‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ挿入後のLASIKによる タッチアップ

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119970910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)屈折型ArrayR(保険適用)は2002年にわが国で認可され,2007年に屈折型ReZoomR(AMO社)が,2008年に回折型ReSTORR(Alcon社),回折型TECNISTM(AMO社)が先進医療として認可された.近年の白内障手術は,種々のIOLが開発され屈折矯正手術の一つといえるほど,術後視力を追求することができる時代になった.さらに多焦点眼内レンズ手術は,従来の白内障手術治療よりも付加価値の高い手術治療であり,先進医療となったことで老視の治療も兼ねた屈折矯正手術と位置付けることができ,患者の期待もさらに高くなっている.そのため,乱視の少ない症例など適応を絞り手術を行う場合が多い.しかし,LASIK(laserinsitukeratomileusis)1,2)や角膜輪部減張切開(LRI)3,4)を行うことで,手術適応が広がると考えられる.患者に,術後に屈折誤差や乱視が残る場合はLASIKによるタッチアップを行う選択肢があることをあらかじめ説明しておくと,スムーズに矯正治療ができる.また,LASIKを行っている施設に紹介したり,オープンで利用するのも一つの方法だと思われる.●当院でのアプローチ当院では,角膜耳側切開による白内障手術を行い,乱視の強い症例では術中にLRIを施行している.当院における多焦点IOL症例の約30%にLRIが行われている(藤本可芳子:第64回日本臨床眼科学会インストラクションコースIC-55で発表,2010).術後乱視や屈折異常が残れば,LASIKによるタッチアップを行っている.使用機種は,NIDEK社製EC-5000(ソフトバージョンは常時更新)とマイクロケラトームMK-2000を使用し,EC-5000の照射パターンは,OPD-CustomAblationで,いわゆるトポグラフィリンクのカスタムアブレーションを行っている.多焦点IOLの場合,全屈折の収差測定がむずかしく,評価がまだ十分に行われていないので,角膜上の屈折矯正治療を行っている.実際に,多焦点IOL術後にどのくらいLASIKタッチアップが必要であったかを確認すると,2002年3月から2010年7月まで多焦点IOL手術を施行した694眼のうち,LASIKタッチアップを行ったのは2007年3月から2010年12月までで22例32眼と多焦点IOL手術件数の約5%であった.タッチアップは多焦点IOL術後,3カ月以上経過し屈折値が安定してから行った.通常のLASIKよりも高齢者に行うことが多かったが,手術中,術後の合併症は認めていない.以下にタッチアップ症例を例示する.●症例〔症例1〕26歳,女性.アトピー性白内障で左眼に回折型多焦点IOLを挿入,術後1カ月後の視力は,(93)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載134監修=木下茂大橋裕一坪田一男134.多焦点眼内レンズ挿入後のLASIKによるタッチアップ藤本可芳子フジモト眼科多焦点眼内レンズで良好な術後遠近裸眼視力を得るには,術後の屈折誤差を少なくすることが必要である.術後に屈折誤差がある場合は,タッチアップ(追加矯正)が必要である.LASIK(laserinsitukeratomileusis)によるタッチアップの実際を紹介する.術前術1カ月後図1症例1(左眼):タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィ(上)と角膜収差(下)998あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011LV=(0.8p×IOL()1.2×sph+1.00D(cyl?0.50DAx20°×IOL)NLV=(0.5×IOL()1.0×sph+1.00D(cyl?0.50DAx20°×IOL)手術3カ月後にタッチアップを施行した.矯正量は+1.0D(cyl?0.5DAx30°で,角膜切除量は17.5μmであった.術後1カ月視力は,LV=(1.0×IOL()1.0×sph+0.50D(cyl?0.50DAx70°×IOL)NLV=(1.0×IOL),1年後LV=(1.5×IOL()n.c.),NLV=(1.0×IOL)(n.c.)であった.タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィと角膜収差を図1に示す.〔症例2〕51歳,女性.両眼強度近視のため,IOL製造範囲で適切な度数がなく,屈折型多焦点IOL+6Dを挿入,術後1カ月後の視力は,RV=(0.8×IOL()1.0×sph?0.50D(cyl?1.00DAx180°)LV=(0.6×IOL()0.9p×sph+0.50D(cyl?2.00DAx10°)NRV=(0.3×sph?0.75D(cyl?1.00DAx175°)NLV=(0.3×sph±0D(cyl?2.00DAx180°)手術3カ月後にタッチアップを施行した.矯正量は右)sph?1.0D(cyl?1.0DAx175°,最大深度33.6μm,左)sph±0D(cyl?1.5DAx180°,最大深度35.8μm.タッチアップ1カ月後の視力は,RV=(0.8×IOL()1.0×sph+0.50D(cyl1DAx1°×IOL)LV=(0.8×IOL()0.9×sph±0D(cyl?0.50DAx50°×IOL)NRV=(0.5×IOL)(0.7×sph+2.5D×IOL)NLV=(0.6×IOL)(0.7×sph+2.5D×IOL)タッチアップ1年後は,RV=(1.0×IOL)(n.c.)LV=(1.0p×IOL)(n.c.)NRV=(0.6×IOL)(0.7×sph+2.00D×IOL)NLV=(0.7×IOL)(0.8×sph+2.00D×IOL)タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィと角膜収差を図2に示す.両症例とも現在,眼鏡を使用せず裸眼で生活が可能である.LASIKを行うことで,通常高次収差が増加するといわれているが,今回の症例では,術前後で角膜収差の有意差はみられなかった.文献1)中村邦彦:多焦点IOL術後のタッチアップ.あたらしい眼科25:331-332,20082)大谷伸一郎,宮田和典,阪上祐志ほか:白内障手術における乱視矯正同時手術適応.IOL&RL15:142-145,20013)ビッセン宮島弘子:多焦点眼内レンズと乱視矯正.あたらしい眼科25:1093-1096,20084)福山会里子:白内障手術における乱視矯正.IOL&RS21:485-491,2007(94)術前術1カ月後右眼左眼右眼左眼図2症例2:タッチアップ術前後のOPDによるトポグラフィ(上)と角膜収差(下)

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズの度数ずれ

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119950910-1810/11/\100/頁/JCOPY多焦点眼内レンズ(IOL)挿入術後患者において,術後の度数ずれ(残余屈折異常)は不満の主原因の一つであることが報告されている1).多焦点IOLの場合は,眼鏡装用率を下げることが使用の主目的であるため,残余屈折異常による裸眼視力不良は不満の主原因となるのは当然である.また,残余屈折異常があると,グレアやハローなども強くなるため,これも不満の原因となる.以下,多焦点IOL挿入術後の残余屈折異常への対処法について述べる.インフォームド・コンセント生体計測の精度および手術手技の改良により,近年,IOL度数予測精度は以前よりも向上し,手術による惹起乱視は減少しているが,皆無ではない.多焦点IOL使用の際には,術前に「術後残余屈折異常はある程度避けられないものである」ことを説明し,術後対処が必要になる可能性があることについて,あらかじめ同意を得ておくことは非常に重要なステップである2,3).術前にすでに「術後の対処」は始まっているといっても過言ではない.球面誤差への対処球面値の誤差は,裸眼視力に影響し,患者の不満の原因となる.多焦点IOLを希望する患者では,眼鏡やコンタクトレンズによる矯正を好まない場合も多いので,保存的方法で満足が得られない場合は,再手術も考慮する2,3).エキシマレーザーのある施設では適応があればlaserinsitukeratomileusis(LASIK)などの屈折矯正手術による矯正が有効である4).エキシマレーザーがなく,度数ずれの程度が大きい場合は,IOLを交換する.IOLを交換する場合には惹起乱視により,術後裸眼視力が低下しないように,切開位置や創の縫合などに留意する.筆者らは,多焦点IOL挿入患者の場合,術後の球面誤差は±0.5D以内を目標とすべきであると考えている.乱視への対処法術後乱視は裸眼視力に影響し,特に倒乱視は0.5Dを超えると,視力が良好であっても患者が見えにくさを訴えることがある.エキシマレーザーをもつ施設では,LASIKなどの屈折矯正手術が有効である4).エキシマレーザーがないなどの場合は,輪部減張切開(limbalrelaxingincision:LRI)が有効である5)との報告もある.治療時期多焦点IOLは遠近2つの像が同時に網膜上に映るいわゆる同時視型であり,多焦点IOLが視機能の最大のポテンシャルを発揮するためには数カ月必要である6)こと,順応する能力とその期間は人によってさまざまで,トレーニングにより増強される7)と報告されている.順応するまでの間は,残余屈折異常の影響がなくても,近方視力が不良であったり,見え方に違和感を覚えたりすることがあるので,残余屈折異常の度数が小さく,患者の不満の程度が軽ければ,しばらく経過観察をする.逆に残余屈折異常を眼鏡矯正することにより,遠近の視力が明らかに向上し,自覚的な見え方も改善するのであれば,インフォームド・コンセントのうえで術後の追加治療を考慮する.特に治療としてLASIKを選択する場合は,術後屈折の安定とフラップ作製時の眼球圧迫に耐えうる白内障手術の切開創閉鎖のため,多焦点IOL挿入術後3カ月以上経過してからLASIKを行うという報告がある8,9).筆者らの施設は,原則として術後3カ月間は保存的な経過観察期間をとるようにしている.(91)●連載⑲多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子19.多焦点眼内レンズの度数ずれ鳥居秀成根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科多焦点眼内レンズ挿入術後の度数ずれ(残余屈折異常)は不満の主原因となりえる.対処法としては,眼鏡やコンタクトレンズによる保存的治療と,眼内レンズ交換,輪部減張切開術,エキシマレーザー手術などの観血的治療がある.観血的治療は,術後屈折の安定や多焦点機構順応期間も考慮して術後しばらく経過観察してから行うべきである.996あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011症例表1に,多焦点IOL挿入後の度数ずれに対しLASIKを行った当科の代表症例を示す.LASIK術後の高い満足度が得られた.トポグラフィ(図1)でLASIK術後角膜乱視が軽減していることがわかる.文献1)WoodwardMA,RandlemanJB,StultingRD:Dissatisfactionaftermultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:992-997,20092)根岸一乃:【多焦点眼内レンズ】特性と合併症への対処.眼科52:773-777,20103)根岸一乃:【新しい時代の白内障手術】高機能眼内レンズ高機能レンズ時代のインフォームド・コンセント.臨眼64(増刊):204-210,20104)MuftuogluO,PrasherP,ChuCetal:Laserinsituker-(92)atomileusisforresidualrefractiveerrorsafterapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg35:1063-1071,20095)MuftuogluO,DaoL,CavanaghHDetal:Limbalrelaxingincisionsatthetimeofapodizeddiffractivemultifocalintraocularlensimplantationtoreduceastigmatismwithorwithoutsubsequentlaserinsitukeratomileusis.JCataractRefractSurg36:456-464,20106)KaymakH,FahleM,OttGetal:IntraindividualcomparisonoftheeffectoftrainingonvisualperformancewithReSTORandTecnisdiffractivemultifocalIOLs.JRefractSurg24:287-293,20087)PeposeJS:Maximizingsatisfactionwithpresbyopia-correctingintraocularlenses:themissinglinks.AmJOphthalmol146:641-648,20088)ビッセン宮島弘子:【多焦点眼内レンズ】多焦点眼内レンズと乱視矯正.あたらしい眼科25:1093-1096,20089)中村邦彦:【新しい時代の白内障手術】高機能眼内レンズ屈折誤差への対応球面度数と乱視両方のずれ.臨眼64(増刊):196-203,2010☆☆☆表1代表症例(56歳,男性)IOL術前視力(多焦点IOL挿入3カ月後)目標矯正量LASIK後視力(1カ月後)右眼AMOZMA00遠方VD=1.0(1.5×+0.75D(cyl?1.50DAx165°)近方VD=0.6(1.0×+0.75D(cyl?1.50DAx165°)+1.50D(cyl?1.50DAx170°遠方VD=1.6(2.0×+0.50D(cyl?1.00DAx45°)近方VD=1.0(n.c.)左眼AMOZMA00遠方VS=0.8(1.5×+0.50D(cyl?1.25DAx175°)近方VS=0.9(1.0×+0.50D(cyl?1.25DAx175°)+0.50D(cyl?1.25DAx175°遠方VS=1.6(n.c.)近方VS=1.0(n.c.)図1代表症例のトポグラフィA:LASIK術前,B:LASIK術後.LASIK術後角膜乱視が軽減していることがわかる.AB

