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序説:遺伝性網膜・黄斑ジストロフィ アップデート

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY見の大きなニュースの一つは,occultmaculardystrophy(Miyakedisease)の原因遺伝子であるRP1L1の同定であった.疾患の発見および命名に加えて,原因遺伝子の同定も同一グループが成し遂げたというのは,これまでの眼科の歴史でも例がない快挙である.この話題については,角田氏の総説を参照されたい.2.病態メカニズムの進歩多くの網膜・黄斑ジストロフィの原因遺伝子が発見され,疾患の病態メカニズムがさらに解明されてきている.たとえば,家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)のおもな原因遺伝子としてFZD4,NDP,LRP5などが同定されているが,これらの遺伝子は細胞の増殖や分化を制御しているWNTシグナルネットワークに関わる遺伝子である.FEVRはこのWNTシグナルの障害による網膜血管の発育不全と理解されてきている(近藤氏の総説を参照).また,卵黄状黄斑ジストロフィにおいても,原因遺伝子であるBEST1がコードする網膜色素上皮のイオンチャンネルの役割が徐々に明らかにされ,本疾患の病態が解明されてきている.また,この疾患の2010年の大きなニュースとして,常染色体劣性遺伝形式で類似した臨床像を示すBEST1網膜症が報告されたことがあげられる.卵黄状黄斑ジストロ今月の《あたらしい眼科》では,網膜・黄斑ジストロフィの専門研究者にお願いし,10項目にわたる各疾患のreviewと最新のトピックスについてわかりやすく解説していただいた.1.遺伝子解析の進歩網膜・黄斑ジストロフィは基本的に遺伝子の異常に起因する.以前は遺伝子解析に膨大な労力と時間が費やされていたが,最近は既知の遺伝子異常部位を用いてDNAマイクロアレイでスクリーニングするという手法が広く用いられている.さらに,次世代シークエンサーを使って患者の全エクソンを高速に解析して正常者と比較し,その結果から新規の原因遺伝子を次々と発見するという技術が可能になってきている.網膜色素変性(RP)の原因遺伝子は現在50を超えている.しかし,わが国で最も多い孤発例(多くは常染色体劣性遺伝と考えられる)の原因遺伝子はほとんどわかっていない.この点で最近注目をされているのがEYS遺伝子であり,人種によっては孤発例RPのかなりの原因がこの遺伝子変異で説明できるという.将来の治療に結びつきうるトピックスであり,わが国での解析結果に期待したい(堀田氏・中西氏の総説を参照).昨年における網膜・黄斑ジストロフィの遺伝子発(1)905*MineoKondo:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座●序説あたらしい眼科28(7):905?906,2011遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートNewTopicsofInheritedRetinalandMacularDystrophy近藤峰生*山下英俊**906あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(2)フィは,分子遺伝学に基づいた再分類がなされつつある(町田氏・私近藤の総説を参照).多くの努力にもかかわらず,いまだ詳細な病態メカニズムが不明のものも多い.たとえば,錐体ジストロフィでは錐体視細胞の光伝達に重要なチャンネルをコードする遺伝子異常を原因とするものが多いが,杆体にしか発現していないと考えられているAIPL1やPROM1の遺伝子異常でも錐体ジストロフィとなる.そのメカニズムは依然不明である(中澤氏の総説を参照).Occultmaculardystrophyにおいても,確かにRP1L1の産物は霊長類では杆体および錐体視細胞に発現しているが,どうして黄斑部にのみ機能低下を生ずるのかという本質的な疑問はまだ解決されていない.3.臨床検査法の進歩数年前と比較すると,網膜・黄斑ジストロフィの診断や評価に用いる眼科臨床器機の性能は格段に進歩した.まずOCT(光干渉断層計)の解像度が飛躍的に上昇し,黄斑部の層構造の変化を精密に捉えることができるようになった.記録時間も短いため,小児でも使いやすい.心因性視力障害としばしば誤診されていた軽度の黄斑ジストロフィの小児も,OCTをきっかけに診断されることが多くなった(上野氏の総説を参照).また,杆体一色覚の症例で眼底がまったく正常の症例であっても,OCTによって視細胞層の微妙な形態変化が観察できると報告されている(林氏の総説を参照).眼底自発蛍光も,造影剤注射という侵襲なしに網膜色素上皮の変化を鋭敏に捉えることができる.その威力は特にStargardt病で発揮され,以前はフルオレセイン蛍光眼底造影のdarkchoroidで診断していたが,最近では眼底自発蛍光があればよいといわれるほどである.わが国における皮膚電極ERG(網膜電図)の普及も,今後さらに小児の電気生理学的診断に寄与すると考えられる.OCTや自発蛍光の所見をもとに最近報告された興味深い所見の一つに,Stargardt病における,「peripapillarysparing」がある.これは,Stargardt病では視神経乳頭周囲の網膜および色素上皮は特別に温存されるという所見である.ABCA4遺伝子異常による網膜機能障害がどうしてこの部位だけ特異的にspareされるのか謎である(藤波氏の総説を参照).4.治療研究の進歩網膜・黄斑ジストロフィの治療についても多くの新しい話題がある.2008年にLeber先天盲(LCA)に対する遺伝子治療が成功して以来,欧米ではさらにさまざまな段階におけるLCAの遺伝子治療が進められている.現時点では長期でも重篤な副作用はないようであり,持続的な効果が確認されている(池田氏の総説を参照).欧米では同様の遺伝子治療の計画が,一部の網膜色素変性,先天網膜分離症,全色盲,Stargardt病などに対しても進んでいる(篠田氏の総説を参照).細胞・再生治療は網膜・黄斑ジストロフィの治療研究のなかで最も期待されている手法である.最近のNature誌に掲載された,日本の研究チームによる網膜再生の成果に感激した眼科医も多かったであろう.人工視覚の分野では,日本を含む各国の研究チームが独自の方法で安全性と解像度を向上させる努力を続けている.その他の話題として,網膜色素変性に対するウノプロストン点眼治療,Stargardt病に対する視サイクル抑制剤,神経栄養因子を放出する細胞を封入したカプセル移植治療(残念ながら米国の臨床試験で最終的に効果は確認されなかったが),チャンネルロドプシンを用いた視覚獲得などがある.網膜・黄斑ジストロフィの治療を目指した研究は今後も困難な道のりが予想されるが,それでも10年前と比較すると驚くべき進歩である.さらなる研究の発展を期待したい.

Synoptophore を用いたListing 平面の3D 表現の試み

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)895《原著》あたらしい眼科28(6):895.898,2011cはじめに正面位から任意の眼位へ至る眼球運動は,赤道面上の1つの軸まわりの回転運動で行われるという法則をListingの法則という1).この軸上平面をListing平面という.Listingの法則によれば,平面上の軸まわりの回転運動には,回旋運動が混入しない.最近の研究では,サーチコイルを用いて上下,水平,回旋成分の3要素を取り入れてListing平面を解析する方法が登場しており2),滑車神経麻痺や外転神経麻痺ではListing平面が耳側へ回転することが報告されている3.5).また,健常者においても輻湊と上下転運動に伴いこの平面が傾斜することが示されている6,7).しかし,サーチコイルは電極を埋め込んだコンタクトレンズを直接角膜に接着させて計測するので侵襲が大きく,また限られた施設でのみ検査可能であるという問題がある.Synoptophoreは多くの施設で日常診療に用いられており,回旋偏位を測定できる器械である.Somaniら8)はsynoptophoreを用いて輻湊と上・下転運動が及ぼす回旋偏位を解析し,両眼間のListing平面の差を解析し,興味ある結果を報告している.この方法は侵襲もなく簡便に行えるが,Somani〔別刷請求先〕宮田学:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学教室Reprintrequests:ManabuMiyata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikata-cho,Kita-ku,Okayama700-8558,JAPANSynoptophoreを用いたListing平面の3D表現の試み宮田学長谷部聡大月洋岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学教室PilotStudyof3DGraphicalRepresentationofListing’sPlaneUsingaSynoptophoreManabuMiyata,SatoshiHasebeandHiroshiOhtsukiDepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences目的:上斜筋麻痺のListing平面が傾斜しているという報告があり,これを検証するために,synoptophoreを用いて健常者と上斜筋麻痺の回旋偏位を測定し,Listing平面を3Dで解析したので報告する.方法:健常者2例,先天上斜筋麻痺1例を対象とした.被検者にsynoptophoreを用いて25カ所の眼位で片眼ずつ上下にずらした水平線の視標を平行になるように回転させるよう指示し,そのときの偏位を記録した.遠見と近見で測定した.各眼位における偏位(水平,垂直,回旋)のデータを,三次元曲面で回帰した.結果:健常者ではListing平面は遠見で鉛直な平面となったが,近見では傾斜した.上斜筋麻痺では,遠見・近見ともListing平面の傾斜を認めた.結論:synoptophoreを利用してListing平面を3Dで表現できた.上斜筋麻痺では健常者と異なり,遠見・近見ともにListing平面の傾きが観察され,異常な傾き知覚(スラント感覚)が生じている可能性がある.Purpose:Ithasbeenreportedthatpatientswithsuperiorobliquepalsy(SOP)showatiltedListing’splane(LP).WemeasuredthetorsionaldeviationsofonepatientwithSOPandtwohealthysubjects,usingasynoptophoretorepresenttheLPsin3D.Methods:Thesubjectsrotatedthetarget,withahorizontallineshiftedverticallyineacheye,tobeinparallelatfarandneardistanceusingasynoptophorein25gazepoint;wethenrecordedthedeviationandregressedhorizontal,verticalandtorsionalelementstoacurvedsurface.Results:Thehealthysubjects’Listing’splaneswereperpendicularatfardistanceandtiltedatneardistance.TheplaneoftheSOPpatientwastiltedatbothfarandneardistances.Conclusions:WewereabletorepresentListing’splanesin3Dusingasynoptophore.TheListing’splaneoftheSOPpatientdifferedfromthoseofthehealthysubjects.TheSOPpatientmighthaveanabnormalslantperception.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):895.898,2011〕Keywords:Listing平面,回旋偏位,スラント感覚,シノプトフォア,上斜筋麻痺.Listing’splane,cyclodeviation,slantperception,synoptophore,superiorobliquepalsy.896あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(144)らは上下20°,0°の3点の正中位における30°,20°,10°,0°の各輻湊角で回旋偏位を測定している.しかし水平方向眼位については計測していない.筆者らは,健常者および上斜筋麻痺患者を対象に水平方向の偏位も含め,上下水平偏位における回旋偏位をsynoptophoreで測定し,測定点を曲面に回帰させることで,Listing平面の両眼間の差の測定を試みたので報告する.I対象および方法1.対象健常者2例(A:男性,32歳,B:男性,48歳),両眼先天上斜筋麻痺1例(C:女性,40歳)を対象とした.A,Bの正面位における遠見眼位は正位,近見眼位はそれぞれ4°,3°外斜位であった.Cの正面位における遠見眼位は内斜偏位5°,右眼上斜偏位1°,回旋偏位0°であり,近見眼位は上下水平偏位はなく,外方回旋偏位2°であった.全症例に検査の目的・方法を詳細に説明し,同意を得た.2.方法使用した器具はsynoptophoreR(model2001,Haag-Streit,UK)と,筆者らが作成した視標であった.視標は,融像刺激の円と固視点,片眼ずつ上下にずらした水平線で構成した(図1).水平線の長さは6.2cm(視角に換算すると22.7°)でSomaniら8)が使用した視標に準じた.上下,水平方向それぞれ±20°,±10°,0°の組み合わせ,計25カ所(5×5)を注視させ,それぞれの位置での回旋偏位を測定した.回旋偏位の測定は,被検者が右眼の視標をsynoptophoreのノブを回転させることにより,左眼の水平線に平行になるように調整し,ちょうど水平になった時点での回旋偏位を検者が記録した.測定は遠見と近見(3D調節負荷,3MA輻湊)で実施し,試行回数はトータルで50回であった.各向き眼位における偏位(水平:H°,垂直:V°,回旋:T°)データに対し,三次元曲面を回帰し,両眼間のListing平面の差を求めた.ただし,Listing平面は眼球運動における回転軸の集合であり,このように単純にプロットしたものではないが,Listing平面と同等のものと考えた.解析ソフトはJMP(version5.0.1a,SASInstituteInc,USA)を使用した.II結果全症例において注視方向すべてで視標の融像が可能であった.被検者3名の回帰曲面の計算式は,T=k1*H2+k2*V2+k3*H*V+k4*H+k5*V+k6(T:torsionaldeviation[deg.],H:horizontaldeviation[deg.],V:verticaldeviation[deg.],k1-6:constant)で表現できた.各被検者の係数を表1に示す.この回帰曲面を図2に示す.これらの曲面は左眼を基準としたListing平面の両眼間の差とみなすことができる.健常1.健常者A2.健常者BHTVHTV3.患者CTHV図2a遠見時における回旋偏位の回帰曲面T:回旋偏位(右:内方,左:外方),V:上下偏位(上:上方,下:下方),H:水平偏位(手前:左方,奥:右方).1.健常者A2.健常者B3.患者CTHVTHVTHV図2b近見時における回旋偏位の回帰曲面T:回旋偏位,V:上下偏位,H:水平偏位.表1各被検者における回帰曲面の計算式の係数k1k2k3k4k5k6A遠見時.0.0012.0.000400.00044.0.018.0.0044.1.1A近見時.0.001.0.000730.000840.00140.090.1.8B遠見時0.001.0.000220.000590.0032.0.011.0.67B近見時.0.00061.0.000410.00044.0.0290.12.0.45C遠見時0.00033.0.000300.000260.00620.0480.010C近見時0.0013.0.00071.0.000340.000600.14.1.5図1視標左:左眼の視標,右:右眼の視標.(145)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011897者では遠見時に回帰曲面は第一眼位に鉛直な平面となったが,近見時(輻湊時)には回帰曲面の傾きが観察された.つまり,上転時には内方回旋偏位,下転時には外方回旋偏位が生じていることがわかった.しかもこの偏位の大きさは垂直方向の角度の大きさに依存しており(elevation-dependent),水平方向の角度には依存しない.一方,上斜筋麻痺患者では,遠見時にも健常者と同様の傾きが観察され,近見時ではこの傾向が増大した.III考按筆者らは,synoptophoreを用いた方法で,両眼単一融像ができている状況下では,健常者に回旋視差刺激を提示するとスラント感覚が生じることを報告した9).すなわち,垂直線条に外方回旋視差を与えると上端が奥に傾くスラント感覚が生じ,逆に内方回旋視差を与えると上端が手前に傾くスラント感覚が生じる.今回の結果は,健常被検者でも輻湊すると上転時に内方回旋偏位,下転時に外方回旋偏位が生じることを示している.もし回旋視差0°の垂直線条を提示すれば上転時には外方回旋視差が与えられた状況と類似し,上端が奥へ傾くスラント感覚が生じ,逆に下転時には内方回旋視差が与えられた状況と類似し,上端が手前に傾くスラント感覚が生じると考えられる.上斜筋麻痺では遠見時にもこのelevation-dependentの回旋偏位が生じるため,常に異常なスラント感覚が生じている可能性がある.このことから上斜筋麻痺では,健常者とは異なる視空間覚を構築していると想定される.Listingの法則を保つ機序として2つ考えられている.眼窩プリーによる機械的機序10)と神経学的順応機序11)である.健常者では輻湊をすると,直筋のプリーが1.9°外方回旋するが,Listing平面が耳側へ傾斜することとは矛盾すると報告されている12).このことから,斜筋の神経支配がこの傾斜へ関与しているとされている.本研究でも健常者における輻湊時のListing平面は耳側に傾斜しており,原因としてはこの点があげられると考える.サーチコイルにより得られるListing平面は片眼ずつであり,synoptophoreにより得られるListing平面は両眼間の差であるので,単純に比較することはできないが,今回の上斜筋麻痺症例の結果はサーチコイルを用いた研究と同様の結果が得られたと考えられる.つまり,下方視で外方回旋偏位を認め,上方視により減少傾向を認めた.これは,下方視において上斜筋のともひき筋である下直筋が大きく寄与したためである.つまり,下方視では下直筋の外方回旋作用のほうが麻痺した上斜筋の内方回旋作用を上回っているのである.一方,上方視では麻痺した上斜筋が内方回旋作用に寄与しないため,外方回旋偏位が小さくなったと考えられる5).今回の計測方法について考察する.まず,上下にずらした水平な線条を平行に合わせる方法と,左右にずらした垂直な線条を平行に合わせる方法は同等であったという報告8)があり,時間的効率を考慮して,今回採用した視標は上下にずらした水平な線条のみとした.つぎに,Listing平面は両眼視ではなく,単眼視の眼球運動に関わる法則の基本をなすものである.サーチコイル法は片眼の絶対的なListing平面を測定可能であるが,synoptophoreでは両眼間のListing平面の差を計測することになる.Listing平面の差が0となるのは,両眼に回旋偏位がない場合と,片眼に内方回旋,反対眼に外方回旋が起こる場合が考えられるが,実際にはこのようなことは起こりえない.日常診療における回旋偏位の測定では両眼間の差が測定されるので,今回の方法で問題はないと考える.今後の臨床応用を見すえた場合,synoptophoreを用いたほうがより現実的である.3点目に,計測の再現性の問題がある.遠見と近見を合わせて50回の試行が必要であり,1シリーズの検査のみで長時間を要したためである.症例数が不足しているが,今回の研究により水平方向の偏位は回旋に影響を及ぼさないことが示唆された.Somaniらのように水平方向の計測は行わず,上下方向のみの計測とすれば,検査時間を短縮できるので,再現性を評価することもできるし,臨床応用も可能であると考える.4点目に,頭位固定の課題がある.顎と前額部をしっかり固定されているので,前後・左右の傾きはないといえる.また斜め方向の傾きはsynoptophoreの接眼レンズを覗いている限りほとんどないと考えられる.斜め方向にずれて,これが眼球の反対回旋を誘発させていたとしても両眼間の回旋偏位の差は生じないし,反対回旋運動は頭部傾斜の約1/10と小さいので無視できる.5点目に,この方法では3Dで視覚化した曲面により,感覚的に回旋偏位の変化を容易にとらえられるようになる点で有用であるといえる.結論として,synoptophoreを用いて健常者と上斜筋麻痺のListing平面を解析し,3Dで表現したところ,異なるListing平面を認めた.上斜筋麻痺では,異常なスラント感覚が生じている可能性がある.本研究は科学研究費補助金(22591964)の援助を受けた.本論文の内容は第62回日本臨床眼科学会で発表した.文献1)VonNoordenGK,CamposEC:BinocularVisionandOcularMotility.6thed,p60-62,CVMosby,StLouis,20022)FermanL,CollewijnH,VandenBergAV:AdirecttestofListing’slaw-II.Humanoculartorsionmeasuredunderdynamicconditions.VisionRes27:939-951,19873)WongAM,TweedD,SharpeJA:AdaptiveneuralmechanismforListing’slawrevealedinpatientswithsixthnervepalsy.InvestOphthalmolVisSci43:112-119,2002898あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(146)4)WongAM,SharpeJA,TweedD:AdaptiveneuralmechanismforListing’slawrevealedinpatientswithfourthnervepalsy.InvestOphthalmolVisSci43:1796-1803,20025)SteffenH,StraumannDS,WalkerMFetal:Torsioninpatientswithsuperiorobliquepalsies:dynamictorsionduringsaccadesandchangesinListing’splane.GraefesArchClinExpOphthalmol246:771-778,20086)MokD,RoA,CaderaWetal:RotationofListing’splaneduringvergence.VisRes32:2055-2064,19927)MikhaelS,NicolleD,VilisT:RotationofListing’splanebyhorizontal,verticalandobliqueprism-includeeyevergence.VisRes35:3243-3254,19958)SomaniRAB,HutnikC,DeSouzaJFXetal:UsingasynoptophoretotestListing’slawduringvergenceinnormalsubjectsandstrabismicpatients.VisionRes38:3621-3631,19989)MiyataM,HasebeS,OhtsukiHetal:Assessmentofcyclodisparity-inducedslantperceptionwithasynoptophore.JpnJOphthalmol49:137-142,200510)DemerJL:Theorbitalpulleysystem-arevolutioninconceptsoforbitalanatomy.AnnNYAcadSci956:17-32,200211)SchorCM,MaxwellJS,McCandlessJetal:Adaptivecontrolofvergenceinhumans.AnnNYAcadSci956:297-305,200212)DemerJL,KonoR,WrightW:Magneticresonanceimagingofhumanextraocularmusclesinconvergence.JNeurophysiol89:2072-2085,2003***

