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X 染色体劣性若年網膜分離症 (先天網膜分離症)

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY2.眼底所見黄斑部の分離はほぼ全例に,周辺部の分離(図1)は約半数にみられる.40歳以下では中心窩網膜分離が,それを過ぎると中心窩反射消失や色素を伴った黄斑変性が高頻度となる.中心窩網膜分離は微小?胞(microcyst)が多数集簇した車軸状の皺襞を伴う(図1).これは次第に融合・消失し,さらには網膜色素上皮(RPE)萎縮もみられる.蛍光眼底造影ではこの微小?胞は蛍光色素の貯留を呈さず,これは?胞様黄斑変性との鑑別点として重要である3).また,中心窩網膜分離は進行すると網膜およびRPEの萎縮を生じ,萎縮型加齢黄斑変性類似の外観を呈する.その際,周辺部網膜分離は本疾患を疑う一つのサインであるが,高齢者では本疾患と無関係にみられることがあるので注意を要する.病歴・家族歴などを参考に,xlRSを疑ったら後述する20J白色光刺激の網膜電図(electroretinogram:ERG)を記録するとよい.周辺部の網膜分離は下耳側に多く,胞状を呈することも多く,網膜?離との鑑別が重要である.分離網膜の内層は菲薄化して硝子体ベールともよばれ,これが破綻するとしばしば大きな網膜裂孔を伴う.網膜内層裂孔は外層裂孔より頻度が高く,大きいことが多い.内層の血管の破綻による分離腔内または硝子体出血や,外層裂孔の合併による網膜?離を生じることもある.また,しばしば周辺部に小口病様の光沢のある反射を認め,Miyakeらは硝子体手術によりこの色調が正常化したことから,I疾患概念若年男子の黄斑変性の原因としてよく知られている両眼性のX染色体劣性遺伝疾患である.性別はほとんど男性で,患者は学童期に視力不良を指摘され眼科を受診することが多い.男の兄弟で発症するなど,家族歴を有し,有病率は5,000人から25,000人に1人といわれている.その原因遺伝子はRS1遺伝子であることがわかっている.名の通り網膜分離を認め特に黄斑部の車軸状変化は特徴的であるが,これはある時期の所見であり全病期を通してさまざまな黄斑所見を呈する.軸性遠視が多い1).IIおもな臨床所見1.初発症状と経過X染色体劣性若年網膜分離症(X-linkedretinoschisis:xlRS)は先天性疾患と考えられているが,実際には就学時前後に健診などで,斜視,弱視(多くは遠視性)ないし原因不明の視力障害で発見されることが多い1,2).慶應義塾大学病院で臨床症状から本疾患が疑われ遺伝子変異を認めた症例について,その臨床所見を表1に示す.以下に示すようにその臨床像は多様で,視機能はおもに幼年,若年期に硝子体出血や網膜?離を起こす症例では一般に不良となることが多いが,青年期を過ぎるとこれらの合併症は多くはなく,長期にわたって0.1~0.2の視力を維持できることが多い.(41)945*KeiShinoda:帝京大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕篠田啓:〒173-8605東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):945?951,2011X染色体劣性若年網膜分離症(先天網膜分離症)X-LinkedJuvenileRetinoschisis(CongenitalRetinoschisis)篠田啓*946あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(42)その機序としてK+の硝子体腔へのoutflowの増加の可能性を推測している4).まれではあるが,周辺部にのみ網膜分離を有する症例や多発性白点を呈するxlRSも報告されている1).組織学的にはxlRSにみられる網膜分離は網膜内層であると考えられてきた5)が,近年,遺体眼の組織検索や光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の開発によって生体眼でxlRSの網膜分離が網膜深層や中層,外層など,いろいろな層に存在しうる6)こと,特に中心窩および傍中心窩では外網状層と内顆粒層にあることが明らかとなった(図1).周辺の網膜分離領域では絶対暗点を示すので,網膜内のいずれかのレベルで視覚情報伝達は遮断されていることになる.検眼鏡,OCTでとらえうる形態学的な網膜分離は中心窩および周辺部に限局していても電気生理学的には,網膜全体に機能障害があると考えられる.3.電気生理学的所見一般には,20J白色光刺激によるERGでa波に比し表1慶應義塾大学病院でxlRSと診断された症例の臨床所見症例年齢(歳)性別発症年齢(歳)眼科受診のきっかけ視力屈折(等価球面度数)眼底所見周辺部網膜分離網膜分離6?8歳時最終経過観察時腔内裂孔125男2家族調査右左0.3光覚なし0.3光覚なし+1.0不明色素境界線不明+不明+不明228男6視力不良右左0.20.10.20.1?2.5?2.5中心窩反射消失中心窩反射消失++++325男5視力不良右左0.30.1?1.0?0.5車軸状網膜分離中心窩反射消失++?+413男6視力不良右左1.00.80.60.6+0.5+0.5車軸状網膜分離車軸状網膜分離??510男1斜視右左0.080.080.10.1+6.0+6.0網膜色素上皮萎縮網膜内層裂孔??617男6視力不良右左0.40.30.40.30.00.0車軸状網膜分離車軸状網膜分離??79男6視力不良右左0.20.40.10.40.0+0.5車軸状網膜分離車軸状網膜分離++?+816男6視力不良右左0.50.50.20.2+7.0+5.0色素境界線中心窩反射消失+++?941男6飛蚊症右左0.70.70.50.5?1.0?1.0中心窩反射消失中心窩反射消失++??1020男5視力不良右左0.50.40.40.30.0?0.75中心窩反射消失中心窩反射消失??1122男6視力不良右左0.50.060.80.1+0.5+8.0車軸状網膜分離中心窩反射消失?++1232男8カ月家族調査右左0.60.01?0.75+11.0中心窩反射消失網膜色素上皮萎縮?+?1322男4斜視右左0.3光覚弁0.3光覚なし+2.0不明車軸状網膜分離不明+不明+不明1418男6視力不良右左0.30.30.20.2+1.0+1.0車軸状網膜分離車軸状網膜分離??症例合併症,既往歴変異1分離腔内出血先天白内障,外傷性網膜?離delexon12網膜?離網膜?離delexon13硝子体ベールMet1Val4金箔様反射金箔様反射Splicedonor5内斜視del33bps6金箔様反射金箔様反射Glu72Lys7分離腔内出血分離腔内出血Gln88stop8Tyr89Cys9硝子体出血硝子体ベール,硝子体出血Gly109Glu10Cys142stop11不同視弱視,硝子体混濁Trp163stop12硝子体ベール,硝子体出血硝子体ベール,硝子体出血内斜視Arg182Cys13網膜?離,白内障,硝子体混濁外斜視Arg182Cys14Pro203Leu(43)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011947ABCDEFGHIJKL図1xlRS症例の眼底写真とOCTA?C:黄斑部は典型的なmicrocyst(A)から広範な網膜色素上皮萎縮(C)を呈するものまでさまざまである.D?J:周辺部には網膜分離腔内の出血(D)や,大きな内層裂孔(E,F),小口病にみられるいわゆる?げた金屏風様反射(ときに血管に沿ってその陰のような黒い反射がみられる)(I,J)がみられる.K,L:光干渉断層計(OCT)では分離腔はおもに外網状層から内顆粒層にかけて散在している.ScotopicMixedrod&conePhotopic30HzflickerOn-andoffresponses健常者症例(右)症例(左)25msec50μV25msec50μV25msec50μV25msec50μV25msec50μV図2典型例の電気生理学的所見国際臨床視覚電気生理学会のガイドラインに従ったERGシリーズと長時間刺激によるphotopicERG(on,off反応)を示す.Mixedrod&coneERGでは陰性型を,flickerERGは位相の遅れと振幅の減弱を呈する.off反応は比較的保たれているのに対しon反応は減弱している.948あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(44)な検討で,振幅低下より潜時延長のほうが著明,あるいはその逆であったとか,振幅はP1よりN1のほうが,周辺より中心のほうがより低下していたなど,いくつかの報告がある.網膜内層の障害が示唆されるものの,遺伝子変異によってコードされる異常蛋白の及ぼす影響を含め,本質的な病態はいまだ不明である.4.遺伝子変異1997年Sauerら18)によって本疾患の原因遺伝子であるXLRS1gene(X-linkedretinoschisis遺伝子:6つのexonを含み,蛋白質は224のアミノ酸からなる,図3,表2)が報告され19,20),その後多施設から多種類の遺伝子変異が報告されている11,20).この遺伝子はdiscoidinとよばれる,細胞相互作用に関与しているとされる膜蛋白と相同なcodonを含んでおり18,19),変異の多くはこの領域に存在する(図3).この遺伝子がコードする蛋白質retinoschisin(RS)は視細胞や双極細胞に発現・局在し,細胞接着やシナプス形成に関与すると考えられている21).てb波の顕著な低下を示すいわゆる陰性型(negativetype:振幅のb/a比<1)を呈することが特徴とされ7)(図2),Muller細胞の異常が考えられてきた5,7).その根拠として,b波の起源は双極細胞の興奮に伴って上昇した細胞外K+のMuller細胞によるre-uptakeである8)と考えられていることや,病理組織学的検討5),本疾患の眼底にみられる小口病様の剥げた金屏風様眼底反射4)は細胞外K+濃度の上昇によるもので,Muller細胞がその調節を担っていることなどがあげられる.また,flickerERGの異常(図2)9)や長時間刺激によるphotopicERGにおいてon反応が著明に低下している(図2)ことが報告されている1,10,11).これらは遺伝子異常とともに,非典型的な臨床所見を呈する症例などにおいても強い診断学的な意味をもつ所見である.On経路は錐体杆体系とともにシナプスを形成するが,off経路は錐体系のみとされる.この比較的選択的なon反応の低下は完全型の先天性停止性夜盲12)や,一部の錐体ジストロフィ13?16)でもみられることがある.したがって,on経路の障害は非特異的な所見であり,ある種の網膜の変性,黄斑の障害に伴って先に起こってくる現象なのかもしれない.また,xlRSでは強い青錐体ERGの異常(赤緑錐体系ERGに比して)を呈し17),青錐体がon型双極細胞とのみシナプスを形成することから,これもon経路がより強く障害されていることを支持する.ただし,Sievingらは,暗順応下そして錐体のa波の解析,長時間刺激によるphotopicERG,flickerERGの詳細な解析からon経路もoff経路も同等に障害されていると述べている.Miyake1)によると,黄斑局所ERGではa波に比較してb波の減弱が強く,b/a比は明らかに小さく,off型双極細胞よりon型双極細胞の障害のほうが強い可能性を述べている.さらに刺激面積が小さいほどb/a比は小さく,a波,b波,OP波すべてにおいて潜時が延長していた.多局所ERGも異常を示すが,1次核性分より2次核成分のほうが著明で,より内層の障害を示唆すると考えられる.周辺の網膜分離部は視野では絶対暗点を示すのに応答密度は正常範囲で,恐らく分離が最内層にあっても外層中層の機能は比較的保たれているものと考えられる.そのほか,多局所ERGの応答密度の詳細表2日本人X染色体伴性若年性網膜分離症患者にみられたRS1変異エキソン慶應義塾大学(家系数)欧米(家系数)delexon1114Met1Val11Splicedonorイントロン112del33bpsエキソン3/イントロン31del473bps41Glu72Lys4143(フィンランド人:70%)Gln88stop41Tyr89Cys412Trp92Cys4Trp96stop41Arg102Gln45Gly109Glu41Cys142stop51Glu146Asp51Gln154stop51Trp163stop51Arg182Cys622Pro193Leu64Pro203Leu613Arg213Gln61(45)あたらしい眼科Vol.28,No.7,20119495.Phenotype?genotypeの相関XLRS1遺伝子変異の種類と臨床型の関連に関しては多くの議論があり,同一遺伝子変異でも臨床病型がさまざまであることなどから,明らかなphenotype/genotypeの相関は不明である.筆者らは変異がdiscoidindomainの領域内外の症例についてERGの障害の程度を本疾患のモデルマウスであるXLrs1変異マウス(Rs1hノックアウトマウス)22)の検討から,網膜が形成される生後極早期には水平細胞を除くほぼすべての網膜神経細胞で合成されるとされ,治療法の新たな可能性を示した.表3XLRS1遺伝子変異部位とERGの関係FlickerERGPhotopicERG(長時間刺激)振幅(μV)潜時(msec)a波振幅(μV)b波振幅(μV)d波振幅(μV)Discoidin(+)群(n=6)38.6±9.5(29.0~51.8)21.9±4.7(13.75~25.0)35.7±7.1(28.6~45.7)8.8±5.9(2.9~20.0)50.7±11.0(32.9~62.9)Discoidin(?)群(n=5)39.3±15.3(22.1~54.3)17.3±4.4(12.5~22.5)32.3±10.9(21.4~50.0)12.6±9.7(4.3~27.1)54.6±10.5(44.3~70.0)健常群(n=14)66.1±14.6(15~22.5)18.8±2.3(15.0~22.5)40.4±10.3(20.0~62.9)46.4±10.2(28.6~71.4)44.7±6.3(31.4~54.2)数値はすべて平均値±標準偏差(最小値~最大値).Discoidin(+)群:XLRS1geneにおいてdiscoidinと相同性をもつ領域(codon101?203)の変異を有する患者.Discoidin(?)群:XLRS1geneにおいてcodon101?203以外の領域に変異を有する患者.xlRS症例は健常群に比してflickerERGと長時間刺激によるphotopicERGのb波の振幅が有意に小さかったが,discoidin(+)群とdiscoidin(?)群の比較では,flickerERGの振幅,潜時,および長時間刺激によるphotopicERGの各波の振幅のいずれも有意差を認めなかった.(文献9より)●:Splicesite○:Missense×:Prematurestop▼:Insertion△:Deletion-:Deletion12345exon6図3日本人と欧米人の変異の種類の比較慶應義塾大学病院でxlRSと診断された症例の変異の種類をオレンジ色で示す.Discoidindomainの領域(codon101?203の領域)が比較的多い.950あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(46)低下を認めることがあるなどの報告もある.遺伝子型との関連は不明で,今後は適応についての検討も待たれる.また,黄斑部網膜分離に対する硝子体手術治療が報告され30,31)注目されている.また,遺伝子治療の研究も進んでおり,動物実験では,negativetypeERGを示すRS蛋白欠損マウスに対し,遺伝子導入によって本蛋白質を補うことでERGb波の陽性化や組織所見の改善を認めており,成人動物でも治療効果が得られるなどの報告もある.そして,先述したミスセンス変異でも,多くの場合,導入遺伝子によるドミナントネガティブ効果は強くない,すなわち正常な蛋白質生成を阻害しないことがわかってきており24),本疾患患者の多くに正常な遺伝子導入により治療効果が期待できると考えられている.稿を終えるにあたり,ご指導を下さった真島行彦先生,大出尚郎先生に深謝いたします.文献1)MiyakeY:X-linkedRetinoschisis.In:ElectrodiagnosisofRetinalDiseases:p72-86,Springer-VerlagTokyo,20062)ShinodaK,IshidaS,OguchiYetal:Clinicalcharacteristicsof14JapanesepatientswithX-linkedjuvenileretinoschisisassociatedwithXLRS1mutation.OphthalmicGenet21:171-180,20003)DeutmenA,HoyndC,vanLith-VerhoevenJ:Maculardystrophies.In:RyanS,HintonD,SchachatA(eds).Retina,4thed,p1165,Elsevier/Mosby,Philadelphia,PA,20064)MiyakeY,TerasakiH:Goldentapetal-likefundusreflexandposteriorhyaloidinapatientwithX-linkedjuvenileretinoschisis.Retina19:84-86,19995)YanoffM,KerteszRahnE,ZimmermanLEetal:Histopathologyofjuvenileretinoschisis.ArchOphthalmol79:49-53,19686)岸章治:若年網膜分離症.OCT眼底診断学,岸章治(編),p262-268,エルゼビア・ジャパン,20107)HiroseT,WolfE,HaraA:ElectrophysiologicalandpsychophysicalstudiesincongenitalretinoschisisofX-linkedrecessiveinheritance.DocOphthalmolProcSer13:173-184,19778)SievingPA,MurayamaK,NaarendorpF:Push-pullmodeloftheprimatephotopicelectroretinogram:aroleforhyperpolarizingneuronsinshapingtheb-wave.VisNeurosci11:519-532,19949)篠田啓,大出尚郎,井上理香子ほか:網膜電図による若年性網膜分離症の網膜内層機能評価.眼紀52:777-781,比較したが有意差はなかった(表3)9).報告された症例の多くはこの領域の変異を有しているが,臨床病型との相関はないという報告が多い.一方,たとえばRPE65遺伝子変異を有する網膜変性でも報告されている23)ように,機能喪失突然変異(nullmutation:突然変異遺伝子が形質発現効果を示さない)がミスセンス変異(点突然変異で,異常だが蛋白質は産生される)よりも重篤な臨床病型をもたらす可能性が指摘されている24?26).表1に示した症例について,6?8歳時の視力を診療記録から検索して視力分布を表したものを示す(図4)2).筆者らは,遺伝子変異の位置がsplicingdonorsite,exon1,2といった上流のもの,大きな欠失を呈するものは特に臨床病型も重篤になるのではないか,という仮説をたてた27).同様の報告もある26)が,いまだ推測の域を出ない.III治療網膜分離に対する治療法は現在確立されていない.分離腔内ないし硝子体出血は自然消退することが多いが再発性・遷延性の場合,または網膜?離に対しては網膜硝子体手術の適応となる28).視力障害という観点からは進行が緩徐で,手術適応になる重傷病型とそれ以外といった臨床病型のタイプがある.近年,炭酸脱水酵素阻害薬の内服や点眼薬が黄斑部?胞の軽減や消失に有効であったという報告が相次いでいる29)が,視力改善には結びつかない,長期的には視力delex3/int3delex3/int3W163X#delexon1F72KR182CP203LP203LE72KQ88XW142Xdelex4delex4Y89CY89CW142XW163Xdelexon1*Q88Xdelex4delexon1*R182C*delex4G109EG109Edelexon1*IVS1IVS1(視力)(眼数)50光覚(-)光覚(+)<0.10.10.20.30.40.50.60.70.80.91.0図4XLRS症例における6~8歳時の矯正視力を元にした視力分布とxlRS遺伝子変異の関係下線はdiscoidinと相同性をもつ領域の変異(exon4?6).*は網膜?離発症眼,#は不同視弱視眼.あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011951200110)ShinodaK,OhdeH,MashimaYetal:On-andoff-responsesofthephotopicelectroretinogramsinX-linkedjuvenileretinoschisis.AmJOphthalmol131:489-494,200111)ShinodaK,OhdeH,IshidaSetal:Novel473-bpdeletioninXLRS1geneinaJapanesefamilywithX-linkedjuvenileretinoschisis.GraefesArchClinExpOphthalmol242:561-565,200412)MiyakeY,HoriguchiM,SuzukiSetal:Completeandincompletetypecongenitalstationarynightblindness(CSNB)asamodelof“off-retina”and“on-retina”.In:DegenerativeRetinalDiseases,LaVailetal(eds),p31-41,PlenumPress,NewYork,199713)SievingPA:PhotopicON-andOFF-pathwayabnormalitiesinretinaldystrophies.TransAmOphthalmolSoc91:701-773,199314)若林謙二:原発性黄斑部変性症の電気生理学的特徴についての研究.金沢大学十全医学会雑誌95:399-439,198615)ShinodaK,OhdeH,InoueRetal:ON-pathwaydisturbanceintwosiblings.ActaOphthalmolScand80:219-223,200216)篠田啓,大出尚郎,井上理香子ほか:錐体ジストロフィの長時間刺激の網膜電図によるon反応とoff反応.臨眼56:173-178,200217)矢ヶ崎克哉,三宅養三:X染色体先天性網膜分離症の青錐体系ERG.眼紀34:1468-1475,198318)SauerCG,GehrigA,Warneke-WittstockRetal:PositionalcloningofthegeneassociatedwithX-linkedjuvenileretinoschisis.NatGenet17:164-170,199719)TheRetinoschisisConsortium:Functionalimplicationsofthespectrumofmutationsfoundin234caseswithX-linkedjuvenileretinoschisis.HumMolGenet7:1185-1192,199820)MashimaY,ShinodaK,IshidaSetal:IdentificationoffournovelmutationsoftheXLRS1geneinJapanesepatientswithX-linkedjuvenileretinoschisis.Mutationinbriefno.234.Online.HumMutat13:338,199921)ReidSN,YamashitaC,FarberDB:Retinoschisin,aphotoreceptor-secretedprotein,anditsinteractionwithbipolarandmullercells.JNeurosci23:6030-6040,200322)WeberBH,SchreweH,MoldayLLetal:InactivationofthemurineX-linkedjuvenileretinoschisisgene,Rs1h,suggestsaroleofretinoschisininretinalcelllayerorganizationandsynapticstructure.ProcNatlAcadSciUSA99:6222-6227,200223)LorenzB,PoliakovE,SchambeckMetal:AcomprehensiveclinicalandbiochemicalfunctionalstudyofanovelRPE65hypomorphicmutation.InvestOphthalmolVisSci49:5235-5242,200824)VijayasarathyC,SuiR,ZengYetal:Molecularmechanismsleadingtonull-proteinproductfromretinoschisin(RS1)signal-sequencemutantsinX-linkedretinoschisis(XLRS)disease.HumMutat31:1251-1260,201025)BradshawK,GeorgeN,MooreAetal:MutationsoftheXLRS1genecauseabnormalitiesofphotoreceptoraswellasinnerretinalresponsesoftheERG.DocOphthalmol98:153-173,199926)HiriyannaKT,BinghamEL,YasharBMetal:NovelmutationsinXLRS1causingretinoschisis,includingfirstevidenceofputativeleadersequencechange.HumMutat14:423-427,199927)ShinodaK,MashimaY,IshidaSetal:Severejuvenileretinoschisisassociatedwitha33-bpsdeletioninXLRS1gene.OphthalmicGenet20:57-61,199928)FerronePJ,TreseMT,LewisH:Vitreoretinalsurgeryforcomplicationsofcongenitalretinoschisis.AmJOphthalmol123:742-747,199729)KhandhadiaS,TrumpD,MenonGetal:X-linkedretinoschisismaculopathytreatedwithtopicaldorzolamide,andrelationshiptogenotype.Eye(Lond).2011Apr29.[Epubaheadofprint]30)AzzoliniC,PierroL,CodenottiMetal:OCTimagesandsurgeryofjuvenilemacularretinoschisis.EurJOphthalmol7:196-200,199731)IkedaF,IidaT,KishiS:ResolutionofretinoschisisaftervitreoussurgeryinX-linkedretinoschisis.Ophthalmology115:718-722,2008(47)

