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外科的に摘出した眼瞼・眼窩乳児血管腫の2例

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1747.1752,2011c外科的に摘出した眼瞼・眼窩乳児血管腫の2例林憲吾嘉鳥信忠板倉秀記上田幸典聖隷浜松病院眼形成眼窩外科TwoCasesofOrbitalandEyelidInfantileHemangiomawithSurgicalTreatmentKengoHayashi,NobutadaKatori,HidekiItakuraandKousukeUedaDepartmentofOcularPlastic&OrbitalSurgery,SeireiHamamatsuGeneralHospital目的:眼瞼から眼窩へ及ぶ乳児血管腫2例の外科的治療の経過を報告する.症例1:5カ月,女児.初診時,左上眼瞼から眼窩へ及ぶ血管腫を認めた.ステロイド内服を開始したが残存した.2歳時に血管腫を摘出し減量した.3歳時左眼視力0.01(0.03)で,健眼遮閉を開始した.5歳時に血管腫を再度摘出したが左眼の弱視は残存した.症例2:2カ月,女児.左上眼瞼から内眼角にかけて血管腫を認め,増大傾向にあった.視機能障害のリスクがあると考え外科的に摘出した.1歳9カ月時,視力は左右差なく良好であった.結論:視機能障害をきたすリスクのある眼瞼・眼窩乳児血管腫には外科的摘出を含めた早期治療を検討する必要があると考えられた.Objective:Toreport2casesoforbitalandeyelidinfantilehemangiomawithsurgicaltreatment.Case1:A5-month-oldfemalewithhemangiomainthelefteyelidandorbit.Thehemangiomarespondedsomewhattosystemiccorticosteroidtreatment,butthegreaterpartofthetumorremainded.Wesurgicallyexcisedtheeyelidhemangiomawhenthepatientwas2yearsofage.Thevisualacuityofthelefteyewaspoorat3yearsofage,soweperformedocclusiontherapyonthefelloweye.Althoughwesurgicallyexcisedtheorbitalhemangiomaat5yearsofage,theform-deprivationamblyopiaremained.Case2:A2-month-oldfemalewithhemangiomainthelefteyelidandglabella.Thetumortendedtoincrease.Sincehighriskofform-deprivationamblyopiawassuspected,weperformedsurgicalexcision.Thevisualacuityofthebotheyeswasnearlyequivalent,andgood.Conclu-sions:Earlytreatment,includingsurgicalexcisioncanbeconsiderediforbitaleyelidinfantilehemangiomaposeshighriskofcausingpermanentamblyopia.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1747.1752,2011〕Keywords:苺状血管腫,乳児血管腫,毛細血管腫,外科的治療,プロプラノロール.strawberrymarkhemangioma,infantilehemangioma,capillaryhemangioma,surgicaltreatment,propranolol.はじめに乳児血管腫(=苺状血管腫)は,生後1.2週後より赤色斑として生じ,その後6カ月頃まで増大する隆起性の腫瘤である.一般的に1年以内にその増大傾向を失い学童期までに自然に退縮するため,経過観察となることが多い.しかし,眼瞼や眼窩の乳児血管腫は血管腫の増大時期と視覚発達時期が一致するので,形態覚遮断弱視など視機能障害をきたす場合がある.今回筆者らは,眼瞼から眼窩へ及ぶ巨大な乳児血管腫2例に対して外科的治療を行ったので,その治療経過について報告する.I症例〔症例1〕5カ月,女児.主訴:左上眼瞼腫脹.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:生後2週間後から左上眼瞼に紅色腫瘤を認め,その後増大傾向を認めたため聖隷浜松病院(以下,当院)形成外科に受診.乳児血管腫で3カ月間経過観察していたが,増大傾向が著明なため眼形成眼窩外科(以下,当科)へ紹介受診となった.初診時所見:左上眼瞼鼻側に顆粒状の赤色隆起腫瘍が2カ〔別刷請求先〕林憲吾:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科Reprintrequests:KengoHayashi,M.D.,DepartmentofOcularPlastic&OrbitalSurgery,SeireiHamamatsuGeneralHospital,2-12-12Sumiyoshi,Naka-ku,Hamamatsu-shi430-8558,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(85)1747 AB図1症例1のステロイド内服前後の写真A:初診時,左眼開瞼困難な状態.B:ステロイド内服4カ月後,若干開瞼状態が改善したが依然残存している.ABC図2初診時のMRI画像A:T2強調画像の冠状断,左眼窩上内側に不整形な腫瘍.B:T2強調画像の矢状断,眼瞼皮下から眼窩筋円錐外へ及ぶ腫瘍.C:ガドリニウム造影画像の水平断,強い造影効果.内部にflowvoidを認める.所あり,眼瞼広範囲にわたり皮下血管拡張しており皮下に青紫色弾性軟の腫瘤が認められた.眼瞼腫脹が著明で開瞼困難な状態であった(図1A).耳側から瞳孔領が若干観察可能であった.眼内には異常はみられなかった.血液検査・凝固機能は正常範囲内であった.画像所見:眼窩部magneticresonanceimaging(以下,MRI)画像で左上眼瞼から眼窩上内側部の筋円錐外へ及ぶT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号の内部不均一な不整形な腫瘤が認められた.ガドリニウムによる強い造影効果がみられ,腫瘍内に管状のflowvoidが認められ,腫瘍内部の拡張した血管の存在が疑われた.腫瘍は上斜筋と上直筋を含んだ状態で,眼球は外下方へ偏位していた(図2).経過:以上の検査結果から腫瘤型の乳児血管腫と診断した.腫瘍はMRI画像所見では外眼筋との境界は不鮮明で手術による安全な摘出は困難と考えプレドニゾロン2mg/kg/day内服を開始した.3カ月後に若干縮小傾向がみられ開瞼状態は改善したが,依然第一眼位で瞳孔中央に眼瞼が覆う状態で腫瘍は残存した(図1B).プレドニゾロンは4カ月間で漸減し中止した.その後,腫瘍の増減はない状態が続いたため,2歳時に外科的治療を施行した.手術では画像所見どおり血管腫は周辺組織との境界不明瞭であったため,眼窩内の腫瘍は残して,眼瞼部の腫瘍のみ摘出し減量した.病理検査の結果capillaryhemangiomaであった.3歳時(初回手術から1年後)VD=1.0(n.c.),VS=0.01(0.03×+3.0D(cyl.3.5DAx30°)で,アイパッチを使用し健眼遮閉を開始した(6.8時間/日).5歳時にMRI画像診断で境界が明瞭となってきたため,眼瞼・眼窩部の残存血管腫を再度外科的摘出した.術中に腫瘍へ栄養する後篩骨動脈へ連続する動脈を確認し,これを結紮切断した.腫瘍は上斜筋と分離可能で40mm大の血管腫が摘出された(図3).術後,MRIで血管腫の容積は著明に減少した(図4).眼位は正位で眼球運動制限はなく,開瞼状態が改善し整容的にも良好であった.その後1748あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(86) AB図3術中所見A:眼輪筋下,周辺組織と.離した血管腫.B:摘出した血管腫,40mm大.ACDB図4眼窩の血管腫摘出前後の比較A:術前のMRIT2強調画像水平断,眼瞼皮下から眼窩へ及ぶ血管腫(白矢印).B:術前の顔面写真.左眼瞼腫脹と皮下の青紫色の血管拡張がみられる.外斜視の状態.C:術後のMRIT2強調画像水平断,血管腫が著明に減少(白矢印).D:術後の顔面写真.左眼瞼に腫脹なく色調正常.眼位も正位.(87)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111749 ABC図5症例2の手術前後A:初診時,眉根部から左眼瞼にかけて腫脹.軽度外斜視.B:手術後1週間,摘出により軽度陥凹がみられる.C:手術後1年6カ月,眉根部平坦化.左右差なく整容的良好.眼位も正位.ABもアイパッチを使用し視能訓練は継続した.しかしながら8歳時VD=1.0(1.2×.0.25D),VS=0.04(0.1×+0.5D(cyl.3.0DAx45°)と左眼の弱視は残存した.〔症例2〕2カ月,女児.主訴:眼瞼および眉根部の腫脹.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:生後1カ月頃から,左上眼瞼から眉根部にかけて腫脹を認め,増大したため当科を受診した.初診時所見:眉根部から左上眼瞼にかけて著明に腫脹しており,内眼角付近に2カ所点状の紅斑が認められた(図5A).開瞼は可能で瞳孔領には及んでいなかった.眼内には異常はみられなかった.血液検査・凝固機能は正常範囲内であった.画像所見:MRI画像で眉根部から左上眼瞼の皮下と眼窩浅部にT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号の内部不均一な不整形な腫瘤が認められた.ガドリニウムによる強い造影効果がみられ,腫瘍内に管状のflowvoidが認められ,腫瘍内部の拡張した血管の存在が疑われた.左眼球は外側へ偏位していた(図6).経過:以上の検査結果から腫瘤型の乳児血管腫と診断した.その後も増大傾向があり視機能障害のリスクがあると考え,月齢3カ月時に外科的に治療した(図5B).