眼内レンズ:半円式CCC マーカー

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119930910-1810/11/\100/頁/JCOPY白内障手術は近年劇的に進歩してきている.混濁した水晶体を摘出する開眼手術の時代は終わりを告げ,より人体に近い状態にするためにマルチフォーカル眼内レンズや屈折矯正の意味合いをもつトーリック眼内レンズ,そして近年では調節力眼内レンズなどさまざまな眼内レンズが登場している.眼内レンズの付加機能を最大限に活用するためには眼内レンズの安定性と後発白内障の予防が最も重要であることはいうまでもない.これらの条件を満たすためには白内障手術時におけるcontinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)は非常に重要な意味をもつ.眼内レンズのシャープエッジが後発白内障予防に有効であることが報告されている1)が,シャープエッジの効果を最大限に引き出すためにはCCCの大きさと形が重要である.近年ではフェムトセカンドレーザーによりCCCを作製するという方法も報告されてきているが,まだまだ発展途上であり普及するまではしばらく時間を要するであろうと思われる.CCCを作製する際に,正確な大きさと形を規定するには経験的な部分に頼ることが多いが,極大散瞳症例などはCCCの大きさをイメージしにくい場合がある.そ(89)のため,適切なCCCを作るためには作製前のマーキングが有効であると考えられる.現在,市販されているCCCマーカーで頻用されているのは角膜にマーキングをするものである2)が,角膜へのマーキングは前房深度や角膜形状の違いにより実際に水晶体にできる大きさとは異なる.また,CCCを作製する際に眼球が動くことにより水晶体へのトレースがしにくい場合もある.そして,角膜への染色はその後の操作に多少なりとも透見性の低下などのやりにくさを感じることもある.これらの問題を解決するには水晶体へのマーキングが最善であると考えられる.過去の報告ではPMMA(ポリメチルメタクリレート)製のリングを水晶体表面に留置しながらCCCを作製する方法がある3,4)が,手技が煩雑であり,またPMMA製であるために使い捨てであり,一般的に用いるのはなかなか困難である.そこで,筆者らは前房内で6mm前後の円をマーキングするためには半円を2つ組み合わせることで可能であろうと考えた.半円であれば小切開からでも器具の挿入が容易であり,手技も煩雑でない.まず,3時方向のサイドポートからヒーロンVTMを鈴木久晴*1志和利彦*2小原澤英彰*1高橋浩*2*1日本医科大学武蔵小杉病院・眼科*2日本医科大学眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎299.半円式CCCマーカーContinuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)は現在の水晶体再建術では非常に重要な部分を占めている.マーカーはCCCの正確な大きさと形を規定するために有効であるが,現在使用されているものは角膜へマーキングするものが主流である.筆者らは,半円を2つ組み合わせることで水晶体上に直接マーキングができる器具を開発したので,その使用法と経験を報告する.図1半円を水晶体面に押し付ける.図2もう一方の半円を水晶体面へ押し付ける.図3前?鑷子にてCCCを作製する.注入後,2.8mmの強角膜切開創を作製し,半円式のCCCマーカーの水晶体に接触する面のみにピオクタニンを塗布し,軽く乾燥させた後に前房内に挿入する.水晶体上に半円をマーキングした(図1)のちに,器具の反対側についたもう一方の半円により同様にマーキングし(図2),2つの円を組み合わせることにより円を作製する.その後,前?鑷子を用いてCCCを作製する(図3).ピオクタニンを塗布後に軽く乾燥させる理由は,器具の挿入時に切開創で色素が取れてしまう場合があるからである.ただし,ピオクタニンによる前?の染色が不完全であっても,水晶体へある程度圧痕ができるという点と,CCC作製直前に散瞳した虹彩と,CCCの大きさの関係をイメージすることができるため,適切なCCCを作製する際に有効であると考える.現在まで,筆者らは5.5mmと6mmの半円式CCCマーカーを使用しているが,全例でCCCは眼内レンズに対してcompletecoverとなりCCCの大きさも適切なサイズとなっている.5.5mmの半円式CCCマーカーは染色もしくは圧痕上をトレースするようにCCCを作製していく.この際に水晶体への圧痕がある程度維持できている場合は,CCCの切開線がその溝に落ち込むような感覚でCCCのラインを作製することができる.また,6mmのマーカーの場合はマーキングのやや内側を狙ってCCCを作製していく.現在では,当施設では2.8mm強角膜切開を中心に手術をしているが,2.4mmの切開創において5.5mmのマーカーが挿入可能であることも確認している.最後に半円式CCCマーカーの使用上のコツであるが,半円の外側を切開創の端に沿うような形で挿入していくと容易に挿入できる.また,取り出す際に多少切開創に引っ掛かる感覚があっても,あわてずに左右にゆっくりと振りながら引いてくると容易に取り出すことができる.そして,使用する粘弾性物質はヒーロンVTMなどの眼内滞留性の優れたものを使用することをお勧めする.文献1)NishiO,NishiK,WickstromK:Preventinglensepithelialcellmigrationusingintraocularlenseswithsharprectangularedges.JCataractRefractSurg26:1543-1549,20002)WallaceRBIII:Capsulotomydiametermark.JCataractRefractSurg29:1866-1868,20033)JasinskasV,GaldikasA,ZemaitieneR:Novelcapsulotomydiametermarkingcapability.JCataractRefractSurg31:1675,20054)TassignonM-J,RozemaJJ,GobinL:Ring-shapedcaliperforbetteranteriorcapsulorhexissizingandcentration.JCataractRefractSurg32:1253-1255,2006

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 コンタクトレンズ処方前検査 ─眼瞼形状などの検査はここまで必要

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119910910-1810/11/\100/頁/JCOPYコンタクトレンズのフィッティングには,角膜や結膜の形状だけでなく,眼瞼の形状や,瞼裂幅,眼瞼圧,瞬目の状態などが影響する.検査は視診となる.診察室に入ってきた患者の眼をしっかりと観察し,レンズの選択を考える必要がある.①瞼裂幅瞼裂幅が大きい場合は,角膜径も大きいことが多く,大きな直径のレンズを選択する.逆に瞼裂幅が小さい場合は,角膜径も小さいことが多く,小さな直径のレンズを選択する.②眼瞼形状上がり目(つり目)ではレンズが内方へ回旋しやすくなり,下がり目(たれ目)ではレンズが外方へ回旋しやすくなる.正面視で下方球結膜が露出している,いわゆる下三白眼(図1)では,レンズが下方へ偏位しやすくなる.大きな直径のレンズを選択するなどの工夫が必要である.③眼瞼の厚み上眼瞼が厚く,上眼瞼を反転するとき,抵抗が強いような症例では眼瞼圧が高い.このような症例では,上眼(87)瞼がレンズをくわえ込んでレンズが上方に偏位しやすいので,センタリングがむずかしい.また,上方のエッジ部が圧迫されやすいので,角結膜に圧痕が付かないよう,特に上方の観察を注意深く行う.標準の直径のレンズで上手くいかないときには,直径,ベースカーブに工夫が必要で,トライ&エラーで行う.逆に,下眼瞼が厚く,張り出しが強い症例では,レンズのエッジが眼瞼を刺激しやすく,異物感が出やすくなるため,小さめの直径のレンズを選択する.④瞬目の状態瞬目が少ない,あるいは瞬目が浅い状態では,レンズが乾燥しやすく,レンズの静止位置(レストポジション)が偏位したまま,固着する場合がある.意識的に,深い瞬目をしっかりするように指導し,場合によっては,人工涙液の点眼を併用する.眼瞼の厚みや形状によっては,直径やベースカーブを工夫しても,レンズの静止位置が上方に偏位する場合や,逆に下方に偏位して,固着する場合も多い.サンコンタクトレンズ社では,レンズ調整によってコンタクトレンズの静止位置を安定させるよう,自社レンズを加工するサービスがある.また,カスタムレンズのオーダーの際には,眼瞼の形状に関する情報を送り,そのデータを参考にレンズが作製される.【レンズが下方偏位する場合】MZ加工:レンズ前面の周辺部に,リング状の溝加工をすることにより,レンズの表面と上眼瞼との涙液メニスカスを増すことで,レンズを上方へ引き上げやすくする.ただし,場合によっては異物感を感じたり,溝の部分に汚れが付きやすくなるので,注意が必要である(図2,3).【レンズが上方偏位する場合】フロントカット:レンズ前面のフロントベベルを薄く加工することで,上眼瞼の,レンズのくわえ込みによる月山純子医療法人博寿会山本病院眼科/近畿大学医学部眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】325.コンタクトレンズ処方前検査─眼瞼形状などの検査はここまで必要図1下三白眼レンズが下方に偏位しやすい.992あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(00)影響を少なくし,上方への引き上げを抑える(図4,5).(図2?5はサンコンタクトレンズ社より提供.)図4上眼瞼のくわえ込みにより,レンズが上方に偏位する場合(左)フロントカット後(右).フロントカットの施行で,上眼瞼のくわえ込みを少なくすることにより,レンズの静止位置が中央で安定.図2レンズが下方に偏位する場合(左)MZ加工後(右).MZ加工により,レンズの静止位置が中央で安定.図3MZ加工周辺部のレンズ前面に溝を入れる.エッジエッジリフトフロントベベルIC内面非球面ベベルフロントカーブベースカーブIC=IntermediatecurvePC=PeripheralcurvePC図5フロントカットフロントベベルの厚みを薄くする.エッジエッジリフトフロントベベルPCIC内面非球面ベベルフロントカーブベースカーブIC=IntermediatecurvePC=Peripheralcurve

写真:関節リウマチの化学療法中にみられた虹彩悪性リンパ腫

2011年7月31日 日曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119890910-1810/11/\100/頁/JCOPY(85)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦326.関節リウマチの化学療法中にみられた虹彩悪性リンパ腫西田雅宏*1山口昌彦*2*1愛媛県立中央病院眼科*2愛媛大学大学院高次機能制御部門感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学)図1虹彩悪性リンパ腫の初診時前眼部所見(49歳,女性)4時から8時にかけて著明な虹彩の膨隆がみられ,無数の角膜後面沈着物が認められる.下方の前房はほぼ消失し瞳孔の変形と偏位が生じている.①②④③図2図1のシェーマ①:瞳孔の変形・偏位.②:角膜後面沈着物.③:前房消失.④:虹彩膨隆.図3前眼部OCT(光干渉断層計)所見7時の断面で,二峰性の著明な虹彩腫瘤がみられ,周辺部側は角膜内皮と接触している.図4図1の治療後13カ月の前眼部所見麻痺性散瞳は残っているが,虹彩は平坦化し再発は認められない.990あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(00)眼内悪性リンパ腫は原発性と続発性に分けられ,原発性は中枢神経悪性リンパ腫の一亜型で,後眼部を中心とした硝子体網膜に病巣を形成しやすく,仮面症候群と称されてぶどう膜炎との鑑別がしばしば問題になる.続発性は全身悪性リンパ腫からの転移で,前眼部を中心としたぶどう膜に病巣を形成しやすいといわれている1)が,虹彩に転移した報告はまれである2).症例は49歳の女性.関節リウマチ(RA)に対して,メトトレキサート(MTX,リウマトレックスR)内服と2カ月ごとにインフリキシマブ(レミケードR)の点滴治療を受けていた.産婦人科で子宮悪性リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)のため子宮全摘術を受けたが,その約3カ月後,左眼に角膜後面沈着物と前房内細胞2+を認め,近医でステロイド点眼による加療を受けたが軽快しないため当科受診となった.初診時(2010年2月17日),左眼角膜後面沈着物,前房内細胞,下方虹彩の隆起性病変を認め,前眼部OCT(光干渉断層計)で7時部の虹彩腫瘤とUBM(超音波生体顕微鏡)で毛様体病変を確認できた(図1).前房水の病理学的検索にて腫瘍細胞は認められなかったが,PET-CT(陽電子放射物断層撮影-コンピュータ断層撮影)で左眼前眼部の集積,前房水のインターロイキン(IL)-10/IL-6比が31.86(IL-10=2,326pg/ml,IL-6=73pg/ml)と高値であり,病歴から考えて悪性リンパ腫の虹彩転移が強く疑われた.その後,患者側の事情により経過観察していたが,4月14日,腫瘤は増大し,視力(0.3)と低下してきたため,リツキシマブ(リツキサンR)による治療を計6クール施行した.治療後,虹彩腫瘤は速やかに縮小し,麻痺性散瞳は残存するものの,視力(1.5)に回復した(図3).近年,RAに対するMTX投与中にMTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)が発症することが問題になっている.0.5?5年間(平均約3年間)の投与で発症するといわれており,通常の悪性リンパ腫と異なり,リンパ節外発症が40?50%で,病理学所見はびまん性大細胞型B細胞とHodgkinリンパ腫が多いとされている3).また,本症例ではMTXに加え,レミケードRも投与されていた.レミケードRはキメラ型抗腫瘍壊死因子a(TNFa)抗体でRA,クローン病などの治療に用いられている.眼科領域ではBehcet病のぶどう膜炎に適応がある.実際にレミケードR投与中に悪性リンパ腫などを発症した報告例があり3),発生頻度はリウマチ学会などで現在調査中である.近年,RAに対する化学療法の進歩にはめざましいものがあるが,本症例のように虹彩を含めたぶどう膜における悪性リンパ腫の発症があることも知っておく必要があると思われる.MTX-LPDの治療としては,MTXを中止すれば約30?40%自然退縮することがある4)が,臨床症状の改善が認められない場合は,リツキシマブなどによる化学療法の適応になる.文献1)安積淳:眼内リンパ腫.眼科プラクティス16:224-229,20072)松井敬子,鎌尾知行,安積淳:血管新生緑内障で初診した転移性眼内悪性リンパ腫の1例.日眼会誌109:434-439,20053)GaulardPetal:Otheriatrogenicimmunodeficiencyassociatedlymphoproliferativedisorders.WHOClassificationofTumoursofHaematopoieticandLymphoidTissues,p350-351,IARCPress,Lyon,20084)高橋恵美子:他の医原性免疫不全関連リンパ増殖異常症.WHO血液腫瘍分類?WHO分類2008をうまく活用するために?,p549-552,医薬ジャーナル社,2010

