科応用について紹介してきましたが,今回で最終章となります.ぜひ,最後までお付き合いください.インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.前章までに,医療知識・医療情報がインターネット上で共有される事例を数多く紹介してきました.本章では,インターネットの教育ツールとしての可能性とその限界について紹介します.教育業界においては古くよりインターネットを含むメディアの影響について研究されてきました.しかし実験モデルが作りにくく,データが豊富なわけではありません.メディアをもっと活用すべし,という意見もあれば慎重な反対論もあります.安藤玲子らによると,情報系専門学校の男子生徒を対象としてインターネット使用が社会性に及ぼす影響を検討しています.この研究では,インターネットのさまざまなアプリケーションのなかで,電子メールとネットワークゲームの利用が社会的スキルを高めることが示されています1).一方,文部科学省の資料によると,現在のわが国における小学校高学年の時期における子育ての課題としては,インターネットなどを通じた擬似的・間接的な体験が増加する反面,人やもの,自然に直接触れるという体験活動の機会の減少があげられています2).視覚障害教育の専門家の氏間和仁(広島大学教育学部)は,発達心理学の観点からすると教育の初期段階はデジタルに依存してはいけない,と説きます.たとえば,視覚障害者の児童教育において,画像で見るリンゴよりも実物のリンゴのほうが重要であって,教科書にしても重量感やページをめくる際の質感を先に体験すべきで,電子教科書は早くても高校生から使用すべきである,と説きます.この教育業界の議論を眼科医の手術教育に置き換えることができます.モニターや介助者として多くの手術を見た眼科修練医は,目が肥えて他人の手術を評価できるようになります.他人の手術は評価できるけど,自分の手は思うようには動かない,という時期が必ずあります.このときに必要な教育ツールはインターネットではありません.直接的な経験で直感を養うことが重要です.教育業界がインターネットをどう捉えているか,興味深い考察があります.吉見俊哉や水越伸は,現在の子どもが有している想像力,身体感覚,共同性を前提としたメディア・リテラシー教育を提唱しており,単に情報メディア機器の使い方を学ぶだけでなく,メディアを媒介として成立する世界のあり方を自覚し,能動的に再編していく方法を身につける必要性を主張しています.技術が使い方を規定するのではなく,人が技術の使い方を規定すると捉え,メディアへ能動的にかかわっていくメディア・リテラシーの必要性を主張しています3,4).医療教育におけるインターネットのかかわりについて考えると,示唆に富む見解です.メディア・リテラシーとはインターネットに限っていえば,インターネットで情報収集をしましょう,インターネットに情報発信をしましょう,インターネットで建設的な情報交流をしましょう,という3つの行動を指します.Medical2.0という考え方インターネットの医療教育への限界を教育心理学の観点から説明しました.初期教育にはインターネットは不向きです.ですが,中級者以上の教育にはインターネットは大きな力をもちます.医療教育を3つのパターンに分類します.一つ目は,情報の流れが師匠から弟子へ直(71)インターネットの眼科応用最終章医療のIT化で可能になること⑥─教育への応用─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ72あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012接伝わるOnetoOne形式.これは従来の徒弟制度です.二つ目は,教科書,講演,手術動画のインターネット配信によって伝えられるOnetoMass形式.インターネットの通信技術の向上に伴い格段に情報量が増え,動画が容易に閲覧できるようになり,医療教育に用いられるようになりました.三つ目が多くの参加者によってインターネット上に情報が蓄積されるMasstoMass方式.交流サイトもしくはソーシャルメディアとよばれます.言い換えれば,インターネットを使った大きなキャンパスに,多数の医師が教科書を共同執筆します.彼らは執筆者であり同時に読者にもなります.このMasstoMassの医療教育は果てしない可能性をもちます.私は,インターネット上の医療情報が医師からの情報発信によって更新され続ける世界を,Medical2.0と定義しました5).一人の医師が,医療動画を見て何かのコツを得て,実際の臨床の現場で患者に還元することができれば,インターネットは医療水準の向上に寄与したことになります.情報の流れは,DatabaseからBedsideへ伝わって,デジタルな情報がアナログな医療行為に変換されます.この流れは,従来は専門書・教科書が果たしていた役割を,インターネットが代替できることを意味します.加えて,インターネットは,専門書・教科書にない,その先の力をもちます.われわれ医療者が,臨床現場で得られた医療情報をインターネットに再び投稿することで,医療情報がBedsideからDatabaseへ還元されます.アナログな情報が,デジタルな情報に再び置換されます.このように,DatabaseとBedsideを往復し,新しく更新された医療情報が,世界の誰かの医療を動かします.この繰り返しによって,インターネットの医療情報は常に更新され続け,世界全体の医療水準は向上し続けます.この双方向性と可塑性は,専門書にはない力です.インターネットの潮流とわれわれ眼科医の緩やかな意識の変容を統合しますと,Medical2.0を具現化したサイトの情報量が増し,専門書に並ぶ価値をもつでしょう.Medical2.0の世界では,価値をもつのは,ハードウェアでもなくソフトウェアでもなく,ユーザーである参加する医師です.“Peopleware”がキーワードとなります.医師が,インターネットに向けて医療情報を発信することの社会的価値はきわめて大きく,積もり積もれば,世界の誰かの医療を動かして,患者の喜びとなります.医療情報の巨大なデータベースを世界の医療人が創(72)造し,シェアできる環境というのは,非常に魅力的ではないでしょうか.インターネットで知的交流を行うのは時代の流れです.医療の世界でも,大学や病院,学会といった組織からの情報発信だけでなく,医師個人が情報を発信し,意見を投稿し,集合知を創るのが次の10年に起こる流れです.国民皆保険制度が全国の市町村で始まったのが1961年です.それから50年が経ち,医療崩壊・医療費の増大という局面のなか,各方面で制度の改革が叫ばれるようになりました.ただ,この国民皆保険制度によって,それまで自費診療を受けていた自営業者やその従業員が「誰でも」「どこでも」「いつでも」保険医療を受けられるようになりました.画期的な出来事です.皆保険制度の開設当時,その光のなかで現在の苦境を予想することは不可能です.クラウドコンピューティングを応用した電子カルテや自動診断ソフトなどのIT技術がこれらの難題を解決する可能性をもつことを紹介してきました.これから半世紀先,医療環境がどのように変化するかを予測するのは非常に困難です.医療制度は変わります.手術方法も変わります.診断基準も変わります.医師と患者の気質も変わります.国境を越えて診療することも日常になります.ただ,われわれが医療者として,自己研鑽を積む教育は変わらず重要です.インターネットを含めたメディアを活用し,医療者自身の手でメディアを育てることが,次の10年,20年の医療教育の新しい柱になるでしょう.【追記】3年間にわたる連載にお付き合いいただきました読者の皆さんと,執筆の機会をくださいました編集委員の先生方に御礼申し上げます.特に木下茂先生には最後の1年間を続けるモチベーションをいただきました.この場を借りて御礼申し上げます.ありがとうございました.文献1)http://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/13/1/21/_pdf/-char/ja/2)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/053/gaiyou/attach/1286156.htm3)吉見俊哉:メディア環境のなかの子ども文化.共生する社会,p1-34,東京大学出版会,19954)水越伸:遊具としてのメディア.新版デジタル・メディア社会,p52-89,岩波書店,20025)武蔵国弘:インターネットの眼科応用第24章Medical2.0①.あたらしい眼科28:91-92,2011

硝子体手術のワンポイントアドバイス 104.駆逐性出血に対する硝子体手術(中級編)

2012年1月31日 火曜日

(69)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012690910-1810/12/\100/頁/JCOPYはじめに駆逐性出血は内眼手術における最も重篤な合併症の一つであり,大きな強角膜創を作製するかつての水晶体?外(あるいは?内)摘出術や全層角膜移植の術中に発症すると,即失明につながることもあった.近年では自己閉鎖創による小切開白内障手術が主流なので,たとえ本症が発症しても失明に至ることは稀になったが,術中発症が皆無になったわけではない.また,緑内障濾過手術などの低眼圧に起因するdelayedexpulsivehemorrhageはいまだにときどき遭遇する合併症である.●駆逐性出血の診断と処置内眼手術の術中に駆逐性出血が生じると眼圧が急激に上昇し,強角膜創から硝子体が脱出する.このときにはまず強角膜創を閉じて,眼底を観察する.通常は出血性脈絡膜?離が観察される.ゴルフ刃で強膜に切開を加え,脈絡膜上腔出血を排除しようとしても,急性期では出血はたいてい凝血しており排出が困難である.このような場合には一旦手術を終えて,脈絡膜上腔出血が溶血するのを待ったうえで,硝子体手術を施行する必要がある.術翌日には超音波Bモード検査で出血性脈絡膜?離の有無を確認する(図1).Delayedexpulsivehemorrhageでも,超音波Bモード検査が診断に有用である.●駆逐性出血に対する硝子体手術教科書的には溶血に要する期間は約2週間とされているが,筆者の経験では1週間で溶血していることが多い.硝子体手術の際には,インフュージョンカニューレは出血性脈絡膜?離のため硝子体腔内に先端を出すことは困難なので,まずは27ゲージ針で硝子体腔内に人工房水注入をくり返しながら,強膜創から可能なかぎり出血を排除する(図2).インフュージョンカニューレ設置後は先端が硝子体腔内に出ていることを確認のうえ灌流を開始する.毛様体上皮が先端を覆っている場合には,強膜創から硝子体カッター(あるいは眼内照明)を挿入し,しごくようにして先端を硝子体腔に出す.その後は通常の方法で硝子体切除を行う.駆逐性出血では多くの症例で硝子体出血も併発しており,出血性脈絡膜?離の存在していた部位には網膜皺襞や脈絡膜皺襞が残存していることが多い(図3).周辺部まで硝子体を十分に切除したうえで,手術を終了する.硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載104104駆逐性出血に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科←図2硝子体手術の術中所見(1)強膜創から溶血した赤褐色の脈絡膜上腔出血を排除する.→図3硝子体手術の術中所見(2)出血性脈絡膜?離が存在していた部位には網膜皺襞や脈絡膜皺襞が残存していることが多い.図1駆逐性出血の超音波Bモード所見胞状の出血性脈絡膜?離を認める.

