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眼研究こぼれ話 14.レンズの構造 核が消える眼の細胞

2011年2月28日 月曜日

(99)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011253レンズの構造核が消える眼の細胞初夏,北米北部を訪れると,見渡すかぎりのサクランボ畑を見ることがある.真っ黒く熟れたサクランボはたいへんおいしい果物である.数年前,ミシガン州北部をドライブしていると,所々に見上げるような茶がかった白い三角山がきずかれているのを見かけた.これは,サクランボを商品化したあとの種子の山であることがわかった.サクランボを食べたあと大きなかたい種を出すとは知っていたが,こんなにたくさんあり,おまけに利用方法が全くなくて,ただ積み上げておくだけと聞いて驚いた.一方,西部では見事なアンズがたくさん採れる.数年来,メキシコのカリフォルニア国境附近で,このアンズの種を抽出して,レトレルという薬を作り,癌(ガン)を治すという医者が出て来た.この理論的にはまだ効力を証明出来ない薬を絶望的な患者に売りつけ,いろいろと問題になっている.しかし,人為の限りをつくしたあとに,もうそれ以上の科学的医学に望みを持てないとわかったときは,このアンズの抽出液に高い代金を払うことも,一概にいけないとは言いきれない.さて,吐き出されたサクランボの種子の話をここに持ち出したのは,この種の形が,細胞の核に似ているからである.眼のレンズは細胞によって出来ているが,この細胞には核がない.細胞が,不要になった核をどのようにして吐き出すかという機構を,大阪大学の今泉博士に調べてもらったことがある.体の細胞の中で,レンズと,赤血球の2つはある時期に細胞核を捨ててしまう.赤血球の場合は,ちょうど,サクランボのように,膵(すい)臓の中で核を吐き出すことがわかっている.しかし,眼の中で厚い被膜に囲まれたレンズには血管がなく,不要物を外部に運び出されることがない.今泉博士は生まれる以前のネズミのレンズを電子顕微鏡で詳しく調べ,成熟直前のレンズ細胞では,核物質が,特殊な化学変化を起こして,一部の核酸を残すだけで,細胞質の中に消えてしまう路(みち)順を明らかにさせた.核がなくなることだけでも不思議な現象であるのに,その過程が,他の細胞では考えられないことなので,見つけた本人がなかなか信用しないこともあった.白内障を研究している学者たちは,構造に類似点のある赤血球を研究している学者たちから,何かいい話を聞き出したいと思っているし,先方も同様の考えで近づいて来る.時々両者が集まって討論をするのであるが,話は,何処(どこ)かで,かすかにすれ違ってしまうのが常である.先方はサクランボの種を吐き出し,当方はのみ込んでしまう根本的な違いは,どうすることも出来ない.ところが,この研究は白内障の病変を説明する上に役立って来た.ある種の白内障のレンズを見る0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑭▲ミシガン湖,北西部の湖岸.荒天の際には山のような波が打ちよせる.一面に見える小石は全部サンゴの化石である.このあたりは600万年位前,熱帯の海であったらしい.254あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011眼研究こぼれ話(100)と,この核がすっかりと消えないで残っていることがある.母親が受胎3カ月以内に風疹にかかると,胎児の眼にそのウイルスが入り込み,先天性の白内障の子供が生まれる.このレンズ細胞を見ると,核が消えないで残っている.また,実験動物の先天性白内障でもその傾向がはっきりしている.そこで,最近では,白内障の原因の一つとして細胞内の核を消失させる機能の障害も考えられるようになった.白内障の種類はたくさんあり,その原因を一説だけで片づけることは出来ないけれども,このような小さい発見が,いつか,何かの役に立つのである.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆インドシアニングリーン(ICG)螢光造影所見の読影に最適の参考書!【編集】三木徳彦(大阪市立大学名誉教授)林一彦(はやし眼科院長)■内容目次■はじめに─どうして,この本を出版することになったか?■ICG螢光造影が歩んできた道Ⅰ.ICG螢光眼底造影を理解するには1.造影剤(ICG色素)の特徴/2.種々のICG螢光眼底造影装置をいかに使いわけるか─撮影装置購入の注意点と撮影方法の実際─/3.コンピュータの応用Ⅱ.ICG螢光造影の読影に必要な基礎的知識1.眼底の構造と網脈絡膜循環/2.ICG螢光造影(IA)とフルオレセイン螢光造影(FA)とどこが違うか?B5判総200頁図表・写真372点定価13,650円(本体13,000円+税)Ⅲ.ICG螢光眼底造影所見をどう読むか1.正常眼の網脈絡膜造影所見─各種眼底カメラの正常所見と比較─/2.虹彩および結膜血管Ⅳ.ICG螢光眼底造影の臨床1.実際の応用法と主な異常所見/2.脈絡膜新生血管/3.漿液性網膜剥離/4.眼球外傷に伴う脈絡膜症/5.脈絡膜腫瘍/6.網脈絡膜変性疾患/7.網膜血管病ICG螢光眼底造影マニュアル〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544株式メディカル葵出版会社

