———————————————————————-Page10910-1810/10/\100/頁/JCOPY疾患5)あるいは気管支喘息が18%,枯草熱が36%にみられた6).わが国でも円錐角膜患者におけるアレルギー疾患併発率が26%に対し,正常角膜者では12%と同様の傾向であり,円錐角膜におけるアレルギー素因が高率であることが指摘されている7).ADにはさまざまな眼合併症がある(表1)が,円錐角膜におけるADの頻度を角膜移植対象例でみると14%であり8),他のアレルギー疾患に比して特に高いというわけではない.ADを対象としての円錐角膜の頻度は種々の研究があり,0.5%から3.3%の合併率がそれぞれ報告されている7,911).診断方法については,通常の臨床診断やそれ以外の検査機器を用いた場合も含まれており,若干のばらつきがあるが,Down症候群に比較すると約5分の1程度の頻度である.ADにおける他の眼合併症が,角結膜炎は約25%,白内障は約20%,網膜離の約5%などよりは少はじめに円錐角膜(keratoconus)は角膜中央部付近が進行性に変形し,円錐様に突出することによって,角膜の菲薄化が生じ,強度の角膜乱視によって視力低下をきたす疾患であるが,種々のアレルギー疾患,とりわけ後述するようにアトピー性皮膚炎(atopicdermatitis:AD)に合併しやすいことが知られている.その発症機序はまだ十分明らかになってはいないが,比較的重症なアレルギー疾患の合併が多いこのタイプの円錐角膜は,治療,管理のうえで特殊な臨床像を呈することがあり,取り扱いには十分な注意が必要な面が少なくない.本稿では,アレルギー疾患に合併する円錐角膜について解説したい.I疫学的側面円錐角膜を合併する全身疾患では,Down症候群がよく知られているが,未成年についての疫学調査では合併例がないといういくつかの報告1,2)がある一方で,角膜形状解析装置を使用した検査では,小児例でも39%に明らかな角膜形状の異常があるという報告もあり3),検査方法の進歩によって,発症前の症例が多く存在することが示唆される.成人のDown症候群では円錐角膜は15.8%にみられるとされ4),視力障害の大きな原因の一つである.アレルギー疾患全体における円錐角膜の頻度に関しては報告がないが,円錐角膜症例のなかでみると,正常角膜者の112%5,6)に比して35%に何らかのアレルギー(11)42781401807451特集●円錐角膜あたらしい眼科27(4):427431,2010アレルギーと円錐角膜KeratoconusinRelationtoAllergy内尾英一*表1アトピー性皮膚炎に合併するおもな眼病変外眼部アトピー眼瞼皮膚炎化膿性眼瞼炎Kaposi水痘様発疹症前眼部アトピー性角結膜炎春季カタル感染性角結膜炎円錐角膜中間透光体アトピー白内障眼底網膜離網膜裂孔———————————————————————-Page2428あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(12)学的背景と密接に関連して,円錐角膜が発症するというエビデンスが得られつつある.一方,種々の増殖因子やサイトカインの角膜における組織学的な発現については特異的な増減は認められないとする報告もあり21),現時点では円錐角膜の発症に慢性炎症が関与していることが示唆されるものの,まだ確定的なエビデンスはない.円錐角膜の病因として,サウジアラビアでは高率にアレルギー疾患を合併し,初発年齢や進行が速い症例が多い地域の研究から,遺伝的な要因や高地居住による紫外線曝露の関与が報告されている22).また,慢性的な外傷としての目をこする(eyerubbing)ことや叩くことに求める「外傷説」は従来から指摘されている.AD合併円錐角膜では目をこする頻度が高いとされる6)が,アレルギー合併と関係なく目をこする頻度は円錐角膜で高いという報告もある23).Down症候群などの知的障害例では,目をこする症例がこすらない症例よりも角膜移植に至る頻度が有意に高く,視力予後も不良であるなど,精神学的背景から目をこする行動を説明する報告もある24).従来,円錐角膜の角膜移植手術後の経過は良好とされており,移植後のレシピエント角膜上皮に円錐角膜が生じないことが角膜上皮原因説を否定する根拠とされているが,アレルギー性結膜炎を有し,目こすり行動を角膜移植後にも継続していた症例に,3年後に円錐角膜が再発したことが最近報告された25).これは目をこすることにアレルギー学的な何らかの機序が重なることで円錐角膜に至るという眼アレルギー合併円錐角膜の特異的な病態なく,網膜裂孔の0.83.9%11,12)にほぼ匹敵する頻度と考えられる.網膜裂孔と同程度の合併率であるということは円錐角膜の成因について,外傷を起因とする仮説を考えるうえで興味深いといえる.春季カタル(vernalkeratoconjunctivitis:VKC)はいわゆる増殖型の最も重症なアレルギー性結膜疾患であるが,VKCと円錐角膜の合併頻度についてはいくつかの報告がある.臨床診断レベルではVKCの518%1315)に円錐角膜が合併しているが,角膜トポグラフィを使用した場合,角膜曲率半径の異常は22.5%に上昇する16).