監修=坂本泰二監修=坂本泰二第131回◆眼科医のための先端医療山下英俊眼免疫疾患に対する樹状細胞療法の可能性服部貴明臼井嘉彦(東京医科大学眼科)樹状細胞は,細胞周囲に特異的な樹状突起をもつことにその名前が由来する免疫細胞です.この樹状細胞は体内に侵入した異物を捕食し,その異物の特徴をリンパ球に伝えることで,リンパ球が特徴を認識して異物を攻撃します.このように免疫を惹起するうえで,樹状細胞は欠かせない役割を担っています.近年,樹状細胞に関する研究が活発に行われ新しい知見が次々と発見されています.さらにこの細胞を用いて癌治療,ワクチンなどへの臨床応用が始まりつつあります.本稿では,樹状細胞ならびに制御性樹状細胞について解説し,眼科領域における樹状細胞の基礎研究から得た知見や臨床応用への可能性について述べていきます.樹状細胞1990年以前では樹状細胞は生体内にごく少数しか存在しないために,詳細な機能は解明できていませんでした.しかし,Inabaら1)の発見により骨髄細胞をGMCSF(granulocyte/macrophage-colonystimulatingfactor)とともに培養することで樹状細胞をinvitroで大量角膜上皮角膜実質図1Langerin蛍光標識マウスを用いた角膜内でのLangerhans細胞の分布解析角膜上皮内のみでなく角膜実質内にもLangerin陽性細胞(Langerhans細胞:黄色く標識された細胞)が存在している(青色は核染色).Bar=100μm.(73)に作製することが可能となり,研究が飛躍的に進みました.近年では,樹状細胞に特異的に発現する分子が特定されており,遺伝子改変技術を用いて,樹状細胞を特異的に欠損するマウスや,樹状細胞が特異的に蛍光標識されたマウスなどが開発され,実際の体内での樹状細胞の分布や働きが解明されつつあります.筆者らは,Langerinとよばれる樹状細胞に特異的に発現する分子が蛍光標識されたマウスを用いて,角膜内の樹状細胞,特にLangerhans細胞の分布を検討し,角膜上皮のみでなく角膜実質にもこれらの細胞が存在していることを解明しました2)(図1).さらに,樹状細胞はドライアイから脈絡膜新生血管までさまざまな眼科疾患の病態に関与していることが報告されています3.5).制御性樹状細胞このような樹状細胞に関する研究により,通常の樹状細胞と異なりリンパ球の活性化を促さず,むしろリンパ球の活性を抑制し免疫反応を制御する“制御性樹状細胞”の存在が明らかになってきました.筆者らは,この制御性樹状細胞を用いて実験的自己免疫性ぶどう膜炎の発症を抑制可能かどうか検討しました.Satoら6)の開発した方法によりマウス骨髄細胞から,GM-CSF,IL(インターロイキン)-10,TGF(形質転換成長因子)-bを用いて制御性樹状細胞を作製しました.自己抗原であるIRBP(interphotoreceptorretinoidbindingprotein)を強化免疫したマウスに作製した樹状細胞を投与したところ,ぶどう膜炎の発症が有意に抑制されました7)(図2).さらに筆者らは,この制御性樹状細胞をマウス角膜移植モデルに用いて,拒絶反応についても検討を行い,拒絶反応を抑制する結果を得ています.無処置群制御性樹状細胞投与群図2制御性樹状細胞による実験的自己免疫性ぶどう膜炎の抑制制御性樹状細胞を投与した群では,コントロール群に比較し,網膜の層構造の乱れも少なく,ぶどう膜炎が抑制されている.あたらしい眼科Vol.28,No.11,201115850910-1810/11/\100/頁/JCOPYおわりにおわりに文献1)InabaK,InabaM,RomaniNetal:Generationoflargenumbersofdendriticcellsfrommousebonemarrowculturessupplementedwithgranulocyte/macrophagecolony-stimulatingfactor.JExpMed176:1693-1702,19922)HattoriT,ChauhanSK,LeeHetal:CharacterizationofLangerin-expressingdendriticcellsubsetsinthenormalcornea.InvestOphthalmolVisSci52:4598-4604,20113)NakaiK,FainaruO,BazinetLetal:Dendriticcellsaugmentchoroidalneovascularization.InvestOphthalmolVisSci49:3666-3670,20084)ZhengX,dePaivaCS,LiDQetal:DesiccatingstresspromotionofTh17differentiationbyocularsurfacetissuesthroughadendriticcell-mediatedpathway.InvestOphthalmolVisSci51:3083-3091,20105)ForresterJV,XuH,KuffovaLetal:Dendriticcellphysiologyandfunctionintheeye.ImmunolRev234:282304,20106)SatoK,YamashitaN,YamashitaNetal:Regulatorydendriticcellsprotectmicefrommurineacutegraft-versushostdiseaseandleukemiarelapse.Immunity18:367379,20037)UsuiY,TakeuchiM,HattoriTetal:Suppressionofexperimentalautoimmuneuveoretinitisbyregulatorydendriticcellsinmice.ArchOphthalmol127:514-519,2009■「眼免疫疾患に対する樹状細胞療法の可能性」を読んで■本稿に取り上げられている樹状細胞に関した研究成いたものです.このコンセプトを用いた脳脊髄膜炎へ果により,本年のノーベル生理学賞をSteinman博士の治療は動物実験で成功していましたが,ぶどう膜炎が受賞されることが,2011年の10月3日に発表されについてはなされていませんでした.私は,実験的ぶました.本稿が提出されたのは,それ以前でしたのどう膜炎はきわめて強い炎症反応が起こるので,樹状で,ノーベル賞受賞を知っていたはずはないのです細胞による免疫反応制御だけでは,炎症抑制はむずかが,今回はきわめてタイムリーなテーマになりまししいのではないかと考えていましたが,臼井嘉彦先生た.報道されているように,Steinman博士はノーベたちは樹状細胞による免疫反応制御で十分にぶどう膜ル賞受賞発表の数日前に亡くなりました.通常ノーベ炎の抑制が可能であることを示しました.ぶどう膜炎ル賞は故人には授与されませんが,今回は授与されるに至る過程の一部を制御すれば,それ以後の強い炎症ことになったことや,Steinman博士が受賞対象となが完全に抑えられるという論理的なアプローチであった樹状細胞を用いた治療によって癌と闘っていたこり,見事な結果だといえます.激しい炎症に目を奪わとは,今回のノーベル賞を人々の記憶に強くとどめるれて,炎症すべての局面を抑えるステロイドのようなことになるでしょう.治療が必要と感じた私が誤りでした.さて,Steinman博士の癌治療で用いられた方法は,近年,抗TNF(腫瘍壊死因子)-a抗体薬などの生樹状細胞を操作することで癌細胞に対する免疫反応を物学的製剤の登場で,ぶどう膜炎の治療成績が飛躍的起こすという方法であり,広い意味の癌ワクチン療法に向上しました.しかし,新しい治療法が現れると,にあたります.その場合の樹状細胞の役割は,免疫をそれを回避した新しい病態が出現するのは避けられま強化するというもので,一般にはこのコンセプトで樹せん.その意味からも,今回の樹状細胞を用いた免疫状細胞が治療に用いられることが多いです.ところ反応抑制治療は,将来のぶどう膜炎治療において重要が,今回服部貴明先生たちが述べられている方法は,な位置を占める可能性が高いものといえます.樹状細胞により免疫反応を抑えるという逆の作用を用鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆1586あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(74)