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高齢者の緑内障手術

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPYで偽眼類天疱瘡を生じることがあり1),アセタゾラミドの内服で急性腎不全を生じることもある2).b遮断薬の呼吸機能に対する影響は広く知られている.マレイン酸チモロールの点眼前,点眼3時間後で55?74歳のグループは肺活量が落ちないが75歳以上は有意に低下するという報告もある3).抗緑内障点眼薬は併用により効果が減弱することがいわれており4),高齢者に対してはプロスタグランジン,効果が不十分であれば炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を追加し,それでも不十分なら手術を考慮したい.II高齢者の手術の注意事項1.認知症があり全身麻酔が必要かもしれないときについて現在認知症の人は世界で2,430万人いて85歳以上の15%は認知症といわれている.眼科でも局所麻酔で手術が行えず全身麻酔を要する場合がある.広島大学病院眼科(以下,当科)では2010年度に1,729件手術を行い,そのうち認知症が原因で全身麻酔が必要であった症例は7例あった.認知症の人の手術をするときに局所麻酔で手術が可能か全身麻酔が必要かの判断はときにむずかしく,何か指標があればと思うことがある.そこで筆者らはミニメンタルステート検査(MMSE)を用いてその検討を行った.MMSEは世界で最も広く行われている認知症の検査で,長谷川式簡易知能評価スケールと類似した簡易な記憶の検査である(図1).30はじめに外来の診療をしているときに手術が必要そうな高齢者で手術をためらわれることがある.特に1)認知症があり全身麻酔が必要かもしれないとき,2)内科的疾患があり全身管理が大変そうなとき,3)術後の管理が困難そうなときなどである.手術をためらわれると保存的治療でなんとかしのぐことを考えるが,保存的治療には弊害や限界がある.本稿では,まず保存的治療の限界について考え,手術の必要性を再度確認する.そのうえで手術の障害となる上記1)?3)についてそれぞれ検討する.I保存的治療の限界高齢者の診療をしていると,視野は徐々に悪くなっているが年齢から考えると現在の点眼を続けていけばしばらくは視野を保てそうだという状況は日常臨床でしばしば遭遇する.筆者はそのときいつも「患者さんの寿命は決められないよ」という恩師の言葉を思い出す.現在平均年齢は男性79.6歳,女性86.4歳だが,80歳の平均余命は男性8.7歳,女性11.7歳であり(平成21年厚生労働省),90歳を超えても当たり前で100歳まで元気に生活していてもまったく不思議ではないという気持ちで診療にあたらなければならないと考える.現在抗緑内障薬はさまざまな種類があり最近では配合剤も発売された.抗緑内障薬は多くの患者に有用でわれわれは多大なる恩恵を受けているが,一方でその合併症もしばしば耳にする.たとえば,抗緑内障点眼薬の使用(37)37*JojiTakenaka:広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕竹中丈二:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):37?41,2012高齢者の緑内障手術GlaucomaSurgeryforElderlyPatients竹中丈二*38あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(38)60人はすべて局所麻酔下で手術が可能であり術中も特に問題となる行動はなかった.ただし,この1カ月間にMMSEの同意書がとれないほどの認知症の患者が1人おり,その患者は全身麻酔で手術を行った.1)の結果から想像以上に認知障害の疑いがある人が入院しているが,局所麻酔での手術にはおおむね支障がないことがわ点満点で27?30点が正常,22?26点で軽度認知障害の疑いがあり,21点以下で認知症の疑いと判定する(表1).MMSEは当科の入院患者を対象にして行い,1)1カ月間に何人くらい認知症の人がいるか,2)何点くらいのとき全身麻酔が必要かを調査,検討した.1)について,2011年7月20日?8月22日の1カ月間でMMSEに同意のうえ検査を行えた60人の眼科の入院患者を対象とした.年齢は30?90歳(中央値74歳)でMMSEの得点は19?30点(平均27.0点)であった.60人のうち軽度認知障害の疑いがある人は23人(38%)で認知症の疑いがある人は3人(5%)であった(図2).図1ミニメンタルステート検査(MMSE)日時(5点)今年は何年ですか.いまの季節は何ですか.今日は何曜日ですか.今日は何月何日ですか.(月と日で1点ずつ)現在地(5点)ここは,何県ですか.ここは何市ですか.ここは何病院ですか.ここは何階ですか.ここは何地方ですか.記憶(3点)(桜,猫,電車)と1秒間に1個ずつ言う.それをそのまま復唱させる.1個答えられるごとに1点.すべて言えなければ6回まで繰り返す.7シリーズ(5点)100から順に7を引いた数を数えてください.(93,86,79,72,65)につき1点.5回できれば5点.間違えた時点で打ち切り.想起(3点)先程物の名前を3つあげましたが覚えていますか?正解につき1点.呼称(2点)時計と鉛筆(ペンや眼鏡でもよい)を順に見せて,名称を答えさせる.読字(1点)次の文章を繰り返す.「みんなで力を合わせて綱を引きます」言語理解(3点)患者に1枚の白紙をさしだし次のように言います.(正しい動作につき1点)「まず右手にこの紙を持って,そのあとにそれを半分に折りたたみ私に渡してください」文章理解(1点)患者に「眼を閉じてください」と書かれた紙を渡し,紙に書かれた指示に従う様に伝える.文章構成(1点)何か文章を書いてください.図形把握(1点)次の図形を書き写してください.表1ミニメンタルステート検査(MMSE)の判定27~30点:正常22~26点:軽度認知障害の疑いあり21点以下:認知症の疑いあり(39)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201239要だといえる.「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」6)によると運動耐容能metabolicequivalents(METs)が良好な非心臓手術患者の多くは,一部の例外を除いては重大な心臓リスクをもっていない.しかし一方で運動耐容能の明らかに低下した(4METs以下)患者の心合併症のリスクは高く,かった.つぎに2)について検討するために対象者を2011年5月6日?9月21日の間で認知症(疑い例も含めて)がある人のみの12人(年齢64?90歳,中央値77歳)に絞って,局所麻酔で手術が可能であった群(9人)と全身麻酔を要した群(3人)に分類してMMSEの得点を比較した(図3).MMSEの平均得点は局所麻酔の群は21.1点,全身麻酔の群は14.7点でありp<0.05を有意とすれば両者に統計学的に有意な差があった(p=0.016).認知症があり全身麻酔で手術を行うか迷ったときはMMSEが判断の一助になりうると考える.2.内科的疾患があり全身管理が大変そうなときについて高齢者の手術をするか決定する際に全身状態は重要な因子の一つである.特に全身麻酔が可能かの判断はわれわれ眼科医にはむずかしいことがある.日本麻酔科学会の調査5)によると全身麻酔での死亡率は4.91人/1万人(2005年)である.この数字は全症例のものでASA(AmericanSocietyofAnesthesiologists)分類(表2)のII度(軽度の全身疾患を有するが日常生活動作は正常)よりも軽症の群では0.79人/1万人となる.死亡原因の約50%は出血性ショックと手術による大出血であるので眼科の手術で死亡するケースは非常に稀だといえる.一方で全身麻酔での死亡原因のうち出血性ショックと手術による大出血についで心筋虚血,冠虚血,急性冠症候群がある(1.01人/1万人)ので術前の心機能の評価は重表2ASA分類Class1:一般に良好で合併症なしClass2:軽度の全身疾患を有するが日常生活動作は正常Class3:高度の全身疾患を有するが運動不可能ではないClass4:生命を脅かす全身疾患を有し,日常生活は不可能Class5:瀕死であり手術をしても助かる可能性は少ないClass6:脳死状態表3Metabolicequivalents運動強度METs家庭学校・会社0.9睡眠1音楽鑑賞/映画鑑賞乗り物での通勤・通学TV視聴会話/読書1.5入浴入力作業食事3散歩3.5掃除機での掃除立位での作業(ややきつい)モップがけ3.8浴室/風呂磨き4庭掃除徒歩通勤・通学車椅子を押しての移動階段を登る30282624222018MMSE得点(点)2030405060708090100年齢(歳)軽度認知障害の疑い23人(38%)認知症の疑い3人(5%)図21カ月間に眼科に入院した患者のMMSE結果p=0.016(Wilcoxonの順位和検定)3025201510MMSE得点全身麻酔が必要(3人)局所麻酔で可能(9人)図3認知症がある患者(疑い例も含めて)のMMSEの得点の比較40あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(40)者では特に重要だといえる.広島大学病院で落屑緑内障に対するTLOとTLEの成績と,白内障手術〔PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)〕を併用したTLO+PEA+IOLとTLE+PEA+IOLの成績をそれぞれKaplan-Meier法を用いて比較した.対象は平成7年5月?平成22年3月に初めて緑内障手術を行った症例140人である(表4).目標の眼圧値を21mmHg,15mmHgとした.エンドポイントの定義は2回続けて目標眼圧値を超えたとき,再手術を行ったとき,炭酸脱水十分な術前評価を行わねばならないとある.4METsはたとえば徒歩での通勤や階段を登ることができる状態をさし(表3),それよりも運動耐容能があれば全身麻酔は可能と考えてよい.3.術後の管理が困難そうなときについて高齢で頻繁に受診ができない場合,トラベクレクトミー(TLE)を行うとレーザー切糸術や濾過胞の再形成などの外来処置のタイミングが遅れる可能性や,重大な合併症の対応も遅れる可能性がある.緑内障の術式を選択するのに開放隅角緑内障であればTLE,閉塞隅角緑内障であればトラベクロトミー(TLO)を選択することが多いが,落屑緑内障の場合は術式を迷うことがしばしばある.落屑緑内障は高齢になるほど増加し,70歳以上になると開放隅角緑内障のなかでその割合が7割を超えると報告されており7),落屑緑内障の術式選択は高齢図5TLE+PEA+IOLvsTLO+PEA+IOL(落屑緑内障に対して)012345術後期間(年)術後期間(年)100806040200012345100806040200p=0.17(Logrank検定):TLE+PEA+IOL:TLO+PEA+IOL:TLE+PEA+IOL:TLO+PEA+IOLp=0.40(Logrank検定)目標眼圧21mmHg目標眼圧15mmHg012345術後期間(年)術後期間(年):TLE:TLO目標眼圧21mmHgp=0.8980(Logrank検定)目標眼圧15mmHgp=0.1550(Logrank検定)100806040200012345100806040200:TLE:TLO図4TLEvsTLO(落屑緑内障に対して)表4広島大学での落屑緑内障の成績症例数平均年齢(歳)手術前の平均眼圧(mmHg)TLO1473.9(36~96)28.4(18~42)TLE3475.0(53~93)26.2(17~48)TLO+PEA+IOL5073.7(58~88)25.2(12~50)TLE+PEA+IOL4273.5(58~85)24.4(11~51)(41)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201241要であればその時期を逃さずに手術を行うことが重要であると考える.文献1)PattenJT,CavanaghHD,AllansmithMR:Inducedocularpseudopemphigoid.AmJOphthalmol82:272-276,19762)HigenbottamT,OggCS,SaxtonHM:Acuterenalfailurefromtheuseofacetazolamide(Diamox).PostgradMedJ54:127-128,19783)柏木賢治,牧野ふみ子,塚原重雄:健常高齢者におけるb遮断点眼薬の呼吸機能への影響.あたらしい眼科11:595-598,19944)vanderValkR,WebersC,SchoutenJetal:Intraocularpressureloweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs.Ophthalmology112:1177-1185,20055)入田和男,津崎晃一,讃岐美智義ほか:危機的偶発症発生率に低下傾向:危機的偶発症に関する麻酔関連偶発症例調査2005の速報と最近5年間の推移.麻酔56:1433-1446,20076)JCSJointWorkingGroup:Guidelinesforperioperativecardiovascularevaluationandmanagementfornoncardiacsurgery(JCS2008).CircJ75:989-1009,20117)布田龍佑:落屑緑内障の診断と治療.日本の眼科77:963-966,2006酵素阻害薬の内服をしたときとした.TLEとTLOの成績は目標眼圧値が21mmHgのときも15mmHgのときも有意差はなかった(図4).同様にTLE+PEA+IOLとTLO+PEA+IOLの成績も目標眼圧値が21mmHgのときも15mmHgのときも有意差はなかった(図5).この結果から落屑緑内障に対してTLOはTLEに成績が劣らないことがわかり,通院が困難な高齢者にとって有用な術式であると考える.おわりに高齢者には認知症や,全身疾患を抱えた人が多く,通院が困難で術後の管理が不安な人が多い.本稿では認知症があるときに全身麻酔が必要か否かの判断をするのにMMSEがその助けとなること,全身疾患があっても日常生活動作が正常で階段の昇り降りができれば全身麻酔は可能であること,最後に高齢者の落屑緑内障で術後管理が困難と思われる人は視野に余裕があればTLOが良いことを示した.点眼などの保存的治療で経過が良い場合はそれでよいが,保存的治療には限界があり手術が必

