0910-1810/11/\100/頁/JCOPY現在,MGDworkshopにおいて考えられているMGDの治療法は表1のとおりである.MGDの治療は,実際の診療ではその重症度や病型により適宜選択する.本稿でとりあげる治療法は表1の(2),TopicalLipidはじめに涙液が油層/水層/ムチン層の3層構造からなり,油層が欠乏するタイプの眼乾燥が存在するとすれば,単純なアイデアとして油成分を投与してドライアイを治療することが思いつかれる.涙液油層が欠乏するドライアイは,涙液油層を直接観察評価できるデバイス,DR-1TM(興和)によって診断可能である.本稿で述べる非炎症性閉塞性マイボーム腺機能不全,重症ドライアイ併発マイボーム腺機能不全,また涙液層破壊時間(BUT)短縮型ドライアイなどで涙液油層欠乏が観察される1,2).一方,油成分を単純に投与すれば涙液油層が再建されるであろうか.油成分は涙液水層と“水と油”の関係であり単純に投与しても油滴が涙液上にできるだけであろう.油成分を油滴でなく油層として薄膜構造をとって投与するためには“水と油”を仲立ちする安全な親水性の極性脂質が必要である.本稿ではマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)のなかで涙液油層減少ドライアイを伴うものに対しての局所油成分補充療法を中心に述べる.MGDは定義,用語の統一,病型分類,治療法に関して,今までもさまざまな知見が報告されているが,最近,日本のドライアイ研究会のMGDワーキンググループでMGDの診断基準をまとめようとする活動3),TearFilmandOcularSurfaceSocietyでのMGDworkshopにおける疾患概念,診断,治療をまとめようとする活動などが活発であり,それらの知見も交えて述べる.(43)1103*EikiGoto:後藤眼科医院〔別刷請求先〕後藤英樹:〒248-0012鎌倉市御成町4-40松田ビル3階後藤眼科医院特集●マイボーム腺研究,臨床の最前線あたらしい眼科28(8):1103?1106,2011局所油成分補充療法─マイボーム腺機能不全治療の新しい試み─TopicalLipidSupplementsforTreatingMeibomianGlandDysfunction後藤英樹*表1MGDworkshopのMGD治療法リスト(1)人工涙液点眼:Artificiallubricanttreatment(2)油性点眼,眼軟膏:Topicallipidsupplements(3)眼瞼清拭,温熱療法,圧出:Lidhygienepluswarmingandmanualexpression(4)抗生物質,抗菌薬点眼:Anti-infectivetreatments(5)毛?虫治療:TreatmentofDemodexMites(6)テトラサイクリン系抗生物質内服:Tetracyclineandderivatives(systemic)(7)ステロイド:Steroids(8)カルシニューリンインヒビター(サイクロスポリンなど):Calcineurininhibitors(9)性ホルモン:Sexhormones(10)必須脂肪酸:Essentialfattyacids(11)手術:Surgicaloptions表2MGDの病型分類1a)閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD:non-inflamedobstructiveMGD)1b)閉塞性MGD(diffusemeibomitis)2)脂漏性MGD(meibomianseborrhea)3)前部眼瞼炎(ブドウ球菌性眼瞼炎,脂漏性眼瞼炎,酒?性眼瞼炎,毛?虫性眼瞼炎)に続発するMGD4)ドライアイ(涙液分泌減少,Sjogren症候群,瘢痕性角結膜症)や慢性結膜炎症(アレルギー性結膜炎など)に併発するMGD1104あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(44)b.温罨法および圧出マイボーム腺閉塞の解除(脂質の融解)を期待して温罨法および圧出を行う.この際,島﨑のマイボーム腺圧出グレーディングを参考にする5).温罨法には,罨法器,温タオル,温熱シートなどを用いる6,7).圧出は温罨法の後に点眼麻酔を施行し検者の指,角板,ステンレス棒,吉富式マイボーム腺鑷子などを使用して行う.圧出は,マイボーム腺腔内の脂質を温めても融解しない症例には無効である.この治療で,一時的にでも改善がみられる場合は定期的に施行する.圧出されたマイボーム腺脂質は清拭する.個人的な感触であるが教科書的な温罨法や圧出は涙液油層を再形成するというよりは眼瞼縁の炎症をとる意味合いのほうが強いと思われ,むしろ炎症性のMGDに威力を発揮すると考えている.もちろん,閉塞が軽度の場合は温罨法で閉塞解除され油層が改善する場合もある.c.局所油成分補充療法概念としては成立している治療法であるが市販の処方薬がないため実施がむずかしい治療である.