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写真:糖尿病角膜症における遷延性角膜上皮欠損

2011年12月30日 金曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦331.糖尿病角膜症における薗村有紀子*1横井則彦*2*1公立山城病院眼科遷延性角膜上皮欠損*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学①②③④図2図1のシェーマ①:血管侵入.②:遷延性角膜上皮欠損.③:欠損部周囲の接着不良を伴う上皮.④:欠損部周囲の炎症性細胞浸潤による混濁.図1遷延性角膜上皮欠損(63歳,男性)角膜上皮欠損を認める.欠損部周囲はスリガラス状に混濁しており,上皮欠損周囲の上皮には接着不良を認める.糖尿病歴20年以上,HbA1C8.9.図3図1のフルオレセイン染色写真フルオレセイン染色により角膜上皮欠損部位が明らかに観察される.図43日後のフルオレセイン染色写真ソフトコンタクトレンズ装用,ステロイド点眼使用し,角膜上皮欠損は消失.(47)あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117090910-1810/11/\100/頁/JCOPY 糖尿病では高血糖が長期間つづくことにより,代謝異常,血流障害が生じるために全身の組織が障害をうける.合併症が起こる機序にはさまざまな説があり,まだ明らかでないことも多い.おもな機序の一つには,ポリオール代謝経路の亢進がある.高血糖になり,細胞内のグルコース濃度が上昇すると,糖代謝の副経路であるポリオール代謝経路が亢進し,グルコースからソルビトール,フルクトースと変換される.ソルビトールなどのポリオール類の蓄積は細胞内浸透圧上昇,浮腫をひき起こすといわれている.また,それにつづくミオイノシトール減少,Na,K-ATPase低下は神経伝達低下を招く.この経路の活性化により使われる補酵素NADPHの減少はNO産生障害,還元型グルタチオンの減少をひき起こし,フリーラジカルが過剰となり血管内皮細胞異常,神経障害などにつながる.一方,もう一つのおもな機序はグリケーションである.長期に高血糖が持続することにより,グリケーション(グルコースが蛋白質のアミノ酸と非酵素的に結合)が生じ終末糖化産物(AGEs:advancedglycationend-products)が形成される.細胞外基質,細胞内の蛋白質,血中蛋白がAGE化され,AGE化された蛋白質は肥厚,多層化し,アポトーシスを誘導するため,さまざまな機能障害をひき起こす.糖尿病では角膜上皮でもそれらによる変化が認められており,角膜上皮細胞の機能異常,基底膜異常(肥厚,AGEs形成),基底膜異常による上皮接着能低下1.3)などが報告されている.また,末梢神経でもこれらの代謝障害による神経伝達低下,神経細胞内,血管内皮,周皮細胞でAGEs形成が認められ4),神経細胞脱落,血流障害による神経障害が生じるといわれており,角膜では角膜知覚低下5)が認められている.これらの変化により,糖尿病角膜症として,点状表層角膜症,角膜上皮びらん,遷延性角膜上皮欠損などさまざまな所見を呈すると考えられている.今回の症例は1カ月前より角膜上皮欠損を生じ,前医でヒアルロン酸ナトリウム点眼,0.02%フルオロメトロン点眼を処方されていたが,軽快せず,治癒過程で上皮細胞の接着低下により中央部の上皮が脱落して上皮欠損が遷延化した症例と思われた(図1,3).ソフトコンタクトレンズを治療用として装用することにより角膜上皮を保護し,防腐剤フリーのベタメタゾン点眼を使用し,消炎にて上皮の再生を促し,瞬目から保護することによって上皮の接着を促した(図4).角膜上皮に欠損ができると,周辺の上皮細胞が欠損部に伸展,移動して欠損部を被覆し,増殖して多層の上皮を形成することにより創傷治癒していくが,その過程のいずれかに問題が生じると角膜上皮欠損が治癒せず遷延化して,遷延性角膜上皮欠損となる.糖尿病では基底膜異常が生じることにより上皮細胞が接着不良となるため,上皮細胞の伸展が妨げられ,角膜知覚低下により涙液分泌が低下し,神経伝達物質が減少,上皮細胞伸展が低下することにより遷延性角膜上皮欠損の原因となる.遷延性角膜上皮欠損はまず,感染性角膜炎と鑑別し,原因を検討して治療方針を決定する必要があり,糖尿病はおもな原因の一つである.上皮の接着を保護して,薬剤毒性の可能性を除外し,上皮伸展を促すことが治療となる.文献1)SchultzRO,VanHornDI,PetersMAetal:Diabetickeratopathy.TransAmOphthalmolSoc79:180-189,19812)TaylorHR,KimseyRA:Cornealepithelialbasementmembranechangesindiabetes.InvestOphthalmolVisSci20:548-553,19813)KajiY,UsuiT,OshikaTetal:Advancedglycationendproductsindiabeticcorneas.InvestOphthalmolVisSci41:362-368,20004)SugimotoK,NishizawaY,HoriuchiSetal:LocalizationinhumandiabeticperipheralnerveofNe-carboxymethyllysine-proteinadducts,anadvancedglycationendproduct.Diabetologia40:1380-1387,19975)SchultzRO,PetersMA,SobocinskiKetal:Diabeticcornealneuropathy.TransAmOphthalmolSoc81:107-124,20091710あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(00)

角膜感染症からみたレンズケアの問題点

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1703.1707,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1703.1707,2011角膜感染症からみたレンズケアの問題点ContactLensCarefromtheStandpointofCornealInfection宇野敏彦*はじめにコンタクトレンズ(CL)装用による合併症は,アレルギー,角結膜上皮障害,感染症,角膜内血管侵入,内皮障害など多岐にわたる.本項では,まず各種疫学調査から角膜感染症症例のレンズケアの実態を把握し,実際の症例を提示しながらCL関連角膜感染症発症の経緯およびその予防について考察したい.なお,本項ではCLケア自体の現状および諸問題については他項と重複するため割愛させていただく.I疫学調査からみたレンズケアの実態1.重症CL関連角膜感染症全国調査入院加療を必要としたCL関連角膜感染症症例を対象とする全国調査が日本CL学会および日本眼感染症学会の主導で2007年4月から2年間実施された1).通常外来通院で対処することの多い本疾患であるが,入院を必要とする重症症例に限っての調査ということになる.参加承諾を得た224施設から350例が集積され,臨床所見・細菌学的検査結果・CL装用管理の状況などが調査されている.本調査の対象となった症例が感染症発症時に装用していたCLの種類を表1に示す.2週間頻回交換ソフトCL(FRSCL)が全症例の56%を占めていることが注目されるが,わが国におけるCLの種類別の装用人口(表2)2)と比較検討する必要がある.装用人口のデータによると,ハードCL(HCL)と1日使い捨てCLおよび表1角膜感染症発症時使用していたCL症例数%1日ディスポーザブルSCL267.41週間連続装用ディスポーザブルSCL41.12週間頻回交換SCL19656.0定期交換(1カ月,3カ月)SCL5616.0従来型SCL92.6カラーCL174.9ハードCL174.9オルソケラトロジーレンズ20.6無回答236.6(文献1の表7を改変)表2全国のCL装用推定人口性別男性666万人女性1,200万人CLの種別ハードCL(HCL)581万人従来型SCL(カラーCL除く)221万人1日使い捨てSCL660万人2週間交換SCL595万人定期交換(1カ月/3カ月)SCL111万人(文献2の表7を改変)FRSCLが600万人前後でおおむね一致していることがわかるが,重症の感染症を発症した症例ではFRSCLが圧倒的に多く,HCLおよび1日使い捨てCL装用者は対象症例の数%程度にとどまっていた.このことはレンズケアを必要とするFRSCLのリスクが高いことを示唆するものと考えられる.なお,1カ月,3カ月といった期間を決めて交換する定期的SCLはFRSCLの約1/6*ToshihikoUno:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕宇野敏彦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(41)1703 無回答毎日こすり洗いしていたその他113.1%30608.6%6117.4%5317.1%4512.9%6719.1%15.1%週に4~6回こすり洗いしていたまったくこすり洗いしていなかった週に2~3回こすり洗いしていた236.6%ほとんどこすり洗いしていなかった時々こすり洗いしていた図1CLのこすり洗い(文献1の図7を改変)の装用人口であるにもかかわらず全国調査において56例(16.0%)みられていることにも注目すべきである.すなわち,定期的SCL装用はこれらのデータの比較においてFRSCLとほぼ同等,あるいはそれ以上のリスクを伴っていることをうかがわせる結果である.全国調査におけるCLのこすり洗い,CLケースの交換について図1,2に示す.CLのこすり洗いにおいて,「時々こすり洗いしていた」,「ほとんどこすり洗いしていなかった」「まったくこすり洗いしていなかった」の3つを合わせる(,)と全体の約1/2を占めており,毎日行われるべきこすり洗いがなされていない症例が目立つ結果であった.CLケースの交換についても特に交換までの期間を決めていないものが多く,「不定期に交換していた」「ほとんど交換していなかった」「まったく交換していなかった」の3つでやはり全体の約1/2であった.なお,この設問はCLの種別を問わず解答を求めた結果であり,1日使い捨てCLなどケアを必要としないCLを使用している症例に対してはそぐわないものである.ただ,このような例は少数であり,全体のおおまかな傾向には影響を与えないと考えられた.CLを安全に使用していくうえで専門的教育をうけた眼科医師による定期検査は必須である.この定期検査の受診状況について図3に示す.「3カ月に1回程度受けていた」など,一定の期間をきめて受診されていた症例は少数であり,「不定期に受けていた」,「ほとんど受けていなかった」,「まったく受けていなかった」など,特定の受診間隔を定めていなかった例がここでも約半数であった.1704あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011その他634118.0%424912.0%不定期に交換していた606517.1%18.6%14.0%11.7%無回答3カ月以内ごとに17交換していた4.9%まったく交換して6カ月以内ごとにいなかった交換していた1年以内ごとに交換していた13ほとんど交換して3.7%いなかった図2CLケース交換(文献1の図8を改変)1カ月に1回程度7722.0%4914.0%不定期に受けていた50689.7%4412.6%14.3%19.4%34受けていたその他無回答350.9%1.4%3カ月に1回程度受けていたまったく受けていなかった6カ月に1回程度受けていた1年に1回程度ほとんど受けて受けていたいなかった205.7%図3定期検査受診(文献1の図9を改変)2.国民生活センター発表内容から平成21年12月16日,独立行政法人国民生活センターより「ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─」が発表された(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091216_1.pdf).全32ページにわたる報告書であるが,そのごく一部のみマスコミに取り上げられ,その解釈が問題となったものである.この発表の主体は多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)のアカントアメーバに対する効果であるが,健常のCLユーザーレンズおよびレンズケースの汚染状況についての調査もあった.これは18.29歳のFRSCL装用者385名から通常どおりの方法で2週間装用したCLをレンズケース内のケア用品に浸漬したままの状態で回収し,アカントアメーバ汚染の有無および緑膿菌をはじめとする細菌汚染を検討した(42) ものである.アカントアメーバについては培養によって2名(0.5%)で陽性であったが,polymerasechainreaction(PCR)法による検討では培養試験で陽性であった2名を含む40名(10.4%)からアカントアメーバのDNAが検出されている.これはCLおよびCLケースのアカントアメーバ汚染が予想以上に起こっていることを示唆するものであろう.一方,CLケースの細菌汚染の状況についてでは,まったく検出されなかったものが155例(40.3%)であり,6割でなんらかの細菌が検出されていた.なかでも104個以上といった多量の細菌が検出されたものは99例(25.7%)に上り,105個を上回る検出菌数の場合には臨床的に問題となる緑膿菌の検出が飛躍的に増加する結果であった.角膜感染症を起こしていない健常とされるCLユーザーを対象としたこの国民生活センターの調査は大変深刻なメッセージをわれわれに送っている.CLケースの細菌汚染はもとより,まれと考えられていたアカントアメーバによる汚染が普遍的にみられていることに注目する必要がある.II臨床症例から考える実際に角膜感染症を発症した症例を提示し,CLの汚れと発症について考察してみたい.まずアカントアメーバ角膜炎を右眼に発症した25歳,女性の症例である.FRSCL装用者であるが,CLのこすり洗いはほとんどしていなかったとのことであった.約1カ月前から右眼の視力低下と充血を自覚し近医にて抗菌点眼薬を中心とした加療を行うも軽快しないため,愛媛大学眼科(当科)初診となった.右眼に放射状角膜神経炎および散在する浅層実質の浸潤病巣を認め,“初期”に相当する典型的なアカントアメーバ角膜炎の所見を呈していた.また,角膜擦過物よりファンギフローラYR染色にてアカントアメーバシストを確認した.この患者が持参してきたCLの走査型電子顕微鏡(走査電顕)所見を図4に示す.多数の付着物が認められ(図4a),その拡大図(図4b)ではアカントアメーバのシストと思われる球形体が多数CLに付着していた.さらに桿菌(培養で緑膿菌を含む2種類のグラム陰性桿菌が確認さ(43)ab図4アカントアメーバ角膜炎症例が発症時装用していたCLa:多数の汚れがCLの角膜側に付着していた(矢印:CLのエッジ).b:aの一部の拡大図.円形のアメーバシストを思わせるものが図内に5つ確認できる.その周囲に多数の桿菌様のものも認められている.れている)と思われるものも多数みられた.アカントアメーバが多数付着したCLを装用することにより角膜炎が発症したことを示唆する症例であった.なお,本症例の僚眼のCLも同様の走査電顕所見であり,状況によって両眼にアカントアメーバ角膜炎が発症していた可能性を有していた.CLの微生物汚染により角膜に浸潤病巣を呈するも感染自体は成立していなかった症例を提示する.この症例は角膜中央部に淡い浸潤病巣をきたしていた(図5a).本症例が装用していたCL(図5b)にはその角膜側に白色沈着物を認め,ここから多数の糸状真菌が検出された.しかし幸いなことに本症例はCL装用を中止することにより速やかに消炎しており,真菌による感染は成立していなかった.このようにCL装用者の角膜炎には角膜内で感染が成立している病態とともに,汚染CLに付着している細菌などの微生物による二次的な非感染性の炎症も加味されていると考えられる.感染病巣は小さいが角膜実質表層に複数の淡い浸潤をきたし,結膜充血とときに角膜内血管侵入をきたしているような症例に遭遇することは多い.CLによる機械的,あるいはMPSによる化学的上皮障害の要因ももちろん否定はできないが,CLに付着している微生物より放出される“毒素”あるいは微生物に対する免疫反応が病態を修飾しているあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111705 ab図5CLの微生物汚染による非感染性角膜浸潤と考えられた症例a:角膜中央部に淡い境界不鮮明の浸潤病巣を認める.b:装用していたCLの角膜側に白色の沈着物を認めた.表3分離培養にて検出された主要菌菌種黄色ブドウ球菌表皮ブドウ球菌コリネバクテリウム緑膿菌セラチアその他のグラム陰性桿菌アスペルギルスアカントアメーバ角膜病巣3567034056結膜.13431100眼脂01181000CL4222051304CLケース235391734132その他01051301(文献1の表4を改変)1706あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(44)可能性が高いと考えられる(このような病態を“contactlens-inducedacuteredeye:CLARE,コンタクトレンズによる急性結膜充血”とよぶ向きもあるが,もう少し病態を反映した名称が望ましいと筆者は考える).III緑膿菌と角膜感染症先述の重症CL関連角膜感染症全国調査1)において角膜から微生物が培養で検出されたものは147例であった(表3).そのうち70例は緑膿菌であり,アカントアメーバ56例が続いていた.その他の菌種は数例以下であり,細菌としては緑膿菌が突出した結果であった.一方,CLおよびCLケースからは緑膿菌のほか,セラチアをはじめとするグラム陰性桿菌が多数検出されていた(CLなどを検体として細菌学的検査を行った症例数は少ないと想定されており,角膜病巣の検出数との比較は適当でない).CLおよびCLケースは緑膿菌を含め,環境菌である多種類のグラム陰性桿菌に汚染されるものの,角膜への感染成立となると緑膿菌が突出して多いことがわかる.緑膿菌は角膜上皮への接着性に長けていることが基礎的検討で明らかとなっている.Panjwaniら3)は黄色ブドウ球菌,大腸菌,レンサ球菌と比較して緑膿菌の角膜への接着性がきわめて大きいことを明らかにしている.また,緑膿菌がもつ線毛が角膜への接着に関与しているといった報告もある4).このような特性により重症のCL関連角膜感染症の起炎菌として緑膿菌が重要になってくるものと考えられる.一方,この事実はCL,CLケースから菌が検出された場合の臨床的意義についても 一つの示唆を与えてくれる.すなわち,ケースなどから緑膿菌が検出された場合は角膜炎の起炎菌の可能性が高いが,そのほかのグラム陰性桿菌の場合,起炎菌として考えることには慎重になるべきということである.CLケースなどに緑膿菌を混入させないことは感染症予防にとって重要なことであろう.先述の国民生活センターのデータによると,ケースなどの細菌汚染が高度になるにつれ緑膿菌汚染の確率が高くなっていた.正しいCLケアにより少しでも細菌汚染を回避することにより緑膿菌性角膜炎を予防でき,細菌を餌として増殖するアカントアメーバによる角膜炎も予防できることになる.文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20112)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌52:25-30,20103)PanjwaniN,ClarkB,CohenMetal:DifferentialbindingofP.aeruginosaandS.aureustocornealepitheliuminculture.InvestOphthalmolVisSci31:696-701,19904)HazlettL,RudnerX,MasinickSetal:Intheimmaturemouse,Pseudomonasaeruginosapilibinda57-kd(alpha2-6)sialylatedcornealepithelialcellsurfaceprotein:afirststepininfection.InvestOphthalmolVisSci36:634643,1995(45)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111707

