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後極部OCTの緑内障への応用:現在

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY比較することが可能である(図1).網膜神経節細胞層そのものを分離して測定することはむずかしいことから,一般にはその上下の網膜神経線維層と内網状層を合わせて黄斑部周囲GCC厚として測定する3).多数の画像を加算処理しノイズを除去,網膜各層の分離能を上げることによって黄斑部周囲の網膜神経節細胞層のみの厚さを検出する方法が示されており,GCCよりさらに敏感に形態変化を検出できる可能性がある.III何が可能か?1.極早期から早期の治療・管理が変わる!?a.診断緑内障診断の基本は視神経乳頭陥凹と乳頭周囲NFLの観察である.しかし,この診断はあくまでも主観的で定性的である.OCTの所見が加わることによって,この診断を“ある程度”客観的,定量的なものにすることができる.HRT,GDxはすでに同様の目的で使用されてきたが,OCTの普及がより一般的なものとした.乳頭の形状,豹紋状眼底など網膜の状態によっては眼底の観察による乳頭陥凹やNFL評価がむずかしいことも多い.このような場合にもOCT所見が診断を補助してくれる可能性がある.b.進行判定図2にいずれも正常眼圧の3症例を示した.これまでは視野障害が検出されてからようやく進行の判定が可能であった(図2A).今後は少なくともOCTで異常所見I緑内障眼の機能変化と形態変化の相関形態変化から現在の機能変化を推測し,さらに将来の機能変化を予測するためには,少なくとも形態変化と機能変化が相関する必要がある.Hoodら1)は静的視野検査の上下弓状領域のセクターに対する光干渉断層計(OCT)で測定された乳頭周囲網膜神経線維層(nervefiberlayer:NFL)厚との相関を検討した.その結果によると,デシベル表示の視野感度とNFL厚は相関し,視野障害が軽度な時期にはNFLの変化が大きく,逆に視野障害が重度な時期ではNFLの変化は少ない.同様な研究はおもに乳頭解析装置であるHRT(HeidelbergRetinaTomography,HeidelbergEngineering,Heidelberg,Deutschland)やNFL解析装置であるGDx(CarlZeissMeditec,Inc.,Dublin,CA)でも行われ,類似の結果が示されている.つまり,いわゆる極早期の機能変化(=視野変化)が検出される以前から,障害が軽度な早期では形態変化が機能変化よりも敏感である可能性がある.ただし,経時的な機能的進行と形態的進行は必ずしも一致しない2)との報告が多く,進行判定という意味での相関に関しては,さらに検討の必要がある.IIOCTで観察・測定される後極部の変化現時点のOCT装置では,一般に視神経乳頭陥凹,NFL厚,黄斑部周囲網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)厚を測定し,正常コントロールと(3)755*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●光干渉断層計(OCT)の緑内障への応用あたらしい眼科28(6):755.761,2011後極部OCTの緑内障への応用:現在CurrentApplicationofOCTforFundusExaminationinGlaucomatousEyes福地健郎*756あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(4)NerveHeadMap(NHM)GanglionCellMap(MM7)3-DOpticDisc.DataCaptured:9,510Ascans(pixels).Time:370msec.Areacovered:4mmdiametercircleProvides.CupArea.RimArea.RNFLMap.DataCaptured:14,810Ascans(pixels).Time:570msec.Areacovered:7x7mmProvides.Ganglioncellcomplexassessmentinmacula.Innerrenathicknessis:.NFL.Ganglioncellbody.Dendrites.DataCaptured:51,712Ascans(pixels).Time:2seconds.Areacovered:4x4X2mmProvides.3Dmap.ComprehensiveassessmentTSNITgraphABC図1後眼部OCTの緑内障への応用OCTによって,A:乳頭周囲の網膜神経線維層(NFL)厚,B:黄斑周囲の網膜神経節細胞複合体(GCC),C:乳頭陥凹,の観察と量的評価が可能である(図はOptovue社RTVue-100).ARLLBC図2後眼部OCTの緑内障への応用:極早期から早期の治療管理が変わる(1)これまでは視野障害が検出されるまで臨床的な進行および進行速度判定はむずかしかった(A).OCTによって視野障害検出以前の,神経線維層厚に異常所見が検出された時期(B)から進行判定が可能になることが期待される(C).(5)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011757断に重要な意味をもつことは少ないと考えられる.しかし,部位別にみた機能と形態の相関という意味で考えると,さまざまな重要な所見を含んでいることが多く,治療方針の決定や予後の予測などに利用できる可能性がある.a.部位別に視野と形態の相関を確認図4のNTG例では,視野欠損は両眼とも上半視野に限局している.OCT所見では両眼ともNFLの変化は下半弓状領域,GCCの変化は下半領域に限局している.つまり,視野所見と形態の所見がまったく一致している.一方,図5の原発開放隅角緑内障(POAG)例では視野欠損は左眼では上下視野にみられるものの,右眼では上半視野に限局している.それに対してOCT所見は両眼とも上下に広範な領域でNFL,GCCの菲薄化が検出が検出された時点から可能となることが期待される(図2B).さらにNFL厚が正常範囲と表示されたとしてもNFL厚は数値で記載され,くり返し測定することによって経時変化を捉えることができる可能性がある(図2C).特に若年の症例では視野障害検出以前に進行の有無を判定できれば,その情報を治療に生かし,より安全な予後を確保するのに有用である可能性がある.図3は正常眼圧緑内障(NTG)の1例である.約2年のOCTによる観察で下半GCCの急速な菲薄化が検出された.中心30°の静的視野検査の結果では変動はあるが明らかな変化がみられない.早期の症例では視野変化と別に進行を検出する可能性がある.2.中期以降では?一般に中期以降の緑内障例においてはOCT所見が診RRSignificanceMapsSITA30-2SITA10-21069686766656BaseFollowUp1FollowUp2FollowUp3p>5%WithinNormalP<5%BorderlineP<1%OutsideNormalAveGCCSupGCCInfGCCAve.GCC(…Sup.GCC(mm)Inf.GCC(mm)FLV(%)GLV(%)85.7892.1279.427.28013.44483.7093.4473.958.50515.90480.7394.0067.4610.90317.26375.9087.5164.3111.74521.659-9.87-4.62-15.114.4658.215GCCParametersBaselineFollowUp1FollowUp2FollowUp3ChangeTNTNTNTN図3後眼部OCTの緑内障への応用:極早期から早期の治療管理が変わる(2)症例は48歳,男性,NTG.右眼の上方傍中心にのみ暗点を検出する.約2年間,GCCを経時的に観察したところ,下方黄斑周囲のGCCが急速に菲薄化していた.すでに2剤使用中であったため,b遮断剤を配合剤に切り替え3剤併用とした.758あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(6)菲薄化,視野では鼻側上半視野欠損を示し,いかにも緑内障のパターンに一致する.・OCTのNFL厚は網膜神経線維以外の要素も含む:図7は続発緑内障の1例である.約1年後の測定でNFL厚がより厚い.TSNITマップでも正常範囲をオーバーしている.本症例はぶどう膜炎に伴う眼圧上昇の症例で,1年後の測定時には乳頭浮腫を示していた.おそらく糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などの網膜厚に影響を与えるような他の網膜,視神経疾患を伴っていた場合には,正確な判定は不可能と考えるべきかもしれない.2.測定原理に関わる問題・PPA(peripapillaryatrophy)上では正確な判定ができない.・血管の走行部はNFLが薄い.・散瞳:一般にOCTの画像取得には散瞳は不要である.される.つまり,視野所見と形態所見が一致しない.b.視野変化と予後の予測,治療・管理への反映図4の症例では,上半NFLとGCCは現時点でほぼ正常範囲に保たれている.また,乳頭黄斑領域のNFLもよく保たれている.つまり,この症例に関してOCT所見は自覚的視機能により関わる視力と下半視野に関しては現時点では楽観的であると評価できる.一方,図5の症例は視野所見以上に視神経障害は重篤であり,視力を含めて予後は決して楽観できないと評価する必要がある.この症例ではより厳重な経過観察と,より積極的な治療を要すると考えるべきである.IV現時点における限界と問題1.病態に関わる問題・鑑別診断はできない:図6は両眼乳頭コロボーマの1例である.OCTでは両眼の耳側下方に向かうNFLのABExamDate:2010/07/05,SSI=49.5ExamDate:2010/07/05,SSI=60.9ExamDate:2010/07/05,SSI=72.5ExamDate:2010/07/05,SSI=50.0ODGCCSignificanceGCCSignificanceOpticNerveHeadMapOSOpticNerveHeadMap…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………図4後眼部OCTの緑内障への応用:視野と眼底の相同性の確認(1)74歳,女性,NTG.視野は両眼とも上半視野欠損のみ(A)で,OCTによるNFLとGCCの判定では視野欠損の領域のみに限局して異常が検出された(B).自覚的視機能により重要な視力と下半視野の予後は楽観的と考えることができる.(7)あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011759ときに無散瞳では測定が不可でも,散瞳して再検査するとNFL厚を測定できることがある.・白内障:進行した症例ではOCT光の通過が妨げられ網膜が薄く測定される.3.データ処理に関わる問題・正常データは20歳以上.・屈折で±6D以内.・グリッドの分割:グリッド分割の方法によって結果判定が変わる.たとえば2分割,4分割では特異度が上がるが感度が下がる.逆に32分割では感度は上がるが特異度や再現性が低下する.12.16分割程度が適当と考えられている.・グリッド境界部:狭細な網膜神経線維層欠損(NFLD)がグリッドの境界部にまたがった場合には,両側のグリッドで平均され検出されにくい(図8).・TSNIT表示のスムージング:NFL厚の測定データにABFOVEA:37DBFOVEA:31DBExamDate:2009/07/29,SSI=42.2ExamDate:2009/07/29,SSI=65.3ExamDate:2009/07/29,SSI=62.7ExamDate:2009/07/29,SSI=46.5ODGCCSignificanceGCCSignificanceOpticNerveHeadMapOpticNerveHeadMapOS図5後眼部OCTの緑内障への応用:視野と眼底の相同性の確認(2)52歳,女性,POAG.視野欠損は現在のところ左眼傍中心を除くとおもに上半視野に限局している(A).OCTで観察すると耳側のNFLは全体に菲薄化し,黄斑周囲のGCCの菲薄化も顕著である(B).左眼の中心窩閾値は31dBと低下していた.視力を含む視機能予後は楽観できないと考えるべきで,より積極的な治療を要する.LR図6後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(1)OCTの結果では鑑別はできない.この症例は乳頭コロボーマの1例である.OCTでは両眼耳側下方に明瞭なNFL欠損を検出し,視野検査ではそれに相当する上鼻側の欠損が検出される.OCTと視野所見だけでは典型的な緑内障を疑わせる.760あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(8)要であることを忘れてはならない.眼底所見と視野所見を互いに比較し,という昔ながらの方法は緑内障診療の基本である.基本を磨くこと,上記に述べたような限界や問題点を理解することによって,検査で得られた所見の中から正確なデータを読み取り,的確に診療に生かすことが勧められる.また,ここまで述べた内容は多分に今後への期待が含まれる.期待が現実か否か,今後,検証していく必要がある.文献1)HoodDC,KardonRH:Aframeworkforcomparingstructuralandfunctionalmeasuresofglaucomatousdamage.ProgRetEyeRes26:688-710,2007はノイズが含まれ,また血管走行部のNFLは薄い.測定結果をすべてTSNITに表現してしまうと細かい波状となってしまい実用には向かない.実際の表示に際してはスムージングという操作が施されている.スムージングが過少では測定結果の判定がむずかしく,逆に過剰では狭細なNFLDなどの詳細な結果が検出されない可能性がある.V基本は自ら眼底を読む能力,OCT所見はあくまでも補助OCTは緑内障診療に有用である.しかし,OCTなどの機器による判定はあくまでも補助であって,自ら眼底所見を読む能力を身に着けることが緑内障診断に最も重GCCSignificanceOpticNerveHeadMapGCCSignificanceOpticNerveHeadMapExamDate:2009/08/11,SSI=58.4ExamDate:2010/09/27,SSI=29.9ABC図7後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(2)OCTで検出されたNFLは視神経線維数を直接反映しているとは限らない.B・CはAの約1年後に観察した結果である.NFLはより肥厚し,gridおよびTSNITでは正常範囲をオーバーしていた(B,C).この症例はぶどう膜炎に伴う緑内障の症例で,炎症発作時に乳頭浮腫を伴い,同時に乳頭周囲NFLも肥厚したものと考えられた.あたらしい眼科Vol.28,No.6,20117612)WollsteinG,SchumanJS,PriceLLetal:Opticalcoherencetomographylongitudinalevaluationofretinalnervefiberlayerthicknessinglaucoma.ArchOphthalmol123:464-470,20053)TanO,ChopraV,LuATetal:DetectionofmacularganglioncelllossinglaucomabyFourier-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:2305-2314,2009(9)ABCD….図8後眼部OCTの緑内障への応用:限界と問題点(3)Grid,TSNITでは狭細なNFLDが検出されないことがある.この例では下耳側に幅広のNFLD(※)を,上耳側に狭細なNFLD(☆)を伴っており,視野検査では相当する部位に欠損が認められた(B).12分割のgrid表示では上耳側NFLDはgridの境界にあり検出されていない(C).

序説:OCTの緑内障への応用

2011年6月30日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY層厚,黄斑部神経節細胞複合体層厚,視神経乳頭形状などがある.さらに確立マッピングを行うと神経線維層欠損が見えてくる.これが診断に有用な方法であることがわかってきている.つぎに,確率的アプローチとともに,OCTは眼底の形の異常を直接観察することの重要性にも気がつかせてくれる.cpRNFL(乳頭周囲網膜神経線維層)厚の波形や黄斑部神経節細胞複合体層厚マップを観察すること,断層像を観察し上下の対称性に着目し異常を発見すること,あるいは黄斑前膜などの厚みに影響を与える緑内障以外の因子を捉えること,などである.単に,各機種の診断プログラムの確率的解析の結果を鵜呑みにするのではなく,OCTが映し出す眼底の形態異常を眼を皿のようにして探し,視神経乳頭所見と視野異常との対比を行い,自らが能動的に緑内障の機能的形態的異常を捉えようとする姿勢こそが重要であろう.われわれが日常診療において視神経乳頭と神経線維層を「緑内障なのだろうか?」と疑いながら,しみじみ観察するのと同じように,OCTが捉える眼底の形の異常をしみじみ観察すれば,もうOCTは使用者の血(知)となり肉となる.医師は病気を「診る」存在であり,OCTは緑内障を形態的側面から診るために有用なツールになることは間違いない.緑内障ほど眼の形を追究してきた疾患分野はない.緑内障の本質は視野機能障害である.しかし,視野異常はさまざまな疾患で生じること,および緑内障による視野異常の出現に眼底の形態異常の出現が数年先行することなどの理由により,眼底の視神経乳頭の形状および神経線維層とその緑内障性変化の把握は緑内障診断の本丸である.立体観察やステレオ撮影により正確に視神経乳頭の緑内障性変化を認識する訓練が重視されてきた.一方で,組織病理学による観察により,緑内障は選択的に神経節細胞が死んでいく疾患であり,その結果として神経節細胞の軸索から成る網膜神経線維が減少し,臨床で観察される視神経乳頭のリムの菲薄化と陥凹の拡大と視野異常が生じることが理解されてきた.しかし,神経節細胞の喪失という緑内障性機能障害を生じる本質的病態と臨床における緑内障の定義そのものである視神経乳頭の緑内障性変化の間には長らくギャップがあった.光干渉断層計(OCT)はこのギャップを部分的ではあるが埋めつつある.OCTにより緑内障病態の本質である神経節細胞の喪失の結果生じる眼底の形の異常がどこまで捉えられるか?一つには,各機種は正常眼データベースから確率的に予想される層厚異常の検出による自動診断補助機能をもつ.測定対象は,網膜神経線維(1)753*MasanoriHangai:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学**TetsuyaYamamoto:岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学分野●序説あたらしい眼科28(6):753.754,2011OCTの緑内障への応用UseofOpticalCoherenceTomography(OCT)forGlaucomaDiagnosisandManagement板谷正紀*山本哲也**754あたらしい眼科Vol.28,No.6,2011(2)本特集では,わが国の緑内障画像診断の気鋭の先生方に,OCTを緑内障へ応用する観点から網羅的に解説をいただいた.概論では,OCTを緑内障へ応用するときの考え方と注意点を解説いただき,各論ではスペクトラルドメインOCTの各機種の特徴を明らかにしつつ緑内障への応用の仕方を解説いただいた.まず,概論として,・福地健郎先生には,「後極部OCTの緑内障への応用:現在」と題して,OCTで何が可能になるかを極早期から早期,中期以降に分けて論述いただくとともに,現時点の限界と問題点を詳細かつ具体的にまとめていただいた.・三嶋弘一先生には,「前眼部OCTの緑内障への応用:現在」と題して,前眼部OCTの長所と短所を,特に原発閉塞隅角症と原発閉塞隅角緑内障の診断を中心に,隅角鏡による隅角検査および超音波生体顕微鏡(UBM)と比較しながら詳細かつ網羅的に解説いただいた.・自分(板谷)は,「後極部OCTの緑内障への応用:未来」と題して,今年のARVOの見聞を中心に,研究分野における新しいOCT技術の紹介とその緑内障への応用について解説した.続いて,各論として後眼部用OCTの各機種の特性を論述いただいた.・赤木忠道先生・額田正之先生・中野紀子先生には,HeidelbergEngineering社Spectralisの黄斑神経節細胞層の観察,神経線維層欠損の断層所見,EDI(enhanceddepthimaging)法による視神経乳頭深部の観察について解説いただいた.・川瀬和秀先生にはCarlZeissMeditec社Cirrusの他機種との比較,各測定プログラムの特徴,GuidedProgressionAnalysis(GPA),および解析表示の進化について詳細に解説いただいた.・富所敦男先生には,OCTによる視神経乳頭解析,cpRNFL解析,黄斑部解析の各診断指標の有用性と問題点を詳述いただき,トプコン社3DOCTのこの3つの解析プログラムの特徴を解説いただいた.・北善幸先生には,Optovue社RTVue-100のONHプログラムとOptovue社がパイオニアであるGCCプログラムのそれぞれの特徴と併用の有用性について,具体例を示しながら解説いただいた.・大久保真司先生には,ニデック社RS-3000の緑内障診断における各診断プログラムおよびフォローアップ機能について,なかでも9×9mmの三次元ワイドスキャンの有用性について解説いただいた.各機種には多少の差はあるが,緑内障による眼底の形の異常を確率的アプローチおよび観察により明らかにするという方法論は共通している.この特集が,今後先生方がOCTを緑内障診療へ応用されるときの一助となれば幸いである.

