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フェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植における角膜生体力学特性

2011年7月31日 日曜日

1034(13あ0)たらしい眼科Vol.28,No.7,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(7):1034?1038,2011c〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeClinic,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyo-ku,Kyoto606-8287,JAPANフェムトセカンドレーザーを用いた全層角膜移植における角膜生体力学特性脇舛耕一*1稗田牧*2加藤浩晃*1中川紘子*2北澤耕司*2山村陽*1山崎俊秀*1木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学CornealBiomechanicalCharacteristicsinPenetratingKeratoplastyUsingFemtosecondLaserKoichiWakimasu1),OsamuHieda2),HiroakiKato1),HirokoNakagawa2),KojiKitazawa2),KiyoshiYamamura1),ToshihideYamasaki1)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:眼科用femtosecondlaser(FSL)を用いたジグザグ形状の全層角膜移植眼(z-PKP)と,従来のtrephineblade(TB)による全層角膜移植眼(t-PKP)の角膜生体力学特性を定量的に比較検討した.方法:年齢,角膜厚,眼圧をマッチさせたFSLによるz-PKP11眼,TBによるt-PKP23眼,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)6眼,そして正常眼27眼を対象として,OcularResponseAnalyzerTMにより各群でのcornealhysteresis(CH),cornealresistancefactor(CRF)を測定した.結果:FSLによる移植眼(z-PKP)のCHとCRF(9.87±1.71,9.86±2.30mmHg)は,正常眼(10.7±1.43,9.90±1.58mmHg),DSAEK眼(9.95±1.45,9.93±3.62mmHg)と同等の値を示したが,TBによる移植眼(t-PKP)(8.29±1.53,7.73±2.29mmHg)では有意に低下していた(p<0.05).考按:FSLによる角膜移植眼は,正常眼やDSAEK眼と同等の角膜弾性強度を維持できる可能性が示唆された.Purpose:Tocomparethebiomechanicalcharacteristicsincorneasfollowingpenetratingkeratoplasty(PKP)usingfemtosecondlaser,atrephineblade,andDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK),andthoseofnormaleyes.Methods:In11eyesthatunderwentzig-zagPKPbyfemtosecondlaser(z-PKPgroup),23eyesthatunderwentPKPbytrephineblade(t-PKPgroup),6eyesthatunderwentDSAEK(DSAEKgroup),and27normaleyes(normalgroup),cornealhysteresis(CH)andcornealresistancefactor(CRF)weremeasuredbyuseoftheOcularResponseAnalyzerTM(Reichert,Inc.,Depew,NY).Results:MeanCHandCRFwere9.87±1.71and9.86±2.30mmHg,respectively,inthez-PKPgroup,8.29±1.53and7.73±2.29mmHg,respectively,inthet-PKPgroup,9.95±1.45and9.93±3.62mmHg,respectively,intheDSAEKgroup,and10.7±1.43and9.90±1.58mmHg,respectively,inthenormalgroup.BothCHandCRFinthez-PKPgroupwassignificantlyhigherthanthatinthet-PKPgroup.Therewasnostatisticallysignificantdifferencebetweenthez-PKPgroup,DSAEKgroup,andthenormalgroupinrelationtobothCHandCRF.Conclusions:ThebiomechanicalcharacteristicsincorneasfollowingPKPbyfemtosecondlaseraremoresimilartothoseincorneasfollowingDSAEKandnormaleyesthanineyesfollowingPKPbytrephineblade.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1034?1038,2011〕Keywords:フェムトセカンドレーザー,全層角膜移植術,角膜生体力学特性,OcularResponseAnalyzerTM.femtosecondlaser,penetratingkeratoplasty,cornealbiomechanics,OcularResponseAnalyzerTM.(131)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111035はじめに角膜混濁や水疱性角膜症などの不可逆的に角膜の透見性が失われた疾患に対する外科的治療として,全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)が従来より施行されてきた.PKPでは角膜の透見性が得られる一方,さまざまな術後合併症も報告されている.代表的な術後合併症として移植後拒絶反応1,2),続発緑内障3),角膜感染症4)などのほか,鈍的外傷による創離開が報告されている5,6).通常,角膜実質内には血管が存在しないため角膜移植後の創傷部は脆弱であり,軽度の鈍的外傷によっても創離開が起こりうる.ひとたび創離開が起これば閉鎖空間である眼内の恒常性は失われ,眼内圧により離開部から虹彩・水晶体または眼内レンズ・硝子体が脱出し,網膜?離や脈絡膜出血をきたす恐れもある.また,離開部からの細菌・真菌などの侵入による眼内炎の危険性もあり,いずれも失明につながる重篤な合併症となる.さらに創縫合により閉鎖性が得られたとしても周辺虹彩前癒着から閉塞隅角緑内障を発症する場合や,外傷やその後の手術操作による角膜内皮細胞損傷から移植片の内皮機能不全を起こし再移植を要する場合もある.このように,PKP後の鈍的外傷による創離開は不可逆的な視機能喪失へとつながる危険性が高く,この頻度は角膜移植眼の約1%に生じると報告されており7),術後創強度を担保することが,この術式における課題の一つとなっている.近年,フェムトセカンドレーザー(femtosecondlaser:FSL)が臨床応用されており,眼科領域ではlaserinsitukeratomileusis(LASIK)におけるフラップ作製8)や,円錐角膜に対する角膜内リング挿入術の角膜内トンネル作製時での使用9)が代表的であるが,角膜移植時の角膜切開にも応用されるようになってきた10).FSLによる角膜切開は水平・垂直・傾斜方向の切開を組み合わせることでジグザグ形状の切開面を得られることができ,従来のトレパンブレード(trephineblade:TB)による角膜切開と比べ術後創強度の安定性が期待されている(図1).しかし,生体の角膜強度を定量的に評価することは必ずしも容易ではなく,筆者らの知る限り,このような報告はなされていない.一方で,角膜生体力学特性という概念が臨床的に用いられるようになってきた.物体には「硬さ」や「しなやかさ」といった粘弾性体としての性質があり,加圧に伴い変形し,減圧により加圧前の形状へ戻ろうとする性質がある.理論上,完全な弾性体であれば加圧時と減圧時に同じ変形過程をたどるが,実際には完全な弾性体は存在しない.一般に粘弾性体では,減圧終了後に元の状態へ戻るとしても途中の変形過程において加圧時と減圧時の軌跡が一致せず,この現象は履歴現象(ヒステレーシス)とよばれている.角膜はこの粘弾性体としての性質(角膜生体力学特性)を有しており,この特性を定量化できる方法が開発されてきた.そこで,今回,筆者らは,この角膜生体力学特性の側面から,FSLによるジグザク形状の切開を行ったPKP(以下,z-PKP)と,従来のTBによるPKP(以下,t-PKP)の術後角膜強度について比較検討を行った.I対象および方法対象は2008年1月?2010年7月までにバプテスト眼科クリニックで施行し術後10カ月以上経過観察が可能であったFSLによるz-PKP群11例11眼,年齢,角膜厚(Oculus社製PentacamTMで測定),眼圧(NIDEK社製RKT-7700TMで測定)をマッチさせたt-PKP群21例23眼,Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)群6例6眼および正常群27例27眼である(表1).術後経過観察期間はz-PKP群で17.6±6.4(10~26)カ月,t-PKP群で77.3±35.0(11?133)カ月,DSAEK群で21.4±6.6(17~33)カ月である.原疾患の内訳は,z-PKP群では角膜混濁4眼,格子状角膜ジストロフィ3眼,円錐角膜,Schnyder角膜ジストロフィ,外傷後角膜混濁,角膜実質炎が各1眼であり,t-PKP群では角膜混濁8眼,水疱性角膜症6眼,格子表1対象の内訳対象眼男性女性年齢(歳)角膜厚(μm)眼圧(mmHg)z-PKp117468±12568±4515±5t-PKP23131073±11586±6312±4DSAEK62467±17635±5015±6正常2762174±7564±2014±3年齢,角膜厚,眼圧において,各群間での有意差を認めなかった.図1前眼部OCT(VisanteTM)によるそれぞれのPKP後画像上:FSLによるジグザグPKP術後9カ月,下:TBによるPKP術後3年の状態.FSLによるジグザグPKPではホスト,ドナーの接合部に連続性があるが,TBによるPKPでは接合面に段差が生じている.1036あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(132)状角膜ジストロフィ4眼,円錐角膜と角膜実質炎が各2眼,Fuchs角膜ジストロフィが1眼であった.DSAEK群では全例が水疱性角膜症であり,正常群は白内障以外の眼科的疾患を認めない症例とした.z-PKP群では,FSLとしてFS-60TM(AMO社製)を使用した症例が7眼,iFSTM(AMO社製)を使用した症例が4眼で,いずれも30°のanteriorおよびposteriorsidecutと,深さ300μm,幅1.0mmのring状lamellarcutを組み合わせてジグザグ形状に角膜切開を行った(図2).ドナー角膜は人工前房装置TM(モリア社製)用いて前房内からレーザー照射を始め,ホストは球後麻酔下に平均角膜厚の角膜切開を行い,その後全身麻酔下に残りの角膜深層部分を切開し,ドナー角膜を移植して端々および連続縫合を行った.一方,t-PKP群では7.5mm径のバロン氏放射状真空トレパンTM(カティーナ社)でホスト角膜を,7.75mm径のバロン氏真空ドナー角膜パンチTM(カティーナ社)でドナー角膜を切開し,端々および連続縫合を行った.全症例でヒステレーシス測定前に連続抜糸を施行した.また,DSAEK群では径8mmのグラフトを,BusinglideTMを用いた幅6mmの耳側角膜切開創からのpull-through法で挿入し,前房内を空気で置換して接着させた.角膜生体力学特性の定量には,OcularResponseAnalyzerTM(以下,ORA)(Reichert社)11)を用いてcornealhysteresis(CH)およびcornealresistancefactor(CRF)を3回測定し,測定時の信頼度を反映するとされるwaveformscore(WS)が最も高い結果の数値を採用し,各群間で比較検討した.なお,測定は術後経過観察期間の最終日に行った.統計学的検討にはTukey-Kramer法による多重比較検定を行い,有意確率5%未満を有意とした.II結果CHはz-PKP群では9.87±1.71mmHgであったのに対して,t-PKP群では8.29±1.53mmHg,DSAEK群では9.95±1.45mmHg,正常群では10.7±1.43mmHgであり,z-PKP群のCHはt-PKP群より有意に高い数値であった(p<0.05).また,DSAEK群や正常群と比べ統計学的な有意差を認めなかった.一方,t-PKP群のCHは正常群と比べ有意に低い数値であった(p<0.0001)(図3).CRFでは,z-PKP群9.86±2.30mmHg,t-PKP群7.73±2.29mmHg,DSAEK群9.93±3.62mmHg,正常群9.90±1.58mmHgであり,CHと同様にz-PKP群のCRFはt-PKP群より有意に高く(p<0.05),また,DSAEK群や正常群と比べ統計学的な有意差を認めなかった.一方,t-PKP群のCRFもCHと同様に,正常群と比べ有意に低値であった(p<0.01)(図4).III考察今回の検討では,FSLを用いたジグザグ形状のz-PKP眼では,従来のTBでの垂直切開によるt-PKP眼に比べ角膜生体力学特性の数値が有意に高く,またDSAEK眼や正常眼と有意差を認めないという結果であった.一方で,TBに024681012141618z-PKPt-PKPDSAEK正常CRF(mmHg)図4各群におけるCRFの比較CRFも,z-PKP群ではt-PKP群と比べ有意に高値であり,DSAEK群や正常群と有意差を認めなかった.またt-PKP群では,正常群より有意に低下していた.0246810121416z-PKPt-PKPDSAEK正常CH(mmHg)図3各群におけるCHの比較z-PKP群でのCHは,t-PKP群より有意に高値であった.また,DSAEK群や正常群と有意差を認めなかった.t-PKP群でのCHは,正常群より有意に低下していた.AnteriorsidecutRinglamellarcutPosteriorsidecut7.2mm8.3mm30°30°図2ジグザグ形状のデザインアプラネーションコーンで角膜を圧迫,平坦化させた状態でレーザー照射する.Ringlamellarcutは深さ300μmの位置で幅1.00mmで行う.ドナー角膜は人工前房装置TM(モリア社製)用いて前房内からレーザー照射を始め,ホストは球後麻酔下に平均角膜厚の角膜切開を行い,その後全身麻酔下に残りの角膜深層部分を切開する.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111037よるPKPでは正常眼に比べ角膜生体力学特性の数値が有意に低い結果であった.切開創の形状と創強度については,白内障手術時の自己閉鎖創においてすでに検討されてきた.眼球壁に対して垂直に作られた創口は,眼内圧の上昇によって容易に離開するが,接線方向の弁構造をもつ創口であれば内圧上昇によって接線方向の力が加わっても,弁構造が重なっているかぎりは自己閉鎖が保たれる12~15).実際の白内障手術時では完全な自己閉鎖を得るためのトンネルの長さは切開創の幅の60%以上が必要とされており12),7?8mm径で角膜を360°切開する全層角膜移植で完全な自己閉鎖創を構築することは容易ではない.しかし単純な垂直方向のみの切開よりは,接線方向の切開を組み合わせたジグザグ形状切開のほうがより強い創強度を得られることは,論理的にも容易に推察される.ORAによる角膜生体力学特性の評価についてはこれまでさまざまな報告がある.正常眼においては,角膜生体力学特性の数値と角膜厚に正の相関を認める16~18)が,年齢については,負の相関を認めるという報告がある一方17,19),年齢との相関を認めないとする報告もある18).自験データでは,角膜厚と正の相関があり,年齢とは相関を認めなかった(未報告データ).また,円錐角膜20,21)やLASIK術後22,23),phototherapeutickeratectomy(PTK)術後24)ではCHやCRFが正常眼より有意に低下するとの報告がある.従来のTBによるPKP眼については,術後CH,CRFとも低下する25)が,円錐角膜では術前に比べ術後のCHやCRFのほうがより正常眼に近い値を示したとの報告もある26).また,片眼性角膜疾患に対するPKP後では僚眼に比べCH,CRFが異なる値を示すとの報告もある27).これまでの報告をみても,CHやCRFが低値であることが角膜弾性強度低下を直接的に示しているとは言い難いが,今回の検討で,FSLを用いたPKP眼のほうがTBによるPKP眼より有意に高く,正常眼やDSAEK眼に近似した値を示したため,角膜生体力学特性の点ではFSLによるPKP後が本来の生理的な角膜弾性強度の状態に近いことを示唆している.一方,正常眼と比べCHやCRFが有意に低い結果となったTBによるPKPでは,角膜生体力学特性の面から正常眼より脆弱な状態であることが推察される.今回の検討における課題として,FSLとTBでの術後経過観察期間に差を認めていることがあげられる.ただし,z-PKP眼のほうが術後観察期間が短いため,このバイアスは差し引いて考えても差し支えないと思われる.FSLを用いて切開をジグザグ形状にすることで,従来の垂直切開によるPKPよりも正常眼に近い角膜生体力学特性の結果を得られたことから,z-PKPは,術後創強度を向上させ,重篤な合併症の危険性を軽減できる可能性が示唆された.文献1)山田直之,田中敦子,原田大輔ほか:全層角膜移植後の拒絶反応についての検討.臨眼62:1087-1092,20082)PandaA,VanthiM,KumarAetal:Cornealgraftrejection.SurvOphthalmol52:375-396,20073)荒木やよい,森和彦,成瀬繁太ほか:角膜移植後緑内障に対する緑内障手術成績の検討.眼科手術19:229-232,20064)脇舛耕一,外園千恵,清水有紀子ほか:角膜移植後の角膜感染症に関する検討.日眼会誌108:354-358,20045)坂東純子,横井則彦,外園千恵ほか:全層角膜移植後眼の外傷による創離開例.臨眼58:617-622,20046)岸本修一,天野史郎,山上聡ほか:全層角膜移植術後に外傷性創離開を起こす患者背景因子.臨眼58:1495-1497,20047)AgrawalV,WaghM,KrishnamacharyMetal:Traumaticwounddehiscenceafterpenetrationkeratoplasty.Cornea14:601-603,19958)PatelSV,MaguireLJ,McLarenJWetal:FemtosecondlaserversusmechanicalmicrokeratomeforLASIK:arandomizedcontrolstudy.Ophthalmology114:1482-1490,20079)PineroDP,AlioJL,ElKadyBetal:Refractiveandaberrometricoutcomesofintracornealringsegmentsforkeratoconus:mechanicalversusfemtosecond-assistedprocedures.Ophthalmology116:1675-1687,200910)稗田牧:フェムト秒レーザーを用いた角膜移植.眼科手術24:45-48,201111)神谷和孝:新しい予防法OcularResponseAnalyzer.IOL&RS22:164-168,200812)大鹿哲郎:小切開白内障手術.第Ⅲ章手術手技1.切開創作製の戦略,p50-55,医学書院,199413)EisnerG:EyeSurgery.Chap5Operationsonthecorneaandsclera.Springer-Verlag,Berlin,199014)永原國宏:自己閉鎖切開創構築.あたらしい眼科11:329-334,199415)大鹿哲郎,江口甲一郎:自己閉鎖創白内障手術.あたらしい眼科10:1137-1138,199316)KamiyaK,HagishimaM,FujimuraFetal:Factorsaffectingcornealhysteresisinnormaleyes.GraefesArchClinExpOphthalmol246:1491-1494,200817)FontesBM,AmbrosioR,AlonsoRSetal:Cornealbiomechanicalmetricsineyeswithrefractionof?19.00to+9.00DinhealthyBrazililianpatients.JRefractSurg24:941-945,200818)ShenM,FanF,XueAetal:Biomechanicalpropertiesofthecorneainhighmyopia.VisionRes48:2167-2171,200819)KamiyaK:Effectofagingoncornealbiomechanicalparametersusingtheocularresponseanalyzer.JRefractSurg25:888-893,200920)FontesBM,AmbrosioR,JardimDetal:Cornealbiomechanicalmetricsandanteriorsegmentparametersinmildkeratoconus.Ophthalmology117:673-679,201021)大本文子,神谷和孝,清水公也:OcularResponseAnalyserによる円錐角膜眼の角膜生体力学特性の測定.IOL&RS1038あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(134)22:212-216,200822)KamiyaK,ShimizuK,OhmotoF:Timecourseofcornealbiomechanicalparametersafterlaserinsitukeratomileusis.OphthalmicRes42:167-171,200923)ChenMC,LeeN,BourlaNetal:Cornealbiomechanicalmeasurementsbeforeandafterlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg34:1886-1891,200824)KamiyaK,ShimizuK,Ohm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正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(125)1029《原著》あたらしい眼科28(7):1029?1033,2011cはじめに眼表面の涙液層は,表層から油層,水層およびムチン層の3層で構成され,そのうち水層は種々の蛋白質,電解質および水分から成り,眼表面の環境維持において生理学的役割は大きい1).ドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層構造が崩れ,各涙液層の役割が正常に機能せず,異常をきたしている.したがって,その治療には,眼表面における涙液層を質的および量的に正常化させることが望まれる.