0910-1810/11/\100/頁/JCOPYリンパ腫の診断までに時間を要することが多いという背景も予後を不良としている一つの要因と考えられる.以下に悪性リンパ腫の診断と治療の実際,その問題点について概説する.I眼内悪性リンパ腫の診断1.患者背景a.年齢,性別年齢は一般に50歳以上でみられることが多い.性差はないとされるが,女性のほうが多いとする報告もある4).b.症状自覚症状はぶどう膜炎とほぼ同様である.すなわち,視力低下や霧視,飛蚊症を主訴として眼科受診することが多い.中枢神経に病変がすでに存在する場合には視野障害を生じる場合もある.c.経過前述したように悪性リンパ腫の診断が確定するまでには時間を要することが多い.それまでに行われたステロイドの全身投与や後部Tenon?下注射などに対する反応が悪いことが重要なポイントとなる.ただ,それらの治療にあたかも反応したかのように一時的に軽快してその後また増悪する,といった経過をとることもあるので注意を要する.はじめに眼内悪性リンパ腫は本来悪性腫瘍であるにもかかわらず,その臨床像が非特異的な慢性ぶどう膜炎と酷似しているため,本来の病像とはまったく異なる疾患にみえるという意味で仮面症候群とよばれる.これまで眼科領域では比較的稀な疾患と考えられてきたが,最近その頻度は上昇傾向にあり,特に米国では劇的に増加傾向にあるとする報告もある1).これには本疾患の認知度の向上もあろうが,近年の硝子体手術機器・技術の進歩により硝子体生検が従来に比較し,より容易にかつ安全に施行できるようになったことなどから,その診断率が向上したことが大きく寄与しているものと考えられる.眼内悪性リンパ腫には,全身の悪性リンパ腫がその経過中に眼内に病変を生じる場合と,眼と中枢神経系に原発する,いわゆる眼・中枢神経系悪性リンパ腫がある.後者は眼所見が中枢神経系に先行して現れることのほうが多く,この場合特に原発性眼内リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOL)とよばれる2).眼内悪性リンパ腫は組織学的にはその大部分が非Hodgkinびまん性大細胞型B細胞リンパ腫であり,悪性度がきわめて高い.PIOLはその60~80%が数年以内に中枢神経系リンパ腫を発症し,5年生存率は約30%といわれる生命予後不良の悪性腫瘍である3).前述したように眼内悪性リンパ腫の臨床像が非特異的な慢性ぶどう膜炎との鑑別が困難であることが多く,長期間にわたってぶどう膜炎として治療されることが多いため,悪性(9)1377*KuniakiHijioka&HiroshiYoshikawa:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕肱岡邦明:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1377?1381,2011眼内悪性リンパ腫の診断,治療の実際とその問題点IntraocularLymphoma:Diagnosis,Treatments,andTheirProblems肱岡邦明*吉川洋*1378あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(10)3.検査所見確定診断には眼内組織での生検が基本である.前房水での診断率は高くないので,眼内悪性リンパ腫を疑ったら硝子体混濁がある症例には視機能向上も兼ねた診断的硝子体手術を積極的に行い,硝子体を採取して診断に用いる.筆者らの施設では術中灌流液を流す前に硝子体を採取している.それを遠心し,上清をサイトカイン測定に,沈殿物を細胞診に,また硝子体カセットも回収し遠心した後ホルマリンで固定して病理組織診断用に用いている.a.細胞診,病理組織診細胞診・病理組織診は悪性リンパ腫診断においては一見中心となる検査ではあるが,実際には診断率は低い.ClassIV以上が出れば確定診断でよいが,実際にはclassIII以下がほとんどという報告もある.このように診断率が低い原因として,まず標本に含まれる腫瘍細胞の数が少ないことがあげられる.その理由としては,硝子体内の浸潤リンパ球に占める異型リンパ球の割合がもともと低いこと,悪性細胞は元来壊死しやすく,特に酸素分圧の低い硝子体内では選択的に壊死する可能性があること,硝子体カッターや標本作成過程でも腫瘍細胞は壊れやすいこと,などが想定される.結果,標本に異型リンパ球が含まれていないこともしばしばである(図3).2.眼所見ぶどう膜炎と診断されることが多いことからもわかるように,その臨床所見は慢性の非特異的ぶどう膜炎と似ているが,よく観察するといくつか特徴的な所見も存在する.硝子体内の帯状,索状の硝子体混濁を主徴とする“硝子体型”と,網膜下の黄白色斑状病巣を主徴とする“眼底型”があるが,両者が混在する場合もある2).a.