0910-1810/12/\100/頁/JCOPY高齢者の診察時には,話す速度や一度に与える情報量を個人の理解力に合わせるようにする.また,問題に対する解決能力も加齢とともに減少していくので,新しい行動パターンを取り入れさせるときは,徐々に・段階を踏みながら行うことが大切である.理解力・記憶力の低下により正確な病状把握・意思疎通が困難な際には,家族・ソーシャルワーカーに同席してもらうことを考慮する.2.感覚・知覚(視覚,聴覚,味覚,嗅覚,皮膚感覚)の変化高齢者の感覚・知覚の変化のなかで,視覚変化を除き眼科診療において注意を払うべき点は,聴覚の変化である.加齢に伴い,高い音(高音域)を聞き取る能力が徐々に低下するが,低い音(低音域)を聞き取る能力は比較的低下せずに保たれる.また,2つ同時の音を識別する能力も低下するため,騒音のなかでの会話は,相手が話しているということはわかるものの,意味がわからない,のが高齢者の特徴である.難聴は一般的には女性より男性のほうが顕著であり,「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」によると,WHO分類Grade1以上の難聴は男女とも70歳以上では半数に認め,さらに日常生活に支障をきたすGrade2以上の障害は,70歳代男性の5人に1人,女性の10人に1人認めている2).対処法としては,難聴があるからといってやみくもにはじめに今後,「超高齢化社会」を迎えていく日本において,高齢者の緑内障患者数は増加の一途をたどるものと思われる.緑内障治療の目標は「天寿を全うするまで日常生活に支障ない視機能を維持する」ことであり,高齢者においても治療の基本は「眼圧下降」であることに変わりはないが,高齢者では身体的・生理的機能の衰えに加え,社会的環境変化などの要素が複雑に関与するため非高齢者とは異なる対応が必要であると思われる.I加齢に伴う身体的変化加齢に伴う一般的な変化を以下に示す.1.脳・神経系(知的機能)の変化加齢による脳・神経系の機能変化は,「生理的知能低下」と「病的知能低下」に分けられる.「生理的知能低下」では,理解力・記憶力が低下する.一方,「病的知能低下」には老人性Alzheimer病,Parkinson病,脳血管障害(脳梗塞・脳出血)などがある.現在,日本の認知症高齢者数(何らかの介護・支援を必要とする痴呆がある高齢者数)は約180万人,65歳以上の有病率は10%程度であるが,85歳以上では30%にのぼる1).高齢者ではこのような知的機能の変化から,コミュニケーション障害をきたすのみならず,性格や人格が変化することがしばしば見受けられ,対人関係が困難となり孤独化を誘うことも多くみられる.(31)31*TomokoNaito:岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座(眼科学)〔別刷請求先〕内藤知子:〒700-8558岡山市北区鹿田町2-5-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科機能再生・再建学専攻生体機能再生・再建学講座(眼科学)特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):31?35,2012高齢者の緑内障薬物治療GlaucomaMedicationforElderlyPatients内藤知子*32あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(32)①一度障害された視神経は元には戻らないので治療で視野障害が改善するわけではない.②しかし治療をしなければさらに障害が進行していく.③緑内障において現在エビデンスのある治療は眼圧下降療法のみである.ことを説明し,④だから治療が必要である.と,受け入れてもらう.高齢者において病態理解を得る際には,前述したように「理解力・記憶力の低下」と「難聴」が大きな障害となることがある.医療者側は高齢者の身体的・生理的変化を理解したうえで,根気強く,支持的な態度で説明を繰り返していくことが,円滑な診療を進めるためには重要である.III処方時高齢者においても,処方する緑内障点眼薬に求められることは,まず「眼圧下降効果」である.眼圧上昇の原因が緑内障以外に考えられる場合には(ぶどう膜炎に伴う緑内障,ステロイド緑内障など),眼圧下降療法と並行して原因に対する治療が必要である.