コンタクトレンズ消毒法の変遷と課題

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1697.1702,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1697.1702,2011コンタクトレンズ消毒法の変遷と課題ChangesandChallengesinContactLensDisinfection白石敦*はじめにコンタクトレンズ(CL)の歴史は1508年にLeonardodaVinciが水を満たしたガラス球に直接眼をつける実験をしたことに始まるとされているが,実際にCLが普及したのはpolymethylmethacrylate(PMMA)製のハードコンタクトレンズ(HCL)が開発された1940年頃からである.PMMA製HCLはガス透過性コンタクトレンズ(RGPCL)が登場・普及するまで,約40年間にわたりCLの主流であった.PMMA製HCLは生体適合性が良く,汚れも付きにくいため一般的な洗浄剤でケアを行うだけで十分であった.一方,RGPCLは汚れが付きやすく,水濡れ性も良くないため,より強力な洗浄液や蛋白質や脂質を除去するための酵素洗浄剤,親水性を高める保存液が必要となってきた.しかしながら,これらのCLは含水性がないため微生物に対する消毒の必要性は求められなかった.1961年により快適な装用感を求めてOttoWichterleによりhydroxyethylmethacrylate(HEMA)を主成分とするソフトコンタクトレンズ(SCL)が開発された.SCLは含水性があるため,洗浄のみでは汚れ,特に微生物の除去が不完全であり,保存中に消毒を行う必要性が出てきた.ICLの変遷と消毒法の変遷(表1)1971年にSCLが販売されたときには煮沸消毒がおもに行われていた.煮沸消毒は強い消毒効果をもつが,SCLに付着した蛋白質などが加熱により固着,変性することによりSCLの変形をきたしたり,固着した成分に対するアレルギー反応で巨大乳頭結膜炎(GPC)をひき起こしたりする合併症の問題があった.煮沸消毒では,電源入れ忘れによる未消毒といった問題点もあった.1977年海外では煮沸消毒のコンプライアンスや簡便性を向上しようと,グルコン酸クロルヘキシジン,塩化ベンザルコニウム,チロメサールなどの消毒剤を使用した第一世代のSCL化学消毒剤が登場した.これらの消毒剤成分はSCL素材(HEMA)のポアサイズ(30.50A)よりも分子量が小さいためにSCL内に吸収,蓄積され,これら消毒剤成分が原因の角膜上皮障害が問題となり,わが国においては販売されるには至らなかった.同時期ヨウ素製剤も販売されていたが,煩雑さと,不適合SCLの存在のために広く普及するには至らなかった.1982年,安全性を求めて,比較的消毒効果が高く,過敏症などの反応もほとんどない過酸化水素製剤が登場した.1980年代には安全性,快適性を求めて高含水やイオン性SCLが登場し,これらのSCLは煮沸消毒により劣化してしまうため,過酸化水素消毒の需要は高まった.しかしながら,中和操作が必要であり,この操作を忘れることによる強い痛みと充血を伴う眼表面障害が多発し,より簡便な消毒システムが求められていた.そして,1988年洗浄・消毒・すすぎ・保存を1液で行える多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)が登場し,わが国でも1996年より販売が開始され,現在最も*AtsushiShiraishi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)〔別刷請求先〕白石敦:〒791-0295愛媛県東温市志津川愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(35)1697 表1CLとCL消毒システムの変遷海外の変遷国内の変遷年CLの変遷ケアの変遷CLの変遷ケアの変遷1961OttoHEMA製SCL作製1971HEMA製SCL販売開始煮沸消毒NormanがRGPCL開発1972HEMA製SCL煮沸消毒1975ヨウ素消毒剤1977SCL化学消毒剤(第一世代)1982過酸化水素消毒(第二世代)1984ディスポーザブルSCL1988MPS(第三世代)1992過酸化水素消毒1994頻回交換型ディスポーザブルSCL19951日交換型ディスポーザブルSCL1996MPS1998SHCL2001ヨウ素消毒剤2004SHCL使用されるようになっている.わが国においては2001年より消毒効果が比較的高いヨウ素消毒製剤が販売されている.当初は一部のSCLで使用が不可能であったが,現在はすべてのSCL,シリコーンハイドロゲルCL(SHCL)で使用が可能となっている.II各消毒法の特徴(表2)1)1.煮沸消毒100℃以上で20分間加熱を行う.消毒効果は最も強く,CLケースの消毒も同時に行うことができるため消毒法としては最も有効である.生理食塩水にSCLをつけて加熱するため,添加薬剤などによる眼表面への影響を考慮する必要がない.一方で,SCLに付着した蛋白質などが加熱により固着,変性することによりSCLの変形をきたしたり,固着した成分に対するアレルギー反応で巨大乳頭結膜炎(GPC)をひき起こしたりする合併症の問題があり,酵素製剤による定期的な除去が必要である.煮沸消毒では,電源を入れなければ消毒効果はまったくなく,電源入れ忘れによる未消毒といった問題点もある.SCL販売当初の低含水・非イオン性であるHEMA製SCLでは使用が可能であったが,現在の主流であるイオン性SCL,高含水SCLでは加熱によるCLの劣化が著しく煮沸消毒は行われなくなった.1698あたらしい眼科Vol.28,No.12,20112.過酸化水素消毒煮沸消毒よりも消毒効果は劣るものの,比較的短時間で強い消毒効果をもつ.そのまま中和をしないで装用すると強い痛みとともに充血,角結膜上皮障害をひき起こすため,消毒後に中和操作が必要である.中和方法としては,金属触媒(白金),還元剤(チオ硫酸ナトリウム),酵素触媒(カタラーゼ)などがある.過酸化水素消毒のみでは汚れ除去効果は弱く,消毒液とは別に洗浄液によるこすり洗いが必要になる.消毒効果が比較的高く,薬剤アレルギーも少ないため適切に行えば有効な消毒方法であるが,操作の煩雑さが問題点となる.その一つは,中和操作を忘れることによる眼障害がある.この問題は各社が消毒剤と中和剤をまとめることでワンステップタイプのシステムを開発して過酸化水素による眼障害の頻度は低下してきた.ワンステップタイプでは消毒開始と同時に中和作用が始まるため消毒効果が不十分(特にアカントアメーバに対し)であるという問題が起こっている.もう一つは,消毒剤と洗浄剤が別ボトルであるため,取り間違いにより過酸化水素ボトルで洗浄し,そのまま装用するという誤使用の問題もある.3.ポビドンヨード消毒煮沸消毒には劣るものの,過酸化水素消毒と同等以上(36) 表2SCLの消毒方法の比較メカニズム簡便性安全性消毒力抗菌スペクトル保存時の殺菌効果細菌真菌アカントアメーバ煮沸消毒・100℃で20分煮沸・簡便であるが消毒機器が必要・レンズの劣化(特にグループⅣ)・変性蛋白質などがレンズに付着しやすい(GPC発症率が高い)・ほぼすべての細菌,真菌を死滅させる・アカントアメーバにも有効◎◎◎なし過酸化水素消毒・3%過酸化水素により細胞壁の蛋白質,脂質を変性させる・2.6時間・中和を行う必要あり・こすり洗いが必要・薬剤アレルギーはない・中和を忘れると角膜上皮障害を発症・グラム陽性菌,陰性菌に強い殺菌力をもつが,真菌,ウイルスに効果が弱い◎○△△×なしポビドンヨード消毒ヨウ素の酸化能により細胞内の蛋白質を破壊する・4時間・こすり洗いが不要・中和を行う必要がある・ヨードアレルギーには禁忌・細菌,真菌に強い殺菌作用をもつが芽胞には無効◎◎○△なしMPS・PolyquadRまたはPHMBが細菌の細胞膜に付着し,界面活性作用により細胞膜を破壊・ワンステップで簡便・こすり洗いが必要・薬剤によるアレルギー反応がみられる・アカントアメーバ,真菌に対する有効性が低い・殺菌効果が弱いため,消毒に長時間を要する○△××あり◎:有効,○:効果あり,△:効果弱い,×:効果なし.の消毒効果をもち,過酸化水素同様に中和操作が必要である.消毒剤自体が褐色をしており,中和されると無色になるため,中和忘れや,中和不十分時での誤装用の心配は少ない,結膜.洗浄としても用いられているため,眼表面への障害は過酸化水素に比べて少ない.ヨウ素アレルギー以外ではほとんどアレルギー反応がなく有用な消毒法である.1975年より煮沸消毒の煩雑さを簡便にしようと海外(ヨーロッパ)ではヨード製剤Pliacide/NutraflowSystem(P/Nシステム)が販売されていたが,広く普及するには至っていなかった.わが国においては,2001年よりポビドンヨード製剤が販売されている.当初は一部のSCLで使用が不可能であったが現在はすべてのSCL,SHCLで使用が可能となっている.CLケースを十分に洗浄しないと中和剤成分がケース内に残存し,消毒が不十分となってしまうため,CLケースの洗浄が必須である.(文献1より改変)4.Multi.purposesolution(MPS)MPSは1液でSCLの「消毒・洗浄・すすぎ・保存」を行えるという簡便さが特徴である.MPSには,レンズを消毒するための消毒剤やこれを補助する消毒助剤,レンズを洗浄するための界面活性剤,キレート剤や蛋白除去剤,さらに,pHを中性に保つ緩衝剤や浸透圧を調整する等張化剤などが基本成分として配合されている.さらに,最近のMPSでは快適性を上げるための潤い成分なども配合されている1).消毒剤成分としては,塩化ポリドロニウム(PolyquadR)と,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)があるが,いずれも低濃度で配合されており,細菌に対してはある程度の消毒効果は認めるが,真菌やアカントアメーバに対しての消毒効果は弱く,他の消毒法に比較して消毒効果が弱い.多くの成分が配合されているため,薬剤アレルギー反応を認めることがあり,特定のMPSとSHCLとの組み合わせで角膜上皮障害を認めることもある.(37)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111699 IIISCL消毒の評価法2)現在,SCL消毒剤の製造,輸入販売申請の際の消毒評価法としてスタンドアロンテストが採用されている.スタンドアロンテストとは,国際標準化機構(ISO)で採用されているSCL消毒評価試験(ISO14729standardduringdevelopmentoftheproducts)および米国食品医薬品局(FDA)で採用されている消毒評価試験〔premarketnotification(510(k))guidancedocumentforcontactlenscareproduct〕で実施される試験である.スタンドアロンテストでは,眼感染症の起因菌のなかから特にCL感染の原因となる5菌種(細菌3株・真菌2株)(表3)に対する消毒効果を評価しており,第一・第二の2つの基準がある.第一基準は細菌を3log,すなわち1/1,000に減少し,真菌を1log,すなわち1/10に減少することが要求され,合格であれば“ソフトコンタクトレンズ消毒液”として認められる.第一基準に合格しなかったMPSは,第二基準で判定されることとなる表3スタンドアロンテストに用いられる菌株微生物試験菌菌株細菌緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアATCC9027ATCC6538ATCC13880真菌カンジダフザリウムATCC10231ATCC36031ATCC:Americantypeculturecollection.─ISO/FDAスタンドアロン基準─適合適合適合試験不合格スタンドアロン主基準不適合不適合試験不合格不適合スタンドアロン二次基準レジメンテスト細菌:全て3log以上減少真菌:全て1log以上減少細菌:3種の合計が5log以上真菌:増殖させないすすぎ・こすり洗いで基準以下に減少CL消毒システムCL消毒剤発売図1スタンドアロンテストの流れ(図1).第二基準では細菌にのみ最低限の消毒効果:3種類の菌に対しそれぞれ1log以上,かつその和が5以上(1log+2log+2logなど)を示し,真菌に対しては増殖を認めないという条件をクリアすれば合格となるが,消毒効果が弱いため,さらにこすり洗い試験が必要となる.こすり洗い試験とは,十分なこすり洗いとすすぎを併用することで,レンズ上の微生物が取り除けるかを確認する試験で,これらに合格すれば“ソフトコンタクトレンズ消毒システム”として認められる.図2に主要MPSのスタンドアロンテストの結果を示すが,同じPHMBを消毒成分とする製品間でも消毒効果に差があることがわかる.MPSの消毒効果評価法に2つの基準“ダブルスタンダード”があることは,一般にはあまり知られておらず,市販MPSのパッケージにもこうした合格基準は書かれていないのが現状である.近年,問題となっているアカントアメーバに対する効果消毒効果Logreductionはまったく問題とされていないことからも,現在のSCL評価法は不完全といわざるを得ず,角膜感染症発症予防を念頭においた統一基準の策定が望まれる.IV課題CL装用者の増加とともに増加しつつあるCL関連角膜感染症は現在社会問題となっており,CL消毒方法に突き付けられた大きな課題といえる.その背景には,①不完全なSCL消毒剤評価法が原因で,消毒効果の異なる製品が同列に扱われて販売されていること,②ユー■:緑膿菌■:黄色ブドウ球菌■:セラチア■:カンジダ■:フザリウム6543210MPS1MPS2MPS3(PolyquadR)(PHMB)(PHMB)図2主要MPSのスタンドアロンテスト結果1700あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(38) ザーがCLケアの簡便さを求め,消毒システムがどんどん簡便化したものの,その消毒効果やケア方法についての理解が十分でないこと,があげられる.つまり,現在の課題はSCL,SHCL消毒剤の主流であるMPSにあるといえる.その消毒効果の違いをスタンドアロンテスト指摘菌種に対してみてみると,MPSは細菌に対しては一定の効果はあるというものの,ばらつきがあり,真菌に対しては一部まったく効果のない製剤も認められる(図2).MPSの消毒効果は弱いため,効果を発揮するには時間を要する,さらにはCLケースの洗浄乾燥を行わず,継ぎ足しながら使用すると,消毒効果はさらに減衰することが判明している3).一般的なCLケアの場所である洗面所では微生物汚染を防ぐことは不可能であり4),CLケースに消毒液を残存させたまま蓋を開けて放置し,継ぎ足しをすると容易に微生物が増殖してしまうことになる.このような情報を知らされていない一般のCLユーザーは“消毒剤”と書いてあれば,“そこに付けるだけですべての微生物は消毒される”と考えても不思議ではない.近年アカントアメーバ角膜炎の増加が大問題となっているが,MPSはアカントアメーバ栄養体に対してはある程度の効果がある製剤が存在するものの,まったく消毒効果のない製剤もあることが判明し,MPSにはアカントアメーバシストに対する効果はないという報告がな:4h■:8h■:24h543210消毒効果Logreduction’ssolution)(PHMB)(PHMB)1酸化水素消毒効果Logreductionされている(図3,4)5).アカントアメーバは結膜.に常在することもあり,増殖するには餌となる細菌を必要とし,容易に角膜炎をひき起こすわけではない.アカントアメーバ角膜炎発症の背景には,まず不適切なCLケアによりCLケース内での細菌の増殖があり,そこにアカントアメーバが混入し,増殖するという,2段階のステップを経る必要がある.もちろん,現在のMPSでも適切なCLケアをしていれば,感染をひき起こすような微生物の増殖は起こらないが,CLケースの乾燥をしない・MPSの継ぎ足しをするといった,一般CLユーザーにありがちな不適切なCLケアで,消毒剤であるはずのMPSが細菌やアカントアメーバの培養条件になってしまうということは大きな問題点といえる.他の消毒方法の課題であるが,煮沸消毒は最も有効な消毒方法ではあるものの,現在ほとんどのSCL,SHCLで使用できないため,現実的な選択肢にはならないだろう.過酸化水素消毒剤は誤使用防止と簡便さを求めて消毒開始と同時に中和が始まるワンステップタイプが主流になり消毒効果が低下したが,継ぎ足しなどのよほどの不適切なケア状況でなければ,細菌の増殖は起こらないであろう.課題とすれば,汚れ除去が行われないために,消毒液とは別の洗浄液が必要となり,その結果生じるボトルの誤使用であろう.:4h■:8h■:24h32.521.510.50ド1図3アカントアメーバ栄養体に対するSCL消毒製剤の効果図4アカントアメーバシストに対するSCL消毒製剤の効果(文献5より改変)(文献5より改変)(39)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111701 ポビドンヨード製剤に関しては,煮沸消毒よりも消毒効果は劣るものの,アカントアメーバに対してもある程度の消毒効果があり,適切に使用すれば,感染症の危険性はないと考えられる.蛋白除去も同時に行われ,誤使用などの心配もなく,信頼性の高い消毒方法であるが,問題点としては,CLケースの洗浄を適切に行わないと中和剤成分がケースに残存し,消毒が不十分となる危険性があることであろう.VまとめCLとCLケアの歴史は快適性・簡便性を求めて新製品が開発されてきた.最も簡便なSCLシステムは1日使い捨てSCL,SHCLであり,適切な装用をすれば安全性が高いシステムである.しかしながら,弱年齢層にとってコスト面の負担が大きく,コストは低いがCLケアが必要な頻回交換型SCL,SHCLの需要が高い.CLケアに関しても比較的安全な過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤は若干コストが高く,煩雑であるため,簡便でコストの低いMPSの需要が高いのが現実であろう.われわれCL医療に携わる者にとって必要なことは,CLユーザーの知識・常識を鵜呑みにすることなく,適切なCLケア教育・指導を行うしかない.しかしながら,インターネットショッピングなどの販売環境が便利すぎる現代社会で,眼科医や眼科医療スタッフがすべてのCLユーザーに適切なCLケア指導を行うことは不可能であり,MPSには本来の消毒効果を適切に発揮できるようなシステムを目指した開発が望まれる.文献1)金井淳,澤充,大橋裕一ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン.日眼会誌109:637-665,20052)岡田正司:CLケア教室ソフトコンタクトレンズの消毒の評価法(スタンドアロンテスト).日コレ誌48:93-97,20063)RosenthalRA,DassanayakeNL,SchlitzerRLetal:Biocideuptakeincontactlensesandlossoffungicidalactivityduringstorageofcontactlenses.EyeContactLens32:262-266,20064)鈴木崇,白石敦,宇野敏彦ほか:洗面所における微生物汚染調査.あたらしい眼科26:1387-1391,20095)KobayashiT,GibbonL,MitoTetal:EfficacyofcommercialsoftcontactlensdisinfectantsolutionsagainstAcanthamoeba.JpnJOphthalmol55:547-557,20111702あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(40)