現在,国内でドライアイの治療に使用されている薬剤は,人工涙液および角結膜上皮障害治療剤であるヒアルロン酸ナトリウム点眼液のみである.人工涙液は,一時的な水分および電解質の補充効果しか期待できず,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は,角膜上皮伸展促進作用および保水性による涙液層の安定化作用を示すものの,極度に涙液量が減少しているドライアイ患者では,保水効果による治療効果は低いと考え〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN正常ウサギにおけるジクアホソルナトリウムの涙液分泌促進作用七條優子村上忠弘中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryEffectofDiquafosolTetrasodiumonTearFluidSecretioninNormalRabbitsYukoTakaoka-Shichijo,TadahiroMurakamiandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.P2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの正常ウサギにおける涙液分泌促進機序について検討した.ジクアホソルナトリウムは,点眼15分後を最大とする用量依存的な涙液分泌促進作用を示した.また,ジクアホソルナトリウムは,涙液中蛋白質濃度には影響を及ぼさなかったが,涙液中の蛋白質量を用量依存的に増加させた.一方,ウサギ摘出涙腺組織に1,000μMまでのジクアホソルナトリウムを作用させたが,蛋白質分泌には影響を与えなかった.さらに,ウサギ結膜組織を用いた実験では,ジクアホソルナトリウムは,結膜組織からの水分分泌速度と正の相関性を示す組織膜に発生する電流値,膜電流を濃度依存的に上昇させ,本上昇作用は,カルシウムキレート剤の前処理により抑制された.以上より,ジクアホソルナトリウムは,おもに結膜細胞に作用し,細胞内カルシウムイオンを介して涙液の分泌促進作用を誘導すると考えられた.ThisstudyinvestigatedthemechanismofthestimulatoryeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumontearfluidsecretioninnormalrabbits.Diquafosoltetrasodiumsolutionsinducedmaximaltearfluidsecretionat15minafterinstillation,increasinginadose-dependentmanner.Moreover,diquafosoltetrasodiumsolutionshadnoeffectonproteinconcentrationinthetearfluid,butexhibiteddose-dependentincreaseinproteincontentinit.Diquafosoltetrasodiumdidnotaffectproteinsecretionfromisolatedrabbitlacrimalglands,evenataconcentrationof1,000μM.Inrabbitconjunctivaltissues,diquafosoltetrasodiumenhancedtheshort-circuitcurrentinaconcentration-dependentmanner,positivelycorrelatedwithwatersecretionfromconjunctivaltissue.Thisenhancementwasinhibitedbypretreatmentwithcalcium-chelatingagent.Theseresultssuggestthatdiquafosoltetrasodiummayactmainlyonconjunctivaandstimulatetearfluidsecretionviatheintracellularcalciumpathway.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1029?1033,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,涙液分泌,細胞内カルシウム,ウサギ結膜.diquafosoltetrasoidium,P2Y2receptoragonist,tearfluidsecretion,intracellularcalcium,rabbitconjunctiva.1030あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(126)られる2).このように,ドライアイ治療は,十分に満足されている状況ではなく,ドライアイ患者の涙液層の質と量を改善できる新たな作用機序を有する治療薬の開発が臨床現場では強く求められている.プリン受容体の一つであるP2Y2受容体に対してアゴニスト作用を有するアデノシン3リン酸(ATP)あるいはウリジン3リン酸(UTP)は,涙液の分泌促進,ムチン(高分子糖蛋白質)の分泌促進,あるいはリゾチームの分泌促進作用などを示すことが報告され3),P2Y2受容体作動薬は,涙液層の質的および量的の両面を改善できると期待される.ジクアホソルナトリウムは,UTPと同程度のP2Y2受容体作動活性を有し4),かつATPあるいはUTPに比して水溶液中で安定性に優れている化合物である.Yerxaら5)は,ジクアホソルナトリウムが,正常ウサギにおいて涙液の分泌を誘導することを報告している.今回,筆者らは,ジクアホソルナトリウムの正常ウサギ涙液分泌促進機序について検討した.I実験方法1.ジクアホソルナトリウム点眼液ジクアホソルナトリウム(以下,ジクアホソル)は,ヤマサ醤油にて製造された.ジクアホソル点眼液は,塩化ナトリウム溶液あるいはリン酸緩衝液に溶解し,pH調節剤を用いて7.2?7.4に,等張化剤を用いて浸透圧比を1.0?1.1に調整した.2.涙液量の測定雄性日本白色ウサギ(北山ラベス,長野)の下眼瞼に,シルメル試験紙(昭和薬品化工,東京)の折り目5mm部分を挿入し,濾紙が濡れた長さを指標にして涙液量を測定した.用量依存性の検討では,0.1?8.5%のジクアホソル点眼液をウサギに点眼(50μL)し,涙液量を測定する3分前にベノキシールR点眼液0.4%(参天製薬,大阪)を10μL点眼し,眼表面を局所麻酔した.局所麻酔3分後にウサギを保定し,シルメル試験紙を挿入し,1分間に濡れたシルメル試験紙の長さ(Schirmer試験値)を測定した.また,8.5%ジクアホソル点眼液点眼5,15,30および60分後のSchirmer試験値を測定し,涙液量の経時的変化を検討した.なお,涙液量の測定には,両眼を用いた.雄性日本白色ウサギは1週間馴化飼育した後,試験に使用した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」などの参天製薬株式会社社内規程を遵守し実施した.3.涙液中の蛋白質濃度および蛋白質量の測定0.3?3%ジクアホソル点眼液点眼15分後の涙液量を「2.涙液量の測定」と同様の方法にて実施し,Schirmer試験値を得た後のシルメル試験紙を生理食塩液に浸し,試験紙に吸収されている蛋白質を回収した.蛋白質濃度は,Bio-Rad(CA,USA)社のBradford法に従い測定した.試験紙に吸収された蛋白質量は,蛋白質濃度にSchirmer試験値から換算された涙液量を乗じて,試験紙に吸収された蛋白質量を算出した.4.涙腺組織からの蛋白質分泌量の測定Nakamuraらの方法6)に従って,涙腺組織からの蛋白質分泌について検討した.すなわち,雄性日本白色ウサギにネンブタール注射液(大日本住友製薬,大阪)を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.涙腺組織を摘出し,周辺結合組織を切除し,涙腺組織切片を作製した(16片/1眼).涙線組織切片は,60分間培養液(143.1mMNaCl,4.5mMKCl,2.5mMCaCl2・2H2O,1.2mMMgCl2・6H2O,20mMHEPES,11.0mMd-glucose,pH7.4)で培養し,組織を安定化させた後に涙腺組織からの蛋白質分泌に用いた.サンプリングは,ジクアホソルあるいはカルバコール溶液添加後60分まで20分間隔で行った.各サンプル中の蛋白質濃度値を,各組織の湿重量で除することにより,組織重量当たりの蛋白質濃度を求めた後,同組織の無添加時(20分間)に分泌された蛋白質濃度値に対する百分率で表した値を蛋白質分泌率とした.また,ジクアホソル(1?1,000μM)およびカルバコール(100μM:Sigma,MO,USA)は,培養液に溶解して使用した.5.結膜組織の膜電流値の測定雄性日本白色ウサギにネンブタール注射液を1mL/kgになるよう静脈注射して全身麻酔し,腹部大動脈からの脱血により安楽殺した.Kompellaらの方法7)に従って結膜組織を摘出し,normalbicarbonatedRinger’ssolution(BR:111.5mMNaCl,4.8mMKCl,0.75mMNaH2PO4,29.2mMNaHCO3,1.04mMCaCl2・2H2O,0.74mMMgCl2・6H2O,5.0mMd-glucose)を満たしたUssingチャンバー内に結膜組織(1組織/1眼)を固定し,膜電流を安定させた.チャンバーに固定した組織における膜電流の変動は,短絡電流測定装置(CEZ-9100;日本光電,東京)を用いて実施した.ジクアホソルおよびカルシウムキレート剤である1,2-bis-(o-aminophenoxy)ethane-N,N,N¢,N¢-tetraaceticacidtetra-(acetoxymethyl)ester(BAPTA-AM:Merck,Darmstadt,Germany)は,BRに溶解して使用した.ジクアホソルを,涙液(上皮)側に添加する前後の膜電流を測定し,膜電流の変化値を算出した.なお,BAPTA-AM(最終濃度3,10あるいは30μM)は,ジクアホソル(10μM)の添加前に60分間反応させた.6.統計解析EXSAS(アーム,大阪)を用いて,5%を有意水準として解析した.2群比較の場合は,基剤群に対するStudentのt検定,3群以上の比較には,基剤群に対するDunnettの多重比較検定を実施した.(127)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111031II結果1.正常ウサギにおける涙液分泌促進作用ジクアホソルの正常ウサギにおける涙液分泌促進作用について検討した.経時的検討では,8.5%ジクアホソル点眼液の点眼5分後からSchirmer試験値は増加し,点眼5,15および30分後において,基剤群に比し有意に増加した(5分:p<0.01,15分:p<0.01,30分:p<0.05).Schirmer試験値は点眼15分後に最大値を示し,その後Schirmer試験値は減少した(図1a).点眼15分後における用量依存性の検討では,ジクアホソル点眼液は,用量依存的にSchirmer試験値を増加させ,基剤点眼に比し0.3%点眼で約2倍,1?8.5%では約3倍と用量依存的に増加し,1%の用量で効果はプラトーに達した.その効果は基剤群に比し0.3%以上の用量で有意であった(0.3%:p<0.05,1.0%,3.0%および8.5%:p<0.01)(図1b).また,ジクアホソル点眼液点眼後の涙液中蛋白質濃度は,いずれの用量においても約30mg/mLであり,基剤群と有意な差は認められなかった(図2a).さらに,涙液中蛋白質量は,ジクアホソル点眼液の用量に依存して増加し,その効果は1%および3%において有意であった(1%および3%:p<0.01)(図2b).2.涙腺組織からの蛋白質分泌作用に及ぼす影響ジクアホソルの涙腺への反応性の有無を確認する目的で,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌に及ぼす影響について検討した.図3に示すように,陽性対照薬である100μMカルバコール溶液は,0?20分間の反応において,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率を有意に増加させた(p<0.05).一方,1?1,000μMのジクアホソル溶液を反応させた場合は,60分間のいずれの測定時間においても,ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率に何ら影響を及ぼさなかった.3.結膜組織における膜電流の上昇作用およびカルシウムキレート剤の影響結膜組織からの水分輸送(分泌)速度は,結膜組織における膜電流の変化値と相関することが報告されている8)ことより,ジクアホソルによるウサギ結膜組織の膜電流の変化値を測定した.表1に示すように,膜電流の変化値は,10μMジクアホソル溶液の添加により上昇し,100μMジクアホソル溶液でさらに上昇した.また,10μMジクアホソル溶液による膜電流の促進作用は,カルシウムキレート剤であるBAPTA-AM3,10あるいは30μMの前処理により,濃度依存的に抑制された.その抑制作用は,10μM以上のBAPTA-AMにより有意であった(10μM:p<0.05,30点眼後の時間(分)Schirmer試験値(mm)無処置5無処置***♯♯♯**153060ジクアホソル(%)20151050基剤0.10.3138.5■:基剤■:8.5%ジクアホソルaSchirmer試験値(mm)20151050b図1正常ウサギにおけるジクアホソル点眼液の涙液分泌促進作用a:経時的変化,b:用量依存性.各値は6眼の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,**:p<0.01(Studentのt検定).#:p<0.05,##:p<0.01(Dunnettの多重比較検定).****ジクアホソル(%)ジクアホソル(%)50403020100基剤0.313基剤0.313a蛋白質量(μg)蛋白質濃度(mg/mL)4003002001000b図2正常ウサギにおけるジクアホソル点眼液による涙液中蛋白質分泌促進作用a:蛋白質濃度,b:蛋白質量.基剤および1%点眼群は9眼,0.3および3%点眼群は10眼の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,基剤群との比較(Dunnettの多重比較検定).1032あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(128)μM:p<0.01)(図4).III考按ジクアホソルは,Yerxaら5)によりドライアイ治療において重要な作用の一つである涙液の分泌を誘導させることが報告されている.今回の試験でも,Yerxaら5)の報告と同様に正常ウサギにジクアホソル点眼液を点眼することで,涙液量を示すSchirmer試験値は用量依存的に上昇した.しかし,その作用機序については十分に解明されていない.そこで,ジクアホソルの涙液分泌促進機序を明らかにする目的で,ジクアホソルの作用部位について検討した.ジクアホソルの点眼により,涙液量は増加するにもかかわらず,涙液中蛋白質濃度には影響なく,蛋白質量は増加することから,ジクアホソルは水分だけでなく蛋白質の分泌も促進していると考えられた.水分および蛋白質の分泌が可能な組織としては,涙腺組織が考えられる.そこで,ジクアホソルの作用部位として,涙腺の可能性を検討する目的で,正常ウサギ涙腺組織におけるジクアホソルの蛋白質分泌について検討した.しかし,ジクアホソルを涙腺組織に1,000μMまで作用させても,対照薬として用いたカルバコールのような蛋白質分泌促進作用を示さなかった.また,ジクアホソルは,これまでに報告されている涙腺摘出ラットドライアイモデル,すなわち涙腺が存在しない動物モデルにおいても涙液分泌促進作用を示すことより9),ジクアホソルは,涙腺以外の部位に作用している可能性が高いと考えられた.P2Y2受容体は,アカゲザルの眼瞼および眼球結膜組織において,杯細胞を含む結膜上皮細胞,マイボーム腺脂肪細胞およびマイボーム腺導管上皮細胞での発現が認められている10).また,Candiaら11)は,角結膜上皮層から眼表面への水分輸送機能について報告していることから,つぎに作用部位として,結膜組織の可能性について検討した.Liら8)の報告同様,今回の検討でもジクアホソルによりウサギ結膜組織の膜電流の上昇作用が認められ,水分の分泌促進作用が示唆された.また,ジクアホソルは,ウサギ結膜上皮からの糖蛋白質(過ヨウ素酸Schiff染色陽性蛋白質)の分泌を促進することも報告されている12).したがって,ジクアホソルは,水分および涙液成分の分泌促進作用を示すためのおもな作用部位は,結膜組織,すなわち結膜上皮細胞であると考えられた.P2Y2受容体作動薬は,ヒト線維芽細胞において,G蛋白を介してホスホリパーゼCを活性化し,イノシトール3リン酸を生成した結果,細胞内小胞体からのカルシウムイオンの放出を誘導し,細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させる13).また,ヒト角膜上皮細胞において,細胞内カルシウムイオンが上皮側に存在するカルシウム依存性Clイオンチャンネルを開口し,細胞内のClイオンを涙液側に輸送した結果生じる浸透圧差により,上皮側への水分分泌を促進する14).さらに,筆者らは初代培養ウサギ結膜上皮細胞においてジクアホソルが濃度依存的に細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させることを確認している15).したがって,本試験では,結膜組織におけるジクアホソルの水分分泌促進作用に及ぼすカルシウムイオンの関与を明らかにする目的で,ウサギ結膜組織を用いてジクアホソルにより上昇した膜電流値,すなわち水分分泌促進作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響につい培養時間(分)30020010000~2020~4040~60蛋白質分泌率(%)■:基剤■:1μMジクアホソル■:10μMジクアホソル■:100μMジクアホソル■:1,000μMジクアホソル■:100μMカルバコール*図3正常ウサギ涙腺組織からの蛋白質分泌率に及ぼすジクアホソルの影響各値は5例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,基剤群との比較(Studentのt検定).BAPTA-AM(μM)膜電流の変化(μA/cm2)201510500310*30**図4正常ウサギ結膜組織におけるジクアホソルによる膜電流上昇作用に及ぼすカルシウムキレート剤の影響各値は5例の平均値±標準誤差を示す.BAPTA-AMは,10μMジクアホソル添加前に60分間反応させた.*:p<0.05,**:p<0.01,基剤(0μMBAPTA-AM)群との比較(Dunnettの多重比較検定).表1正常ウサギ結膜組織におけるジクアホソルの膜電流上昇作用群用量(μM)例数膜電流の変化(μA/cm2)ジクアホソル10811.91±0.64ジクアホソル100518.60±1.62各値は平均±標準誤差を示す.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111033て検討した.その結果,ジクアホソルによる膜電流値の上昇作用は,BAPTA-AMの前処理により濃度依存的に抑制された.したがって,ジクアホソルの水分分泌促進機序にも,結膜細胞の細胞内カルシウムイオンが関与していることが示唆された.以上より,ジクアホソルは,涙腺に対する作用は完全に否定できないものの,おもに結膜上皮細胞膜上のP2Y2受容体に結合し,細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させた結果,細胞膜上のClイオンチャンネルが開口し,Clイオンの輸送に伴い水分の分泌を誘導すると考えられた.本作用機序は,ドライアイの治療に用いられている人工涙液あるいはヒアルロン酸ナトリウム点眼液には認められないものであり,ジクアホソルを主成分とする点眼液は,新規作用機序を有するドライアイ治療薬として,その効果が期待される.文献1)DillyPN:Structureandfunctionofthetearfilm.AdvExpMedBiol350:239-247,19942)高村悦子:ドライアイのオーバービュー.FrontiersinDryEye1:65-68,20063)CrookeA,Guzman-AranguezA,PeralAetal:Nucleotidesinocularsecretions:theirroleinocularphysiology.PharmacolTher119:55-73,20084)PendergastW,YerxaBR,DouglassJG3rdetal:SynthesisandP2Yreceptoractivityofaseriesofuridinedinucleoside5¢-polyphosphates.BioorgMedChemLett22:157-160,20015)YerxaBR,DouglassJG,ElenaPPetal:PotencyanddurationofactionofsyntheticP2Y2receptoragonistsonSchirmerscoresinrabbits.AdvExpMedBiol506:261-265,20026)NakamuraM,TadaY,AkaishiTetal:M3muscarinicreceptormediatesregulationofproteinsecretioninrabbitlacrimalgland.CurrEyeRes16:614-619,19977)KompellaU,KimK,LeeVL:Activechloridetransportinthepigmentedrabbitconjunctiva.CurrEyeRes12:1041-1048,19938)LiY,KuangK,YerxaBetal:Rabbitconjunctivalepitheliumtransportsfluid,andP2Y2receptoragonistsstimulateCl?andfluidsecretion.AmJPhysiolCellPhysiol281:C595-602,20019)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,200110)CowlenMS,ZhangVZ,WarnockLetal:LocalizationofocularP2Y2receptorgeneexpressionbyinsituhybridization.ExpEyeRes77:77-84,200311)CandiaOA,ShiXP,AlvarezLJ:Reductioninwaterpermeabilityoftherabbitconjunctivalepitheliumbyhypotonicity.ExpEyeRes66:615-624,199812)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,200213)FineJ,ColeP,DavidsonJS:Extracellularnucleotidesstimulatereceptor-mediatedcalciummobilizationandinositolphosphateproductioninhumanfibroblasts.BiochemJ263:371-376,198914)ItohR,KawamotoS,MiyamotoYetal:IsolationandcharacterizationofaCa2+-activatedchloridechannelfromhumancornealepithelium.CurrEyeRes21:918-925,200015)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,2011***