眼科医のための先端医療 133.遺伝子(ゲノム)研究は加齢黄斑変性医療の未来を変えるか?

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012650910-1810/12/\100/頁/JCOPYはじめに現在,医学会ではヒトゲノム計画の是非についての議論が活発化しています.巨額の投資をかけたヒトゲノム計画が実際は医学的な成果をほとんど上げていないとの批判があるためです.そもそもこの計画は糖尿病や高血圧などのありふれた疾患には共通する遺伝子変異が存在するというcommondisease-commonvariant仮説からスタートしたものでしたが,実際にはそのような決定的な変異(あるいはその組み合わせ)はほとんどみつかっていません.そのような議論のなかでも加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)における遺伝子研究の成果はゲノム研究の最大の成功例として捉えられています.確かにAMDに関連する遺伝子変異では一塩基の変化における疾患に対するオッズ比や寄与度がその他の疾患に比べて群を抜いています.一方,眼科を含めた医学会ではゲノム計画で得られた遺伝情報を用いた個別化医療の展開がますます期待されています.今後のゲノム研究およびゲノム応用医療のためにAMDの遺伝子研究はどのような役割を果たすことができるのでしょうか?AMDの感受性遺伝子複数の症例-対照間ゲノムワイド解析の結果,AMDとの関連がほぼ間違いない遺伝子としては炎症カスケードの代替経路における液性調節因子である補体H因子(complimentfactorH:CFH)や細胞内のエネルギー代謝や細胞外マトリックスの調整および炎症に関与している可能性のあるage-relatedmaculopathysusceptibility2(ARMS2)およびhigh-temperaturerequirementfactorA1(HTRA1),あるいはその周辺の領域があげられます.これらは日本人を含め,今までに検証されたすべての人種でAMDとの関連が証明されており1),またその後のさまざまな基礎実験によっても病態への関与が確認されています.つまり,AMD患者ではCFHの働きが弱まり,網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)基底膜における慢性炎症が亢進した状態にあると考えられ,一方ではHTRA1の発現が増加することで炎症の亢進とともにマトリックス分解による細胞間接着の低下を招き,病巣の拡大をひき起こすメカニズムが考えられています.実際にHTRA1を過剰に発現させたマウスではAMDの一型と考えられているポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)の眼底所見が発現しました2).このような分子が発見されたことは眼科領域のみならず人類のゲノム研究における最大の成功でした.AMDゲノム研究はこれで終わったのか?それでは前述の2,3の遺伝子でAMDの病態がすべて説明できるのでしょうか?答えは否です.おそらくAMDほど人種間の多様性が大きい疾患も珍しいのではないかと思われますが,それをこれらの遺伝子と環境要因だけで説明するのは到底不可能です.この人種間の多様性はAMDのサブタイプ(狭義AMD,PCV,網膜血管腫状増殖:RAP,萎縮性AMDなど)の人種による分布の違いにも関係すると思われますが,これらのAMDサブタイプに特異的な感受性遺伝子が存在することも考えられています.たとえば,Bruch膜や脈絡膜血管の強度にかかわると思われるエラスチンのイントロン遺伝子多型において狭義AMDとPCV間で関連性が有意に異なることが複数報告されています3,4).また自験例では,黄斑に多く存在し,酸化LDL(低比重リポ蛋白)など脂質酸化に関与するCD36の遺伝子多型において狭義AMDとPCV間で関連性が有意に異なることも明らかになり(論文投稿中),これは最近になってCD36遺伝子欠損マウスにおけるドルーゼンの蓄積とAMD病態への関与が報告されています5).これからのゲノム研究が向かうべき道これまで行われてきた全ゲノム相関研究(GWAS)は共通変異仮説に基づいて展開されましたが,何十?何百万という一塩基多型(SNP)を調べた結果,見つかったのはほんのわずかな,しかも疾患寄与度の弱いものばかりでした.これは今までの仮説や研究手法に問題があった可能性を示唆しています.つまり頻度の高いSNPに(65)◆シリーズ第133回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊遺伝子(ゲノム)研究は加齢黄斑変性医療の未来を変えるか?本田茂(神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野)66あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012は生物学的なインパクトは少なく,本当はもっと稀な変異に目を向けるべきだということかも知れません.また,最近では蛋白質をコードしない遺伝子や遺伝子の修飾因子にも注目する必要があるとされています.確かに頻度の高い変異は疾患への寄与度が少なく,稀な変異のなかに疾患と強く結びつくものがあるという理論には一理あります.ただし,それは疾患が単一分子(蛋白質など)の異常で起こる場合の話で,疾患を一つのカスケードとして捉えた場合には,たとえ一つの分子による影響は小さくても複数の分子の異常が重なった場合には全体として疾患にかかわる生物学的機能の障害をひき起こす可能性もあるのではないでしょうか?したがって,次世代シーケンサーによってすべての疾患-対照者の全塩基配列決定を行うのもよいでしょうが,もっと先人達が残してくれた生化学的な知識をもとに幾つかの標的分子を選定し,それらを詳細に調べること,そしてその結果を一つひとつ生化学的な検証で確認していくほうが確実にゴールに近づくようにも思います.前述のエラスチン遺伝子,CD36遺伝子もそのようなアプローチからみつかったものです.未来のAMD治療について病態解明における遺伝子研究は前述のように大きな転換期を迎えているといえますが,一方で臨床における遺伝子研究の役割にはまた別の考え方があると思われます.たとえ病態解明と直結しないSNPのデータでも仮にある治療法の効果と高い相関を示すような場合には,それは大変貴重な情報となります.最近の報告ではAMDの感受性遺伝子は疾患へのかかりやすさ以外に光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)や抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体の硝子体内注入療法(抗VEGF療法)などの治療に対する感受性にも関連しているとされています.たとえば,日本人を対象にした研究ではARMS2/HTRA1における特定のSNPとPDTの効果には強い相関が認められます(図1)6).また,補体H因子における特定のSNPがPDTおよび抗VEGF療法の効果に対して相反する関連をもつことが明らかになり7,8),これは治療選択において遺伝情報が重要な要素になることを示唆しています.現在わが国ではAMDに対する抗VEGF療法の効果に関連するSNPを網羅的に探索するため,全国レベルの多施設研究が進行中であり,将来的には治療方針の決定における遺伝情報の応用gene-basedmedicine(遺伝情報に基づいた個別化医療)が患者のbenefit/riskを高めることが可能になるかも知れません.また一方で,疾患ゲノム研究の成果を生かして補体系などを直接の標的にしたAMD治療法も試みられており,今後の展開に期待が寄せられています.文献1)KondoN,HondaS,IshibashiKetal:LOC387715/HTRA1variantsinpolypoidalchoroidalvasculopathyandage-relatedmaculardegenerationinajapanesepopulation.AmJOphthalmol144:608-612,20072)JonesA,KumarS,ZhangNetal:Increasedexpressionofmultifunctionalserineprotease,HTRA1,inretinalpigmentepitheliuminducespolypoidalchoroidalvasculopathyinmice.ProcNatlAcadSciUSA108:14578-14583,20113)KondoN,HondaS,IshibashiKetal:Elastingenepolymorphismsinneovascularage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthalmolVisSci49:1101-1105,20084)YamashiroK,MoriK,NakataIetal:Associationofelastingenepolymorphismtoage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthalmolVisSci52:8780-8784,20115)PicardE,HoussierM,BujoldKetal:CD36playsanimportantroleintheclearanceofoxLDLandassociatedage-dependentsub-retinaldeposits.Aging(AlbanyNY)2:981-989,20106)BesshoH,HondaS,KondoNetal:TheassociationofARMS2polymorphismswithphenotypeintypicalneovascularage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.MolVis17:977-982,20117)BesshoH,HondaS,KondoNetal:PositiveassociationofcomplementfactorHgenevariantswiththeeffectofphotodynamictherapyinpolypoidalchoroidalvasculopathy.J(66)治療前矯正視力LogMARの変化3カ月6カ月12カ月:GG:GT:TT-0.3-0.25-0.2-0.15-0.1-0.0500.050.10.150.20.25図1ARMS2遺伝子多型による光線力学的療法(PDT)後の視力変化ARMS2遺伝子の一塩基多型rs10490924における遺伝子型がGGの患者はPDT後に平均視力が上昇し,一方TTの患者は平均視力が低下する.GTの患者の平均視力は横ばいとなる.(67)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201267intravitrealbevacizumabinexudativeage-relatedmaculardegeneration.ActaOphthalmol89:e344-349,2011ClinicExperimentOphthalmol2:122,20118)NischlerC,OberkoflerH,OrtnerCetal:ComplementfactorHY402Hgenepolymorphismandresponseto■「遺伝子(ゲノム)研究は加齢黄斑変性医療の未来を変えるか?」を読んで■今回は神戸大学の本田茂先生に加齢黄斑変性(AMD)の遺伝子多型と病態についてわかりやすく解説していただきました.むずかしい研究内容を本当に臨床医の視点からわかりやすく解説された本田先生の研究者としての力量に敬服します.れわれ眼科医にとって,遭遇することが多く,かつ難治の疾患であるAMDの有効で安全な治療にどのようにして到達するか?これから高齢化社会を迎える社会的なニーズにきわめて重要な役割を眼科医が期待されている分野です.これまでの治療戦略とまったく異なった考え方が要求されています.それがテーラーメイド医療です.予防医学的な見地からいうと,発症,進展のリスクの高い人をどのようにしてより分けるか?この場合,そのリスクをどのようにして回避するかが問題で,これは今後,解決していく必要があります.そして,どのようにして適切な治療(有効で安全な治療)を選択するか?今,われわれは光凝固による治療(PDT),抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬による治療などいろいろな治療法が開発された状態で眼科診療を行っていますが,単一の治療法ではAMDに対抗できません.効果の大きな治療法を患者のそれぞれで選択する必要があり,それがより精巧になることにより無駄な治療を行わないことで患者の負担を軽減することができます.本田先生の解説により,このような先端的な医学は眼科領域で大変進んでいることがわかりました.われわれ眼科医にとって大変心強いばかりです.今後の問題は,やはり,ゲノム医学の次のステップを目指すことと考えられます.ゲノム医学の成功と進歩により,個々の症例での遺伝子多型を詳細に検討することができるようになってきました.しかし,AMDのようにゆっくりと進行する疾患の病態の全体像を調べるためには,多くの正常人の老化のメカニズムについて解明していく必要があります.これにはまだまだ時間がかかりそうです.また,commondiseasesの一つであるAMDには遺伝子と環境因子の相互作用が関与している可能性もあります.情報を集積することはゲノム医学の方法の急速な進歩により可能になってきたことを本田先生は指摘しておられます.が,それを解析する方法論がとてもむずかしいと聞いたことがあります.膨大な遺伝子多型の情報〔たとえば,一塩基多型(SNP)のみだけで数万?数十万の情報がある一個人について収集可能です〕をどのように疾患と関連づけるか,さらにこれに環境因子がかかわってくるのです.今後の基礎的な研究方法論の発展が期待されます.山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ 204.老視用角膜インレー(AcuFocus ring)