総説:老視の定義と診断基準2010

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY伸長とともに,中高年齢者の良好な視力保持への期待も高まっている.情報化により社会の医療に対する要求や期待もより高いものとなりつつある.従来,老視は近用眼鏡,二重焦点レンズ,あるいは累進屈折力レンズで対処されてきた.現在ではそれらに加I老視の定義・診断基準作成の経緯手術手技の向上,医療器具の改良などにより,白内障手術ならびにレーザー角膜屈折矯正手術における屈折矯正の精度は急速に進歩してきた.同時に,寿命の急激な(81)985*TakeshiIde:南青山アイクリニック/慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕井手武:〒107-0062東京都港区北青山3-3-11ルネ青山ビル4階南青山アイクリニックあたらしい眼科28(7):985?988,2011c総説老視の定義と診断基準2010DefinitionandDiagnosticCriteriaofPresbyopia2010井手武*(老眼研究会**)**老眼研究会:不二門尚・前田直之(大阪大学),大鹿哲郎(筑波大学),ビッセン宮島弘子(東京歯科大学水道橋病院),黒坂大次郎(岩手医科大学),井手武・戸田郁子(南青山アイクリニック/慶應義塾大学),荒井宏幸(みなとみらいアイクリニック),岡本茂樹(岡本眼科クリニック),稗田牧(京都府立医科大学),魚里博(北里大学),根岸一乃・坪田一男(慶應義塾大学)(順不同)老視治療に対する医学的・社会的要求は高まりつつある.しかしながら現在,医師と患者,ならびに研究者間で議論するうえでの明確な定義,診断基準が定められていない.そこで,今後の患者説明や研究の統一性を考え,またわが国におけるこの分野の発展をより科学的に充実したものとするために,老視の定義と診断基準を検討し提案することとした.定義については“Age-RelatedLossofAccommodation”すなわち「加齢による調節幅の減退」とした.同時に,老視は近見視力向上の介入が必要な状態と考え疾患とした.診断基準は,患者の症状と診断との間に乖離を生じないよう,「臨床的老視」と,「医学的老視」の2つを作成した.前者は自覚症状を有し「40cm視力が0.4未満」.後者は,自覚症状と無関係に「片眼完全矯正下で調節幅が2.5D未満」とした.Althoughtheneedforpresbyopiacarehasincreased,asyetnocleardefinitionorcriteriahavebeenestablishedthatwouldenablediscussionofpresbyopiabetweenophthalmologistsandtheirpatients,orwithresearchers.Toalleviatethissituation,thePresbyopiaSocietyinJapansoughttoestablishaunifieddefinitionanddiagnosticcriteriaforpresbyopia.Ourgroupdefinespresbyopiaas“age-relatedlossofaccommodation.”Additionally,toavoiddiscrepanciesbetweenpatients’complaintsandthesecriteria,wedevelopedtwoseparatedefinitions:clinicalandmedicalpresbyopia.Bothassumethatthepatientisfreefromanydiseasesthatcouldaffectaccommodation,apartfromaging.Clinicalpresbyopiaisdefinedasbilateraldecimalnearvisionoflessthan0.4at40cm,withthepatient’scomplaint.Medicalpresbyopiaisdefinedasunilateralaccommodationoflessthan2.5diopters,regardlessofsubjectivecomplaints.Significantly,thisenablesthediagnosisofpresbyopiawithouttheneedforspecialinstrumentsortechniques.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(7):985?988,2011〕Keywords:老視,調節,定義,診断基準,近見視力.presbyopia,accommodation,definition,diagnosticcriteria,nearvision.986あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(82)えて,二重焦点コンタクトレンズ,伝導性角膜形成術(conductivekeratoplasty)などの角膜での治療や,多焦点眼内レンズ,調節型眼内レンズなどの水晶体での治療,あるいはモノビジョン法などが行われるようになってきた.さらに近年ではフェムト秒レーザーにより,角膜や水晶体に介入して老視を治療する概念なども導入され,さまざまな新しい老視治療への取り組みが始まっている1~5).眼科領域においては“TheLastMajorChallenge”という表現もされるほど,将来が期待される老視治療だが,「老視とは何か?」という基本的な考え方や,老視発症機序において大きな役割を占める調節の機構についてもいまだ諸説あり,見解の一致を得ていない6).老視の定義や診断基準でさえ専門家の合意を明確に得たものが存在しないなかで,診断・治療・研究が行われている現状である7).定義と診断基準が確立されない限り,治療の有効性を客観的に評価することはできない.また,眼科として統一見解がない状態では,施設や眼科医ごとに対応が異なり,患者に不安や不満を生じさせてしまう危惧さえある.このような経緯から,2008年に老眼研究会が設立され,議論の末,2010年6月の研究会において,老視の定義・診断基準について下記の内容で合意が得られた.本稿では,2010年11月時点での老眼研究会が提案する老視の定義・診断基準について説明する.II老視の定義・診断基準作成にあたっての留意点以下の点に留意して作成を行った.1.国際レベルを目指した老視の定義世界において,AmericanAcademyofOphthalmologyによる定義8)“Age-RelatedLossofAccommodation”など,いくつかの定義はみられるものの,国際的な合意を得た定義はいまだ存在していない.将来的に本研究会の定義が国際的にも受け入れられることを視野に入れて討議し,定義を作成することとした.2.診断基準における検査法老視の診断に用いる検査法として,瞳孔反応,毛様体筋の動きや,水晶体の位置などを観察できる機器など,さまざまな専門的方法が存在する.しかし,いかに優れた検査法であっても,限られた施設でしか行うことができなければ,疾患の性質上診断基準の価値をもたないと考え,今回の診断基準には,2010年時点で一般の眼科施設に普及している,あるいは入手可能な検査機器で行える検査法を用いることとした.さらに簡便法を追加して,広く一般の眼科施設において特殊機器を用いることなく診断できるように配慮した.今後,新たな検査法が進歩・普及すれば,診断基準における検査法の変更も随時検討していくことが望ましい.3.診断基準と閾値老視はこれまで,主訴や自覚的検査を元に診断がなされていた.そのため,個々の検査の感度・特異度は十分ではなく,再現性にも問題がある.汎用に使用されている調節幅や近見視力の閾値についても,これまで国際的に合意の得られた基準はない.本来は科学的根拠に基づいて定めるべきであるが,まずは本研究会で仮に定めることとした.今後の老視研究の進展によって閾値や基準は見直していく必要がある.III老視の定義と診断基準老眼研究会によって合意の得られた老視の定義は,「加齢による調節幅の減退(Age-RelatedLossofAccommodation)」である.眼科医の間ではこれで問題はないが,一般の人々には難解と考えられることから,一般社会に向けた定義として,「老視とは加齢によりはっきり見える範囲が狭くなった状態」と定めた.また,老視は対処しなければ日常生活に差し支える状態であり,何かしらの介入が必要であることから,疾患と考えることとした(表1).老視の診断基準に自覚症状を含めることは可能であるが,主訴のみ採用するのか,医師が質問するのか,あるいは問診表を使用するのかによって,自覚症状は左右されることが予測される.また,他覚的検査の結果が同一でも,自覚症状は患者ごとに異なる可能性があるが,まずは他覚的検査法のみで診断基準を暫定的に作成することとした.表1老視の定義加齢に伴って調節幅は減退する病態(Age-RelatedLossofAccommdation)老視は疾患である(83)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011987今回定めた診断基準は,若年性白内障や調節麻痺を惹起する疾患など加齢以外で調節が減退する疾患を有さず,矯正視力1.0以上を有する者において,通常の視力検査の照明条件下,片眼完全矯正下で調節幅が2.5D未満.もしくはアコモドメータなどを保有していない施設を考慮し,簡便法として片眼完全矯正下で40cm視力が0.4未満の条件を満たすものとした.この診断基準のポイントは,医学的老視の診断には調節幅を測定する必要があることを明確にし,簡便法として近見視力を採用した点である.なお,近見に40cmを用いているのは,欧米では16インチで近見距離を規定しており,これをcm換算すると40.6cmであることから,40cmと定めた9~11).加えて旧来の30cm近見視力表でも対応できるように換算表も提示することとした(表2).片眼完全矯正下で調節幅が減退しても,老視の自覚症状をもたない者もいる.そのような者に対して「あなたは困っていなくても老視だ」と診断するのは現実的でないとの見地から,表3のように「臨床的老視」の診断基準を別に設けることとした.大きな違いは,医学的老視は「片眼完全矯正下の検査で,自覚症状の有無に関係なく調節幅の減少を示す」,臨床的老視は「遠見に関して日常と同じ視力条件において,両眼検査で近見視力の低下を自覚症状として有する」ということである.このような,日常生活と同じ条件で測定した両眼遠見視力を生活視力と定義した.医学的老視には調節幅の測定が必要であるが,アコモドメータなどを保有していない施設を考慮し,簡便法として近見視力を設定した.しかし,医学的老視の診断基準には調節幅で判断するという根底が存在するので,簡便法で近見視力が基準を満たしていても,理論的に調節幅が狭い場合には医学的老視と診断する.以下に例を呈示する.白内障手術時に多焦点眼内レンズを挿入し,両眼での40cm近見視力が0.4以上,日常生活に満足している場合では,老視の自覚症状はなく,近見視力も0.4以上であるので臨床的老視ではない.しかし調節幅を上げているわけではないので医学的老視であることになる(簡便法で近見0.4以上だとしても理論的に調節力を上げているわけではないので医学的老視とする).つぎの例として,不同視,あるいは白内障手術やLASIK(laserinsitukeratomileusis)などによりモノビジョンの状態である場合,両眼での40cm近見視力0.4以上,日常生活に満足している患者では,自覚症状はなく視力も0.4以上であるので臨床的老視と診断されない.しかし片眼の調節幅が2.5D未満であれば医学的老視と診断される.IVまとめ本研究会において,老視の定義・診断基準を提案した.会員間で議論が分かれた点もあり,すべてにおいて完全合意がなされてはいないが,今回の定義と診断基準は世界の趨勢と矛盾せず,そのスタートラインとしての役割は十分に果たしうると考える.老視治療は今後急速に進み,普及していくものと予測される.臨床的老視と医学的老視の2つの診断基準,および医学的老視の診断基準における簡便法が,今後の老視研究の活性化に有意義なものとなることを期待する.表230cm視力表から40cm視力表における視力値換算表─30cmの近点視力表を40cmで使用したときの視力値─30cm視力表の視力40cm換算近見視力0.10.130.20.270.30.400.40.530.50.670.60.800.70.930.81.070.91.2011.331.21.601.52.0022.67表3医学的老視と臨床的老視医学的老視臨床的老視測定条件片眼完全矯正下両眼生活視力自覚症状有無は問わない近見視力障害有り診断基準調節幅2.5D未満*40cm視力0.4未満*医学的老視は基本は調節幅2.5D未満であるが,アコモドメータなどを有さない場合に簡便法として40cm視力0.4未満を用いてもよい.988あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(84)文献1)RuizLA,CepedaLM,FuentesVC:Intrastromalcorrectionofpresbyopiawithafemtosecondlasersystem.JRefractSurg25:847-854,20092)DuTT,FanVC,AsbellPA:Conductivekeratoplasty.CurrOpinOphthalmol18:334-337,20073)RehanyU,LandaE:Diodelaserthermalkeratoplastytocorrecthyperopia.JRefractSurg20:53-61,20044)AlioJL,ChaubardJJ,CalizAetal:CorrectionofpresbyopiabytechnovisioncentralmultifocalLASIK(presby-LASIK).JRefractSurg22:453-460,20065)ScottA:Accommodativeintraocularlensesforage-relatedcataracts.IssuesEmergHealthTechnol85:1-6,20066)GlasserA,KaufmanPL:Themechanismofaccommodationinprimates.Ophthalmology106:863-872,19997)TsubotaK,BoxerWachlerBS,AzarDTetal:HyperopiaandPresbyopia.MarcelDekkerInc.,NewYork,NY,20038)RefractiveErrors&RefractiveSurgeryPreferredPracticePattern.AmericanAcademyofOphthalmologyhttp://one.aao.org/ce/practiceguidelines/ppp_content.aspx?cid=e6930284-2c41-48d5-afd2-631dec586286(Accessed10thOct2010)9)http://www.fda.gov/ohrms/dockets/ac/06/slides/2006-4225s1_08_VisionCare%20Presentation%20to%20Panel%20July%2014%202006.htm(Accessed10thOct2010)10)PetermeierK,GekelerF,SpitzerMSetal:ImplantationofthemultifocalReSTORapodiseddiffractiveintraocularlensinadultanisometropicpatientswithmildtomoderateamblyopia.BrJOphthalmol93:1296-1301,200911)PeposeJS:Maximizingsatisfactionwithpresbyopia-correctingintraocularlenses:themissinglinks.AmJOphthalmol146:641-648,2008☆☆☆

