0910-1810/11/\100/頁/JCOPYやそのスペースを必要とするものでなく,マイボーム腺関連疾患を診断するうえで最も多くの情報を提供してくれる細隙灯顕微鏡に小型赤外線CCDカメラと赤外線透過フィルターを搭載しただけのものである(ノンコンタクトマイボグラフィー,トプコン社)6).細隙灯顕微鏡の光源を利用して観察するため,従来のような侵襲的な光源プローブは一切必要ない.さらに,倍率も自由に変えることができ,細隙灯顕微鏡の長所をそのまま生かしながら,それに新しい機能を付加させている.これを用いることで,ocularsurfaceの観察の一連の流れのなかに,マイボーム腺の形態観察も自然に組み込むことが可能となった(図1).Iマイボグラフィーって何?マイボグラフィーはマイボーム腺を皮膚側から透過することによりマイボーム腺構造を生体内で形態学的に観察する方法である.30年以上前Tapie1)によって初めての報告があって以来,改良2?5)がなされてきた.しかしどの方法も光源プローブが必要で,その光源プローブが患者眼瞼に直接接触することによる,疼痛や不快感を解消することはできず,その普及を妨げた.しかし一般臨床の場で,私たちが,最も多く遭遇する慢性疾患の一つであるマイボーム腺機能不全(MGD)を診断するうえで,マイボグラフィーによるマイボーム腺の形態変化の観察は,細隙灯顕微鏡による眼瞼所見とともに最も重要な情報の一つである.IIマイボーム腺の観察―キーワードは非侵襲的検査―マイボーム腺を非侵襲的に観察するために,筆者らはまず,細隙灯顕微鏡に付属させたマイボグラフィー6)を,続いて最近,持ち運び可能なモバイルペン型のマイボグラフィーを開発し(投稿中),その特性によって使い分けを行っている(表1).1.細隙灯顕微鏡付属型マイボグラフィー(非接触型マイボグラフィー)非接触型マイボグラフィーは,特殊で大掛かりな装置(27)1087*ReikoArita:伊藤医院〔別刷請求先〕有田玲子:〒337-0042さいたま市見沼区南中野626-11伊藤医院特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1087?1093,2011非侵襲的マイボグラフィーの有用性─細隙灯顕微鏡付属型とモバイル型の開発─ValidityofNon-InvasiveMeibographies─Non-ContactMeibographyAttachedtoSlit-LampandMobilePen-ShapedMeibography─有田玲子*表12種類の非侵襲的マイボグラフィーの特徴とその比較細隙灯顕微鏡組み込み型モバイルペン型非侵襲的細隙灯顕微鏡に固定非侵襲的持ち運び可能座位だけでなく仰臥位での診察も可能スリットランプの光源赤外線透過フィルター赤外線CCDカメラ赤外線LED光源CMOSセンサーカメラ倍率の変更も自由倍率の変更はできないOcularsurface観察の流れのなかでマイボーム腺関連疾患を総合的に診断できる可視光LED,フルオレセインブルーLEDモードも搭載されているが,スリット機能はない1088あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(28)るモバイルペン型マイボグラフィー(マイボペン,JFC社)を開発した(投稿中)(図2).モニターは市販のテレビに直接つなぐだけでもよく,USBを介してパソコンにつなぎ,静止画,動画ともに記録できる.III非侵襲的マイボグラフィーの原理観察用の光が可視光線である場合,散乱が大きくマイボーム腺を観察することはできない.それに対して,可視光線カットフィルター(以下,赤外線透過フィルター)により,可視光線を排除して赤外線を用いて観察を行うと,散乱の問題は生じず,良好にマイボーム腺を観察することができる.可視光は瞼板によって光が反射されるので奥にあるマイボーム腺は見えないが,赤外光は深部到達度が高く,瞼板を透過し,マイボーム腺によって反射される.マイボーム腺で赤外光が反射される理由はわからないが,脂の性状によるものと考えている.1.非接触型マイボグラフィー赤外線透過フィルターは遷移波長が700?850nmの範囲で,光源は細隙灯顕微鏡の光学系をそのまま利用する.赤外線カメラは,700?1,000nmの近赤外線領域に感度を有するCCDカメラを用いる.2.モバイルペン型マイボグラフィー専用赤外光LED光源(ピーク波長980nm)とCMOSカメラを用いる.IV非接触型マイボグラフィーを用いたマイボーム腺の形態変化以下,1.?4.までは2種類のマイボグラフィーを用いて同様の結果が得られることを確認している(投稿中).1.正常眼の年齢別,性別によるマイボーム腺の形態変化正常のマイボーム腺は直線的で上のほうが下より細く長い(図3).マイボーム腺の消失面積によってグレード0からグレード3まで4段階に分類した(マイボスコア,図4).マイボーム腺は男性,女性ともに加齢が進むにつれ,消失面積が大きくなった.有意差は出なかった2.モバイルペン型マイボグラフィー細隙灯顕微鏡に付属させたマイボグラフィーから筆者らは多くの知見を得られた(後述)が,臨床現場にいて,多くの患者に接していると,座位のとれない被検者や,病院まで来られない患者さんのマイボーム腺を観察するといった新しいニーズが生まれた.そこで筆者らは,持ち運び可能で,どこでも容易にマイボーム腺を観察でき図1非接触型マイボグラフィー装置細隙灯顕微鏡のブルーフィルターを挟む部分に,赤外線透過フィルターをはめ込み,小型赤外線CCDカメラを搭載しただけのものである.赤外線CCDカメラ赤外線透過フィルター図2モバイルペン型マイボグラフィー全長15cm,重さ200gと取り扱いやすい.