レボフロキサシンの薬剤感受性結果とガチフロキサシン・モキシフロキサシン・セフメノキシムの感受性相関

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(121)1025《原著》あたらしい眼科28(7):1025?1028,2011cはじめに眼感染症治療薬として,抗菌スペクトルの広さからキノロン系点眼薬がエンピリック・セラピーとして用いられることが多く1~4),なかでもレボフロキサシン(LVFX)は安全性と組織移行性より第一選択薬として汎用されている.しかし,起因菌が確認されず,薬剤感受性試験の結果も判明していない状態での「とりあえずキノロン」といった安易な抗菌薬濫用は,耐性菌の誘導を招き,治療失敗となる原因の一つである.LVFXなどのキノロン薬耐性化に伴い3,5),より抗菌力の強いキノロン薬としてガチフロキサシンン(GFLX)やモキシフロキサシン(MFLX)が開発され2,5),キノロン系点眼薬の選択肢は増加した.その結果,抗菌力の強さに期待し,LVFXに耐性であった場合の第二選択薬としてGFLXやMFLXが選択されることもあり,最新のサンフォード感染〔別刷請求先〕木村圭吾:〒565-0871吹田市山田丘2-15大阪大学医学部附属病院臨床検査部Reprintrequests:KeigoKimura,LaboratoryforClinicalInvestigation,OsakaUniversityHospital,2-15Yamadaoka,Suita-city,Osaka565-0871,JAPANレボフロキサシンの薬剤感受性結果とガチフロキサシン・モキシフロキサシン・セフメノキシムの感受性相関木村圭吾*1西功*1豊川真弘*1砂田淳子*1上田安希子*1坂田友美*1井上依子*1浅利誠志*1,2*1大阪大学医学部附属病院臨床検査部*2同感染制御部SusceptibilityTestingofLevofloxacinandItsCorrelationtoGatifloxacin,MoxifloxacinandCefmenoximeKeigoKimura1),IsaoNishi1),MasahiroToyokawa1),AtsukoSunada1),AkikoUeda1),TomomiSakata1),YorikoInoue1)andSeishiAsari1,2)1)DivisionofClinicalMicrobiology,2)InfectionControlTeam,OsakaUniversityMedicalHospital眼科材料由来(61株)および他の臨床材料由来(19株)の計80株に対してレボフロキサシン(LVFX),ガチフロキサシン(GFLX),モキシフロキサシン(MFLX),セフメノキシム(CMX)の薬剤感受性を測定し,特にキノロン系抗菌薬3剤の相関関係を検討した.キノロン3剤の感受性結果は73株(91.3%)が一致し,LVFXが中等度耐性もしくは耐性を示した株(34株)のうちGFLX・MFLXの少なくとも1剤がLVFXに比し良好な感受性を示した株は6株(17.6%)であった.一方CMXに対しては,methicillin-susceptibleStaphylococcusspp.,Streptococcusspp.,Corynebacteriumspp.の90%以上が感受性を示した.したがってLVFX耐性時のGFLX・MFLXの安易な使用は避けるべきであり,上記細菌群に対してはむしろCMXが推奨された.Wecarriedoutsusceptibilitytestingoflevofloxacin(LVFX),gatifloxacin(GFLX),moxifloxacin(MFLX)andcefmenoxime(CMX)against61strainsfromocularclinicalisolatesand19strainsfromotherclinicalspecimens.Thecorrelationsbetweenthethreequinoloneantibioticswerealsostudied.Ofthe80strainsintotal,73strains(91.3%)exhibitedcommonresultsregardingthethreequinolones.Sixoutof34strainsshowedthatGFLXand/orMFLXweremorepotentthanLVFX,whichwasinterpretedasintermediatesusceptibilityorresistancetoLVFX.Ontheotherhand,over90%ofthemethicillin-susceptibleStaphylococcusspp.,Streptococcusspp.andCorynebacteriumspp.strainsweresusceptibletoCMX.CMXwasthereforerecommended,ratherthanthethreequinolones,againstthesestrains.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1025?1028,2011〕Keywords:レボフロキサシン,ガチフロキサシン,モキシフロキサシン,セフメノキシム,キノロン系抗菌薬.levofloxacin,gatifloxacin,moxifloxacin,cefmenoxime,quinolone.1026あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(122)症治療ガイド6)では,急性の細菌性角膜炎に対しては両薬剤が第一・第二選択薬として推奨されているが,はたして,LVFX治療無効後のGFLX・MFLXの使用は真に適切であるといえるであろうか.今回筆者らは,LVFX耐性時のGFLX・MFLXの有効性を検証し,「実際に,GFLX・MFLXの2剤は使用可能なのか」という眼科医の疑問に回答するため,眼科材料由来の検出菌株を中心にLVFX・GFLX・MFLXの3剤およびセフェム系唯一の点眼薬であるセフメノキシム(CMX)の薬剤感受性を比較検討した.特にキノロン系点眼薬の3剤の使用方法に関して一つの提言をしたい.I対象および方法1.検査対象菌株2003年に実施された感染性角膜炎全国サーベイランス7)にて収集された分離菌および当院で検出された眼科材料由来の検出菌より,methicillin-resistantStaphylococcusaureus(MRSA)を8株,methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus(MSSA)を4株,methicillin-resistantStaphylococcusepidermidis(MRSE)を6株,methicillin-susceptibleStaphylococcusepidermidis(MSSE)を7株,Pseudomonasaeruginosa(P.aerugonosa)を7株,Streptococcuspneumoniae(S.pneumoniae)を9株,S.peumoniaeを除くStreptococcusspp.を10株,Corynebacteriumspp.を10株使用した.さらに当検査室保存株より血液由来株15株(MRSA:2株,MSSA:6株,MRSE:4株,MSSE:3株),髄液由来株1株(S.pneumoniae),およびキノロン耐性のP.aeruginosaとしてmultidrugresistantP.aeruginosa(MDRP)を3株加え,合計80株を検査対象菌株とした.また,精度管理株はStaphylococcusaureusATCC25,923株,P.aeruginosaATCC27,853株,EscherichiacoliATCC25,922株を用いた.2.試験薬剤LVFX,GFLX,MFLXおよびCMXの4薬剤を使用した.3.薬剤感受性試験方法センシ・ディスクTM(BD)を用いたKirby-Bauer法にて感受性試験を実施した.試験用培地は,Staphylococcusspp.およびP.aeruginosaに対してはMuellerHintonAgar(BD)を,一方S.pneumoniae,Streptococcusspp.およびCorynebacteriumspp.に対してはMuellerHintonAgarwith5%SheepBlood(BD)を使用した.各薬剤の感受性判定は,センシ・ディスクTMの添付文書(判定表)に従い判定した.判定基準の記載のないP.aeruginosa,Streptococcusspp.に対するMFLXの感受性結果,およびCorynebacteriumspp.に対する4剤の感受性結果は,すべてS.pneumoniaeの判定基準を用いて判定を行った.II結果1.キノロン3剤(LVFX・GFLX・MFLX)の感受性相関(表1)全80株のうち73株(91.3%)がキノロン3剤の感受性結果(感受性:S,中等度耐性:I,耐性:R)が一致した.MRSAは,10株すべてがキノロン3剤にRを示した.MSSAは1株(No.15)のみLVFX:Rであり,その株はMRSA同様3剤ともRであった.残り9株はキノロン3剤がすべてSで一致した.MRSEは,今回検証した菌株のうちキノロン3剤の感受性結果に最も差が生じた細菌群であり,3株(No.22,23,28)においてLVFXに比しGFLXまたはMFLXが有効である結果が得られた.この3株の感受性結果はLVFX/GFLX/MFLXの順にR/I/I,I/S/S,R/R/Iであった.一方,他の3株(No.27,29,30)はキノロン3剤ともRで一致,1株(No.21)はIで一致,残り3株はSで一致した.MSSEは,3剤の感受性結果に差が生じた株は存在せず,3株(No.33,34,38)はRで一致,1株(No.32)はIで一致,残り6株はSで一致した.P.aeruginosaは,LVFXおよびGFLXがI,MFLXがRという他菌種とは異なる結果を示した株(No.46)が1株確認された.MDRP(No.48,49,50)については3株すべてキノロン3剤に耐性を示し,GFLXおよびMFLXの有効性は示されず,残り6株はSで一致した.Streptococcusspp.は3株(No.51,59,60)がキノロン3剤ともRで一致,残り7株はSで一致した.S.pneumoniaeは1株(No.62)のみLVFX:Rであり,この株はGFLX:R,MFLX:Iであった.残り9株はSで一致した.Corynebacteriumspp.は,キノロン3剤の感受性結果に差が生じた株が2株(No.71,72)確認され,この2株の感受性結果はLVFX/GFLX/MFLXの順にI/S/S,R/R/Iであった.一方,他の2株(No.73,79)はRで一致,残り6株はSで一致した.2.CMXの感受性結果(表1)CMXは,MRSA,MRSE,P.aeruginosaを除く細菌群50株のうち49株(98%)において感受性を示した.III考察キノロン系点眼薬は,眼感染症治療や術前後の感染予防に広く使用されている.オフロキサシンなどのolderfluoroquinolonesとよばれるキノロン系抗菌薬の耐性化が問題視された後,LVFX,GFLXそしてMFLXが開発され点眼薬として承認されてきた経緯がある.なかでも特にLVFXは使用頻度が高いが,MRSAに対しては感受性率0%,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌に対しては感受性率10%との報告1,2)も存在し,その使用には注意が必要であり,感受性試験実施の重要性が指摘されている.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111027今回筆者らは,LVFX:Rのとき,GFLXやMFLXをその代替薬として使用できるかを確認するため,各菌種に対する薬剤感受性試験を実施した.LVFXがIもしくはRを示した株(34株)のうち,GFLXおよびMFLXのうち少なくとも1剤がLVFXに比し良好な感受性を示した株は6株(17.6%)であった.今回は最小発育阻止濃度(MIC)を測定していないため,各キノロン薬の詳細なMIC値による優劣比較は困難であるが,少なくともGFLXおよびMFLXはLVFXに比し特にグラム陽性菌に対して有意に抗菌力が強いとの多くの報告1,2,5,8)とは異なる結果であり,LVFX耐性時のGFLXおよびMFLXの使用を推奨できる結果ではなかった.グラム陰性菌に対するGFLX・MFLXの抗菌力は,グラム陽性菌の場合と同様,LVFXと同等であり,特にこの2剤が優れているという結果は得られなかった.グラム陰性菌に対し,キノロン3剤の間に優劣は認められなかったという筆者らの報告は,Matherら1),Kowalskiら2)の報告と一致する.キノロン系抗菌薬は,DNA複製に関与するDNAジャイレースとトポイソメラーゼⅣを阻害することにより作用する.したがって,細菌がキノロン耐性を獲得するためには,細菌DNAのキノロン耐性決定領域に存在するDNAジャイレースのサブユニットA遺伝子(gyrA)およびトポイソメラーゼⅣのサブユニットC遺伝子(parC)に変異が加わる必要があるといわれている.細菌がGFLX・MFLXに耐性となるためには,gyrAおよびparC両者の同時変異が必要であるため,LVFXに比し耐性は獲得しにくく,感受性の低下も少ないと考えられている2,4,8,9).しかし,今回の検討では,LVFX:Rの株(29株)のうち25株(86.2%)が他2剤のキノロンも同様にRであった.これは,薬剤間の交差耐性機構などによりすでに両遺伝子に変異を有している株が多く存在している可能性が高いことを強く示唆しているため,LVFX:Rの株に対して安易にGFLXやMFLXを使用すべきではないとの結論となる.通常の薬剤感受性検査では,多種類の抗菌薬を同時に測定するため代表薬剤であるLVFX以外のキノロン系薬剤を複数同時に測定することはルーチン検査ではきわめて煩雑である.このため臨床からは,「LVFX:Rのとき,GFLXやMFLXは使用可能なのか.その2剤の感受性試験も追加で実施してほしい」との問い合わせが多く,今回の検討はそのような検査依頼に応えるため実施したものである.GFLXお表1LVFX,GFLX,MFLX,CMXの感受性結果一覧MRSAMSSAMRSEMSSENo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMX1RRRR11SSSS21IIIR31SSSS2RRRR12SSSS22RIIR32IIIS3RRRR13SSSS23ISSR33RRRS4RRRR14SSSS24SSSR34RRRS5RRRR15RRRS25SSSR35SSSS6RRRR16SSSS26SSSR36SSSS7RRRR17SSSS27RRRR37SSSS8RRRR18SSSS28RRIR38RRRS9RRRR19SSSS29RRRR39SSSS10RRRR20SSSS30RRRR40SSSSP.aeruginosaStreptococcusspp.(S.pneumoniaeを除く)S.pneumoniaeCorynebacteriumspp.No.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMXNo.LVFXGFLXMFLXCMX41SSSI51RRRS61SSSS71ISSS42SSSI52SSSS62RRIS72RRIS43SSSI53SSSS63SSSS73RRRS44SSSI54SSSS64SSSS74SSSS45SSSI55SSSS65SSSS75SSSS46IIRR56SSSS66SSSS76SSSS47SSSI57SSSS67SSSS77SSSS48RRRR58SSSS68SSSS78SSSS49RRRR59RRRS69SSSS79RRRR50RRRR60RRRS70SSSS80SSSS感受性(S),中等度耐性(I),耐性(R)と表記し,各菌に対するLVFX,GFLX,MFLXおよびCMXの感受性結果を示した.キノロン3剤の結果に乖離のみられた菌については■で表現した.1028あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(124)よびMFLXがLVFXに比し有効である場合はむしろ少なく,比較検討した80株中73株(91.3%)がLVFXと同様の感受性結果であったため,GFLXおよびMFLXの感受性結果は,LVFXの結果から十分推定可能であることが示唆された.したがって,微生物検査室の対応として,国内で使用可能なキノロン系点眼薬6種すべての感受性を試験する必要はなく,広く使用されているLVFXを試験することで十分であると思われた.前述の眼科医からの依頼に対する回答としては,「LVFX:Rのとき,GFLXおよびMFLXも80%以上同様にRですので,感受性結果は同一と考えてください.」との回答が適当と考える.一方CMXは,MSSA,MSSE,Streptococcusspp.,S.pneumoniaeおよびCorynebacteriumspp.の各々に対して90%以上の感受性を示した.キノロン3剤がIもしくはR,しかしCMX:Sを示す株も11株存在し,キノロン薬以上の有効性が期待できる場合があることが示唆された.加茂ら9)はCorynebacteriumspp.,MSSA,Streptococcusspp.に対して,CMXはLVFX・GFLXに比し同等以上の感受性を有していたと報告しており,渡邉ら4),宇野ら10)は上記の同様の菌種に対して,CMXがLVFX・GFLX・MFLXに比し同等かそれ以上に低いMIC90を示した,と報告している.菌種によっては,CMXがキノロン薬以上の有効性を示した筆者らの結果と一致する.以上,キノロン3剤の薬剤感受性センシ・ディスクTM(BD)を用いたKirby-Bauer法にて比較検討した結果,90%以上の株で感受性結果が一致しており,GFLXおよびMFLXの2剤が特に有用性が高いとは言い難い結果であった.眼感染症治療に際しては,基本に戻り,塗抹・培養検査を実施し起因菌の特定と薬剤感受性試験の実施が重要である.文献1)MatherR,KarenchakLM,RomanowskiEGetal:Fourthgenerationfluoroquinolones:newweaponsinthearsenalofophthalmicantibiotics.AmJOphthalmol133:463-466,20022)KowalskiRP,DhaliwalDK,KarenchakLMetal:Gatifloxacinandmoxifloxacin:aninvitrosusceptibilitycomparisontolevofloxacin,ciprofloxacin,andofloxacinusingbacterialkeratitisisolates.AmJOphthalmol136:500-505,20033)BlondeauJM:Fluoroquinolones:mechanismofaction,classification,anddevelopmentofresistance.SurvOphthalmol49:S73-S78,20044)渡邉雅一,石塚啓司,池本敏雄:モキシフロキサシン点眼液(ベガモックス点眼液TM0.5%)の薬理学的特性および臨床効果.日本薬理学雑誌129:375-385,20075)DuggiralaA,JosephJ,SharmaSetal:Activityofnewerfluoroquinolonesagainstgram-positiveandgram-negativebacteriaisolatedfromocularinfections:aninvitrocomparison.IndianJOphthalmol55:15-19,20076)戸塚恭一,橋本正良:サンフォード感染症治療ガイド2010,第40版,p26,ライフサイエンス出版,20107)感染性角膜炎全国サーベイランス・スタディグループ:感染性角膜炎全国サーベイランス─分離菌・患者背景・治療の現状─.日眼会誌110:961-972,20068)HwangDG:Fluoroquinoloneresistanceinophthalmologyandthepotentialrolefornewerophthalmicfluoroquinolones.SurvOphthalmol49:S79-S83,20049)加茂純子,山本ひろ子,村松志保:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向2001~2005年.あたらしい眼科23:219-224,200610)宇野敏彦,大橋裕一,下村嘉一ほか:外眼部細菌性感染症由来の臨床分離株に対するモキシフロキサシンの抗菌活性.あたらしい眼科23:1359-1367,2006***

