0910-1810/11/\100/頁/JCOPY順に述べる.INTGの無治療時眼圧日内変動・体位変動1.無治療時眼圧日内変動無治療時眼圧日内変動は未治療または眼圧下降剤を使用していたものは4週以上休薬後入院にてGoldmann圧平眼圧計を用いて座位で測定した.眼圧測定時刻は10時,13時,16時,19時,22時,1時,3時,7時である.当院で測定されたNTG243例486眼の眼圧日内変動では,多くの既報8~10)同様,眼圧は午前中高く夜間低かった(図1).1日平均眼圧は13.8±2.0(平均値±標準偏差)(mmHg)であった.左右眼に差はなかったが,男性と女性の眼圧日内変動を比較すると,19時では女性のほうが有意に男性より眼圧が高く,眼圧日内変動に性はじめに眼圧と視野障害の関係は,近年,米国で行われた多施設試験により詳細が明らかになってきた.EarlyManifestGlaucomaTrial(EMGT)では眼圧が1mmHg上昇すると視野進行リスクは10%高くなるとされ1),正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)においても,眼圧下降治療の有効性が証明されている2).そこで,東京警察病院では2001年から入院で24時間眼圧測定を実施し,2009年からは眼圧体位変動測定(仰臥位眼圧上昇幅)も併せて行った.これにより得られた測定結果から,個々の症例に応じた,より緻密な眼圧下降治療を目指してきた.また,緑内障という病気の性質上,アドヒアランスが治療上重要なファクターであるので,アドヒアランス向上のための患者教育にも力を注いできた.本総説では,原発開放隅角緑内障患者の治療前後の眼圧日内変動,眼圧体位変動,および患者教育によるアドヒアランス向上について当院で得られたデータを中心に述べる.【原発開放隅角緑内障患者の治療前後の眼圧変動】より高い1日平均眼圧,最高眼圧,より広い眼圧変動幅は,それぞれ緑内障性視野障害進行の危険因子の一つである可能性が指摘されている3~7).この項では,I.NTGの無治療時眼圧日内変動・体位変動,II.緑内障治療薬の眼圧日内変動,III.マイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動および体位変動の(55)1115*NorikoYasuda:東京警察病院眼科〔別刷請求先〕安田典子:〒164-8541東京都中野区中野4丁目22-1東京警察病院眼科あたらしい眼科28(8):1115?1123,2011c第21回日本緑内障学会須田記念講演より質の高い緑内障治療をめざしてImprovingtheQualityofTreatmentforGlaucoma安田典子*総説1213141516眼圧(mmHg)測定時刻(時)1013161922137Mean±SE図1正常眼圧緑内障患者の眼圧日内変動正常眼圧緑内障243例486眼.全対象の眼圧平均値は10時に最高値を,夜間の22時に最低値を示した.1日平均眼圧(全測定時刻の眼圧平均値)は,13.8±2.0mmHgであった.1116あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(56)差がある可能性が示唆された(p<0.05).最高眼圧は10時と13時に示すものが多く,最低眼圧は夜間の22時と1時に示すものが多かった.1/3の症例は診察時間外に最高眼圧を示すことから,診察時間外の眼圧にも注意する必要がある(図2).眼圧変動幅は1~9mmHg変動し,変動幅の平均値は4.4±1.7mmHgであった(図3).眼圧の変動パターンを調べたところ,日中に最高眼圧を示す日中型が195眼で80%,夜間に最高眼圧を示す夜間型が32眼で13%,不定型が16眼で7%であった.臨床の場において,診察時間外,特に夜間に眼圧上昇する症例の特徴が把握できれば,より緻密な眼圧下降治療において有用である.そこで,NTG135例135眼を対象に夜間型になりやすい症例の危険因子について調べたところ,男性,等価球面度数が大きい,10時眼圧が低いほど夜間型になりやすいという結果であった.2.眼圧日内変動幅に影響する因子眼圧日内変動幅は,眼圧が高いほど大きくなることが知られている8,11)が,眼圧日内変動幅に影響する因子については明らかでない.そこで,NTG223例223眼(右眼)を対象にして,眼圧日内変動幅に影響する因子について検討した.目的変数は眼圧日内変動幅(全8測定値の標準偏差),説明変数を年齢,性別,10時眼圧,等価球面度数,meandeviation(MD)として単回帰分析を行ったところ,年齢,10時眼圧,等価球面度数が有意な因子であった(図4).ステップワイズ重回帰分析では10時眼圧と等価球:最高眼圧:最低眼圧04080120160測定時刻(時)1013161922137眼数(眼)図2無治療時眼圧日内変動測定で最高眼圧・最低眼圧を記録した時刻正常眼圧緑内障243例243眼(右眼).最高眼圧は10時と13時に示すものが多く,最低眼圧は夜間の22時と1時に示すものが多かった.1/3の症例は診察時間外に最高眼圧を示すことから,診察時間外の眼圧にも注意する必要がある.0102030405060024681012眼圧日内変動幅(mmHg)眼数(眼)図3正常眼圧緑内障の眼圧日内変動幅正常眼圧緑内障243例243眼(右眼).