0910-1810/12/\100/頁/JCOPYで偽眼類天疱瘡を生じることがあり1),アセタゾラミドの内服で急性腎不全を生じることもある2).b遮断薬の呼吸機能に対する影響は広く知られている.マレイン酸チモロールの点眼前,点眼3時間後で55?74歳のグループは肺活量が落ちないが75歳以上は有意に低下するという報告もある3).抗緑内障点眼薬は併用により効果が減弱することがいわれており4),高齢者に対してはプロスタグランジン,効果が不十分であれば炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を追加し,それでも不十分なら手術を考慮したい.II高齢者の手術の注意事項1.認知症があり全身麻酔が必要かもしれないときについて現在認知症の人は世界で2,430万人いて85歳以上の15%は認知症といわれている.眼科でも局所麻酔で手術が行えず全身麻酔を要する場合がある.広島大学病院眼科(以下,当科)では2010年度に1,729件手術を行い,そのうち認知症が原因で全身麻酔が必要であった症例は7例あった.認知症の人の手術をするときに局所麻酔で手術が可能か全身麻酔が必要かの判断はときにむずかしく,何か指標があればと思うことがある.そこで筆者らはミニメンタルステート検査(MMSE)を用いてその検討を行った.MMSEは世界で最も広く行われている認知症の検査で,長谷川式簡易知能評価スケールと類似した簡易な記憶の検査である(図1).30はじめに外来の診療をしているときに手術が必要そうな高齢者で手術をためらわれることがある.特に1)認知症があり全身麻酔が必要かもしれないとき,2)内科的疾患があり全身管理が大変そうなとき,3)術後の管理が困難そうなときなどである.手術をためらわれると保存的治療でなんとかしのぐことを考えるが,保存的治療には弊害や限界がある.本稿では,まず保存的治療の限界について考え,手術の必要性を再度確認する.そのうえで手術の障害となる上記1)?3)についてそれぞれ検討する.I保存的治療の限界高齢者の診療をしていると,視野は徐々に悪くなっているが年齢から考えると現在の点眼を続けていけばしばらくは視野を保てそうだという状況は日常臨床でしばしば遭遇する.筆者はそのときいつも「患者さんの寿命は決められないよ」という恩師の言葉を思い出す.現在平均年齢は男性79.6歳,女性86.4歳だが,80歳の平均余命は男性8.7歳,女性11.7歳であり(平成21年厚生労働省),90歳を超えても当たり前で100歳まで元気に生活していてもまったく不思議ではないという気持ちで診療にあたらなければならないと考える.現在抗緑内障薬はさまざまな種類があり最近では配合剤も発売された.抗緑内障薬は多くの患者に有用でわれわれは多大なる恩恵を受けているが,一方でその合併症もしばしば耳にする.たとえば,抗緑内障点眼薬の使用(37)37*JojiTakenaka:広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)〔別刷請求先〕竹中丈二:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学(眼科学)特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):37?41,2012高齢者の緑内障手術GlaucomaSurgeryforElderlyPatients竹中丈二*38あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(38)60人はすべて局所麻酔下で手術が可能であり術中も特に問題となる行動はなかった.ただし,この1カ月間にMMSEの同意書がとれないほどの認知症の患者が1人おり,その患者は全身麻酔で手術を行った.1)の結果から想像以上に認知障害の疑いがある人が入院しているが,局所麻酔での手術にはおおむね支障がないことがわ点満点で27?30点が正常,22?26点で軽度認知障害の疑いがあり,21点以下で認知症の疑いと判定する(表1).MMSEは当科の入院患者を対象にして行い,1)1カ月間に何人くらい認知症の人がいるか,2)何点くらいのとき全身麻酔が必要かを調査,検討した.1)について,2011年7月20日?8月22日の1カ月間でMMSEに同意のうえ検査を行えた60人の眼科の入院患者を対象とした.年齢は30?90歳(中央値74歳)でMMSEの得点は19?30点(平均27.0点)であった.60人のうち軽度認知障害の疑いがある人は23人(38%)で認知症の疑いがある人は3人(5%)であった(図2).図1ミニメンタルステート検査(MMSE)日時(5点)今年は何年ですか.いまの季節は何ですか.今日は何曜日ですか.今日は何月何日ですか.(月と日で1点ずつ)現在地(5点)ここは,何県ですか.ここは何市ですか.ここは何病院ですか.ここは何階ですか.ここは何地方ですか.