インターネットの眼科応用 25.Medical 2.0 その2

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112510910-1810/11/\100/頁/JCOPYDatabasetoBedside,BedsidetoDatabaseインターネットがもたらす情報革命のなかで,情報発信源が企業から個人に移行した大きなパラダイムシフトをWeb2.0と表現します.インターネットは繋ぐ達人です.地域を越えて,個人と個人を無限の組み合わせで双方向性に繋ぎます.パソコンや携帯端末からブログや動画,写真などをインターネット上で共有し,コミュニケーションすることが可能になりました.インターネット上で情報が共有され,経験が共有され,時間が共有されます.医療分野においては,インターネットをうまく活用する余地がまだまだ残っています.医療行為という情報量の多いコンテンツは,動画で表現し蓄積することに適しています.言語化しにくい手術のノウハウや,文書では伝えにくい微妙な言い回しをデジタル化して伝えることが可能です.今後,インターネット上に医療に関するさまざまな動画が集まるでしょう.一人の医師が,医療動画を見て,何かのコツを得て,実際の臨床の現場で患者に還元することができれば,インターネットは医療水準の向上に寄与することになります.情報の流れは,DatabaseからBedsideへ伝わって,デジタルな情報がアナログな医療行為に変換されます.この流れは,従来は専門書・教科書が果たしていた役割を,インターネットが代替できることを意味します.加えて,インターネットは,専門書・教科書にない,その先の力をもちます.われわれ医療者が,臨床現場で得られた情報をインターネット上に再び投稿するとどうなるでしょう.投稿内容に責任をもつことは重要ですが,情報の形態や内容は自由です.動画でも画像でも文字情報でも構いません.感想でも批判でも何でも構いません.医療情報をインターネットに再び投稿することで,医療情報がBedsideからDatabaseへ還元されます.アナログな情報が,デジタルな情報に再び置換されます.DatabaseとBedsideを往復し,新しく更新された医療情報が,世界の誰かの医療を動かします.このくり返しによって,インターネットの医療情報は常に更新され続け,世界全体の医療水準は向上し続けます.この双方向性と可塑性は,専門書にはない力です.インターネット上の医療情報が,医師からの情報発信によって更新され続け,臨床現場に還元される世界を,「Medical2.0」と,前章で定義しました1).医療現場では従来,教科書に書かれた先人達の知恵の集積をなぞることが「是」とされてきました.Medical2.0の考え方は,その対極にあるものですが,並列共存するものと考えます.医師の初期教育において,最も重要なのは,実践の場,つまり患者から得られる情報です.昔からいわれていることですが,患者が生きた教材になります.この教材は,インターネットでは代替できません.医師は,まず,個人のノウハウをBedsideで蓄積して一人前にならねばなりません.しかし,その次にステップアップするためには,さまざまな情報収集ツールを駆使する必要があります.臨床現場,学会,専門書だけでなく,眼科医同士の食事会も情報収集ツールになります.通信技術の進歩に伴って,インターネットは,情報収集ツールの一つに加わりました.医療とは本来,アナログな行為であり,インターネットはあくまで,アナログを補完するものにすぎません.ですが,情報の蓄積と処理能力に長けた,インターネットというツールをわれわれは無視できません.一人のプロフェッショナルがさらに自分を磨く手段として,積極的にインターネットを活用し,結果として,患者さんに喜びが伝わればよいと考えます.膨大な量の医学情報から,情報を選び取るのも重要な能力です.どの情報を自分自身の糧とするかは,情報を閲覧する医師個人のインターネットリテラシーおよび,臨床リテラシーに依存し(97)インターネットの眼科応用第25章Medical2.0②武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ252あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011ます.Medical2.0の実例Medical2.0の世界では,医師が自分の経験をインターネット上に発信します.この医療情報は患者の個人情報でもあります.可能な限り,非公開の会員限定のネット空間で行うべきと考えます.そのような場は,これから多数誕生するでしょう.主導するのは学会,医局,医師会,病院グループ,などさまざまなチームが考えられます.そのなかで,私どもが時代に先駆けて運営しています,MVC-onlineという医師限定の会員制のサイトがあります2).このサイトは,Medical2.0を具現化しており,医療情報がDatabaseとBedsideを行き来します.インターネットは,情報を収集するツールに使うだけでは不十分です.われわれ医療者は収集した情報を臨床現場に還元して,その結果を再び発信します.インターネットは,情報を発信されてその能力をフルに発揮します.インターネットは,繋ぎ,かつ共有する達人です.本章で紹介する例は,Medical2.0のまだまだ黎明期ともいえる現象ですが,インターネットの進化の方向性と合致するものです.必ず普及するものと予想します.医療者が,インターネットに情報発信する意識をもち,習慣化するのは,さほど遠い先ではありません.インターネットは,プロフェッショナルが一段階,レベルアップするツールとなります.図1は,MVC-onlineに参加している,栗山晶治先生(大津赤十字病院)が投稿した手術動画です.このサイト内には,他にも多数の動画が投稿されていますが,これらの動画に対し,感想を述べ,自身の経験を投稿することで,DatabasetoBedside,(98)BedsidetoDatabaseという双方向性のある,医療情報の流通が動き出します.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvc-japan.orgまでご連絡ください.MVConlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)武蔵国弘:インターネットの眼科応用第24章Medical2.0①.あたらしい眼科28:91-92,20112)http://mvc-online.jp☆☆☆図1MVC.onlineに投稿された手術動画

硝子体手術のワンポイントアドバイス 93.星状硝子体症を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(上級編)

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112490910-1810/11/\100/頁/JCOPY●星状硝子体症とは星状硝子体症(asteroidhyalosis)は,1894年にBensonにより報告された高齢者にみられる硝子体変性疾患の一つである1).硝子体腔内に星屑を散りばめたような黄白色の粒子状混濁を多数認め,80%は片眼性である.この粒子状混濁は星状体(asteroidbody)とよばれ,直径0.01.0.1mmの球状体で,硝子体のコラーゲン線維内に付着し,眼球運動とともに移動するが,眼球の静止とともに元の位置に戻る.星状体の成分は,塩基性PAS(periodicacid-Schiff)陽性物質,カルシウムを含んだリン脂質,ムコ多糖などである.糖尿病や高脂血症患者に多いとする報告もあるが,因果関係を否定する報告もみられる.●星状硝子体症を伴う増殖糖尿病網膜症の臨床的特徴星状硝子体症は一般に飛蚊症や視力低下をきたすことはまれであるとされおり,単独で硝子体手術の適応となることは少ない.しかし,増殖糖尿病網膜症(PDR)のなかには星状硝子体症を伴う症例をときに経験する.筆者らは,過去にこのような症例の臨床的特徴を検討し報告したことがある2).1)一般に星状硝子体症を有する眼は後部硝子体が未.離であるが,PDRの硝子体手術適応例でも同様で,人工的後部硝子体.離の作製がむずかしい.2)通常は後極.中間周辺部の線維血管性増殖膜を処理した後,その周辺側は硝子体カッターの吸引のみで人工的後部硝子体.離を作製できることが多いが,星状硝子体症を有する症例ではしばしばこれが困難である.3)後部硝子体が未.離であるため,牽引性網膜.離は生じにくく,生じたとしても.離の丈は低い.よってしばしば術前の難易度の評価が甘くなる.4)糖尿病黄斑浮腫合併例が多く,硝子体手術後の大幅な視力改善が得られにくい.(95)●星状硝子体症を伴うPDRに対する硝子体手術後部硝子体が未.離かつ癒着が強固であるため,見かけよりも手術の難易度は非常に高い.特に硝子体出血が少なく,線維血管性増殖膜が広範囲に認められる症例では,周辺部まで双手法で増殖膜処理および人工的後部硝子体.離の作製を余儀なくされるケースも多く,術中に医原性裂孔を形成しやすい.術中には網膜にできるだけ牽引をかけないように丁寧な増殖膜処理を心がけ,不用意な牽引により術中に胞状の網膜.離をきたさないよう注意すべきである.自信のない場合には熟練者に手術を依頼すべきである.文献1)BensonAH:Diseaseofthevitreous:Acaseofmonocularasteroidhyalites.TransOphthalmolSocUK14:101-104,18942)IkedaT,SawaH,KoizumiKetal:Vitrectomyforproliferativediabeticretinopathywithasteroidhyalosis.Retina18:410-414,1998硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載93星状硝子体症を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(上級編)池田恒彦大阪医科大学眼科図1増殖糖尿病網膜症と星状硝子体症の合併例視神経乳頭から血管アーケードにかけて線維血管性増殖膜を認めた.後部硝子体は未.離かつ癒着が強固で手術の難易度は高かった.図2硝子体手術後の再.離初回手術時の硝子体処理が不完全なため,術後に再.離を生じた.

