●連載眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長ビタミンEの研究老化を防ぐ効果万里の長城を造り,中国を統合した秦(しん)の始皇帝は3,000人の美女を従え,精力絶倫であった.変な学説など唱える学者は次々と首をはねられ,国は繁栄を続けた.しかし,ある日,彼はいささか疲れを感ずるようになったのであろう.国中の学者,賢者を集め,不老長寿の妙薬の探索を命じた.数百人(900人ともいう)の学者は出かけたまま帰って来なかった.この一団は東方に向かって海を渡って行ったことになっており,日本人の祖先だろうという説もある.日本には方々に長寿の村落があったりする.世界の他の地区でも同じであるが,長寿の人々は一般に粗食を取っているようである.最近,医学者たちは,人間の体は120歳位までは使えるともいっている.生物の命が長くなるためには,それを作っている個々の細胞が長命でなければならない.各細胞はそれぞれ特異な化学反応をしながら生命を保つと同時に,与えられた任務を遂行している.すなわち分泌物を出したり,動いたりしているのである.このような生命活動をして,エネルギーを産出すると,細胞は副産物として残渣(─さ)を出さざるを得なくなる.不要物は普通,水とか炭酸ガスとなって,排気や尿中に捨てられるが,残渣には脂を含んだものがあってどうしても細胞内にたまってくる.この残渣物質を老化顆(か)粒と呼び,老化現象の最小単位と考えるようになった.老化顆粒は茶褐(かっ)色の物質で,老人の内臓,特に腎(ジン),心,肝にたまり,また筋肉も褐色となってくる.若年者でも,ひどい熱病とか,慢性の病気にかかると,同様な顆粒がたくさん出てくることが知られている.ま(79)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY▲老人のことを語るさし絵にコーガン教授をもってきてはしかられるに決まっている.教授の70歳誕生日のディナーのあと,美しいフランス式ケーキを切る先生(左はキノシタ夫人).たこの残渣物質が多くたまった細胞は正常機能を完全に発揮することが出来にくくなって,臓器そのものの老化現象を表すようになる.この褐色物質を作らないように,残渣処理の機能を推し進めているのが,ビタミンEらしいのである.ビタミンEは半世紀以上も前に発見され,これを,ネズミの飼料から取り除くと,動物が妊娠しなくなるので,性に関係したビタミンであろうと考えられていた.現在では,どうも,性は第二次的影響であるように考えられている.多量のビタミンEを動物に与えると,細胞内の老化残渣が少なくなり,またこれを欠如させると,細胞が早く老化する.このEこそ,長寿の妙薬ではないかと思われるようになった.現在すでに,いろいろの病気の治療目的でビタミンEが使われている.眼の奥にある網膜の後ろ側に,色素上皮といわれる細胞があり,視覚に大切な役割を果たしている網あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111591眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話ビタミンEは胚(はい)芽,キノコまたは種々の植物性の油の中に多量に含まれている.また,このビタミンを細胞が有効に利用するためには,セレニウムという金属の微量が必要であることも分かってきた.この金属イオンが含まれている谷の水を飲んで,胚芽などを食べておれば,長寿を保つことが出来るわけで,美食をしていたに違いない始皇帝に,このような食生活の変更を献言する勇気は学者たちに持ち合わせがなかったに違いない.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆1592あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(80)