0910-1810/10/\100/頁/JCOPY方する眼科専門医には学会指導の講習会を受講し,さらに販売する会社の講習会で処方手順を受講することを義務づけた.日本眼科学会は,エキシマレーザー屈折矯正手術と同様に本講習会を指定講習会として認定し,受講の有効期間を5年間とした.受講者は最新の情報を受けるために5年に1回受講しなければならない.日本眼科学会指定の講習会は,オルソケラトロジー診療に必要な基礎的および臨床的知識を盛り込み,インフォームド・コンセントや合併症などについても十分な解説を行うことを義務づけた.講習会を受講した眼科専門医に対しては受講証を発行することになった.さらに,オルソKは視力補正用コンタクトレンズとは異なり,処方する眼科専門医自身が本レンズを管理しなければならなくなった.日本コンタクトレンズ学会は,本レンズの治験が開始されたことから,2005年学会理事会内にオルソケラトロジー・ガイドライン委員会(金井淳委員長,他6名)を立ち上げ,さらに国内臨床治験に参加した12施設の治験担当医師によるオルソケラトロジー臨床試験施設委員会(吉野健一委員長,他11名)を作った.ガイドラインは,まず臨床治験施設委員会でその骨子が作成され,さらに日本コンタクトレンズ学会オルソケラトロジー・ガイドライン委員会で修正され,日本コンタクトレンズ学会理事会の承認を得た後,日本眼科学会に提出され日本眼科学会雑誌に掲載された2).オルソケラトロジー・ガイドラインの骨子はエキシマレーザー屈折矯正手はじめに視力補正用コンタクトレンズは,レンズを装用することで視力の改善を図ることができるが,オルソケラトロジーレンズ(以下,オルソKレンズ)は,就寝時に装用することで角膜の形状を変え,起床時以降レンズの装用なしで良好な裸眼視力を得ることができる新しい屈折矯正手段である.オルソKレンズは,わが国では承認以前から一部の医師により自らの裁量権のもとに処方されてきていたが,レンズ素材の酸素透過率,レンズデザインなどの問題,中国での重篤な合併症の発症も報道されたことから,2002年10月日本コンタクトレンズ学会では,未成年者への処方を慎重にすべきとの観点より「日本の眼科」に警告文を掲載した1).その後,わが国では2004年まず3社のオルソKレンズが臨床治験を開始し,その後,さらに3社も加わり,合計6社のオルソKレンズの臨床治験が行われた.2009年4月にアルファコーポレーション社のレンズが医療機器として製造・販売の承認を得た.これに伴い厚生労働省は,オルソKレンズを2009年4月28日付けで,新たにこれまでの視力補正用コンタクトレンズとは別に角膜矯正用コンタクトレンズとして薬事法に基づく医療機器として加えた.厚生労働省は承認に際して,これまでの視力補正用コンタクトレンズとはレンズデザインや処方方法も異なることから,日本コンタクトレンズ学会に対してガイドラインの作成を,そして日本眼科学会に対して,本レンズを処(7)1489*AtsushiKanai:順天堂大学医学部眼科学教室**KenichiYoshino:吉野眼科クリニック〔別刷請求先〕金井淳:〒113-8421東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1489.1492,2010オルソケラトロジー・ガイドラインについて(講習会も含めて)AGuidelinetoOrthokeratology金井淳*吉野健一**1490あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(8)ない.a.年齢患者本人の十分な判断と同意を求めることが可能で,親権者の関与を必要としないという趣旨から20歳以上とする.わが国で実施された臨床治験では上記理由から20歳以上で行われた.b.対象屈折値が安定している近視,乱視の屈折異常とする.c.屈折矯正量①近視度数は.1.00Dから.4.00D,乱視度数は.1.50D以下を原則とする.明確な倒乱視,または斜乱視については,十分検討のうえ処方する.②角膜中心屈折力が39.00Dから48.00Dまで.③治療後の屈折度は過矯正にならないことを目標とする.現在わが国では1社のレンズのみが承認されたばかりであり,今後処方後の成績の集積が不可欠であり,これらの結果をもとに適応および矯正量などについて再検討されるべきである.処方年齢に関して,治験における対象が,20歳以上のごく限られた症例数(30症例60眼)であり,観察期間も1年と短かったこと,また,夜間就寝時のみ装用する本レンズが角膜に与える長期の影響,安全性については未知であることから,検討委員会ではその適応年齢を,レンズの取り扱いを十分熟知することのできる20歳以上とした.エキシマレーザー屈折矯正手術の最初のガイドラインでも,lateonsetmyopiaを考慮に入れ,親権者の同意を必要としない20歳以上としていた.その後,累積手術件数も推定110万件を超し,その臨床成績を踏まえて9年経過後の2009年に適応年齢を18歳に下げた.蓄積された臨床データを解析することにより,本ガイドラインも改定される可能性を残している.