眼科医のための先端医療 122.糖尿病網膜症と白血球接着分子

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112450910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼内血管新生性疾患と白血球糖尿病網膜症(DR)の病態メカニズムというと血糖値との関連に目が行きがちですが,近年白血球や炎症が関与している可能性が注目されています.たとえば,単純期の代表的な眼底所見の一つ,毛細血管瘤の内部には単球や多核白血球が集積していることがDR患者の剖検眼を用いた検討によって示されています1).また,糖尿病を自然発症したアカゲサルを用いた検討では,網膜における血管異常(venousloop),毛細血管瘤,そして血管内皮細胞の変性が生じた部分に,好中球が存在していると報告されています2).白血球は,DRにおける増殖膜の形成にも関与しています.硝子体手術で得られた増殖膜組織を用いた検討では,同組織内にリンパ球やマクロファージなどの白血球浸潤が生じていることはよく知られています3,4)が,その量が視力予後と相関する場合があると報告されています4).眼科以外の領域でも白血球と血管新生の関連はよく検討されており,たとえばある種の悪性腫瘍では組織に浸潤した白血球が蛋白分解酵素(MMPs)と血管内皮増殖因子(VEGF)を発現して血管新生を誘導することがわかっています5).これらのことは,白血球が病初期よりDRの発症にかかわっていること,DRにおける眼内血管新生を促進していること,そしてその白血球浸潤の抑制が本疾患の治療につながることを示唆しています.白血球遊走のメカニズムそれでは,白血球は糖尿病網膜における病変部にどのようにして集まるのでしょうか.白血球は血管内を高速で移動しています.そのため,たとえば炎症が生じた部位や病変部に遊走するためには,その速度を減じて血管壁に付着し,さらに血管外に移動するというプロセスが必要となります.その一連の過程はleukocyterecruitmentcascade(図1)とよばれ,いくつかのステップ,おおまかに述べますと①ローリング(rolling),②接着(adhesion),③血管外遊走(extravasation)の3部構成になっています.ローリングは,血管内腔を裏打ちしている血管内皮細胞上に白血球が取り付き,その上を転がる現象です.ローリングを行うことによって白血球は徐々に減速し,ついには血管内皮細胞上で静止します.この状態を接着とよんでいます.つぎに,白血球は血管外への経路を探すために血管内皮細胞上を文字通り「這い回り」,血管内皮細胞間にある接合部に到達すると考えられています.そして,遊走に適した部位を探し当てた白血球は血管外に移動する過程に入ります.この現象は血管外遊走とよばれています.誤解をおそれずにたとえるならば,高速道路を移動しているクルマが一般道に下りるために,側道で減速し(ローリング),料金所の前でいったん停車し(接着),一番空いていて早く出られそうなブースを探して,支払いをすませて一般道に出る(血管外遊走)のに似ているかと思います.前述のDRにおける毛細血管瘤内部の白血球集積は何らかのトラブルで料金所に渋滞したクルマ,増殖膜に存在する白血球は一般道に出たクルマを観察しているなどと考えると,わかりにくいこのleukocyterecruitmentcascadeのDRにおける関与を少し親しみやすくとらえていただけるかと思います.(91)◆シリーズ第122回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊野田航介(北海道大学大学院医学研究科眼科学分野)糖尿病網膜症と白血球接着分子PSGL-1LFA-1Mac-1VLA-4Siglec-10E-selectinP-selectinICAM-1VCAM-1VAP-1白血球上の接着分子血管内皮細胞上の接着分子サイトカインや血管新生因子の産生ローリング接着血管外遊走図1白血球遊走白血球遊走は血管内皮細胞と白血球表面の双方に発現する接着分子の相互作用の結果であり,ローリング,接着,血管外遊走などのいくつかのステップに分かれている.246あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011白血球接着分子とその分子標的治療さて,このleukocyterecruitmentcascadeにおける一連のステップは白血球だけの要素で生じるのでなはく,血管内皮細胞と白血球表面の双方に発現する接着分子の相互作用によって生じています.たとえば,ローリングは血管内皮細胞上に存在するP-selectinなどのselectinfamilyとよばれる接着分子と白血球上に存在するPSGL-1とよばれるムチン様糖鎖提示分子が,接着は白血球上のインテグリン分子(LFA-1やVLA-4)と,血管内皮細胞上の免疫グロブリンスーパーファミリーに属する接着分子(ICAM-1やVCAM-1)が結合することによって生じます.個々の分子の名称はさておき,重要なことはそれらの分子を阻害すればそれ以降の白血球の遊走は抑制されるということです.つまり,それらの接着分子は先に述べた白血球が関与するDRの治療標的となる可能性があるということになります.現在,この白血球接着分子をターゲットとしたDRに対する分子標的治療は存在しません.実験動物を用いた基礎研究レベルの検討結果があるのみです6~8).しかしながら,眼科以外の領域では白血球接着分子に対する阻害薬は徐々にその臨床応用が行われつつあります.たとえば,selectinfamilyを阻害することによってローリングを抑制する効果が認められているbimosiamoseは喘息や尋常性乾癬の治療薬として臨床治験が行われていますし,VLA-4をターゲットとした生物学的製剤でadhesionを阻害するnatalizumabは多発性硬化症やクローン病の治療薬として臨床の場で用いられています.これらの疾患は炎症性疾患です.冒頭で述べたように,DRにおける白血球や炎症の病態関与が徐々に明らかとなってきている現在,本症においても白血球接着分子阻害薬の有用性が検討される日は近いかもしれません.文献1)StittAW,GardinerTA,ArcherDB:Histologicalandultrastructuralinvestigationofretinalmicroaneurysmdevelopmentindiabeticpatients.BrJOphthalmol79:362-367,19952)KimSY,JohnsonMA,McLeodDSetal:Neutrophilsareassociatedwithcapillaryclosureinspontaneouslydiabeticmonkeyretinas.Diabetes54:1534-1542,20053)KakehashiA,InodaS,MameudaCetal:RelationshipamongVEGF,VEGFreceptor,AGEs,andmacrophagesinproliferativediabeticretinopathy.DiabetesResClinPract79:438-445,20084)KaseS,SaitoW,OhnoSetal:Proliferativediabeticretinopathywithlymphocyte-richepiretinalmembraneassociatedwithpoorvisualprognosis.InvestOphthalmolVisSci50:5909-5912,20095)NoonanDM,DeLermaBarbaroA,VanniniNetal:Inflammation,inflammatorycellsandangiogenesis:decisionsandindecisions.CancerMetastasisRev27:31-40,20086)IliakiE,PoulakiV,MitsiadesNetal:Roleofalpha4integrin(CD49d)inthepathogenesisofdiabeticretinopathy.InvestOphthalmolVisSci50:4898-4904,20097)KociokN,RadetzkyS,KrohneTUetal:ICAM-1depletiondoesnotalterretinalvasculardevelopmentinamodelofoxygen-mediatedneovascularization.ExpEyeRes89:503-510,20098)NodaK,NakaoS,ZandiSetal:Vascularadhesionprotein-1regulatesleukocytetransmigrationrateintheretinaduringdiabetes.ExpEyeRes89:774-781,2009(92)■「糖尿病網膜症と白血球接着分子」を読んで■炎症は,組織破壊や感染症における必須の生体反応ですが,それだけでなくほとんどすべての疾患の病態形成に重要な働きをしています.たとえば,多発性硬化症,クローン病はその代表です.網膜疾患でも同様であり,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性の病態形成には,炎症が決定的役割を果たしています.現在,加齢黄斑変性における脈絡膜血管新生に対して,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬治療が著効しています.脈絡膜血管新生は,ある種の急性病変なので,血管新生抑制だけで病勢を沈静化させることが可能です.しかし,糖尿病網膜症は長期間の病的反応が集積した結果であり,血管透過性亢進,血管新生,線維化など多くの組織反応により構成されています.ですから,血管新生といった単一事象を抑えるだけでは,治療効果を得ることは不可能でしょう.そこで,それらのすべてに共通する「炎症細胞浸潤抑制」により糖尿病網膜症を抑制しようというのがこのコンセプトです.炎症細胞の組織進入には,細胞が血管内皮に接着し血管を通り抜けて組織に出てゆくことが必要ですが,その分子機構は野田航介先生が本文に書かれたとおりです.そして,このうち細胞接着分子を抑制することで白血球の進入を制御する治療です.(93)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011247お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2011Vol.28月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)最新情報を,整理された総説として提供!眼科手術2011Vol.24■毎号の構成■季刊/1・4・7・10月発行A4変形判総140頁定価2,520円(本体2,400円+税)(送料160円)年間予約購読料10,080円(本体9,600円+税)日本眼科手術学会誌(4冊)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障など)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療/インターネットの眼科応用他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■【特集】あらゆる眼科手術のそれぞれの時点における最も新しい考え方を総説の形で読者に伝達.【原著】査読に合格した質の高い原著論文を掲載.【その他】トピックス・ニューインストルメント他株式会社〒113.0033東京都文京区本郷2.39.5片岡ビル5F振替00100.5.69315電話(03)3811.0544http://www.medical-aoi.co.jp果たして効果はあるのでしょうか.多発性硬化症は,糖尿病網膜症と同じように長期間くり返す炎症によって増悪する疾患で,すでに白血球接着分子抑制薬natalizumabが臨床応用されています.その結果,再発率を有意に低下させ,その効果は2年間持続しました.これは,多発性硬化症に新しい治療の道を開いたとして大いに歓迎されましたが,一方,進行性多病巣性白質脳症という合併症を誘発するという予想外の事象も報告されました.糖尿病網膜症に対する接着分子抑制治療は新しいコンセプトであり,大きな可能性を秘めています.合併症の発生などが克服されれば,新しい治療の一つとなるでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

