0910-1810/10/\100/頁/JCOPY合には手術治療を要しない.しかし,HTGにおける眼圧と視野障害進行速度の関係を調べると,すでに静的視野検査(standardautomatedperimetry:SAP)で明らかな異常を伴っている症例では経過中の平均眼圧が21mmHgを超える例では視野障害は確実に進行する(図1).さらにより高眼圧ほど進行の速度は速くなり,この場合の眼圧と進行速度の関係には2次関数的な傾向がみられる.つまり,HTG患者で経過中の平均眼圧が21mmHgを超える症例では,治療は不十分と理解すべきで,薬物治療で限界と考えられる場合には,手術治療の必要性について意識し,判断することが勧められる.I原発開放隅角緑内障(広義)の治療は,大まかに治療前眼圧値で分けて考えるこの項では原発開放隅角緑内障(広義)をPOAG(primaryopen-angleglaucoma),従来の原発開放隅角緑内障(狭義)をHTG(high-tensionglaucoma),正常眼圧緑内障をNTG(normal-tensionglaucoma)とする.HTGとNTGを合わせてPOAGという昨今の分類は21mmHgを境界として疾患を正確に分離することが不可能という意味で適切である.しかし,HTGとNTGでは管理目標も治療結果の傾向も異なる.HTGでは眼圧値そのものを目標眼圧として設定できると考えられるのに対して,NTGでは眼圧値だけでなく眼圧下降率でさえ明確な傾向を示さない1).つまり,HTGでは“一般には”という傾向を意識しつつ治療ができるのに対して,NTGでは個々の差を厳密に見きわめながら治療を考えることが必要である.IIPOAGの手術適応POAG治療の基本は薬物治療である.ではどのような症例に手術が必要か?理論的に考えると,以下の3つの条件が考えられる.1.高眼圧緑内障は視神経を消耗する疾患であり,いくら高眼圧であっても視神経の障害がない,もしくは進行がない場(19)1031*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●原発開放隅角緑内障(広義)―私の管理法あたらしい眼科27(8):1031.1036,2010原発開放隅角緑内障(広義)の手術の考え方PersonalOpinionRegardingSurgeriesforPrimaryOpen-AngleGlaucomaandNormal-TensionGlaucoma福地健郎*表1POAGの治療における手術治療の位置づけと考え方1)現時点でエビデンスのある緑内障治療は眼圧下降治療のみである.2)進行の速度はさまざまとはいえ,長期的にはほぼ全例が進行すると考えたほうが良い.手術的に眼圧が下降しても進行がまったく停止するわけはない.手術の効果も永続するものではない.余裕を残した時期に手術治療を勧める.3)眼圧と視野障害進行の関係には個人差が大きい.著しい高眼圧を除けば眼圧値のみで手術適応を決めることはできない.4)不十分な薬物治療を継続するより,視機能的には手術治療のほうが安全ということもありうる.5)手術治療を躊躇し,薬物治療に確実な改良が得られなければ,さらに悪化は確実と考えるべき.6)POAGの最終的な目標眼圧は10mmHg未満で,10mmHg台前半は決してlowではない.1032あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(20)2.視野障害の進行傾向HTGであってもNTGであっても視野障害が進行していると判定される患者で,薬物治療は限界,もしくはこれ以上はむずかしいと考えられる場合は,手術治療を考慮する.緑内障治療のうち最も大切な判断の一つと考えられるが,視野障害進行の判定と評価,薬物治療の可能性の判定など,実際にはなかなかむずかしい.進行では手術のような短絡的な判断は戒められるべきで,視野障害およびその進行の質と量を再評価したうえで,適応を考える.たとえば,SAPで進行がみられるとしても,上半視野欠損のみの症例ではqualityofvision(QOV)上の問題は生じにくい(図2),一方,中心視野,特に下方中心および傍中心視野障害の著しい例では積極的な治0%20%40%60%80%100%~8mmHg8~10mmHg10~12mmHg12~14mmHg14~16mmHg16~18mmHg18~20mmHg20~22mmHg22~mmHg■:非進行(>-0.3dB/年)■:進行(≦-0.3dB/年)図1HTG(狭義・POAG)症例の眼圧と視野障害の進行POAG症例でも高眼圧型の場合には,経過眼圧値と視野障害進行速度にある程度のパターンがみられる.経過中の平均眼圧値が22mmHg以上の症例では確実に進行すると考えたほうが良い.10mmHg未満では進行の速い症例はみられなかった.図2手術適応は視野障害進行の有無だけでなく,年齢や視野障害のQOVへの影響を考慮症例は74歳,女性,治療前眼圧値は両眼とも17mmHg,この5年の経過眼圧値は11.14mmHgである.MDスロープは右眼:.0.78dB/年,左眼:.0.60dB/年とやや速い進行速度で悪化しているが,両眼とも視野障害は上半視野に限局している.OCTによる観察でも上半の網膜神経線維層,網膜神経節細胞複合体はよく保たれている.QOV的な予後は楽観的と考えられるため,手術適応とは考えなかった.(21)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101033IIINTGの手術適応CollaborativeNormalTensionGlaucomaStudy(CNTGS)の結果からも,NTGであっても治療前値に対して30%以上の眼圧下降で視野障害進行が抑制されることが示されている2).NTGに対する濾過手術前後の視野障害進行について検討し,眼圧下降によって進行速度が有意に減速したという報告がみられる3~5).NTGに関しては経過眼圧値と視野障害進行速度の間に全体としては明らかな関係は乏しく,症例ごとの差を判別しなければいけない.