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012630910-1810/12/\100/頁/JCOPY?手術方法インレーを単独で行うか,同時にLASIKを行い屈折異常を矯正した後にインレーを留置するかの2通りの方法がある.①インレーを単独で行う方法:フェムトセカンドレーザーにて角膜上皮側から220μmの場所にポケットを作製し,インレーを留置する.正視眼に対してはこの方法を選択する.いっけん簡単そうに思われるが,イン新しい治療と検査シリーズ(63)?バックグラウンド老視に対する手術的なアプローチにはさまざまな方法が考案されている.CK(conductivekeratoplasty),多焦点眼内レンズ,モノビジョンLASIK(laserinsitukeratomileusis)などである.Qualityofvisionの概念は,単に屈折異常を矯正するのみならず,加齢変化である老視をも克服する方向に広がっている.今後,活動的な高齢者が多くなる状況において,眼鏡を持たずに生活したいというニーズは多くなることが予想される.そうした状況において,老視に対しての手術的なオプションがあることは好ましいことであろう.?新しい治療法または検査法(原理)今回,紹介する老視用角膜インレー(AcuFocus社製KAMRAR,以下インレー)は,ピンホール効果を利用することにより,遠方と近方の視力をともに確保しようとするものであり,今までにはない斬新なアイデアである1).手術を行うためには,フェムトセカンドレーザーが必要であり,本法の導入に関しての最大の課題となっている.インレーの外観は外径は3.8mmで,中心の1.6mmが中空になっている.厚みは5μmと薄い.黒い着色部には約8,400個の微孔が空けられており,角膜実質内におけるグルコースなどの代謝を妨げないように考慮されている.インレーを挿入した症例の前眼部写真を図1に示す.原理は,ピンホール効果による焦点深度の延長である.入射光の径を絞ることにより,焦点付近での明視域を拡大しようとするものである.原理の簡単な模式図を図2に示す.204.老視用角膜インレー(AcuFocusring)プレゼンテーション:荒井宏幸みなとみらいアイクリニックコメント:根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科学教室図1インレー挿入眼の前眼部写真①②図2ピンホール効果による明視域の拡大の模式図通常の状態①に比べ,ピンホールによる焦点深度の延長により明視域が拡大している②.64あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012レー自体が非常に薄いため,ポケット内で周辺部が翻転しやすく,非常に繊細な操作が必要である.②同時にLASIKを行う方法:角膜フラップの厚みを200μmに設定し,型式どおりにLASIKを行う.インレーの準備をして,フラップを再度翻転し,瞳孔中心を見きわめて角膜ベット上にインレーを置きフラップを戻す.インレーの黒色部に隠れて瞳孔縁が確認できないため,正確に瞳孔中心に留置することが非常にむずかしい.必要に応じて位置を修正する.インレーは非優位眼に対してのみ行う.上記の2通りのどちらの方法にせよ,角膜の中間層に留置するため,角膜厚が十分になければならない.特にLASIKを同時に行う場合には,残存角膜ベット厚に対して慎重な計算を行わなければならない.ただ,老視矯正を希望する方は,遠視の割合が比較的多く,中心部をあまり切除しない照射パターンであることが多い.?本法の良い点この老視用インレーの特徴は,遠方視力を損なうことなく,近方視力を確保する点にある.目標とするのは,あくまでも日常生活において近用眼鏡を使用する頻度を低下させることであり,長時間のデスクワークや洋裁などの際には眼鏡が必要になる可能性がある.遠方視力は良いので,CKやモノビジョンLASIKよりも両眼での遠方視における違和感は少ない.ただし,瞳孔領にインレーを留置するため,グレアやハローを誘起する可能性はある.どうしても見え方に違和感が残る場合には,インレーを抜去することも可能であるところが利点の1つである.手術手技のむずかしさもあるが,この手術において最もむずかしいのは症例の選択である.術後にどのようなライフスタイルを希望されているかを,よく見きわめたうえで適応を判断しなければならない.多焦点眼内レンズでも同様であるが,「老眼の克服」という言葉には非常に魅力的なイメージがあり,希望者の期待度はときとして手術の最大限の効果を凌駕している.現時点では,完全に調節機能を回復させる手段がない以上,ある程度の効果までしか得られない旨を,術前に丁寧に説明しなければならない.筆者の印象としては,40歳代以上に対するLASIKや,眼内レンズ眼(単焦点)におけるtouchupの際などに,近方視力をある程度確保したい場合に,非常に有効な手段ではないかと考えている.最近では,術後2年程度の中期的な報告もされるようになっている2).しかし,今後の長期的な経過のなかで,角膜の状態とともに視機能の変化や脳の適応なども踏まえて慎重な観察が必要と思われる.文献1)YilmazOF,BayraktarS,AgcaAetal:Intracornealinlayforthesurgicalcorrectionofpresbyopia.JCataractRefractSurg34:1921-1927,20082)SeyeddainO,HohensinnM,RihaWetal:RefractivesurgicalcorrectionofpresbyopiawiththeAcuFocussmallaperturecornealinlay:two-yearfollow-up.JRefractSurg26:707-715,2010(64)ンレーの中央や外周に角膜実質に鉄沈着が起きるとの報告(DexlAKetal:JRefractSurg27:856-857,2011)やドライアイによる角膜障害など,術後合併症も報告されている.ピンホール効果を考えた場合に,挿入眼の術後屈折度数をどのくらいに設定するのが適当かについても議論の余地がある.現段階では発展途上の治療と考えられ,慎重な適応決定および経過観察が必要であると考えられる.最近,国内外の学会で老視用角膜インレーの臨床報告が行われている.両眼正視症例の非優位眼に挿入した32例の報告では,術後3年において裸眼で平均遠方視力が1.0以上,中間視力は0.63以上が91%,近方はJ3以上が97%と視力は良好であるが,一方で1段階以上の矯正視力の低下(9眼,28.3%),夜間視機能障害(15.6%)があるという(SeyeddainOetal:JCataractRefractSurg38:35-45,2011).また,イ?本方法に対するコメント?☆☆☆