現時点での緑内障点眼治療の第一選択薬としては,眼圧下降効果が高い・点眼回数が1日1回である・全身的副作用がみられない,などの点からプロスタグランジン関連薬が処方されることが多い.プロスタグランジン関連薬の問題点としては,眼瞼皮膚の色素沈着・睫毛変化,上眼瞼のくぼみなどがあり,特に女性や片眼投与患者では事前にきちんと説明し,気になる場合は洗顔前・入浴前の点眼を勧める.また,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロストの4種類のプロスト系プロスタグランジン関連薬には数%?20%のnonresponderの存在が知られている.それぞれが類似した薬剤であるが,その眼圧下降効果には個人差があり,ある薬剤に反応が悪い場合でも,別の薬剤では眼圧下降がみられることもあるので6),眼圧下降を得られない場合には変更を試み,それでも有効性が確認できない場合に,別の系統の薬剤に変更することも考慮する.単剤投与で目標眼圧を達成できない・効果不十分である場合には,全身合併症との兼ね合いをみながらb遮大きな声で話せばよいというわけではなく,耳元で・やや低めの声で,語尾をはっきりとさせて話すのが効果的であるとされている3).難聴者は相手の唇を読んだり,顔色を見たり,身振りなどを頼りにしていることも多いので,できればマスクはせずに口の動きや表情がわかるように患者の正面に顔を向けて,身振り手振りを交えながら話しかけるなどの工夫を行う.3.内臓機能(呼吸器・循環器系,消化器系,内分泌系)の変化加齢による内臓機能の変化については,眼科医はb遮断薬と関連する疾患に特に熟知する必要がある.b遮断薬の禁忌疾患としては,気管支喘息・重篤な慢性閉塞性肺疾患(COPD)・徐脈・房室ブロックII度・III度・コントロール不良な心不全があげられる.これらの疾患に対し,b遮断薬はときに致死的な副作用をきたす.COPDは最近日本でも増加傾向にあり,2001年発表の大規模な疫学調査〔NICE(TheNipponCOPDEpidemiology)スタディ〕によると,日本における患者数は推定530万人,70歳以上の高齢者では有病率17.4%にのぼる4).心不全に対してはb遮断薬が必ずしも禁忌でない場合も多いが,使用時には内科医に相談するほうが望ましいと思われる.これらの疾患では,患者自身が病状を把握していない・正しく診断されていない,など,潜在患者が多いことにも留意する.II処方前緑内障は,基本的には「超」慢性疾患であり,治療は生涯にわたる.この際,特に初期緑内障では,「生活上の不自由」をまったく感じていないことが大半であるため,視野障害は黒く見えるわけではなく5),初期のうちは障害を自覚することはほとんどないことを説明する.一方,「緑内障=失明」と短絡的に考え,不安に陥る患者も少なくない.これらに対しては,確かに緑内障は進行性であるが,治療により失明の危険性を最小化しうることを,繰り返し説明する.緑内障治療を成功させるためには患者の治療への「積極的参加」が不可欠であり,そのためにまず患者から「なぜ点眼加療が必要なのか」の納得を得る必要がある.(33)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201233面からは「患者が積極的に治療方針の決定に参加し,治療を実施,継続すること」と訳される.治療の継続性すなわちアドヒアランスの低下は緑内障の最大の予後不良因子の一つであることが報告されている8)が,緑内障点眼を眼科医の指示通りに遂行できている割合は60%程度だという報告もある9).アドヒアランスに影響を与える要因としては,一般的に薬剤数や点眼回数のほか,病態理解度,および病状認知度などがあげられる10?13).実際に筆者らが行った緑内障の点眼アドヒアランスに関する調査14)では,全体では患者の78%が指示通りの点眼ができており,65歳以上の高齢者では81%が指示通りにできていた(図1).指示通りの点眼の有無と背景因子との関連を検討したところ,非高齢断薬や炭酸脱水酵素阻害薬などへの変更・追加を検討する.高齢者では呼吸器・循環器系の合併症を有している場合が多く,b遮断薬を処方する際には注意が必要であるので,事前にしっかり問診をとり,合併症の有無を把握する.高齢者は多系統の疾患を有していることが多く,忘れている疾患もあるので,既往歴の聴取は繰り返し行い,薬剤服用に関しては実物あるいは説明書を見せてもらうとよい.高齢者では患者自身が合併症を把握していない潜在患者であることも多いので,点眼後,息苦しくなるような場合は点眼を中止して来院することも指示しておく.b遮断薬のゲル化製剤や,懸濁液である炭酸脱水酵素阻害薬では,点眼直後に霧視を生じやすい.