監修=坂本泰二◆シリーズ第134回◆眼科医のための先端医療山下英俊裂孔原性網膜.離における手術進化と視細胞保護國方彦志(東北大学病院感覚器理学診療科眼科)JulesGoninが裂孔閉鎖を行った1900年代初頭から,裂孔原性網膜.離の病態は変わらないと考えられますが,サージャンを取り巻く環境と考え方は刻々と変わってきました.その最たるところは,手術デバイス革新がもたらした広角観察系,シャンデリア眼内照明,小切開硝子体手術(MIVS)や高精細内視鏡があげられるでしょう.今後も若年扁平網膜.離に対する強膜バックリングの重要性などは変わらないでしょうが,状況により術者は網膜.離に対する手術手技を変え,適切に対応することが大切と思われます.25ゲージ硝子体切除術(25G-MIVS)は2002年から現在に至るまで世界的に普及しており,最近ではさまざまな硝子体疾患に用いられるようになりました.眼内レンズ落下や眼内異物の処理にもMIVSは用いられ,その有用性・汎用性が確認されつつあります1,2).全網膜.離,脈絡膜.離,低眼圧を伴う場合など注意を要する場合もありますが,裂孔原性網膜.離に対する25G-MIVSは一般的になりつつあり,現在では初回復位率も非常に高くなりました3,4).筆者らの25G-MIVSを用いた検討では裂孔原性網膜.離84例84眼に関し,初回復位は80眼(95.2%)で得られ,最終復位は84眼(100%)で得られました4).その際,術後早期の低眼圧のみならず,高眼圧にも注意する必要があり,黄斑.離例は網膜合併症も多いことが明らかになりました.また,巨大裂孔網膜.離など特殊な症例に関しても,MIVSアプローチが可能で高い網膜復位率が得られつつあります5).しかしながら,復位は得られても視力予後の悪い症例も依然として多数存在します5).(65)図1裂孔原性網膜.離の治療―臨床上の問題点―PVR:増殖硝子体網膜症,RPE:網膜色素上皮.裂孔原性網膜.離の治療において,臨床上の問題点として,以下の3つが考えられます(図1).①網膜外の増殖性変化:網膜前・網膜下増殖膜の形成,多くは医原性に増殖硝子体網膜症へ移行.Gli-osis(Mullercells),RPEproliferation②グリア細胞,網膜色素上皮(RPE)の変化:網膜自体が固く術中に網膜伸展不可能.網膜接着不良.Gliosis(Mullercells),RPEimpairment③視細胞の変化:術後に網膜復位が得られても中心視力や視野が回復しない.Photoreceptordegene-ration(apoptosis)そのなかで,①②が存在しても,前述したように進化した最新の手術技術を駆使すれば,解剖学的にはほとんどの症例で網膜復位を得られるようになってきました.しかしながら,③に至ってしまうと復位は得られても,視細胞アポトーシスが主因と考えられる視力予後不良例になってしまうことが多いのです.網膜.離眼における視細胞アポトーシスの病態は近年解明されつつあり,動物実験によりmonocytechemoat-tractantprotein1(MCP-1)が重要な役割を果たしていることが明らかになっています6).MCPファミリーはあたらしい眼科Vol.29,No.2,20122130910-1810/12/\100/頁/JCOPY単球,好酸球,T細胞などの遊走を惹起させます.MCP-1は,マクロファージなど免疫担当細胞や血管内皮細胞など多くの細胞から分泌され,慢性炎症やアレルギー性炎症にも関与し,血管新生誘導や創傷治癒にも深く関与しています.このようにMCP-1は炎症に伴い局所で分泌され,分泌された領域に免疫担当細胞を集めると考えられています.さまざまな眼疾患においてもMCP-1の上昇が確認され,網膜領域では糖尿病性黄斑浮腫,網膜静脈分枝閉塞症黄斑浮腫(BRVOME),増殖糖尿病網膜症,裂孔原性網膜.離や増殖硝子体網膜症での上昇が明らかになっています.糖尿病網膜症患者などでは,血液や前房水でも上昇があることから,外来などで容易に測定できるバイオマーカーとしてもMCP-1は期待されます.MCP-1ノックアウトマウスにおける網膜.離モデルでは,ワイルドタイプに比べ有意に視細胞アポトーシスが低減され外顆粒層も保たれました6).さらにMCP-1中和抗体を用いれば,そのアポトーシスを抑制できることも明らかになりました.MCP-1をブロックする薬剤は広く炎症の治療薬になる可能性があり,網膜.離眼の初期においてMCP-1を制御できれば,アポトーシスをかなり防ぐことができる可能性が高いと考えられます.実際の臨床では,BRVOMEにおいてトリアムシノロンアセトニド(TA)硝子体注射が眼内のMCP-1を有意に低下させることが明らかになっています7).さらに,最近の筆者らの検討では,裂孔原性網膜.離においても眼内MCP-1はTA硝子体注射により制御できることがわかってきました.裂孔原性網膜.