しかし,非炎症性閉塞性MGDではマイボーム腺の非炎症性閉塞と角結膜前涙液油層欠乏が起こっているため,私見では,最も理にかない,最も病態に即している治療法であると考えている.治療の目的は非炎症性閉塞性MGDで欠乏している角結膜前涙液油層1)を正常者に近い状態(均一な厚み100nm近辺)にもっていき涙液蒸発率を低減させ,眼表面の湿潤を得ることにある.方法としては低濃度油性点眼8)と極少量眼軟膏眼瞼縁塗布9)があり,それぞれ述べる.低濃度油性点眼は微量の油成分と十分な量の水成分を含むため,涙液量の少ない患者にも効果がある.すなわち適応は非炎症性閉塞性MGD,および涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGDである(図1).実際に油成分を水性点眼液内で均質化させるには硬化剤の添加および特殊な撹拌装置が必要であり,通常の臨床現場で作製するのはむずかしいと思われる.そこで現在,当科ではヒマシ油を人工涙液に1%で混和し低濃度油性点眼液を作製している.これを使用前によく撹拌するように患者に指示し1日6回使用する.自覚症状,涙液層破壊時間や涙液蒸発率の改善などが報告されている8).Supplementsに該当する.また本稿におけるMGDの病型分類は表2を使用する4).MGD病型分類は,臨床的には1)マイボーム腺炎症の有無,2)マイボーム腺開口部閉塞の程度,3)マイボーム腺原発か続発か(前部眼瞼炎や結膜炎症に続発するか)が重要であり,ドライアイとの関係においては1)涙液量(Schirmer値)異常の有無,2)涙液油層減少の有無が重要である.MGDの治療の実際表3にMGDの病型分類に基づく治療法のまとめを示す.このなかで1a)非炎症性閉塞性MGDおよび4)ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGDに対して局所油成分補充療法が行われる.閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD:non?inflamedobstructiveMGD)閉塞性MGDは非炎症性閉塞性MGDと炎症性の閉塞性MGDであるdiffusemeibomitisに分類される.非炎症性閉塞性MGDは油層減少型ドライアイ(lipidteardeficiencydryeye:LTD)をひき起こし,臨床上問題となる.ドライアイ治療,温罨法および圧出,局所油成分補充療法を行う.a.ドライアイ治療非炎症性閉塞性MGDの主要症状である眼乾燥の原因はLTDであり,人工涙液点眼,ヒアルロン酸点眼,涙点プラグなどのドライアイ治療を行う.ただし,これらのドライアイ治療は水成分を補充する治療であるためLTDに対しての治療としては限界がある.表3MGDの病型分類に基づく治療法のまとめ1a)閉塞性MGD(非炎症性閉塞性MGD)ドライアイ治療,温罨法・圧出,局所油成分補充療法1b)閉塞性MGD(diffusemeibomitis)眼瞼清拭・温罨法・圧出,抗生物質,ステロイド2)脂漏性MGD(meibomianseborrhea)1b)と同様3)前部眼瞼炎に続発するMGD眼瞼清拭・温罨法・圧出,抗生物質4)ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGDドライアイなど原疾患の治療,局所油成分補充療法(45)あたらしい眼科Vol.28,No.8,20111105極少量眼軟膏眼瞼縁塗布はこのような低濃度油性点眼液調整の煩雑さを回避するために発案された.適応は非炎症性閉塞性MGDであり,特にMGDを伴うオフィスワーカーのドライアイ患者で著効した.微量とはいえ油成分のみの投与であるため,涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGD患者(角膜前油層がよどんでむしろ厚くなっている)では塗布した油成分が水層上を伸展しないため逆効果になる.涙液分泌減少を伴う非炎症性閉塞性MGD患者では涙点プラグなど,涙液水成分不足の治療をしてから行うべき治療法である.極少量眼軟膏眼瞼縁塗布の方法は,ステンレス棒にタリビッドR眼軟膏を2mmとり,両眼の下眼瞼縁に端から端まで塗布する.これを1日3回行う.油成分を伸展させるために人工涙液またはヒアルロン酸点眼も点眼する.ぼやけは数分でなくなり,保湿効果は約3時間である.この方法は感染症などに対して行う眼軟膏の大量投与(バルク投与)と異なり,ぼやけを最低限しかひき起こさずに油成分を涙液に補充できるためドライアイの治療法として成立する.自覚症状,涙液層破壊時間や涙液油層厚みの改善などが報告されている(図2)9).眼軟膏としては,均一な涙液油層形成のため親水性をもつものが望ましく,現時点ではタリビッドR眼軟膏が眼表面保湿のために最も適していると考えている.一方,含有される抗菌成分がドライアイ治療に不必要であるという問題が明らかであり,抗図1低濃度均質化油性点眼液投与におけるMGD患者油層の改善上:プラセボ投与後の涙液油層干渉像.