レンズケースの汚染とその対策

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1691.1696,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1691.1696,2011レンズケースの汚染とその対策CurrentStatusandPreventionofContactLensContamination稲葉昌丸*ICLケース汚染の現状コンタクトレンズ(CL)関連角膜感染症においてはCLケースの病原菌汚染の関与が疑われる例が多い.CL関連角膜感染症全国調査1)においても,CLケース内から検出された病原菌と,実際に角膜病巣から得られた病原菌がよく一致することが報告されている.機序としては,不適切なCLケアによってCLケース内が汚染され,そのケースに保存したCLに病原菌が付着して眼表面に移動し,感染を起こすという経路が考えられる(図1).CLケースの汚染には,CLケース内のケア用剤に浮遊する病原菌と,菌体やバイオフィルムの付着によるCLケース壁汚染の双方が関与する.浮遊菌は消毒剤に対しCLケースCL病原菌病原菌図1CLケース汚染とCL関連角膜感染症CLケース内の病原菌がCLを介して眼表面に侵入し,感染が起きる.て比較的脆弱であるが,付着菌に対しては,特にバイオフィルムを形成した場合は消毒剤が効きにくく2),多目的用剤による殺菌は困難になる.このためケア用品をある程度正しく使用していても,CLケースの汚染はかなり高率に発生する.ソフトCL(SCL)ケース汚染に関する過去の調査結果についてSzczotka-Flynnらがまとめたもの3)を図2に示す.12の調査のうち,3/4で50%以上の病原菌検出が報告されており,SCLケースの汚染がごく日常的に発生していることがわかる.国民生活センターによるわが国の調査4)でも,60%と同様の汚染率が報告されている.実際の角膜感染症発生率ははるかに低いから,SCLケCallenderetal.1986Donzisetal.1987Larkinetal.1990Wilsonetal.1990Fleiszigetal.1992Clarketal.1994Grayetal.1995Mayetal.1995Midelfartetal.1996Valasco1996Pensetal.2008(%)020406080100図2CLケース病原菌汚染調査の既報発表者・発表年と汚染率.過半数が50%以上の汚染率を報告している.Szczotka-Flynnら3)のデータをグラフ化.調査対象CLケース■:SCLケース,またはほとんどがSCLケース.■:SCLケース・HCLケース混在,または種類不明.■:HCLケース.*MasamaruInaba:稲葉眼科〔別刷請求先〕稲葉昌丸:〒530-0001大阪市北区梅田1-3-1大阪駅前第一ビル1F稲葉眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(29)1691 ースが汚染されていても,菌の濃度,病原性,眼表面の状態などの条件が揃わないと,簡単には感染が成立しないと考えられる.SCLケースに細菌などが常在し,さらにそれを栄養としてアカントアメーバや真菌が繁殖する状態になると,感染の危険性は高まる.そのようなケア不良の状況ではSCLにも汚れが生じ,角膜表面を傷害して感染の可能性を高めることにもなるであろう.角膜感染症につながる危険な状態を防ぐためには,SCLケースを清潔に保つことが必要である.かつては,SCLはすべて煮沸器によって消毒されていたため,SCLケースも同時に加熱消毒されていた.しかし,現在の化学消毒剤,特に最も多く使用されている多目的用剤の消毒力はあまり強くないため,SCLケース汚染が高率に発生すると考えられる.しかし,煮沸消毒時代の梶田らの報告5)においてもSCLケース内液の65%から細菌が検出されている.梶田らは,使用者の多くが毎日の煮沸消毒を励行しておらず,平均消毒間隔は9.5日に1回であったと報告している.煮沸消毒は,クリーナーによる洗浄,生理食塩水によるすすぎと,専用の煮沸器を使用する煩雑な操作であり,電源も必要であるため,励行されにくかったと考えられる.いかに強力な消毒手段であっても,簡単確実に行われる方法でない限り,CLケース汚染を防ぐことはできないのである.多目的用剤の場合,SCLに付着した液がそのまま眼表面に入るため,あまり強力な消毒剤は使用できない.多目的用剤には,こすり洗いと十分なすすぎを行った後に残存する,わずかな菌を消毒する程度の効果しか期待できず,脱後そのままSCLケースに入れるような使用方法では消毒効果が不足することになる.こすり洗い,すすぎの併用なしで消毒力試験をクリアした,スタンドアローン基準に適合するような強力な多目的用剤は,浮遊菌に対しては有効と考えられるが,それでも,菌量が多い場合,多目的用剤の保管が悪く薬効が低下した場合には,消毒不全になる可能性がある.また,こすり洗い,すすぎを行わず,SCLケア前の手洗いも不十分な状態があれば,SCLに付着した汚れや細菌がそのままSCLケース内に入り,ケース壁にバイオフィルムが形成される可能性があり,さらに消毒効果は落ちる.このような状態で,SCLケースのケアが不十分,あるいは多目的用剤の注ぎ足し使用などの条件が加わると,SCLケースの汚染は高度かつ常態化し,角膜感染症発生のおそれが生じる.IIコンプライアンス良好例におけるCLケース汚染では,CLおよびCLケースの管理が十分であれば,CLケースの汚染は生じないのであろうか.この点を明らかにするために,国内5処方施設において,2010年表1CLケース汚染調査参加施設の患者指導内容─下表の指導に従っていると考えられる患者のCLケースを調査対象とした─参加した調査施設における,CLおよびCLケースケアの指導内容CL種別SCLHCL過酸化用剤種別多目的用剤水素剤多目的用剤,過酸化水素剤共通CLを脱後CLを装用前装用前装用後の装用後のCL定期的に装用後の装用後の装用後のCL定期的にケア内容にこすり脱後ににCLをにCLをCLケースケースをCLケースCLケースCLケースケースをCLケース洗いするすすぐすすぐすすぐをすすぐ乾燥させるを交換するを空にするをすすぐ乾燥させるを交換する施設A○○○○○○○○○○△施設B○○○○○○○○○○○施設C○○○△○○○○○△△施設D○○○△○○○○○○○施設E○○○○○○○○○○○○:必ず指導している,△:時々指導している.1692あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(30) 4003503002502001501005002591798092■:男性:女性5834全CLSCLHCL図3CLケース調査回収結果数字は例数(回収したCLケースの個数).6月から10月にかけてCLケース調査を行った.対象は,各施設でCLおよびCLケース管理について十分な指導(表1)を受け,それを守っていると考えられるSCL,ハードCL(HCL)使用者のなかで,定期検査に訪れた際に異常が認められなかった者,つまり模範的で順調なCL使用者のみとした.条件に当てはまる使用者が使用しているCLケース351個を,使用中の状態のまま回収し,細菌培養検査,アカントアメーバ培養検査などを行った.結果を図3,4に示す.国民生活センターによる一般使用者を対象とした調査4)では,CLおよびCLケース385検体中2例において,アカントアメーバが培養検出されたが,今回の調査では培養検出例は351例中ゼロであった.細菌検出率もSzczotka-Flynnら3)のまとめに比較して明らかに低い水準であった.特にSCLケースからの細菌検出率は医学生を対象としたMidelfartらの調査結果6)と比肩するレベルであり,適切な患者指導(表1)を行うことによってCLケースの汚染を減少させ,角膜感染症を予防することが可能であることが示された.1.HCLケースとSCLケースここで興味深いのは図4に示したHCLとSCLのケース汚染率の違いである.SCLケースの真菌または細菌による汚染率が28.7%であるのに対し,HCLケースの汚染率は50.9%に達し,その差は統計的にも有意であった(c2検定,p=0.000).SCLの消毒は現在ほとんどすべて多目的用剤や過酸化水素剤,ポビドンヨード剤による化学消毒で行われており,消毒剤には原則として(31)400350300250:検出なし200■:真菌のみ検出■:細菌検出*15010050012264584426116956全CLSCLHCL図4CLケース調査の培養検査結果アカントアメーバの培養検出はなかった.数字は例数.*:細菌と真菌の同時検出例を含む.SCLケースが同梱されている.このため,SCLケースについては,消毒剤購入のたびに自動的に新しいケースに交換されることが,この差の大きな原因と考えられる.また,今回対象としたSCL使用者の内訳は,237例中2週間交換SCL使用者が217例,1カ月交換SCL使用者が17例,3カ月交換使用者が3例であり,いずれも頻回,あるいは定期交換SCLの使用者であった.このため,定期的なSCL交換と同時に,SCL処方のための定期的な通院が行われ,指導も適切に行われやすかったと考えられる.HCL使用者の場合,来院は不定期なことが多く,診察間隔も空きやすい.特に問題なければ1つのHCLケースを長期間使い続け,装用後のHCLケースのすすぎと乾燥などの指導も不十分になりやすい.CLケースそのものも,SCLケースと違ってHCL保持用の爪などをもつ複雑な構造となっており,指導どおりすすいで蓋をせずに乾燥させても,なかなか完全には乾きにくく,不潔になりやすい.また,HCL保存液はSCLと違って消毒液として試験を受け,承認された製品ではない.これらが,今回のHCLケースにみられた高い汚染率の原因と考えられる.それでもなお,HCL装用者にCL関連重症角膜感染症が発症しにくい事実1)は,CLによる角膜感染症発症の機序を考えるうえでたいへん興味深い.SCLと違ってHCLは角膜の一部しか覆わないこと,HCL装用時の涙液交換率はSCL装用時に比べてはるかに大きいことなどがかかわっていると考えられる.とはいえ,HCLケースに細菌または真菌による汚染が多いこと自体は問あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111693 題であるから,HCLの保存にも消毒作用をもったケア用品を使用することが望ましい.すでに,SCLの消毒剤成分であるポビドンヨード剤や,塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を含んだHCL保存液が市販されており,今後さらに普及するものと思われる.SCL消毒剤のように,保存液のパッケージに新品のHCLケースを同梱することが望ましいが,SCLケースと違って構造の複雑なHCLケースは製造原価が高く,保存液1本ごとに1個添付することはコスト的に困難かもしれない.しかし,HCL使用者の最大の問題は,トラブルが生ずるまで眼科を受診しない者が多いという点である.このため上記のような指導もなかなか徹底しにくい.HCL処方時やHCL装用者の受診時には,定期的な検査と指導を受けることの重要性を強調する必要がある.2.SCLの素材,消毒用剤による違いSCL素材は,シリコーンハイドロゲルと,hydroxyethylmethacrylate(HEMA)などの従来から使用されてきた素材の2つに分けることができる.シリコーンハイドロゲル素材のほうが細菌が付着しやすいという報告7)もあるが,今回の調査ではどちらの素材についても,SCLケース汚染率に有意な差は認められなかった(図5).SCLについては237例中211例が多目的用剤を使用しており,他に過酸化水素剤使用が18例,ケア用品の種別が不明なものが8例であった.使用している多目的用剤の内訳は,PHMBを成分とするものが112例,140:汚染なし■:汚染あり12010080604020040249380シリコーン従来素材ハイドロゲル(HEMAなど)図5SCL素材とCLケース汚染率SCL素材の違いによる汚染率の差は認められない.数字は例数.PolyquadRを成分とするものが85例,消毒成分が不明な多目的用剤が14例であったが,過酸化水素剤と多目的用剤,あるいは多目的用剤の消毒成分間で,SCLケースの細菌または真菌汚染度に差は認められなかった.今回のように,良好なCLおよびCLケースケアを指導されている使用者においては,どのSCL消毒剤も同様に有効であると考えられた.3.CLケースの乾燥と細菌・真菌汚染今回回収したCLケースは,その乾燥状態によって「完全に乾燥している」「液体は入っていないが不完全な乾燥状態であり,液滴が認められる」「液体が入っている」の3者に分類された.この分類による細菌または真菌による汚染率の違いを表2に示す.SCLケース,HCLケースともに液滴が認められる,不完全な乾燥状態のCLケースの汚染率が高く,HCLケースにおいては統計的にも有意であった.完全に乾燥させれば菌は死滅し,消毒液が満たされていればその部分では細菌,真菌が繁殖しにくいが,不完全な乾燥状態では乾燥による消毒,消毒液による消毒とも不完全になり,細菌,真菌が生存しやすいと考えられる.したがって,装用後のCLケースをすすいで空にし,蓋をせずに乾燥させるよう指示する際には,乾燥が完全に行われるよう,ティッシュペーパーなどで拭いてから乾燥させる,水の溜まりにくい高所や風通しの良い場所にCLケースを置く,CLケースを2個用意して交互に使用し,使用しないCLケースを十分に乾燥させるなどの指導,工夫が必要と考えられる.ティッシュペーパーなどで拭くことや蓋をせず置くことによって,逆に汚染が生ずる,落下細菌表2CLケースの乾燥状態による,細菌または真菌汚染率の違いCLケースのSCLケースHCLケース乾燥状態例数汚染率例数汚染率完全に乾燥している20827.9%6053.3%*不完全な乾燥(液滴を認める)1747.1%17,*76.5%**液体が入っている1216.7%3745.9%**不完全な乾燥状態のCLケースが最も汚染率が高い.*:分散分析にて有意差あり(p=0.002).**:分散分析にて有意差あり(p=0.004).1694あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(32) 表3検出された菌種SCLケースではグラム陽性球菌のCNS,HCLケースではグラム陰性桿菌のS.marcescensが最多だった.SCLケース,HCLケースからの検出菌種と例数SCLHCL菌種例数菌種例数CNS27S.marcescens17Bacillussubtilis17CNS13Micrococcus8A.xylosoxidans10GNF-GNR7Bacillussubtilis10Acinetobactersp.7Chryseobacteriumsp.6Steno.maltophilia7Micrococcus6P.putida5GNF-GNR5S.paucimobilis5Alcaligenesdenitrificans4S.marcescens3E.cloacae3Chryseobacteriumsp.3K.pneumoniae3A.xylosoxidans2P.fluorescens3Moraxellasp.2P.putida3P.vesicularis2Steno.maltophilia3C.acidovorans2K.oxytoca2E.cloacae1Acinetobactersp.2K.oxytoca1C.acidovorans2P.fluorescens1Chryseo.meningosepticum2P.stutzeri1E.aerogenes2Alcaligenesdenitrificans1Bacilluscereus2Chryseo.meningosepticum1Flavimonasoryzihabitans1E.aerogenes1Ochrobacteriumanthropi1Bacilluscereus1Oligellaurethralis1P.aeruginosa1P.vesicularis1S.paucimobilis1B.cepacia1Bacillussp.1CNS:coagulase-negativeStaphylococcus.GNF-GNR:ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌.が入るというおそれもあるが,十分に乾燥させればそれらは死滅すると考えられるから,確実な乾燥を優先して指導すべきである.4.検出菌種CLケースから検出された細菌の菌種を図6および表3に示す.SCLケース,HCLケースともにグラム陰性桿菌が最も多く,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)やMicrococcusなどの常在菌も多く認められた.環境菌と常在菌の混入がCLケース汚染の主体となっていると考えられる.緑膿菌の検出はHCLケースの1例のみで66.7%13.5%19.8%*49.1%17.9%33.0%*SCLケースHCLケース図6CLケース調査:検出された菌種SCLケース,HCLケースともにグラム陰性桿菌が多いが,SCLケースにはグラム陽性球菌が目立つ.数字は検出例中の%.*:c2検定にて有意差あり(p=0.011).■:グラム陰性桿菌,■:グラム陽性桿菌,■:グラム陽性球菌.あった(表3).SCLケースとHCLケースの比較では,SCLケースにグラム陽性球菌の検出が目立った(図6).今後,SCL,HCLの消毒剤を開発する際にはこのような状況を考慮する必要がある.ただし,今回調査対象としたCLケースは,使用者から一旦調査施設に郵送され,冷蔵保存された後に,細菌検査施設に送られたものであるから,ここに示した検査結果と実際に使用中のCLケース内の状況が異なる可能性もある.IIIまとめ今回の調査結果は表4のようにまとめることができるが,CL関連角膜感染症予防のためには,眼鏡併用の必要性を追記すべきである.就寝直前までCLを装用すると,そのまま寝てしまう,外した後のCLケアがいい加減になるなどのおそれがある.入浴時には不潔な水からCLに病原菌が付着する可能性もあるから,入浴前,遅くとも入浴直後にはCLを外し,確実なCLケアを行って,就寝前は眼鏡で過ごさせるべきである.また,眼鏡に慣れていないと,不調時にもCLを装用して合併症を表4CLケースの汚染率と各因子の関係・SCL素材,消毒剤の違いによる汚染率の差はない・HCLケースの汚染率はSCLケースより高い・乾燥不十分なCLケースは汚染率が高い・正しいCLケア,CLケースケアによって汚染率を下げることができる(33)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111695 悪化させるおそれがある.枕元に眼鏡を置いて寝れば,災害時にすばやく行動することもできる.CL,CLケースの正しいケアと同時に,日常生活に支障のない度数の眼鏡を持ち,毎日使用することがさまざまな意味でCL装用者には必要である.文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20112)工藤昌彦:レンズケアと感染症(バイオフィルム感染症).日コレ誌47:224-226,20053)Szczotka-FlynnLB,PearlmanEetal:Microbialcontaminationofcontactlenses,lenscaresolutions,andtheiraccessories:aliteraturereview.EyeContactLens36:116-129,20104)独立行政法人国民生活センター:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─.http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091216_1.pdf,報道発表資料平成21年12月16日,20095)梶田雅義,加藤桂一郎,小峯輝男:コンタクトレンズ装用者の追跡調査─細菌汚染を中心に─.日コレ誌27:197203,19856)MidelfartJ,MidelfartA,BevangerL:Microbialcontaminationofcontactlenscasesamongmedicalstudents.CLAOJ22:21-24,19967)BeattieTK,TomlinsonA,SealDV:Surfacetreatmentormaterialcharacteristic:thereasonforthehighlevelofacanthamoebaattachmenttosiliconehydrogelcontactlenses.EyeContactLens29:S40-S43,20031696あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(34)

シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1687.1689,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1687.1689,2011シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点KeyPointsofSiliconeHydrogelContactLensCare岩崎直樹*はじめにシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)を特徴づけるのは,高い酸素透過性と低い含水率,そして従来素材に比べより疎水性イコール親油性であることである.それ以外には,従来素材のソフトコンタクトレンズ(SCL)とケアにおいて特に変わりはない.本稿では,まずレンズケアの目的と基本手技について説明し,その後にSHCLの親油性からくる特別な問題としての化粧品との問題について触れたいと思う.ISCLケアを取り巻く環境最近のコンタクトレンズ(CL)学会の大きなトピックスは,SCLによる重症角膜感染症の増加である.2007年のCL学会と眼感染症学会の合同全国調査1)で,1年間で入院治療を必要とする重症例が226例231眼存在し,それをCLの種類別にすると,毎日使い捨てが7%,2週間交換型が55%,従来型が16%であった.同時期の装用者の母数は各社の売り上げなどから推計すると,毎日使い捨て:2週間交換型が4:6程度と考えられるので,それを考慮すると2週間交換型が,重症角膜感染症の圧倒的多数を占めることになる.眼障害全体でも,ケアが必要なSCL,すなわち従来型SCLと定期交換型(大多数は2週間交換型)SCLに頻発することは以前から知られている.この原因として,以前から指摘されていたMPS(多目的用剤)の消毒力の不十分さがクローズアップされてきている.そのうえ,MPSへの浸漬だけではなく,すすぎ洗い,こすり洗い,レンズケース交換などが重要であることが判明してきている.前述の合同全国調査ではSCLケアと使用期限とも守っている者が24%,守っていない者が76%であり,このように重症例ではケアが不十分な場合が多いことが判明した1).ここでは,よりよいレンズケアのために基本的な事項に立ち返り,まずケアの目的とそのための手段としてどのようなステップが必要かを考えることにする.IISCLケアの目的SCLケアの目的は,結膜.内で汚染されたSCLを,ケアによって元のきれいな状態に戻し,再使用に備えることである.そのためには物理的清潔さと生物学的清潔さを担保しなくてはならない.蛋白質,脂質やその他の異物を除去するのが物理的な清潔さであり,細菌,真菌,アカントアメーバなどの病原微生物を除去するのが生物学的清潔さである.そのためには,第一に眼表面に付いた汚れをこすり洗いとすすぎ洗いで物理的に清潔にすることである.第二にMPS浸漬とこすり洗いを併用して生物学的に清潔にすることである.第三として,レンズケース内でCLが汚染している可能性を考えて,ケースもすすぎ洗いと乾燥,そして1カ月をめどに定期交換することである.*NaokiIwasaki:イワサキ眼科医院〔別刷請求先〕岩崎直樹:〒542-0086大阪市中央区西心斎橋1-5-5アーバンBLD心斎橋3階イワサキ眼科医院0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(25)1687 IIISCLの居場所はどこにある?そこで考えたいのがSCLの居場所である.基本的にはSCLは角結膜上とレンズケースの中にしか長期には存在しない.StaphylococcusaureusやPropionibacteriumacnesのいる角結膜上で汚染されたレンズを,こすり洗いとすすぎ洗いを行いレンズケースに入れ,MPSでの浸漬を行う.レンズケースは水回りにあることが多く,そこにいるPseudomonasaeruginosaやセラチア菌に汚染される可能性がある.MPS自身の消毒力が弱いためそれらを完全に殺菌できないからである.また,それらを餌としてアカントアメーバが繁殖するのが最悪のシナリオである.その場合,SCLをケースから出した後,すすぎ洗いは必要である.また,細菌は乾燥させれ洗浄/消毒角結CL膜上ケース洗浄汚染(S.aureus,P.acnes)汚染(Pseudo.,Serratia)アカントアメーバ図1CLは二つの場所にしか居ない(文献2より)ば死滅するため,SCLを出した後のレンズケースは流水で洗浄し,乾燥させればよい.細菌を餌にするアカントアメーバも生育しないはずである.これらを概念図として考えると図1のようになる.IVSHCLのケア,ステップバイステップ以上の点を考慮に入れると,SHCLのケアには表1のようなステップが必要になる.これらがすべて必要なわけであるが,最低限としてはSCL脱後のこすり洗いとすすぎ洗い,レンズケースの流水による洗浄・乾燥と定期交換,そしてSCL装用前のすすぎ洗いを指導している.こすり洗いでの注意事項であるが,円を描くようにこすり洗いすると,SCLが捩れるため,図2の瞳孔領に表1SCLケアのステップバイステップ・まず手指の洗浄・SCL・外す→こすり洗い→すすぎ→保存・レンズケースから出す→すすぎ→装着・CLケース・ケース内の液を捨てる→流水ですすぎ→流水でこすり洗い→自然乾燥・月一度の交換(推奨)・MPS・開封後1カ月で使い切る(推奨)・アカントアメーバ角膜炎の患者では高率に汚染していた(文献2より)図2SHCLの微小な割れ(文献2より)図3輪状SPK1688あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(26) あるような微小な割れが惹起され,外すときに割れてしまう可能性がある.実際にレンズ破損をさせたユーザーにこすり方を聞いてみると,まず円を描いてこすり洗いしている.そこで手のひらで人差し指を横に動かすように一方向にこするよう指導する.また,MPSとSHCLの組み合わせにより,装用2時間後を最大として,6時間で消失する,輪状SPK(点状表層角膜炎)(図3)が起こることが知られている.主成分がPHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)のものに多いことが知られている3).できればレンズと同じくMPSも処方の一環と考え,患者には勝手に変更しないように指導しておきたい.また,そのためには,現用のケア用品が何であるかも問診時把握しておくようにスタッフ指導を行っている.ただし,装用者本人もケア用品が何かを知らないことが大多数である.これらはMPSを使用する場合の注意点であるが,最近消毒力の強さで過酸化水素やヨード剤による消毒が注目されている.中和方法が製品により異なるので,よく説明文書を読んでもらうこと,自院での説明でもかならず「消毒剤によるすすぎを行わず,滅菌保存液(すすぎ液)による装用前のすすぎを行うように」と注意することが必要である.当院では初めてSCLを装用する人はまず過酸化水素剤を使用して,中和が必要なより煩雑かと思われる方法でケアを立ち上がらせている.Vレンズケアに起因するトラブルの再発防止ケア不適切による眼障害を防ぐには,できれば毎回の診察時にこすり洗い・すすぎ洗い・レンズケースの洗浄/乾燥/交換を確認したいが,むずかしい場合はトラブル発生時やSCLの種類の変更時だけでも必ず確認したい.しかし,「煮沸消毒の昔から世界的に,ケアができない装用者は跡を絶たない」(稲葉昌丸先生の名言)という面もある.これだけ確認しても再発する患者に対しては,毎日使い捨てSCLや眼鏡への変更を指示するか,屈折矯正手術を勧めている.VISHCL特有の問題―化粧品SHCL装用者に装用中の曇り感を認めることは多い.脂質汚れを吸着しやすいSHCL特有の問題であり,アキュビューRアドバンスには多発する印象がある.最近の若い女性では「age嬢メイク」といわれる濃い化粧や,「インナーライン」と称するマイボーム腺開口部を塗りつぶすようなアイメイクがある.SHCLにはアイメイクや,化粧落としのクレンジングオイルが多量に付着することが,月山らの報告で明らかになっている4).それを防ぐには,まずSCLを触る前(外すとき,入れるとき両方)に石けんと流水でよく手を洗ってもらい,油分を取ることが大切であり,特にこれは男性でのSHCLの曇りの場合に多い.CLを外すときに,まず顔面や眼の廻りにクレンジングオイルを塗った後にSHCLを外してしまうと,曇らないはずがない.それを防ぐため,筆者は「レンズ・ファースト」を提唱している.CLを入れるときは,まずCLを装用してからメイクを行う.CLを外すときも,まずCLを外してからクレンジングなどの化粧落としを行う.「レンズ・ファースト」は覚えやすいので,月山先生も講演などで使用して下さっている.皆さんも使っていただければ幸いである.文献1)福田昌彦:コンタクトレンズ関連角膜感染症全国症例調査.あたらしい眼科26:1167-1171,20092)岩崎直樹:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズのレンズケア.日コレ誌,印刷中3)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20054)月山純子,宮本裕子,福田昌彦ほか:コンタクトレンズに対する化粧品とクレンジング剤の影響.日コレ誌52:100107,2010(27)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111689