加齢黄斑変性の僚眼にみられたラタノプロストによる囊胞様黄斑浮腫の1症例

2011年7月31日 日曜日

1022(11あ8)たらしい眼科Vol.28,No.7,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(7):1022?1024,2011cはじめにラタノプロストをはじめとするプロスタグランジン製剤は,ぶどう膜強膜流出路からの房水の排泄を促進することで眼圧を下降させ,1日1回点眼という利便性,全身副作用がほとんどみられないこと,さらに強力な眼圧下降効果から,現在,緑内障患者に第一選択薬として広く用いられている.プロスタグランジン製剤の副作用として,結膜充血,虹彩や眼瞼の色素沈着,睫毛多毛のほか,前部ぶどう膜炎,?胞様黄斑浮腫(CME)などが今までに報告されている1?5).今回,筆者らは,ラタノプロストを点眼中の加齢黄斑変性の患者で,僚眼にCMEを認めた1症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕長谷川典生:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:NorioHasegawa,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPAN加齢黄斑変性の僚眼にみられたラタノプロストによる?胞様黄斑浮腫の1症例長谷川典生高瀬綾恵野崎実穂安川力小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Latanoprost-AssociatedCystoidMacularEdemaDetectedbyChanceinaFellowEyeduringExaminationforAge-RelatedMacularDegeneraionNorioHasegawa,AyaeTakase,MihoNozaki,TsutomuYasukawaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences緑内障治療薬であるプロスタグランジン製剤点眼の副作用として?胞様黄斑浮腫(CME)が知られている.今回,筆者らはラタノプロストを使用中の加齢黄斑変性の患者の僚眼に無症状のCMEを認めた症例を経験したので報告する.症例は71歳,男性で,緑内障を合併しており,10年以上ラタノプロスト点眼を継続していた.当院初診時に,光干渉断層計(OCT)検査および蛍光眼底造影で左眼ポリープ状脈絡膜血管症と診断した.右眼にはCMEを認めた.経過観察中に右眼のCME悪化と漿液性網膜?離の併発を認めたため,ラタノプロストを中止したところ,CMEは消失した.今回,白内障術後数年が経過している症例であったが,ラタノプロストの点眼により自覚症状がなくCMEさらには漿液性網膜?離を発症している症例を経験した.プロスタグランジン製剤を点眼している症例では,慎重な経過観察が重要であり,非侵襲的なOCT検査が有用であると考えられた.Topicalprostaglandinanaloguesareknowntoinducecystoidmacularedema(CME)asasideeffect.Weexperiencedcaseoflatanoprost-associatedCMEthatwasdetectedduringexaminationforexudativeage-relatedmaculardegeneration.Thepatient,a71-year-oldman,presentedatourhospitalduetovisionlossinhislefteye.Hehasusedlatanoprostcontinuouslyoveraperiodof10yearsfortreatmentofglaucoma.Botheyesarepseudophakic.Therighteyehasundergoneposteriorcapsulotomy.Fluoresceinangiographyandopticalcoherencetomography(OCT)revealednotonlypolypoidalchoroidalvasculopathyinthelefteye,butalsoCMEintherighteye.Whileintravitrealranibizumabwasadministeredinthelefteye,CMEworsenedintherighteye.Latanoprostwasthereforediscontinued,andtheCMEresolved.ThiscasesuggeststhatprostaglandinanaloguesmightinduceasymptomaticCME.Carefulregularfundusobservationshouldbeperformedineyesusingprostaglandinanalogues.NoninvasiveOCTmaybeusefulindetectingasymptomaticCME.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1022?1024,2011〕Keywords:プロスタグランジン製剤,ラタノプロスト,?胞様黄斑浮腫(CME),加齢黄斑変性,漿液性網膜?離.prostaglandinanalogue,latanoprost,cystoidmacularedema(CME),age-relatedmaculardegeneration,serousretinaldetachment.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111023I症例患者:71歳,男性.主訴:左眼視力低下.現病歴:1999年から近医で両眼?性緑内障のため,点眼(チモロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト)で経過観察されていた.左眼の視力低下を自覚し,近医で左眼黄斑下出血を指摘され,2009年7月7日当院紹介受診となった.既往歴・家族歴:特になし.初診時所見:視力は右眼0.2(1.2×sph?2.00D(cyl?1.50DAx100°),左眼0.1(0.3×sph?1.00D(cyl?1.25DAx100°)で,眼圧は右眼16mmHg,左眼11mmHgであった.両眼とも眼内レンズ挿入眼(1995年両眼白内障手術)であり,右眼は後発白内障に対してYAG後?切開術後であった.視神経乳頭/陥凹比は右眼0.8,左眼は0.9であった.蛍光眼底造影および光干渉断層計(OCT)検査にて,左眼眼底には橙赤色隆起病変と網膜下の小出血,漿液性網膜?離を認め,滲出型加齢黄斑変性(ポリープ状脈絡膜血管症)と診断した.一方,自覚症状のない右眼眼底にはCMEを認めた(図1).経過:左眼滲出型加齢黄斑変性に対して,ラニビズマブ硝子体内注射による治療を開始した.2009年11月10日,OCTで,右眼黄斑浮腫の増悪と中心窩下に漿液性網膜?離を併発したため,右眼のラタノプロスト点眼を中止したところ,黄斑浮腫,漿液性網膜?離の改善が認められた(図2).その後,2010年6月22日受診の時点で,右眼CMEの再燃は認められなかった.また,経過観察期間中にラタノプロスト中止に伴う眼圧上昇は認めず,右眼矯正視力は1.2?1.5と良好であった.II考按プロスタグランジン製剤によるCME発症のリスクファクターとしては,内眼手術後,後?破損の症例,無水晶体眼,ぶどう膜炎の既往のある症例,糖尿病網膜症のある症例などがあげられている6).今回の症例は,白内障手術が数年前に施行してあり,CMEを発症した眼では白内障手術の合併症はなかったが後発白内障に対して後?切開術が数年前に施行されていた.CMEを認めた右眼は,視力も良好で,患者の自覚症状もなかったが,滲出型加齢黄斑変性に対する蛍光眼底造影およ右眼左眼abc図1症例1の初診時所見a:眼底写真.b:フルオレセイン蛍光眼底造影写真.c:OCT所見.右眼に?胞様黄斑浮腫および花弁状の蛍光貯留を認める.左眼には橙赤色隆起病変と網膜下小出血と漿液性網膜?離を認める.1024あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(120)びOCT検査で僚眼にCMEが見つかった症例である.このことから,ラタノプロストを初めとするプロスタグランジン製剤を長期点眼している症例では,患者が自覚することなく,黄斑浮腫を発症している可能性が示唆された.したがって,プロスタグランジン製剤を使用している症例,特に白内障手術後の症例では,手術合併症を認めなくても,術後経過年数によらず注意深い眼底の観察が必要であると考えられる.右眼は経過観察中にCMEの悪化に加え漿液性網膜?離の併発を認めた.滲出型加齢黄斑変性の僚眼であることから,漿液性網膜?離発生の成因として網膜色素上皮の加齢変化に伴う外側血液網膜関門の破綻の影響も否定できないが,Ozkanら7)が,ラタノプロスト点眼症例に,漿液性網膜?離のみを認め,ラタノプロストの中止により消失した症例を報告していることや,本症例の右眼には黄斑下に脈絡膜異常血管網や網膜色素上皮の不整を認めないことから,ラタノプロスト点眼の影響が示唆される.実際,ラタノプロスト点眼の中止により,CMEだけでなく漿液性網膜?離も消失した.本症例は両眼にラタノプロスト点眼されていたが,プロスタグランジン製剤の加齢黄斑変性への影響は今後の検討が必要である.白内障術後のCMEの発生にはプロスタグランジンの影響が考えられている3)が,白内障術後に加齢黄斑変性の増悪を認める症例をしばしば経験することや,眼内レンズ挿入眼で加齢黄斑変性の発症率が上昇する事実から8?10),プロスタグランジンが滲出型加齢黄斑変性の病態に関与している可能性も考えられる.実際,最近,滲出型加齢黄斑変性に対して,ラニビズマブ硝子体内注射とプロスタグランジンの生成抑制作用をもつ非ステロイド性抗炎症薬であるブロムフェナク点眼薬(ブロナック点眼液R?:千寿製薬)を併用することにより,ラニビズマブの総投与数が減らせるかどうか国内でも無作為化二重盲検試験が実施されている.最近のOCTの普及により,自覚症状のない時点でも,網膜上膜,黄斑円孔,黄斑浮腫などの検出率が増加していると思われる.プロスタグランジン製剤によるCMEの発生率も,本症例のような無自覚のものを含めると以前の報告よりも頻度が高い可能性が予想される.プロスタグランジン製剤点眼中の緑内障患者のCMEの早期発見に無散瞳でも測定可能で非侵襲的なOCTによる黄斑部の観察が有用であると考えられた.文献1)WarmarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Ophthalmology105:263-268,19982)RoweJA,HattenhauerMG,HermanDC:Adversesideeffectsassociatedwithlatanoprost.AmJOphthalmol124:683-685,19973)MiyakeK,IbarakiM:Prostaglandinsandcystoidmacularedema.SurvOphthalmol47:203-218,20024)AyyalaR,CruzD,MargoCetal:Cystoidmacularedemaassociatedwithlatanoprostinaphakicandpseudophakiceyes.AmJOphthalmol126:602-604,19985)CallananD,FellmanR,SavageJ:Latanoprost-associatedcystoidmacularedema.AmJOphthalmol126:134-135,19986)WandM,GaudioA:Cystoidmacularedemaassociatedwithocularhypotensivelipids.AmJOphthalmol133:403-405,20027)OzkanB,Karaba?VL,YukselNetal:Serousretinaldetachmentinthemacularelatedtolatanoprostuse.IntOphthalmol28:363-365,20078)KleinR,KleinBE,WongTYetal:Theassociationofcataractandcataractsurgerywiththelong-termincidenceofage-relatedmaculopathy:theBeaverDamEyeStudy.ArchOphthalmol120:1551-1558,20029)FreemanEE,MunozB,WestSKetal:Isthereanassociationbetweencataractsurgeryandage-relatedmaculardegeneration?Datafromthreepopulation-basedstudies.AmJOphthalmol135:849-856,200310)CugatiS,MitchellP,RochtchinaEetal:Cataractsurgeryandthe10-yearincidenceofage-relatedmaculopathy:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology113:2020-2025,2006***図2症例1の右眼のOCT所見a:2009年11月10日,b:2010年6月22日(最終受診日).右眼CMEの増悪および中心窩下にわずかだが漿液性網膜?離を認めたため(a),ラタノプロスト点眼を中止したところ,改善した(b).ab