卵黄様黄斑ジストロフィ

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY視力は良好である.初期には片眼のみに出現することがある.まれではあるが,卵黄様病変が黄斑部外に多発することがあり,multiplevitelliformlesionsとよばれている.卵黄様病変は網膜下に沈着したリポフスチンである(図1B).本症ではリポフスチンが神経網膜下のマクロファージ内,網膜色素上皮細胞(RPE)内あるいはRPEと視細胞間に蓄積する.蓄積したリポフスチンが特徴的な眼底所見を呈する.リポフスチンは酸化された蛋白質と脂質から構成されており,細胞毒性がある.リポフスチンの主成分は,視物質に由来するN-retinylidene-Nretinylethanolamine(A2E)でライソゾーム系の機能低下をひき起こし,やがては細胞死につながる2).リポフスチンは自発蛍光を発するため,眼底自発蛍光(FAF:fundusautofluorescence)では,図2Cに示したように網膜下に沈着した卵黄様病変は過蛍光として描出できる.3)Psedohypopyonstage(偽蓄膿期):思春期頃になると,卵黄様の黄色病変が自壊して網膜下にニボーを作って蓄積する(図2A).60~90分間の頭位変化に伴って,偽蓄膿は移動する.4)Scrambled-eggstage(炒り卵期):さらに,黄色病変が自壊して,多発性の網膜下の黄色沈着物を呈する(図2B).この時期には視力が0.5前後に低下し,光干渉断層計(OCT)では網膜下沈着を伴った漿液性網膜?離を呈する(図2C).はじめに卵黄様黄斑ジストロフィ(vitelliformmaculardystrophy:VMD)は,1905年にBestが58名の家系のなかに8名の特徴的な眼底所見を呈する遺伝性黄斑変性症として報告した.VMDは,報告者の名にちなんでBest病ともよばれている.VMDは常染色体優性遺伝性疾患であるが,症状および所見の程度が症例ごとにばらつきがみられ,形質発現の頻度(浸透率)の低い疾患である.そのなかで電気生理学的検査の異常所見は浸透率が最も高く,ほとんどの症例でみられる重要な臨床所見である.VMDでは遺伝子異常が同定されており,遺伝子の機能と関連付けてVMDの臨床所見および病態を解説する.I臨床所見1.眼底所見典型的な眼底所見は特徴的で,黄斑部に卵黄様の円形病変を認める(図1A).眼底所見は年齢に伴って変化する.Gassは眼底所見の変化を以下のステージに分類している1).1)Previterlliformorcarrierstage(前卵黄期およびキャリア期):卵黄様病変がまだみられない時期である.キャリアの場合は眼底所見を呈することはなく,無症状である.2)Viterlliformstage(卵黄期):乳児期あるいは幼小児期に上記の典型的な眼底所見を呈する.この時点では(33)937*ShigekiMachida:岩手医科大学眼科学教室**MineoKondo:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座〔別刷請求先〕町田繁樹:〒020-0015盛岡市内丸19-1岩手医科大学眼科学教室特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):937?943,2011卵黄様黄斑ジストロフィVitelliformMacularDystrophy町田繁樹*近藤峰生**938あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(34)2.電気生理学的所見VMDの電気生理学的所見を理解するためには,RPEから生じる電気応答を知らなければならない.図3Aに持続時間が長い刺激光(約10分)を用いた場合の網膜電図(ERG)所見を示した3).a,bおよびc波に続き,光刺激から約1分で陰性波が現れる.これをfastoscillationとよぶ.さらに,光刺激が続くと光刺激開始から5)Atrophicstage(萎縮期):黄色病変は消失し,非特異的な萎縮が黄斑部に生じる.視力は著しく障害される.6)Cicatricialandchoroidalnevascularizationstage(瘢痕および脈絡膜新生血管期):黄斑部下に白色の瘢痕組織が生じる.脈絡膜新生血管を伴うことがある.ABC図1卵黄期の眼底(A),OCT(B)および眼底自発蛍光(C)所見ABC図2偽蓄膿期(A)および炒り卵期(B)の眼底所見と,炒り卵期のOCT所見(C)(35)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011939図3BにRPEに由来する電気応答の発生メカニズムを図示した.視細胞が光刺激によって過分極すると,網膜下のカリウムイオン濃度が低下しRPEのapicalmembraneが過分極し,ERGc波を生じる.これに遅れてRPEのbasalmembraneが過分極しfastoscillationが記録される.LPについては,Steinbergによる仮説が有名である4).つまり,視細胞が光を吸収すると網膜下にlightpeaksubstance(LPS)が放出され,それがapicalmembrane側の受容体に結合する.RPE細胞内のセカンドメッセンジャーを介してbasalmembraneの塩素イオンチャンネルが開き,塩素イオンがRPE内から脈絡膜に向かって流出し脱分極する.VMDでは塩素イオンチャンネルの機能異常をきたすため,LPが低下あるいは消失する.3.眼球電図(electrooculogram:EOG)前述のように,VMDでの症状や眼底所見の浸透率は低い.しかし,LPの異常は,その浸透率が高くきわめて重要な臨床所見である.臨床では,ERGを用いてLPを記録することは非常に困難である.なぜなら,約10分の刺激時間中の瞬きや眼球運動は,LPの正確な記録の妨げとなるからである.したがって,臨床ではEOG約7分後にピークを有する大きな陽性波を記録することができる.これがlightpeak(LP)である.aおよびb波は神経網膜から発生する電気応答であるが,c波,fastoscillationおよびLPはRPEに由来する電気応答である.ApicalmembraneBasalmembrane過分極→c波過分極→fastoscillation脱分極→LPセカンドメッセンジャー視細胞外節網膜色素上皮ABLPSLightresp4mVc-wave“2ndc”“Fastoscill”Lightpeak10minutes図3刺激時間の長い刺激光を用いた場合の網膜電位の変化(A,文献3より)と,網膜色素上皮に由来する電気応答の発生メカニズム(B)LPS:lightpeaksubstance,LP:lightpeak.0510152025300200400600800時間(分)振幅(μV)室内光暗順応光照射LP暗極小:正常者:VMD鼻+-+A-B鼻-+-+図4眼球電図(EOG)の記録方法(A)と,正常者およびVMD患者から記録したEOG(B)VMD:卵黄様黄斑ジストロフィ,LP:lightpeak.940あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(36)その電極はプラスに,もう一方の電極は眼球の後極が近づくのでマイナスとなる(図4A).2つの電極間での電位差を記録する.暗順応を開始すると,EOG振幅は減少し10分程度で極小(darktrough)に達し,さらに暗順応を続けると再び上昇する(図4B).つぎに,明順応を開始すると,EOG振幅は徐々に増大し(明上昇),明順応開始6?9分でLPに達する.その後,明順応を続けるとEOG振幅は減少する.LPと暗極小の振幅比をL/D比とよび,を用いてLPを記録している.眼球の前極(角膜側)と後極の間には電位差が存在し,眼球の前極が後極よりも相対的にプラスになっている.この電位差を眼球の常存電位とよび,暗順応あるいは明順応によって大きく変化する.LPとは光照射(明順応)によって常存電位が上昇することである.記録方法の詳細は割愛するが,内・外眼角の皮膚上にそれぞれ平皿電極を設置する.眼球を1分ごとに1Hzの頻度で左右に約30o動かしてもらう.眼球の前極が電極に近づくと,N末端C末端RPE細胞膜??????図5ベストロフィンの蛋白構造と遺伝子変異部(文献9より)(37)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011941こる.これがLPの発生メカニズムである.2)カルシウムイオンチャンネル調節機能(Ca2+channelregulator)塩素イオンチャンネルは膜電位依存性カルシウムチャンネル(voltage-gatedCa2+channel)をコントロールしている.3)体積調節性塩素イオンチャンネル(volume-regulatedCl?channel)視細胞に光が当たると網膜下にグルタミン酸やタウリンなどのアミノ酸が蓄積する.これらのアミノ酸がRPE細胞内に取り込まれ細胞内の浸透圧が上昇し,H2Oが受動的に細胞内に流れ込む.体積が増大するとbasalmembraneの塩素イオンチャンネルが開き,塩素イオンがH2Oとともに脈絡側に流出する.これとは反対に,RPEの細胞体積が細胞外浸透圧の上昇などで減少すると,細胞壁からセラミドが発生し,PP2A(proteinphosphatase2)を活性化し塩素イオンチャンネルが閉鎖し,減少した細胞体積が元に戻る.RPEの細胞体積の変動は,RPEの視細胞外節の貪食機能と関連しているとの説がある(図7)10).暗所では視細胞外節とRPEとの間には間隙があって,直接は接していない(図7a).光が視細胞に当たると,上記のメカ正常ではL/D比は1.8以上になるが,視細胞あるいは網膜色素上皮に広範な障害が存在する場合は,L/D比は1.65未満となる.VMDではほとんどの症例でL/D比は異常となる5).眼底所見や自覚症状がないキャリア期でもL/D比は異常となる.II遺伝子異常とその機能本症は,染色体11q13のVMD2遺伝子がコードしているBest-1蛋白質の異常によって発症する6,7).Best-1はbestrophin(ベストロフィン)ともよばれており,そのmRNAはRPE,精巣,胎盤および脳でみられるが,蛋白質はRPEのみに発現している.ベストロフィンはイオンチャンネルでRPE細胞のbasalmembrane(基底膜)に発現している8).ベストロフィンは,RPEの細胞膜を6カ所で貫通する分子構造をしている(図5)9).これまで同定されている遺伝子変異の位置を矢印で示した.遺伝子変異には3つのホットスポットがある.まず,C末端の領域で(図5の①),ここに遺伝子変異があると,C末端とN末端との相互関係が失われて多量体を形成できなくなり,ベストロフィンの機能障害が生じる.もう一つのホットスポットは,細胞膜内の膜貫通領域にある(図5の②).この部位はチャンネルの孔構造(porestructure)を形成するうえで重要な領域である.遺伝子変異が6つ目の膜貫通領域のC末端側にも連続してみられる(図5の③).この部位はカルシウムイオンが接合するドメインである.カルシウムが接合し,ベストロフィンは塩素イオンチャンネルとしての機能を発揮する.ベストロフィンは下記に述べるように陰イオンチャンネルで,視細胞およびRPEの機能維持のための重要な役割を演じている(図6)10).1)カルシウム感受性塩素イオンチャンネル(Ca2+-activatedCl?channel)視細胞から放出されたLPS(ATPの可能性がある)はRPEのapicalmembraneのレセプターに結合し,リン酸化が起こる.これにより,細胞内のカルシウムイオン濃度とPKC(proteinkinaseC)活性が上昇し,basalmembraneの塩素イオンチャンネルが開き,塩素イオンが脈絡膜側に流出し,basalmembraneの脱分極が起ApicalmembraneBasalmembrane視細胞外節網膜色素上皮Ca2+↑PKC↑Cl-Cl-HCO3-体積↓セラミド↑H2OPP2A↑Ca2+?H2O,アミノ酸Cl-LPS図6ベストロフィンの網膜色素上皮での機能ベストロフィンは塩素イオンおよび重炭酸イオンチャンネルである.?は,塩素イオンチャンネルを閉鎖する作用を意味する.LPS:lightpeaksubstance,PKC:proteinkinaseC,PP2A:proteinphosphatase2.942あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(38)く蓄積すると考えられる.このメカニズムはRPE細胞死をひき起こし,視細胞がやがて変性すると考えられている.IIIベストロフィンの遺伝子異常で発症する疾患最近,VMDと同様にベストロフィンの遺伝子異常で発症するautosomaldominantvitreoreinalchoroidopathy(ADVIRC)11),autosomalrecessivebestrophinopathy(ARB)12)およびadult-onsetviterilliformdystrophy(AVMD)13)が報告されている.ADVIRCは常染色体優性遺伝性疾患で,眼底周辺360°に及ぶ色素沈着あるいは色素脱がみられる.硝子体の線維化および硝子体内細胞を伴う.また,眼底の中間周辺部から乳頭周囲に網脈絡膜萎縮が生じ,EOGおよびERGは異常を示す.ARBはVMDとは異なり常染色体劣性遺伝形式をとる.遠視眼が多く,閉塞隅角緑内障を合併することがある.黄斑部は,卵黄様病変を呈することはなく,黄斑浮腫あるいは黄斑下液を伴う.眼底全体のRPE異常がみられ,網膜下の白色斑を伴うことがある.この白色斑はFAFで容易に観察することができる.VMDと同様にEOGのLPが低下あるいは消失する.VMDでは全視野ニズムで細胞体積が上昇し,視細胞外節とRPEが接する(図7bおよびc).塩素イオンが開き,RPE細胞体積が減少するとともに外節の先端がRPE内に取り込まれる(図7dおよびe).このように,塩素イオンチャンネルは網膜下の水の移動や視細胞外節の貪食機能と関係している.したがって,塩素イオンチャンネルの機能低下は,VMDでみられる黄斑下の滲出液の貯留および沈着物と関連していると考えられる.4)重炭酸イオンチャンネル(HCO3?channel)ベストロフィンは,重炭酸イオンチャンネルとしてRPE細胞内のpH調節を行っている.視細胞は酸素消費量が高く,視細胞周囲に二酸化炭素が蓄積する.二酸化炭素は重炭酸イオンとしてRPE内に取り込まれる.Basalmembraneには重炭酸イオンチャンネルがあり,重炭酸イオンを脈絡側に放出し,RPE細胞内のpHを一定に保っている.RPEに貪食された視細胞外節はライソゾーム系によって消化される.RPE内のpHはライソゾーム系の機能を調節する役割を果たしている.したがって,VMDでは,重炭酸イオンチャンネルの機能障害によってRPE細胞内が酸性化し,RPE細胞内のライソゾーム系の機能に異常が生じ,その結果としてリポフスチンが多図7網膜色素上皮の体積の変化と視細胞外節の貪食との関連(文献10より)DarkLightClClH2OCaH2OH2OH2OlipidsOSRPENa,HCO3,aminoacidsNa,HCO3,aminoacidsabcdeあたらしい眼科Vol.28,No.7,2011943刺激ERGは正常であるが,ARBでは杆体および錐体系のERG振幅が低下する.AVMDは,30~40歳代で発症する.VMDの眼底所見に類似した病変を呈するが,EOGは正常であることが多い.したがって,AVMDはVMDとは異なる疾患と考えられてきたが,一部のAVMD症例ではベストロフィンの遺伝子異常が報告されている.まとめVMDは,RPEに特異的に発現しているベストロフィンの遺伝子異常で発症する.ベストロフィンの機能が明らかになるに従ってVMDの病態が解明されつつある.VMDの症状や眼底所見の浸透率は低いが,EOGの異常所見(L/D比の低下)の浸透率は非常に高い.VMDの診断にはEOGを用いた電気生理学的検査が必須であることを最後に明記したい.文献1)GassJD:Best’sdisease.Stereoscopicatlasofmaculardiseases.Diagnosisandtreatment(GassJD),p236-245,CVMosby,StLouis,19872)BakallB,RaduRA,SantonJBetal:EnhancedaccumulationofA2EinindividualshomozygousorheterozygousformutationsinBEST1(VMD2).ExpEyeRes85:34-43,20073)MarmorMF,LurieM:Light-inducedelectricalresponseofthepigmentepithelium:Physiologicalpropertiesandclinicalsignificanceofthec-wave,standingpotentialchanges(EOG)andmelaninresponse.Theretinalpigmentepithelium(ZinnK,MarmorMF),p226-246,HarvardUniversityPress,Cambridge,19794)SteinbergRH:Interactionsbetweentheretinalpigmentepitheliumandtheneuralretina.DocOphthalmol160:327-346,19855)ArdenGB:Alternationsofthestandingpotentialoftheeyeassociatedwithretinaldisease.TransOphthalmolSocUK82:63-72,19626)MarquardtA,StohrH,PassmoreLAetal:Mutationsinanovelgene,VMD2,encodingaproteinofunknownpropertiescausejuvenile-onsetvitelliformmaculardystrophy(Best’sdisease).HumMolGenet7:1517-1525,19987)PetrikinK,KoistiMJ,BakallBetal:IdentificationofthegeneresponsibleforBestmaculardystrophy.NatGenet19:241-247,19988)SunH,TsunenariT,YauK-Wetal:Thevitelliformmaculardystrophyproteindefinesanewfamilyofchloridechannels.ProcNatlAcadSciUSA99:4008-4013,20029)HartzellC,QuZ,PutzierIetal:Lookingchloridechannelsstraightintheeye:bestrophins,lipofuscinosis,andretinaldegeneration.Physiology20:292-302,200510)XiaoQ,HartzellHC,YuK:Bestrophinsandretinopathies.PflugersArch-EurJPhysiol460:559-569,201011)YardleyJ,LeroyBP,Hart-HoldenNetal:MutationsofVMD2splicingregulatorscausenanophthalmosandautosomaldominantvitreoretinochoroidopathy(ADVIRC).InvestOphthalmolVisSci45:3683-3689,200412)BurgressR,MillarID,LeroyBPetal:BiallelicmutationofBEST1causesadistinctretinopathyinhumans.AmJHumGenet82:19-32,200813)SeddonJM,AfshariMA,SharmaSetal:Assessmentofmutationsinthebestmaculardystrophy(VMD2)geneinpatientswithadult-onsetfoveomacularviterlliformdystrophy,age-relatedmaculopathy,andbull’s-eyemaculopathy.Ophthalmology108:2060-2067,2001(39)