ソフトコンタクトレンズケアの現状

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1681.1686,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1681.1686,2011ソフトコンタクトレンズケアの現状CurrentStateofSoftContactLensCare樋口裕彦*はじめにコンタクトレンズ(CL)装用者の増加とともに,わが国におけるCL装用が原因の眼障害は急速に増加してきた.ここ数年,発生頻度こそやっと頭打ちとなったようにみえるが,角膜潰瘍や角膜浸潤といった重篤な眼障害の割合は相変わらず高い1).特に近年,難治性で治療のために角膜移植まで必要となることがあるアカントアメーバ角膜炎などは,症例数の増加が報告2)されている.宇野らの報告3)では,2007年4月から2年間行われた,わが国における全1,155の日本眼科学会専門医制度認定研修施設中,224施設(19.4%)が参加した調査で,CL装用が原因と考えられる角膜感染症で入院加療を要した症例は350例に及んでいる.これらの症例のうち,3カ月後の矯正視力が判明している284例中158例(55.6%)で矯正視力は1.0未満であり,光覚なし1例を含む40例(14.1%)で矯正視力は0.1未満である.矯正視力不良の原因のすべてが,そのときに発生したCL装用による角膜感染症ではないとしても,単純計算をするとわが国では1年間に100人近くが,CL装用に伴う角膜感染症により,矯正視力0.1未満となっていることになる.これらの症例が装用していたCLの種類をみると,判明している327例中308例(94.2%)がソフトコンタクトレンズ(SCL)である.さらにその内訳を詳細に述べると,SCLのうち90%前後を頻回交換SCL(FRSCL)などのケアを要するSCLが占めている.わが国でのCL装用者の使用レンズ構成比4)を考慮しても,重篤な眼障害はハードコンタクトレンズ(HCL)装用者よりもSCL装用者,特にケアを要するSCL装用者に非常に多いことがわかる.CL装用による眼障害の原因のうち,レンズ側の要因として最大のものはレンズの汚れ1)であり,宇野らの報告3)でも重症角膜感染症を起こした症例のレンズケアの悪さが指摘されている.したがって,わが国におけるCL装用に伴う重篤な眼障害を減少させる最も有効な手段の一つは,ケアを要するSCL装用者に,確実で正確なレンズケアを実行してもらうことであると言っても過言ではない.では,わが国におけるSCL装用者のケアの現状は,どのようなものだろうか.わが国におけるSCL装用者のレンズケアの現状1.使用されているケア用品現在わが国で処方可能なSCLはすべて含水性素材で作られており,HCLに比べて細菌や真菌,アメーバなどの微生物に汚染されやすい.したがって,1日使い捨てSCLなど再装用を行わないレンズを除いては,装脱後必ず消毒を行わなければならない.消毒方法は大きく分類して煮沸消毒(加熱消毒)と化学消毒(コールド消毒)とに分けられ,コールド消毒には発売順に過酸化水素製剤,多目的用剤(multi-purposesolution:MPS),ポビドンヨード製剤の3種類がある.最も消毒力が強いのは煮沸消毒であるが,最近は*HirohikoHiguchi:ひぐち眼科〔別刷請求先〕樋口裕彦:〒180-0004東京都武蔵野市吉祥寺本町1-8-3ダイヤガイビル4Fひぐち眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(19)1681 その他6煮沸11不明33過酸化水素製剤116MPS632図1当院を初診したSCL装用者の使用ケア用品(n=798)MPSの使用者が632名と圧倒的に多い.煮沸消毒が適応とならないSCLが,市場に出回っているレンズの大部分を占めるようになってきているうえ,煮沸器が入手困難となってきたために,ほとんどのSCL装用者が化学消毒を行っているのが現状である.2004年5月.2011年4月までの7年間にひぐち眼科(以下,当院)を初診した,ケアを要するSCL装用者798名の使用ケア用品を図1に示す.消毒力では最も劣るMPSを使用している装用者が632名(79.2%)と圧倒的に多く,以下過酸化水素製剤116名(14.5%),煮沸11名(1.4%)の順である.煮沸消毒を行っている装用者は年々減少しており,この3年間では2名のみである.2009年に公表された国民生活センターの調査結果5)をみると,FRSCLを使用している385名の学生に対するアンケート調査結果では,335名(87.0%)がMPSをケア用品として使用しており,以下過酸化水素製剤37名(9.6%),ポビドンヨード製剤7名(1.8%)とやはりMPSを使用している学生が圧倒的に多い.2.SCLケアに必要なステップSCLケアに必要なステップは,1.レンズを取り扱う前の,石けんを使用した十分な手洗い,2.レンズのすすぎ(①眼球から装脱後,②レンズケースに保存する前,③レンズケースから取り出した後,眼球に装着する前),3.レンズの十分なこすり洗い,4.レンズの消毒,5.レンズケースの適切な管理(洗浄,乾燥,定期的な交換)6)である.現在MPSでは,筆者の知る限りほぼすべての製剤でこすり洗いをするよう明記されているが,消毒力が1682あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011比較的強いとされている過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤のなかには,こすり洗いが必要とは明記されていない製品も見受けられる.しかし,前述の国民生活センターの調査結果5)をみると,過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤においても,浸漬のみではアカントアメーバの2週齢シストに対する消毒力は十分とはいえず,実際に調査対象となった学生のケア用品からは,50%前後の確率で細菌が検出されている.したがってどの消毒剤を使用する場合でも,SCLをより安全に使用するためにはこすり洗いは必須であると筆者は考える.3.手洗いレンズを取り扱う前には,手指の汚れや微生物を除去することを目的として,石けんと流水を用いた手洗いが必要である.国民生活センターのアンケート5)では,対象となった385名の学生のうち,レンズケアを行う前に毎回石けんを用いて手洗いを行っていた学生は133名(34.5%)のみで,毎回水洗いはしていると答えた学生は130名(33.8%)である.両者を加えても,レンズケアを行う前に必ず手洗いを行っている学生は263名(68.3%)で,70%にも満たない.時々石けんで手を洗う,または時々水洗いをするという学生は合計で94名(24.4%)で,手洗いはしていないと答えた学生が28名(7.3%)も存在する.日本コンタクトレンズ協議会が行ったインターネットを利用したアンケート調査7)では,5,005名のFRSCLわからない,その他していない7.9%常に石けんなどで手洗い39.6%常に水で手洗い29.3%0.7%時々水で手洗い13.7%時々石けんなどで手洗い8.8%図2コンタクトレンズ協議会による装着脱前の手洗いに関するアンケート調査結果(n=5,005)少なくとも装着脱前に手洗いは必ずしているという装用者は70%に満たない.(20) 装用者のうち,装着時と装脱時に常に石けんで手洗いをしている装用者は39.6%で,常に水洗いはしているという装用者は29.3%である.両者を加えてもレンズの装着脱前に必ず手洗いを行っている装用者は68.9%であり,国民生活センターの調査とほぼ同様で,70%にも満たない.時々石けんで手を洗う,または時々水洗いをするという装用者は合計で22.5%で,手洗いはしていないと答えた装用者は7.9%も存在する(図2).以上示したごとく,わが国のSCL装用者のレンズ装着脱前の手洗いはきわめて不十分である.4.こすり洗い前述したように,いずれの製剤を用いたとしても,SCLに付着した汚れや病原微生物を物理的に減少させるためにこすり洗いは必須であるが,実際には使用製剤によってこすり洗いを行う装用者の割合は大きく異なる.そこで,当院を初診したケアを要するSCL装用者を,MPS使用者と過酸化水素製剤使用者に分けて,それぞれのこすり洗いの実施状況を示す.a.MPS使用者MPSを使用している装用者632名中,頻度や回数は一切問わず何らかの形でこすり洗いを行う習慣のある装用者は,560名(88.6%)であった.逆に,消毒力の劣るMPS使用者でも,72名(11.4%)はこすり洗いをまったく行っていなかった(図3).こすり洗いの内容について,メーカーの指定どおりに行った場合を100として,その使用法をスコア化(表1)して評価すると,全使用者の平均点はわずか40±32(n行っていない72行っている560図3当院を初診したMPS使用者がこすり洗いを行っていた割合(n=632)560名(88.6%)がこすり洗いを行っていた.(21)表1こすり洗い内容のスコア化(MPS)例)オプティフリーR使用者の実施状況評価(点)1)両面を20秒こすり洗い1002)片面を20秒こすり洗い503)両面を10秒こすり洗い504)片面を10秒こすり洗い255)こすり洗いなし0メーカー指定:掌の上でレンズの両面を各々20秒ほどこすり洗い.=628)であった.b.過酸化水素製剤使用者過酸化水素製剤を使用している装用者116名中,頻度や回数は一切問わず何らかの形でこすり洗いを行う習慣のある装用者はわずか29名(25.0%)であり,86名(74.1%)はこすり洗いをまったく行っていなかった.国民生活センターのアンケート5)では,ケア用品の種類にかかわらず,FRSCLを使用している学生385名のうち毎日こすり洗いを行っている学生は194名(50.4%)で,週4.6回行う学生67名(17.4%),週2.3回行う学生38名(9.9%),時々行う学生27名(7.0%)を加えると,こすり洗いを行う習慣のある学生は326名(84.7%)であった.逆にほとんど,またはまったくこすり洗いを行わない学生は合計で47名(12.2%)である.このうち,過酸化水素製剤を使用している37名についてみると,毎日こすり洗いを行っている学生から時々こすり洗いを行う学生までを含めても,レンズのこすり洗いを行う習慣のある学生はわずか13名(35.1%)しかいない.日本コンタクトレンズ協議会のアンケート調査7)では,FRSCL装用者でケア用品の種類にかかわらず,毎日こすり洗いを行っている装用者は54.8%であり,週4.6回7.8%,週2.3回4.2%,時々こすり洗いを行う10.8%を加えると,こすり洗いを行う習慣のある装用者は77.6%である.逆にほとんど,またはまったくこすり洗いを行わない装用者は合計で21.6%も存在する.5.レンズケースの管理(洗浄,乾燥,定期的な交換)CL装用に伴う角膜感染症の原因となる病原微生物のあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111683 汚染ルートは,2つあるといわれている8).一方はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeStaphylococci:CNS),アクネ菌などの結膜.常在菌であり,装用者の外眼部で汚染されるものである.もう一方は緑膿菌やセラチア属に代表される環境菌であり,CL保存時にレンズケース内で汚染されるものである.したがって,レンズケースを清潔に保つことは,SCL装用に伴う角膜感染症を減少させるために,きわめて重要な要素である.当院を初診したケアを要するSCL装用者のうち,MPS使用者と過酸化水素製剤使用者に分けて,それぞれのケース管理の実施状況を示す.a.MPS使用者MPSを使用している装用者632名中,頻度を問わずレンズケースの洗浄を行っていた者は506名(80.1%)で,行っていない者は122名(19.3%)であった(図4).レンズケースの乾燥を行っていた者は349名(55.2%),不明4行っていない122行っている506図4当院を初診したMPS使用者がレンズケースの洗浄を行っていた割合(n=632)レンズケースの洗浄を行っていた者は506名(80.1%)であった.行っていない行っている508不明5119行っていない者は279名(44.1%)であった(図5).レンズケースの交換を行っていた者は508名(80.4%)で,行っていない者は119名(18.8%)であった(図6).さらに,洗浄・乾燥・交換を全部行っていた者は半数以下の301名(47.6%)で,どれか1つ以上抜けている者は326名(51.6%)であった(図7).b.過酸化水素製剤使用者過酸化水素製剤を使用している装用者116名中,頻度を問わずレンズケースの洗浄を行っていた者は77名(66.4%)で,行っていない者は31名(26.7%)であった.レンズケースの乾燥を行っていた者は61名(52.6%)で,行っていない者は46名(39.7%)であった.レンズケースの交換を行っていた者は83名(71.6%)で,行っていない者は25名(21.6%)であった.さらに洗浄・乾燥・交換を全部行っていた者はMPS使用者と同様,半数以下の52名(44.8%)で,どれか1つ以上抜け不明4行っている349行っていない279図5当院を初診したMPS使用者がレンズケースの乾燥を行っていた割合(n=632)レンズケースの乾燥を行っていた者は349名(55.2%)であった.不明5全部行っている3011つ以上抜けている326図6当院を初診したMPS使用者がレンズケースの交換図7当院を初診したMPS使用者がレンズケースの洗浄・を行っていた割合(n=632)乾燥・交換の全部を行っていた割合(n=632)レンズケースの交換を行っていた者は508名(80.4%)でレンズケースの洗浄・乾燥・交換のすべてを行っていた者あった.は301名(47.6%)であった.1684あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(22) 不明6あまりできていないできていない7全部行って1つ以上いる269抜けている35754きちんとできているまあまあ188ほぼできている282できている201図8当院を初診したMPS使用者がレンズのこすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換の全部を行っていた割合(n=632)レンズのこすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換の全部を行っていた者は269名(42.6%)のみであった.ている者は55名(47.4%)であった.国民生活センターのアンケート5)では,ケア用品の種類にかかわらず,FRSCLを使用している学生385名のうち,レンズケースを3カ月以内ごとに交換している学生は128名(33.2%)で,6カ月以内ごと65名(16.9%)1年以内ごと10名(2.6%),不定期に127名(33.0%)(,)を加えても,レンズケースの交換を行う習慣のある学生は330名(85.7%)であった.逆にほとんど,またはまったく交換を行わない学生は合計で41名(10.7%)である.日本コンタクトレンズ協議会のアンケート調査7)では,FRSCL装用者でケア用品の種類にかかわらず,レンズケースを3カ月以内ごとに交換している装用者は36.9%で,6カ月以内ごと13.5%,1年以内ごと3.2%,不定期に30.7%を加えても,レンズケースの交換を行う習慣のある装用者は84.3%であった.逆にほとんど,またはまったく交換を行わない装用者は合計で14.0%である.最後に自験データで,こすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換のすべての項目を行っている装用者の頻度をMPS使用者,過酸化水素製剤使用者に分けて調べた.MPS使用者では,すべて行っている装用者は269名(42.6%)のみ(図8)で,357名(56.5%)は少なくともどれか1つ以上の項目を行っていなかった.さらに,こすり洗いの内容がメーカーの指定(表1)どおり(23)図9SCL装用者の自分のレンズケア内容に対する自己評価(n=732)91.7%の装用者が自分はケアができていると回答している.という条件を満たす装用者は,わずかに52名(8.2%)である.過酸化水素製剤使用者では,こすり洗いおよびレンズケースの洗浄・乾燥・交換のすべてを行っている装用者はわずか11名(9.5%)で,96名(82.8%)は少なくともどれか1つ以上の項目を行っていなかった.おわりにこれまで示してきたごとく,わが国のSCL装用者のケアの現状は,正しい方法からは程遠いものと言わざるを得ない.ここで,2004年5月.2011年4月までの7年間に当院を初診した,ケアを要するSCL装用者に1.きちんとできている,2.ほぼできている,3.まあまあできている,4.あまりできていない,5.できていないの5件法で,自分のレンズケア内容に対する自己評価を求めたアンケート結果(有効回答数732名)を図9に示す.実に671名(91.7%)が,自分はレンズケアができているとの自己評価を下している.わが国のケアを要するSCL装用者は,十分なケアができていないばかりでなく,そのことを認識すらしていないという事実が,もう一つの現状なのである.文献1)社団法人日本眼科医会医療対策部:コンタクトレンズによる眼障害アンケート調査の集計結果報告(平成22年度).日本の眼科82:983-987,20112)篠崎友治,宇野敏彦,原祐子ほか:最近11年間に経験したアカントアメーバ角膜炎28例の臨床的検討.あたらしい眼科27:680-686,20103)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111685 ズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20114)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌52:25-30,20105)独立行政法人国民生活センター:ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能─使用実態調査も踏まえて─.報道発表資料:1-32,20096)SweeneyD,HoldenB,EvansKetal:Bestpracticecontactlenscare:AreviewoftheAsiaPacificContactLensCareSummit.ClinExpOptom92:78-89,20097)日本コンタクトレンズ協議会:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,20108)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20061686あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(24)

ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1673.1680,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1673.1680,2011ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策HardContactLensCare植田喜一*柳井亮二**はじめにコンタクトレンズ(CL)は材質の面からハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)に分けられる.SCLは細菌や真菌などの微生物に汚染されやすいため,毎日の消毒が義務づけられている.日本では1972年にSCLが発売された際に,100℃で20分間の加熱消毒(煮沸消毒)が厚生労働省(旧厚生省)により定められたが,その後はコールド消毒(化学消毒)が普及した.具体的に述べると,1992年に過酸化水素を用いた消毒剤が,1995年に多目的用剤(multi-purposesolution:MPS)が,2001年にはポビドンヨードを用いた消毒剤が発売された.一方,HCLは消毒が義務づけられていない.これは日本の水道水が衛生的に管理されていることが故である.そうでない諸外国ではHCLの化学消毒剤が普及している1).CLによる眼障害のなかで最も問題になるのが角膜感染症である.日本コンタクトレンズ学会と日本眼感染症学会による入院を要するCL関連角膜感染症の調査報告によると,2週間頻回交換SCLとMPSによるものが多いが,HCLによるものもある2).HCLは微生物が付着しにくいため汚染されにくいが,ケアが不適切だとHCLであっても感染症をひき起こす.本稿では,HCLのケアの問題点とその対策を述べるが,特に感染症の対策について詳しく解説する.なお,HCLには酸素を透過しないポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のレンズと,酸素を透過するガス透過性ハードコンタクトレンズ(RGPCL)があるが,現在はほとんどがRGPCLであるため,以下はRGPCLについて述べることにする.IHCLのケアの実際基本的に「洗浄→すすぎ→保存」の3つの操作があるが,定期的あるいは必要に応じて蛋白除去などの強力洗浄を行う3.5).1.洗浄洗浄はCLに付着した汚れや微生物の除去を目的に,こすり洗いとつけおき洗浄に大別される.洗浄法としては,(1)界面活性剤を含有した洗浄剤によるこすり洗いと定期的あるいは必要に応じた強力洗浄つけおき洗浄こすり洗い図1つけおき洗浄とこすり洗いの効果レンズの汚れはつけおき洗浄では除去できなかったが,こすり洗いをすると除去できた.*KiichiUeda:ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学**RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(11)1673 abc図2表面処理を施しているRGPCLに対するこすり洗いと研磨a:新品のRGPCL.b:研磨剤を含有した洗浄剤でこすり洗いをすると水濡れ性が低下する.c:研磨を行うとさらに水濡れ性が低下する.(詳細は後述)(2)界面活性剤を含有した洗浄保存剤に酵素を数滴添加(,)するつけおき洗浄(2液システム),(3)界面活性剤を含有した洗浄保存剤に酵素を混合したつけおき洗浄(1液タイプ)がある.こすり洗いに比して,つけおき洗浄の洗浄効果は明らかに劣っている(図1).レンズに汚れが付着しやすい症例に対しては,つけおき洗浄からこすり洗いを行う製品に変更するとよい.こすり洗いのとき,あまり力を加えるとレンズの変形や破損を生じるので,ガス透過性の高いレンズでは特に注意を要する.洗浄剤には研磨剤を含むものと含まないものとがある.表面処理を施しているレンズには研磨剤を含む洗浄剤は使用できない(図2).汚れのひどいときには強力洗浄を併用するよう指導する.2.強力洗浄毎日洗浄を行っていても,レンズに汚れが付着することがある.この汚れを除去するために定期的あるいは汚れのひどいときに行う3.5).酵素(蛋白分解酵素,脂肪分解酵素)の顆粒または錠剤あるいは塩素系洗浄剤(次亜塩素酸)を使用する.これらの成分が直接眼の中に入ると角結膜障害を生じる危険があるので,使用後は水道水で十分にレンズをすすぐことが大切である.3.すすぎすすぎはCLから遊離した汚れや微生物のほか,洗浄や保存で使用した薬剤を洗い流すことを目的としてい1674あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011る.HCLでは大量の水道水ですすぎ洗いをする3.5).4.保存保存は洗浄後のレンズを衛生的に保つだけでなく,レンズの物性を維持することを目的としている.PMMA製のHCLは乾燥した状態でケースに保管しても構わないが,RGPCLは水濡れ性が悪く,汚れやすいため,保存液または洗浄保存液中にレンズを保管する.ただし,界面活性剤,酵素あるいは蛋白質や脂肪の分解産物によって角結膜障害を生じることがあるので,装用前に水道水でレンズをすすぐ必要がある3.5).また,溶液中に長期間保管すると微生物による溶液の汚染やレンズの規格変化が生じやすいため,RGPCLであっても長期間保管する場合は乾燥状態で保管するほうがよい.5.CL装着液レンズの水濡れ性が悪い場合にはpolyvinylalcohol(PVA)などを主成分としたCL装着液を使用する.6.研磨市販の洗浄剤で除去できない汚れに対しては,レンズの研磨を行うことがある.ただし,表面処理を施してあるレンズやガス透過性の高いレンズの場合は,研磨が行えない場合がある(図2).IIHCLによる感染角膜上皮の欠損部から微生物が侵入して増殖すると,角膜感染症が発生する.硬い素材であるHCLは機械的(12) 図3HCL装用者のアカントアメーバ角膜炎刺激などによる角膜上皮障害が生じやすい.HCLに微生物が付着していると,HCLを介して角膜感染症がひき起こる.HCL使用者は,角膜上皮障害が生じると異物感や眼痛のため,無理な装用はせずに,医療機関を早く受診するので重篤化しないことが多いが,ときとして難治性の角膜感染症を生じることがある(図3).こうした患者のHCLのケアについて詳しく調べると,いくつかの問題点がみえてくる.1.手指の洗浄レンズケアではケア用品ばかりが注目されるが,ケアのなかで最も基本的なことは手洗いである.手洗いは手指についた汚れだけでなく,微生物も除去する.したがって,石けんで十分に手指を洗うことが大切である.手洗いをした後に不潔なものに触れては元も子もない.手が触れた蛇口,レンズケース本体やケア用品のボトルなどは不潔である.たとえば,HCLの装着にあたって,レンズケースの中のHCLを取り出すときは,手を洗った後にレンズケース本体からレンズの蓋をはずしてHCLに触れるのではなく,レンズケース本体からレンズの蓋をはずした状態で手洗いをして,HCLに触れるように細心の注意を払う.2.レンズケアと化粧化粧品がHCLに付着すると,なかなか落ちにくい.研磨剤含有の洗浄剤でこすり洗いをすると除去できるが,研磨剤を含まない洗浄剤では不十分で,つけおき洗浄ではほとんど効果はない6)(図4).化粧品などの脂質による汚れが付着した場合には,イソプロピルアルコールを含有する洗浄剤で洗浄するとよい.HCL用として(13)洗浄前洗浄後研磨剤含有洗浄液(ボシュロムスーパークリーナー強力こすり洗いタイプ)のこすり洗い研磨剤非含有洗浄液(ボシュロムスーパークリーナーアドバンスタイプ)のこすり洗い研磨剤非含有洗浄液(シードジェルクリン)のこすり洗い2液型洗浄保存液(メニコンO2ケア,プロテオフ)のつけおき洗浄1液型洗浄保存液(メニコンO2ケアミルファfresh)のつけおき洗浄2液型洗浄保存液(ヨード剤,株式会社オフテクスバイオクレンRO2セプトTM)のつけおき洗浄図4化粧品(リキッドアイライナー)に対する洗浄効果は株式会社シードのジェルクリンがある.SCL用ではあるが,チバビジョン株式会社のミラフローRも効果的である.レンズを触った後に化粧をするように指導する.具体的には,レンズを装着した後に化粧をする.化粧を落とす前にレンズをはずしてケアを行う.3.HCLの洗浄とすすぎHCLに付着した微生物を除去する最も有効な方法は,物理的に落とすこと(こすり洗いとすすぎ)である.こすり洗いには,手のひら洗浄と指先洗浄(3本指洗浄)がある6).a.手のひら洗浄①利き手と反対の手のひらに凹みをつくり,その上にレンズの内面(凹面)を上にして置く.②洗浄剤を数滴,レンズに滴下する.③レンズの内面(凹面)を人差し指の腹で軽く押さえながら前後に動かして,30回こすり洗いをするあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111675 abab図5HCLのこすり洗いa:手のひら洗浄,b:3本指洗浄.(図5a).b.指先洗浄(3本指洗浄)①利き手の人差し指,中指を揃え,その指の間にレンズの内面(凹面)を上にして置く.②洗浄剤を数滴,レンズに滴下する.③レンズの内面(凹面)を親指で,レンズの外面(凸面)を人差し指と中指で30回こすり洗いをする(図5b).手のひら洗浄ではレンズの外面(凸面)の汚れは除去されやすいが,内面(凹面)の汚れがとれにくい.一方,指先洗浄(3本指洗浄)ではレンズの内面(凹面)の汚れは除去されやすいが,外面(凸面)の汚れがとれにくい.したがって,手のひら洗浄と3本指洗浄を併用すると効果的である.円錐角膜用の多段階カーブレンズやオルソケラトロジーレンズなどのレンズ内面(凹面)が複雑な形状をしているものでは,その移行部に汚れが付着しやすい.こうした汚れを除去するには,洗浄剤を浸した綿棒を用いてこすり洗いをするとよい.ガス透過性の高いレンズは,変形,破損,損傷が起こりやすいので,こすり洗いにあたっては洗浄剤を泡立て,レンズをやさしくこすり洗いする.こすり洗いは,レンズをはずしてレンズケースを保存するときだけでなく,レンズケースからレンズを取り出して角膜上に接着する前にも行う(1日2回).4.レンズケースの管理どんなに手やHCLを清潔にしたとしても,保存するレンズケースが微生物に汚染していると意味がない.レンズケースの具体的な管理法を以下に記す.レンズケースは自宅用と外出時携帯用の2つを使用する6).自宅用ケースはHCLをはずした後の保存用として使用する.外出時携帯用ケースは,HCLの調子が悪いときなどにはずした際に使用する.a.自宅用レンズケース①レンズを装着した後は,必ず保存液をすべて捨てる(つぎ足し防止).②レンズケースをケース本体(1つ),レンズホルダー(2つ),レンズキャップ(2つ)の5つのパーツに分ける(図6).③綿棒やブラシを用いて,ケース本体,レンズホルダー,レンズキャップを水道水できれいに洗浄する.ケース本体のねじ山もしっかりこすり洗いする.図6レンズケースのこすり洗い,すすぎ,自然乾燥レンズケースは5つのパーツに分けて,こすり洗い,すすぎを行った後に自然乾燥させる.1676あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(14) ④5つのパーツを水道水でしっかりすすぐ.⑤5つのパーツに付着した水分を十分に振り落とす.⑥5つのパーツを清潔なトレイなどの上に離して乗せて,自然乾燥させる.トレイは,水がかからない清潔な場所に置く(水回りには置かない).⑦HCLを装脱した後はレンズケースに保存する.この際,まず5つのパーツを組み立てたレンズケースを水道水できれいに洗浄した後,レンズケース本体に保存液を注入して,キャップホルダーにHCLを収め,レンズキャップをしっかり閉める.b.外出時携帯用レンズケース①HCL装用後にレンズケース内に保存液を入れて持ち歩く.②帰宅後はレンズケース内の保存液をすべて捨てる(つぎ足し防止).その他の操作は自宅用レンズケースと同様である.レンズケースは外見上きれいに見えても,微生物に汚染されている可能性が高いので,3カ月に1回定期的に交換する.SCL用の消毒剤(MPS,過酸化水素製剤,ポビドンヨード製剤)にはレンズケースがついているので,SCL使用者は定期的に交換するようになるが,HCL用のケア用品には株式会社オフテクスのO2セプトTM以外はレンズケースがついていないため,交換していない者が多い.レンズケースの使用期間を確認して指導する.【HCL装用者のレンズケアに関するアンケート調査】HCL装用者41名にレンズケアに関するアンケート調査を行った結果を記す7).(1)試験前に使用していたケア用品の種類こすり洗いタイプが34%,1本つけ置きタイプが39%,2本つけ置きタイプが27%と,洗浄効果の弱いつけおき洗浄をしている者が多かった.(2)レンズケースの交換期間1カ月が5%,3カ月が12%,6カ月が27%,1年以上が56%と,レンズケースを長期間使用している者が多かった.(3)レンズケースの自然乾燥毎回のケアの後のレンズケースについて,自然乾燥しているが54%で,乾燥していないが46%と,自然乾燥していない者が半数近くいた.(4)レンズケースの置き場所ケア処理中のレンズケースの置き場所は,洗面所が86%,台所が8%,風呂場が2%,自分の部屋が2%,その他が2%と,水回りにレンズケースを置いている者が多かった.【レンズケース内のバイオフィルム】細菌が産生する菌体外多糖体(glycocalyx)が粘液状の鎧をつくり,その中で菌がコロニーを形成した状態をバイオフィルムという8).菌にとって不都合な環境下においても生き残るための一種のストレス応答と考えら外部環境から微生物がケース内に侵入する浮遊菌付着菌微生物が拡散するレンズケース微生物がケースに付着するコロニーを形成するバイオフィルムを産生する図7レンズケース中のバイオフィルム(イメージ図)細菌自体が産生する菌体外多糖体(glycocalyx)が粘液状の「鎧」をつくり,その中で菌がコロニーを形成する.HCLのケースホルダー部分の光学顕微鏡ホルダー部分の電子顕微鏡ホルダー部分の電子顕微鏡図8レンズケース中のバイオフィルム(聖マリアンナ医科大学工藤昌之氏提供)(15)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111677 れる.HCLでは消毒が義務づけられていないので,レンズケース内の保存液が微生物に汚染されやすいことに加えて,HCL装用者は長期間レンズケースを使用していることが多いので,バイオフィルムの形成が起こりやすい(図7,8).バイオフィルムがいったん形成されると,除去することはむずかしいので,日頃から上述したようにレンズケースをきれいに洗浄して,自然乾燥させ,3カ月ごとに交換することが大切である.レンズケース中の保存液に増殖している菌(浮遊菌)については,平岡らは2010年の第34回角膜カンファランスで,レンズケース内の残存液について細菌の分離培養を行ったところ,残存液では20例中10例(50%)に細菌が同定されたと報告しているが,バイオフィルム感染症のことを考えるとレンズケースの壁に付着した細菌(付着菌)についての分離培養を行う必要がある.【抗菌効果を謳っているケア用品】HCL装用者41名が使用しているレンズケースを回収して,保存液とレンズケースの壁やレンズホルダー部分を拭き取った検査用スラブ綿球を4mlの生理食塩水に浸漬したものを検体として微生物検査を行った結果と,抗菌機能を謳っている3種類の市販HCL用ケア用剤の効果を検討した結果を以下に記す7).3種類のケア用剤は,SCLの化学消毒剤の一つであるMPSの主成分として使用されるポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含む製品(メニコン社の抗菌O2ケアネオR),同じくSCLの化学消毒剤の主成分として使用されるポビドンヨードを含む製品(株式会社オフテクスのO2セプトTM),こうしたものを含有しない製品(アイミー株式会社ワンオーケアR)である.(1)これまで使用していたケア用品の微生物学的検査レンズケースの保存液中の浮遊菌は41例中11例が陽性(26.8%)に対してレンズケースなどの付着菌は41例中14例が陽性(34.1%)で,ブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌,腸内細菌属,緑膿菌属などの環境菌を検出した(表1).菌種の同定結果から,陽性群では眼感染症のリスクの高い環境菌が1検体中で複数検出されたものが多かったのに対し,陰性群ではほぼ常在菌しか検出されず,環境菌が検出されたのは1検体のみであった.(2)試験ケア用品の微生物学的検査レンズケースの保存液中の浮遊菌は40例中9例が陽性(22.5%)に対して,レンズケースなどの付着菌は40表1これまでに使用していたケア用品の微生物学的検査(n=41)微生物汚染〔総検出菌数検体主な検出菌種(cfu/mlまたはケース)〕保存液レンズケース陽性(103以上)1114Pseudomonassp.SerratiamarcescensChryseobacteriumsp.StenotrophomonasmaltophiliaComamonasacidovoransEnterobactercloacaeMicrococcussp.StaphylococcuswarneriCNS陰性(0.103未満)3027Micrococcussp.StaphylococcuswarneriStaphylococcusepidermidisCNSPseudomonasfluorescens検出菌数が103以上(cfu/mlまたはケース)を陽性,103未満(cfu/mlまたはケース)を陰性とする.(宮永嘉隆:ソフトコンタクトレンズ用化学消毒液BL-49の臨床評価.日コレ誌38:258-273,1996より)1678あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(16) 表2試験ケア用品の微生物学的検査微生物汚染〔総検出菌数(cfu/mlまたはケース)〕検体主な検出菌種保存液レンズケース陽性(103以上.)921CitrobacterfreundiiPseudomonasputidePseudomonasfluorescensブドウ糖非発酵性グラム陰性桿菌EnterobacteriaceaeCNSMicrococcussp.Staphylococcussaprophyticus陰性(0.103未満)3119PseudomonasputideKlebsiellapneumoniaeSerratialiquefaciensStaphylococcusepidermidisStaphylococcuswarneriStaphylococcuscapitisMicrococcussp.表3試験ケア用品ごとの微生物学的検査項目3カ月試験後Fisher検定(p値)vsO2セプトTM陽性陰性陽性率(%)O2セプトTM保存液31715.0─レンズケース71335.0─抗菌O2ケアネオR保存液0100.0p=0.561レンズケース7370.0p=0.154ワンオーケアR保存液6460.0p=0.037*レンズケース7370.0p=0.154例中21例が陽性(52.5%)で,既ケア用品使用時より陽性率が増加した.検出された菌類は既ケア用品使用時と同様に陽性群では眼感染症のリスクの高い環境菌が,陰性群では常在菌が検出される割合が高かった(表2).試験ケア用品ごとの微生物学的検査の結果を表3に示す.ポビドンヨードを含むケア用品を使用した(株式会社オフテクスのO2セプトTM)場合は,レンズケースの陽性率が低い傾向が認められた.PHMBを含むケア用品(メニコン社の抗菌O2ケアネオR)を使用した場合は,保存液に菌は認められなかったが,ケースの陽性率は高かった.以上の結果より,ポビドンヨードやPHMBを含むケ(17)*有意差あり(p<0.05).ア用品のほうがレンズケース内の微生物汚染は少なくなるが,これらによる消毒効果は完全ではないので,微生物の除去を考えると,十分なこすり洗いとすすぎが重要である.おわりにレンズケアに関連した角膜感染症が増えている.SCLに比べてHCLによる角膜感染症は少ないが,アカントアメーバの微生物による感染症の報告もあることから,HCLの取り扱いにあたっても十分に注意を払う必要がある.洗浄効果の高い洗浄剤によるこすり洗いとすすぎが重あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111679 要であるが,HCL装用後レンズケースに保存する前だけでなく,レンズケースから取り出してHCLを装用する前の,合わせて1日2回のこすり洗い,すすぎを推奨したい.レンズケースのバイオフィルム感染症が問題になっていることから,レンズケースの管理についても使用者に教育指導する必要がある.日本ではHCLについては消毒という操作は義務づけられていないが,微生物汚染を防ぐという観点から,消毒剤を使用するに越したことはないと考える.現在,PHMBとポビドンヨードを含有したHCL用のケア用品が市販されたが,こうした製品開発が進むことを願う.一方,概してユーザーはケア用品について無関心で,正しいケアを行っていないことが多い.医療機関で説明を受けたケア用品を当初は使用していても,その後は薬局,薬店,ドラッグストアなどで安価なほかのケア用品を購入していることが多い.商品が変わると取り扱いが異なる場合があるが,添付文書を熟読していないため,誤ったケアをしていることがある.説明したケア用品を継続して使用していたとしても,慣れてくるといい加減なケアをしていることもあるので,定期検査に来たときにはケアの具体的な方法を聴取して,不適正であれば再指導することも大切である.稿を終えるにあたり,多大なご協力を賜りました㈱オフテクスの斉藤文郎氏と山崎勝秀氏に心から謝意を表します.文献1)谷川定康:ケア用品の海外事情(ハードコンタクトレンズ).日コレ誌48:251-255,20062)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,20113)植田喜一:コンタクトレンズケアの実際.あたらしい眼科17:935-944,20004)植田喜一:日本におけるレンズケアの現状.日コレ誌45:219-225,20035)植田喜一:コンタクトレンズ診療ガイドライン第3章CLケア(「ⅣCLケアの実際:SCLのケア」を除く).日眼会誌109:645-646,20056)水谷聡:ハードコンタクトレンズのケア.日コレ誌53:129-135,20117)植田喜一:ハードコンタクトレンズの微生物汚染.日眼会誌114:898,20108)工藤昌之:レンズケースとバイオフィルム.眼科診療プラクティス94:115,20031680あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(18)

