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序説:光干渉断層計と黄斑疾患

2011年9月30日 金曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYOCTによる眼科病理・病態学がどこまで達しているのかを中心に解説していただいた.OCTによる病態解明への挑戦は多岐にわたるが,筆者らは大きく3つの方向性があると考えている.すなわち,(1)spectral-domainOCTの出現以後,画像が飛躍的に向上した視細胞の生体組織学,(2)さまざまな技法・技術を用いた脈絡膜のOCT画像化,そして(3)新技術を導入した高機能OCTである.視機能に直結する視細胞の評価は,直接視力低下の原因や予後を推察するうえで,非常に重要である.このような重要な組織にもかかわらず,特定部位の視細胞機能評価は非常に困難であった.OCTにおける視細胞内節・外節接合部のシグナルは,視機能と強く関連するとされている.岸章治先生(群馬大)には視細胞外節に注目して,その基本的な見方から,さまざまな黄斑疾患における視細胞機能評価法としてのOCTの役割を解説していただいた.また,硝子体術者にとって,黄斑疾患術後の回復や予後の予測は非常に重要な問題である.井上麻衣子・門之園一明両先生(横浜市大医療センター)には,硝子体手術後の視機能の回復とOCTの特一つの発明が,根本から眼底の診断学を変えようとしている.1990年にHuangらがScience誌に発表した光干渉断層計(OCT)は,眼底の断面を撮影するという画期的なものであった.OCTから得られる情報は,従来の超音波断層検査をはるかに上回るものであったが,最初の想定は,あくまで補助診断であり,検眼鏡診断の隙間を埋めるという程度の認識であった.その後20年,OCTの高速化,高解像度化は当初の期待をはるかに上回り,大袈裟に言えば,今や検眼鏡所見よりも精度が高い,網膜診療必須のツールとなった.OCTの役割は単に診断精度を上げたにとどまらない.病態に対する理解も大きく進んだ.“invivobiopsy”という言葉のごとく,生体から網膜の一部を画像として取り出す過程はまさに,検体から組織切片を得る病理学と同じである.病理組織学に近いレベルの画質が得られるようになったOCTは,生きたまま組織を観察する「生体組織学」を可能にした.現在,OCTによる病態研究の成果が,日本の研究グループから次々と発信されている.わが国はまさに,OCT研究においては,世界のイニシアチブを取っているといっても過言ではない.今回はそのなかでも,最先端の研究をされている先生方に,(1)1221*YasushiIkuno:大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座**TatsuroIshibashi:九州大学大学院医学研究院眼科学分野●序説あたらしい眼科28(9):1221?1222,2011光干渉断層計と黄斑疾患OpticalCoherenceTomographyandMacularDiseases生野恭司*石橋達朗**1222あたらしい眼科Vol.28,No.9,2011(2)徴・変化に関して解説していただいた.脈絡膜は加齢黄斑変性,中心性漿液性脈絡網膜症,近視性網脈絡膜萎縮など主たる黄斑疾患の根源となる組織である.しかしながら最近まで,インドシアニングリーン蛍光造影が唯一の検査法であった.OCTの進歩はこの脈絡膜にまでメスを入れようとしている.佐柳香織先生(淀川キリスト教病院)には,長波長光源を用いた新しい高侵達OCTによる,正常眼ならびに近視眼の脈絡膜画像診断法を解説していただいた.また,簡便に脈絡膜を観察する方法として,従来のOCTを押し込むenhanceddepthimaging法が盛んに行われている.丸子一郎先生(福島県医大)と白神千恵子先生(香川大)には,黄斑疾病の代表格である中心性漿液性脈絡網膜症と加齢黄斑変性における脈絡膜の特徴的OCT所見と脈絡膜血管の病態との関連性を解説していただいた.このように「最後の暗黒大陸」といわれた脈絡膜を「可視化」することで,今後失明原因として重要な黄斑疾患の早期診断や病態解明が促進されることが期待される.OCTの優位性の一つに「定量化」があげられる.有名なものとして,緑内障診断に重要な神経線維層厚があるが,OCTの進歩に伴い,さまざまな形態的パラメータが登場すると考えられる.この点については伊藤逸毅先生(名古屋大)に解説していただいた.また,OCTはまだ進化し続けている.通常のOCTでは横方向の解像度に制限があり,細胞レベルまでの解像度は理論上不可能である.大音壮太郎先生(京都大)には収差を補正して,解像度を極限にまで上げる補償光学技術(adaptiveoptics:AO)の応用について,最後に三浦雅博先生(東京医大・茨城医療センター)には,機能を付加したいわゆるfunctionalOCTの一つの形で,血流を測定することが可能なドップラーOCTについて解説していただいた.最後に,ここにあげたトピックはすべて,これからのOCT生体組織学の主流となるものばかりである.読者の先生には文章もさることながら,数々の美しい画像も楽しんでいただければ望外の喜びである.

原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(149)1209《原著》あたらしい眼科28(8):1209?1215,2011cはじめにビマトプロストは,米国アラガン社において新規に合成された眼圧下降薬(プロスタマイド誘導体)である.これまで,おもに米国において有効性および安全性を検討するための種々の臨床試験が実施されており,それらの臨床試験成績から,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,1日1回点眼で0.5%チモロールマレイン酸塩点眼剤に比べて有意に優れた眼圧下降効果を示し1~3),また,0.005%ラタノプロスト点眼剤(ラ〔別刷請求先〕新家眞:〒158-8531東京都世田谷区上用賀6-25-1公立学校共済組合関東中央病院Reprintrequests:MakotoAraie,M.D.,Ph.D.,KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,6-25-1Kamiyoga,Setagaya-ku,Tokyo158-8531,JAPAN原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.03%ビマトプロスト点眼剤の長期投与試験新家眞*1北澤克明*2*1公立学校共済組合関東中央病院*2赤坂北澤眼科Long-TermEfficacyandSafetyof0.03%BimatoprostOphthalmicSolutioninPatientswithPrimaryOpen-AngleGlaucomaorOcularHypertensionMakotoAraie1)andYoshiakiKitazawa2)1)KantoCentralHospitaloftheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers,2)AkasakaKitazawaEyeClinic原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症の患者を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を52週間点眼したときの有効性および安全性を検討した.投与前の眼圧値の平均値は21.8mmHgであり,投与後のすべての観察時点において?6.3~?7.2mmHgの眼圧変化値を示し,投与前と比較して統計学的に有意な差が認められた.また,診断名別の層別解析の結果,正常眼圧緑内障に関しては,投与前の眼圧値の平均値は18.5mmHgであり,投与後のすべての観察時点において?4.7~?6.1mmHgの眼圧変化値を示し,投与前と比較して統計学的に有意な差が認められた.副作用は136例中125例(91.9%)に認められた.しかし,そのほとんどは軽度な事象であり,重篤な副作用は認められなかった.全身性の副作用はほとんどみられず,血液学的検査などの臨床検査の結果からも全身的に高い安全性を有することが示唆された.副作用による中止は11例(8.1%)であったが,いずれも視機能へ影響を及ぼす重大なものではなかった.以上の結果より,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,52週間の長期投与においても投与期間を通して安定した眼圧下降効果を示し,その副作用は忍容できるものであることが確認できた.Theefficacyandsafetyof0.03%bimatoprostophthalmicsolution(bimatoprost)wereevaluatedinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(includingnormal-tensionglaucoma:NTG)orocularhypertensionafterinstillationfor52weeks.Thebaselineintraocularpressure(IOP)was21.8mmHgandtheIOPchangefrombaselinewassignificantlymaintainedatfrom?6.3mmHgto?7.2mmHgthroughoutthe52-weekfollow-upperiod.InthepatientswithNTG,thebaselineIOPwas18.5mmHgandtheIOPchangefrombaselinewassignificantlymaintainedatfrom?4.7mmHgto?6.1mmHgthroughoutthe52-weekfollow-upperiod.Theadversedrugreaction(ADR)incidenceratewithbimatoprostwas91.9%(125of136subjects);however,noseriousADRsoccurredandmostoftheeventsweremildinseverity.FewsystemicADRswerereported,indicatingthatthisdrughadlittlesystemiceffects.AlthoughthetreatmentwasdiscontinuedduetoADRsin11subjects(8.1%),bimatoprostcausednosignificanteventenoughtoaffectvisualfunction.Insummary,theIOP-loweringeffectof0.03%bimatoprostophthalmicsolutionwasstableduring52-weeklong-termadministration,andtheADRswerewelltolerated.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1209?1215,2011〕Keywords:ビマトプロスト,長期投与,緑内障,眼圧,臨床試験.bimatoprost,long-term,glaucoma,intraocularpressure,clinicaltrial.1210あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(150)タノプロスト点眼剤)に比べても同程度以上の眼圧下降効果を有することが確認されている4~7).長期にわたる投与においても安定した眼圧下降が認められ,結膜充血,睫毛の成長,眼そう痒症,眼瞼色素沈着などの眼局所における副作用が発現したものの,大部分は軽度から中等度であり,安全性について特に問題のないことが示された3).これらの成績により,米国では2001年3月に0.03%ビマトプロスト点眼剤(1日1回点眼)が開放隅角緑内障または高眼圧症を適応症として承認され,その後現在までに多くの国と地域で市販承認されている.わが国においては,原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象として,0.03%ビマトプロスト点眼剤を12週間点眼したときの有効性および安全性が無作為化単盲検群間比較試験によりラタノプロスト点眼剤と比較されており,0.03%ビマトプロスト点眼剤はラタノプロスト点眼剤に劣らず,臨床的に有用な薬剤であることが示されている8).海外で実施された臨床試験3)により,0.03%ビマトプロスト点眼剤の52週間点眼時の安全性は確認されているが,わが国においても長期点眼における安全性の検討が必要であると考え,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象とした長期投与試験(52週間)を実施した.なお,本治験は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則,薬事法第14条第3項および80条の2に規定する基準ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)に関する省令」などの関連規制法規を遵守して実施した.I方法1.治験実施期間および治験実施施設2004年10月から2006年3月までに,表1に示した24施設で実施した.実施に先立ち,治験実施計画について,各実施医療機関の治験審査委員会の承認を受けた.2.対象両眼ともに原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症と診断され,投与開始日の眼圧が両眼とも34mmHg以下かつ有効性評価の対象眼の眼圧が16mmHg以上(高眼圧症は22mmHg以上)の満20歳以上の外来患者を対象とした.治験参加に先立ち,同意取得用の説明文書および同意文書を患者に手渡して十分説明したうえで,治験参加について自由意志による同意を文書で得た.なお,性別は不問としたが,つぎの患者は対象より除外した.1)緑内障,高眼圧症以外の活動性の眼疾患を有する者2)治験期間中に病状が進行する恐れのある網膜疾患を有する者3)角膜屈折矯正手術および濾過手術の既往を有する者4)同意取得時から過去3カ月以内にいずれかの眼に内眼手術(緑内障に対するレーザー療法を含む)を受けた者5)投与開始1週間前から治療期間中を通じてコンタクトレンズの装用が必要な者6)本剤の類薬に対し,アレルギーあるいは重大な副作用の既往のある者7)妊娠,授乳中の患者または妊娠している可能性のある者あるいは妊娠を希望している者8)Aulhorn分類Greve変法に基づく視野欠損の程度が,いずれかの眼でStage5または6と判定された者9)投与開始日の細隙灯顕微鏡検査において,いずれかの眼に中等度以上の結膜充血が認められた者10)同意取得時から治験薬の投与終了までに併用禁止薬剤を使用する可能性がある者11)圧平眼圧計による正確な眼圧の測定に支障をきたすと思われる角膜異常のある者12)同意取得時から過去3カ月以内に他の臨床試験(医療用具を含む)に参加した者,本治験中に他の治験に参加する予定の者13)その他,治験責任医師または治験分担医師が本治験に適切でないと判断した者3.治験薬および投与方法治験薬として,1mL中にビマトプロスト0.3mgを含む点表1治験実施施設医療機関治験責任医師花川眼科田辺裕子能戸眼科医院小竹聡石丸眼科石丸裕晃レニア会武谷ピニロピ記念きよせの森総合病院武井歩東京都老人医療センター沼賀二郎済安堂お茶の水・井上眼科クリニック*井上賢治ルチア会みやざき眼科宮崎明子むらまつ眼科医院村松知幸富士青陵会中島眼科クリニック中島徹杉浦眼科杉浦毅労働者健康福祉機構中部労災病院鈴木聡,古田祐子,丹羽英康湘山会眼科三宅病院三宅謙作碧樹会山林眼科山林茂樹こうさか眼科高坂昌志遠谷眼科遠谷茂新見眼科新見浩司越智眼科越智利行広田眼科広田篤宇部興産株式会社中央病院鈴木克佳,井形岳郎幸友会幸塚眼科岡本茂樹朔夏会さっか眼科医院属佑二大成会福岡記念病院新井三樹,熊野けい子研英会林眼科病院林研医療法人陽幸会うのき眼科鵜木一彦*旧:済安堂井上眼科病院付属お茶の水・眼科クリニック.(151)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111211眼剤を用いた.治験薬は1日1回午後8時~10時の間に,両眼に1滴ずつ,52週間点眼した.4.Washout眼圧下降薬を使用している患者に対しては,表2に示したwashout期間を設定した.5.検査・観察項目投与開始後4週間ごとに,眼圧検査(Goldmann圧平眼圧計),細隙灯顕微鏡などを用いた他覚所見の観察(眼瞼,結膜,角膜,水晶体,前房,睫毛および虹彩)および生理学的検査(血圧,脈拍数)を行った.なお,他覚所見に関しては,眼瞼紅斑(発赤の範囲),眼瞼浮腫(腫脹の範囲),結膜充血(充血の程度),結膜浮腫(腫脹の範囲),角膜浮腫(浮腫の範囲),角膜びらん(フルオレセイン染色の範囲),角膜内皮への色素沈着(程度),角膜変性(滴状角膜の程度),水晶体混濁(核の色調,混濁の範囲),前房細胞数(細胞数),前房フレア(散乱光の程度),虹彩前癒着(癒着の範囲),虹彩後癒着(癒着の範囲)について0~3点の4段階の採点基準を設けたが,それ以外の事象に関しては基準を設けなかった(括弧内は,判定内容).眼圧は午前8時~11時の間に測定した.投与開始日,投与12,28,40および52週間後に睫毛,眼瞼および虹彩の写真撮影を行った.スクリーニング時(臨床検査は投与開始日),投与28週間後および52週間後に眼底検査,視野検査および臨床検査(血液学的検査・血液生化学的検査・尿検査)を行った.投与開始日,投与12,28,40および52週間後に視力検査を行った.6.併用薬および併用処置治験期間中は,他の緑内障・高眼圧症に対する治療薬およびステロイド薬(皮膚局所投与を除く)の使用を禁止した.併用禁止薬以外で眼圧に影響を及ぼすことが添付文書上に記載されている薬剤については,投与開始の1カ月以上前から用法用量が変更されていない,かつ治験終了時まで継続使用予定の場合には併用可能とするが,原則として新たな処方や治験期間中の用法用量の変更は行わないものとした.治験期間中,眼に対する内眼手術,濾過手術および点眼1週間前からのコンタクトレンズ装用など,治験薬の評価に影響を及ぼす処置は禁止とした.7.評価方法および統計手法投与開始日と投与後の各観察日における眼圧値の間で,1標本t検定を実施した(有意水準両側5%).また,投与開始日から投与後の各観察時点における眼圧変化値および眼圧変化率を求めた.さらに,28週間後および52週間後における眼圧変化率が?10%に達しなかった症例数とその割合(ノンレスポンダー率)を求め,95%両側信頼区間を求めた.原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症,正常眼圧緑内障に層別した集団に対しても,上記と同様に解析を実施した.安全性の評価として,治験薬投与期間中の有害事象(副作用を含む)の程度および発現頻度を求めた.視力,視野,眼底所見,生理学的検査値,臨床検査値および他覚所見の投与前後の比較を行った.安全性の評価は両眼を対象とした.有効性の評価は投与開始日の眼圧値が高いほうの眼を採用した.ただし,投与開始日の左右の眼圧値が同じ場合は,右眼を採用した.II結果1.症例の構成本剤を投与した136例のうち,不適格8例,中止14例表2Washout期間薬剤Washout期間副交感神経作動薬2週間以上炭酸脱水酵素阻害薬2週間以上交感神経作動薬2週間以上交感神経遮断薬4週間以上プロスタグランジン関連薬4週間以上2剤以上の併用4週間以上表3患者背景(有効性解析対象症例)項目分類症例数性別男性女性4763年齢(歳)20~2930~3940~4950~5960~6970~1416214523~6465~6941平均年齢(歳)60.2緑内障診断名(有効性評価対象眼)原発開放隅角緑内障正常眼圧緑内障高眼圧症404030合併症(眼局所)無有2783合併症(眼局所以外)無有3080既往歴(眼局所)無有9515治療前投薬歴無有1199治験薬投与前に行った処置無有10821212あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(152)(評価データ不足)および逸脱4例を除く110例を有効性解析対象症例(PPS)とした.投与した136例はすべて安全性解析に用いた.表3に有効性解析対象症例110例の患者背景を示した.2.有効性各観察日における眼圧値の推移を図1に,眼圧変化値の推移を表4に,眼圧変化率の推移を表5に示した.投与開始日(投与前)の眼圧値は21.8±3.3mmHgであり,投与後のすべての観察日において有意な眼圧下降が確認された(p<0.0001,1標本t検定).点眼開始後の最初の観察日である4週間後の眼圧変化値は?6.4±2.5mmHgであり,52週間後まで?6.3~?7.2mmHgの範囲で推移し,安定した眼圧下降効果がみられた.眼圧変化率についても,投与期間を通じて?28.6~?32.7%の範囲で安定した推移を示した.眼圧変化率が?10%に達しなかった症例をノンレスポンダーと定義したところ,28週間後および52週間後ともに1例のノンレスポンダーが認められたのみであり,ほとんどの症例に対して本剤が有効であった(表6).当該試験では,原発開放隅角緑内障(広義)または高眼圧症を対象としていたため,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症,正常眼圧緑内障と診断別に層別し,それぞれの眼圧下降効果について検討した.投与開始日の眼圧値は,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で23.7±2.5mmHg,正常眼圧緑内障で18.5±1.7mmHgであり,投与後のすべての観察日において有意な眼圧下降が確認された(図2,p<0.0001,1標本t検定).投与期間中の眼圧変化値は原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?7.0~?表4眼圧変化値の推移観察日例数眼圧変化値4週間後101?6.4±2.58週間後107?6.7±2.512週間後106?6.9±2.516週間後99?7.1±2.720週間後104?7.1±2.424週間後104?7.0±2.528週間後106?7.0±2.332週間後108?7.2±2.336週間後105?6.9±2.540週間後104?7.0±2.544週間後101?6.7±2.648週間後103?6.3±2.752週間後102?6.5±2.2平均値±標準偏差(mmHg).表5眼圧変化率の推移観察日例数眼圧変化率4週間後101?29.0±9.38週間後107?30.4±9.512週間後106?31.5±9.516週間後99?32.1±10.220週間後104?32.1±9.324週間後104?31.7±10.228週間後106?32.2±8.732週間後108?32.7±8.336週間後105?31.3±9.540週間後104?32.1±9.344週間後101?30.4±9.648週間後103?28.6±10.552週間後102?29.8±8.4平均値±標準偏差(%).*************28242016120481216202428323640444852観察日(週)眼圧値(mmHg)図1眼圧値の推移*p<0.05(投与開始日との比較,1標本t検定).平均値±標準偏差(mmHg).図2診断名別の眼圧値の推移*p<0.05(投与開始日との比較,1標本t検定).平均値±標準偏差(mmHg).28242016120481216202428323640444852観察日(週)眼圧値(mmHg)**************************:原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症:正常眼圧緑内障表6ノンレスポンダー率観察日ノンレスポンダーレスポンダー合計95%両側信頼区間28週間後1(0.9)1051060.0~2.852週間後1(1.0)1011020.0~2.9()内は%.(153)あたらしい眼科Vol.28,No.8,201112138.0mmHg,正常眼圧緑内障で?4.7~?6.1mmHgの範囲で推移し,投与期間を通して安定した眼圧下降効果がみられた(表7).投与期間中の眼圧変化率は原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?29.1~?33.4%,正常眼圧緑内障で?25.1~?32.9%の範囲で推移した(表8).28週間後および52週間後に認められたノンレスポンダーは,正常眼圧緑内障で1例のみであった(表9).3.安全性有害事象は136例中131例(96.3%)に発現した.このうち,副作用は125例91.9%であった.比較的頻度の高かった副作用を表10に示した.最も高頻度で発現した副作用は睫毛の成長であり,90例66.2%に発現した.その他,高頻度で発現した副作用は結膜充血,眼瞼色素沈着および虹彩色素沈着であり,それぞれ61例44.9%,42例30.9%および29例21.3%に発現した.重症度に関しては,重度の副作用は認められず,中等度の事象が19例26件(結膜充血7件,眼瞼色素沈着6件,睫毛の成長3件,虹彩色素沈着,および眼瞼紅斑がそれぞれ2件,結膜出血,アレルギー性結膜炎,虹彩炎,結膜炎,眼瞼炎および眼圧上昇が各1件)認められたが,それ以外は軽度であった.いずれも投与部位である眼部または眼周囲部の局所に発現するものであり,治験薬の点眼を継続しても程度が悪化するものではなかった.また,点眼の中止(終了)により約8割の事象が追跡調査期間中に回復または軽快した(回復:点眼開始前の状態に回復,軽快:問題ないレベルまでに達した状態).重篤な有害事象が4例(心臓神経症,膀胱瘤および眼内炎,表7診断名別の眼圧変化値の推移観察日原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症正常眼圧緑内障例数眼圧変化値例数眼圧変化値4週間後63?7.0±2.538?5.4±2.08週間後67?7.5±2.640?5.4±1.812週間後68?7.5±2.538?5.8±1.916週間後65?8.0±2.534?5.5±2.220週間後66?7.9±2.338?5.6±1.924週間後67?7.7±2.537?5.6±2.128週間後66?7.8±2.340?5.8±1.832週間後68?7.8±2.440?6.1±1.836週間後66?7.7±2.439?5.5±2.040週間後66?7.8±2.538?5.7±1.744週間後62?7.7±2.439?5.1±1.948週間後63?7.4±2.640?4.7±2.152週間後64?7.3±2.138?5.2±1.7平均値±標準偏差(mmHg).表8診断名別の眼圧変化率の推移観察日原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症正常眼圧緑内障例数眼圧変化率例数眼圧変化率4週間後63?29.1±8.638?29.0±10.48週間後67?31.5±9.640?28.7±9.012週間後68?31.6±9.538?31.3±9.716週間後65?33.4±9.334?29.5±11.620週間後66?33.1±8.538?30.2±10.424週間後67?32.5±9.737?30.2±11.228週間後66?32.9±8.740?31.0±8.632週間後68?32.5±8.440?32.9±8.236週間後66?32.3±9.339?29.6±9.740週間後66?32.8±9.738?30.9±8.744週間後62?32.3±9.139?27.2±9.648週間後63?30.8±9.740?25.1±10.952週間後64?30.7±7.738?28.1±9.4平均値±標準偏差(%).表10比較的頻度の高かった(5%以上)副作用事象名MedDRA(Ver.9.0)PT発現例数(頻度)眼障害睫毛の成長90(66.2%)結膜充血61(44.9%)眼瞼色素沈着42(30.9%)虹彩色素沈着29(21.3%)睫毛剛毛化8(5.9%)アレルギー性結膜炎7(5.1%)くぼんだ眼7(5.1%)全身障害および投与局所様態滴下投与部位そう痒感10(7.4%)皮膚および皮下組織障害多毛症9(6.6%)発現頻度:発現例数/安全性解析対象症例数(136例)×100.表9診断名別のノンレスポンダー率診断名観察日ノンレスポンダーレスポンダー合計95%両側信頼区間原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症28週間後0(0.0)66660.0~0.052週間後0(0.0)64640.0~0.0正常眼圧緑内障28週間後1(2.5)39400.0~7.352週間後1(2.6)37380.0~7.7()内は%.1214あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011副鼻腔炎,喉頭蓋炎)に認められたが,すべて治験薬との因果関係は否定された.また,本試験において死亡例はなかった.副作用による中止は11例(8.1%)14件であった.これらの中止理由は,患者からの申し出によるもの5例(眼痛:1例,虹彩色素沈着・睫毛の成長・眼瞼色素沈着:2例,睫毛の成長:2例),医学的な理由によるもの6例(虹彩炎・眼圧上昇:1例,眼瞼炎:1例,結膜充血:1例,眼瞼色素沈着:1例,結膜炎:1例,アレルギー性結膜炎:1例)であった.その他,臨床検査では,異常変動「有」と判定された症例が33例43件みられ,このうち2例3件が副作用と判定されたが,いずれも追跡調査にて基準範囲内に回復あるいは回復傾向を示した.生理学的検査では,血圧が投与開始前に比べ下降が認められたものの,変動幅は小さく,臨床上問題となるものではなかった.また,これらの検査項目以外で,特記すべきものはなかった.III考按原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症を対象として0.03%ビマトプロスト点眼剤を点眼し,有効性解析対象集団110例,安全性解析対象集団136例について,52週間点眼したときの有効性および安全性を検討した.原発開放隅角緑内障(広義)および高眼圧症において,眼圧変化値は52週間後まで?6.3~?7.2mmHgの範囲で推移し,投与期間を通して安定した眼圧下降効果が得られた.また,診断名別では,原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症では?7.0~?8.0mmHg,正常眼圧緑内障では?4.7~?6.1mmHgの範囲で推移し,両疾患群とも投与期間を通して安定した眼圧下降効果が得られた.投与期間中の眼圧変化率に関しては原発開放隅角緑内障(狭義)および高眼圧症で?29.1~?33.4%,正常眼圧緑内障では?25.1~?32.9%の範囲で推移し,正常眼圧緑内障に対しても0.03%ビマトプロスト点眼剤は強力で,安定した眼圧下降効果を示すことが確認された.0.03%ビマトプロスト点眼剤のノンレスポンダーは28週間後に0.9%および52週間後に1.0%の割合で認められた.国内で第一選択薬のラタノプロスト点眼剤は患者の10~40%にノンレスポンダーが存在することが報告されており9~13),当該試験での0.03%ビマトプロスト点眼剤のノンレスポンダー率はラタノプロストと比べて低かった.また,0.03%ビマトプロスト点眼剤はプロスタマイドアナログ製剤であり,ラタノプロスト点眼剤とは異なる作用機序を有している14,15)ことから,ラタノプロスト点眼剤に対するノンレスポンダーに対して有効であることが海外の臨床試験で明らかとなっている16~18).したがって,0.03%ビマトプロスト点眼剤が無効となる症例は少なく,ラタノプロスト点眼剤に対するノンレスポンダーに対しても0.03%ビマトプロスト点眼剤は有効な治療手段になりうると考えられる.副作用は136例中125例91.9%に認められた.しかし,そのほとんどは軽度な事象であり,重篤な副作用は認められなかった.全身性の副作用はほとんどみられず,血液学的検査などの臨床検査の結果からも0.03%ビマトプロスト点眼剤は全身的に高い安全性を有することが示唆された.原発開放隅角緑内障の有病率は高齢者に多いことが知られており,高齢者では循環器系,呼吸器系疾患の合併率が高くなることから,全身への影響の少ない0.03%ビマトプロスト点眼剤は緑内障の治療に有用であると考えられる.局所的な副作用のうち,睫毛の成長(66.2%)および結膜充血(44.9%)はこれまでに海外および国内で実施された臨床試験においても高頻度の発現が確認されている副作用であった.また,眼瞼色素沈着(30.9%)および虹彩色素沈着(21.3%)も高頻度で認められたが,これらの副作用もこれまでに発現が確認されているものであった.以上のような副作用が高頻度で発現したが,そのほとんどが軽度なものであった.その他,特徴的な副作用として,くぼんだ眼が7例5.1%発現した.近年,海外においてビマトプロスト点眼剤で同様な事象が報告されてきている19~21).その発現のメカニズムとして,眼瞼挙筋の開裂やコラーゲン線維の減少,脂肪分解などが関与している可能性が示唆されているが,まだ明確にはなっていない.また,類薬であるトラボプロスト点眼剤においても,同様に報告されている22)ことから,プロスタグランジン関連薬において誘発される副作用である可能性がある.今後,他の薬剤も含め,詳細に検討していく必要があると考えられる.なお,当該事象は回復性のある事象と報告されており,当該試験で発現した7例においても,全例回復あるいは軽快した.52週間の点眼期間中で副作用による中止は11例(8.1%)であったが,いずれも視機能へ影響を及ぼす重大なものではなかった.以上の結果より,0.03%ビマトプロスト点眼剤は,52週間の長期点眼においても安定した眼圧下降効果を示し,その副作用は忍容できるものであることが確認できた.文献1)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenKetal;BimatoprostStudyGroup:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP:a3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1032,20012)WhitcupSM,CantorLB,VanDenburghAMetal:Arandomised,doublemasked,multicentreclinicaltrialcomparingbimatoprostandtimololforthetreatmentofglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol87:57-62,(154)あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011121520033)HigginbothamEJ,SchumanJS,GoldbergIetal;BimatoprostStudyGroups1and2:One-year,randomizedstudycomparingbimatoprostandtimololinglaucomaandocularhypertension.ArchOphthalmol120:1286-1293,20024)GandolfiS,SimmonsST,SturmRetal;BimatoprostStudyGroup3:Three-monthcomparisonofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithglaucomaandocularhypertension.AdvTher18:110-121,20015)NoeckerRS,DirksMS,ChoplinNTetal;Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Asix-monthrandomizedclinicaltrialcomparingtheintraocularpressure-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.AmJOphthalmol135:55-63,20036)ChoplinN,BernsteinP,BatoosinghALetal;Bimatoprost/LatanoprostStudyGroup:Arandomized,investigator-maskedcomparisonofdiurnalresponderrateswithbimatoprostandlatanoprostintheloweringofintraocularpressure.SurvOphthalmol49(Suppl1):S19-25,20047)SimmonsST,DirksMS,NoeckerRJ:Bimatoprostversuslatanoprostinloweringintraocularpressureinglaucomaandocularhypertension:resultsfromparallel-groupcomparisontrials.AdvTher21:247-262,20048)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,20109)池田陽子,森和彦,石橋健ほか:ラタノプロストのNon-responderの検討.あたらしい眼科19:779-781,200210)木村英也,野﨑実穂,小椋祐一郎ほか:未治療緑内障眼におけるラタノプロスト単剤投与による眼圧下降効果.臨眼57:700-704,200311)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,200512)美馬彩,秦裕子,村尾史子ほか:眼圧測定時刻に留意した,正常眼圧緑内障に対するラタノプロストの眼圧下降効果の検討.臨眼60:1613-1616,200613)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb-遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,200614)LiangY,WoodwardDF,GuzmanVMetal:IdentificationandpharmacologicalcharacterizationoftheprostaglandinFPreceptorandFPreceptorvariantcomplexes.BrJPharmacol154:1079-1093,200815)LiangY,LiC,GuzmanVMetal:ComparisonofprostaglandinF2a,bimatoprost(prostamide),andbutaprost(EP2agonist)onCyr61andconnectivetissuegrowthfactorgeneexpression.JBiolChem278:27267-27277,200316)WilliamsRD:Efficacyofbimatoprostinglaucomaandocularhypertensionunresponsivetolatanoprost.AdvTher19:275-281,200217)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200318)SontyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,200819)PeplinskiLS,AlbianiSK:Deepingoflidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,200420)YamJC,YuenNS,ChanCW:Bilateraldeepeningofupperlidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy.JOculPharmacolTher25:471-472,200921)AydinS,I?ikligilI,Tek?enYAetal:Recoveryoforbitalfatpadprolapsusanddeepeningofthelidsulcusfromtopicalbimatoprosttherapy:2casereportsandreviewoftheliterature.CutanOculToxicol29:212-216,201022)YangHK,ParkKH,KimTWetal:Deepeningofeyelidsuperiorsulcusduringtopicaltravoprosttreatment.JpnJOphthalmol53:176-179,2009(155)***