Posner-Schlossman 症候群に対する緑内障手術

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)891《原著》あたらしい眼科28(6):891.894,2011cはじめにPosner-Schlossman症候群は,1948年に初めてPosnerとSchlossmanにより紹介された疾患で,片眼性で,再発性に眼圧上昇を伴う軽い非肉芽腫性虹彩炎を発作性に起こし,自然寛解し,開放隅角で,視野,視神経乳頭には異常をきたさない予後良好な疾患と考えられてきた1).しかし,近年,Posner-Schlossman症候群を長期にわたって経過をみていると,緑内障性変化をきたし,視機能障害をきたすこともあるという報告がみられるようになってきている2.6).今回,筆者らは,当院でPosner-Schlossman症候群と診断され,緑内障に対する手術が必要となった症例8例を経験し,その術式について考案したので報告する.I対象および方法1990年3月から2008年3月の間に,眼圧下降薬で眼圧コントロールが得られず,手術が必要なため,名古屋市立大学病院眼科へ紹介となった8例8眼について検討した.全8例の内訳を表1に示す.発症年齢は13.50歳(平均36.8±14.2歳),男性5眼,女性3眼であった.手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年),手術までに起こった発作の回数は2.17回(平均7.2±5.3回)であった.経過観察期間は2カ月.17年(中央値2.0年)であった.〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPANPosner-Schlossman症候群に対する緑内障手術森田裕野崎実穂高瀬綾恵吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学GlaucomaSurgeryforPosner-SchlossmanSyndromeHiroshiMorita,MihoNozaki,AyaeTakase,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences予後良好と知られているPosner-Schlossman症候群と診断された症例で,濾過手術が必要となった8例を経験したので報告する.発症年齢は13.50歳(平均36.8歳),手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術が1眼,線維柱帯切開術が3眼,線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった.Posner-Schlossman症候群において,視野進行症例や薬物療法に抵抗する症例を経験した.これらの症例に対して,流出路再建術は無効であり,全例,濾過手術が必要となった.Posner-Schlossmansyndrome(PSS)isaself-limiting,benignconditioncharacterizedbyunilateral,recurrentattacksofmild,non-granulomatousiritiswithelevatedintraocularpressures(IOP)duringtheacuteattack,openangles,normalvisualfield,andopticdiscs.Wereport8casesofPSSthatrequiredglaucomasurgerytocontrolIOP(5males,3females;meanageatonset:36.8years;mediandurationofPSS:7.0years).Oneeyeunderwentnon-penetratingdeepsclerectomy,3eyesunderwenttrabeculotomyabexternoand4eyesunderwentglaucomafilteringsurgerywithantimetabolites.All4eyesthatdidnotreceivefilteringsurgerycontinuedtohaveepisodesofiritisaftersurgery,withelevatedIOPduringtheepisodes,andrequiredfilteringsurgerywithantimetabolitestocontrolIOP.InPSSpatients,glaucomadevelopsovertime,andfilteringsurgeryisneededtocontrolIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):891.894,2011〕Keywords:Posner-Schlossman症候群,線維柱帯切開術,非穿孔性線維柱帯切除術,線維柱帯切除術,流出路再建術.Posner-Schlossmansyndrome,trabeculotomyabexterno,non-penetratingdeepsclerectomy,trabeculectomy,canalsurgery.892あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(140)全例,入院時,前房内炎症は認めず,隅角は開放隅角で虹彩後癒着はなく,色素沈着は僚眼に比べ少なかった.視神経乳頭陥凹拡大を認めたものは,8眼中5眼(62.5%)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術を施行された症例が1眼,線維柱帯切開術が3眼,マイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった(表1).以下に代表症例を提示する.症例:54歳,女性.現病歴:2000年に近医で左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,点眼や内服で眼圧下降する一過性のものであった.2006年の発作後,遷延性の眼圧上昇が起こり,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬点眼では眼圧コントロールがつかず,炭酸脱水酵素阻害薬内服も処方された.その後も炭酸脱水酵素阻害薬の内服を中止すると眼圧が上昇し,眼圧下降薬だけでは眼圧のコントロールができなくなったため,当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.7(1.2×sph.0.75D(cyl.0.5DAx150°),左眼0.2(1.2×sph.1.50D(cyl.0.25DAx160°),abcd図1代表症例(54歳,女性)の2006年受診時所見6年前に左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,眼圧のコントロールがつかなくなったため,当科へ紹介受診となった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5(a),左眼0.9(b)と左眼で著明に陥凹拡大がみられた.Goldmann視野検査では,右眼(d)に特記する異常はなかったが,左眼(c)は鼻側階段状の視野欠損とBjerrm暗点を認めた.表1全症例の内訳発症年齢(歳)発症から手術までの期間(年)術前発作回数最高眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)初診時乳頭陥凹比最終乳頭陥凹比初回術式初回手術後発作回数追加術式初回手術から追加手術までの期間LET後経過観察期間術前矯正視力術後最終矯正視力1507856100.50.5NPT2LET3年1年1.00.42456173490.90.9LOT2LET8カ月8カ月1.20.83435245150.60.6LOT3LET7カ月2年0.81.042314N/A58170.60.9LOT4LET8年8年0.61.5548N/AN/A6514N/A0.9LET──2カ月0.060.96131352140.6N/ALET──4カ月1.01.572515638140.51LET──8年0.0130cm手動弁84777511011LET──7カ月30cm手動弁50cm手動弁NPT:非穿孔性線維柱帯切除術,LOT:線維柱帯切開術,LET:線維柱帯切除術,N/A:データなし.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011893眼圧は0.1%フルオロメトロン点眼,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服下で,右眼12mmHg,左眼10mmHgであった.両眼前眼部に特記する異常はなく,左眼前房は清明,隅角は開放隅角で,虹彩前癒着はなく,色素沈着は右眼に比べ少なかった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5,左眼0.9と左眼で著明に陥凹拡大がみられた(図1).Goldmann視野検査では,右眼に特記する異常はなかったが,左眼は鼻側階段状の視野欠損とBjerrum暗点を認めた(図1).経過:2006年左眼線維柱帯切開術を施行.術後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,0.5%チモロール点眼,2%ピロカルピン点眼,ウノプロストン点眼,ベタメタゾン点眼および炭酸脱水酵素阻害薬内服でも眼圧コントロールがつかないため,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.現在濾過胞は扁平で,0.5%チモロール,ウノプロストン,ドルゾラミドの眼圧下降薬3剤を点眼しており,視力は右眼1.0(1.5×sph.0.50D),左眼0.5(1.0×sph.2.25D(cyl.1.00DAx60°),眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHgとコントロールは良好で,視野,視神経乳頭所見とも2006年受診時と比べ変化はなかった(図2).II考按従来比較的予後良好と考えられてきたPosner-Schlossman症候群であるが,最近,緑内障性変化をきたすこともあるという報告2.6)がいくつかみられるようになってきた.その原因として,Posner-Schlossman症候群のなかに,原発開放隅角緑内障(POAG)を併発している症例がある7,8)といわれており,報告によっては,Posner-Schlossman症候群の45%もの症例でPOAGを併発していたというもの8)もある.POAGを併発している症例は,発作のない期間でも高眼圧を呈していたが,今回筆者らが検討した8例では,POAGを併発していた症例はみられなかった.Japら3)は,Posner-Schlossman症候群のうち,4分の1の症例で,緑内障性変化をきたし,POAGの併発は認めなかったとしている.また,Posner-Schlossman症候群で緑内障性変化をきたす症例は,罹病期間と相関していた,と報告している.筆者らの症例8例のうち,発症から手術までの期間をみると,不明であったものが1例,1年であったものが1例であるが,それ以外の6例は5.17年(平均10.6年)と比較的長期経過している症例が多かったといえる.一方,緑内障を発症したPosner-Schlossman症候群に対する術式であるが,隅角所見からは,開放隅角であり周辺虹彩前癒着もみられないことから,流出路再建術の適応もあると考え,当科では,1例に非穿孔性線維柱帯切除術,3例に線維柱帯切開術を行った.Posner-Schlossman症候群2例に対して線維柱帯切開術を行ったという過去の報告9)では,ステロイド緑内障を併発しており,術後眼圧コントロールは良好であった.この報告は線維柱帯切開術後の経過観察期間が9.11カ月と比較的短いため,その後の経過中に眼圧が図2代表症例の2007年受診時所見左眼線維柱帯切開術を施行後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.視神経乳頭所見(a:右眼,b:左眼),Goldmann視野検査所見(d:右眼,c:左眼)とも,2006年受診時(図1)と比べ,変化はなかった.abcd894あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(142)上昇している可能性もあるが,ステロイド緑内障自体に対しては線維柱帯切開術の有効性はすでに確立されており10),この2例の眼圧上昇機序が,Posner-Schlossman症候群によるものではなく,ステロイド緑内障が背景にあれば,線維柱帯切開術で眼圧コントロールが良好となったという結論に納得できる.Posner-Schlossman症候群での眼圧上昇機序についてはまだ不明な点が多いが,小俣ら6)は,Posner-Schlossman症候群で,線維柱帯切除術を施行した1例の線維柱帯を病理組織学的に検討し,線維柱帯間隙,Schlemm管,集合管周囲にマクロファージが認められ,傍Schlemm管結合組織は厚く,間隙は細胞外物質で満たされていたと報告している.今回,Posner-Schlossman症候群に対して,流出路再建術では眼圧コントロールが得られず,濾過手術で眼圧コントロールが良好となった筆者らの結果からも,線維柱帯,Schlemm管より後方の集合管や傍Schlemm管結合組織といった周囲組織の変化がPosner-Schlossman症候群の眼圧上昇機序に大きく関与していると思われる.また,発作をくり返し,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対して,線維柱帯切除術を行ったところ,眼圧が下降するだけでなく,発作頻度も減少したという報告がある3,4).その機序として,濾過手術で作製した濾過胞によって,炎症細胞が眼外に排出されるため,濾過手術により発作頻度が減少するという可能性が提言されている3).また,線維柱帯切除術が奏効している場合,発作時の眼圧上昇がないため,炎症が起きても自覚症状がなく,眼科受診しないため,みかけの発作頻度が減少するためとも考えられる.今回検討した8例は,眼圧コントロール良好となり,前医に戻り経過観察をうけている症例がほとんどのため,全例の検討はできなかったが,初回から線維柱帯切除術を行った4例では,その後発作をきたした症例はみられなかった.従来Posner-Schlossman症候群は,比較的予後の良い疾患と考えられており,発症年齢も比較的若年が多いため,できるだけ点眼や内服薬で保存的な治療を続ける傾向があるが,今回検討した8例中5例ですでに視神経乳頭陥凹が拡大し,視野異常がみられていた.今回の結果からも,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対しては,時期を逃すことなくMMC併用線維柱帯切除術を施行することが必要と考えられた.また,罹病期間が長くなるほど緑内障性変化を呈する症例が多くなるため,Posner-Schlossman症候群に対して,慎重な経過観察が必要と思われる.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecurrentattacksofglaucomawithcycliticsymptoms.ArchOphthalmol39:517-535,19482)繪野亜矢子,前田秀高,中村誠:手術治療を要したポスナー・シュロスマン症候群の3例.臨眼54:675-679,20003)JapA,SivakumarM,CheeSP:IsPosner-Schlossmansyndromebenign?Ophthalmology108:913-918,20014)DinakaranS,KayarkarV:TrabeculectomyinthemanagementofPosner-Schlossmansyndrome.OphthalmicSurgLasers33:321-322,20025)地庵浩司,塚本秀利,岡田康志ほか:緑内障手術を行ったPosner-Schlossman症候群の3例.眼紀53:391-394,20026)小俣貴靖,濱中輝彦:Posner-Schlossman症候群における線維柱帯の病理組織学的検討─眼圧上昇の原因についての検討─.あたらしい眼24:825-830,20077)RaittaC,VannasA:Glaucomatocycliticcrisis.ArchOphthalmol95:608-612,19778)KassMA,BeckerB,KolkerAE:Glaucomatocycliticcrisisandprimaryopen-angleglaucoma[casereport].AmJOphthalmol75:668-673,19739)崎元晋,大鳥安正,岡田正喜ほか:ステロイド緑内障を合併したPosner-Schlossman症候群の2症例.眼紀56:640-644,200510)TheJapaneseSteroid-InducedGlaucomaMulticenterStudyGroup:Successratesoftrabeculotomyforsteroidinducedglaucoma:acomparative,multicenter,retrospective,cohortstudy.AmJOphthalmol,2011,inpress***

プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響

2011年6月30日 木曜日

886(13あ4)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(6):886.890,2011c〔別刷請求先〕井上順:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:JunInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANプロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響井上順*1岡美佳子*2井上恵理*1徳田直人*1竹鼻眞*2上野聰樹*1*1聖マリアンナ医科大学眼科学教室*2慶應義塾大学薬学部分子機能生理学講座EffectofProstaglandinAnaloguesonRabbitCornealEpithelialCellsJunInoue1),MikakoOka2),EriInoue1),NaotoTokuda1),MakotoTakehana2)andSatokiUeno1)1)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofMolecularFunctionandPhysiology,KeioUniversityFacultyofPharmacyプロスタグランジン(PG)関連薬の角膜への影響を検討するため,ウサギ角膜上皮細胞を用いて細胞毒性および細胞増殖に対する抑制作用を比較した.96ウェルプレートにウサギ角膜上皮細胞を5,000cells/mlで播種し,24時間培養後2倍希釈系列(2.512倍)になるように希釈したPG関連薬(ラタノプロスト0.005%,トラボプロスト0.004%,タフルプロスト0.0015%,ビマトプロスト0.03%)を各ウェルに分注し,一定時間培養後LDH(lactatedehydrogenase)assay法またはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法を行い,各薬剤の細胞障害率および細胞増殖抑制率を算出した.薬剤濃度を横軸に,細胞増殖抑制率または細胞障害率を縦軸にとり近似曲線を求めた.LDHassay法による細胞障害率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(12.2倍)>タフルプロスト(7.1倍)>ビマトプロスト(3.7倍)>トラボプロスト(1.2倍)の順で高く,MTTassay法による細胞増殖抑制率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(25.5倍)>タフルプロスト(21.8倍)>ビマトプロスト(10.6倍)>トラボプロスト(1.1倍)の順で高かった.培養ウサギ角膜上皮細胞に対する影響はラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト,トラボプロストの順で強かった.Thecytotoxicityandinhibitoryeffectsofvariousprostaglandin(PG)analogueeyedropsoncornealepithelialcellgrowthwerecomparedinculturedrabbitcornealepithelialcells.Thecellswerespreadona96-wellplate.Afterincubation,thePGanalogues(0.005%latanoprost,0.004%travoprost,0.0015%tafluprost,and0.03%bimatoprost)weredilutedtoprepareserial2-folddilutions(2-512fold),andeachwaspouredintoeachwell.LDH(lactatedehydrogenase)assayor3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide(MTT)assaywereperformed,andthecytotoxicityrateandcellgrowthinhibitionratewerecalculatedforeachdrug.Anapproximatecurvewasobtainedforeachdrugandcomparativeinvestigationwasconductedbyplottingtheconcentrationofeachdrugonthehorizontalaxisandthegrowthinhibitionrateorcytotoxicityrateonthelongitudinalaxis.Thecytotoxicityrate,asdeterminedbyLDHassay,washighest(50%)forthe12.2-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe7.1-folddilutionoftafluprost,the3.7-folddilutionofbimatoprostandthe1.2-folddilutionoftravoprost.Thegrowthinhibitionrate,asdeterminedbyMTTassay,washighestforthe25.5-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe21.8-folddilutionoftafluprost,the10.6-folddilutionofbimatoprostandthe1.1-folddilutionoftravoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):886.890,2011〕Keywords:角膜上皮細胞,プロスタグランジン関連薬,LDHassay法,MTTassay法.cornealepithelialcell,prostaglandinanalogues,LDHassay,MTTassay.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011887はじめに緑内障治療では,一般的にまず点眼薬治療が行われる.現在では多くの抗緑内障点眼薬が登場し,治療の選択肢が増えてきている.そのなかでも,プロスタグランジン(PG)関連薬は強力な眼圧下降効果を有し,しかも全身的な副作用が少ないことから,緑内障薬物療法の第一選択薬となっている.一方,緑内障は疾患の性質上,一度,抗緑内障点眼薬が投与されると長期にわたり投与が継続される場合や,眼圧コントロールを得るために複数の薬剤が同時に併用投与される場合もある.点眼薬が最初に接触するのは角膜,結膜などのオキュラーサーフェスであり,この部位での副作用発現の可能性があり,考慮する必要がある.実際に点眼薬の眼局所副作用として角膜上皮障害が多く報告されており,さらに長期連用により重篤化することもある1).また,その角膜上皮障害の程度も点眼薬により異なる.この角膜上皮障害は一旦発症すると,点眼治療を中止しなければならない場合や,自覚症状のためにアドヒアランス低下の原因となる場合もあり,治療を行ううえで大きな影響を及ぼす可能性がある.本研究では,PG関連薬の角膜上皮細胞に対する影響について培養ウサギ角膜上皮細胞を用いて,細胞障害性をLDH(lactatedehydrogenase;乳酸脱水素酵素)活性を指標に検討し,さらにはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法により,細胞増殖に及ぼす影響について検討した.I実験材料および方法1.実験材料培養細胞は凍結正常ウサギ角膜上皮細胞(NRCE2)(クラボウ),培地はM-StarA(KeratinocyteGrowthMedium)(アルブラスト)を用いた.LDH活性測定には,LDH-細胞毒性テストキット(和光純薬)を使用した.MTTassay法は,MTT(SIGMA)をPBS(phosphate-bufferedsaline)にて最終濃度5mg/mlになるように調製し,呈色液として用いた.MTT溶解液には0.04NHCl-isopropanol液(和光純薬)を用いた.PG関連薬はラタノプロスト0.005%(ファイザー),トラボプロスト0.004%(日本アルコン),タフルプロスト0.0015%(参天製薬),ビマトプロスト0.03%(千寿製薬)の市販製品を使用した2).いずれも2009年11月に購入したもので,タフルプロストについては2010年1月の防腐剤濃度変更以前のものを用いた(表1).2.実験方法a.ウサギ角膜上皮細胞の培養法凍結正常ウサギ角膜上皮細胞を60mmペトリディッシュに播種し,37℃インキュベーターで5%CO2の条件下で培養した.細胞がサブコンフルエント(80%)になった時点で,1.0×105cells/mlの細胞浮遊液を作製し,96ウェルプレートに細胞浮遊液50μl(5,000cells/ml)を分注した.各ウェルに培養液を加え全量100μlとした.b.LDH活性の測定96ウェルプレートに播種したウサギ角膜上皮細胞は24時間培養後,培養液で洗浄し,最後に培養液50μlを各ウェルに分注した.各PG関連薬を2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに50μlずつ分注した.15分間室温で放置後,各ウェルから50μlとり,別のプレートに移し,発色液(ニトロブルーテトラゾリウム)50μlを分注し,45分間室温で放置した.反応停止液(0.04NHCl)100μlを各ウェルに加え,マイクロプレートリーダーを用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.検体(S),ネガティブコントロール(NC;PBS),およびポジティブコントロール(PC;PBSで溶解した0.2%Tween20)の平均吸光度から,以下に示す計算式で細胞障害率を算出した.細胞障害率(%)=(S.N/P.N)×100各PG関連薬の細胞障害作用に有意差があるか否かは,ANOVA(analysisofvariance;分散分析法)検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%細胞障害希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数の近似曲線を求めることによって算出した.c.細胞増殖抑制率の測定96ウェルプレートを24時間培養後,培養液を取り除き,各PG関連薬をそれぞれ2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに100μlずつ分注し,48時間培養した.各ウェルにMTT溶液(5mg/ml)10μlを加え,37℃で4時間インキュベートした.MTT溶解溶液100μlを加え,マイクロプレートリーダー(LabsystemsMultiskanMS;Labsystems)を用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.薬剤無添加のウェルを対照とし,以下に示す計算式で細胞増殖抑制率を算出した.細胞増殖抑制率(%)=100.(薬剤添加ウェルの平均吸光度/薬剤無添加ウェルの平均吸光度)×100各PG関連薬の細胞増殖抑制作用に有意差があるか否か表1各種プロスタグランジン関連薬の主剤濃度と防腐剤濃度主剤防腐剤ラタノプロスト0.005%ベンザルコニウム塩化物0.02%トラボプロスト0.004%sofZiaRタフルプロスト0.0015%ベンザルコニウム塩化物0.01%ビマトプロスト0.03%ベンザルコニウム塩化物0.005%888あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(136)は,ANOVA検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%増殖抑制希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし,対数近似曲線を求めることによって算出した.II結果1.LDH活性の測定LDH検出法を用いて測定した吸光度から細胞障害率を算出し,細胞障害に対するPG関連薬の影響を検討した.Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,各薬剤間に有意差は認めなかったが,最も高い細胞障害性を認めたのはラタノプロスト0.005%であり,細胞障害率は2倍希釈で114%,4倍希釈で66%であった.ついでタフルプロスト0.0015%において,2倍希釈で100%,4倍希釈で48%の細胞障害を認めた.ビマトプロスト0.03%の細胞障害率は,2倍希釈で95%,4倍希釈で37%であった.細胞障害性が最も低かったのがトラボプロスト0.004%であり,細胞障害率は2倍希釈で60%と他の3剤と比較し細胞障害率は低値であり,4倍希釈で35%であった.256倍希釈ではいずれの薬剤も細胞障害率は10%以下となり,512倍希釈では,細胞障害はほとんど認めなかった(図1).各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞障害希釈倍率を算出した.50%細胞障害時希釈倍率は,ラタノプロスト12.2倍,タフルプロスト7.1倍,ビマトプロスト3.7倍,トラボプロスト1.2倍であった(図2).2.細胞増殖抑制率の測定MTTassay法を用いて測定した吸光度から細胞増殖抑制率を算出し,細胞増殖に対するPG関連薬の影響を検討した.細胞増殖抑制率は,ラタノプロストにおいて8倍希釈まで80%以上,32倍希釈でも49%であり,いずれの希釈倍率でも最も抑制率は高かった.ついでタフルプロストにおいて,4倍希釈で83%,16倍希釈で65%,32倍希釈で45%と高い細胞増殖抑制率を認めた.ビマトプロストの細胞増殖抑制率は,4倍希釈で72%,16倍希釈で53%,32倍希釈で30%であった.最も低い細胞増殖抑制率を示したのはトラボプロストであり,抑制率は4倍希釈で66%,16倍希釈で35%,32倍希釈で28%となった(図3).Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,トラボプロストは,4倍希釈および8倍希釈濃度で他の薬剤に対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.さらにトラボプロストは,4倍希釈から64倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,16倍希釈160140120100806040200-20512256128643216842希釈濃度(倍)細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図1PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞障害率の比較LDH検出法を用いて各種薬剤の細胞障害率を算出した.各希釈系列における薬剤間の有意差は認めなかった.細胞障害性はトラボプロスト0.004%が最も低かった.n=4,平均±標準偏差.希釈濃度(倍)00.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)120100806040200LATy=0.1582Ln(x)+0.8959TAFy=0.1458Ln(x)+0.7855BIMy=0.1227Ln(x)+0.6619TRAy=0.0899Ln(x)+0.5147図2各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞障害率の近似曲線100806040200-20251625612864321684希釈濃度(倍)細胞増殖抑制率(%)###**###**###***#######***:ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図3PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞増殖抑制率の比較MTTassay法を用いて各種薬剤の細胞増殖抑制率を算出した.ラタノプロスト0.005%で最も強い細胞増殖抑制効果を認めた.細胞増殖抑制効果はトラボプロスト0.004%が最も弱かった.n=4,平均±標準偏差.#p<0.05ラタノプロストvsトラボプロスト.*p<0.05タフルプロストvsトラボプロスト.##p<0.05ビマトプロストvsトラボプロスト.**p<0.05タフルプロストvsラタノプロスト.###p<0.05ラタノプロストvsビマトプロスト.***p<0.05タフルプロストvsビマトプロスト.(ANOVAおよびBonferroni/Dunn法)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011889から64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.タフルプロストは,32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.ビマトプロストは,16倍希釈および32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.各薬剤の希釈濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞増殖抑制希釈倍率を算出した.50%増殖抑制希釈倍率は,ラタノプロスト25.5倍,タフルプロスト21.8倍,ビマトプロスト10.6倍,トラボプロスト1.1倍であった(図4).III考按緑内障の薬物治療は長期にわたることが多い.そのため,眼圧下降効果のみならず,副作用や使用感,経済的負担などを考慮し,患者に応じた最適な薬剤の選択が望まれる.薬剤の選択肢が広がることは,より最適な薬剤処方の実現に寄与するとともに,近年,わが国における薬剤の選択肢は大きな変化を示している.イソプロピルウノプロストン点眼液およびラタノプロスト点眼液が発売されて以降,これらのPG関連薬が薬物治療のおもな第一選択薬として使用されてきた.近年にはトラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液およびビマトプロスト点眼液が登場し,PG関連薬の選択肢が大きく広がった.さらに最近,一部のPG関連薬とチモロールマレイン酸塩の配合点眼液が発売され,さらに薬剤の選択肢が広がっている.各種のPG関連薬の眼圧下降効果については多くの報告がある3.6).また,副作用については緑内障患者のアドヒアランスへの影響が大きいとされる結膜充血に関する報告が多い7,8).その一方で,緑内障患者が角膜疾患を併発しているケースも少なくないなかで,わが国で使用されているPG関連薬を使用した角膜障害性に関する報告はほとんどない.そこで,今回は4種のPG関連薬の角膜障害性についてウサギ角膜上皮細胞を使用して比較検討することにした.本研究では,各種PG関連薬およびその希釈液を使用して,細胞死の指標であるLDHassay法9.11)と細胞増殖の指標であるMTTassay法12)で角膜上皮細胞に対する障害性を調べた.その結果,各種PG関連薬でウサギ角膜上皮細胞に対する影響に差が認められ,さらにLDHassay法およびMTTassay法ともに同様の傾向が認められた.ウサギ角膜上皮細胞に対して最も強い毒性を示したのはラタノプロスト点眼液で,続いてタフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,トラボプロスト点眼液はウサギ角膜上皮細胞に対して最も影響が少ない薬剤であることが明らかとなった.点眼薬は主薬のほかに等張化剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,防腐剤,粘稠化剤などが含まれており,点眼薬による角膜上皮障害を考えるうえで,これら添加剤の影響も十分に考慮する必要がある.特に防腐剤のなかではベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAK)による角膜上皮障害については多くの報告があり13.16),今後,抗緑内障点眼薬中の薬効成分以外の成分に関する検討も必要であると考えられる.各種PG関連薬の主薬の細胞障害性については,Guenounらがヒト結膜上皮細胞を使用した結果を報告している17).その結果では,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの順で障害性が高かったことを示している(タフルプロストは非使用).本研究に用いたPG関連薬に含まれる主薬の濃度は,ビマトプロスト:0.03%,ラタノプロスト:0.005%,トラボプロスト:0.004%,タフルプロスト:0.0015%の順で高いが,BAKを含まないトラボプロストが最も細胞毒性が少なく,BAKを含む薬剤のなかでは主薬の濃度が最も高いビマトプロストが最も細胞毒性が少なかった.Guenounらの主薬の細胞障害性の報告と,今回筆者らが実施した製剤の細胞障害性の結果が相関しなかった理由については,BAKの影響が少なからず関与している可能性があると考えられた.BAKは陽イオン界面活性剤であり,その作用は細菌の細胞膜を溶解し,細胞質の変成を起こすことである.本研究で用いたわが国で発売となっているPG関連薬のなかで,BAKを含有するものは,ラタノプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,BAKの含有量2)はラタノプロスト点眼液が0.02%,タフルプロスト点眼液は0.01%,ビマトプロスト点眼液は0.005%と報告されている.一方,トラボプロスト点眼液に含まれる防腐剤はsofZiaRである.sofZiaRはホウ酸/ソルビトール存在下で塩希釈濃度(倍)0.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%)100806040200-20:ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)LATy=0.1721Ln(x)+1.0575TAFy=0.157Ln(x)+0.9837BIMy=0.1466Ln(x)+0.8467TRAy=0.1112Ln(x)+0.5078図4各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞増殖抑制率の近似曲線890あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(138)化亜鉛が保存効果を示す防腐剤であり,BAKよりも細胞障害性が低いことが報告されている18.21).今回の筆者らの結果では,製剤の細胞障害性がトラボプロスト点眼液を除くとBAKの含有濃度に依存すること,また既報のとおりBAKよりもsofZiaRが細胞障害性を誘発しにくいことが示唆された.以上,各種PG関連薬についてinvitroでウサギ角膜上皮細胞障害性について検討した.実際の臨床では個々の症例について,涙液動態,角膜知覚,糖尿病などの基礎疾患を併発する場合など,角膜および点眼薬にまつわる環境はさまざまであり,薬剤そのものの細胞障害性だけでは副作用の発現を予測できない場合もある.しかし,本研究のモデルは,PG関連薬の臨床で用いられている製品を,ウサギ角膜上皮細胞に接触させたときの細胞障害性を比較したものであり,各薬剤の細胞障害性のポテンシャルを把握するうえでは有用であると考える.ただし,本試験系では製剤中の主薬および添加物の代謝などの要因が加味されないため,実際の緑内障患者における点眼時の各々の眼表面の挙動とは相違すること,さらにタフルプロスト点眼液が最近,BAKの濃度を低減していることも併せて考慮する必要がある.緑内障治療は,その患者にとってほぼ生涯にわたり治療が継続されることが多いことから,各点眼薬の特性,眼圧下降効果および副作用などを十分理解したうえで,その患者に最も適した薬剤を選択することは不可欠である.そのことが患者のアドヒアランスの向上に繋がり,継続可能でより効果的な治療が行えることになるであろうと考える.文献1)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19922)青山裕美子:緑内障点眼薬の基剤と防腐剤.臨眼63(増刊):252-259,20093)ChengJW,CaiJP,LiYetal:Ameta-analysisoftopicalprostaglandinanalogsinthetreatmentofchronicangleclosureglaucoma.JGlaucoma18:653-657,20094)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:A12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)StewartWC,KonstasAGP,NelsonLAetal:Meta-analysisof24-hourintraocularpressurestudiesevaluatingtheefficacyofglaucomamedicines.Ophthalmology115:1117-1122,20086)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20088)EyawoO,NachegaJ,LefebvrePetal:Efficacyandsafetyofprostaglandinanaloguesinpatientswithpredominantlyprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension:ameta-analysis.ClinOphthalmol3:447-456,20099)DeckerT,Lohmann-MatthesML:Aquickandsimplemethodforthequantitationoflactatedehydrogenasereleaseinmeasurementsofcellularcytotoxicityandtumornecrosisfactor(TNF)activity.JImmunolMethods115:61-69,198810)KorzeniewskiC,CallewaertDM:Anenzyme-releaseassayfornaturalcytotoxicity.JImmunolMethods64:313-320,198311)MurphyTH,MaloufAT,SastreAetal:Calcium-dependentglutamatecytotoxicityinaneuronalcellline.BrainRes444:325-332,198812)HansenMB,NielsenSE,BergK:Re-examinationandfurtherdevelopmentofapreciseandrapiddyemethodformeasuringcellgrowth/cellkill.JImmunolMethods119:203-210,198913)PfisterRR,BursteinN:Theeffectsofophthalmicdrugs,vehicles,andpreservativesoncornealepithelium:ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmolVisSci15:246-259,197614)BursteinNL,KlyceSD:Electrophysiologicandmorphologiceffectsofophthalmicpreparationsonrabbitcorneaepithelium.InvestOphthalmolVisSci16:899-911,197715)LiangH,BaudouinC,FaureMOetal:Comparisonoftheoculartolerabilityofalatanoprostcationicemulsionversusconventionalformulationsofprostaglandins:aninvivotoxicityassay.MolVis15:1690-1699,200916)WhitsonJT,CavanaghHD,LakshmanNetal:Assessmentofcornealepithelialintegrityafteracuteexposuretoocularhypotensiveagentspreservedwithandwithoutbenzalkoniumchloride.AdvTher23:663-671,200617)GuenounJM,BaudouinC,RatPetal:Invitrostudyofinflammatorypotentialandtoxicityprofileoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostinconjunctiva-derivedepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci46:2444-2450,200518)HorsleyMB,KahookMY:Effectsofprostaglandinanalogtherapyontheocularsurfaceofglaucomapatients.ClinOphthalmol3:291-295,200919)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,200820)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepitherialcellculturesystem.AdvTher23:511-519,200621)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudyofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007

