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屈折矯正手術:トーリック有水晶体眼内レンズの有効性

2011年8月31日 水曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.8,201111330910-1810/11/\100/頁/JCOPY有水晶体眼内レンズは,LASIK(laserinsitukeratomileusis)では不適応となるような角膜が薄い症例や強度近視例,強度乱視例に対しても適応となり,高い安全性と有効性が報告されている1).LASIKと違って角膜屈折矯正手術ではないため,近視の戻り(regression)や一過性のドライアイ,エクタジアといった合併症もみられない.最近,有水晶体眼内レンズはLASIKより術後の視機能や矯正精度において優れているという報告がなされていて2,3),その長期成績も報告されている4).さらに強度近視だけでなく,軽度から中等度近視においても良好な手術成績が報告されている3).現在使用されている有水晶体眼内レンズには前房型(ArtisanR:OphtecBV社)と後房型(ICLTM:STAARSurgical社)の2種類があり,どちらも乱視矯正が可能である.バプテスト眼科クリニック(以下,当院)ではtoricICLTMの挿入術を2006年から施行しており,筆者らは以前に,その良好な手術成績を報告した5).今回その長期経過をもとにトーリック有水晶体眼内レンズの有効性を示す.対象は,2006年11月から2011年6月までに当院でtoricICLTM挿入術を行い,術後3カ月以上経過観察できた症例39例67眼(男性16例,女性23例),平均年齢33.9±7.4歳,術前平均裸眼視力はlogMAR1.70±0.22(小数視力0.02),術前平均矯正視力はlogMAR?0.04±0.10(小数視力1.10),術前平均等価球面度数は?9.69±4.84D,術前平均乱視量は2.13±1.15Dであった.筆者らは耳側3mm角膜切開で手術を行っており,1D以上,もしくは0.75D以上の直乱視症例にtoricICLTMを挿入している.手術結果を示す.平均裸眼視力は術翌日からlogMAR?0.06±0.11(小数視力1.14)と1.0以上の視力を獲得しており,高度乱視例であっても早期から長期にわたって良好な成績を示した(図1).また,矯正視力が1段階以上改善した症例は47.8%,不変・改善を合わせると98.5%であり高い安全性を示した(図2).1段階以上悪化した症例は白内障を合併した症例であった.つぎに術前後の乱視量変化について示す(図3).術前平均乱視量2.13±1.15Dが術後最終観察時では0.32±0.37Dとなり,有意に乱視量の改善を認めた.術後残余乱視量が1.0D以内であったものは89.6%,0.5D以内であったものは50.7%であり,良好な乱視矯正効果を示した.軸ずれ結果を示す(図4).軸ずれは2倍角座標を用いて計算した.5°以内が82.1%,10°以内が94.0%であった.(73)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載135監修=木下茂大橋裕一坪田一男135.トーリック有水晶体眼内レンズの有効性北澤耕司稗田牧京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学有水晶体眼内レンズは,LASIK(laserinsitukeratomileusis)などの角膜屈折矯正手術とは異なり,強度の近視性乱視症例に対しても高い安全性と有効性があることが報告されている.後房型レンズは球面矯正のみではあるが,2010年2月から厚生労働省の認可を得て,一般に使用可能となっている.pre1D1W1M3M6M1Y1.5Y2Y2.5Y3Y3.5Y4Y観察期間小数視力0.11.00.01図1平均裸眼視力術翌日より改善しており,全経過観察期間中,安定していた.(眼)35302520151050>-0.1±0.10.1<0.2<0.3<最終観察時n=67(logMAR)悪化不変改善図2矯正視力の変化最終観察時,98.5%の症例で矯正視力は不変・改善を示した.1134あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011後房型有水晶体眼内レンズ挿入術後の合併症には,角膜内皮細胞減少,眼圧上昇,虹彩炎,術後眼内炎,網膜?離,白内障などがある.今回,大幅な角膜内皮細胞密度の減少や治療が必要となる虹彩炎,術後眼内炎の症例は1例もなかった.海外では眼内炎の発症頻度は約6,000眼中1眼と報告されており6),白内障術後眼内炎より低い頻度である.術後1週間以内に著明な眼圧上昇をきたした症例が3例あった.2例は虹彩切除が不十分であり,虹彩再切除もしくはYAGレーザーの施行により改善した.1例は著明な眼内炎症に対して前房洗浄を施行した.網膜?離は1眼に術後9カ月の時点で認めたが,硝子体手術により網膜は復位して現在1.5の視力を維持している.後房型有水晶体眼内レンズの最大の問題は白内障の出現である.筆者らは67眼中1眼(1.5%)で白内障の出現を認めて矯正視力が0.5まで低下したため白内障手術を施行した.この症例は年齢が42歳で,かつlowvaulting(水晶体とレンズとの距離が狭い)であり,年齢が40歳以上の症例には注意が必要である.しかし,有水晶体眼内レンズは可逆的な矯正方法であり,たとえ白内障になったとしても白内障手術を施行すれば十分満足が得られることが報告されている7).FDA(米国食品医薬品局)で行われた長期成績(平均4.7年)では526眼中31眼(5.9%)に前?下混濁を認め,臨床的(2段階以上の視力低下やグレアの増加,白内障手術を施行されたなど)に7眼(1.3%)に白内障を認めたと報告しており8),今後も長期的に経過をみる必要がある.文献1)SandersDR,SchneiderD,MartinRetal:Toricimplantablecollamerlensformoderatetohighmyopicastigmatism.Ophthalmology114:54-61,20072)SandersDR:MatchedpopulationcomparisonoftheVisianimplantablecollamerlensandstandardLASIKformyopiaof?3.00to?7.88diopters.JRefractSurg23:537-553,20073)SandersDR,SandersML:ComparisonofthetoricimplantablecollamerlensandcustomablationLASIKformyopicastigmatism.JRefractSurg24:773-778,20084)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollowupofposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20095)北澤耕司,稗田牧,岩間亜矢子ほか:乱視矯正有水晶体眼内レンズの術後成績.IOL&RS24:279-285,20106)AllanBD,Argeles-SabateI,MamalisN:EndophthalmitisratesafterimplantationoftheintraocularCollamerlens:Surveyofusersbetween1998and2006.JCataractRefractSurg24:566-570,20087)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:ClinicaloutcomesandpatientsatisfactionafterVisianImplantableCollamerLensremovalandphacoemulsificationwithintraocularlensimplantationineyeswithinducedcataract.Eye24:304-309,20108)SandersDR:Anteriorsubcapsularopacitiesandcataracts5yearsaftersurgeryinthevisianimplantablecollamerlensFDAtrial.JRefractSurg24:566-570,2008(74)☆☆☆■:5°≧■:10°≧■:15°≧■:20°≧術後3カ月n=67図4軸ずれ術後3カ月において,軸ずれが5°以内は82.1%,10°以内は94.0%であった.(眼)35302520151050最終観察時n=67<0.50.5≦1≦1.5≦2≦3≦4≦■:術後■:術前(D)図3残余乱視量術後残余乱視量が1.0D以内であったものは89.6%,0.5D以内であったものは50.7%であった.

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ毛様溝縫着

2011年8月31日 水曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.8,201111310910-1810/11/\100/頁/JCOPY破?時の多焦点IOLの適応多焦点眼内レンズ(IOL)は,高度な視機能が得られる一方で,その複雑な光学部の構造により偏心や傾斜には弱い可能性が高いと考えられる.それゆえ多焦点IOLは完全?内固定をするのが理想であり,それが困難である場合には安全策としては,単焦点IOLに変更して挿入する方法が考えられる.しかし,実際には多焦点IOL挿入を希望する患者では期待度も高く,通常の保険診療ではないこともあって単焦点IOLへの変更を受け入れてもらうことは必ずしも容易ではない.患者の希望によっては,多焦点IOLの毛様溝固定を検討する必要がある.破?時の多焦点IOLの選択多焦点IOLを完全?内固定できない状況ではIOLの偏心が最も懸念される.屈折型と回折型を比較すると,屈折型では同心円状に遠用部と近用部が交互に配置しており偏心によって自覚的な屈折が変化してしまう危険性があり,より影響が大きいと思われる.また,偏心の危険性は毛様溝縫着では毛様溝固定より高くなる.後?破損時でも前?が問題なく毛様溝固定が可能な状況では,マルチピースIOLであれば屈折型,回折型どちらでも使用可能と考えられる.もちろん偏心をできるだけ少なくするために,IOLの支持部は?外で光学部は前?切開縁で捕獲するように後方へ押し込むことが勧められる.IOL毛様溝縫着については屈折型を使用した報告もあるが,偏心の危険性を考慮してマルチピースの回折型多焦点IOLを選択するのが無難と思われる.回折型多焦点IOLの毛様溝縫着症例〔症例〕41歳,男性.前医にて右眼のアトピー白内障に対し,超音波水晶体乳化吸引術,多焦点IOL挿入術を施行された.術中に後?破損を生じたため,屈折型多焦点IOL(AMO社SA40NArrayR)を毛様溝固定された.その後,転居に伴い転院して術後経過観察していた.遠見視力VD=1.0(矯正不能),近方裸眼視力VD=1.5で経過良好であったが,6カ月後に突然右眼の視力低下を自覚して受診した.受診時,右眼のIOLは硝子体中に落下していたため大学病院へ紹介となり,IOL摘出と硝子体切除術を施行された.患者が多焦点IOL挿入を強く希望していたため,硝子体手術と同時のIOL毛様溝縫着は行われなかった.術後4カ月,視力VD=(71)●連載⑳多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子20.多焦点眼内レンズ毛様溝縫着中村邦彦*1吉野健一*2*1たなし中村眼科クリニック*2吉野眼科クリニック多焦点眼内レンズ(IOL)は複雑な光学部の構造により偏心や傾斜に弱い可能性が考えられ,?内固定が困難である場合には単焦点IOLに変更することが勧められていた.回折型は屈折型より偏心の影響を受けにくく,マルチピースタイプのモデルでは毛様溝縫着にても良好な結果が得られ,患者の希望があれば選択肢として考えられる.図1回折型多焦点IOL毛様溝縫着後の前眼部写真AMO社ZMA00TECNISTMMultifocalAcrylicを1時,7時にて毛様溝縫着固定した.IOL中心と角膜中心がほぼ一致している.1132あたらしい眼科Vol.28,No.8,20110.01(1.5×+12.0D)と良好であったので,多焦点IOLの二次挿入を検討した.縫着による偏心の危険性を考え,屈折型多焦点IOLではなく回折型多焦点IOLを選択することとした.右眼に回折型多焦点IOL(AMO社ZMA00TECNISTMMultifocalAcrylic)を毛様溝縫着した.縫着は対面通糸法にて行い,中心固定を良好にするため角膜中心と縫着予定部位をピオクタニンでマーキングしたうえで行った(図1).術後経過:多焦点IOL毛様溝縫着後,遠方視力VD=0.8(1.2×+0.75D),近方視力VD=0.8(矯正不能)であった.IOL毛様溝縫着では手術手技に細心の注意を払っても,?内固定と比較してIOLの偏心,傾斜が生じて,視機能に影響する可能性がある.回折型は屈折型より偏心の影響は少ないと考えられるが,もともと単焦点IOLよりコントラスト感度が低下することが知られており,さらに低下することが懸念される.今回の症例では波面収差解析装置にて高次収差を比較すると,IOL毛様溝縫着後では?内固定よりコマ収差を中心としてやや増加している様子があったが,コンントラスト感度は(72)全周波数領域にて正常範囲内であった(図2).術後1カ月時点で遠方,近方とも満足しており,屈折型多焦点IOLArrayRのときと比較して,グレア,ハローとも減少して,近方も見やすくなったといっている.多焦点IOL毛様溝縫着の注意点多焦点IOLのシングルピースタイプのAlcon社レストアは?外固定に適さないので,毛様溝縫着の際にはレストアを使用するならばマルチピースタイプのものを取り寄せる必要がある.単焦点IOLのときと同様に多焦点IOLでも?外固定では?内固定のときよりIOLパワーを0.5Dから1.0D減じることが勧められる.多焦点IOL挿入にあたって常に?外固定に適するパワーのバックアップIOLを用意している施設は少なく,また前述のごとく多焦点IOL毛様溝縫着にあたっては単焦点IOLのときより偏心に注意を払うことが望まれるので,一期的に無理に行うのではなく二期的に落ち着いた状態で行うほうが良好な結果が得られると思われる.☆☆☆図2波面収差解析装置(トプコン社KR?1W)による回折型多焦点IOL挿入後の高次収差解析結果IOL?内固定よりIOL毛様溝縫着でコマ収差を中心として高次収差はやや増加している.縫着?内固定TotalHOAThird-OrderTrefoilComaTetrafoilFourth-order2ndAstigSphericalTotalHOATrefoilComaTetrafoil2ndAstigSpherical縫着4mm0.1950.105@420.147@2980.063@710.009@2?0.040縫着6mm0.4760.060@350.274@3010.199@640.176@13?0.146嚢内4mm0.0940.021@520.079@1920.029@620.017@169?0.033嚢内6mm0.3630.049@290.110@1960.081@380.077@173?0.292