高齢者の緑内障薬物治療

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY高齢者の診察時には,話す速度や一度に与える情報量を個人の理解力に合わせるようにする.また,問題に対する解決能力も加齢とともに減少していくので,新しい行動パターンを取り入れさせるときは,徐々に・段階を踏みながら行うことが大切である.理解力・記憶力の低下により正確な病状把握・意思疎通が困難な際には,家族・ソーシャルワーカーに同席してもらうことを考慮する.2.感覚・知覚(視覚,聴覚,味覚,嗅覚,皮膚感覚)の変化高齢者の感覚・知覚の変化のなかで,視覚変化を除き眼科診療において注意を払うべき点は,聴覚の変化である.加齢に伴い,高い音(高音域)を聞き取る能力が徐々に低下するが,低い音(低音域)を聞き取る能力は比較的低下せずに保たれる.また,2つ同時の音を識別する能力も低下するため,騒音のなかでの会話は,相手が話しているということはわかるものの,意味がわからない,のが高齢者の特徴である.難聴は一般的には女性より男性のほうが顕著であり,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」によると,WHO分類Grade1以上の難聴は男女とも70歳以上では半数に認め,さらに日常生活に支障をきたすGrade2以上の障害は,70歳代男性の5人に1人,女性の10人に1人認めている2).対処法としては,難聴があるからといってやみくもにはじめに今後,「超高齢化社会」を迎えていく日本において,高齢者の緑内障患者数は増加の一途をたどるものと思われる.緑内障治療の目標は「天寿を全うするまで日常生活に支障ない視機能を維持する」ことであり,高齢者においても治療の基本は「眼圧下降」であることに変わりはないが,高齢者では身体的・生理的機能の衰えに加え,社会的環境変化などの要素が複雑に関与するため非高齢者とは異なる対応が必要であると思われる.I加齢に伴う身体的変化加齢に伴う一般的な変化を以下に示す.1.脳・神経系(知的機能)の変化加齢による脳・神経系の機能変化は,「生理的知能低下」と「病的知能低下」に分けられる.「生理的知能低下」では,理解力・記憶力が低下する.一方,「病的知能低下」には老人性Alzheimer病,Parkinson病,脳血管障害(脳梗塞・脳出血)などがある.現在,日本の認知症高齢者数(何らかの介護・支援を必要とする痴呆がある高齢者数)は約180万人,65歳以上の有病率は10%程度であるが,85歳以上では30%にのぼる1).高齢者ではこのような知的機能の変化から,コミュニケーション障害をきたすのみならず,性格や人格が変化することがしばしば見受けられ,対人関係が困難となり孤独化を誘うことも多くみられる.(31)31*TomokoNaito:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座(眼科学)〔別刷請求先〕内藤知子:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座(眼科学)特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):31?35,2012高齢者の緑内障薬物治療GlaucomaMedicationforElderlyPatients内藤知子*32あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(32)①一度障害された視神経は元には戻らないので治療で視野障害が改善するわけではない.②しかし治療をしなければさらに障害が進行していく.③緑内障において現在エビデンスのある治療は眼圧下降療法のみである.ことを説明し,④だから治療が必要である.と,受け入れてもらう.高齢者において病態理解を得る際には,前述したように「理解力・記憶力の低下」と「難聴」が大きな障害となることがある.医療者側は高齢者の身体的・生理的変化を理解したうえで,根気強く,支持的な態度で説明を繰り返していくことが,円滑な診療を進めるためには重要である.III処方時高齢者においても,処方する緑内障点眼薬に求められることは,まず「眼圧下降効果」である.眼圧上昇の原因が緑内障以外に考えられる場合には(ぶどう膜炎に伴う緑内障,ステロイド緑内障など),眼圧下降療法と並行して原因に対する治療が必要である.現時点での緑内障点眼治療の第一選択薬としては,眼圧下降効果が高い・点眼回数が1日1回である・全身的副作用がみられない,などの点からプロスタグランジン関連薬が処方されることが多い.プロスタグランジン関連薬の問題点としては,眼瞼皮膚の色素沈着・睫毛変化,上眼瞼のくぼみなどがあり,特に女性や片眼投与患者では事前にきちんと説明し,気になる場合は洗顔前・入浴前の点眼を勧める.また,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの4種類のプロスト系プロスタグランジン関連薬には数%?20%のnonresponderの存在が知られている.それぞれが類似した薬剤であるが,その眼圧下降効果には個人差があり,ある薬剤に反応が悪い場合でも,別の薬剤では眼圧下降がみられることもあるので6),眼圧下降を得られない場合には変更を試み,それでも有効性が確認できない場合に,別の系統の薬剤に変更することも考慮する.単剤投与で目標眼圧を達成できない・効果不十分である場合には,全身合併症との兼ね合いをみながらb遮大きな声で話せばよいというわけではなく,耳元で・やや低めの声で,語尾をはっきりとさせて話すのが効果的であるとされている3).難聴者は相手の唇を読んだり,顔色を見たり,身振りなどを頼りにしていることも多いので,できればマスクはせずに口の動きや表情がわかるように患者の正面に顔を向けて,身振り手振りを交えながら話しかけるなどの工夫を行う.3.内臓機能(呼吸器・循環器系,消化器系,内分泌系)の変化加齢による内臓機能の変化については,眼科医はb遮断薬と関連する疾患に特に熟知する必要がある.b遮断薬の禁忌疾患としては,気管支喘息・重篤な慢性閉塞性肺疾患(COPD)・徐脈・房室ブロックII度・III度・コントロール不良な心不全があげられる.これらの疾患に対し,b遮断薬はときに致死的な副作用をきたす.COPDは最近日本でも増加傾向にあり,2001年発表の大規模な疫学調査〔NICE(TheNipponCOPDEpidemiology)スタディ〕によると,日本における患者数は推定530万人,70歳以上の高齢者では有病率17.4%にのぼる4).心不全に対してはb遮断薬が必ずしも禁忌でない場合も多いが,使用時には内科医に相談するほうが望ましいと思われる.これらの疾患では,患者自身が病状を把握していない・正しく診断されていない,など,潜在患者が多いことにも留意する.II処方前緑内障は,基本的には「超」慢性疾患であり,治療は生涯にわたる.この際,特に初期緑内障では,「生活上の不自由」をまったく感じていないことが大半であるため,視野障害は黒く見えるわけではなく5),初期のうちは障害を自覚することはほとんどないことを説明する.一方,「緑内障=失明」と短絡的に考え,不安に陥る患者も少なくない.これらに対しては,確かに緑内障は進行性であるが,治療により失明の危険性を最小化しうることを,繰り返し説明する.緑内障治療を成功させるためには患者の治療への「積極的参加」が不可欠であり,そのためにまず患者から「なぜ点眼加療が必要なのか」の納得を得る必要がある.(33)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201233面からは「患者が積極的に治療方針の決定に参加し,治療を実施,継続すること」と訳される.治療の継続性すなわちアドヒアランスの低下は緑内障の最大の予後不良因子の一つであることが報告されている8)が,緑内障点眼を眼科医の指示通りに遂行できている割合は60%程度だという報告もある9).アドヒアランスに影響を与える要因としては,一般的に薬剤数や点眼回数のほか,病態理解度,および病状認知度などがあげられる10?13).実際に筆者らが行った緑内障の点眼アドヒアランスに関する調査14)では,全体では患者の78%が指示通りの点眼ができており,65歳以上の高齢者では81%が指示通りにできていた(図1).指示通りの点眼の有無と背景因子との関連を検討したところ,非高齢断薬や炭酸脱水酵素阻害薬などへの変更・追加を検討する.高齢者では呼吸器・循環器系の合併症を有している場合が多く,b遮断薬を処方する際には注意が必要であるので,事前にしっかり問診をとり,合併症の有無を把握する.高齢者は多系統の疾患を有していることが多く,忘れている疾患もあるので,既往歴の聴取は繰り返し行い,薬剤服用に関しては実物あるいは説明書を見せてもらうとよい.高齢者では患者自身が合併症を把握していない潜在患者であることも多いので,点眼後,息苦しくなるような場合は点眼を中止して来院することも指示しておく.b遮断薬のゲル化製剤や,懸濁液である炭酸脱水酵素阻害薬では,点眼直後に霧視を生じやすい.視機能の落ちた症例では,点眼による霧視は強い不安感を煽ることがあるので,「点眼後はしばらく霞みますよ」と事前に説明しておく.その他,a1遮断薬,a1b遮断薬,副交感刺激薬などの選択肢がある.点眼アドヒアランスが不良と判断される場合には,点眼本数・点眼回数を減らす目的で,配合剤を処方することも症例に応じて検討する.現在日本では,3剤の配合剤が使用可能であり,ザラカムRはラタノプロストとチモロール,デュオトラバRはトラボプロストとチモロール,コソプトRはドルゾラミドとチモロールの配合剤である.3剤ともb遮断薬(チモロール)に他剤を組み合わせており,ザラカムR,デュオトラバRは1日1回,コソプトRは1日2回の点眼である.これらの配合剤を処方する際には,いずれの配合剤にもb遮断薬が配合されていることを忘れてはならず,その副作用について留意する必要がある.また,「しみる」,「充血」などのその他の眼局所的な副作用に関しても,前もって予告しておくことで,点眼時の驚き・不安感を減少させ,点眼導入・継続がスムーズになる.IV処方後近年医療界では,正しく治療を継続することを意味する言葉として,コンプライアンスに代わりアドヒアランスが用いられるようになった.アドヒアランスは,直訳すると「執着・粘着・支持」であるが,「何かに対し愛着を感じ継続する」という意味を包含しており7),医療表1緑内障アンケート調査―指示通りの点眼に関わる因子ほぼ指示通りに点眼できている指示通りに点眼できていないp値性別男性75例(40.5%)女性110例(59.5%)男性31例(60.8%)女性20例(39.2%)0.0101*年齢66.4±12.1歳60.3±15.0歳0.0028**眼圧13.9±3.0mmHg13.3±2.6mmHg0.2158**MD値?10.2±8.1dB?9.8±8.9dB0.7902**緑内障点眼薬数1.7±0.8剤1.8±0.8剤0.5593**通院頻度8.6±3.6回/年7.7±3.2回/年0.1193***:c2検定,**:t検定.65歳未満65歳以上全体しばしば2%しばしば1%しばしば4%時々できない20%時々できない26%時々できない15%ほぼ指示通りにできている78%ほぼ指示通りにできている73%ほぼ指示通りにできている81%図1緑内障アンケート調査―質問「指示通りの点眼ができていますか?」34あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(34)かどうかをみることも有用とされている15).なお,アドヒアランスが不良と判断された場合も,非難的な態度でなく,むしろ,励ましをまじえながら,「パートナーシップ」を形成するように努める.アドヒアランスの本質は,患者との良好な信頼関係にほかならない.おわりに高齢者といってもその身体的・生理的機能,社会的背景はさまざまであり,個人差も非常に大きい.一人ひとりの「QOLを損なわない範囲」で,「天寿を全うするまで視機能を維持する」ことを目指すなかで,われわれは個々の症例に応じた対応を行い,効果と副作用のバランスを評価しつつ,高齢者が安心して快適な余生をおくれるように緑内障診療を進めていきたいと考える.文献1)下濱俊:我が国における認知症高齢者の実態.日本医事新報4410:60-62,20082)内田育恵:加齢性難聴の疫学.総合臨床60:131-132,20113)山本君子:高齢者の身体的特徴,知っておくべき基礎知識.介護人財育成ぷらす6:51-55,20094)福地義之助:日本における疫学.「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」,第2版ポケットガイド,p2-3,メジカルビュー社,20045)吉川啓司:暗点について.実戦緑内障,p55,金原出版,19966)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,2004者よりも高齢者,男性よりも女性で,指示通りの点眼ができており,年齢・性別がアドヒアランスに影響すると考えられた(表1).また,眼圧値の認知を病状認知度の尺度に用いたが,興味深いことに高齢男性においては,眼圧を認知している症例ほど有意に指示通りの点眼ができており(図2),病状認知度がアドヒアランスを大きく左右する可能性が示された.一方,女性では眼圧認知の有無にかかわらず,高齢者・非高齢者ともに比較的きちんと点眼できていた(図3).高齢者のアドヒアランス向上のための眼科医の対応の第一歩として,患者の病状認知度を高める努力は大変重要であると思われる.さらに高齢者の点眼治療を考えるうえで,重要な課題でありながら見過ごされていることとして点眼手技の問題があり,実際に目の前で患者に点眼してもらうと適切な点眼操作が行えている患者は意外にも少ない.毎回忘れずに点眼してはいるものの液がほとんど眼の中に入っていない患者もときにみられる.このような患者に対してはコメディカルの協力のもと点眼指導を根気よく行うことが求められる.高齢者では手指が不自由であるが故に点眼操作がおぼつかないことがあり,患者家族による介助が必要な場合もある.また,点眼時刻は,点眼薬の効果持続時間に基づいて毎日の点眼時刻をできるだけ決めるよう指導し15),点眼行為に規則性をもたせて,習慣化させるようにする16).指示通りの点眼ができているかどうかの判定法として,「昨晩は何時に点眼しましたか」などの問いかけを予告なく行い,よどみなく回答できる眼圧値を知っている(n=41)眼圧値を知らない(n=13)眼圧値を知っている(n=47)眼圧値を知らない(n=5)*p=0.0081(Fisherの直接確率)ほぼ指示通り61.7%時々できない38.3%ほぼ指示通り87.8%時々12.2%しばしばできない15.4%ほぼ指示通り60.0%時々できない40.0%ほぼ指示通り53.8%時々できない30.8%65歳未満65歳以上図2緑内障アンケート調査―「指示通りの点眼」と「眼圧の認知」の関連(男性)眼圧値を知っている(n=66)眼圧値を知らない(n=14)眼圧値を知っている(n=48)眼圧値を知らない(n=2)ほぼ指示通り83.3%ほぼ指示通り86.4%時々12.1%しばしばできない1.5%時々14.6%しばしばできない2.1%ほぼ指示通り100%ほぼ指示通り78.6%時々21.4%65歳未満65歳以上図3緑内障アンケート調査―「指示通りの点眼」と「眼圧の認知」の関連(女性)(35)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201235glaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,200713)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200914)高橋真紀子,内藤知子,吉川啓司ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,201115)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200316)南野麻美,安田典子:緑内障1日教育入院の試み①.FrontiersinGlaucoma4:164-167,20037)尾鷲登志美,上島国利:コンプライアンスからアドヒアランスへ.薬事50:373-376,20088)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20039)ReardonG,SchwartzGF,MozaffariE:Patientpersistencywithtopicalocularhypotensivetherapyinamanagedcarepopulation.AmJOphthalmol137:S3-12,200410)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200511)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200612)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherencein

高齢者の眼底検査

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPYI高齢者における検査のむずかしさ高齢者では,通常の眼底検査,視野検査にもとづく緑内障診断はむずかしくなることがある(表1).眼底検査においては,長時間開瞼が保持できず,眼球運動がコントロールできないことがあるため詳細な観察が困難になりやすい.白内障や硝子体混濁による眼底透見性の低下や,散瞳不良があればなおさらである.緑内障以外に網膜静脈分枝閉塞症や虚血性視神経症の頻度も高くなり,これらの疾患では乳頭陥凹や網膜神経線維層欠損(NFLD)など,緑内障と同様の所見を残すことが多い.発症から時間が経ち病歴や本人の記憶も明らかではないような段階では,詳細な眼底検査,造影検査と経過観察で鑑別するしかないが,高齢者では長時間,侵襲的な検査は行いにくいことがある.自動静的視野検査を行う場合にも,高齢者では長時間はじめに開放隅角緑内障の有病率は年齢とともに増加し,閉塞隅角緑内障の頻度も増加するため,高齢者における緑内障の有病率は高まる1,2).高齢者では信頼性の高い視野検査の結果を得ることはむずかしく,眼圧測定もやや困難なことがあるうえに一般に高齢者の眼圧は低下する傾向があるなど,高齢者の緑内障診断においては,視野や眼圧に依存しない眼底所見による評価が重要となる.また,高齢が緑内障進行の有意なリスク要因だとする報告も複数ある3)が,高齢者では投薬の副作用が問題になったり,手術を行っても術後管理が困難になることが予想される症例も多い.緑内障の診断とともに,進行速度を評価したうえで,進行しやすい症例には積極的な治療を行う一方,進行の遅い症例においては生涯のQOL(qualityoflife)と手術のリスクを考慮して診療方針を決定することも必要である.しかしここでも定期的な視野検査を行うことがむずかしく,その結果も変動が大きく評価が困難な症例が少なくない.このような場面で,眼底検査,特に光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を中心とした画像検査は,ごく短時間で患者の身体的負担も少なく客観的なデータを得ることができ,高齢者の診療においても有用性が期待される.本稿では,高齢者における画像検査を含めた眼底検査の有用性と問題点を,実際の症例を示しつつ概説する.(25)25*YukaAoyama:江口眼科病院/東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学**ChihiroMayama:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕間山千尋:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):25?30,2012高齢者の眼底検査FundusExaminationandUseofImagingTechniquesinElderlyPatientsorSuspectsofGlaucoma青山裕加*間山千尋**表1高齢者に対する検査の障害となりうる問題点検査高齢者における問題点眼底検査長時間の開瞼,姿勢保持の困難白内障,硝子体混濁による透見性低下散瞳不良緑内障以外の眼底疾患の合併視野検査固視不良,反応性の低下による検査結果の信頼性低下眼瞼下垂白内障によるびまん性の感度低下26あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(26)II眼底写真による評価眼底写真,特に立体視の可能なステレオ写真を使った視神経乳頭形態の緑内障性変化とNFLDの評価による緑内障診断は,緑内障専門医により行われれば感度・特異度とも十分に高いことが報告されている4,5).NFLDや緑内障進行の危険因子と考えられている視神経乳頭出血については,特に病変が小さな変化である場合,理想的とはいえない条件下での眼底検査よりも,レッドフリー画像を含めた眼底写真による評価のほうが検出率が高いと考えられる(図1).高齢者に多い散瞳不良例,あるいは狭隅角により散瞳がためらわれる症例においては,無散瞳眼底カメラによる眼底写真によっても多くの情報が得られる.後極部網膜と視神経乳頭の緑内障性変化の観察,さらには他の黄斑疾患のスクリーニングも含めて,眼底写真を定期的に撮影することは高齢者でも有効であると考えられる.III画像検査による評価眼底写真以外の画像検査としては,HeidelbergRetinalTomograph(HRT),scanninglaserpolarimetry(GDx),OCTなどが用いられてきた.HRTは視神経乳にわたって検査の姿勢を維持して集中力を保つことはむずかしくなり,白内障の影響や固視不良,反応性の低下により信頼できる結果が得られず,有用な情報が得られないことがある.眼底所見に比べて静的視野検査の結果がかなり悪いような場合,動的検査を行うと妥当な結果が得られることがあるが,定量的な評価や進行判定はむずかしくなる.このような場合も,眼底検査による視神経乳頭と網膜の所見を中心として緑内障を評価せざるをえない.眼底検査は通常,直像鏡や,スリットランプと前置レンズを用いた拡大率の高い観察によって得られる情報が多いが,高齢者の場合,短時間で撮影できる眼底写真や,OCTを中心とした画像検査による定量的評価の有用性が高い(表2).表2緑内障診断における画像検査の有用性画像検査の長所・検査が短時間で患者の身体的負担が少ない・結果の客観性,再現性が高い・緑内障類似疾患との鑑別に有用・経時的な進行解析にも有用な可能性がある図1眼底写真による網膜神経線維層欠損(NFLD)の検出60歳,男性の初期緑内障例.視野異常は軽度で,固視が悪く詳細な眼底検査がむずかしいため視神経乳頭の変化はわかりにくいが,眼底写真では複数のNFLDが容易に同定できる.(27)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201227推測されている.NFLやGCL,GCCの層厚は視野による緑内障の進行評価ともよく相関することが知られており,信頼できる視野検査結果が得られない症例では進行評価にも利用できる可能性がある(図2).撮影時間が短い画像検査は,視野検査のむずかしい高齢者においても比較的短い間隔でくり返し実施することも容易で,再現性の高い検査結果が得られやすい.また,OCTは緑内障と虚血性視神経症との鑑別にも有用との報告があり6,7),黄斑浮腫,黄斑前膜,黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群,加齢黄斑変性症など,高齢者で発症頻度の増加する黄斑疾患の診断,評価にも有用である.IV視神経乳頭,網膜厚の加齢変化正常眼であっても加齢に伴い視神経乳頭形状,網膜厚は変化する.HRTにより視神経乳頭形態のパラメータの変化を11年間にわたり長期間観察した報告によれば,正常眼でも加齢に伴いcuppingの有意な拡大が認められている8).OCTは新しい機器であるため経時的な長期間の経過観察の報告はまだ少なく,多くは一時点における断面的な測定結果で年齢の影響が検討されている.その結果によれば,加齢とともに視神経乳頭周囲のNFLはほぼ直線的に薄くなることが知られており(図3)9),黄斑部においても同様の変化が認められている.高齢者の検査においては白内障による影響が避けられない.GDxやHRTでの測定結果も白内障手術の前後で変化することが報告されている10)が,特に今後中心的な画像機器となるOCTでは,TD-OCT,SD-OCTい頭形状,GDxは視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚を評価できるが,最近のスペクトラル・ドメインOCT(SD-OCT)はその両方を評価でき,さらに黄斑部網膜の評価も可能となっている.すでに緑内障診療に欠かせない機器になりつつあるが,高齢者の診療においても大きな役割を果たすことが期待される.OCTにより緑内障を診断するには,GDxや従来のタイム・ドメインOCT(TD-OCT)から用いられていた,視神経乳頭周囲の網膜神経線維層を輪状に解析してNFLDを同定する方法と,黄斑部の網膜を面状にスキャンして網膜全層,網膜神経線維層,さらには別の網膜内の各層の層厚を解析してその厚みを評価する方法が行われている.前者の方法は従来から一般的であったが,SD-OCTを用いることでデータの解像度,再現性が向上し,視神経乳頭を含めた広範囲をスキャンして,網膜解析部位を測定後に修正したり,乳頭形状の解析を同時に行うことが可能になった.黄斑部の網膜厚の評価はこれまでも線状のスキャンで行われていたが,SD-OCTによって黄斑部を広範囲に高い密度でスキャンしてマップ状に層厚を解析することが可能になり,臨床的にきわめて有用な方法となった.黄斑部においては神経線維層(NFL)以外にも神経節細胞層(GCL)などの各層の厚みが注目されており,NFLとGCLに内網状層(IPL)を加えた神経節細胞複合体(GCC)層は比較的層厚が評価しやすいこともあり,緑内障の病態と密接に関連するパラメータとなることが350300250200150100500網膜内各層の層厚(μm)Retina正常緑内障Preperimetric初期中期後期GCCIPLNFLGCL+GCLOuterretina図2黄斑部網膜厚と緑内障病期の相関OCTで測定した黄斑部の網膜内各層厚は緑内障の進行とともに菲薄化する.GCC:神経節細胞複合体,GCL:神経節細胞層,IPL:内膜状層,NFL:神経線維層.網膜神経線維層厚(μm)年齢(歳)1401301201101009080706020304050607080図3年齢と視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚1歳当たり,約0.2μm菲薄化する傾向が認められる.28あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(28)析の結果であり,上方に2カ所,下方に1カ所の局所的な菲薄化が認められ,この部位のNFLDの存在が疑われる.しかしこの撮影時のB-スキャン画像(図5b)をみると,下方のRNFLT菲薄化(矢印)の部分は撮影像が明らかに乱れており,RNFLTを正しく測定できていないことがわかる.同じ症例で再度撮影した画像(図5c)では別の部位に同様の菲薄化があることからわかるずれも白内障による光の減衰によって得られる画像のノイズが増加し,網膜厚は薄く測定される傾向がある.視神経乳頭周囲のNFL厚を白内障の術前・術後で比較した複数の報告があり11?12),NFL厚は白内障術後には約10μm以上厚くなることが認められているため,白内障のある症例で画像検査を行う場合には留意する必要がある.V実際の臨床例高齢者の緑内障症例におけるOCT検査の問題点について,実際の症例をいくつか示す.図4左は65歳,女性の緑内障患者に対して白内障術前に行ったOCT検査の結果,図4右は術後2カ月の時点での検査結果である.術前の網膜神経線維層厚(RNFLT)解析では赤色で図示された,1パーセンタイル基準で緑内障と判定されるセクターが両眼に広く存在するが,術後には全体のRNFLTが厚く測定されたため,赤色で判定されるセクターはなくなっており,画像のコントラストが改善していることがわかる.図5aは,69歳,男性の視神経乳頭周囲のRNFLT解図4白内障手術前後のOCTの検査結果術前(左)に比べ術後(右)は画像のコントラストが改善し,網膜神経線維層厚が全体に厚く測定されていることがわかる.TSNIT300250200150100500網膜神経線維層厚(μm)■95%■5%■1%図5a視神経乳頭周囲の網膜神経線維層厚解析の結果上方に加え,下方にもNFLDを疑わせる網膜神経線維層厚の菲薄化がある.(29)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201229おわりに高齢者の緑内障症例では視野検査などに比べて眼底所見の有用性が相対的に高くなり,OCTを中心とした画像検査の今後の発展が期待される.しかし加齢による正常眼データの変化に加え,緑内障以外の病的変化を合併する可能性にも注意が必要であり,それらの病態がOCTの検査結果に与える影響については今後の検討が必要である.OCTの撮影は簡便であるが,解析結果のグラフやサマリー表示を見ているだけでは眼底疾患などの変化を見落とす可能性が高く,高齢者では緑内障以外00の疾患,病態の評価も含めた,眼底検査,網膜硝子体のように,この症例では後部硝子体?離に伴うWeiss’ringが解析部位に入り影響していた.黄斑前膜も高齢者にしばしば認めるものであり,軽度であれば視機能に影響をほとんど与えず病的な意義は小さい.しかし緑内障眼に存在する場合,たとえ軽度であっても網膜厚の測定には影響を与えうる(図6).これ以外にも,後部硝子体?離が生じる過程では黄斑部の網膜に不均一な牽引がかかることがあり,網膜厚の測定にも影響を与える可能性があると考えられる(図7).図5bこの検査時のB?スキャン画像図5c再撮影時のB?スキャン画像図6黄斑上膜と糖尿病網膜症を合併した緑内障眼のOCT像30あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(30)thicknessinnonarteriticischemicopticneuropathyandopen-angleglaucoma.Ophthalmology113:1340-1344,20067)SaitoH,TomidokoroA,TomitaGetal:Opticdiscandperipapillarymorphologyinunilateralnonarteriticanteriorischemicopticneuropathyandage-andrefractionmatchednormals.Ophthalmology115:1585-1590,20088)HarjuM,KurvinenL,SaariJetal:Changeinopticnerveheadtopographyinhealthyvolunteers:an11-yearfollow-up.BrJOphthalmol95:818-821,20119)HirasawaH,TomidokoroA,AraieMetal:Peripapillaryretinalnervefiberlayerthicknessdeterminedbyspectral-domainopticalcoherencetomographyinophthalmologicallynormaleyes.ArchOphthalmol128:1420-1426,201010)Sanchez-CanoA,PabloLE,LarrosaJMetal:Theeffectofphacoemulsificationcataractsurgeryonpolarimetryandtomographymeasurementsforglaucomadiagnosis.JGlaucoma19:468-474,201011)El-AshryM,AppaswamyS,DeokuleSetal:Theeffectofphacoemulsificationcataractsurgeryonthemeasurementofretinalnervefiberlayerthicknessusingopticalcoherencetomography.CurrEyeRes31:409-413,200612)ChengCS,NatividadMG,EarnestAetal:Comparisonoftheinfluenceofcataractandpupilsizeonretinalnervefibrelayerthicknessmeasurementswithtime-domainandspectral-domainopticalcoherencetomography.ClinExperimentOphthalmol39:215-221,2011観察が重要となると考えられる.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:TheTajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TajimiStudyGroup,JapanGlaucomaSociety:TheTajimiStudyreport2:prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20053)WesselinkC,MarcusMW,JansoniusNM:RiskFactorsforVisualFieldProgressionintheGroningenLongitudinalGlaucomaStudy:AComparisonofDifferentStatisticalApproaches.JGlaucoma,2011Jun224)GirkinCA,DeLeon-OrtegaJE,XieAetal:ComparisonoftheMoorfieldsclassificationusingconfocalscanninglaserophthalmoscopyandsubjectiveopticdiscclassificationindetectingglaucomainblacksandwhites.Ophthalmology113:2144-2149,20065)Deleon-OrtegaJE,ArthurSN,McGwinGJretal:Discriminationbetweenglaucomatousandnonglaucomatouseyesusingquantitativeimagingdevicesandsubjectiveopticnerveheadassessment.InvestOphthalmolVisSci47:3374-3380,20066)SaitoH,TomidokoroA,SugimotoEetal:Opticdisctopographyandperipapillaryretinalnervefiberlayer図7後部硝子体?離が不完全に生じている症例のOCT画像後部硝子体?離が不完全であり(矢印),網膜にも局所的な牽引がかかっていると考えられる.