ハードコンタクトレンズの動きの経時的変化

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0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)883《原著》あたらしい眼科28(6):883.885,2011cはじめにハードコンタクトレンズ(HCL)は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)と比較して,酸素透過性が高い,光学性に優れる,耐久性が高い,および,重篤な角膜障害を生じにくいなど多くの利点を有している1).しかしながら,使い捨てSCLや頻回交換SCLの急速な普及に伴い,近年HCLの処方頻度は減少傾向にある.HCLが敬遠される最大の原因の一つに初装時の異物感があげられ2),イニシャルのトライアルレンズを装用した時点で強い異物感によりドロップアウトする症例も多い.このため,特にイニシャルのトライアルレンズには異物感の極力少ないレンズを選択することが大変重要である3).異物感の原因には,レンズの大きさ,べベル部分のデザイン,角膜の神経終末の分布などさまざまな要因が関与している.レンズの動きが大きすぎることも,異物感の大きな原因となり,見え方の安定感を欠く原因にもなる.逆に,レンズの動きが小さすぎることは,レンズの固着,涙液交換の低下,装用感の悪化およびレンズの外しにくさにつながり,角膜障害の原因となることもある.このように,瞬目時のレンズの動きを正確に評価することは大変重要であると考えられる.しかし,レンズの動きは,細隙灯顕微鏡により,mm単位で測定されているのが現状であり,検者個人の感覚によるところが大きく,これまで適切な評価方法がなかった.そこで今回筆者らは,画像解析を用いて,レンズの動きの新しい評価方法を考案し,HCL装用時の瞬目に伴うレンズの動きを経時的に検討した.また,レンズ処方時にレンズの動きを評価するタイミング,および,人工涙液によるレンズの動きの変化についても検討した.I対象および方法被検者はHCLの装用歴があり,近視または近視性乱視以外に眼疾患を有しない5例10眼(男性1例2眼,女性4例〔別刷請求先〕藤田博紀:〒270-1132千葉県我孫子市湖北台1-1-3藤田眼科Reprintrequests:HirokiFujita,Ph.D.,FujitaEyeClinic,1-1-3Kohoku-dai,Abiko-shi,Chiba270-1132,JAPANハードコンタクトレンズの動きの経時的変化藤田博紀*1,2馬場富夫*2田中直*2佐野研二*3*1藤田眼科*2桑野協立病院眼科*3あすみが丘佐野眼科TimeCourseChangesinHardContactLensMovementHirokiFujita1,2),TomioBaba2),TadashiTanaka2)andKenjiSano3)1)FujitaEyeClinic,2)KuwanoKyoritsuHospital,3)AsumigaokaSanoEyeClinicハードコンタクトレンズ(HCL)装用者5例10眼において,レンズ装用時のレンズの動きを録画し,1/30秒ごとに解析処理して,レンズの動きを数値的に評価した.HCL装用後のレンズの動きは,徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.しかし,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.HCLのフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった.Changesinthemovementofhardcontactlenses(HCL)duringwearwereanalyzedbymonitoringtheHCLevery1/30secondin10eyesof5HCLwearers.ResultsshowedthatalthoughHCLmovementdecreasedwithtimeafterHCLinsertion,significantchangeinmovementwasobservedwithin5minutesafterinsertion.However,therewasnostatisticallysignificantdifferencebetweenlensmovementat30minutesandat8hoursafterHCLinsertion.TheanalyticalresultsindicatethatinHCLwearers,HCLfitshouldnotbeevaluatedimmediatelyafterlensinsertion,butatleast30minutesafter.HCLmovementwassignificantlyincreasedbyuseofartificialtears.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):883.885,2011〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,レンズの動き,人工涙液.hardcontactlens,lensmovement,artificialteardrops.884あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(132)8眼)であり,平均年齢は35.2±11.2歳(25.47歳)であった.被検者には十分なインフォームド・コンセントを行った.今回用いたHCLは,サンコンマイルドIIR(サンコンタクトレンズ社製)で,直径8.8mmの球面レンズである.レンズの周辺部の6カ所にMETORONMARKER(PermanentInks社製)を用いてマーキングを施した(図1).ベースカーブについては,オートレフケラトメーターにて測定した角膜曲率半径をもとにトライアルエンドエラーでパラレルフィッティングに決定した.レンズ度数は+3.25..9.00Dであった.本レンズを用いて,レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きを録画した.この録画した画像を,デジモ社の画像解析ソフトであるイメージトラッカー(PTV)を用いて1/30秒ごとに解析処理し,レンズの動きを数値的に評価した(図2).レンズの動きは,以下のようにして求めた.まず,図2のように任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.画像を1/30秒ごとにコマ送りすることにより,レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した(図3).最後に,眼瞼にスケールを置いて撮影し,EmaxとEminの距離を実際の長さに換算し,レンズの動きと定義した(図4).また,長時間レンズ装用後における人工涙液点眼直後のレンズの動きについても,同様の方法にて検討した.図1マーキングしたレンズレンズの周辺部の6カ所にマーキングを施した.0.00.51.01.52.0直後5分10分20分30分長時間***NS経過時間レンズの動き(mm)図4レンズの動きの経時的変化装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなかった.*p<0.05,**p<0.01,NS:notsignificant.ABCD図2レンズの位置の決定方法任意のマーキングした2点AとBの中点であるCをレンズ上の固定点とした.瞳孔中心(D)を眼球上の固定点とし,レンズの位置Eは座標C─Dにより求めた.EminEmax図3レンズの動きの量の測定方法レンズの最も高いレンズ位置Emaxと最も低いレンズ位置Eminを求め,EmaxとEminの距離を測定した.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011885II結果レンズ装用直後,5分後,10分後,20分後,30分後,および8時間後のレンズの動きは,それぞれ1.59±0.67mm,1.15±0.59mm,1.01±0.50mm,0.98±0.50mm,0.76±0.37mm,0.58±0.25mmであり,経時的に小さくなった(図4).装用直後と5分後,および,装用20分後と8時間後では,pairedt検定にて,それぞれレンズの動きに有意差があった.しかし,装用30分後と8時間後ではレンズの動きに有意差がなかった.また,人工涙液点眼により,レンズの動きは1.70±0.62mmであり,人工涙液点眼前と比較して有意に大きくなった(図5).III考察現在HCLのフィッティングマニュアルでは,レンズの動きに関しては,適正な数値が示されていないことも多い.今回筆者らは,直径8.8mmの球面というわが国では一般的なデザインであるHCLのレンズ周辺に特殊な色素でマーキングを施し,そのマーキングを1/30秒で追随するという新しい方法で,レンズの動きを精密に測定した.今回得られたデータでは,レンズの動きは経時的に徐々に小さくなり,特に装用5分後までは,レンズの動きは急激に変化した.また,装用30分後のレンズの動きは,長時間装用後と比較して有意差がなくなった.臨床の現場では,HCL処方の際,レンズの動きの評価は,装用して間もなく行われることもある.しかし,以上の結果から,トライアルレンズ装用時のフィッティングの評価は,装用直後には避け,装用30分経過した後が望ましいと考えられた.特に,装用後短時間でフィッティングを評価し,実際に装用を開始してから装用感の不良などを訴える症例に対しては,定期検査の際,長時間装用した状態でのフィッティングも再評価する必要があると考えられた.ところで,HCL装用者のなかには長時間の装用や乾燥感に伴い,レンズが取り外しにくいと訴える症例が多い.その対処方法として,人工涙液点眼が推奨されている.人工涙液点眼がレンズの動きへ及ぼす影響については,SCLの装用時には,レンズの中心厚が厚くなり,また,レンズ下の涙液層が薄くなることによって,レンズの動きは小さくなるという報告もある4).しかし,今回の結果から,HCLの装用時には,人工涙液点眼はレンズの動きを大きくする効果があることが確認された.このため,HCLの動きの少なかったり,固着しやすかったりする症例に対し,積極的に人工涙液の点眼を指導しても良いと考えられた.ただし,人工涙液点眼のレンズの動きへの影響は,一時的な対処法にすぎず,レンズの修正など根本的な対処も必要である.今回のように,レンズの動きを正確に評価できる方法を確立することはCLの研究において大変意義深く,本方法はさまざまなレンズの評価研究に応用できると考えている.今後の課題としては,1)レンズのデザイン(直径や球面,非球面など),2)涙液交換率,3)レンズの装用感,4)qualityofvision,および5)角膜形状(角膜乱視),それぞれとレンズの動きとの関係などについても精査の予定である.使い捨てSCLや頻回交換SCLが主流となった現在でも,HCLにおいても,さまざまなレンズが開発され,装用感やqualityofvisionの改善が図られている.これらのレンズの動きを評価する際にも,本方法は新しい方法として大変有用である.ただし,本方法は,解析に多大な時間を要するため,マーキングなしで解析できる簡便な方法を開発する必要もある.文献1)藤田博紀:ハードコンタクトレンズ.眼科診療プラクティス27,標準コンタクトレンズ診療(坪田一男編),p262-272,文光堂,20092)FujitaH,SanoK,SasakiSetal:Oculardiscomfortattheinitialwearingofrigidgaspermeablecontactlenses.JpnJOphthalmol48:376-379,20043)藤田博紀,馬場富夫,佐野研二ほか:非球面大直径ハードコンタクトレンズの初装時における異物感の評価.あたらしい眼科24:835-837,20074)NicholsJJ,SinnottLT,King-SmithPEetal:Hydrogelcontactlensbindinginducedbycontactlensrewettingdrops.OptomVisSci85:236-240,2008***0.00.51.01.52.0長時間点眼後*レンズの動き(mm)図5人工涙液点眼によるレンズの動きの変化人工涙液点眼により,レンズの動きは有意に大きくなった.*p<0.01.

赤外線画像を用いた強膜弁の観察

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)879《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):879.882,2011cはじめに人間が視覚化することのできる電磁波は,紫外線より長く赤外線より短い0.4.0.75μmの間の波長域である.波長がおよそ0.75.1,000μmの電磁波を赤外線という.そのうち,近赤外線はおよそ0.75.2.5μmの電磁波であり,赤色の可視光線に近い波長をもっている.可視光線に近い特性をもつため,人間には感知できない光として,赤外線カメラや情報機器などに応用されている1).医療領域では,その組織深達度を利用した赤外線カメラシステムによる乳癌のセンチネルリンパ節生検への応用が知られる2.4).眼科領域ではインドシアニングリーンを用いた蛍光眼底造影検査が加齢黄斑変性症などの脈絡膜疾患に広く利用されている5~8).緑内障領域で赤外線を利用した研究としては,Kawasakiらの,サーモグラフィを用いた濾過胞の機能評価の報告がある9)が,赤外線画像を利用して,強膜弁の位置を確認しよう〔別刷請求先〕野村英一:〒236-0004横浜市金沢区福浦三丁目9番地横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:EiichiNomura,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama,Kanagawa236-0004,JAPAN赤外線画像を用いた強膜弁の観察野村英一*1伊藤典彦*1野村直子*1安村玲子*1武田亜紀子*1遠藤要子*2杉田美由紀*3水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2横浜労災病院眼科*3蒔田眼科クリニックInfraredRayImagingofScleralFlapsafterGlaucomaSurgeriesEiichiNomura1),NorihikoItoh1),NaokoNomura1),ReikoYasumura1),AkikoTakeda1),YokoEndo2),MiyukiSugita3)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)YokohamaRosaiHospital,3)MaitaEyeClinic目的:濾過胞再建術の前に,以前の緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは有用であるが,可視光の所見では確認が困難なことがある.赤外線画像(IR画像)を用いて強膜弁の位置の確認を試みたので報告する.対象および方法:濾過胞機能不全もしくは漏出濾過胞の10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に後ろ向きに検討した.可視光画像(眼底カメラによるカラー前眼部撮影)とIR画像(ハイデルベルグ社,スペクトラリスのscanninglaserophthalmoscope:SLO画像)で,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを比較した.結果:可視光画像では1.26±0.26(standarderrorofmean:SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).結論:IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.MaterialsandMethods:Nineteen(19)scleralflapsfrom10eyesafterglaucomasurgery(10cases,averageage64±16years)wereobservedretrospectively,basedonmedicalrecords.Thenumberofquadrangularscleralflapsidesthatwerevisibleusinginfraredray(IR)imageswascomparedwiththenumbervisibleusingvisiblerayimages.IRimagesofscleralflapsweremadeusingascanninglaserophthalmoscope(SLO)(Heidelberg,Spectralis);visiblerayimagesweremadeusingafunduscamera(KOWA,Vx-10i)incolorphotographingmodefortheanteriorsegmentoftheeyeball.Results:1.26±0.26(SEM)sidesofaquadrangularscleralflapweredetectedusingvisiblerayimages,and2.21±0.26(SEM)sidesweredetectedusingIRimages.ThenumberofscleralflapsidesvisibleusingIRimageswassignificantlyhigherthanthenumbervisibleusingvisiblerayimages(p<0.005Wilcoxonsignedranktest).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):879.882,2011〕Keywords:赤外線,緑内障,緑内障手術,強膜弁,画像化.infraredrays,glaucoma,glaucomasurgery,scleralflap,imaging.880あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(128)とした試みはない.強膜弁は,通常は結膜に覆われているため,細隙灯顕微鏡などによる可視光で正確に確認するのはむずかしいことが多いが,濾過胞再建術の術前に,以前に行われた緑内障手術による強膜弁の位置が確認できることは,手術の方法を考えるうえで有用である.今回筆者らは,赤外線画像(IR画像)を用いることで,近赤外線の組織深達性により,緑内障手術の強膜弁の位置を知ることができないか検討したので報告する.I対象および方法濾過手術後に眼圧上昇により点眼,あるいは内服の追加治療が必要となった濾過胞機能不全,もしくは漏出濾過胞で,2009年6月から2010年8月に当科において濾過胞のカラーの可視光画像とIR画像の撮影が行われた,10例10眼(男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳)の強膜弁19カ所を対象に,診療録をもとに後ろ向きに検討した.対象の緑内障の病型の内訳は,慢性閉塞隅角緑内障(CACG)3例,原発開放隅角緑内障(POAG)2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,血管新生緑内障(NVG)2例,先天緑内障1例であった.また,カラー画像取得の方法は眼底カメラによるもの19カ所であった.IR画像取得の方法はハイデルベルグ社のスペクトラリスの走査型レーザー検眼鏡(scanninglaserophthalmoscope:SLO)によるIR画像によるもの19カ所であった.観察した強膜弁の各部位における最終の術式の内訳は,線維柱帯切除術8カ所,濾過胞再建術2カ所,不明9カ所であった.診療録より手術日が確定した強膜弁は9カ所あり,手術から撮影日までの期間は平均32.0±12.3(SEM)カ月であった(表1).なお,濾過手術を対象としているが,同一眼に含まれる強膜弁に濾過手術以外のものを含んでいた場合は調査対象とした.カラーの可視光画像の取得にあたっては,眼底カメラ(KOWA,Vx-10i)による前眼部撮影を用いた.IR画像の取得にあたっては,ハイデルベルグ社のスペクトラリスのSLOによるIR画像(光源は波長820nmのダイオードレーザー)を用いた.すべての画像は電子カルテの画像ファイリングソフト(PSC,Clio)に取り込み,四角形の強膜弁の輪部を除いた3辺のうち何辺が見えるかを,検者1名により電子カルテの液晶モニター上で比較した.また,この19カ所の強膜弁を対象に可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係について検討した.II結果可視光画像よりもIR画像で強膜弁が良好に透見できた典型例を図1に示した.AB図1ハイデルベルグ製スペクトラリスのIR画像で良好に強膜弁が観察できた1例10時方向の強膜弁は,眼底カメラの可視光画像(A)では0辺,ハイデルベルグのIR画像(B)で3辺(白矢印)が確認できた.表1可視光画像とIR画像の比較検討の対象とした症例の内訳.10例10眼男性5例,女性5例,平均年齢64±16歳の強膜弁19カ所.CACG3例,POAG2例,ぶどう膜炎による続発緑内障2例,NVG2例,先天緑内障1例.カラー画像取得の方法眼底カメラ19カ所.IR画像取得の方法スペクトラリス19カ所.術式の内訳線維柱帯切除術8カ所濾過胞再建術2カ所不明9カ所.撮影までの期間平均32.0±12.3カ月(129)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011881図1の症例は70歳,男性.2007年3月,右眼の虹彩毛様体炎,虹彩に新生血管がみられ,眼圧38mmHg,眼底のCoats病様の血管病変にて当科初診.血管病変の強いぶどう膜炎による血管新生緑内障と診断された.2007年11月ベバシズマブの硝子体注射,2008年2月から汎網膜光凝固術を施行された.2008年4月,10時方向に円蓋部基底で線維柱帯切除術を施行された.2010年5月,緑内障点眼薬併用下に,右眼眼圧は14mmHgとなった.強膜弁は眼底カメラの可視光画像(図1A)では0辺,ハイデルベルグ社のIR画像(図1B)で3辺(白矢印)が確認できた.強膜弁の辺が確認できたのは,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(p<0.005Wilcoxon符号順位和検定)(図2).可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数には,正の相関関係がみられ有意であった(n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定)(図3).III考察可視光画像で確認できる強膜弁の辺の数より,IR画像で確認できる辺の数は有意に増加していた.近赤外光は可視光よりも組織深達性があるため,結膜下の強膜弁の位置を知ることができたと考えられる.可視光で検出できる辺の数と赤外線で検出できる辺の数に正の相関がみられたのは,近赤外光が可視光に近い波長特性があるため,結膜の厚みや結膜下組織の影響を同様に受けることを示唆していると考えられた.可視光でも確認できる強膜弁の辺は,IR画像では確認できる辺の数自体の増加はないが,より強膜弁の状態を詳細に確認できた.しかし,可視光でもIR画像でも検知できない強膜弁も一部にみられた.結膜の厚みや,強膜弁の隙間の治癒の程度などにより描出状態が影響を受けると考えられた.線維柱帯切除術と線維柱帯切開術で,ハイデルベルグ社のスペクトラリスを用いたIR画像による強膜弁の描出態度を比較してみた.線維柱帯切除術8カ所,線維柱帯切開術2カ所を対象とした.本研究が濾過手術を対象としていたため,同時期に撮影された線維柱帯切開術と比べた限定的な結果であるが,線維柱帯切除術では1.75±0.52(SEM)辺,線維柱帯切開術では3.00±0.00(SEM)辺がみられ,有意差はみられなかった(Mann-Whitney’sU検定).線維柱帯切開術の結膜は平滑であるため,強膜面の焦点は合いやすいのに対して,線維柱帯切除後の結膜は厚みがあることが多く,強膜面の焦点は合いにくかった.また,線維柱帯切除術の結膜には,網状の模様がみられることがあった.これは,線維柱帯切除後は,結膜表面が不整であること,結膜下組織の増生があること,内部に小さなcyst様構造があること,濾過胞内の水分が存在することなどの影響が考えられた.近年,前眼部OCT(光干渉断層計)のように,近赤外光で断層像を作成する機器が登場している10).今回,すでに普及している機器を利用しても二次元的な像ではあるが強膜弁の位置が確認できた.赤外線による強膜弁の観察は,濾過胞再建術の術前検査に役立つ可能性が示唆された.IV結論IR画像は強膜弁の位置確認に有用であった.濾過胞再建術の術前検査として役立つ可能性が示唆された.3210可視光IR確認できた辺の数(辺)*図2可視光画像とIR画像によって確認できた強膜弁の辺の数の比較対象画像をカラーの可視光画像を眼底カメラの前眼部撮影画像,IR画像をハイデルベルグのIR画像とした場合,カラーの可視光画像では1.26±0.26(SEM)辺,IR画像では2.21±0.26(SEM)辺と,IR画像で有意に強膜弁の辺が確認できた(n=19,p<0.005Wilcoxon符号順位和検定).311124124y=0.6311x+1.4133R2=0.407401230123IRで確認できた辺の数(辺)可視光で確認できた辺の数(辺)図3可視光画像とIR画像で確認できた強膜弁の辺の数の相関関係n=19,同順位補正相関係数=0.665,同順位補正p値(両側確率)=0.00478,Spearman順位相関係数の検定,可視光で確認できる辺の数とIRで確認できる辺の数は正の相関があり有意であった.なお,バブル内中央の数字は,強膜弁の数を表している.882あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(130)文献1)久野治義:赤外線の基礎.赤外線工学,p1-13,社団法人電子情報通信学会,19942)KitaiT,InomotoT,MiwaMetal:Fluorescencenavigationwithindocyaninegreenfordetectinglymphnodesinbreastcancer.BreastCancer12:211-215,20053)小野田敏尚,槙野好成,橘球ほか:インドシアニングリーン(ICG)蛍光色素による乳癌センチネルリンパ節生検の経験.島根医学27:34-38,20074)鹿山貴弘,三輪光春:赤外観察カメラシステム(PDE)の開発と医用応用.MedicalScienceDigest34:78-80,20085)米谷新,森圭介:ICG蛍光眼底造影─読影の基礎.脈絡膜循環と眼底疾患(清水弘一監修),p9-18,医学書院,20046)FlowerRW,HochheimerBF:Clinicaltechniqueandapparatusforsimultaneousangiographyoftheseparateretinalandchoroidalcirculations.InvestOphthalmolVisSci12:248-261,19737)林一彦:赤外線眼底撮影法.眼科27:1541-1550,19858)YannuzziLA,SlakterJS,SorensonJAetal:Digitalindocyaninegreenangiographyandchoroidalneovascularization.Retina12:191-223,19929)KawasakiS,MizoueS,YamaguchiMetal:Evaluationoffilteringblebfunctionbythermography.BrJOphthalmol93:1331-1336,200910)LeungCK,YickDW,KwongYYetal:AnalysisofblebmorphologyaftertrabeculectomywithVisanteanteriorsegmentopticalcoherencetomography.BrJOphthalmol91:340-344,2007***