非アレルギー合併者との比較で,成人だけでなく15),従来発症していないとされる小児例でもVKC症例では角膜形状の異常が有意に多い17)と最近報告された.眼アレルギー症例における円錐角膜の成因については後述するが,VKCにおける高い合併頻度は注目すべきである.II病因におけるアレルギーの関与わが国においては円錐角膜のおよそ4分の1がアレルギー疾患を有し,それ以外の約4分の3はアレルギー疾患の既往はないと考えられる7)が,円錐角膜そのものの病因については,前項にも記載されているように,まだ定説はない.円錐角膜の病変の部位である角膜の構造から,その病因を角膜上皮と角膜実質のいずれかにあるとすると理解しやすい18).その詳細についてはここでは述べないが,上皮に関してはセリンプロテアーゼインヒビター,マトリックスメタロプロテアーゼなど,実質においてはコラーゲンや最近はアミロイドーシス19)に注目して,それぞれの構造の脆弱化を示唆する多数の報告に基づいている.今まではアレルギー学的な機序に着目して円錐角膜を研究した報告はなかったが,最近円錐角膜症例の涙液におけるインターロイキン(interleukin:IL)-6および腫瘍壊死因子(tumornecrosisfactor:TNF)-a濃度が正常角膜よりも有意に上昇していると報告された20).ただ,この研究ではアレルギー疾患合併例の割合や合併の有無に関しては言及がなく,どの程度アレルギー学的な機序が関与するかは明らかではない.われわれのVKC合併円錐角膜の免疫組織学的検索ではCD83陽性の樹状細胞が実質にみられ,免疫学的に何らかの活性化を生じていることが示唆される(図1).免疫図1春季カタル合併円錐角膜の免疫組織学的所見CD83陽性樹状細胞が実質に多数みられた(ビオチン-アビジン染色).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010429(13)型反応の関与も考えられるという.ただ,これが拒絶反応なのかどうかは臨床的にははっきりせず,術後炎症としての病態とも考えられる.しかし細菌など感染の併発は否定されている.PKASKの危険因子としては,アトピー眼瞼皮膚炎,角膜新生血管の存在,連続縫合などがある.PKASKへの対処は,ゆるんだ縫合糸の除去,ステロイド薬ないし免疫抑制薬の全身投与を行うが,再移植に至ることも少なくない.予防としては,眼瞼皮膚炎や角結膜炎が消炎した後に手術を行い,免疫抑制薬内服を手術後に行うことなどである.筆者らも同様の症例を経験している.AD合併のVKCで,原因不明の角膜穿孔(図2)に対して,角膜全層移植を行ったが,術後完全な上皮化が得られず,次第に上皮欠損部が菲薄化から(図3),穿孔したため,再移植を行い,シクロスポリン内服投与下で,移植片の生着に至った(図4).このようなPKASKはADとVKCという眼局所と全身ともに強いアレルギー学的背景をもつ症例にみられる合併症である.顔面に皮疹が顕著な成人例の増加によって,今後増加することも考えられるので,角膜移植に際しては十分な管理が必要である.VKC自体は根治しているわけでを示唆するものと考えられる.ADの動物モデルであるNC/Ngaマウスは自然経過で眼球引っ掻き行動があり,眼瞼結膜炎の重症な動物では角膜の菲薄化,上皮,実質の変性や血管新生など円錐角膜類似の組織像を示すことをEbiharaらが述べている26).これもアレルギー合併円錐角膜には特有の病態形成機序が関与することの一つの根拠といえる.III臨床面の特徴と管理通常はハードコンタクトレンズの装用によって,本症の進行を抑制すると考えられているが,VKC合併例ではコンタクトレンズの装用がより困難である14).VKCにおいては円錐角膜の前段階というべき角膜拡張症(cornealectasia)が多く,特に目をこする例に著しい27).小児のVKC合併例は成人の円錐角膜と異なり,角膜水腫(cornealhydrops)を伴って急激な発症がみられることが多いと報告されている28).これらのことから,VKCおよびこれに合併することの多いADでは特に眼周囲をこすることを減少させるために,掻痒感を低減させることが治療・管理上重要である.具体的には抗ヒスタミン内服薬や免疫抑制軟膏を使用することが必要と考えられる.IV角膜移植に関する問題点円錐角膜の角膜移植の成績は通常良好とされているが,VKC合併の円錐角膜に対する角膜移植手術成績も拒絶反応が13%,移植片機能不全が4%など通常の円錐角膜と比較して変わらないという29).しかし,アレルギーを合併する円錐角膜の膜移植に関する合併症,いわゆるpostkeratoplastyatopicsclerokeratitis(アトピー性角膜移植後強角膜炎;PKASK)8)が最近問題となっている.Tomitaらによると,ADの既往がある円錐角膜に全層角膜移植を行った症例のなかで,21%に術後早期の平均26日後に強角膜炎を生じ,さらに縫合の緩みや創離開(50%),遷延性角膜上皮欠損(50%),移植片融解(33%)および角膜穿孔(17%)などがみられる一連の急激な術後合併症をPKASKとして報告した8).