高齢者の視野検査

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPYI視野の加齢変化と高齢者視野データの捉え方加齢によりさまざまな身体機能が低下するが,視野も加齢により沈下する.加齢による瞳孔径縮小や水晶体変化も影響はしうるが,視野の加齢変化の主因は,視細胞を含めたそれ以降の視覚に関わる神経系自体の変化にある.高齢者の視野データを読むために,まず正常な視野の加齢変化と,高齢者の正常値データについて理解しておきたい.1.静的視野の加齢変化と後期高齢者の正常値の問題自動視野計を用いて臨床で通常行われている明度識別静的視野の感度閾値は,年齢とともに低下し,視野の中央部よりも周辺で,下方よりも上方で,より低下が大きい1).また,測る機能により加齢変化は異なり,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP)は,明度識別視野などよりも加齢の影響が大きい2).さらに,明所視より暗所視のほうが,加齢の影響が大きい3).視野検査はその検査条件における反応をみているにすぎない.臨床検査としての通常の視野検査には表れない日常のさまざまな条件における加齢の影響にも注意を払うべきであろう.これまでに行われた正常視野の検討で,対象となった正常者の多くは80歳以下の成人である.後期高齢者については,データが少なく,データの個体差も大きい.はじめに緑内障診療の目標は患者の一生涯にわたるqualityoflife(QOL)の維持であり,QOLに影響の大きい視機能障害の現状と進行を評価するには,視野検査が不可欠である.日本の高齢者人口(65歳以上,平成23年9月15日現在総務省統計局推計)は総人口の23.3%で,75歳以上の後期高齢者だけでも11.6%に達している.日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査(多治見スタディ)において70歳代の緑内障有病率は1割以上であったが,10年以上を経て,高齢者人口も割合も増加している.緑内障管理だけを考えても,高齢者に視野検査を行う機会は少なくない.高齢者の視野検査では,対象疾患(ここでは緑内障)の他に,さまざまな因子が結果に影響しうる.加齢による変化の程度には個人差がある.白内障など加齢で増える眼科疾患の併存も多い.検査視標への反応の遅れや検査姿勢を長く保てないなどの身体的要因や,意欲低下や認知障害から十分な理解と協力に基づいた的確な応答が得にくいなどの精神的要因が加わり,検査を円滑に行えない場合もある.検査結果の変動が大きいことも多い.そのような高齢者にみられる特徴や影響因子を理解し,複合的なデータとして視野検査の結果を読むことが,高齢者では大切である.また,高齢者一人ひとりの状況に応じて,知りたい視野情報を引き出すのに適した検査方法を選ぶことも必要である.(19)19*SachikoOkuyama:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕奥山幸子:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):19?24,2012高齢者の視野検査VisualFieldTestingfortheElderly奥山幸子*20あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(20)II高齢者の視野データに影響しうる因子視野の検査データは,医師と検者と患者で作り上げるものである.高齢者では,加齢による視覚系の変化以外のさまざまな因子が検査結果に影響する場合が多い.検者は,患者の状態をよく見きわめて説明と検査を行い,検査中に気づいたことを記録してつぎの検査に活かすことが大切である.高齢者では,画一的な対応はそぐわないことも多い.医師は,患者が検査に十分適応できたかにまず注意を払い,もし適応が不十分で改善が見込めない状況であれば,検査の可能性と必要性から,より有用な情報を引き出せる検査方法を選ぶ必要がある.以下に,影響因子の具体例をあげる.1.易疲労性同じ検査姿勢を続けることが身体的疲労に,単調な作業を続けることが精神的疲労や眠気につながる.疲労により,検査中に頭位や開瞼の維持や固視が不十分となり,検査後半に応答が悪化して偽陰性が増え,本来より検査結果が悪化する.影響の程度はその時々で異なるので検査結果が変動し,悪化なのか変動なのかを容易に決め難いことが少なくない(図1).常に良い状況での測定を目指すことが,変動を少なくするために必要となる.患者には,良い状況で検査を受けて結果の変動を減らすことの大切さを説明し,協力を得る.検者がよく観察し,必要に応じて休みながら検査を進めることが大切である.疲労の影響が大きいと疑われる場合は,検査時間が短いストラテジでの検査結果と比べてみるのもよい.時間短縮型ストラテジは,得られる閾値や信頼性指標に期待する精度は理論的には低い.しかし疲労で結果が悪化し変動する程度と比べたうえで,その患者にとってより適した測定法を選ぶ必要はある.結果の再現性から検査の確からしさを確認することが大切である.熟練した検者が行うGPは,患者の反応をみながら対話しつつ進められるので,患者の受け入れがよく,高齢者では有用性が高い.患者によってはマニュアルどおりではなく,数本のイソプタに限定して短時間で測定する(図2),別の日に片眼ずつ行う,などの工夫も必要である.後期高齢者における正常の定義とは何かを考え,高齢正常ボランティアを実際に募るのは容易ではないことを考えれば,当然の結果であろう.現在臨床で使われている各自動視野計は,独自に検討された年齢別正常値データを解析に用いている.たとえばHumphreyFieldAnalyzer(HFA)の中心30-2SITAstandardの正常平均閾値は,自験によると,およそ?0.059dB/年の傾きをとる直線関数上にある.しかし,この加齢性低下が本来は非直線的で高齢でより低下が大きい可能性があり,その場合,内蔵する年齢別正常値データが直線関数の視野計では,高齢者に対して,正常値が本来より高いために感度低下と判定しやすくなることが指摘されている4).自動視野計は,実際には正常値を検討していない100歳などの非常に高齢な被検者に対しても,直線関数から推計した年齢別正常値をもとに,解析結果を表示する.したがって,特に後期高齢者では,正常値は誤差の大きい参考値と考え,正常値との差(偏差)をそのまま異常と評価するのは適当ではない.視野パターンの異常と,残存する生の閾値を読み,その患者にとって生活の質を落とさずに人生を全うするのに足りる状態かを考えることが大切である.2.動的視野の加齢変化と高齢者診療上の利点動的視野では,加齢によりイソプタが狭窄する.Octopus視野計の半自動動的視野測定を用い,被検者の反応時間で補正したイソプタを,10歳から80歳の正常者において検討した報告によれば,高齢者での反応時間の延長は加齢に伴うイソプタ狭窄の主因ではなく,視標サイズIII以上の輝度4eの視標では年齢には影響されず,視標サイズII以下,特に2e以下の視標輝度では40歳以上で加齢性狭窄を認め,年齢との関係は非直線的であった5).日本では,Goldmann動的視野測定(以下,GP)の最外側イソプタにはV/4e視標を用いている.一般に高齢者の視野は変動や個人差が大きく,評価に困ることが多い.V/4eイソプタが視覚系の加齢変化だけでは影響されにくいことは,高齢者診療では利点となる.V/4eイソプタの全周性狭窄があれば,さまざまなびまん性感度低下の原因をまず探る必要がある.(21)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201221図1検査中に眠くなり,静的視野の変動が大きい例女性.74歳から82歳におけるOctopus視野計G2プログラムによる長期経過.悪化なのか変動なのか容易に決め難い.前回今回Ⅴ/4eⅠ/4eⅠ/2eⅤ/4eⅠ/4e図2長時間座れず,通常検査が困難になった例90歳,女性.車椅子で受診.前回は右眼検査途中で「しんどい」との訴えで中止になり,家族から,長時間は座れないが調子にむらがあるとの説明あり.来院時に調子が良ければ,V/4e,I/4e,I/2eのみを手早く測るように指示した.今回は両眼とも測定できて,全体に狭いが以前のパターンと著変はないことを確認した.22あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(22)子を介護者から聞き取り,残存視野を推測する.視機能についてケアに活かせる情報提供を介護者へ行うことが大切である.4.社会的要因高齢単身世帯の増加や経済的要因などから,疾患による失明への不安とともに,生活上の不安を抱える高齢患者が増えている.そのような独り暮らしの高齢患者で,あるとき,視力データが急に悪化し,視野にも著しい悪化を認めた(図4).他覚的所見や診察時の動作や対座法からは急な悪化は考えられず,話を聞いていくうちに,失明するのではないかと思うと今後の生活が不安で,介護がより受けやすくなれるかと思い,検査時に応答を控えてしまったためとわかった.必要なサポートが受けられるように支援していくこと,病状の正しい把握は治療2.身体的要因背が丸い,腰が痛いなどで,検査時に頭位を正しい位置に調整保持できない場合もある.頭位のずれはレンズ枠によるアーチファクトを生じるが,できる姿勢で測定し,検者はその記録を判断材料として残す.握力が弱くて応答ボタンをスムーズに押せなかったなど,さまざまな測定時の状況を検者と医師が聞き取って記録し,結果の判断とつぎの検査に活かすことが大切である.3.精神的要因視野計を用いる検査には,患者の理解と協力が欠かせない.認知症は進行すると,固視などの理解と協力が得難くなり,視力検査はできても,通常の視野検査は困難となる(図3).以前の検査結果があれば参考にして,診察時に視標に向かう眼の動きや行動を観察し,日常の様1年前今回,認知症進行LV=(1.0)RV=(1.0)LV=(1.0)RV=(1.0)図3認知症が進行し,検査困難となった例80歳,女性.視野検査の理解が難しく,固視も十分できずイソプタにならず,測定不能となった.応答チェックとコメントで状況を示すことは大切.視力検査は可能であった.1年前,物忘れを心配され初めて家族付き添いで来院したときは,視野測定可能であった.(23)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012232カ月前「見えにくい」と…2カ月後RLRV=(0.6),LV=(0.01)RV=(0.3),LV=(10cm/nd)RV=(0.6p),LV=(0.02)図4失明と生活の不安が,検査に影響した例81歳,女性.独り暮らし.あるとき,視力と視野データが急に悪化した.他覚的所見や動作には変化なく,対座法では耳側60°で手の動きがわかった.話を伺うなかで,介護がより受けやすくなるかと思い,検査で応答を控えてしまったためとわかった.白内障術前LV=(0.4)白内障術後LV=(1.0)図5白内障と緑内障の併存例80歳,男性.白内障術後にびまん性感度低下が改善して明るくなり,視力も改善し,喜ばれた.しかし術前には,中心視野と視力がどの程度改善するかを判断することは困難であった.24あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(24)会生活を送るうえで非常に重要であり,その障害を予知あるいは早期に発見して対処していく必要がある.視野検査はその機能検査の一つとして重要である.高齢者では,多くの影響要因に注意を払って検査を行い,結果を判断し,検査結果には表れない視機能低下にも留意して,ケアに活かしていくことが大切である.文献1)HaasA,FlammerJ,SchneiderU:Influenceofageonthevisualfieldsofnormalsubjects.AmJOphthalmol101:199-203,19862)GardinerSK,JohnsonCA,SpryPG:Normalage-relatedsensitivitylossforavarietyofvisualfunctionsthroughoutthevisualfield.OptomVisSci83:438-443,20063)JacksonGR,OwsleyC:Scotopicsensitivityduringadulthood.VisionResearch40:2467-2473,20004)SpryPG,JohnsonCA:Senescentchangesofthenormalvisualfield:anage-oldproblem.OptomVisSci78:436-441,20015)VontheinR,RauscherS,PaetzoldJetal:Thenormalage-correctedandreactiontime-correctedisopterderivedbysemi-automatedkineticperimetry.Ophthalmology114:1065-1072,20076)LottLA,SchneckME,Haegerstrom-PortnoyGetal:Non-standardvisionmeasurespredictmortalityinelders:theSmith-KettlewellInstitute(SKI)study.OphthalomicEpidemiol17:242-250,20107)WestSK,HahnDV,BaldwinKCetal:Olderdriversandfailuretostopatredlights.JGerontolABiolSciMedSci65:179-183,2010上大切なので協力して欲しいことをお伝えし,後日,データは改善した.検査結果の急な変化には,社会的,心理的なサインが隠れていることもありうる.その見きわめとともに,背景にある高齢患者の生活の実情や不安にも十分に目を向けて,支えていくことが大切である.5.他の視野変化をきたす疾患の合併高齢者では緑内障以外にも,白内障や網脈絡膜の変性疾患や循環障害など,視野に影響する他の疾患の併存が多い(図5).視野の悪化が緑内障の悪化とは限らない.視野と他覚的眼所見との対応から広く視野悪化の原因を探り,適確に各疾患に対応する必要がある.III高齢者の日常視機能と臨床の視野データ視機能低下は,高齢者の生活機能や生活の質を下げるだけでなく,死亡率にも影響する6).高齢者の健康を考えるうえで,視機能の評価は重要である.しかし,高齢者の日常視機能を理解するうえで,臨床の視野検査や視力検査だけでは十分ではないことも理解しておきたい.高齢者が暗所視や低コントラストに弱いことも,通常の視野検査や視力検査は十分に反映しない.臨床の視野検査は片眼ずつ光の知覚を測るにすぎないが,日常視では,眼を常に動かして情報を探り,両眼の情報を合わせ,見えないところは多少埋め合わせ,経験に照らし,情報を認知している.何か見ながらの作業をしているときに,注視点の周囲で他の情報を認知できる範囲を有効視野というが,臨床の視野検査で得られる視野よりも,有効視野はかなり狭い(図6).たとえば,高齢者の運転中の信号無視には,有効視野の狭窄が関連していたと報告されている7).視覚弱者である高齢者のケアには,こうした特性への理解も必要である.おわりに超高齢化社会では,多くの高齢者がもっている社会に貢献できる力を十分に活かすことが求められている.しかし,高齢者は予備能が少なく,障害されれば容易に社会生活上の不具合につながりうる.視機能は自立して社有効視野視覚探索中の注視点臨床における視野検査で測定される周辺視野《影響要因》中心課題の種類背景ノイズ予期の可能性覚醒状態疲労加齢など図6臨床で測られる視野と有効視野の違い私達は,何かを注視して行動しながら,周囲の他の視覚情報を認知し,新たな行動をとることができる.注視点周囲で情報を認知できる範囲(有効視野)は限られ,さまざまな影響を受ける.有効視野の狭さは,高齢者の読書困難や運転時の信号無視などにも関連している.

小児の緑内障管理

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPYそれ以外にも小児では視機能発達の成長段階であり術後の視機能管理(弱視治療)が重要となる.低年齢では患児の協力が得られず意識下での診察が困難なことが多く,眼圧,角膜径,角膜厚,眼軸長,視神経乳頭陥凹などの検査や手術後の診察も十分行えない.苦労して得られた結果が正確性に欠けることがあるため,催眠下または全身麻酔下での評価が必要になる.高度の隅角発達異常,他の先天異常を合併した場合には,眼圧下降治療や弱視治療に限界があることがある.成人での緑内障治療の評価は,近年では光干渉断層計(OCT)による視神経や網膜の構造的評価がなされるようになったが,眼圧と視野による評価が主となっている.一方小児では,現在のところ正常小児のデータベースがないためOCTでの評価ができない.視機能を評価するための視野測定についても動的視野測定では5歳以上でないとできないことが多いため,眼圧だけが最も治療効果を評価する指標となってしまう.乳幼児では組織の弾性が高いため,特に発症が低年齢であるほど眼球組織の構造的障害をきたしやすく,持続的な高眼圧により緑内障性視神経障害だけでなく,牛眼といわれる角膜・眼球拡大をきたす.高眼圧による眼球の構造的な障害は眼圧下降後も残存することがあり,視機能発達の成長を妨げてしまうことが多い4).II小児緑内障の他覚的所見と検査自覚症状としては,流涙,羞明,眼瞼痙攣をきたすとはじめに緑内障診療ガイドライン1)では,小児期に認められる緑内障は発達緑内障と続発緑内障に分類される.発達緑内障は胎生期の前房隅角の形成異常のため眼圧が上昇する緑内障で,形成異常が隅角に限局する発達緑内障と他の先天異常を伴う発達緑内障に分類される.隅角形成異常の程度により発症時期が異なり早発型と遅発型に分けられ,遅発型では学童期や成人になってから発症することさえある.早発型発達緑内障はわが国では10万人に1人といわれている稀な疾患で,一般の眼科医が診察する機会は非常に少ない.治療については,続発緑内障では原疾患の治療と眼圧下降治療を並行し,それによる眼圧下降が不十分であれば観血的治療を行う.一方,乳幼児期に発症するような早発型発達緑内障は薬物治療だけでは十分な眼圧下降が得られることが少ないため,治療の第一選択はトラベクロトミーや隅角切開術といった観血的手術になることが多い.その眼圧コントロールは長期に良好であり成功率は70?90%と報告されている2,3)が,薬物治療が手術前の短期的治療あるいは手術後の追加治療として必要になる患児は少なくない.数回の隅角手術で効果がなければトラベクレクトミーを行うことになる.I小児緑内障の治療の問題点小児緑内障の治療方針は,手術による速やかな眼圧下降と必要に応じた薬物の追加治療を行うことであるが,(13)13*YoshiakiSaito:金沢大学大学院医学系研究科視覚科学(眼科学)〔別刷請求先〕齋藤代志明:〒920-8641金沢市宝町13-1金沢大学大学院医学系研究科視覚科学(眼科学)特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):13?17,2012小児の緑内障管理ManagementofDevelopmentalGlaucoma齋藤代志明*14あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(14)発達緑内障では特徴的な視神経乳頭所見が得られる.高眼圧により視神経乳頭陥凹が乳頭縁と同心円状に拡大する点が大人の緑内障と異なる(図5).小児緑内障の視神経乳頭陥凹は眼圧下降とともに大きさや深さが減少することが特徴であり7),治療効果の判定に重要である.小児緑内障の管理では,速やかな手術加療と術後の眼圧と視機能の両方を経過観察していく必要があるが,小児では成長に伴う眼圧変化(図6)8)や成長と眼圧下降による眼球形態の変化がある.手術加療が奏効すれば,角膜は透明化し,視神経乳頭陥凹も減少する.術後の評価は定期的な眼圧測定だけでなく,角膜厚,角膜径,眼軸長,屈折値,視神経乳頭所見を定期的にみていく必要があり,そのためには患児の経時的変化と正常小児の成長変化を知っておかなければならない.いわれる.他覚的所見では,角膜浮腫から角膜混濁(図1)をきたし,さらに高眼圧が持続すると角膜が伸展され角膜径が増大し,中央部にDescemet膜破裂を生じる.線状に生じるDescemet膜破裂をHaabstriae(図2)といい,不可逆的な角膜混濁は視機能発達障害の原因となる4).乳幼児は組織の弾性が高いため3?5歳頃までは眼圧上昇によって眼球組織が伸展して,角膜の菲薄化や角膜径の増大,眼軸の延長がみられる.通常,新生児の角膜径は10mm程度であり,生後1年頃までに11mm程度になるが,12mmを超える場合は発達緑内障を疑う(図3)5).眼軸長は出生時に17mm,1歳時に20?21mm,3歳時に22mm程度(図4)6)で,測定値がこれらの値をはるかに超えるときは診断の補助となる.図1角膜混濁生後1カ月,男児,発達緑内障.角膜浮腫と混濁を認め,スリット照明で虹彩の平坦化が確認できる.17019212325271020304050607080年齢(カ月)眼軸長(mm)図4正常小児の眼軸長変化(文献6より改変):先天緑内障:正常範囲(95%)角膜径(mm)年齢(カ月)1111213141516248163264120図3先天緑内障眼の角膜径角膜径が12mmを超える場合は発達緑内障を疑う.(文献5より改変)図2Haabstriae39歳,男性,発達緑内障.Descemet膜破裂の治癒瘢痕(Haabstriae)が残存(矢印)している.(15)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201215ル(エスクレR座薬)30?50mg/kgを使用するが,呼吸抑制をきたすことがあり,保護者への十分な説明と理解,投与後の注意深い観察が必要である.呼吸抑制が少ないパモ酸ヒドロキシジン(アタラックス-PシロップR)0.4ml/kgを混合することもある(トリクロホスナトリウム:パモ酸ヒドロキシジン=2?5:1).2?3歳ではトリクロールシロップRを20ml程度内服する必要があることもあり患児も嫌がり催眠しづらい.2?3歳が最も催眠剤の効果がない年齢であり(図9),3?6カ月間諸検査不可能の場合には全身麻酔下で検査を行う.III催眠法患児の年齢によっては,外来診察での検査に協力が得られないことがある.3歳以上であれば,細隙灯顕微鏡検査が可能であり,非接触の眼圧計,現在ではペンタカムRによる角膜厚測定や光学式眼軸長測定により非接触での検査が可能である.5歳以上であればGoldmann眼圧計(図7)や動的視野測定が可能である.2歳未満では,検査に協力が得られないため催眠剤を使用することが多い(図8).催眠では,トリクロホスナトリウム(トリクロールシロップR)0.7?1.0ml/kgや抱水クロラー図5同心円状の陥凹拡大生後4カ月,Sturge-Weber症候群.視神経乳頭陥凹に左右差がある.左:正常眼,右:患眼.02468101214166789101112131415161718年齢(歳)眼圧(mmHg)図6正常小児の眼圧変化非接触眼圧計,無麻酔下での眼圧.(文献8より)図7Goldmann眼圧計測定5歳,男児,発達緑内障.暗室測定にこだわらない.明室で測定可能.図8セデーションが有効男児,発達緑内障.催眠が十分であり開瞼器を挿入して角膜径の測定が可能.16あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(16)常,Sturge-Weber症候群,神経線維腫症(vonRecklinghausen病)などがある.隅角形成異常が高度な場合や他の先天異常がある場合には,眼圧コントロールに限界があることがある.十分な眼圧コントロールが得られない場合や患児に精神発達遅滞がある場合には,視機能の成長に限界がある.VI治療と術後管理治療は手術療法が基本となる.薬物療法による眼圧下降は,通常術前および術後の補助的治療となる.しかしながら,比較的軽症で薬物により眼圧が下降する症例では,薬物療法のみで経過観察を行う場合もある.点眼薬を選択する場合は,b遮断薬は気管支喘息,徐脈などのIV全身麻酔下での検査初診時に緑内障が疑われる場合や緑内障術後に外来での検査が不十分な場合に,全身麻酔下での検査を行う.検査項目としては,緑内障評価項目だけでなく弱視治療も念頭において,屈折,角膜局率,眼圧,角膜厚,角膜径,前眼部撮影,隅角(図10),超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM),散瞳後に視神経乳頭および眼底後極部撮影,散瞳後屈折,眼底検査を行う.画像はできるかぎり写真またはデジタル画像で保存しておく.全身麻酔下という限られた時間のなかでスムーズに検査を行うため,当科ではサマリーシートに沿って手早く検査を行っている.上記の検査は他の検査結果に影響を与えない順序で行い(表1),必ず両眼のデータを取っておく.初回検査時の治療方針の決定や経過観察時の評価は,上記の検査結果をもとに角膜浮腫・混濁,角膜径の増大,前房深度の増加,隅角形成異常,視神経乳頭変化などの所見を総合して行う.V全身性疾患の有無発達緑内障のなかには,隅角線維柱帯の発達異常に加え,他の眼組織あるいは他の全身的な先天異常を伴うものもある.診断を確定するために眼科および全身的検索を十分に行う必要がある.他の先天異常を伴う発達緑内障には,無虹彩症,Axenfeld-Rieger症候群,Peters異表1全身麻酔下での検査順序1.屈折・角膜曲率(手持ちオートレフ・ケラトメータ)2.眼圧(トノペンR,Perkins)3.眼軸長(超音波Aモード)4.角膜厚(超音波パキメータ)5.角膜径(キャリパー)6.超音波生体顕微鏡検査(UBM)7.前眼部撮影8.隅角鏡検査9.視神経乳頭および眼底後極部撮影10.散瞳後屈折11.眼底検査図10全身麻酔下での隅角検査3歳,線維柱帯切開術後の隅角.線維柱帯切開術により隅角が切開されている部位(上方)と虹彩高位付着と虹彩突起が残存している部位(下方)を確認できる.図9セデーションが無効男児,発達緑内障.催眠が十分でなく眼圧測定が不可.(17)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201217視治療が必要である.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)IkedaH,IshigookaH,MutoTetal:Long-termoutcomeoftrabeculotomyforthetreatmentofdevelopmentalglaucoma.ArchOphthalmol122:1122-1128,20043)TanimotoSA,BrandtJD:Optionsinpediatricglaucomaafteranglesurgeryhasfailed.CurrOpinOphthalmol17:132-137,20064)中村誠,調廣子,溝上國義ほか:早発型発達緑内障の弱視化要因.日眼会誌113:1145-1152,20095)KiskisAA,MarkowitzSN,MorinJD:Cornealdiameterandaxiallengthincongenitalglaucoma.CanJOphthalmol20:93-97,19856)LawSK,BuiD,CaprioliJ:Serialaxiallengthmeasurementsincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol132:926-928,20017)MeirellesSH,MathiasCR,BloiseRRetal:Evaluationofthefactorsassociatedwiththereversalofthedisccuppingaftersurgicaltreatmentofchildhoodglaucoma.JGlaucoma17:470-473,20088)PensieroS,DaPozzoS,PerissuttiPetal:Normalintraocularpressureinchildren.JPediatrOphthalmolStrabismus29:79-84,1992副作用があり,新生児・乳幼児の使用には注意を要する.第一選択薬としては,炭酸脱水酵素阻害薬,あるいはプロスタグランジン関連薬が使用しやすい.乳幼児以下ではプロスタグランジン関連薬の効果が不十分なことがある.具体的に目標眼圧を設定することは困難である.乳幼児緑内障の治療目標は大人と異なり単なる眼圧下降ではなく,視機能の成長を妨げないような眼圧下降が必要である.眼圧が15mmHg以下にコントロールされていても視力がほとんど成長しない患児もいれば,眼圧がときに20?25mmHgになっても視機能の成長が正常児と変わらない患児もいる.薬物治療の開始後は,眼圧の評価だけでなく,視機能の評価と角膜厚,角膜径,眼軸長,視神経乳頭などの形態的評価を行い,注意深く観察していく必要がある.術後眼圧が良好にコントロールされたとしても自発的な視機能の成長が必ずしも見込めるわけではない.眼圧が下降しても角膜混濁や視神経障害が残存すれば,不正乱視や視性刺激遮断性弱視の原因となり,高眼圧により眼軸が延長すれば,特に片眼性では不同視弱視の原因となる.小児期は視機能の発達に重要な時期であり,手術後は緑内障治療だけではなく,視機能の発達を含めた弱

