0910-1810/11/\100/頁/JCOPYする傾向にある.議論の分かれる部分もあるが,ここででは病態生理に即した観点から,ABCA4異常に関連する網膜症を便宜上Stargardt病と呼称する.近年,臨床症例の集積と分子遺伝生物学の発展により,病態生理の解明が進んでおり,臨床像の理解に非常に有用である.本稿では,近未来に迫った治療導入への準備段階として正確な理解が必要となる最新の臨床的・分子遺伝生物学的特徴について述べていく.I病態生理1997年にAllikmetsらにより原因遺伝子として染色体1番短腕(1p21-p13)9)に局在するABCA4(かつてはABCRとよばれていた)が特定されて以来8),Stargardt病に関する病態生理の解明は飛躍的に進んでいる.ABCA4は視細胞の外節円板に局在する蛋白質であるABCA4をコードする.ABCA4は視サイクル(visualcycle)において外節円板における膜輸送蛋白質として機能しており,オールトランスレチナール(all-transretinal:transRAL)がフォスファチジルサノラミン(phosphatidylethanolamin:PE)と結合して合成される,N-レチニリジン-フォスファチジルサノラミン(N-retinylidene-PE)を,視細胞外板内から細胞質への輸送する役割を担っている14,15)(図1A,B).ABCA4が異常をきたした場合,すなわち疾患個体では,輸送機能が失活した結果,視細胞外節内にtransRALとN-retinyliはじめにStargardt病(Stargardt-fundusflavimaculatus)は1909年にStargardtが最初に報告した疾患で,若年者に発症し,両眼性,進行性の黄斑部感覚網膜,色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)の萎縮病変,その周囲に散在する多発性黄色斑(fleck)を特徴とする1?5).常染色体劣性の遺伝形式をとり,遺伝性網膜疾患のなかでも頻度の高い疾患の一つに数えられている.特に欧米では約8,000?10,000人に1人の割合で発症するといわれている6).1962年のFranceschettの報告以降,黄斑萎縮が軽度でfleckが顕著に認められる黄色斑眼底(fundusflavimaculatus)とは異なる疾患と考えられていた7)が,後に両者とも原因遺伝子がATP-bindingcassette,sub-familyA,member4(ABCA4)8)であり,同一遺伝子に起因することが確認された結果9),現在では同一疾患と考えられている.ABCA4異常による疾患(ABCA4retinopathy)はきわめて多彩な表現型を呈する10?13).具体的には,黄斑部に病変が限局する黄斑ジストロフィ,錐体細胞全体が機能障害を有する錐体ジストロフィ,錐体細胞,杆体細胞両者が障害を有する錐体杆体ジストロフィ,加齢黄斑変性症などの表現型を示す.従来,眼底所見を中心に黄斑ジストロフィとして認識されてきたStargardt病の印象とはかけ離れた臨床像のものもあるが,欧米ではABCA4異常に関連する網膜症をすべてStargardt病と(23)927*KaoruFujinami:Genetics,MoorfieldsEyeHospital,UniversityCollegeLondon,UnitedKingdom/東京医療センター・臨床研究センター(感覚器センター)視覚生理学研究室〔別刷請求先〕KaoruFujinami,Genetics,MoorfieldsEyeHospital,UniversityCollegeLondon,CityRoad,London,EC1V2PD,UnitedKingdom特集●遺伝性網膜・黄斑ジストロフィアップデートあたらしい眼科28(7):927?936,2011Stargardt病Stargardt-FundusFlavimaculatus藤波芳*928あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(24)ABClipofuscin図1視サイクル(A),ABCA4輸送(B),および疾患個体における細胞障害(C)A:ABCA4蛋白の局在と視細胞外節と網膜色素上皮(RPE:retinalpigmentepithelium)における視サイクル(visualcycle)の模式図.cisRALは視細胞外節板でロドプシンが光反応による変化を受けた際にtransRALへと変化し,視細胞外節板細胞膜に存在するABCA4により外節板内(intradiscalspace)から細胞質(cytoplasma)へ輸送され,transROLの形でRPE細胞内へ運ばれる.transROLはtranseaterを経て,cisROLとなり,RDH5(11-cisレチノールデヒドロゲナーゼ)の働きでcisRALへと変化し最終的に視細胞外節へと輸送される.cisRAL:11シスレチナール(11-cisretinal),transRAL:オールトランスレチナール(all-transretinal),transROL:オールトランスレチノール(all-transretinol),transEster:オールトランスレチニルエスター(all-transretinylester),IRBP:細胞内レチノイド結合蛋白質(inter-photoreceptorretinoid-bindingprotein),CRALBP:細胞レチナール結合蛋白質(cellularretinaldehyde-bindingprotein),SER:滑面小胞体(smoothendoplasticreticulum).B:ABCA4輸送.ABCA4蛋白質はtransRALをPE(phosphatidylethanolamine)と結合した形で外節板内(intradiscalspace)から細胞質(cytoplasma)への輸送する機能を果たしている.C:ABCA4異常疾患個体におけるA2E蓄積.視細胞外節内(intradiscalspace)にN-retinylidene-PEが蓄積し,RPEによる貪食,リソソームによる分解を経て,自発蛍光物質であるリポフスチン(lipofuscin)のおもな要素であるジ・レチノイド・ピリディニアムエサノラミン(A2E:di-retinoid-pyridiniumethanolamine)がRPEにし細胞障害をひき起こす.(25)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011929一方で59%の患者が20/200以下の視力低下を呈することを示した18).また,検眼鏡的中心窩所見が温存されている25%程度の患者群(fovealsparingsubset)については視力が比較的良好であり,初診時年齢が20歳以上であれば視力予後が比較的良いことも示している18).検眼鏡的所見で特徴となる黄斑萎縮,fleckはすべての症例にみられるわけではなく,眼底所見はきわめて多彩である.一般に典型的な眼底と考えられるものを図2に示す.小児期において検眼鏡的異常所見が明確な症例やRPEの異常が顕著で動静脈の狭小化や色素沈着が強い症例など,経年変化や多彩な重症度を診断の際に考慮する必要がある(図3,4).また検眼鏡的に類似した黄斑萎縮や標的黄斑症(bull’seyemaculopathy)を呈する他疾患も存在し,PRPH2(RDS)retinopathy,PROM1retinopathy,ELOV4retinopathyとの眼底所見のみによる鑑別はむずかしい19)(図5).PRPH2(RDS),PROM1,ELOV4は常dene-PEが蓄積し,RPEによる貪食,リソソームによる分解を経て,自発蛍光物質であるリポフスチンのおもな要素であるジ・レチノイド・ピリディニアムエサノラミン(di-retinoid-pyridiniumethanolamine:A2E)がRPEに蓄積する.最終的にはこの物質が細胞障害をひき起こすと考えられている16)(図1C).II臨床的特徴Stargardt病患者は10代からの両眼の視力低下,中心暗点などを主訴に来院することが多いが,発症年齢は就学前後のものから壮年期以降のものまでさまざまである.壮年期発症の症例は比較的軽症であることが多いとされる17).本症は発症初期から視力不良をきたすことが知られており,Rotenstreichらは361名(平均年齢35.7歳)のStargardt病患者のbettereye視力に関する横断的研究報告を行い,23%の患者が20/40以上の視力を有する図2典型的Stargardt病(25歳,男性,ABCA4p.Val931Met/p.Arg1705Glu,網膜電図〔ERG:electroretinogram〕分類Group2)黄斑部感覚網膜,色素上皮の萎縮病変,その周囲に散在する多発性黄色斑(fleck)を認める.左:検眼鏡的所見,中:自発蛍光眼底所見(fundusautofluorescence:FAF)所見,右:光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)所見.図3小児Stargardt病(11歳,男児,BCA4p.Leu1108Cys/p.Leu2027Phe,ERG分類Group1)検眼鏡的には微細な変化を認めるのみだが(左),FAF所見では黄斑部低蛍光所見とその周囲の異常蛍光所見を呈し(中),OCT所見では顕著な黄斑部感覚網膜,RPEの萎縮所見を認める(右).930あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(26)angiography:FA)所見,電気生理学的所見,分子遺伝学的診断を含めた包括的なアプローチが確定診断には重要である.染色体優性遺伝疾患であり詳細な家族歴の聴取が大きなヒントとなる,加えて眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)所見,蛍光眼底造影(fluorescein図4重症Stargardt病(48歳,男性,ABCA4c.6709insertiongflameshift/他方のアリルの異常は不明,ERG分類Group3)検眼鏡的には網膜周辺部まで広がる顕著な色素沈着,広範にわたるRPEの萎縮所見,網膜血管の狭小化,視神経萎縮を認める(左).FAF所見では萎縮部に一致した低蛍光所見,peripapillarysparingを認める(中).OCTにおいても黄斑部感覚網膜,RPEの萎縮所見が顕著である(右).