正常と紛らわしい網膜・黄斑ジストロフィの診断

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYはじめに視機能低下の病因は,細隙灯検査や眼底検査で一見して診断できるものから,種々の検査を行うことにより初めて診断にたどり着くものまでさまざまである.眼底所見が正常な患者の視機能低下の原因は,表1に示すように角膜,水晶体,硝子体,網膜,視神経,頭蓋内までのさまざまな異常から生じる可能性があり,筆者らはさまざまな検査によりその診断を行っている.このなかでも,眼底が一見正常に見える網膜・黄斑ジストロフィは診断に苦慮する疾患群といえる.本稿では,眼底正常な網膜疾患をどのように診断していくかを,検査のポイントと症例をあげながら述べる.I網膜疾患を疑う前に原因不明の視力低下との訴えで受診する患者を診察した際,網膜疾患を鑑別する前に他の網膜疾患以外を鑑別することが大切である.名古屋大学病院(以下,当院)でしばしば経験する疾患としては,若年者での円錐角膜,意外に多いのがスリットで見落としがちな核白内障である.前?下白内障や後?下白内障は診断に苦慮することは少ないが,核白内障は見落とされることもあるので注意したい.当院では,角膜不正乱視の影響や白内障の影響を他覚的に評価するために,ウェーブフロントアナライザーを用いて角膜形状測定および波面収差測定を行っている.視神経疾患,頭蓋内疾患は,最も網膜疾患との鑑別が必要となっ(71)975*ShinjiUeno:名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座〔別刷請求先〕上野真治:〒466-0065名古屋市昭和区鶴舞町65名古屋大学大学院医学研究科頭頸部・感覚器外科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):975?984,2011正常と紛らわしい網膜・黄斑ジストロフィの診断DiagnosisofRetinalandMacularDystrophywithNormalFundus上野真治*表1眼底正常で原因不明の視力低下の鑑別1.前眼部中間透光体の異常円錐角膜白内障2.網膜の異常眼底正常な錐体ジストロフィMiyake病(occultmaculardystrophy)無色素性網膜色素変性眼底正常な杆体ジストロフィ眼底変化の認められない初期のStargardt病ビタミンA欠乏症AZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)Cancerassociatedretinopathy(CAR:腫瘍関連網膜症)Melanomaassociatedretinopathy(MAR:メラノーマ関連網膜症)自己免疫網膜症杆体一色覚先天性停在性夜盲3.視神経疾患球後視神経炎虚血性視神経症常染色体優性視神経萎縮4.頭蓋内疾患,耳鼻科疾患下垂体腫瘍などの脳腫瘍脳梗塞鼻性視神経症5.その他弱視心因性視力障害詐盲976あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(72)し,黄斑部が障害されていなければ低下しない.すなわち視力が良い場合に網膜疾患が見落とされやすいことを考慮しておかなければいけない.視野検査は網膜障害の範囲を知るうえで重要な検査である.網膜変性が局所的な場合では,視野検査で障害部位を正確に知ることができる.障害が網膜全体にある場合は全体の感度低下をきたすが,Goldmann視野で評価する際,V-4のイソプターは比較的保たれていても,I-4のイソプターが狭くなることが多い.またGoldmann視野の検査条件では,錐体機能が正常な場合,杆体機能が障害されても異常が出にくい点にも注意しておきたい.色覚は錐体機能を評価する重要な検査法の一つであり,錐体ジストロフィや杆体一色覚などの疾患の鑑別に有用である.暗順応検査は杆体機能の経時変化を評価できるため,夜盲をきたす疾患の診断に有用である.3.造影検査,眼底自発蛍光蛍光眼底造影検査(FA)は網膜変性疾患では網膜色素上皮の萎縮をwindowdefectという形でとらえることが診断の根拠になるだけでなく,血流障害による網膜機能不全の鑑別にも役立つ.網脈絡膜の血流の充盈遅延や,網膜の無灌流領域がある糖尿病や動脈硬化性の全身疾患を有する患者において,眼動脈の閉塞などを鑑別できる.Stargardt病ではダークコロイドとよばれる脈絡膜の蛍光がブロックされる所見があり,初期のStargardt病にて眼底異常を示さない段階での診断に非常に有用となる(図1).最近,造影剤を使わない非侵襲的な検査として眼底自発蛍光を診断に利用する施設も増えてきている.この検査はおもに網膜色素上皮中のリポフスチンの発する蛍光の有無および多寡から網膜色素上皮の状態を推測するものである.通常の眼底検査ではとらえられない異常をとらえることができ,今後診断機器の一つとして有用なものになる可能性がある(図2).Adaptiveopticsを用いた視細胞形態の評価なども将来的に有用な検査となる可能性がある.4.OCTOCTは網膜・黄斑ジストロフィの診断には必須の検てくる.網膜疾患は診療機器の進歩により現在ではほとんどの場合において,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)やERG(網膜電図)などを組み合わせて異常を検出することができるため,これらの検査を用いた除外診断と,瞳孔反応,視野,限界フリッカ値などの一般検査,MRI(磁気共鳴画像)などの画像所見,VEP(視覚誘発電位)を用いた電気生理検査,Leber病や優性視神経萎縮などでは遺伝子検査などを活用して視神経疾患,頭蓋内疾患の診断をしている.II網膜疾患診断のための検査1.問診患者を診察する前に問診を行うが,この問診でさまざまな重要な情報を得ることができる.まず問診では,視機能障害が停在性か進行性か,またその進行が急激なのか緩徐なのかを確実に聴取する.急激な発症の場合はAZOOR(acutezonaloccultouterretinopathy)やCAR(cancer-associatedretinopathy)などの疾患を考慮しなくてはいけない.発症の好発年齢が疾患によって異なるので発症時期がいつ頃からかということも診断の一つのポイントになる.遺伝性網膜疾患を疑う場合は,家族歴の聴取が大切である.たとえばoccultmaculardystrophy(Miyake病)などでは,症状が軽微な患者が家系にいることもあり,疑わしい症例は検査に来ていただくことも必要である.停在性夜盲などの伴性劣性遺伝の多い疾患では,家族歴などを聴取することにより診断がつきやすくなる.また,杆体系の異常がある場合は夜盲を訴え,錐体系の異常の場合には昼盲や色覚の異常を訴えるので,これらは問診の際の重要なポイントである.糖尿病や膠原病などの全身疾患の有無は,視機能障害の原因が虚血や炎症などのよるものか鑑別となりうる.消化管の手術を受けた患者はビタミンAの欠乏に注意しなければいけない.また,ジギタリスやクロロキンなど投薬によっても網膜機能障害を生じるため,どのような投薬を受けているかも把握しておく必要がある.2.視力,視野,色覚,暗順応検査網膜疾患において,視力は黄斑部が障害されれば低下(73)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011977できる.Occultmaculardystrophy(Miyake病)など,元来は眼底が正常で局所ERGでしか診断ができないといわれていた疾患も,最近のOCTではCOSTラインやIS/OSラインとよばれるレベルでほとんどの症例において異常が認められることが報告されている(図3B)1,2).中心窩のわずかな形態異常の場合,局所ERGでは異常をとらえられないが,OCTではとらえられるような疾患もみ査機器となっている.OCTの解像度が近年著しく改善され,わずかな構造の異常もとらえられるようになっている.図3AにZeiss社製のCirrusOCTで記録した正常者のOCT画像を示す.視細胞-色素上皮レベルでは,外境界膜(ELM),視細胞内節外節境界(IS/OS),錐体外節先端(coneoutersegmenttip:COST),網膜色素上皮(RPE)というような微細な構造物をとらえることがabcd図1Stargardt病の10歳,女児視力:右眼矯正0.6,左眼矯正0.4.a,b:眼底所見はわずかに黄斑部の反射の異常を認めるのみ.c,d:FAでは脈絡膜の蛍光がブロックされたdarkchoroidとよばれる所見がStargardt病の特徴である.また黄斑部には網膜色素上皮萎縮に伴うwindowdefectがみられる.ab図2視力低下にて受診した9歳,男児眼底自発蛍光検査にて黄斑部の異常がみられる.視力両眼矯正0.4.a:眼底はほぼ正常所見.b:萎縮した黄斑部に一致して,低蛍光領域の拡大と斑状の過蛍光がみられる.978あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(74)方法の他に,より精密に杆体系と錐体系の機能を分離して評価する方法がある3).局所ERGを記録する方法にはおもに2つの方法があり,三宅らによって開発された局所ERG4)と米国のSutterら5)が開発した多局所ERGのシステムがある.ERGは眼底に異常のない網膜,黄斑ジストロフィの診断のカギとなる検査なのでここでは,普通のERG,国際臨床視覚電気生理学会(ISCEV)プロトコールに従った杆体と錐体系を分離したERG,局所ERGにつき少し詳述させていただく.a.暗順応下の強いフラッシュ刺激によるERG最も重要で診断的価値の高いERGで,トーメー社製のフラッシュERGが一般的で多くの施設で利用されている.眼科臨床に最もよく用いられる応答であり,通常ERGといえばこの反応のことを意味する場合が多い.暗順応後に,カメラのストロボのような強いフラッシュ刺激もしくはLED(発光ダイオード)内蔵電極の場合はコンタクトレンズ自体が発光し,網膜の最大電気反応を記録するERGである.これによって得られる反応は錐体系と杆体系の混合反応である.ただ,網膜は杆体系の細胞が錐体系の細胞の数よりも圧倒的に多いので,正常の反応の場合,ほとんどが杆体系の記録である.この方法で記録されるERGでは,陰性波のa波,それに続く陽性波のb波,それにb波の上行脚にみられる律動用小波,の3つの成分が評価の対象となる.a波の起源は視細胞,b波の起源はおもに双極細胞であり,律動様小波の起源は網膜内網状層付近(アマクリン細胞など)と考えられている.この反応には網膜神経節細胞の電位はほとんど含まれていないので,視神経疾患ではこのERGでの異常は基本的に認められない.網膜色素変性のように視細胞レベルで障害が著しい場合は,ERGが著しく減弱したり,すべての成分が消失して消失型となる.遺伝性網膜疾患で覚えておくべき波形は,a波の振幅は正常だがb波の振幅がa波より小さくなる陰性型(negative-type)で,疾患には,先天停在性夜盲,先天網膜分離症などがある.欠点としては,局所的な異常はとらえられないこと,錐体にのみ異常がある場合にはこのERGでは異常がとらえきれない場合もあるということである.つかってきている.緑内障や視神経疾患において網膜視神経線維や網膜神経節細胞層の厚みが変化することが知られており,網膜疾患と視神経疾患の鑑別にも有用である.5.ERGERGは,眼科臨床においてさまざまな網膜疾患の診断に有用であるが,特に網膜ジストロフィの診断には必須の検査である.網膜ジストロフィには錐体ジストロフィや杆体ジストロフィなど錐体と杆体が分離して変性するもの,黄斑変性などの一部が変性するものなどがある.ERGは杆体や錐体の機能を区別して評価でき,局所ERGなどでは網膜の部位別の機能が評価をすることにより網膜ジストロフィの正しい診断が行える.ERGにはいくつかの記録法があるが,網膜全体から発生する電位を記録する,いわゆる全視野ERG(full-fieldERG)と,網膜の局所の電位を記録する局所ERGや多局所ERGに区別される.全視野ERGは,一般臨床でよく用いられている暗順応後にフラッシュ刺激にて記録されるabcdABef図3Zeiss社製のCirrusOCTで記録した正常者のOCT(A)とMiyake病の患者のOCT(B)a:ELM(外境界膜),b:IS/OS(視細胞内節外節境界),c:COST(coneoutersegmenttip,錐体外節先端),d:RPE(網膜色素上皮).e:Miyake病の患者では,ELMとIS/OSが中心で不明瞭となっている.f:COSTとRPEは一体化している.(75)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011979いような速い点滅光刺激を使用して記録した応答である.30Hz付近の刺激周波数が推奨されている.c.局所ERG全視野ERGで異常が認められない場合,黄斑などに限局した機能障害が存在するかを見きわめる大切な検査である.特にMiyake病やAZOORなどの眼底所見がほぼ正常の疾患で網膜の局所が障害される疾患の診断には不可欠である.OCTの結果と照らし合わせることで,機能と形態の両方を評価でき非常に有用な検査である.現在臨床では,局所ERGと多局所ERGの2つの記録法がある.1)局所ERG眼底を赤外線カメラで観察しながら目的とする部位を確実に刺激できるだけでなく,錐体ERGのa波,b波,律動揺小波などの全成分の記録ができる.固視不良の患者にもモニターを見ながら刺激部位を合わせることができ,信頼のおける反応が得られる6).局所ERGの反応は背景光をつけた状態で記録しており錐体の機能を評価している.2)多局所ERG多局所ERGの刺激には,TVモニターの多数の六角形が使われる(図5a).この六角形は検査中に,ランダb.錐体系と杆体系の分離記録網膜変性には杆体優位に異常が生じる場合,逆に錐体優位に異常が生じる場合がある.このような場合には,杆体系と錐体系の機能を分離して評価しなければならない.そのため,ISCEVでは,これらの反応を記録するための推奨刺激条件を定めている3)(ISCEVStandardERG).これらのERGは,トーメー社から現在発売されているERG装置で記録可能である(図4).1)杆体応答暗順応後に,弱い光刺激を用いて記録する応答である.錐体は反応せず,杆体系細胞のみが反応するために,この条件で杆体応答のみを分離することができる.2)杆体-錐体混合(最大)応答暗順応後に,強めの光刺激を網膜に照射して記録する応答である.この条件で記録されるERGは,上に述べた「強いフラッシュ刺激によるERG」と基本的に同じ波形をしている.3)錐体応答錐体の応答だけを記録するために背景光をつけて杆体を抑制して記録したERGである.4)30HzフリッカERG錐体の応答だけを記録するために,杆体が追従できな1342図4トーメー社製LE4000にて記録した杆体系と錐体系のERG1:杆体反応,2:50cd・s・m?2で記録した最大応答,3:錐体応答,4:30HzフリッカERG.980あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(76)主訴:両眼の視力低下.眼病歴:徐々に進行する両眼の視力障害のため近医眼科受診.強いフラッシュ刺激によるERGにて反応が減弱しており精査目的で当院受診.仕事は運転手だが,仕事,普段の生活でも大きな問題を感じてはいない.夜は少し苦手と以前から感じていた,昼盲はない.ビタミンAを含む採血データに異常は認められず,全身状態に問題はなかった.既往歴:家族歴に特記すべきものなし.視力:両眼矯正1.0.細隙灯所見:軽度の白内障を認めるのみ.眼底所見・蛍光眼底造影:明らかな異常を認めないムに白か黒のどちらかに変化する.各局所ERGは相互相関という数学的手法により抽出される.多局所ERGのメリットは,短時間に網膜の多数の部位の反応を記録できる点である.表示は各部位の個々のERG波形とトポグラフィが示され,振幅の異常をわかりやすくしてある.AZOORやMiyake病のような網膜の局所的な障害を呈する疾患の診断に適している(図5d,e).III眼底正常な網膜ジストロフィの症例最後に症例を2例提示する.〔症例1〕59歳,女性.右眼左眼100ms100ms200nV200nVabcde1μV100ms図5正常者とAZOOR患者の多局所ERGa:VERISによる103点の刺激条件.b:正常者の多局所ERGの波形.c:bのトポグラフィ.d:両眼の中心型のAZOORの患者の多局所ERGの波形.両眼の中心の振幅が減弱している.e:dのトポグラフィ.(77)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011981abcd図6症例1の所見a,b:右眼,左眼の眼底写真.c,d:蛍光眼底造影.眼底,蛍光眼底造影では大きな異常はない.e:網膜全体の菲薄化と周辺部でのIS-OSを含む視細胞レベルで異常所見を認めた(→).eILMRPE982あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(図6a?d).OCT:網膜全体の菲薄化と周辺部でのIS-OSを含む視細胞レベルで異常所見を認めた(図6e).Goldmann視野:ほぼ正常(図6f).ERG:ISCEVプロトコールのERG.杆体はほぼ消失,杆体-錐体混合(最大)応答では緩やかな陰性波が認められるのみで大幅に減弱していた.錐体機能を評価する錐体応答と30HzフリッカERGは振幅は低下しているものの杆体ERGに比較して残存していた(図6g).黄斑部局所ERG:黄斑部の局所ERGは正常下限であった(図6h).診断:視力や視野検査,眼底検査では異常をとらえることができない.OCTより視細胞の障害をきたしており,眼底に異常のない網膜変性疾患であることがわかる.ERGの結果より,杆体系が錐体系より優位に障害されている.黄斑部局所ERGは保たれており,黄斑部の視機能がよく視力が維持されている.杆体-錐体ジストロフィと診断し,現在も経過観察中である.(78)????????????????????????????????????????????????????????????f????????gh(図6つづき)f:Goldmann視野計では明らかな異常は認められない.g:杆体と錐体を分離したERG記録(トーメー社製LE2000).杆体系のERGである杆体反応(1),最大応答(2)振幅が著しく減弱しているのに対し,錐体系のERGである錐体応答(3)と30HzフリッカERG(4)は振幅が正常の半分ほどの減弱にとどまっている.h:黄斑部局所ERGの反応は正常範囲内であった.(79)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011983abcdea,b:右眼,左眼の眼底写真.c,d:蛍光眼底造影.眼底,蛍光眼底造影では大きな異常はない.e:COSTとRPEが一体化している.杆体応答30HzフリッカNormalPatient最大応答錐体応答100μV50ms200μV25ms100μV25ms25μV25msff:杆体と錐体を分離したERG記録(全視野ドームを使用).杆体系のERGである杆体反応,最大応答は,ほぼ正常.錐体系のERGである錐体応答と30Hzフリッカは振幅が大幅に減弱している.図7症例2の所見984あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011〔症例2〕62歳,女性.主訴:視野異常,昼盲.現病歴:中心に近い視野が欠損しており,明所ではものが見にくいことを自覚し近医受診.ERGにて異常を認めたため当院紹介となる.視力:両眼矯正1.0.Humphrey視野にて全体的な感度低下.細隙灯所見:軽度の白内障を認めるのみ.眼底所見:正常で蛍光眼底造影検査も異常を認めなかった(図7a?d).OCT:COSTとRPEが一体化している(図7e).ERG:ISCEVプロトコールのERGでは杆体と,杆体-錐体混合(最大)応答は正常反応であった.錐体機能を評価する錐体応答と30HzフリッカERGは消失していた.局所ERGも平坦型であった(図7f).診断:眼底正常の錐体ジストロフィ.この疾患は杆体機能と錐体機能を分離して反応を記録することによって診断できる疾患である.通常,錐体ジストロフィは黄斑変性をきたし視力が低下するが,この症例のように眼底が正常で,中心窩の錐体細胞の形態が保たれていて視力が良好な症例もある.文献1)KondoM,ItoY,UenoSetal:Fovealthicknessinoccultmaculardystrophy.AmJOphthalmol135:725-728,20032)ParkSJ,WooSJ,ParkKHetal:Morphologicphotoreceptorabnormalityinoccultmaculardystrophyonspectraldomainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:3673-3679,20103)MarmorMF,FultonAB,HolderGEetal:ISCEVStandardforfull-fieldclinicalelectroretinography(2008update).DocOphthalmol118:69-77,20094)MiyakeY,ShiroyamaN,OtaIetal:Localmacularelectroretinographicresponsesinidiopathiccentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol106:546-550,19885)SutterEE,TranD:ThefieldtopographyofERGcomponentsinman─I.Thephotopicluminanceresponse.VisionRes32:433-446,19926)三宅養三:黄斑部疾患の基礎と臨床.黄斑部局所ERGの研究.日眼会誌92:1419-1449,1988(80)