眼内レンズ:iSert® Micro251

2011年8月31日 水曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.8,201111290910-1810/11/\100/頁/JCOPYiSertRMicro251(HOYA)は2010年7月に発売されたプリロードタイプの眼内レンズ(IOL)である.IOLはこれまでに使用されているNY-60(HOYA)がセットアップされている.NY-60はシングルピース形状で光学部は着色疎水性アクリル,支持部の一部がブルーのPMMA(polymethylmethacrylate)で構成されている.レースカット製法であるが,研磨方法をパット研磨に変えることにより鋭角な光学部エッジ形状をもち,後発白内障を抑制する.IOLとしての特徴はこれまでの報告1,2)と大きな変化はないが,プリロードタイプとしては最新であり,インジェクターのセットアップおよびIOL挿入操作方法が大幅に改良されている.このインジェクターは前方ケースカバー,本体,ケースの3つより構成されている(図1).セットアップには,まず先端透見できるIOLの前方にある小孔から粘弾性物質またはBSSPlusR(アルコン)を注入(図2a)し,インジェクター前(69)面についているケースカバーを外す.その後中央部のスライダーを前方にスライドさせるとインジェクター本体がケースから外せるようになる.後方のハンドルを押しながら回転させるとIOLが前方に移動していきセットアップが完了する.IOL支持部は前方後方とも自動的にタッキングされるようになっていて,支持部の一部が青松島博之獨協医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎300.iSertRMicro251iSertRMicro251(HOYA)はプリロードタイプインジェクターで,3つの部品で構成されている.前方小孔から粘弾性物質を注入し,ケースカバーを外し,スライダーを前方にスライドさせることでセットアップが完了する.推奨切開創サイズは強角膜2.0mm,角膜2.2mmで極小切開白内障手術に対応している.スクリューを回すことで簡単に眼内レンズの挿入が可能である.図1iSertRMicro251の構造iSertRMicro251は上図より前方ケースカバー,本体,ケースの3つより構成されている.ab図2iSertRMicro251使用方法a:インジェクター本体の前方にある小孔から粘弾性物質またはBSS-PlusRを注入し,前面についているケースカバーを外す.その後中央部のスライダーを前方にスライドさせるとインジェクター本体がケースから外せるようになる.後方のハンドルを押しながら回転させるとIOLが前方に移動し,セットアップが完了する.b:右上図に示すようにプランジャー先端は陥凹していて,後方支持部をタッキングするようになっている.IOLは谷折りで眼内に排出される.色を呈しているので,術中IOLのセットアップ状態を透見して確認できる.したがって,もしセットアップの異常が生じた場合でも事前に検出できるように工夫されている.創口は強角膜2.0mm,角膜2.2mmから挿入できるので極小切開白内障手術でもカウンターテクニックを使わなくとも,両手でインジェクターを操作できるので,確実であり初心者でも扱いやすい.ケースから外して,スクリューを進めると前方ループがタッキングされ,IOLは谷折りで前房内に入ってくる(図2b).挿入時の注意点として,前方ループに関しては前?切開縁の位置を考慮してIOLを?内に進行させるだけで操作は簡単である.後方ループはプランジャーの陥凹部でタッキングされているので,眼内に挿入後若干外れにくい.スクリューを進めてプランジャー先端をカートリッジから十分に出すようにする.また,プランジャー先端は横溝が掘られているため,図3に示すように構造を意識して挿入後インジェクターを90°反時計回りに回転させ眼内に押し込むようにするとたやすくワンアクションで挿入可能である.しかし,ワンアクションにこだわらなくともIOL自体が軟らかいので,前房内に置いたIOLをI/A(irrigationandaspiration)チップで簡単に?内に挿入できる.唯一欠点としてはIOLが軟らかいことが挿入時には利点となるが,挿入後は創口からのBSSPlusRの流出で前房が浅くなるとIOLが前方に偏位してキャプチャーすることがある.手術終了時にIOL光学部が?内に位置し,コンプリートカバーになっているか確認する必要がある.IOLおよびインジェクターの進歩は目覚ましく,年々欠点が改善され,術者にとっても扱いやすいものになっている.このインジェクターのシステムはいわゆるユーザーフレンドリーであり,現時点のプリセットタイプのインジェクターのなかでは最も高い位置にあるといってよい.文献1)松島博之:iMics1の特徴.眼科手術22:481-485,20092)松島博之:シングルピースIOLTECNIS1-PieceとiMics1.IOL&RS24:118-121,2010図3iSertRMicro251使用上の注意点側面図に示すようにプランジャー先端側面には溝があり,眼内に排出するときに後方支持部が外れにくくなるときがある.プランジャーを90°反時計回りに回転させると,溝が下側を向く.この状態でIOLを下に押すと簡単に支持部が外れ,ワンアクションで挿入しやすい.側面図前方断面図プランジャーを90°回転させると,溝が下側を向く.この状態でIOLを下に押すと簡単に支持部が外れる.プランジャーの左側面に溝があり,このまま後方支持部を?内に挿入するのはむずかしい.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズの素材について考える

2011年8月31日 水曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.8,201111270910-1810/11/\100/頁/JCOPY●ハードコンタクトレンズの素材ハードコンタクトレンズ(HCL)は素材の種類から,ガス透過性のほとんどないポリメチルメタクリレート(PMMA)のPMMA-HCLとガス透過性の高い各種高分子のガス透過性HCL(RGPCL)に分けられる.RGPCLは素材の酸素透過性の程度を示す酸素透過係数(Dk値)の高低から,高Dk値(100×10?11cm2・mlO2/sec・ml・mmHg以上)のRGPCLと低Dk値(40×10?11cm2・mlO2/sec・ml・mmHg以下)のRGPCLに分けられる.さらにRGPCLはレンズの親水性表面処理の有無によっても分けられている.現在ではコンタクトレンズ(CL)装用の未経験者に新規にPMMA-HCLが処方される機会はほとんどないと考えられるため,本稿ではRGPCLを処方する場合の素材からの選択のしかたについて考えてみたい.●素材からのHCLの選択一般的にHCLを処方する場合には,専門的にCLの処方をしている施設を除いては,それぞれの処方施設に置かれている限られたメーカーのトライアルレンズのな(67)かから適正なフィッティングの得られるベースカーブとサイズのレンズを選択し,素材を選択の基準とすることは少ないと考えられる.PMMA-HCLが主として処方されていた時代には問題のないことであったが,前述のとおり,素材によって特徴のあるRGPCLが処方の主流となった現在では,各メーカーから発売されているRGPCLの素材の特性を理解してRGPCLを選択することが,適正なフィッティング,安定した屈折矯正効果,良好な視力補正効果,持続する快適な装用感のHCLを処方するためには必要である.それではどういう基準で素材を選んだら良いのであろうか.それには素材の特性から発生するレンズの特徴を,どういう患者が適応となるかを考えると理解しやすい.RGPCLの特徴としてDk値の違いによる酸素透過性,機械的強度,たわみやすさ(flexure),水濡れ性,汚れやすさがあるが,それぞれを判断することはむずかしい.そこでこれらの性質を代表できる素材のDk値の高低からレンズとして特徴を判断して適応を考える.つぎに表面処理の有無からと患者の特徴から適応を考えて素材を選択するのが実際的である.塩谷浩しおや眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】326.コンタクトレンズの素材について考える図2RGPCLの汚れRGPCLはPMMA-HCLと比べるとレンズの表面の水濡れ性が劣っており,脂質や蛋白質の汚れがつきやすい.図1RGPCLの傷RGPCLはレンズの素材が軟らかいために,通常の取り扱いをしていても容易にレンズの表面に傷がつく.1128あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(00)●Dk値からのHCLの選択RGPCLはDk値が高いと角膜への酸素供給量が多く安全性が高まり,レンズが軟らかいために刺激が少なく装用感が良くなる.その反面,機械的強度が低下し,たわみやすく(flexureが起こりやすく),周辺から力がかかり続けると,変形したりレンズの局所的な劣化やひび割れが起こったりしやすくなる.さらに,レンズの表面が軟らかいため取り扱い時の外力により容易に傷がつき(図1),PMMA-HCLと比べると水濡れ性が劣るため脂質や蛋白質の汚れがつきやすく(図2),耐久性が不良でコストがかかる.そのため高酸素透過性化による利点と欠点とのバランスを考慮してRGPCLの適応を考える必要がある.高Dk値のRGPCLは,安全性の点から特別に問題のない患者はすべて適応になる.特にHCL経験者では,CL装用による低酸素状態の影響がある場合(角膜上皮障害,角膜血管新生,pigmentedslide,角膜内皮細胞形態・密度の異常),強度屈折異常(レンズが厚くなるため),延べ装用時間が長く長期間の装用となる可能性のある屈折異常(強度乱視,不同視),長時間装用が必要な場合が良い適応になる(表1).低Dk値のRGPCLは,HCLの装用経験の有無にかかわらずレンズ後面が球面のHCLの処方で角膜乱視(角膜toricity)が大きくflexureを発生しやすい場合,HCL経験者では,使用していた高Dk値のRGPCLで,曇り,汚れ,乾燥などのトラブルがあった場合やアレルギー性結膜炎(巨大乳頭結膜炎,CL乳頭結膜炎)でトラブルのあった場合は適応になる.PMMA-HCLや低Dk値のRGPCLを使用していて,レンズの取り扱い方に問題があると予想される場合も適応になる.●表面処理からの選択RGPCLにはレンズ表面の水濡れ性を良くし,乾燥感を少なくするために,レンズの表面を親水性に処理(メニコン社:プラズマ処理,シード社:グラフト重合)してあるレンズがある.表面処理をしたRGPCLは,いったんレンズの表面に傷がつくと水濡れ性が低下し,曇りやすく,汚れやすくなる.レンズ表面の状態を維持するために専用のケア用品が必要であり,汚れが著しいときに研磨用の微粒子入りのケア用品が使えない.そこで表面処理をしたRGPCLは,CL未経験者とトラブルのなかったHCL経験者は適応になるのは当然として,表面処理していないRGPCL経験者で,曇りやすく,汚れやすく,乾燥しやすかった場合は良い適応になる.しかし指先の皮膚が常に荒れて,こすり洗い時にレンズに傷がつきやすいと予想される場合,アレルギー性結膜炎の既往がありレンズの汚れに対し強力なこすり洗いが必要と予想される場合,専用のケア用品が入手あるいは使用が困難(現在では滅多にない)な場合,表面処理のないRGPCLに慣れレンズの取り扱いが粗雑であると予想される場合は適応にならない.参考文献・水谷由紀夫:コンタクトレンズの素材と特性.眼科36:847-858,1994表1Dk値からのRGPCLの選択適応高Dk値特別な問題のない場合CL装用による低酸素状態が認められた場合強度屈折異常長期間装用長時間装用低Dk値角膜乱視の大きい場合高Dk値のRGPCLでトラブルのあった場合アレルギー性結膜炎でトラブルのあった場合レンズの取り扱い方に問題がある場合

写真:Meesmann角膜ジストロフィ

2011年8月31日 水曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.8,201111250910-1810/11/\100/頁/JCOPY(65)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦327.Meesmann角膜ジストロフィ加藤弘明*1横井則彦*2*1国立長寿医療研究センター眼科*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図1Meesmann角膜ジストロフィ77歳,女性.細隙灯顕微鏡で,ほぼ均一な大きさの多数の微小?胞が角膜上皮内に散在している様子が観察できる.微小?胞図2図1のシェーマ図3同一症例のフルオレセイン染色像点状表層角膜症(superficialpunctatekeratopathy:SPK)様のフルオレセイン染色像がみられる.これは微小?胞が角膜表面に達して開放された部分にフルオレセインが貯留するため,このような像を呈すると考えられている.図4同一症例の生体共焦点顕微鏡(HeidelbergRetinaTomographIIRostockCorneaModule)所見角膜上皮深層に多数の微小?胞が観察された.?胞壁は高輝度に描出されるが,?胞内は周囲の細胞の細胞質に比べて低輝度である.また,高輝度な内容物も観察される.1126あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(00)Meesmann角膜ジストロフィは,両眼性に角膜上皮内に多数の微小?胞(microcyst)を認める疾患であり1),常染色体優性の遺伝形式をとるが浸透率は60%以下とされる.本疾患では,細隙灯顕微鏡を用いて徹照法もしくはscleralscattering法で角膜を観察すると,角膜上皮内にほぼ均一な大きさの,灰色?透明な微小?胞がみられるのが特徴である(図1).微小?胞は角膜上皮基底部で形成され,角膜表層へと移動し,角膜表面に達して開放されることで,フルオレセイン染色下では点状表層角膜症様の所見を呈する(図3).また,微小?胞は角膜周辺部から次第に角膜中央部へと広がり,年齢とともに数が増加するといわれる.生体共焦点顕微鏡による観察では,微小?胞の?胞壁は高輝度に描出されるが,?胞内は周囲の細胞の細胞質と比較すると低輝度であり,さらに?胞内に高輝度な内容物が貯留している像が観察される(図4).角膜上皮細胞の細胞質内では,細胞骨格である中間径フィラメントがメッシュワークを形成しており,それが細胞全体を物理的ストレスから保護していると考えられているが,本疾患では中間径フィラメントであるケラチン(K3,K12)に遺伝的異常があることが報告されており2),物理的ストレスに対する角膜上皮細胞の脆弱性が考えられている.本疾患の病理組織学的な検討も行われており,本疾患では角膜上皮細胞層と上皮基底膜の肥厚がみられ,periodicacid-Schiff(PAS)染色陽性の小円型の細胞質残渣を含む微小?胞や,細胞内に空胞化がみられる角膜上皮細胞などが観察されることが報告されている3).また,電子顕微鏡による検討では,微小?胞内に“peculiarsubstance”とよばれる電子密度の高い原線維顆粒状(fibrillogranular)の物質がみられ,本疾患に特徴的な所見とされている3).本疾患において,角膜上皮内の異常所見は生後早期からみられるとされるが,進行は緩徐で,視力良好で無症状であることが多く,治療を必要としない場合が多い.しかし進行の程度は家系によって異なるとされており,角膜上皮内の微小?胞の数の増加に伴って異物感,流涙,羞明,視力低下といった症状をきたす場合がある.このような場合は,治療用ソフトコンタクトレンズ装用により,微小?胞の数や症状を軽減できることが報告されている4).また,本疾患に関連して再発性角膜びらんを発症することはまれであり,表層角膜切除といった外科的治療は効果がないとされている1).文献1)LabinsonPR:Anteriorcornealdystrophy.Cornea2nded,p897-906,CVMosby,StLouis,20052)NishidaK,HonmaY,DotaAetal:Isolationandchromosomallocalizationofacornea-specifichumankeratin12geneanddetectionoffourmutationsinMeesmanncornealepithelialdystrophy.AmJHumGenet61:1268-1275,19973)PatelDV,GrupchevaCN,McGheeCN:Imagingthemicrostructuralabnormalitiesofmeesmanncornealdystrophybyinvivoconfocalmicroscopy.Cornea24:669-673,20054)JalbertI,StapletonF:ManagementofsymptomaticMeesmanndystrophy.OptomVisSci86:1202-1206,2009