ラタノプロスト・β遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)1017《第21回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科28(7):1017?1021,2011cはじめに緑内障性視神経障害には眼圧以外の因子として眼循環障害の関与が示唆され,緑内障治療として緑内障点眼薬のもつ眼圧下降効果のほかに血流改善効果が期待されている.単剤投与における緑内障点眼薬の視神経乳頭血流への影響はすでに多くの報告があるが,臨床的にしばしば行われる併用療法に〔別刷請求先〕柴田真帆:〒569-8686高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-machi,Takatsuki-shi,Osaka569-8686,JAPANラタノプロスト・b遮断持続性点眼液併用による原発開放隅角緑内障の視神経乳頭血流の変化柴田真帆*1杉山哲也*1小嶌祥太*1岡本兼児*2高橋則善*2植木麻理*1池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2(有)ソフトケアOpticNerveHeadBloodFlowChangesInducedbyLong-ActingBeta-BlockerAdditiontoLatanoprostinPrimaryOpen-AngleGlaucomaMahoShibata1),TetsuyaSugiyama1),ShotaKojima1),KenjiOkamoto2),NoriyoshiTakahashi2),MariUeki1)andTsunehikoIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)SoftcareLtd.目的:ラタノプロスト点眼とb遮断持続性点眼液の併用が原発開放隅角緑内障における視神経乳頭血流に及ぼす影響を検討した.対象および方法:対象は大阪医科大学附属病院緑内障外来通院中の,ラタノプロスト点眼を単剤で4週間以上継続している広義の原発開放隅角緑内障患者10例10眼.ラタノプロスト点眼にチモロールまたはカルテオロール持続性点眼液を2カ月間併用し,その後もう一方のb遮断薬を2カ月間併用し,併用前後の眼圧,視神経乳頭血流,血圧,脈拍数を測定するクロスオーバー試験を行った.b遮断薬の順序は封筒法による無作為割付で決定した.結果:両b遮断薬とも併用後に有意な眼圧下降効果が得られ,両群間に差はなかった.視神経乳頭を上下,耳鼻側に4分割し,視神経乳頭陥凹部を除いた辺縁部組織血流解析では上下,耳側においてカルテオロール併用時にのみ有意な血流増加を認めた.結論:ラタノプロスト・カルテオロール持続性点眼併用により視神経乳頭血流が増加し,その機序としてカルテオロールの血管拡張作用が考えられた.Purpose:Toevaluatetheinfluencesofadditivetherapy,withlong-actingbeta-blockerinstillationaddedtolatanoprost,ontheopticnervehead(ONH)bloodflowinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma(POAG).SubjectsandMethods:Subjectscomprised10eyesof10POAGpatientswhohadbeenontopicallatanoprostformorethan4weeks.Intraocularpressure(IOP),ONHbloodflow(laserspekckleflowgraphy),bloodpressureandpulserateweremeasuredbeforeandat2monthsaftertherapywithlatanoprostplus0.5%timololor2%carteolollong-actinginstillations,inacrossoverstudyusingtheenvelopemethod.Results:TheadditionoftimololorcarteololtolatanoprostsignificantlydecreasedIOP,withnosignificantdifferencenotedbetweenthetwoadditivetherapies.Analysisofbloodflowin4sectionsoftheONHrimshowedthatthecombinedtherapyoflatanoprostandcarteololsignificantlyincreasedbloodflowintheupper,lowerandtemporalsections.Conclusions:Therapywith2%carteolollong-actinginstillationaddedtolatanoprostincreasedONHbloodflow,probablyduetothevasodilatingactionoftheagent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):1017?1021,2011〕Keywords:カルテオロール,レーザースペックルフローグラフィー,視神経乳頭血流,視神経乳頭辺縁部,併用療法.carteolol,laserspeckleflowgraphy,opticnerveheadbloodflow,rim,combinedtherapy.1018あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(114)おける視神経乳頭血流への影響についてはまだ報告が少なく,これまでラタノプロスト点眼,持続性ではないb遮断薬点眼液併用による視神経乳頭血流の変化が報告されている1).今回,ラタノプロスト点眼とb遮断持続性点眼液との併用が視神経乳頭血流に及ぼす影響を検討した.I方法および対象対象は大阪医科大学附属病院緑内障外来通院中のラタノプロスト点眼を単剤で4週間以上継続している広義の原発開放隅角緑内障患者のうち本研究参加への同意が得られた10例10眼(男性4例4眼,女性6例6眼,年齢38?76歳)である.内眼手術既往歴のあるもの,b遮断薬禁忌症例,コントロール不良の糖尿病・高血圧合併症例,喫煙者は除外した.ラタノプロスト点眼(キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー製薬,東京)を1日1回夜点眼して4週間以上継続している患者に,チモロール(チモプトールRXE点眼液0.5%,参天製薬,大阪)もしくはカルテオロール(ミケランRLA点眼液2%,大塚製薬,東京)の持続性点眼液を1日1回朝点眼して2カ月併用し,その後もう一方のb遮断薬を2カ月併用して併用前後の眼圧,血圧,脈拍数,レーザースペックル法による視神経乳頭血流を測定するクロスオーバー試験を行った.b遮断薬の順序は封筒法による無作為割付で決定した.眼圧,血圧,脈拍数,血流の測定は朝の点眼2?3時間後とし,同一患者については最初の測定時刻±1時間に測定した.眼圧測定はGoldmann圧平眼圧計を用い,血圧,脈拍は自動血圧計を用いた.血流測定方法としてレーザースペックルフローグラフィー,LSFG-NAVITM(ソフトケア,福岡)を用いた.すべての対象において0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)で散瞳後に同一検者が乳頭血流の測定をした.その測定原理については既報のとおり2)であるが,LSFGNAVITMでは取り込んだスペックル画像からLSFG解析ソフトversion3,プラグインLayerViewer(いずれもソフトケア)を用いて合成血流マップを作製することができ,血流マップ上で解析する部位を四角形や円形で指定すると,その内部の組織血流量を反映したmeanblurrate(MBR)値が得られる.MBR値はSBR(squareblurrate)値に比例する値であり3),また,SBR値はNB(normalblur)値に相関する値である4).NB値は元来,血流速度の指標であるが,表在血管を避けた部位では組織血流量をも反映すると報告されている5).本研究ではまず血流測定部位を視神経乳頭耳側辺縁部の一部領域(以下,Temporalrectangle;図1a)とした.つぎに視神経乳頭を4分割(S:上方,T:耳側,I:下方,N:鼻側)し,以下の方法で乳頭陥凹部を除いた視神経乳頭辺縁部領域(以下,Srim,Trim,Irim,Nrim;図1b)を血流解析部位とした.この乳頭陥凹部を除いた辺縁部のみの血流解析方法は以前に筆者らが報告した6)とおりであるが,合成血流マップ上でマウスカーソルを使って視神経乳頭周囲境界線と除外する乳頭陥凹部を指定し,視神経乳頭内部の4分割線を決定する.つぎに組織血流値を得るため主要血管血流を除外して解析すると7),4分割した辺縁部の組織血流に対応する領域別MBR値が得られる.解析から除外する視神経乳頭陥凹はHidelbergRetinaTomographII(HeidelbergEngineering,Heidelberg,Germany)の結果から同一検者が判定した.各解析結果は3回測定における平均値とした.図1aTemporalrectangleの部位(左眼)大血管を除いた耳側の視神経乳頭辺縁部の組織血流を解析した.図1b視神経乳頭辺縁部4分割表示(左眼)斜線領域の乳頭陥凹部は除外し,4分割した視神経乳頭辺縁部のみの組織血流を解析した.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111019また,今回の研究では4カ月の試験終了後にアンケート調査を実施した.開始2カ月後に現在の点眼で不具合があるかどうか,開始4カ月後に現在の点眼で不具合があるかどうか,終了時に今後どちらの点眼を続けたいか,その理由はなにかを患者聞き取りにて実施した.統計にはunpairedt-test,chi-squaretest,onewayanalysisofvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで群間に有意差がみられた場合はTukeyの多重比較,もしくはDunnettの多重比較を行った.なお,p値が0.05未満を統計学的に有意であるとした.II結果症例の内訳を表1に示した.10例10眼のうちカルテオロール先行群は5例,チモロール先行群は5例であり,両群の年齢,性別,b遮断薬併用前の眼圧,本研究参加時のHumphrey自動視野計(CarlZeissMeditec,Dublin,CA)による視野検査でのmeandeviation(MD)値に有意差を認めなかった(それぞれp=0.46,unpairedt-test;p=0.19,chisquaretest;p=0.15,unpairedt-test;p=0.93,unpairedt-test).表2に症例全体をまとめた薬剤別眼圧の変化を示した.両剤ともラタノプロスト単独点眼時に比較して有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,Dunnett’stest)が,両剤の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.平均血圧,眼灌流圧,脈拍数においてはb遮断薬併用による変化を認めなかった(それぞれp=0.25,p=0.71,p=0.78,onewayANOVA).Temporalrectangleの血流測定結果を図2に示した.ラタノプロスト単独点眼時を100%とするとカルテオロール点眼併用時の組織血流は112±15.6%(mean±SE)を示し,有意な血流増加を認めた(p<0.05,pairedt-test).図3に視神経乳頭辺縁部を4分割した領域別血流を示した.ラタノプロスト単独点眼時に比してカルテオロール点眼併用時のSrim,Trim,Irimに有意な血流増加を認めた(それぞれp<0.05,p<0.01,p<0.05,pairedt-test)が,チモロール点眼併用時にはすべての領域で有意な変化を認めなかった.また,視神経乳頭辺縁部の領域別血流変化率を薬剤別に比較した結果を図4に示した.ラタノプロスト単独点眼時を100%とするとカルテオロール点眼併用時のTrimは110±10.4%(mean±SE)を示し,他部位と比較した場合にNrimと比して有意な増加を認め(p<0.05,Tukeytest),Trimが最も血流改善効果のみられる領域であることが示された.使用後アンケート調査の結果を表3に示した.カルテオロール点眼で不具合を感じたのは1例で掻痒感が理由であっ表1患者内訳と背景全体カルテオロール先行群チモロール先行群p値(unpairedt-test)例数1055年齢(歳)59.3±13.363.2±10.755.4±15.60.46性別(男/女)4/61/43/20.19投与前眼圧(mmHg)MD値(dB)15.7±1.4?4.1±1.616.4±1.3?4.1±1.815.0±1.4?4.0±1.50.150.93(mean±SD)表2b遮断薬追加前後の眼圧,平均血圧,眼灌流圧,脈拍数の変化LL+CL+T眼圧(mmHg)15.7±1.412.9±2.0*12.8±1.6*平均血圧(mmHg)94.1±15.588.8±12.895.5±22.2眼灌流圧(mmHg)50.2±12.248.3±9.852.9±15.1脈拍数(/min)69.4±11.667.2±12.665.5±13.5(mean±SD)L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼とカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼とチモロール点眼併用.p<0.05,one-wayANOVA;*:p<0.01,Dunnett’stestcomparedtolatanoprostalone.8765432MBR値血流1201151101051009590%Baseline(%)血流変化率■:L■:L+C■:L+T(Mean±SE)**図2点眼後のTemporalrectangleにおける血流と血流変化率ラタノプロスト単独点眼時に比して,カルテオロール点眼併用時に有意な血流増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.*:p<0.05,pairedt-testcomparedtolatanoprostalone.1020あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(116)た.チモロール点眼で不具合を感じたのは5例で不具合の理由は霧視,べとつき感,刺激感であった.今後の点眼にカルテオロール点眼を希望したのは4例,使用感の良さが理由であった.