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原発開放隅角緑内障(広義)の手術の考え方

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY合には手術治療を要しない.しかし,HTGにおける眼圧と視野障害進行速度の関係を調べると,すでに静的視野検査(standardautomatedperimetry:SAP)で明らかな異常を伴っている症例では経過中の平均眼圧が21mmHgを超える例では視野障害は確実に進行する(図1).さらにより高眼圧ほど進行の速度は速くなり,この場合の眼圧と進行速度の関係には2次関数的な傾向がみられる.つまり,HTG患者で経過中の平均眼圧が21mmHgを超える症例では,治療は不十分と理解すべきで,薬物治療で限界と考えられる場合には,手術治療の必要性について意識し,判断することが勧められる.I原発開放隅角緑内障(広義)の治療は,大まかに治療前眼圧値で分けて考えるこの項では原発開放隅角緑内障(広義)をPOAG(primaryopen-angleglaucoma),従来の原発開放隅角緑内障(狭義)をHTG(high-tensionglaucoma),正常眼圧緑内障をNTG(normal-tensionglaucoma)とする.HTGとNTGを合わせてPOAGという昨今の分類は21mmHgを境界として疾患を正確に分離することが不可能という意味で適切である.しかし,HTGとNTGでは管理目標も治療結果の傾向も異なる.HTGでは眼圧値そのものを目標眼圧として設定できると考えられるのに対して,NTGでは眼圧値だけでなく眼圧下降率でさえ明確な傾向を示さない1).つまり,HTGでは“一般には”という傾向を意識しつつ治療ができるのに対して,NTGでは個々の差を厳密に見きわめながら治療を考えることが必要である.IIPOAGの手術適応POAG治療の基本は薬物治療である.ではどのような症例に手術が必要か?理論的に考えると,以下の3つの条件が考えられる.1.高眼圧緑内障は視神経を消耗する疾患であり,いくら高眼圧であっても視神経の障害がない,もしくは進行がない場(19)1031*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●原発開放隅角緑内障(広義)―私の管理法あたらしい眼科27(8):1031.1036,2010原発開放隅角緑内障(広義)の手術の考え方PersonalOpinionRegardingSurgeriesforPrimaryOpen-AngleGlaucomaandNormal-TensionGlaucoma福地健郎*表1POAGの治療における手術治療の位置づけと考え方1)現時点でエビデンスのある緑内障治療は眼圧下降治療のみである.2)進行の速度はさまざまとはいえ,長期的にはほぼ全例が進行すると考えたほうが良い.手術的に眼圧が下降しても進行がまったく停止するわけはない.手術の効果も永続するものではない.余裕を残した時期に手術治療を勧める.3)眼圧と視野障害進行の関係には個人差が大きい.著しい高眼圧を除けば眼圧値のみで手術適応を決めることはできない.4)不十分な薬物治療を継続するより,視機能的には手術治療のほうが安全ということもありうる.5)手術治療を躊躇し,薬物治療に確実な改良が得られなければ,さらに悪化は確実と考えるべき.6)POAGの最終的な目標眼圧は10mmHg未満で,10mmHg台前半は決してlowではない.1032あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(20)2.視野障害の進行傾向HTGであってもNTGであっても視野障害が進行していると判定される患者で,薬物治療は限界,もしくはこれ以上はむずかしいと考えられる場合は,手術治療を考慮する.緑内障治療のうち最も大切な判断の一つと考えられるが,視野障害進行の判定と評価,薬物治療の可能性の判定など,実際にはなかなかむずかしい.進行では手術のような短絡的な判断は戒められるべきで,視野障害およびその進行の質と量を再評価したうえで,適応を考える.たとえば,SAPで進行がみられるとしても,上半視野欠損のみの症例ではqualityofvision(QOV)上の問題は生じにくい(図2),一方,中心視野,特に下方中心および傍中心視野障害の著しい例では積極的な治0%20%40%60%80%100%~8mmHg8~10mmHg10~12mmHg12~14mmHg14~16mmHg16~18mmHg18~20mmHg20~22mmHg22~mmHg■:非進行(>-0.3dB/年)■:進行(≦-0.3dB/年)図1HTG(狭義・POAG)症例の眼圧と視野障害の進行POAG症例でも高眼圧型の場合には,経過眼圧値と視野障害進行速度にある程度のパターンがみられる.経過中の平均眼圧値が22mmHg以上の症例では確実に進行すると考えたほうが良い.10mmHg未満では進行の速い症例はみられなかった.図2手術適応は視野障害進行の有無だけでなく,年齢や視野障害のQOVへの影響を考慮症例は74歳,女性,治療前眼圧値は両眼とも17mmHg,この5年の経過眼圧値は11.14mmHgである.MDスロープは右眼:.0.78dB/年,左眼:.0.60dB/年とやや速い進行速度で悪化しているが,両眼とも視野障害は上半視野に限局している.OCTによる観察でも上半の網膜神経線維層,網膜神経節細胞複合体はよく保たれている.QOV的な予後は楽観的と考えられるため,手術適応とは考えなかった.(21)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101033IIINTGの手術適応CollaborativeNormalTensionGlaucomaStudy(CNTGS)の結果からも,NTGであっても治療前値に対して30%以上の眼圧下降で視野障害進行が抑制されることが示されている2).NTGに対する濾過手術前後の視野障害進行について検討し,眼圧下降によって進行速度が有意に減速したという報告がみられる3~5).NTGに関しては経過眼圧値と視野障害進行速度の間に全体としては明らかな関係は乏しく,症例ごとの差を判別しなければいけない.眼圧値そのもので手術適応を決めることは不可能で,眼圧値でその後の経過を予想することもむずかしい.視野障害進行の有無,速度,領域,年齢などを考慮して,生涯にわたる視機能,QOVを確保することが困難と考えられる症例で手術を勧めることが原則である.NTGでも薬剤による眼圧下降効果が少なく療が必要である(図3).3.重篤な視野障害に対して相対的な高眼圧緑内障の治療効果は,“視野の悪化”で判定される.視野障害が重篤な場合には,すでに治療効果を判定する余裕もないということがある.発見された段階で,すでに後期視野障害という症例,特に視力低下,中心に接する視野欠損,重篤な下半視野障害,若年などの条件は視機能的,qualityoflife(QOL)的に予後不良と考えられる条件である.このような症例では薬物治療で,いわゆる目標眼圧を安定して保てない場合に,片眼の手術的治療は一つの選択肢として勧められる.逆に長期に経過観察をされ,相対的に高眼圧ではあっても視野障害はほとんど停止という症例では,手術適応とはいえない.個々の差をすでに見きわめていると考えられる.図3クラスタ別トレンド解析による進行判定と手術適応決定の一例症例は59歳,女性,治療前眼圧値は両眼とも18mmHgで,左眼の経過眼圧値は12.14mmHgであった.MDスロープとともに,上下傍中心(①,⑨),下Bjerrum(⑩),下方(⑫+⑬+⑭)で進行と判定された.MDスロープで中等度の進行速度があるだけではなく,自覚的視機能に直結するセクタ①,⑨,⑩の進行が顕著で,その後にマイトマイシンC(MMC)トラベクレクトミーが行われた.Humphrey視野の結果をSuzukiYetal:Ophthalmology,1993を参考に10クラスタに分け,HfaFilesver5(BeelineOffice社)を用いて解析した.MDスロープ-0.77dB.年,p=0.17%①-2.11dB.年,p=0.33%⑨-1.66dB.年,p=2.80%②.0.15dB/年⑩-0.90dB.年,p=2.56%③.1.33dB/年⑪.0.07dB/年④⑤⑥.0.24dB/年⑫⑬⑭-0.53dB.年,p=2.42%⑦⑧+0.09dB/年⑮.0.10dB/年1034あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(22)に設定すべきだろうか?図1に示したような進行の確率という考え方,濾過手術の長期経過による瘢痕化で次第に眼圧が上昇してくるという傾向を考慮すると,濾過手術を行う場合には10mmHg以下を目指すというのが一般的である6).さらに低眼圧による副作用の可能性を除くという意味で,5~10mmHgに設定することが勧められている.では,10mmHg以下に下げなければいけないのか,という疑問も生ずる.HTGに限ったものであるが,筆者らの施設で濾過手術前後の視野障害進行速度を比較できた13例の結果を図5に示した.症例数が少ないとはmiddleteens以上で経過,かつ視野障害が進行する例での手術適応の判断にはあまり躊躇しない.一方,薬剤が有効で眼圧lowteens以下で経過,しかし視野障害が進行する例の手術適応の判断はむずかしい.より視野障害の重篤な眼で「手術治療の効果を試す」という考え方ができ,濾過手術を行って10mmHg以下に維持した状態で視野経過を再確認していく,というのも治療法の一つである(図4).IVPOAGの手術後目標眼圧POAGで手術を行った場合の目標眼圧はどのくらいMD(HFA)050-5-5-10-10-15-15-202000/03/242001/03/161999/07/031999/04/161999/02/121997/06/061998/10/021996/12/061996/10/091996/04/121995/05/081994/11/141994/03/041993/11/241993/02/241992/05/27RLR下半視野R上半視野L下半視野L上半視野-1.31dB/Y±2.81p=0.00%-0.26dB/Y±0.56p=0.15%R13.1±1.12(12~15)mmHgL7.9±0.73(7~10)mmHg実線-1.44dB/Y±3.09p=0.00%点線-0.79dB/Y±1.70p=0.04%実線-0.29dB/Y±0.62p=1.20%点線-0.09dB/Y±0.20TD(HFA)図4NTGに対する手術治療と薬物治療症例は62歳,女性,1991年にNTGと診断された.治療前眼圧値は両眼とも16mmHgであった.視野障害の先行している左眼に対してMMCトレベクレクトミーが行われた.その後,約10年経過観察され,右眼眼圧は平均13.1±1.12(12.15)mmHg,左眼眼圧は7.9±0.73(7.10)mmHgであった.右眼の進行速度は.1.31dB/年に対して,左眼は.0.26dB/年であった.不十分な薬物治療よりも,手術治療のほうが視機能予後が良いことも起こりうるということを示唆する例である.(23)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101035含め,これら手術の術後眼圧はmiddleteens程度との報告が多い.濾過手術は眼圧下降という利点に対して,術後感染を代表とする合併症という欠点は大きい.HTGで視野障害が軽度の症例では,まずこれらの房水流出路系手術を試みることも一つの方法である.middleteensで十分に進行が緩やかになる症例である可能性もあり,仮にさらに視野障害が進行しその後に濾過手術を要するとしてもその損失はまだ大きくないという考え方もできる.濾過手術の時期を遅らせるというメリットもあるかもしれない.また,これらの術式は濾過手術とは異なり,薬物治療との併用に適している.手術に加えて従来よりも積極的に薬物による治療を併用することでより低眼圧,さらに緩徐な視野障害進行が得られる可能性は残されている.一方,視野障害の重篤な症例やNTG症例で手術適応を考える場合に,一般的には房水流出路系手術のメリットは少ない.その後の進行の確率をより下げるという目的から考えると,上記のように10mmHg以下を術後目標眼圧と設定して濾過手術を行うことが勧められる.文献1)福地健郎:原発開放隅角緑内障(POAG)の治療と管理は?あたらしい眼科25(臨増):101-103,20082)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormaltensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)HitchingsRA,WuJ,PoinoosawmyDetal:Surgeryfornormaltensionglaucoma.BrJOphthalmol79:402-406,19954)DaugelieneL,YamamotoT,KitazawaY:Effectoftrabeculectomyonvisualfieldinprogressivenormal-tensionglaucoma.JGlaucoma42:286-292,19985)ShigeedaT,TomidokoroA,AraieMetal:Long-termfollow-upofvisualfieldprogressionaftertrabeculectomyinprogressivenormal-tensionglaucoma.Ophthalmology109:766-770,20026)HaraT,AraieM,ShiratoSetal:Conditionsforbalancebetweenlowernormalpressurecontrolandhypotonyinmitomycintrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol236:420-425,19987)SpiegelD,Garcia-FeijooJ,Garcia-SanchezJetal:Coexistentprimaryopen-angleglaucomaandcataract:preliminaryanalysisoftreatmentbycataractsurgeryandtheいえ,術後平均経過眼圧値が15mmHg以下のすべての症例でMD(meandeviation)スロープは.0.3dB/年以上と,進行はきわめて緩徐になっている.一方で15mmHgを超えていても,さらには術前に対してさほど大きく眼圧が下降していなくとも,術後の進行が緩やかになっている症例が多い.設定した目標値をクリアできなくても視野障害進行に対するアドバンテージが得られる可能性はあると理解してよいと思う.このことは術前の眼圧値で個別に適切な術後眼圧値設定はむずかしいことも意味している.おそらく濾過手術後,仮に眼圧値の平均が同じでも,変動が減少している可能性があり,眼圧の質が変わっている可能性がある.VPOAGに対する術式の選択房水流出路再建術として日本ではトラベクロトミーがおもに用いられる.海外では類似と考えられる術式として,iStent7),Trabecutome8),Canaloplasty9),などが紹介され,治療成績が報告されつつある.これらの手術は日本人のPOAGに対する手術治療として,どのように用いることができるだろうか?トラベクロトミーをMDスロープ(dB/年)LEC:×術前・●術後NPT:+術前・■術後平均経過眼圧値(mmHg)021.510.50-0.5-1-1.5-2-2.5-351015202530図5HTG眼の濾過手術前後の平均経過眼圧値と視野障害進行速度(MDスロープ)術前後に4年以上の経過観察期間があり,信頼性あるMDスロープが得られるHTG症例を選択した.術後,15mmHg以下では全例で進行が緩やかになっている.眼圧下降が不十分でも視野障害進行が顕著に抑制される例もみられる(青×・紫+).個々でみると適切な術後眼圧値設定がむずかしいことを示唆している.術前(×/+)に対して同じ色の術後(●/■).LEC:トラベクレクトミー,NPT:非穿孔性トラベクレクトミー.1036あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(24)9)LewisRA,vonWolffK,TetzMetal:Canaloplasty:circumferentialviscodilationandtensioningofSchlemm’scanalusingaflexiblemicrocatheterforthetreatmentofopen-angleglaucomainadults:interimclinicalstudyanalysis.JCataractRefractSurg33:1217-1226,2007iStenttrabecularmicro-bypassstent.AdvTher25:453-464,20088)MincklerDS,BaerveltG,RamirezMAetal:ClinicalresultswiththeTrabecutomefortreatmentofopen-angleglaucoma.Ophthalmology112:962-965,2005