オルソKレンズの装用を中止した場合は,その後数週間以内に元の屈折状態に戻ることが治験において確認できている.学童への使用によって近視の進行を抑制できるかどうかについては,アジアからの報告6~9)が散見できるが,その経過観察期間はまだ1~2年と短く,長期観察での効果の結果を待たねばならない.さらに,若年者の角膜は成人に比べて柔らかさが異なることが角膜術のガイドラインを参考に作成された3~5).Iオルソケラトロジー・ガイトラインオルソKレンズは,高酸素透過性素材〔酸素透過係数(Dk)値:100×10.11以上〕を材料に作成されたリバースジオメトリーとよばれる特殊なデザインをもつハードレンズで,従来のハードレンズとは異なる特徴をもっている.すなわち,1)日中活動時の裸眼視力の向上をその使用目的とする,2)可能矯正屈折度数の限界と処方可能年齢に制限がある.3)角膜中心部がフラット,中間周辺部がスティープ,周辺部がパラレルとなる特殊なフィッティング原理を有する,4)日中の裸眼視力の向上を目的とするために,睡眠時の装用を繰り返すことにより屈折状態を変化させるが,使用を中止すれば元の屈折状態に戻る,5)特殊なレンズ形状と睡眠時の装用である点で,より入念なレンズの管理を必要とするなどの点があげられる.ガイドラインは,①処方者,②適応,③禁忌または慎重処方,④インフォームド・コンセント,⑤処方前スクリーニング検査,⑥レンズ処方の留意点,⑦処方後の経過観察に分けて作成された.IIガイドラインの内容1.処方者オルソケラトロジーによる屈折矯正は,エキシマレーザー屈折矯正手術同様,眼科専門領域で取り扱うべき治療法であり,日本眼科学会認定の眼科専門医であると同時に,角膜の生理や疾患ならびに眼光学に精通していることが処方者としての必須条件とした.オルソKレンズの処方に際しては,まず日本眼科学会の指定するオルソKレンズ処方講習会(現在は日本眼科学会総会,日本コンタクトレンズ学会総会,日本臨床眼科学会総会の年3回実施している)を受講し,つぎに厚生労働省から承認された製造・輸入販売業者が実施する導入時講習会を受講し証明を受けることが必要である.2.適応オルソケラトロジーによる屈折矯正の長期予後についてはなお不確定な要素があること,正常な角膜に変化を与えることなどから慎重に適応例を選択しなければなら(9)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101491または視力変化が心身の危険に結びつくような作業をする患者⑭不安定な角膜屈折力(曲率半径)測定値あるいは不正なマイヤー像を示す(不正乱視を有する)患者b.慎重処方①ドライアイを起こす可能性のある薬物治療あるいは視力に影響が出る可能性のある薬物,抗炎症薬(例えばcorticosteroid)の投与を受けている患者またはその予定のある患者②暗所瞳孔径が大きな患者(暗所瞳孔径は4~5mmであることが望ましい)4.インフォームド・コンセントオルソケラトロジーに伴って発現する可能性のある合併症と問題点について十分に説明し同意を得ることが必要である.特に,眼鏡や屈折矯正手術などの矯正方法が他に存在すること,オルソケラトロジー処方後に何らかの疾病で受診した場合,本処方の既往について担当医に申告すること,を十分に説明することが望まれる.5.処方前スクリーニング検査処方前には以下の諸検査を実施し,オルソケラトロジーの適用があるか否かについて慎重に評価する必要がある.①視力検査:裸眼および矯正視力②屈折値検査:自覚,他覚③角膜曲率半径計測④細隙灯顕微鏡検査⑤角膜形状解析検査(トポグラフィー)(重要)⑥角膜内皮細胞数測定⑦シルマーI法試験⑧眼底検査⑨眼圧測定⑩瞳孔径測定(明所,暗所)(任意)6.レンズ処方の留意点①適切なトライアルレンズを選定したら,視力の改善,センタリング,角膜の状態を観察する.不適切なフィッティングの場合には当日のレンズ引き移植などで知られており,本レンズを装用することで過矯正になるおそれが十分にある.直径10mmを超す大きなレンズを就寝時装用することで角膜の代謝に何らかの影響を及ぼすことなど未知の部分が多い.さらに,諸外国10,11)や国内12)でも若年者のオルソKレンズ使用例で角膜潰瘍発症例が報告され,レンズ取り扱いなどの点を含めて若年者への処方に問題が残されている.d.眼疾患を有していない健常眼でつぎの①,②であること①角結膜に顕著なフルオレセイン染色がなく,シルマーI法試験にて5分間5mm以上であること.②角膜内皮細胞密度が2,000個/mm2以上であること.3.禁忌または慎重処方つぎのような患者は,処方の対象とはしないか,または慎重に処方するものとする.a.