緑内障:原発閉塞隅角緑内障の分類法-ISGEO分類,Foster分類,AIGS分類-

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112430910-1810/11/\100/頁/JCOPY●新しい分類の背景従来,原発閉塞隅角緑内障はその自覚症状の様態を基に,急性,亜急性,慢性と分類されるのが一般的であった.これは,歴史的に原発閉塞隅角緑内障の概念が急性緑内障発作症例の同定に始まったこと,そして,原発閉塞隅角緑内障は比較的症状の現れやすい緑内障病型であるという認識に基づいている.しかし,この分類法は,その正当性について十分な吟味がなされておらず,視機能障害の程度が分類に反映されていないという大きな瑕疵を有するうえに,予後や治療方針の策定にもあまり有用ではない.また,近年,原発閉塞隅角緑内障に関する理解が進むにつれて,本病型は必ずしも自覚症状が現れやすいとはいえないことも明らかとなった1).最近,主として疫学調査,あるいは異なるセッティングで行われた臨床研究を正しく比較検討する必要性から,ISGEO(InternationalSocietyforGeographicalandEpidemiologicalOphthalmology)により新たな原発閉塞隅角緑内障の分類法が提唱された.この分類法はFosterらにより2002年に論文として発表され2),2006年に発行されたAIGS(AssociationofInternationalGlaucomaSocieties)注)のコンセンサスブック3)でも採用され,事実上のグローバルスタンダードとなった.わが国でも2006年に改訂された緑内障診療ガイドライン第2版4)からこの分類を採用している.このような経緯から,本分類法は,ISGEO分類,Foster分類,AIGS分類と3通りの呼称がつけられているが,基本的には同じものである.注)現在,AIGSはWGA(WorldGlaucomaAssociation)と名称変更されている.●新分類の概要新しい分類法を表1にまとめた.本分類法の要点の第(89)●連載128緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也128.原発閉塞隅角緑内障の分類法―ISGEO分類,Foster分類,AIGS分類―栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院眼科近年,国際的に原発閉塞隅角緑内障の新しい分類法が採用され,わが国でもこれにならって緑内障診療ガイドラインが改訂された.本分類では,緑内障視神経症の有無によりprimaryangleclosureglaucoma(原発閉塞隅角緑内障)とprimaryangleclosure(原発閉塞隅角症)を分別し,primaryangleclosuresuspectについて普遍性のある定義を定めている.表1原発閉塞隅角緑内障の新しい分類国際分類*隅角閉塞緑内障性視神経症説明本邦分類**Primaryangleclosuresuspect(PACS)疑われるない隅角が狭く,隅角鏡検査にて後部線維柱帯が3象限以上***にわたって見えない.(定義なし)Primaryangleclosure(PAC)あるないPACSの所見に加えて,周辺虹彩癒着,高眼圧,あるいは線維柱帯への著しい色素沈着などの所見を認める.急性緑内障発作の既往所見を認める.原発閉塞隅角症Primaryangleclosureglaucoma(PACG)あるあるPACの所見に加えて,緑内障性視神経症を認める.原発閉塞隅角緑内障*Fosterの発表した論文2),あるいはAIGS(AssociationofInternationalGlaucomaSocieties)Consensusbook3)に基づく.**日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン第2版4)に基づく.***PACSの定義は隅角全周のうち3象限以上にわたって線維柱帯が見えないこととされており,PACと診断するためにもこの条件が必要条件とされている.これに対し,3象限では条件が厳しすぎると考え,2象限以上の線維柱帯が見えないものをPACSとする意見もあり,Foster自身も3象限のカットオフ値は厳しすぎるので見直しが必要かもしれないと述べている.実際に,2象限をカットオフ値としている研究者も少なくない.244あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011一は,従来は緑内障性視神経症や眼圧上昇の有無によらず原発性の隅角閉塞を認める症例すべてを原発閉塞隅角としていたところを,緑内障の本体である緑内障性視神経症を有する原発閉塞隅角眼のみをprimaryangleclosureglaucoma(PACG)とよび,緑内障性視神経症は認めないが隅角閉塞が明らかなものをprimaryangleclosure(PAC)として分別した点にある.もう一つの要点は,従来,狭隅角あるいはoccludableangleとの呼称で原発閉塞隅角緑内障のハイリスク群とされていた眼をprimaryangleclosuresuspect(PACS)と命名し,普遍性のある定義を定めた点である.わが国でもこの分類法をとりいれて緑内障診療ガイドラインを改訂し,緑内障性視神経症を有する原発閉塞隅角眼,すなわちPACGのみを原発閉塞隅角緑内障とよび,同視神経症を認めない原発隅角閉塞眼,すなわちPACには「原発隅角閉塞症」という術語をあてることとした.ただし,PACSに対応する日本語の術語は今のところ公式には定められていない.本分類におけるPACとPACGは急性と慢性の両者を含むものであるが,特に急性緑内障発作に対しては,acuteprimaryangleclosure(APAC)という用語が使われている.急性発作症例で緑内障性視神経症も認められればacuteprimaryangleclosureglaucoma(APACG)となる.APACを除いた慢性型に限定したPAC(G)を指す場合にはchronicprimaryangleclosure(CPAC)あるいはchronicprimaryangleclosureglaucoma(CPACG)という呼称を用いることもある.(90)●新分類と臨床の現場本分類法が定められて以来,緑内障診療の現場では従来の意味での「原発閉塞隅角緑内障」と診断するのみでは不十分であり,PACG,PAC,PACSと病期を分類して正確に診断および記載することが望まれている.また,表1の説明から容易に理解されるように,本分類のPACSとPACは隅角の開度分類の性質を有しており,隅角鏡検査などにおいて隅角評価の簡便な記載法としても多用されるようになっている.なお,PACという呼称は上記の病期分類の一つとして用いられるほかに,すべての病期を合わせた原発性の閉塞隅角およびその疑いを有する眼すべてをひっくるめた総称として用いられる場合も多い.PACという用語の使われ方には注意が必要である.文献1)AngLP,AungT,ChuaWHetal:Visualfieldlossfromprimaryangle-closureglaucoma:acomparativestudyofsymptomaticandasymptomaticdisease.Ophthalmology111:1636-1640,20042)FosterPJ,BuhrmannR,QuigleyHAetal:Thedefinitionandclassificationofglaucomainprevalencesurveys.BrJOphthalmol86:238-242,20023)FosterP,HeM,LiebmannJ:Epidemiology,classificationandmechanism.In:WeinrebRN,FriedmanDS(eds):Angleclosureandangleclosureglaucoma,p1-20,KuglerPublication,Netherlands,20064)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,2006☆☆☆

