あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110070910-1810/11/\100/頁/JCOPYソーシャルメディアの可能性インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.医療情報も,文書や動画などのさまざまな形態で,インターネット上に氾濫するようになりました.一人の医師が,インターネット上の医療情報から何かのコツを得て,実際の臨床の現場で患者に還元することができれば,インターネットは医療水準の向上に寄与したことになります.情報の流れは,DatabaseからBedsideへ伝わって,デジタルな情報がアナログな医療行為に変換されます.この流れは,従来は専門書・教科書が果たしていた役割を,インターネットが代替できることを意味します.加えて,インターネットはその先の力をもちます.臨床現場で得られた情報がインターネット上に再び投稿されることで,医療情報がBedsideからDatabaseへ還元されます.アナログな経験がデジタル情報に置換されます.新しく更新され続ける医療情報が世界の誰かの医療を動かし,医療水準が向上し続ける,この双方向性と可塑性は,専門書がもたない力です.インターネット上の医療情報が,医師からの情報発信によって更新され続け,臨床現場に還元される現象を,Medical2.0とよびます1).Medical2.0は,ユーザーが主体となって発信するWeb2.0の医療版です.医療のプロフェショナルである医師が情報発信の担い手になる点が特徴です.投稿される情報の希少性,有用性から考えると,社会的に高い価値を生むことが予想されます.Web2.0の交流サイトにおいて,参加するユーザーの数が増えて,情報が活発に更新されると,サイト自体が一つのコンテンツとなって社会的な影響力をもつようになります.そのような,影響力の強いサイトをソーシャルメディアとよびます.ソーシャルメディアの医療応用として,前章ではMayoClinicの試みを紹介しました.医療者,医療従事者,医療受益者の間の情報交流を活性化させている点が特徴です.インターネットを用いたサービスは,開発者の創意工夫によって次々と誕生します.Googleを巨大企業に押し上げた検索連動型広告.「Broadcastyourself」を合言葉に,個人が世界に繋がることを視覚化したYouTubeの動画投稿.Googleを凌ぐ勢いで成長するFacebookが証明した,インターネット上のリアルコミュニケーション.これらのインターネットサービスのイノベーションに共通する点は,情報革命という潮流です.医療界も例外ではありません.情報革命とは,インターネットの登場により,サービスを受ける側がサービスを提供する側よりも優位に立ち,取捨選別できるようになった状態を表現したものです.医療界は,他業種と比べると商慣習も特殊で,法的な制約が多い業界ですので,インターネットの潮流の影響を比較的受けずに済みました.ですが,その波は徐々に押し寄せ,今は情報革命の最中にいます.インターネットを通じた情報交流は,さまざまな形で試みがなされています.眼科領域における,最近のトピックを二つ紹介します.一つは,日本白内障屈折矯正手術学会のホームページ内で,会員限定で手術動画を閲覧できるようになりました.目的は手術手技の教育と普及です.手術動画にコメントを残すことも可能です.二つめは,日眼会誌(JJO)において,OnlineFirstという出版形式が採用されたことです.OnlineFirstとは,冊子の発行を待たずに,受理された論文から順次インターネット上に掲載する出版方法で,インターネット上に掲載された日が論文の正式な出版日となります.OnlineFirstのメ(103)インターネットの眼科応用第30章ソーシャルメディアと医療③武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ1008あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011リットは,受理された論文から順次Web上に掲載することにより,同じ号に掲載される他の論文の編集を待つ必要がなくなり,出版までの日数が大幅に短縮されます.動画サイトの発展形は,遠隔医療もしくはインターネット上で開かれる学会です.OnlineFirstの発展形は,PLoSONEというオンラインジャーナルのように,査読すら出版後に行うような出版形態です.このオンラインジャーナルは,研究(実験)の方法に特に問題がなければ,結果の意義を問わず,初回投稿から数カ月で掲載されます.研究者はインターネットを通じて投稿し,論文はインターネット上に掲載され,世界中の読者からコメントが寄せられます.このシステムでは,有意義な知見が査読者の一存で掲載されなくなる可能性は減るものの,不適切なコメント・修正が増える可能性が増加します.読者の立場としては,玉石混淆のなかから本物を拾い出す眼力が求められます.医師個人からの情報発信が,インターネット上に増加すると,その情報自体が臨床的にも学術的にも産業的にも価値をもちます.医療系口コミサイト情報発信の主体者をもう少し,草の根まで広げるとどうなるでしょう.ちょっとした臨床現場の感想ですら,集積すると価値をもちます.近い将来,医療機器や薬剤に対する口コミ情報の集約サイトが誕生し普及するでしょう.参加する医師にとっては,他の医師が経験した感想や副作用を見聞できるメリットがあります.サイトを主宰する医薬メーカーにとっては,現状の薬剤の評価を確認し,次の創薬のヒントを得るというメリットがあります.医師限定の会員制サイトは,民間企業が運営しているサービスだけでなく,学会や医師会が運営しているサイトを含めると,数え切れないほど多数存在します.そのなかで,メドピア株式会社が運営する,Medpeerというサイトには,薬剤評価掲示板とよばれるサービスがあります.このサイト内には,約700種類の薬剤に対する医師による「薬のクチコミ評価」が投稿されています2).眼科医としては,眼内レンズや各種検査機器の口コミ情報や,点眼薬の副作用情報などが簡単に入手できるサイトがあれば,臨床現場において有用でしょう.たとえば,A社の眼内レンズに関して,私はこのような印象をもっている,B社の点眼薬を使用して,思わぬ反応が起きた,C社の眼底カメラは非常に使いやすい.(104)等,医師個人が経験した情報を蓄積すれば,治験などで得られた情報に匹敵する説得力をもって視聴者に伝わります.ただ,この意思決定モデルは,Evidencebasedではなく,Episodebasedですので,その情報の虚実を判断する能力が閲覧者に求められます.サイト運営者によっても情報の質が左右されます.学会という枠組みでは,ガイドラインに基づかない治療法を前向きに評価することはむずかしく,製薬企業の運営するサイトでは,保険外使用について議論することは,プロモーションコードに抵触します.インターネット上の情報交流において,サイト運営者には法の規制が求められます.今後,多数の医療系口コミサイトが登場するでしょうが,質の担保と同時に,ユーザーが発信しやすい環境を整えることはむずかしい問題です.その情報発信の担い手は,地域の医師会や,眼科医会かもしれません.私が有志とNPO法人として運営するMVC-onlineという医師会員限定のサイトは,その難問をクリアする一つの答えでしょう.飲食店検索サイトで例えると,タベログというサイトは,消費者の評価によって,飲食店の評価が決まります.権威によって評価されるミシュランと対極的ですが,両者は共存できる評価軸です.医師は日本に30万人弱.眼科医は約1万人.1万人の同業種団体は,規模としてそんなに大きなものではありません.眼科医の口コミが集まる場所を創ることは,社会的に必要とされ,継続できる事業と考えます.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.この現象をMedical2.0とよびます.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,Medical2.0の潮流に沿ったさまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)武蔵国弘:インターネットの眼科応用第25章Medical2.0②.あたらしい眼科28:251-252,20112)日経デジタルマーケティング,2011.7,p7-9