図5標的黄斑症(Bull'seyemaculopathy)を示す他疾患(45歳,女性,PROM1p.Arg373Cyshomozygous)検眼鏡(左),FAF(中),OCT(右)ともに標的黄斑症の所見を呈する.図6Stargardt病の背景低蛍光所見(36歳,男性,ABCA4c.5222deletiontggtggtgggc/p.Gly1961Glu,ERG分類Group1)検眼鏡的には軽微な標的黄斑症(Bull’seyemaculopathy)所見を示している(左).FAF所見では黄斑部異常蛍光所見を示し(中),蛍光眼底造影検査(FA)では顕著な背景低蛍光所見(darkchoroid)と網膜萎縮部に一致したwindowdefectが認められる(右).(27)あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011931い場合などには診断に有用である(図6).報告によってさまざまであるが,darkchoroidの所見は半数から最大では86%の症例20)にみられるとされているが,ABCA4遺伝子異常が確認された症例を集積した報告文献は限られていることもあり21),100%の確定診断はむFA所見では黄斑萎縮に一致したwindowdefectによる過蛍光,fleck部分での異常蛍光を呈する.背景低蛍光所見(darkchoroid)は特徴的であり,Bonninらの報告ではリポフスチンの蓄積により背景蛍光がブロックされた所見であるとされている.検眼鏡的所見が顕著でな図7Stargardt病の電気生理学的分類症例1(Pt1)Group1Stargardt病(59歳,女性,ABCA4p.Cys54Tyr/他方アリルの異常は不明).黄斑機能を反映するパターンERG(PERG)は顕著異常を示すが,全視野刺激ERGは正常であり,網膜機能異常が黄斑部に限局されている.10年の経過観察期間中に加齢によるERGの変化はあるものの,1998年,2009年とも全視野刺激ERGは正常である.症例2(Pt2)Group2Stargardt病(46歳,男性,ABCA4p.Cys54Tyr/他方アリルの異常は不明).1998年撮影時ERGではPERG顕著異常と網膜全体の錐体機能を反映する明順応下全視野刺激錐体系ERG(30HzフリッカERG:LA3.030Hz,錐体ERG:LA3.02Hz)に異常を認める.すなわち網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞に広がっていることが示唆される.杆体細胞機能は正常であり,Group2に分類される.2009年撮影時には明順応下全視野刺激錐体系ERGの顕著異常に加えて,杆体細胞機能を反映する暗順応下全視野刺激杆体ERG,暗順応下全視野刺激錐体杆体混合ERG(杆体ERG:DA0.01,最大応答ERG:DA11.0)においても異常が認められ,10年の経過でGroup3への進行を認めた.症例3(Pt3)Group3Stargardt病(43歳,女性,ABCA4p.Cys2150Tyr/他方アリルの異常は不明).1998年には,PERG顕著異常,明順応下全視野刺激錐体系ERG(30HzフリッカERG:LA3.030Hz,錐体ERG:LA3.02Hz),杆体ERG(DA0.01),最大応答ERG(DA11.0)において顕著な減弱所見を呈する.網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞・杆体細胞に広がっているGroup3と診断された.2009年撮影のERGではほぼすべての反応が消失しており,10年の経過で網膜機能が急激に失われたことを示している.932あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011(28)群(黄斑部網膜電図〔electroretinogram:ERG〕のみで異常を呈し全視野刺激ERGは正常),Group2:網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞に広がっている群(黄斑部ERG,全視野刺激錐体系ERGで異常,全視野刺激杆体ERGは正常),Group3:網膜機能異常が黄斑部だけでなく網膜全体の錐体細胞・杆体細胞に広がっている群(黄斑部ERG,全視野刺激錐体系ERG,全視野刺激杆体ERGすべて異常)の3群に分けられる.英国Moorfields眼科病院にて39名の10年間のコホート研究対象患者では,Group1患者のうち80%が経過観察中に網膜機能の明らかな低下を認めなかったのに対して,Group3患者の100%が有意な網膜機能低下を示した32).