40歳未満の視覚障害者の原因疾患

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(141)743《原著》あたらしい眼科28(5):743.746,2011cはじめに新規視覚障害認定者の原因疾患に関する全国調査の結果が最近発表され,緑内障が原因疾患の第1位であったと報告された1,2).また,筆者らは平成16年から平成21年にかけて三重県にて新規視覚障害認定者の全例調査を行ったところ,視覚障害者の原因疾患上位4位までは前述の全国調査と同じ結果であった3).これらの調査結果から高齢化社会の到来などによると考えられる緑内障や加齢黄斑変性を原因とした視覚障害者の増加が明らかとなったが,一方,壮年期以前の視覚障害者を対象とした報告は少ない.さて厚生労働省は,5年に一度,身体障害児・者実態調査の結果を公表しており,直近の報告は平成18年度のものである.このなかで18歳未満の身体障害児についての調査結果が報告されているが,調査方法が対象者本人による調査票記入によることなどから原因疾患についての詳細な分類は行われていない.筆者らは,前述の報告3)で三重県における調査結果として40歳未満の視覚障害者は,視覚障害者全体の6.6%を占めており(原因疾患の第1位は網膜色素変性で40歳未満の対象者の19.5%),さらに15歳以下の者は,全体の1.7%(原因疾患の第1位は未熟児網膜症で15歳以下の対象者の34.8%)であったと報告したが,今回はその詳細について検討したの〔別刷請求先〕生杉謙吾:〒514-8507津市江戸橋2丁目174番地三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学Reprintrequests:KengoIkesugi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu-city514-8507,JAPAN40歳未満の視覚障害者の原因疾患生杉謙吾*1,2佐宗幹夫*1宇治幸隆*1*1三重大学大学院医学系研究科神経感覚医学講座眼科学*2名張市立病院眼科CausesofVisualImpairmentinThoseBelow40YearsofAgeKengoIkesugi1,2),MikioSasoh1)andYukitakaUji1)1)DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,NabariCityHospital今回筆者らは,40歳未満の視覚障害者を対象にその原因疾患について調査した.対象者は2004年4月から2009年3月の間に三重県において身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害者と認定された1,322名のうち,認定時の年齢が40歳未満であった87名である.対象者の身体障害者診断書・意見書を基に年齢・性別・原因疾患・認定等級などを調べた.結果,18歳未満の視覚障害児は23名,18歳以上40歳未満の視覚障害者は64名であった.原因疾患のなかで最も多かったのは,18歳未満では未熟児網膜症(23.4%),18歳以上40歳未満では網膜色素変性(34.8%),40歳未満の対象者全体では網膜色素変性(19.5%)であった.認定等級1級および2級の重度視覚障害者は,対象者全体の62.0%であった.Thepurposeofthisstudywastodeterminethecausesofvisualimpairmentinthosebelow40yearsofage.ThestudywasconductedbetweenApril2004andMarch2009inMiePrefecture.Enrolledwere1,322visuallydisabledpersons,asdefinedbytheActonWelfareofPhysicallyDisabledPersons.Ofthe87individualswhowereunder40yearsofage,23wereunder18yearsofageand64werebetween18and39yearsofage.Wereviewedage,sex,causeofvisualimpairmentanddegreeofdisability.Inthoseunder18,themajorcauseofvisualimpairmentwasretinopathyofprematurity(23.4%);inthosebetween18and39,themajorcausewasretinitispigmentosa(34.8%).Themajorcauseofvisualimpairmentinthoseundertheageof40wasretinitispigmentosa(19.5%).Severelyvisuallydisabledpersonswithdisabilityofdegree1or2comprised62%ofallsubjects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):743.746,2011〕Keywords:疫学,視覚障害,網膜色素変性,未熟児網膜症.epidemiology,visualimpairment,retinitispigmentosa,retinopathyofprematurity.744あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(142)で改めて報告する.I対象および方法調査期間は2004年4月から2009年3月まで(平成16年度.20年度)の5年間で,対象者は三重県において身体障害者福祉法に基づき新規に視覚障害の認定をうけた1,322名のうち,認定時の年齢が40歳未満であった87名(男性58名・女性29名,全体の6.6%)である(図1).対象者は調査期間内に新規に視覚障害者として認定された者のみであり再認定者(継続認定者)は対象外としている.各診療担当医より提出された身体障害者診断書・意見書を基に年齢・原因疾患・認定等級などを調査した.原因疾患の項目に複数の疾患が記載されている場合は,主となっていると考えられるものを原因疾患とした.また,障害等級については最終的に認定された等級であり,提出された視覚障害者診断書・意見書に不備がある例などでは三重県障害者相談支援センターから提出医への再確認が行われている.調査はヘルシンキ宣言の倫理規定に基づき,プライバシー保護に最大限配慮された.個人名・生年月日・住所などは完全にマスクされた連結不可能匿名化済の資料が三重県障害者相談支援センターから提供され,本調査が行われている.II結果三重県における2004年4月から2009年3月(平成16年度から平成20年度)までの身体障害者福祉法に基づく40歳未満の新規視覚障害認定者数は,前述のとおり87名である.調査期間の5年間に認定された87名の年齢別分布を図2に示す.1~9歳が20名(23.0%),10.19歳が6名(6.9%),20~29歳が20名(23.0%),30~39歳が41名(47.1%)であった.特に未成年者(視覚障害児)である18歳未満は23名(26.4%)であった.表1に40歳未満の新規視覚障害認定者の原因疾患を示す.40歳未満の対象者全体では,網膜色素変性が原因疾患として最も多く17名(19.5%),以下,視神経萎縮12名(13.8%),糖尿病網膜症11名(12.6%)などとなった.対象者を18歳未満と18歳以上で分けると,18歳未満では上位から表140歳未満の視覚障害認定者の原因疾患順位全体(1~39歳:対象者87名)18歳未満(1~17歳:対象者23名)18歳以上(18~39歳:対象者64名)1網膜色素変性(17名・19.5%)未熟児網膜症(8名・34.8%)網膜色素変性(15名・23.4%)2視神経萎縮(12名・13.8%)視神経萎縮(3名・13.0%)糖尿病網膜症(11名・17.2%)3糖尿病網膜症(11名・12.6%)小眼球(2名・8.7%)視神経萎縮(9名・14.1%)4未熟児網膜症(10名・11.5%)脈絡網膜萎縮(2名・8.7%)脳卒中・脳腫瘍(7名・10.9%)5脳卒中・脳腫瘍(7名・8.0%)網膜色素変性(2名・8.7%)緑内障(5名・7.8%)対象者全体および年齢層別に上位5疾患を示した.40歳未満(6.6%)40~49歳(4.2%)50~59歳(13.3%)60~69歳70~79歳(18.9%)(27.5%)80~89歳(24.2%)90歳以上(5.3%)図1三重県における視覚障害認定者の年齢分布(文献3より改変)1~9歳(23.0%)10~19歳20~29歳(6.9%)(23.0%)30~39歳(47.1%)18歳未満(26.4%)図240歳未満の視覚障害認定者の年齢分布認定等級(級)31.013530252015105031.0213.8310.4410.453.46(%)図340歳未満の視覚障害認定者の認定等級別分布(143)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011745未熟児網膜症8名(34.8%),視神経萎縮3名(13.0%),小眼球・脈絡網膜萎縮・網膜色素変性がそれぞれ,2名(8.7%)であった.また,18歳以上では,上位より網膜色素変性15名(23.4%),糖尿病網膜症11名(17.2%),視神経萎縮9名(14.1%)などとなった.図3に40歳未満の新規視覚障害認定者の認定等級別分布を示す.1級および2級の該当者である重度視覚障害者が全体の62.0%(1級,2級それぞれ31.0%)を占めていた.III考察視覚障害者の原因疾患やその背景に関する疫学調査の結果は今までにいくつか報告されているが,40歳または50歳以上を対象者としているものが多く,いわゆる壮年期以前や若年者を対象に詳細な検討を行った報告は少ない4.7).前述の中江らの報告1,2)は,全国を6ブロックに分け1ブロックから1県または1政令指定都市を抽出したサンプル調査として行われ,現在のところ視覚障害認定者についての調査としては最も大きな規模で行われたものであるが,この全国調査も対象者は18歳以上となっている.さて,筆者らの今回の調査では,40歳未満の視覚障害者は全年齢層の6.6%,特に15歳以下の視覚障害児は,全体の1.7%と少数であった3).これは,山本らの報告4)での15歳以下の小児の視覚障害者は全体の1.3%であったという結果と似た数字であり,視覚障害者全体に占める壮年期以前の者,特に乳幼児や若年者の割合は大変少ない.調査対象者が少ないため,まとまった調査がむずかしく過去に若年者を対象とした同様の報告が少ないのではないかと考えられる.視覚障害の原因疾患についてであるが,本報告における18歳未満と,山本らの報告4)における15歳以下の視覚障害児の原因疾患第一位は,いずれも未熟児網膜症であった.全国の盲学校在籍者の失明原因として,未熟児網膜症の占める割合は1970年から1996年にかけて,1%から13%へと著しい増加がみられる8)と報告されており,今回の筆者らの調査結果でも,特に視覚障害児の原因疾患として未熟児網膜症の占める割合が多かった.また原因疾患の第二位以下は視神経萎縮,小眼球,脈絡網膜萎縮,網膜色素変性などとなったが,いずれも対象者は少なく未熟児網膜症以外の原因疾患としては,まとまった傾向がみられなかった.一方,40歳未満の対象者全体および18歳以上40歳未満の群では網膜色素変性が原因疾患として最も多い結果となった.前述の中江らの報告1)によると,18歳以上60歳未満の視覚障害者の主原因の第一位も同様に網膜色素変性であった.本疾患はいまだに明確な治療法がない遺伝性疾患であるが,近年の遺伝子分野の研究の進歩とともに何らかの治療方法の開発が期待されており,今回の調査結果より改めて若年から中年層の視覚障害者の原因疾患として重要であると考えられた.さて厚生労働省は,5年に一度,身体障害児・者実態調査結果を発表しているが,最近では,平成20年3月に平成18年7月現在の調査結果を発表している.平成18年身体障害児・者実態調査結果(http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/108-1.html)によると,特に18歳未満の身体障害児のうち視覚障害のある者の原因疾患は,「網脈絡膜・視神経系疾患」が38.8%で最も多く,以下「脳性まひ」と「その他の脳神経疾患」が6.1%であり,「その他」が24.5%,「不明・不詳」が24.4%という結果であった.視覚障害に特化した調査でないことや調査方法が原則,調査対象者本人による調査票への記入によることなどから,今回の筆者らの調査とは異なった結果になっていると思われる.一方,筆者らの調査結果は身体障害者意見書の提出によるものである.申請漏れや医療機関を受診していない対象者が一定数いると考えられ,結果,本来の視覚障害者の背景とは異なっている可能性がある点にも注意を要する.視覚障害者の障害者手帳取得率については,過去の報告では30.54%と報告され,一般に年代が高くなるほど取得率が低下することが知られている9.11).一方,小児については正確な視力測定ができなかったり成長過程であることが考慮され,障害固定の判定が困難な例が少なくない.また先天性疾患などの場合,眼科への通院や手帳の取得を望まない保護者もいて,小児の手帳取得率に影響している可能性がある.壮年期以前,特に小児の手帳取得率についての詳細な報告は過去にないため今後の検討課題と考える.また手帳取得率は原因疾患によっても異なる特徴があり,糖尿病網膜症や網膜色素変性では70%を超えるのに対し,緑内障や黄斑変性では40%台であったと報告されている9).40歳未満の視覚障害者の認定等級については,1,2級の認定者が全体の62.0%と半数以上を占めていたが,これは筆者らが以前報告した視覚障害者全体(1.98歳)では1,2級の対象者は全体の48.9%であったことと比較すると,40歳未満の視覚障害認定者では特に重症の視覚障害者が多い結果となった.前述のように若年者や特に発育中の小児では疾患の障害固定が困難なことなどが考えられ,結果として等級の低い認定者が少なくなった可能性があると考えられる.今回筆者らは,40歳未満の視覚障害者についての背景調査を行ったが,前述のように厚生労働省の視覚障害児・者実態調査以外に,最近,若年者の視覚障害者に関する疫学調査の報告はほとんどなく,今回の報告は特に視覚障害児の実態の一端を理解するためにも貴重な調査結果であると考えられる.文献1)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:長寿社会と眼疾患746あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(144)─最近の視覚障害原因の疫学調査から.GeriatricMedicine44:1221-1224,20062)中江公裕,増田寛次郎,石橋達朗:日本人の視覚障害の原因─15年前との比較.医学のあゆみ225:691-693,20083)生杉謙吾,築留英之,八木達哉ほか:最近5年間の三重県における新規視覚障害認定者の原因疾患.日眼会誌114:505-511,20104)山本節:身体障害者手帳の視覚障害児.眼臨96:43-45,20025)松本順子,馬嶋昭生:身体障害者更生相談所での視覚障害者の分析.臨眼46:1368-1372,19926)OshimaY,IshibashiT,MurataTetal:PrevalenceofagerelatedmaculopathyinarepresentativeJapanesepopulation:theHisayamastudy.BrJOphthalmol85:1153-1157,20017)IwaseA,AraieM,TomidokoroAetal:PrevalenceandcausesoflowvisionandblindnessinaJapaneseadultpopulation:theTajimiStudy.Ophthalmology113:1354-1362,20068)中島章:VISION2020と小児の失明予防.日本の眼科78:1319-1323,20079)谷戸正樹,三宅智恵,大平明弘:視覚障害者における身体障害者手帳の取得状況.あたらしい眼科17:1315-1318,200010)堀田一樹,佐生亜希子:視覚障害による身体障害者手帳取得の現況と課題.日本の眼科74:1021-1023,200311)藤田昭子,斉藤久実子,安藤伸朗ほか:新潟県における病院眼科通院患者の身体障害者手帳(視覚)取得状況.臨眼53:725-728,1999***

