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マイボーム腺を場とする腫瘤性疾患

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(図1).俗に“ものもらい”“めばちこ”“めいぼ”などとよばれる.b.診断通常,発赤,腫脹,疼痛,圧痛があり,進行すると膿点がみられる.c.治療麦粒腫は細菌感染症であるから,治療の基本は抗菌薬の投与である.腫脹の強い症例では点眼薬や眼軟膏の局所投与だけではなく内服薬による全身投与を併用する.穿刺あるいは切開して排膿という治療法もあるが,抗菌薬の投与が基本となる.2.霰粒腫a.定義霰粒腫(chalazion)はマイボーム腺の非感染性(無菌性)の慢性肉芽腫性炎症である.b.病理・病因病理組織学的に脂肪肉芽腫である.発症機序は不明であるが,マイボーム腺分泌物(おもに脂質)が排出されずに導管内で停滞すると,分泌物が貯留し変性する.変性した分泌物が腺外の実質組織と異物反応を生じた結果,肉芽腫を生じると考えられる.なお,霰粒腫は?胞である,あるいは,霰粒腫には被膜があるという記載をみることがあるが,霰粒腫の眼瞼全層切除標本をみると霰粒腫は?胞ではないし,被膜に包まれてもいないことがわかる1).はじめにマイボーム腺に腫瘤を生じる疾患には,麦粒腫,霰粒腫,マイボーム腺梗塞,脂腺癌,脂腺腺腫がある.本稿では,前3者をマイボーム腺の炎症性腫瘤疾患として,後2者を腫瘍性疾患と大別し,概説する.Iマイボーム腺を場とする炎症性腫瘤疾患1.麦粒腫a.定義麦粒腫(hordeolum)は眼瞼に付属する腺組織の細菌感染症である.睫毛に付属する皮脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)に感染が生じた場合,外麦粒腫とよばれ,マイボーム腺に感染が生じた場合は内麦粒腫とよばれる(47)1107*HirotoObata:自治医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕小幡博人:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1107?1113,2011マイボーム腺を場とする腫瘤性疾患MassLesionsinMeibomianGland小幡博人*図1内麦粒腫瞼結膜に白色の膿点と充血を認める.4歳,男児.1108あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(48)c.診断:霰粒腫の2つのタイプ霰粒腫は瞼板内に発生するが,瞼板内に限局しているものと,瞼板前面を破壊し,眼瞼前葉にまで炎症が及ぶものの2つのタイプがある1,2).前者を“限局型”,後者の進行した状態を“びまん型”と分類すると病態がわかりやすい(図2).限局型の場合,発赤,疼痛,圧痛はなく,皮下に固い腫瘤として触知される(図3a).このタイプが典型的な霰粒腫で,半年以上前から痛みのないしこりがあるが,治らないので来院したという患者に代表される.一方,びまん型は,眼瞼前葉に炎症が及ぶため,皮膚に発赤がある(図3b).この場合,無痛あるいは軽度の圧痛がある.びまん型を放置しておくと皮膚が自壊し,霰粒腫の本態である肉芽腫が露出することがある(図3c).霰粒腫は通常,瞼結膜側には隆起がなく,瞼板前壁眼輪筋脂肪肉芽腫眼輪筋脂肪肉芽腫ab図2霰粒腫の2つのタイプa:限局型.脂肪肉芽腫が瞼板内に限局しているタイプ.b:びまん型.脂肪肉芽腫が瞼板前面を破り,眼瞼前葉にまで及び皮膚が発赤しているタイプ.(文献2より改変)acbd図3霰粒腫の外眼部写真a:瞼板内に限局している霰粒腫.皮膚に発赤はない.b:眼瞼前葉に及んでいる霰粒腫.皮膚に発赤がみられる.3歳,男児.c:皮膚が自壊し,肉芽腫が露出した状態.6歳,男児.d:霰粒腫が瞼結膜側に破裂して生じたポリープ状の肉芽組織.(49)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111109(1)局麻下手術,(2)全身麻酔(以下,全麻)下手術,(3)ステロイド軟膏治療の3つのいずれかの治療を症例に応じ選択している3).局麻下で行う手術は,短時間で済むと考えられ,かつ抑制が可能な乳幼児に限られる.一方,多発例など手術に時間を要する場合,抑制が不可能と考えられる小児の場合などは全麻手術の適応となる.さらに,局麻手術はトラウマになる,全麻手術は全身的なリスクがあるなどの理由で,手術をしないで治す方法はないかと相談されることがある.このような場合,ステロイド軟膏による治療がある.具体的にはステロイドの眼軟膏(ネオメドロールEER軟膏,プレドニンR眼軟膏など)を1日2回眼瞼皮膚に塗布する(図4).この治療の短所は,縮小までに約1?3カ月と時間がかかること,眼圧上昇の懸念があることである.上記(1)?(3)のいずれにも迷う場合は経過観察をし,臨機応変に考える.f.麦粒腫と霰粒腫の鑑別霰粒腫と麦粒腫の大きな相違点は,前者は非感染症,後者は感染症という点である.この大前提があるものの両者の鑑別が困難な症例に遭遇することはしばしばである.その理由はいくつか考えられる.(1)霰粒腫が進行すると眼瞼皮膚が発赤し感染症のようにみえること,(2)霰粒腫は麦粒腫から生じることがある,(3)霰粒腫に2次的に細菌感染が起こることがある,などの理由である.(2)と(3)に関しては,まことしやかに信じられ発赤が目立つことは少ない.しかし,ときに瞼結膜側に破裂し,ポリープ状の肉芽組織を生じることがある(図3d).急性霰粒腫あるいは化膿性霰粒腫という病名があるが,この定義ははっきりしない.おそらく,細菌感染を伴ったと考えられる霰粒腫,あるいは,皮膚が発赤している霰粒腫を指していると思われる.急性霰粒腫と内麦粒腫を同義語のように捉える考え方もあり,混乱している用語である.d.治療―成人の場合治療は手術,すなわち,切開と掻爬(incision&curettage)が基本である.アプローチには経結膜法と経皮法がある.筆者は,瞼板内に限局していると考えられる場合は経結膜法で,眼瞼前葉に及ぶびまん型の場合は経皮法で行っている3).いずれのアプローチにしろ,鋭匙で十分に掻爬した後は,最後に,挟瞼器をはずし,触診で腫瘤の取り残しがないかを確認する.ステロイドの局所注射という治療法も知られているが,筆者は施行していない.なぜなら,注射をするのであれば,局所麻酔薬を注射し,切開・掻爬をするほうが早期に確実に治癒させることができると考えているからである.e.治療―小児の場合小児の霰粒腫の治療は,成人のような局所麻酔(以下,局麻)による手術がむずかしいため,しばしば治療方針に悩む.筆者は,家族あるいは本人とよく相談のうえ,ab図4ステロイド軟膏で治療した霰粒腫本人も家族も手術を希望せずネオメドロールEER軟膏で治療した7歳,女児.治療前,上眼瞼に2個多発していたが(a),治療後1カ月で著明に縮小した(b).1110あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(50)い.両者がオーバーラップするような状態を認めるにしても,その確定診断はむずかしい.たとえば,マイボーム腺開口部から白色膿汁が出て,瞼結膜も充血し,内麦粒腫のようであるが,固い腫瘤は霰粒腫のようでもある.膿汁の培養は陰性であった(図7).読者の方の診断は如何であろうか.麦粒腫と霰粒腫の鑑別がつかないときの治療方針は,両方の可能性を説明し,まず抗菌薬の点眼薬と内服薬を処方する.しこりが残るようであれば霰粒腫の可能性であることを説明し再来してもらい,手術治療の説明を行う.薬物治療→手術治療という順序を遵守する.3.マイボーム腺梗塞a.定義と診断マイボーム腺梗塞とは,瞼板内のマイボーム腺の走行と一致して固形物が生じるものである.マイボーム腺分泌物である脂質が固まったと考えられる透明なものや白色固形物状のものがある(図8).通常は無症状であるが,大きいものでは異物感や美容目的から除去を希望され来院することがある.b.病理・病因病因は不明であるが,脂質の性状変化や脱落した導管上皮細胞などにより導管が閉塞し,内容物が濃縮,固形化したものと考えられている4).以前,白色固形状のマイボーム腺梗塞の病理組織標本を作製したところ,角化ているが,確固たる証拠はない.鑑別のむずかしい例を提示する.眼瞼皮膚に発赤・腫脹・わずかな膿点があり麦粒腫のようにみえる(図5).皮膚切開をすると白濁した液体が勢いよく出たが,根底には典型的な霰粒腫の粥状物が存在しており,霰粒腫であった症例である.ちなみに,白濁液の培養は陰性であった.発赤,腫脹,膿点などは鑑別点にならないとすると,疼痛・圧痛の有無と抗菌薬に対する反応の有無という2点が鑑別点と考え,鑑別フローチャートを作成した(図6).g.迷った場合の治療方針麦粒腫と霰粒腫の鑑別は考えれば考えるほどむずかし図5麦粒腫のようであるが霰粒腫であった例皮膚切開をするとまず白濁した液体がでたが,根底には典型的な霰粒腫の粥状物が存在していた.麦粒腫疑い霰粒腫疑い切開・掻爬疼痛,圧痛反応あり反応なし麦粒腫確定抗菌薬投与粥状物の観察ありなし霰粒腫確定図6麦粒腫と霰粒腫の鑑別フローチャート図7麦粒腫か霰粒腫か鑑別困難な例マイボーム腺開口部に白色膿汁と瞼結膜の充血がみられる固い腫瘤.(51)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111111が多いということである(図9a).びまん性に浸潤して眼瞼炎のような所見を呈することもある(図9b).初期の小さい脂腺癌は診断がむずかしい(図9c).5年生存率は約90%であるが,霰粒腫の再発や眼瞼炎と誤診され病期が進行すると,まず所属リンパ節へ転移を生じる(図9d).50歳以上の霰粒腫様の病変は脂腺癌を疑うことも大切である.c.治療腫瘍を完全に取り切ることが基本である.放射線感受性は高くないが,高齢者で全身状態が悪い場合などは放射線治療も行われる.有効な化学療法は知られていない.早期発見と早期治療が大切である.d.霰粒腫と脂腺癌の鑑別点脂腺癌は古今東西,霰粒腫と誤診される.マイボーム腺という同じ組織から発生する腫瘤であるから所見が類似するのは確かである.鑑別点は,脂腺癌は,(1)黄色調を呈することが多い,(2)切開時に粘稠な黄色の粥状物が出ずに,黄白色のぼろぼろとした固形物が出る,(3)触診で脂腺癌のほうが固い,などである.霰粒腫として複数回手術を行ったあとの再発例では,腫瘍は白色,ろう様の外観を呈することがある(図10).2.脂腺腺腫脂腺腺腫(sebaceousadenoma)は,脂腺から発生する良性腫瘍である.白色で,桑の実状,毛糸玉状を呈することが多い(図11).確定診断は病理診断である.脂物が主であり,一部にグラム陽性球菌を認めた5).白色であることは必ずしも白血球の塊ではないことに留意すべきである.c.治療通常,瞼縁に近いところにできるため,眼瞼皮膚側から手指で圧迫するとマイボーム腺開口部より摘出される.これでも摘出しにくい場合は,27ゲージ針などを用いて瞼結膜側より摘出する.d.梗塞という病名は適切か病理の教科書によれば,梗塞とは血液の供給の途絶による虚血性壊死のことであり,マイボーム腺梗塞という病名は適当ではないかもしれない.英語で表現するのであれば,meibomianglandinfarctionではなく,結膜結石と同じで,meibomianglandconcretion(凝集物)が適当であると思われる.IIマイボーム腺を場とする腫瘍性疾患1.脂腺癌a.定義脂腺癌〔sebaceous(gland)carcinoma〕とは脂腺から発生する悪性腫瘍である.眼瞼にはマイボーム腺とZeis腺の2つの脂腺があるが,マイボーム腺癌やZeis腺癌というより眼瞼の脂腺癌とよばれることが多い.b.診断確定診断は病理検査であるが,見た目の特徴として重要なことは,脂腺癌は黄色あるいは黄白色を呈することab図8マイボーム腺梗塞の外眼部写真a:眼瞼縁に近い瞼結膜直下に黄色透明な固形物がみられる.b:眼瞼縁に近い瞼結膜直下に白色の固形物がみられる.1112あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(52)acbd図9眼瞼の脂腺癌a:脂腺癌は黄色調を呈することが多い.b:眼瞼炎と誤診されるような脂腺癌の例.表面不整で黄色の病変がびまん性に広がっている.c:脂腺癌の初期であるが,霰粒腫と鑑別がむずかしい.d:耳前や顎下の所属リンパ節へ転移した例.図11脂腺腺腫の外眼部写真白色で桑の実状を呈する.図10霰粒腫として3回手術をうけていた脂腺癌眼瞼縁に近い部分に白色,ろう様の固い腫瘍がみられる.あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111113腺癌より頻度は低く,成長は一般に緩徐である.おわりに麦粒腫と霰粒腫は,失明する疾患ではなく,おおよそ治ってしまう疾患のため眼科のなかでは重要度が低く扱われる傾向にある.しかし,頻度の高い疾患であるものの,真の病因・病態は不明である.一度,話題を提供すると,侃々諤々の議論となるのも麦粒腫と霰粒腫ではないだろうか.一方,脂腺癌は高齢化社会の到来とともに症例が増加する可能性があり,看過しないように意識を高めておく必要がある.なお,近年報告のあるマイボーム腺のintratarsalkeratinouscystについては割愛した.文献1)HarryJ,MissonG:Chalazion(‘meibomiancyst’).In;ClinicalOphthalmicPathology.p46-49,Butterworth-Heinemann,Oxford,20012)小幡博人:霰粒腫の病理と臨床.眼科47:87-90,20053)小幡博人:霰粒腫・麦粒腫.大鹿哲郎(編):外眼部手術と処置.眼科プラクティス19,p30-36,文光堂,20084)上野脩幸:マイボーム腺梗塞.眼科学,p26,文光堂,20025)小幡博人:Meibom腺梗塞と霰粒腫.石橋達朗(編):いますぐ役立つ眼病理.眼科プラクティス8,p41-43,文光堂,2006(53)