Stargardt病

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYする傾向にある.議論の分かれる部分もあるが,ここででは病態生理に即した観点から,ABCA4異常に関連する網膜症を便宜上Stargardt病と呼称する.近年,臨床症例の集積と分子遺伝生物学の発展により,病態生理の解明が進んでおり,臨床像の理解に非常に有用である.本稿では,近未来に迫った治療導入への準備段階として正確な理解が必要となる最新の臨床的・分子遺伝生物学的特徴について述べていく.I病態生理1997年にAllikmetsらにより原因遺伝子として染色体1番短腕(1p21-p13)9)に局在するABCA4(かつてはABCRとよばれていた)が特定されて以来8),Stargardt病に関する病態生理の解明は飛躍的に進んでいる.ABCA4は視細胞の外節円板に局在する蛋白質であるABCA4をコードする.ABCA4は視サイクル(visualcycle)において外節円板における膜輸送蛋白質として機能しており,オールトランスレチナール(all-transretinal:transRAL)がフォスファチジルサノラミン(phosphatidylethanolamin:PE)と結合して合成される,N-レチニリジン-フォスファチジルサノラミン(N-retinylidene-PE)を,視細胞外板内から細胞質への輸送する役割を担っている14,15)(図1A,B).ABCA4が異常をきたした場合,すなわち疾患個体では,輸送機能が失活した結果,視細胞外節内にtransRALとN-retinyliはじめにStargardt病(Stargardt-fundusflavimaculatus)は1909年にStargardtが最初に報告した疾患で,若年者に発症し,両眼性,進行性の黄斑部感覚網膜,色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の萎縮病変,その周囲に散在する多発性黄色斑(fleck)を特徴とする1?5).常染色体劣性の遺伝形式をとり,遺伝性網膜疾患のなかでも頻度の高い疾患の一つに数えられている.特に欧米では約8,000?10,000人に1人の割合で発症するといわれている6).1962年のFranceschettの報告以降,黄斑萎縮が軽度でfleckが顕著に認められる黄色斑眼底(fundusflavimaculatus)とは異なる疾患と考えられていた7)が,後に両者とも原因遺伝子がATP-bindingcassette,sub-familyA,member4(ABCA4)8)であり,同一遺伝子に起因することが確認された結果9),現在では同一疾患と考えられている.ABCA4異常による疾患(ABCA4retinopathy)はきわめて多彩な表現型を呈する10?13).具体的には,黄斑部に病変が限局する黄斑ジストロフィ,錐体細胞全体が機能障害を有する錐体ジストロフィ,錐体細胞,杆体細胞両者が障害を有する錐体杆体ジストロフィ,加齢黄斑変性症などの表現型を示す.従来,眼底所見を中心に黄斑ジストロフィとして認識されてきたStargardt病の印象とはかけ離れた臨床像のものもあるが,欧米ではABCA4異常に関連する網膜症をすべてStargardt病と(23)927*KaoruFujinami:Genetics,MoorfieldsEyeHospital,UniversityCollegeLondon,UnitedKingdom/東京医療センター・臨床研究センター(感覚器センター)視覚生理学研究室〔別刷請求先〕KaoruFujinami,Genetics,MoorfieldsEyeHospital,UniversityCollegeLondon,CityRoad,London,EC1V2PD,UnitedKingdom特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):927?936,2011Stargardt病Stargardt-FundusFlavimaculatus藤波芳*928あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(24)ABClipofuscin図1視サイクル(A),ABCA4輸送(B),および疾患個体における細胞障害(C)A:ABCA4蛋白の局在と視細胞外節と網膜色素上皮(RPE:retinalpigmentepithelium)における視サイクル(visualcycle)の模式図.cisRALは視細胞外節板でロドプシンが光反応による変化を受けた際にtransRALへと変化し,視細胞外節板細胞膜に存在するABCA4により外節板内(intradiscalspace)から細胞質(cytoplasma)へ輸送され,transROLの形でRPE細胞内へ運ばれる.transROLはtranseaterを経て,cisROLとなり,RDH5(11-cisレチノールデヒドロゲナーゼ)の働きでcisRALへと変化し最終的に視細胞外節へと輸送される.cisRAL:11シスレチナール(11-cisretinal),transRAL:オールトランスレチナール(all-transretinal),transROL:オールトランスレチノール(all-transretinol),transEster:オールトランスレチニルエスター(all-transretinylester),IRBP:細胞内レチノイド結合蛋白質(inter-photoreceptorretinoid-bindingprotein),CRALBP:細胞レチナール結合蛋白質(cellularretinaldehyde-bindingprotein),SER:滑面小胞体(smoothendoplasticreticulum).B:ABCA4輸送.ABCA4蛋白質はtransRALをPE(phosphatidylethanolamine)と結合した形で外節板内(intradiscalspace)から細胞質(cytoplasma)への輸送する機能を果たしている.C:ABCA4異常疾患個体におけるA2E蓄積.視細胞外節内(intradiscalspace)にN-retinylidene-PEが蓄積し,RPEによる貪食,リソソームによる分解を経て,自発蛍光物質であるリポフスチン(lipofuscin)のおもな要素であるジ・レチノイド・ピリディニアムエサノラミン(A2E:di-retinoid-pyridiniumethanolamine)がRPEにし細胞障害をひき起こす.(25)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011929一方で59%の患者が20/200以下の視力低下を呈することを示した18).また,検眼鏡的中心窩所見が温存されている25%程度の患者群(fovealsparingsubset)については視力が比較的良好であり,初診時年齢が20歳以上であれば視力予後が比較的良いことも示している18).検眼鏡的所見で特徴となる黄斑萎縮,fleckはすべての症例にみられるわけではなく,眼底所見はきわめて多彩である.一般に典型的な眼底と考えられるものを図2に示す.小児期において検眼鏡的異常所見が明確な症例やRPEの異常が顕著で動静脈の狭小化や色素沈着が強い症例など,経年変化や多彩な重症度を診断の際に考慮する必要がある(図3,4).また検眼鏡的に類似した黄斑萎縮や標的黄斑症(bull’seyemaculopathy)を呈する他疾患も存在し,PRPH2(RDS)retinopathy,PROM1retinopathy,ELOV4retinopathyとの眼底所見のみによる鑑別はむずかしい19)(図5).PRPH2(RDS),PROM1,ELOV4は常dene-PEが蓄積し,RPEによる貪食,リソソームによる分解を経て,自発蛍光物質であるリポフスチンのおもな要素であるジ・レチノイド・ピリディニアムエサノラミン(di-retinoid-pyridiniumethanolamine:A2E)がRPEに蓄積する.最終的にはこの物質が細胞障害をひき起こすと考えられている16)(図1C).II臨床的特徴Stargardt病患者は10代からの両眼の視力低下,中心暗点などを主訴に来院することが多いが,発症年齢は就学前後のものから壮年期以降のものまでさまざまである.壮年期発症の症例は比較的軽症であることが多いとされる17).本症は発症初期から視力不良をきたすことが知られており,Rotenstreichらは361名(平均年齢35.7歳)のStargardt病患者のbettereye視力に関する横断的研究報告を行い,23%の患者が20/40以上の視力を有する図2典型的Stargardt病(25歳,男性,ABCA4p.Val931Met/p.Arg1705Glu,網膜電図〔ERG:electroretinogram〕分類Group2)黄斑部感覚網膜,色素上皮の萎縮病変,その周囲に散在する多発性黄色斑(fleck)を認める.左:検眼鏡的所見,中:自発蛍光眼底所見(fundusautofluorescence:FAF)所見,右:光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見.図3小児Stargardt病(11歳,男児,BCA4p.Leu1108Cys/p.Leu2027Phe,ERG分類Group1)検眼鏡的には微細な変化を認めるのみだが(左),FAF所見では黄斑部低蛍光所見とその周囲の異常蛍光所見を呈し(中),OCT所見では顕著な黄斑部感覚網膜,RPEの萎縮所見を認める(右).930あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(26)angiography:FA)所見,電気生理学的所見,分子遺伝学的診断を含めた包括的なアプローチが確定診断には重要である.染色体優性遺伝疾患であり詳細な家族歴の聴取が大きなヒントとなる,加えて眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)所見,蛍光眼底造影(fluorescein図4重症Stargardt病(48歳,男性,ABCA4c.6709insertiongflameshift/他方のアリルの異常は不明,ERG分類Group3)検眼鏡的には網膜周辺部まで広がる顕著な色素沈着,広範にわたるRPEの萎縮所見,網膜血管の狭小化,視神経萎縮を認める(左).FAF所見では萎縮部に一致した低蛍光所見,peripapillarysparingを認める(中).OCTにおいても黄斑部感覚網膜,RPEの萎縮所見が顕著である(右).図5標的黄斑症(Bull'seyemaculopathy)を示す他疾患(45歳,女性,PROM1p.Arg373Cyshomozygous)検眼鏡(左),FAF(中),OCT(右)ともに標的黄斑症の所見を呈する.図6Stargardt病の背景低蛍光所見(36歳,男性,ABCA4c.5222deletiontggtggtgggc/p.Gly1961Glu,ERG分類Group1)検眼鏡的には軽微な標的黄斑症(Bull’seyemaculopathy)所見を示している(左).FAF所見では黄斑部異常蛍光所見を示し(中),蛍光眼底造影検査(FA)では顕著な背景低蛍光所見(darkchoroid)と網膜萎縮部に一致したwindowdefectが認められる(右).(27)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011931い場合などには診断に有用である(図6).報告によってさまざまであるが,darkchoroidの所見は半数から最大では86%の症例20)にみられるとされているが,ABCA4遺伝子異常が確認された症例を集積した報告文献は限られていることもあり21),100%の確定診断はむFA所見では黄斑萎縮に一致したwindowdefectによる過蛍光,fleck部分での異常蛍光を呈する.背景低蛍光所見(darkchoroid)は特徴的であり,Bonninらの報告ではリポフスチンの蓄積により背景蛍光がブロックされた所見であるとされている.検眼鏡的所見が顕著でな図7Stargardt病の電気生理学的分類症例1(Pt1)Group1Stargardt病(59歳,女性,ABCA4p.Cys54Tyr/他方アリルの異常は不明).黄斑機能を反映するパターンERG(PERG)は顕著異常を示すが,全視野刺激ERGは正常であり,網膜機能異常が黄斑部に限局されている.10年の経過観察期間中に加齢によるERGの変化はあるものの,1998年,2009年とも全視野刺激ERGは正常である.症例2(Pt2)Group2Stargardt病(46歳,男性,ABCA4p.Cys54Tyr/他方アリルの異常は不明).1998年撮影時ERGではPERG顕著異常と網膜全体の錐体機能を反映する明順応下全視野刺激錐体系ERG(30HzフリッカERG:LA3.030Hz,錐体ERG:LA3.02Hz)に異常を認める.すなわち網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞に広がっていることが示唆される.杆体細胞機能は正常であり,Group2に分類される.2009年撮影時には明順応下全視野刺激錐体系ERGの顕著異常に加えて,杆体細胞機能を反映する暗順応下全視野刺激杆体ERG,暗順応下全視野刺激錐体杆体混合ERG(杆体ERG:DA0.01,最大応答ERG:DA11.0)においても異常が認められ,10年の経過でGroup3への進行を認めた.症例3(Pt3)Group3Stargardt病(43歳,女性,ABCA4p.Cys2150Tyr/他方アリルの異常は不明).1998年には,PERG顕著異常,明順応下全視野刺激錐体系ERG(30HzフリッカERG:LA3.030Hz,錐体ERG:LA3.02Hz),杆体ERG(DA0.01),最大応答ERG(DA11.0)において顕著な減弱所見を呈する.網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞・杆体細胞に広がっているGroup3と診断された.2009年撮影のERGではほぼすべての反応が消失しており,10年の経過で網膜機能が急激に失われたことを示している.932あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(28)群(黄斑部網膜電図〔electroretinogram:ERG〕のみで異常を呈し全視野刺激ERGは正常),Group2:網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞に広がっている群(黄斑部ERG,全視野刺激錐体系ERGで異常,全視野刺激杆体ERGは正常),Group3:網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞・杆体細胞に広がっている群(黄斑部ERG,全視野刺激錐体系ERG,全視野刺激杆体ERGすべて異常)の3群に分けられる.英国Moorfields眼科病院にて39名の10年間のコホート研究対象患者では,Group1患者のうち80%が経過観察中に網膜機能の明らかな低下を認めなかったのに対して,Group3患者の100%が有意な網膜機能低下を示した32).また,電気生理学的分類は病気の発症年齢,視力障害,FAF所見の重症度や進行にも関連しており,Group3患者は顕著な病状進行を示し,予後予測やインフォームド・コンセントに非常に有用な情報となる.III分子遺伝学的診断多彩な臨床像を呈する本疾患において分子遺伝学的確定診断はきわめて有効である.しかしながら,ABCA4の遺伝子検索もしくは分子遺伝学的確定診断は現時点では容易ではない.第一にABCA4は128Kbp(bp:basepair)を超える塩基対,50のエクソン,2,273個のアミノ酸情報に対応したコドンを有する巨大な遺伝子であり,量的な問題でシークエンスに多大な費用,時間,労力が必要となるからである.各エクソンをPCR(polymerasechainreaction)法で増幅し,その塩基配列を直接ダイレクトシークエンス法(Sanger法)を用いて解析する方法が現在においてもゴールドスタンダードであるが,ABCA4に関しては,成熟メセンジャーRNAを作成する過程(スプライシング)で削除されるイントロン部の異常が疾患発現に関与するとの報告33?35)もあるため,すべてのエクソンに加えて,過去に報告されたイントロン部位の異常もすべてカバーしてダイレクトシークエンスをする必要がある.比較的頻度の高いStargardt病患者,すべてにおいて前述のダイレクトシークエンスを行うのは周辺機器が進歩した現在でも時間,労力,費用の点から容易ではない.第二にABCA4は遺伝的多型性に富んでいて,発現蛋白質が失活するような無効対ずかしいといわれている.FAFは非侵襲的にRPEに蓄積されたポフスチン分布を捉えることが可能であり22),前述のようにリポフスチンのおもな要素であるA2EがRPEに蓄積する本疾患では病態を直接的に反映する有用な検査法である.Stargardt病においては背景過蛍光,黄斑萎縮部の低蛍光(初期病変では過蛍光),fleck部に一致した異常蛍光が特徴となる23,24).また,FAF所見で顕著となるperipapillarysparing所見も診断に有用である25).Peripapillarysparingとは視神経乳頭周囲部分の感覚網膜,RPEの構造,機能が著明に温存される所見をいい,後極部網膜全域に病変が広がった症例においてもperipapillarysparingはほぼ全例に認められる.FAFにおける黄斑萎縮部に一致した低蛍光部位における経時的拡大所見や電気生理学的機能評価との関連の報告もあり,一般に全視野刺激網膜電図において杆体細胞障害のある症例は低蛍光部位が広く,拡大速度も速いとされている26,27).英国Moorfields眼科病院での10年間のコホート研究対象患者32名に対しての調査においても,同様の結果が示唆された.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)像は形態学的評価において非常に有用であり,黄斑萎縮部分における感覚網膜,RPEの菲薄化が顕著な所見となる24,28)(図7).特にspectraldomainOCT(SDOCT)においては詳細な観察が可能で,視細胞外節内節境界の構造異常が感覚網膜の菲薄化やFAFの異常部に対して先行する症例も示されている24).Fleckは高反射な隆起物としてRPEから大きいものでは外顆粒層まで貫くドーム状沈着物として観察される29).さらにアダプティブオプティクスイメージング(adaptiveopticsimaging)の技術進歩に伴い,2011年に初めて臨床現場におけるStargardt病患者の視細胞障害に関する微視的評価の報告がなされ30),治療評価への有効な手段となることが期待されている.電気生理学的機能評価はStargardt病の診断,病態評価,進行評価になくてはならない存在である.多彩な眼底所見を呈する本症においてLois,Holderらによる電気生理学的分類31)は非常に有用である(図7).具体的にはGroup1:網膜機能異常が黄斑部に限局されているあたらしい眼科Vol.28,No.7,2011933立遺伝子(nullallele)が確認できれば判断に困ることは少ないが,現実には一塩基置換によるミスセンス変異が確認された場合にその変異が発現蛋白質にどれだけの影響を与えるかの判断は非常に困難である11).比較的頻度が高くStargardt病との統計学的関連が示されている,p.Arg212Cys,p.Leu541Pro,p.Ala1038Val,p.Arg1108Cys,p.Pro1380Leu,IVS39+5g>a(splicingsite),p.Gly1961Glu,p.Leu2027Phe,p.Arg2107Hisなどのミスセンス変異もあるものの,現在報告されている500を超える遺伝子異常のすべてにおいて表現型との確実な関連付けがなされているわけではないのが現状である.近年ではABCA4に関する既知の遺伝子異常部位をDNAマイクロアレイを用いてスクリーニングする手法が,時間,労力,費用の点で比較的容易な手段と認識されている.日々更新される新規遺伝子異常に関する情報をいち早く取り入れている利点を考慮して,AsperBiotech社などの外部企業に委託する方法が主流となってきている.一方でDNAマイクロアレイを用いたスクリーニングで遺伝子異常が検出されなかった場合(遺伝子異常が否定されたことにはならない)や遺伝子異常が1つ検出された場合(常染色体劣性遺伝の場合は2本のアレル両者の異常が確定診断になる)などでは別の手法での確認が必要になるので,確実な方法ではないことへの留意が必要である.フランスInstituteofdelaVisionのAudoらは黄斑部に病変の異常が限局しているGroup1Stargardt病と診断され,常染色体劣性遺伝が疑われる125名の患者に対して,AsperBiotech社製のABCA4マイクロアレイを用いた遺伝子スクリーニングを行ったところ,66.4%の患者で1つ以上の遺伝子異常が検出され,さらにAsperchip陽性群の患者を対象にダイレクトシークエンス(Sanger法)を行った結果,77%にcompoundheterozygous(2本のアレともに遺伝子異常が確認されたもの)もしくはhomozygousの遺伝子異常が確認され,分子遺伝学的確定診断に至ったことを報告した.2010年よりRocheGenomeSequencerFLXSystem(FLX),IlluminaGenomeAnalyzer(GA),AppliedBiosystemsSOLiDSystem(SOLiD)などが広く商用化されたことで,ネクストジェネレーションシークエンス(NGS:NextGenerationSequence)36)テクニックが世界中に広がり,眼科領域の分子遺伝生物学分野にも多大なインパクトを与えている.詳しい解説は他稿に譲るが,これまで20年にわたりゴールドスタンダードとして分子遺伝学的確定診断を支えてきた自動サンガー法(automatedSangermethod)に比べ,NGSでは桁違いの数のシークエンス解析が可能となったことが大きな違いといえる.一度の解析で解読可能な全シークエンス領域の塩基対数はFLXでは約450Mbp,GAでは約18?35Gbp,SOLiDでは約30?50Gbpと報告されている36).2010年5月現在,眼科領域においても多くの疾患関連遺伝子を一度に包括的に検索する有効な手法として用いられはじめている37).ABCA4の遺伝子検索においてNGSはイントロン部を含めた遺伝子検索を行ううえで有効な手段であることは明白である.その一方でそれぞれ遺伝子異常によりひき起こされる機能異常が確認されていない現状にさらなる新規遺伝子異常が発見されれば,genotype-phenotypecorrelationの確立が現在以上にむずかしくなることが予想できる.今後数年内のNGS費用のコストダウンによる汎用化は確実であり,それらの科学技術の進歩に対応できる表現型に関する詳細な観察はさらに重要度を増すことと思われる.IV治療2011年5月現在臨床の現場で有効な治療法は確立されていないのが現状である.本稿では一般的に実現に近いと思われるinvivoの治療法である視サイクル阻害薬による薬物療法とレンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療の進歩について紹介する.前述のようにStargardt病は視細胞外節内にtransRALとN-retinylidene-PEが蓄積し,A2EがRPEに蓄積することにより細胞障害をひき起こしていると考えられている16).すなわち視サイクルの活発化に比例してA2EがRPEに蓄積し,細胞障害が進行することが予想される.この悪循環に抑制をかけるため,A2Eの合成を阻害する薬理学的アプローチが試みられており,動物実験においてその有効性が立証されている38,39).ABCA4ノックアウト(abca4?/?)マウスモデルにおい(29)934あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011てイソトレチノイン(isotretinoin:13-cis-retinoicacid)は11-cis-retinaldehyde(cisRAL)の合成を抑制し,視サイクル内でのロドプシン(rhodopsin)の再生を阻害する結果,細胞障害物質であるA2Eの合成を阻害する効果が示唆された(図1).イソトレチノインに代表される視サイクル抑制薬(VCM:visualcyclemodulators)の有効性はStargardt病に限らずA2Eの細胞障害に起因するELOVE4retinopathyや加齢黄斑変性症にも有効であると考えている.Acucela社によるACU-4429は経口摂取タイプのVCMの先駆的存在であり,動物実験での有効性,ヒトへの安全性が立証され40?42),現在米国で治験第二相において少数の患者に対する有効性・安全性などの検討がされている.2007年に英国Moorfields眼科病院にてRPE65retinopathy患者を対象に,アデノ関連ウイルスベクター(recombinantadeno-associatedvirusvectorserotype2)を用いた遺伝子治療の有効性が報告されたのは記憶に新しい43).Stargardt病に関する遺伝子治療についてもABCA4ノックアウト(abca4?/?)マウスを用いた報告があり,約7Kbpといわれる比較的大きなヒトABCA4cDNAの輸送が可能な馬伝染性貧血ウイルス由来レンチウイルスベクター(equineinfectiousanemiavirus-derivedlentiviralvectors)を用いた研究では網膜下注入による治療を受けたマウス眼においてA2Eの蓄積が優位に低いことが示された44).レンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療がStargardt病の治療として臨床の現場に導入される日もそう遠くないかもしれない.治療のオプションが具体的に示される昨今,臨床現場において必要になることは適応患者の選別である.東京医療センターならびに英国Moorfields眼科病院では上記治療への候補となりうる,壮年期までFAFで中心窩所見が温存されている患者群(fovealsparingsubset)を同定した45,46).一般のStargardt病患者においては中心窩感覚網膜の異常が早期から起こるのに対し,この患者群においては中心窩以外の網膜障害が進行にもかかわらず,中心窩機能が病後期まで温存される独特な機序を有しており,中心窩機能維持のための治療が望まれる(図8).おわりにStargardt病の診断,病態評価には,詳細な病歴・家族歴,検眼鏡的所見,FA・FAF所見,OCT所見,電気生理学的所見,分子遺伝学的解析に関して包括的な知識が必要である.分子遺伝学的解析がいくら発展したとしても,臨床の現場における診断が正確になされなければ遺伝学的確定診断に至ることはなく,さらには病態生理に即した治療への距離も埋まらないように思われる.眼科医一人ひとりによる「正しい知識に基づく診断」が患者カウンセリングや近未来の治療への土台作りに必要不可欠である.謝辞本研究は厚生労働省科学研究費,鈴木謙三記念医学応用研究財団,三越厚生事業団,DaiwaAngro-JapanFoundation,Fight(30)図8Stargardt病fovealsparingsubset(65歳,男性,ABCA4IVS35-10t>c/p.Arg2030Gln,ERG分類Group1)検眼鏡(左),FAF所見で中心窩所見が温存されているのが認められ(中),OCT所見においても温存された中心窩構造が確認できる(右).あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011935ForSight,SpecialTrusteesofMoorfieldsEyeHospital,MacularDiseaseSocietyによる研究助成を受けたものである.今回総説執筆にあたり,平素よりご指導いただいている愛知医科大学理事長・三宅養三教授,資料提供をいただいたMoorfieldsEyeHospital,UniversityCollegeLondonのGrahamE.Holder教授,AnthonyT.Moore教授,AndrewR.Webster教授,AnthonyG.Robson先生,MichelMichaelides先生に深謝いたします.文献1)三宅養三:黄斑ジストロフィー.日眼会誌107:229-241,20022)近藤峰生:黄斑ジストロフィの診断.あたらしい眼科22:573-380,20053)近藤寛之:黄斑ジストロフィ.臨眼62:374-382,20084)堀田喜裕:遺伝性眼疾患.日眼会誌110:545-559,20065)藤波芳,角田和繁:黄斑ジストロフィの遺伝子異常.眼科53:239-255,20116)BlacharskiPA:Fundusflavimaculatus.In:NewsomeDA,ed.RetinalDystrophiesandDegenerations.p135-159,NewYork,RavenPress,19887)FranceschettiA:Aspecialformoftapetoretinaldegeneration:fundusflavimaculatus.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol69:1048-1053,19658)AllikmetsR,SinghN,SunHetal:AphotoreceptorcellspecificATP-bindingtransportergene(ABCR)ismutatedinrecessiveStargardtmaculardystrophy.NatGenet15:236-246,19979)KaplanJ,GerberS,Larget-PietDetal:AgeneforStargardt’sdisease(fundusflavimaculatus)mapstotheshortarmofchromosome1.NatGenet5:308-311,199310)FishmanGA,StoneEM,GroverSetal:VariationofclinicalexpressioninpatientswithStargardtdystrophyandsequencevariationsintheABCRgene.ArchOphthalmol117:504-510,199911)WebsterAR,HeonE,LoteryAJetal:AnanalysisofallelicvariationintheABCA4gene.InvestOphthalmolVisSci42:1179-1189,200112)FukuiT,YamamotoS,NakanoKetal:ABCA4genemutationsinJapanesepatientswithStargardtdiseaseandretinitispigmentosa.InvestOphthalmolVisSci43:2819-2824,200213)FukuiT,FujikadoT,TsujikawaMetal:NullABCA4genemutationsfoundinJapanesepatientswithpanretinaldegeneration.JpnJOphthalmol50:179-181,200614)SunH,SmallwoodPM,NathansJ:BiochemicaldefectsinABCRproteinvariantsassociatedwithhumanretinopathies.NatGenet26:242-246,200015)SunH,NathansJ:MechanisticstudiesofABCR,theABCtransporterinphotoreceptoroutersegmentsresponsibleforautosomalrecessiveStargardtdisease.JBioenergBiomembr33:523-530,200116)MoldayRS,ZhongM,QuaziF:TheroleofthephotoreceptorABCtransporterABCA4inlipidtransportandStargardtmaculardegeneration.BiochimBiophysActa1791:573-583,200917)YatsenkoAN,ShroyerNF,LewisRAetal:Late-onsetStargardtdiseaseisassociatedwithmissensemutationsthatmapoutsideknownfunctionalregionsofABCR(ABCA4).HumGenet108:346-355,200118)RotenstreichY,FishmanGA,AndersonRJ:VisualacuitylossandclinicalobservationsinalargeseriesofpatientswithStargardtdisease.Ophthalmology110:1151-1158,200319)MichaelidesM,HuntDM,MooreAT:Thegeneticsofinheritedmaculardystrophies.JMedGenet40:641-650,200320)FishmanGA,FarberM,PatelBSetal:VisualacuitylossinpatientswithStargardt’smaculardystrophy.Ophthalmology94:809-814,198721)JayasunderaT,RhoadesW,BranhamKetal:PeripapillarydarkchoroidringasahelpfuldiagnosticsigninadvancedStargardtdisease.AmJOphthalmol149:656-660,201022)vonRuckmannA,FitzkeFW,BirdAC:Distributionoffundusautofluorescencewithascanninglaserophthalmoscope.BrJOphthalmol79:407-412,199523)LoisN,HalfyardAS,BirdACetal:FundusautofluorescenceinStargardtmaculardystrophy-fundusflavimaculatus.AmJOphthalmol138:55-63,200424)GomesNL,GreensteinVC,CarlsonJNetal:AcomparisonoffundusautofluorescenceandretinalstructureinpatientswithStargardtdisease.InvestOphthalmolVisSci50:3953-3959,200425)CideciyanAV,SwiderM,AlemanTSetal:ABCA4-associatedretinaldegenerationssparestructureandfunctionofthehumanparapapillaryretina.InvestOphthalmolVisSci46:4739-4746,200526)ChenB,ToshaC,GorinMBetal:Analysisofautofluor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Leber 先天盲(Leber 先天黒内障)