眼圧日内変動幅(最高眼圧?最低眼圧)は4.4±1.7mmHgであった.約3割の症例で眼圧変動幅が6mmHg以上あり,9mmHgに及ぶ症例もあった.012340123401234眼圧日内変動幅(mmHg)20406080年齢(歳)Y=0.4+0.077×Xr2=0.12p<0.000181012141618202210時眼圧(mmHg)Y=1.5-0.025×Xr2=0.03p=0.006等価球面度数Y=1.9-0.006×Xr2=0.02p=0.03-20-15-10-505図4眼圧日内変動幅に影響する有意な因子正常眼圧緑内障223例223眼(右眼).眼圧日内変動幅〔全8測定値の標準偏差(SD)〕は年齢,10時眼圧,等価球面度数と有意な直線関係があった.(57)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111117面度数のみが有意な因子として採用された.つまり,眼圧日内変動幅は眼圧が高いほど,近視が強いほど大きい傾向があると考えられ,特に,強度近視眼では,より厳格な眼圧下降治療を心がけたほうがよいといえる.3.NTGの視野障害と1日平均眼圧の関係横断的な方法でNTGの視野障害に眼圧(1日平均眼圧)がいかに関与しているか調べた.同一症例の左右眼で眼圧の高いほうの眼の視野障害が他眼より高度なものを眼圧依存群,その逆の症例を眼圧非依存群として,左右の視野のMDが1dB以上差のあるNTG88例でそれぞれの割合を調べた.その結果,眼圧依存群が53例(全対象の2/3),眼圧非依存群が35例(1/3)で,NTGにおいても,多くの症例で眼圧が病態に関与している可能性があることが確認できた.また,年齢別に左右眼の視野障害差を比較したところ,眼圧非依存群においては年齢群間に有意差はなかったが,眼圧依存群では70歳以上の群では他の年齢群より有意に左右の視野障害差が大きかった12).さらに,眼圧依存群と眼圧非依存群の病態の差を調べるため,未治療で内科的投薬も受けていないNTG25例50眼について背景因子を比較した.その結果,眼圧依存群には,高血圧の既往が有意に多かった.血圧を眼圧依存群と非依存群で比較したところ,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,眼灌流圧ともに眼圧非依存群のほうが有意に低いという結果であった(図5).4.眼圧体位変動幅に影響する因子眼圧は座位より仰臥位のほうが高いことは古くから知られているが,近年,眼圧体位変動幅と緑内障視神経障害や視野障害進行との関連を示唆する報告が多くみられる13~16).そのため,眼圧体位変動幅も,眼圧日内変動幅と同様に緑内障管理上重要な因子である可能性があるが,眼圧体位変動幅に影響する因子については,若年健常人において眼軸長が短いほど眼圧体位変動幅が大きいというLoewenら17)の報告以外ほとんどない.そこで,NTG19例19眼を対象に眼圧体位変動幅に影響する因子について検討した.眼圧測定機器にPneumatonometerを用いて,座位5分後と仰臥位10分後の眼圧を比較した.NTG19例19眼のすべての症例において,座位から仰臥位で眼圧が上昇し,体位変動幅の平均は5.1±1.6(2~8)mmHgであった.眼圧体位変動幅に影響する因子をステップワイズ重回帰分析で検討した.目的変数は眼圧体位変動幅,説明変数を年齢,性別,中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT),眼軸長,座位眼圧,BodyMassIndex(BMI)とした結果,採択された有意な因子は年齢とBMIであった.年齢が高いほど,BMIが小さいほど眼圧体位変動幅が大きい可能性があることが示唆された.5.眼圧体位変動幅から日内変動幅を推測できるか眼圧日内変動幅と眼圧体位変動幅の関係を調べたところ,両者には有意な相関はなかった.眼圧体位変動幅から眼圧日内変動幅を推測することは困難と考える(図6).II緑内障治療薬の眼圧日内変動薬剤による眼圧下降効果をより詳細に評価するためには,治療前後の眼圧日内変動測定は有用である.当院では,治療前の眼圧日内変動を測定後,それぞれの薬剤を血圧(mmHg)406080100120140160180眼圧依存群非依存群収縮期血圧p=0.0426拡張期血圧p=0.0349依存群非依存群平均血圧p=0.0184依存群非依存群図5眼圧依存群と眼圧非依存群の血圧比較未治療の正常眼圧緑内障25例50眼を対象にして,血圧を眼圧依存群と非依存群で比較したところ,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧ともに眼圧非依存群のほうが有意に低かった.Y=4.6-0.08×Xr2=0.01p=0.6712345678123456789眼圧体位変動幅眼圧日内変動幅(mmHg)図6眼圧日内変動幅と眼圧体位変動幅との関係正常眼圧緑内障19例19眼.