原発開放隅角緑内障(広義)の視野管理

2010年8月31日 火曜日

1022あたらしい眼科Vol.27,No.8,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)て概説する.I単一視野検査の解釈(図1)眼圧や眼底検査で緑内障を疑われたら,視野検査を行うことになるが.Goldmann視野では比較的主観的な評価になるが,静的視野検査では,結果が数値で表示されるため,客観的な評価が可能である.静的視野の評価のポイントを以下に示す.1.本人の視野か?まず,同時に複数の視野検査を行っている施設では,カルテに添付された視野や電子カルテに表示した視野が本人のものであるかの確認を怠ってはいけない.さらに,多忙な外来において検査が行われる場合,入力された名前,年齢,屈折矯正が正しいかどうかも重要である.特に自動視野計では,同一年齢の正常者との比較により評価される項目があるため,年齢が正しく入力されていることが大切である.また,老視年齢においては,近方矯正が正確に行われていないとやはり感度低下の原因になりうる.2.視野信頼性の評価視野評価の前に,本人に検査の感想を聞くことが必要である.椅子の高さが合わない,顎台の高さが合わない,部屋が暑かった,眠かった,他の音が気になったなど,検査に集中できなかった場合,検査結果に影響が出はじめに緑内障の定義は,緑内障診療ガイドライン(第2版)1)によると「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である.」であり,診断および治療評価におけるgoldstandardは眼底検査と視野検査にあるといえる.また,緑内障診断における視野検査のgoldstandardはGoldmann視野計による動的視野検査や自動視野計による静的視野であるが,近年の傾向として,動的視野検査よりも静的視野検査の頻度が増している.さらに,視野検査に先行して眼底に異常が検出されることが報告されて以来,より早期に異常の検出が可能な視野検査が望まれ,そのような問題点を解決すべく早期診断を目的とした測定法としてblue-on-yellowperimetry(B/Y),flicker視野,frequencydoublingtechnologyperimetry(FDT)などがある.このような視野測定法は,特定の神経節細胞系の反応を選択的に捉えるとされていることから,神経節細胞に非選択的な通常のwhite-on-whiteperimetry(W/W)とは異なる.しかし,日常の緑内障診療では,従来のW/Wによる管理がまだ一般的であると思われる.そこで,本稿では,緑内障における視野検査について,Humphrey視野計の白色検査視標を用いた通常の視野検査を中心に評価の注意点および管理の戦略につい(10)*GenichiroTakahashi:東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科〔別刷請求先〕高橋現一郎:〒125-8506東京都葛飾区青戸6-41-2東京慈恵会医科大学附属青戸病院眼科特集●原発開放隅角緑内障(広義)―私の管理法あたらしい眼科27(8):1022.1030,2010原発開放隅角緑内障(広義)の視野管理PerimetryinManagingofPrimaryOpen-AngleGlaucoma高橋現一郎*(11)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101023に検査方法を説明し理解してもらうことが何よりも大切である.また,患者のなかには,良い結果を得ようと見えていないのにブザーを押す傾向がみられる人もいるし,疲労や頭部や椅子の位置・高さが合わないと集中できないために,信頼性が低下した結果になることもあり,検査中は検査画面のみならず,患者の状態にも注意を払う必要がある.さらに,視力が著しく悪い場合や中心視野の感度が低下している場合は,信頼性の指標が低下することがあるため,その場合は静的視野ではなく,動的視野検査に変更することも必要である.3.緑内障半視野テスト(glaucomahemifieldtest:GHT)(図2)GHTは,上下5つの領域の感度差から緑内障性視野異常を判定する.GHTの判定メッセージは5つ(正常ていることも考慮しなければいけない.単一視野の信頼性の有無は固視不良・偽陰性・偽陽性によって評価される.Humphrey視野計では,固視不良の算出法は全点閾値検査とSwedishInteractiveThresholdAlgorithm(SITA)で変更はなく,基準値は20%,偽陽性は全点閾値検査のcatchtrialによるものからSITAの被検者の応答時間を利用した算出法に変更され,基準値も33%から15%になった2).一方,偽陰性は正常者と緑内障症例をベースに設定された視覚確率曲線を利用して算出されるが,基準値は全点閾値検査と変更はなく33%である.固視不良が20%以上または偽陽性,偽陰性がともに基準値を越える場合は,カンジャノシンライケイスウガヒクイ(lowpatientreliability)という表記がされる.信頼性を向上させるためには,検査を始める前に十分信頼係数GHTグローバルインデックストータル偏差パターン偏差図1単一視野検査(Humphrey視野)1024あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(12)範囲外,ボーダーライン,全体的な感度低下,異常な高い感度,正常範囲内)あるが,通常は,正常範囲内,ボーダーライン,正常範囲外で示され,正常範囲外と表示されれば緑内障と判定できる.しかし,変動することもあり,再現性の確認が必要である.また,GHTは単独での視野異常の判定では最良の指標とされ,2,3回連続で正常範囲外であれば,感度・特異度が向上するとの報告もある3).4.グローバルインデックスグローバルインデックスは,視野全体を数値化して求めたもので,確率表示され,統計学的に視野変化を評価できる指標である.平均偏差(meandeviation:MD)(図3),パターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)(図4),短期変動(short-termfluctuation:SF),修正パターン標準偏差(correctedpatternstandarddeviation:CPSD)があるが,SITAでは,SF,CPSDは表示されない.図2緑内障半視野テスト(glaucomahemifieldtest:GHT)半視野を神経線維の走行に沿って5つのゾーンに分けた.各ゾーンの各点ごとのパターン偏差プロットをもとに,ゾーンごとのスコアを算出.上下の鏡像するゾーンのスコアを正常人データベースに基づいて統計学的に評価.図3平均偏差(meandeviation:MD)平均化.測定値と年齢別正常値との差の平均.視野全体の平均的な欠損の程度.TDプロットのすべての数値の平均.「.」は,正常人の平均以下(低下)を意味する.白内障,縮瞳などで悪化.SITAでは全点閾値より1,2dB良好(13)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101025図4パターン標準偏差(patternstandarddeviation:PSD)PSD大小.視野の不規則性を示す.TDの各値のMDからのバラツキ.視野異常の初期から中期に悪化.末期では,不均一性なくなり小さな値になる図5トータル偏差(totaldeviation:TD),パターン偏差(patterndeviation:PD)TD値TD確率プロットPD値PD確率プロットTD(年齢補正した正常値からの偏位)実測閾値と同年齢の正常値の中央値との差TD確率プロット(各検査点ごとの偏位の有意差を検定)中心ではわずかな差でも有意に,周辺では大きな差でも異常でないことがある.グレースケールより鋭敏である.わずかな偏位も検出可能である.白内障・縮瞳・角膜混濁などの影響を受ける.異常点を確率プロットで表示PD(局所の欠損を示す),PD確率プロット年齢ではなく,患者本人の“全体的な視野の高さ”で感度閾値を補正する.全体的な沈下の影響を取り除くので,局所的な変化が明瞭になる.異常点を確率プロットで表示1026あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(14)を指す.しかも,図の点線のように上下半視野にまたがるものではなく,実線のように半視野でみられ,しかも最外側点を含まない場合に,clusterありと判定する(図7).III視野進行の判定緑内障の長期経過観察においては,客観的に進行の有無を判定することが重要であり,以下のような判定法がある.5.トータル偏差(totaldeviation:TD)・パターン偏差(patterndeviation:PD)(図5)各検査点における感度と,その検査点における正常値との差がTDである.PDは,緑内障初期視野異常の特徴である局所的な視野異常を表示している.TDとPDで差がみられる場合は,角膜混濁・縮瞳・白内障などの中間透光体の異常などが考えられる(図6).II緑内障性視野異常の有無初期の緑内障性視野異常の判定は,Andersonの判定基準3)が汎用され,下記の3項目の内一つでも満たせば異常と判定される.1)Glaucomahemifieldtest(GHT):outsidenormallimits2)Patternstandarddeviation(PSD):<5%3)Patterndeviation(PD):<5%probabilitylevel3個以上のnon-edgeclusters,その内に<1%probabilitylevel1個以上この基準で用いられているclusterとは,上記のPDにおいて判定され,3点が連続する塊になっていること図7Cluster図6症例(瞳孔偏位)TD確率プロットPD確率プロット57歳,男性先天白内障に対する,水晶体全摘術の既往瞳孔径は2.0mmで,やや上方に偏位TD確率プロットとPD確率プロットで異常を示すシンボルマーク数に差がみられる(15)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101027多施設共同研究(AdvancedGlaucomaInterventionStudy:AGIS,CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudy:CIGTS,CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:CNTGS)Humphrey視野計のGCPとGPAは,ベースラインと比較して有意に進行しているか,また,ばらつきの範囲内か病的な進行かを判別するプログラムである.特にGPAは,ベースラインデータとして全点閾値検査とSITAが混在しても使用可能であり,パターン偏差で評・視野サマリー(overview)・視野変化解析(changeanalysis)・トレンド解析MDslope,PSDslope・イベント解析緑内障視野変化確率分布(glaucomachangeprobability:GCP)緑内障視野進行解析(glaucomaprogressionanalysis:GPA)視野進行の確率が高いGPAメッセージ視野進行のケイコウアリ3回目以降の検査をベースラインと比較ベースラインからの偏差パターン変化解析図8GPAフォローアップ1028あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010価し,EarlyManifestGlaucomaTrialsに基づいた警告メッセージを表示でき客観的判定や患者への説明にも有用である(図8).さらに,新しい指標であるVisualFieldIndex(VFI)が開発された(図9,10).パターン偏差にて視野をパーセント表示し,100%が正常で,0%が視野消失を意味する.患者の年齢に応じた視機能率をパーセント表示し,各ポイントのパーセントを決定後,中心部に加重をかけて全体の値を算出している.より実態に近い視機能(残存視野率)を表す指標とされている.IV視野管理における戦略1.視野検査の間隔表1にAmericanAcademyofOphthalmologyが勧める原発開放隅角緑内障疑いと原発開放隅角緑内障に対するPreferredPracticePattern(PPP)のガイドラインを示した.本ガイドラインを参考にしつつ,患者の状態,治療の緊急性,学習効果などを考慮し検査の間隔を決定していく必要がある.診断がつくまでは,短期間に複数回の検査が必要となるし,病状が安定していれば,間隔を空けることも可能である.(16)VFIBar**年齢別正常視野を100%とした場合の現在のVFIと将来の予測VFI(最長5年)RateofProgression:-3.7±2.7%/year(95%confidence)SlopesignificantatP<5%100%すでに失われた視野予測される将来の沈下6676AgeVFI86100%80%60%40%20%0%図9VFIVFI76%VFI97%GPAサマリーベースラインVFI進行解析今回の検査結果の解析単一視野解析GPAに必要な回数が不足している場合図10VFI(GPAサマリーと単一視野解析)あたらしい眼科Vol.27,No.8,201010292.プログラムの選択基本的なプログラムの選択は,視標サイズIIIのSITAまたは全点閾値検査の中心30-2である.高齢者や小児では,時間短縮のためにはSITAや中心24-2が有用である.また,緑内障後期や中心感度の低下が疑われる場合は中心10-2,周辺視野の確認には周辺60-4のプログラムやGoldmann視野が診断の手助けとなる(図11).また,緑内障の病期により,通常の視野検査で異常が検出されないpre-perimetric期では,FDTやB/Yにより異常が検出されることもあるし,緑内障後期ではGoldmann視野により周辺視野を含めた全体像を把握することも大切である(図12).図13は,58歳,女性の右眼の中心30-2と10-2の視野検査結果である.右眼の下方に視神経線維欠損がみられたが,中心30-2では同部位の感度低下は軽度であるが,中心10-2では明瞭に検出されていた.(17)表1AmericanAcademyofOphthalmologyのガイドライン原発開放隅角緑内障疑い治療目標眼圧の達成障害の危険観察間隔視神経の評価および視野検査の頻度無し問わない低い6~24カ月6~24カ月無し問わない高い3~12カ月6~18カ月有り有り高い3~12カ月6~18カ月有り無し高い4カ月以内3~12カ月原発開放隅角緑内障目標眼圧の達成障害の進行コントロール期間観察間隔視神経の評価視野検査有り無し6カ月以内6カ月以内3~12カ月3~12カ月有り無し6カ月以上12カ月以内3~12カ月3~12カ月有り有り問わない4カ月以内1~12カ月1~12カ月無し有り/無し問わない4カ月以内1~12カ月1~12カ月周辺視野障害が疑われたらプログラム30-2,24-2Goldmann視野プログラム60-4中心視野障害が疑われたらプログラム30-2,24-2プログラム10-2図11視野検査の戦略Pre-perimetric期早期中期後期FDT,B/Yなど静的視野動的視野図12緑内障病期と視野検査中心30-2中心10-2図13中心30.2と中心10.21030あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010また,検査に適応できない患者や高齢者および小児などには,スクリーニング検査,30-2Fastpac,SITAfastなども有用であるが,経過観察には不向きである.おわりに緑内障の確定診断は,視野検査であるが,たとえばp<5%は,20人(回)中1人(回)は,正常なのに異常と判定してしまう確率であり,再検査や眼底所見との整合性,他の検査(画像検査など)や臨床症状も考慮した判定や戦略が必要である.文献1)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:784,20062)NewkirkMR,GardinerSK,DemirelSetal:AssessmentoffalsepositiveswiththeHumphreyFieldAnalyzerIIperimeterwiththeSITAAlgorithm.InvestOphthalmolVisSci47:4632-4637,20063)KatzJ,QuigleyHA,SommerA:Detectionofincidentfieldlossusingtheglaucomahemifieldtest.Ophthalmology103:657-663,19964)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2ndedition,p152,Mosby,StLouis,1999(18)

原発開放隅角緑内障(広義)の視神経管理

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYンズによる倒像鏡検査は乳頭像が小さくなりすぎ陥凹拡大の見落としが多くなる可能性がある.一方,視神経乳頭や網膜神経線維層を立体的に観察することは重要である.この場合,細隙灯顕微鏡下に眼底観察用レンズを用いて行う.直接法としては,Goldmann型3面鏡や隅角鏡の中央部分を用いて細隙灯顕微鏡下に行う.スリットビームにて陥凹の広がりと深さを強拡大で観察する.間接法としては,78D,90Dなどの前置レンズを用いて行う.この場合像は倒像となるので注意する.2.眼底写真撮影眼底変化の観察と経過の記録に有効な方法の一つは写真撮影することである.撮影は乳頭を中心とし,乳頭部の記録には画角30°程度,網膜神経線維層の記録には画角45°以上の撮影が適している(図1a,b).立体写真が撮れれば最良である.眼底写真からは後極部眼底のさまざまな情報が得られるが,これに加え画像解析を行うことも可能である.通常の眼底写真からは,おもに陥凹乳頭径比(cup-to-discratio:C/D比)を視神経乳頭縁と陥凹縁を検査者がマークして測定されるが,視神経乳頭陥凹は立体的な広がりをもつため,平面写真からすべての情報を得ることは困難である.その点,立体眼底写真撮影は情報量が多く乳頭陥凹の範囲を把握しやすいと期待される.検査手順としては,まず,眼底写真を撮る要領で視差をつけた2枚の写真を撮影する.2枚の写真を撮影する際,眼底像の高さを変えないことに注意する必はじめに緑内障性視神経症は他の視神経疾患と異なる特有な眼底変化を呈する.日本緑内障学会の緑内障診療ガイドライン1)においては,緑内障を診断するための眼底観察における重要なチェック項目として,視神経乳頭,視神経乳頭陥凹(以下,乳頭陥凹)および視神経乳頭辺縁部の形状の評価と視神経乳頭出血,視神経乳頭周囲脈絡網膜萎縮および網膜神経線維層欠損の有無の検出をあげている.本項では,これらの変化の特徴とさまざまな検出手段を用いた緑内障診断について解説する.I眼底観察法視神経乳頭部や網膜神経線維層の観察においては,事情が許す限り十分に散瞳をし,十分な光量を用いて行うのが基本である.具体的な眼底の観察法としては,検眼鏡法および細隙灯顕微鏡と前置レンズなどの眼底観察用レンズを組み合わせて行う細隙灯顕微鏡法が一般的であるが,より詳細な観察や解析には眼底写真の撮影とその解析や眼底3次元画像解析法なども最近では一般的になりつつある.1.検眼鏡法と細隙灯顕微鏡法検眼鏡を用いる場合には,視神経乳頭の観察には十分な拡大が必要であり,その意味で推奨されるのは直像鏡法である.中間透光体混濁が強く直像鏡での観察が困難な場合を除き,14あるいは20Dのような倍率の低いレ(3)1015*GojiTomita:東邦大学医学部眼科学第二講座/東邦大学医療センター大橋病院眼科〔別刷請求先〕富田剛司:〒153-8515東京都目黒区大橋2-17-6東邦大学医療センター大橋病院眼科特集●原発開放隅角緑内障(広義)―私の管理法あたらしい眼科27(8):1015.1021,2010原発開放隅角緑内障(広義)の視神経管理OpticNerveEvaluationinManagingofPrimaryOpen-AngleGlaucoma富田剛司*1016あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(4)いった意味で,眼底写真における視神経乳頭のパラメータは眼軸長や角膜屈折力などの影響により拡大率に差が出るため視神経乳頭面積などはあくまでも目安であるが,C/D比など,比で示されるものはほぼ正確に測定できると考えられる.一方,眼底写真による判定の有利な点は,日本人では色素により眼底色調が暗いため,網膜神経線維層の観察要がある.ある種の眼底カメラにはステレオ撮影モードが付属しているので容易に2枚の写真を2.0mm平行移動させ無散瞳で撮影ができる.撮影後,画像処理機能を用いてステレオ表示する.検者はステレオビューアーを用いて視神経乳頭を立体視し,視神経乳頭縁および乳頭陥凹をマークする.プログラム内蔵の眼底カメラでは,乳頭パラメータは自動的に表示される(図2).これらのパラメータはリットマン(Littman)近似式を代表とする補正式を用いて絶対値に近似する方法もあるが,通常,面積などはピクセル数で表されることも多い.そうab図1画角50°で撮影した眼底写真(a)と20°で撮影した眼底写真(b)広角は網膜神経線維層の観察に有用であり,狭角は視神経乳頭の観察に有用である.図3視神経乳頭の耳上側に観察される網膜神経線維層欠損暗く扇状の網膜色調の変化として認められる.図2乳頭解析プログラムが付属した眼底カメラによる解析の例(5)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101017視神経乳頭内の定量的解析を主としているのに対し,GDxは乳頭周囲の網膜神経線維層の厚みを測定する.原理的には網膜神経線維層に偏光ダイオードレーザー光を照射することにより,複屈折性をもつ網膜神経線維層から2つの通過速度の異なる2つの反射光が得られる.この反射光が網膜を通過する時間差が網膜神経線維層の厚さと正相関することからその厚さが計算される.眼の屈折系による像拡大に対する補正は必要なく,基準面などを介して間接的に得られた値ではないことも利点である.画像は256×256画素の断層像として得られ,検者が視神経乳頭縁を決定したのち,乳頭中心から1.5~2.0乳頭径離れた部位の神経線維層厚が測定される(図5).本装置は,被検者の眼の位置などによって,角膜に存在する複屈折の影響が排除されず,測定が正確に行えない例のあることが指摘されている.このことから,検眼鏡所見から通常考えられないような結果が得られた場合が容易であり,神経線維層束状欠損を検出しやすいことがあげられる(図3).視神経線維層のわずかな欠損の検出には無赤色光による眼底撮影が推奨されるが,近年ではフォトショップなどによるコンピュータ画像処理で赤色成分を除去した画像が比較的容易に得られるのでそれでも代用できると考えられる.実際の無赤色光眼底撮影では,高解像度の白黒フィルムを使用し無赤色光にて眼底撮影する.無赤色フィルターが付属していない眼底カメラでは最大透過率が495nm付近にあるフィルターを用いて撮影する.3.コンピュータ眼底3次元画像解析法眼底3次元画像解析法を用いた解析法には,現在,走査レーザー断層法(HRT),走査レーザーポラリメトリー法(GDx)および光干渉断層法(OCT)が一般的である.a.走査レーザー断層法(HeidelbergRetinaTomograph:HRT2および3)HRTは共焦点走査型レーザーシステムを用いて,コンピュータ制御により,焦点面を少しずつずらしながら眼底の光学的断層像を得,それを立体的に再構築することにより,視神経乳頭や黄斑部などの後極部眼底の3次元画像を得ることができ,かつ量的解析を行うことができる装置である.HRT2および3では波長670nmダイオードレーザーを光源とし,画角15°で384×384画素の2次元イメージを眼球の垂直方向に最大4mm走査させることにより,合計16~64枚の断層像を自動的に取得する.その後にこれらの画像を3次元的に再構築し種々の立体的な視神経乳頭パラメータが得られる.本装置の解析度は,横方向が10μm,垂直方向では50~60μm以下とされている.無散瞳で眼底写真を撮影するような姿勢で撮影するが,実際の画像獲得時間は2秒以内で,検者が視神経乳頭縁を決定した後,乳頭パラメータ解析がなされる.画像獲得から解析までの過程は数分以内に完了する(図4).b.走査レーザーポラリメトリー法(GDxAccess:GDx)走査レーザーポラリメトリー法に用いられるGDxも共焦点レーザー走査型検眼鏡の一つであり,780nmのダイオードレーザーを光源として用いている.HRTが図4HRT3で解析された正常視神経乳頭所見1018あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(6)線維層の高速解析が可能となった.そのため,ラインスキャンの数が倍になったうえに解析時間が1秒を切り,視神経乳頭や網膜神経線維層厚の評価が従来の断面だけでなく,面と体積による形状解析が可能となり注目される(図6).d.画像解析の注意点すべての画像解析装置にあてはまるが,信頼性のある結果を得るには,質の高い画像を撮る必要があり,屈折異常の強い眼や,白内障などの中間透光体混濁例,固視不良例,縮瞳例,眼軸長が長く焦点合わせが不良の場合は,他の方法を用いて確認するなどの配慮を必要とする.ただし,最近では,角膜の複屈折の影響を排除可能な改良型(GDxVCCおよびGDxECC)が報告されている.c.光干渉断層法(opticalcoherencetomography:OCT)OCTの原理は超音波エコーのBモードに似ているが,超音波の代わりに近赤外線低干渉ビーム(波長820nm)を測定光として用いるため,高い解像度の画像が得られる.OCTは網膜疾患を中心に利用されてきたが,視神経乳頭形状解析ができるようになってきた.従来のタイムドメインOCTに付属の視神経乳頭解析ソフトでは視神経乳頭を放射状に長さ4mm,6本のラインスキャン(30°間隔)を行い形状解析しており,検査に要する時間も長かった.しかしながらスペクトラルドメイン方式では,機種によって多少違いはあるが,深さ方向の分解能は5μmに向上し,スキャン速度は26,000Aスキャン/秒かそれ以上となり,視神経乳頭やその周囲の網膜神経図5GDxVCCで検出された,右眼視神経乳頭耳下方の網膜神経線維層欠損ただし,虚血性視神経症の一例である.図6スペクトラルドメインOCTで検出された,右眼視神経乳頭耳上方の網膜神経線維層束状欠損(7)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101019きさの評価において注意すべき点は,陥凹の境界の設定に,現在絶対的な基準はなく,設定の違いによりC/D比が大きく異なる可能性のあることである.検眼鏡的には,乳頭陥凹は乳頭内で血管が屈曲する部位から始まると定義されているが,各検者間でこの判断にばらつきが生じるのが欠点である.したがって,C/D比の緑内障早期診断上の意義は,その絶対値よりも左右差にあるとするのが妥当である(図7a,b).陥凹の観察で特に注意すべきは,乳頭の蒼白部,いわゆるpallorを陥凹と見誤らないことである.蒼白部のみ注目していると,初期の陥凹の拡大である皿状化(saucerization)を見落とす可能性があるので注意を要する.2.乳頭辺縁部(neuroretinalrim:リム)乳頭陥凹の拡大が観察された場合,それが緑内障性のものであるかどうかを鑑別するうえで最も重要な所見は,リムの狭小化あるいは菲薄化を伴っているか否かである.リムの変化を伴わない陥凹は,緑内障性ではありえないと考えても大きな間違いはない.緑内障眼では,まず陥凹は乳頭全周方向に浅く均一に拡大し,それに伴って乳頭辺縁部は狭小化する.これは特に高眼圧緑内障の初期病変として重要である.さらに進行すると,浅くなどは画像が悪くなる可能性がある.緑内障の眼底診断は後述する緑内障に特徴的な眼底変化をとらえることであり,画像解析の真の目的も,装置に診断させることではなく,緑内障変化と考えてよい眼底異常が存在するか否かを判定するツールの一つと考えるべきである.II緑内障性変化の特徴2)1.乳頭陥凹緑内障では視神経乳頭に特徴的な変化が観察される.最も特徴的であるのが,乳頭陥凹の3次元的な拡大である.正常眼では,乳頭はやや縦長の卵円形を示し,生理的陥凹は横長の卵円形を呈するため,C/D比は,水平C/D比が垂直C/D比に比べて有意に大きい.正常眼において垂直C/D比のほうが大きい乳頭は全体の7%にしか認められない.このことは,緑内障眼を診断するうえで大変重要である.というのは,初期から中期にかけての緑内障性視神経乳頭変化では,垂直C/D比が急速に大きくなるからである.したがって,陥凹をC/D比で評価する場合は,緑内障の初期においては,垂直C/D比の変化に注目すべきである.しかしながら,生理的に巨大な陥凹のみられる例もあり,緑内障性障害における乳頭陥凹拡大の特異性は必ずしも高くない.陥凹の大ab図7左右眼で垂直C/D比に差がみられる例右眼にも,乳頭下方にリムノッチングと網膜神経線維層欠損は観察されるが,垂直C/D比は0.6程度である.一方,左眼の乳頭変化はより強く,下方にリムの萎縮を認め,垂直C/D比は0.8近い.右眼をみただけでは,緑内障性変化を見逃す恐れもあるが,左眼のC/D比が大きいため発見できた症例である1020あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(8)むずかしくなる.この網膜神経線維層の視認性は年齢とともに減弱し,これは神経線維が加齢により減少することと一致する.神経線維束は,白銀色の筋としてみられる.視神経乳頭から約2乳頭径離れると,網膜神経線維層は薄く刷毛状になり徐々に見えなくなる.乳頭周辺の網膜神経線維層に限局性の束状の欠損が生じることがあるが,これは初期緑内障の特徴的な所見である(図9).網膜神経線維層欠損はリムノッチングがみられる部位に多く観察され,さらには先にも述べたように,これに近接して乳頭辺縁部から隣接する網膜上に及ぶ乳頭出血がみられることがある.典型的な束状欠損は緑内障眼の20%以上で観察されるが,視神経乳頭ドルーゼン,トキソプラズマによる網膜脈絡膜瘢痕,綿花様白斑を伴う虚血性網膜症,長期にわたるうっ血乳頭や多発性硬化症などでも観察されうる.一方,神経線維層の局所性の束状欠損は検眼鏡にも比較的検出されやすいが,びまん性に神経線維が脱落している場合は検出が容易でないこともある.この場合,この項の最初で述べた神経線維層の視認性を意識しながら判断する.神経線維が多く脱落した網膜部分は,そうでない部分に比較して暗くみえることも参考になる.陥凹した部分は深みを増し,陥凹と辺縁部の境界はより明瞭になる.また,この時期には上耳側あるいは下耳側に向かって陥凹が拡大し,辺縁の局在性の菲薄化,すなわちリムの切痕(ノッチング)が明確となってくる.リムノッチングの存在は,視野欠損が存在することを示唆する重要な所見となる.病期が進行すると初期病変として観察されたノッチング部はさらにその幅と深みを増し,血管は乳頭縁で強く屈曲し,いわゆるbayonetingを示す(図8).さらに進行すると陥凹は最初のノッチング部と対側にあたる方向にも伸展し縦長となる.この時期になると視野障害は上下に弓状暗点を示すようになる.末期に至ると陥凹は乳頭全体に拡大し,視野は通常中心10°以内にも暗点が出現する.3.網膜神経線維層欠損網膜神経線維層欠損は,乳頭陥凹拡大や視野欠損に先行して生じる場合も多く,最も早期に生じる緑内障性眼底変化といわれており,その所見は重要である.正常眼においては,検眼鏡的に網膜神経線維層は耳下方で最も視認性が高く,ついで耳上側,鼻上側,鼻下側の順になる.乳頭直上,直下,耳側,鼻側は,検眼鏡での確認は図9健康診断時に眼底写真で発見された網膜神経線維層欠損注意深くみれば上下耳側に観察される.この段階ではまだ視野欠損の程度はごく初期である.図8左眼緑内障性視神経乳頭下方4時~6時にリムの萎縮が観察され,同部では血管が屈曲して走行し(矢印),いわゆるbayonetingを示す.矢頭で挟まれた部分には,網膜神経線維層束状欠損が観察される.あたらしい眼科Vol.27,No.8,201010214.乳頭出血乳頭部の線状出血も緑内障眼に特徴的に観察される所見である.乳頭出血の頻度は他の緑内障眼に比して正常眼圧緑内障眼において高いと報告されている.ノッチングや網膜神経線維層束状欠損の存在する部と一致して出現しやすく,乳頭出血の約80%は網膜神経線維層欠損部に一致するか,その近傍に観察されたと報告されている.これらの結果は,乳頭出血と乳頭の局所的障害の関連性を裏付けるものであるが,必ずしも正常眼圧緑内障眼に特徴的な所見とは言い切れない.というのは,乳頭出血は出現から消退まで8~12週と報告されているが,眼圧が高い場合は,出血は小さく早めに停止し,眼圧が低い場合に比べて検出されにくいのかもしれないという議論は残るからである.とはいえ,乳頭出血はそれが観察された段階でリムノッチングや神経線維層欠損の存在を示唆しており,さらに,乳頭出血が観察された症例ではそうでない例に比して視野進行の割合が高いことも知られてきており,臨床上重要な所見である.5.乳頭周囲絡膜網膜萎縮(parapapillarychorioretinalatrophy:PPA)乳頭周囲のPPAは,緑内障末期にみられるいわゆるglaucomahaloとして従来知られていたものであるが,最近,早期変化としての重要性が再認識され,また視野障害進行のリスクファクターであるとの報告もある.PPAは,乳頭縁に近いb-ゾーンとその外側に位置するa-ゾーンに分けられるが,緑内障眼で顕著なのはb-ゾーンである.b-ゾーンは,網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管の著明な萎縮により,大きな脈絡膜血管や強膜が透見される部分である.内側は乳頭縁に接し,外側縁は網膜色素上皮の不整により脱色素あるいは過剰色素帯として特徴づけられるa-ゾーンに接し,三日月状のような形態を示す.緑内障眼では,特にb-ゾーンの頻度が高くまた大きいのが特徴である.正常眼圧緑内障眼において84.3%にPPAを認めたとの報告がある.おわりに以上,緑内障診断における診断ツールの概要と使いかた,およびそれらを用いて何をみていくのか,ということを概説した.経過観察に関する真の意味での視神経管理は紙面の都合で割愛したが,視神経が今どのような状態にあるのかをしっかり把握することは緑内障を管理するうえでの第一歩であると考える.文献1)緑内障診療ガイドライン.日眼会誌107:126-157,20032)富田剛司:緑内障における眼底変化の特徴.日眼会誌114:407-418,2010(9)