チモロール点眼を希望したのは2例,使用感の良さと眼圧下降効果が良かったという理由であった.どちらの点眼でもいいというのは4例であった.また,チモロール点眼に霧視やべとつき感を感じて不具合があると回答した患者(チモロール先行群2例,カルテオロール先行群3例)と,チモロール点眼に不具合がないと回答した5例の患者(チモロール先行群3例,カルテオロール先行群2例)に有意差を認めず(p=0.52,chi-squaretest),チモロール点眼の不具合は点眼の先行もしくは後行に関係しないという結果であった.III考按循環異常と緑内障の関連を示唆する報告は多く,特に正常眼圧緑内障で視神経乳頭出血の頻度が高く8),視野進行に関与し9),視神経乳頭周囲網脈絡膜萎縮が視野障害と関連している10)ことなど,視神経乳頭循環障害が緑内障の進展に関与している可能性が考えられている.そのためこれまでにも,緑内障眼における視神経近傍の血流を測定する方法は多数報告されているが,レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)では視神経乳頭,脈絡膜,網膜,虹彩などの末梢循環の測定が可能であり,その正確さと高い再現性が得られること4)から,本研究ではLSFGの最新機種であるLSFGNAVITMを用いて視神経乳頭組織血流を測定した.筆者らは以前に,今回と同様のLSFG-NAVITMを用いた視神経乳頭辺縁部血流解析において,緑内障病期や視神経乳頭測定部位にかかわらず変動係数10%未満という高い再現性が得られる6)ことを報告している.眼循環障害と緑内障性視神経障害との関連から,緑内障治療として眼圧下降効果のほかに血流改善効果をもつ薬剤の検表3使用後アンケート調査Q1:点眼の不具合不具合なし不具合あり(理由)カルテオロール点眼9例1例(掻痒感)チモロール点眼5例5例(霧視4例,べとつき2例,刺激感1例:重複回答あり)Q2:今後の点眼の選択理由カルテオロール点眼4例使用感が良いチモロール点眼2例使用感が良い,眼圧が下降したどちらでも4例Nrim14131211101413121110Irim98765Trim151413121110MBR値MBR値Srim****■:L■:L+C■:L+T(Mean±SE)図3点眼後の乳頭辺縁部領域別血流ラタノプロスト単独点眼時に比して,カルテオロール点眼併用時のSrim,Trim,Irimに有意な血流増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.*:p<0.05,**:p<0.01,pairedt-testcomparedtolatanoprostalone.12011511010510095LL+CL+T%baseline(%)■:Srim■:Trim■:Irim■:Nrim(Mean±SE)*図4乳頭辺縁部血流変化率の領域別比較(点眼別)ラタノプロスト単独点眼時を100%とする%baseline表示である.カルテオロール点眼併用時のTrimは他部位と比較して有意な増加を認めた.L:ラタノプロスト点眼単独,L+C:ラタノプロスト点眼にカルテオロール点眼併用,L+T:ラタノプロスト点眼にチモロール点眼併用.p<0.05,onewayANOVA;*:p<0.05,Tukeytest.(117)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111021討がなされている.単剤投与における緑内障点眼薬の視神経乳頭血流への影響はすでに多くの報告があるが,臨床的にしばしば行われる併用療法の影響についてはまだヒト眼での報告が少なく1),本研究ではラタノプロスト点眼にチモロール点眼,カルテオロール点眼(いずれも持続性点眼液)を追加する併用療法における視神経乳頭血流について検討した.今回検討したb遮断薬の単剤投与における視神経乳頭血流変化について,正常ヒト眼においてチモロール点眼は視神経乳頭血流を変化させず,カルテオロール点眼は増加させるという報告11)がある.本研究では原発開放隅角緑内障眼においてであるが,同様の結果であり,カルテオロール点眼併用時にのみ血流改善効果を認めた.今回の結果は,ラタノプロスト点眼に持続性ではない1日2回点眼の2%カルテオロール点眼を併用して視神経乳頭血流が増加したとする過去の報告1)と同様であり,耳側乳頭辺縁部領域Temporalrectangleにおいて10%の血流改善率を認めた.また,カルテオロール点眼群ではSrim,Trim,Irimにおいて血流改善を認め,他領域と比較してTrimに有意な改善率を認めた.筆者らは以前に原発開放隅角緑内障眼において,病期の進行とともに耳側の視神経乳頭血流が低下することを報告した6).今回の結果と合わせて,耳側視神経乳頭血流は変化を受けやすい部位であると考えられた.チモロール点眼,カルテオロール点眼併用時の眼圧下降効果はそれぞれ17.0%,18.1%であり,併用による有意な眼圧下降を認め,この結果はこれまでの報告12,13)と同様であった.しかし,これらb遮断薬点眼併用前後で全身循環パラメータに有意な変化を認めず,眼灌流圧においても両剤とも点眼併用で有意な変化を認めなかった.しかし,カルテオロール点眼併用時にのみ視神経乳頭血流が増加したことから,血流増加は眼圧下降に伴う眼灌流圧上昇によるものではなく,カルテオロールによる直接的血管拡張作用によるものと考えた.その機序として,カルテオロールによる内因性交感神経刺激作用14)や内皮依存性血管弛緩作用15)の関与が考えられた.今回検討したアンケート結果により,チモロール点眼の不具合は先行か後行かに関係なく霧視やべとつき感を自覚する患者が多く,カルテオロール点眼のほうが差し心地が良いという結果となった.しかし,チモロール点眼に不具合があるが眼圧下降効果が良かったため,今後同点眼を希望した患者が1例あり,不具合の程度にもよるが,患者にとっても眼圧下降効果が第一選択基準となることをうかがわせた.本研究で,ラタノプロスト点眼加療中の原発開放隅角緑内障患者においてチモロールまたはカルテオロール持続性点眼液併用により有意な眼圧下降が得られ,カルテオロール持続性点眼併用により視神経乳頭血流の増加を認めた.今後多数例での長期的な検討が必要であるが,カルテオロール持続性点眼液は眼圧下降効果に加えて血流改善効果が期待できると考えられた.文献1)SugiyamaT,KojimaS,IshidaOetal:Changesinopticnerveheadbloodflowinducedbythecombinedtherapyoflatanoprostandbetablockers.ActaOphthalmol87:797-800,20092)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Noncontact,twodementionalmeasurementofretinalmicrocircurationusinglaserspecklephenomenon.InvestOphthalmolVisSci35:3825-3834,19943)KonishiN,TokimotoY,KohraKetal:NewlaserspeckleflowgraphysystemusingCCDcamera.OpticalReview9:163-169,20024)SugiyamaT,AraieM,RivaCEetal:Useoflaserspeckleflowgrapyinocularbloodflowresearch.ActaOphthalmol88:723-729,20105)SugiyamaT,UtsumiT,AzumaIetal:Measurementofopticnerveheadcirculation:comparisonoflaserspeckleandhydrogenclearancemethods.JpnJOphthalmol40:339-343,19966)柴田真帆,杉山哲也,小嶌祥太ほか:LSFG-NAVIを用いた視神経乳頭辺縁部組織血流の領域別評価.あたらしい眼科27:1279-1285,20107)岡本兼児,レーフントゥイ,高橋則善ほか:LaserSpeckleFlowgraphyによる網膜血管血流解析.あたらしい眼科27:256-259,20108)KitazawaY,ShiratoS,YamamotoT:Opticdischemorrhageinlow-tensionglaucoma.Ophthalmology93:853-857,19869)DranceSM,FaircloughM,ButlerDMetal:Theimportanceofdischemorrhageintheprognosisofchronicopenangleglaucoma.ArchOphthalmol95:226-228,199710)RockwoodEJ,AndersonDR:Acquiredperipapillarychangesandprogressioninglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol226:510-515,198811)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Effectoftopicalbeta-blockersontissuebloodflowinthehumanopticnervehead.CurrEyeRes16:1102-1110,199712)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,200213)StewartWC,DayG,SharpeEDetal:Efficacyandsafetyoftimololsolutiononcedailyvs.timololgeladdedtolatanoprost.AmJOphthalmol128:692-696,199914)YabuuchiY,KinoshitaD:Cardiovascularstudiesof5-(3-tert-butylamino-2-hydroxy)propoxy-3,4-dyhydrocarbostyrilhydrochloride(OPC-1085),anewpotentbetaadrenergicblockingagent.JpnJPharmacol24:853-861,197415)JanczewskiP,BoulangerC,IqbalAetal:Endotheliumdependenteffectsofcarteolol.JPharmacolExpTher247:590-595,1988

眼研究こぼれ話 19.中心性網膜症の研究 太陽を見つめる危険性

2011年7月31日 日曜日

(105)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20111009中心性網膜症の研究太陽を見つめる危険性ハーバード大学のハウ眼科研究所の窓から,ボストンの古い監獄が狭い道の向こうに見下ろせる.この百年も経た監獄はたいへんな時代もので,窓の鉄柵(さく)が簡単に曲げられるというような不完備の建物である.ボストン市の警察,刑務所に働いている人々は縁故採用や政治的人事で,ひどい品質であることは,このシリーズのどこかで,ちょっと述べたことがある.ある日,久留米大学の岡部教授のアパートに泥棒が入った.電話に応(こた)えてやって来た太っちょのポリスは,階段が上れない程に酔っぱらっていた.彼はだれか有力な人の弟か従弟(いとこ)なのである.このおんぼろ監獄はいつも満員である上,絶えず脱獄がある.ある日,一人の囚人が天井の明かり窓から出て来て,道路側の塀(へい)の上までたどりついたのを,研究室の窓から逐(ちく)一見た私の技術員は看守に電話をすると,「サンキュウ」と返事しただけで,だれも出て来ない.そのうち,囚人は高い塀から道路に飛び下り,動けなくなったところを駐車違反を取り締まっていた別管のポリスに取り押えられた.その他,ピストルの撃ち合いがあったり,中庭で囚人たちがさわいだり,面白い見物が出来るのである.この監獄の中で一人,頭のおかしくなった囚人が運動時間中,太陽を見つめた.鼻の頭を赤くしたポリス2,3人につれられてこの囚人が検査を受けるためやって来た.検眼鏡で見ると網膜の中心に穴があいている.お気の毒に,この囚人は中心視力を生涯失ってしまったのである.太陽を見つめることは,非常に危険である.似たようなことが,麻薬をうった若い人々の間でも起こったことがしばしば報告されている.時に,日蝕(しょく)がやって来る.数年前,米国の東海岸を通過した日蝕の際,約400人の人々が日蝕のため網膜の傷害を受けた.大部分の人が曇りガラス,または黒眼鏡を使って太陽を観察したのであるが,日蝕のため,あたりが暗くなると瞳孔(どうこう)が大きくなり,眼の内に入って来る光の量が増える.半分欠けた太陽でも,強い熱光線を持っていて,網膜の最も大切な中心部を焼いてしまう.この怖い傷害を未然に防ぐため,日蝕の前には,新聞,テレビで,曇りガラスの危険なこと,正しい観察方法などを繰り返し知らせている.日蝕を見つめたり,丸々の太陽をながめたりすると,網膜の中心部にひどい傷害を受ける.不思議なことに,この部位の傷害度には大きな個人差がある.ある人は平気であっても,他の人は失明してしまうのである.その理由をはっきりさせるために,0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑲▲レーザーで眼の奥に作られた爆撃の大穴.太陽を見ると,このような傷害が起こる.向かって右は穴の縁の部分の強拡大(10,000倍)で細胞が膨れて丸くなっている.爆撃に近い上部では破壊された細胞が見える.1010あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011眼研究こぼれ話(106)実験が必要となってくる.視力は正常だが癌(ガン)などのため,眼を摘出せざるを得なくなった患者が時にある.その中には,学問のために眼を提供してくれる識者がいる.私は5人あまりの協力者を得て,手術当日,または前日,太陽を見つめて貰(もら)う実験が出来た.このような人体実験の際には,万一の場合の事故がないよう万全を期すばかりでなく,患者の弁護士や,教会の牧師などにも立ち会ってもらう.実験日の気温,日照度などを科学的に記録するのはもちろんである.1時間前後の太陽注視実験の後で,手術を受けた眼は,綿密に調査される.このような完全な実験でも焼け方に個人差が出て来て,傷害度をはっきりと示すことが出来ないのである.この後も猿(サル)を使って,人工の太陽,レーザーで同様の実験を繰り返している.このような中心網膜の光傷害が,将来中心性網膜症に発展する可能性の有無を見たいのである.この疾患は,老人に起こる失明の原因となる場合が多く,重要な問題であるからである.このことについては別項で再び述べてみたい.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆

インターネットの眼科応用 30.ソーシャルメディアと医療 (3)

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110070910-1810/11/\100/頁/JCOPYソーシャルメディアの可能性インターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.医療情報も,文書や動画などのさまざまな形態で,インターネット上に氾濫するようになりました.一人の医師が,インターネット上の医療情報から何かのコツを得て,実際の臨床の現場で患者に還元することができれば,インターネットは医療水準の向上に寄与したことになります.情報の流れは,DatabaseからBedsideへ伝わって,デジタルな情報がアナログな医療行為に変換されます.この流れは,従来は専門書・教科書が果たしていた役割を,インターネットが代替できることを意味します.加えて,インターネットはその先の力をもちます.臨床現場で得られた情報がインターネット上に再び投稿されることで,医療情報がBedsideからDatabaseへ還元されます.アナログな経験がデジタル情報に置換されます.新しく更新され続ける医療情報が世界の誰かの医療を動かし,医療水準が向上し続ける,この双方向性と可塑性は,専門書がもたない力です.インターネット上の医療情報が,医師からの情報発信によって更新され続け,臨床現場に還元される現象を,Medical2.0とよびます1).Medical2.0は,ユーザーが主体となって発信するWeb2.0の医療版です.医療のプロフェショナルである医師が情報発信の担い手になる点が特徴です.投稿される情報の希少性,有用性から考えると,社会的に高い価値を生むことが予想されます.Web2.0の交流サイトにおいて,参加するユーザーの数が増えて,情報が活発に更新されると,サイト自体が一つのコンテンツとなって社会的な影響力をもつようになります.そのような,影響力の強いサイトをソーシャルメディアとよびます.ソーシャルメディアの医療応用として,前章ではMayoClinicの試みを紹介しました.医療者,医療従事者,医療受益者の間の情報交流を活性化させている点が特徴です.インターネットを用いたサービスは,開発者の創意工夫によって次々と誕生します.Googleを巨大企業に押し上げた検索連動型広告.「Broadcastyourself」を合言葉に,個人が世界に繋がることを視覚化したYouTubeの動画投稿.Googleを凌ぐ勢いで成長するFacebookが証明した,インターネット上のリアルコミュニケーション.これらのインターネットサービスのイノベーションに共通する点は,情報革命という潮流です.医療界も例外ではありません.情報革命とは,インターネットの登場により,サービスを受ける側がサービスを提供する側よりも優位に立ち,取捨選別できるようになった状態を表現したものです.医療界は,他業種と比べると商慣習も特殊で,法的な制約が多い業界ですので,インターネットの潮流の影響を比較的受けずに済みました.ですが,その波は徐々に押し寄せ,今は情報革命の最中にいます.インターネットを通じた情報交流は,さまざまな形で試みがなされています.眼科領域における,最近のトピックを二つ紹介します.一つは,日本白内障屈折矯正手術学会のホームページ内で,会員限定で手術動画を閲覧できるようになりました.目的は手術手技の教育と普及です.手術動画にコメントを残すことも可能です.二つめは,日眼会誌(JJO)において,OnlineFirstという出版形式が採用されたことです.OnlineFirstとは,冊子の発行を待たずに,受理された論文から順次インターネット上に掲載する出版方法で,インターネット上に掲載された日が論文の正式な出版日となります.OnlineFirstのメ(103)インターネットの眼科応用第30章ソーシャルメディアと医療③武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ1008あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011リットは,受理された論文から順次Web上に掲載することにより,同じ号に掲載される他の論文の編集を待つ必要がなくなり,出版までの日数が大幅に短縮されます.動画サイトの発展形は,遠隔医療もしくはインターネット上で開かれる学会です.OnlineFirstの発展形は,PLoSONEというオンラインジャーナルのように,査読すら出版後に行うような出版形態です.このオンラインジャーナルは,研究(実験)の方法に特に問題がなければ,結果の意義を問わず,初回投稿から数カ月で掲載されます.研究者はインターネットを通じて投稿し,論文はインターネット上に掲載され,世界中の読者からコメントが寄せられます.このシステムでは,有意義な知見が査読者の一存で掲載されなくなる可能性は減るものの,不適切なコメント・修正が増える可能性が増加します.読者の立場としては,玉石混淆のなかから本物を拾い出す眼力が求められます.医師個人からの情報発信が,インターネット上に増加すると,その情報自体が臨床的にも学術的にも産業的にも価値をもちます.医療系口コミサイト情報発信の主体者をもう少し,草の根まで広げるとどうなるでしょう.ちょっとした臨床現場の感想ですら,集積すると価値をもちます.近い将来,医療機器や薬剤に対する口コミ情報の集約サイトが誕生し普及するでしょう.参加する医師にとっては,他の医師が経験した感想や副作用を見聞できるメリットがあります.サイトを主宰する医薬メーカーにとっては,現状の薬剤の評価を確認し,次の創薬のヒントを得るというメリットがあります.医師限定の会員制サイトは,民間企業が運営しているサービスだけでなく,学会や医師会が運営しているサイトを含めると,数え切れないほど多数存在します.そのなかで,メドピア株式会社が運営する,Medpeerというサイトには,薬剤評価掲示板とよばれるサービスがあります.このサイト内には,約700種類の薬剤に対する医師による「薬のクチコミ評価」が投稿されています2).眼科医としては,眼内レンズや各種検査機器の口コミ情報や,点眼薬の副作用情報などが簡単に入手できるサイトがあれば,臨床現場において有用でしょう.たとえば,A社の眼内レンズに関して,私はこのような印象をもっている,B社の点眼薬を使用して,思わぬ反応が起きた,C社の眼底カメラは非常に使いやすい.(104)等,医師個人が経験した情報を蓄積すれば,治験などで得られた情報に匹敵する説得力をもって視聴者に伝わります.ただ,この意思決定モデルは,Evidencebasedではなく,Episodebasedですので,その情報の虚実を判断する能力が閲覧者に求められます.サイト運営者によっても情報の質が左右されます.学会という枠組みでは,ガイドラインに基づかない治療法を前向きに評価することはむずかしく,製薬企業の運営するサイトでは,保険外使用について議論することは,プロモーションコードに抵触します.インターネット上の情報交流において,サイト運営者には法の規制が求められます.今後,多数の医療系口コミサイトが登場するでしょうが,質の担保と同時に,ユーザーが発信しやすい環境を整えることはむずかしい問題です.その情報発信の担い手は,地域の医師会や,眼科医会かもしれません.私が有志とNPO法人として運営するMVC-onlineという医師会員限定のサイトは,その難問をクリアする一つの答えでしょう.飲食店検索サイトで例えると,タベログというサイトは,消費者の評価によって,飲食店の評価が決まります.権威によって評価されるミシュランと対極的ですが,両者は共存できる評価軸です.医師は日本に30万人弱.眼科医は約1万人.1万人の同業種団体は,規模としてそんなに大きなものではありません.眼科医の口コミが集まる場所を創ることは,社会的に必要とされ,継続できる事業と考えます.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.この現象をMedical2.0とよびます.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,Medical2.0の潮流に沿ったさまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)武蔵国弘:インターネットの眼科応用第25章Medical2.0②.あたらしい眼科28:251-252,20112)日経デジタルマーケティング,2011.7,p7-9

硝子体手術のワンポイントアドバイス 98.眼トキソカラ症に対する 硝子体手術(初級編)

2011年7月31日 日曜日

1006あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(102)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY●眼トキソカラ症眼トキソカラ症は,イヌ回虫(Toxocaracanis)の感染により生じるぶどう膜炎である.本疾患の感染経路は,イヌの腸管内にイヌ回虫が寄生し,その排泄物中の虫卵をヒトが経口摂取することで,人体の腸管内で孵化し第1期幼虫となる.その後,血行性に脳,肺,眼球などに散布し第2期幼虫となる.イヌ回虫は人体内では本来のlifecycleを全うできず,第2期幼虫のまま死滅するが,虫体から放出される毒素によりぶどう膜炎症状を呈する.●眼トキソカラ症の臨床像Wilkinsonらの分類が広く用いられており,眼底所見から以下の3つに分類される.1)眼内炎型(diffusenematodeendophthalmitistype)年少児に多く強い硝子体炎を起こし,白色瞳孔をきたすこともある.劇症型では,網膜?離や血管新生緑内障を合併し失明に至ることもある.わが国での報告例は少ない.2)後極部肉芽腫型(posteriorpolegranulomatype)眼底後極部に孤立した白色肉芽腫病変をきたす.時間が経過すると瘢痕化して硝子体索状物や牽引性網膜?離をきたすことがある.3)周辺部肉芽腫型(peripheralinflammatorymasstype)眼底周辺部に孤立した白色の塊状病変をきたす.後極部肉芽腫型と同様に,硝子体に索状物を形成し,牽引性網膜?離や,ぶどう膜炎による硝子体混濁をきたすことがある.わが国ではこのタイプの報告例が多い.●眼トキソカラ症の硝子体手術適応上記のいずれのタイプでも硝子体混濁,牽引性網膜?離,続発性黄斑上膜をきたした場合には硝子体手術の適応となることがある.ぶどう膜炎による硝子体混濁に対してステロイドの全身投与が奏効することもあるが,混濁が遷延する場合に硝子体手術を施行する(図1a,b).牽引性網膜?離に対しては,硝子体索状物の除去,強膜バックリング手術などで対応する.続発性黄斑上膜に対してはmembranepeelingを施行するが,特発性に比較して,広範囲かつ癒着が強固なことが多い(図2).硝子体手術時に採取した硝子体ゲルを用いて抗トキソカラ抗体を測定すれば診断に役立つ1).文献1)池田恒彦,田野保雄,細谷比左志ほか:眼底周辺部に隆起性線維血管性増殖病変を呈する眼寄生虫症.臨眼42:787-792,1988硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載98眼トキソカラ症に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図2続発性黄斑上膜視神経乳頭から血管新生緑内障にかけて広範囲に続発性黄斑上膜を認める.図1ぶどう膜炎症状を呈した周辺部肉芽腫型a:硝子体混濁のため,眼底の視認性は不良だが,鼻側周辺部に隆起性病変を認める.矯正視力は(0.02).b:硝子体手術後の眼底.視神経乳頭から鼻側周辺部に向かう網膜皺襞と鼻側周辺部の隆起性病変を認めるが,硝子体混濁は消失し,矯正視力は(0.5)に改善した.ab