小児の緑内障治療

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY障学会緑内障診療ガイドライン2)によると,小児緑内障は発達緑内障と続発緑内障に大別され,さらに発達緑内障は早発型発達緑内障(原発先天緑内障),遅発型発達緑内障,他の先天異常を伴う発達緑内障(続発先天緑内障)に分類される.発達緑内障とは,隅角の発育異常に起因する緑内障で,早発型の約80%は生後1歳までに発症し,牛眼を呈することが多い.治療の第一選択は手術であり,線維柱帯切開術(トラベクロトミー)または隅角切開術(ゴニオトミー)が選択される3,4).遅発型は隅角異常の程度が軽く,10?20歳代で発症する.一般に3歳以降に発症する発達緑内障は,牛眼を呈さず自覚症状に乏しいため発見が遅れがちである.特に遅発型では続発緑内障との鑑別診断が重要である.病期に応じて成人同様にまず薬物治療を試みるが,眼圧下はじめに小児緑内障の頻度は概して少なく,わが国の先天緑内障の発症頻度は約3万人に1人と報告されている1).しかし,小児の生涯にわたる重篤な視覚障害の原因となりうる代表的な疾患であり,早期発見と迅速な診断・治療,弱視訓練の適否が予後を大きく左右する.発見から長期管理を含めて,眼科医の果たす役割は多大である.本稿では,小児緑内障の病型ごとに治療の基本方針を述べたい.さらに成人とは異なる特徴をもつ小児の続発緑内障について自験例を示して解説し,今後の課題をあげたい.I小児緑内障の分類と治療方針(表1)小児緑内障の病型は成人と異なり,先天素因に起因するもの,多様な疾患を背景とするものが多い.日本緑内(7)7*SachikoNishina&NoriyukiAzuma:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕仁科幸子:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):7?12,2012小児の緑内障治療TreatmentforPediatricGlaucoma仁科幸子*東範行*表1小児緑内障の分類と治療方針分類治療方針発達緑内障隅角発育異常に起因早発型生後1歳までに約80%が発症①手術治療トラベクロトミー,ゴニオトミー遅発型隅角異常軽度,10~20歳代で発症①薬物治療②手術治療他の先天異常を伴う無虹彩症,Sturge-Weber症候群,Axenfeld-Rieger症候群など発症時期・機序によって手術治療または薬物治療続発緑内障手術・外傷,ステロイド,水晶体起因性,網膜硝子体疾患,腫瘍,ぶどう膜炎など①原因疾患の治療②薬物治療または手術治療8あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(8)良好で,手術回数1?3回によって成功率は約90%である.効果の持続も良好であり,生命表分析で20年後の眼圧調整成功率は80.8%と報告されている6).しかし角膜径が極度に増大した進行例ではSchlemm管の同定がむずかしくなる.ゴニオトミーは,手技の習得がむずかしい術式であるが,結膜を温存できるという利点がある.しかし角膜の浮腫混濁が強い例では,隅角が透見できず施行困難であるため,適応が限られている.他の先天異常を伴う発達緑内障では成功率が劣るが,やはり手術治療の第一選択はトラベクロトミーである4,6).高度の隅角癒着を生じている例では難治である.2.再手術初回のトラベクロトミーが十分に奏効しない場合には,部位を変えて2回,3回までロトミーで再手術を行う.初回が耳上側であれば,2回目は耳下側,3回目は鼻側となる.ロトミーを3回実施しても眼圧が再上昇して視神経乳頭陥凹が拡大する場合には,線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)の適応となるが,小児でも濾過胞維持のためマイトマイシンCを併用せざるをえない.できるだけ2歳までは,ロトミー施行後の眼圧再上昇に対し,薬物治療を併用して視神経障害の進行を防止し,降が十分に得られず視神経障害が進行する場合には,余命が長いことからも,原因治療として速やかに手術を行う必要がある5).他の先天異常を伴う発達緑内障とは,無虹彩症,Sturge-Weber症候群,Axenfeld-Rieger症候群,Peters異常などの疾患に併発する緑内障である.発症時期が出生時から成人まで多岐にわたり,眼圧上昇機序も異なるため,治療方針は一定ではない2).高度の隅角発育異常に起因する早発型に対しては,手術治療が第一選択となるが,原発性に比べて難治である.小児期以降の発症では薬物治療を第一選択とする.続発緑内障に対しては,原因疾患の治療が第一であり,つぎに発症機序に応じた薬物治療・手術を検討する.II発達緑内障の治療1.手術治療早発型発達緑内障に対しては早急な手術治療が必要であり,トラベクロトミーまたはゴニオトミーが第一選択となる.トラベクロトミーは発達緑内障のすべてに適応となる術式である(図1).いわゆる原発性に対する手術成績はabc図1生後2カ月男児,早発型発達緑内障a:術前右眼前眼部所見.角膜径増大11.5×12.5mm,角膜浮腫,眼圧30mmHg,トラベクロトミー1回施行にて眼圧コントロール良好,乳頭陥凹なし,速やかに角膜は透明化した.b:術前左眼前眼部所見.角膜径増大12×13mm,Descemet膜破裂を伴う高度角膜浮腫,眼圧30mmHg,トラベクロトミー1回施行にて眼圧コントロール良好,乳頭陥凹なし,角膜混濁が残存した.c:術後5カ月の左眼前眼部所見.角膜浮腫は消退したがHaabstriaeを認める.健眼遮閉および屈折矯正による弱視治療を行い,6歳の視力は右眼1.5,左眼0.2となった.(9)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20129児の続発緑内障の治療戦略.第34回日本眼科手術学会総会,京都,2011).2.病態と治療続発緑内障143眼のうち,手術治療を要したものは68眼(48%)であった.原因疾患別(図3)では,ステロイドは手術治療に至ったものが13%に留まっていたが,その他の原因疾患では手術治療の頻度が高く,ROP65%,先天白内障術後49%,PHPV・FEVRなど69%,腫瘍100%,その他は86%であった.治療方針は原因疾患と病態により異なる.以下,代表的な疾患を取り上げて当院における手術治療を述べ,今後の課題をあげたい.a.ROP(表2)ROP続発緑内障24例31眼は,いずれも網膜症治療後の症例であり,他院で光凝固・冷凍凝固,輪状締結術レクトミーを回避したい.レクトミーも2?3回は施行可能であるが,小児では濾過胞の管理がむずかしく,術後出血,過剰濾過による視力低下,術後感染の危険性などに十分な注意を要する.わが国での報告は少ないが,難治例にはインプラント手術が試みられることがあり,最終的に毛様体破壊術の適応となるものもある.3.薬物治療4)遅発型の発達緑内障や続発緑内障では,一般に薬物治療から開始する.またトラベクロトミー施行後の眼圧再上昇に対して,薬物治療が併用されることも多い.小児に対する安全性が確認されている緑内障点眼薬はないため,必要性,有効性を十分検討し,全身副作用に注意して投与すべきである.プロスタグランジン関連薬,炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬は,比較的副作用が少なく,点眼回数が少ないため使用しやすいが,プロスタグランジン関連薬は成人よりもノンレスポンダーが多い.b遮断薬は呼吸器・循環器系に対する副作用を誘発するため要注意である.III続発緑内障の治療1.小児続発緑内障の原因小児の続発緑内障は原因疾患,臨床像とも多種多様であり,成人とは異なる特徴をもつ.自覚症状に乏しく早期発見がむずかしいが,重篤な視覚障害をきたしやすいため,原因と病態を迅速に診断し,治療方針を決定する必要がある.特に発達緑内障との鑑別に注意を要する.国立成育医療研究センター(以下,当院)において2002?2010年に診療した続発緑内障99例143眼の臨床像は,性別:男児59例(60%),女児40例(40%),患側:片眼性55例(56%),両眼性44例(44%),発症年齢:生後1カ月?17歳8カ月(平均4歳9カ月),うち0?5歳が67%,6?10歳が20%を占めていた.乳幼児期の重症眼疾患が背景にあるため低年齢層が多いと思われる.原因疾患は,未熟児網膜症(ROP:網膜硝子体手術,光凝固・冷凍凝固術後)24%,先天白内障術後23%,ステロイド23%,第一次形成遺残(PHPV)・家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)など16%,腫瘍8%,その他6%であり,内訳は図2に示した(仁科幸子:小ROP24%腫瘍8%先天白内障術後23%ステロイド23%PHPVFEVRなど16%その他6%Lensectomy21ネフローゼ15IOL2血液疾患4ぶどう膜炎2その他2PHPV/PFV8FEVR5網膜ひだ2色素失調症1網膜芽細胞腫3若年性黄色肉芽腫3脈絡膜血管腫1網膜血管閉塞3,網膜変性1ぶどう膜炎2,外傷1網膜硝子体手術後15光凝固・冷凍凝固後9(例数)図2小児続発緑内障の原因疾患(国立成育医療研究センター,n=99例)01020304050ステロイドその他腫瘍PHPV/FEVR先天白内障術後ROP(眼数)65%■:手術治療,総計68眼(48%)■:非手術治療49%69%13%86%100%図3小児続発緑内障の手術治療(国立成育医療研究センター,n=143眼)10あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(10)眼〔うち4眼は他院IOL(眼内レンズ)手術後〕,開放隅角32眼(水晶体・前部硝子体切除術後)であった.開放隅角のうち15眼は点眼薬にて眼圧コントロール良好であるが,17眼(53%)は手術治療を要した(図4).しかし手術治療例のうち9眼(53%)は予後不良であった.当院の先天白内障術後の症例には,術後10年以上の長期にわたり経過観察中の例が多く含まれており,緑内障の発症頻度,手術治療の頻度が高いと考えられる.先天白内障術後の緑内障の危険因子として,小角膜/小眼球,persistentfetalvasculature(PFV),超早期手術,IOL手術などがあげられるが,今回の症例のうち24眼65%は小角膜/小眼球を合併していた.特に小角膜を伴う先天白内障では,隅角形成異常を合併しやすいため,手術侵襲・術後炎症が契機となって緑内障が発症する可能性がある.しかし大部分の開放隅角緑内障は,術後数年以上たって発症しており,その機序は依然としを実施した例,あるいは当院で硝子体手術(水晶体切除併施)を実施した例である.病態で分類すると血管新生4眼,瞳孔ブロックや水晶体前方移動による閉塞隅角9眼,開放隅角18眼であった.活動期ROPに続発する血管新生緑内障は,手術治療(光凝固追加,ロトミー,レクトミー,硝子体手術)を施行しても予後不良であり,重症網膜症の治療・血管活動性の制御によって緑内障の発症を予防することが重要と考えられる.一方,閉塞隅角,開放隅角緑内障では手術治療を行った例の83%が奏効した.いずれも瘢痕期に10歳を超えて発症する例もあることから,重症網膜症治療後の晩期合併症として,網膜?離のみではなく続発緑内障も念頭に置いて長期管理を行うべきことが示された.b.先天白内障術後(表3)先天白内障術後の続発緑内障23例37眼は,病態で分類すると,瞳孔ブロックや術後出血による閉塞隅角5表2ROP続発緑内障の治療(n=24例31眼)病態治療歴発症年齢手術治療手術効果血管新生4眼光凝固不足2~5カ月光凝固追加+ロトミー+レクトミー1硝子体手術1奏効0(0%)不良2閉塞隅角9眼瞳孔ブロック水晶体前方移動光凝固輪状締結術2カ月~12歳7カ月水晶体切除4ロトミー2(+周辺虹彩切除1+レクトミー1)奏効5(83%)不良1開放隅角18眼硝子体手術後硝子体手術水晶体切除併施4カ月~16歳2カ月点眼薬で軽快*6ロトミー7MMCレクトミー4レクトミー1奏効10(83%)不良2*:非手術治療眼.表3先天白内障術後緑内障の治療(n=23例37眼)病態治療歴発症年齢手術治療(初回)手術効果閉塞隅角5眼瞳孔ブロック4術後出血1IOL4水晶体+前部硝子体切除13カ月~8カ月瞳孔形成1他院で緑内障手術(詳細不明)4奏効1(20%)不良2不明2開放隅角32眼水晶体+前部硝子体切除3カ月~12歳5カ月点眼薬で軽快*15ロトミー10レクトミー3MMCレクトミー2ロトミー+レクトミー2奏効8(47%)不良9*:非手術治療眼.(11)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201211と同様に,血管活動性のある網膜症を早期に発見して光凝固治療を実施することが重要である.また眼球打撲や目押しによる網膜?離の発症を予防することが重要な疾患群であるが,水晶体に起因する緑内障が晩期に起こりうることも念頭に置いて眼科的管理を行う必要がある.おわりに小児の緑内障には,続発性であっても手術治療を要する病型が多い.小児に特有な眼疾患の管理・治療をよりよく行うことで緑内障の発症を防止することが当面の課題である.緑内障の治療に際しては,病態を迅速に診断して手術適応・術式を選択するために全身麻酔下検査が欠かせない.成人に比べ,全身疾患に伴う緑内障の頻度て明らかでない.先天白内障術後の長期的な管理は必須であるが,緑内障の発症防止,より効果的な治療法の確立が今後の課題である.c.PHPV・FEVRなど(表4)PHPV,FEVR,網膜ひだ,色素失調症を含む網膜硝子体疾患の続発緑内障16例16眼は,病態で分類すると,血管新生5眼,水晶体前方移動や瞳孔ブロックによる閉塞隅角8眼,術後出血に起因すると考えられたものが3眼であった.この疾患群では片眼性のため手術治療の適応とならなかったものもある.手術治療を行った閉塞隅角5眼はすべて手術が奏効した(図5).しかし,活動期に起こる血管新生,あるいは術後出血による緑内障では,手術治療が奏効したものは50%であった.ROP表4PHPV・FEVR続発緑内障の治療(n=16例16眼)病態治療歴発症年齢手術治療手術効果血管新生5眼水晶体・硝子体術後2眼2カ月~17歳8カ月毛様体冷凍凝固3硝子体手術1奏効2(50%)不良2閉塞隅角8眼水晶体前方移動瞳孔ブロック3カ月~9歳5カ月適応なし*3水晶体切除2水晶体切除+ロトミー1瞳孔形成+ロトミー1増殖膜切除1奏効5(100%)術後出血3眼PHPV術後1眼硝子体術後2眼2カ月~9歳9カ月点眼薬で軽快*1MMCレクトミー1ロトミー+レクトミー1奏効1(50%)不良1*:非手術治療眼.abc図42歳11カ月男児,ダウン症,先天白内障術後の続発開放隅角緑内障両眼先天白内障に対し生後3カ月で経角膜輪部水晶体・前部硝子体切除術施行した.a,b,cの所見から緑内障の発症を診断し,点眼薬による治療を開始.しかし4歳8カ月時に手術治療(トラベクロトミー)を要した.現在点眼薬併用にて眼圧コントロール良好である.a:右眼前眼部所見.軽度の角膜浮腫を認める.b:右眼眼底所見.急に近視化して乳頭陥凹が顕著となった.c:右眼UBM所見.前房が深く開放隅角緑内障の発症と考えられた.12あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(12)第2版.日眼会誌110:784-804,20063)永田誠:発達緑内障臨床の問題点.あたらしい眼科23:505-508,20064)根木昭:小児緑内障の治療.日本の眼科80:443-447,20095)山田裕子:発達緑内障.眼科プラクティス20,小児眼科診療,p152-158,文光堂,20086)IkedaH,IshigookaH,MutoTetal:Longtermoutcomeoftrabeculotomyforthetreatmentofdevelopmentalglaucoma.ArchOphthalmol102:1122-1128,2004も高いため,全身麻酔下検査,薬物治療に際して小児科との連携が不可欠である.難治性緑内障に対するよりよい治療法の開発が今後の課題である.文献1)石川伸子,白土城照,安達京ほか:先天緑内障全国調査結果(1993年度).あたらしい眼科13:601-604,19962)日本緑内障学会:日本緑内障学会緑内障診療ガイドラインbca図55歳8カ月女児,網膜ひだに続発した緑内障(右眼)a,b,cの所見から増殖組織の収縮牽引に伴う水晶体前方移動による続発閉塞隅角緑内障と診断し,水晶体・前部硝子体切除術を施行,経過良好である.a:前眼部所見.毛様充血,角膜浮腫,浅前房を呈し,眼圧32mmHgであった.b:眼底所見.耳下側の線維増殖組織に向かう網膜ひだを認める.c:UBM所見.水晶体前方移動による閉塞隅角緑内障と考えられた.