記憶(3点)(桜,猫,電車)と1秒間に1個ずつ言う.それをそのまま復唱させる.1個答えられるごとに1点.すべて言えなければ6回まで繰り返す.7シリーズ(5点)100から順に7を引いた数を数えてください.(93,86,79,72,65)につき1点.5回できれば5点.間違えた時点で打ち切り.想起(3点)先程物の名前を3つあげましたが覚えていますか?正解につき1点.呼称(2点)時計と鉛筆(ペンや眼鏡でもよい)を順に見せて,名称を答えさせる.読字(1点)次の文章を繰り返す.「みんなで力を合わせて綱を引きます」言語理解(3点)患者に1枚の白紙をさしだし次のように言います.(正しい動作につき1点)「まず右手にこの紙を持って,そのあとにそれを半分に折りたたみ私に渡してください」文章理解(1点)患者に「眼を閉じてください」と書かれた紙を渡し,紙に書かれた指示に従う様に伝える.文章構成(1点)何か文章を書いてください.図形把握(1点)次の図形を書き写してください.表1ミニメンタルステート検査(MMSE)の判定27~30点:正常22~26点:軽度認知障害の疑いあり21点以下:認知症の疑いあり(39)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201239要だといえる.「非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン」6)によると運動耐容能metabolicequivalents(METs)が良好な非心臓手術患者の多くは,一部の例外を除いては重大な心臓リスクをもっていない.しかし一方で運動耐容能の明らかに低下した(4METs以下)患者の心合併症のリスクは高く,かった.つぎに2)について検討するために対象者を2011年5月6日?9月21日の間で認知症(疑い例も含めて)がある人のみの12人(年齢64?90歳,中央値77歳)に絞って,局所麻酔で手術が可能であった群(9人)と全身麻酔を要した群(3人)に分類してMMSEの得点を比較した(図3).MMSEの平均得点は局所麻酔の群は21.1点,全身麻酔の群は14.7点でありp<0.05を有意とすれば両者に統計学的に有意な差があった(p=0.016).認知症があり全身麻酔で手術を行うか迷ったときはMMSEが判断の一助になりうると考える.2.内科的疾患があり全身管理が大変そうなときについて高齢者の手術をするか決定する際に全身状態は重要な因子の一つである.特に全身麻酔が可能かの判断はわれわれ眼科医にはむずかしいことがある.日本麻酔科学会の調査5)によると全身麻酔での死亡率は4.91人/1万人(2005年)である.この数字は全症例のものでASA(AmericanSocietyofAnesthesiologists)分類(表2)のII度(軽度の全身疾患を有するが日常生活動作は正常)よりも軽症の群では0.79人/1万人となる.死亡原因の約50%は出血性ショックと手術による大出血であるので眼科の手術で死亡するケースは非常に稀だといえる.一方で全身麻酔での死亡原因のうち出血性ショックと手術による大出血についで心筋虚血,冠虚血,急性冠症候群がある(1.01人/1万人)ので術前の心機能の評価は重表2ASA分類Class1:一般に良好で合併症なしClass2:軽度の全身疾患を有するが日常生活動作は正常Class3:高度の全身疾患を有するが運動不可能ではないClass4:生命を脅かす全身疾患を有し,日常生活は不可能Class5:瀕死であり手術をしても助かる可能性は少ないClass6:脳死状態表3Metabolicequivalents運動強度METs家庭学校・会社0.9睡眠1音楽鑑賞/映画鑑賞乗り物での通勤・通学TV視聴会話/読書1.5入浴入力作業食事3散歩3.5掃除機での掃除立位での作業(ややきつい)モップがけ3.8浴室/風呂磨き4庭掃除徒歩通勤・通学車椅子を押しての移動階段を登る30282624222018MMSE得点(点)2030405060708090100年齢(歳)軽度認知障害の疑い23人(38%)認知症の疑い3人(5%)図21カ月間に眼科に入院した患者のMMSE結果p=0.016(Wilcoxonの順位和検定)3025201510MMSE得点全身麻酔が必要(3人)局所麻酔で可能(9人)図3認知症がある患者(疑い例も含めて)のMMSEの得点の比較40あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(40)者では特に重要だといえる.広島大学病院で落屑緑内障に対するTLOとTLEの成績と,白内障手術〔PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)〕を併用したTLO+PEA+IOLとTLE+PEA+IOLの成績をそれぞれKaplan-Meier法を用いて比較した.対象は平成7年5月?平成22年3月に初めて緑内障手術を行った症例140人である(表4).