0910-1810/11/\100/頁/JCOPYをとり,欧米での頻度は3万人から5万人に1人である.わが国での頻度は不明であるが,弱視と診断されているケースをしばしば経験する.臨床症状として幼少時より低視力(0.1から0.2),振子眼振,羞明,昼盲がみられる3).眼底は正常で,蛍光眼底造影検査でも明らかな異常所見はみられないことが多い(図1)4,5).黄斑ジストロフィや錐体ジストロフィと同様に萎縮性黄斑変性がみられることもある(図2)4).Goldmann視野検査で中心暗点が検出されるが周辺視野は正常である5).石原色覚検査表国際版38表の第1表を判読できる一方,それ以外は判読不能である.パネルD-15検査をfailし,その混同軸が2型色覚(deutan)軸と3型色覚(tritan)はじめに本稿では,遺伝性の先天全色盲について解説したい.先天全色盲は1色覚ともよばれ,杆体1色覚と錐体1色覚がある.前者は完全型と不完全型に分類され,後者の大部分はS錐体1色覚である.いずれも単一の遺伝子異常による遺伝性網膜疾患の範疇に入る1,2).I杆体1色覚1.完全型網膜に存在する視細胞のうち,杆体の機能は正常であるが,先天的にすべての錐体(L錐体,M錐体,S錐体)の機能喪失が起こる疾患である.常染色体劣性遺伝形式(65)969*TakaakiHayashi:東京慈恵会医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕林孝彰:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学教室特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):969?973,2011全色盲Achromatopsia林孝彰*右眼左眼図1完全型杆体1色覚症例の眼底写真黄斑部を含め明らかな異常所見はみられない.(文献5を一部改変)970あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(66)色覚正常者の暗所視比視感度(主として杆体視と同様に505nm付近をピークとする一峰性)に一致するため,プルキンエ移動(Purkinjeshift)はみられない4,5).確定診断に重要なGanzfeld刺激装置を用いた全視野刺激網膜電図(ERG)で,杆体ERGやフラッシュERG(杆体と錐体を含めた最大応答)が正常範囲内である一方,錐体ERGや30HzフリッカERGでは,反応がほとんど検出されない(図5)4,5).このERGの結果は,錐体ジストロフィに一致するが,視力良好であった時期がないこと,進行性の視力障害をきたしていないことを聴取でき軸の中間のscotopic軸に一致することが多い(図3)が,他のパターンをとることもある4,6).NagelアノマロスコープI型検査では,赤色光の感度が低く,黄色光を緑色光より暗く感じるため特徴的なパターンを示す.すなわち,混色目盛値73では単色目盛値が0付近でRayleigh等色し,混色目盛値40付近で単色目盛値の最大値に近づくため,先天赤緑色覚異常の1型2色覚に比べ極端に急峻な傾きとなる(図4)4,7).白色背景下分光感度は,右眼左眼図2完全型杆体1色覚症例の眼底写真黄斑部に萎縮性病変がみられる.(文献4を一部改変)図3完全型杆体1色覚症例のパネルD?15混同軸が2型色覚(deutan)軸と3型色覚(tritan)軸の中間のscotopic軸に一致している.(文献4を一部改変)0102030405060707380604020混色目盛値単色目盛値完全型杆体1色覚不完全型杆体1色覚1型2色覚2型2色覚正常等色図4NagelアノマロスコープI型検査所見正常等色,1型2色覚,2型2色覚,完全型・不完全型杆体1色覚のRayleigh等色を示す.(文献4を一部改変)(67)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011971伝子である.日本人の杆体1色覚症例においてはCNGA3とCNGB3遺伝子変異が報告されている5,17).2.不完全型不完全型も完全型と同様に常染色体劣性遺伝形式をとる.幼少時にみられる症状や臨床所見は,完全型に類似するが,錐体機能は残存している.視力は,しばしば(0.2~0.3)の範囲で残余色覚を認める.石原色覚検査表,パネルD-15,NagelアノマロスコープI型検査の結果は,完全型に類似する(図1)4).ERGは錐体ERGで減弱した反応が検出される4).白色背景下分光感度は,完全型と異なり一峰性にはならない4).原因として,完全型と同様にCNGA3,CNGB3,GNAT2の遺伝子変異が報告されている.IIS錐体1色覚X連鎖劣性遺伝形式をとり,罹病率10万人に1人以下のまれな疾患である.正常の杆体機能とS錐体機能をもつ一方,M錐体とL錐体の機能は欠損している18).臨床症状は,杆体1色覚のそれに類似するが程度は若干軽度である.矯正視力は0.1~0.3程度であることから,れば,錐体ジストロフィとの鑑別はそれほどむずかしくはない.光干渉断層計(OCT)所見の報告では,黄斑部の網膜厚は正常と比べ菲薄化し5),黄斑体積も減少していた8).補償光学装置(adaptiveoptics)を用いた黄斑部の網膜高解像度画像では,杆体の大きさや密度は維持されているものの錐体のモザイク構造が大きく破壊されていた9).杆体1色覚は,視力や視野所見は長年にわたり,変化しないため,先天赤緑色覚異常と同様に基本的には停止性疾患に分類されている.しかし,20年以上の観察期間で,中心暗点が拡大したり,黄斑部病巣が顕著になってくることもあり,緩徐に視機能が障害される場合もある.杆体1色覚の原因として,3錐体(S錐体,M錐体,L錐体)に特異的に発現している錐体サイクリックGMP(グアノシン一リン酸)依存性チャンネルaサブユニットとbサブユニットをコードしているCNGA3遺伝子とCNGB3遺伝子,錐体aトランスデューシンをコードするGNAT2遺伝子に加え,サイクリックGMPホスホジエステラーゼaサブユニットをコードしているPDE6C遺伝子の変異が報告されている10~16).