眼圧日内変動幅と眼圧体位変動幅の関係を調べたところ,両者には有意な相関はなかった.1118あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(58)8週点眼し,再度入院で眼圧日内変動を測定している.方法は,Goldmann圧平眼圧計を用い同一医師が座位で測定し評価している.1.単剤治療時の眼圧日内変動に及ぼす影響a.b遮断薬(チモロール,カルテオロール)の効果NTG22例22眼を対象にして,ゲル基剤チモロール0.5%の眼圧日内変動に及ぼす影響を調べたところ,日中は有意な眼圧下降があったが,22時と3時では有意な眼圧下降はなかった18)(図7).カルテオロール2%に関しても同様にNTG12例12眼で検討したところ,日中は有意な眼圧下降を認めたが,夜間には有意な眼圧下降を認めなかった19)(図8).過去の報告同様20,21),b遮断薬の眼圧下降効果は日中で大きく,夜間は弱い傾向があった.b.プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト)の効果NTG80例80眼においてラタノプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果を調べた.日中も夜間も有意に眼圧を下げ,1日平均眼圧下降率は14.5±9.9%であった(図9).トラボプロスト,タフルプロストおよびビマトプロストについても同様であった.プロスタグランジン関連薬は24時間を通して強力な眼圧下降効果を有することがわかった.ラタノプロストの朝点眼と夜点眼で効果に差があるかをみたところ,特に午前7時では,夜点眼のほうが朝点眼より眼圧下降効果が有意に大きかった(図10).プロ10121416181013161922137測定時刻(時)眼圧(mmHg)******************:p<0.0001Mean±SE:治療前:治療後図9ラタノプロストの眼圧日内変動への効果正常眼圧緑内障80例80眼.ラタノプロスト治療後,すべての時刻で有意に眼圧が下降していた.0510152025*1013161922137眼圧下降率(%)測定時刻(時)*:p<0.05Mean±SE■:朝点眼■:夜点眼図10ラタノプロスト朝点眼と夜点眼の眼圧日内変動に及ぼす効果の違い正常眼圧緑内障17例34眼の左右眼のうち1眼をラタノプロスト朝点眼,もう片眼をラタノプロスト夜点眼として治療前後で眼圧日内変動を測定した.午前中は夜点眼のほうが,逆に夜間は朝点眼のほうが,眼圧下降効果が大きい傾向があった.朝7時において夜点眼の眼圧下降効果が朝点眼を有意に上回っていた.**眼圧(mmHg)1013161922137:治療前:治療後測定時刻(時)01216208*:p<0.05**:p<0.01Mean±SE*****図8カルテオロール2%の眼圧日内変動への効果正常眼圧緑内障12例12眼.カルテオロール2%治療後の眼圧は,昼間(10時,13時,16時,7時)は有意な下降を示したが,夜間(19時,22時,1時,3時)は有意な眼圧下降を示さなかった.01012141618101316192213710:治療前*:治療後*******:p<0.05Mean±SE測定時刻(時)眼圧(mmHg)図7ゲル基剤チモロール0.5%の治療前後の眼圧日内変動正常眼圧緑内障22例22眼.ゲル基剤チモロール(チモプトールXER)0.5%治療後,眼圧は大方の時刻で有意に下降していたが,夜間の22時と3時には有意な眼圧下降を認めなかった.(59)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111119スタグランジン関連薬を夜点眼することは24時間眼圧下降効果の点で理にかなっていることが確認された.2.2剤(ラタノプロストとブリンゾラミド)併用治療時の眼圧日内変動22)NTG患者20例40眼の左右眼の片眼にラタノプロストのみを,他眼にラタノプロストにブリンゾラミドを併用し,8週後両眼の眼圧日内変動を比較した.2剤併用治療眼は日中・夜間ともラタノプロスト単独治療眼より,有意に眼圧下降効果が大きかった(図11).眼圧日内変動の観点からラタノプロスト,ブリンゾラミド併用治療は有用な組み合わせといえる.3.3剤(プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬併用)治療時の眼圧日内変動Nakakuraら23)によると,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の3剤併用時の眼圧は,診察時間帯に最高眼圧を示した症例は33.8%であり,Konstasら24)も大多数は診察時間外に最高眼圧を示すことを報告している.そこで,当院でも広義の原発開放隅角緑内障(POAG)58例58眼を対象にして,3剤使用中の眼圧日内変動を調べた.3剤併用治療中の全対象の眼圧は,無治療時に比して平坦な日内変動(眼圧日内変動幅3.3±1.5mmHg)であった.3剤治療中の最高眼圧と最低眼圧を記録した時刻を調べたところ,無治療時と同様に10時と13時に最高眼圧を示す症例(日中型)が多いが,深夜1時と3時に最高眼圧を示す症例(夜間型)も少なくなかった(図12).3剤治療中の日中型と夜間型の背景因子を比較したところ,夜間型の症例は,日中型より有意に10時眼圧が低く,等価球面度数が大きかった(表1).IIIマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動および体位変動1.MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動25)同一術者による初回MMC併用線維柱帯切除術後の広義のPOAG20例31眼を対象に,術後の眼圧日内変動を調べた.