安全性を優先したコンタクトレンズのケア

2011年12月30日 金曜日

特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1665.1671,2011特集●コンタクトレンズケアを見直すあたらしい眼科28(12):1665.1671,2011安全性を優先したコンタクトレンズのケアContactLensCarewithPriorityonSafety糸井素純*はじめに近年,国内外でコンプライアンス不良が原因となった角膜感染症が問題となっている.コンプライアンス不良には,“誤ったレンズケア”,“定期検査を受けない”,“装用期間を守らない”などさまざまな原因が含まれるが,そのなかでも最も注目すべきは“誤ったレンズケア”である.コンタクトレンズ(CL)装用者の初診患者にレンズケアについて詳細に問診を行うと,ほとんどのCL装用者は何らかの“誤ったレンズケア”を行っている.これらの多くのCL装用者は意図的に“誤ったレンズケア”を行っているのではなく,間違って理解したり,忘れてしまったり,指導が不十分なことが原因である.日本でも定期検査を受けないで,インターネットでCLを購入する人が急速に増えており,その結果として,正しいレンズケアをできない人は確実に増えている.CL装用者自身は“正しいレンズケア”と思っている場合でも,実は“誤ったレンズケア”であるということも少なくない.レンズケア用品の外箱,容器,添付文書やCLの取扱説明書に記載されているレンズケア方法が,いわゆる“メーカーの指定するレンズケア方法”であるが,メーカーごとに少しずつ異なり,100%安全なレンズケアとは言い難い.海外ではここ数年で消毒剤に対する考え方が大きく変わった.以前は多目的用剤(multipurposesolution:MPS)の多くは“こすり洗い不要”として販売されていたが,こすり洗いの必要性が強調されるようになり,その他にもさまざまな注意点が喚起されるようになった1).本稿では,メーカーの指定するレンズケア方法の問題点と安全性を優先したレンズケア方法について解説する.Iメーカーの指定するレンズケア方法の問題点1.『こすり洗い不要』ハードコンタクトレンズ(HCL)のレンズケアのステップには洗浄,保存,蛋白除去のステップがあり,レンズケア用品としては専用洗浄液,保存液,洗浄保存液,液体酵素剤,強力蛋白除去,酵素洗浄保存液が販売されている.近年,液体酵素剤,酵素洗浄保存液が普及したこともあり,多くのHCLのメーカーの指定するレンズケアでは,“こすり洗い不要”を謳っている.しかし,つけおき洗浄はこすり洗いよりも洗浄効果が劣るため(図1),レンズの汚れが原因となるCLトラブルも年々増えてきている.ソフトコンタクトレンズ(SCL)のレンズケアのステップには洗浄,保存,すすぎ,消毒があり,1カ月以上使用するレンズでは原則として蛋白除去が必要となる.レンズケア用品としては,専用洗浄液,保存液,消毒剤,蛋白除去剤があり,消毒剤としてはMPS,過酸化水素剤,ヨード剤の3種類がある.現在主流となっているMPSは,日本では“こすり洗い不要”を謳っている製品は販売されていないが,つぎに多く使用されている過酸化水素剤においては製品の外箱,容器,添付文書にこすり洗いの必要性の記述がない.そのため多くの過*MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院〔別刷請求先〕糸井素純:〒150-0043東京都渋谷区道玄坂1丁目10番19号糸井ビル1F道玄坂糸井眼科医院0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(3)1665 酸化水素剤のユーザーはこすり洗いを行っていない.そのため過酸化水素剤ユーザーのCLトラブルは,レンズの汚れに関連したものが多い.こすり洗いこすり洗い人工的蛋白汚れ(研磨剤入りクリーナー)(研磨剤含まないクリーナー)こすり洗い(洗浄保存液)つけおき洗浄(2液タイプ)つけおき洗浄(1液タイプ)図1人工的蛋白汚れに対する各種洗浄方法の洗浄効果の比較図2汚染されたHCLのレンズケース図3汚染されたSCLのレンズケース2.『レンズケースから取り出したCLをそのまま装用します』近年,レンズケースの微生物汚染が問題となっている(図2,3).2009年の国民生活センターの報告では,MPS使用者の61.5%,過酸化水素使用者の45.9%のレンズケースで細菌汚染が確認された2).稲葉らは,コンプライアンス良好のものでもSCL装用者の26.6%でレンズケースの微生物汚染があったと報告(第115回日本眼科学会発表,2011)している.この結果から,CL装用者のレンズケースの汚染は非常に高率であり,正しいレンズケアを指導することにより,レンズケースの汚染の頻度は減少するが,ゼロにすることは不可能であることが確認された.メーカーが指定しているレンズケア方法ではレンズケースに繁殖した微生物がCLを介して,眼表面に移行し,角膜感染症を招く可能性が非常に高くなる.3.『消毒剤を開封したら,すみやかに使用してください』角膜感染症の原因として消毒剤のボトル自体の汚染が問題となっている.香港の大学生101名のSCL装用者の調査では11%で消毒剤のボトル内の溶液が汚染されていたと報告している3).平成15年3月に国民生活センターは開封直後,開封2週間後,開封4週間後の各種消毒剤の消毒性能を比較し,実際の使用状況を想定した負荷系ではMPSの消毒性能は開封後より徐々に落ちていき,4週間後にはほとんど消毒効果がなくなってしまうものもあった.特にボトル内の残量が毎日の抜き取りにより少なくなる2.4週間の間に消毒性能が大きく落ちる傾向にあったと報告している4).容器内の細菌汚染は,重症の角膜感染症に直結する.消毒剤を含めほとんどのレンズケア用品は開封後の使用期限が明確に設定されていない.そのため,溶液がなくなるまで使用する人がほとんどである.3カ月を超えて同じボトルのものを使い続けている人も少なくない.II海外の状況海外でもレンズケアに起因する角膜感染症が大きな問題となっている.メーカーが指定しているレンズケア方1666あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(4) 法では角膜感染症の発症を予防できないと海外でも考えられるようになっている.そのためDeborahSweeneyらは,メーカーの指定するレンズケア方法と違う安全なレンズケア方法のガイドラインを報告した1).このガイドラインではレンズケアの一つひとつのステップについて,注意点が詳細に記載されている.今回記載した安全性を優先したCLのケアもそれを参考にしている.唯一,大きく異なる点は,水道水に対する考え方である.日本では認可上,HCLは水道水ですすぐことになっているが,海外ではHCLであっても水道水の使用は厳禁である.これは日本と海外の水道水の事情が異なることに起因すると考える.CL装用者の多くはレンズケア用品に記載されたレンズケア方法を行っている.安全なレンズケアを周知徹底させるためにはレンズケア製品のラベリングが重要となる.2010年8月に米国のTheCenterforDevicesandRadiologicalHealth(CDRH)からレンズケアの業界,食品医薬品局(FDA)職員へのガイダンスとして,レンズケア製品のラベリングに関する新しい指針が発表された5).現段階ではレンズケアメーカーの抵抗もあるようだが,内容は非常に良いものとなっている.一部,日本でなじまないと考えられるものもあるが,日本でもこれにおおむね準拠する必要があると考える.レンズケアの業界およびFDA職員へのガイダンスの概要.CLケア用品の表示について.1)レンズケア用品の外箱,容器,添付文書に関するガイダンス2)レンズのこすり洗いとすすぎが重要である.MPSにおいては“こすり洗い不要”の表示はしてはならない.3)装用直前にもう一度,レンズをすすぐ.このことについてはボトルに表示する.4)こすり洗いとすすぎは具体的な秒数を表示する.5)MPSにおいてはlubricating(なめらか),あるいは,rewetting(潤い)の表示はしてはならない.6)MPSの再使用と継ぎ足しの禁止を表示する.7)毎回新しいMPSを使用することを表示する.8)すすぎや保存に水道水を使用してはならない.9)レンズケースは毎日,すすいで乾燥させる.水道水ですすいではならない.10)レンズケースを定期的に交換する.具体的な交換期間を表示する.11)開封後の具体的な使用期限を表示する.12)正しく使わなかったときのリスクを強調するために,眼感染症の写真を製品に表示する.III安全性を優先したCLのケアのポイント1.こすり洗いHCLおよびSCLともに,こすり洗いは,欠かせないレンズケアのステップである.指先でCLをこすることにより,眼の分泌物である蛋白質や脂質を落とし,微生物も1,000分の1程度に減らすことができ,消毒効果も期待できる6).「こすり洗い不要」と表記したつけおき洗浄製品が販売されているが,実際にはこすり洗いを併用しないと洗浄効果は著しく低下する.現在日本で発売されている過酸化水素による消毒剤汚れたSCL過酸化水素消毒剤に浸漬後クリーナーによるこすり洗い後図4過酸化水素消毒剤とクリーナーの洗浄効果の比較浸漬するだけでは汚れは落ちなかったが,クリーナーでこすり洗いをすることにより汚れがきれいに落ちた.(5)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111667 は,認可のうえでは,こすり洗いは必要とされていないが,平成15年3月の国民生活センターはSCL用の消毒剤のつけおきによる洗浄効果は,過酸化水素のほうがMPSよりも勝るが,いずれの消毒剤よりも,単に生理的食塩水によるこすり洗いのほうが消毒剤のつけおき洗浄効果よりも勝ることを報告している4).その後,MPSのみならず,過酸化水素による消毒剤においてもこすり洗いの必要性(図4)が強調されるようになった.2.装用前のすすぎが最後の砦.装用前にこすり洗いをしてすすぐことが理想前述したように,レンズケースの微生物汚染をゼロにすることは不可能である.それでは,どのようにしたらCLによる角膜感染症を減らすことができるか?レンズケース内でのCLの微生物汚染を前提にレンズケア方法を考えなくてはならない.レンズケースからCLを取り出し,装着する直前に,CLに付着した微生物を除去することが重要で,そのためには,装用直前のすすぎが最後の砦となる(図5).できれば,レンズケースから取り出したCLは,SCLでは装用直前にMPSあるいは滅菌保存液(すすぎ液)でこすり洗いをして,しっかりとすすいでから装用し,HCLでは専用洗浄液あるいは洗浄保存液でこすり洗いをして,水道水でしっかりすすいでから装用すれば,CLによる眼の感染症を予防することが可能となる.3.MPSにおける開封後の使用期限は1カ月とするMPSはSCL用の消毒剤であるが,溶液自体が眼の表面に接触することを前提としており,消毒力もそれほど強いものではない.日本感染症学会のホームページをみると,院内感染対策講習会の項目(http://www.kansensho.or.jp/sisetunai/kosyu/qa02.html)で,消毒剤の開封後の使用期限について述べている.そのなかで低濃度の希釈製剤は汚染を受けやすく,2.3週間で使い切るのがよいと記載されている.2011年日本コンタクトレンズ学会で植田は,角膜感染症が疑われた症例の9症例のうち3症例でボトル内の残留溶剤から細菌が検出されたと報告(第54回日本コンタクトレンズ学会総会発表,2011)している.当院の症例でも重篤な角膜感染症の症1668あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011図5装用直前のCLのすすぎ眼の安全を守るための最後の砦となる.図6角膜感染症患者から回収したMPSボトル内からグラム陰性桿菌が検出された.例が使用していたMPSのボトル(図6)内の残留溶剤から細菌汚染が確認された.安全にSCLを使用するためには,消毒剤の容器内の細菌汚染の可能性を考えて,開封後の使用期限を明確に設ける必要がある.眼科領域以外の消毒剤の開封後の使用期限をそのままSCL用の消毒剤に当てはめることはできないが,これまでの臨床データ,基礎データを併せて考慮すると,筆者はMPSの開封後の使用期限は1カ月が妥当ではないかと考えている.IV安全性を優先したCLのケアの具体的な方法CLを安全に使用するためのケアの3つのポイントについて述べたが,実際には3つのポイント以外にもさまざまな注意が必要である.ここでは安全性を優先した(6) CLのケアをレンズの種類別に具体的に述べる.1.HCLのケア1)CLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い(図7),流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.2)はずしたレンズは水道水ですすぎ,つぎに清潔な手のひらにHCLをレンズの内側を上にして置き,専用洗浄液(クリーナー)を数滴たらして,レンズの両面を各々40回ずつこすり洗いする(図8).3)CLの両面を水道水で十分にすすぐ.4)清潔なレンズケースに洗浄保存液を満たし,液体酵素剤を1.2滴滴下し,レンズを保存する.5)CLを装着するときには専用洗浄液あるいは洗浄保存液でこすり洗いをし,十分にすすぐ.6)CL装着後は,レンズケースを洗って,自然乾燥させる.7)レンズケースは3.6カ月ごとに交換する.8)レンズケースからレンズを取り出した後の液は捨て,毎日,新しい洗浄保存液を使用する.9)容器のキャップ部分を清潔に保つこと.容器のキャップ部分がレンズケースや液面,CLや指先などに触れないように注意する.使用後のキャップはきちんと閉める.10)レンズケース,レンズケア用品は清潔な場所に保管する.2.SCLのケア(MPS)1)CLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い(図7),流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.2)はずしたレンズはMPSですすぎ,つぎに清潔な手のひらにSCLを置き,MPSを数滴たらして,レンズの両面を各々20秒ほどこすり洗いする(図9).3)CLの両面をMPSで十分にすすぐ.4)清潔なレンズケースにMPSを満たし,レンズをMPSに指定された時間以上浸しておく.5)CLを装着するときにはMPSでこすり洗いをし,図7CLを扱う前の手洗いCLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い,流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.図8HCLのこすり洗い図9SCLのこすり洗い(7)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111669 十分にすすぐ(図5).6)CL装着後は,レンズケースを洗って,自然乾燥させる.7)レンズケースを1カ月ごとに交換する.8)開封後1カ月を目安に使用し,それ以上過ぎたものは使用しない.9)MPSを他の容器に詰め替えない.10)レンズケースからレンズを取り出した後の液は捨て,毎日,新しいMPSを使用する.11)容器のキャップ部分を清潔に保つ.容器のキャップ部分がレンズケースや液面,CLや指先などに触れないように注意する.使用後のキャップはきちんと閉める.12)レンズケース,レンズケア用品は清潔な場所に保管する.3.SCLのケア(過酸化水素)1)CLを取り扱う前は必ず手指を石けんで洗い(図7),流水(水道水)でよくすすぎ,清潔なペーパータオルやタオルで水気を拭き取る.2)はずしたレンズは滅菌保存液(すすぎ液)ですすぎ,つぎに清潔な手のひらにSCLを置き,滅菌保存液(すすぎ液)を数滴たらして,レンズの両面を各々20秒ほどこすり洗いする(図9).3)CLの両面を滅菌保存液(すすぎ液)で十分にすすぐ.4)指定された専用レンズケースにレンズを入れ,消毒剤(過酸化水素)を満たし,指定された方法で,消毒,中和を行う.製品ごとに消毒,中和方法は異なり,消毒後に中和を行うもの,消毒と中和を同時に行うものがある.5)CLを装着するときには滅菌保存液(すすぎ液)でこすり洗いをし,十分にすすぐ.6)CL装着後は,レンズケースを洗って,自然乾燥させておく.7)レンズケースを1.3カ月ごとに交換する.8)消毒剤(過酸化水素)は開封後3カ月を目安に使用し,それ以上過ぎたものは使用しない.9)滅菌保存液(すすぎ液)は開封後1カ月を目安に1670あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011使用し,それ以上過ぎたものは使用しない.10)消毒剤(過酸化水素)や滅菌保存液(すすぎ液)を他の容器に詰め替えない.11)レンズケースからレンズを取り出した後の液は捨て,毎日,新しい消毒剤(過酸化水素)を使用する.12)容器のキャップ部分を清潔に保つ.容器のキャップ部分がレンズケースや液面,CLや指先などに触れないように注意する.使用後のキャップはきちんと閉める.13)レンズケース,レンズケア用品は清潔な場所に保管する.おわりにCLを安全に装用するためにはレンズケアを正しく行わなければならない.しかし,現状ではメーカーの指定するレンズケア方法は,安全性を優先したレンズケアとはいえない.CLを処方する医師,CLやレンズケア製品を販売する販売店は,メーカーの指定するレンズケア方法にかかわらず,CL装用者の眼の安全を守らなければならない.そのためには安全性を優先したレンズケアを指導していただきたい.一方,CLを医師の処方を受けないでインターネット,通信販売で購入し,CLトラブルに遭う人が年々,増えてきている.購入時にレンズケア方法の指導がされていないために,とんでもない使用方法でケアしている人達が非常に多い.取扱説明書に記載されているメーカーの指定するレンズケアすらできていない人が非常に多い.レンズケア用品を購入時に,取り扱い説明書でレンズケア方法を確認していなかったり,内容を忘れてしまったりするためと考える.レンズケアメーカーにはCL装用者が毎回,使用方法の確認ができるように,レンズケアの重要な項目は容器に直接わかりやすいように大きな文字で記載していただきたい.文献1)SweeneyD,HoldenB,EvansKetal:Guidelines.Bestpracticecontactlenscare.Areviewoftheasiapacificcontactlenscaresummit.ClinExpOptom92:78-89,20092)独立行政法人国民生活センター:ソフトコンタクトレンズ(8) 用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能.使用実態調査も踏まえて.平成21年12月16日3)YungMS,BoostM,ChoPetal:Microbialcontaminationofcontactlensandlenscareaccessoriesofsoftcontactlenswearers(universitystudents)inHongKong.OphthalPhysiolOpt27:11-21,20074)独立行政法人国民生活センター:「ソフトコンタクトレンズ」の衛生状態等について調べる.ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のテストも加えて.平成15年3月5)TheCenterforDevicesandRadiologicalHealth(CDRH):GuidanceforIndustryandFDAStaff:ContactLensCareProductLabeling:August15,20106)糸井素純,水谷聡,針谷明美ほか:コンタクトレンズの洗浄.日コレ誌42:41-47,2000(9)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111671