総説:より質の高い緑内障治療をめざして

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY順に述べる.INTGの無治療時眼圧日内変動・体位変動1.無治療時眼圧日内変動無治療時眼圧日内変動は未治療または眼圧下降剤を使用していたものは4週以上休薬後入院にてGoldmann圧平眼圧計を用いて座位で測定した.眼圧測定時刻は10時,13時,16時,19時,22時,1時,3時,7時である.当院で測定されたNTG243例486眼の眼圧日内変動では,多くの既報8~10)同様,眼圧は午前中高く夜間低かった(図1).1日平均眼圧は13.8±2.0(平均値±標準偏差)(mmHg)であった.左右眼に差はなかったが,男性と女性の眼圧日内変動を比較すると,19時では女性のほうが有意に男性より眼圧が高く,眼圧日内変動に性はじめに眼圧と視野障害の関係は,近年,米国で行われた多施設試験により詳細が明らかになってきた.EarlyManifestGlaucomaTrial(EMGT)では眼圧が1mmHg上昇すると視野進行リスクは10%高くなるとされ1),正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)においても,眼圧下降治療の有効性が証明されている2).そこで,東京警察病院では2001年から入院で24時間眼圧測定を実施し,2009年からは眼圧体位変動測定(仰臥位眼圧上昇幅)も併せて行った.これにより得られた測定結果から,個々の症例に応じた,より緻密な眼圧下降治療を目指してきた.また,緑内障という病気の性質上,アドヒアランスが治療上重要なファクターであるので,アドヒアランス向上のための患者教育にも力を注いできた.本総説では,原発開放隅角緑内障患者の治療前後の眼圧日内変動,眼圧体位変動,および患者教育によるアドヒアランス向上について当院で得られたデータを中心に述べる.【原発開放隅角緑内障患者の治療前後の眼圧変動】より高い1日平均眼圧,最高眼圧,より広い眼圧変動幅は,それぞれ緑内障性視野障害進行の危険因子の一つである可能性が指摘されている3~7).この項では,I.NTGの無治療時眼圧日内変動・体位変動,II.緑内障治療薬の眼圧日内変動,III.マイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動および体位変動の(55)1115*NorikoYasuda:東京警察病院眼科〔別刷請求先〕安田典子:〒164-8541東京都中野区中野4丁目22-1東京警察病院眼科あたらしい眼科28(8):1115?1123,2011c第21回日本緑内障学会須田記念講演より質の高い緑内障治療をめざしてImprovingtheQualityofTreatmentforGlaucoma安田典子*総説1213141516眼圧(mmHg)測定時刻(時)1013161922137Mean±SE図1正常眼圧緑内障患者の眼圧日内変動正常眼圧緑内障243例486眼.全対象の眼圧平均値は10時に最高値を,夜間の22時に最低値を示した.1日平均眼圧(全測定時刻の眼圧平均値)は,13.8±2.0mmHgであった.1116あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(56)差がある可能性が示唆された(p<0.05).最高眼圧は10時と13時に示すものが多く,最低眼圧は夜間の22時と1時に示すものが多かった.1/3の症例は診察時間外に最高眼圧を示すことから,診察時間外の眼圧にも注意する必要がある(図2).眼圧変動幅は1~9mmHg変動し,変動幅の平均値は4.4±1.7mmHgであった(図3).眼圧の変動パターンを調べたところ,日中に最高眼圧を示す日中型が195眼で80%,夜間に最高眼圧を示す夜間型が32眼で13%,不定型が16眼で7%であった.臨床の場において,診察時間外,特に夜間に眼圧上昇する症例の特徴が把握できれば,より緻密な眼圧下降治療において有用である.そこで,NTG135例135眼を対象に夜間型になりやすい症例の危険因子について調べたところ,男性,等価球面度数が大きい,10時眼圧が低いほど夜間型になりやすいという結果であった.2.眼圧日内変動幅に影響する因子眼圧日内変動幅は,眼圧が高いほど大きくなることが知られている8,11)が,眼圧日内変動幅に影響する因子については明らかでない.そこで,NTG223例223眼(右眼)を対象にして,眼圧日内変動幅に影響する因子について検討した.目的変数は眼圧日内変動幅(全8測定値の標準偏差),説明変数を年齢,性別,10時眼圧,等価球面度数,meandeviation(MD)として単回帰分析を行ったところ,年齢,10時眼圧,等価球面度数が有意な因子であった(図4).ステップワイズ重回帰分析では10時眼圧と等価球:最高眼圧:最低眼圧04080120160測定時刻(時)1013161922137眼数(眼)図2無治療時眼圧日内変動測定で最高眼圧・最低眼圧を記録した時刻正常眼圧緑内障243例243眼(右眼).最高眼圧は10時と13時に示すものが多く,最低眼圧は夜間の22時と1時に示すものが多かった.1/3の症例は診察時間外に最高眼圧を示すことから,診察時間外の眼圧にも注意する必要がある.0102030405060024681012眼圧日内変動幅(mmHg)眼数(眼)図3正常眼圧緑内障の眼圧日内変動幅正常眼圧緑内障243例243眼(右眼).眼圧日内変動幅(最高眼圧?最低眼圧)は4.4±1.7mmHgであった.約3割の症例で眼圧変動幅が6mmHg以上あり,9mmHgに及ぶ症例もあった.012340123401234眼圧日内変動幅(mmHg)20406080年齢(歳)Y=0.4+0.077×Xr2=0.12p<0.000181012141618202210時眼圧(mmHg)Y=1.5-0.025×Xr2=0.03p=0.006等価球面度数Y=1.9-0.006×Xr2=0.02p=0.03-20-15-10-505図4眼圧日内変動幅に影響する有意な因子正常眼圧緑内障223例223眼(右眼).眼圧日内変動幅〔全8測定値の標準偏差(SD)〕は年齢,10時眼圧,等価球面度数と有意な直線関係があった.(57)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111117面度数のみが有意な因子として採用された.つまり,眼圧日内変動幅は眼圧が高いほど,近視が強いほど大きい傾向があると考えられ,特に,強度近視眼では,より厳格な眼圧下降治療を心がけたほうがよいといえる.3.NTGの視野障害と1日平均眼圧の関係横断的な方法でNTGの視野障害に眼圧(1日平均眼圧)がいかに関与しているか調べた.同一症例の左右眼で眼圧の高いほうの眼の視野障害が他眼より高度なものを眼圧依存群,その逆の症例を眼圧非依存群として,左右の視野のMDが1dB以上差のあるNTG88例でそれぞれの割合を調べた.その結果,眼圧依存群が53例(全対象の2/3),眼圧非依存群が35例(1/3)で,NTGにおいても,多くの症例で眼圧が病態に関与している可能性があることが確認できた.また,年齢別に左右眼の視野障害差を比較したところ,眼圧非依存群においては年齢群間に有意差はなかったが,眼圧依存群では70歳以上の群では他の年齢群より有意に左右の視野障害差が大きかった12).さらに,眼圧依存群と眼圧非依存群の病態の差を調べるため,未治療で内科的投薬も受けていないNTG25例50眼について背景因子を比較した.その結果,眼圧依存群には,高血圧の既往が有意に多かった.血圧を眼圧依存群と非依存群で比較したところ,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,眼灌流圧ともに眼圧非依存群のほうが有意に低いという結果であった(図5).4.眼圧体位変動幅に影響する因子眼圧は座位より仰臥位のほうが高いことは古くから知られているが,近年,眼圧体位変動幅と緑内障視神経障害や視野障害進行との関連を示唆する報告が多くみられる13~16).そのため,眼圧体位変動幅も,眼圧日内変動幅と同様に緑内障管理上重要な因子である可能性があるが,眼圧体位変動幅に影響する因子については,若年健常人において眼軸長が短いほど眼圧体位変動幅が大きいというLoewenら17)の報告以外ほとんどない.そこで,NTG19例19眼を対象に眼圧体位変動幅に影響する因子について検討した.眼圧測定機器にPneumatonometerを用いて,座位5分後と仰臥位10分後の眼圧を比較した.NTG19例19眼のすべての症例において,座位から仰臥位で眼圧が上昇し,体位変動幅の平均は5.1±1.6(2~8)mmHgであった.眼圧体位変動幅に影響する因子をステップワイズ重回帰分析で検討した.目的変数は眼圧体位変動幅,説明変数を年齢,性別,中心角膜厚(centralcornealthickness:CCT),眼軸長,座位眼圧,BodyMassIndex(BMI)とした結果,採択された有意な因子は年齢とBMIであった.年齢が高いほど,BMIが小さいほど眼圧体位変動幅が大きい可能性があることが示唆された.5.眼圧体位変動幅から日内変動幅を推測できるか眼圧日内変動幅と眼圧体位変動幅の関係を調べたところ,両者には有意な相関はなかった.眼圧体位変動幅から眼圧日内変動幅を推測することは困難と考える(図6).II緑内障治療薬の眼圧日内変動薬剤による眼圧下降効果をより詳細に評価するためには,治療前後の眼圧日内変動測定は有用である.当院では,治療前の眼圧日内変動を測定後,それぞれの薬剤を血圧(mmHg)406080100120140160180眼圧依存群非依存群収縮期血圧p=0.0426拡張期血圧p=0.0349依存群非依存群平均血圧p=0.0184依存群非依存群図5眼圧依存群と眼圧非依存群の血圧比較未治療の正常眼圧緑内障25例50眼を対象にして,血圧を眼圧依存群と非依存群で比較したところ,収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧ともに眼圧非依存群のほうが有意に低かった.Y=4.6-0.08×Xr2=0.01p=0.6712345678123456789眼圧体位変動幅眼圧日内変動幅(mmHg)図6眼圧日内変動幅と眼圧体位変動幅との関係正常眼圧緑内障19例19眼.眼圧日内変動幅と眼圧体位変動幅の関係を調べたところ,両者には有意な相関はなかった.1118あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(58)8週点眼し,再度入院で眼圧日内変動を測定している.方法は,Goldmann圧平眼圧計を用い同一医師が座位で測定し評価している.1.単剤治療時の眼圧日内変動に及ぼす影響a.b遮断薬(チモロール,カルテオロール)の効果NTG22例22眼を対象にして,ゲル基剤チモロール0.5%の眼圧日内変動に及ぼす影響を調べたところ,日中は有意な眼圧下降があったが,22時と3時では有意な眼圧下降はなかった18)(図7).カルテオロール2%に関しても同様にNTG12例12眼で検討したところ,日中は有意な眼圧下降を認めたが,夜間には有意な眼圧下降を認めなかった19)(図8).過去の報告同様20,21),b遮断薬の眼圧下降効果は日中で大きく,夜間は弱い傾向があった.b.プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト)の効果NTG80例80眼においてラタノプロストの眼圧日内変動に及ぼす効果を調べた.日中も夜間も有意に眼圧を下げ,1日平均眼圧下降率は14.5±9.9%であった(図9).トラボプロスト,タフルプロストおよびビマトプロストについても同様であった.プロスタグランジン関連薬は24時間を通して強力な眼圧下降効果を有することがわかった.ラタノプロストの朝点眼と夜点眼で効果に差があるかをみたところ,特に午前7時では,夜点眼のほうが朝点眼より眼圧下降効果が有意に大きかった(図10).プロ10121416181013161922137測定時刻(時)眼圧(mmHg)******************:p<0.0001Mean±SE:治療前:治療後図9ラタノプロストの眼圧日内変動への効果正常眼圧緑内障80例80眼.ラタノプロスト治療後,すべての時刻で有意に眼圧が下降していた.0510152025*1013161922137眼圧下降率(%)測定時刻(時)*:p<0.05Mean±SE■:朝点眼■:夜点眼図10ラタノプロスト朝点眼と夜点眼の眼圧日内変動に及ぼす効果の違い正常眼圧緑内障17例34眼の左右眼のうち1眼をラタノプロスト朝点眼,もう片眼をラタノプロスト夜点眼として治療前後で眼圧日内変動を測定した.午前中は夜点眼のほうが,逆に夜間は朝点眼のほうが,眼圧下降効果が大きい傾向があった.朝7時において夜点眼の眼圧下降効果が朝点眼を有意に上回っていた.**眼圧(mmHg)1013161922137:治療前:治療後測定時刻(時)01216208*:p<0.05**:p<0.01Mean±SE*****図8カルテオロール2%の眼圧日内変動への効果正常眼圧緑内障12例12眼.カルテオロール2%治療後の眼圧は,昼間(10時,13時,16時,7時)は有意な下降を示したが,夜間(19時,22時,1時,3時)は有意な眼圧下降を示さなかった.01012141618101316192213710:治療前*:治療後*******:p<0.05Mean±SE測定時刻(時)眼圧(mmHg)図7ゲル基剤チモロール0.5%の治療前後の眼圧日内変動正常眼圧緑内障22例22眼.ゲル基剤チモロール(チモプトールXER)0.5%治療後,眼圧は大方の時刻で有意に下降していたが,夜間の22時と3時には有意な眼圧下降を認めなかった.(59)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111119スタグランジン関連薬を夜点眼することは24時間眼圧下降効果の点で理にかなっていることが確認された.2.2剤(ラタノプロストとブリンゾラミド)併用治療時の眼圧日内変動22)NTG患者20例40眼の左右眼の片眼にラタノプロストのみを,他眼にラタノプロストにブリンゾラミドを併用し,8週後両眼の眼圧日内変動を比較した.2剤併用治療眼は日中・夜間ともラタノプロスト単独治療眼より,有意に眼圧下降効果が大きかった(図11).眼圧日内変動の観点からラタノプロスト,ブリンゾラミド併用治療は有用な組み合わせといえる.3.3剤(プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬併用)治療時の眼圧日内変動Nakakuraら23)によると,プロスタグランジン関連薬,b遮断薬,炭酸脱水酵素阻害薬の3剤併用時の眼圧は,診察時間帯に最高眼圧を示した症例は33.8%であり,Konstasら24)も大多数は診察時間外に最高眼圧を示すことを報告している.そこで,当院でも広義の原発開放隅角緑内障(POAG)58例58眼を対象にして,3剤使用中の眼圧日内変動を調べた.3剤併用治療中の全対象の眼圧は,無治療時に比して平坦な日内変動(眼圧日内変動幅3.3±1.5mmHg)であった.3剤治療中の最高眼圧と最低眼圧を記録した時刻を調べたところ,無治療時と同様に10時と13時に最高眼圧を示す症例(日中型)が多いが,深夜1時と3時に最高眼圧を示す症例(夜間型)も少なくなかった(図12).3剤治療中の日中型と夜間型の背景因子を比較したところ,夜間型の症例は,日中型より有意に10時眼圧が低く,等価球面度数が大きかった(表1).IIIマイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動および体位変動1.MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動25)同一術者による初回MMC併用線維柱帯切除術後の広義のPOAG20例31眼を対象に,術後の眼圧日内変動を調べた.全対象の眼圧日内変動幅は3.6±1.4mmHgであった(図13).術後1日平均眼圧と術後眼圧日内変動幅との関係を調べたところ,術後眼圧が低いほど眼圧日内変動幅を小さくできる可能性があることがわかった051015202530測定時刻(時)1013161922137眼数(眼)■:最高眼圧■:最低眼圧図123剤併用治療中の最高眼圧・最低眼圧を記録した時刻広義の原発開放隅角緑内障58例58眼を対象に3剤治療中の最高眼圧と最低眼圧を記録した時刻を調べたところ,無治療時と同様に10時と13時に最高眼圧を示す症例(日中型)が多いが,深夜1時と3時に最高眼圧を示す症例(夜間型)も少なくなかった.01013161922137121416:無治療時(両眼平均値):ラタノプラスト単独治療:ラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療Mean±SE眼圧(mmHg)測定時刻(時)図11ラタノプロスト単独治療とラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療の眼圧日内変動への効果比較17)正常眼圧緑内障20例40眼の同一患者の左右眼のうち1眼はラタノプロスト単独治療(夜1回),他眼はラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療を行い,治療前後で眼圧日内変動を測定した.ラタノプロスト・ブリンゾラミド併用治療は日中,夜間ともに有意な眼圧下降効果を認めた.表13剤治療日中型と夜間型の背景因子比較日中型(n=24)夜間型(n=27)p値年齢(歳)52.3±10.055.9±13.20.33性別(男/女)11/1313/140.87等価球面度数(D)?6.0±3.3?3.9±3.60.03MD(dB)?8.7±7.1?11.5±7.90.2210時眼圧(mmHg)14.3±2.112.2±2.30.005広義の原発開放隅角緑内障58例58眼.3剤治療中の日中型と夜間型の背景因子を比較したところ,夜間型の症例は,日中型より有意に10時眼圧が低く,等価球面度数が大きかった.