全対象の眼圧日内変動幅は3.6±1.4mmHgであった(図13).術後1日平均眼圧と術後眼圧日内変動幅との関係を調べたところ,術後眼圧が低いほど眼圧日内変動幅を小さくできる可能性があることがわかった051015202530測定時刻(時)1013161922137眼数(眼)■:最高眼圧■:最低眼圧図123剤併用治療中の最高眼圧・最低眼圧を記録した時刻広義の原発開放隅角緑内障58例58眼を対象に3剤治療中の最高眼圧と最低眼圧を記録した時刻を調べたところ,無治療時と同様に10時と13時に最高眼圧を示す症例(日中型)が多いが,深夜1時と3時に最高眼圧を示す症例(夜間型)も少なくなかった.01013161922137121416:無治療時(両眼平均値):ラタノプラスト単独治療:ラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療Mean±SE眼圧(mmHg)測定時刻(時)図11ラタノプロスト単独治療とラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療の眼圧日内変動への効果比較17)正常眼圧緑内障20例40眼の同一患者の左右眼のうち1眼はラタノプロスト単独治療(夜1回),他眼はラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療を行い,治療前後で眼圧日内変動を測定した.ラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療は日中,夜間ともに有意な眼圧下降効果を認めた.表13剤治療日中型と夜間型の背景因子比較日中型(n=24)夜間型(n=27)p値年齢(歳)52.3±10.055.9±13.20.33性別(男/女)11/1313/140.87等価球面度数(D)?6.0±3.3?3.9±3.60.03MD(dB)?8.7±7.1?11.5±7.90.2210時眼圧(mmHg)14.3±2.112.2±2.30.005広義の原発開放隅角緑内障58例58眼.3剤治療中の日中型と夜間型の背景因子を比較したところ,夜間型の症例は,日中型より有意に10時眼圧が低く,等価球面度数が大きかった.(Mean±SD)1120あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(60)(図14).2.MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧体位変動眼圧体位変動幅は,薬物治療26)およびレーザー線維柱帯形成術27)では抑制効果が少ないことが報告されている.線維柱帯切除術により,眼圧体位変動幅が抑制できるかは,Parsleyら28)によりすでに報告されているが,この報告では線維柱帯切除術施行時にMMCの併用はなく,手術群の術後眼圧は15.6~17.7mmHgと比較的高値であった.そこで,当院でも初回MMC併用トラベクレクトミー術後6カ月以上無治療のPOAG20例32眼を対象として,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧体位変動について検討した29).眼圧は仰臥位10分後に有意に上昇した(図15).術後の座位眼圧と眼圧体位変動幅の関係は術後眼圧が低いほど眼圧体位変動幅が小さいという結果であった.術後眼圧が低いほど眼圧日内変動幅も体位変動幅も小さくできる可能性が示唆された(図16).【患者教育によるアドヒアランス向上】わが国の緑内障診療ガイドラインにおいて,コンプライアンス不良は緑内障性視神経症が進行する重要な要因の一つであることが明示されている30).さらに,コンプライアンス不良が失明に関する有意な因子であることも報告されている31,32).Iアドヒアランス向上のために医師側ができることアドヒアランス向上のために医師側ができることは,処方の工夫はもちろんであるが,むしろ点眼の動機づけが大切であると考える.そこで点眼の動機づけのために当院では2002年から患者教育(緑内障一日教育入院)を行っている(図17).緑内障一日教育入院は,日帰り入院で,午前中はおもに検査,午後に薬剤師と医師から講義,最後に医師からの個別指導というプログラムである.