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYるもの(RDH12,LRAT,RPE65),視細胞の発生や構造に関連するもの(CRX1,CRB1),視細胞内の蛋白輸送(transportacrossthephotoreceptorconnectingcilium)に関連するもの(TULP1,RPGRIP1,CEP290,LCA5),その他(IMPDH1,MERTK,RD3,SPATA7)に分けられる(LCA9はまだ詳細がわかっていない).遺伝子変異の検索方法としては,AsperOphthalmics社(エストニア)のLCAmutationchipを使用したマイクロアレイ解析が最も汎用されている.I疾患概念レーバー先天黒内障(Leber’scongenitalamaurosis:LCA)は,1869年Leberによって報告された網膜色素変性(retinitispigmentosa:RP)の類縁疾患で,生後早期(多くは生後6カ月以内)より高度に視力が障害される1).これまでに16種類の原因遺伝子が同定されており,ほとんどが常染色体劣性遺伝の形式をとる2,3).80,000出生に1?2人の頻度で認められ,先天盲の約20%を占めるとされている4).近年,LCAの原因遺伝子の一つであるRPE65を欠損した患者に対する遺伝子治療が英国,ならびに米国の3つの施設において臨床応用(phaseI)され,安全性に大きな問題がなく,さらに一部の被験者で治療効果が認められたと報告された5~7).II病因:原因遺伝子LCAは遺伝的異質性をもつ疾患であるが,全患者の約70%がこれまでに同定された16種類の原因遺伝子(表1)のいずれかにより発症している2).原因遺伝子の中で最も頻度が高いのが,CEP290で全体の約15%を占める.報告により差があるものの,以下,GUCY2D(約12%),CRB1(約10%),RPE65,AIPL1,RPGRIP1などの頻度が高いとされている2,3).これらの遺伝子を機能で分類すると,phototransductionに関連するもの(AIPL1,GUCY2D),レチノイドサイクルに関連す(17)921*YasuhiroIkeda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野〔別刷請求先〕池田康博:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):921?925,2011Leber先天盲(Leber先天黒内障)Leber’sCongenitalAmaurosis池田康博*表1LCAの原因遺伝子LCAtype遺伝子染色体部位遺伝形式LCA1GUCY2D17p13.1ARLCA2RPE651p31ARLCA3SPATA714q31.3ARLCA4AIPL117p13.1ARLCA5LCA56q14.1ARLCA6RPGRIP114q11ARLCA7CRX19q13.3ADLCA8CRB11q31-q32.1ARLCA9LCA91p36ARLCA10CEP29012q21.3ARLCA11IMPDH17q31.3-q32ADLCA12RD31q32.3ARLCA13RDH1214q23.3ARLCA14LRAT4q31ARMERTK2q14.1ARTULP16p21.3ARAR:常染色体劣性遺伝,AD:常染色体優性遺伝.922あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(18)ある.LCAでは,oculodigitalsign(指眼現象)という拳や指を眼球に繰り返し押しつける行動がよく観察される8)(図1).この行動は,盲児に認められる共通の行動(blindism)で,LCAだけに認められるものではないが特徴的である.視力は,ほとんどの症例が0.1以下である.しかしながら,原因遺伝子がRDH12,RPE65,CRB1である症例のなかには,視力が比較的良好なものも認められ,平均視力が他の原因遺伝子の症例よりも良いと報告されている9).また,まれではあるが視力が改善する症例があったことが報告されている10,11).一般に高度な遠視眼が多く,円錐角膜や白内障が高頻度に合併するため,視機能はさらに障害される.眼底所見は,症例によりさまざまであるが,血管狭小化,視神経萎縮,黄斑部の変性,骨小体様色素沈着,胡麻塩状網膜,などの所見が認められる2)(図2).一方で,視機能が高度に障害されている症例でも新生児期には検眼鏡的に眼底の変化がほとんどないものも認められる.網膜電図は,初期より消失型もしくは著しい減弱を示す.光干渉断層計(OCT)の所見は,原因遺伝子によりさまざまであるとされている.RPE65遺伝子異常により発症した幼少時期より視機能異常のある患者の所見は,視細胞の消失を一部は示しているものの比較的正常に近い構造であったと報告されている11).さらにこれまでの報告をまとめると,RPE65遺伝子異常の症例では,年齢が進むにつれて黄斑部の網膜構造が壊れていく傾向にあるようである11~15).GUCY2D遺伝子異常の場合,黄III診断:臨床的特徴,症状,検査所見LCAは遺伝的異質性のみでなく,臨床所見も多様性に富むが,つぎの4つの臨床的な特徴を有する.生後早期からある高度な視機能障害,感覚性眼振(sensorynystagmus),対光反応の欠如,もしくは高度障害(黒内障瞳孔:amauroticpupil),網膜電図の異常(消失型もしくは著しい減弱)である.鑑別疾患としては,幼少時発症の網膜色素変性,Alstrom症候群,Batten病などがある.LCAにはしばしば,精神発達遅滞,自閉症,てんかん,水頭症,難聴などの全身合併症を伴う場合が図1Oculodigitalsign(指眼現象)(文献8を改変)ABC図2LCAの眼底写真A:CEP290,B:GUCY2D,C:CRB1.(文献2を改変)AB図3GUCY2D遺伝子異常により発症した症例のOCT像黄斑部網膜の層構造は保たれており,正常眼と大きな違いがない.(文献15を改変)(19)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011923斑部網膜の層構造は保たれており,正常眼と大きな違いがないとされている15)(図3).また,CEP290遺伝子異常の症例では,黄斑部の層構造は乱れているものの,外顆粒層に相当する部分は保たれているとされている15).病理組織学的所見も症例によりさまざまであると報告されており,網膜変性が進行して瘢痕化しているものから,網膜の構造が保たれているものまである2).RPE65遺伝子異常のあるヒト胎児網膜(胎生33週)の病理組織学的検討では,同時期の胎児網膜と比較して網膜の菲薄化が生じおり,視細胞の変性のみでなく,網膜色素上皮細胞や脈絡膜血管の構造変化などがすでにあると報告されている16)(図4).IV治療:遺伝子治療RPE65(LCA2)は網膜色素上皮細胞に発現し11-cis-retinalの産生に関わるが,RPE65遺伝子に変異があると11-cis-retinalが産生されず,視細胞(杆体)が光に反応できなくなり,最終的に視細胞は死に至ってしまう.Aclandらは,このLCA2に対する遺伝子治療法として,AAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターを用いた網膜色素上皮細胞(RPE)への正常RPE65遺伝子導入という方法を試み,イヌのLCA2モデルにおいて著明ONLONLAB図4胎生33週のヒト正常網膜(A)とRPE65遺伝子異常のあるヒト胎児網膜(B)の病理組織像網膜全体が菲薄化しており,特に外顆粒層(ONL)は薄くなっている.(文献16を改変)図5LCA2に対する遺伝子治療臨床研究の結果A:臨床研究のサマリー,B:症例3のマイクロペリメトリー検査.治療眼である右眼の網膜感度が上昇している.(文献5より)PatientNo.VisualAcuity(LogMAR)MicroperimetryVisualMobility(TravelTime)1StudyeyeControleye1.16→0.860.88→0.78変化なし42→50sec44→38sec2StudyeyeControleye1.52→1.521.62→1.58変化なし42→35sec37→35sec3StudyeyeControleye0.76→0.760.54→0.44投与部位の感度改善77→14sec37→13secABCopyrightc2008MassachusettsMedicalSociety.Allrightsreserved.924あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(20)おわりにLCAは非常にまれな疾患であり,筆者自身も1症例のみの経験しかない.しかしながら,上記のような新しい治療法により視機能の改善が望める疾患となりつつあるので,診断を誤らないように疾患の特徴をしっかりと把握する必要がある.文献1)LeberT:UberRetinitispigmentosaundangeboreneAmaurose.GraefesArchKlinOphthalmol15:1-25,18692)denHollanderAI,RoepmanR,KoenekoopRKetal:Lebercongenitalamaurosis:genes,proteinsanddiseasemechanisms.ProgRetinEyeRes27:391-419,20083)LiL,XiaoX,LiSetal:Detectionofvariantsin15genesin87unrelatedchinesepatientswithlebercongenitalamaurosis.PLoSOne6:e19458,20114)PerraultI,RozetJM,GerberSetal:Lebercongenitalamaurosis.MolGenetMetab68:200-208,19995)BainbridgeJW,SmithAJ,BarkerSSetal:EffectofgenetherapyonvisualfunctioninLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed358:2231-2239,20086)MaguireAM,SimonelliF,PierceEAetal:SafetyandefficacyofgenetransferforLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed358:2240-2248,20087)HauswirthW,AlemanTS,KaushalSetal:PhaseItrialofLebercongenitalamaurosisduetoRPE65mutationsbyocularsubretinalinjectionofadeno-associatedvirusgenevector:Short-termresults.HumGeneTher19:979-990,20088)安達惠美子(編著):網膜色素変性症,p64-65,医学書院,19989)WaliaS,FishmanGA,JacobsonSGetal:VisualacuityinpatientswithLeber’scongenitalamaurosisandearlychildhood-onsetretinitispigmentosa.Ophthalmology117:1190-1198,201010)KoenekoopRK,LoyerM,DembinskaOetal:VisualimprovementinLebercongenitalamaurosisandtheCRXgenotype.OphthalmicGenet23:49-59,200211)VanHooserJP,AlemanTS,HeYGetal:Rapidrestorationofvisualpigmentandfunctionwithoralretinoidinamousemodelofchildhoodblindness.ProcNatlAcadSciUSA97:8623-8628,200012)SimonelliF,ZivielloC,TestaFetal:ClinicalandmoleculargeneticsofLeber’scongenitalamaurosis:amulticenterstudyofItalianpatients.InvestOphthalmolVisSci48:4284-4290,200713)JacobsonSG,CideciyanAV,AlemanTSetal:RDH12andRPE65,visualcyclegenescausingLebercongenitalamaurosis,differindiseaseexpression.InvestOphthalmolVisSci48:332-338,2007な治療効果が得られることを報告した17).さらに,小型・中型動物を用いてAAVベクター網膜下投与の安全性を確認した18).2007年2月より英国のグループによって,また2007年9月より米国ペンシルバニア大学のグループによって,ヒトLCA2患者に対する遺伝子治療臨床研究が開始されており,その途中経過が報告された(図5)5~7,19,20).英国での臨床研究では,17?23歳のLCA2患者3名に対して,硝子体切除後に耳上側のアーケード血管周囲から黄斑部を含むよう遺伝子が網膜下投与された.その結果,1名(症例3)では,投与部位に一致した感度の改善を認め,さらに暗所下での行動の著しい改善を認めたと報告されている.米国の臨床研究でも同様に,19?26歳の3名の患者を対象に遺伝子治療が行われ,治療を受けた3名とも対光反応および視野に改善を認め,うち2名では視力の改善も認めたと報告されている5).米国ペンシルバニア大学のグループからの報告6,19)では,初期に低濃度のベクターを投与された3症例(19?26歳)の1.5年の長期経過観察の結果,投与後早期に軽度の免疫反応は生じた(血清中のAAV2に対する抗体が上昇したが,その後ベースラインまで低下した)ものの,重篤な副作用は認めなかったとされている(症例2では,術後14日目に黄斑円孔が生じたが,その形態は1.5年間変化していない.).視力はすべての症例で有意に改善したと報告されている.同様に,米国フロリダ大学とペンシルバニア大学の共同研究グループからの報告7,20)でも,1年間の経過観察期間に重篤な副作用がないこと,光に対する感度が上昇した症例があることが示されている.このように,LCA2に対する遺伝子治療は安全性と治療効果が複数の施設で確認され,症例も着実に積み重ねられているようだ.より若年の症例を適応とすることにより,さらに高い治療効果が期待されるようだ.同様のアプローチでRPE65以外の原因遺伝子により発症するLCAをターゲットした遺伝子治療臨床研究も計画されているようだ.LCA2に対する遺伝子治療の成功は,LCAのみでなく,難治性の網膜変性疾患に対する遺伝子治療の発展を十分に期待させる内容であった.(21)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011925NatGenet28:92-95,200118)AclandGM,AguirreGD,BennettJetal:Long-termrestorationofrodandconevisionbysingledoserAAVmediatedgenetransfertotheretinainacaninemodelofchildhoodblindness.MolTher12:1072-1082,200519)SimonelliF,MaguireAM,TestaFetal:GenetherapyforLeber’scongenitalamaurosisissafeandeffectivethrough1.5yearsaftervectoradministration.MolTher18:643-650,201020)CideciyanAV,HauswirthWW,AlemanTSetal:Vision1yearaftergenetherapyforLeber’scongenitalamaurosis.NEnglJMed361:725-727,200914)JacobsonSG,CideciyanAV,AlemanTSetal:PhotoreceptorlayertopographyinchildrenwithLebercongenitalamaurosiscausedbyRPE65mutations.InvestOphthalmolVisSci49:4573-4577,200815)PasadhikaS,FishmanGA,StoneEMetal:DifferentialmacularmorphologyinpatientswithRPE65-,CEP290-,GUCY2D-,andAIPL1-relatedLebercongenitalamaurosis.InvestOphthalmolVisSci51:2608-2614,201016)PortoFB,PerraultI,HicksDetal:PrenatalhumanoculardegenerationoccursinLeber’scongenitalamaurosis(LCA2).JGeneMed4:390-396,200217)AclandGM,AguirreGD,RayJetal:Genetherapyrestoresvisioninacaninemodelofchildhoodblindness.