目標の眼圧値を21mmHg,15mmHgとした.エンドポイントの定義は2回続けて目標眼圧値を超えたとき,再手術を行ったとき,炭酸脱水十分な術前評価を行わねばならないとある.4METsはたとえば徒歩での通勤や階段を登ることができる状態をさし(表3),それよりも運動耐容能があれば全身麻酔は可能と考えてよい.3.術後の管理が困難そうなときについて高齢で頻繁に受診ができない場合,トラベクレクトミー(TLE)を行うとレーザー切糸術や濾過胞の再形成などの外来処置のタイミングが遅れる可能性や,重大な合併症の対応も遅れる可能性がある.緑内障の術式を選択するのに開放隅角緑内障であればTLE,閉塞隅角緑内障であればトラベクロトミー(TLO)を選択することが多いが,落屑緑内障の場合は術式を迷うことがしばしばある.落屑緑内障は高齢になるほど増加し,70歳以上になると開放隅角緑内障のなかでその割合が7割を超えると報告されており7),落屑緑内障の術式選択は高齢図5TLE+PEA+IOLvsTLO+PEA+IOL(落屑緑内障に対して)012345術後期間(年)術後期間(年)100806040200012345100806040200p=0.17(Logrank検定):TLE+PEA+IOL:TLO+PEA+IOL:TLE+PEA+IOL:TLO+PEA+IOLp=0.40(Logrank検定)目標眼圧21mmHg目標眼圧15mmHg012345術後期間(年)術後期間(年):TLE:TLO目標眼圧21mmHgp=0.8980(Logrank検定)目標眼圧15mmHgp=0.1550(Logrank検定)100806040200012345100806040200:TLE:TLO図4TLEvsTLO(落屑緑内障に対して)表4広島大学での落屑緑内障の成績症例数平均年齢(歳)手術前の平均眼圧(mmHg)TLO1473.9(36~96)28.4(18~42)TLE3475.0(53~93)26.2(17~48)TLO+PEA+IOL5073.7(58~88)25.2(12~50)TLE+PEA+IOL4273.5(58~85)24.4(11~51)(41)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201241要であればその時期を逃さずに手術を行うことが重要であると考える.文献1)PattenJT,CavanaghHD,AllansmithMR:Inducedocularpseudopemphigoid.AmJOphthalmol82:272-276,19762)HigenbottamT,OggCS,SaxtonHM:Acuterenalfailurefromtheuseofacetazolamide(Diamox).PostgradMedJ54:127-128,19783)柏木賢治,牧野ふみ子,塚原重雄:健常高齢者におけるb遮断点眼薬の呼吸機能への影響.あたらしい眼科11:595-598,19944)vanderValkR,WebersC,SchoutenJetal:Intraocularpressureloweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs.Ophthalmology112:1177-1185,20055)入田和男,津崎晃一,讃岐美智義ほか:危機的偶発症発生率に低下傾向:危機的偶発症に関する麻酔関連偶発症例調査2005の速報と最近5年間の推移.麻酔56:1433-1446,20076)JCSJointWorkingGroup:Guidelinesforperioperativecardiovascularevaluationandmanagementfornoncardiacsurgery(JCS2008).CircJ75:989-1009,20117)布田龍佑:落屑緑内障の診断と治療.日本の眼科77:963-966,2006酵素阻害薬の内服をしたときとした.TLEとTLOの成績は目標眼圧値が21mmHgのときも15mmHgのときも有意差はなかった(図4).同様にTLE+PEA+IOLとTLO+PEA+IOLの成績も目標眼圧値が21mmHgのときも15mmHgのときも有意差はなかった(図5).この結果から落屑緑内障に対してTLOはTLEに成績が劣らないことがわかり,通院が困難な高齢者にとって有用な術式であると考える.おわりに高齢者には認知症や,全身疾患を抱えた人が多く,通院が困難で術後の管理が不安な人が多い.本稿では認知症があるときに全身麻酔が必要か否かの判断をするのにMMSEがその助けとなること,全身疾患があっても日常生活動作が正常で階段の昇り降りができれば全身麻酔は可能であること,最後に高齢者の落屑緑内障で術後管理が困難と思われる人は視野に余裕があればTLOが良いことを示した.点眼などの保存的治療で経過が良い場合はそれでよいが,保存的治療には限界があり手術が必