多施設による緑内障患者の実態調査2009 年度版 ―薬物治療―

2011年6月30日 木曜日

874(12あ2)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):874.878,2011c〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN多施設による緑内障患者の実態調査2009年度版―薬物治療―井上賢治*1塩川美菜子*1増本美枝子*1野口圭*1澤田英子*1南雲はるか*1若倉雅登*1添田尚一*2富田剛司*3*1井上眼科病院*2西葛西井上眼科病院*3東邦大学医学部眼科学第二講座CurrentStatusofTherapyforGlaucomaatPrivatePracticesandPrivateOphthalmologyHospitalsin2009KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MiekoMasumoto1),KeiNoguchi1),HidekoSawada1),HarukaNagumo1),MasatoWakakura1),ShoichiSoeda2)andGojiTomita3)1)InouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyeEyeHospital,3)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine緑内障患者の治療に関する実態を本試験の趣旨に賛同した施設で調査し,2007年に行った前回調査と比較する.本試験の趣旨に賛同した30施設に2009年11月24日~30日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者3,074例3,074眼を対象とした.緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査した.緑内障病型は,正常眼圧緑内障45.4%,(狭義)原発開放隅角緑内障32.4%,原発閉塞隅角緑内障8.6%であった.使用薬剤数はなし9.9%,1剤48.4%,2剤24.3%,3剤12.8%,4剤3.9%,5剤0.7%であった.単剤例(1,489例)はラタノプロスト37.6%,タフルプロスト10.0%,トラボプロスト8.0%,ウノプロストン7.7%,ゲル化チモロール7.2%であった.2剤例(749例)はプロスタグランジン(PG)関連薬+b遮断薬58.6%,PG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬20.0%であった.前回調査と比較して単剤例はPG関連薬が増加し,b遮断薬が減少した.2剤例はPG関連薬+b遮断薬が最多であったが,今回はPG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が増加した.Weinvestigatedthecurrentstatusofglaucomatherapyatprivatepracticesandophthalmichospitals.Includedinthisstudywere3,074patientswithglaucomaandocularhypertensionwhovisited30privatepracticesandhospitalsduringtheweekofNovember24,2009.Theresultswerecomparedwiththoseofapreviousstudyperformedin2007.Ofthesepatients,45.4%hadnormal-tensionglaucoma,32.4%hadprimaryopen-angleglaucomaand8.6%hadprimaryangle-closureglaucoma.Onedrugalonewasprescribedin48.4%ofcases,2drugsin24.3%,3in12.8%,4in3.9%and5in0.7%.Inpatientsreceivingmonotherapy,latanoprost(37.6%),tafluprost(10.0%),travoprost(8.0%),unoprostone(7.7%)andgel-formingtimolol(7.2%)wereprescribed.Prostaglandinanalogandbeta-blockingagentwereusedincombinationin58.6%ofcases.Topicalcarbonicanhydraseinhibitorwasusedasanadjuncttoprostaglandinanalogin20.0%ofcases.Inpatientsreceivingmonotherapy,prostaglandinanalogswereincreasedandbeta-blockingagentsweredecreased.Inpatientsreceivingcombinationtherapy,prostaglandinanalog+carbonicanhydraseinhibitorwasincreased.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):874.878,2011〕Keywords:眼科診療所,眼科専門病院,緑内障治療薬,治療の実際.privatepractice,ophthalmichospital,glaucomamedication,currentstatus.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011875はじめにわれわれ眼科医師は,日本緑内障学会が作成した緑内障診療ガイドライン1)に基づいて緑内障を診断し,病型を分類し,治療を開始し,その治療の効果を判定し,治療法の見直しを行っている.緑内障治療として現在のところ唯一根拠が明確に示された治療法が眼圧下降である2~5).眼圧下降療法の第一選択は薬物治療である.そのため緑内障患者に対して薬物を投与する際に日本における緑内障の頻度や薬物治療の現状を知ることは重要である.日本の緑内障の疫学調査として多治見スタディの報告がある6).また過去に,国立大学病院や公的中核病院での緑内障治療の実態に関する報告がなされた7,8).さらに慢性疾患診療支援システム研究会に登録された緑内障患者と国立大学病院で加療中の緑内障患者の新規処方の報告が近年なされた9).眼科医療の前線である一般眼科診療所や眼科専門病院においての緑内障ならびに高眼圧症に対する治療の実態は不明であったので,筆者らは2007年に調査を行い報告した10).前回調査より2年8カ月間が経過し,新しい緑内障点眼薬も使用可能になった.そこで今回,一般眼科診療所ならびに眼科専門病院での緑内障治療の実態について再調査を行った.I対象および方法この調査は,調査の趣旨に賛同した30施設において,2009年11月24日から同30日までの間に行った.調査に参加した施設を表1に示す.この調査期間内に,調査施設の外来を受診した緑内障および高眼圧症患者全例を対象とした.緑内障の診断と治療は,緑内障診療ガイドライン1)に則り,各施設の判断で行った.片眼のみの緑内障または高眼圧症患者では罹患眼を,両眼罹患している場合は右眼を調査対象眼とした.これらの各施設にあらかじめ調査票を送付し,診療録から診察時の年齢,性別,病型,使用薬剤,緑内障手術既往を調査した.各施設からすべての調査票を集計センター(井上眼科病院内)に回収し集計を行った.使用薬剤については,単剤,2剤に分けて検討した.すべての結果を2007年に行った前回調査の結果10)と比較した(c2検定).II結果対象は3,074例3,074眼(男性1,264例,女性1,810例),年齢は66.9±13.1歳(平均±標準偏差,15~99歳)であった.病型は,正常眼圧緑内障1,396例(45.4%),(狭義)原発開放隅角緑内障996例(32.4%),原発閉塞隅角緑内障265例(8.6%),続発緑内障224例(7.3%),高眼圧症162例(5.3%)などであった(図1).緑内障手術は231例(7.5%)が行っていた.術式は線維柱帯切除術が198例(6.4%),線維柱帯切開術が14例(0.5%),線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両方の手術が5例(0.2%),隅角癒着解離術が5例(0.2%),周辺虹彩切除術が4例(0.1%),隅角癒着解離術と線維柱帯切除術と線維柱帯切開術の両方の手術が1例(0.03%)であった.何らかの眼圧下降手術を行ってあるものの,術式不明の症例が4例(0.1%)あった.緑内障および高眼圧症に対する薬剤数は,平均1.5±1.0剤で,その内訳は1剤が1,489例(48.4%),2剤が749例(24.3%),3剤が393例(12.8%),4剤が120例(3.9%),5剤が20例(0.7%)であった(図2).正常眼圧緑内障で経過観察中の症例,高眼圧症で緑内障性視神経症を認めず,視野が正常であるため経過観察のみ行っている症例,すでに濾過手術などの眼圧下降手術を施行してある症例などで,無投薬表1参加施設北海道ふじた眼科クリニック宮城県鬼怒川眼科医院埼玉県石井眼科クリニックやながわ眼科東京都お茶の水・井上眼科クリニックえづれ眼科江本眼科おおはら眼科おがわ眼科駒込みつい眼科とやま眼科中沢眼科医院西葛西井上眼科病院はしだ眼科クリニックみやざき眼科もりちか眼科クリニック後藤眼科社本眼科菅原眼科クリニック千葉県あおやぎ眼科おおあみ眼科のだ眼科麻酔科医院吉田眼科金山眼科高根台眼科神奈川県さいとう眼科眼科中井医院中川眼科熊本県むらかみ眼科クリニック沖縄県ガキヤ眼科(順不同・敬称略)NTG1,396例45.4%POAG996例32.4%PACG265例8.6%続発緑内障224例7.3%OH162例5.3%その他31例1.0%図1病型の内訳876あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(124)であったものが303例(9.9%)であった.使用薬剤の内訳は,プロスタグランジン関連薬が2,164例と圧倒的に多く,ラタノプロスト1,450例,タフルプロスト284例,トラボプロスト204例,ウノプロストン145例,ビマトプロスト81例で使用されていた(表2).すべてのb遮断薬ならびにab遮断薬合わせて1,493例で使用されていた.ゲル化チモロール411例,水溶性チモロール325例,持続型カルテオロール251例,カルテオロール122例,ニプラジロール121例などであった.炭酸脱水酵素阻害薬の点眼薬はブリンゾラミド392例,ドルゾラミド324例で使用されていた.炭酸脱水酵素阻害薬の内服薬は98例で使用されていた.単剤のみ使用している症例の使用薬剤は,ラタノプロスト560例(37.6%),タフルプロスト149例(10.0%),イオン応答ゲル化チモロール123例(8.3%),トラボプロスト119例(8.0%),ウノプロストン114例(7.7%),水溶性チモロール102例(6.9%)などであった(図3).2剤併用症例の組み合わせは,プロスタグランジン関連薬+b遮断薬が最も多く439例(58.6%),プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬は150例(20.0%),b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬は54例(7.2%)などであった(図4).今回の調査の結果を2007年の前回調査の結果10)と比較すると,病型(前回は正常眼圧緑内障47.4%,原発開放隅角緑内障34.3%,原発閉塞隅角緑内障7.2%,続発緑内障6.1%,表2使用薬剤の内訳PG関連薬ラタノプロストタフルプロストトラボプロストウノプロストンビマトプロスト1,450眼284眼204眼145眼81眼(2,164眼)b遮断薬(ab遮断薬含む)ゲル化チモロール水溶性チモロール持続型カルテオロールカルテオロールニプラジロールチモロールレボブノロール塩酸ベタキソロールb後発品ニプラジロール後発品411眼325眼251眼122眼121眼104眼75眼43眼26眼15眼(1,493眼)炭酸脱水酵素阻害薬ブリンゾラミドドルゾラミドアセタゾラミド392眼324眼98眼a1遮断薬塩酸ブナゾシン209眼副交感神経刺激薬ピロカルピン21眼交感神経遮断薬ジピべフリン25眼4剤120例3.9%5剤20例0.7%1剤1,396例48.4%2剤996例24.4%3剤393例12.8%0剤303例9.9%図2使用薬剤数PG関連薬+b遮断薬58.6%PG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬20.0%その他21.4%図42剤併用例の内訳PG関連薬65.6%b遮断薬30.4%その他ベタキソロール1.3%4.0%カルテオロール1.6%持続性カルテオロール5.6%水溶性チモロール6.9%ゲル化チモロール8.3%ビマトプロスト2.4%トラボプロスト8.0%タフルプロスト10.0%ラタノプロスト37.6%ウノプロストン7.7%レボブノロール2.3%ニプラジロール3.7%b後発品0.7%図3使用薬物内訳(単剤例)(125)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011877高眼圧症3.7%)に違いはなかった.使用薬剤数(前回は平均1.5±1.0剤で,なし11.9%,1剤44.7%,2剤27.5%,3剤12.1%,4剤3.3%,5剤0.4%,6剤0.1%)に違いはなかった.単剤例の内訳は,前回はプロスタグランジン関連薬53.4%(ラタノプロスト47.6%,ウノプロストン5.8%),b遮断薬(ab遮断薬を含む)36.3%(カルテオロール9.7%,チモロール7.3%,ゲル化チモロール7.1%,ニプラジロール6.2%など)で,今回はプロスタグランジン関連薬(65.6%)が有意に増加し,b遮断薬(30.4%)が有意に減少した(p<0.0001).2剤併用例の内訳は,前回はプロスタグランジン関連薬+b遮断薬54.5%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬15.6%で,今回はプロスタグランジン関連薬+b遮断薬58.6%は同等であったが,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬20.0%が有意に増加した(p<0.01).III考按今回の調査の緑内障病型は広義の原発開放隅角緑内障が約80%を占めた.正常眼圧緑内障は45.4%,狭義の原発開放隅角緑内障は32.4%であった.2000年から2001年に行われた多治見スタディ6)においても広義の原発開放隅角緑内障が約80%を占めており,今回と同様であった.広義の原発開放隅角緑内障の頻度は前回調査(2007年)と同様であり,広義の原発開放隅角緑内障患者が圧倒的に多く,10年間においてもその頻度が変わっていないことが判明した.緑内障の眼圧下降療法として薬物(点眼薬,内服薬),レーザー,手術があげられる.眼圧下降効果と副作用(合併症)を考えると,通常第一選択は薬物治療となる.しかし点眼薬の種類は非常に多種にわたりその選択は容易ではない.強力な眼圧下降作用と1日1回点眼の利便性を有するプロスタグランジン関連薬が第一選択薬として使用されることが近年多くなっている7~10).単剤を使用して眼圧下降効果が不十分な場合は,他剤に切り替えるか,他剤を追加投与することになる1).これをくり返していくと多剤併用症例となる.石澤らは大学病院における正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,偽落屑緑内障に対する薬物治療の実態を報告した7).使用薬剤数は1剤39%,2剤33%,3剤20%,4剤7%,5剤1.5%で,薬物数は3剤までで92%であった.平均使用薬剤数を計算すると2.0±1.0剤である.清水らは大学病院およびその関連病院における薬物治療の実態を正常眼圧緑内障,原発開放隅角緑内障,その他の緑内障の3つの群に分けて調査した8).使用薬剤数は正常眼圧緑内障では1剤60.6%,2剤29.8%,3剤9.6%で,原発開放隅角緑内障では1剤25.6%,2剤32.7%,3剤31.0%,4剤以上10.7%で,その他の緑内障では1剤23.0%,2剤37.8%,3剤31.1%,4剤以上8.1%で,薬物数は3剤までで90~100%であった.柏木らは慢性疾患診療支援システム研究会に登録された緑内障患者と国立大学病院で加療中の緑内障患者の2000年1月から2008年6月までの9年間の新規処方の実態を報告した9).患者当たりの年間緑内障点眼薬は検討期間中において1.5種類から2.2種類であった.今回と前回の調査から点眼薬を使用していない患者を除外すると,平均使用薬剤数は今回が1.7±0.9剤,前回が1.7±0.9剤である.大学病院やその関連病院と比べると平均使用薬剤数は一般眼科診療所や眼科専門病院では同等かやや少ない可能性がある.その理由として一般眼科診療所では緑内障手術を行っておらず,多剤併用例で手術適応の患者を紹介していることが考えられる.2剤併用例については,石澤らはプロスタグランジン関連薬+b遮断薬65.5%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬12.6%,b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬6.9%などと報告した7).清水らは正常眼圧緑内障ではプロスタグランジン関連薬+ab遮断薬42.2%,プロスタグランジン関連薬+b遮断薬29.7%,プロスタグランジン関連薬+a1遮断薬23.3%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬6.7%,原発開放隅角緑内障ではプロスタグランジン関連薬+b遮断薬47.3%,プロスタグランジン関連薬+a1遮断薬20.0%,プロスタグランジン関連薬+ab遮断薬12.7%,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬12.7%などと報告した8).b遮断薬にab遮断薬を含めて考えると,前回調査の結果10)と過去の報告7,8)とは同様であった.今回の調査ではプロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が増加していた.その理由として,高齢化社会を迎え,b遮断薬にみられる呼吸器系や循環器系への全身性副作用が出現する心配が少ない炭酸脱水酵素阻害薬が使用されつつあることがあげられる.また,プロスタグランジン関連薬に追加投与した際の夜間の眼圧下降効果は,炭酸脱水酵素阻害薬がb遮断薬より強力である11,12)ことも一因と考えられる.前回と今回の調査の間に2年8カ月間の期間があり,この間に持続型カルテオロール(2007年7月発売),トラボプロスト(2007年10月発売),タフルプロスト(2008年12月発売),ビマトプロスト(2009年10月発売)が使用可能となった.柏木らはプロスタグランジン関連薬のうち2006年まではラタノプロストが全体の約90%を占めていたが,2008年ではラタノプロストは72.5%に低下し,トラボプロストが20%となったと報告した9).2007年に行った筆者らの前回調査10)においても単剤例でのプロスタグランジン関連薬のうち,ラタノプロストは89%で,今回はラタノプロスト67.0%,タフルプロスト13.1%,トラボプロスト9.4%であった.多種のプロスタグランジン関連薬が使用可能となり,プロスタグランジン関連薬全体の使用頻度は今後も増加することが,しかしラタノプロストの使用頻度は今後も減少することが予想されるが,最終的にどの点眼薬が最も使用される878あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(126)かは不明である.井上眼科病院(1,468例)と他の29施設(1,606例)を比較すると,男女比は井上眼科病院(男性46.3%,女性53.7%)のほうが他の施設(男性36.4%,女性63.6%)に比べ男性が多かった.平均年齢は井上眼科病院(64.7±13.3歳)のほうが他の施設(68.9±12.7歳)に比べ若かった.病型は井上眼科病院で原発開放隅角緑内障が,他の施設で原発閉塞隅角緑内障が多かった.緑内障手術既往例は井上眼科病院のほうが他の施設に比べ多かった.単剤使用例では井上眼科病院ではゲル化チモロール,ラタノプロストが,他の施設ではイソプロピルウノプロストン,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストが多かった.2剤併用症例では井上眼科病院と他の施設の間に差はなかった.井上眼科病院と他の施設の間に病型や使用薬剤に差がみられたが,その原因として緑内障手術を施行している井上眼科病院では重症例が多い可能性,井上眼科病院の患者は通院歴が長いために古くから使用されている薬剤が依然として使用されている可能性などが考えられる.今回は3,074症例全体の使用薬剤について調査を行った.緑内障の病型の違いによる使用薬剤に関しては前回調査13)同様に今回も現在解析中である.対象患者の眼圧については,各施設で眼圧の測定方法が異なるため,調査項目には入れなかった.今回の実態調査をまとめると,一般眼科診療所や眼科専門病院における緑内障患者の典型的患者像は(広義)原発開放隅角緑内障が多い,手術既往がない,プロスタグランジン関連薬単剤による治療を行っていることがわかった.2年8カ月前に行った前回調査と比較すると,単剤例ではプロスタグランジン関連薬がますます使用され,2剤併用例ではプロスタグランジン関連薬+b遮断薬の使用頻度が相変わらず高いが,プロスタグランジン関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬が増えてきた.謝辞:本調査に参加し,診療録の調査,集計作業にご協力いただいた各施設の諸先生方に,深く感謝します.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20003)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20014)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressure.AmJOphthalmol126:487-497,19985)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol120:1268-1279,20026)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:fortheTajimiStudyGroupandJapanGlaucomaSociety:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20047)石澤聡子,近藤雄司,山本哲也:一大学附属病院における緑内障治療薬選択の実態調査.臨眼69:1679-1684,20068)清水美穂,今野伸介,片井麻貴ほか:札幌医科大学およびその関連病院における緑内障治療薬の実態調査.あたらしい眼科23:529-532,20069)柏木賢治,慢性疾患診療支援システム研究会:抗緑内障点眼薬に関する最近9年間の新規処方の変遷.眼薬理23:79-81,200910)中井義幸,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─薬物治療─.あたらしい眼科25:1581-1585,200811)TamerC,OksuzH:Circadianintraocularpressurecontrolwithdorzolamideversustimololmaleateadd-ontreatmentsinprimaryopen-angleglaucomapatientsusinglatanoprost.OphthalmicRes39:24-31,200712)LiuJH,MedeirosFA,SlightJRetal:Comparingdiurnalandnocturnaleffectsofbrinzolamideandtimololonintraocularpressureinpatientsreceivinglatanoprostmonotherapy.Ophthalmology116:449-454,200913)塩川美菜子,井上賢治,森山涼ほか:多施設による緑内障患者の実態調査─正常眼圧緑内障と原発開放隅角緑内障.臨眼62:1699-1704,2008***