局所油成分補充療法‐マイボーム腺機能不全治療の新しい試み

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY現在,MGDworkshopにおいて考えられているMGDの治療法は表1のとおりである.MGDの治療は,実際の診療ではその重症度や病型により適宜選択する.本稿でとりあげる治療法は表1の(2),TopicalLipidはじめに涙液が油層/水層/ムチン層の3層構造からなり,油層が欠乏するタイプの眼乾燥が存在するとすれば,単純なアイデアとして油成分を投与してドライアイを治療することが思いつかれる.涙液油層が欠乏するドライアイは,涙液油層を直接観察評価できるデバイス,DR-1TM(興和)によって診断可能である.本稿で述べる非炎症性閉塞性マイボーム腺機能不全,重症ドライアイ併発マイボーム腺機能不全,また涙液層破壊時間(BUT)短縮型ドライアイなどで涙液油層欠乏が観察される1,2).一方,油成分を単純に投与すれば涙液油層が再建されるであろうか.油成分は涙液水層と“水と油”の関係であり単純に投与しても油滴が涙液上にできるだけであろう.油成分を油滴でなく油層として薄膜構造をとって投与するためには“水と油”を仲立ちする安全な親水性の極性脂質が必要である.本稿ではマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)のなかで涙液油層減少ドライアイを伴うものに対しての局所油成分補充療法を中心に述べる.MGDは定義,用語の統一,病型分類,治療法に関して,今までもさまざまな知見が報告されているが,最近,日本のドライアイ研究会のMGDワーキンググループでMGDの診断基準をまとめようとする活動3),TearFilmandOcularSurfaceSocietyでのMGDworkshopにおける疾患概念,診断,治療をまとめようとする活動などが活発であり,それらの知見も交えて述べる.(43)1103*EikiGoto:後藤眼科医院〔別刷請求先〕後藤英樹:〒248-0012鎌倉市御成町4-40松田ビル3階後藤眼科医院特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1103?1106,2011局所油成分補充療法─マイボーム腺機能不全治療の新しい試み─TopicalLipidSupplementsforTreatingMeibomianGlandDysfunction後藤英樹*表1MGDworkshopのMGD治療法リスト(1)人工涙液点眼:Artificiallubricanttreatment(2)油性点眼,眼軟膏:Topicallipidsupplements(3)眼瞼清拭,温熱療法,圧出:Lidhygienepluswarmingandmanualexpression(4)抗生物質,抗菌薬点眼:Anti-infectivetreatments(5)毛?虫治療:TreatmentofDemodexMites(6)テトラサイクリン系抗生物質内服:Tetracyclineandderivatives(systemic)(7)ステロイド:Steroids(8)カルシニューリンインヒビター(サイクロスポリンなど):Calcineurininhibitors(9)性ホルモン:Sexhormones(10)必須脂肪酸:Essentialfattyacids(11)手術:Surgicaloptions表2MGDの病型分類1a)閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD:non-inflamedobstructiveMGD)1b)閉塞性MGD(diffusemeibomitis)2)脂漏性MGD(meibomianseborrhea)3)前部眼瞼炎(ブドウ球菌性眼瞼炎,脂漏性眼瞼炎,酒?性眼瞼炎,毛?虫性眼瞼炎)に続発するMGD4)ドライアイ(涙液分泌減少,Sjogren症候群,瘢痕性角結膜症)や慢性結膜炎症(アレルギー性結膜炎など)に併発するMGD1104あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(44)b.温罨法および圧出マイボーム腺閉塞の解除(脂質の融解)を期待して温罨法および圧出を行う.この際,島﨑のマイボーム腺圧出グレーディングを参考にする5).温罨法には,罨法器,温タオル,温熱シートなどを用いる6,7).圧出は温罨法の後に点眼麻酔を施行し検者の指,角板,ステンレス棒,吉富式マイボーム腺鑷子などを使用して行う.圧出は,マイボーム腺腔内の脂質を温めても融解しない症例には無効である.この治療で,一時的にでも改善がみられる場合は定期的に施行する.圧出されたマイボーム腺脂質は清拭する.個人的な感触であるが教科書的な温罨法や圧出は涙液油層を再形成するというよりは眼瞼縁の炎症をとる意味合いのほうが強いと思われ,むしろ炎症性のMGDに威力を発揮すると考えている.もちろん,閉塞が軽度の場合は温罨法で閉塞解除され油層が改善する場合もある.c.局所油成分補充療法概念としては成立している治療法であるが市販の処方薬がないため実施がむずかしい治療である.しかし,非炎症性閉塞性MGDではマイボーム腺の非炎症性閉塞と角結膜前涙液油層欠乏が起こっているため,私見では,最も理にかない,最も病態に即している治療法であると考えている.治療の目的は非炎症性閉塞性MGDで欠乏している角結膜前涙液油層1)を正常者に近い状態(均一な厚み100nm近辺)にもっていき涙液蒸発率を低減させ,眼表面の湿潤を得ることにある.方法としては低濃度油性点眼8)と極少量眼軟膏眼瞼縁塗布9)があり,それぞれ述べる.低濃度油性点眼は微量の油成分と十分な量の水成分を含むため,涙液量の少ない患者にも効果がある.すなわち適応は非炎症性閉塞性MGD,および涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGDである(図1).実際に油成分を水性点眼液内で均質化させるには硬化剤の添加および特殊な撹拌装置が必要であり,通常の臨床現場で作製するのはむずかしいと思われる.そこで現在,当科ではヒマシ油を人工涙液に1%で混和し低濃度油性点眼液を作製している.これを使用前によく撹拌するように患者に指示し1日6回使用する.自覚症状,涙液層破壊時間や涙液蒸発率の改善などが報告されている8).Supplementsに該当する.また本稿におけるMGDの病型分類は表2を使用する4).MGD病型分類は,臨床的には1)マイボーム腺炎症の有無,2)マイボーム腺開口部閉塞の程度,3)マイボーム腺原発か続発か(前部眼瞼炎や結膜炎症に続発するか)が重要であり,ドライアイとの関係においては1)涙液量(Schirmer値)異常の有無,2)涙液油層減少の有無が重要である.MGDの治療の実際表3にMGDの病型分類に基づく治療法のまとめを示す.このなかで1a)非炎症性閉塞性MGDおよび4)ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGDに対して局所油成分補充療法が行われる.閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD:non?inflamedobstructiveMGD)閉塞性MGDは非炎症性閉塞性MGDと炎症性の閉塞性MGDであるdiffusemeibomitisに分類される.非炎症性閉塞性MGDは油層減少型ドライアイ(lipidteardeficiencydryeye:LTD)をひき起こし,臨床上問題となる.ドライアイ治療,温罨法および圧出,局所油成分補充療法を行う.a.ドライアイ治療非炎症性閉塞性MGDの主要症状である眼乾燥の原因はLTDであり,人工涙液点眼,ヒアルロン酸点眼,涙点プラグなどのドライアイ治療を行う.ただし,これらのドライアイ治療は水成分を補充する治療であるためLTDに対しての治療としては限界がある.表3MGDの病型分類に基づく治療法のまとめ1a)閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD)ドライアイ治療,温罨法・圧出,局所油成分補充療法1b)閉塞性MGD(diffusemeibomitis)眼瞼清拭・温罨法・圧出,抗生物質,ステロイド2)脂漏性MGD(meibomianseborrhea)1b)と同様3)前部眼瞼炎に続発するMGD眼瞼清拭・温罨法・圧出,抗生物質4)ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGDドライアイなど原疾患の治療,局所油成分補充療法(45)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111105極少量眼軟膏眼瞼縁塗布はこのような低濃度油性点眼液調整の煩雑さを回避するために発案された.適応は非炎症性閉塞性MGDであり,特にMGDを伴うオフィスワーカーのドライアイ患者で著効した.微量とはいえ油成分のみの投与であるため,涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGD患者(角膜前油層がよどんでむしろ厚くなっている)では塗布した油成分が水層上を伸展しないため逆効果になる.涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGD患者では涙点プラグなど,涙液水成分不足の治療をしてから行うべき治療法である.極少量眼軟膏眼瞼縁塗布の方法は,ステンレス棒にタリビッドR眼軟膏を2mmとり,両眼の下眼瞼縁に端から端まで塗布する.これを1日3回行う.油成分を伸展させるために人工涙液またはヒアルロン酸点眼も点眼する.ぼやけは数分でなくなり,保湿効果は約3時間である.この方法は感染症などに対して行う眼軟膏の大量投与(バルク投与)と異なり,ぼやけを最低限しかひき起こさずに油成分を涙液に補充できるためドライアイの治療法として成立する.自覚症状,涙液層破壊時間や涙液油層厚みの改善などが報告されている(図2)9).眼軟膏としては,均一な涙液油層形成のため親水性をもつものが望ましく,現時点ではタリビッドR眼軟膏が眼表面保湿のために最も適していると考えている.一方,含有される抗菌成分がドライアイ治療に不必要であるという問題が明らかであり,抗図1低濃度均質化油性点眼液投与におけるMGD患者油層の改善上:プラセボ投与後の涙液油層干渉像.油成分のよどみがみられ,涙液油層は異常である.下:上記患者の低濃度均質化ヒマシ油点眼投与後の涙液油層干渉像.均一な干渉像が得られ,正常な涙液油層像に近いものとなっている.(文献8より許諾を得て掲載)図2MGDに対する極少量眼軟膏眼瞼縁塗布左:MGDを伴うオフィスワーカーのドライアイ患者の涙液油層干渉像.涙液油層厚みの減少(40nm)がみられる.右:上記患者の極少量眼軟膏眼瞼縁塗布治療後の涙液油層干渉像.涙液油層厚みが110nmに回復している.(文献9より許諾を得て掲載)1106あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(46)文献1)GotoE,TsengSC:Differentiationoflipidteardeficiencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.ArchOphthalmol121:173-180,20032)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.InvestOphthalmolVisSci44:4693-4697,20033)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20104)後藤英樹,島﨑潤:マイボーム腺機能不全とその治療.あたらしい眼科14:1613-1621,19975)ShimazakiJ,SakataM,TsubotaK:Ocularsurfacechangesanddiscomfortinpatientswithmeibomianglanddysfunction.ArchOphthalmol113:1266-1270,19956)GotoE,MondenY,TakanoYetal:Treatmentofnoninflamedobstructivemeibomianglanddysfunctionbyaninfraredwarmcompressiondevice.BrJOphthalmol86:1403-1407,20027)MoriA,ShimazakiJ,ShimmuraSetal:Disposableeyelid-warmingdeviceforthetreatmentofmeibomianglanddysfunction.JpnJOphthalmol47:578-586,20038)GotoE,ShimazakiJ,MondenYetal:Low-concentrationhomogenizedcastoroileyedropsfornoninflamedobstructivemeibomianglanddysfunction.Ophthalmology109:2030-2035,20029)GotoE,DogruM,FukagawaKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforrefractorydryeyeinofficeworkersbylow-doselipidapplicationonthefull-lengtheyelidmargin.AmJOphthalmol142:264-270,200610)OhbaE,DogruM,HosakaEetal:Surgicalpunctalocclusionwithahighheat-energyreleasingcauterydeviceforseveredryeyewithrecurrentpunctalplugextrusion.AmJOphthalmol151:483-487,2011菌成分を含まないフラビタンR眼軟膏への切り替えも試みているが,油層伸展からみてドライアイ治療を考えれば前者にアドバンテージがある.今後,抗菌成分を含まないドライアイ治療に特化した油製剤の開発が強く望まれる.ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGD原疾患であるドライアイ〔涙液分泌減少,Sjogren症候群,瘢痕性角結膜症(慢性Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,トラコーマ後の偽眼類天疱瘡,移植片対宿主病)〕の治療やアレルギーの治療を行う.水分貯留があれば局所油成分補充を考慮する.a.ドライアイ治療上述のドライアイ治療に加えて,重症ドライアイにMGDを併発している際は涙点閉鎖術も考慮する10).b.局所油成分補充療法ドライアイ治療により涙液量が増えた場合は残存するLTDの治療として局所油成分補充が奏効する場合がある.極少量眼軟膏眼瞼縁塗布を行う.おわりにMGDの治療における局所油成分補充療法に関して,MGDの病型分類を行いながらまとめた.涙液油層の評価が現状よりも一般化し,眼乾燥,ドライアイの重大な原因の一つであることがより認識されれば,局所油成分補充療法のさらなる発展がみられると思われる.局所油成分補充のための理想の油成分の探索が今後も必要である.

マイボーム腺への性ホルモンの影響

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYすなわち,ドライアイの女性に共通するホルモンの状態は血清エストロゲンの減少ではなく,実は血清アンドロゲンの減少である.閉経後の女性では卵巣の機能低下によって,妊娠中あるいは経口避妊薬を使用している女性では性ホルモン結合蛋白の産生の増加によって,血中を循環するアンドロゲンが減少しているのである.アンドロゲンは涙腺やマイボーム腺の機能に対して正の作用をつかさどっており,アンドロゲンのサポートがなくなるとオキュラーサーフェスが環境の変化に適応できなくなると考えられている.マイボーム腺は,毛包をもたない大型の皮脂腺である.皮脂腺は全身に存在し,その制御に性ホルモンが深く関与していることが古くから知られてきた.このため,各種性ホルモンによる皮脂腺の制御メカニズムを知ることが,マイボーム腺の制御を知るうえでも重要である.はじめにドライアイは女性に多くみられる.涙液減少型ドライアイのおもな原因であるSjogren症候群では,患者の90%以上が女性である.非Sjogren型のドライアイは,閉経後の女性,妊婦,経口避妊薬を使用している女性に圧倒的に多く認められる.このように,ドライアイは性差が顕著にみられる疾患であり,「女性であること」そのものがリスクファクターとも考えられている.また,男性,女性ともに加齢に伴ってドライアイの罹患率が増加する(図1).閉経後の女性は血清エストロゲンのレベルが低下しているのに対して,妊婦や経口避妊薬を使用している女性ではエストロゲンレベルは上昇している.さらに,ホルモン補充療法がドライアイに与える影響についての疫学調査では,エストロゲンのみのホルモン補充療法を受けている女性では,補充療法を受けていない女性に比べてドライアイのリスクが上昇することが報告されている1).(39)1099*TomoSuzuki:京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町1の2京都市立病院眼科特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1099?1102,2011マイボーム腺への性ホルモンの影響HormonalRegulationofMeibomianGland鈴木智*0510<5050~5455~5960~6465~6970~7475+55~5960~6465~6970~7475+女性男性年齢(歳)年齢(歳)罹患率(%)0510罹患率(%)■:症状■:診断■:症状・診断■:症状■:診断■:症状・診断5.716.026.696.898.219.089.802.832.53.54.816.54図1年齢別のドライアイ罹患率1100あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(40)発現を調節し,脂質の産生をコントロールしていると考えられている4).マイボーム腺にも,ステロイドホルモンの産生と代謝に関連する重要な酵素が発現しており,副腎から分泌された性ステロイドの前駆物質がマイボーム腺内で性ホルモンに合成され,マイボーム腺を制御していると考えられている2).アンドロゲンの一つであるtestosteroneは,雄マウスのマイボーム腺において1,580個以上の遺伝子発現に影響を及ぼし,脂質の代謝や輸送,ステロール生合成,脂肪酸代謝などに関与する遺伝子の発現を増加させる一方,角化に関連する遺伝子の発現を減少させる5).雌マウスにtestosteroneを投与すると,1,000個を超える遺伝子の発現が変化するが,これらの遺伝子のほとんどが雄マウスにおいてtestosteroneによって影響を受ける遺伝子と同じである.しかし,雌マウスのみにtestosteroneによって影響を受ける遺伝子も存在し,性差が認められる5).閉経(卵巣や副腎からのアンドロゲン分泌の低下),自己免疫疾患(Sjogren症候群,全身性エリテマトーデス,関節リウマチなど),アンドロゲン不応症候群(completeandrogeninsensitivitysyndrome:CAIS,アンドロゲンレセプター機能不全)の女性,前立腺肥大や前立腺癌患者に対する抗アンドロゲン療法などでは,meibumの脂質組成が変化し,すべてマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)をきたす.結果として,涙液層が不安定化して涙液の蒸発亢進が生じる.通常の加齢の過程でも,アンドロゲンの減少とともにmeibumの質的変化(たとえば,極性脂質と中性脂質のIアンドロゲンによる制御アンドロゲンは全身の皮脂腺の発達,分化,脂質分泌を制御している.皮脂腺の活性および分泌は,加齢とともに減少する.男性では思春期から80歳ごろまで皮脂の分泌が続くが,女性では50歳以降は減少する傾向にある.この加齢に伴う皮脂腺の機能不全には,腺房細胞の萎縮と血清アンドロゲン濃度の減少の両方が関連している.図2に性ホルモンの生合成経路を示す2).皮脂腺内のアンドロゲンの活性は,特に5a-reductase(testosteroneを活性の強いdihydrotestosteroneに変換する酵素),aromatase(testosteroneを17b-estradiolに,androstenedioneをestroneに変換する酵素)および17b-hydroxysteroiddehydrogenase(HSD:17-ketrosteroidsを17b-hydroxysteroidsに変換する酵素)といった酵素に大きく影響を受けている.ヒトでは,これらの酵素は,副腎で産生されたdehydroepiandrosterone(DHEA)やDHEA-sulfateなどの性ホルモンの前駆物質から,末梢組織である皮脂腺でアンドロゲンやエストロゲンを合成するために不可欠である.これらの酵素の活性は,性別や皮脂腺が存在する組織の部位,皮脂腺内での細胞の位置によっても異なる.さらに,アンドロゲンは皮脂腺における脂質代謝のさまざまな経路も制御している.マイボーム腺の腺細胞では核内にアンドロゲンレセプターが存在しており3),アンドロゲンは少なくともその古典的レセプターを介してマイボーム腺における遺伝子図2性ホルモンの生合成経路DHEA-sulfate①Pregnenolone17OH-Pregnenolone17OH-ProgesteroneDehydroepiandrosterone(DHEA)②③④⑤②ProgesteroneDihydrotestosterone(DHT)EstroneEstradiolEstriol①:P450scc②:3b-HSD③:17a-hydroxylase④:17,20-lyase⑤:17b-HSD⑥:5a-reductase⑦:aromatase②②③④⑤⑥⑤⑦⑦CholestreolAndrostendioneAndrostendiolTestosterone(41)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111101とになる.逆に,アンドロゲンを投与すると,皮脂腺におけるestradiol結合部位が有意に減少する.このように,エストロゲンとアンドロゲンは拮抗する作用を有している.マイボーム腺細胞にはエストロゲンのレセプターが存在する3).卵巣摘出後のマウスにエストロゲンを投与するとマイボーム腺の形態が変化する7).また,17b-estradiolはtestosteroneよりは少ないが,マウスのマイボーム腺において,チロシンキナーゼや免疫因子,ステロイド生合成などに関連する200以上の遺伝子発現を制御している8).エストロゲンは,脂質や脂肪酸の異化に関連する遺伝子の発現を促進する一方で,脂質産生や代謝に関連する遺伝子の発現を抑制する.このことから,エストロゲンを投与するとマイボーム腺における脂質産生が低下し,MGDと蒸発亢進型ドライアイを生じると考えられる.エストロゲン補充療法を受けている患者に圧倒的にドライアイやコンタクトレンズ不耐症が多いこともエストロゲンのマイボーム腺に対する作用の結果と考えられる1).IIIプロゲステロンによる制御皮脂腺に対するプロゲステロンの作用は,いまだ明らかではない.かつては,プロゲステロンを投与することにより皮脂産生が有意に増加したという報告から,プロゲステロンは女性における皮脂腺を制御するホルモンであり,男性におけるアンドロゲンと類似であると信じられていた.しかしながら,プロゲステロンを投与しても皮脂分泌はまったく変化しないという報告もあれば,プロゲステロンは局所でのアンドロゲンの活性や代謝を阻害して皮脂腺の機能を低下させるという報告もある.ヒトでは,プロゲステロンによって高齢の女性の皮脂分泌が増加するという報告がある一方で,若年者にはまったく効果がないという報告がある.プロゲステロンは,雌ラットの皮脂分泌は促進するが,雄ラットの分泌は促進しない.雄ラットでは,去勢した場合のみプロゲステロンは皮脂分泌を促進する.この機序については,正常の雄ラットではプロゲステロンは抗アンドロゲン作用によって皮脂分泌を抑制するのであろうと考えられている.また,5a-reductase(図2の⑥)は,testosteroneと同割合など)および量的な減少,およびマイボーム腺開口部の角化が生じる.要約すると,マイボーム腺はアンドロゲンの標的器官であり,アンドロゲンによって脂質産生が促進され,角化が抑制される.このため,アンドロゲンが不足すると,MGDや蒸発亢進型ドライアイが生じるのである.実際,局所あるいは全身的なアンドロゲンの投与により,ドライアイの症状が軽減されるとの報告がみられる6).IIエストロゲンによる制御エストロゲンは,女性では卵巣がおもな産生の場である.男性では,少量(1日産生量の15?20%)のエストラジオールが精巣から直接分泌されているが,多くは末梢組織(おもに脂肪組織)に存在するaromatase(図2の⑦)によって産生されている.Testosteroneがestradiolに代謝されるか,それともDHT(ジヒドロテストステロン)に代謝されるかを制御している因子についてはいまだほとんど解明されていない.アンドロゲンとは対照的に,エストロゲンは皮脂腺のサイズ,活性,脂質産生を抑制する.実際この作用を利用して,ヒトでは皮脂腺の機能を低下させ,皮脂分泌を抑制する治療に用いられていた.この皮脂腺に対する抑制効果は,エストロゲンとしての作用の強さとは関係がない.すなわち,最も作用の強いエストラジオールでなくとも,ラットやマウスの皮脂腺の大きさを減少させると報告されている.一方で,エストロゲンは腺房細胞の増殖には影響しないと考えられている.これは,ラットにtestosteroneとestradiolを同時に投与すると,腺房細胞の大きさは減少し皮脂分泌は抑制されるが,逆に細胞分裂は増加するという報告によるものである.このため,エストロゲンの皮脂腺に対する抑制作用は,皮脂合成のレベルであると推測されている.エストロゲンは,皮脂腺細胞においてライソソーム酵素の活性を誘導するため,細胞が未成熟な状態で崩壊し,結果として皮脂分泌の減少をもたらす.また,エストロゲンは皮脂腺細胞におけるtestosteroneの取り込みを抑制し,testosteroneがより強力なDHTに変換されるのを抑制するため,アンドロゲンの作用と拮抗するこ1102あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(42)発亢進型ドライアイを改善することもあれば悪化させることもある.MGDの新しい治療を考える場合,性ホルモンによるマイボーム腺の制御はきわめて興味深い.文献1)SchaumbergDA,BuringJE,SullivanDAetal:Hormonereplacementtherapyanddryeyesyndrome.JAMA286:2114-2119,20012)SchirraF,SuzukiT,DickinsonDPetal:IdentificationofsteroidgenicenzymemRNAsinthehumanlacrimalgland,meibomiangland,cornea,andconjunctiva.Cornea25:438-442,20063)WickhamLA,GaoJ,TodalIetal:Identificationofandrogen,estrogen,andprogesteronereceptormRNAsintheeye.ActaOphthalmolScand78:146-153,20004)SchirraF,RichardsSM,LiuMetal:Androgenregulationoflipogenicpathwaysinthemousemeibomiangland.ExpEyeRes83:291-296,20065)SchirraF,SuzukiT,RichardsSMetal:Androgencontrolofgeneexpressioninthemousemeibomiangland.InvestOphthalmolVisSci46:3666-3675,20056)WordaC,NeppJ,HuberJCetal:Treatmentofkeratoconjunctivitissiccawithtopicalandrogen.Maturitas37:209-212,20017)SuzukiT,SullivanBD,LiuMetal:Estrogenandprogesteroneeffectsonthemorphologyofthemousemeibomiangland.AdvExpMedBiol506:483-488,20028)SuzukiT,SchirraF,RichardsSMetal:Estrogenandprogesteronecontrolofgeneexpressioninthemousemeibomiangland.InvestOphthalmolVisSci49:1797-1808,2008様にプロゲステロンにも作用するので,プロゲステロンはtestosteroneからDHTへの変換に競合的に作用するとも考えられる.このような研究から,プロゲステロンに対する皮脂腺の反応は,性別および個体の内分泌環境に依存して変化すると考えられる.マイボーム腺には,プロゲステロンレセプターも発現しており3),プロゲステロンの投与によりマウスマイボーム腺の形態が変化することも報告されている7).ヒトでは,エストロゲン+プロゲステロンを用いたホルモン補充療法では,エストロゲンによるドライアイの症状を有意に減少させるため1),プロゲステロンがマイボーム腺に対して正の作用を有していることを示唆しているのかもしれない.プロゲステロンはマウスのマイボーム腺における遺伝子発現を制御している8).免疫因子や,糖新生やエネルギー変換に関与するほとんどの遺伝子の発現がプロゲステロンによって低下する.特に,リボゾームの生合成,集合,構造に関与するすべての遺伝子の発現が低下する.このようなことから,マウスではプロゲステロンはマイボーム腺に対して総じて負の作用を有していると考えられる.性ホルモンはマイボーム腺の機能に多大な影響を与えており,マイボーム腺の形態,遺伝子発現,脂質の組成,脂質分泌などにおける性差を生み出していると考えられる.このため,性ホルモンの投与によりMGDや蒸