(Mean±SD)1120あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(60)(図14).2.MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧体位変動眼圧体位変動幅は,薬物治療26)およびレーザー線維柱帯形成術27)では抑制効果が少ないことが報告されている.線維柱帯切除術により,眼圧体位変動幅が抑制できるかは,Parsleyら28)によりすでに報告されているが,この報告では線維柱帯切除術施行時にMMCの併用はなく,手術群の術後眼圧は15.6~17.7mmHgと比較的高値であった.そこで,当院でも初回MMC併用トラベクレクトミー術後6カ月以上無治療のPOAG20例32眼を対象として,MMC併用線維柱帯切除術後の眼圧体位変動について検討した29).眼圧は仰臥位10分後に有意に上昇した(図15).術後の座位眼圧と眼圧体位変動幅の関係は術後眼圧が低いほど眼圧体位変動幅が小さいという結果であった.術後眼圧が低いほど眼圧日内変動幅も体位変動幅も小さくできる可能性が示唆された(図16).【患者教育によるアドヒアランス向上】わが国の緑内障診療ガイドラインにおいて,コンプライアンス不良は緑内障性視神経症が進行する重要な要因の一つであることが明示されている30).さらに,コンプライアンス不良が失明に関する有意な因子であることも報告されている31,32).Iアドヒアランス向上のために医師側ができることアドヒアランス向上のために医師側ができることは,処方の工夫はもちろんであるが,むしろ点眼の動機づけが大切であると考える.そこで点眼の動機づけのために当院では2002年から患者教育(緑内障一日教育入院)を行っている(図17).緑内障一日教育入院は,日帰り入院で,午前中はおもに検査,午後に薬剤師と医師から講義,最後に医師からの個別指導というプログラムである.患者教育には,より効果的な説明方法として,医師からの一方的な説明ではなく患者からの疑問に答える方法を取り入れている(ask-tell-askcommunicationstrate-POAG:20例31眼Mean±SE*:p<0.0567891011121013161922137測定時刻(時)眼圧(mmHg)*図13MMC併用トラベクレクトミー後の眼圧日内変動広義の原発開放隅角緑内障20例31眼.MMC併用トラベクレクトミー後の眼圧は24時間低いが,統計学的に有意な変動があり,10時の眼圧は1時の眼圧より有意に高かった.Y=1.879+0.179×Xr2=0.208p<0.05術後1日平均眼圧(mmHg)024684681012141618術後眼圧日内変動幅(mmHg)図14術後1日平均眼圧と術後眼圧日内変動幅との関係MMC併用トラベクレクトミー後の一日平均眼圧と術後眼圧変動幅の間には,有意な正の相関を認めた.眼圧(mmHg)05101520仰臥位座位直後仰臥位10分座位POAG:20例32眼Mean±SE*:p<0.05*図15MMC併用トラベクレクトミー後の眼圧体位変動体位変換後の眼圧は,仰臥位10分後が最も高かった.024648121620術後眼圧体位変動幅(mmHg)術後座位眼圧(mmHg)POAG:20例32眼r2=0.452p<0.0001Y=-0.18+0.33×X図16術後の座位眼圧と眼圧体位変動幅の関係MMC併用トラベクレクトミー後の座位眼圧と術後体位変動幅の間には有意な正の相関があった.(61)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111121gy)33).患者の疑問点とは何かについて知るためにアンケート調査を行ったところ,おもに①日常生活について,②緑内障の病態について,③点眼についての3点であった.そこで,③点眼については,薬剤師の講義で,実際に点眼瓶を手に取って点眼の仕方を具体的に指導するようにしている.さらに,①日常生活についてと②緑内障の病態については,医師から病態説明,手術説明をスライドを用いて30分行い,その後質疑応答の時間を十分に取って対応している.併せて,個別的に治療方針の説明も行っている.必要に応じてEstermanvisualfieldtest(両眼開放視野)を行い,実際生活上の見え方を確認している.片眼ずつの視野検査では非常に見えにくかった患者も両眼解放視野ではよく見えたと喜ぶケースが多く,患者を勇気づける検査の一つと位置づけている.Estermanvisualfieldtestでは100点満点のEstermanscoreが得られる.Estermanscoreと生活困難度について検討したところ,両眼に高度の視野障害が起こらない限り,日常生活は保たれることがわかった34)(図18).特に,家事はかなりスコアが下がらないと困難にならないため,患者には,無用な不安感をかきたてないよう説明することも重要である.「治療すれば視野障害の進行を遅くできる」というポジティブなメッセージを示し,患者の治療へのモチベーションを向上させることを心がけている.II緑内障一日教育入院の効果35)アンケートにて「教育入院で一番ためになったこと」について調査したところ,「点眼方法がよくわかった」,「緑内障の知識が得られた」,「病気の不安が薄れた」という感想が多かった(図19).緑内障一日教育入院前後の患者の意識変化についても同様にアンケート調査したところ,「緑内障という病気検査外来病棟教室外来9:0011:0014:0016:0017:00講義面談個別指導眼圧測定(10,16時)視力三次元画像解析看護師,薬剤師による日常生活パターン,点眼時刻の聴取薬剤師:点眼方法,薬理作用等医師:疫学・病態・治療方法薬剤師:点眼時刻の決定医師:治療方針の説明,質問受付図17教育入院タイムスケジュール点眼方法緑内障の知識病気の不安が薄れた手術のことがわかった患者同士の話し合いn=131図19患者の感想─教育入院で一番ためになったこと─(教育入院後アンケート)102030405060708090100Estermanscore(点)初めての場所への外出読み書き買い物夜間の外出階段・段差顔の判別身づくろいバスの表示家事信号の判別80点777777767474745750n=144図18各項目が『かなり困難』となるEstermanscorecutoff値よく知っているおよそ知っているほとんど知らない<入院後><入院前>ほとんど知らない(n=44)およそ知っている(n=81)よく知っている(n=13)p<0.0001n=25n=19n=64n=16n=12n=1n=138n=1図20緑内障という病気をご存知ですか?「緑内障という病気をご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんど知らない」と答えた44名のうち,入院後は25名がよく知っていると答えた.1122あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(62)をご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんど知らない」と答えた44名のうち,入院後は25名がよく知っていると答えた(図20).「ご自身の症状についてご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんど知らない」と答えた35名のうち,入院後は20名が「およそ知っている」,5名が「よく知っている」と有意に改善した.「ご自身のお薬の効果や副作用についてご存知ですか」という問いに対して入院前,「ほとんどわからない」と答えた52名のうち,入院後は19名が「およそ知っている」,32名が「よく知っている」と有意に改善した.「緑内障に対するあなたのイメージについて教えてください」という問いに対して入院前,「とても怖い」と答えた90名のうち,入院後は29名が「きちんと治療すれば怖くない」と有意に改善した.当院のめざす患者教育は,患者が点眼(眼圧下降治療)の重要性を認識し,正しい点眼法を習得し,病気への不安が軽減することによって点眼の動機づけがなされ,アドヒアランスを向上させることにある.おわりに緑内障において唯一確実な治療法は,眼圧下降治療である.よって,眼圧をより厳密に管理することが,臨床の場では最も大切になる.眼圧を点ではなく動的な線と捉えたものが,眼圧日内変動である.今回,眼圧日内変動の結果より多くの臨床的示唆が得られた.緑内障治療のうえでのもう一つの重要な因子は,アドヒアランスである.時間をかけて患者教育を行い,点眼の動機づけを高めることが,アドヒアランスの向上につながるといえる.緻密な眼圧下降治療とアドヒアランスの向上で,より質の高い緑内障治療を実現できると確信する.謝辞:名誉ある講演の機会をお与えくださいました第21回日本緑内障学会会長田原昭彦先生ならびに日本緑内障学会理事長新家眞先生に厚く御礼申し上げます.本講演の共同研究者である中元兼二,里誠,伊藤義徳,小川俊平,藤田京子,福田匠,川口千晶の各先生に心より御礼申し上げます.文献1)HeijlA,LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression.ArchOphthalmol120:1268-1279,20022)CollaborativeNormal-tensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19983)BengtssonB,HeijlA:DiurnalIOPfluctuation:notanindependentriskfactorforglaucomatousvisualfieldlossinhigh-riskocularhypertension.GraefesArchClinExpOphthalmol243:513-518,20054)伊藤美樹,杉浦寅男,溝上国義:低眼圧緑内障(LTG)における視野障害様式についての検討.日眼会誌95:790-794,19915)白井久行,佐久間毅,曽賀野茂世ほか:低眼圧緑内障における視野障害の経過と視野障害進行因子.日眼会誌96:352-358,19926)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientwithglaucoma.JGlaucoma9:134-142,20007)CollaerN,ZeyenT,CaprioliJ:Sequentialofficepressuremeasurementsinthemanagementofglaucoma.JGlaucoma14:196-200,20058)ZeimerRC:Circadianvariationsinintraocularpressure.In:RitchRetal(eds):TheGlaucomas2nded,p429-445,Mosby,StLouis,19969)狩野廉,桑山泰明:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動.日眼会誌107:375-379,200310)HasegawaK,IshidaK,SawadaAetal:Diurnalvariationofintraocularpressureinsuspectednormal-tensionglaucoma.JpnJOphthalmol50:449-454,200611)SaccaSC,RolandoM,MarlettaAetal:Fluctuationsofintraocularpressureduringthedayinopen-angleglaucoma,normal-tensionglaucomaandnormalsubjects.Ophthalmologica212:115-119,199812)中元兼二,安田典子,福田匠:正常眼圧緑内障の視野障害と眼圧及び年齢との関係.日眼会誌112:371-375,200813)HirookaK,ShiragaF:Relationshipbetweenposturalchangeoftheintraocularpressureandvisualfieldlossinprimaryopen-angleglaucoma.JGlaucoma12:379-382,200314)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Relationshipofprogressionofvisualfielddamagetoposturalchangesinintraocularpressureinpatientwithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology113:2150-2155,200615)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Posturalresponseofintraocularpressureandvisualfielddamageinpatientswithuntreatednormal-tensionglaucoma.JGlaucoma19:191-193,201016)MizokamiJ,YamadaY,NegiAetal:Posturalchangesinintraocularpressureareassociatedwithasymmetricalretinalnervefiberthinningintreatedpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol249:879-885,201117)LoewenNA,LiuJH,WeinrebRN:Increased24-hourvariationofhumanintraocularpressurewithshortaxiallength.InvestOphthalmolVisSci51:933-937,201018)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,200419)NakamotoK,YasudaN:Effectofcarteololhydrochlorideon24-hourvariationofintraocularpressureinnormal(63)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111123tensionglaucoma.JpnJOphthalmol54:140-143,201020)OrzalesiN,RossettiL,InvernizziTetal:Effectoftimolol,latanoprostanddorzolamideoncircadianIOPinglaucomaorocularhypertension.InvestOphthalmolVisSci41:2566-2573,200021)LiuJH,KripkeDF,WeinrebRN:Comparisonofthenocturnaleffectsofonce-dailytimololandlatanoprostonintraocularpressure.AmJOphthalmol138:389-395200422)NakamotoK,YasudaN:Effectofconcomitantuseoflatanoprostandbrinzolamideon24-hourvariationofIOPinnormal-tensionglaucoma.JGlaucoma16:352-357,200723)NakakuraS,NomuraY,AtakaSetal:Relationbetweenofficeintraocularpressureand24-hourintraocularpressureinpatientswithprimaryopen-angleglaucomatreatedwithacombinationoftopicalantiglaucomaeyedrops.JGlaucoma16:201-204,200724)KonstasAG,TopouzisF,LeliopoulouOetal:24-hourintraocularpressurecontrolwithmaximummedicaltherapycomparedwithsurgeryinpatientswithadvancedopen-angleglaucoma.Ophthalmology113:761-765,200625)福田匠,中元兼二,安田典子ほか:マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後の眼圧日内変動.臨眼60:1961-1963,200626)SmithDA,TropeGE:Effectofabeta-blockeronalteredbodyposition:inducedocularhypertension.BrJOphthalmol74:605-606,199027)SinghM,KaurB:Posturalbehaviourofintraocularpressurefollowingtrabeculoplasty.IntOphthalmol16:163-166,199228)ParsleyJ,PowellRG,KeightleySJetal:Posturalresponseofintraocularpressureinchronicopen-angleglaucomafollowingtrabeculectomy.BrJOphthalmol71:494-496,198729)小川俊平,中元兼二,里誠ほか:マイトマイシンC併用線維柱帯切除術後眼における体位変動と眼圧変化.あたらしい眼科27:963-966,201030)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン第2版.日眼会誌110:777-814,200631)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen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マイボーム腺を場とする腫瘤性疾患