手術は眉根部正中切開でアプローチし多房性の脆弱な赤色腫瘤と術中拍動性の出血がみられた.腫瘍は全摘出可能であった.組織は病理検査にてcapillaryhemangiomaであった.1歳時,1歳9カ月時ともにgratingacuitycard法にて視力は左右差なく良好で,整容的にも良好であった(図5C).II考按乳児血管腫(いわゆる苺状血管腫)は組織学的には未熟な毛細血管内皮細胞の異常増殖を主体とするcapillaryhemangioma(毛細血管腫)である.一般的には生後数日から数週間で出現し,増殖期,退縮期,消退期と自然退縮傾向がある1).そのため重篤な合併症がない場合,経過観察となること図6症例2の初診時MRI画像A:T2強調画像の水平断,眉根部皮下から眼窩浅部へ不整形な腫瘍.左眼は外側へ偏位.B:脂肪抑制法(STIR法)の矢状断,内部にflowvoidがみられる.1750あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(88) が多い.増殖期の臨床像から3つの型に分類されその頻度・経過・予後に違いがある2.4).最も頻度の多い局面型は血管腫の主体が真皮内にあり,外見が赤色の苺状あるいは顆粒状の扁平な隆起を呈する.つぎに多い腫瘤型は真皮内と皮下に血管腫があり,三次元的な血管腫の塊となり大きな隆起を呈する.稀な皮下型は皮下のみに血管腫があり,外見上正常な皮膚色あるいは青色調を呈する.自然経過として局面型と皮下型は6カ月頃に増大の極期を迎え,その後1歳頃より退縮期に入り学童期(5.6歳)には消退期となり自然消退する.一方,顔面の腫瘤型は9カ月以降も増大を続けることがあり,7歳時でも約半数の症例で残存するといわれている4).いずれの臨床型であっても乳幼児期には増大期であり,眼瞼や眼窩の乳児血管腫の場合,その増大時期と視覚発達時期が一致するため形態覚遮断弱視・斜視・乱視など視機能障害をきたす場合がある5).乳幼児期は1週間程度の片眼遮光でも不可逆的な弱視をきたす可能性があることがいわれている6,7).さらに視機能障害は眼瞼部の血管腫が眼瞼の1/2を超える大きさで退縮の遅いものに生じやすく,重症度は遮閉の期間と相関することが報告されている8).特に上記の腫瘤型の場合,長期にわたり増大し残存するため合併症をきたす可能性が懸念される9).そのため,視機能障害をきたす可能性のある眼瞼・眼窩乳児血管腫は治療の対象となる.治療にはステロイド内服やステロイド局所注射,色素レーザー,bブロッカー(プロプラノロール)投与,インターフェロンa皮下注射,放射線治療,外科的摘出などがある.ステロイド内服は従来から血管腫に対して広く行われてきた治療法でプレドニゾロン2.3mg/kg/dayの量で有効な場合,通常2週間程度で効果が発現し血管腫の増大が停止または衰退するといわれている10).また,生後4カ月までの増殖期が最も効果が高く,1歳を過ぎると効果が少なくなるといわれている10).ステロイド内服にはさまざまな副作用があり,特に乳幼児期における長期にわたるステロイド投与では易感染性,成長遅延,副腎皮質機能不全などの危険性があるため,小児科医による全身管理が必要不可欠である5,8).隆起の少ない3カ月までの局面型や早期の腫瘤型には,ステロイド局所注射や色素レーザーの有効性が知られている11,12).しかし大型の腫瘤型や深部例には無効である.特に本症例の症例1のような眼窩の深部に及ぶ例では,注射による不測の球後出血による重篤な合併症をきたす可能性がある12).眼瞼に血管腫がみられる症例は74%と高率に眼窩内血管腫を伴っていることが報告されている5).眼瞼に血管腫がみられた場合,眼窩内の検索とそれに応じた治療が必要である.2008年,非選択性のbブロッカーであるプロプラノロールの内服の有用性が初めて報告された13).その後も良好な成(89)績とその安全性が数多く報告され,頭頸部血管腫の第一選択療法とする報告もある14.16).Missoiらは17名19眼瞼の乳児血管腫(月齢中央値:4.5カ月)に対してプロプラノロールの経口投与を治療期間中央値6.8カ月で全症例の血管腫サイズの縮小がみられ,その減少率は中央値39%であったと報告している17).さらにステロイド抵抗性の眼瞼・眼窩乳児血管腫に対してもプロプラノロールの有効性が報告されている17,18).国内では血管腫10例に対してプロプラノロール内服を使用した結果,退縮期の1例を除く増殖期9例には数日後から2週間以内の早期退縮が認められ,その安全性と効果発現の早さが報告されている19).しかし,プロプラノロールはbブロッカーのため徐脈,低血圧,低血糖,末梢冷感などの副作用があげられ,投与導入時は循環動態のモニターリングが必要である20).現在,当院でも血管腫に対する治療方針としてプロプラノロール内服あるいは点滴を第一選択としている.プロプラノロールの無効例で早期の根治が必要な場合は第二選択として外科的摘出を検討している.しかし外科的治療は血流に富む腫瘍のため丹念な止血操作が必要であり,さらに血管腫と他の組織との境界がときに不明瞭で神経や筋肉などの組織を損傷する可能性があり,その難易度が問題点としてあげられる.本症例1は眼瞼から眼窩へ及ぶ巨大な腫瘍型の血管腫で,乳幼児期にステロイドの内服を開始し,2歳時と5歳時に腫瘍を摘出したが,8歳時に弱視が残存した.これは治療のタイミングとそれに続く視能訓練の遅れが結果的に不可逆的な視機能障害をきたしたものと考えられる.本症例2は眉根部から眼瞼・眼窩へ及ぶ腫瘤型で,生後3カ月時に早期の外科的摘出を施行し,1歳9カ月に視機能の左右差はみられず良好な経過であった.これは早期の予防的な治療が良好な結果につながったものと考えられる.視機能障害をきたす可能性のある眼瞼・眼窩の乳児血管腫には外科的治療も含めた可及的早期の治療と早期の視能訓練を検討する必要があると思われる.文献1)ThomasJ,GampperMD,RaymondFetal:Vascularanomalies:Hemangiomas.PlastReconstrSurg110:572585,20022)NakayamaH:Clinicalandhistologicalstudiesoftheclassificationandthenaturalcourseofthestrawberrymark.JDermatol8:277-291,19813)倉持朗:乳児血管腫/苺状血管腫.皮膚臨床47:15891606,20054)水谷ひろみ:小児の血管腫.皮膚科MOOK9:59-73,19875)HaikBG,JakobiecFA,EllsworthRMetal:Capillaryhemangiomaofthelidsandorbit:ananalysisoftheclinicalfeaturesandtherapeuticresultsin101cases.Ophthalあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111751 mology86:760-792,19796)河野真一郎,根木昭,原山憲治ほか:眼瞼いちご状血管腫の視機能に及ぼす影響.眼紀32:1152-1156,19817)栗屋忍:視性刺激遮断弱視について.眼科19:13951404,19778)StigmarG,CrawfordJS,WardCMetal:Ophthalmicsequelaeofinfantilehemangiomasoftheeyelidsandorbit.AmJOphthalmol85:806-813,19789)村岡道徳:腫瘤型苺状血管腫の早期治療.形成外科36:1355-1360,199310)BrucknerAL,FriedenIJ:Hemangiomasofinfacy.JAmAcadDermatol48:477-496,200311)NelsonBL,MelickJE,HarleyRD:Intralesionalcorticosteroidinjectionsforinfantilehemangiomasoftheeyelid.Pediatrics74:241-245,198412)KushnerBJ:Intralesionalcorticosteroidinjectionforinfantileadnexalhemangioma.AmJOphthalmol93:496506,198213)Leaute-LabrezeC,DumasRE,HubicheTetal:Propranololforseverehemangiomasofinfancy.NEnglJMed358:2649-2651,200814)SansV,RoqueED,BergeJetal:Propranololforsevereinfantilehemangiomas;Follow-upreport.Pediatrics124:423-431,200915)HolmesWJ,MishraA,GorstCetal:Propranololasfirst-linetreatmentforinfantilehemangiomas.PlastReconstrSurg125:420-421,201016)FuchsmannC,QuintalMC,GiguereCetal:Propranololasfirst-linetreatmentofheadandneckhemangiomas.ArchOtolaryngolHeadandNeckSurg137:471-478,201117)MissoiTG,LuederGT,GilbertsonK:Oralpropranololfortreatmentofperiocularinfantilehemangiomas.ArchOphthalmol129:899-903,201118)LiYC,McCahonE,RoweNAetal:Successfultreatmentofinfantilehaemangiomasoftheorbitwithpropranolol.ClinExperimentOphthalmol38:554-559,201019)木下佳保里,朴修三,木村眞之介ほか:血管腫に対するプロプラノロール内服療法について.形成外科54:669676,201120)GraafM,BreurJ,RaphaelMFetal:Adverseeffectsofpropranololwhenusedinthetreatmentofhemangiomas:Acaseseriesof28infants.JAmAcadDermatol65:320-327,2011***1752あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(90)

