0910-1810/11/\100/頁/JCOPY比較することが可能である(図1).網膜神経節細胞層そのものを分離して測定することはむずかしいことから,一般にはその上下の網膜神経線維層と内網状層を合わせて黄斑部周囲GCC厚として測定する3).多数の画像を加算処理しノイズを除去,網膜各層の分離能を上げることによって黄斑部周囲の網膜神経節細胞層のみの厚さを検出する方法が示されており,GCCよりさらに敏感に形態変化を検出できる可能性がある.III何が可能か?1.極早期から早期の治療・管理が変わる!?a.診断緑内障診断の基本は視神経乳頭陥凹と乳頭周囲NFLの観察である.しかし,この診断はあくまでも主観的で定性的である.OCTの所見が加わることによって,この診断を“ある程度”客観的,定量的なものにすることができる.HRT,GDxはすでに同様の目的で使用されてきたが,OCTの普及がより一般的なものとした.乳頭の形状,豹紋状眼底など網膜の状態によっては眼底の観察による乳頭陥凹やNFL評価がむずかしいことも多い.このような場合にもOCT所見が診断を補助してくれる可能性がある.b.進行判定図2にいずれも正常眼圧の3症例を示した.これまでは視野障害が検出されてからようやく進行の判定が可能であった(図2A).今後は少なくともOCTで異常所見I緑内障眼の機能変化と形態変化の相関形態変化から現在の機能変化を推測し,さらに将来の機能変化を予測するためには,少なくとも形態変化と機能変化が相関する必要がある.Hoodら1)は静的視野検査の上下弓状領域のセクターに対する光干渉断層計(OCT)で測定された乳頭周囲網膜神経線維層(nervefiberlayer:NFL)厚との相関を検討した.その結果によると,デシベル表示の視野感度とNFL厚は相関し,視野障害が軽度な時期にはNFLの変化が大きく,逆に視野障害が重度な時期ではNFLの変化は少ない.同様な研究はおもに乳頭解析装置であるHRT(HeidelbergRetinaTomography,HeidelbergEngineering,Heidelberg,Deutschland)やNFL解析装置であるGDx(CarlZeissMeditec,Inc.,Dublin,CA)でも行われ,類似の結果が示されている.つまり,いわゆる極早期の機能変化(=視野変化)が検出される以前から,障害が軽度な早期では形態変化が機能変化よりも敏感である可能性がある.ただし,経時的な機能的進行と形態的進行は必ずしも一致しない2)との報告が多く,進行判定という意味での相関に関しては,さらに検討の必要がある.IIOCTで観察・測定される後極部の変化現時点のOCT装置では,一般に視神経乳頭陥凹,NFL厚,黄斑部周囲網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を測定し,正常コントロールと(3)755*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●光干渉断層計(OCT)の緑内障への応用あたらしい眼科28(6):755.761,2011後極部OCTの緑内障への応用:現在CurrentApplicationofOCTforFundusExaminationinGlaucomatousEyes福地健郎*756あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(4)NerveHeadMap(NHM)GanglionCellMap(MM7)3-DOpticDisc.DataCaptured:9,510Ascans(pixels).Time:370msec.Areacovered:4mmdiametercircleProvides.CupArea.RimArea.RNFLMap.DataCaptured:14,810Ascans(pixels).Time:570msec.Areacovered:7x7mmProvides.Ganglioncellcomplexassessmentinmacula.Innerrenathicknessis:.NFL.Ganglioncellbody.Dendrites.DataCaptured:51,712Ascans(pixels).Time:2seconds.Areacovered:4x4X2mmProvides.3Dmap.ComprehensiveassessmentTSNITgraphABC図1後眼部OCTの緑内障への応用OCTによって,A:乳頭周囲の網膜神経線維層(NFL)厚,B:黄斑周囲の網膜神経節細胞複合体(GCC),C:乳頭陥凹,の観察と量的評価が可能である(図はOptovue社RTVue-100).ARLLBC図2後眼部OCTの緑内障への応用:極早期から早期の治療管理が変わる(1)これまでは視野障害が検出されるまで臨床的な進行および進行速度判定はむずかしかった(A).OCTによって視野障害検出以前の,神経線維層厚に異常所見が検出された時期(B)から進行判定が可能になることが期待される(C).(5)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011757断に重要な意味をもつことは少ないと考えられる.しかし,部位別にみた機能と形態の相関という意味で考えると,さまざまな重要な所見を含んでいることが多く,治療方針の決定や予後の予測などに利用できる可能性がある.a.