マイボーム腺機能不全診断へのコンフォーカルマイクロスコープの応用

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1094あたらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)生体内の角膜組織を細胞レベルで直接観察するという目的で開発されてきた.タンデムスキャン式やスリットスキャン式のコンフォーカルマイクロスコープにおいても角膜内の観察は十分可能であったものの,その解像度に問題が残っていた.レーザースキャン式コンフォーカルはじめに生体内の角膜の細胞の形態を直接観察するための方法として,1960年代の後半に,共焦点顕微鏡検査(コンフォーカルマイクロスコピー)が報告された1).コンフォーカルマイクロスコピーでは角膜内の組織や細胞の状態を,その瞬間(real-time)に,生きている状態(invivo)で,非侵襲的(non-invasive)に,観察することができるために,その有用性は高く評価されており,これまでに数多くの臨床的な応用が行われてきている2~5).コンフォーカルマイクロスコピーはこれまで多くの改良が行われてきている.歴史的な経緯としては,まず,観察対象を円板上に並んだ多数のピンホール光で走査するタイプのタンデムスキャン式(Tandem[Advanced]ScanningConfocalMicroscopeR)が開発された.つぎに,スリット光で走査するタイプのスリットスキャン式(ConfoScan4R)に改良されていった.最近になり,レーザー光で走査するタイプのレーザースキャン式(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModuleR:以下,HRTII-RCM)が登場し,その有用性がますます注目されてきている.本稿では,生体レーザー共焦点顕微鏡であるHRTII-RCMに絞り,マイボーム腺の観察によって得られる知見より,その病態と診断について述べることとする.Iコンフォーカルマイクロスコピーコンフォーカルマイクロスコープは,前述のとおり,(34)*YukihiroMatsumoto:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕松本幸裕:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1094?1098,2011マイボーム腺機能不全診断へのコンフォーカルマイクロスコープの応用ApplicationofConfocalMicroscopetoDiagnosisofMeibomianGlandDysfunction松本幸裕*図1コンフォーカルマイクロスコープ(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModule)レーザー生体共焦点顕微鏡である,HeidelbergRetinaTomographII(HeidelbergEngineering社製,ドイツ)は,角膜観察用アタッチメントであるRostockCorneaModule(同上)を装着することにより,前眼部を観察することが可能となる.(35)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111095IIマイボーム腺の観察マイボーム腺は,上下の眼瞼結膜下に存在する外分泌腺で,眼瞼縁に対して垂直に30本程度走行している.マイボーム腺の解剖学的構造の観察には,以前よりマイボグラフィーなどが知られていたが,最近では,コンフォーカルマイクロスコピーにても,マイボーム腺を観察できることが知られてきている8~11).実際の検査では,コンフォーカルマイクロスコープの焦点を眼瞼結膜より大体50μm(~100μm)ほど深くしていくと,マイボーム腺がモニター上に描出されてくる.円形,楕円形,不整形のマイボーム腺の腺房構造とその内腔,および結合組織を確認することができる.コンフォーカルマイクロスコープにて観察される多様な腺房構造は,三次元的な房状の構造形態に対して,二次元的な断面を観察することによるものであると考えられる.また,マイボーム腺の観察においては,どうしても結膜を介して観察することとなり,そのために,角膜や結膜の観察で得られる画像と比べて,コントラストがやや不良となり,その腺房細胞を詳細に観察することは困難である.実際に,コンフォーカルマイクロスコープを用いて,マイボーム腺を観察すると,正常のマイボーム腺は,各々の腺房のサイズが小さく,腺房の密度が多く,腺房構造が比較的明瞭に観察される.また,正常のマイボーム腺の結合組織には,炎症細胞や線維化の所見もほとんど認められない(図2).それに対して,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)のマイボーム腺は,腺房が拡張し,腺房の密度が少なく,腺房構造もやや粗雑に描出される(図3).また,MGDのマイボーム腺の結合組織には,炎症細胞が多数認められたり,線維化が生じていたりすることがある(図4,5).マイボーム腺の腺房の解剖学的変化について,MGD患者と健常者において,コンフォーカルマイクロスコピーにて詳細に比較検討したところ,MGD患者では,健常者よりも,マイボーム腺の腺房密度は明らかに減少していた(MGD患者:47.6±26.6腺房/mm2,健常者:101.3±33.8腺房/mm2)一方,マイボーム腺の長径は明らかに拡大していた(MGD患者:98.2±53.3μm,健常者:41.6±11.9μm),という(図2,3).その他,高度マイクロスコープであるHRTII-RCMは,光源としてダイオードレーザーを用いており,従来の可視光を用いたものに比べて,解像度が優れており,コントラストも良好である点が大きな特徴である4,5)(図1).コンフォーカルマイクロスコピーにて,角膜内で観察されるものとしては,角膜上皮細胞,Bowman膜,角膜神経,角膜実質細胞,Descemet膜,角膜内皮細胞など多岐にわたる.その他,炎症細胞,血管,病原体や異物,沈着物など正常では見られないものも観察が可能であり,角膜疾患の病態の解明や補助診断として有用であることが知られている.しかし,最近では,コンフォーカルマイクロスコピーを,結膜(眼球結膜,眼瞼結膜),マイボーム腺,涙腺などの角膜以外の眼組織に応用した報告がなされてきている6~12).結膜上皮細胞,杯細胞,腺房,導管,結合組織,炎症細胞(樹状細胞を含む),?胞,線維化組織,などが観察される.現在では,眼表面(オキュラーサーフェス)全体が,コンフォーカルマイクロスコピーの応用可能範囲内と考えている.コンフォーカルマイクロスコピーは,原理的には,光源から対物レンズを通過した光が角膜の焦点面を照射し,その反射光が同じ対物レンズを通り,ビームスプリッターで分かれた後に,検出部で観察されるというものである.コンフォーカルマイクロスコープにおけるマイボーム腺の検査方法は,基本的には角膜などを検査する方法と大差ない.まず,コンフォーカルマイクロスコープの本体(HRTII)に角膜観察用アタッチメント(RCM)を取り付ける.つぎに,患者の検査するほうの眼に点眼麻酔を施行する.対物レンズの先端に専用のジェルをつけ,専用のTomoCapRの装着を行った後,さらにTomoCapRの先端表面に専用のジェルをつける.患者の顎を器械の顎台にのせた後,患者の(上下)眼瞼を翻転し,対物レンズを眼瞼結膜に接触させる.焦点を結膜表面に当てて,深度をゼロ調整する.そこから,徐々に焦点を深くしていって,マイボーム腺を観察する.モニター上にマイボーム腺が動画として描出される.1096あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(36)図3コンフォーカルマイクロスコピーによる軽度MGD患者のマイボーム腺画像マイボーム腺機能不全(MGD)患者のマイボーム腺は,腺房のサイズは大きく(矢印),腺房の密度は少ない傾向にある.図2コンフォーカルマイクロスコピーによる健常者のマイボーム腺画像健常者のマイボーム腺では,腺房のサイズが小さく(矢印),腺房の密度が多い.図5コンフォーカルマイクロスコピーによる高度MGD患者のマイボーム腺画像(2)高度に進行したマイボーム腺機能不全(MGD)患者のマイボーム腺では,萎縮した腺房(矢印頭)の周囲には多くの炎症細胞(矢印)を認めている.図4コンフォーカルマイクロスコピーによる高度MGD患者のマイボーム腺画像(1)高度に進行したマイボーム腺機能不全(MGD)患者のマイボーム腺は,腺房の萎縮(矢印頭)と腺房周囲の線維化(矢印)を認めている.(37)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111097している.以上の結果は,コンフォーカルマイクロスコピーが,MGD診断において非常に有用な検査方法である,ということを証明したものであると言える.おわりにマイボーム腺の診断とその評価方法として,細隙灯顕微鏡検査(マイボーム腺開口部閉塞所見やその周囲の異常所見,角膜上皮障害の所見,涙液層破壊時間の短縮)のほか,マイボグラフィー,涙液スペキュラー,マイボメトリー,涙液蒸発率検査,コンフォーカルマイクロスコピーなどの検査が有用であり,それらから得られる所見が,わが国のMGD診断基準やその診断に関する参考所見としてあげられている13).そのなかで,マイボーム腺の解剖学的変化を評価する検査は,マイボグラフィーとコンフォーカルマイクロスコピーである.マクロ的な観察手段であるマイボグラフィーは,マイボーム腺全体の解剖学的評価に有用で,ミクロ的な観察手段であるコンフォーカルマイクロスコピーは,マイボーム腺の局所的な解剖学的評価に有用であると考えられる.そのような医療機器を上手く活用することにより,MGDの診断や病態の把握が可能となり,日常診療するうえにおいても大いに役立つものとなると考えられる.文献1)PetranM,HadravskiM,EggerMDetal:Tandem-scanningreflected-lightmicroscope.JOptSocAm58:661-664,19682)MustonenRK,McDonaldMB,SrivannaboonSetal:Normalhumancornealcellpopulationsevaluatedbyinvivoscanningslitconfocalmicroscopy.Cornea17:485-492,19983)KaufmanSC,MuschDC,BelinMWetal:Confocalmicroscopy.AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology111:396-406,20044)EckardA,StaveJ,GuthoffRF:InvivoinvestigationsofthecornealepitheliumwiththeconfocalRostockLaserScanningMicroscope(RLSM).Cornea25:127-131,20065)NiedererRL,PerumalD,SherwinCetal:Age-relateddifferencesinthenormalhumancornea:alaserscanninginvivoconfocalmicroscopystudy.BrJOphthalmol91:1165-1169,20076)EfronN,Al-DossariM,PritchardN:Invivoconfocalmicroscopyofthebulbarconjunctiva.ClinExperimentOphthalmol37:335-344,2009に進行したMGDでは,腺房の萎縮と腺房周囲の線維化を認めていたとしている9)(図4).また,MGD患者においては,マイボーム腺周囲に多くの炎症細胞を認めており(1,216±328細胞/mm2),マイボーム腺に対する抗炎症治療を行うことによって,炎症細胞を有意に減少させる(700±436細胞/mm2)ことが可能であったと報告されている10)(図5).以上の結果より,MGDの病態について,軽度のMGDにおいては,マイボーム腺腺房の拡大が生じていくが,高度のMGDとなるに従って,マイボーム腺の瘢痕萎縮が生じ,腺房が脱落消失していくということを,MGD患者でのマイボーム腺の解剖学的変化の点より推察することができる.また,MGDにおいては,マイボーム腺周囲に少なからず炎症細胞を認めていることより,炎症という因子がMGDの病態悪化に関連している可能性があると考えられる.さらに,MGDの診断におけるコンフォーカルマイクロスコピーの有用性について詳細に検討した報告がある11).それによれば,マイボーム腺腺房長径,マイボーム腺腺房短径,マイボーム腺腺房密度,炎症細胞密度,について,MGD患者を健常者と比較検討したところ,MGDでは,マイボーム腺腺房長径およびマイボーム腺腺房短径は明らかに拡大しており(MGD患者:長径86.3±18.9μm,短径34.8±9.2μm,健常者:長径56.3±10.4μm,短径17.4±4.2μm),炎症細胞密度は増加していた(MGD患者:1,026.1±537.3細胞/mm2,健常者:56.6±32.1細胞/mm2).一方,マイボーム腺腺房密度は明らかに減少していた(MGD患者:67.8±15.1腺房/mm2,健常者:113.7±36.6腺房/mm2).さらに,それら各々について,Receiveroperatingcharacteristic(ROC)curveを用いて,MGD診断におけるカットオフ値を,マイボーム腺腺房長径:65μm,マイボーム腺腺房短径:25μm,マイボーム腺腺房密度:70腺房/mm2,炎症細胞密度:300細胞/mm2と算出し,しかもそれらはいずれにおいても高い感度と特異度が得られたとしている.また,それらのパラメータはいずれも,涙液蒸発率,フルオレセイン生体染色スコア,ローズベンガル生体染色スコア,涙液層破壊時間,マイボーム腺脱落度,マイボーム腺分泌物圧出度,と有意な相関を認めたものの,Schirmer試験値とは相関を認めなかったと1098あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(38)ofthetreatmentresponseinobstructivemeibomianglanddiseasebyinvivolaserconfocalmicroscopy.GraefesArchClinExpOphthalmol247:821-829,200911)OsamaMA,MatsumotoY,DogruMetal:Theefficacy,sensitivity,andspecificityofinvivolaserconfocalmicroscopyinthediagnosisofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology117:665-672,201012)SatoEA,MatsumotoY,DogruMetal:LacrimalglandinSjogren’ssyndrome.Ophthalmology117:1055,201013)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20107)WakamatsuTH,SatoEA,MatsumotoYetal:ConjunctivalinvivoconfocalscanninglasermicroscopyinpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci51:144-150,20108)MessmerEM,TorresSuarezE,MackertMIetal:Invivoconfocalmicroscopyinblepharitis.KlinMonatsblAugenheilkd222:894-900,20059)MatsumotoY,SatoEA,IbrahimOMAetal:Theapplicationofinvivolaserconfocalmiroscopytothediagnosisandevaluationofmeibomianglanddysfunction.MolVis14:1263-1271,200810)MatsumotoY,ShigenoY,SatoEAetal:Theevaluation