大阪大学病院での近視性中心窩分離症における中心窩形態の特徴

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(137)739《原著》あたらしい眼科28(5):739.741,2011cはじめに中心窩分離症(myopicfoveoschisis:MF)は中高年女性に好発し,強度近視に伴う後極部の非裂孔原性網膜分離,.離を主徴とする疾患で,最初Phillipsらによって1953年,黄斑円孔のない近視性後極部網膜.離として報告された1).その後光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)の発達によって,より詳細な観察が可能となり2),今では多くの形態的なサブタイプがあることが報告されている.Benhamouらは中心窩分離症の中心窩形態として,中心窩.離型(fovealdetachment),分層円孔型(lamellarhole),そして.胞型(cystic)の3種があると報告した3).中心窩分離に対して硝子体手術が有効であることはすでに報告されている4.7)が,筆者らは手術成績を基に視細胞が網膜色素上皮より.離している中心窩.離型(fovealdetachment)とまだ.離していない網膜分離型(retinoschisis)の2つに分類し,前者のほうが硝子体手術による視力改善が大きく,より手術に適するのではないかと考察した8).中心窩分離の成因として,硝子体牽引,黄斑前膜の形成,内境界膜や網膜血管の非伸展性や後部ぶどう腫の形成が考えられている9,10).また,放置すると黄斑円孔を形成したり網〔別刷請求先〕十河薫:〒665-0832宝塚市向月町15-9宝塚第一病院眼科Reprintrequests:KaoriSoga,M.D.,DepartmentofOphthalmology,Takarazuka-DaiichiHospital,15-9Kozuki-cho,Takarazuka,Hyogo665-0832,JAPAN大阪大学病院での近視性中心窩分離症における中心窩形態の特徴十河薫佐柳香織生野恭司大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室FovealAnatomicalProfileofMyopicFoveoschisisinHighMyopiaClinicofOsakaUniversityHospitalKaoriSoga,KaoriSayanagiandYasushiIkunoDepartmentofOphthalmology,OsakaUniversityGraduateSchoolofMedicine強度近視に続発する中心窩分離症症例の形態的特徴を検討した.対象は2000年から2005年の間に大阪大学病院強度近視外来を受診している強度近視に続発した中心窩分離症症例52例63眼である.強度近視の定義は等価球面屈折値が.8ジオプトリー以上または眼軸長26mm以上とした.症例の内訳は男性8例10眼,女性44例53眼で,どの年齢層でも女性が多かった.平均年齢は62.1歳で,60歳代が最も多かった.平均眼軸長は28.9mmであった.両眼性は11例,片眼性は41例で,形態分類の内訳は中心窩.離型が34眼(65%)で最も多く,続いて分層円孔型20眼(38%),.胞型9眼(17%)であった.視力は中心窩.離型が最も悪く,続いて分層円孔型,.胞型の順であったが,眼軸長については3者で大きな差はみられなかった.外来受診する中心窩分離症の多くは60歳代の女性かつ,中心窩.離型が多い.ThefovealanatomicalprofileofmyopicfoveoschisiswasinvestigatedatthehighmyopiaclinicofOsakaUniversityHospitalbetween2000and2005.Subjectscomprised63eyesof52patients(8male,44female;meanage,62.1years;meanaxiallength,28.9mm).Theconditionwasbilateralin11patientsandunilateralin41patients.Ofthe63eyes,18(28%)werefovealdetachmenttype,29(46%)wereretinoschisistypeand16(25%)weremacularholetype.Visualacuitywasworstinmacularholetype,althoughtheaxiallengthwassimilar.About80%ofmacularholeandfovealdetachmenttypeeyesunderwentvitrectomy,ascomparedto50%ofretinoschisistypeeyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):739.741,2011〕Keywords:強度近視,中心窩分離症,硝子体手術,光干渉断層計.highmyopia,myopicfoveoschisis,vitrectomy,opticalcoherencetomography.740あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(138)膜.離に至る11)ことから,それ以前に予防的に硝子体手術が盛んに行われている.黄斑円孔を併発していない場合,手術予後はおおむね良好であるが,黄斑円孔を併発してしまった場合,閉鎖率が低いことから,手術成績は著しく悪い12).中心窩分離症は網膜分離から中心窩.離を併発し,最終的に中心窩が菲薄化して黄斑円孔になると考えられているが,これらの事情から黄斑円孔になるまでに手術を行うのが理想とされている9).中心窩分離症はこのように強度近視にとって大きな脅威であるが,頻度が低いことから疾患の詳細な情報は得られていない.本稿では,大阪大学病院(以下,当院)強度近視外来を受診した中心窩分離症症例を分析しその傾向を検討した.I対象および方法対象は2000年から2005年の間に当院強度近視外来を初診で受診している強度近視に続発した中心窩分離症症例52例63眼である.すでに他院で手術や光線力学的療法など加療をされているもの,脈絡膜新生血管など他の黄斑疾病を合併しているもの,そして極度の網脈絡膜萎縮をきたしている症例は除外した.強度近視の定義は等価球面屈折値が.8ジオプトリー以上または眼軸長26mm以上とした.これら症例の視力や症例の状態を後ろ向きに診療録やOCTイメージを調査,検討した.中心窩分離症は,中心窩のOCTイメージの状態からBenhamouの分類に従い,以下のように分類した.中心窩.離をきたしているもの(fovealdetachment:FD),分層円孔となっているもの(lamellarhole:LH),.胞様変化をきたしているもの(cystic:CT)とした.また,血管アーケードを超えるような網膜.離および明らかな黄斑前膜症例は除外した.II結果症例の内訳は男性8例10眼,女性44例53眼であった.平均年齢は62.1歳で,平均眼軸長は28.9mmであった.年齢別にみると40歳代は6例(12%),50歳代は13例(25%),60歳代は22例(42%),70歳代は11例(21%)であった.両眼性は11例,片眼性は41例で,形態分類の内訳は中心窩.離型が34眼(65%)で最も多く,続いて分層円孔型20眼(38%),.胞型9眼(17%)であった.また,初診時すでに黄斑円孔を併発していたものが26眼(50%)あった.年代別の男女構成を図1に示す.40歳代を除き男性の割合は10.20%であった.これは年齢にかかわらず,症例のほとんどを女性が占めるということである.つぎにFD,LH,およびCTの各タイプ別における視力の分布を図2に示した.FDが最も悪く,0.1未満の症例が40%前後と最も多くを占め,また0.4以上の症例が20%前後と3タイプのなかで最も少なかった.最も良好であったのはCTタイプで,ほとんどの症例が0.4以上の視力を有していた.LHタイプはFDとCTの中間のような視力分布であった.つぎに眼軸長が測定可能であった29眼について,タイプTotaln=5270~n=1160~69n=2250~59n=1340~49n=60%20%40%60%80%100%■:男性■:女性図1年齢別にみた男女の比率Totaln=29CTn=3LHn=10FDn=16■:28mm未満■:28mm以上30mm未満■:30mm以上0%20%40%60%80%100%図3FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の眼軸長分布Totaln=63CTn=9LHn=20FDn=34■:0.1未満■:0.1~0.3■:0.4以上0%20%40%60%80%100%図2FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の矯正視力分布Totaln=63CTn=9LHn=20FDn=34■:手術施行例■:手術非施行例0%20%40%60%80%100%図4FD(中心窩分離型),LH(分層円孔型)およびCT(.胞型)の手術施行例.非施行例の割合(139)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011741別にその分布を調査した(図3).FD,LHタイプともに眼軸長28mm未満の症例が50%程度,30mmを超える症例が30%程度でその分布は非常に類似していた.CTは唯一30mm以上の症例がなかったが,今回は3症例の検討であった.手術の施行と非施行の割合を調査したところ,FDが最も手術されている割合が高く約70%の症例に手術が施行されていた(図4).一方でLHとCTには40.50%前後にしか手術は施行されていなかった.III考按今回は当院強度近視外来を受診中の中心窩分離症症例の特に中心窩の形態を検討した.今までに病院ベースで中心窩分離のプロファイルを調査した統計はなく,そのため詳細な比較検討はむずかしいが,FD,LH,CTの3群に分類した場合,Benhamouら3)はCTが10眼,LHが6眼そして,FDが6眼と報告している.今回は少しこれらと異なるが,当院でみられる中心窩分離のほとんどがFDであった.FDは,視力改善という点では,中心窩分離のなかでも最も硝子体手術に適するとされており,このように手術が必要とされるサブタイプであるFDが多く来院することは眼科医として肝に銘じておくべきである.中心窩分離症を放置した場合,2,3年のうちに約半数が黄斑円孔や網膜.離を発症するとされている11).強度近視における黄斑円孔は,特に網膜分離を伴った場合,予後が悪いため12),黄斑円孔が生じる前に硝子体手術を行い,その予防的措置を行うことが重要である.特にFDでは,網膜.離のために,中心窩が薄くなっており,経過観察中に黄斑円孔発症の可能性が高いと考えられる.したがって外来診療においては,このように黄斑円孔のリスクの高い患者が多く診療に訪れることを知っておくべきであろう.今回の調査では中心窩分離の症例は40歳代から70歳代に分布していた.中心窩分離は後部ぶどう腫の発症に従って生じるとされていることから,ある程度近視が進行して後部ぶどう腫が形成される年齢に達していることが必須であると考えられる.どの年齢においても女性が優位であったが,40歳代のみやや男性が多い傾向があった.近視も一般に女性が多いとされている.しかしながら,この場合40歳代が6例と少ないため,40歳代だけ比率が異なるか否かの判断は注意を要すると考えられる.FDで視力が一番不良であったのは,網膜.離に伴う視細胞の障害が最も顕著であるからと考えられる.LH,CTともに視力の低下している症例はあったが,FDほどの低下はみられなかった.中心窩分離においては,分離でも網膜障害が生じるが,視力という面ではやはり,中心窩視細胞の.離の有無が大きく関係するものと考えられる.実際筆者らの検討でも,中心窩.離がある症例のほうが,ない症例よりも視力が悪い8).また,硝子体手術においても,中心窩.離がある症例のほうが,ない症例よりも視力の回復が良好であることが報告されており8),治療では視細胞の救済が非常に重要であることを示唆するものである.これと関連して,手術された症例の割合はFDが最も高かった.これはFDが最も手術的に回復することが可能であること,視力不良の症例が多くを占め,手術を勧めやすいことが考えられる.最後にこれはあくまで病院における後ろ向き検討であるので,必ずしも疫学ベースでの結果と異なる可能性がある.特に視力が良好な間は,中心窩分離症例はなかなか病院を受診しないことも考えられる.本格的な疫学調査に関しては,今後の検討が待たれるところである.文献1)PhillipsCI:Retinaldetachmentattheposteriorpole.BrJOphthalmol42:749-753,19582)TakanoM,KishiS:Fovealretinoschisisandretinaldetachmentinseverelymyopiceyeswithposteriorstaphyloma.AmJOphthalmol128:472-476,19993)BenhamouN,MassinP,HaouchineBetal:Macularretinoschisisinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol133:794-800,20024)石川太,荻野誠周,沖田和久ほか:高度近視眼の黄斑円孔を伴わない黄斑.離に対する硝子体手術.あたらしい眼科18:953-956,20015)KobayashiH,KishiS:Vitreoussurgeryforhighlymyopiceyeswithfovealdetachmentandretinoschisis.Ophthalmology110:1702-1707,20036)IkunoY,SayanagiK,OhjiMetal:Vitrectomyandinternallimitingmembranepeelingformyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol137:719-724,20047)HirakataA,HidaT:Vitrectomyformyopicposteriorretinoschisisorfovealdetachment.JpnJOphthalmol50:53-61,20068)IkunoY,SayanagiK,SogaKetal:Fovealanatomicalstatusandsurgicalresultsinvitrectomyformyopicfoveoschisis.JpnJOphthalmol52:269-276,20089)生野恭司:強度近視眼に続発した中心窩分離症の病因と治療.日眼会誌110:855-863,200610)BabaT,Ohno-MatsuiK,FutagamiSetal:Prevalenceandcharacteristicsoffovealretinaldetachmentwithoutmacularholeinhighmyopia.AmJOphthalmol135:338-342,200311)GaucherD,HaouchineB,TadayoniRetal:Long-termfollow-upofhighmyopicfoveoschisis:naturalcourseandsurgicaloutcome.AmJOphthalmol143:455-462,200712)IkunoY,TanoY:Vitrectomyformacularholesassociatedwithmyopicfoveoschisis.AmJOphthalmol141:774-776,2006