屈折矯正手術:LASIK術後の調節機能

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112410910-1810/11/\100/頁/JCOPYLASIK(laserinsitukeratomileusis)術後見え方に不満を訴える原因はコマ収差や球面収差,トレフォイル増加が考えられる.一方,LASIK術後老眼鏡が不用になる例もある.筆者自身も47歳でLASIKを受け,老視でモノビジョンにしたが,術後調節力が増加した.以下に収差と調節機能との関係を検討した.●対象および方法対象:LASIK術前後1カ月に毛様体筋の活動を評価できる調節微動高周波成分(highfrequencycomponent:HFC)出現頻度をNIDEK社製調節機能解析装置AA-1で測定できた22.52歳(平均36.1±9歳)54眼である.手術方法:LASIKでマイクロケラトームはNIDEKMK-2000,リング8.5mm,130μmヘッドを用いた.レーザー照射はNIDEKEC-5000で,OATZ(optimizedaspherictreatmentzone)を用い,4.5mmの光学径,移行部8mm.実際の光学径は6mmである.検査方法:術前後の遠方裸眼視力,矯正視力を測定した.AA-1による調節幅,調節微動(視標を固視する間,屈折力を連続測定.8ステップ行い,測定値から算出したHFCを毛様体筋の活動程度として評価)を術前後1カ月に測定し,調節機能と高次収差の関係を検討した.さらに,興和社製全距離視力計で視力1.0の視能域(diopter:D),視力0.7の視能域(D)を測定した.また,角膜形状解析装置TMS-4による3mmゾーンの角膜高次収差,全収差解析装置OPDによる3mmゾーンの全高次収差(RMS)も測定した.●結果術前後の視力:術前の矯正視力は相乗平均1.65,術後矯正視力1.63,術後裸眼視力1.24.安全指数1.03,有効指数0.82.術前等価球面度数.5.8D,術後.0.3D.OPD&TMS:OPD(角膜.水晶体の全高次収差)で3mmのRMSは術前0.24μm,術後0.39μmと有意に増加した(p<0.05).TMSの角膜高次収差も0.11Dが0.16Dと有意に上昇した(p<0.05).調節幅:AA-1の3D調節時の調節幅は1.43Dが1.68Dと有意に上昇した(p<0.05).HFC:HFCは術前51.7%,術後53.9%.また,調節に関連する2D調節時で術前56.1%,術後57.0%とともに有意差はなかった..0.5D調節時で術前48.3%が術後52.7%に増加した(p>0.08).術前後のHFC増加の重回帰:全症例でHFCの差,およびTMSはp=0.0651,RMSはp=0.0553,切除量p=0.0108と有意の相関あるいは相関傾向を認めた.40歳以上では全切除量が有意の相関(p=0.0172)を示した.切除量120μm未満では切除量がp=0.0362と最も有意な相関を示した..2D刺激HFC差でも切除量(p=0.0149),RMS差(p=0.0186),TMS差(p=0.0847)と有意な相関あるいは有意な傾向を示した.40歳未満,切除量120μm未満ではRMS差(p=0.0740),TMS差(p=0.0825)ともに有意な傾向を示した.術前後のHFCと単回帰:1)TMSとの相関全HFC差とTMS差の単回帰は有意差なし(p=0.2552).OPDによる全高次収差の差も有意な相関はない(p=0.1579)が,40歳未満ではp=0.0562,120μm未満でp=0.0582と相関傾向を示した.40歳未満,切除量120μm未満では有意の相関(p=0.0305)(図1)を示し,同様に.2D刺激HFCとも有意の相関(p=0.0117)を示した.角膜収差が増加するとHFCも増加する.(87)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載129監修=木下茂大橋裕一坪田一男129.LASIK術後の調節機能渥美一成セントラルアイクリニックLASIK(laserinsitukeratomileusis)術後の調節機能に関係する要因は,高次収差や微動調節高周波成分増加(HFC)が考えられる.術後HFC増加は切除量と眼球全収差,角膜収差が相関した.調節幅は,自覚的,他覚的にも切除量120μm以上では切除量と相関傾向があり,切除量が増加すると,調節力が低下するが,120μm未満では調節量は変化しなかった.242あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112)RMSとの相関全HFCとRMSはp=0.1579,40歳未満p=0.0562(相関傾向),120μm未満p=0.0582(相関傾向),40歳以上,120μm未満は有意な相関(p=0.0246),.2D刺激でも有意の相関(p=0.008)を示した.全収差が増加するとHFCは増加する.3)切除量との相関切除量との関係では全体でp=0.0658,120μm未満でp=0.0627,40歳以上でp=0.0851と相関傾向を示し,切除量が増えると,高周波成分が増加した.40歳以上,切除量120μm未満では全HFCで有意の相関(p=0.0271),.2D刺激HFCでも有意差(p=0.0089)を示した.術前後の調節幅増加の重回帰:調節幅差の重回帰では,全例で有意差なく,切除量120μm未満で切除量p=0.0667(有意の傾向),TMSp>0.7,RMSp>0.9であった.術前後の調節幅増加の単回帰:1)切除量切除量は全症例でp=0.1519,120μm未満ではp=0.0654(有意の傾向)を示した(図2).110μm未満でp=0.1117,100μm未満でp=0.3461,80μm未満で0.8719であり,切除量が増加すると調節幅が狭くなる傾向であるが,110μm以内であれば調節力は低下しない.2)TMS差,RMS差TMS差は全例でp=0.4955,120μm未満ではp=0.1495,40歳以上,120μm未満でもp=0.1935と有意差(.)を示した.RMS差でもp=0.6802と有意差(.)を示した.視能域(全距離視力計):40歳以上の視力1.0の視能域が術前2.2D,術後2.5D(p=0.1333),視力0.7の視能域は術前2.7D,術後2.8D(p=0.7980)であった.1.0の視能域調節幅上昇33%,0.7の視能域上昇21%で,調節幅低下は1.0および0.7の視能域ともに17%であった.術前後視力1.0視能域と切除量の相関(図3)では120μmまでは調節力は不変か増加であるが,120μm超えで調節幅減少となった.●考按AA-1は他覚的に調節微動を測定し,高周波成分の頻度により眼精疲労を測定する装置である.眼精疲労は,毛様体筋の緊張状態に起因し,毛様体筋の活動状態は,静止視標固視時に生じる他覚屈折値の揺れ「調節微動」に表れると報告されている1,2).120μm以上の切除は,角膜収差,全収差の増加により,HFCの増加が起こり,眼精疲労をひき起こす可能性が示唆された.一方,他覚的調節幅の変化は切除量110μm未満では有意差を認めず,切除量が増すと調節量が低下する傾向がみられた.自覚的な調節幅は40歳以上では調節幅上昇が多いが,有意差はない.また,切除量との関係は,120μm以上で調節幅が低下し,120μm未満では変化がなかった.収差の増加量が関係していると思われた.切除量が増加すると,収差の増加によりHFCの増加が起き,調節力の低下および眼精疲労を生じるものと思われた.文献1)梶田雅義,伊東由美子,佐藤浩之ほか:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,19972)梶田雅義:調節応答の微動.眼科40:169-177,1998(88)図3術前後視力1.0視能域と切除量の相関視力1.0視能域差と切除量は逆相関120μm以内の切除量で術前後の調節量が不変か増加p=0.0467120μm以内角膜高次収差の差0.032120μm以上角膜高次収差の差0.233p<0.00011.51.00.50-0.5-1.0-1.5020406080100120140160切除量(μm)視力1.0視能域差(D)y=0.864-0.008*x;r2=0.193図2LASIK術後微動調節高周波成分増加と角膜収差の相関20151050-5-10HFC差(%)-0.15-0.1-0.0500.050.10.15TMS差y=1.461+58.239*x;r2=0.1832.521.510.50-0.5-1.0-1.5調節幅差(D)020406080100120140160切除量(μm)y=0.557-0.004*x;r2=0.039図1LASIK術前後の調節幅差と切除量の相関