序説:コンタクトレンズケアを見直す

2011年12月30日 金曜日

●序説あたらしい眼科28(12):1663.1664,2011●序説あたらしい眼科28(12):1663.1664,2011コンタクトレンズケアを見直すContactwithImprovedLensCare大橋裕一*糸井素純**コンタクトレンズの歴史は,ロマンで語れば,ルネッサンスの昔に行われたレオナルド・ダ・ヴィンチの水槽実験に,実践面で語れば,19世紀後半,Fickによるガラス製強角膜レンズの装用実体験に始まる.その後,「角膜組織への酸素供給」という至上命題と闘うなかで,ハードコンタクトレンズ,ソフトコンタクトレンズが相次いで生み出され,現在では,そのハイブリッドともいえるシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズが登場し,大きなシェアを占めつつある.他方,遠近両用や乱視矯正などの特殊機能レンズや,1日使い捨てから定期交換型,そして従来型までの多様な装用形態も生み出され,個々のユーザーの生活様式に合わせたフレキシブルな処方が可能な時代となっている.このなかで,2週間交換型や1カ月交換型に代表される頻回あるいは定期交換型レンズでは,快適かつ安全な装用のために,日々の着実なレンズケアは不可欠である.たとえ,眼科専門医で処方されたコンタクトレンズであっても,不適切なレンズケアによってレンズが汚れていたりすると,快適な装用はもはや望めなくなり,一方で重篤な眼障害のリスクも高まる.2000年代の半ば頃より,アカントアメーバと緑膿菌を二大病原体とする重症のコンタクトレンズ関連角膜感染症が急増し,大きな社会的問題となったのは周知のとおりであるが,上述した「悪循環」の考え方を裏付けるように,感染症の患者はレンズケアの不良な頻回交換ソフトコンタクトレンズとMPS(多目的用剤:multi-purposesolution)の使用者に頻発した.それから数年,眼科医によるレンズケア指導の徹底,マスメディアでの啓発,製品への注意喚起文の記載などが後押ししたのか,感染症の発生も少しずつ下火になってきているようであるが,何事にも油断は禁物である.そこで,今回,「コンタクトレンズケアを見直す」と題し,正しいレンズケアを普及させることの重要性を改めて伝えることを目的にこの特集を企画した.ここでは,レンズケアの基本原理を復習するとともに,先のoutbreakを契機に明らかとなったいくつかのエビデンスも紹介したいと思う.まずは,編者の一人(糸井素純)から,「安全性を優先したコンタクトレンズのケア」というタイトルで,本特集の基調メッセージを発信している.お読みになればおわかりのように,「装用後のこすり洗い」,「装用前のすすぎ」,「消毒剤開封後の速やかな使用」が,リスクを最小限にとどめるレンズケアのキーポイントである.引き続いて各論に移り,植田喜一先生には「ハードコンタクトレンズのケアの問題点とその対策(ハードコンタクトレンズのレンズケースの管理を含めて)」,樋口裕彦先生には「ソフトコンタクトレンズ*YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)**MotozumiItoi:道玄坂糸井眼科医院0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(1)1663 ケアの現状」,岩崎直樹先生には「シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対するレンズケアの注意点」というテーマで,個々のレンズが抱えるレンズケアの課題について解説していただいた.植田先生からは,消毒操作が義務づけられていないハードレンズにおいても重篤な障害が発生する可能性があるため,「洗浄」と「こすり洗い」,「すすぎ」が重要である点,樋口先生からは,ソフトコンタクトレンズケアの大半が消毒力の劣るMPSで行われている現状のなかで,手洗いを怠るようなユーザーやレンズケースへ気配りのないユーザーがいまだ多くみられる点,岩崎先生からは,女性に特有の化粧品(アイメイク,ファウンデーション)のレンズ付着が意外に厄介な問題で,「レンズ・ファースト」の考え方をユーザーに植え付ける必要がある点などが指摘された.さらに,コンタクトレンズを取り巻く環境因子として,レンズケースと消毒剤を採り上げ,稲葉昌丸先生には「レンズケースの汚染とその対策」,白石敦先生には「コンタクトレンズ消毒法の変遷と課題」について解説していただいた.稲葉先生からは,コンプライアンスの良好なユーザーでもレンズケースの汚染は避けられないため,地道なレンズケースのケアが欠かせないこと,白石先生からは,1日使い捨てレンズへの完全移行が望めないなか,MPSの消毒力不足を補う意味での教育指導の重要性が強調された.最後に,最も重篤な合併症である角膜感染症については,「角膜感染症からみたレンズケアの問題点」というタイトルで,宇野敏彦先生にスペシャリストの立場から解説していただき,レンズケース内の汚染がこうした感染症の温床であり,患者の不良なケア実態がそれを助長していることが示された.さて,コンタクトレンズユーザーは千差万別,実にさまざまなキャラクターの方がおられる.したがって,眼科医として,使用コンタクトレンズの種類,汚れの質と程度,ユーザーの性格などを考慮しつつ,それぞれのユーザーに適したレンズケアを選択,指導していく必要がある.「正しいコンタクトレンズのケア」とは,個々のコンタクトレンズ使用者が安全かつ快適に使い続けることができるレンズケアである.その人に合った「正しいレンズケア」を一緒にみつけることができれば,継続実行していくことも容易となるであろう.他方,消毒剤の主力であるMPSの認可基準の見直しは急務である.最近,複数の消毒剤を組み合わせた合剤MPSが相次いで登場し,アカントアメーバを含む病原体に比較的良好な効果が確認されている.わが国での認可が待たれるところであるが,その一方で,ハードコンタクトレンズの有用性を見直すとともに,コンタクトレンズの装用形態を1日使い捨てへと積極的にシフトさせていくような議論が必要だと考える.1664あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(2)

県立静岡がんセンターにおけるアイバンクの現状と取り組み

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1655.1657,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1655.1657,2011c柏木広哉*1大坂嶽*2小熊由美*3穂積雅子*4堀田喜裕*4*1県立静岡がんセンター眼科*2県立静岡がんセンター緩和医療科*3県立静岡がんセンター看護部*4公益財団法人静岡県アイバンクPresentSituationandActionsofEyeBankinPrefecturalShizuokaCancerCenterHiroyaKashiwagi1),IwaoOsaka2),YumiOguma3),MasakoHozumi4)andYoshihiroHotta4)1)DivisionofOphthalmology,ShizuokaCancerCenter,2)DivisionofPalliativeMedicine,ShizuokaCancerCenter,3)DivisionofNurse,ShizuokaCancerCenter,4)ShizuokaEyeBankわが国におけるアイバンクの眼球摘出に関しての現状報告はほとんどない.今回,県立静岡がんセンターにおけるアイバンクの眼球摘出の取り組みについて報告する.症例は,2002年9月から2010年3月までの7年7カ月間の33例で,男性24例,女性9例であった.年齢は37歳から94歳で,平均年齢は67.0歳であった.摘出までの時間は,0.7から8.9時間で平均時間2.6時間であった.眼球摘出時の採血は,鎖骨下静脈から行っているが,1例のみ鼠径部静脈から行った.摘出時の合併症は,出血が2例3眼あった.そのうち1例2眼では,摘出後の止血に大変苦慮した.TherearefewreportsregardingtheenucleationprocessemployedinJapaneseeyebanks.Inthispaper,wereportontheenucleationtechniqueusedintheeyebankintheShizuokaCancerCenter,whereenucleationwasperformedin33individuals(24males,9females)betweenSeptember2002andMarch2010(91months).Averageageoftheindividualswas67.0years(range:37.94years).Enucleationtimerangedfrom0.7to8.9hours(averagetime:2.6hours).Bloodwasdrawnfromasubclavianveininallcasesexceptone(agroinvein).Asforcomplicationsatthetimeofextraction,3eyes(2cases)sufferedbleeding.Severebleedingafterenucleationwasobservedin2ofthoseeyes(onecase).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1655.1657,2011〕Keywords:県立静岡がんセンター,静岡アイバンク,眼球摘出,出血,献眼者.ShizuokaCancerCenter,ShizuokaEyeBank,enucleation,bleeding,donor.はじめに静岡アイバンクの献眼者数は2008年度162件,2009年度121件と,日本で1,2位を争う献眼数である.県内での摘出担当医は地区によって当番制になっている.摘出眼球は,摘出場所により順天堂静岡病院(伊豆の国市),静岡県立総合病院(静岡市),浜松医科大学(浜松市)に移送され,強角膜切片が作製される.県立静岡がんセンター(以下,本院)は静岡県東部(三島)に位置し,病床数は535床で,眼科常勤医は筆者(H.K.)1名のみである.献眼数の特に多い地域のがんセンターとして,どのようにアイバンクの活動を行っていくのか苦慮するところである.今回,2002年9月の本院開院時から2010年3月までの7年7カ月間で,筆者(H.K.)が院内で眼球摘出した33例について,後ろ向きに検討して若干の知見を得たので報告する.I対象および方法2002年9月の本院開院時から2010年3月までの7年7カ月間に筆者(H.K.)が院内で眼球摘出した33例を対象とした.本院での眼球摘出の方法について述べる.無影灯,サイドテーブルを準備.ベット頭部の柵をはずし壁とのスペースを開け,高さを上げておく.合掌,採血が必要な場合は鎖骨下静脈から採血,合掌,孔布をかけ,右眼に開瞼器をかけて輪部球結膜を全周切開する.4直筋を切断(外直筋をやや長く眼球側に残す),斜筋を切断.外直筋にモスキートペアンをかけ,眼球を内転し視神経剪刃で視神経を切断する.摘出〔別刷請求先〕柏木広哉:〒411-8777静岡県駿東郡長泉町下長窪1007県立静岡がんセンター眼科Reprintrequests:HiroyaKashiwagi,DivisionofOphthalmology,ShizuokaCancerCenter,1007Shimonagakubo,Nagaizumicho,Sunto-gun,Shizuoka-ken411-8777,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)1655 した眼球は眼球保存容器に入れ,無防腐剤の抗菌点眼薬を適下する.眼窩部をガーゼで数分圧迫の後,脱脂綿を挿入し義眼を挿入する.つぎに左眼を同様に処置する.最後に両眼上下眼瞼に5-0黒ナイロン糸をかけ閉瞼する(縫合は1,2針).担当看護師による顔部の確認,遺族による顔部の確認を得てから合掌する.器具類を片付ける,採血管,眼球容器を病棟の冷蔵庫に保管する.摘出報告書の記入,静岡県アイバンクに電話連絡を行う.採血管は検査会社SRL担当者が,眼球は移送ボランティアに渡す.事前に感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,TPHA(梅毒トレポネマ血球凝集反応),RPR(梅毒定性検査)〕がチェックされていない場合には鎖骨下静脈から採血を施行する.した眼球は眼球保存容器に入れ,無防腐剤の抗菌点眼薬を適下する.眼窩部をガーゼで数分圧迫の後,脱脂綿を挿入し義眼を挿入する.つぎに左眼を同様に処置する.最後に両眼上下眼瞼に5-0黒ナイロン糸をかけ閉瞼する(縫合は1,2針).担当看護師による顔部の確認,遺族による顔部の確認を得てから合掌する.器具類を片付ける,採血管,眼球容器を病棟の冷蔵庫に保管する.摘出報告書の記入,静岡県アイバンクに電話連絡を行う.採血管は検査会社SRL担当者が,眼球は移送ボランティアに渡す.事前に感染症〔HBs(B型肝炎表面)抗原,HCV(C型肝炎ウイルス)抗体,HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)-1抗体,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗体,TPHA(梅毒トレポネマ血球凝集反応),RPR(梅毒定性検査)〕がチェックされていない場合には鎖骨下静脈から採血を施行する.は37歳から94歳で,60代から80代が多く,平均年齢は67.0歳であった(図1).原疾患は肺癌9例,胃癌7例,大腸癌4例,膵臓癌2例,その他11例(表1)であった.摘出場所は,緩和病棟18例,一般病棟15例(1例は救急外来から一般病棟に移送している).アイバンクの登録が事前確認されていたのが17例,未確認だったのは16例であった.年度別摘出数は2.7件で(図2),摘出は平日21例,休日10例,時間帯は深夜から朝が11例,日中が14例,夕方から深夜が8例であった(図3).摘出までの時間は0.7から8.9時間で平均2.6時間であった(図4).遺族の顔部の修正依頼は3例であった.それぞれ,「眼瞼10987献眼者数6献眼者は,男性24例,女性9例と男性が多かった.年齢543210020022003200420052006200720082009918:男性:女性76献眼者数図2県立静岡がんセンター眼科における年度別献眼者数54316142121男性:女性=26:8,平均年齢:67.0歳.42表1疾患別献眼者の内訳00時~9時9時~17時17時~24時原因疾患男性女性計図3県立静岡がんセンター眼科における摘出時間帯と摘出数肺癌819胃癌61714大腸癌31413膵臓癌11212食道癌1011110十二指腸癌101910860摘出数30代40代50代60代70代80代90代図1年齢別献眼者数8摘出数胆.癌1017尿管癌1016後腹壁癌1015中咽頭癌1014乳癌01123卵巣癌0111皮膚悪性黒色腫01100~11~22~33~44~55~66~77~88~9口腔底癌011時間時間時間時間時間時間時間時間時間頬粘膜癌011図4県立静岡がんセンターにおける眼球摘出までの時間計24933平均時間2時間38分.1656あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(144) をきつく閉瞼して欲しい」,「両眼を薄目を開けるようにして欲しい」,「上眼瞼のふくらみを出して欲しい」という要望があった.修正後に3例すべてで了承を得られた.1例のみ鎖骨下から採血不可能なことがあり,鼠径部から施行した.眼球摘出後の出血は,2例3眼に認められた.1眼は眼球摘出後に片眼に少量の出血を認めたが,圧迫で止血した.もう1例(2眼)は,病状が急変し外来に搬送され,救急処置室で死亡した症例である.処置は病室に移送し30分後に行った.摘出時にはまったく出血がなく,ご家族による顔部の確認の後,体位移動の際に両眼から大出血した.10分以上の圧迫で止血を確認し,再度義眼を挿入したが,体位移動時に再出血した.左眼は視神経が確認できたため,眼動脈を3-0絹糸で縫合した.右眼はさらに数時間の圧迫止血後酸化セルロース(可吸収性創腔充.止血薬:サージセルをきつく閉瞼して欲しい」,「両眼を薄目を開けるようにして欲しい」,「上眼瞼のふくらみを出して欲しい」という要望があった.修正後に3例すべてで了承を得られた.1例のみ鎖骨下から採血不可能なことがあり,鼠径部から施行した.眼球摘出後の出血は,2例3眼に認められた.1眼は眼球摘出後に片眼に少量の出血を認めたが,圧迫で止血した.もう1例(2眼)は,病状が急変し外来に搬送され,救急処置室で死亡した症例である.処置は病室に移送し30分後に行った.摘出時にはまったく出血がなく,ご家族による顔部の確認の後,体位移動の際に両眼から大出血した.10分以上の圧迫で止血を確認し,再度義眼を挿入したが,体位移動時に再出血した.左眼は視神経が確認できたため,眼動脈を3-0絹糸で縫合した.右眼はさらに数時間の圧迫止血後酸化セルロース(可吸収性創腔充.止血薬:サージセル)を挿入して,その上に脱脂綿,義眼を挿入してようやく止血した.III考按アイバンクの眼球摘出についての現状報告は少ない1,2).男性に多い傾向,眼球提供者の年齢分布,9時から17時の時間帯に摘出が多い結果は,過去の報告とよく一致していた.摘出までの時間が短いのは,院内で摘出することによると考える.眼処置中の問題点として,摘出前の採血部位の選択,摘出後の眼瞼などの状態,眼球摘出術中や,術後の出血などがあげられる.摘出前の採血では,鎖骨下静脈が無理な場合が1例あり,鼠径部静脈を選択した.心臓から採血という方法はあるものの,出血汚染の危険性や遺体の尊厳などを考えると,どうしても鼠径部が無理な場合の最終段階として心臓を選択すべきと考えた.遺族が処置後の眼部に違和感をもつことは大きな問題の一つであり,最善の注意が必要である.3例修正の要望があった後,担当看護師に確認し,眼部の状態(特に眼瞼部のふくらみ)が生前と異なっていないかを確認している.今回の検討では,眼球摘出後の大出血を1例経験して大変苦慮した.この症例は,全身に数カ所出血斑があり,Disseminatedintravascularcoagulation(DIC)を起こしていた可能性が否定できない.視神経が発見できるならば眼動脈の結紮が有効であるが,発見不可能な場合には,酸化セルロースの挿入が有効なこともある.出血が多い場合,眼瞼浮腫や皮下出血などにより顔面の状態が変化し3),遺族および摘出医師に少なからず心痛を加える原因にもなる.眼球摘出を行わないマイクロケラトロンの導入も今後検討すべき点かもしれない.その他の問題点として,突然にアイバンク登録が判明した場合,眼科診療,病棟業務などに混乱が生じることがある.そのためにDNR(DoNotResuscitate:積極的延命処置を行わない)を承諾の際,アイバンク登録の有無を確認することの是非の検討がなされたが,遺族の対応もさまざまであるという観点から見送りとなっている.アイバンクでは啓蒙活動が重要である1)ため,院内での講演会や勉強会を行っている.さらに,ドナー発生時の対応マニュアルを看護師長と作成し,電子カルテに登用して情報を広めている.本院は他県出身者も多いので情報提供は有効であると考えている.また,献眼希望者に対しては,本院のよろず相談窓口でもアイバンクのパンフレットをお渡ししている.こうした取り組みは一方で,患者遺族の理解を深め,献眼時のトラブル防止につながる可能性があると考えている.わが国では献眼者の多いアイバンクや,病院は少なくないが,たった一人の常勤医がこれだけ多数の眼球摘出に携わることはあまりない.澤2)は,眼球摘出と眼科医の労働条件の問題点を指摘している.本院のような一人体制での眼球摘出は,肉体的,精神的,時間的にかなり厳しい.手術,学会などが原因で,どうしても対応ができない症例は,今回の対象に含めなかったが4例あった.こうした場合には,近隣の医師の協力を得た(沼津市立病院2回,順天堂静岡病院1回,開業医1回.静岡県では眼科常勤医がいる病院で献眼者が出た場合には,その医師が眼球摘出を担当することになっており,開業医も当番制で対応している).時として長時間の手術中に呼び出された場合には,待たせる側,待たされる側にかなりのストレスとなる.献眼者数が有数の静岡県にある,数少ないがんセンター眼科という特異な環境で,アイバンクの眼球摘出をトラブルなく行うために,院内の関連部署および静岡県アイバンク協会と連携していきたい.この報告は第34回角膜カンファレンス(仙台)でポスター発表した.文献1)村上晶,小野浩一:順天堂アイバンクにおける献眼状況の分析.順天堂医学50:380-382,20002)澤充:アイバンク活動の現状と展望.日本の眼科77:11-14,20063)篠崎尚史,浅水健志:アイバンクへの提供角膜に対するリスク管理について教えてください.あたらしい眼科22(臨増):83-85,2005***(145)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111657