非侵襲的マイボグラフィーの有用性‐細隙灯顕微鏡付属型とモバイル型の開発

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0910-1810/11/\100/頁/JCOPYやそのスペースを必要とするものでなく,マイボーム腺関連疾患を診断するうえで最も多くの情報を提供してくれる細隙灯顕微鏡に小型赤外線CCDカメラと赤外線透過フィルターを搭載しただけのものである(ノンコンタクトマイボグラフィー,トプコン社)6).細隙灯顕微鏡の光源を利用して観察するため,従来のような侵襲的な光源プローブは一切必要ない.さらに,倍率も自由に変えることができ,細隙灯顕微鏡の長所をそのまま生かしながら,それに新しい機能を付加させている.これを用いることで,ocularsurfaceの観察の一連の流れのなかに,マイボーム腺の形態観察も自然に組み込むことが可能となった(図1).Iマイボグラフィーって何?マイボグラフィーはマイボーム腺を皮膚側から透過することによりマイボーム腺構造を生体内で形態学的に観察する方法である.30年以上前Tapie1)によって初めての報告があって以来,改良2?5)がなされてきた.しかしどの方法も光源プローブが必要で,その光源プローブが患者眼瞼に直接接触することによる,疼痛や不快感を解消することはできず,その普及を妨げた.しかし一般臨床の場で,私たちが,最も多く遭遇する慢性疾患の一つであるマイボーム腺機能不全(MGD)を診断するうえで,マイボグラフィーによるマイボーム腺の形態変化の観察は,細隙灯顕微鏡による眼瞼所見とともに最も重要な情報の一つである.IIマイボーム腺の観察―キーワードは非侵襲的検査―マイボーム腺を非侵襲的に観察するために,筆者らはまず,細隙灯顕微鏡に付属させたマイボグラフィー6)を,続いて最近,持ち運び可能なモバイルペン型のマイボグラフィーを開発し(投稿中),その特性によって使い分けを行っている(表1).1.細隙灯顕微鏡付属型マイボグラフィー(非接触型マイボグラフィー)非接触型マイボグラフィーは,特殊で大掛かりな装置(27)1087*ReikoArita:伊藤医院〔別刷請求先〕有田玲子:〒337-0042さいたま市見沼区南中野626-11伊藤医院特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1087?1093,2011非侵襲的マイボグラフィーの有用性─細隙灯顕微鏡付属型とモバイル型の開発─ValidityofNon-InvasiveMeibographies─Non-ContactMeibographyAttachedtoSlit-LampandMobilePen-ShapedMeibography─有田玲子*表12種類の非侵襲的マイボグラフィーの特徴とその比較細隙灯顕微鏡組み込み型モバイルペン型非侵襲的細隙灯顕微鏡に固定非侵襲的持ち運び可能座位だけでなく仰臥位での診察も可能スリットランプの光源赤外線透過フィルター赤外線CCDカメラ赤外線LED光源CMOSセンサーカメラ倍率の変更も自由倍率の変更はできないOcularsurface観察の流れのなかでマイボーム腺関連疾患を総合的に診断できる可視光LED,フルオレセインブルーLEDモードも搭載されているが,スリット機能はない1088あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(28)るモバイルペン型マイボグラフィー(マイボペン,JFC社)を開発した(投稿中)(図2).モニターは市販のテレビに直接つなぐだけでもよく,USBを介してパソコンにつなぎ,静止画,動画ともに記録できる.III非侵襲的マイボグラフィーの原理観察用の光が可視光線である場合,散乱が大きくマイボーム腺を観察することはできない.それに対して,可視光線カットフィルター(以下,赤外線透過フィルター)により,可視光線を排除して赤外線を用いて観察を行うと,散乱の問題は生じず,良好にマイボーム腺を観察することができる.可視光は瞼板によって光が反射されるので奥にあるマイボーム腺は見えないが,赤外光は深部到達度が高く,瞼板を透過し,マイボーム腺によって反射される.マイボーム腺で赤外光が反射される理由はわからないが,脂の性状によるものと考えている.1.非接触型マイボグラフィー赤外線透過フィルターは遷移波長が700?850nmの範囲で,光源は細隙灯顕微鏡の光学系をそのまま利用する.赤外線カメラは,700?1,000nmの近赤外線領域に感度を有するCCDカメラを用いる.2.モバイルペン型マイボグラフィー専用赤外光LED光源(ピーク波長980nm)とCMOSカメラを用いる.IV非接触型マイボグラフィーを用いたマイボーム腺の形態変化以下,1.?4.までは2種類のマイボグラフィーを用いて同様の結果が得られることを確認している(投稿中).1.正常眼の年齢別,性別によるマイボーム腺の形態変化正常のマイボーム腺は直線的で上のほうが下より細く長い(図3).マイボーム腺の消失面積によってグレード0からグレード3まで4段階に分類した(マイボスコア,図4).マイボーム腺は男性,女性ともに加齢が進むにつれ,消失面積が大きくなった.有意差は出なかった2.モバイルペン型マイボグラフィー細隙灯顕微鏡に付属させたマイボグラフィーから筆者らは多くの知見を得られた(後述)が,臨床現場にいて,多くの患者に接していると,座位のとれない被検者や,病院まで来られない患者さんのマイボーム腺を観察するといった新しいニーズが生まれた.そこで筆者らは,持ち運び可能で,どこでも容易にマイボーム腺を観察でき図1非接触型マイボグラフィー装置細隙灯顕微鏡のブルーフィルターを挟む部分に,赤外線透過フィルターをはめ込み,小型赤外線CCDカメラを搭載しただけのものである.赤外線CCDカメラ赤外線透過フィルター図2モバイルペン型マイボグラフィー全長15cm,重さ200gと取り扱いやすい.赤外線LED光源とCMOSカメラが内蔵されている.(29)あたらしい眼科Vol.28,No.8,201110892.コンタクトレンズ装用眼のマイボーム腺コンタクトレンズ装用者のマイボーム腺は正常眼に比べ,有意に短縮していることが明らかになった7)(図5).3.通年性アレルギー性結膜炎のマイボーム腺通年性アレルギー性結膜炎患者のマイボーム腺は正常眼に比べ,有意に屈曲していることが明らかになった8)(図6).4.マイボーム腺機能不全(MGD)におけるマイボーム腺の形態変化a.閉塞性MGD(原発性分泌低下型MGD)閉塞性MGD眼においては,マイボーム腺の開口部周囲からはじまる脱落,腺房の萎縮による短縮,屈曲,融合,途絶などの所見がみられた.マイボスコアは性別,年代を適合させた対照群に比べ有意に大きかった.マイボーム腺が完全に脱落している開口部を強く押しても,マイボーム腺の分泌脂は圧出されなかった(図7)9).が,20代,60代,80代において男性のほうが女性よりマイボスコアが大きい傾向にあった6).グレード2グレード0グレード3グレード1図4マイボスコア(文献6より)非接触型マイボグラフィーを用いてマイボーム腺の消失面積をグレード分類した.グレード0:マイボーム腺の脱落面積なし.グレード1:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以下.グレード2:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以上2/3以下.グレード3:マイボーム腺の脱落面積が全体の2/3以上.図3正常眼の非接触型マイボグラフィーによる観察写真の白いほうがマイボーム腺.上下眼瞼においてブドウの房状の腺房からなるマイボーム腺がよく観察できる.1090あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(30)5.抗緑内障点眼薬のマイボーム腺への影響抗緑内障点眼を長期に使用している患者は有意にマイボーム腺が脱落していた.点眼の種類による有意な差は認められなかった.防腐剤の影響などの検討も今後必要である11).6.抗前立腺肥大治療薬のマイボーム腺への影響抗前立腺肥大治療薬(a1遮断薬)を内服している患者は有意にマイボーム腺が脱落していた.ホルモンバランスの異常によるものか,a1遮断薬の影響によるものか,検討が必要である.V非接触型マイボグラフィーによるMGDの評価と診断基準の提案非接触型マイボグラフィーによるマイボーム腺の変化がMGDの診断基準の一つになりうるか,他のいくつかの項目とともに検討した9).自覚症状スコア,眼瞼スコア,角結膜上皮障害(SPK)スコア,涙液層破壊時間(BUT),マイボスコア,SchirmerI法,meibumスコアを比較した.閉塞性MGDを診断するとき,上記7つの検査法の弁別能の高さを評価するためにROC(receiveroperatingcharacteristic)曲線を描き,それぞれの検査のAUC(areaunderthecurve)値を求めた.AUCb.脂漏性MGD(原発性分泌増加型MGD)脂漏性MGD眼においては,マイボーム腺の形態は加齢性変化以上の変化がほとんどみられなかった.マイボスコアは性別,年代を適合させた対照群に比べ有意に小さかった10).図5コンタクトレンズ装用者のマイボーム腺(29歳,女性)非接触型マイボグラフィーによる観察.2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用9年.メニスカスが低く,BUT1秒.下眼瞼のマイボーム腺が著しく短縮している(点線白枠内短縮部分).図6通年性アレルギー性結膜炎のマイボーム腺(28歳,男性)モバイルペン型マイボグラフィーによる観察.上眼瞼のマイボーム腺が顕著に屈曲している.(31)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111091値が大きい順から検査の自覚症状スコア,眼瞼スコア,マイボスコア,BUT,meibum,SPK,Schirmer値であった(図8).さらにAUC値が高い3つの検査(自覚症状,眼瞼異常所見,マイボーム腺脱落所見)の有用性を検討するためベン図(Veendiagram)解析を行うと,この3つの検査のうち,2つ陽性であれば,感度は84.9%,特異度は96.7%であった.以上のことに基づいて,MGDの診断基準として,自覚症状,眼瞼異常所見,マイボーム腺脱落所見の3つのうち,2つ陽性であれば疑い例,3つ陽性であれば確定例とすることを提案した9).マイボスコアは眼瞼異常所見,meibumスコアと有意に相関しており,マイボーム腺の機能をも反映していることが示唆された.一方,脂漏性MGD眼においても同様の解析を行ったところ,マイボーム腺の形態には変化がないことが多く,自覚症状,眼瞼異常所見の2項目とも陽性であれば感度80%,特異度は98.3%であった10).しかし,脂漏性MGD眼の定義そのものや,病態などはまだ不明な点も多く,今後も議論が必要である.図7閉塞性MGD症例(78歳,男性,右眼)強い眼不快感あり.眼瞼縁に血管拡張とpoutingがある(写真左上).角膜下方に上皮障害あり(写真左下).マイボーム腺は上下眼瞼とも脱落,短縮を認める(写真右上下,黒く抜けているところが短縮,脱落部分).上眼瞼マイボスコア3,下マイボスコア2,BUT1秒,Schirmer値は8mm.0.00.00.20.40.60.81.00.20.40.60.81.01-SpecificityAUC(95%CI)0.948(0.912?0.984)0.933(0.891?0.974)0.802(0.722?0.883)0.736(0.640?0.832)0.918(0.866?0.970)0.574(0.467?0.681)0.862(0.793?0.932)自覚症状眼瞼異常所見MeibumSPKマイボスコアSchirmer値BUTSensitivity図8ROC曲線7項目の検査の閉塞性MGD診断時の弁別能の高さを表わす.グラフの右下の数字がAUC値であり,AUC値の大きい順に自覚症状,眼瞼異常所見,マイボスコア,BUT,meibum,SPK,Schirmer値であった.1092あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(32)能で,より幅広い年代,より多くのニーズに応えられる非侵襲的な検査法である(図10).この2種類の非侵襲的マイボグラフィーはその特性によって使い分けることで,乳幼児から病院に来られない患者,高齢者まで,マイボーム腺の脱落や短縮,屈曲,拡張,途絶など生体内でのマイボーム腺の形態観察に有用であり,現在,国際VI2種類の非侵襲的マイボグラフィーの今後非接触型マイボグラフィーは,細隙灯顕微鏡を用いてocularsurface観察の一環としてマイボーム腺を観察でき(図9),最近では定量化ソフトウェアの開発も進行中である.モバイルペン型マイボグラフィーは持ち運び可角結膜,涙液眼瞼縁マイボーム腺開口部図9Ocularsurfaceの観察(MGD)非接触型マイボグラフィーは,細隙灯顕微鏡に付属しているので,眼瞼縁,角結膜上皮,涙液の安定性,マイボーム腺開口部,そして,赤外光フィルターにまわすだけで,マイボーム腺も観察できる.あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111093的に注目を浴びているMGDの診断にも有効であることがわかった.今後,非侵襲的マイボグラフィーがより多くの眼科医に普及することで,“マイボーム腺を見ること”が日常臨床のroutineexaminationとなり,いまだ不明なマイボーム腺関連疾患の病態や発症機序の解明につながることを祈ってやまない.今後開発されるであろう,MGDの治療の評価に役立つことも期待している.文献1)TapieR:BiomicroscopialstudyofMeibomianglands(inFrench).AnnOcul(Paris)210:637-648,19772)RobinJB,JesterJV,NobeJetal:Invivotransilluminationbiomicroscopyandphotographyofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology92:1423-1426,19853)MathersWD,ShieldsWJ,SachdevMSetal:Meibomianglanddysfunctioninchronicblepharitis.Cornea10:277-285,19914)MathersWD,DaleyT,VerdickR:Videoimagingofthemeibomiangland.ArchOphthalmol112:448-449,19945)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewlydevelopedvideo-meibographysystemfeaturinganewlydesignedprobe.JpnJOphthalmol51:53-56,20076)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,20087)AritaR,ItohK,InoueKetal:Contactlensisassociatedwithdecreaseofmeibomianglands.Ophthalmology116:379-384,20098)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Meibomianglandductdistortioninpatientswithperennialallergicconjunctivitis.Cornea29:858-860,20109)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Proposeddiagnosticcriteriaforobstructivemeibomianglanddysfunction.Ophthalmology116:2058-2063,200910)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Proposeddiagnosticcriteriaforseborrheicmeibomianglanddysfunction.Cornea29:980-984,201011)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Comparisonofthelongtermeffectsofvarioustopicalanti-glaucomamedicationsonmeibomianglands.Cornea,inpress(33)図10幼児のマイボーム腺観察モバイル型マイボグラフィーを用いれば,顎台に顔をのせられない幼児のマイボーム腺や往診,手術室などでマイボーム腺の観察が可能になる.赤外光はまぶしくないので,幼児も嫌がらず,非侵襲的なので,泣いたりしない.