全色盲

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYをとり,欧米での頻度は3万人から5万人に1人である.わが国での頻度は不明であるが,弱視と診断されているケースをしばしば経験する.臨床症状として幼少時より低視力(0.1から0.2),振子眼振,羞明,昼盲がみられる3).眼底は正常で,蛍光眼底造影検査でも明らかな異常所見はみられないことが多い(図1)4,5).黄斑ジストロフィや錐体ジストロフィと同様に萎縮性黄斑変性がみられることもある(図2)4).Goldmann視野検査で中心暗点が検出されるが周辺視野は正常である5).石原色覚検査表国際版38表の第1表を判読できる一方,それ以外は判読不能である.パネルD-15検査をfailし,その混同軸が2型色覚(deutan)軸と3型色覚(tritan)はじめに本稿では,遺伝性の先天全色盲について解説したい.先天全色盲は1色覚ともよばれ,杆体1色覚と錐体1色覚がある.前者は完全型と不完全型に分類され,後者の大部分はS錐体1色覚である.いずれも単一の遺伝子異常による遺伝性網膜疾患の範疇に入る1,2).I杆体1色覚1.完全型網膜に存在する視細胞のうち,杆体の機能は正常であるが,先天的にすべての錐体(L錐体,M錐体,S錐体)の機能喪失が起こる疾患である.常染色体劣性遺伝形式(65)969*TakaakiHayashi:東京慈恵会医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕林孝彰:〒105-8461東京都港区西新橋3-25-8東京慈恵会医科大学眼科学教室特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):969?973,2011全色盲Achromatopsia林孝彰*右眼左眼図1完全型杆体1色覚症例の眼底写真黄斑部を含め明らかな異常所見はみられない.(文献5を一部改変)970あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(66)色覚正常者の暗所視比視感度(主として杆体視と同様に505nm付近をピークとする一峰性)に一致するため,プルキンエ移動(Purkinjeshift)はみられない4,5).確定診断に重要なGanzfeld刺激装置を用いた全視野刺激網膜電図(ERG)で,杆体ERGやフラッシュERG(杆体と錐体を含めた最大応答)が正常範囲内である一方,錐体ERGや30HzフリッカERGでは,反応がほとんど検出されない(図5)4,5).このERGの結果は,錐体ジストロフィに一致するが,視力良好であった時期がないこと,進行性の視力障害をきたしていないことを聴取でき軸の中間のscotopic軸に一致することが多い(図3)が,他のパターンをとることもある4,6).NagelアノマロスコープI型検査では,赤色光の感度が低く,黄色光を緑色光より暗く感じるため特徴的なパターンを示す.すなわち,混色目盛値73では単色目盛値が0付近でRayleigh等色し,混色目盛値40付近で単色目盛値の最大値に近づくため,先天赤緑色覚異常の1型2色覚に比べ極端に急峻な傾きとなる(図4)4,7).白色背景下分光感度は,右眼左眼図2完全型杆体1色覚症例の眼底写真黄斑部に萎縮性病変がみられる.(文献4を一部改変)図3完全型杆体1色覚症例のパネルD?15混同軸が2型色覚(deutan)軸と3型色覚(tritan)軸の中間のscotopic軸に一致している.(文献4を一部改変)0102030405060707380604020混色目盛値単色目盛値完全型杆体1色覚不完全型杆体1色覚1型2色覚2型2色覚正常等色図4NagelアノマロスコープI型検査所見正常等色,1型2色覚,2型2色覚,完全型・不完全型杆体1色覚のRayleigh等色を示す.(文献4を一部改変)(67)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011971伝子である.日本人の杆体1色覚症例においてはCNGA3とCNGB3遺伝子変異が報告されている5,17).2.不完全型不完全型も完全型と同様に常染色体劣性遺伝形式をとる.幼少時にみられる症状や臨床所見は,完全型に類似するが,錐体機能は残存している.視力は,しばしば(0.2~0.3)の範囲で残余色覚を認める.石原色覚検査表,パネルD-15,NagelアノマロスコープI型検査の結果は,完全型に類似する(図1)4).ERGは錐体ERGで減弱した反応が検出される4).白色背景下分光感度は,完全型と異なり一峰性にはならない4).原因として,完全型と同様にCNGA3,CNGB3,GNAT2の遺伝子変異が報告されている.IIS錐体1色覚X連鎖劣性遺伝形式をとり,罹病率10万人に1人以下のまれな疾患である.正常の杆体機能とS錐体機能をもつ一方,M錐体とL錐体の機能は欠損している18).臨床症状は,杆体1色覚のそれに類似するが程度は若干軽度である.矯正視力は0.1~0.3程度であることから,れば,錐体ジストロフィとの鑑別はそれほどむずかしくはない.光干渉断層計(OCT)所見の報告では,黄斑部の網膜厚は正常と比べ菲薄化し5),黄斑体積も減少していた8).補償光学装置(adaptiveoptics)を用いた黄斑部の網膜高解像度画像では,杆体の大きさや密度は維持されているものの錐体のモザイク構造が大きく破壊されていた9).杆体1色覚は,視力や視野所見は長年にわたり,変化しないため,先天赤緑色覚異常と同様に基本的には停止性疾患に分類されている.しかし,20年以上の観察期間で,中心暗点が拡大したり,黄斑部病巣が顕著になってくることもあり,緩徐に視機能が障害される場合もある.杆体1色覚の原因として,3錐体(S錐体,M錐体,L錐体)に特異的に発現している錐体サイクリックGMP(グアノシン一リン酸)依存性チャンネルaサブユニットとbサブユニットをコードしているCNGA3遺伝子とCNGB3遺伝子,錐体aトランスデューシンをコードするGNAT2遺伝子に加え,サイクリックGMPホスホジエステラーゼaサブユニットをコードしているPDE6C遺伝子の変異が報告されている10~16).いずれも錐体機能維持に重要な光電気変換に関与している遺正常者杆体1色覚症例杆体反応最大応答錐体反応30Hzフリッカ反応50ms200μV200μV100μV50μV図5Ganzfeld刺激装置を用いた全視野刺激網膜電図杆体反応や最大応答は正常範囲内である一方,錐体反応や30Hzフリッカ反応は検出されない.(文献5を一部改変)972あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(68)期での遺伝性網膜疾患の診断に役立つことが期待される.実際には,ERGの測定が困難な学童期であっても,臨床症状,色覚検査,Goldmann視野検査などからある程度疑うことは可能である.一方,S錐体1色覚はきわめてまれな疾患で,報告は少ない.杆体1色覚とS錐体1色覚の鑑別はむずかしいが,色刺激ERGによるS錐体の検出や,Farnsworth-Munsell100hueテストが有用である.また,S錐体1色覚はX連鎖劣性遺伝のため,近親者に罹患者が存在していることがあるため家系調査による家系図作成によって鑑別できる.罹患者が女児・女性であればS錐体1色覚の可能性はほとんどない.杆体1色覚の原因となるCNGA3,CNGB3,GNAT2,PDE6C遺伝子異常は,常染色体劣性遺伝の錐体ジストロフィの原因遺伝子としても報告されている.錐体ジストロフィ症例では,杆体反応が比較的正常に近い症例から高度に低下している(錐体杆体ジストロフィ)症例まで経験する.杆体機能の障害程度は病期によるだけかもしれないが,杆体機能が正常に近い時期が存在するタイプの錐体ジストロフィでは,杆体1色覚と同一の遺伝子異常が原因となっているのかもしれない.杆体1色覚や錐体ジストロフィの日本人症例に対する,CNGA3,CNGB3,GNAT2,PDE6C遺伝子解析と表現型の相関研究が期待される.文献1)林孝彰:錐体機能不全を伴う停在性網膜疾患.眼科48:1687-1698,20062)林孝彰:先天全色盲.日本色彩学会,新編色彩科学ハンドブック第3版.東京大学出版会,p384-385,20113)KrillAE,DeutmanAF,FishmanM:Theconedegenerations.DocOphthalmol35:1-80,19734)HayashiT,KozakiK,KitaharaKetal:ClinicalheterogeneitybetweentwoJapanesesiblingswithcongenitalachromatopsia.VisNeurosci21:413-420,20045)Goto-OmotoS,HayashiT,GekkaTetal:CompoundheterozygousCNGA3mutations(R436W,L633P)inaJapanesepatientwithcongenitalachromatopsia.VisNeurosci23:395-402,20066)林孝彰:色覚検査:パネルD-15,Farnsworth-Munsell100hueテスト,ランタンテスト,アノマロスコープ.今日の眼疾患治療指針(田野保雄,樋田哲夫編),p748-751,医学書院,2007中心窩下に存在しないS錐体が視力に関与していないことを裏付けている.石原色覚検査表やNagelアノマロスコープI型検査結果は,完全型杆体1色覚に類似する.パネルD-15は,典型例では,混同軸が1型色覚(protan)軸と2型色覚(deutan)軸の中間に存在する6).Farnsworth-Munsell100hueテストは,高い総偏差点(強度の色覚異常)を示すが,完全型杆体1色覚に比べ青黄軸ではエラーが少なく青錐体系の識別能が存在している18).ERG所見は,杆体1色覚に類似する.杆体1色覚とは異なり,正常なS錐体機能が色刺激ERGによって検出可能である19).白色背景下分光感度は,完全型杆体1色覚と異なり430nm付近にピークがみられる.杆体1色覚と同様に非進行性の疾患と考えられていたが,進行性の視力障害や黄斑変性をきたす症例も少なからず報告されている20).原因として,分子遺伝学的にX染色体長腕(Xq28)に位置するLオプシン(OPN1LW)遺伝子およびMオプシン(OPN1MW)遺伝子の不活化によることが証明されている21,22).OPN1LW遺伝子の上流約3.5kbに,OPN1LW/OPN1MW遺伝子発現を制御しているlocuscontrolregion(LCR)が,両者の遺伝子発現に必須の部位であることが明らかにされている23).S錐体1色覚の遺伝子異常には,3つのパターンが存在する.1つは,LCRの欠失によってOPN1LW/OPN1MW遺伝子発現が消失するもの(原因の約40%)で,2つめは,OPN-1LW/OPN1MW遺伝子内に機能喪失変異(Cys203Arg,Arg247stop,Pro307Leuなど)による場合(原因の約60%)で,3つめは,まれなケースでOPN1LW遺伝子内のエクソン欠失変異によるものが報告されている21,22,24).日本人のS錐体1色覚症例においては,LCRを含む広範囲の欠失変異が報告されている.まとめ自験例や多施設の報告から,杆体1色覚(完全型および不完全型)の罹患者は,予想より高い頻度で存在しているのではないかと思われる.しかし,診断には,杆体反応と錐体反応を分離して機能評価するERGが必須であるため,幼少時での診断は困難となることが多い.最近,皮膚電極を用いたERG測定が可能となり,乳幼児(69)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011973sialinkedtomutationsinthePDE6Cgene.ProcNatAcadSciUSA106:19581-19586,200916)ThiadensAA,denHollanderAI,RoosingSetal:HomozygositymappingrevealsPDE6Cmutationsinpatientswithearly-onsetconephotoreceptordisorders.AmJHumGenet85:240-247,200917)OkadaA,UeyamaH,ToyodaFetal:FunctionalroleofhCngb3inregulationofhumanconecngchannel:effectofrodmonochromacy-associatedmutationsinhCNGB3onchannelfunction.InvestOphthalmolVisSci45:2324-2332,200418)AlpernM,LeeGB,MaaseidvaagFetal:Colourvisioninblue-cone‘monochromacy’.JPhysiol212:211-233,197119)Ladekjaer-MikkelsenAS,RosenbergT,JorgensenAL:Anewmechanisminblueconemonochromatism.HumGenet98:403-408,199620)FleischmanJA,O’DonnellFEJr:CongenitalX-linkedincompleteachromatopsia.Evidenceforslowprogression,carrierfundusfindings,andpossiblegeneticlinkagewithglucose-6-phosphatedehydrogenaselocus.ArchOphthalmol99:468-472,198121)NathansJ,DavenportCM,MaumeneeIHetal:Moleculargeneticsofhumanblueconemonochromacy.Science245:831-838,198922)NathansJ,MaumeneeIH,ZrennerEetal:Geneticheterogeneityamongblue-conemonochromats.AmJHumGenet53:987-1000,199323)WangY,MackeJP,MerbsSLetal:Alocuscontrolregionadjacenttothehumanredandgreenvisualpigmentgenes.Neuron9:429-440,199224)GardnerJC,MichaelidesM,HolderGEetal:Blueconemonochromacy:causativemutationsandassociatedphenotypes.MolVis15:876-884,20097)PokornyJ,SmithVC,VerriestG:CongenitalColorDefects.In:PokornyJ,SmithVC,VerriestG,PinckersAJ(ed):CongenitalandAcquiredColorVisionDefects.p183-241,Grune&Stratton,NewYork,19798)VarsanyiB,SomfaiGM,LeschBetal:Opticalcoherencetomographyofthemaculaincongenitalachromatopsia.InvestOphthalmolVisSci48:2249-2253,20079)CarrollJ,ChoiSS,WilliamsDR:Invivoimagingofthephotoreceptormosaicofarodmonochromat.VisionRes48:2564-2568,200810)KohlS,MarxT,GiddingsIetal:Totalcolourblindnessiscausedbymutationsinthegeneencodingthealpha-subunitoftheconephotoreceptorcGMP-gatedcationchannel.NatGenet19:257-259,199811)SundinOH,YangJM,LiYetal:GeneticbasisoftotalcolourblindnessamongthePingelapeseislanders.NatGenet25:289-293,200012)KohlS,BaumannB,BroghammerMetal:MutationsintheCNGB3geneencodingthebeta-subunitoftheconephotoreceptorcGMP-gatedchannelareresponsibleforachromatopsia(ACHM3)linkedtochromosome8q21.HumMolGenet9:2107-2116,200013)AligianisIA,ForshewT,JohnsonSetal:Mappingofanovellocusforachromatopsia(ACHM4)to1pandidentificationofagermlinemutationinthealphasubunitofconetransducin(GNAT2).JMedGenet39:656-660,200214)KohlS,BaumannB,RosenbergTetal:MutationsintheconephotoreceptorG-proteinalpha-subunitgeneGNAT2inpatientswithachromatopsia.AmJHumGenet71:422-425,200215)ChangB,GrauT,DangelSetal:Ahomologousgeneticbasisofthemurinecpfl1mutantandhumanachromatop