患者教育には,より効果的な説明方法として,医師からの一方的な説明ではなく患者からの疑問に答える方法を取り入れている(ask-tell-askcommunicationstrate-POAG:20例31眼Mean±SE*:p<0.0567891011121013161922137測定時刻(時)眼圧(mmHg)*図13MMC併用トラベクレクトミー後の眼圧日内変動広義の原発開放隅角緑内障20例31眼.MMC併用トラベクレクトミー後の眼圧は24時間低いが,統計学的に有意な変動があり,10時の眼圧は1時の眼圧より有意に高かった.Y=1.879+0.179×Xr2=0.208p<0.05術後1日平均眼圧(mmHg)024684681012141618術後眼圧日内変動幅(mmHg)図14術後1日平均眼圧と術後眼圧日内変動幅との関係MMC併用トラベクレクトミー後の一日平均眼圧と術後眼圧変動幅の間には,有意な正の相関を認めた.眼圧(mmHg)05101520仰臥位座位直後仰臥位10分座位POAG:20例32眼Mean±SE*:p<0.05*図15MMC併用トラベクレクトミー後の眼圧体位変動体位変換後の眼圧は,仰臥位10分後が最も高かった.024648121620術後眼圧体位変動幅(mmHg)術後座位眼圧(mmHg)POAG:20例32眼r2=0.452p<0.0001Y=-0.18+0.33×X図16術後の座位眼圧と眼圧体位変動幅の関係MMC併用トラベクレクトミー後の座位眼圧と術後体位変動幅の間には有意な正の相関があった.(61)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111121gy)33).患者の疑問点とは何かについて知るためにアンケート調査を行ったところ,おもに①日常生活について,②緑内障の病態について,③点眼についての3点であった.そこで,③点眼については,薬剤師の講義で,実際に点眼瓶を手に取って点眼の仕方を具体的に指導するようにしている.さらに,①日常生活についてと②緑内障の病態については,医師から病態説明,手術説明をスライドを用いて30分行い,その後質疑応答の時間を十分に取って対応している.併せて,個別的に治療方針の説明も行っている.必要に応じてEstermanvisualfieldtest(両眼開放視野)を行い,実際生活上の見え方を確認している.片眼ずつの視野検査では非常に見えにくかった患者も両眼解放視野ではよく見えたと喜ぶケースが多く,患者を勇気づける検査の一つと位置づけている.Estermanvisualfieldtestでは100点満点のEstermanscoreが得られる.Estermanscoreと生活困難度について検討したところ,両眼に高度の視野障害が起こらない限り,日常生活は保たれることがわかった34)(図18).特に,家事はかなりスコアが下がらないと困難にならないため,患者には,無用な不安感をかきたてないよう説明することも重要である.「治療すれば視野障害の進行を遅くできる」というポジティブなメッセージを示し,患者の治療へのモチベーションを向上させることを心がけている.II緑内障一日教育入院の効果35)アンケートにて「教育入院で一番ためになったこと」について調査したところ,「点眼方法がよくわかった」,「緑内障の知識が得られた」,「病気の不安が薄れた」という感想が多かった(図19).緑内障一日教育入院前後の患者の意識変化についても同様にアンケート調査したところ,「緑内障という病気検査外来病棟教室外来9:0011:0014:0016:0017:00講義面談個別指導眼圧測定(10,16時)視力三次元画像解析看護師,薬剤師による日常生活パターン,点眼時刻の聴取薬剤師:点眼方法,薬理作用等医師:疫学・病態・治療方法薬剤師:点眼時刻の決定医師:治療方針の説明,質問受付図17教育入院タイムスケジュール点眼方法緑内障の知識病気の不安が薄れた手術のことがわかった患者同士の話し合いn=131図19患者の感想─教育入院で一番ためになったこと─(教育入院後アンケート)102030405060708090100Estermanscore(点)初めての場所への外出読み書き買い物夜間の外出階段・段差顔の判別身づくろいバスの表示家事信号の判別80点777777767474745750n=144図18各項目が『かなり困難』となるEstermanscorecutoff値よく知っているおよそ知っているほとんど知らない<入院後><入院前>ほとんど知らない(n=44)およそ知っている(n=81)よく知っている(n=13)p<0.0001n=25n=19n=64n=16n=12n=1n=138n=1図20緑内障という病気をご存知ですか?「緑内障という病気をご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんど知らない」と答えた44名のうち,入院後は25名がよく知っていると答えた.1122あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(62)をご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんど知らない」と答えた44名のうち,入院後は25名がよく知っていると答えた(図20).「ご自身の症状についてご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんど知らない」と答えた35名のうち,入院後は20名が「およそ知っている」,5名が「よく知っている」と有意に改善した.