全周に及ぶ毛様体色素上皮断裂と網膜剝離を伴った鈍的眼外傷の1例

2011年8月31日 水曜日

1206(14あ6)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(8):1206?1208,2011cはじめに鈍的外傷を契機として,毛様体裂孔や毛様体?離が起こることが知られている1~3).これまで報告された外傷性毛様体?離例はいずれも毛様体無色素上皮?離であり,検眼鏡所見4)や超音波生体顕微鏡(UBM)所見5)に基づいて診断がなされている.今回,外傷後に毛様体色素上皮?離と網膜?離を伴った症例を経験したので報告する.診断は病理組織所見に基づいて行われた.本症例では硝子体基底部にかかる牽引によって毛様体色素上皮が,結合組織層と血管毛様体筋などが存在する毛様体実質からほぼ全周にわたってリング状にはずれ,硝子体腔内に浮遊していた.毛様体色素上皮?離はまれであり,眼外傷による毛様体障害の機序解明の一助になると考え報告する.I症例呈示患者:17歳,男児.主訴:左眼の視力低下.既往歴:小学生までアトピー性皮膚炎の治療を受けていた〔別刷請求先〕神大介:〒010-8543秋田市広面字蓮沼44-2秋田大学大学院医学系研究科病態制御医学系眼科学講座Reprintrequests:DaisukeJin,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AkitaGraduateUniversitySchoolofMedicine,44-2HiroomoteazaHasunuma,Akita010-8543,JAPAN全周に及ぶ毛様体色素上皮断裂と網膜?離を伴った鈍的眼外傷の1例神大介藤原聡之石川誠高関早苗吉冨健志秋田大学大学院医学系研究科病態制御医学系眼科学講座ACaseofCiliaryEpitheliumDetachmentinRhegmatogenousRetinalDetachmentAssociatedwithBluntEyeInjuryDaisukeJin,ToshiyukiFujiwara,MakotoIshikawa,SanaeTakasekiandTakeshiYoshitomiDepartmentofOphthalmology,AkitaGraduateUniversitySchoolofMedicine症例:17歳,男児.相撲の練習中,張り手が左眼に当たった直後から左眼の視力低下を自覚.左眼に水晶体混濁と硝子体混濁,および全周に及ぶ毛様体上皮断裂と網膜?離を認めたため,水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,硝子体切除術,輪状締結術を施行し復位を得た.術中,全周の毛様体上皮がリング状に外れ,硝子体腔内に浮遊しているのを確認した.病理組織検査で,?離した毛様体上皮は無色素上皮と色素上皮の2層構造から成ることが明らかになった.結論:鈍的眼外傷後の毛様体色素上皮?離はまれであり,硝子体基底部にかかる強い牽引が成因に関与していると考えられる.Casereport:Wereportacaseoftraumaticretinaldetachmentaccompaniedbyalargebreakintheparsplana.Thelefteyeofa17-year-oldmalewasstruckduringsumowrestlingpractice,andsufferedsuddenvisualacuityloss.Anteriorsubcapsularcataract,vitreousopacity,andretinaldetachmentwereobservedintheeye.Inthevitreouscavity,wefoundacircumferentialstring-likestructurefloatingalongtheoraserrata.Histologicalexaminationrevealedthatitwasderivedfromthedetachedciliaryepitheliumandcomprisednon-pigmentedandpigmentedepithelium.Surgerieswithscleralbucklingprocedurecombinedwithcataractsurgeryandvitrectomybroughtaboutreattachmentoftheretina.Conclusions:Thiscaseindicatesthatcontractionofthevitreousbasemightbeanindicationofciliarypigmentedepitheliumdetachment,whichcouldleadtorhegmatogenousretinaldetachment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1206?1208,2011〕Keywords:鈍的眼外傷,毛様体上皮?離,外傷性網膜?離,病理組織検査.blunteyeinjury,detachmentofciliarypigmentedepithelium,traumaticretinaldetachment,pathologicalexamination.(147)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111207が,現在は無治療でコントロールされている.現病歴:相撲の練習中に張り手が左眼に当たった直後から左眼の視力低下を自覚.近医受診し左眼網膜?離の診断で,平成21年5月28日,秋田大学医学部附属病院眼科に紹介となった.初診時眼所見:右眼視力0.6(1.2×?0.75D),左眼視力0.3(0.5×?0.75D(cyl?0.5DAx10°).眼圧は右眼23mmHg,左眼17mmHg.両眼ともに角膜は透明で,前眼内に炎症などはみられなかった.左眼の水晶体は前?下白内障を認めたが,水晶体偏位はみられなかった.眼底には硝子体混濁と上方と鼻下側の網膜?離を認めた(図1).右眼は中間透光体,眼底に異常は認めなかった.臨床経過:入院時,後?下白内障が進行し,左眼視力矯正(0.3×?0.75D(cyl?0.5DAx180°)と低下した.左眼白内障による視力低下と眼底視認性の低下があり,患者本人と両親の同意を得たうえで,平成21年6月9日,全身麻酔下にて左眼の水晶体超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術および20ゲージ硝子体切除術,輪状締結術を施行した.水晶体超音波乳化吸引術ならびに眼内レンズ挿入術を施行後,左眼眼底に11時から12時,7時から8時にかけての2カ所の鋸状縁裂孔と,それ以外のほぼ全周にわたる毛様体扁平部断裂を認めた.10時から12時の範囲の周辺部に網膜?離を認めた.また,有色素性のリング状構造が,水晶体後?の後面付近に浮遊しているのを確認した(図2).硝子体基底部は,網膜最周辺部および毛様体表面から全周で?離していた.リング状構造は,?離した硝子体基底部と接着していた.リング状構造周囲の硝子体を切除し遊離させた後,硝子体鑷子にてこれを把持しポートから採取した.採取した組織は綿棒先端に付着させ,ホルマリン固定を行った.視神経乳頭上で後部硝子体?離を確認し,可能な限り硝子体を切除した.全周の毛様体断裂を冷凍凝固後,輪状締結術(#240シリコーンバンド),液-ガス置換を施行し,30%SF6(六フッ化硫黄)ガスを注入して終了した.病理組織所見:リング状の組織は毛様体色素上皮が毛様体実質から?離したものであり,毛様体無色素上皮と毛様体色素上皮の2層で構成されていた(図3).毛様体色素上皮の硝子体腔面には,硝子体線維の付着が認められた.術後経過:左眼に網膜?離の再発はなく,左眼視力は0.1(0.9×?2.0D(cyl?2.25DAx180°)であった.UBMを用いて隅角を検査したが,毛様体解離は認めなかった.II考按毛様体上皮細胞は神経外胚葉に由来し,無色素上皮と色素上皮の2層で構成されている.毛様体無色素上皮は感覚網膜鋸状縁裂孔毛様体上皮と浮遊する硝子体毛様体扁平部断裂図1初診時眼底所見11時から12時,7時から8時にかけての鋸状縁裂孔と,それ以外のほぼ全周にわたる毛様体扁平部断裂を認めた.10時から12時の範囲の周辺部に網膜?離を認めた.網膜?離は有色素性リング状構造が水晶体後?の後面付近に浮遊していた.リング状構造は,?離した硝子体基底部と接着していた.図2硝子体手術中の顕微鏡写真リング状組織が,後?後面に浮遊していた.←硝子体側←無色素上皮←色素上皮図3リング状組織のHE染色パラフィン切片の光顕写真リング状の組織は毛様体無色素上皮と毛様体色素上皮の2層で構成されていた.毛様体無色素上皮の硝子体腔面には,硝子体線維が付着していた.1208あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(148)に,色素上皮は網膜色素上皮に移行する.両者の細胞頂部は互いに向き合い,豊富な細胞間結合装置によって接合されている6).本症例では無色素上皮と色素上皮間の接合は維持され,毛様体色素上皮が毛様体実質から?離していた.毛様体無色素上皮の硝子体腔面には,硝子体線維の付着が認められたことから,その成因には硝子体の牽引が関与していると考えられた.鈍的外傷を契機として発生する毛様体?離の多くは毛様体無色素上皮?離であり,毛様体色素上皮?離の報告はまれである4,5).アトピー性皮膚炎患者でみられる毛様体?離もまた毛様体無色素上皮?離7)であり,成因として毛様体色素上皮の脆弱性,および無色素上皮・色素上皮間の接着性の低下が考えられる8).本症例ではアトピー性皮膚炎の既往はあるが,現在は無治療でコントロールされている.アトピー性皮膚炎に特徴的な毛様体無色素上皮?離はみられず,アトピー性皮膚炎の関与は少ないと考えられた.III結論鈍的外傷後に水晶体後面にリング状組織がみられた.病理組織学的検査を行ったところ毛様体無色素上皮と毛様体上皮の2層で構成されていた.毛様体色素上皮?離はまれであり,その機序として硝子体基底部による強い牽引が考えられた.文献1)CoxMS,SchepensCL,FreemanHM:Retinaldetachmentduetoocularcontusion.ArchOphthalmol76:678-685,19662)LongJC,DanielsonRW:Traumaticdetachmentofretinaandofparsciliarisretinae.AmJOphthalmol36:515-516,19533)IijimaY,WagaiK,MatsuuraYetal:Retinaldetachmentwithbreaksintheparsplicataoftheciliarybody.AmJOphthalmol108:349-355,19894)AlappattJJ,HutchinsRK:Retinaldetachmentsduetotraumatictearsintheparsplanaciliaris.Retina18:506-509,19985)TanakaS,TakeuchiA,IdetaH:Ultrasoundbiomicroscopyfordetectionofbreaksanddetachmentoftheciliaryepithelium.AmJOphthalmol128:466-471,19996)大熊正人,沖波聡,塚原勇:Freeze-Fracture法による人眼毛様体上皮のTightJunctionとGapJunction.日眼会誌80:1593-1597,19767)八木橋朋之,岩崎拓也,中田安彦ほか:アトピー性皮膚炎に発症した毛様体突起部無色素上皮?離の検討.臨眼54:1062-1066,20008)小田仁,桂弘:アトピー性皮膚炎患者に伴う毛様体皺襞部裂孔の5例.臨眼48:1533-1537,1994***