部位別に視野と形態の相関を確認図4のNTG例では,視野欠損は両眼とも上半視野に限局している.OCT所見では両眼ともNFLの変化は下半弓状領域,GCCの変化は下半領域に限局している.つまり,視野所見と形態の所見がまったく一致している.一方,図5の原発開放隅角緑内障(POAG)例では視野欠損は左眼では上下視野にみられるものの,右眼では上半視野に限局している.それに対してOCT所見は両眼とも上下に広範な領域でNFL,GCCの菲薄化が検出が検出された時点から可能となることが期待される(図2B).さらにNFL厚が正常範囲と表示されたとしてもNFL厚は数値で記載され,くり返し測定することによって経時変化を捉えることができる可能性がある(図2C).特に若年の症例では視野障害検出以前に進行の有無を判定できれば,その情報を治療に生かし,より安全な予後を確保するのに有用である可能性がある.図3は正常眼圧緑内障(NTG)の1例である.約2年のOCTによる観察で下半GCCの急速な菲薄化が検出された.中心30°の静的視野検査の結果では変動はあるが明らかな変化がみられない.早期の症例では視野変化と別に進行を検出する可能性がある.2.中期以降では?一般に中期以降の緑内障例においてはOCT所見が診RRSignificanceMapsSITA30-2SITA10-21069686766656BaseFollowUp1FollowUp2FollowUp3p>5%WithinNormalP<5%BorderlineP<1%OutsideNormalAveGCCSupGCCInfGCCAve.GCC(…Sup.GCC(mm)Inf.GCC(mm)FLV(%)GLV(%)85.7892.1279.427.28013.44483.7093.4473.958.50515.90480.7394.0067.4610.90317.26375.9087.5164.3111.74521.659-9.87-4.62-15.114.4658.215GCCParametersBaselineFollowUp1FollowUp2FollowUp3ChangeTNTNTNTN図3後眼部OCTの緑内障への応用:極早期から早期の治療管理が変わる(2)症例は48歳,男性,NTG.右眼の上方傍中心にのみ暗点を検出する.約2年間,GCCを経時的に観察したところ,下方黄斑周囲のGCCが急速に菲薄化していた.すでに2剤使用中であったため,b遮断剤を配合剤に切り替え3剤併用とした.758あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(6)菲薄化,視野では鼻側上半視野欠損を示し,いかにも緑内障のパターンに一致する.・OCTのNFL厚は網膜神経線維以外の要素も含む:図7は続発緑内障の1例である.約1年後の測定でNFL厚がより厚い.TSNITマップでも正常範囲をオーバーしている.本症例はぶどう膜炎に伴う眼圧上昇の症例で,1年後の測定時には乳頭浮腫を示していた.おそらく糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などの網膜厚に影響を与えるような他の網膜,視神経疾患を伴っていた場合には,正確な判定は不可能と考えるべきかもしれない.2.測定原理に関わる問題・PPA(peripapillaryatrophy)上では正確な判定ができない.・血管の走行部はNFLが薄い.・散瞳:一般にOCTの画像取得には散瞳は不要である.される.つまり,視野所見と形態所見が一致しない.b.視野変化と予後の予測,治療・管理への反映図4の症例では,上半NFLとGCCは現時点でほぼ正常範囲に保たれている.また,乳頭黄斑領域のNFLもよく保たれている.つまり,この症例に関してOCT所見は自覚的視機能により関わる視力と下半視野に関しては現時点では楽観的であると評価できる.一方,図5の症例は視野所見以上に視神経障害は重篤であり,視力を含めて予後は決して楽観できないと評価する必要がある.この症例ではより厳重な経過観察と,より積極的な治療を要すると考えるべきである.IV現時点における限界と問題1.病態に関わる問題・鑑別診断はできない:図6は両眼乳頭コロボーマの1例である.OCTでは両眼の耳側下方に向かうNFLのABExamDate:2010/07/05,SSI=49.5ExamDate:2010/07/05,SSI=60.9ExamDate:2010/07/05,SSI=72.5ExamDate:2010/07/05,SSI=50.0ODGCCSignificanceGCCSignificanceOpticNerveHeadMapOSOpticNerveHeadMap…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………図4後眼部OCTの緑内障への応用:視野と眼底の相同性の確認(1)74歳,女性,NTG.視野は両眼とも上半視野欠損のみ(A)で,OCTによるNFLとGCCの判定では視野欠損の領域のみに限局して異常が検出された(B).自覚的視機能により重要な視力と下半視野の予後は楽観的と考えることができる.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011759ときに無散瞳では測定が不可でも,散瞳して再検査するとNFL厚を測定できることがある.