眼圧値そのもので手術適応を決めることは不可能で,眼圧値でその後の経過を予想することもむずかしい.視野障害進行の有無,速度,領域,年齢などを考慮して,生涯にわたる視機能,QOVを確保することが困難と考えられる症例で手術を勧めることが原則である.NTGでも薬剤による眼圧下降効果が少なく療が必要である(図3).3.重篤な視野障害に対して相対的な高眼圧緑内障の治療効果は,“視野の悪化”で判定される.視野障害が重篤な場合には,すでに治療効果を判定する余裕もないということがある.発見された段階で,すでに後期視野障害という症例,特に視力低下,中心に接する視野欠損,重篤な下半視野障害,若年などの条件は視機能的,qualityoflife(QOL)的に予後不良と考えられる条件である.このような症例では薬物治療で,いわゆる目標眼圧を安定して保てない場合に,片眼の手術的治療は一つの選択肢として勧められる.逆に長期に経過観察をされ,相対的に高眼圧ではあっても視野障害はほとんど停止という症例では,手術適応とはいえない.個々の差をすでに見きわめていると考えられる.図3クラスタ別トレンド解析による進行判定と手術適応決定の一例症例は59歳,女性,治療前眼圧値は両眼とも18mmHgで,左眼の経過眼圧値は12.14mmHgであった.MDスロープとともに,上下傍中心(①,⑨),下Bjerrum(⑩),下方(⑫+⑬+⑭)で進行と判定された.MDスロープで中等度の進行速度があるだけではなく,自覚的視機能に直結するセクタ①,⑨,⑩の進行が顕著で,その後にマイトマイシンC(MMC)トラベクレクトミーが行われた.Humphrey視野の結果をSuzukiYetal:Ophthalmology,1993を参考に10クラスタに分け,HfaFilesver5(BeelineOffice社)を用いて解析した.MDスロープ-0.77dB.年,p=0.17%①-2.11dB.年,p=0.33%⑨-1.66dB.年,p=2.80%②.0.15dB/年⑩-0.90dB.年,p=2.56%③.1.33dB/年⑪.0.07dB/年④⑤⑥.0.24dB/年⑫⑬⑭-0.53dB.年,p=2.42%⑦⑧+0.09dB/年⑮.0.10dB/年1034あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(22)に設定すべきだろうか?図1に示したような進行の確率という考え方,濾過手術の長期経過による瘢痕化で次第に眼圧が上昇してくるという傾向を考慮すると,濾過手術を行う場合には10mmHg以下を目指すというのが一般的である6).さらに低眼圧による副作用の可能性を除くという意味で,5~10mmHgに設定することが勧められている.では,10mmHg以下に下げなければいけないのか,という疑問も生ずる.HTGに限ったものであるが,筆者らの施設で濾過手術前後の視野障害進行速度を比較できた13例の結果を図5に示した.症例数が少ないとはmiddleteens以上で経過,かつ視野障害が進行する例での手術適応の判断にはあまり躊躇しない.一方,薬剤が有効で眼圧lowteens以下で経過,しかし視野障害が進行する例の手術適応の判断はむずかしい.より視野障害の重篤な眼で「手術治療の効果を試す」という考え方ができ,濾過手術を行って10mmHg以下に維持した状態で視野経過を再確認していく,というのも治療法の一つである(図4).IVPOAGの手術後目標眼圧POAGで手術を行った場合の目標眼圧はどのくらいMD(HFA)050-5-5-10-10-15-15-202000/03/242001/03/161999/07/031999/04/161999/02/121997/06/061998/10/021996/12/061996/10/091996/04/121995/05/081994/11/141994/03/041993/11/241993/02/241992/05/27RLR下半視野R上半視野L下半視野L上半視野-1.31dB/Y±2.81p=0.00%-0.26dB/Y±0.56p=0.15%R13.1±1.12(12~15)mmHgL7.9±0.73(7~10)mmHg実線-1.44dB/Y±3.09p=0.00%点線-0.79dB/Y±1.70p=0.04%実線-0.29dB/Y±0.62p=1.20%点線-0.09dB/Y±0.20TD(HFA)図4NTGに対する手術治療と薬物治療症例は62歳,女性,1991年にNTGと診断された.治療前眼圧値は両眼とも16mmHgであった.視野障害の先行している左眼に対してMMCトレベクレクトミーが行われた.その後,約10年経過観察され,右眼眼圧は平均13.1±1.12(12.15)mmHg,左眼眼圧は7.9±0.73(7.10)mmHgであった.右眼の進行速度は.1.31dB/年に対して,左眼は.0.26dB/年であった.不十分な薬物治療よりも,手術治療のほうが視機能予後が良いことも起こりうるということを示唆する例である.(23)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101035含め,これら手術の術後眼圧はmiddleteens程度との報告が多い.濾過手術は眼圧下降という利点に対して,術後感染を代表とする合併症という欠点は大きい.HTGで視野障害が軽度の症例では,まずこれらの房水流出路系手術を試みることも一つの方法である.middleteensで十分に進行が緩やかになる症例である可能性もあり,仮にさらに視野障害が進行しその後に濾過手術を要するとしてもその損失はまだ大きくないという考え方もできる.