赤外線LED光源とCMOSカメラが内蔵されている.(29)あたらしい眼科Vol.28,No.8,201110892.コンタクトレンズ装用眼のマイボーム腺コンタクトレンズ装用者のマイボーム腺は正常眼に比べ,有意に短縮していることが明らかになった7)(図5).3.通年性アレルギー性結膜炎のマイボーム腺通年性アレルギー性結膜炎患者のマイボーム腺は正常眼に比べ,有意に屈曲していることが明らかになった8)(図6).4.マイボーム腺機能不全(MGD)におけるマイボーム腺の形態変化a.閉塞性MGD(原発性分泌低下型MGD)閉塞性MGD眼においては,マイボーム腺の開口部周囲からはじまる脱落,腺房の萎縮による短縮,屈曲,融合,途絶などの所見がみられた.マイボスコアは性別,年代を適合させた対照群に比べ有意に大きかった.マイボーム腺が完全に脱落している開口部を強く押しても,マイボーム腺の分泌脂は圧出されなかった(図7)9).が,20代,60代,80代において男性のほうが女性よりマイボスコアが大きい傾向にあった6).グレード2グレード0グレード3グレード1図4マイボスコア(文献6より)非接触型マイボグラフィーを用いてマイボーム腺の消失面積をグレード分類した.グレード0:マイボーム腺の脱落面積なし.グレード1:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以下.グレード2:マイボーム腺の脱落面積が全体の1/3以上2/3以下.グレード3:マイボーム腺の脱落面積が全体の2/3以上.図3正常眼の非接触型マイボグラフィーによる観察写真の白いほうがマイボーム腺.上下眼瞼においてブドウの房状の腺房からなるマイボーム腺がよく観察できる.1090あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(30)5.抗緑内障点眼薬のマイボーム腺への影響抗緑内障点眼を長期に使用している患者は有意にマイボーム腺が脱落していた.点眼の種類による有意な差は認められなかった.防腐剤の影響などの検討も今後必要である11).6.抗前立腺肥大治療薬のマイボーム腺への影響抗前立腺肥大治療薬(a1遮断薬)を内服している患者は有意にマイボーム腺が脱落していた.ホルモンバランスの異常によるものか,a1遮断薬の影響によるものか,検討が必要である.V非接触型マイボグラフィーによるMGDの評価と診断基準の提案非接触型マイボグラフィーによるマイボーム腺の変化がMGDの診断基準の一つになりうるか,他のいくつかの項目とともに検討した9).自覚症状スコア,眼瞼スコア,角結膜上皮障害(SPK)スコア,涙液層破壊時間(BUT),マイボスコア,SchirmerI法,meibumスコアを比較した.閉塞性MGDを診断するとき,上記7つの検査法の弁別能の高さを評価するためにROC(receiveroperatingcharacteristic)曲線を描き,それぞれの検査のAUC(areaunderthecurve)値を求めた.AUCb.脂漏性MGD(原発性分泌増加型MGD)脂漏性MGD眼においては,マイボーム腺の形態は加齢性変化以上の変化がほとんどみられなかった.マイボスコアは性別,年代を適合させた対照群に比べ有意に小さかった10).図5コンタクトレンズ装用者のマイボーム腺(29歳,女性)非接触型マイボグラフィーによる観察.2週間頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用9年.メニスカスが低く,BUT1秒.下眼瞼のマイボーム腺が著しく短縮している(点線白枠内短縮部分).図6通年性アレルギー性結膜炎のマイボーム腺(28歳,男性)モバイルペン型マイボグラフィーによる観察.上眼瞼のマイボーム腺が顕著に屈曲している.(31)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111091値が大きい順から検査の自覚症状スコア,眼瞼スコア,マイボスコア,BUT,meibum,SPK,Schirmer値であった(図8).さらにAUC値が高い3つの検査(自覚症状,眼瞼異常所見,マイボーム腺脱落所見)の有用性を検討するためベン図(Veendiagram)解析を行うと,この3つの検査のうち,2つ陽性であれば,感度は84.9%,特異度は96.7%であった.以上のことに基づいて,MGDの診断基準として,自覚症状,眼瞼異常所見,マイボーム腺脱落所見の3つのうち,2つ陽性であれば疑い例,3つ陽性であれば確定例とすることを提案した9).マイボスコアは眼瞼異常所見,meibumスコアと有意に相関しており,マイボーム腺の機能をも反映していることが示唆された.一方,脂漏性MGD眼においても同様の解析を行ったところ,マイボーム腺の形態には変化がないことが多く,自覚症状,眼瞼異常所見の2項目とも陽性であれば感度80%,特異度は98.3%であった10).しかし,脂漏性MGD眼の定義そのものや,病態などはまだ不明な点も多く,今後も議論が必要である.図7閉塞性MGD症例(78歳,男性,右眼)強い眼不快感あり.眼瞼縁に血管拡張とpoutingがある(写真左上).角膜下方に上皮障害あり(写真左下).マイボーム腺は上下眼瞼とも脱落,短縮を認める(写真右上下,黒く抜けているところが短縮,脱落部分).