分娩時に発症した両眼性のValsalva 網膜症の1例

2011年5月31日 火曜日

734(13あ2)たらしい眼科Vol.28,No.5,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(5):734.737,2011cはじめにValsalva網膜症は1972年にDuaneらが報告した疾患で,咳・嘔吐・いきみに代表されるValsalva手技による急激な静脈圧の上昇を誘因として発症する突発性の出血性網膜症である1~7).後極や視神経乳頭周囲の内境界膜下出血あるいは網膜前出血が主体となる1~4)が,硝子体出血4)や網膜内出血・網膜下出血5,6)が認められることもある.発症の原因として嘔吐・重いものを持ち上げる・歯科におけるインプラント手術6)など,さまざまなものがこれまで報告されている.今回筆者らは経腟分娩直後に両眼性に発症したValsalva網膜症の1例を経験したのでここに報告する.〔別刷請求先〕高木健一:〒812-8582福岡市東区馬出3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:KenichiTakaki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPAN分娩時に発症した両眼性のValsalva網膜症の1例高木健一*1今木裕幸*1貴福香織*1園田康平*2上野暁史*3蜂須賀正紘*4藤田恭之*4石橋達朗*1*1九州大学大学院医学研究院眼科学分野*2山口大学大学院医学研究科眼科学*3大島眼科病院*4九州大学大学院医学研究院生殖発達医学専攻生殖常態病態学講座生殖病態生理学ACaseofBilateralValsalvaRetinopathyCausedduringVaginalDeliveryKenichiTakaki1),HiroyukiImaki1),KaoriKifuku1),KouheiSonoda2),AkifumiUeno3),MasahiroHachisuka4),YasuyukiFujita4)andTatsurouIshibashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,YamaguchiUniversityGraduateSchoolofMedicine,3)OhshimaEyeHospital,4)DepartmentofGynecologyandObstetrics,KyushuUniversityGraduateSchoolofMedicine症例は37歳,女性.妊娠41週1日で子宮内胎児死亡の診断後,経腟分娩施行した.分娩直後より両眼の視野異常を自覚し翌日当科紹介受診,両眼底に内境界膜下・網膜下出血を認めValsalva網膜症の診断に至った.発症後5日目,両眼にNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術を施行した.右眼黄斑部に網膜下出血が及んでいたため,発症後7日目に硝子体切除術および液-空気置換術を施行した.両眼ともに出血は吸収され,視力は改善傾向であった.本症例が重症化した原因として貧血による網膜細小血管壁の脆弱性の存在や子宮内胎児死亡による凝固線溶系の異常亢進から惹起された凝固因子の欠乏が考えられている.Valsalva網膜症は保存的に経過観察されたりNd:YAGレーザーによる内境界膜切開のみで加療されたりすることの多い疾患だが,本症例のように重症化し早期の硝子体手術を要する場合もあると考えられた.WereportacaseofbilateralValsalvaretinopathycausedbystrainingduringvaginaldelivery.Thepatient,a37-year-oldfemale,tookvaginaldeliveryforintrauterinefetaldeath.Immediatelyafterdelivery,shecomplainedaboutbilateralvisualfieldloss.Fundusexaminationshowedbilateralsubmembrenousandsubretinalhemorrhagethroughoutthepostpole.Initially,shewastreatedbybilateralmembranotomywithneodymium-YAGlaser,andexaminedastothesubretinalhemorrhage.Shethenunderwentvitrectomyandfluid-airexchangeintherighteye,thesubretinalhemorrhagebeingonthemacula.Hervisualactuivitygraduallyimprovedpostopratively.Increasedretinalvesselpermeabilitycausedbyanemia,andcoagulationandfibrinolyticsystemactivitycausedbyintrauterinefetaldeathhadworsenedhercondition.ThiscasedemonstratesthepossibleeffectivenessofvitrectomyinsuchaseverecaseofValsalvaretinopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):734.737,2011〕Keywords:Valsalva網膜症,分娩,硝子体手術,内境界膜下出血,網膜下出血.Valsalvaretinopathy,delivery,vitrectomy,submembranoushemorrhage,subretinalhemorrhage.(133)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011735I症例患者:37歳,女性.主訴:両眼視野異常.既往歴:特記事項なし.現病歴:妊娠経過良好で,妊娠糖尿病・妊娠高血圧症の合併も認めなかった.2007年12月18日(妊娠41週1日)陣痛発来するも胎児心拍認められず,子宮内胎児死亡の診断に至った.同日九州大学病院周産母子センターへ入院し,経腟分娩施行した.分娩直後より両眼視野異常を自覚し,改善傾向ないため12月19日九州大学病院眼科(以下,当科)初診となった.分娩前所見(2007年12月18日):赤血球4.08×106/μl,ヘモグロビン12.7g/dl,血小板13.9万/μl,プロトロンビン時間11.6sec,PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)0.99,APTT(活性化部分トロンボプラスチン)時間34.9sec,フィブリノーゲン344mg/dl(正常値150~400),AT(アンチトロンビン)-III活性76%(正常値80~120),血清フィブリン分解産物(fibrindegradationproducts:FDP)33.4μg/ml(正常値0~5.0),トロンビンアンチトロンビン複合体80.0ng/ml以上(正常値0~3.0),D-ダイマー9.6μg/ml(正常値0~0.5).分娩時所見:分娩中血圧170/100mmHg程度で推移し,分娩後100/65mmHg程度へ低下.分娩中の出血は1,340mlで弛緩出血が遷延した.初診時検査所見:視力は右眼0.03(0.04×sph+11.0D(cyl.1.5DAx180°),左眼0.02(0.03×sph+10.0D(cyl.1.0DAx180°),眼圧は右眼5mmHg,左眼8mmHg,両眼ともにRL図1初診時眼底所見R:右眼,L:左眼,両眼ともにニボーを伴う大量の内境界膜下出血を認め,網膜下出血,網膜出血を認める.複数の軟性白斑を認め,動脈は白線化している.図2a右眼YAGレーザー内境界膜切開術後眼底所見内境界膜下出血が減少したことで,黄斑部に網膜下出血が及んでいることが確認された.図2b右眼硝子体手術後(術後19日目)眼底所見出血は著明に吸収され,黄斑直下の網膜下出血が移動した.736あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(134)前眼部中間透光体に著変なく,両眼底にニボーを形成する内境界膜下出血および網膜下出血が認められた(図1).両眼とも後部硝子体.離は認められなかった.採血にて赤血球2.39×106/μl,ヘモグロビン7.4g/dlと貧血が認められた.経過:分娩直後に発症したという病歴,ニボーを形成する特徴的な内境界膜下出血がみられたことからValsalva網膜症の診断に至った.2007年12月23日(発症後5日目)両眼にNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術を施行した.左眼は内境界膜下出血が拡散し,黄斑部が透見可能となった.右眼は内境界膜下出血の拡散後黄斑部に網膜下出血が及んでいた(図2a)ため,2007年12月25日(発症後7日目)組織プラスミノーゲン活性化因子(tissueplasminogenactivator:t-PA)を硝子体腔内投与後(クリアクターR4,000単位/200μlを200μl術前6時間に投与),硝子体切除術+液-空気置換術を施行し,網膜下出血を黄斑直下より移動させた.これら処置・手術後に出血は両眼ともに吸収され(図2b,図3),視力も術後徐々に改善傾向を示した.2009年11月時点で右眼視力(0.9),左眼視力(0.8)である.II考按本症例は,Valsalva網膜症のなかでも両眼性に大量に出血した重症例である.Valsalva網膜症は,咳や嘔吐などのValsalva手技による急激な胸腔内圧・腹腔内圧の上昇が惹起する急激な静脈圧の上昇を誘因として発生する網膜毛細血管の破綻による比較的まれな出血性網膜症である1~7).黄斑部に出血が存在せず比較的視力が良好な症例もある4)が,黄斑部に出血が及んだ場合は急激な視力低下をきたす1~3,5~7).誘因となるValsalva手技は,嘔吐1)・重いものを持ち上げる2)・歯科におけるインプラント手術6)などさまざまなものが報告されている.周産期における発症はわが国では他に松本が悪阻による嘔吐を誘因とした例を報告している7).本症例においては病歴から分娩時の怒責が発症の起点と考えられている.Valsalva網膜症は内境界膜下出血が主体となることが多い2,3,7)ため,保存的経過観察1,4,7),あるいは黄斑部に出血が及んでいる場合にNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術で加療することが多い2).また,内境界膜下出血が遷延化した場合などで硝子体手術を施行されることもある3).いずれの場合も視力予後はおおむね良好で,出血前の視力とほぼ同等まで回復することが多いとされている1~7).子宮内胎児死亡は死亡胎児由来の組織トロンボプラスチンが母体血中に侵入することで凝固異常をひき起こすことがある8).本症例でもFDPやトロンビンアンチトロンビン複合体の上昇など凝固線溶系の亢進が認められ,凝固因子が消費性に欠乏した状況であった.本症例ではさらに分娩後に弛緩出血が遷延したことにより貧血も発症しており,網膜細小血管壁の脆弱性が存在していた9)と考えられる.こうした凝固因子欠乏および網膜細小血管壁の脆弱性により,本症例はこれまでの報告にあるValsalva網膜症の症例よりも易出血性を呈しており,両眼に大量の出血をきたすという重篤な結果を招いたと思われる.本症例は両眼の内境界膜下出血に対してNd:YAGレーザーによる内境界膜切開術でドレナージを行ったところ,右眼黄斑部に網膜下出血が確認され,視力予後が悪いことが予想された.このため右眼に対してt-PA併用下の硝子体切除術および液-空気置換術を施行し,良好な視力温存を得ていRL図3治療後約17カ月目,2009年07月22日の眼底所見R:右眼,L:左眼,出血はほぼ吸収された.黄斑部付近に変性を認める.(135)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011737る.前述のとおりValsalva網膜症は通常視力予後の良好な疾患であるが,本症例の場合は早期の硝子体手術による黄斑部網膜下出血の移動を行わなかった場合,良好な視力温存はむずかしかったと思われる.本症例の経過から子宮内胎児死亡および分娩後の貧血はValsalva網膜症が重症化しやすい要素であること,Valsalva網膜症にも早期の硝子体手術が必要な例があることが考えられた.文献1)DuaneTD:Valsalvahemorrhagicretinopathy.TransAmOphthalmolSoc70:298-313,19722)KhanMT,SaeedMU,ShehzadMSetal:Nd:YAGlasertreatmentforValsalvapremacularhemorrhages:6monthfollowup:alternativemanagementoptionsforpreretinalpremacularhemorrhagesinValsalvaretinopathy.IntOphthalmol28:325-327,20083)大原真紀,本合幹,池田恒彦:Valsalva洞刺激によると考えられる網膜前出血に硝子体手術を施行した1例.あたらしい眼科19:1633-1636,20024)雑賀司珠也,宮本香,田村学ほか:Valsalvamaneuverによると考えられる網膜前および硝子体出血の1例.臨眼45:1789-1791,19915)HoLY,AbdelghaniWM:Valsalvaretinopathyassociatedwiththechokinggame.SeminOphthalmol22:63-65,20076)KreokerK,WedrichA,SchranzR:Intraocularhemorrhageassociatedwithdentalimplantsurgery.AmJOphthalmol122:745-746,19967)松本行弘:妊娠期における眼合併症としてのValsalva網膜症.眼臨101:666-670,20078)山本樹生:産科疾患の診断・治療・管理異常妊娠子宮内胎児死亡.日産婦誌59:N-670-N-671,20079)野村菜穂子,前田朝子,河本道次ほか:貧血に両眼性網膜出血を合併した1症例について.眼紀41:355-359,1990***

先天性ヘルペスウイルス感染に合併した壊死性網膜炎

2011年5月31日 火曜日

730(12あ8)たらしい眼科Vol.28,No.5,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(5):730.733,2011cはじめに先天性ヘルペス感染症は,分娩時の産道感染が85%を占め,経胎盤感染は5%とまれである.Herpessimplexvirus(HSV)-2による感染が70.85%と多く,HSV-1による感染は15.30%程度である1).典型的なヘルペス感染症の症状で発症せず,小児科においても診断に苦慮することが多いといわれている2,3).今回,新生児集中治療室(NICU)入院中に,角膜炎および壊死性網膜炎を生じ,その眼所見から先天性ヘルペス脳炎の診断に至った,HSV-1の経胎盤感染と診断された極低出生体重児の1例を経験したので報告する.I症例患者:在胎週数30週5日,出生体重1,408g,男児.〔別刷請求先〕内村英子:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室Reprintrequests:EikoUchimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,8-1Kawada-cho,Shinjyuku-ku,Tokyo162-8666,JAPAN先天性ヘルペスウイルス感染に合併した壊死性網膜炎内村英子*1豊口光子*1笠置晶子*1稲用和也*2堀貞夫*1小保内俊雅*3内山温*3楠田聡*3仁志田博司*3*1東京女子医科大学眼科学教室*2総合病院国保旭中央病院眼科*3東京女子医科大学母子総合医療センター新生児部門NecrotizingRetinitisAssociatedwithCongenitalHerpesSimplexVirusInfectionEikoUchimura1),MitsukoToyoguchi1),AkikoKasagi1),KazuyaInamochi2),SadaoHori1),ToshimasaObonai3),AtsushiUchiyama3),SatoshiKusuda3)andHiroshiNishida3)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoWomen’sMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,KokuhoAsahiCentralHospital,3)MatemalandPerinatalCenter,TokyoWomen’sMedicalUniversity壊死性網膜炎様の眼所見を呈し,先天性ヘルペス脳炎の診断に至った極低出生体重児の1例を経験した.症例は在胎週数30週5日,出生体重1,408gの男児であった.生後23日に異常運動と無呼吸発作が出現した.生後26日に精査のため眼科を受診し,両眼の角膜に混濁と浮腫を認め,耳側網膜に黄白色の滲出斑と網脈絡膜萎縮を認めた.壊死性網膜炎を疑い,前房水のポリメラーゼ連鎖反応を施行したが単純ヘルペスウイルス(HSV)と帯状疱疹ウイルスは陰性であった.小児科にて静脈血と髄液中のヘルペス抗体価を検索し,HSV-Ig(免疫グロブリン)Mが検出され先天性ヘルペス脳炎と診断された.母体が妊娠中にHSVに初感染していたことが判明し,胎盤病理の免疫染色からHSV-1が検出され,HSVの経胎盤感染と確定診断された.母親が初感染のため,母親由来のHSV-IgGが存在せず,患児は角膜炎と壊死性網膜炎の眼合併症を発症し,重篤となったと考えられた.Wereportacaseofcongenitalherpesencephalitisinamaleinfantwithverylowbirthweightbasedonocularfindings.Hewasdeliveredvaginallyat30weeksand5daysofgestation,weighing1,408ganddevelopedabnormalmovementandattacksofapnea23daysafterbirth.Onday26,theinitialophthalmologicexaminationrevealedbilateralcornealopacity/edemaandyellowish-whiteexudatessuggestingnecrotizingretinitisinthetemporalfundi.Neitherherpessimplexvirus(HSV)norvaricella-zosterviruswasdetectedinaqueoushumorviapolymerasechainreaction,butHSV-IgMwasdetectedincerebrospinalfluid,leadingtothediagnosisofcongenitalherpesencephalitis.ThemotheracquiredprimaryHSVinfectionduringpregnancy.PathologicexaminationoftheplacentaconfirmedtransplacentaltransmissionofHSV-1.SincecongenitalherpesinfectionrarelyoccursduetotransplacentaltransmissionofHSV-1,theabsenceofmaternallyderivedHSV-IgGmighthavecausedthesubsequentseriousmedicalconsequencesintheinfant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):730.733,2011〕Keywords:壊死性網膜炎,先天性ヘルペス脳炎,単純ヘルペスウイルス.necrotizingretinitis,congenitalherpesencephalitis,herpessimplexvirus.(129)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011731初診:2006年10月3日(生後26日).家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2006年9月6日,在胎30週5日で出生し,Apgarscoreは7/7と正常であった.生後NICUに入院となり,約1週間の人工呼吸管理を施行された.生後10日に,前額部,後頸部,背部に皮疹が出現したが,擦過物の培養にて細菌は検出されず,特に重篤な全身合併症はなかった.生後14日には全身状態が安定したため酸素投与が中止された.生後19日,突然嘔吐が出現し,呼吸状態が不安定となり,生後23日より,ミオクロニー様の異常運動と,無呼吸発作が頻発したため,再び人工呼吸管理となった.生後26日に原因精査および未熟児網膜症のスクリーニング目的で当科初診となった.初診時所見:生後26日の初診時,修正在胎週数34週3日,体重1,380gであった.前眼部に軽度の球結膜充血と両眼にすりガラス状の角膜混濁と角膜浮腫を認めた.中間透光体には白内障はなく,びまん性硝子体混濁がみられた.視神経乳頭は境界不鮮明であり,血管は耳側にわずかに認めるのみで,両眼の耳側網膜の周辺部に黄白色の滲出斑および網脈絡膜萎縮を認めた.眼所見から代謝性疾患やヘルペスウイルスなどの感染が疑われたため,新生児科に全身検索を依頼した.全身検査所見:血液生化学所見は白血球:9,400/μl,赤血球:341万/μl,ヘモグロビン:12.3g/dl,ヘマトクリット:32.3%,血小板:27.7万/μl,総蛋白:5.5g/dl,AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ):26U/l,ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ):8U/l,血中尿素窒素:12.8mg/dl,クレアチニン:0.81mg/dl,CRP(C反応性蛋白)<0.3mg/dlであり,感染症を疑わせる異常値は認めなかった.髄液検査にて細胞数,蛋白値の増加を認めたが,髄液と静脈血の微生物培養検査では細菌は検出されなかった.染色体検査では46XYで異常なく,代謝性疾患スクリーニング検査でも異常を認めなかった.頭部エコーにて中大脳動脈領域の大脳白質内に脳質周辺部まで多発する.胞を認め,脳炎が疑われた.脳炎に合併した眼底所見から,ヘルペスウイルス感染症が疑われたため,静脈血のウイルス検査を依頼した.サイトメガロウイルス,トキソプラズマのIg(免疫グロブリン)Mは陰性であったが,HSVのIgMが5.1MI(IgMindex)と陽性であったため,患児はHSVの初感染と診断された.その際,HSV-IgGは22.0GI(IgGindex)であったが,生後48日の静脈血のウイルス検査ではHSVIgGは9.0GIと減少していた.その後,髄液のHSV-IgMも3.3MIと陽性であることが判明し,ヘルペス脳炎と確定診断された(表1).経過:初診時,壊死性網膜炎が考えられたため前房水を採取し,polymerasechainreaction(PCR)によりHSV,varicella-zostervirus(VZV)のPCR-DNAを検索したが結果はすべて陰性であった.前眼部所見と眼底所見を総合的に判断して細菌性角膜炎を疑い,トブラマイシン,レボフロキサシンを両眼に4回/日点眼で治療を開始した.その後,眼脂と角膜擦過物の培養からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため,バンコマイシンを追加した.2週間後には角膜浮腫は改善し,MRSAが陰性化したため,バンコマイシンは中止した.また,角膜混濁を改善させるため,0.1%フルオロメトロン点眼を2回/日から開始した.角膜混濁が改善傾向を認めたため,2週間で0.1%フルオロメトロン点眼を中止した.新生児科に依頼した静脈血と髄液の検査にて,HSVの初感染によるヘルペス脳炎と確定診断された後,網膜炎の進行表1母児の検査所見<児の検査所見>静脈血(生後26日)→(生後48日)髄液(生後48日)・HSV-IgM(+)5.1MI(+)4.6MI・HSV-IgM(+)3.3MI・HSV-IgG(+)22.0GI(+)9.0GI・風疹-IgM(±)1.6MI・CMV-IgM(.)0.2MI・風疹-IgM(+)5.2MI・トキソプラズマIgM(.)0.1COI染色体:46XY異常なし代謝性疾患スクリーニング:異常なし<母の検査所見>24歳,女性,全身疾患なし静脈血(産後26日)→(産後56日)HSV-IgM(±)1.0MI(.)0.6MIHSV-IgG(+)97.0GI(+)390.0GIVZV-IgM(±)1.5MI(±)1.3MIVZV-IgG(+)32.0GI(+)33.0GI風疹IgM(.)0.7MI風疹IgG(+)27.0GI図1左眼前眼部写真(生後69日)角膜の9時-12時に上皮下混濁がみられる(矢印)が,生後26日に比べると角膜炎は改善している.732あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(130)がみられたため,新生児科にて生後62日にアシクロビルの全身投与を開始した.しかし全身状態が重篤で脳炎および眼病変の改善が望めないことから1週間で中止となった.初診より1カ月後,角膜周辺部に上皮下混濁を認めるが,角膜浮腫は初診時(生後26日)に比べると改善した(図1).眼底は,網膜血管が狭細化し広範囲に閉塞しており,視神経の周辺を除いて網脈絡膜の強い萎縮と瘢痕形成を認めた(図2).眼科的には,前房水からHSVは検出されなかったが,眼底所見より周辺部から始まる黄色の滲出斑が,その後色素沈着を伴う瘢痕病巣に変化し,進行性の壊死性網膜炎の臨床像を呈していた.全身ではHSV初感染でありヘルペス脳炎に罹患していたことから,眼底病変はHSVによる壊死性網膜炎が最も考えられる病態であった.母親は24歳の女性で,全身疾患の既往歴はなかった.産後にウイルス検査を施行し,産後26日と56日のペア血清にて,HSV-IgMのみが(±)1.0MIから(.)0.6MIへと変化し,HSV-IgGが(+)97.0GIから(+)390.0GIへと上昇していたことから,母親は妊娠中,出産直前にHSVに初感染していたことが判明した(表1).ヘルペスの感染経路の検索のため,分娩時に保存した胎盤の標本を染色した.病理検査の結果,炎症細胞浸潤を認める部位の胎盤に封入体をもった巨細胞を認め,抗HSV-1の免疫染色にてジアミノベンジジン(DAB)発色で核内に褐色のウイルス顆粒を認めた(図3).この結果より,HSV-1の経胎盤感染による先天性ヘルペス感染と確定診断された.II考察先天性ヘルペス感染症は,子宮内,分娩時,生直後にHSVに感染し,感染源としては母親が最も多いと報告されている.感染経路は分娩時の産道感染が85%を占め,経胎盤感染は5%とまれである1).経胎盤感染は妊娠初期の20週間に多く,流産,死産,先天性奇形につながり1),周産期死亡率は50%である4).HSV-1による感染が15.30%,HSV-2による感染が70.85%であり1),HSV-2による感染が多いとされており,HSV-2の感染のほうが重篤な予後を伴うと報告されている5,6).ただし,患者の約半数にしか典型的な皮膚症状が出現しないため,多くの症例が検死でしか診断されない2,3).本症例は胎盤病理組織所見にて,HSV-1による経胎盤感染と確定診断された.経胎盤感染が病理から確定診断されることはまれであり,HSV-1による感染例がさらに少ないことから,わが国での報告はみられず貴重な先天性ヘルペス感染の症例と考えられる.先天性ヘルペス感染症の臨床所見は,皮膚症状のみの限局型が5.10%,皮膚症状と眼病変の合併が15%,本症例のように脳炎に眼病変もしくは皮膚病変を合併するものが50図2眼底写真(生後69日)左:右眼,右:左眼.両眼とも硝子体混濁にて眼底透見不良だが,網脈絡膜の強い萎縮と瘢痕を認める(矢印).網膜血管は狭細化し閉塞していた.D:視神経乳頭と思われる部位.図3胎盤の病理組織所見左:胎盤の炎症細胞浸潤を認める部位に,封入体をもった巨細胞がみられる(矢印).HE染色.右:巨細胞が,抗HSV-1免疫染色に陽性である(矢印).抗HSV-1免疫染色.(131)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011733%にみられる.HSV感染症の乳児の20%に眼病変があるものと推定されている2,3).眼病変には結膜炎,角膜炎,白内障,網脈絡膜炎などがある.網膜炎は晩期にみられる合併症であることが多い7).先天性ヘルペス感染症の眼所見は,1977年Yanoffらが,HSV-2による眼内炎として最初に報告している.32週の低出生体重児の報告であり,角膜炎,虹彩炎,壊死性網膜炎があり,剖検時の網膜からHSV-2が検出された8).本症例では,角膜炎と壊死性網膜炎を合併しており,Yanoffらの報告と類似した所見を呈し,全身的にHSV以外の感染症が認められないことから,先天性へルペス感染による眼内炎と考えられた.先天性ヘルペス感染症の胎内感染の場合,免疫が未熟であることから,角膜炎と網膜炎の両方を合併し重篤になりやすいと考えられた.本症は脳炎発症前の生後10日に皮膚病変が出現していたが,細菌検査のみ施行しており,皮疹はヘルペス感染が関与していた可能性も考えられる.皮疹出現の約10日後に神経症状が出現し脳炎を発症し,その1週間後の眼底検査では,すでに眼底は壊死性網膜炎に,また一部瘢痕病巣が混在する病態となっていた.皮疹出現から約2.3週の間に網膜病変はかなり進行しており網膜炎の進行が速かったことが推測される.本症例では母体が初感染であったため,患児が出生前に胎内で感染したときに母体由来のHSVIgGが存在せず,患児の免疫もまだ未熟であったことから重篤となったと考えられた.先天性ヘルペス感染症の臨床像は,非典型的な症状で発症することが多く,無症状の母体から感染することもあり,診断に苦慮することが多い.本症例は極低出生体重児であり,採血量が制限されるため検査項目も限られる状況下で,眼所見が診断の手掛かりとなった.本論文の要旨は第42回日本眼炎症学会で発表した.文献1)SauerbreiA,WutzlerP:Herpessimplexandvaricellazostervirusinfectionduringpregnancy:currentconceptsofprevention,diagnosisandtherapy.Part1:Herpessimplexvirusinfections.MedMicrobiolImmunol196:89-94,20072)NahmiasAJ,HaglerW:Ocularmanifestationsofherpessimplexinthenewborn.IntOphthalmolClin12:191-213,19723)NahmiasAJ,VisintineAM,CaldwellDRetal:Eyeinfectionswithherpessimplexvirusinneonates.SurvOphthalmol21:100-105,19764)DesselbergerU:Herpessimplexvirusinfectioninpregnancy:diagnosisandsignificance.Intervirology41:185-190,19985)KriebsJM:Understandingherpessimplexvirus:transmission,diagnosis,andconsiderationsinpregnancymanagement.JMidwiferyWomensHealth53:202-208,20086)MeerbachA,SauerbreiA,MeerbachWetal:Fataloutcomeofherpessimplexvirustype1-inducednecrotichepatitisinaneonate.MedMicrobiolImmunol195:101-105,20067)KurtzJ,AnslowP:Infantileherpessimplexencephalitis:Diagnosticfeaturesanddifferentiationfromnon-accidentalinjury.JInfect46:12-16,20038)YanoffM,AllmanMI,FineBS:Congenitalherpessimplexvirustype2,bilateralendophthalmitis.TransAmOphthalmol75:325-338,1977***