緑内障:赤道部濾過型緑内障インプラント手術

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012610910-1810/12/\100/頁/JCOPY●緑内障インプラント手術の種類緑内障インプラント手術は,眼外への房水流出を増加させることを目的として,医療材料(glaucomadrainagedevice:GDD)を眼球に移植する手術の総称である.種々のGDDのなかで,アーメド緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve,NewWorldMedical社)やバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI,AbbottMedicalOptics社)などは,赤道部への房水濾過を目的としており,これまで最も精力的に臨床検討がなされてきたGDDである.赤道部濾過型GDDを用いた手術は,複数回の緑内障手術が無効であった症例や結膜瘢痕症例などのいわゆる難治性緑内障に対しても眼圧下降効果が期待される術式であるが,一方で,一定の手術成績を得るためには,本術式特有の合併症への予防・対処法や術中・術後管理についての知識が求められる.平成24年にはBGIを用いた手術の保険導入が予定されており,わが国における本格的な緑内障インプラント手術元年となる.●BGIによる緑内障インプラント手術BGIには,プレート面積(250mm2,350mm2)およびチューブ形状(前房挿入型,後房挿入型)が異なる3種類のモデルが用意されている(図1,表1).いずれも,眼内(前房あるいは毛様体扁平部)に挿入したチューブから眼球赤道部に留置した房水吸収部(プレート)に房水を誘導し,周囲組織に拡散・吸収させることで眼圧下降が図られる(図2).プレートおよびチューブは柔軟なシリコーン性で,チューブは外径0.63mm,内径0.30(61)●連載139緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也139.赤道部濾過型緑内障インプラント手術谷戸正樹島根大学医学部眼科赤道部濾過型緑内障インプラント手術では,眼内(前房あるいは毛様体扁平部)に挿入したチューブから眼球赤道部に留置したプレートに房水を誘導し,周囲組織に拡散・吸収させることで眼圧下降が図られる.本手術は,複数回の緑内障手術無効例や結膜瘢痕例など難治性緑内障に対しての効果が期待される.表1バルベルト緑内障インプラント(BGI)の種類モデルBG101-350BG102-350BG103-250プレート面積350mm2350mm2250mm2プレート長径32mm32mm22mmチューブ長32mm7mm(ホフマンエルボー付)32mm図1バルベルト緑内障インプラント(BGI)の外観左から,モデルBG101-350,BG102-350,BG103-250.BG102-350は後房挿入型,残りの2者は前房挿入型である.後房挿入型には,チューブ先端に毛様体扁平部挿入用のホフマンエルボーが装着されている.〔AbbottMedicalOptics社ホームページ(http://www.amo-inc.com/)より転載〕図2BGI(後房挿入型)を用いた緑内障手術の模式図房水は,毛様体扁平部に挿入されたチューブを通して,眼球赤道部に縫着されたプレート周囲に誘導され,拡散する.〔AbbottMedicalOptics社ホームページ(http://www.amo-inc.com/)より転載〕62あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012mmである.プレート本体は両端を2直筋下に通し,角膜輪部から10mm程度の位置に縫着する.BGIは調圧弁を有しないため,術後の低眼圧を回避するために,吸収糸によるチューブ結紮を行う(図3).前房にチューブ挿入を行う場合には,トラベクレクトミーに準じて半層強膜弁を作製し,輪部付近の強膜弁底で前房に挿入部位を作製する.毛様体扁平部にチューブ挿入を行う場合には,経毛様体扁平部硝子体手術により少なくともコアビトレクトミーおよびチューブ挿入部位の周辺硝子体を切除しておく.半層強膜弁は,チューブ屈曲部(ホフマンエルボー)を覆うことができるように6×6mm程度の大きさで作製し,輪部から4mm程度のフラップ下でチューブを挿入する(図4).●赤道部濾過型インプラント手術の成績と合併症米国で行われた大規模前向きスタディであるTubeVersusTrabeculectomy(TVT)Studyでは,212例のトラベクレクトミー不成功例あるいは白内障手術既往例を対象として,350mm2のプレート面積を有するBGIの前房挿入とマイトマイシンC併用トラベクレクトミー(62)の比較を行っている1).本報告では,術後3年経過した時点の眼圧がBGIで13.3mmHg,トラベクレクトミーで13.0mmHgと差がなく,一方で合併症の発生率はBGIで39%,トラベクレクトミーで60%と有意差を認めた.また,21mmHgを超えるか5mmHg以下の術後眼圧,緑内障再手術,光覚消失を死亡と定義した場合の死亡率はBGIで15.1%,トラベクレクトミーで30.7%と有意差を認めている.本手術に特徴的な合併症として,術後高眼圧期,チューブ露出,角膜内皮障害,複視,低眼圧などがある.角膜内皮障害については,毛様体扁平部へのチューブ挿入が前房挿入より安全性が高い可能性が指摘されている2).文献1)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:Three-yearfollow-upoftubeversustrabeculectomystudy.AmJOphthalmol148:670-684,20092)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:PreservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheAhmedglaucomavalve.JpnJOphthalmol,inpress☆☆☆図3BGIのプレート挿入風景上直筋下にプレートの一端を挿入した後,外直筋下にプレートのもう一端を挿入しようとしている.チューブは,術後の過剰濾過を予防するため吸収糸により結節されている.図4チューブ先端の確認風景半層強膜弁下で毛様体扁平部にチューブを挿入した後,圧迫によりチューブ先端(矢印)を確認している.

屈折矯正手術:フェムトセカンドレーザーによるフラップ作成時の注意点

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012590910-1810/12/\100/頁/JCOPY現在,屈折矯正手術や角膜移植術にフェムトセカンドレーザー(以下,FSlaser)の利用が広まりつつある.FSlaserのメリットとしてはマイクロケラトームに比べてより自由なパラメータ設定で安定したフラップ作製が可能なことである.図1は他院にてFSlaserでフラップ作製後にLASIK(laserinsitukeratomileusis)を行った症例である.度数の戻り(regression)に対して当院で再手術時にフラップを持ち上げた際の術中写真で,初回手術時に作製されたフラップ中心が大きくずれているのが見てとれる.この症例ほど大きくないにせよ,意図せずして中心ずれしたフラップが作製されてしまうことがある.近視LASIKであれば照射径がそれほど大きくないため大きな問題になることは少ないが,遠視,乱視やカスタム照射を行う際には,照射径が大きくなるためセンタリングの良いフラップを作製することがより大切となる.さらに,角膜移植では輪部に近いほど拒絶反応のリスクも上昇するため,意図したところに切開を作製することが長期予後にも影響することが考えられる.多症例の手術を行われている先生方にとっては経験的に当然のことであると思われるが,新しく導入された,もしくは導入予定の先生方では注意を怠るとこのような中心ずれのフラップを経験することになると思う.本稿では,当院採用のAMO社FSlaserであるイントラレースを用いたフラップ作製のセンタリングにおいて個人的に注意していることを下記に述べる.エキシマレーザーの照射中心は瞳孔中心,角膜頂点,LineofSight上,その他,議論のあるところである.当院では角膜頂点を中心に照射を行っているが,まだ世界的な趨勢としては瞳孔中心照射している先生方が多い.したがって,今回は前提として瞳孔中心にフラップ中心を合わせるものとする.しかし,これは角膜中心であっても下記に述べるマーキングを角膜頂点位置に行えば応用可能なテクニックである.図2aのような状態を顕微鏡下やモニター上で見た場合,黄星を中心にフラップを作製したくなるが,実は図(59)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載140監修=木下茂大橋裕一坪田一男140.フェムトセカンドレーザーによるフラップ作製時の注意点井手武南青山アイクリニックマイクロケラトームに比べて安定したフラップ作製ができるという強みをもつフェムトセカンドレーザーが屈折矯正手術や角膜移植で活躍の場を広めつつある.しかし,自身では正確なセンタリングをしたつもりでも大きく中心ずれしたフラップが作製されることがある.この中心ずれしたフラップを避けるための注意点を述べる.図1中心ずれを起こしたフラップ再手術時フラップを持ち上げると大きく中心ずれしたフラップが見て取れる.abc図2瞳孔中心見かけの瞳孔中心と実際の瞳孔中心は眼球の傾き具合によって変わる.黄色:見かけの瞳孔中心,赤色:実際の瞳孔中心に対応する角膜上の点.60あたらしい眼科Vol.29,No.1,20122bのように眼球が傾いた状態である場合には,本来の瞳孔中心上の角膜(赤星)とは異なる場所にフラップを作製することになる.このような事態を避けるためには,赤と黄色の星を一致させるように眼球を位置させることが重要になる(図2c).そのためには,(1)サクションリングを装着前に眼球位が適切な位置を保っているか確認.その状態でサクションリングを水平に装着する.(2)眼球とサクションリングが良い関係で装着されていても,実際の手術時にサクションリングを水平に維持していないと図2bと同じ状況に陥る.これを確認する一番良い方法は図3の写真に示すとおりにアプラネータが角膜に接触し始めるときの接触部分とリングライトが中央にきているか否かを判断することである.写真は極端にサクションリングを傾けているが,傾けると接触部分やリングライトの位置が中央からずれるので良い判断材料になる.しかし,上記に気をつけても術者は確信をもってセンタリングができているかを判断するのはむずかしい.つまり,モニター上の瞳孔中心が必ずしも赤星とは限らないので,安全のためには顕微鏡下で瞳孔中央(もしくは角膜中央)にマーキングを行い,そのマーキングを信じてフラップのセンタリングを行う(図4)ことが解決策の1つである.しかし,イントラレースの場合,モニターの中央からフラップ中心を動かしすぎると自動的にフラップの直径が小さくなる.フラップ径が小さくなりすぎた場合には,エキシマレーザー照射径にかかることがあるので,再度サクションリングを装着しなおす必要がある.個人的に,極端にセンタリングの悪いフラップを経験したことはないが,起こってしまった場合には致命的であるので,筆者はShinsky鈎などの細い器具の先にインクをつけてレーザー顕微鏡の下で角膜のマーキングを全例に行っている.(60)☆☆☆adbecf図3サクションリングの傾きと接触面とリングライトサクションリングが水平を維持できていない(a,c,d,f)ときには,維持できている(b,e)と比較して接触面とリングライトが中心から大きくずれているのが見て取れる.図4角膜マーキング角膜にフラップの中心位置をマーキングする(左).FSlaserのモニター上ではこのマーキング(矢印)を信じてセンタリングを行う(右).