上眼瞼マイボスコア3,下マイボスコア2,BUT1秒,Schirmer値は8mm.0.00.00.20.40.60.81.00.20.40.60.81.01-SpecificityAUC(95%CI)0.948(0.912?0.984)0.933(0.891?0.974)0.802(0.722?0.883)0.736(0.640?0.832)0.918(0.866?0.970)0.574(0.467?0.681)0.862(0.793?0.932)自覚症状眼瞼異常所見MeibumSPKマイボスコアSchirmer値BUTSensitivity図8ROC曲線7項目の検査の閉塞性MGD診断時の弁別能の高さを表わす.グラフの右下の数字がAUC値であり,AUC値の大きい順に自覚症状,眼瞼異常所見,マイボスコア,BUT,meibum,SPK,Schirmer値であった.1092あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(32)能で,より幅広い年代,より多くのニーズに応えられる非侵襲的な検査法である(図10).この2種類の非侵襲的マイボグラフィーはその特性によって使い分けることで,乳幼児から病院に来られない患者,高齢者まで,マイボーム腺の脱落や短縮,屈曲,拡張,途絶など生体内でのマイボーム腺の形態観察に有用であり,現在,国際VI2種類の非侵襲的マイボグラフィーの今後非接触型マイボグラフィーは,細隙灯顕微鏡を用いてocularsurface観察の一環としてマイボーム腺を観察でき(図9),最近では定量化ソフトウェアの開発も進行中である.モバイルペン型マイボグラフィーは持ち運び可角結膜,涙液眼瞼縁マイボーム腺開口部図9Ocularsurfaceの観察(MGD)非接触型マイボグラフィーは,細隙灯顕微鏡に付属しているので,眼瞼縁,角結膜上皮,涙液の安定性,マイボーム腺開口部,そして,赤外光フィルターにまわすだけで,マイボーム腺も観察できる.あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111093的に注目を浴びているMGDの診断にも有効であることがわかった.今後,非侵襲的マイボグラフィーがより多くの眼科医に普及することで,“マイボーム腺を見ること”が日常臨床のroutineexaminationとなり,いまだ不明なマイボーム腺関連疾患の病態や発症機序の解明につながることを祈ってやまない.今後開発されるであろう,MGDの治療の評価に役立つことも期待している.文献1)TapieR:BiomicroscopialstudyofMeibomianglands(inFrench).AnnOcul(Paris)210:637-648,19772)RobinJB,JesterJV,NobeJetal:Invivotransilluminationbiomicroscopyandphotographyofmeibomianglanddysfunction.Ophthalmology92:1423-1426,19853)MathersWD,ShieldsWJ,SachdevMSetal:Meibomianglanddysfunctioninchronicblepharitis.Cornea10:277-285,19914)MathersWD,DaleyT,VerdickR:Videoimagingofthemeibomiangland.ArchOphthalmol112:448-449,19945)YokoiN,KomuroA,YamadaHetal:Anewlydevelopedvideo-meibographysystemfeaturinganewlydesignedprobe.JpnJOphthalmol51:53-56,20076)AritaR,ItohK,InoueKetal:Noncontactinfraredmeibographytodocumentage-relatedchangesofthemeibomianglandsinanormalpopulation.Ophthalmology115:911-915,20087)AritaR,ItohK,InoueKetal:Contactlensisassociatedwithdecreaseofmeibomianglands.Ophthalmology116:379-384,20098)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Meibomianglandductdistortioninpatientswithperennialallergicconjunctivitis.Cornea29:858-860,20109)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Proposeddiagnosticcriteriaforobstructivemeibomianglanddysfunction.Ophthalmology116:2058-2063,200910)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Proposeddiagnosticcriteriaforseborrheicmeibomianglanddysfunction.Cornea29:980-984,201011)AritaR,ItohK,MaedaSetal:Comparisonofthelongtermeffectsofvarioustopicalanti-glaucomamedicationsonmeibomianglands.Cornea,inpress(33)図10幼児のマイボーム腺観察モバイル型マイボグラフィーを用いれば,顎台に顔をのせられない幼児のマイボーム腺や往診,手術室などでマイボーム腺の観察が可能になる.赤外光はまぶしくないので,幼児も嫌がらず,非侵襲的なので,泣いたりしない.