市中眼科診療所におけるアデノウイルスの院内汚染調査

2011年12月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科28(12):1743.1746,2011c市中眼科診療所におけるアデノウイルスの院内汚染調査石岡みさき*1,2伊藤典彦*2*1みさき眼科クリニック*2横浜市立大学医学部眼科学教室SurveillanceofNosocomialContaminationbyAdenovirusatUrbanEyeClinicMisakiIshioka1,2)andNorihikoItoh2)1)MisakiEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmologyYokohamaCityUniversitySchoolofMedicine新規開業の眼科診療所において,アデノウイルスの院内感染予防マニュアルを作成・実施し,同ウイルスの院内汚染を調査した.みさき眼科クリニックは外来診療のみの診療所で,内眼手術,レーザー治療,コンタクトレンズ処方のいずれも行っていない.アデノウイルスの院内汚染を調べるために11カ所の検出ポイントを設定し,開業前から開業後1年6カ月にわたり毎月拭き取り調査を行った.アデノウイルスの検出には定性polymerasechainreaction(PCR)法を用いた.アデノウイルス感染が疑われる患者にはウイルスの迅速診断キットを施行した.期間中アデノウイルスによる結膜炎疑いの患者は34名,ウイルス迅速診断キット陽性患者は7名,院内感染が疑われる症例はみられなかった.調査全期間を通してすべての検出ポイントからウイルスDNAは検出されなかった.外来診療のみの小規模眼科診療所においては,感染予防対策を施すことで施設内がアデノウイルスにより汚染される可能性は低い.Wecreatedandfollowedaprotocolofinfectioncontrolforadenovirusatanewlyopenedeyeclinicandsurveyednosocomialcontaminationbythisvirus.Theclinichasnowardsanddoesnotperformintraocularsurgery,lasertreatmentorcontactlensprescription.Weset11pointsfordetectingadenovirusandcheckedforviralcontaminationusingpolymerasechainreaction(PCR)beforestartingtheclinicandateverymonthfor18months.Anadenovirusrapiddiagnosiskitwasusedonpatientswithsymptomsofadenoviruskeratoconjunctivitis.Duringthestudyperiod,34patientsshowedsymptomsofadenoviruskeratoconjunctivitis;7ofthemshowedpositiveusingthediagnosiskit.Nopatientsweresuspectedofhavinganosocomialinfection.Duringthestudyperiod,noviralDNAwasdetectedatanydetectionpoint.Atasmalleyeclinicwithnowards,thepotentialfornosocomialcontaminationbyadenovirusmaybekeptlowwiththisprotocolofinfectioncontrol.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(12):1743.1746,2011〕Keywords:アデノウイルス,角結膜炎,院内感染,ウイルス汚染,PCR.adenovirus,keratoconjunctivitis,nosocomialinfection,viralcontamination,PCR.はじめにアデノウイルスは眼科における院内感染の原因となる.患者にとってはもちろんのこと,医療側にも社会的・経済的な損害は重大となる.院内感染発生時の汚染源は,医療従事者の手指1,2),点眼瓶1,3),眼圧計1,2,4),などがあげられているが,実際の院内感染発生時に特定できない場合が多い.アデノウイルス院内感染予防のマニュアルに従っても,院内汚染そして感染は起きるのか,院内感染発生時にウイルスの院内汚染は発生しているのか,そして,院内汚染発生時に院内感染は起きるのか,これらはいずれも未解決である.今回新規開設の眼科診療所で,無理なく実施可能な院内感染予防のマニュアルを作成,実施し,アデノウイルスの院内汚染と結膜炎発症症例を1年6カ月にわたり追跡した.I方法2008年5月,渋谷区に開業した眼科診療所,みさき眼科クリニック(以下,当院)にて調査を実施した.当院は外来診療のみで,観血的手術は霰粒腫の切開のみを施行し,レーザー治療は施行せず,コンタクトレンズの取り扱いは行っていない.医師は1名,コメディカルは常勤1名と非常勤が1〔別刷請求先〕石岡みさき:〒151-0064東京都渋谷区上原1-22-6みさき眼科クリニックReprintrequests:MisakiIshioka,M.D.,MisakiEyeClinic,1-22-6Uehara,Shibuya-ku,Tokyo151-0064,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(81)1743 表1当院の院内感染予防マニュアル1日常診療(1)初診,再診とも,まず診察を行う.(2)患者ひとりごとに診察後薬用液体ハンドソープ,流水にて手洗いを施行する.ペーパータオルを使用後,速乾性手指消毒剤をすりこむ.(3)眼表面に触れる検査・処置器具は患者ごとに取り換え,高圧蒸気滅菌を施行する.高圧蒸気滅菌が不可能な器具は次亜塩素酸ナトリウムにて消毒する.2内装(1)水栓(診察室,検査室,トイレ)はセンサー式自動水栓を採用.(2)待合室に雑誌は置かない.(3)待合室ソファ,受付カウンターはアルコールで清拭できる材質を使用.3清拭市販のアルコールタオルにて,午前・午後外来終了時に以下の場所を清拭する.(1)待合室ソファ(2)受付カウンター(3)診察室ドア取っ手(4)診察用椅子(5)入口自動ドアタッチセンサー(6)トイレドアノブ,鍵4点眼散瞳薬,麻酔薬,抗菌薬の点眼は5ml瓶を1カ月ごとに交換する.5結膜炎患者受診時(1)濾胞性結膜炎の症状を呈し,アデノウイルス感染の可能性が高い患者に対して,アデノウイルス迅速診断キットを施行する.(2)ウイルス迅速診断キット施行時は点眼麻酔薬を使用し,そのつど点眼瓶は破棄する.(3)患者帰宅後,清拭施行.(場所は3に前述.)名勤務していた.日本眼科学会が作成した「ウイルス性結膜炎のガイドライン」5)に準拠し策定した当院の院内感染予防マニュアルを表1に示す.診療は1カ所の診察室を使用し,細隙灯顕微鏡で行った.通常の細隙灯顕微鏡での検査が困難な乳幼児の場合のみ,手持ちの細隙灯顕微鏡を使用した.初診時および再診患者で次回の検査指示が出されていた場合でも,各種検査前に医師の診察を行った.診察時に使い捨て手袋は使用しなかった.睫毛鑷子,硝子棒は患者1人ごとに交換し,使用後は洗浄のうえ高圧蒸気滅菌を施行し再使用した.眼圧計のチップは測定ごとに交換し,0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンR)に30分以上浸漬後(途中攪拌),流水にて洗浄しペーパータオルにて水気を拭き取り使用した.スリーミラーなどの接触型レンズは水洗後ミルトンRに30分以上浸漬し,流水にて洗浄後風乾した.患者が触れると想定される院内施設については,午前・午後の診療終了時,アデノウイルス感染の可能性が高い結膜炎の患者が受診した際は随時,アルコールタオル(商品名メディクロス,エタノール76.9.81.4vol%)にて清拭を施行した.濾胞性結膜炎の症状を呈し,アデノウイルス感染の可能性が高い患者に対しては,アデノウイルスの迅速診断キット(キャピリアアデノアイR,わかもと製薬)を施行した.迅速診断施行時には点眼麻酔薬(防腐剤入りオキシブプロカイン,ベノキシールR,参天製薬)を使用し,そのつど点眼瓶は破棄した.診察後,医師は液体ハンドソープ,流水にて手洗いし,ペーパータオル使用後に速乾性手指消毒剤をすりこんだ.患者帰宅後,待合室ソファ,受付カウンター,診察室ドア取っ手,診察用椅子,入り口自動ドアタッチセンサー(同患者が使用すればトイレドアノブ,鍵)をアルコールタオルにて清拭施行した.図1施設内ウイルス検出ポイント①:入口自動ドアタッチセンサー,②:待合室ソファ,③:診察室ドア取っ手,④:受付カウンター,⑤:非接触眼圧計エアーノズル,⑥:トイレドアノブ,⑦:眼圧計チップ,⑧:接触型レンズ(スリーミラー),⑨:医師の手,⑩:点眼麻酔薬,⑪:散瞳薬.(ただし,⑦.⑪は図中では省略)1744あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(82) アデノウイルス結膜炎疑い患者数(人/月)543210:アデノウイルス結膜炎疑い患者:迅速診断キット陽性患者受けることができないことは,患者側の不利益となる可能性があり回避されるべきである.全国約650カ所の定点観測7)によると,流行性角結膜炎の平均症例数は35.65例/年/1施設である.この定点観測は「重症な急性濾胞性結膜炎に角膜上皮下混濁,あるいは耳前リンパ節の腫脹・圧痛を伴う症例」という臨床症状に基づく診断である.当院のウイルス性結膜炎疑い例が1年半の間に34名というのは定点観測と比べると少ない発症数であるが,定点観測を報告している施設の規模はさまざまであり,症例数の多い施設は受診患者数自体が多い可能性もある.東京都眼科医会が毎年6月分と11月分の保険請求を調査している1010ト陽性患者数.9月図月別結膜炎患者数と迅速診断キット陽性数2濾胞性結膜炎の症状を呈し,アデノウイルス感染の可能性が高い患者の月別人数と,そのうちのアデノウイルス迅速診断キッ院内汚染調査は開業前から開業後1年6カ月にわたり定期1回,午前の診療終了後院内清拭前に(点眼瓶交換前)綿棒にて①から⑨の検出ポイントを擦過した.点眼麻酔薬,散瞳薬はノズル先端を綿棒にて擦過し同時に点眼残液を浸透させた.アデノウイルスDNAの検出は定性polymerasechain6)reaction(PCR)法にて行った.調査期間中における月平均外来患者数は153名(1日平均8名),そのうちの濾胞性結膜炎患者数とアデノウイルス迅速診断キット陽性患者数を図2に示す.期間中アデノウイルスによる結膜炎疑いは34名,アデノウイルス迅速診断キット陽性患者は7名であった.院内感染を疑わせる症例はなかった.調査全期間を通して,すべての検出ポイントからアデノウイルスDNAは検出されなかった.的に行った.計11カ所の検出ポイントを図1に示す.月にII結果9月III考察今回,眼科診療所院内のウイルス汚染調査を新規開業診療所において1年半にわたり行った.ウイルス迅速診断キット結果が陽性であるアデノウイルス結膜炎患者が受診していたにもかかわらず,院内のウイルス汚染は検出されなかった.ウイルス性結膜炎患者は通常診療に使用される診療室・診察機器で検査を受けており,当院策定のウイルス対策マニュアルに沿った診療業務を行うことにより,ウイルス性結膜炎患者が受診しても院内がウイルスに汚染され,院内感染が発生する可能性は低いと考えられた.ウイルスの院内汚染をおそれるあまりに,ウイルス性結膜炎疑いの患者が十分な診察を(83)月8月7月6月5月11が,手術を行っていない施設の2010年6月の請求件数は平月11128月7月6月5月4月3月2月1月月月均765件であり,ここ10年は大きく変動していない8).こ月のデータと比較すると,当院の外来患者数は手術をしていない眼科施設としても少ないほうであるため,結膜炎の患者数が少なくウイルス汚染が起きにくかったとも考えられる.わが国では入院施設がある病院での院内感染報告が主である5)が,海外では外来における院内感染の報告1),院内感染発症の主体が外来患者という報告4)もあり,当院が外来診療のみのため院内感染が起きなかったとは言い切れない.受診患者数,その他の施設条件(入院施設の有無,コンタクトレンズ処方の有無,手術施行の有無など)の相違も,院内汚染・院内感染の検討課題になりうるであろう.流行性角結膜炎流行時のケースコントロールスタディでは,点眼瓶,眼圧計が危険因子であると報告されている1,2,4).流行性角結膜炎患者の指がウイルス汚染されていること9),ウイルスは乾燥した場所でも長く生き残る報告10)を踏まえると,患者が接触するすべての院内施設の汚染の可能性は十分に考えられる.施設によってはウイルス性結膜炎が疑われる患者の動線を変更,専用の細隙灯顕微鏡で診察を行っている.当院においては当該結膜炎患者の隔離は行っていないが,施設内のウイルス汚染は起きていない.しかし,流行性角結膜炎の院内感染発生時に結膜炎疑いの患者を隔離するまで流行が終焉しなかったという報告もあり1,4),施設汚染は院内感染の重要な危険因子となりうるであろう.実際に汚染が起こるのか,そしてそれはどこに起きるのかを明確にするさまざまな規模の施設が参加した前向き調査を期待したい.調査時に開院直後で患者数の少なかった当院でも,数年たち患者数が増えたところで追試を検討したい.今回院内汚染は検出されなかったが,検出された場合どれくらいのウイルス数を院内感染の原因と判定するかはむずかしいところもある.施設のウイルス汚染を調べる場合には院内感染の動向も調べ,汚染が感染の原因になっているか定量的なウイルスDNAによる確認が必要と考えられる.迅速診断キットの陽性率は100%ではなく,採取方法や発症時期による検体のウイルス量によっても陽性率が異なってくる.アあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111745 デノウイルスによる結膜炎を疑い迅速診断キットが陰性であった場合でもこのウイルスによる感染を完全に否定することはむずかしいため,院内汚染・院内感染調査時にはキットを施行した患者についてPCRにてもチェックすることを検討したほうがよいと考えられる.手指がウイルス汚染した場合には洗っても完全に除去することができないという報告がある2).当院では手袋の使用は行われなかったが,医療従事者が使い捨ての手袋を使用したほうが良いかは検討の余地があると考えられた.一方,点眼瓶汚染の可能性は高いとされ,当院でも疑い症例への使用後は廃棄を行っている.処置用点眼薬を小分けし使用ごとに破棄する方法も推奨されている1).麻酔薬,抗生物質には使い切りの点眼がすでに販売され,小分けにする手間を省くことが可能である.アデノウイルスによる結膜炎は,眼科であればどのような規模の施設でも避けては通ることのできない疾患である.一般診療所でも今回策定したような実践可能な感染対策マニュアルで院内汚染,院内感染への対策が可能であると思われる.外来患者数の多い施設においては,検査などの再来時にまず医師の診察がむずかしいことも考えられ,コメディカルスタッフの教育も重要である.文献1)VineyKA,KehoePJ,DoyleBetal:AnoutbreakofepidemickeratoconjunctivitisinaregionalophthalmologyclinicinNewSouthWales.EpidemiolInfect136:11971206,20082)JerniganJA,LowryBS,HaydenFGetal:Adenovirustype8epidemickeratoconjunctivitisinaeyeclinic:riskfactorsandcontrol.JInfectDis167:1307-1313,19933)UchioE,IshikoH,AokiKetal:Adenovirusdetectedbypolymerasechainreactioninmultidoseeyedropbottlesusedbypatientswithadenoviralkeratoconjunctivitis.AmJOphthalmol134:618-619,20024)WarrenD,NelsonKE,FarrarJAetal:Alargeoutbreakofepidemickeratoconjunctivitis:Problemsincontrollingnosocomialspread.JInfectDis160:938-943,19895)塩田洋,大野重昭,青木功喜ほか:アデノウイルス結膜炎院内感染対策ガイドライン.日眼会誌113:25-46,20096)AokiK,IshikoK,KonnoTetal:Epidemickeratoconjunctivitisduetothenovelhexon-chimeric-intermediate22,37/H8humanadenovirus.JClinMicrobiol46:32593269,20087)国立感染症研究所サーベイランス感染症発生動向調査http://idsc.nih.go.jp/idwr/ydata/report-Jb.html8)健康保険請求状況調査報告平成22年6月診療分.東京都眼科医会報213:32-36,20109)AzarMJ,DhaliwalDK,BowerKSetal:Possibleconsequenceofshakinghandswithyourpatientswithepidemickeratoconjunctivitis.AmJOphthalmol121:711-712,199610)GordonYJ,GordonRY,RomanowskiEetal:Prolongedrecoveryofdesiccatedadenovirusserotypes5,8,and19fromplasticandmetalsurfaceinvitro.Ophthalmology100:1835-1840,1993***1746あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(84)