錐体(杆体)ジストロフィ

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYな症状となる.錐体杆体ジストロフィではこれらに加えて杆体機能障害が進むと視野狭窄や暗順応障害をきたしうるが,黄斑機能の低下による中心視野の異常が前面に出るので暗順応障害や周辺視野異常などは晩期以外にはさほど自覚されず,したがって注目されないことが多い.静的視野検査では中心暗点に加えて周辺視野感度の低下が検出される.II色覚異常色覚異常については青黄異常,赤緑異常のいずれの異常も示されることがあるが,これらの混合した異常をきたすことも多い.石原式や東京医大式などの仮性同色表による色覚検査はいずれも先天色覚異常を検出するための検査であり,このような錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィなどによる色覚異常に対してはうまく対応できずに全色盲のパターンをとることが多い.一方でパネルD-15による色相配列検査では正常パターンをとることも多い.III眼底所見眼底所見としては黄斑部の変性をきたす症例が多いため,黄斑ジストロフィに分類されることが多い.錐体ジストロフィにはかねてから標的病巣(bull’s-eyemaculopathy)という所見が代表的とされているが,この所見は錐体ジストロフィに特異的ではなく,網膜色素変性,クロロキン網膜症,他の黄斑ジストロフィや加齢黄斑変はじめに錐体ジストロフィ(conedystrophy)と錐体杆体ジストロフィ(cone-roddystrophy)は,いずれも錐体の遺伝性変性に伴う錐体機能の低下を初発とする進行性疾患であるという点が共通しているが,その障害が錐体機能に限局する病型を錐体ジストロフィと定義し,錐体障害が先行しやがて杆体が障害される病型を錐体杆体ジストロフィと一般にはよんでいる.前項で述べられた網膜色素変性ではまず杆体障害が先行してやがて錐体機能も障害される杆体錐体ジストロフィ(rod-conedystrophy)の病態をとることが定型的と理解されているが,錐体杆体ジストロフィではその逆の進行様式をきたす.しかし両者とも晩期まで進行した例では臨床所見上の区別がつかなくなることも多い.いずれにしてもこれらの疾患群は錐体ないし杆体視細胞を原発とする進行性疾患であり,その診断には錐体機能や杆体機能を別々に評価できる網膜電図(ERG)が必須である.錐体ジストロフィも錐体杆体ジストロフィもその定義上網膜全体に及ぶびまん性の錐体機能障害であることから,全視野刺激で記録した錐体系ERGや30HzフリッカERGの振幅は少なくとも進行期以降は必ず低下する.この点を理解することが診断のポイントとなる.I自覚症状錐体機能障害に伴う視力低下,色覚異常,羞明がおも(9)913*MitsuruNakazawa:弘前大学大学院医学研究科眼科学講座〔別刷請求先〕中澤満:〒036-8562弘前市在府町五番地弘前大学大学院医学研究科眼科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):913?919,2011錐体(杆体)ジストロフィCone(-Rod)Dystrophy中澤満*914あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(10)IV黄斑ジストロフィと錐体ジストロフィの用語上の相違黄斑ジストロフィは遺伝性疾患で黄斑部に限局した変性をきたす疾患と定義され,Stargardt病や卵黄様黄斑ジストロフィなどを代表としてさまざまな疾患が含まれる.一方,錐体ジストロフィは網膜全体の錐体の変性ないし機能低下をきたす疾患であることが原則である.換言すれば,黄斑ジストロフィが眼底所見に基づく疾患概念であるのに対し,錐体ジストロフィはERG所見に基づく疾患概念である.確かに多くの錐体ジストロフィ症例で臨床的に黄斑変性をきたすため黄斑ジストロフィと性でもみられるものでいわば黄斑変性の一つの代表的眼底所見と捉えられるべきものである.また,錐体ジストロフィであってもまったく眼底所見に異常をきたさない例もときに存在する(図1).その他,多くの症例では非特異的あるいは非定型的な黄斑萎縮をきたす(図2).錐体杆体ジストロフィでは初期には黄斑部の変性のみが目立つ変化であったものが,長年の経過とともに次第に周辺部眼底の粗造化が進み黄斑変性に周辺部網膜変性が合併したような所見を呈してくる(図3).AB正常症例ononon図1眼底所見の正常な錐体ジストロフィ症例23歳,女性,矯正視力は「両眼とも0.6,徐々に進行しており羞明も自覚している.A:眼底所見.正常な眼底所見を呈している.左右差はない.B:全視野刺激による錐体杆体ERGではa波の振幅が保たれているが,30HzフリッカERGでは振幅が低下しており,この所見から杆体機能は正常であり,錐体機能のみが選択的に低下していることがわかる.RIGHTRLONLEFTAB図2黄斑萎縮を示す錐体ジストロフィ症例21歳,男性,矯正視力は両眼とも0.2,徐々に低下しており羞明も自覚している.A:眼底には黄斑部に非特異的な萎縮性変化を認める.左右差はない.B:全視野刺激による30HzフリッカERGでは振幅が非常に低下しておりほとんど検出できない.この所見から眼底所見は黄斑部に限局しているが,細胞レベルでは網膜全体の錐体視細胞の異常であることがわかる.(11)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011915BCNormalTyr184Ser35yoTyr184Ser65yoScotopicblueWhiteflashPhotopicred30Hzflicker20ms200μV10ms200μV20ms200μv10ms100μvonononA図3錐体杆体ジストロフィの蛍光眼底所見の1例ペリフェリン・RDS(PRPH2)遺伝子変異(Tyr184Ser)が確認されている家系の1症例(35歳,男性).黄斑部の萎縮性変化に加えて中間周辺部のびまん性の網膜色素上皮レベルの異常がみられる.A:眼底写真ではあまりはっきりしないが黄斑部の類円形の萎縮性変化と中間周辺部のびまん性萎縮がみられる.B:眼底写真の変化は蛍光眼底造影によってよりはっきりと観察される.C:網膜電図所見では本症例(35yo)は錐体系ERG(photoicredと30Hzflicker)の振幅が消失しているのに対し,杆体系ERG(scotopicblueとwhiteflash)の反応は保たれている.本症例の父親(65yo)は錐体系および杆体系ERGともに反応は消失している.916あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(12)たとしても全視野刺激による錐体系ERGの振幅の低下は高々10%でしかなく,見かけ上錐体機能は正常範囲にとどまると判定されてしまう.黄斑ジストロフィでも全視野刺激錐体系ERGで異常が検出できない症例があるのはこのような解剖学的な理由による.多局所ERGないし黄斑部局所ERGにて限局性の錐体障害を検出できるオカルト黄斑ジストロフィは局所的な錐体変性であり,その異常は光干渉断層像でもCOSTオーバーラップし,黄斑ジストロフィに分類することが可能であるが,基本的には錐体系ERGの振幅の低下を確認することなしには診断は不可能である.ここで注意したいことは,錐体は中心窩に高密度で存在するもののその分布は網膜全体に及ぶことからその面積効果が大きく,実際に中心窩に存在する錐体細胞の数は網膜全体の錐体細胞の約10%でしかない,したがって中心窩に限局した変性があってその部位の錐体細胞がすべて消失し表1これまでに判明している錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子常染色体優性錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィ遺伝子略号臨床病型コードされる蛋白質とその機能AIPL1CORD,RP,LCA杆体分子シャペロン,輸送蛋白CRXCORD,RPLCA錐体杆体の分化GUCA1ACD,CORD錐体グアニルシクラーゼ活性化蛋白GUCY2DCORD網膜グアニルシクラーゼPITPNM3CORDフォスファチジルイノシトール輸送膜蛋白PROM1CORD,MD,RP+MDプロミニン1,杆体外節膜陥入PRPH2CORD,RP,MDペリフェリン・RDS,錐体杆体外節円板膜構造維持RIMS1CORD網膜,脳のリボンシナプスに存在SEMA4ACORD,RPセマフォリン4A,T細胞活性化UNC119CORD視細胞リボンシナプスに存在常染色体劣性錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィABCA4CORD,RP,STGD全トランスレチナールの視細胞外節からの輸送ADAM9CORDインテグリン関連接着因子CACNA2D4CD電位依存性カルシウムチャネルa2サブユニットCDHR1CORD細胞接着因子,視細胞外節円板発生CEKLCORD,RP網膜神経節細胞特異的神経細胞保護と細胞死CNGB3杆体1色覚,CD錐体cGMP依存性陽イオンチャネルb3サブユニットKCNV2CD電位依存性カリウムチャネルサブユニットPDE6CCD錐体cGMPフォスフォジエステラーゼコンポーネントRAX2CORD網膜ホメオボックス2転写因子RDH5白点状眼底,CD網膜色素上皮細胞レチノールデヒドロゲナーゼGDGRIP1CORD,LCARPGTPaseregulator-interactingprotein1X染色体劣性錐体ジストロフィ・錐体杆体ジストロフィCACNA1FCSNB,CORD電位依存性カルシウムチャネルa1サブユニットRPGR(RP3)CD,RPRPGTPaseregulator〔臨床病型略語〕CORD:錐体杆体ジストロフィ(coneroddystrophy),CD:錐体ジストロフィ(conedystrophy),RP:網膜色素変性(retinitispigmentosa),LCA:レーバー先天盲(Leber’scongenitalamaurosis),STGD:Stargardt病(Stargardtdisease),CSNB:先天性停止性夜盲(congenitalstationarynightblindness).(13)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011917変化すればbull’s-eyemaculopathyを伴った網膜色素変性となることが筆者らにより報告されている5,6).このような例はこれらの家系にとどまらず,これまでに判明している錐体杆体ジストロフィ家系や錐体ジストロフィ家系の原因遺伝子もかなり網膜色素変性の原因遺伝子とオーバーラップしていることがわかる(表1).このようにかつては独立した疾患であると厳格に考えられてきた錐体杆体ジストロフィと網膜色素変性は実は遺伝子レベルではかなり共通の原因からなることが理解されてきている.つまりいずれも視細胞原発性の疾患であり,錐体が先か(より重症か)あるいは杆体が先か(より重症か)の別でしかなく,その両者の別は遺伝子レベルではきわめて微妙な差でしかない例が多いということである.その微妙な差についてはまだ筆者らは十分に説明できる段階にないのが現状ではある.VI錐体ジストロフィと先天色覚異常との異同錐体ジストロフィの原因遺伝子異常の検索によってこの疾患の原因は例外はあるにせよおもに錐体に特異的に発現する遺伝子の異常によって起こる進行性の疾患であることが明らかになってきている(表1).同様に先天色覚異常にも錐体に特異的に発現するいくつかの遺伝子異常が明らかになっている.両者の異同をどう考えるかについて筆者の私見を述べる.通常,高頻度でみられる異常3色覚と2色覚の先天色覚異常では長波長錐体オプシン(L-オプシン)や中波長錐体オプシン(M-オプシン)遺伝子の相同組換えによる異常錐体オプシンの発現によることが最も多いが,これらの変異錐体オプシン蛋白質は恐らく錐体細胞の構造に支障をきたさないものと推定され,錐体変性や視力低下,羞明の原因となることはなく,しかも非進行性であることには疑いがない.これに対して低頻度ではあるが1色覚の一つである杆体1色覚では非進行性の色覚異常と低視力が特徴とされ,原因遺伝子としてCNGA3(錐体サイクリックヌクレオチド関連イオンチャネルa3サブユニット,杆体1色覚の20?30%),CNGB3(錐体サイクリックヌクレオチド関連イオンチャネルb3サブユニット,同40?50%)およびGNAT2(錐体トランスデューシンaサブユニット,同少数)の3者が現在知ら(coneoutersegmenttip)ラインの消失やIS/OS(innersegment/outersegment)ラインの異常として検出可能(安田俊介ら,角田和繁ら,石龍鉄樹ら,第64回日本臨床眼科学会,2010)であるが,その分子レベルでの異常はRP1L1遺伝子の変異1)であり錐体全体に及ぶであろうことが近年証明された.しかし,臨床上本疾患では全視野刺激錐体系ERGでの異常は検出できない.この疾患を錐体ジストロフィの範疇に含めるか黄斑ジストロフィにとどめるかは今後の議論になると思われる.同様に黄斑ジストロフィの代表的疾患であるStargardt病でもその分子レベルでの異常はABCA4遺伝子変異(表1)であり視細胞全体に及ぶのであるから,その本態はびまん性視細胞原発疾患ともいうべきものである2).今後このような臨床病型上の疾患分類と遺伝子検索から明らかになった分子レベルからの疾患分類の使い分けが議論されてゆくものと思われる.V錐体杆体ジストロフィと網膜色素変性との異同錐体杆体ジストロフィについての疾患分類はかつて臨床所見である眼底像やERG所見のみからなされていた3,4).これらの臨床分類により錐体杆体ジストロフィとはいくつかの独立した疾患からなる疾患グループとして理解されていたが,その後の遺伝子検索により視細胞に関連して発現するいくつかの遺伝子異常が発見されるにつれ,同じ視細胞原発性疾患である網膜色素変性の原因遺伝子異常とかなりオーバーラップすることが明らかになった.これはたとえば錐体細胞と杆体細胞とに共通に発現する遺伝子に異常が存在する場合,どちらかというと錐体に障害をより強く及ぼす変異であれば錐体杆体ジストロフィの病型をとり,逆の場合には杆体錐体ジストロフィつまり網膜色素変性の病型をとると推測すればわかりやすい.実際にペリフェリン2(ペリフェリン・RDS,PRPH2)遺伝子のコドン244(AAC,Aはアデニン,Cはシトシン塩基の略)は正常ではペリフェリン・RDS蛋白質のN末端から244番目のアミノ酸であるアルギニンをコードするが,これが点変異でヒスチジン(CAC)に変化すれば錐体杆体ジストロフィとなり,同じ部位が別の点変異によってアスパラギン(AAA)に918あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(14)考えられていたものが,後に錐体外節円板膜にも存在することが明らかになった例もあり,このような新しい知見によって錐体杆体ジストロフィの分子病態を考えるうえで理にかなった説明が可能となった経験が筆者らにはある.したがって,必ずしも現在の知見のみを金科玉条のごとくに考える必要はないと思われる.また,表1にも示したように錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子は一方では網膜色素変性などの他疾患の原因遺伝子となりうることが報告されており,臨床的な疾患概念がかなりのオーバーラップを示すことがわかる.これらの新しい知見を概観すると,これまで臨床所見のみから分類されていた遺伝性網膜変性に対して新たな視点ないし座標軸といったものが導入されつつあることが理解される.おわりに錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィの臨床的所見を示すとともに,臨床医にしばしば混同される錐体ジストロフィと黄斑ジストロフィの用語上の使い分け,最近の分子遺伝学の進歩に伴う錐体杆体ジストロフィと網膜色素変性の新しい理解の仕方,ないし錐体ジストロフィと錐体杆体ジストロフィの原因遺伝子として現段階で判明しているものなどを筆者なりに整理して解説した.本拙文が少しでも臨床眼科医の参考になれば幸いである.文献1)AkahoriM,TsunodaK,MiyakeYetal:DominantmutationsinRP1L1areresponsibleforoccultmaculardystrophy.AmJHumGenet87:424-429,20102)AllikmetsR,SinghN,SunHetal:AphotoreceptorcellspecificATP-bindingtransportergene(ABCR)ismutatedinrecessiveStargardtmaculardystrophy.NatGenet15:236-246,19973)YagasakiK,JacobsonSG:Cone-roddystrophy:Phenotypicdiversitybyretinalfunctiontesting.ArchOphthalmol107:701-708,19894)SziylJP,FishmanGA,AlexanderKRetal:Clinicalsubtypesofcone-roddystrophy.ArchOphthalmol111:781-788,19935)NakazawaM,KikawaE,ChidaYetal:Autosomaldominantcone-roddystrophyassociatedwithmutationsincodon244(Asn244His)andcodon184(Tyr184Ser)oftheれている7).しかし,これまで報告されている対象家系の臨床所見からは症例によっては黄斑の萎縮性変性をきたしている例もみられ8),観察期間中は非進行性であっても長期間にはわずかな進行をきたしている例も存在しているものと考えられる.私見ではあるが,そのような例では広義の錐体ジストロフィや黄斑ジストロフィと理解してもよいのではないかと考えられる.実際に錐体ジストロフィの原因としてCNGB3遺伝子変異が発見された家系も報告9)されているのでそれらを総合すると杆体1色覚と錐体ジストロフィとは互いにオーバーラップした病気であると考えられる.ただ,現在のところ教科書的には,杆体1色覚とは非進行性の錐体異常であり,錐体ジストロフィや黄斑ジストロフィとは区別して考えられている.今後はこの点についての理解がさらに進むものと期待される.VII錐体ジストロフィおよび錐体杆体ジストロフィの分子遺伝学錐体ジストロフィおよび錐体杆体ジストロフィのうちこれまで原因が明らかになっているものについて表1にまとめた.この表はRetNet:GenesandMappedLociCausingRetinalDiseases(http://www.sph.uth.tmc.edu/retnet/disease.htm)のサイトからの引用であるので,興味のある方は参照して欲しい.これによると錐体ジストロフィについてはGUCA1A(グアニル酸シクラーゼ活性化蛋白1,GCAP1)遺伝子,PDE6C(錐体cGMPフォスフォジエステラーゼ)遺伝子,CACNA2D4(電位依存性カルシウムチャネルa2サブユニット)遺伝子,および前述の杆体1色覚の原因遺伝子でもあるCNGB3遺伝子など錐体に特異的に発現する遺伝子の異常が代表的である.錐体杆体ジストロフィについては数が多くなるためここには記さないので表1を参照していただきたい.原因遺伝子のなかにはAIPL1やPROM1のように現在のところ杆体にしかその存在が報告されていない蛋白質もあり,まだその遺伝子変異がどのような分子機構で錐体ジストロフィや錐体杆体ジストロフィを起こすのかは不明な点が多い.しかし,ペリフェリン・RDSのように当初は杆体外節円板膜に特異的に存在する蛋白質とあたらしい眼科Vol.28,No.7,2011919peripherin/RDSgene.ArchOphthalmol114:72-78,19966)NakazawaM,KikawaE,KamioKetal:Ocularfindingsinpatientswithautosomaldominantretinitispigmentosaandtransversionmutationincodon244(Asn244Lys)oftheperipherin/RDSgene.ArchOphthalmol112:1567-1573,19947)KohlS,BaumannB,RosenbergTetal:MutationsintheconephotoreceptorG-proteinalpha-subunitgeneGNAT2inpatientswithachromatopsia.AmJHumGenet71:422-425,20028)NishiguchiKM,SandbergMA,GorjiNetal:ConecGMP-gatedchannelmutationsandclinicalfindingsinpatientswithachromatopsia,maculardegeneration,andotherhereditaryconediseases.HumMutat25:248-258,20059)MichaelidesM,AligianisIA,AinsworthJRetal:ProgressiveconedystrophyassociatedwithmutationinCNGB3.InvestOphthalmolVisSci45:1975-1982,2004(15)

網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診断

2011年7月31日 日曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYで多く発現している遺伝子異常による網膜色素変性(Leber先天盲)に対して,欧米ではアデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子治療がヒトの患者に対して行われている.ごく最近では,新世代のシークエンサーを用いて,網膜色素変性患者のすべてのエクソンの塩基配列を決めることによって原因遺伝子DHDDSが発見された1).高度な技術により,網膜色素変性の原因遺伝子解明が加速している.膨大な遺伝子検索による知見の集積により,遺伝子異常や,原因遺伝子の世界的な共通点もわかると同時に,地域により,その原因遺伝子の比率はじめに網膜色素変性は言うまでもなく眼科領域では最も重篤で,失明に至ることが多い疾患なので,眼に関する研究機関では最重要課題として取り組むべきと考える.最近では,視細胞のiPS細胞のシートによる治療や,プロスタグランジン点眼薬による疾患の進行の予防効果が期待されているが,この20年間の原因遺伝子についての理解が急速に進んでいることはあまり話題にならない.表1に現時点で明らかにされている常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子を示す.RPE65という網膜色素上皮(3)907*YoshihiroHotta:浜松医科大学眼科学講座**HiroshiNakanishi:浜松医科大学耳鼻咽喉科学講座〔別刷請求先〕堀田喜裕:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学眼科学講座特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):907?912,2011網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診断GeneticDiagnosisofRetinitisPigmentosaandUsherSyndrome堀田喜裕*中西啓**表1常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子(症候群は除く)常染色体優性網膜色素変性常優BEST1CA4CRXFSCN2GUCA1BIMPDH1KLHL7NR2E3NRLPRPF3PRPF8PRPF31PRPH2RDH12RHOROM1RP1RP9SEMA4ASNRNP200TOPORS常染色体劣性網膜色素変性常劣ABCA4BEST1C2ORF71CERKLCLRN1CNGA1CNGB1CRB1DHDDSEYSFAM161AIDH3BIMPG2LRATMERTKNR2E3NRLPDE6APDE6BPDE6GPRCDPROM1RBP3RGRRHORLBP1RP1RPE65SAGSPATA7TTC8TULP1USH2AZNF513X連鎖性網膜色素変性XRP2RPGRLeber先天盲常優CRXIMPDH1OTX2Leber先天盲常劣AIPL1CABP4CEP290CRB1CRXGUCY2DIQCB1LCA5LRATRD3RDH12RPE65RPGRIP1SPATA7TULP1常優:常染色体優性遺伝,常劣:常染色体劣性遺伝,X連鎖性遺伝.(2011年5月現在)908あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(4)するUsher症候群の原因遺伝子についての報告は少ないのが現状である.「原因遺伝子を調べて何か意味があるのか」ということをいわれたことがある.本稿では,総花的なまとめ方を避け,網膜色素変性とUsher症候群の遺伝子診療の可能性に絞り,筆者の個人的見解を押し出して述べる.一般の眼科医に理解していただくためになるべく平易な言葉を使い,わかりやすい記述に努めるため,専門家にはもの足らないかもしれない.図1はよく使われる疾患に関わる遺伝性要因の割合を示した概念図である.網膜色素変性や,小口病などの遺伝性疾患は,たった一つの遺伝子の異常によってほぼ100%罹患する.一方で,加齢黄斑変性や,中等度の近視では,いくつかの遺伝性素因が重なって疾患をひき起こすと考えられている.後者の「多因子疾患」についての知見も増えているが,本稿では,前者の「単一遺伝子疾患」に絞って述べる.遺伝子異常の記載はややこしく,筆者もときどきわからなくなるほどなので,表5では,大まかに欠失,挿入,ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス変異と述べ,その後の()内にHumanGenomeVariationSociety(http://www.hgvs.org/rec.html)による記載を入れた.本稿で述べる変異については,表2に説明したので参考にされたい.I網膜色素変性とUsher症候群の遺伝本稿を書いている現在,網膜色素変性について50以上の原因遺伝子が知られている(表1).優性遺伝する原因遺伝子が21個,劣性遺伝する原因遺伝子が34個,X連鎖性遺伝する原因遺伝子が2個である.このほかに難聴を伴うUsher症候群,Bardet-Biedl症候群,ミトコや,多い変異(ある特定の異常が多いときにはfoundereffect:創始者効果という)が明らかにされつつある.一方,インターネットで遺伝子検索会社のウェブサイトを見ると,たとえば米国のGeneDxという会社の常染色体劣性網膜色素変性の検索は,USH2A,EYS,PDE6A,PDE6B,RPE65,CRB1,ABCA4という7遺伝子の236エクソンを対象としている.新規患者の検索には約8週間,3,375ドルかかる.ARVO(TheAssociationforResearchinVisionandOphthalmology)などの海外の学会に行くと,網膜色素変性や関連疾患についての遺伝子検索の発表は多く,欧米はもちろんであるが,中国,韓国,シンガポールだけでなく,中南米や,東南アジアからの発表もあり,わが国だけが取り残されているのではと心配になる.わが国では,常染色体優性の網膜色素変性に対しての研究や,X連鎖性遺伝の網膜色素変性の症例報告2?5)はあるが,わが国の網膜色素変性の大半を占める孤発例を含めた常染色体劣性遺伝の網膜色素変性や,難聴も合併表2遺伝子異常の種類Iミスセンス変異点変異異なるアミノ酸に変化し,異常蛋白質が産生されるナンセンス変異点変異変異部位で終止コードとなり,短い蛋白質が産生されるか,まったく産生されなくなるフレームシフト変異欠失,挿入欠失や挿入により,変異部位から遺伝子暗号がずれる変異で,蛋白質の機能がほとんどなくなるスプライス変異点変異,欠失,挿入スプライシングの行われる部位の近くでの変異により正常なスプライシングが行われず,結果として異常蛋白質が産生されるか,まったく産生されなくなる環境的要因色覚異常中等度の近視斜視外傷網膜変性遺伝的要因遺伝子・ゲノム図1眼疾患の遺伝的素因についての概念図(5)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011909網膜色素変性が発症する.表3に示すように,難聴の程度と前庭機能障害の有無によって3型に分類するのが一般的である.表4に示すように,Usher症候群だけで12座位が知られ,このうち9個の遺伝子がすでに明らかにされている.浜松医科大学では,耳鼻咽喉科学教室と光量子医学研究センター(現メディカルホトニクス研究センター)が中心になり,眼科学教室が協力して,わが国のUsher症候群のタイプ1患者5人と,タイプ2患者10人に対してUSH2A(アッシャリン),CDH23,MYO7A遺伝子を検討し,表5,6に示すような原因遺伝子異常を明らかにした6~8).注目していただきたいのンドリア遺伝子異常によるKearns-Sayer症候群なども,その原因遺伝子の多くが明らかにされている.ここではUsher症候群を例にとって述べる.Usher症候群は,感音難聴に視覚障害を合併する常染色体劣性遺伝性疾患である.感音難聴が出現してから数年~10年後に表3Usher症候群の3型型聴覚障害前庭機能障害治療割合(%)1先天性欠損人工内耳25~442中等~高度正常補聴器56~753進行性さまざま経過観察0~2それぞれのタイプにより難聴に対する治療法が異なる.表5わが国のUsher症候群におけるUSH2A遺伝子異常患者年齢性別アレル1アレル2聴覚障害聴覚障害発症年齢夜盲発症年齢網膜色素変性発症年齢C71224F点変異ミスセンス変異(p.Ser180Pro)欠失(c.5158delC)高度31321C11640M欠失(c.3891delT)欠失(c.7883delC)中等度61325C15247F点変異スプライス変異(c.6485+5G>A)点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)中等度61426C45232F点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)点変異ミスセンス変異(p.Asp3515Gly)中等度61718C55750M点変異スプライス変異(c.8559-2A>G)点変異ミスセンス変異(p.Thr3571Met)中等度71628C23722M点変異スプライス変異;点変異ナンセンス変異(c.8559-2A>G;p.Trp3150X)高度31316C21233F点変異ミスセンス変異(p.Cys691Tyr;p.Gly2752Arg;p.Tyr3747Cys)中等度61226文献6のTable1の英語表記部分を和訳し,変異の種類を説明して掲載した.表4Usher症候群の遺伝子座位と原因遺伝子サブタイプ遺伝子座位遺伝子蛋白質1B11q13.5MYO7AMyosinVIIa1C11q15.1USH1CHarmonin1D10q22.1CDH23Cadherin231E21q21Unknown1F10q21.1PCDH15Protocadherin151G17q25.1USH1GUshersyndrometype-1Gprotein1H15q22-q23Unknown2A1q41USH2AUsherin2C5q14.3GPR98G-proteincoupledreceptor982D9q32DFNB31Whirlin3A3q25.1CLRN1Clarin13B20qUnknown910あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(6)は,血族結婚でない場合には,同じ遺伝子の異常でも,父方と,母方の異常が異なることが多いという点である.図2Cに示すように,これを複合ヘテロ接合体(compoundheterozygote)という.図3に示すように,わが国では前世紀の間に急速に近親結婚が減少した.近表6わが国のUsher症候群におけるその他の遺伝子異常患者年齢・性別アレル1アレル2聴覚障害診断年齢(歳)網膜色素変性診断年齢(歳)CDH23遺伝子異常C51726M欠失エクソン44-46欠失エクソン44-4623C72013Fナンセンス変異p.Arg2107Xナンセンス変異p.Arg2107X212MYO7A遺伝子異常C31236Fナンセンス変異p.Arg150Xミスセンス変異p.Arg1883Gln210文献8のTable1の英語表記部分を和訳し,変異の種類を説明して掲載した.1927~19521952~19571957~19621962~19671967~19721972~19771977~198311.525.444.212.852.612.310.965.712.261.230.790.870.8900.222468101214(%)(年)図3わが国における近親結婚実線:すべての血族結婚の比率,点線:いとこ結婚(1stcousin)の比率.??X染色体ABCD????????図2遺伝子異常の種類II○×は遺伝子変異を模式的に表す.A:ヘテロ接合体,B:ホモ接合体,C:複合ヘテロ接合体,D:ヘミ接合体.ⅠⅡⅢⅣⅤ図4大きな欠失を認めたUsher症候群の家系図(文献8より)図5大きな欠失を認めたUsher症候群患者の右眼眼底写真網膜血管は細く,びまん性の網膜萎縮,周辺部には骨小体様色素沈着を認める.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011911III劣性遺伝病における遺伝子診療のストラテジー先ほど示したUsher症候群家系において,遺伝子検査のもたらすことを考えてみる.図4に示す家系の2人の子供は,先天聾であるのに加えて網膜色素変性に罹患している.親族からすると,遺伝を心配するのは当然のことであろう.近親婚を避けることは最も簡単な方法であるが,ほぼ100%予防できるとしたらどうであろうか.まずこの大きな欠失が遺伝しているかどうかを調べる.遺伝していなければ罹患する確率はほとんどなくなる.この欠失がある場合には,配偶者にUSH2A遺伝子の異常がないかを調べる.USH2A遺伝子に異常を認めなければ,100%近い確率(注:決して100ではない,denovo変異といって,親にはない異常が片方のアレルにひき起こされることがまれにある)で予防可能になる.現在のところ,障害になっているのは,遺伝子検査の費用である.特に,エクソンが72個もあるUSH2Aでは,遺伝子検査は容易ではない.しかし,遺伝子検索の技術の進歩は著しいので,こうした問題が克服されれば,患者や家族に重要な情報を与えることが可能となる.こうした遺伝情報の取り扱いにはカウンセリングが必要といわれており,これを「遺伝カウンセリング」とよんでいる.2011年2月,日本医学会から「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」が出ている.遺伝子異常はすでに明らかにされていれば,新たな遺伝子解析のコストはそれほどでもないが,新規に探す場合には網膜色素変性の場合には表1に示すように原因となる可能性のある遺伝子が多いので悩ましい.リンパ球や,毛根にも発現している場合には,そのmRNAから目的となる遺伝子のcDNAを解析できるので,作業量を大きく減らすことができる7).しかし,網膜色素変性の原因遺伝子は,一部の例外を除いて眼組織にしか発現しておらず,眼の組織を取るわけにいかないので,DNAのエクソンをすべて検討するしかないことが多い.また,すでに明らかにされている遺伝子異常をすべてのせたマイクロアレイの応用も期待されている.しかし,こちらのほうも,結局は新たな異常の可能性は否定できないので,精度の高い遺伝子検索をするためには,結局親結婚をすると,同じ遺伝子の同じ異常が重なり,遺伝性疾患罹患の危険が増える.この場合には,図2Bのホモ接合体という状態になる.先天聾のUsher症候群タイプⅠの症例の家系を図4に示す.複雑な家系図であるが,近親婚が原因で兄妹が重篤な疾患に罹患したことは明らかである.このうち妹は,先天聾で,右眼視力0.1(0.2),左眼視力0.1(0.3),眼球振盪を認める.25歳時の右眼眼底写真を図5に示す.視野は,わずかな周辺視野と,右中心7°,左中心8°の残存視野しかない.この家系の患者は,CDH23遺伝子のエクソン44から46までの5078塩基の欠失をホモ接合体で認める.II網膜色素変性とEYS,USH2A(アッシャリン)遺伝子異常常染色体劣性網膜色素変性の原因遺伝子として最も多く注目されているのが,EYS遺伝子である.この遺伝子は2Mbと現在知られている眼で発現している遺伝子のなかでも最も大きい遺伝子の一つであり,ショウジョウバエのspacemaker(spam)として知られていた.2008年にヒトの遺伝子が明らかにされ,常染色体劣性患者における遺伝子異常が報告された9).現在に至るまでにフランス,イギリス,スペイン,オランダ,イスラエル,米国,中国,パキスタン,インドネシアなどの患者コホートに対しての報告がある.遺伝子の欠失,挿入,ナンセンス変異や,スプライス変異による産生蛋白質が切断されてしまうような変異が多いが,ミスセンス変異も少し報告されている.アレルの片側しか異常がみつからない症例も少なからず報告されており,これが片方のアレルの大きな欠失によるのか,他の遺伝子が関与しているのか,まだ明らかにされていないエクソンがあるのか現時点では不明である.報告によって異なるが,常染色体劣性網膜色素変性の5%~約2割という報告があり,わが国でも検討が必要である.USH2Aは前項でも述べたように,タイプ2のUsher症候群の原因遺伝子である.しかし,Usher症候群ではなく,聴覚障害の合併のない常染色体劣性網膜色素変性でもUSH2Aの異常の報告があり,その割合は米国では常染色体劣性網膜色素変性の約8%と比較的多いことが知られている10).912あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(8)優性網膜色素変性患者のロドプシン遺伝子の分子生物学的検討.日眼会誌96:237-242,19923)和田裕子,玉井信:カラーアトラス網膜の遺伝病─遺伝子解析と臨床像─.医学書院,20054)JinZB,MandaiM,YokotaTetal:Identifyingpathogenicgeneticbackgroundofsimplexormultiplexretinitispigmentosapatients:alargescalemutationscreeningstudy.JMedGenet45:465-472,20085)JinZB,LiuXQ,HayakawaMetal:MutationalanalysisofRPGRandRP2genesinJapanesepatientswithretinitispigmentosa:identificationoffourmutations.MolVis12:1167-1174,20066)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:Identificationof11novelmutationsinUSH2AamongJapanesepatientswithUshersyndrometype2.ClinGenet76:383-391,20097)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:HairrootsasanmRNAsourceformutationanalysisofUshersyndrome-causinggenes.JHumGenet55:701-703,20108)NakanishiH,OhtsuboM,IwasakiSetal:MutationanalysisoftheMYO7AandCDH23genesinJapanesepatientswithUshersyndrometype1.JHumGenet55:796-800,20109)AudoI,SahelJA,Mohand-SaidSetal:EYSisamajorgeneforrod-conedystrophiesinFrance.HumMutat31:E1406-1435,201010)HartongDT,BersonEL,DryjaTP:Retinitispigmentosa.Lancet368:1795-1809,2006すべてのエクソンの塩基配列を決めたほうが望ましいと考える.おわりにちょうど25年前に網膜変性疾患の最初の遺伝子異常が明らかにされたが,現在では遺伝子治療が行われている.ヒトゲノムに対する加速度的な理解,その検出方法の進歩は新たな医療の可能性を秘めている.筆者は,遺伝子治療に対しては,リスク,遺伝的異質性と,それによる臨床応用のためのコストの点からまだ懐疑的ではあるが,遺伝子診断,適切な遺伝カウンセリングによる網膜色素変性の予防については,一般臨床に応用される日は近いと考えている.メディカルホトニクス研究センター(旧光量子医学研究センター)長,蓑島伸生先生のご協力と,ご校閲に深謝いたします.文献1)ZuchnerS,DallmanJ,WenRetal:Whole-exomesequencinglinksavariantinDHDDStoretinitispigmentosa.AmJHumGenet88:201-206,20112)堀田喜裕,塩野貴,早川むつ子ほか:日本人の常染色体