また,電気生理学的分類は病気の発症年齢,視力障害,FAF所見の重症度や進行にも関連しており,Group3患者は顕著な病状進行を示し,予後予測やインフォームド・コンセントに非常に有用な情報となる.III分子遺伝学的診断多彩な臨床像を呈する本疾患において分子遺伝学的確定診断はきわめて有効である.しかしながら,ABCA4の遺伝子検索もしくは分子遺伝学的確定診断は現時点では容易ではない.第一にABCA4は128Kbp(bp:basepair)を超える塩基対,50のエクソン,2,273個のアミノ酸情報に対応したコドンを有する巨大な遺伝子であり,量的な問題でシークエンスに多大な費用,時間,労力が必要となるからである.各エクソンをPCR(polymerasechainreaction)法で増幅し,その塩基配列を直接ダイレクトシークエンス法(Sanger法)を用いて解析する方法が現在においてもゴールドスタンダードであるが,ABCA4に関しては,成熟メセンジャーRNAを作成する過程(スプライシング)で削除されるイントロン部の異常が疾患発現に関与するとの報告33?35)もあるため,すべてのエクソンに加えて,過去に報告されたイントロン部位の異常もすべてカバーしてダイレクトシークエンスをする必要がある.比較的頻度の高いStargardt病患者,すべてにおいて前述のダイレクトシークエンスを行うのは周辺機器が進歩した現在でも時間,労力,費用の点から容易ではない.第二にABCA4は遺伝的多型性に富んでいて,発現蛋白質が失活するような無効対ずかしいといわれている.FAFは非侵襲的にRPEに蓄積されたポフスチン分布を捉えることが可能であり22),前述のようにリポフスチンのおもな要素であるA2EがRPEに蓄積する本疾患では病態を直接的に反映する有用な検査法である.Stargardt病においては背景過蛍光,黄斑萎縮部の低蛍光(初期病変では過蛍光),fleck部に一致した異常蛍光が特徴となる23,24).また,FAF所見で顕著となるperipapillarysparing所見も診断に有用である25).Peripapillarysparingとは視神経乳頭周囲部分の感覚網膜,RPEの構造,機能が著明に温存される所見をいい,後極部網膜全域に病変が広がった症例においてもperipapillarysparingはほぼ全例に認められる.FAFにおける黄斑萎縮部に一致した低蛍光部位における経時的拡大所見や電気生理学的機能評価との関連の報告もあり,一般に全視野刺激網膜電図において杆体細胞障害のある症例は低蛍光部位が広く,拡大速度も速いとされている26,27).英国Moorfields眼科病院での10年間のコホート研究対象患者32名に対しての調査においても,同様の結果が示唆された.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)像は形態学的評価において非常に有用であり,黄斑萎縮部分における感覚網膜,RPEの菲薄化が顕著な所見となる24,28)(図7).特にspectraldomainOCT(SDOCT)においては詳細な観察が可能で,視細胞外節内節境界の構造異常が感覚網膜の菲薄化やFAFの異常部に対して先行する症例も示されている24).Fleckは高反射な隆起物としてRPEから大きいものでは外顆粒層まで貫くドーム状沈着物として観察される29).さらにアダプティブオプティクスイメージング(adaptiveopticsimaging)の技術進歩に伴い,2011年に初めて臨床現場におけるStargardt病患者の視細胞障害に関する微視的評価の報告がなされ30),治療評価への有効な手段となることが期待されている.電気生理学的機能評価はStargardt病の診断,病態評価,進行評価になくてはならない存在である.多彩な眼底所見を呈する本症においてLois,Holderらによる電気生理学的分類31)は非常に有用である(図7).具体的にはGroup1:網膜機能異常が黄斑部に限局されているあたらしい眼科Vol.28,No.7,2011933立遺伝子(nullallele)が確認できれば判断に困ることは少ないが,現実には一塩基置換によるミスセンス変異が確認された場合にその変異が発現蛋白質にどれだけの影響を与えるかの判断は非常に困難である11).比較的頻度が高くStargardt病との統計学的関連が示されている,p.Arg212Cys,p.Leu541Pro,p.Ala1038Val,p.Arg1108Cys,p.Pro1380Leu,IVS39+5g>a(splicingsite),p.Gly1961Glu,p.Leu2027Phe,p.Arg2107Hisなどのミスセンス変異もあるものの,現在報告されている500を超える遺伝子異常のすべてにおいて表現型との確実な関連付けがなされているわけではないのが現状である.近年ではABCA4に関する既知の遺伝子異常部位をDNAマイクロアレイを用いてスクリーニングする手法が,時間,労力,費用の点で比較的容易な手段と認識されている.日々更新される新規遺伝子異常に関する情報をいち早く取り入れている利点を考慮して,AsperBiotech社などの外部企業に委託する方法が主流となってきている.