眼研究こぼれ話 24.緑内障の治療 効果あるマリファナ

2011年12月30日 金曜日

●連載眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長緑内障の治療効果あるマリファナ飲酒のあげく,とっくりやビールびんで,頭から血が出ることはあっても特に眼のけがをするということは聞かない.ところが当地ではワイングラスで眼のけがをする人が相当にある.ワイングラスの柄が眼に突き刺さるのである.今回はアルコールについてちょっと触れてみよう.日本を訪れた当地の人がびっくりするのは,アルコール中毒患者が,米国に比べて,はるかに少ないはずの日本で大病人のような酔っぱらいが夜の街頭で見られることである.これは日本人が少量のアルコールでひどく酔っぱらうことを物語っている.その第一の理由は,大部分の日本人には,人種的にアルコールを分解するアルコール脱水素酵素が不足しているのである.それで欧米人のようにたくさん楽しく飲むことが出来ない.私のこちらの友人たちは,ビールを飲みながらテニスに興ずることが出来るが,われわれには出来ない.幸いに,早くひどく酔うことは,アルコール中毒の発生を防いでいる.米人たちは,いくらでも飲めるから,比較的短期の飲酒癖で心身共に高度のアル中となる.エド・ケネディ上院議員の奥さん,前大統領フォード氏の奥さん,または数えきれない程の有名人がアル中となり,また治療されて正常に復帰している.有名なマサチューセッツ・ゼネラル病院の前々病院長は飲酒量が多いという理由で首になっている.責任ある地位の人は,アルコールを飲むことを,本人も周りの人も極度に恐れている.面白いことに,米人よりもはるかに多量のアルコールを消費しているヨーロッパ人には,アル中が少ないのである.大いに心理学的な因子が作用していると考えら(69)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY▲電子顕微鏡で見た網膜の神経の切り口.大きく丸いのが一つの神経線維で,その中にたくさんの小さい小管が電話線のように並んでいる.緑内障のときにはこの神経が変性を起こす.れる.アルコールは眼圧を下げるので,眼科学的には非常に役立つ薬剤と考えられている.緑内障の患者は,少量のアルコールを飲用すると,他の薬剤よりも効果的に眼内の圧力を下げられるのである.もう数年も前のことであるが,ハウ研究所の緑内障研究の大家,グラント博士の研究室の様子が,何となく違ってきたことに気がついた.彼自身は知らぬ顔をしているが,見知らぬ人の出入りがあったり,中には高声で話す連中が居るのである.あとでわかったことは,眼圧とアルコールの関係についての人体実験を始めていたのである.たくさんの正常者を募って,飛行機内で出すような小型のウイスキーびんをふるまっていたのである.技術員も秘書も彼の部屋に数百本の小びんが仕込まれていることを秘密にしていたし,空きびん処理も誰(だれ)にもわからないようにしていたのは実に見事であった.彼のこの研究業績は大変有名になっている.あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111731 眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話同様に眼圧を下げる有効な薬剤はマリファナでああって,主成分はカナビノールと呼ばれる化学物質る.これをすうと,実際に緑内障の治療に役立つとであるが,その他に,100を超える物質があり,どされていて,麻薬法のうるさい当地で,この患者はれが,眼圧に有効なのかまだ不明である.ただ心配安く,マリファナを購入することが出来るようになのは,この麻薬は,遺伝因子を持っている染色体なっている.また,政府も積極的にこの療法についに影響があるらしいことである.て,有識者の協力を求めている.マリファナは中国(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)では紀元前1500年も前から使われていた秘薬で☆☆☆1732あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(70)