序説:原発開放隅角緑内障(広義)-私の管理法

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPYどうか考えてみたい.視神経〔乳頭およびNFL(網膜神経線維層)〕の判断は緑内障性視神経症(GON)診断の根幹である.ところが,視神経乳頭自体の変異がとても大きい.変異の大きな視神経乳頭に生じるGONをどのように捉えるべきであるかは永遠の課題といってもよい.また,GONの判断に光干渉断層法(OCT),走査レーザー断層法(HRT)などの画像解析はどの程度有用なのであろうか改めて考えてみたい.治療手段の進歩も著しい.プロスタグランジン関連薬,配合剤をはじめとして薬物数は年々増加している.ここ2.3年はその傾向が特に著明である.それをどのように使っていくのか,その基本的なルール作りが緊急の課題である.加えて,手術療法,レーザー治療を薬物治療とどう組み合わせるのか,どう住み分けさせるのか,その原則も再確認が必要であろう.原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障は本当に同じ治療方針でよいのであろうか?血流に対する配慮はいるのか?高眼圧症の現代的な管理法は?課題は尽きない.そうした課題を,総論的に,また,ケーススタディとして考えてみたい.さて,本特集の和文タイトルが「原発開放隅角緑内障(広義)─私の管理法」となっていることをいぶかる方がいらっしゃると思う.これは,慢性疾患今月号は原発開放隅角緑内障(広義)の管理を特集することとした.原発開放隅角緑内障(広義)は日本緑内障学会制定の用語であり,原発開放隅角緑内障と正常眼圧緑内障を統合する疾患概念である.換言すると,緑内障の本質を視神経症と規定し,眼圧を本症の疾患概念からはずした疾患単位である.国際的にも緑内障が視神経症として捉えられていることと軌を一にする術語である.本症の命名の由来と本症治療の中核が眼圧下降治療であることとの間には若干のギャップがあり説明不足が感じられるものの,原発開放隅角緑内障(広義)の管理が緑内障全体の管理の基準となっていることは周知のとおりである.そこで,現代における緑内障管理の進歩を踏まえ,どのように管理を行うべきかについて,緑内障臨床経験の特に豊富な先生方の御意見を拝聴することとした.診断学においては,視野検査,視神経検査の進歩を取り上げ,それをどのように日常診療に生かすべきか考えてみたい.視野検査では基本的な視野の解釈が大切であることは言を俟たない.そうした基本的素養を前提として,従来からある単一視野図あるいは連続視野図の統計的な解析にとどまらず数年後の予測にまで踏み込んだ検討も可能となっている現在,視野解析ソフトウェアが真に価値のあるものか(1)1013*TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科眼科学**HarukiAbe:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野●序説あたらしい眼科27(8):1013.1014,2010原発開放隅角緑内障(広義)─私の管理法ManagementofPrimaryOpen-AngleGlaucoma山本哲也*阿部春樹**1014あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(2)である本症の特に長い経過に思いをはせるとき,自分ひとりでは全経過を追えないことを残念に思い,時に経験豊富な先生方の意見(勘といってもよい)が理論よりも大事であることを,われわれ編者が身をもって知っていることの表れでもある.今回の執筆依頼では,執筆者ご自身の臨床経験を多く語っていただくように特にお願いしてある.読者諸子におかれては,そのように読み解いていただけると嬉しく思う.具体的な内容を少し紹介したい.富田剛司氏(東邦大大橋)には,視神経の見方,眼底写真,画像解析に関して具体的戦略を丁寧に解説していただいた.高橋現一郎氏(慈恵医大青戸)には,長期管理の視点から,現代的な視野測定をどのように用いていくのか,詳細な解説をしていただいた.福地健郎氏(新潟大)には,緑内障手術療法に関して豊富な臨床経験とデータから,具体的に解説していただいた.原発開放隅角緑内障(狭義)の治療戦略に関しては,木内良明氏(広島大)に臨床経験に基づく信念を語っていただき,川瀬和秀氏(岐阜大)に具体的な症例呈示をしていただいた.正常眼圧緑内障の管理に関しては,金沢大学眼科の具体的な管理法を武田久氏と杉山和久氏にお示しいただき,富所敦男氏(東京大)には症例を呈示していただいた.高眼圧症は,現在話題になることがあまり多くないが重要な疾患である.どこまで治療すべきか,いつから治療を開始すべきかという点を中心に澤田有氏と吉冨健志氏(秋田大)に論じていただいた.いずれの執筆者も,的確な,個性の強い,そして優れた「私の管理法」を展開してくださった.編者として御礼を申しあげたい.

一過性の視覚障害を軽度中心窩低形成の片側に発症した1例

2010年7月30日 金曜日

1004(14あ4)たらしい眼科Vol.27,No.7,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科27(7):1004.1007,2010cはじめに中心窩低形成は,中心窩の形成が不良な比較的まれな疾患であり1),白子眼底や先天無虹彩などに合併する場合だけでなく,単独に認められる症例もあるとされている1,2).小児期に眼振や視力障害のために発見されることが多く,多くは両眼性で,視力障害の程度は0.05.1.0までさまざまである2,3).中心窩低形成の診断に検眼鏡による中心窩反射および黄斑部輪状反射の欠如に加え,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)や光干渉断層計(OCT)が重要であるとされる1,3.5).近年,これまで見落とされてきたような軽度な症例も診断することができるようになり,中心窩低形成眼は必ずしも視力障害があるわけではないことが報告されている3).今回,軽度な中心窩低形成の片側のみに,一過性の視力・視野の障害を発症した1例を経験した.これまで同様の報告は筆者らの調べた限りなく,まれな1例と考えられたのでその特徴や経過について報告する.I症例患者:14歳,女性.主訴:右眼の視力障害と視野狭窄.〔別刷請求先〕奥野高司:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:TakashiOkuno,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPAN一過性の視覚障害を軽度中心窩低形成の片側に発症した1例奥野高司*1,2奥英弘*2菅澤淳*2池田恒彦*2*1香里ヶ丘有恵会病院眼科*2大阪医科大学眼科学教室ACaseofUnilateralTransientVisualDisturbanceinMildFovealHypoplasiaTakashiOkuno1,2),HidehiroOku2),JunSugasawa2)andTsunehikoIkeda2)1)DepartmentofOphthalmology,Korigaoka-YukeikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege軽度中心窩低形成の片側のみに一過性の視覚障害を発症した1例を報告する.症例は14歳,女性.右眼の視力と視野の障害を主訴に受診した.初診時矯正視力は,右眼1.2,左眼1.0pであったが,右眼の中心窩反射および黄斑部輪状反射がやや不良で,蛍光眼底撮影の右眼中心窩の無血管野に血管が残存し,光干渉断層計で両眼の中心窩の陥凹形成が不良であった.軽度の中心窩低形成で,左眼が右眼に比べ軽度と考えられた.左眼は変化しなかったものの右眼の矯正視力が初診の3カ月後に0.4に低下するとともに重度の視野異常をきたしたが,その1カ月後には視力,右眼1.0,左眼1.2となり,視野も正常化した.他覚的所見の変化なしに急激な視野や視力の変化があり,心因性視力障害が合併している可能性が考えられた.Wereportacaseofunilateraltransientvisualdisturbanceinmildfovealhypoplasia.Case:A14-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalbecauseofvisualdisturbanceinherrighteye.Oninitialexamination,hervisualacuitieswere1.2ODand1.0pOS.WeobservedunclearnessoftherightmacularandfovealreflexesOU,abnormalvesselsintheinnatelyavascularfovealregionOSonfluoresceinangiography,andflatfoveaOUonopticalcoherencetomography.Onthisbasis,wediagnosedbilateralmildfovealhypoplasia,whichwasmilderinOSthaninOD.Threemonthslater,however,thepatientcomplainedofrightdecreasedvision0.4,andherrightvisualfieldwasimpaired,whilethelefteyeshowednochange.Onemonthlater,visualacuityandvisualfieldshadreturnedtonormal.Psychogenicvisualdisturbancewasconsideredasacauseofthevisualimpairment,giventherapidrecoveryinvisualacuityandvisualfield,withoutobjectivechanges.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):1004.1007,2010〕Keywords:中心窩低形成,心因性視力障害,片眼性.fovealhypoplasia,psychogenicvisualdisturbance,unilateral.(145)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101005現病歴:平成19年2月初め頃より人混みで人とぶつかりそうになるため,同年2月8日に大阪医科大学眼科を受診した.初診時視力は,右眼0.3p(1.2×sph.1.75D(cyl.0.5DAx10°),左眼1.0p(n.c.).左眼に比べると右眼眼底の中心窩反射および黄斑部輪状反射はやや不良であった(図1)が,他の前眼部,中間透光体,眼位,眼球運動,対光反応,色覚に著変はなかった.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.経過:2月中旬より15分間程度の一過性の視力低下とともに右眼右上方が暗く感じはじめ,同年3月16日のアムスラーチャートでは,右眼の右上方に暗く感じる部分が生じたが,視力は,右眼0.1(1.2×sph.2.00D),左眼0.8(1.5×cyl.1.5DAx180°)と良好であった.3月23日の視力は,右眼0.15(1.2×sph.1.75D(cyl.0.5DAx180°),左眼1.0図1眼底写真左眼に比べると右眼眼底の中心窩反射および黄斑部輪状反射はやや不良であった.図2フルオレセイン蛍光眼底造影両眼の中心窩無血管領域の形成が不良で,特に右眼が不良であった.1006あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(146)(1.2×cyl.1.0DAx180°)と良好であったが,FAで右眼の中心窩無血管領域の形成が不良で(図2),OCTでも両眼の中心窩の陥凹形成が不良であり(図3),軽度の中心窩低形成と診断した.網膜電図(ERG)は錐体反応,杆体反応,混合反応のすべてにおいて異常がなかった.その後,同年5月の連休明け頃よりさらに視力低下と視野狭窄を自覚し,5月10日,右眼0.08(0.4×sph.2.0D(cyl.0.5DAx5°),左眼0.7(1.0×sph.0.25D(cyl.1.25DAx180°)と右眼の視力不良となり,Humphrey視野10-2プログラムでは左眼はほぼ正常の視野結果であったにもかかわらず,右眼は視野の大部分が0dBになるなど強い異常がみられた(図4).その後,経過観察したところ,視力は徐々に改善し,同年6月14日には,右眼0.25(1.0×sph.2.25D(cyl.0.5DAx180°),左眼0.8(1.2×cyl.1.5DAx180°)となった.Goldmann視野も正常であった.電子瞳孔計による対光反応は不安定で,両眼とも刺激前から縮瞳傾向を示したが,刺激前の瞳孔面積で補正した対光反応の縮瞳面積(%A)は,正常値よりむしろ大きかった.視覚誘発電位(VEP)は,右眼振幅が左眼振幅に比べ半分程度に減弱していたものの,P100潜時は右眼99msec,左眼97.5msecと正常であった.その後,経過観察しているが,半年以上の間,一過性の視力障害も含め自覚的に異常なく,同年11月30日の時点で,視力は右眼0.2(1.0×sph.2.0D(cyl.0.5DAx180°),左眼0.6(1.20×sph.0.25D(cyl.1.25DAx170°)であった.II考按今回の症例は,FAで中心窩無血管領域に血管の残存があり,OCT上も中心窩の形成がやや不明瞭で,中心窩反射および黄斑部輪状反射はやや不良であったため,軽度の中心窩低形成と考えられた1.5).これまで中心窩低形成眼は視力障害を伴うと考えられ,矯正視力が0.04.0.6程度とする多数例の報告もある2)が,最近のOCTなどの進歩により中心窩低形成に必ずしも視力障害が合併しないことが報告されており3),今回の症例も中心窩低形成眼と診断してよいと考えられた.また,右眼には明瞭に中心窩無血管領域に血管の残存があるが,左眼は残存血管が不明瞭であり,眼底所見やOCTの結果からも,右眼と比較すると左眼のほうが中心窩低形成の程度はより軽度であると考えられた.今回の症例は他覚所見に変化がないにもかかわらず,一過性に視力と視野障害を訴え,視野の大部分が0dBであるにもかかわらず矯正視力は(0.4)と,視野障害と視力障害に解離があり,さらに経過観察で急激に視力と視野障害が改善した.一方,全身状態およびFAや眼底所見などより,塞栓症などの一過性の血流障害などは否定的であった.視覚障害の訴えによる利益がないことから詐病も否定的で,検査に協力的で,いわゆる「よい子」であることなどより6),非典型的ながら心因性視力障害の合併が考えられた.しかし,原因となる一過性のストレスは不明確であり,視力,視野障害の期間も短く,心因性視力障害の程度は軽度と考えられた.心因性視力障害は95%以上が両眼に発症するとされる6)が,本例では右眼のみに視力障害がみられた.この原因として右眼が左眼よりも黄斑が低形成であったことが関係している可能性を考えた.ヒトより数倍視力が良いとされている猛RL図3光干渉断層計両眼の中心窩の陥凹形成が不良であった.LR図4Humphrey視野10.2プログラム左眼はほぼ正常の視野結果であり,当日の矯正視力は(0.4)であったにもかかわらず,右眼は視野の大部分が0dBになるなど重度に障害されていた.(147)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101007禽類では急峻な中心窩が形成され,ヒトでも中心窩が形成されることにより光学的な利点があるとされており3),具体的な根拠がないものの中心窩低形成の程度が軽度で視力が比較的良好に発達している場合でも,他の視機能障害を合併すると比較的容易に視力低下が起こる可能性が考えられた.また,ともに軽度であるものの,右眼が左眼に比べより低形成であるため視力を容易に障害されやすい状態にあり,このため右眼のみに心因性の視力障害があらわれた可能性が考えられた.一方,これまでの片眼性の心因性視力障害の報告として外傷や角膜実質炎など片眼の視力を気にすることをきっかけに発症したとするものがある7.10).本例でも中心窩低形成のため視力の質に差があり,その点を気にかけているため片眼性に心因性視力障害を発症した可能性も考えられた.これまでに筆者らの調べた限り中心窩低形成眼に心因性視力障害が発症した報告はなかった.これは,最近まで中心窩低形成には視力障害があると考えられ,心因性視力障害の合併があっても中心窩低形成に伴う視力障害だと診断されていたからではないかと考えた.謝辞:フルオレセイン蛍光眼底造影についてアドバイスをいただいた深尾隆三氏に深謝します.文献1)山村陽,中島伸子,深尾隆三ほか:原因不明の弱視として長期間観察された中心窩低形成症の1例.臨眼61:819-822,20072)小野真史,東範行,小口芳久:黄斑低形成.臨眼45:1937-1941,19913)MarmorMF,ChoiSS,ZawadzkiRJetal:Visualinsignificanceofthefovealpit:reassessmentoffovealhypoplasiaasfoveaplana.ArchOphthalmol126:907-913,20084)RecchiaFM,Carvalho-RecchiaCA,TreseMT:Opticalcoherencetomographyinthediagnosisoffovealhypoplasia.ArchOphthalmol120:1587-1588,20025)McGuireDE,WeinrebRN,GoldbaumMH:Fovealhypoplasiademonstratedinvivowithopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol135:112-114,20036)内海隆:小児の心因性視覚障害の病態と治療.神経眼科21:417-422,20047)山崎厚志,船田雅之,三木統夫ほか:片眼性心因性視力障害の1例.眼科32:911-91519908)永田洋一:外傷を契機に発症した成人の片眼性心因性視力障害の2例.眼臨86:2797-2800,19929)村田正敏,高橋茂樹:外傷を契機として発症した片眼性の心因性視力障害の1例.眼臨87:2640-2642,199310)宮田真由美,勝海修,及川恵美ほか:眼球外傷後に片眼性の心因性視覚障害を呈した2症例.日本視能訓練士協会誌37:115-121,2008***

眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(139)999《原著》あたらしい眼科27(7):999.1003,2010cはじめに眼圧測定値は,その測定原理から角膜形状(角膜曲率半径,角膜厚)の影響を受け測定誤差を生じることが明らかになっている.角膜曲率半径が小さいほど,また角膜厚が厚いほど測定された眼圧値は過大評価され,この逆は過小評価されると報告1.5)されている.さらに,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用は角膜の形状や形態,生理的機能にさまざまな影響を及ぼす6)ことはよく知られている.このうち角膜形状についてはHCL装用に伴う角膜曲率の変化7,8)や,浮腫による角膜厚の増大,慢性的低酸素状態に基づく角膜実質の菲薄化6,9)などが報告され,これらは短期的,可逆的な角膜の変形と考えられている10).これらのことからHCL脱後に測定される眼圧値は,HCL装用による角膜形状変化により誤差が生じている可能性が考えられるが,その詳細は検討されていない.そこで今回HCL装用者を対象とし,HCL脱直後から経時的に眼圧値,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行い,HCL装用による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討したので報告する.I対象および方法対象は,HCL常時装用者(HCL装用群)17名34眼(男性〔別刷請求先〕藤村芙佐子:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学専攻Reprintrequests:FusakoFujimura,DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversity,1-15-1Kitasato,Sagamihara,Kanagawa228-8555,JAPAN眼圧値に対するハードコンタクトレンズ装用の影響藤村芙佐子加藤紗矢香山田やよい庄司信行北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学InfluenceofHardContactLensonIntraocularPressureFusakoFujimura,SayakaKatou,YayoiYamadaandNobuyukiShojiDepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthSciences,KitasatoUniversityハードコンタクトレンズ(HCL)による角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討した.対象は眼科的疾患を有さない健常青年22名44眼とした.HCL脱後の角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧を経時的(脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間)に測定し,統計学的検討を行った.結果,眼圧値は脱直後と比較し,脱後10分,20分に有意な低下を認めた(p=0.0016,p=0.0267).角膜曲率半径は各測定時間と比較し,脱後24時間のみ有意な低下を認めた(脱後30分.24時間:p<0.0133,1時間.24時間:p<0.01,他時間.24時間:p<0.001).中心角膜厚は変化を認めなかった.HCL脱後に角膜形状変化を認めたが,眼圧値への影響は無視できる程度であり,脱後の眼圧下降はHCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果によるものと考えられ,眼圧測定はHCL脱後30分以降に行うべきと考えた.Weinvestigatedtheinfluenceofcornea-shapinghardcontactlens(HCL)onintraocularpressure(IOP).Participatinginthestudywere22younghealthyvolunteers.Cornealcurvature,centralcornealthicknessandIOPweremeasuredjustafterHCLremovalandat5,10,20,30minutes,1hourand24hoursafter.IOPshowedasignificantdecreaseat10and20minutes,comparedwithjustafterremoval(p=0.0016,p=0.0267,respectively).Cornealcurvatureshowedasignificantdecreaseonlyat24hours(30minutes.24hours:p<0.0133,1hour.24hours:p<0.01,alltheothertime.24hours:p<0.001).Centralcornealthicknessshowednochange.IOPmeasurementisnotaffectedbycornealshapechange.TheresultssuggestthattheIOPdecreasewascausedbythemassagingoftheeyeballwhentheHCLwasremoved.IOPshouldbemeasuredatleast30minutesafterHCLremoval.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):999.1003,2010〕Keywords:ハードコンタクトレンズ,眼圧,角膜形状,角膜曲率半径,中心角膜厚,マッサージ効果.hardcontactlens,intraocularpressure,cornealshape,cornealcurvature,centralcornealthickness.1000あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(140)1名,女性16名)であった.平均年齢は20.7±1.3歳(19.24歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.3.81±2.93D(+2.25..9.50D)であった.対照としてCL非装用者(CL非装用群)5名10眼(女性5名)を対象とした.平均年齢は21.6±0.55歳(21.22歳),平均自覚的屈折値(等価球面値)は.0.40±0.96D(+0.50..2.25D)であった.全例,屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年22名である.なお,HCL装用群においては測定前1週間以上のHCL終日装用,および測定当日の3時間以上の装用を条件とした.対象者には研究の主旨とその意義に関する説明を十分に行い,文書による同意を得た後,測定を開始した.測定方法は以下のとおりである.HCL脱直後,脱後5分,10分,20分,30分,1時間,24時間に眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚の測定を行った.測定による角膜形状への影響を最小限にするために,すべて非接触で測定可能な機器を用い,角膜曲率半径,中心角膜厚,眼圧の順で測定した.角膜曲率半径の測定にはオートレフケラトメーターARK-730A(NIDEK社),中心角膜厚測定には前眼部解析装置PentacamTM(OCULUS社),眼圧測定には非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)を使用し,各測定は少なくとも3回以上行い,安定した3つの値の平均値を代表値とした.また,角膜曲率半径は弱主経線と強主経線から求められる平均値をその角膜曲率半径とした.さらに日内変動の影響を最小限に抑えるため,測定開始時刻は午前10時に統一した.CL非装用群においてもHCL装用群と同時刻に同様の方法にて眼圧測定を行った.得られた結果を用い,以下の3つの項目について検討を行った.検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化.検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関.検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化.統計学的解析検討は,検討①③にはScheffetest,検討②には単回帰分析を用い,有意水準を5%未満とした.なお,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を得てから開始した(承認番号2009-009).II結果検討①:HCL装用群における測定項目の経時的変化眼圧はHCL脱直後に比べ脱後10分(p=0.0016),脱後20分(p=0.0267)に有意な低下が認められた(図1a).角膜曲率半径は,脱後24時間に減少しており,HCL脱直後と脱後24時間(p<0.001),脱後5分と脱後24時間(p<0.001),脱後10分と脱後24時間(p<0.001),脱後20分と脱後24時間(p<0.001),脱後30分と脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間と脱後24時間(p<0.01)に有意な差を認めた(図1b).中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(図1c).8.38.28.18.07.97.87.77.67.5角膜曲率半径(mm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***************n=34Scheffetest:*p=0.0133,**p<0.01,***p<0.001図1bHCL脱後の角膜曲率半径の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後,脱後5分,10分,20分と比較し,脱後24時間の角膜曲率半径は有意に低下していた(p<0.001).同様に,脱後30分より脱後24時間(p=0.0133),脱後1時間より24時間(p<0.01)に有意な低下を認めた(Scheffetest).600580560540520500中心角膜厚(μm)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間n=34図1cHCL脱後の中心角膜厚の経時的変化(平均値±標準偏差)中心角膜厚には経時的変化は認めなかった(Scheffetest).15141312111098眼圧(mmHg)直後5分10分20分30分1時間24時間HCL脱後時間***n=34Scheffetest:*p=0.0267,**p=0.0016図1aHCL脱後の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)HCL脱直後と比較し,脱後10分,脱後20分の眼圧は有意に低下していた(それぞれp=0.0016,p=0.0267).30分以降の眼圧は,脱直後の眼圧と有意差は認めなかった(Scheffetest).(141)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101001検討②:HCL装用群における眼圧と角膜曲率半径,眼圧と中心角膜厚の相関検討①において,眼圧はHCL脱直後に比べ,脱後10分および脱後20分に有意な低下を認めたことから,HCL脱直後と脱後10分および脱直後と脱後20分の間の眼圧,角膜曲率半径,中心角膜厚それぞれの変化量を算出し,眼圧変化量と角膜曲率半径変化量,眼圧変化量と中心角膜厚変化量の相関について検討を行った.結果,HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に相関は認めなかった(図2a)が,脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量はわずかに有意な相関が認められた(単回帰分析y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(図2b).また,眼圧変化量と中心角膜厚変化量は両時間とも相関は認めなかった(図3a,b).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量に,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3aHCL脱直後と脱後10分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後10分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1615141312111010:0010:0510:1010:2010:3011:00時間n=10眼圧変化量(mmHg)図4くり返し眼圧測定を行ったCL非装用群の眼圧の経時的変化(平均値±標準偏差)CL非装用者に対し,検討①と同様の時間帯で非接触眼圧計による複数回の眼圧測定をくり返したが,眼圧は有意な経時的変化を示さなかった(Scheffetest).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0.000.010.02角膜曲率半径変化量(mm)n=340.030.04図2bHCL脱後と脱後20分:眼圧変化量.角膜曲率半径変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と角膜曲率半径変化量には,わずかに有意な相関が認められた(y=36.044x+0.8496,r=0.356,p=0.0387)(単回帰分析).5.04.03.02.01.00.0眼圧変化量(mmHg)0510中心角膜厚変化量(μm)n=341520図3bHCL脱直後と脱後20分:眼圧変化量.中心角膜厚変化量との相関HCL脱直後と脱後20分での眼圧変化量と中心角膜厚変化量には,有意な相関は認めなかった(単回帰分析).1002あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(142)検討③:CL非装用群における眼圧の経時的変化HCL装用者と同様の方法にて,くり返し眼圧測定を行ったCL非装用者の眼圧値には有意な経時的変化は認められなかった(図4).III考按検討①の結果において,眼圧の経時的変化は,脱直後と比べ脱後10分および20分に有意な低下がみられた.これに対し,検討②:眼圧と角膜曲率半径,眼圧と角膜厚の関連性について,相関が認められたのは,脱直後と脱後20分における眼圧変化量と角膜曲率半径変化量のみであった.このことから,HCL脱後の眼圧下降に対する角膜曲率半径および中心角膜厚の影響は無視できる程度であると考えられた.野々村ら11)は,成熟白色家兎20匹を用いた動物実験において,眼瞼の上から15分間の指の圧迫によるマッサージを施行し,全例に眼圧値の顕著な低下を認めている.これより,今回のHCL脱後の眼圧低下にもマッサージ効果が関与している可能性が推測される.このマッサージ効果を生じる要因の一つとしてくり返しの眼圧測定が考えられる.今回の眼圧測定に用いた非接触眼圧計NT-3000(NIDEK社)は,空気圧平型の眼圧計である.これは空気の噴射によって角膜の一定面積が圧平されるまでの時間から眼圧を求める機械である.噴射される空気圧は微弱であり,本来は眼圧に影響を及ぼすには至らないことが前提となっている.しかしながら,HCL脱直後の測定開始から脱後10分の測定終了までは,短時間の間に何度も測定を行わなければならなかった.1回の空気圧は微弱ではあるが,これがくり返されたことで,前述のようなマッサージ効果が生じた可能性が考えられる.マッサージ効果を生じる他の要因としては,HCL装脱時における,指による眼瞼および眼球への圧迫によるものが考えられる.HCLをはずす場合は指で目尻を押さえ,その指を耳側やや上方へ引っ張り,軽く瞬目してはずす方法や,上下眼瞼を両手人差し指で押さえ,レンズを固定しながら両眼瞼ではじき出す方法が一般的である12).マッサージ効果を生じ得る,これら2つの要因の両者,もしくは一方により眼圧が低下した可能性が考えられるが,検討③の結果から,HCL装用者,CL非装用者の測定方法が同様であるにもかかわらず,CL非装用者の眼圧値に有意な変化を認めなかったことから,HCL脱後の眼圧低下は,眼圧測定時の空気圧によるものではなく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果の影響によるものと判断した.さらに,HCL脱後30分以降には眼圧に有意な低下がみられなかったことから,脱後30分以降にはマッサージ効果が減弱するとともに,眼圧値が緩やかに上昇し,安定したと考える.HCL脱後の角膜曲率半径の変化は,眼圧値に影響を及ぼすには至らない程度であったと述べた.しかしながら,結果から角膜曲率半径は,各測定時間と比較し,HCL脱後24時間のみに有意な低下を認めた.CL装用による角膜曲率の長期的変化については急峻化,不変,扁平化の3通りの報告8,9,13,14)がある.石川ら15)によるとHCL長期装用例において角膜の扁平化を認め,従来いわれているmoldingeffect13,14)によるものであると説明している.またWilsonら10)は,HCLにより角膜が変形した眼では,レンズの装用中止後にTopographicModelingSystem(TMS)所見上で角膜形状が正常に回復するまでには,酸素透過性(RGP)HCLでは平均10週間,PMMA(ポリメチルメタクリレート)HCLでは15週間を要すると報告している.これらのことを踏まえると,今回も同様にHCL装用により角膜が扁平化し,さらにHCLを排除することで,HCLによる圧迫が除外され,本来の角膜形状に回復する過程でHCL脱後24時間に有意な急峻化を認めたと考えられる.また,検討②:眼圧と角膜曲率半径の変化量との関連性を検討した結果では,脱直後と脱後20分のみではあるが,両者の変化量は,わずかに有意な相関が認められた.藤田ら16)は,円錐角膜を有する8名10眼を対象とし,HCL脱後の角膜形状の経時的変化を検討し,HCL脱直後から20分後まで有意な変化がみられたと報告しており,円錐角膜に対するorthokeratology効果の評価は少なくともHCL脱後20分以降に行うべきであるとしている.このことから,HCL脱後の曲率半径が大きな変化を生じる対象には眼圧測定時間を考慮すべきであり,眼圧測定はHCL脱後20分以降に行う必要があると推察される.HCL装用に伴う角膜厚の変化について,短期的にはCL装用が原因して起こる浮腫による角膜厚増大,長期的には慢性的低酸素状態に基づく実質の菲薄化6,9,17)が報告されている.特に長期装用例ではCL脱直後に角膜厚を測定すると,これらの変化が相殺され見かけ上の変化を示さない可能性がある17).今回の角膜厚測定に際し,このような角膜厚の変化が相殺された状態を測定した可能性は否定できず,結果に有意な変化を認めなかった要因となりうると考えられる.前述の濱野ら7)は,同研究においてPMMAレンズ装用眼の角膜厚肥厚率は6.9%であったのに対し,RGPレンズ装用眼では変化を認めなかったとし,HCLの材質による角膜厚への影響の差についても報告している.本検討を行うにあたり,使用するHCLは指定せず対象が常用しているHCLを用い,材質は考慮していない.このことが結果に影響を及ぼした可能性もあり,今後,材質による角膜厚への影響についてもさらなる検討が必要と考える.今回HCLによる角膜形状変化が眼圧値に及ぼす影響について検討を行った.HCL脱後の眼圧は有意な低下を認めたが,角膜曲率半径および中心角膜厚の変化が眼圧値へ及ぼす影響は小さく,HCL装脱時の眼球圧迫によるマッサージ効果が原因であると考えられた.またその効果はHCL脱後20(143)あたらしい眼科Vol.27,No.7,20101003分まで持続し,眼圧測定値が変動しやすく本来の眼圧値より誤差を生じる可能性が示唆された.HCL装用者の眼圧測定において,より安定した値を得るためには脱後30分以降に測定することが望ましいと考えられた.文献1)MarkHH:Cornealcurvatureinapplanationtonomertry.AmJOphthalmol76:223-224,19732)松本拓也,牧野弘之,新井麻美子ほか:開放隅角緑内障と高眼圧症眼の角膜形状が眼圧測定に及ぼす影響.臨眼52:177-182,19983)EhlersN,BramsenT,SperlingS:Aplanationtonometryandcentralcornealthickness.ActaOphthalmol53:34-43,19754)SuzukiS,SuzukiY,IwaseAetal:CornealthicknessinanophthalmologicallynormalJapanesepopulation.Ophthalmology112:1327-1336,20055)MichaelJD,MohammedLZ:Humancornealthicknessanditsimpactofintraocularpressuremeasures:Areviewandmeta-analysisapproach.SurvOphthalmol44:367-408,20006)LiesegangTJ:Physiologicchangesofthecorneawithcontactlenswear.CLAOJ28:12-27,20027)濱野光,前田直之,濱野保ほか:TMSデータを利用した角膜形状変化の解析─ハード系コンタクトレンズ装用による影響─.日コレ誌34:204-210,19928)LevensonDS:ChangeincornealcurvaturewithlongtermPMMAcontactlenswear.CLAOJ9:121-125,19839)LiuZ,PflugfelderSC:Theeffectoflong-termcontactlenswearoncornealthickness,curvature,andsurfaceregularity.Ophthalmology107:105-111,200010)WilsonSE,LinDT,KlyceSDetal:Topographicchangesincontactlens-inducedcornealwarpage.Ophthalmology97:734-744,199011)野々村正博:眼球マッサージの毛様体におよばす影響.日眼会誌89:214-224,198512)植田喜一:コンタクトレンズの装脱.眼科診療プラクティス94:88-91,200313)Ruiz-MontenegroJ,MafraCH,WilsonSEetal:Cornealtopographicalterationsinnormalcontactlenswearers.Ophthalmology100:128-134,199314)SanatyM,TemelA:Cornealcurvaturechangesinsoftandrigidgaspermeablecontactlenswearersaftertwoyearsoflenswear.CLAOJ22:186-188,199615)石川明,片倉桂,高橋里美ほか:コンタクトレンズ装用者におけるORBSCANIIによる角膜経常の検討.日コレ誌47:124-133,200516)藤田博紀,佐野研二,北澤世志博ほか:HCL除去後1時間までの円錐角膜の形状変化.あたらしい眼科15:1299-1302,199817)HoldenBA,SweeneyDF,VannasAetal:Effectsoflong-termextendedcontactlenswearonthehumancornea.InvestOphthalmolVisSci26:1489-1501,1985***