家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYIFEVRの臨床像:眼底所見の多様性と遺伝性1.FEVRの眼底所見の多様性FEVRの眼底所見は多様である.軽症の場合には自覚症状がなく,眼底の異常に気づかないことも多い.網膜血管の走行異常が特徴的であり,周辺部網膜血管の多分岐と直線化,周辺部網膜の無血管が典型的な所見である(図1右).無血管野やその境界付近の網膜変性,黄色または灰白色の線維組織を伴う網膜硝子体癒着を認めることがある.後極部には異常がみられないことも多いが,黄斑部や視神経乳頭の形成不全,牽引乳頭などの所見を呈することがある(図1左).一方,重症例では網膜?離などを併発すると視力障害の原因となるが,年齢により異なる所見を呈し,診断は必ずしも容易ではない(図2).乳幼児期に網膜症が進行はじめに家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopathy:FEVR)は1969年にCriswickとSchepensによって報告され,わが国では1976年に,大塩と大島が報告した遺伝性の網膜疾患である1,2).眼底所見が未熟児網膜症に類似するものの低体重出生や酸素投与などの既往がないことで注目された.若年者の網膜?離の原因の一つとして注目され,乳幼児に鎌状網膜襞や白色瞳孔をきたす疾患としても重要である.このような重症化の過程で網膜新生血管が形成されるために,血管新生を起こす病態としても注目されている.FEVRの本態は遺伝的にプログラムされた網膜血管の形成異常であり,多様な臨床像が知られ,遺伝形式もさまざまである.本稿では,FEVRの遺伝性と,最近注目されているFEVRの発症メカニズムの一つであるWNT(ウィント)シグナルとの関連を中心に解説する.(59)963*HiroyukiKondo:産業医科大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕近藤寛之:〒807-8555北九州市八幡西区医生ヶ丘1-1産業医科大学医学部眼科学教室特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):963?968,2011家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)FamilialExudativeVitreoretinopathy近藤寛之*図1FEVRの軽症例の眼底所見左:黄斑部や視神経乳頭の形成不全,牽引乳頭などの所見を呈することがあるが,後極部には異常がみられないことも多い.右:周辺部網膜血管の多分岐と直線化,周辺部網膜の無血管が典型的な所見である.964あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(60)体劣性や常染色体劣性遺伝では,通常両親には異常がなく,兄弟が少ない場合には孤発例となる.両親に遺伝子変異がなく,子供が新規に変異を生じると優性遺伝となる.このため,「孤発例イコール非遺伝性」との考え方は適切でない.特殊な例として,X染色体劣性FEVR家系のなかに女性の発症例の報告がある5).このような症例では誤って遺伝形式を推定する可能性があるので注意を要する.IIFEVRの遺伝子診断と病態生理1.WNTシグナルとFEVRヒトにはWNTとよばれる約20種類の蛋白質がある.WNTは一つの細胞から分泌されると,近隣にある細胞に結合し細胞内の特定の遺伝子に作用する.この経路がWNTシグナルとよばれ,個体の発生や癌化などのプロセスとして重要である〔図3,用語解説(1)〕.WNTシグナルに関わる遺伝子の異常は,いろいろな全身疾患を起こすが,FEVRはこのような遺伝病の一つと考えることができる(表1).FEVRの本態は網膜血管の形成異常であろうと推測されてきたが,その原因は不明であった.2002年に常染色体優性遺伝FEVRの原因遺伝子がWNT受容体Frizzled4(FZD4)であることが解明された7).この知見がきっかけとなり,WNTシグナルとFEVRとの関連するタイプでは未熟児網膜症に類似した増殖組織を形成し,網膜襞や白色瞳孔を形成する.網膜の牽引が高度な場合には,第一次硝子体過形成遺残と診断されることがある.就学前あるいは学童期以降にも裂孔原性や牽引性,滲出性のさまざまなタイプの網膜?離を呈する.特に滲出性網膜?離例ではCoats病と診断されることがある.FEVRの重症化は網膜血管の形成異常を基盤とする新生血管の形成や,網膜硝子体癒着などの病態が背景となっている.他の疾患と鑑別が必要な症例では原因遺伝子の同定(遺伝子診断)が診断に有用なこともある.2.FEVRの遺伝性FEVRは遺伝学的にも多様性の高い疾患である.家族例の多くは常染色体優性遺伝であり,かつてFEVRは常染色体優性遺伝の疾患と考えられてきた3).しかし,常染色体劣性遺伝やX染色体劣性遺伝のこともある1,4,5).また,FEVRの症例の多くは無症候であるので,家族の眼底検査を行わないと家族例を見逃す危険性がある.眼底所見が軽症である場合,眼底検査だけでFEVRと診断するのは容易ではない.フルオレセイン蛍光造影検査を行うと網膜血管の多分岐や走行異常が明瞭に描出されるので,診断に有用である.わが国のFEVRのうち約半数は孤発例であるが,このような症例の遺伝性には多様な背景がある6).X染色時期新生児期~乳児期小児(~成人)所見牽引性網膜?離(白色瞳孔,網膜襞)新生血管,硝子体出血滲出性網膜?離裂孔原性網膜?離,PVR背景となる病態網膜血管形成不全→網膜血管新生網膜血管形成不全・網膜硝子体癒着→網膜萎縮鑑別診断未熟児網膜症,PHPV,Norrie病未熟児網膜症,ぶどう膜炎Coats病,網膜血管腫Stickler症候群図2FEVRにみられる重症所見と鑑別診断重症例では年齢により異なる所見を呈する.FEVRの重症化は網膜血管の形成異常を基盤とする新生血管の形成や,網膜硝子体癒着などの病態が背景となっている.年齢に応じた所見の違いによって異なる疾患との鑑別が必要である.(61)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011965の原因遺伝子でもあり,X連鎖性FEVRの原因となる.LRP5は常染色体優性および劣性遺伝のFEVRの原因となる(表2).NDPはWNTの代わりにFZD4と結合する分泌型蛋白の遺伝子であり,LRP5はFZD4と結合する共受容体の遺伝子である.これまで見つかっているFEVRの遺伝子はすべてWNTシグナルと関連する8?10).FEVR症例でこれらの遺伝子の異常が見つかる頻度は50%程度である4,5,11).残りの症例のなかに家族例も多いことから,FEVRにはさらに未知の遺伝子が存在すると指摘されている.少なくとも11番染色体短腕には別の遺伝子の局在が報告されている12).このように,性がクローズアップされた.FZD4以外にはNDPとLRP5がFEVRの原因遺伝子として知られている.NDP(Norrinともよばれる)はNorrie病〔用語解説(2)〕標的遺伝子TCFNDPWNTLRP5/6FrizzledAXINGSK3APCb-CATPCK1DSHユビキチン仲介蛋白分解標的遺伝子TCFb-CATCBPb-CATb-CATb-CATb-CATNDPWNTFrizzledLRP5/6AXINDSHGBPGSK3APC図3WNTシグナルの模式図WNTシグナルでWNT(FEVRの場合はNDP)が標的となる遺伝子に作用する過程を示す.左:活性化されたWNT分子(あるいはNDP)がないと,b-カテニン(b-CAT)が分解され標的遺伝子の転写は休止(不活性化)する.右:活性化されたWNT分子(あるいはNDP)がLRP5(またはLRP6)とFrizzledに結合すると,b-カテニンの核内への移行を経て,T細胞因子(TCF)とともに下流の標的遺伝子を転写する.APC:家族性大腸ポリポージス,CBP:CREB結合蛋白,CK:カゼイン・キナーゼ,DSH:Dishevelled蛋白,GSK:GSK3受容体蛋白.表1WNTシグナル関連遺伝子が関与する代表的疾患遺伝子局在疾患WNT3細胞外無肢症WNT4腎症,多胞腎,半陰陽NDPFEVR,Norrie病LRP5細胞膜FEVR,骨粗鬆症網膜偽膠腫(骨粗鬆症),大理石骨病(骨増多症)FZD4FEVRDSH細胞質肺癌AXIN1癌AXIN2癌,歯形成不全APC家族性大腸ポリポージスb-Catenin細胞質~核癌,肺線維症,侵襲性線維症FEVRの原因遺伝子はグレイで示す.現在23のWNTシグナル遺伝子の異常による22種類の疾患が知られている.詳しくはWntgenehomepage(http://www.stanford.edu/~rnusse/diseases/Humangeneticdis.htm)を参照されたい.表2FEVRの原因遺伝子と遺伝形式遺伝子染色体での局在遺伝形式FZD411q14常染色体優性LRP511q13常染色体優性,常染色体劣性TSPAN127q31常染色体優性NDPXp11X染色体劣性966あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(62)られている(図4)3,13,18).遺伝子の種類の違いと眼底所見との間には明らかな関連性はない.常染色体劣性やX染色体劣性の症例では網膜症が重症化しやすい傾向があるが,眼底の所見をみてどの遺伝子の異常であるかを推定することは困難である4).ただし,LRP5変異では骨密度が低下する.LRP5は骨密度決定遺伝子ともよばれ,遺伝子変異によって骨密度の変化を起こす.この遺伝子の機能が失われるタイプの変異では網膜病変と骨密度の低下(骨粗鬆症)が合併する10).一方,機能獲得型変異とよばれるものでは大理石骨病を代表とする骨密度増多症候群を呈するが,眼所見は正常である.4.重症度の多様性FEVR家系のなかには家族内で重症度がはっきり異なることが多い.このような個人差の背景としてFEVRの遺伝子異常の併発がある.優性遺伝FEVR家系で同一の遺伝子異常が重複したり,異なる遺伝子の異常を合併したりすると重症例となりやすい4,19).ただし,FEVRでは眼所見の左右差がみられることが多く,これらの多様性は遺伝子重複によるものばかりではない.LRP5遺伝子には多型(一塩基多型,singlenucleotidepolymorphism:SNP)とよばれる遺伝子配列の変化が多くみられる.SNPは遺伝子変異と異なり,正常人に多数あるのでFEVRのような遺伝病の発症には関与しないと考えられてきた.しかし,LRP5遺伝子のFEVRは原因となる遺伝子の多様性の高い疾患である.2.新たにみつかったTSPAN12遺伝子最近,FEVRの新たな原因遺伝子としてTSPAN12遺伝子が同定された.2009年Jungeらはマウスを用いた研究によりTSPAN12遺伝子が網膜血管内皮細胞の表面に存在し,FZD4,LRP5とともにWNTシグナルを活性化することを明らかにした13).このことからTSPAN12遺伝子がFEVRの原因遺伝子である可能性が示され,その後TSPAN12変異を有するFEVRの家族例(常染色体優性遺伝)が報告された14.15).日本人89家系のFEVR症例を対象とした研究では,FEVR症例の約4%がTSPAN12変異症例であった16).この遺伝子の同定により,FEVRとWNTシグナルとの関連がますます注目されている.3.FEVRの成因これまで遺伝子異常から明らかとなったFEVRの病態は網膜におけるWNTシグナルの障害である.FZD4,LRP5,TSPAN12,NDPのいずれの遺伝子のノックアウトマウスでも網膜血管の発育不全が認められ,FEVRの臨床所見と一致する20).NDPは網膜のグリア細胞から分泌され,FZD4,LRP5,TSPAN12は網膜の血管内皮細胞の表面に発現する.すなわち,グリア細胞で分泌されたNDPがFZD4とLRP5,TSPAN12を介して網膜血管内皮細胞に作用して血管形成を促すものと考え図4FEVRの病態生理:WNTシグナルを介した網膜血管の形成左:網膜グリア細胞から分泌されたNDPは血管内皮細胞の表面にある分子(FZD4,LRP5,TSPAN12)と結合しWNTシグナルを活性化し,網膜血管の形成を促進する.右:4つの遺伝子のどれに異常が生じても,WNTシグナルが傷害され,網膜血管の形成不全(FEVR)を生じる.FEVRLRP5NDPTSPAN12FZD4LRP5NDPTSPAN12FZD4網膜血管内皮細胞血管形成網膜血管内皮細胞(63)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011967と頻度について.眼臨81:1805-1810,19874)QinM,HayashiH,OshimaKetal:Complexityofthegenotype-phenotypecorrelationinfamilialexudativevitreoretinopathywithmutationsintheLRP5and/orFZD4genes.HumMutat26:104-112,20055)KondoH,QinM,HayashiHetal:Genotype-phenotypecorrelationinfamilialexudativevitreoretinopathyorNorriediseasewithmutationsintheNorriediseasegene.InvestOphthalmolVisSci47:E-4606,20066)近藤寛之:特集遺伝性網膜疾患のトピックス.3.家族性滲出性硝子体網膜症.眼科48:1639-1651,20067)RobitailleJ,MacDonaldML,KaykasAetal:Mutantfrizzled-4disruptsretinalangiogenesisinfamilialexudativevitreoretinopathy.NatGenet32:326-330,20028)ChenZY,BattinelliEM,FielderAetal:AmutationintheNorriediseasegene(NDP)associatedwithX-linkedfamilialexudativevitreoretinopathy.NatGenet5:180-183,19939)XuQ,WangY,DabdoubAetal:Vasculardevelopmentintheretinaandinnerear:controlbyNorrinandFrizzled-4,ahigh-affinityligand-receptorpair.Cell116:883-SNPにはWNTシグナルに影響しうるものがある20).このようなSNPがFEVRの臨床所見にどれだけ影響するかはまだ明らかではない.IIIFEVRの関連疾患とWNTシグナル未熟児網膜症未熟児網膜症は低出生体重児にみられる非遺伝性の疾患である.しかし,緑内障などと同様に遺伝素因との関連性が指摘されている.これまで血管内皮成長因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)の遺伝子多型など,網膜症発症の危険因子の一つに遺伝子の関与が検討されてきた21).また,FEVRと未熟児網膜症の眼底所見が類似することから,これら2つの疾患の関連性が想定されてきた.未熟児網膜症症例に対して,NDP,FZD4,LRP5の遺伝子異常の有無を検査したところ,頻度が低いながらこれらの遺伝子異常がみられることが報告されている22,23).未熟児網膜症の発症メカニズムの一つとしてWNTシグナルの関与が注目されている.まとめFEVRは原因遺伝子の解明が進展し,より正確な診断や遺伝形式の推定が可能となっている.FEVRはこれまで考えられた以上に,遺伝的な多様性の高い疾患であることがわかってきた.いままでに解明された遺伝子はWNTシグナルを介して網膜血管の形成に働くものであり,網膜血管の形成不全がFEVRの本態であることが示されている.今後もFEVRの新たな遺伝子が解明されれば,FEVRの病態生理をさらに深く理解することができる.FEVRの病態生理の解明は,未熟児網膜症をはじめとして,糖尿病網膜症や加齢黄斑変性など網膜血管新生が関与する疾患の治療法につながる可能性もあり,さらなる研究の展開が期待される.文献1)CriswickVG,SchepensCL:Familialexudativevitreoretinopathy.AmJOphthalmol68:578-594,19692)大塩一幸,大島健司:網膜血管の発育異常をともなうVitreoretinopathyの一家系.眼紀27:138-144,19763)大久保好子,大久保彰,清水昊幸ほか:家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)と若年性裂孔原性網膜?離.診断基準■用語解説■(1)WNTシグナル:WNTという名称は,ショウジョウバエの胚発生に関与する遺伝子Wg(wingless)と,癌を起こす遺伝子として同定されたInt(integrated)が実は同一のものであることがわかったために,この2つの名前を合わせて名付けられたものである.WNTは,Frizzled受容体を介して細胞内にシグナルを伝達し,標的となる遺伝子に作用する.細胞内での伝達経路には,b-カテニンの転写活性化を介した伝達経路をはじめ,3つの伝達経路が知られている.FEVRに関連するのはこのb-カテニン経路と考えられている(図3).また,FEVRの成因である網膜血管の形成には,WNT蛋白の代わりとしてNDP〔Norrie病遺伝子,Norrin,用語解説(2)〕が働いているため,Norrin/FZD4/LRP5経路ともよばれている.(2)Norrie病:Norrie病は1927年Norrieが報告したX連鎖性遺伝を呈する網膜疾患である.網膜?離による先天盲が特徴である.白色瞳孔を呈する点がFEVRと共通するが,FEVRより重症な眼底所見を示す.症例の3割程度は精神発達遅滞や難聴を併発するため,FEVRとは異なる疾患と考えられてきた.1993年にはすでに,X染色体劣性遺伝FEVRの原因遺伝子はNorrie病の遺伝子(NDP)と同一であることが解明されていたが,この遺伝子の役割が不明であったためにFEVRの病因解明の手がかりとならなかった.現在,両疾患は類縁疾患とみなされている.968あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(64)tivevitreoretinopathy.AmJOphthalmol151:1095-1100,201117)YeX,WangY,NathansJ:TheNorrin/Frizzled4signalingpathwayinretinalvasculardevelopmentanddisease.TrendsMolMed16:417-425,201018)YeX,WangY,CahillHetal:Norrin,frizzled-4,andLrp5signalinginendothelialcellscontrolsageneticprogramforretinalvascularization.Cell139:285-298,200919)KondoH,HayashiH,OshimaKetal:Frizzled4gene(FZD4)mutationsinpatientswithfamilialexudativevitreoretinopathywithvariableexpressivity.BrJOphthalmol87:1291-1295,200320)QinM,KondoH,TahiraTetal:ModeratereductionofNorrinsignalingactivityassociatedwiththecausativemissensemutationsidentifiedinpatientswithfamilialexudativevitreoretinopathy.HumGenet122:615-623,200821)CookeRW,DruryJA,MountfordRetal:Geneticpolymorphismsandretinopathyofprematurity.InvestOphthalmolVisSci45:1712-1715,200422)EllsA,GuernseyDL,WallaceKetal:SevereretinopathyofprematurityassociatedwithFZD4mutations.OphthalmicGenet31:37-43,201023)HiraokaM,TakahashiH,OrimoHetal:GeneticscreeningofWntsignalingfactorsinadvancedretinopathyofprematurity.MolVis16:2572-2577,2010895,200410)ToomesC,BottomleyHM,JacksonRMetal:MutationsinLRP5orFZD4underliethecommonfamilialexudativevitreoretinopathylocusonchromosome11q.AmJHumGenet74:721-730,200411)BoonstraFN,vanNouhuysCE,SchuilJetal:Clinicalandmolecularevaluationofprobandsandfamilymemberswithfamilialexudativevitreoretinopathy.InvestOphthalmolVisSci50:4379-4385,200912)DowneyLM,KeenTJ,RobertsEetal:Anewlocusforautosomaldominantfamilialexudativevitreoretinopathymapstochromosome11p12-13.AmJHumGenet68:778-781,200113)JungeHJ,YangS,BurtonJBetal:TSPAN12regulatesretinalvasculardevelopmentbypromotingNorrin-butnotWnt-inducedFZD4/beta-cateninsignaling.Cell139:299-311,200914)PoulterJA,AliM,GilmourDFetal:MutationsinTSPAN12causeautosomal-dominantfamilialexudativevitreoretinopathy.AmJHumGenet86:248-253,201015)NikopoulosK,GilissenC,HoischenAetal:Next-generationsequencingofa40MblinkageintervalrevealsTSPAN12mutationsinpatientswithfamilialexudativevitreoretinopathy.AmJHumGenet86:240-247,201016)KondoH,KusakaS,YoshinagaAetal:MutationsintheTSPAN12geneinJapanesepatientswithfamilialexuda