離は診断の時点ですでにアポトーシスが進行していることも多いと思われますが,さらなる進行を抑えるために,今後は手術の精度を上げるのみではなく,薬剤による視細胞保護を含めたハイブリッド治療を模索する必要があるかもしれません.裂孔原性網膜.離に対する治療は,特に硝子体手術分野において進化し,さまざまな状況下でも網膜復位が得られ,技術的には完成されつつあります.しかしながら,今後は,さらに良好な術後視機能獲得をねらい,サージカル・メディカル治療の融合が大切と考えられます.文献1)KunikataH,FuseN,AbeT:Fixatingdislocatedintraocu-larlensby25-gaugemicroincisionvitrectomy.OphthalmicSurgLasersImaging42:297-301,20112)KunikataH,UematsuM,NakazawaTetal:SuccessfulRemovalofLargeIntraocularForeignBodyby25-GaugeMicroincisionVitrectomySurgery.JOphthalmol2011:940323.Epub2011Apr43)KunikataH,NittaF,MeguroYetal:Di.cultyininsert-ing25-and23-gaugetrocar-cannuladuringvitrectomy.Ophthalmologica226:198-204,20114)KunikataH,NishidaK:Visualoutcomeandcomplicationsof25-gaugevitrectomyforrhegmatogenousretinaldetachment;Eighty-fourconsecutivecases.Eye24:1071-1077,20105)KunikataH,AbeT,NishidaK:Successfuloutcomesof25-and23-gaugevitrectomiesforgiantretinalteardetachments.OphthalmicSurgLasersImaging42:487-492,20116)NakazawaT,HisatomiT,NakazawaCetal:Monocytechemoattractantprotein1mediatesretinaldetachment-inducedphotoreceptorapoptosis.ProcNatlAcadSciUSA104:2425-2430,20077)KunikataH,ShimuraM,NakazawaTetal:Chemokinesinaqueoushumourbeforeandafterintravitrealtriamcino-loneacetonideineyeswithmacularedemaassociatedwithbranchretinalveinocclusion.ActaOphthalmologica,2010Apr23■「裂孔原性網膜.離における手術進化と視細胞保護」を読んで■今回は國方彦志先生による,網膜.離の分子病態とは開発されてきました.しかし,視力を向上させて疾網膜神経保護についての意欲的研究成果のご紹介で患が発症する前の状態にまで戻す治療の戦略はなかなす.われわれ眼科医の最終的な目的は言わずもがなでか進歩しておりません.すが,視力を正常にまで,つまり1.0にまで引き上げ今回,國方先生はMCP-1(本文参照)というサイることです.このためには戦略的に種々の疾患の診トカインが網膜の視細胞アポトーシスに関与している断・治療を行う必要があります.網膜の物理的な状況こと,その作用を制御することにより網膜視細胞の保(網膜.離,網膜浮腫,循環障害など)への対応策は護を行える可能性があることを示されました.われわかなり進歩してきました.循環障害についてはその回れ眼科医が今後進むべき研究の方向を具体的な成果と復はかなり困難ではありますが,正しく診断する方法ともにお示しいただいたことになります.國方先生は214あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012(66)硝子体手術の名手として著名ですが,その先生が手術薬物治療の最適な選択と必要であればそれを組み合わ成果の向上のために基礎研究の重要さ,臨床と基礎研せた治療の開発」が期待されていると考えます.今回究ががっちりとタイアップしていくことの重要性をおの國方先生の総説は,手術と分子病態の今後の戦略を示しいただいたことになります.Benchtobed-side示す大変興味深いご報告と考えます.というのは言うは易く行うは難しですが,これからの山形大学医学部眼科山下英俊サージャンは修学的な治療戦略をリードする「手術と☆☆☆(67)あたらしい眼科Vol.29,No.2,2012215