抗VEGF 抗体の硝子体注射における硝子体脱出の頻度

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(125)727《原著》あたらしい眼科28(5):727.729,2011cはじめに硝子体注射は眼科治療法の一つであり,近年特に抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)抗体の硝子体注射の有効性が認知され,今後ますます盛んに行われると考えられる.硝子体注射に伴う重篤な合併症の一つに感染性眼内炎がある.過去の報告によると,硝子体注射症例の0.019~0.052%の頻度で眼内炎が生じたとしている1~4).眼内炎の危険因子の一つとしては,硝子体注射に伴う硝子体脱出を指摘する報告がある5)が,わが国において硝子体脱出の頻度を詳細に調査した報告はない.今回筆者らは,硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度(以下,硝子体脱出率)をプロスペクティブに調査し,さらに患者背景因子との関連について検討したので報告する.I対象および方法対象は当院にて2009年3月から12月の間に加齢黄斑変性に対してranibizumab(0.5mg/0.05ml)の硝子体注射を行った症例である.複数回投与を行っている症例は,症例ごとの何らかの因子が硝子体脱出率に影響する可能性があるため,初回投与のみを対象とした.硝子体手術の既往がある症〔別刷請求先〕大塚斎史:〒780-0935高知市旭町1丁目104番地町田病院Reprintrequests:YoshifumiOhtsuka,M.D.,MachidaHospital,104-1Asahimachi,Kochicity,Kochi780-0935,JAPAN抗VEGF抗体の硝子体注射における硝子体脱出の頻度大塚斎史橋田正継山本恭三星最智卜部公章町田病院FrequencyofVitreousRefluxinIntravitrealInjectionofAnti-VEGFAntibodyYoshifumiOhtsuka,MasatsuguHashida,TakamiYamamoto,SaichiHoshiandKimiakiUrabeMachidaHospital目的:抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)抗体の硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度(以下,硝子体脱出率)を検討した.対象および方法:2009年3月から12月の間にranibizumab(0.5mg/0.05ml)の硝子体注射を行った52症例のうち初回投与のみを対象とした.30ゲージ針で硝子体注射を行い,吸収スポンジを用いて硝子体脱出の有無を確認し硝子体脱出率を検討した.また,硝子体脱出率と患者背景因子(性別,年齢,水晶体の状態,眼圧,屈折値)との関連について解析した.結果:全症例での硝子体脱出率は23.1%であった.有水晶体眼(29眼)の硝子体脱出率は34.5%であり,偽水晶体眼(23眼)の8.7%よりも有意に高かった(p=0.03).結論:硝子体注射後の硝子体脱出率は特に有水晶体眼で高かった.Objectives:Toinvestigatethefrequencyofvitreousrefluxfollowingtheintravitrealinjectionofanti-vascularendothelialgrowthfactor(anti-VEGF).SubjectsandMethods:Fifty-twocasesofpatientswhoreceivedafirstintravitrealinjectionofanti-VEGF(ranibizumab,0.5mg/0.05ml)betweenMarchandDecember2009wereenrolledinthisstudy.Anintravitrealinjectionusinga30-gaugeneedlewasperformedineachpatientandthevitreousrefluxwastheninvestigatedusinganabsorbingsponge.Therelationbetweeneachpatient’sfactorssuchasgender,age,eitherphakicorpseudophakiceye,intraocularpressure,refractiveindex,andthevitreousrefluxratewasthendetermined.Results:Thevitreousrefluxratewasobservedin23.1%ofthetotaleyes.Therewasasignificantdifference(p=0.03)inthevitreousrefluxratebetweenthephakiceyes(29eyes,34.5%)andthepseudophakiceyes(23eyes,8.7%).Conclusion:Thevitreousrefluxrateinphakiceyeswassignificantlyhigherthanthatinpseudophakiceyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):727.729,2011〕Keywords:硝子体注射,硝子体脱出,眼内炎,抗VEGF抗体.intravitrealinjection,vitreousreflux,endophthalmitis,anti-VEGFantibody.728あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(126)例は除外した.硝子体注射は手術顕微鏡下に30ゲージ針を用いて経結膜的に毛様体扁平部から行った.30ゲージ針の刺入方法は,強膜に対して垂直に刺入するだけであり,その他の特別な手技は用いていなかった.抜針後は速やかに綿棒または鑷子で強膜創を圧迫した後,吸収スポンジを用いて刺入部位からの硝子体脱出の有無を確認した.硝子体脱出を認めた場合は,吸収スポンジにて脱出した硝子体を持ち上げながらスプリング剪刀で切除した(図1).術前および術後3日間は0.5%モキシフロキサシン点眼液(ベガモックスR点眼液0.5%)の点眼を行った.検討項目として,全症例における硝子体脱出率を検討した.さらに,硝子体脱出率に影響を与えている因子を検討するため,硝子体脱出率と患者背景因子(性別,年齢,水晶体の状態,眼圧,屈折値)との関連について解析した.水晶体の状態は有水晶体眼と偽水晶体眼とに分類し,眼圧は硝子体注射前にノンコンタクト眼圧計を用いて測定した.屈折値は有水晶体眼では硝子体注射前の値を,偽水晶体眼では白内障手術前の屈折値を使用し,等価球面度数として検討した.偽水晶体眼の症例でカルテ上,以前の屈折値がわからないものは,屈折値に関する検討から省いた.統計学的処理は,性別,水晶体の状態についてはMann-WhitneyUtestを,年齢,眼圧,屈折値についてはFisher’sexacttestを用い,p<0.05を有意と判定した.II結果症例は52例52眼(男性35例35眼,女性17例17眼)で,平均年齢は74.5±9.6歳(47~93歳),眼圧の平均値は12.2±2.9mmHg(9~19mmHg)であった.症例全体の硝子体脱出率は23.1%(52眼中12眼)であった.患者背景因子として屈折値を含めて検討を行ったのは52眼中35眼で,平均の等価球面度数は.0.4±2.0D(+3~.7.75D)であった.硝子体脱出率と患者背景因子との関連を検討したところ,性別(p=0.60),年齢(p=0.92),眼圧(p=1.00),屈折値(p=0.38)であり,いずれも有意な関連は認めなかった.しかしながら,水晶体の状態ごとの硝子体脱出率に関しては,偽水晶体眼では8.7%(23眼中2眼)であるのに対し,有水晶体眼で34.5%(29眼中10眼)と有意に高かった(p=0.03)(図2).加えて,有水晶体群と偽水晶体群で,性別,年齢,眼圧,屈折値を比較すると,表1のような結果となった.2群間の比較で有意差があったのは平均年齢のみで,偽水晶体群では平均年齢が高かった.年齢が交絡因子となっている可能性も否定できないため,年齢と水晶体の状態を説明変数,硝子体脱出の有無を目的変数として多重ロジスティック回帰分析を行ったところ,年齢〔オッズ比1.1,95%信頼区間(95%CI):0.98~1.23,p=0.09〕,水晶体の状態(オッズ比18.3,95%CI:1.97~169.5,p=0.01)であり,年齢の影響を除いても,有水晶体眼で有意に硝子体脱出率が高かった.なお,今回の調査中に眼内炎や網膜.離などの眼合併症は認めなかった.II考按抗VEGF抗体の硝子体注射に伴う重大な合併症の一つに感染性眼内炎がある.硝子体注射の直後に吸収スポンジなどを用いて刺入部を詳細に観察すると,創口に嵌頓した硝子体を認めることがある.Chenらはこれをvitreouswicksyn表1有水晶体群と偽水晶体群の比較有水晶体群(n=29)偽水晶体群(n=23)p値性別(男:女)18:1117:60.27年齢(歳)69.2±8.481.1±6.4<0.0001眼圧(mmHg)12.2±3.112.2±2.80.96屈折値(D)0.12±2.2.0.79±1.00.10図1硝子体注射直後の硝子体脱出吸収スポンジにて硝子体脱出の有無を確認した(矢印).4035302520151050有水晶体眼偽水晶体眼硝子体脱出率(%)**p=0.03図2水晶体の状態ごとの硝子体脱出率有水晶体眼では,偽水晶体眼と比べ有意に硝子体脱出率が高かった.(127)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011729dromeとよび,硝子体注射後の感染性眼内炎の一因となっている可能性があると指摘している5).これまでの硝子体脱出の頻度に関する報告として,Benzらは38眼に対し0.1mlのトリアムシノロンを27ゲージ針にて硝子体注射したところ,硝子体脱出率が21.1%であったと報告している6).今回の筆者らの検討では硝子体脱出率は23.1%であり,Benzらの報告と比べて硝子体注射をした薬剤の体積が少ないという違いはあるものの,硝子体脱出率は近似した結果となった.このことは,抗VEGF抗体とトリアムシノロンという使用薬剤の相違以外に硝子体脱出のリスク因子が存在し,さらに,筆者らの結果が注射手技の熟練度などの技術的な問題のみで生じた結果ではないことを示唆している.そこで,硝子体脱出率と患者背景との関連を検討したところ,性別,年齢,眼圧,屈折値では有意な相違があるとはいえなかった.しかしながら,水晶体の状態に関しては,有水晶体眼と偽水晶体眼の硝子体脱出率はそれぞれ34.5%,8.7%となり,有水晶体眼で有意に高い結果となった.偽水晶体眼で硝子体脱出率が低下した原因として,白内障手術を契機に眼内の環境が変化したことが推察される.一つの仮説として,水晶体の占めていた容積が眼内レンズとなったことで硝子体腔の体積が相対的に増加し,硝子体注射による圧変動が減少する可能性が考えられるが,詳細は不明である.硝子体注射に伴う硝子体脱出の頻度について,わが国では今回の筆者らの報告以外に調査した報告はなく,発生すること自体に認識が十分でない可能性がある.今後は硝子体注射を行う際,注射直後に吸引スポンジなどを用いて硝子体脱出の有無を注意深く確認することが重要と考えられた.硝子体注射の際に硝子体脱出を生じにくくするための試みは過去に報告がある.Rodriguesらは,強膜に対して30°の角度で針の先端を1.5mm程度強膜半層まで進めて,その後硝子体腔の中心に向かって針を垂直に立てて穿刺するというtunneledscleralincisionによって,硝子体脱出の量が減少したと報告している7).小切開硝子体手術の際に結膜をずらしてカニューラの設置を行うことがある8)が,硝子体注射においても同様の手技で行うことにより,結膜からの硝子体の露出を防ぐことができるかもしれない.今後は,硝子体脱出が起こりにくくするための標準的な硝子体注射手技について検証していく必要がある.筆者らの検討における問題点として,まず,硝子体注射後の眼圧が硝子体脱出率に与える影響を調査していないことがあげられる.硝子体注射の直後に眼圧が上昇することがあり,Benzらの報告ではトリアムシノロン0.1mlの硝子体注射直後の平均眼圧が,硝子体脱出がなかった群では45.9mmHg,硝子体脱出があった群では12.6mmHgであったとしている.抗VEGF抗体の投与量は0.05mlであり,Benzらの報告よりも少量ではあるが,今後は硝子体注射後の眼圧上昇の頻度や硝子体脱出との関連を検討する必要がある.つぎに,今回の検討項目で屈折率では有意な関連がなかったものの,眼軸長を患者背景因子に加えた検討が望ましいと考えられる.また,硝子体脱出の確認方法について,吸収スポンジにて硝子体の検出を行っているが,その手技によるバイアスも考えられ今後の検討を要する.以上,まとめとして,検討では硝子体脱出率は23.1%と比較的高く,有水晶体眼では偽水晶体眼より硝子体脱出率が高かった.硝子体注射を行った直後には,吸引スポンジなどを用いて硝子体脱出の有無を注意深く確認することが重要であり,硝子体脱出を認めた場合は脱出硝子体を適切に処理すべきであると考えられた.文献1)JonasJB,SpandauUH,RenschFetal:Infectiousandnoninfectiousendophthalmitisafterintravitrealbevacizmab.JOculPharmacolTher23:240-242,20072)MasonJO3rd,WhiteMF,FeistRMetal:Incidenceofacuteonsetendophthalmitisfollowingintravitrealbevacizumab(Avastin)injection.Retina28:564-567,20083)PilliS,KotsolisA,SpaideRFetal:Endophthalmitisassociatedwithintravitrealanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyinjectionsinanofficesetting.AmJOphthalmol145:879-882,20084)FintakDR,ShahGK,BlinderKJetal:Incidenceofendophthalmitisrelatedtointravitrealinjectionofbevacizumabandranibizumab.Retina28:1395-1399,20085)ChenSD,MohammedQ,BowlingBetal:Vitreouswicksyndrome─apotentialcauseofendophthalmitisafterintravitrealinjectionoftriamcinolonethroughtheparsplana.AmJOphthalmol137:1159-1160,20046)BenzMS,AlbiniTA,HolzERetal:Short-termcourseofintraocularpressureafterintravitrealinjectionoftriamcinoloneacetonide.Ophthalmology113:1174-1178,20067)RodriguesEB,MeyerCH,GrumannAetal:Tunneledscleralincisiontopreventvitrealrefluxafterintravitrealinjection.AmJOphthalmol143:1035-1037,20078)野田徹,寺内直毅:硝子体手術の道具立て.眼科プラクティス17巻,みんなの硝子体手術(田野保雄編),p53-61,文光堂,2007***