一方でDNAマイクロアレイを用いたスクリーニングで遺伝子異常が検出されなかった場合(遺伝子異常が否定されたことにはならない)や遺伝子異常が1つ検出された場合(常染色体劣性遺伝の場合は2本のアレル両者の異常が確定診断になる)などでは別の手法での確認が必要になるので,確実な方法ではないことへの留意が必要である.フランスInstituteofdelaVisionのAudoらは黄斑部に病変の異常が限局しているGroup1Stargardt病と診断され,常染色体劣性遺伝が疑われる125名の患者に対して,AsperBiotech社製のABCA4マイクロアレイを用いた遺伝子スクリーニングを行ったところ,66.4%の患者で1つ以上の遺伝子異常が検出され,さらにAsperchip陽性群の患者を対象にダイレクトシークエンス(Sanger法)を行った結果,77%にcompoundheterozygous(2本のアレともに遺伝子異常が確認されたもの)もしくはhomozygousの遺伝子異常が確認され,分子遺伝学的確定診断に至ったことを報告した.2010年よりRocheGenomeSequencerFLXSystem(FLX),IlluminaGenomeAnalyzer(GA),AppliedBiosystemsSOLiDSystem(SOLiD)などが広く商用化されたことで,ネクストジェネレーションシークエンス(NGS:NextGenerationSequence)36)テクニックが世界中に広がり,眼科領域の分子遺伝生物学分野にも多大なインパクトを与えている.詳しい解説は他稿に譲るが,これまで20年にわたりゴールドスタンダードとして分子遺伝学的確定診断を支えてきた自動サンガー法(automatedSangermethod)に比べ,NGSでは桁違いの数のシークエンス解析が可能となったことが大きな違いといえる.一度の解析で解読可能な全シークエンス領域の塩基対数はFLXでは約450Mbp,GAでは約18?35Gbp,SOLiDでは約30?50Gbpと報告されている36).2010年5月現在,眼科領域においても多くの疾患関連遺伝子を一度に包括的に検索する有効な手法として用いられはじめている37).ABCA4の遺伝子検索においてNGSはイントロン部を含めた遺伝子検索を行ううえで有効な手段であることは明白である.その一方でそれぞれ遺伝子異常によりひき起こされる機能異常が確認されていない現状にさらなる新規遺伝子異常が発見されれば,genotype-phenotypecorrelationの確立が現在以上にむずかしくなることが予想できる.今後数年内のNGS費用のコストダウンによる汎用化は確実であり,それらの科学技術の進歩に対応できる表現型に関する詳細な観察はさらに重要度を増すことと思われる.IV治療2011年5月現在臨床の現場で有効な治療法は確立されていないのが現状である.本稿では一般的に実現に近いと思われるinvivoの治療法である視サイクル阻害薬による薬物療法とレンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療の進歩について紹介する.前述のようにStargardt病は視細胞外節内にtransRALとN-retinylidene-PEが蓄積し,A2EがRPEに蓄積することにより細胞障害をひき起こしていると考えられている16).すなわち視サイクルの活発化に比例してA2EがRPEに蓄積し,細胞障害が進行することが予想される.この悪循環に抑制をかけるため,A2Eの合成を阻害する薬理学的アプローチが試みられており,動物実験においてその有効性が立証されている38,39).ABCA4ノックアウト(abca4?/?)マウスモデルにおい(29)934あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011てイソトレチノイン(isotretinoin:13-cis-retinoicacid)は11-cis-retinaldehyde(cisRAL)の合成を抑制し,視サイクル内でのロドプシン(rhodopsin)の再生を阻害する結果,細胞障害物質であるA2Eの合成を阻害する効果が示唆された(図1).イソトレチノインに代表される視サイクル抑制薬(VCM:visualcyclemodulators)の有効性はStargardt病に限らずA2Eの細胞障害に起因するELOVE4retinopathyや加齢黄斑変性症にも有効であると考えている.Acucela社によるACU-4429は経口摂取タイプのVCMの先駆的存在であり,動物実験での有効性,ヒトへの安全性が立証され40?42),現在米国で治験第二相において少数の患者に対する有効性・安全性などの検討がされている.2007年に英国Moorfields眼科病院にてRPE65retinopathy患者を対象に,アデノ関連ウイルスベクター(recombinantadeno-associatedvirusvectorserotype2)を用いた遺伝子治療の有効性が報告されたのは記憶に新しい43).Stargardt病に関する遺伝子治療についてもABCA4ノックアウト(abca4?/?)