インターネットの眼科応用 35.医療のIT化で可能になること(5)-遠隔医療・遠隔診断の可能性-

2011年12月30日 金曜日

インターネットの眼科応用シリーズインターネットの眼科応用シリーズ第35章医療のIT化で可能になること⑤─遠隔医療・遠隔診断の可能性─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科遠隔医療・遠隔診断の歴史本シリーズでは毎号,インターネットの眼科応用についてご紹介してきましたが,残る連載も今回を含めてあと2回となりました.ぜひ最後までお付き合いください.本章では,インターネットを用いた遠隔医療・遠隔診断の現状と可能性について紹介します.将来,眼科医療が変わるイノベーションを含んでいます.まず,インターネットを用いた遠隔医療・遠隔診断の歴史を紹介しますと,大きく分けて以下の4つの潮流があります.括弧内は情報伝達の組み合わせを示します.①遠隔地で撮影された画像を読影する遠隔診断(医師-医師)②遠隔地の患者を手術する遠隔医療(医師-患者)③遠隔地の医師同士が診療情報を議論するインターネット上の研究会(医師-医師)④遠隔地の患者を診察,問診する遠隔医療(医師-患者)上記①と②は事業として成立し世の中に定着しましたが,③と④は一部の例外を除いて事業としては未成熟です.この違いに焦点を当てて話を進めます.まず①の遠隔診断ですが,その歴史は1990年代のアメリカの放射線科医によって始まりました.わずか数年間に数々の遠隔診断会社が設立されました.そのなかでも,VirtualRad社は夜間の救急の症例はインド在住の医師が読影するなど,グローバルな視野でインターネットの即時性を活用したサービスを提供しています.インターネットを用いた遠隔診断は,社会的ニーズもあり継続性のあるサービスといえます.日本においても,放射線科医の佐藤俊彦らによって1997年に設立された株式会社ドクターネットは,国内最大規模の遠隔診断企業です.彼らは,10人の読影医が集まれば遠隔診断事業を始められることを証明しました.医師が起業して成功し(67)た数少ない事例といえます.同じシステムを応用すれば,眼科医が遠隔地の患者の眼底写真を読影することが可能です.また,日本の高い読影技術を海外に輸出することも可能です.②の遠隔手術はどうでしょう.ダヴィンチとよばれる遠隔手術ロボットは,遠隔地の医師と患者を繋ぎます.ダヴィンチのシステムを用いてアメリカの医師が大西洋を越えてヨーロッパの患者を手術することが可能です.このシステムの開発は,負傷した兵士を遠隔地から手術する軍事利用目的から始まりました.DARPA(国防高等研究計画局)というアメリカ国防総省の機関が推進し,1990年にスタンフォード研究所が試作品を完成させました.そして,1995年にスタンフォード研究所から特許ライセンスを受け設立されたIntuitiveSurgical社は,2000年に上場を果たし,2008年の売上高が8億7,500万ドル,世界中で1年間に約14万回使用され,2008年12月31日現在で合計1,111台が普及するまでに成長しました〔825台(米国),194台(欧州),92台(その他)〕1).現在では,インターネットで遠隔地を繋ぐ遠隔手術というよりは,ロボットで操作することによる操作性の向上が重視されて前立腺癌の手術に多用されています.ロボット内で動かした手の動きを縮小して病巣に伝えることができる,という繊細さがアメリカでは受け入れられているそうです.これは,硝子体手術の膜処理に応用できるシステムかもしれません.遠隔医療・遠隔診断の可能性③のインターネット上の研究会については日本がさまざまな先駆的な試みを世界に発信しています.吉田晃敏らにより,旭川医科大学の手術室からスケペンス眼研究所へ硝子体手術ライブが行われ,症例検討を行ったのが1996年.三重大学の村瀬澄夫らが世界で初めて,投稿,査読,議論する場をすべてインターネット上で行う国際あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117290910-1810/11/\100/頁/JCOPY 学会を開催したのが1998年でした.2007年には旭川医科大学を中心に「3カ国同時開催3D-HDバーチャル眼科シンポジウム」が開催されました2).現状では,この③のモデルは実験的な試みにとどまり事業として継続しにくいようですが,その解決方法はインターネットの潮流にあります.2010年にはGoogleのPVをフェースブックが越えた,というIT業界において画期的な出来事がありました.フェースブックに代表されるソーシャルメディアのもつ力については今までにも紹介してきました.中東の政変が良い例です.インターネットは近年,交流という使われ方をします.インターネットが当事者間を「繋ぐ」だけでは③のモデルは事業化できません.インターネットを「繋ぐ」だけでなく,「共有する」ツールとして活用して,人の集まる媒体を作る必要があります.人が集まる流れを創ることは,実世界においてもインターネットの世界においても,事業が成立するために必要です.④の遠隔医療を事業化するにもソーシャルメディアの活用が必要です.たとえば,フェースブックのようなソーシャルメディアのうえでクリニックを開業することは,日本では医師法に抵触する恐れがありますが,慎重にサービスを限定すれば可能です.現にアメリカではインターネット相談と往診のみを提供するオンラインクリニックが誕生しています.さらにアメリカでは,ソーシャルメディアに発展した医師限定のソーシャルネットワーキングサービス「Sermo」とよばれるサービスがあり,上場も果たしました.アメリカでは実験的な試みを受け入れ,評価する仕組みがあるのでしょう.最後に,遠隔医療を事業化させるイノベーションを一つ紹介します.自動診断ソフトは,第20章でも紹介しましたがスタンフォード大学から始まりました.1970年代のことです.「MYCIN」と名付けられたこの人工知能システムは,感染症患者に対してベストの抗生物質の選択をします.スタンフォード大学で試用され優れた性能を示しました3.5).また,近年,悪性腫瘍に関する自動診断ソフトが商用化されました.横浜国立大学大学院環境情報研究院の有沢博らは,陽電子放射断層撮影装置(PET)とコンピュータ断層撮影装置(CT)の画像を組み合わせて,99.3%の精度で癌細胞を発見できる自動診断システムを開発しました.画像を読み取る読影医の診断ノウハウをデータベース化し,独自開発のプログラム言語とアルゴリズムを用いてシステムを構築しました6).2009年法政大学理工学部応用情報工学科の彌冨仁らは,悪性黒色腫の診断を自動化する技術を確立しました.疑わしい皮膚組織の写真データをインターネット上のソフトを用いて診断するシステムで,約85%程度の高い診断精度を実証しています.霰粒腫と断定しにくい腫瘍の補助診断に役立つ可能性をもちます7).われわれ眼科医が臨床の現場で疑わしい眼瞼腫瘍を発見したら,その画像を自動診断ソフトに転送し診断を仰ぐことが可能になるかもしれません.患者自身が直接,画像相談することも可能でしょう.さらに,眼底疾患を眼底写真から診断するソフトが登場すると,われわれ眼科医は仕事を失う可能性がありますが,これは医師がより高度な医療のみを担えるようにする前向きなイノベーションかもしれません.もちろん,自動診断ソフトの普及には,自分の診断をインターネットに委ねてよい,とする患者側の意識の変容も必要です.自動診断ソフトの普及によって,④の遠隔医療は大きく発展する可能性をもちます.インターネットを用いた遠隔医療と遠隔診断には,4つの潮流があることを紹介しました.これらが継続して育つことと,この4つ以外のモデルが生まれることを期待しています.文献1)http://www.intuitivesurgical.com/index.aspx2)http://astec.asahikawaidai.jp/history.html3)http://ja.wikipedia.org/wiki/Mycin4)YuVL,BuchananBG,ShortliffeEHetal:Evaluatingtheperformanceofacomputer-basedconsultant.ComputProgramsBiomed9:95-102,19795)SotosJG:MYCINandNEOMYCIN:twoapproachestogeneratingexplanationsinrule-basedexpertsystems.AviatSpaceEnvironMed61:950-954,19906)http://www.dogaiken.com/2/post_225.html7)http://www.diginfo.tv/2009/11/13/09-0283-r-jp.php☆☆☆1730あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(68)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 103.網膜格子状変性巣縁が裂けた大きな弁状裂孔網膜剥離の対処法(中級編)

2011年12月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載103103網膜格子状変性巣縁が裂けた大きな弁状裂孔網膜.離の対処法(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめに網膜格子状変性巣の辺縁には,全周に硝子体が強固に癒着しており(図1),辺縁が裂けて弁状裂孔が形成され裂孔原性網膜.離に進行することがある.硝子体牽引が強いと,網膜格子状変性巣の後縁が広範囲にわたって裂け,しばしば大きな弁状裂孔を形成する(図2).このような症例では,通常,硝子体手術による網膜復位術が選択されるが,網膜格子状変性巣周辺側の硝子体の処理は結構むずかしい.●網膜格子状変性巣に対する意図的網膜切除このような症例では,網膜格子状変性巣周辺側の硝子体切除が不十分だと,術後の残存牽引によりしばしば再.離をきたす.硝子体牽引をより確実に解除するためには,網膜格子状変性巣自体を硝子体カッターで切除するほうが手技も簡単で確実な牽引解除が期待できる.網膜裂孔自体は子午線方向に拡大してしまうが,あまり問題にはならないようである.意図的網膜切除の際には,裂孔周囲の網膜血管断端から出血が生じるので,眼内ジアテルミー凝固で念入りに止血する.気圧伸展網膜復位術後には裂孔周囲に確実に眼内光凝固を施行しておく.図1網膜格子状変性巣周囲の硝子体牽引網膜格子状変性巣の辺縁には,全周に硝子体が強固に癒着しており,辺縁が裂けて弁状裂孔が形成され網膜.離に進行することがある.図2網膜格子状変性巣後極縁に形成された大きな弁状裂孔硝子体牽引が強いと,網膜格子状変性巣の後縁が広範囲にわたって裂け,しばしば大きな弁状裂孔を形成する.図3硝子体手術の術中所見(1)網膜格子状変性巣後極縁が裂けて大きな裂孔を形成している.図4硝子体手術の術中所見(2)硝子体カッターで網膜格子状変性巣ごと意図的に切除する.図5硝子体手術の術中所見(3)裂孔は拡大するが,裂孔周囲に確実に眼内光凝固を施行する.(65)あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117270910-1810/11/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 132.新たなステロイド点眼薬による糖尿病黄斑浮腫の治療効果