濾過手術の時期を遅らせるというメリットもあるかもしれない.また,これらの術式は濾過手術とは異なり,薬物治療との併用に適している.手術に加えて従来よりも積極的に薬物による治療を併用することでより低眼圧,さらに緩徐な視野障害進行が得られる可能性は残されている.一方,視野障害の重篤な症例やNTG症例で手術適応を考える場合に,一般的には房水流出路系手術のメリットは少ない.その後の進行の確率をより下げるという目的から考えると,上記のように10mmHg以下を術後目標眼圧と設定して濾過手術を行うことが勧められる.文献1)福地健郎:原発開放隅角緑内障(POAG)の治療と管理は?あたらしい眼科25(臨増):101-103,20082)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormaltensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)HitchingsRA,WuJ,PoinoosawmyDetal:Surgeryfornormaltensionglaucoma.BrJOphthalmol79:402-406,19954)DaugelieneL,YamamotoT,KitazawaY:Effectoftrabeculectomyonvisualfieldinprogressivenormal-tensionglaucoma.JGlaucoma42:286-292,19985)ShigeedaT,TomidokoroA,AraieMetal:Long-termfollow-upofvisualfieldprogressionaftertrabeculectomyinprogressivenormal-tensionglaucoma.Ophthalmology109:766-770,20026)HaraT,AraieM,ShiratoSetal:Conditionsforbalancebetweenlowernormalpressurecontrolandhypotonyinmitomycintrabeculectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol236:420-425,19987)SpiegelD,Garcia-FeijooJ,Garcia-SanchezJetal:Coexistentprimaryopen-angleglaucomaandcataract:preliminaryanalysisoftreatmentbycataractsurgeryandtheいえ,術後平均経過眼圧値が15mmHg以下のすべての症例でMD(meandeviation)スロープは.0.3dB/年以上と,進行はきわめて緩徐になっている.一方で15mmHgを超えていても,さらには術前に対してさほど大きく眼圧が下降していなくとも,術後の進行が緩やかになっている症例が多い.設定した目標値をクリアできなくても視野障害進行に対するアドバンテージが得られる可能性はあると理解してよいと思う.このことは術前の眼圧値で個別に適切な術後眼圧値設定はむずかしいことも意味している.おそらく濾過手術後,仮に眼圧値の平均が同じでも,変動が減少している可能性があり,眼圧の質が変わっている可能性がある.VPOAGに対する術式の選択房水流出路再建術として日本ではトラベクロトミーがおもに用いられる.海外では類似と考えられる術式として,iStent7),Trabecutome8),Canaloplasty9),などが紹介され,治療成績が報告されつつある.これらの手術は日本人のPOAGに対する手術治療として,どのように用いることができるだろうか?トラベクロトミーをMDスロープ(dB/年)LEC:×術前・●術後NPT:+術前・■術後平均経過眼圧値(mmHg)021.510.50-0.5-1-1.5-2-2.5-351015202530図5HTG眼の濾過手術前後の平均経過眼圧値と視野障害進行速度(MDスロープ)術前後に4年以上の経過観察期間があり,信頼性あるMDスロープが得られるHTG症例を選択した.術後,15mmHg以下では全例で進行が緩やかになっている.眼圧下降が不十分でも視野障害進行が顕著に抑制される例もみられる(青×・紫+).個々でみると適切な術後眼圧値設定がむずかしいことを示唆している.術前(×/+)に対して同じ色の術後(●/■).LEC:トラベクレクトミー,NPT:非穿孔性トラベクレクトミー.1036あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(24)9)LewisRA,vonWolffK,TetzMetal:Canaloplasty:circumferentialviscodilationandtensioningofSchlemm’scanalusingaflexiblemicrocatheterforthetreatmentofopen-angleglaucomainadults:interimclinicalstudyanalysis.JCataractRefractSurg33:1217-1226,2007iStenttrabecularmicro-bypassstent.AdvTher25:453-464,20088)MincklerDS,BaerveltG,RamirezMAetal:ClinicalresultswiththeTrabecutomefortreatmentofopen-angleglaucoma.Ophthalmology112:962-965,2005