序説:遺伝性網膜・黄斑ジストロフィ アップデート

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0910-1810/11/\100/頁/JCOPY見の大きなニュースの一つは,occultmaculardystrophy(Miyakedisease)の原因遺伝子であるRP1L1の同定であった.疾患の発見および命名に加えて,原因遺伝子の同定も同一グループが成し遂げたというのは,これまでの眼科の歴史でも例がない快挙である.この話題については,角田氏の総説を参照されたい.2.病態メカニズムの進歩多くの網膜・黄斑ジストロフィの原因遺伝子が発見され,疾患の病態メカニズムがさらに解明されてきている.たとえば,家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)のおもな原因遺伝子としてFZD4,NDP,LRP5などが同定されているが,これらの遺伝子は細胞の増殖や分化を制御しているWNTシグナルネットワークに関わる遺伝子である.FEVRはこのWNTシグナルの障害による網膜血管の発育不全と理解されてきている(近藤氏の総説を参照).また,卵黄状黄斑ジストロフィにおいても,原因遺伝子であるBEST1がコードする網膜色素上皮のイオンチャンネルの役割が徐々に明らかにされ,本疾患の病態が解明されてきている.また,この疾患の2010年の大きなニュースとして,常染色体劣性遺伝形式で類似した臨床像を示すBEST1網膜症が報告されたことがあげられる.卵黄状黄斑ジストロ今月の《あたらしい眼科》では,網膜・黄斑ジストロフィの専門研究者にお願いし,10項目にわたる各疾患のreviewと最新のトピックスについてわかりやすく解説していただいた.1.遺伝子解析の進歩網膜・黄斑ジストロフィは基本的に遺伝子の異常に起因する.以前は遺伝子解析に膨大な労力と時間が費やされていたが,最近は既知の遺伝子異常部位を用いてDNAマイクロアレイでスクリーニングするという手法が広く用いられている.さらに,次世代シークエンサーを使って患者の全エクソンを高速に解析して正常者と比較し,その結果から新規の原因遺伝子を次々と発見するという技術が可能になってきている.網膜色素変性(RP)の原因遺伝子は現在50を超えている.しかし,わが国で最も多い孤発例(多くは常染色体劣性遺伝と考えられる)の原因遺伝子はほとんどわかっていない.この点で最近注目をされているのがEYS遺伝子であり,人種によっては孤発例RPのかなりの原因がこの遺伝子変異で説明できるという.将来の治療に結びつきうるトピックスであり,わが国での解析結果に期待したい(堀田氏・中西氏の総説を参照).昨年における網膜・黄斑ジストロフィの遺伝子発(1)905*MineoKondo:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座**HidetoshiYamashita:山形大学医学部眼科学講座●序説あたらしい眼科28(7):905?906,2011遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートNewTopicsofInheritedRetinalandMacularDystrophy近藤峰生*山下英俊**906あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(2)フィは,分子遺伝学に基づいた再分類がなされつつある(町田氏・私近藤の総説を参照).多くの努力にもかかわらず,いまだ詳細な病態メカニズムが不明のものも多い.たとえば,錐体ジストロフィでは錐体視細胞の光伝達に重要なチャンネルをコードする遺伝子異常を原因とするものが多いが,杆体にしか発現していないと考えられているAIPL1やPROM1の遺伝子異常でも錐体ジストロフィとなる.そのメカニズムは依然不明である(中澤氏の総説を参照).Occultmaculardystrophyにおいても,確かにRP1L1の産物は霊長類では杆体および錐体視細胞に発現しているが,どうして黄斑部にのみ機能低下を生ずるのかという本質的な疑問はまだ解決されていない.3.臨床検査法の進歩数年前と比較すると,網膜・黄斑ジストロフィの診断や評価に用いる眼科臨床器機の性能は格段に進歩した.まずOCT(光干渉断層計)の解像度が飛躍的に上昇し,黄斑部の層構造の変化を精密に捉えることができるようになった.記録時間も短いため,小児でも使いやすい.心因性視力障害としばしば誤診されていた軽度の黄斑ジストロフィの小児も,OCTをきっかけに診断されることが多くなった(上野氏の総説を参照).また,杆体一色覚の症例で眼底がまったく正常の症例であっても,OCTによって視細胞層の微妙な形態変化が観察できると報告されている(林氏の総説を参照).眼底自発蛍光も,造影剤注射という侵襲なしに網膜色素上皮の変化を鋭敏に捉えることができる.その威力は特にStargardt病で発揮され,以前はフルオレセイン蛍光眼底造影のdarkchoroidで診断していたが,最近では眼底自発蛍光があればよいといわれるほどである.わが国における皮膚電極ERG(網膜電図)の普及も,今後さらに小児の電気生理学的診断に寄与すると考えられる.OCTや自発蛍光の所見をもとに最近報告された興味深い所見の一つに,Stargardt病における,「peripapillarysparing」がある.これは,Stargardt病では視神経乳頭周囲の網膜および色素上皮は特別に温存されるという所見である.ABCA4遺伝子異常による網膜機能障害がどうしてこの部位だけ特異的にspareされるのか謎である(藤波氏の総説を参照).4.治療研究の進歩網膜・黄斑ジストロフィの治療についても多くの新しい話題がある.2008年にLeber先天盲(LCA)に対する遺伝子治療が成功して以来,欧米ではさらにさまざまな段階におけるLCAの遺伝子治療が進められている.現時点では長期でも重篤な副作用はないようであり,持続的な効果が確認されている(池田氏の総説を参照).欧米では同様の遺伝子治療の計画が,一部の網膜色素変性,先天網膜分離症,全色盲,Stargardt病などに対しても進んでいる(篠田氏の総説を参照).細胞・再生治療は網膜・黄斑ジストロフィの治療研究のなかで最も期待されている手法である.最近のNature誌に掲載された,日本の研究チームによる網膜再生の成果に感激した眼科医も多かったであろう.人工視覚の分野では,日本を含む各国の研究チームが独自の方法で安全性と解像度を向上させる努力を続けている.その他の話題として,網膜色素変性に対するウノプロストン点眼治療,Stargardt病に対する視サイクル抑制剤,神経栄養因子を放出する細胞を封入したカプセル移植治療(残念ながら米国の臨床試験で最終的に効果は確認されなかったが),チャンネルロドプシンを用いた視覚獲得などがある.網膜・黄斑ジストロフィの治療を目指した研究は今後も困難な道のりが予想されるが,それでも10年前と比較すると驚くべき進歩である.さらなる研究の発展を期待したい.

Synoptophore を用いたListing 平面の3D 表現の試み

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)895《原著》あたらしい眼科28(6):895.898,2011cはじめに正面位から任意の眼位へ至る眼球運動は,赤道面上の1つの軸まわりの回転運動で行われるという法則をListingの法則という1).この軸上平面をListing平面という.Listingの法則によれば,平面上の軸まわりの回転運動には,回旋運動が混入しない.最近の研究では,サーチコイルを用いて上下,水平,回旋成分の3要素を取り入れてListing平面を解析する方法が登場しており2),滑車神経麻痺や外転神経麻痺ではListing平面が耳側へ回転することが報告されている3.5).また,健常者においても輻湊と上下転運動に伴いこの平面が傾斜することが示されている6,7).しかし,サーチコイルは電極を埋め込んだコンタクトレンズを直接角膜に接着させて計測するので侵襲が大きく,また限られた施設でのみ検査可能であるという問題がある.Synoptophoreは多くの施設で日常診療に用いられており,回旋偏位を測定できる器械である.Somaniら8)はsynoptophoreを用いて輻湊と上・下転運動が及ぼす回旋偏位を解析し,両眼間のListing平面の差を解析し,興味ある結果を報告している.この方法は侵襲もなく簡便に行えるが,Somani〔別刷請求先〕宮田学:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学教室Reprintrequests:ManabuMiyata,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,2-5-1Shikata-cho,Kita-ku,Okayama700-8558,JAPANSynoptophoreを用いたListing平面の3D表現の試み宮田学長谷部聡大月洋岡山大学大学院医歯薬学総合研究科眼科学教室PilotStudyof3DGraphicalRepresentationofListing’sPlaneUsingaSynoptophoreManabuMiyata,SatoshiHasebeandHiroshiOhtsukiDepartmentofOphthalmology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences目的:上斜筋麻痺のListing平面が傾斜しているという報告があり,これを検証するために,synoptophoreを用いて健常者と上斜筋麻痺の回旋偏位を測定し,Listing平面を3Dで解析したので報告する.方法:健常者2例,先天上斜筋麻痺1例を対象とした.被検者にsynoptophoreを用いて25カ所の眼位で片眼ずつ上下にずらした水平線の視標を平行になるように回転させるよう指示し,そのときの偏位を記録した.遠見と近見で測定した.各眼位における偏位(水平,垂直,回旋)のデータを,三次元曲面で回帰した.結果:健常者ではListing平面は遠見で鉛直な平面となったが,近見では傾斜した.上斜筋麻痺では,遠見・近見ともListing平面の傾斜を認めた.結論:synoptophoreを利用してListing平面を3Dで表現できた.上斜筋麻痺では健常者と異なり,遠見・近見ともにListing平面の傾きが観察され,異常な傾き知覚(スラント感覚)が生じている可能性がある.Purpose:Ithasbeenreportedthatpatientswithsuperiorobliquepalsy(SOP)showatiltedListing’splane(LP).WemeasuredthetorsionaldeviationsofonepatientwithSOPandtwohealthysubjects,usingasynoptophoretorepresenttheLPsin3D.Methods:Thesubjectsrotatedthetarget,withahorizontallineshiftedverticallyineacheye,tobeinparallelatfarandneardistanceusingasynoptophorein25gazepoint;wethenrecordedthedeviationandregressedhorizontal,verticalandtorsionalelementstoacurvedsurface.Results:Thehealthysubjects’Listing’splaneswereperpendicularatfardistanceandtiltedatneardistance.TheplaneoftheSOPpatientwastiltedatbothfarandneardistances.Conclusions:WewereabletorepresentListing’splanesin3Dusingasynoptophore.TheListing’splaneoftheSOPpatientdifferedfromthoseofthehealthysubjects.TheSOPpatientmighthaveanabnormalslantperception.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):895.898,2011〕Keywords:Listing平面,回旋偏位,スラント感覚,シノプトフォア,上斜筋麻痺.Listing’splane,cyclodeviation,slantperception,synoptophore,superiorobliquepalsy.896あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(144)らは上下20°,0°の3点の正中位における30°,20°,10°,0°の各輻湊角で回旋偏位を測定している.しかし水平方向眼位については計測していない.筆者らは,健常者および上斜筋麻痺患者を対象に水平方向の偏位も含め,上下水平偏位における回旋偏位をsynoptophoreで測定し,測定点を曲面に回帰させることで,Listing平面の両眼間の差の測定を試みたので報告する.I対象および方法1.対象健常者2例(A:男性,32歳,B:男性,48歳),両眼先天上斜筋麻痺1例(C:女性,40歳)を対象とした.A,Bの正面位における遠見眼位は正位,近見眼位はそれぞれ4°,3°外斜位であった.Cの正面位における遠見眼位は内斜偏位5°,右眼上斜偏位1°,回旋偏位0°であり,近見眼位は上下水平偏位はなく,外方回旋偏位2°であった.全症例に検査の目的・方法を詳細に説明し,同意を得た.2.方法使用した器具はsynoptophoreR(model2001,Haag-Streit,UK)と,筆者らが作成した視標であった.視標は,融像刺激の円と固視点,片眼ずつ上下にずらした水平線で構成した(図1).水平線の長さは6.2cm(視角に換算すると22.7°)でSomaniら8)が使用した視標に準じた.上下,水平方向それぞれ±20°,±10°,0°の組み合わせ,計25カ所(5×5)を注視させ,それぞれの位置での回旋偏位を測定した.回旋偏位の測定は,被検者が右眼の視標をsynoptophoreのノブを回転させることにより,左眼の水平線に平行になるように調整し,ちょうど水平になった時点での回旋偏位を検者が記録した.測定は遠見と近見(3D調節負荷,3MA輻湊)で実施し,試行回数はトータルで50回であった.各向き眼位における偏位(水平:H°,垂直:V°,回旋:T°)データに対し,三次元曲面を回帰し,両眼間のListing平面の差を求めた.ただし,Listing平面は眼球運動における回転軸の集合であり,このように単純にプロットしたものではないが,Listing平面と同等のものと考えた.解析ソフトはJMP(version5.0.1a,SASInstituteInc,USA)を使用した.II結果全症例において注視方向すべてで視標の融像が可能であった.被検者3名の回帰曲面の計算式は,T=k1*H2+k2*V2+k3*H*V+k4*H+k5*V+k6(T:torsionaldeviation[deg.],H:horizontaldeviation[deg.],V:verticaldeviation[deg.],k1-6:constant)で表現できた.各被検者の係数を表1に示す.この回帰曲面を図2に示す.これらの曲面は左眼を基準としたListing平面の両眼間の差とみなすことができる.健常1.健常者A2.健常者BHTVHTV3.患者CTHV図2a遠見時における回旋偏位の回帰曲面T:回旋偏位(右:内方,左:外方),V:上下偏位(上:上方,下:下方),H:水平偏位(手前:左方,奥:右方).1.健常者A2.健常者B3.患者CTHVTHVTHV図2b近見時における回旋偏位の回帰曲面T:回旋偏位,V:上下偏位,H:水平偏位.表1各被検者における回帰曲面の計算式の係数k1k2k3k4k5k6A遠見時.0.0012.0.000400.00044.0.018.0.0044.1.1A近見時.0.001.0.000730.000840.00140.090.1.8B遠見時0.001.0.000220.000590.0032.0.011.0.67B近見時.0.00061.0.000410.00044.0.0290.12.0.45C遠見時0.00033.0.000300.000260.00620.0480.010C近見時0.0013.0.00071.0.000340.000600.14.1.5図1視標左:左眼の視標,右:右眼の視標.(145)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011897者では遠見時に回帰曲面は第一眼位に鉛直な平面となったが,近見時(輻湊時)には回帰曲面の傾きが観察された.つまり,上転時には内方回旋偏位,下転時には外方回旋偏位が生じていることがわかった.しかもこの偏位の大きさは垂直方向の角度の大きさに依存しており(elevation-dependent),水平方向の角度には依存しない.一方,上斜筋麻痺患者では,遠見時にも健常者と同様の傾きが観察され,近見時ではこの傾向が増大した.III考按筆者らは,synoptophoreを用いた方法で,両眼単一融像ができている状況下では,健常者に回旋視差刺激を提示するとスラント感覚が生じることを報告した9).すなわち,垂直線条に外方回旋視差を与えると上端が奥に傾くスラント感覚が生じ,逆に内方回旋視差を与えると上端が手前に傾くスラント感覚が生じる.今回の結果は,健常被検者でも輻湊すると上転時に内方回旋偏位,下転時に外方回旋偏位が生じることを示している.もし回旋視差0°の垂直線条を提示すれば上転時には外方回旋視差が与えられた状況と類似し,上端が奥へ傾くスラント感覚が生じ,逆に下転時には内方回旋視差が与えられた状況と類似し,上端が手前に傾くスラント感覚が生じると考えられる.上斜筋麻痺では遠見時にもこのelevation-dependentの回旋偏位が生じるため,常に異常なスラント感覚が生じている可能性がある.このことから上斜筋麻痺では,健常者とは異なる視空間覚を構築していると想定される.Listingの法則を保つ機序として2つ考えられている.眼窩プリーによる機械的機序10)と神経学的順応機序11)である.健常者では輻湊をすると,直筋のプリーが1.9°外方回旋するが,Listing平面が耳側へ傾斜することとは矛盾すると報告されている12).このことから,斜筋の神経支配がこの傾斜へ関与しているとされている.本研究でも健常者における輻湊時のListing平面は耳側に傾斜しており,原因としてはこの点があげられると考える.サーチコイルにより得られるListing平面は片眼ずつであり,synoptophoreにより得られるListing平面は両眼間の差であるので,単純に比較することはできないが,今回の上斜筋麻痺症例の結果はサーチコイルを用いた研究と同様の結果が得られたと考えられる.つまり,下方視で外方回旋偏位を認め,上方視により減少傾向を認めた.これは,下方視において上斜筋のともひき筋である下直筋が大きく寄与したためである.つまり,下方視では下直筋の外方回旋作用のほうが麻痺した上斜筋の内方回旋作用を上回っているのである.一方,上方視では麻痺した上斜筋が内方回旋作用に寄与しないため,外方回旋偏位が小さくなったと考えられる5).今回の計測方法について考察する.まず,上下にずらした水平な線条を平行に合わせる方法と,左右にずらした垂直な線条を平行に合わせる方法は同等であったという報告8)があり,時間的効率を考慮して,今回採用した視標は上下にずらした水平な線条のみとした.つぎに,Listing平面は両眼視ではなく,単眼視の眼球運動に関わる法則の基本をなすものである.サーチコイル法は片眼の絶対的なListing平面を測定可能であるが,synoptophoreでは両眼間のListing平面の差を計測することになる.Listing平面の差が0となるのは,両眼に回旋偏位がない場合と,片眼に内方回旋,反対眼に外方回旋が起こる場合が考えられるが,実際にはこのようなことは起こりえない.日常診療における回旋偏位の測定では両眼間の差が測定されるので,今回の方法で問題はないと考える.今後の臨床応用を見すえた場合,synoptophoreを用いたほうがより現実的である.3点目に,計測の再現性の問題がある.遠見と近見を合わせて50回の試行が必要であり,1シリーズの検査のみで長時間を要したためである.症例数が不足しているが,今回の研究により水平方向の偏位は回旋に影響を及ぼさないことが示唆された.Somaniらのように水平方向の計測は行わず,上下方向のみの計測とすれば,検査時間を短縮できるので,再現性を評価することもできるし,臨床応用も可能であると考える.4点目に,頭位固定の課題がある.顎と前額部をしっかり固定されているので,前後・左右の傾きはないといえる.また斜め方向の傾きはsynoptophoreの接眼レンズを覗いている限りほとんどないと考えられる.斜め方向にずれて,これが眼球の反対回旋を誘発させていたとしても両眼間の回旋偏位の差は生じないし,反対回旋運動は頭部傾斜の約1/10と小さいので無視できる.5点目に,この方法では3Dで視覚化した曲面により,感覚的に回旋偏位の変化を容易にとらえられるようになる点で有用であるといえる.結論として,synoptophoreを用いて健常者と上斜筋麻痺のListing平面を解析し,3Dで表現したところ,異なるListing平面を認めた.上斜筋麻痺では,異常なスラント感覚が生じている可能性がある.本研究は科学研究費補助金(22591964)の援助を受けた.本論文の内容は第62回日本臨床眼科学会で発表した.文献1)VonNoordenGK,CamposEC:BinocularVisionandOcularMotility.6thed,p60-62,CVMosby,StLouis,20022)FermanL,CollewijnH,VandenBergAV:AdirecttestofListing’slaw-II.Humanoculartorsionmeasuredunderdynamicconditions.VisionRes27:939-951,19873)WongAM,TweedD,SharpeJA:AdaptiveneuralmechanismforListing’slawrevealedinpatientswithsixthnervepalsy.InvestOphthalmolVisSci43:112-119,2002898あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(146)4)WongAM,SharpeJA,TweedD:AdaptiveneuralmechanismforListing’slawrevealedinpatientswithfourthnervepalsy.InvestOphthalmolVisSci43:1796-1803,20025)SteffenH,StraumannDS,WalkerMFetal:Torsioninpatientswithsuperiorobliquepalsies:dynamictorsionduringsaccadesandchangesinListing’splane.GraefesArchClinExpOphthalmol246:771-778,20086)MokD,RoA,CaderaWetal:RotationofListing’splaneduringvergence.VisRes32:2055-2064,19927)MikhaelS,NicolleD,VilisT:RotationofListing’splanebyhorizontal,verticalandobliqueprism-includeeyevergence.VisRes35:3243-3254,19958)SomaniRAB,HutnikC,DeSouzaJFXetal:UsingasynoptophoretotestListing’slawduringvergenceinnormalsubjectsandstrabismicpatients.VisionRes38:3621-3631,19989)MiyataM,HasebeS,OhtsukiHetal:Assessmentofcyclodisparity-inducedslantperceptionwithasynoptophore.JpnJOphthalmol49:137-142,200510)DemerJL:Theorbitalpulleysystem-arevolutioninconceptsoforbitalanatomy.AnnNYAcadSci956:17-32,200211)SchorCM,MaxwellJS,McCandlessJetal:Adaptivecontrolofvergenceinhumans.AnnNYAcadSci956:297-305,200212)DemerJL,KonoR,WrightW:Magneticresonanceimagingofhumanextraocularmusclesinconvergence.JNeurophysiol89:2072-2085,2003***