いずれも錐体機能維持に重要な光電気変換に関与している遺正常者杆体1色覚症例杆体反応最大応答錐体反応30Hzフリッカ反応50ms200μV200μV100μV50μV図5Ganzfeld刺激装置を用いた全視野刺激網膜電図杆体反応や最大応答は正常範囲内である一方,錐体反応や30Hzフリッカ反応は検出されない.(文献5を一部改変)972あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(68)期での遺伝性網膜疾患の診断に役立つことが期待される.実際には,ERGの測定が困難な学童期であっても,臨床症状,色覚検査,Goldmann視野検査などからある程度疑うことは可能である.一方,S錐体1色覚はきわめてまれな疾患で,報告は少ない.杆体1色覚とS錐体1色覚の鑑別はむずかしいが,色刺激ERGによるS錐体の検出や,Farnsworth-Munsell100hueテストが有用である.また,S錐体1色覚はX連鎖劣性遺伝のため,近親者に罹患者が存在していることがあるため家系調査による家系図作成によって鑑別できる.罹患者が女児・女性であればS錐体1色覚の可能性はほとんどない.杆体1色覚の原因となるCNGA3,CNGB3,GNAT2,PDE6C遺伝子異常は,常染色体劣性遺伝の錐体ジストロフィの原因遺伝子としても報告されている.錐体ジストロフィ症例では,杆体反応が比較的正常に近い症例から高度に低下している(錐体杆体ジストロフィ)症例まで経験する.杆体機能の障害程度は病期によるだけかもしれないが,杆体機能が正常に近い時期が存在するタイプの錐体ジストロフィでは,杆体1色覚と同一の遺伝子異常が原因となっているのかもしれない.杆体1色覚や錐体ジストロフィの日本人症例に対する,CNGA3,CNGB3,GNAT2,PDE6C遺伝子解析と表現型の相関研究が期待される.文献1)林孝彰:錐体機能不全を伴う停在性網膜疾患.眼科48:1687-1698,20062)林孝彰:先天全色盲.日本色彩学会,新編色彩科学ハンドブック第3版.東京大学出版会,p384-385,20113)KrillAE,DeutmanAF,FishmanM:Theconedegenerations.DocOphthalmol35:1-80,19734)HayashiT,KozakiK,KitaharaKetal:ClinicalheterogeneitybetweentwoJapanesesiblingswithcongenitalachromatopsia.VisNeurosci21:413-420,20045)Goto-OmotoS,HayashiT,GekkaTetal:CompoundheterozygousCNGA3mutations(R436W,L633P)inaJapanesepatientwithcongenitalachromatopsia.VisNeurosci23:395-402,20066)林孝彰:色覚検査:パネルD-15,Farnsworth-Munsell100hueテスト,ランタンテスト,アノマロスコープ.今日の眼疾患治療指針(田野保雄,樋田哲夫編),p748-751,医学書院,2007中心窩下に存在しないS錐体が視力に関与していないことを裏付けている.石原色覚検査表やNagelアノマロスコープI型検査結果は,完全型杆体1色覚に類似する.パネルD-15は,典型例では,混同軸が1型色覚(protan)軸と2型色覚(deutan)軸の中間に存在する6).Farnsworth-Munsell100hueテストは,高い総偏差点(強度の色覚異常)を示すが,完全型杆体1色覚に比べ青黄軸ではエラーが少なく青錐体系の識別能が存在している18).ERG所見は,杆体1色覚に類似する.杆体1色覚とは異なり,正常なS錐体機能が色刺激ERGによって検出可能である19).白色背景下分光感度は,完全型杆体1色覚と異なり430nm付近にピークがみられる.杆体1色覚と同様に非進行性の疾患と考えられていたが,進行性の視力障害や黄斑変性をきたす症例も少なからず報告されている20).原因として,分子遺伝学的にX染色体長腕(Xq28)に位置するLオプシン(OPN1LW)遺伝子およびMオプシン(OPN1MW)遺伝子の不活化によることが証明されている21,22).OPN1LW遺伝子の上流約3.5kbに,OPN1LW/OPN1MW遺伝子発現を制御しているlocuscontrolregion(LCR)が,両者の遺伝子発現に必須の部位であることが明らかにされている23).S錐体1色覚の遺伝子異常には,3つのパターンが存在する.1つは,LCRの欠失によってOPN1LW/OPN1MW遺伝子発現が消失するもの(原因の約40%)で,2つめは,OPN-1LW/OPN1MW遺伝子内に機能喪失変異(Cys203Arg,Arg247stop,Pro307Leuなど)による場合(原因の約60%)で,3つめは,まれなケースでOPN1LW遺伝子内のエクソン欠失変異によるものが報告されている21,22,24).日本人のS錐体1色覚症例においては,LCRを含む広範囲の欠失変異が報告されている.まとめ自験例や多施設の報告から,杆体1色覚(完全型および不完全型)の罹患者は,予想より高い頻度で存在しているのではないかと思われる.しかし,診断には,杆体反応と錐体反応を分離して機能評価するERGが必須であるため,幼少時での診断は困難となることが多い.