フルオレセイン染色によるマイボーム腺機能評価‐Marx’s Line‐

2011年8月31日 水曜日

1080あたらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)ー性疾患である角膜フリクテン(図1b)やマイボーム腺炎角膜上皮症(図1c)と密接に関連している.さらに,マイボーム腺炎の起炎菌であるPropionibacteriumacnesなどが白内障手術中に眼内に侵入することにより,術後眼内炎(図1d)に至るというシリアスな事態も招きうることから,日常臨床においてマイボーム腺の状態を常に監視しておくことは必須であるといえる.マイボーム腺の機能評価法としては,日常的な細隙灯顕微鏡によるマイボーム腺開口部の観察から専門的なマはじめにマイボーム腺を中心とする眼瞼縁の疾患は,眼表面の状態と密接な関係にあり,マイボーム腺の状態を適確に評価することは,眼表面疾患を診療する際に非常に重要である.マイボーム腺脂質は涙液油層形成の役割を担うため,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)は蒸発亢進型ドライアイ(図1a)の主要な原因の一つであり,また,マイボーム腺の感染性疾患であるマイボーム腺炎は,再発性の角膜感染アレルギ(20)*MasahikoYamaguchi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕山口昌彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1080?1086,2011フルオレセイン染色によるマイボーム腺機能評価─Marx’sLine─EvaluatingofMeibomianGlandFunctionviaFluoresceinStaining─Marx’sLine─山口昌彦*abcd図1マイボーム腺異常により起こりうる眼疾患a:MGDによる蒸発亢進型ドライアイ.b:角膜フリクテン.c:マイボーム腺炎角膜上皮症.d:Propionibacteriumacnesによる遅発性眼内炎.(21)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111081IIマイボーム腺脂質の眼瞼縁における役割マイボーム腺脂質には,①涙液水層の表面張力を低下させて眼表面に拡散させる作用,②涙液水層の表面を覆うことによって涙液の蒸発を抑制する作用,③眼瞼縁において涙液メニスカスとの間に疎水性のバリアを築いて涙液が皮膚側へ溢れるのを防止する作用,などがある.このうち,MGDによってマイボーム腺脂質の分泌が悪化して③の機能が低下すると,涙液メニスカスの涙液が皮膚側へ溢れ出しやすくなる可能性がある.ここで,MLに注目してみると,高齢者のMLはMOのlineを越えて皮膚側へ前方移動(図3)していることが多く,MGDによる③の機能低下とMLの前方移動がリンクしている可能性が考えられる.IIIMLscoringsystemこのようにMLは,加齢や疾患によってマイボーム腺開口部との位置関係に相違が生じるため,マイボーム腺開口部とMLとの位置関係を4段階でscoringしてみることにした4)(図4a).Scoringは,下眼瞼を内側(鼻側),中央,外側(耳側)の3カ所に分割して行い,それぞれのsectionalMLscore:0?3とtotalMLscore:0?9(図4b)とした.なお,下眼瞼と上眼瞼のMLscoreは,個々の眼においてよく相関(r2=0.794,p<0.0001)することを確認したので,下眼瞼のMLscoreのみで検イボーム腺脂質分析まで種々の方法が考案され,状況に応じてそれぞれの利点を生かしながら,複数の手法を組み合わせてマイボーム腺の状態を把握する.これらの手法のなかで,筆者らが提唱しているMarx’sline(ML)によるマイボーム腺機能評価法は,フルオレセイン染色を行うだけで簡便にマイボーム腺機能をスクリーニングする方法である.本稿では,MLによるマイボーム腺機能評価法の実際と有用性について解説する.IMarx'sLine(ML)1924年,オランダの眼科医EugenMarxは,眼瞼縁にフルオレセインやローズベンガルで染色されるlineが存在することに着目し,このlineは,若年正常者ではマイボーム腺開口部(meibomianglandorifices:MO)よりも後方(眼球側)において,スムーズで眼瞼縁に平行なlineとして観察され(図2),眼瞼縁の粘膜皮膚移行部(muco-cutaneousjunction:MCJ)に相当する,と推測されていた1).実際,最近の報告でもMLは解剖学的にMCJであることが実証されている2).Nornは,MLは正常若年者では図2のように観察されるが,加齢とともにirregularな走行になり,眼瞼縁炎や結膜炎などの炎症性の眼瞼あるいは眼表面疾患を有する疾患でもirregularな走行になる傾向があることを報告している3).図2若年正常者のMarx'sline(矢頭)マイボーム腺開口部(細矢印)よりも後方(眼球側)において,スムーズで眼瞼縁に平行なlineとして観察される.図3高齢者のMarx'sline(矢頭)マイボーム腺開口部(細矢印)のlineを越えて皮膚側へ前方移動しているのが見て取れる.1082あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(22)scoreに性差はみられなかったが,男女とも61歳以上の群では外側のscoreがきわめて高く(図5),40歳以下では男女とも各部位で差はなかったが,41?60歳では男性が中央と外側,女性が中央と外側および内側と外討をすすめることにした.IVMLの加齢性変化MLscoringsystemを用いて,MLの加齢性変化について検討してみた.TotalMLscoreは,性別に関係なく加齢とともに有意に上昇(男性:t-MLs=2.887+0.109×age,r2=0.548,女性:t-MLs=3.142+0.112×age,r2=0.588)することがわかった.SectionalMLscoreは,内側(鼻側)と外側(耳側)において,男女とも加齢に伴い有意な上昇がみられ,中央においても性差に関係なく弱い相関関係をもって上昇がみられた.結論として,MLは加齢に伴い前方移動(皮膚側へ移動)し,中央よりも内側や外側においてその変化は大きいと考えられた.VMLの部位別変化MLは内側,外側では中央よりも加齢性変化を受けやすい傾向があるため,さらに年代別にそれぞれの部位のMLscoreを比較してみた.各年齢群とも各部位のabGGGG図4Marx'sline(ML)scoringsystema:Grade0:MLがマイボーム腺開口部(MO)のラインよりも眼球側に存在し,どの部位においてもMOに接触しない.Grade1:MLの一部がMOに接触する.Grade2:MLがほぼすべてのMOに一致して走行する.Grade3:MLがすべてのMOを越えて皮膚側に形成される.b:眼瞼の部位によってMLとMOの位置関係が異なる場合があるため,眼瞼を内側,中央,外側の3つのパートに分け,MLscoringsystemに準じてそれぞれの部位をscoringした.この場合,sectionalscoreは内側2点,中央1点,外側3点となり,この眼の下眼瞼のtotalscoreは6点になる.男性女性男性女性男性女性外側内側中央スコア32.521.510.50Group3(61yo≦)Group2(41~60yo)Group1(≦40yo)図5各年齢群の内側?中央?外側のMLscore各年齢群とも,内側,中央,外側各部位のスコアに性差はなかったが,男女ともに61歳以上の群では外側のscoreが特に高かった.(23)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111083る,4:まったく出ない,とした.MLscoreとmeibomianglandexpressionscoreはよく相関(Spearmanrankcorrelationanalysis,r=0.599,p<0.0001)した.3.MGDとnon?MGDにおけるMLscoreの比較年齢をマッチさせたMGD群とnon-MGD群において,内側,中央,外側3カ所のtotalMLscoreを比較したところ,MGD群:5.93±1.55,non-MGD群:2.77±1.59(p<0.001)と明らかにMGD群においてMLscoreは高かった.なお,MGDの診断基準は,MOのpluggingがびまん性に存在し,そのplug部分のexpressionscoreが2以上のものとした.4.MLscoringsystemの有用性を示す症例40歳,男性のnon-MGDの症例では,MLは全体にわたってgrade0を示すのに対し,60歳,男性のMGDの症例では,MLは全体にわたってgrade2を示している(図7).また,17歳,女性の眼瞼結膜炎にマイボーム腺炎を合併している症例では,治療前の上下MLはgrade3を示すが,抗菌薬およびステロイド点眼と眼瞼縁の清拭を行い治療したのちには,マイボーム腺炎は軽快しMLscoreはgrade1に改善している(図8).この例は,MLがマイボーム腺機能と関連して可逆的に変化する可能性があることを示している.側で,61歳以上では女性の中央と内側以外の組み合わせにおいて差がみられた(表1).この現象については,のちに詳しく考察する.VIMLscoreによるマイボーム腺機能評価MLscoringsystemをマイボーム腺機能評価に応用するため,従来のマイボーム腺機能評価法との相関性を検討した.1.Meibographyとの相関性下眼瞼の内側,中央,外側においてmeibographyを施行し,各部位のMLscoreと比較した.Meibographyscoreは既報5)に従い,0:腺構造の喪失なし,1:腺構造の喪失は半分以下,2:腺構造の喪失は半分以上,とした.MLscoreとmeibographyscoreはよく相関(Spearmanrankcorrelationanalysis,r=0.643,p<0.0001)した.2.Meibomianglandexpressionとの相関性下眼瞼の中央を指で圧迫し,選択された1つのMOのmeibomianglandexpressionを下記のようにscoringし,その選択されたMOのMLscore(図6)と比較した.Meibomianglandexpressionscoreは,0:透明で速やかに出る,1:やや黄色味を帯びているが速やかに出る,2:黄白色でやや粘性が高い,3:練歯磨き様に出Grade0Grade1Grade2Grade3TheselectedorificeMarx’sline図6選択された1つのマイボーム腺開口部(MO)とそのMLscore図4のMLscoreに準じて,選択されたMOとMLとの位置関係により,Grade0から3に分類した.表1年代別の下眼瞼部位別におけるMarx'slinescoreの相違GroupGroup1(≦40years)Group2(41?60years)Group3(≦61years)MenInnervsmiddleNSNS<0.005InnervsouterNSNS<0.0001MiddlevsouterNS<0.05<0.0001WomenInnervsmiddleNSNSNSInnervsouterNS<0.05<0.0001MiddlevsouterNS<0.0001<0.0001Inner=Marxlinescorefortheinnerlowereyelidregion.Middle=Marxlinescoreforthemiddlelowereyelidregion.Outer=Marxlinescorefortheouterlowereyelidregion.NS=nosignificantdifference.ScheffeFtest.(文献4より)1084あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(24)Grade0Grade2acbd図7MGDとnon?MGDのMLscoreの比較a:40歳,男性のMGDを有さない症例では,b:MLscoreは0を示す.c:60歳,男性のMGDの症例では,d:MLscoreは2を示している.Grade3治療前治療後Grade0~1acbd図8マイボーム腺炎治療前後のMLscoreの比較a:17歳,女性の眼瞼結膜炎にマイボーム腺炎を合併している症例.b:治療前の上下MLは3を示すが,c:治療後,マイボーム腺炎は軽快し,d:MLscoreは0?1に改善している.(25)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111085報告されている8).広谷らは,加齢に伴うMCJ(=ML)の前方移動と結膜弛緩症の重症度とに有意な相関があり,さらに内側,中央,外側それぞれのMCJの部位別変化も結膜弛緩症の重症度と相関している,としている.これらの理由として,結膜弛緩症の重症化が涙液の皮膚側へのシフトを招き,眼瞼縁における疎水性バリアが崩壊し,conjunctivalizationの進行によってMCJが前方移動するという現象に至るのではないかと推察している.筆者らは,MGDによる眼瞼縁の疎水性バリアの崩壊がMLの前方移動をひき起こすという立場でMLのマイボーム腺機能との関連性を主張してきたが,MGDと同様,結膜弛緩症も眼瞼縁に生じる加齢性変化の一つであるため,両者のメカニズムが働いている可能性は十分にあると考えられる.一方,Bronらは,MCJすなわちMLと接する涙液メニスカスの涙液蒸発亢進が,涙液メニスカスの涙液浸透圧上昇を招き,そのうえ,蒸発亢進の結果生じる涙液メニスカス中の炎症性産物の濃縮も加わることによって,MCJの上皮障害が生じやすくなり,種々の生体染色材料にて一定の幅をもって染色されるようになるのではないか,との説を唱えている9).また,涙液メニスカスと接するMCJで生じるこれらの変化が,マイボーム腺開口部やマイボーム腺導管上皮の障害をひき起こし,MGD発症の一因になっている可能性があるとしている10).ML観察の際,MOがspot状にフルオレセイン以上,MLscoreがmeibographyscoreおよびmeibomianglandexpressionscoreと相関していること,さらにMGDとnon-MGDではMLscoreに差があることから,MLscoreをマイボーム腺機能評価に利用できる可能性が示された.VII考察MLは加齢に伴い前方(皮膚側)へ移動することを示したが,マイボーム腺機能も加齢に伴い機能低下することが報告されている6).また,外側(耳側)においてMLは有意に前方移動するが,これは外側のマイボーム腺組織が中央や鼻側と比較すると短く(図9),余剰能力が低いために機能低下を起こしやすくなり,MLも有意に前方移動するのではないかと考えられる.さらに,Korbらもカスタムメイドの装置を用いて下眼瞼の内側,中央,外側においてmeibomianexpressionの量を比較し,外側ではexpressibilityが有意に低下していることを報告している7).これらの事実を総合的に解釈すると,マイボーム腺機能の低下とMLの前方移動との相関性は,より確実なものになるのではないかと思われる.MLの前方移動に関しては,結膜弛緩症との関連性が上眼瞼下眼瞼図9赤外線マイボグラフィでの観察上下眼瞼ともに中央ではマイボーム腺組織はよく発達して長いが,内外側へいくに従い短くなっている.図10Spot状に染色されているMO(矢印)このようなMOの圧出物は量・質ともに低下していることが多い.1086あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011で染色(図10)されることがあり,そのMOのmeibomianexpressibilityは低下していることを経験するが,BronらのいうMOにおける上皮障害の表現型の一つといえるかもしれない.Bronらの概念は,MLが染色線として観察される事実の裏付けとして非常に興味深く,これらの現象がMGDの発症と関連しているとすれば,MLの不整な走行や前方移動とMGDの進行とを結びつける有力な証拠になるのではないかと思われる.おわりにMLによるマイボーム腺機能評価法の有用性について述べた.MLは,われわれが日常診療でルーチンに行うフルオレセイン染色によって簡便に観察が可能であり,いかなる診療施設においてもマイボーム腺機能を簡単にスクリーニングすることができる.もちろん,MLを観察するだけでマイボーム腺機能を詳細に把握することは不可能であり,種々のマイボーム腺機能評価法を組み合わせることによって,より適確な評価に近づいていけるのはいうまでもない.しかしこのような過程において,MLの観察は,さまざまな眼疾患との関連を有するMGDの存在を最初に想起するための検査になりうると思われる.文献1)MarxE:UbervitaleFarbungdesAugesundderAugenlider.I.UberAnatomie,PhysiologieundPathologiedesAugenlidrandesundderTranenpunkte.AlbrechtvGraefe’sArchfOphthal114:465-482,19242)KnopE,KnopN,ZhivovAetal:Thelidwiperandmuco-cutaneousjunctionanatomyofthehumaneyelidmargins:aninvivoconfocalandhistologicalstudy.JAnat218:449-461,20113)NornMS:MeibomianorificesandMarx’sline.Studiedbytriplevitalstaining.ActaOphthalmol63:698-700,19854)YamaguchiM,KutsunaM,UnoTetal:Marxline:fluoresceinstaininglineontheinnerlidasindicatorofmeibomianglandfunction.AmJOphthalmol141:669-675,20065)ShimazakiJ,SakataM,TsubotaK:Ocularsurfacechangesanddiscomfortinpatientswithmeibomianglanddysfunction.ArchOphthalmol113:1266-1270,19956)MathersWD,LaneJA,ZimmermanMB:Tearfilmchangesassociatedwithnormalaging.Cornea15:229-234,19967)広谷有美,横井則彦,小室青ほか:下眼瞼皮膚粘膜接合部及び結膜弛緩症の程度の加齢性変化と両者の関連.日眼会誌107:363-368,20038)KorbDR,BlackieCA:Meibomianglanddiagnosticexpressibility:correlationwithdryeyesymptomsandglandlocation.Cornea27:1142-1147,20089)BronAJ,YokoiN,Ga?neyEAetal:Asolutegradientinthetearmeniscus.I.ahypothesistoexplainMarx’sline.OculSurf9:70-91,201110)BronAJ,YokoiN,Ga?neyEAetal:Asolutegradientinthetearmeniscus.II.Implicationsforlidmargindisease,includingmeibomianglanddysfunction.OculSurf9:92-97,2011(26)