併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用

2011年6月30日 木曜日

868(11あ6)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):868.873,2011cはじめに日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン1)によると,「現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧を下降することである」とされており,したがって強力な眼圧下降効果を有するプロスタグランジン(PG)関連薬あるいはb遮断薬が第一選択薬として使用されている.一方,炭酸脱水酵素(carbonicanhydrase:CA)阻害薬であるドルゾラミドは,眼圧下降効果および点眼回数などの点でやや劣ることから,これらに併用する形で使用されることがほとんどである.近年,ドルゾラミド点眼薬に眼循環改善作用があるとする報告が散見され2.4),緑内障神経保護治療の面で注目されている.2003年Arendら2)は原発開放隅角緑内障患者14例にドルゾラミド,0.5%マレイン酸チモロールあるいはラタ〔別刷請求先〕大黒幾代:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:IkuyoOhguro,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S-1,W-16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN併用薬の違いによる1%ドルゾラミドの視神経乳頭血流増加作用大黒幾代片井麻貴田中祥恵鶴田みどり大黒浩札幌医科大学医学部眼科学講座Dorzolamide1%AddedtoLatanoprostorTimololMaleate0.5%:EffectonOpticNerveHeadBloodFlowinGlaucomaIkuyoOhguro,MakiKatai,SachieTanaka,MidoriTsurutaandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine目的:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールにドルゾラミドを併用した際の視神経乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.対象および方法:ラタノプロスト単剤(LP群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(TM群)で治療中の緑内障患者15症例に1%ドルゾラミドを追加投与し,2カ月後の眼圧,眼灌流圧および視神経乳頭血流量を測定した.結果:ドルゾラミド追加により両群で乳頭血流量に増加傾向がみられた.特にLP群では乳頭陥凹部のmeanblurrate(MBR)値が7.45±2.51から10.09±4.02,TM群では上耳側リムのMBR値が4.49±2.59から6.04±3.20とそれぞれ有意に増加した(p<0.05).一方,眼圧は群間での差はなく両群ともに有意に下降していた.結論:ラタノプロストあるいはマレイン酸チモロールへのドルゾラミドの併用は,眼圧下降だけでなく視神経乳頭血流量増加にも有効であると考えられる.Purpose:Toevaluatetheeffectofadditionalinstillationofdorzolamide1%onopticnerveheadbloodflowinglaucomapatientsreceivingeitherlatanoprostortimololmaleate.CasesandMethod:Thisprospectivestudyinvolved15eyesof15patients,theseriescomprising10patientstreatedwithlatanoprost(LPgroup)and5treatedwithtimololmaleate(TMgroup).Opticnerveheadcirculationwasmeasuredusinglaser-speckleflowgraphy,beforeandat2monthsafterdorzolamideinstillation.Results:Laser-speckleflowgraphydisclosedsignificantbloodflowincreasesinthecuppingofLPgroupandinthesuperotemporalsegmentoftherimareaofTMgroup(p<0.05).Intraocularpressuredecreasedsignificantlyafter2monthsofinstillationinbothgroups.Conclusion:Theseresultssuggestthattheinstillationofdorzolamideadditionaltoeitherlatanoprostortimololmaleateisaneffectivetreatmentforincreasingopticnerveheadbloodflow,aswellasfordecreasingintraocularpressure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):868.873,2011〕Keywords:1%ドルゾラミド,視神経乳頭血流,ラタノプロスト,0.5%マレイン酸チモロール.dorzolamide1%,opticnerveheadbloodflow,latanoprost,timololmaleate0.5%.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011869ノプロストのいずれか1剤を4週間点眼し,網膜動静脈循環時間の短縮およびコントラスト感度の上昇がドルゾラミド群でのみ認められたと報告している.また,2005年にはFuchsjager-Mayrlら4)が原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者140名にドルゾラミドあるいは0.5%マレイン酸チモロールのいずれか1剤を6カ月間点眼し,ドルゾラミド群ではチモロール群に比べて視神経乳頭耳側リムおよび陥凹部の血流が有意に増加したと報告しており,これらの事実はドルゾラミドがマレイン酸チモロールあるいはラタノプロストに比べて網膜および視神経乳頭の循環改善作用を有するとするものであろう.しかしながら,PG関連薬と併用した際のドルゾラミド点眼薬の乳頭血流に関する報告はなく,また併用薬の違いによりドルゾラミドの乳頭血流に及ぼす効果に差が生じるか否かは不明である.そこで,今回はPG関連薬あるいはb遮断薬にドルゾラミド点眼薬を併用し,その乳頭血流に及ぼす影響につき調査した.I対象および方法対象は札幌医科大学眼科緑内障専門外来に通院中の緑内障患者のうち,ラタノプロスト単剤(ラタノプロスト群)あるいは0.5%マレイン酸チモロール単剤(ただし持続性点眼液は除く)(チモロール群)にて3カ月以上治療中で,効果が不十分と判断されかつ当臨床試験の趣旨に賛同した緑内障患者15例(男性7例,女性8例,年齢45.78歳)である.ラタノプロスト群は10例,その内訳は男性6例,女性4例,年齢は54.78歳(平均±標準偏差;68.8±7.2歳),病型は正常眼圧緑内障6例,原発開放隅角緑内障4例である.緑内障病期はHumphrey静的視野プログラム30-2にてmeandeviation(MD)値が.19.14.1.06dB(平均±標準偏差;.5.54±6.82dB)と初期から中期のものが大部分で,MD≦.12dBのAndersonら5)の重度視野欠損例は1例であった(表1).チモロール群は5例,その内訳は男性1例,女性4例,年齢は45.70歳(平均±標準偏差;61.0±10.0歳),病型は正常眼圧緑内障2例,原発開放隅角緑内障2例,虹彩切開術後の慢性閉塞隅角緑内障1例である.緑内障病期は同プログラムにてMD値が.10.85.1.16dB(平均±標準偏差;.5.26±4.70dB)とすべて初期から中期であった(表1).対象患者に1%ドルゾラミド点眼液を追加投与し,追加前,追加1カ月および2カ月後に眼圧,全身血圧より眼灌流圧を算出し,追加前および追加2カ月後に視神経乳頭陥凹部および耳側リムにおける組織血流を測定した.実際には既報6)のごとく,0.5%トロピカミド・塩酸フェニレフリンによる散瞳30分後,比較暗室で視神経乳頭を中心に画角35°で連続3回測定した.血流測定にはcharge-coupleddevice(CCD)カメラを用いたレーザースペックルフローグラフィを使用し,組織血流の指標となるmeanblurrate(MBR)値を測定した.血流測定領域は眼底写真で確認し,乳頭陥凹部および上・下耳側リム上の表在血管のない最大矩形領域に設定した.リム乳頭径比が0.1未満で矩形領域が設定困難な場合はやや黄斑部に寄せて矩形領域を設定した.統計学的解析は15例15眼に施行し,有意水準p<0.05を有意とした.なお,測定はすべての症例で点眼2時間から5時間後の午前10時から11時の間に行った.表1ドルゾラミド追加投与前の両群患者背景ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定年齢(平均±標準偏差)68.8±7.260.1±10.0NS(p=0.0647)(Mann-WhitneyUtest)性別(男性/女性)6例/4例1例/4例病型正常眼圧緑内障6例2例NS(p=0.3734)原発開放隅角緑内障4例2例(c2検定)慢性閉塞隅角緑内障(LI後)1例病期MD(平均±標準偏差).5.54±6.82dB.5.26±4.70dBNS(p=0.4724)MD>.6dB6例2例(c2検定).6dB≧MD>.12dB3例3例.12dB≧MD1例眼圧(mmHg)(平均±標準偏差)14.6±2.515.3±2.3NS(p=0.6192)(Mann-WhitneyUtest)眼灌流圧(mmHg)(平均±標準偏差)49.2±6.1*39.5±6.7*(p=0.0373)(Mann-WhitneyUtest)収縮期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)135.7±17.9120.9±20.3NS(p=0.1583)(Mann-WhitneyUtest)拡張期血圧(mmHg)(平均±標準偏差)75.5±7.3*62.9±7.6*(p=0.0142)(Mann-WhitneyUtest)LI:レーザー虹彩切開術,MD:meandeviation.870あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(118)また,当臨床試験は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た後,患者全員から文書での同意を取得して施行,すべての試験プロトコールはヘルシンキ人権宣言に従った.II結果1.ドルゾラミド追加投与前の両群の患者背景両群の年齢,病型および病期に差はなく,ドルゾラミド追加投与前のラタノプロスト群およびチモロール群の眼圧値はそれぞれ14.6±2.5mmHg,15.3±2.3mmHgで有意な差はなかった.しかし,拡張期血圧はラタノプロスト群で有意に高く(p<0.05),血圧と眼圧値から算出した眼灌流圧はチモロール群(39.5±6.7mmHg)に比べてラタノプロスト群(49.2±6.1mmHg)で有意に高かった(p<0.05)(表1).2.ドルゾラミド追加投与前の両群の眼血流ドルゾラミド追加投与前における組織血流の指標であるMBR値は,乳頭陥凹部および上・下耳側リムいずれの部位においても両群に差はみられなかった(表2).3.ドルゾラミド追加投与後の眼圧ラタノプロスト群の眼圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前14.6±2.5mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ12.9±3.1mmHg(p<0.05),13.2±2.9mmHgと有意に下降した(図1).チモロール群の眼圧(平均±標準偏差)もドルゾラミド追加前15.3±2.3mmHgから,追加1カ月後および2カ月後にそれぞれ14.1±1.3mmHg,12.7±1.8mmHg(p<0.05)と有意に下降した(図1).4.ドルゾラミド追加投与後の平均血圧平均血圧を1/3(収縮期血圧.拡張期血圧)+(拡張期血圧)と定義すると,ラタノプロスト群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前95.6±8.9mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ88.5±13.4mmHg,93.3±7.8mmHgとやや低下傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図2).チモロール群の平均血圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前82.2±10.3mmHgで,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ82.9±11.6mmHg,84.7±14.3mmHgで,有意な変化はなかった(図2).5.ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧眼灌流圧は便宜的に2/3(平均血圧).(眼圧値)で算出した.ラタノプロスト群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前49.2±6.1mmHg,追加1カ月後および2カ表2ドルゾラミド追加投与前の両群眼血流ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)検定陥凹部(平均±標準偏差)4.49±2.596.12±2.83NS(p=0.2207)(Mann-WhitneyUtest)上耳側リム(平均±標準偏差)8.30±5.447.45±2.51NS(p=0.7389)(Mann-WhitneyUtest)下耳側リム(平均±標準偏差)8.15±6.567.17±1.60NS(p=0.6242)(Mann-WhitneyUtest)(単位:MBR)*:p<0.05pairedt-testベースライン眼圧(mmHg)201816141210015.3±2.314.1±1.31カ月後2カ月後12.7±1.8:チモロール群:ラタノプロスト群14.6±2.512.9±3.113.2±2.9**図1ドルゾラミド追加投与後の眼圧経過ベースライン平均血圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群120110100908070082.2±10.382.9±11.695.6±8.993.3±7.888.5±13.484.7±14.3図2ドルゾラミド追加投与後の平均血圧経過ベースライン眼灌流圧(mmHg)1カ月後2カ月後:チモロール群70:ラタノプロスト群605040302010039.5±6.749.2±6.143.7±10.945.6±6.549.0±6.141.2±7.3図3ドルゾラミド追加投与後の眼灌流圧経過(119)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011871月後はそれぞれ45.6±6.5mmHg,49.0±6.1mmHgと有意な変化はみられなかった(図3).チモロール群の眼灌流圧(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前39.5±6.7mmHg,追加1カ月後および2カ月後はそれぞれ41.2±7.3mmHg,43.7±10.9mmHgとやや増加傾向がみられたものの,有意な変化ではなかった(図3).6.ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭血流組織血流の指標となるMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群の乳頭陥凹部で,ドルゾラミド追加前4.49±2.59から,追加2カ月後に6.04±3.20と有意に増加した(p<0.05)(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前8.30±5.44,8.15±6.56から,追加2カ月後に8.59±5.48,9.12±7.83と増加傾向を示した(図5,6).一方チモロール群では,乳頭陥凹部のMBR値(平均±標準偏差)はドルゾラミド追加前6.12±2.83から,追加2カ月後に6.75±3.45と有意ではないものの10%程度の増加傾向がみられた(図4).また,視神経乳頭上・下耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)もそれぞれドルゾラミド追加前7.45±2.51,7.17±1.60から,追加2カ月後に10.09±4.02(p<0.05),7.80±4.75となり,上耳側リムでは有意な増加を示した(図5,6).7.ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ドルゾラミド追加投与前のベースラインから投与2カ月後の変化量を群間で比較したところ,眼圧および眼灌流圧には差がなかったが,視神経乳頭上耳側リムのMBR値(平均±標準偏差)はラタノプロスト群(0.28±1.63)に比べてチモロール群(2.63±1.83)で有意に増加していた(p<0.05).視神経乳頭陥凹部および下耳側リムのMBR値には群間で差はなかった(表3).III考按CAは生体内におけるH2O+CO2.H2CO3.HCO3.+H+の可逆的反応を触媒する酵素で,房水産生に関与することが知られている.CA阻害薬であるドルゾラミドはヒトCA-II型に強い阻害活性を示す7)ことから,毛様体におけるCA-II型の活性を強く阻害することで房水産生を抑制し眼圧を下降させると考えられている.近年の免疫組織化学的研究からブ乳頭陥凹部(MBR)6.12±2.836.75±3.45109876543204.49±2.596.04±3.20**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群図4ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭陥凹部血流経過上耳側リム(MBR)131211109876540**:p<0.05pairedt-testベースライン2カ月後:チモロール群:ラタノプロスト群7.45±2.5110.09±4.028.30±5.448.59±5.48図5ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭上耳側リム血流経過下耳側リム(MBR)ベースライン2カ月後10:チモロール群:ラタノプロスト群7.17±1.607.80±4.758.15±6.569.12±7.8350図6ドルゾラミド追加投与後の視神経乳頭下耳側リム血流経過表3ドルゾラミド追加投与による両群の各種変化量ラタノプロスト群(n=10)チモロール群(n=5)p値(Mann-Whitneytest)陥凹部(MBR)1.55±2.010.63±2.83NS(p=0.540)上耳側リム(MBR)0.28±1.632.63±1.83*p<0.05(p=0.028)下耳側リム(MBR)0.98±2.540.63±4.73NS(p=0.903)眼灌流圧(mmHg).0.15±9.144.24±4.95NS(p=0.142)眼圧(mmHg).1.35±2.24.2.60±1.67NS(p=0.294)872あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011タやサルの視神経毛細血管周囲さらにサルでは網膜毛細血管周囲にCA活性があり,ドルゾラミド添加によりこれら毛細血管が拡張することが示されている8).この事実はドルゾラミドにより網膜および視神経の毛細血管に存在するCA-II型活性が阻害され,局所炭酸ガス分圧が上昇し二次的に毛細血管が拡張して網膜および視神経乳頭血流が増加する可能性を示唆している.実際に筆者らの臨床試験において,ドルゾラミドを追加投与することにより両群で眼圧は有意に下降し眼灌流圧は変化しなかったことから,ドルゾラミドは血管抵抗を減弱することで血流を改善したと考えられ,先の可能性を支持するものであった.今回併用薬として用いた薬剤ラタノプロストはPGF2a誘導体で,強力な眼圧下降効果をもつことから第一選択薬として使用されている.眼血流に関しては不変とする報告もある2,3)が増加とする報告が多く9.10),ラタノプロストは眼圧を大きく下降させることにより眼灌流圧を上昇させるため,一般に眼血流は増加すると考えられる.Gherghelら9)は原発開放隅角緑内障患者未治療22例にラタノプロストを6カ月間投与したところ,眼圧は有意に下降し平均眼灌流圧は有意に上昇して視神経乳頭血流速度は有意に増加したと報告している.また,ラタノプロスト点眼にて有色家兎,カニクイザル,正常人の視神経乳頭血流量が増加したとする報告では,その機序としてPGF2a誘導体であるラタノプロストが内因性PGI2を誘導する可能性が考察で述べられている10).したがって,作用機序が異なるラタノプロストとドルゾラミドの併用は眼圧のみならず眼血流においても有用と考えられ,筆者らの臨床試験結果においても視神経乳頭,特に陥凹部血流は有意に増加していた.今回併用薬として用いたもう一つの薬剤であるマレイン酸チモロールは非選択性b遮断薬である.眼圧下降による眼灌流圧上昇は眼血流増加の方向に働くと考えられるが,一般にb遮断薬は末梢血管収縮作用を有することから,b遮断点眼薬が視神経や網膜の血流に抑制的に働く可能性も考えられる.これまでチモロールの眼血流に関する報告は多数あるものの,結果は増加11),不変12),減少13)と一定していない.Martinezら14)は0.5%マレイン酸チモロールで加療中の原発開放隅角緑内障初期40例80眼を対象に,片眼(視野障害の大きいほう)に2%ドルゾラミドを追加投与して,眼血流に関する4年間の前向き試験を行ったところ,チモロール・ドルゾラミド併用治療眼ではチモロール単独治療眼に比べて,有意な眼圧下降,眼動脈および短後毛様動脈の拡張終期血流速度の有意な上昇および抵抗指数の有意な低下,視野障害進行リスクの有意な減少がみられたと報告した.したがって,チモロールとドルゾラミドの併用により後眼部血流が増加することから,視神経乳頭血流の増加も期待できると予想され,筆者らの臨床試験においても視神経乳頭,特に上耳側リム血流は有意に増加しており矛盾しない結果であった.ドルゾラミドの単剤もしくはチモロールに追加した際の眼血流に関する報告は成されている2.4,14)が,ラタノプロストに併用した際の眼血流に関する報告はこれまでなく,今回の筆者らのものが初めてである.ドルゾラミドはチモロールに併用してもラタノプロストに併用しても視神経乳頭血流を増加することが示されたことから,併用薬として有用と考えられる.同時に,ドルゾラミドの乳頭血流増加作用には部位によって差があることも今回示された.この原因として,ベースラインにおける眼灌流圧の群間での違いやCA活性の部位による差,血管分布密度の部位別差などが考えられるが,詳細については多数例での検討が必要と考えられ,次回の課題としたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,20062)ArendO,HarrisA,WolterPetal:Evaluationofretinalhaemodynamicsandretinalfunctionafterapplicationofdorzolamide,timololandlatanoprostinnewlydiagnosedopen-angleglaucomapatients.ActaOphthalmolScand81:474-479,20033)HarrisA,MigliardiR,RechtmanEetal:Comparativeanalysisoftheeffectsofdorzolamideandlatanoprostonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucomapatients.EurJOphthalmol13:24-31,20034)Fuchsjager-MayrlG,WallyB,RainerGetal:Effectofdorzolamideandtimololonocularbloodflowinpatientswithprimaryopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol89:1293-1297,20055)AndersonDR,PatellaVM:Automatedstaticperimetry,2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19996)大黒幾代,片井麻貴,田中祥恵ほか:緑内障眼における1%ドルゾラミド点眼の視神経乳頭血流に及ぼす影響.臨眼64:921-926,20107)大森政信,内藤恭三:塩酸ドルゾラミド(トルソプトR点眼液)の薬理作用,臨床効果.眼薬理15:9-15,20018)Lutjen-DrecollE,RichterM,KiilgaardJetal:Speciesdifferencesindistributionofcarbonicanhydraseactivityandvasodilativeeffectsofdorzolamideinretinalandopticnervevasculature.InvestOphthalmolVisSci41:S560,20009)GherghelD,HoskingSL,CunliffeIAetal:First-linetherapywithlatanoprost0.005%resultsinimprovedocularcirculationinnewlydiagnosedprimaryopen-angleglaucomapatients:aprospective,6-month,open-labelstudy.Eye22:363-369,200810)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,200111)GrunwaldJE:Effectoftimololmaleateontheretinalcirculationofhumaneyeswithocularhypertension.Invest(120)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011873OphthalmolVisSci33:604-610,199212)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199713)YoshidaA,FekeGT,OgasawaraHetal:Effectoftimololonhunanretinal,choroidalandopticnerveheadcirculation.OphthalmicRes23:162-170,199114)MartinezA,Sanchez-SalorioM:Effectsofdorzolamide2%addedtotimololmaleate0.5%onintraocularpressure,retrobulbarbloodflow,andtheprogressionofvisualfielddamageinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma:asingle-center,4-year,open-labelstudy.ClinTher30:1120-1134,2008(121)***