小児の緑内障検査

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0910-1810/12/\100/頁/JCOPY拒否反応を示す症例が多い.したがって小学校入学以前では,ベノキシールRを使用せずに測定可能なノンコンタクトの眼圧計,あるいは最近のiCareが使用に適しているのではないかと筆者は現時点では考えている.1歳未満でも,iCareによる眼圧測定は可能な症例もある.しかしながら,iCareによる眼圧測定値は,成人ではGoldmann圧平眼圧計よりも平均0.5?2mmHg高値を示すことが報告されており,各々の眼圧測定機器による差を熟知しておく必要がある.いずれにしても精密度においては,両者ともGoldmann圧平眼圧計には及ばないので,少なくとも2種類の眼圧計にて測定し,測定誤はじめに小児の緑内障としては,房水流出路の発達異常に起因するものと,Peters’anomalyやSturge-Weber症候群など他の眼疾患に続発して生じるものがある.小児とは6歳以上15歳以下を示すようではある(幼児が3?6歳)が,本稿では6歳以下も含めて述べさせていただく.緑内障の検査は,成人ではいずれも可能であることはもちろんであるが,小児の場合,その発育や年齢により可能な検査は大きく異なってくる.I自覚症状小児緑内障では,流涙,羞明,眼瞼痙攣を初発症状として,受診される場合があるので注意が必要である.これらの症状は,角膜上皮浮腫により二次的に生じるものと考えられている.II眼圧測定眼圧測定にはSchiotz眼圧計(図1a),Goldmann圧平眼圧計,Perkins手持ち圧平眼圧計,Tono-PenR(図1b),iCarereboundtonometer(以下,iCare:図1c),ノンコンタクトの眼圧計などとさまざまな手法がある.一般のpopulationだと,いずれの眼圧計でも評価可能である.しかしながら,小児のなかでもその年齢にもよるが,どの眼圧計でもある程度の正確性をもっての測定が可能なわけではない.一般的に小児では,ベノキシールRを点眼することで(3)3*AkiraSawada:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野〔別刷請求先〕澤田明:〒501-1194岐阜市柳戸1の1岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):3?6,2012小児の緑内障検査OcularExaminationsofInfantileGlaucoma澤田明*abc図1各種眼圧計a:Schiotz眼圧計,b:Tono-PenRXL,c:iCarereboundtonometer.4あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(4)差が大きくないか確認しておくべきである.年齢が高くなるにつれて,面倒でも次第にGoldmann圧平眼圧計による眼圧測定に慣れていく練習をしておく.頻繁に来院してもらい,まずは小児あるいは保護者との良好な信頼関係を構築することがきわめて重要なことと思われる.他にGoldmann圧平眼圧計による測定では,あらかじめ眼圧予測値に目盛を設定しておき測定するのが,短時間で目的を達成できるコツの一つである.III細隙灯顕微鏡検査小児の緑内障では,成人における緑内障とは異なった所見が得られることを熟知したうえで観察する必要がある.角膜径が大きい(図2)か否か,Haabstriae(図3)が存在するか否か,後部胎生環(posteriorembryotoxon)(図4)が存在するか否かに留意して観察する.角膜径はカリパーを用いて,横径および縦径を測定する.外来では眼圧測定値が曖昧になりやすいため,角膜径の増大は小児緑内障を診断するうえできわめて参考となる所見となる.新生児では9.5~10.5mmであるが,成長に伴い1歳頃には10.0~10.5mmに達する.1歳未満の症例で12.0mmを超えるようであれば,緑内障を疑う.ただし,遅発型発達緑内障では角膜径増大は通常認めない.IV隅角検査小児緑内障は,基本的には隅角発達異常がベースにあり発症するものが多い.手持ち細隙灯顕微鏡と,Koeppe型隅角鏡などの直接型隅角鏡を用いて行う.1歳未満の乳幼児であれば,外来で介助のもと施行することは可能ではあるが,筆者の施設では基本的に全身麻酔下で検査することがほとんどである.虹彩付着部位の異常は,Hoskinsら1)により,anterioririsinsertion,posterioririsinsertion,およびconcave(wraparound)irisinsertionに分類されている(図5).Anterioririsinsertionは,虹彩が平坦に隅角に向かい,線維柱帯あるいは強膜岬の高さに付着する(図6).Posterioririsinsertionは,平坦な虹彩が強膜岬の後方で付着する型である(図7).Concave(wraparound)図2角膜径の拡大図3Haabstriae高眼圧持続に伴い,角膜が伸展し,Descemet膜に破裂が生じる.図のように視軸にかかると,視力障害の原因となる.図4後部胎生環周辺部角膜に白色線状構造を認める.肥厚したSchwalbe線に相当する.(5)あたらしい眼科Vol.29,No.1,20125生じることが多い.また,このことは治療後にも当てはまることであり,治療後眼圧が下がった場合は,陥凹の縮小が顕著となるため,眼圧測定が不安定で信頼性が乏しいときにも視神経乳頭所見を基に治療判定が部分的には可能となる.年齢が高ければ,眼底写真で記録として保存しておく.しかし,無理であればできるだけ視神経乳頭所見をスケッチで描写しておくのが望ましい.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いた視神経乳頭ならびに網膜神経線維厚の解析も可能であれば施行したほうがよい.irisinsertionでは,虹彩は強膜岬の後方で付着するが,周辺部虹彩実質が隅角を覆うように前方に伸びる(図8).V眼底検査通常に行うことができる眼底検査も,小児の場合,検査中眼が動いてしまうためしばしばむずかしく,ときおり散瞳しての眼底検査が望ましい.小児の視神経乳頭は,篩状板の弾力性が高いため,同心円状に陥凹拡大がB:PosterioririsinsertionA:AnterioririsinsertionC:Concave(wraparound)irisinsertionSchwalbe線Schwalbe線Schwalbe線毛様体帯(狭い)毛様体帯は視認できず虹彩周辺部虹彩実質が線維柱帯を覆う図5原発先天緑内障における隅角シェーマ図7Posterioririsinsertion図8Concave(wraparound)irisinsertion図6Anterioririsinsertion6あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(6)あり,手間隙を惜しんではならない.彼らは将来を担う世代であることを十分に念頭において経過観察すべきである.文献1)HoskinsHDJr,ShafferRN,HetheringtonJ:Anatomicalclassificationofthedevelopmentalglaucomas.ArchOphthalmol102:1331-1336,19842)石田恭子,山本哲也:診断と管理7小児の緑内障.緑内障,p283-304,医学書院,20043)布田龍佑,白土城照,山本哲也(北澤克明監修):4.疾患別の隅角所見.C.先天緑内障.隅角アトラス,p48-57,医学書院,1995VI視野検査成人でも検査自体に慣れていなければ,信頼性良好な視野検査結果を得ることはむずかしいが,小児緑内障の場合はよりいっそうむずかしい.短時間で終了可能な検査が望ましいのは当然であるが,検査中に話しかけてあげることも重要である.また,検査中は親にそばに付き添ってもらうことも小児の安心につながる.そうした意味では,当初はGoldmann動的視野計による視野検査から始めるのが望ましいのではないだろうか?慣れてくれば,Humphrey静的視野検査によるscreeningやSITA-Fastなどといったように徐々に難易度をあげていくのがよい.ただ小児緑内障では,視野検査では信頼性の高い結果を得ることがいずれにしてもむずかしいため,経過観察後早期には眼圧測定と視神経乳頭所見を基に管理していったほうが望ましいと思われる.その一方で,小児緑内障は眼圧高値な場合が多く,治療が奏効した場合には視神経乳頭の陥凹がわかりにくくなるため,視野検査に慣れるということは絶対的に必要となる.VII超音波生体顕微鏡検査小児緑内障では,強度の角膜浮腫や角膜混濁により,前房透見性が著しく悪い症例も見受けられる.そうした症例では,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy)による隅角部,虹彩,水晶体の観察が病態把握のため必要である(図9,10).手術が必要な症例が多いため,全身麻酔下で行う場合が筆者は多いが,もちろん外来にて施行可能である.おわりにたとえ流涙が主訴であっても,小児では緑内障である可能性があるため,決して侮ってはならない.小児緑内障の眼科的所見の特徴を理解したうえで,まずは早期に発見することが小児の視力予後につながる.ただちに治療を開始することは重要であるが,緑内障を専門とする病院と連携,協力して進めていくことが望ましい.一方,小児緑内障を経過観察する際には,成人の緑内障症例と異なり,とかくに眼科医の根気が必要不可欠で図9Peters'anomalyの隅角図10Peters'anomalyの角膜内皮欠損(図7と同一症例)