禁忌①前述の適応に適合しない患者②インフォームド・コンセントを行うことが不可能もしくはそれを望まない患者,あるいは取り扱い説明書の指示に従わない患者③定期検診に来院することが困難な患者④妊娠,授乳中の女性あるいは妊娠の計画がある女性⑤円錐角膜の兆候あるいは他の角膜疾患がある患者⑥免疫疾患のある患者(例えばAIDS,自己免疫疾患)あるいは糖尿病患者⑦コンタクトレンズの装用,またはケア用品の使用によって,眼表面あるいは眼付属器にアレルギー性の反応を起こす,または増悪する可能性のある患者⑧前眼部に急性,亜急性炎症または細菌性,真菌性,ウイルス性などの活動性角膜感染症のある患者⑨角膜,結膜,眼瞼に影響を及ぼす眼疾患,損傷,奇形などのある患者⑩重篤な涙液分泌減少症(ドライアイ)患者⑪角膜知覚の低下している患者⑫眼に充血あるいは異物感のある患者⑬治療途中に車あるいはバイクの運転をする患者,1492あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(10)されるべきである.マスコミやインターネットを利用しての本レンズの宣伝は慎むべきである.社会的影響を十分配慮した良識ある行動をとるべきである.本ガイドラインは蓄積された臨床データを解析することにより,再検討することに何ら支障はない.文献1)オルソケラトロジーに対する警告.日本の眼科73:1161-1162,20022)日本コンタクトレンズ学会:オルソケラトロジー・ガイドライン.日眼会誌113:676-679,20093)屈折矯正手術の適応について,屈折矯正手術適応検討委員会答申.日眼会誌97:1087-1089,19934)エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン─エキシマレーザー屈折矯正手術ガイドライン起草委員会答申.日眼会誌104:513-515,20005)エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン.日眼会誌113:741-742,20096)ChoP,CheungSW,EdwardsM:Thelongitudinalorthokeratologyresearchinchildren(LORIC)inHongKong:Apilotstudyonrefractivechangesandmyopiacontrol.CurEyeRes30:71-80,20057)EidenSB,DavisRL,BennettESetal:TheSMARTstudy:Background,rationale,andbaselineresults.ContactLensSpectrum24:24-31,20098)WallineJJ,RahMJ,JonesLA:Thechildren’sovernightorthokeratologyinvestigation(COOKI)pilotstudy.OptomVisSci81:407-413,20049)CheungSW,ChoP,FanD:Asymmetrialincreaseinaxiallengthinthetwoeyesofamonocularorthokeratologypatient.OptomVisSci81:653-654,200410)YoungAL,LeungAT,ChengLLetal:Orthokeratologylens-relatedcorenalulcersinchildren:acaseseries.Ophthalmology111:590-595,200411)HsiaoCH,YeungL,MaDHetal:PediatricmicrobialkeratitisinTaiwanesechildren:areviewofhospitalcases.ArchOphthalmol125:688-689,200712)加藤陽子,中川尚,秦野寛ほか:学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例.あたらしい眼科25:1709-1711,2008渡しは行わない.②目的視力達成に至るまでの低矯正に対しては,使い捨てソフトコンタクトレンズにて対処する.その間,法的に一定以上の視力が必要とされる行為(車の運転など)は控えるように説明する.7.処方後の経過観察処方翌日には必ず細隙灯顕微鏡による観察を行い,異常をチェックする.その後も必要に応じて経過観察するが,スクリーニング検査で挙げた項目については経時的に評価すべきである.処方後3カ月ごとのフォローアップは必須で,一般検査のなかで長期経過を見守る必要がある.オルソKレンズ装用には,以下の合併症と問題点が知られており,これらについても適切に対処,または観察する必要がある.①疼痛②角膜上皮障害③角膜感染症④アレルギー性結膜炎⑤ハロー・グレア,コントラスト視力の低下⑥不正乱視⑦ironring⑧上皮下混濁なお,考えうるトライアルレンズの変更を試みても効果不良な患者に対しては,治療を長引かせることなく治療を断念することも必要である.おわりに今回作成したオルソケラトロジー・ガイドラインは限られた症例での臨床治験をもとに作成されたもので,エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドライン同様,わが国での処方件数を蓄積し,長期効果,安全性を今後確認