視機能の落ちた症例では,点眼による霧視は強い不安感を煽ることがあるので,「点眼後はしばらく霞みますよ」と事前に説明しておく.その他,a1遮断薬,a1b遮断薬,副交感刺激薬などの選択肢がある.点眼アドヒアランスが不良と判断される場合には,点眼本数・点眼回数を減らす目的で,配合剤を処方することも症例に応じて検討する.現在日本では,3剤の配合剤が使用可能であり,ザラカムRはラタノプロストとチモロール,デュオトラバRはトラボプロストとチモロール,コソプトRはドルゾラミドとチモロールの配合剤である.3剤ともb遮断薬(チモロール)に他剤を組み合わせており,ザラカムR,デュオトラバRは1日1回,コソプトRは1日2回の点眼である.これらの配合剤を処方する際には,いずれの配合剤にもb遮断薬が配合されていることを忘れてはならず,その副作用について留意する必要がある.また,「しみる」,「充血」などのその他の眼局所的な副作用に関しても,前もって予告しておくことで,点眼時の驚き・不安感を減少させ,点眼導入・継続がスムーズになる.IV処方後近年医療界では,正しく治療を継続することを意味する言葉として,コンプライアンスに代わりアドヒアランスが用いられるようになった.アドヒアランスは,直訳すると「執着・粘着・支持」であるが,「何かに対し愛着を感じ継続する」という意味を包含しており7),医療表1緑内障アンケート調査―指示通りの点眼に関わる因子ほぼ指示通りに点眼できている指示通りに点眼できていないp値性別男性75例(40.5%)女性110例(59.5%)男性31例(60.8%)女性20例(39.2%)0.0101*年齢66.4±12.1歳60.3±15.0歳0.0028**眼圧13.9±3.0mmHg13.3±2.6mmHg0.2158**MD値?10.2±8.1dB?9.8±8.9dB0.7902**緑内障点眼薬数1.7±0.8剤1.8±0.8剤0.5593**通院頻度8.6±3.6回/年7.7±3.2回/年0.1193***:c2検定,**:t検定.65歳未満65歳以上全体しばしば2%しばしば1%しばしば4%時々できない20%時々できない26%時々できない15%ほぼ指示通りにできている78%ほぼ指示通りにできている73%ほぼ指示通りにできている81%図1緑内障アンケート調査―質問「指示通りの点眼ができていますか?」34あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(34)かどうかをみることも有用とされている15).なお,アドヒアランスが不良と判断された場合も,非難的な態度でなく,むしろ,励ましをまじえながら,「パートナーシップ」を形成するように努める.アドヒアランスの本質は,患者との良好な信頼関係にほかならない.おわりに高齢者といってもその身体的・生理的機能,社会的背景はさまざまであり,個人差も非常に大きい.一人ひとりの「QOLを損なわない範囲」で,「天寿を全うするまで視機能を維持する」ことを目指すなかで,われわれは個々の症例に応じた対応を行い,効果と副作用のバランスを評価しつつ,高齢者が安心して快適な余生をおくれるように緑内障診療を進めていきたいと考える.文献1)下濱俊:我が国における認知症高齢者の実態.日本医事新報4410:60-62,20082)内田育恵:加齢性難聴の疫学.総合臨床60:131-132,20113)山本君子:高齢者の身体的特徴,知っておくべき基礎知識.介護人財育成ぷらす6:51-55,20094)福地義之助:日本における疫学.「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」,第2版ポケットガイド,p2-3,メジカルビュー社,20045)吉川啓司:暗点について.実戦緑内障,p55,金原出版,19966)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypotensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin20:1341-1345,2004者よりも高齢者,男性よりも女性で,指示通りの点眼ができており,年齢・性別がアドヒアランスに影響すると考えられた(表1).また,眼圧値の認知を病状認知度の尺度に用いたが,興味深いことに高齢男性においては,眼圧を認知している症例ほど有意に指示通りの点眼ができており(図2),病状認知度がアドヒアランスを大きく左右する可能性が示された.