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(図1).俗に“ものもらい”“めばちこ”“めいぼ”などとよばれる.b.診断通常,発赤,腫脹,疼痛,圧痛があり,進行すると膿点がみられる.c.治療麦粒腫は細菌感染症であるから,治療の基本は抗菌薬の投与である.腫脹の強い症例では点眼薬や眼軟膏の局所投与だけではなく内服薬による全身投与を併用する.穿刺あるいは切開して排膿という治療法もあるが,抗菌薬の投与が基本となる.2.霰粒腫a.定義霰粒腫(chalazion)はマイボーム腺の非感染性(無菌性)の慢性肉芽腫性炎症である.b.病理・病因病理組織学的に脂肪肉芽腫である.発症機序は不明であるが,マイボーム腺分泌物(おもに脂質)が排出されずに導管内で停滞すると,分泌物が貯留し変性する.変性した分泌物が腺外の実質組織と異物反応を生じた結果,肉芽腫を生じると考えられる.なお,霰粒腫は?胞である,あるいは,霰粒腫には被膜があるという記載をみることがあるが,霰粒腫の眼瞼全層切除標本をみると霰粒腫は?胞ではないし,被膜に包まれてもいないことがわかる1).はじめにマイボーム腺に腫瘤を生じる疾患には,麦粒腫,霰粒腫,マイボーム腺梗塞,脂腺癌,脂腺腺腫がある.本稿では,前3者をマイボーム腺の炎症性腫瘤疾患として,後2者を腫瘍性疾患と大別し,概説する.Iマイボーム腺を場とする炎症性腫瘤疾患1.麦粒腫a.定義麦粒腫(hordeolum)は眼瞼に付属する腺組織の細菌感染症である.睫毛に付属する皮脂腺(Zeis腺)や汗腺(Moll腺)に感染が生じた場合,外麦粒腫とよばれ,マイボーム腺に感染が生じた場合は内麦粒腫とよばれる(47)1107*HirotoObata:自治医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕小幡博人:〒329-0498栃木県下野市薬師寺3311-1自治医科大学眼科学講座特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1107?1113,2011マイボーム腺を場とする腫瘤性疾患MassLesionsinMeibomianGland小幡博人*図1内麦粒腫瞼結膜に白色の膿点と充血を認める.4歳,男児.1108あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(48)c.診断:霰粒腫の2つのタイプ霰粒腫は瞼板内に発生するが,瞼板内に限局しているものと,瞼板前面を破壊し,眼瞼前葉にまで炎症が及ぶものの2つのタイプがある1,2).前者を“限局型”,後者の進行した状態を“びまん型”と分類すると病態がわかりやすい(図2).限局型の場合,発赤,疼痛,圧痛はなく,皮下に固い腫瘤として触知される(図3a).このタイプが典型的な霰粒腫で,半年以上前から痛みのないしこりがあるが,治らないので来院したという患者に代表される.一方,びまん型は,眼瞼前葉に炎症が及ぶため,皮膚に発赤がある(図3b).この場合,無痛あるいは軽度の圧痛がある.びまん型を放置しておくと皮膚が自壊し,霰粒腫の本態である肉芽腫が露出することがある(図3c).霰粒腫は通常,瞼結膜側には隆起がなく,瞼板前壁眼輪筋脂肪肉芽腫眼輪筋脂肪肉芽腫ab図2霰粒腫の2つのタイプa:限局型.脂肪肉芽腫が瞼板内に限局しているタイプ.b:びまん型.脂肪肉芽腫が瞼板前面を破り,眼瞼前葉にまで及び皮膚が発赤しているタイプ.(文献2より改変)acbd図3霰粒腫の外眼部写真a:瞼板内に限局している霰粒腫.皮膚に発赤はない.b:眼瞼前葉に及んでいる霰粒腫.皮膚に発赤がみられる.3歳,男児.c:皮膚が自壊し,肉芽腫が露出した状態.6歳,男児.d:霰粒腫が瞼結膜側に破裂して生じたポリープ状の肉芽組織.(49)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111109(1)局麻下手術,(2)全身麻酔(以下,全麻)下手術,(3)ステロイド軟膏治療の3つのいずれかの治療を症例に応じ選択している3).局麻下で行う手術は,短時間で済むと考えられ,かつ抑制が可能な乳幼児に限られる.一方,多発例など手術に時間を要する場合,抑制が不可能と考えられる小児の場合などは全麻手術の適応となる.さらに,局麻手術はトラウマになる,全麻手術は全身的なリスクがあるなどの理由で,手術をしないで治す方法はないかと相談されることがある.このような場合,ステロイド軟膏による治療がある.具体的にはステロイドの眼軟膏(ネオメドロールEER軟膏,プレドニンR眼軟膏など)を1日2回眼瞼皮膚に塗布する(図4).この治療の短所は,縮小までに約1?3カ月と時間がかかること,眼圧上昇の懸念があることである.上記(1)?(3)のいずれにも迷う場合は経過観察をし,臨機応変に考える.f.麦粒腫と霰粒腫の鑑別霰粒腫と麦粒腫の大きな相違点は,前者は非感染症,後者は感染症という点である.この大前提があるものの両者の鑑別が困難な症例に遭遇することはしばしばである.その理由はいくつか考えられる.(1)霰粒腫が進行すると眼瞼皮膚が発赤し感染症のようにみえること,(2)霰粒腫は麦粒腫から生じることがある,(3)霰粒腫に2次的に細菌感染が起こることがある,などの理由である.(2)と(3)に関しては,まことしやかに信じられ発赤が目立つことは少ない.しかし,ときに瞼結膜側に破裂し,ポリープ状の肉芽組織を生じることがある(図3d).急性霰粒腫あるいは化膿性霰粒腫という病名があるが,この定義ははっきりしない.おそらく,細菌感染を伴ったと考えられる霰粒腫,あるいは,皮膚が発赤している霰粒腫を指していると思われる.急性霰粒腫と内麦粒腫を同義語のように捉える考え方もあり,混乱している用語である.d.治療―成人の場合治療は手術,すなわち,切開と掻爬(incision&curettage)が基本である.アプローチには経結膜法と経皮法がある.筆者は,瞼板内に限局していると考えられる場合は経結膜法で,眼瞼前葉に及ぶびまん型の場合は経皮法で行っている3).いずれのアプローチにしろ,鋭匙で十分に掻爬した後は,最後に,挟瞼器をはずし,触診で腫瘤の取り残しがないかを確認する.ステロイドの局所注射という治療法も知られているが,筆者は施行していない.なぜなら,注射をするのであれば,局所麻酔薬を注射し,切開・掻爬をするほうが早期に確実に治癒させることができると考えているからである.e.治療―小児の場合小児の霰粒腫の治療は,成人のような局所麻酔(以下,局麻)による手術がむずかしいため,しばしば治療方針に悩む.筆者は,家族あるいは本人とよく相談のうえ,ab図4ステロイド軟膏で治療した霰粒腫本人も家族も手術を希望せずネオメドロールEER軟膏で治療した7歳,女児.治療前,上眼瞼に2個多発していたが(a),治療後1カ月で著明に縮小した(b).1110あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(50)い.両者がオーバーラップするような状態を認めるにしても,その確定診断はむずかしい.たとえば,マイボーム腺開口部から白色膿汁が出て,瞼結膜も充血し,内麦粒腫のようであるが,固い腫瘤は霰粒腫のようでもある.膿汁の培養は陰性であった(図7).読者の方の診断は如何であろうか.麦粒腫と霰粒腫の鑑別がつかないときの治療方針は,両方の可能性を説明し,まず抗菌薬の点眼薬と内服薬を処方する.しこりが残るようであれば霰粒腫の可能性であることを説明し再来してもらい,手術治療の説明を行う.薬物治療→手術治療という順序を遵守する.3.マイボーム腺梗塞a.定義と診断マイボーム腺梗塞とは,瞼板内のマイボーム腺の走行と一致して固形物が生じるものである.マイボーム腺分泌物である脂質が固まったと考えられる透明なものや白色固形物状のものがある(図8).通常は無症状であるが,大きいものでは異物感や美容目的から除去を希望され来院することがある.b.病理・病因病因は不明であるが,脂質の性状変化や脱落した導管上皮細胞などにより導管が閉塞し,内容物が濃縮,固形化したものと考えられている4).以前,白色固形状のマイボーム腺梗塞の病理組織標本を作製したところ,角化ているが,確固たる証拠はない.鑑別のむずかしい例を提示する.眼瞼皮膚に発赤・腫脹・わずかな膿点があり麦粒腫のようにみえる(図5).皮膚切開をすると白濁した液体が勢いよく出たが,根底には典型的な霰粒腫の粥状物が存在しており,霰粒腫であった症例である.ちなみに,白濁液の培養は陰性であった.発赤,腫脹,膿点などは鑑別点にならないとすると,疼痛・圧痛の有無と抗菌薬に対する反応の有無という2点が鑑別点と考え,鑑別フローチャートを作成した(図6).g.迷った場合の治療方針麦粒腫と霰粒腫の鑑別は考えれば考えるほどむずかし図5麦粒腫のようであるが霰粒腫であった例皮膚切開をするとまず白濁した液体がでたが,根底には典型的な霰粒腫の粥状物が存在していた.麦粒腫疑い霰粒腫疑い切開・掻爬疼痛,圧痛反応あり反応なし麦粒腫確定抗菌薬投与粥状物の観察ありなし霰粒腫確定図6麦粒腫と霰粒腫の鑑別フローチャート図7麦粒腫か霰粒腫か鑑別困難な例マイボーム腺開口部に白色膿汁と瞼結膜の充血がみられる固い腫瘤.(51)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111111が多いということである(図9a).びまん性に浸潤して眼瞼炎のような所見を呈することもある(図9b).初期の小さい脂腺癌は診断がむずかしい(図9c).5年生存率は約90%であるが,霰粒腫の再発や眼瞼炎と誤診され病期が進行すると,まず所属リンパ節へ転移を生じる(図9d).50歳以上の霰粒腫様の病変は脂腺癌を疑うことも大切である.c.治療腫瘍を完全に取り切ることが基本である.放射線感受性は高くないが,高齢者で全身状態が悪い場合などは放射線治療も行われる.有効な化学療法は知られていない.早期発見と早期治療が大切である.d.霰粒腫と脂腺癌の鑑別点脂腺癌は古今東西,霰粒腫と誤診される.マイボーム腺という同じ組織から発生する腫瘤であるから所見が類似するのは確かである.鑑別点は,脂腺癌は,(1)黄色調を呈することが多い,(2)切開時に粘稠な黄色の粥状物が出ずに,黄白色のぼろぼろとした固形物が出る,(3)触診で脂腺癌のほうが固い,などである.霰粒腫として複数回手術を行ったあとの再発例では,腫瘍は白色,ろう様の外観を呈することがある(図10).2.脂腺腺腫脂腺腺腫(sebaceousadenoma)は,脂腺から発生する良性腫瘍である.白色で,桑の実状,毛糸玉状を呈することが多い(図11).確定診断は病理診断である.脂物が主であり,一部にグラム陽性球菌を認めた5).白色であることは必ずしも白血球の塊ではないことに留意すべきである.c.治療通常,瞼縁に近いところにできるため,眼瞼皮膚側から手指で圧迫するとマイボーム腺開口部より摘出される.これでも摘出しにくい場合は,27ゲージ針などを用いて瞼結膜側より摘出する.d.梗塞という病名は適切か病理の教科書によれば,梗塞とは血液の供給の途絶による虚血性壊死のことであり,マイボーム腺梗塞という病名は適当ではないかもしれない.英語で表現するのであれば,meibomianglandinfarctionではなく,結膜結石と同じで,meibomianglandconcretion(凝集物)が適当であると思われる.IIマイボーム腺を場とする腫瘍性疾患1.脂腺癌a.定義脂腺癌〔sebaceous(gland)carcinoma〕とは脂腺から発生する悪性腫瘍である.眼瞼にはマイボーム腺とZeis腺の2つの脂腺があるが,マイボーム腺癌やZeis腺癌というより眼瞼の脂腺癌とよばれることが多い.b.診断確定診断は病理検査であるが,見た目の特徴として重要なことは,脂腺癌は黄色あるいは黄白色を呈することab図8マイボーム腺梗塞の外眼部写真a:眼瞼縁に近い瞼結膜直下に黄色透明な固形物がみられる.b:眼瞼縁に近い瞼結膜直下に白色の固形物がみられる.1112あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(52)acbd図9眼瞼の脂腺癌a:脂腺癌は黄色調を呈することが多い.b:眼瞼炎と誤診されるような脂腺癌の例.表面不整で黄色の病変がびまん性に広がっている.c:脂腺癌の初期であるが,霰粒腫と鑑別がむずかしい.d:耳前や顎下の所属リンパ節へ転移した例.図11脂腺腺腫の外眼部写真白色で桑の実状を呈する.図10霰粒腫として3回手術をうけていた脂腺癌眼瞼縁に近い部分に白色,ろう様の固い腫瘍がみられる.あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111113腺癌より頻度は低く,成長は一般に緩徐である.おわりに麦粒腫と霰粒腫は,失明する疾患ではなく,おおよそ治ってしまう疾患のため眼科のなかでは重要度が低く扱われる傾向にある.しかし,頻度の高い疾患であるものの,真の病因・病態は不明である.一度,話題を提供すると,侃々諤々の議論となるのも麦粒腫と霰粒腫ではないだろうか.一方,脂腺癌は高齢化社会の到来とともに症例が増加する可能性があり,看過しないように意識を高めておく必要がある.なお,近年報告のあるマイボーム腺のintratarsalkeratinouscystについては割愛した.文献1)HarryJ,MissonG:Chalazion(‘meibomiancyst’).In;ClinicalOphthalmicPathology.p46-49,Butterworth-Heinemann,Oxford,20012)小幡博人:霰粒腫の病理と臨床.眼科47:87-90,20053)小幡博人:霰粒腫・麦粒腫.大鹿哲郎(編):外眼部手術と処置.眼科プラクティス19,p30-36,文光堂,20084)上野脩幸:マイボーム腺梗塞.眼科学,p26,文光堂,20025)小幡博人:Meibom腺梗塞と霰粒腫.石橋達朗(編):いますぐ役立つ眼病理.眼科プラクティス8,p41-43,文光堂,2006(53)