新しい光干渉式眼軸長測定装置(OA-1000)における眼軸長測定と術後屈折誤差の検討

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(121)723《原著》あたらしい眼科28(5):723.726,2011cはじめに白内障手術の際に挿入する眼内レンズ(IOL)度数を計算するためには,術前検査として眼軸長・角膜屈折力の測定が必須である.白内障手術において,術後屈折値の大きなズレは患者のqualityofvision(QOV)を低下させる.術後屈折誤差の多くは眼軸長測定誤差に由来し1),術前検査において眼軸長を正確に測定することは正しいIOL度数計算を行うために必要不可欠である.超音波Aモード眼軸長測定は,①プローブを角膜に接触させて測定する接触法では,角膜を圧迫して眼軸長を短く測定する,②眼軸長の測定は視軸に一致した測定が理想であるが,後部ぶどう腫のある長眼軸長眼では軸ずれを起こしやすく不正確となりやすい,③測定操作に熟練を要するために検者間で測定値にばらつきがみられる,などの問題点がある2,3).近年,超音波Aモード眼軸長測定装置とは測定原理の異なる光干渉法を利用したIOLマスターTM(CarlZeiss)が登〔別刷請求先〕外山琢:〒040-0053函館市末広町7-13江口眼科病院Reprintrequests:TakuToyama,M.D.,EguchiEyeHospital,7-13Suehirocho,Hakodate-shi,Hokkaido040-0053,JAPAN新しい光干渉式眼軸長測定装置(OA-1000)における眼軸長測定と術後屈折誤差の検討外山琢昌原英隆北直史佐々木博司冨山浩志小島正裕江口まゆみ森文彦江口秀一郎江口眼科病院EvaluationofAxialLengthMeasurementandPostoperativeRefractiveErrorwithNewPartialCoherenceInterferometryTakuToyama,HidetakaMasahara,NaofumiKita,HiroshiSasaki,HiroshiTomiyama,MasahiroKojima,MayumiEguchi,FumihikoMoriandSyuichiroEguchiEguchiEyeHospital目的:光干渉式眼軸長測定装置OA-1000と超音波Aモード眼軸長測定装置AL-3000の測定精度の比較.対象および方法:対象は白内障手術前に,OA-1000,AL-3000にて眼軸長測定が可能であった50例50眼.眼内レンズ度数計算は,メーカー推奨A定数(118.4)および,surgeonfactor(SF)(1.45)を用いてSRK/T式,SRKII式,Holladay式にて行った.結果:いずれの眼内レンズ度数計算式においても眼軸長と術後屈折誤差に両機器の間に有意差は認めなかった.OA-1000のパーソナルA定数は118.5(SRK/T式),118.7(SRKII式),SFは1.54(Holladay式)であった.考按:OA-1000の眼軸長測定精度と術後屈折誤差は,AL-3000と同程度であり,臨床的に有用である.パーソナルA定数,SFを求めることでより精度の高い術後屈折値予測が可能と考えられる.Purpose:Tocomparepartialcoherenceinterferometry(OA-1000)withultrasoundbiometry(AL-3000)forintraocularlens(IOL)powercalculations.SubjectsandMethods:In50eyesof50patientswithcataracts,axiallength(AL)waspreoperativelymeasuredusingtheOA-1000andtheAL-3000.TheimplantedIOLpowerwascalculatedusingtheSRK/T,SRK/IIandHolladayformulas.AL,andmeanabsolutepostoperativerefractiveerror(MAE)werecomparedbetweenthetwodevices.Results:TherewasnosignificantdifferenceinALorMAEbetweenthetwodevices.Conclusion:ThemeasurementaccuracyoftheOA-1000wascomparabletothatoftheAL-3000.OptimizationofA-constantandsurgeonfactorimprovesMAEaccuracy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):723.726,2011〕Keywords:光干渉式眼軸長測定,OA-1000,術後屈折誤差,超音波眼軸長測定,AL-3000.partialcoherenceinterferometry,OA-1000,postoperativerefractiveerror,ultrasoundbiometry,AL-3000.724あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(122)場した.IOLマスターTMの利点としては①角膜と非接触で眼軸長を測定できる,②視軸と一致した眼軸長の測定が可能である,③測定操作が容易で習熟を要する超音波Aモード眼軸長測定に比べて検者間での測定値のばらつきが少ない,などがあげられる4,5).これにより高精度な眼軸長測定が可能となり,術後屈折誤差の減少に貢献している6,7).IOLマスターTMに次いで2008年に同様の光干渉法を測定原理とするOA-1000(トーメーコーポレーション)が発売された.OA-1000は発売されて間もないこともあり,OA-1000を使用した眼軸長測定および白内障術後屈折誤差を検討した論文は少ない8.10).今回筆者らは光干渉式眼軸長測定装置OA-1000と超音波Aモード眼軸長測定装置AL-3000の眼軸長および白内障術後屈折誤差を比較検討したので報告する.I対象および方法対象は2008年9月から2009年2月までに,当院にて白内障術前検査として光干渉式眼軸長測定装置OA-1000(Contactモードを使用),超音波Aモード眼軸長測定装置AL-3000の2機種にて眼軸長が測定可能であった50例50眼(平均年齢:75.2±7.8歳,平均屈折値:.0.26±1.87D)である.条件として①角膜屈折力はmanualkeratometer(Bausch&Lomb,角膜中心から3.0mmの部位を測定)にて測定(平均角膜屈折力:44.75±1.58D),②OA-1000,AL-3000ともに検査は熟練者4名が施行,③同一術者が超音波水晶体乳化吸引術およびIOL挿入術を施行,④アクリル製IOLであるSA60AT(Alcon)を完全.内固定,⑤術後3カ月の経過観察にて矯正視力0.7以上,これらを満たした患者を対象とした.術後屈折誤差を計算するためのIOL度数計算式は,SRK/T式,SRKII式,Holladay式を使用した.SRK/T式,SRKII式のA定数は,メーカー推奨A定数である118.4を,Holladay式では,surgeonfactor(SF)=(A定数×0.5663).65.60の計算式11)で算出したSF=1.45を使用した.術後屈折誤差は,術後屈折誤差={術後3カ月(94.7±16.9日)の自覚等価球面度数.術前予測屈折値}の式より算出した.OA-1000のパーソナルA定数,SFは眼軸長,角膜屈折力,挿入したIOL度数,術後自覚的屈折値を元に算出した.検討項目は,①OA-1000とAL-3000の眼軸長の比較,②SRK/T式,SRKII式,Holladay式でのOA-1000とAL-3000の術後屈折誤差の比較,③SRK/T式,SRKII式,Holladay式のOA-1000におけるパーソナルA定数およびSFの算出である.眼軸長・術後屈折誤差の比較に関しては,対応のあるt検定を,術後屈折誤差の±0.5D以内・±1.0D以内の割合については,Fisherの直接確率計算法にて有意水準5%にて統計学的解析を行った.II結果1.OA-1000とAL-3000の眼軸長の比較眼軸長の平均はOA-1000で23.17±1.12mm,AL-3000で23.18±1.11mmであり,両者で有意差を認めなかった(対応のあるt検定,p=0.24)(表1).2.SRK/T式,SRKII式,Holladay式でのOA-1000とAL-3000の術後3カ月の屈折誤差の比較a.SRK/T式でのOA-1000とAL-3000の術後3カ月の屈折誤差の比較術後屈折誤差は,OA-1000で0.02±0.42D,AL-3000で0.06±0.40Dであり,両者で有意差を認めなかった(対応のあるt検定,p=0.18).術後絶対屈折誤差はOA-1000で0.35±0.23D,AL-3000で0.33±0.24Dであり,こちらも両者に有意差を認めなかった(対応のあるt検定,p=0.19).術後屈折誤差が±0.5D以内の割合はOA-1000,AL-3000ともに76%であり,両者に有意差を認めなかった(Fisherの直接確率計算,p=0.95).±1.0D以内の割合はOA-1000,AL-3000ともに100%であった(表2a).b.SRKII式でのOA-1000とAL-3000の術後3カ月の屈折誤差の比較術後屈折誤差は,OA-1000で0.22±0.50D,AL-3000で0.24±0.50Dであり,両者で有意差を認めなかった(対応のあるt検定,p=0.31).術後絶対屈折誤差はOA-1000で0.45±0.29D,AL-3000で0.44±0.33Dであり,こちらも両者に有意差を認めなかった(対応のあるt検定,p=0.53).術後屈折誤差が±0.5D以内の割合はOA-1000,AL-3000ともに60%であり,両者に有意差を認めなかった(Fisherの直接確率計算,p=0.58).また,±1.0D以内の割合はOA-1000,AL-3000ともに94%であり両者に有意差を認めなかった(Fisherの直接確率計算,p=0.66)(表2b).c.Holladay式でのOA-1000とAL-3000の術後3カ月の屈折誤差の比較術後屈折誤差は,OA-1000で0.11±0.47D,AL-3000で0.14±0.45Dであり,両者で有意差を認めなかった(対応のあるt検定,p=0.24).術後絶対屈折誤差はOA-1000で0.40±0.25D,AL-3000で0.38±0.28Dであり,こちらも両者に有意差を認めなかった(対応のあるt検定,p=0.10).表1OA-1000とAL-3000の眼軸長の比較眼軸長(mm)OA-100023.17±1.12AL-300023.18±1.11眼軸長はOA-1000で23.17±1.12mm,AL-3000で23.18±1.11mmであり,OA-1000とAL-3000の間で有意差を認めなかった.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011725術後屈折誤差が±0.5D以内の割合はOA-1000で64%,AL-3000で68%であり,両者に有意差を認めなかった(Fisherの直接確率計算,p=0.42).±1.0D以内の割合はOA-1000が98%,AL-3000が96%であり,両者に有意差を認めなかった(Fisherの直接確率計算,p=0.50)(表2c).3.OA-1000のパーソナルA定数およびSF眼軸長,角膜曲率半径,挿入したIOL度数,術後屈折値を用いて算出した結果,OA-1000のパーソナルA定数は118.5(SRK/T式),118.7(SRKII式),SFは1.54(Holladay式)であった.III考按白内障手術に対する患者の期待が高まっている現在では,術後屈折誤差の少ない最適なIOL度数を選択することは患者のQOVを左右する.最適なIOL度数計算のためには正確な眼軸長を測定する必要がある.近年,従来の超音波Aモードとは測定原理の異なる光干渉法を使用したIOLマスターTMが開発された.2008年にはIOLマスターTMと同様の光干渉法を測定原理とするOA-1000が臨床使用可能となった.今回,筆者らはOA-1000を用いて眼軸長測定精度と術後屈折誤差について検討した.OA-1000では,3つの測定モードが搭載されており,①涙液表面から網膜色素上皮までの距離の実測値を測定する「Opticalモード」,②IOLマスターTMと同様に網膜の厚さを補正した「Immersionモード」,③超音波Aモードと同じ角膜表面から内境界膜までを測定した値に補正した「Contactモード」がある.測定前に測定モードを選択する必要があり,「Contactモード」では,超音波Aモード用のメーカー推奨A定数が使用可能と報告されている8).また,OA-1000では眼軸長・角膜厚・前房深度は測定できるが,角膜屈折力は測定できないため,オートケラトメータの値を代入して計算する必要がある12).今回,OA-1000(Contactモード)と超音波Aモード眼軸長測定装置AL-3000を比較したところ,測定した眼軸長には両者に有意差を認めなかった.術後屈折誤差については,SRK/T式,SRKII式,Holladay式の3つの式を用いて比較したが,いずれの式においても術後屈折誤差,術後絶対屈折誤差,±0.5D以内の割合,±1.0D以内の割合に両者に有意差を認めなかった.以上より,OA-1000は,従来から汎用されている超音波Aモード眼軸長測定装置AL-3000と遜色ない眼軸長測定・術後屈折予測精度をもち,臨床的に有用であると考えられる.OA-1000でのパーソナルA定数,SFを算出したところSRK/T式118.5,SRKII式118.7,Holladay式1.54となり,メーカー推奨値とは異なる値が得られた.このことより,検者ごとのパーソナルA定数,SFを求めることで術後屈折誤差の精度をさらに向上させることが可能と考えられる.今回は,どのIOL度数計算式においてもOA-1000とAL-3000に有意差を認めなかった.OA-1000と超音波Aモードによる術後屈折誤差を比較した過去の論文8.10)と比べると,①OA-1000(Contactモード)は,超音波Aモード表2aSRK/T式でのOA-1000とAL-3000の術後3カ月の屈折誤差の比較術後屈折誤差(D)術後絶対屈折誤差(D)±0.5D以内の割合(%)±1.0D以内の割合(%)OA-10000.02±0.420.35±0.2376100AL-30000.06±0.400.33±0.2476100術後屈折誤差,術後屈折誤差の絶対値,術後屈折誤差が±0.5D,±1.0D以内の割合にOA-1000とAL-3000の間で有意差を認めなかった.表2bSRKII式でのOA-1000とAL-3000の術後3カ月の屈折誤差の比較術後屈折誤差(D)術後絶対屈折誤差(D)±0.5D以内の割合(%)±1.0D以内の割合(%)OA-10000.22±0.500.45±0.296094AL-30000.24±0.500.44±0.336094術後屈折誤差,術後屈折誤差の絶対値,術後屈折誤差が±0.5D,±1.0D以内の割合にOA-1000とAL-3000の間で有意差を認めなかった.表2cHolladay式でのOA-1000とAL-3000の術後3カ月の屈折誤差の比較術後屈折誤差(D)術後絶対屈折誤差(D)±0.5D以内の割合(%)±1.0D以内の割合(%)OA-10000.11±0.470.40±0.256498AL-30000.14±0.450.38±0.286896術後屈折誤差,術後屈折誤差の絶対値,術後屈折誤差が±0.5D,±1.0D以内の割合にOA-1000とAL-3000の間で有意差を認めなかった.726あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(124)と同様に良好な術後屈折予測が可能である,②最適化A定数を算出することでより精度の高い術後屈折予測が可能である,という点で同様の結果となった.OA-1000と測定原理が同じであるIOLマスターTMを用いて光干渉式眼軸長測定装置と超音波Aモードを比較した論文のなかには,IOLマスターTMのほうが有用であるとの報告がある13,14).それらの報告と比べると,今回の結果は,AL-3000での術後屈折誤差が良好であり,そのために両者に有意差がなかった可能性がある.本研究においてAL-3000での屈折誤差が良好であった理由としては,①対象患者に長眼軸眼が少なかったこと(OA-1000において24.5mm以上の眼軸長の割合12%,26.0mm以上の割合2%),②OA-1000で測定不能症例を除外したため,超音波Aモードにて測定誤差の出やすい核硬化度の高い白内障の患者が対象から除外された可能性があること,③検者4人が全員熟練者であったこと,などが考えられる.以上により,光干渉式眼軸長測定装置OA-1000と超音波Aモード眼軸長測定装置AL-3000の眼軸長,術後絶対屈折誤差に有意差はなく,臨床的には両機器とも有用であると考えられた.利便性という面では,OA-1000は簡単な操作で眼軸長測定が可能である.ただし,OA-1000では,視軸上に強い混濁のある症例(後.下白内障・成熟白内障・角膜混濁・硝子体出血)や固視不良の症例は測定困難であるため12),両者の特徴をうまく生かし,臨床利用していくことが望ましいと考えられる.文献1)OlsenT:Sourcesoferrorinintraocularlenspowercalculation.JCataractRefractSurg18:125-129,19922)嶺井利沙子,清水公也,魚里博ほか:レーザー干渉による非接触型眼軸長測定の検討.あたらしい眼科19:121-124,20023)福山誠:眼内レンズ度数決定における眼軸長測定の重要性と問題点.日本の眼科69:339-343,19984)嶺井利沙子,清水公也,魚里博:IOLMasterTM.眼科手術15:49-51,20025)深井寛信,土屋陽子,野田敏雄ほか:光干渉式眼軸長測定器(IOLマスターTM)の眼軸長測定精度の検討.IOL&RS17:295-298,20036)VogelA,DickHB,KrummenauerF:Reproducibilityofopticalbiometryusingpartialcoherenceinterferometry:Intraobserverandinterobserverreliability.JCataractRefractSurg27:1961-1968,20017)勝木加香,福山会里子:レーザー光干渉と超音波Aモードによる眼軸長測定の検討.眼科手術17:401-404,20048)須藤史子,島村恵美子,大鹿哲郎ほか:新しい光干渉眼軸長測定装置OA-1000の測定精度と最適化A定数.IOL&RS23:568-572,20099)水島由紀子,川名啓介,須藤史子ほか:新しい光干渉式眼軸長測定装置による眼軸長測定の検討.眼科手術23:453-457,201010)氣田明香,須藤史子,島村恵美子ほか:光干渉式眼軸長測定装置OA-1000とIOLマスターRの比較.日本視能訓練士協会誌38:227-234,200911)ShammasHJ:ModernFormulasForIntraocularLensPowerCalculations.IntraocularLensPowerCalculations,p16-17,SLACKIncorporated,Thorotare,NJ,200412)須藤史子:光干渉眼軸長測定装置.眼科手術22:197-202,200913)FindlO,DrexlerW,MenapaceRetal:Improvedpredictionofintraocularlenspowerusingpartialcoherenceinterferometry.JCataractRefractSurg27:861-867,200114)ConnorsR3rd,BosemanP3rd,OlsonRJ:Accuracyandreproducibilityofbiometryusingpartialcoherenceinterferometry.JCataractRefractSurg28:235-238,2002***