オカルト黄斑ジストロフィ:三宅病

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYカメラの光路に光刺激(ハロゲン)と背景光(タングステン)を組み込み,網膜の局所刺激でERGと視覚誘発電位(VEP)を同時記録する装置を試作した.眼底は赤外光でモニターされるため,ボストンの装置と異なり被験者は検査中もまぶしくなく,安定した反応が記録された(図1).その後,さらに改良を加えたうえで正常被験者やさまざまな黄斑部疾患の患者から膨大な数の記録が行われ,そのデータの信頼性が確かめられた8~13).黄斑部局所ERGの大きな特長は,網膜上の測定したい部位に刺激光を移動でき,刺激サイズも変えられること.また,a波,b波,OP波,off波など,全視野ERGと同質の波形成分が得られ,各波形の変化によって疾患の病はじめにオカルト黄斑ジストロフィとは,1989年に名古屋大学の三宅養三によって「眼底所見に異常のみられない家族性黄斑症」として初めて紹介された疾患である1).その後,正常な眼底所見によって網膜の異常が隠されていることから,オカルト(occult=目に見えない)黄斑ジストロフィと命名された2).さらに発見からほぼ20年を経過した2010年には,本疾患の原因遺伝子として8番染色体短腕にRP1L1が特定された3).この疾患は黄斑部局所網膜電図(ERG)の開発からそれによる疾患概念の確立,そして原因遺伝子の解明までをすべて三宅の研究グループによって完結させた疾患であり,現在では「三宅病(Miyake’sdisease)」とよばれるようになってきている4,5).以下,本稿でも「三宅病」の呼称を用いることにする.I三宅病はどのようにして発見されたか?―黄斑部局所ERGの開発―三宅はボストンに留学中,Hiroseらとともに黄斑部局所からERGを記録する研究に従事していた.それまでにも同様の試みは世界で行われていたが,臨床でルーチンに利用されるには至っていなかった6,7).当時ボストンでは,細隙灯顕微鏡にレーザー光刺激を備え付けた装置を試作していたが,眼底を観察するための背景光が強くノイズも多く,結局実用化されなかった.三宅は名古屋大学に帰室後,キヤノンの協力を得て,赤外線眼底(49)953*KazushigeTsunoda:東京医療センター・臨床研究センター(感覚器センター)視覚生理学研究室〔別刷請求先〕角田和繁:〒152-8902東京都目黒区東が丘2丁目5-1東京医療センター・臨床研究センター(感覚器センター)視覚生理学研究室特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):953?961,2011オカルト黄斑ジストロフィ:三宅病OccultMacularDystrophy:Miyake’sDisease角田和繁*図1名古屋大学で製作された黄斑部局所ERGの1号機手前のモニターに赤外光による眼底像と刺激部位が映し出されている(三宅養三教授のご厚意による).954あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(50)II三宅病にはどのような症状があり,どのような経過をたどるのか?黄斑部,特に中心窩の視細胞機能が局所的に低下するため,視力低下および中心比較暗点がおもな症状である.問診の際に羞明を訴える患者も多いが,印象としては錐体ジストロフィや杆体一色覚など錐体機能不全の患者が訴えるような強い羞明ではないようである.進行は非常にゆっくりであるため,自覚症状の出るかなり以前から黄斑部の機能低下は始まっていると考えられる.自覚症状を訴える時期は10歳頃から60歳以上までと非常に幅があり,両眼の視力がきわめてゆっくりと低下していく.発症には男女による違いはなく,また屈折にも特に傾向はない.両眼がほぼ同時に進行する例が多いが,自覚症状の出現や視力低下の進行が,左右眼で数年から10年近く異なるケースもある.ただし,自覚症状が片眼のみの患者でも,黄斑部におけるERGの振幅はすでに両眼で低下している.根本的な治療法はない.視力低下が進行すると当然識字困難となるが,ほとんどの患者は拡大鏡などを用いることにより十分に日常の読み書きをこなしている.個人的な見解ではあるが,この疾患の場合,同一視力を有する他の網膜疾患の患者に比べて見え方の「質」が良いという印象を受ける.また周辺視力は末期でも正常に保たれるため,歩行時にもそれほどの困難は生じない.常染色体優性遺伝の疾患であるため,典型的な症例では両親のどちらかに同様の症状をもつ者がいる.ただし,後述するように孤発例の報告も多い.以下に,典型例(28歳,男性)の症状経過を示す.<症例>28歳,男性.<経過>18歳時,左眼がぼやけていることに気付く.眼鏡店で眼科受診を勧められたが放置していた.23歳時,大学病院を受診.矯正視力は右眼1.2,左眼0.8.左眼視力不良の原因はわからないと言われた.26歳時,右眼にも同様の見えにくさを自覚した.ときに羞明を自覚する.態を把握することができるということである.当時三宅は外勤先の病院で原因不明の視力低下をきたしている29歳,女性を診察していた.その患者は過去に複数の大学病院を含む多くの施設で,心因性視力障害,視神経疾患,中枢性疾患等々の診断を受けていた.全視野ERGはすでに正常であるとわかっていたが,患者とさまざまな話をするうえで,三宅は直感的に網膜疾患を疑ったという.その根拠は,彼女が黒板よりも特に白板に書かれた文字を読みにくいと訴えており,これは網膜疾患に多くみられる訴えであること.彼女と接した雰囲気で心因性の可能性はないと感じられたこと,などだという.三宅はその患者をすぐに名古屋大に連れて行き,自身で黄斑部局所ERGを記録したところ,黄斑部の反応が選択的に低下していることを発見した.これには三宅自身も大変驚き,その家族を調べたところ常染色体優性遺伝と思われる疾患家系であることがわかった.これらの症例が「Hereditarymaculardystrophywithoutvisiblefundusabnormality(眼底所見に異常のみられない家族性黄斑ジストロフィ)」として1989年にAmericanJournalofOphthalmologyに発表された1).なお,この三宅病第一号ともいうべき患者からも,のちにRP1L1変異(p.Trp960Arg)が確認されている.この症例を契機に三宅らは,原因不明の視力低下を訴える患者にできるだけ黄斑部局所ERG記録を行ったところ,この範疇に入る疾患が少なくないことを知った2).他の既知の黄斑ジストロフィ(たとえばStargardt病,Best病等々)と比べても,少なくともわが国では本疾患の頻度は少なくないとの印象をもたれたとのことである.その後,Sutterらにより開発された多局所ERGが市販化され,1990年代半ば以降には国内でも多くの大学病院で採用されるようになっていった14).それに伴い三宅病の報告も国内外で多数みられるようになった15?24).なお,LED(発光ダイオード)を刺激光として用いた三宅型の黄斑部局所ERGが現在Kowa社から販売されており,大学病院などを中心に臨床や研究に広く使われるようになってきている.(51)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011955力検査と,手持ちの「字ひとつ視力」による検査で大きく差が出る場合がある.提示した患者も同様のケースである.このような患者では,単に視力表の背景光を消したり検査室の照明を暗くしたりするだけで,視力が数段階上がる場合がある.視野検査では中心比較暗点が検出される.ただしGoldmann動的視野計では,進行例を除いて異常を検出できないことが多い.さらにHumphrey自動視野計を用いた場合でも,「中心30-2」のプログラムでは中心比較暗点が明瞭に検出できず,「中心10-2」でようやく暗点が検出される例もある(図3).三宅病の進行をフォローするには,中心10°の視野と「中心窩閾値」を参考にするのが望ましい.なお,黄斑部以外の周辺視野は進行例でも正常に保たれている.2.他覚的検査検眼鏡的所見,フルオレセイン蛍光眼底造影,インドシアニングリーン蛍光眼底造影ともにすべて正常である.若年者では,中心窩反射も明瞭に認められる(図4A).高齢に至っても網膜色素上皮の変性が現れることはない.経過中に黄斑部の変性が出現した場合には,三宅病の診断から除外される.全視野ERGでは,杆体系,錐体系反応ともに正常に記録されるが,黄斑部局所ERGあるいは多局所ERGで黄斑部の反応が減弱しており,これが三宅病の確定診断となる(図5).中心窩のごく狭い領域の機能が残存している場合は視力が正常なこともあるが,その場合でも28歳時,次第に見えにくさが進行するため再び大学病院を受診.ERG,VEPなどの検査を行うも異常を指摘されなかった.その後東京医療センターを受診し,電気生理学的検査にて三宅病と診断された.さらに遺伝子検査によりRP1L1変異(p.Arg45Trp)が確認された.<家族歴>母に若い頃から同様の症状あり.父および二人の姉には症状なし.<検査所見>矯正視力:(電光表示の視力表)右眼(0.7),左眼(0.4)(字ひとつ視力)右眼(1.0),左眼(0.6)Humphrey自動視野計:図3.眼底写真,網膜自発蛍光,光干渉断層計(OCT):図4.全視野ERG,多局所ERG,黄斑部局所ERG:図5.III三宅病は,どのようにして診断されるのか?1.自覚的検査矯正視力については,通常は運転免許の取得に問題の生じる0.7未満に低下してから受診する場合が多いが,初期には1.2と良好なケースもある.視力障害は徐々に進行し,最終的に0.1から0.2程度にまで低下することがある.ただし,他の黄斑ジストロフィと異なり網膜色素上皮の萎縮をきたすことがないため,最終視力が0.1を下回るケースはない(図2).80歳の時点でも1.0の視力を維持している患者もおり,進行には大きな個体差がある.羞明を伴うケースでは,電光掲示板を使った通常の視AB図2三宅病患者(80歳,男性,RP1L1p.Arg45Trpheterozygous)の眼底(A)およびフルオレセイン眼底造影(B)矯正視力は両眼とも(0.2).発症後60年以上経過しているが,眼底黄斑部に異常所見はみられない.956あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(52)黄斑部局所ERGや多局所ERGでは明らかな異常が検出される.検眼鏡的所見は正常であるが,スペクトラルドメイン光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)で後極部を観察すると,比較的早い時期から網膜外層構造に異常をきたしていることがわかる22).初期の変化は,黄斑部における錐体視細胞外節先端部(coneoutersegmenttip:COST)ラインの消失,視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnersegment/outersegmentjunction:IS/OS)ラインの不明瞭化などである(図4C).OCTの所見は発症から長期間経過するにつれて次第に変化していく.すなわち,初期には中心窩のCOSTラインの消失およびIS/OSラインの境界不明瞭化(厚く,膨潤したように見える)がみられるが,中心窩網膜厚はほぼ正常である.さらに長期間経過すると,中心窩でIS/OSラインの分断がみられるようになり,(中心10-2)(中心30-2)左眼右眼左眼右眼図3三宅病患者(28歳,男性,RP1L1p.Arg45Trpheterozygous)のHumphrey自動視野計所見(中心30-2および10-2)それぞれ実測閾値およびパターン偏差を示す.ACB三宅病(左眼)健常者(左眼)ELMIS/OSjunctionRPEELMIS/OSjunctionRPECOST図4図3と同一患者の画像所見眼底写真(A),網膜自発蛍光(B)はいずれも正常.光干渉断層計(OCT)(C)では,黄斑部における錐体視細胞外節先端部(coneoutersegmenttip:COST)ラインの消失,視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnersegment/outersegmentjunction:IS/OS)ラインの不明瞭化がみられる.(53)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011957せず,精査を依頼されて見つかるケースである.いずれの場合も,黄斑部のERG反応が局所的に低下していることさえ証明できれば診断は容易である.頭部CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)を用いる必要もない.なかなか正確な診断にたどり着かない一つの原因は,ひとたび視神経疾患や心因性視力障害を疑われてしまうと,その後に網膜専門医を受診する機会を失ってしまうことにあるようだ.網膜専門医以外にとって,多局所ERGや黄斑部局所ERGを施行するのはやや敷居が高いのかもしれない.ただし前述のように,スペクトラルドメインOCTを用いると黄斑部の異常を簡単にスクリーニングできるので,今後はより早く三宅病の診断に近づけるケースが増えていくことが期待される.後述するが,孤発例のなかには経過観察中に網膜色素上皮変性をきたす症例がまれにみられ,これは三宅病と外顆粒層は菲薄化していく(図6)17,22).正常視野領域に相当する黄斑部以外の視細胞構造は長期間経過しても正常であることが多いが,一部の症例ではIS/OSラインの不明瞭化がみられることもある.網膜自発蛍光は正常の場合が多い(図4B)が,ときに非特異的なごく弱い過蛍光が中心窩付近にみられることもある22).ただし,パターンジストロフィ,錐体・杆体ジストロフィ,Stargardt病に特徴的な強い過蛍光や低蛍光の所見,リング状の異常所見などはみられないため,鑑別は容易である.IV三宅病と鑑別すべき疾患は?眼底所見および全視野ERGが正常であるため,多くの患者が原因不明の視神経疾患,あるいは心因性視力障害などと診断されている.