局所油成分補充療法‐マイボーム腺機能不全治療の新しい試み

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY現在,MGDworkshopにおいて考えられているMGDの治療法は表1のとおりである.MGDの治療は,実際の診療ではその重症度や病型により適宜選択する.本稿でとりあげる治療法は表1の(2),TopicalLipidはじめに涙液が油層/水層/ムチン層の3層構造からなり,油層が欠乏するタイプの眼乾燥が存在するとすれば,単純なアイデアとして油成分を投与してドライアイを治療することが思いつかれる.涙液油層が欠乏するドライアイは,涙液油層を直接観察評価できるデバイス,DR-1TM(興和)によって診断可能である.本稿で述べる非炎症性閉塞性マイボーム腺機能不全,重症ドライアイ併発マイボーム腺機能不全,また涙液層破壊時間(BUT)短縮型ドライアイなどで涙液油層欠乏が観察される1,2).一方,油成分を単純に投与すれば涙液油層が再建されるであろうか.油成分は涙液水層と“水と油”の関係であり単純に投与しても油滴が涙液上にできるだけであろう.油成分を油滴でなく油層として薄膜構造をとって投与するためには“水と油”を仲立ちする安全な親水性の極性脂質が必要である.本稿ではマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)のなかで涙液油層減少ドライアイを伴うものに対しての局所油成分補充療法を中心に述べる.MGDは定義,用語の統一,病型分類,治療法に関して,今までもさまざまな知見が報告されているが,最近,日本のドライアイ研究会のMGDワーキンググループでMGDの診断基準をまとめようとする活動3),TearFilmandOcularSurfaceSocietyでのMGDworkshopにおける疾患概念,診断,治療をまとめようとする活動などが活発であり,それらの知見も交えて述べる.(43)1103*EikiGoto:後藤眼科医院〔別刷請求先〕後藤英樹:〒248-0012鎌倉市御成町4-40松田ビル3階後藤眼科医院特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1103?1106,2011局所油成分補充療法─マイボーム腺機能不全治療の新しい試み─TopicalLipidSupplementsforTreatingMeibomianGlandDysfunction後藤英樹*表1MGDworkshopのMGD治療法リスト(1)人工涙液点眼:Artificiallubricanttreatment(2)油性点眼,眼軟膏:Topicallipidsupplements(3)眼瞼清拭,温熱療法,圧出:Lidhygienepluswarmingandmanualexpression(4)抗生物質,抗菌薬点眼:Anti-infectivetreatments(5)毛?虫治療:TreatmentofDemodexMites(6)テトラサイクリン系抗生物質内服:Tetracyclineandderivatives(systemic)(7)ステロイド:Steroids(8)カルシニューリンインヒビター(サイクロスポリンなど):Calcineurininhibitors(9)性ホルモン:Sexhormones(10)必須脂肪酸:Essentialfattyacids(11)手術:Surgicaloptions表2MGDの病型分類1a)閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD:non-inflamedobstructiveMGD)1b)閉塞性MGD(diffusemeibomitis)2)脂漏性MGD(meibomianseborrhea)3)前部眼瞼炎(ブドウ球菌性眼瞼炎,脂漏性眼瞼炎,酒?性眼瞼炎,毛?虫性眼瞼炎)に続発するMGD4)ドライアイ(涙液分泌減少,Sjogren症候群,瘢痕性角結膜症)や慢性結膜炎症(アレルギー性結膜炎など)に併発するMGD1104あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(44)b.温罨法および圧出マイボーム腺閉塞の解除(脂質の融解)を期待して温罨法および圧出を行う.この際,島﨑のマイボーム腺圧出グレーディングを参考にする5).温罨法には,罨法器,温タオル,温熱シートなどを用いる6,7).圧出は温罨法の後に点眼麻酔を施行し検者の指,角板,ステンレス棒,吉富式マイボーム腺鑷子などを使用して行う.圧出は,マイボーム腺腔内の脂質を温めても融解しない症例には無効である.この治療で,一時的にでも改善がみられる場合は定期的に施行する.圧出されたマイボーム腺脂質は清拭する.個人的な感触であるが教科書的な温罨法や圧出は涙液油層を再形成するというよりは眼瞼縁の炎症をとる意味合いのほうが強いと思われ,むしろ炎症性のMGDに威力を発揮すると考えている.もちろん,閉塞が軽度の場合は温罨法で閉塞解除され油層が改善する場合もある.c.局所油成分補充療法概念としては成立している治療法であるが市販の処方薬がないため実施がむずかしい治療である.しかし,非炎症性閉塞性MGDではマイボーム腺の非炎症性閉塞と角結膜前涙液油層欠乏が起こっているため,私見では,最も理にかない,最も病態に即している治療法であると考えている.治療の目的は非炎症性閉塞性MGDで欠乏している角結膜前涙液油層1)を正常者に近い状態(均一な厚み100nm近辺)にもっていき涙液蒸発率を低減させ,眼表面の湿潤を得ることにある.方法としては低濃度油性点眼8)と極少量眼軟膏眼瞼縁塗布9)があり,それぞれ述べる.低濃度油性点眼は微量の油成分と十分な量の水成分を含むため,涙液量の少ない患者にも効果がある.すなわち適応は非炎症性閉塞性MGD,および涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGDである(図1).実際に油成分を水性点眼液内で均質化させるには硬化剤の添加および特殊な撹拌装置が必要であり,通常の臨床現場で作製するのはむずかしいと思われる.そこで現在,当科ではヒマシ油を人工涙液に1%で混和し低濃度油性点眼液を作製している.これを使用前によく撹拌するように患者に指示し1日6回使用する.自覚症状,涙液層破壊時間や涙液蒸発率の改善などが報告されている8).Supplementsに該当する.また本稿におけるMGDの病型分類は表2を使用する4).MGD病型分類は,臨床的には1)マイボーム腺炎症の有無,2)マイボーム腺開口部閉塞の程度,3)マイボーム腺原発か続発か(前部眼瞼炎や結膜炎症に続発するか)が重要であり,ドライアイとの関係においては1)涙液量(Schirmer値)異常の有無,2)涙液油層減少の有無が重要である.MGDの治療の実際表3にMGDの病型分類に基づく治療法のまとめを示す.このなかで1a)非炎症性閉塞性MGDおよび4)ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGDに対して局所油成分補充療法が行われる.閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD:non?inflamedobstructiveMGD)閉塞性MGDは非炎症性閉塞性MGDと炎症性の閉塞性MGDであるdiffusemeibomitisに分類される.非炎症性閉塞性MGDは油層減少型ドライアイ(lipidteardeficiencydryeye:LTD)をひき起こし,臨床上問題となる.ドライアイ治療,温罨法および圧出,局所油成分補充療法を行う.a.ドライアイ治療非炎症性閉塞性MGDの主要症状である眼乾燥の原因はLTDであり,人工涙液点眼,ヒアルロン酸点眼,涙点プラグなどのドライアイ治療を行う.ただし,これらのドライアイ治療は水成分を補充する治療であるためLTDに対しての治療としては限界がある.表3MGDの病型分類に基づく治療法のまとめ1a)閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD)ドライアイ治療,温罨法・圧出,局所油成分補充療法1b)閉塞性MGD(diffusemeibomitis)眼瞼清拭・温罨法・圧出,抗生物質,ステロイド2)脂漏性MGD(meibomianseborrhea)1b)と同様3)前部眼瞼炎に続発するMGD眼瞼清拭・温罨法・圧出,抗生物質4)ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGDドライアイなど原疾患の治療,局所油成分補充療法(45)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111105極少量眼軟膏眼瞼縁塗布はこのような低濃度油性点眼液調整の煩雑さを回避するために発案された.適応は非炎症性閉塞性MGDであり,特にMGDを伴うオフィスワーカーのドライアイ患者で著効した.微量とはいえ油成分のみの投与であるため,涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGD患者(角膜前油層がよどんでむしろ厚くなっている)では塗布した油成分が水層上を伸展しないため逆効果になる.涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGD患者では涙点プラグなど,涙液水成分不足の治療をしてから行うべき治療法である.極少量眼軟膏眼瞼縁塗布の方法は,ステンレス棒にタリビッドR眼軟膏を2mmとり,両眼の下眼瞼縁に端から端まで塗布する.これを1日3回行う.油成分を伸展させるために人工涙液またはヒアルロン酸点眼も点眼する.ぼやけは数分でなくなり,保湿効果は約3時間である.この方法は感染症などに対して行う眼軟膏の大量投与(バルク投与)と異なり,ぼやけを最低限しかひき起こさずに油成分を涙液に補充できるためドライアイの治療法として成立する.自覚症状,涙液層破壊時間や涙液油層厚みの改善などが報告されている(図2)9).眼軟膏としては,均一な涙液油層形成のため親水性をもつものが望ましく,現時点ではタリビッドR眼軟膏が眼表面保湿のために最も適していると考えている.一方,含有される抗菌成分がドライアイ治療に不必要であるという問題が明らかであり,抗図1低濃度均質化油性点眼液投与におけるMGD患者油層の改善上:プラセボ投与後の涙液油層干渉像.油成分のよどみがみられ,涙液油層は異常である.下:上記患者の低濃度均質化ヒマシ油点眼投与後の涙液油層干渉像.均一な干渉像が得られ,正常な涙液油層像に近いものとなっている.(文献8より許諾を得て掲載)図2MGDに対する極少量眼軟膏眼瞼縁塗布左:MGDを伴うオフィスワーカーのドライアイ患者の涙液油層干渉像.涙液油層厚みの減少(40nm)がみられる.右:上記患者の極少量眼軟膏眼瞼縁塗布治療後の涙液油層干渉像.涙液油層厚みが110nmに回復している.(文献9より許諾を得て掲載)1106あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(46)文献1)GotoE,TsengSC:Differentiationoflipidteardeficiencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.ArchOphthalmol121:173-180,20032)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.InvestOphthalmolVisSci44:4693-4697,20033)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20104)後藤英樹,島﨑潤:マイボーム腺機能不全とその治療.あたらしい眼科14:1613-1621,19975)ShimazakiJ,SakataM,TsubotaK:Ocularsurfacechangesanddiscomfortinpatientswithmeibomianglanddysfunction.ArchOphthalmol113:1266-1270,19956)GotoE,MondenY,TakanoYetal:Treatmentofnoninflamedobstructivemeibomianglanddysfunctionbyaninfraredwarmcompressiondevice.BrJOphthalmol86:1403-1407,20027)MoriA,ShimazakiJ,ShimmuraSetal:Disposableeyelid-warmingdeviceforthetreatmentofmeibomianglanddysfunction.JpnJOphthalmol47:578-586,20038)GotoE,ShimazakiJ,MondenYetal:Low-concentrationhomogenizedcastoroileyedropsfornoninflamedobstructivemeibomianglanddysfunction.Ophthalmology109:2030-2035,20029)GotoE,DogruM,FukagawaKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforrefractorydryeyeinofficeworkersbylow-doselipidapplicationonthefull-lengtheyelidmargin.AmJOphthalmol142:264-270,200610)OhbaE,DogruM,HosakaEetal:Surgicalpunctalocclusionwithahighheat-energyreleasingcauterydeviceforseveredryeyewithrecurrentpunctalplugextrusion.AmJOphthalmol151:483-487,2011菌成分を含まないフラビタンR眼軟膏への切り替えも試みているが,油層伸展からみてドライアイ治療を考えれば前者にアドバンテージがある.今後,抗菌成分を含まないドライアイ治療に特化した油製剤の開発が強く望まれる.ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGD原疾患であるドライアイ〔涙液分泌減少,Sjogren症候群,瘢痕性角結膜症(慢性Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,トラコーマ後の偽眼類天疱瘡,移植片対宿主病)〕の治療やアレルギーの治療を行う.水分貯留があれば局所油成分補充を考慮する.a.ドライアイ治療上述のドライアイ治療に加えて,重症ドライアイにMGDを併発している際は涙点閉鎖術も考慮する10).b.局所油成分補充療法ドライアイ治療により涙液量が増えた場合は残存するLTDの治療として局所油成分補充が奏効する場合がある.極少量眼軟膏眼瞼縁塗布を行う.おわりにMGDの治療における局所油成分補充療法に関して,MGDの病型分類を行いながらまとめた.涙液油層の評価が現状よりも一般化し,眼乾燥,ドライアイの重大な原因の一つであることがより認識されれば,局所油成分補充療法のさらなる発展がみられると思われる.局所油成分補充のための理想の油成分の探索が今後も必要である.