角膜内皮移植術後の屈折と眼内レンズ度数誤差

2011年8月31日 水曜日

1202(14あ2)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(8):1202?1205,2011cはじめに水疱性角膜症に対する手術としては従来,全層角膜移植術が行われてきたが,術中の駆逐性出血の危険性や術後の不正乱視,拒絶反応,創口離開などの合併症がときに問題となった.近年,手術方法の進歩により,病変部のみを移植する「角膜パーツ移植」という概念が生まれ,水疱性角膜症に対し角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)が行われるようになってきた1).角膜内皮移植術は全層角膜移植術と比較すると,術中の重篤な合併症の危険性は低く,移植片を縫合しないこ〔別刷請求先〕市橋慶之:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YoshiyukiIchihashi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN角膜内皮移植術後の屈折と眼内レンズ度数誤差市橋慶之*1榛村真智子*2山口剛史*2島﨑潤*2*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2東京歯科大学市川総合病院眼科RefractiveChangeandTargeted/ActualPostoperativeRefractionDifferentialafterDescemet’sStrippingandAutomatedEndothelialKeratoplastyOnlyorCombinedwithPhacoemulsificationandIntraocularLensImplantationYoshiyukiIchihashi1),MachikoShimmura2),TakefumiYamaguchi2)andJunShimazaki2)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoDentalCollegeIchikawaGeneralHospital目的:Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)後の屈折推移と眼内レンズ度数誤差を検討する.対象および方法:対象は,DSAEKを施行した水疱性角膜症39例44眼,平均年齢70.4歳.手術の内訳はDSAEKのみ19眼,DSAEKと白内障同時手術19眼,白内障術後にDSAEK試行例(二期的手術)6眼であった.術前ケラト値が測定不能例では対眼値を使用した.術後の屈折推移,眼内レンズ度数誤差について調べた.結果:平均観察期間は9.8±5.3カ月.術後平均自覚乱視は2D以下で,早期から屈折の安定が得られた.等価球面度数は術後に軽度の遠視化を認めた.DSAEKを白内障手術と同時,あるいは二期的に行った例では,眼内レンズ度数誤差は+0.41±1.58Dであり,誤差±1D以内62.5%,±2D以内87.5%であった.二期的手術では全例で誤差±1D以内であった.角膜浮腫の進行していた例では,眼内レンズ度数の誤差が大きかった.結論:DSAEKにおいては,術後の軽度遠視化を考慮し眼内レンズ度数を決定する必要がある.角膜浮腫進行例における眼内レンズ度数決定法は,より慎重であるべきと思われた.Purpose:ToinvestigaterefractivechangeandthedifferencebetweentargetedandactualpostoperativerefractionafterDescemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Materialsandmethods:Weretrospectivelyanalyzed44eyesof39patientswithcornealedemathathadundergoneDSAEK.Ofthoseeyes,19hadundergoneDSAEKonly,19hadundergoneDSAEKtripleand6hadundergoneDSAEKaftercataractsurgery.Weinvestigatedastigmatism,sphericalequivalence(SE)andtherefractiveerrorafterDSAEKtriple.Results:Meanpostoperativeastigmatismwaswithin2D.PostoperativeSEshowedmildhyperopticshift,whichaveraged+0.41Dmorehyperopicthanpredictedbypreoperativelenspowercalculations.Theratiowithrefractiveerrorwithin1.0Dwas62.5%;within2D,87.5%.AllcasesthatunderwentDSAEKaftercataractsurgerywerewithin1D.Therefractiveerrorwasgreaterincasesofstrongcorneaedema.Conclusions:DSAEKoffersanexcellentrefractiveoutcome,thoughcarefulattentionmustbepaidincaseswithstrongcorneaedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1202?1205,2011〕Keywords:角膜内皮移植術,白内障手術,角膜移植,内皮細胞,水疱性角膜症.Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty,cataractsurgery,cornealtransplant,cornealendothelium,bullouskeratopathy.(143)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111203とより術後の不正乱視は少ないという利点があると推測される.また,全層角膜移植術と比較し眼球の強度が保たれるので,眼球打撲による眼球破裂の危険性も低いと考えられる.DSAEKは,欧米を中心に盛んに行われているが,日本でも増加傾向にある2).DSAEKを施行する症例では,白内障と水疱性角膜症の合併例も多く,白内障を行った後に二期的にDSAEKを行う症例(二期的手術)や白内障手術と同時にDSAEKを行う症例(同時手術)もしばしばみられることから,術後の屈折変化や目標眼内レンズ度数との誤差が問題となる可能性が考えられる.そこで今回筆者らは,DSAEK術後の屈折変化と眼内レンズ度数の誤差について検討したので報告する.I対象および方法対象は,平成18年7月から平成20年11月までに東京歯科大学眼科で,水疱性角膜症に対してDSAEKを施行した39例44眼である.男性が9例9眼,女性が30例35眼であり,手術時年齢は70.4±9.3歳(平均±標準偏差,範囲:43~88歳)であった.本研究は,ヘルシンキ宣言の精神,疫学研究の倫理指針および当該実施計画書を遵守して実施した.手術の内訳はDSAEKのみ19眼,白内障同時手術19眼,当院で白内障手術を試行した後にDSAEKを行った二期的手術6眼であり,原因疾患は,レーザー虹彩切開術後18眼,白内障術後12眼,Fuchsジストロフィ8眼,虹彩炎後3眼,外傷後1眼,前房内への薬剤誤入後1眼,不明1眼であった.術後平均観察期間は9.8±5.8カ月(3~22カ月)であり,術後観察期間が3カ月に満たない症例は今回の検討より除外した.手術は,耳側ないし上方結膜を輪部で切開し,全例で約5mmの強角膜自己閉鎖創を作製した.約7.5~8mmの円形マーカーを用いて角膜上にマーキングし,前房内を粘弾性物質で満たした後にマーキングに沿って逆向きSinskeyフック(DSAEKPriceHook,モリア・ジャパン,東京)を用いて円形に角膜内皮面を擦過し,スクレーパー(DSAEKStripper,モリア・ジャパン)を用いてDescemet膜を?離除去した.前房内の粘弾性物質を除去し,インフュージョンカニューラ(DSAEKChamberMaintainer,モリア・ジャパン)を用いて前房を維持した.あらかじめアイバンクによってマイクロケラトームを用いてカットされた直径7.5~8.0mmのプレカットドナー輸入角膜を前?鑷子(稲村氏カプシュロレクシス鑷子,イナミ)で半折し挿入(7眼),もしくは対側に作製した前房穿刺部より同様の前?鑷子もしくは他の鑷子(島崎式DSEK用鑷子,イナミ)を用いて強角膜切開部より引き入れた(37眼).ドナー角膜の位置を調整し前房内に空気を注入し,10分間放置して接着を図った.その間,20ゲージV-lance(日本アルコン)でレシピエント角膜を上皮側より4カ所穿刺して,層間の房水を除去した.手術終了時にサイドポートより眼圧を調整しながら空気を一部除去した.白内障同時手術を施行した例では,散瞳下で超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行した後に,上記のごとくDSAEKを行った.眼内レンズ度数の決定にはSRK-T式を用い,術眼の術前のケラト値,眼軸長の精度が低いと考えられた症例では,対眼の値を参考にして決定した.これらの症例について,角膜透明治癒率,術前,術後の視力,自覚乱視,ケラト値,角膜トポグラフィー(TMS-2,トーメーコーポレーション)におけるsurfaceregularityindex(SRI),surfaceasymmetryindex(SAI),等価球面度数(SE),目標眼内レンズ度数との誤差について調べた.数値は平均±標準偏差で記載し,統計学的解析はStudent-t検定,c2検定,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した.II結果1.角膜透明治癒率初回DSAEK術後に透明治癒が得られたのは44眼中40眼(91%)であった.4眼は術後より角膜浮腫が遷延し,うち2眼は再度DSAEKを施行し透明化が得られ,1眼は全層角膜移植を施行し透明化が得られ,1眼は経過観察中に通院しなくなったため,その後の経過は不明であった.初回DSAEKで透明治癒が得られなかった例は,後の検討から除外した.2.等価球面度数同時手術例を除いた症例で検討したところ,平均等価球面度数は,術前?1.00±2.40D(n=17),術後1カ月?0.33±1.42D(n=21),術後3カ月?0.52±1.08D(n=20),術後6カ月?0.40±1.34D(n=19),術後12カ月?0.52±1.58D(n=13)であった.いずれの時期も術前と比較し統計学的有意差は認めないものの,術前と最終観察時を比較すると+0.38D±2.5Dと軽度の遠視化傾向にあり,術後3カ月以降はほぼ安定していた.3.乱視および角膜形状平均屈折乱視は,術前1.2±1.4Dに対し,術後1カ月1.8±1.7D,術後3カ月1.9±1.4D,術後6カ月1.7±1.3D,術後12カ月1.4±1.6Dと±2D以内であり,術後早期より安定していた.いずれの時期も術前と比較し統計学的な有意差を認めなかった(表1).平均ケラト値は,術前44.2±0.94D(n=20),術後1カ月43.5±1.44D(n=16),術後3カ月43.8±1.33D(n=14),術後6カ月44.0±1.28D(n=13),術後12カ月44.8±0.87(n=7)であり,いずれの時期も術前と比較し有意差は認めなかった.また角膜トポグラフィーにて,SRI,SAI値とも2.0以内と,術後早期より比較的低値で安定していた(表1).1204あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(144)4.眼内レンズの屈折誤差DSAEKを白内障手術と同時,あるいは二期的に行った例では,目標屈折度数に比べて+0.41±1.58Dであり,誤差±1D以内62.5%,±2D以内87.5%であった.同時手術18眼と二期的手術6眼に分けて検討したところ,同時手術では誤差±1D以内は50%であり,誤差±2D以内83.3%であったのに対し,二期的手術では全例が誤差±1D以内であり,誤差±1D以内の割合は二期的手術のほうが有意に高かった.しかし,同時手術例のなかには術前ケラト値が測定できなかった症例がすべて(5眼)含まれており,それらの症例を除くと誤差±1D以内の割合は61.5%となり,統計学的有意差は認めなかった.眼内レンズの屈折誤差と眼軸長の間には相関関係は認めなかった(n=24,Pearsonの積率相関係数=0.279)(図1).5.術前の角膜浮腫の程度と眼内レンズ度数の屈折誤差術前ケラト値が測定できた群19眼と浮腫が進行し測定できなかった群5眼に分けて検討したところ,誤差±1D以内であった割合は,どちらの群も60%以上で差がなかったが,誤差±2D以内の割合は,術前ケラト値が測定できた群では94.7%であり,測定不能であった群60%と比べて有意に高かった.両群で屈折のばらつきを比較したところ,術前ケラト値が測定できた群に比べて,測定できなかった群では誤差のバラつきが大きかった(図2,3).術前のケラト値が測定できなかった5眼のうち3眼が誤差±2D以内であり,他の2眼は?3.3D,5.7Dと誤差が大きかった.誤差が+5.7Dと大きかった症例は術前のケラト値が測定不能であった例で,対眼も全層角膜移植術を施行されており,その対眼のケラト値を用いて度数計算を行った例であった.III考按DSAEK術後のSEの変化について,今回筆者らは,統計学的な有意差はなかったものの+0.38±2.5Dの遠視化を認めた.Koenigらは,術後6カ月で平均1.19±1.32Dの遠視化を認め3),Junらも術後5カ月で平均+0.71±1.11Dの遠視化を認めたと報告している4).角膜曲率半径(ケラト値)は,DSAEK術前後でほとんど変化しないという報告が多く5,6),今回の筆者らの結果でも有意な変化がなかったことから,DSAEK術後の遠視化には,角膜後面曲率の変化が関表1術前,術後の自覚乱視,角膜形状の経過術前術後1カ月術後3カ月術後6カ月術後12カ月自覚乱視(D)1.2±1.4(n=32)1.8±1.7(n=38)1.9±1.4(n=36)1.7±1.3(n=28)1.4±1.6(n=21)ケラト値(D)44.2±0.94(n=20)43.5±1.44(n=16)43.8±1.33(n=14)44.0±1.28(n=13)44.8±0.87(n=7)SRI1.5±0.7(n=24)1.5±0.7(n=29)1.6±0.7(n=21)1.4±0.6(n=13)SAI1.3±0.7(n=24)1.2±1.1(n=29)1.2±0.7(n=21)0.8±0.5(n=13)SRI:surfaceregularityindex,SAI:surfaceasymmetryindex.(平均値±標準偏差)度数誤差(D)眼数-4-3-2-10109876543210123456図3術前ケラト値測定不能例と眼内レンズ度数誤差術前ケラト値測定不能であった5眼のうち±2D以内の誤差にとどまったのは3眼であった.屈折誤差が+5.77Dと大きくずれた症例もみられた.6543210-1-2-3-4度数誤差(D)眼軸長(cm)2020.52121.52222.52323.524図1眼軸長と眼内レンズ度数誤差の関係眼軸長と眼内レンズの狙いとの屈折誤差に相関関係は認めなかった.度数誤差(D)眼数-4-3-2-10109876543210123456図2術前ケラト値測定可能例と眼内レンズ度数誤差術前ケラト値測定可能であった19眼のうち,±1D以内の誤差であったのは13眼(68.4%)であり,1眼を除いて±2D以内の誤差であった.(145)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111205与しているものと推測された.白内障手術を同時,あるいは二期的に行った症例で検討すると,眼内レンズ度数の目標値に比べ平均+0.41Dと軽度の遠視よりであった.眼内レンズの選択にあたっては,DSAEK術後の遠視化を考慮に入れるべきと考えられた.DSAEK術前,術後の乱視の変化は,いずれも平均2D以内と軽度であり,術前と術後で統計学的有意差を認めなかった.また,角膜トポグラフィーでも,角膜正乱視,不正乱視とも軽度で,術後早期より角膜形状の安定がみられた.この結果は,従来の欧米での報告と一致するものであり3,7),DSAEK術後の速やかな視機能回復をもたらす要因と考えられた.DSAEKと白内障同時手術での目標値との誤差は,±1D以内が50%,±2D以内は83.3%であった.CovertらはDSAEKと白内障手術の同時手術では,術後6カ月の時点での目標値との誤差は+1.13Dであり,±1D以内は62%,±2D以内は100%であったと報告しており8),今回の筆者らの結果と類似していた.全層角膜移植術と白内障手術の同時手術においては,当教室のデータでは,術後6カ月で誤差±2D以内は48.9%であった9).他の報告でも26%から68.6%程度と報告されている10~13).これらと比較すると,DSAEKのほうが,白内障同時手術での屈折誤差は軽度であると考えられた.DSAEKと白内障を同時に手術した場合と比較して,白内障を先に行ってからDSAEKを行った症例のほうが,屈折誤差は少ない傾向であった.これは,同時手術を行った例のなかに,角膜浮腫が高度のために術前ケラト値が測定できなかった症例が含まれているためと推測された.実際,測定不能であった症例を除外すると,両群で有意差を認めなかった.さらに,眼軸長と度数誤差に相関関係がみられなかったことより,眼軸長の測定誤差の影響よりも,術前ケラト値測定の可否が眼内レンズ度数の誤差に影響していると考えられた.高度の角膜浮腫によりケラト値の測定ができない症例では,今回は対眼のケラト値を参考に度数を決定したが,結果として大きな屈折誤差を生じた例があった.まとめ今回の検討より,DSAEK術後には軽度の遠視化がみられることがわかった.白内障の手術を合わせて行う際には,このことを考慮し眼内レンズ度数を決定する必要があると思われた.浮腫が進行し術前のケラト値が測定不能であった症例では,大きな屈折誤差が生じる可能性があることを考慮し,眼内レンズ度数の選択をより慎重に行うべきと思われた.文献1)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneutralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20052)市橋慶之,冨田真智子,島﨑潤:角膜内皮移植術の短期治療成績.日眼会誌113:721-726,20093)KoenigSB,CovertDJ,DuppsWJetal:Visualacuity,refractiveerror,andendothelialcelldensitysixmonthsafterDescemetstrippingandautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Cornea26:670-674,20074)JunB,KuoAN,AfshariNAetal:Refractivechangeafterdescemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastysurgeryanditscorrelationwithgraftthicknessanddiameter.Cornea28:19-23,20095)ChenES,TerryMA,ShamieNetal:Descemet-strippingautomatedendothelialkeratoplasty:six-monthresultsinaprospectivestudyof100eyes.Cornea27:514-520,20086)TerryMA,ShamieN,ChenESetal:PrecuttissueforDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:vision,astigmatism,andendothelialsurvival.Ophthalmology116:248-256,20097)MearzaAA,QureshiMA,RostronCK:Experienceand12-monthresultsofDescemet-strippingendothelialkeratoplasty(DSEK)withasmall-incisiontechnique.Cornea26:279-283,20078)CovertDJ,KoenigSB:Newtripleprocedure:Descemet’sstrippingandautomatedendothelialkeratoplastycombinedwithphacoemulcificationandintraocularlensimplantation.Ophthalmology114:1272-1277,20079)大山光子,島﨑潤,楊浩勇ほか:角膜移植と白内障同時手術での眼内レンズの至適度数.臨眼49:1173-1176,199510)KatzHR,FosterRK:Intraocularlenscalculationincombinedpenetratingkeratoplasty,cataractextractionandintraocularlensimplantation.Ophthalmology92:1203-1207,198511)CrawfordGJ,StultingRD,WaringGOetal:Thetripleprocedure:analysisofoutcome,refraction,andintraocularlenspowercalculation.Ophthalmology93:817-824,198612)MeyerRF,MuschDC:Assessmentofsuccessandcomplicationsoftripleproceduresurgery.AmJOphthalmol104:233-240,198713)VichaI,VlkovaE,HlinomazovaZetal:CalculationofdioptervalueoftheIOLinsimultaneouscataractsurgeryandperforatingkeratoplasty.CeskSolvOftalmol63:36-41,2007***

フェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ形状全層角膜移植とトレパン全層角膜移植における角膜後面接合部の比較

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(137)1197《原著》あたらしい眼科28(8):1197?1201,2011cフェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ形状全層角膜移植とトレパン全層角膜移植における角膜後面接合部の比較稗田牧*1脇舛耕一*2川崎諭*1木下茂*1*1京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学*2バプテスト眼科クリニックComparingPosteriorWoundProfileofZig-Zag-ShapePenetratingKeratoplastybyFemtosecondLaserandPenetratingKeratoplastybyTrephineBladeOsamuHieda1),KoichiWakimasu2),SatoshiKawasaki1)andShigeruKinoshita1)1)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefectureUniversityofMedicine,2)BaptistEyeClinic目的:フェムトセカンドレーザーを用いたジグザグ切開で全層角膜移植(zig-zagpenetratingkeratoplasty:ジグザグPKP)後の角膜後面形状を,トレパンで行ったPKP(t-PKP)後角膜と比較検討した.対象および方法:対象はジグザグPKPを施行し12カ月以上経過観察を行い,抜糸が行われている11例11眼である.フェムトセカンドレーザーでドナーおよびホスト角膜を同一形状に切開した.抜糸が行われているt-PKP後10眼と,矯正視力,角膜乱視,前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)による角膜後面の接合部形状を比較した.角膜後面の接合部形状は「屈曲」と「不連続」の所見で評価した.結果:平均矯正視力はジグザグPKP群LogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)0.21±0.16,t-PKP群LogMAR0.38±0.31と差は認められなかった.角膜乱視はジグザグPKP群4.65±1.65D,t-PKP群5.38±2.71Dと差は認められなかった.前眼部OCTではジグザグPKP群では「屈曲」は2カ所(9%)に認められ,「不連続」は10カ所(45%)に認められた.t-PKP群は,「屈曲」は8カ所(40%),「不連続」は7カ所(35%)に認められた.所見として「屈曲」はジグザグPKP群で有意に少なかった.結論:ジグザグPKPの術後角膜後面は,術後数年経過したトレパンで施行したPKPと同程度のスムーズな形状であった.ジグザグPKPの角膜はt-PKPより自然なカーブを保っており,長期経過後に再移植が必要となった場合に角膜内皮移植(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)が選択できる可能性が示唆された.Purpose:Tocomparetheposteriorwoundprofileafterzig-zag-shapepenetratingkeratoplasty(PKP)byfemtosecondlaserandPKPbytrephineblade.Methods:Eleveneyesthathadundergonezig-zag-PKPbyfemtosecondlaser(zig-zag-PKPgroup)werecomparedwith10eyesthathadundergonePKPbytrephineblade(t-PKPgroup).Best-correctedvisualacuity(BCVA),cornealastigmatism,andposteriorwoundprofileestimatedbyanteriorsegmentopticalcoherencetomography(AC-OCT)wereinvestigatedafterthesurgicalsutureswereremovedfromall21eyes.TheabnormalprofilesofAC-OCTweredividedintotwomaincategories,curveandinconsistency.Results:ThemeanLogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)BCVAwas0.21±0.16inthezig-zag-PKPgroupand0.38±0.31inthet-PKPgroup,respectively.Themeancornealastigmatismwas4.65±1.65dioptersinthezig-zag-PKPgroupand5.38±2.71dioptersinthet-PKPgroup,respectively,thusshowingnostatisticallysignificantdifference.ThefindingsofAC-OCTrevealed2curves(9%)and10inconsistencies(45%)inthezig-zag-PKPgroupand8curves(40%)and7inconsistencies(35%)inthet-PKPgroup.Thereweremorefindingsofcurveinthet-PKPgroupthaninthezig-zag-PKPgroup.Conclusions:Theposteriorwoundprofilesafterzig-zag-shapePKPweresmoothandequaltothoseofthelong-termfollow-upt-PKPeyes.Therewaslesscurvechangefromthedonortorecipientcorneainthezig-zag-PKPgroup,thusindicatingthatdonor-corneaendotheliumcellsafterzig-zag-PKPdecreaseanddecompensateoverthelong-termandthatDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplastymightbethebestchoiceofsurgeryforre-grafting.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1197?1201,2011〕〔別刷請求先〕稗田牧:〒602-8566京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:OsamuHieda,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Kawaramachi-Hirokoji,Kamigyo-ku,Kyoto602-8566,JAPAN1198あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(138)はじめにフェムトセカンドレーザーは近赤外線のレーザー(波長約1,050nm)で,焦点外の角膜組織は通過し,超短パルス(約500?800フェムト秒パルス,フェムト秒=10?15seconds)の特性から瞬間ピーク出力が大きく,焦点の合った照射組織のみを光分裂(photodisruption)させて数μmの空隙を作ることができる.これを一定の間隔で数多く照射することで,角膜を切開することができる.従来,laserinsitukeratomileusis(LASIK)のフラップ作製に使用されてきたが,性能が向上することで,切開を深く,複雑な形状にすることができるようになり,これを利用して角膜移植におけるドナーとレシピエントの創を作製することが可能となった1?3).トレパンで垂直に打ち抜く従来法の全層角膜移植は,内圧に持ちこたえるため比較的強く縫合する必要があり,抜糸が可能となる創の治癒に少なくとも1年程度かかる.また,乱視を惹起し,抜糸後創離開のリスクもある.フェムトセカンドレーザーを使用して,全層切開の形状を自己閉鎖に近い複雑なカスタムトレパネーションで行うことにより,縫合をあまり強くしなくてもよく,かつ接着面積が広いため創強度の強い移植後眼となることが期待できる4).角膜前面の創のスムーズさや,縫合の深さがほぼ角膜の半分で一定となる面からzig-zag(ジグザグ)形状の全層角膜移植(zig-zagpenetratingkeratoplasty:ジグザグPKP)が多数例に適応され,良好な術後成績が報告されている5?7).近年,前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)が広く眼科臨床で使用されるようになってきている8,9).前眼部OCTを使用することで,角膜前面のみならず後面も詳細に観察することが可能となった10?12).ジグザグPKPにおいて縫合は角膜前面から深さ300μmの水平切開を合わせるので術直後から平滑となるが,その反対に角膜後面は厚みのミスマッチが起こり,術直後はドナーもしくはホスト角膜が前房側に突出することがあり,これが術後の角膜形状および接合部形状に与える影響は検討されていない.今回筆者らは,前眼部OCTで観察した抜糸後のジグザグPKPの角膜後面接合部を,トレパンで行ったPKPと比較検討することで,ジグザグPKPの角膜後面形状を評価した.I対象および方法対象は2008年2月から2009年10月までにバプテスト眼科クリニックでジグザグPKPを施行し,12カ月以上経過観察を行い,かつ抜糸が行われているジグザグPKP群11例11眼である.男性6例,女性5例,平均年齢は62±16(31?78)歳,原疾患の内訳は角膜白斑5眼,格子状角膜ジストロフィ3眼,円錐角膜2眼,Schnyder角膜ジストロフィ1眼であった.ジグザグPKPはIntraLaseFS-60TM(AMO社製)を用いて9眼,iFSTM(AMO社製)を用いて2眼,ドナーおよびホスト角膜を全例同一形状に切開した.ジグザグ形状角膜切開は,最初に最も深い位置から角膜表面に対して30°の斜切開で切り上げ,深さ300μm,直径8.3mmから幅1.0mmのリング状水平切開を求心性に行い,さらに30°の斜切開で切り上げ表面直径が7.2mmになるように設定した13).ドナー角膜は人工前房装置TM(モリア社製)を用いて前房内からレーザー照射を開始し全周で全層切開した.ホストは球後麻酔下にZeiss社製VisanteTMOCTの厚みマップにおける径5?7mmの平均値と同じか,やや浅めから切り上げ半分程度全層切開になるように設定した.その後全身麻酔下に,未切開の角膜深層部分をカッチン(Katzin)剪刀で切開し,グラフトをドナー移植片と入れ替え,表面より深さ300μmの水平切開同士を合わせるように8針の端々縫合と16針の連続縫合を行った14).抜糸が行われているトレパンで行ったPKP(t-PKP群)9例10眼を比較対照とした.男性5例,女性4例,平均年齢75±11(52?88)歳,原疾患の内訳は角膜白斑6眼,角膜実質炎後混濁2眼,円錐角膜1眼,水疱性角膜症1眼であった.術式はバロン氏放射状真空トレパンTM(カティーナ社)7.0mmもしくは7.5mmでホスト角膜を,バロン氏真空ドナー角膜パンチTM(カティーナ社)7.0?7.75mmでドナー角膜を切開し,端々および連続縫合を行った.角膜後面創の観察はVisanteTMOCTのHighResolutionSingleモードを用いて行った.HighResolutionSingleモードは高解像度スキャンで,10mm×3mmの範囲に512のスキャンを250ミリ秒で行い,解像度縦18μm,横60μmの画像が撮影できる.今回,本装置の測定軸であるvertexnormalを含む水平断一方向を撮像し,耳側と鼻側の2カ所のホストグラフト接合部におけるグラフト接合部後面形状を評価した.今回比較した前眼部OCTの測定時期と手術からの期間はジグザグPKP群16±5(12?24)カ月,t-PKP群86±31(57?133)カ月であった.グラフト接合部の評価は以下の2点に注目して行った.第一点は接合部で角膜のカーブが明らかな変化をしているかどうかである.接合部の画像上明らかな角膜のカーブに変化がある場合には「屈曲」あり,と判断した.つぎに,接合部におけるドナーホストの厚みの不連続性である.これは,接合Keywords:フェムトセカンドレーザー,ジグザグ切開,全層角膜移植術,角膜後面形状,前眼部光干渉断層計(OCT).femtosecondlaser,zig-zagincision,penetratingkeratoplasty,posteriorwoundprofile,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.(139)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111199部が隆起した場合(隆起),ドナーとホストに厚みの差がある場合(段差),角膜組織の一部が前房内に突出してフリーの状態になっている場合(リップ,Lip)を「不連続」ありとした(図1).ジグザグPKP群とt-PKP群の矯正視力,ケラトメータにおける乱視度数,および前眼部OCTにおける「屈曲」と「不連続」の頻度を比較検討した.統計学的検討は,2群間の連続変数はt検定で,度数の比較はFisherの直接確率検定を行い,有意確率5%未満を有意とした.II結果ジグザグPKP群におけるグラフト接合部は術直後には浮腫が強く認められたが,浮腫が減退するとともに平滑な形状となり,約3カ月程度で安定し,その後抜糸を行うとさらに平滑な形状となった.画像の比較を行った時点での平均矯正視力はジグザグPKP群LogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)0.21±0.16(平均少数視力0.62),t-PKP群LogMAR0.38±0.31(0.41)と差は認められなかった.角膜乱視はジグザグPKP群4.65±1.65D,t-PKP群5.38±2.71DとジグザグPKP群で平均値は小さいが,統計学的に有意な差はなかった.ジグザグPKP群の画像評価(図2)では「屈曲」は2カ所(9%)に認められ,ほとんどの接合部でねじれは観察されなかった.「不連続」は10カ所(45%)に認められ,「不連続」のなかでは,ホスト側のジグザグ形状の深い位置をカッチン剪刀で切離しているためか,角膜組織の一部が前房内に突出してフリーの状態になっている所見(リップ)が多く認められた.t-PKP群は,術後長期間経過した症例が多く接合部は平滑であったが,「屈曲」は8カ所(40%)に認められた(図3).耳側もしくは鼻側の一方は自然なカーブで接合していてももう一方の接合部におけるカーブが変化している場合が4症例あった.「不連続」は7カ所(35%)に認められたが,リップはなく,その多くが「段差」であった.所見として「屈曲」はジグザグPKP群で有意に少なく,t-PKP群で多く認められた(p<0.05).「不連続」については両群間に差は認められなかった.III考察抜糸が行われているジグザグPKPの角膜後面のグラフト接合部形状を前眼部OCTで評価した.矯正視力と乱視に差が認められなかったt-PKP群と比較するとドナーホスト接合部における「屈曲」の変化が少なく,より平滑なドナーホスト接合部であることが所見として読み取ることができた.前眼部OCTを使用して角膜移植後の創を評価したJhanjiらはグラフト接合部におけるドナーとホスト角膜の「不連続」はトレパンPKPにおいて高い頻度で認められ,術後乱視とも関係すると報告している10).Kaisermanらも同様にドナーとホスト角膜の位置異常は珍しいものではなく,かつそれが視機能に影響することを報告している11).今回の症例においてもドナーとホストの「不連続」は半分近い症例で認められ,ジグザグPKPとトレパンPKPでは明らかな差を認めなかった.同様に両群間に矯正視力と乱視の差は認められなかった.前眼部OCTにおけるドナーとホストの接合部位における「屈曲」の程度を所見として読み取った報告は筆者らが調べた限りでは存在しなかったため,今回は全症例を提示して,視覚的にカーブの不連続性が感覚される場合に「屈曲」の所見ありとした.ジグザグPKPで「屈曲」が少なかったのは,レーザーで同じサイズで切開されており,よりホスト角膜の自然な形状を損なわずにドナー角膜が生着されていることが示唆された.このことは,角膜生体力学特性がより正常眼に近いことにも寄与している可能性がある15).さらに,ジグザグPKP群は1年以内に抜糸しているものがほとんどであり術後の抜糸までの期間が平均11±3(4?15)カ月であったのに対してt-PKP群は26±16(14?57)カ月であり,観察までの術後期間が大きく異なる対象を比較しているので,ジグザグPKPの形状の「屈曲」や「不連続」は今後さらに少なくなる可能性もあるものと思われる.トレパンの場合にはドナーは内皮面から,ホストは上皮面から切開されており,サイズも症例により差があったことなどが,「屈曲」が有意に図1角膜後面のグラフト接合部の評価方法「屈曲」と「不連続」の2つに大別し,接合部の「不連続」のなかに「隆起」「段差」「リップ」の3つのタイプがあった.屈曲不連続隆起段差リップ1200あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(140)23456789101図3t?PKP術後の前眼部OCT所見細い矢印が「屈曲」を示し,太い矢印が「不連続」を示している.「不連続」と「屈曲」が同程度存在する.「不連続」の内訳は,(数字は図の症例番号)1:「隆起」,4:「隆起」,7:「段差」(右)と「隆起」(左),8:「段差」,9:「隆起」,10:「段差」.図2ジグザグPKP術後の前眼部OCT所見細い矢印が「屈曲」を示し,太い矢印が「不連続」を示している.「屈曲」より「不連続」が多い.「不連続」の内訳は,(数字は図の症例番号)2:「隆起」,3:「隆起」(左)と「隆起」(右),4:「隆起」,5:「リップ」,6:「リップ」(左)と「隆起」(右),7:「隆起」,8:「隆起」,9:「段差」.2345678910111(141)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111201多く観察された原因に関与していると考えられる.現在,水疱性角膜症の手術の第一選択はDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)となり,PKP後内皮が減少して水疱性角膜症になった場合の再手術にも,DSAEKを行うという選択肢が広まりつつある16)が,この場合の手術適応には最適なグラフトサイズを含めていまだ議論があるところである.筆者らの経験においても,移植後の後面形状はグラフトの接着に影響を与える可能性があり,グラフトホスト接合部のカーブに急峻な変化がなく,かつ凹凸がなければ移植片は接着しやすいと考えられる.今回検討した「屈曲」のような変化も移植片接着の面において重要な所見と考えられる.ジグザグPKPは抜糸が早期に行え,さらにLASIKなどで角膜形状を良好にすることで裸眼視力を改善可能である.もし長期経過後に水疱性角膜症となってもDSAEKで乱視の誘発を少なく再移植ができる可能性があるものと思われる.今回の検討では,症例数が10眼程度と少なく,「屈曲」が実際に視機能に影響するかどうかについては検討できなかったが,さらに症例数を増やして視機能との関連,疾患別の形状などを検討していく必要がある.また,今回の前眼部OCT所見は水平方向のみであったが,これはHighResolutionSingleモードで最も安定して測定できる撮像方向であったためである.データを示していないが,パキマップの16方向の画像でも同様の評価を行ったがほぼ同等の結果であった.今後はHighResolutionSingleモードを使い,より多くの位置で評価を行う必要もあると考えられる.以上をまとめると,ジグザグPKPの術後角膜後面はトレパンと比較して「不連続」の頻度には差がなく,「屈曲」が少ないことが明らかになった.ジグザグPKPの角膜後面の形状は少なくとも術後数年経過しているトレパンで施行したPKPに劣るものではなく,長期経過後に再移植にDSAEKを選択できる可能性が示唆された.文献1)IgnacioTS,NguyenTB,ChuckRSetal:Tophatwoundconfigurationforpenetratingkeratoplastyusingthefemtosecondlaser:alaboratorymodel.Cornea25:336-340,20062)SteinertRF,IgnacioTS,SaraybaMA:“Tophat”-shapedpenetratingkeratoplastyusingthefemtosecondlaser.AmJOphthalmol143:689-691,20073)PriceFWJr,PriceMO:Femtosecondlasershapedpenetratingkeratoplasty:one-yearresultsutilizingatop-hatconfiguration.AmJOphthalmol145:210-214,20084)FaridM,SteinertRF:Femtosecondlaser-assistedcornealsurgery.CurrOpinOphthalmol21:288-292,20105)FaridM,KimM,SteinertRF:Resultsofpenetratingkeratoplastyperformedwithafemtosecondlaserzigzagincisioninitialreport.Ophthalmology114:2208-2212,20076)FaridM,SteinertRF,GasterRNetal:Comparisonofpenetratingkeratoplastyperformedwithafemtosecondlaserzig-zagincisionversusconventionalbladetrephination.Ophthalmology116:1638-1643,20097)ChamberlainWD,RushSW,MathersWDetal:Comparisonoffemtosecondlaser-assistedkeratoplastyversusconventionalpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology118:486-491,20118)DoorsM,BerendschotTT,deBrabanderJetal:Valueofopticalcoherencetomographyforanteriorsegmentsurgery.JCataractRefractSurg36:1213-1229,20109)森山睦,中川智哉,堀裕一ほか:前眼部光干渉断層計による円錐角膜と正常眼の前眼部形状の比較.日眼会誌115:368-373,201110)JhanjiV,ConstantinouM,BeltzJetal:Evaluationofposteriorwoundprofileafterpenetratingkeratoplastyusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.Cornea30:277-280,201111)KaisermanI,BaharI,RootmanDS:Cornealwoundmalappositionafterpenetratingkeratoplasty:anopticalcoherencetomographystudy.BrJOphthalmol92:1103-1107,200812)福山雄一,榛村真智子,市橋慶之ほか:前眼部光干渉断層計による全層角膜移植後のグラフト接合部の観察.眼科手術23:459-462,201013)稗田牧:フェムトセカンドレーザーの角膜移植への応用FemtosecondLaser-AssistedKeratoplasty(FLAK).IOL&RS23:245-248,200914)稗田牧:フェムトセカンドレーザー応用の実際4.角膜移植.IOL&RS25:36-40,201115)脇舛耕一,稗田牧,加藤浩晃ほか:フェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植における角膜生体力学特性.あたらしい眼科28:1034-1038,201116)StraikoMD,TerryMA,ShamieN:Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplastyunderfailedpenetratingkeratoplasty:asurgicalstrategytominimizecomplications.AmJOphthalmol151:233-237.e2,2011***