油成分のよどみがみられ,涙液油層は異常である.下:上記患者の低濃度均質化ヒマシ油点眼投与後の涙液油層干渉像.均一な干渉像が得られ,正常な涙液油層像に近いものとなっている.(文献8より許諾を得て掲載)図2MGDに対する極少量眼軟膏眼瞼縁塗布左:MGDを伴うオフィスワーカーのドライアイ患者の涙液油層干渉像.涙液油層厚みの減少(40nm)がみられる.右:上記患者の極少量眼軟膏眼瞼縁塗布治療後の涙液油層干渉像.涙液油層厚みが110nmに回復している.(文献9より許諾を得て掲載)1106あたらしい眼科Vol.28,No.8,2011(46)文献1)GotoE,TsengSC:Differentiationoflipidteardeficiencydryeyebykineticanalysisoftearinterferenceimages.ArchOphthalmol121:173-180,20032)GotoE,DogruM,KojimaTetal:Computer-synthesisofaninterferencecolorchartofhumantearlipidlayer,byacolorimetricapproach.InvestOphthalmolVisSci44:4693-4697,20033)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20104)後藤英樹,島﨑潤:マイボーム腺機能不全とその治療.あたらしい眼科14:1613-1621,19975)ShimazakiJ,SakataM,TsubotaK:Ocularsurfacechangesanddiscomfortinpatientswithmeibomianglanddysfunction.ArchOphthalmol113:1266-1270,19956)GotoE,MondenY,TakanoYetal:Treatmentofnoninflamedobstructivemeibomianglanddysfunctionbyaninfraredwarmcompressiondevice.BrJOphthalmol86:1403-1407,20027)MoriA,ShimazakiJ,ShimmuraSetal:Disposableeyelid-warmingdeviceforthetreatmentofmeibomianglanddysfunction.JpnJOphthalmol47:578-586,20038)GotoE,ShimazakiJ,MondenYetal:Low-concentrationhomogenizedcastoroileyedropsfornoninflamedobstructivemeibomianglanddysfunction.Ophthalmology109:2030-2035,20029)GotoE,DogruM,FukagawaKetal:Successfultearlipidlayertreatmentforrefractorydryeyeinofficeworkersbylow-doselipidapplicationonthefull-lengtheyelidmargin.AmJOphthalmol142:264-270,200610)OhbaE,DogruM,HosakaEetal:Surgicalpunctalocclusionwithahighheat-energyreleasingcauterydeviceforseveredryeyewithrecurrentpunctalplugextrusion.AmJOphthalmol151:483-487,2011菌成分を含まないフラビタンR眼軟膏への切り替えも試みているが,油層伸展からみてドライアイ治療を考えれば前者にアドバンテージがある.今後,抗菌成分を含まないドライアイ治療に特化した油製剤の開発が強く望まれる.ドライアイや慢性結膜炎症に併発するMGD原疾患であるドライアイ〔涙液分泌減少,Sjogren症候群,瘢痕性角結膜症(慢性Stevens-Johnson症候群,眼類天疱瘡,トラコーマ後の偽眼類天疱瘡,移植片対宿主病)〕の治療やアレルギーの治療を行う.水分貯留があれば局所油成分補充を考慮する.a.ドライアイ治療上述のドライアイ治療に加えて,重症ドライアイにMGDを併発している際は涙点閉鎖術も考慮する10).b.局所油成分補充療法ドライアイ治療により涙液量が増えた場合は残存するLTDの治療として局所油成分補充が奏効する場合がある.極少量眼軟膏眼瞼縁塗布を行う.おわりにMGDの治療における局所油成分補充療法に関して,MGDの病型分類を行いながらまとめた.涙液油層の評価が現状よりも一般化し,眼乾燥,ドライアイの重大な原因の一つであることがより認識されれば,局所油成分補充療法のさらなる発展がみられると思われる.局所油成分補充のための理想の油成分の探索が今後も必要である.