0910-1810/10/\100/頁/JCOPYpHの変化,コハク酸脱水素酵素活性,細胞の増殖能をBrdU(ブロモデオキシウリジン)でみる方法,LDH(乳酸脱水素酵素),P450活性,形態をみるためにコンフォーカルマイクロスコープを使う方法,パキメトリーで角膜の厚みをみる方法など手法はさまざまである.これらは低酸素状態に伴う角膜上皮の活性の変化や組織学的な変化をとらえたものがほとんどである.測定法により違いがでるため一つの方法のみから判断するのはむずかしい.その一つである,レンズ下の酸素分圧を微小電極により測定する方法をとり,直接酸素分圧を測定することができる.HCLとして当初使用されていたPMMA(ポリメチルメタクリレート)〔Dk(酸素透過係数):0〕は酸素透過性が0のレンズである.この方法を用いて測定した結果,PMMAレンズを装用した場合家兎における開瞼時の酸素分圧は5mmHg程度であると報告されている3).さらに,Dk/L(酸素透過率)が125であるHCLでは開瞼時80~100mmHg,近年市販されたシリコーンハイドロゲルレンズ(Dk/L:175×10.9)では120mmHg程度の酸素分圧が測定されている4).レンズを装用しない場合の角膜の酸素分圧は155mmHgといわれており5),できるだけ近づけるようなレンズが理想的である.レンズ下の酸素分圧は酸素透過性に大きく左右されることがわかってきたため,これまで酸素透過性のよいレンズが開発,市販されてきた.理論的には開瞼時角膜浮腫予防のために必要なコンタはじめに現在は夜間就寝中にハードコンタクトレンズ(HCL)を装用するオルソケラトロジーも,歴史的に最初は近視矯正効果を期待して終日装用を行っていた.第三世代のオルソレンズになってからHCLの酸素透過性があがり夜間装用が可能となった1).2002年には米国の食品医薬品局(FDA)から認可も受けており,安全性について承認を受けたことになる.しかし,夜間コンタクトレンズ装用に対してわれわれ眼科医がもしも抵抗を感じるとすれば,その原因は夜間装用における角膜の状態の変化が明らかになっていないためではないかと思う.夜間にコンタクトレンズを装用することは今まで禁忌であると研修医時代から教わってきたから,ソフトレンズの夜間装用後に角膜浮腫を起こした症例を経験してきたからではないかと思う.角膜はどの程度になれば酸素不足になるのか,酸素不足が起こす角膜の変化について,今まで報告されているなかからわかる範囲で記述していきたい.Iコンタクトレンズ下の酸素分圧コンタクトレンズを装用すること自体レンズ下の酸素供給は少なくなる.レンズ装用下では開瞼時であっても大気からの酸素供給に制限が生じるため酸素分圧が低下することがわかっている.レンズ下の低酸素状態についての研究をまとめた報告によれば,家兎では1週間から1カ月程度連続装用することによって低酸素状態が出現したとの報告が多い2).低酸素状態の測定法としては(19)1501*YoNakamura:四条ふや町中村眼科〔別刷請求先〕中村葉:〒600-8005京都市下京区立売東町24みのや四条ビル2階四条ふや町中村眼科特集●オルソケラトロジー診療を始めるにあたってあたらしい眼科27(11):1501.1504,2010オルソケラトロジーの角膜生理学PhysiologyofOrthokeratology中村葉*1502あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(20)との報告がある(表1).Bonnanoらの報告ではSCLの場合Dk/Lを130×10.9とすれば素材としては閉瞼時の酸素分圧を最も高く保てるものと考えられる.オルソレンズのようなHCLの場合も同様だが,SCLとの違いとして大きさの違いがある.SCLが角膜全体を覆うために全体が低酸素になるのに比較してHCLの場合は周辺のレンズののらない部分は涙液からの酸素供給がなされることになる.角膜を覆うレンズの大きさと厚みからDk/Lが125×10.9シリコーンハイドロゲルSCLはDk/L90×10.9のHCLと角膜に対する酸素供給は等しくなるというモデルの報告もある14).角膜輪部への酸素供給が影響を与えているとの考え方もある.HCLとSCLの違いはあるにしても,もともとの酸素供給が少ないために閉瞼時のコンタクトレンズ装用には十分な注意が必要であると考えられる.IIオルソレンズと涙液交換レンズ下の酸素分圧を考える際にもう一つ大切なことは,HCLの場合はSCLと比較して涙液が保たれていることがあげられる.SCLの就寝時装用で角膜浮腫の生じる症例はよくみられるが,HCLはSCLよりもレンズ下に涙液層を保っている可能性が高い.夜間就寝時には瞬目がされない状態にあり涙液交換が悪い可能性は十分にあるものの,レンズ下の涙液が保たれていれば涙液よりの供給がわずかであっても望めることになる.オルソレンズの場合,少なくとも涙液のたまっているフィックトレンズのDk/Lの値として20.06),24.17),35.08)といわれている(表1).現在市販されているHCLではほとんどのものが酸素透過性のよいものであり,開瞼時の場合は条件を満たしているものと考えてよい.それではオルソレンズの場合の閉瞼時について同様に考えてみることにする.角膜への酸素供給は開瞼時には大気より十分な酸素供給があるが,閉瞼時には大気よりの供給がなくなるため前房または涙液よりのわずかの供給となる.開瞼時酸素濃度21%,155mmHg,閉瞼時は7.7%,55mmHgになっていると報告されている5,9).もともと1/3強の酸素濃度しかない状態でのコンタクトレンズ装用に負担がかかるのは当然と考えてよいであろう.微小電極で測定したレンズ下の値の報告では閉瞼状態でコンタクトレンズ下酸素分圧を測定した結果はレンズのDk値にかかわらず20mmHg以下であると報告されている3).