序説:小児と高齢者の緑内障:ここがポイント

2012年1月31日 火曜日

0910-1810/12/\100/頁/JCOPY同年代正常値が組み込まれており,同年代正常値と測定結果を比較して緑内障の有無が判定される.しかし,ある年齢以上の正常値は集めることがむずかしいためか視野計には組み込まれていない.緑内障診療に有用な画像診断装置の一つである光干渉断層撮影装置(OCT)にも高齢者の正常値データが入っていない.高齢者の場合はたとえ検査が上手にできても検査値の解釈が正しくできないのである.緑内障には点眼治療が重要である.指先が不自由になり細かな操作ができなくなって自分で点眼できない事態も起こりうる.また,点眼薬の副作用も心配である.交感神経b受容体作動薬に関連する薬物の副作用は深刻である.加齢のために予備能力が少ないうえに,併発する全身疾患も多い.平時には問題がなくても風邪をひいたとき,あるいは他の薬を併用したときに副作用が強く出る恐れがある.認知症も年齢とともに増加する.本人が認知症になれば点眼の自己管理どころではない.薬物治療の効果が不十分なときは手術が考慮されるが,このときに問題となるのが患者の残された体力と認知症の問題である.特に認知症があると手術時には全身麻酔が必要になるだけでなく,術後のレーザー切糸,ニードリングによる過胞再建などの術後管理も大変になる.平均余命は毎年更新される.終末期を迎えるまで患者の視機能を保つことが緑内障診療の目標緑内障の診療のポイントはその発見と,効率の良い十分な経過観察にある.緑内障の診断には詳細な視神経乳頭の観察と視野検査が欠かせない.治療の効果判定にも視神経を含んだ眼底の所見と定期的な視野検査は欠かせない.また,緑内障は眼圧依存性の視神経障害である.治療で眼圧が十分下がっているのか,眼圧下降が不十分なのかを確かめるために正確な眼圧測定も重要である.眼底,視野,眼圧の変化を一目瞭然にとらえて緑内障の診療を行うことは当たり前のことでありながら,実は容易ではない.紙カルテの診療体系のときにはどのようにして視野障害の進行を見落とさないようにするか真剣に議論されたものである.電子カルテベースの診療体系でも決して楽に眼圧や視野の経過をみることができるわけではない.患者の顔を見ずに画面を睨みつけながら,いくつものアイコンをクリックしてようやく必要なデータにたどりつく.緑内障は年齢とともに有病率が増加する.これは緑内障の病型に関係ない.比較的若くてしっかりした大人でもなかなかスムーズな緑内障診療はむずかしいのに高齢者の場合はさらに考慮すべき点が増える.高齢者における緑内障診療にかかわる問題点の一つとして身体能力の衰えとともに集中力も低下し,自覚的な検査である視野検査を上手に行うことができなくなることがあげられる.自動視野計には(1)1*YoshiakiKiuchi:広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)**TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野●序説あたらしい眼科29(1):1?2,2012小児と高齢者の緑内障:ここがポイントFocalPointofGlaucomaCareinYoungandElderlySubjects木内良明*山本哲也**2あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(2)とされているが,それを妨げる因子がどんどん増えていく.小児においては検査自体に協力してもらえるか否かが大きなポイントになる.視野計にもOCTにも子どもの標準データは入っていない.発達緑内障では眼球や角膜の径が増大する.ハープ線(Haabstriae)を伴うと複雑な屈折異常も生じる.実際にハープ線があるときは視機能の発育が良くないことが報告されている.視機能が発育途上の子どもたちに屈折異常弱視,不同視弱視をきたさないよう,弱視・斜視チームとの連携も重要である.小児科が子どもの全身を診るように眼科の小児眼科部門も大人の専門分野の垣根をはずしてトータルに子どもの視機能を診なければいけない.わがままで自由奔放な子どもの診察は時間も手間もかかる.緑内障診療における基本の検査である視力,視野,眼圧の検査ができないこともしばしばである.この高齢者と子どもたちに対する緑内障診療のポイントを本特集では採り上げてみた.できればかかわりたくないと考える人もいるだろう.しかし,高齢者の数はこれから増えることがあっても減ることはない.子どもたちとのかかわりも日常診療では避けることができない.今あげたすべての問題点に対して明快な回答を得ることは不可能であろう.しかし,本特集にはそれぞれの項目における最新の知恵と知見が凝縮されている.必ずや日常診療に役立つと信じている.是非,賢者の知恵をご利用いただきたい.

感受性期間以降に弱視眼視力の再低下に対して治療を行った不同視弱視の1例

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1783.1785,2011c感受性期間以降に弱視眼視力の再低下に対して治療を行った不同視弱視の1例村上純子*1村田恭子*1阿部考助*2下村嘉一*2*1咲花病院眼科*2近畿大学医学部眼科学教室ACaseofAnisometropicAmblyopiaTreatedduringPost-sensitivePeriodfollowingVisualRe-degradationJunkoMurakami1),KyokoMurata1),KosukeAbe2)andYoshikazuShimomura2)1)DivisionofOphthalmology,SakibanaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KinkiUniversitySchoolofMedicine18歳,男性の遠視性不同視弱視の症例を報告する.症例は3歳から矯正眼鏡と健眼遮閉などの治療を行い,矯正視力は両眼とも(1.0)に,立体視は40秒に改善したが,9歳以降は眼鏡を自己判断で使用しなくなり来院が途絶えたため,その後の経過は不明であった.18歳になって来院した同症例の,弱視眼の視力は(0.6)に低下していた.本人の希望により矯正眼鏡と健眼遮閉による治療を開始したところ,2カ月で(1.0)に改善し,20歳でも良好な状態を維持している.不同視差は弱視眼の球面度数の減少により小児期に減少したが,青年期には健眼の近視化により再び増加していた.Wereporta18-year-oldmaleadolescentcaseofhyperopicanisometropicamblyopia.Thepatienthadbeentreatedwitheyeglasscorrectionofrefractiveerrorandpatchingofthehealthyeyefromthreeyearsofage.Althoughhisvisualacuityandstereoacuityhadimproved,hestoppedwearingspectaclesatnineyearsofage,disruptingthetherapy.Whenhereachedeighteenyearsofage,hereturnedtothehospital.Wefoundretrogradationofthevisualacuityoftheamblyopiceye.Inaccordancewithhiswishes,wereinitiatedeyeglasscorrectionandpatching.Bytwomonthlater,hehadregainednormalvisualacuity,whichhassubsequentlybeenretainedformorethanayear.Theanisometropicdifferencedecreasedinchildhoodbecausesphericaldiopterreductionintheamblyopiceye,butitincreasedinadolescencebecauseofsphericaldiopterdecreaseinthehealthyeye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1783.1785,2011〕Keywords:不同視弱視,成人,感受性期,遠視,可塑性.anisometropicamblyopia,adult,sensitiveperiod,hyperopia,plasticity.はじめに視覚の発達には感受性期間があることが広く知られており,不同視弱視や屈折異常弱視は早期に適切な診断と治療が行われ,本人および家族の協力が得られれば,良好な視機能を獲得できることがわかっている1).一方,感受性期間を過ぎた青年期や成人では治療に反応しにくいといわれていた.しかし,成人や年長児における弱視眼の改善の可能性についても報告がある2,3).今回筆者らは,小児期に治療を行い視力が改善していたにもかかわらず,その後の屈折矯正治療を継続せず,青年期に再び視力の低下をひき起こしていた症例を経験したので報告する.I症例患者:18歳,男性.主訴:左眼の視力改善を希望.現病歴:3歳10カ月時に咲花病院眼科を受診し,左眼の不同視弱視と診断.矯正眼鏡と健眼遮閉治療を行い,4歳1カ月時に弱視眼は1.0に向上した.9歳時には自己判断により眼鏡を装用せず来院しなくなった.18歳時,警察学校の入学を希望し入学基準を満たすため,左眼の視力向上を希望し来院した.初診時所見(3歳10カ月):視力はVD=1.0(1.0×sph+〔別刷請求先〕村上純子:〒594-1105大阪府和泉市のぞみ野1-3-30咲花病院眼科Reprintrequests:JunkoMurakami,DivisionofOphthalmology,SakibanaHospital,1-3-30Nozomi-no,Izumi-shi,Osaka594-1105,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(121)1783 1.50D),VS=0.3(0.3×sph+4.00D),調節麻痺(1%cycloa:視力pentolate,サイプレジンRを使用)後はVD=1.0(1.5×sph1.5+1.50D),VS=0.3(0.4×sph+4.50D)であった.眼位は遮1.2閉試験にて正位,4プリズムジオプトリー(Δ)基底外方試験1.0では両眼中心固視であり,抑制暗点を認めなかった.TNOstereotestによる立体視は480秒であった.弱視治療経過(3歳10カ月.18歳6カ月):不同視弱視の小数視力0.60.3診断にて,眼鏡の装用と1日4時間の健眼遮閉を開始し,4歳1カ月には左眼矯正視力は1.0に,立体視は40秒に改善した(図1a,b).6歳で,字ひとつ視力と字づまり視力の差がなくなった.その後,9歳になるまで良好な視力と立体視を維持した.調節麻痺後の球面度数は3歳から9歳までの間に,右眼は0.25D,左眼は2.00Dの減少が認められた(図1c).7歳ごろから眼鏡を故意に忘れたり,処方どおりでない眼鏡を使用するなどコンプライアンスが悪化し,9歳以降,眼鏡を使用しなくなり来院が途絶えた.再度の弱視治療経過(18歳6カ月.):来院時の視力はVD=0.3(1.5×sph.1.25D),VS=0.5(0.5×sph+2.00D),調節麻痺後視力はVD=0.3(1.5×sph.1.00D),VS=0.1(0.5×sph+3.00D),使用していた眼鏡度数は右眼sph.1.25D,左眼planeであった.遮閉試験にて眼位は正位.Bagolini線条レンズ法にて抑制はなく,正常対応.4Δ基底外方試験では両眼中心固視であり,抑制暗点を認めなかった.TNOstereotestによる立体視は120秒であった.前眼部および眼底には異常なく,全身の合併症は認めなかった.警察学校の入学には両眼とも裸眼視力0.6以上または矯正視力1.0以上が必要である.18歳からの治療では視力改善0.15468101214161820年齢(歳)b:立体視400視度(秒)10040468101214161820年齢(歳)20c:球面屈折度数5.04.0の可能性は低いことを説明したが,本人の希望が強いため3カ月の期限を設定して弱視治療を試みることとし,治療方針は小児期の治療に準じて,眼鏡(右眼sph.1.00D,左眼sph+3.00D)の終日使用および健眼の終日遮閉とした.患者の意欲は旺盛で,眼鏡装用は確実に継続され,健眼遮閉は毎日少なくとも8時間以上遂行された.その結果,治療開始後1カ月で左眼眼鏡視力は(0.7)となり,非調節麻痺時の視力がVS=0.9(0.9×sph+2.25D)であったため,左眼の眼鏡度数をsph+2.50Dに変更した.2カ月後VD=0.3(1.2×sph.1.00D),VS=1.0(1.0×sph+2.50D)で,字ひとつ視力,字づまり視力とも差はなかった.両眼開放視力測定装置が当院にないため,代替としてRyser社製弱視治療用眼鏡箔を健眼に0.8から0.1まで順次貼り替えて健眼の視力を段階的に低下させながら両眼開放下で弱視眼の視力を測定したところ4),左眼の矯正視力はいずれも(1.0)であった.TNOstereotestによる立体視は60秒であった.3カ月後に健眼遮閉を中止し眼鏡による矯正のみを継続したが,矯正視力,両眼開放視力,立体視および屈折度数はいずれも維持された(図1a.c).9カ月後患者は警察学校に入学し,20歳球面屈折度数(D)3.02.01.00.0-1.04-2.068101214161820年齢(歳)図13歳から20歳までの経過a:視力は字ひとつおよび字づまり視力表にて小数視力を測定した.右眼矯正視力(●)は初診時に1.0であり,全経過を通じて1.0以上であった.左眼矯正視力(○)は初診時には0.3であったが,1年間で1.0に改善し,9歳までほぼその状態を維持した.しかし,18歳で受診した際には0.5に悪化していた.治療により3カ月で1.0に改善し,20歳現在,1.5を維持している.図の縦軸は対数軸を使用した.b:立体視は初診時480秒と不良であったが1年間で正常化し,その後は安定して,20歳現在も60秒を維持している.図の縦軸は対数軸を使用した.c:右眼の屈折(▲)は初診時に球面度数+1.50Dであり,9歳までほとんど変化せず+1.25Dであったが,18歳で受診した際には.1.25Dに近視化していた.左眼(△)は初診時に+4.50Dであったが2年間で+2.50Dに減少し,その後は大きな変化をしていなかった.左右眼の度数の差は,3歳の3.00D差から小児期には弱視眼の度数が減少して1.25D差に縮小したが,18歳では健眼の近視化のため拡大し3.25D差になっていた.1784あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(122) 現在,視力はVD=0.3(1.2×sph.1.25D),VS=1.2(1.5×sph+2.25D),TNOstereotestでは60秒である.II考按小児の弱視治療の治癒基準や治療の終了時期4)についてはさまざまな記載がある.本症例は9歳まで単眼視力,読み分け困難,立体視のいずれについても良好であり,9歳という年齢は治療終了として問題ない時期であった.しかし,弱視治療によって良好な視力を得た症例のなかにも,治療中止後に弱視を再発する症例が存在し,矯正の中断や経過観察の中断の影響が報告されている3,5,6).本症例においても,弱視眼の矯正が継続されていたなら,悪化は抑止できていた可能性が高い.弱視治療においては,治療終了後の経過観察が再発防止のために重要であると考えられる.今後の矯正の持続の面から,コンタクトレンズへの変更も検討すべき課題である.治療を開始するにあたって,18歳という年齢で治療に反応するかどうか,遮閉や矯正がどこまで継続できるかには疑問があった.将来に影響する職業選択の時期であることを考えると,漫然と治療を続けるべきではない.したがって,3カ月間で効果が認められなければ治療は終了とし,警察官志望は断念することを提案し,本人および保護者に納得してもらった.ところが,筆者らの懸念をよそに青年の視力は速やかに回復した.わずか2カ月という速さを考えると,屈折矯正のみでも十分であった可能性もある.近年,年長児であっても弱視治療は効果があるという報告3,7)や,成人でも,健眼を失明した後に弱視眼の視力が改善した報告2),さらに,動物実験や臨床研究において,視覚刺激によって成体でも弱視眼が改善することなどが報告8,9)されている.本症例が感受性期間を過ぎた年齢にもかかわらず,改善した要因は推測するしかないが,つぎの3つの条件が大きかったのではないかと考えた.第一に,本人の動機づけがきわめて強いものであった:これにより十分な視覚刺激が視路に与えられた可能性がある.第二に,中心固視に問題のない症例であった:固視が良好な弱視は斜視弱視やその他の弱視においても経過が良好であることが知られている.第三に,本症例が小児期の治療終了時に1.0以上の良好な視力とともに,40秒という良好な立体視を確立していたことである.両眼視機能の感受性期は視力の感受性期よりも早期に完成することが知られている.また,第一視覚野の両眼性細胞の多くは立体視に関係していると考えられている.本症例では視力および立体視が感受性期内に十分に発達していたため,左眼の矯正を中断し片眼の視力が低下しても,両眼性細胞の減少が回避され,眼優位分布が健眼に偏位することを免れたのではないかと考える.遠視性不同視弱視において,球面度数は弱視眼健眼ともに減少するが,減少量は弱視眼のほうが有意に大きく,不同視差が減少することが報告されている10).本症例の小児期の屈折度数の変化はこの報告に矛盾しないが,18歳時には健眼は大きく近視化し,弱視眼の度数が変化しなかった結果,不同視差は再び増加し3歳時と20歳時の不同視差はほとんど同等であった.小児期の不同視差の減少は,1%cyclopentolate点眼後にも残存した調節力による,見掛けの減少であって,本来の不同視差はほとんど変化していなかったのかもしれない.本症例は筆者らにとって,従来の視覚感受性期間を過ぎた時期における治療の可能性を考える契機となった.今後,視覚情報処理や可塑性の研究が進み,成人の弱視治療の可能性が広がることを期待したい.謝辞:この症例報告に際して貴重な助言をいただいた近畿大学視能訓練士若山曉美氏,ならびに咲花病院森下比二美氏,天野美織氏,山﨑佐知子氏,玉井知子氏に感謝する.文献1)矢ヶ﨑悌司:I.視機能障害3.弱視.眼科診療プラクティス(丸尾敏夫ほか編)100,p24-28,文光堂,20032)HamedLM,GlaserJS,SchatzNJ:Improvementofvisionintheamblyopiceyefollowingvisuallossinthecontralateralnormaleye:Areportofthreecases.BinocularVision6:97-100,19913)楠部亨,肥田裕美,阿部考助ほか:8歳以降に受診し視力改善が得られた弱視症例について.日本視能訓練士協会誌22:83-86,19944)粟屋忍:III.弱視の治療3.弱視の治癒基準.眼科診療プラクティス(丸山敏夫ほか編)35,p44-45,文光堂,19985)FlynnJT,WoodruffG,ThompsonJRetal:Thetherapyofamblyopia:ananalysiscomparingtheresultsofamblyopiatherapyutilizingtwopooleddatesets.TransAmOphthalmolSoc97:373-390,19996)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Riskofamblyopiarecurrenceaftercassationoftreatment.JAAPOS8:420-428,20047)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Randomizedtrialoftreatmentofamblyopiainchildrenaged7to17years.ArchOphthalmol123:437-447,20068)SaleA,MayaVetencourtJF,MediniPetal:Environmentalenrichmentinadulthoodpromotesamblyopiarecoverythroughareductionofintracorticalinhibition.NatNeurosci10:679-681,20079)PolatU,Ma-NaimT,BelkinMetal:Improvingvisioninadultamblyopiabyperceptuallearning.ProcNatlAcadSci101:6692-6697,200410)田口亜希子,福永紗弥香,小林香ほか:遠視性不同視弱視における経時的屈折変化.日本視能訓練士協会誌38:165-169,2009(123)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111785