2011年12月30日 金曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第132回◆眼科医のための先端医療山下英俊ステロイド点眼薬による糖尿病黄斑浮腫の治療新たなステロイド点眼薬による糖尿病黄斑浮腫の治療効果後藤早紀子(山形大学医学部眼科)糖尿病黄斑浮腫に対する治療の現状筆者らの施設では,この新しいステロイド点眼薬がDMEの治療として有効ではないかと考え治療を開始しました(山形大学医学部倫理委員会承認).点眼治療のメリットとしては,切開など外科的処置が必要ないこと,副作用出現時にはすぐに投与を中止して余分な薬剤への曝露を抑制できること,薬物クリアランスの問題がないことから硝子体手術後も点眼可能であることなどがあげられます.糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は糖尿病患者における視力低下の大きな原因の一つです.汎網膜光凝固を行い糖尿病網膜症の病勢は沈静化しているにもかかわらず,黄斑浮腫があるために視力が思わしくない,という症例の経験がある先生も多いのではないでしょうか.DMEに対する治療は,黄斑光凝固,ステロイド眼局所投与,抗vascularendotherialgrowthfactor(VEGF)薬硝子体内注射,硝子体手術が一般的に行われています.しかし,DMEに対する特効薬はなく,硝子体手術もすべての症例に有効であるわけではありません.病状に合わせていくつかの治療法を組み合わせているのが現状です.そこで,治療法の選択肢が多いことは戦略的に望ましいことと考えられます.新しいステロイド点眼薬の登場硝子体手術後も残存するDME症例7例11眼に対してDifluprednateophthalmicemulsion0.05%を最初の1カ月間は1日4回,その後2カ月間は1日2回点眼し,3カ月間の点眼治療を行いました3).点眼開始時の平均logMAR視力は0.67±0.35であり,点眼開始後3カ月では0.67±0.29と視力を維持していました.点眼開始時の平均網膜厚は500.6±207.7μmでしたが,点眼開始後3カ月では341.2±194.8μmと減少しました.点眼開始時網膜厚から20%以上減少した割合は73%でした.硝子体手術後も残存するDMEに対する治療は薬物クリアランスの点から硝子体内注射の有効期間が短縮するため,トリアムシノロンTenon.下注射(sub-Tenon’sinjectionoftriamcinoloneacetonide:STTA)が日本ではおもに行われています4).平均網膜厚の推移を硝子体手術後にSTTAを施行した10例11眼と比較したとこDifluprednateophthalmicemulsion0.05%は米国食ろ,同等の効果が認められました(図1).ステロイド薬品医薬品局で術後抗炎症薬として認可されている新しいの副作用である眼圧上昇は36%に生じましたが,点眼ステロイド点眼薬です.Difluprednate(DFBA)は皮膚800科領域で開発,使用されているステロイド薬であり,外用薬としては‘verystrong’に属します.DFBAを点眼700薬として開発するにあたり問題となったのは,疎水性が600強いということです.この点はoilinwatertypelipidemulsionとすることで解決され,点眼薬として製剤化されました.動物実験では,点眼後1時間の前房内濃度は懸濁液に比べ5.7倍と高いものでした1).また,有色家兎眼にトリチウムで放射性ラベルしたDFBAを1回点眼したところ,網膜・脈絡膜で59ngeq./g検出されました2).これは116nmolに相当する濃度であり,薬理学的に有効な濃度で後眼部へ達していると考えられます.したがって,これまで点眼薬では治療が困難であった後眼部疾患に対して,本点眼薬が有効である可能性が考えられました.(63)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY平均網膜厚(μm)2001000点眼開始時1カ月2カ月3カ月:点眼治療:STTA図1平均網膜厚の推移点眼治療を施行した7例11眼とSTTAを施行した10例11眼の平均網膜厚の推移を比較した.網膜厚減少において点眼治療はSTTAと同様の効果が認められた.あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111725500400300 中止や眼圧下降薬の使用により正常範囲となりました.本検討から,Difluprednateophthalmicemulsion0.05%が硝子体手術後のDMEに対して効果があることがわかりました.その後,硝子体手術既往のない症例や汎網膜光凝固に伴うDME症例に対する治療効果についても検討を重ねています5,6).今後の展望Difluprednateophthalmicemulsion0.05%によるDME治療は網膜厚減少において明らかな効果を示しています.一方で点眼治療が無効な症例もあり,有効性と関連する因子を見つけだすことができれば,より治療効果を高めることが可能であると考えます.DMEはさまざまなサイトカインやカスケードが関与する炎症性疾患の一面があります.そのため,ステロイド薬のようにターゲットが広い薬剤が有効であり,簡便な治療法である点眼薬が今後のDME治療において選択肢の一つとなることが期待されます.文献1)YamaguchiM,YasuedaS,IsowakiAetal:Formulationofanophthalmiclipidemulsioncontainingananti-inflammatorysteroidaldrug,difluprednate.IntJPharm301:121-128,20052)TajikaT,IsowakiA,SasakiH:Oculardistributionofdifluprednateophthalmicemulsion0.05%inrabbits.JOcularPharmacolTher27:43-49,20113)NakanoS,YamamotoT,KiriiEetal:Steroideyedroptreatment(difluprednateophthalmicemulsion)iseffectiveinreducingrefractorydiabeticmacularedema.GraefesArchClinExpOphthalmol248:805-810,20104)KogaT,MawatariY,InumaruJetal:Trans-Tenon’sretrobulbartriamcinoloneacetonideinfusionforrefractorydiabeticmacularedemaaftervitrectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol243:1247-1252,20055)GotoNS,YamamotoT,KiriiEetal:Treatmentofdiffusediabeticmacularoedemausingsteroideyedrops.ActaOphthalmol,inpress6)YamamotoT,GotoNS,AbeSetal:Difluprednateophthalmicemulsion0.05%asadjunctivetreatmenttopan-retinalphotocoagulationforproliferativediabeticretinopathywithclinicallysignificantmacularedema.RetinalCases&BriefReports,inpress■「新たなステロイド点眼薬による糖尿病黄斑浮腫の治療効果」を読んで■近年の薬物治療の進歩により,従来は治療困難であでしょうが,有効濃度の薬物を網膜に送達することはった網膜硝子体疾患の治療が可能になってきました.簡単ではありません.また,全身への影響もより考慮抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬による加齢黄斑変性する必要があります.その点からは,点眼薬による薬の素晴らしい治療効果は,多くの方が経験されている物送達が理想的ですが,網脈絡膜への十分な薬物送達でしょう.また,抗血小板由来増殖因子抗体薬,抗イはむずかしいために,実用化されていませんでした.ンテグリン抗体薬などが,つぎつぎに開発されつつあ今回紹介された点眼薬治療による糖尿病黄斑症の治療り,薬の選択肢は広がっていくでしょう.しかし,こは,その意味から画期的なものです.糖尿病黄斑症にれらの治療には,共通かつ未解決な問題点がありまステロイド薬が有効なことは知られていましたが,副す.それは,これらの治療では,薬物送達のために眼作用や効果の点から,抗VEGF薬のほうが優れてい球に注射する必要がある点です.眼球注射は,感染症るという論調が最近は主流でした.しかし,これは双などの副作用が避けられないので,医療者にとって頭方とも硝子体注射で行うという条件下での判断であを悩ませる手技ですが,それ以上に患者さんにとってり,仮に抗VEGF薬治療は硝子体注射が必要であるは非常に抵抗を感じる治療法です.通常の注射ですらが,ステロイド薬は点眼治療でよいという条件下での忌避するのに,眼球注射など,考えただけでもおぞま判断になると,まずは点眼ステロイド薬を選択するほしいと言う人は少なくありません.米国では,患者さうが圧倒的に多いと思います.んの心理的負担を減らすために,治療中に音楽を流す本法は,ステロイド薬を使用するので地味な印象をなどの研究がされていますが,逆にこのことは眼球注受けますが,網膜治療の観点からみると革命的とも射に対する恐怖は決して小さくないことを示していまいってよい方法です.医療の主体は,医療者ではなくす.患者さんであることを考えると,その意味はさらに大眼球注射よりも優れた方法としては,経口剤や点眼きいといえます.薬があげられます.経口剤は,治療への恐怖感はない鹿児島大学医学部眼科坂本泰二1726あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(64)

新しい治療と検査シリーズ 203.網膜視力計(Retinal Acuity Meter:RAM)

2011年12月30日 金曜日

新しい治療と検査シリーズ203.網膜視力計(RetinalAcuityMeter:RAM)プレゼンテーション:大林知央井手武南青山アイクリニックコメント:前田直之大阪大学大学院視覚情報制御学寄附講座.バックグラウンド矯正視力0.5で白内障や後発白内障患者が加療目的で来院した状況で白内障手術やYAGレーザーによる治療をある程度自信をもって薦めることができるだろうか?このように,白内障などの中間透光体の混濁が存在する状況では,術前矯正視力が低く術後の視力向上が得られるか予想困難な状況に遭遇することがある.そこで筆者らは,網膜視力計(RetinalAcuityMeter:RAM,AMAOPTICS社,USA)を導入したので,その使用経験を報告する..新しい治療法または検査法(原理)網膜視力計(RetinalAcuityMeter:RAM)はバックライト付き近方視力計と+2.5D加入レンズ付きピンホールクリップがセットになっている(図1).ピンホールクリップには8個の穴が開いており,被検者には自覚的に一番見やすい穴から見てもらう.測定方法は40cmの測定距離から通常の視力検査のように視力検査を行う.この機械はピンホールから網膜へ光を通すことにより,中間透光体混濁や眼疾患がある状態でも3つの原則により網膜視力を測定することができる1.3).1.ピンホール効果と近見矯正効果.ピンホール効果図1網膜視力計(RetinalAcuityMeter:RAM)の写真長さ10.1cm,幅2.2cm,高さ6.4cmで,重さは156g(a).40cmの距離から通常の近見視力と同様に測定する(b).…………………………………………………………abにより焦点距離が深くなることに加えて,+2.5Dの近用加入が近見の見え方が向上する.2.文字の視角を矯正できる.40cmの視距離と標準化された文字サイズにより適切な視角度が得られる.3.明るく均一に補正された照明.白内障やピンホールでさえぎられた光も8,200cdの照明によって補正することができる..使用方法検査は以下の手順で行う.①背面に単三電池を2本セットし,本体スイッチを入れ,バックライトが点灯したのを確認する.②検査眼でないほうの眼はしっかり遮閉する.③検査眼は近見にピントが合うように矯正し,通常の検眼枠にはめ込んで使用する.遠方視力が良好な被検者には付属の眼鏡フレームと+2.5D加入レンズ付きピンホールクリップを使用する.④RAMを持った状態で巻き取り式40cmテープを伸ばし,被検者の額に当て距離を一定に保つ.検査中もときどき正しい距離が保たれているか確認する.⑤被検者にいくつかのピンホールから見やすい穴を(59)あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117210910-1810/11/\100/頁/JCOPY a.術前BCVAvs術後BCVAb.術前RAMvs術後BCVA1.21.2110.80.8y=0.1709x-0.0934R2=0.1626y=0.307x-0.090nR2=0.1885術BCVA0.60.40.2術BCVA0.60.40.200-0.2-0.2-0.4-0.4-0.4-0.200.20.40.60.811.2-0.4-0.200.20.40.60.811.2術前BCVA術前RAM図2術前矯正視力と術後1カ月での矯正視力(a)および術前RAM視力と術後1カ月での矯正視力(b)(logMAR視力)(BCVA:最良矯正視力)探してもらい,その穴から見るように指示する.⑥0.1の視標から開始し,見えなくなった一つ前の視力をRAM視力とする.<ランプ照度のチェック>・スイッチを入れると照明がつき,1秒後にさらに明るさが増す.この2段階で明るくなる現象を確認する(HyperIllmination).・この現象が起きなくなった時点で,電池を交換する(単三アルカリ電池2本)..本方法の良い点本方法の良い点はまず持ち運べることである.156gと軽量で,取り扱いが容易で,車椅子,寝たきりの被検者にも使用可能である.実際の臨床上での使用方法だが,術前矯正視力が不良な患者の術後の視力予後を予測するためには,術前に中間透光体の混濁の影響を除いた網膜レベルでの視力を確認できることが望ましい.当クリニックの白内障連続120症例で術前矯正視力,術前RAM視力と術後1カ月の矯正視力の相関を見たところ,通常視力検査方法による術前視力良好例では,術前後の矯正視力値に大きな乖離はないが,術前の矯正視力不良例においては術後矯正視力値との間に乖離がみられる(図2a).一方,RAMを用いた方法では,術前視力と白内障手術後の矯正視力は図2aと比較して乖離が少ないのがみて取れる(図2b).RAM視力はより術後矯正視力に近い値を示している.RAMは通常の視力検1722あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011査で視力値が低くなる要因(中間透光体,瞳孔,明るさ)に影響を受けにくいため,高い視力値を示すと考えられる.白内障眼において,RAM視力が過大評価されている訳ではなく,通常の眼鏡での矯正視力値が白内障により過小評価されているといえる.しかし,バックライトで輝度を上げ,ピンホールを通すことにより日常視の状態と異なるため,被検者が普段感じている見え方とは異なり,あくまでも手術後の予想視力の目安だという点に注意する必要があり,通常の視力検査としては使用できない.加えて,自験例で手術前にRAM視力が低い場合でも,まれに白内障後に高い視力値が出る症例があるので,参考程度に考える必要がある.しかし,機械本体が小さくコンパクトなため,いろいろな場所で検査を行うことが可能であり,これまでの通常測定法と同等もしくはそれ以上の視力を示すことができた.網膜機能をある程度予想できるRAMは有用であり,多くの眼科医に普及することを期待する.文献1)HofeldtAJ,WeissMJ:Theilluminatednearcardassessmentofacuityineyeswithcataract.Ophthalmology105:1531-1536,19982)ChangMA,AirianiS,MieleDetal:Acomparisonofthepotentialacuitymeter(PAM)andtheilluminatednearcard(INC)inpatientsundergoingphacoemulsification.Eye20:1345-1351,20063)ParkJI,OhSH,KimJHetal:Thepotentialroleoftheretinalacuitymeterforpredictingvisualoutcomeaftercataractsurgery.JKoreanOphthalmolSoc48:898-904,2007(60) .本方法に対するコメント.白内障手術の進歩によって,患者サイドの術後視機術前視力より「術前RAM視力」が良好であれば手能に対する要求が高まっている.術後視力不良による術の必要性を支持する所見となるし,逆に術前RAMトラブルを回避するためには術前に視力障害の原因を視力が不良な場合には,黄斑疾患,視神経・中枢神経特定し,術前にインフォームド・コンセントを行うこ疾患,あるいは角膜疾患などの精査を行うべきで,簡とが重要である.便なスクリーニング検査といえる.ただし,図2に示本装置は,ピンホールによって白内障による前方散されているように,術前RAM視力と術後視力の相関乱や不正乱視を,照度を上げることにより後方散乱にはそれほど強くなく,著者が述べているようにあくまよる透過率低下を軽減させ,得られた「RAM視力」で参考所見である.今後より良い装置の登場が望まれと通常の視力の差により,中間透光体が視力に及ぼする.影響を評価している.☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2012Vol.29月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2012Vol.25■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)(4冊)(送料弊社負担)日本眼科手術学会誌【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/インターネットの眼科応用他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他http://www.medical-aoi.co.jpお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544(61)あたらしい眼科Vol.28,No.12,20111723