・白内障:進行した症例ではOCT光の通過が妨げられ網膜が薄く測定される.3.データ処理に関わる問題・正常データは20歳以上.・屈折で±6D以内.・グリッドの分割:グリッド分割の方法によって結果判定が変わる.たとえば2分割,4分割では特異度が上がるが感度が下がる.逆に32分割では感度は上がるが特異度や再現性が低下する.12.16分割程度が適当と考えられている.・グリッド境界部:狭細な網膜神経線維層欠損(NFLD)がグリッドの境界部にまたがった場合には,両側のグリッドで平均され検出されにくい(図8).・TSNIT表示のスムージング:NFL厚の測定データにABFOVEA:37DBFOVEA:31DBExamDate:2009/07/29,SSI=42.2ExamDate:2009/07/29,SSI=65.3ExamDate:2009/07/29,SSI=62.7ExamDate:2009/07/29,SSI=46.5ODGCCSignificanceGCCSignificanceOpticNerveHeadMapOpticNerveHeadMapOS図5後眼部OCTの緑内障への応用:視野と眼底の相同性の確認(2)52歳,女性,POAG.視野欠損は現在のところ左眼傍中心を除くとおもに上半視野に限局している(A).OCTで観察すると耳側のNFLは全体に菲薄化し,黄斑周囲のGCCの菲薄化も顕著である(B).左眼の中心窩閾値は31dBと低下していた.視力を含む視機能予後は楽観できないと考えるべきで,より積極的な治療を要する.LR図6後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(1)OCTの結果では鑑別はできない.この症例は乳頭コロボーマの1例である.OCTでは両眼耳側下方に明瞭なNFL欠損を検出し,視野検査ではそれに相当する上鼻側の欠損が検出される.OCTと視野所見だけでは典型的な緑内障を疑わせる.760あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(8)要であることを忘れてはならない.眼底所見と視野所見を互いに比較し,という昔ながらの方法は緑内障診療の基本である.基本を磨くこと,上記に述べたような限界や問題点を理解することによって,検査で得られた所見の中から正確なデータを読み取り,的確に診療に生かすことが勧められる.また,ここまで述べた内容は多分に今後への期待が含まれる.期待が現実か否か,今後,検証していく必要がある.文献1)HoodDC,KardonRH:Aframeworkforcomparingstructuralandfunctionalmeasuresofglaucomatousdamage.ProgRetEyeRes26:688-710,2007はノイズが含まれ,また血管走行部のNFLは薄い.測定結果をすべてTSNITに表現してしまうと細かい波状となってしまい実用には向かない.実際の表示に際してはスムージングという操作が施されている.スムージングが過少では測定結果の判定がむずかしく,逆に過剰では狭細なNFLDなどの詳細な結果が検出されない可能性がある.V基本は自ら眼底を読む能力,OCT所見はあくまでも補助OCTは緑内障診療に有用である.しかし,OCTなどの機器による判定はあくまでも補助であって,自ら眼底所見を読む能力を身に着けることが緑内障診断に最も重GCCSignificanceOpticNerveHeadMapGCCSignificanceOpticNerveHeadMapExamDate:2009/08/11,SSI=58.4ExamDate:2010/09/27,SSI=29.9ABC図7後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(2)OCTで検出されたNFLは視神経線維数を直接反映しているとは限らない.B・CはAの約1年後に観察した結果である.NFLはより肥厚し,gridおよびTSNITでは正常範囲をオーバーしていた(B,C).この症例はぶどう膜炎に伴う緑内障の症例で,炎症発作時に乳頭浮腫を伴い,同時に乳頭周囲NFLも肥厚したものと考えられた.あたらしい眼科Vol.28,No.6,20117612)WollsteinG,SchumanJS,PriceLLetal:Opticalcoherencetomographylongitudinalevaluationofretinalnervefiberlayerthicknessinglaucoma.ArchOphthalmol123:464-470,20053)TanO,ChopraV,LuATetal:DetectionofmacularganglioncelllossinglaucomabyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:2305-2314,2009(9)ABCD….図8後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(3)Grid,TSNITでは狭細なNFLDが検出されないことがある.この例では下耳側に幅広のNFLD(※)を,上耳側に狭細なNFLD(☆)を伴っており,視野検査では相当する部位に欠損が認められた(B).12分割のgrid表示では上耳側NFLDはgridの境界にあり検出されていない(C).