マイボーム腺の臨床的機能評価

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYることが明らかにされた1)ため,今では,ティアフィルムは,油層と液層の2層として捉えたほうが正確といえる(図1).すなわち,ティアフィルムは,油層と杯細胞由来の分泌型ムチンが混入したゲル構造の液層とからなる.瞬目における開瞼の後に,ティアフィルムは,メニスカスの『涙液』と,blackline(涙液メニスカスに沿って帯状に分布する涙液が非常に菲薄化した部位.メニスカスの毛管圧が作用して涙液の液層が菲薄化しており2),フルオレセインで染色すると菲薄化しているために蛍光が減弱して暗く見える)(図2)によって仕切られ,コンパートメント化される3).その結果,ティアフィルムには,ゲルとしての振る舞いが許され,開瞼後,いったん安定し(perchedtearfilm3)と形容される),その後は,蒸発により菲薄化しながら,破綻へと至る.マイボーム腺は,皮脂腺の一種で腺房と導管とからなり,上,下の瞼板内にそれぞれ30?40本および20?30本の腺組織が眼瞼縁に対して垂直に分布している.健常眼においては,マイボーム腺の開口部のほとんどが,睫毛後方の皮膚側に存在するが,数%は眼瞼縁に近い眼瞼結膜に存在するとされる4).涙液油層は,waxesters,cholesterolesters,triacylglycerolsをおもな脂質とする非極性の脂質層(nonpolarlipids:meibumに由来)とその直下に分布し,phosphatidylcholine(PC),phosphatidylethanolamine(PE),sphingomyeline(SM)といったリン脂質を主成分とし,極性をもつ脂質(polarlipids,両親媒性脂質)はじめに涙液は,眼表面で,涙液メニスカス,瞼裂間の眼表面,結膜?に分布しているが,瞼裂間の涙液層は,ティアフィルムとして,角膜表面をあたかも1枚のフィルムのように覆いながら,角膜上の涙液の安定性維持に寄与している.ティアフィルムは,マイボーム腺から分泌された油脂の層とその直下に広がる両親媒性脂質層,および分泌型ムチンが混入した液層によって構築され,マイボーム腺の機能の異常は,涙液油層に量的あるいは質的異常をもたらし,角膜上のティアフィルムの安定性を損なわせる.その結果,ドライアイがひき起こされ,眼不快感,視機能異常の要因となる.マイボーム腺の機能といえば,油脂(meibum)の分泌であるが,マイボーム腺の産物であるmeibumが涙液の安定性に寄与して初めて,マイボーム腺はその役割を果たしたとも考えられるため,本稿では,臨床的な視点からマイボーム腺の役割を包括的に捉えて,最新の知見を含めて解説してみたい.Iティアフィルムの最新モデル古典的な角膜上のティアフィルム(pre-cornealtearfilm)のモデルによれば,ティアフィルムは,油層,水層,ムチン層の3層からなるとされ,各層の由来は,それぞれ,マイボーム腺,涙腺,結膜杯細胞と考えられてきた.しかし,角膜上皮を被覆していると考えられていた糖衣は,上皮由来の膜型ムチン(眼表面ムチン)であ(13)1073*NorihikoYokoi:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学**GeorgievAsGeorgi:ソフィア大学生物学部生化学〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1073?1079,2011マイボーム腺の臨床的機能評価EvaluationofMeibomianGlandFunctionfromtheClinicalAspect横井則彦*GeorgievAsGeorgi**1074あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(14)どが考えられている(図1).しかし,涙液油層のリン脂質の由来や成分がいずれにせよ,それを含むpolarlipidsは,non-polarlipidsの挙動に大きな影響を及ぼしながら,間接的にその機能(ティアフィルムの形成やその水分蒸発抑制)を維持している.IIMeibumの運命マイボーム腺の腺房から分泌された油脂は,マイボーム腺の導管を通って開口部に至り,導管の弾性,あるいは,眼輪筋の一部であるRiolan筋の作用によって,マイボーム腺の開口部からmeibumとして分泌される(図3).分泌された油脂は眼瞼縁(の皮膚側)に溜まるため,眼瞼縁は油脂の貯留部位(reservoir)として働く.そして,この油脂は,瞬目の際の開瞼時に上方に伸展し,涙液油層が形成される.一方,油脂の排出経路としては,閉瞼時に皮膚側に押し出される経路と,開瞼時にメニスカスの涙液の流れに乗って涙点から排出される経路とが考えられている.IIIMeibumの特性と涙液油層の伸展動態涙液油層観察装置(DR-1TM,興和)で,涙液油層を観察すると,瞬目のたびに涙液油層がくり返し上方へ伸展する様子を油層における光の干渉像から観察することができる.伸展後に静止した干渉像のパターンは,観察を続けていると急激に変化することがあるものの,1回ご層からなるとされ,最近まで,リン脂質はすべてmeibumに含まれると考えられていたが,近年これらがmeibumの一部ではない可能性が指摘され,波紋が投げかけられている5).そして,新しい涙液油層モデル5)によれば,non-polarlipidsを支える両親媒性脂質として,diacylglycerols,O-acyl-w-hydroxyfattyacidファミリーな図1角膜上のティアフィルムの旧モデルと最新モデル(文献5より引用・改変)の比較新モデルでは,ティアフィルムは,油層とゲルを形成する液層とから構築される.液層に分布する分泌型ムチンは,明確な境界をもつことなく表層に向かって希薄になりながら分布する.Non-polarlipids(meibum)を支える両親媒性脂質として,diacylglycerols,O-acyl-w-hydroxyfattyacidfamilyなどが考えられている.図2涙の分布の3コンパートメントモデル開瞼後,涙は,blacklineを境として,上・下のメニスカスの涙液(1,3)と瞼裂間のティアフィルム(2)の3つのコンパートメントに分かれて分布し,上・下のメニスカスとティアフィルムには異なる涙液動態が許される.(15)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111075とを示唆しており,実際,涙液油層の伸展挙動は,レオロジーモデルの一つであるVoigtモデルで表現しうる9).King-Smithらは,液層の挙動を含めた新しい油層伸展モデルを提唱している10).それによれば,開瞼時には,上方のメニスカスの毛管圧によって下方の涙液メニとの瞬目においては,その前の像のパターンと非常によく似ている.この瞬目に伴う,再現性に優れた涙液油層動態は,ヒダつきカーテンを閉じたり広げたりする様子に似ているため“pleateddrapeeffect”と形容される6,7).すなわち,閉瞼時,涙液油層はヒダつきカーテンを閉じたときのように上・下の眼瞼縁の間で圧縮され,開瞼後は,あたかもヒダつきカーテンを広げるかのごとくに上方に向けて伸展する(図4).また,このような再現性の高い涙液油層の収縮・伸展挙動は,あたかもマイボーム腺の油脂がバネのような挙動を示すことを想定させる.そして,このことは,界面化学における実験機器であるLangmuirBlodggettrough(LBtrough)を用いて,生理食塩水の上に浮かべたmeibumの両側に置いた隔壁を押し縮めたり(meibumの側からはcompression),広げたり(meibumの側からはexpansion)することによって得られる,表面積-表面圧曲線が,圧縮と伸展で圧差のほとんどない(nohysteresis)ループを描き8),かつ,圧縮時に表面圧が急峻に増加することから説明できる(図5).一方,この涙液油層の粘弾性挙動は,その挙動を扱いうる学問分野であるレオロジーで解析できるこ図3マイボーム腺の油脂のターンオーバー腺房から分泌されたマイボーム腺の油脂は,導管内に蓄積されながら,導管内を通って,開口部に至り,導管内圧の上昇,あるいは,瞬目時に,開口部から眼瞼縁に排出されるとともに,眼表面の涙液油層として利用される.油脂の排出経路には,閉瞼時に皮膚側に押し出される経路と,開瞼時に涙液の(水の)流れに乗って涙点から排出される経路が考えられている.閉瞼時開瞼時上方伸展角膜下眼瞼上眼瞼角膜下眼瞼上眼瞼図4閉瞼,開瞼に伴う涙液油層の挙動閉瞼時,涙液油層はヒダつきカーテンを閉じるかのように上・下の眼瞼縁の間で圧縮される.一方,開瞼時には,あたかもヒダつきカーテンを広げるかのごとくに上方に向けて伸展する.01020304050020406080100表面積(%)CompressionExpansion表面圧(mN/m)LBtrough生理食塩水表面圧測定LBtroughCompressionBarrier生理食塩水Expansion図5LangmuirBlodggettrough(LBtrough,上段)を用いて解析しうるmeibumの粘弾性特性(下段)Meibumを生理食塩水の上に浮かべ,その両側から隔壁(barrier)を押し縮めたり(meibumのcompression),広げたり(meibumのexpansion)しながら,その表面積-表面圧の関係を調べるとmeibumの物理特性がわかる.それによれば,meibumは,圧縮時にその表面圧が急峻に上昇し,圧縮・伸展において圧差のほとんどないループ(nohysteresisloop)を描くことがわかる(非常に再現性の良い粘弾性挙動).(文献9より引用・改変)1076あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(16)IVマイボーム腺の臨床的機能評価マイボーム腺はmeibumを分泌する働きをもち,meibumは,眼瞼縁に貯留されながら,瞬目により,涙液油層として活用される.臨床的には,マイボーム腺の分泌機能の低下は,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)4)をひき起こし,ドライアイや眼瞼縁炎と密接な関係をもつ.最近,わが国ではMGDが定義されるとともに,その分類(分泌減少型および分泌増加型)が決められ,分泌減少型MGDの診断基準が作成された11).その結果,診断基準に準拠して分泌減少型MGDを診断できるようになった.しかしながら,分泌増加型MGDの診断については,いまだ,議論の多いところである.ここに,マイボーム腺の臨床的機能評価といえば,invivoにおいて,マイボーム腺が正常のmeibumを分泌しうるかどうかを評価することであり,Schirmerテストで涙腺機能を評価する場合のように,何らかの負荷テストが必要となる.Meibumは,導管内圧や瞬目時の圧が契機となって分泌されるため,眼瞼を圧迫することが負荷テストとなりうると考えられる(図7).そのため,指による上眼瞼の圧迫で,圧出されるmeibumの量や性状を評価する方法が一般に行われ,量(たとえば,正常に対して何倍といったような分類)と粘稠度(透明性と粘稠性の程度で分類)の観点から評価されることが多スカスに貯留した涙液(の水)が上方に引き上げられるが,その際,角膜表面の粘性抵抗によって,角膜表面への涙液の(水の)塗りつけが起こる.そして,同時に下方の眼瞼縁に貯留した油脂も上方に引き上げられようとする.そのため,涙液油層には,下方で厚く上方で薄いという厚みの勾配が生じる(油層の表面圧は下方で高く,上方で低い)(図6上).ここから表面圧勾配に基づく油層の上方伸展(表面圧勾配に基づく分子移動:Gibbs-Marangoni効果)が始まるが,油層は,直下の水層に対して強い粘性抵抗を及ぼすため,油層の前方で,涙液の液層に深い窪み(dimple)が生じる.しかし,油層の上方伸展に伴って,dimpleは次第に消失してゆき,角膜上にティアフィルムが形成される(図6下).この油層の上方伸展,ひいては,角膜上のティアフィルムの形成は,健常眼では2秒以内に終了するという10).以上のように,涙液油層の上方伸展は,角膜上のティアフィルムの形成に働き,伸展を終えた油層は液層の水分の蒸発を防いで,ティアフィルムの安定性維持に寄与する.角膜油層の上方伸展角膜上眼瞼液層両親媒性脂質Non-polarlipids(meibum)開瞼中開瞼後液層両親媒性脂質Non-polarlipids(meibum)Dimple下方上方上眼瞼上方の涙液メニスカス図6開瞼に伴うティアフィルムの形成と油層の役割開瞼時には,上方のメニスカスの毛管圧によって下方の涙液メニスカスに貯留した水分が上方に引き上げられる.その際,まず,角膜上に涙液の水の塗りつけが起こる.つぎに,Gibbs-Marangoni効果によってmeibumの上方伸展が始まるが,その際,液層に深い窪み(dimple)を生じる.しかし,油層の上方伸展に伴ってdimpleは消失し,ティアフィルムが角膜上に形成される.図7上眼瞼の圧迫により圧出される異常なmeibum透明度の低い粘稠なmeibumが大量に圧出されている.(17)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111077た(表1)が,以下には,筆者が取り組んでいる評価法についておもに紹介する.1.マイボメトリー法(図8)Meibumの眼瞼縁における貯留量の半定量的評価法として,唯一マイボメトリー法がある13?16).本法は下眼瞼縁の中央1/3に貯留したmeibumを加工した油分測定用の市販テープ(Courage&Khazaka社製)にて採取し,その量(casuallipidlevel)を,テープの油脂採取部を透過する光量の測定値から評価する方法であり,オックスフォード大学のグループにより開発された14).その後,筆者らは,本法をMGDの評価に応用し15),共同開発したレーザーマイボメータによる測定法へと発展させた16).現在の測定ステップは,以下の通りである.1)油分測定用の8mm幅の半透明テープ(Courage&Khazaka社製)を,その最先端からの長さが20mmになるようにループ状に加工して,マイボーム腺の油脂サンプリング用専用テープを作製する.2)専用テープを超音波Aモード用のプローブ(NIDEK社製)のヘッドに装着し,被験者には上方視させて,眼瞼縁に圧力を加えることなく(本プローブは圧が加わると後ろに下がる仕組みになっている),下眼瞼中央の眼瞼縁に貯留した油脂を採取する(テープの接地時間3秒).3)専用テープをプローブからはずし,3分間テープを静置し水分を蒸発させた後,テープのループを展開してレーザーマイボメータでテープの油脂採取部の透過光く,多くの分類が存在する12).一方,眼瞼縁に貯留したmeibumの量を評価する方法もマイボーム腺機能を反映する評価法ということができ,この目的のためにマイボメトリーが考案されている13?16).圧出されてくるmeibumの評価と眼瞼縁に貯留するmeibumの評価との関係は,Schirmerテストと涙液メニスカス(の高さや曲率半径)の評価の関係に相当するといえるだろう.一方,眼瞼縁に貯留したmeibumは,マイボーム腺の産物であり,ティアフィルムにおける涙液油層として活用されて,その働きを発揮するため,この意味においては,涙液油層の評価法もまた,間接的なマイボーム腺の機能評価法として捉えることができる.そして,ドライアイを含む眼表面疾患に対するマイボーム腺の検査としては,マイボーム腺そのものの検査よりもむしろ,涙液油層に対する検査のほうが,現場の情報という意味において,より重要といえるかもしれない.以上の観点から,マイボーム腺・涙液油層の機能評価法をまとめてみ表1マイボーム腺・涙液油層の機能評価法●マイボーム腺の油脂分泌機能の評価圧出油脂の評価─導管内の蓄積油脂の量および性状の定性的評価Meibometry─眼瞼縁における貯留油脂量の半定量的評価LBtrough,BAM─Meibumのinvitroでの機能・性状のinvitro評価●涙液油層の評価Interferometry(DR-1TMなど)─油層の伸展動態,油層厚の定性・定量評価Evaporimetry─油層の蒸発抑制機能の定量的評価図8共同開発したレーザーマイボメータ(左),下眼瞼縁に貯留した油脂のサンプリング中の光景(右上),および油分測定用のテープにサンプリングされた正常のmeibumの1例(右下)1078あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(18)展について,定量的に解析できるようになった.本法は,閉瞼とその後の開瞼維持(すなわち,たった1回の瞬目)で,油層伸展初速度(涙液貯留量と相関,すなわち,涙液の量の情報)とNIBUT20)〔non-invasivebreakuptime,すなわち,涙液の安定性を意味する(涙液の質の情報)〕の情報を得ることができるため,有用な涙液評価法となる可能性がある.ただし,MGDや涙液減少の重症例では,涙液油層そのものが見られないため,それが見られない場合は,MGDそのものの他の評価や涙液量の評価を行う必要がある.3.Meibumの新しいinvitro解析法先に述べたように,LBtroughを用いたmeibumの解析8,21)は,meibumそのものの物性のみならず,その分泌組織であるマイボーム腺そのものの機能評価につながる可能性がある.LBtroughは非常に制御された研究機器であり,界面科学における基本となる実験システムとして,非常に広い活用性をもっている.Meibumについては,その伸展挙動や薬剤によるその障害を評価でき,かつ,Brewsteranglemicroscope〔BAM,レーザー光(P偏光)を用いて界面を観察する装置.水は暗く,を測定する.4)採取油脂量(casuallipidlevel,arbitraryunit)は下記の式に従って求める.Casuallipidlevel=(C?B)/AA:テープのない状態での測定値B:油脂採取前のテープの測定値C:油脂採取後の油脂採取部でのテープの測定値2.涙液油層の観察と動態解析DR-1TMでは,涙液油層における光の干渉像(図9)17,18)を動的に得ることができるため,涙液油層の厚み情報のみならず,物性についての情報をinvivoで得ることができる.しかし,涙液油層の動態は,角膜表面の水濡れ性や涙液液層の水分量の影響などを受けるため,その解釈は,総合的になされなければならない.すなわち,たとえば,重症涙液減少においてはMGDを伴っていなくとも,油層のキャリアである液層を欠くため,角膜上に涙液の油層像が見られないことがある18).また,油層の上方伸展は,涙液貯留量が少ないと悪くなる9).現在,この涙液油層の動態解析は,画像相関法19)とレオロジーのVoigtモデル9)を用いて,開瞼後の上方伸図9DR?1TMによる涙液油層像(上左右)とBrewsteranglemicroscopeによるmeibumの観察像(下左右)の比較DR-1TMによる健常な涙液油層像(左上)および塩化ベンザルコニウムによる障害が疑われる涙液油層像(右上)のそれぞれが,LBtroughに浮かべた正常なmeibumの観察像(左下)および異常なmeibumの観察像(右下,塩化ベンザルコニウムを直下の水層に入れた場合の障害像)に非常によく似ていることがわかる.(文献8参照)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111079油は明るく見える〕を併用すれば,DR-1TMのごとくに油層の表面像を観察することができる.つまり,invitroでのBAMと表面積-表面圧特性の解析は,invivoでのDR-1TMによる涙液油層の観察と油層伸展のレオロジー解析に相当する(図9).そして両者の情報が揃うことにより,meibumひいては,マイボーム腺の機能がより深くわかることになるであろう.界面科学の方法を用いたmeibumの研究は,マイボーム線機能の研究を大きく発展させる可能性があると筆者は考えている.おわりにMeibumの組成や涙液油層についての新しい考え方や,invivo,invitroのmeibumおよび涙液油層の機能評価について述べた.Meibumは,一旦眼瞼縁に貯留した後,開瞼とともに,ティアフィルムを形成するプロセスで重要な役割を果たし,液層の水分の蒸発抑制を介してティアフィルムの安定性維持に大きく貢献している.Meibumの機能解析,ひいては,マイボーム腺の機能評価には,生理学,脂質化学,界面化学,生物物理学などさまざまな分野が関与しうる.現在のマイボーム腺の臨床的機能評価法としては,圧出油脂の量および性状の評価ぐらいしかなく,まだまだ発展途上であるが,一旦生み出されたmeibumは,涙液油層を形成しながら,その重要な役割を果たしてゆく.そして,涙液油層の機能評価については,多くの方法や切り口が存在し,わが国の研究者のこの領域への貢献は大きい.今後は,界面化学のinvitroの評価法が加わることで,meibumの物性や薬剤あるいは病態とのかかわりが,さらに明らかにされ,ドライアイやマイボーム腺機能不全のより良い治療の開発へと発展してゆくに違いない.今後のさらなるこの領域の進歩が楽しみである.文献1)GipsonIK:Distributionofmucinsattheocularsurface.ExpEyeRes78:379-388,20042)McDonaldJE,BrubakerS:Meniscus-inducedthinningoftearfilms.AmJOphthalmol72:139-146,19713)MillerKL,PolseKA,RadkeCJ:Black-lineformationandthe“perched”humantearfilm.CurrEyeRes25:155-162,20024)DriverPJ,LempMA:Meibomianglanddysfunction.SurvOphthalmol40:343-367,19965)ButovichIA:TheMeibomianpuzzle:combiningpiecestogether.ProgRetinEyeRes28:483-498,20096)McDonaldJE:Surfacephenomenaofthetearfilm.AmJOphthalmol67:56-64,19697)BronAJ,TiffanyJM,GouveiaSMetal:Functionalaspectsofthetearfilmlipidlayer.ExpEyeRes78:347-360,20048)GeorgievGA,YokoiN,KoevKetal:Surfacechemistrystudyoftheinteractionsofbenzalkoniumchloridewithfilmsofmeibum,cornealcelllipids,andwholetears.InvestOphthalmolVisSci52:4645-4654,20119)YokoiN,YamadaH,MizukusaYetal:Rheologyoftearfilmlipidlayerspreadinnormalandaqueousteardeficientdryeyes.InvestOphthalmolVisSci49:5319-5324,200810)King-SmithPE,FinkBA,HillRMetal:Thethicknessofthet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わが国MGDワーキンググループの考え方