ゲームを用いた弱視訓練機,立体視検査装置の開発

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(133)993《原著》あたらしい眼科27(7):993.998,2010c〔別刷請求先〕大澤結:〒565-0871吹田市山田丘2-15大阪大学医学部付属病院眼科Reprintrequests:YuiOsawa,DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita,Osaka565-0871,JAPANゲームを用いた弱視訓練機,立体視検査装置の開発大澤結*1阿曽沼早苗*1金山素子*2鶴留康弘*3藤木かおり*4下條裕史*1永谷広行*5不二門尚*6*1大阪大学医学部感覚器外科学眼科*2財団法人日本生命済生会付属日生病院眼科*3医療法人明和病院眼科*4大阪府立急性期・総合医療センター眼科*5(株)東芝*6大阪大学医学部感覚機能形成学教室PleopticsEquipmentandStericStereosopicVisionExaminationEquipmentTrainingDevicesWhichHaveConceptsofGameUsingaPersonalComputer(PC)YuiOsawa1),SanaeAsonuma1),MotokoKanayama2),YasuhiroTsurudome3),KaoriFujiki4),HiroshiShimojyou1),HiroyukiNagatani5)andTakashiFujikado6)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NisseiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,MeiwaHospital,4)DepartmentofOphthalmology,OsakaGeneralMedicalCenter,5)ToshibaCorporation,6)AppliedVisualScience,OsakaUniversityMedicalSchool目的:今回筆者らは,パーソナルコンピュータ(PC)を用いてゲームの要素を取り入れた訓練,検査装置を開発したので報告する.方法:正常者10名(男性5名,女性5名),年齢は23.30歳(平均年齢25.7±2.6歳)を対象に,2Dおよび3Dの表示装置(東芝試作機)に視標の大きさ,および視差を可変表示して,カードゲームの神経衰弱類似のゲームを行わせた.検討1:被検者の非優位眼の視力を遮閉膜(Ryser社)を用いて(0.1)(0.2)(0.3)(0.4)に低下させ単眼視下で,2Dのレベル1.9(視標サイズ:直径2.0.2cm)の検査を行い,全員がpassできた最高のレベル(最小の視標サイズ;LVmax)と視力,視力とpassthestagetimeについてを検討した.検討2:検討1と同様に非優位眼の視力を低下させた両眼開放下と単眼視下で,3Dでレベル1(単眼視視標),2.8(900.150″)の検査を行い,全員がpassできた最高のレベル(最小の視差;LSmax)と視力,視力とpassthestagetimeについて検討した.結果:検討1で,LVmaxは,視力低下に応じて低下した.また,視力が下がるごとに,passthestagetimeは延長した.検討2で,LSmaxは視力低下に応じてレベル2.4に低下した.単眼視ではLSmaxはレベル1であった.Purpose:Westudiedtheefficacyofnewlydevelopedtrainingdeviceswhichhaveconceptsofgameusingapersonalcomputer(PC).Method:Weexamined10normalvolunteers(5males,5females;agerange23.30years;averageage25.7±2.6years),using2Dor3Dtargetsofvariablesizeorparallax,displayedonscreen.Subjectswereinstructedtoagamesimilartothenervousbreakdown.Examination1:Wedecreasedthevisionofthesubjects’non-dominanteyeswithaocclusion(Rysercompany)to0.1,0.2,0.3and0.4andexaminedlevel1-9of2D(targetsizevariedfrom2to0.2cmindiameter)underconditionofmonocularvision,andinvestigatedtherelationofthelevelatwhichallmemberscanpass(smallestparallax;LVmax)andvisualacuity,andtherelationshipbetweenvisualacuityandpassthestagetime.Examination2:AsinExamination1,wedecreasedthevisualacuityofthenon-dominanteyesandexaminedunderconditionofmonocularvisionandlevel2-8(900-150.)in3D,andinvestigatedtherelationshipbetweenthelevelatwhichallmemberscanclear(smallestparallax;LSmax)andthevisualacuity,betweenvisualacuityandpassthestagetime.Results:Examination1showedthatLVmaxdecreasedwiththedecreaseinvisualacuity.Inaddition,passthestagetimeshowedinrelationtothedecreaseinvisualacuity.Examination2showedthatLSmaxdeterioratedtolevel2-4dependingonthedecreaseinvisualacuity.Undermonocularcondition,LSmaxwaslevel1.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):993.998,2010〕Keywords:弱視訓練装置,3Dディスプレイ,立体視検査.pleopticsequipments,3Ddisplay,stericstereoscopicvisionexamination.994あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(134)はじめに弱視治療には,眼鏡,健眼遮閉,ペナリゼーションなど1.7)が行われており,家庭での弱視訓練は,迷路やぬり絵などの紙を使った遊びやビーズ通しなどの手作業などが主流である.しかし,訓練が長期にわたったり,年齢が高い場合,これらの従来の課題に飽きてしまい訓練が持続しない症例も少なくない.このように訓練を継続できない理由の一つとして,課題が弱視患児の視力に見合っていない可能性も考えられる.一方,NintendoDSのようなコンピュータゲームを訓練機器として指示する場合もあるが,コンピュータゲームも患者の視力に応じたものにはなっていない.また,外来受診時の近見立体視検査の主流はチトマスステレオテスト(TitmusStereoTests:以下TST)のCircletestやLangstereotest,TNOstereotestなどであるが,同じ検査をくり返し施行していると興味が低下してしまう症例も経験する.現代では,幼小児や児童のいる家庭におけるパソコンの所有率は高く,弱視訓練や立体視検査の対象となる子どもにとってもパソコンは身近で馴染み深い機器である.今回筆者らは,パソコンを使用するゲームの要素を取り入れた弱視訓練,立体視検査装置を開発し試用したので報告する.I対象および方法1.対象対象は,矯正視力が(1.5)で顕性の眼位ずれがなく,TSTにて40秒の立体視機能が認められた正常者10名(男性5名,女性5名)で,年齢は23歳.30歳(平均年齢25.7±2.6歳)であった.2.器機の仕様弱視訓練用の装置(以下2D装置:東芝試作機)(図1)は,ディスプレイのサイズが縦27.0cm×横37.0cmの平置き型ディスプレイ(以下,2Dディスプレイ)であり,解像度はXGA(1,024×768)で,標準的な使用距離は65cmである.この装置を用いて,カードゲームの神経衰弱様のゲームを行わせる.画面上に提示された多数の視標のなかから同じ絵柄のペア視標をマウスで一つずつクリックしていく.正解すれば視標は消えて,最終的に画面上の視標がなくなれば終了(passthestage)となる.レベル1(易しい)からレベル9(難しい)までの9段階のレベルが用意されており,レベル1では20mm径サイズのペア視標が5組提示され,レベルが上がるほど視標サイズは小さく組数は増加する(図2).ゲームを「pass」すると,passthestageに要した時間「passthestagetime」と「ランク」が表示される設定となっている.「ランク」はA.Eまである.立体視検査用の装置(以下,3D装置:東芝試作機)(図1)は,ディスプレイのサイズが縦27.0cm×横37.0cm(15インチ),解像度はWideUXGA(1,920×1,200)の平置き型ディスプレイ(以下,3Dディスプレイ)であり,インテグ2D装置3D装置図1装置の写真レベルペア数視標の大きさ1520mm2815mm31012mm4129mm5147mm6165mm7184mm8183mm9182mm低高難易度図22Dのレベル設定レベルが高くなるとペア数は増え視標は小さくなり,難易度が上がる.(135)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010995ラルイメージング方式(II式)(図3)が用いられている.従来の2眼式ディスプレイは,左右画を1枚ずつ計2枚作成して再生しているためはっきり見える位置(ビューポイント)が存在するが,II式立体ディスプレイは,縦と横に4枚ずつ,計16枚の画を使用して再生しているのでビューポイントはなくはっきり見える範囲(視域)が広い.実際の物体からの反射光線と同様の光線を16枚画でそれぞれに再現をしており,16枚の画がある範囲(視角30度)であれば顔の位置がどこにあっても立体感を得やすい構造となっている.3D装置のゲームも2D装置同様の神経衰弱様であり,同じ絵柄のペアの視標をクリックにより消していく.レベル1(易しい)からレベル8(難しい)までの8段階のレベルがある.レベル1は視標自体が2Dであり単眼視でもpassできるが,以降のレベルでは視標に視差がついている.レベル2では,大きくて(視角2.5度)視差の大きい(900″)2つでワンペアの4種類の絵柄の視標が2組ずつ提示され,レベルが上がるに従い視標サイズも視差も小さくなる(図4).同じ絵柄であっても視差が一致しなければ正解とはならない.両装置とも,絵柄の種類や組数,絵柄の大きさ,視差量などは,すべてプログラムで設定ができ,訓練レベルに応じて任意に設定値の変更が可能である.3.方法検討1:対象者の優位眼を遮閉し非優位眼の視力を遮閉膜(Ryser社製)にて(0.1)(0.2)(0.3)(0.4)に低下させ,それぞれの視力のときに,単眼視下で2D装置のゲームをレベル1から順次施行した.検討2:対象者の非優位眼の視力を同上の遮閉膜を用いて(0.1)(0.2)(0.3)(0.4)に低下させたときの両眼視下と,優位眼のみの単眼視下で3D装置のゲームをレベル1から順次施行した.両検討とも完全矯正下で行い,被検者が視標が判別できないと答えた場合はリタイヤとし,各レベルにおける視力とpassした人数,視力とpassthestagetimeの関係について比較検討を行った.検討2では3D装置での結果とTSTのCircletestの結果との比較も行った.II結果検討1視力とpassした人数についての関係をグラフに示す(図5).各視力における,全員がpass可能な最高レベル(最小の視標サイズ:LVmax)は,視力が1.5ではレベル8,0.4ではレベル6,0.3ではレベル6,0.2でレベル3,0.1でレベル2と,視力が下がるに従いLVmaxは低下し,どの視力においてもレベルの難易度が高くなるほどpassした人数は減少していた.視力とpassthestagetimeについての関係を図6に示す.視力が下がるにつれ,またレベルが上がるにつれてpassthestagetimeは延長した.検討2視力とpassした人数についての関係をグラフに示す(図7).各視力における,全員がpass可能な最高レベル(最小の視差:LSmax)は,片眼視力が1.5のときはレベル6,0.4表示オブジェクト視域3Dディスプレイ視点II方式2眼式図3II方式と多眼(2眼)式の違い2眼式ディスプレイは,左右画を1枚ずつ計2枚作成して再生しているためビューポイントが存在するが,II方式立体ディスプレイは,縦と横に4枚ずつ,計16枚の画を使用して再生しているのでビューポイントはない.実際の物体からの反射光線と同様の光線を16枚画でそれぞれに再現をしており,16枚の画がある範囲(視角30度)であれば顔の位置がどこにあっても立体感を得やすい構造となっている.〔(株)東芝よりスライドご提供〕レベルペア数視角15種24種2ペア34種3ペア44種3ペア54種3ペア63種4ペア73種4ペア82.8度2.5度2.3度2.3度2.3度2.0度2.0度2種4ペア1.8度2種3ペア低高難易度視差900″600″450″300″300″150″150″図43Dのレベル設定レベル1は視差がない視標であり,単眼でもできるように設定してある.レベルが高くなるにつれて視標サイズ・視差は小さくなり,難易度が上がる.996あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(136)ではレベル4,0.3ではレベル3,0.2ではレベル2,0.1でレベル2,単眼視でレベル1と,視力が下がるにつれてLSmaxは低下し,すべての視力において難易度が高いレベルほどpassした人数は減少していた.また,片眼視力が0.2以下と単眼視では,有意な差は認められなかった.視力とpassthestagetimeについての関係を図8に示す.片眼の視力が低下するに従い,また,レベルが上がるに従ってpassthestagetimeは延長する傾向がみられた.TSTと3D装置の比較は,片眼視力が0.4と0.3の場合について行った.両者の視差量が近似する視標である,TSTのCircletestの400秒と3D装置の450秒(レベル4),circlesの140秒と3D装置の150秒(レベル7)でのpassした人数の比較を行った.結果を図9に示す.視力が0.4のときは,視差が約150秒ではTSTのほうが正答率が高かった.視力が0.3のときは,視差が約400秒では3Dのほうが正答率が高く,視差が約150秒ではTSTのほうが正答率が高くなったが,有意差はなかった(n.s.:FisherExacttest).III考按従来の弱視訓練には迷路遊びやぬり絵などの比較的低視力でも対応できる課題や,ビーズ通しなどの比較的高い視力や,両眼視なしではむずかしい課題がある.これらは視力や両眼視機能を考慮した適切な課題の選択がむずかしく,視力に見合わない不適切な課題を与えてしまうこともあり,それが子どもの興味が続かない理由になっている可能性もある.最近では,ゲーム機やパソコンが家庭にも普及しており,子どもたちにも興味深い機器であることは疑いようがない.今回,筆者らはこれらの機器を利用した新しい弱視訓練装置と立体視検査装置の開発を試みた.この装置は,2D,3Dともにマウス操作のため,5.6歳程度から可能で,精神発達障害などのメンタル面での問題がある小児では,5.6歳であってもむずかしいと考える.今後,タッチパネル式など低年齢からでも行えるように改良が必要であると思われる.視標はカラー表示され子どもが興味をもちそうな絵柄を使用しており,ゲーム感覚で行えるインタラクティブ性をもたせて109876543210123456789人数(人)レベルLVmax866321.50.40.3視力0.20.1図52D装置:視力とpassした人数視力が下がるごとにLVmaxは低下し,特に難易度が高いレベルほどその傾向がみられた.10987654321012345678人数(人)LSmax64321レベル1.50.40.3視力0.20.1単眼視2図73D:視力とpassした人数についてのグラフ右端に単眼視での結果を示す.視力が下がるごとにLSmaxは低下し,特に難易度が高いレベルほどその傾向がみられた.160140120100806040200時間(秒)123456789レベル1.50.40.3視力0.20.1図62D装置:視力とpassthestagetime視力が下がるごとに,passthestagetimeは延長し,ゲーム終了に要する時間は,0.1になると,著明な延長がみられた.9080706050403020100時間(秒)12345678レベル1.50.40.3視力0.20.1単眼視図83D装置:視力とpassthestagetimeゲーム終了に要する時間は,片眼の視力が低下するとpassthestagetimeは延長した.(137)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010997いる.カラー視標について,今回の機器では,2D,3Dともに同ペアでは,絵柄や色は同じのため,コントラスト,輝度は一定であるが,異なるペア同士では絵柄や色は違うため,コントラスト,輝度は異なり,同じ視差でもpassできる絵柄とできない絵柄が出てくる可能性は考えられる.今回は絵柄や色の違いにより,できるペアとできないペアが出てくることはなかったが,今後,検討が必要であると思われる.しかし,色を変えることで立体視をできやすくし,達成感を得やすくすることも必要だと考えている.弱視訓練用の2D装置については,passthestagetimeとランクが表示されるため,迷路遊びなどの紙で行う課題と比較すると,2D装置のほうが達成感は沸きやすく,くり返し挑戦する意欲も起こりやすいと考えられる.やり直しなども容易にできるため,エコロジカルでありコスト面でも負担が少なくてすむ.今回の検討は,条件の項で述べた設定で行ったが,絵柄の種類や組数,絵柄の大きさ,視差量などはすべてコンフィング・ファイル形式で設定が可能であり,弱視の程度や興味によって任意に選択できる.今回の設定での結果によると,視力が0.3.0.4の場合,全員がpass可能な最高レベル(LVmax)はレベル6であることから,レベル6までは視力に見合ったレベルであり,それ以上のレベル7.9はこの視力ではむずかしいレベルであると評価できる.同様に,視力が0.2の場合のLVmaxはレベル3,視力が0.1の場合のLVmaxはレベル2までが適切なレベルであると考えられる.また,passthestagetimeの結果を目安にして訓練レベルが適切かどうかを評価することもできると考える.視力が0.4の場合,レベル6の平均passthestagetimeは44.3秒であり,視力が0.3だとレベル6の平均のpassthestagetimeは49.2秒であった.レベル6のpassthestagetimeがそれ以上かかるようであれば,訓練レベルを一段階落とすことが適切と評価すればよい.今回は,0.1の視力までしかシミュレーションを行っていないため,今後,どの程度の視力までこの装置で対応が可能であるか検討を行う予定である.また,passthestagetimeの向上を弱視訓練の視標とすることに対しては,本検査が運動系のskillも反映する可能性があることも併せて検討する必要がある.しかしながら,日常生活は目で見て行動するというEye-Handcoordinationが必須であり,その意味でpassthetimeは実用的な視力の指標といえる可能性がある.両眼視機能検査装置として,立体ゲーム機を応用した両眼視機能検査8)や動的立体視検査装置9),SANYO社製液晶型立体表示装置10),小型液晶ディスプレイを用いた立体視検査装置11)が過去に開発され,一部は商品化されている.今回の3D装置の特徴は,ディスプレイにインテグラルイメージング方式(II式)を採用しているためビューポイント視力0.41086420人数(人)10663412800000000TST(400)3D(450)視力0.31086420人数(人)TST(400)3D(450)視力0.41086420人数(人)TST(140)3D(150)視力0.31086420人数(人)TST(140)3D(150)図9TitmusStereoTest(TST)と3Dの比較片眼視力を0.4と0.3にした場合の比較.左側は視差が約400秒,右側は視差が約150秒の場合の結果.視差400秒の場合,TSTと3Dの正答者数に差はなく,視差150秒の場合は,TSTはできるが,3Dができない人数のほうが多い傾向がみられたが,有意性はなかった.998あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(138)がなく,視角30度の範囲であれば顔の位置がどこにあっても立体感が得やすくなっているという構造上の特徴と,ゲーム性をもたせ視力に応じた検査が可能である点である.ゲーム性があることは子供の興味を引き出しやすい.3D装置について,全員がpass可能な最高レベルであるLSmaxと視力について検討した結果,片眼視力の低下とともにLSmaxが低下した.過去の報告では,片眼の視力低下の場合,視力が0.3になると立体視機能は低下し,視力0.2では立体視のないものがほとんどであった12.14)と報告されており,今回の筆者らの結果と一致した.先の報告で用いられた立体視検査はTSTやLangであり,今回の3D装置はこれらと同等の立体視検出能力をもつものと考えられた.ところが,TSTと3D装置の比較をした結果,有意差はなかったが,視差が小さくなると3DよりもTSTのほうが正答率が高い傾向となったのは,以下の理由が考えられた.同じ絵柄のペア視標をディスプレイ上に見つけるためには,眼球運動や,周辺視野の機能も必要である.この点でTSTより難易度が高いと思われた.今回は,3D検査装置として本3D装置を位置付けているが,passthetimeの向上を目指すトレーニングを行うことも可能である.その場合の目標は,(1)弱視がある場合,両眼視時のEye-Handcoordinationも含めた日常両眼視を向上させる,(2)動物実験レベルで臨界期を過ぎても訓練により視差による立体視が向上するという報告があり(ChinoY,私信),立体視の臨界期を過ぎた小児においても立体視の向上を希求する.この2点が考えられるが,これらの点についてはさらなる検討が必要である.2D装置,3D装置を数名の子どもに実際に見せたところ,マウス操作などに問題はなく,興味深く施行し,おもしろかったとの感想を得た.今後は,多数の子どもに施行して検討を続けていく予定である.文献1)BholaR,KeechRV,KutschkePetal:Recurrenceofamblyopiaafterocclusiontherapy.Ophthalmology113:2097-2100,20062)佐藤美保:最近のトピックス「弱視治療」.視覚の科学29:36-39,20083)StewartCE,StephensDA,FielderARetal:Modelingdose-responseinamblyopia:Towardachild-specifictreatmentplan.InvestOphthalmolVisSci48:2589-2594,20074)AwanM,ProudlockFA,GottlobI:Arandomizedcontrolledtrialofunilateralstrabismicandmixedamblyopiausingocclusiondosemonitorstorecordcompliance.InvestOphthalmolVisSci46:1435-1439,20055)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGrop:Arandomizedtrialofatropinevs.patchingfortreatmentofmoderateamblyopiainchildren.ArchOphthalmol120:268-278,20026)RepkaMX,WallaceDK,BeckRWetal:Two-yearfollow-upofa6monthrandomizedtrialofatropinevs.patchingfortreatmentofmoderateamblyopiainchildren.ArchOphthalmol123:149-157,20057)KampfU,ShamshinovaA,KaschtschenkoTetal:Longtermapplicationofcomputer-basedpleopticsinhometherapy:selectedresultsofaprospectivemulticenterstudy.Strabismus16:149-158,20088)三村治,粟本拓治,可児一孝ほか:立体ゲーム機を応用した両眼視機能検査.眼臨94:5,69-71,20009)細畠淳,數尾久美子,初川嘉一ほか:DYNAMICRANDOMDOTSTEREOGRAMによる立体視検査の試み.臨眼98:1569-1572,199510)阿曽沼早苗,松田育子,竹中伊津美ほか:新しい立体視検査装置の開発.眼臨90:1534-1538,199611)半田知也,石川均,魚里博ほか:小型液晶ディスプレイを用いた立体視検査装置の開発.臨眼61:389-392,200712)平井陽子,粟屋忍:視力と立体視の研究.眼紀36:1524-1531,198513)中塚敬之,阿曽沼早苗,松田育子ほか:弱視患者における静的立体視と動的立体視.視能訓練士協会誌26:201-206,199814)矢ヶ.悌司:立体視検査法の問題点.神眼23:416-427,2006***