「ご自身のお薬の効果や副作用についてご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんどわからない」と答えた52名のうち,入院後は19名が「およそ知っている」,32名が「よく知っている」と有意に改善した.「緑内障に対するあなたのイメージについて教えてください」という問いに対して入院前,「とても怖い」と答えた90名のうち,入院後は29名が「きちんと治療すれば怖くない」と有意に改善した.当院のめざす患者教育は,患者が点眼(眼圧下降治療)の重要性を認識し,正しい点眼法を習得し,病気への不安が軽減することによって点眼の動機づけがなされ,アドヒアランスを向上させることにある.おわりに緑内障において唯一確実な治療法は,眼圧下降治療である.よって,眼圧をより厳密に管理することが,臨床の場では最も大切になる.眼圧を点ではなく動的な線と捉えたものが,眼圧日内変動である.今回,眼圧日内変動の結果より多くの臨床的示唆が得られた.緑内障治療のうえでのもう一つの重要な因子は,アドヒアランスである.時間をかけて患者教育を行い,点眼の動機づけを高めることが,アドヒアランスの向上につながるといえる.緻密な眼圧下降治療とアドヒアランスの向上で,より質の高い緑内障治療を実現できると確信する.謝辞:名誉ある講演の機会をお与えくださいました第21回日本緑内障学会会長田原昭彦先生ならびに日本緑内障学会理事長新家眞先生に厚く御礼申し上げます.本講演の共同研究者である中元兼二,里誠,伊藤義徳,小川俊平,藤田京子,福田匠,川口千晶の各先生に心より御礼申し上げます.文献1)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression.ArchOphthalmol120:1268-1279,20022)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)BengtssonB,HeijlA:DiurnalIOPfluctuation:notanindependentriskfactorforglaucomatousvisualfieldlossinhigh-riskocularhypertension.GraefesArchClinExpOphthalmol243:513-518,20054)伊藤美樹,杉浦寅男,溝上国義:低眼圧緑内障(LTG)における視野障害様式についての検討.日眼会誌95:790-794,19915)白井久行,佐久間毅,曽賀野茂世ほか:低眼圧緑内障における視野障害の経過と視野障害進行因子.日眼会誌96:352-358,19926)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientwithglaucoma.JGlaucoma9:134-142,20007)CollaerN,ZeyenT,CaprioliJ:Sequentialofficepressuremeasurementsinthemanagementofglaucoma.JGlaucoma14:196-200,20058)ZeimerRC:Circadianvariationsinintraocularpressure.In:RitchRetal(eds):TheGlaucomas2nded,p429-445,Mosby,StLouis,19969)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,200310)HasegawaK,IshidaK,SawadaAetal:Diurnalvariationofintraocularpressureinsuspectednormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol50:449-454,200611)SaccaSC,RolandoM,MarlettaAetal:Fluctuationsofintraocularpressureduringthedayinopen-angleglaucoma,normal-tensionglaucomaandnormalsubjects.Ophthalmologica212:115-119,199812)中元兼二,安田典子,福田匠:正常眼圧緑内障の視野障害と眼圧及び年齢との関係.日眼会誌112:371-375,200813)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,200314)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientwithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,200615)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Posturalresponseofintraocularpressureandvisualfielddamageinpatientswithuntreatednormal-tensionglaucoma.JGlaucoma19:191