これは通常の拒絶反応よりも早期に発症しているが,除去角膜の病理組織像からは上皮型拒絶反応に加えて,内皮解説春季カタル:現在のアレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(2006年)では,春季カタルは「結膜に増殖性変化がみられるアレルギー性結膜疾患」として定義されており,いわゆる石垣状巨大乳頭や輪部腫脹などがその病変とされ,アトピー性皮膚炎の合併については問わない.一方,アトピー性角結膜炎は「顔面に皮疹があるアトピー性皮膚炎にみられる慢性結膜炎であり,巨大乳頭などの増殖性変化を伴うこともある」とされた.つまり,結膜に巨大乳頭がありアトピー性皮膚炎を合併する症例は春季カタルとしてもよく,アトピー性角結膜炎としてもよいことになる.欧米では春季カタルは男児にみられ,アトピー性皮膚炎を合併せず,思春期に自然軽快するものというのが一般的な認識である.しかし本論文中で述べているように,円錐角膜を合併する春季カタルは大部分がアトピー性皮膚炎を有している報告がほとんどである.これらはインド,中近東,南米など熱帯付近の地域であり,欧米型の病態だけではアレルギー性結膜疾患の説明がつかない一つの例である.———————————————————————-Page4430あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010(14)らにはVKCを有していること,そしてアレルギー合併円錐角膜は若年発症の可能性や角膜移植率が高いことなど,全体として円錐角膜のなかで重症な位置を占める病型にあたることがわかってきた.ハードコンタクトレンズやレーザー治療をはじめとする屈折矯正面での治療管理だけでなく,アレルギー病態に関する治療も必要なことについて,免疫学的な理解に基づく臨床上の注意を払うことが望まれる.文献1)FimianiF,IovineA,CarelliRetal:IncidenceofocularpathologiesinItalianchildrenwithDownsyndrome.EurJOphthalmol17:817-822,20072)KimJH,HwangJM,KimHJetal:CharacteristicocularndingsinAsianchildrenwithDownsyndrome.Eye(Lond)16:710-714,20023)VincentAL,WeiserBA,CuprynMetal:ComputerizedcornealtopographyinapaediatricpopulationwithDownsyndrome.ClinExperimentOphthalmol33:47-52,20054)vanAllenMI,FungJ,JurenkaSB:HealthcareconcernsandguidelinesforadultswithDownsyndrome.AmJMedGenet89:100-110,19995)DaviesPD,LobascherD,MenonJAetal:Immunologicalstudiesinkeratoconus.TransOphthalmolSocUK96:173-178,19766)GassetAR,HinsonWA,FriasJL:Keratoconusandatopicdiseases.AnnOphthalmol10:991-994,19787)森本厚子,金井淳,中島章:円錐角膜とアトピー性疾はないので,円錐角膜への角膜移植後にまれではあるが,シールド角膜潰瘍などの特異的な角膜病変をきたすこともある30).ただ,このような症例は術6カ月以上経過後にみられており,臨床的にはPKASKとは異なるので,基本的には免疫抑制点眼薬などのVKCに対する治療を行えばよい.おわりに以上述べてきたように,円錐角膜はおよそ4分の1の症例がアレルギーを合併しており,その多くはADさ図2春季カタル合併円錐角膜症例の角膜所見(術前)原因不明の角膜穿孔をきたしていた.図3春季カタル合併円錐角膜症例の角膜所見(術後)遷延性上皮欠損を生じ,再び角膜穿孔となった.図4春季カタル合併円錐角膜症例の角膜所見(再移植後)免疫抑制内服薬投与により,角膜上皮化と移植片の生着に至った.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.27,No.4,2010431(15)mol93:820-824,200921)SaghizadehM,ChwaM,AokiAetal:Alteredexpressionofgrowthfactorsandcytokinesinkeratoconus,bullouskeratopathyanddiabetichumancorneas.ExpEyeRes73:179-189,200122)AssiriAA,YousufBI,QuantockAJetal:IncidenceandseverityofkeratoconusinAsirprovince,SaudiArabia.BrJOphthalmol89:1403-1406,200523)SharmaR,TitiyalJS,PrakashGetal:ClinicalproleandriskfactorsforkeratoplastyanddevelopmentofhydropsinnorthIndianpatientswithkeratoconus.Cornea28:367-370,200924)GarciaGarciaGP,MartinezJB:Outcomesofpenetratingkeratoplastyinmentallyretardedpatientswithkeratoco-nus.Cornea27:980-987,200825)YeniadB,AlparslanN,AkarcayK:Eyerubbingasanapparentcauseofrecurrentkeratoconus.Cornea28:477-479,200926)EbiharaN,FunakiT,MatsudaHetal:Cornealabnormal-itiesintheNC/Ngamouse:anatopicdermatitismodel.Cornea27:923-929,200827)CameronJA,Al-RajhiAA,BadrIA:Cornealectasiainvernalkeratoconjunctivitis.Ophthalmology96:1615-1623,198928)RehanyU,RumeltS:Cornealhydropsassociatedwithvernalconjunctivitisasapresentingsignofkeratoconusinchildren.Ophthalmology102:2046-2049,199529)MahmoodMA,WagonerMD:Penetratingkeratoplastyineyeswithkeratoconusandvernalkeratoconjunctivitis.Cornea19:468-470,200030)GargP,BansalAK,SangwanVS:Recurrentshieldulcerfollowingpenetratingkeratoplastyforkeratoconusassoci-atedwithvernalkeratoconjunctivitis.IndianJOphthalmol51:79-80,2003患および血中IgEに関する検索.眼紀37:469-472,19868)TomitaM,ShimmuraS,TsubotaKetal:Postkerato-plastyatopicsclerokeratitisinkeratoconuspatients.Oph-thalmology115:851-856,20089)DogruM,NakagawaN,TetsumotoKetal:Ocularsur-facediseaseinatopicdermatitis.JpnJOphthalmol43:53-57,199910)臼井正彦,岩崎琢也,後藤浩ほか:アトピー性皮膚炎における眼合併症と諸問題.臨眼60:442-455,200611)大間知典子,宮崎幾代,関根伸子ほか:アトピー性皮膚炎の眼合併症.アレルギー43:796-799,199412)中野栄子,岩崎琢也,小山内卓哉ほか:アトピー性皮膚炎の眼合併症.日眼会誌101:64-68,199713)TabbaraKF:Ocularcomplicationsofvernalkeratocon-junctivitis.CanJOphthalmol34:88-92,199914)KhanMD,KundiN,SaeedNetal:Incidenceofkeratoco-nusinspringcatarrh.BrJOphthalmol72:41-43,198815)BarretoJJr,NettoMV,SantoRMetal:Slit-scanningtopographyinvernalkeratoconjunctivitis.AmJOphthal-mol143:250-254,200716)DantasPE,AlvesMR,Nishiwaki-DantasMC:Topo-graphiccornealchangesinpatientswithvernalkerato-conjunctivitis.ArqBrasOftalmol68:593-598,200517)Lapid-GortzakR,RosenS,WeitzmanSetal:Videoker-atographyndingsinchildrenwithvernalkeratoconjunc-tivitisversusthoseofhealthychildren.Ophthalmology109:2018-2023,200218)海老原伸行,金井淳:その他の眼病変,アトピー性皮膚炎と眼(山本節,大野重昭編),p141-150,中山書店,199719)TaiTY,DamaniMR,VoRetal:KeratoconusassociatedwithcornealstromalamyloiddepositioncontainingTGF-BIp.Cornea28:589-593,200920)LemaI,SobrinoT,DuranJAetal:Subclinicalkeratoco-nusandinammatorymoleculesfromtears.BrJOphthal-