眼内レンズ:円錐角膜疑い眼に対する後房型有水晶体眼内レンズ挿入術

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012570910-1810/12/\100/頁/JCOPY近年,laserinsitukeratomileusis(LASIK)などの角膜屈折矯正手術が不適応の強度近視眼のみならず,円錐角膜眼に対しても有水晶体眼内レンズ(phakicIOL)を用いた眼内屈折矯正手術の有用性が報告されている1,2).わが国では2010年2月にSTAARSurgical社のICLTM(ImplantableCollamerLens:ICL)が,さらに翌年の2011年11月には同社の乱視矯正用ICL(toricICL)がそれぞれ後房型phakicIOLとして認可された(図1).円錐角膜に対する適応について,LASIKではその疑い症例も含めて禁忌とされているが,phakicIOL挿入術では円錐角膜疑い(keratoconussusupect:KCS)症例には慎重を要するとガイドラインに記されている3).KCSとは,角膜の突出や菲薄化が明瞭で,FleischerリングやVogt線条などの所見が存在するといった臨床上明らかな円錐角膜の特徴を認めないが,角膜形状解析装置の円錐角膜自動診断プログラムでは円錐角膜が疑われる症例をさす.円錐角膜は両眼性疾患であり,仮に自動診断プログラムで片眼のみが円錐角膜疑いと診断された(57)場合でも,両眼の異常と判断する必要がある4).円錐角膜やKCS眼に対するLASIKは,重篤な術後合併症のkeratectasiaを生じる可能性があり,術前スクリーニングは重要である.当院でのKCS眼に対する屈折矯正手術の扱いについては,TMSR(トーメー社)のKCI(keratoconusindex)やKSI(keratoconusseverityindex)が陽性の場合には,LASIKやEpi(epipolis)-LASIKは行わず,ICL挿入術を選択している.KCIは円錐角膜診断の特異度が,KSIは感度がそれぞれ高い.また,KCIとKSIが陰性,OPD-scan(ニデック社)のcornealnavigatorでKCやKCSが検出されたり,OrbscanR(ボシュロム社)の後面カラーコード(20μmスケール表示)で中心3mm以内に4色以上が検出された場合には,Epi-LASIKを行っている.そこで,眼鏡矯正視力が良好なKCS眼(8例16眼,うちtoricICL:5例9眼)と角膜形状異常のない強度近視眼(9例18眼,うちtoricICL:5例10眼)に対するICL挿入術の術後6カ月における治療成績を比較検討し山村陽*1稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎305.円錐角膜疑い眼に対する後房型有水晶体眼内レンズ挿入術円錐角膜疑い眼に対して,laserinsitukeratomileusis(LASIK)は禁忌とされているが,有水晶体眼内レンズ挿入術は慎重を要するとガイドラインに記されている.実際,眼鏡矯正視力が良好な円錐角膜疑い眼に対して行った後房型有水晶体眼内レンズ挿入術の治療成績は,通常の強度近視眼に対して行った場合と同等に良好であり,有用な屈折矯正方法と考えられる.術前-8.02-9.141カ月-0.16-0.113カ月-0.17-0.146カ月-0.21-0.1512カ月-0.17-0.17KCS群通常群-12-10-8-6-4-202自覚屈折度数(D)術後期間:KCS群:通常群Mann-WhitneyU検定NSNSNSNSNS図2自覚屈折度数の推移両群ともに良好な自覚屈折度数の推移を示した.NS:notsignificant.図1ImplantableCollamerLens(ICLTM)わが国では2010年に,STAARSurgical社のICLTMが後房型phakicIOLとして認可された.てみた.その結果,両者ともに安全性や有効性が高く,予測性と安定性にも優れていた.安全係数(術後平均矯正視力/術前平均矯正視力)は,それぞれ1.25,1.13(p=0.85),有効係数(術後平均裸眼視力/術前平均矯正視力)は,それぞれ1.13,1.02(p=0.21)であった.屈折誤差±0.5D以内の割合は,それぞれ94%,100%(p=0.47)で,自覚屈折度数の推移も良好であった(図2).また,OPD-scanII(NIDEK社)を用いて散瞳条件下で測定した解析径6mmでの高次収差(3?6次収差)は,術前よりもそれぞれ0.60±0.60μm,0.78±0.51μm(p=0.15)増加していたが,コントラスト感度は両者ともに上昇していた(図3).以上,眼鏡矯正視力が良好なKCS眼に対するICL挿入術は,角膜形状異常のない強度近視眼に対するものと同等に良好な結果が得られ,屈折矯正方法として有用と考えられる.文献1)KamiyaK,ShimizuK,AndoWetal:Phakictoricimplantablecollamerlensimplantationforthecorrectionofhighmyopicastigmatismineyeswithkeratoconus.JRefractSurg24:840-842,20082)AlfonsoJF,PalaciosA,Montes-MicoR:MyopicphakicSTAARcollamerposteriorchamberintraocularlensesforkeratoconus.JRefractSurg24:867-874,20083)屈折矯正手術のガイドライン─日本眼科学会屈折矯正手術に関する委員会答申─.日眼会誌114:692-694,20104)稗田牧:LASIKと円錐角膜.あたらしい眼科27:433-438,2010361218対数コントラスト感度空間周波数(cycles/degree):術前:術後6カ月aNS****p<0.05:Wilcoxonsigned-ranks検定:術前:術後6カ月*p<0.05:Wilcoxonsigned-ranks検定00.511.522.500.511.522.5361218対数コントラスト感度空間周波数(cycles/degree)NS***b図3コントラスト感度a:KCS群,b:通常群.術後6カ月のコントラスト感度は,両群ともに上昇していた.NS:notsignificant.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ処方前検査:屈折検査はここまで必要

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012550910-1810/12/\100/頁/JCOPYハードコンタクトレンズ(HCL)の処方時に必要な検査は他覚的屈折検査,角膜曲率半径と角膜屈折力の測定,自覚的屈折検査,および適正矯正度数の決定であり,特別なものはない.必要なのはそれらのデータを統合する知識である.●他覚的屈折検査オートレフラクトメータ(オートレフ)は操作を誤れば適切なデータは得られない.オートレフで適切なデータを得るために1.装置の設定クイックモードではなく,1回の雲霧後に1回の屈折測定を行う通常モードで使用する.2.測定時に注意すること①眼瞼や睫毛が測定系を遮っていないか確認する.②固視標の中央部分をみてもらう.③Meyerリングを観察し,涙液膜の状態が良いときに測定する.④瞳孔の動きを見て,瞳孔緊張がないタイミングで測定する.⑤オートトラッキングに頼らないで,検者が確実にトラッキングする.⑥数回取得したデータにばらつきがないことを確認する.3.同様の要領で角膜曲率を測定する.角膜屈折力は同時に算出される.4.全乱視と角膜乱視の大きさと軸度をチェックする.全乱視と角膜乱視の差が残余乱視である.残余乱視が±1.00Dの範囲にあることを確認する.残余乱視が±1.00Dを超える場合は球面HCLの処方適応ではない.(55)●自覚的屈折検査他覚的屈折検査を参照して,自覚的屈折検査を行う1.乱視矯正度数と軸度の決定乱視の矯正を先に決める.検眼レンズ枠に他覚的屈折値の円柱度数から?0.75Dを減じた値の円柱レンズを他覚的屈折値の円柱軸度に一致(通常は10°あるいは5°間隔で近似)させて挿入する.2.測定を開始するための球面度数の決定他覚的屈折値の球面度数から?0.75Dを減じた値の球面レンズを検眼枠に挿入する.3.フローチャート(図1)に従って測定開始測定開始時にすでに1.0以上の矯正視力が得られる場合には,さらに?0.75Dを減じて,一度は矯正視力が1.0未満になる矯正度数に設定する.視力値を測定しながら,?0.25Dずつ球面度数を増して,最良視力が得られる最弱屈折力の矯正レンズ度数を求め,それぞれ矯正視力値および自覚的屈折値とする.球面度数が他覚的屈折値の球面度数の値に達しても,1.0以上の矯正視力が得られない場合には,円柱レンズ度数を?0.25D増し梶田雅義梶田眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】331.コンタクトレンズ処方前検査:屈折検査はここまで必要視力値スタート球面度数に+0.75Dを加える球面度数に-0.25Dを加える視力値円柱度数に-0.50Dor-0.25Dを加える終了円柱度数自覚的乱視検査1.0以上1.0未満視力値1.0以上あるいは球面・円柱ともに完全矯正に達したとき球面値がオートレフ未満で視力値1.0未満球面値がオートレフ値に達しても1.0未満のときオートレフの円柱値より小さいオートレフの円柱値より大きい図1自覚的屈折検査のフローチャート56あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(56)て,やり直す.円柱度数も球面度数も他覚的屈折値に達しても1.0以上の良好な矯正視力が得られない場合には,自覚的な乱視を求めて,最初からやり直す.それでも1.0以上の矯正視力が得られないときには,ここで得られた最良視力とそのときの矯正度数をそれぞれ,矯正視力および自覚的屈折値とする.●適正矯正度数の決定自覚的屈折検査で得られた矯正度数は最高視力が得られる矯正度数であり,快適な矯正度数とは限らない.両眼視で適切な矯正度数を求める必要がある.両眼同時雲霧法1)の手順1.左右眼にそれぞれ自覚的屈折検査で得られた円柱レンズを検眼枠に挿入する.2.左右眼にそれぞれ自覚的屈折検査で得られた球面度数に+3.00Dを加えた検眼レンズを検眼枠に加える.3.雲霧時間は設けないで,すぐに測定を開始する.4.両眼視での視力値を確認しながら,両眼を同時に?0.50Dずつレンズ交換法で検眼レンズ度数をマイナス側に取り換える.5.両眼視で矯正視力値が0.5?0.7に達した時点で,左右眼を交互に遮閉し,左右眼のバランスを調整する.6.両眼同時に?0.25Dずつレンズ交換法を継続して,両眼視の状態で最良視力が得られる最弱屈折値を求め,眼鏡処方のための適正矯正度数とする.7.適正矯正度数を弱主経線方向と強主経線方向の屈折値に分割し,それぞれを頂点間距離補正して,CL処方のための適正矯正度数を求めておく.●HCL処方の目標矯正度数の決定HCLの内面と角膜で作る空間は涙液レンズを形成し,矯正効果をもつ.1.トライアルレンズを装用し,フルオレセインのフィッティングパターンを頼りに適切なフィッティングが得られるベースカーブ(B.C.)を決定する.2.B.C.と弱主経線方向の角膜曲率半径の差から,涙液レンズ度数を算出する2,3)(図2).3.CL処方のための適正屈折値の球面度数から涙液レンズ度数を減じた値をCL処方度数の目標値とする.●処方度数の決定トライアルレンズを装用して,球面レンズのみを用いて,両眼同時雲霧法を行い,追加矯正度数を求め,これを頂点間距離補正した値をトライアルレンズ度数に加えて,処方HCLの度数とする.この値が,先に求めておいたCL処方度数の目標値と大きく異なるときには,調節けいれんや眼位異常などが疑われる.処方を中止して,異常の検出と治療を優先する.文献1)梶田雅義,山田文子,伊藤説子ほか:両眼同時雲霧法の評価.視覚の科学20:11-14,19992)植田喜一:コンタクトレンズ診療の進め方.眼科診療プラクティス94,はじめてのコンタクトレンズ診療,p2?8,文光堂,20033)梶田雅義:コンタクトレンズ処方に必要な眼光学.眼科51:1743-1749,2009図2HCLのフィッティングと涙液レンズ角膜曲率半径よりもベースカーブが大きいときにはマイナスレンズ,小さいときにはプラスレンズ,同じときにはプラノレンズができている.その大きさは曲率半径差0.05mm(ベースカーブ1段階)が0.25D(矯正度数1段階)に相当する.角膜曲率>B.C.角膜曲率=B.C.角膜曲率<B.C.涙液レンズ凹レンズレンズなし凸レンズ☆☆☆