自然寛解と考えられた早発型発達緑内障の3 例

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)865《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):865.867,2011cはじめに発達緑内障は隅角形成異常に起因する緑内障と定義されるが,なかでも早発型発達緑内障の場合,生後3年以内の高眼圧の存在を示す角膜径拡大およびDescemet膜のHaab’sstriaeが本疾患の診断のための非常に重要な角膜所見である.診断に至れば,その治療にはトラベクロトミーなどの早期手術が必要となる1).一方,早発型発達緑内障のなかには,隅角の発達に伴い無治療でも眼圧が正常化する自然寛解例がまれながら存在することが,海外で報告されている2,3).今回,筆者らも永田眼科(以下,当院)を受診した早発型発達緑内障患者のなかで,自然寛解と考えられた3例6眼を経験したので,若干の考察を加えて報告する.I症例〔症例1〕当院初診時8歳,男児.現病歴:乳児期,患児の黒目が大きいこと(図1)に両親は気がついていたが,眼科受診歴はなかった.2007年(6歳),就学時健診で視力低下を指摘されて初めて近医眼科を受診し,偶然,角膜径拡大を発見された.以後,複数の眼科で精査を受けるも加療歴はなく,2009年12月,転居に伴い当院を紹介受診した.既往歴:特になし.家族歴:特になし.〔別刷請求先〕福本敦子:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科Reprintrequests:AtsukoFukumoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cyo,Naracity,Nara631-0844,JAPAN自然寛解と考えられた早発型発達緑内障の3例福本敦子松村美代黒田真一郎永田誠永田眼科ThreeCasesofSpontaneouslyResolvedPrimaryCongenitalGlaucomaAtsukoFukumoto,MiyoMatsumura,ShinichiroKurodaandMakotoNagataNagataEyeClinic早発型発達緑内障に特徴的な虹彩高位付着,角膜径拡大およびHaab’sstriaeを認めるにもかかわらず,無治療で眼圧が正常(21mmHg以下)である早発型発達緑内障3例6眼を経験した.発見時年齢および性別は,6歳男児,3歳女児,0歳6カ月女児.発見からの観察期間は,3年,5年,5年であった(症例1,症例2,症例3).症例1,症例2は偶然に角膜径拡大を発見された.症例3は,母親が同疾患という家族歴のため生後2カ月から他院で経過観察され,生後6カ月で角膜径拡大を認めたため当院を受診したが,眼圧は正常であった.しかし,このような自然寛解のメカニズムは不明であり,今後も永続的な経過観察が必要であると考えられる.Wereport3casesofspontaneouslyresolvedprimarycongenitalglaucoma.Highirisinsertion,enlargedcorneaandHaab’sstriaewerepresentin6eyesofthe3patients,butintraocularpressures(IOP)werenormal(≦21mmHg)withnosurgicalormedicaltreatment.Astoageandsex,thesepatientscompriseda6-year-oldmale,a3-year-oldfemale,anda6-month-oldfemale(patients1,2,and3,respectively).Thefollow-upintervalswere3years,5years,and5years.Patients1and2happenedtohaveenlargedcorneas;patient3hadbeenseenatanotherinstitutionattwomonthsofage,becausehermotherhadafamilyhistoryofcongenitalglaucoma.Fourmonthslater,thepatientwasfoundtohavebilateralcornealenlargementandwasexaminedatourclinic,butherIOPwasnormal.Thereis,however,aneedforlifelongobservation,sincethemechanismofsuchaspectsasspontaneousresolutionisunknown.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):865.867,2011〕Keywords:早発型発達緑内障,虹彩高位付着,角膜径拡大,Haab’sstriae,自然寛解.primarycongenitalglaucoma,highirisinsertion,enlargedcornea,Haab’sstriae,spontaneousresolution.866あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(114)初診時所見:視力は,右眼0.3(0.8×+4.5D(cyl.4.5DAx70°),左眼0.4(0.8×.1.5D(cyl.3.0DAx80°),眼圧は,右眼13mmHg,左眼14mmHg(Goldmann眼圧計)であった.細隙灯顕微鏡検査上,虹彩は特に異常を認めなかったが,隅角には虹彩高位付着があり,角膜径は右眼14.0mm,左眼12.0mm,瞳孔領を横切る複数の明瞭なHaab’sstriaeを両眼に認めた.視神経陥凹乳頭(C/D)比は両眼0.8であったが,乳頭辺縁は均一に保たれており,動的視野検査は正常であった.経過:無治療で眼圧上昇やC/D比の進行はなく,発見から3年経過した2010年7月(9歳),眼圧は右眼15mmHg,左眼14mmHg,静的視野検査も正常である.〔症例2〕3歳,女児.現病歴:乳児期から患児の黒目が大きいこと(図2)に両親は気付いていたが,眼科受診歴はなかった.3歳児検診で初めて角膜径拡大を指摘され,2005年1月(3歳6カ月),A大学病院を受診し,同年2月,当院を紹介受診した.既往歴:特になし.家族歴:祖母が緑内障(病型不明).初診時所見:視力は,右眼1.0(1.0×+0.5D),左眼1.0(1.0×+1.0D),眼圧は,右眼10mmHg,左眼8mmHg(入眠下Perkins眼圧計)であった.細隙灯顕微鏡検査上,虹彩は特に異常を認めなかったが,隅角には軽度の虹彩高位付着があり,角膜径は右眼12.0mm,左眼12.5mm,軽度のHaab’sstriaeを両眼に認めた.C/D比は両眼0.6で,乳頭辺縁は均一に保たれていた.経過:無治療で眼圧上昇やC/D比の進行はなく,発見から5年7カ月経過した2010年8月(8歳)の眼圧は,右眼14mmHg,左眼13mmHg(Goldmann眼圧計)であった.〔症例3〕0歳6カ月,女児.現病歴:母親が早発型発達緑内障であったため,同疾患の精査目的に2004年10月(生後2カ月),B大学病院眼科を受診した.このとき角膜径は両10.5mmであった.2カ月後の再診時(生後4カ月),角膜径が両12.5mmと拡大を認めるも,入眠下では明らかな眼圧上昇は確認されなかった.2005年1月(生後6カ月),全身麻酔下精査が実施され,眼圧は右眼22mmHg,左眼21mmHg(トノペン),角膜径は両眼13.0mmであったため,当院を紹介受診した.既往歴:難聴(原因不明).家族歴:母親が早発型発達緑内障.初診時所見:眼圧は,右眼15mmHg,左眼13mmHg(入眠下Perkins眼圧計)であり,細隙灯顕微鏡検査上,虹彩は特に異常を認めなかったが,隅角には虹彩高位付着があり,角膜径は両眼13.0mmあった.角膜には明らかなHaab’sstriaeはなく,C/D比は右眼0.6,左眼0.3であった.経過:眼圧とC/D比の変化に注意しながら無治療で経過観察を行ったところ,両眼とも変動を伴いながら20mmHg以下の眼圧を推移し,2歳頃には15mmHg程度に落ち着いた(図3).1歳9カ月の再診時以降,右眼には明瞭な,左眼にもわずかなHaab’sstriaeを認め,右眼C/D比は軽度拡大(0.7)していたが,その後は眼圧上昇や角膜径の拡大,C/D比の進行はなく,5歳になる現在も無治療で経過観察中である.II考按早発型発達緑内障は,平均的な眼科医が5年に1例程度遭遇するにすぎないまれな疾患である1).初発症状である流涙,羞明,眼瞼けいれんという古典的三兆候は,眼科医にとって知識のうえでは常識の範疇にあるが,これらの所見は疾患の稀少性ゆえ,初診で先天鼻涙管閉塞などの他疾患と誤診されることもある.疾患の定義である隅角形成異常を調べるには入眠などの措置が必要な年齢でもあり,実際は,角膜径拡大やHaab’sstriaeといった角膜所見から本疾患を疑って精査図1症例1の顔写真(生後5カ月)図2症例2の顔写真(生後11カ月)25201510506M7M8M10M14M17M21M24M27M54M:右眼:左眼眼圧(mmHg)月齢図3症例3の眼圧経過(115)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011867をすすめ,早期に診断をすることが肝要である.診断に至れば早期手術が原則であり,術式はトラベクロトミーが有効であることが長期成績においても報告されている4,5).当院においても本疾患には早期のトラベクロトミーを第一選択として施行する方針である.一方,早発型発達緑内障には,無治療で自然寛解の経過を辿る症例がまれながら存在する.海外においては,1989年にLockieら2)が早発型発達緑内障61例中4例5眼に,2009年にはNagaoら3)が早発型発達緑内障365例中9例14眼にspontaneousresolutionと考えられる所見があったと報告している.わが国においては,1995年に清水ら6)の『無治療で経過した原発先天緑内障の1例』と題した報告があるが,この症例は,8歳時に早発型発達緑内障を偶然発見されたため,それまでは結果的には無治療であったが,初診時は両眼25mmHg程度の高眼圧が存在しており,以後は緑内障点眼で眼圧をコントロールし続けている経緯から,海外文献および筆者らの考える自然寛解例,すなわち無治療で眼圧が正常化したことを確認できた症例には該当していなかった.本症例を自然寛解例と診断するにあたっては,過去の報告に明確な定義がなかったため,当院では,1)隅角形成異常(虹彩高位付着)があること,2)角膜径拡大およびHaab’sstriaeがあること,3)観察期間中,緑内障加療を行わずに眼圧が21mmHg以下であること,の3項目すべてを満たす症例を自然寛解例とした.過去の報告には,角膜所見にHaab’sstriaeのない角膜径拡大の症例も含まれているが,角膜径拡大のみでは,隅角形成異常を伴うmegalocorneaの症例であることも否定できず,少なくともレトロスペクティブな検討においては,生後3年までに高眼圧があった証拠となりうるHaab’sstriaeの存在は必須条件であると筆者らは考えた.本症例のような自然寛解の経過を辿るメカニズムは不明であるが,隅角は生後約1年かけて発達する7)といわれる点からつぎのように推測できる.すなわち,1)最初に隅角形成異常に端を発する眼圧上昇期があり,2)続いて眼球壁の伸展による代償機構が働く眼圧変動期となり,3)最後に隅角の発達が完了することで眼圧安定期に至るという3つの過程があり,そのなかで,まれに正常眼圧に落ち着く自然寛解例が存在するのではないかと考えられる.早発型発達緑内障を疑いながらも無治療で経過観察するという判断には熟練を要し,眼圧の変動過程を実際に確認する機会はきわめて稀有であると思われるが,症例3は,変動を伴いながらも眼圧が落ち着く過程を実際に確認できた唯一の症例である.この眼圧変動過程は,自然寛解例にしばしば視野異常をきたさない程度の視神経乳頭陥凹拡大を認めることからも裏付けられる.眼圧が上昇した早発型発達緑内障に対して早期手術加療が行われると,この時期の視神経乳頭陥凹は可逆性がある7)ため,しばしば改善するが,自然寛解例の場合,眼圧は変動を伴いながら緩徐に落ち着いていくため,場合によっては陥凹拡大が残ることが症例3の経験からも推測しうる.しかし,この推測が正しければ,症例3は結果として経過中に眼圧が一定期間は上昇していた可能性が十分に考えられるため,経過観察の間隔をもう少し短くし,一時期でも緑内障点眼で眼圧コントロールをしておくべきだったかもしれない.自然寛解例は,症例数があまりに少なく,長期予後は不明で,自然「治癒」とは断定できない.清水ら6)の1症例や,Lockieら2)が例外として報告した2症例にあるように,未発見のまま偶然無治療で経過していたり,自然寛解と考えて経過観察を行っていた症例が後に高眼圧となり薬物治療や手術加療を要する可能性もあり,筆者らもそのような別の1症例を経験した.このことから,たとえ自然寛解と判断しうる症例に遭遇しても,生涯にわたる眼科診察は必須と考える.早発型発達緑内障は,診断に至れば早期手術が原則である.しかし,自然寛解例の発見が増えれば,少なくとも発見時の眼圧上昇が軽度の症例に対しては,すぐに手術を選択せず,診察頻度をあげて無治療あるいは緑内障点眼下で経過を追うという選択肢もでてくるかもしれない.文献1)永田誠:発達緑内障臨床の問題点.あたらしい眼科23:505-508,20062)LockieP,ElderJ:Spontaneousresolutionofprimarycongenitalglaucoma.AustNZJOphthalmol17:75-77,19893)NagaoK,NoelLP,NoelMEetal:Thespontaneousresolutionofprimarycongenitalglaucoma.JPediatrOphthalmolStrabismus46:139-143,20094)AkimotoM,TaniharaH,NegiAetal:Surgicalresultsoftrabeculotomyabexternofordevelopmentalglaucoma.ArchOphthalmol112:1540-1544,19945)IkedaH,IshigookaH,MutoTetal:Longtermoutcomeoftrabeculotomyforthetreatmentofdevelopmentalglaucoma.ArchOphthalmol122:1122-1128,20046)清水美穂,勝島晴美,丸山幾代ほか:無治療で経過した原発先天緑内障の1例.あたらしい眼科12:1931-1933,19957)StamperRL,LiebermanMF,DrekeMV:Developmentalandchildhoodglaucoma.Becker-Shaffer’sDiagnosisandTherapyofGlaucomas,8thed,p294-311,Mosby,StLouis,2009***