緑内障:黄斑領域を標的とした緑内障診断

2011年12月30日 金曜日

●連載138緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也138.黄斑領域を標的とした緑内障診断谷戸正樹島根大学医学部眼科Spectral-domain(SD)-opticalcoherencetomography(OCT)の登場により,黄斑部内層厚測定が緑内障画像診断法の一つとして日常臨床に使われるようになってきている.黄斑領域のSD-OCT画像では,眼底写真では判定し難い神経線維層欠損(NFLD)も検出されるため,特に初期緑内障の診断に有用である.●緑内障画像診断法の種類(表1)緑内障は,網膜神経節細胞の特異的・特徴的脱落とそれに伴う機能障害(視野欠損)を呈する疾患である.緑内障の画像診断は,眼圧上昇の機構を検出するための隅角・眼球周囲構造に対する画像診断を除けば,網膜神経節細胞(GC)の軸索あるいは細胞体の量的変化を検出することを目的として行われる.これまで,緑内障の画像診断では,主として,視神経乳頭あるいは乳頭周囲におけるGC軸索を標的とした定性および定量的判定が行われてきた.近年,opticalcoherencetomography(OCT)の高機能化により,黄斑部のGC軸索・細胞体を標的とした緑内障診断が行われるようになっている.●黄斑部網膜厚測定による緑内障診断GCの核は,黄斑領域でのみ複数列で分布しており,傍中心窩における全網膜厚の30.35%を占める.また,黄斑の中心20°(6×6mm)の領域には眼底全体の約50%の神経節細胞体が存在する.2000年代になってから,RetinalThicknessAnalyzerやtime-domain(TD)OCTであるOCT1,OCT-3000などの機器により,黄斑部の網膜厚測定が緑内障の診断標的となりうることが報告されていた1)が,主として解像度の問題により,乳頭形状解析や乳頭周囲神経層(NFL)厚測定といった従来の画像診断法と比較して良好な診断力を得ることができなかった.しかし,より高解像度化・高速化したspectral-domain(SD)-OCTの登場により,黄斑部網膜厚測定が,乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚測定と同等で,乳頭形状測定と同等かあるいは良好な診断力を有するとする報告が複数なされるようになった.●SD.OCTによる黄斑部網膜厚測定TD-OCTの時代から,黄斑部の緑内障診断では,網膜全層厚よりもRNFL・GCLを含む網膜内層を分層し表1緑内障による神経障害の検出を目的とした画像診断法部位組織診断機器視神経乳頭神経節細胞軸索眼底写真,HRTII/III,OCT乳頭周囲神経節細胞軸索眼底写真,GDx,OCT黄斑神経節細胞軸索・眼底写真,OCT細胞体て解析するほうが診断力が高いことが知られていた.SD-OCTとして,初めて黄斑部診断ソフトウェアを標準搭載したRTVue-100(Optvue社)では,NFLとGCを含む網膜内層複合体がganglioncellcomplex(GCC)として提唱されたため,この言葉が一般的に用いられるようになった.黄斑部測定では,各社の機器によりそれぞれ違いがあるが,512ピクセル×128本程度のラインスキャン画像が解析に用いられ,ほぼ共通して,GCC厚の二次元分布マップ,一定の領域ごとの平均GCC厚,および正常データベースとの比較による危険率表示が行われる(図1.3).GCC厚マップでは,従来の眼底写真….B…………A………………A…………A……..H……….B図1SD.OCTによる黄斑分層RS-3000(ニデック社)による黄斑断層像.内蔵ソフトウェアにより,6層への分層が自動判定により行われる.ILM:internallimitingmembrane,NFL:nervefiberlayer,GCL:ganglioncelllayer,IPL:internalplexiformlayer,INL:innernuclearlayer,OPL:outerplexiformlayer,OML:outernuclearlayer,IS:innersegment,OS:outersegment,RPE:retinalpigmentepithelium,BM:Bruch’smembrane,GCC:ganglioncellcomplex.(57)あたらしい眼科Vol.28,No.12,201117190910-1810/11/\100/頁/JCOPY NFLマップGCマップNFL+GC(GCC)マップ図2SD.OCTによる黄斑分層厚マップSD-OCTによる,黄斑部NFL厚(ILMからNFL/GCL境界まで),GC厚(NFL/GCL境界からIPL/INL境界まで),NFL+GC厚(=GCC厚)(ILMからIPL/INL境界まで)の二次元分布表示.図3SD.OCT(RS.3000)による緑内障眼の解析結果網膜内層の厚みマップでは,NFLDが明瞭に検出されている.また,領域ごとの厚さ分布および正常データーベースとの比較結果が図示化される.では判定しづらいようなNFLDもしばしば描出され,初期の緑内障に対する定性的診断の価値が高い.RTVue-100では,正常データーベースとの比較でスキャンエリア全体の菲薄化を表すgloballossvolumeや局所的な菲薄化を表すfocallossvolumeといった診断パラメータも提唱されている.これらの定量化は,今後の緑内障進行診断にとっても重要になると予想される.●SD.OCTによる黄斑部網膜厚測定の利点と欠点視力にかかわる部位を測定対象とすることで,緑内障による組織障害を鋭敏かつ早期に検出できる可能性があ1720あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011る.また,黄斑部形状は,乳頭形状よりも個人差の影響が小さいと予想される.特に,わが国において問題となりやすい近視眼での緑内障診断では,乳頭形状測定あるいは乳頭周囲NFL厚測定と比較して診断力が高い可能性が指摘されている2).一方で,種々の黄斑疾患の影響を受けること,また,現行のOCTでは,測定領域が黄斑の直径6mmあるいは6×6mmが標準であり,最大の機器でも9×9mmであるため,乳頭周囲の解析のように,眼底を走行するすべての神経線維が測定領域に入っていない.そのため周辺部の視野欠損に関連した組織障害の検出力は,乳頭周囲NFL厚測定と比較して劣る3).●今後の展望OCTは,今後さらに高解像度化,広走査領域化する.高解像度化は神経節細胞数による緑内障判定,広走査領域化は眼底写真と同程度までの撮影範囲拡大(深さ情報をもった眼底写真)が,とりあえずの最終目標となる.撮影領域については,ごく近い将来,黄斑から乳頭鼻側までを同時に撮影できる機種が登場すると予想される.そのような状況では,現行の乳頭・乳頭周囲・黄斑と行った撮影部位ごとの解析ではなく,より総合的な緑内障診断パラメータが提唱されるようになると期待される.文献1)TanitoM,ItaiN,OhiraAetal:Reductionofposteriorpoleretinalthicknessinglaucomadetectedusingretinalthicknessanalyzer.Ophthalmology111:265-275,20042)ShojiT,SatoH,IshidaMetal:Assessmentofglaucomatouschangesinsubjectswithhighmyopiausingspectraldomeinopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci52:1098-1102,20113)SeongM,SungKR,ChoiEHetal:Macularandperipapillaryretinalnervefiberlayermeasurementsbyspectraldomainopticalcoherencetomographyinnormaltensionglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:1446-1452,2010(58)