-193,201016)MizokamiJ,YamadaY,NegiAetal:Posturalchangesinintraocularpressureareassociatedwithasymmetricalretinalnervefiberthinningintreatedpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol249:879-885,201117)LoewenNA,LiuJH,WeinrebRN:Increased24-hourvariationofhumanintraocularpressurewithshortaxiallength.InvestOphthalmolVisSci51:933-937,201018)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,200419)NakamotoK,YasudaN:Effectofcarteololhydrochlorideon24-hourvariationofintraocularpressureinnormal(63)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111123tensionglaucoma.JpnJOphthalmol54:140-143,201020)OrzalesiN,RossettiL,InvernizziTetal:Effectoftimolol,latanoprostanddorzolamideoncircadianIOPinglaucomaorocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci41:2566-2573,200021)LiuJH,KripkeDF,WeinrebRN:Comparisonofthenocturnaleffectsofonce-dailytimololandlatanoprostonintraocularpressure.AmJOphthalmol138:389-395200422)NakamotoK,YasudaN:Effectofconcomitantuseoflatanoprostandbrinzolamideon24-hourvariationofIOPinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma16:352-357,200723)NakakuraS,NomuraY,AtakaSetal:Relationbetweenofficeintraocularpressureand24-hourintraocularpressureinpatientswithprimaryopen-angleglaucomatreatedwithacombinationoftopicalantiglaucomaeyedrops.JGlaucoma16:201-204,200724)KonstasAG,TopouzisF,LeliopoulouOetal:24-hourintraocularpressurecontrolwithmaximummedicaltherapycomparedwithsurgeryinpatientswithadvancedopen-angleglaucoma.Ophthalmology113:761-765,200625)福田匠,中元兼二,安田典子ほか:マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動.臨眼60:1961-1963,200626)SmithDA,TropeGE:Effectofabeta-blockeronalteredbodyposition:inducedocularhypertension.BrJOphthalmol74:605-606,199027)SinghM,KaurB:Posturalbehaviourofintraocularpressurefollowingtrabeculoplasty.IntOphthalmol16:163-166,199228)ParsleyJ,PowellRG,KeightleySJetal:Posturalresponseofintraocularpressureinchronicopen-angleglaucomafollowingtrabeculectomy.BrJOphthalmol71:494-496,198729)小川俊平,中元兼二,里誠ほか:マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化.あたらしい眼科27:963-966,201030)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,200631)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen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