不同視弱視症例における視力と立体視の関係

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(127)987《原著》あたらしい眼科27(7):987.992,2010cはじめに弱視治療,特に不同視弱治療の目標は,眼鏡装用による弱視眼の視力向上と良好な両眼視機能の獲得である.不同視弱視の治療においては,眼鏡装用のみで視力が改善しない場合には,弱視眼視力の改善のため健眼遮閉を行うことが行われている.しかし遮閉を行うことにより両眼視機能に関してはその発達の妨げになるので,これが治療におけるジレンマとなっている.言うまでもなく弱視治療においては早期発見,早期治療が望ましく,治療開始時期が早いほど治療効果が高いことはすでに報告されている1.6).不同視弱視,特に遠視〔別刷請求先〕勝海修:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西井上眼科病院Reprintrequests:OsamuKatsumi,M.D.,NishikasaiInouyeEyeClinic,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN不同視弱視症例における視力と立体視の関係須藤真矢*1渡邉香央里*1小林薫*2勝海修*2宮永嘉隆*1*1西葛西井上眼科病院*2西葛西井上眼科こどもクリニックRelationbetweenVisualAcuityandStereopsisinPatientswithHyperopicAnisometropicAmblyopiaMayaSudo1),KaoriWatanabe1),KaoruKobayashi2),OsamuKatsumi2)andYoshitakaMiyanaga1)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)NishikasaiInouyePediatricEyeClinic目的:遠視性不同視弱視症例において,健眼と弱視眼の視力の関係と立体視との相関について分析する.対象および方法:対象は西葛西井上眼科こどもクリニックを受診し,遠視性不同視弱視の診断のもとに通院,加療中の20名(男児8名,女児12名)であり,治療開始年齢は3歳.14歳3カ月(平均値61.6カ月),不同視の程度は平均4.29Dであった.治療方法は,屈折矯正眼鏡装用後,弱視眼の視力向上状態に応じ健眼遮閉を行った.その過程で定期的に立体視検査を行った結果から視力との相関関係を分析した.また経過観察中に不等像視の測定を眼鏡装用下で行い,立体視との関係についても分析を試みた.結果:弱視治療後に弱視眼の視力は全例1.2に到達し,そのうち13例(65%)が視力の改善後に40.60sec.arcの高度な立体視を獲得した.立体視を獲得するまでの期間は平均7.5カ月であった.健眼と弱視眼の視力差が2段階以内の場合に60sec.arc以上の立体視を獲得できた.結論:今回の分析結果より遠視性不同視弱視症例の治療過程では,弱視眼の視力改善後に,ある期間が経過してから,高度な立体視が確立される傾向があると考えられた.それ故,経過観察中に定期的に立体視検査を行うことの重要性が改めて再確認された.良好な立体視を獲得するためには,弱視眼と健眼の視力差を2段階以内にすることが重要ではないかと考えた.Purpose:Toanalyzethecorrelationbetweenbest-correctedvisualacuityandstereopsisinhyperopicanisometropicamblyopia.SubjectsandMethods:Subjectswere20children(8boys,12girls)withhyperopicanisometropiaamblyopia.Agesofinitialvisiontherapyrangedfrom3yearsoldtomorethan14yearsold(mean:61.6months).Meananisometropiawas4.29D.Spectacleswereprescribedbeforeandafterobservingtheimprovementofvisionintheamblyopiceye,occlusiontherapywasadded.StereopsiswasmeasuredwithTitmusStereoTestsandaniseikoniawasmeasuredwithKatsumi’smethod.Result:Theamblyopiceyereachedtheacuityof1.2inallcaseandin65%,gainedgoodstereopsisof60sec.orhigher,whichoccurredwithanaverageof7.5monthsafter.Goodstereopsiswasobtainedwhentheintraoculardifferenceofvisualacuitywastwolinesorless.Conclusion:Inpatientswithhyperopicanisometropicamblyopia,stereopsisdevelopsafteramblyopiaistreated.Goodstereopsiswillbeobtainedwhentheacuitydifferenceisequaltoorlessthan2lines.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):987.992,2010〕Keywords:不等像視,不同視,不同視弱視,立体視.aniseikonia,anisometropicamblyopia,hyperopia,stereopsis.988あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(128)性不同視弱視の治療においては,弱視眼の視力改善のみならず両眼視機能の獲得が重要であり,治療面においても両者のバランスを取ることが重要である.不同視弱視の症例はまず屈折麻痺下における他覚的屈折検査(主として検影法)の値を参考にして完全矯正眼鏡を装用し,短期間(通常2.3カ月)経過をみるのが一般的な治療開始法と思われる.今回は分析の対象となっていないが,完全矯正眼鏡を装用するだけで視力の改善をみる症例がかなり多くみられる.遮閉法は弱視眼の視力改善の程度が停止あるいは低下した時点で遮閉を開始するのが効果的と考えられる.弱視治療中は弱視眼の視力に検者の注意が集中し,立体視機能については,後回しになる場合が多い.今回筆者らはこのような弱視例において,健眼と弱視眼の視力差がどの程度であれば立体視が出はじめ,弱視眼の視力が1.0.1.2のレベルに到達した後,どれくらいの期間で良好な立体視が得られるかという2つの点について分析することを目的とした.また,今回は全例に不等像視測定も行い,その結果についても併記した.I対象および方法対象は,西葛西井上眼科こどもクリニックを受診した遠視性不同視弱視20名(男児8名,女児12名)である.図1は治療開始時の月齢を示したもので,3.14歳3カ月(月齢:36.171カ月,平均値±標準偏差:61.6±32.4カ月)である.今回の分析の対象となった20症例における眼位の内訳は外斜位13名,正位5名,内斜位1名,間欠性外斜視1名で,除外例としては顕性斜視を認めるもの,中間透光体および網膜に異常所見のある症例,以前にすでに弱視治療を他施設で行った症例である.また微小角斜視が疑われるものも除外した.これらの20症例における光学的矯正はすべて眼鏡により行われ,コンタクトレンズによる矯正を施された症例は含まれていない.西葛西井上眼科こどもクリニックにおける遠視性不同視弱視症例の治療方針は大体以下のごとくである.まず屈折麻痺下の他覚的屈折検査を基に完全矯正値の屈折矯正眼鏡を処方する.眼鏡の装用が可能となったうえで,眼鏡常用のみで弱視眼視力の改善状態を観察する.視力改善が不良な患児に対し遮閉法による1日1.2時間の健眼遮閉を家庭で行うよう指示する.その後,1.2カ月ごとの定期的視力検査を行い,眼鏡装用のみで視力の向上が良好な患児については,遮閉訓練を行わず3カ月程度の定期受診とした.受診時は全症例において視力検査,眼位検査,眼球運動検査,瞳孔反応検査などを含む眼科的諸検査を行い,また,定期的に立体視検査を行った.立体視検査にはTitmusStereoTests(StereoopticalCo.,USA)を使用した.そのなかのCircleの値をデータとして採用し,Circle5(100sec.arc)以上を「良好」な立体視,Circle7(60sec.arc)以上を「高度」な立体視とした.さらに今回は全症例について,両眼間の知覚網膜像の大きさの差である不等像視を測定し,立体視との関係を調べた.不等像視の検査には,粟屋らによるNewAniseikoniaTests(NAT)の考えをもとに勝海らが開発した測定機器を用いた7).不等像視測定方法は両眼視を赤-緑フィルターにより分離して,測定するいわゆる直接法である7,8).視力の検定は得られた視力を最小分離角に変換し,さらにlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)として検討した.立体視の計算は視力と同様に立体視の値の逆数を常用対数として,統計計算を行った.立体視検査においてCircle1(800sec.arc)が認識できなかった場合には,便宜上1,000sec.arcとしてグラフ上に表記したが,立体視の統計計算のときにはこれは除外した.今回のデータの分析については,立体視値の経過観察中の変化についてはANOVAone-way法を使用し,F検定で有意であったときに,ScheffeのPostHoc検定を行い,p<0.05の場合に統計学的に有意とした.視力差と立体視,視力差と不等像視の検定についてはChi-square検定法(Yatesの補正を含んだ)を使用し,同じくp<0.05の場合に統計学的に有意とした.視力,立体視,そして不等像視測定の前には,両親にこれらの検査法について十分に説明し,了解を得てから行った.II結果図2は初診時における健眼および弱視眼の矯正視力を示すものである.健眼の視力は0.7.1.2(平均1.0,logMAR=0)であり,弱視眼のそれは0.1.0.7(平均0.25,logMAR=0.405)であった.健眼および弱視眼の矯正視力の差は4段階(視力1.2と0.7,logMARにて0.23の差).9段階(視力1.0と0.1,logMARにて1.00の差),(平均値±標準偏差:6.80±1.82段階)に分布していた.121086420症例数n=2036~4748~5960~7172~8384~9596~107108以上治療開始年齢(月)図1治療開始時の月齢分布縦軸は症例を数示したもので,横軸は治療開始時の月齢を示す.(129)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010989図3は初診時または数日後に行った調節麻痺下の他覚的屈折検査による健眼と弱視眼の屈折度,および不同視の程度(健眼と弱視眼の屈折度数の差)を示すものである.健眼の屈折値は等価球面度数(sphericalequivalence:SE)にて.0.75.+3.75Dに分布し,平均値±標準偏差値は1.45±1.21Dであった.一方の弱視眼の屈折値は等価球面度数にて+1.13.+7.88Dに分布し,平均値±標準偏差値は5.45±1.21Dであった.そして不同視の程度は2.13.7.00Dであり,平均値は4.29±1.73Dであった.図4は治療初期における立体視を示す.立体視はCircle8(50sec.arc)の症例から(1例),立体視が検出できない(Circle1が識別できない)症例まで認められた(4例).治療初期における立体視の平均値および中央値はそれぞれ239sec.arcと170sec.arcであった.図5は今回の分析対象の20症例における,立体視の向上していく推移を示したものである.弱視眼の視力は全症例が1.2に到達し,そのうち13例(65%)が,視力の向上後にCircle7(60sec.arc)以上の立体視を獲得した.獲得するまでの期間の平均値は7.46±4.86カ月であった.弱視眼の視力が1.2に到達した時点における立体視の平均値(および中央値)はそれぞれ96.5sec.arc(74.6sec.arc)であり,約6カ月後における立体視の平均値(および中央値)はそれぞれ72.8sec.arc(59.2sec.arc)であった.視力改善後約1年後においては平均値(および中央値)は55.7sec.arc(70.2sec.arc)と,立体視値が改善する傾向が認められたが,しかしながらこの立体視値の改善は統計的に有意ではなかった(ANOVAonewaytest,Ftest=1.699,p=0.125).図6に示した20症例において,経過観察中に立体視を測定して,健眼と弱視眼の視力の差と立体視との関連を示している.この図では視力の差を段階で示しているが,視力測定には通常の視標が代数学的配列の視力表を使用しているために,視力1段階の差は0.047.0.079logunitと若干異なる.健眼と弱視眼との視力差から分析すると,視力差が2段階以0.20-0.2-0.4-0.6-0.8-1.0-1.2視力値(logMAR)1234567891011121314151617181920症例番号○:健眼●:患眼n=20図2治療開始前の矯正視力縦軸は視力を小数点表示したもので,横軸は症例を示す.視力を識別しやすくするために,視力の表記は小数点表記とした.2019181716151413121110987654321症例番号-50+5+10+15屈折度(D)(不同視=□+■)不同視=■-□()□:健眼■:患眼n=20図3不同視の程度の分布横軸は不同視の程度を示したもので,単位はdiopterである.縦軸は各症例を示し,それぞれの近視眼そして遠視眼屈折を示す.棒に長さが不同視の程度を示す.その症例番号は図1と一致する.543210症例数40506080100140200400800>800立体視(sec.arc,TST)図4治療開始前の立体視縦軸は症例数を,横軸は立体視値を示す.立体視値はTitmusStereoTest(TST)のCircleの値とそれに対応する実際値(sec.arc)を示す.96.572.855.71,0001001006経過期間(月)立体視(秒)12図5弱視眼の視力正常化した後の立体視の推移縦軸は立体視の値を対数表記したものであり,横軸は弱視眼視力正常化後の経過観察期間(単位:月)を示している.990あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(130)下ではCircle7(60sec.arc)以上の高度な立体視を示した症例が5症例であったのに対し,立体視がCircle6(80sec.arc)以下であったものは6症例であった.一方,視力差が3段階以上の場合には高度な立体視を示した症例はなく,9症例全例がCircle6(80sec.arc)以下であった.今回症例数は少ないが,図5から少なくとも,健眼と弱視眼の視力の差が2段階以内の場合には良好な立体視を得ることが可能であると考えられた(TotalChisquarevalue=5.455,p=0.020).図7は経過観察中に不等像視を測定し,立体視との関係を示したものであるが,ほとんどの症例で眼鏡による矯正後の不等像視は0.3%の範囲であり(平均値±標準偏差:0.90±0.87%),3%を超えるものは認められなかった.不等像視が2%以内の症例は16症例(80%)であり,そのうちCircle7(60sec.arc)以上の立体視を示したのは12症例(60%)であった.一方,不等像視が2%以上のものは4症例認められたが,そのうち3症例がCircle7(60sec.arc)以上の高い立体視を示した.不等像視と立体視の間には統計学的な有意な関連性は認められなかった(TotalChisquarevalue=0.159,p=0.69).図8は当クリニックで経過を観察できた1例の視力,および立体視を経時的に示したものである.〔症例〕6歳1カ月,男児.現病歴:3歳児検診で右眼の視力不良が発見され精査目的で受診となった.家族歴・既往歴:特記すべきことなし.初診時の屈折検査にて右眼の視力不良と不同視が疑われたため,数日後に調節麻痺屈折検査を施行した.その結果,屈折値は等価球面度数にて右眼+5.0D,左眼+1.75Dで,右眼の遠視性不同視弱視と診断された.ただちに矯正眼鏡を処方し,常用を指示した.しかしながらつぎの来院時の視力検査で右眼の矯正視力が0.4と不良であったため,1日1.2時間の健眼遮閉を開始した.図5に示すとおり,治療開始直後から弱視眼の視力が急速に向上し,その後は徐々に推移して治療開始から約11カ月で矯正視力1.2に到達した.立体視検査は約6カ月ごとに行い,治療初期はCircle1(800sec.98765立体視機能(Circle,TST)不等像視(%)4321040506080100140200400800>80000.51.01.52.02.53.04.0図7不等像視と立体視との相関縦軸は勝海法にて測定した不等像視(%)を表し,横軸は立体視[TitmusCircleの値とそれに対応する実際値(sec.arc)]を表す.白丸(○)は立体視値が100sec.arc以上の症例で,灰色の丸(●)は立体視値が140sec.arc以下の症例を示す.1(1.0)2(0.9)3(0.8)4(0.7)5(0.6)6(0.5)7(0.4)98765立体視機能(Circle,TST)視力の差(%)4321040506080100140200400800>800図6健眼と弱視眼の視力の差を段階で示した値と立体視との相関縦軸は視力の差を表し,横軸は立体視[TitmusStereoTestのCircleの値とそれに対応する実際値(sec.arc)]を表す.白丸(○)は立体視値が100sec.arc以上の症例を示し,灰色の丸(●)は立体視値が140.400sec.arc,そして黒丸(●)は800sec.arc以下の症例を示す.8001006080501.02.00.3980.699-0.1760.0790.010.11.00.20.30.40.50.82.01.2424854月齢(Age,Months)視力視力(logMAR)6066図8症例1の治療経過縦軸は視力,縦軸左は視力を対数表示したもの,右は視力をlogMAR表示している.横軸は経過観察期間(月)を示す.白丸(○)は健眼視力,黒丸(●)は弱視眼視力を示し,四角(■)は立体視値を示す.不等像視の測定は最終検査で行われている(矢印).(131)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010991arc)であったが,弱視眼の視力が0.6となった約半年後はCircle5(100sec.arc),1.2に到達した時点でCircle6(80sec.arc)と改善した.視力が両眼とも1.2になってから,6カ月後にCircle7(60sec.arc),そして1年後にCircle8(50sec.arc)と改善した.III考按良好な立体視を獲得するためには,まず弱視眼の視力の向上が必要であることは,多くの臨床的経験からも理解できることである.今回の分析により,立体視の獲得は弱視眼の視力,特に健眼と弱視眼の視力の関係に大きく影響されることがわかった.弱視眼の矯正視力が低い場合(たとえば0.3.0.6くらい)には健眼と弱視眼との中心窩における網膜像の質の差が大きいと思える,すなわち,弱視眼のそれはまだぼけた状態であり,両眼間における良好な立体視の確立はむずかしい.立体視の良好なレベルは以前より粟屋によってCircle5(100sec.arc)以上といわれている.今回は粟屋の考えを取り入れ,Circle5(100sec.arc)以上を“良好”な両眼視機能,Circle7(60sec.arc)以上を“高度”な立体視と考えた.高度な立体視に到達する条件(健眼と弱視眼の視力差)を調べたところ,健眼と弱視眼の視力の差が少なくとも2段階以下であることが示唆された.今回筆者らの使用した視力表の各指標は代数学的配列をしており,各段階の視力差は一定ではない.今回の検討では健眼が1.2で弱視眼が0.9以上の場合(logMAR値に換算すると視力差は0.176以内)にCircle7(60sec.arc)以上の高度の立体視が得られた.このことにより,弱視眼視力を速やかにこのレベルにもっていくことが第一の目標と考えてよいと思われる.今回の症例では60sec.arc以上の立体視を示したのは5症例であったが,それらはすべて視力差が2段階以内であった.しかし視力差が2段階以下であっても立体視がCircle6(80sec.arc)以下の症例も6例あった.これは立体視を測定した時期の問題であると考える.立体視がCircle6(80sec.arc)以下の症例も経過観察中にCircle7(60sec.arc)以上に改善することもあると考える.すなわち,眼鏡装用した期間が短ければ立体視の発達はまだ十分でなく,装用期間が長ければ立体視はより良好になると思われる.つぎに,今回の分析でさらに明らかになったことは弱視眼が正常視力に到達してからも,高度な立体視はすぐ出現せず,一定の期間を経過してから良好な値を示すということである.結果中の症例で示したように,40.60sec.arcの“高度”な立体視を得たのは,弱視眼の視力が1.2に到達してから1年近く経過した後であった.その機序としては眼鏡装用と遮閉訓練により弱視眼の視力が向上していく過程で,両眼の中心窩に明瞭な網膜像が得られるようになったこと,これによって融像可能となる機会が増え,徐々に立体視が発達してきたためと考えられる.この1年という経過は,いわば,視力の向上という2次元的機能から3次元的機能(立体視の獲得)への移行期間と考えられる.池淵9)の報告によれば,弱視眼の視力が0.2から0.4に達したときに,立体視(.)であったものが突然200sec.arcの立体視を得る症例もあったと報告している.このレベルの立体視は両眼の視力レベルがそろわなくても獲得できることが示されているが,今回筆者らが明らかにしたように,左右の視力レベルが揃ってもすぐに高度な立体視が得られるわけではないことを考慮し,弱視眼があるレベルの視力に達しても継続的に立体視を測定する必要があると考える.両眼視が成立するための条件として,不等像視の有無を調べることも欠かせない.今回,全例で不等像視を測定したが,立体視が“良好”あるいは“高度”なときはほとんど,不等像視の値が3%以内であり,これはKatsumiらの実験結果と一致する10).遠視性不同視例では,矯正眼鏡装用下における不等像視値がより少ないことは,増田らによりすでに報告されている8).これは,遠視性不同視症例ではKnappの法則が成立しているということである11).今回の分析結果では,ほとんどの症例の不等像視が1%以下であった.この結果より,不同視と不等像視の相関を求めることはできなかったが,良好な立体視を得るためには不等像視が存在しないか,最大でも3%以下であることが必要条件であると思われる.不同視症例で両眼視力が良好なのにもかかわらず立体視が不良な場合は,不等像視が残存していることが考えられ,その結果により矯正度をもう一度見直す必要があると考えられる.最後に筆者らの呈示した症例であるが,この症例は比較的弱視眼の視力の改善が順調であった症例と考えられる.この症例では,両眼の視力の差がかなり大きいときに,池淵9)が報告したように200.800sec.arcの低いレベルの立体視が出現しはじめるが,60sec.arc以上のような高度な立体視が得られるのは,両眼の視力が1.2に達してから1年近く経過してからであるという事実である.このような傾向については他の症例でも多く認められた.このことより,200.800sec.arcという低いレベルの立体視と60sec.arc以上の高い立体視とはその成立条件はかなり異なっていると考えられる.文献1)KivlinJD,FlynnJT:Therapyofanisometropicamblyopia.JPediatrOphthalmolStrabismus18:47-56,19812)野村代志子,熊谷和久,田中謙剛ほか:不同視弱視の遮蔽法の治療効果.眼紀39:643-650,19883)KutschkePJ,ScottWE,KeechRV:Anisometropicamblyopia.Ophthalmology98:258-263,19914)LithanderJ,SjostrandJ:Anisometropicandstrabismicamblyopiaintheagegroup2yearsandabove:apro992あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(132)spectivestudyoftheresultsoftreatment.BrJOphthalmol75:111-116,19915)新田順福,藤田聡,三田真理子ほか:岩手医科大学における不同視弱視に対する遮閉治療の検討.眼紀54:205-210,20036)StewartCE,MoseleyMJ,StephensonDAetal:Treatmentdose-responseinamblyopiatherapy:themonitoredocclusiontreatmentofamblyopiastudy.InvestOphthalmolVisSci45:3048-3054,20047)粟屋忍,菅原美幸,堀部福江ほか:新しい不等像視検査表“NewAniseikoninaTests”の開発とその臨床的応用について.日眼会誌86:217-222,19828)増田麗子,勝海修,福嶋紀子ほか:遠視性不同視弱視症例における不等像視の測定.日本視能訓練士協会誌36:37-43,20079)池淵純子:弱視治療における視力の向上と立体視との関係.日本視能訓練士協会誌27:65-72,199910)KatsumiO,TaninoT,HiroseT:Effectofaniseikoniaonbinocularfunction.InvestOphthalmologyVisSci26:601-604,198611)KnappH:Theinfluenceofspectaclesontheopticalconstantsandvisualacutenessoftheeye.ArchOphthalmolOtol1:377,1869***