マウスを用いた報告があり,約7Kbpといわれる比較的大きなヒトABCA4cDNAの輸送が可能な馬伝染性貧血ウイルス由来レンチウイルスベクター(equineinfectiousanemiavirus-derivedlentiviralvectors)を用いた研究では網膜下注入による治療を受けたマウス眼においてA2Eの蓄積が優位に低いことが示された44).レンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療がStargardt病の治療として臨床の現場に導入される日もそう遠くないかもしれない.治療のオプションが具体的に示される昨今,臨床現場において必要になることは適応患者の選別である.東京医療センターならびに英国Moorfields眼科病院では上記治療への候補となりうる,壮年期までFAFで中心窩所見が温存されている患者群(fovealsparingsubset)を同定した45,46).一般のStargardt病患者においては中心窩感覚網膜の異常が早期から起こるのに対し,この患者群においては中心窩以外の網膜障害が進行にもかかわらず,中心窩機能が病後期まで温存される独特な機序を有しており,中心窩機能維持のための治療が望まれる(図8).おわりにStargardt病の診断,病態評価には,詳細な病歴・家族歴,検眼鏡的所見,FA・FAF所見,OCT所見,電気生理学的所見,分子遺伝学的解析に関して包括的な知識が必要である.分子遺伝学的解析がいくら発展したとしても,臨床の現場における診断が正確になされなければ遺伝学的確定診断に至ることはなく,さらには病態生理に即した治療への距離も埋まらないように思われる.眼科医一人ひとりによる「正しい知識に基づく診断」が患者カウンセリングや近未来の治療への土台作りに必要不可欠である.謝辞本研究は厚生労働省科学研究費,鈴木謙三記念医学応用研究財団,三越厚生事業団,DaiwaAngro-JapanFoundation,Fight(30)図8Stargardt病fovealsparingsubset(65歳,男性,ABCA4IVS35-10t>c/p.Arg2030Gln,ERG分類Group1)検眼鏡(左),FAF所見で中心窩所見が温存されているのが認められ(中),OCT所見においても温存された中心窩構造が確認できる(右).あたらしい眼科Vol.28,No.7,2011935ForSight,SpecialTrusteesofMoorfieldsEyeHospital,MacularDiseaseSocietyによる研究助成を受けたものである.今回総説執筆にあたり,平素よりご指導いただいている愛知医科大学理事長・三宅養三教授,資料提供をいただいたMoorfieldsEyeHospital,UniversityCollegeLondonのGrahamE.Holder教授,AnthonyT.Moore教授,AndrewR.Webster教授,AnthonyG.Robson先生,MichelMichaelides先生に深謝いたします.文献1)三宅養三:黄斑ジストロフィー.日眼会誌107:229-241,20022)近藤峰生:黄斑ジストロフィの診断.あたらしい眼科22:573-380,20053)近藤寛之:黄斑ジストロフィ.臨眼62:374-382,20084)堀田喜裕:遺伝性眼疾患.日眼会誌110:545-559,20065)藤波芳,角田和繁:黄斑ジストロフィの遺伝子異常.眼科53:239-255,20116)BlacharskiPA:Fundusflavimaculatus.In:NewsomeDA,ed.RetinalDystrophiesandDegenerations.p135-159,NewYork,RavenPress,19887)FranceschettiA:Aspecialformoftapetoretinaldegeneration:fundusflavimaculatus.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol69:1048-1053,19658)AllikmetsR,SinghN,SunHetal:AphotoreceptorcellspecificATP-bindingtransportergene(ABCR)ismutatedinrecessiveStargardtmaculardystrophy.NatGenet15:236-246,19979)KaplanJ,GerberS,Larget-PietDetal:AgeneforStargardt’sdisease(fundusflavimaculatus)mapstotheshortarmofchromosome1.NatGenet5:308-311,199310)FishmanGA,StoneEM,GroverSetal:VariationofclinicalexpressioninpatientswithStargardtdystrophyandsequencevariationsintheABCRgene.ArchOphthalmol117:504-510,199