多焦点眼内レンズ:多焦点眼内レンズ挿入後のオートレフラクトメータ

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112390910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼科診察の基本である視力検査において,矯正視力を出すために用いる球面および円柱度数は,多くの施設でオートレフラクトメータの値をそのまま用いている.光学デザインが複雑な多焦点眼内レンズ(IOL)挿入眼では,屈折型,回折型によってオートレフラクトメータによる測定結果が異なる.本稿では,屈折型,回折型多焦点IOL挿入眼におけるオートレフラクトメータの値の取り扱いについてまとめる.多焦点眼内レンズ挿入眼でのオートレフラクトメータは使えるか?結論からいえば,参考値として使える場合と,使えない場合がある.裸眼視力とオートレフラクトメータの測定結果が一致している,すなわち裸眼視力1.2の症例で,オートレフラクトメータの結果が正視に近ければ,わずかな屈折誤差を参考にすることができる.ところが,良好な裸眼視力がでているのに,オートレフラクトメータで2Dあるいは3Dといった数値が出ている場合は要注意である.屈折型多焦点眼内レンズリズーム(Abbott社)がわが国で承認を受けている唯一の屈折型多焦点IOLで,今後,HOYA社の屈折型多焦点IOLも承認される予定である.屈折型IOL挿入眼におけるオートレフラクトメータの測定では,眼内レンズ光学部が同心円上に中央から遠用,近用,遠用と交互に異なる度数のため,どの部分を通して測定したかによって結果が異なる.さらにIOLのセンタリングによっても影響される.具体的に,屈折型では,裸眼視力が良好なのにオートレフラクトメータ測定結果の球面度数が.2あるいは.3Dという場合があり,この場合はIOLの近用ゾーンを含めて測定している可能性がある.海外の報告で円柱度数についてはオートレフラクトメータと自覚値に相関が認められたが,球面度数においては参考にならず,屈折領域における赤外線の散乱による影響が示唆されている1).回折型多焦点眼内レンズ回折型IOL挿入眼では,オートレフラクトメータ測(85)●連載⑭多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子14.多焦点眼内レンズ挿入後のオートレフラクトメータビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科眼内レンズ挿入後の視力検査で,オートレフラクトメータで得られた屈折値を参考にするのが一般的である.屈折型多焦点眼内レンズでは近用ゾーンを通った値が混在するので注意を要するが,回折型挿入眼で,オートレフラクトメータによる測定結果は自覚的屈折値と近似しており,参考値として用いることができる.球面度数-2.00.02.0円柱度数1.02.03.04.0自覚値(D)等価球面度数-2.00.02.0自覚値(D)自覚値(D)オートレフ値(D)オートレフ値(D)オートレフ値(D)2.01.00.0-1.0-2.02.01.00.0-1.0-2.0-3.00.04.03.02.01.00.0図1回折型多焦点眼内レンズ挿入眼における球面,円柱,等価球面度数の自覚値とオートレフラクトメータ測定値240あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011定の屈折値を参考にしていいという報告はある2)が,その信頼性については詳細に示されていない.このため,筆者らの施設で実際に回折型多焦点IOLが挿入された約150眼について,オートレフラクトメータの球面,円柱,等価球面度数と,矯正視力に要した自覚的な値を比較検討した(図1)3).球面,等価球面度数は相関がみられていたが,円柱度数では測定結果と自覚値がかなり異なる例があった.これについて,ニデック社のオートレフラクトメータ(ARK-700A)では信頼係数が設定されており,この信頼係数が高い例では,測定値と自覚値が近似しており,低い例では,測定値と自覚値が大きくずれている例があった(図2).このことから,オートレフラクトメータ測定結果は信頼係数が高い例では,参考にしてほぼ問題ないと思われた.しかし,測定結果の信頼性が低い例では,矯正視力測定時にオートレフラクトメータの値をそのまま使わないように注意すべきである.測定時の瞳孔径の影響も考慮すべきである.オートレフラクトメータによる測定値と自覚値が大きくずれた例のなかに,測定時の瞳孔径が非常に小さい例があった.このような例では,瞳孔径がやや広がった状態で測定した結果は自覚値とかなり近似していた.(86)外来検査および診察における注意点多焦点IOL挿入眼では,オートケラトメータの測定結果をそのまま矯正度数として使えない場合がある.まず,視力検査担当者が,どのIOLが挿入されているのかチェックしてから視力測定をするべきである.つぎに,診察担当医が視力測定結果をみて,裸眼視力と矯正に要した度数が合わない場合は,再検査を依頼する.乱視については信頼係数が表示されるタイプでは,その値も参考にする.以上のような簡単なチェックで,多焦点IOL挿入眼のより正確な視力測定が可能となるので,参考にしていただきたい.文献1)MunozG,Albarran-DiegoC,SaklaH:ValidityofautorefractionaftercataractsurgerywithmultifocalReZoomintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg33:1573-1578,20072)MunozG,Albarran-DiegoC,SaklaHF:AutorefractionafterMultifocalIOLs(letter).Ophthalmology114:2100,20073)Bissen-MiyajimaH,MinamiK,YoshinoMetal:Autorefractionafterimplantationofdiffractivemultifocalintraocularlenses.JCataractRefractSurg36:553-556,201098765E視力検査はスムーズ前後の屈折値を入念に確認信頼性高低参考程度☆☆☆図2オートレフラクトメータ(ARK-700A)測定値の信頼係数