周術期抗菌点眼薬の使用期間が結膜囊細菌叢へ及ぼす影響

2010年7月30日 金曜日

982(12あ2)たらしい眼科Vol.27,No.7,20100910-1810/10/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科27(7):982.986,2010cはじめに眼瞼皮膚や結膜.内には常在細菌が存在し,内眼手術時には術後感染症の原因となることがわかっている1).そのため,内眼手術周術期には,常在細菌まで減菌する必要があると提唱されている.白内障術後における眼内炎の発生率は0.01.0.1%とされ2),内眼手術後眼内炎の発生予防のため,周術期に広範な抗菌スペクトルをもつ抗菌点眼薬が使用されているが,その効果におけるエビデンスについては明確ではない3).周術期抗菌点眼薬の使用方法について明確な指針はなく,施設により異なる方法で行われていることが多い.今〔別刷請求先〕須田智栄子:〒143-0013東京都大田区大森南4-13-21独立行政法人労働者福祉機構東京労災病院薬剤部Reprintrequests:ChiekoSuda,DepartmentofPharmacy,TokyoRosaiHospital,4-13-21Omoriminami,Ota-ku,Tokyo143-0013,JAPAN周術期抗菌点眼薬の使用期間が結膜.細菌叢へ及ぼす影響須田智栄子*1戸田和重*2,3松田英樹*2,3成相美奈*1松田俊之*1岡野喜一朗*2,3松田弘道*2,3金澤淑江*1*1独立行政法人労働者福祉機構東京労災病院薬剤部*2同眼科*3東京慈恵会医科大学眼科学教室EffectofAntibioticOphthalmicSolutionPerioperativeUseDurationonBacterialFlorainConjunctivalSacChiekoSuda1),KazushigeToda2,3),HidekiMatsuda2,3),MinaNariai1),ToshiyukiMatsuda1),KiichiroOkano2,3),HiromichiMatsuda2,3)andYoshieKanazawa1)1)DepartmentofPharmacy,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoRosaiHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine内眼手術予定患者235名236眼を対象に,ガチフロキサシン(GFLX)点眼液の術前使用期間と用法をA群2日間1日5回,B群1週間1日4回,C群2週間1日4回の3群に分け,結膜.細菌培養,薬剤感受性試験を行い,コンプライアンス,菌検出率,分離菌種および薬剤耐性につき検討した.3群間で,年齢,点眼方法別のコンプライアンスに有意差はみられなかった.3群とも,点眼後に菌検出率の減少がみられた.点眼前には,Corynebacterium,CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)が多く検出された.Corynebacteriumは点眼後も多く検出される傾向があった.Propionibacteriumacnesは点眼前には検出が少なかったが,点眼後より比較的多く検出されるようになった.点眼前の耐性菌検出率は全体で33.8%であった.点眼開始前から手術1カ月後にかけての耐性獲得率について,3群間で有意差はみられなかった.In236eyesof235patientsundergoingsurgery,weinvestigatedgatifloxacin(GFLX)ophthalmicsolutionregardingtheeffectofitsperioperativeusedurationonbacterialfloraintheconjunctivalsac.Thepatientsweredividedinto3groupsaccordingtodurationofGFLXuse:GroupA:2days,5timesperday;GroupB:7days,4timesperday,andGroupC:14days,4timesperday.Bacterialdetectionrate,isolatedbacterialstrainsanddrugresistancewereexamined.Therewerenosignificantdifferencesincompliancebyageordurationofpreoperativeuse.TheapplicationofGFLXophthalmicsolutionresultedinbacterialdetectionratedecrease.ThemostfrequentlyidentifiedbacterialspecieswasCorynebacteriumsp.,followedbyCNS(coagulase-negativeStaphylococci).Corynebacteriumsp.wasidentifiedregardlessofGFLXophthalmicsolutionuse.PropionibacteriumacneswasrarelyidentifiedbeforetheuseofGFLXophthalmicsolution,butitsdetectionratewasslightlyincreasedpost-administration.Thequinolone-resistanceratewas33.8%.Therewerenosignificantdifferencesinresistance-acquisitionrateamongthe3groups.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):982.986,2010〕Keywords:周術期,結膜.内常在菌,薬剤感受性,薬剤耐性,眼内炎.perioperative,bacterialflorainconjunctivalsacs,drugsensitivity,antibioticsresistance,endophthalmitis.(123)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010983回,筆者らは,術前抗菌点眼薬の使用回数と期間を3群に分け,年齢・点眼方法による点眼コンプライアンスの比較,点眼開始前と手術時の菌検出率,点眼開始前から手術1カ月後の結膜.細菌叢の変化,キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率と耐性獲得率を調査し,適正な使用方法につき検討を行った.I対象および方法1.対象a.点眼コンプライアンス2007年2月から2007年10月までに東京労災病院眼科における全内眼手術予定患者のうち同意の得られた20.97歳の235名(男性109名,女性126名,平均年齢73.4歳±10.6歳)を対象とした.ガチフロキサシン点眼液(以下,GFLX点眼液と略す)の術前使用期間と用法を(A)2日間1日5回点眼,(B)1週間1日4回点眼,(C)2週間1日4回点眼の3群に分け,対象者を各群に無作為に割り付けた.今回対象とした全患者の背景は,A群79名(男性41名,女性38名,平均年齢71.4±11.1歳),B群82名(男性35名,女性47名,平均年齢74.4±10.5歳),C群74名(男性33名,女性41名,平均年齢74.6±9.71歳)であった.b.点眼開始前の菌検出率と結膜.細菌叢細菌検査が可能であった202名(男性94名,女性108名,平均年齢73.4±10.7歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群77名(男性40名,女性37名,平均年齢71.4±11.2歳),B群73名(男性32名,女性41名,平均年齢74.3±10.8歳),C群52名(男性22名,女性30名,平均年齢74.9±8.97歳)であった.c.手術時の菌検出率と結膜.細菌叢点眼コンプライアンスの評価方法については,2.方法に記載する.点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった160名(男性70名,女性90名,平均年齢73.4±10.7歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群51名(男性27名,女性24名,平均年齢71.1±11.7歳),B群55名(男性21名,女性34名,平均年齢74.6±10.0歳),C群54名(男性22名,女性32名,平均年齢74.4±9.87歳)であった.d.手術1カ月後の結膜.細菌叢点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった113名(男性49名,女性64名,平均年齢74.0±9.19歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群36名(男性19名,女性17名,平均年齢72.1±9.71歳),B群39名(男性13名,女性26名,平均年齢75.6±7.98歳),C群38名(男性17名,女性21名,平均年齢74.0±9.50歳)であった.e.点眼後の耐性獲得点眼開始前から手術時の耐性獲得率については,点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった118名(男性53名,女性65名,平均年齢72.9±10.6歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群44名(男性25名,女性19名,平均年齢70.1±11.9歳),B群41名(男性16名,女性25名,平均年齢74.3±10.2歳),C群33名(男性12名,女性21名,平均年齢74.9±8.14歳)であった.点眼開始前から手術1カ月後の耐性獲得率については,点眼コンプライアンス良好で細菌検査が可能であった82名(男性37名,女性45名,平均年齢73.8±8.52歳)を対象とした.各群の患者背景は,A群31名(男性18名,女性13名,平均年齢71.4±9.56歳),B群29名(男性10名,女性19名,平均年齢75.5±7.88歳),C群22名(男性9名,女性13名,平均年齢75.0±6.83歳)であった.2.方法コンプライアンスは患者インタビューより評価し,用法どおりできたものを良好,用法以下を不良,用法以上を過剰,コンプライアンスの聴取ができず不明であったものをその他とした.手術後はすべての群でGFLX点眼液1日3回を約1カ月間,抗炎症薬として0.1%リン酸デキサメタゾンナトリウム点眼液1日3回,0.1%ブロムフェナクナトリウム水和物点眼液1日1回を約2週間,さらに0.1%フルオロメトロン点眼液に変更後約2週間使用した.各群について点眼開始前,手術時消毒直前,手術1カ月後に,滅菌綿棒にて下眼瞼結膜を擦過し,血液寒天培地を用いて分離培養を行い,細菌を同定した.また,GAM半流動培地を用いた増菌培養も行った.ついで,分離された細菌に対し薬剤感受性試験を行った.薬剤感受性試験の判定はK-Bディスク法で行った.すべての解析には統計解析ソフトであるJMPR6〈日本語版〉Windowsを用いてc2検定を行い,両側検定で危険率5%未満(p<0.05)を有意差ありとした.II結果1.コンプライアンスの比較年齢によるコンプライアンスの比較を行ったところ,コンプライアンス良好であったものは50代13/16(81.3%),60代40/54(74.1%),70代74/96(77.1%),80代45/57(78.9%),90代5/8(62.5%)となり,50代から90代の間で年齢によるコンプライアンスに有意差はみられなかった(図1a).点眼の方法は自己点眼の場合と家族による点眼の場合があった.点眼方法別のコンプライアンス良好率はA群60/79(75.9%),B群62/82(75.6%),C群57/74(77.0%)であり,3群間に有意差はみられなかった(図1b).984あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(124)2.点眼開始前と手術時の菌検出率点眼開始前の菌検出率は,A群45/77(58.4%),B群47/73(64.4%),C群37/52(71.2%)であった(表1a).コンプライアンス良好群における手術時の菌検出率は,A群14/51(27.5%),B群14/55(25.5%),C群14/54(25.9%)となり,GFLX点眼後,菌検出率の減少がみられた(表1b).点眼開始前および手術時の菌検出率において,3群間で有意差はみられなかった.3.点眼前の結膜.細菌叢点眼前の結膜より検出された細菌は,CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)30.5%,Corynebacterium46.1%が多くみられた(表2).4.結膜.細菌叢の変化点眼開始前から手術時と手術1カ月後における結膜.細菌叢の変化は3群とも同様の傾向を示した.CorynebacteriumはGFLX点眼後も多く検出される傾向があった.Propionibacteriumacnes(P.acnes)は,点眼前には検出が少なかったが,点眼後には比較的多く検出されるようになった.Bacillusは点眼開始前には検出されなかったが,手術時,手術1カ月後に検出された.Candidaは手術1カ月後に2眼で検出された(表3).5.キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率と耐性獲得率点眼前の検出菌について薬剤感受性試験を行った結果,キノロン系抗菌薬に対する耐性菌が検出された.点眼前のキノロン系抗菌薬に対する耐性菌は,全体の菌検出株数154に対し,耐性菌株数52となり,耐性菌検出率は33.8%であった(図2a).さらに,点眼後の耐性獲得について検討した.点眼前には耐性菌の出現がなく,点眼後に耐性菌の出現がみられたものを耐性獲得率として示した.その結果,点眼開始前から手術時にかけての耐性獲得率はA群5/44(11.4%),B群2/41(4.9%),C群1/33(3.0%)となり,A群で高い傾向があったものの,3群間に有意差はみられなかった(図2b).さらに,点眼開始前から手術1カ月後にかけての耐性獲得率はA群2/31(6.5%),B群2/29(6.9%),C群1/22(4.5%)であり,3群間で有意差はみられなかった(図2c).III考察結膜.内の細菌の検出率は約50.70%と報告されており4,5),今回の検出率58.3%はこれらとほぼ一致していた.点眼前の結膜.細菌叢については,過去の報告と同様に,Corynebacteriumが最も多く,CNSがつぎに多く検出された5,6).100%80%60%40%20%0%50代60代70代80代90代A群2日間1日5回B群1週間1日4回C群2週間1日4回コンプライアンス100%80%60%40%20%0%コンプライアンスa:年齢別b:用法別■:その他■:過剰■:不良□:良好図1点眼コンプライアンス表2点眼前の結膜.細菌叢分類検出菌株数(%)グラム59(38.3)陽性球菌CNSStaphylococcussp.MRSAStreptococcusStreptococcusalphahemoGroupGStreptococcusEnterococcusfaecalisStreptococcuspneumoniaeMicrococcussp.47(30.5)3(1.9)1(0.6)4(2.6)2(1.3)2(1.3)2(1.3)1(0.6)1(0.6)グラム92(59.7)陽性桿菌Corynebacteriumsp.Propionibacteriumacnesその他のグラム陽性桿菌71(46.1)2(1.3)19(12.3)グラム3(1.9)陰性桿菌CitrobacterkoseriSerratiamarcescensKlebsiellapneumoniae1(0.6)1(0.6)1(0.6)総計154CNS:coagulase-negativeStapylococci.MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus.表1菌検出率a:点眼開始前A群B群C群菌あり454737菌なし322615p値0.4550.4270.141b:手術時A群B群C群菌あり141414菌なし374140p値0.8160.9550.860(125)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010985今回検討した3つの用法では,コンプライアンス,点眼開始前および手術時の菌検出率に有意差はなく,減菌化という点からは2日間,1週間,2週間の術前使用方法については,どれも選択可能な方法と思われた.点眼開始前から手術時にかけての耐性獲得率は,有意差はなかったものの,1週間,2週間の術前使用方法に比べて,2日間の術前使用方法でやや高い傾向を示した.最近の研究では,GFLXなどのフルオロキノロン耐性菌は起炎菌のMIC(最小発育阻止濃度)からMPC(mutantpreventionconcentration:変異株増殖抑制濃度)間の薬剤濃度で発現すると考えられている7).また,白内障手術患者にGFLXを点眼した後の房水内濃度はMPCに達していない可能性も示唆されている8).今回,上記の耐性獲得率が,1週間,2週間に比べて,2日間の術前投与がやや高い傾向を示した原因は不明であるが,2週間投与群の耐性菌検査数が少なかったことがその一因とも考えられる.海外では手術1時間前に10分ごとに4回点眼する方法も用いられており,十分量の抗菌薬を短期間に投与する方法も検討する必要がある.一方,点眼開始前から手術1カ月後にかけ検出菌株数耐性菌株数耐性菌検出率(%)1545233.8A5/44C1/33A2/31B2/29B2/41C1/22①点眼開始前20151050a:キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率b:耐性獲得率耐性獲得率(%)20151050耐性獲得率(%)c:耐性獲得率①点眼開始前→②手術時①点眼開始前→③手術1カ月後11.4%6.5%0.9450.7246.9%4.9%4.5%0.2770.670p値0.166p値0.7673.0%A群2日間1日5回B群1週間1日4回C群2週間1日4回A群2日間1日5回B群1週間1日4回C群2週間1日4回図2キノロン系抗菌薬に対する耐性菌の検出率と耐性獲得率表3細菌叢の変化分類検出菌ABC①②③①②③①②③グラム陽性球菌CNSStaphylococcussp.MRSAStaphylococcusaureusStreptococcusStreptococcusalphahemoGroupGStreptococcusEnterococcusfaecalisStreptococcuspneumoniaeMicrococcussp.191113111111911132291112113グラム陽性桿菌Corynebacteriumsp.Propionibacteriumacnesその他のグラム陽性桿菌Bacillussp.嫌気性グラム陽性桿菌23183613231294381751917742332グラム陰性桿菌MorganellamorganiiCitrobacterkoseriSerratiamarcescensKlebsiellapneumoniae1111真菌Candidasp.11総計551512551517441512CNS:coagulase-negativeStapylococci,MRSA:methicillin-resistantStaphylococcusaureus.①点眼開始前,②手術時,③手術1カ月後.986あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(126)ての耐性獲得率は,3群間で有意差はみられなかったため,手術1カ月後における耐性獲得と減菌化という点からは,3つの術前使用方法に差はないとも考えられ,患者の負担および利便性を合わせて考慮すると,今回検討した3群のなかでは,使用回数の最も少ない方法が適切ではないかと思われる.P.acnesは遅発性の眼内炎の原因菌として知られている1).Haraらは白内障術前患者488眼の結膜.および眼瞼縁からの菌の検出を試み,結膜.においては63眼(12.9%)にP.acnesを検出している9).今回の結果は,過去の報告と比較して,点眼前のP.acnesの検出率が少なかった.岩﨑らはP.acnesの検出率の低さについて,嫌気性培養を行わなかったためと考察している10).しかし,筆者らは,嫌気性培養を行っており,検出率の低さについては不明である.一方,点眼後にはP.acnesの検出率増加がみられ,過去の報告同様,GFLXによりグラム陽性球菌やグラム陽性桿菌が減少する代わりに増加している6).P.acnesの増加は,①菌交代現象,②点眼操作によるもの,③培養の際の圧出などが原因として考えられると報告されている6).さらに,少量ではあるがキノロン耐性をもつP.acnesも検出された.キノロン耐性P.acnesをもつ症例においては,検出菌の同定と抗菌薬の感受性を確認し,耐性菌が確認された際には,適正な抗菌薬の選択を行う必要があると思われる.一方,Bacillusは外傷による外因性眼内炎,真菌は内因性眼内炎および白内障術後眼内炎の起因菌としての報告がある11).今回の結果でBacillus,Candidaの検出が増加したことから,抗菌点眼薬使用による菌交代現象により,結膜.細菌叢が変化した可能性が考えられた.その頻度は少ないが,Bacillus,Candidaについても眼内炎の起因菌となりうるという点から,同様に注意する必要があると思われた.本論文の要旨は第27回日本眼薬理学会(2007年,岐阜)にて発表した.文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起因菌─Propionibacteriumacnesを主として─.あたらしい眼科20:657-660,20032)三宅謙作:眼科危機管理とインフォームドコンセント:白内障/IOL手術後眼内炎.日本の眼科75:1209-1213,20043)佐々木香る:眼科におけるSurgicalSiteInfectionサーベイランスに向けて.感染制御1:337-342,20054)大.秀行,福田昌彦,大鳥利文:高齢者1,000眼の結膜.内常在菌.あたらしい眼科15:105-108,19985)丸山勝彦,藤田聡,熊倉重人ほか:手術前の外来患者における結膜.内常在菌.あたらしい眼科18:646-650,20016)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科23:499-503,20067)BlondeauJM:Newconceptsinantimicrobialsusceptibilitytesting:themutantpreventionconcentrationandmutantselectionwindowapproach.VetDermatol20(5-6):383-396,20098)KimDH,StarkWJ,O’BrienTP:Ocularpenetrationofmoxifloxacin0.5%andgatifloxacin0.3%ophthalmicsolutionsintotheaqueoushumorfollowingtopicaladministrationpriortoroutinecataractsurgery.CurrMedResOpin21:93-94,20059)HaraJ,YasudaF,HigashitsutsumiM:Preoperativedisinfectionoftheconjunctivalsacincataractsurgery.Ophthalmologica211(Suppl1):62-67,199710)岩﨑雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜.内細菌叢と薬剤感受性.あたらしい眼科23:541-545,200611)秦野寛,井上克洋,的場博子ほか:日本の眼内炎の現状─発症動機と起因菌─.日眼会誌95:369-376,1991***