硝子体型前部硝子体に通常より大きめの細胞の浮遊がみられることが多い.硝子体混濁は細胞密度が高く,帯状の混濁を呈することが多い.またその特徴として,周辺に強く,中心には軽い,いわゆるドーナツ状の混濁を呈することがある.このため,濃厚な硝子体混濁の割には視力がよいのも特徴の一つである(図1).b.眼底型黄白色調で境界が比較的鮮明な網膜下の隆起性病変が観察されることが多い.これはOCT(光干渉断層計)で見ると網膜色素上皮下にみられる.また,比較的小さめで癒合傾向のある斑状病巣が全体に散在性にみられることもある(図2).その他前眼部では前房中の細胞は必発ではないが,経過中に出た場合には再発のサインである場合があるので注意を要する.図1硝子体型濃厚な硝子体混濁を認めるが視力は(1.2)である.図2眼底型黄白色調の網膜下の隆起性病変が観察される.(11)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111379トロン断層法),また必要に応じてルンバールなどを行わなくてはならない.それで眼以外に病変がみられない場合にも定期的に頭部MRIは行う必要がある.そのような場合筆者らの施設では最低6カ月に一度は行うようにしている.II眼内悪性リンパ腫の治療とその問題点眼内悪性リンパ腫の治療には眼局所治療と全身療法があり,それぞれに放射線療法と化学療法がある.1.眼局所治療a.放射線療法眼窩に放射線を照射する方法である.放射線科に依頼する.<治療の実際>2Gyずつトータル30~40Gyの放射線照射を眼窩に行う.<問題点>放射線治療は非常に有効でよく反応するが,一方で一度しか行えない治療であり,また再発は少なくない.その他放射線角膜症や放射線網膜症,視神経症など不可逆性の障害を起こす恐れもある.従来は一般的に初発病変b.サイトカイン測定眼内悪性リンパ腫では硝子体液中のinterleukin-10(IL-10)濃度が高いことが知られている.IL-10は正常人で出ることはほぼありえないので,特異性は高い.ぶどう膜炎患者では軽度上昇することはありうるが,IL-10よりも炎症性サイトカインであるIL-6のほうがはるかに上昇するので,必ずIL-6も同時に測定し,IL-10/IL-6の比も計算する.IL-10が100pg/ml以上もしくはそれ以下でもIL-10/IL-6比が1以上であれば眼内悪性リンパ腫と考えられる.c.PCRによる遺伝子再構成の確認残りのサンプルはpolymerasechainreaction(PCR)法による免疫グロブリン遺伝子JH部位の遺伝子再構成の確認に提出する.この遺伝子のモノクローナリティが確認されればB細胞由来のリンパ腫細胞が存在することになる.しかし,商業ベースで行われるPCR検査ではサザンブロットとの一致性が低く,他の検査結果と併せて解釈する必要がある(図4).上記項目をcheckし,総合的に眼内悪性リンパ腫の診断を行う.診断が確定したら当然であるが,確定診断に至らなくても悪性リンパ腫が強く疑われる場合には必ず血液内科にコンサルトし,連携して中枢神経系病変の検索のため頭部MRI(磁気共鳴画像)や全身PET(ポジ図3硝子体生検塗抹標本(パパニコロウ染色)小型リンパ球に混じって裸核で核小体の目立つ大型細胞が多数みられる.図4PCRによる免疫グロブリン遺伝子JH部位の遺伝子再構成の確認1380あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(12)した.このようにMTX硝子体内投与は放射線治療と違ってくり返し行えるメリットがある.<問題点>上述のように確立された治療プロトコールが存在しないうえに,治療効果の判定に関しても筆者らのようにIL-10値で行う施設もあれば,硝子体内細胞で判定する報告もあり7),また治療のendpointの設定に関しても一定した見解はないと言えるのが実情である.さらに上記のプロトコールでは注射が頻繁であることも問題である.今後はプロトコールの比較試験などを行うなどの議論は必要である.副作用としては幹細胞減少による角膜表層障害は必発である(図5).自験例では2クール目くらいのタイミングで起こってくることが多い.この場合は投与間隔を開けるか,場合によっては中止の検討も必要である.あるいはMTXの葉酸代謝拮抗作用に対する解毒剤として知られるホリナートカルシウム(ロイコボリンR)を点眼で使用する方法も試みられている8).ただ角膜障害は放射線治療と異なり可逆的である.には第一選択の治療法であったが,次項にあげるメトトレキサート硝子体内投与を用いることのほうが多くなってきている.b.化学療法メトトレキサート(MTX)を硝子体内に投与する方法である.1997年に初めて報告された比較的新しい治療法である5)が,近年浸透してきておりその有効性が確立されてきている.われわれ眼科だけで行うことのできる治療である.