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYーム腺機能が瀰漫性に障害されている.そして,MGDは眼不快感,乾燥感などの自覚症状を伴う.2.MGDの分類MGDの分類を表3に示す.MGDは大きく分泌減少型と分泌増加型に分けられる.臨床における頻度は分泌Iわが国MGDワーキンググループの考え方(担当:天野史郎)はじめにマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)という言葉はマイボーム腺機能に異常をきたした状態を呼称する際に臨床で使用されている.実際に眼不快感などの症状を主訴に眼科を訪れる患者はかなりの割合でMGDがその原因となっており,多くの患者でqualityoflifeの低下をひき起こしていると考えられる.しかし,これまでにMGDの定義や診断基準といったものが定めらてこなかったために,MGDの頻度,診断,治療などについて論じる共通の土台がなかった.こうした背景をもとにMGDの定義や診断基準を作成しようという動きが国内に生まれ,2008年からドライアイ研究会のもとにMGDワーキンググループが作られた(表1).MGDワーキンググループはこれまでに数回にわたる全体会議を行い,以下に示すMGDの定義,分類,診断基準を作成した.1.MGDの定義MGDの定義を表2に示す.MGDは原発性のものと,アトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,眼感染症などに続発する場合がある.マイボーム腺に発生する疾患としては,霰粒腫,内麦粒腫などがある.これらが局所的な疾患であるのに対して,MGDはマイボ(7)1067*ShiroAmano:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学**JunShimazaki:東京歯科大学市川総合病院眼科〔別刷請求先〕天野史郎:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1067?1072,2011わが国MGDワーキンググループの考え方ConceptofJapaneseMGDWorkingGroup天野史郎*島﨑潤**表1マイボーム腺機能不全ワーキンググループメンバー一覧天野史郎・有田玲子(東京大学眼科),木下茂・横井則彦・外園千恵・小室青・鈴木智(京都府立医科大学眼科),島﨑潤,田聖花(東京歯科大学眼科),前田直之・高静花(大阪大学眼科),堀裕一(東邦大学眼科),西田幸二・久保田久世(東北大学眼科),後藤英樹(鶴見大学眼科),山口昌彦(愛媛大学眼科),小幡博人(自治医科大学眼科),山田昌和(東京医療センター眼科),村戸ドール・小川葉子・松本幸裕・坪田一男(慶應義塾大学眼科)表2マイボーム腺機能不全の定義さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.表3マイボーム腺機能不全の分類1.分泌減少型①原発性(閉塞性,萎縮性,先天性)②続発性(アトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマ,などに続発する)2.分泌増加型①原発性②続発性(眼感染症,脂漏性皮膚炎,などに続発する)1068あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(8)場合,マイボーム腺開口部周囲異常所見陽性とする.マイボーム腺開口部閉塞所見の判定においては,まず細隙灯顕微鏡でマイボーム腺開口部閉塞所見があることを確認し,さらに拇指による眼瞼の中等度圧迫でマイボーム腺から油脂の圧出が低下していることを確認する.この2つの所見が両者ともあるときにマイボーム線開口部閉塞所見が陽性であると判定する.眼瞼を圧迫して出てくるマイボーム腺脂の量や性状に関しては,半定量的な判定法が提案されてきた4~6).たとえば島﨑分類では,上眼瞼を拇指で圧迫して出るmeibumを,grade0:透明なmeibumが容易に出る,grade1:軽い圧迫で混濁したmeibumが出る,grade2:中等度以上の強さの圧迫で混濁したmeibumが出る,grade3:強い圧迫でもmeibumが出ない,の4段階に評価し,grade2以上を異常と考える.拇指による眼瞼の中等度圧迫でマイボーム腺から油脂の圧出が低下していること,という今回提案している判定を正しく行うためには,普段から正常者やMGD疑い患者などでの,圧迫時のマイボーム腺脂の分泌のされ方を観察し,マイボーム腺脂の分泌の程度を判定する目を養う必要がある.また,正常者や分泌減少型MGDでの眼瞼圧迫時のマイボーム腺脂の分泌のされ方を提示するビデオを,ドライアイ研究会のホームページ内に掲載したので,参考のた減少型のほうが分泌増加型よりもはるかに高い.分泌減少型MGDは閉塞性,萎縮性,先天性などの原発性のものと,アトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマなどに続発する続発性のものがある.分泌減少型MGDでは,原発性のなかの閉塞性のものが最も頻度が高い.原発性のなかの閉塞性ではマイボーム腺導管内に過剰角化物が蓄積し,マイボーム腺脂の分泌が低下し,マイボーム腺の腺房の萎縮が徐々に進行する1).原発性のなかの萎縮性というのは導管の閉塞から続発するのではなく,腺房が原発性に萎縮するものを指す.続発性ではさまざまな原因によってマイボーム腺開口部の閉塞が起き,マイボーム腺脂の分泌が減少する.分泌増加型MGDも同様に,原発性のものと,眼感染症や脂漏性皮膚炎などに続発する続発性のものに分けられる.分泌増加型MGDではマイボーム腺からの油脂分泌が過剰になっているが,これを分泌減少型MGDの前段階と捉える考え方と,分泌減少型MGDとは別の疾患と捉える考え方があり,病態の理解に幅がある2).また臨床の場においては,分泌減少型MGDのほうが,分泌増加型MGDよりも圧倒的に症例数が多い.こうした理由から,今回の提案のなかでは,分泌減少型MGDの診断基準のみを提案する.今後,分泌増加型MGDの病態の理解に関するコンセンサスがある程度固まってきた段階で,分泌増加型MGDの診断基準を提案することを予定している.3.分泌減少型MGDの診断基準分泌減少型MGDの診断基準を表4に示す.一般の眼科外来で施行可能な検査項目のみを診断基準に組み込んだ.分泌減少型MGDの診断に必要な項目は大きく分けて3つあり,1.自覚症状,2.マイボーム腺開口部周囲異常所見,3.マイボーム腺開口部閉塞所見である.これら3項目すべてを満たす場合に,分泌減少型MGDと診断する.分泌減少型MGDの自覚症状としては,眼不快感,異物感,乾燥感,圧迫感などが多い.分泌減少型MGDのマイボーム腺開口部周囲異常所見は血管拡張,粘膜皮膚移行部の前方3)または後方移動4),眼瞼縁不整があり,これら3つの所見のうち少なくとも1つがある表4分泌減少型マイボーム腺機能不全の診断基準以下の3項目(自覚症状,マイボーム腺開口部周囲異常所見,マイボーム腺開口部閉塞所見)が陽性のものを分泌減少性MGDと診断する.1.自覚症状眼不快感,異物感,乾燥感,圧迫感などの自覚症状がある.2.マイボーム腺開口部周囲異常所見①血管拡張②粘膜皮膚移行部の前方または後方移動③眼瞼縁不整①?③のうち1項目以上あるものを陽性とする.3.マイボーム腺開口部閉塞所見①マイボーム腺開口部閉塞所見(plugging,pouting,ridgeなど)②拇指による眼瞼の中等度圧迫でマイボーム腺から油脂の圧出が低下している.①,②の両方を満たすものを陽性とする.(9)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111069えて,この項で述べた各種検査のMGD診断における有効性を検討したこれまでの研究に関して,本ワークショップの参加者が各項目を担当して調査を行った.その結果は,本稿に含めるには量が大部なため,ドライアイ研究会のホームページに掲載した.5.MGDと他疾患概念との関係MGDには,涙液油層減少から生じる蒸発亢進型ドライアイとしての側面19)と,マイボーム腺開口部周囲の炎症や導管内脂質過剰蓄積などの側面がある.ただし,涙液量や病期や重症度によってドライアイあるいは炎症を伴わない場合もある.MGDと後部眼瞼縁炎とはお互いの重なり合う部分が大きい.一方ドライアイは,蒸発亢進型と涙液分泌減少型がありMGDは主として蒸発亢進型の原因となるのでドライアイのうちの半分も重ならないであろう.一方,マイボーム腺炎(meibomitis)という呼称もある.この呼称の指す内容は研究者によって違っており,たとえば海外の一部の研究者はほぼmeibomitis=MGDと考えているのに対して,国内の研究者の一部は,マイボーム腺炎を,マイボーム腺での細菌増殖を基盤としフリクテンやマイボーム腺炎角膜上皮症に結びつく概念と捉えている20~22).IIMGDの定義・分類・診断基準:わが国と世界の考えの相違点と今後の課題(担当:島﨑潤)マイボーム腺機能不全(MGD)は,眼表面異常の悪化要因として非常にポピュラーなものであり,その重要性については長年にわたってくり返し強調されている.しかしながらMGDの疾患概念は,眼科医一人ひとりでかなり異なっており,これが研究を進めるうえでの大きな障害となってきた.たとえば,MGDを含むドライアイの疫学調査に関して,アジアではMGDの有病率が高いという報告が多く,これがドライアイの割合がアジアで多いことと関連しているとするものもある.たとえば台湾で行われたLinらの調査では,なんと65歳以上の半数以上がMGDとされているが,その判断基準は,瞼縁の血管拡張とわずか(grade1以上)の分泌物の混濁を有するものとなっている23).これらの所見は加齢に伴っても頻度が増すことが知られており,診断の根拠としてめにご覧いただきたい.4.分泌減少型MGDの診断に関する他の参考所見分泌減少型MGDの診断に必要な項目として,自覚症状,マイボーム腺開口部周囲異常所見,マイボーム腺開口部閉塞所見の3項目をあげたが,これ以外にも分泌減少型MGDの診断の参考となる検査所見があり,それらを表5に示した.マイボグラフィーは,翻転した瞼の裏から光を透過させたり,赤外線カメラや赤外線フィルターを用いて眼瞼を観察したりして,マイボーム腺の形態を観察する装置である7~11).分泌減少型MGDではマイボーム腺の脱落や短縮が観察され,分泌減少型MGDの診断に有用な検査である.涙液スペキュラーは涙液油層の分布や伸展動態を評価できる12,13).マイボメトリーは眼瞼縁にある貯留した脂の量を定量的に評価できる14).涙液蒸発率測定は眼を密閉されたゴーグルで覆い,涙液の蒸発量を測定する検査で,分泌減少型MGDでは涙液油層の減少から涙液蒸発量の増加がみられる15~17).コンフォーカルマイクロスコープによる観察では,分泌減少型MGDでマイボーム腺房の拡大,密度減少がみられる18).以上の5項目の検査は,分泌減少型MGDの診断に有用な検査であるが,通常の眼科外来にはおかれていない特殊な検査機器が必要であるため,今回の診断基準には含めなかった.今後これらの検査機器のうち一般の眼科外来に広まるものが現れれば,診断基準に組み込まれていく可能性がある.分泌減少型MGDは涙液油層の減少から蒸発亢進型ドライアイになる.その結果として現れる角膜中央より下方の上皮障害や涙液層破壊時間の短縮といった蒸発亢進型ドライアイとしての所見も分泌減少型MGDの診断の参考となる.診断基準に含まれる自覚症状,細隙灯顕微鏡検査に加表5分泌低下型MGDの診断に関する他の参考所見1.マイボグラフィーでマイボーム腺が脱落,短縮.2.涙液スペキュラー油層所見が欠損.3.マイボメトリーで貯留油脂量が減少.4.涙液蒸発率測定で蒸発量亢進.5.コンフォーカルマイクロスコープで腺房拡大,腺房密度減少.6.角膜中央より下方の上皮障害.7.涙液層破壊時間が減少.1070あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(10)の分科会に日本のメンバーが加わった.しかしながら,多くのメンバーが双方で活躍したにもかかわらず,わが国の報告とTFOSのそれとはいくつかの違いがあり,そこにはわが国と欧米のMGDに関する概念やアプローチの違いが反映されており興味深い.ここではその違いについて,私見も交えて触れてみたい.1.MGDの定義であるが,TFOSのワークショップでは,表6のように定められた24).これを日本のものと比べてみると,以下の違いがある.1)日本の定義は,マイボーム腺の機能に異常がある適しているかどうかは疑問の残るところである.さらにMGDの概念の違いは,日本国内においても施設によってかなり違うことは,今回のワーキンググループのミーティングでもしばしば取り上げられ,天野の報告にも示されているところである.その意味で今回,MGDの定義,分類,分泌減少型MGDの診断基準が決定されたことの意義は非常に大きい.MGDに関して,もう一つ最近の大きなトピックスは,国際的なMGDに関するレポートが発表されたことである.TearFilmandOcularSurfaceSociety(TFOS)は,欧米や日本の研究者が中心となって活動している学会であり,2007年にはドライアイの定義や診断に関する詳細なレポートを発表するなどの活動をしてきた.今回TFOSは,MGDWorkshopを立ち上げて,MGDのあらゆる論点を網羅した報告をInvestigativeOphthalmologyandVisualScience誌のSpecialissueとして今年の3月に発表した.詳しくは前項の村戸の報告を参照してほしいが,このワークショップには,ほとんどすべて表6TFOSにて決められたMGDの定義“Meibomianglanddysfunction(MGD)isachronic,diffuseabnormalityofthemeibomianglands,commonlycharacterizedbyterminalductobstructionand/orqualitative/quantitativechangesintheglandularsecretion.Itmayresultinalterationofthetearfilm,symptomsofeyeirritation,clinicallyapparentinflammation,andocularsurfacedisease.”図1TFOSによるマイボーム腺機能不全の分類(NicholsKKetal:InvestOphthalmolVisSci52:1922-1929,2011より許可を得て転載)MeibomianGlandDiseaseObstructiveMeibomianGlandDsfanction(MGD)CongenitalCicatricialNon-CicatricialLowDeliveryHyposecretory(MeibomianSicca)Secondary・Trachoma・OcularPemphigoid・ErythemaMultiforme・AtopySecondary・SeborrheicDermatitis・AcneRosacea・Atopy・PsoriasisSecondary・SeborrheicDermatitis・AcneRosaceaSecondary(e.g.,Medications)PrimaryPrimaryPrimaryPrimaryAlterationofTearFilmEyeIrritationClinicallyApparentInflammationOcularSurfaceDiseaseIncludingDryEyeHypersecretory(MeibomianSeborrhea)HighDeliveryNeoplasticAcuteOther(11)あたらしい眼科Vol.28,No.8,201110713.一般にTFOSのアプローチは,「皆で集まってディスカッションすることに意義がある」という考えに基づいており,日本の「まずは同意を形成して議論を先に進めよう」という考えとかなり異なっている.これは国民性の違いによるのかもしれない.今後の課題ドライアイを例にとるまでもなく,具体的な診断基準があるということは,共通の基盤に立った研究やディスカッションを行ううえで必須である.その意味では,日本の診断基準のほうが一歩先を行っていると言える.しかしながら,わが国の基準にもいくつかの問題点がある.1.診断が定量化できないものが多く,どこからを陽性所見と取るかがあいまいである.たとえば「血管拡張」や「眼瞼縁不整」などを有するかどうかの判断は,観察者に預けられた形となっている.2.診断基準の多くは,スリットランプなどを用いた瞼縁・マイボーム腺開口部の解剖学的所見を用いている.これがMGDの定義で定めた「マイボーム腺の機能的異常」を検出する手段として適しているのかが不明である.3.わが国の基準に限らないが,述べられているマイボーム腺の異常が病的なものであるのか,加齢に伴う現象であるのかの区別ができるか不明である.言うまでもなく,今回発表したわが国のMGDの定義・分類・診断基準は,あくまで「現段階の」という条件付きであり,むしろ今後の研究や議論のたたき台としての側面が強い.多くの研究者が参加することで内容が改善され,さらには世界にその成果を発信して,全体のレベルの向上に寄与することにもつながると期待される.文献1)小幡博人,堀内啓,宮田和典ほか:剖検例72例におけるマイボーム腺の病理組織学的検討.日眼会誌98:765-771,19942)FoulksGN,BronAJ:Meibomianglanddysfunction:Aclinicalschemefordescription,diagnosis,classification,ものをMGDとしたのに対し,TFOSは,腺腔の閉塞や分泌物の量的・質的異常など,より病理学的,生化学的な病態を含む形をとっている.2)日本の定義では,慢性の眼不快感の原因としてMGDを捉えているが,TFOSでは自覚症状のほか,涙液の変化,炎症,眼表面疾患などに異常をきたしうるとして,眼表面全体への影響を重視している.2.分類に関しては,TFOSのもののほうがずっと細かい(図1).ただし日本のものもTFOSのものも,まずMGDを大きく「分泌減少型(lowdelivery)」と「分泌増加型(highdelivery)」に分けており,大筋では差はない.日本のほうが大ざっぱで,細かく分けることにあまりエネルギーを使っていない印象を受ける.3.最も大きな違いがみられるのは,診断(診断基準を含む)である.TFOSのレポートは,現在行われている検査法をすべて列挙し,その範囲はスリットランプによる瞼縁の解剖学的変化から,meibum圧出,マイボグラフィーなどの画像診断,涙液蒸発率などの機能診断に至るまで多岐にわたっている25).しかしながら,実際の診断基準を示すところまでは踏み込んでおらず,一般眼科医が行うべき診断の手順(ドライアイ全般)を示しているにすぎない.これに対してわが国の基準は具体的である.このように,日本とTFOSの報告にはいくつかの違いがあるが,これはMGDに対する両者のアプローチの相違に起因するところが大きいように思われる.まとめていえば,以下の3点に集約されると考えてもいいかもしれない.1.TFOSのほうが,エビデンスや病態に沿ったものにしようとしている.これは,MedicalDoctorだけでなく,Ph.D.もグループに多く参加していることも関係しているのかもしれない.2.TFOSのほうが,ドライアイ,特に蒸発亢進型ドライアイの原因としてのMGDを重視している.対してわが国のほうは,MGDはうっ滞や炎症など,涙液を介する以外にも眼表面の状態に関与していると考える傾向がある.また,涙液への影響にしても,蒸発亢進のみかどうかわからない,という考えもあるように思われる.1072あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(12)bomianglandfunctionindryeyebymeibometry.ArchOphthalmol117:723-729,199915)MathersWD:Ocularevaporationinmeibomianglanddysfunctionanddryeye.Ophthalmology100:347-351,199316)TsubotaK,YamadaM:Tearevaporationfromtheocularsurface.InvestOphthalmolVisSci33:2942-2950,199217)GotoE,EndoK,SuzukiAetal:Tearevaporationdynamicsinnormalsubjectsandsubjectswithobstructivemeibomianglanddysfunction.InvestOphthalmolVisSci44:533-539,200318)MatsumotoY,SatoEA,IbrahimOMetal:Theapplicationofinvivolaserconfocalmicroscopytothediagnosisandevaluationofmeibomianglanddysfunction.MolVis14:1263-1271,200819)BronAJ,TiffanyJM:Thecontributionofmeibomiandiseasetodryeye.OculSurf2:149-164,200420)横井則彦:眼瞼縁,マイボーム腺における細菌の増殖と眼疾患─細菌学から─.日本の眼科74:565-568,200321)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:マイボーム腺炎に関連した角膜上皮障害(マイボーム腺炎角膜上皮症)の検討.あたらしい眼科17:423-427,200022)鈴木智,横井則彦,佐野洋一郎ほか:角膜フリクテンの起因菌に関する検討.あたらしい眼科15:1151-1153,199823)LinPY,TsaiSY,ChengCYetal:PrevalenceofdryeyeamonganelderlyChinesepopulationinTaiwan:theShihpaiEyeStudy.Ophthalmology110:1096-1101,200324)NelsonJD,ShimazakiJ,Benitez-del-CastilloJMetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:reportofthedefinitionandclassificationsubcommittee.InvestOphthalmolVisSci52:1930-1937,201125)TomlinsonA,BronAJ,KorbDRetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:reportofthediagnosissubcommittee.InvestOphthalmolVisSci52:2006-2049,2011andgrading.OculSurf1:107-126,20033)YamaguchiM,KutsunaM,UnoTetal:Marxline:fluoresceinstaininglineontheinnerlidasindicatorofmeibomianglandfunction.AmJOphthalmol141:669-675,20064)BronAJ,BenjaminL,SnibsonGR:Meibomianglanddisease.Classificationandgradingoflidchanges.Eye5:395-411,19915)MathersWD,ShieldsWJ,SachdevMSetal:Meibomianglanddysfunctioninchronicblepharitis.Cornea10:277-285,19916)ShimazakiJ,GotoE,OnoMetal:MeibomianglanddysfunctioninpatientswithSjogrensyndrome.Ophthalmology105:1485-1488,19987)TapieR:BiomicroscopialstudyofMeibomianglands[inFrench].AnnOcul(Paris)210:637-648,19778)RobinJB,JesterJV,NobeJetal:Invivotransilluminationbiomicroscopyandphotographyofmeibomianglanddysfunction:aclinicalstudy.Ophthalmology92:1423-1426,19859)MathersWD,DaleyT,VerdickR:Videoimagingofthemeibomiangland[letter].ArchOphthalmol112:448-449,199410)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewlydevelopedvideo-meibographysystemfeaturinganewlydesignedprobe.JpnJOphthalmol51:53-56,200711)AritaR,ItohK,InoueKetal:Non-contactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,200812)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.InvestOphthalmolVisSci44:4693-4697,200313)YokoiN,KomuroA:Non-invasivemethodsofassessingthetearfilm.ExpEyeRes78:399-407,200414)YokoiN,MossaF,TiffanyJMetal:Assessmentofmei