マイボーム腺への性ホルモンの影響

2011年8月31日 水曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYすなわち,ドライアイの女性に共通するホルモンの状態は血清エストロゲンの減少ではなく,実は血清アンドロゲンの減少である.閉経後の女性では卵巣の機能低下によって,妊娠中あるいは経口避妊薬を使用している女性では性ホルモン結合蛋白の産生の増加によって,血中を循環するアンドロゲンが減少しているのである.アンドロゲンは涙腺やマイボーム腺の機能に対して正の作用をつかさどっており,アンドロゲンのサポートがなくなるとオキュラーサーフェスが環境の変化に適応できなくなると考えられている.マイボーム腺は,毛包をもたない大型の皮脂腺である.皮脂腺は全身に存在し,その制御に性ホルモンが深く関与していることが古くから知られてきた.このため,各種性ホルモンによる皮脂腺の制御メカニズムを知ることが,マイボーム腺の制御を知るうえでも重要である.はじめにドライアイは女性に多くみられる.涙液減少型ドライアイのおもな原因であるSjogren症候群では,患者の90%以上が女性である.非Sjogren型のドライアイは,閉経後の女性,妊婦,経口避妊薬を使用している女性に圧倒的に多く認められる.このように,ドライアイは性差が顕著にみられる疾患であり,「女性であること」そのものがリスクファクターとも考えられている.また,男性,女性ともに加齢に伴ってドライアイの罹患率が増加する(図1).閉経後の女性は血清エストロゲンのレベルが低下しているのに対して,妊婦や経口避妊薬を使用している女性ではエストロゲンレベルは上昇している.さらに,ホルモン補充療法がドライアイに与える影響についての疫学調査では,エストロゲンのみのホルモン補充療法を受けている女性では,補充療法を受けていない女性に比べてドライアイのリスクが上昇することが報告されている1).(39)1099*TomoSuzuki:京都市立病院眼科〔別刷請求先〕鈴木智:〒604-8845京都市中京区壬生東高田町1の2京都市立病院眼科特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1099?1102,2011マイボーム腺への性ホルモンの影響HormonalRegulationofMeibomianGland鈴木智*0510<5050~5455~5960~6465~6970~7475+55~5960~6465~6970~7475+女性男性年齢(歳)年齢(歳)罹患率(%)0510罹患率(%)■:症状■:診断■:症状・診断■:症状■:診断■:症状・診断5.716.026.696.898.219.089.802.832.53.54.816.54図1年齢別のドライアイ罹患率1100あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(40)発現を調節し,脂質の産生をコントロールしていると考えられている4).マイボーム腺にも,ステロイドホルモンの産生と代謝に関連する重要な酵素が発現しており,副腎から分泌された性ステロイドの前駆物質がマイボーム腺内で性ホルモンに合成され,マイボーム腺を制御していると考えられている2).アンドロゲンの一つであるtestosteroneは,雄マウスのマイボーム腺において1,580個以上の遺伝子発現に影響を及ぼし,脂質の代謝や輸送,ステロール生合成,脂肪酸代謝などに関与する遺伝子の発現を増加させる一方,角化に関連する遺伝子の発現を減少させる5).雌マウスにtestosteroneを投与すると,1,000個を超える遺伝子の発現が変化するが,これらの遺伝子のほとんどが雄マウスにおいてtestosteroneによって影響を受ける遺伝子と同じである.しかし,雌マウスのみにtestosteroneによって影響を受ける遺伝子も存在し,性差が認められる5).閉経(卵巣や副腎からのアンドロゲン分泌の低下),自己免疫疾患(Sjogren症候群,全身性エリテマトーデス,関節リウマチなど),アンドロゲン不応症候群(completeandrogeninsensitivitysyndrome:CAIS,アンドロゲンレセプター機能不全)の女性,前立腺肥大や前立腺癌患者に対する抗アンドロゲン療法などでは,meibumの脂質組成が変化し,すべてマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)をきたす.結果として,涙液層が不安定化して涙液の蒸発亢進が生じる.通常の加齢の過程でも,アンドロゲンの減少とともにmeibumの質的変化(たとえば,極性脂質と中性脂質のIアンドロゲンによる制御アンドロゲンは全身の皮脂腺の発達,分化,脂質分泌を制御している.皮脂腺の活性および分泌は,加齢とともに減少する.男性では思春期から80歳ごろまで皮脂の分泌が続くが,女性では50歳以降は減少する傾向にある.この加齢に伴う皮脂腺の機能不全には,腺房細胞の萎縮と血清アンドロゲン濃度の減少の両方が関連している.図2に性ホルモンの生合成経路を示す2).皮脂腺内のアンドロゲンの活性は,特に5a-reductase(testosteroneを活性の強いdihydrotestosteroneに変換する酵素),aromatase(testosteroneを17b-estradiolに,androstenedioneをestroneに変換する酵素)および17b-hydroxysteroiddehydrogenase(HSD:17-ketrosteroidsを17b-hydroxysteroidsに変換する酵素)といった酵素に大きく影響を受けている.ヒトでは,これらの酵素は,副腎で産生されたdehydroepiandrosterone(DHEA)やDHEA-sulfateなどの性ホルモンの前駆物質から,末梢組織である皮脂腺でアンドロゲンやエストロゲンを合成するために不可欠である.これらの酵素の活性は,性別や皮脂腺が存在する組織の部位,皮脂腺内での細胞の位置によっても異なる.さらに,アンドロゲンは皮脂腺における脂質代謝のさまざまな経路も制御している.マイボーム腺の腺細胞では核内にアンドロゲンレセプターが存在しており3),アンドロゲンは少なくともその古典的レセプターを介してマイボーム腺における遺伝子図2性ホルモンの生合成経路DHEA-sulfate①Pregnenolone17OH-Pregnenolone17OH-ProgesteroneDehydroepiandrosterone(DHEA)②③④⑤②ProgesteroneDihydrotestosterone(DHT)EstroneEstradiolEstriol①:P450scc②:3b-HSD③:17a-hydroxylase④:17,20-lyase⑤:17b-HSD⑥:5a-reductase⑦:aromatase②②③④⑤⑥⑤⑦⑦CholestreolAndrostendioneAndrostendiolTestosterone(41)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111101とになる.逆に,アンドロゲンを投与すると,皮脂腺におけるestradiol結合部位が有意に減少する.このように,エストロゲンとアンドロゲンは拮抗する作用を有している.マイボーム腺細胞にはエストロゲンのレセプターが存在する3).卵巣摘出後のマウスにエストロゲンを投与するとマイボーム腺の形態が変化する7).また,17b-estradiolはtestosteroneよりは少ないが,マウスのマイボーム腺において,チロシンキナーゼや免疫因子,ステロイド生合成などに関連する200以上の遺伝子発現を制御している8).エストロゲンは,脂質や脂肪酸の異化に関連する遺伝子の発現を促進する一方で,脂質産生や代謝に関連する遺伝子の発現を抑制する.このことから,エストロゲンを投与するとマイボーム腺における脂質産生が低下し,MGDと蒸発亢進型ドライアイを生じると考えられる.エストロゲン補充療法を受けている患者に圧倒的にドライアイやコンタクトレンズ不耐症が多いこともエストロゲンのマイボーム腺に対する作用の結果と考えられる1).IIIプロゲステロンによる制御皮脂腺に対するプロゲステロンの作用は,いまだ明らかではない.かつては,プロゲステロンを投与することにより皮脂産生が有意に増加したという報告から,プロゲステロンは女性における皮脂腺を制御するホルモンであり,男性におけるアンドロゲンと類似であると信じられていた.しかしながら,プロゲステロンを投与しても皮脂分泌はまったく変化しないという報告もあれば,プロゲステロンは局所でのアンドロゲンの活性や代謝を阻害して皮脂腺の機能を低下させるという報告もある.ヒトでは,プロゲステロンによって高齢の女性の皮脂分泌が増加するという報告がある一方で,若年者にはまったく効果がないという報告がある.プロゲステロンは,雌ラットの皮脂分泌は促進するが,雄ラットの分泌は促進しない.雄ラットでは,去勢した場合のみプロゲステロンは皮脂分泌を促進する.この機序については,正常の雄ラットではプロゲステロンは抗アンドロゲン作用によって皮脂分泌を抑制するのであろうと考えられている.また,5a-reductase(図2の⑥)は,testosteroneと同割合など)および量的な減少,およびマイボーム腺開口部の角化が生じる.要約すると,マイボーム腺はアンドロゲンの標的器官であり,アンドロゲンによって脂質産生が促進され,角化が抑制される.このため,アンドロゲンが不足すると,MGDや蒸発亢進型ドライアイが生じるのである.実際,局所あるいは全身的なアンドロゲンの投与により,ドライアイの症状が軽減されるとの報告がみられる6).IIエストロゲンによる制御エストロゲンは,女性では卵巣がおもな産生の場である.男性では,少量(1日産生量の15?20%)のエストラジオールが精巣から直接分泌されているが,多くは末梢組織(おもに脂肪組織)に存在するaromatase(図2の⑦)によって産生されている.Testosteroneがestradiolに代謝されるか,それともDHT(ジヒドロテストステロン)に代謝されるかを制御している因子についてはいまだほとんど解明されていない.アンドロゲンとは対照的に,エストロゲンは皮脂腺のサイズ,活性,脂質産生を抑制する.実際この作用を利用して,ヒトでは皮脂腺の機能を低下させ,皮脂分泌を抑制する治療に用いられていた.この皮脂腺に対する抑制効果は,エストロゲンとしての作用の強さとは関係がない.すなわち,最も作用の強いエストラジオールでなくとも,ラットやマウスの皮脂腺の大きさを減少させると報告されている.一方で,エストロゲンは腺房細胞の増殖には影響しないと考えられている.これは,ラットにtestosteroneとestradiolを同時に投与すると,腺房細胞の大きさは減少し皮脂分泌は抑制されるが,逆に細胞分裂は増加するという報告によるものである.このため,エストロゲンの皮脂腺に対する抑制作用は,皮脂合成のレベルであると推測されている.エストロゲンは,皮脂腺細胞においてライソソーム酵素の活性を誘導するため,細胞が未成熟な状態で崩壊し,結果として皮脂分泌の減少をもたらす.また,エストロゲンは皮脂腺細胞におけるtestosteroneの取り込みを抑制し,testosteroneがより強力なDHTに変換されるのを抑制するため,アンドロゲンの作用と拮抗するこ1102あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(42)発亢進型ドライアイを改善することもあれば悪化させることもある.MGDの新しい治療を考える場合,性ホルモンによるマイボーム腺の制御はきわめて興味深い.文献1)SchaumbergDA,BuringJE,SullivanDAetal:Hormonereplacementtherapyanddryeyesyndrome.JAMA286:2114-2119,20012)SchirraF,SuzukiT,DickinsonDPetal:IdentificationofsteroidgenicenzymemRNAsinthehumanlacrimalgland,meibomiangland,cornea,andconjunctiva.Cornea25:438-442,20063)WickhamLA,GaoJ,TodalIetal:Identificationofandrogen,estrogen,andprogesteronereceptormRNAsintheeye.ActaOphthalmolScand78:146-153,20004)SchirraF,RichardsSM,LiuMetal:Androgenregulationoflipogenicpathwaysinthemousemeibomiangland.ExpEyeRes83:291-296,20065)SchirraF,SuzukiT,RichardsSMetal:Androgencontrolofgeneexpressioninthemousemeibomiangland.InvestOphthalmolVisSci46:3666-3675,20056)WordaC,NeppJ,HuberJCetal:Treatmentofkeratoconjunctivitissiccawithtopicalandrogen.Maturitas37:209-212,20017)SuzukiT,SullivanBD,LiuMetal:Estrogenandprogesteroneeffectsonthemorphologyofthemousemeibomiangland.AdvExpMedBiol506:483-488,20028)SuzukiT,SchirraF,RichardsSMetal:Estrogenandprogesteronecontrolofgeneexpressioninthemousemeibomiangland.InvestOphthalmolVisSci49:1797-1808,2008様にプロゲステロンにも作用するので,プロゲステロンはtestosteroneからDHTへの変換に競合的に作用するとも考えられる.このような研究から,プロゲステロンに対する皮脂腺の反応は,性別および個体の内分泌環境に依存して変化すると考えられる.マイボーム腺には,プロゲステロンレセプターも発現しており3),プロゲステロンの投与によりマウスマイボーム腺の形態が変化することも報告されている7).ヒトでは,エストロゲン+プロゲステロンを用いたホルモン補充療法では,エストロゲンによるドライアイの症状を有意に減少させるため1),プロゲステロンがマイボーム腺に対して正の作用を有していることを示唆しているのかもしれない.プロゲステロンはマウスのマイボーム腺における遺伝子発現を制御している8).免疫因子や,糖新生やエネルギー変換に関与するほとんどの遺伝子の発現がプロゲステロンによって低下する.特に,リボゾームの生合成,集合,構造に関与するすべての遺伝子の発現が低下する.このようなことから,マウスではプロゲステロンはマイボーム腺に対して総じて負の作用を有していると考えられる.性ホルモンはマイボーム腺の機能に多大な影響を与えており,マイボーム腺の形態,遺伝子発現,脂質の組成,脂質分泌などにおける性差を生み出していると考えられる.このため,性ホルモンの投与によりMGDや蒸