血管Behçet 病によって両眼性の眼虚血症候群を呈した1症例

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1777.1782,2011c血管Behcet病によって両眼性の眼虚血症候群を呈した1症例濱畑徹也海老原伸行河野博之村上晶順天堂大学医学部眼科学教室AnUnusualCaseofBilateralOcularIschemicSyndromewithVasculo-Behcet’sDiseaseTetsuyaHamahata,NobuyukiEbihara,HiroyukiKawanoandAkiraMurakamiDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine症例は20歳,男性.10歳時より腸管Behcet病を指摘され,HLA(組織適合抗原)検査では,HLA-B51(.),B52(+)であった.最近,反復する眼窩痛,体位変動による一過性の視力低下や暗黒感を自覚していた.眼底所見には,軟性白斑の散在,血管の狭細化がみられた.前房内に細胞・フレアなどの炎症所見はみられなかったが,低眼圧であった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査では循環時間の遅延,周辺網膜血管の閉塞,多数の微小血管瘤が認められた.総頸動脈超音波検査では,右75%,左95%の内腔狭窄がみられ,血中CRP(C反応性蛋白)値の上昇を認めた.以上より血管Behcet病による両眼の眼虚血症候群と診断.プレドニゾロン内服にて視力低下や黒内障発作が改善された.血管Behcet病の患者では,眼虚血症候群も念頭において診察していく必要があると思われた.Thepatient,a20-year-oldmale,hadsincetheageof10beenaffectedbyBehcet’sdiseaseoftheintestine.Insubsequentyears,hesufferedrecurrentorbitalpain,disturbanceofvisualacuityandoccasionalamaurosis,dependingonbodyposition.Infundusexamination,werecognizedmanysoftexudatesandhemorrhagesinbotheyes.Therewerenoinflammatorysigns,suchascellsorflareintheanteriorchamber,withoutlowintraocularpressure.Fluoresceinangiographyrevealedthecharacteristicsofbilateralocularischemicsyndrome.Carotidarteriographydisclosedinternalcarotidarteryobstruction,75%rightand95%left.Theseresultsledtoadiagnosisofbilateralocularischemicsyndromewithvasculo-Behcet’sdisease.Steroidtherapywaseffectiveforthispatient.Ocularischemicsyndromeshouldbeafocusofattentioninpatientswithvasculo-Behcet’sdisease.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1777.1782,2011〕Keywords:Behcet病,眼虚血症候群,総頸動脈狭窄.Behcet’sdisease,ocularischemicsyndrome,carotidarteriostenosis.はじめにBehcet病の眼病変としては反復する前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎,網膜静脈の閉塞性血管炎,網脈絡膜白斑,黄斑浮腫などがよく知られている1).今回筆者らは眼炎症所見が軽度であるが,進行性の視力障害を呈した血管Behcet病による眼虚血症候群の1例を経験したので報告する.I症例患者:20歳,男性.主訴:視力低下・霧視,また体位変動によって生じる一過性の暗黒感であった.既往歴:10歳時に結節性紅斑,口腔内潰瘍,肛門周囲膿瘍を認め,腸管Behcet病と診断され,ステロイド薬の内服を開始した.近医内科にて症状の増悪・寛解に応じステロイド薬内服量の調節を行うも成長障害を認めたため,ステロイド薬を中止しコルヒチン内服のみで経過観察されていた.その後,5年近くCRP(C反応性蛋白):10mg/dl前後と全身の炎症反応は高値であったが放置されていた.初診時所見:視力は右眼(1.2×.2.0D),左眼(0.8×.2.25D),眼圧は右眼5mmHg,左眼4mmHgと低眼圧を認〔別刷請求先〕濱畑徹也:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室Reprintrequests:TetsuyaHamahata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3-1-3Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8431,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)1777 aabc図1初診時眼底写真両眼動脈の狭小化と静脈の軽度拡張を認め(a,b),左眼眼底下方に出血を認めた(c).図2初診時ERG所見ERG所見では,b波の減弱を認めた.右眼左眼図3初診時OCT所見OCT所見では,左眼の神経網膜層の菲薄化を認めた.め,体位変動によって左眼の一過性の暗黒感を自覚していた.前眼部所見は,左眼に角膜後面沈着物を軽度認める以外は,前房内に細胞・フレアはなく,虹彩後癒着などもみられなかった.中間透光体には特に異常はみられなかった.眼底所見は,両眼とも軟性白斑の散在,血管の狭細化,網膜下方血管周囲にしみ状の出血,周辺網膜に動脈の途絶がみられた(図1).ERG(網膜電図)所見では,b波の減弱を認め,OCT(光干渉断層計)では左眼の神経網膜層の菲薄化を認めた(図2,3).血液検査では,血沈の亢進とCRP:9.1mg/dlが高値であり,感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,梅毒定性,TP(梅毒トレポネーマ)抗体〕は陰性であり,1778あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011HLA(組織適合抗原)検査では,HLA-B51陰性,B52陽性であった.経過:フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)を試みるも,嘔気・嘔吐を伴い初回は施行することはできなかった.左眼視力は約6カ月の間に変動しながら徐々に低下していった.約10カ月経過時,両眼の急激な視力低下がみられた.右眼(0.04×.1.25D(cyl.0.50DAx15°),左眼(0.08×.2.00D(cyl.1.00DAx180°).眼圧は右眼8mmHg,左眼9mmHgと低眼圧であった.両眼とも前房の炎症所見はみられなかったが,右眼に虹彩ルベオーシス,両眼隅角にルベオーシスによる全周の周辺虹彩前癒着(PAS)がみられた(図4).両眼底とも軟性白斑の散在,動脈の狭細化と途絶,静脈(116) 右眼左眼3時9時3時9時6時6時12時12時図4隅角所見両眼隅角に全周の周辺虹彩前癒着(PAS)を認めた.の拡張がみられた.両眼視神経乳頭の耳側辺縁の蒼白を認めた.FA(図5)では①脈絡膜の造影時間の遅延,②腕-網膜循環時間の著しい延長(75秒),③周辺網膜での動脈の途絶,④無血管領域,⑤周辺網膜での動静脈のシャント,⑥毛細血管瘤,⑦視神経乳頭過蛍光を認めた.頸動脈エコー(図6)では両総頸動脈の高度の狭窄(右75%,左95%の内腔狭窄)を認めた.Goldmann視野検査上も初診時と比べ,視野狭窄の進行がみられた(図7).以上の所見により,以前より腸管Behcet病と診断されていたことも考慮し,血管Behcet病による両側総頸動脈の狭窄による両眼の虚血症候群と診断した.入院後,炎症による血管病変の進行の抑制のために,プレドニゾロン(プレドニンR)内服40mg/日を開始した.両側総頸動脈狭窄に対する外科的治療について当院脳神経外科にコンサルトするも,脳神経外科的に適応外であった.腹部三次元CT血管造影(3D-CTA)施行にて恥骨結合レベルで左大腿動脈にも強い狭窄を認めたため,バルーン拡張術を施行した.入院中,40mg/日から2週間かけ2.5mg/日ずつ減量していき,入院時CRP:8.1mg/dlと高値であったが,CRP:0.1mg/dlまで低下した.27.5mg/日まで漸減していくもCRPの再上昇はみられなかった.内服後,左眼視力の改善(左眼矯正視力1.2),網膜の軟性白斑の一部消失を認めた.しかし,右眼視力の改善はみられなかった.27.5mg/日に漸減後,退院となった.退院後,外来にて網膜無血流領域に対し,網膜光凝固術を施行し,現在11mg/日にて炎症の再発はみられていない.II考按眼虚血症候群とは,内径動脈閉塞や狭窄によって網膜虚血が生じ,多様な眼症状を示す症候群の総称である2).本症例は,10歳時に結節性紅斑,口腔内潰瘍,肛門周囲膿瘍を認め,腸管Behcet病と診断されていた.ステロイド薬治療を開始するも,ステロイド薬による成長障害により,以後使用を中止しCRP10mg/dl前後が継続していた.その後,眼窩痛や体位変動によって惹起される霧視,一過性の視力低下,視野欠損などを自覚していたようだが,眼科へ通院することはなかった.一般に,Behcet病の約70%に眼病変を認め,眼症状として前房蓄膿を伴う再発性虹彩毛様体炎,網膜静脈の閉塞性血管炎,硝子体混濁,黄斑浮腫,強膜炎などがある3).本症例では,上記のような典型的なBehcet病に伴う眼炎症所見はみられなかった.しかし,左眼視力は変動を伴い徐々に低下していき,経過中に両眼視力の急激な低下を認めた.視力低下時の眼底検査では,両眼の網膜動脈の狭細化・周辺部での途絶,静脈の拡張,多数の軟性白斑,視神経乳頭の腫脹がみられた.FA上,脈絡膜造影の遅延,周辺網膜の無血流領域,毛細血管瘤,網膜乳頭の過蛍光などが認められた.頸動脈エコーにて両総頸動脈の著明な狭窄を認め,Behcet病に伴う総頸動脈の狭窄による両眼の眼虚血症候群と診断した.虹彩・隅角ルベオーシスにより両眼隅角に全周性のPASを認めるも低眼圧であったのは,極度の眼血流量(117)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111779 右眼1分15秒2分59秒3分46秒4分16秒7分19秒11分12秒4分29秒4分33秒左眼1分52秒3分13秒7分48秒7分55秒6分16秒15分27秒8分3秒8分16秒図5FA所見①脈絡膜の造影時間の遅延,②腕-網膜循環時間の著しい延長(75秒),③周辺網膜での動脈の途絶,④無血管領域,⑤周辺部での動静脈のシャント,⑥毛細血管瘤,⑦視神経乳頭過蛍光を認めた.の低下により毛様体からの房水産生が抑制されていたためと考えられる.さらに,眼窩痛も虚血によるものと考えられた.Behcet病のなかで大中動静脈の炎症が病変の主座の場合に血管Behcet病と診断される.罹患部位は大静脈や深部の中小動静脈およびその分岐部などさまざまである.特に,動脈病変はBehcet病の約2%に認め,大中血管の狭窄や動脈瘤などが認められる4).椎骨動脈・鎖骨下動脈・腹部大動脈・腎動脈などに病変が及び,失神・重篤な腹部痛・腎血管高血圧症などの合併症を認め5),上行大動脈の動脈瘤破裂に1780あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011より死亡する報告もある6).本症例の鑑別診断として,高安病があげられる.高安病は若年者の女性に多く,大動脈とその主要分岐に炎症を認め,HLA-B52との相関が指摘される.本症例では,Behcet病に相関がみられるHLA-B51が陰性,HLA-B52が陽性であった.本症例においても高安病との鑑別が問題であったが,本症例は以前に結節性紅斑,口腔内潰瘍,肛門周囲膿瘍を認め,腸管Behcet病と診断されていた.筆者らの知る限り,口腔内潰瘍を伴う高安病の報告はなく7),Behcet病の診断は(118) 右総頸動脈左総頸動脈図6頸動脈エコー両総頸動脈の高度の狭窄を認めた.左眼右眼初診時入院時図7Goldmann視野初診時と比べ,視野狭窄の進行が認められた.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111781 正しいと思われる.しかし,腸管Behcet病に高安病が併発した可能性もあり,確定診断には発症した血管の病理組織学検討をしなければ鑑別がつかない.一般に高安病では血管中膜・外膜や中・外膜境界部を含む弾性線維貪食を認め,Behcet病では中・外膜の非特異的慢性炎症を認めるなど血管病理で鑑別されている8).本症例では両総頸動脈に高度な狭窄を認める以外に,左大腿動脈の局所に強い狭窄を認め,左足背動脈は触知せず,入院中にバルーン拡張術を施行した.両総頸動脈狭窄に対し当院脳神経外科にコンサルトするも,外科的治療は困難とのことであった.退院後,右眼底無血管野に対し網膜光凝固術を試行した.ステロイド薬治療により左眼は眼血流の改善に伴い視力の改善(左眼矯正視力1.2)がみられたが,右眼は視神経萎縮のため視力の改善はみられなかった.今回,筆者らは眼炎症所見が軽度であるが進行性の視力障害を呈したBehcet病による両眼の眼虚血症候群の1例を経験した.Behcet病の眼症状は,炎症性の内眼炎に注意がいきがちであるが,血管炎による眼虚血性病変も惹起しうることも念頭におく必要があると思われた.文献1)増田寛次郎:ベーチェット病,増田寛次郎(編):ぶどう膜炎.p68-81,医学書院,19992)ChenK,FitzgeraldD,EustancePetal:Electroretinography,retinalischemiaandcarotidarterydisease.EurJVascSurg4:569-573,19903)VerityDH,WallaceGR,VaughanRWetal:Behcet’sdiseasefromHippocratestothethirdmillennium.BrJOphthalmol87:1175-1183,20034)KocY,GulluY,AkpekG:VascularinvolvementinBehcet’sdisease.JRheumatol19:402-410,19925)NakamuraH,UekiY,HorikamiKetal:Vasculo-Behcet’ssyndromewithwidespreadarterialinvolvement.ModRheumatol11:332-335,20016)RouguinA,EdouteY,MiloSetal:AfatalcaseofBehcet’sdiseaseassociatedwithmultiplecardiovascularlesions.IntJCardiol59:267-273,19977)SugisakiK,SaitoR,TakagiTetal:HLA-B52-positivevasculo-Behcetdisease:usefulnessofmagneticresonanceangiography,ultrasoundstudy,andcomputedtomographicangiographyfortheearlyevaluationofmultiarteriallesions.ModRheumatol15:56-61,20058)ArakiY,AkitaT,UsuiAetal:AorticarchaneurysmofTakayasuarteritisassociatedwithentero-Behcetdisease.AnnThoracCardiovascSurg13:216-219,2007***1782あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(120)