写真:Axenfeld-Rieger症候群の後部胎生環

2012年1月31日 火曜日

あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012530910-1810/12/\100/頁/JCOPY(53)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦332.Axenfeld-Rieger症候群の後部胎生環樋端透史江口洋徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野図1Axenfeld?Rieger症候群の前眼部所見(30歳,女性)他科からステロイド副作用精査目的で紹介された.幼少期に「眼の手術を受けたことがないか」と眼科で聞かれたことがあるとのことであった.後部胎生環(白色部),虹彩萎縮,瞳孔偏位,多瞳孔がある.①③②図2図1のシェーマ①:後部胎生環(posteriorembryotoxon).②:多瞳孔.③:虹彩実質の低形成.図3角膜内皮細胞細胞の形態異常や密度の低下がある.図4隅角鏡像Schwalbe線に周辺虹彩組織が付着している.54あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(00)Axenfeld-Rieger症候群は,虹彩実質の形成時期における神経堤由来細胞の分化不全が原因で,隅角部の角膜-虹彩索状物形成によって多様な虹彩の変化を起こす疾患と考えられている.Axenfeldが,1920年に輪部近傍の角膜後面に白色の線とそこへ虹彩から伸びる索状物をもつ症例を報告し1),その後Riegerが,同様の前眼部所見に加えてさまざまな虹彩の所見を呈する症例を報告した2)が,そのなかには歯牙や顔面骨の異常を伴うものがあったとされる3,4).通常,両眼性で常染色体優性遺伝の形式をとり,生下時より眼異常が認められることが多い.Axenfeld-Rieger症候群は,臨床的に①Axenfeld奇形,②Rieger奇形,③Rieger症候群の3つに分類されている.①Axenfeld奇形は後部胎生環(posteriorembryotoxon)と虹彩実質にわずかな低形成がみられるものをいい,②Rieger奇形は,Axenfeld奇形に虹彩実質の菲薄化,瞳孔偏位,周辺部虹彩前癒着,偽多瞳孔など,多彩な虹彩変化を伴うものをいう(図1).③Rieger症候群は,Rieger奇形に歯,顔,他の全身異常を伴うものをいう.上顎低形成,歯牙低形成,小歯症,両眼隔離症,臍部皮膚の余剰,精神発達遅滞などの全身異常が認められる.歯牙低形成に関しては,すでに歯科で治療をされて総義歯になっていることもある.Axenfeld-Rieger症候群では約50%の症例で緑内障を合併し,多くは10歳代に診断される.眼圧上昇の機序の詳細は不明であるが,虹彩実質の低形成や萎縮がある症例では比較的高率に緑内障を発症し,一方で虹彩に変化のない症例では発症していないことが多く,虹彩低形成の有無が緑内障発症の危険の指標とされている5).緑内障に対してはまずは点眼治療が,管理がむずかしい場合は手術治療が選択される.術式は,隅角異常癒着の少ない部位での線維柱帯切開術や線維柱帯切除術が施行されるが,長期成績は必ずしも良好とはいえない.角膜内皮の形態異常を伴う(図3)こともあり,緑内障とあわせて幼少期からの長期的な観察が必要である.Posteriorembryotoxonは,角膜輪部に沿って認められる白色の線である(図1).肥厚し前方に突出したSchwalbe線に周辺虹彩組織が付着した部位が,角膜周囲で後部胎生環として観察される.Axenfeld-Rieger症候群に特徴的な所見と考えられがちであるが,正常人の15%にみられるとの報告6)がある.また,一般眼科診療所で6.8%の患者にみられ,細隙灯顕微鏡で発見できないが隅角鏡(図4)で発見できる場合があるといわれている7).したがって,若年者も可能なかぎり隅角鏡検査を実施するのが望ましいが,非接触型の前眼部OCT(光干渉断層計)(図5)も有用である.文献1)AxenfeldTH:Embryotoxoncorneaeposterius.BerDeutschOphthalmolGes42:301-302,19202)RiegerH:Fallenvonverlagerungundschitzformderpupillemithypoplasiedesiresvorderblattesanbeidenaugeneiner10und25jahringenpatientin.ZAugenheilk84:98-99,19343)MathisH:ZahnunterzahlundMissbildungenderIris.ZStoinatol34:895-909,19364)RiegerH:ErhfrageninderAugenheilkunde.AlbrechtvonGraefesArchKlinExpOphthal143:277-299,19415)OzekiH,ShiraiS,IkedaKetal:AnomaliesassociatedwithAxenfeld-Riegersyndrome.GraefesArchClinExpOphthalmol237:730-734,19996)MalikSR,Sing,G,GuptaAK:Posteriorembryotoxon.AllIndiaOphthalSoc17:115-116,19697)RennieCA,ChowdhuryS,KhanJetal:Theprevalenceandassociatedfeaturesofposteriorembryotoxoninthegeneralophthalmicclinic.Eye19:396-399,2005図5前眼部OCT像癒着した虹彩の内部(角膜側)に層構造を認める.