一方,女性では眼圧認知の有無にかかわらず,高齢者・非高齢者ともに比較的きちんと点眼できていた(図3).高齢者のアドヒアランス向上のための眼科医の対応の第一歩として,患者の病状認知度を高める努力は大変重要であると思われる.さらに高齢者の点眼治療を考えるうえで,重要な課題でありながら見過ごされていることとして点眼手技の問題があり,実際に目の前で患者に点眼してもらうと適切な点眼操作が行えている患者は意外にも少ない.毎回忘れずに点眼してはいるものの液がほとんど眼の中に入っていない患者もときにみられる.このような患者に対してはコメディカルの協力のもと点眼指導を根気よく行うことが求められる.高齢者では手指が不自由であるが故に点眼操作がおぼつかないことがあり,患者家族による介助が必要な場合もある.また,点眼時刻は,点眼薬の効果持続時間に基づいて毎日の点眼時刻をできるだけ決めるよう指導し15),点眼行為に規則性をもたせて,習慣化させるようにする16).指示通りの点眼ができているかどうかの判定法として,「昨晩は何時に点眼しましたか」などの問いかけを予告なく行い,よどみなく回答できる眼圧値を知っている(n=41)眼圧値を知らない(n=13)眼圧値を知っている(n=47)眼圧値を知らない(n=5)*p=0.0081(Fisherの直接確率)ほぼ指示通り61.7%時々できない38.3%ほぼ指示通り87.8%時々12.2%しばしばできない15.4%ほぼ指示通り60.0%時々できない40.0%ほぼ指示通り53.8%時々できない30.8%65歳未満65歳以上図2緑内障アンケート調査―「指示通りの点眼」と「眼圧の認知」の関連(男性)眼圧値を知っている(n=66)眼圧値を知らない(n=14)眼圧値を知っている(n=48)眼圧値を知らない(n=2)ほぼ指示通り83.3%ほぼ指示通り86.4%時々12.1%しばしばできない1.5%時々14.6%しばしばできない2.1%ほぼ指示通り100%ほぼ指示通り78.6%時々21.4%65歳未満65歳以上図3緑内障アンケート調査―「指示通りの点眼」と「眼圧の認知」の関連(女性)(35)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201235glaucoma:objectivemeasurementsofonce-dailyandadjunctivemedicationuse.AmJOphthalmol144:533-540,200713)LaceyJ,CateH,BroadwayDC:Barrierstoadherencewithglaucomamedications:aqualitativeresearchstudy.Eye23:924-932,200914)高橋真紀子,内藤知子,吉川啓司ほか:緑内障点眼薬使用状況のアンケート調査“第一報”.あたらしい眼科28:1166-1171,201115)吉川啓司:開放隅角緑内障の点眼薬使用状況調査.臨眼57:35-40,200316)南野麻美,安田典子:緑内障1日教育入院の試み①.FrontiersinGlaucoma4:164-167,20037)尾鷲登志美,上島国利:コンプライアンスからアドヒアランスへ.薬事50:373-376,20088)ChenPP:Blindnessinpatientswithtreatedopen-angleglaucoma.Ophthalmology110:726-733,20039)ReardonG,SchwartzGF,MozaffariE:Patientpersistencywithtopicalocularhypotensivetherapyinamanagedcarepopulation.AmJOphthalmol137:S3-12,200410)NordstromBL,FriedmanDS,MozaffariEetal:Persistenceandadherencewithtopicalglaucomatherapy.AmJOphthalmol140:598-606,200511)TsaiJC:Medicationadherenceinglaucoma:approachesforoptimizingpatientcompliance.CurrOpinOphthalmol17:190-195,200612)RobinAL,NovackGD,CovertDWetal:Adherencein