Posner-Schlossman 症候群に対する緑内障手術

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(139)891《原著》あたらしい眼科28(6):891.894,2011cはじめにPosner-Schlossman症候群は,1948年に初めてPosnerとSchlossmanにより紹介された疾患で,片眼性で,再発性に眼圧上昇を伴う軽い非肉芽腫性虹彩炎を発作性に起こし,自然寛解し,開放隅角で,視野,視神経乳頭には異常をきたさない予後良好な疾患と考えられてきた1).しかし,近年,Posner-Schlossman症候群を長期にわたって経過をみていると,緑内障性変化をきたし,視機能障害をきたすこともあるという報告がみられるようになってきている2.6).今回,筆者らは,当院でPosner-Schlossman症候群と診断され,緑内障に対する手術が必要となった症例8例を経験し,その術式について考案したので報告する.I対象および方法1990年3月から2008年3月の間に,眼圧下降薬で眼圧コントロールが得られず,手術が必要なため,名古屋市立大学病院眼科へ紹介となった8例8眼について検討した.全8例の内訳を表1に示す.発症年齢は13.50歳(平均36.8±14.2歳),男性5眼,女性3眼であった.手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年),手術までに起こった発作の回数は2.17回(平均7.2±5.3回)であった.経過観察期間は2カ月.17年(中央値2.0年)であった.〔別刷請求先〕野崎実穂:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1番地名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学Reprintrequests:MihoNozaki,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1Kawasumi,Mizuho-cho,Mizuho-ku,Nagoya467-8601,JAPANPosner-Schlossman症候群に対する緑内障手術森田裕野崎実穂高瀬綾恵吉田宗徳小椋祐一郎名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学GlaucomaSurgeryforPosner-SchlossmanSyndromeHiroshiMorita,MihoNozaki,AyaeTakase,MunenoriYoshidaandYuichiroOguraDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NagoyaCityUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences予後良好と知られているPosner-Schlossman症候群と診断された症例で,濾過手術が必要となった8例を経験したので報告する.発症年齢は13.50歳(平均36.8歳),手術加療が必要になるまでの罹病期間は1.15年(中央値7.0年)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術が1眼,線維柱帯切開術が3眼,線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった.Posner-Schlossman症候群において,視野進行症例や薬物療法に抵抗する症例を経験した.これらの症例に対して,流出路再建術は無効であり,全例,濾過手術が必要となった.Posner-Schlossmansyndrome(PSS)isaself-limiting,benignconditioncharacterizedbyunilateral,recurrentattacksofmild,non-granulomatousiritiswithelevatedintraocularpressures(IOP)duringtheacuteattack,openangles,normalvisualfield,andopticdiscs.Wereport8casesofPSSthatrequiredglaucomasurgerytocontrolIOP(5males,3females;meanageatonset:36.8years;mediandurationofPSS:7.0years).Oneeyeunderwentnon-penetratingdeepsclerectomy,3eyesunderwenttrabeculotomyabexternoand4eyesunderwentglaucomafilteringsurgerywithantimetabolites.All4eyesthatdidnotreceivefilteringsurgerycontinuedtohaveepisodesofiritisaftersurgery,withelevatedIOPduringtheepisodes,andrequiredfilteringsurgerywithantimetabolitestocontrolIOP.InPSSpatients,glaucomadevelopsovertime,andfilteringsurgeryisneededtocontrolIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):891.894,2011〕Keywords:Posner-Schlossman症候群,線維柱帯切開術,非穿孔性線維柱帯切除術,線維柱帯切除術,流出路再建術.Posner-Schlossmansyndrome,trabeculotomyabexterno,non-penetratingdeepsclerectomy,trabeculectomy,canalsurgery.892あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(140)全例,入院時,前房内炎症は認めず,隅角は開放隅角で虹彩後癒着はなく,色素沈着は僚眼に比べ少なかった.視神経乳頭陥凹拡大を認めたものは,8眼中5眼(62.5%)であった.初回手術の内訳は,非穿孔性線維柱帯切除術を施行された症例が1眼,線維柱帯切開術が3眼,マイトマイシンC(MMC)併用線維柱帯切除術が4眼であった.非穿孔性線維柱帯切除術および線維柱帯切開術をうけた4眼は術後1.8年後(中央値1.8年)に発作を起こし,薬物療法で眼圧下降が得られなかったため,線維柱帯切除術が必要となった.線維柱帯切除後,3眼に発作が認められたが,いずれも眼圧上昇は起こさなかった(表1).以下に代表症例を提示する.症例:54歳,女性.現病歴:2000年に近医で左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,点眼や内服で眼圧下降する一過性のものであった.2006年の発作後,遷延性の眼圧上昇が起こり,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬点眼では眼圧コントロールがつかず,炭酸脱水酵素阻害薬内服も処方された.その後も炭酸脱水酵素阻害薬の内服を中止すると眼圧が上昇し,眼圧下降薬だけでは眼圧のコントロールができなくなったため,当科へ紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.7(1.2×sph.0.75D(cyl.0.5DAx150°),左眼0.2(1.2×sph.1.50D(cyl.0.25DAx160°),abcd図1代表症例(54歳,女性)の2006年受診時所見6年前に左眼Posner-Schlossman症候群と診断され,以後発作をくり返していたが,眼圧のコントロールがつかなくなったため,当科へ紹介受診となった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5(a),左眼0.9(b)と左眼で著明に陥凹拡大がみられた.Goldmann視野検査では,右眼(d)に特記する異常はなかったが,左眼(c)は鼻側階段状の視野欠損とBjerrm暗点を認めた.表1全症例の内訳発症年齢(歳)発症から手術までの期間(年)術前発作回数最高眼圧(mmHg)最終眼圧(mmHg)初診時乳頭陥凹比最終乳頭陥凹比初回術式初回手術後発作回数追加術式初回手術から追加手術までの期間LET後経過観察期間術前矯正視力術後最終矯正視力1507856100.50.5NPT2LET3年1年1.00.42456173490.90.9LOT2LET8カ月8カ月1.20.83435245150.60.6LOT3LET7カ月2年0.81.042314N/A58170.60.9LOT4LET8年8年0.61.5548N/AN/A6514N/A0.9LET──2カ月0.060.96131352140.6N/ALET──4カ月1.01.572515638140.51LET──8年0.0130cm手動弁84777511011LET──7カ月30cm手動弁50cm手動弁NPT:非穿孔性線維柱帯切除術,LOT:線維柱帯切開術,LET:線維柱帯切除術,N/A:データなし.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011893眼圧は0.1%フルオロメトロン点眼,0.5%チモロール点眼,炭酸脱水酵素阻害薬内服下で,右眼12mmHg,左眼10mmHgであった.両眼前眼部に特記する異常はなく,左眼前房は清明,隅角は開放隅角で,虹彩前癒着はなく,色素沈着は右眼に比べ少なかった.視神経乳頭/陥凹比は,右眼0.5,左眼0.9と左眼で著明に陥凹拡大がみられた(図1).Goldmann視野検査では,右眼に特記する異常はなかったが,左眼は鼻側階段状の視野欠損とBjerrum暗点を認めた(図1).経過:2006年左眼線維柱帯切開術を施行.術後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,0.5%チモロール点眼,2%ピロカルピン点眼,ウノプロストン点眼,ベタメタゾン点眼および炭酸脱水酵素阻害薬内服でも眼圧コントロールがつかないため,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.現在濾過胞は扁平で,0.5%チモロール,ウノプロストン,ドルゾラミドの眼圧下降薬3剤を点眼しており,視力は右眼1.0(1.5×sph.0.50D),左眼0.5(1.0×sph.2.25D(cyl.1.00DAx60°),眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHgとコントロールは良好で,視野,視神経乳頭所見とも2006年受診時と比べ変化はなかった(図2).II考按従来比較的予後良好と考えられてきたPosner-Schlossman症候群であるが,最近,緑内障性変化をきたすこともあるという報告2.6)がいくつかみられるようになってきた.その原因として,Posner-Schlossman症候群のなかに,原発開放隅角緑内障(POAG)を併発している症例がある7,8)といわれており,報告によっては,Posner-Schlossman症候群の45%もの症例でPOAGを併発していたというもの8)もある.POAGを併発している症例は,発作のない期間でも高眼圧を呈していたが,今回筆者らが検討した8例では,POAGを併発していた症例はみられなかった.Japら3)は,Posner-Schlossman症候群のうち,4分の1の症例で,緑内障性変化をきたし,POAGの併発は認めなかったとしている.また,Posner-Schlossman症候群で緑内障性変化をきたす症例は,罹病期間と相関していた,と報告している.筆者らの症例8例のうち,発症から手術までの期間をみると,不明であったものが1例,1年であったものが1例であるが,それ以外の6例は5.17年(平均10.6年)と比較的長期経過している症例が多かったといえる.一方,緑内障を発症したPosner-Schlossman症候群に対する術式であるが,隅角所見からは,開放隅角であり周辺虹彩前癒着もみられないことから,流出路再建術の適応もあると考え,当科では,1例に非穿孔性線維柱帯切除術,3例に線維柱帯切開術を行った.Posner-Schlossman症候群2例に対して線維柱帯切開術を行ったという過去の報告9)では,ステロイド緑内障を併発しており,術後眼圧コントロールは良好であった.この報告は線維柱帯切開術後の経過観察期間が9.11カ月と比較的短いため,その後の経過中に眼圧が図2代表症例の2007年受診時所見左眼線維柱帯切開術を施行後,眼圧コントロールは良好であったが,2007年から左眼発作時に眼圧コントロール不良となり,MMC併用線維柱帯切除術を施行した.視神経乳頭所見(a:右眼,b:左眼),Goldmann視野検査所見(d:右眼,c:左眼)とも,2006年受診時(図1)と比べ,変化はなかった.abcd894あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(142)上昇している可能性もあるが,ステロイド緑内障自体に対しては線維柱帯切開術の有効性はすでに確立されており10),この2例の眼圧上昇機序が,Posner-Schlossman症候群によるものではなく,ステロイド緑内障が背景にあれば,線維柱帯切開術で眼圧コントロールが良好となったという結論に納得できる.Posner-Schlossman症候群での眼圧上昇機序についてはまだ不明な点が多いが,小俣ら6)は,Posner-Schlossman症候群で,線維柱帯切除術を施行した1例の線維柱帯を病理組織学的に検討し,線維柱帯間隙,Schlemm管,集合管周囲にマクロファージが認められ,傍Schlemm管結合組織は厚く,間隙は細胞外物質で満たされていたと報告している.今回,Posner-Schlossman症候群に対して,流出路再建術では眼圧コントロールが得られず,濾過手術で眼圧コントロールが良好となった筆者らの結果からも,線維柱帯,Schlemm管より後方の集合管や傍Schlemm管結合組織といった周囲組織の変化がPosner-Schlossman症候群の眼圧上昇機序に大きく関与していると思われる.また,発作をくり返し,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対して,線維柱帯切除術を行ったところ,眼圧が下降するだけでなく,発作頻度も減少したという報告がある3,4).その機序として,濾過手術で作製した濾過胞によって,炎症細胞が眼外に排出されるため,濾過手術により発作頻度が減少するという可能性が提言されている3).また,線維柱帯切除術が奏効している場合,発作時の眼圧上昇がないため,炎症が起きても自覚症状がなく,眼科受診しないため,みかけの発作頻度が減少するためとも考えられる.今回検討した8例は,眼圧コントロール良好となり,前医に戻り経過観察をうけている症例がほとんどのため,全例の検討はできなかったが,初回から線維柱帯切除術を行った4例では,その後発作をきたした症例はみられなかった.従来Posner-Schlossman症候群は,比較的予後の良い疾患と考えられており,発症年齢も比較的若年が多いため,できるだけ点眼や内服薬で保存的な治療を続ける傾向があるが,今回検討した8例中5例ですでに視神経乳頭陥凹が拡大し,視野異常がみられていた.今回の結果からも,眼圧コントロール不良なPosner-Schlossman症候群に対しては,時期を逃すことなくMMC併用線維柱帯切除術を施行することが必要と考えられた.また,罹病期間が長くなるほど緑内障性変化を呈する症例が多くなるため,Posner-Schlossman症候群に対して,慎重な経過観察が必要と思われる.文献1)PosnerA,SchlossmanA:Syndromeofunilateralrecurrentattacksofglaucomawithcycliticsymptoms.ArchOphthalmol39:517-535,19482)繪野亜矢子,前田秀高,中村誠:手術治療を要したポスナー・シュロスマン症候群の3例.臨眼54:675-679,20003)JapA,SivakumarM,CheeSP:IsPosner-Schlossmansyndromebenign?Ophthalmology108:913-918,20014)DinakaranS,KayarkarV:TrabeculectomyinthemanagementofPosner-Schlossmansyndrome.OphthalmicSurgLasers33:321-322,20025)地庵浩司,塚本秀利,岡田康志ほか:緑内障手術を行ったPosner-Schlossman症候群の3例.眼紀53:391-394,20026)小俣貴靖,濱中輝彦:Posner-Schlossman症候群における線維柱帯の病理組織学的検討─眼圧上昇の原因についての検討─.あたらしい眼24:825-830,20077)RaittaC,VannasA:Glaucomatocycliticcrisis.ArchOphthalmol95:608-612,19778)KassMA,BeckerB,KolkerAE:Glaucomatocycliticcrisisandprimaryopen-angleglaucoma[casereport].AmJOphthalmol75:668-673,19739)崎元晋,大鳥安正,岡田正喜ほか:ステロイド緑内障を合併したPosner-Schlossman症候群の2症例.眼紀56:640-644,200510)TheJapaneseSteroid-InducedGlaucomaMulticenterStudyGroup:Successratesoftrabeculotomyforsteroidinducedglaucoma:acomparative,multicenter,retrospective,cohortstudy.AmJOphthalmol,2011,inpress***

プロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響

2011年6月30日 木曜日

886(13あ4)たらしい眼科Vol.28,No.6,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(6):886.890,2011c〔別刷請求先〕井上順:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:JunInoue,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi,Kanagawa216-8511,JAPANプロスタグランジン関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する影響井上順*1岡美佳子*2井上恵理*1徳田直人*1竹鼻眞*2上野聰樹*1*1聖マリアンナ医科大学眼科学教室*2慶應義塾大学薬学部分子機能生理学講座EffectofProstaglandinAnaloguesonRabbitCornealEpithelialCellsJunInoue1),MikakoOka2),EriInoue1),NaotoTokuda1),MakotoTakehana2)andSatokiUeno1)1)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofMolecularFunctionandPhysiology,KeioUniversityFacultyofPharmacyプロスタグランジン(PG)関連薬の角膜への影響を検討するため,ウサギ角膜上皮細胞を用いて細胞毒性および細胞増殖に対する抑制作用を比較した.96ウェルプレートにウサギ角膜上皮細胞を5,000cells/mlで播種し,24時間培養後2倍希釈系列(2.512倍)になるように希釈したPG関連薬(ラタノプロスト0.005%,トラボプロスト0.004%,タフルプロスト0.0015%,ビマトプロスト0.03%)を各ウェルに分注し,一定時間培養後LDH(lactatedehydrogenase)assay法またはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法を行い,各薬剤の細胞障害率および細胞増殖抑制率を算出した.薬剤濃度を横軸に,細胞増殖抑制率または細胞障害率を縦軸にとり近似曲線を求めた.LDHassay法による細胞障害率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(12.2倍)>タフルプロスト(7.1倍)>ビマトプロスト(3.7倍)>トラボプロスト(1.2倍)の順で高く,MTTassay法による細胞増殖抑制率50%となる希釈濃度はラタノプロスト(25.5倍)>タフルプロスト(21.8倍)>ビマトプロスト(10.6倍)>トラボプロスト(1.1倍)の順で高かった.培養ウサギ角膜上皮細胞に対する影響はラタノプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト,トラボプロストの順で強かった.Thecytotoxicityandinhibitoryeffectsofvariousprostaglandin(PG)analogueeyedropsoncornealepithelialcellgrowthwerecomparedinculturedrabbitcornealepithelialcells.Thecellswerespreadona96-wellplate.Afterincubation,thePGanalogues(0.005%latanoprost,0.004%travoprost,0.0015%tafluprost,and0.03%bimatoprost)weredilutedtoprepareserial2-folddilutions(2-512fold),andeachwaspouredintoeachwell.LDH(lactatedehydrogenase)assayor3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide(MTT)assaywereperformed,andthecytotoxicityrateandcellgrowthinhibitionratewerecalculatedforeachdrug.Anapproximatecurvewasobtainedforeachdrugandcomparativeinvestigationwasconductedbyplottingtheconcentrationofeachdrugonthehorizontalaxisandthegrowthinhibitionrateorcytotoxicityrateonthelongitudinalaxis.Thecytotoxicityrate,asdeterminedbyLDHassay,washighest(50%)forthe12.2-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe7.1-folddilutionoftafluprost,the3.7-folddilutionofbimatoprostandthe1.2-folddilutionoftravoprost.Thegrowthinhibitionrate,asdeterminedbyMTTassay,washighestforthe25.5-folddilutionoflatanoprost,followedinorderbythe21.8-folddilutionoftafluprost,the10.6-folddilutionofbimatoprostandthe1.1-folddilutionoftravoprost.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(6):886.890,2011〕Keywords:角膜上皮細胞,プロスタグランジン関連薬,LDHassay法,MTTassay法.cornealepithelialcell,prostaglandinanalogues,LDHassay,MTTassay.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011887はじめに緑内障治療では,一般的にまず点眼薬治療が行われる.現在では多くの抗緑内障点眼薬が登場し,治療の選択肢が増えてきている.そのなかでも,プロスタグランジン(PG)関連薬は強力な眼圧下降効果を有し,しかも全身的な副作用が少ないことから,緑内障薬物療法の第一選択薬となっている.一方,緑内障は疾患の性質上,一度,抗緑内障点眼薬が投与されると長期にわたり投与が継続される場合や,眼圧コントロールを得るために複数の薬剤が同時に併用投与される場合もある.点眼薬が最初に接触するのは角膜,結膜などのオキュラーサーフェスであり,この部位での副作用発現の可能性があり,考慮する必要がある.実際に点眼薬の眼局所副作用として角膜上皮障害が多く報告されており,さらに長期連用により重篤化することもある1).また,その角膜上皮障害の程度も点眼薬により異なる.この角膜上皮障害は一旦発症すると,点眼治療を中止しなければならない場合や,自覚症状のためにアドヒアランス低下の原因となる場合もあり,治療を行ううえで大きな影響を及ぼす可能性がある.本研究では,PG関連薬の角膜上皮細胞に対する影響について培養ウサギ角膜上皮細胞を用いて,細胞障害性をLDH(lactatedehydrogenase;乳酸脱水素酵素)活性を指標に検討し,さらにはMTT〔3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazoliumbromide〕assay法により,細胞増殖に及ぼす影響について検討した.I実験材料および方法1.実験材料培養細胞は凍結正常ウサギ角膜上皮細胞(NRCE2)(クラボウ),培地はM-StarA(KeratinocyteGrowthMedium)(アルブラスト)を用いた.LDH活性測定には,LDH-細胞毒性テストキット(和光純薬)を使用した.MTTassay法は,MTT(SIGMA)をPBS(phosphate-bufferedsaline)にて最終濃度5mg/mlになるように調製し,呈色液として用いた.MTT溶解液には0.04NHCl-isopropanol液(和光純薬)を用いた.PG関連薬はラタノプロスト0.005%(ファイザー),トラボプロスト0.004%(日本アルコン),タフルプロスト0.0015%(参天製薬),ビマトプロスト0.03%(千寿製薬)の市販製品を使用した2).いずれも2009年11月に購入したもので,タフルプロストについては2010年1月の防腐剤濃度変更以前のものを用いた(表1).2.実験方法a.ウサギ角膜上皮細胞の培養法凍結正常ウサギ角膜上皮細胞を60mmペトリディッシュに播種し,37℃インキュベーターで5%CO2の条件下で培養した.細胞がサブコンフルエント(80%)になった時点で,1.0×105cells/mlの細胞浮遊液を作製し,96ウェルプレートに細胞浮遊液50μl(5,000cells/ml)を分注した.各ウェルに培養液を加え全量100μlとした.b.LDH活性の測定96ウェルプレートに播種したウサギ角膜上皮細胞は24時間培養後,培養液で洗浄し,最後に培養液50μlを各ウェルに分注した.各PG関連薬を2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに50μlずつ分注した.15分間室温で放置後,各ウェルから50μlとり,別のプレートに移し,発色液(ニトロブルーテトラゾリウム)50μlを分注し,45分間室温で放置した.反応停止液(0.04NHCl)100μlを各ウェルに加え,マイクロプレートリーダーを用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.検体(S),ネガティブコントロール(NC;PBS),およびポジティブコントロール(PC;PBSで溶解した0.2%Tween20)の平均吸光度から,以下に示す計算式で細胞障害率を算出した.細胞障害率(%)=(S.N/P.N)×100各PG関連薬の細胞障害作用に有意差があるか否かは,ANOVA(analysisofvariance;分散分析法)検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%細胞障害希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数の近似曲線を求めることによって算出した.c.細胞増殖抑制率の測定96ウェルプレートを24時間培養後,培養液を取り除き,各PG関連薬をそれぞれ2倍希釈系列(2.512倍)になるように培養液で希釈したものを各ウェルに100μlずつ分注し,48時間培養した.各ウェルにMTT溶液(5mg/ml)10μlを加え,37℃で4時間インキュベートした.MTT溶解溶液100μlを加え,マイクロプレートリーダー(LabsystemsMultiskanMS;Labsystems)を用いて570nm波長の吸光度を測定した.各薬剤とも各希釈濃度について4サンプルずつ吸光度を測定した.薬剤無添加のウェルを対照とし,以下に示す計算式で細胞増殖抑制率を算出した.細胞増殖抑制率(%)=100.(薬剤添加ウェルの平均吸光度/薬剤無添加ウェルの平均吸光度)×100各PG関連薬の細胞増殖抑制作用に有意差があるか否か表1各種プロスタグランジン関連薬の主剤濃度と防腐剤濃度主剤防腐剤ラタノプロスト0.005%ベンザルコニウム塩化物0.02%トラボプロスト0.004%sofZiaRタフルプロスト0.0015%ベンザルコニウム塩化物0.01%ビマトプロスト0.03%ベンザルコニウム塩化物0.005%888あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(136)は,ANOVA検定後,Bonferroni/Dunn法の多重検定を行い,危険率p<0.05をもって有意差ありとした.50%増殖抑制希釈倍率は,各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし,対数近似曲線を求めることによって算出した.II結果1.LDH活性の測定LDH検出法を用いて測定した吸光度から細胞障害率を算出し,細胞障害に対するPG関連薬の影響を検討した.Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,各薬剤間に有意差は認めなかったが,最も高い細胞障害性を認めたのはラタノプロスト0.005%であり,細胞障害率は2倍希釈で114%,4倍希釈で66%であった.ついでタフルプロスト0.0015%において,2倍希釈で100%,4倍希釈で48%の細胞障害を認めた.ビマトプロスト0.03%の細胞障害率は,2倍希釈で95%,4倍希釈で37%であった.細胞障害性が最も低かったのがトラボプロスト0.004%であり,細胞障害率は2倍希釈で60%と他の3剤と比較し細胞障害率は低値であり,4倍希釈で35%であった.256倍希釈ではいずれの薬剤も細胞障害率は10%以下となり,512倍希釈では,細胞障害はほとんど認めなかった(図1).各薬剤の濃度を横軸にとり,細胞障害率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞障害希釈倍率を算出した.50%細胞障害時希釈倍率は,ラタノプロスト12.2倍,タフルプロスト7.1倍,ビマトプロスト3.7倍,トラボプロスト1.2倍であった(図2).2.細胞増殖抑制率の測定MTTassay法を用いて測定した吸光度から細胞増殖抑制率を算出し,細胞増殖に対するPG関連薬の影響を検討した.細胞増殖抑制率は,ラタノプロストにおいて8倍希釈まで80%以上,32倍希釈でも49%であり,いずれの希釈倍率でも最も抑制率は高かった.ついでタフルプロストにおいて,4倍希釈で83%,16倍希釈で65%,32倍希釈で45%と高い細胞増殖抑制率を認めた.ビマトプロストの細胞増殖抑制率は,4倍希釈で72%,16倍希釈で53%,32倍希釈で30%であった.最も低い細胞増殖抑制率を示したのはトラボプロストであり,抑制率は4倍希釈で66%,16倍希釈で35%,32倍希釈で28%となった(図3).Bonferroni/Dunn法による多重検定を行った結果,トラボプロストは,4倍希釈および8倍希釈濃度で他の薬剤に対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.さらにトラボプロストは,4倍希釈から64倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,16倍希釈160140120100806040200-20512256128643216842希釈濃度(倍)細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図1PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞障害率の比較LDH検出法を用いて各種薬剤の細胞障害率を算出した.各希釈系列における薬剤間の有意差は認めなかった.細胞障害性はトラボプロスト0.004%が最も低かった.n=4,平均±標準偏差.希釈濃度(倍)00.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%):ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)120100806040200LATy=0.1582Ln(x)+0.8959TAFy=0.1458Ln(x)+0.7855BIMy=0.1227Ln(x)+0.6619TRAy=0.0899Ln(x)+0.5147図2各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞障害率の近似曲線100806040200-20251625612864321684希釈濃度(倍)細胞増殖抑制率(%)###**###**###***#######***:ラタノプロスト0.005%:タフルプロスト0.0015%:ビマトプロスト0.03%:トラボプロスト0.004%図3PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞に対する細胞増殖抑制率の比較MTTassay法を用いて各種薬剤の細胞増殖抑制率を算出した.ラタノプロスト0.005%で最も強い細胞増殖抑制効果を認めた.細胞増殖抑制効果はトラボプロスト0.004%が最も弱かった.n=4,平均±標準偏差.#p<0.05ラタノプロストvsトラボプロスト.*p<0.05タフルプロストvsトラボプロスト.##p<0.05ビマトプロストvsトラボプロスト.**p<0.05タフルプロストvsラタノプロスト.###p<0.05ラタノプロストvsビマトプロスト.***p<0.05タフルプロストvsビマトプロスト.(ANOVAおよびBonferroni/Dunn法)(137)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011889から64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.タフルプロストは,32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.ビマトプロストは,16倍希釈および32倍希釈濃度でラタノプロストに対して,細胞増殖抑制率は有意に低値を示し,64倍希釈濃度でタフルプロストに対しても,細胞増殖抑制率は有意に低値を示した.各薬剤の希釈濃度を横軸にとり,細胞増殖抑制率を縦軸にとって各薬剤についてプロットし対数近似曲線を求めることによって50%細胞増殖抑制希釈倍率を算出した.50%増殖抑制希釈倍率は,ラタノプロスト25.5倍,タフルプロスト21.8倍,ビマトプロスト10.6倍,トラボプロスト1.1倍であった(図4).III考按緑内障の薬物治療は長期にわたることが多い.そのため,眼圧下降効果のみならず,副作用や使用感,経済的負担などを考慮し,患者に応じた最適な薬剤の選択が望まれる.薬剤の選択肢が広がることは,より最適な薬剤処方の実現に寄与するとともに,近年,わが国における薬剤の選択肢は大きな変化を示している.イソプロピルウノプロストン点眼液およびラタノプロスト点眼液が発売されて以降,これらのPG関連薬が薬物治療のおもな第一選択薬として使用されてきた.近年にはトラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液およびビマトプロスト点眼液が登場し,PG関連薬の選択肢が大きく広がった.さらに最近,一部のPG関連薬とチモロールマレイン酸塩の配合点眼液が発売され,さらに薬剤の選択肢が広がっている.各種のPG関連薬の眼圧下降効果については多くの報告がある3.6).また,副作用については緑内障患者のアドヒアランスへの影響が大きいとされる結膜充血に関する報告が多い7,8).その一方で,緑内障患者が角膜疾患を併発しているケースも少なくないなかで,わが国で使用されているPG関連薬を使用した角膜障害性に関する報告はほとんどない.そこで,今回は4種のPG関連薬の角膜障害性についてウサギ角膜上皮細胞を使用して比較検討することにした.本研究では,各種PG関連薬およびその希釈液を使用して,細胞死の指標であるLDHassay法9.11)と細胞増殖の指標であるMTTassay法12)で角膜上皮細胞に対する障害性を調べた.その結果,各種PG関連薬でウサギ角膜上皮細胞に対する影響に差が認められ,さらにLDHassay法およびMTTassay法ともに同様の傾向が認められた.ウサギ角膜上皮細胞に対して最も強い毒性を示したのはラタノプロスト点眼液で,続いてタフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,トラボプロスト点眼液はウサギ角膜上皮細胞に対して最も影響が少ない薬剤であることが明らかとなった.点眼薬は主薬のほかに等張化剤,緩衝剤,可溶化剤,安定化剤,防腐剤,粘稠化剤などが含まれており,点眼薬による角膜上皮障害を考えるうえで,これら添加剤の影響も十分に考慮する必要がある.特に防腐剤のなかではベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumchloride:BAK)による角膜上皮障害については多くの報告があり13.16),今後,抗緑内障点眼薬中の薬効成分以外の成分に関する検討も必要であると考えられる.各種PG関連薬の主薬の細胞障害性については,Guenounらがヒト結膜上皮細胞を使用した結果を報告している17).その結果では,ラタノプロスト,トラボプロスト,ビマトプロストの順で障害性が高かったことを示している(タフルプロストは非使用).本研究に用いたPG関連薬に含まれる主薬の濃度は,ビマトプロスト:0.03%,ラタノプロスト:0.005%,トラボプロスト:0.004%,タフルプロスト:0.0015%の順で高いが,BAKを含まないトラボプロストが最も細胞毒性が少なく,BAKを含む薬剤のなかでは主薬の濃度が最も高いビマトプロストが最も細胞毒性が少なかった.Guenounらの主薬の細胞障害性の報告と,今回筆者らが実施した製剤の細胞障害性の結果が相関しなかった理由については,BAKの影響が少なからず関与している可能性があると考えられた.BAKは陽イオン界面活性剤であり,その作用は細菌の細胞膜を溶解し,細胞質の変成を起こすことである.本研究で用いたわが国で発売となっているPG関連薬のなかで,BAKを含有するものは,ラタノプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液,ビマトプロスト点眼液であり,BAKの含有量2)はラタノプロスト点眼液が0.02%,タフルプロスト点眼液は0.01%,ビマトプロスト点眼液は0.005%と報告されている.一方,トラボプロスト点眼液に含まれる防腐剤はsofZiaRである.sofZiaRはホウ酸/ソルビトール存在下で塩希釈濃度(倍)0.10.20.30.40.50.6細胞障害率(%)100806040200-20:ラタノプロスト0.005%(LAT):タフルプロスト0.0015%(TAF):ビマトプロスト0.03%(BIM):トラボプロスト0.004%(TRA)LATy=0.1721Ln(x)+1.0575TAFy=0.157Ln(x)+0.9837BIMy=0.1466Ln(x)+0.8467TRAy=0.1112Ln(x)+0.5078図4各種PG関連薬のウサギ角膜上皮細胞増殖抑制率の近似曲線890あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(138)化亜鉛が保存効果を示す防腐剤であり,BAKよりも細胞障害性が低いことが報告されている18.21).今回の筆者らの結果では,製剤の細胞障害性がトラボプロスト点眼液を除くとBAKの含有濃度に依存すること,また既報のとおりBAKよりもsofZiaRが細胞障害性を誘発しにくいことが示唆された.以上,各種PG関連薬についてinvitroでウサギ角膜上皮細胞障害性について検討した.実際の臨床では個々の症例について,涙液動態,角膜知覚,糖尿病などの基礎疾患を併発する場合など,角膜および点眼薬にまつわる環境はさまざまであり,薬剤そのものの細胞障害性だけでは副作用の発現を予測できない場合もある.しかし,本研究のモデルは,PG関連薬の臨床で用いられている製品を,ウサギ角膜上皮細胞に接触させたときの細胞障害性を比較したものであり,各薬剤の細胞障害性のポテンシャルを把握するうえでは有用であると考える.ただし,本試験系では製剤中の主薬および添加物の代謝などの要因が加味されないため,実際の緑内障患者における点眼時の各々の眼表面の挙動とは相違すること,さらにタフルプロスト点眼液が最近,BAKの濃度を低減していることも併せて考慮する必要がある.緑内障治療は,その患者にとってほぼ生涯にわたり治療が継続されることが多いことから,各点眼薬の特性,眼圧下降効果および副作用などを十分理解したうえで,その患者に最も適した薬剤を選択することは不可欠である.そのことが患者のアドヒアランスの向上に繋がり,継続可能でより効果的な治療が行えることになるであろうと考える.文献1)HerrerasJM,PastorJC,CalongeMetal:Ocularsurfacealterationafterlong-termtreatmentwithanantiglaucomatousdrug.Ophthalmology99:1082-1088,19922)青山裕美子:緑内障点眼薬の基剤と防腐剤.臨眼63(増刊):252-259,20093)ChengJW,CaiJP,LiYetal:Ameta-analysisoftopicalprostaglandinanalogsinthetreatmentofchronicangleclosureglaucoma.JGlaucoma18:653-657,20094)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:A12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20035)StewartWC,KonstasAGP,NelsonLAetal:Meta-analysisof24-hourintraocularpressurestudiesevaluatingtheefficacyofglaucomamedicines.Ophthalmology115:1117-1122,20086)OrzalesiN,RossettiL,BottoliAetal:Comparisonoftheeffectsoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostoncircadianintraocularpressureinpatientswithglaucomaorocularhypertension.Ophthalmology113:239-246,20067)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20088)EyawoO,NachegaJ,LefebvrePetal:Efficacyandsafetyofprostaglandinanaloguesinpatientswithpredominantlyprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension:ameta-analysis.ClinOphthalmol3:447-456,20099)DeckerT,Lohmann-MatthesML:Aquickandsimplemethodforthequantitationoflactatedehydrogenasereleaseinmeasurementsofcellularcytotoxicityandtumornecrosisfactor(TNF)activity.JImmunolMethods115:61-69,198810)KorzeniewskiC,CallewaertDM:Anenzyme-releaseassayfornaturalcytotoxicity.JImmunolMethods64:313-320,198311)MurphyTH,MaloufAT,SastreAetal:Calcium-dependentglutamatecytotoxicityinaneuronalcellline.BrainRes444:325-332,198812)HansenMB,NielsenSE,BergK:Re-examinationandfurtherdevelopmentofapreciseandrapiddyemethodformeasuringcellgrowth/cellkill.JImmunolMethods119:203-210,198913)PfisterRR,BursteinN:Theeffectsofophthalmicdrugs,vehicles,andpreservativesoncornealepithelium:ascanningelectronmicroscopestudy.InvestOphthalmolVisSci15:246-259,197614)BursteinNL,KlyceSD:Electrophysiologicandmorphologiceffectsofophthalmicpreparationsonrabbitcorneaepithelium.InvestOphthalmolVisSci16:899-911,197715)LiangH,BaudouinC,FaureMOetal:Comparisonoftheoculartolerabilityofalatanoprostcationicemulsionversusconventionalformulationsofprostaglandins:aninvivotoxicityassay.MolVis15:1690-1699,200916)WhitsonJT,CavanaghHD,LakshmanNetal:Assessmentofcornealepithelialintegrityafteracuteexposuretoocularhypotensiveagentspreservedwithandwithoutbenzalkoniumchloride.AdvTher23:663-671,200617)GuenounJM,BaudouinC,RatPetal:Invitrostudyofinflammatorypotentialandtoxicityprofileoflatanoprost,travoprost,andbimatoprostinconjunctiva-derivedepithelialcells.InvestOphthalmolVisSci46:2444-2450,200518)HorsleyMB,KahookMY:Effectsofprostaglandinanalogtherapyontheocularsurfaceofglaucomapatients.ClinOphthalmol3:291-295,200919)KahookMY,NoeckerRJ:ComparisonofcornealandconjunctivalchangesafterdosingoftravoprostpreservedwithsofZia,latanoprostwith0.02%benzalkoniumchloride,andpreservative-freeartificialtears.Cornea27:339-343,200820)YeeRW,NorcomEG,ZhaoXC:Comparisonoftherelativetoxicityoftravoprost0.004%withoutbenzalkoniumchlorideandlatanoprost0.005%inanimmortalizedhumancorneaepitherialcellculturesystem.AdvTher23:511-519,200621)BaudouinC,RianchoL,WarnetJMetal:Invitrostudyofantiglaucomatousprostaglandinanalogues:travoprostwithandwithoutbenzalkoniumchlorideandpreservedlatanoprost.InvestOphthalmolVisSci48:4123-4128,2007