急性原発閉塞隅角症の僚眼に対する異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(109)861《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(6):861.864,2011c急性原発閉塞隅角症の僚眼に対する異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化西野和明吉田富士子新田朱里齋藤三恵子齋藤一宇医療法人社団ひとみ会回明堂眼科・歯科ComparisonofCornealEndothelialCellDensityafterDifferentTherapiesfortheFellowEyesinCasesofUnilateralAcutePrimaryAngle-ClosureKazuakiNishino,FujikoYoshida,AkariNitta,MiekoSaitoandKazuuchiSaitoKaimeidohOphthalmic&DentalClinic目的:急性原発閉塞隅角症(あるいは緑内障)=APAC(G)の僚眼に対しては発作を予防する目的でレーザー虹彩切開術(LI)や超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)などが行われるが,それらの異なる治療後の角膜内皮細胞密度の変化を比較検討した.対象および方法:対象は過去23年間に回明堂眼科・歯科を受診し,片眼がAPAC(G)と診断された症例の僚眼で原発閉塞隅角症(疑いや緑内障も含む)と診断された53眼,男性6眼,女性47眼.発症時の平均年齢は69.4±8.3歳,APAC(G)発症からの平均観察期間は85.1±68.9カ月.症例を3群に分類,LIのみを施行したLI群(24眼),PEA+IOLのみを施行したPEA群(9眼),LIを最初に施行し後日PEA+IOLを行ったLI-PEA群(20眼).計画的.外摘出術,周辺虹彩切除術など各種緑内障手術を施行した症例を除外した.それぞれの群で術前と術直後,術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度を比較検討.LIとPEAに要したエネルギー量も比較検討した.結果:角膜内皮細胞密度の術前術後の変化で有意差が認められたのは,LI-PEA群の術前と最終観察日の比較のみで(p<0.005),2,615.1±585.2cells/mm2から1,955.6±526.5cells/mm2へと減少した.LIに要したエネルギーは有意差はないが,LI-PEA群がLI群より多く(p=0.083),PEAに要したエネルギーもLI-PEA群がPEA群より多かった(p<0.05).結論:APAC(G)の僚眼に対する治療としてLI-PEAが選択された場合,角膜内皮細胞密度はかなり減少した.これはLI-PEA群でLIやPEAに要したエネルギー量が他群より多かったためと考えられる.LIに多くのエネルギーを使用した症例でその後にPEA+IOLが行われる場合,角膜内皮細胞の減少に注意する必要がある.Purpose:Toretrospectivelydeterminethelong-termoutcomeofcornealendothelialcelldensityafterdifferenttherapiesforthefelloweyesincasesofunilateralacuteprimaryangle-closure(APAC).Methods:Subjectscomprised53individualswhowereexaminedatKaimeidohOphthalmic&DentalClinicduringthepast23years,atameantimepointof85.1±68.9monthsafteraunilateralepisodeofAPAC.Subjectswereclassifiedinto3groups:thelaseriridotomy-onlygroup(LI;24eyes),thephacoemulsification,aspirationandintraocularlensimplantationgroup(PEA+IOL;9eyes)andthePEAafterLIgroup(LI-PEA;20eyes).Cornealendothelialcelldensitywascomparedineachgroupbetweenpreoperative,postoperativewithinonemonth,andfinalobservationday.LIandPEAenergywerealsocompared.Results:SignificantdecreaseincornealendothelialcelldensitywasfoundonlybetweenpreoperativeandfinalobservationdayinLI-PEAgroup(p<0.005),from2,615.1±585.2cells/mm2to1,955.6±526.5cells/mm2.NodifferenceinLIenergywasfoundbetweenLIgroupandLI-PEAgroup,buttotalamountofPEAenergywashigherinLI-PEAgroupthaninPEA+IOLgroup(p<0.05).Conclusions:CornealendothelialcelldensitydecreasedafterLI-PEAbecausehigherenergywasusedinbothLIandPEA.IfhighenergyLIisusedasthefirsttreatment,subsequentPEA+IOLmustbedonecarefullytoprotectcornealendothelialcelldensity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):861.864,2011〕〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科・歯科Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmic&DentalClinic,10-4-1Tsukisamuchu-o-dori,Toyohira-ku,Sapporo062-0020,JAPAN862あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(110)はじめに急性原発閉塞隅角症(acuteprimaryangle-closure)あるいは急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangle-closureglaucoma)(以下,両者合わせて急性発作)の僚眼は,急性発作眼と同等な眼球構造を有するため急性発作が起こる可能性が高く,予防的な処置の必要性あるいは有効性が報告されている1,2).また国内においても日本緑内障学会の診療ガイドラインで予防的なレーザー虹彩切開(laseriridotomy:LI)あるいは周辺虹彩切除(peripheraliridectomy:PI)は絶対的な適応とされている3).しかしながら超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術(phacoemulsification,aspirationandintraocularlensimplantation:PEA+IOL)が急性発作眼の僚眼のみならず原発閉塞隅角症疑(primaryangle-closuresuspect:PACS),原発閉塞隅角症(primaryangle-closure:PAC),原発閉塞隅角緑内障(primaryangleclosureglaucoma:PACG)などに対してLIより安全でかつ有効であるとの十分なエビデンスは得られていない4~6).そこで今回筆者らは急性発作眼の僚眼に対するLIとPEA+IOLの中長期の安全性を確認する目的で,術前術後の角膜内皮細胞密度を後ろ向きに比較検討したので報告する.I対象および方法1987年から2010年までの間,回明堂眼科・歯科を受診し,急性発作と診断された症例の僚眼でかつ,PACS,PACあるいはPACGと診断された眼球(以下,非発作眼)53眼,男性6眼,女性47眼.これら非発作眼は急性発作眼と比較し,屈折値,眼軸長,中心前房深度,水晶体厚のいずれも統計的な有意差を認めなかった7).急性発作発症時の平均年齢は69.4±8.3歳,急性発作発症からの平均観察期間は85.1±68.9カ月.非発作眼をつぎのように3群に分類した.LIのみを施行したLI群(24眼),PEA+IOLのみを施行したPEA群(9眼),最初にLIを施行し後日PEA+IOLを施行したLI-PEA群(20眼).治療方法の選択は厳密ではないものの,2007年以前は第一選択としてLIを優先し,それ以降はPEA+IOLの選択が増加した.LI-PEA群において白内障手術の適応とした基準は,視力障害のほか眼圧の安定化などを目的とした総合的な判断による.各群の治療から角膜内皮細胞密度の最終観察日までの期間はLI群で68.6±51.2カ月,PEA群は12.6±5.5カ月,LI-PEA群は61.1±38.2カ月.ただし,LI-PEA群の期間はPEA+IOL施行後から最終観察日までとし,LI施行後からPEA+IOL施行までの平均期間は43.3±45.8カ月であった.このように経過観察期間が各群で異なることから,その治療の時期を,LI群はLI期,PEA群はPEA期,LI-PEA群はLI-PEA期と定義した.PEA群の1眼,LI-PEA群のLIの5眼を除く,LIおよびPEA+IOLを同一術者(K.N.)が行った.LI-PEA群のなかで,5例はLI施行時にNd:YAGレーザーを使用していない.2000年以降は角膜内皮細胞保護を目的として,分散型粘弾性物質のヒアルロン酸ナトリウム/コンドロイチン硫酸エステルナトリウム(ビスコートR)を使用している(27眼/PEA+IOL,総数29眼).超音波白内障手術の使用装置は2006年11月からInfinitiRvisionsystem(Alcon)を使用しているが,それ以前は1991年8月から1995年10月まで10000MasterR(Alcon),その後2006年11月までは20000LegacyR(Alcon)を使用していた.計画的.外摘出術,周辺虹彩切除術を含む各種緑内障手術を施行した症例を除外した.それぞれの群でまず術前と術直後(術後約1カ月以内),ついで術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度を比較検討(対応のあるt検定),その後各群の最終観察日の角膜内皮細胞密度をそれぞれの群間で比較した(Welchのt検定).ただしLI-PEA群の術前とはLI施行前のことである.角膜内皮細胞密度の測定機種はスペキュラーマイクロスコープ(SP-1000TOPCON,SP2000PTOPCON,SP-3000PTOPCON)で,それぞれを発売順に使用した.LIの合計エネルギー(J)をアルゴンレーザーの出力(W)×照射時間(S)×回数(第1,第2段階のそれぞれの合計)+追加Nd:YAGレーザー(J)として計算し,白内障手術時における超音波の累積使用エネルギー(cumulativedissipatedenergy:CDE)を平均超音波パワー(%)×使用時間(S)として計算した.そのうえで,LI群とLI-PEA群のLIに要したエネルギー量を比較,ついでPEA群とLIPEA群のPEAに要したエネルギー量を比較検討した(Welchのt検定).いずれの統計的な検定もp<0.05を有意差ありとした.II結果それぞれの治療前のベースラインとなる角膜内皮細胞密度には統計的な有意差を認めず各群はほぼ同等な状態であった.まず術前,術直後の比較においては,いずれの群も統計的な有意差は認めないが,LI-PEA群では約350cells/mm2と一番減少している(p=0.07)(図1).つぎに術前,最終観察日の比較においては,LI-PEA群で2,615.1±585.2cells/〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):000.000,2011〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,僚眼,レーザー虹彩切開術,超音波白内障手術,角膜内皮細胞密度.acuteprimaryangle-closure,felloweye,laseriridotomy,phacoemulsificationaspirationandintraocularlensimplantation,cornealendothelialcelldensity.(111)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011863mm2から1,955.6±526.5cells/mm2へと有意に減少した(p<0.005).その他の群では有意差は認められなかった(図2).それぞれの群の最終観察日で比較すると,LI群とPEA群では差はないが,LI-PEA群はPEA群に比べると角膜内皮細胞密度は少なく(p<0.01),LI群に比べるとかなり少ない(p<0.0001).LIに要したエネルギーはLI群とLI-PEA群の群間で統計的な有意差はない(p=0.083)が,LI-PEA群ではLI群の約2倍のエネルギーが使用されている(図3).PEAに要したエネルギーはPEA群よりLI-PEA群が多かった(p<0.05)(図4).すべての群で術後から最終観察日までの間,急性発作を発症した症例はなく急性発作を予防するという意味ではいずれの群でも目的は達成されている.III考按急性発作眼に対する治療としては,従来LIあるいはPIが行われていた8).しかし近年の白内障手術の技術的な進歩や急性発作のメカニズムをまとめて解決する目的あるいはLI後の重篤な合併症である水疱性角膜症を防ぐ目的から,PEA+IOLを初回治療として選択し良好な結果が得られているとの報告が相次ぐようになってきた9~11).筆者らも現在追試中である12).しかしながら急性発作眼が治療前に受けた障害の程度はさまざまである.つまり自覚症状が軽症の充血,霧視から重症の眼痛,頭痛,吐気までさまざまであること,急性発作が発症してから来院するまでの日数にばらつきがあること,引き金となった要因が単一でないこと,プラトー虹彩形状の有無など虹彩根部の状況や周辺虹彩前癒着の程度がさまざまであること,さらには点眼薬,内服,点滴などによる効果も一様ではないことなど障害の程度は千差万別である.したがって治療方法を単純にLIあるいはPIだけと決められず,段階的あるいは同時に白内障手術(PEA+IOL,計画的.外摘出術)あるいは緑内障手術(隅角癒着解離術,線維柱帯切除術)を選択することも念頭に置かなければならない.このように障害の程度が異なる急性発作眼に対しては,仮に同一の治療方法であってもその有効性や安全性を比較することはむずかしい.一方,急性発作眼の僚眼は急性発作眼のように大きな障害は受けていないため,異なる治療方法を選択した場合,その有効性や安全性を相対的に比較検討しやすい状況にあると考えられる.今回の検討で非発作眼に対する治療としてLI-PEA群が選択された場合,白内障手術直後に角膜内皮細胞密度はかなり減少し,それは5年以上の経過を経てさらに有意に減少した.この理由は,術者のLI-PEA期とLI期におけるLI施行方法が若干異なっていたためと考えられる.LIの使用エネルギー量はLI-PEA群とLI群で比較し統計的な有意差はみられないものの,LI-PEA群では約2倍のエ3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000LI群PEA群LI-PEA群角膜内皮細胞密度(cells/mm2)■:術前■:術直後NSNSNS対応のあるt検定2,7072,7382,7052,5542,6152,258図1各群の術前と術直後の角膜内皮細胞密度の比較各群の術前,術後で統計的な有意差はみられない.LI-PEA群のLIとPEAまでの間隔は43.3±45.8カ月.3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000LI群PEA群LI-PEA群角膜内皮細胞密度(cells/mm2)■:術前■:最終NSNSp<0.005対応のあるt検定2,7072,6972,7052,5372,6151,944図2各群の術前と最終観察日の角膜内皮細胞密度の比較LI-PEA群のみに著明な減少がみられた.PEA群累積使用エネルギー(CDE)LI-PEA群p<0.054035302520151050図4PEAに要したエネルギーの比較:PEA群とLI.PEA群(Welchのt検定)LI群使用エネルギー(J)LI-PEA群NS(p=0.083)43.532.521.510.50図3LIに要したエネルギーの比較:LI群とLI.PEA群(Welchのt検定)864あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(112)ネルギーが使用されている.これはLI-PEA期には術者の20年くらい前の症例や術者以外がLIを実施した症例が含まれていることと関係している.LI-PEA期における術者の標準的なLIは,第2段階で使用した照射条件の1,000mW,0.05秒を穿孔した後もしばらく続け,虹彩に200μm程度の穴が開いたことを確認した後Nd:YAGレーザーに切り替えるという方法であった.さらにLI-PEA群のなかには術者以外がLIを実施したものも含まれ,その際にはNd:YAGレーザーが併用されず,より多くのエネルギー量が使用された.その後LI期になると第2段階で使用した前述と同じ照射条件をgun-smokeが認められたのち,ただちにNd:YAGレーザーに切り替えるようにしたため少ないエネルギー量で済むようになった.これらのことからLI-PEA群では相対的に多くのエネルギーを要したLIにより虹彩後癒着の合併,白内障の進行,Zinn小帯への侵襲などがあったと考えられる.したがってLI-PEA群ではPEA群に比べ白内障手術の手術手技が複雑化し,より多くのエネルギーが必要になり,相対的に多くの侵襲を受け,角膜内皮細胞密度が減少したと推定される.各群の経過観察期間にはばらつきがある.とりわけPEA群の術後の経過観察期間は他の群に比べ短く,すべての群を同等に比較することはできない.ただPEA群の角膜内皮細胞密度の減少幅が年率約20cells/mm2と少ないことから,もしこれが直線的に減少すると仮定すれば,5年でわずか約100cells/mm2の減少となり,LI-PEA群ほどの減少はみられないと推定される.このことを検証する意味でもPEA群の症例数をさらに加えるとともに長期の経過観察期間が必要になる.さらに今後はLI群のなかで白内障手術を施行しLI-PEA群に移行する症例も増加することが予想されるため,より長期で多数例の比較検討が可能となる.本研究は単一施設の少数例での検討であり,しかも研究デザインが後ろ向きであるためエビデンスレベルが高いとはいえない.さらに検討期間が23年と長期に及んだためスペキュラーマイクロスコープ,手術装置,粘弾性物質などが数回変更されたほか,症例の大半に対して同一術者が治療を担当したため,施行方法の変更や改善があり同一技量の手術であったともいえない.しかしながら今回の研究から少なくともLI後の白内障手術,とりわけLIに多くのエネルギーを要した症例では白内障手術時の侵襲が大きくなると考えられ,角膜内皮細胞密度の減少に注意する必要がある.以上のことから非発作眼の急性発作を予防する有効な治療方法で,かつ中長期的に角膜内皮細胞を保護するためには,屈折値や白内障の程度,隅角の状態などにもよるが,非発作眼に対しては最初からPEA+IOLを選択するほうが望ましい症例もあると考えられる.さらに最終的には非発作眼のみならず急性発作に対する治療方針を決定するうえでも,今回の検討結果が参考になるかどうか,今後さらに症例を重ね検討していく予定である.さらに将来的には,よりエビデンスレベルの高い結果を得るために複数多施設による前向きで無作為なデザインによる研究が必要と考えた.文献1)LoweRF:Acuteangle-closureglaucoma.Thesecondeye:ananalysisof200cases.BrJOphthalmol46:641-650,19622)SawSM,GazzardG,FriedmanGS:Interventionsforangle-closureglaucoma.Anevidence-basedupdate.Ophthalmology110:1869-1879,20033)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20064)野中淳之:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から.あたらしい眼科24:1027-1032,20075)大鳥安正:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か?あたらしい眼科24:1015-1020,20076)山本哲也:原発隅角閉塞緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から.あたらしい眼科24:1021-1025,20077)西野和明,吉田富士子,新田朱里ほか:急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障の両眼同時発症例と片眼発症例の比較.臨眼64:1615-1618,20108)AngLP,AungT,ChewPT:AcuteprimaryangleclosureinanAsianpopulation:long-termoutcomeofthefelloweyeafterprophylacticlaserperipheraliridotomy.Ophthalmology107:2092-2096,20009)JacobiPC,DietleinTS,LuekeCetal:Primaryphacoemulsificationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,200210)ZhiZM,LimASM,WongTY:Apilotstudyoflensextractioninthemanagementofacuteprimaryangleclosureglaucoma.AmJOphthalmol135:534-536,200311)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsificationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,200812)西野和明,吉田富士子,齋藤三恵子ほか:超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障.あたらしい眼科26:689-694,2009***