複数回の角膜移植片不全に対してBoston Keratoprosthesis移植術を行い1年以上経過観察できた3症例

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(131)1191《原著》あたらしい眼科28(8):1191?1196,2011cはじめに全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)は,水疱性角膜症や角膜白斑などの疾患に対して有効な治療法であるが,症例によっては,拒絶反応,感染などの合併症により角膜移植片不全となり,再移植が必要となることも少なくない.しかし,複数回の移植片不全の既往がある症例は,拒絶反応のリスクが高く,強力な免疫抑制を必要とするものの,その予後は不良であることが多い1).そのような複数回の角膜移植片不全をきたした症例に対する治療の一つとして,人工角膜が臨床使用されてきた.わが国でもおもに1960年代~1970年代に人工角膜移植が行われたが,短期間で人工角膜の脱落などの重篤な合併症を起こすことが多く,普及しなかった.最も症例数が多い報告で,早野の10例報告があり,半数の症例が2年以内に脱落している2).また,杉田らは3例中1例が1年以内に光学部前面の結膜増殖を認めたと報告している3).〔別刷請求先〕森洋斉:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:YosaiMori,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPAN複数回の角膜移植片不全に対してBostonKeratoprosthesis移植術を行い1年以上経過観察できた3症例森洋斉子島良平南慶一郎宮田和典宮田眼科病院ThreeCasesofBostonKeratoprosthesisImplantationforRepeatedGraftFailureObservedforMoreThanOneYearYosaiMori,RyoheiNejima,KeiichiroMinamiandKazunoriMiyataMiyataEyeHospital目的:複数回の角膜移植片不全の既往がある症例に対してBostonkeratoprosthesis(BostonKPro)移植術を行い,1年以上経過観察ができた3例を経験したので報告する.症例:症例1は72歳,女性,症例2は69歳,男性,症例3は87歳,女性である.全例複数回の全層角膜移植術(PKP)の既往があり,術前矯正視力はそれぞれ10cm指数弁,0.02,0.02であった.さらなるPKPでは予後不良と考えられ,BostonKPro移植術の適応と判断し,手術を行った.術後矯正視力は,症例1が術後28カ月で10cm指数弁,症例2が術後25カ月で1.0,症例3が術後18カ月で0.6であった.症例1は,移植後の眼圧上昇のために緑内障シャント手術を行った.観察期間においては,人工角膜の脱落,ドナー角膜片の融解,重篤な感染症などの合併症,さらに視野欠損の進行は,全例で認めていない.結論:BostonKProは,複数回の角膜移植片不全をきたした症例の視機能回復に対して,有効な治療法の一つであると考えられる.ThreecasesunderwentBostonkeratoprosthesis(BostonKPro)implantationforrepeatedgraftfailure.Thefirstcasewasa72-year-oldfemale,thesecondwasa69-year-oldmaleandthethirdwasan87-year-oldfemale.Allunderwentmultiplepenetratingkeratoplastywithgraftfailures.Preoperativebest-correctedvisualacuities(BCVA)werecountingfingersat10cm,0.02and0.02,respectively.Sinceaprognosisofadditionalpenetratingkeratoplastyinthesecasescouldnotbeanticipated,BostonKProimplantationwasdecided.PostoperativeBCVAwascountingfingersat10cmat28months,1.0at25monthsand0.6at18months,respectively.Thefirstcaseunderwenttube-shuntimplantationduetopostoperativeintraocularpressureelevation.Therehavebeennoseriouspostoperativecomplications,includingkeratoprosthesisextrusion,donorcorneanecrosis,infection,orprogressivelossofvisualfield.TheBostonKProprovidesvisualrecoveryforpatientswithrepeatedgraftfailures.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1191?1196,2011〕Keywords:人工角膜,角膜移植,移植片不全.keratoprosthesis,penetratingkeratoplasty,graftfailure.1192あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(132)1960年代にハーバード大学MassachusettsEyeandEarInfirmary(以下,MEEI)のDohlmanらによって開発された人工角膜Bostonkeratoprosthesisは,1974年に初めて臨床報告された4).この人工角膜には,眼瞼,涙液機能が良好な患者用のTypeIと重篤な眼表面疾患患者用のTypeIIがあり,TypeIは1992年にFDA(FoodandDrugAdministration)の承認を得ている.BostonTypeIkeratoprosthesis(以下,BostonKPro)は,光学部がPMMA(ポリメチル・メタクリレート)製の人工角膜で,ドナー角膜片(キャリア角膜)に装着して患眼に縫合される.MEEIの推奨では,視力が0.05以下で,PKPで予後不良と予想される症例をBostonKProの良い適応としている.また,除外基準として,末期の緑内障や網膜?離,涙液異常がある症例をあげており,さらに眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群など自己免疫性疾患がある症例は避けたほうがよいとしている(表1).以前はBostonKProも,他の人工角膜と同様に,人工角膜の脱落と周囲組織の融解5,6),細菌性眼内炎7),人工角膜後面の増殖膜8~10),緑内障11)など数多くの重篤な術後合併症を起こしていた.バックプレートに穴が開いていないモデルを使用していた1990年代は,半数以上で周辺組織の融解を起こしたと報告されている5).また,当時は術後管理も確立しておらず,Nouriらによれば,10%以上の症例で感染性眼内炎を発症したと報告している7).しかし,人工角膜のデザインや素材の改良,術後管理の改善を重ねることで,現在では,適切な術後ケアを行うことにより,長期の安定性も確立してきている8~10,12).これまでに全世界で4,500例以上が臨床使用されているが,わが国での臨床使用の報告はされていない.筆者らは,複数回の角膜移植片不全をきたした症例に対してBostonKPro移植術を行った.基本的にはMEEIの推奨する適応に準じたが,宮田眼科病院(以下,当院)では僚眼の視力低下という項目は除外した.その理由として,患者のqualityofvision向上に両眼の視機能は重要であること,BostonKProの良好な術後成績が報告されており,PKPをくり返すより患者に負担が少ない可能性があることがあげられる.今回BostonKPro移植術を行い,1年以上経過観察できた症例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕72歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:幼少時に両眼外傷により,左眼は義眼となった.1991年,右眼に緑内障,白内障の同時手術を施行し,その後,無水晶体性水疱性角膜症を発症.2003年に2回PKPを行うも,いずれも1年以内に移植片不全となった.以後,経過観察していたが,2007年2月27日,右眼の加療目的にて当院を紹介受診となった.初診時視力は,右眼10cm指数弁(n.c.)で,眼圧は22mmHgであった.前眼部所見は角膜移植片不全,無水晶体眼を認め,眼底所見は,視神経萎縮と豹紋状眼底を認めた.緑内障による視野進行の程度は,動的視野検査にて湖崎分類でⅣ期であった.晩期緑内障であり,PKPによる視力改善は困難であると考え,外来にて経過観図1各症例のBostonKPro移植術前(左)と移植後(右)全例人工角膜およびキャリア角膜は良好に生着している.症例2,3では半数以上のバックプレートの穴に増殖膜を認めている.a:症例1(移植後28カ月)b:症例2(移植後25カ月)c:症例3(移植後18カ月)表1MEEIが推奨するBostonKProの適応基準(1)0.05以下の視力で,僚眼も視力が低下している(2)複数回の角膜移植片不全の既往が有り,さらなる角膜移植で予後を期待できない(3)末期の緑内障,網膜?離がない(4)自己免疫性疾患(類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,ぶどう膜炎など)がない(5)瞬目が可能で,涙液不全がない(133)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111193察していた.しかし,2007年9月28日受診時,右眼視力は手動弁(n.c.),角膜移植片の混濁も進行し,眼底も透見不能となった(図1a).患者の手術に対する強い希望もあったため,BostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼手動弁(n.c.).〔眼圧〕右眼19mmHg.〔前眼部所見〕右眼角膜移植片不全,無水晶体眼.〔後眼部所見〕透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなく,動的視野検査にて湖崎分類でV-b期の緑内障性変化を認めた.BostonKProの使用については,当院倫理委員会で審査,承認を取得し,患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえで,2008年1月8日右眼BostonKPro移植術を行った.なお,術前より0.005%ラタノプロスト点眼1回/日,2%カルテオロール点眼2回/日を使用しており,術後も続行とした.手術方法:BostonKProは,光学部であるフロントパーツ,人工角膜のキャリアとなる角膜移植片,フロントパーツを角膜移植片に固定するためのバックプレートおよびチタン製ロックリングから構成される(図2)13).BostonKProの組み立ては,以下のように行った.まず,8.5mmのドナー角膜片に,専用パンチで中心に3mmの穴を空け,キャリア角膜片を作製した.横径6mm,前後長約3mmのフロントパーツと,8.5mm径,0.6~0.8mm厚のバックプレートでキャリア角膜片を挟み込み,ロックリングで人工角膜を固定した(図3a~c)14).手術は全身麻酔下で,通常のPKPと同様に,フレリンガー(Fliering)リングを装着し,8mmのバロン式真空トレパンおよび角膜尖刀で角膜を切除した後,作製した移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着した.前房洗浄を行い,創口からの漏出がないことを確認して,ステロイドの結膜下注射を行い,コンタクトレンズを装用して手術を終了した(図3d).経過:術後は,通常のPKPと同様にレボフロキサシン(250mg)内服3日間とプレドニゾロン内服(30mgより漸減)に加えて,0.1%リン酸ベタメタゾンナトリウム点眼4回/日,0.5%レボフロキサシン点眼4回/日に0.5%バンコマイシン点眼4回/日を併用した.また,コンタクトレンズの24時間連続装用とし,週1回交換した.移植後1週,人工角膜およびキャリア角膜の生着は良好で,視力は20cm指数弁(n.c.),眼圧は触診法でやや高い状態であった.その後も眼圧高値が続いたため,移植後2カ月で緑内障シャント手術(Seton手術)を行った.その後,眼圧は落ち着き,移植後28カ月現在,視力10cm指数弁(n.c.)で,視野も進行を認めず,経過良好である(図1a).〔症例2〕69歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:1990年,他院で両眼白内障手術を行い,その後左眼に水疱性角膜症を発症した.PKPを2回行ったが移植片不全となり,セカンドオピニオン目的で2005年6月20日当院を受診した.初診時視力は右眼0.3(1.5×?1.0D(cyl?1.0DAx110°),左眼10cm指数弁(n.c.).左眼に角膜移植片不全を認め,眼底は透見不能であったが,超音波Bmode検査,動的視野検査にて特記すべき異常を認めなかった.PKPの適応と判断し,2006年4月25日左眼PKP施行.図2BostonKProの構成フロントパーツ,ドナー角膜移植片,バックプレートおよびチタン製ロックリングの4つのパーツから構成される.(文献13より)ドナー角膜片フロントパーツバックプレートロックリング図3BostonKProの組み立てと手術トレパンで角膜移植片を打ち抜いた後,直径3mmの専用パンチで中心に穴を空ける(a,b).そして,フロントパーツに打ち抜いた角膜移植片とバックプレートをはめ込み,ロックリングで挟み込んで組み立てる(c).全層角膜移植術と同様に,組み立てた人工角膜移植片を10-0ナイロン糸にて端々縫合で縫着する(d).(文献14より)acbd1194あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(134)術後最高矯正視力(1.0)まで得られたが,拒絶反応をくり返し,角膜移植片不全となり,2007年5月21日時点で視力0.02(n.c.)であった(図1b).右眼の視力は良好であったが,左眼はさらなるPKPでは予後不良と考られため,患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえでBostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼0.5(1.5×?0.5D(cyl?1.0DAx110°),左眼0.02(n.c.).〔眼圧〕右眼19mmHg,左眼17mmHg.〔前眼部所見〕左眼は角膜移植片不全,両眼ともに眼内レンズ挿入眼.〔後眼部所見〕右眼は特記すべき異常なし.左眼は透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなく,動的視野検査にて中心暗点や緑内障性視野変化はみられなかった.経過:2008年3月10日に左眼BostonKPro移植術を行った.手術は全身麻酔下で合併症なく終了した.術後管理は症例1と同様に行った.移植後2週で,左眼視力1.0(n.c.)であり,眼圧は触診法で左右差を認めなかった(右眼眼圧12mmHg).人工角膜およびキャリア角膜の生着も良好で,中間透光体,眼底に特記すべき異常を認めなかった.移植後1カ月より,バックプレートの穴に増殖膜が出現し,移植後6カ月で半数以上の穴に認めたが,光学系に影響しないため経過観察とした(図1b,4).移植後25カ月現在,光学部後面にも軽度の増殖膜を認めているが,左眼視力0.6(1.0×?2.25D)が維持されており,ドナー角膜片の融解,緑内障,重篤な感染症などの合併症は認めず,経過観察中である.〔症例3〕87歳,女性.主訴:右眼視力低下.現病歴:1985年に他院で両眼レーザー虹彩切開術の既往があり,右眼の視力低下を主訴に1994年8月1日当院初診となった.初診時視力は右眼10cm指数弁(n.c.),左眼0.3(0.5×?0.5D(cyl?1.0DAx70°),右眼に水疱性角膜症を認めた.外来で経過観察していたが,その2年後に左眼も水疱性角膜症を発症した.左眼に対しては1998年にPKP+白内障手術を行った.術後に眼圧コントロール不良になり,2000年に線維柱帯切除術を行ったが,視野の進行を認め,晩期緑内障となった.右眼に対しては2004年にPKP+白内障手術,2007年にPKPを行ったが,いずれも拒絶反応をくり返し,角膜移植片不全となった(図1c).両眼ともにPKPでは予後不良であり,左眼は晩期緑内障であることから,右眼をBostonKPro移植術の適応と判断した.手術前所見:〔視力〕右眼0.02(n.c.),左眼手動弁(n.c.).〔眼圧〕右眼18mmHg,左眼22mmHg.〔前眼部所見〕両眼ともに角膜移植片不全,眼内レンズ挿入眼.〔後眼部所見〕両眼ともに透見不能であったが,超音波B-mode検査にて網膜?離などの疾患はなかった.動的視野検査では左眼に湖崎分類でIV期程度の緑内障性変化を認めたが,右眼は中心暗点や緑内障性視野変化はみられなかった.経過:患者に十分なインフォームド・コンセントをしたうえで,2009年1月6日右眼BostonKPro移植術を行った.手術は全身麻酔下で合併症なく終了した.角膜径が10.0mmで小さかったため,7.0mm径のバックプレートを使用した.術後管理は症例1と同様に行った.移植後2週で,右眼視力0.4(0.7×+2.5D(cyl+1.0DAx90°)であり,眼圧は触診法で左右差を認めなかった(左眼眼圧17mmHg).人工角膜およびキャリア角膜の生着も良好で,中間透光体,眼底に特記すべき異常を認めなかった.移植後2カ月より,バックプレートの穴に増殖膜を認めたが,光学系に影響しないため経過観察とした.移植後6カ月,結膜充血と眼脂を認めたため,結膜?培養を行った.ニューキノロン耐性の表皮ブドウ球菌が検出されたため,耐性菌による細菌性結膜炎と診断し,感受性のある0.5%ミノサイクリン点眼に変更した.変更後は,徐々に結膜充血,眼脂は軽減した.移植後18カ月現在,左眼視力0.6(n.c.)が維持されており,ドナー角膜片の融解,緑内障,重篤な感染症などの合併症は認めず,経過観察中である(図1c).II考按今回の症例は,全例人工角膜の生着が良好であり,周囲組織の融解,重篤な感染症なども認めず,1年以上経過良好であった.ソフトコンタクトレンズの連続装用やバックプレートの穴を開けることで,涙液,前房水からの角膜移植片への栄養補給が可能となり,人工角膜の脱落や周囲組織の融解は,非常にまれな合併症となっている5,15).17施設におけるMulticenterBostonType1KeratoprosthesisStudyによれ図4BostonKPro移植後12カ月の前眼部OCT画像前眼部OCTでバックプレートの穴に均一な高輝度像を認める(矢印).(135)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111195ば,141眼に対してBostonKPro移植術を行い,平均観察期間8.5カ月で,全体の57%が術後視力0.1以上得られており(術前視力は96%が0.1以下),95%で人工角膜の生着が維持されていると報告している8).Bradlyらは,30眼に対してBostonKPro移植術を行い,平均観察期間19カ月で,全体の77%が術後視力0.1以上得られており(術前視力は83%が0.1以下),83.3%で人工角膜の生着が維持されていると報告している12).光学部後面の増殖膜は,BostonKPro術後の合併症のなかで最も頻度が高く,AldaveらはBostonKPro移植眼全体の44%に認めたと報告している10).しかし,対処法が確立しており,新生血管がない場合はYAGレーザーで切除,新生血管が進入した場合は,硝子体カッターで切除が可能である8,16).今回,全例でバックプレートの穴に増殖膜を認め,うち1例は光学部後面にも認めていた.現在のところ,視機能に影響していないため,経過観察としている.今回の症例では,現在のところ感染性眼内炎の発症は認めていない.Nouriらの報告では,細菌性眼内炎の危険因子に術前の原疾患をあげており,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,角膜化学熱傷後などの症例でなければ,細菌性眼内炎の発症はまれであるとしている7).Durandらは,キノロン系点眼とバンコマイシン点眼の投与下で,細菌性眼内炎の発症を認めていないと報告している17).しかし,広域スペクトルの抗生物質を予防的に継続点眼することにより,耐性菌の出現を促す可能性が危惧される.実際に症例3で,結膜炎を発症し,薬剤耐性菌の検出を認めた.現在のところ,バンコマイシン耐性菌による眼内炎の報告はされていないが,BostonKPro移植眼における耐性菌の検出について,術前後で結膜培養を行い,prospectiveに調査することが必要であると考えられる.さらに,術後はコンタクトレンズの連続装用が必要になるため,真菌感染のリスクが高くなるとの報告もある18).ゆえに,コンタクトレンズの交換や洗浄を徹底し,定期観察することで感染予防に努めることが重要である.現在,最も注意を要する術後合併症は,緑内障と報告されている11).今回,晩期緑内障であった症例1でSeton手術を行い,その後は視野進行を認めていない.BostonKPro移植後は,眼圧測定が困難となるため,眼底検査,視野検査を定期的に行い,進行があれば治療を開始する.通常の抗緑内障点眼が有効であるが,手術が必要な場合は,緑内障シャント(Ahmedバルブシャントなど)を用いたSeton手術を行う8,11).今回の症例1でも,Seton手術により良好な眼圧コントロールが維持されていると考えられた.Banittらの報告では,眼圧コントロールが不良な症例や進行性の緑内障症例に対して,BostonKPro移植術の3~6カ月前にSeton手術もしくは毛様体光凝固術を行うことが推奨されており19),今後,症例1のような晩期緑内障症例では検討してもよいと考えられる.また,症例3のようなレーザー虹彩切開術後の浅前房症例では,続発緑内障のリスクがあるため慎重に行う必要がある.そのような症例では小児用のサイズ(7.0mm)のバックプレートを選択するとよいと考えられる.人工角膜BostonKProは,術後コンタクトレンズの管理や抗生物質の継続使用,眼圧測定が困難になるなどの注意点があるものの,煩雑な手術手技を必要とせず,通常の角膜移植の経験があれば手術可能であり,適切な術後ケアを行うことにより,長期の安定性が期待できる.BostonKProは,複数回の角膜移植片不全をきたした患者の視力改善に対して,非常に有効な治療法の一つであると考えられる.文献1)原田大輔,宮田和典,西田輝夫ほか:全層角膜移植後の原疾患別術後成績と内皮減少密度減少率の検討.臨眼60:205-209,20062)早野三郎:人工角膜移植の臨床(長期観察).日眼会誌75:1404-1407,19713)杉田潤太郎,杉田慎一郎,杉田雄一郎ほか:人工角膜移植.眼臨80:1375-1378,19864)DohlmanCH,SchneiderHA,DoaneMG:Prosthokeratoplasty.AmJOphthalmol77:694-700,19745)Harissi-DagherM,KhanBF,SchaumbergDAetal:ImportanceofnutritiontocorneagraftswhenusedasacarrieroftheBostonKeratoprosthesis.Cornea26:564-568,20076)YaghoutiF,NouriM,AbadJCetal:Keratoprosthesis:preoperativeprognosticcategories.Cornea20:19-23,20017)NouriM,TeradaH,Al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LASIK 術後のドライアイに対するアテロコラーゲン涙点プラグの効果