高齢者の緑内障管理

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPYうに改善しないことへの不満や長期にわたり使用し続けている緑内障点眼による眼瞼周囲の局所副作用や呼吸器や循環器への影響に不安を抱くようになる.後期緑内障症例では視力障害を受容しつつも日常生活における不自由さに困惑や絶望感を抱いている可能性がある.特に高齢者の場合は,体力面でも衰弱してきていることが多いために通院や点眼を継続する気力が失せてきて家族など周囲の人々の協力が不可欠な場合が多い.残余視機能を最大限に生かして生活を送ってもらうためには周囲の人々が患者の不便さを理解する必要があると思われる.しかしMD値が?25dB程度の後期緑内障の高齢者でも,生活になんら不自由を訴えないことも多い.患者の生活パターンや行動範囲によって緑内障患者が求めるQOVは異なると考えられるが,今の視機能で実生活においてどの程度の不自由が生じているかということは,どんな最新の医療機器を用いても客観的に判断できないのが現状である.これまでに,健康関連のQOLの評価法については,SicknessImpactProfile(SIP)や36-itemshort-formofMedicalOutcomesSurvey(SF-36)などがあり,QOLに関してさまざまな研究報告がなされている.眼科領域においても,25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionaire(NEI-VFQ25)やLifeDisabilityAssessment(LDA)などによりQOVに関する臨床研究が報告されるようになってきた.日本では,鈴鴨らにより日本語版NEI-VFQ25が視機能に関連し【A高齢者緑内障のqualityoflife(QOL)】はじめに超高齢化社会の日本にて平均寿命が延びることは喜ばしいことであるが,その分緑内障患者として眼科医が管理する期間が延びることでもある.高齢者であってもqualityofvision(QOV)に対する要求は高度化し,緑内障患者の治療目標は生涯にわたって日常生活に支障のないように高度な視機能を保持することが求められてきている.しかし,われわれ眼科医は緑内障患者に眼圧測定と視野検査を繰り返し,眼圧の日々変動に患者とともに一喜一憂し,視野検査のindexであるmeandeviation(MD),VisualFieldIndex(VFI)などの数値にとらわれて,患者のQOVに対する要求に耳を傾けることができていないのではと反省させられることがある.緑内障外来の受診日に瞼が腫れて眼瞼皮下出血をきたした患者の顔を見たときにハッと気づくことがある.視野障害にて階段を踏み外したのではないだろうかと….IQOLの評価方法緑内障患者の病気に対する心情とは,緑内障と診断されて間もない初期緑内障の時期には視力障害の自覚症状がないので緑内障の診断そのものに疑心暗鬼な面と緑内障にてやがて失明するのではないかという不安感を抱いていることが多い.中長期管理できた症例では徐々に自覚するようになってきた視野障害(視力障害)がいっこ(43)43*KojiNitta:福井県済生会病院眼科/金沢大学医薬保健研究域視覚科学(眼科)〔別刷請求先〕新田耕治:〒918-8503福井市和田中町舟橋7番地1福井県済生会病院眼科特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):43?51,2012高齢者の緑内障管理ManagementofElderlyGlaucomaPatients新田耕治*44あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(44)くの項目で負の相関を認めたと報告した3).II両眼開放視野を使用したQOV評価残余視機能を評価する指標のうち,新たにVFIがHumphrey視野のツールの一つとして開発された.これは,パターン偏差にて視野検査の結果を%表示し,100%が正常,0%が視野消失を表す.年齢に応じた視機能率を%表示し,各測定部位の%を決定したのちに,中心部位に加重をかけて全体値を算出している.その点で,より実態に近い視機能(残存視野率)を表す指標とた包括的QOLを定量的に評価する尺度として開発された1).緑内障眼にNEI-VFQ25を使用した報告では,浅野らが視力良好眼の視力が0.3以下になるとNEIVFQ25総合スコアが有意に低下し,NEI-VFQ25は眼科医療,ロービジョンケアの結果(アウトカム)評価に有用なツールであると報告している2).また,山岸らは正常眼圧緑内障(NTG)患者の視機能を定量的に評価する目的でNEI-VFQ25を使用し,眼圧は運転のみ,矯正視力は多くの項目で相関を示し,MD値は全体的健康感と眼の痛み以外で高い相関を示し,緑内障点眼数は多??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????図1VisualFieldIndex(VFI)を指標とした管理後期緑内障症例で傍中心視野が障害されている場合は,グレースケールの一覧よりもVFIのグラフ表示のほうが視野進行の様子がよくわかり,しかも%表示されるので管理しやすい.(45)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201245られた.家の中では段差や家具などの配置に慣れているので,視野障害をきたしていても生活に影響が出現しにくく,外出先では初めての場所も多く,段差によろけたり,障害物にぶつかったり視覚から得る情報に行動が左右されるためと考察し,Estermanスコアは日常生活困難度を予測する指標になると報告されている5).Beeline社製視野ファイリングソフトHfafilesver2.1.2.9にも最近両眼視野重ね合わせ機能がオプション装備されるようになった.これはHumphrey視野の結果から左右の測定点の実測値の高いほうを選択し重ね合わせる方法である6).両眼開放下での視機能の程度をEstermanプログラムよりも詳細に評価できるので,今後は両眼開放下での緑内障患者の視機能を評価することが日常的な管理方法の一つになることが望まれる(図2).III緑内障患者の自動車運転について国土交通省の調査(平成19年度府県別輸送機関分担率)によると,移動手段としての自動車の分担率は,都市部の東京30.9%,大阪51.0%に対し,福井97.8%,宮崎99.0%と地方での自動車の分担率はきわめて高率である.地方では過疎化に伴い,バス路線が徐々に廃止されてきている地域も多く,自動車は欠かすことのできない交通手段である.しかし,後期緑内障では高度の視野狭窄をきたしているために,信号機や標識を見落としたり障害物や歩行者に気づくのが遅くなり交通事故を起こす可能性があり,運転免許の更新条件を満たす後期緑内障症例でも自動車運転の危険性を話し合い,運転免許を自主的に返納することを推奨する場合もある.ただし,眼科医の助言により自動車運転を中止させることは,患者を交通難民にしてしまうこともあり,その対応については慎重でなければならない.高度視野障害を有する人の運転について,英国では両眼Esterman視野で半径20°以内に4連続暗点あるいは3連続暗点+他1暗点がある場合は欠格とされている.わが国では視力検査で不合格となった場合,視力の良いほうの眼の視野検査が施行される.中心の固視点を見て,水平方向に動かした白点が被検者の視野から消失した時点で返答する方法で行われ水平視野150°以上で合格となる.検者が専門家でないために被検者の固視が不考えられている.緑内障の進行が急峻な症例(図1)ではVFIも急速に減少するので視野消失までの期間がグラフに表示される.表示された予後のとおりにならないようにあらゆる治療手段を講じて最大限の努力が必要であると考える.Humphrey視野計に標準装備されているスクリーニングプログラムのうち両眼開放下のEsterman視野を利用することも有用と考える.Estermanプログラムは,刺激サイズIII・10dBの単一刺激輝度で合計120検査点から成り,日常生活に重要な下方・傍中心・赤道経線上により多くの検査点を配置している.顎台の中央に顎を置き,レンズ枠を使用せずに両眼を開放して測定する.ただし,屈折矯正のため被検者自身の眼鏡を装用して測定する場合には,水平方向の視標が眼鏡枠のために見えにくくなるので,結果の評価の際には考慮すべきである.EstermanスコアとVFQ-25が中等度に相関することが報告された4).また,藤田らは,緑内障患者における日常生活困難度を10項目とした質問表にて回答した結果とEstermanスコアとの相関関係を検討した.家の中での行動に比べ,外出時の行動でより相関する傾向がみ??????????????????????????????????????????図2両眼重ね合わせ視野上段は左右のHumphrey視野グレースケール表示である.下段左は左右のHumphrey視野の良好な閾値を表示した両眼重ね合わせ視野.下段右はEstermanプログラムで施行した結果.左右それぞれの視野変化を管理しているだけでは,患者の日常生活における視機能を認識しにくく,両眼の視野を重ね合わせることにより患者目線で緑内障を管理できるようになる.46あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(46)な限り片眼トライアルを施行し,片眼での効果が確認できたならば両眼に点眼を追加するようにしたい.I眼圧での管理の留意点緑内障患者の管理は通常長期にわたるが,特に高齢者を管理する場合は,さまざまな検査を行うことが不可能なことも多く,結局は眼圧検査が重要な指標となることが多い.そのため,眼圧検査の意義や精度を高めるために,第一に目標眼圧の考え方,第二に眼圧測定方法の工夫について述べたい.目標眼圧という考え方は,眼圧が21mmHg以下に保持できればコントロール成功とするそれまでの国際的合意を一変させた.岩田らは,Goldmann視野検査の結果に基づいて,視野障害がほとんどない極早期は19mmHg,視野障害が出はじめる初期(孤立暗点,弓状暗点,鼻側階段のみ)では16mmHg,1/4以上の視野欠損がある中期以降は14mmHg以下に保たないと長期経過中に次第に視野が進行することを報告した9).さまざまなランダム化された多施設の共同研究10?13)により,海外からの報告では30%以上の眼圧下降を目標とする考え方も多い.しかし,わが国では,正常眼圧緑内障が緑内障の過半数以上であり30%以上の眼圧下降率を達成することはなかなか容易ではない.点眼一種でそれを達成できなくても,実際にはそのまま経過観察してしまうことがほとんどであろう.さらに長期に管理し緑内障性視神経症が進行した場合は点眼の切り替え・追加がなされ,選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)や観血的手術を施行することとなる.その頃になると目標眼圧はあまり意味をなさず,むしろそれまでの眼圧経過がどうであったかを検証し,その後の治療方針を検討していくことが重要である.眼圧に対する視神経の脆弱性は個々の症例により異なるため,目標眼圧を達成できても緑内障性視神経症が進行する症例もある.そのため目標眼圧は治療開始に際して眼圧コントロールの目安といった程度に留めるべきなのかもしれない.眼圧推移を検証する場合,薬剤の使用歴などを記載した眼圧推移グラフを作成しておけば管理がしやすくなる.近年普及しつつあるファイリングソフトや電子カル良なことに気づかず不正確な検査を行ってしまい,結果として高度な視野障害を有する人も運転免許を取得できたり更新できている可能性がある.客観的に視機能を評価できる眼科医が運転の可否を決定すべきであるかもしれないが,どの程度の視野障害で運転免許を欠格とするか明確な判断基準はない.Szlykらが,周辺視野障害をきたした緑内障患者に自動車運転のシミュレーションを行ったところ,水平視野の範囲が100°を下回るとシミュレーション上での事故危険度が増加したと報告している7).青木らは,後期緑内障患者2名において安全確認不足が原因と思われる交通事故の既往を報告している8).高齢者は緑内障や白内障などの眼疾患に罹患していなくても,反射神経の低下などにより,交通事故を起こす危険性が高くなると思われ,高齢の緑内障患者は日頃より自動車運転のシミュレーション機器などを用いて,運転の危険性について認知してもらう必要があると思われる.緑内障外来は得てして3分診療になりがちであるが,眼圧・視野・視神経所見に加えて,時には患者のQOLについてもヒアリングし経過観察すべきである.【B高齢者の緑内障管理】はじめに最近受診しなくなったある患者のことが気になっていると,医療従事者から「○○さんは△△病院(療養型介護施設)に入院されたらしいよ」と聞かされ,通院ができなくてもせめて点眼だけは介護施設で継続できていればいいのだが…と気になってしまう.家にいれば家族の協力が得られるが,施設で介護されるようになると,全身疾患用の内服は継続されても点眼薬は入手が困難な場合もあり中断されてしまうことが考えられる.この項では高齢者の緑内障管理について述べたい.しかし高齢者であるからといって緑内障の管理に大きな違いがあるわけではない.残余視機能に余裕がある限りベースラインデータをしっかり収集し,その結果に基づいて治療を開始していくべきである.点眼薬を新規に追加しても眼圧の日々変動に埋もれてその薬剤の効果がはっきりしないことがあるので,点眼を変更する場合は可能(47)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201247圧下降を常時保持でき,その結果視野障害はほとんど進行せずに経過している.初診から数年は視野障害の進行速度を判定するために,長期変動が中程度であると仮定した場合,MDslope?1.0dB/yの速度を検出するのには,年に3回の視野検査を施行しても3年間必要であると報告されている14).