眼科医のための先端医療 127.クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110010910-1810/11/\100/頁/JCOPY結核性眼炎症疾患の診断結核による眼病変には角膜実質炎やフリクテン様結膜炎,前部ぶどう膜炎,粟粒結核や結核腫,網膜静脈炎に代表される後部ぶどう膜炎があげられます1~4).その他にも,結核菌に対する宿主の免疫反応により多彩(非特異的)な眼所見(強膜炎,地図状脈絡膜炎,視神経網膜炎,硝子体混濁など)を呈することがあります.2002年に施行された全国の大学付属病院を対象としたぶどう膜炎の疫学調査によると,ぶどう膜炎全体に占める結核性ぶどう膜炎の割合は0.7%,当院の統計でも4.3%を占めており,依然としてわが国における代表的な感染性ぶどう膜炎といえます5,6).通常,結核と確定診断するためには病巣部からの菌体の証明が必要となりますが,結核性眼疾患(特に後部ぶどう膜炎など)に対してこの原則をあてはめようとした場合,ほとんどの症例においてその確定診断は現実的にほぼ不可能となります.過去に結核患者との接触歴があること,活動性の結核や結核の既往があること,さらに特徴的な眼所見を呈していれば診断は比較的容易ですが,ツベルクリン反応(ツ反)が強陽性でありながら眼外結核が明らかでない場合,診断に苦慮することも少なくありません.そこで現時点での結核性眼炎症疾患の診断は,1)肺結核などの眼外結核が存在する,2)結核に対する免疫反応が陽性,3)典型的な結核眼病巣の存在,4)既知のぶどう膜炎を否定できる眼および全身所見,5)抗結核療法の治療効果,などから総合的に判断することになります1,2).新たな結核感染診断法クオンティフェロンTBの登場従来,結核感染の有無には先ほど述べたツ反が用いられてきました.ツ反に用いられているpurifiedproteinderivative(PPD)は加熱滅菌した結核培養液から部分精製した蛋白成分ですが,PPDには数百種類もの異なった結核菌抗原が含まれており,その大部分がBacillusCalmette-Guerin(BCG)や非定型抗酸菌と高い類似性を有しています.そのためBCG接種や非定型抗酸菌感染によってもツ反が陽性化してしまうなど特異度の点で問題がありました.1990年代後半にはいり,結核菌の遺伝子解析や抗原解析の進展に伴いAndersonらによってBCGには存在しない結核特異抗原であるESAT-6とCFP-10の2つの蛋白抗原が同定されました7).この2つの抗原を使用した新たな結核感染診断法がクオンティフェロン(QuantiFERONR-TB:QFT-2G)です.末梢血から採取したリンパ球を試験管内でESAT-6抗原とCFP-10抗原で刺激培養し(18?24時間,37℃),培養上清中に分泌されたインターフェロン-gをELISA(enzymelinkedimmunosorbentassay)法にて測定することで結核感染を判定します.これまでのQFTの感度,特異度に関する報告をみますと,Moriらは肺結核確定患者を陽性群,健常人ボランティア(看護学生)を陰性コントロールとしてツ反とQFTの感染診断における有用性について比較検討を行いました8,9).その結果,ツ反の感度は92%,特異度は17%であったのに対してQFTでは感度89%,特異度98%という結果となり,QFTは感度の点ではツ反にやや劣るものの,特異度についてはツ反よりも圧倒的に優れていることを報告しました.この結果はQFTが陽性の場合は,ほぼ間違いなく結核に感染していることを意味しています.その一方で,感度が89%ということはQFTが陰性でも結核に感染している危険性が10%程度存在するため,結果の解釈には十分な注意が必要となります.現在,QFTは肺結核や肺外結核の診断だけでなく,結核接触者の検診,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者などの潜在性の結核感染のスクリーニングにも用いられています.結核性眼炎症疾患へのQFTの応用これまでの眼科領域におけるQFTに関する報告をみますと,2008年にMackensenらが21例の地図状脈絡膜炎の症例のうち,11例でQFTが陽性であることを報告し,地図状脈絡膜炎における結核感染との関連を指摘(97)◆シリーズ第127回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊慶野博(杏林大学医学部眼科)クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?1002あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011しています10).さらに2009年にAngらはシンガポールの157名のぶどう膜炎患者に対してツ反とQFTを施行し,両者の結核性ぶどう膜炎に対する感度,特異度について検討しました.その結果,特異度についてはツ反が72.7%に対してQFTは81.8%とQFTのほうが高く,感度についてはツ反が95.5%,QFTは90.9%という結果を報告しました11).この結果は結核性ぶどう膜炎でも肺結核と同様,QFT単独では約10%の確率で結核感染を見落とす可能性があることを意味します.この点については筆者らも結核性眼疾患を疑った場合はQFT単独ではなくツ反とQFTを組み合わせて検査をすることの重要性を強調しています.最近,筆者らの施設においてステロイド点眼で改善しない強膜炎で胸部X線では異常を認めなかったもののツ反は強陽性,さらにQFTも陽性のため結核感染を疑い抗結核薬を開始したところ,炎症の改善を認めた症例を経験しました(図1)12).もしQFTを施行せず,ツ反強陽性の結果のみだった場合,BCG接種による影響も否定できないため抗結核療法を開始すべきか判断に迷うところです.結核性眼炎症疾患を疑った場合,眼所見,全身所見,ツ反に加えQFTの結果も併せて総合的に判断していくことが重要と考えます.QFTの問題点と今後の展開QFTはBCG接種に影響されることなく結核感染の有無を判定できる優れた検査法ですが,結果の解釈には注意すべき点があります.QFTは結核感染の有無を判定するものであって,現在の結核の活動性の指標になりうるものではありません9).また,上述したようにQFTの感度はツ反ほど高くないため,QFTの結果が陰性であった場合でも結核の感染を完全に否定することはできません.この点については,これまでQFT-2Gで用いられていたESAT-6,CFP-10の抗原に加えて,別の結核抗原であるTB7.7が追加されたQFT-3Gが国内でも使用可能となり,今後QFTの感度の改善が期待されます.現在,QFTは関節リウマチなどの難治性自己免疫疾患に対するTNF(腫瘍壊死因子)-a阻害薬などの生物学的製剤投与予定者の結核スクリーニングや抗結核薬予防投与の適応の決定などにも広く応用されています.眼科領域でもBehcet病難治性網膜ぶどう膜炎に対して抗TNF-a抗体であるインフリキシマブが2007年1月より保険適用となりました.インフリキシマブ投与による潜在性結核の再燃は最も重篤な副作用の一つであり,この点においても眼科領域におけるQFTの重要性は今後ますます高まるものと思われます.文献1)安積淳:結核性眼疾患.日本の眼科70:1043-1046,19992)後藤浩:結核性ぶどう膜炎の現状と診断,治療上の問題点.眼紀52:461-467,20013)MorimuraY,OkadaAA,KawaharaSetal:TuberculinskintestinginuveitispatientsandtreatmentofpresumedintraoculartuberculosisinJapan.Ophthalmology109:851-857,20024)GuptaV,GuptaA,RaoNA:Intraoculartuberculosis─Anupdate.SurvOphthalmol52:561-587,2007(98)図1結核性強膜炎の1例68歳,男性.胸部X線では異常は指摘されなかったがツベルクリン反応陽性,QFT陽性を示したため結核性強膜炎を疑い抗結核療法を開始,充血の改善を認めた.a:治療前,b:治療後(12カ月).ab(99)あたらしい眼科Vol.28,No.7,201110035)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20076)KeinoH,NakashimaC,WatanabeTetal:FrequencyandclinicalfeaturesofintraocularinflammationinTokyo.ClinExperimentOphthalmol37:595-601,20097)AndersonP,MunkME,PollockJMetal:Specificimmune-baseddiagnosisoftuberculosis.Lancet356:1099-1104,20008)MoriT,SakataniM,YamagishiFetal:Specificdetectionoftuberculosisinfection:aninterferon-gamma-basedassayusingnewantigens.AmJRespirCritCareMed170:59-64,20049)鈴木克洋:クオティフェロンTB-2G(QFT)の有用性.呼吸と循環57:299-303,200910)MackensenF,BeckerMD,WiehlerUetal:QuantiFERONTB-Gold─Anewteststrengtheninglong-suspectedtuberculousinvolvementinserpiginous-likechoroiditis.AmJOphthalmol146:761-766,200811)AngM,HtoonHM,CheeSP:Diagnosisoftuberculousuveitis:clinicalapplicationofaninterferon-gammareleaseassay.Ophthalmology116:1391-1396,200912)TakiW,KeinoH,WatanabeTetal:Interferon-gammareleaseassayintuberculousscleritis.ArchOphthalmol129:368-371,2011☆☆☆■「クオンティフェロン(QFT)は結核性眼炎症疾患の診断に有用か?」を読んで■結核は,全世界人口の3人に1人が感染していると考えられ,また年間900万人の新規患者と180万人もの死亡者を出している感染症です.単一病原菌によるものでは最悪の感染症といえます.日本では結核患者が増加したため,1999年に結核緊急事態宣言が出されましたが,2008年においても新登録結核患者数は24,760人,また死亡者数は2,216人を数え,先進国のなかにおいては中蔓延国に位置付けられています.特にアジアは,世界の結核の半分以上が発生している地域とされており,アジアとの国際交流が盛んになっている現状を考えると,結核は現在最も重要な感染症の一つといえます.過去30年,イソニコチン酸ヒドラジッドやリファンピシンなどのきわめて効果の強い抗結核薬が開発され,先進国では結核患者数は激減しました.しかし,抗結核薬には必ず副作用があります.エタンブトールによる視神経障害は有名ですが,比較的副作用の少ないものでも,長期間服用することで臓器障害を起こすことはまれではありません.一方,抗結核薬が広く使われるようになり,薬剤耐性結核菌の問題も出てきました.米国では,HIV(ヒト免疫不全ウイルス)による結核患者に薬剤耐性結核菌が広がり,大きな問題となりました.近い将来,まったく新しい抗結核薬が誕生する可能性が低いことを考えると,抗結核薬の治療は必要なケースに限るべきでしょう.従来,結核診断は1932年にSeibertによって開発されたPPD(ツベルクリンテスト)が用いられてきました.慶野博先生が本稿でわかりやすく解説されているように,PPDには感度は高い反面,特異性が低いという問題があります.集団から結核患者を拾い出すためには,感度が高いPPDは有用ですが,本当に抗結核薬治療が必要な患者を選択するには不十分なのです.このことがわかると,なぜ特異性が高いクオンティフェロン(QFT)が世界中の医師から待ち望まれたのかが理解できると思います.眼科領域においては,結核菌感染症はさまざまな表現型を示します.そのため,確定診断がつかずに漫然と抗結核薬を使用することがありましたが,それは薬剤耐性結核菌を増やす原因となった可能性があります.また逆に,抗結核薬が使われずに治療が成功しなかったケースも少なくありません.QFTにより,結核菌感染症患者を正確に診断することは,眼科領域では特に大切であるといえます.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二

緑内障:ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇に対して留意したい点眼治療

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119990910-1810/11/\100/頁/JCOPY●プロスタグランジン(PG)関連眼圧下降点眼薬(PG点眼薬)PG点眼薬はその優れた眼圧下降作用から,ファーストラインの抗緑内障点眼薬としての地位を固めているが,PGが眼炎症のメディエータとしての役割を担っているため眼炎症を惹起する可能性がある.炎症の既往のない緑内障眼において眼炎症が惹起される頻度は1?4.9%程度とされ,少数の症例報告しかない1).自験例と過去の報告をレビューし臨床的特徴について検討した結果(表1),ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストに関して計34眼の報告があり,aqueouscellulargradingscale1+以下のものが65%,角膜後面沈着物を伴うものが14.7%と前房炎症の程度は軽度なものが主であり,炎症惹起前後での平均眼圧較差は?0.78±5.3mmHgと多くは炎症惹起後の眼圧上昇を認めなかった2).治療に関しても,ステロイド点眼薬の併用例が65%あったが,PG点眼薬中止のみで消炎したものが35%であり,消炎までの平均期間は18.4日と速やかに消炎が得られやすいことがわかった2).炎症コントロール下のぶどう膜炎続発緑内障においても,注意深い経過観察のもと使用してもよいとする報告も近年徐々になされ始めている3).しかしこのように,炎症の既往がないにもかかわらずPG点眼薬でぶどう膜炎が惹起される症例が少なからず存在することは確かなことであり,ぶどう膜炎眼に対しての使用の際には,炎症増悪のリスクを十分に理解しておくことが重要である.また現時点で,筆者の知る限り,活動性の炎症眼に対してPG点眼薬を使用した場合の炎症・眼圧の変化に関するエビデンスは存在しない.●ピロカルピン点眼薬ピロカルピン点眼薬は毛様体血液房水柵に影響を与えフレア値を上昇させるため,炎症を伴う眼疾患の際には使用を控える必要があることは広く知られている.しかし,原田病などのぶどう膜炎に伴い生じる毛様体浮腫・毛様体前方回旋に伴って急性閉塞隅角を呈している場合は要注意である.ぶどう膜炎に合併する浅前房と気がつかずに,原発閉塞隅角症と同様にピロカルピン投与・レーザー虹彩切開術を施行してしまうと,眼圧が下降しないばかりか,その後の炎症管理・眼圧管理がきわめて不良となってしまうことも多い.安易な診断は厳に慎むべきであり,多くは問診や僚眼の炎症所見の有無などからその存在を疑うことができ,正確な鑑別のためには,眼底の漿液性網膜?離の有無の確認や,可能な施設であればUBM(超音波生体顕微鏡)による隅角および毛様(95)●連載133緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也133.ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇に対して留意したい点眼治療岩尾圭一郎*1,*2*1BascomPalmerEyeInstitute,UniversityofMiamiMillerSchoolofMedicine*2佐賀大学医学部眼科ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇では,緑内障の主力治療薬であるプロスタグランジン関連眼圧下降点眼薬は眼炎症を増悪する可能性があるし,原田病に伴う浅前房の際にピロカルピン点眼を使用してはならない.ステロイド点眼消炎治療によりステロイド緑内障を呈した場合,トラベクロトミーも選択肢の一つである.表1プロスタグランジン関連眼圧下降薬投与により惹起された前部ぶどう膜炎性別(眼)男性13(38.0%),女性21(62.0%)発症年齢(歳)46?86平均71.7±8.2緑内障病型(眼)原発開放隅角緑内障19落屑緑内障6発達緑内障1病型不詳8手術既往(眼)緑内障手術7白内障手術15PG以外の眼圧下降点眼数(剤)0?3平均0.97±0.90発症までの期間(日)1?1,851平均149.4±338.8発症前眼圧(mmHg)21.3±5.9発症時眼圧(mmHg)20.7±8.5炎症前後の眼圧差(mmHg)?0.78±5.3角膜浮腫(眼)3(8.8%)前房炎症(眼)3+2+1+Trace2(5.9%)10(29.4%)10(29.4%)12(35.3%)角膜後面沈着物(眼)5(14.7%.豚脂様2,詳細不明3)隅角・虹彩結節(眼)2(5.9%)消炎のためのステロイド点眼(眼)22(64.7%)消炎までの期間(日)18.4±14.8(文献1より改変)1000あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011体の観察を行うべきである.アトロピン点眼とステロイド全身投与により,毛様体浮腫の軽減に伴い前房深度は正常化する(図1).●副腎皮質ステロイド点眼薬ぶどう膜炎に伴う眼圧上昇がみられる場合の加療の基本は,まずは消炎の徹底である.点眼を中心としたステロイド局所投与や全身投与が治療の根幹を担うが,ステロイド誘発眼圧上昇がしばしば問題となる.詳細は他の記載に譲るが,ステロイドの強度や投与経路,使用期間,休薬・強度変更による眼圧変化,炎症の程度との兼ね合いなどから総合的に判断する.可能であればステロイド薬の休薬・変更を行うが,困難な場合は眼圧下降点眼を追加併用することになり,アドヒアランスの低下や希釈効果から十分な効果が得られないこともある.保存的治療が奏効しない場合,視野進行の状態によっては観血的治療を選択せざるを得ない.ステロイド緑内障は典型的な房水流出抵抗が増大する続発緑内障であり,流出路手術の良い適応である.一方で,活動性のぶどう膜炎眼に対するトラベクロトミーの効果は限定的であることも知られているため,トラベクレクトミーが選択されることが多い.では,ぶどう膜炎存在下のステロイド緑内障に対しての,トラベクロトミーの効果はどの程度であろうか?ステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの効果に関する多施設調査で,18mmHg未満(96)に眼圧管理できる割合はトラベクレクトミーのほうが勝っているが,21mmHg未満に眼圧管理ができる割合はトラベクレクトミーと同程度であることが明らかになった(図2)4).またこの調査では,点眼のみで誘発されたステロイド緑内障は予後がよいことが示唆され,ぶどう膜炎治療時に生じたステロイド緑内障に対しトラベクロトミーを行った場合,原疾患がぶどう膜炎であることは眼圧予後のリスク因子にはなっていなかった4).一般的にぶどう膜炎患者は若年であることも多く,今後もステロイド点眼を長期間継続する可能性があり,それに伴う濾過胞感染のリスクを考えた場合,視野に余力があり炎症管理が良い場合にはトラベクロトミーも選択肢の一つになりうる.文献1)WarwarRE,BullockJD,BallalD:Cystoidmacularedemaandanterioruveitisassociatedwithlatanoprostuse.Ophthalmology105:263-268,19982)山本聡一郎,岩尾圭一郎,平田憲ほか:プロスタグランジン関連眼圧下降薬で惹起された前部ぶどう膜炎.あたらしい眼科28:571-575,20113)MarkomichelakisNN,KostakouA,HalkiadakisIetal:Efficacyandsafetyoflatanoprostineyeswithuveiticglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol247:775-780,20094)IwaoK,InataniM,TaniharaH;onbehalfofTheJapaneseSteroid-InducedGlaucomaMulticenterStudyGroup:SuccessRatesofTrabeculotomyforSteroid-InducedGlaucoma:aComparative,Multicenter,Retrospective,CohortStudy.AmJOphthalmol151:1047-1056,2011ABCD図1原発閉塞隅角症と誤られた原田病の1例A:紹介時の前眼部写真.耳上側にレーザー虹彩切開術がなされている(矢印).B:眼底は視神経乳頭の発赤と漿液性網膜?離が認められる.C:ステロイド治療前のUBM所見.毛様体浮腫を高度に呈しており(赤矢印),虹彩水晶体隔膜の前方移動が認められる.D:ステロイド大量療法後所見.毛様体浮腫は改善し,散瞳薬使用にも関わらず隅角は開大し,虹彩水晶体隔膜は後退している.AB100806040200012術後経過年345累積生存確率(%)100806040200012術後経過年345累積生存確率(%)p=0.3636(log-ranktest)p=0.0352(log-ranktest):トラベクレクトミー:トラベクロトミー:トラベクレクトミー:トラベクロトミー図2ステロイド緑内障(ぶどう膜炎続発緑内障に限らない)に対するトラベクロトミーの効果A:21mmHg以上を不成功と定義した場合,トラベクロトミーとトラベクレクトミーの累積生存確率に有意な差はない.B:18mmHg以上を不成功と定義した場合,トラベクレクトミーの累積生存確率は,トラベクロトミーに比較して有意に良好である.(文献4より改変)