マイボーム腺機能不全診断へのコンフォーカルマイクロスコープの応用

2011年8月31日 水曜日

1094あたらしい眼科Vol.28,No.8,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)生体内の角膜組織を細胞レベルで直接観察するという目的で開発されてきた.タンデムスキャン式やスリットスキャン式のコンフォーカルマイクロスコープにおいても角膜内の観察は十分可能であったものの,その解像度に問題が残っていた.レーザースキャン式コンフォーカルはじめに生体内の角膜の細胞の形態を直接観察するための方法として,1960年代の後半に,共焦点顕微鏡検査(コンフォーカルマイクロスコピー)が報告された1).コンフォーカルマイクロスコピーでは角膜内の組織や細胞の状態を,その瞬間(real-time)に,生きている状態(invivo)で,非侵襲的(non-invasive)に,観察することができるために,その有用性は高く評価されており,これまでに数多くの臨床的な応用が行われてきている2~5).コンフォーカルマイクロスコピーはこれまで多くの改良が行われてきている.歴史的な経緯としては,まず,観察対象を円板上に並んだ多数のピンホール光で走査するタイプのタンデムスキャン式(Tandem[Advanced]ScanningConfocalMicroscopeR)が開発された.つぎに,スリット光で走査するタイプのスリットスキャン式(ConfoScan4R)に改良されていった.最近になり,レーザー光で走査するタイプのレーザースキャン式(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModuleR:以下,HRTII-RCM)が登場し,その有用性がますます注目されてきている.本稿では,生体レーザー共焦点顕微鏡であるHRTII-RCMに絞り,マイボーム腺の観察によって得られる知見より,その病態と診断について述べることとする.Iコンフォーカルマイクロスコピーコンフォーカルマイクロスコープは,前述のとおり,(34)*YukihiroMatsumoto:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕松本幸裕:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1094?1098,2011マイボーム腺機能不全診断へのコンフォーカルマイクロスコープの応用ApplicationofConfocalMicroscopetoDiagnosisofMeibomianGlandDysfunction松本幸裕*図1コンフォーカルマイクロスコープ(HeidelbergRetinaTomographII-RostockCorneaModule)レーザー生体共焦点顕微鏡である,HeidelbergRetinaTomographII(HeidelbergEngineering社製,ドイツ)は,角膜観察用アタッチメントであるRostockCorneaModule(同上)を装着することにより,前眼部を観察することが可能となる.(35)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111095IIマイボーム腺の観察マイボーム腺は,上下の眼瞼結膜下に存在する外分泌腺で,眼瞼縁に対して垂直に30本程度走行している.マイボーム腺の解剖学的構造の観察には,以前よりマイボグラフィーなどが知られていたが,最近では,コンフォーカルマイクロスコピーにても,マイボーム腺を観察できることが知られてきている8~11).実際の検査では,コンフォーカルマイクロスコープの焦点を眼瞼結膜より大体50μm(~100μm)ほど深くしていくと,マイボーム腺がモニター上に描出されてくる.円形,楕円形,不整形のマイボーム腺の腺房構造とその内腔,および結合組織を確認することができる.コンフォーカルマイクロスコープにて観察される多様な腺房構造は,三次元的な房状の構造形態に対して,二次元的な断面を観察することによるものであると考えられる.また,マイボーム腺の観察においては,どうしても結膜を介して観察することとなり,そのために,角膜や結膜の観察で得られる画像と比べて,コントラストがやや不良となり,その腺房細胞を詳細に観察することは困難である.実際に,コンフォーカルマイクロスコープを用いて,マイボーム腺を観察すると,正常のマイボーム腺は,各々の腺房のサイズが小さく,腺房の密度が多く,腺房構造が比較的明瞭に観察される.また,正常のマイボーム腺の結合組織には,炎症細胞や線維化の所見もほとんど認められない(図2).それに対して,マイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)のマイボーム腺は,腺房が拡張し,腺房の密度が少なく,腺房構造もやや粗雑に描出される(図3).また,MGDのマイボーム腺の結合組織には,炎症細胞が多数認められたり,線維化が生じていたりすることがある(図4,5).マイボーム腺の腺房の解剖学的変化について,MGD患者と健常者において,コンフォーカルマイクロスコピーにて詳細に比較検討したところ,MGD患者では,健常者よりも,マイボーム腺の腺房密度は明らかに減少していた(MGD患者:47.6±26.6腺房/mm2,健常者:101.3±33.8腺房/mm2)一方,マイボーム腺の長径は明らかに拡大していた(MGD患者:98.2±53.3μm,健常者:41.6±11.9μm),という(図2,3).その他,高度マイクロスコープであるHRTII-RCMは,光源としてダイオードレーザーを用いており,従来の可視光を用いたものに比べて,解像度が優れており,コントラストも良好である点が大きな特徴である4,5)(図1).コンフォーカルマイクロスコピーにて,角膜内で観察されるものとしては,角膜上皮細胞,Bowman膜,角膜神経,角膜実質細胞,Descemet膜,角膜内皮細胞など多岐にわたる.その他,炎症細胞,血管,病原体や異物,沈着物など正常では見られないものも観察が可能であり,角膜疾患の病態の解明や補助診断として有用であることが知られている.しかし,最近では,コンフォーカルマイクロスコピーを,結膜(眼球結膜,眼瞼結膜),マイボーム腺,涙腺などの角膜以外の眼組織に応用した報告がなされてきている6~12).結膜上皮細胞,杯細胞,腺房,導管,結合組織,炎症細胞(樹状細胞を含む),?胞,線維化組織,などが観察される.現在では,眼表面(オキュラーサーフェス)全体が,コンフォーカルマイクロスコピーの応用可能範囲内と考えている.コンフォーカルマイクロスコピーは,原理的には,光源から対物レンズを通過した光が角膜の焦点面を照射し,その反射光が同じ対物レンズを通り,ビームスプリッターで分かれた後に,検出部で観察されるというものである.コンフォーカルマイクロスコープにおけるマイボーム腺の検査方法は,基本的には角膜などを検査する方法と大差ない.まず,コンフォーカルマイクロスコープの本体(HRTII)に角膜観察用アタッチメント(RCM)を取り付ける.つぎに,患者の検査するほうの眼に点眼麻酔を施行する.対物レンズの先端に専用のジェルをつけ,専用のTomoCapRの装着を行った後,さらにTomoCapRの先端表面に専用のジェルをつける.患者の顎を器械の顎台にのせた後,患者の(上下)眼瞼を翻転し,対物レンズを眼瞼結膜に接触させる.焦点を結膜表面に当てて,深度をゼロ調整する.そこから,徐々に焦点を深くしていって,マイボーム腺を観察する.モニター上にマイボーム腺が動画として描出される.1096あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(36)図3コンフォーカルマイクロスコピーによる軽度MGD患者のマイボーム腺画像マイボーム腺機能不全(MGD)患者のマイボーム腺は,腺房のサイズは大きく(矢印),腺房の密度は少ない傾向にある.図2コンフォーカルマイクロスコピーによる健常者のマイボーム腺画像健常者のマイボーム腺では,腺房のサイズが小さく(矢印),腺房の密度が多い.図5コンフォーカルマイクロスコピーによる高度MGD患者のマイボーム腺画像(2)高度に進行したマイボーム腺機能不全(MGD)患者のマイボーム腺では,萎縮した腺房(矢印頭)の周囲には多くの炎症細胞(矢印)を認めている.図4コンフォーカルマイクロスコピーによる高度MGD患者のマイボーム腺画像(1)高度に進行したマイボーム腺機能不全(MGD)患者のマイボーム腺は,腺房の萎縮(矢印頭)と腺房周囲の線維化(矢印)を認めている.(37)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111097している.以上の結果は,コンフォーカルマイクロスコピーが,MGD診断において非常に有用な検査方法である,ということを証明したものであると言える.おわりにマイボーム腺の診断とその評価方法として,細隙灯顕微鏡検査(マイボーム腺開口部閉塞所見やその周囲の異常所見,角膜上皮障害の所見,涙液層破壊時間の短縮)のほか,マイボグラフィー,涙液スペキュラー,マイボメトリー,涙液蒸発率検査,コンフォーカルマイクロスコピーなどの検査が有用であり,それらから得られる所見が,わが国のMGD診断基準やその診断に関する参考所見としてあげられている13).そのなかで,マイボーム腺の解剖学的変化を評価する検査は,マイボグラフィーとコンフォーカルマイクロスコピーである.マクロ的な観察手段であるマイボグラフィーは,マイボーム腺全体の解剖学的評価に有用で,ミクロ的な観察手段であるコンフォーカルマイクロスコピーは,マイボーム腺の局所的な解剖学的評価に有用であると考えられる.そのような医療機器を上手く活用することにより,MGDの診断や病態の把握が可能となり,日常診療するうえにおいても大いに役立つものとなると考えられる.文献1)PetranM,HadravskiM,EggerMDetal:Tandem-scanningreflected-lightmicroscope.JOptSocAm58:661-664,19682)MustonenRK,McDonaldMB,SrivannaboonSetal:Normalhumancornealcellpopulationsevaluatedbyinvivoscanningslitconfocalmicroscopy.Cornea17:485-492,19983)KaufmanSC,MuschDC,BelinMWetal:Confocalmicroscopy.AreportbytheAmericanAcademyofOphthalmology.Ophthalmology111:396-406,20044)EckardA,StaveJ,GuthoffRF:InvivoinvestigationsofthecornealepitheliumwiththeconfocalRostockLaserScanningMicroscope(RLSM).Cornea25:127-131,20065)NiedererRL,PerumalD,SherwinCetal:Age-relateddifferencesinthenormalhumancornea:alaserscanninginvivoconfocalmicroscopystudy.BrJOphthalmol91:1165-1169,20076)EfronN,Al-DossariM,PritchardN:Invivoconfocalmicroscopyofthebulbarconjunctiva.ClinExperimentOphthalmol37:335-344,2009に進行したMGDでは,腺房の萎縮と腺房周囲の線維化を認めていたとしている9)(図4).また,MGD患者においては,マイボーム腺周囲に多くの炎症細胞を認めており(1,216±328細胞/mm2),マイボーム腺に対する抗炎症治療を行うことによって,炎症細胞を有意に減少させる(700±436細胞/mm2)ことが可能であったと報告されている10)(図5).以上の結果より,MGDの病態について,軽度のMGDにおいては,マイボーム腺腺房の拡大が生じていくが,高度のMGDとなるに従って,マイボーム腺の瘢痕萎縮が生じ,腺房が脱落消失していくということを,MGD患者でのマイボーム腺の解剖学的変化の点より推察することができる.また,MGDにおいては,マイボーム腺周囲に少なからず炎症細胞を認めていることより,炎症という因子がMGDの病態悪化に関連している可能性があると考えられる.さらに,MGDの診断におけるコンフォーカルマイクロスコピーの有用性について詳細に検討した報告がある11).それによれば,マイボーム腺腺房長径,マイボーム腺腺房短径,マイボーム腺腺房密度,炎症細胞密度,について,MGD患者を健常者と比較検討したところ,MGDでは,マイボーム腺腺房長径およびマイボーム腺腺房短径は明らかに拡大しており(MGD患者:長径86.3±18.9μm,短径34.8±9.2μm,健常者:長径56.3±10.4μm,短径17.4±4.2μm),炎症細胞密度は増加していた(MGD患者:1,026.1±537.3細胞/mm2,健常者:56.6±32.1細胞/mm2).一方,マイボーム腺腺房密度は明らかに減少していた(MGD患者:67.8±15.1腺房/mm2,健常者:113.7±36.6腺房/mm2).さらに,それら各々について,Receiveroperatingcharacteristic(ROC)curveを用いて,MGD診断におけるカットオフ値を,マイボーム腺腺房長径:65μm,マイボーム腺腺房短径:25μm,マイボーム腺腺房密度:70腺房/mm2,炎症細胞密度:300細胞/mm2と算出し,しかもそれらはいずれにおいても高い感度と特異度が得られたとしている.また,それらのパラメータはいずれも,涙液蒸発率,フルオレセイン生体染色スコア,ローズベンガル生体染色スコア,涙液層破壊時間,マイボーム腺脱落度,マイボーム腺分泌物圧出度,と有意な相関を認めたものの,Schirmer試験値とは相関を認めなかったと1098あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(38)ofthetreatmentresponseinobstructivemeibomianglanddiseasebyinvivolaserconfocalmicroscopy.GraefesArchClinExpOphthalmol247:821-829,200911)OsamaMA,MatsumotoY,DogruMetal:Theefficacy,sensitivity,andspecificityofinvivolaserconfocalmicroscopyinthediagnosisofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology117:665-672,201012)SatoEA,MatsumotoY,DogruMetal:LacrimalglandinSjogren’ssyndrome.Ophthalmology117:1055,201013)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20107)WakamatsuTH,SatoEA,MatsumotoYetal:ConjunctivalinvivoconfocalscanninglasermicroscopyinpatientswithSjogrensyndrome.InvestOphthalmolVisSci51:144-150,20108)MessmerEM,TorresSuarezE,MackertMIetal:Invivoconfocalmicroscopyinblepharitis.KlinMonatsblAugenheilkd222:894-900,20059)MatsumotoY,SatoEA,IbrahimOMAetal:Theapplicationofinvivolaserconfocalmiroscopytothediagnosisandevaluationofmeibomianglanddysfunction.MolVis14:1263-1271,200810)MatsumotoY,ShigenoY,SatoEAetal:Theevaluation