屈折矯正手術:Intacs® SK

2011年12月30日 金曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載139大橋裕一坪田一男139.IntacsRSK加藤浩晃バプテスト眼科クリニック円錐角膜や円錐角膜疑い患者に対して近年,フェムトセカンドレーザーの広がりとともに角膜内リング治療が行われるようになってきた.2006年に進行性の円錐角膜とエクタジアに対して使用するためにIntacsRSKが開発され,IntacsRよりもより強い角膜の扁平化が期待されている.円錐角膜は角膜の中央.下方部が薄くなり,眼圧によって菲薄化した部位から前方に突出してくるため,角膜が円錐状の形態をきたす両眼性・進行性の疾患である.軽度から中等度までの進行例ではハードコンタクトレンズ(HCL)の装用によって視力矯正が可能であるが,高度の進行例ではHCLによっても視力矯正ができない.近年までは進行した円錐角膜に対する治療として角膜移植以外の選択肢はなかった.エキシマレーザー屈折矯正手術を希望する患者のなかに円錐角膜や円錐角膜疑いの患者がいることは無視できない.これらの患者に対して,エキシマレーザーによる屈折矯正手術は禁忌であり,コンタクトレンズ不耐症などによって矯正視力が不良な場合の治療として近年,角膜内リング(intracornealring:ICR)(図1)治療が行われるようになってきた.ICR治療は1997年にColinによって,それまで軽度近視の治療として用いられていたICRを円錐角膜眼の形状改善として使われたことから始まった1).円錐角膜やエクタジアに対しての効果が確認され2),1999年にFDA(米国食品医薬品局)により認可を受けたものの,トンネル作製時の手技の煩雑さからICR治療の普及は少しずつだったのだが,フェムトセカンドレーザーの出現により,トンネル作製がフェムトセカンドレーザーにより行うことができ手術の煩雑さが改善され,フェムトセカンドレーザーの広がりとともに角膜内リングの使用頻度も増加した.ICRは半円弧状のPMMA(ポリメチルメタクリレート)製のリングであり,もともとは1つの円形リングを挿入していたが,現在では2つの円形リングを挿入している.角膜強度を上げることで円錐角膜や屈折矯正手術後のケラテクタジアなどに対して不正乱視の軽減だけではなく,進行抑制も意図されている.(55)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY図1IntacsRSK挿入後3カ月の前眼部写真表1IntacsRとIntacsRSKの規格IntacsRIntacsRSK材質PMMAPMMAリング内径の角度150°150°断面形状八角形楕円リング外周径8.1mm7.3mmリング内周径6.8mm6.0mmリング直径0.65mm0.65mm種類としてはIntacsR(AdditionTechnology社)とKeraringR(Mediphacos社)に加えて,2006年に進行性の円錐角膜とエクタジアに対して使用するためにIntacsRSKが開発された.IntacsRとIntacsRSKはともにリングの直径は0.65mmであり,リングの角度としても150°と共通しているが,大きく異なる点もある(表1).IntacsRでは八角形だった断面形状がIntacsRSKでは楕円形になっており,またIntacsRで6.8mmであったリング内の周径が,IntacsRSKでは6.0mmと小さくなり,そのためIntacsRSKではIntacsRよりもより強い角膜の扁平化が期待されている.これら2種類のセグメントの選択に加え,それぞれのセグメントに0.25.0.45mmまでの厚さがあり,同サあたらしい眼科Vol.28,No.12,20111717 図2AdditionTechnology社によるIntacsRSKの挿入アドバイス結果イズで2つのリングを挿入するか(symmetric),異なるサイズで挿入するか(asymmetric)という選択も必要である.これらの選択に関しては,屈折度や乱視度数,前後面角膜形状などの角膜の各データをIntacsRを製造しているAdditionTechnology社に送ると適切なセグメントを挿入方向とともにアドバイスしてもらうことができる(図2).実際に当院でIntacsRとIntacsRSKを挿入した症例の術前後における等価球面度数の変化を比較検討したところ図3に示すような結果が得られた.IntacsRもしくはIntacsRSKを挿入した全例での等価球面度数の変化は術前.4.89±3.20Dから術後6カ月で.2.96±1.57Dと約1.9Dの矯正効果だったのだが,IntacsRとIntacsRSKそれぞれにおいて検討すると,IntacsRでは術前.3.89±0.64Dから術後6カ月で.2.13±0.67Dと1.08±0.29Dの矯正効果であり,IntacsRSKでは術前.6.65±2.55Dから術後6カ月で.3.19±2.56Dと3.47±1.80Dの矯正効果が得られた.これより予想どおりIntacsRSKでのより強い角膜の扁平化が示唆された.術後6カ月度数(D):IntacsR:IntacsRSK--8.00-6.00-4.00-2.000.0012.00-10.000.00-2.00-4.00-6.00-8.00-10.00-12.00術前度数(D)図3IntacsRとIntacsRSKによる等価球面度数の変化ICRの利点は,角膜中央部に侵襲を加えない手術であり,セグメントをすべて除去した場合,角膜形状はほぼ元の状態に戻るために「後戻り」のできる手術でもある.また,コンタクトレンズ不耐症などの円錐角膜症例に対してはコンタクトレンズ装用時間の延長や眼鏡矯正視力の向上が期待され,矯正視力が不良の場合でも角膜移植をする前にICR治療を試してみる価値は十分あると考える3,4).さらに進んで,ICR治療によって眼鏡視力が良好になればPhakicIOL(眼内レンズ)を挿入して裸眼視力の向上も期待できる.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoconuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)SiganosCS,KymionisGD,KartakisNetal:ManagementofkeratoconuswithIntacs.AmJOphthalmol135:64-70,20033)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkeratoconuswithintacscornealringsegments.JRefractSurg21:236-246,20054)KymionisGD,BouzoukisD,DiakonisVetal:Long-termresultsofthincorneasafterrefractivelasersurgery.AmJOphthalmol144:181-185,2007☆☆☆1718あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(56)

多焦点眼内レンズ:海外の話題から

2011年12月30日 金曜日

●連載(最終回)多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子24.海外の話題から荒井宏幸みなとみらいクリニック分節状屈折型の多焦点眼内レンズがおもに欧州にて使用され始めている.加入部分を分節状に配置することで,多焦点レンズにおけるグレア・ハロー・waxyvisionの出現しにくいレンズとして注目されている.乱視矯正用のレンズもあり,その製作度数は100分の1Dステップのオーダー単位である.●分節状屈折型多焦点眼内レンズおもに欧州を中心として使用されているが,わが国では未承認である1).Oculentis社製LentisMPlusRの外観を図1に示す.レンズの光学部下方が,加入部分に相当する構造になっている.2重焦点の遠近両用眼鏡をイメージしやすいが,視線の移動によって近方視を確保するという理論ではない.屈折型として,近用部を集約して網膜上に結像させるアイデアは斬新である.他の多焦点レンズと同様に,網膜上には遠方・近方ともに集光されており,脳の選択によりどちらかの集光像を認識する.加入度数部分の面積は,全集光面積の約3分の1に相当する.素材は親水性アクリル(25%含水)であり,形状はプレート型である.切開創は2.0mmからの挿入が可能ということであるが,筆者は2.3mmの切開創にて行っている.レンズ長径は11mm,光学部は6.0mmである.球面度数の製作範囲0.+36Dである.加入度数は2種類あり,+3.0Dと+1.5D(どちらもレンズ面)が選択可能である.Toricレンズも用意されており,0.25.12Dまでの円柱レンズが対応可能となっている.●LentisMPlusRの光学的優位性現在,選択が可能な多焦点眼内レンズは,同心円状の屈折型レンズと回折型レンズである.屈折型には夜間のグレア・ハローの問題があり,回折型にはwaxyvisionという問題がある.基本的には,単焦点に比べれば近方視力は確実に確保できるのであるが,光学的なロスや散乱による見え方の不具合により,適応を狭めざるをえない.同心円状の屈折型多焦点眼内レンズには,遠方と近方(53)図1LentisMPlusRの外観近用部分が下方(6時方向)になるように.内に固定する.マーカーラインは水平方向を示している.のzone部分のgapがあり,その部分の散乱により光学的なロスが生じる.暗所にて瞳孔径が大きくなると,このgap部分が何周も表出されるため,より多くのロスが生じてしまう.回折型多焦点眼内レンズの場合には,回折構造の物理特性として,常に18%の入射光が減弱する.残りの82%を利用して遠方と近方に振り分けており,そのため鮮明度は甘くなり,これがwaxyvisionとして知覚される.術前にwaxyvisionに対する予測が可能であれば,非常に使い勝手の良いレンズであるが,それが難しいために躊躇することも多い.LentisMPlusRは光学的なロスを最小限に留めるように設計されている.レンズの中心部分および60%以上の部分が遠方焦点の単焦点レンズであるため,良好な遠方視は担保される.また,屈折型に特徴的なzone間のgapは1本のラインしかなく,したがって瞳孔径が大きくなっても表出するgapはラインの1部分のみである.そのgapも非常に精緻に作製されている.●2つの加入度数を使い分けるLentisMPlusRには2種類の加入度数が用意されてあたらしい眼科Vol.28,No.12,201117150910-1810/11/\100/頁/JCOPY 図3LentisMPlusRtoricの術後前眼部写真下方の加入部分の反射と上下のトーリックラインが観察される.図2LentisMPlusRtoricのオーダーフォーム100分の1D単位での推奨レンズ度数が示されている.乱視軸の角度によらず,レンズの固定は常に垂直方向である.いる.レンズ面にて+3.0Dと+1.5Dである.それぞれ眼鏡面では+2.5Dと+1.0Dに相当する.Oculentis社は優位眼に加入+1.5Dを,非優位眼に+3.0Dを選択してmodifiedmonovisionを作ることにより中間視力を確保するという提案をしている.●驚異的なtoricレンズの製作度数LentisMPlusRにはtoricレンズの設定がある.To-ricレンズの度数設定は,球面・円柱面ともに100分の1D単位である.図2のレンズのオーダーはおもにIOLマスター(CarlZeissMeditec社製)のデータを元に決定する.円柱面の軸方向は製作時点ですでに回転をつけて位置づけされており,挿入は球面レンズと同様に12時-6時の縦方向に固定すればよい.しかも納期は4週間である.●手術結果今回は誌面の関係上,術後結果は示さないが,通常の多焦点眼内レンズと同等の満足できる結果が得られている.最も安心できるのが,グレア・ハローやwaxyvisionの訴えがないことである.術後の細隙灯顕微鏡写真を図3に示すが,通常の光束で観察するかぎり単焦点レンズの様相である.すでに海外からも術後結果の報告がされはじめている2,3).●今後の展望このLentisMPlusRがほぼ単焦点に近い遠方視力と,日常的には十分な近方視力が安定して得られるものであれば,今後はこうした光学特性をもったレンズが多焦点眼内レンズの主流になりうると考えている.すでに調節力のない50歳以上の屈折異常眼に対しては,LASIKやPhakicIOLではなく,LentisMPlusRが良い適応になるかも知れない.文献1)McAlindenC,MooreJE:Multifocalintraocularlenswithasurface-embeddednearsection:Short-termclinicaloutcomes.JCataractRefractSurg37:441-445,20112)AlioJL,PineroDP,Plaza-PucheABetal:Visualoutcomesandopticalperformanceofamonofocalintraocularlensandanew-generationmultifocalintraocularlens.JCataractRefractSurg37:241-250,20113)AlioJL,Plaza-PucheAB,PineroDPetal:Comparativeanalysisoftheclinicaloutcomeswith2multifocalintraocularlensmodelswithrotationalasymmetry.JCataractRefractSurg37:1605-1614,2011☆☆☆1716あたらしい眼科Vol.28,No.12,2011(54)