したがって,進行速度をなるべく早くとらえるために管理を開始してから数年間は年に3?4回の視野検査を施行することが望ましいと考える.緑内障点眼治療の第一選択として,プロスタグランジン(PG)点眼が確立するにつれ上眼瞼のくぼみが頻発すテは長期データを一元的に管理でき,しかもその経過をさまざまな形式で一覧できるので大変有用である.すでに長期に管理してきた症例においては,これまでの経過から視野検査のファイリングソフトなどを使用すれば緑内障進行速度を計算し,平均余命との関連から予後を推定することができる.図3の症例は,初診時に緑内障の病期はすでに後期であり,傍中心にも視野障害が広がってきているために当初よりこのあと何年にわたり視機能が保持できるか大変気がかりであったが,点眼治療により約30%以上の眼????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????図3初診時に後期であっても眼圧下降により長期にわたり進行が停止した狭義原発開放隅角緑内障(POAG)症例初診時に緑内障の病期はすでに後期であり傍中心にも視野障害が広がってきているために当初よりこのあと何年にわたり視機能が保持できるか大変気がかりであったが,ベースライン眼圧24mmHgに対し点眼治療により30%以上の眼圧下降を常時達成でき,視神経乳頭形状や視野障害は進行せずに経過している.48あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(48)る.そんなときは静的視野計での光視標提示速度を遅くし,検査の途中でその都度休憩をはさみ,姿勢保持が保てているか横で検者が監視するなどの工夫が必要であると思われる.また,Goldmann動的視野でのみ経過観察せざるをえないこともある.症例によっては視野計での検査がまったく不可能な場合がある.自覚的緑内障検査が施行不能だからといってあきらめずに,高齢者に負担がかからない他覚的緑内障検査を活用して判断すべきである.光干渉断層計(OCT)のうちspectral-domainOCT(SD-OCT)ではtime-domainOCT(TD-OCT)と比較して測定の再現性が格段に向上したために,OCTにて経時的変化をとらえることが可能になった.眼底写真を撮影して保存しておくだけでも進行の有無を判断できる場合があるので,筆者は眼底写真を定期的に撮影することを推奨したい.散瞳剤を点眼しても十分に散瞳しないことが多い落屑緑内障症例などの場合は,るようになり,奥目の顔立ちの患者が増えていると思われる.もともと細身の症例では年齢とともに眼瞼周囲がくぼんだ顔貌になりやすく,PG点眼中のやせ形顔貌の症例はGoldmann眼圧計で角膜を圧平する際に上眼瞼を挙上しにくく,無理に開瞼すれば眼圧測定時の誤差が大きくなる.その場合,患者の顎を突出させて顎台に乗せてもらえば上眼瞼を挙上しやすくなるので参考にしていただきたい.座位での眼圧測定が困難な症例では,トノペンRやiCareなどを使用して仰臥位で眼圧測定を行うが,仰臥位での眼圧が座位と比較して高くなるので,常に一定の方法で測定し続けることが肝要である.II簡単に撮影できる眼底写真の活用緑内障外来に定期的に通院できている高齢の緑内障患者でも,徐々に静的視野検査など患者の協力を必要とする検査にて信頼性の高い結果が得にくくなる場合があ??????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????図4乳頭出血が頻発し視野が悪化した正常眼圧緑内障(NTG)症例2002年11月初診時以降に計8回の乳頭出血が出現し,初診時の眼底写真と比較し網膜神経線維層欠損(NFLD)が拡大し(白矢印),対応する部位の視野障害が進行した.あたらしい眼科Vol.29,No.1,201249眼底写真の撮影の際に視神経乳頭拡大カラー写真で乳頭上血管の走行がはっきりわかるような照度で撮影することが望ましい.広角カラー眼底写真の照度はハレーションにて乳頭上の血管の走行が観察できなくてもできるだけ明るい照度条件でも撮影しておく.その理由は,網膜神経線維層欠損(NFLD)を認める症例で白黒写真やred-free写真に変換した場合にその境界がはっきりわかるからである.そして,数年前に撮影したものと見比べてみるだけで緑内障が進行している場合は,乳頭上の血管走行の屈曲変化・リムの菲薄化・NFLDの拡大を確認できることがあり(図4),重要な緑内障進行の兆候である乳頭出血(DH)の出現も見落とすことが少なくなる.DHとNFLD拡大は視野障害進行と強く関連しており,眼底写真を記録として保存することが緑内障進行判定の際に役に立つことが多い15,16).倒像鏡で視神経乳頭を観察するのでは,わずかな線状のDHの場合は見落とされることが多い.診察と診察の合間にDHが出現し吸収してしまうこともあり,DHの見落としを減らすためには非常にシンプルな緑内障進行判断方法であるが,眼底写真撮影は高齢者の緑内障症例を管理する場合は患者に負担がかからない有用な方法と思われる.DH出現やNFLD拡大を認めた場合には,すでに緑内障の進行による構造的変化があると考えられるため,近々機能的変化(視野変化)が進行することを前提にして管理を強化するなり治療方針を変更することが必要である.ステレオ眼底カメラでの立体眼底写真撮影には,撮影ごとの顔の回旋などの位置ずれを補正できるようになったために経時的な乳頭変化を確認しやすくなった.このような機器による管理は,他覚的評価なので,視野検査のように患者個々の状態に左右されることなく緑内障を長期にわたり管理できると思われる.高齢者を長期間管理していると,水晶体の混濁により視野検査にて徐々に網膜感度が全体的に低下していくため,視野障害の進行が緑内障以外の影響も受けるようになる.白内障による視力障害が強くなれば緑内障眼であっても白内障手術を積極的に行うべきと思われる.しかし,白内障手術後も緑内障を管理し続けるので視野検査のデータが手術を機に改善することも考えられ,管理上混乱を生じる可能性がある.その点,眼底写真での管理の場合には写真の画質に変化が生じても乳頭形状やNFLDの変化を管理し続けるうえでは白内障手術の影響を受けないので,有用性が高い管理方法であると考えられる.III高齢者緑内障の緑内障用点眼における諸問題高齢の緑内障患者の場合はすでに長期に管理し続けている症例が多いため,点眼薬を多剤併用している症例も多い.毎回の診察時に必要な点眼薬の本数を尋ねると,ある患者はキャップの色で,別の患者は遮光袋の色で処方希望本数を答えるので,結果として誤処方が起こる可能性がある.筆者は空の点眼容器を診察室に常備し,その容器を見せながら処方希望本数を尋ねるようにしている.このような方法を採用するようになって診察そのものも大変スムーズになったと思われる.高齢者の場合は全身疾患を有することも多く,特にb遮断薬点眼処方の際には注意したい.気管支喘息や徐脈性不整脈の既往については患者から正確な情報を入手することが可能であるが,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の(49)図5点眼自助具慢性関節リウマチの症例では握力が低下しているため点眼が困難な場合がある.点眼自助具を使用すれば弱い力で点眼することが可能である.〔本自助具を入手されたい場合は,社団法人日本リウマチ友の会(電話:03-3258-6565)にお問い合わせください.〕50あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012場合は,患者自身がその疾患に罹患していることを認識していない潜在患者のことが多いので,COPD潜在患者にb遮断薬点眼を処方して呼吸障害をひき起こす可能性がある.喫煙歴などを聴取することも重要であろう.最近では配合剤点眼薬も登場しb遮断薬点眼を患者に処方する機会が増えてきているので,点眼後に内眼角の圧迫の指示など点眼指導も的確に行うべきである.点眼指導は点眼薬の効用を最大限に発揮させることと全身副作用の軽減がそのおもな目的である.効用を最大限に発揮するためには,点眼後に速やかに閉瞼し内眼角を数分圧迫することと複数の点眼の間隔を5分以上あけることが重要である.それにより,より強い眼圧下降が図られ緑内障患者の視機能の温存に寄与するはずである.慢性関節リウマチにより握力が低下し点眼に支障をきたす場合には,点眼自助具の使用をお勧めしたい(図5).全身疾患の悪化や体力の低下により自宅や施設で療養している場合や眼科医がいない他院に入院した場合は,家族や施設の介護人の協力のもとで通院を継続してもらうが,全身疾患やADL(activityofdailyliving)の低下により寝たきり状態となり来院できない場合も多々ある.置かれた個々の症例の環境によるが,可能な限り家族や施設の人々の協力のもとに点眼治療を継続できるように,眼科医からも要請していかなければならないと思われる.文献1)SuzukamoY,OshikaT,YuzawaMetal:Psychometricpropertiesofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25),Japaneseversion.HealthQualLifeOutcomes3:65,20052)浅野紀美江,川瀬和秀,山本哲也:緑内障患者のQualityofLifeの評価.あたらしい眼科23:655-659,20063)山岸和也,吉川啓司,木村泰朗ほか:日本語版VFQ-25による高齢者正常眼圧緑内障患者のqualityoflife評価.日眼会誌113:964-971,20094)JampelHD,SchwartzA,PollackIetal:Glaucomapatient’sassessmentoftheirvisualfunctionandqualityoflife.JGlaucoma11:154-163,20025)藤田京子,安田典子,中元兼二ほか:緑内障患者における日常生活困難度と両眼開放視野.日眼会誌112:447-450,20086)CrabbDP,ViswanathanAC:Integratedvisualfield:anewapproachtomeasuringthebinocularfieldofviewandvisualdisability.GraefesArchClinExpOphthalmol243:210-216,20057)SzlykJP,MahlerCL,SeipleWetal:Drivingperformanceofglaucomapatientscorrelateswithperipheralvisualfieldloss.JGlaucoma14:145-150,20058)青木由紀,国松志保,原岳:自治医科大学緑内障外来にて交通事故の既往を認めた末期緑内障患者の2症例.あたらしい眼科25:1011-1016,20089)岩田和雄,難波克彦,阿部春樹ほか:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199210)DranceS,AndersonDR,SchulzerM:Riskfactorsforprogressionofvisualfieldabnormalitiesinnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol131:699-708,200111)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,200112)AGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS):12.Baselineriskfactorsforsustainedlossofvisualfieldandvisualacuityinpatientswithadvancedglaucoma.AmJOphthalmol134:499-512,200213)LeskeMC,HeijiA,HymanLetal:Predictorsoflongtermprogressionintheearlymanifestglaucomatrial.Ophthalmology114:1965-1972,200714)ChauhanBC,Garway-HeathDF,GoniFJetal:Practicalrecommendationsformeasuringratesofvisualfieldchangeinglaucoma.BrJOphthalmol92:569-573,200815)NittaK,SugiyamaK,HigashideTetal:Doesthe(50)■用語解説■VisualFieldIndex(VFI):従来のMDでは中心視野の障害が強い症例と,そうでない症例で,MDが同程度でも現実的な重症度は中心視野障害を有する症例のほうが日常生活に支障をきたしやすい.その点を考慮し,中心視野障害に重み付けを行い,正常を100%として残存視機能を%表示する.視野検査結果が蓄積されれば,1年当たりのVFI下降率や予後の予測が可能である.両眼視野重ね合わせ:左右それぞれのHumphrey視野の結果を重ね合わせて両眼での視野障害の程度を表示するソフトである.左右の各部位の閾値の良好なほうを採用するBESTLOCATIONと二乗の和のルートを計算して表示するBINOCULARSENSITIVITYがある.Beeline社製の視野ファイリングソフトHfafilesにオプション搭載され,今後は標準装備されていく予定である.あたらしい眼科Vol.29,No.1,201251enlargementofretinalnervefiberlayerdefectsrelatetodischemorrhageorprogressvisualfieldlossinnormaltensionglaucoma?JGlaucoma20:189-195,201116)新田耕治,杉山和久,棚橋俊郎:境界明瞭な網膜神経線維層欠損を有する正常眼圧緑内障における乳頭出血出現や網膜神経線維層欠損拡大と視野進行との関連.日眼会誌115:839-847,2011(51)