超音波生体顕微鏡所見の経時的変化が診断・治療に有用であった長期間未治療の原田病に起因する難治性続発緑内障の1例

2010年7月30日 金曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(115)975《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(7):975.980,2010cはじめにVogt-小柳-原田病(VKH)は,メラノサイトに対する自己免疫疾患でメラノサイトの存在する全身のどの臓器にも炎症の起きる可能性のある全身疾患である1).通常両眼性で初発は後極部や視神経乳頭の周囲であることが多い2).しかし,VKHのなかには前房微塵,豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節などの前眼部の炎症主体の前眼部型とよばれているものもある.Russellらは,アジア人の前眼部型のVKHでは約53%に白内障を合併し,約32%に緑内障を合併すると報告し,VKHに起因する3つ以上の合併症がある症例では視力予後〔別刷請求先〕嶋村慎太郎:〒259-1193伊勢原市下糟屋143東海大学医学部付属病院専門診療学系眼科Reprintrequests:ShintaroShimamura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokaiUniversitySchoolofMedicine,143Shimokasuya,Isehara,Kanagawa259-1193,JAPAN超音波生体顕微鏡所見の経時的変化が診断・治療に有用であった長期間未治療の原田病に起因する難治性続発緑内障の1例嶋村慎太郎大橋秀記河合憲司東海大学医学部付属病院専門診療学系眼科UltrasoundBiomicroscopeUsefulinIdentifyingSecondaryGlaucomaCausedbyLong-untreatedHaradaDiseaseShintaroShimamura,HidekiOohashiandKenjiKawaiDepartmentofOphthalmology,TokaiUniversitySchoolofMedicine目的:超音波生体顕微鏡(UBM)所見の経時的変化が有用であったVogt-小柳-原田病(VKH)の報告.症例:46歳,男性.両眼の視力低下を自覚.ぶどう膜炎の診断にて当院受診となる.矯正視力は右眼30cm手動弁,左眼10cm指数弁,眼圧は右眼16mmHg,左眼22mmHg,両眼に浅前房・炎症所見を認めた.UBM検査上,隅角開大を認めたが,毛様体腫脹が存在していた.髄液細胞増多,ヒト白血球抗原(HLA)-DR4陽性から不完全型VKHと診断.プレドニゾロン内服治療を開始.治療後,炎症所見は徐々に改善したものの,UBM検査上隅角閉塞が増悪し,眼圧は右眼41mmHg,左眼36mmHgとなったため,両眼水晶体再建術を施行した.現在,矯正視力は右眼0.4,左眼0.3,眼圧は右眼14mmHg,左眼13mmHgであり症状は軽快している.結論:長期間未治療であった原田病においてUBM所見の経時的変化が治療方針決定に有用であった.Purpose:Toreporttheusefulnessoftheultrasoundbiomicroscope(UBM)inVogt-Koyanagi-Haradadisease(VKH).Case:A46-years-oldmaledevelopedvisualblurringbecauseofunidentifieduveitis.Hisvisualacuitywas30cmhandmotionrightand10cmindexmotionleft.Intraocularpressure(IOP)was16mmHgrightand22mmHgleft.Botheyesdisplayedshallowanteriorchamberandinflammation.UBMdisclosedswellingofcilliarybody.ThediagnosiswasincompleteVKHtobeshowedpleocytosisinthecerebrospinalfluidandhumanleukocyteantigen(HLA)patternofpositiveDR-4.Hewasstartedonsystemictheraphywithpredonisolone.Duringthistheraphy,theinflammationdecreased.UBMdisclosedaworsenednarrowangle;furthermore,theIOPwas41mmHgrightand36mmHgleft.Cataractsurgerywasthereforeperformed.Visualacuityisnow0.4rightand0.3left;IOPis14mmHgrightand13mmHgleft.Conclusion:UBMwasusefulindeterminingontreatmentplaninlonguntreatedVKH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(7):975.980,2010〕Keywords:超音波生体顕微鏡,不完全型Vogt-小柳-原田病,毛様体,白内障,続発緑内障.ultrasoundbiomicroscope,incomleteVogt-Koyanagi-Haradadisease,cilliarybody,cataract,secondaryglaucoma.976あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(116)が悪いと報告した3).VKHに伴う続発緑内障は,隅角が開放している場合と閉塞している場合がある4).隅角が開放している場合は,前眼部の炎症が観察しやすく眼底検査・隅角検査にてVKHと診断することが容易な場合が多い.しかし,隅角が閉塞している場合は,前眼部の炎症が観察しにくいこと,散瞳しにくいことから急性閉塞隅角緑内障と鑑別がつけにくいことがある4).近年,超音波生体顕微鏡検査(UBM)が開発され,光学的測定法では観察困難な虹彩後面,毛様体,後房,濾過手術後の濾過胞の内部,房水流出路などの所見を画像を通して観察することができるようになった5).今回筆者らは,UBMの利点を生かし高度の前眼部炎症のため診察・諸検査困難であったVKHに対し,UD6000のUBMを継続的に使用したことが,診断・治療に有効であった症例を経験したので報告する.I症例患者:46歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべきことなし.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2008年9月頃,感冒症状・耳鳴,両眼視力低下を自覚した.しかし,その後症状は改善したため放置していた.2008年12月頃には,右眼霧視・視力低下を自覚した.2009年2月頃には,左眼霧視・視力低下も自覚したため近医眼科を受診したところ,ぶどう膜炎の診断となり2009年3月当院眼科へ紹介受診となった.初診時所見:矯正視力は右眼30cm/手動弁,左眼10cm/指数弁,眼圧は右眼16mmHg,左眼22mmHgであった.前眼部では,両眼全周に毛様充血があり,豚脂様角膜後面沈着物・虹彩ルベオーシス・瞳孔縁輪状癒着・膨隆虹彩を認めた(図1).両前房は,VanHerick法でgrade2の浅前房であった.中間透光体では,Emery-Little分類grade1の白内障を認めた.眼底検査・隅角鏡検査は,高度の炎症により施行困難であった.UBMでは,両眼ともに隅角開大部は一部残存するものの,著明な膨隆虹彩および虹彩実質浮腫・毛様体浮腫を認め,浅前房・狭隅角も認めた(図2).Bモー図1初診時前眼部(左:右眼,右:左眼)両眼全周に毛様充血があり,豚脂様角膜後面沈着物・虹彩ルベオーシス・瞳孔縁輪状癒着・膨隆虹彩を認めた.図2初診時UBM(左:右眼,右:左眼)両眼ともに隅角開大部は一部残存するものの,著明な膨隆虹彩および虹彩実質浮腫・毛様体浮腫を認め,浅前房・狭隅角も認めた.(117)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010977ド・超音波検査では,網膜.離や脈絡膜.離は認められなかった.全身所見では,脱毛を認め,頭部知覚過敏も認めていた.臨床検査所見:血液・生化学検査では,異常所見を認めず.ヒト白血病抗原(HLA)検査では,HLA抗原はDR4,DQ4が陽性であった.髄液検査では,外観正常・透明であり,蛋白25mg/dl・糖55mg/dl,比重1.006,細胞数14(リンパ球13)とリンパ球優位であった.眼窩MRI(磁気共鳴画像)検査では,眼窩内や眼球内に特記所見はなかった.経過:前房内の炎症所見,髄液中の細胞増多,HLADR4・DQ4陽性より前眼部炎症を主体とした不完全型VKHと診断し,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロンR点眼液0.1%),トロピカミド・塩酸フェニレフリン(ミドリンPR)点眼を開始とした.プレドニゾロン点滴療法は本人希望なくプレドニゾロン内服40mgから開始した.適宜ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム結膜下注射(リンデロンR)を行いながら経過をみていたが,その後両眼とも眼圧は28mmHgまで上昇したため,トラボプロスト(トラバタンズR),カルテオロール塩酸塩(ミケランR),ドルゾラミド塩酸塩(トルソプトR)点眼を開始した.プレドニゾロン内服は30mgまで減量した.眼圧は右眼12mmHg,左眼14mmHgへと下降し,前眼部の炎症所見の増悪も認めないため退院となった(図3).その後,プレドニゾロン内服を徐々に漸減し同年5月には10mg/日へと漸減していった.この期間,眼圧は両眼ともに20mmHg前後にて推移していた.しかし5月下旬,眼圧は右眼41mmHg,左眼36mmHgへと上昇した.前眼部は,毛様充血・豚脂様角膜後面沈着物・虹彩ルベオーシス・虹彩癒着は改善した(図4)が,UBMではほぼ全周にかけ虹彩前癒着を認め,隅角開大部は消失していた(図5).そのため,3剤点眼に加えアセタゾラミド(ダイアモックスR)内服併用を行った.その後,炎症の増悪は認めなかったが,両眼の眼圧下降は認めなかっ図3退院時前眼部(左)・UBM(右)前眼部では,毛様充血・豚脂様角膜後面沈着物・虹彩ルベオーシス・虹彩癒着は改善した.UBMは,著明な膨隆虹彩および虹彩実質浮腫・毛様体浮腫は改善したが,ほぼ全周にかけ虹彩前癒着を認め,隅角開大部は消失していた.図4術前前眼部(左:右眼,右:左眼)両眼とも毛様充血・豚脂様角膜後面沈着物・虹彩ルベオーシス・虹彩癒着は改善した.978あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(118)た.そのため,6月上旬に,両眼の水晶体再建術を行った(図6).術中眼底検査も行い両眼の夕焼け眼底を確認した.術後より,プレドニゾロン内服は30mg/日とし,眼圧は両眼とも10mmHg台と安定していたためアセタゾラミド(ダイアモックスR)の内服は中止し,カルテオロール塩酸塩(ミケランR)・ドルゾラミド塩酸塩(トルソプトR)のみにて経過観察としていた.その後プレドニゾロン内服を徐々に漸減し,同年12月現在は10mg/日である(図7).UBM上毛様体腫脹は消退(図8)し,隅角所見では半周.3/4周性のテント状周辺虹彩前癒着(PAS)・色素沈着を認めた.視力は右眼0.2(0.6×.2.00D(cyl.0.50DAx35°),左眼0.2(0.3×.1.00D(cyl.0.75D)まで改善した.II考按VKHは,前房内の炎症所見の有無や,両眼性か否かということや眼底検査により判断される6).本症例においては発症より長期間経過していたため前駆症状などの詳細が不明であり,高度の前房内炎症により眼底検査・隅角検査は困難であり診断に苦慮した.VKHに浅前房,眼圧上昇を生じる機序として,虹彩後癒着による瞳孔ブロック8),PASによる隅角閉塞10),毛様体腫脹による毛様体突起・虹彩水晶体隔膜の図5術前UBM(左:右眼,右:左眼)両眼ともほぼ全周にかけ虹彩前癒着を認め,隅角開大部は消失していた.454035302520151050プレドニゾロン内服量(mg)両眼眼圧とも28mmHg水晶体再建術トラボプロスト点眼カルテオロール塩酸塩点眼アセタゾラミド内服ドルゾラミド塩酸塩点眼両眼眼圧とも10mmHg眼圧右眼41mmHg左眼36mmHg3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月図7術前・術後のプレドニゾロン内服量図6術後前眼部(左:右眼,右:左眼)両眼とも水晶体再建術を行った.(119)あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010979前方回旋10,11),血管新生緑内障10)が考えられている.なかでも,毛様体腫脹による毛様体突起・虹彩水晶体隔膜の前方回旋による浅前房・眼圧上昇をきたした症例をUBMにより観察してみると,強膜に炎症が起き2次的に毛様体脈絡膜へ炎症が波及することで毛様体脈絡膜.離が起きると推測されている7).Kawanoら8)やGondoら9)は,VKHの全身ステロイドパルス治療前後にてUBMを用いた観察で,毛様体脈絡膜.離の消失に伴い浅前房が改善したと報告している.Kawanoら8)やWadaら7)は,UBMを用いた観察でVKHの狭隅角は毛様体脈絡膜.離と毛様体実質の浮腫が関係しており,毛様体実質の浮腫が毛様体脈絡膜.離をひき起こしたと考察している.さらに,Wadaら7)はVKHの眼病期では全身ステロイドパルス治療後,前眼部所見において炎症所見が改善している症例においてもUBMでは毛様体実質の浮腫は改善していなかったと報告している.本症例では,前眼部所見として瞳孔縁輪状癒着・虹彩ルベオーシス・膨隆虹彩を認めることより閉塞隅角が生じたと考えられ,さらにUBMを観察することで著明な膨隆虹彩および虹彩実質浮腫・毛様体浮腫により毛様体腫脹による毛様体突起・虹彩水晶体隔膜の前方回旋が生じたため狭隅角・浅前房となって続発緑内障を生じたと考えられた.ステロイド療法を開始後,前眼部の炎症所見・UBMでの毛様体実質の浮腫は改善した.しかし,前眼部所見では瞳孔縁輪状癒着は増悪し,両眼の眼圧上昇を示した.つまり本症例では,ステロイド療法開始後,毛様体腫脹による毛様体突起・虹彩水晶体隔膜の前方回旋は改善されたが,瞳孔ブロックが増悪したことにより両眼の眼圧上昇が発生したと考えられた.一方,沖波ら11)は,VKHの併発白内障は後.下白内障が多く,白内障を合併する頻度は国内では9.46%,海外では16.60%であると報告し,VKHの併発白内障に対しては3.6カ月以上と十分すぎるくらいに炎症が鎮静化した時期に眼内レンズ手術を行うのが良いと報告している.さらに,併発白内障の発生はステロイド療法の投与量,投与期間よりも加齢や炎症の遷延化が関与していると報告している.Russellら3)や薄井ら12)では,6カ月間全身ステロイド療法やステロイド薬点眼を行った症例では約36%で併発性白内障を認めたと報告している.VKHの白内障手術施行時期を眼圧コントロールの面からみてみると,沖波ら11)は眼圧25mmHg以上30mmHg未満ではb遮断薬とイソプロピルウノプロストあるいはジピべフリンの2剤か3剤を点眼,30mmHg以上か3剤点眼でも25mmHg以上の場合には炭酸脱水酵素阻害薬の内服を併用,もしこれらの治療を行っても眼圧の下降が不十分な場合には,原則として炎症がある程度おさまるのを待って手術治療を行い,経過中に白内障が進行して視力低下がみられれば白内障手術を行ったと報告している.本症例では,3カ月間ステロイド療法を行ったが,眼圧は右眼41mmHg,左眼36mmHgへ上昇した.前房内の炎症は改善したが,眼圧上昇を認めるためトラバタンズR・ミケランR・トルソプトRの3剤点眼とダイアモックスR内服を併用し眼圧コントロールがつかなかった.また,同時に初診時に認めていたEmery-Little分類grade1の白内障がEmery-Little分類grade3まで進行していたため白内障手術を行った.術後高度なPASを解除し房水流出路を確保することで,炎症の増悪・眼圧上昇はなく視力も改善を示した.しかし,VKHの膨隆虹彩に対しては,まず虹彩切開術・周辺虹彩切除術を選択するのが初期治療として必要である10).吉野10)は,ぶどう膜炎に続発する緑内障に対するレーザー治療と観血手術を行う場合は隅角線維柱帯に炎症がある疾患は適応外であると報告している.本症例では,初診時前眼部において膨隆虹彩のほか,虹彩ルベオーシス・豚脂様角膜後面沈着物を認め,また隅角検査では高度な炎症のため詳細不明であった.虹彩ルベオーシスはその後も認められ,筆者らは虹彩切開術・周辺虹彩切除術を選択するのは合併症も踏まえ困難であると考えた.ステロイド治療をすることで炎症も改善し,同時期に初診時より認めていた白内障も進行していたため本症例では,白内障手術を施行した.VKHの併発白内障の術後にはさまざまな合併症がある.薄井ら12)は,術後虹彩後癒着が起こりやすく,術後ぶどう膜炎の再燃は46.2%であったと報告している.沖波ら11)は,隅角検査にてPASが半周以上ある原田病では術後一過性に眼圧が上昇しやすいと報告している.本症例では術後UBMにおいて毛様体腫脹は消退し,隅角所見・瞳孔領虹彩癒着ともに改善を示した.しかし,隅角検査にて半周.3/4周性の図8術後UBM両眼とも毛様体腫脹は消退し,隅角所見・瞳孔領虹彩癒着ともに改善を認めた.980あたらしい眼科Vol.27,No.7,2010(120)PASを認めていた.今後一過性の眼圧上昇も含めた術後合併症が起きる可能性は否定できない.今回筆者らは,UBM所見の経時的変化が長期間未治療のVKHにおける難治性続発緑内障に有用であった1例を経験した.本症例のように,高度の前房炎症などにより検眼鏡にての隅角診察が不可能なVKHの症例ではUBMを積極的に使用することで隅角や毛様体の状況把握が可能であった.そして,UBMを経時的に使用することがVKHの眼圧上昇の機序を知ることだけでなくVKHの治療の一助となりうると考えられ,特に前眼部型のVKHに対してはUBMを活用して診療にあたることが大切であると思われる.文献1)磯部裕,山本倬司,大野重昭:Vogt-小柳-原田病.ぶどう膜炎(増田寛治郎,宇山昌延,臼井正彦,大野重昭編),p82-92,医学書院,19992)杉原清治:Vogt-小柳-原田病.臨眼33:411-424,19793)RussellW,AidaR,NeilBetal:ComplicationandprognosticfactorinVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalomol131:599-606,20014)山根健,廣田篤,小坂敏哉ほか:急性閉塞隅角緑内障で初発した原田病の1例.臨眼52:1715-1718,19985)伊藤邦正,宇治幸隆:隅角鏡における隅角検査と超音波生体顕微鏡検査.眼科47:1387-1397,20056)中村聡,前田祥恵,今野伸介ほか:両眼の急性緑内障発作を呈した稀な原田病の1例.臨眼60:367-370,20067)WadaS,KohnoT,YanagiharaNetal:UltrasoundbiomicoroscopicstudyofcilliarybodychangesintheposttreatmentphaseofVogt-Koyanagi-Haradadisease.BrJOphthalmol86:1374-1379,20028)KawanoY,TawaraA,NishiokaYetal:UltrasoundbiomicroscopicanalysisoftransientshallowanteriorchamberinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.AmJOphthalmol121:720-723,19969)GondoT,TsukaharaS:UltarasoundbiomicorscopicofshallowanteriorchamberinVogt-Koyanagi-Haradasyndrome.AmJOphthalmol122:112-114,199610)吉野啓:ぶどう膜炎に続発する緑内障はこう治す.あたらしい眼科26:311-315,200911)沖波聡:Vogt-小柳-原田病(症候群)の診断と治療合併症とその治療.眼科47:949-958,200512)薄井紀夫,鎌田研太郎,毛塚剛司ほか:ぶどう膜炎併発白内障における手術成績.臨眼55:172-181,2001***