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)1187《原著》あたらしい眼科28(8):1187?1190,2011cはじめに代表的な角膜屈折矯正手術であるlaserinsitukeratomileusis(LASIK)は,術後早期から良好な裸眼視力が得られるという利点がある一方で,術後に一過性のドライアイが生じることが知られている1~6).その症状は術後3~6カ月程度で改善すると報告されている2,4,5)が,遷延,または重症化することもある.この一過性ドライアイに対して,人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム点眼により治療が行われ,改善しない症例には,シリコーン製の涙点プラグが有効な場合もある.しかし,シリコーン製涙点プラグは挿入時に疼痛を伴ううえに,術後,感染7~9)や脱落9,10),肉芽形成10,11),涙道内への迷入9)などの合併症が生じるため,積極的に使用しにくい面がある.アテロコラーゲン涙点プラグ「キープティアR」(高研)は,タイプIコラーゲンから抗原性の高いテロペプタイドの部分を除去したアテロコラーゲンが主成分で,この水溶液は4℃〔別刷請求先〕森洋斉:〒885-0051都城市蔵原町6-3宮田眼科病院Reprintrequests:YosaiMori,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANLASIK術後のドライアイに対するアテロコラーゲン涙点プラグの効果森洋斉*1加藤貴保子*1南慶一郎*1宮田和典*1天野史郎*2*1宮田眼科病院*2東京大学大学院医学系外科学専攻感覚運動機能医学講座眼科学EfficacyofAtelocollagenPunctalOcclusionforDryEyeDuetoLaserInSituKeratomileusisYosaiMori1),KihokoKato1),KeiichiroMinami1),KazunoriMiyata1)andShiroAmano2)1)MiyataEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoGraduateSchoolofMedicine目的:Laserinsitukeratomileusis(LASIK)術後のドライアイに対するアテロコラーゲン涙点プラグの有効性と安全性を検討した.対象および方法:対象は,LASIK術後のドライアイ遷延例に対して,涙点プラグを挿入した16例29眼.評価項目は,涙液層破壊時間(BUT),点状表層角膜症(SPK),角結膜上皮障害(リサミングリーンスコア)とし,挿入前,挿入後1週,4週および8週で評価した.また,挿入前と挿入後8週でドライアイの自覚症状を比較した.結果:BUTは挿入前と比較して,挿入後1週(p<0.001;Wilcoxonの符号付順位和検定),4週(p<0.001)および8週(p<0.01)で有意に延長していた.SPK,リサミングリーンスコアは挿入前と比較して,挿入後1週,4週および8週(すべてp<0.001)でともに有意に改善していた.ドライアイの自覚症状は,16例中12例(75.0%)で改善していた.結論:アテロコラーゲン涙点プラグによる涙道閉鎖は,LASIK術後のドライアイに対して有用であった.Purpose:Toevaluatetheefficacyofpunctalocclusionwithatelocollagenfordryeyeafterlaserinsitukeratomileusis(LASIK).SubjectsandMethod:Subjectscomprised29eyesof16patientswhohaddryeyeover6monthsafterLASIKandreceivedatelocollageninjectionintothecanaliculi.Tearbreak-uptime(BUT),superficialpunctatekeratopathy(SPK)andkeratoconjunctivitissicca(lissaminegreenstainscore)wereexaminedbeforeandat1,4and8weeksaftertreatment.Thepatientswereaskedtoratetheirimprovementofsymptoms,usingselfassessment,beforeandat8weeksaftertreatment.Results:BUTsignificantlyincreasedat1,4and8weeksaftertreatments(p<0.001,p<0.001andp<0.01,respectively;Wilcoxonsigned-rankstest).SPKandlissaminegreenscorealsoimprovedafter1,4and8weeks(p<0.001).Improvementofsymptomswasreportedin12patients(75.0%).Conclusion:PunctalocclusionwithatellocollagenimprovesocularsurfacedisordersindryeyeafterLASIK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1187?1190,2011〕Keywords:涙点プラグ,ドライアイ,LASIK,アテロコラーゲン.punctalplug,dryeye,LASIK,atelocollagen.1188あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(128)以下では液状で,体温程度になるとゲル化する.涙液貯留効果の持続期間は数週間から数カ月と限られるが,シリコーン製涙点プラグでみられる重篤な合併症を起こさずに,同様の治療効果を得られると期待されている.濱野らはドライアイ症例69例135眼に対して有効性を検討し,涙液量の増加,角結膜上皮障害の軽減が8週間持続したと報告している12).また,Miyataらはドライアイ症例で,涙液層破壊時間(breakuptime:BUT)の延長,角結膜上皮障害の軽減,角膜上皮バリア機能の改善を認めたと報告している13).そこで本研究では,LASIK術後のドライアイが6カ月以上遷延した症例に対してアテロコラーゲン涙点プラグを挿入し,その有効性を検討した.I対象および方法対象は,2002年6月から2008年10月の間に宮田眼科病院でLASIKを受け,術後のドライアイが6カ月経過しても十分な寛解が得られず,アテロコラーゲン涙点プラグを挿入した16例29眼(男性2例4眼,女性14例25眼,平均年齢44.5±14.0歳).挿入時期は,LASIK後28.8±29.0カ月(6.1~81.9カ月)であった.挿入前のBUTは2.86±1.33秒で,全例2006年のドライアイの診断基準でドライアイ確定例であった.SchirmerI法変法は11.3±9.6mmであった.仰臥位にて,塩酸オキシブプロカイン点眼液(0.4%ベノキシールR点眼液)を点眼し,27ゲージ針でアテロコラーゲン涙点プラグを約150μlずつ上下涙小管に充?した.その後15分間温罨法を行い,確実にゲル化させ涙点を閉塞した.挿入前に行っていた点眼液(人工涙液およびヒアルロン酸ナトリウム)はそのまま継続とした.他覚的検査項目は,BUT,点状表層角膜症(superficialpunctuatekeratopathy:SPK),角結膜上皮障害である.BUTはストップウォッチにて3回測定し,その平均値を用いた.SPKは,フルオレセインの染色状態を染色面積(area),染色密度(density)の組み合わせで評価したMiyataらのAD分類を用い14,15),areaとdensityのスコアの和(6点満点)で評価した.角結膜上皮障害は,リサミングリーン染色を行い,鼻側球結膜,角膜,耳側球結膜の3象限に分けて,各々0~3点の4段階で判定し,合計した点数で評価した(リサミングリーンスコア)16,17).評価時期は挿入前,挿入1週後,4週後,8週後とした.自覚症状は,ドライアイの自覚症状13項目(眼の疲れ,乾燥感,異物感,眼が重い,痛い,痒い,不快感,かすみ,光がまぶしい,眼脂,眼を開けられない,流涙,充血)9)について,それぞれ5段階(悪化するほど高スコア)で挿入前と挿入後8週に患者へのアンケートを行い,比較した.さらに各症状の改善率〔改善した症例数/全体の症例数×100(%)〕を算出した.また,総合的なドライアイ症状の改善について,「とても良くなった」,「良くなった」,「かわらない」,「悪くなった」の4段階評価でアンケートを行った.各検査項目の統計解析は,挿入前を基準とするWilcoxonの符号付順位和検定を行い,有意水準は両側5%とした.II結果BUTは挿入前2.86±1.33秒であったのが,挿入後1週で4.35±1.65秒(p<0.001)と有意に改善し,4週で5.50±3.23秒(p<0.001),8週で4.72±3.14秒(p<0.01)と,その効果は8週間持続していた(図1).SPKはAD分類のスコア(A+D)にて挿入前3.00±0.80であったのが,挿入後1週で1.66±1.11(p<0.001),4週で1.52±1.21(p<0.001),8週で1.52±1.21(p<0.001)となり,挿入後1週で有意に改善し,その効果は8週間持続していた(図2).角結膜上皮障害はリサミングリーンスコアで挿入前3.41±1.57であったのが,挿入後1週で1.38±1.37(p<0.001),4週で1.48±1.33(p<0.001),8週で1.59±1.24(p<0.001)となり,挿入後1週で有意に改善し,その効果は8週間持続していた(図3).ドライアイの各自覚症状は,13項目中11項目が挿入前に比べて,挿入後で有意に改善していた(図4).各症状の改善***0123456挿入前1W後1M後2M後*p<0.001(Wilcoxonの符号付順位和検定)AreaとDensityのスコアの和図2点状表層角膜症〔areaとdensityのスコアの和(AD分類)〕の変化挿入前と比較して,挿入後1週,1カ月,2カ月において,点状表層角膜症は有意に軽減していた.0246810挿入前1W後1M後2M後*p<0.01(Wilcoxonの符号付順位和検定)涙液層破壊時間(秒)***図1涙液層破壊時間(BUT)の変化挿入前と比較して,挿入後1週,1カ月,2カ月において,BUTは有意に延長していた.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111189率は,眼の疲れ56.3%,乾燥感75.0%,異物感37.5%,眼が重い37.5%,痛み25.0%,痒み37.5%,不快感43.75%,かすみ37.5%,光がまぶしい43.75%,眼脂37.5%,眼を開けられない31.25%,流涙25.0%,充血50.0%であった.自覚症状の総合的な評価は,16例中12例(75.0%)で「とても良くなった」あるいは「良くなった」であった(図5).また,16例中4例(25.0%)で「かわらない」という評価であったが,「悪くなった」という評価は1例もなかった.観察期間内に角結膜の炎症,発赤,かゆみなどアテロコラーゲンの抗原性によるアレルギー反応,あるいはコラーゲンに対する過敏症状が1症例2眼に発症した.しかし無処置にて軽快した.ほかに重篤な合併症は認めなかった.III考按今回の検討により,LASIK術後のドライアイ遷延例に対するアテロコラーゲン涙点プラグの挿入は,BUTの延長,SPK,角結膜上皮障害の軽減および自覚症状の改善において有効であり,その効果は8週間持続することが確認された.アテロコラーゲン涙点プラグ挿入により,涙液排出を抑制することで,角膜表面を覆う涙液が増加し,BUTの延長および角結膜上皮障害の改善が促されたと考えられる.自覚症状別では,流涙,眼が重い以外の症状は有意に改善しており,乾燥感の改善率が最も高かった.流涙に関しては,スコア上の改善は認めなかったが,これはドライアイに伴う症状ではなく,涙液の増加による流涙症状が主であり,ドライアイ症状の改善を示唆していると考えられる.LASIK術後のドライアイの病態は,マイクロケラトームやエキシマレーザーにより,角膜知覚神経が切断,切除されることによって生じる角膜知覚低下が関与していると報告されている2,5).角膜知覚が低下すると,反射性の涙液分泌の低下や瞬目の低下による涙液蒸発の増加を起こし,ドライアイ症状をきたすと考えられている.通常,LASIK術後のドライアイ症状は一過性であることが多いが,今回の対象のようにLASIK術後6カ月以上経ってもドライアイ症状が遷延化することもしばしば経験する.その理由として,角膜知覚の回復遅延が考えられる.これまでの報告では,角膜知覚はLASIK術後3~6カ月で術前レベルまで改善する4,18)としているものがある一方で,術後1年以上経っても術前レベルまで改善しないとしているものもあり19,20),症例によって角膜知覚の回復期間に差が生じる可能性が推測される.角膜知覚の回復遅延の危険因子として,BenitezらはLASIK術前のコンタクトレンズ(CL)装用をあげている21).長期のCL装用は,角膜への酸素供給の低下をきたし,神経終末が障害されるため,角膜知覚の低下をひき起こす.ゆえにCL装用者は,術前から角膜知覚低下を認めているため,正常レベルまで回復するのに時間を要すると推察される.本研究の対象をレトロスペクティブに調べてみると,LASIK術前のCL装用者が83%と多く,角膜知覚の回復遅延によるドライアイ症状の遷延化の一因となった可能性が示唆される.さらに,本研究では調べていないが,LASIK術前にドライアイがあ543210自覚症状のスコア***********眼の疲れ乾燥感異物感眼が重い痛い痒い不快感かすみ光がまぶしい眼脂眼を開けられない流涙充血*p<0.05(Wilcoxonの符号付順位和検定)図4アテロコラーゲン涙点プラグ挿入前後での各自覚症状の比較流涙,眼が重い以外のすべての自覚症状が有意に改善した.0123456*p<0.001(Wilcoxonの符号付順位和検定)挿入前1W後1M後2M後リサミングリーンスコア***図3角結膜上皮障害(リサミングリーンスコア)の変化挿入前と比較して,挿入後1週,1カ月,2カ月において,リサミングリーンスコアは有意に軽減していた.:とても良くなった:良くなった:かわらない43.8%31.3%25.0%図5アテロコラーゲン涙点プラグ挿入による改善度の自覚的評価16例中12例(75.0%)が,アテロコラーゲン涙点プラグ挿入後にドライアイの自覚症状が改善したと回答した.また,悪化したと回答した例はなかった.1190あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(130)る症例では,術後の角膜知覚の回復が遅延することが報告されている22).角膜知覚の回復遅延をきたしやすいと予想される症例では,術後のドライアイ症状が遷延化する可能性が高いため,術後早期からドライアイに対する治療を考慮したほうがよいと考えられる.点眼治療で十分改善が得られないドライアイに対して,アテロコラーゲン涙点プラグによる涙道閉鎖が有効であるとの報告は幾つかある12,13,23)が,いずれも挿入後2カ月までの評価であり,その後の治療効果については検討されていない.アテロコラーゲン水溶液は4℃以下では液体であるが,体温程度になるとゲル化する性質をもっており,涙小管内でゲル化して保持され,涙液排出抑制効果を発揮する.しかしながら,ゲルは時間とともに分解されて,最終的に鼻腔内へ排出されるため,その効果は永続的ではない.ゆえに,通常の涙液減少型のドライアイでは,数カ月ごとにアテロコラーゲン涙点プラグの挿入が必要になることが考えられる.一方,本研究の対象であるLASIK術後のドライアイは,角膜知覚が術前レベルまで回復すれば,症状が改善すると推測される.つまり,角膜知覚が改善するまでの間一時的に,涙液排出抑制効果が持続していればよいため,アテロコラーゲン涙点プラグは良い適応であると考えられる.今回の症例では,アテロコラーゲンの抗原性によるアレルギー反応,あるいはコラーゲンに対する過敏症状が1症例2眼に発症したが,無処置にて軽快した.ほかに重篤な合併症は認めなかった.この結果から,アテロコラーゲン涙点プラグの安全性も確認された.アテロコラーゲン涙点プラグによる涙道閉鎖は,LASIK術後のような一過性のドライアに対して,有効で安全な治療法であることが示唆された.文献1)ArasC,OzdamarA,BahceciogluHetal:Decreasedtearsecretionafterlaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.JRefractSurg16:362-364,20002)StevenE,WilsonSE:Laserinsitukeratomileusisinducedneurotrophicepitheliopathy.Ophthalmology108:1082-1087,20013)MelkiSA,AzarDT:LASIKcomplications:Etiology,management,andprevention.SurvOphthalmol46:95-116,20014)TodaI,Asano-KatoN,Komai-HoriYetal:Dryeyeafterlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol132:1-7,20015)AmbrosioRJr,WilsonSE:Complicationsoflaserinsitukeratomileusis:etiology,prevention,andtreatment.JRefractSurg17:350-379,20016)SugarA,RapuanoCJ,CulbertsonWWetal:Laserinsitukeratomileusisformyopiaandastigmatism:safetyandefficacy:AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology109:175-187,20027)YokoiN,OkadaK,SugitaJetal:Acuteconjunctivitisassociatedwithbiofilmformationonapunctualplug.JpnJOphthalmol44:559-560,20008)SugitaJ,YokoiN,FullwoodNJetal:Thedetectionofbacteriaandbiofilmsinpunctualplugholes.Cornea20:362-365,20019)小嶋健太郎,横井則彦,中村葉ほか:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,200210)FayetB,AssoulineM,HanushSetal:Siliconepunctalplugextrusionresultingfromspontaneousdissectionofcanalicularmucosa:Aclinicalandistopathologicreport.Ophthalmology108:405-409,200111)那須直子,横井則彦,西井正和ほか:新しい涙点プラグ(スーパーフレックスプラグR)と従来のプラグの脱落率と合併症の検討.日眼会誌112:601-606,200812)濱野孝,林邦彦,宮田和典ほか:アテロコラーゲンによる涙道閉鎖-涙液減少69例における臨床試験.臨眼58:2289-2294,200413)MiyataK,OtaniS,MiyaiTetal:Atelocollagenpunctalocclusionindryeyepatients.Cornea25:47-50,200514)MiyataK,AmanoS,SawaMetal:Anovelgradingmethodforsuperficialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.ArchOphthalmol121:1537-1539,200315)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,199416)vanBijsterveldOP:Diagnostictestsinsiccasyndrome.ArchOphthalmol82:10-14,196917)味木幸,尾形徹也,小西美奈子ほか:リサミングリーンBによる角結膜上皮障害の観察.眼紀50:536-539,199918)MichaeliA,SlomovicAR,SakhichandKetal:Effectoflaserinsitukeratomileusisontearsecretionandcornealsensitivity.JRefractSurg20:379-383,200419)NejimaR,MiyataK,TanabeTetal:Cornealbarrierfunction,tearfilmstability,andcornealsensationafterphotorefractivekeratectomyandlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol139:64-71,200520)BattatL,MacriA,DursunDetal:Effectsoflaserinsitukeratomileusisontearproduction,clearance,andtheocularsurface.Ophthalmology108:1230-1235,200121)BenitezdelCastilloJM,delRioT,IradierTetal:Decreaseintearsecretionandcornealsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis.Cornea20:30-32,200122)TodaI,Asano-KatoN,Hori-KomaiYetal:Laser-assistedinsitukeratomileusisforpatientswithdryeye.ArchOphthalmol120:1024-1028,200223)平井香織,内尾英一,安藤展代ほか:新しいドライアイ治療・アテロコラーゲン液状プラグによる涙道閉鎖の治療効果.眼臨紀3:236-239,2010***