世界におけるマイボーム腺機能不全の考え方:Tear Film Ocular Surface Studyの概略

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYDysfunction”という報告書としてInvestigativeOphthalmologyandVisualScience誌に記載された.その報告書より定義,分類,MGDの疫学,診断,治療についていくつかの重要な点を以下に述べる.IIMGDの定義わが国のMGDの新定義では腺組織の慢性的な障害と不快感や乾燥感といった自覚症状の有無が重視されているようで,定義は以下のようになっている.“MGDとはさまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う”2)一方,国際ワークショップの新定義は以下のとおりである.“Meibomianglanddysfunction(MGD)isachronic,diffuseabnormalityofthemeibomianglands,commonlycharacterizedbyterminalductobstructionand/orqualitative/quantitativechangesintheglandularsecretion.Itmayresultinalterationofthetearfilm,symptomsofeyeirritation,clinicallyapparentinflammation,andocularsurfacedisease.”3)マイボーム腺機能不全について腺組織の慢性でかつ広範囲の異常が存在し,腺分泌物の量的・質的異常も指摘され,これらに伴って自覚症状が生じることが強調されている.I国際マイボーム腺機能不全ワークショップの背景マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)は日常診療でよく経験される疾患であるにもかかわらずその定義,分類および診断基準はいまだに決まっていなかった.この背景のもとにMGDの定義や診断基準を作成しようという動きが国内・海外に生まれ,2008年11月よりTearFilmOcularSurfaceSociety(TFOS)のもとにMGDワークショップstudygroup(世話人代表:KellyNichols)が構成された.国際MGDワークショップの目的は以下のとおりである1).・正常人およびMGD症例のマイボーム腺の構造および機能を根拠に基づいた形で評価する.・MGDの新定義ならびに分類を作成する.・MGDの診断におけるさまざまな方法を評価する.・MGDの適切な治療法を推奨する.・MGDにおける適切な臨床治験のやり方について指摘する.・MGDにおいて今後必要とされる研究課題を指摘する.MGDワークショップstudygroupの理事会員ならびにstudygroupの先生方は2010年秋までに数回にわたる国際会議を行い,2011年の3月にその結果が“TheReportoftheTFOSWorkshoponMeibomianGland(3)1063*DooruMurato:慶應義塾大学医学部眼表面眼光学講座〔別刷請求先〕村戸ドール:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼表面眼光学講座特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1063?1066,2011世界におけるマイボーム腺機能不全の考え方:TearFilmOcularSurfaceStudyの概略CurrentInternationalConceptsinMeibomianGlandDysfunction:SummaryofTearFilmOcularSurfaceSocietyMGDWorkshop村戸ドール*1064あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(4)のstudyを比較することが困難である.MGD発症頻度が報告されている世界のさまざまなドライアイ疫学調査の結果をみるとMGDの発症頻度が3.5~69.3%であり,その頻度がアジア人種に多いとされている(表1)5).世界的に応用できるMGD診断基準のもとで施行される疫学調査が各国で行われるのであれば人種による違いの比較も可能となりうる.MGDの発症とさまざまな眼疾患および全身疾患が発症のリスクファクターであることがMGDワークショップstudygroupの報告書で指摘されている(表2,3)5).そのなかで加齢とMGDの相関が強いと報告されてきているが,いまだに同じpopulationを対象とし長期にわたるMGDの発症過程を経時的に検討する調査がみられない.また,眼瞼中のマイボーム腺はどの程度消失すれば自覚症状や眼表面上皮障害が生じるかについても不明な点が多く,さらなる検討が必要であると思われる5).IIIMGDの分類MGDワークショップstudygroupの報告書のMGDの分類ではMGDは大きく圧縮物低下型と増加型の2つのグループに分かれる.圧縮物低下型はまた分泌減少性のものと閉塞性のものとしてさらに2つのグループに分かれており,分泌減少性のものは一次性のものと二次性のものがあるとされている.閉塞性MGDは瘢痕に伴う疾患と伴わない疾患の2つのグループにさらに分かれており,それぞれまた一次性のものと二次性のものがあるとされている.分泌増加型のMGDの代表的な疾患として脂漏性皮膚炎とacnerosaceaがあげられている(図1)4).IVMGDの疫学マイボーム腺機能不全についての大規模の疫学調査は少なく,ドライアイにおける疫学調査のなかで異なるパラメータでMGDの発症率が評価されてきており,各々図1マイボーム腺機能不全の分類マイボーム腺機能不全圧縮物低下型圧縮物増加型分泌減少性閉塞性分泌増加型一次性二次性瘢痕性非瘢痕性例:薬剤性一次性二次性一次性二次性一次性二次性例:トラコーマ眼類天疱瘡アトピー性皮膚炎脂漏性皮膚炎ロザシェア尋常性乾癬脂漏性皮膚炎ロザシェア涙液の質的変化眼不快感臨床症状に伴う眼表面炎症ドライアイを伴う眼表面障害表1MGD発症頻度が報告されているドライアイ疫学調査のサマリー調査名対象者数(名)MGDの指標頻度年齢(歳)著者バンコクstudy550眼瞼縁の新生血管46.2%>40LekhanontらBeijingstudy1,957眼瞼縁の新生血管69.3%>40Jieら千葉study113腺房消失,圧縮物61.9%>60内野らShihpaistudy1,361眼瞼縁の新生血管60.8%>65LinらMelbournestudy926涙液層破壊時間の短縮8.6~19.9%>40~97McCarthyらSalisburystudy2,482腺口のプラッギング3.5%>65Scheinら(5)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111065VMGDの診断わが国のマイボーム腺機能不全ワーキンググループが報告した分泌減少型MGDの診断に必要な項目は大きく分けて3つあり,1.自覚症状,2.マイボーム腺開口部周囲異常所見,3.マイボーム腺開口部閉塞所見である.これら3つの項目が満たされる場合に分泌減少型MGDと診断する.一方,国際ワークショップの報告書ではこのような診断基準が設けられておらず,MGDの診断においてファーストステップとしてドライアイと正常の涙液機能を鑑別することが勧められている.ドライアイと診断できればつぎのステップとして水分不足型ドライアイなのか蒸発更新型ドライアイかはさらに鑑別するよう検査を勧めることが推奨されている.MGDに伴うドライアイの診断において一般施設の眼科外来で施行可能な検査を行うのが望ましく,ドライアイ専門外来においてはいくつかの特殊検査の施行が望ましいとされている(表4)6).VIMGDの治療国際MGDワークショップの報告書ではMGDの重症度分類(表5)に基づいた段階的な治療ストラテジー(表6)が勧められている.自覚症状を伴わないMGDでは表2MGDと相関があると推測される眼疾患?無虹彩症?慢性眼瞼炎?コンタクトレンズ装用?デモデックスによる眼瞼炎?Tatoo?巨大乳頭型結膜炎?Salzmannの角膜変性症?トラコーマ?魚鱗癬(ichthyosis)表3MGDと相関があると推測される全身疾患?加齢?アンドロゲン欠乏症?アトピー性皮膚炎?前立腺肥大症?眼類天疱瘡?円盤状ルプス?Ectodermaldysplasia症候群?骨髄移植?高血圧?閉経?Parkinson病?尋常性乾癬?Rosacea?Sjogren症候群?Stevens-Johnson症候群?中毒性表皮壊死症?Turner症候群?薬剤性:isotretinoin,抗アンドロゲン薬剤,抗うつ薬,抗ヒスタミン薬,前立腺肥大症に使用されるaブロッカー,閉経後のエストロゲン治療など表4MGDの診断において一般眼科外来およびドライアイ専門外来で行うべき検査検査カテゴリー検査一般眼科外来で行うべき検査ドライアイ専門外来で行うべき検査自覚症状問診票Schein,DEQ,OSDIなどSchein,DEQ,OSDIなど所見マイボーム腺機能不全眼瞼の形態マイボーム腺消失の評価分泌物の評価スリットランプ検査スリットランプ検査スリットランプ検査スリットランプ検査スリットランプ検査/マイボグラフィースリットランプ検査眼瞼脂質貯留の評価─マイボメトリー涙液油層厚インテルフェロメトリーインテルフェロメトリー涙液油層進展時間─ビデオインテルフェロメトリー涙液蒸発の検査浸透圧浸透圧検査浸透圧検査涙液の安定性涙液層破壊時間涙液層破壊時間涙液層破壊時間涙液分泌量Schirmer試験Schirmer試験Schirmer試験/フルオロフォトメトリー貯留量スリイトによるTMHメニスコメトリー涙液排出率涙液排出率検査TFITFI眼表面炎症の評価生体染色/ELISA生体染色ELISAやフローサイトメトリーによる涙液中のサイトカインの定量DEQ:Dryeyequestionnaire,OSDI:Ocularsurfacediseaseindex,TMH:tearmeniscusheight,TFI:tearfunctionindex,ELISA:enzymelinkedimmunosorbentassay.1066あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(6)も指摘されている7).文献1)NicholsK:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:Introduction.InvestOphthalmolVisSci52:1917-1921,20112)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20103)NicholsKK,FoulksNG,BronAJetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:executivesummary.InvestOphthalmolVisSci52:1922-1929,20114)NelsonDJ,ShimazakiJ,Benitez-del-CastilloJMetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:reportofthedefinitionandclassificationsubcommittee.InvestOphthalmolVisSci52:1930-1937,20115)SchaumbergDA,NicholsJJ,PapasEBetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:reportofthesubcommitteeontheepidemiologyof,andassociatedriskfactorsfor,MGD.InvestOphthalmolVisSci52:1994-2005,20116)TomlinsonA,BronAJ,KorbDRetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:reportofthediagnosissubcommittee.InvestOphthalmolVisSci52:2006-2049,20117)GeerlingG,TauberJ,BaudouinCetal:Theinternationalworkshoponmeibomianglanddysfunction:reportofthesubcommitteeonmanagementandtreatmentofmeibomianglanddysfunction.InvestOphthalmolVisSci52:2050-2064,2011患者教育の重要さが指摘されており,角膜上皮障害を有せずMGD機能不全の臨床所見(腺組織の消失,分泌物の変化など)を認めるものでは最初にlidhygieneおよび温熱療法が望ましいとされている.自覚症状,MGDの臨床所見,角膜上皮障害を認める軽度のものでは上記の対応に加え,人工涙液点眼やテトラサイクリン内服使用の検討も必要であると報告されている.これらより重症のものでは抗炎症剤の内服を治療に加えたほうが良いとされている.重症度のグレードと関係なくどんなグレードでも角結膜の角化,フリクテン,睫毛乱生症,霰粒腫,デモデックスによる眼瞼炎などを認めた場合はプラスdiseaseとして扱い(表7),それぞれの所見にあった治療をその重症度グレードの適切な治療に加えることが推奨されている.ただし,現在MGDの治療法のなかで根拠に基づいたものが少なく,今後さまざまな治療法を大規模の前向きのstudyで比較検討することの必要性表6MGDステージにおける治療方針の提案ステージ治療法1患者教育,lidhygiene,温熱療法2上記+人工涙液点眼,抗生剤点眼,脂質点眼3上記+テトラサイクリンの内服,保湿眼軟膏4上記+抗炎症剤の追加表5MGDの重症度分類ステージMGDグレード自覚症状角膜上皮障害1MG分泌物の圧縮と質に微量の変化なしなし2MG分泌物の圧縮と質に軽度の変化微量~軽度なし3MG分泌物の圧縮と質に中程度の変化中程度軽度~中程度4MG分泌物の圧縮と質に重症度の変化重症重症(おもに角膜中央部)Plusdisease:角結膜の角化,フリクテン,睫毛乱生症,霰粒腫,デモデックスによる眼瞼炎を有する場合そのステージをプラスとする.表7プラスdiseaseにおける治療方針の提案1.眼表面に重症の炎症あり:弱いステロイド剤のパルス療法2.粘膜の角化あり:バンデージコンタクトレンズ装用3.フリクテンあり:ステロイド点眼4.睫毛乱生症:鑷子による脱毛,クライオセラピー5.霰粒腫:ステロイド注射,切除6.眼瞼炎:抗生剤/ステロイド点眼7.デモデックスによる眼瞼炎:Teatreeoilによる眼瞼のスクラブ

特集:マイボーム腺研究,臨床の最前線

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY診断基準を作成しようという動きが国内に生まれ,2008年からドライアイ研究会のもとにMGDワーキンググループが作られた.MGDワーキンググループはこれまでに数回にわたる全体会議を行い,MGDの定義,分類,診断基準,治療法などに関して報告を行った1).本特集の第2項でその詳細について述べられているが,そのエッセンスとしては,MGDの定義は「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.」であり,分類としてはMGDを分泌減少型と分泌増加型に大きく2つに分類し,分泌減少型MGDの診断基準として,自覚症状,マイボーム腺開口部周囲異常所見,マイボーム腺開口部閉塞所見の3項目が陽性であることとした.一方,ときをほぼ同じくして国際的にも,TearFilmandOcularSurface(TFOS)がInternationalWorkshoponMeibomianGlandDysfunctionをスタートさせた.日本の研究者も多数が参加した.多くのdiscussionの後に,MGDの定義,分類,診断,治療などについてのレポートをまとめつつある.TFOSスタディの概略は村戸による第1項に述べられている.その内容は膨大なものであり,詳細をきわめるが,逆に一般臨床で必要とされる簡略な診断基準といった内容は,国内のMGDワーキンググ昨今,マイボーム腺に関する研究や診療で大きな進展がみられる.マイボーム腺は瞼板内にあり上下の眼瞼縁に開口部をもつ脂腺である.マイボーム腺から分泌される脂質(meibum)は,眼瞼縁や涙液最表層に分布して,涙液蒸発の抑制,涙液安定性の促進,涙液の眼表面への伸展の促進,眼瞼縁における涙液の皮膚への流出を抑制,などの働きをしている.このマイボーム腺の機能に異常をきたした状態を呼称する際に臨床で使用されるのがマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)である.実際に眼不快感などの症状を主訴に眼科を訪れる患者はかなりの割合でMGDがその原因となっており,多くの患者でqualityoflifeの低下をひき起こしていると考えられる.このようにMGDは臨床的に重要な疾患であるにもかかわらず,①炎症や常在細菌の関与を伴う場合と伴わない場合があり臨床像が多様である,②軽症例から重症例まで重症度が広範囲にわたる,③これまで定義や診断基準がなかった,④効果的な治療が少ない,などの理由で,眼科一般臨床においてあまり大きな注意を払われてこなかった.これまでにMGDの定義や診断基準といったものが定められてこなかったために,MGDの頻度,診断,治療などについて論じる共通の土台がなかった.こうした背景をもとにMGDの定義や(1)1061*1ShiroAmano:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学*2KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室*3ShigeruKinoshita:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学●序説あたらしい眼科28(8):1061?1062,2011マイボーム腺研究,臨床の最前線FrontiersofMeibomianGlandResearchandClinicalPractice天野史郎*1坪田一男*2木下茂*31062あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(2)ループの発表のみに含まれており,実用性という観点からは日本のMGDワーキンググループも優れた点を有している.マイボーム腺の臨床,研究両面において,日本の臨床家,研究者たちが世界をリードしている.MGDをはじめとするマイボーム腺疾患の診断面では,さまざまなマイボーム腺機能評価法,非接触型マイボグラフィ,コンフォーカルマイクロスコープなど,多くのテクノロジーの応用が国内の研究者から提唱され,その有用性が示されてきた.第3項(横井らによる「マイボーム腺の臨床的機能評価」),第4項(山口による「フルオレセイン染色によるマイボーム腺機能評価」),第5項(有田による「非侵襲的マイボグラフィの有用性」),第6項(松本による「MGD診断へのコンフォーカルマイクロスコープの応用」)に,こうした診断面での最近の進歩が解説されている.こうしたMGD疾患の診断面での大きな進歩に比較して,治療面では何かブレイクスルーが必要な状況である.MGD治療の新しい試みについて,後藤が第8項で解説している.さらに,マイボーム腺への性ホルモンの影響については鈴木が(第7項),マイボーム腺を場とする腫瘍性疾患については小幡が(第9項),それぞれ解説している.今回の特集で解説されたいずれの項目も最新の内容ではあるが,こうした新しい知見が,現在,一般臨床でのマイボーム腺疾患,特にMGDに対する診療において,十分に生かされているとは言えない.国内のMGDワーキンググループの成果は,すでに総説として発表されている1)が,その内容はドライアイ研究会のホームページ(http://www.dryeye.ne.jp/)においても公開されている.そのサイトにおいては,MGDの診断に有用な,さまざまな異常所見の写真や動画を診ることもできる.MGDワーキンググループの作成した分泌減少型MGDの診断基準では,特殊な機器は不要であり,一般眼科で診断できるものとなっているので,ホームページなどで得た知見をMGDの診断にぜひ生かしていただければと思う.またMGD診療に関する知見が広まっていない原因として,診断できても効果的な治療が少ないことがあると考えられる.今後,MGDの治療面でのブレイクスルーによって,さらにMGD診療が一般に広まることが期待される.文献1)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,2010