また比較的多いのが,白内障として眼内レンズ挿入術を施行されたあとに視力が改善杆体反応(Scotopic0.013)杆体-錐体反応(Scotopic30.0)錐体反応(Photopic2.7)錐体30Hzフリッカー反応(Photopic2.7,30Hz)三宅病(左眼)健常者100μV20ms100μV10ms2μV10ms50μV10ms50μV10ms100ms,500nV右眼左眼三宅病(左眼)健常者StimulusOn2μVStimulusOn10msABC図5図3と同一患者の電気生理学的検査所見全視野ERG(A)では,杆体系,錐体系ともに正常反応を示している.多局所ERG(B)では黄斑部における振幅低下がみられる(丸で囲まれた部分).黄斑部局所ERG(C)では5°,10°,15°の刺激に対する応答がいずれも減弱している.958あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(54)お,家系内には自覚症状がなく両眼の矯正視力が1.2という発症者も含まれており,連鎖解析にあたっては罹患者,非罹患者の鑑別が大変重要となった.このため調査にあたっては,症状のない家族も含めて全例で局所ERGおよびスペクトラルドメインOCTを施行し,かつ30歳以下の家族は正常サンプルに含めないなどの工夫を行った.ヒトにおけるRP1L1の機能はまだよく明らかにされていない.これまでの研究では,霊長類では錐体および杆体視細胞の特に内節に発現しており,視細胞内節・外節の構造維持,細胞内輸送に大きな役割を果たしていると考えられている25,26).は異なる黄斑症と考えられる.このような症例の場合,網膜自発蛍光を用いると網膜色素上皮の異常を早期にとらえることができる.V三宅病の原因遺伝子とは?2010年に東京医療センターの研究チームを中心とした研究グループにより,優性遺伝タイプのオカルト黄斑ジストロフィの原因遺伝子として8番短腕に位置するRP1L1(retinitispigmentosa1like-1)が同定された(図7)3).これは国内の大家系における連鎖解析によって明らかにされたものである.これまでに45番目のアルギニンをトリプトファン(p.Arg45Trp),および960番目のトリプトファンをアルギニン(p.Trp960Arg)に置き換える2つのミスセンス変異が見つかっている.なA健常者22歳,女性B三宅病p.Arg45Trp①自覚症状出現から10年(57歳,女性)②自覚症状出現から26年(81歳,女性)④自覚症状出現から63年(83歳,男性)③自覚症状出現から41年(69歳,男性)ELMIS/OSCOSTRPEELMIS/OS(-)COSTRPEELMIS/OS(-)COSTRPEELMIS/OS(-)COSTRPEELMIS/OS(-)COSTRPE図6健常者のOCT所見(A),および同一家系内の患者における推定罹患期間とOCT所見との関係(B)罹患期間が10年の症例も41年の症例も視細胞層のOCT所見に大きな違いはみられないが,中心窩網膜厚は次第に菲薄化していく(①~③).60年を超える症例では,視細胞層の萎縮が顕著である(④).*は正常網膜の中心窩で見られるIS/OSラインのドーム状部位(fovealbulge)を示す.あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011959VI孤発例の三宅病とは?三宅らが1989年に最初に報告した症例は常染色体優性遺伝の家系であったが,その後は孤発例の報告もときおりみられるようになってきている.特に国外の報告の場合,そのほとんどが孤発例であることが多い.もともとオカルト黄斑ジストロフィという病名は,「眼底所見が正常で,全視野ERGが正常かつ黄斑部局所ERGが異常であるジストロフィ」という病態を指していた.このため,一見同じ臨床検査所見を呈していても異なる原因の疾患が幾つか含まれている可能性がある.今回の筆者らの発見により,優性遺伝型の三宅病がRP1L1変異(p.Arg45Trpあるいはp.Trp960Arg)による視細胞異常を原因とすることが明らかになった.ただしこれまでの調査では,優性遺伝の家系でも既知の変異が見つからない症例が多くみられ,それらの原因はRP1L1遺伝子のなかの別の変異によるものか,あるいはまったく別の遺伝子の変異によるものである可能性がある.特に孤発例でOCT所見を注意して観察すると,視細胞外節の萎縮が短期間で進行し,RP1L1変異の症例とは明らかに病態が異なると思われるケースがある.さらに,孤発例のなかには長期間の経過観察中に網膜色(55)(家系1)(家系2)(家系3)(家系4)Ⅰ.Ⅱ.Ⅲ.Ⅰ.Ⅱ.Ⅲ.Ⅳ.Ⅴ.p.Arg45Trpp.Trp960Arg罹患者健常者健常者罹患者AB●:健常者●:自覚的視力障害あり●:三宅病罹患者■:遺伝子変異あるも未発症■:死亡n*:遺伝子検査の対象者●図7遺伝子異常のみられた三宅病家系(A,罹患者のすべてにRP1L1の変異が認められた),および上記家系でみられた2種類のミスセンス変異(B)(文献3より改変)960あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011素上皮変性をきたして三宅病の診断から除外される症例がまれにみられ,疾患の予後を説明するにあたっては注意が必要である.現在のところ,三宅病とは「両眼にゆっくりと進行する黄斑部に限局した視細胞障害で,血管や網膜色素上皮に異常のみられないもの」と定義される.この疾患の病態にはRP1L1以外にも複数の原因(たとえば劣性遺伝によるもの)が関与していると考えられ,今後の研究成果が待たれるところである.VII三宅病のミステリー優性遺伝型の三宅病にRP1L1の変異が関与していることが明らかになったが,同時に新たな疑問点も生じている.RP1L1は霊長類の錐体視細胞だけでなく杆体視細胞にも発現しているが,三宅病で視細胞機能が低下するのは黄斑部に限られている.スペクトラルドメインOCTで三宅病の視細胞層を観察すると,発症から30年以上経過しても黄斑部以外の視細胞構造が正常に保たれている例が多い(図6).なぜ,長期間経過しても杆体の機能が低下しないのか,黄斑部以外の錐体が障害を受けないのか.また,視細胞が変性,萎縮に陥っているにもかかわらず,なぜ網膜色素上皮は最後まで正常に保たれるのか.これらは錐体・杆体ジストロフィなど,他の網膜疾患では一般にみられない所見である.これらの疑問を解決するためには,ヒトにおけるRP1L1発現の正確な局在を明らかにするだけでなく,遺伝子変異から視細胞の構造異常および機能異常に至るまでの詳細なメカニズムを今後の研究によって解明する必要がある.おわりに三宅病の発見に至る経緯から疾患の特徴,診断法,あるいは今後の研究課題についてまとめた.今回の総説執筆にあたり,平素よりご指導いただいている愛知医科大学理事長・三宅養三先生に深謝いたします.文献1)MiyakeY,IchikawaK,ShioseYetal:Hereditarymaculardystrophywithoutvisiblefundusabnormality.AmJOphthalmol108:292-299,19892)MiyakeY,HoriguchiM,TomitaNetal:Occultmaculardystrophy.AmJOphthalmol122:644-653,19963)AkahoriM,TsunodaK,MiyakeYetal:DominantmutationsinRP1L1areresponsibleforoccultmaculardystrophy.AmJHumGenet87:424-429,20104)MiyakeY:ElectrodiagnosisofRetinalDiseases.Springer-VerlagTokyo,20065)藤波芳,角田和繁:黄斑ジストロフィの遺伝子異常.眼科53:239-255,20116)HiroseT,MiyakeY,HaraA:Simultaneousrecordingofelectroretinogramandvisualevokedresponse.Focalstimulationunderdirectobservation.ArchOphthalmol95:1205-1208,19777)ArdenGB,BankesJL:Fovealelectroretinogramasaclinicaltest.BrJOphthalmol50:740,19668)三宅養三:黄斑部局所ERGでなにが分かる?臨眼56:680-688,20029)MiyakeY,AwayaS:Stimulusdeprivationamblyopia.Simultaneousrecordingoflocalmacularelectroretinogramandvisualevokedresponse.ArchOphthalmol102:998-1003,198410)MiyakeY,ShiroyamaN,OtaIetal:Localmacularelectroretinographicresponsesinidiopathiccentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol106:546-550,198811)MiyakeY,ShiroyamaN,OtaIetal:Oscillatorypotentialsinelectroretinogramsofthehumanmacularregion.InvestOphthalmolVisSci29:1631-1635,198812)MiyakeY,ShiroyamaN,HoriguchiMetal:AsymmetryoffocalERGinhumanmacularregion.InvestOphthalmolVisSci30:1743-1749,198913)MiyakeY,ShiroyamaN,OtaIetal:FocalmacularelectroretinograminX-linkedcongenitalretinoschisis.InvestOphthalmolVisSci34:512-515,199314)SutterEE,TranD:ThefieldtopographyofERGcomponentsinman─I.Thephotopicluminanceresponse.VisionRes32:433-446,199215)PiaoCH,KondoM,TanikawaAetal:Multifocalelectroretinograminoccultmaculardystrophy.InvestOphthalmolVisSci41:513-517,200016)NakamuraM,KanamoriA,SeyaRetal:Acaseofoccultmaculardystrophyaccompanyingnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol135:715-717,200317)KondoM,ItoY,UenoSetal:Fovealthicknessinoccultmaculardystrophy.AmJOphthalmol135:725-728,200318)WildbergerH,NiemeyerG,JunghardtA:Multifocalelectroretinogram(mfERG)inafamilywithoccultmaculardystrophy(OMD).KlinMonatsblAugenheilkd220:111-115,200319)LyonsJS:Non-familialoccultmaculardystrophy.DocOphthalmol111:49-56,200520)BrockhurstRJ,SandbergMA:Opticalcoherencetomog-(56)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011961raphyfindingsinoccultmaculardystrophy.AmJOphthalmol143:516-518,200721)LubinskiW,GoslawskiW,PenkalaKetal:A43-yearoldmanwithreducedvisualacuityandnormalfundus:occultmaculardystrophy─casereport.DocOphthalmol116:111-118,200822)FujinamiK,TsunodaK,HanazonoGetal:Fundusautofluorescenceinautosomaldominantoccultmaculardystrophy.ArchOphthalmol129:597-602,201123)ParkSJ,WooSJ,ParkKHetal:Morphologicphotoreceptorabnormalityinoccultmaculardystrophyonspectraldomainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:3673-3679,201024)HanazonoG,OhdeH,ShinodaKetal:Pattern-reversalvisual-evokedpotentialinpatientswithoccultmaculardystrophy.ClinOphthalmol4:1515-1520,201025)ConteI,LestingiM,denHollanderAetal:Identificationandcharacterisationoftheretinitispigmentosa1-like1gene(RP1L1):anovelcandidateforretinaldegenerations.EurJHumGenet11:155-162,200326)YamashitaT,LiuJ,GaoJetal:EssentialandsynergisticrolesofRP1andRP1L1inrodphotoreceptoraxonemeandretinitispigmentosa.JNeurosci29:9748-9760,2009(57)