正常眼圧緑内障として長期経過した後にAlzheimer 病を発症した1症例

2011年8月31日 水曜日

1182(12あ2)たらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1182?1186,2011cはじめにこれまでにアルツハイマー病(Alzheimer’sdisease:AD)をはじめとする中枢性神経変性疾患と緑内障の関連性が示唆されている.たとえば,ADでは緑内障の合併率が23~26%と高いこと1,2),ADにおける緑内障性視神経症は進行しやすいこと3),ADの神経変性に関与するとされているapolipoproteinEpromoterの遺伝子多型が原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)における視神経乳〔別刷請求先〕布谷健太郎:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:KentaroNunotani,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-cho,TakatsukiCity,Osaka569-8686,JAPAN正常眼圧緑内障として長期経過した後にAlzheimer病を発症した1症例布谷健太郎*1杉山哲也*1小嶌祥太*1植木麻理*1菅澤淳*1池田恒彦*1西田圭一郎*2宇都宮啓太*3*1大阪医科大学眼科学教室*2関西医科大学精神神経科学教室*3関西医科大学放射線科学教室ACaseofProgressiveNormal-TensionGlaucomaofLongDuration,FollowedbyAlzheimer’sDiseaseOnsetKentaroNunotani1),TetsuyaSugiyama1),ShotaKojima1),MariUeki1),JunSugasawa1),TsunehikoIkeda1),KeiichiroNishida2)andKeitaUtsunomiya3)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofPsychology,KansaiMedicalCollege,3)DepartmentofNeuropsychiatry,KansaiMedicalCollege目的:近年,緑内障,特に正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)とアルツハイマー病(Alzheimer’sdisease:AD)の関連性を示す報告がみられるが,実際にNTGにADが合併した症例の報告はほとんどみられない.今回,筆者らは約16年間NTGとして加療してきた後,ADを発症した症例を経験した.症例:61歳,女性.平成5年12月両眼の視野異常が検出され,大阪医科大学眼科を紹介受診した.初診時,矯正視力は両眼(1.0),眼圧は両眼13mmHg.眼底所見,視野所見などからNTGと診断され,緑内障点眼薬による治療が開始された.約16年間にわたり眼圧はおおむね10mmHg前後で推移したが,視野障害は徐々に進行した.平成19年頃から健忘症状が出現し,平成21年精神科にて,認知機能検査,脳血流検査などの結果,ADと診断された.結論:長期間にわたる緑内障治療にかかわらずNTGとして視野障害が進行した後,ADを発症した症例を報告した.Purpose:Recentlyithasbeenreportedthatglaucoma,especiallynormal-tensionglaucoma(NTG),isassociatedwithAlzheimer’sdisease(AD).However,therearefewreportsoncasesinwhichADactuallyaccompaniedNTG.Inthisreport,wedescribeacaseofNTGthathadbeentreatedforabout16years,andwasfollowedbytheonsetofAD.Case:InDecember1993,a61-year-oldfemalewasreferredtousforvisualfielddefectsinbotheyes.Attheinitialmedicalexamination,botheyesshowedcorrectedvisualacuityof1.0andintraocularpressure(IOP)of13mmHg.ShewasdiagnosedasNTGbasedonocularfundusandvisualfieldfindings,andcommencedtreatmentwithmedicationforglaucoma.Forabout16years,herIOPhadalwaysbeenaround10mmHgineithereye,butvisualfielddefectshadgraduallyprogressed.Shedevelopedamnesiain2007,andin2009wasdiagnosedashavingADthroughcognitivefunctiontests,measurementofcerebralbloodflowandsoon.Conclusion:WereportedacaseofNTG,inwhichvisualfielddefectsprogresseddespiteglaucomatreatmentoflongduration,followedbytheonsetofAD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1182?1186,2011〕Keywords:正常眼圧緑内障,アルツハイマー病,脳血流,認知機能検査.normal-tensionglaucoma(NTG),Alzheimer’sdisease(AD),cerebralbloodflow,cognitivefunctiontests.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111183頭障害や視野変化と相関すること4)が報告されている.一方,SPECT(singlephotonemissioncomputedtomography)を用いた脳血流解析で,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)におけるAD型が約23%と多く,AD治療薬投与により視野改善を示すNTG症例があることを筆者らは以前に報告した5,6).しかし,実際にNTGにADを合併した症例の詳細な報告はこれまでにほとんどなく,逆にNTGやPOAGはAD発症のリスクを上げないという報告もある7,8).今回,筆者らは16年間NTGとして加療してきた後にADを発症した症例を経験したので報告する.I症例患者:61歳,女性.主訴:両眼視野異常.現病歴:平成5年9月頃より右眼光視症を自覚し,近医にて経過観察されていた.同年12月,両眼の緑内障性視神経乳頭異常と対応する視野異常が検出され,平成6年1月13日,精査加療目的で大阪医科大学眼科紹介受診となった.既往歴:特記すべきことはなし.家族歴:特記すべきことはなし.初診時所見:視力は右眼0.6(1.0×sph+0.5D(cyl?0.5DAx100°),左眼0.8(1.0×sph+1.0D(cyl?1.0DAx70°),眼圧は両眼13mmHgであった.前眼部・中間透光体に特記すべき異常は認めなかった.眼底は視神経陥凹乳頭(C/D:cup/disc)比が右眼0.7,左眼0.8であり,両眼乳頭下方と左眼上方の辺縁部菲薄化を認めた.視野検査では,両眼で傍中心暗点および鼻側階段を認めた(図1,2).頭蓋内病変除外のために施行した頭部MRI(磁気共鳴画像)では,右視神経が外側下方より,左視神経が下方より内頸動脈による圧迫を疑わせる所見を認めた以外,著変なかった(図3).経過:平成6年から点眼治療を開始し,眼圧はしばらくlow-teensであったが,平成11年頃からは両眼とも10mmHg前後で推移していた(図4).視野は両眼とも初診時より認めていた鼻側階段,外部および内部イソプターの沈下が徐々に進行していった(図1,2).平成21年9月再診時,視力は右眼0.7(1.0×sph+1.0D(cyl?1.25DAx100°),左眼0.9(1.0×sph+1.0D(cyl?1.25DAx90°),眼圧は右眼10mmHg,左眼9mmHgと著変なかったが,視野所見は,特に左眼で顕著な悪化を認めた(図1,2).眼底は視神経乳頭C/D比が右眼0.8,左眼0.9であり,両眼乳頭上方および下方の辺縁部菲薄化を認めた(図5).頭部MRIでは初診時と比べて,内頸動脈による視神経圧迫に明らかな変化はなく,また眼底所見は初診時と比較すると乳頭の陥凹,蒼白がやや進行していたが,大きな変化はみられなかった.初診時5年後10年後15年後図1右眼の視野経過1184あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(124)一方,平成19年頃から健忘症状が出現し,平成21年関西医科大学精神神経科を受診し,代表的な認知機能検査の一つであるMMSE(Mini-MentalStateExamination)で30点満点中23点,ADの評価尺度であるADAS-Jcog(Alzheimer’sDiseaseAssessmentScale-cognitivecomponent-Japaneseversion)で20点と,記銘力の低下を中心とした認知機能低下を認め,また頭部MRIで軽度の全般性脳萎縮,SPECTで頭頂葉,後部帯状回,楔前部の相対的血流低下(図6)を認めたことから,ADと診断された.5年後10年後15年後初診時図2左眼の視野経過RL黒矢印():視神経白矢印():内頸動脈図3初診時頭部MRI(125)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111185567891011121314H6.1H7.1H8.1H9.1H10.1H11.1H12.1H13.1H14.1H15.1H16.1H17.1H18.1H19.1H20.1H21.1:右眼:左眼ブナゾシンブナゾシン0.25%チモロール眼圧(mmHg)1%カルテオロールニプラジロール0.04%ジピベフリン図4眼圧と治療点眼薬の推移低下正常InferiorSuperiorR-lateralL-lateralPosteriorAnteriorL-medialR-medialRLLRRLLR62.0-5.0-4.0-3.0図6SPECT(脳血流)所見ab図5再診時眼底写真a:右眼,b:左眼.1186あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(126)II考按NTGの鑑別診断として,圧迫性視神経症,脳血管障害(脳梗塞・脳出血),鼻性視神経症,虚血性視神経症,遺伝性視神経症,中毒性視神経症があげられる.圧迫性視神経症については頭部MRI上,内頸動脈による視神経圧迫を疑わせる所見も認めたが,再診時の画像上,圧迫所見の変化はないにもかかわらず,著明に視野異常が進行していた点や視野異常の形式などから考えにくいと思われた.脳血管障害,鼻性視神経症は頭部MRIより否定的であった.虚血性視神経症では,視野障害は通常非進行性であることから考えにくく,またLeber遺伝性視神経症は時として乳頭陥凹を生じるが,通常視力低下・中心暗点を伴うこと,好発年齢・性別が10~20歳代,40~50歳代の男性であることなどから考えにくいと思われた.中毒性視神経症に関してはメチルアルコール,有機溶剤,抗結核薬(エタンブトール)などが原因としてあげられるが,それらの誤飲や摂取の既往はなく,また通常視力低下を伴うことから考えにくいと思われた.以上より,本例における視野狭窄の進行はNTGによるものと考えた.本症例は16年間にわたって眼圧下降治療を行い,眼圧はおおむね10mmHg前後にコントロールされたにもかかわらず,緑内障性視野障害が進行した.左眼で10年後から15年後にかけて右眼より急速に進行しているようにみえるが,この間にNTG,AD以外の疾患の合併は特になかった.したがって進行の左右差の明確な原因は不明であるが,眼圧の日内変動に左右差があった可能性,視神経の脆弱性や血流障害に左右差があった可能性,ADによる中枢性変化の影響が左眼視野で特に大きかった可能性などが考えられる.多少の左右差はあるものの,両眼とも10年後から15年後にかけての視野障害進行が最も顕著であった.またADの発症時期は不明であるが,ADが慢性進行性疾患であることより症状の出現し始めた時点(約2年前)より以前に病変が生じ始めた可能性が高く,緑内障性視野障害の顕著な進行とADの発症がほぼ同時期であったと推察される.筆者らは以前にNTGのうちAD型の脳血流分布を示す症例では眼圧が他の症例より低く,視野障害進行が比較的早いことを報告しており4),本例は合致している.また,AD型の脳血流分布を示しても,その時点で必ずしもADの症状を示すとは限らず,実際に筆者らの前報5,6)における症例はすべてADの症状を示していなかった.本報告はNTGの進行とADの発症が並行してみられた,筆者らが知る限り初めての症例報告である.偶然合併した可能性も完全には否定できないが,「はじめに」で述べたような両者の関連性についての報告1~6)を考え併せるとまったく偶然とは思えない.実際にはADが進行すると視野検査がむずかしくなるため,NTGであることが検出されていないものの合併している症例がもっと多く存在するのではないかと考える.近年,ADと緑内障の類似性に関しての報告が多くみられる9).さきに述べたapolipoproteinEpromoterの遺伝子多型に関する報告のほか,AD,緑内障ともに脳脊髄圧が低下しているという報告10,11)がみられ,脳脊髄圧低下のために相対的に眼圧が高くなり視神経障害をきたすという考え方も一部でなされている.また,ADの病態に関与しているアミロイドbの抗体投与によって緑内障モデルにおける網膜神経節細胞死が抑制される12)といった報告もあり,将来的にAD治療薬が緑内障治療に応用できる可能性があると考えられる.文献1)BayerAU,FerrariF,ErbC:HighoccurrencerateofglaucomaamongpatientswithAlzheimer’sdisease.EurNeurol47:165-168,20022)TamuraH,KawakamiH,KanamotoTetal:Highfrequencyofopen-angleglaucomainJapanesepatientswithAlzheimer’sdisease.JNeurolSci246:79-83,20063)BayerAU,FerrariF:SevereprogressionofglaucomatousopticneuropathyinpatientswithAlzheimer’sdisease.Eye16:209-212,20024)CopinB,BrezinAP,ValtotFetal:ApolipoproteinE-promotersingle-nucleotidepolymorphismsaffectthephenotypeofprimaryopen-angleglaucomaanddemonstrateinteractionwiththemyocilingene.AmJHumGenet70:1575-1581,20025)SugiyamaT,UtsunomiyaK,OtaHetal:Comparativestudyofcerebralbloodflowinpatientswithnormal-tensionglaucomaandcontrolsubjects.AmJOphthalmol141:394-396,20066)YoshidaY,SugiyamaT,UtsunomiyaKetal:Apilotstudyfortheeffectsofdonepeziltherapyoncerebralandopticnerveheadbloodflow,visualfielddefectinnormaltensionglaucoma.JOculPharmacolTher26:187-192,20107)Bach-HolmD,KessingSV,MogensenUetal:NormaltensionglaucomaandAlzheimerdisease:comorbidity?ActaOphthalmol2011Feb18.[Epubaheadofprint]8)KessingLV,LopezAG,AndersenPKetal:NoincreasedriskofdevelopingAlzheimerdiseaseinpatientswithglaucoma.JGlaucoma16:47-51,20079)WostynP,AudenaertK,DeDeynPP:Alzheimer’sdiseaseandglaucoma:isthereacausalrelationship?BrJOphthalmol93:1557-1559,200910)SilverbergG,MayoM,SaulTetal:ElevatedcerebrospinalfluidpressureinpatientswithAlzheimer’sdisease.CerebrospinalFluidRes3:7,200611)BerdahlJP,AllinghamRR,JohnsonDH:Cerebrospinalfluidpressureisdecreasedinprimaryopen-angleglaucoma.Ophthalmology115:763-768,200812)GuoL,SaltTE,LuongVetal:Targetingamyloid-betainglaucomatreatment.ProcNatlAcdSciUSA104:13444-13449,2007

プロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1 日薬剤費の比較

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(119)1179《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1179?1181,2011cはじめに近年,緑内障治療の主流となっているプロスタグランジン関連点眼薬に関し,新たな薬剤の登場,イソプロピルウノプロストン点眼薬の後発医薬品(後発品)の発売など,治療の選択肢が広がってきている.筆者らは,これまでに点眼薬の1滴量の品目間の違いを指摘し,薬剤費を評価するにあたっては,1瓶当たりの薬価のみを比較するのではなく,1瓶の点眼薬を実際に使用できる期間を含めて評価する必要があることを報告してきた1,2).後発品は先発医薬品(先発品)に比べ薬価が安いが,実際に1滴量や充?量を加味して比較すると,先発品と実際の費用がほとんど変わらない品目も存在している2).今回,プロスタグランジン関連点眼薬の先発品と後発品について,1瓶当たりの滴下可能期間および1日薬剤費の算出と比較を行った.I対象および方法2010年3月までに入手できたプロスタグランジン関連薬の先発品および後発品を対象とし,0.12%イソプロピルウノプロストン製剤の後発品を含む5品目,0.005%ラタノプ〔別刷請求先〕冨田隆志:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学病院薬剤部Reprintrequests:TakashiTomita,DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,1-2-3Kasumi,Minamiku,Hiroshima734-8551,JAPANプロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較冨田隆志*1櫻下弘志*1池田博昭*1塚本秀利*2木平健治*1*1広島大学病院薬剤部*2高山眼科UsablePeriodandDailyCostofProstaglandin-likeAgentOphthalmicSolutionsTakashiTomita1),HiroshiSakurashita1),HiroakiIkeda1),HidetoshiTsukamoto2)andKenjiKihira1)1)DepartmentofPharmaceuticalServices,HiroshimaUniversityHospital,2)TakayamaEyeClinicプロスタグランジン関連薬の滴下可能期間と1日薬剤費の比較検討のため,0.12%イソプロピルウノプロストン製剤の後発医薬品を含む6品目(5mL),0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロスト,0.03%ビマトプロスト製剤各先発医薬品(2.5mL)の点眼薬の総滴数と滴下総容量を計測し,1日使用回数と薬価から両眼使用時の滴下可能期間,1日薬剤費を算出した.滴下可能期間,1日薬剤費はイソプロピルウノプロストン先発医薬品がそれぞれ33.3日,30.0円,同後発医薬品がそれぞれ35.7~53.9日,13.4~20.3円,その他の品目がそれぞれ38.8~49.5日,47.4~61.7円で,品目間の実際の費用の差は薬価差以上であった.滴下可能期間はいずれも4週間を超えており,特に長期間点眼が可能な品目の処方,交付の際には,4週間を目処に新しい製品を使用し始めるよう,指導することが重要と考えられる.Weexaminedtheusableperiodanddailycostofophthalmicsolutionsofprostaglandin-likeagents.Sixproductformulationsofisopropylunoprostoneandinnovatorproductformulationsoflatanoprost,travoprost,tafluprostandbimatoprostweremeasuredastototalvolumeanddropcountperbottle.Dailycostwascalculatedonthebasisofstandarddailydosageandofficialpriceofeachproduct.Theusableperiodanddailycostoftheunoprostoneinnovatorproductwere33.3daysand30.0yen,respectively;fortheunoprostonegenericformulationsthefiguresrangedfrom35.7to53.9daysand13.4to20.3yen;otherproductformulationsrangedfrom38.8to49.5daysand47.4to61.7yen.Differenceinactualpharmaceuticalcostwasgreaterthaninofficialprice.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1179?1181,2011〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,後発医薬品,滴下可能期間,薬剤費.prostaglandin-analogue,genericproducts,usableperiod,medicationcost.1180あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(120)ロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロスト,0.03%ビマトプロスト製剤各先発品を用いた.各品目の容量などを表1に示した.前報2)と同様に,点眼薬は室温(23℃)で10mLメスシリンダー(スーパーグレード,許容誤差0.05mL,柴田科学器械工業,東京)に,専任者1名による滴下により,1瓶から滴下できた総滴数および総容量を計測し,総容量を総滴数で除して1滴量を求めた.滴下は手指による加圧により,1滴ずつ点眼瓶内に空気を戻しながら行った.点眼1回の滴下量を1滴とし,添付文書記載の用法で両眼に使用した場合の1日使用滴数で1瓶当たりの総滴数を除して1瓶の点眼薬の滴下可能期間を求め,2010年4月改訂の薬価基準価格(薬価)に基づく1瓶当たりの価格を滴下可能期間で除して1日薬剤費を算出した.各品目について3瓶の計測を行い,いずれも平均値をデータとした.なお,タフルプロスト製剤は添加物のベンザルコニウム塩化物濃度の変更があったため,変更前後の製剤の検討を行い,その差についてはWelch’sttestで評価した.II結果11品目の検討の結果を表1に示す.1滴量は25.0~38.2μLで,最大で約1.5倍の差が認められた.また,1瓶からの滴下総容量は表示容量の100~116%であった.イソプロピルウノプロストン製剤の滴下総容量,1滴量,滴下可能期間,1日薬剤費については,先発品がそれぞれ5.1mL,38.2μL,33日,68.2円,同後発品5品目がそれぞれ5.0~5.4mL,25.0~35.7μL,35~53日,29.5~44.5円であった.イソプロピルウノプロストン後発品の1滴量はいずれも先発品よりも少なかった.その他のプロスタグランジン関連薬各先発品の結果については,それぞれ2.65~2.91mL,27.6~35.6μL,37.8~49.5日,47.4~63.4円であった.また,タフルプロスト製剤の1表2各点眼薬の計測結果製品名総滴数(滴)滴下総容量(mL)1滴量(μL)滴下可能期間(日)1日薬剤費(円)キサラタンR点眼液0.005%91.3±0.92.91±0.0331.9±0.445.7±0.550.8±0.5トラバタンズR点眼液0.004%99.0±0.82.73±0.0327.6±0.149.5±0.449.6±0.4タプロスR点眼液0.0015%(旧処方)75.7±2.52.65±0.0435.1±1.137.8±1.263.4±2.1タプロスR点眼液0.0015%(新処方)77.7±2.52.77±0.0535.6±0.838.8±1.261.7±2.0ルミガンR点眼液0.03%98.7±0.92.81±0.0128.4±0.349.3±0.547.4±0.4レスキュラR点眼液0.12%133.0±2.95.08±0.0238.2±0.833.3±0.730.0±0.7イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」142.7±4.15.09±0.0135.7±1.035.7±1.020.3±0.6イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「タイヨー」215.7±4.55.39±0.0125.0±0.553.9±1.113.4±0.3イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「TS」142.7±2.65.03±0.0335.3±0.935.7±0.720.3±0.4イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「ニッテン」181.0±2.65.11±0.0428.2±0.445.3±0.516.0±0.2イソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」171.7±1.25.02±0.0429.2±0.342.9±0.316.9±0.1点眼瓶から1滴ずつ滴下して滴下可能であった総滴数,総容量から1滴量を求め,1日使用滴数,薬価を基に滴下可能期間,1日薬剤費算出した.結果は各品目3瓶の計測結果の平均値(±SD).表1使用した点眼薬と薬価製品名一般名1瓶の表示容量(mL)薬価(円/mL)1瓶薬価(円)1日用量(滴/両眼)キサラタンR点眼液0.005%ラタノプロスト2.5928.52,321.252トラバタンズR点眼液0.004%トラボプロスト2.5981.82,454.502タプロスR点眼液0.0015%(旧処方)タフルプロスト2.5957.82,394.502タプロスR点眼液0.0015%(新処方)タフルプロスト2.5957.82,394.502ルミガンR点眼液0.03%ビマトプロスト2.5935.12,337.752レスキュラR点眼液0.12%イソプロピルウノプロストン5.0398.41,992.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「タイヨー」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「TS」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「ニッテン」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004イソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」イソプロピルウノプロストン5.0289.41,447.004薬価は2010年4月現在.(121)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111181滴量は旧製品が35.1±1.1μL,新製品が35.6±0.8μLであった(p=0.56).III考察現在の緑内障の薬物治療の中心は点眼による眼圧下降であり,緑内障患者は生涯にわたって点眼薬を使用する必要がある.長期にわたる疾患治療にかかる薬剤費の情報は,患者にとって大きな関心事であり,薬剤に関する説明を行う医療者にとっても重要である.治療に用いる薬剤費がコンプライアンスに影響を及ぼすとの報告もあり3),治療薬の選択のうえでは,点眼薬の種類によって異なる眼圧降下作用,保管条件や点眼使用感を加味したうえで,その経済性も考慮することが望まれる.点眼薬の滴下量は,薬剤の種類,点眼容器の形状,添加物の濃度などの影響を受けるため1,2),点眼薬の経済性比較を行う際には,1瓶当たりの薬価のみでなく,その1滴量を反映させた評価が必要である.本検討では,プロスタグランジン関連薬の1瓶当たりの総滴数と総容量を実際に計測し,滴下可能期間と1日薬剤費を算出し,その比較を行った.今回検討した点眼薬の1滴量は25.0~38.2μLで,結膜?に保持可能な容量が約30μL,眼表面に存在する涙液量が約7μLとされており4),いずれの品目でも1回の点眼で結膜?に保持可能な容量を1滴で確保しており,適正な範囲にあることが確認された.1日薬剤費については,イソプロピルウノプロストン製剤後発品の先発品に対する薬剤費は,1mL当たりの薬価比が0.70であるのに対し,1滴量を加味した1日薬剤費の比は,0.45~0.68と,その差がより大きく,品目間にも差が認められた.イソプロピルウノプロストン先発品から後発品へ変更を検討する場合,最大の薬剤費の差は3割負担で考えても1日5.1円となる.この費用差は患者に提供すべき情報の一つであり,品目を選択する際の判断に有益と思われる.その他の品目についても,品目間で1日薬剤費に1.33倍の差が認められ,その差は薬価の差である1.06倍よりも大きかった.先発品と後発品の比較と異なり,眼圧低下効果などの違いを考慮に入れる必要はあるが,薬価の差はほとんどないにもかかわらず,実際の薬剤費に比較的大きな違いがあることは,薬剤選択の際の重要な情報といえる.なお,添加物濃度の変更は1滴量に変化を生じることがある5,6)が,今回のベンザルコニウム塩化物濃度の変更はタフルプロスト製剤の1滴量に影響を及ぼしていなかった.一方,1瓶の点眼薬がいつまで使用できるのか,という情報も,患者のライフスタイル支援やコンプライアンス確認,処方量の決定を行ううえで重要になる.1滴量の違いにより,1瓶の点眼薬の使用可能期間にも違いが出ているため,滴下可能期間は先発品の33.3日から後発品の最長53.9日と,最大で1.62倍の違いがみられた.品目の切り替えにより,患者の来院頻度の変化や,併用薬剤の組み合わせにおいて,点眼薬の処方量を変更する必要が生じることも考えられる.また,1瓶の容器をくり返し使用する点眼薬では,使用開始から長期間経過すると細菌汚染などを受けやすくなる7).多くの品目の添付文書などでも,明確な根拠は示されていないものの,開封から4週間を使用期限とすることが求められており,長期間点眼が可能な品目の処方,交付の際には,4週間を目処に新しい製品を使用し始めるよう,指導することが特に必要と考えられる.なお,今回の検討結果は1回1滴を確実に滴下した場合の理論的な数値である.理想的条件で消費された場合,滴下可能期間はすべての製品で4週間を上回っているが,1回に2滴以上の滴下や,点眼の失敗によるさし直しなども多く発生しており,現実にはこの期間は短縮すると考えられ,今回検討した薬剤費や滴下可能期間の情報は,品目間の相対的な評価指標として利用すべきと考える.また,いずれの品目も総容量は表示の容量を超えていたが,一部では表示容量を10%以上超えて滴下可能であった.濃度が適正であれば,容量が多くても使用に問題はないが,過剰な充?量は4週間という使用期限を超えて使用を続ける要因となりうると考えられる.なお,今回検討に用いた点眼薬は,すべて各販売企業より提供を受けた.これを除き,筆者らは各販売企業より,研究費その他の提供は受けていない.文献1)IkedaH,SatoE,KitauraTetal:DailycostofophthalmicsolutionsfortreatingglaucomainJapan.JpnJOphthalmol45:99-102,20012)冨田隆志,池田博昭,櫻下弘志ほか:b遮断点眼薬の先発医薬品と後発医薬品における1日あたりの薬剤費の比較.臨眼63:717-720,20093)TsaiJC,McClureCA,RamosSEetal:Compliancebarriersinglaucoma:asystematicclassification.JGlaucoma12:393-398,20034)MishimaS,GassetA,KlyceDJretal:Determinationoftearvolumeandtearflow.InvestOphthalmol5:264-276,19665)VanSantvlietL,LudwigA:Determinantsofeyedropsize.SurvOphthalmol49:197-213,20046)冨田隆志,池田博昭,塚本秀利ほか:緑内障点眼薬の1滴容量と1日薬剤費用.臨眼60:817-820,20067)野村征敬,塚本秀利,池田博昭ほか:眼科外来患者が使用中の点眼瓶の汚染率の検討.眼臨99:779-782,2005***