<治療の実際>投与量,投与法はさまざまであり,コンセンサスの得られた確立されたプロトコールというものはまだ存在しないので,各施設で治療法は少しずつ異なるのが現状である6,7).筆者らの施設では以下のように行っている.【硝子体内注射の方法】1.MTXを400μg/0.1mlとなるように濃度調整する.※溶媒は生理食塩水や眼内灌流液(オペガードR),またはデキサメタゾン(デカドロンR)など施設によってさまざまである.2.眼表面,結膜?を手術時と同様に洗浄,消毒する.3.前房水を0.1ml抜く.4.上記のMTX0.1ml(400μg)を30ゲージ針を用いて毛様体扁平部より硝子体内に投与する.5.眼表面を生理食塩水500mlで洗浄する.6.抗生物質の眼軟膏を点入する.以上を筆者らの施設では2日おきに計4回を1クールとし,1カ月間隔を開けてまず2クール行っている.このとき採取した前房水0.1mlは毎回必ずIL-10/IL-6の測定を行い,そのIL-10値の下がり具合をみて,状況に応じてその後引き続き月に一度MTX硝子体内投与を行っている.引き続き行う場合には12カ月を目処に中止しているが,その後も注意深く経過観察し,前房内に明らかに細胞が増えたり,あるいは眼底に病変の再発を認めたらただちに前房水を採取してIL-10/IL-6を測定している.筆者の自験例では,MTX硝子体内投与の有効性はきわめて高く,全例でIL-10は早期に陰性化した(表1).再発した症例は存在するが,MTX再投与により陰性化図5MTXによる角膜上皮障害表1MTX硝子体内投与による硝子体内IL?10値(pg/ml)の推移の例day0day3day6day91クール目62610214検出限界以下2クール目検出限界以下検出限界以下検出限界以下検出限界以下(13)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111381文献1)CornBW,MarcusSM,TophamAetal:Willprimarycentralnervoussystemlymphomabethemostfrequentbraintumordiagnosedintheyear2000?Cancer79:2409-2413,19972)後藤浩:眼腫瘍の最前線眼内悪性リンパ腫.眼科50:161-170,20083)JahnkeK,KorfelA,KommJetal:Intraocularlymphoma2000-2005:resultsofretrospectivemulticentertrial.GraefesArchClinExpOphthalmol244:663-669,20064)木村圭介,後藤浩:眼内悪性リンパ腫28例の臨床像と生命予後の検討.日眼会誌112:674-678,20085)FishburneBC,WilsonDJ,RosenbaumJTetal:Intravitrealmethotrexateasanadjunctivetreatmentofintraocularlymphoma.ArchOphthalmol115:1152-1156,19976)曺麗加,後藤浩:メトトレキセート硝子体投与─原発性眼内悪性リンパ腫の治療として─.あたらしい眼科23:899-900,20067)FrenkelS,HendlerK,SiegalTetal:Intravitrealmethotrexatefortreatingvitreoretinallymphoma:10yearsofexperience.BrJOphthalmol92:383-388,20088)EunahK,ChanghyunK,JiwoongLetal:Acaseofprimaryintraocularlymphomatreatedbyintravitrealmethotrexate.KoreanJOphthalmol23:210-214,20092.全身療法中枢神経に病変がある場合には放射線の全脳照射や,MTXの大量療法・髄腔内投与が行われるが,PIOLが数年以内に中枢神経に進展する率は高く,生命予後不良であることが広く知られてきており,病変が眼内のみで中枢神経にはまったくみられなくても予防的に全身治療が行われる場合が増えてきている.全身治療を行うかどうかの判断は血液内科に委ねられるので,この観点からも眼科医だけで各種検査を行うのはよいが,眼外に病変が見つからなかったとしても血液内科にコンサルトすることは必須である.おわりに眼内悪性リンパ腫の診断と治療,その問題点について述べてきた.眼内悪性リンパ腫は眼科領域では数少ない生命予後に直結する疾患の一つであり,局所のみではなく全身治療を要することもしばしばであることを念頭において治療に当たらなければならない.その診断に関しても,眼内炎症をみた場合に,ステロイドに対する反応やその他の所見も考慮しながら眼内悪性リンパ腫を疑うセンスも求められる.