911)WebsterAR,HeonE,LoteryAJetal:AnanalysisofallelicvariationintheABCA4gene.InvestOphthalmolVisSci42:1179-1189,200112)FukuiT,YamamotoS,NakanoKetal:ABCA4genemutationsinJapanesepatientswithStargardtdiseaseandretinitispigmentosa.InvestOphthalmolVisSci43:2819-2824,200213)FukuiT,FujikadoT,TsujikawaMetal:NullABCA4genemutationsfoundinJapanesepatientswithpanretinaldegeneration.JpnJOphthalmol50:179-181,200614)SunH,SmallwoodPM,NathansJ:BiochemicaldefectsinABCRproteinvariantsassociatedwithhumanretinopathies.NatGenet26:242-246,200015)SunH,NathansJ:MechanisticstudiesofABCR,theABCtransporterinphotoreceptoroutersegmentsresponsibleforautosomalrecessiveStargardtdisease.JBioenergBiomembr33:523-530,200116)MoldayRS,ZhongM,QuaziF:TheroleofthephotoreceptorABCtransporterABCA4inlipidtransportandStargardtmaculardegeneration.BiochimBiophysActa1791:573-583,200917)YatsenkoAN,ShroyerNF,LewisRAetal:Late-onsetStargardtdiseaseisassociatedwithmissensemutationsthatmapoutsideknownfunctionalregionsofABCR(ABCA4).HumGenet108:346-355,200118)RotenstreichY,FishmanGA,AndersonRJ:VisualacuitylossandclinicalobservationsinalargeseriesofpatientswithStargardtdisease.Ophthalmology110:1151-1158,200319)MichaelidesM,HuntDM,MooreAT:Thegeneticsofinheritedmaculardystrophies.JMedGenet40:641-650,200320)FishmanGA,FarberM,PatelBSetal:VisualacuitylossinpatientswithStargardt’smaculardystrophy.Ophthalmology94:809-814,198721)JayasunderaT,RhoadesW,BranhamKetal:PeripapillarydarkchoroidringasahelpfuldiagnosticsigninadvancedStargardtdisease.AmJOphthalmol149:656-660,201022)vonRuckmannA,FitzkeFW,BirdAC:Distributionoffundusautofluorescencewithascanninglaserophthalmoscope.BrJOphthalmol79:407-412,199523)LoisN,HalfyardAS,BirdACetal:FundusautofluorescenceinStargardtmaculardystrophy-fundusflavimaculatus.AmJOphthalmol138:55-63,200424)GomesNL,GreensteinVC,CarlsonJNetal:AcomparisonoffundusautofluorescenceandretinalstructureinpatientswithStargardtdisease.InvestOphthalmolVisSci50:3953-3959,200425)CideciyanAV,SwiderM,AlemanTSetal:ABCA4-associatedretinaldegenerationssparestructureandfunctionofthehumanparapapillaryretina.InvestOphthalmolVisSci46:4739-4746,200526)ChenB,ToshaC,GorinMBetal:Analysisofautofluor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