Visual Field Index とStandard Automated Perimetry およびShort-Wavelength Automated Perimetry の中心視野との関連

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(115)1175《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(8):1175?1178,2011c〔別刷請求先〕佐藤香:〒343-8555越谷市南越谷2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:KaoriSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KoshigayaHospital,DokkyoMedicalUniversity,MedicalSchool,2-1-50Minami-Koshigaya,Koshigaya,Saitama343-8555,JAPANVisualFieldIndexとStandardAutomatedPerimetryおよびShort-WavelengthAutomatedPerimetryの中心視野との関連佐藤香宇田川さち子忍田栄紀松本行弘獨協医科大学越谷病院眼科RelationshipbetweenVisualFieldIndexandStandardAutomatedPerimetryandShort-WavelengthAutomatedPerimetryCentralVisualFieldsKaoriSato,SachikoUdagawa,EikiOshidaandYukihiroMatsumotoDepartmentofOphthalmology,KoshigayaHospital,DokkyoMedicalUniversity,MedicalSchool目的:原発開放隅角緑内障眼におけるstandardautomatedperimetry(SAP)とshort-wavelengthautomatedperimetry(SWAP)の中心視野およびvisualfieldindex(VFI)との関連の検討.方法:対象は信頼性のあるHumphreyfieldanalizer(HFA)の24-2Swedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)-standard,SITA-SWAPを測定していた50例50眼で,検討項目はVFIとSAPおよびSWAPの中心4点のpatterndeviation(PD)平均値,PD確率プロット1%以下の測定点(異常点)の総数である.結果:VFIとSAPおよびSWAPのPD平均値は各々有意な正の相関があり(r=0.65,r=0.70,ともにp<0.001),PD平均値はSWAPが有意に不良であった(p<0.01).VFIとSAPおよびSWAPの異常点の総数は各々有意な負の相関があり(r=?0.54,r=?0.67,ともにp<0.001),異常点の数に有意差はなかった(p=0.70).結論:SWAPおよびSAPの中心4点とVFIは中心視野の評価に有用であることが示唆された.Objective:Toevaluatetherelationshipbetweenvisualfieldindex(VFI)andcentralvisualfieldsasdeterminedbystandardautomatedperimetry(SAP)andshort-wavelengthautomatedperimetry(SWAP)ineyeswithprimaryopen-angleglaucoma.Method:Thesubjectsofthisstudycomprised50eyesof50casesthathadundergonereliableHumphreyfieldanalizer(HFA)24-2Swedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)-standardandSITA-SWAPtesting.ItemsofevaluationincludedVFI,averagepatterndeviation(PD)ofthecentral4testpointsonSAPandSWAP,andtotalnumberofpointswithalevelofp≦1%onthepatterndeviationprobabilityplot(abnormalpoints).Results:SignificantpositivecorrelationwasseenbetweenVFIandaveragePDonbothSAPandSWAP(r=0.65andr=0.70,respectively,p<0.001);theaveragePDwassignificantlypooreronSWAP(p<0.01).SignificantnegativecorrelationwasobservedbetweenVFIandthetotalnumberofabnormalpointsonbothSAPandSWAP(r=?0.54andr=?0.67,respectively,p<0.001).Nosignificantdifferencewasnotedinthenumberofabnormalpoints(p=0.70).Conclusion:Itissuggestedthatthecentral4testpointsonSAP,SWAPandVFIareusefulforcomprehensivelyevaluatingthecentralvisualfield.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(8):1175?1178,2011〕Keywords:緑内障,中心視野,visualfieldindex(VFI),短波長自動視野測定,標準的自動視野測定.glaucoma,centralvisualfield,visualfieldindex,short-wavelengthautomatedperimetry,standardautomatedperimetry.1176あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(116)はじめに近年,さまざまな眼疾患におけるqualityofvision(QOV)やqualityoflife(QOL)の評価方法が検討されている1)が,緑内障眼においても中心視野障害がQOVやQOLに影響を与えることが知られている2).緑内障では中心視野は後期まで残存することが多く,中心視野の詳細な評価は不可欠である.早期の緑内障性視野変化の検出方法として,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP),frequencydoublingtechnology,flicker視野などがあげられる3).なかでも,SWAPは網膜神経節細胞のうち余剰性の少ないKoniocellular系を選択的に測定することで,緑内障性視野異常を早期に検出可能なことが報告4)されている.また,standardautomatedperimetry(SAP)のうちHumphreyfieldanalyzer(HFA,Carl-ZeissMeditec,Dublin,米国)では,guidedprogressionanalysis(GPA2)の導入に伴い,visualfieldindex(VFI)の算出が可能となった.VFIは,パターン偏差確率プロットによる感度から残存視機能をパーセント表示で算出するもので,大脳皮質拡大率や網膜神経節細胞の分布を考慮して,中心の測定点の比率配分を重く設定し,中心視野の重要度を加味している5).このことから,VFIはGPA2による視野進行のトレンド解析に用いられるとともに,QOVの指標として注目されている.今回,SAPおよびSwedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA)-SWAPの中心視野とVFIの関連についてretrospectiveに検討した.I対象および方法対象は,獨協医科大学越谷病院眼科の緑内障外来に通院中で,3カ月以内に信頼性のあるHFAのSITA-standard24-2,SITA-SWAP24-2を測定していた原発開放隅角緑内障50例50眼〔男性16例,女性34例,平均年齢58.0±9.4歳(35~74歳)〕である.原発開放隅角緑内障の診断は,緑内障診療ガイドライン6)に従った.視力に影響を及ぼすと思われる中間透光体の混濁および緑内障以外の眼底疾患や,視機能に影響を及ぼす視覚路疾患,内眼手術既往がない症例を対象とした.HFAの信頼性は,固視不良が20%未満,偽陽性が15%未満,偽陰性が33%未満のすべてを満たす場合を対象とした.対象例のSAPとSITA-SWAPの平均MDは各々?6.8±5.6(?19.4~1.31)dB,?8.0±5.7(?19.7~3.12)dBであった.小数視力測定後に換算したlogMAR値では,?0.06±0.1(?0.18~0.10)で,全例が小数視力は0.8以上であった.対象例の背景を表1に示す.検討項目はVFIとSAP中心4点のpatterndeviation(PD)平均値の関係,VFIとSITA-SWAP中心4点のPD平均値の関係,PD確率プロット1%以下の測定点を異常点とし,VFIと中心4点の異常点総数との関係についてSAPとSITA-SWAPで各々検討した.統計学的検討にはSpearmanの順位相関係数,Mann-WhitneyのU検定,c2検定を使用し,危険率5%未満を有意とした.II結果全対象のVFI平均値は79.2±15.1%(44~98%),SAPの中心4点PD平均値は?6.5±5.6dB(?18.5~2.25dB)で,VFIとSAPの中心4点PD平均値の間には有意な正の相関関係があった(r=0.65,p<0.001,Spearmanの順位相関係数).SITA-SWAPの中心4点平均値は?8.0±4.9dB(?21.0~?0.75dB)で,VFIとSITA-SWAPの中心4点平均値の間には,有意な正の相関関係があった(r=0.70,p<0.001,Spearmanの順位相関係数).SAPの中心4点PD平均値に比して,SITA-SWAPの中心4点PD平均値は有意に不良であった(p<0.01,Mann-WhitneyのU検定).中心4点のPDを部位別に検討すると,SAPでは上耳側が?13.9±13.8dB(?36~?1.0dB),上鼻側が?6.4±10.8dB(?35~?2.0dB),下耳側が?4.5±9.7dB(?37~2.0dB),下鼻側が?4.5±1.8dB(?5.0~3.0dB)で上耳側が他に比べて有意にPDが不良であった(各々p<0.001).上鼻側と下鼻側では上鼻側が有意にPDは不良であった(p<0.05)が,上鼻側と下耳側および下鼻側と下耳側ではPDに有意差はなかった.SWAPでは,上耳側が?15.1±11.8dB(?33.0~0dB),上鼻側が?7.0±7.4dB(?31~2.0dB),下耳側が?6.6±8.3dB(?34~1.0dB),下鼻側が?2.7±3.0dB(?12~3.0dB)であった.上耳側は他の部位に比して有意にPD値は不良であった(各々p<0.01).下耳側に比して上鼻側が有意にPD値は不良で(p<0.05)あったが,上鼻側と下耳側お表1対象例の背景対象例50例50眼年齢58.0±9.4(35~74)歳性別男性16例,女性34例視力(logMAR)?0.06±0.1(0.1~?0.18)屈折(等価球面度数:D)?2.3±3.2(?9.9~+3.0)眼圧(mmHg)15.8±2.7SAPMD(dB)?6.8±5.6(?19.4~1.3)SAPVFI(%)79.2±15.1(44~98)SAPPSD(dB)9.4±4.5(1.8~17.0)SITA-SWAPMD(dB)?8.0±5.7(?19.7~3.1)SITA-SWAPPSD(dB)8.5±3.4(2.2~14.2)平均値±標準偏差(最小値~最大値)で示す.logMAR:小数視力を測定後にlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)値に換算.SITA-SWAP:Swedishinteractivethresholdingalgorithm-shortwavelengthautomatedperimetry,SAP:standardautomatedperimetry,VFI:visualfieldindex,MD:meandeviation,PSD:patternstandarddeviation.眼圧はGoldmann圧平式眼圧計で測定.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111177よび下鼻側と下耳側では有意差はなかった.SAPとSITA-SWAPの中心4点の異常点総数は,SAPでは異常点が,50眼中34眼にみられ,1点が21眼,2点が10眼,3点が3眼,4点は0眼であった.VFI値とSAP異常点総数には有意な負の相関関係があった(r=?0.54,p<0.001).SITA-SWAPでは異常点が,50眼中34眼にみられ,1点が16眼,2点が14眼,3点が1眼で,4点は3眼であった.SAPとSITA-SWAPの中心4点の異常点総数に有意差はなかった(p=0.70,Mann-WhitneyのU検定).VFI値とSWAP異常点総数の間には有意な負の相関関係があった(r=?0.67,p<0.001).さらに,SAPとSWAPで異常点の分布に有意差はなかった(p=0.25,c2検定).SWAPで異常点が3点以上みられた4眼はSAPでは異常点は各々1点,2点,3点であり,一定ではなく,視力はいずれも小数視力1.0以上であった.III考按HFAで算出されるパラメータのうち,VFIは算出過程で中心から6°ずつ順に,3.29,1.28,0.79,0.57,0.45倍とより中心の測定点の比率配分を重く設定5)されている.さらに,本検討ではSAPの中心4点PD平均値のみではなく,VFIと測定条件の異なるSITA-SWAPの中心4点PD平均値とも有意な正の相関を示した.中心視野は,日本人には多いとされている近視眼の緑内障や正常眼圧緑内障では特に障害される可能性が高く8),QOLと視野障害の関係2)からも視野の評価において重要度は高いが,VFI値は視野全体の評価と同時に中心視野も評価できる可能性が示唆された.高眼圧症において5年以内に緑内障と診断されるうえでのSWAPの感度は100%,特異度は94%と報告12)され,SWAPはSAPよりも緑内障性視野障害を早期に検出可能な測定方法の一つとしての有用性はよく知られている.本検討でも,SAPの中心4点PD平均値に対してSITA-SWAPの中心4点PD平均値は有意に不良であった.SAP,SITASWAPともに4点の部位別の検討では,上耳側PD値が有意に不良であった.これは,緑内障では下半部黄斑と乳頭部の視野が保たれると考えられていることとも一致する13).本検討の対象例は全例矯正視力が0.8以上であり,中心4点のうち上耳側にp<0.1の異常点が検出された段階では,視力への影響は少ない可能性が示唆された.さらに,SWAPで異常点が3点以上みられた4眼はSAPでは異常点は各々1点,2点,3点であり,一定ではなく,視力はいずれも1.0以上であった.すなわち,SAPで異常点が1点のみであってもSWAPではすでに3点異常点が検出される例が存在した.このことから,視力に影響が及ぶ前から,SWAPでもHFAの結果の中心4点に注目し,視野検査を評価することが必要と考えられた.SWAPは,白内障などの中間透光体の混濁が検査結果に影響を及ぼすこと,加齢による青錐体系反応の低下10),閾値算出方法として以前から用いられてきた全点閾値測定法やFASTPACプログラムが,測定時間が長いため患者の負担や測定結果の変動が大きいことなどが問題点として認識されてきた9).そして現在,測定時間を短縮したSITAプログラムが導入され,その実用性が評価されつつあるとともに9),青錐体が網膜中心3°の部位に集中して存在することを考慮したSWAPの黄斑プログラムの有用性の報告もみられる11).本検討では,SAPとSITA-SWAPの中心4点の異常点総数に有意差はなかったが,これは対象例の中心視野の障害程度が多様であることや視力良好例が多いことによるのかもしれない.そして,早期視野異常検出の目的のみではなく,長期経過観察中における視野進行予測の観点14)からのさらなる検討も望ましいと考える.結論として,VFIは中心視野の評価に有用である可能性が示唆されるとともに,SWAPの適応判断や結果評価には今後もさらなる取り組みを要するが,SAPとSITA-SWAPの中心4点に着目し,視野進行のイベント解析の効果・観点から評価することが必要であると考えた.文献1)SuzukamoY,OshikaT,YuzawaMetal:Psychometricpropertiesofthe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaire(NEIVFQ-25),Japaneseversion.HealthQualLifeOutcomes3:65,20052)SumiI,ShiratoS,MatsumotoSetal:Therelationshipbetweenvisualdisabilityandvisualfieldinpatientswithglaucoma.Ophthalmology110:332-339,20033)松本長太:緑内障の視野検査研究の最新情報は?あたらしい眼科25:194-196,20084)SamplePA,BosworthCF,WeinrebRN:Short-wavelengthautomatedperimetryandmotionautomatedperimetryinpatientswithglaucoma.ArchOphthalmol115:1129-1133,19975)BengtssonB,HeijlA:Avisualfieldindexforcalculationofglaucomarateofprogression.AmJOphthalmol145:343-353,20086)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日本緑内障学会,20067)AndersonDR,PattellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,19998)新井麻里子,新家眞,鈴木康之ほか:正常眼圧緑内障における近視度と中心視野障害の関係.日眼会誌98:1121-1125,19949)BengtssonB,HeijlA,OlssonJ:Evaluationofanewthresholdvisualfieldstrategy,SITA,innormalsubjects.SwedishInteractiveThresholdingAlgorithm.ActaOphthalmolScand76:165-169,199810)前田秀高,田中佳秋,杉浦寅男ほか:高眼圧症におけるBlueonYellow視野計での網膜感度分布.日眼会誌102:1178あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(118)111-116,199811)辻典明,山崎芳夫:緑内障眼における短波長感度錐体視野と視神経乳頭陥凹との相関.臨眼53:667-670,199912)JohnsonCA,AdamsAJ,CassonEJetal:Blue-on-yellowperimetrycanpredictthedevelopmentofglaucomatousvisualfieldloss.ArchOphthalmol111:645-650,199313)SuzukiY,AraieM,OhashiY:Sectorizationofcentral30degreesvisualfieldinglaucoma.Ophthalmology100:69-75,199314)GirkinCA,EmdadiA,SamplePAetal:Short-wavelengthautomatedperimetryandstandardperimetryinthedetectionofprogressiveopticdisccupping.ArchOphthalmol118:1231-1236,2000***