別の報告では,閉瞼下でのレンズ装用については閉瞼していること自体による低酸素状態が大きな影響を与えており,たとえ酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルレンズであっても開瞼時と比べると上皮細胞の増殖能は約1/3と低くなっていると記されている.酸素透過性の違いは影響としては小さいものであると結論づけている10).リン光遅延法によってヒトにおいてレンズ下の酸素分圧を測定した報告があるが,それによるとソフトコンタクトレンズ(SCL)下の酸素分圧は酸素透過性の高いレンズにおいても低く測定されている11,12)(表2).この方法ではDk/Lが130程度あるレンズであっても40mmHg弱の酸素分圧が測定されており,Dk/Lが300を超えたレンズであってもそれほど変わらない結果となっている.測定法の違いにより酸素分圧の値は違ってはいるが,閉瞼時は閉瞼そのものによる影響が大きいことがわかる.必要なDk/Lの値として理論値ではあるが閉瞼時では87.07),75.013),1258)×10.9表1低酸素を防ぐためのレンズの酸素透過性Dk/L〔×10.9(cm/sec)(mLO2/mL・mmHg)〕開瞼時20.0,24.1,35.0閉瞼時87.0,75.0,125.0(文献6,7,8,13より抜粋)表2SCLのDk/Lとレンズ下酸素分圧Dk/tOpenPo2(Torr)ClosedPo2(Torr)GogglePo217.158.0±7.911.2±2.77.8±1.12768.1±6.812.4±3.09.9±1.285105.0±8.630.0±5.937.0±1.8124109.0±4.924.0±6.040.3±3.6138114.0±7.537.5±6.941.0±3.4166112.4±9.438.2±7.045.7±2.7226121.3±8.239.9±7.145.6±3.4329133.1±11.542.3±6.148.5±7.0(文献12のTable2より)(21)あたらしい眼科Vol.27,No.11,20101503ると考えられる.涙液の分布にばらつきがあるため,部位による違いが考えられる.オルソレンズでの低酸素状態について考える際に,HCLの酸素透過性がよいことはもちろんであるが,涙液の状態についても考慮する必要がある.III低酸素状態と臨床一般的にレンズによる低酸素状態で起こる臨床的な角膜の変化としては,急性の変化として角膜浮腫,長期の変化が起こった場合,角膜のターンオーバーの変化,さらには輪部の血管新生が認められる.ターンオーバーの変化として長期にわたる変化が生じた場合は特徴的な動きをもった角膜上皮障害が生じるが,初期段階として角膜のマイクロシストを認めることがある15)(図3).定期的に詳細な角膜の観察が必要である.ティングゾーンには十分な涙液層を保っていると考えてよいが,角膜中央のフラットにフィッティングされているベースカーブの部分ではかなり涙液層が薄くなっている可能性が高い.筆者らの行った家兎での実験を少し紹介する4).家兎にオルソレンズ(Dk/L:50×10.9)を装用させ,瞼板縫合により閉瞼状態を48時間保ったあとにレンズ下の酸素分圧を微小電極により測定した(図1).測定法はIchijimaらと同様の方法3)をとり,1分定常状態を保てた値をとった.測定は瞼板縫合をとって開瞼させた直後と,涙液交換をさせた後の2回測定し,比較検討した(図2).瞼板縫合をとってすぐのレンズは全例固着しており,閉瞼中はおそらく涙液交換は行われていなかったものと考えられた.結果は開瞼直後の値よりも瞬目後の酸素分圧が上昇したことより,涙液交換によって酸素分圧が上昇する傾向が認められた.涙液交換によってレンズ下の酸素分圧は上がるということであるが,閉瞼中に涙液交換は行われておらず低酸素である可能性は高い.また,酸素分圧は部位による違いが認められた.特に涙液のたまっているフィッティングゾーンでは55mmHgの酸素分圧が認められたのに対して,中央のベースカーブ部では40mmHgと酸素分圧にばらつきがみられた.オルソレンズのようなHCLの場合は,涙液交換がない状態であっても涙液のたまっている部分があることにより,わずかではあるが酸素供給を受けている可能性はあ図3低酸素状態によるマイクロシスト矢頭の部分がマイクロシスト.(文献15より)50100酸素分圧(mmHg)1(分)図1測定時の曲線1分間定常状態になった時点で測定した.酸素分圧(mmHg)0102030405060開瞼直後涙液交換後41.550.5図2測定結果涙液交換によって酸素分圧は高くなる可能性がある(p=0.068,n=5).(文献4より)1504あたらしい眼科Vol.27,No.11,2010(22)withhydrogellensesandeyeclosure:effectofoxygentransmissibility.AmJOptomPhysiolOpt58:386-392,19817)HoldenBA,MertzGW:Criticaloxygenlevelstoavoidcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.InvestOphthalmolVisSci25:1161-1167,19848)HavittDM,BonannoJA:Re-evaluationoftheoxygendiffusionmodelforpredictingminimumcontactlensDk/tvaluesneededtoavoidcornealanoxia.OptomVisSci76:712-719,19999)EfronN,CarneyLG:Oxygenlevelsbeneaththeclosedeyelid.InvestOphthalmolVisSci18:93-95,197910)LadagePM,RenDH,PetrollWMetal:Ef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