最近,皮膚電極を用いたERG測定が可能となり,乳幼児(69)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011973sialinkedtomutationsinthePDE6Cgene.ProcNatAcadSciUSA106:19581-19586,200916)ThiadensAA,denHollanderAI,RoosingSetal:HomozygositymappingrevealsPDE6Cmutationsinpatientswithearly-onsetconephotoreceptordisorders.AmJHumGenet85:240-247,200917)OkadaA,UeyamaH,ToyodaFetal:FunctionalroleofhCngb3inregulationofhumanconecngchannel:effectofrodmonochromacy-associatedmutationsinhCNGB3onchannelfunction.InvestOphthalmolVisSci45:2324-2332,200418)AlpernM,LeeGB,MaaseidvaagFetal:Colourvisioninblue-cone‘monochromacy’.JPhysiol212:211-233,197119)Ladekjaer-MikkelsenAS,RosenbergT,JorgensenAL:Anewmechanisminblueconemonochromatism.HumGenet98:403-408,199620)FleischmanJA,O’DonnellFEJr:CongenitalX-linkedincompleteachromatopsia.Evidenceforslowprogression,carrierfundusfindings,andpossiblegeneticlinkagewithglucose-6-phosphatedehydrogenaselocus.ArchOphthalmol99:468-472,198121)NathansJ,DavenportCM,MaumeneeIHetal:Moleculargeneticsofhumanblueconemonochromacy.Science245:831-838,198922)NathansJ,MaumeneeIH,ZrennerEetal:Geneticheterogeneityamongblue-conemonochromats.AmJHumGenet53:987-1000,199323)WangY,MackeJP,MerbsSLetal:Alocuscontrolregionadjacenttothehumanredandgreenvisualpigmentgenes.Neuron9:429-440,199224)GardnerJC,MichaelidesM,HolderGEetal:Blueconemonochromacy:causativemutationsandassociatedphenotypes.MolVis15:876-884,20097)PokornyJ,SmithVC,VerriestG:CongenitalColorDefects.In:PokornyJ,SmithVC,VerriestG,PinckersAJ(ed):CongenitalandAcquiredColorVisionDefects.p183-241,Grune&Stratton,NewYork,19798)VarsanyiB,SomfaiGM,LeschBetal:Opticalcoherencetomographyofthemaculaincongenitalachromatopsia.InvestOphthalmolVisSci48:2249-2253,20079)CarrollJ,ChoiSS,WilliamsDR:Invivoimagingofthephotoreceptormosaicofarodmonochromat.VisionRes48:2564-2568,200810)KohlS,MarxT,GiddingsIetal:Totalcolourblindnessiscausedbymutationsinthegeneencodingthealpha-subunitoftheconephotoreceptorcGMP-gatedcationchannel.NatGenet19:257-259,199811)SundinOH,YangJM,LiYetal:GeneticbasisoftotalcolourblindnessamongthePingelapeseislanders.NatGenet25:289-293,200012)KohlS,BaumannB,BroghammerMetal:MutationsintheCNGB3geneencodingthebeta-subunitoftheconephotoreceptorcGMP-gatedchannelareresponsibleforachromatopsia(ACHM3)linkedtochromosome8q21.HumMolGenet9:2107-2116,200013)AligianisIA,ForshewT,JohnsonSetal:Mappingofanovellocusforachromatopsia(ACHM4)to1pandidentificationofagermlinemutationinthealphasubunitofconetransducin(GNAT2).JMedGenet39:656-660,200214)KohlS,BaumannB,RosenbergTetal:MutationsintheconephotoreceptorG-proteinalpha-subunitgeneGNAT2inpatientswithachromatopsia.AmJHumGenet71:422-425,200215)ChangB,GrauT,DangelSetal:Ahomologousgeneticbasisofthemurinecpfl1mutantandhumanachromatop