Reverse Pupillary Block を合併した中心前房深度が深い閉塞隅角緑内障眼の1例

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)719《原著》あたらしい眼科28(5):719.722,2011cはじめにReversepupillaryblockとは瞳孔領を介する前房から後房に流れる房水抵抗が増加し虹彩が後方に突出し,周辺で虹彩がZinn小帯,毛様体を圧迫して閉塞隅角の状態を形成したものである.Karickhoff1)により仮説が提唱され,近年超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)により画像上でも立証されてきている2,3).色素性緑内障にみられることがあり,色素性緑内障の発症原因とも考えられている4,5)が,わが国での報告は少ない.治療法としてはレーザー周辺虹彩切開術(LPI)や濾過手術が報告されている.今回筆者らは,中心前房が深いために当初開放隅角緑内障と考えられ治療を受けていたreversepupillaryblockを合〔別刷請求先〕小倉拓:〒409-3898中央市下河東1110山梨大学医学部眼科学講座Reprintrequests:TakuOgura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofYamanashi,1110Shimokato,Chuo,Yamanashi409-3898,JAPANReversePupillaryBlockを合併した中心前房深度が深い閉塞隅角緑内障眼の1例小倉拓*1間渕文彦*2柏木賢治*2*1飯田病院眼科*2山梨大学大学院医学工学総合研究部眼科学講座ACaseofAngle-ClosureGlaucomawithDeepAnteriorChamberComplicatedwithReversePupillaryBlockTakuOgura1),FumihikoMabuchi2)andKenjiKashiwagi2)1)DepartmentofOphthalmology,IidaHospital,2)DepartmentofOphthalmology,InterdisciplinaryGraduateSchoolofMedicineandEngineering,UniversityofYamanashi目的:中心前房深度が深いために当初開放隅角緑内障と考えていたがreversepupillaryblockを合併した閉塞隅角緑内障が原因と思われた1例を報告する.症例:63歳,男性.近医より右眼眼圧上昇に対する点眼治療の反応が不安定なため紹介となった.中心前房深度は両眼とも3.0mmと深く,transilluminationsign,Krukenbergspindle,前房内炎症は認めなかった.超音波生体顕微鏡検査にて,両眼とも上方隅角の周辺虹彩前癒着(PAS)と他部位の狭窄を認めた.PASの範囲は右眼のほうが広かった.虹彩は菲薄化し,特に右眼の虹彩は強い陥凹形状を示し水晶体と虹彩は広範囲で接し毛様体は前方に圧排されていた.レーザー周辺虹彩切開術は無効で水晶体摘出と隅角解離術を施行した結果,眼圧は正常化した.結論:Reversepupillaryblockを合併した閉塞隅角緑内障を経験した.水晶体摘出術ならびに隅角解離術も治療法として検討する必要がある.Purpose:Toreportacaseofangle-closureglaucomafirstthoughttobeopen-angleglaucomabecauseofthedeepanteriorchambercomplicatedreversepupillaryblock.Case:A63-year-old-malewasreferredtousforinstabilityofintraocularpressureinhisrighteye,despiteinstillationtherapy.Centralanteriorchamberdepthwas3mminbotheyes.Therewasnotransilluminationsign,noKrukenbergspindleandnoanteriorchamberinflammation.Ultrasoundbiomicroscopyconfirmedthepresenceofperipheralanteriorsynechiaintheupwardangleandstrictureoftheotherangle.Theiriswasthinand,intherighteye,shapedconvexitybelow.Theciliarybodywasnoteffective;intraocularpressurewasnormalizedbylensextractionandgoniosynechialysis.Conclusion:Weexperiencedacaseofangle-closureglaucomawithdeepanteriorchambercomplicatedwithreversepupillaryblock.Itisnecessaryconsiderlensextractionandgoniosynechialysisastreatmentinsuchcases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):719.722,2011〕Keywords:reversepupillaryblock,中心前房深度,レーザー周辺虹彩切開術,周辺虹彩切除術,超音波生体顕微鏡.reversepupillaryblock,centralanteriorchamberdepth,laserperipheraliridotomy,peripheraliridectomy,ultrasoundbiomicroscope.720あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(118)併した閉塞隅角緑内障眼の1例を報告する.I症例63歳,男性.2008年6月右眼のかすみを自覚し近医を受診した.右眼の眼圧上昇を指摘され点眼薬による眼圧下降治療が行われたが,眼圧コントロールが不安定のため同年10月山梨大学附属病院へ紹介となった.現病歴,既往歴に特記すべきことはなく,ステロイドや塩酸タムスロシンの投薬歴はなく外傷の既往もなかった.初診時眼圧はトラボプロストを両眼1日1回,ニプラジロールを右眼1日2回使用して,両眼とも9mmHgであった.視力はVD=0.7(n.c.),VS=0.6(0.9×+1.5D)であった.右眼は軽度の緑内障性視神経障害を認めた(図1).両眼とも老人性白内障を認め,黄斑部に異常所見はなく,矯正視力の低下は白内障によるものと考えられた.TransilluminationsignとKrukenbergspindleは陰性で眼内炎症所見は認めなかった.瞳孔はroundで中心前房深度は両眼とも3.0mmと深かったが,上方の隅角にはSchlemm’scanalの高さに連続する周辺虹彩前癒着(PAS)左眼右眼図1両眼Humphrey30.2グレースケール右眼に緑内障性の視野変化を認める.左眼は正常範囲内.耳側上方下方鼻側図2右眼UBM所見右眼の虹彩が平坦か下に凸であることがわかる.また耳側から下方にかけて水晶体と虹彩が広く接触している.耳側上方下方鼻側図3左眼UBM所見上方隅角の閉塞を認める.他には大きな異常は認められない.(119)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011721が右眼9時から1時,左眼11時から1時に認められた.他の部位の隅角の開放度はShaffer2程度で線維柱帯の色素沈着は中等度であった.閉塞隅角緑内障が疑われたために後日負荷試験を施行した.11月に施行されたうつ伏せ負荷試験では右眼28mmHgから35mmHg,左眼16mmHgから23mmHgと右眼で境界程度の眼圧上昇であった.12月に施行された散瞳負荷試験では右眼20mmHgから23mmHg,左眼17mmHgから16mmHgと陰性であった.その間も右眼の眼圧は安定せず10mmHgから30mmHgの間で変動を認めた.UBMにての観察では両眼とも上方隅角の器質的閉塞が疑われた.虹彩は菲薄化し,特に右眼の虹彩は陥凹を強く示し水晶体と虹彩は広く接触していた(図2,3).その後も経過中の右眼眼圧は変動が大きく時に40mmHgを超えた.閉塞隅角緑内障による眼圧上昇機序を考え,2009年3月LPIを右眼に対し施行した.角膜内皮細胞密度は右眼2,347/mm3,左眼2,445/mm3であった.六角形細胞比率は右眼44%,左眼48%で一部にdarkareaを認めた.UBMではLPI後の虹彩と水晶体の広い接触は軽度改善し,一旦眼圧は下降したが再度上昇した.LI孔の大きさ,位置ともに問題はなく,外科的治療が必要と判断したが,視神経障害が軽度であること,白内障による視力低下があることから,8月27日右眼超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術+隅角解離術+周辺虹彩切除術(PEA+IOL+GSL+PI)を施行した.術後炎症がやや強く軽度の眼圧上昇を認めたものの,退院前には右眼眼圧は10mmHg前半となった.虹彩の後方への突出程度は軽減し眼内レンズと虹彩の広範囲な接触は認められていない.その後外来にて2010年12月24日まで経過観察を続けているが,眼圧は12~16mmHgにてコントロールされている.II考按今回筆者らが経験した症例はUBMの所見や,一旦閉塞が解除されるとしばらく正常眼圧が維持された経過などから,reversepupillaryblockを合併した閉塞隅角による眼圧上昇をきたしたと考えられた.Reversepupillaryblockは正常眼でも調節時にみられるほか,色素性緑内障に発症すると報告されている1,5)が,本症例では色素性緑内障に認められるtransilluminationsign,Krukenbergspindle,線維柱帯の強い色素沈着などの三主徴のうち,少なくともtransilluminationsignとKrukenbergspindleは認められず色素性緑内障とは確定できない.色素性緑内障はreversepupillaryblockに伴う虹彩裏面とZinn小帯の接触(irido-zonularcontact)や虹彩裏面と毛様体突起の接触(irido-ciliarycontact)による続発開放隅角緑内障であるとされている.Reversepupillaryblockでは一般的にPASは起こらないとされているが,今回の症例では他に続発性にPASを形成する因子は認められなかった.虹彩も薄く,薬剤歴はないものの,もともとfloppyirissyndrome様の所見があり,虹彩と水晶体の形状からreversepupillaryblockと診断されたものの眼圧上昇機序の中心は閉塞隅角によるものと思われた.これまでわが国ではreversepupillaryblockに閉塞隅角緑内障を合併した報告はみられない.Reversepupillaryblockの治療としてはLPIが選択されることが多いが,本症例では一過性に眼圧が改善したものの再上昇をすぐにきたしたためLPIの有用性に関しては疑問がある.実際reversepupillaryblockに対するLPIの長期有用性に関しては最近否定的な論文も散見される6).これはおそらく隅角閉塞機序による眼圧上昇だけではなく線維柱帯の流出障害もあるためと考えられる.しかしながら本症例ではLPIによっても水晶体と虹彩の接触が広く残っていたために閉塞隅角の解消には至らず眼圧が再上昇したものと考えられる.今回reversepupillaryblockの要因が考えられ虹彩形状が容易に変形する可能性もあったため,手術の際にPIを追加した.手術後は虹彩の陥凹形状が平坦化し,虹彩と水晶体の接触面が減少し,術後眼圧が安定した.本症例と鑑別を要する疾患としてはPosner-Schlossman症候群や他の続発緑内障があげられるが,既往や経過を通して角膜,隅角を含めた炎症性の変化など他の続発緑内障の存在を示す証拠を認めないことから否定的である.また,UBM所見よりプラトー虹彩症候群とも異なり,隅角所見は両眼とも同様であり外傷などによるものも考えにくい.さらに63歳と高齢で視神経障害も軽度のことから発達緑内障などの可能性は低いと考えられる.Reversepupillaryblockに対する治療としてはLPIや濾過手術の報告がある6~8).水晶体摘出術やGSLはみられないが,本症例ではreversepupillaryblockに対する治療法の一つとして水晶体摘出により濾過手術を行わずに眼圧コントロールを得ることができた.PAS範囲が少ないことから今回のGSLの有効性に関しては不明であるが,reversepupillaryblockが疑われる症例ではUBMなどを使用し,十分に眼圧上昇機序を検討した後,LPIや濾過手術のほかに水晶体摘出術も選択肢として検討する必要があると思われた.文献1)KarickhoffJR:Pigmentarydispersionsyndromeandpigmentaryglaucoma:anewmechanismconcept,anewtreatment,andanewtechnique.OphthalmicSurg23:269-277,19922)PotashSD,TelloC,LiebmannJetal:Ultrasoundbiomicroscopyinpigmentdispersionsyndrome.Ophthalmology101:332-339,19943)上田潤,沢口昭一,渡辺穣爾ほか:調節に伴う虹彩の後方湾曲色素散乱症候群の病態解明に向けて.日眼会誌722あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(120)101:187-191,19974)LaemmerR,MardinCY,JuenemannAG:Visualizationofchangesoftheirisconfigurationafterperipherallaseriridotomyinprimarymelanindispersionsyndromeusingopticalcoherencetomography.JGlaucoma17:569-570,20085)CampbellDG:Pigmentarydispersionandglaucoma.Anewtheory.ArchOphthalmol97:1667-1672,19796)ReistadCE,ShieldsMB,CampbellDGetal:Theinfluenceofperipheraliridotomyontheintraocularpressurecourseinpatientswithpigmentaryglaucoma.JGlaucoma14:255-259,20057)若林卓,東出朋巳,杉山和久:薬物療法,レーザー治療および線維柱帯切開術を要した色素緑内障の1例.日眼会誌111:95-101,20078)MigliazzoCV,ShafferRN,NykinRetal:Long-termanalysisofpigmentarydispersionsyndromeandpigmentaryglaucoma.Ophthalmology93:1528-1536,1986***

Descemet’s Stripping Automated Endothelial Keratoplasty 術後における角膜内皮細胞密度の変化と影響因子の検討