眼内レンズ:両眼性Toxic anterior segment syndrome(TASS)

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112370910-1810/11/\100/頁/JCOPY主に白内障術後の無菌性眼内炎はToxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)といわれ,手術翌日から数日後に前房内の強い炎症所見を呈し,感染性術後眼内炎との鑑別に苦慮することがある.白内障術後の無菌性眼内炎に対してTASSという概念が提唱され,手術時に使用される薬剤や器材へのアレルギー反応による術後眼内炎を起こす症例があることが示されている1).眼内灌流液によるTASSの連続発症が報告されたことがきっかけとなり2),近年は国内でもTASSの報告が散見されるようになった.内眼手術時に使用した眼内灌流液や眼粘弾剤などの薬剤,眼内レンズの研磨剤残留物,手術器具に付着する微量の消毒残留物質などが起炎物質になる可能性があるといわれている2.4).今回,両眼の白内障手術後にそれぞれの手術眼でTASSと思われる経過をたどった1例を報告する.〔症例〕79歳,女性.2007年6月に近医にて左眼の白内障手術が施行された.手術中に特に問題となる合併症はなかった.手術後3日目に突然の左眼痛と霧視を自覚し,結膜充血,角膜浮腫,前房蓄膿,フィブリン析出(83)を伴う強い前房炎症を認め,左眼視力は眼前指数弁まで低下した(図1).当院にて感染性眼内炎の治療方針に準じて硝子体手術を施行したが,採取した眼内検体から病原微生物は検出されなかった.硝子体手術の翌日に前房蓄膿は消失したがフィブリンを伴う強い前房炎症は残存し,その後2週間かけて徐々に沈静化した.左眼の経過を考慮して周術期の感染対策を十分に行っ井上昌幸徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・眼科学分野眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎294.両眼性Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)白内障手術などの内眼手術後に起こる無菌性眼内炎について,Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)という病態が提唱されている.手術時に使用する眼内灌流液や薬剤,手術器具に付着する微量の消毒残留物などが起因物質にあげられている.両眼それぞれの白内障手術後に発症したTASSと思われる1例を経験した.図2右眼:白内障手術後3日目図3右眼:ステロイド点眼(0.1%リンデロンR液)図1左眼:白内障手術後3日目1日4回を開始して1週間後たうえで,半年後に同近医にて右眼の白内障手術が施行された.しかし左眼の経過と同様に手術後3日目に右眼痛と霧視を自覚し,角膜浮腫,前房蓄膿を伴う強い前房炎症を認めた(図2).右眼視力0.5,断層エコーにて硝子体混濁は認めず,網膜電図は正常であり,頻回の診察においても感染性眼内炎にみられるような急速な悪化が確認されなかったことから,TASSを念頭において加療を行った.感染の可能性が否定できなかったため抗菌薬の点眼と全身投与を併用したが,ステロイド局所投与の増量にて速やかに前房炎症の改善がみられた(図3).抗菌薬の眼内投与や硝子体手術を施行することなく沈静化がえられた.両眼の手術から2年を経過し,右眼視力0.7,左眼視力0.9,角膜内皮細胞密度は右眼1,831cells/mm2,左眼1,848cells/mm2であり角膜の透明性は維持されている.TASSが同一手術日の複数症例に連続発症する報告が散見され,TASSの原因として手術時に使用した眼粘弾剤などの薬剤や,手術器具に付着した残留消毒薬剤などが示されている4.6).今回の症例では,同日に施行された他の手術症例については術後の特異な炎症反応は確認されず,過去の報告にあるような手術用剤や手術器具に付着する起因物質だけが今回のTASSの原因とは考えにくい.同一症例の別日程で行った両眼のそれぞれの手術後にTASSを発症しており,本症例に特異的な免疫反応が関与したことが疑われた.術中に使用した手術用剤や手術器具に付着する起因物質に対する異常免疫反応であることが推測されたが,残念ながら本症例におけるTASSの原因を確定することはできなかった.ぶどう膜炎などの炎症性眼症の既往はなく,糖尿病やリウマチやアトピー性疾患などの全身的な免疫異常疾患は認めていない.感染性眼内炎との鑑別に苦慮した症例であったが,感染症としては進行の遅い臨床経過やステロイド使用に対する反応から両眼ともTASSの病態であったと考える.特異な免疫機序をもつ症例では,TASSが両眼とも同様の経緯で発症する可能性があることが示され,片眼の手術でTASSを発症した場合には原因を十分検証し,僚眼の手術の際にも使用薬剤などについて改めて慎重に対応する必要があることが示唆される症例であった.文献1)MonsonMC,MamalisN,OlsonRJ:Toxicanteriorsegmentinflammationfollowingcataractsurgery.JCataractRefractSurg18:184-189,19922)HollandSP,MorckDW,LeeTL:Updateontoxicanteriorsegmentsyndrome.CurrOpinOphthalmol18:4-8,20073)臼井嘉彦:Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS).IOL&RS21:546-548,20074)小早川信一郎,大井彩:Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS).あたらしい眼科26:203-204,20095)北村奈恵,ビッセン宮島弘子,吉野真未:白内障術後のToxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)と思われる3例.IOL&RS23:224-228,20096)大井彩,小早川信一郎,栃久保哲男ほか:Toxicanteriorsegmentsyndrome(TASS)が疑われた2症例.IOL&RS23:229-236,2009