2011年5月31日 火曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)715《原著》あたらしい眼科28(5):715.718,2011c〔別刷請求先〕中川紘子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学Reprintrequests:HirokoNakagawa,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajiicho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPANDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplasty術後における角膜内皮細胞密度の変化と影響因子の検討中川紘子*1,2稲富勉*2稗田牧*2外園千恵*2横井則彦*2木下茂*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学CornealEndothelialCellLossandInfluencingFactorsafterDescemet’sStrippingAutomatedEndothelialKeratoplastyHirokoNakagawa1,2),TsutomuInatomi2),OsamuHieda2),ChieSotozono2),NorihikoYokoi2)andShigeruKinoshita2)1)BaptistEyeClinic,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine目的:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)術後の角膜内皮細胞密度(ECD)の変化と影響因子についてレトロスペクティブに検討した.対象:対象は水疱性角膜症に対して海外プレカットドナー角膜を用いてDSAEKを施行した100例104眼,平均年齢は72.9±10.6歳,平均経過観察期間は18.1±9.3カ月.結果:プレカット前の平均ドナーECDは2,946±313cells/mm2であり,プレカット処理によるECD減少率は5.1%であった.術後6,12,24カ月でのECDは,2,039±478cells/mm2,1,919±550cells/mm2,1,598±596cells/mm2であり,減少率は30.4%,34.6%,44.3%であった.ドナー年齢,ドナー摘出条件,白内障同時手術の有無はECDの経過に影響を与えなかったが,空気再注入症例ではECD減少率が有意に大きかった.結論:プレカットドナー角膜を用いたDSAEKは良好な角膜内皮細胞の生着を示した.Purpose:ToinvestigatecornealendothelialcelllossandinfluencingfactorsinpatientswhounderwentDescemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK).Subjects:Thisstudyinvolvedtheretrospectiveanalysisofcornealendothelialcelllossandinfluencingfactorsin104eyesof100patientswhounderwentDSAEKforbullouskeratopathyusingprecutdonorcorneasobtainedfromanoverseaseyebank.Theaverageageofthepatientswas72.9±10.6yearsandthemeanfollow-uptimewas18.1±9.3months.Results:Themeanendothelialcelldensity(ECD)ofthedonorcorneasbeforetheprecutwas2,946±313cells/mm2,andrepresentinga5.1%celllossaftertheprecut.ThemeanECDat6,12,and24monthsafterDSAEKwas2,039±478,1,919±550,and1,598±596cells/mm2,respectively,thusindicatingarespective30.4%,34.6%,and44.3%ECDlosscomparedwiththatofbeforetheprecut.Theendothelialcelllosswasnotinfluencedbythedonorage,thedonorcorneaextractionmethod,orbywithorwithoutsimultaneouscataractsurgery.PatientswhounderwentrebubblingafterDSAEKshowedgreatercelllossthanpatientswhodidnot.Conclusions:ThefindingsofthisstudyshowthatDSAEKusingaprecutdonorcorneaobtainedfromanoverseaseyebankisasafeandeffectivetreatmentforbullouskeratopathy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(5):715.718,2011〕Keywords:DSAEK,角膜内皮移植術,角膜内皮細胞密度,プレカットドナー,水疱性角膜症.DSAEK,endothelialkeratoplasty,cornealendothelialcelldensity,precutdonor,bullouskeratopathy.716あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(114)はじめに水疱性角膜症に対する外科治療としては全層角膜移植術(penetratingkeratoplasty:PKP)が適応であったが,近年は角膜内皮移植術(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)が第一選択となる症例が増えてきている.DSAEKはPKPと比較して,早期より視力改善効果が得られ,不正乱視も少なく視機能回復面からも優れ,眼球の強度も保たれるため外傷にも強いというメリットがある1~4).しかし角膜の透明性の維持には角膜内皮細胞の長期的な生着が必須であり,欧米においては長期経過も報告されているが,わが国では短期成績の報告しかなく5),長期経過については明らかではない.わが国では水疱性角膜症の主要原因疾患としてレーザー虹彩切開術後が多くを占めており6),対象疾患の比率や前眼部形態が異なることにより角膜内皮細胞密度(ECD)の長期経過も異なる可能性がある.海外プレカットドナー角膜を用いたDSAEK術後100例104眼の中期間での検討を行ったので報告する.I対象および方法対象は,2007年8月から2010年7月の間にバプテスト眼科クリニックで水疱性角膜症に対してDSAEKを施行し,術後に拒絶反応や,空気再注入以外の内眼手術の追加処置なく経過観察が可能であった100例104眼である.性別は男性が50眼,女性が54眼であり,手術施行時の平均年齢は72.9±10.6歳(平均値±標準偏差),平均経過観察期間は術後18.1±9.3カ月(4~38カ月)であった.レトロスペクティブにECDの経時変化,術式との関連性,ドナー角膜の条件および,原疾患との関係について検討した.水疱性角膜症の原因疾患の内訳は,レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症(LIBK)が40眼(39%),偽水晶体性水疱性角膜症(PBK)が19眼(18%),多重緑内障手術後が15眼(14%),Fuchs角膜内皮ジストロフィが14眼(13%),PKP後再移植例が3眼(3%),無水晶体性水疱性角膜症が2眼(2%),その他が11眼(11%)であった.術式の内訳は偽水晶体眼に対するDSAEK単独施行例が65眼(63%)で,DSAEKと白内障手術の同時施行例が39眼(37%)であった.移植グラフトは米国アイバンク(SightLifeTM,Seattle,WA,USA)からのプレカットドナー角膜を用いた.DSAEK術式はすべての症例に対して前房メインテナーにより前房深度を維持しながら逆Sinskeyフック(DSAEKPriceHookTM,モリア・ジャパン,東京)を用いてDescemet膜を.離した後,約4~5mmの耳側角膜切開創よりDSAEKBusinGlideSpatulaTM(モリア・ジャパン,東京)を用いてグラフトを挿入した.グラフト内皮面はヒアルロン酸ナトリウムにより保護し,前房内に空気を注入し眼圧を正常化させて手術を終了した.ECDの測定は,ドナーの値についてはプレカット前後に米国アイバンクにて測定された値を用いた.術後の値については,非接触型スペキュラーマイクロスコープ(EM3000TM,TOMEY)にて測定した.統計学的解析に関しては,2群の差の検討にはMann-Whitney’sUtest,相関の検討にはSpearman’scorrelationcoefficientbyranktest,原疾患別の検討にはKruskal-Walistestを用いた.すべての検定でp<0.05を統計学的に有意とした.II結果1.プレカット処理および術後期間によるECDの推移海外プレカットドナー角膜のプレカット前の平均ECDは2,946±313cells/mm2,プレカット後は2,787±343cells/mm2であり,プレカット処理によるECD減少率は5.1%であった.術後1,6,12,18,24カ月での平均ECDは,2,220±396cells/mm2(96眼),2,039±478cells/mm2(90眼),1,919±550cells/mm2(62眼),1,805±604cells/mm2(37眼),1,598±596cells/mm2(31眼)であり(図1),プレカット前のECDと比較した術後1,6,12,18,24カ月でのECD減少率はそれぞれ24.4%,30.4%,34.6%,38.1%,44.3%であった.2.手術によるECD減少率手術によるECD減少率は,プレカット後と術後1カ月の間の減少率とし,平均減少率は19.9%(96眼)であった.グラフトの接着不良のため,9眼(9%)で初回手術以降に再度空気注入術を必要とし,これらの症例でのECD減少率は31.7%であり,再注入を行わなかった例と比べると有意に高かった(p=0.01).空気再注入術を行った症例のうち7眼は1回の再注入のみでグラフトの良好な接着が得られたが,こ角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000前後1カ月6カ月12カ月18カ月24カ月30カ月プレカット術後経過期間図1平均角膜内皮細胞密度の変化プレカット前後のECDは2,946cells/mm2,2,787cells/mm2であり,減少率は5.1%であった.術後1,6,12,24カ月でのプレカット前ECDからの減少率はそれぞれ24.4%,30.4%,34.6%,44.3%であった.(115)あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011717れらでの手術によるECD減少率は26.7%であり,非再注入群との間に有意差は認めなかった(p=0.13).3.術式とECD減少の関連性DSAEK単独手術群と白内障同時手術群でECDの減少について比較した.プレカット後の平均ECDは,単独手術群で2,734±318cells/mm2(66眼),白内障同時手術群で2,847±359cells/mm2(48眼)で両群間に有意差は認めず(p=0.15),術後1カ月でのECDも単独手術群で2,195±397cells/mm2(53眼),白内障同時手術群で2,269±361cells/mm2(33眼)であり,両群間に有意差は認めなかった(p=0.48)(図2).4.ドナー角膜条件とECD減少の関連性本検討のドナー角膜の条件は,平均年齢59.4±12.2歳(17~75歳),平均死亡~強角膜片作製時間は532±256分,平均死亡~手術日数は5.1±1.0日,グラフトサイズは,7.5mmが5眼,7.75mmが13眼,8mmが77眼,8.25mmが5眼,8.5mmが4眼であった.ドナー年齢とプレカット前のECDには相関は認めず,術後12カ月と術後24カ月のECDにおいてもドナー年齢との相関は認めなかった.死亡~強角膜片作製時間および,死亡~手術日数とECDの間にも同様に相関は認めなかった.各グラフトサイズにおける術後24カ月の内皮細胞密度は7.5mmが1,470cells/mm2(2眼),7.75mmが1,006cells/mm2(5眼),8mmが1,688cells/mm2(20眼),8.25mmが1,741cells/mm2(2眼),8.5mmが2,235cells/mm2(2眼)であり有意な相関を認め,グラフトサイズが大きいほど内皮細胞密度が高い傾向にあった(相関係数=0.52,p=0.003).5.原疾患とECD減少の関連性術後6カ月での主要な原疾患別のECDは,LIBKが2,144±401cells/mm2(37眼),PBKが1,911±508cells/mm2(17眼),多重緑内障手術後が1,828±609cells/mm2(12眼),Fuchs角膜内皮ジストロフィが2,240±299cells/mm2(10眼)であった.多重緑内障手術後は他の群に比べてECDが低い傾向にあったが,統計学的な有意差は認めなかった.術後12カ月での原疾患別のECDはLIBKで2,098±393cells/mm2(24眼),PBKが1,898±659cells/mm2(10眼),多重緑内障手術後が1,538±776cells/mm2(8眼),Fuchs角膜内皮ジストロフィが2,247±444cells/mm2(10眼)であり,同様の傾向であった(図3).III考察今回筆者らは,DSAEK術後の中期的なECDの変化と,それに影響を与えていると考えられるドナー条件,ホストの臨床背景および術式に関連する因子について検討を行った.欧米での既報では,ECDおよび減少率についてPriceらは263眼において術後6カ月では2,000±540cells/mm2で減少率は34%,12カ月では1,900±480cells/mm2で減少率は36%(192眼),24カ月では1,800±490cells/mm2で減少率は41%(65眼)と報告しており7),Terryらは80眼において術後6カ月では1,908±354cells/mm2で減少率は34%,12カ月では1,856±371cells/mm2で減少率は35%であると報告している8).本検討での結果では術後6,12,24カ月での減少率は30.4%,34.6%,44.3%であり,既報と同程度のECDが維持できていた.ドナー角膜は全例米国アイバンクでプレカットされたもので,プレカット処理によるECD減少率は5.1%,プレカット後の平均ECDは2,787cells/mm2であった.ドナー平均年齢は60歳,平均死亡~強角膜片作製時間は532分,平均死亡~手術日数は5日間であり,安全なドナー角膜が提供さ角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000■:プレカット後■:術後1カ月単独手術白内障同時手術図2単独手術と白内障同時手術の比較術後1カ月でのECDは単独手術群で2,195cells/mm2,白内障同時手術群で2,270cells/mm2であり,術式により減少率に差は認めなかった.角膜内皮細胞密度(cells/mm2)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000LIBKPBKGlaucomarelatedFuchs図3原疾患別の術後12カ月でのECDの比較術後12カ月でのECDには原疾患による有意な違いは認めなかったが,緑内障群で低い傾向を認めた.LIBK:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症,PBK:偽水晶体性水疱性角膜症,Glaucomarelated:多重緑内障手術後,Fuchs:Fuchs角膜内皮ジストロフィ.718あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011(116)れていた.ドナー年齢,死亡~強角膜片作製時間,死亡~手術日数によって術後のECDの経時変化に差を認めなかったが,グラフトサイズでの検討ではサイズの大きさと術後1年および2年でのECDには相関を認め,サイズを決める際には角膜径や前房深度に合わせてできるだけ大きめのサイズを選択するのが望ましいと考えられた.今回筆者らは白内障手術の同時施行の有無および空気再注入の有無のECDへの影響を検討したが,DSAEK単独手術の場合と白内障手術を同時に行った場合とでの両術式によるECD減少の違いは認めなかった.術後早期合併症としてグラフトの接着不良が散見されたが,Priceらは,263眼中17眼(6.5%)にグラフトの接着不良を認め空気の再注入が必要であり,これらの群では術後6カ月でのECD減少率は45±20%で,良好例と比較して減少率が有意に高かったと報告している5).今回の検討でも空気再注入例では,再注入を要しなかった例と比較してECDの減少率が有意に高いが,1回のみの再注入に関しては統計学的な有意差は認められなかった.グラフトの接着不良による空気の再注入はECD減少の危険因子となるが,複数回に及ばなければ影響は少ないと考えられた.ホストの臨床背景とECD減少との関連性について,欧米の既報では原疾患としてFuchs角膜内皮ジストロフィが最も多く7,8),PriceらはFuchs角膜内皮ジストロフィとPBKにおける術後12カ月での内皮減少率はそれぞれ37%,41%で,原疾患による減少率の間に有意差を認めなかったと報告している9).今回の検討では同様にFuchs角膜内皮ジストロフィとPBKでは有意差は認めず,多重緑内障手術後群でECDが低い傾向を認めたが有意差は認めず,疾患群間でのECD変化の差異については多数例での検討が必要である.移植術後のECDの長期経過では角膜内皮細胞の創傷治癒が関連するが,PKPでは長期経過が多数報告されているものの,DSAEKでの長期経過の報告はまだ少ない.DSAEKではPKPと比較しホストグラフトジャンクションの形状が異なるため創傷治癒においても内皮細胞動態が異なる可能性が高い.Priceらは術後1年ではDSAEKでのECD減少率が38%とPKPでの20%に比較して高いことを報告している9).IngらによるPKPの長期経過の報告では術後1,3,5年の内皮細胞密度が1,958cells/mm2,1,376cells/mm2,1,191cells/mm2と1年以降も減少し10),一方DSAEKの術後6カ月以降のECD減少は比較的ゆるやかに変化しており,術後6カ月から2年の間の中期的な減少率は6~7%程度であると報告されている7,11).このように長期的なECDの経時変化はDSAEKとPKPで異なると推測されている.DSAEKの有効性を検討するうえでは今後長期的な多数例でのECDの変化を検討するとともに,広視野の接触型スペキュラマイクロスコープを用いたホストグラフトジャンクションを含む広範囲での角膜内皮細胞動態を検討することが重要である.文献1)GorovoyMS:Descemet-strippingautomatedendothelialkeratoplasty.Cornea25:886-889,20062)PriceMO,PriceFW:Descemet’sstrippingendothelialkeratoplasty.CurrOpinOphthalmol18:290-294,20073)MellesGR:Posteriorlamellarkeratoplasty:DLEKtoDSEKtoDMEK.Cornea25:879-881,20064)PriceFW,PriceMO:Descemet’sstrippingwithendothelialkeratoplastyin50eyes:arefractiveneuralcornealtransplant.JRefractSurg21:339-345,20055)市橋慶之,冨田真智子,島.潤:角膜内皮移植術の短期治療成績.日眼会誌113:721-726,20096)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.Cornea26:274-278,20077)PriceMO,PriceFW:EndothelialcelllossafterDescemetstrippingwithendothelialkeratoplastyinfluencingfactorsand2-yeartrend.Ophthalmology115:857-865,20088)TerryMA,ChenES,ShamieNetal:EndothelialcelllossafterDescemet’sstrippingendothelialkeratoplastyinalargeprospectiveseries.Ophthalmology115:488-496,20089)PriceMO,GrovoyM,BenetzBAetal:Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplastyoutcomescomparedwithpenetratingkeratoplastyfromtheCorneaDonorStudy.Ophthalmology117:438-444,201010)IngJJ,IngHH,NelsonLRetal:Ten-yearpostoperativeresultsofpenetratingkeratoplasty.Ophthalmology105:1855-1865,199811)BusinM,BhattPR,ScorciaVetal:AmodifiedtechniqueforDescemetmembranestrippingautomatedendothelialkeratoplastytominimizeendothelialcellloss.ArchOphthalmol126:1133-1137,2008***