コンタクトレンズ:私のコンタクトレンズ選択法 メニコン2WEEKプレミオトーリック

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112350910-1810/11/\100/頁/JCOPY酸素透過性が飛躍的に向上したシリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)を処方する機会が多くなった.現在,国内では8種類(O2オプティクス,エアオプティクスR,アキュビューRアドバンスR,アキュビューRオアシスTM,ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM,メダリストRプレミア,メニコン2WEEKプレミオ,HOYAエアリーワンマンス)のSHCLが販売されているが,これらのうち乱視矯正を目的としたトーリックSHCLは4種類(アキュビューRオアシスTM乱視用,メダリストRプレミア乱視用,エアオプティクスR乱視用,メニコン2WEEKプレミオトーリック)である.筆者は本セミナーでこうしたトーリックSHCLを取り上げてきたが,今回はメニコン2WEEKプレミオトーリックの特徴を概説する.●メニコン2WEEKプレミオトーリックの特徴本レンズは終日装用を目的とした2週間頻回交換タイプである.製品概要を表1に示す.素材はasmofilconAで,レンズ表面はプラズマ処理が施されている1.3).ベースカーブは8.6mm,直径は14.0mmの1ベースカーブ1サイズであるが,ほとんどの患者にフィットする.球面度数は0..10.00D,円柱度数は.0.75D,.1.25D,.1.75Dの3種類,円柱軸は180°と90°の2種類である.レンズの回転を抑制する方法は,上下非対称のダブルスラブオフデザインに左右部バラストを付加した独自のハイブリッドトーリックデザインを採用している(図1).角膜は上眼瞼で覆われる範囲が広いのに対して,下眼瞼で覆われる範囲が狭いのに着目して,上下非対称のダブルスラブオフをフィットさせて,レンズの回転抑制とレンズの中央安定化を実現している.光学的にプリズム作用のないバラストを左右に付加することで,レンズの回転抑制をさらに向上させている.光学部と周辺部の接合部はスムーズで,瞬目によるレンズの異物感の軽減(81)を図っている.光学部と周辺部は独立しているため,レンズの球面度数,円柱度数,円柱軸で,フィッティングの変化が少ないことも長所としてあげられる.植田喜一ウエダ眼科/山口大学大学院医学系研究科眼科学コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純私のコンタクトレンズ選択法320.メニコン2WEEKプレミオトーリック表1メニコン2WEEKプレミオトーリックの製品概要材質asmofilconA含水率40%酸素透過係数(Dk値)129*酸素透過率(Dk/L値)161**(.3.00Dの場合)中心厚0.08mm(S.3.00Dの場合)ベースカーブ8.6mm直径14.0mm球面度数0~.6.00D(0.25Dステップ).6.50~.10.00D(0.50Dステップ)円柱度数.0.75D,.1.25D,.1.75D.0.75D,.1.25D円柱軸180°90°トーリック面内面レンズカラーアクアブルー*:×10.11(cm2/sec)・(mLO2/mL・mmHg)測定条件35℃.**:×10.9(cm・mLO2/sec・mL・mmHg)測定条件35℃.……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………図1メニコン2WEEKプレミオトーリックのデザイン(ハイブリッドトーリックデザイン)236あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(00)本レンズのガイドマークは,2列に並んだドット形状で,レンズが下眼瞼に覆われる領域を配慮して,自然な開瞼時に露出する位置に設定されているので視認性がよい(図2).本レンズは以下の特徴から処方が簡便である.・ワンサイズとワンベースカーブ・2つの円柱軸(直乱視に対して180°,倒乱視に対して90°)・良好な円柱軸の安定性(ガイドマークが6時の位置に安定しやすい)・良好なガイドマークの視認性さらに,素材,サイズ,中心厚,デザインの面から考えて,安全性が高い,装用感が良い,乾燥感が少ない,ハンドリングが良い,乱視矯正効果が高いレンズであるといえる(表2).文献1)市島英司:「メニコン2WEEKプレミオ」の紹介.日コレ誌50:281-286,20082)稲葉昌丸:コンタクトレンズセミナー私のコンタクトレンズ選択法305.メニコン2WEEKプレミオ.あたらしい眼科26:1497-1498,20093)小玉裕司:国産シリコーンハイドロゲルレンズの多施設における臨床評価.日コレ誌51:S36-S40,2009図2メニコン2WEEKプレミオトーリックのガイドマーク表2メニコン2WEEKプレミオトーリックの特徴1.素材・高い酸素透過性・適度な硬さと形状保持性2.サイズ,中心厚・スモールサイズ,薄い3.デザイン・後面設計・ダブルスラブオフ・左右部バラスト安全性が高い・装用感が良い・乾燥感が少ない・ハンドリングが良い装用感が良い乱視矯正効果が高い

写真:出血性結膜リンパ管拡張症

2011年2月28日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112330910-1810/11/\100/頁/JCOPY(79)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦321.出血性結膜リンパ管拡張症岩部利津子*1横井則彦*2*1藤枝市立総合病院眼科*2京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学図1角膜真菌感染後の角膜混濁に対して全層角膜移植術を施行した症例(66歳,男性)上方の球結膜に暗赤色の血性内容物を含んだ拡張したリンパ管を認める.②①図2図1のシェーマ①:内部に出血を伴う拡張したリンパ管.②:角膜.図3図1の拡大像数個のリンパ管が数珠状に連なっている.図4図1と同症例の前眼部OCT(光干渉断層計)所見(図3矢印の断面)貯留した血性成分のため,リンパ管の内腔は高輝度を示す.234あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(00)結膜リンパ管拡張症とは,限局性に結膜のリンパ管が拡張し,結膜上に局所的な浮腫状隆起を呈した病変をさす.組織学的には,リンパ管様脈管が限局性に異常増殖しており,拡張したリンパ管内にリンパ液を認め,内腔壁は1層の内皮細胞に覆われている.結膜リンパ管拡張症の発症原因として慢性炎症,眼手術や外傷後の瘢痕,先天異常,リンパ管の循環障害などが推測されるが,特発性に発症することもあり,その発症メカニズムは明確ではない1).病変部は一般に透明で可動性を認める.貯留するリンパ液はしばしば黄色調にみえ,大きな.腫状隆起が単発性に生じることもあれば,数珠状に数個が連続していることもある.リンパ管拡張部に血管からの血液流入が起こると出血性結膜リンパ管拡張症とよばれ,拡張リンパ管内に血液による水平面形成や,血液の充満を認めることがある.脈管形成異常部位が,外傷や炎症を契機に静脈と連続して顕在化する2).時間が経過すると出血部の血液は赤色というより暗赤色を呈していることが多い.出血は,自然消退することも多いためまずは経過観察を行い,血塊が大きく穿刺で解消しない場合は外科的摘出術を考慮しなければならない場合もある.他疾患との鑑別点として,経過中に消退や再発をくり返したり,数珠状に連なる外観がみられればリンパ管性病変の可能性が高い.結膜封入.胞は,外傷,手術,炎症後などに結膜上皮が迷入して生じるとされるドーム状の隆起性病変であり,.胞状を呈するリンパ管拡張症との鑑別は,しばしばむずかしい場合がある.結膜封入.胞は,組織学的には,多層の結膜上皮に覆われていることからリンパ管拡張症とは鑑別される.血管腫は全身の至るところに発症しうる間葉系組織の過形成であり,鮮やかな赤色を呈していることが多く,出血性リンパ管拡張症とは外観が異なる.結膜アミロイドーシスや結膜リンパ腫に出血を伴い外観上,リンパ管拡張症との鑑別が困難な際には,組織検査が必要となる3,4).文献1)渡辺彰英:リンパ管拡張症.眼科プラクティス18巻,前眼部アトラス(大鹿哲郎編),p86,文光堂,20072)吉川洋:リンパ管腫とリンパ管拡張症.眼科プラクティス24巻,見た目が大事!眼腫瘍(後藤浩編),p84-85,文光堂,20083)ShieldsCL,ShieldsJA:Tumorsoftheconjunctivaandcornea.SurvOphthalmol49:3-24,20044)DemirciH,ShieldsCL,EagleRCJretal:Conjunctivalamyloidosis:reportofsixcasesandreviewoftheliterature.SurvOphthalmol51:419-433,2006図5図1と同症例のリンパ管内の出血が消退した時期(a)前眼部OCT上でもリンパ管内の出血塊が消失しているのが確認できる(b).ab